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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 20年 (ワ) 2387号 特許権侵害差止等請求事件
東京都豊島区〈以下略〉
原告株式会社日立プラントテクノロジー
訴訟代理人弁護 士高橋元弘
同 末吉亙 横浜市栄区〈以下略〉
被告芝浦メカトロニクス株式会社
訴訟代理人弁護 士高橋雄一郎
訴訟代理人弁理 士林佳輔
同 望月尚子
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2009/09/29
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1被告は,別紙物件目録記載のシール塗布装置を製造し,譲渡し,輸出し,又はその譲渡の申出をしてはならない。
2 被告は,その占有にかかる前項のシール塗布装置を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,3億9600万円及びこれに対する平成20年2月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 事案の要旨本件は,発明の名称を「ペースト塗布機」とする特許番号第2519358号の特許(以下,この特許を「本件特許」,この特許権を「本件特許権」という。)の特許権者である原告が,被告が別紙物件目録記載のシール塗布装置(以下「被告製品」と総称し,個々の装置は「CSD-1100」などとモデル番号で特定する。)の製造,譲渡,輸出又は譲渡の申出をする行為が,本件特許権の侵害に当たる旨主張して,被告に対し,特許法100条1項,2項に基づき,被告製品の製造,譲渡,輸出等の差止め及び廃棄を求めるとともに,民法709条,特許法102条2項,3項に基づき,損害賠償として3億9600万円及びこれに対する不法行為の後の訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 争いのない事実(1) 当事者ア原告は,社会・産業インフラ機械,メカトロニクス,空調システム,産業プラント,エネルギープラントに関する設備の開発,設計,製造,販売等を業とする株式会社である。
イ被告は,シール塗布装置を含むフラットパネルディスプレイ(FPD)製造装置の製造,販売,半導体製造装置の製造,販売等を業とする株式会社である。
(2) 原告の特許権ア日立テクノエンジニアリング株式会社(以下「日立テクノエンジニアリング」という。)は,平成3年7月12日,発明の名称を「ペースト塗布機」とする発明につき特許出願(特願平3-197316号。以下「本件出願」という。)をし,平成8年5月17日,本件特許権の設定登録(請求項の数3)を受けた。
その後,原告は,日立テクノエンジニアリング(当時の商号「株式会社日立インダストリイズ」)から一般承継による本件特許権の移転を受け,平成19年4月5日,その旨の移転登録を受けた。
イ本件特許に係る願書に添付した明細書(以下,図面を含めて「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。
「【請求項1】基板が載置されたテーブルを水平面内の任意の方向に移動させ,少なくとも水平方向には移動不能なノズルからペーストを吐出させて該基板上に所定のパターンで該ペーストを塗布するようにしたペースト塗布機において,該テーブルは,互いに直交する方向に移動する少なくとも2個のテーブル部を有するものであり,該基板と該ノズルの先端との間隔が該基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるように,該ノズルの高さ位置を設定する第1の手段と,単位時間当りの該ノズルのペースト吐出量を一定に保つ第2の手段と,該所定のパターンの曲線部分でのペースト塗布時,該曲線部分の曲率半径に応じて該基板の移動速度を制御することにより,2個の該テーブル部のうちの一方が直線方向に移動することによって塗布される該所定のパターンの直線部分と2個の該テーブル部がともに直線方向に移動することによって塗布される曲線部分とでの該ノズルに対する該基板の単位時間当りの移動量をほぼ等しくする第3の手段とを設けたことを特徴とするペースト塗布機。」ウ 本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである。
A基板が載置されたテーブルを水平面内の任意の方向に移動させ,少なくとも水平方向には移動不能なノズルからペーストを吐出させて該基板上に所定のパターンで該ペーストを塗布するようにしたペースト塗布機において,B該テーブルは,互いに直交する方向に移動する少なくとも2個のテーブル部を有するものであり,C該基板と該ノズルの先端との間隔が該基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるように,該ノズルの高さ位置を設定する第1の手段と,D単位時間当りの該ノズルのペースト吐出量を一定に保つ第2の手段と,E該所定のパターンの曲線部分でのペースト塗布時,該曲線部分の曲率半径に応じて該基板の移動速度を制御することにより,2個の該テーブル部のうちの一方が直線方向に移動することによって塗布される該所定のパターンの直線部分と2個の該テーブル部がともに直線方向に移動することによって塗布される曲線部分とでの該ノズルに対する該基板の単位時間当りの移動量をほぼ等しくする第3の手段とF を設けたことを特徴とするペースト塗布機。
(3) 被告の行為等ア被告は,平成12年7月から現在に至るまで,被告製品の製造,販売及び輸出をしている。
イ 被告製品は,本件発明の構成要件B,D及びFを充足している。
3 争点本件の争点は,被告製品が本件発明の構成要件をすべて充足し,本件発明の技術的範囲に属するか否か(争点1),本件特許に無効理由があり,原告の本件特許権の行使が特許法104条の3第1項により制限されるかどうか(争点2),被告が賠償すべき原告の損害額(争点3)である。
争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告製品の構成要件充足性)について(1) 原告の主張被告製品の構造及び動作内容は,別紙被告製品説明書記載のとおりである。
そして,被告製品が本件発明の構成要件B,D及びFを充足することは前記争いのない事実の(3)イのとおりであるところ,以下のとおり,被告製品は,構成要件A,C及びEをも充足し,本件発明の構成要件をすべて充足するから,本件発明の技術的範囲に属する。
構成要件Aについて(ア)構成要件Aは,「基板が載置されたテーブルを水平面内の任意の方向に移動させ,少なくとも水平方向には移動不能なノズルからペーストを吐出させて該基板上に所定のパターンで該ペーストを塗布するようにしたペースト塗布機」というものである。
上記文言から明らかなとおり,構成要件Aでは,ノズルが水平方向に移動不能とするのはあくまでペーストを吐出する際のことを規定しているに過ぎず,ペーストを吐出していない場合にノズルがどのような動作をするかについては何ら規定していない。
したがって,構成要件Aの「少なくとも水平方向には移動不能なノズル」とは,ペーストを吐出する際にノズルが水平方向に移動しないことを意味する。
これを被告製品についてみるに,別紙被告製品説明書2aのとおり,被告製品においては少なくともペースト吐出時においてL側ノズル及びR側ノズルとも水平方向に移動しないのであるから,構成要件Aを充足する。
(イ)被告は,後記のとおり,構成要件Aの「少なくとも水平方向には移動不能なノズル」とは,ペースト吐出時であろうとなかろうと水平方向には一切移動不能なノズルを意味する旨主張する。
しかし,本件特許は,ペースト塗布時におけるノズルの高さ位置設定手段,ペースト吐出量を一定に保つ手段及びテーブルの一方又は双方の移動量を制御する手段を開示するものであって,ペースト塗布時以外のノズルの動きを定めるものではないから,ペースト塗布時におけるノズルの動きとして特許請求の範囲において「少なくとも水平方向には移動不能なノズル」と記載されていたとしても,この記載がペースト塗布時以外のノズルの動きまで規定するものと限定して解釈することはできない。
また,本件特許の請求項1は,本件出願の当初明細書(甲11の2)の特許請求の範囲記載の「ノズル」を「少なくとも水平方向には移動不能なノズル」と補正したものであるが,この補正は,拒絶理由を回避するためのものではなく,本件発明が,テーブルを移動させることにより,テーブル上に載置された基板上に塗布するペースト塗布機であることを単に明瞭にするためのものに過ぎないから,ここにいう「少なくとも水平方向には移動不能なノズル」がペースト塗布時以外においても移動しないことまで含むものと解釈されないことは明らかである。
したがって,被告の上記主張は失当である。
構成要件Cについて(ア)構成要件Cは,「該基板と該ノズルの先端との間隔が該基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるように,該ノズルの高さ位置を設定する第1の手段」というものである。
まず,構成要件Cの「該基板上に塗布されるペーストの厚さ」とは,「ノズル直下におけるペーストの厚さ」と解すべきである。
すなわち,塗布後のペーストの経時変化と,ペーストの粘性とノズル直下の速度分布の影響があるために,塗布後はノズルの高さよりもペーストの厚みが下がるのが技術常識であることから,「該基板と該ノズルの先端との間隔が該基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなる」というときの「ペーストの厚さ」は,「ノズル直下におけるペーストの厚さ」と当然解釈せざるを得ない。このような解釈は,当業者が現にノズル直下においてペーストの厚さとノズルの高さを一致させていることからも裏付けられる。そして,ノズルの先端と基板との間隔がペーストの厚さとほぼ等しい場合には,ペーストを基板へ押し付ける力が生じ,これによりペーストが基板に均一に塗布されるのに対し,ノズルの先端と基板との間隔がペーストの厚みより大きい場合には,この押し付ける力が生じないため,基板に対するペーストの密着性が弱くなり,ペーストの粘性及び表面張力に起因する伸縮により,基板に対して部分的に塗着する量が少なくなったり多くなったりする「くびれ現象」が生じ,曲線部分も直線部分もペ-ストの塗布形状がほぼ等しい幅とならない(甲10)。
次に,構成要件Cの「該ノズルの高さ位置を設定する第1の手段」とは,ペースト塗布装置を使用する者が予めペーストの厚みとほぼ等しくなるようにノズルの先端と基板との間隔を数値で装置に入力することで足りると解すべきである。例えば,光学変位計を用いてノズルの先端と基板との間隔を算出し,この算出結果に基づいて,Z軸テーブル部を制御してノズルの先端と基板との間隔を所定の高さ位置に固定する手段を有しており,かかる手段において,ペースト塗布装置を使用する者が予めペーストの厚みとほぼ等しくなるようにノズルの先端と基板との間隔を数値で装置に入力することで足りるものである(本件明細書(甲2)の段落【0013】ないし【0015】,【0018】)。
(イ)これを被告製品についてみるに,被告製品においては,一つのノズルを挟んでX方向に2個取り付けられたレーザ変位計で基板とノズルの間隔を測定し,ノズル上下軸(ZL,ZR軸)を移動させることによってギャップ制御を行い,別紙被告製品説明書2cのとおり,基板とノズルの先端との間隔については任意に設定することが可能であるから,当然に基板とノズルの先端との間隔が基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるような値を設定することができる。また,実際の被告製品の使用態様においてもノズルの高さとペーストの厚さがほぼ一致する。
したがって,被告製品は,構成要件Cを充足する。
なお,被告製品では,使用態様によってペーストの厚さよりもノズルの高さを高く設定できるからといって,構成要件Cを充足しないということにはならない。
構成要件Eについて(ア)構成要件Eは,「該所定のパターンの曲線部分でのペースト塗布時,該曲線部分の曲率半径に応じて該基板の移動速度を制御することにより,2個の該テーブル部のうちの一方が直線方向に移動することによって塗布される該所定のパターンの直線部分と2個の該テーブル部がともに直線方向に移動することによって塗布される曲線部分とでの該ノズルに対する該基板の単位時間当りの移動量をほぼ等しくする第3の手段」というものである。
これを被告製品についてみるに,被告製品においては,別紙被告製品説明書2e記載のとおり,SX軸又はSY軸のいずれか一つの軸が直線方向に移動することにより塗布されるパターンの直線部分と,SX軸及びSY軸の二つの軸が直線方向に移動して塗布される曲線部分とで,L側ノズル(又はR側ノズル)と基板の移動速度は,ほぼ同じ速度である。
このような動作を被告製品において行うに当たって使用されるデータは,別紙被告製品説明書2e記載のとおり,データ作成機の塗布パターンの編集画面において入力された移動速度及びコーナR(回転半径)(=曲率半径)の値であるから,曲線部分のコーナR(回転半径)(=曲率半径)に応じて基板の移動速度を制御することにより,上記直線部分と上記曲線部分とでのL側ノズル(又はR側ノズル)に対する基板の単位時間当りの移動量をほぼ等しくしているといえる。
そして,取扱説明書(「Seal塗布パターンデータ作成機」。甲19)8頁,19頁等においても,曲線部分の塗布において移動速度とコーナR(=「曲率半径」)のみを入力することにより基板の移動速度を制御していることから,被告製品が「曲率半径に応じて該基板の移動速度を制御」していることは明らかである。
したがって,被告製品は,構成要件Eを充足する。
(イ)a被告は,後記のとおり,被告製品のうち,CSD-6200,CSD-6300,CSD-6400,CSD-6600及びCSD-6061は,コーナー減速機構を有しており,いずれもペーストを直線部分では100mm/sで塗布し,曲線部分では70mm/sで塗布し,速度を顧客が設定変更することができないから,直線部分と曲線部分とでのノズルに対する基板の単位時間当りの移動量をほぼ等しくするものではなく,構成要件Eを充足しない旨主張する。
しかし,CSD-6000S,CSD-6200,CSD-6300,CSD-6400,CSD-6600及びCSD-6061(以下「CSD-6000シリーズ」と総称する。)の取扱説明書(甲19)8頁には,ペースト塗布時の移動速度を顧客が設定できるようになっており,移動速度を顧客が設定変更することができないとの被告の主張は,上記取扱説明書の記載と反するものである。
また,化学工業日報の記事(甲32)には,被告の「CXX-6000シリーズ」(CSD-6000シリーズを含む装置全体のこと)における塗布速度は「100mm/s(直線部120mm/s)」と記載され,この記載は,曲線部分であっても,100mm/sの塗布速度を実現していることを意味するから,曲線部分の塗布速度が70mm/sであるとの被告の主張は,上記記事の内容にも反するものである。
したがって,被告の上記主張は,失当である。
b被告は,CSD-6000シリーズには,θ軸テーブル部が存在しないため,必ず,X軸テーブル部とY軸テーブル部の双方を移動させることによって直線を描画するものであり,?]軸テーブル部のみ又はY軸テーブル部のみが移動することによって直線が描画されることはないから,「2個の該テーブル部のうちの一方が直線方向に移動することによって塗布される該所定のパターンの直線部分」の要件を満たさず,構成要件Eを充足しない旨主張する。
