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関連審決 無効2006-80209
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10490審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10352審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10350審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10064審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10445審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  発明の概要 /  当業者に自明な事項 /  参酌 /  数値限定 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  交換 /  具体的態様 /  設定登録 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10489号 審決取消請求事件
原告浜 松ホトニクス株式会社
訴訟代理人弁護 士岡崎士郎
訴訟代理人弁理 士長谷川芳樹
同 城戸博兒
同 柴田昌聰
同 野田雅一
被告スンチェ・ハイテック・カンパニー・リミテッド
訴訟代理人弁理 士大槻聡
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/10/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2006-80209号事件について平成20年11月19日にした審決を取り消す。
事案の概要
以下は,いずれも,争いない事実又は証拠により容易に認定できる事実である。
1 手続の概要等(1) 設定・登録原告は,平成4年5月13日,発明の名称を「物体の電位を変化させる方法,および所定帯電物体の除電方法」とする発明について特許出願(特願平4-120507号)をし,平成11年7月9日,設定登録(特許第2951477号,請求項の数2,以下「本件特許」という。)を受けた。
(2) 第1次審決と差戻し決定被告は,平成18年10月17日,本件特許の無効審判請求(無効2006-80209号事件)をした。特許庁は,平成19年6月15日,「特許第2951477号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「第1次審決」という。)をした。原告は,同年7月25日,第1次審決の取消しを求める訴え(知的財産高等裁判所平成19年(行ケ)第10275号)を提起するとともに,同年10月18日,訂正審判請求をした。訂正審判請求の内容は,請求項1に「20オングストローム」とあるのを,「3.5オングストローム」と訂正するなどというものであった(同訂正審判請求の内容につき,甲14)。
知的財産高等裁判所は,特許法181条2項により第1次審決を取り消す旨の決定をした。同決定の取消しの理由は,「当裁判所は,当事者の意見を聴いた上,訂正の可否(特に,請求項1,2において『主要波長が2オングストローム以上,20オングストローム以下の範囲』とあるのを『主要波長が2オングストローム以上,3.5オングストローム以下の範囲』と訂正することが,『願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内』においてするものか否か)及び訂正後の進歩性の有無(特に,訂正後の発明における『主要波長が2オングストローム以上,3.5オングストローム以下の範囲』との構成の容易想到性の有無)については,?@本件特許に係る明細書の段落【0007】,【0023】等の記載の解釈,?A「ENERGY DISPERSIVEX-RAY FLUORESCENCE ANALYSYS」(1989年発行,PWN-POLISH SCIENTIFIC PUBLISHERS WARSZAWA)・・・の「TABLE 1.5 Mass absorption coefficients(in cm /g) for X-rays」(39頁)におけるベリリウム(Be),窒素(N),酸素(O)等2のX線に対する質量吸収係数の記載の技術的意義などを含め,原告のみでなく,被告にも主張立証の機会を与えた上で,特許庁において判断するのが適切であると判断した。」というものであった(決定の内容につき,甲12)。
(3) 差戻し後の審理原告は,平成20年1月25日付けで,訂正請求をしたが,その請求の中には,請求項1に「20オングストローム」とあるのを,「3.5オングストローム」と訂正するという内容は含まれていなかった。
特許庁は,平成20年11月9日,「訂正を認める。特許第2951477号の請求項1及び請求項2に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同年12月1日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲本件特許の訂正後の明細書(以下,「訂正明細書」という。なお,願書には図面の添付がない。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件特許発明1」,請求項2に係る発明を「本件特許発明2」という。)。
「【請求項1】所定物体が配置された大気雰囲気に対して軟X線を照射する,当該所定物体から1m未満の位置に,所定のターゲット電圧およびターゲット電流が与えられるターゲットを内蔵すると共にベリリウム窓を有するX線管を配置し,前記ベリリウム窓から主要波長が2オングストローム以上,20オングストローム以下の範囲の前記軟X線が照射される領域の前記大気雰囲気に含まれる元素ないし物質をイオン化することにより,前記イオンを含む前記大気雰囲気中にある前記所定物体の電位を当該大気雰囲気の電位に近づけることを特徴とする物体の電位を変化させる方法。
【請求項2】除電すべき所定帯電物体が配置された大気雰囲気に対して軟X線を照射する,当該所定物体から1m未満の位置に,所定のターゲット電圧およびターゲット電流が与えられるターゲットを内蔵すると共にベリリウム窓を有するX線管を配置し,前記ベリリウム窓から主要波長が2オングストローム以上,20オングストローム以下の範囲の前記軟X線が照射される領域の前記大気雰囲気に含まれる元素ないし物質をイオン化することにより,前記イオンを含む前記大気雰囲気中にある前記所定帯電物体を除電することを特徴とする所定帯電物体の除電方法。」3 審決の理由(1)別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件特許発明1,2はいずれも,米国特許第3862427号(以下「引用例1」という。甲1。別紙「引用例1【図1】【図3】」参照)に記載された発明(以下「引用発明1」という。),特開平1-274396号公報(以下「引用例2」という。甲2。別紙「引用例2【図1】【図2】」参照)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたというものである(なお,審決では,本判決の「引用発明1」を「甲第1号証発明」,本判決の「引用発明2」を「甲第2号証発明」と表記している。)。
(2)上記判断に際し,審決が認定した引用発明1の内容,本件特許発明1と引用発明1との一致点及び相違点,容易想到性に係る判断の概要は,以下のとおりである。
ア 引用発明1の内容「可燃性液体のコンテナの上部表面にX線源のアレイが配置され,前記X線源は,高電圧発生器,電子加速管及びX線ターゲットを備え,また,防水及び防ガスの方法で当該X線源を維持する金属製封入容器内に収納されて,前記X線源の高電圧発生器を動作させ,動作中,X線は300keV未満のエネルギーを有する電子によって生成され,広角ビームとして形成されてコンテナ内の領域へ放射され,上記コンテナ内のガス領域内で自由イオンを生成し,これらのイオンが,コンテナ内のガス充満領域内に形成された望ましくない静電場を中和させる方法。」(審決書8頁32行ないし9頁2行)イ 一致点「所定物体が配置された雰囲気に対してX線を照射する位置に,所定のターゲット電圧およびターゲット電流が与えられるターゲットを内蔵するX線源を配置し,前記X線が照射される領域の前記雰囲気に含まれる元素ないし物質をイオン化することにより,前記イオンを含む前記雰囲気中にある前記所定物体の電位を当該雰囲気の電位に近づけることを特徴とする物体の電位を変化させる方法。」(審決書12頁27行〜33行)ウ 相違点(ア) 相違点1「『(所定物体が配置された)雰囲気』が,本件特許発明1は,『大気雰囲気』であるのに対して,甲第1号証発明は大気雰囲気であるか否か明確でない点。」(審決書12頁36行〜13頁1行)(イ) 相違点2「『X線源』が,本件特許発明1は,『当該所定物体から1m未満の位置』配置されるのに対して,甲第1号証発明は所定物体との距離が明記されていない点。」(審決書13頁3行〜5行)(ウ) 相違点3「『X線源』が,本件特許発明1は,『ターゲットを内蔵すると共にベリリウム窓を有するX線管』であるのに対して,甲第1号証発明はそのようなX線管でない点。」(審決書13頁7行ないし9行)(エ) 相違点4「X線源から照射される『X線』が,本件特許発明1は『主要波長が2オングストローム以上,20オングストローム以下の範囲の軟X線』であるのに対して,甲第1号証発明は波長について明記していない点。」(審決書13頁11行ないし13行)エ 容易想到に係る判断の概要(ア)引用例1(甲1)に記載のX線源から生成されるX線は,300keV未満のエネルギーを有する電子によって生成されたものであり,波長に換算すると約0.041Åより大きい波長範囲となる。また,引用例2(甲2)に記載されたX線管から照射されるX線は15keVのエネルギーを有し,波長に換算すると約0.83Åとなる。そうすると,X線による雰囲気ガスのイオン化を利用して物体の電位を変化させる方法や帯電物体の除電方法に用いるX線には,種々の波長のX線を採用し得るということができる。
