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関連審決 不服2003-4183
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10197審決取消請求事件 判例 特許
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平成17行ケ10770審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10196審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  課題の共通性 /  技術常識 /  登録実用新案 /  容易に想到(容易想到性) /  加工 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 423号 審決取消請求事件
原告 オーエスジー株式会社
同訴訟代理人弁理士 兼子直久
被告 特許庁長官小川洋
同指定代理人 神崎孝之
同 西川惠雄
同 高木進
同 涌井幸一
同 宮下正之
同 岡田孝博
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/11/16
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2003―4183号事件について平成15年8月4日にした審決を取り消す。
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,特許庁に対し,平成10年10月19日,発明の名称を「高硬度材用管用テーパタップ」とする発明につき,日本国を指定国に含む国際特許出願(PCT/JP98/04741。以下「本願」という。)を行ったところ,特許庁は,平成15年1月31日に拒絶査定をした。
そこで,原告は,同年3月14日,拒絶査定不服審判の請求をした(不服2003―4183号)ところ,特許庁は,同年8月4日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)を行い,その謄本は,同月19日,原告に送達された。
2 本件特許の請求項1に係る発明の要旨 平成14年5月1日にされた手続補正後の明細書(甲2,3。以下,図面も含めて「本願明細書」という。)の「特許請求の範囲」の請求項1に記載された次のとおりのものである(以下,この発明を「本願発明」という。)。
【請求項1】高硬度材に管用テーパねじのめねじを切削加工するための高硬度材用管用テーパタップであって,刃厚角の総和は略110〜150°の範囲内で,切れ刃のすくい角は略-25〜-10°の範囲内で,先端部の溝底の径はねじ部の小端外径の略58〜68%の範囲内で,溝数は5以上で,溝底テーパはねじ部のテーパと略同一にされていることを特徴とする高硬度材用管用テーパタップ。
3 本件審決の理由の要旨 本件審決は,次のとおり,本願発明は,実願平2-6629号(実開平3-100021号)のマイクロフィルム(甲6。以下「刊行物1」という。),登録実用新案第3005741号公報(甲7。以下「刊行物2」という。)及び実願昭58-193685号(実開昭60-100112号)のマイクロフィルム(甲8。以下「刊行物3」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
(1) 本願発明と刊行物1に記載された発明との対比 (一致点)「管用テーパねじのめねじを切削加工するための管用テーパタップ。」 (相違点1)本願発明では,めねじを切削加工するタップが,「高硬度材用」であって,「刃厚角の総和は略110〜150°の範囲内で,切れ刃のすくい角は略-25〜-10°の範囲内で,先端部の溝底の径はねじ部の小端外径の略58〜68%の範囲内で,溝数は5以上」としているのに対し,刊行物1に記載された発明では,「高硬度材用」かどうかは明らかでなく,その刃厚角,切れ刃のすくい角,先端部の溝底の径,溝数について明らかではない点 (相違点2)本願発明では,「溝底テーパはねじのテーパと略同一にされている」のに対し,刊行物1に記載された発明では,溝底テーパとねじのテーパとの関係が明らかでない点 (2) 判断 まず,相違点1について検討するに,刊行物2には,高硬度被削材に対しても高能率加工が可能で,かつ長寿命が得られる高硬度材用ハンドタップを提供することを目的とし,「刃厚角の総和Σγを略130°、切れ刃のすくい角αを-13〜-9°、みぞ底径の割合Rdを58%、みぞ数を5とした高硬度材用ハンドタップ」の発明が記載されている。めねじを切削加工するタップにおいて,高硬度被削材に対しても高能率で加工が行え,かつ長寿命であるような高硬度材用タップを得ようとすることは,普通のめねじであれ,テーパめねじであれ,共通した課題である。