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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10210審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10489審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10352審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10490審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10196審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 特許を受ける権利 /  創作性(創作) /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  課題の共通性 /  技術的手段 /  技術常識 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  国内優先権 /  実質的に同一 /  数値限定 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 /  同一事実(同一の事実) /  同一証拠(同一の証拠) / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10350号 審決取消請求事件
原告日本ピストンリング株式会社
訴訟代理人弁護 士松井秀樹
同 太田大三
同 縫部崇
訴訟代理人弁理 士石川泰男
同 石橋良規
被告株式会社リケン
被告三菱ふそうトラック・バス株式会社
被告三菱自動車工業株式会社
被告ら訴訟代理人弁護士鳥海哲郎
同 岡田誠
同 加藤はるか
被告ら訴訟代理人弁理士内藤和彦
同 秋山祐子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/06/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2007-800247号事件について平成20年8月19日にした審決を取り消す。
第2争いのない事実1特許庁における手続の経緯( )出願,登録等1被告株式会社リケン(以下「被告リケン」という )は,平成5年4月7 。
日,発明の名称を「ピストンリング」とする発明につき特許出願(特願平5-103762号。以下「本願」という。出願時の請求項の数は10であった。甲18)をした。本願は,平成4年12月28日出願の特願平4-358549号に基づく国内優先権主張を伴うものであった。
被告リケンは,平成6年11月4日,被告三菱自動車工業株式会社(以下「被告三菱自動車」という )に対し,本願の特許を受ける権利の一部を譲 。
渡し,同月30日,特許庁長官に対してその旨届け出た(甲21 。)被告リケン及び被告三菱自動車は,平成9年4月18日付け手続補正書による補正をし,同年11月27日,本願について特許査定を受け,平成10年1月23日,本願につき特許権の設定登録を受けた(以下,この特許,特許権をそれぞれ「本件特許「本件特許権」という。設定登録時の請求項の 」,数は2となった。甲19 。)被告三菱ふそうトラック・バス株式会社は,被告三菱自動車から本件特許権の持分の一部を取得し 平成15年2月20日 その旨の登録を受けた 甲 ,,(22 。)( )前回無効審判2原告は,平成17年2月18日,本件特許につき無効審判を請求した(無効2005-80055号 。これに対し,被告らは,同年6月6日,訂正 )請求をした(甲20 。),,「。, 特許庁は 平成17年12月16日訂正を認める 本件審判の請求は成り立たない 」との審決をし,この審決は確定した(この審決により訂正 。
「」。, が認められた後の明細書を図面とともに 本件明細書 という その内容は平成17年6月6日付け訂正請求書に添付された全文訂正明細書のとおりである。甲20 。)( )無効審判3原告は,平成19年11月5日,本件特許につき無効審判を請求した(無効2007-800247号 。)特許庁は,平成20年8月19日 「本件審判の請求は,成り立たない 」 , 。
との審決をし,その謄本は,同月29日,原告に送達された。
2特許請求の範囲本件明細書の特許請求の範囲の請求項1,2の記載は,次のとおりである。
