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関連審決 無効2004-80243
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 技術的思想 /  方法の発明 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  周知技術 /  公知技術 /  技術分野の関連性 /  課題の共通性 /  技術常識 /  優先権 /  実質的に同一 /  技術的意義 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  交換 /  同意 /  設定登録 /  発明の範囲 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10770号 審決取消請求事件
原告株 式会社荏原製作所
訴訟代理人弁護士大野聖二
同弁理士渡邉勇
同 伊藤茂
被告株式会社神鋼環境ソリューション
訴訟代理人弁理士藤本昇
同 中谷寛昭
同 小山雄一
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/04/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2004-80243号事件について平成17年9月26日にした審決中「特許第3270447号の請求項1ないし16に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯(1)原告は,発明の名称を「廃棄物の処理方法及びガス化及び熔融装置」とする特許第3270447号(平成7年2月9日にした出願〔特願平7-22000号〕の一部を分割して平成12年10月5日に出願〔特願2000-306695号〕したもの。優先権主張・平成6年3月10日,同年4月15日。平成14年1月18日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
(2)被告は,平成16年12月1日,原告を被請求人として,本件特許を無効にすることを求めて審判の請求をし,原告は,平成17年2月21日付け訂正請求書により特許請求の範囲の記載等の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。
特許庁は,上記無効審判請求を無効2004-80243号事件として審理した上,平成17年9月26日,「訂正を認める。特許第3270447号の請求項1ないし16に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同月30日,原告に送達された。
2本件訂正後の明細書(甲41。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された発明(以下,請求項1に記載された発明を「本件発明1」,請求項2に記載された発明を「本件発明2」などといい,また,これらを一括して「本件発明」という。)の要旨【請求項1】廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,熔融炉にて灰分を熔融する装置において,該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,該流動化ガスを炉内に供給して該炉内に流動媒体の循環流を形成し,該廃棄物を該流動層炉に供給し,循環流中でガス化してガスとチャーを生成し該チャーを該循環流中で微粒子とし,該廃棄物に含まれる不燃物と流動媒体を該流動層炉の炉底部より排出し,該不燃物と該流動媒体を分別した後に該流動媒体を該流動層炉に戻し,該熔融炉は該流動層炉より排出された該ガスと該微粒子となったチャーを燃焼して灰分を熔融する燃焼室を備えたことを特徴とするガス化及び熔融装置。
【請求項2】廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,熔融炉にて灰分を熔融する装置において,該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,該質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する手段と,該質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する手段から供給される流動化ガスはともに空気とし,該流動化ガスを炉内に供給して該炉内に流動媒体の循環流を形成し,該廃棄物を該流動層炉に供給し,循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,該廃棄物に含まれる不燃物と流動媒体を該流動層炉の炉底部より排出し,該不燃物と該流動媒体を分別した後に該流動媒体を該流動層炉に戻し,該熔融炉は該流動層炉より排出された該ガスと該チャーを燃焼して灰分を熔融することを特徴とするガス化及び熔融装置。
【請求項3】廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,熔融炉にて灰分を熔融する装置において,該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,流動化ガスを炉内に供給して流動媒体の循環流を形成し,該質量速度が比較的小さい流動化ガスによって流動化される部分をガス化ゾーンとし,該質量速度が比較的大きい流動化ガスによって流動化される部分を酸化ゾーンとし,該廃棄物を該流動層炉に供給し,該ガス化ゾーンにてガス化してガスとチャーを生成し,該ガス化ゾーンで生成したチャーを該循環流にて該酸化ゾーンに供給して部分酸化し,該廃棄物に含まれる不燃物と流動媒体を該流動層炉の炉底部より排出し,該不燃物と該流動媒体を分別した後に該流動媒体を該流動層炉に戻し,該熔融炉は該流動層炉より排出された該ガスと該チャーを燃焼して灰分を熔融することを特徴とするガス化及び熔融装置。
【請求項4】廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,熔融炉にて灰分を熔融する装置において,該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,該流動化ガスを炉内に供給して該炉内に流動媒体の循環流を形成し,該廃棄物を該流動層炉に供給し,循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,生成されたチャーを質量速度が比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層で燃焼させ,流動層温度を450℃〜650℃に維持し,該廃棄物に含まれる不燃物と流動媒体を該流動層炉の炉底部より排出し,該不燃物と該流動媒体を分別した後に該流動媒体を該流動層炉に戻し,該熔融炉は該流動層炉より排出された該ガスと該チャーを燃焼して灰分を熔融する燃焼室を備え,前記廃棄物は,都市ごみであることを特徴とするガス化及び熔融装置。
【請求項5】前記流動層炉は,炉内の圧力が大気圧以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のガス化及び熔融装置。
【請求項6】前記不燃物と流動媒体を前記流動層炉の炉底部より排出するに際し,該流動層炉下部の不燃物取出しシュートの周りに該流動媒体により空気を加熱する空気ジャケットを備えたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のガス化及び熔融装置。
【請求項7】廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,熔融炉にて灰分を熔融する方法において,該流動層炉内に質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給して流動媒体の循環流を形成し,該廃棄物を該流動層炉に供給し,循環流中でガス化してガスとチャーを生成し該チャーを該循環流中で微粒子とし,該廃棄物に含まれる不燃物と流動媒体を該流動層炉の炉底部より排出し,該不燃物と該流動媒体を分別した後に該流動媒体を該流動層炉に戻し,該流動層炉より排出された該ガスと該微粒子となったチャーを熔融炉に供給し,燃焼して灰分を熔融することを特徴とする廃棄物の処理方法。
【請求項8】廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,熔融炉にて灰分を熔融する方法において,該流動層炉内に質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給して流動媒体の循環流を形成し,該質量速度が比較的小さい流動化ガスと該質量速度が比較的大きい流動化ガスをともに空気とし,該廃棄物を該流動層炉に供給し,循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,該廃棄物に含まれる不燃物と流動媒体を該流動層炉の炉底部より排出し,該不燃物と該流動媒体を分別した後に該流動媒体を該流動層炉に戻し,該流動層炉より排出された該ガスと該チャーを熔融炉に供給し,燃焼して灰分を熔融することを特徴とする廃棄物の処理方法。
【請求項9】廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,熔融炉にて灰分を熔融する方法において,該流動層炉内に質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給して流動媒体の循環流を形成し,該質量速度が比較的小さい流動化ガスによって流動化される部分をガス化ゾーンとし,該質量速度が比較的大きい流動化ガスによって流動化される部分を酸化ゾーンとし,該廃棄物を該流動層炉に供給し,ガス化ゾーンにてガス化してガスとチャーを生成し,該ガス化ゾーンで生成したチャーを該循環流にて該酸化ゾーンに供給して部分酸化し,該廃棄物に含まれる不燃物と該流動媒体を該流動層炉の底部より排出し,該不燃物と該流動媒体を分別した後に,該流動媒体は該流動層炉に戻し,該流動層炉より排出されるガスとチャーを該熔融炉に供給し,燃焼して灰分を熔融することを特徴とする廃棄物の処理方法。
【請求項10】前記質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスは,ともに空気であることを特徴とする請求項7又は9記載の廃棄物の処理方法。
【請求項11】前記ガス化ゾーンに供給される流動化ガスは,水蒸気または水蒸気と空気の混合気体又は空気であることを特徴とする請求項9記載の廃棄物の処理方法。
【請求項12】前記酸化ゾーンに供給される流動化ガスは,酸素又は酸素と空気の混合気体又は空気であることを特徴とする請求項9記載の廃棄物の処理方法。
【請求項13】前記廃棄物は,都市ごみ又は廃プラスチックであることを特徴とする請求項7乃至12のいずれか1項に記載の廃棄物の処理方法。
【請求項14】前記流動層炉は,炉内の圧力を大気圧以下にすることを特徴とする請求項7乃至13のいずれか1項に記載の廃棄物の処理方法。
【請求項15】前記不燃物と流動媒体を前記流動層炉の炉底部より排出するに際し,該流動媒体により空気を加熱することを特徴とする請求項7乃至14のいずれか1項に記載の廃棄物の処理方法。
【請求項16】前記流動層炉より排出されたガスとチャーを燃焼し,1300℃以上とすることを特徴とする請求項7乃至15のいずれか1項に記載の廃棄物の処理方法。
3審決の理由( )審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件発明1,2,7及び8は,1特公昭62-35004号公報(甲2,以下「甲2公報」という。なお,審決における「特開昭62-35004号公報」との記載は誤記と認める。)に記載された発明(以下「甲2の発明」という。)及び周知の技術に基づいて,本件発明3ないし6,9ないし11は,甲2の発明及び特開平2-147692号公報(甲3,以下「甲3公報」という。)に記載された発明(以下「甲3の発明」という。)並びに周知の技術に基づいて,本件発明12ないし16は,甲2の発明,甲3の発明,特開昭57-124608号公報(甲5,以下「甲5公報」という。)に記載された発明及び平成2年発行燃料協会誌69巻11号「無破砕旋回流型流動燃焼炉とその応用技術」(甲6,以下「甲6文献」という。)に記載された発明並びに周知の技術に基づいて,いずれも当業者が容易に発明をすることができたものであるとして,本件発明1ないし16に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号に該当するので,無効とすべきものであるとした。
なお,特許法29条の適用については,優先権の主張を認めず,原出願の出願日である平成7年2月9日(以下「本件出願日」という。)を基準とするとした。
( )審決が認定した甲2の発明の要旨2都市ごみなどの固形廃棄物を流動層熱分解炉に供給し,該流動層熱分解炉の流動層にてガス化した後,サイクロン燃焼炉にて灰分を溶融する装置において,該固形廃棄物を該流動層熱分解炉に供給し,流動層内の熱分解によりガス化してガス並びにチャー及び灰分の微粒子を生成し,該固形廃棄物に含まれる不燃物を該流動層熱分解炉の炉底部より排出し,サイクロン燃焼炉は該流動層熱分解炉より排出された該ガスとチャーを燃焼して灰分を熔融する燃焼室を備えた固形物の燃焼装置。
( )審決が認定した,本件発明1と甲2の発明の一致点及び相違点3ア一致点廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,熔融炉にて灰分を熔融する装置において,該廃棄物を該流動層炉に供給し,ガス化してガスとチャーを生成し,該熔融炉は該流動層炉より排出された該ガスと微粒子となったチャーを燃焼して灰分を熔融する燃焼室を備えたガス化及び熔融装置。
イ相違点(ア)相違点A本件発明1は「該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,該流動化ガスを炉内に供給して該炉内に流動媒体の循環流を形成し」たものであるのに対し,甲2(注,甲2公報)には,このような構成について明示の記載がない点。
(イ)相違点B本件発明1は,廃棄物を「循環流中で」ガス化してガスとチャーを生成し「該チャーを該循環流中で微粒子とし」たものであるのに対し,甲2には,このような構成について明示の記載がない点。
(ウ)相違点C本件発明1は「該廃棄物に含まれる不燃物と流動媒体を該流動層炉の炉底部より排出し,該不燃物と該流動媒体を分別した後に該流動媒体を該流動層炉に戻し」たものであるのに対し,甲2には,廃棄物に含まれる不燃物を流動層熱分解炉(流動層炉)の炉底部より排出することが記載されているが,その余の構成についての記載はない点。
( )審決が認定した,本件発明2と甲2の発明の一致点及び相違点4ア一致点廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,熔融炉にて灰分を熔融する装置において,該廃棄物を該流動層炉に供給し,ガス化してガスとチャーを生成し,該熔融炉は該流動層炉より排出された該ガスと該チャーを燃焼して灰分を熔融するガス化及び熔融装置。
イ相違点(ア)相違点D本件発明2は「該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,該質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する手段と,該質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する手段から供給される流動化ガスはともに空気とし,該流動化ガスを炉内に供給して該炉内に流動媒体の循環流を形成し,」たものであるのに対し,甲2には,このような構成について明示の記載がない点。
(イ)相違点E本件発明2は,廃棄物を「循環流中で」ガス化してガスとチャーを生成したものであるのに対し,甲2には,このような構成について明示の記載がない点。
(ウ)相違点F本件発明2は「該廃棄物に含まれる不燃物と流動媒体を該流動層炉の炉底部より排出し,該不燃物と該流動媒体を分別した後に該流動媒体を該流動層炉に戻し」たものであるのに対し,甲2には,廃棄物に含まれる不燃物を流動層熱分解炉(流動層炉)の炉底部より排出することが記載されているが,その余の構成についての記載はない点。
( )審決が認定した,本件発明3と甲2の発明の一致点及び相違点5ア一致点廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,熔融炉にて灰分を熔融する装置において,該廃棄物を該流動層炉に供給し,ガス化してガスとチャーを生成し,該熔融炉は該流動層炉より排出された該ガスと該チャーを燃焼して灰分を熔融するガス化及び熔融装置。
イ相違点(ア)相違点G本件発明3は「該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,流動化ガスを炉内に供給して流動媒体の循環流を形成し,該質量速度が比較的小さい流動化ガスによって流動化される部分をガス化ゾーンとし,該質量速度が比較的大きい流動化ガスによって流動化される部分を酸化ゾーンとし,該廃棄物を該流動層炉に供給し,該ガス化ゾーンにてガス化してガスとチャーを生成し,該ガス化ゾーンで生成したチャーを該循環流にて該酸化ゾーンに供給して部分酸化し」たものであるのに対し,甲2には,このような構成について記載されていない点。
(イ)相違点H本件発明3は「該廃棄物に含まれる不燃物と流動媒体を該流動層炉の炉底部より排出し,該不燃物と該流動媒体を分別した後に該流動媒体を該流動層炉に戻し」たものであるのに対し,甲2には,このような構成について明示の記載がない点。
( )審決が認定した,本件発明4と甲2の発明の一致点及び相違点6ア一致点廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,熔融炉にて灰分を熔融する装置において,該廃棄物を該流動層炉に供給し,ガス化してガスとチャーを生成し,該熔融炉は該流動層炉より排出された該ガスと該チャーを燃焼して灰分を熔融する燃焼室を備え,前記廃棄物は,都市ごみであるガス化及び熔融装置。
イ相違点(ア)相違点I本件発明4は「該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,該流動化ガスを炉内に供給して該炉内に流動媒体の循環流を形成し」たものであるのに対し,甲2には,このような構成について記載されていない点。
(イ)相違点J本件発明4は,廃棄物を「循環流中で」ガス化してガスとチャーを生成し,「生成されたチャーを質量速度が比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層で燃焼させ」たものであるのに対し,甲2には,このような構成について記載されていない点。
(ウ)相違点K本件発明4は「流動層温度を450℃〜650℃に維持し」たものであるのに対し,甲2には,このような構成について記載されていない点。
(エ)相違点L本件発明4は「該廃棄物に含まれる不燃物と流動媒体を該流動層炉の炉底部より排出し,該不燃物と該流動媒体を分別した後に該流動媒体を該流動層炉に戻し」たものであるのに対し,甲2には,廃棄物に含まれる不燃物を流動層熱分解炉(流動層炉)の炉底部より排出することが記載されているが,その余の構成についての記載はない点。
第3原告主張の審決取消事由審決は,甲2の発明の認定を誤り(取消事由1),本件発明1と甲2の発明の一致点の認定を誤り,相違点を看過し(取消事由2),相違点A,B,D,E,G,I,J及びKについての認定判断を誤り(取消事由3,4,6,7,9,11,12),本件発明1ないし4の奏する顕著な効果を看過し(取消事由5,8,10,13),本件発明5ないし16についての進歩性の認定判断を誤り(取消事由14ないし16),本件発明1ないし16は,当業者が容易に発明をすることができたものであるとの誤った結論を導いたものであり,違法であるから取り消されるべきである。
1取消事由1(甲2の発明の認定の誤り)( )審決は,甲2公報には,「流動層内の熱分解により生成された可燃性ガス1並びにチャー及び灰分の微細粒子,すなわち微粒子をサイクロン燃焼炉に供給し,その内部で燃焼すること」(審決謄本32頁第2段落)が記載されているなどとして,「都市ごみなどの固形廃棄物を流動層熱分解炉に供給し,該流動層熱分解炉の流動層にてガス化した後,サイクロン燃焼炉にて灰分を溶融する装置において,該固形廃棄物を該流動層熱分解炉に供給し,流動層内の熱分解によりガス化してガス並びにチャー及び灰分の微粒子を生成し,該固形廃棄物に含まれる不燃物を該流動層熱分解炉の炉底部より排出し,サイクロン燃焼炉は該流動層熱分解炉より排出された該ガスとチャーを燃焼して灰分を熔融する燃焼室を備えた固形物の燃焼装置。」(同頁第4段落)との甲2の発明が記載されていると認定したが,誤りである。
(2)審決は,本件発明1を含む本件発明の技術的意義を正解しなかったために,甲2の発明の認定を誤ったものである。
甲2の発明においては,流動層において熱分解過程が行われ,この熱分解過程が行われた結果生成したチャーが微細な粒子であるので,流動層炉内において,生成されたチャーを微粒子とする処理を行う必要がなく,そのための構成もない。また,特公平1-52654号公報(甲35)記載の発明においては,流動層で熱分解を行わせてガスとチャーを生成し,熱分解生成ガスを旋回溶融炉に導入して,高温燃焼を行わせて灰分を溶融スラグ化するに当たり,処理対象物や熱分解の条件によってはチャーが流動層炉内に滞留してしまうので,生成したチャーを流動層から溢流させて流動層炉外に抜き出して別途粉砕処理して溶融炉に供給していた。また,特開昭54-43902号公報(甲36)記載の発明においても,流動層熱分解炉で熱分解により生成されたチャーを流動層炉外へ溢流させて粉砕処理していた。
本件発明は,上記のような従前の事情に着目し,本件明細書の段落【0060】等に記載されているように,流動媒体の循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,ガス化の結果生成したチャーを生成ガスから分離して,循環流中で微粒子とするといった処理をしたものである。その結果,本件発明においては,チャーを流動層炉内にとどまらせずに,可燃ガスに同伴して溶融炉に供給することができ,炉内に供給される廃棄物の質や量が変動しても低温域で廃棄物をガス化させて安定して可燃ガスと多量のチャーを生成し,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得て,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の溶融燃焼炉において利用できるようにしたという技術的意義がある。
( )甲2公報には,熱分解で生成された微細な粒子のチャーと可燃性ガスがそ3のままサイクロン燃焼炉に供給されることが記載されている。熱分解過程において,可燃ガスと粒径の細かな熱分解生成物(チャー)や粒径の粗い熱分解生成物(チャー)が生成され,粒径の粗い熱分解生成物(チャー)が,流動する流動媒体により解砕されたり,また,流動化ガスにより供給される酸素によって燃焼されたりして細かくなり,微細な粒子のチャーが生成されることがあり,熱分解過程におけるこのような現象は,流動化ガスにより酸素が供給される流動層において,廃棄物の熱分解を行ってガスとチャーを生成する際に生じる一般的な現象である。
したがって,甲2の発明においては,熱分解過程が行われた結果生成したチャーが微細な粒子であるので,流動層炉内において,生成されたチャーを微粒子とする処理を行う必要がなく,そのための構成もない。
これに対し,本件発明1は,流動媒体が下降する移動層において廃棄物がガス化されてガスとチャーが生成され,生成されたチャーを可燃ガスとは分離して流動媒体が上昇する流動層へと移動させ,部分酸化させて微粒子とする処理をさらに行っている。
したがって,甲2公報には,本件発明1の流動媒体が下降する移動層における「ガス化してガスとチャーを生成し」に対応する「熱分解過程によりガスとチャーを生成し」という構成は存在するが,ガス化により生成されたチャーをさらに微粒子とする処理を行うという,本件発明の「該チャーを微粒子とし」との構成は記載されていない。甲2公報に,流動層中で熱分解過程により可燃ガスとチャーを生成し,生成されたチャーをさらに微粒子としていることが記載されているとして,甲2の発明を「都市ごみなどの固形廃棄物を流動層熱分解炉に供給し,該流動層熱分解炉の流動層にてガス化した後,サイクロン燃焼炉にて灰分を溶融する装置において,該固形廃棄物を該流動層熱分解炉に供給し,流動層内の熱分解によりガス化してガス並びにチャー及び灰分の微粒子を生成し,該固形廃棄物に含まれる不燃物を該流動層熱分解炉の炉底部より排出し,サイクロン燃焼炉は該流動層熱分解炉より排出された該ガスとチャーを燃焼して灰分を熔融する燃焼室を備えた固形物の燃焼装置。」と認定した審決は誤りである。
