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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 公知技術 /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  均等 /  均等侵害 /  置き換え /  置換 /  置換可能性 /  同一の作用効果 /  容易に想到(容易想到性) /  権原 /  加工 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  業として /  侵害 /  損害額 /  不法行為(民法709条) /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 21年 (ワ) 6397号 再生債権査定異議請求事件
横浜市<以下略>
原告株式会社テクニカン
同訴訟代理人弁護士大津卓滋
同 原田活也
同 黒崎祥 北海道小樽市<以下略>
被告ふ うどりーむず株式会社
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2009/10/15
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1東京地方裁判所が原告の申立てに基づき,同裁判所平成20年(再)第148号事件で平成21年2月2日にした決定を次のとおり変更する。
原告の届け出た再生債権(再生債権認否書受付番号501)の額を金720万円と査定する。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文と同旨第2事案の概要本件は,被告について開始された民事再生手続の中で,発明の名称を「食品冷凍法およびその冷凍装置」とする特許権(特許番号第2011591号)を有する原告が,被告による食品冷凍装置の製造,販売は,上記特許権を侵害する行為であると主張して,被告に対する再生債権として届け出た特許権侵害不法行為に基づく損害賠償請求権720万円について,再生裁判所が0円と査2定したのに対し,原告がこれを不服として,異議の訴えを提起した事案である。
1請求の原因(1)当事者ア原告は,液体冷凍機械の製造,販売等を目的とする株式会社である。
イ被告は,凍結機械の製造販売等を目的とする株式会社であり,東京地方裁判所平成20年(再)第148号事件(以下「本件再生事件」という。)の再生債務者である。
被告は,平成17年1月1日,その商号を「海鱗丸ビール株式会社」から現在の商号に変更した。
(2)本件再生事件における再生債権の査定の裁判等ア再生手続の開始被告は,東京地方裁判所に民事再生手続開始の申立てをし(本件再生事件),同裁判所は,平成20年7月25日午前9時,被告について再生手続を開始する旨の決定をした。
イ再生債権の届出原告は,東京地方裁判所に再生債権として,被告による食品冷凍装置の製造,販売は,原告の有する,発明の名称を「食品冷凍法およびその冷凍装置」とする特許権を侵害する行為であると主張し,不法行為に基づく損害賠償請求権720万円を届け出た(再生債権認否書受付番号501)。
ウ再生債務者の異議被告は,原告の届け出た上記債権の全額について異議を述べて認めなかった。
エ再生債権の査定の裁判原告は,被告を相手方として,東京地方裁判所に査定の申立てをし,同裁判所は,平成21年2月2日,原告の届け出た再生債権(再生債権認否書受付番号501)の額を金0円と査定する旨の決定(以下「本件決定」3という。)をした。
オ原告による本件訴訟の提起原告は,本件決定を不服として,同決定の送達を受けた日から1か月内である平成21年2月27日に,本件訴訟を提起した。