【請求項1】少なくとも外周摺動面に,陰極アークプラズマ式イオンプレーティングによる皮膜の空孔率が1.5〜20%である窒化クロムよりなり厚さが1〜80μmの皮膜を形成してなる内燃機関用ピストンリング。
(以下,請求項1記載の発明を「本件第1発明」という )。
【請求項2】請求項1に記載のピストンリングにおいて,前記皮膜の破断面が母材表面から皮膜の表面に向かって柱状の形態を有する内燃機関用ピストンリング。
(以下,請求項2記載の発明を「本件第2発明」といい,本件第1発明と本件第2発明」を包括して「本件各発明」という。なお 「皮膜」との文言と,刊 ,行物中の「被膜」との文言は,同じ意味であると認められる )。
3審決の理由( )別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件各発明は,下記甲1な1いし8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたとはいえないというものである。
記甲1特開平1-159449号公報甲2特開昭63-290254号公報甲3「金属表面技術便覧(改訂新版(社団法人金属表面技術協会編,日 )」刊工業新聞社,昭和54年12月20日3版発行)564ないし569頁甲4特開平2-280310号公報甲5特開平5-78821号公報甲6特開平2-301679号公報甲7「粒子分散によるセラミックスの強じん化 (宮田昇著,セラミック 」ス第21巻(1986年)第7号)605ないし612頁甲8特開昭60-262951号公報(本訴の甲1ないし8は,審決の甲1ないし8と同じである )。
( )審決がその結論を導く過程において認定した甲1記載の発明(以下「甲2」。), , 第1号証発明 というの内容 本件第1発明と甲第1号証発明の一致点相違点は,次のとおりである。
ア甲第1号証発明「ピストンリングの少なくとも外周摺動面に,反応性イオンプレーティング法による,Cr N型の窒化クロムでなる第1被覆相と更にCrN型の2窒化クロムでなる第2被覆相からなる厚さが10〜50μmの複合窒化層を形成してなる内燃機関用ピストンリング」に関する発明イ一致点「少なくとも外周摺動面に,イオンプレーティングによる窒化クロムよりなり厚さが10〜50μmの皮膜を形成してなる内燃機関用ピストンリング」である点ウ相違点(ア)相違点1イオンプレーティングにつき,本件第1発明では 「陰極アークプラ ,ズマ式」であるとの構成事項を具備するのに対して,甲第1号証発明では「反応性イオンプレーティング法」を用いているものの,当該構成事項を具備しない点(イ)相違点2皮膜につき,本件第1発明では 「イオンプレーティングによる皮膜 ,.」 , の空孔率が1 5〜20%である との構成事項を具備するのに対して甲第1号証発明では空孔率について具体的に示されず当該構成事項を具備しない点第3取消事由に関する原告の主張本件各発明は,当業者が,甲1ないし8に基づいて容易に想到することができたとはいえないとした審決には誤りがある。
すなわち,?@本願出願時において,本件各発明の課題(耐摩耗性に優れた窒化クロムからなる皮膜の「欠け状剥離」を発生しにくくすること)は,一般的に認識されていたこと,?A課題を解決するための構成(空孔の導入)は,当業者であれば容易に想到し得る事項であること,?B課題を解決するための具体的な手段(陰極アークプラズマ式イオンプレーティング法による空孔の導入,ピストンリング摺動面の皮膜中への空孔の導入)は当業者が容易に想到することができたものであることから,本件各発明は,当業者が,甲1ないし8に基づいて容易に想到することができたといえる。
1本件各発明の課題が,既に一般的に認識されていたこと本件各発明の課題は,本願出願時において,当業者には一般的に認識されていたものといえる。
すなわち,本件各発明は,耐摩耗性に優れた窒化クロムからなる皮膜の「欠け状剥離」を発生しにくくすることを課題とするものである。他方 「硬いが ,脆い という性質に課題があることは セラミックスの分野に限らず 積層 コ 」 , ,(ーティング)を行う技術分野において一般的に認識されていた。そして,甲2は,耐熱・耐摩耗性を付与するために用いられるセラミックス皮膜の問題点として「硬いが脆い」という性質に着目し,そのような性質に起因して欠けや剥離が生じる点についても言及しており,甲2には,多孔質溶射被膜(中間層)がどのような目的,効果により用いられているかにかかわらず,空孔を設けることが耐剥離性向上に役立つことが開示されている。そのような記載に照らすならば,耐摩耗性に優れた窒化クロムからなる皮膜の「欠け状剥離」を発生しにくくするとの本件各発明の課題は,本願出願時に一般的に認識されていたといえる。
