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関連審決 無効2008-800015
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 発明者 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  数値限定 /  技術的意義 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  交換 /  構成要件 /  設定登録 /  混同 /  合理的な理由 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10490号 審決取消請求事件
原告X
同訴訟代理人弁理士前直美
被告帝 人化成株式会社
同訴訟代理人弁理士大島正孝 白石泰三
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/09/17
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が無効2008−800015号事件について平成20年11月25日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文1項同旨第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において下記2の本件発明に係る特許に対する特許無効審判の請求について特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)記載の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)被告は,発明の名称を「薄板収納搬送容器用ポリカーボネート樹脂」とする特許第3995346号(平成10年8月26日特許出願。平成19年8月10日設定登録。請求項の数は全2項。以下「本件特許」という。)の特許権者である(甲9)。
(2)原告は,平成20年1月29日,本件特許につき特許無効審判を請求し(甲15),無効2008-800015号事件として係属した。
(3)特許庁は,同年11月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その謄本は,同年12月4日,原告に送達された。
2本件発明の要旨本件特許に係る発明の要旨は,次のとおりである。以下,請求項1及び2に係る発明を「本件発明1」及び「本件発明2」という。
【請求項1】粘度平均分子量が14000〜30000の芳香族ポリカーボネート樹脂であって,該ポリカーボネート樹脂中の塩素原子含有量が10ppm以下であり,炭素数が6〜18であるフェノール化合物の合計含有量が100ppm以下であり,ナトリウム,カリウム,亜鉛,アルミニウム,チタン,ニッケルおよび鉄原子の含有量の合計が0 7ppm以下であり,且つナトリウムの含有量が0 2pp. .m未満である芳香族ポリカーボネート樹脂から成形されたことを特徴とする薄板収納搬送容器。
【請求項2】薄板収納搬送容器が,半導体ウエーハ用収納搬送容器である請求項1記載の薄板収納搬送容器。
3本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,下記アないしカの各引用例及び参考文献の開示内容を合わせて検討し,技術常識を考慮しても,下記(2)の相違点b及びロに係る本件発明1についての「塩素原子含有量」を導き出すことが当業者にとって容易であるということはできず,したがって,主引例を下記アの引用例1又は下記イの引用例2のいずれとしても,本件発明1及び2が当該主引例又は下記ウないしオの各引用例に記載された発明(以下,主引例に係る発明を含め,順次,「引用発明1」ないし「引用発明5」といい,引用発明1ないし5を併せて「各引用発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする原告主張の無効理由は認めることができない,というものである。
ア引用例1:特開平10-211686号公報(甲2)イ引用例2:特開平2-276037号公報(甲1)ウ引用例3:特開平5-148355号公報(甲3)エ引用例4:特開平6-100683号公報(甲4)オ引用例5:特開平3-100501号公報(甲5)カ参考文献:本間精一編「ポリカーボネート樹脂ハンドブック」(平成4年8月28日・日刊工業新聞社発行)81頁(甲6)(2)なお,本件審決が上記判断に際して認定した本件発明1と引用発明1との相違点及び引用発明2との相違点は,次のとおりである。
ア本件発明1と引用発明1との相違点相違点a:芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量について,本件発明1では「粘度平均分子量が14000〜30000」と規定しているのに対して,引用発明1では「平均分子量(M v)が10,000〜100,000」と規定している点。
相違点b:芳香族ポリカーボネート樹脂中の塩素に関した含有量について,本件発明1では「塩素原子含有量が10ppm以下」と規定しているのに対して,引用発明1では「吸水率が0.05重量%以下になるまで乾燥したポリカーボネート樹脂をガラス管に入れ,1 mmHg 以下の圧力で封入した後,これを280℃で30分間加熱し,ついで23℃まで冷却後,3日間常温(23℃)放置する間に封入したガラス管の気相部に揮発してくるC l イオン量が30ppb以下」と規定している点。
相違点c:芳香族ポリカーボネート樹脂中のフェノールに関した合計含有量について,本件発明1では「炭素数が6〜18であるフェノール化合物の合計含有量が100ppm以下」と規定しているのに対して,引用発明1では,そのような合計含有量の規定が無い点。
相違点d:芳香族ポリカーボネート樹脂中の特定金属種に関した合計含有量について,本件発明1では「ナトリウム,カリウム,亜鉛,アルミニウム,チタン,ニッケルおよび鉄原子の含有量の合計が0.7ppm以下」と規定しているのに対して,引用発明1では,そのような合計含有量の規定が無い点。
相違点e:芳香族ポリカーボネート樹脂中のナトリウムに関した含有量について,本件発明1では「ナトリウムの含有量が0.2ppm未満」と規定しているのに対して,引用発明1では,そのような含有量の規定が無い点。
イ本件発明1と引用発明2との相違点相違点イ:芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量について,本件発明1では「粘度平均分子量が14000〜30000」と規定しているのに対して,引用発明2では「粘度平均分子量が14,200,14,300又は14,400」である点。
相違点ロ:芳香族ポリカーボネート樹脂中の塩素に関した含有量について,本件発明1では「塩素原子含有量が10ppm以下」と規定しているのに対して,引用発明2では「塩素系溶媒としてのCH Cl 含有量が3ppm,2ppm又は1022ppm」である点。
相違点ハ:芳香族ポリカーボネート樹脂中のフェノールに関した合計含有量について,本件発明1では「炭素数が6〜18であるフェノール化合物の合計含有量が100ppm以下」と規定しているのに対して,引用発明2では,そのような合計含有量の規定が無い点。
