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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17ネ10109特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成18ネ10051特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成18ネ10038損害賠償請求控訴事件 判例 特許
平成17ネ10085特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成17ネ10024特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  容易に実施 /  アクセス /  進歩性(29条2項) /  技術的範囲 /  出願公開 /  実施可能要件 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  分割出願 /  クレーム /  特許出願日 /  原出願日 /  出願経過 /  参酌 /  技術的意義 /  置き換え /  信義則 /  禁反言 /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  侵害 /  設定登録 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  釈明 / 
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事件 平成 18年 (ネ) 10007号 損害賠償請求控訴事件
控訴人タ クトロン株式会社
訴訟代理人弁護士木下貴司
同 野口政幹
同 高木浩二
同 布川博良
同 島本泰宣
同 小野寺朝可
補佐人弁理 士梁瀬右司
被控訴人任天堂株式会社
訴訟代理人弁護士青柳●(※)子 ※「日」偏に「令」の文字
補佐人弁理 士役昌明
同 林紘樹
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/09/28
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
全容
第1当事者の求めた裁判1控訴人( ) 原判決を取り消す。
1( ) 被控訴人は,控訴人に対し,40億円及びこれに対する平成15年10月 223日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
( ) 訴訟費用は,第1審,第2審とも,被控訴人の負担とする。
3( ) 仮執行の宣言42被控訴人主文と同旨第2事案の概要1事案の要旨本件は,発明の名称を「図形表示装置及び方法」とする特許第2877779号発明〔昭和59年10月2日に出願した発明(特願昭59-205670号,その出願を,以下「本件原出願」という。)の一部につき,平成9年2月28日分割出願をし,平成11年1月22日設定登録,平成16年10月1日満了,以下,その特許を「本件特許」,その特許権を「本件特許権」といい,その特許請求の範囲請求項1の発明を「本件特許発明1」,同請求項2の発明を「本件特許発明2」といい,併せて「本件特許発明」ということがある。〕の特許権及び同特許権侵害に基づく被控訴人に対する損害賠償請求権を譲り受けたと主張する控訴人が,原判決別紙「被告製品目録1」記載の構成及び動作を有するゲームボーイアドバンスという商品名の携帯型ゲーム機(以下「被控訴人製品」という。)を製造販売する被控訴人に対し,その製造販売の行為が本件特許権を侵害するとして,本件特許権に基づき,一部請求として40億円及びこれに対する付帯金員の損害賠償の支払を求めた事案である。
原審は,控訴人の製造販売する被控訴人製品の構成及び動作を原判決別紙「被告製品目録3」記載のとおりであると認定した上,被控訴人製品は本件特許発明技術的範囲に属しないとして,控訴人の請求を棄却したため,控訴人は,これを不服として,その取消し及び上記損害賠償の支払を求めて控訴したものである。
2争いのない事実等及び本件の争点原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の1及び3に記載のとおりである(ただし,原判決5頁「3本件の争点」の「( ) 被告製品の構2成」を「( ) 被告製品の構成及び動作」に改める。)から,これを引用する。 2第3当事者の主張次のとおり当審における主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第3争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。
1控訴人の主張( ) 本件特許発明技術的範囲の解釈1ア原判決は,特許法70条2項の趣旨を「限定的意味ではなく,明細書及び図面全体の理解から,特許請求の範囲に記載された発明の内容を把握すべきこと」(原判決74頁第2段落)ととらえていながら,「本件特許発明の特許請求の範囲の記載を解釈するには,本件明細書に記載された唯一の実施例に記載されている回転表示方法を考慮して解釈せざるを得ないというべきである。」(同75頁第2段落)として,不当な限定解釈をした。
しかし,従来技術から明確になる事柄については,当該発明に係る願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載及び願書に添付した図面(以下「発明の詳細な説明の記載等」という。)により限定して解釈すべきではなく,本件特許発明においても,その特許請求の範囲は,従来技術を考慮すれば,次のとおり,当業者にとって,一義的に明確なものであるから,何ら限定解釈を加える理由はないのであって,本件特許発明技術的範囲を限定的に解釈した上で,被控訴人製品が本件特許発明構成要件を充足しないとした原判決の認定判断は誤りである。
(本件特許発明1)(ア) 構成要件A-1(「複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータを記憶するマップと,」)構成要件A-1は,本件特許発明の図形表示装置におけるメモリの一つのマップの内容を示したものである。つまり,「複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容」というものが,キャラクタジェネレータに記憶されている個々のキャラクタであり,これを「指示するデータ」とは,キャラクタコードのことであり,このデータを記憶するものがマップである。
ここに,キャラクタ方式とは,「キャラクタ単位で画面上のどこに1何を表示するか」を指定する方式である。つまり,画面を構成するキャラクタの単位で管理する方式である。
(イ) 構成要件A-2(「垂直方向読出信号および水平方向読出信号が入力され,指定された回転量に対応した第の読出信号および第の読出信12号を出力する座標回転処理手段と,」)構成要件A-2の「垂直方向読出信号および水平方向読出信号」とは,ブラウン管のようなラスタスキャン方式を採用する図形表示装置において,基本である表示位置を表す信号であって,本件特許発明の図形の回転表示技術が,出力信号をX方向の座標軸及びY方向の座標軸にそれぞれ対応させて表される直交座標を,任意の角度だけ傾斜させ,新たな直交座標に変換して図形を表示するものであることからして,座標変換前のアドレス(回転前座標)を示す信号であり,直交座標で表される信号のうち,メモリの水平方向及び垂直方向の読出に用いられる信号を意味するものである。
構成要件A-2の,指定された回転量に対応した第1の読出信号及び第2の読出信号を出力する「座標回転処理手段」とは,座標回転処理手段に入力される座標変換前の直交座標の水平方向読出信号及び垂直方向読出信号に対し,指定された回転量に従ってアフィン変換を行い座標変換後の直交座標を算出するものである。構成要件A-2の,座標回転処理手段から出力される「指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号」とは,座標回転処理手段によって算出形成された座標変換後の単一の座標のうち,マップに供給されキャラクタコードを指定する上位ビットを第1の読出信号,図形発生部に供給され図形データを得る下位ビットを第2の読出信号という。
(ウ) 構成要件A-3(「図形発生手段とを備え,」)構成要件A-3の図形発生手段とは,キャラクタ方式における表示画像を発生させるキャラクタジェネレータのことであり,本件明細書の発明の詳細な説明実施例の記載(以下「本件実施例」という。)では,メモリのアクセス速度が遅いので,メモリを四つ用意し,キャラクタジェネレータの後にシフトレジスタとセレクタを設けることによってデータを出力するようにしている。
(エ) 構成要件B(「前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得,該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得,該図形データによって図形表示を行う図形表示装置であって,」)前述のとおり,第1の読出信号は,単一の座標のうちの上位ビットで,マップに供給され読出順序データを得るものである。
ここにいう「読出順序データ」とは,キャラクタコードのことである。
「該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得,」とは,単一の座標のうちの下位ビット(本件実施例では,下位4ビット)からなる第2の読出信号を図形発生部に供給し,マップから出力された読出順序データ(キャラクタコード)が図形発生部に入力されて指定された特定のキャラクタのうちの一つのピクセルを指定して,画面に表示するための図形データであるピクセルデータを得るということである。「該図形データによって図形表示を行う図形表示装置であって,」とは,図形発生部から出力された一つ一つのピクセルデータによって,ラスタスキャン方式の図形表示装置に図形を表示するということである。
(オ) 構成要件C(「前記図形発生手段は,ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示する」)構成要件Cでは,指定キャラクタコードと第2の読出信号との組合せをピクセル単位で行うため,構成要件A-2の「座標回転処理手段」から出力される指定回転量に応じた第1の読出信号,第2の読出信号によって,図形発生手段では,図形を回転させる角度に応じて,どの方向にこの組み合わせるべき方向を一致させればよいかを決めることができ,その結果,キャラクタジェネレータにおける指定において,キャラクタコードのアドレス及びデータが特定されれば,図形の回転方向に沿ったピクセルを順次に特定していくことができ,このようにして特定された図形データをピクセル単位で表示画面に送出していくと回転した状態の図形が表示されるのである。
(本件特許発明2)本件特許発明2の特許請求の範囲についても,同様に,従来技術を考慮すると一義的に明確なものである。
( ) 本件特許発明の特徴2アキャラクタ方式による表示技術は,昭和58年10月1日CQ出版社発行「トランジスタ技術10月号」(乙60)に示されているように,本件原出願に係る特許出願日(以下「本件原出願日」という。)当時,既に周知であった。しかし,この従来のキャラクタ方式は,キャラクタジェネレータからシフトレジスタにデータが出力される構成であり,当業者の認識では,このような従前のキャラクタ方式による表示には,シフトレジスタの存在が大前提であって,シフトレジスタが,キャラクタジェネレータから表示画面の水平走査線方向に構成ビット分のデータを一括して読み出すことしか行うことができなかった。キャラクタジェネレータには,複数個のキャラクタが収められているが,シフトレジスタは,キャラクタジェネレータから表示画面の水平走査線方向に構成ビット分のデータを一括して読み出すというものであり,このように,従来のキャラクタ方式においては,シフトレジスタが存在することが大前提であったため,所望のキャラクタコードについて任意のピクセル単位で斜め方向に読み出すべきデータを特定して順次に読み出すことはできなかった。要するに,従来のキャラクタ方式においては,出力されるピクセルは,ピクセル単位で一つ一つのキャラクタコードを持っているものではなく,複数のピクセル(例えば8ピクセル)毎に一つのキャラクタコードを持つものであり,このことが,キャラクタ方式において,縦横移動表示が可能でも,回転表示を実現し得ない構成となっていた。