しかし,CSD-6000シリーズの取扱説明書(甲18)4-25頁の「図4.30オフセット入力」,付録1-4頁には,明確にθ軸が記載されており,CSD-6000シリーズにはθ軸テーブルが存在しないとの被告の主張は,上記記載に反するものである。
また,仮にCSD-6000シリーズにθ軸が存在していなかったとしても,基板をX軸テーブル部,Y軸テーブル部に沿って正確に方向がそろえられた場合には,直線部分をX軸テーブル部のみ又はY軸テーブル部のみが移動してペーストを塗布することになるから,CSD-6000シリーズが構成要件Eを充足することは明らかである。
したがって,被告の上記主張は,失当である。
エ 小括以上のとおり,被告製品は,本件発明の構成要件AないしFをすべて充足するから,本件発明の技術的範囲に属する。
したがって,被告による被告製品の製造,販売及び輸出は,本件特許権の侵害に当たる。
(2) 被告の反論ア 構成要件Aについて構成要件Aの「少なくとも水平方向には移動不能なノズル」とは,ペースト吐出時であろうとなかろうと水平方向には一切移動不能なノズルを意味すると解すべきである。
すなわち,本件発明に係る特許請求の範囲(請求項1)の記載中には,「ノズル」がいつ「移動不能」であるべきかに関して時間的な限定を加える記載はないのであるから,文言上,常に「移動不能」であると解さざるを得ない。また,本件出願の当初明細書(甲11の2)には,吐出時であろうとなかろうと,水平方向には一切移動不能なノズルしか開示されておらず,しかも,吐出時に停止し,非吐出時に移動するノズルは,本件出願当時,当業者に自明な事項であったわけでもないから,原告が主張するような「ペーストを吐出する際に少なくとも水平方向には移動不能なノズル」という内容の補正は,当初明細書に記載した事項に基づかない要旨変更に当たり許されない。原告の解釈は,クレーム解釈の名の下で要旨変更に該当する構成を取り込もうとするものであって,不当である。
そして,被告製品は,「ペースト吐出時であろうとなかろうと水平方向には一切移動不能なノズル」の構成を有していないから,構成要件Aを充足しない。
構成要件Cについて(ア)原告は,構成要件Cの「該基板上に塗布されるペーストの厚さ」とは,「ノズル直下におけるペーストの厚さ」を意味する旨主張するところ,原告がいう「ノズル直下」とは,原告作成の技術説明資料(甲38のスライド13)によれば,ノズルの噴出口直下ではなく,「ノズルの肉厚の直下」を意味するものと解される。
しかし,本件明細書(甲2)には,塗布される「ペーストの厚さ」を「ノズルの肉厚の直下」で定義することについての記載も示唆もない。かえって,図2には,先端が円錐状に尖っている,ノズルの肉厚を定義しにくい形状のノズルが記載されている。加えて,ペースト塗布装置のユーザーは,基板に塗布された後のペーストの断面積を重視するのであるから,ノズルから噴出したペーストの「ノズルの肉厚の直下」の形状(ペーストが充満しているかどうか)などに関心はないはずである。また,「ノズルの肉厚の直下」では,ペーストの厚さの測定は困難であるので,測定が困難なところで厚さを定義するはずがない。
したがって,原告の上記解釈は失当であり,構成要件Cの「該基板上に塗布されるペーストの厚さ」とは,基板に塗布された後(ノズルが基板に対して塗布方向に相対的に移動した後)のペーストの厚さを意味すると解すべきである。
なお,原告は,ノズルの先端と基板との間隔がペーストの厚さとほぼ等しい場合には,ペーストを基板へ押し付ける力が生じ,これによりペーストが基板に均一に塗布されるのに対し,ノズルの先端と基板との間隔がペーストの厚みより大きい場合には,基板に対して部分的に塗着する量が少なくなったり多くなったりする「くびれ現象」が生じるなどと主張するが,本件明細書の記載に基づかない主張であって,失当である。
(イ)原告は,構成要件Cの「該ノズルの高さ位置を設定する第1の手段」とは,ペースト塗布装置を使用する者が予めペーストの厚みとほぼ等しくなるようにノズルの先端と基板との間隔を数値で装置に入力することで足りると解すべきである旨主張する。
しかし,構成要件Cにおいては,「設定が可能」という文言が用いられているのではなく,より積極的な意味合いを有する「設定する手段」という文言が用いられているのであるから,人為的な操作によることなく,その手段のみによって,いわば自動的に,その手段の目的たる設定(「ペーストの厚さ」と「該ノズルの高さ」との一致)が達成できなければならない。たまたま人為的な操作によって「ペーストの厚さ」と「該ノズルの高さ」が一致する場合があるというだけでは,「設定する第1の手段」といえないことは,文言上明らかである。また,本件明細書記載の本件発明の実施例を参酌しても,そのような解釈を導き出すことはできない。
したがって,原告の上記主張は失当である。
(ウ)以上のとおり,構成要件Cの「ペーストの厚さにほぼ等しくなるように,該ノズルの高さ位置を設定する第1の手段」は,ノズルの高さ位置を設定するものでなければならず,ノズルの先端と基板との間のギャップを一定に保っているだけではノズルの高さ位置がペーストの厚さにほぼ等しい高さに設定されていることにはならない。
そして,被告製品は,ノズルの先端と基板との間のギャップを一定に保っているだけであり,ノズルの高さ位置がペーストの厚さにほぼ等しい高さに自動的に設定する手段を有していないから,構成要件Cを充足しない。
構成要件Eについて(ア)原告は,構成要件Eについて,直線部分と曲線部分での移動速度が一定であることに加えて,入力された曲率半径を用いてXY軸の速度制御をすることが要件になる旨主張する。
しかし,構成要件Eの文言は「・・・該曲線部分の曲率半径に応じて該基板の移動速度を制御することにより,・・・単位時間当りの移動量をほぼ等しくする第3の手段」というものであって,「入力された曲率半径を用いて」XY軸の速度制御をすることを要件とするものではない。あくまで,既に定義された曲線パターン(「該曲線部分」)の「曲率に応じて」基板のXY軸の移動速度を制御することを要求しているだけであるから,原告の上記主張は,失当である。
また,仮に原告の上記主張を前提とした場合には,被告製品において,「曲率半径」が入力されるのは,塗布パターンを定義し,これに対応する塗布パターンの座標に対応する数値データを生成するためであり,ひとたび塗布パターンの数値データが生成されれば,その数値データに基づいて,XY軸の速度制御がされるのであるから,「入力された曲率半径を用いて」XY軸の速度制御を行っていない。
したがって,被告製品は,構成要件Eを充足しない。
(イ)a次に,被告製品のうち,CSD-6200,CSD-6300,CSD-6400,CSD-6600及びCSD-6061は,コーナー減速機構を有しており,いずれもペーストを直線部分では100mm/sで塗布し,曲線部分では70mm/sで塗布し,速度を顧客が設定変更することができないから,「単位時間当りの移動量をほぼ等しくする第3の手段」(構成要件E)を有していない。
bまた,被告製品のうち,CSD-6000シリーズには,θ軸テーブル部が存在しないため,必ず,X軸テーブル部とY軸テーブル部の双方を移動させることによって直線を描画するものであり,?]軸テーブル部のみ又はY軸テーブル部のみが移動することによって直線が描画されることはないから,「パターンの直線部分」は「2個の該テーブル部のうちの一方が直線方向に移動することによって塗布される」との構成要件Eを充足しない。
なお,原告が指摘する甲18の「θ」は並列する複数のノズルの並列線の平面方向における傾き(ノズルの並び方)であって,「θ軸補正」とは無関係であり,CSD-6000シリーズには,θ軸テーブル部が存在しない。
エ 小括以上のとおり,被告製品は,本件発明の構成要件A,C及びEをいずれも充足しないから,本件発明の技術的範囲に属さない。
2 争点2(本件特許権に基づく権利行使の制限の成否)について(1) 被告の主張本件特許には,無効理由(無効理由1ないし5)があり,特許無効審判により無効とされるべきものであるから,特許法104条の3第1項の規定により,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない。
ア 無効理由1(新規性の欠如?@)本件発明は,以下のとおり,本件出願前に頒布された刊行物である特開平2-187095号公報(乙4)に記載された発明と同一であるから,本件特許には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(ア) 構成要件A乙4記載の「厚膜回路の形成装置」(2頁右上欄4行)は,構成要件Aの「ペースト塗布機」に対応する。
乙4記載の「厚膜回路の形成装置」における「基板を固定しているXYテーブルの移動速度を増減させるXYテーブル制御装置」(2頁左下欄11行〜13行)は,「基板が載置されたテーブルを水平面内の任意の方向に移動させ」ることを可能にするためのものであるから,構成要件Aの「基板が載置されたテーブルを水平面内の任意の方向に移動させ」に対応する。
乙4記載の「厚膜回路の形成装置」におけるノズル1は,「高精度を維持するために,回転せず上下方向にのみ動く」点(3頁右上欄13行〜14行),「ノズル1は基板2上に厚膜ペースト4を,例えば圧力によってノズル1の先端孔部より吐出させる装置」(2頁右下欄末行〜3頁左上欄2行)である点で,構成要件Aの「少なくとも水平方向には移動不能なノズルからペーストを吐出させて該基板上に所定のパターンで該ペーストを塗布する」に対応する。
したがって,乙4には,乙4記載の「厚膜回路の形成装置」が構成要件Aの構成を有することが開示されている。
(イ) 構成要件BXYテーブルは,X軸方向に移動するテーブル部とY軸方向に移動するテーブル部からなることは明らかであるから,乙4の「厚膜回路の形成装置」における「基板を固定しているXYテーブルの移動速度を増減させるXYテーブル制御装置」(2頁左下欄11行〜13行)は,構成要件Bに対応する。
したがって,乙4には,乙4記載の「厚膜回路の形成装置」が構成要件Bの構成を有することが開示されている。
(ウ) 構成要件C乙4には,「6はノズル1を前記膜厚測定器5,プリズム12とは独立して上下させることのできるヘッドであり,基板高さ測定器3の測定値L の増減量と同じ量だけヘッド6が上下駆動されて,ノズル12と基板2の間隔を一定に保っている。」(2頁右下欄15行〜末行)との記載がある。このヘッド6を上下駆動させる手段は,構成要件Cの「第1の手段」に対応する。
したがって,乙4には,乙4記載の「厚膜回路の形成装置」が構成要件Cの構成を有することが開示されている。
(エ) 構成要件D乙4には,「ノズルからの厚膜ペーストの吐出量を増減させる吐出量制御装置を設ける」(2頁左下欄2行〜4行),「膜厚演算部13は,吐出圧力と膜厚の関係のデータを持ち,吐出量制御装置14を介して吐出圧力を上下させ,膜厚を制御することができる。」(3頁右下欄12行〜14行)との記載がある。
したがって,乙4には,吐出量制御装置14が膜厚演算部13からの命令に従って吐出圧力を上下させて膜厚を制御していること,膜厚を一定にする場合には吐出量を一定にすべく吐出圧力を調整することが実質的に開示されている。すなわち,乙4記載の「厚膜回路の形成装置」における吐出量制御装置14及び膜厚演算部13は,構成要件Dの「単位時間当りの該ノズルのペースト吐出量を一定に保つ第2の手段」に対応する。
したがって,乙4には,乙4記載の「厚膜回路の形成装置」が構成要件Dの構成を有することが開示されている。
(オ) 構成要件Ea乙4には,「またXYテーブルの制御においては,ベクトル速度を用い,線の種類(直線・曲線など)にかかわらず,同1条件で描画できるようにした。」(4頁左上欄12行〜15行)との記載がある。
ここにおける「同1条件で描画できる」とは,直線・曲線の種類にかかわらず,ベクトル速度を用いて実現できる以上,直線部分と曲線部分の描画の対比における,速度(X軸テーブルとY軸テーブルの合成移動速度)が等しいことを意味する。
そして,直線部分と曲線部分とで合成移動速度を一致させるということは,以下のとおり,構成要件Eの「該曲線部分の曲率半径に応じて該基板の移動速度を制御する」ということと等価である。
曲線部分の曲率半径をRとすると,原点Oを中心とする半径Rの円弧上を角速度αで移動する点の座標(x,y)は,x=Rcos(αt)y=Rsin(αt)である。
ここで,αは(一定の)角速度である(円周を等速で移動する場合には角速度が一定になる。)。
移動する点の速度ベクトル(v ,v )は,これを微分して,xyv =-αRsin(αt)xv =αRcos(αt)yである。
曲線部分の合成移動速度v は,三平方の定理から,rv =(v +v )=αRr xy221/2である。
そして,直線部分の速度をv とおき,これを曲線部分の合成移動l速度であるv と等しいとすれば,v =v =αRとなるから,角速 r lr度αはα=v /Rとなる。これを速度ベクトル(v ,v )に関す l xyる前式に代入すればv =-v sin(v t/R)x l lv =v cos(v t/R) yl lとなる。つまり,直線部分の速度と曲線部分の速度を一定にするということは,ベクトル速度にsin(v t/R)やcos(v tl l/R)が含まれることにほかならず,必然的に曲率半径Rに「応じて」いることになる。
bここにいう「同1条件」とは,「描画条件」が同一ということであり,「描画条件」とは,吐出量,ギャップ及び描画速度であるから,乙4には,吐出量,ギャップ及び描画速度すべてを一定にして描画することが記載されている。
cしたがって,乙4には,乙4記載の「厚膜回路の形成装置」が構成要件Eの構成を有することが開示されている。
(カ) 構成要件F乙4記載の「厚膜回路の形成装置」は,構成要件Fの「ペースト塗布機」に対応する。
したがって,乙4には,乙4記載の「厚膜回路の形成装置」が構成要件Fの構成を有することが開示されている。
(キ) まとめa以上のとおり,乙4には,乙4記載の「厚膜回路の形成装置」が構成要件AないしFの構成を有することが開示されているから,本件発明は,乙4に記載された発明と同一である。
bなお,ペーストの塗布において,膜厚を一定にするため,ノズルの高さ,ペースト吐出圧力及びステージの移動速度(さらにペーストの粘度)といったパラメータのすべてを一定に制御すべきことは,本件出願当時,技術常識であったものであり(例えば,乙3ないし5,8),乙4は,この技術常識を前提に,各種パラメータをより一定に制御するため,フィードバック制御を導入している。したがって,この点において,本件発明と乙4に記載された発明とで差異はない。
イ 無効理由2(進歩性の欠如?@)本件発明は,以下のとおり,乙4に記載された発明に,本件出願前に頒布された刊行物である特開平2-52742号公報(乙3)及び加藤俊幸「ハイブリッドICパターン直描装置」電子材料28巻5号(工業調査会・1989年5月1日発行)(乙13)に開示された技術を適用することにより当業者が容易に想到することができたものであるから,本件特許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(ア) 原告主張の相違点a原告は,構成要件Cの「該基板と該ノズルの先端との間隔が該基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるように,該ノズルの高さ位置を設定する第1の手段」は,「光学式変位計等の計測装置を用いてノズルの先端と基板との間隔を算出して,その算出結果に基づいてノズルを垂直方向に移動させる制御装置を制御し,ノズルの先端と基板との間隔を所定の高さ位置に固定する手段を有しており」,かつ,「その高さがペーストの厚さとほぼ等しくなるように,当該高さを設定できれば足りる」と解釈すべきところ,乙4記載の「厚膜回路の形成装置」は,構成要件Cの「第1の手段」を有していない旨主張する(以下,この相違点を「原告主張相違点?@」という。)。