2取消事由2(本件発明1と甲2の発明の一致点の認定の誤り,相違点の看過)(1)審決は,本件発明1と甲2の発明は,「廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,熔融炉にて灰分を熔融する装置において,該廃棄物を該流動層炉に供給し,ガス化してガスとチャーを生成し,該熔融炉は該流動層炉より排出された該ガスと微粒子となったチャーを燃焼して灰分を熔融する燃焼室を備えたガス化及び熔融装置。」(審決謄本32頁第5段落)の点で一致すると認定したが,誤りである。
前記1のとおり,甲2の発明は,流動層内の熱分解により生成されたガス並びに生成された状態で微粒子のチャー及び灰分を,サイクロン燃焼炉に供給するものであり,「流動層炉内の循環流中でガス化してガスとチャーを生成し該チャーを該循環流中で微粒子とし,・・・該熔融炉は該流動層炉より排出された該ガスと該微粒子となったチャーを燃焼」している本件発明1とは,流動層炉から溶融炉にチャーを供給する過程が全く異なっているから,本件発明1と甲2の発明が,流動層から溶融炉に同じように微粒子のチャーを供給しているとして,一致点を認定した審決は誤りである。
(2)審決は,本件発明1の「該流動層炉より排出された該ガスと該微粒子となったチャーを燃焼して灰分を熔融する燃焼室を備えた」との構成について,本件発明1と甲2の発明との相違点として認定しておらず,相違点を看過した。
本件発明1と甲2の発明では,溶融炉に供給するガスとチャーを得る過程が異なっているのであるから,溶融炉に供給されるガスとチャーが一連の過程を経て得られるものであることを規定した本件発明1の「該流動層炉より排出された該ガスと該微粒子となったチャーを燃焼して灰分を熔融する燃焼室を備えた」との構成も本件発明1と甲2の発明の相違点として認定されるべきである。
3取消事由3(相違点Aについての認定判断の誤り)(1)審決は,相違点Aに係る本件発明1の構成について,「流動層炉において『該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,該流動化ガスを炉内に供給して該炉内に流動媒体の循環流を形成し』たことは,本件発明1の出願前に当業者には周知の技術であったものと認められる。」(審決謄本33頁最終段落)として,「相違点Aに係る本件発明1の構成は,甲2の発明に上記の周知の技術を適用することにより,当業者が容易に想到できたものというべきである。」(同34頁第1段落)と認定判断したが,誤りである。
(2)相違点Aに係る本件発明1の構成は,ガス化溶融の流動層炉において,質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスにより流動媒体の循環流を形成することを規定したものであり,廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,生成されたチャーをさらに微粒子とするための構成である。
甲2の発明には,本件発明1の,流動媒体が下降する移動層におけるガス化の過程に対応する熱分解過程は存在するが,ガス化により生成されたチャーを流動媒体が上昇する流動層においてさらに微粒子とするという本件発明1の構成はない。また,審決が「該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,該流動化ガスを炉内に供給して該炉内に流動媒体の循環流を形成し」たことを周知の技術と認定する根拠とした甲3公報,甲5公報及び甲6文献(以下,甲3公報,甲5公報及び甲6文献を併せて「甲3公報等」ともいう。)のいずれにも,循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,チャーを循環流中で微粒子とするとの構成は開示されていない。
したがって,審決において周知の技術と認定された「該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,該流動化ガスを炉内に供給して該炉内に流動媒体の循環流を形成し」との構成を,甲2の発明の流動媒体の流れに適用して流動媒体の流れを変えても,本件発明1の「該チャーを微粒子とし」との構成が得られることはないから,甲2の発明に,周知又は公知の技術をどのように組み合わせても,本件発明1の「該チャーを微粒子とし」との構成が得られることはない。
(3)審決は,以下の各点を看過し,相違点Aの容易想到性についての判断を誤った。
ア審決は,流動媒体の流れと流動層の機能との関係を看過した。
相違点Aに係る本件発明1の構成は,ガス化溶融の流動層炉において,流動媒体の循環流を形成して,その流動媒体の流れを有する流動層において,廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,生成されたチャーをさらに微粒子としているものである。それに対し,甲2の発明においては,甲2の発明における流動層の流動媒体の流れにおいて,可燃ガスと微細なチャーが生成されるという流動層の機能が発揮されている。そして,流動層炉は,種々の目的に使用され,使用目的に応じて,種々の要素の最適化の範囲が異なり,容易に相互移行は行えず,空気量(酸素量)等を調整することにより,使用目的に応じてガス化にも焼却にも適用し得るということはない。
甲2の発明に,周知の技術と認定された「該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,該流動化ガスを炉内に供給して該炉内に流動媒体の循環流を形成し」との構成を適用すると,甲2の発明の流動層内での物質・熱の移動の態様が変更されて,その流動層の機能を変質させることになり,甲2の発明の流動層熱分解炉の機能及び甲2の発明そのものの機能を変質させる。したがって,発明の本質的な機能に係る甲2の発明における流動層の流動媒体の流れを変更することに当業者が容易に想到することはない。
イ審決は,相違点Aに係る構成の作用機能を看過した。
甲3公報に記載された技術においては,流動層内の循環流においてガス化反応を完結しチャーをガスに転換させてしまうものであり,流動層炉からは可燃ガスが排出され,チャーの排出は例外的である。甲5公報に記載された技術においては,循環流を有する流動層内でごみの良好な燃焼を行わせ高い燃焼効率を得て完全燃焼させていて,流動層炉から排出されるのは燃焼排ガスであり,可燃ガスやチャーは完全燃焼してしまい排出されることはない。甲6文献に記載された技術においても,循環流を有する流動層内で燃焼物は短時間に砂中で焼却されて燃え尽きてしまい,流動層炉からは燃焼排ガスが排出される。
すなわち,甲3公報等に記載された技術は,いずれも,流動層内に循環流という流動媒体の流れを形成し,その循環流を有する流動層内においてガス化反応や燃焼を完結させているものであり,流動層からガスとチャーを排出せず,流動層炉全体についても可燃ガスとチャーを排出していない。
したがって,甲2の発明の中核をなす「可燃ガスと微細なチャーが生成される」という機能と密接に関係する流動媒体の流れに,炉内でガス化反応や燃焼を完結させて可燃ガスとチャーを排出していない流動層炉が記載されている甲3公報等に記載された技術を適用することに当業者が容易に想到することはない。
ウ審決は,流動媒体の流れと流動層の機能との組合せの関係を看過した。
流動媒体の流れは流動層の機能と密接に結びついている。甲2の発明においては,甲2の発明の流動層の流動媒体の流れにおいて,可燃ガスと微細なチャーが生成されるという流動層の機能が発揮されていて,流動媒体の流れと流動層の機能との組合せが示されている。他方,甲3公報等に記載された技術は,循環流を有するが,いずれも,流動層炉から可燃ガスとチャーを排出しておらず,「流動媒体の循環流」と「可燃ガスと微細なチャーを生成」する流動層の機能との組合せは開示されていない。
甲2の発明に,周知技術と認定された流動媒体の循環流を形成する技術を適用した場合,甲2の発明の流動層がもともと持っていた機能とその流動層に形成された流動媒体の循環流とがどのように結び付くかは明らかではなく,審決は,流動媒体の流れと流動層の機能との密接な関係について,その整合性を何ら吟味することなく,前例のない「流動媒体の流れ」と「流動層の機能」の組合せである,「流動媒体の循環流」と「可燃ガスとチャーを生成」するという組合せを認定したものであり,このような組合せに当業者が容易に想到することはない。
(4)甲2の発明に,甲3公報等に記載された技術を組み合わせることには阻害要因がある。
ア甲2公報には,循環流が形成されていない流動層熱分解炉とサイクロン燃焼炉との組合せにより,両方法の長所が生かされ短所が相殺されて消滅し,相乗的な極めて顕著な効果を奏していることが記載され,技術的思想として,甲2の発明の流動層を他の流動層に置き換えるということは,そもそも,全く意図されておらず,採用することがあり得ない。
そして,流動層で生成した可燃ガス,チャー及び灰分の混合物を次段のサイクロン燃焼炉に導入するという機能を有する甲2の発明の流動層に代えて,可燃ガスおよびチャーを次段に導入するという機能を有さず完全ガス化あるいは完全燃焼という機能と結びついていた循環流を適用することは,上記の甲2の発明の「流動層熱分解方法とサイクロン燃焼方法とを組み合わせることにより,両方法の長所が生かされ短所が相殺されて消滅し,相乗的は極めて顕著な効果を伴う固形物の燃焼方法及びその装置を提供する」(甲2公報の7欄17行目〜8欄3行目)との目的に反することとなり,その組合せの阻害要因が認められる。
甲2の発明において,流動媒体の流れとして,「循環流」という周知技術を採用した場合には,その組合せにおける流動層炉の流動方式は,「バブリング式」とは区別された「内部循環式」となり,ガス化溶融システムそのものの基本的条件を変更することとなり,それは,甲2公報に記載された「流動層熱分解炉」と「サイクロン燃焼炉」の組合せの関係を壊して,甲2の発明が想定していない他の組合せに変えることに等しいものである。
イ甲2の発明に,甲3公報等に記載された技術を適用すると,キャリーオーバーの問題(サイクロン燃焼炉に供給される固形物のうち,粒径の小さな粒子がサイクロン燃焼炉をすり抜けてしまう現象)が発生するので,その適用には阻害要因が存在する。
甲2の発明のサイクロン燃焼炉は,サイクロン集塵機と同様の構造を有しており,微細粒子の捕捉原理もサイクロン集塵機と同じであるところ,一般に,集塵装置の捕集性能は,微細粒子の粒径が小さくなると極端に捕集性能が低下する。また,溶融炉形状の適正化を図った旋回流溶融炉の実機においても微細粒子の捕捉率は必ずしも高くなく,溶融炉本体のスラグ化率は高くとも80%程度であって,キャリーオーバーが生じることは当業者の技術常識であった。
甲2公報には,実施例において,キャリーオーバーされた粒子を,電気集じん器を設ける旨が記載されているのであるが,そのような対策を設けたとしても,「集じん后も発じん防止などに特別な対策を要する。」との甲2の発明の課題は解決されず,甲2の発明に,甲3公報等に記載された技術を適用すると,甲2の発明の課題の解決がより困難となる。
被告は,流動層炉から飛散する微粒子の粒径は,同伴するためのガスの流速によって定まるものである旨主張するが,粒子の粒径が同伴するガスにより飛散する最大粒子径より小さければその粒子はすべて飛散するのであるから,より微細な粒子が生成されれば,より微細な粒子が飛散することとなる。
4取消事由4(相違点Bについての認定判断の誤り)(1)審決は,相違点Bに係る本件発明1の構成について,「廃棄物を『循環流中で』ガス化してガスとチャーを生成し該チャーを『該循環流中で』微粒子としたことは,甲2の発明に周知の技術を適用した結果として当業者には自明の事項であるから,甲2の発明及び周知の技術に基づいて当業者であれば容易に想到することができたものというべきである。」(審決謄本34頁第4段落)と認定判断したが,誤りである。
2 1b ( )審決は,上記認定判断に当たり,「甲2(注,甲2公報)には,上記及びに掲記した各記載によれば,都市ごみのような廃棄物を流動層熱分1f解炉に供給すると,流動層内の部分燃焼により灰分が発生し残部が熱分解されるが,この熱分解過程で可燃ガスとチャーが生成され,該チャーと該灰分が微細粒子,すなわち微粒子となることが記載されていると認められる。」(審決謄本34頁第2段落)として,甲2公報には,熱分解過程でガスとチャーを生成し,生成されたチャーを微粒子として次段の溶融炉に供給するという本件発明1の「該ガスと該微粒子となったチャー」を得るための構成が記載されていると認定しているが,甲2の発明には,「可燃ガスとチャーが生成され,該チャーと該灰分が微細粒子,すなわち微粒子となること」は記載されていない。したがって,上記審決の認定は誤りであり,甲2の発明に,周知の技術とされた「流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し」との技術を適用しても,相違点Bに係る本件発明1の構成に当業者が容易に想到することはできない。
(3)審決は,「なお,この認定(注,甲2の発明に流動層炉内に流動媒体の循環流を形成する技術を適用すれば,循環流中で熱分解により生成されたチャーが微粒子となることが当業者には自明の事項であったこと。)は,甲5(注,甲5公報)の上記3c及び3dに掲記した記載や甲23(注,特開昭60-96823号公報,甲23。以下「甲23公報」という。)の上記9bに掲記した記載が示す事実からも裏付けられる。」(審決謄本34頁第3段落)と認定したが,誤りである。
甲5公報に記載された技術において,可燃物は流動層内で燃え尽きるのであり,チャーは,燃え尽きる過程において出現するのかどうかも不明で,仮に出現するとしても一時的に出現するものであり,そのようなものを引用して,甲2の発明の熱分解炉に流動媒体の循環流を形成する技術を適用した結果を裏付けることはできない。また,流動層における流動条件が相違すれば,流動層炉の特性・機能も異なるものであり,循環流という流れがない技術に係る甲23公報の記載により,甲2の発明に「循環流を形成する技術」を適用した後の反応を裏付けることはできない。
5取消事由5(本件発明1の奏する顕著な効果の看過)(1)審決は,「被請求人(注,原告)の主張するように本願発明1(注,本件発明1)が甲2の発明に比較してより優れた効果を奏するとしても,それは甲2の発明の流動層に相違点Aについての判断で前示した周知技術を適用して循環流を積極的に形成したことの効果であって,当業者であれば甲2の発明及び周知技術から容易に予測できた程度のものというべきである。その他本件発明1の作用効果を検討しても,甲2(注,甲2公報)及び周知の技術から当業者の予測を超えるような格別顕著な効果を奏するものとみることはできない。」(審決謄本35頁第2段落)と判断したが,誤りである。
(2)本件発明1は,本件明細書の段落【0060】等の記載に照らせば,流動層炉内に質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを炉内に供給して流動媒体の循環流を形成し,廃棄物をガス化して生成した可燃ガスを次段の溶融炉に供給するとともに,ガス化して生成したチャーを循環流中で微粒子とすることにより,流動層炉で生成した可燃ガス及びチャーをともに安定して溶融炉に供給することができ,対象とするごみが質的及び量的に変動するごみ処理特有の課題において,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得て,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の溶融炉において利用できるという顕著な効果を奏する。
これに対し,甲2の発明は,本件発明1とは,溶融炉に供給するガスとチャーを得る過程が異なり,本件発明1の効果を奏するための本件発明1の一連の構成をほとんど欠いているし,審決が周知技術を認定する根拠とした甲3公報,甲5公報及び甲6文献に記載された各発明のいずれにも,本件発明1の上記効果は,一切記載されておらず,本件発明1のような問題意識がなければ,甲2の発明から,その効果を当業者が容易に予測できたということはできない。
6取消事由6(相違点Dについての認定判断の誤り)(1)審決は,相違点Dに係る本件発明2の構成について,「流動層炉において『該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,該質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する手段と,該質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する手段から供給される流動化ガスはともに空気とし,該流動化ガスを炉内に供給して該炉内に流動媒体の循環流を形成し』たことは,本件発明2の出願前に当業者には周知の技術であったものと認められる。したがって,相違点Dに係る本件発明2の構成は,甲2の発明に上記の周知の技術を適用することにより,当業者が容易に想到できたものというべきである。」(審決謄本36頁最終段落〜37頁第2段落)と認定判断したが,誤りである。
(2)本件発明2は,空気量の少ない流動媒体が下降する移動層において廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,ガス化によって生成されたガスはフリーボードへと上昇させ,ガス化によって生成されたチャーを,流動媒体の循環流により可燃ガスとは分離して空気量の多い流動媒体が上昇する流動層へと移動させて,空気量の多い流動媒体が上昇する流動層で流動化ガスにより部分酸化させて微粒子とする処理を更に行うものであり,同構成は,甲2の発明にも周知技術認定の基礎とされた文献にも記載されていないから,当業者は,甲2の発明に周知技術を組み合わせても,相違点Dに係る本件発明2の構成に想到しない。
(3)相違点Dに係る構成である「該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,・・・該流動化ガスを炉内に供給して該炉内に流動媒体の循環流を形成し」との技術は,焼却炉において周知であり,ガス化炉において公知であるとしても,それらの流動化ガスについて,ともに空気にするとの技術は,焼却炉において周知であっても,ガス化炉においては周知ではなく,公知でもない。
流動層焼却炉においては,可燃分を燃焼させるための燃焼用空気を供給して,循環流を形成し,燃焼効率を上げているのに対し,ガス化炉においては,流動化ガスとして,可燃物を可燃ガス,チャー等の可燃分にするためのガス化剤(例えば,酸素,スチーム)を供給して,循環流を形成し,可燃ガスその他の可燃分を回収されやすくしている。
ガス化炉に係る甲3公報においては,流動化ガスが空気とスチームとの混合物又は酸素とスチームとの混合物とされるなど,流動化ガスを空気とする技術は開示されていない。甲5公報には,「以上は焼却炉における例を示したが,熱分解炉その他熱反応炉においても同様である。」との記載はあるが,実施例は,焼却炉のみしか記載しておらず,その特許請求の範囲においても,焼却炉以外に適用する場合に,流動化ガスの種類を空気に特定していない。
したがって,焼却炉に関する甲5公報等に基づいて,「該質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する手段と,該質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する手段から供給される流動化ガスはともに空気とし」との構成を周知技術と認定して,相違点Dに係る本件発明2の構成に容易に想到することができた旨の審決の判断は誤りである。
7取消事由7(相違点Eの認定判断の誤り)(1)審決は,相違点Eに係る本件発明2の構成について,「廃棄物を『循環流中で』ガス化してガスとチャーを生成することは,甲2の発明に周知の技術である流動層炉内に流動媒体の循環流を形成する技術を適用した結果として当業者には自明の事項であるから,甲2の発明と周知の技術に基づいて当業者であれば容易に想到することができたものというべきである。」(審決謄本37頁第3段落)と判断したが,誤りである。
(2)審決は,相違点Eに係る本件発明2の構成を,単に廃棄物がガス化される場所を特定したことのみを規定した構成であるとしているが,相違点Eに係る構成は,相違点Dに係る構成と一体となって,相違点Dに係る構成により規定された循環流中で,廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,生成されたガスは空気量が比較的少ないため,余り燃焼されないで次段の溶融炉に供給され,チャーは質量速度が比較的大きい流動化ガスが供給される空気量が比較的多い部分に循環され,燃焼されて微粒子とされ次段の溶融炉に供給されることを規定しているものである。
「流動層炉内に流動媒体の循環流を形成する技術」が周知の技術であるとの根拠とされた甲3公報,甲5公報及び甲6文献のいずれにも,相違点Dの構成と互いに関係がある相違点Eの構成は記載されていない。
また,相違点Dに係る本件発明2の構成は,甲2の発明と周知の技術から当業者が容易に想到することができたものではないから,相違点Eに係る構成も,周知技術を適用した結果として,当業者に自明の事項とすることはできない。
8取消事由8(本件発明2の奏する顕著な効果の看過)(1)審決は,「被請求人(注,原告)は,本件発明2が,ガス化熔融分野の技術分野において本件発明1と同様の多大な効果を奏すると主張する。しかし,本件発明1の効果について前示したとおり,本件発明2の効果は,甲2の発明に周知の技術から当業者が予測できる範囲内のものというべきであって,これを超えるような格別顕著な効果を奏するものとみることはできない。」(審決謄本37頁第6段落)と判断したが,誤りである。
(2)本件発明2は,本件発明1と同様,本件明細書の段落【0060】の記載に照らせば,流動層炉で生成した可燃ガスを流動層炉であまり燃焼させないで溶融炉において熱源(燃料)として利用し,一方,流動層炉で生成したチャーは,流動層炉及び溶融炉の双方において熱源(燃料)として利用することができるので,対象とするごみが質的及び量的に変動するごみ処理特有の課題において,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得て,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の溶融炉において利用できるという顕著な効果を奏する。
また,本件発明2では,廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,溶融炉で灰分を溶融する装置において,本件発明2の一連の構成により,循環流中に空気量が少ない部分と空気量が多い部分を形成し,生成されたガスは空気量が少ない部分においてあまり燃焼されないようにし,生成されたチャーを空気量の多い部分において質量速度の比較的大きい流動化ガスである空気と接触し燃焼させて燃え残った微粒子のチャーをガスとともに溶融炉に供給しているので,本件明細書の段落【0060】に記載された顕著な効果を奏する。
(3)これに対し,甲2の発明では,流動層において熱分解過程が行われ,この熱分解過程が行われた結果生成したチャーが微細な粒子であるので,流動層炉内において,生成されたチャーを微粒子とする処理を行う必要がなく,本件発明2の目的・課題の認識がなく,そのための構成も備えていない。審決が周知の技術を認定する根拠とした甲3公報,甲5公報及び甲6文献にも,本件発明2の上記効果は一切記載されておらず,これらの文献等から,新規な課題を解決した本件発明2の奏する効果を予測することはできない。
また,審決が周知技術認定の根拠とした甲5公報,甲6文献及び実願昭57-111269号(実開昭58-58232号)の願書に添付された明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(甲19,以下「甲19マイクロフィルム」という。)は,焼却炉に関する文献であり,炉内において相対的に酸素量に大小ができているとしても,焼却炉は流動層炉内で可燃分を消費し尽くして燃焼排ガスと灰に変えるものであって,可燃分を次段で利用できるように,前段での可燃分の消費を抑えるものではなく,本件発明2と構成を異にする技術しか記載されず,本件発明2の効果を当業者は予測できない。
9取消事由9(相違点Gについての認定判断の誤り)(1)審決は,相違点Gに係る本件発明3の構成について,「『流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,流動化ガスを炉内に供給して流動媒体の循環流を形成し,該質量速度が比較的小さい流動化ガスによって流動化される部分をガス化ゾーンとし,該質量速度が比較的大きい流動化ガスによって流動化される部分を酸化ゾーンとし』,石炭と廃木材や廃プラスチックとの混合物を『該流動層炉に供給し,該ガス化ゾーンにてガス化してガスとチャーを生成し,該ガス化ゾーンで生成したチャーを該循環流にて該酸化ゾーンに供給して部分酸化し』との構成は,甲3(注,甲3公報)に記載された構成であると認められる。そして,甲2(注,甲2公報)と甲3に記載された技術は,共に流動層炉に関する技術として技術分野を共通するものであるから,両者の組合せについては,当業者には動機付けがあったというべきである。したがって,相違点Gに係る本件発明3の構成は,甲2の発明に甲3の発明を適用することにより当業者であれば容易に想到できたものである。」(審決謄本39頁第2段落〜第4段落)と認定判断したが,誤りである。