(3)原告の再生債権(特許権侵害に基づく損害賠償請求権)ア原告の有する特許権原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請求の範囲請求項2の発明を「本件発明」という。また,本件発明に係る特許を「本件特許」といい,本件特許に係る明細書(別紙特許公報参照)を「本件明細書」という。)を有する。(甲1,2)特 許 番 号第2011591号発明の名称食品冷凍法およびその冷凍装置出願日平成2年9月10日出願公告日平成7年4月5日出願公告番号特公平7-28710登録日平成8年2月2日特許請求の範囲請求項2「不凍液を充満した不凍液槽内壁の三方向の各内壁面に沿ってステンレス製冷凍コイル管を垂直方向に配置し,他の一方向の内壁面に沿って噴流管に不凍液の噴流入口と噴流出口を形成したジェットスクリューポンプ形式の噴流撹拌機と温度センサーを設け,この不凍液槽の上方に食品用昇降装置を設置し,この昇降装置に密閉断熱蓋を弾性的に支持し,不凍液槽の開口部を密閉断熱蓋により密閉開口自在とし,食品を不凍液槽中に浸漬,取り出し自在にし,超高速度で均一に凍結することを特徴とする食品冷凍装置。」イ構成要件の分説4本件発明の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下分説した各構成要件をそれぞれ「構成要件A」などという。)。
A不凍液を充満した不凍液槽内壁の三方向の各内壁面に沿ってステンレス製冷凍コイル管を垂直方向に配置し,B他の一方向の内壁面に沿って噴流管に不凍液の噴流入口と噴流出口を形成したジェットスクリューポンプ形式の噴流撹拌機と温度センサーを設け,Cこの不凍液槽の上方に食品用昇降装置を設置し,Dこの昇降装置に密閉断熱蓋を弾性的に支持し,E不凍液槽の開口部を密閉断熱蓋により密閉開口自在とし,F食品を不凍液槽中に浸漬,取り出し自在にし,G超高速度で均一に凍結するHことを特徴とする食品冷凍装置。
ウ被告による食品冷凍装置の製造,販売被告は,別紙被告製品目録記載の食品冷凍装置(以下「被告製品」という。)を業として製造し,販売した。
エ被告製品の本件発明の構成要件の充足(文言侵害)被告製品は,次のとおり,本件発明の構成要件AないしHをいずれも充足するから,本件発明の技術的範囲に属する。
(ア)構成要件Aa被告製品は,不凍液が充満する不凍液槽を備える。また,不凍液槽の各内壁面に沿って,ステンレス製冷凍コイル管が垂直方向に1面につき2列ずつ配置されている。
したがって,被告製品は構成要件Aを充足する。
bなお,構成要件Aは,その文言上,「不凍液槽内壁の三方向の各内壁面」に沿って冷凍コイル管を配置するとされているのに対し,被告5製品では,不凍液槽内壁の四方向の各内壁面(内壁AないしD)に沿って冷凍コイル管が配置されている。
被告製品の上記構成は,不凍液槽内壁の三方向の各内壁面(内壁AないしC)に沿って冷凍コイル管を配置するという構成に,一方向の内壁面(内壁D)に沿って冷凍コイル管を配置するという構成を付加したにすぎないのであるから,被告製品が構成要件Aを充足することは明らかである。
(イ)構成要件B及びGa被告製品の不凍液槽の内壁面の一方向に沿って,噴流管に噴流入口と噴流出口を形成したジェットスクリューポンプ形式の噴流撹拌機と温度センサーが設置されている。
また,噴流撹拌機により不凍液槽内の不凍液は噴流撹拌され,不凍液槽内に浸漬された食品は超高速度で均一に凍結する。
したがって,被告製品は構成要件B及びGを充足する。
b被告製品は,不凍液槽内壁の四方向の各内壁面(内壁AないしD)に沿って冷凍コイル管が配置されているものの,このことが,内壁Dの壁面をもって「他の一方向の内壁面」に該当すると評価することの妨げとなるものではない。
すなわち,本件発明の特許請求の範囲の記載は,「不凍液を充満した不凍液槽内壁の三方向の各内壁面に沿ってステンレス製冷凍コイル管を垂直方向に配置し,」というものであって,三方向の各内壁面以外の内壁面には冷凍コイル管を配置しないことを規定するものではないから,構成要件Bの「他の一方向の内壁」とは,単に「冷凍コイル管が配置されている三方向の内壁以外の一方向の内壁」を意味するにすぎず,「冷凍コイル管が配置されている三方向の内壁以外の一方向の内壁で,かつ,冷凍コイル管が配置されていない面」と限定して解6釈すべきではない。