b原告は,乙4には,表現上,「曲率半径に応じて」との記載がなく,乙4記載の「厚膜回路の形成装置」は,構成要件Eの「該所定のパターンの曲線部分でのペースト塗布時,該曲線部分の曲率半径に応じて該基板の移動速度を制御することにより,2個の該テーブル部のうちの一方が直線方向に移動することによって塗布される該所定のパターンの直線部分と2個の該テーブル部がともに直線方向に移動することによって塗布される曲線部分とでの該ノズルに対する該基板の単位時間当りの移動量をほぼ等しくする第3の手段」を有していない旨主張する(以下,この相違点を「原告主張相違点?A」という。)。
(イ) 乙3の記載事項乙3には,第1図〜第3図において,ノズル先端と基板との間隔をΔZ に設定する構成が開示され,第4図〜第5図において,XYテー0ブルを用いたステージの移動による描画時にノズル先端と基板との間隔を所定距離ΔZ に維持する構成が開示されている。これらの構成0は,原告のいう「ノズルの先端と基板との間隔を算出して,その算出結果に基づいてノズルを垂直方向に移動させる制御装置を制御し,ノズルの先端と基板との間隔を所定の高さ位置に固定する手段」に対応する。この記載を前提として,これに引き続いて,乙3には,「線幅や膜厚が変動する」という問題に対処するため,一変形例として,第14図において,ノズルの高さとペーストの厚さを「ほぼ等しくなるように」,「設定する手段」であるところの上面整形片62を用いてパターン30の膜厚を規制する例,すなわち,ノズル先端(整形片62)でペーストをすり切る例が開示されている(6頁右下欄末行〜7頁右下欄10行,11頁右上欄7行〜12頁左上欄1行)。
したがって,乙3の実施例の記載を順に読めば,「ノズルの先端と基板との間隔を算出して,その算出結果に基づいてノズルを垂直方向に移動させる制御装置を制御し,ノズルの先端と基板との間隔を所定の高さ位置に固定する手段」がまず開示され,次いで,その変形例としてノズルの高さとペーストの厚さを「ほぼ等しくなるように」,「設定する手段」が開示されていることになるから,乙3には,原告主張相違点?@に係る本件発明の構成(構成要件C)が開示されている。
(ウ) 乙13の記載事項a(a)まず,乙13には,「図2に,システム構成を示す。デジタイザは,図面からパターンを入力したり,モニタと対話しながらパターンを描く場合に必要となる。またデジタイザは,描画装置で描く際に必要となる特有の機能も合わせもっている。」(85頁左欄24行〜27行)との記載があり,デジタイザによってパターンを描く(定義する)ことが記載されている。
(b)「次に,描画に到るまでの一連の流れを紹介する。電源をONにした後,DPWSSを指定すると図4に示す画面が表れる。」(87頁左欄31行〜33行)との記載があり,図4には「1:デジタイズイン」と表示されているので,電源をONにするとモニタに図4の画面が表れ,「1」と入力すると,「デジタイズイン」のモードに入り,パターン定義を開始することになる。
(c)表1には「8:中心点と半径指定の円」とあり,デジタイザのメニューシート(図3)には,次のような記号が存在する。
したがって,ユーザーが「半径」(曲率半径)を入力して(半径の入力方法は明示されていないが,キーボードから入力するものと思われる。),円パターンを描画することが理解できる。
(d)以上のとおり,乙13記載の「ハイブリッドICパターン直描装置」においては,ユーザーは,「半径」(曲率半径)を入力・指定することによって,描画パターンを定義する。
b(a)次に,乙13には,「3.描画条件設定」,「描画条件は図5に示す通り8種類である。しかしXYステージの加速度3は,まったくといってよいほど変える必要がないので,実質的には7種類である。1,2,4は,それぞれ,吐出エア圧,ワーク移動速度,描画面とペン先のギャップである。」(89頁左欄30行〜35行)との記載がある。
つまり,ワーク移動速度(基板の単位時間当りの移動量)は図5の描画条件設定画面の「条件2」の値をユーザーが入力することによって設定される。その入力範囲は表2によれば,2〜60mm/sの値で任意に設定できる。
(b)乙13には,「このようにパターンファイル名と描画条件ファイルNo.を入力して,確認でYESとすると,システムコントローラから描画装置本体に,描画に必要なすべての情報が送られて描画が開始される。描画が始まると,バックグラウンドで処理が実行されるため,作業者はデジタイズインなどに行くことが可能となる。」(88頁左欄6行〜11行)との記載がある。この記載は,「1.デジタイズイン」,「2.パターンジェネレータ」,「3.描画条件設定」などが終わって,パターンファイルと描画条件ファイルが生成された後の操作に関するものである。
(c)以上を前提に,乙13記載の「ハイブリッドICパターン直描装置」の操作の流れを示すと,「?@曲率半径等を入力して曲線を定義する」,「?Aパターンファイル生成」,「?B基板の単位時間当りの移動量(2〜60mm/s)等を入力し描画条件設定」,「?C描画条件ファイル生成」,「?D作成済パターンファイル及び描画条件ファイルの選択」,「?Eシステムコントローラから描画装置本体に描画情報送信」,「?F描画」となる。
つまり,描画中に,基板の単位時間当りの移動量(2〜60mm/sの任意の値)を変更することができない。
したがって,描画中の基板の単位時間当りの移動量は,直線・曲線にかかわらず一定である。
c以上のとおり,乙13には,描画パターンを定義する際に,曲率半径を入力し,入力された曲率半径を基に定義された描画パターンに沿って,直線・曲線にかかわらず一定の速度(単位時間当りの移動量)で基板上にペーストが塗布されるように,基板(XYステージ)を移動させる技術が記載されているのであるから,原告主張相違点?Aに係る本件発明の構成(構成要件E)が開示されている。
(エ) 容易想到性a原告主張相違点?@について乙3は,産業上の利用分野が「ハイブリッドICや感熱ヘッドなどの回路の厚膜パターン形成に好適なスクリーンレスパターン描画装置に関する。」(3頁左上欄2行〜4行)とあるように,ペーストの描画装置に関するものであり,乙4は,「本発明は,電子回路等を構成する厚膜回路の形成装置に関するものである。」(1頁右欄13行〜14行)から,乙3と乙4は,技術分野が共通している。
乙3は,「パターンの膜厚が変化してパターンに凹凸が生ずる」(3頁左下欄末行〜右上欄2行)という課題を解決するものであるのに対し,乙4は,「本発明は,膜厚の精度を上げ,不良数を大幅に減少させる厚膜回路の形成装置を提供するものである。」(2頁右上欄3行〜5行)とあるように,ペーストを均一な厚みに塗布する描画装置を提供することを目的としているから,乙3と乙4は,解決すべき課題が共通している。
乙3は,「ノズルと基板との間のギャップを測長するセンサを該ノズルと一体に,もしくは該ノズルから分離して設けることにより,該基板の表面状態に応じて該ノズルの上下位置を制御し,この表面状態にかかわらず該ギャップを所定の距離に保持して形成されるパターンの膜厚を一定にする。」(4頁右下欄3行〜8行)という作用及び機能を奏するのに対し,乙4は,「膜厚演算部13は,ノズル1先端と基板2とのギャップ量と膜厚との関係のデータも持ち,ヘッド高さ制御装置15を介してノズル1の高さを変化させ,ギャップの大小により膜厚を制御することができる。」(3頁右下欄15行〜19行)という作用及び機能を奏するから,乙3と乙4は,作用及び機能が共通している。
そして,乙4に記載された発明と乙3記載の技術とを組み合わせることに阻害要因は存在しない。
したがって,当業者においては,乙4記載発明に,乙3に開示された原告主張相違点?@に係る本件発明の構成(構成要件C)を採用することを容易に想到することができたものである。
b原告主張相違点?Aについて乙4に記載された発明は,「厚膜回路の形成装置」に関するものであり,乙13も,「厚膜回路を形成する」(85頁本文1行)装置に関するものであるから,両者は,技術分野において全く同一である。
乙4に記載された発明の課題はペーストを均一な条件で塗布する描画装置であり,乙13にも「ペン先と基板表面のギャップが常に一定となるようにコントロールされる。これが直接描画ではたいへん重要なことで,ギャップが常に一定でないと,描画線幅が一定とならなかったり,多層描画はできない。この精度は数μmを要求される」(87頁左欄21行〜25行)との記載があり,両者は,課題においても全く同一である。
乙4に記載された発明の作用は,XYステージの移動速度を一定とすることによってペーストを均一な条件で塗布するというものであり,乙13にも,XYステージの移動速度が塗布中に変更されないことが記載されており,両者は,作用においても全く同一である。
そして,乙4に記載された発明と乙13記載の技術とを組み合わせることに阻害要因は存在しない。
したがって,当業者においては,乙4記載発明に,乙13に記載された前記(ウ)cの技術(描画パターンを定義する際に,曲率半径を入力し,入力された曲率半径を基に定義された描画パターンに沿って,直線・曲線にかかわらず一定の速度(単位時間当りの移動量)で基板上にペーストが塗布されるように,基板(XYステージ)を移動させる技術)を適用することにより,原告主張相違点?Aに係る本件発明の構成(構成要件E)を採用することを容易に想到することができたものである。
ウ 無効理由3(新規性の欠如?A)本件発明は,以下のとおり,本件出願前に頒布された刊行物である特開平2-181494号公報(乙5)に記載された発明と同一であるから,本件特許には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(ア) 構成要件A乙5記載の「ペーストを所望のパターンで均一な厚みに塗布する描画装置」(1頁左欄12行〜14行)は,構成要件Aの「ペースト塗布機」に対応する。
乙5記載の上記描画装置は,「基板1は,X-Y方向に移動可能なX-Yテーブル4上に設置」(2頁右上欄11行〜13行)される点で,構成要件Aの「基板が載置されたテーブルを水平面内の任意の方向に移動させ」に対応する。
乙5記載の上記描画装置の吐出ノズル5は,「上下用モータ18のモータ軸に板カム19が取付けられ,この板カム19外周のカム面にガイドブロック20にて昇降自在に支持された昇降ブロック21から延出されたアーム22が係合している。」(2頁右下欄10行〜14行)という構成からなること,「吐出ノズル5には,断面円形の丸ノズルが用いられ,その下端の円形の吐出口6からいずれの方向に対しても同様に導体ペースト3を吐出して前記パターンを形成する。」(2頁右上欄16行〜19行)とあることから,構成要件Aの「少なくとも水平方向には移動不能なノズルからペーストを吐出させて該基板上に所定のパターンで該ペーストを塗布するようにしたペースト塗布機」に対応する。
したがって,乙5には,乙5記載の上記描画装置が構成要件Aの構成を有することが開示されている。
(イ) 構成要件BXYテーブルは,X軸方向に移動するテーブル部とY軸方向に移動するテーブル部からなることは明らかであるところ,乙5には,「X-Y方向に移動可能なX-Yテーブル4」(2頁右上欄12行)との記載があり,第1図の右下にはX軸とY軸の方向を示す記号が記載されていることから(別紙乙5の図面),「X-Y方向に移動可能なX-Yテーブル4」は,構成要件Bに対応する。
したがって,乙5には,乙5記載の「ペーストを所望のパターンで均一な厚みに塗布する描画装置」が構成要件Bの構成を有することが開示されている。
(ウ) 構成要件C乙5には,「第1の位置検出器11によって先行して検出された高さ位置データに基づいて吐出ノズル5が昇降する。この高さ位置データは描画面2の吐出口6の近傍位置における高さ位置を絶対位置として検出しているので,データ処理が簡単で高速処理できるため,高精度に高さ位置を制御しながら高速で描画することができる。また,高さ位置の検出位置40が,上記のように吐出ノズル5に先行して導体パターン経路上を移動するので,導体パターン形成経路が屈曲部を有する複雑な形状であってもその全長にわたって吐出口6と描画面2との間を所定間隔に保持し,導体パターンを精度よく形成することができる。」(3頁左下欄3行〜15行)との記載がある。この吐出ノズル5を昇降させる手段は,構成要件Cの「該基板と該ノズルの先端との間隔が該基板上に塗布されるペースト厚さにほぼ等しくなるように,該ノズルの高さ位置を設定する第1の手段」に対応する。
したがって,乙5には,乙5記載の「ペーストを所望のパターンで均一な厚みに塗布する描画装置」が構成要件Cの構成を有することが開示されている。
(エ) 構成要件D乙5には,「円形の吐出口6からいずれの方向に対しても同様に導体ペースト3を吐出して前記パターンを形成する。」(2頁右上欄17行〜19行)との記載があるところ,「同様に」は「導体ペースト3を吐出して」にかかる文言であるため,上記記載から単位時間当りの該ノズルのペースト吐出量が方向にかかわらず一定に保たれていることが理解できる。また,乙5には,「吐出ノズル5は,内部に収容した導体ペースト2を消費した場合や形成すべき導体パターンの幅等が変わる場合に交換される。」(4頁左上欄2行〜4行)との記載がある。上記記載から,導体パターンの幅を変えるときには吐出ノズル5を変更するのであり,幅を変えないときには変更しないことが理解されるから,その前提として吐出ノズル5からのペースト吐出量は一定に保たれることが理解できる。すなわち,等速で移動するステージの上で描画線幅を変更するには,ノズルからのペーストの吐出量を変えるか,ノズルの吐出口の大きさを変えるかの二つの選択肢しかないところ,乙5は,後者を選択したのであるから,当然にペーストの吐出量は一定であると理解できる。
したがって,乙5には,乙5記載の「ペーストを所望のパターンで均一な厚みに塗布する描画装置」が,構成要件Dの「単位時間当りの該ノズルのペースト吐出量を一定に保つ第2の手段」を有することが開示されている。
(オ) 構成要件E乙5には,「吐出ノズル5の吐出口6から導体ペースト3を吐出させながらX-Yテーブル4を移動させて吐出ノズル5を所定の移動速度で形成すべき導体パターンに沿って相対移動させる。」(3頁右上欄15行〜18行)との記載がある。
ここにおける「所定の移動速度」とは,一定(所定)の移動速度であることは明らかであり,このような一定の移動速度は,X-Yテーブル4を移動させることによって,吐出ノズル5を「形成すべき導体パターンに沿って相対移動させ」て,実現されるものである。また,乙5記載の「ペーストを所望のパターンで均一な厚みに塗布する描画装置」によって形成されたペーストパターンは,第5図から明らかなように(別紙乙5の図面),直線部分及び曲線部分を有し,ペーストパターンの形状は直線・曲線にかかわらず,厚みのみならず,幅もほぼ等しく描かれている。
そうすると,乙5記載の上記描画装置は,形成すべき導体パターンが直線部分と曲線部分を有している場合においても,吐出ノズル5を「所定の移動速度」,すなわち直線部分も曲線部分もノズルに対する基板の単位時間当りの移動量がほぼ等しい速度で,形成すべき導体パターンに沿って相対移動させていることとなり,また,それを「X-Yテーブル4を移動させる」ことにより実現させている以上,直線部分と曲線部分の描画の対比における,速度(X軸テーブルとY軸テーブルの合成移動速度)が等しいこととなる。