相違点ニ:芳香族ポリカーボネート樹脂中の特定金属種に関した合計含有量について,本件発明1では「ナトリウム,カリウム,亜鉛,アルミニウム,チタン,ニッケルおよび鉄原子の含有量の合計が0.7ppm以下」と規定しているのに対して,引用発明2では,そのような合計含有量の規定が無い点。
相違点ホ:芳香族ポリカーボネート樹脂中のナトリウムに関した含有量について,本件発明1では「0.2ppm未満」と規定しているのに対して,引用発明2では「0.3ppm」又は「0.2ppm」である点。
相違点ヘ:芳香族ポリカーボネート樹脂を成形して得た成形品の用途について,本件発明1では「薄板収納搬送容器」と規定しているのに対して,引用発明2では「光学式ディスク基板」である点。
4取消事由(1)本件発明1に係る容易想到性の判断の誤り(取消事由1)(2)本件発明2に係る容易想到性の判断の誤り(取消事由2)第3当事者の主張1取消事由1(本件発明1に係る容易想到性の判断の誤り)について〔原告の主張〕( )本件発明1における「塩素原子含有量」と各引用発明における各種塩素量1についての認定・判断の誤り本件審決(19頁4行〜21頁35行,24頁24行〜25頁末行)は,本件発明1の「塩素原子含有量」には,塩素系溶媒由来のもののほかに,ポリカーボネートポリマーの分子鎖末端に存在するクロロホーメート基由来のものが含まれるのに対し,各引用発明における「Clイオン量」(引用発明1),「塩素系溶媒残留量」(引用発明2),「塩素濃度」(引用発明3)及び「塩化メチレンの含有量」(引用発明4)は,それぞれ,本件発明1の「塩素原子含有量」とは意味・内容が異なり,本件発明1の「塩素原子含有量」と換算可能な関係があるわけでもないから,これらから本件発明1の「塩素原子含有量」を導き出すことはできないとする。
しかしながら,本件発明1の「塩素原子含有量」には,塩素系溶媒由来のもののほか,ポリカーボネートポリマーの分子鎖末端に存在するクロロホーメート基由来のものが含まれるとしても,ポリカーボネート樹脂中の塩素原子含有量はほとんどがポリカーボネート樹脂中に残留した塩素系有機溶媒によるものであり,ポリマー鎖に残った未反応のクロロホーメート基に由来するものは含まれるとしても微量であるとされており,ポリカーボネート樹脂中の塩素原子は,ほぼ残留した塩素系有機溶媒由来の塩素と考えるべきである。
本件審決における上記認定・判断には,ポリカーボネート樹脂中に含まれる塩素原子として,クロロホーメート基由来のものを過大に見積もり,塩素系溶媒由来のものを過少に見積もり,また,測定方法や表現上の外形的な相違にこだわった結果,本件発明1及び各引用発明の本質を見誤った誤りがある。
以上を分説すると,下記のとおりである。
ア本件発明1における「塩素原子含有量」について(ア)本件発明に係る明細書(甲9。以下「本件明細書」という。)の【0021】の記載によると,ポリカーボネート樹脂中の塩素原子含有量として測定される塩素のうち,塩素系有機溶媒由来の塩素が「ほとんど」であるのに対し,クロロホーメート基由来の塩素は「微量」であり,また,塩素系有機溶媒由来の塩素が直接的に薄板汚染につながるのに対し,クロロホーメート基由来の塩素は「結果的に薄板汚染につながる」とされている。
(イ)本件明細書の【0032】や【0035】などには,ポリカーボネート樹脂中に残存する塩素系有機溶媒を少なくする方法が記載されているが,本件明細書には,クロロホーメート基を少なくする方法は記載されておらず,ポリカーボネート樹脂中の塩素原子含有量として本件発明1が実質的に着目しているのは,塩素系有機溶剤由来の残留塩素の量である。
(ウ)以上のとおり,本件明細書全体の趣旨からみると,本件発明1において,クロロホーメート基由来塩素は,微量なものであって,本件発明1における課題解決に関する重要性も低く,塩素原子含有量の低減において無視できるものとして扱われており,本件発明1が実質的に着目しているのは,塩素系有機溶媒由来の残留塩素である。
イ引用例3における「塩素濃度」について(ア)本件審決(21頁6〜15行,25頁31〜34行)は,引用発明3の「塩素濃度」は本件発明1の「塩素原子含有量」とは異なるものであって,引用例3の「塩素濃度」から本件発明1の「塩素原子含有量」を導き出すことはできないとしたが,本件発明1の構成要素である「ポリカーボネート樹脂中の塩素原子含有量」とは,「ポリカーボネート樹脂に含まれる塩素原子の量」として一義的に明確に理解することができ,また,引用例3における「ポリカーボネート中の塩素濃度」についても,「ポリカーボネート樹脂に含まれる塩素原子の量」として一義的に明確に理解することができるものであるから,本件発明1の「ポリカーボネート樹脂中の塩素原子含有量」と引用例3における「ポリカーボネート中の塩素濃度」とは同義である。
(イ)本件審決(21頁6〜10行)は,本件発明1の「塩素原子含有量」が燃焼塩素法により測定されるのに対し,引用例3の「ポリカーボネート中の塩素濃度」は「ポリカーボネート50 mg を Schoriger 法によりガス化して水溶液にし,イオンクロマトグラフィーを用いて測定された」ことを重視して,測定されるものが異なると認定するが,燃焼塩素法と Schoriger 法は,いずれも,ポリカーボネート樹脂をガス化することによって「ポリカーボネート樹脂に含まれる全塩素原子」を取り出してその量を測定することを目的とした測定法であって,塩素の検出手段以外は基本的に同様の原理に基づくものであるから,測定された量は実質的に同じと解される。
(ウ)したがって,引用例3における「ポリカーボネート中の…塩素濃度が10ppm以下」は,本件発明1の「ポリカーボネート樹脂中の塩素原子含有量が10ppm以下」と一致するものであって,測定方法の違いを考慮したとしても,その数値範囲が重複する。
ウ引用例2における「塩素系溶媒残留量」について(ア)本件発明1における塩素原子含有量は,「ほとんど」塩素系有機溶媒由来の塩素によって占められ,基本的に塩素系有機溶媒由来の塩素の量とほぼ同等である。
(イ)そして,引用例2の【表1】には,塩素系溶媒としての塩化メチレン(CH Cl )量が2,3又は10ppmのポリカーボネート樹脂が記載されてい22るところ,塩化メチレン1ppmは塩素原子量0.835ppmに相当するから,引用例2記載の「塩素系溶媒としてのCH Cl 量」2,3又は10ppmは,そ22れぞれ塩素原子量1.67ppm,2.51ppm,8.35ppmに相当するから,微量のクロロホーメート基由来の塩素原子をこれらに加えたとしても,少なくとも前2者は,本件発明1における「塩素原子含有量が10ppm以下」の範囲内に含まれると考えられる。
(ウ)なお,被告は,審査過程の平成18年4月28日に提出した意見書(甲12)において,ポリカーボネート樹脂の処理方法において,本件発明1と引用発明2とで差異がないことを認めていたものであって,引用例2に記載の粒状ポリマーにされた後の貧溶媒による洗浄と乾燥が十分に行われているポリカーボネート樹脂は,ポリカーボネート樹脂中の塩素原子含有量が10ppm以下のものであるとの審査官の認定を容認していたものであった。
エ 引用例4における「塩化メチレンの含有量」について(ア)本件審決(21頁16〜25行)は,引用発明4における「塩化メチレンの含有量」は,ガスクロマトグラフ法で検出される塩化メチレンの含有量を意味し,本件発明1における「塩素原子含有量」とは異なり,この「塩素原子含有量」と換算可能な関係があるわけでもないから,これらから本件発明1の「塩素原子含有量」を導き出すことはできないとする。