これに対して,本件特許発明1は,構成要件Cのとおりの構成を採用することにより,キャラクタ方式でありながら,出力されるピクセルとキャラクタコードとを1対1に対応させることにし,指定されたキャラクタコードと第2の読出信号との組合せをピクセル単位で行うため,「座標回転処理手段」から出力される指定回転量に応じた「第1の読出信号」,「第2の読出信号」によって,「図形発生手段」では,図形を回転させる角度に応じて,どの方向にこの組み合わせるべき方向を一致させればよいかを決めることができ,その結果,キャラクタジェネレータの構成図における指定キャラクタコードのどのアドレスのどのデータかを特定していくときに,図形の回転方向に沿ったピクセルを順次に特定していくことができ,このようにして特定された図形データをピクセル単位で表示画面に送出していくと回転した状態の図形が表示されるのである。
つまり,従来のキャラクタ方式においては,例えば,8ピクセル毎に一つのキャラクタコードを有していたため,各ピクセルとキャラクタコードとが1対1に対応していたところ,本件特許発明1においては,従前のキャラクタ方式を基本にしつつ,「ピクセル単位で,区域毎に独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得」るという構成(構成要件C)を採用することにより,従来のキャラクタ方式の問題点を解決し,キャラクタ方式でありながら,出力されるピクセルとキャラクタコードとを1対1に対応させているということを最大の特徴とするものであり,その結果,回転方向に沿ったピクセルを順次特定できるようになったのであり,このことが,本件特許発明がパイオニア発明であると控訴人が主張するゆえんである。
イ本件原出願日以前のキャラクタ方式を採用するゲーム業界をはじめとする分野においては,基本的に図形を表示画面の縦方向又は横方向へ移動(縦スクロール・横スクロール)するだけで十分であり,図形を回転表示する必要性はなく,また,図形を回転させるという発想さえも全くなかった。これは,図形を回転表示するということが,シフトレジスタを使用した従来のキャラクタ方式では不可能であったからであり,また,当時流行していた業務用ゲームやテレビゲームが,すべて画面の縦スクロールや横スクロールで構成されていたことからも明らかである。本件特許発明発明者は,このようなゲーム業界において,新たなゲームソフトを開発する上で,キャラクタ方式における図形の回転表示が可能になれば,より映像表現力が増し,人気あるゲームが販売できるのではないかと考え,本件特許発明に係る技術を発明するに至ったのであり,その技術の最も重要な部分が本件特許発明1の構成要件Cである。
本件特許発明1は,従前のキャラクタ方式を基本にした上で,構成要件Cのとおり,「ピクセル単位で,区域毎に独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得」るようにし,本件特許発明2では,構成要件B’のとおり,「図形表示を行う前記ステップが,ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示するステップを含む」ようにし,出力されるピクセルをキャラクタコードと1対1に対応させ,キャラクタジェネレータの指定をピクセル単位で行えるようにすることで,図形の回転表示を可能にした。そして,キャラクタジェネレータの指定をピクセル単位で行えるようにするには,従前のキャラクタ方式において,一つのキャラクタに対して,縦横それぞれ複数のビットを持ったものとし,キャラクタジェネレータのアドレス信号を,座標変換後の垂直方向読出信号,水平方向読出信号に対応させれば,出力されるピクセルとキャラクタコードとを1対1に対応させることができるのである。
( ) 「読出順序データ」3ア上記( )ア(エ)のとおり,「読出順序データ」とは,キャラクタコードの 1ことであり,「該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得,」とは,単一の座標のうちの下位ビット(実施例では,下位4ビット)からなる第2の読出信号を図形発生部に供給し,マップから出力された読出順序データ(キャラクタコード)が図形発生部に入力されて指定された特定のキャラクタのうちの一つのピクセルを指定して,画面に表示するための図形データであるピクセルデータを得るということである。
本件特許発明に係る願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。別添特許公報参照)の発明の詳細な説明の段落【0003】には,「マップ部4に記憶された読出順序データが順次読出され,その読出された読出順序データ信号に対応する図形を表わす図形データがキャラクタジェネレータ5から読出され,」との記載があり,この記載によれば,読出順序データとは「キャラクタコード」であることが分かる。本件原出願日当時は,「キャラクタコード」という名称ないし用語が一般化していなかったため,本件特許発明においては,図形データが順序よく並べられた特徴を指して「読出順序データ」と称していたのである。
イ本件特許発明における,出力されるピクセルとキャラクタコードとを1対1に対応させる技術は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されている。すなわち,「図20の例では,1番目から15番目までが一つの読出順序データに対応し,16番目のピクセル1つが別の読出順序データに対応している。すなわち,1つの読出順序データに対して少なくとも1つ以上のピクセルデータが対応している。」(段落【0071】)とあり,この記載は,本件特許発明が出力されるピクセルとキャラクタコードとを1対1に対応させていることを表しているものである。
すなわち,従前のキャラクタ方式は,1番目から16番目までのピクセルのすべてが,一つの読出順序データに対応しているものであったが,本件特許発明は,上記明細書に「1番目から15番目までが1つの読出順序データに対応し,16番目のピクセル1つが別の読出順序データに対応している。」と記載されているように,1番目から16番目までのピクセルすべてが一つの読出順序データに対応するものではない。図面の図20では,ピクセルの1番目から15番目までが「F」を示す読出順序データに対応し,16番目のピクセルが「F」の左隣のキャラクタ,例えば,これを「E」とすれば,「E」を示す読出順序データに対応している。図20では,「E」を示すピクセルは,1ピクセルしかないが,ピクセル単位で読出順序データと出力されるピクセルが対応しているからこそ16番目の1ピクセルだけが「E」を示す読出順序データに対応できるのである。
このように,出力されるピクセルデータは,ピクセル単位で,読出順序データとの対応が行われることで,初めて,キャラクタ方式でありながら,回転表示が可能となるのである。
ウ加えて,「読出順序データ」との用語がマップから読み出される信号であることについては,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】に記載されており,また,従来のキャラクタ方式ではマップに記憶されているのはキャラクタコードであり,本件特許発明においても第1の読出信号をマップに供給して得られるデータを読出順序データといっているのであるから,読出順序データが,キャラクタコードであると容易に理解することができる。
( ) 「第1の読出信号」4昭和53年7月20日CQ出版株式会社発行「つくるCRTディスプレイ」(乙58,以下「乙58文献」という。)のキャラクタ・ディスプレイのブロック図,回路図の中には,読出しに用いられるものとして,まとめて「toRAMADDRESMPX」という信号名が付せられているものが見受けられ,これらの信号がマップに送られていることは明らかであるから,本件特許発明の特許請求の範囲に記載されている,マップに供給される第1の読出信号であることが理解できる。
つまり,本件特許出願時点での従来技術として,乙58文献には,表示位置を特定する水平方向読出信号・垂直方向読出信号の一部をキャラクタ管理に必要な読出信号とし,他の信号と区別してとらえる考え方が開示されており,最初に一つ目のメモリであるマップからデータを読み出すことは公知であった。したがって,キャラクタ方式では,二つのメモリからデータを読み出して表示を行うものであるということができる。このような前提の下において,「第1の読出信号」との記載が存在すれば,それが「2つのメモリのうちの第1番目に読み出すための信号」,すなわち,「マップを読み出す信号」である上記「toRAMADDRESMPX」信号を意味していることは,当業者であれば容易に想起することが可能であった。
このように,本件特許発明の特許請求の範囲記載の「第1の読出信号」の意義は,当業者にとって一義的に明白であったことが明らかである。
( ) 「第2の読出信号」5乙58文献のキャラクタ・ディスプレイの回路図の中には,読出しに用いられるものとして,まとめて「toCHRACTERGEN.ADDRES」という信号名が付せられているものが見受けられ,この信号は,キャラクタジェネレータに入力されているものであるところ,一方,本件特許発明の特許請求の範囲に記載されている「第2の読出信号」は,マップを通らずに直接図形発生手段に供給されるものであるから,上記「toCHRACTERGEN.ADDRES」信号が第2の読出信号であることは容易に理解できる。
上記( )のとおり,キャラクタ方式は,二つのメモリからデータを読み出4して表示を行う方式であり,一つ目のメモリであるマップからデータを読み出した(このための信号が「第1の読出信号」である。)後に,二つ目のメモリであるキャラクタジェネレータからもデータを読み出すことは公知であった。このような前提の下で,「第2の読出信号」との記載が存在すれば,それが「2つのメモリのうちの第2番目に読み出すための信号」,すなわち「キャラクタジェネレータを読み出す信号」である上記「toCHRACTERGENADDRES」を意味していることは,当業者であれば容易に想起することが可能である。
( ) 本件特許発明構成要件充足性6ア被控訴人製品は,本件特許発明構成要件A-1〜3,B,C,Dをすべて充足するから,本件特許発明技術的範囲に属する。
イ原判決は,本件実施例を引用し,構成要件A-2の「垂直方向読出信号および水平方向読出信号」について,「『垂直方向読出信号および水平方向読出信号』とは,上記特許請求の範囲の記載によれば,『座標回転処理手段』に入力される信号であり,指定された回転量に対応した『第1の読出信号および第2の読出信号』を出力するための信号である。」(原判決76頁第3段落),「上記本件明細書の記載によれば,『垂直方向読出信号および水平方向読出信号』は,HカウンタとVカウンタによって発生され,座標回転処理手段に入力されるところの,回転前の座標軸を指定する読出信号と解される。」(同77頁第2段落)と認定したが,誤りである。
「垂直方向読出信号および水平方向読出信号」とは,ブラウン管のようなラスタスキャン方式を採用する図形表示装置において,基本である表示位置を表す信号であって,本件特許発明の図形の回転表示技術が,出力信号を,X方向の座標軸及びY方向の座標軸にそれぞれ対応させて表される直交座標を,任意の角度だけ傾斜させ,新たな直交座標に変換して図形を表示するものであることからして,座標変換前のアドレス(回転前座標)を示す信号であり,直交座標で表される信号のうち,メモリの水平方向及び垂直方向の読出に用いられる信号を意味するものである。
指定された回転量に対応した第1の読出信号及び第2の読出信号を出力する「座標回転処理手段」とは,座標回転処理手段に入力される座標変換前の直交座標の水平方向読出信号及び垂直方向読出信号に対し,指定された回転量に従ってアフィン変換を行い座標変換後の直交座標を算出するものである。
2被控訴人の主張( ) 本件特許発明技術的範囲の解釈について1ア控訴人は,本件特許発明の特許請求の範囲の記載は,一義的に明確に理解できるので,その技術的範囲の解釈に際して,発明の詳細な説明の記載等を考慮することは許されない旨主張する。