そうすると,内壁Dに沿って冷凍コイル管が配置されているか否かにかかわらず,内壁Dは「他の一方向の内壁」に該当するというべきである。
(ウ)構成要件C及びF被告製品においては,不凍液槽の上方に食品昇降装置が設置されており,この食品昇降装置を昇降させることにより,食品を不凍液槽中に浸漬し,また,取り出すことが可能となっている。
したがって,被告製品は構成要件C及びFを充足する。
(エ)構成要件D及びE被告製品における食品昇降装置には,密閉断熱蓋が弾性的に支持されており,食品昇降装置を下降させると,密閉断熱蓋が不凍液槽を密閉し,食品昇降装置を上昇させると,不凍液槽を開口させることが可能となっている。
したがって,被告製品は構成要件D及びEを充足する。
(オ)構成要件H被告製品は食品凍結装置であるから,構成要件Hを充足する。
均等侵害の成立仮に,噴流撹拌機及び温度センサーが設置されている内壁Dの壁面に冷凍コイル管が配置されていることにより,被告製品が構成要件B(「他の一方向の内壁面に沿って」)を充足しないとしても,次のとおり,均等侵害が成立する。
(ア)「他の一方向の内壁面に沿って」との構成が本質的部分ではないことについて本件発明が解決しようとする課題は,従来の冷気による凍結方式の欠点(緩慢凍結であるため,食品中の水分の凍結結晶は氷晶が大きくなり7食品の細胞が破壊され,そのため,解凍時にドリップが出やすく鮮度・味覚が落ち,雑菌の付着も多いため腐敗が早くなる。また,冷気流が直接接触しにくい食品の奥側,側面,底部などに冷凍むらが生じやすい。)を解消し,食品の凍結温度,凍結漬け込み時間を適確に制御し,短時間で冷凍し,凍結食品の解凍後の品質・鮮度・味覚を保持し,低下しない超高速度食品冷凍法及びその冷凍装置を提供することにある。
本件発明において,「他の一方向の内壁面に沿って」すなわち「噴流撹拌機と温度センサーを設けた内壁面については冷凍コイル管を設置しないこと」は,本件発明の作用効果に何ら影響を与えるものではない。
したがって,「他の一方向の内壁面に沿って」との部分は,本件発明の本質的部分ではない。
(イ)他の構成との置換可能性についてa本件発明の作用効果本件発明の作用効果は次のとおりである。
(a)本件発明においては,温度センサーにより不凍液槽内の不凍液の温度が調整される。
(b)本件発明においては,冷凍コイル管が不凍液槽の内壁面に沿って垂直に配置されているから,不凍液が均一に冷却される。また,ジェットスクリュー方式の噴流撹拌機の噴流により食品を冷却するから冷凍効率がよく,食品を超高速度で短時間に均一に凍結することができる。
以上のとおり,本件発明によれば食品の超急速凍結を実現することができるので,食品の冷凍状態がよく,冷凍による食品の細胞の変化及び組織の破壊などが非常に少ない。このため,品質・鮮度・味覚をそのままに,食品を凍結することができるので,食肉を凍結した場合,解凍時にドリップが生じず,食品を生で凍結すれば,解8凍時には凍結前の状態に近い状態に戻すことができる。
また,細胞の破壊が少ないことから,解凍庫での解凍の必要がなく,解凍手段を選ばずに解凍を容易にすることができる。
さらに,超急速凍結を実現することができるので,食品を短時間で凍結することができる。
(c)本件発明においては,不凍液槽の上方に設置されている食品昇降装置により食品を不凍液槽中に浸漬し,取り出すことが容易にできるようになっており,また,この食品昇降装置に弾性的に支持されている密閉断熱蓋により,不凍液槽を密閉開口することができるようになっている。
b被告製品の作用効果被告製品の作用効果は次のとおりである。
(a)被告製品においては,不凍液槽の一方の内壁に沿って温度センサーが設置されており,不凍液槽内の不凍液の温度を調整し,食品の凍結温度,凍結漬け込み時間を適確に制御するようになっている。