( )本件発明3における,該廃棄物を「該流動層炉に供給し,該ガス化ゾーン2にてガス化してガスとチャーを生成し,該ガス化ゾーンで生成したチャーを該循環流にて該酸化ゾーンに供給して部分酸化し」との構成は,特許請求の範囲の記載から明らかなように,「該熔融炉は該流動層炉より排出された該ガスと該チャーを燃焼して灰分を熔融する」との構成に連なるものであり,廃棄物がガス化されてガスとチャーを生成し,生成したチャーを部分酸化する場所を特定するだけでなく,可燃ガスとチャーを得て,ともに次段の溶融炉へ供給するための構成である。これに対し,甲3公報には,「酸化ゾーン」との記載は全くなく,流動媒体が下降する移動層において乾留により可燃ガスと微粉化したチャーを生成し,生成したチャーを流動媒体が上昇する流動層においてガスに転換すること,すなわち,「両側縁部でチャーの部分燃焼を伴うガス化反応」を行うことで,移動層の乾留によって細片化されたチャーをガス化反応させてこのガス化反応を完結させガスに転換させることが記載され,チャーを部分酸化させて微粒子として次段に供給するチャーを得るという,相違点Gに係る本件発明3の構成は記載されていない。
10取消事由10(本件発明3の奏する顕著な効果の看過)(1)審決は,「本件発明3の作用効果を検討しても,甲2(注,甲2公報)及び甲3(注,甲3公報)並びに周知の技術から当業者の予測を超えるような格別顕著な効果を奏するものとみることはできない。」(審決謄本39頁第7段落)と判断したが,誤りである。
(2)本件発明3は,流動層炉内に質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給し,流動媒体の循環流を形成させ,廃棄物をガス化ゾーンにてガス化して,生成した可燃ガスをあまり燃焼させずに次段の溶融炉に供給するとともに,ガス化ゾーンにて生成したチャーを,質量速度が比較的大きい流動化ガスによって流動化される酸化ゾーンへ供給して部分酸化し,微粒子として,可燃ガスに同伴しやすくして,可燃ガスとチャーをともに安定して溶融炉に供給するので,対象とするごみが質的および量的に変動するごみ処理特有の課題において,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得て,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の溶融炉において利用できるようにしたものである。
これに対し,甲2の発明並びに審決の周知技術認定の根拠とした甲3公報,甲5公報及び甲6文献には,いずれも,本件発明3の上記効果は一切記載されておらず,本件発明3のような問題意識がなければ,その効果を当業者が容易に予測できたということはできない。
11取消事由11(相違点Iについての認定判断の誤り)審決は,相違点Iに係る本件発明4の構成について,「相違点Aについて前示した理由により,相違点Iに係る本件発明4の構成は,甲2の発明に相違点Aについての判断で前示した周知の技術を適用することにより当業者が容易に想到できたものというべきである。」(審決謄本40頁第7段落)と認定判断したが,相違点Aについての審決の認定判断は誤りであるから,誤りである。
12取消事由12(相違点J及びKについての認定判断の誤り)(1)相違点J及び相違点Kに係る本件発明4の「循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,生成されたチャーを質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層で燃焼させ,流動層温度を450℃〜650℃に維持し」との構成は,循環流を有する流動層において,ガス化によって生成された可燃ガスやタールに比べて燃焼しにくいチャーを,可燃ガスとは分離して,質量速度が比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層に送り,流動層で燃焼させ,流動媒体を加熱して流動層温度を450℃から650℃に維持する熱源として寄与させるとともに,多量のチャーを燃焼させてガスに同伴されやすくして,燃え残ったチャーを可燃ガスとともに次段の溶融炉に供給し熱源(燃料)として利用するものであるための一体となって有機的に結合した構成である。
このような本件発明4の相違点J及び相違点Kに係る構成は,審決が周知技術等の認定の根拠とした甲3公報,平成4年7月発行エバラ時報No.156「高効率燃焼型流動床焼却施設」(甲7,以下「甲7文献」という。),甲23公報及び特開平7-35322号公報(甲24,以下「甲24公報」という。)のいずれの文献にも記載されていない。
審決は,相違点Jと相違点Kとの相互の有機的な結合を看過し,その構成を機械的に分断し,質量速度が比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層におけるチャーの燃焼と流動層温度を450℃から650℃に維持することとの関係について何ら検討することなく,分断された一部の構成のみを検討し,甲2の発明に,甲3公報等に記載された技術を適用することにより当業者が容易に想到できたとするものであり,誤りである。
( )審決は,相違点Jについて,「甲3(注,甲3公報)には,流動層ガス化2炉において,廃棄物を循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,生成されたチャーを流動速度が比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層で燃焼させる技術が記載されていると認められる。したがって,相違点Jに係る本件発明4の構成は,甲2の発明に甲3に記載の上記技術を適用することにより当業者が容易に想到できたものというべきである。」(審決謄本41頁第1段落〜第2段落)と認定判断したが,誤りである。
相違点Jに係る本件発明4の構成は,ガスとチャーを得てともに流動層炉外へと排出するためのものであって,生成されたチャーを燃焼する場所を特定した構成にとどまらず,質量速度が比較的小さい流動化ガスにより流動化される沈降する流動媒体中で廃棄物のガス化によって得られ,質量速度が比較的大きい流動化ガスにより流動化された流動層へと循環された,固形物であって燃えにくいチャーについて,これを燃焼させて,燃え残ったチャーを可燃ガスに同伴して溶融炉に供給するための構成である。
これに対し,甲3の発明は,生成されたチャーを質量速度が比較的大きい流動化ガスによって流動化される部分へ移動させてガス化剤と良好に接触させ,流動層炉内でガス化を完結させてガスを生成するものであり,流動層炉から排出されるチャーは,移動層から排出される例外的なものである。
このように構成要素相互間の関係から導かれる相違点Jに係る構成の意義を看過し,甲3の発明の内容を誤認し,相違点Jに係る本件発明4の構成が,甲3公報に記載されているとする審決の認定に誤りがあることは明らかであり,少なくとも,流動媒体が上昇する流動層において燃焼を低い温度(450〜650℃)に維持するだけにとどめ,燃え残ったチャーを可燃ガスに同伴させるための本件発明4における構成について,流動媒体が上昇する流動層で1000℃程度の高い温度でガス化してチャーをすべて可燃ガスに変換させてしまう甲3の発明を適用することは,適切ではない。
( )審決は,相違点Kについて,甲7文献,甲23公報及び甲24公報の記載3を根拠として,「流動層炉において『流動層温度を450℃〜650℃に維持し』たことは,周知の技術であったものと認められる。したがって,相違点Kに係る本件発明4の構成は,甲2の発明に上記の周知の技術を適用することにより当業者が容易に想到できたものというべきである。」(審決謄本41頁第6段落〜第7段落)と認定判断したが,誤りである。
引用文献記載の発明に基づき特許出願に係る発明の構成に容易に想到することができたと認められるかどうかを決するには,特許出願当時における周知技術を含めた技術水準を斟酌すべきものであり,引用文献記載の発明等に一定の周知技術を適用して特許出願に係る発明の構成を得ることが容易であったと認めるためには,当該周知技術が引用文献記載の発明に適用するのに適した内容のもの,すなわち,適用上の適性があるものであり,かつ,当該周知技術を適用して特許出願に係る発明の構成を得ることが技術的合理性の見地からみて可能であり,また,相当であることを前提の要件とする。そして,周知技術が適用上の適性がある技術であるというためには,それが単に引用文献記載の発明及び特許出願に係る発明と技術分野を異にしないものであるのみならず,技術的思想として,これらの発明に近接し,これと共通の要素を持つものでなければならないことは当然であるといわなければならない。
本件発明4は,ガス化溶融炉を前提として,溶融炉にガス,タール,チャーの可燃分の大部分を送って利用できるようにするために,流動層温度を450℃から650℃に維持し,廃棄物をガス化して,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得ることができるようにしたものである。
これに対し,甲7文献は,新潟県柏崎地域広域事務組合に納入した流動床焼却施設についての記載であり,そこに記載された温度範囲は,ガス化が完全に行われ,かつ,ガス化速度を緩慢とするための温度範囲である。甲23公報に記載された温度範囲は,NOxの発生や重金属の揮散を抑制するためのものである。甲24公報に記載された450℃から650℃との温度範囲は,Ca化合物(脱塩剤)による脱塩の最適な反応温度であり,甲24公報□ は,塩素系含有廃棄物の流動層焼却方法において,流動層内においてHCを除去するために,塩素含有廃棄物の流動層における部分燃焼の温度を450℃から650℃として焼却を行っていることを開示し,この温度範囲に関連してチャーの生成に関する記載も示唆もない。
したがって,甲7文献等においては,廃棄物をガス化してガスとチャーを得ることができ,溶融炉にガスとチャーを送って利用できるようにしようとの技術的思想は全く存在せず,技術的思想として,本件発明4又は甲2の発明に近接し,これと共通する要素を持つものとはいい難いから,これらの技術は,甲2の発明に基づいて本件発明4の構成を得るのに用い得るような適用上の適性を有するものとは認められず,甲7文献等に記載された技術に基づいて当業者が相違点Kに係る本件発明4の構成に容易に想到できたとする審決の認定判断は誤りである。
13取消事由13(本件発明4の奏する顕著な効果の看過)審決は,「本件発明4の効果は,甲2(注,甲2公報)及び甲3(注,甲3公報)並びに周知の技術から当業者が予測できる範囲内のものというべきであって,それを超えるような格別顕著な効果を奏するものとみることはできない。」(審決謄本42頁第2段落)としたが,誤りである。
本件発明4は,流動層炉内に質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給して流動媒体の循環流を形成し,廃棄物をガス化して生成した可燃ガスをあまり燃焼させずに次段の溶融炉に供給するとともに,循環流中で多量に生成させたチャーを燃焼させ流動層の温度維持の熱源として利用し,可燃ガスとともに安定して多量のチャーを溶融炉に供給することができるので,対象とするごみが質的及び量的に変動するごみ処理特有の課題において,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得て,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の溶融炉において利用できるものである。
甲2公報,甲3公報等には,上記の本件発明4の問題意識がなく,本件発明4の問題認識がない甲2公報等に記載された技術から,本件発明4の奏する顕著な効果を予測することはできない。
14取消事由14(本件発明7ないし9についての進歩性の認定判断の誤り)本件発明7ないし9は,それぞれ,本件発明1ないし3に対応する方法の発明であるところ,審決は,本件発明1ないし3と同様の理由により,本件発明7ないし9は,当業者が容易に発明をすることができたと判断したが,本件発明1ないし3についての審決の認定判断が誤りであるから,本件発明7ないし9についての審決の進歩性の認定判断も誤りである。
15取消事由15(本件発明10についての進歩性の認定判断の誤り)(1)審決は,「本件発明10は,本件発明7又は9と同様の理由により,本件発明10の出願日前に国内において頒布された刊行物である甲2及び甲3に記載された各発明(注,甲2の発明及び甲3の発明)並びに周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。」(審決謄本45頁第5段落)と認定判断したが,誤りである。
(2)本件発明10は,本件発明7を引用するとき,ガス化により生成されたチャーを,質量速度が比較的大きい流動化ガスによって流動化されて流動媒体が上昇する空気量が比較的多い部分においてさらに微粒子とする処理をして,微粒子となったチャーを排出する「該チャーを微粒子とし」との構成を有するものである。
しかし,甲2の発明においては,流動層において熱分解過程が行われ,この熱分解過程が行われた結果生成したチャーが微細な粒子であるので,生成されたチャーを微粒子とする処理を行う必要がなく,そのための構成もない。
また,審決が「該流動層炉内に質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給して流動媒体の循環流を形成し,前記質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスは,ともに空気であるようにされ,」との技術を周知技術と認定する根拠とした甲5公報及び甲6文献等には,「ガス化してガスとチャーを生成し該チャーを微粒子とし」との構成は示されていない。
したがって,甲2の発明に,上記周知技術をどのように組み合わせても,「循環流中でガス化してガスとチャーを生成し該チャーを該循環流中で微粒子とし」との本件発明10の構成は得られないのであり,この点を看過して本件発明10の進歩性を否定した審決の認定判断は誤りである。
( )本件発明10は,本件発明9を引用するとき,「該流動層炉内に質量速3度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給して流動媒体の循環流を形成し,前記質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスは,ともに空気であるようにされ,」との構成は,「ガス化ゾーンにてガス化してガスとチャーを生成し,該ガス化ゾーンで生成したチャーを該循環流にて該酸化ゾーンに供給して部分酸化し」との構成と有機的に結合し,空気量の少ない流動媒体が下降するガス化ゾーンにて廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,生成された炉内にとどまりがちなチャーをガスとは分離して空気量の多い流動媒体が上昇する酸化ゾーンで部分酸化させて微粒子とする処理をさらに行わせてチャーをガスとともに次段の溶融炉に供給して灰分を溶融するものである。
そして,取消事由6(相違点Dについての認定判断の誤り)と同様,「該流動層炉内に質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給して流動媒体の循環流を形成し,前記質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスは,ともに空気である」との技術は,焼却炉においては周知であっても,ガス化炉においては周知ではなく,また,公知でもない。
したがって,「質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスは,ともに空気であること」を周知の技術と認定して,本件発明10の進歩性を否定した審決の認定判断は誤りである。
16取消事由16(本件発明5,6,11ないし16についての進歩性の認定判断の誤り)審決は,本件発明5,6,11ないし16の進歩性を否定したところ,本件発明5は,本件発明1ないし4を引用する発明であり,本件発明6は,本件発明1ないし5を引用する発明であり,本件発明11ないし16は,それぞれ本件発明7ないし9を引用する発明であり,本件発明1ないし5,7ないし9についての審決の認定判断が誤りであるから,本件発明5,6,11ないし16についての審決の進歩性の認定判断も誤りである。
また,本件発明11において付加した「前記ガス化ゾーンに供給される流動化ガスは,水蒸気または水蒸気と空気の混合気体又は空気であること」との構成は,ガス化ゾーンに供給される質量速度の比較的小さい流動化ガスの種類を特定し,廃棄物がガス化される際に,ガス化によって生成された可燃ガスをあまり流動層炉内で燃焼させることなく溶融炉に送ることができるという意義を有しているにもかかわらず,審決は,同意義を看過し,本件発明11の容易想到性の判断を誤ったものである。
さらに,本件発明12において付加した「前記酸化ゾーンに供給される流動化ガスは,酸素又は酸素と空気の混合気体又は空気であること」との構成は,酸化ゾーンに供給される質量速度の比較的大きい流動化ガスの種類を特定し,ガス化によって生成されたチャーを還元雰囲気の酸化ゾーンにおいて部分酸化させ,酸化させきらずに残して可燃ガスに同伴させるための条件として,ガス化ゾーンに供給される質量速度の比較的小さい流動化ガスと比し,酸素含有量を同じとするか,より高くすることをガスの種類を特定することで規定したという意義を有しているにもかかわらず,審決は,同意義を看過し,本件発明12の容易想到性の判断を誤ったものである。
第4被告の反論審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(甲2の発明の認定の誤り)について( )原告は,審決が,本件発明1を含む本件発明の技術的意義を正解しなかっ1たために,甲2の発明の認定を誤った旨主張するが,その主張する本件発明の技術的意義なるものは,本件明細書の記載と全く矛盾する。すなわち,原告は,本件発明について,流動層炉内に循環流を形成して,ガス化の結果生成したチャーを微粒子化して,チャーを流動層炉内にとどまらせずに,可燃ガスに同伴して溶融炉に供給することができるという作用を有することを前提として,本件発明の意義を主張するが,本件明細書には,チャーをできるだけ飛散させずガス化させることが記載されている。原告の主張する本件発明の技術的意義は,前提となる循環流の作用が本件明細書の記載と全く矛盾するものである。
( )原告は,甲2公報には,ガス化により生成されたチャーをさらに微粒子と2する処理を行うという,本件発明1の「該チャーを微粒子とし」との構成は記載されていない旨主張するが,甲2公報には,「熱分解の生成ガス中に含まれるチャー及び灰分が微粒子となる」(3欄32行目〜34行目)と記載されていて,審決の甲2の発明の認定に誤りはない。
流動層内における熱分解は連続して進行するものであるから,甲2公報の「微粒子となる」とは,流動層中の廃棄物が流動層の熱により乾留され,乾留生成物たるチャーが連続的に熱分解が進行して一酸化炭素等のガスとなり,徐々に小さくなって微粒子となることを意味し,そうであるから,本件発明1について,明細書に「該チャーを循環流中で微粒子とし」との記載がないにもかかわらず,明細書に「流動層炉から微粒子が排出される」ことが記載されていることから,「該チャーを循環流中で微粒子とし」を追加する本件訂正(平成17年2月21日付け訂正請求,乙1)が認められたものである。
2取消事由2(本件発明1と甲2の発明の一致点の認定の誤り,相違点の看過)について原告は,取消事由1において主張した甲2の発明についての認定の誤りを前提として,審決に,本件発明1と甲2の発明との一致点の認定の誤り,相違点の看過がある旨主張するが,甲2の発明についての審決の認定には誤りがないから,失当である。
3取消事由3(相違点Aについての認定判断の誤り)について( )原告は,甲2の発明の認定が誤りであることを前提として,甲2の発明に1周知又は公知の「該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,該流動化ガスを炉内に供給して該炉内に流動媒体の循環流を形成し」との技術をどのように組み合わせても,本件発明1の「該チャーを微粒子とし」との構成が得られることがない旨主張するが,審決の甲2の発明の認定に誤りがないことから,失当である。
( )原告は,審決が,流動媒体の流れと流動層の機能との関係を看過した旨主2張する。
しかし,甲2の発明に,「該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,該流動化ガスを炉内に供給して該炉内に流動媒体の循環流を形成し」との技術を適用すると,甲2の発明の流動層の機能を変質させることとなるとする原告の主張は何ら根拠がない。
甲2の発明において,流動層の流動媒体の流れを限定する事項は特許請求の範囲や明細書中に全く記載されておらず,甲2の発明の流動層の「ガスとチャーを生成し,該チャーを微粒子とする」という機能は,特定の流動媒体の流れのときのみに奏されるものでない。仮に,流動の態様によって多少の程度の差が生じることはあったとしても,当業者は,供給する空気量などを適宜調整して所望の機能を発揮させることができる。
また,甲2の発明の流動層に,周知技術である「該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,該流動化ガスを炉内に供給して該炉内に流動媒体の循環流を形成し」との技術を適用すると,「ガスとチャーを生成し,該チャーを微粒子とする」という機能が失われるならば,「該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,該流動化ガスを炉内に供給して該炉内に流動媒体の循環流を形成し」という構成と「ガスとチャーを生成し,該チャーを微粒子とする」という構成を有する本件発明1が実施し得ないものとなる。
そして,そもそも,流動層炉は,「循環流」の有無にかかわらず,空気量(酸素量)等を調整することにより,その使用目的に応じてガス化にも焼却にも適用し得るものである。甲3公報,甲5公報,甲6文献及び甲7文献の記載からも,「質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,該流動化ガスを炉内に供給して該炉内に流動媒体の循環流を形成し」た流動層でガス化を行ったり,焼却を行ったりできる。
( )原告は,審決が相違点Aに係る構成の作用機能を看過した旨主張する。 3しかし,原告が主張する「ガスとチャーを排出しない」という機能は,相違点Aに係る「循環流」という構成自体の機能ではなく,原告が流動層炉全体について評価した機能であり,原告は,実質的に,循環流の機能を流動層炉全体の機能にすり替えて主張しているのであり,失当である。また,甲3公報及び甲5公報には,必然的にガスとチャーが排出される熱分解炉が記載されており,これらがガスとチャーを排出しない旨の原告の主張は前提を欠く。
( )原告は,審決が,流動媒体の流れと流動層の機能との組合せの関係を看過4した旨主張する。
しかし,流動媒体は熱媒体であり,被加熱物に効率良く熱を伝達するために流動という流れを必要とするものであり,甲2の発明の流動層もこのような流動という流れによって,被加熱物を効率よく加熱して,ガス化等の機能を発揮している。そして,周知技術における「循環流」は,流動という流れの一態様であることから,甲2の発明の流動層に「循環流」を適用した場合,その「循環流」が少なくとも流動という流れとして機能することは明らかである。
( )原告は,甲2公報には,循環流が形成されていない流動層熱分解炉とサイ5クロン燃焼炉の組合せにより,両方法の長所が生かされ短所が相殺されて消滅し,相乗的な極めて顕著な効果を奏していることが記載され,技術的思想として,甲2の発明の流動層を他の流動層に置き換えるということができないことが記載されている旨主張する。
しかし,甲2公報には,流動層熱分解炉の流動媒体の流れが,特許請求の範囲において一切特定されていないだけでなく,実施例においても好ましい流れやそのための条件が一切記載されていない。
また,原告は,甲2の発明に甲3公報等に記載された技術を適用すると,キャリーオーバーが発生するので,その適用には阻害要因が存在する旨主張する。
原告主張の上記阻害要因は,流動層における流動媒体の流れとして循環流を採用すると,他の流動媒体の流れを採用した場合よりも飛散するチャーの粒径が微細となってキャリーオーバーの問題が増大するということを前提とするものと考えられるが,流動層中の微粒子は,上昇流が終末速度以上になると炉外に飛散することとなり,この終末速度は,粒径が小さくなるほど小さくなるものであって,流動層炉から飛散する微粒子の粒径は,同伴するためのガスの流速によって定まるものであり,循環流の有無は,飛散する最終的な微粒子の粒径とは無関係である。また,仮に,飛散するチャーの粒径が,他の流れを採用する場合よりも微細となるとしても,そのようなチャーは,微細であるため自燃して短時間で消滅しやすくなるはずであり,原告のキャリーオーバーに関する主張は,前提から誤っている。