してみると,その課題を解決するため,切れ刃の強度や剛性等を考慮し,刊行物2記載の発明の構成を刊行物1記載のテーパめねじ用のタップに適用しようと試みることに格別の困難性はなく,また,それを阻害するような要因が,同じタップの一種である刊行物1記載の発明に存在するものとも認めることができない。 次に,相違点2について検討するに,工具の剛性を考慮し,チップ排出溝の溝深さを工具先端から工具基部に至るまで略同じ深さにする技術事項は,刊行物3に記載されている。また,刊行物3の記載はテーパエンドミルに関するものであるものの,切り刃をテーパ状となし,工具の剛性を考慮しつつ,切りくずを排出する溝の深さを設定することが必要である限りにおいては,テーパタップとその技術的課題や構成に共通するものがあり,刊行物1記載の発明における溝底テーパの設計の際に,刊行物3記載の技術事項を採用することが,当業者にとって格別困難なものと認めることができない。 そして,本願発明の効果は,刊行物1〜3に記載されたものから当業者であれば予測することができる程度のものであって格別なものとはいえない。
したがって,本願発明は,刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。
原告主張に係る本件審決の取消事由の要点
本件審決は,本件発明と刊行物1記載の発明との各相違点についての判断を誤り(取消事由1,2),また,本願発明の顕著な作用効果を看過した(取消事由3)結果,本願発明についての進歩性の判断を誤ったものであり,その誤りは本件審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,違法として取り消されるべきである。なお,本件審決の一致点及び相違点の認定は認める。
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り) 本件審決は,「刊行物2記載の発明の構成を刊行物1記載のテーパめねじ用のタップに適用しようと試みることに格別の困難性はなく,また,それを阻害するような要因が,同じタップの一種である刊行物1記載の発明に存在するものとも認めることができない。」と判断したが,誤りである。 ハンドタップでは,完全ねじ山部で切削を行わないが,管用テーパタップでは,完全ねじ山部でも切削を行い,また,ハンドタップでは,ねじの谷底では切削を行わないが,管用テーパタップでは,ねじの谷底でも切削を行うという切削機能の相違から,管用テーパタップは,ハンドタップに比べて,はるかに重切削(2〜3倍の重切削)である。この切削機能の相違は周知であるから,当業者であれば,ハンドタップの構成を管用テーパタップに適用することはあり得ない。すなわち,管用テーパタップとハンドタップとは,全く異なるものである。
しかも,刊行物2のハンドタップは,引張強さが1750MPa(約49.8HRC)程度以上の高硬度材に対してタップ加工を行うものにすぎないから,刊行物2のハンドタップの構成を,2〜3倍の重切削である管用テーパタップに適用しても,本願発明のように,略50HRC以上の高硬度材に管用テーパめねじを加工できるものとはならない。つまり,本願発明の管用テーパタップと同程度の切削抵抗を受けるハンドタップは,略100〜150HRC以上の高硬度材にタップ加工を行うものである必要がある。したがって,刊行物2のハンドタップは,その構成を刊行物1記載の発明に適用して略50HRC以上の高硬度材を被削材とする本願発明の構成を想到することの動機付けにはなり得ない。むしろ,管用テーパタップがハンドタップに比べて2〜3倍重切削であることは,刊行物2記載の発明を刊行物1記載の発明に適用することの阻害要因となる。
現に,「溝底テーパはねじ部のテーパと略同一にされている」という構成は,刊行物2に記載も示唆もない。該構成がなければ,略50HRC以上の高硬度材に対して管用テーパめねじを加工できる管用テーパタップを実現できない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り) 本件審決は,「刊行物1記載の発明における溝底テーパの設計の際に,刊行物3記載の技術事項を採用することが,当業者にとって格別困難なものと認めることができない。」と判断したが,誤りである。 管用テーパタップは,常にその全体がワークピース(被削材)に囲まれた状態でタップ加工が行われる。本願発明の管用テーパタップでは,小端から大端までの切れ刃のすくい角をほぼ同じにし,すべての切れ刃で同様に切削加工を行わせるために,「溝底テーパはねじ部のテーパと略同一にされる」構成を採用しているが,上記のような管用テーパタップの切削環境から,該構成を単独で採用したのでは,溝の断面積が小さくなって切りくずが詰まり易くなる。そこで,本願発明では,「溝数を5以上で」構成して,切りくずの排出を円滑に行うようにしている。
一方,テーパエンドミルは,その全体がワークピースに囲まれた状態で切削加工を行うことは少ないから,チップ排出溝がそれほど大きくなくても,十分良好にチップ(切りくず)を排出することができる。刊行物3のテーパエンドミルは,その第3図に示されるように,溝勾配θ’を切刃外径勾配θと略同じにしているので,溝の断面積が小さくなって切りくずが詰まり易くなるが,上記のように,全体をワークピースで囲まれていない状態で使用されるが故に,わずか2条のチップ排出溝を備えるのみでも,チップ(切りくず)の排出性を損なうことはない。