(イ)物体の電位を変化させる方法や帯電物体の除電方法に用いる雰囲気ガスのイオン化は,雰囲気中におけるX線の吸収によって生ずることは当業者に自明な事項であり,X線の吸収はX線が照射される媒体の線吸収係数によって定まることは,甲6(「強さI のX線を厚さxの箔に0通すとI=I exp(-μx)に弱まる(μは線吸収係数で,入射X 0線の波長ラムダによってきまる定数である。)」に示されているとおり,当業者に周知の事項である。X線の吸収に関しては,X線のエネルギーが大きいほど線吸収係数μは小さくなることが一般的法則として周知であるし,甲8には窒素N,酸素Oを含むさまざまな物質について,X線のエネルギーと質量吸収係数(質量吸収係数μmは線吸収係数μを物質の密度ρで除したものに相当する。)の関係を表にしたものが記載されている。
そして,物質の密度ρは,物質によって定まる定数と考えて差し支えないので,大気の主要成分である窒素N,酸素Oの線吸収係数はX線の波長λが長くなるほど大きくなるということができ,このことは,窒素Nや酸素Oが有する物性として本願出願前に周知であったといえる。
(ウ)そうすると,窒素や酸素等のガスのイオン化の程度はX線の波長に依存するX線の線吸収率によって定まるという技術的事項は,本出願前に当業者によく知られた事項であるということができるので,X線の波長をどの程度とするかは,ガスが充填された雰囲気中のうち,特にイオン化したい領域までの距離,すなわち,雰囲気ガスの厚みに応じて当業者が適宜決定する事項にすぎない。
(エ)してみると,イオン化したガスの近傍に物体を配置し,物体の電位を変化させたり除電を行う場合に,イオン化を行うガス雰囲気として「大気雰囲気」を選択するとともに,その大気雰囲気におけるX線の線吸収率を勘案して,X線源と物体との距離ならびにX線の波長を定めること,すなわち,X線源を「当該所定物体から1m未満の位置」に配置し,その範囲内においてイオン化が十分になされるよう,X線の波長を「主張波長が2オングストローム以上,20オングストローム以下の範囲の軟X線」とすることは,当業者が適宜決定できる事項にすぎないものであり,本願の発明の詳細な説明の記載内容を参酌しても,X線源の配置位置やX線の波長に格別の臨界的な意義があるものということもできない。
取消事由に係る原告の主張
審決には,以下のとおり,(1)相違点1,2及び4に係る容易想到性判断の誤り(取消事由1),(2)相違点3に係る容易想到性判断の誤り(取消事由2),(3)本件特許発明2に係る容易想到性判断の誤り(取消事由3)がある。
1 取消事由1(相違点1,2及び4に係る容易想到性判断の誤り)(1) 相違点4(軟X線の使用)に係る容易想到性判断の誤り審決は,引用例1のX線の波長は約0.041Åより大きい波長範囲となり,引用例2の波長は0.83Åとなるから,両発明を組み合わせれば,物体の除電等に用いるX線には種々の範囲のX線を採用し得るとする。
しかし,引用発明1は,硬X線の使用を前提とした技術であり,硬X線の技術を開示したにすぎない引用発明1に,引用発明2を組み合わせることによって,当業者が軟X線を使用する技術に想到することはない。
ア本件特許発明1は,軟X線によって極めて効率のよい除電ができるとする発明である。
軟X線は,波長の長さによって,硬X線と紫外線の間に位置付けられ,甲18の軟X線の項目に「X線を物質に対する透過能によって定性的に区別するとき,薄い空気層によってもたやすく吸収されるような透過能の小さいものを軟X線という。これに対し透過能の大きいものを硬X線という。」とあるとおり,物質に対する透過能によって,硬X線と定性的に区別される。
引用例1には,生成されるX線について,「X線は300keV未満のエネルギーを有する電子によって生成される」と記載されている。同X線は,波長に換算すると,強度ピーク(主要波長)が約0.061Å(最短波長が0.041Å)のX線であって,極端に波長の短い硬X線である。
引用例1が対象とする大型コンテナの上部から波長の長い軟X線を照射しても,照射近傍で吸収されてしまい,除電を行うことはできない。したがって,引用発明1においては硬X線の使用しか想定できず,引用発明1から審決のいうように種々のX線の波長を採用するということはあり得ない。
イ引用例2には,波長の記載はなく,「本発明の好適な形では,遮蔽する必要を最小化するために比較的低エネルギーのX線を与えるように選択され調節される。15keVのエネルギーを有すX線は・・・」(7頁右上欄3行ないし6行)との記載から明らかなように,X線遮蔽の観点からX線のエネルギーレベルが考慮されているだけであり,波長を設定しようという技術思想はなく,波長に換算しても0.83Åという1つだけの波長のX線にしかならない。この0.83Åの波長のX線も硬X線である。
ウ引用発明2は,従来のコロナ放電とは異なって,除電すべき所定物体と離れた位置でガスのみをイオン化して配送することを必須かつ本質的な特徴とする発明であり,所定物体の周辺を軟X線の照射によってイオン化することを排除しているし,酸素を含まないガスをイオン化することを特徴とし大気雰囲気の除電を排除している。したがって,所定物体近傍の雰囲気を直接除電する引用発明1に,引用発明2を組み合わせることには阻害要因がある。引用発明2は,酸素を含む大気をイオン化するものを排除しているから,この点でも引用発明と組み合わせることについての阻害要因がある。
また,硬X線の使用に限定された技術である引用発明1と引用発明2を組み合わせたとしても,審決がいうように種々の波長のX線を採用して,軟X線の使用に想到するということはあり得ない。
エしたがって,軟X線を採用することを当業者が容易に想到し得るとした審決の判断は誤りである。
(2)「当該所定物体から1m未満の位置」の「大気雰囲気」に「2Å以上20Å以下の」主要波長の軟X線を照射すること(相違点1,2及び4)に係る容易想到性判断の誤り審決は,窒素や酸素等のガスのイオン化の程度はX線の波長に依存するX線の線吸収率によって定まるという技術的事項は,甲6,甲8に明らかなとおり,本出願前に当業者によく知られた事項であり,X線の波長をどの程度とするかは,雰囲気ガスの厚みに応じて当業者が適宜決定する事項にすぎないとするが,誤りである。
ア甲6,甲8には除電技術に関する示唆はなく,これによって実用可能なイオン化や除電の条件を決定することはできない。
甲6には,ベリリウム窓以外の関係事項としては,X線が箔を通過するときの通過後の強度と通過前の強度についての,線吸収係数に基づく関係式が記載され,その線吸収係数がX線波長で定まるとの記載があるのみである。また,甲8には,ベリリウム窓以外の関係事項としては,X線の有するエネルギー各種元素との組合せごとの質量吸収係数の表が記載されているのみである。
甲6,甲8の記載からは,波長が長いほど物質でのX線の線吸収係数が大きいとはいえるにしても,審決がいうように,窒素や酸素等のガスのイオン化の程度がX線の波長に依存するX線の線吸収係数によって定まるとはいえないし,X線の波長はイオン化したい領域までの距離に応じて適宜決定できるといえるものではない。
イ本件特許発明1は,以下のとおり,?@照射する軟X線の波長の設定によって除電を効果的,効率的に行い,?A軟X線の波長の設定を行う際に,これを照射距離やX線管の窓材による吸収と関連させて調整するものであり,軟X線の波長は,このような課題との関係で定まった値である。
(ア)照射する軟X線の波長の設定によって除電を効果的,効率的に行うことについて「大気におけるX線の吸収率と波長との関係についての計算報告書」(甲19)は,大気にX線を照射した際に,X線の波長の違いに応じて,近傍の大気がどの程度X線を吸収するかを示すために,質量エネルギー吸収係数を用いて,空気厚さが50?pと100?pの場合について計算した結果を記載したものである。甲19の図1によれば,50?pまでの箇所において2Åの軟X線は約70%が大気に吸収され,図2によれば,1mまでの箇所においてほぼすべての2Åの軟X線が吸収される。
また,甲25は,本件特許発明1の範囲に属する主要波長が3.1Åの軟X線と,比較対象としての主張波長が0.93Åの硬X線(甲2のX線の波長よりも長い)について,それぞれ,X線の吸収率が約89%と約85%というほぼ同様の望ましい計算上の値となる25?pと1000?pの距離における帯電プレート(15cmのほぼ正方形のプレート)の除電時間を示した実験結果であるが,これによれば,主要波長が3.1Åの軟X線に比べて,主要波長0.93Åでは,電力を16倍としても,除電時間は10倍以上かかっていることが示されている。
軟X線を用いる場合であって,距離xが短い位置に除電対象物が存在するときに限って,除電効率は高い。硬X線を用いる場合には,いかなる位置に除電対象物が存在しようとも,除電効率は低い。甲19,甲25の実験結果はこのことを示している。
(イ)軟X線の波長の設定を行う際に,これを照射距離やX線管の窓材による吸収と関連させて調整するということについてa甲22のFig.4を見ると,距離が1000mm(1m)のときは,750mm(75cm)のときに比べ,正負の帯電物体における除電時間の差には大差はなく,正負どちらの場合も10秒以内で除電されている。しかし,これが125cmと25cm長くなっただけで5秒長くかかっており,150cmになると20秒近くまでかかっている。このように,本件特許発明1における所定物体との距離が1m未満という事項が,軟X線による除電において技術的意義のあるものであることは,この論文の実験結果からも明らかである。
原告の研究者(本件発明者を含む。)の知見によれば,除電対象物からの距離が数十cm程度までの近傍の範囲で発生したイオンは,高い確率で除電に貢献することができる。しかし,除電対象物からの距離が数十cmを越える位置で発生したイオンは,クーロン力により除電対象物まで到達する前に逆極性のイオンと再結合する確率が高く,ほとんど除電に貢献することができない。したがって,X線照射による除電の効率は,除電対象物の近傍(例えば除電対象物からの距離が数十cm程度までの近傍の範囲)の大気雰囲気で発生するイオンの量に応じたものとなる。ここで,イオン発生量がX線吸収量に応じたものであるならば,X線照射による除電の効率は,除電対象物の近傍の大気雰囲気におけるX線吸収量α(x)に応じたものとなる。