しかしながら,特許発明技術的範囲の解釈は,特許請求の範囲の記載が一義的に明確であるか否かを問わず,発明の詳細な説明の記載等の記載を考慮してされるものである。特許請求の範囲の記載が一義的に明確であれば,特許発明技術的範囲の解釈に当たって発明の詳細な説明の記載等の考慮は許されないとする控訴人の主張は,昭和60年法律第41号による改正前の特許法36条4項及び5項(現行法36条4項1号及び6項1号),並びに,特許法70条1項,2項の解釈を誤るものであって,主張自体失当である。
最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁は,特許出願に係る発明の要旨の認定について,「要旨認定は,特段の事情のない限り,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない」と判示するが,出願系に係る審決取消訴訟の事案であり,その射程は侵害訴訟には及ばないのであって,侵害訴訟における特許発明技術的範囲について,「特許請求の範囲の記載の解釈は,発明の詳細な説明の記載及び図面の記載を考慮して行う」旨を定めた特許法70条2項は,上記射程に関する誤解が生じることのないように,念のために確認規定として追加されたものである。要するに,侵害訴訟における特許発明技術的範囲の解釈においては,そもそも,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確であるか否かを問わず,発明の詳細な説明の記載等を考慮して解釈されるべきである。
特許制度が公衆に対する技術公開の代償として一定期間における独占を認めるものであるところから,独占の範囲を画する特許請求の範囲は,発明の詳細な説明の記載等に当業者が容易に実施をすることができる程度に十分かつ明確に開示された発明のうちから,出願人が特許を請求する範囲を記載したものでなければならず,したがって,仮に,特許請求の範囲に「特許を受けようとする発明が一義的に明確に」記載されていたとしても,当該特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明の記載等に支持(サポート)されていない場合,あるいは,当該特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明の記載等に当業者にとって容易に実施をすることができる程度に具体的に,明確かつ十分に記載されていない場合には,特許法36条のいわゆるサポート要件違反あるいは実施可能要件違反として当該特許には無効事由が存することになるのであるから,特許請求の範囲が「一義的に明確」であるか否かを問わず,特許請求の範囲の記載は発明の詳細な説明の記載等を考慮してこれを解釈されなければならないのである。
控訴人の上記主張によれば,特許請求の範囲の記載が一義的に明確に書かれていた場合には,発明の詳細な説明の記載等の欄には何も記載することを要しないということになり,実施可能要件,サポート要件を定める特許法36条の法意に反する主張であって,主張自体失当である。
控訴人は,「一義的に明確である」と称して,発明の詳細な説明の記載等に開示されていない技術事項を本件特許発明であると主張し,さらには,文献等に基づき,本件原出願時の「技術常識」であることが客観的に立証されていない技術事項を主張しており,このような野放図に展開する控訴人の技術的範囲の主張は,特許法が規定する技術的範囲の解釈原則を完全に逸脱したものであり,その誤りは主張自体からして明白である。
イ控訴人は,本件特許発明の特許請求の範囲は,従来技術を考慮すれば,当業者にとって,一義的に明確なものであるとして,本件特許発明の各構成要件についての解釈をしている。
しかし,本件特許発明の特許請求の範囲に記載されている用語は,原判決が例示する「第1の読出信号」,「第2の読出信号」,「読出順序データ」はもとより,「水平方向読出信号」,「垂直方向読出信号」,「図形データ」,「図形発生手段」などについても,本件原出願時である昭和59年当時はもちろん,本件特許発明設定登録時である平成11年当時においても,当業者が発明の詳細な説明の記載等における説明記載がなくとも一定かつ特定された技術的意義内容を「技術常識」として理解するという用語ではない。
また,「第1の読出信号」,「第2の読出信号」という用語は,文字構成からして明らかなとおり,ある信号を,単に当該明細書において「第1の読出信号」「第2の読出信号」と命名するという性質の用語であり,このように命名された各信号の技術事項がいかなるものであるかは,当該命名した明細書の発明の詳細な説明の記載等の記載を参照するのでなければ,明細書の名宛人であり,従来のキャラクタ方式による回転表示手法については「未知」であった当業者にとって,理解する手段がないという性質の用語である。
さらに,「読出順序データ」との用語は,本件特許発明の出願人が本件明細書のために作った造語であると控訴人自身が述べているところであり,このような抽象的な技術的思想である発明を説明するための新規な造語の意義内容は,発明を具体的に説明する発明の詳細な説明の記載等によらなければ判明するものではない。
そして,「読出順序データ」との用語が一義的に明確でないことにより,構成要件A-2,構成要件A-3,構成要件B,構成要件Cの技術的意義内容が特許請求の範囲の記載からでは一義的に明確なものとなっておらず,「第1の読出信号」の用語が一義的に明確でないことにより,構成要件A-2及び構成要件Bの技術的意義内容が,特許請求の範囲の記載からでは一義的に明確なものとなっておらず,「第2の読出信号」の用語が一義的に明確でないことにより,構成要件A-2,構成要件B,構成要件Cの技術的意義内容が,特許請求の範囲の記載からでは一義的に明確なものとなっていない。
したがって,上記用語の不明確さによって,本件特許発明の特許請求の範囲に記載されたすべての構成要件が,特許請求の範囲の記載からでは一義的に明確にその意義内容を理解することはできないのである。
「一義的に明確である」と称して,控訴人が行っている本件特許発明の特許請求の範囲の記載についての解釈は,当該技術内容が発明の詳細な説明の記載等に開示されておらず,しかも,その解釈を裏付け得る本件原出願時の「技術常識」が文献等で立証されていないのであるから,結局のところ,控訴人の空理空論であり,第三者に対し特許独占の範囲を画する客観的な特許請求の範囲の解釈として成り立たない。
( ) 本件特許発明の特徴について2本件明細書の発明の詳細な説明の記載等における唯一の技術開示である【発明の実施の形態】欄の記載によれば,本件特許発明とは,@表示画面上の「複数ピクセルに対応する2つの読出信号」である「第1の読出信号」を「マップ」に供給して,A表示画面上の「複数ピクセルに対応するマップ上の隣接する2つの文字コード」である「読出順序データ」を得て,Bこれによって「図形発生手段」の中のキャラクタジェネレータから,2種類の「文字」(キャラクタ)の各行分の複数ピクセルデータである「図形データ」を読み出し,C「図形発生手段」の中の図形組立部(シフトレジスタとセレクタからなる)において,このような2種類の「文字」(キャラクタ)の各行分の複数ピクセルデータである「図形データ」の中から,「第2の読出信号」が各行におけるそれぞれのピクセルの単位で(回転後の表示のための)ピクセルデータを特定し,D表示画面のラスタ上にこのような回転後の複数ピクセルに対応するピクセルデータを順次出力して,図形を回転表示するものである。
一つのピクセルに対応する一つのキャラクタコードによって回転表示をする技術は,本件明細書には一切記載がない。
むしろ,キャラクタ方式でありながら「1ピクセル毎の1サイクル処理」,すなわち,原判決別紙「被告製品目録1」の「1.構成の説明」の項に記載されている「1つのピクセル毎に1つの座標を生成し,当該1つの座標のうちの上位ビットに基づいてメモリから1つのピクセル毎に1つのキャラクタコードを得,当該1つのキャラクタコードと当該1つの座標のうちの残りの下位ビットとに基づいて他のメモリから1つのピクセル毎に1つのピクセルデータを得て,当該1つのピクセルデータをディスプレイ画面に表示する」との処理を行う技術事項は,従来のキャラクタ方式において採用されていた「複数ピクセル毎の処理」を根本から変えることによって,キャラクタ方式を採りながらグラフィック方式と同様の自由な表示効果を達成できるというものであって,本件特許発明とは全く異なる技術的思想である。要するに,表示画面上の複数ピクセル毎に一つのキャラクタコードを得るか,1ピクセル毎に一つのキャラクタコードを得るかは,その画像処理の根本の技術的思想自体を異にするものである。
( ) 「読出順序データ」について3ア控訴人は,構成要件Bの「読出順序データ」の技術内容は,本件特許発明発明の詳細な説明の【従来の技術】欄の「マップ部4に記憶された読出順序データが順次読出され,その読出された読出順序データ信号に対応する図形を表わす図形データがキャラクタジェネレータ5から読出され,」(段落【0003】)との記載から分かる旨主張する。
しかし,上記【従来の技術】欄の記載から分かる「読出順序データ」の技術内容とは,従来技術における文字コードと同一の技術内容,すなわち,複数ピクセルに対応する一つの読出信号によって「マップ」から読み出される,複数ピクセルに対応する一つのキャラクタコードであって,これによって,キャラクタ(文字)の横方向一行分のデータであるところの複数ピクセルのピクセルデータを,キャラクタジェネレータから同時に得るものということになる。ところが,従来技術のように,複数ピクセルに対応する一つの文字コード(一つの読出データ)をマップから得たのでは,回転によってマップ上の隣接する二つのデータにまたがってアクセスが生じた場合に図形の回転表示ができず,図形の回転表示のためには2種類のデータが必要であることになり,このことは,本件明細書が明記するところである。したがって,本件特許発明が,構成要件として具備する「読出順序データ」の技術事項を,従来技術と同じく複数ピクセルに対応する一つのキャラクタコードと解したのでは,本件特許発明は従来技術と同様に図形の回転表示をすることはできない。このように,回転表示ができない従来技術を述べた【従来の技術】欄の記載を考慮してみても,回転表示の構成要件である「読出順序データ」の技術的意義内容を理解することはできない。
そうすると,構成要件としての「読出順序データ」の技術事項については,原判決の判示するとおり,回転表示についての唯一の技術開示記載である【発明の実施の形態】欄の記載を考慮して理解することになる。そして,【発明の実施の形態】欄の記載を考慮すれば,本件特許発明における図形の回転表示をするための構成要件である「読出順序データ」の技術事項とは,表示画面上の「複数ピクセルに対応する,隣接する2つの読出データ(2つの文字コード)」と解釈することができる。
イ本件特許発明1の構成要件Cの記載は,本件出願当初から,@「1つのラスタ期間に前記マップよりN個以上2N個以下の読出順序データを読み出し,図形を回転表示する」(乙12の1),A「1つの走査線に図形を表示するために前記マップよりN個を超える読出順序データを得,図形の回転表示を可能にした」(乙12の2),B「前記マップよりN個以上の読出順序データを得,得られた読出順序データを前記図形発生部に供給して,各々の前記読出順序データに対応する図形のデータであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得て図形を回転表示する」(乙12の4)と変遷しており,マップから読み出される「読出順序データ」は,回転しない場合のN個と比べて,回転する場合には個数を異にして読み出すものであることを,出願人は特許請求の範囲の記載において明記していた。ところが,審査官から「読出順序データ」が不明瞭であるとして第2回の拒絶理由通知を受け(乙12の6),これを克服するために,出願人は,回転する場合には個数を異にして読み出すことを記載していた従来の特許請求の範囲の記載の釈明として,現在の構成要件C「前記図形発生手段は,ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示する」(乙12の7)になったのである。
