関連審決 | 無効2006-80208 異議1998-75481 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成20行ケ10490審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10489審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10350審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10210審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10196審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 発明者 / 技術的思想 / 新規性 / 29条1項3号 / 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 引用発明の認定 / 発明特定事項 / 周知技術 / 技術的範囲 / 技術常識 / 要約書 / 発明の概要 / 技術的特徴 / 翻訳文 / 優先権 / 参酌 / 数値限定 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 特許発明 / 実施 / 加工 / 交換 / 設定登録 / 混同 / 発明の範囲 / 訂正審判 / 請求の範囲 / 拡張 / 変更 / 訂正明細書 / |
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事件 |
平成
20年
(行ケ)
10352号
審決取消請求事件
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原告X 原告高 砂熱学工業株式会社 原告浜松ホトニクス株式会社 原告ら訴訟代理人弁理士長 谷 川芳樹 同 寺崎史朗 同 柴田昌聰 同 石田悟 同 城戸博兒 訴訟代理人弁護 士岡崎士朗 被告スンチェ・ハイテック・ カンパニー・リミテッド 訴訟代理人弁理 士大槻聡 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2009/09/17 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告らの請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2006-80208号事件について平成20年8月19日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
1本件は,原告らが特許権者であり発明の名称を「帯電物体の中和構造,クリーンルーム,搬送装置,居住室,植物栽培室,正負の電荷発生方法,帯電物体の中和方法」とする特許第2749202号の請求項13〜15について,被, (, 告が特許無効審判請求をしたところ 特許庁が原告らがなした訂正請求 1315を削除した上,14の内容を変更して13とする等)を認めた上,上記訂正後の請求項13に記載された発明についての特許を無効とする旨の審決をしたことから,原告らがその取消しを求めた事案である。 2争点は,上記訂正後の請求項13に係る発明が下記刊行物との関係で進歩性(特許法29条2項)を有するか,である。 記・刊行物1:特開平1-274396号公報(発明の名称「ガスイオン化方法」, , 及び装置出願人 イオン・システムス・インコーポレーテッド公開日 平成元年11月2日,甲1。以下「引用刊行物1」といい,そこに記載された発明を「引用発明」という )。 ・刊行物2:米国特許第3862427号明細書(公刊日 昭和50年1月21日,甲2。以下「引用刊行物2」という )。 ・刊行物3:特公昭39-1701号公報(発明の名称「静電気除去体 ,出」願人 A,公告日 昭和39年2月21日,甲3。以下「引用刊行物3」という )。 ・刊行物4:特開昭58-197697号公報(発明の名称「光照射による除電方法 ,出願人 春日電機株式会社,公開日 昭和58年11月 」17日,甲4。以下「引用刊行物4」という )。 ・刊行物5:特開平1-281190号公報(発明の名称「液晶板用ガラス板清掃装置 ,出願人 日本スピンドル製造株式会社,公開日 平成 」元年11月13日,甲5。以下「引用刊行物5」という )。 (「」, ・刊行物6:特開平2-61613号公報 発明の名称 電子部品の製造装置出願人 株式会社東芝 公開日 平成2年3月1日 甲6 以下 引 , ,。「用刊行物6」という )。 (「」, ・刊行物7:特開平1-107497号公報 発明の名称 静電気除去装置出願人 松下電子工業株式会社,公開日 平成元年4月25日,甲7。以下「引用刊行物7」という )。 |
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当事者の主張
1 請求の原因(1) 特許庁等における手続の経緯ア原告らは,平成4年8月14日の優先権(日本国)を主張して,平成5,「,,, 年8月13日 名称を 帯電物体の中和構造 クリーンルーム 搬送装置居住室,植物栽培室,正負の電荷発生方法,帯電物体の中和方法」とする発明について特許出願(特願平6-506104号)をし,平成10年2月20日に特許第2749202号として設定登録を受けた(請求項の数20,以下「本件特許」という。特許公報は甲8 。なお,上記登録に対 )し特許異議の申立て(平成10年異議第75481号)がなされ,その中で原告らは平成11年5月17日付けで訂正請求(全文訂正明細書は甲16)をしたところ,特許庁は,平成11年7月30日付けで,上記訂正を認めた上で特許維持決定をした。 イこれに対し被告が,平成18年10月17日付けで本件特許の請求項13〜15について特許無効審判請求を行ったので,特許庁はこれを無効2006-80208号事件として審理し,その中で原告らは明細書の訂正請求をしたが,特許庁は,平成19年9月7日,上記訂正を認めた上,上記請求項13ないし15に記載された発明についての特許を無効とする旨の審決をした。 ウそこで原告らは,知的財産高等裁判所に対し上記審決の取消しを求める訴えを提起し(平成19年(行ケ)第10357号 ,その後平成20年 )1月4日,特許庁に対し訂正審判請求(請求項13,15を削除し,14の内容を変更した上13とする等,甲11。全文訂正明細書は甲12)をしたところ,同裁判所は,平成20年2月19日,特許法181条2項により上記審決を取り消す旨の決定をした。 エ上記決定により前記無効審判請求事件は再び特許庁で審理されることとなり,上記訂正審判請求(甲11)と同内容の訂正請求がなされたとみなされた(以下「本件訂正」という )ところ,特許庁は,平成20年8月 。 19日,本件訂正を認めた上 「特許第2749202号の請求項13に ,記載された発明についての特許を無効とする」旨の審決をし,その謄本は平成20年8月29日原告らに送達された。 (2) 発明の内容本件訂正後の請求項13の内容は,次のとおりである(以下,そこに記載された発明を「本件特許発明」という 。。)「透過型のX線ユニットによりターゲット電圧6kV以上かつターゲット電流60μA以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を,搬送系における帯電物体としての液晶基板の周辺の雰囲気空気に, , 直接照射することにより 該雰囲気空気をイオン化させて正イオンと負イオン及び/又は電子とを生成し,この生成された正イオンにより負電荷を,負イオン及び/又は電子により正電荷を中和することを特徴とする帯電物体の中和方法 」。 (3) 審決の内容ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本件訂正は適法であり,かつ訂正後の本件特許発明は刊行物1〜7に記載の発明及び周知技術に基づいて容易に発明することができたから特許法29条2項により特許を受けることができない,というものである。 イなお審決が認定した引用発明の内容,本件特許発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 〈引用発明の内容〉「15keV のエネルギーを有するX線を例とする,X線管 29 からのX線を,プラスチック,アルミニューム又はベリリウム製の薄い窓 31 を貫通させて,空気に照射することにより,該空気をイオン化させて,該空気中の成分ガスの正及び負のイオンを生成させ,, さらに流体送達配管 28 によりこのイオン化された空気の流れを導きその出口から放出して集積回路ウェーハ,マイクロチップ及びその他同様のものである製品を取り囲む空気中の上記正及び負のイオンである自由イオンを高水準に維持し,空気中の正のイオンは製品上の負の静電荷に,また,空気中の負のイオンは製品上の正の静電荷と電荷の交換によって静電荷を中和することによる製品上の静電荷の累積を中和する方法 」。 〈一致点〉本件特許発明と引用発明とは,いずれも「 , , X線ユニットにより発生させたX線を 空気に照射することにより該空気をイオン化させて正イオンと,負イオン及び/又は電子とを生成し,この生成された正イオンにより負電荷を,負イオン及び/又は電子により正電荷を中和する帯電物体の中和方法 」。 である点で一致する。 〈相違点A〉X線ユニット(X線管)について,本件特許発明が透過型としているのに対して引用発明は透過型でない点。 〈相違点B〉X線について,本件特許発明は,ターゲット電圧6kV以上かつターゲット電流を60μA以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線であるのに対して,引用発明はX線管 29 からのX線であって,15keVのエネルギーを有するX線である点。 〈相違点C〉本件特許発明は,X線を空気に直接照射するものであるのに対して引用発明は直接照射するのか否か明確でない点。 〈相違点D〉本件特許発明は「搬送系における帯電物体としての液晶基板の周辺の雰囲気空気に 「照射することにより,該雰囲気空気をイオン化」する 」ものであるのに対して,引用発明はそうでない点。 (4) 審決の取消事由しかしながら,審決には以下のとおりの誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。 ア 取消事由1(引用発明認定の誤り)(ア) 流体送達配管に係る認定審決は,引用発明では電離室ハウジング18(X線照射によるイオン)( ) 生成の領域 と分離箱12 除電対象物である帯電物体が置かれる領域との間にイオン化ガスを送るための流体送達配管28が設けられるものの,引用刊行物1(甲1)にはこの流体送達配管28を用いなくてもよい旨の示唆があるとする(審決27頁4行〜9行 。)しかし,引用発明においては,電離室ハウジング18と分離箱12との間にイオン化ガスを送る為の流体送達配管28が設けられることが必須である。すなわち,引用刊行物1(甲1)の請求項1は 「所定の領 ,域でイオン化されたガス環境を与える方法において,囲まれた流路に沿って前記領域へ加圧されたガスの流れを導くこと,前記所定の領域から隔離された位置で前記囲まれた流路の所定の部分へ電離放射線を導くことにより前記ガスの流れをイオン化すること,前記流路の前記所定の部分の外へ伝播する放射線の漏洩を抑制すること,及び前記所定の領域で前記囲まれた流路から前記イオン化されたガスの流れを放出すること,。」。 の工程を含むことを特徴とするガスイオン化方法というものであるそして,上記請求項1に「前記所定の領域から隔離された位置で前記囲まれた流路の所定の部分へ電離放射線を導く」とあるとおり,引用刊行() ,「 」 物1 甲1 から把握される引用発明は囲まれた流路の所定の部分(引用刊行物1〔甲1〕の図1及び図2等に示された実施例の要素に対応させると「電離室ハウジング18 )が「所定の領域 (同「分離箱1 」」」) ,, 2から隔離されていることが必須であり その隔離をするためにはイオン化されたガスを「分離箱12」へ送る「流体送達配管28」が設けられることが必須の要件とされている。 しかも,引用発明においては,除電対象物の周辺の雰囲気空気にX線を直接照射することが明示的に排除されている。すなわち,引用刊行物1(甲1)には,ガスをイオン化する手段がコロナ放電およびX線照射のいずれである場合であっても,ガスのイオンを発生する位置が除電対象物に近いときには,該対象物への静電荷の付与を起こし得るという問題点がある,との認識が示されており(5頁左上欄3行〜8行,5頁左上欄16行〜右上欄1行 ,引用発明はこの問題点を回避するため,イ )オン化されたガスの流れを囲まれた流路に沿って使用点へ伝達すること,すなわち,電離室ハウジング18を分離箱12から隔離した上で当該隔離のために流体送達配管28を設けることを必須の要件とし(6頁右上欄2行〜5行 ,このような必須の要件を備えることによって初め )て前述の問題点を回避することができるとしているのである。 さらに,引用刊行物1(甲1)は,引用発明がイオン化されたガスを流体送達配管28により分離箱12へ送ること,すなわち流体送達配管を使用することを,従来のコロナ放電による除電に対する最大の相違点としている(8頁左下欄9行〜14行 。)したがって,審決の「引用発明は,…帯電物体の周辺の雰囲気空気に照射してイオン化することができないというものではない (審決27 」頁4行〜9行)との認定は,引用刊行物1(甲1)から把握し得ないどころか,引用刊行物1(甲1)の記載内容に反していることが明らかである。 なお,引用刊行物1(甲1)には 「配管中の湾曲が可能な量に回避 ,された場合「配管を通る流路の直径の変化が可能な限り回避された場 」,」「 」, 合 及び 一定のキー助変数が適当に相互に関係付けられた場合 にはイオン化されたガスを流体送達配管により送る場合であってもイオンの中和が低減される旨の記載があり(8頁左上欄16行〜右上欄2行,同頁左下欄18行〜右下欄2行 ,ある条件では流体送達配管の使用が欠 )点にならない旨の記載があると解し得るが,その条件とは,流体送達配管の長さ,内径,湾曲の程度及び内径の変化の程度並びにガス流量に関するものであるから(8頁右下欄12行〜9頁左上欄3行 ,これらす )べては流体送達配管の使用を前提とするものである。したがって,上記記載は流体送達配管を使用しなくてもよい旨を示唆するものではない。 (イ) 低エネルギー(長波長)のX線の利用に係る認定審決は,引用発明が「15keVのエネルギーを有すX線 (すなわ 」ち,波長0.827ÅのX線)を利用するものであるとしつつ,引用刊行物1(甲1)には,これより低エネルギー(長波長)のX線を利用す,「 , ることの示唆があるとして…X線の波長をより長く設定することは当業者が格別の困難性を要することなくなし得ることである。… (審」決21頁下3行〜下1行)とする。 