(イ)しかしながら,当業者であれば,引用発明4における「塩化メチレンの含有量」と引用発明2における「塩素系溶媒としてのCH Cl 含有量」とが同等で22あり,また,引用例4の記載から算出される塩素量が,本件発明1における実質的に塩素系有機溶媒由来の塩素量である「塩素原子含有量」と同様のものであることが分かる。
(ウ)そして,本件発明1における「塩素原子含有量」は,クロロホーメート基由来の塩素原子量をも含むものであったとしても,それが微量である以上,塩化メチレン由来の塩素量と実質的に同等である。
オ引用例1における「Clイオン量」について(ア)本件審決は,「引用発明1で言う『Clイオン量』とは,…成形後,被収納物を収納して,輸送,保管中等の環境下で放置する間に,常温下での光分解等によって徐々に揮発してくる『揮発性Cl』の量を意味する」(19頁14〜19行),引用例1には「四塩化炭素やクロロホーメート基に由来した残留塩素に関する記載が存在するものの,これらの残留塩素は,『成形品』すなわち『収納容器』に対して純水洗浄を行っていることからわかるとおり,『成形品』における残留塩素量に着目するものであって,成形前の樹脂自体における『塩素原子含有量』に関するものではない。」(20頁7〜11行)とする。
(イ)しかしながら,引用例1には,その【0007】において「成形品」から放置中に徐々に揮発する塩素である「揮発性Cl」についての記載と,その【請求項1】において「吸水率が0.05重量%以下になるまで乾燥したポリカーボネート樹脂」についての「Clイオン量」との記載があり,2種類の塩素量の記載がされているところ,このうち「Clイオン量」は,本件発明1と同様に,ポリカーボネート樹脂(ペレット)中の塩素量の一種であって,成形品についての塩素量ではないにもかかわらず,本件審決の上記認定は,これらの2種類の塩素量を混同するものであって誤っている。
また,引用例1の実施例において,Clイオン量は,樹脂ペレットの状態と成形後の状態との両方の状態で測定されている。樹脂ペレットのClイオン量(引用発明1の「Clイオン量」)は,「成形後の純水洗浄」より前に測定されているのであるから,四塩化炭素,クロロホーメート基に由来する塩素が除去されておらず,それらを含み得るものである。引用例1の【表1】及び【表2】を参照すると(ここでは,樹脂ペレットのClイオン量は「加熱発生Cl量」,成形後の測定値については「容器のClイオン量」と呼ばれている),いずれのサンプルについても樹脂ペレットのClイオン量が成形後の測定値を上回っていることからも,そのことが理解できる。
(ウ)以上のとおり,引用発明1における「Clイオン量」は,揮発性Clが生じる状態を模した条件下で測定されるとしても,「ポリカーボネート樹脂」を測定対象としているのものであって,引用発明1はポリカーボネート樹脂中の塩素量に着目したものである点で,本件発明1と共通する。
(2)本件発明1の効果の自明性本件審決(21頁36〜末行)は,相違点b及びロに係る本件発明1の特定事項によって奏される効果が格別であって,引用例1ないし5等から予測し得ないものであると判断するが,この判断は,以下のとおり誤っている。
アポリカーボネート樹脂中の残存塩素の影響との関係について(ア)引用例1の【0002】及び【0003】,引用例4の【0004】などの記載のとおり,ポリカーボネート樹脂中の残存塩素が,ポリカーボネート樹脂を材料として使用した成形品(製品)において種々の問題の原因となることは周知である。そして,本件明細書の【0006】に「理想は,揮発あるいは漏出の可能性のある不純物成分が材料中に全く存在しないことである」と記載されるように,材料であるポリカーボネート樹脂中の不純物の量が少ないほど,製品における種々の問題の解決に有効であるという関係は,製品が何であるかにかかわらず,共通しており,ポリカーボネート樹脂においては,それから製造される成形品の性能との関係において残存塩素等の不純物が低減されていることが望ましいものである。そして,容器に被収納物を保管している間に揮発又は漏出してくる不純物により被収納物が悪影響を受ける場合,その不純物が容器から揮発又は漏出したものであるか,被収納物自体から揮発又は漏出したものであるかを問わず,そのような不純物が少ないことが望ましいことも当然である。特に,引用発明3は,透明性が高く,射出成形品に適したポリカーボネート樹脂に関するものであるから,射出成形品に係る本件発明1と関連するものである。
(イ)例えば,引用例1の【0034】に「重縮合完結後は,残存するクロロホーメート基が0.01μeq/g 以下になるまで,NaOHのようなアルカリで洗浄処理する。」と記載されているように,クロロホーメート基由来塩素原子が不純物として望ましくないものであること及びそれを低減する方法は公知である上,本件発明1は,クロロホーメート基由来塩素原子について単に「微量」としているのみであって量的な検討もしておらず,クロロホーメート基由来塩素原子の量を含めた量として塩素原子含有量を特定しても,塩素系有機溶媒由来塩素原子のみの量で規定しても,その違いによって効果に有意差が生じるか示されていないのであるから,本件発明1の進歩性を検討するにおいて,クロロホーメート基由来塩素原子に依拠することはできない。
(ウ)以上のとおり,本件発明1の効果は,結局のところ,ポリカーボネート樹脂における塩素等の不純物量を低減することにより,この樹脂を用いた成形品における塩素等の汚染物質の漏出が低減され,不純物による悪影響が抑えられるというものであって,当業者でさえなくとも容易に予測できる自明の効果である。
イ本件発明1の数値範囲等について(ア)本件明細書には,接触角を測定することによる容器からの汚染の程度の測定(【0031】)及び透明性,耐衝撃性及び耐熱性に関する測定値(【0062】,【表2】)が記載されているが,ポリカーボネート樹脂中の塩素等の不純物が少なければ成形品から漏出又は揮発する望ましくない成分の量が少なくなることは周知であって,本件発明1において規定されているいずれの不純物も,一般にその量は低いほどよいのであるから,その量についての数値範囲は,その上限の許容限度にのみ意義があり得るところ,本件発明1における成形品(容器)からの塩素等の不純物に起因する汚染の低減という効果は,ポリカーボネート樹脂中の不純物量の低減について公知の効果と同質であるから,種々の成形品について,材料であるポリカーボネート樹脂中の不純物に起因する成形品への悪影響を低減できる不純物量の上限値は公知である。
(イ)被告は,本件発明1は,いかなる不純物が薄板の汚染に影響を与え,それらの量及び組合せをどのようにすればよいかを決めたことを特徴とするものであると主張するが,本件発明1においてその量が規定されている各種不純物は,いずれもポリカーボネート樹脂の不純物として公知であったものであるところ,本件明細書には,薄板の汚染に影響を与える不純物の種類,量及び組合せを決めたといえる根拠となり得るデータは記載されておらず,比較例とされているものも,比較例1及び3の炭素数が6ないし18であるフェノール化合物の合計含有量及び比較例1ないし4の塩素原子含有量以外は,すべて本件発明1の構成要件の数値範囲を満たしており,数値範囲外である量につき,それらがどのように影響するのかは不明である。一方,本件明細書には,本件発明1の実施例としては「実施例1」(塩素原子含有量7ppm)が唯一のものであり,本件発明1の構成要件の各不純物の数値範囲全体にわたって本件発明1の効果が確認されているものでもなく,本件発明1の数値範囲に臨界的意義を認めることもできない。