つまり,管用テーパタップの場合には,切り屑は,管用テーパタップの溝内を下降してタップ加工する下穴の下方へ排出されるか,溝内に溜まって,タップがタップ加工されためねじから抜き去られた時に切削油によって溝の外へ落とされる。一方,テーパエンドミルの場合には,切削油がかかっていないこと,切削速度が速いこと及び1刃当たりの切削量が少なく切り屑の重さが軽いことから,切り屑は,テーパエンドミルの溝内を上昇して,その溝の上端から排出されるか,その溝の側面から直接排出される(甲13)。
上記切削環境(使用状態)の相違は当業者にとって周知であるから,刊行物3のテーパエンドミルは,その構成を刊行物1記載の発明に適用して本願発明の管用テーパタップの構成を想到することの動機付けになり得るものではなく,それが,高硬度材の切削に用いられるものでないことも考慮すると,むしろ,刊行物1記載の管用テーパタップの発明に,刊行物3記載のテーパエンドミルの技術事項を採用することには,阻害要因がある。
3 取消事由3(顕著な作用効果の看過) 本件審決は,「本願発明の効果は,刊行物1〜3に記載されたものから当業者であれば予測することができる程度のものであって格別なものとはいえない。」と判断したが,誤りである。
(1) 本願発明の管用テーパタップでは,刊行物2のハンドタップと異なり,完全ねじ山部でも切削を行うので,完全ねじ山部の切れ刃のすくい角を一定とするべく,「溝底テーパがねじ部のテーパと略同一」にされている。
しかし,「溝底テーパをねじ部のテーパと略同一」にすると,切りくず排出用の溝の断面積が小さくなるので,切りくずの排出が困難となる。その上,タップの強度や剛性を向上し,折損し難くするために,「先端部の溝底の径を,ねじ部の小端外径の略58〜68%の範囲内」として,通常のタップに比べて太く形成されているので,切りくずの排出性は更に悪化している。
そこで,本願発明の管用テーパタップでは,「溝数を5以上」として,切りくずの排出を円滑に行うようにして,切りくずつまりによる切削抵抗の上昇を抑制している。また,同時に,「溝数を5以上」とすることにより,1刃当たりの切込み量を小さくして,切削加工時における切れ刃の負担を軽減させている。
このように,本願発明は,各構成が高硬度材用管用テーパタップに最適な仕様になっており,各構成が有機的にかつ一体的に組み合わされることにより,略50HRC以上の高硬度材に対しても,管用テーパめねじの加工を行うことができる耐久性のある高硬度材用管用テーパタップを実現するものである。つまり,本願発明は,各構成の組み合わせ自体に,その本質がある。
(2) 従来,略50HRC以上の高硬度材に管用テーパめねじを加工できる管用テーパタップはなく,本願明細書の背景技術欄にも記載されているとおり,50HRC以上の高硬度材に管用テーパめねじを加工する場合は,放電加工によるしかなく,放電加工によるねじ立ては,精度が悪く,しかも加工に数十時間もかかってしまい,非常に効率が悪いものであった。
現に,本願明細書の図3のとおり,本願発明の構成を1つでも欠いた管用テーパタップは,略50HRC以上の高硬度材に管用テーパめねじを加工できない。実際に,本願発明品と従来品の管用テーパタップを比較してみても,52HRCの高硬度被削材に対して,従来品は1穴の加工もできずに折損したのに対し,本願発明品は,10穴のテーパめねじの加工を行っても,折損も欠損もチッピングも一切生じなかった(甲13,甲14)。
(3) このように,本願発明は,刊行物1〜3に記載された技術事項との対比において顕著な作用効果を奏するということができる。
被告の反論の要点
本件審決の判断に誤りはなく,原告の主張する本件審決の取消事由には理由がない。
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について 本件審決は,管用テーパタップとハンドタップはともに,高硬度材の加工の要請,その解決のために全体の強度・剛性の向上が図られなければならないという課題の共通性があり,その課題解決の手段としてハンドタップで有効であった構成を,管用テーパタップに適用しようと試みる(例えば設計上の参考とする)ことは,当業者であれば格別の困難性なく行うことができる,としたものである。
そして,ハンドタップと管用テーパタップは,めねじを加工するタップという共通の技術分野に属し(例えば乙1参照),また,加工すべきめねじに応じて刃厚角の総和や切れ刃のすくい角,溝底の径及び溝数を設定しなければならない点で,その切れ刃の構成も共通していることを考えると,管用テーパタップによる切削がハンドタップによる切削の2〜3倍の重切削であることが,管用テーパタップへの適用を阻害する要因になるとまではいうことができない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について 本件審決は,管用テーパタップとテーパエンドミルとの相違について,刊行物3の記載がテーパエンドミルに関するものと認めた上で,「切り刃をテーパ状となし,工具の剛性を考慮しつつ,切りくずを排出する溝の深さを設定する」限りにおいては,テーパタップとその設計上の技術的課題や構成が共通することから,テーパタップにおける溝底テーパの設計に,刊行物3記載の技術事項を採用することに格別の困難性なしとしたものである。