(b)被告製品においては,不凍液槽の各内壁面に沿って配置されている冷凍コイル管により不凍液槽内の不凍液が均一に冷却され,この冷却された不凍液を不凍液槽の一方向の内壁に沿ってスクリュー式の噴流撹拌機によって撹拌し,不凍液層内を循環噴流させ,不凍液槽内に浸漬された食品を,その周囲から包み込むようにして均等に効率よく冷却し,超高速度で均一に凍結させる。
以上のとおり,被告製品によれば食品の超急速凍結を実現することができるので,食品の冷凍状態がよく,冷凍による食品の細胞の変化及び組織の破壊などが非常に少ない。このため,解凍後の食品の品質・鮮度・味覚を保持することができ,食肉を凍結した場合,解凍時にドリップが生じず,食品を生で凍結すれば,解凍時には限9りなく新鮮に近い状態に戻る。
また,細胞の破壊が少ないまま凍結することができるので,解凍庫での解凍の必要がなく,解凍手段を選ばずに解凍を容易にすることができる。
さらに,超急速凍結を実現することができるので,食品を短時間で凍結することができる。
(c)本件発明においては,不凍液槽の上方に設置されている食品昇降装置により食品を不凍液槽中に浸漬し,取り出すことが容易にできるようになっており,また,この食品昇降装置に弾性的に支持されている密閉断熱蓋により,不凍液槽を密閉開口することができるようになっている。
c以上のとおり,被告製品の作用効果は,本件発明の作用効果と同一であるから,「他の一方向の内壁面に沿って」との部分を被告製品における構成と置き換えても,本件発明の目的を達成することができ,本件発明と同一の作用効果を奏するといえる。
(ウ)容易想到性について冷凍コイル管を不凍液槽の複数(三方向)の内壁面に設置して不凍液槽内の不凍液を周囲から均一に冷却するという発想は本件発明の特許請求の範囲及び明細書に記載されており,また,被告製品の製造,販売以前に,原告において,噴流撹拌機及び温度センサーが設置される側にも内壁面に沿って冷凍コイル管を配置した製品を製造し,一般に販売していた。
したがって,被告製品の製造,販売の時点において,「他の一方向の内壁面に沿って」との部分を被告製品における構成に置き換えることは,本件発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)において想到することが容易であったといえる。
10(エ)推考困難性について本件発明の出願当時において被告製品と同一の公知技術は存在せず,また,当業者において被告製品を容易に推考することのできた公知技術も存在しない。
(オ)本件発明の出願及び審査の経緯において,被告製品の構成を意図的に除外したなど,均等の成立を妨げる特段の事情は存在しない。
損害額被告は,本件特許の登録後に,少なくとも被告製品を1台製造し,訴外株式会社小樽海洋水産に対し,2184万円で販売した。
被告製品の利益率は,販売価格の60%を下らないから,被告は,被告製品を製造し,販売したことにより,少なくとも,下記の計算式のとおり,1310万4000円の利益を得た。
被告が得た上記利益の額は,原告が受けた損害の額と推定される(特許法102条2項)から,原告が受けた損害の額は720万円を下らない。
記(計算式)2184万円×1台×60%=1310万4000円キ以上によれば,原告は,被告に対し,不法行為に基づき,720万円の損害賠償請求権を有する。
第3当裁判所の判断1被告は,適式の呼出しを受けながら,本件口頭弁論期日に出頭せず,答弁書その他の準備書面も提出しないから,請求原因事実(第2の1「請求の原因」のうち,(1)のア,イ,(2)のアないしエ,並びに(3)のアないしウ及びカ記載の事実)を争うことを明らかにしないものと認め,これを自白したものとみなす。
また,第2の1「請求の原因」のうち(2)のオ記載の事実は当裁判所に顕11著である。
2被告製品の本件発明の構成要件充足性について(1)構成要件Aの充足性について別紙被告製品目録記載のとおり,被告製品は,不凍液を充満した状態で使用する不凍液槽を備え,当該不凍液槽の内壁の三方向の各内壁面(内壁A,B及びC)に沿って垂直方向に,ステンレス製の冷凍コイル管が,1面につき2列ずつ配置されている。