したがって,乙5には,乙5記載の上記描画装置が構成要件Eの構成を有することが開示されている。
(カ) 構成要件F乙5記載の「ペーストを所望のパターンで均一な厚みに塗布する描画装置」は,構成要件Fの「ペースト塗布機」に対応する。
したがって,乙5には,乙5記載の上記描画装置が構成要件Fの構成を有することが開示されている。
(キ) まとめ以上のとおり,乙5には,乙5記載の「ペーストを所望のパターンで均一な厚みに塗布する描画装置」が構成要件AないしFの構成を有することが開示されているから,本件発明は,乙5に記載された発明と同一である。
エ 無効理由4(進歩性の欠如?A)本件発明は,以下のとおり,乙5に記載された発明に,乙3に開示された技術を適用することにより当業者が容易に想到することができたものであるから,本件特許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(ア) 原告主張の相違点原告は,構成要件Cの「該基板と該ノズルの先端との間隔が該基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるように,該ノズルの高さ位置を設定する第1の手段」は,「光学式変位計等の計測装置を用いてノズルの先端と基板との間隔を算出して,その算出結果に基づいてノズルを垂直方向に移動させる制御装置を制御し,ノズルの先端と基板の間隔とを所定の高さ位置に固定する手段を有しており」,かつ,「その高さがペーストの厚さとほぼ等しくなるように,当該高さを設定できれば足りる」と解釈すべきところ,乙5記載の「ペーストを所望のパターンで均一な厚みに塗布する描画装置」は,構成要件Cの「第1の手段」を有していない旨主張する(以下,この相違点を「原告主張相違点」という。)。
(イ) 容易想到性a乙3に,原告主張相違点に係る本件発明の構成(構成要件C)が開示されていることは,前記イ(イ)のとおりである。
b乙3は,産業上の利用分野が「ハイブリッドICや感熱ヘッドなどの厚膜パターン形成に好適なスクリーンレスパターン描画装置に関する。」(3頁左上欄2行〜4行)とあるように,ペーストの描画装置に関するものであり,乙5は,「本発明は基板上に導体ペーストなどのペーストを所望のパターンで均一な厚みに塗布する描画装置に関するものである。」(1頁左欄12行〜14行)とあるように,ペーストの描画装置に関するものであるから,乙3と乙5は,技術分野が共通している。
乙3は,「パターンの膜厚が変化してパターンに凹凸が生ずる」(3頁左下欄末行〜右上欄2行)という課題を解決するものであるのに対し,乙5は,「吐出ノズルの位置制御を応答性良くかつ高精度で行うことができ,高速描画を可能にする描画装置を提供することを目的とする。」(2頁左上欄8行〜11行)とあるように,ペーストを均一な厚みに塗布する描画装置を提供することを目的としているから,乙3と乙5は,解決すべき課題が共通している。
乙3は,「ノズルと基板との間のギャップを測長するセンサを該ノズルと一体に,もしくは該ノズルから分離して設けることにより,該基板の表面状態に応じて該ノズルの上下位置を制御し,この表面状態にかかわらず該ギャップを所定の距離に保持して形成されるパターンの膜厚を一定にする。」(4頁右下欄3行〜8行)という作用及び機能を奏するのに対し,乙5は,「第1の位置検出器11によって先行して検出された高さ位置データに基づいて吐出ノズル5が昇降する。・・・導体パターンを精度良く形成することができる。」(3頁左下欄3行〜15行)という作用及び機能を奏するから,乙3と乙5は,作用及び機能が共通している。
そして,乙5に記載された発明と乙3記載の技術とを組み合わせることに阻害要因は存在しない。
したがって,当業者においては,乙5記載発明に,乙3に開示された原告主張相違点に係る本件発明の構成(構成要件C)を採用すること容易に想到することができたものである。
オ 無効理由5(新規性の欠如?B)本件発明は,以下のとおり,乙13に記載された発明と同一であるから,本件特許には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(ア) 構成要件A乙13記載の「ハイブリッドICパターン直描装置」は「抵抗ペースト」(表2,「2.描画ペースト」参照)を塗布する装置であるから,構成要件Aの「ペースト塗布機」に対応する。
そして,乙13記載の「ハイブリッドICパターン直描装置」は,「XYステージ」(図2)を有するので,「基板が載置されたテーブルを水平面内の任意の方向に移動させ」ていること,「描画ペン」は構成要件Aの「ノズル」に対応すること,「描画ペン」(図2)は「Zステージ」によって垂直方向には移動可能であるが水平方向には移動不能であるから,「少なくとも水平方向には移動不能なノズルからペーストを吐出させて該基板上に所定のパターンで該ペーストを塗布する」ものである。
したがって,乙13には,乙13記載の「ハイブリッドICパターン直描装置」が構成要件Aの構成を有することが開示されている。
(イ) 構成要件B乙13記載の「ハイブリッドICパターン直描装置」におけるXYステージは,構成要件Bに対応する。
したがって,乙13には,乙13記載の「ハイブリッドICパターン直描装置」が構成要件Bの構成を有することが開示されている。
(ウ) 構成要件C乙13には,「基板は,XYステージ上にエアの吸引力で固定され,スタートスイッチが押されると,レーザ距離センサの下を,ある間隔で移動する。このときの距離データは基板のうねりを検出していることとなり,このデ一タを圧縮してメモリに蓄える。パターンを基板上に描く際,このデータは位置をインデックスとしてよび出され,ペン先と基板表面のギャップが常に一定となるようにコントロールされる。これが直接描画ではたいへん重要なことで,ギャップが常に一定でないと,描画線幅が一定とならなかったり,多層描画はできない。この精度は数μmを要求される。」(87頁左欄15行〜25行),「描画条件は図5に示す通り8種類である。しかしXYステージの加速度3は,まったくといってよいほど変える必要がないので,実質的には7種類である。1,2,4は,それぞれ,吐出エア圧,ワーク移動速度,描画面とペン先のギャップである。」(89頁左欄31行〜35行)との記載がある。
上記各記載によれば,乙13には,レーザ距離センサ(光学式変位計等の計測装置)を用いてペン先(ノズルの先端)と基板との間隔を算出して,その算出結果に基づいてペン先(ノズルの先端)を垂直方向に移動させる制御装置を制御し,ペン先(ノズルの先端)と基板との間隔(ギャップ)が常に一定に(基板との間隔を所定の高さ位置に固定)する手段が開示されている。
また,ギャップの大きさは図5の描画条件設定画面の「条件4」の値をユーザーが入力することによって設定されるところ,その高さが任意であり,ペーストの厚さとほぼ等しくなるように,当該高さを設定することも,可能である。
したがって,乙13には,乙13記載の「ハイブリッドICパターン直描装置」が構成要件Cの構成を有することが開示されている。
(エ) 構成要件D乙13には,前記(ウ)のとおり,「描画条件は図5に示す通り8種類である。しかしXYステージの加速度3は,まったくといってよいほど変える必要がないので,実質的には7種類である。1,2,4は,それぞれ,吐出エア圧,ワーク移動速度,描画面とペン先のギャップである。」との記載がある。つまり,吐出エア圧は図5の描画条件設定画面の「条件1」の値をユーザーが入力することによって設定され,描画中にこれを変更するような構成にはなっていないため,単位時間当りのペースト吐出量は常に一定である(吐出エア圧とギャップが等しければ,ペースト吐出量は一定に保たれることは技術常識である。)。
したがって,乙13には,乙13記載の「ハイブリッドICパターン直描装置」が構成要件Dの構成を有することが実質的に開示されている。
(オ) 構成要件E乙13に,構成要件Eの構成が開示されていることは,前記イ(ウ)のとおりである。
したがって,乙13には,乙13記載の「ハイブリッドICパターン直描装置」が構成要件Eの構成を有することが開示されている。
(カ) 構成要件F乙13記載の「ハイブリッドICパターン直描装置」は,構成要件Fの「ペースト塗布機」に対応する。
したがって,乙13には,乙13記載の「ハイブリッドICパターン直描装置」が構成要件Fの構成を有することが開示されている。
(キ) まとめ以上のとおり,乙13には,乙13記載の「ハイブリッドICパターン直描装置」が構成要件AないしFの構成を有することが開示されているから,本件発明は,乙13に記載された発明と同一である。
(2) 原告の反論ア 無効理由1(新規性の欠如?@)に対し(ア)本件発明は,液晶を挟む2枚のガラス基板の貼り合わせのために一方のガラス基板の対向面に接着剤であるペースト(シール剤)の塗布を行う装置において,?@ノズル先端と基板との間隔(構成要件C),?Aペースト吐出量(構成要件D),?Bノズルに対する基板の単位時間当りの移動量(構成要件E)を同時に制御し,いずれも一定に保つこと,さらには,?C曲線部分の塗布速度を曲率半径に応じて制御すること(構成要件E)により,直線部分であっても曲線部分であっても所望の形状のペーストパターンを正確かつ確実に得ることができる発明である。
被告主張の乙4に記載された発明(以下「乙4記載発明」という。)は,膜厚回路の形成装置において,厚膜ペーストの吐出量を増減させる手段,ノズルと基板の間隔を増減させる手段,ノズルに対する基板の単位時間当りの移動量を増減させる手段を,それぞれ一つないし複数組み合わせることにより,厚膜回路の膜厚の精度を上げる厚膜回路形成装置であり,本件発明とは,根本的に異なる発明である。
そして,本件発明と乙4記載発明は,乙4記載発明が,本件発明の構成要件CないしEを充足する構成を有していない点において相違する。
(イ)a 構成要件Cの欠如乙4には,ノズル1の基板2からの高さを一定に保つことは記載されているが,このノズル1の基板2からの高さを基板2上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるようにすることは何ら記載されていない。むしろ,乙4の第3図記載のとおり(別紙乙4の図面),ノズル1の先端と基板2との間隔が厚膜ペーストの膜厚とほぼ等しくなるようにはノズル1の高さ位置を設定していない。
したがって,乙4には,「該基板と該ノズルの先端との間隔が該基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるように,該ノズルの高さ位置を設定する第1の手段」が記載されておらず,乙4記載発明は,構成要件Cの構成を有していない。
b構成要件Dの欠如乙4には,「測定された膜厚を記憶するメモリ部と,前記膜厚と設定膜厚とを比較する演算部と,前記演算部からの命令によって描画厚膜ペーストの膜厚を変更する制御手段」として,「ノズルからの厚膜ペーストの吐出量を増減させる吐出量制御装置」が記載されてはいるものの,単位時間当りのノズルのペースト吐出量を一定に保つ旨の記載はない。
この点について被告は,膜厚を一定にする場合には吐出量を一定にすべく吐出圧力を調整することが実質的に開示されている旨主張するが,乙4には膜厚を一定とすることは何ら開示されておらず,むしろ,乙4は,吐出量制御装置を介して吐出圧力を上下させ,厚膜ペーストの吐出量を変化させることにより膜厚を制御しているのであるから,厚膜ペーストの吐出量を一定にすることについての記載がないことは明らかである。
したがって,乙4には,「単位時間当りの該ノズルのペースト吐出量を一定に保つ第2の手段」が記載されておらず,乙4記載発明は,構成要件Dの構成を有していない。
c構成要件Eの欠如(a)乙4には,「XYテーブルの制御においては,ベクトル速度を用い,線の種類(直線・曲線など)にかかわらず,同1条件で描画できるようにした。」との記載はあるものの,これは,その直前の「膜厚演算部13は,描画速度(XYテーブル16の速度)と膜厚の関係のデータを持ち,XYテーブル制御装置17を介して描画速度を変化させ,膜厚を制御することができる。」(3頁右下欄19行目〜4頁左上欄3行目)との記載から分かるとおり,XYテーブルの速度を絶えず変化させることにより厚膜ペーストの膜厚を一定にする場合において,線の種類にかかわらず,ベクトル速度を用いて速度を変化させていることを記載しているにすぎない。すなわち,乙4に記載のベクトル速度は,描画速度の変化に用いるものであって,速度を曲線部分と直線部分とでほぼ等しくするためのものではない。
さらに,乙4には,塗布されるペーストパターンの形状(直線,曲線)についての記載がなく,かかるペーストパターンの形状に対する基板の単位時間当りの移動量に関する記載や曲率半径を用いることの記載は全くない。ましてや,乙4は,「XYテーブル制御装置17を介して描画速度を変化させ」るものであるから,ペーストパターンの直線部分と曲線部分とで描画速度を同一にするとは到底考えられない。
したがって,乙4には,構成要件Eの「第3の手段」が記載されておらず,乙4記載発明は,構成要件Eの構成を有していない。
(b)なお,被告は,曲線と曲率半径の関係について,縷々主張するが,その主張は,曲線には曲率半径が備わっていることや,直線部分と曲線部分とでペーストの塗布速度が同じとなった場合に結果として曲率半径を用いた移動速度の計算と一致することを述べているに過ぎず,乙4記載発明が,ペースト塗布装置を用いて曲線部分のペーストを塗布するに当たって曲率半径に応じて基板の移動速度を制御していることを裏付けるものではない。
(ウ)以上によれば,本件発明は乙4記載発明と同一であるとの被告の主張は,理由がない。
イ 無効理由2(進歩性の欠如?@)に対し(ア)乙3は,ノズル先端43ではペーストの厚さを規制しておらず,移動方向に対して後方の,別の上面整形片62の高さによりペーストの厚さを規制しているのであって(別紙乙3の図面の第14図),ノズル先端43のノズル高さとペーストの厚さをほぼ一致させるものではない。
したがって,乙3には,「該基板と該ノズルの先端との間隔が該基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるように,該ノズルの高さ位置を設定する第1の手段」が記載されておらず,構成要件Cの開示はない。
(イ)乙13には,「ハイブリッドICパターン直描装置」が曲線部分の曲率半径に応じて基板の移動速度を制御すること(構成要件E)について,何らの開示も示唆もない。
被告は,デジタイザという一種の図形入力装置において円パターンを入力する際に半径を入力することを挙げるが,このデジタイザでは,単に図形をコンピュータ上で描画しているに過ぎず,乙13記載の「ハイブリッドICパターン直描装置」において,さらに様々な描画条件を設定する必要がある。
しかし,乙13には,「ハイブリッドICパターン直描装置」において曲線部分の描画条件をどのように設定するかについての記載はなく,また,デジタイザにおいて入力された半径の値が,「ハイブリッドICパターン直描装置」にどのように取り込まれ,かつ,どのように曲線部分の塗布時における基板の移動速度を制御しているのかについて,全く開示も示唆もない。
また,被告は,乙13の「3.描画条件設定」における「描画条件は図5に示す通り8種類である。しかしXYステージの加速度3は,まったくといってよいほど変える必要がないので,実質的には7種類である。1,2,4は,それぞれ,吐出エア圧,ワーク移動速度,描画面とペン先のギャップである。」との記載を根拠に,基板の移動速度が曲線部分と直線部分とで一定である旨主張する。