そして,両者の間の切削環境(使用状態)の相違から,管用テーパタップの場合に切りくずの排出性がより大きな問題となるといっても,テーパエンドミルにおいても切りくず排出性を考慮することは従来周知(例えば乙2参照)である。また,本願発明において,「溝底テーパはねじ部のテーパと略同一にされる」構成としたのは,主にねじ部の小端から大端までの切れ刃のすくい角を全て同一とするためであるところ,刊行物3において,「溝底テーパはねじ部のテーパと略同一にされる」構成としたのも同様の趣旨からである。したがって,刊行物3記載のテーパエンドミルにおける切削環境(使用状態)の相違が,管用テーパタップへの適用を妨げる阻害要因になるとまではいうことができない。
さらに,管用テーパタップとテーパエンドミルとは,前者はねじ加工に用いられるもの,後者は溝加工や仕上げ加工等に用いられるもの,という具合に用途の面で相違しているものの,切れ刃にテーパを付けてその小端から大端までを使って切削を行うこと,直線状または螺旋状の複数本の切れ刃とその間にある切りくず排出用の溝とをその構成要素とすること,それらの構成要素を設計する際には,その程度に違いがあるとしても,工具の剛性や切りくず排出性を考慮しなければならないこと,などの点で,両者の間には切削工具としての共通性がある。そして,タップの製造業者は,関連の深い切削工具である,エンドミルの形状や材質,構造,機能についての知識も必要とされているというべきである。
そうであれば,管用テーパタップとテーパエンドミルの構成上の共通性に着目し,管用テーパタップの切りくず排出用の溝の設計に,テーパエンドミルの切りくず排出用の溝の設計において得られた知見を採用しようとすることが,格別困難なものであるということはできない。
なお,本件審決が引用した,刊行物3記載の技術事項は,テーパの小端から大端までの切れ刃のすくい角をほぼ同一とすることにより工具の剛性を高める技術であって,被削材が高硬度材であるか否かに対応する技術とは区別されるものであるから,刊行物3に同刊行物記載のテーパエンドミルが高硬度材の切削に用い得るものであることについての記載がないことをもって,上記技術事項の高硬度材用のものへの適用を困難とすることはできない。
3 取消事由3(顕著な作用効果の看過)について 刊行物2には,「みぞ数を多くすれば食付き部の1刃当たりの切込み量が小さくなるため,切削加工時の切れ刃の負担が軽減される」,「切りくずの排出性能を維持しながらみぞ数を多くする」,「外径に対するみぞ底の径の割合が大きい程強度や剛性は向上するが,この割合が大きくなるに従ってみぞの断面積が小さくなり,切りくずつまりが生じやすくなる」と記載され,これらの記載からすれば,刊行物2記載の発明は,「切れ刃の負担」,「切りくずの排出性能」,「みぞ底の径」を考慮して「みぞ数」を設定しているものと認められるから,本願発明の「溝数」と他の構成との組み合わせについても,刊行物2記載の発明と比較して格別なものは認められない。
また,「溝底テーパ」については,刊行物3には,チップ排出溝の溝深さを「工具先端から工具基部に至るまで略同じ深さ」とし,「工具の先端部から基部にかけて刃形状すなわちすくい角を均一にする」ことができると記載されており,かつ「切りくずの排出性能」を「みぞ数」により維持することも刊行物2に記載されている以上,「溝底テーパ」と他の構成との組合せにも格別なものが認められない。
そして,本願明細書には,他に,本願発明の各構成の組合わせによる相乗的な作用効果についての記載も見当たらない。そうであれば,本願発明の作用効果について,刊行物1〜3に記載されたものから予測することができる程度のものであるとした,本件審決の判断に誤りはない。
なお,本願明細書の図3に,本願発明の管用テーパタップと従来品の管用テーパタップとを用いて略50HRC以上の高硬度材に対して切削加工を行った場合の比較が示され,従来品の管用テーパタップでは1〜2穴目のめねじ加工で損傷を生じ,本願発明の管用テーパタップでは35穴まで,あるいは50穴以上のめねじ加工を行うことができたことが記載されているけれども,この比較例においては,従来品のテーパタップがどのような仕様を有するものであるかが記載されていないため,かかる比較による本願発明と従来品との差が,各構成の組合せによるものか,ある特定の構成によるものかをうかがい知ることは困難である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について 原告は,本件審決の「刊行物2記載の発明の構成を刊行物1記載のテーパめねじ用のタップに適用しようと試みることに格別の困難性はなく,また,それを阻害するような要因が,同じタップの一種である刊行物1記載の発明に存在するものとも認めることができない。」との判断は誤りである旨主張する。