よって,被告製品は,構成要件Aの「不凍液を充満した不凍液槽内壁の三方向の各内壁面に沿ってステンレス製冷凍コイル管を垂直方向に配置し,」を充足する。
(2)構成要件Bの充足性についてア「他の一方向の内壁面に沿って」の意義について(ア)本件発明の特許請求の範囲には,「不凍液槽内壁の三方向の各内壁面に沿ってステンレス製冷凍コイル管を・・・に配置し,」(構成要件A),「他の一方向の内壁面に沿って・・・噴流撹拌機と温度センサーを設け,」(構成要件B)と記載されており,噴流撹拌機と温度センサーを設ける側の内壁面における冷凍コイル管の配置の有無については特に記載がない。
(イ)本件明細書の記載本件明細書中には,噴流撹拌機と温度センサーを設ける側の内壁面に冷凍コイル管を配置しないことについての記載はない。
他方,本件明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある。
a「従来は,食肉等の食品を冷凍保存するのに冷媒として,冷気を用い,これによる凍結方式を使用していた。
この従来の食肉を冷凍する方法およびその冷凍装置は,第11図に示すように,食品Fを冷凍密閉室1内に収納し,これに冷気Nを矢印の12方向に,吹き付けて冷凍する冷気による凍結方式である。
この方式であると,食肉の場合,凍結肉の冷凍状態が悪るく,これを解凍するとドリップが生じ,血液とともに食肉の成分が流出してしまい,食肉としての味覚が低下するなどの欠点があった。また,超低温の冷気気流によって食品を凍結させるから,冷気流が直接接触しにくい食品の奥側,側面,底部などに冷凍むらが生じやすかった。
食品の凍結は,被凍結食品の最大氷結晶生成帯(-1℃〜-5℃)を如何に早く通過するかである。
凍結食肉中の水分の凍結結晶は緩慢凍結では,氷晶が大きく細胞を破壊し,そのため解凍時にドリップが出やすく成分が抜け,鮮度・味覚が落ち,また,雑菌の付着を多くするため腐敗が早くなる。
また,特開昭62-3763号公報には,タンク内の撹拌軸,冷凍用配管,魚介類の肉片を入れるバスケットを備え,タンク外にモータ,コンプレッサーを配置し,プロピレングリコール,塩化カルシュウム及び水からなる溶液に菜種油を添加したブラインを冷却し,該ブラインに魚介類を浸漬し冷凍することを特徴とする魚介類の急速凍結法について記載され,このような冷凍方法も従来から知られている。」(2頁3欄10行ないし36行)b「本発明は,従来の欠点を解消し,食品の凍結温度,凍結漬け込み時間を適確に制御し,短時間で冷凍し,凍結食品の解凍後の品質・鮮度・味覚を保持し,低下しない超高速度食品冷凍法およびその冷凍装置を提供することを目的とする。」(2頁3欄38行ないし42行)c「前記目的を達成するために,・・・食品冷凍装置は,不凍液を充満した不凍液槽内壁の三方向の各内壁面に沿ってステンレス製冷凍コイル管を垂直方向に配置し,他の一方向の内壁面に沿って噴流管に不凍液の噴流入口と噴流出口を形成したジェットスクリューポンプ形式13の噴流撹拌機と温度センサーを設け,この不凍液槽の上方に食品用昇降装置を設置し,この昇降装置に密閉断熱蓋を弾性的に支持し,不凍液槽の開口部を密閉断熱蓋により密閉開口自在とし,食品を不凍液槽中に浸漬,取り出し自在にし,超高速度で均一に凍結することができるように構成し,噴流管に不凍液の噴流入口と噴流出口を形成し,噴流管中にスクリューを設けたジェットスクリューポンプ形式の噴流撹拌機を用いて,冷却不凍液を噴流撹拌するようにし,」(2頁3欄44行,4欄5行ないし17行)d「本発明の冷凍装置は,冷凍コイル管が不凍液槽の内壁面に沿って垂直に配置されているから不凍液が均一に冷却され,噴流撹拌機の噴流により冷却するような装置になっているから冷凍効率がよく食肉等を所定の温度で均一に凍結することができる。」(2頁4欄33行ないし37行)e「不凍液槽内の不凍液温度は,噴流撹拌機の噴流撹拌により均等になる。