しかし,乙13には,「XYステージの加速度3は,まったくといってよいほど変える必要がない」との記載があること及び加速度の入力項目は一つしかないことに照らすならば,被告が主張する乙13の上記記載は直線部分の塗布に関する記述であることが明らかである。
つまり,曲線部分を塗布するに際しては,一方の軸を停止状態から加速移動させるとともに,他方の軸を減速する必要があり,必ず加速度を変更することになるからである。
さらに,乙13の「3.描画条件設定」で言及のある図6が直線であるばかりか,図7,図9も直線であって,乙13には,曲線部分のペースト塗布に関する具体的記述は存在しない。
以上のとおり,乙13には,直線部分と曲線部分とでノズルに対する基板の単位時間当りの移動量をほぼ等しくすることについての開示はない。
(ウ)さらに,乙3,4,13には,?@ノズル先端と基板との間隔(構成要件C),?Aペースト吐出量(構成要件D),?Bノズルに対する基板の単位時間当りの移動量(構成要件E)を同時に制御し,いずれも一定に保つように,構成要件C,D及びE記載の各手段(第1ないし第3の手段)を同時に機能させることにより,直線部分であっても曲線部分であっても所望の形状のペーストパターンを正確かつ確実に得ることができるという本件発明の技術的思想(前記ア(ア))について記載も示唆もない。
また,乙4記載発明は,前記ア(ア)のとおり,厚膜ペーストの吐出量を増減させる手段,ノズルと基板の間隔を増減させる手段,ノズルに対する基板の単位時間当りの移動量を増減させる手段を,それぞれ一つないし複数組み合わせることにより,厚膜回路の膜厚の精度を上げる厚膜回路形成装置であって,膜厚をリアルタイムに測定すると共に,その測定結果を各アクチュエータの動きにフィードバックし,吐出量,基板の移動速度,ノズル高さを変化させており,吐出量,基板の移動速度及びノズル高さが一定となることはない。
したがって,乙4記載発明と乙3及び乙13に基づいて本件発明を容易に想到することができたものとはいえない。
(エ)したがって,本件発明は進歩性を欠く旨の被告の主張は,理由がない。
ウ 無効理由3(新規性の欠如?A)に対し(ア)本件発明と被告主張の乙5に記載された発明(以下「乙5記載発明」という。)は,乙5記載発明が,本件発明の構成要件CないしEを充足する構成を有していない点において相違する。
(イ)a 構成要件Cの欠如乙5には,吐出ノズル5の吐出口6と描画面2の間が所定間隔となるように設定することが記載されているが,このノズル5の吐出口6と描画面2の間隔を描画面2上に描画されるペーストの厚さにほぼ等しくなるようにすることは何ら記載されていない。むしろ,乙5の第2図(別紙乙5の図面)では,ノズルの先端と基板との間隔は,ペーストの厚みよりも大きくなっている。
したがって,乙5には,「該基板と該ノズルの先端との間隔が該基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるように,該ノズルの高さ位置を設定する第1の手段」が開示されておらず,乙5記載発明は,構成要件Cの構成を有していない。
b構成要件Dの欠如乙5には,吐出ノズル5の吐出口6から導体ペースト3を吐出することが記載されているが,当該導体ペーストの吐出量を一定に保つ旨の記載はない。
この点について被告は,乙5の「円形の吐出口6からいずれの方向に対しても同様に導体ペースト3を吐出して前記パターンを形成する」(2頁右上欄17行〜19行)との記載のうち,「同様に」とは,「単位時間当りの該ノズルのペースト吐出量」が方向にかかわらず一定に保たれていることを意味する旨主張するが,「同様に」の意義が吐出量が一定であると解する根拠は一切存在しない。
また,被告は,乙5の「吐出ノズル5は,・・・形成すべき導体パターンの幅等が変わる場合に交換される」(4頁左上欄2行〜4行)との記載は,導体パターンの幅を変えるときには吐出ノズル5を変更し,導体パターンの幅を変えないときには吐出ノズル5を変更しないことを意味するとした上で,幅を変えない以上ペースト吐出量は一定に保たれている旨主張する。
しかし,同一の吐出ノズルでも吐出ノズル内に残存するペースト量が変わるなどの要因で吐出されるペーストの吐出量も変わるのであって,吐出ノズルを変更することによりペーストの幅を変更することができることと,同一の吐出ノズルから吐出されるペーストの吐出量を一定に保つ手段を有していないことは両立するものであって,被告の主張は失当である。
したがって,乙5には,「単位時間当りの該ノズルのペースト吐出量を一定に保つ第2の手段」が記載されておらず,乙5記載発明は,構成要件Dの構成を有していない。
c構成要件Eの欠如乙5には,導体パターンの直線部分と曲線部分とで吐出ノズル5に対する基板1の単位時間当りの移動量をほぼ等しくすることについて何ら記載はなく,曲線部分の曲率半径に応じて基板1の移動速度を制御することについての記載もない。
この点について被告は,乙5の「吐出ノズル5の吐出口6から導体ペースト3を吐出させながらX-Yテーブル4を移動させて吐出ノズル5を所定の移動速度で形成すべき導体パターンに沿って相対移動させる。」(3頁右上欄15行〜18行)の記載のうち,「所定の移動速度」とは「一定の移動速度」の意味であるとし,乙5には,曲線部分でも直線部分でも一定の移動速度で吐出ノズル5を相対移動することが記載されている旨主張する。
しかし,所定とは,「定まっていること。定めてあること。」(甲20)を意味し,「ほぼ同じ」という意味を有していないのであるから,被告の主張は,失当である。
また,被告は,乙5の第5図(別紙乙5の図面)が,直線部分及び曲線部分においてペーストパターンがほぼ同じ幅で描かれていることを指摘するが,第5図は「パターン形成経路」を示したものであって(4頁右下欄1行〜2行等),実際にペーストが塗布された形状ではないから,被告の主張は,失当である。
したがって,乙5には,構成要件Eの「第3の手段」が記載されておらず,乙5記載発明は,構成要件Eの構成を有していない。
(ウ)以上によれば,本件発明は乙5記載発明と同一であるとの被告の主張は,理由がない。
エ 無効理由4(進歩性の欠如?A)に対し(ア) 前記イ(ア)のとおり,乙3には,構成要件Cの開示はない。
(イ)乙3,5には,?@ノズル先端と基板との間隔(構成要件C),?Aペースト吐出量(構成要件D),?Bノズルに対する基板の単位時間当りの移動量(構成要件E)をいずれも一定に保つように,構成要件C,D及びEの各手段(第1ないし第3の手段)を同時に機能させることにより,直線部分であっても曲線部分であっても所望の形状のペーストパターンを正確かつ確実に得ることができるという本件発明の技術的思想(前記ア(ア))について記載も示唆もない。
(ウ)したがって,本件発明は進歩性を欠く旨の被告の主張は理由がない。
オ 無効理由5(新規性の欠如?B)に対し(ア)本件発明と被告主張の乙13に記載された発明(以下「乙13記載発明」という。)は,乙13記載発明が,本件発明の構成要件CないしEを充足する構成を有していない点において相違する。
(イ)a 構成要件Cの欠如乙13には,ペン先と基板の高さを一定に保つことは記載されているが,このペン先と基板の高さを基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるようにすることについて何ら記載がない。
したがって,乙13には,「該基板と該ノズルの先端との間隔が該基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるように,該ノズルの高さ位置を設定する第1の手段」が記載されておらず,乙13記載発明は,構成要件Cの構成を有していない。
b構成要件Dの欠如被告は,吐出エア圧とギャップが等しければ,ペースト吐出量は一定に保たれることが技術常識であるとして,乙13には,「ハイブリッドICパターン直描装置」の単位時間当りのペースト吐出量が常に一定であることが開示されている旨主張する。
しかし,乙13には,図2に示される「描画ペン」上部の「加圧エア」の圧力(塗布圧力)が「描画条件設定」(89頁)における「吐出エア圧」と同じかどうかの記載はなく,また,同一の吐出ノズルでも吐出ノズル内に残存するペースト量が変わるなどの要因で吐出されるペーストの吐出量も変わる。
したがって,乙13には,「単位時間当りの該ノズルのペースト吐出量を一定に保つ第2の手段」は記載されておらず,乙13記載発明は,構成要件Dの構成を有していない。
c構成要件Eの欠如前記イ(イ)のとおり,乙13には,構成要件Eの「第3の手段」が記載されていないから,乙13記載発明は,構成要件Eの構成を有していない。
(ウ)以上によれば,本件発明は乙13記載発明と同一であるとの被告の主張は,理由がない。
3 争点3(原告の損害額)(1) 原告の主張ア 特許法102条2項に基づく損害額被告は,遅くとも平成12年7月から平成20年1月31日までの間,被告製品の製造,販売及び輸出を行った。この期間における被告製品の売上総額は,36億円を下らない。
被告が被告製品を製造,販売及び輸出した場合の利益率は少なくとも10%を下ることはない。
したがって,被告の本件特許権の侵害行為により原告が受けた損害額は,特許法102条2項により,3億6000万円(被告製品の売上総額36億円×10%)を下らない額と推定される。
イ 特許法102条3項に基づく損害額(前記アの選択的主張)本件発明の実施に対し受けるべき実施料は10%が相当であるから,原告の受けた損害額は,特許法102条3項により,3億6000万円(被告製品の売上総額36億円×10%)を下らない額となる。
ウ 弁護士費用被告による本件特許権の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害は,3600万円を下らない。
エ 小括よって,原告は,被告に対し,民法709条,特許法102条2項,3項に基づき,損害賠償として3億9600万円(前記ア又はイの額と前記ウの額との合計額)及びこれに対する不法行為の後の訴状送達の日の翌日(平成20年2月8日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) 被告の反論原告主張の損害額は争う。
当裁判所の判断
本件の事案に鑑み,争点2(本件特許権に基づく権利行使の制限の成否)から判断することとする。
1 争点2(本件特許権に基づく権利行使の制限の成否)についてまず,被告主張の無効理由2(進歩性の欠如?@)から判断する。
被告は,本件発明は,乙4に記載された発明に,乙3及び乙13に開示された技術を適用することにより当業者が容易に想到することができたものであるから,本件特許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある旨主張する。
そこで,以下においては,乙4に記載された発明に基づいて当業者が本件発明を容易に想到することができたかどうかについて検討する。
(1) 本件発明ア本件発明に係る特許請求の範囲の記載(請求項1)は,「基板が載置されたテーブルを水平面内の任意の方向に移動させ,少なくとも水平方向には移動不能なノズルからペーストを吐出させて該基板上に所定のパターンで該ペーストを塗布するようにしたペースト塗布機において,該テーブルは,互いに直交する方向に移動する少なくとも2個のテーブル部を有するものであり,該基板と該ノズルの先端との間隔が該基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるように,該ノズルの高さ位置を設定する第1の手段と,単位時間当りの該ノズルのペースト吐出量を一定に保つ第2の手段と,該所定のパターンの曲線部分でのペースト塗布時,該曲線部分の曲率半径に応じて該基板の移動速度を制御することにより,2個の該テーブル部のうちの一方が直線方向に移動することによって塗布される該所定のパターンの直線部分と2個の該テーブル部がともに直線方向に移動することによって塗布される曲線部分とでの該ノズルに対する該基板の単位時間当りの移動量をほぼ等しくする第3の手段とを設けたことを特徴とするペースト塗布機。」であり(前記争いのない事実の(2)イ),本件発明は,構成要件AないしF(前記争いのない事実の(2)ウ)に分説することができる。
イ 本件明細書(甲2)には,以下のような記載がある。
(ア)「【産業上の利用分野】本発明は,液晶表示パネル等に所望ペーストを塗布するためのペースト塗布機に係り,特に,テ-ブルに載置された基板上にノズルから吐出されるペーストを直線状のみならず所望の曲線形状にも塗布することができるようにしたペースト塗布機に関する。」(段落【0001】)(イ)「【従来の技術】液晶表示パネルは,透明電極や薄膜トランジスタアレイなどを設けた二枚のガラスを数μm程度の極めて接近した間隔で貼り合わせ,これによって形成される空間に液晶を封止したものである。ガラスの貼り合わせは,一方のガラスにシ-ル剤をほぼ閉ル-プとなるように設け,このガラスに他方のガラスを対面させてシ-ル剤で積層接着されることによって行われる。」(段落【0002】),「特開平2-52742号公報には,ノズルに対して基板を相対的に移動させ,ノズルから基板上に抵抗ペ-ストを吐出させて所定の抵抗パタ-ンを描画することにより,抵抗形成を行なう技術が紹介されている。」(段落【0003】)(ウ)「【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上記従来技術を用いてガラス上に閉ループ状にシール剤のパターンを描いてみると,直線状にシ-ル剤が塗布される部分では所望の塗布形状が得られるが,曲線状にシ-ル剤が塗布される部分では所望の塗布形状が得られなかった。」(段落【0004】),「即ち,接着用のシール剤はガラスの周辺にループ状に塗布され,このループ状のパターンでは,ガラスの辺部で直線状に,ガラスの角部で曲線状になるが,曲線状にシ-ル剤が塗布される部分では,図4に示すように所定の曲率でもって直線状にシ-ル剤が塗布される部分と同じ幅のシ-ル剤12の塗布パターンとなるべきであるのに対し,図5に示すように,塗布量に差が生じて狭幅の曲線部12aになったり,図6に示すように,ペーストが引っ張られて曲線状とならず,斜傾した直線部12bになってしまう。」(段落【0005】),「図5に示す曲線部12aの幅が極端に狭くなると,この曲線部12aでシ-ル剤の途切れを生じ,液晶表示パネルの封止が不可能になる。また,図6に示したような斜傾部12bが形成されると,ガラスに設けた透明電極や薄膜トランジスタアレイなどの一部がシール剤12bの外側に位置するようになる場合もあり,正常な表示が得られなくなる。」(段落【0006】),「また,上記の特開平2-52742号公報記載の技術では,正常量よりも多めに抵抗ペーストを塗布し,しかる後,抵抗値を計りつつトリミングを行って所望の抵抗パターンが得られるようにしている。しかし,このような方法は非常に手間がかかるものである。」(段落【0007】),「本発明の目的は,かかる問題を解消し,曲線状のペースト塗布部でも所望の塗布形状が得られるようにしたペースト塗布機を提供することにある。」(段落【0008】)(エ)「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために,本発明は,基板とノズルの先端との間隙が基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しいようにノズルが設置され,該ノズルからの単位時間当りのペースト吐出量を一定に保つ手段と,直線状にペーストを塗布する部分と曲線状にペーストを塗布する部分とでほぼ一致するように該ノズルと該基板との単位時間当りの相対的移動量を制御する手段とを設ける。」