したがって,侵害訴訟の場において,構成要件としての「読出順序データ」について,回転する場合にも回転しない場合にも,マップから「必ず1つのデータだけを読み出す」(すなわち,回転する場合にも回転しない場合にも,必ずマップからN個を読み出す)として,審査段階と異なる主張をすることは,出願経過における禁反言として信義則上許されないものである。
( ) 「第1の読出信号」について4「第1の読出信号」の技術事項は「単一の座標のうちの上位ビットである」との控訴人の解釈は,発明の詳細な説明の記載等に開示がなく,また,このような解釈が当業者の技術常識であることの証明もされていない以上,特許請求の範囲の解釈原則を逸脱したものである。
控訴人は,本件特許発明の特許請求の範囲に記載された「図形を回転表示する」ための構成要件である「第1の読出信号」の技術事項は,従来技術と同一であると主張しているが,二重の意味で誤りである。
すなわち,従来のキャラクタ方式においては,被控訴人従業員日比野敏郎作成の陳述書(乙71)に記載されているとおり,複数ピクセルに対応する一つの読出信号によって,「マップ」(RAM)から複数ピクセルに対応する一つの文字コードを読み出しているものであり,「複数ピクセル毎の処理」をするものであり,「単一の座標」毎に一つのキャラクタコードをマップから読み出す,すなわち,「1ピクセル毎の処理」ではない。したがって,控訴人による「第1の読出信号」とは「単一の座標」であるとする主張は,従来のキャラクタ方式における「複数ピクセル毎の処理」とは基本において異なる新規な技術を主張するものである。このように,従来のキャラクタ方式とは基本において異なる新規な技術事項を,本件明細書の発明の詳細な説明の記載等における開示もなく,技術常識の立証もないのに,「第1の読出信号」であるとする控訴人の解釈は,失当というほかない。
( ) 本件特許発明構成要件充足性について5控訴人は,本訴において,画期的な「1ピクセル毎の1サイクル処理」を行う被控訴人製品を,従来のキャラクタ方式と同じく,「複数ピクセル毎の処理」を行うにすぎない本件特許発明技術的範囲に属させるために,すべての構成要件について,本件特許発明の技術内容を,強引に「1ピクセル毎の1サイクル処理」であるとして,その充足性を主張しているにすぎない。
( ) 仮定抗弁(その1)6仮に,特許請求の範囲に記載された本件特許発明について,控訴人が主張するように,単一の座標のうちの上位ビットである「第1の読出信号」によって「マップ」から,一つのキャラクタコードである「読出順序データ」を得,その「読出順序データ」と単一の座標のうちの下位ビットである「第2の読出信号」によって一つのピクセルデータを得るという回転表示に係る発明と解釈されるとした場合,本件明細書の発明の詳細な説明等には,このような発明については具体的な説明が一切存在せず,また,【発明の実施の形態】欄に記載されている唯一の実施例は当該発明の構成要件を具備しておらず,当該発明の実施の形態を記載したものではない。
したがって,本件特許発明は,昭和59年の本件原出願時に係る出願に適用される昭和60年法律第41号による改正前の特許法36条4項(いわゆる実施可能要件),同条5項(いわゆるサポート要件)違反の無効事由があるから,控訴人は,特許法104条の3に基づき,本件訴訟において本件特許権の権利行使をすることは許されない。
( ) 仮定抗弁(その2)7また,仮に,特許請求の範囲に記載された本件特許発明が上記( )のとお 5りの発明と解釈される場合には,その唯一の実施例が当該発明を開示するものではないとともに,本件原出願の当初明細書(乙11の1)には,本件明細書と共通する唯一の実施例の説明記載以外には,本件原出願以外の発明は記載されていないから,本件特許発明は,特許法44条1項に違反するものであり,その出願日は現実の出願日である平成9年2月28日に繰り下がる。
一方,上記現実の出願日の前である平成3年3月19日には,被控訴人出願に係る発明(平成1年8月1日出願,平成12月5日設定登録,特許第2725062号)が出願公開されており,同発明は,上記の控訴人主張に係る本件特許発明と同一の内容を有しているので,控訴人が主張する本件特許発明の構成は,その出願日前に公開されていた被控訴人出願の上記発明から少なくとも容易に推考されるものであって,進歩性を欠き無効事由があるから,控訴人は,上記( )と同様,特許法104条の3に基づき,本件訴訟に6おいて本件特許権の権利行使をすることは許されない。
第3当裁判所の判断1被控訴人製品の構成及び動作についてこの点に関する当裁判所の認定判断は,原判決の「事実及び理由」欄の「第4争点に対する判断」の「1争点( )(被告製品の構成及び動作)につい2て」のとおりである(ただし,原判決別紙「被告製品目録3」の5行目ないし6行目の「被告方向累積加算タイミング信号」を「Y方向累積加算タイミング信号」に改める。)から,これを引用する。
2本件特許発明技術的範囲の解釈について( ) 特許法70条1項は,「特許発明技術的範囲は,願書に添付した特許請1求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」,同条2項は,「前項の場合においては,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」と規定しているところ,元来,特許発明技術的範囲は,同条1項に従い,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定められなければならないが,その記載の意味内容をより具体的に正確に判断する資料として明細書の記載及び図面にされている発明の構成及び作用効果を考慮することは,なんら差し支えないものと解されていたのであり(最高裁昭和50年5月27日第三小法廷判決・判時781号69頁参照),平成6年法律第116号により追加された特許法70条2項は,その当然のことを明確にしたものと解すべきである。
ところで,特許明細書の用語,文章については,@明細書の技術用語は,学術用語を用いること,A用語は,その有する普通の意味で使用し,かつ,明細書全体を通じて統一して使用すること,B特定の意味で使用しようとする場合には,その意味を定義して使用すること,C特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とは矛盾してはならず,字句は統一して使用することが必要であるところ(特許法施行規則様式29〔備考〕7,8,14イ),明細書の用語が常に学術用語であるとは限らず,その有する普通の意味で使用されているとも限らないから,特許発明技術的範囲の解釈に当たり,特許請求の範囲の用語,文章を理解し,正しく技術的意義を把握するためには,明細書の発明の詳細な説明の記載等を検討せざるを得ないものである。
また,特許権侵害訴訟において,相手方物件が当該特許発明技術的範囲に属するか否かを考察するに当たって,当該特許発明が有効なものとして成立している以上,その特許請求の範囲の記載は,発明の詳細な説明の記載との関係で特許法36条のいわゆるサポート要件あるいは実施可能要件を満たしているものとされているのであるから,発明の詳細な説明の記載等を考慮して,特許請求の範囲の解釈をせざるを得ないものである。
そうすると,当該特許発明の特許請求の範囲の文言が一義的に明確なものであるか否かにかかわらず,願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈すべきものと解するのが相当である。
( ) 控訴人は,従来技術から明確になる事柄については,発明の詳細な説明の2記載等により限定して解釈すべきではないとし,本件特許発明において,その特許請求の範囲は,従来技術を考慮すれば,当業者にとって,一義的に明確なものであるから,何ら限定解釈を加える理由はないのであって,本件特許発明技術的範囲を限定的に解釈した上で,被控訴人製品が本件特許発明構成要件を充足しないとした原判決の認定判断は誤りであると主張する。
しかし,上記のとおり,特許権侵害訴訟においては,特許請求の範囲の文言が一義的に明確であるか否かを問わず,発明の詳細な説明の記載等を考慮して特許請求の範囲の解釈をすべきものであるから,従来技術から明確になる事柄について,それ以上発明の詳細な説明の記載等から限定して解釈すべきではないとする控訴人の主張は,そもそも,誤りである。
我が国の特許制度は,産業政策上の見地から,自己の発明を公開して社会における産業の発達に寄与した者に対し,その公開の代償として,当該発明を一定期間独占的,排他的に実施する権利(特許権)を付与してこれを保護することにしつつ,同時に,そのことにより当該発明を公開した発明者と第三者との間の利害の調和を図ることにしているものと解される(最高裁平成11年4月16日第二小法廷判決・民集53巻4号627頁参照)。本件原出願(昭和59年10月2日出願)に適用される昭和60年法律第41号による改正前の特許法36条4項が「第2項第3号の発明の詳細な説明には,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載しなければならない。」(いわゆる実施可能要件),同条5項が「第2項第4号の特許請求の範囲には,発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない。ただし,その発明の実施態様を併せて記載することを妨げない。」(いわゆるサポート要件)と定めているのも,発明の詳細な説明の記載要件という場面における,特許制度の上記趣旨の具体化であるということができる。したがって,特許請求の範囲の記載に基づく特許発明技術的範囲の解釈に当たって,何よりも考慮されるべきであるのは,公開された明細書の発明の詳細な説明の記載等であって,これに開示されていない従来技術は発明の詳細な説明の記載等に勝るものではない。
仮に,控訴人主張のとおり,特許発明技術的範囲の解釈において,従来技術から明確になる事柄については,それ以上発明の詳細な説明の記載等により限定して解釈すべきではないとすることが許されるならば,発明の詳細な説明の記載等とは無関係に,特許請求の範囲の解釈の名の下に,随意に新たな技術を当該発明として取り込むことにもなりかねず,このような結果が,上記発明の公開の趣旨に反することは明らかである。
( ) 以上のとおり,特許発明技術的範囲の解釈に当たって,一義的に明確な3ものであれば,発明の詳細な説明の記載等により限定して解釈すべきではないとする控訴人の主張は,独自の議論であって,採用し得ないものというべきである。
3本件特許発明の特徴について( ) 前記第2の2において引用する原判決の「事実及び理由」欄の第2の11( )記載のとおり(別添特許公報参照),本件特許発明1の特許請求の範囲 2には,「複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータを記憶するマップと,垂直方向読出信号および水平方向読出信号が入力され,指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力する座標回転処理手段と,図形発生手段と,を備え,前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得,該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得,該図形データによって図形表示を行う図形表示装置であって,前記図形発生手段は,ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示することを特徴とする図形表示装置。」,本件特許発明2の特許請求の範囲には,「複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータを記憶するマップを設けるステップと,垂直方向読出信号および水平方向読出信号を受け取って,指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力するステップと,前記第1の読出信号に基づいて前記マップから読出順序データを得るステップと,前記読出順序データと前記第2の読出信号とから図形データを得,該図形データによって図形表示を行うステップと,を備える図形表示方法であって,図形表示を行う前記ステップが,ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示するステップを含むことを特徴とする図形表示方法。」との記載がある。