甲2公報には,実施例において電気集じん器を設ける旨が記載されているのであるから,甲2の発明においても一部のキャリーオーバーについては予定され,それに対し,電気集じん器を設ける程度のことは甲2の発明においても予定されていることといえるし,本件明細書には,サイクロン燃焼炉の性能の特定はなされておらず,高性能なサイクロン燃焼炉を用いることも当然に課題を解決する発明の範囲に含まれるものであり,この程度の対策は,課題に記載された「特別な対策」に該当するものではない。現実に,飛灰の大半(80%程度)はサイクロン燃焼炉で捕捉することができるのであり,実際にその程度の捕集率で十分に実機として機能しているのであるから,高性能化したサイクロン燃焼炉において一部がキャリーオーバーするとしても,阻害要因に該当しない。
4取消事由4(相違点Bについての認定判断の誤り)について( )原告は,甲2の発明の認定に誤りがあることを根拠として,相違点Bにつ1いての審決の認定判断が誤りである旨主張するが,審決の甲2の発明の認定に誤りがないことは,前記1のとおりである。
( )原告は,甲5公報の記載は,甲2の発明に流動層炉内に流動媒体の循環流2を形成する技術を適用すれば,循環流中で熱分解により生成されたチャーが微粒子となることが当業者には自明の事項であったことを裏付けるものではない旨主張するが,甲5公報には,「以上は焼却炉における例を示したが,熱分解炉その他の熱反応炉においても同様である。」(6頁左下欄第18行目〜19行目)と記載され,最終的に焼却まで行う流動層に関するものであっても,焼却の途中経過においてガスとチャーが生成され,チャーが微粒子となることが示されているから,上記認定の裏付けとして,甲5公報の記載で十分である。また,甲23公報には,循環流ではないものの流動という流れが当然存在する流動層中での現象が詳細に示され,甲5公報と同様に,ガスとチャーが生成され,該チャーが微粒子となることが示されていて,少なくとも上記認定の裏付けの一部にはなるものである。
5取消事由5(本件発明1の奏する顕著な効果の看過)について原告は,本件発明1について,顕著な効果を否定する審決が誤りである旨主張するが,失当である。
原告は,本件発明1について,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の溶融燃焼炉において利用できる旨主張するが,甲2公報には,流動層炉において,低空気比として,熱分解に必要な発熱量に見合った部分燃焼をさせ,このような部分燃焼で生じたガス及びチャーをサイクロン燃焼炉に導入し,サイクロン燃焼炉において,特に燃料を要しない程度に利用できることが記載されている。そして,甲23公報の記載からも,低空気比として熱分解に必要な発熱量に見合った部分燃焼とした場合に未燃成物である可燃分が多量に発生することは,技術常識であるから,原告主張の効果は,甲2の発明からだけでも極めて容易に予測できるものである。
また,原告は,本件発明1の「循環流」が,流動層炉内にとどまりがちなチャーを微粒子とし,その大部分を溶融炉に送るという作用,機能を有していることを前提とし,このような「循環流」の存在と本件発明1の効果を関連づけているが,原告主張の「循環流」の作用,機能は,前記1( )のとおり,本件1明細書の記載に矛盾するし,また,甲3公報に記載された発明についての原告主張とも矛盾する。原告が「循環流」の作用,機能と関連づけて主張する効果は,評価に値しないものであり,本件明細書における「ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の熔融炉において利用できる」との記載は,前段での発熱(即ち,可燃分の消費)を抑えたことに起因する効果を意味しているにすぎず,このような効果は,十分に予測できるものである。
さらに,原告は,「循環流」が流動層炉内にとどまりがちなチャーを微粒子とし,その大部分を溶融炉に送るという作用,機能を有していることを前提として,処理対象の廃棄物が質的及び量的に変化する廃棄物処理特有の課題において,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得るという効果を奏する旨主張するが,その前提が誤りであり,また,単に前段での燃焼を制御すること(ガス化とすること)による変動抑制効果は,前段での発熱量を制御してガス化を行っている甲2の発明から予測できる極めて常識的なものであり,何ら評価に値するものではないし,発熱量の制御によって,反応の安定化,暴発の防止などの効果が得られることは,極めて常識的なものである。
6取消事由6(相違点Dについての認定判断の誤り)について原告は,相違点Dに係る本件発明2の構成である,「該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,・・・該流動化ガスを炉内に供給して該炉内に流動媒体の循環流を形成し」との構成について,それらの流動化ガスをともに空気にするとの技術は,焼却炉において周知であっても,ガス化炉においては周知,公知でない旨主張する。
しかし,「質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスは,ともに空気であること」との構成は,甲19マイクロフィルム,甲7文献等,種々の文献に記載されていて,その構成の周知性を認定することに何ら問題はない。そして,甲5公報や特開昭55-102682号公報(乙2)に記載されているとおり,流動層炉では空気量の調整によってガスとチャーを生成するガス化炉としたり可燃分をほとんど燃焼させる焼却炉とすることができるものであるから,「質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスは,ともに空気であること」との構成自体の周知性は,ガス化炉及び焼却炉のいずれの文献からも認定でき,その周知の構成について,ガス化炉にも焼却炉にも容易に適用できるものである。さらに,その構成自体は,循環流中でガス化してガスとチャーを生成し該チャーを該循環流中で微粒子とするための構成といえるものではない。
7取消事由7(相違点Eについての認定判断の誤り)について原告は,相違点Eに係る構成が,相違点Dに係る構成と一体となっていることを挙げて,相違点Eに係る本件発明2の構成に当業者が容易に想到することができたとの審決の認定判断を争うが,相違点Eに係る構成である,循環流中でガス化して,ガスとチャーを生成するとの構成は,甲2の発明に周知技術である「循環流」を流動媒体の流れとして適用した結果自明であり,相違点Dに係る構成により規定された「循環流」が周知であることから,相違点Dに係る構成により規定された循環流中でガスとチャーを生成することも,周知技術を適用した結果自明な事項である。
8取消事由8(本件発明2の奏する顕著な効果の看過)について( )原告は,本件発明2の効果として,本件発明1と同様の効果を主張するが,1前記5のとおり,原告主張の効果は顕著なものではない。
( )原告は,本件発明2では,廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,溶融2炉で灰分を溶融する装置において,本件発明2の一連の構成により,循環流中に空気量が少ない部分と空気量が多い部分を形成し,生成されたガスは空気量が少ない部分においてあまり燃焼されないようにし,生成されたチャーを空気量の多い部分において質量速度の比較的大きい流動化ガスである空気と接触し燃焼させて燃え残った微粒子のチャーをガスとともに溶融炉に供給していることを根拠に,本件発明2の効果を主張する。
しかし,甲2の発明において,前段での可燃ガスの消費を抑えて次段で利用できることが記載されていて,それによれば,少なくとも前段での可燃ガスの消費を抑えれば,それだけ次段で利用できるということは,十分に予測することができる。
一方,質量速度が異なる流動化ガスとしてともに空気を用いた特開平2-195104号公報(甲4,以下「甲4公報」という。),甲5公報,甲6文献,甲19マイクロフィルムの記載や流動化ガスの大小により酸素量に大小をつける甲3公報の記載からも,「質量速度が比較的小さい流動化ガス及び比較的大きい流動化ガスを共に空気とする」という周知技術によれば,酸素量に大小ができ,その結果,可燃分があまり燃焼されないガス化部分(即ち,可燃ガスがあまり消費されない部分)と可燃分がよく燃焼される酸化部分が形成されることも,極めて自明な事項である。
したがって,原告が主張する効果は,甲2の発明及び周知技術から極めて自明で当業者が十分に予測できるものである。
なお,原告が,流動化ガスをともに空気とするとの構成を有する本件発明2について,本件発明1と同じ効果を主張していることからも,上記構成による効果が自明であることは,明らかである。
9取消事由9(相違点Gについての認定判断の誤り)について原告は,本件発明3の「該流動層炉に供給し,該ガス化ゾーンにてガス化してガスとチャーを生成し,該ガス化ゾーンで生成したチャーを該循環流にて該酸化ゾーンに供給して部分酸化し」との構成は,廃棄物がガス化されてガスとチャーを生成し,生成したチャーを部分酸化する場所を特定するとともに,可燃ガスとチャーを得てともに次段の溶融炉へ供給するための構成であるのに対して,甲3の発明のものは,酸化ゾーンにおいてチャーを部分酸化させずに残し,残ったチャーを次段へと排出するものではない旨主張する。
しかし,審決は,「該流動層炉に供給し,該ガス化ゾーンにてガス化してガスとチャーを生成し,該ガス化ゾーンで生成したチャーを該循環流にて該酸化ゾーンに供給して部分酸化し」との構成が甲3公報に記載されていると認定しているのであり,「次段の熔融炉に供給すること」との構成が甲3の発明に記載されていると認定しているものではない。複数の公知技術の組合せにより特許出願に係る発明の進歩性が否定できるか否かを判断するに当たっては,各公知文献に記載された構成を認定し,それを組み合わせて当該発明を容易にし得るか否かを判断すれば十分である。
10取消事由10(本件発明3の奏する顕著な効果の看過)について( )原告は,本件発明3の効果としても,本件発明1と同様の効果を主張して1いるが,このような効果は何ら格別顕著なものと評価されるべきでない。
( )原告は,ガス化ゾーンにおいて生成した可燃ガスをあまり燃焼させずに次2段の溶融炉において利用できることを根拠に,本件発明3の効果を主張する。
しかし,ガス化ゾーンにおいて生成した可燃ガスをあまり燃焼させずに次段の溶融炉において利用できることは,甲2の発明及び周知技術から,極めて自明なことである。少なくとも,甲3公報には,「ガス化ゾーンに相当する下降移動層で生成したガスは,燃焼による損失が減る」旨明示されていることから,上記の効果は,甲2の発明,甲3の発明及び周知技術から十分に予測できることは明らかである。
11取消事由11(相違点Iについての認定判断の誤り)について原告は,相違点Aについての認定判断に誤りがあることを根拠として,相違点Iについての審決の認定判断が誤りである旨主張するが,相違点Aについての審決の認定判断に誤りはないから,失当である。
12取消事由12(相違点J及びKについての認定判断の誤り)について( )原告は,相違点J及びKに係る本件発明4の構成について,流動層温度が1450℃から650℃とされた条件の下において多量に生成されたチャーを,流動層炉内にとどまらないように処理して溶融炉に供給するために有機的に結合した構成であるにもかかわらず,審決は,この構成を機械的に分断し,分断された一部の構成のみを検討したとして,審決の認定判断が誤りである旨主張するが,失当である。
「生成されたチャーの流動層での燃焼」との構成は,流動層でチャーがどのようになっているかを特定するものであるのに対し,「流動層温度を450℃〜650℃に維持」とは流動層温度を特定するものであって,これらの構成を分断して,各構成を検討することに何ら誤りはない。そして,審決は,「相違点Iないし相違点Lについて,これらを全体としてみても,本件発明4の構成を当業者が想到することの困難性を見出すことはできない。」(審決謄本第42頁第1段落)として,構成相互の関係についても検討している。
また,原告は,相違点J及びKに係る構成の相互関係として,チャーを可燃ガスと分離して燃焼させて流動層温度を450℃〜650℃に維持する熱源として寄与させている旨主張するが,甲3の発明においても流動層を熱分解及び燃焼可能な温度に維持するための熱源として,チャーが寄与していることは明らかであり,原告主張の相互関係は,甲3の発明において,明示されていない具体的な温度として,周知の温度に限定したという程度のものであり,進歩性を判断する際に,何ら評価に値するものではない。
( )原告は,相違点Jに係る本件発明4の構成について,ガスとチャーを得て2ともに流動層炉外へと排出するための構成であるのに対し,甲3の発明は,流動層炉内でガス化を完結させてガスを生成するものであり,流動層炉から排出されるチャーは,移動層から排出される例外的なものである旨主張する。
しかし,甲3公報には,「ガス化炉3にて生成したガスは,二段のサイクロン4によりガス中に含まれる固形物を分離する。一段目のサイクロンで分離された固形物中には,未反応チャーが含まれるので」(3頁右下欄14行目〜17行目)と記載されているように,ガス化炉からチャーが排出されていることが明確に記載されている。ここで,移動層と流動層とでは流動化ガスの質量速度が流動層の方が大きいのであるから,飛散するチャーは主に流動層側から排出されるものと把握され,チャーは例外的に移動層から排出されるものである旨の原告の主張は失当であり,相違点Jについての審決の認定判断に誤りはない。
また,原告は,甲3の発明が,流動媒体が上昇する流動層で1000℃程度の高い温度でガス化してチャーをすべて可燃ガスに変換させてしまう甲3の発明を適用することは適切でない旨主張する。
しかし,甲3公報には,「上段炉でタールを生成しないためには1000℃近い温度を必要とするが」(3頁右上欄3行目〜4行目)との記載はあるが,これは,従来技術である二段流動層ガス化炉に関する記載であり,甲3のガス化炉に関するものではなく,甲3公報の,「流動層方式のこのような問題点を解決するために,深層流動層や二段流動層ガス化或いは高温化による灰の凝集化等が試みられているが,何れについてもなお次のごとき欠点を有するものであった。・・・B二段流動層ガス化は,・・上段炉でタールを生成しないためには1000℃近い温度を必要とするが,これに必要な熱量を下段炉におけるチャーの燃焼でまかなうのはかなり難しい操作を伴う。燃焼温度を上げようと温度を高くすれば,当然灰の熔融の問題が生じる。・・・本発明は,こうした従来の欠点を除き,有用な流動層ガス化方法及びガス化炉を提供することを目的とするものである。」(2頁右下欄17行目〜3頁右上欄19行目)との記載に照らせば,原告の主張は失当である。そして,甲3公報において,「従来の流動層では,層内全体を活発な流動化状態で均一に保とうとしたため,生成ガスに同伴して炉外へ飛散する未反応チャーの量が多く,高いガス化効率を得られなかつた。」(2頁左下欄11行目〜14行目)と記載されているところ,本件明細書にも「高いガス化効率が得られない等の短所があった。」(段落【0003】),「ガス化困難な固定炭素(チャー)やタール分等は,未反応物として生成ガスに同伴して炉外へ飛散し,高いガス化効率が得られない。」(段落【0005】),「都市ごみ,廃プラスチック等の廃棄物や石炭等の可燃物から多量の可燃分を含む可燃ガスを高効率で生成し」(段落【0008】)と記載されているように,課題においても,甲3の発明は,本件発明4と共通点を有し,適用するのに極めて適切なものである。
( )原告は,相違点Kに係る本件発明4の構成について,甲2の発明はガス化3溶融炉を前提とするものであり,審決が周知技術の認定の根拠とした文献は,技術的思想として,本件発明4又は甲2の発明に近接し,これと共通の要素を持つものでなく,それらの周知技術は甲2の発明に適用する適性を有しない旨主張する。
しかし,審決は本件出願日当時の技術水準から,「流動層温度を450℃〜650℃に維持し」との技術が周知であるか否かを認定するのための資料として各先行文献を参照しているのであり,各先行文献に記載された各発明そのものが甲2の発明に適用できるとして,進歩性を否定しているものではないから,原告の主張は,失当である。審決によって認定された周知技術は,都市ごみ等を流動層炉の熱分解,焼却によって処理するための技術として,甲2の発明に適用するのに,極めて適しているものである。
13取消事由13(本件発明4の奏する顕著な効果の看過)について( )原告は,審決が本件発明4の奏する顕著な効果を看過した旨主張するが,1取消事由5(本件発明1の奏する顕著な効果の看過)と同様の主張にすぎず,理由がない。
( )原告は,流動層の温度を450℃から650℃とすることにより,多くの 2チャーを次段の溶融炉で利用できる旨主張する。
しかし,甲2公報には,前段でガス及びチャーを生成し,これを次段で利用することが記載されていて,前段での生成量が増大すれば,それだけ次段で利用できることは,当業者ならずとも予測できる極めて自明なことである。
一方,流動層温度を450℃から650℃に調整すれば,流動層炉において,一般的に多くのチャーが生成されることは,技術常識といえるものであるから,流動層温度を450℃から650℃とすることにより,多くのチャーを次段の溶融炉で利用できるということは,甲2公報及び周知技術から十分に予測できるものである。
14取消事由14(本件発明7ないし9についての進歩性の認定判断の誤り)について原告は,本件発明1ないし3に対応する方法の発明である本件発明7ないし9の進歩性を否定した審決の認定判断の誤りを主張するが,本件発明1ないし3に進歩性がないから,失当である。
15取消事由15(本件発明10についての進歩性の認定判断の誤り)について( )原告は,本件発明10は,本件発明7を引用するものであり,甲2の発明1や審決が周知技術認定の根拠とした文献には,「該チャーを微粒子とし」との構成がない旨主張するが,本件発明7について進歩性を否定した審決の認定判断に誤りはなく,失当である。
( )原告は,本件発明10は,本件発明9を引用するものであり,質量速度が2比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスは,ともに空気であるとの構成について,ガス化炉においては周知でない旨主張するが,取消事由6(相違点Dについての認定判断の誤り)に理由がないのと同様,質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスは,ともに空気であるとの構成を周知の構成であると認定する審決に誤りはない。
16取消事由16(本件発明5,6,11ないし16についての進歩性の認定判断の誤り)について原告は,本件発明1ないし5,7ないし9についての審決の進歩性判断に誤りがあることを理由として,それらの発明を引用する本件発明5,6,11ないし16についての審決の認定判断に誤りがある旨主張するが,本件発明1ないし5,7ないし9について,審決の認定判断に誤りはないから,理由がない。
また,原告は,本件発明11について,流動化ガスの種類を特定したことの意義を主張するが,その特定の意義の内容は,特定がない本件発明9の効果と同様であることから明らかなように,本件発明11は,流動化ガスとして周知なものに特定しただけであり,また,本件発明9の効果も何ら評価に値するものではない。
さらに,原告は,本件発明12について,そこで付加した構成は,廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,溶融炉に灰分を溶融する方法において,ガス化ゾーンにおける流動化ガスの酸素含有量よりも酸化ゾーンにおける流動化ガスの酸素含有量を高め,ガス化溶融システムにおいて,流動層炉でガス化によって生成されたチャーを,還元雰囲気の酸化ゾーンにて部分酸化させ,酸化させきらずに残して可燃ガスに同伴させるための条件をより詳細に規定したという意義を有する旨主張するが,甲2の発明も,溶融炉において,灰分を溶融するという発明である。また,原告は,条件を詳細に規定した旨主張するが,その意義について,具体的に主張されていないから,条件を規定したこと自体は何ら評価されるべきものでないし,この主張が,流動化ガスの特定のない本件発明9の効果として主張されているものと同様のものであれば,本件発明9の効果が何ら評価に値しないことからも,本件発明12の効果も評価に値しない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(甲2の発明の認定の誤り)について( )審決は,甲2公報に,「都市ごみなどの固形廃棄物を流動層熱分解炉に供1給し,該流動層熱分解炉の流動層にてガス化した後,サイクロン燃焼炉にて灰分を溶融する装置において,該固形廃棄物を該流動層熱分解炉に供給し,流動層内の熱分解によりガス化してガス並びにチャー及び灰分の微粒子を生成し,該固形廃棄物に含まれる不燃物を該流動層熱分解炉の炉底部より排出し,サイクロン燃焼炉は該流動層熱分解炉より排出された該ガスとチャーを燃焼して灰分を熔融する燃焼室を備えた固形物の燃焼装置。」(審決謄本32頁第4段落)である甲2の発明が記載されていると認定したが,原告は,その認定が誤りである旨主張する。
( )原告は,まず,審決が,本件発明1を含む本件発明の技術的意義を正解し2なかったために,甲2の発明の認定を誤った旨主張するので,本件明細書についてみると,以下のとおりの記載がある。