(1) 刊行物1記載のテーパねじ切削用タップ(管用テーパタップ)と刊行物2記載のハンドタップとが,めねじを形成するタップである点において一致するものであることは,明らかである。
そして,管用テーパタップ及びハンドタップともに,タップである以上,当然高硬度の被削材にめねじを形成したい場合があるのは自明である。
そうであれば,刊行物1記載の管用テーパタップにおいて,高硬度材にめねじを形成するために,刊行物2記載のハンドタップ記載の高硬度の被削材にめねじを形成する構成を採用し,本願発明の相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易になし得る程度のことというべきである。
(2)ア この点につき,原告は,ハンドタップでは,完全ねじ山部で切削を行わないが,管用テーパタップでは,完全ねじ山部でも切削を行い,また,ハンドタップでは,ねじの谷底では切削を行わないが,管用テーパタップでは,ねじの谷底でも切削を行うという切削機能の相違から,管用テーパタップはハンドタップに比べてはるかに重切削であることを根拠に,当業者であれば,ハンドタップの構成を管用テーパタップに適用することはあり得ない旨主張する。
しかしながら,刊行物1記載の管用テーパタップと刊行物2記載のハンドタップは,タップである点で一致するから,少なくとも被削材にめねじを形成する構成に関する限り,刊行物1,2記載の発明は同一の技術分野に属するということができる。したがって,完全ねじ山部やねじの谷底での切削の有無や,その結果としての切削抵抗の大小の点で両者が相違するとしても,そのことは,刊行物2記載の被削材にめねじを形成する構成を刊行物1記載の発明に適用することを困難とするものとはいえない。
イ また,原告は,刊行物2のハンドタップの構成を,2〜3倍の重切削である管用テーパタップに適用しても,本願発明のように,略50HRC以上の高硬度材にテーパめねじを加工できるものとはならないから,刊行物2のハンドタップは,その構成を刊行物1記載の発明に適用して本願発明の構成を想到することの動機付けとならず,むしろ,管用テーパタップによる切削がハンドタップに比べて2〜3倍重切削であることは,刊行物2発明を刊行物1発明に適用することの阻害要因になる旨主張する。
しかしながら,本願発明に係る請求項1には,「高硬度材に管用テーパねじのめねじを切削加工するための高硬度材用管用テーパタップ」と規定されているが,その「高硬度材」の硬度は規定されていない。しかも,管用テーパタップの場合,「高硬度材」は当然に略50HRC以上の硬度のものを意味すると解すべき根拠もない。そうであれば,本願発明に係る管用テーパタップが略50HRC以上の高硬度材に対して管用テーパめねじを加工することを前提とした上記主張は,上記請求項1の記載に基づかないものである。換言すれば,本願発明に係る「高硬度材用管用テーパタップ」の切削対象である「高硬度材」が,刊行物2記載の「高硬度材用ハンドタップ」の切削対象である「高硬度材」と格別相違するものであるということはできない。したがって,原告の上記主張は,その前提を欠き,理由がない。
なお,刊行物2には,「本考案は…,その目的とするところは,引張強さが1750MPa程度以上の高硬度被削材に対しても高能率加工が可能で且つ長寿命が得られる高硬度材用ハンドタップを提供することにある。」(【0005】)と記載され,その高硬度材の硬度の上限を限定的に解すべき記載は見出せないから,仮に,本願発明に係る「高硬度材」を略50HRC以上の硬度のものと解し,かつ管用テーパタップがハンドタップに比べて略2〜3倍重切削であるとしても,これらの事項は,刊行物1記載の管用テーパタップに刊行物2記載の技術事項を採用する発想を阻害するものとはいえない。
(3) 以上のとおり,相違点1についての本件審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点2の判断の誤り)について 原告は,本件審決の「刊行物1記載の発明における溝底テーパの設計の際に,刊行物3記載の技術事項を採用することが,当業者にとって格別困難なものと認めることができない。」との判断は誤りである旨主張する。
(1) 刊行物3には,テーパエンドミルの切刃外径勾配とチップ排出溝勾配に関し,「チップ排出溝の溝深さは工具先端から工具基部に至るまで略同じ深さとなり,従ってその分だけ工具基部側心厚は従来に比べて大きくなり,これにより工具の剛性が向上するのである。そしてさらに,上記構成によれば,工具の切刃を回転砥石により研削する場合に,工具の先端部から基部にかけて刃形状すなわちすくい角を均一にすることができ,そのため工具の加工精度が非常に向上する。この点,従来例においては,チップ排出溝の深さ寸法が工具先端から基部にかけてしだいに変化しているため,回転砥石の切刃に対する当り部分が異なり,このため工具先端部と基部との間において切刃の形状すなわちすくい角に変化があったのである。」(6頁9行〜7頁3行),「第4図においては,チップ排出溝2の溝勾配θ’を,切刃外径勾配θと同一にしている。すなわち,チップ排出溝2は工具先端から基部に向かって同一深さに形成しているのである。」(7頁12〜15行)という記載がある。