しかし,引用発明は 「遮蔽する必要を最小化」及び「薄い膜31を ,貫通することが可能」の双方の考慮が必要であるとの認識の下に 「遮,蔽する必要を最小化」を考慮したとき最低値として「15keVのエネルギーを有すX線」を決定しており,この「15keVのエネルギーを有すX線」を利用する場合であっても 「プラスチック,アルミニュー ,ム又はベリリウム製の薄い膜31」のようにX線透過率が最も高い材料からなる窓を用いるならば「薄い膜31を貫通することが可能」としているのであるから,15keVより低いエネルギー(0.827Åより長い波長)のX線を利用することは想定され得ない。 また,引用刊行物1(甲1)には,X線透過率が高い窓の材料の例として,プラスチック,アルミニューム又はベリリウム製の薄い膜31が例示されているが(7頁右上欄6行〜7行 ,これらよりX線透過率が )高い窓の材料は存在しないのであって,審決のいうような,より貫通しやすい薄い窓を採用すること(審決21頁下3行)も想定され得ない。 したがって,審決の前記認定は,引用刊行物1(甲1)から把握し得ないどころか,引用刊行物1(甲1)の記載内容に反していることが明らかである。 (ウ) 除電効率への影響に係る認定審決は,引用発明においてはX線波長,ターゲット電圧及びターゲット電流は除電効率に全く影響を与えないものではないとする(審決29頁20行〜31行 。)しかし,引用刊行物1(甲1)には,流体送達配管による気体の流れに関する因子(流体送達配管の内径及び長さ並びにガス流量)が除電効率に影響を与えることが記載されている一方,ターゲット電圧及びターゲット電流のいずれも除電効率に影響を与えないことが明言されており,さらに,ターゲット電圧との間に一定の関係があるX線波長が除電効率に影響を与えないことも明言されている(8頁右下欄12行〜17行,9頁左上欄10行〜右上欄7行。なお,9頁右上欄13行〜左下欄7行には,9頁左上欄10行〜右上欄7行に記載されている「放電時間モデル」の正確度が実験により確証され 「放電時間モデル」が実験結 ,果とよく一致したこと,つまり,X線波長,ターゲット電圧及びターゲット電流のいずれも除電効率に影響を与えないことが実験により確かめられた旨が記載されている 。。)この点,審決は,X線波長,ターゲット電圧及びターゲット電流の各パラメータを適宜設定して最適な値を求めるべく実験等を行うことは当業者が通常行うことであるとするが(審決23頁8行〜9行,下5行〜下4行,29頁下6行〜下3行 ,引用刊行物1(甲1)は 「内部室の ) ,大きさ及びX線管29のフィラメント電流と陽極電圧とを含むその他の試験された変数」について試験した結果,これらの変数が「非常に少し」( )。 しか動作に影響しなかった としている 8頁右下欄14行〜17行すなわち,審決のいう「当業者にとって自明の事項」に反する結果が得られたとしているのである。 なお,引用刊行物1(甲1)の「…我々は,このシステムの一定のキー助変数が適当に相互に関係付けられた場合には,イオンの充分高い濃度が数フィート以上の距離に対して制限されたガスの流れの中に維持され得ることを見出した(8頁左下欄下3行〜右下欄2行)との記載に 。」よれば,引用発明において流体送達配管28を経て分離箱12まで送られるイオンの量は,電離室ハウジング18におけるX線照射によるイオン発生の量と相関があると解すべきである。そうすると,仮に,審決のいうとおり「X線管の出力がターゲット電流と相関があり,より大きな出力がより多くのイオンを発生することは,当業者にとって自明の事項である (審決29頁下6行〜下5行)というのであれば,電離室ハウ 」ジング18におけるX線照射によるイオン発生の量のみならず,流体送達配管28を経て分離箱12まで送られるイオンの量もターゲット電流と相関があると考えるべきことになり,したがって,ターゲット電流の増加に応じて除電時間が短縮されると考えるべきところである。それにもかかわらず,上記のとおり,引用刊行物1(甲1)においては,内部室の大きさ及びX線管29のフィラメント電流と陽極電圧とを含むその他の試験された変数は非常に少ししか動作に影響しなかったとされているのである。また審決は,引用刊行物1(甲1)の上記記載に関し,流体送達配管28に係る変数の影響が大きいことをいうものであるとも解しているが(審決30頁2行〜4行 ,このような解釈は,当業者にと )って自明の事項に矛盾しているだけでなく,引用刊行物1(甲1)の記載内容を無視したものであり,根拠がない。 このように,審決は,X線波長等と除電効率との間の関係について誤った判断をしたものである。 イ 取消事由2(進歩性判断の誤り)(ア) 相違点C及びDに関する判断の誤り,() ,, a審決は 引用刊行物2〜4 甲2〜4 を 帯電物体の周辺雰囲気つまり帯電物体を含めてその周辺の雰囲気に電離のためのX線,放射線,紫外線等の電離線を照射し,帯電物体の周辺の雰囲気をイオン化し除電するものの周知例として引用しつつ,当該引用刊行物2〜4に記載の周知の事項に倣って帯電物体の周辺の雰囲気空気にX線を照射することは,当業者にとって容易であるとする(審決31頁4行〜9行 。)しかし,引用刊行物2(甲2)に記載された発明は,好ましくは300keV未満のエネルギーを有する電子によって生成されたX線を,可燃性流体を容れたコンテナの内部に放射し,このコンテナ内にイオンを生成して,コンテナ内の望ましくない静電場を中和するというものである。ここで 「300keV未満のエネルギーを有する電 ,子によって生成されたX線」とは波長0.041Å以上のX線を意味するから,引用刊行物2に記載されたX線波長の下限値0.041Åは,一般的なX線波長帯域の下限値0.1Åを下回っており,使用X線波長の好適範囲の下限値を特定するものではないし,引用刊行物2, 。 においては 使用X線波長の上限値についても何ら特定されていないしかも,引用刊行物2(甲2)におけるX線源10に含まれるターゲット28は平板状ではなくドーム形状をしており,X線源10の内部空間を真空に維持するための真空容器の一部を構成するとともに,発生したX線を外部へ出力するための窓をも兼ねている。このようなターゲット・窓材は軟X線が吸収されない程度にその厚さを薄くする(例えば1000Å〜数千Å)必要があるが,このような厚さでターゲット28の材料(例えばタングステン)を真空気密を保つようにドーム形状に加工することは困難であることからすると,このX線源は軟X線を利用することを想定していないというべきである。また,軟X線を外部へ出力するには,例えば薄いベリリウム等からなる窓が用いられるが,引用刊行物2(甲2)に記載された発明ではターゲット28が窓を兼ねていることから,これとは別にベリリウム等からなる窓を備えることはないし,軟X線を透過させ,かつ,ターゲット28の独特の形状に合わせてベリリウム等を加工することは困難である。 仮に軟X線を利用するのであれば,ターゲット28が独特の形状を有するにもかかわらず軟X線を出力し得るよう何らかの工夫がされるべ,() 。 きであるが 引用刊行物2 甲2 にそのような記載は見当たらないこのような構造を考えると,引用刊行物2(甲2)においては軟X線の利用について何ら考慮されていないだけでなく,むしろ軟X線の利用が困難であり,引用刊行物2(甲2)におけるX線源10は,軟X線を出力するには不適切なものであるから,軟X線を利用するものではないというべきである(なお,引用刊行物2(甲2)に記載された発明が利用するX線が硬X線であることは,審決も認めている。審決26頁36行〜37行 。)また,引用刊行物3(甲3)に記載された発明は,原子炉で発生させた中性子をβ線標識物等に当ててβ線を発生させ,このβ線を帯電物体の周辺の雰囲気空気に照射することで,その雰囲気空気をイオン化して除電対象物を除電するものである。 さらに,引用刊行物4(甲4)に記載された発明は,紫外線を除電対象物の周辺の雰囲気空気に照射することで,その雰囲気空気をイオン化して除電対象物を除電するものである。 このように,引用刊行物2〜4(甲2〜4)に記載された発明は,硬X線,β線又は紫外線を帯電物体の周辺の雰囲気空気に照射するものであるのに対し,引用発明は,前記アのとおり,電離室ハウジング18と分離箱12との間にイオン化ガスを送るための流体送達配管28が設けられることが必須であり,しかも,除電対象物である帯電物体の周辺の雰囲気空気にX線を直接照射することを明示的に排除している。 したがって,引用発明とは全く相容れない引用刊行物2〜4(甲2〜4)に記載された技術を引用発明に適用することはできない。 bまた審決は,引用刊行物2(甲2)に記載された硬X線によるイオン化技術が周知の事項であるとする(審決31頁4行〜7行 。)しかし,引用刊行物2(甲2)は昭和50年に頒布されたものであって,非常に古い刊行物であるにもかかわらず,硬X線によるイオン化技術は未だ実用化されておらず,これについて記載した刊行物は他に見当たらない。 したがって,硬X線によるイオン化技術を周知の事項であるとした審決は,この点でも誤っている。 (イ) 相違点Bに関する判断の誤り前記アのとおり,引用刊行物1(甲1)は,遮蔽の必要を最小化するためにX線の最低エネルギーとして15keV(すなわち,最長波長として0.827Å を挙げているのであって これより低エネルギー 長 ),() 。,() 波長 のX線を利用することの示唆はない また 引用刊行物1 甲1には,X線波長,ターゲット電圧及びターゲット電流のいずれも除電効率に全く影響を与えないことが明確に記載されている。 また,前記(ア)のとおり,引用刊行物2(甲2)は,好ましくは300keV未満のエネルギーを有する電子によって生成されたX線,すなわち,一般的なX線波長帯域の下限値0.1Åより更に短い0.041Åを下限値とするX線を利用する旨の記載があるのみで,X線波長,ターゲット電圧及びターゲット電流のいずれについても好適範囲が示されて。() , いない 引用刊行物2 甲2 に示されたX線源10の構造を考えると軟X線の利用について何ら考慮されていないだけでなく,むしろ,軟X線の利用が困難である。 さらに,引用刊行物3〜7(甲3〜7)等にも,X線を利用する除電技術について何ら記載も示唆もない。 以上のように,本件特許発明の特徴である「ターゲット電圧6kV以上かつターゲット電流60μA以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を照射する点」については,いずれの刊行物からも当業者が容易に想到することができるものではない。 (ウ) 本件特許発明の効果についての判断の誤りa発明特定事項を分断して判断した誤り審決における本件特許発明の効果についての判断は,本件特許発明の各発明特定事項について個々別々に論じられたものであって,発明特定事項が組み合わされた本件特許発明の技術的思想についてなされたものはなく,誤りである。 すなわち,本件特許発明と引用発明とを対比すると,本件特許発明は以下のような特徴点a〜c(特徴点a,bが審決の認定した相違点A,Bに相当し,特徴点cが同相違点C及びDに相当する)を有するものである。 ・特徴点a:透過型のX線ユニットを用いる点・特徴点b:ターゲット電圧6kV以上かつターゲット電流60μA以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を照射する点・特徴点c:その軟X線を,搬送系における帯電物体としての液晶基板の周辺の雰囲気空気に直接照射する点ところで,搬送系における液晶基板は,生産性の向上が要求されるとともに,大面積化が進んでいることもあって,広い範囲にわたって効率よく短時間に帯電を中和することが望まれる。そこで,本件特許発明では,ターゲット電圧6kV以上かつターゲット電流60μA以(), 上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を用い 特徴点bその軟X線を搬送系における液晶基板の周辺の雰囲気空気に直接照射すること(特徴点c)で,雰囲気空気を効率的にイオン化して,液晶基板を効率的に除電することができる。 加えて 本件特許発明では 透過型のX線ユニットを用いること 特 ,, (徴点a)により,照射範囲を広くすることができるとともに,ターゲットで発生した軟X線を外部へ効率的に出力することができるので,この点でも,雰囲気空気を効率的にイオン化して,液晶基板を効率的に除電することができる。すなわち,反射型のX線ユニットではターゲットから全方位に向けて発生したX線のうち窓を通過したもののみが外部へ出力されるのに対して,透過型のX線ユニットでは,ターゲットで発生したX線は該ターゲットを通過して外部へ出力されるので,X線の出力時の拡がり角が大きく照射範囲を広くすることができるともに,ターゲットで発生したX線に対して外部へ出力されるX線の割合が大きい このように 透過型のX線ユニットを用いること 特 。, (徴点a)でも,雰囲気空気を効率的にイオン化して,液晶基板を効率的に除電することができる。 また,本件特許発明では,透過型のX線ユニット(特徴点a)は反射型のX線ユニットと比較して小型化が可能であるので,配置スペースが限られる搬送系における液晶基板の周辺の雰囲気空気にX線を照射する場合(特徴点c)においても,X線ユニットの配置の自由度が高い。 さらに,本件特許発明では,ターゲット電圧6kV以上かつターゲット電流60μA以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を用いること(特徴点b)により,硬X線を用いる場合と比較して,X線ユニットから比較的短い距離の範囲において該軟X線が高い割合で雰囲気空気に吸収されて,その範囲において高密度のイオンを生成することができる。その場合,一般的に,X線ユニットから出力される軟X線が大きく拡がる前に該軟X線が吸収されるので,軟X線照射によりイオンが生成される範囲(軟X線照射方向に対して垂直な方向の範囲)が限られることになるが,本件特許発明では,X線の出力時の拡がり角が大きい透過型のX線ユニットを用いること(特徴点a)により,反射型のX線ユニットを用いる場合と比較して,軟X線照射によりイオンが生成される範囲(軟X線照射方向に対して垂直な方向の範囲)を広くすることができる。そのため,X線ユニットの必要数を少なくすることができ,搬送系における液晶基板の周辺の雰囲気空気に軟X線を直接照射すること(特徴点c)で液晶基板を除電する際に,低コスト化を図ることができる。 以上のように,本件特許発明では,透過型のX線ユニット(特徴点a)によりターゲット電圧6kV以上かつターゲット電流60μA以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線(特徴点b)を,搬送系における帯電物体としての液晶基板の周辺の雰囲気空気に直接照射すること(特徴点c)により,搬送系における液晶基板の広いエリアの除電を高効率かつ低コストで行うことができる。すなわち,本件特許発明では,特徴点a〜cが相俟って,搬送系における液晶基板を高効率かつ低コストで除電することができるのである。 本件訂正発明の効果は,これらだけではなく,硬X線照射の場合と比較して除電性能が高いこと,硬X線照射の場合と比較して遮蔽対策が容易であること,オゾンの発生が抑制されること,イオン化したガスを配管等で搬送する場合と比較して除電性能が100〜1000倍高いこと,搬送系における液晶基板の広いエリアの除電を高効率かつ低コストで行うことができることも挙げられる。 