(段落【0009】)(オ)「【作用】ノズルと基板との単位時間当りの相対的移動量がほぼ等しいときには,ノズルからの単位時間当りのペースト吐出量を一定である場合,ペーストの塗布形状はほぼ等しい。本発明においては,ノズルからの単位時間当りのペースト吐出量を一定に保たれ,かつ曲線状にペーストを塗布する部分も直線状にペーストを塗布する部分とノズル,基板間の単位時間当りの相対的移動量がほぼ一致するから,曲線状にペーストを塗布する部分では,所望の曲線状に直線状にペーストを塗布する部分の塗布形状とほぼ等しい幅でペーストが塗布されることになる。」(段落【0010】)(カ)「【実施例】以下,本発明の実施例を図面を用いて説明する。図1は本発明によるペ-スト塗布機の一実施例を示す斜視図であって,・・・11は制御装置である。同図において,架台部9上にX軸テーブル部5が固定して載置され,このX軸テーブル5上にX軸方向に移動可能にY軸テーブル部6が搭載されている。そして,このY軸テーブル部6上に,Y軸方向に移動可能に,基板吸着部(テーブル)8が搭載されている。この基板吸着部8に基板7が,例えばその4辺がX,Y軸に平行となるように,吸着されて固定されている。これらX軸テーブル部5,Y軸テーブル部6は制御装置11によって制御駆動され,X軸テーブル部5が駆動されると,Y軸テーブル部6がX軸方向に移動して基板吸着部8が,従って基板7がX軸方向に移動し,Y軸テーブル部6が駆動されると,基板7がY軸方向に移動する。従って,X軸テーブル部5とY軸テーブル部6とが制御装置11によって制御駆動されることにより,架台部9の面に平行な面内で任意の方向に移動することができる。」(段落【0011】〜【0012】),「一方,架台部9の面上にはZ軸テーブル部支持部10が搭載されており,このZ軸テーブル部支持部10にノズル1やペ-ストを収納した円筒2,光学式変位計3をZ軸方向(上下方向)に移動させるZ軸テーブル部4が取り付けられている。ここで,ノズル1はペ-ストを収納した円筒2の下端に取り付けられており,光学式変位計3は円筒2の脇に配置されている。Z軸テ-ブル部4も制御装置11によって制御駆動され,Z軸テ-ブル部4が駆動されると,これらノズル1や円筒2,光学式変位計3が上下方向に移動する。」(段落【0013】),「かかる構成において,基板7上にペーストのパターンを描く場合には,まず,Z軸テーブル部4が制御装置11によって駆動制御され,ノズル1の先端を基板7から所定の高さ位置に固定する。ここでは,この高さ位置を形成されるペーストパターンの厚み分とする。」(段落【0014】)(キ)「このようにノズル1の位置が設定された後,制御装置11によってX軸テーブル部5とY軸テーブル部6とが駆動制御されて基板7が上記平面上を移動し,これとともに,ノズル1の先端から単位時間当たり一定の吐出量でペーストが基板7上に吐出される。これにより,基板7上にペーストのパターンが描かれるが,この場合,このパターンが直線上に描かれる部分(パターンの直線部分)でも,曲線上に描かれる部分(パターンの曲線部分)でも,ノズル1の先端と基板7との単位時間当たりの相対速度が等しくなるように,制御装置11によってX軸テーブル部5とY軸テーブル部6とが制御される。従って,パターンの直線部分とパターンの曲線部分とで,ほとんど同じ状態でペーストが基板7上に塗布されることになり,パターンの曲線部分では,制御装置11の制御で決まる曲率で,かつパターンの直線部分とほぼ同じ断面形状のパターンが形成されることになる。」(段落【0015】),「そこで,基板7を液晶表示パネルの一方のガラスとし,このガラスの周辺にシール剤のペーストをループ状に塗布したとすると,描かれたパターンのこのガラス7の角部での曲線部分では,所望の曲率でこのガラスの辺部での直線部分と同じ断面形状となる。」(段落【0016】),「図2において,ホ-ス11を介して円筒2に圧縮空気あるいは圧縮窒素ガスが送られ,これにより,円筒2に収納されているペ-スト12がノズル1の先端から基板7上に吐出される。このとき,ノズル1からの単位時間当りのペ-スト吐出量が一定に保たれる。基板吸着部8には複数個の吸着穴14が設けられ,これら吸着穴14により,基板7が吸着されて基板吸着部8の所定の位置に載置されている。光学式変位計3は三角測量法でもって基板7との間隔を計測する。具体的には,投光素子からレ-ザ光を基板7上に斜めに照射し,そこからの反射光を受光する受光素子の位置から光学式変位計3と基板7との間隔を測定する。そして,ノズル1と光学式変位計3の位置関係からノズル1の先端と基板7との間隔を算出する。かかる算出結果に基づいて,制御装置11(図1)がZ軸テ-ブル部4を制御し,このノズル1の先端と基板7との間隔を,先に説明したように,また,図2に示すように,基板7上に塗布されるペ-スト12の厚さにほぼ等しくなるようにする。」(段落【0018】)(ク)「図3において,ここでは,ペースト12がa-b-c-dの経路で塗布されるものとする。なお,a-b,c-dはパターンの直線部分であり,b-cはパターンの曲線部分である。また,a-b-c-dの実線部部は塗布済の部分であり,点線は未塗布部分である。」(段落【0020】),「いま,パターンの直線部分a-b,c-dでのノズル1の先端と基板7との単位時間当りの相対的移動量をM1とし,パターンの曲線部分b-cでのノズル1の先端と基板7との単位時間当りの相対的移動量をM2とすると,これらはほぼ等しくされ,M1=M2となるようにする。」(段落【0021】),「パターンの曲線部分b-cでの相対的移動量M2はX軸テ-ブル部5の移動量ΔXとY軸テ-ブル部6の移動量ΔYからピタゴラスの定理によって求めることができる。かかる移動量ΔX,ΔYは次のようにして求められる。」(段落【0022】),「即ち,ここでは,パターンの曲線部分b-cが点Pを中心とする半径Rの曲線状であるとする。かかるパターンの曲線部分b-cに沿って移動量ΔX,ΔYだけ移動する移動区間の始点をA,終点をBとして,始点Aを通るX軸,Y軸の垂線がX軸,Y軸が交わる点と中心点Pとの間の長さを夫々X0,Y0とし,終点Bについての同様の長さを夫々X1,Y1とし,また,この移動区間の終点Bと中心点Pとを結ぶ線とX軸とのなす角度θ1をすると,移動量ΔX,ΔYは次式で与えられる。
ΔX=X1-X0=R×Cos(θ1/180×π)-X0ΔY=Y0-Y1=Y0-R×Sin(θ1/180×π)上記のように,単位時間当りのノズル1のペースト吐出量は一定に保たれ,ノズル1の先端と基板7との間隔が基板7上に塗布されるペースト12の厚さにほぼ等しくなるようにノズル1が設置されているので,パターンの曲線部分b-cでの単位時間当りのペースト塗布量がパターンの直線部分a-bでの単位時間当りのペースト塗布量と等しくなり,パターンの曲線部分b-cでは,正しく曲率半径Rの曲線パターンが描かれることになり,この部分のパターン断面形状もパターンの直線部分a-bでのパターン断面形状とほぼ等しくなって,図4に示すような正常な曲線状で基板7上にペースト12が塗布されることになる。」(段落【0023】),「なお,パターンの曲線部分b-cのような曲線は移動量ΔX,ΔYの直線状の移動区間が連なったものであり,従って,曲線は折線で表される。そこで,描かれる曲線をより曲線上に綺麗にみせるためには,上記のノズル1と基板7との単位時間当りの相対的移動量M1,M2を小さくして移動量ΔX,ΔYの移動区間を小さくすればよい。このことは,パターンの曲線部分b-cでの移動量ΔX,ΔYの移動区間での終点Bと中心点Pとを結ぶ線とX軸とのなす角度θ1を小刻みに変化させることによって達成できる。」(段落【0024】),「パターンの曲線形状は,上記のように,全て数式化して表現できるので,数式に応じて上記のようにX軸テ-ブル部5とY軸テ-ブル部6とを移動させることにより,任意の曲線形状にペーストを塗布することができる。」(段落【0025】)(ケ)「以上のように,この実施例では,所望の曲線パターンにペ-ストを塗布することができるので,直線パターンに塗布することと組み合わせることにより,任意の形状のパターンにペ-ストを塗布することができる。従って,シ-ル剤や抵抗ペ-ストを正しく塗布することで液晶表示パネルや抵抗を高歩留まりで製作することができる。」(段落【0026】)(コ)「【発明の効果】以上説明したように,本発明によれば,テ-ブルに載置した基板上にノズルから吐出されるペーストを,直線パターン状のみならず,所望の曲線パターン状にも正確,かつ確実に塗布することができ,従って,任意の形状のペーストパターンを正確,確実に得ることができる。」(段落【0027】)(サ) 図1ないし図6は,別紙本件明細書の図面のとおりである。
(2) 乙4の記載事項ア乙4(特開平2-187095号公報)には,以下のような記載がある。
(ア)「特許請求の範囲」として,「(1)基板上に厚膜ペーストを吐出するノズルと,前記ノズルにより基板上に形成された厚膜回路の膜厚を測定する測定装置とを備え,この測定装置として,基板の高さを測定する測定装置による測定値と,基板上に形成された厚膜回路の高さを測定する測定装置による測定値との差をとることにより膜厚を計算する手段を有する厚膜回路の形成装置。」,「(2)測定された膜厚を記憶するメモリ部と,前記膜厚と設定膜厚とを比較する演算部と,前記演算部からの命令によって描画厚膜ペーストの膜厚を変更する制御手段とを備えた請求項1記載の厚膜回路の形成装置。」,「(3)制御手段として,ノズルからの厚膜ペーストの吐出量を増減させる吐出量制御装置を設けたことを特徴とする請求項2記載の厚膜回路の形成装置。」,「(4)制御手段として,ノズルと基板との間隔を増減させるために,ノズルを支持しているヘッドの高さを増減させるヘッド高さ制御装置を設けたことを特徴とする請求項2記載の厚膜回路の形成装置。」,「(5)制御手段として,基板を固定しているXYテーブルの移動速度を増減させるXYテーブル制御装置を設けたことを特徴とする請求項2記載の厚膜回路の形成装置。」(イ)「産業上の利用分野本発明は,電子回路等を構成する厚膜回路の形成装置に関するものである。」(1頁右下欄12行〜14行)(ウ)「従来の技術以下,従来の描画装置を用いた厚膜回路の形成方法を第8図により説明する。同図において,1はノズルで,基板上に膜厚ペーストを吐出するものである。ノズル1と基板2との間隔を基板高さ測定器3によって一定に保ちながら,ノズル1が基板2上を厚膜ペースト4を吐出しながら移動し,描画する。」(1頁右下欄15行〜2頁左上欄2行),「厚膜ペーストとしては,抵抗体ペースト,導体ペースト,誘電体ペースト等が用いられ,ペースト描画後,乾燥工程,焼成工程を経て,厚膜回路を形成する。」(2頁左上欄3行〜6行)(エ)「発明が解決しようとする課題しかしながら上記装置では,第9図の工程図に示すように,膜厚不良を発見するまでに描画工程,乾燥工程,サンプル抜取工程,膜厚測定工程を経ねばならず,ロスタイムが長いという課題を有していた。」(2頁左上欄7行〜12行),「さらに装置として,ヘッド部の移動とノズル高さ検出をするためのにげ構造による剛性不足によって精度が保障されないこと・・・など,多くの課題を有する。」(2頁左上欄13行〜19行),「そこで本発明はこの課題を解決するため,不良時のロスタイムを大幅に短縮する厚膜回路の形成装置を提供するものである。」(2頁左上欄20行〜右上欄2行),「また本発明は,膜厚の精度を上げ,不良数を大幅に減少させる厚膜回路の形成装置を提供するものである。」(2頁右上欄3行〜5行)(オ)「課題を解決するための手段上記の目的を達成するための第1の発明の装置は,基板上に厚膜ペーストを吐出するノズルと,前記ノズルにより基板上に形成された厚膜回路の膜厚を測定する測定装置とを備え,上記測定装置として,基板の高さを測定する測定装置による測定値と,基板上に形成された厚膜回路の高さを測定する測定装置による測定値との差をとることにより膜厚を計算するものである。」(2頁右上欄6行〜14行),「また,上記第2の目的を達成するための第2の発明の装置は,上記装置によって測定された膜厚を記憶するメモリ部と,前記膜厚と設定膜厚とを比較する演算部と,前記演算部からの命令によって描画条件をかえる制御手段とを備えるものである。」(2頁右上欄15行〜20行),「更に,上記第2の目的を達成するための第3の発明の装置は,上記制御手段として,ノズルからの厚膜ペーストの吐出量を増減させる吐出量制御装置を設けるものである。」(2頁左下欄1行〜4行),「更に,上記第2の目的を達成するための第4の発明の装置は,上記制御手段として,ノズルと基板との間隔を増減させるために,ノズルを固定しているヘッドの高さを増減させるヘッド高さ制御装置を設けるものである。」(2頁左下欄5行〜9行),「更に,上記第2の目的を達成するための第5の発明の装置は,上記制御手段として,基板を固定しているXYテーブルの移動速度を増減させるXYテーブル制御装置を設けるものである。」(2頁左下欄10行〜13行)(カ)「第1図は本発明の第1の実施例における描画装置の構成を示すものである。第1図において,1はノズル,3は基板2までの距離(第1図のL )を測定する基板高さ測定器,4は描画された厚膜ペース1ト,5は厚膜ペースト4までの距離(第1図のL )を測定する膜厚測 2定器,6はノズル1を前記膜厚測定器5,プリズム12とは独立して上下させることのできるヘッドであり,基板高さ制御器3の測定値L(判決注・「測定値L 」は「測定値L 」の誤記と認める。)の増減 2 2 1量と同じ量だけヘッド6が上下駆動されて,ノズル1と基板2の間隔を一定に保っている。ノズル1は基板2上に厚膜ペースト4を,例えば圧力によってノズル1の先端孔部より吐出させる装置である。」(2頁右下欄10行〜3頁左上欄2行)(キ)「基板高さ測定器3及び膜厚測定器5はレーザーによる距離測定装置である。・・・厚膜ペースト4は,導体・抵抗体等,どの種類のペーストでも可能である。・・・以上の構成により,基板高さ測定器3の測定値L に対して描画直後の厚膜ペーストの高さである。膜厚測1定器5の測定値L との差,L -L を計算し,設定膜厚と比較しなが 2 12ら描画する。」(3頁左上欄3行〜16行)(ク)「さらに,位置(高さ)の精度の向上のため,本実施例においては,従来からのヘッド6側を移動を移動させて(判決注・「移動を移動させて」は「移動させて」の誤記と認める。)描画する方式に代わり,基板2側を移動させることとした。」(3頁右上欄8行〜12行),「また,ノズル1は上記のように高精度を維持するために,回転せず上下方向にのみ動く・・・」(3頁右上欄13行〜14行),「また,膜厚が許容範囲を越えた場合にはアラーム音を発し,機械は自動的に停止するようになっている。」(3頁左下欄16行〜18行)(ケ)「本実施例によれば,第2図に示すような工程となり,描画工程中に不良を発見できるので,描画不良時の,描画工程の一部,乾燥,サンプル抜取,膜厚測定の工程がなくなり,ロスタイムの大幅な短縮を図ることができる。」(3頁左下欄19行〜右下欄3行)(コ)「第3図は本発明の第2の実施例における描画装置の構成を示すものである。」(3頁右下欄4行〜5行),「同図において第1図と異なる点は,測定された膜厚値L -L を膜厚演算部13にとりこ 12み,下記各制御装置を通じて,設定膜厚値になるよう各アクチュエータの動きにフィードバックする点である。膜厚演算部13は,吐出圧力と膜厚の関係のデータを持ち,吐出量制御装置14を介して吐出圧力を上下させ,膜厚を制御することができる。また,膜厚演算部13は,ノズル1先端と基板2とのギャップ量と膜厚との関係のデータも持ち,ヘッド高さ制御装置15を介してノズル1の高さを変化させ,ギャップの大小により膜厚を制御することができる。更に膜厚演算部13は,描画速度(XYテーブル16の速度)と膜厚の関係のデータも持ち,XYテーブル制御装置17を介して描画速度を変化させ,膜厚を制御することができる。」(3頁右下欄8行〜4頁左上欄3行)(サ)「またXYテーブルの制御においては,ベクトル速度を用い,線の種類(直線・曲線など)にかかわらず,同1条件で描画できるようにした。」(4頁左上欄12行〜15行)(シ)「また,上記の制御の優先順位は使用者が任意に定めることができ,また各制御の併用も可能である。」(4頁左上欄16行〜18行)(ス)「従って本実施例によれば,第4図に示すような工程となり実施例1の効果に加えて,高精度の膜厚管理が可能となり,不良数を大幅に減少させることができる。」(4頁左上欄19行〜右上欄2行)(セ)「発明の効果本発明の第1の発明によれば,基板上に厚膜ペーストを吐出するノズルと,前記ノズルにより基板上に形成された厚膜回路の膜厚を測定する測定装置とを備えているので,不良を早期発見し作業を終了させることができ,不良時のロスタイムを大幅に短縮することができる。」(4頁右上欄3行〜9行),「更に,本発明の第2の発明によれば,上記装置によって測定された膜厚を記憶するメモリ部と,前記膜厚と比較する演算部と,前記演算部からの命令によって描画条件をかえる制御手段とを備えているので,高精度の膜厚管理が可能となり,不良数を大幅に減少させることができる。」(4頁右上欄10行〜15行)(ソ)第1図(「本発明の第1の実施例における描画装置の構成図」)及び第3図(「本発明の第2の実施例における描画装置の構成図」)には,XYテーブル16上に固定された基板2が示されている。