しかし,上記記載中の「垂直方向読出信号および水平方向読出信号」,「第1の読出信号」,「第2の読出信号」,「座標回転処理手段」,「図形発生手段」,「読出順序データ」等の用語は,特定の意味で使用されている抽象的かつ機能的な表現であるため,当業者において,それがいかなる技術的意義を有するのかを理解することができない。また,「複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータ」,「図形データ」,「ピクセルデータ」等の用語は,それ自体として一般的な意味を理解し得ないでもないが,これら相互の関係,さらには,「読出順序データ」,「第1の読出信号」,「第2の読出信号」との関係が不明であり,当業者は,特許請求の範囲の記載によっては,本件特許発明がいかなる発明であるかを正確に把握することができないといわざるを得ない。
( ) 本件明細書の発明の詳細な説明(実施例を除く)には,次の記載がある。
2ア「【発明の属する技術分野】この発明は,マップと図形発生部とを用いて図形を回転表示することができる図形表示装置及び方法に関するものである。」(段落【0001】)イ「【従来の技術】従来,キャラクタジェネレータを用いた装置によって図形(文字を含む)を表示するために,マップおよびキャラクタジェネレータによって表示図形が記憶されたメモリを構成し,マップから読出された読出順序データによってキャラクタジェネレータから図形データを読出し,その読出した図形データを,ラスタスキャン方式によって図形として表示している。この表示は図22に示すように先ず,画面の右端においてラスタA0を形成し順次,画面の左側に走査位置を移動させてラスタA1〜Anを表示することによって図形を表示している。一つのラスタにはN個(例えば16個)のキャラクタが表示され,全て異なる図形の場合には,N種類の図形が表示できる。(この図は一般的なブラウン管を90度回転させて用いている)。図23はこのような表示を行なう装置の一例を示すブロック図であり,1はディジタル信号を処理する処理装置,2はブラウン管の水平方向の走査位置を指定するためのHカウンタ,3はブラウン管の垂直方向の走査位置を指定するためのVカウンタ,4はキャラクタジェネレータの読出アドレス順序が記憶されたマップ部,5はキャラクタジェネレータ,6はシフトレジスタ,7はブラウン管であり,Hはカウンタ2およびVカウンタ3は直交座標で表わされる読出信号を発生する読出信号発生器を構成している。マップ部4およびキャラクタジェネレータ5はグラフィックディスプレイにおけるビデオRAMに相当する図形を表示するためのメモリを構成している。」(段落【0002】)ウ「このように構成された装置において,処理装置1によって制御されるHカウンタ2およびVカウンタ3の出力信号によってマップ部4に記憶された読出順序データが順次読出され,その読出された読出順序データ信号に対応する図形を表わす図形データがキャラクタジェネレータ5から読出され,キャラクタジェネレータ5は例えば,図24に示すように,文字Aが記憶されている場合,文字Aの各行のデータが読出され,シフトレジスタ6に記憶される。そしてこのデータは順番に図25(b)〜(f)に示すようなビデオ信号に変換され,図25(a)に示すように文字Aがブラウン管7に表示される。」(段落【0003】)エ「このようにしてキャラクタジェネレータ5に記憶されている図形データが読出され,ブラウン管に表示されるので,複数のキャラクタジェネレータを備えれば,形および大きさが任意な図形を表示することができる。
このとき,キャラクタジェネレータに記憶されているデータの読出し開始位置を水平方向または垂直方向にシフトすることによって,表示される画面も,水平方向または垂直方向にシフトさせることができる。」(段落【0004】)オ「このように,マップとキャラクタジェネレータを用いて1つの走査線にN個の文字等を表示する表示装置では,1文字に1つの読出順序データ,即ち,N個の文字に対してN個の読出順序データを得,それぞれ対応するキャラクタジェネレータへ供給して可視的な文字としている。」(段落【0005】)カ「このような装置においては,表示される文字は,マップから読み出される読出順序データを変更することによって変更される。つまり,1つの文字を変更するには,マップ内の1つの読出順序データのみを変更すればよい。したがって,こうした表示装置は,グラフィックディスプレイにおけるビデオRAMの更新に比べて,遥かに高速に処理を行うことができ,ビデオゲーム機等の高速動画処理のための表示装置に適している。また,グラッフィクディスプレイのビデオRAMのように,画面サイズに対応する大きなメモリ容量を必要とせず,安価に製造することができる。」(段落【0006】)キ「【発明が解決しようとする課題】しかしながら,マップとキャラクタジェネレータとを用いる方式は,グラフィックディスプレイのビデオRAMを用いた方式のように描画用の1系統のメモリではなく,属性を異にし共に直接の描画用ではない2系統のメモリを必要とし,その分だけ複雑になる。例えば,前記のように表示位置を水平方向や垂直方向に移動表示させる位のことは可能だが,描画用メモリを持たないため,図形を拡大・縮小表示することが可能であるかどうかも明らかでなく,まして,図形の回転表示など,当該技術分野の技術者の全く思い及ばないところであり,その手法は未知のものであった。そこで,この発明は,マップとキャラクタジェネレータとを用いて図形の回転表示を可能とする装置及び方法を提供することを目的とする。」(段落【0007】,【0008】)ク「【発明の効果】・・・この発明は,ピクセル単位で,区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示するようにしたので,マップにキャラクタジェネレータを読み出す方式を取りながら,図形の回転を行なうことができるという効果がある。」(段落【0078】)( ) 本件明細書の発明の詳細な説明実施例は,別添特許公報のとおりである3が(段落【0010】〜段落【0077】),図形の回転表示に関する記載部分は,次のとおりである。
ア「【発明の実施の形態】図1はこの発明の一実施例を示すブロック図であり,図23と同一部分は同記号を用いている。10は直交座標で表わされる読出信号の内,一方の座標軸を指定する信号を発生するVカウンタ,11は他方の座標軸を指定する信号を発生するHカウンタ,12は読出信号の座標系に回転を与える座標回転処理部,13はマップ部4の記憶内容を読出すための信号を発生するマップ読出信号発生部,14はキャラクタジェネレータ部から図形データを読出すための信号を発生するキャラクタジェネレータ読出信号発生部,15はキャラクタジェネレータ部,16はキャラクタジェネレータ部15から読出したデータを図形に組立てる図形組立部である。なお,キャラクタジェネレータ部15と図形組立部16とを合わせて図形発生部という。」(段落【0010】)イ「ここで,座標軸に回転を与えるということは図2に示すように,Vカウンタ10の出力信号をX方向の座標軸に対応させ,Hカウンタ11の出力信号をY方向の座標軸に対応させて表わした直交座標を,点線で示すように角度θだけ傾斜させて,x軸-y軸で表わされる新たな直交座標に変換することである。」(段落【0011】)ウ「次に図形に回転を与える場合の動作について説明する。・・・座標回転処理部12は図形に回転を与えないとして説明したときの動作に加えて,加算器12iおよび加算器12jの端子aに供給されている信号に対して,回転信号演算器12fおよび回転信号演算部12gから供給される出力信号を加算する演算を行なう。このため,座標回転処理部12から出力される直交座標を表わす信号は回転信号演算部12fおよび回転信号演算部12gから供給される出力信号に対応した角度だけ座標系が回転して図2に点線で示すようになる。このように,座標系の回転が行なわれたことによって,Vカウンタ10およびHカウンタ11の出力信号が図形に回転を与えないときと同一の値であっても,メモリは異なった位置がアクセスされることになる。」(段落【0058】)エ「今,図14の四角形で示すメモリ空間において,横方向の位置がVアドレス(Vカウンタ10によって指定される座標をVアドレスと定義する)で指定され,縦方向の位置がHアドレス(Hカウンタ11によって指定される座標をHアドレスと定義する)で指定される直交座標で表わされる座標系に回転が与えられていないとき,Vカウンタ10の値を固定し,Hカウンタ11の値を変化させると,記号Aの実線で示す方向にアクセスが行なわれる。しかし,座標系に回転が与えられているときは,記号Bの点線で示す方向にアクセスが行なわれる。すなわち,座標系に回転を与えたときにはメモリ空間が斜めにアクセスされたことになる。」(段落【0059】)オ「マップ読出信号発生部13から供給された信号によってデータが読出されるマップ部4はブラウン管7のピクセルが縦横16個で囲まれる区域毎に独立した表示内容が記憶されている。このマップ部4は例えば,図8に示すようなデータすなわち,中央の2重線で囲まれた部分がアクセスされた時は文字Fを表わすデータが読出され,その右隣の部分がアクセスされた時は文字Bを表わすデータが読出され,左隣がアクセスされた時は文字Cを表わすデータが読出され,座標回転処理部12によって座標系に右方向の回転が与えられていると,マップ部4は図8の実線のようにアクセスされる。このため,1番目から11番目までのピクセルはFという文字を表示するためのデータが読出されるが,12番目から16番目までのピクセルはCという文字を表示するためのデータが読出される。一方,表示タイミング信号は16ピクセル毎に発生するようになっているので,図8の横方向の2重線をよぎる度に発生する。」(段落【0060】)カ「この結果,座標系に右回転を与え図8の実線の矢印の方向にマップをアクセスしたときは,表示タイミング信号の1周期中に文字Fと文字Cを表示するための2種類のデータが必要になる。このように,座標系に右回転を与えたときは,表示タイミング信号期間中に現在アクセスしている部分の記憶内容の外に,その左隣の部分の記憶内容も読出す必要がある。また座標系に左回転を与えて,図8の一点鎖線で示す矢印の方向にアクセスするときには,アクセス中の部分の記憶内容の外に,その右隣の部分の記憶内容も読出す必要がある。そこで,アクセス中の部分の記憶内容を『ナウ』,その左隣の部分の記憶内容を『ネクスト』,右隣の部分の記憶内容を『バック』と定義する。」(段落【0061】)キ「・・・1ラスタ期間中に『ナウ』をN個読み出している他に,『ネクスト』または『バック』も読み出しているので,マップよりN個以上の読出順序データを読み出していることになる。」(段落【0062】)ク「キャラクタジェネレータから読出すデータは4個のキャラクタジェネレータから同時に読出されて,シフトレジスタ16a〜16dに記憶される。最初は1番目のピクセルから4番目のピクセルまでをアクセスし,シフトレジスタ16fからCHG・NOの10のデータがセレクタ16eに供給され,キャラクタジェネレータ15cのデータを記憶しているシフトレジスタ16cが選択される。そしてこのシフトレジスタ16cにマスタタイミング信号が供給され,1番目のピクセルに対応するデータと2番目のピクセルに対応するデータが続けて読出される。このとき,他のシフトレジスタにもマスタタイミング信号が供給されているので,記号B,C,ロ,ハで表わされるピクセルに対応するデータも読出されるが,これらのデータは今のタイミングではセレクタ16eで選択されていないので,出力されない。なお,このタイミングでシフトレジスタ16cから読出されたデータは文字Fではなく空白の部分であるから『0』である。」(段落【0070】)ケ「次に3番目のピクセルに対応するために必要なデータがキャラクタジェネレータ15dのデータを記憶しているシフトレジスタ16dから読出すためにシフトレジスタ16fからデータ『11』がセレクタ16eに供給される。そして,このシフトレジスタ16dからマスタタイミングの3ビット目に3番目のピクセルに必要なデータが読出される。このデータは文字Fを表示するためのものであるから,『1』である。同様にして4番目のピクセルに対応するデータ『1』が読出されるが,このデータはCHG・AD(V)のデータが変化しているので,読出されたデータはそのCHG・AD(V)信号に対応したキャラクタジェネレータのものである。