b引用刊行物から予測し得ない効果(a)引用発明は空気の流れを作ることが必須であるとされているところ,その場合には,粉塵を巻き上げて除電対象物を汚染したり,除電対象物において逆に静電気を発生させたりすることがあり得る。 また,引用刊行物5(甲5)には 「除電バー47」を用いて液 ,晶基板を除電することが記載されている。引用刊行物6(甲6)には 「除電器17」を用いて液晶基板を除電することが記載されて ,いる。また,引用刊行物7(甲7)には 「イオン発生器3」を用 ,いてICパッケージを除電することが記載されている。これらの引用刊行物5〜7に記載された各発明で用いられている「除電バー47「除電器17「イオン発生器3」のいずれも,コロナ放電で 」,」,イオン化した空気を吹き付けて除電対象物を除電するものであり,引用発明と同様に,粉塵を巻き上げて除電対象物を汚染したり,除電対象物において逆に静電気を発生させたりすることもあり得る。 これに対し,本件特許発明では,クリーンルーム内で空気の流れを作らなくてもよいので,帯電物体としての液晶基板の汚染を回避することができ,また,効率的な除電が可能となるなど,液晶基板の製造工程において最適な除電をすることができる。 (b)引用刊行物2(甲2)に記載された発明は,前記のとおり,軟X線の利用について何ら考慮されていないだけでなく,むしろ,軟X線を利用することはあり得ず,硬X線の中でも短波長のX線を利用するに止まる。 この点,審決は 「…引用刊行物2と4は軟X線に上下に近接す ,。」( ) る波長の硬X線及び紫外線でもある審決26頁下3行〜下2行とするが,引用刊行物2(甲2)に記載された発明で利用する短波長の硬X線は,本件特許発明で利用する1Å以上2Å未満の波長の軟X線に近接するとは決していうことはできない 引用刊行物2 甲 。(2)に記載された発明は短波長の硬X線を利用するので除電効率が悪いのに対し,本件特許発明は,1Å以上2Å未満の波長の軟X線を利用するので,効率的な除電が可能となるのである。 (c)引用刊行物3(甲3)には,原子炉で発生させた中性子をβ線標識物に当ててβ線を発生させ,このβ線を用いて除電対象物の周辺の雰囲気空気をイオン化して,除電対象物を除電することが記載されている。 しかし,同記載の発明は,中性子を発生させるための原子炉だけでなく被曝防止のための設備も極めて大掛かりになるので,工業用途には全く非現実的である。 これに対し,本件特許発明では透過型のX線ユニットで発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を利用するので,設備の小型化が可能であり,液晶基板製造等の工業用途に好適である。 (d)引用刊行物4(甲4)には,紫外線を用いて雰囲気空気をイオン化して除電対象物を除電することが記載されている。 ,, , しかし 同記載の発明では 紫外線を用いるのでオゾンが発生し環境が汚染される。 これに対し,本件特許発明では1Å以上2Å未満の波長の軟X線を利用するので,オゾンの発生を伴わずに雰囲気空気をイオン化することが可能で,その結果,短時間で除電することができる。 (e)以上のように,本件特許発明は,特徴点a〜cそれぞれを有することによる効果を奏するだけでなく,特徴点a〜cが相俟って格別の効果を奏することができる。 そして,本件特許発明の効果は,いずれの刊行物の記載内容からも予測し得ない格別のものである。特に,X線波長,ターゲット電圧及びターゲット電流のいずれもが除電効果に影響を与えないとする引用刊行物1(甲1)の記載内容からは,本件特許発明の効果は決して予測し得ない。 c引用発明との比較原告らが,本件特許発明の如く除電対象物の周辺の雰囲気空気に軟X線を直接照射する場合(以下「直射の場合」という )と,引用発 。 明のように他の地点でX線によりイオン化した空気を除電対象物の周辺へ送風する場合(以下「送風の場合」という )のそれぞれについ 。 て,除電に要する時間につきシミュレーション計算をしたところ,直射の場合に除電に要する時間は1秒程度であるのに対して,送風の場合に除電に要する時間は250秒(又は数十分〜数時間時間)にも及び,両者の間には除電性能に関して非常に大きな差異が存在することが判明した。 一方,液晶基板の製造工程において除電のために許容される時間はたかだか10秒程度である。 そうすると,液晶基板の製造工程において,本件特許発明のように除電対象物の周辺の雰囲気空気に軟X線を直接照射する技術は適用可能であるのに対して,引用発明のように他の地点でX線によりイオン化した空気を除電対象物の周辺へ送風する技術は全く適用することができない。 このように,本件特許発明は,引用発明と比較して顕著な効果を有しており,液晶基板の製造工程において数十cm角〜数m角の大きさの液晶基板を除電する唯一の技術であるといえる。 dパイオニア発明性本件特許の出願当時,工業用途に利用されていたのは硬X線であって,軟X線は雰囲気のイオン化や除電等に限らず工業的に利用されておらず,むしろ,硬X線の利用の際に軟X線は邪魔ものとして扱われ。 ,, ていた そのような本件出願当時の技術常識の中で 本件特許発明は波長1Å以上2Å未満の軟X線を利用することで,雰囲気のイオン化や除電を効率的に行うことができ,しかも,硬X線と比べて遮蔽が容易であり安全性の点でも有利であるとして,本発明者により発明されたものである。 そして,近年では,本件特許発明は,液晶パネルの製造工程において必須の技術となっている。仮に,これらの製造工程において本件特許発明を実施しないとすれば,静電破壊により製造歩留まりが極端に低下する。すなわち,本件特許発明は,これらの製造工程において高い製造歩留まりを得るための必須の技術となっていて,商業的成功を成し遂げている(甲9〔稲葉仁「LCD製造における静電気対策静電気対策の基本フローと除電対策」日本工業出版発行・クリーンテク,「」。〕, ノロジー・平成16年4月号26〜32頁 以下 甲9文献 という甲10〔山本稔「液晶製造工程における静電気対策とその管理手法」同7月号13〜19頁,以下「甲10文献」という。。〕)一方,除電対象物の周辺においてガスをイオン化したり,他の地点でイオン化したガスを除電対象物の周辺に導いたりして除電対象物を除電する技術としては,引用刊行物1,2(甲1,2)に記載されているような硬X線を利用する除電技術,引用刊行物3(甲3)に記載されているようなβ線を利用する除電技術,引用刊行物4(甲4)に記載されているような紫外線を利用する除電技術,引用刊行物5〜7(甲5〜7)に記載されているようなコロナ放電を利用する除電技術が知られているが,これら硬X線,β線,紫外線を利用する除電技術は,いずれも液晶パネルの製造工程において実用化されていないし,コロナ放電を利用する除電技術は,液晶パネルの製造工程では限定的にしか採用されていない。 すなわち,硬X線を利用する除電技術については,平成元年ないし昭和50年に頒布された非常に古い引用刊行物1,2(甲1,2)に記載されているだけで,それ以降は刊行物に記載されず,工業用途には全く実用化されていない。その理由は,作業者の安全のための遮蔽対策が大掛かりになるだけでなく,そもそも除電効率が非常に悪いからである。 放射線を利用する除電技術については,昭和39年に頒布された非常に古い引用刊行物3に記載されているだけで,それ以降は刊行物に記載されず,工業用途には全く実用化されていない。その理由は,原子炉を用いて中性子やβ線を利用すること自体が非現実的であるからである。 紫外線を利用する除電技術については,研究成果を記載した刊行物がいくつか存在するものの,工業用途には実用化されていない。その理由はオゾンが発生するからである。 コロナ放電を利用する除電技術は,ある条件下では実用化されているが,液晶パネルの製造工程では限定的にしか採用されていない。その理由は,コロナ放電の際に電極から発生する微粒子が除電対象物を汚染し,イオン極性の偏りによる残留電位や高圧放電による誘導電圧の影響があり,この影響を回避するために除電対象物と電極との間の距離を長くすると除電効率の低下を招き,また,オゾンが発生するからである。コロナ放電を利用する除電技術は,このような障害が問題とならないような工程で限定的に採用されているのみである。 このような本件特許出願当時の状況下において,本件特許発明は,工業的には注目されていなかった軟X線の中でも特に波長1Å以上2Å未満の軟X線を利用することで,雰囲気のイオン化や除電を効率的に行うことができ,しかも,上記の硬X線,β線,紫外線,コロナ放電を利用する除電技術が有する問題点を解決することができるものとして,本発明者により発明されたものである。 以上のように,本件特許発明は,液晶パネルを高歩留りで大量生産するに際して不可欠なものであり,液晶パネルの工業的生産を実現するためのパイオニア発明である。 ウ 取消事由3(引用刊行物1の引用例としての適格性判断の誤り)(ア) 審査基準第?U部第2章「新規性・進歩性」の21頁には 「2.8 進歩 ,性の判断における留意事項」として 「(1) 刊行物中に請求項に係る発明 ,に容易に想到することを妨げるほどの記載があれば,引用発明としての適格性を欠く 」と記載されているところ,審決が主引用例とした引用 。 刊行物1(甲1)には,以下のとおり,本件特許発明に容易に想到することを妨げるほどの記載があるから,引用発明としての適格性を欠く。 a本件特許発明は,特徴点として 「軟X線を,搬送系における帯電 ,物体としての液晶基板の周辺の雰囲気空気に直接照射する点」を有するのに対し,引用刊行物1(甲1)から把握される引用発明は,電離室ハウジング18と分離箱12との間にイオン化ガスを送る為の流体送達配管28が設けられることが必須であり,しかも,除電対象物である帯電物体の周辺の雰囲気空気にX線を直接照射することは明示的に排除されている。 b本件特許発明は,特徴点として 「ターゲット電圧6kV以上かつ ,ターゲット電流60μA以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を照射する点」を有するのに対し,引用刊行物1(甲1)は,遮蔽の必要を最小化するためにX線の最低エネルギーとして15keV(すなわち,最長波長として0.827Å)を挙げているのであっ,() , て これより低エネルギー 長波長 のX線の利用を否定しているし引用刊行物1(甲1)には,X線波長,ターゲット電圧及びターゲット電流のいずれも除電効率に全く影響を与えないことが明確に記載されている。 (イ) 上記審査基準には 「例1: 本願発明が炭酸マグネシウムの分解に伴 ,う二酸化炭素を利用するものであるのに対し,引用発明はその利用を否定するものであるから 対比判断の資料に供し得ない参考:昭 62 行 , 。((ケ)155 」と記載されているところ,以下のとおり,引用発明をもって )しては分離箱12内の除電対象物をほとんど除電することができず,引用発明は未完成ないし工業的に実施不可能なものであるから,この点でも引用刊行物1(甲1)は引用例としての適格性を欠く。 a電離室ハウジング18におけるイオン生成効率が低いこと引用発明は,15keVのエネルギーを有する波長0.827ÅのX線が電離室ハウジング18の内部室19内において4.5インチ 1(1.4cm)の距離を通過するというものであるが,波長0.827ÅのX線は,透過性が極めて高い硬X線に属するものであるから,高さ4.5インチ(11.4cm)の内部室19の内部にある気体をイオン化することはほとんどできない。計算によると,波長0.827Åの硬X線が内部室19を通過する際に内部室19内の厚さ11.4cmの空気で吸収される割合は1.8%程度にすぎない。 また,引用発明においては電離室ハウジング18の内部室19内を気体が流れているので,気体が流れていない場合と比較して気体をイオン化できる割合は更に低いと考えられる。 b流体送達配管28による分離箱12の内部領域へのイオン導入効率が低いこと引用発明は,電離室ハウジング18で生成されたイオンが流体送達配管28を通って分離箱12の内部領域に導入されるものであるが,流体送達配管28を通る間にイオンの多くは中和されるので,電離室ハウジング18で生成されたイオンのうち分離箱12の内部領域に導入されるものの割合は低い。 c分離箱12の内部領域におけるイオン利用効率が低いこと引用発明において,電離室ハウジング18で生成されて流体送達配管28を通って分離箱12の内部領域に導入されたイオンは,除電対象物であるウェーハ14の周辺に局在することはなく,分離箱12の内部領域の全体に均一に存在することになる。 したがって,流体送達配管28を通って分離箱12の内部領域に導入されたイオンのほとんどは,ウェーハ14の除電に寄与することなく中和してしまうと考えられる。 d当業者が発明を実施できる程度に発明が開示されていないこと引用発明は,内部室19の限られた内部空間に存在する気体をイオン化するものであり,引用刊行物1(甲1)には,遮蔽及び効率の双方が考慮された上で,X線エネルギーの最低値として15keVが示され,X線波長については最長波長として0.827Åが示されているが,X線波長の下限値については何ら言及がない。このように,引用発明は波長0.827Å以下の任意の波長のX線を利用するものである。 しかし,限られた空間に存在する気体に対して波長0.827Åより短い任意の波長のX線を照射した場合,気体によるX線の吸収は更に小さくなり,イオン生成効率は更に低くなる。例えば,波長0.1ÅのX線を照射した場合,限られた空間に存在する気体は全くといっていいほどイオン化されず,除電効果は全く得られない。 2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。 3 被告の反論, 。 審決の認定判断は正当であり 原告ら主張の取消事由はいずれも理由がない(1) 取消事由1に対しア 流体送達配管につき(ア)原告らは,引用刊行物1(甲1)の請求項1に「囲まれた流路」が記載され,この「囲まれた流路」は引用刊行物1(甲1)の実施例における流体送達配管28に相当するから,引用発明は流体送達配管28が設けられることが必須の要件になっていると主張する。 しかし,審決は,本件特許発明が特許法29条2項の要件を満たしていないと判断しているのであるから,その判断の基礎となるべき引用発明は,同条1項各号に記載された発明であることはいうまでもない。つ,,() , まり 引用発明とは 引用刊行物1 甲1 に記載された発明であって引用刊行物1(甲1)の請求項に記載された発明ではないから,原告らの上記主張は失当である。 (イ)原告らは,引用刊行物1(甲1)にはイオンを発生する位置が除電対象物に近いときには該対象物への静電荷の付与を起こし得るという問題点があるとの認識が示されており,この問題点を回避するため流体送達配管28が設けられているのであるから,引用発明において流体送達配管28は必須の要件であり,引用発明は,除電対象物の周辺の雰囲気空気にX線を直接照射することを明示的に排除していると主張する。 