b2Åないし20Åという波長は,大気雰囲気による軟X線の吸収と,X線管の窓材であるベリリウムによる吸収との相関的な課題の解決手段でもある。すなわち,2Å以下になると大気雰囲気での吸収が小さくなりイオン化に適しないし,20Å以上になると窓材にX線吸収の小さなベリリウムを使用しても,窓材による吸収が大きすぎる。
このことを訂正明細書では,「しかし,NとBeとの損失比は,波長3.5オングストローム付近において最小となり,短波長に向かって緩やかに低下する。短波長に進むに従い,Nに対する吸収係数も低下するので,イオン化の効率も低下する。長波長に進むに従い,Beにおける吸収によって効率は低下する」(【0023】)としている。
これに対し,引用例1のX線管は,広範囲に硬X線を照射するためのもので,窓自体を備えない特殊形状のターゲットのみのX線管であり,本件特許発明1のベリリウム窓を想定し得るものではない。また,引用例2にいう「ベリリウム性の薄い窓31」は,X線管に形成された窓ではなく,電離室ハウジング18に形成された窓であって,本件特許発明1のベリリウム窓とは異なる。
審決は,本件特許発明において,X線源の配置位置やX線の波長に格別の臨界的意義がないとする。しかし,引用発明に対して,異質の課題に基づく異質の効果を奏する場合には,数値限定の数値に臨界的意義は不要であり,仮に必要であるとしても,1m未満,2Å以上という数値には臨界的意義がある。以上のとおりであるから,本件特許発明1が容易想到であるとした審決の判断は,誤りである。
2 取消事由2(相違点3に係る容易想到性判断の誤り)審決は,相違点3について,引用例2に出力窓を備えたX線管を用いてイオン化を行うことが記載されており,窓部材としてベリリウムを用いることは,甲6,甲8に記載されているように周知であるから,容易想到であるとと判断した(審決書13頁15行〜33行参照)。
しかし,審決の判断には誤りがある。
(1)本件特許発明1は,所定物体の近傍における効果的な除電が軟X線によって可能であるという知見に基づいて,吸収の大きい軟X線を用いたことから,X線は窓材では吸収されずにできるだけ透過し,透過後の大気雰囲気においては,その主成分の窒素にできるだけ吸収されることが必要であるとの新たな課題が生じた。そのため,先ず,X線管の窓材にX線吸収の少ないベリリウムを選択し,ベリリウムによるX線の吸収割合を考慮して,軟X線の波長に20Åという上限を設けた。
これに対し,引用発明1では,X線として,照射近傍で吸収されてしまう軟X線を想定することがないから,本件特許発明1のように,わざわざターゲットとは別の窓部材を設け,さらにその材料をターゲットを兼ねることのできないベリリウムとすることについて,何の動機付けも存しない。そのため,引用例2に窓部材を備えるX線管によるイオン化が記載され,X線管の窓部材をベリリウムとすることが甲6,甲8に記載されているとしても,これらを引用発明1に適用することの動機付けにはならない。
(2)以上のとおり,引用発明1と引用発明2を組み合わせる動機付けがなく,また組み合わせることについての阻害要因が存在する。
3 取消事由3(本件特許発明2に係る容易想到性判断の誤り)本件特許発明2と引用発明1との相違点は,本件特許発明1と引用発明1の相違点と実質的に同じであるから,本件特許発明2についての審決の判断が誤りであることは,本件特許発明1と同様である。
以上によれば,本件特許発明1,2について,引用発明1,2及び周知技術から容易想到であるとした審決の判断は,誤りである。
被告の反論
1 取消事由1(相違点1,2及び4に係る容易想到性判断の誤り)に対し(1) 相違点4(軟X線の使用)に係る容易想到性判断の誤りに対しア原告は,2Åないし20ÅというX線の波長領域ではなく,「軟X線」の波長領域を利用すること自体が,従来技術との差異であるかのごとく主張する。しかし,軟X線と硬X線は,便宜上,波長1Åを境界として長波長側の軟X線と短波長側の硬X線とに区分したものにすぎず,本件特許発明1との関係では,両者を区別する技術的意義はない。
理化学辞典(第4版,昭和62年10月12日発行:乙2)の923頁には,「X線を物質に対する透過能によって定性的に区別するとき,薄い空気層によってもたやすく吸収されるような透過能の小さいものを軟X線という。これに対し,透過能の大きいものを硬X線(hard X-rays)という。軟X線の波長は数Å以上から数百Åの範囲にあり,その測定には真空装置を必要とする。」と記載されている。
硬X線と軟X線の区分は,X線を二分する場合の便宜的なものにすぎず,波長約1Åを境として急に異なる性質や現象が発現するわけではない。甲3に記載されているとおり,X線は10〜10 Åという9桁に-5 3もわたる広い波長範囲の電磁波として定義されていることから,1Å近辺を一応の境界として,透過性の高いX線を硬X線,透過性の低いX線を軟X線というように便宜上区分しているにすぎない。
しかも,甲2に記載されたX線は,波長が0.827Åであって,硬X線には属するものの,軟X線に近く,軟X線と異質であるなどということは到底できない。
X線は,エネルギーが高く(波長が短く)なるほど透過性が高くなり,逆にエネルギーが低く(波長が長く)なるほど吸収され易くなる性質を有していることや,X線の吸収率が,吸収媒体の成分や密度によって異なるとことは,技術常識であって,理化学辞典(甲6の130頁左欄下から12行)に記載された数式I=I exp(-μx)を挙げて説明するまでもな0い。上記技術常識を,甲1及び甲2記載の除電技術に適用すれば,雰囲気ガスに照射して当該ガスを電離させてイオンを発生させるX線の波長が,雰囲気ガスの成分やX線管からイオン発生場所までの距離に応じて調整すべきパラメータとなることは,容易に想到できる。
以上のとおり,本件特許発明において,主要波長0.062Å及び波長0.827ÅのX線を用いることが公知となっている除電技術に,波長1Å以上のX線(軟X線)を採用したことは,除電対象物までの距離に応じたX線の波長の当然の調整にすぎず,その選択に困難な点はない。
イ 引用発明1の技術に軟X線を使用することに,阻害要因はない。
X線は,エネルギーが大きい(波長が短い)ほど透過性が高く,エネルギーが小さい(波長が長い)ほど雰囲気ガスに吸収されやすいという上記の一般的法則を前提にすれば,X線源から帯電物体までの距離に応じてX線のエネルギー(波長)を適宜調整すべきことは当業者にとって周知の事項である。したがって,帯電物体までの距離が異なる以上,それに応じてX線の波長も異なり,使用するX線管の構造等も異なるということは,自明である。引用例1では,X線源から帯電物体までの距離が1mよりも遙かに長いために,300keVという本件特許発明1よりも遙かに高いエネルギーのX線(主要波長が約0.062Å,最短波長が0.041ÅのX線)が使用されているにすぎない。
この点,原告は,引用例1では,X線源を用いて2Å以上のX線を照射することは不可能であって硬X線の使用しか想定できず,引用発明1から種々の波長を採用することはできないと主張する。しかし,帯電物体までの距離に応じて,X線のエネルギー(波長)を適宜調整し,軟X線の使用に想到することに困難はない。
ウ 引用発明2の技術に軟X線を使用することに,阻害要因はない。
原告は,引用例2にはX線の波長についての記載がないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。X線など電磁波のエネルギーE及び波長λは1対1に対応し,これらの間にはE=12.4/λの関係が成立することは,技術常識である。X線についてエネルギーを記載することと,その波長を記載することとは,単なる表記上の差異にすぎない。X線のエネルギーについて記載がある以上,波長についても記載がされていると理解すべきである。
また,原告は,引用例2には0.827Åという1つだけの波長しか記載がなく,X線の波長を設定するという技術的思想がないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。引用例2には「本発明の好適な形では,遮蔽する必要を最小化するために比較的低エネルギーのX線を与えるように選択され調節される。15keVのエネルギーを有するX線は,例えば,プラスチック,アルミニューム又はベリリウム製の薄い窓31を貫通することが可能であり,従って内部室19内で窒素を能率的にイオン化する」(7頁右上欄第3〜9行)と記載されている。つまり,引用例2には,遮蔽する必要を最小化するためにX線のエネルギーを低く(波長を長く)することが示唆されており,同時に薄い窓31を貫通することが可能な例として,15keVのエネルギー(0.827Åの波長)を有するX線が示されている。したがって,引用例2には,波長0.827ÅのX線が記載されるとともに,より長波長の軟X線を含むX線を採用することも示唆されている。
エ 引用発明1に引用発明2を組み合わせることに阻害要因はない。
原告は,引用発明2において,イオン化されたガスを送達する流体送達配管が必須であり,それゆえに,本件特許発明1を排除するものであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
引用例2(甲2)の5頁左上欄2行〜右上欄下から3行には,従来のコロナ放電による除電装置(高電圧空気電離装置)の課題として,(??)除電対象物から十分な距離を隔てる必要があること,(??)微粒子汚染の源泉となること,(??)大気中の酸素からオゾンを発生させることが記載されている。これらの課題のうち,少なくとも(??)及び(??)は,コロナ放電を利用する装置に特有の課題であるから,X線を利用している引用発明2では問題とならない。そうすると,引用発明2の流体送達配管は,上記課題(??)に対応していると考えられる。引用発明2では,窒素ガスにX線を照射し,イオン化された窒素ガスを流体送達配管によって除電対象物まで配送することによって,オゾンの発生を防止している。