被凍結食品を短時間に均等凍結するには,不凍液温度にむらを生じさせないことが重要で,冷凍装置(フリザー)内の不凍液の均等温度はジェットスクリューポンプ形式の噴流撹拌機による噴流撹拌をもって可能にした。」(3頁5欄35行ないし40行)f「本発明は,不凍液体を超低温度(-30℃〜-50℃)にして食品全体を包み込むので,すべての方向から食品を凍結し,むらが皆無で均等に凍結することができる。また,不凍液体は空気より熱伝導率がはるかによいため食品の凍結点を通過するのが早い,そのため緩慢凍結にならないのが特徴である。」(3頁6欄5行ないし10行)g「本発明の食品冷凍法およびその冷凍装置によれば,超急速凍結なので冷凍肉の冷凍状態がよく,食品の細胞の変化および組織の破壊な14どが非常に少なく,解凍時のドリップがでない。そのため解凍庫での解凍の必要がなく,解凍もフレッシュな状態に戻るから,解凍手段を選ばない。超急速凍結なので細胞が破壊されないため従来の冷蔵解凍でよい。被凍結食品を生で凍結させれば製品は凍結前の状態に近い状態に戻る。
本発明によれば,従来の冷気凍結の場合,24時間かかった凍結の例がわずか30分ですむ超急速凍結であって,食品,とくに食肉では,その品質・鮮度・味覚を短時間にそのまま凍結することができ,解凍も容易で,食品加工産業上,多大の貢献をすることができる。」(4頁7欄46行ないし8欄12行)本件明細書中の上記記載によれば,本件発明は,食品の凍結温度,凍結漬け込み時間を適確に制御し,短時間で冷凍することにより,凍結食品の解凍後の品質・鮮度・味覚を保持し,低下させない超高速度食品冷凍法及びその冷凍装置を提供することを目的とするものであり,上記作用効果を奏するため(不凍液槽内の不凍液温度を均等にし,冷凍効率を高めるため),本件発明の冷凍装置は,冷凍コイル管を不凍液槽の内壁面に沿って垂直に配置し,かつ,ジェットスクリューポンプ形式の噴流撹拌機による噴流撹拌をする構成を採用するものであるといえる。そして,本件発明が,上記作用効果を奏するか否かは,噴流撹拌機と温度センサーを設ける側の内壁面に冷凍コイル管を配置するか否かに関わらないものと考えられる。
(ウ)以上によれば,構成要件Bの「他の一方向の内壁面に沿って」とは,「ステンレス製冷凍コイル管が垂直方向に配置された側の三方向の内壁面とは別の一方向の内壁面に沿って」の意味であり,噴流撹拌機と温度センサーを設ける側の内壁面に冷凍コイル管が配置されているか否かは問わないものと解される。
15イ別紙被告製品目録記載のとおり,被告製品においては,ステンレス製の冷凍コイル管が配置されている側の不凍液槽の三方向の内壁面(内壁A,B及びC)とは別の不凍液槽の内壁面(内壁D)に沿って,噴流入口と噴流出口を形成する噴流管及びスクリュー用モータによって駆動するスクリューから成る噴流撹拌機2機及び温度センサーが設けられている。
よって,被告製品は,構成要件Bの「他の一方向の内壁面に沿って噴流管に不凍液の噴流入口と噴流出口を形成したジェットスクリューポンプ形式の噴流撹拌機と温度センサーを設け,」を充足する。
(3)構成要件Cの充足性について別紙被告製品目録記載のとおり,被告製品においては,不凍液槽の上方に食品昇降装置が設置されている。
よって,被告製品は,構成要件Cの「この不凍液槽の上方に食品用昇降装置を設置し,」を充足する。
(4)構成要件Dの充足性について別紙被告製品目録記載のとおり,被告製品においては,食品昇降装置に,密閉断熱蓋が弾性的に支持されている。
よって,被告製品は,構成要件Dの「この昇降装置に密閉断熱蓋を弾性的に支持し,」を充足する。
(5)構成要件Eの充足性について別紙被告製品目録記載のとおり,被告製品においては,食品昇降装置を下降させると密閉断熱蓋が不凍液槽を密閉し,食品昇降装置を上昇させると不凍液槽を開口するようになっている。
よって,被告製品は,構成要件Eの「不凍液槽の開口部を密閉断熱蓋により密閉開口自在とし,」を充足する。