しかし,このような原告らの主張はそれ自体が矛盾しているといわざるを得ない。原告らが主張するとおり,流体送達配管28が特定の問題点を回避するために設けられているのであれば,当該問題点によって除電効果が完全に失われてしまうというような特段の事情でもない限り,上記問題点を回避しない場合には流体送達配管28も必要ないということになり,流体送達配管28は技術的に必須のものではないという結論に帰着する。 (ウ)原告らは,引用発明は,従来のコロナ放電による除電に対して,イオン化されたガスを流体送達配管28により「使用される点(分離箱12 」へ送ること,すなわち流体送達配管を使用することを最大の相違 )点としていると主張する。 しかし,流体送達配管28を使用することが引用発明と従来装置との相違点であるとしても,それが最大の相違点であるという記載は引用刊行物1(甲1)にはない。また,仮に最大の相違点であったとしても,そのことは単に,引用発明をその従来技術と比較したならば流体送達配管28の有無が最も特徴的である,というだけのことであり,このような比較結果をもって引用刊行物1(甲1)において流体送達配管28が技術的に欠くことができない性質のものとして記載されているということはできない。 (エ)特許を受けることができる発明を特定する際,従来技術との対比によってある構成を「必須」であると判断することと,いわゆる公知文献に記載された発明を特定する際,ある構成を当該発明において技術的に欠くことができない「必須」のものであると判断することとは,全く次元の違う判断である。しかるに,原告らの上記主張は,いずれもこれらを混同して行われたものであり,それ自体が失当である。 イ 低エネルギー(長波長)のX線の利用につき原告らは,引用刊行物1(甲1)ではX線の最低エネルギーとして15(.) , keV 最長の波長として0 827Å を利用することが示されておりこれより低いエネルギー(長波長)のX線を利用することの示唆はないと主張する。 しかし,審決に示されているとおり,引用刊行物1(甲1)には,遮蔽する必要を最小化するためにX線のエネルギーは低くしようとすることを示唆しており,同時に薄い窓31を貫通することが可能な例として0.827Åの波長のX線が示されているというべきである。 引用刊行物1(甲1)には 「本発明の好適な形では,遮蔽する必要を ,最小化するために比較的低エネルギーのX線を与えるように選択され調節。 ,,, される 15keVのエネルギーを有するX線は 例えば プラスチックアルミニューム又はベリリウム製の薄い窓31を貫通することが可能であり,従って内部室19内で窒素を能率的にイオン化する (7頁右上欄3 」行〜9行)と記載されている。この記載からは,(i)遮蔽の必要性を考慮すればX線のエネルギーは低い方が望ましいことと,(ii)15keVのエネルギーを有するX線は,プラスチック,アルミニューム又はベリリウム製の薄い窓31を貫通することが可能であることを読み取ることができる。 これに対し原告らは 「遮蔽する必要を最小化する」という文言を,薄 ,い窓を貫通することができるX線のエネルギーとして例示されている「1」,()( . 5keV と強引に結びつけ 引用刊行物1 甲1 には15keV 0827Å)がX線エネルギーの最小値(波長の最大値)として示されていると主張するが,このような主張は上記記載を曲解するものである。 また原告らは,プラスチック,アルミニューム又はベリリウム製の薄い窓31がX線透過率の最も高い材料からなる窓であるとし,引用発明ではこのような窓を貫通することができるX線のエネルギーの最低値として15keVが採用されたのであるから,引用発明では15keVよりも低いエネルギー(0.827Åより長い波長)のX線を利用することは想定され得ない旨主張する。 しかし,審決が指摘するとおり,薄い窓31の材料としては,各種の材質が知られており,材質や厚み等によりこれを貫通する際の吸収も大きく異なることも当業者にとって周知の事項である。 したがって,薄い窓31の材質や厚さを特定することなくX線のエネルギーの最低値を示すことに何の意味もないことは,当業者であれば直ちに分かることであり,引用刊行物1(甲1)に記載された15keVがX線のエネルギーの最低値を示したものでないことは明らかである。 ウ 除電効率への影響につき原告らは,引用刊行物1(甲1)では,X線波長,ターゲット電圧及びターゲット電流のいずれも除電効果に全く影響を与えないことが明確に記載されており,X線管のターゲット電圧及びターゲット電流は必要なイオン出力に応じて当業者が適宜設定し得る設計事項であるとした審決の判断はこれと矛盾するものであると主張する。 しかし,審決は,フィラメント電流と陽極電圧は非常に少ししか動作に影響しなかったとするものの,全く影響がないというものではないとし,X線管の出力がターゲット電流と相関があり,より大きな出力がより多くのイオンを発生することは,当業者にとって自明の事項であるから,たとえ少ししか影響しないとしても,その値を決めるに当たって最適な値を求めるべく,実験等を行うことは当業者が通常行うことといえると判断しているのであって,むしろ当業者を基準とし,引用刊行物1(甲1)の記載に基づいて,容易に想到し得る発明の範囲を正しく認定しているというべきである。 , () さらに付け加えれば 特許法29条2項に基づいて引用刊行物1 甲1に記載された発明から本件特許発明に容易に想到し得たか否かを判断する場合,その判断基準となる当業者は,当然のことながら,上記技術常識を有する者である。したがって,仮に引用刊行物1(甲1)に上記技術常識とは異なる記載があったとしても,そのことによって直ちに上記技術常識を参酌して本件特許発明の容易想到性を判断することが妨げられるということはできない。しかも,本件特許発明の場合,必要なイオン出力に応じてターゲット電圧及びターゲット電流を決定しているだけであるから,正に技術常識どおりに設計変更を加えたものにすぎない。このような本件特許発明について容易想到性を判断するに当たって,上記技術常識と異なる記載が引用刊行物1(甲1)に存在していることのみをもって容易想到であると判断することの妨げになるとすれば,もはや当業者を判断基準にしていないのと等しいというべきである。 したがって,仮に原告らが主張するとおり引用刊行物1(甲1)において波長,ターゲット電圧及びターゲット電流が除電効果に影響を与えないことが記載されていたとしても,本件特許発明のように,必要とするX線照射の効果に応じて「ターゲット電圧6keV以上かつターゲット電流を60μA以上」とする程度のことは,当業者が普通に行っている設計事項であるというべきである。 (2) 取消事由2に対しア 相違点C及びDに関する判断について, , 原告らは 引用発明は流体送達配管28が設けられることが必須でありしかも,除電対象物である帯電物体の周辺の雰囲気空気を直接照射することを明示的に排除しているから,引用発明とは全く相容れない引用刊行物2〜4に記載された技術を引用発明に適用することはできないと主張する。 しかし,引用発明において流体送達配管28が技術的に欠くことのできない性質のものではないことは前記(1)のとおりである。また,審決が指摘するとおり,引用刊行物2〜4には,帯電物体の周辺雰囲気,つまり帯電物体を含めてその周辺の雰囲気に電離のためのX線,放射線,紫外線等の電離線を照射し,帯電物体の周辺の雰囲気をイオン化し除電するものが示されているのであるから,引用刊行物2〜4に記載された発明は,いずれも電離線を用いる除電装置であるという点で,本願特許発明及び引用発明と技術分野を共通にするものである。 したがって,引用刊行物2〜4に記載の周知の事項に倣って,帯電物体の周辺の雰囲気空気にX線を照射することが当業者にとって容易であるとすることに不都合はないとの審決の判断に誤りはない。 イ 相違点Bに関する判断について(ア) 1Å以上2Å未満の波長原告らは,引用刊行物1(甲1)ではX線波長,ターゲット電圧及びターゲット電流のいずれも除電効率に全く影響を与えないことが明確に記載されているとか,X線の最低エネルギーとして15keVを挙げているからこれより低エネルギー(長い波長)のX線を利用することを示唆していない旨主張するが,この点が採用できないことは前記(1)のとおりである。 また,原告らは,引用刊行物2では,好ましくは300keV未満のエネルギーを有するX線(0.041Åを越えるX線)を利用する旨の記載があるのみで,X線波長について好適な範囲が示されておらず,むしろ軟X線の利用が困難であると主張する。しかし,審決は,遮蔽する必要を最小化するためにX線のエネルギーは低くしようとすることを示唆しており,同時に薄い窓31を貫通することが可能な例として0.827Åの波長のX線が示されているといえるのであるから,上記示唆に基づいてより遮蔽を容易にするために,例示のX線のエネルギーはより低く,つまり0.827Åの波長をより長いX線を用いようと考えることに困難性は認められないとし,また,薄い窓31の具体的構成やイオン化の能率等の各種の条件を考慮・変更しつつ,より貫通しやすい薄い窓を採用する等して,X線の波長をより長く設定することは,当業者が格別の困難性を要することなくなし得ることであり,そのようにより長, , い波長を選択しようとするに際し 上記例示の長波長側の近傍に着目し1Å以上2Å未満の波長を選択することは当業者にとって適宜なし得る,, 設計的事項であるといえると判断しているのであって 原告らの主張は引用発明において波長1〜2ÅのX線を採用することの困難性について審決が行った判断と無関係のものであり,失当である。 (イ) ターゲット電圧6kV以上電子のエネルギーE(keV)とは,1つの電子がターゲット電圧E(kV)から得るエネルギーとして定義され,この電子がターゲットに衝突して発生するX線スペクトルの最短波長λ(Å)との間にはλ・E=12.4という周知の関係が成立している。 これを踏まえて,審決は,ターゲット電圧6kVという値は,最短波長2.067ÅのX線に対応するものであるから,1Å以上2Å未満の波長のX線を得るには,そもそもターゲット電圧6kVを超えなければならないのであって,そのようなターゲット電圧とすることは容易であるとする。 要するに,ターゲット電圧6kV以上という限定は,波長1Å以上2Å未満という条件を満たすX線を完全に包含する不要限定である。このため,本件では1Å以上2Å未満という波長範囲の容易想到性について, 。 検討すれば ターゲット電圧について容易想到性を検討する必要はない(ウ) ターゲット電流60μA原告らは,引用刊行物2ではターゲット電流について好適な範囲が示されていないと指摘する。 しかし,審決は,X線管の出力がターゲット電流と相関があることは当業者に自明である,当業者が求める出力や除電時間に応じて出力を設定することは当業者が普通になす設計事項であるとし,60μAという値を装置や要求に応じて設定することは当業者が適宜設定することといえる,そして,それより短くなるように60μA以上とすることも設計事項であると判断しているのであって,原告らの主張は,引用発明においてターゲット電流60μA以上を採用することの困難性について審決が行った判断と無関係のものであり,失当である。 ウ 本件特許発明の効果について(ア) 発明特定事項を分断して判断した点につき原告らは,透過型のX線ユニット(特徴点a)は,反射型のX線ユニットと比較して,小型化が可能であるので,配置スペースが限られる搬送系における液晶基板の周辺の雰囲気空気にX線を照射する場合(特徴点c)においても,X線ユニットの配置の自由度が高いとか,軟X線を用いること(特徴点b)により,硬X線を用いる場合と比較して高濃度のイオンを生成することができ,X線ユニットの出力時の拡がり角が大きい透過型のX線ユニットを用いること(特徴点a)により,反射型のX線ユニットを用いる場合と比較して,軟X線によりイオンが生成される範囲を広くすることができ,搬送系における液晶基板の周辺の雰囲気空気に軟X線を直接照射すること(特徴点c)で液晶基板を除電する際に,低コスト化を図ることができると主張する。 しかし,審決が摘示するとおり,透過型のX線ユニットは周知のものであるから,引用発明のX線ユニットとして透過型のものを用いることは当業者が適宜なし得る選択的事項といえ,その効果についても,その構成に付随するものであって,格別であるとはいえない。 また,照射範囲を広くすることができることや,ターゲットで発生した軟X線を外部へ効率的に出力することができ,小型化可能である等の効果は,透過型のX線ユニットを用いたことに付随する効果にすぎず,雰囲気空気を効率的にイオン化して,液晶基板を効率的に除電することができ,配置スペースが限られる液晶基板の搬送系においてもX線ユニットの配置の自由度が高い等の効果についても上記透過型のX線ユニットを用いたことに付随する効果に関連して,当業者が容易に予測できたことといえる。照射範囲を広くすることができるのであるから,イオンが生成される範囲を広くでき,X線ユニットの必要数を少なくでき,低コスト化を図ることの効果についても同様である。硬X線を用いる場合に比較して,比較的短い距離の範囲において高密度のイオンを生成することができ,イオンが生成される範囲が限られることについても,当該効果は明細書に記載されるものではなく,かつ,軟X線は吸収されやすいことから,当業者が普通に想到し得る効果であるともいえる。 要するに,各特徴点a〜cによってそれぞれ生ずる効果は当業者が容易に予測できるものであり,さらに,これらの効果の組み合わせについても当業者が容易に予測できる程度のものにすぎない。 (イ) 引用刊行物から予測し得ない効果につき原告らは,本件特許発明では空気の流れを作らなくてもよいので,帯電物体としての液晶基板の汚染を回避することができ,また,効率的な除電が可能となると主張する。しかし,審決が摘示するとおり,本件特許の請求項2の「前記雰囲気空気」は請求項1の「帯電物体の周辺の雰囲気空気」を指すものであるから,ここでいう「周辺」とは 「帯電物 ,, 」 体方向に向かう気流空気であり 該帯電物体よりも上流側における空気を含む範囲であるといえるのであるから,空気の流れを作る必要がないことについては本願特許発明の効果とはいえず,かつ,当業者が容易に想到し得ることでもあるというべきである。 また原告らは,引用刊行物2に記載された発明は短波長の硬X線を利用するので除電効率が悪いのに対して,本件特許発明は1Å以上2Å未満の波長の軟X線を利用するので効率的な除電が可能となると主張するが,前記イのとおり,原告らの主張は,引用発明において波長1〜2ÅのX線を採用することの困難性について審決が行った判断と無関係のものであり,失当である。 また原告らは,引用刊行物3に記載された発明は中性子を発生させるための原子炉だけでなく被爆防止のための設備も大掛かりになるのに対し,本件特許発明では透過型のX線ユニットで発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を利用するので設備の小型化が可能であり,液晶製造等の工業用途に好適であると主張する。しかし,審決が指摘するとおり,引用刊行物3は放射性物質を用いることが示されていて,原子炉を必須とするとはいえない。