したがって,本件各発明の課題は,甲1に直接記載されていないとしても,本願出願時に一般的に認識されていたといえるから,本件各発明を想到することが困難であったとはいえない。
2課題を解決するための構成の容易想到性( )空孔の導入1甲2,7,23によれば,皮膜中に空孔が存在することにより皮膜の耐剥離性が向上することは,当業者にとって知られた事項であるといえる。したがって,窒化クロムからなる皮膜の「欠け状剥離」を発生しにくくするとの課題を解決するために 「空孔の導入により耐剥離性を向上させる」との構 ,成を採用することは容易に想到できた。
ア甲2には 「セラミックスは皮膜が脆く,欠けや剥離が生じてしまう」 ,という一般的な課題を解決するための手段として 「体積密度が90%以 ,下(つまり空孔率が10%以上)である多孔質溶射被膜」が有効であることが記載されており,また,多孔質溶射被膜を形成する溶射材料として金, ,, 属窒化物が挙げられており 窒化クロムはこれに該当するから 当業者は甲2により,皮膜中に空孔が存在することにより皮膜の耐剥離性が向上することを理解することができる。
また,甲7には,マトリックス中に形成された気孔によってクラックを湾曲させることが可能であり,これによりセラミックスの靱性を増加することができることについて記載されている。
Crack and Fatigue Behaviour of Hard Chrome Plated Pistonさらに 甲23,(,Rings - Results of Acoustic Emission Analysis and Fatigue Strength Testing8頁1ないし9行)には,空孔の多いクロム皮膜(CR3)は,空孔の少ないクロム皮膜(CR1)に比べて,皮膜中のマクロクラック(ひび)が大きく枝分かれし(つまり,母材に達することがなく ,母材に対して強 )いくさび作用を及ぼすことがないことが記載されている。
,, ,,, 以上のとおり 甲2 7 23の記載からすると 本願出願時において皮膜中に空孔が存在することによって皮膜の耐剥離性が向上するとの事項は,当業者において知られていたといえるから,空孔の導入により耐剥離性を向上させるとの構成を容易に想到することができた。
イ空孔が存在する膜の位置の相違について甲2において空孔が導入されている皮膜は,ピストンリングの表面に位置する層ではなく,母材と表面溶射層との中間に位置する中間層である。
しかし,甲2において空孔が存在する膜が中間層であることは,以下のとおり,本件各発明の相違点2に係る構成を想到することの妨げとはならない。
すなわち,皮膜中に存在する空孔によりもたらされる効果(耐剥離性)は,空孔が存在する皮膜だけで十分に発揮される効果であり,その皮膜の上に他の皮膜が存在することを条件として発揮される効果ではないし,甲7には,空孔が存在する皮膜の上に他の皮膜が存在することについて何らの開示も示唆もない。そして,甲第1号証発明のピストンリングの摺動面に形成されている窒化クロム皮膜に,欠けや剥離を防止することを目的として空孔を導入する場合,耐摩耗性(皮膜の硬度)を維持することは設計事項の範囲内であり,空孔を導入しても所望の耐摩耗性が維持できるのであれば,空孔を導入した下地層を形成するまでもなく,摺動面に位置する皮膜自体に空孔を導入するはずである。そのため,甲2において空孔が存在する膜が中間層であることは,甲2から本件各発明を想到することの妨げとはならない。
ウ皮膜が剥離する原因の相違について皮膜が剥離する原因は,甲2記載の発明と本件各発明とで異なるが,甲2に接した当業者は,空孔の存在が剥離を防ぐというメカニズムを十分に理解できるはずである。
すなわち,皮膜が剥離する原因は,甲2記載の発明においては熱膨張であるのに対し,本件各発明においてはピッチング疲労であるが,最終的に「皮膜が欠ける」という効果は,クラックが伝播していき,その大きさが許容範囲を超えた場合に発生するはずであり,クラックが発生する原因が熱膨張かピッチング疲労かを問わず,ある原因によって発生した初期段階のクラックが伝播していくことを防止するのに空孔が有効である点において,本件各発明も甲2記載の発明も相違がなく,甲2に接した当業者であれば,空孔の存在が剥離を防ぐというメカニズムを十分に理解できるはずである。
エ皮膜の材質の相違について甲23記載の皮膜と本件各発明の皮膜は材質が異なるが,当業者は,皮膜中のマクロクラックが母材に対するくさび作用を防止するとの甲23記載の現象が本件各発明の皮膜にも当てはまることを理解することができる。