(ウ)本件発明1は,被告が主張するように「いかなる不純物が薄板の汚染に影響を与え,それらの量及び組合せをどのようにすればよいか」を検討したものではなく,むしろ,ポリカーボネート樹脂の成形品において悪影響を及ぼすことが公知であり,少ない方がよいことが明白な各種不純物について,単に測定し,最も不純物量が少なかった例をカバーするように数値範囲を規定したものにすぎず,その効果は,結局のところ,調べた各種不純物がいずれも最も低い量のときに成形品における不純物による汚染の程度が最も低いという,当業者であれば当然予測可能なものであって,効果の顕著性が認められるようなものではない。
ウしたがって,本件明細書に記載された本件発明1の効果は,いずれも何ら「格別のもの」ではなく,各引用発明及び周知技術等から予測し得たものである。
(3)小括以上のとおり,本件発明1の「塩素原子含有量」については各引用例に同一又は同等の記載があり,また,「塩素原子含有量が10ppm以下」との数値範囲にも格別の意義がなく,本件発明1は顕著な効果を奏するものではないことから,相違点b及びロに係る本件審決の認定・判断には誤りがあり,そのような誤った認定・判断に基づいて,本件発明1につき各引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないとした本件審決の判断は誤りというべきである。
〔被告の主張〕(1)本件発明1における「塩素原子含有量」と各引用発明における各種塩素量原告は,本件発明1におけるポリカーボネート樹脂中の塩素原子含有量は,ほとんどがポリカーボネート樹脂中に残留した塩素系有機溶媒によるものであり,ポリマー鎖に残った未反応のクロロホーメート基に由来するものは,これが含まれるとしても,微量であり,ポリカーボネート樹脂中の塩素原子は,ほぼ残留した塩素系有機溶媒由来の塩素と考えるべきと主張するが,以下のとおり,クロロホーメート基に由来する原子は,微量であっても,薄板汚染につながり,無視できない存在であって,原告の主張は理由がない。
ア本件発明1における「塩素原子含有量」について(ア)本件明細書の【0021】には,「塩素原子は,製造中に使用した前記の塩素系有機溶媒がポリカーボネート樹脂中に残留したものがほとんどであり,これに加えて,ポリマー鎖に残った微量の未反応のクロロホーメート基に由来するものである。残存する塩素系有機溶媒が多くなると樹脂から漏出してウエーハなどの薄板汚染につながり,ポリマー鎖に残った未反応のクロロホーメート基はそれ自体ポリマーより漏出することはないが,その量が多くなると成形加工においてポリマーの分解を微妙に促進して低分子量分つまり揮発成分を増やし結果的に薄板汚染につながる。」と記載されており,本件発明1において,クロロホーメート基に由来する塩素原子は微量であっても薄板汚染につながるものであると認識されていることが理解できる。
そして,上記【0021】によれば,クロロホーメート基由来の塩素原子と,塩素系有機溶媒由来の塩素原子とでは,薄板を汚染する機構が相違することが記載されており,クロロホーメート基由来の塩素原子は,少しずつ継続的に汚染源となることが示唆されており,長期間にわたる薄板汚染を考慮すると,塩素系有機溶媒由来の塩素原子よりも,クロロホーメート基由来の塩素原子の方が,薄板の表面汚染への影響度が大きい場合もあり得るものであって,クロロホーメート基に由来する塩素原子は,量的に微量であるから無視できるというものではない。
(イ)ポリカーボネートの重合反応は,ビスフェノールAのナトリウム塩とホスゲンとが反応をしてクロロホーメート基(-CO-Cl)を形成した後,クロロホーメート基の塩素がさらに他のビスフェノールAのナトリウム塩と反応してポリマー鎖が延長していくものであり,クロロホーメート基は反応が不十分でポリマー鎖の延長が不十分な場合,その量が多くなる。したがって,クロロホーメート基の濃度を減少させるには,反応促進のため触媒を用いたり,末端停止剤を用いたりすることが行われている。
原告は,本件明細書にはポリカーボネート樹脂中のクロロホーメート基を少なくする方法が記載されていないと主張するが,本件明細書の【0013】及び【0014】には,反応促進のため触媒を用いたり,末端停止剤を用いたりすることについての記載があるもので,本件明細書にはクロロホーメート基を低減する方法が記載されており,原告の上記主張は理由がない。
(ウ)以上のとおり,クロロホーメート基に由来する塩素原子は,微量でも薄板汚染につながり無視できないものであるところ,本件発明1の塩素原子含有量は,塩素系有機溶媒由来の塩素原子及びクロロホーメート基に由来する塩素原子を包含するものである。
イ引用発明3における「塩素濃度」について(ア)原告は,引用発明3における「塩素濃度」は,本件発明1における「塩素原子含有量」と同義であり,両者についての「10ppm以下」の数値範囲は一致又は少なくとも重複すると主張する。
(イ)しかしながら,本件発明1の「塩素原子含有量」は,サンプルを全量気化させ,気化したガスを硫酸に通して脱水後,塩素用の電解液(酢酸ナトリウム)に吸着させ,吸着により生じた電位差を電位滴定により元の電位へ戻すのに必要なエネルギーにより算出する(本件明細書【0047】)のに対し,引用発明3における「塩素濃度」は,Schoriger 法によりガス化して水溶液にし,イオンクロマトグラフィーで測定する方法(甲3【0026】)であって,両者の測定法は同じ方法ということはできず,引用発明3における「塩素濃度」は,本件発明1における「塩素原子含有量」と同義であるとする原告の主張は合理的ではない。
(ウ)仮に,窓ガラスの代替品についての引用発明3に記載のポリカーボネートの塩素濃度が本件発明1の塩素原子含有量と同じであったとしても,引用例3には,薄板汚染を示唆する記載は一切なく,本件特許出願前に,引用発明1において,引用例3の記載を参酌する合理的な理由はなく,そもそも引用例3には,塩素がポリカーボネートのどのような物性を損なうことさえ記載されていない。
ウ引用例2における「塩素系溶媒残留量」について(ア)原告は,引用例2の【表1】に記載の塩化メチレン(CH Cl )の濃度22が「2ppm」,「3ppm」,「10ppm」と記載されているので,塩化メチレン中の塩素原子量を計算して,本件発明1の塩素原子量と数値範囲が重複すると主張する。
(イ)しかしながら,引用例2における「塩素系溶媒」とは,塩化メチレンのみならず四塩化炭素,ジクロルエタンなど種々のものを含む(甲1・3頁右下16〜18行)ところ,引用例2の【表1】にはそのうち塩化メチレンの濃度のみが記載され,他の溶媒の濃度についての記載はなく,単に塩化メチレンの塩素原子量を計算しても意味がない。
被告が審査過程の平成18年4月28日に提出した意見書(甲12)において認めていたのは,本件発明1と引用発明2とで,ポリカーボネート樹脂の処理の方法において差異がないことであって,処理の程度まで差異がないと認めたものでないところ,同じ処理方法でも,処理の程度によって塩素原子含有量は異なってくるものである。
(ウ)原告の主張は,本件発明1の塩素原子含有量が,塩素系有機溶媒のみならず,クロロホーメート基に由来する塩素原子をも含み,かつ,クロロホーメート基に由来する塩素原子は微量でも薄板汚染につながり無視できない存在であるということを看過したもので妥当ではない。