また,審決は,帯電物体の周辺の雰囲気空気に電離線を照射し,帯電物体の周辺の雰囲気をイオン化し除電することが従来周知の技術であることを示し,引用発明において,このような周知の技術を適用することは当業者が容易になし得たことであると判断しているのであるから,このような原告らの主張は,審決が行った判断と無関係のものであり,失当である。 また原告らは,引用刊行物4に記載された発明では紫外線を用いるのでオゾンが発生し,環境が汚染されるのに対し,本件特許発明では1Å以上2Å未満の波長の軟X線を利用するのでオゾンの発生を伴わずに雰囲気空気をイオン化することが可能で,その結果,短時間で除電することができると主張するが,このような原告らの主張は,審決が行った判断と無関係のものであり,失当である。 (ウ) 引用発明との比較につき原告らは,本件特許発明による場合(直射の場合)と引用発明(送風による場合)についてシミュレーションを行った結果を示し,両者の間には除電性能に関して非常に大きな差異が存在すると主張する。 一般に,シミュレーションの結果は,採用するアルゴリズムや各種パラメータのチューニングによって全く異なるものになることはよく知られている。このため,対象とするモデルや条件に応じて適切なアルゴリズムを選択し,パラメータを適切に決定した上で計算を行わなければ,信頼するに足る計算結果を得ることはできない。 ところが,原告らは,自らが行ったシミュレーションにおいてどのような計算方法を用いたのかを公開せず,ブラックボックスから出てきた結果だけを示している。したがって,このシミュレーション結果がどの程度信頼できるものであるのか明らかでない。 また原告らは,上記シミュレーション結果に基づいて,本件特許発明と引用発明のどちらが液晶基板の製造工程における除電技術として優れているのかを比較しているが,このような比較を行うことは少なくとも本件訴訟において意味がない。 一般に,2つの異なる発明についてその効果を実験やシミュレーション等によって確認し,これらの効果の優劣を比較したとしても,このような優劣は周辺技術の進歩などによって逆転し得るものであるから,現時点における特定の条件下でのシミュレーション結果のみを示し,これらを単純に比較することは,少なくとも本件訴訟において意味がない。 また原告らは,本件特許発明は,引用発明と比較して顕著な効果を有していて,液晶基板の製造工程において数十cm角〜数m角の大きさの液晶基板を除電する唯一の技術であると主張する。 しかし,審決は,一般に,引用刊行物7に示されるように,半導体等の製造における搬送時に静電気を除去することは,半導体の製造において常套手段であるとし,また,クリーンルーム等で製造される半導体装置の1つとして液晶基板も周知のものであって,液晶基板の製造において,その搬送時,静電気を除去することも,例えば引用刊行物5や6等, ,, に示されているように 周知であると認定しているのであるから 仮に本件特許発明が特定用途に利用されている唯一の技術であったとしても,そのことをもって,引用発明に対し上記周知技術を適用することに困難性があるということはできない。 (エ) パイオニア発明性につき原告らは,本件特許発明は,その技術的特徴および格別の効果に基づいて商業的成功を成し遂げているパイオニア発明であると主張し,その根拠として甲9文献及び甲10文献を挙げる。 しかし,甲9文献及び甲10文献には,除電装置の効果に関する記載があるとしても,その除電装置が本件特許発明の技術的範囲に属する除電装置であることは明らかになっていない。例えば,波長が1〜2ÅのX線を用いているものであるか否かさえ明らかではない。また,甲10文献にも,軟X線を対象物に照射することは記載されているが,その波長が1〜2Åであることは記載されていない。 したがって,これらに記載された除電装置の効果が本件特許発明の技術的特徴および格別の効果に基づくものであることは,何ら立証されていないし,商業的に成功を成し遂げていることについても,何ら立証されていない。 原告らは,本件特許の出願当時において刊行物に記載されたものとして知られていた硬X線,β線,紫外線,コロナ放電を利用する除電技術は,いずれも液晶パネルの製造工程において実用化され得ないものであり,実際に未だ実用化されておらず,本件特許発明は,液晶パネルを高歩留りで大量に生産するに際して不可欠なものであり,液晶パネルの工業的生産を実現するためのパイオニア発明となっていると主張するが,, 。, その根拠は示されておらず それが事実であるのか明らかでない なお甲9文献には紫外線を照射するUVU除電装置が記載されており,紫外線を利用する除電技術は液晶パネルの製造工程において未だに実用化されていないとする原告らの上記主張と矛盾する。 (3) 取消事由3に対しア原告らは,引用発明の効果が低いため「工業的」に実施することができないから,引用刊行物1(甲1)は引用例としての適格性を欠くと主張する。 原告らがいかなる基準をもって工業的に実施可能なものと不可能なものとを区別しているのか明らかでないが,いずれにしても工業的に実施することができないことを理由として,その発明が記載された刊行物が引用例としての適格性を欠くという主張は,それ自体失当である。 原告らのいう引用例が特許法29条1項3号に記載された刊行物を意味していることは明らかである。そうすると,引用刊行物1(甲1)が引用例としての適格性を欠くという原告らの主張は,引用刊行物1(甲1)には同号に該当する発明が記載されていないか,あるいは,実質的に記載されていないという主張であると理解することができる。 ところが,原告らが指摘するのは単に引用刊行物1(甲1)に記載された発明の効果が小さいということであって そのことは 引用刊行物1 甲 ,,(1)には発明が記載され,かつ,小さいながらも効果を奏することが読み取れるということを,ほかならぬ原告ら自身が認めていることになる。つまり,原告らの主張は,むしろ引用刊行物1(甲1)が引用例としての適格性を有することを自ら積極的に認めるものであるから,このような原告らの主張は失当である。 イなお,原告らは,上記主張のほか,引用発明は電離ハウジング18と電離箱12との間にイオン化ガスを送る為の流体送達配管28が設けられることが必須であり,除電対象物である帯電物体の周辺の雰囲気空気にX線,() を直接照射することは明示的に排除されているとか 引用刊行物1 甲1は15keV(最長波長0.827Å)より低エネルギー(長波長)のX線の利用を否定し,また,X線波長,ターゲット電圧及びターゲット電流のいずれも除電効率に影響を与えないことが明確に記載されているなどと, , 主張するが これらの主張の根拠は取消事由1における主張と同一でありこれに理由がないことは前記(1)のとおりである。 |
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当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯 ,(2)(発明の内容 ,(3)(審 ))決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。 2 本件特許発明の意義(1) 本件訂正後の請求項13は,前記第3,1(2)のとおりである。 (2)また,本件訂正後の明細書(甲12の全文訂正明細書)には次の記載がある。 ア技術分野「,, ,, 本発明は 第一義的には 気体中に正負の電荷を発生させる方法に関し さらにそれによる帯電物体の中和方法並びに中和構造及びそれを用いた搬送装置,ウエットベンチ,クリーンルーム等の各種装置・構造物に関する(1頁4行〜6行) 。」イ背景技術・「例えば,LSI 及び液晶製造プロセスにおいて,シリコンウエハ及び液晶基板の帯電が大きな問題になっており,帯電防止技術の確立が急がれている。本装置は,この様な背景から,ガス分子イオンまたは電子を生成し,これによって帯電物体の電荷を中和するために開発されたものである。本装置を用いれば,シリコンウエハ及び液晶基板はもちろん,正あるいは負に帯電した全ての物体の表面電荷を短時間で中和することができ 静電気による各種の障害を防止することが可能となる …1 , 。 」(頁8行〜14行)・「従来のウエハ帯電防止技術としては,以下に示すような方法がある。 ?@コロナ放電法によりイオンを発生させ,このイオンにより帯電ウエハの電荷を中和する。 ?A接地された導電性材料(金属や導電性樹脂)でウエハをハンドリングすることにより,ウエハの電荷の中和をする。 しかし,これらの中和方法にはいくつかの欠点があり,これを改善しない限り帯電ウエハの中和対策として将来にわたって使っていくことが出来ない。 まず,?@のコロナ放電法にはおもに4つの欠点がある。 1)放電電極からの微粒子発生2)イオン極性の偏りに起因する残留電位の発生3)高圧放電電極による誘導電圧の発生4)オゾンの発生 (3頁5行〜16行) 」・「次に,?Aでは,ウエハ帯電はほぼ完全に防止することが出来るが,不純物汚染という重大な障害を伴う危険性が高くなる。金属はもちろん導電性をもたせるためにフッ素樹脂等に混入されている不純物は,ウエハとの接触摩耗によりウエハを汚, 。, , 染し 電気特性劣化の大きな原因になる この障害は 静電気以上に重大な問題でこれを防止するために,絶縁性の樹脂材でウエハがハンドリングされているというのが現状なのである。 本発明は,どの様な雰囲気下でも帯電物体の電荷を短時間で中和することが可能な正及び負の電荷を同時に発生する装置に関し,また,前述した全ての欠点を伴わずに静電気の発生を完全に防止できる帯電物体の中和方法並びに中和構造及びそれを用いた各種装置に関する(4頁14行〜4頁下6行) 。」ウ発明の開示「本発明の帯電中和方法は,透過型のX線ユニットによりターゲット電圧6 kV 以上かつターゲット電流60μ A 以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を,搬送系における帯電物体としての液晶基板の周辺の雰囲気空気に直接照射することにより,該雰囲気空気をイオン化させて正イオンと,負イオン及び/又は電子とを生成し,この生成された正イオンにより負電荷を,負イオン及び/又は電子により正電荷を中和することを特徴とする。 軟X線領域の電磁波を発生させるためのX線ユニットとしては,例えば,図3に示すようなX線ユニットを用いることが好ましい。すなわち,このX線ユニットは,X線透過性の基体 34 上に電子を受けてX線を放射する材料よりなる薄いターゲット膜33 が形成されているターゲット 35 を用い,また,電子源(フィラメント 31)とターゲット 35 との間にグリッド電極 32 が設けられているもの 例えば 特開平2- 297850 (,号公報)を用いることが好ましい。このX線ユニット 30 は,ターゲット膜 33 が薄いため電子源とは反対側からX線 37 が放射される,いわゆる透過型であるため小型化が可能であり,従って,任意の場所に配設することができるという利点を有している。 また,電子源とターゲット 35 との間にグリッド電極 32 が設けられているためターゲット電流の制御が可能である。 軟X線領域の電磁波は,ある特定の物質(例えば,W:タングステン)に所定のエネルギーの電子線を照射することにより簡単に得られる。 発生するX線の波長は,電子が照射されるターゲットによって異なるが,1オングストローム〜数百オングストロームの波長範囲の軟X線を用いることが好ましい。特に,1オングストローム〜数十オングストロームの軟X線が好ましい。 また,軟X線領域の電磁波としては,ターゲット電圧(加速電圧)を 4kV 以上とすることにより電子ビームを 4kV 以上に加速してターゲットに衝突させて発生させた電磁波を用いることが好ましい。さらに,ターゲット電流を 60 μA以上とすることにより発生させた電磁波を用いることが好ましい(6頁5行〜7頁1行) 。」エ作用「本発明においては,軟X線領域の電磁波の照射によるガス分子及び原子のイオン化を利用して,正イオン及び負イオンまたは電子を生成させるものである。 このイオン化法によれば,前述したコロナ放電イオン化法や紫外線照射イオン化法が有している問題点がすべて解決される。 コロナ放電法では放電電極先端部で放電時のスパッタ作用などにより発塵を生じていたが,本発明では発塵を伴うことなく正負の電荷の発生が可能である。 また,コロナ放電法では,正負の電荷は,放電電極に印加される極性に同調して周辺に供給されるために,正負の空間電位が発生し,その結果,除電物体(帯電物体)には残留電位が発生する。そして,残留電位をさげるためにイオン生成器を除電物体から遠ざけるを得なかった。それに対して,本発明では,除電物体周辺では常に同数の正負電荷が生成されていることから,除電後は,空間電位の片寄りがなく,除電物体には残留電位が発生しない。従って,所望の位置までX線ユニットを除電物体に近づけることができ,高い除電性能を達成することができる。 なお,X線ユニット内部では高圧電圧が印加されているが,ケーシングで静電遮蔽されているために外部には電界は出てこない。そのため,コロナ放電法で問題となる放電電極からの誘導電圧はまったく生じない。従って,X線ユニットを所望の位置まで除電物体に近づけることに問題はない。 本発明の大きな特徴は,空気等酸素を含むガスを用いてもオゾンの発生を伴わずにガスをイオン化できることにある。従って,半導体ウエハの酸化や高分子材の劣化等の従来法の問題点を解決することができる。 オゾン発生については,光子のエネルギが数百 eV 〜数 keV オーダーで非常に高いために,効率よくガス分子及び原子はイオン化することができ,その結果,オゾン生成に最も寄与すると考えられる中性の酸素原子ラジカル数は少なくなり,オゾンの発生は抑制される。 ガス分子及び原子は,軟X線領域の電磁波を吸収して直接イオン化に至る。ガス分子及び原子のイオン化エネルギーはせいぜい十〜二十数 eV 程度で,軟X線領域の光子エネルギーの数十〜数百分の一である。従って,1光子により複数の原子分子のイオン化または2価以上のイオン生成が可能である。 帯電物体の周辺のガス雰囲気に向けて軟X線を照射することにより,高濃度のイオン及び電子を生成し,帯電物体の電荷の中和を行う。この場合,帯電物体周辺のガスの種類に関係なく,どのようなガスでもほぼ同等の除電性能が得られる。また,コロナ放電イオン化法による中和と違って,ガスのイオン化が帯電物体近傍で可能なことから,生成されたイオン及び電子を効率よく中和に使うことができ,その結果,除電。, , 性能が飛躍的に高くなる また イオン化したガスを配管等で搬送する場合に比べて除電性能は 100 〜 1000 倍向上する (8頁5行〜9頁12行) 。」オ産業上の利用可能性「本発明による,軟X線照射によるイオン発生装置を用いれば,発塵を伴うことなく,正負のイオンを生成せしめることが可能となる。 また,帯電物体を中和する際には,どの様な雰囲気下でも帯電物体の電荷を短時間で中和することが可能となり,帯電箇所にこの装置を適用することにより静電気の発生を完全に防止できる。 このことは,半導体や液晶製造における,静電気障害による欠陥の発生や製品の信頼性低下の防止につながり,製造歩留まりを上昇させるものである。