・・・以下同様にして次々とアクセスが行なわれていく。」(段落【0071】)コ「最初のアクセスが終了すると,記号A〜Pの列のアクセスが行なわれ,順次イ〜タの列,a〜pの列とアクセスが行なわれていく。この結果,図21の斜線部で示すように,文字Fが回転した図形が表示される。」(段落【0072】)サ「なお,処理装置1は表示状態信号,原点信号,回転量信号,左右方向信号を発生しているが,この信号は操作者の手動によって制御しても良いし,ソフトウエアの制御によって発生しても良い。また回転角は最大が45度としているがそれ以下でもよく,またマップおよびキャラクタジェネレータで構成したメモリはRAMでもよいので,グラフイックディスプレイであっても,極めて高速に図形の回転表示が行なえる。また,表示図形に連続的な回転を与えるには処理装置1から発生する回転量信号を連続的に変化させればよい。」(段落【0077】)( ) 上記( )及び( )の記載によれば,本件明細書の発明の詳細な説明において423従来技術とされているのは,「キャラクタジェネレータを用いた装置によって図形(文字を含む)を表示するために,マップおよびキャラクタジェネレータによって表示図形が記憶されたメモリを構成し,マップから読出された読出順序データによってキャラクタジェネレータから図形データを読出し,その読出した図形データを,ラスタスキャン方式によって図形として表示している」技術である。これに対して,本件特許発明を具体的に示す実施例においては,上記ラスタスキャン方式の下で,座標回転処理部によって座標系に右方向の回転が与えられると,例えば,縦横各16個よりなるピクセルで表示されるブラウン管の表示内容に対応するマップ部から斜め一列ずつ(実施例では,これを順次1〜16の列,A〜Pの列,イ〜タの列,a〜pの列と称している。),文字を表示するためのデータが読み出されるが,その際,アクセス中の文字部分の記憶内容の外に,左右いずれかの文字部分の記憶内容も読み出し(アクセス中の部分の記憶内容は「ナウ」,その左隣の部分の記憶内容は「ネクスト」,右隣の部分の記憶内容は「バック」と定義されている。),各列毎にアクセスが行われ,その結果,文字が回転した図形が表示されるというものであり,上記の文字回転技術が,本件明細書に記載された唯一のものである。
ちなみに,「ラスター」(raster)とは,一般的な用語例によれば,「平行した多数の走査線が形成する面。テレビジョンの画面など。」(広辞苑第5版参照)を意味するものとされており,上記( )の【従来の技術】欄2の説明においても,「ラスタスキャン方式によって図形として表示している。
この表示は図22に示すように先ず,画面の右端においてラスタA0を形成し順次,画面の左側に走査位置を移動させてラスタA1〜Anを表示することによって図形を表示している。」(段落【0002】)と記載されている。
証拠(乙59,71)によれば,ラスタスキャン方式のディスプレイにおいては,画面は,点の集合体であり,その点は水平方向に連続して走査線(ラスタ)となり,ラスタは,上から順次掃引されて画面を塗りつぶすように働き,したがって,極めて短い時間で見れば,画面上の1点(画素)が輝いているだけであるが,目の残像によって連続した面の像として見ることができること,ラスタスキャン方式のディスプレイに文字を表示する場合,画面は文字単位というよりは文字をスライスした単位で表示され,次のラスタで同じ文字の次のスライス部が出力され,これが繰り返されて画面に文字を見ることができることが認められる。
キャラクタ方式においては,すべてがキャラクタ(文字,図形)の単位で処理されるものであるが,それがラスタスキャン方式を前提とするから,キャラクタが走査線上に表示されるに当たっては,必然的にキャラクタを走査線でスライスした単位で処理されるのであって,このキャラクタを走査線でスライスした単位毎の処理が従来のキャラクタ方式のすべての構成と動作を規定することとなる。したがって,従来のキャラクタコード方式において,ラスタスキャン方式を前提とする限り,必然的にキャラクタを走査線でスライスした単位毎の処理が行われるのである。
そして,上記( )記載のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明実施例3に記載されているのは,縦横複数個(例えば縦横各16個)よりなるピクセルで表示されるブラウン管の表示内容に対応するマップ部から斜めに一列ずつ,「ナウ」(アクセス中の部分の記憶内容),及び,「ネクスト」(その左隣の部分の記憶内容)又は「バック」(右隣の部分の記憶内容)が読み出され,これが繰り返されることによってキャラクタ(文字,図形)が回転した図形が表示されることが開示されていることのみであって,明らかにラスタスキャン方式を前提とした技術であり,発明の詳細な説明のその余の記載及び図面を精査しても,ラスタスキャン方式以外によるキャラクタの回転表示に関する技術の開示・示唆をうかがうことはできない。
( ) 控訴人は,本件特許発明1においては,従前のキャラクタ方式を基本にし5つつ,「ピクセル単位で,区域毎に独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得」るという構成(構成要件C)を採用することにより,従来のキャラクタ方式の問題点を解決したものであるとし,より具体的には,従来のキャラクタ方式においては,例えば,8ピクセル毎に一つのキャラクタコードを有していたため,各ピクセルとキャラクタコードとが1対1に対応していたところ,本件特許発明1では,キャラクタ方式でありながら,出力されるピクセルとキャラクタコードとを1対1に対応させているということを最大の特徴とし,その結果,回転方向に沿ったピクセルを順次特定できるようになった旨主張する。
控訴人の上記主張は,要するに,本件特許発明1において,ピクセルとキャラクタ(文字,図形)を走査線でスライスした単位とを1対1に対応させるのではなく,ピクセルとキャラクタ(文字,図形)自体を1対1に対応させるというものであるところ,上記( )のとおり,本件明細書の発明の詳細4な説明の記載等に開示されているのは,ラスタスキャン方式を前提とした技術であり,本件明細書の発明の詳細な説明には,唯一の実施例として,上記のとおり,縦横複数個よりなるピクセルで表示されるブラウン管の表示内容に対応するマップ部から斜めに一列ずつ,「ナウ」,及び,「ネクスト」又は「バック」が読み出され,これが繰り返されることによって文字が回転した図形が表示されることが開示されているのみであって,まして,ピクセルとキャラクタ(文字,図形)自体を1対1に対応させているなどといった技術に関する記載を発明の詳細な説明及び図面中に見いだすことはできない。
また,控訴人は,キャラクタジェネレータの指定をピクセル単位で行えるようにするには,従前のキャラクタ方式において,一つのキャラクタに対して,縦横それぞれ複数のビットを持ったものとし,キャラクタジェネレータのアドレス信号を,座標変換後の垂直方向読出信号,水平方向読出信号に対応させれば,出力されるピクセルとキャラクタコードとを1対1に対応させることができるとも主張する。
しかし,上記のとおり,ラスタスキャン方式の下では,文字が走査線上に表示されるに当たって,必然的に文字が走査線でスライスした単位で処理されるのであり,この走査線でスライスした単位を,縦横それぞれ複数のビットを持った一つのキャラクタに置き換える技術は,本件明細書のどこにも開示されていない。控訴人は,本件明細書に記載されていない技術を前提として主張するものであって,失当というほかない。
( ) 控訴人は,上記( )のとおり,本件特許発明1において,「ピクセル単位65で,区域毎に独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得」るという構成(構成要件C)を採用することにより,キャラクタ方式でありながら,出力されるピクセルとキャラクタコードとを1対1に対応させ,回転方向に沿ったピクセルを順次特定できると主張するが,次のとおり,出願の経緯に照らしても,そのような主張をすることは許されないものというべきである。
ア証拠(乙12の1,2,4,7)によると,本件特許発明の特許請求の範囲の変遷は次のとおりであることが認められる。
(ア) 平成9年2月28日の分割出願に係る願書に添付された明細書(以下「当初明細書」という。)の特許請求の範囲の記載(乙12の1)「ラスタスキャン方式の表示器の走査線上にN個の図形を表示するための図形発生器を用い,垂直方向読出信号及び水平方向読出信号に基づき,第1の読出信号及び第2の読出信号を発生し,前記第1の読出信号をマップに供給して該マップより読出順序データを得,該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生器に供給して図形データを得,該図形データによって図形表示を行う図形表示方法であって,1つのラスタ期間に前記マップよりN個以上2N個以下の読出順序データを読み出し,図形を回転表示することを特徴とする図形表示方法。」(イ) 同年3月31日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載(乙12の2)「ラスタスキャン方式の表示器の走査線上にN個の図形を表示するマップと図形発生部を備え,垂直方向読出信号及び水平方向読出信号に基づき,第1の読出信号及び第2の読出信号を発生し,前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得,該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生部に供給して図形データを得,該図形データによって図形表示を行う図形表示装置であって,1つの走査線に図形を表示するために前記マップよりN個を超える読出順序データを得,図形の回転表示を可能にしたことを特徴とする図形表示装置。」(ウ) 平成10年6月12日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載(乙12の4)【請求項1】「ラスタスキャン方式の表示器の走査線上にN個の図形を表示するマップ及び図形発生部と,垂直方向読出信号及び水平方向読出信号が入力され,指定された回転量に対応した第1の読出信号及び第2の読出信号を出力する座標回転処理部とを備え,前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得,該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生部に供給して図形のデータを得,該図形データによって図形表示を行う図形表示装置であって,1つの走査線上に図形を回転表示するために,前記マップよりN個以上の読出順序データを得,得られた読出順序データを前記図形発生部に供給して,各々の前記読出順序データに対応する図形のデータであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得て図形を回転表示することを特徴とする図形表示装置。」【請求項2】「ラスタスキャン方式の表示器の走査線上にN個の図形を表示するマップ及び図形発生部と,垂直方向読出信号及び水平方向読出信号が入力され,指定された回転量に対応した第1の読出信号及び第2の読出信号を出力する座標回転処理部とを備えた図形表示装置を用い,前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得,該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生部に供給して図形のデータを得,該図形データによって図形表示を行う図形表示装置であって,1つの走査線上に図形の回転表示をするために,前記マップよりN個以上の読出順序データを得,得られた読出順序データを前記図形発生部に供給して,各々の前記読出順序データに対応する図形のデータであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得て図形を回転表示することを特徴とする図形表示方法。」