これに対し,本件特許発明1では,除電対象物の周辺の酸素を含む大気雰囲気にX線を照射してイオン化するものであり,オゾン発生を回避しない,より単純な構成からなるものである。
引用発明2は,X線を用いて雰囲気ガスをイオン化し,対象物を除電するという本件特許発明1と同様の技術的思想(?T)に,オゾン発生の防止を目的として,雰囲気ガスとして酸素を含まない窒素を使用し,イオン化されたガスを除電対象物まで配送するという技術思想(?U)を付加したものである。技術的思想(?T),(?U)は,相排斥する関係に立つものではない。
以上のとおり,原告は,引用発明2において,技術的思想(?U)が必須であるとの理由により,引用発明2が,技術的思想(?T)しか備えていない本件特許発明1を排除していると主張するが,原告の同主張は失当である。
(2)「当該所定物体から1m未満の位置」の「大気雰囲気」に「2Å以上20Å以下の」の主要波長の軟X線を照射すること(相違点1,2及び4)の容易想到性判断の誤りに対しア原告は,甲6,甲8によっては除電の条件を決定できないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,甲6は,特定の技術分野の技術者を対象としない網羅的な文献であり,そのような書籍に記載されているX線に関する技術事項は,X線技術を扱っている当業者にとっては常識ともいうべき事項である。また,甲8は,上記一般的法則が大気にも当てはまることを明確にするために必要な酸素O及び窒素Nの線吸収係数μの値が記載された文献である。原告の主張は,審決のいう一般的法則が大気にも当てはまることを確認しようとする際に,除電技術に関連する文献しか参照できないという主張であり,失当である。
イ原告は,本件特許発明1は,?@照射する軟X線の波長の設定によって除電を効果的,効率的に行い,?A軟X線の波長の設定を行う際に,これを照射距離やX線管の窓材による吸収と関連させて調整するものであるから,軟X線の波長の選択には,阻害要因があると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
(ア)除電対象物までの距離に応じて,X線波長を選択すべきことは当然であり,除電対象物までの距離を短くするならば,使用するX線の波長は長くしなければならないことも自明である。
除電対象物までの距離を1m以内とし,X線の波長を2Å〜20Åとすることによって高い除電効率が得られるとすれば,それは,除電対象物までの距離を1m以内にしたことによる効果であるというべきである。原告は,X線の波長として2Å〜20Åを選択したことに困難性があると主張するが,X線の波長は除電対象物をX線源の1m以内に近づけたことによる当然の結果である。
(イ)原告は,甲25の実験において,除電対象物として,ともに15cmの正方形のプレートを使用して除電性能を比較することが,工業上の利用からして当然のことであるとしている。
しかし,X線源から25cmの距離にプレートを置いた波長3.1Åの場合と,10m(10000mm)の距離にプレートを置いた波長0.93Åの場合について,ともに15cm角のプレートを用いた上記実験では,X線源からプレートまでの距離には40倍(=10m/25cm)の差がある。そうすると,X線が円錐状に広がると仮定すれば,プレートが置かれた位置におけるX線の広がりには1600倍(=40)の差が生じ,X線が吸収される空間の体積には64000倍(=420 )の差が生じる。以上の理由から,甲25は,除電効率を示す実験3としての価値はない。甲25は,波長0.93Åでは,3.1Åと比べて1/10の除電効果が認められることが示唆されているというべきである。
(ウ)原告は,甲22のFig.4を参照し,正負の帯電物体における除電時間の差について,除電対象物までの距離が100cmと75cmの場合を比較すれば大差はないが,125cmになれば急に差が大きくなるとし,本件特許発明1における1m未満という距離に技術的意義があると主張する。
しかし,訂正明細書では,正負の帯電物体により除電時間が異なることについては何も記載されていないから,たとえ,原告が指摘するような現象が甲22のFig.4から読み取れるとしても,そのような現象は本件特許発明1における1m未満という数値範囲とは無関係である。
(エ)引用例2には「本発明の好適な形では,遮蔽する必要を最小化するために比較的低エネルギーのX線を与えるように選択され調節される。
15keVのエネルギーを有するX線は,例えば,プラスチック,アルミニューム又はベリリウム製の薄い窓31を貫通することが可能であり,従って内部室19内で窒素を能率的にイオン化する」(7頁右上欄3行〜9行)と記載されている。すなわち,引用例2には,遮蔽の必要性を考慮すれば,低エネルギーのX線を用いることが好適であると記載されており,その上で,X線管に形成されたX線照射用の薄い窓を貫通するX線のエネルギーの一例として15keVが示されている。
ベリリウム窓の厚さが薄ければ,より低エネルギー(長波長)のX線でも透過することができることは当業者にとって自明の事項であるから,ベリリウム窓の厚さを特定することなく例示されたエネルギー15keVが,ベリリム窓を透過することができる最小値であるということはできない。したがって,引用例2からは,15keVが最小値であって,それよりも低いエネルギー(長い波長)が想定外であるとする原告の主張を読み取ることはできない。
2 取消事由2(相違点3に係る容易想到性判断の誤り)に対し引用例2には,X線除電装置として,ベリリウム窓を有するX線管が記載され,また,7頁右上欄5行〜8行には「15kevのエネルギーを有すX線は,例えば,プラスチック,アルミニューム又はベリリウム製の薄い窓31を貫通することが可能であり」と記載されている。また,X線管の窓部材としてベリリウムを用いることは,理化学辞典(甲第6号証)の131頁右欄下から13行,14行に「X線をとり出す窓にはベリリウム板などがよく使われる」と記載されている。
以上の記載によれば,引用発明1のX線源に代えて,ベリリウム窓を有するX線管を用いることは当業者にとって容易である。
なお,引用例1には,X線源を用いて雰囲気ガスにX線を照射する除電装置が記載されているから,そのX線源として,甲6に記載された周知のX線管であって,引用例2のX線除電装置にも採用されているX線管を採用することが,当業者にとって容易であることはいうまでもないことである。
3 取消事由3(本件特許発明2に係る容易想到性判断の誤り)に対しこの点についての被告の反論は,取消事由1,2において本件特許発明1についてした反論と同様である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点1,2及び4に係る容易想到性判断の誤り)について原告は,相違点1,2及び4の構成は,引用発明1,2及び周知事項から容易に想到し得るものではないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(1) 相違点4(軟X線の使用)に係る容易想到性の判断についてア 軟X線について本件特許発明は,軟X線である2Å以上20Å以下の範囲のX線を使用するものである。
ところで,放射線とは,一般的には,それが物質を通過するときに,物質中の原子や分子に作用して電離する能力をもつ電離放射線のことをいう。この電離作用は,電荷をもつ高速の粒子放射線(荷電粒子)のみが持つ性質であるが,電荷を持たない放射線でも原子や分子と作用して二次的に高速の荷電粒子を発生させ,これが電離作用をもつ。このような場合,初めの電荷を持たない放射線のことを間接電離放射線という。電磁波放射線は,直接的には電離作用を持たないが,物質中で原子と種々の相互作用をして高速の電子線を作り出す間接電離放射線であり,X線とγ線に区別される(野口正安「放射線のはなし」甲5の1,2頁)。
X線とは,電磁波のうち波長が0.1Åないし数百Å程度の範囲のものをいうとされている。短波長側は透過力が大きく,γ線に移行し,長波長側は透過力が弱く,紫外線に移行する(理化学辞典第4版,甲6の130頁左欄)。X線の波長の範囲については,10Åないし10 Åとする-5 3ものもある(マグローヒル科学技術用語大辞典,甲3の118頁右欄)。
軟X線とは,X線を物質に対する透過能によって定性的に区別するとき,薄い空気層によってもたやすく吸収される透過能の小さいものをいう。これに対し,透過能の大きいものを硬X線という。軟X線の波長は数Å以上から数百Åの範囲にある(理化学辞典第4版,乙2の923頁右欄)。
以上のとおり,X線は,電磁波の一種であって,その短波長側は透過力が大きく,γ線に移行し,長波長側は透過力が弱く,紫外線に移行する。
X線のうち透過能の大きいものを硬X線,透過能の小さいものを軟X線といい,軟X線の波長は数Åから数百Åとされる。
容易想到性の有無について原告は,硬X線によるイオン化の技術である引用発明1,2から軟X線を使用する本件特許発明1を想到することはできないと主張する。
しかし,原告の主張は理由がない。
(ア) 引用発明1についてa引用例1(訳文)の記載引用例1には,次の記載がある。
「請求項1可燃性液体および可燃性気体の大きいコンテナの気体空間内の望まれない電界の強度をスパークフリー・レベルまで減らす装置であって,ある極性の望まれない電荷の蓄積をこうむりやすい気化可能液体およびその蒸気を収容する少なくとも1つのコンテナと,それぞれが高電圧発生器,電子加速管,および接地陽極X線ターゲットを含み,前記コンテナの上側表面上に分散的に配置された複数のモジュラX線源と,静電気ハザードが存在するときに,長い期間中にこれらを動作状態に維持するために前記源に電力を供給する手段とを含み,前記X線が,前記気体空間全体に両方の極性の自由イオンを作るために,前記源から前記コンテナの内部へ広角ビームとして発し,前記イオンのうちで前記望まれない電荷の極性と反対の極性を有するイオンが,前記望まれない電荷の電界の影響を中和するために前記望まれない電荷に向かって移動する,装置。