ア「【産業上の利用分野】本発明は,流動層炉において可燃物をガス化し,生成された可燃ガス及び微粒子を熔融燃焼炉において高温燃焼させ灰分を熔融する方法及び装置に関する。」(段落【0001】)イ「【従来の技術】近年,多量に発生する都市ごみ,廃プラスチック等の廃棄物を焼却し減量化すること,及びその焼却熱を有効利用することが望まれている。廃棄物の焼却灰は,通常,有害な重金属を含むので,焼却灰を埋め立てにより処理するためには,重金属成分を固化処理する等の対策が必要である。これらの課題に対応するため,特公昭62-35004号公報の固形物の燃焼方法及びその装置が提案された。この公報の燃焼方法においては,固形物原料が流動層熱分解炉において熱分解され,熱分解生成物,即ち,可燃ガス及び粒子,がサイクロン燃焼炉に導入される。サイクロン燃焼炉の中で加圧空気により可燃分が高負荷燃焼され,旋回流により灰分が壁面に衝突し溶けて壁面を流下し,熔融スラグとなって排出口から水室へ落下し固化される。特公昭62-35004号公報の方法においては,流動層全体が活発な流動化状態であるため,生成ガスに同伴して炉外へ飛散する未反応可燃分が多いため,高いガス化効率が得られない等の短所があった。また,従来,流動層炉が使用できるガス化原料としては,石炭等の場合は,粒径0.5〜3mmの粉炭,廃棄物の場合は,数十mmの細破砕物とされてきた。これより大きいと流動化を阻害するし,これより小さいと完全にガス化されないまま未反応可燃分として生成ガスに同伴して炉外へ飛散してしまう。従って,これまでの流動層炉では,ガス化原料を炉に投入する前の前処理として,予め粉砕機等を用いて破砕・整粒することが不可欠であり,所定の粒径範囲に入らないガス化原料は,利用できず,歩留まりをある程度犠牲にせざるをえなかった。」(段落【0002】,【0003】)ウ「上記の問題を解決するため,特開平2-147692号公報の流動層ガス化方法及び流動層ガス化炉が提案された。この公報の流動層ガス化方法においては,炉の水平断面が矩形にされ,炉底中央部から炉内へ上向きに噴出される流動化ガスの質量速度が,炉底の2つの側縁部から供給される流動化ガスの質量速度より小さくされ,炉底側縁部の上方で流動化ガスの上向き流が炉中央部へ転向され,炉中央部に流動媒体が沈降する移動層が形成され,炉の両側縁部に流動媒体が活発に流動化する流動層が形成され,移動層に可燃物が供給される。流動化ガスは,空気と蒸気の混合物,又は酸素と蒸気の混合物であり,流動媒体は,珪砂である。しかしながら,この特開平2-147692号公報の方法は,次の短所を有する。即ち,(1)移動層及び流動層の全体において,ガス化吸熱反応と燃焼反応が同時に生じ,ガス化し易い揮発分がガス化すると同時に燃焼され,ガス化困難な固定炭素(チャー)やタール分等は,未反応物として生成ガスに同伴して炉外へ飛散し,高いガス化効率が得られない。(2)生成ガスを燃焼させ蒸気及びガスタービン複合発電プラントに使用する場合,流動層炉を加圧型とすることが必要であるが,炉の水平断面が矩形のため,加圧型とすることが困難である。好ましいガス化炉の内圧は,生成ガスの用途によって決定される。一般の燃焼用ガスとして使用する場合は,数千mmAq程度で良いが,ガスタービンの燃料として使用する場合は,数kgf/cm 以上が必要であり,更に,高効率ガス化複合発電用の燃料として使用2する場合には十数数kgf/cm 以上が適当である。」(段落【00024】,【0005】)エ「都市ごみ等の廃棄物処理については,依然として可燃性ごみの燃焼による減量化が,重要な役割を担っており,それに付随して,近年,ダイオキシン対策,媒塵の無害化,エネルギー回収効率の向上等,環境保全型のごみ処理技術の必要性が増大している。我が国の都市ごみの焼却量は,約100,000トン/日であり,都市ごみ全量のエネルギーは,我が国の消費電力量の約4%に相当する。現在,都市ごみのエネルギーの利用率は,約10%に止まっているが,利用率を高めることができれば,それだけ化石燃料の消費量が少なくなり,地球温暖化防止にも寄与できる。しかしながら,現在の焼却システムは,次の問題を含んでいる。即ち,@HC に□よる腐食の問題があり,発電効率を高くできない。AHC ,NOx,S □Ox,水銀,ダイオキシン等に対する公害防止設備が複雑化してコスト及びスペースが増大している。B法規制の強化,最終処分場の用地難等により,焼却灰の熔融設備の設置が増大しているが,そのため別設備の建設が必要であり,また電力等を多量に消費している。Cダイオキシンを除去するには,高価な設備が必要である。D有価金属の回収が困難である。」(段落【0006】,【0007】)オ「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,従来技術の前記の問題点を解消することにあり,都市ごみ,廃プラスチック等の廃棄物や石炭等の可燃物から多量の可燃分を含む可燃ガスを高効率で生成し,生成された可燃ガスの自己熱量により燃焼灰を熔融することができる処理方法及びガス化及び熔融装置を提供することにある。本発明においては,熔融炉へ供給される生成ガスは,自己熱量により1300℃以上の高温を発生するような充分な熱量を持ち,チャー,タールを含む均質なガスであるようにされ,またガス化装置から不燃物の排出が支障なく行われるようにされる。本発明の更に別の目的は,廃棄物中の有価金属を還元雰囲気の流動層炉内から酸化しない状態で取出し回収できるガス化方法及び装置を提供することにある。本発明の更に別の目的は,図面を参照する実施例の説明において明らかにされる。」(段落【0008】)カ「上述の目的を達成するため,本発明のガス化及び熔融装置の1態様は,廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,熔融炉にて灰分を熔融する装置において,該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,該流動化ガスを炉内に供給して該炉内に流動媒体の循環流を形成し,該廃棄物を該流動層炉に供給し,循環流中でガス化してガスとチャーを生成し該チャーを該循環流中で微粒子とし,該廃棄物に含まれる不燃物と流動媒体を該流動層炉の炉底部より排出し,該不燃物と該流動媒体を分別した後に該流動媒体を該流動層炉に戻し,該熔融炉は該流動層炉より排出された該ガスと該微粒子となったチャーを燃焼して灰分を熔融する燃焼室を備えたことを特徴とする。本発明のガス化及び熔融装置の他の態様は,廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,熔融炉にて灰分を熔融する装置において,該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,該質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する手段と,該質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する手段から供給される流動化ガスはともに空気とし,該流動化ガスを炉内に供給して該炉内に流動媒体の循環流を形成し,該廃棄物を該流動層炉に供給し,循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,該廃棄物に含まれる不燃物と流動媒体を該流動層炉の炉底部より排出し,該不燃物と該流動媒体を分別した後に該流動媒体を該流動層炉に戻し,該熔融炉は該流動層炉より排出された該ガスと該チャーを燃焼して灰分を熔融することを特徴とする。本発明のガス化及び熔融装置の更に他の態様は,廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,熔融炉にて灰分を熔融する装置において,該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,流動化ガスを炉内に供給して流動媒体の循環流を形成し,該質量速度が比較的小さい流動化ガスによって流動化される部分をガス化ゾーンとし,該質量速度が比較的大きい流動化ガスによって流動化される部分を酸化ゾーンとし,該廃棄物を該流動層炉に供給し,該ガス化ゾーンにてガス化してガスとチャーを生成し,該ガス化ゾーンで生成したチャーを該循環流にて該酸化ゾーンに供給して部分酸化し,該廃棄物に含まれる不燃物と流動媒体を該流動層炉の炉底部より排出し,該不燃物と該流動媒体を分別した後に該流動媒体を該流動層炉に戻し,該熔融炉は該流動層炉より排出された該ガスと該チャーを燃焼して灰分を熔融することを特徴とする。」(段落【0009】)キ「【作用】本発明のガス化装置は,流動層炉の循環流により熱が拡散されるので,高負荷とすることができ,炉を小型にすることができる。本発明においては,流動層炉が少量の空気で燃焼を維持できるので,流動層炉を低空気比低温度(450〜650℃)とし,発熱を最小限に抑えて,ゆるやかに燃焼させることにより,可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得ることができ,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の熔融燃焼炉において利用できる。」(段落【0023】)ク「本発明においては,流動層炉へ供給される中央流動化ガスの質量速度が,周辺流動化ガスの質量速度より小にされ,炉内周辺部上方における流動化ガスの上向き流が炉の中央部へ向うように転向され,それによって,流動媒体の沈降拡散する移動層が炉の中央部に形成されると共に,炉内周辺部に流動媒体が活発に流動化している流動層が形成される。炉内へ供給された可燃物は,移動層の下部から流動層へ及び流動層頂部から移動層へ,流動媒体と共に循環する間に可燃ガスにガス化される。可燃物は,最初に,炉中央の下降する移動層の中で,主として揮発分が流動媒体(一般的には,硅砂を使用)の熱によりガス化される。そして,移動層を形成する中央流動化ガスの酸素含有量が,小さ(い)ため,移動層内で生じた可燃ガスは,ほとんど燃焼されずに中央流動化ガスと共にフリーボードへ上昇され,発熱量の高い良質の生成ガスとなる。移動層において揮発分が失われ加熱された可燃物,即ち,固定炭素(チャー)やタール分等は,次に流動層内へ循環され,流動層内の比較的酸素含有量の多い周辺流動化ガスと接触し燃焼され,燃焼ガス及び灰分に変わると共に炉内を450〜650℃に維持する燃焼熱を発生する。この燃焼熱により流動媒体が加熱され,加熱された流動媒体が炉周辺部上方で炉中央部へ転向され移動層内を下降することにより移動層内の温度を揮発分のガス化に必要な温度に維持する。可燃物が投入される炉中央部ほど低酸素状態であるので,高い可燃分を有する生成ガスを発生することができる。また,可燃物中の金属が不燃物取出口から未酸化の有価物として回収することができる。」(段落【0024】,【0025】)ケ「可燃物供給口104から移動層9の上部へ供給された可燃物11は,流動媒体と共に移動層9中を下降する間に,流動媒体の持つ熱により加熱され,主として揮発分がガス化される。移動層9には,酸素が無いか少ないため,ガス化された揮発分から成る生成ガスは燃焼されないで,移動層9中を矢印116のように抜ける。それ故,移動層9は,ガス化ゾーンGを形成する。フリーボード102へ移動した生成ガスは,矢印120で示すように上昇し,ガス出口108から生成ガス29として排出される。移動層9でガス化されない,主としてチャー(固定炭素分)やタール114は,移動層9の下部から,流動媒体と共に矢印112で示すように炉内周辺部の流動層10の下部へ移動し,比較的酸素含有量の多い周辺流動化ガス8により燃焼され,部分酸化される。流動層10は,可燃物の酸化ゾーンSを形成する。流動層10内において,流動媒体は,流動層内の燃焼熱により加熱され高温となる。高温になった流動媒体は,矢印118で示すように,傾斜壁6により反転され,移動層9へ移り,再びガス化の熱源となる。流動層10の温度は,450〜650℃に維持され,抑制された燃焼反応が継続するようにされる。」(段落【0031】,【0032】)コ「図1及び図2に示すガス化炉1によれば,流動層炉2にガス化ゾーンGと酸化ゾーンSが形成され,流動媒体が両ゾーンにおいて熱伝達媒体となることにより,ガス化ゾーンGにおいて,発熱量の高い良質の可燃ガスが生成され,酸化ゾーンSにおいては,ガス化困難なチャーやタール114を効率良く燃焼させることができる。それ故,可燃物のガス化効率を向上させることができ,良質の可燃ガスを生成することができる。」(段落【0033】)サ「【発明の効果】(1)本発明のガス化装置は,流動層炉の循環流により熱が拡散されるので,高負荷とすることができ,炉を小型にすることができる。(2)本発明においては,流動層炉が少量の空気で燃焼を維持できるので,流動層炉を低空気比低温度(450〜650℃)とし,発熱を最小限に抑えて,ゆるやかに燃焼させることにより,可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得ることができ,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の熔融燃焼炉において利用できる。(3)本発明においては,流動層炉の循環流により大きな不燃物も容易に排出できる。また,不燃物中の鉄,アルミが,未酸化の有価物として利用できる。(4)本発明によれば,ごみ処理を無害化し,高いエネルギ利用率を有する方法又は設備が提供される。」(段落【0059】〜【0062】)上記記載によれば,本件明細書には,本件発明は,廃棄物から多量の可燃分を含む可燃ガスを高効率で生成し,生成された可燃ガスの自己熱量により燃焼灰を溶融することができる処理方法等の提供を目的とすること,移動層内で生じた可燃ガスは,ほとんど燃焼されずにフリーボードに上昇し,良質の生成ガスとなり,チャーが流動層において燃焼されることで,燃焼熱を発生し,燃焼ガス,灰分になること,ガス化ゾーンGにおいて,良質の可燃ガスが生成され,酸化ゾーンSにおいては,チャー等を効率よく燃焼させ,「それ故」(上記コ)可燃物のガス化効率を向上させ,良質の可燃ガスを生成できることは記載されているが,生成されたチャーについて,従来技術と比較した粒径や生成量についての記載はない。
原告は,本件発明においては,チャーを流動層炉内にとどまらせずに,可燃ガスに同伴して溶融炉に供給することができ,炉内に供給される廃棄物の質や量が変動しても低温域で廃棄物をガス化させて安定して可燃ガスと多量のチャーを生成し,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得て,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の溶融燃焼炉において利用できるようにしたという技術的意義がある旨主張するが,上記のとおりの本件明細書の記載,殊に,上記イのとおり,従来技術の課題として,未反応可燃分がガス化されずに炉外に飛散したこと,及び,チャー等が未反応物として炉外に飛散し,高いガス化効率が得られなかったことが記載されていることを併せ考慮すると,本件発明について,ガス化効率を高め,良質の生成ガスを得ることを目的としているものであることは認められるものの,更に進んで,次段の溶融炉に供給するという目的で,従来技術によるものよりも,チャーを多量に生成することについてまでの技術的意義が記載されているものとは認められない。
( )甲2公報には,以下の記載がある。
3ア「固形物原料を,流動層熱分解炉において熱分解を行い,熱分解生成物をサイクロン燃焼炉に導入し,該サイクロン燃焼炉の中で加圧空気により可燃分を燃焼せしめ,灰分の分離を行うことを特徴とする固形物の燃焼方法。」(特許請求の範囲の請求項1)イ「本発明は,都市ごみ,廃プラスチックなどの固形廃棄物や,スラジなどの液の中に多く含まれている固形有機物や,石炭などの固形燃料,その他の固形物の燃焼方法及びその装置に関するものである。」(1欄18行目〜22行目)ウ「周知のサイクロン燃焼炉は,強力な空気の旋回流によつて能率的な燃焼が可能となるのみならず,高負荷燃焼を行えば灰分をサイクロン内壁に捕捉溶融せしめて集じん性能を向上させると共に溶融スラグとして取り出せるという利点がある」(3欄9行目〜14行目)エ「本発明は,熱分解過程を流動層により行い,熱分解の生成ガス中に含まれるチヤー及び灰分が微細粒子となる事実を利用して,このガスをサイクロン燃焼炉に導入し,此処で加圧空気によつて可燃分(ガス及びチヤー)を燃焼せしめることにより,従来の方式の上記の欠点を除き,熱媒体の凝塊形成がなく,灰分の集じん性能が良好であり,流動層炉の大きさも小さくなり,重金属の溶出も防がれ,またサイクロン焼却炉用の特別な微粉砕前処理を必要としない高性能でありかつコンパクトで構造簡単な固形物の焼却方法及びその装置を提供することを目的とするものである。」(同欄32行目〜43行目)オ「本発明は,固形物原料を,流動層熱分解炉において熱分解を行ない,熱分解生成物をサイクロン燃焼炉に導入し,該サイクロン燃焼炉の中で加圧空気により可燃分を燃焼せしめ,灰分の分離を行なうことを特徴とする固形物の燃焼方法,及び,流動層熱分解炉とサイクロン燃焼炉とを備え,前記流動層熱分解炉の炉頂部出口と前記サイクロン燃焼炉の炉頂部入口とを熱分解生成物移送路にて接続し,かつ前記サイクロン燃焼炉に燃焼用加圧空気を供給する空気供給装置を備え,前記流動層熱分解炉の上部には原料固形物供給機構を備え,下部には不燃物排出口を備え,前記サイクロン燃焼炉の上部には排ガス出口を備え,下部には灰分排出機構を備えていることを特徴とする固形物の燃焼装置である。」(3欄44行目〜4欄14行目)カ「第1図及び第2図において,2は流動層熱分解炉,11はサイクロン燃焼炉である。流動層熱分解炉2においては上部に原料供給装置1を備え,下部には分散板6を備えてガス室5が仕切られている。4はガス室5へ流動化ガスを導入するガス入口であり,この流動化ガスが分散板6より噴出して砂を熱媒体とする流動層3を形成するようになつている。」(4欄16行目〜23行目)キ「サイクロン燃焼炉11においては,上部に接線方向に入口23が設けられ,上部中央には排ガスの出口18が設けられている。13は溶融スラグの流下を示す矢印であり,14は溶融スラグの排出口である。15は溶融スラグを冷却して粒状固化するための水室,16はコンベア,17は二重排出弁である。」(同欄28行目〜34行目)ク「空気エジエクタ9にはブロワ10により加圧空気が供給され,フリーボード7からのガスを吸引し,サイクロン燃焼炉11に供給するようになつている。」(同欄37行目〜40行目)ケ「都市ごみ,スラジなどの原料は原料供給装置1から流動層熱分解炉2に供給され,流動層3内で部分燃焼によつて残部が加熱されて熱分解される。空気はガス入口4からガス室5に入りガス分散板6を通つて砂を流動化させ且つ原料の一部を燃焼する。熱分解により生成したチヤーと可燃性ガス及び部分燃焼により発成した灰分と燃焼排ガスは,全て塔頂部フリーボード7から分解炉出口8に出て,空気エジエクタ9においてブロワ10により供給される加圧空気によつて,吸引加速され,空気とガスとの混合ガスはサイクロン燃焼炉11に接線方向に高速で送られ,矢印12の方向に強力な旋回流を生ぜしめられて熱分解生成物(ガス及びチヤー)は燃焼される。・・・サイクロン焼却炉11の外面は水冷室(図示せず)とし内面はカーボランダム又はクロム鉱耐火物とするとよい。高負荷燃焼を行わせると灰分は融けて壁面を点線矢印13のように流下し,灰分やチヤーは旋回流に基づく遠心力によつて壁面に衝突して融灰により濡れ状態となつた壁面に付着し,チヤーは高速の旋回流を行う空気との間に大きな相対速度を生ずるので極めて高い燃焼速度で燃焼する。又遠心力効果と濡れ壁効果とによつて灰分は高い効率で補捉され溶融スラグとなつて排出口14から水室15に落下し」(5欄2行目〜29行目)コ「上述の実施例は以上の如く構成され作用するので次の如き効果を有する。熱分解は吸熱反応であるから,熱分解に必要な発熱量に見合つた部分燃焼を行わせるような少量の空気を供給すればよいので,プラスチツクのような極めて高い発熱量の原料でも,@流動層の局部の異常高温による熱媒体(砂)の凝塊形成が無く,A部分燃焼であるから所要空気量が少ないので,流動層の塔径を過大に設定する必要はない。又,熱分解過程を終つたあとでBサイクロン燃焼炉自体が集じん機能を果たすのみならず,高負荷燃焼を行えば灰分はサイクロン内壁に捕捉溶融され内壁面は濡れ状態となつて微細な灰分の集じん性能が向上し,C灰分を溶融することにより原料中の有害重金属が封じ込められて,埋立に際して重金属溶出を防ぐ為の固化処理等の対策が不要となる。更に,Dサイクロン燃焼炉に供給される固体は熱分解で生成したチヤーと部分燃焼で生成した灰分などの微細な粒子であるから,在来のサイクロン燃焼法に不可欠であつた原料の微破砕処理が不要となる。などの極めて優れた効果が得られる。」(6欄16行目〜40行目)上記によれば,甲2公報には,都市ごみなどの固形廃棄物を流動層熱分解炉に供給し,流動層熱分解炉の流動層にてガス化した後,サイクロン燃焼炉にて灰分を溶融する装置において,固形廃棄物を流動層熱分解炉に供給し,流動層内の熱分解によりガス化してガス,チャー及び灰分を生成し,固形廃棄物に含まれる不燃物を流動層熱分解炉の炉底部より排出し,サイクロン燃焼炉は流動層熱分解炉より排出されたガスとチャーを燃焼して灰分を溶融する燃焼室を備えた固形物の燃焼装置が記載されている。
そして,熱分解の結果生成し,サイクロン燃焼炉に導入されるチャーについては,「熱分解過程を流動層により行い,熱分解の生成ガス中に含まれるチヤー及び灰分が微細粒子となる事実を利用して,」(上記エ),「熱分解により生成したチヤーと可燃性ガス及び部分燃焼により発成した灰分と燃焼排ガスは,全て塔頂部フリーボード7から分解炉出口8に出て,空気エジエクタ9においてブロワ10により供給される加圧空気によつて,吸引加速され,・・・」(同ケ),「サイクロン燃焼炉に供給される固体は熱分解で生成したチヤーと部分燃焼で生成した灰分などの微細な粒子であるから,在来のサイクロン燃焼法に不可欠であつた原料の微破砕処理が不要となる。」(同コ)との記載に照らしても,流動層炉の流動層における熱分解の結果発生するもので,流動層内の熱分解により,「微細粒子」となり,微破砕処理も不要であり,可燃性ガスに同伴するもので,微粒子となっていると認められる。
したがって,甲2の発明を,前記( )のとおり「都市ごみなどの固形廃棄1物を流動層熱分解炉に供給し,該流動層熱分解炉の流動層にてガス化した後,サイクロン燃焼炉にて灰分を溶融する装置において,該固形廃棄物を該流動層熱分解炉に供給し,流動層内の熱分解によりガス化してガス並びにチャー及び灰分の微粒子を生成し,該固形廃棄物に含まれる不燃物を該流動層熱分解炉の炉底部より排出し,サイクロン燃焼炉は該流動層熱分解炉より排出された該ガスとチャーを燃焼して灰分を熔融する燃焼室を備えた固形物の燃焼装置。」と認定した審決に誤りはない。
( )原告は,本件発明1は,流動媒体が下降する移動層において廃棄物がガス4化されてガスとチャーが生成され,生成されたチャーを可燃ガスとは分離して流動媒体が上昇する流動層へと移動させ,部分酸化させて微粒子とする処理をさらに行っているものであるとして,甲2公報には,上記構成に係る本件発明1の「該チャーを微粒子とし」との構成は記載されていない旨主張する。
本件発明1の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2の【請求項1】のとおり,「廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,熔融炉にて灰分を熔融する装置において,該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,該流動化ガスを炉内に供給して該炉内に流動媒体の循環流を形成し,該廃棄物を該流動層炉に供給し,循環流中でガス化してガスとチャーを生成し該チャーを該循環流中で微粒子とし,該廃棄物に含まれる不燃物と流動媒体を該流動層炉の炉底部より排出し,該不燃物と該流動媒体を分別した後に該流動媒体を該流動層炉に戻し,該熔融炉は該流動層炉より排出された該ガスと該微粒子となったチャーを燃焼して灰分を熔融する燃焼室を備えたことを特徴とするガス化及び熔融装置。」というものであり,チャーについては,「循環流中でガス化してガスとチャーを生成」すること,「該チャーを該循環流中で微粒子と(する)」というものである。同記載によって,本件発明1は,循環流中でガスとチャーが生成され,その循環流中でチャーが微粒子とされるという構成を備えるものであることが理解できるところ,それを超えて,特許請求の範囲の記載が,廃棄物がガス化されてガスとチャーが生成される工程と,生成されたチャーを流動媒体が上昇する流動層へと移動させ,部分酸化させて微粒子とする工程という2段階の工程を規定しているものとは認められない。
そうすると,チャーについて,本件発明1に,生成させる過程と生成されたチャーを流動媒体が上昇する流動層で部分酸化させる工程が規定されていることを前提として,甲2の発明の認定の誤りをいう原告主張は,前提を欠くものであり,採用できない。
また,仮に,本件明細書の記載及び技術常識等から,流動層内の流動媒体を循環流とした流動層炉において,循環流中の下降流である移動層でガス化がされ,循環流中の上昇流である流動層においてチャーが部分酸化することがあったとしても,後記4( )のとおり,流動層内の流動媒体の流れを循環2流とした場合,同作用は当業者が容易に予測し得るものにすぎないのであって,循環流におけるチャーの生成及びチャーを微粒子とすることに係る構成については,相違点Bとして認定され,その容易想到性について判断されているのであるから,上記流動層においてチャーが部分酸化することがあることが,審決の甲2の発明の認定及び相違点の認定判断に影響するものではない。
( )したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
52取消事由2(本件発明1と甲2の発明の一致点の認定の誤り,相違点の看過)について(1)審決は,本件発明1と甲2の発明が,「廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,熔融炉にて灰分を熔融する装置において,該廃棄物を該流動層炉に供給し,ガス化してガスとチャーを生成し,該熔融炉は該流動層炉より排出された該ガスと微粒子となったチャーを燃焼して灰分を熔融する燃焼室を備えたガス化及び熔融装置。」(審決謄本32頁第5段落)の点で一致すると認定したのに対し,原告は,本件発明1と甲2の発明が,流動層炉から溶融炉にチャーを供給する過程が全く異なっているとして,本件発明1と甲2の発明において,流動層から溶融炉に同じように微粒子のチャーが供給されているとして一致点を認定した審決が誤りである旨主張する。
原告の同主張は,本件発明1が,廃棄物をガス化してガスとチャーを生成するという工程と,流動媒体が上昇する流動層において部分酸化させて微粒子とする処理をするという工程という2段階の工程があることを前提とするものであると解される。しかし,前記1のとおり,そのような事実は認められないし,また,仮に,循環流中の下降流である移動層でガス化がされ,循環流中の上昇流である流動層においてチャーが部分酸化することがあったとしても,そのような作用は当業者が容易に予測し得るものにすぎないのであって,循環流におけるチャーの生成及びチャーを微粒子とすることに係る構成については,相違点Bとして認定され,その容易想到性について判断されているのであるから,上記流動層においてチャーが部分酸化することがあることが,審決の相違点の認定判断に影響するものではない。
( )原告は,本件発明1と甲2の発明では,溶融炉に供給されるガスとチャー2を得る過程が異なるのであるから,溶融炉にガスとチャーが一連の過程を経て得られるものであることを規定した本件発明1の「該流動層炉より排出された該ガスと該微粒子となったチャーを燃焼して灰分を熔融する燃焼室を備えた」との構成も,本件発明1と甲2の発明の相違点として認定されるべきであるとして,審決が同相違点を看過した旨主張するが,上記( )と同様の1理由で,失当である。
3取消事由3(相違点Aについての認定判断の誤り)について( )審決は,相違点Aに係る本件発明1の構成について,「流動層炉において1『該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,該流動化ガスを炉内に供給して該炉内に流動媒体の循環流を形成し』たことは,本件発明1の出願前に当業者には周知の技術であったものと認められる。」(審決謄本33頁最終段落)として,「相違点Aに係る本件発明1の構成は,甲2の発明に上記の周知の技術を適用することにより,当業者が容易に想到できたものというべきである」(同34頁第1段落)としたのに対し,原告は,その認定判断が誤りである旨主張する。
( )そこで,相違点Aに係る流動層炉における循環流に関する本件出願日前の2技術水準について検討する。
ア甲3公報には,以下の記載がある。