すなわち,甲23記載の皮膜は硬質クロムめっきであり,本件各発明の皮膜(窒化クロム)とは材質が異なるが,甲23は本件各発明と同じくピストンリングについての刊行物であり,マクロクラックが母材に対するくさび作用を防止するという現象が,クロムめっきからなる皮膜のみならず種々の材質からなる皮膜にも当てはまる現象であることは,当業者であれば当然に理解可能である。
数値限定の有無について本件各発明は,空孔率を1.5ないし20%に数値限定しているが,空孔率を所定の数値範囲に限定したことにより本件各発明の進歩性が肯定されることはない。
すなわち,空孔の大きさによって,欠け状剥離に対する効果に差が生じ得るかもしれないが,空孔が皮膜の耐剥離性の向上に有効であることが分かっていれば,空孔の量や大きさなどは最適化の範疇であって,空孔の大きさの違いが本件各発明の進歩性を肯定する要因となることはない。そして,ピストンリングの摺動面に空孔を設ける場合,ピストンリングに求められる耐久性や耐熱性などを考慮すると,その空孔率は本件第1発明の数値範囲と同程度になることは当然であり,本件第1発明の数値範囲は,臨界的意義はなく,単なる最適化の範疇にとどまり,空孔率を所定の数値範囲に限定したことにより本件各発明の進歩性が肯定されることはない。
( )甲1に「空孔を導入すること」の構成を加えることは容易であること2甲第1号証発明のピストンリングの表面に「緻密な被覆層」が設けられていることは,甲第1号証発明に,課題を解決するための構成として空孔の導入という構成を組み合わせることの妨げとはならない。
,( ,) すなわち 甲24 特開平3-172680号公報 出願人は被告リケンは,皮膜中に空孔が多く存在すると剥離が生じることを問題とし,これを解決するために,空孔をなくして緻密な膜とすることを提案しており,具体的には,ピストンリングに形成された溶射皮膜の空孔率を5体積%以下とすることにより,問題を解決している。甲24においては,空孔率が5体積%以下の皮膜が「緻密」と扱われているから 「緻密」とは空孔がないことを意 ,味するものではない。そして,本件各発明は,甲24において本件特許の出願人が「緻密」とした空孔率を含んでおり(1.5ないし5% ,当業者で )あれば,少なくともその範囲の空孔率を有する皮膜が耐剥離性を有することを容易に推測することができる。そうすると 「耐熱・耐摩耗性が必要であ ,ること」及び「欠け状剥離を発生しにくくすること」という要求がある場合に,これらの要求を同時に満たすために,陰極アークプラズマ式イオンプレーティング法によって形成した皮膜中に,例えば1.5%の空孔を「緻密」であると意識しつつ導入することは十分に考えられる。したがって,甲第1号証発明が「緻密な被覆層」を有することは,甲第1号証発明に,課題を解決するための構成として空孔の導入という構成を組み合わせることの妨げとはならない。
3課題解決のための具体的な手段の容易想到性( )陰極アークプラズマ式イオンプレーティング法による空孔の導入1甲4,甲6の記載に照らして,当業者は,本件各発明の課題を解決するための構成を得る具体的な手段として,空孔を設けるために陰極アークプラズマ式イオンプレーティング法を使用することを,容易に想到することができた。
すなわち,甲4には,皮膜形成手段として陰極アークプラズマ式イオンプレーティング法を用いることが記載されており,甲6には,陰極アークプラズマ式イオンプレーティング法によってセラミック皮膜を形成した場合,皮膜に多数の孔部が形成されることが開示されている。甲6には,皮膜表面を研磨することによって凹部が生じることが記載されているから,甲6に接した当業者は,セラミックの表面のみならずその内部にも空孔が形成されていることを認識する。したがって,当業者は,本件各発明の課題を解決するための構成を得る具体的な手段として,空孔を設けるために陰極アークプラズマ式イオンプレーティング法を使用することを,容易に想到することができた。
( )ピストンリング摺動面の皮膜中への空孔の導入2甲9ないし11に開示されているとおり,ピストンリングの摺動面に位置, , する皮膜に空孔を設けることは 本願出願時において一般的に行われており当業者の技術常識であったから,当業者は,本件各発明の課題を解決するための構成を得る具体的な手段として,ピストンリングの摺動面に位置する皮膜に空孔を設けることを,容易に想到することができた。