(タ)第1図,第3図及び第8図は,別紙乙4の図面のとおりである。
イ前記アの各記載を総合すれば,乙4には,「基板2を固定しているXYテーブル16を水平方向(X(左右方向)とY(前後方向)の水平方向)に移動させ,厚膜ペースト4の吐出中は上下方向にのみ移動し水平方向には移動しないノズル1から厚膜ペースト4を吐出させて,基板2上に所定のパターンで厚膜ペースト4を塗布するようにした厚膜回路の形成装置であって,基板2までの距離L を測定する基板高さ測定器31と,厚膜ペースト4までの距離L を測定する膜厚測定器5と,厚膜ペー 2スト4の吐出圧力を上下させる吐出量制御装置14と,ノズル1を固定しているヘッド6を上下駆動させてノズル1の高さを変化させるヘッド高さ制御装置15と,描画速度(XYテーブル16の移動速度)を変化させるXYテーブル制御装置17と,前記各制御装置に命令を出す膜厚演算部13とを有し,XYテーブル制御装置17を介してされるXYテーブルの制御においては,ベクトル速度を用い,線の種類(直線・曲線など)にかかわらず,同1条件で描画できるように構成された厚膜回路の形成装置。」(以下「乙4記載装置」という。)が記載されていることが認められる。
そして,乙4記載装置においては,吐出量制御装置14,ヘッド高さ制御装置15及びXYテーブル制御装置17による各制御を行う前提として,その制御の対象となる厚膜ペースト4の吐出圧力,ノズル1の高さ及びXYテーブル16の移動速度の一定値を描画を開始する前にそれぞれ入力する手段を有しているものと認められる。
また,乙4における「また,上記の制御の優先順位は使用者が任意に定めることができ,また各制御の併用も可能である。」(前記ア(シ))との記載に照らすならば,乙4記載装置は,装置の構成としては,上記各制御装置を有するものではあるが,描画中に上記各制御装置を常に併用して動作させなければならないものではなく,特定の制御装置による制御のみを行ってよいことが認められる。
このことは,「(5)制御手段として,基板を固定しているXYテーブルの移動速度を増減させるXYテーブル制御装置を設けたことを特徴とする請求項2記載の厚膜回路の形成装置。」(前記ア(ア)),「・・・第5の発明の装置は,上記制御手段として,基板を固定しているXYテーブルの移動速度を増減させるXYテーブル制御装置を設けるものである。」(前記ア(オ))というように,乙4には,特定の制御手段(例えば,XYテーブル制御装置)を設けたことを特徴とする厚膜回路の形成装置を発明の一つとして記載していることとも合致する。
(3) 本件発明と乙4記載装置との対比ア本件発明と乙4記載装置とを対比するに,まず,乙4記載装置のXYテーブル16は,基板2を固定しているから,本件発明の「基板が載置されたテーブル」に相当する。そして,XYテーブルは,X(左右方向)に移動できるテーブル部とY(前後方向)に移動できるテーブル部とを有する,水平に移動できるテーブルを意味するから,乙4記載装置のXYテーブル16は,「互いに直交する方向に移動する・・・2個のテーブル部を有」し,「水平面内」(XY平面内)の「任意の方向に移動させ」ることができることは自明である。
次に,乙4記載装置の「ノズル1」,「厚膜ペースト4」,「厚膜回路の形成装置」は,本件発明の「ノズル」,「ペースト」,「ペースト塗布機」にそれぞれ相当する。そして,乙4記載装置の「ノズル1」は,厚膜ペースト4の吐出中は上下方向にのみ移動し水平方向には移動しないから,「少なくとも水平方向には移動不能」であるといえる。
さらに,乙4記載装置の「ヘッド高さ制御装置15」は,ノズル1を固定しているヘッド6を上下駆動させてノズル1の高さを変化させ,ノズル1と基板2との間隔を制御することができるから,乙4記載装置の「制御装置15」と本件発明の「基板とノズルの先端との間隔が基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるように,ノズルの高さ位置を設定する第1の手段」(構成要件C)とは,基板とノズルの先端との間隔を制御する手段である点において共通する。
イ以上によれば,本件発明と乙4記載装置との間には,次のような一致点と相違点があることが認められる。
(一致点)「基板が載置されたテーブルを水平面内の任意の方向に移動させ,少なくとも水平方向には移動不能なノズルからペーストを吐出させて基板上に所定のパターンでペーストを塗布するようにしたペースト塗布機において,テーブルは,互いに直交する方向に移動する少なくとも2個のテーブル部を有するものであり,基板とノズルの先端との間隔を制御する手段を設けたことを特徴とするペースト塗布機」である点。
(相違点1)本件発明では,「基板とノズルの先端との間隔が基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるように,ノズルの高さ位置を設定する第1の手段」(構成要件C)を有するのに対して,乙4記載装置では,基板とノズルの先端との間隔を制御する手段である「ヘッド高さ制御装置15」が,基板とノズルの先端との間隔が基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるように,ノズルの高さ位置を設定するものかどうか明らかでない点。
(相違点2)本件発明が,「単位時間当りのノズルのペースト吐出量を一定に保つ第2の手段」(構成要件D)を有するのに対して,乙4記載装置では,このような手段を有するのかどうか明らかでない点。
(相違点3)本件発明が,「所定のパターンの曲線部分でのペースト塗布時,曲線部分の曲率半径に応じて基板の移動速度を制御することにより,2個のテーブル部のうちの一方が直線方向に移動することによって塗布される所定のパターンの直線部分と2個のテーブル部がともに直線方向に移動することによって塗布される曲線部分とでのノズルに対する基板の単位時間当りの移動量をほぼ等しくする第3の手段」(構成要件E)を有するのに対して,乙4記載装置では,描画速度(XYテーブルの移動速度)を変化させるXYテーブル制御装置17を有し,XYテーブルの制御においては,ベクトル速度を用い,線の種類(直線・曲線など)にかかわらず,同1条件で描画できるようにしているものの,このような手段(第3の手段)を有するのかどうか明らかでない点。
(4) 相違点1の容易想到性ア相違点1に係る本件発明の構成(構成要件C)の容易想到性について判断する。
構成要件Cは,「基板とノズルの先端との間隔が基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるように,ノズルの高さ位置を設定する第1の手段」というものである。
本件発明に係る特許請求の範囲(請求項1)には,「基板上に塗布されるペーストの厚さ」をどの時点で,どの位置で測定するものか,「第1の手段」がどのような構成のものであるかについて具体的に規定する記載はない。
そこで,本件明細書(甲2)を参酌すると,「・・・基板7上にペーストのパターンを描く場合には,まず,Z軸テーブル部4が制御装置11によって駆動制御され,ノズル1の先端を基板7から所定の高さ位置に固定する。ここでは,この高さ位置を形成されるペーストパターンの厚み分とする。」(段落【0014】。前記(1)イ(カ)),「・・・ノズル1と光学式変位計3の位置関係からノズル1の先端と基板7との間隔を算出する。かかる算出結果に基づいて,制御装置11(図1)がZ軸テ-ブル部4を制御し,このノズル1の先端と基板7との間隔を,先に説明したように,また,図2に示すように,基板7上に塗布されるペ-スト12の厚さにほぼ等しくなるようにする。」(段落【0018】。
前記(1)イ(キ))との記載がある。そして,図2(別紙本件明細書の図面)には,基板7上に塗布されたペ-スト12の厚みがノズル1の直下から一定の区間とほぼ等しい状況が示されている。他方で,本件明細書中には,「基板7上に塗布されるペ-スト12の厚さ」が塗布後一定の時間が経過した時点のものであることを示唆する記載はなく,また,「第1の手段」を特定の構成に限定する記載もない。
加えて,塗布後のペーストの厚みは経時変化すること等をも考慮すると,原告が主張(前記第3の1(1)イ(ア))するように,構成要件Cの「基板上に塗布されるペーストの厚さ」は,ノズル直下の厚さをいい,構成要件Cの「該ノズルの高さ位置を設定する第1の手段」は,ペースト塗布装置を使用する者が予めペーストの厚みとほぼ等しくなるようにノズル先端と基板との間隔を数値で入力してノズルの高さ位置を定めることができる手段であれば,これに当たるものと解される。
イ以上の構成要件Cの解釈を前提に検討するに,乙4記載装置においては,ノズル高さ1の一定値を描画を開始する前に入力する手段を有し(前記(2)イ),ヘッド高さ制御装置15が,ノズル1を固定しているヘッド6を上下駆動させてノズル1の高さを変化させ,ノズル1と基板2の間隔を制御することができるのであるから(前記(3)ア),乙4記載装置においては,装置を使用する者が予めペーストの厚みとほぼ等しくなるようなノズル先端と基板との間隔の数値を入力してノズルの高さ位置を定めることができる手段を有しているものと認められる。
そして,乙4記載装置において,描画開始前に入力するノズル1の高さは適宜設定されるべきものであり,予めペーストの厚みとほぼ等しくなるようなノズル先端と基板の間隔の数値を入力してノズルの高さ位置を定めることが格別困難であるものとは認められないから,当業者であれば,乙4記載装置において,相違点1に係る本件発明の構成(構成要件C)を採用することを容易に想到することができたものと認められる。
(5) 相違点2の容易想到性相違点2に係る本件発明の構成(構成要件D)の容易想到性について判断する。
前記(2)イのとおり,乙4記載装置においては,厚膜ペースト4の吐出圧力の一定値を描画を開始する前に入力する手段と,厚膜ペースト4の吐出圧力を上下させる吐出量制御装置14を有している。
そして,「吐出量制御装置14を介して吐出圧力を上下させ,膜厚を制御することができる」が(前記(2)ア(コ)),膜厚の制御方法としては,吐出圧力を絶えず変動させる必然性はなく,吐出圧力の値を一定に保つようにすることも制御の一方法であり,しかも,このような制御は簡明な制御方法であるといえる。
したがって,当業者であれば,乙4記載装置において,吐出圧力の値が描画中に何らかの要因で描画開始前に入力した値と一致しなくなった場合に当該入力した値と一致させ,吐出圧力の値を一定に保つように吐出量制御装置14を制御させることによって,相違点2に係る本件発明の構成(「単位時間当りのノズルのペースト吐出量を一定に保つ第2の手段」)を採用することを容易に想到することができたものと認められる。
(6) 相違点3の容易想到性ア 乙13の記載事項(ア)乙13(加藤俊幸「ハイブリッドICパターン直描装置」電子材料28巻5号(工業調査会・1989年5月1日発行))には,以下のような記載がある。
a「ハイブリッドICパターン直描装置」(85頁表題),「厚膜回路を形成する方法として,従来からの印刷方法と,表題に掲げた直接描画方法とがある。この直接描画方法とは,CAD上で作成された回路パターンデータにより基板を動かし,厚膜ペーストを直接基板上に吐出することで回路を形成する方法である。・・・図に示すように,スクリーンの製版が不要なため,カット・アンド・トライの多いアプリケーションでは特にメリットを生かせる。また,スクリーン印刷で要求される特殊技能をまったく必要とせず,電気的特性もまったく問題とならない。・・・ランニングコストに言及すると,スクリーン印刷とは比較にならないくらい安価である。この理由は,スクリーン印刷とは違って,パターンを形成するのに必要なペーストしか吐出しないからである。」(85頁左欄1行〜17行)b「図2に,システム構成を示す。デジタイザは,図面からパターンを入力したり,モニタと対話しながらパターンを描く場合に必要となる。またデジタイザは,描画装置で描く際に必要となる特有の機能も合わせもっている。図3にデジタイザのメニューシートを示す。」(85頁左欄24行〜28行),「描画装置本体は,図2に示す通り,XYステージ,Zステージ,レーザ距離センサ,描画ペンから構成されている。基板は,XYステージ上にエアの吸引力で固定され,スタートスイッチが押されると,レーザ距離センサの下を,ある間隔で移動する。このときの距離データは基板のうねりを検出していることとなり,このデータを圧縮してメモリに蓄える。
パターンを基板上に描く際,このデータは位置をインデックスとしてよび出され,ペン先と基板表面のギャップが常に一定となるようにコントロールされる。これが直接描画ではたいへん重要なことで,ギャップが常に一定でないと,描画線幅が一定とならなかったり,多層描画はできない。この精度は数μmを要求される。」(87頁左欄13行〜25行)c「1.デジタイズイン・・・デジタイザ上に図面を貼り,メニューシート上の各機能を用いてパターンを入力する。・・・デジタイザで入力したパターン図は,パターンの外形であり,また描画ペンの中心座標である」(87頁左欄38行〜右欄1行),「このようにして作成したパターンファイルにユーザー任意のファイル名を付けて終了する。ここでの機能を表1に示す。」(89頁左欄1行〜6行),「2.パターンジェネレータデジタイズインで作成したパターンファイルをよび出し,パターン中の線に線幅情報を付与するとともにハッチング部にハッチング方向の情報を与える。たとえば抵抗であれば,抵抗精度をあげるために,枠なしで電極に直交する方向で塗りつぶす。また電極であれば,枠ありで長手方向に塗りつぶすといった具合である。」(89頁左欄7行〜20行)d「3.描画条件設定描画条件は図5に示す通り8種類である。