(ア)「ガス化炉の炉底部より上方に向けて噴出せしめた流動化ガスにより,流動媒体を流動化して形成せしめた流動層により,石炭等をガス化する流動層ガス化方法において,・・・前記流動化ガスは,中央部よりも両側縁部が低く形成されているガス分散機構から噴出せしめられ,前記流動化ガスの質量速度を,前記炉底の中央部付近におけるよりも,該中央部の両側の両側縁部において,より大となし,・・・炉底の中央部には,流動媒体が沈降する移動層を形成し,両側縁部には流動媒体が活発に流動化している両側縁流動層を形成し,前記流動媒体を,前記移動層内で沈降せしめ,該移動層の下部で前記両側縁部に移行せしめ,前記両側縁流動層内で上昇せしめ,・・・炉内を循環せしめつゝ前記移動層に石炭等を供給して該石炭等のガス化を行なわしめることを特徴とする流動層ガス化方法。」(特許請求の範囲の請求項1)(イ)「従来の流動層では,層内全体を活発な流動化状態で均一に保とうとしたため,生成ガスに同伴して炉外へ飛散する未反応チャーの量が多く,高いガス化効率を得られなかつた。」(2頁左下欄11行目〜14行目)(ウ)「ガス化炉3にて生成したガスは,二段のサイクロン4によりガス中に含まれる固形物を分離する。一段目のサイクロンで分離された固形物中には,未反応チャーが含まれるので,再びガス化炉3に供給される。」(3頁右下欄14行目〜18行目)(エ)「ガス化炉3について説明する。第2図に示すごとく,ガス化炉3の炉底部には流動化用のガス化剤の分散板20が備えられている。分散板20は両側縁部が中央部より低く,炉の中心線36に対してほぼ対称な山形断面状に形成されている。両側縁部には不燃物及び灰分排出口30が接続され,32,33のスクリユーコンベアにより,粗大な不燃物が流動媒体とともに排出される。」(4頁左上欄7行目〜15行目)(オ)「予熱された酸素とスチームの混合ガスからなるガス化剤は,分散板20から炉内に噴出し,傾斜壁24に当たつて垂直面内の旋回流となり,珪砂などの流動媒体をこれに沿つて動かしめて旋回流動層35が形成される。さらに・・・炉内中央に下降移動層34が形成され,この下降移動層34及び旋回流動層35によつて石炭は短時間にガス化反応を完結させるため,粉砕・整粒を行なわなくとも流動化を阻害することなく高いガス化効率を得ることが出来る。予熱された酸素とスチームの混合ガスからなるガス化剤は,導入部の室21,22,23を経て分散板20から上方に噴出せしめられている。両側縁部の室21,23から噴出するガス化剤の質量速度は流動層を形成するのに十分な大きさを有するが,中央部の室22から噴出するガス化剤の質量速度は前者よりも小さく選ばれている。・・・中央部の室22から噴出する流動化ガス中の酸素濃度は,両側縁部の室21,23から噴出する流動化ガスよりも低いか,あるいはスチームのみとしてもよい。室の数は3以上の任意の数が選ばれる。多数の場合でも,流動化ガスの質量速度は中心に近いものを小,両側縁部に近いものを大となるようにする。両側縁部の室21,23の直上に流動化ガスの上向き流路をさえぎり,流動化ガスを炉中央に向けて反射転向せしめる反射壁として傾斜壁24が設けられている。」(4頁左上欄16行目〜左下欄9行目)(カ)「ガス化炉3の原理につき説明する。通常の流動層においては,流動媒体は沸騰している水のごとき激しい流動状態を形成しているが,室22の上方の流動媒体は弱い流動状態にある移動層34を形成する。この移動層34の幅は,上方は狭いが,裾の方は分散板20の傾斜の作用も相まつてやや広がつており,そこでは室21,23からの大きな質量速度のガス化剤の噴射を受け,流動化され上方に吹き上げられる。こうして裾の流動媒体が除かれるので,室22の直上の流動媒体の層は自重で降下する。この層の上方には,後述のごとく旋回流を伴う流動層35からの流動媒体が補給される。これを繰り返して室22の上方の流動媒体は,弱い流動状態の下降移動層34を形成する。室21,23上に移動した流動媒体は流動化され上方に吹き上げられるが,傾斜壁24により反射転回して炉の中央に向いて旋回し,前述の下降移動層34の頂部に移動し,徐々に降下し,移動層34の裾に至つて流動化され再び吹き上がつて循環する。一部の流動媒体は,旋回流として流動層35の中で旋回循環する。」(4頁左下欄16行目〜右下欄17行目)(キ)「下降移動層34の中では,石炭の乾留反応が主体的に,ガス化反応が部分的に行なわれ,ガスとチヤーが生成する。ここで生成したガスは上方または水平方向に抜け,チヤーは流動媒体と共に両側縁部の流動層部35へと移動し,流動化ガスとして供給された酸素とスチームの混合ガスからなるガス化剤と,部分燃焼をともなうガス化反応を引き起こす。下降移動層34の中で生成するガスは,ガス化剤の質量速度が小さいので,燃焼による損失を減らすことができる。」(5頁左上欄11行目〜右上欄1行目)(ク)「下降移動層34は,流動化が比較的穏やかなので,生成したチヤーのうち粒径がかなり細かいものでも,通常の流動層のようにガス化されずに飛散するようなことは起らない。例え一部が飛散しても,炉外でサイクロン4により捕集して,再度炉に戻せば,比較的容易にガス化することが可能である。」(5頁右上欄4行目〜10行目)(ケ)「そのため石炭はかなり大きなものでも,下降移動層34の中で徐々に下降しながら乾留が行なわれ,下降移動層34の両端に達するころには大半が細片化したチヤーになる」(5頁左下欄3行目〜6行目)(コ)「破砕設備が不要となるため,石炭のように簡単に破砕できない廃木材などのバイオマス原料や廃プラスチックを,ガス化原料として利用することが可能となる。・・・また破砕の困難な粗大不燃物を含むような,例えば現状では埋立て処分されている燃焼不適ごみを,ガス化原料として用いることもできる。」(5頁左下欄18行目〜右下欄7行目)(サ)「E・・・移動層の不活発な流動化の中で乾留による微粉化が行なわれる」(6頁右上欄12行目〜14行目)(シ)第2図には,石炭ガス化炉の縦断面図が図示されており,下降移動層34と流動層35とで流動媒体の循環流が形成されている構成が矢印で示されている。
イ上記アによれば,甲3公報には,ガス化炉において流動層炉内の流動媒体が循環流を形成していること,循環流中の「下降移動層」において,石炭のガス化反応が部分的に行われ,ガスとチャーが生成されること,流動層炉内の循環流中の上昇流である「流動層」において「生成されたチャーが部分燃焼を伴うガス化反応を引き起こす」こと,「石炭」は「下降移動層で乾留が行われ,大半が細片化したチャーになる」こと,「廃木材」,「廃プラスチック」及び「燃焼不適ごみ」が利用可能であることが記載されている。
ウ甲5公報には,以下の記載がある。
(ア)「本発明は,流動層を用いる焼却炉,熱分解炉などの熱反応炉に関するものである。この種の熱反応炉として,例えば都市ごみの焼却炉においては,近年ストーカ炉よりも焼却効率がよく,かつ焼却残渣の少ない流動層炉が用いられて来ている。」(2頁左上欄2行目〜7行目)(イ)「ブロワ7から送られた流動化空気は,空気室43,44,45を経て分散板42から上方に噴出せしめている。両側縁部の空気室43,45から噴出する流動化空気の質量速度(kg/m ・sec)は流動層2を形成するのに十分な大きさを有するが,中央部の空気室44から噴出する流動化空気の質量速度は前者よりも小さく選ばれている。・・・空気室の数は3個以上の任意の数が選ばれる。多数の場合でも,流動化空気の質量速度は,中心に近いものを大に,両側縁部に近いものを小になるようにする。両側縁部の空気室43,45の直上に流動化空気の上向き流路をさえぎり,流動化空気を炉内中央に向けて反射転向せしめる反射壁として傾斜壁9が設けられている。」(4頁右上欄2行目〜左下欄1行目)(ウ)「焼却炉6の作用につき説明すれば,ブロワ7により,流動化空気を送り込み,空気室43,45からは大なる質量速度にて,空気室44からは小なる質量速度にて噴出せしめる。通常の流動層においては,流動媒体は沸とうしている水の如く激しく上下に運動して流動状態を形成しているが,空気室44の上方の流動媒体は激しい上下動は伴なわず,弱い流動状態にある移動層を形成する。この移動層の幅は上方は狭いが,裾の方は分散板42の傾斜の作用も相まつて,稍広がつており,裾の一部は両側縁部の空気室43,45の上方に達しているので,大きな質量速度の空気の噴射を受け,吹き上げられる。裾の一部の流動媒体が除かれるので,空気室44の直上の層は自重で降下する。この層の上方には後述の如く旋回流10を伴う流動層からの流動媒体が補給され堆積する。
これを繰り返して,空気室44の上方の流動媒体は,或る領域の部分がほぼひとまとめとなり,徐々に下降する下降移動層46を形成する。空気室43,45上に移動した流動媒体は上方に吹き上げられるが,傾斜壁9に当たり反射転向して炉の中央に向きながら上昇し,炉内断面の急増に伴い上昇速度を失い,前述の下降移動層46の頂部に落下し,徐々に下降し,裾に至つて再び吹き上げられて循環する。一部の流動媒体は旋回流10として流動層の中で旋回循環する。」(4頁右下欄4行目〜5頁左上欄10行目)(エ)「このような状態の焼却炉6の炉内に,原料投入口60から投入されたごみは下降移動層46の頂部に下降する。頂部付近においては流動媒体の流れは外側から中心に向かつて集中する方向に流れるので,ごみはこの流れに巻き込まれて下降移動層46の頂部にもぐり込まされる。・・・下降移動層46の中では部分的に熱分解が行なわれ可燃ガスが発生する。」(5頁左上欄11行目〜右上欄4行目)(オ)「下降移動層46の表面にびん,アイロンなどの如き重くかつ大きな物体を落下せしめて供給した場合,これらの物体は瞬時に空気室44の上まで落下するのではなく,下降移動層46に支えられて,流動媒体の流れと共に徐々に下降する。そのため,可燃物はかなりの大きさのものでも,下降移動層46の中で徐々に下降しているうちに乾燥,ガス化,燃焼が行なわれ,裾に達するときには大半が燃焼して細片化しているので,流動層の形成を阻害することがない。従つて,ごみは予め破砕機で破砕をしなくとも,給じん装置5で破袋する程度で差支えなく,破砕機や破砕工程を省略しコンパクトな装置とすることができる。」(5頁右上欄8行目〜左下欄1行目)(カ)「以上は焼却炉における例を示したが,熱分解炉その他の熱反応炉においても同様である。」(6頁左下欄18行目〜19行目)(キ)第9図には,焼却炉の縦断面図が図示されており,前記(ウ)の流動媒体の旋回流10が流動層炉の砂層中に生じていることが示されている。
エ上記ウによれば,甲5公報には,焼却炉において,質量速度の比較的大きい流動化ガスと質量速度の比較的小さい流動化ガスを供給することにより流動媒体の循環流を形成すること,循環流の下降移動層において,乾燥,ガス化等が行われること,焼却炉だけでなく,その技術は熱分解炉においても同様に適用できることが記載されている。
オ甲6文献には,以下の記載がある。
(ア)「一般の流動層焼却炉は,流動媒体(砂)があたかも沸騰している湯のように上下に動いて流動するかたちの流動層を形成しているが,本技術では移動層(のみ込み層)と流動層の組合せによって図1に示すように砂が適度に循環・旋回を行い,砂の沈降に伴い投入された燃焼物を熱砂の中にのみ込み,熱的に燃焼物を破壊し拡散する効果を持たせたものである。」(1034頁右欄10行目〜1035頁左欄3行目)(イ)「TIF旋回流型流動燃焼炉の構造図を図2に示す。流動床は空気分散部を四つのブロックに分け,おのおのに燃焼用空気を送り込むが,中央部の2ブロックには少量の空気を入れて移動層を作り,両端の2ブロックには多量の空気を入れて流動層を形成する。移動層と流動層との空気量の比は約1:3 である。」(1035頁左欄20行目〜27行目)(ウ)「この移動層と流動層の組合せに加えて,ディフレクタプレートによるガス流屈折作用の効果により,炉床全体の砂の上下運動に加えて旋回運動が生じる構造としてある。この旋回流により,下記の特長が生じる。
( )移動層部では砂はゆっくりと斜め下方に移動している。ここに燃焼1物が投入されると,砂の熱により蒸し焼きにされ水分がなくなりもろくなる。( )もろくなった燃焼物は砂の旋回により拡散していき,流動層2部での激しい砂の動きにより解砕され細かくなり,短時間に燃えつきる。
( )したがって大きな燃焼物でも破砕せずに焼却することができる。」3(1035頁左欄28行目〜41行目)(エ)「燃焼物中の不燃物は砂の動きとともに炉の両側に送られ,砂とともに炉外に取り出すことができる。」(1035頁左欄末行〜右欄2行目)カ上記オによれば,甲6文献には,焼却炉の流動層において,質量速度の比較的大きい流動化ガスと質量速度の比較的小さい流動化ガスを供給することにより流動媒体の循環流を形成することが記載され,流動層中の上昇流である流動層部において,燃焼物が解砕されて細かくなり,燃焼することが記載されている。
キ甲19マイクロフィルムには,以下の記載がある。
(ア)「3.〔考案の詳細な説明〕本考案は流動床式焼却炉に関する。・・・この様な流動床式の焼却炉に於ては硅砂等の流動媒体が使用されている。この如き流動床式焼却炉には通常流動媒体(本文に於ては砂と称する)が床面積全般に渉り流動化して,この砂の流動状態の部分の上方,所謂フリーボードと称する部分から焼却物の投入を行つて来た。しかしながらこの様な作動方式の場合には,次の様な問題が経験されている。
即ち( )焼却物中の比較的比重の小さい成分(例えば紙類,プラスチ1ツクス類等)は流動する砂の上部に於て停滞浮遊する。このため,これらの比較的可燃性傾向の高い成分は流動する砂の上部で良好に燃焼してもその燃焼による発生熱量は砂に伝達されることが少く従つてその熱が有効に利用されない。( )上記のため,砂の温度も不安定・不均一と2なり,従つて排ガス温度も変動が激しい。( )発生熱が砂に有効に還 3元伝達されないため,砂温を上昇させるために補助燃料(例えば助燃油)を必要とする場合が多く,燃料の節約が困難である。上記の如き比重の比較的低い焼却物,或いはこれらを含んだ焼却物を在来の流動床式焼却炉により焼却を有効に行うための方策としては焼却物を砂の上部に投入する代りに,砂の中,又は砂の底部に強制的に供給して砂の内部で燃焼させることが考えられる。この様にするためにはスクリユーフイーダ,等の機械的押込作用を行う装置が必要となる。但しこの様な装置を使用して強制押込を行うためには更に付随する問題が生ずる。即ち,(イ)砂中,又は砂の底部に於ての投入のため,流動化状態を維持している高い風圧をシールする必要がある。(ロ)スクリユーフイーダ等で強制的に押込む場合に焼却物自体によつてシール(マテリアルシール)を行わねばならないために,焼却物自体の形状が制限され,焼却に必要な程度以上に細かく破砕を行う必要がある。従つて,高馬力,高性能の破砕機が必要となる。本考案は従来の流動床燃焼方式による上記した如き種々の欠点,問題点を克服するための流動床式焼却炉を提供することを目的とするものである。」(2頁3行目〜4頁8行目)(イ)「本考案による焼却炉は具体的には,焼却炉内の砂の部分に於て二種類の流動層を生ぜしめること,即ち一部に於ては比較的激しい流動状態となる流動層を生ぜしめ,他方の部分に於ては流動化の程度を比較的低度,或いは実質的に流動を行わず砂が下方に移動することにより重力により逐次全体として下方に沈降する移動層を生ぜしめる様になつている。尚上記の流動層上部から流動状態の砂は移動層の方に偏向され,又移動層の下部からは流動層の下部に砂が移行する様にして,砂全体が二つの移動層,流動層の間で循環する様になされている。この様な態様は特開昭52-118858号に開示された熱反応装置に於ける流動床にも見られるが,この例に於ては流動床に焼却物を直接投入しているため,前述した問題が生ずる。本考案の方式に於ては炉体上部からフリーボードを介して落下する如く投入すれば移動層の上部に落下した焼却物の上に流動層の砂を受けて下方に漸次沈降する。又流動層上部に落下した焼却物は流動層上部から移動層上部にカスケード的に移行する砂と共に移動層上部に動き前述の如く移動層を沈降する。」(4頁9行目〜5頁10行目)(ウ)「以下本考案を添付の図面により説明する。第1図,第2図は本考案の理解に便ならしめるため,従来の炉を説明するものである。・・・第2図は別の形態の焼却炉で・・・この炉に於ては圧縮空気源からの流動化用圧力空気を多孔板11’又はサンドトラツプの下方の複数の空気室12a,12b,12cを介して砂13’中に送給し,その各々の風速を図に於ては12aより右の方の12cに至るにつれ順次大きくなしてある。又風速の大なる部分の上方に偏向手段としてのデフレクター17と旋回空気送入口18を設けて空気室12a,12b,12cからの風速差と相俟つて砂13’の循環を助長する様にしてある。」(6頁15行目〜8頁2行目)(エ)「第3図に本考案による流動床式焼却炉の断面図が説明図的に示されている。・・・炉体の内部下方に中央部を高く,両側部に向けて傾斜させた多孔板21又はサンドトラツプが配置されてその下方に空気室を形成する。空気室は22a,22b,22cに区分されている。この区分された領域室22a,22b,22cに対応する炉内の上方部分で移動層,流動層が形成されて・・・。A及びC領域の上方で炉体内部に於て炉体の両側壁に夫々デフレクター24が設けられ,デフレクター24はその下面が側壁から中央に向けて上向きに傾斜した面を有している。
・・・空気室22a,22b,22cには圧縮空気源31より空気を供給されるが,配管に適宜な圧力調整装置又はダンパ32,33を設けてダンパ32からは室22a,22cに圧縮空気を供給し,ダンパ33から中央の室22bに圧縮空気を供給する様にしてある。」(8頁7行目〜9頁13行目)(オ)「この焼却炉の作動方式について以下に説明する。前記の如く,流動化用空気は空気室22a,22b,22c,より多孔板21を介して夫々上方に送気され,領域A,B,Cの砂を流動化させるが,この送給空気量は両側領域A,Cに於て中央領域Bより大きくなる様にダンパ32,33により制御し領域A,Cに於ては激しい流動化が生じ中央領域Bに於ては流動化の程度を低度に,或いは実質的に流動化が行われない程度とする。この様な送給空気量の調整,制御により,領域A,Cの砂は激しい流動を行い上方に移行する砂はデフレクター24により中央領域Bの上部にカスケードされる。中央領域Bの砂の高さはこのため領域A,C,よりも高くなる傾向となる。従つて領域Bの砂は底部から領域A,Cの側に流れる様になる。このため,上記状態となされた砂の領域A,C,の部分を流動層,領域Bの部分を移動層と称する。デフレクターの反転偏向作用と,移動層部分A,Cと流動層部分Bとの砂層高即ち砂量差傾向により,領域A,Cの上方に於ける流動層から移動層へ,又B領域下方に於ける移動層から流動層への砂の移行が行われ,領域A,C,と領域Bとの間でほぼ均一な砂の循環流が得られる。」(9頁17行目〜10頁19行目)(カ)「領域A,B,C,の上部にデフレクターの存在により実質的にはBの上部に落下した焼却物中の比重の小さい部分は砂上に於て停滞し,そこで燃焼することなくA,Cの流動層からカスケードされてくる高温(例えば600〜800℃)の砂に覆われ移動層の砂と共に下方に沈降する。供給された焼却物は領域Bの下方に動き多孔板21の位置に至る間に,焼却物中にあるプラスチツク類は液化,又は一部ガス化し,水分を含むものは更に水分を蒸発させ焼却物は概ね脆化の傾向を示す。・・・領域A,Cの下方部分で移動層から流動層へと移行した焼却物は水分も蒸発し,より可燃性となつているため,多量の空気(流動用並びに燃焼用)により撹拌作用を伴つた激しい流動化状態となり,瞬時に燃焼する。焼却により生じたガスはデフレクター24下側と流動層領域A,Cの上方との間の間隙を通過し排気口26から排気ガス処理設備へ送られる。高温の砂は上記の如く再び移動層を形成し,沈降,循環を繰り返す。」(11頁13行目〜12頁15行目)(キ)「本考案の焼却炉は上記の如く構成されているから焼却物が砂の上部に停滞することがなく,焼却熱等は有効に砂に還元され,又移動層で沈降中により可燃性が高くなされて流動層に於て瞬時に燃焼し,砂の温度を均一に安定させ,排ガス温度変動が少い。又助燃油は殆んど必要がない。尚焼却物は移動層に於ける脆化の進行と,流動層に於ける激しい流動撹拌により破壊されて停滞することがなくクリンカの発生が実質的に防止されるので,比較的大きな粒径のものも焼却可能となるから前処理用破砕の程度は簡単,或いは省略も可能である。又投入は砂の上方から行うため,投入機に於けるシールはその部分の炉内圧に対するものを考慮するだけの簡単なものでよく,マテイアルシールの必要はなく,この面からも前処理破砕の必要性が低減されるか,省略され得る。」(14頁10行目〜15頁6行目)(ク)第3図には,流動層式焼却炉の縦断面図であり,流動層中で流動媒体が,左側(領域A側)においては時計回りに,右側(領域C側)においては反時計回りにそれぞれ循環し,中央部(領域B)では上方から下方へ沈降する様子が示されている。
ク上記キによれば,甲19マイクロフィルムには,焼却炉の流動層において,質量速度の比較的大きい流動化ガスと質量速度の比較的小さい流動化ガスを供給することにより流動媒体の循環流を形成すること,流動媒体が沈降する「移動層」において,「焼却物」が「ガス化,液化,脆化」し,流動媒体が上昇する「流動層」において,燃焼することが記載されている。
( )上記( )によれば,廃棄物の処理を行うガス化炉(熱分解炉。甲3公報,32甲5公報)及び焼却炉(甲5公報,甲6文献,甲19マイクロフィルム)において,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,流動化ガスを炉内に供給して,炉内に流動媒体の循環流を形成することは,本件出願日前に,周知の技術であったと認められる。
そして,流動層ガス化炉と流動層焼却炉に係る技術は,流動層を用いて廃棄物を焼却ないし加熱して処分する方法の技術である点で共通し,また,流動層を循環流とする技術について,焼却炉にも熱分解炉にも適用される(前記( )ウ(カ))とされ,甲2公報にも,「固形物を燃焼する場合,砂などの固2体粒子を熱媒体とする流動層焼却炉は周知の様に多くの利点があるが,下記の欠点がある。・・・これを解決するために流動層熱分解方法が用いられ,この方法は吸熱反応であるので上記@の問題を解決し,Aの問題も部分燃焼法などを用いて解決することができる。しかしながら,流動層熱分解方法においてもB及びCの問題点を解決することはできなかつた。」(1欄末行〜3欄8行目)として,廃棄物の焼却処分に当たり,熱分解炉と焼却炉の技術が比較検討されたことが記載されているように,流動層焼却炉と流動層ガス化炉が,密接に関連する技術分野に属するものであることは明らかである。
甲2の発明は,廃棄物処理を行うガス化炉に係る発明であるから,上記周知技術に係る技術分野と技術分野が重なっているということができる。
そして,甲19マイクロフィルムにおいては,焼却炉の流動層において,流動層に循環流を設けない場合には,流動層に有効に熱が伝達されないという課題があったこと,流動層に循環流を設けることにより,その課題を解決したことが示されている(前記( )キ(ア))。また,甲3公報には,流動層に 2循環流を設けなかったガス化炉においては,未反応のままでチャーが炉外へ飛散し,高いガス化効率が得られなかったという課題が存在したこと,循環, 流を設けることにより,その課題を解決したことが示されている(同ア(イ)(オ)及び(カ))。
甲2の発明は,前記1( )のとおり,流動層において熱分解を行うもので3あって,流動層に対する効率的な熱の伝達を課題とし,また,ガス化によるガスを利用するものでガス化効率が高まることが望ましいといえるものであるから,その炉内の流動層について,上記甲19マイクロフィルム及び甲3公報に記載されていた,既に知られていた課題を有していたというべきであり,その課題について,甲19マイクロフィルム及び甲3公報に記載された技術と同様,流動媒体の流れを循環流とするという構成を採用することにより解決するという動機付けがあったと認められる。
なお,本件明細書には,甲3公報が【従来の技術】欄に掲げられ,そこに記載の技術の短所が記載されているのであるが(段落【0004】,【0005】),そうであるからといって,甲3公報に上記課題が記載されていること,それを循環流の採用により解決したこと,甲2の発明も同様の課題を有していたことにかんがみると,直ちに,甲2の発明に甲3公報に記載された技術を組み合わせることを阻害するものではない。
さらに,甲2の発明は,流動層炉の「流動層内の熱分解によりガス化してガス並びにチャー及び灰分の微粒子を,サイクロン燃焼炉に供給し」,それらのガス及びチャーを次段のサイクロン燃焼炉において燃焼するものであるが,甲3公報の記載(前記( )ア(ウ),(キ)及び(ク))によれば,本件出願日2当時,当業者は,流動層炉の流動媒体の流れが循環流である場合において,廃棄物の熱分解により,ガス及びチャーが生成され,そのガス及びチャーを炉外に排出するとの構成をとることが可能であると容易に理解することができたものと認められる。
この点について,原告は,甲3公報に記載された技術は,流動層内の循環流においてガス化反応を完結しチャーをガスに転換させてしまうものであり,流動層炉からは可燃ガスが排出され,チャーの排出は例外的である旨主張する。しかし,上記のとおり本件明細書の【従来の技術】欄に甲3公報が記載されていることは,そこに記載された技術と本件発明1との関連を示すものであり,また,本件発明1は,甲3公報記載の技術と同様,ガス化効率を高めることを目的としているものと解され,チャーを多量に生成することについてまでの技術的意義が本件明細書に記載されているとは認められないから,甲3公報に記載された技術についての原告主張の事実は,甲2の発明に甲3公報に記載された技術を組み合わせることを阻害するものとは認められない。