4当業者の技術水準等について当業者とは,本件各発明の属する技術分野の出願時の技術水準にあるものすべてを知識として活用できる者と理解すべきである。その技術分野の出願時の技術常識を有し,研究,開発のための通常の技術的手段を用いることができ,材料の選択や設計変更などの通常の創作能力を発揮できるから,一般的な課題を知識として有していれば,たとえそれが刊行物に記載されていなくとも,それを一般的な手段で解決することは当然に可能である。そのため,本件各発明が一般的な課題を一般的な手段で解決するものにとどまるのであれば,その進歩性は否定される。
これを本件についてみると,本願出願時においては,本件各発明の課題(耐摩耗性に優れた窒化クロムからなる皮膜の「欠け状剥離」を発生しにくくすること は 一般的に認識されており 前記1これを解決するための構成 空 ) ,(), (孔の導入)は,当業者であれば容易に想到し得る事項であり(前記2 ,さら)に,課題を解決するための具体的な手段(陰極アークプラズマ式イオンプレー, ) ティング法による空孔の導入 ピストンリング摺動面の皮膜中への空孔の導入は当業者が容易に想到することができたものであるといえる(前記3 。)また,本件第2発明は,皮膜の破断面が柱状形態を有することにより進歩性が認められることはないから,本件各発明は,当業者が容易に想到することができる程度の発明であり,進歩性を欠くものである。
5まとめ審決は,本願出願時の技術常識や技術水準を何ら考慮することなく,引用例に直接記載されている事項のみを偏重し,直接的な記載がないことを理由に,動機づけがないこと,解決手段を導き出すことができないことなどを認定し,進歩性を肯定しており,本件各発明について進歩性があるとした審決の判断は誤りである。
第4被告の反論本件各発明は甲1ないし8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえないとの審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
1本件各発明の課題が,既に一般的に認識されていたことに対し本件各発明の課題は,本願出願時には一般的に認識されていなかったし,その課題を示す刊行物はなかった。
2課題を解決するための構成の容易想到性に対し( )以下のとおり 「空孔の導入により耐剥離性を向上させる」との構成を採1 ,用することは,容易に想到できたとはいえない。
ピストンリングのような摺動部材の表面処理皮膜の技術分野において,イオンプレーティング法により形成された皮膜は,緻密であること(空孔が少ないこと)から耐摩耗性に優れるものとして知られていた。甲1には,ピストンリングの外周摺動面に反応性イオンプレーティング法により形成される緻密な皮膜を採用することによって耐摩耗性を向上させることが記載されている。他方,甲2に「多孔質皮膜を形成する溶射法の場合は耐摩耗性が劣り・・・問題があった (2頁右上欄14ないし18行)との記載があるよう 」に,本願出願前,当業者は,皮膜に空孔を導入すると耐摩耗性が劣ると認識していた。そうすると,当業者であれば,耐摩耗性向上のために緻密な皮膜にしたピストンリングの外周摺動面の複合窒化層(甲1)に,緻密とは反対の性質をもたらし,耐摩耗性を低下させる空孔を導入するはずはない。甲2に記載された発明も,耐摩耗性皮膜自体に空孔を設けることをせず,耐摩耗性と耐熱衝撃性の両立のために,緻密な表面層と母材との間に多孔質層を設けており,甲2には,耐摩耗性を有する表面層に空孔を導入することを動機付ける記載はない。これに対し,本件各発明は,その緻密な皮膜にあえて空孔を導入するという,本願出願時の技術常識では考えられない奇抜な構成を採用することにより,耐摩耗性を維持したまま耐剥離性をも両立するという予想外の有利な効果を実現した。したがって,本件発明の課題を解決するための具体的手段は,甲1,2には開示されていない。
( )甲24に記載された発明は,皮膜中に空孔が形成され易かったという従2来のプラズマ溶射被膜の問題点を解決するために,減圧プラズマ溶射法を採用して皮膜中の空孔を少なくするものであるから,減圧プラズマ溶射法に代えて,もともと空孔の形成されにくい本件各発明のイオンプレーティング法を採用するのであれば,皮膜の空孔率を,あえて通常のイオンプレーティング法による皮膜の空孔率(約0.数%程度)より大きい1.5ないし20%とするはずがない。したがって,当業者が甲24に基づいて本件各発明を容易に想到することはできない。
( )甲2,7,23によっても,以下のとおりの理由から,窒化クロムから3なる皮膜の「欠け状剥離」を発生しにくくするとの課題を解決するための構成として,空孔の導入により耐剥離性を向上させることを容易に想到することはできない。