2前記X線が,概して300キロ電子ボルト未満のエネルギを有する電子によって作られる,請求項1に記載の装置。」(訳文5頁19行〜31行)「15.可燃性液体または大気固体粒子で少なくとも部分的に満たされるように適合されたコンテナであって,前記液体または前記粒子が,ある極性の正味の望まれない電荷を有し,前記電荷が,前記コンテナの気体領域を通って延びるコンテナ内の電界を作る,コンテナと,前記気体領域の少なくとも一部を電離するX線源であって,前記X線が,両方の極性の可動イオンを作り,前記イオンのうちで前記望まれない電荷の極性と反対の極性を有するイオンが,前記コンテナの気体領域内の電界をスパークフリー・レベルまで下げるために,前記電荷に向かって引き寄せられる,X線源との組合せ。」(訳文6頁31行〜37行)「発明の背景本発明は,可燃性の液体または気体の大きいコンテナの気体空間内の望ましくない静電気によって生成される電界の強度を火花が生じないレベルまで下げる装置および方法に関する。
液体および気体の形の可燃性製品は,大きい貯蔵コンテナに貯蔵され,大型タンカで水路を介して運ばれる。1つの非常に重要な安全性の懸念は,コンテナ内の静電気によって誘導される電界の形成である。この電界が,火花発生を引き起こす強度に達し,気体領域に酸素が含まれる場合に,可燃性製品が発火するか爆発する可能性がある。
電荷の分離とその結果の潜在的に危険な電界の蓄積は,大量の物質が,特にすばやくまたは激しく動いているときに必ず発生する。これは,基本的に,すべての形の物質が,物理的力または電気的力による電子の分離を促進するかこれに抵抗する力の差を示すという事実に起因する。したがって,2つの形の物質が,摩擦接触しているときに,一方は,電子を集める傾向があり,これによって,負に帯電し,他方は,電子を失い,正に帯電する傾向がある。パイプを介する,タンクの間の,ならびに弁およびフィルタを介する大量の絶縁性炭化水素液体の転送は,そのような電荷分離の多数の機会をもたらす。この摩擦の経験を有した絶縁性流体の大きいタンク内の後続の蓄積は,金属によって囲まれた系の液体および気体によって占められた領域全体に延びる強い電界をもたらす。電荷密度(クーロン/立方メートル)は小さいが,大きい系でのこの正味電荷の蓄積効果は,簡単に数メガボルトの電圧を作ることができる。この高い電位の影響は,タンク幾何形状のひずみによって強化され,このひずみは,コロナ値または火花放電値に達する高い電気的ストレスの小さい局所化された領域をもたらす。そうでなければ低い電界状況内のそのようなひずみは,突き出す鋼鉄の梁または支柱,あるいは接地された導電性の棒またはワイヤによって引き起こされ得る。
大きい液体で満たされた系の揺れる海での表面の動きは,同様に,電荷分離と,危険な火花発生状態の達成を引き起こし得る。」(訳文2頁2行ないし26行)「発明の要約本発明によれば,静電界の強度を調整し,その結果,静電界強度が絶対に系の気体領域内で火花発生レベルに達しないようにすることによって,前に述べた問題を克服する装置および方法が提供される。複数のモジュラX線源が,気化可能な液体およびその蒸気を収容するコンテナの上側表面に分散的に配置され固定される。各源に,高電圧発生器,電子加速管,および接地陽極X線ターゲット(grounded anodeX-ray target)が含まれる。電力が,源に供給されて,静電気ハザード(electrostatic hazard)が存在するときに,長い期間中にこれらを動作状態に維持する。X線は,前記源から前記コンテナの内部へ広角ビームとして発して,コンテナのうちで蒸気を収容する部分全体に両方の極性の自由イオンを作る。
X線が,気体媒質を通過するときに,その吸収が,これらの気体分子の一部の電離をもたらす。電子が,これらの分子から放出され,これによって,残留する正イオンと電子が残される。これらの電子は,中性の分子に付着する。したがって,X線吸収の結果は,正イオンおよび負イオンの形成である。これらのイオンは,存在する可能性がある電界によって作用され,系の気体領域内の電界を実質的に中和する方向に,そのような量で移動する。電界が存在する場合に,正イオンは,ある方向に移動し,負イオンは,他の方向に移動し,したがって,X線による,気体で満たされた空間の照明は,多数の電荷担体を使用可能にし,これらの電荷担体は,電界を減少させ,この電界を効果的に中和する方向に移動することを,この電界によって自然に強制される。そのような閉じた系の液体の体積が,負に帯電している場合に,正イオンが,液体の表面に駆り立てられ,この負の電荷が気体で満たされた領域内に以前に作った電界の影響を打ち消すのに十分な電荷層をこの表面の上に作る。」(訳文3頁3行ないし24行)「X線が,300キロ電子ボルト未満のエネルギを有する電子によって作られることが好ましい。」(訳文3頁下から2行,末行)b引用発明1の内容引用例1の上記記載によれば,引用発明1は,可燃性の液体又は気体の大きいコンテナの気体空間内の望ましくない静電気によって生成される電界の強度を火花が生じないレベルまで下げる装置及び方法に関する発明であり,複数のモジュラX線源が,気化可能な液体及びその蒸気を収容するコンテナの上側表面に分散的に配置,固定され,各モジュラX線源に,高電圧発生器,電子加速管及び接地陽極X線ターゲットが含まれる。X線は,前記源から前記コンテナの内部へ広角ビームとして発して,コンテナのうちで蒸気を収容する部分全体に両方の極性の自由イオンを作る。形成された正負イオンは,存在する可能性がある電界によって作用され,系の気体領域内の電界を実質的に中和する方向に移動し,電界を減少させ,液体が帯電している場合には,正イオンが液体の表面に駆り立てられ,電界の影響を打ち消すのに十分な電荷層を液体の表面の上に作るというものである。
すなわち,X線の照射により,コンテナ内の蒸気をイオン化し,それによって系の気体領域内又は液体の表面の電界を中和しようとするものである。
使用されるX線のエネルギーについては,請求項2において,「前記X線が,概して300キロ電子ボルト(以下「300keV」と表記する。)未満のエネルギーを有する電子によって作られる」とされている。300keV未満のエネルギーを有するX線の主要波長が約0.061Åであることは,実質的に当事者間に争いがない(被告は0.062Åと主張するが原告が主張する0.061Åと実質的な相違があるものではない。)。また,主要波長が約0.061ÅのX線の最短波長が約0.041Åであることも当事者間には争いがなく,以下においては,300keV未満のX線の波長を表示する場合には,この最短波長約0.041Åで表示することとする。
引用例1の請求項1,15には,コンテナの気体空間内の望まれない電界の強度をスパークフリー・レベルまで下げることが記載され,かつ,請求項2においては,請求項1の装置におけるX線のエネルギについて300keV未満とされているから,引用例1においては,スパークフリー・レベルの静電界を想定して照射するX線のエネルギを調整する技術が開示されているものと理解することができる。そして,X線の有するエネルギーEと波長λの関係は,E=hc/λ(hはプランクの定数)で表されることは,周知事項であると認められるから(乙4),引用例1においては,望ましいレベルの静電界の程度に応じて照射するX線の波長を調整する技術も開示されているものと理解するのが相当である。
(イ) 引用発明2についてa引用例2の記載引用例2には,次の記載がある。
「1.発明の名称ガスイオン化方法及び装置2.特許請求の範囲1.所定の領域でイオン化されたガス環境を与える方法において,囲まれた流路に沿って前記領域へ加圧されたガスの流れを導くこと,前記所定の領域から隔離された位置で前記囲まれた流路の所定の部分へ電離放射線を導くことにより前記ガスの流れをイオン化すること,前記流路の前記所定の部分の外へ伝播する放射線の漏洩を抑制すること,及び前記所定の領域で前記囲まれた流路から前記イオン化されたガスの流れを放出すること,の工程を含むことを特徴とするガスイオン化の方法。」(1頁左下欄2行ないし17行)「11. 所定の領域へ置かれる工業的生産物その他への静電荷の累積を抑制する方法において,囲まれた流路に沿って前記生産領域へ加圧されたガスの流れを導くこと,前記生産領域から隔離された位置で前記囲まれた流路の所定の部分へ電離放射線を導くことにより前記ガスの流れをイオン化すること,前記流路の前記所定の部分の外へ伝播する放射線の漏洩を抑制すること,及び,前記生産領域で前記囲まれた流路から前記イオン化されたガスの流れを放出すること,の工程を含むことを特徴とする静電荷の累積抑制方法。」(2頁右上欄9行〜左下欄2行)「(技術分野)本発明は所定の領域における大気のイオン含有量の制御に関するものである。更に詳細には,この領域内の物体への静電荷の累積を抑制するために所定の領域においてイオン化された大気を維持する方法及び装置に関するものである。
(発明の背景)電気的に絶縁性の物体や接地されていない金属性の物体は,数千ボルトにも達することのある静電気の電荷をもたらしがちである。電荷の蓄積は運動やそれに伴う摩擦,誘導及び他の物体から又は荷電された面からの放電の受領のような幾つかの原因から起こる。