しかしXYステージの加速度3は,まったくといってよいほど変える必要がないので,実質的には7種類である。1,2,4は,それぞれ,吐出エア圧,ワーク移動速度,描画面とペン先のギャップである。5,6,7は,描画特有のパラメータである。8は,膜圧をコントロールする際のピッチであり・・・オーバーラップ量を変えることでコントロールされる。図6に示すように・・・オーバーラップは10μmである。ファイル?bヘ0〜999まで登録できる。」(89頁左欄30行〜41行)e「このようにパターンファイル名と描画条件ファイル?b?入力して,確認でYESとすると,システムコントローラから描画装置本体に,描画に必要なすべての情報が送られて描画が開始される。描画が始まると,バックグラウンドで処理が実行されるため,作業者はデジタイズインなどに行くことが可能となる。」(88頁左欄6行〜11行)f「表1デジタイズインの機能」(87頁)は,「?av欄と「項目」欄とからなり,「?bV」に対応する「項目」欄に「中心と円周上の一点指定の円」,「?bW」に対応する「項目」欄に「中心点と半径指定の円」,「?bX」に対応する「項目」欄に「3点指定の円弧」,「?bP0」に対応する「項目」欄に「2点と半径と中心方向指定の円弧」の記載がある。
g「表2描画装置の仕様」(92頁)には,「2.描画ペースト」の項目に「・導体ペースト」,「・抵抗ペースト」及び「・誘電体ペースト」との記載が,「4.描画特性」の項目に「・描画速度可変範囲:2〜60mm/s」,「・最小描画線幅の目安」,「・描画線幅均一性線幅100〜150μm:±15%以内線幅150〜200μm:±10%以内」,「・抵抗値のバラツキ:±8%以内」,「・スルーホール描画:φ0.3〜φ1mm」等の記載がある。
h図2ないし図5及び表1は,別紙乙13の図面のとおりである。
(イ)a前記(ア)の各記載を総合すれば,乙13には,CAD(コンピュータ支援設計システム)上で作成された回路パターンデータによりXYステージ上の基板を動かし,厚膜ペーストを直接基板上に吐出して回路を形成する厚膜回路の形成方法である「直接描画方法」の装置構成として,デジタイザが接続された描画装置本体を開示するとともに,基板上に形成する回路パターンをデジタイザによって作成し,描画装置本体に入力する技術が開示されていることが認められる。
そして,デジタイザは,曲線部分のパターンを作成する際,「中心点と半径指定の円」や「2点と半径と中心方向指定の円弧」を入力する機能を有しているところ(前記(ア)f),円又は円弧における半径は「曲率半径」であるから,乙13に接した当業者であれば,デジタイザの上記機能を使用する場合には,中心点等のほかに,半径(曲率半径)を指定し,デジタイザが曲率半径に応じて曲線部分のパターンを作成していることを理解するものといえる。このデジタイザで作成されたパターン図は,システムコントローラを介して描画装置本体に入力され(前記(ア)e),描画ペンの中心座標となる(前記(ア)c)。
以上によれば,乙13には,デジタイザを接続した描画装置本体(直描装置)が,デジタイザで作成されたパターンに従って基板上に厚膜ペーストを吐出して回路パターンを形成する厚膜回路の形成方法において,パターンの曲線部分を曲率半径に応じて作成する技術が開示されていることが認められる。
bなお,乙13の描画装置本体のXYステージの移動速度は,描画開始前に,描画条件の「2」の「ワーク移動速度」の値(2〜60mm/sの範囲内の一定の値)を入力することによって設定され(前記(ア)d,g),デジタイザで作成されたパターンファイル名と描画条件を登録した描画条件ファイル?b?入力し,システムコントローラから描画装置本体に,描画に必要なすべての情報が送られ,「描画が始まると,バックグラウンドで処理が実行される」(前記(ア)e)のであるから,描画装置本体がデジタイザで作成されたパターンに従って基板上に厚膜ペーストを吐出して描画し,その描画中のXYステージ(基板)の移動速度は,一定(描画条件の「2」で予め入力した数値の移動速度)であるものと認められる。
(ウ)これに対して原告は,乙13には,「XYステージの加速度3は,まったくといってよいほど変える必要がない」との記載があること及び加速度の入力項目は一つしかないことや,「3.描画条件設定」で言及のある図6が直線であるばかりか,図7,図9も直線であって,曲線部分のペースト塗布に関する具体的記述は存在しないから,乙13には,直線部分と曲線部分とでノズルに対する基板の単位時間当りの移動量をほぼ等しくすることについての開示はない旨主張する。
しかし,乙13の「表1デジタイズインの機能」には,「中心と円周上の一点指定の円」,「中心点と半径指定の円」,「3点指定の円弧」,「2点と半径と中心方向指定の円弧」の各項目が記載され(前記(ア)f),上記各項目に対応する円や円弧が,乙13の「図3デジタイザのメニューシート」に図示されていることによれば,乙13のデジタイザは,上記各項目の機能を用いて曲線を描画することができるとみるのが自然である。
また,乙13の「図7ラインブロック情報入力画面」には「パターン形式(番号)」として「0:」に正方形の図が,「1:」に正方形の枠内に横線を5本引いた図が,「2:」には正方形の枠内に縦線を5本引いた図が,「-1:」には「1:」から上下の枠を外した図が,「-2:」には「2:」から左右の枠を外した図が記載されており,これらは,枠のみを描画するパターンのもの(「0:」)と,枠と共に枠内を横線又は縦線で塗りつぶすもの(「1:」,「2:」)と,枠なしのもの(「-1:」,「-2:」)とを選択できることを示すものであって,乙13のデジタイザが直線の描画しかできないことを示しているものとはいえない。
さらに,乙13の「図9電気的特性・パターン形状評価例」には直線で描画されたものが示されているが,これは「評価例」であるから,図9に示されたものが直線であることのみをもって乙13のデジタイザが直線の描画しかできないものと断定することはできない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
容易想到性(ア)相違点3に係る本件発明の構成は,「所定のパターンの曲線部分でのペースト塗布時,曲線部分の曲率半径に応じて基板の移動速度を制御することにより,2個のテーブル部のうちの一方が直線方向に移動することによって塗布される所定のパターンの直線部分と2個のテーブル部がともに直線方向に移動することによって塗布される曲線部分とでのノズルに対する基板の単位時間当りの移動量をほぼ等しくする第3の手段」(構成要件E)であり,換言すれば,所定のパターンの曲線部分でのペースト塗布時に「曲線部分の曲率半径に応じて基板の移動速度を制御」することによって,直線部分の塗布時及び曲線部分の塗布時における「ノズルに対する基板の単位時間当りの移動量をほぼ等しくする」というものである。
ところで,乙4記載装置は,「XYテーブルの制御」において,「ベクトル速度を用い,線の種類(直線・曲線など)にかかわらず,同1条件で描画できるようにした」ものであるから(前記(2)ア(サ),イ),描画パターンの直線部分,曲線部分にかかわらず,同一の描画速度で描画を行っていることが認められる。
そして,直線部分と曲線部分とで同一の描画速度で描画を行うために,曲線部分におけるXテーブルの移動速度とYテーブルの移動速度の合成速度の大きさを直線部分におけるXテーブル又はYテーブルの移動速度の大きさとほぼ等しくなるようにすると同時に,Xテーブルの移動速度とYテーブルとの移動速度の比率によって規定される合成速度の向きが,曲線部分に沿ったものとなるように,Xテーブル及びYテーブルの各移動速度を決定しているものと理解される。
このように合成速度の向きが曲線部分に沿ったものとなるように曲線部分の各地点における各テーブルの移動速度を決定するためには,描画パターンの各地点を示すデータ(一般的には,座標データ)を用いる必要があることは,技術的な観点から明らかである。
以上の考察を総合すると,乙4記載装置においては,曲線部分でのペースト塗布時に,少なくとも,一定の合成速度(基板の移動速度)の大きさ(目標値)と,描画パターンの座標データとを用いて,Xテーブル及びYテーブルの各移動速度を決定する制御を行っていることが理解される。
しかし,乙4には,描画パターンをどのようにして入力するかについての具体的な記載はなく,また,「ベクトル速度を用い,線の種類(直線・曲線など)にかかわらず,同1条件で描画できるようにした」(前記(2)ア(サ))との記載はあるものの,曲線上の各地点における座標データを求める方法についての具体的な記載はない。
(イ)一方で,前記ア(イ)aのとおり,乙13には,デジタイザを接続した描画装置本体(直描装置)が,デジタイザで作成されたパターンに従って基板上に厚膜ペーストを吐出して回路パターンを形成する厚膜回路の形成方法において,パターンの曲線部分を曲率半径に応じて作成する技術が開示されている。
そして,?@乙13記載の描画装置は,基板(XYステージ)を動かして,「抵抗ペースト」,「導体ペースト」等のペーストを直接基板上に吐出して厚膜回路を形成する装置である点で(前記ア(ア)a,b,g),基板を固定しているXYテーブルを移動させ,「導体・抵抗体等」の厚膜ペースト(前記(2)ア(キ))を基板上に吐出して厚膜回路を形成する装置である乙4記載装置(前記(2)イ)と技術分野が同一であること,?A乙13には,乙13記載の描画装置では,デジタイザで作成されたパターンに従って基板上に回路パターンを形成することで所望の回路パターンを描画することができ(前記ア(ア)cないしe),また,「描画線幅均一性」を実現できる旨(前記ア(ア)b,g)の記載があり,一方,乙4には,「また本発明は,膜厚の精度を上げ,不良数を大幅に減少させる厚膜回路の形成装置を提供するものである。」(前記(2)ア(エ))との記載があり,乙13と乙4は,所望の形状のペーストパターンを得るよう精度を向上させる技術を提供するという点で課題が共通すること,?B乙13記載の描画装置は,描画中のXYステージ(基板)の移動速度が一定である点で(前記ア(イ)b),描画パターンの直線部分,曲線部分にかかわらず,同一の描画速度で描画を行っている乙4記載装置(前記(ア))と共通すること,?C乙13では,デジタイザで作成されたパターン図は,システムコントローラを介して描画装置本体に入力され,描画ペンの中心座標となること(前記ア(ア)c)に照らすならば,乙4及び乙13に接した当業者であれば,乙4記載装置において,描画パターンの曲線部分の各地点における座標データを求める方法として,乙13に開示されたパターンの曲線部分を曲率半径に応じて作成する技術を適用することを容易に想到することができたものと認められる。そして,このように構成された乙4記載装置においては,曲線部分の各地点におけるXテーブル及びYテーブルの各移動速度は,「曲率半径に応じて」決定されることとなる(前記(ア))。
したがって,当業者であれば,乙4記載装置において,乙13記載の上記技術を適用して,相違点3に係る本件発明の構成を採用することを容易に想到することができたものと認められる。
ウこれに対し原告は,本件発明は,液晶を挟む2枚のガラス基板の貼り合わせのために一方のガラス基板の対向面に接着剤であるペースト(シール剤)の塗布を行う装置において,?@ノズル先端と基板との間隔(構成要件C),?Aペースト吐出量(構成要件D),?Bノズルに対する基板の単位時間当りの移動量(構成要件E)を同時に制御し,いずれも一定に保つこと,さらには,?C曲線部分の塗布速度を曲率半径に応じて制御すること(構成要件E)により,直線部分であっても曲線部分であっても所望の形状のペーストパターンを正確かつ確実に得ることができる発明であるところ,乙4,13には,?@ないし?Bをいずれも一定に保つように,構成要件C,D及びE記載の各手段(第1ないし第3の手段)を同時に機能させるという本件発明の技術的思想について記載も示唆もなく,また,乙4では,膜厚をリアルタイムに測定すると共に,その測定結果を各アクチュエータの動きにフィードバックし,吐出量,基板の移動速度,ノズル高さを変化させており,吐出量,基板の移動速度及びノズル高さが一定となることはないのであるから,乙4及び乙13に基づいて本件発明を容易に想到することができたものとはいえない旨主張する。
しかし,乙4記載装置は,吐出量制御装置14,ヘッド高さ制御装置15及びXYテーブル制御装置17を有するものであるが,描画中に上記各制御装置を常に併用して動作させなければならないものではなく,特定の制御装置による制御のみを行ってよいものであり(前記(2)イ),また,膜厚の制御のために,吐出量(吐出圧力),基板の移動速度及びノズル高さのそれぞれを絶えず変動させる必然性はなく,乙4記載装置は,これらが絶えず変化するものに限定されるわけではない。
加えて,乙8(特開平3-36784号公報)には,「この形成された抵抗体の幅Wは,ノズル2のスリット状の吐出孔3の長手方向の寸法Wn(以下スリット幅という)に対してaだけ拡がった寸法となっている。つまりW=Wn+aなる関係が成立している。このaなるものは,ペーストや描画スピード,吐出圧力などで決定される定数であり,形成される抵抗体の厚みtと密接な関係がある。したがって,吐出圧力や描画スピードを変化させることにより厚みtを変えると,このaも変化する。」(2頁左上欄3行〜14行)との記載があること,乙10(特開昭63-177113号公報)には,「シール剤塗布幅を変える場合,すなわち,塗布幅を細くする場合はディスペンサ13の移動速度を早く,塗布幅を太くする場合はディスペンサ13の移動速度を遅くすることにより,第8図に示すような,均一な塗布厚みでのシール剤塗布を行なうことができる。」(3頁右下欄2行〜7行)との記載があること,乙13には,「ギャップが常に一定でないと,描画線幅が一定とならなかったり,多層描画はできない。」(前記ア(ア)b)との記載があることを総合すれば,ペーストパターンの描画中に,吐出圧力(吐出量),描画スピード(基板の移動速度),ギャップ(ノズル高さ)等の数値が変化すると,塗布されるペーストの厚みや幅が変化してしまうことは,本件出願当時,ペースト塗布機の技術分野における技術常識であったことが認められる。
そして,上記技術常識に照らすならば,乙4に接した当業者は,乙4記載装置は,吐出量,基板の移動速度及びノズル高さをいずれも一定の値に制御することによって一定の膜厚のペーストパターンを形成することを基本とし,その上で,より高精度な膜厚制御を行うために,前記特定の制御装置による制御を行うものであることを理解し,乙4の記載から,吐出量,基板の移動速度及びノズル高さをいずれも一定の値に制御することによって一定の膜厚のペーストパターンを形成するという技術的思想を把握することができるというべきである。
したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものであって,採用することができない。
(7) まとめ以上のとおり,本件発明は,当業者が乙4に記載された発明(乙4記載装置)と乙13記載の技術に基づいて容易に想到することができたものであるから,本件発明は進歩性を欠くものであり,本件特許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)があり,特許無効審判により無効とされるべきものと認められる。
したがって,原告は,同法104条の3第1項の規定により,被告に対し,本件特許権を行使することができない。
2 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから,いずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 大西勝滋
裁判官 関根澄子
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