上記記載によれば,刊行物3には,テーパエンドミルの切刃外径勾配(テーパ)とチップ(切りくず)排出溝勾配(テーパ)を同一にすることにより,工具基部側心厚を大きくして工具の剛性を向上できるとともに,工具の先端部から基部にかけてすくい角を均一にして,工具の加工精度を向上できることが記載されていると認められる。
そして,刊行物1記載の管用テーパタップにおいても,工具としてその剛性を向上することや加工精度を向上することが技術課題であることは自明である。
(2) また,刊行物1記載の管用テーパタップは,その切れ刃によりめねじを形成するものであるのに対して,刊行物3記載のテーパエンドミルの切刃は,めねじを形成するものではなく,「例えば…面取り加工等に用いられる」(2頁2〜3行)ものであるが,刊行物1記載の管用テーパタップの切れ刃と刊行物3記載の「テーパエンドミル」の切刃は,それぞれ,タップやエンドミルに所定のテーパをもって形成された被削材を切削する刃といえる。そして,管用テーパタップ及びテーパエンドミルが,いずれも,その小端から大端までの刃により切削を行うものであることは明らかである。
また,刊行物1の第1〜3図並びに刊行物3の上記(1)の記載及び図面によれば,刊行物1記載の管用テーパタップ及び刊行物3記載のテーパエンドミルは,いずれも切れ刃が形成されたテーパねじ山部の間に切りくずを排出する溝が設けられているものと認められる。
以上のとおり,刊行物1記載の管用テーパタップと刊行物3記載の「テーパエンドミル」は,所定のテーパをもって形成されるとともにその小端から大端までを使って切削を行う刃の間に,切りくずを排出する溝を備えた工具である点で一致すると認められるから,少なくとも該工具に係る構成に関する限り,同一の技術分野に属する発明ということができる。
(3) このように,刊行物1記載の発明と刊行物3記載の発明とが同一の技術分野に属し,かつ,共通の課題を有するものである以上,その課題を達成するためのものとして刊行物3に記載された技術事項,すなわち,所定のテーパをもって形成された刃とその間の切りくずを排出する溝のテーパを同一にして,工具基部側心厚を大きくしたり,工具の先端部から基部にかけてすくい角を均一にしたりする技術事項を,刊行物1記載の管用テーパタップに適用し,本願発明の相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易になし得る程度の事項というべきであり,そのことにより不都合が生じるということはできない。
(4) この点につき,原告は,テーパエンドミルでは,その全体をワークピースで囲まれない状態で加工が行われるが,管用テーパタップでは,常にその全体がワークピースに囲まれた状態で加工が行われるものであり(そのため,「溝底テーパはねじ部のテーパと略同一にされる」構成を単独で採用したのでは,切りくずが詰まり易くなるため,本願発明では「溝数を5以上で」構成した。),この切削環境(使用状態)の相違は,当業者にとって周知であるので,刊行物3のテーパエンドミルは,その構成を刊行物1記載の発明に適用して本願発明の管用テーパタップの構成を想到することの動機付けになり得るものではなく,刊行物3のテーパエンドミルが,高硬度材の切削に用いられるものでないことも考慮すると,むしろ,刊行物1発明に刊行物3発明を適用することには阻害要因がある旨主張する。
刊行物3には,「スクエアエンドミルにおいては,心厚すなわちチップ排出溝の深さ,換言すれば切刃外径勾配とチップ排出溝の勾配との関係を以下の如くしている。すなわち,これは工具の剛性と切削チップの排出性の2つの観点より決定されている。チップ排出溝の深さを深くすれば切削チップの排出性は良いが,その反面工具の剛性が不足するようになるので,両者のバランスを考慮して上記関係を定めており,スクエアエンドミルにおいては,従来より心厚は0.5×D〜0.7×D(D=切刃外径寸法)が良いとされていた。そして,テーパエンドミルにおいても,心厚に関しては上記スクエアエンドミルに習っており,略0.6Dの諸元で行われるのが一般的である。」(2頁8行〜3頁2行)という記載があるから,上記記載に接した当業者は,形成された刃の間に切りくずを排出するための溝を備えた工具においては,工具の剛性を考慮しつつ,切りくずを排出する溝の深さを設定する必要があることを理解するものと認められる。
そして,管用テーパタップであろうとテーパエンドミルであろうと,切りくずの排出性の良否が切りくずを排出する溝の深さや幅に依存することは明らかであるから,仮に,管用テーパタップにおいて,「溝底テーパはねじ部のテーパと略同一にされる」構成を単独で採用したのでは,溝の断面積が小さくなって切りくずが詰まり易くなるとしても,刊行物3の上記記載に接した当業者であれば,工具の剛性を考慮しつつ,切りくずを排出する溝の深さを適宜設定するものというべきである。