静電気の蓄積の究極的な放電は望ましくない結果を生じ得て,ある種の環境では一定の工業的生産品のような物品に痛烈な損傷を起こし得る。小型化された半導体電子素子の製造では顕著な例が起こる。静電放電は集積回路ウェーハ,マイクロチップ及びその他同様のもの内の導電路を破壊し得て,製造工程の間のそのように生産品の高い廃棄率の重要な原因となる。静電荷はまた,製品に不利に影響し得る塵埃粒子及びその他の汚染物の付着を誘起し引き起こす。そのような生産品の製造は,潜在的な汚染物を除去するため及びまた生産品上への静電荷の形成を抑制するために,クリーンルームと名付けられた範囲で実行される。製品を取り囲む空気中の自由イオンの高水準の維持は,そのような電荷の形成を抑制するために大変有効な技術の一つである。空気中の成分ガスの正及び負のイオンが反対極性の電荷累積へ静電的に誘引され,それで電荷の交換によってそのような累積を中和する。」(4頁右上欄2行〜左下欄13行)「高電圧空気電離装置は,隔離された電極でか又は交互の期間で同じ電極で生産される正及び負のイオンの混合を許すために,生産品から充分な距離を隔てられる必要がある。電極が近過ぎる場合には,この装置がそれ自身で生産品へ電荷を与えるかも知れない。」(5頁左上欄3行〜8行)「更に,普通の高電圧空気電離装置は,非常に清浄な生産環境が必要な所で重要であり得る水準では,それ自身が微粒子汚染の源泉であることが見出された。」(5頁右上欄2行〜5行)「高電圧放電が大気中の酸素の幾らかをオゾンに変え得るという問題が更に起こる。オゾンは前述の半導体ウェーハのような幾つかの生産品を非常に損傷し得る極めて活性なガスである。」(5頁右上欄15行〜18行)「本発明は前述の一つ又はそれ以上の問題を克服するために導かれた。」(5頁左下欄8行,9行)「(発明の概要)一つの局面では,本発明は所定の領域でイオン化されたガス環境を与える方法を指導され,囲まれた流路に沿う領域へ加圧されたガスの流れを導く工程と,前記所定の領域から隔離された位置で前記囲まれた流路の所定の部分へ電離放射線を導くことにより前記ガスの流れをイオン化する工程とを含む。」(5頁左下欄10行〜17行)「別の局面では,本発明は所定の領域に置かれる工業的生産物又はその他同様のものへの静電荷の累積を抑制する方法を提供し,加圧されたガスの流れを囲まれた流路に沿ってこの領域へ導く工程と,生産領域から隔離された位置でこの囲まれた流路の所定の部分へ電離放射線を導くことによりガスの流れをイオン化する工程とを含む。」(5頁右下欄12行〜18行)「本発明は,ガスの中にイオンを発生し,このイオン化されたガスの流れを囲まれた流路に沿って使用点へ伝達することによって,前述の問題点を回避する。好適なガスはオゾンの発生を回避するために窒素のような酸素を含まないガスである。金属汚染物の放出を回避するため及び正と負とのイオンの固有に平衡した生産を可能にするために,高電圧電極によるよりはむしろX線あるいは他の電離放射線によってイオンが生産される。」(6頁右上欄2行ないし10行)「イオン化処理で用いられるガスは酸素を含まないことを必要とし,一般に比較的不活性なガス又はガスの混合物でなければならない。このガスは放射線にさらされた場合にイオン化に対して高い感心度を表すガスであることも好ましい。例えばヘリウムのような非常に軽いガスは放射線によって強くはイオン化されない。窒素はこの目的に対して望ましい特性を表し,経済的な意味でも多く実際に選択される。」(6頁右下欄17行〜7頁左上欄5行)「特定の例では酸素を含まない不活性のガスを使用する必要はなく,その場合に装置11は前述の目的とは異なる目的用に用いられる。例えば特定の領域で空気から微粒子の物質を除去するのが目的の場合には,内部室19を通る空気が用いられ得る。」(7頁左上欄10行〜14行)「紫外線が幾つかのガスを効果的にイオン化できるけれども,窒素はそれらのガスの中には含まれない。多量の放射性物質のような他の放射線の源泉も使用され得るが,そのような潜在的に危険な材料の使用は装置の製作,取り扱い,動作及び処分に複雑化を加える。
本発明の好適な形では,遮蔽する必要を最小化するために比較的低エネルギーのX線を与えるように選択され調節される。15keVのエネルギーを有すX線は,例えば,プラスチック,アルミニューム又はベリリウム製の薄い窓31を貫通することが可能であり,従って内部室19内で窒素を能率的にイオン化する。」(7頁左上欄17行〜右上欄9行)「第2図はより詳細に本発明の一特別例の電離室ハウジング18及び遮蔽覆い51の構造を表示する。これらの要素は他の形態及び寸法でもよく,以下に述べる一定の思想に合致する他の材料で形成されてもよい。この特別例の電離ハウジング18は,3インチの直径と4.5インチの高さである内部室を有する直立したプレキシグラスの円筒である。」(7頁右下欄10行〜17行)「X線管の突出した,丸いX線出力窓58は,蓋53の外側面の中心で丸い竪穴59内に置かれる。本発明のこの例では,竪穴59のすぐ下の蓋の材料の薄い部分が,内部室19へX線が通っている薄い窓31を定義する。」(8頁左上欄2行ないし6行)b引用発明2の内容引用例2の上記記載によれば,引用発明2は小型化された半導体素子の製造等の際に,静電放電が生産品の高い破棄率の重要な原因等となり,また静電荷による製品への汚染物の付着は製品に不利な影響を及ぼすところから,ガスの中にイオンを発生させ,イオン化されたガスの流れを囲まれた流路に沿って使用点へ伝達することによって,工業生産物(例えば半導体素子)の静電荷の累積を抑制し,静電放電等による問題点を解決しようとするものである。金属汚染物の放出を回避するため及び正と負のイオンの固有に平衡した生産を可能にするため,高電圧電極によるよりは,むしろX線あるいは他の電離放射線によってイオンが生産される。そして,発明の好適な例では,遮蔽する必要を最小化するために比較的低エネルギーのX線を与えるように選択され調節されるとされ,低エネルギーの放射線の例として,15KeVのエネルギーを有する放射線が例示されている。15KeVのエネルギーを有する放射線の波長が約0.83Åであることは当事者間に争いがない。
15keVのエネルギーを有するX線は,上記のとおり「比較的低エネルギーのX線を与えるよう選択され調節され」た結果のX線として例示されている。X線を比較的低エネルギーのものとする目的は「遮蔽する必要を最小化するため」とされており,また,15keVのエネルギーを有するX線はベリリウム製等の薄い窓を貫通することができるとされている。したがって,X線のエネルギーすなわち波長をイオン化の程度との関係で選択するものとはされていないが,上記のような遮蔽や窓の貫通という条件との関係で,一定範囲で可変なものとして設定されているということができる。また,引用例2には,X線よりも波長の長い紫外線をイオン化に用いること,紫外線は窒素をイオン化することはできないことが示されているから,上記X線の波長を条件との関係で設定するに当たり,イオン化の対象となる物質の種類を考慮することがあることが示唆されているものということができる。
(ウ) 判断a上記引用例1,2の記載によれば,引用例1には,望ましいレベルの静電荷の程度に応じて照射するX線の波長を調整する技術が開示されており,引用例2には,比較的低エネルギーのX線の波長を条件との関係で設定することが開示され,さらに,X線の波長を設定するに当たり,イオン化の対象となる物質の種類を考慮することがあることが示唆されているものということができる。加えて,引用例2には,X線より波長の長い紫外線を除電に用いることも開示されている。
そうすると,イオン化による除電の技術分野における当業者においては,引用発明1と引用発明2を組み合わせることにより,除電の対象となる物質の種類や望ましいレベルの静電荷の程度等の条件に応じて,X線の波長を調整すること,さらには,上記条件に応じて波長を調整した結果,波長が硬X線と紫外線との中間領域にある軟X線について,これを除電に用いることがあることを容易に想到し得たものといえる。
したがって,「X線による雰囲気ガスのイオン化を利用して物体の電位を変化させる方法や帯電物体の除電方法に用いるX線には,種々の波長のX線を採用し得るということができる。」(審決書15頁14行〜16行)とした審決の判断に誤りはない。電磁線によるイオン化による除電について,軟X線を採用することを当業者が容易に想到することはできなかったとする原告の主張は理由がない。
b原告の主張に対し?@原告は,引用発明1は波長の短い硬X線を用いる発明である点において本件特許発明1と異なり,引用発明1から本件特許発明1を想到することは困難であると主張する。
しかし,本件特許発明1は,電磁波で大気(ガス)をイオン化し所定物体の電位変化等をするという点で引用発明1と技術分野及びイオン化の手法において共通であるから,引用発明1を基礎として,本件特許発明1に到ることが格別困難であるとはいえない。原告の主張は採用の限りでない。
?Aまた,原告は,引用発明2は,除電すべき所定物体と離れた位置でガスをイオン化するものであって所定物体周辺をイオン化することを排除している点,及び,酸素を含まないガスをイオン化することを特徴とし大気雰囲気の除電を排除している点において,対象物近傍の大気雰囲気のイオン化により除電する引用発明1と相違し,引用発明2を引用発明1と組み合わせることには阻害要因があると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,引用例2には,「本発明は所定の領域における大気のイオン含有量の制御に関するものである。更に詳細には,この領域内の物体への静電荷の累積を抑制するために所定の領域においてイオン化された大気を維持する方法及び装置に関するものである。」と記載があるとおり,引用発明2は,所定物体近傍にイオン化されたガスを配置し,これにより所定物体を除電することを含む発明であり(前記請求項11),除電の手段自体は引用発明1と共通する。そして,引用発明1と引用発明2とでは,?@ガスをX線でイオン化させるというガスのイオン化の手段を有し,?Aイオン化したガスで所定物体の電位変化等を行うという除電等の方法に関する技術分野という点において共通し,?Bガスをイオン化させる場所が所定物体の近傍であるか否か,イオン化の対象となるガスが酸素を含むものであるか否かの点において相違する。ところで,引用発明2の?Bの構成上の相違は,従来の高電圧空気電離装置について,電極が近すぎる場合に装置それ自身が生産品へ電荷を与える可能性かあること,非常に正常な生産環境が必要な所では電極自身が微粒子汚染の源泉であること,高電圧放電が大気中の酸素のいくらかの酸素をオゾンに変え得ることなどの課題を解決するために採用された構成であり,?@,?Aの構成を前提として,これに付加したものにすぎないことに照らすならば,引用発明1と引用発明2を組み合わせることの阻害要因となるものではない。
(2)相違点1,2(「1m未満」,「大気雰囲気」)に係る容易想到性についてア前記のとおり,引用例2には,内部室の直上に設置されたX線管から,直径3インチ(約76mm),高さ4.5インチ(約114mm)の内部室にX線を導き,内部室内で雰囲気ガスである窒素をイオン化することが記載されており,内部室の直径及び高さはいずれも1m未満である。