(エ) 同年10月28日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載(乙12の7)【請求項1】「複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータを記憶するマップと,垂直方向読出信号および水平方向読出信号が入力され,指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力する座標回転処理手段と,図形発生手段と,を備え,前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得,該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得,該図形データによって図形表示を行う図形表示装置であって,前記図形発生手段は,ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示することを特徴とする図形表示装置。」【請求項2】「複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータを記憶するマップを設けるステップと,垂直方向読出信号および水平方向読出信号を受け取って,指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力するステップと,前記第1の読出信号に基づいて前記マップから読出順序データを得るステップと,前記読出順序データと前記第2の読出信号とから図形データを得,該図形データによって図形表示を行うステップと,を備える図形表示方法であって,図形表示を行う前記ステップが,ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示するステップを含むことを特徴とする図形表示方法。」上記事実によれば,本件特許発明1の構成要件Cないし本件特許発明2の構成要件B’の記載は,@本件出願当初,「1つのラスタ期間に前記マップよりN個以上2N個以下の読出順序データを読み出し,図形を回転表示する」,A平成9年3月31日付け手続補正書による補正で,「1つの走査線に図形を表示するために前記マップよりN個を超える読出順序データを得,図形の回転表示を可能にした」,B平成10年6月12日付け手続補正書による補正で,「前記マップよりN個以上の読出順序データを得,得られた読出順序データを前記図形発生部に供給して,各々の前記読出順序データに対応する図形のデータであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得て図形を回転表示する」,C同年10月28日付け手続補正書による補正では,「前記図形発生手段は,ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示する」ないし「図形表示を行う前記ステップが,ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示する」と記載されており,マップから読み出される「読出順序データ」の数が,@では,回転しない場合にN個,回転する場合にN個以上2N個以下,Aでは,回転しない場合にN個,回転する場合にN個を超えるものとされ,Bでは,回転しない場合にN個,回転する場合にN個以上とされていたところ,Cでは,回転しない場合と回転する場合とで区別がなくなっていることが認められる。
イ一方,証拠(甲1,乙12の3〜6,8,乙62)によると,平成10年4月16日付け拒絶理由通知書(乙12の3)において,審査官から「特公平5-62747号公報のクレームの記載と実質同一(39条の適用)にならないように留意されたい」との通知がされ,これに対し,出願人が,特許請求の範囲減縮(乙12の4)をした上,意見書(乙12の5)において,「補正後の特許請求の範囲の記載は,『マップよりN個以上の読出順序データを得,得られた読出順序データを図形発生部に供給して,各々の読出順序データに対応する図形のデータであって第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得て図形を回転表示する』点で特公平5-62747号公報に記載された発明とは相違する」などと述べていたこと,また,平成10年9月7日付け第2回拒絶理由通知書(乙12の6)において,審査官が,当該補正にかかる特許請求の範囲の記載では,本件特許発明1が引用例(特開昭57-158685号公報。乙62,以下「乙62公報」という。)に記載する発明とは異なり180度以外の回転表示も行えるとする根拠が見いだせないとの通知を行ったのに対し,出願人が,同年10月28日付け手続補正書により,本件特許発明1の構成要件C及び本件特許発明2の構成要件B’の記載を補正した上,意見書(乙12の8)において,「この発明は,ピクセル単位で,読出順序データに対応する図形データであって第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得ることによって図形を回転表示するものである。これに対して,審査官殿が先の拒絶理由通知において引用された特開昭57-158685号公報(注,乙62公報)に記載された発明は,表示画面の上下方向,左右方向を180度反転することができる表示装置に関するものであって,この発明のように図形を任意の角度だけ回転させることができるものではない。」などと述べ,同年12月7日に特許査定されたことが認められる。
ウ上記ア及びイを併せ考えると,本件特許発明は,「マップよりN個以上の読出順序データを得,得られた読出順序データを図形発生部に供給して,各々の読出順序データに対応する図形のデータであって第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得て図形を回転表示する」点,「図形を任意の角度だけ回転させることができる」点に特徴があるものであり,マップから読み出される「読出順序データ」の数が,回転しない場合にN個,回転する場合にN個以上であるとの構成を有することは,平成10年10月28日付け手続補正書による補正の前後において変わっていないはずである。
そして,回転しない場合にN個,回転する場合にN個以上であるとの構成を有すること,「マップよりN個以上の読出順序データを得,得られた読出順序データを図形発生部に供給して,各々の読出順序データに対応する図形のデータであって第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得て図形を回転表示する」点,「図形を任意の角度だけ回転させることができる」点に本件特許発明の特徴があるとの出願人の出願段階での意見は,回転しない場合,回転する場合と無関係に,出力されるピクセルとキャラクタコードとを1対1に対応させることに最大の特徴があるとする控訴人の主張とは,相容れないものである。
したがって,本件特許発明の「ピクセル単位で,区域毎に独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得」るとの構成(構成要件C)は,回転しない場合,回転する場合とは無関係に,出力されるピクセルとキャラクタコードとを1対1に対応させ,回転方向に沿ったピクセルを順次特定できるというものであるはずがないのである。
4本件特許発明にいう「読出順序データ」について( ) 控訴人は,本件明細書の発明の詳細な説明の【従来の技術】欄の段落【0 1002】,【0003】,【0071】の記載を根拠にして,本件特許発明の「読出順序データ」とはキャラクタコードのことであり,「該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得,」とは,単一の座標のうちの下位ビット(実施例では,下位4ビット)からなる第2の読出信号を図形発生部に供給し,マップから出力された読出順序データ(キャラクタコード)が図形発生部に入力されて指定された特定のキャラクタのうちの一つのピクセルを指定して,画面に表示するための図形データであるピクセルデータを得るということである旨主張する。
控訴人の上記主張は,要するに,本件特許発明において,ピクセルとキャラクタ(文字,図形)自体を1対1に対応させているというものであることを前提として「読出順序データ」を解釈しているものであり,その前提が誤りであることは,上記3に判示したところであるが,ここでは,さらに,本件特許発明の「読出順序データ」の技術的意義についても検討することにする。
( ) まず,本件特許発明1にいう「読出順序データ」についてみると,その特2許請求の範囲には,「前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得,該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得」(構成要件B),「ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて,該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得」(構成要件C)との記載がある。
上記記載から,一応,「読出順序データ」は,「第1の読出信号」をマップに供給すると,マップから得られるものであって,区域毎の独立した表示内容のものであり,当該データに対応する図形データを得ることまでは理解することができるが,前記3( )のとおり,特定の意味で使用されている抽1象的かつ機能的な表現で,その技術的意義を当業者が明確に理解することができないものであるから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載等によって,その技術的意義を探究するほかはない。
( ) 本件明細書の発明の詳細な説明の【従来の技術】欄には,前記3( )のと3 2おり,「読出順序データ」に関して,「従来,キャラクタジェネレータを用いた装置によって図形(文字を含む)を表示するために,マップおよびキャラクタジェネレータによって表示図形が記憶されたメモリを構成し,マップから読出された読出順序データによってキャラクタジェネレータから図形データを読出し,その読出した図形データを,ラスタスキャン方式によって図形として表示している。」(段落【0002】),「このように構成された装置において,処理装置1によって制御されるHカウンタ2およびVカウンタ3の出力信号によってマップ部4に記憶された読出順序データが順次読出され,その読出された読出順序データ信号に対応する図形を表わす図形データがキャラクタジェネレータ5から読出され・・・このデータは・・・ビデオ信号に変換され・・・文字Aがブラウン管7に表示される。」(段落【0003】),「このように,マップとキャラクタジェネレータを用いて1つの走査線にN個の文字等を表示する表示装置では,1文字に1つの読出順序データ,即ち,N個の文字に対してN個の読出順序データを得,それぞれ対応するキャラクタジェネレータへ供給して可視的な文字としている。」(段落【0005】),「このような装置においては,表示される文字は,マップから読み出される読出順序データを変更することによって変更される。つまり,1つの文字を変更するには,マップ内の1つの読出順序データのみを変更すればよい。」(段落【0006】)との記載がある。
上記記載によると,「読出順序データ」は,マップから読み出されて,キャラクタジェネレータから図形データを読み出すものであるが,ここにいう「図形データ」の用語が多義的であるため,キャラクタ(文字,図形)を走査線でスライスした単位を意味するとも,キャラクタ(文字,図形)自体を意味するともとれるので,後者の意味とすれば,1文字に一つの読出順序データが対応し,一つの文字を変更するには,マップ内の一つの「読出順序データ」のみを変更すればよいと読めないこともない(むろん,上記のとおり,ラスタスキャン方式を前提とする限り,必然的にキャラクタ(文字,図形)を走査線でスライスした単位毎の処理が行われるのであるから,後者の意味ではあり得ない。)。