なお,引用発明2における塩素原子含有量が,偶然,本件発明1の塩素原子含有量と重複していても,ディスク基板に関する引用例2の記載をもって,薄板汚染を抑制することを目的とする本件発明1に参酌する理由とはならない。
エ引用例4における「塩化メチレンの含有量」について(ア)原告は,引用発明4における「塩化メチレンの含有量」と,引用発明2における「塩素系溶媒としてのCH Cl 含有量」とは同等であると主張する。
22(イ)しかしながら,塩素系有機溶媒由来の塩素原子のみならず,クロロホーメート基の塩素原子を含む本件発明1の「塩素原子含有量」と引用発明4の「塩化メチレンの含有量」とは相違し,また,引用例4の【表1】には,塩化メチレン量が10ppm以下(実施例1及び2),10ppm(実施例3)と記載されているのみで,引用発明4のポリカーボネート樹脂中の塩素原子含有量は,ホスゲン中の四塩化炭素などからの塩素原子,クロロホーメート基の塩素原子を合計すると,本件発明1の「塩素原子含有量10ppm以下」の範囲に含まれるということもできない。
(ウ)仮に,引用発明4における「塩化メチレンの含有量」が本件発明1の「塩素原子含有量」と同じであったとしても,ディスク基板の腐食防止に関する引用発明4は本件発明1とは無関係であり,本件発明1の進歩性を判断する際に引用例4を参酌する理由はない。
オ引用発明1における「Clイオン量」について原告は,引用発明1における「C1イオン量」は,本件発明1と共通すると主張するところ,確かに,引用発明1には,成形品から揮発する塩素と樹脂ペレットから揮発する塩素との2種類の塩素が記載されているが,両者とも一定の条件下で揮発する塩素であって,本件発明1の塩素含有量とは異なるものである。
(2)本件発明1の効果アポリカーボネート樹脂中の残存塩素の影響について(ア)原告は,ポリカーボネート樹脂中の残存塩素が,ポリカーボネート樹脂を材料として用いた成形品において望ましくない成分であり,製品が何であるかにかかわらず,その量は少ない方がよいことは明らかであるから,本件発明1の効果は容易に予測できるものにすぎないと主張するが,同主張は,製品とその要求特性等によって決まる発明の課題と,課題の達成手段となる対象塩素との関係を無視したものであって,妥当ではない。
(イ)本件明細書の【0006】に「薄板収納搬送容器用材料の理想は,揮発あるいは漏出の可能性のある不純物成分が材料中に全く存在しないことである。しかしながら,現実には,揮発あるいは漏出の可能性のあるすべての不純物成分を材料からなくすことは技術的に不可能である。重要なのは,シリコンウエーハ等の薄板に影響を与える不純物の種類や量及びその組み合わせを実害のない程度に抑制することが肝要である。」と記載されているように,本件発明1は,薄板汚染に影響を与える不純物としての塩素が,塩素系有機溶媒由来の塩素原子と,ポリマー鎖に残ったクロロホーメート基に由来する塩素原子であると特定し,それらの含有量を実害のない程度にしたことを特徴とするものである。原告の主張は,ポリマー鎖に残ったクロロホーメート基由来の塩素原子は微量ではあっても薄板を汚染することを見いだした本件発明1の要点を意図的に無視しようとするもので採用されるべきものではない。
(ウ)引用例2には,塩素系残留溶媒が光ディスク基板の長期信頼性を損なうことが開示され,引用例1には揮発性の塩素が精密部材の誤作動の原因であることが開示され,引用例4には塩化メチレンが記録膜の腐食に関与することが記載されているが,引用例3には塩素がポリカーボネートのどのような物性を損なうかさえ記載されておらず,引用例5には塩素についての言及はないところ,光ディスク基板についての引用発明2及び4では塩化メチレン等の塩素系溶媒を問題とし,精密部材用収納容器の引用例1では揮発性の塩素イオンを問題としており,製品の種類によって,許容できる塩素の種類,含有量が相違し,また,引用例3は射出成形品であっても着色の低減を目的とする点で本件発明1とは課題が相違しているのであって,このように,原告が主張するように,製品が何であるかにかかわらず塩素の含有量を低減させようとする考えは,現実とはかけ離れており,そのようなことは引用例1ないし5のいずれにも記載されていない。そして,引用発明1ないし5のいずれにも,本件明細書の【0021】に記載されているように,クロロホーメート基由来の塩素が「薄板汚染」の原因となることは記載されていない。
イ本件発明1が達成した効果について(ア)原告は,本件発明1の効果は当業者には予測可能なものであると主張するが,本件発明1の効果である薄板汚染の抑制は,接触角により測定される薄板表面のわずかな汚染を検知するものであるところ,引用発明1ないし5のいずれにも,接触角により表面汚染を検知することは記載されておらず,また,光ディスクに関する引用発明1,4及び5,ガラス代替品に関する引用発明3は,それぞれ薄板汚染の抑制という課題とは無関係であり,さらに,精密部材用収納容器に関する引用発明1においても,漏出した塩素イオン量を測定しているにすぎず,薄板表面の汚染の評価をしているものではなく,本件発明1の効果は,引用発明1ないし5から予測可能なものではない。
(イ)原告は,ポリカーボネート樹脂中の塩素等の不純物が少なければ成形品から漏出又は揮発する望ましくない成分の量が少なくなることは周知であると主張するが,「漏出又は揮発する望ましくない成分」と「薄板汚染」との関係については明らかではなく,実際に薄板汚染を抑制するには,この「望ましくない成分」の種類,量及びそれらの組合せを具体的に特定する必要があったもので,「“ポリカーボネート樹脂あるいはこれを材料とした成形品から漏出する有機物や無機不純物の種類”と“ウエーハ表面の汚染度”との関係については,明確な知見がなく,成形材料について最適の選択をすることは極めて困難な状態にあ」(本件明細書【0007】)ったところ,本件発明1は,「薄板の汚染に影響を与える不純物」,「それらの量」及び「それらの組合せを」特定し,現実に薄板の汚染を抑制するという課題を達成した発明であって,単に不純物を減少させたというような発明ではない。
(ウ)原告は,本件発明1の効果は,調べた各種不純物がいずれも最も低い量のときに成形品における不純物による汚染の程度が最も低いという,当業者であれば当然予測可能なものであると主張するが,本件発明1は,塩素原子含有量,炭素数が6ないし18であるフェノール化合物の合計含有量,ナトリウム,カリウム,亜鉛,アルミニウム,チタン,ニッケル及び鉄原子の合計含有量,ナトリウムの含有量の組合せが,薄板の表面汚染を低減するのに有効であることを見いだしたことを特徴とするものであって,任意の不純物の含有量を低減させることを意図する発明ではなく,薄板の汚染に影響を与える不純物をどの程度の含有量にするのが現実的であるかを決める発明である。原告の主張は,本件発明1が薄板の表面汚染を低減するのに有効な不純物及びその組合せを見いだしたことについての認識が欠けている。
(3)小括以上のとおり,本件発明1の「塩素原子含有量」は,引用例2ないし4におけるそれぞれの記載とは相違するものであり,また,本件発明1は,薄板の汚染を防止する顕著な効果を奏するものである。
精密部材の誤作動を防止するには,その収納容器に用いられるポリカーボネート樹脂中の揮発性の塩素を低減させる必要があるという知見のみが存在する状況下(引用発明1)において,ポリカーボネート樹脂中の塩素系有機溶媒由来の塩素のみならず,ポリマー鎖に残った未反応のクロロホーメート基に由来する塩素原子も薄板汚染に関与することを見いだし,かつ,顕著な格別の効果を有する本件発明1は,引用発明1ないし5に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