以上を総合すると,甲2の発明と甲3公報等記載の技術の技術分野の関連性,甲2の発明も,甲19マイクロフィルム,甲3公報に記載されていた,既に知られていた課題を有し,その課題を流動媒体の流れを循環流とすることで解決するという動機を有していたこと,当業者は,甲2の発明の流動層において,甲3公報等に開示された構成を採用しても,炉内に投入された廃棄物によって,循環流中でガスとチャーが生成し,それらのガスとチャーを炉外に排出する構成をとることが可能であると容易に理解できることから,当業者は,甲2の発明に,甲3公報等において開示されている,流動媒体を循環流とするという構成を組み合わせ,相違点Aに係る本件発明1の構成に想到することが容易であったと認めることができる。
( )原告は,甲3公報等には,廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,生4成されたチャーをさらに微粒子とする処理を行うという本件発明1の構成が記載されていないことを理由として,甲2の発明に対し,甲3公報等に記載された,流動媒体の循環流を形成する技術をどのように組み合わせても,本件発明1の構成が得られることがない旨主張する。
しかし,前記1のとおり,本件発明1について,特許請求の範囲の記載が,廃棄物がガス化されてガスとチャーが生成される工程と,生成されたチャーを流動媒体が上昇する流動層で部分酸化させて微粒子とする工程という2段階の工程を規定しているものとは認められず,それらが規定されていることを前提とすると解される原告の主張は前提を欠くものであり,採用することができない。
また,仮に,本件明細書の記載及び技術常識等から,流動層内の流動媒体を循環流とした流動層炉において,循環流中の上昇流である流動層においてチャーが部分酸化することがあったとしても,後記4( )のとおり,そのよ2うな作用は当業者が容易に予測し得るものにすぎないのであって,循環流におけるチャーの生成及びチャーを微粒子とすることに係る構成については,相違点Bとして認定され,その容易想到性について判断されているのであるから,上記流動層においてチャーが部分酸化することがあることが,審決の相違点Aの認定判断に影響するものではない。
(5)相違点の看過についてア原告は,審決が,流動媒体の流れと流動層の機能の関係を看過したと主張して,甲2の発明に対し,周知技術と認定された循環流を適用すると,甲2の発明の流動層内での物質・熱の移動の態様が変更されて,甲2の発明そのものの機能等を変質させる旨主張する。
しかし,甲2の発明は,「流動層内の熱分解によりガス化してガス並びにチャー及び灰分の微粒子を,サイクロン燃焼炉に供給」するものであるが,甲2公報には,流動層について循環流としないことが前提になっていることを示唆する記載はないと認められるのであって,流動層を循環流としても,その「流動層内の熱分解によりガス化してガス並びにチャー及び灰分の微粒子を生成」するものである以上,甲2の発明の本質が変更されるとは認められないから,原告の主張は失当である。
なお,この点,原告は,炉内の流動条件によって,流動層炉における流動層の機能が異なる旨指摘するが,そもそも甲2の発明において,流動層を循環流としないことが前提であるとは認められないのであるから,原告が指摘する事実は,上記判断を左右しない。
イ原告は,審決が,相違点Aに係る構成の作用機能を看過したとして,甲3公報等に記載された技術は,いずれも,流動層内に循環流という流動媒体の流れを形成して,その循環流を有する流動層内でガス化反応や燃焼を完結させ,流動層炉から可燃ガスとチャーを排出していないことを主張する。
しかし,発明の進歩性判断における相違点についての容易想到性の判断に当たり,相違点に係る構成を開示している発明について,進歩性判断の対象となる発明と同じ構成を備える必要はない。そして,本件においては,甲3公報において,流動層炉の流動層が循環流であったとしても,廃棄物の熱分解により,ガス及びチャーを生成し,そのガス及びチャーを炉外に排出することができることが記載されていることは,前記( )ア(ウ) (キ)2,及び(ク)のとおりである。この点について,原告は,甲3公報に記載された技術においては,流動層内の循環流においてガス化反応を完結し,チャーをガスに転換させてしまい,流動層炉からは,可燃ガスが排出され,チャーの排出は例外的である旨主張するが,前記1( )のとおり,本件発明21は,甲3公報記載の技術と同様,ガス化効率を高めることを目的としているものと解され,チャーを多量に生成することについての技術的意義が本件明細書に記載されているとは認められないことなどから,原告主張の事実が,甲2の発明に,甲3公報に記載された技術を組み合わせることを阻害するものとは認められない。
ウ原告は,審決は,流動媒体の流れと流動層の機能との組合せの関係を看過したとして,審決は,流動媒体の流れと流動層の機能との密接な関係について,その整合性を何ら吟味することなく,前例のない「流動媒体の流れ」と「流動層の機能」との結びつきを認定した旨主張する。
しかし,甲2の発明に対し,甲3公報等から認められる周知技術を組み合わせることができることは,前記(3)のとおりであり,他方,その組合せについて,技術的に妨げとなる要因がないことは,後記(6)のとおりであって,原告の主張は理由がない。
( )組合せの阻害要因について6ア原告は,甲2公報には,循環流が形成されていない流動層熱分解炉とサイクロン燃焼炉との組合せにより,両方法の長所が生かされ短所が相殺されて消滅し,相乗的な極めて顕著な効果を奏していることが記載され,技術的思想として,甲2の発明の流動層を他の流動層に置き換えることができないことが記載され,甲2の発明の流動層に変えて,可燃ガス及びチャーを次段に導入するという機能を有さず完全ガス化あるいは完全燃焼という機能と結び付いた循環流を適用することは,甲2の発明の目的に反することとなり,その組合せの阻害要因が認められるとする。
原告は,上記主張の根拠として,甲2公報の,「流動層熱分解方法とサイクロン燃焼方法とを組み合わせることにより,両方法の長所が生かされ短所が相殺されて消滅し,相乗的は極めて顕著な効果を伴う固形物の燃焼方法及びその装置を提供する」(7欄下から2行目〜8欄3行目)との記載を挙げるが,上記記載は,その内容に照らしても,流動層熱分解方法とサイクロン燃焼方法との組合せについて述べたものであって,流動層熱分解方法の流動層の態様について,循環流を除くとか,特定の態様の流動層に限るなどの限定があることを記載しているものとは認められない。また,甲2公報の他の箇所においても,その流動層熱分解方法の流動層が特定のものに限定されていることを示唆する記載もない。流動層を循環流としても,「流動層内の熱分解によりガス化してガス並びにチャー及び灰分の微粒子を生成」するのであるから,甲2の発明において,流動層を循環流としても,甲2公報が述べる流動層熱分解方法とサイクロン燃焼方法の組合せの意義が損なわれるものとは認められない。
この点について,原告は,甲2の発明において,流動媒体の流れとして,循環流を採用した場合には,流動層炉の「流動方式」は,「バブリング式」とは区別された「内部循環式」となり,ガス化溶融システムそのものの基本的条件を変更することとなる旨主張するが,甲2の発明の「流動層熱分解方法」が「バブリング式」に限定されるものであるとは認められないのであるから,原告の主張は上記判断を左右しない。
イ原告は,甲2の発明に,甲3公報等に記載された技術を組み合わせると,キャリーオーバーの問題が発生する旨主張する。
しかし,甲2の発明において,ガスとともにガス化炉の外に排出される,「微細な粒子」等と表現されるチャーの粒径を数値的に明らかにした記載は甲2公報にはないし,甲2の発明の流動層炉の流動媒体が循環流を有する場合に生成されるチャーの粒径を認めるに足りる証拠はない。本件明細書にも,生成されるチャーの粒径の記載やチャーの粒径とキャリーオーバーとの関係は何も記載がない。
原告は,流動層炉の流動媒体が循環流を有した場合には,そうでない場合に比して,その生成されるチャーの粒径が小さいことを前提とした主張をするが,甲3公報に「従来の流動層では,層内全体を活発な流動化状態で均一に保とうとしたため,生成ガスに同伴して炉外へ飛散する未反応チャーの量が多く,高いガス化効率を得られなかった。」(2頁左下欄11行目〜14行目)との記載があるように,流動層炉の流動媒体が循環流を有する場合,未反応チャーの炉外への排出が減少することはうかがえるものの,キャリーオーバーが問題となる,流動層炉から排出されるチャーのうちでも粒径の小さいチャーについて,流動層炉の流動媒体が循環流を有する場合に,そうでない場合に比して,必ず多量になると認める足りる証拠はない。
そして,本件発明は,ガス化炉の流動層の流動媒体の流れを循環流として,そこで生成されたチャーを次段の溶融炉に供給するものであるが,本件明細書にも,チャーの粒径が小さくなることにより,原告が主張するキャリーオーバーの問題が発生する旨が記載されているものではないし,また,本件発明は,粒径の小さいチャーについて,甲2の発明が備える構成とは異なる特段の構成により,対応しているものとは認められない。
甲2公報には,「燃焼排ガスはサイクロン炉の出口18より熱交換器19,及び要すれば未捕集のダストを集じんする為の電気集じん器20を通して系外に排出される。尚,電気集じん器20を設けた場合は,此処から排出されるダストを再びサイクロン燃焼炉11に供給して・・・溶融固化すると良い。」(5欄34行目〜40行目)と記載され,必要に応じて電気集じん器を設置することが示唆されているから,旋回溶融炉において捕捉し得ない塵芥等が発生することは,甲2の発明においても予定されているものということができる。そうすると,仮に,チャーの微細化によりサイクロンで捕捉し得ないチャーが増大したとしても,電気集じん器によりチャーを捕捉するなどにより対応可能であることは明らかであるから,原告の主張するようにキャリーオーバーの増大の問題が生じるものであったとしても,甲2の発明に「循環流」を適用することを阻害するとまではいえない。
そうすると,甲2の発明の流動媒体の流動層の流れを循環流とした場合に,原告主張の阻害要因が存在するとは認められない。
( )以上によれば,原告主張の取消事由3は理由がない。
74取消事由4(相違点Bについての認定判断の誤り)について(1)審決は,相違点Bに係る本件発明1の構成について,「廃棄物を『循環流中で』ガス化してガスとチャーを生成し該チャーを『該循環流中で』微粒子としたことは,甲2の発明に周知の技術を適用した結果として当業者には自明の事項であるから,甲2の発明及び周知の技術に基づいて当業者であれば容易に想到することができたものというべきである。」(審決謄本34頁第4段落)としたのに対し,原告は,その認定判断が誤りである旨主張する。
( )確かに,甲2公報においては,廃棄物を流動層内の熱分解によりガス化し2てガスとチャーを生成することは記載されているが,流動層炉における循環の有無については,明示の記載がなく,上記生成作用を「循環流中で」することについての記載はない(相違点B)。
しかし,甲4公報には,「流動層に投入された石炭は短時間で加熱により揮発分が分離する。分離した揮発分は一部層内で燃焼し,他は層表面へ出てフリーボード部で燃焼する。揮発分が分離した後の未撚炭素分(チャー)は,流動層中を数10回にわたり旋回循環しながら比較的長い時間をかけて燃焼する。チャーは当初揮発分の分離により多孔質状態となり,その後燃焼の進行に伴い,漸次微小化する。」(3頁右下欄5行目〜13行目)との記載がある。
そして,甲2の発明の流動層炉内の流動媒体の流れについて,循環流を有するとの技術を適用した場合には,甲4公報の上記記載や前記3( )ア(キ),2オ(ウ),キ(カ)の記載に照らしても,その循環流中の熱分解過程において,廃棄物がガス化して,ガスとチャーを生成し,また,その過程でチャーが燃焼,解砕等により微細化するものであることは,明らかというべき事項である。
そうすると,甲2の発明に対し,周知技術を適用して,その流動層炉内の流動媒体の流れを循環流とすると,廃棄物をガス化してガスとチャーを生成しチャーが微粒子化する過程が,「循環流中で」されることは,当業者にとり明らかであるから,相違点Aについての前記1における判断と総合すれば,当業者は,相違点Bに係る本件発明1の構成について,容易に想到することができたと認められる。
なお,原告は,本件発明1が,廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,ガス化によって生成されたチャーを流動媒体が上昇する流動層において部分酸化させて微粒子とする処理を行うというものであり,そのような構成が甲2公報に記載されていない旨主張する,しかし,チャーの生成等について,本件発明1の構成として,原告主張の構成が必ずしも認められるものではなく,また,前記3(2)によれば,甲3公報,甲5公報及び甲19マイクロフィルムにおいて,流動層の流動媒体の下降流において,ガス化が行われることが記載され,甲3公報において,流動層の流動媒体の上昇流で部分燃焼がされることが記載され,甲19マイクロフィルムにおいて,流動層の流動媒体の上昇流でガス化後の燃焼物等が燃焼することが記載されているのであって,これらの記載に照らせば,流動媒体の流れが循環流である流動層炉において,技術常識から,流動層に供給される空気量等との関係で,循環流中の下降流である移動層でガス化がされ,循環流中の流動媒体が上昇する流動層において,チャーが部分酸化することがあることは,当業者が容易に予測できたものであると認められる。
( )原告は,相違点Bについての判断に当たり,審決が,「甲2(注,甲2公3報)には,上記及びに掲記した各記載によれば,都市ごみのような廃 1b1f棄物を流動層熱分解炉に供給すると,流動層内の部分燃焼により灰分が発生し残部が熱分解されるが,この熱分解過程で可燃ガスとチャーが生成され,該チャーと該灰分が微細粒子,すなわち微粒子となることが記載されていると認められる。」(審決謄本34頁第2段落)としたのに対し,甲2公報には,本件発明1の「該ガスと該微粒子となったチャー」を得るための構成は記載されていないとして,その認定を争うが,同主張は,取消事由1(甲2の発明の認定の誤り),取消事由2(本件発明1と甲2の発明の一致点の認定の誤り,相違点の看過)におけるものと同様のものであり,取消事由1及び2に理由がないから,失当である。
また,原告は,「なお,この認定(注,甲2の発明に流動層炉内に流動媒体の循環流を形成する技術を適用すれば,循環流中で熱分解により生成されたチャーが微粒子となることが当業者には自明の事項であったこと。)は,甲5(注,甲5公報)の上記及びに掲記した記載や甲23(注,甲23c3d3公報)の上記に掲記した記載が示す事実からも裏付けられる。」(審 9b決謄本34頁第4段落)との認定も争うが,上記( )のとおり,甲2の発明 2に,流動層炉内に流動媒体の循環流を形成する技術を適用すれば,循環流中で熱分解により生成されたチャーが微粒子となることは当業者にとり明らかな事項であったと認められ,原告主張は採用できない。
( )以上によれば,原告主張の取消事由4は理由がない。
45取消事由5(本件発明1の奏する顕著な効果の看過)について(1)原告は,「被請求人(注,原告)の主張するように本件発明1が甲2の発明に比較してより優れた効果を奏するとしても,それは甲2の発明の流動層に相違点Aについての判断で前示した周知技術を適用して循環流を積極的に形成したことの効果であって,当業者であれば甲2の発明及び周知技術から容易に予測できた程度のものというべきである。その他本件発明1の作用効果を検討しても,甲2(注,甲2公報)及び周知の技術から当業者の予測を超えるような格別顕著な効果を奏するものとみることはできない。」(審決謄本35頁第2段落)との審決の判断を争い,本件発明1は,流動層炉内に質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを炉内に供給して流動媒体の循環流を形成し,廃棄物をガス化して生成した可燃ガスを次段の溶融炉に供給するとともに,ガス化して生成したチャーを循環流中で微粒子とすることにより,流動層炉で生成した可燃ガス及びチャーをともに安定して溶融炉に供給することができ,対象とするごみが質的及び量的に変動するごみ処理特有の課題において,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得て,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の溶融炉において利用できるという顕著な効果を奏するものである旨主張する。
(2)しかし,原告が主張する効果のうち,循環流中でチャーが微粒子となることは,前記4(2)のとおり,当業者が容易に予測できたことであり,また,その結果,微粒子となったチャーが可燃ガスに同伴して溶融炉に供給できることも同様であって,原告が主張する効果は,当業者が当然に予測し得たものであり,さらに,これらを総合した効果についても,当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるとは認められない。
なお,原告は,本件発明1を含む本件発明に,多量のチャーを生成するという技術的意義があることを主張するが,前記1(2)のとおり,そのような技術的意義があるとは認められない。
( )以上によれば,原告主張の取消事由5は理由がない。
36取消事由6(相違点Dについての認定判断の誤り)について(1)審決は,相違点Dに係る本件発明2の構成について,「流動層炉において『該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,該質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する手段と,該質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する手段から供給される流動化ガスはともに空気とし,該流動化ガスを炉内に供給して該炉内に流動媒体の循環流を形成し』たことは,本件発明2の出願前に当業者には周知の技術であったものと認められる。したがって,相違点Dに係る本件発明2の構成は,甲2の発明に上記の周知の技術を適用することにより,当業者が容易に想到できたものというべきである。」(審決謄本36頁最終段落〜37頁第2段落)としたのに対し,原告は,その認定判断が誤りである旨主張する。
(2)しかし,甲5公報の前記3(2)ウ(イ),(キ)の記載,甲6文献の同オ(イ)の記載,甲19マイクロフィルムの同キ(ウ),(オ)によれば,流動層炉の流動層に循環流を形成するに当たり,質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給することによって,循環流を形成すること,その流動化ガスとしてともに空気を用いることは,本件出願日前に周知の技術であったといえるから,相違点Dに係る本件発明2の構成は,甲2の発明に周知技術を適用することで,当業者が容易に想到することができたと認められる。
( )原告は,本件発明2は,空気量の少ない流動媒体が下降する移動層におい3て廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,ガス化によって生成されたガスはフリーボードへと上昇させ,ガス化によって生成されたチャーを,流動媒体の循環流により可燃ガスとは分離して空気量の多い流動媒体が上昇する流動層へと移動させて,空気量の多い流動媒体が上昇する流動層で流動化ガスにより部分酸化させて微粒子とする処理をさらに行うもので,同構成は,甲2の発明にも周知技術認定の基礎とされた文献にも記載されていないから,甲2の発明に周知技術を組み合わせても相違点Dに係る本件発明2の構成に想到しない旨主張するが,取消事由1(甲2の発明の認定の誤り),取消事由2(本件発明1と甲2の発明の一致点の認定の誤り,相違点の看過)の説示に照らし,理由がない。
( )原告は,「流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し,前記流動媒体の循環4流は,質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給することにより形成され,前記質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスは,ともに空気であり」との技術は,焼却炉において周知であっても,ガス化炉においては周知ではなく,また,公知でもないとして,焼却炉に関する甲5公報等に基づいて,「該質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する手段と,該質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する手段から供給される流動化ガスはともに空気とし」との構成を周知技術と認定して,相違点Dに係る本件発明2の構成に容易に想到することができた旨の審決の判断が誤りである旨主張する。
しかし,甲2公報の「21は流動化ガスとしての空気を供給するブロワである。」(4欄末行〜5欄1行目),「空気はガス入口4からガス室5に入りガス分散板6を通って砂を流動化させ且つ原料の一部を燃焼する。」(5欄6行目〜8行目)との記載のとおり,ガス化炉の発明である甲2の発明も,炉内に流動化ガスとして空気を供給するという構成を前提としているものであることからすると,ガス化炉の技術分野においては,性質上,必ず空気以外のガス化剤を流動化ガスとして用いていたものとまで断定することはできない。そうすると,焼却炉において,「流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し,前記流動媒体の循環流は,質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給することにより形成され,前記質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスは,ともに空気であり」との構成が周知であったとき,その流動化ガスが空気であることを理由として,同技術をガス化炉に適用することができないということはできないから,原告の主張は,採用できない。
( )以上によれば,原告主張の取消事由6は理由がない。
57取消事由7(相違点Eの認定判断の誤り)について(1)審決は,相違点Eに係る本件発明2の構成について,「廃棄物を『循環流中で』ガス化してガスとチャーを生成することは,甲2の発明に周知の技術である流動層炉内に流動媒体の循環流を形成する技術を適用した結果として当業者には自明の事項であるから,甲2の発明と周知の技術に基づいて当業者であれば容易に想到することができたものというべきである。」(審決謄本37頁第3段落)としたのに対し,原告は,相違点Eに係る構成は,相違点Dに係る構成と一体となって,相違点Dに係る構成により規定された循環流中で,廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,生成されたガスは空気量が比較的少ないため,余り燃焼されないで次段の溶融炉に供給され,チャーは質量速度が比較的大きい流動化ガスが供給される空気量が比較的多い部分に循環され,燃焼されて微粒子とされ次段の溶融炉に供給されることを規定しているものであり,「流動層炉内に流動媒体の循環流を形成する技術」が周知の技術であるとの根拠とされた甲3公報等のいずれにも,相違点Dの構成と互いに関係がある相違点Eの構成は記載されていないとして,審決の認定判断が誤りである旨主張する。
しかし,発明の進歩性判断における相違点についての容易想到性の判断に当たり,相違点に係る構成を開示している発明について,進歩性判断の対象となる発明と同じ構成を備える必要はない。
そして,前記6のとおり,当業者は,相違点Dに係る本件発明2の構成に容易に想到することができ,前記4( )のとおり,甲2の発明に対し,周知2技術を適用して,その流動層を循環流とすると,廃棄物をガス化してガスとチャーを生成しチャーが微粒子化する過程が,「循環流中で」されることは,当業者にとって明らかである。さらに,前記3( )のとおり,流動層炉の流3動媒体の流れが循環流である場合において,廃棄物の熱分解により,ガス及びチャーが生成され,そのガス及びチャーを炉外に排出するとの構成をとることが可能であると容易に理解することができたこと,前記6( )のとおり,4ガス化炉の発明である甲2の発明も,炉内に流動化ガスとして空気を供給するという構成を前提としていることも併せ考えれば,相違点Dに係る構成が相違点Eに係る構成と一体となっていると仮にいえるとしても,当業者は,甲2の発明及び周知の技術から,相違点Eに係る本件発明2の構成に容易に想到したと認めることができ,審決の認定判断に誤りはなく,原告の主張は採用できない。