特に,今までこ, の静電気の問題で純粋なフッ素樹脂系のウエハキャリヤの採用が問題になっていたがこの除電法の適用によりそのような心配が完全になくなった(18頁11行〜19 。」行)(3)以上によれば,本件特許発明は,帯電物体の中和方法,特に搬送系における帯電物体としての液晶基板に適する帯電物体の中和方法に関するものである。すなわち,本件特許発明は,液晶の製造プロセスにおいて液晶基板の帯電を防止することが必要であることを技術的背景とし,コロナ放電法等の従来の帯電防止技術が有していた欠点(放電電極からの微粒子発生,イオン極性の偏りに起因する残留電位の発生,高圧放電電極による誘導電圧の発生,オゾンの発生,不純物汚染等)を伴わずに静電気の発生を完全に防止することを技術課題とするものであり,前記第3,1(2)の構成を採用することにより,静電気による各種の障害を防止することを可能とするとともに,従来の帯電防止技術の欠点を解決したものである。 3 取消事由1(引用発明認定の誤り)について, , (1) 原告らは 引用発明についての審決の認定に誤りがあると主張するので以下検討する。 ア 引用刊行物1(甲1)には,次の記載がある。 (ア)特許請求の範囲・「1.所定の領域でイオン化されたガス環境を与える方法において,囲まれた流路に沿って前記領域へ加圧されたガスの流れを導くこと,前記所定の領域から隔離された位置で前記囲まれた流路の所定の部分へ電離放射線を導くことにより前記ガスの流れをイオン化すること,前記流路の前記所定の部分の外へ伝播する放射線の漏洩を抑制すること,及び前記所定の領域で前記囲まれた流路から前記イオン化されたガスの流れを放出すること,の工程を含むことを特徴とするガスイオン化方法(1頁左下欄4行〜下4行) 。」(イ)技術分野「 。 ・本発明は所定の領域における大気のイオン含有量の制御に関するものである更に詳細には,この領域内の物体への静電荷の累積を抑制するために所定の領域においてイオン化された大気を維持する方法及び装置に関するものである 」。 (4頁右上欄3行〜7行)(ウ)発明の背景・「静電気の蓄積の究極的な放電は望ましくない結果を生じ得て,ある種の環境では一定の工業的生産品のような物品に痛烈な損傷を起こし得る。小型化され。 , た半導体電子素子の製造では顕著な例が起こる 静電放電は集積回路ウェーハマイクロチップ及びその他同様のもの内の導電路を破壊し得て,製造工程の間のそのように生産品の高い廃棄率の重要な原因となる。静電荷はまた,製品に不利に影響し得る塵埃粒子及びその他の汚染物の付着を誘引し引き起こす。 そのような生産品の製造は,潜在的な汚染物を除去するため及びまた生産品上への静電荷の形成を抑制するために,クリーンルームと名付けられた範囲で実行される。製品を取り囲む空気中の自由イオンの高水準の維持は,そのような電荷の形成を抑制するために大変有効な技術の一つである。空気中の成分ガスの正及び負のイオンが反対極性の電荷累積へ静電的に誘引され,それで電荷の交換によってそのような累積を中和する。 そのような目的のための普通の空気電離器は,防御されるべき物体から数フィート離れて典型的に置かれた1個又はそれ以上の高電圧電極を含む。この電極によって創られた強烈な電界がコロナ放電を起こし,空気の成分ガスの分子を荷電されたイオンへ分離するように働く。この電極の極性と同一の極性を有するイオンはこの電極によって反撥され,保護されるべき生産品へ向って外側へ。 , , 放出される 両極性のイオンを発生するために 両極性の電極が準備されるか又は単一の電極上の電圧が周期的に反転される。負のイオンに対する正のイオンの適当な比率が維持されることを確めるために必要だから,このシステムは多かれ少なかれ連続的に監視され調節されねばならない。不均一な電極侵食のような原因によって起こり得る不均衡は,生産品に分与する電荷の反生産的な影響を持ち得る(4頁右上欄下6行〜右下欄10行) 。」・「高電圧空気電離装置は,隔離された電極でか又は交互の期間で同じ電極で生産される正及び負のイオンの混合を許すために,生産品から充分な距離を離てられる必要がある。電極が近過ぎる場合には,この装置がそれ自身で生産品へ電荷を与えるかも知れない。従って,そのような装置は分離箱が極端な寸法でない限り分離箱又はその他同様のものの中へは置かれ得ない。 普通のシステムの有効範囲は多くの作業条件の下で望ましくなく制限される。 反対極性のイオンは,電極から保護されるべき生産品迄漂流する間に相互に絶えず中和される。両極性のイオンは又壁やそばの物体へも静電的に誘引され,そのとき電荷交換によって中和される。従って空気中のイオン含有量は電離電極からの距離の関数として急速に低下する。この問題は高電圧電極を生産品へ極めて接近して置くことによっては救済され得ない。前述の通り,それは電荷の中和よりむしろ生産品への静電荷の付与を起こし得る。 更に,普通の高電圧空気電離装置は,非常に静浄な生産環境が必要な所で重要であり得る水準では,それ自身が微粒子汚染の源泉であることが見出された。 特に,そのような装置は隣接する大気へ典型的には約300オングストロームの大きさを有する金属の粒子を放出する。これは電極で起こるコロナ放電による高電圧電極の侵食からの結果であると信じられる。放電中の熱,スパッタリング及び遊離基の存在が影響要素であろう。いずれにしても,粒子放出は特殊電極材料の使用によって低減され得るが,完全には除去され得ない証明できる存在である。 高電圧放電が大気中の酸素の幾らかをオゾンに変え得るという問題が更に起こる。オゾンは前述の半導体ウェーハのような幾つかの生産品を非常に損傷し得る極めて活性なガスである(5頁左上欄3行〜右上欄下3行) 。」・「本発明は前述の一つ又はそれ以上の問題を克服するために導かれた(5頁。」左下欄8行〜9行)(エ)発明の概要・「本発明の他の好適な局面では,放射線の源泉は小室内へX線を導くように位置決めされたX線管であり,ガスの流れは窒素の流れである。 本発明は,ガスの中にイオンを発生し,このイオン化されたガスの流れを囲まれた流路に沿って使用点へ伝達することによって,前述の問題点を回避する。 好適なガスはオゾンの発生を回避するために窒素のような酸素を含まないガスである。金属汚染物の放出を回避するため及び正と負とのイオンの固有に平衡した生産を可能にするために,高電圧電極によるよりはむしろX線あるいは他の電離放射線によってイオンが生産される。ガスは流路の拡張された領域内で照射される。ガスの手頃な量が放射線にさらされ且つ各ガスの原子又は分子が手頃な期間放射線にさらされるように拡大された領域内ではガスの流速が比較的遅いので,これがイオン生産を増大する。ガスの流量と所定の領域へイオンを送達する配管又はその他同様のものの大きさとが,配管内でのイオンの損失を最小にする方法に相関する。… (6頁左上欄下2行〜右上欄下3行) 」(オ)好適な実施例の詳細な説明・「特定の例では酸素を含まない不活性のガスを使用する必要はなく,その場合に装置 11 は前述の目的とは異なる目的用に用いられる。例えば特定の領域で空気から微粒子の物質を除去するのが目的の場合には,内部室 19 を通る空気が用いられ得る。 放射線の源泉は好適に,内部室の一端で薄い窓 31 を通して内部室 19 内へX線21 を導くように位置決めされたX線管 29 である。… (7頁左上欄10行〜1 」7行)・ 「本発明の好適な形では,遮蔽する必要を最小化するために比較的低エネルギ。 , ーのX線を与えるように選択され調節される 15keV のエネルギーを有すX線は例えば,プラスチック,アルミニューム又はベリリウム製の薄い窓 31 を貫通することが可能であり,従って内部室 19 内で窒素を能率的にイオン化する。 X線管 29 を付勢するための電気的な要素は,管のフィラメント 33 及び制御グリット 34 用の低電圧電力源 32 と管の陽極 37 用の高電圧発生器 36 とを含み,これらの要素は普通の設計のものでよい。… (7頁右上欄3行〜13行) 」・「電離室ハウジング 18 及びX線管 29 は,装置からの放射線の漏洩を防止する, 。 ために 少なくとも一部がX線吸収材で形成された遮蔽覆い 51 内に配列される例えば,1ミリメートル厚さの鉛が 15keV のエネルギーのX線の放出を防止する。… (7頁左下欄下3行〜右下欄2行) 」・「配管中の湾曲が可能な量に回避された場合及び出口取付部品 62 を含む配管を通る流路の直径の変化も可能な限り回避された場合に,反対極性のイオンの電荷交換による,又流体送達配管 28 の内壁との接触によるイオンの中和は低減される。これが流路中の騒乱を最小化することにより前述の原因によるイオン損失を減少させる。… (8頁左上欄下5行〜右上欄2行) 」・「再び第1図を参照すると,イオン化されたガスが流体送達配管のような導管内の封入された流れとして使用される点へ配送されることにおいて この装置 11 ,は電荷抑制用の従来のイオン化システムとは異なる。使用される点に近い位置で周囲の空気を単純にイオン化する従来の方法に対抗するから,自由イオンのこのような配管は,最初に考えると不適当な手段であるように見える。外見上は,隣接する壁面との及び相互間での電荷交換からイオン損失の問題が非常に悪化させられる。我々は,このシステムの一定のキー助変数が適当に相互に関係付けられた場合には,イオンの充分高い濃度が数フィート以上の距離に対して制限されたガスの流れの中に維持され得ることを見出した。 特に,前述の動作に本質的に似た電荷抑制装置 11 の動作は,その装置が 10 インチ角の平板(67pf のキャパシタンス)を 1000 ボルトから 100 ボルト迄放電するのに必要な時間を秒で測定する充電平板モニターから 18 インチ離れて流体送達配管 28 の出口を置くことによって評価された。この測定された放電時間は流体送達配管 28 からのイオン出力に反比例する。イオン出力の増加はより低い放電時間に帰着する。 イオン出力に最も明確な影響を伴う変数はガスの流量,流体送達配管 28 の直径及び流体送達配管の長さであることを試験が示した。内部室の大きさ及びX線管 29 のフィラメント電流と陽極電圧とを含むその他の試験された変数は,非常に少ししか動作に影響しなかった。他の変数を一定に保持した流体送達配管,。」 材料及び内部室 19 の材料の異なる形式を用いた試験は 同様の結果を生じた(8頁左下欄9行〜右下欄下2行)・図1(本発明に従った工業的生産品又はその他同様のものへの静電形成を抑制する装置の図式的概念図 ))イ以上によれば,引用刊行物1(甲1)には,物体への静電荷の累積の抑制,特に,小型化された半導体電子素子の製造において,集積回路ウェーハ,マイクロチップ及びその他同様のものである生産品上への静電荷の累積を抑制することを技術的背景とし,高電圧空気電離装置等の従来の帯電防止装置が有していた問題(正負イオンの適当な比率の維持の困難性,高電圧電極の近接による生産品への電荷付与,金属の粒子の放出による微粒子汚染,オゾンの発生等)を克服することを技術課題とする発明が記載されており,具体的には 「15keV のエネルギーを有するX線を例とする,X ,線管 29 からのX線を,プラスチック,アルミニューム又はベリリウム製の薄い窓 31 を貫通させて,空気に照射することにより,該空気をイオン化させて,該空気中の成分ガスの正及び負のイオンを生成させ,さらに流体送達配管 28 によりこのイオン化された空気の流れを導き,その出口から放出して集積回路ウェーハ,マイクロチップ及びその他同様のものである製品を取り囲む空気中の上記正及び負のイオンである自由イオンを高水準に維持し,空気中の正のイオンは製品上の負の静電荷に,また,空気中の負のイオンは製品上の正の静電荷と電荷の交換によって静電荷を中和することによる製品上の静電荷の累積を中和する方法(審決認定の引用発 。」明の内容)が記載されているということができる。 そうすると,引用発明の内容につきこれと同旨をいう審決の認定に誤りはない。 (2) 流体送達配管について原告らは,引用発明は電離室ハウジング18と分離箱12との間にイオン化ガスを送るための流体送達配管28を設けることを必須の構成としており,除電対象物である帯電物体の周辺の雰囲気空気にX線を直接照射することを明示的に排除しているとして,この点に関する審決の認定に誤りがある旨主張する。 しかし,審決は,引用発明の内容として,上記前記第3,1(3)イのとお,「 」,, り流体送達配管 28 によりこのイオン化された空気の流れを導きかつ「その出口から放出して集積回路ウェーハ,マイクロチップ及びその他同様のものである製品を取り囲む空気中の上記正及び負のイオンである自由イオンを高水準に維持」するもの,すなわち,イオンの生成場所と除電対象物である製品の存在場所との間に流体送達配管を設ける構成を有するものとして認定しており(X線を除電対象物である帯電物体の周辺の雰囲気空気に直接照射するか否かについては相違点C・Dとして認定されている,引用発明。),「 」 を除電対象物である帯電物体の周辺の雰囲気空気にX線を直接照射するものとして認定するものでないことは明らかである。 この点,原告らは,審決が「引用発明は…帯電物体の周辺の雰囲気空気に照射してイオン化することができないというものではない (審決27頁4 」行〜9行)としたことをもって,上記主張の根拠とするが,審決の上記記載は,相違点Dについての進歩性の判断において記載されたものであって,引用刊行物1(甲1)に「帯電物体の周辺の雰囲気空気に照射してイオン化することができないというものではない」との直接的な開示がある旨を認定し, 。 たものではないし 上記内容を引用発明の構成として認定したものでもないしたがって,引用発明の認定誤りをいう原告らの上記主張は,採用することができない。 なお,原告らの上記主張は,実質的には,引用発明が電離室ハウジング18と分離箱12との間にイオン化ガスを送るための流体送達配管28を設けることを必須の構成としている点で,これを欠く本件特許発明は同引用発明から容易想到でないこと(すなわち,相違点C,Dが容易想到でないこと)を主張するものと理解することもできるが,相違点C及びDが容易想到であることは後記4のとおりであるから,いずれにせよ,原告らの上記主張は採用することができない。 (3) X線波長について, 。 原告らは X線波長に係る審決の引用発明の認定に誤りがある旨主張するしかし,審決は,前記(1)イのとおり,引用発明におけるX線の波長につ,「 ,」 いて15keV のエネルギーを有するX線を例とする X線管 29 からのX線と認定し 「ターゲット電圧6kV以上かつターゲット電流を60μA以上 ,で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線」との本件特許発明の構成は相違点Bとして認定しているのであって,審決が引用発明におけるX線の波長について15keV(0.827Å)よりも長いものとして認定したものでないことは明らかである。 この点,原告らは,審決が,引用発明について,X線の波長を15keVより長く設定することが格別困難を要しない旨認定したことをもって,上記主張の根拠とするが,審決の上記記載は,相違点Bについての進歩性の判断において記載されたものであって,X線の波長が15keVより長いことを引用発明の構成として認定したものではない。 