したがって,原告が主張する切削環境(使用状態)の相違は,管用テーパタップにおいて,刊行物3に記載の「溝底テーパはねじ部のテーパと略同一にされる」構成を採用する発想自体を技術的に困難なものとするとはいえない。
なお,被削材が高硬度材であるか否かの点は,相違点1として検討されるべき事項であるから,刊行物3のテーパエンドミルが,高硬度材の切削に用いられるか否かは,相違点2の容易想到性に関する上記判断を左右するものとはいえない。
(5) 以上のとおり,相違点2についての本件審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由2の主張は理由がない。
3 取消事由3(顕著な作用効果の看過)について 原告は,本件審決の「本願発明の効果は,刊行物1〜3に記載されたものから当業者であれば予測することができる程度のものであって格別なものとはいえない。」との判断は誤りである旨主張する。
(1) まず,原告は,本願発明は,各構成が高硬度材用管用テーパタップに最適な仕様になっており,各構成が有機的にかつ一体的に組み合わされることにより,略50HRC以上の高硬度材に対しても,管用テーパめねじの加工を行うことができる耐久性のある高硬度材用管用テーパタップを実現するものである旨主張する。
ア 刊行物2には,ねじ部の外径に応じて,みぞ数,みぞ底の径,刃厚,すくい角を相互の関係を考慮しながら決定することについて,次のような記載がある。
「みぞ数(刃数)は3以上、すなわちJISの規定と同じかそれ以上で、
みぞ数を多くすれば食付き部の1刃当たりの切込み量が小さくなるため、切削加工時の切れ刃の負担が軽減される。しかし、切りくずの排出性能を維持しながらみぞ数を多くすると刃厚が狭くなり、切れ刃の負担が軽減されるとはいっても欠損などの不具合が生じ易くなるため、みぞ数はJISの規定より1または2程度増やすのが限度である。」(【0008】),「みぞ底の径はねじ部の外径(加工すべきめねじの谷の径)の略48〜65%の範囲内で、通常のハンドタップに比べて大きめであり、強度や剛性が向上して折損し難くなる。外径に対するみぞ底の径の割合が大きい程強度や剛性は向上するが、この割合が大きくなるに従ってみぞの断面積が小さくなり、切りくずつまりが生じ易くなるため、このような得失を考慮して上記範囲は定められている。」(【0009】),「刃厚角の総和は略125〜150°の範囲内で、この角度が大きい程各刃厚が広くなって強度や剛性が高くなり、欠損などの不具合が生じ難くなるが、角度が大きくなるに従ってみぞの断面積が小さくなり、切りくずつまりが生じ易くなるため、このような得失を考慮して上記角度範囲は定められている。」(【0010】),「切れ刃のすくい角は略-15〜-8°の範囲内であるため、すくい面と外周逃げ面とによって構成される切れ刃と直角な断面における刃物角が通常のハンドタップに比べて大きめとなり、強度や剛性が向上して刃欠けやチッピングの発生が抑制される。すくい角が小さい(マイナス側に大きくなる)程刃物角が大きくなって切れ刃の強度や剛性は向上するが、すくい角が小さくなるに従って切削抵抗が大きくなるため、このような得失を考慮して上記範囲は定められている。また,このように負のすくい角を採用すると,高硬度被削材の場合の切りくずは剪断形になって比較的小さく分断されるため,前記みぞ底の径や刃厚を大きくすることによってみぞ断面積が小さくなっても切りくずつまりが良好に回避される。」(【0011】),「本考案の高硬度材用ハンドタップによれば,加工すべきめねじの谷の径すなわちねじ部の外径に応じて,みぞ数やみぞ底の径,刃厚,すくい角を上記所定の範囲内で適当に設定することにより,切りくずつまり等による切削抵抗の上昇を抑制しながら,…優れた強度,剛性が得られるようになるとともに,…引張強さが1750MPa程度以上の高硬度被削材に対しても高能率加工が可能で,例えば熱処理後にねじ立てを行うことができるようになるとともに,実用上十分な工具寿命が得られるようになる。」(【0012】) また,刊行物3に,テーパエンドミルの切刃外径勾配(テーパ)とチップ(切りくず)排出溝勾配(テーパ)を同一にすることにより,工具基部側心厚を大きくして工具の剛性を向上できるとともに,工具の先端部から基部にかけてすくい角を均一にして,工具の加工精度を向上できることが記載されていることは,前記2(1)のとおりである。
さらに,「現場技術者のための穴加工皆伝」(平成6年5月31日,切削油技術研究会発行,甲12)には,「3タップ加工,3.2タップ加工の基礎,3.2.1切削タップ,(2)切削タップの構造,Eランド幅と溝の幅」の項に,「ランド幅をむやみに広くすると,溝の幅が狭くなり,切りくず詰まりを起こしやすくなる。そこで,小径タップ場合は2溝や3溝として,実質的に溝幅を広くしている。」と記載されているから,タップの技術分野において,切りくず詰まりを防ぐために,溝の数を調整することは本願出願時に周知であったと認められる。