まず,甲2には,皮膜中に存在する空孔によってその皮膜自体の耐剥離性が向上することは開示されていない。甲2に開示されているのは,多孔質溶射被膜が母材と緻密な溶射被膜との間の熱応力を吸収することによって緻密な溶射被膜の割れを防止することであるから,その効果は,多孔質溶射被膜が母材と緻密な溶射被膜との間に存在することによって初めて発揮されるものであり,空孔の存在する被膜(単体)により耐剥離性が十分に発揮されることはない。甲2に記載された発明において,クラックが発生するのは表面の外周摺動面を構成する緻密な溶射被膜であるのに対し,空孔が存在するのは,中間層である多孔質皮膜であるから,空孔とクラックの伝播の防止は無関係である。
また,甲7は,粒子分散セラミックス(セラミック相中に粒子が分散したもの)における靱性向上機構に関する基礎研究の成果の紹介であり,その記載から,被膜に空孔が存在する場合に耐剥離性が向上することを理解することはできない。
さらに,甲23は,金属クロム皮膜に関するものであるところ,金属は,一般的に,展性,延性に富み,塑性変形が容易なことから,外力に対して脆性破壊し難い材料である。これに対し,本件各発明の皮膜は窒化クロム(セラミックス)であり,窒化クロムは金属結合を有さず,硬質であり,金属と比べると相対的に脆性破壊し易い材料であって,物性が大きく異なるから,窒化クロムについて,金属クロムと同様な現象(空孔による耐剥離性向上)が生じ得ると推定することはできない。そのため,甲23から,本件各発明について当業者の技術常識を認定することはできない。
( )審決は,緻密であることによって耐摩耗性に優れるとされていた皮膜に4空孔を導入するという構成を採用することが容易に想到できなかったと判断したものである。空孔率の数値範囲を限定したことが,困難であったと判断したものではないから,原告のこの点の主張は失当である。
3課題解決のための具体的な手段の容易想到性に対し( )陰極アークプラズマ式イオンプレーティング法による空孔の導入1甲6にいう「孔部」とは,潤滑油を貯留する作用をもつセラミック膜の表, 。 面の凹凸の凹部のことであり 皮膜の内部に形成された空孔のことではないまた,甲6は表面の凹凸を論じており,表面の凹部が一部残留する程度だけバフ研磨することが記載されているから,甲6は,セラミック膜の内部に空孔が存在しないことを前提としていると解すべきである。したがって,甲6に,陰極アークプラズマ式イオンプレーティング法によってセラミック膜を形成した場合に皮膜に多数の孔部が形成されることが開示されているとはいえない。
( )ピストンリング摺動面の皮膜中への空孔の導入2甲9なし11は,審判請求書提出後の口頭審理陳述要領書において参考資, , 料として提出されたものであって 原告が審判請求書において主張した甲12に基づく無効理由とは関係がない。また,甲1,9ないし11は,前回の無効審判の請求理由と実質的に同一の事実及び同一の証拠に基づく主張であり,これらに基づく無効の主張は,特許法167条により認められない。
甲11には,焼結金属製リング単体の表面に凹部を設けることが開示されているにすぎず,ピストンリングの外周摺動面に耐摩耗性皮膜を設け,更にその中に空孔を導入することは開示されていない。
4当業者の技術水準等について当業者の技術水準に係る原告の主張は否認する。
また,本件第2発明について,甲3には,金属や酸化物をイオンプレーティングするときに皮膜の破断面が柱状組織となることが記載されているが,そこから,金属や酸化物と異なる窒化クロムについて同様の現象が生じることまで推定することはできない。
以上のとおり,本件各発明は甲1ないし8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえず,同旨の審決の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断当裁判所は,本件各発明はいずれも甲1ないし8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたとはいえないとの審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1本件各発明の課題が,既に一般的に認識されていたことについて原告は,本件各発明の課題が本願出願時に一般的に認識されていたことからすると,本件各発明を想到することが困難であったとはいえないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