しかし,一方,「この表示(注,ラスタスキャン方式による図形表示)は図22に示すように先ず,画面の右端においてラスタA0を形成し順次,画面の左側に走査位置を移動させてラスタA1〜Anを表示することによって図形を表示している。一つのラスタにはN個(例えば16個)のキャラクタが表示され,全て異なる図形の場合には,N種類の図形が表示できる。」(段落【0002】),「その読出された読出順序データ信号に対応する図形を表わす図形データがキャラクタジェネレータ5から読出され,キャラクタジェネレータ5は例えば,図24に示すように,文字Aが記憶されている場合,文字Aの各行のデータが読出され,シフトレジスタ6に記憶される。」(段落【0003】)との記載によれば,「キャラクタ」とは,画面の左側に走査位置を移動させてラスタA1〜Anを表示することによって表示されるN個の「図形」のことであり,この図形は,複数本のラスタによって表示されるものであって,そのために,複数行に区分される図形(キャラクタ,例えば文字A)の各行毎のデータが,キャラクタジェネレータ5から読み出され,シフトレジスタ6に記憶されるものであることが認められる。
( ) 控訴人は,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0003】には,「マ4ップ部4に記憶された読出順序データが順次読出され,その読出された読出順序データ信号に対応する図形を表わす図形データがキャラクタジェネレータ5から読出され,」との記載があり,この記載によれば,「読出順序データ」とは「キャラクタコード」であることが分かる旨主張する。
しかし,上記のとおり,「図形データ」は多義的な用語であるところ,これについてキャラクタ(文字,図形)自体を意味するとの独自の解釈をしているのであって,根拠のない主張である。
加えて,控訴人の指摘する本件明細書の発明の詳細な説明の記載の直後には,「キャラクタジェネレータ5は例えば,図24に示すように,文字Aが記憶されている場合,文字Aの各行のデータが読出され,シフトレジスタ6に記憶される。そしてこのデータは順番に図25(b)〜(f)に示すようなビデオ信号に変換され,図25(a)に示すように文字Aがブラウン管7に表示される。」(段落【0003】)との文章が続いており,具体的な動作において,キャラクタジェネレータ5から読み出され,シフトレジスタ6に記憶されるのは,「文字Aの各行のデータ」,すなわち,文字コードを走査線でスライスされた行データであって,文字Aのデータそのものでないことが明らかである。
控訴人自身も,従来のキャラクタ方式では,シフトレジスタの存在が大前提であり,シフトレジスタが,キャラクタジェネレータから表示画面の水平走査線方向に構成ビット分のデータを一括して読み出すことしか行えないと述べているのであって,シフトレジスタ6に記憶されるのがキャラクタ自体,すなわち,文字Aのデータそのものでないことが明らかである。
加えて,控訴人は,「読出順序データ」との用語がマップから読み出される信号であることについては,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】に記載されており,また,従来のキャラクタ方式ではマップに記憶されているのはキャラクタコードであり,本件特許発明においても第1の読出信号をマップに供給して得られるデータを読出順序データといっているのであるから,読出順序データが,キャラクタコードであると容易に理解することができると主張する。
しかし,従来のキャラクタ方式においてマップに記憶されているのがキャラクタコードであるとしても,そこから読み出されるのは,キャラクタを走査線でスライスした単位毎のデータであるから,「読出順序データ」との用語がマップから読み出される信号であるからといって,キャラクタコードが読み出されるのでないことは,上記のとおりである。したがって,控訴人の上記主張は,失当である。
( ) 本件明細書の発明の詳細な説明実施例の欄には,前記3( )のとおり,5 3縦横複数個よりなるピクセルで表示されるブラウン管の表示内容に対応するマップ部から斜めに一列ずつ,「ナウ」,及び,「ネクスト」又は「バック」が読み出され,これが繰り返されることによって文字が回転した図形が表示されることが開示されているだけであって,それ以上の技術の開示も示唆もない。
控訴人は,本件明細書の発明の詳細な説明実施例の欄の「図20の例では,1番目から15番目までが1つの読出順序データに対応し,16番目のピクセル1つが別の読出順序データに対応している。すなわち,1つの読出順序データに対して少なくとも1つ以上のピクセルデータが対応している。」(段落【0071】)との記載において,本件特許発明が出力されるピクセルとキャラクタコードとを1対1に対応させていることを表している旨主張する。
しかし,段落【0070】,【0071】に記載されているのは,「キャラクタジェネレータから読出すデータは4個のキャラクタジェネレータから同時に読出されて,シフトレジスタ16a〜16dに記憶される。最初は1番目のピクセルから4番目のピクセルまでをアクセスし,・・・以下同様にして,5番目から8番目のピクセルまでをアクセスし,・・・以下同様にして次々とアクセスが行なわれていく。」ということであるにすぎない。
控訴人は,「1番目から15番目までが1つの読出順序データに対応し,16番目のピクセル1つが別の読出順序データに対応している。」という記載を,ピクセルの1番目から15番目までが「F」を示す読出順序データに対応し,16番目のピクセルが「F」の左隣のキャラクタに対応するとの意味であると主張するが,前記3( )の記載全体をみれば,ピクセルの1番目3から15番目までが「ナウ」,16番目のピクセルが「ネクスト」であることが明らかである。
そして,「ナウ」,「ネクスト」(又は「バック」)は,「座標系に右回転を与え図8の実線の矢印の方向にマップをアクセスしたときは,表示タイミング信号の1周期中に文字Fと文字Cを表示するための2種類のデータが必要になる。このように,座標系に右回転を与えたときは,表示タイミング信号期間中に現在アクセスしている部分の記憶内容の外に,その左隣の部分の記憶内容も読出す必要がある。また座標系に左回転を与えて,図8の一点鎖線で示す矢印の方向にアクセスするときには,アクセス中の部分の記憶内容の外に,その右隣の部分の記憶内容も読出す必要がある」(段落【0061】)からである。
控訴人の主張に従えば,「F」の文字のキャラクタを示す読出順序データに対応するピクセルが1番目から15番目までであり,「F」の左隣のキャラクタを示す読出順序データに対応するピクセルが16番目であることになるが,この結論は,本件特許発明において,ピクセルとキャラクタ(文字,図形)自体を1対1に対応させているとする控訴人の元来の主張とも矛盾するものであって,およそ論理が破綻しているのみならず,控訴人の上記主張は,発明の詳細な説明の一部の記載を取り上げ,前後の記載を無視して特異な解釈をするものであって,失当というほかない。
( ) 控訴人は,「読出順序データ」とは,キャラクタコードのことであるとし,6本件原出願日当時は,「キャラクタコード」という名称・用語が一般化していなかったため,本件特許発明においては,図形データが順序よく並べられた特徴を指して「読出順序データ」と称していた旨主張する。
しかし,当初明細書(乙12の1)においては,「このように構成された装置において,処理装置1によって制御されるHカウンタ2およびVカウンタ3の出力信号によってマップ部4に記憶された読出アドレス順序データが順次読出され,その読出された読出アドレス順序データ信号に対応する図形を表わす図形データがキャラクタジェネレータ5から読出され,キャラクタジェネレータ5は例えば,図24に示すように,文字Aが記憶されている場合,文字Aの各行のデータが読出され,シフトレジスタ6に記憶される。そしてこのデータは順番に図25(b)〜(f)に示すようなビデオ信号に変換され,図25(a)に示すように文字Aがブラウン管7に表示される。」(段落【0003】)と記載されており,「読出アドレス順序データ」が当初の名称であったものである。そして,「読出アドレス順序データ」という名称であれば,図形データがアドレス表示されていることとあいまって,当業者にとって分かりやすいものであり,しかも,上記( )のとおり,縦横複7数個よりなるピクセルで表示されるブラウン管の表示内容に対応するマップ部から斜めに一列ずつ,「ナウ」,及び,「ネクスト」又は「バック」が読み出され,これが繰り返されることによって文字が回転した図形が表示されるという実施例の記載ともよく一致するものである。
ところが,平成9年3月31日付けの補正(乙12の2)で,「このように構成された装置において,処理装置1によって制御されるHカウンタ2およびVカウンタ3の出力信号によってマップ部4に記憶された読出順序データが順次読出され,その読出された読出順序データ信号に対応する図形を表わす図形データがキャラクタジェネレータ5から読出され,キャラクタジェネレータ5は例えば,図24に示すように,文字Aが記憶されている場合,文字Aの各行のデータが読出され,シフトレジスタ6に記憶される。」(段落【0003】)というように,「読出アドレス順序データ」から「読出順序データ」に変更されたものであるが,このような名称の変更によって,その内容までも変わるものではない。
したがって,「読出順序データ」がキャラクタコードのことであるとする控訴人の主張は,出願経過に照らしても,採用し得るものではない。
( ) 以上,検討したところによると,本件特許発明1にいう「読出順序デー7タ」とは,一つの文字コードを走査線でスライスされた行データであり,図形に回転を与えた場合には,二つの文字コードにまたがってアクセスが行われ,そのおのおのが「読出順序データ」として読み出されるものであり,本件特許発明2にいう「読出順序データ」も同様である。
5本件特許発明構成要件充足性について( ) 前記1において引用する原判決の「事実及び理由」欄の「第4争点に対1する判断」の1( )に判示する原判決別紙「被告製品目録3」記載のとおり, 5被控訴人製品(携帯型ゲーム機)は,三つのタイミング信号と角度を含む一つのパラメータが演算回路に供給されることによって,ピクセル毎に単一の座標を生成し,生成された単一の座標のうちの上位ビットが画像メモリのスクリーンデータに供給されることによって,ピクセル毎に一つのキャラクタコードが出力される構成と動作を備えているものである。
そうすると,被控訴人製品は,本件特許発明1にいう「読出順序データ」を具備していないから,その余の点について検討するまでもなく,本件特許発明1の構成要件Bの「前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得,該図形データによって図形表示を行う図形表示装置であって,」,構成要件Cの「前記図形発生手段は,ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示する」との要件をいずれも充足しないことが明らかである。
したがって,被控訴人製品の構成は,本件特許発明1の技術的範囲に属しない。
( ) 前記第2の2において引用する原判決の「事実及び理由」欄の「第2事2案の概要」の1( )イに記載のとおり,本件特許発明2は,構成要件を分説 3すると,「前記第1の読出信号に基づいて前記マップから読出順序データを得るステップと,」(構成要件A’-3),「前記読出順序データと前記第2の読出信号とから図形データを得,該図形データによって図形表示を行うステップと,を備える図形表示方法であって,」(構成要件A’-4),「図形表示を行う前記ステップが,ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示するステップを含む」(構成要件B’)との構成を有し,「読出順序データ」についての解釈は,本件特許発明1の場合と同様であるところ,被控訴人製品の動作は,本件特許発明2にいう「読出順序データ」を具備していないから,その余の点について検討するまでもなく,構成要件A’-3,A’-4,B’に記載された各要件を充足しないことが明らかである。
したがって,被控訴人製品の動作は,本件特許発明2の技術的範囲に属しない。
6結論以上のとおり,被控訴人製品は,本件特許発明1及び2のいずれの技術的範囲にも属しないから,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の請求は理由がない。
よって,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明
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