したがって,本件審決の認定・判断に誤りはない。
2取消事由2(本件発明2に係る容易想到性の判断の誤り)について〔原告の主張〕(1)本件審決(22頁9〜13行,26頁12〜16行)は,本件発明2につき,本件発明1を引用してさらに限定するものであるから,本件発明1が引用発明1ないし5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上,本件発明2もまた,引用発明1ないし5に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないと判断した。
(2)しかしながら,上記1の取消事由1についての〔原告の主張〕のとおり,本件発明1の「塩素原子含有量」は引用例1,3及び4に同一又は同等の記載があり,また,「塩素原子含有量が10ppm以下」の数値範囲には格別の技術的意義もなく,本件発明1は顕著な効果を奏するものではないから,本件発明1は,引用発明1ないし5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。そして,本件発明2における「半導体ウエーハ用」なる限定事項は,引用発明1に記載されている。
(3)したがって,本件発明2も,引用発明1ないし5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,これを否定した本件審決の判断は誤りというべきである。
〔被告の主張〕取消事由1についての〔被告の主張〕のとおり,本件発明1は,引用発明1ないし5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本件発明1を引用する本件発明2も,引用発明1ないし5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく,本件審決の認定・判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断1取消事由1(本件発明1に係る容易想到性の判断の誤り)について(1)本件発明1における「塩素原子含有量」ア本件発明1の要旨は,前記第2の2のとおりであるところ,原告は,本件発明1において,ポリカーボネート樹脂中の塩素原子含有量は,ほとんどがポリカーボネート樹脂中に残留した塩素系有機溶媒によるものであり,クロロホーメート基由来塩素は,含まれるとしても,微量であって,塩素原子含有量の低減において無視できるものとして扱われており,本件発明1が実質的に着目しているのは,塩素系有機溶媒由来の残留塩素であると主張する。
イ本件明細書の記載本件明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある。
【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,磁気ディスクあるいは集積回路チップへと加工されるウエーハなどを収納あるいは運搬するために使用される薄板収納搬送容器用のポリカーボネート樹脂に関するものである。さらに詳しくは,半導体ウエーハや磁気ディスクの表面汚れとして支障を及ばさない程度まで金属原子および揮発性ガスの発生を抑制した薄板収納搬送容器用のポリカーボネート樹脂に関するものである。
【0005】最近の半導体ウエーハの大口径化と共に容器からのウエーハ表面への汚染に対する要求がより厳しくなり,同時により高強度の材料が求められるようになった。そして,ウエーハだけでなく磁気ディスク収納搬送容器に関しても同様の要求がある。この要求に適した成形材料としてポリカーボネート樹脂あるいはこれを主成分とする樹脂組成物を用いる試みがなされるようになった。
【0006】これら薄板収納搬送容器用材料の理想は,揮発あるいは漏出の可能性のある不純物成分が材料中に全く存在しないことである。しかしながら,現実には,揮発あるいは漏出の可能性のあるすべての不純物成分を材料からなくすことは技術的に不可能である。重要なのは,シリコンウエーハ等の薄板に影響を与える不純物の種類や量およびその組み合わせを実害のない程度に抑制することが肝要である。
さらに,例えば加熱時における揮発分測定の際に検出されるもの中で注意すべき成分は何か,そして,それに関し目的材料として揮発量はどのくらい減らせばよいかを知ることである。
【0008】【発明が解決しようとする課題】本発明は,表面汚染に敏感とされる半導体ウエーハや磁気ディスク等の薄板の表面汚染を低減できるポリカーボネート樹脂から成形された薄板収納搬送容器を提供することを目的とする。本発明者は鋭意検討の結果,ポリカーボネート樹脂において,粘度平均分子量,特定成分の含有量を規制し,さらに特定の加熱試験における特定成分の揮発量を規制することによって上記目的を達成できることを見出し,本発明に到達した。
【0019】本発明のポリカーボネート樹脂の分子量は,粘度平均分子量(M)で14,000〜30,000が好ましく,14,500〜25,000がより好ましく,15,000〜23,000がさらに好ましい。かかる粘度平均分子量を有する芳香族ポリカーボネート樹脂は,一定の機械的強度を有し成形時の流動性も良好であり好ましい。分子量が14,000未満の場合は,成形品に強度がでないため実用的な材料が得られず,分子量が30,000を超える場合は,成形流動性が劣るという問題が生じる。さらにこの場合,シリコンウエーハ等の薄板汚染の原因となるフェノール化合物や塩素系有機溶媒が,押出加工中に樹脂中から揮発しにくくなる問題が生じ,それを解消しようと押出温度を上げると,塩素系有機溶媒は低減されるが,樹脂の分解が進みフェノール化合物量が増える結果となる。
【0021】本発明におけるポリカーボネート樹脂中の塩素原子含有量は,ポリカーボネート樹脂に対して10ppm以下であり,特に好ましいのは8ppm以下である。塩素原子は,製造中に使用した前記の塩素系有機溶媒がポリカーボネート樹脂中に残留したものがほとんどであり,これに加えて,ポリマー鎖に残った微量の未反応のクロロホーメート基に由来するものである。残存する塩素系有機溶媒が多くなると樹脂から漏出してウエーハなどの薄板汚染につながり,ポリマー鎖に残った未反応のクロロホーメート基はそれ自体ポリマーより漏出することはないが,その量が多くなると成形加工においてポリマーの分解を微妙に促進して低分子量分つまり揮発成分をふやし結果的に薄板汚染につながる。
【0028】本発明のポリカーボネート樹脂において,これを150℃で1時間加熱した場合,揮発する塩素系有機溶媒量の合計量は,測定に使用したポリカーボネート樹脂に対して0.05ppm以下であり,且つ揮発する炭素数が6〜18であるフェノール化合物の合計量が,測定に使用したポリカーボネート樹脂に対して0.2ppm以下であることが好ましい。揮発する塩素系有機溶媒量の合計量が0.05ppmを超えるか,あるいは揮発する炭素数が6〜18であるフェノール化合物の合計量が0.2ppmを超えるポリカーボネート樹脂を使用すると,ウエーハ等の薄板を汚染することとなる。
【0029】本発明におけるポリカーボネート樹脂中の塩素原子含有量は,燃焼塩素法により測定される…。
【0030】本発明のポリカーボネート樹脂を150℃で1時間加熱した場合において揮発する塩素系有機溶媒の量,揮発する炭素数が6〜18であるフェノール化合物の量は,ヘッドスペース・ガスクロマトグラフィー法で測定される。