そうすると,審決の引用発明の認定について誤りがあるということはできないから,原告らの上記主張は採用することができない。 なお,原告らの上記主張は,実質的には,引用発明において15keVとの数値はX線エネルギーの最低値を示すものであるから,これより長い波長の本件特許発明の構成は同引用発明から容易想到でないこと(すなわち,相違点Bが容易想到でないこと)を主張するものと理解することもできるが,,, 相違点Bが容易想到であることは後記4のとおりであるから いずれにせよ原告らの上記主張は採用することができない。 (4)除電効率について原告らは,引用刊行物1(甲1)にはX線波長,ターゲット電圧及びターゲット電流のいずれも除電効率に影響を与えない旨が記載されているとして,引用発明におけるX線波長,ターゲット電圧及びターゲット電流は除電効率に影響を与える旨の審決の判断は,引用発明の認定を誤まるものであると主張する。 この点,いずれもX線に関する特開昭58-32200号公報(発明の名称「特性X線の単色性を強める方法 ,出願人 B,公開日 昭和58年2月2 」5日,甲13,以下「甲13公報」という,特開平2-297850号公 。)報(発明の名称「X線発生管用ターゲットおよびX線発生管 ,出願人 浜松 」ホトニクス株式会社,公開日 平成2年12月10日,甲14 ,特開昭和6 )3-110541号公報(発明の名称「X線管 ,出願人 株式会社東芝,公 」開日 昭和63年5月16日,甲15)によれば,X線発生装置は,X線を放射する材料で形成されたターゲットに対して電子ビームを照射する(すなわち,ターゲット原子に加速電子を衝突させる)構成を有するものであり,これにより,電子が有していたエネルギーの一部がX線に変わるのであるか,()() , ら ターゲット電圧 電子の加速電圧 とターゲット電流 電子の流量 がX線の出力に関係することは技術常識と認められることからすれば,X線の特性(波長や出力)と除電効果に相関があることは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が当然に予測し得るものというべきである。 これに対し原告らは,引用刊行物1(甲1)に 「イオン出力に最も明確 ,な影響を伴う変数はガスの流量,流体送達配管28の直径及び流体送達配管の長さであることを試験が示した。内部室の大きさ及びX線管29のフィラメント電流と陽極電圧とを含むその他の試験された変数は,非常に少ししか動作に影響しなかった(8頁右下欄12行〜17行)との記載があること 。」をもって上記主張の根拠とするものであるが,上記のような技術常識に鑑みれば,引用刊行物1(甲1)における上記記載は,ターゲット電圧及びターゲット電流等の影響が,ガス流量,流体送達配管の直径・長さの影響に比し相対的に低かったという趣旨に理解できるのであって,同記載をもって「引用刊行物1にはX線波長,ターゲット電圧及びターゲット電流のいずれも除電効率に影響を与えない旨が記載されている」と認めることはできない。 そうすると,この点に関する審決の認定に誤りがあるということはできないから,原告らの上記主張は採用することができない。 4 取消事由2(進歩性判断の誤り)について(1) 相違点C及びDにつきア原告らは,引用刊行物2〜4に記載された発明は,硬X線,β線又は紫外線を帯電物体の周辺の雰囲気空気に照射するものであるのに対し,引用発明は電離室ハウジング18と分離箱12との間にイオン化ガスを送るための流体送達配管28が設けられることが必須であり,しかも,除電対象物である帯電物体の周辺の雰囲気空気にX線を直接照射することを明示的に排除しており,両者は全く相容れないから,引用刊行物2〜4に記載された技術を引用発明に適用することはできないと主張する。 イそこで,引用発明における流体送達配管の技術的意義についてみると,前記3(1)のとおり,引用発明が記載された引用刊行物1(甲1)は 「高,電圧空気電離装置は,隔離された電極でか又は交互の期間で同じ電極で生産される正及び負のイオンの混合を許すために,生産品から充分な距離を離てられる必要がある。電極が近すぎる場合には,この装置がそれ自身で生産品へ電荷を与えるかも知れない。従って,そのような装置は分離箱が極端な寸法でない限り分離箱又はその他同様のものの中へは置かれ得ない(5頁左上欄3行〜10行)等といった技術課題を前提に,X線を照 。」射することによりイオン化された空気の流れを流体送達配管により導き,帯電物体周辺に放出することで,帯電物体を取り囲む空気中の正及び負のイオンである自由イオンを高水準に維持し,静電荷の累積を中和するというものであるから,引用発明は流体送達配管の存在を前提とするものであるということができる。 もっとも,引用刊行物1(甲1)には 「そのような目的のための普通 ,の空気電離器は,防御されるべき物体から数フィート離れて典型的に置かれた1個又はそれ以上の高電圧電極を含む。この電極によって創られた強烈な電界がコロナ放電を起こし,空気の成分ガスの分子を荷電されたイオンへ分離するように働く。… (4頁左下欄下7行〜下2行)と記載され 」ているから,上記課題における「高電圧電極」とはコロナ放電を起こす電極を前提としているものと認められ,X線照射装置の電極を意味するものではない。そうすると,引用刊行物1(甲1)の上記記載をもって,X線照射でイオンを発生する位置が除電対象物に近いときに静電荷付与の問題点があることが開示されているとまでいうことはできない。 しかも,引用刊行物(甲1)の「発明の背景」欄には 「…反対極性の ,イオンは,電極から保護されるべき生産品迄漂流する間に相互に絶えず中和される。両極性のイオンは又壁やそばの物体へも静電的に誘引され,そのとき電荷交換によって中和される。従って空気中のイオン含有量は電離電極からの距離の関数として急速に低下する(5頁左上欄12行〜18 。」行)との記載があり,これによれば,空気中の両極性のイオン含有量を維持するためには,イオンが電離(生成)した場所と保護されるべき生産品との距離が短いことが望ましいことが当業者における技術常識であり,したがって,引用発明における上記課題解決方法自体,前記技術課題とは異なる新たな技術課題を内包するものとして当業者に認識されるものであるということができる(ちなみに,引用発明は,このような新たな技術課題に対し,引用刊行物(甲1)の「配管中の湾曲が可能な量に回避された場合及び出口取付部品62を含む配管を通る流路の直径の変化も可能な限り回避された場合に,反対極性のイオンの電荷交換による,又流体送達配管28の内壁との接触によるイオンの中和は低減される。これが流路中の騒。 」 乱を最小化することにより前述の原因によるイオン損失を低減させる …(8頁左上欄下5行〜右上欄2行「再び第1図を参照すると,イオン化 ),されたガスが流体送達配管のような導管内の封入された流れとして使用される点へ配送されることにおいて,この装置11は電荷抑制用の従来のイオン化システムとは異なる。使用される点に近い位置で周囲の空気を単純にイオン化する従来の方法に対抗するから,自由イオンのこのような配管は,最初に考えると不適当な手段であるように見える。外見上は,隣接する壁面との及び相互間での電荷交換からイオン損失の問題が非常に悪化させられる。我々は,このシステムの一定のキー助変数が適当に相互に関係付けられた場合には,イオンの充分高い濃度が数フィート以上の距離に対して制限されたガスの流れの中に維持され得ることを見出した(8頁左。」下欄9行〜右下欄2行)との記載が開示する手段により,流体送達配管の使用によるイオンの損失を最小化する工夫を検討したものである 。。)そうすると,引用発明に接した当業者が,引用発明が前提及び内包する前記各技術課題とその解決手段を再検討し,高いイオン濃度の維持の観点からは不利となる流体送達配管を使用しない改変を検討することは,選択肢として当業者において優に想定可能というべきであって,引用刊行物の上記記載から,帯電物体の除電方法一般において流体送達配管が必須の構成であり,これを用いない手段が想到できないものであるとまでは認められない。審決が 「なお,引用発明は,X線により生成された正及び負の ,イオンを流体送達配管28によりこのイオン化された空気の流れを導くものであるものの,従来の方法に対して不適当と思われる,流体送達配管28によりイオン化された空気を導く方法が,ある条件で欠点にならないというにすぎないのであって,帯電物体の周辺の雰囲気空気に照射してイオン化することができないというものではない(27頁4行〜9行)とし 。」たことは上記趣旨を述べるものとして正当であって,これが誤りであるということはできない。 ウ以上を踏まえて,さらに引用刊行物2〜4(甲2〜4)の記載内容について検討する。 (ア) 引用刊行物2(甲2)a引用刊行物2には,次の記載がある。 ・ 「可燃性流体のコンテナの上部表面にX線源のアレイが配置されている。各X線源は,高電圧発生器,電子加速管及びX線ターゲットを備えている。また,各X線源は,防水及び防ガスの方法で当該X線源を維持する金属製封入容器内に収容されている。広角ビームとして形成されたX線は,上記コンテナ内のガス領域内で自由イオンを生成し,これらのイオンが,コンテナ内の。」(, ガス充満領域内に形成された望ましくない静電場を中和させる1頁右欄翻訳文中の要約書)・ 「好ましくは,X線は300KeV未満のエネルギーを有する電子によって生成される。電力源(不図示)は高電圧発生器24を動作させる。動作中,X線源10は,図1の30及び図3の32に示されたようにコンテナ内の領。」( ) 域へ放射されるX線の広角ビームを生成する3欄29行〜35行の翻訳b以上によれば,引用刊行物2には,300KeV未満のエネルギーを有する電子によって生成されたX線をコンテナ内の領域に放射,すなわち,X線をガスに照射して,コンテナ内のガス領域内で自由イオンを生成し,静電場を中和することが開示されている。 この点,原告らは,引用刊行物2では,ターゲット電圧や使用X線波長の好適範囲が特定されておらず,引用刊行物2に記載のX線源の構造からは硬X線の利用しかあり得ないとして,引用刊行物2に記載された技術は引用発明に適用することができない旨主張するが,引用刊行物2に好適範囲が記載されていないとしても,帯電物体の周辺雰囲気,つまり帯電物体を含めてその周辺の雰囲気に電離のためのX線の電離線を照射し,帯電物体の周辺の雰囲気をイオン化し除電する技術が開示されていることは明らかであり,引用刊行物2の「X線は300KeV未満のエネルギーを有する電子によって生成される」との条件に基づいて,除電効率の良いX線とそのためのターゲット電圧等を実験的に求めることは,引用刊行物2に記載された技術事項を採用, 。 しようとする際に 当業者が当然に行うことにすぎないと認められる, , したがって 原告らの上記主張は前記認定を左右するものではなく採用することができない。 (イ) 引用刊行物3(甲3)a引用刊行物3には,次の記載がある。 ・ 「静電気を発生している個所に放射線を照射することにより静電気を発生している個所の空気をイオン化してこの空気を導電媒体として静電気を中和させることがすでに行われている。従来この原理を応用した静電気除去法は種々為されているようであるが例えば第1図に示すように繊維の作業工程にあつては種々の装置との摩擦または繊維自体の摩擦によつて静電気を発生するが特にガイドローラーAによつて移送される際に帯電している繊維布Bに対して例えばラジウムを線源とする放射性物質Cよりα線を該繊維布Bに照射するかあるいはβ線を照射するかして繊維布Bの帯電を除去するものがある (1頁右欄1行〜13行) 。」b以上によれば,引用刊行物3には,α線又はβ線を帯電物体である繊維布に対して照射し,その箇所の空気をイオン化し,静電除去する技術が開示されている。 (ウ) 引用刊行物4(甲4)a引用刊行物4には,次の記載がある。 ・ 「本発明は,光照射によるガスの電離作用を利用して帯電物体を除電する除電方法に関する(1頁左下欄13行〜14行) 。」・ 「ガスを光照射によって電離し,そのイオン化したガスによって帯電物体を間接的に除電すると,高電圧の除電電極によるコロナ放電によって除電する場合に比べ,安全であるとともに電源も低電圧でよく経済的である(2頁。」左上欄3行〜7行)・ 「第1図に示すように,一定のガス雰囲気中において帯電物体1を絶縁材製の支持台2に支持しておき,その上方より水銀ランプ3によって紫外線を照射する。 本発明者は,この第1実施例について次のような条件で実験を行い,帯電物体2の電位を電位測定器4で測定した。 ガス……1気圧,通常の空気水銀ランプ……低圧石英ランプ紫外線の最短波長及びそのエネルギー……1850Å,6.7eV(あるいは2537Å,4.9eV)電位測定器……エレクトロメータ水銀ランプと帯電物体間の距離……150 mm帯電物体と電位測定器間の距離……20 mm帯電物体の長さ及び厚さ………85 mm,0.5 mmこの測定データを第4図に示す。この図より明らかなように,帯電物体1が正帯電をしている場合もまた負帯電をしている場合も,実線で示すように,その電位が,紫外線照射により時間の推移に従つて減衰している。これは,水銀ランプ3よりの紫外線の光のエネルギー(6.7eV)が空気の電離電圧(約12.5eV)より小さいにもかかわらず,空気がイオン化され,それによつて帯電物体1が除電されていることを示している(2頁左上欄末。」行〜左下欄5行)b以上によれば,引用刊行物4には,帯電物体を通常の空気中に支持し,紫外線を帯電物体及びその雰囲気の空気に照射すると,ガスの電離作用で空気がイオン化され,帯電物体が除電されることが開示されている。 (エ)前記(ア)〜(ウ)によれば,X線,α線,紫外線とその種類は様々であ,, , るが 引用刊行物2〜4には ガスの電離作用を生じる電離線を利用し帯電物体及びその周辺の雰囲気に電離線を照射し,帯電物体の周辺のガス(空気)をイオン化して除電することが記載されているから,帯電物体の静電気中和の技術分野においては 「帯電物体の周辺雰囲気,つま ,り帯電物体を含めてその周辺の雰囲気に電離のためのX線,放射線,紫外線等の電離線を照射し,帯電物体の周辺の雰囲気をイオン化し除電する」ことは周知であると認められる。 さらに,引用刊行物4には,ガスを光照射によって電離し,そのイオン化したガスによって帯電物体を除電する方法はコロナ放電によって除電する方法に比べて有利である旨が開示されており,電離線を帯電物体の周辺の雰囲気空気に直接照射することは従来のコロナ放電の代替手段となることが認められ,また,引用刊行物1(甲1)には「金属汚染物の放出を回避するため及び正と負とのイオンの固有に平衡した生産を可能にするために,高電圧電極によるよりはむしろX線あるいは他の電離放射線によってイオンが生産される。… (6頁右上欄7行〜10行) 」と記載されていることからすれば,引用刊行物1(甲1)記載の技術課題の多く(正負イオンの適当な比率の維持の困難性,高電圧電極の近接による生産品への電荷付与,金属の粒子の放出による微粒子汚染)が,流通送達配管の使用とは無関係に,単にX線等の電離線の利用により解決されることが認められる。 