(6)構成要件Fの充足性について別紙被告製品目録記載のとおり,被告製品においては,食品昇降装置は,16リフト駆動モータ及びゴンドラ(かご)から成り,リフト駆動モータによってゴンドラを昇降することで,ゴンドラ内に積載した食品を不凍液槽中に浸漬し,取り出すことができるようになっている。
よって,被告製品は,構成要件Fの「食品を不凍液槽中に浸漬,取り出し自在にし,」を充足する。
(7)構成要件Gの充足性について別紙被告製品目録記載のとおり,被告製品においては,噴流撹拌機により不凍液槽内の不凍液が撹拌されることにより,不凍液槽内の不凍液の温度は均一になり,また,その噴流が不凍液槽内に浸漬された食品についてその周囲から包み込むように作用して均等に冷却し,当該食品を超高速度で均一に凍結する。
よって,被告製品は,構成要件Gの「超高速度で均一に凍結する」を充足する。
(8)構成要件Hの充足性について別紙被告製品目録記載のとおり,被告製品は,食品凍結装置であるから,構成要件Hの「ことを特徴とする食品冷凍装置」を充足する。
(9)上記のとおり,被告製品は,本件発明の構成要件AないしHをいずれも充足するものと認められるから,本件発明の技術的範囲に含まれる。
3以上によれば,被告による被告製品の製造販売は本件特許権の侵害に当たり,前記1の自白したものと認められる事実(第2の1請求の原因のうち(3)のカ記載の事実)によれば,原告は,被告に対して,不法行為に基づき720万円の損害賠償請求権を有するものと認められるから,原告の被告に対する再生債権(再生債権認否書受付番号501)の額は720万円となる。
よって,本件決定を上記のとおり変更することとし,主文のとおり判決する。
追加
17裁判長裁判官阿部正幸裁判官柵木澄子裁判官舟橋伸行18(別紙)被告製品目録1概要不凍液槽内の不凍液を不凍液槽の内壁に設置されたステンレス製冷凍コイル管によって均一に冷却し,冷却された不凍液を噴流撹拌機により撹拌することで,不凍液に浸漬した食品を超高速度かつ均一に凍結することを特徴とする食品凍結装置である。
2構造(1)不凍液槽図面1,2のとおり,不凍液(フローズン液)を充満させるための不凍液槽が設置されている。
(2)冷凍コイル管図面3,4のとおり,不凍液槽の内壁には,各壁面に沿って垂直方向にステンレス製冷凍コイル管が,1面につき2列ずつ配置されている。
この冷凍コイル管は,外部の冷却装置に接続されており,冷却装置により冷凍コイル管が冷却され,この冷却された冷凍コイル管により不凍液槽内の不凍液が均一に冷却される。
(3)噴流撹拌機図面2,3,4のとおり,不凍液槽の一方向の内壁に沿って,スクリュー式の噴流撹拌機が2機設置されている。
噴流撹拌機は,噴流管及びスクリュー用モータによって駆動するスクリューから成る。
噴流管内のスクリューが回転することにより,不凍液槽内の不凍液は,噴流管に形成された噴流入口から噴流出口を経て不凍液槽内を循環噴流する。
噴流撹拌機により不凍液槽内の不凍液が撹拌されることによって,不凍液槽19内の不凍液の温度は均一になり,また,その噴流が不凍液槽内に浸漬された食品についてその周囲から包み込むように作用して均等に冷却し,当該食品を超高速度で均一に凍結する。
(4)温度センサー図面1,2のとおり,不凍液槽の一方向の内壁に沿って,温度センサーが設置されている。
温度センサーは不凍液の温度を測定し,温度センサーと電気的に接続されている制御装置によって不凍液の温度及び食品の浸漬時間が制御される。
(5)食品昇降装置図面1のとおり,不凍液槽の上方には,食品昇降装置が設置されている。
食品昇降装置は,リフト駆動モータ及びゴンドラ(かご)から成り,リフト駆動モータによってゴンドラを昇降することで,ゴンドラ内に積載した食品を,不凍液槽中に浸漬し,取り出すことが可能となっている。
(6)密閉断熱蓋図面1のとおり,食品昇降装置には,密閉断熱蓋が弾性的に支持されている。
食品昇降装置を下降させると,密閉断熱蓋が不凍液槽を密閉し,食品昇降装置を上昇させると,不凍液槽を開口する。
(7)食品凍結装置上記(1)ないし(6)の特徴を備えた食品凍結装置である。
以上