【0032】本発明において,ポリカーボネート樹脂中に残存する塩素系有機溶媒や炭素数6〜18のフェノール化合物を少なくする方法としては,例えば,ポリカーボネート樹脂の乾燥を強化する方法,表面積を大きくしたポリカーボネート樹脂を乾燥する方法,そして,貧溶媒でポリカーボネート樹脂粉粒体の洗浄を行なう方法などが挙げられる。
【0035】貧溶媒でポリカーボネート樹脂,殊に樹脂パウダーの洗浄を行なう方法を採用することにより,ポリカーボネート樹脂中のフェノール化合物が貧溶媒へ抽出される。さらに,この方法はかかる貧溶媒がポリカーボネート樹脂中の塩素系有機溶媒と置換され塩素系有機溶媒を少なくする効果もある。貧溶媒としては,アセトン,メタノール,ヘプタン等が挙げられ,なかでもアセトンが好ましく用いられる。
【0047】(2)塩素原子含有量三菱化学(株)製の塩素イオウ分析装置TSX10型を用いて燃焼塩素法により測定した。具体的には,サンプルを電気炉(920℃)で加熱し,全量気化させ,気化したガスを硫酸に通して脱水後,塩素用の電解液(酢酸ナトリウム)に吸着させる。吸着により生じた電位差を電位滴定により元の電位へ戻す。元の電位に戻すのに必要なエネルギーによりCl量を算出した。
【0049】(4)ポリカーボネート樹脂を150℃で1時間加熱した場合の揮発する塩素系有機溶媒量および揮発するフェノール化合物の量ヘッドスペース法(150℃,1hr)により,ガスクロマトグラフィーを用いて求めた。
【0053】[製造例1]温度計,撹拌機及び還流冷却器付き反応器にイオン交換水2194部,48%水酸化ナトリウム水溶液402部を仕込み,これに2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン575部(2.52モル)およびハイドロサルファイト1.2部を溶解した後,塩化メチレン1810部を加え,撹拌下15〜25℃でホスゲン283部を40分要して吹込んだ。ホスゲン吹き込み終了後,48%水酸化ナトリウム水溶液72部およびp-tert-ブチルフェノール19.6部を加え,撹拌を始め,乳化後トリエチルアミン0.6部を加え,さらに28〜33℃で1時間撹拌して反応を終了した。反応終了後生成物を塩化メチレンで希釈して水洗した後塩酸酸性にして水洗し,水相の導電率がイオン交換水と殆ど同じになったところで,ポリカーボネート樹脂の塩化メチレン溶液を分液した。この塩化メチレン溶液にトリス(ノニルフェニル)ホスファイトをポリカーボネート樹脂に対して25ppmとなる量添加した。
【0054】得られたポリカーボネート樹脂の塩化メチレン溶液を60℃の温水(ニーダー内部空間容量の10%程度を占める量)が仕込まれたニーダーに攪拌下に投入し,スチームを吹き込みながら塩化メチレンを蒸発除去させてポリカーボネート樹脂の造粒を行なった。1時間かけてかかる塩化メチレン溶液を投入し,投入終了後もそのまま攪拌を10分間継続して行い,ポリカーボネート粉粒体の水スラリーを得た。得られた水スラリーは,ポリカーボネート粉粒体の量が水スラリーの量に対して25重量%であり,塩化メチレン量が水スラリーの量に対して25重量%であった。かかる水スラリーを粉砕機に通してスラリー中のポリカーボネート粉粒体を粉砕し,さらに遠心脱水を行ないポリカーボネート粉体を得た。このポリカーボネート粉体を乾燥機に入れて120℃で7時間乾燥し,次いで280℃で溶融押出を行ない,粘度平均分子量18,500のポリカーボネート樹脂ペレットを得た。このペレット中に残存するp-tert-ブチルフェノールの量は30ppmであり,ビスフェノールAの量は19ppmであり,塩素原子含有量は7ppmであり,金属としてFeの量が0.11ppmであった。
【0057】[実施例1]製造例1で得られたペレットを使用して,半導体ウエーハ用収納搬送容器を成形した。この半導体ウエーハ用収納搬送容器に所定枚数の半導体ウエーハを挿入し,密閉容器内で1週間常温保持した後,半導体ウエーハをとりだし表面5カ所で,水とウエーハ表面との接触角を測定した。測定した接触角の平均,および挿入前ブランクの接触角の平均を表1に示した。また,製造例1で得られたペレットを150℃,1時間処理した時の揮発量を表1に示した。
ウ以上の記載によると,本件発明1は,表面汚染に敏感とされる半導体ウェーハや磁気ディスク等の薄板の表面汚染を低減できるポリカーボネート樹脂から成形される薄板収納搬送容器を提供しようとするものということができるところ,薄板収納搬送容器用材料の理想は,揮発あるいは漏出の可能性のある不純物成分が材料中に全く存在しないことであるが,現実には,揮発あるいは漏出の可能性のあるすべての不純物成分を材料からなくすことは技術的に不可能であるとして,ポリカーボネート樹脂中の塩素原子含有量を10ppm以下,好ましくは8ppm以下とし,また,塩素原子含有量が7ppmであるポリカーボネート樹脂ペレットを使用して成形された半導体ウェーハ用収納搬送容器につき,半導体ウェーハを挿入し,密閉容器内で1週間常温保存した後,その半導体ウェーハにつき水とウェーハ表面との接触角を測定している(実施例1)。しかし,本件明細書には,本件発明1における数値範囲の臨界的意義についての具体的な記載はされておらず,また,塩素原子含有量は,上限値である10ppm以下だけが記載され,下限値が特定されていないものであって,これらによれば,本件発明1における塩素原子含有量の数値限定の意義は,塩素原子がポリカーボネート樹脂中に少なければ少ないほど,塩素原子の影響による半導体ウエーハの汚染を低減でき,本件発明1の目的達成に適しているというものにすぎないといわざるを得ない。
そして,本件明細書の【0019】にはポリカーボネート樹脂の分子量,押出温度と塩素系有機溶媒の揮発との関係,【0028】にはポリカーボネート樹脂を加熱した場合に揮発する塩素系有機溶媒量と薄板汚染との関係,【0030】にはポリカーボネート樹脂から揮発する塩素系有機溶媒の量の測定手段,【0032】及び【0035】には塩素系有機溶媒を低減する方法並びに【0049】には実施例における塩素系有機溶媒量の測定という,いずれも塩素系有機溶媒に着目した記載がされているのに対し,クロロホーメート基については,【0021】に,「塩素原子は,製造中に使用した塩素系有機溶媒がポリカーボネート樹脂中に残留したものがほとんどであり,これに加えて,ポリマー鎖に残った微量の未反応のクロロホーメート基に由来する」,「残存する塩素系有機溶媒が多くなると樹脂から漏出してウエーハなどの薄板汚染につながり,ポリマー鎖に残った未反応のクロロホーメート基はそれ自体ポリマーより漏出することはないが,その量が多くなると成形加工においてポリマーの分解を微妙に促進して低分子量分つまり揮発成分をふやし結果的に薄板汚染につながる」と記載されるのみであって,ポリカーボネート樹脂中の塩素原子含有量につき,クロロホーメート基に由来するものが低減の対象とされていたとは解されず,この低減が解決課題とされていたということはできない。原告の主張は,以上説示した意味において,これを首肯することができる。