そして,前記イにおいて説示したとおり,空気中の両極性のイオン含有量を維持するためには,イオンが電離(生成)した場所と保護されるべき生産品との距離が短いことが望ましいことは技術常識であり,流通, , 送達配管の使用は 内壁との接触によるイオンの中和等が起こりやすくイオンの充分高い濃度の維持の観点からは流体送達配管の使用が不利な手段になるとの認識に基づけば,X線の照射により電離(生成)した両極性のイオンを流通送達配管により移送して帯電物体の周囲の空気中の自由イオンを高水準に維持することに代えて,帯電物体を含めてその周辺の雰囲気に電離線を直接照射してイオンを生成する周知の手段を採用することは,当業者が容易になし得ることと認められる。 また,液晶基板については,引用刊行物5(甲5)に,搬送中の液晶用のガラス板に対向して設けた除電バーで静電気を除去することが示され,引用刊行物6(甲6)に,搬送機構上の液晶表示器用の透明電極基板に電離空気を吹き付けて静電気を中和することが示され,引用刊行物7(甲7)に,ICパッケージ搬送工程においてイオン流を吹き付けて静電気を除去することが示されているから,搬送系における液晶基板を静電除去の対象とすることも周知である。 そうすると 「X線を,搬送系における帯電物体としての液晶基板の ,周辺の雰囲気空気に直接照射することにより,該雰囲気空気をイオン化すること (相違点C及びD)は,引用発明に上記引用刊行物2〜7記 」載の技術を適用することによって当業者が容易に想到し得ると認められ,これと同旨である審決の判断に誤りはない。 , 。 したがって この点に関する原告らの主張は採用することができない(2) 相違点Bにつきア原告らは,本件特許発明の特徴である「ターゲット電圧6kV以上かつターゲット電流60μA以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を照射する点」については,引用刊行物1〜7のいずれの刊行物からも当業者が容易に想到することができるものではないと主張する。 , (), イ この点 前記3(1)に認定した引用刊行物1 甲1 の記載に照らせば引用発明は好適には比較的低エネルギーのX線を与えるように選択され調節されるものであって,そのX線は,遮蔽する必要を最小化することを目, , 的としつつも 薄い膜31を貫通することが可能であることが必要とされ双方の必要性の考慮の下に 「15keVのエネルギーを有すX線」が例 ,示されているものと認められ 当該エネルギーの選択は 引用刊行物1 甲 ,,() 。 1 の出願人が最良と理解した実施の態様であると理解することができるすなわち,単に「遮蔽する必要を最小化する」ためであれば,X線のエネルギーは小さいほど望ましいことは明らかであるが,X線をガスに照射するためにはX線管29の外囲器の窓及び薄い窓31を通して内部室19内へX線を導く必要があり,X線のエネルギーとして少なくとも薄い窓31を透過するための最低限のエネルギーが必要であるから 引用刊行物1 甲 ,(1)における実施例(引用刊行物1において選択された窓31の材質・厚さ等を含む,様々な実施条件)において 「薄い膜31を貫通することが ,可能」なX線のエネルギーを考慮して,この「15keVのエネルギー」を選択していると認められる。 そして 「薄い膜31」の材質・厚さ等の条件によりこれを貫通する際 ,のX線の吸収も大きく異なり 「薄い膜31を貫通することが可能」なX ,線のエネルギーが変わることは明らかであるから,X線透過率がより高い材料からなる窓を用い,また,その厚さを更に薄くするならば 「薄い膜 ,31を貫通することが可能」なX線のエネルギーは更に小さくなるとともに,遮蔽する必要が更に小さくなることは明らかである。 そうすると,引用発明における15keV(すなわち,波長0.827Å)のX線は実施例における例示であり,条件により変わり得るものにすぎないというべきであるから,比較的低エネルギーのX線を与えるように選択・調節する過程において,上記波長のX線よりも更に低エネルギーのX線の採用を検討することは当然のことであるし,また,X線が低エネルギー(長波長)になるほど吸収され易いことは当業者にとって技術常識であるから,遮蔽する必要を最小化する観点からも,X線照射により短い距離で効率的にイオン生成する観点からも,X線を低エネルギー(長波長)とすることが望ましいことは明らかであるから,引用発明において,X線の波長をより長く設定することは,当業者が格別の困難を要することなくなし得ることであるといえる。 そして,甲13公報(特開昭58-32200号公報)に記載されているように,ピーク波長として1Å〜2Åの波長を含むX線(甲13の第5図参照)をX線管から出力させることも公知であって,X線として 「1,Å以上2Å未満の波長の軟X線」は従来より知られていたものにすぎず,また,本件特許明細書(甲12)には 「1Å以上」及び「2Å未満」の ,具体的数値に関して,臨界的意義も記載されていない。すると,引用刊行物1(甲1)に例示された15keV(波長0.827Å)より低エネルギー(長波長)のX線として 「1Å以上2Å未満の波長の軟X線」を選 ,択することが,当業者にとって格別困難ということはできない。 ウまた,ターゲット電圧についてみると,電子のエネルギーE(keV)は,1つの電子がターゲット電圧E(kV)から得るエネルギーとして定義され,この電子がターゲットに衝突して発生するX線スペクトルの最短波長λ(Å)との間にはλ・E=12.4という周知の関係が成立するから,ターゲット電圧6kV以上という限定は,波長1Å以上2Å未満のX線の発生条件を完全に包含する条件であって,X線の波長限定と重複する限定にすぎない。 エ次に,ターゲット電流についてみると,X線管の出力がターゲット電流, ,, と相関があり X線がガスの電離すなわちイオン生成を引き起こし 更にイオン出力が除電時間に影響することは当業者に自明であるといえるから,これらの相関関係を前提にすれば,求める出力や除電時間に応じてターゲット電流について出力を設定することは当業者が普通になす設計事項というべきである。そして 「60μA以上」との数値限定についても, ,本件特許明細書及び図面(甲8)において,ターゲット電流を限定する根拠となる図6は,図4の実験装置による実験結果であるところ,除電時間やイオン出力はX線管の構成や特性,チャンバの構造,ガスの状態等,各種条件で変動することは,当業者に明らかである。そうすると,ターゲット電流の条件は普遍的な臨界条件に基づく値とはいえず,それぞれの装置や要求に応じて当業者が適宜設定し得る値であるといえる。 オ以上によれば,本件特許発明のX線波長,ターゲット電圧及びターゲット電流のいずれの数値限定も当業者が適宜設定することといえるからタ,「ーゲット電圧6kV以上かつターゲット電流60μA以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を照射する点」が容易想到でないとの原告らの上記主張は,採用することができない。 (3) 効果につきア原告らは,審決における本件特許発明の効果についての判断は,本件特許発明の各発明特定事項について個々別々に論じられたものであって,発明特定事項が組み合わされた本件特許発明の技術的思想についてなされたものはなく,誤りであるとか,本件特許発明の効果は,引用刊行物から予測し得ない効果である旨主張する。 しかし,本件特許発明では,透過型のX線ユニットを用いること(原告らの主張する特徴点a)により,照射範囲を広くすることができるとともに,ターゲットで発生した軟X線を外部へ効率的に出力することができ,また,小型化が可能であり(この点は原告らが自認するところである ,)そのため,雰囲気空気を効率的にイオン化して液晶基板を効率的に除電することができるという効果や,配置スペースが限られる搬送系における液晶基板の周辺の雰囲気空気にX線を照射する場合(同特徴点c)においてもX線ユニットの配置の自由度が高く,また,X線ユニットの必要数を少なくすることができるのであって,液晶基板を除電する際に低コスト化を図ることができるとの効果は,透過型のX線ユニットを用いたことに付随する効果ないしその効果に関連して当業者が容易に予測できたことにすぎないというべきである。 また,本件特許発明では,ターゲット電圧6kV以上かつターゲット電流60μA以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を用いること(特徴点b)により,硬X線を用いる場合と比較して,X線ユニットから比較的短い距離の範囲において該軟X線が高い割合で雰囲気空気に吸収されて,その範囲において高密度のイオンを生成することができるとの効果も,軟X線が低エネルギーのX線であって,吸収されやすいことから必然的に導かれる効果にすぎない。 これに対し原告らは,本件特許発明は特徴点a〜cが相俟って,搬送系における液晶基板を高効率かつ低コストで除電することができると主張するが,原告らの主張する効果は,上記のように本件特許発明の各特徴点a〜cのそれぞれに付随する作用・効果から導かれるものを超えるものではなく,当業者が容易に予測し得る程度のものにすぎない。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 イ原告らは,本件特許発明の効果は,搬送系における液晶基板の広いエリアの除電を高効率かつ低コストで行うことができることのほかに,硬X線照射の場合と比較して除電性能が高いこと,硬X線照射の場合と比較して遮蔽対策が容易であること,オゾンの発生が抑制されること,イオン化したガスを配管等で搬送する場合と比較して除電性能が100〜1000倍高いことも挙げられると主張する。 しかし,除電性能が高いことや遮蔽対策が容易であることは,上記アで説示したとおり,軟X線が吸収されやすいことから必然的に導かれることであるし,引用刊行物1(甲1)にも,遮蔽対策を最小化するために低エネルギーのX線を用いることが開示されているのであるから,本件特許発明が遮蔽対策が容易であるとしても,当業者が予測し得る程度のことといわざるを得ない。 また,本件特許明細書(全文訂正明細書,甲12)には 「オゾン発生 ,については,光子のエネルギが数百eV〜数keVオーダーで非常に高いため,効率よくガス分子及び原子はイオン化することができ,その結果,オゾン生成に最も寄与すると考えられる中性の酸素原子ラジカル数は少なくなり,オゾンの発生は抑制される(8頁下3行〜9頁1行)との記載 。」はあるが,一般にオゾン発生が多いとされる紫外線照射の場合と比較した結果に基づくものにすぎない。なお,引用刊行物1(甲1)には,オゾンの発生を回避するために窒素のような酸素を含まないガスを使用する旨が記載されているが(6頁右上欄5行〜6行 ,雰囲気空気に照射する際に )おける本件特許発明の軟X線照射の場合と甲1記載のX線照射の場合とのオゾン発生量の定量的な比較は明らかではないから,本件特許発明が引用発明と比較して,オゾンの発生の抑制に格別の効果があるとも認めることができない。 また,本件特許発明が,イオン化したガスを配管等で搬送する場合と比較して除電性能が100〜1000倍高いことについては,引用刊行物1(甲1)には,充分高いイオン濃度の維持の観点からは,流体送達配管の使用が通常は不利な手段となることが開示されているのであるから,流体送達配管を使用した引用発明に比して本件特許発明の除電性能が高くなることは当然のことであるし,ガス流量や流体送達配管の構造によりイオンの送達量が大きく影響を受けることは引用刊行物1(甲1)にも開示されているから,除電性能の差(比率)はこれら条件に依存するものと認められる。そうすると,本件特許発明の除電性能に関する上記効果は,当業者が予測し得ないものということはできない。 したがって,原告らの上記主張は,いずれも採用することができない。 ウ原告らは,引用発明と比較して本件特許発明の除電性能が高いことを裏付けるものとして,シミュレーション計算の結果を主張する。 しかし,原告らの主張する上記シミュレーションは,結果を導くための計算手法が明確ではないし,シミュレーションの前提となる条件も,除電対象物である液晶基板と作業台とを平行に設置し,その隙間に向けて除電装置を設置した場合について行っている等,本件特許明細書に記載された実施例とは一致していないから,シミュレーション結果が直ちに本件特許発明の効果であると認定することはできない。 エ原告らは,甲9文献及び甲10文献を参照して,本件特許発明は,その技術的特徴及び格別の効果に基づいて商業的成功を成し遂げているパイオニア発明であると主張する。 しかし,甲9文献に記載の光照射型除電装置は,極軟X線(=USX)除電装置又は真空紫外線(=VUV)除電装置であるから(30頁左欄参照 ,本件特許発明に係る軟X線による除電装置と同一のものとは認めら ),,, , れないし また 甲10文献をみても そこに記載のフォトイオナイザは軟X線を対象物に照射するものではあるものの,その波長は明示されていない。 そうすると,甲9文献及び甲10文献に記載された効果等をもってしては,本件特許発明の技術的特徴に関する格別の効果ないし商業的成功を証明するものとは認められないから,原告らの上記主張は採用することができない。 5 取消事由3(引用刊行物1の引用例としての適格性判断の誤り)について(1)原告らは,引用刊行物1(甲1)には,本件特許発明に容易に想到することを妨げるほどの記載があるから,引用発明としての適格性を欠くと主張するが,引用刊行物1(甲1)が特許法29条1項3号の特許出願前に頒布された刊行物に該当することは明らかであるし,原告らが容易想到性を妨げる旨の記載として挙げる流体送達配管やX線波長,ターゲット電圧及びターゲット電流の除電効率等に関する事情が容易想到性を判断する上で支障となるものでないことは,前記取消事由2に対する判断において説示したとおりである。 したがって,これを進歩性判断の対象となし得ることは明らかであって,原告らの上記主張は採用することができない。 (2)また原告らは,引用発明は未完成ないし工業的に実施不可能なものであるから,引用刊行物1(甲1)はこの点でも引用例としての適格性を欠くと主張する。 しかし,原告らの主張は,電離室ハウジングにおけるイオン生成効率が低いとか,流体送達配管による分離箱の内部領域へのイオン導入効率が低いとか,分離箱の内部領域におけるイオン利用効率が低いなど,本件特許発明等と比較した場合に引用発明の効果の程度が小さいことをいうものであって,同主張を考慮してもなお,引用発明が原理的に実施することが不可能な発明であるとは認められない。 したがって,引用刊行物1(甲1)が引用例としての適格性を欠くということはできず,原告らの上記主張は採用することができない。 6 結論以上によれば,原告ら主張の取消事由はすべて理由がない。 よって,原告らの請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
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裁判官 | 森義之 |
裁判官 | 澁谷勝海 |