また,前記のとおり,引用例2には,「特定の例では酸素を含まない不活性のガスを使用する必要はなく,その場合に装置11は前述の目的とは違う目的用に用いられる。例えば特定の領域で空気から微粒子の物質を除去するのが目的の場合には,内部室19を通る空気が用いられ得る。」(7頁左上欄10行ないし14行)と記載されており,「本発明の背景が物体への静電荷の累積の抑制を参照してここに説明された。例えば空気純化のような特定の領域でイオン化された空気を与えることが有益であることは勿論他の理由がある。特定領域での空気中の高いイオン含有量は,塵,煙,花粉及び他の微粒子を空気から除去するように働く。微粒子がそのようなイオンによる電荷交換によって電荷を得て,それで近くの壁又は他の面へ静電的に誘引される。」(5頁右上欄19行ないし左下欄7行)との記載を参照すれば,大気雰囲気をイオン化することによっても除電できることが示唆されているといえる。
以上によれば,引用例2には,X線管から1m未満の範囲にある内部室の大気雰囲気をX線によりイオン化する技術が開示されているといえる。
イそうすると,「所定物体が配置された雰囲気に対してX線を照射する位置に,所定のターゲット電圧およびターゲット電流が与えられるターゲットを内蔵するX線源を配置し,前記X線が照射される領域の前記雰囲気に含まれる元素ないし物質をイオン化することにより,前記イオンを含む前記雰囲気中にある前記所定物体の電位を当該雰囲気の電位に近づけることを特徴とする物体の電位を変化させる方法」(審決が認定し,争いのない引用発明1と本件特許発明1の一致点)である引用発明1について,これに引用発明2の上記技術を組み合わせ,所定物体から1m未満の位置にX線管を配置し,前記X線が照射される領域の大気雰囲気に含まれる元素ないし物質をイオン化し,所定物体を除電する構成とすることは,当業者にとって容易に想到し得たことといえる。
(3) 相違点4(「2Å以上20Å以下」)に係る容易想到性についてア 訂正明細書(甲11)には,次の記載がある。
「【0007】【作用】イオン発生のためのエネルギー源として,軟X線を利用すること自体は,従来から試みられている。しかし軟X線の波長のうち,どの程度の波長が有効であるかは従来明確でなかった。最近,Be(ベリリウム)窓を有するX線管の技術が確立したので,これを使用する場合について考察すると,軟X線の波長が長いときには,Beによる吸収損失がN ,O など(大気圧雰囲気での代表として示す)による吸収に比22べて増加するようになり,波長が約20オングストローム以上のX線は損失割合が急増するため不利であることがわかった。
【0008】一方,軟X線の波長が短くなり,2オングストローム以下になると,雰囲気などを含む目的の物質による吸収が小さくなり,目的のイオン化に適しないことがわかった。従って,イオン化のエネルギー源として使用するのに適当な波長は,2ないし20オングストロームの範囲が有効である。
【0009】この範囲の波長では,Be窓での吸収損失は比較的少なく,かつ大気圧程度の雰囲気中では比較的短距離(例えば10cm)を走行中にイオンを発生して消失するため,少し離れれば人体に対する影響も全くなく,安全である。すなわち,請求項2に言う限られた領域とは,通常は10〜20cm程度以下を指し,1m以上のような長い距離範囲は,後述の工業的用途からして考えない。」「【0023】次に,軟X線の波長の選択基準について述べる。例えば大気をイオン化する場合には,Be板における吸収損失に比べ,大気ガス(例えば窒素N)における吸収を大きくすることが必要で,この点から波長の上限が定まり,この場合にはNの特性波長端が上限となり,約30オングストロームである。しかし,NとBeとの損失比は,波長3.5オングストローム付近において最小となり,短波長に向かって緩やかに低下する。短波長に進むに従い,Nに対する吸収係数も低下するので,イオン化の効率も低下する。長波長に進むに従い,Beにおける吸収によって効率は低下する。
【0024】ガスをイオン化するための吸収長から考えて,あまり小さな吸収長は適用できないので,実用的な長さ(例えば10cm)においてイオン化吸収率が20%以下になる波長を下限とすれば,約2.5オングストローム波長になる。従って,30ないし2.5オングストロームの範囲が適当であるが,X線管ターゲット材料として選択しうる材料の点から,上限は12オングストロームとされる。すなわち,この範囲で選択しうる材料は,Na(ナトリウム),Mg(マグネシウム),Al(アルミニウム),Si(シリコン),K(カリウム),Ca(カルシウム),Ti(チタン),V(バナジウム)などである。」訂正明細書の上記記載によれば,X線の波長範囲に関する 2Å以上2「0Å以下」との構成は,?@波長が約20Å以上になると,イオン化の対象である雰囲気による吸収に対するX線管のベリリウム窓による吸収損失割合が急増すること,及び?A波長が2Å以下になると,雰囲気による吸収が小さくなり,雰囲気のイオン化に適しないこと,という定性的な理由により決められたものであることが分かる。
イ 引用例2に記載された技術引用例2には,「15keVのエネルギーを有すX線は,例えば,プラスチック,アルミニューム又はベリリウム製の薄い窓31を貫通することが可能であり,従って内部室19内で窒素を能率的にイオン化する。」(7頁右上欄5行〜9行)と記載されており,X線のエネルギー,すなわち波長は,X線を導く窓を貫通できるものである必要があることが分かる。ここにいうベリリウム製の薄い窓は本件特許発明1のようにX線管に取り付けられたものではなく,X線出力窓58に取り付けられたものであるが,X線出力窓はX線管に直接接続して設けられたものであり(12頁図2参照),「内部室19へX線が通って入る薄い窓」(8頁左上欄5行)であって,本件特許発明1と同様に,X線の貫通の有無,言い換えるとベリリウム窓によるX線の吸収の程度が問題となるのである。
ウ 引用例1に記載された技術引用例1には,「X線が,気体媒質を通過するときに,その吸収が,これらの気体分子の一部の電離をもたらす。電子が,これらの分子から放出され,これによって,残留する正イオンと電子が残される。これらの電子は,中性の分子に付着する。したがって,X線吸収の結果は,正イオンおよび負イオンの形成である。」(訳文3頁13行〜16行),「そのような閉じた系の液体の体積が,図5のように負に帯電している場合に,正イオンが,液体の表面に駆り立てられ,この負の電荷が上の気体で満たされた領域内に以前に作った電界の効果をスパークフリー・レベルまで下げるのに十分な電荷層をこの表面の上に作る。対応する数の負イオンが,接地された金属コンテナに移動し,これによって中和される。本発明の目的に必要な強度レベルでの炭化水素液体のX線による長時間照射には,悪影響がない。」(訳文5頁7〜12行)と記載されており,X線が気体媒質に吸収されることによりイオンが生成されること,それにより所定物体の電位変化又は除電がスパークフリー・レベルまで下げるのに必要な程度まで行われることが記載されている。すなわち,X線の吸収によるイオン化の程度を調整することが記載されている。
エ 周知事項(ア) 甲6(理化学辞典第4版)には,次の記載がある。
「(1)X線の吸収(absorption of X-rays)。強さI のX線を厚さxの0箔に通すとI=I exp(-μx)に弱まる。μ(次元[L])は 0線吸収係数で,入射X線の波長λできまる定数である.単体物質ではμ/ρ(ρは密度)は質量吸収係数とよばれ,物質の凝集状態によらない定数である。」(130頁左欄36〜41行)上記記載によれば,X線の吸収が,物質の吸収係数(線吸収係数μ又は質量吸収係数μ/ρ)と厚さxによって定まることが技術常識であったといえる。
(イ)甲8(BOHDAN DZIUNIKOWSKI著「エネルギー分散型蛍光X線分析(ENERGY DISPERSIVE X-RAY FLUORESCENCE ANALYSIS)」1989年(平成元年)発行)の39頁「表1.5X線の質量吸収係数(cm /g)」2には,エネルギー1.0keVないし35.0keVの範囲のX線に対する,ベリリウム(Be),窒素(N)及び酸素(O)を含む種々の元素の質量吸収係数が記載されており,元素ごとのX線のエネルギーと物質の質量吸収係数との関係は周知であったといえる。
(ウ)上記(ア)及び(イ)の周知事項から,物質によるX線の吸収は,物質の種類(元素),物質の質量(厚み)及びX線のエネルギーにより定まるといえるから,気体媒質にX線を照射した場合,気体媒質のイオン化の程度(X線の吸収の程度)が,気体媒質の種類(元素),気体媒質の厚み(イオン化したい領域までの距離)及びX線のエネルギー(X線の波長)に依存することは,当業者にとって自明のことということができる。
したがって,気体媒質の種類(元素)が特定されれば,当該媒質の質量吸収係数は周知の事項であることから,イオン化したい領域までの距離及びイオン化の程度に応じてX線の波長を決定できることになる。
オ上記アないしエで検討したところによれば,本件特許発明1においてX線の波長を決定するための考慮要素とされるベリリウム窓によるX線の吸収の程度,雰囲気ガスによる吸収の程度という2つの要素(前記ア)は,それぞれ引用例2並びに引用例1によって,雰囲気ガスのイオン化による所定物体の電位変化又は除電の場合の考慮要素になることが示されており,それらの考慮要素を考慮して波長を決定するための技術的事項も甲6,甲8に示されている。
前記訂正明細書の【0007】【0008】に示されているとおり,本件特許発明1における2Åないし20Åという軟X線の波長も,上記の技術的事項を考慮して定められたものということができる。
そうすると,甲6,甲8に記載された周知事項から,X線の波長はベリリウム窓による吸収及びイオン化したい領域までの距離を考慮して適宜決定できる事項にすぎず,当業者にとって容易に想到できるものであるとした審決の判断に誤りはない。