この点について,被告は,本件明細書の【0013】及び【0014】の記載をもって,クロロホーメート基についても,これを低減する方法が記載されていると主張するところ,本件明細書の【0013】には,二価フェノールとホスゲンとの重合反応において,反応促進のために例えば第三級アミンや第四級アンモニウム塩等の触媒を用いることができることなど,同【0014】には,このような重合反応において,末端停止剤として単官能フェノール類を使用することができ,その使用によって得られたポリカーボネート樹脂は,末端が単官能フェノール類に基づく基によって封鎖されているので,そうではないものと比べて熱安定性に優れていることなどの記載があるが,触媒あるいは末端停止剤の使用の結果としてクロロホーメート基が低減されることになるからといって,これらがクロロホーメート基を低減させるために用いられていると解することはできず,被告の主張は,採用することができない。
なお,本件明細書の別紙【表1】によると,実施例1(塩素原子含有量7ppm)と比較例1(同40),2(同60),3(同405)及び4(同80)とを比べると,塩化メチレン,クロロベンゼン,ジクロロベンゼンという塩素系有機溶媒の150℃1時間加熱時の揮発量につき,実施例1は検出限界(0.01又は0.02)未満であったのに対し,比較例1ないし4はそのいずれかが0.06ないし0.87であったというものにすぎず,塩素原子含有量の数値範囲の内外で作用効果につき顕著な差異があったというものでもない。
(2)本件発明1と引用発明1についてア引用発明1引用例1の発明の詳細な説明によると,引用発明1は,被収納物である半導体用各種ウェハーやディスク基板などの電子機器部材等の汚染を低減できるポリカーボネート樹脂から成形された収納容器を提供するとの目的を達成するもの(【0001】,【0009】)であって,成型後,特に常温に放置している間に徐々に塩素が揮発する現象について着目し,常温における揮発性Clとポリカーボネート樹脂製造に原料として用いられたホスゲン中に不純物として含有される塩素との間に相関関係があること(【0004】,【0005】)を明らかにした上で,ポリカーボネート樹脂の製造原料として,活性炭通液処理することで,不純物塩素含有量を低減させたホスゲンを用いることにより,ポリカーボネート樹脂中においてなんらかの形で塩素化される部位の発生を低減すること(【0010】,【0011】,【0040】,【0041】),ホスゲン中の不純物である四塩化炭素のポリカーボネート樹脂中の残留量を低くすること及びポリカーボネート樹脂の製造工程で生成するクロロホーメート基の残留量を低減することにより,成形加工時の塩酸(HCl)の発生を抑制すること(【0006】,【0007】),これらによって,ポリカーボネート樹脂中に残存する塩素原子含有量を低く抑え,上記の目的を達成しようとするものと認めることができる。
イ本件発明1と引用発明1との関係以上によると,本件発明1及び引用発明1のいずれも,被収納物である半導体ウェーハ等の薄板の汚染を低減することができるポリカーボネート樹脂から成形された収納容器を提供することを目的とするものであるところ,その解決手段として,ポリカーボネート樹脂中に残存する塩素原子含有量を低く抑えることで,成型後の収納容器に収納される半導体ウェーハ等への揮発成分からの汚染を防止しようとするものであって,その解決課題及び解決手段は同様のものであるということができる。そして,本件発明1におけるポリカーボネート樹脂中の塩素原子中には,塩素系有機溶媒のほかにポリマー鎖に残った微量の未反応のクロロホーメート基に由来するものが含まれるとしても,上記(1)のとおり,本件発明1はこのクロロホーメート基に特に着目しているわけではない。
しかるところ,相違点bに係る本件発明1における「塩素原子含有量が10ppm」との構成については,塩素原子含有量がポリカーボネート樹脂中に少なければ少ないほどよいとの引用発明1と同様の技術思想を,専ら塩素系有機溶媒の残留量に着目して,かつ,上記のとおり臨界的意義が認められない最小値0を含む具体的な数値範囲でもって,単に規定したにすぎないものと解される。
したがって,当業者において,相違点bの本件発明1に係る「塩素原子含有量が10ppm以下」との構成を想到することは,引用発明1から容易であるということができる。
(3)被告の主張等について被告は,実際に薄板汚染を抑制するには,「漏出又は揮発する望ましくない成分」の種類,量及びそれらの組合せを具体的に特定する必要があったもので,本件発明1は,「薄板の汚染に影響を与える不純物」,「それらの量」及び「それらの組合せを」特定し,現実に薄板の汚染を抑制するという課題を達成した発明であって,単に不純物を減少させたというような発明ではないと主張するが,上記のとおり,本件発明1における塩素原子含有量の数値限定の意義は,塩素原子がポリカーボネート樹脂中に少なければ少ないほど,塩素原子を含む有機溶媒の漏出や塩素原子を構成要素とするクロロホーメート基による揮発成分の発生が抑制され,本件発明1の目的達成に適していることをいうものにすぎず,また,その塩素原子含有量の数値範囲の内外で作用効果につき顕著な差異も認められないものであることからすると,被告の主張は採り得ない。
仮に,本件発明1における塩素原子含有量の検出方法である「燃焼塩素法」による数値が,引用発明1における塩素の検出方法による数値と何らかの換算関係がないものであったとしても,本件発明1につき,そのような測定法を用いて数値範囲を特定したことに技術的意義を見いだすことができないのであるから,この検出方法を採用していることをもって,以上の認定が覆されるものではない。
(4)小括以上によると,本件発明1と引用発明1との相違点bに係る構成は,引用発明1に基づいて当業者が容易に発明できたものであるといわなければならない。
(なお,引用発明2は,高い信頼性を長期間にわたって維持できるポリカーボネート樹脂から成る光学式ディスク基板等を提供するという目的のために,ポリカーボネート樹脂中に含まれる残留微量金属とともに,ポリカーボネート樹脂中に含まれる塩素系溶媒残留量を低減することによってそのポリカーボネート樹脂自体の加水分解による劣化を有効に抑制しようとする発明であり,収納容器に収納される半導体ウェーハー等への揮発成分からの汚染を防止しようとする本件発明1とはその解決課題が異なるものということができるから,本件発明1と引用発明2との相違点ロに係る構成については,相違点bに係る上記の判断が直ちに妥当するものではない。)2取消事由2(本件発明2に係る容易想到性の判断の誤り)について本件発明2は,本件発明1を引用して更に限定するものであるところ,本件審決は,本件発明1に係る主引例を引用例1又は2とする複数の相違点のうち,相違点b又はロという1つの相違点に係る構成が引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでないと判断したことから,本件発明1が各引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということができないとし,そのことを理由として,本件発明2もまた,各引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということができないとしたものである。
そうであるから,本件発明1と引用発明1との相違点bについての本件審決の判断を是認できず,本件発明1について更に審判における審理を要する本件においては,本件発明2についても更に審判における審理を要するということができる。
3結論以上の次第であるから,本件審決は取り消されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 高部眞規子
裁判官 本多知成