(2)原告は,相違点Dに係る本件発明2の構成は,甲2の発明と周知の技術から当業者が容易に想到することができたものではないから,相違点Eに係る構成も,周知技術を適用した結果として,当業者に自明の事項とすることはできない旨主張するが,取消事由6(相違点Dについての認定判断の誤り)について判示したとおり,失当である。
(3)したがって,原告主張の取消事由7は理由がない。
8取消事由8(本件発明2の奏する顕著な効果の看過)について(1)原告は,本件発明2の格別顕著な効果を否定した審決を誤りである旨主張するが,原告が主張する本件発明2の効果のうち,本件発明1の効果と実質的に同内容を主張する部分は,取消事由5(本件発明1の奏する顕著な効果の看過)についての判示に照らし,採用できない。
また,原告は,本件発明2について,循環流中に空気量が少ない部分と空気量が多い部分を形成し,生成されたガスは空気量が少ない部分においてあまり燃焼されないようにし,生成されたチャーを空気量の多い部分において質量速度の比較的大きい流動化ガスである空気と接触し燃焼させて燃え残った微粒子のチャーをガスとともに溶融炉に供給しているので顕著な効果を奏する旨主張する。しかし,熱分解炉において,ともに空気である質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給して,流動媒体の循環流を形成するとき,その空気量によっては,質量速度が比較的小さい流動化ガスが供給されている部分の空気量が比較的少なく,ガスがあまり燃焼せず,他方,質量速度が比較的大きい流動化ガスが供給されている部分の空気量が比較的多く,チャーの燃焼が起こりやすいことは,技術常識から当業者が予測し得る効果であり,本件発明1と実質的に同内容を主張する部分も含め,本件発明2の効果は当業者が予測し得るものといえるのであり,本件発明2の効果が顕著である旨の原告主張は採用できない。
( )したがって,原告主張の取消事由8は理由がない。
29取消事由9(相違点Gについての認定判断の誤り)について(1)審決は,相違点Gに係る本件発明3の構成について,「『流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,流動化ガスを炉内に供給して流動媒体の循環流を形成し,該質量速度が比較的小さい流動化ガスによって流動化される部分をガス化ゾーンとし,該質量速度が比較的大きい流動化ガスによって流動化される部分を酸化ゾーンとし』,石炭と廃木材や廃プラスチックとの混合物を『該流動層炉に供給し,該ガス化ゾーンにてガス化してガスとチャーを生成し,該ガス化ゾーンで生成したチャーを該循環流にて該酸化ゾーンに供給して部分酸化し』との構成は,甲3(注,甲3公報)に記載された構成であると認められる。」(審決謄本39頁第3段落)としたのに対し,原告は,その認定を争う。
(2)しかし,甲3公報には,「下降移動層34の中では,石炭の乾留反応が主体的に,ガス化反応が部分的に行なわれ,ガスとチャーが生成する。ここで生成したガスは上方または水平方向に抜け,チャーは流動媒体と共に両側縁部の流動層部35へ移動し,流動化ガスとして供給された酸素とスチームの混合ガスからなるガス化剤と,部分燃焼をともなうガス化反応を引き起こす。」(5頁左上欄11行目〜18行目)との記載があり,甲3公報には,ガス化が行われる「ガス化ゾーン」といえる循環流中の下降移動層34を有し,部分燃焼をともなうガス化反応を引き起こす「酸化ゾーン」といえる両側縁部の流動層部35を有する技術が記載されているから,甲3公報の前記3( )アの各記載と併せれば,甲3公報には,相違点Gに係る本件発明3の2構成を開示する発明が記載されていると認められる。
そして,前記3( )と同様,甲2の発明と甲3公報に記載された技術分野3の共通性,課題の共通性,その組合せに阻害要因も存在しないことなどから,当業者は,甲2の発明に甲3公報に記載された上記発明を組み合わせて,相違点Gに係る本件発明3の構成に容易に想到することができたものと認められる。
(3)原告は,審決の上記(1)記載の認定を争う根拠として,本件発明3における,該廃棄物を「該流動層炉に供給し,該ガス化ゾーンにてガス化してガスとチャーを生成し,該ガス化ゾーンで生成したチャーを該循環流にて該酸化ゾーンに供給して部分酸化し」との構成は,廃棄物がガス化されてガスとチャーを生成し,生成したチャーを部分酸化する場所を特定するだけでなく,可燃ガスとチャーを得て,ともに次段の溶融炉へ供給するための構成であるのに対し,甲3公報には,移動層の乾留によって細片化されたチャーをガス化反応させてこのガス化反応を完結させガスに転換させることが記載され,チャーを部分酸化させて微粒子として次段に供給するチャーを得るという,相違点Gに係る本件発明3の構成は記載されていないことを挙げる。
しかし,甲3公報に記載された発明の構成について原告主張事実が認められるとしても,上記(2)の説示に照らし,同事実は,甲2の発明に甲3公報に記載された発明を組み合わせて,相違点Gに係る本件発明3の構成に当業者が容易に想到することができたとの判断を左右するものではないから,原告の主張は採用できない。
(4)以上によれば,原告主張の取消事由9は理由がない。
10取消事由10(本件発明3の奏する顕著な効果の看過)について(1)原告は,本件発明3は,流動層炉内に質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給し,流動媒体の循環流を形成させ,廃棄物をガス化ゾーンにてガス化して生成した可燃ガスをあまり燃焼させずに次段の溶融炉に供給するとともに,ガス化ゾーンにて生成したチャーを,質量速度が比較的大きい流動化ガスによって流動化される酸化ゾーンへ供給して部分酸化し,微粒子として,チャーを可燃ガスに同伴しやすくして,可燃ガスとチャーをともに安定して溶融炉に供給するという構成を有することから,顕著な効果を奏するとして,これを否定した審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,流動層炉内に質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給し,流動媒体の循環流を形成させる点についての効果は,前記8のとおり,当業者が予測し得る効果であり,ガス化ゾーンにおいて,廃棄物をガス化して生成した可燃ガスをあまり燃焼させず,また,酸化ゾーンでチャーが部分酸化することも,ガス化ゾーン及び酸化ゾーンの酸素量に照らして,技術常識から,容易に予測し得る効果といえるものである。その他,本件発明1の効果と実質的に同一内容といえる効果も含め,原告が主張する本件発明3の効果は,当業者が予測し得るものであるといえるのであり,本件発明3が顕著な効果を奏する旨の原告の主張は,取消事由5(本件発明1の奏する顕著な効果の看過)についての判示に照らし,採用できない。
(2)したがって,原告主張の取消事由10は理由がない。
11取消事由11(相違点Iについての認定判断の誤り)について相違点Iに係る本件発明4の構成は,本件発明1と甲2の発明の相違点Aと同構成であるところ,原告は,相違点Aについての審決の認定判断が誤りであるから,相違点Iについての審決の認定判断が誤りである旨主張するが,相違点Aについての審決の認定判断に誤りがないことは,前記3のとおりであるから,失当である。
12取消事由12(相違点J及びKについての認定判断の誤り)について( )原告は,相違点J及び相違点Kに係る本件発明4の「循環流中でガス化し1てガスとチャーを生成し,生成されたチャーを質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層で燃焼させ,流動層温度を450℃〜650℃に維持し」との構成は,循環流を有する流動層において,ガス化によって生成された可燃ガスやタールに比べて燃焼しにくいチャーを,可燃ガスとは分離して,質量速度が比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層に送り,該流動層で燃焼させ,流動媒体を加熱して流動層温度を450℃から650℃に維持する熱源として寄与させるとともに,多量のチャーを燃焼させてガスに同伴されやすくして,燃え残ったチャーを可燃ガスとともに次段の溶融炉に供給し熱源(燃料)として利用するものであるための一体となって有機的に結合した構成であるとして,審決は,相違点Jと相違点Kとの相互の有機的な結合を看過し,その構成を機械的に分断し,質量速度が比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層におけるチャーの燃焼と流動層温度を450℃から650℃に維持することとの関係について何ら検討することなく,分断された一部の構成のみを検討し,甲2の発明に,甲3公報等に記載された技術を適用することにより当業者が容易に想到できたとするものであり,誤りである旨主張する。
しかし,本件明細書には,相違点Kに係る本件発明4の「流動層温度を450℃から650℃に維持」したとの構成について,これを他の構成とどのように結合するか,また,上記のように温度範囲を限定したことによりどのような効果を奏するかについては,何らの記載もなく,相違点Kに係る構成についての上記原告の主張は本件明細書に基づくものではない。そして,後記(3)のとおり,相違点Kに係る本件発明4の構成は,ガス化炉の流動層温度として,本件出願日前に周知の技術であったのであり,同構成が熱分解炉としての流動層温度を定めたことを超えて,相違点Jに係る本件発明4の構成とあいまち,特に原告主張の効果を奏するものとして限定されたものであると認めるに足りる証拠はない。
したがって,相違点J及びKに係る構成が,原告が主張するような意味において,有機的に結合されたものであり,審決がそれぞれの相違点J及びKについて認定判断したことを誤りである旨の原告主張は,採用できない。
( )審決は,相違点Jについて,「甲3(注,甲3公報)には,流動層ガス化2炉において,廃棄物を循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,生成されたチャーを流動速度が比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層で燃焼させる技術が記載されていると認められる。したがって,相違点Jに係る本件発明4の構成は,甲2の発明に甲3に記載の上記技術を適用することにより当業者が容易に想到できたものというべきである。」(審決謄本41頁第1段落〜第2段落)と認定判断したのに対し,原告は,相違点Jに係る本件発明4の構成は,ガスとチャーを得てともに流動層炉外へと排出するためのものであって,生成されたチャーを燃焼する場所を特定した構成にとどまらず,質量速度が比較的小さい流動化ガスにより流動化される沈降する流動媒体中で廃棄物のガス化によって得られ,質量速度が比較的大きい流動化ガスにより流動化された流動層へと循環された,固形物であって燃えにくいチャーについて,これを燃焼させて,燃え残ったチャーを可燃ガスに同伴させて溶融炉に供給するための構成であり,甲3の発明にはそのような構成が記載されていないとして,審決の認定判断が誤りである旨主張する。
しかし,発明の進歩性判断における相違点についての容易想到性の判断に当たり,相違点に係る構成を開示している発明について,進歩性判断の対象となる発明と同じ構成を備える必要はない。そして,前記3(2)アに照らしても,甲3公報には,「流動層ガス化炉において,廃棄物を循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,生成されたチャーを流動速度が比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層で燃焼させる技術」(審決謄本41頁第1段落)が記載されているのであり,相違点Jに係る本件発明4の構成は,甲2の発明に甲3公報に記載された上記技術を適用することにより,当業者が容易に想到できたものである。ここで,質量速度が比較的小さい流動化ガスにより流動化される沈降する流動媒体中で,チャーが廃棄物のガス化によって得られること,質量速度が比較的大きい流動化ガスにより流動化された流動層においてチャーが燃焼することは,技術常識から当業者が予測し得ることであり,また,前記3(3)のとおり,本件出願日当時,当業者は,流動層炉の流動媒体の流れが循環流である場合において,廃棄物の熱分解により,ガス及びチャーが排出され,そのガス及びチャーを炉外に排出するとの構成をとることが可能であると容易に理解することができたものであるから,甲3の発明について,原告が主張する構成を備えていないことが,上記容易想到性の判断を左右するものということはできない。
( )審決は,相違点Kについて,甲7文献,甲23公報及び甲24公報の記載3を根拠として,「流動層炉において『流動層温度を450℃〜650℃に維持し』たことは,周知の技術であったものと認められる。したがって,相違点Kに係る本件発明4の構成は,甲2の発明に上記の周知の技術を適用することにより当業者が容易に想到できたものというべきである。」(審決謄本41頁第6段落〜第7段落)としたのに対し,原告は,その認定判断が誤りである旨主張する。
そこで,検討すると,甲7文献には,「( )温度範囲の設定基準@流動1層ごみのガス化速度をより緩慢にするためには,低温の方が好ましい。このことから上限を700℃に設定した。一方下限は,都市ごみを構成する物質のガス化温度に支配される。ガス化が完全に行われ,不燃物の熱しゃく減量が極めて少ないことが重要である。紙,プラスチック等都市ごみを構成する物質の熱分解温度は400℃以下であり,十分余裕をみて下限を600℃に設定した。」(46頁右欄下から3行目〜47頁左欄6行目)との記載が,甲23公報には,「従来のこの種の流動床焼却方式の装置を第1図に示すが,この装置においては,燃焼不適ごみ1は,先ず供給機2から流動焼却炉3内へ投入される。この流動焼却炉3の下部には砂等の流動媒体が充填されており,空気吹込み管5から供給される空気の作用により流動層4を形成している。上記により投入された燃焼不適ごみ1は,この流動層4中で空気吹込み管5から導入される空気と接触して燃焼し,焼却処理される。この場合,流動層4の温度は一般に800℃以上の高温となるため,NOxが発生する上ごみ中の重金属が生成ガス中へ揮散する。」(2頁左上欄3行目〜14行目),「本発明の目的は,上記した従来技術の欠点をなくし,排ガス中のNOxや重金属を増加させることなく,燃焼不適ごみを処理することができる流動床焼却方式の処理方法を提供することにある。上記目的を達成するために,・・・上記流動層焼却部での焼却処理を400〜600℃の比較的低温下で部分酸化方式により行い,次いで該処理で発生する分解ガスを空気の供給下に700〜750℃で二次燃焼することを特徴とする。上記の構成とすることにより,流動層焼却部の温度は400〜600℃と比較的低温であるためNOxの発生や重金属の揮散が抑制される。またこのようにして得られるNOxおよび重金属含量の低い分解ガスが次に比較的低温下で二次燃焼されるので,可燃分の燃焼をNOxおよび重金属の増加をともなうことなく可燃分を良好に燃焼させることができる。本発明において,流動層焼却部の温度を400〜600℃に保つには,例えば流動層への吹込み空気量を理論燃焼空気量よりも少くすればよい。」(同頁右上欄11行目〜左下欄13行目)との各記載が,甲24公報には,「本発明の塩素含有廃棄物の焼却方法は,塩素含有廃棄物を流動層に投入し還元雰囲気でガス化するとともに,発生する塩化水素を脱塩剤と反応させて塩化物とし,ついで,ガス化した生成ガスを除塵した後,酸化雰囲気で焼却するとともに,回収した微粉脱塩剤を含むダストを前記流動層に循環することを特徴としている。」(段落【0008】),「本実施例の装置は,・・・部分燃焼流動層炉70のガス出口72と,この部分燃焼流動層炉70で発生したガスを酸化雰囲気で焼却する二次燃焼炉74のガス入口76とを,サイクロン,衝突式集塵器等の集塵器60を介して接続し,さらに,この集塵器60の下部と前記部分燃焼流動層炉70とを,回収ダスト循環ライン78を介して接続して構成したものである。」(段落【0013】),「部分燃焼流動層炉70の流動層12は,450〜650℃に制御されており,一次空気比は0.15〜0.5の還元雰囲気である。層温度はこの空気比を変えることにより制御される。」(段落【0014】)との各記載が,特開昭62-169921号公報(乙10,以下「乙10公報」という。)には,「本発明は,・・・流動層内に被焼却物を供給して焼却するに際して,その流動層内の温度を520〜650℃に保って燃焼させることで,流動層内に投入された被焼却物の燃焼・熱分解を緩やかに,しかも安定して行うことができ,ばいじんなどの発生を抑えることができる」(2頁左上欄17行目〜右上欄3行目),「流動層の温度が520℃以下では流動層内での被焼却物の燃焼が不安定(燃えにくくなる)となって好ましくない」(3頁右上欄末行〜左下欄2行目),「被焼却物を緩慢に燃焼し熱分解させるので分解ガスやばいじんの大量発生を抑制することができる」(4頁左欄8行目〜10行目)との各記載がある。
上記によれば,流動層を有し,流動層においてガス化(熱分解)が行われる焼却炉の流動層の温度について,600℃〜700℃(甲7文献),400℃〜600℃(甲23公報),450℃〜650℃(甲24公報),520℃〜650℃(乙10公報)とするものが記載されている。
これらによれば,ごみを熱分解するため,流動層の温度を450℃から650℃程度とすることは,本件出願日前に既に周知のことであったと認められる。
そうすると,甲2の発明の流動層熱分解炉は,ごみを熱分解するためのものであって,甲2の発明の流動層熱分解炉において,流動層の温度を450℃から650℃の範囲に設定することは,当業者が必要に応じて適宜なし得る程度の設計的事項にすぎないというべきであり,相違点Kに係る本件発明4の構成に当業者は容易に想到することができたと認められ,審決の認定判断に誤りはない。
原告は,甲2の発明は,ガス化溶融炉を前提として,溶融炉にガス,タール,チャーの可燃分の大部分を送って利用できるようにするためのものであるのに対し,審決が周知技術の認定の根拠とした甲7文献等においては,廃棄物をガス化してガスとチャーを得ることができ,溶融炉にガスとチャーを送って利用できるようにしようとする技術的思想は全く存在せず,甲7文献等に記載された技術は,甲2の発明に基づいて本件発明4の構成を得るのに用い得るような適用上の適性を有するものとは認められない旨主張する。
しかし,ごみを熱分解するため,流動層の温度を450℃から650℃程度とすることすることは既に周知であったと認められるのであり,他方,本件明細書においては,「流動層の温度を450℃〜650℃に維持する」場合が,それ以外の温度で熱分解を行う場合に比して,溶融炉にガス,タール,チャーの可燃分の大部分を送って利用できるようにするためのものである旨の記載もないし,上記温度範囲が,特に原告主張の目的のために定められたものであると認めるに足りる証拠もなく,相違点Jに係る本件発明4の構成が,従前の熱分解炉とは異なる,原告主張の目的,課題に対応するために最適化されたものであると認めるには足りない。
( )以上によれば,原告主張の取消事由12は理由がない。
413取消事由13(本件発明4の奏する顕著な効果の看過)について原告は,本件発明4は,流動層炉内に質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給し,流動媒体の循環流を形成させ,廃棄物をガス化ゾーンにてガス化して生成した可燃ガスをあまり燃焼させずに次段の溶融炉に供給するいう構成を有することから,顕著な効果を奏する旨主張する。しかし,流動層炉内に質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給し,流動媒体の循環流を形成させる点についての効果は,前記8のとおり,当業者が予測し得る効果であり,その他,本件発明1の効果と実質的に同内容といえる効果も含め,原告が主張する本件発明4の効果は当業者が予測し得るものといえるものであり,本件発明4が顕著な効果を奏する旨の原告の主張は,取消事由5(本件発明1の奏する顕著な効果の看過)の判示に照らし,採用できない。
そうすると,原告主張の取消事由13は理由がない。
14取消事由14(本件発明7ないし9についての進歩性の認定判断の誤り)について本件発明7ないし9は,それぞれ,本件発明1ないし3に対応する方法の発明であるところ,審決は,本件発明1ないし3と同様の理由により,本件発明7ないし9は,当業者が容易に発明をすることができたと判断したのに対し,原告は,本件発明1ないし3についての審決の認定判断が誤りであるから,本件発明7ないし9についての審決の進歩性の認定判断も誤りである旨主張する。
しかし,本件発明7ないし9についての原告主張の取消事由がいずれも採用し難いことは,前示のとおりであるから,これらを前提とする取消事由14も理由がない。
15取消事由15(本件発明10についての進歩性の認定判断の誤り)について( )本件発明10は,本件発明7又は9を引用するものであるところ,原告は,1本件発明10は,本件発明7を引用するとき,ガス化により生成されたチャーを,質量速度が比較的大きい流動化ガスによって流動化されて流動媒体が上昇する空気量が比較的多い部分においてさらに微粒子とする処理をして,微粒子となったチャーを排出する「該チャーを微粒子とし」との構成を有するものであり,その構成が甲2の発明や周知技術認定の根拠となった文献に記載されていないとして,当業者は,それらを組み合わせても本件発明10の構成は得られないのであり,この点を看過して本件発明10の進歩性を否定した審決の認定判断に誤りがある旨主張する。
しかし,上記原告の主張は,実質的に,取消事由1ないし4における主張と同一内容であり,原告主張の取消事由1ないし4に理由がないことは,前示のとおりであるから,失当である。
(2)本件発明10は,「該流動層炉内に質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給して流動媒体の循環流を形成し,前記質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスは,ともに空気であるようにされ,」との構成を有するものであるところ,原告は,「該流動層炉内に質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給して流動媒体の循環流を形成し,前記質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスは,ともに空気であるようにされ,」との技術は,焼却炉においては周知であっても,ガス化炉においては周知ではなく,また,公知でもなく,上記技術を周知の技術と認定して,本件発明10の進歩性を否定した審決の認定判断が誤りである旨主張する。
しかし,上記原告の主張は,取消事由6(相違点Dについての認定判断の誤り)と実質的に同内容であり,原告主張の取消事由6に理由がないことから,失当である。
(3)したがって,原告主張の取消事由15は理由がない。
16取消事由16(本件発明5,6,11ないし16についての進歩性の認定判断の誤り)について(1)審決は,本件発明5,6,11ないし16について,いずれも,当業者が容易に発明をすることができたと判断したのに対し,原告は,本件発明5は,本件発明1ないし4を引用する発明であり,本件発明6は,本件発明1ないし5を引用する発明であり,本件発明11ないし16は,それぞれ本件発明7ないし9を引用する発明であり,本件発明1ないし5,7ないし9についての審決の認定判断が誤りであるから,本件発明5,6,11ないし16についての審決の認定判断も誤りである旨主張する。
しかし,本件発明1ないし5,7ないし9についての原告主張の取消事由がいずれも採用し難いことは,前示のとおりであるから,上記原告主張は前提を欠くものである。
(2)また,原告は,本件発明11において付加した「前記ガス化ゾーンに供給される流動化ガスは,水蒸気または水蒸気と空気の混合気体又は空気であること」との構成の意義及び本件発明12において付加した「前記酸化ゾーンに供給される流動化ガスは,酸素又は酸素と空気の混合気体又は空気であること」との構成の意義を述べ,審決がそれらの意義を看過し,発明の容易想到性判断を誤った旨主張する。
しかし,前記6のとおり,流動層炉の流動層に循環流を形成するに当たり,質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給することによって,循環流を形成すること,その流動化ガスとしてともに空気を用いることは周知の技術であったと認められ,これにより,ガス化ゾーン,酸化ゾーンに供給される流動化ガスとして空気を用いることも周知であったと認められるところ,本件発明11で付加した構成は,ガス化ゾーンに供給される流動化ガスが空気であるものを含み,本件発明12で付加した構成は,酸化ゾーンに供給される流動化ガスが空気であることを含み,いずれも,上記周知の技術を含んでいると認められるものであるから,それらの構成について,当業者が容易に想到できたものと認められる。
( )したがって,原告主張の取消事由16は理由がない。
317以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明