(4) 小括以上のとおり,引用発明1に引用発明2の技術を組み合わせることにより,所定物体から1m未満の位置にX線管を配置し,ここから軟X線を照射し,軟X線が照射される領域の大気雰囲気に含まれる元素ないし物質をイオン化し,所定物体の電位を変化させる方法とすることは,当業者にとって容易に想到し得たことであり,また,この方法において,X線を導く窓を貫通できるように,また大気雰囲気の厚み(所定物体までの距離)を考慮した所望の程度のイオン化ができるようにX線の波長を選択し,その結果,「主要波長が2オングストローム以上,20オングストローム以下の範囲」とすることは,当業者が適宜なし得る設計事項であって,容易に想到し得るものということができる。
(5) その他の原告の主張に対しア 数値の臨界的意義に対し原告は,少なくとも「1m未満」,「2Å以上20Å」以下という数値には臨界的意義があると主張する。
しかし,本件特許発明1において,X線管からの距離「1m未満」は,前記(3)アのとおり,工業的用途から実用的な長さである「10〜20cm程度」を含む長さとして設定したものであり,「1m未満」という数値に臨界的な意義(数値の内と外で量的に顕著な差があること)は認められない。
また,X線の主要波長範囲「2Å以上20Å以下」は,同じく前記(3)アのとおり,波長が2Å以下になると雰囲気による吸収が小さくなり雰囲気のイオン化に適しないこと,及び,波長が約20Å以上になると,イオン化の対象である雰囲気による吸収に対するX線管のベリリウム窓による損失割合が急増することという定性的な理由により決められたものであり,これらの数値にも臨界的な意義は認められない。
したがって,本件訂正発明1において,X線管からの距離「1m未満」とし,X線の主要波長範囲を「2Å以上20Å以下」としたことに,格別の臨界的意義があるとはいえない。
イ 原告が作成した甲19及び甲25に基づく主張に対し(ア)原告は,本件特許発明1に特徴的な技術思想として,照射する軟X線の波長の設定によって除電を効果的,効率的に行うという技術思想があるとし,原告が作成した「大気におけるX線の吸収率と波長との関係についての計算報告書」(甲19)を示し,甲19から,計算上,主要波長2Å以上の軟X線であれば,空気厚さ1mで照射されたX線のほとんどが大気に吸収されることが分かるとする。
しかし,前記のとおり,気体媒質のイオン化の程度(X線の吸収)は,気体媒質の種類(元素),気体媒質の厚み(イオン化したい領域までの距離)及びX線の波長に依存するのであるから,空気厚さ1mで照射されたX線のほとんどが大気に吸収されるようなX線の波長を計算により求めることができることは当然のことであり,甲19は,X線の波長がイオン化したい領域までの距離に応じて適宜決定できることを裏付けているにすぎず,当業者が容易に想到し得ないような技術事項を示しているものとはいえない。
(イ)また,原告は,主要波長が3.1ÅのX線と主要波長が0.93ÅのX線について,それぞれ25cmと10mの距離における除電時間を計測した実験結果(甲25)を示し,距離xが長い位置に除電対象物体が存在するときは,いかなる波長のX線を用いようと,除電効率は低いとし,本件特許発明1は効率的な除電を可能にしたものであると主張する。
甲25の実験結果報告には,実験結果の図表が示され,その図表には,X線の主要波長,管電圧,管電流,耐電プレートまでの距離及び実験結果として除電時間がグラフで示されている。しかし,実験結果には,実験条件(帯電物体の材質・形状・大きさ・設置条件,イオン化の対象となる雰囲気ガスの条件,実験の場所と実験の具体的態様,除電の程度の測定方法等)の詳細は示されていない。仮に,原告が主張するように,甲27,甲28に示された,イオナイザーの除電性能を評価するための規格化された測定方法を採用して実験を行ったものであるとしても,甲25には,X線の主要波長を3.1Å,イオン化したい領域(帯電プレート)までの距離を25cmとした場合と,X線の主要波長を0.93Å,同距離を10mとした場合についての結果が示されているだけであり,この結果から,前記条件においては,主要波長3.1ÅのX線のほうが主要波長0.93ÅのX線より除電時間が短いとはいえても,2Å以上のX線によって1m未満の近傍での低出力による高効率の除電が可能であると評価することはできない。なお,甲28(「静電気管理技術の基礎」145頁)の図A-43「水平使用時の帯電プレートモニタの測定位置」には,1辺が150mmの正方形の帯電プレートが,イオナイザからの距離300mm,600mm,900mmという1m以内の距離に置かれた図が示されていることからして,前記測定方法が,帯電プレートまでの距離が10mという条件でイオナイザの性能を評価することを予定してしていたとは考えられないし,そもそも,25cmと10mというように距離が大幅に異なる条件で除電時間を比較することによって,イオナイザの性能を評価しようとすること自体に技術的な意味があるのか疑問といわざるを得ない。したがって,甲25の記載から,本件特許発明1には,当業者が容易に想到できない技術事項が示されているということはできない。
2 取消事由2(相違点3に係る容易想到性判断の誤り)について(1) 本件特許発明1における「ベリリウム窓」の意義ア本件特許発明1には,「ベリリウム窓」に関し,「所定のターゲット電圧およびターゲット電流が与えられるターゲットを内蔵すると共にベリリウム窓を有するX線管を配置」し,「前記ベリリウム窓から主要波長が2オングストローム以上,20オングストローム以下の範囲の前記軟X線が照射される」と特定されている(請求項1)。
訂正明細書(甲11)の発明の詳細な説明には,大気雰囲気をイオン化する場合の「ベリリウム窓」に関し,次の記載がある。
最近,Be(ベリリウム)窓を有するX線管の技術が確立したので,「これを使用する場合について考察すると,軟X線の波長が長いときには,Beによる吸収損失がN ,O など(大気圧雰囲気での代表として22示す)による吸収に比べて増加するようになり,波長が約20オングストローム以上のX線は損失割合が急増するため不利であることがわかった。 (【0007】)」この範囲の波長では,Be窓での吸収損失は比較的少なく,かつ大気 「圧程度の雰囲気中では比較的短距離(例えば10cm)を走行中にイオンを発生して消失するため,少し離れれば人体に対する影響も全くなく,安全である。 (【0009】)」「Be膜は,照射系と反応系とを仕切るもの,あるいは仕切り窓としても有用であって,軟X線装置において,Beを使用することが本発明に係るイオン化装置の特徴の一つである。」(【0022】)次に,軟X線の波長の選択基準について述べる。例えば大気をイオン「化する場合には,Be板における吸収損失に比べ,大気ガス(例えば窒素N)における吸収を大きくすることが必要で,この点から波長の上限が定まり,この場合にはNの特性波長端が上限となり,約30オングストロームである。しかし,NとBeとの損失比は,波長3.5オングストローム付近において最小となり,短波長に向かって緩やかに低下する。短波長に進むに従い,Nに対する吸収係数も低下するので,イオン化の効率も低下する。長波長に進むに従い,Beにおける吸収によって効率は低下する。 (【0023】)」(2) 周知技術窓を有するX線管において,X線管からX線を照射する窓材にベリリウムを用いることは,次のとおり,周知慣用の技術であったということができる。
?@甲6には,「X線管」の項目に,「X線をとり出す窓にはベリリウム板などがよく使われる。」(131頁右欄下から13行,12行)と記載されている。
?A甲8には,図2.19(70頁)に「透過(薄い)陽極を有するX線管の原理」が示されており,「ベリリウム窓」(beryllium window)が図示されている。
なお,引用例2(甲2)には,「15keVのエネルギーを有すX線は,例えば,プラスチック,アルミニューム又はベリリウム製の薄い窓31を貫通することが可能であり,従って内部室19内で窒素を能率的にイオン化する。」(7頁右上欄5行〜9行)と記載されており,X線管に直接設けられた窓ではないが,X線を導入する窓材としてベリリウムを用いることが記載されていることからも,X線の技術分野において,窓材としてベリリウムを用いることが周知技術であったことが分かる。
(3) 小括以上によれば,「ターゲットを内蔵すると共にベリリウム窓を有するX線管」を採用することは容易想到であるとした審決の判断に誤りはない。
(4) 原告の主張に対し原告は,本件特許発明1は,吸収の大きい軟X線を用いたことから,X線管の窓材にX線吸収の少ないベリリウムを選択したと主張する。
しかし,上記のとおり,X線を照射する窓材にベリリウムを用いることは周知慣用の技術であり,また,ベリリウムがX線吸収が少ない金属材料であることも,甲8の「表1.5」から明らかなように周知である。
また,前記(1)のとおり,訂正明細書発明の詳細な説明には,ベリリウム窓を有するX線管を使用した場合のベリリウム窓によるX線の吸収損失について記載されているが,ベリリウム窓を用いたX線管の技術が確立したことを前提として,ベリリウム窓を用いた場合の適切な波長の軟X線について記載されている。そうすると,本件特許発明1において,窓材にベリリウムを用いることは,発明の前提であったということができる。
3 取消事由3(本件特許発明2に係る容易想到性判断の誤り)について本件特許発明2は,前記第2の2の請求項2に記載されたとおりであり,本件特許発明1と比較すると,「所定物体」が「除電すべき所定帯電物体」に,「所定物体の電位を当該大気雰囲気の電位に近づけること」が「所定帯電物体を除電すること」に,また「物体の電位を変化させる方法」が「所定帯電物体の除電方法」に,それぞれ変更されている点を除き,実質的な差異はない。
また,取消事由3において,上記取消事由1,2で検討した事項以外の争いはない。
したがって,取消事由3についても,本件特許発明1に係る上記取消事由1,2と同様,原告の主張は理由がない。
4 結論以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,原告は縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 大須賀滋
裁判官 齊木教朗