まず,当該発明を容易に想到できるか否かを判断するに当たって,当該発明が解決しようとする「課題」の把握が重要であることはいうまでもないが,発明とは 「課題」を提示した上で,それに対する解決方法を示すことからなる ,ものであるから 「当該発明の課題が,既に,一般に認識されていたこと , , 」又は「当該発明と先行技術との間に,課題の共通性があること」は,そのこと自体によって,直ちに,当該発明が容易に想到できたことを意味するものではない。したがって,本件各発明の課題が,一般的に認識されていたことから,直ちに,本件各発明が容易に想到できたとする原告の主張は,その主張自体採用できない。
のみならず,以下のとおり,本件各発明と甲1,甲2を対比してみても,本件各発明の課題が一般的であったとは認められず,本願出願前に本件各発明の課題を示す刊行物があったことを認めるに足りる証拠はないから,この点からも,原告の上記主張は,採用することができない。
( )本件各発明の課題1本件明細書の「発明が解決しようとする課題」の欄には 「ピストンリン ,グの外周皮膜表面にピッチング疲労が原因と考えられる欠け状の剥離が生じる問題がある。そこで,現状の表面処理よりも耐剥離性に優れたセラミックスコーティング皮膜を被覆したピストンリングが望まれている。従って本発明の目的は,欠け状剥離が発生しにくく同時に耐摩耗性および密着性にも優れた皮膜を被覆したピストンリングを提供することである( 0004 )。」【】と記載されていることから,本件各発明の課題は,ピストンリングの外周摺動面の皮膜を,耐摩耗性及び密着性に優れるものとするとともに,皮膜表面に生じるピッチング疲労が原因と考えられる欠け状の剥離を発生しにくくすることであると認められる。
( )甲1について2ア甲1の記載甲1の発明の詳細な説明には,次のとおりの記載がある。
(ア)「本発明は,上述の従来の窒化処理の問題点に着目してなされたものであり,過酷な使用条件下においても充分な耐摩耗性と耐焼き付き性を有する耐久性の良好な複合窒化層を有するピストンリングを提供することを目的とする( 問題点を解決するための手段」の欄,2頁左上 。」「欄11ないし15行)(イ)「ここで,反応性イオンプレーティング法とは,反応ガス雰囲気中で蒸発物質を蒸発させ,気相状態においてイオン化し,負バイアスにされた基板面に前記反応ガスと蒸発物質イオンとの反応生成物でなる被覆層を形成させる公知の表面処理方法であって,低温において緻密な被覆層が形成される特徴を有するものである( 問題点を解決するための 。」「手段」の欄,2頁右上欄7ないし13行)(ウ)「本発明による反応性イオンプレーティング法を利用し,反応ガスとして窒素ガスを,蒸発物質としてクロムを採用することによりピストンリングの少なくとも外周摺動面にCr N型の窒化クロムでなる第12被覆相と,更にCrN型の窒化クロムでなる第2被覆相からなる複合被覆層を形成させたことにより,耐摩耗性と耐焼き付き性に優れた被覆層が厚く形成された。耐久性の良好なピストンリングが得られた工業上の効果は顕著である( 効果」の欄,4頁左下欄4ないし12行) 。」「イ甲第1号証発明の内容甲第1号証発明の内容(前記第2,3( )ア)及び前記アの甲1の発明2の詳細な説明の記載によれば,甲第1号証発明は,ピストンリングの外周摺動面に,反応性イオンプレーティング法により形成される緻密な被膜層を形成し,ピストンリングの耐摩耗性と耐焼き付き性を向上させたものであると認められる。
( )甲2について3ア甲2の記載甲2には次のとおりの記載がある。
(ア)「高エネルギー溶射法により金属の母材表面上に緻密な溶射被膜を有する耐熱・耐摩耗性溶射被膜において,前記母材と前記緻密な被膜との間に体積密度が90%以下である多孔質溶射被膜を有することを特徴とする耐熱・耐摩耗性溶射被膜(特許請求の範囲(1 ,審決にいう 。」)(B-1 ))(イ)「セラミック溶射被膜に必要な性能としては・・・粒子間結合力及び被膜中の気孔の有無が重要となる ・・・プラズマ溶射法は・・・母 。
材表面に衝突する粒子の衝撃エネルギーが低いので,粒子の圧着化が不十分となる。すなわち気孔が多く粒子間結合力が小さくなるため,セラミックス被膜の耐摩耗性は不十分となり・・・酸素-アセチレンの爆発エネルギーを利用した溶射法及び超高速強化ガス溶射法等では・・・溶射被膜中の気孔を少なくし,粒子間結合力を大きくすることができ,充分な耐摩耗性が得られるが,溶射された部材が加熱冷却を繰り返されると,母材との熱膨張差と熱伝導率の差により比較的脆いセラミックス内部で割れが発生し,時には剥離する ・・・上記の如く,耐熱性,耐摩 。