イ 一方,本願発明に係る構成が,当業者が刊行物1〜3記載の発明に基づいて容易に想到し得るものであることは,前記1,2のとおりである。
そして,本願明細書を見ても,本願発明の構成による作用効果については,次のような記載しかなく,本願発明の各構成を採用したことによりそれらの相乗効果等として格別顕著な作用効果が生じる旨の記載はない。
「刃厚角の総和が大きい程,各刃厚が広くなって,ねじ部の欠損や折損が生じ難くなる。一方,各刃厚が広くなることにより,タップと被削材との接触面積が大きくなるので,加工中にキシミ音が発生するだけでなく切削抵抗が大きくなって加工が困難になる。」(甲3の2頁7〜10行),「切れ刃のすくい角が小さくなる程(マイナス側に大きくなる程),すくい面と外周逃げ面とによって構成される刃物角が大きくなって,切れ刃の強度や剛性が向上し,刃欠けやチッピングの発生が抑制される。一方,刃物角が大きくなる程,切削抵抗が大きくなってしまう。」(甲3の3頁12〜16行),「先端部の溝底の径は,…通常のタップに比べて太く形成されている。よって,その分,タップの強度や剛性が向上され,折損し難くされている。なお,ねじ部の小端外径に対する先端部の溝底の径の割合を大きくすると,溝の断面積が小さくなって,切りくずつまりが生じ易くなる。しかし,前記した通り,切れ刃のすくい角を略-25〜-10°の範囲内にしているので,切りくずは剪断形になって比較的小さく分断される。よって,溝の断面積が小さくなっても,切りくずつまりが良好に回避される。」(甲3の2頁19〜26行),「かかる溝数を5以上として切りくず排出用の溝数を多くしているので,切りくずの排出が円滑に行われ,切りくずつまりによる切削抵抗の上昇が抑制される。また,溝数を5以上とすることにより,1刃当たりの切込み量が小さくなるので,切削加工時における切れ刃の負担が軽減される。」(甲3の2頁27行〜3頁1行),「溝底テーパをねじ部のテーパと略同一とすることにより,小端から大端までの切れ刃のすくい角をすべて略同一にすることができる。管用テーパタップはすべての切れ刃で切削加工を行うので,すべての切れ刃のすくい角をほぼ同じにすることにより,すべての切れ刃で同様に切削加工を行わせることができる。」(甲3の3頁2〜5行),「第1発明の高硬度材用管用テーパタップによれば,加工すべき管用テーパめねじに応じて,刃厚角の総和,切れ刃のすくい角,先端部の溝底の径,溝数,溝底テーパを上記所定の範囲内で設定することにより,熱処理後の被削材のように,例えば略50HRC以上の高硬度材に対して,管用テーパめねじの加工を行っても,実用上十分な耐久性を得ることができるという効果がある。」(甲3の3頁15〜19行) ウ そうであれば,「高硬度材用管用テーパタップ」において,刃厚角,すくい角,先端部の溝底の径とねじ部の小端外径の比,溝数,溝底テーパとねじのテーパを本願発明のようにすることによる作用効果は,刊行物1〜3記載の発明から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎないというべきである。
(2) 次に,原告は,本願明細書の図3のとおり,本願発明の構成を1つでも欠いた管用テーパタップは,略50HRC以上の高硬度材に管用テーパめねじを加工できないし,実際,本願発明品と従来品の管用テーパタップとを比較しても,52HRCの高硬度被削材に対して,従来品は1穴の加工もできずに折損したのに対し,本願発明品は10穴のテーパめねじの加工を行っても,折損も欠損もチッピングも一切生じなかった(甲13,14)旨主張する。
しかしながら,本願の出願当初の図3における,本発明の管用テーパタップ1,従来品の管用テーパタップ(1),(2)の比較では,従来品の具体的仕様が示されていないから,本願発明と従来品との差が,本願発明の各構成の組合せによるものであるのか,それとも,ある特定の構成によるものかは,不明であるといわざるを得ない。したがって,上記比較は,「本願発明の構成を1つでも欠いた管用テーパタップは,略50HRC以上の高硬度材に管用テーパめねじを加工できない」という原告の主張を裏付けるものということはできない。
また,管用テーパタップが切削できる被削材の硬度や切削量が,切削形成すべきねじ孔の形状,テーパタップの刃部の材質,使用される切削油の種類,テーパタップの回転速度等の切削条件(環境)に依存することは,技術常識であるところ,甲13,14に示される本願発明品と従来品での比較においては,上記切削条件が明らかでないから,その比較結果も,直ちに本願発明の作用効果の顕著性を裏付けるものとはいえない。
(3) 以上のとおり,本願発明の効果についての本件審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由3の主張は理由がない。
4 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 青柳馨
裁判官 清水節
裁判官 沖中康人