耗性を必要とする従来の溶射被膜では,多孔質被膜を形成する溶射法の場合は耐摩耗性が劣り,低気孔率の緻密な被膜を形成する溶射法の場合は,耐熱性,特に耐熱衝撃性が劣り・・・問題があった。
本発明の目的は,上記の問題点を消除するとともに,溶射被膜の耐摩耗性を低下させることなく,耐熱衝撃性の優れた耐熱・耐摩耗性溶射被膜を提供することにある( 従来の技術」の欄,2頁左上欄3行ない 。」「し左下欄2行,審決にいう(B-2 ))(ウ)「 作用〕〔高エネルギー溶射法により,母材と緻密な溶射被膜との間に体積密度が90%以下である多孔質溶射被膜を有することにより,高温雰囲気中でこの溶射被膜に,母材と溶射被膜の熱膨張差にもとずく熱応力が生じても,この多孔質溶射被膜がその熱応力を吸収して,熱応力に対する緩衝層の役目を果たす。
また,溶射被膜の表面層に形成された緻密な溶射被膜は,溶射被膜内の粒子間結合力が強いので,硬度が大きい( 作用」の欄,2頁左下 。」「欄11行ないし右下欄1行,審決にいう(B-3 ))(エ)「作製した試験材について,耐熱衝撃性試験・・・を行った。耐熱衝撃性試験は,被膜の形成された試験材を800℃に急熱し20℃に急冷するサイクルと,1000℃に急熱し20℃に急冷するサイクルのそ, 」(「」 れぞれを繰返し行い 被膜が剥離するまでの回数を測定した実施例の欄,3頁左上欄6ないし12行,審決にいう(B-5 ))(オ)「本発明により形成された被膜が優れた耐熱衝撃性を示す理由は,緻密な溶射被膜の下に多孔質溶射被膜が存在するために,熱による各層及び母材の膨張,収縮が起っても中間層が多孔質であるため容易に熱応力を緩和させ,かつセラミックスの熱膨張率が金属のそれと比較して小さいため熱応力自身が小さくなるためである。また緻密な溶射被膜が,優れた耐摩耗性を示すのは,高エネルギーガス溶射法によって施工が行なわれているため,粒子間結合力が大きいので気孔が少なく,従って硬度の大きい被膜を形成しているためである( 実施例」の欄,3頁左 。」「下欄4ないし15行,審決にいう(B-4 ))(カ)「本発明において,多孔質溶射被膜を形成する溶射材料としては・・・窒化物・・・であればよい(3頁右下欄1ないし4行,審決にい 。」う(B-6 ))イ甲2の内容前記アによれば,甲2には,従来技術の問題として,気孔が多く粒子間結合力の小さなセラミック被膜の耐摩耗性は不十分であるのに対し,溶射被膜中の気孔を少なくした粒子間結合力の大きいセラミック溶射被膜は,充分な耐摩耗性が得られるが,溶射された部分が加熱冷却を繰り返されると,母材との熱膨張差と熱伝導差により比較的脆いセラミックス内部で割れが発生し,時には剥離するため,従来の溶射被膜では,多孔質被膜を形成する溶射の場合は耐摩耗性が劣り,低気孔率の緻密な被膜を形成する溶射の場合には,耐熱性,特に耐熱衝撃性が劣ると記載されている(前記ア(イ) 。そして,この問題を解決するために,特許請求の範囲に「高エネ )ルギー溶射法により金属の母材表面上に気孔率が1〜5%の緻密な溶射被膜を有する耐熱・耐摩耗性溶射被膜において,前記母材と前記緻密な被膜との間に体積密度が90%以下である多孔質溶射被膜を有する耐熱・耐摩耗性溶射被膜」が記載されている(前記ア(ア) 。上記特許請求の範囲中 )の「体積密度が90%以下」とは「気孔率(空孔率)が10%以上」とみることができ,また 「多孔質溶射被膜」として窒化膜が挙げられている ,(前記ア(カ) 。),,「」 上記のとおり溶射被膜に要求される耐熱性 耐摩耗性のうち耐熱性は,特に「耐熱衝撃性」であり(前記ア(イ) ,これは,甲2の記載(前 )記ア(イ)ないし(エ))によれば,母材と緻密な溶射被膜との熱膨張差によりセラミックからなる緻密な溶射被膜内部の割れや剥離を防止するという物理的特性を意味するものとみることができる。そして,緻密な溶射被膜と母材との間の「多孔質溶射被膜」がこの熱膨張差に基づく熱応力を吸収して優れた耐熱衝撃性を示していること,また 「耐摩耗性」については ,「緻密な溶射被膜」が空孔が少なく硬度の大きな被膜を形成しているため優れた耐摩耗性を示していることが認められる。
そうすると,甲2に記載された効果は,耐摩耗性と耐熱衝撃性(熱膨張差によるセラミックからなる緻密な溶射被膜内部の割れや剥離の防止)を両立させるために,耐摩耗性を備える「緻密な溶射被膜」と,緻密な溶射被膜と母材の間に存する耐熱衝撃性を備える「多孔質溶射被膜」とを有することを前提としたものであると認められる。前記ア(イ)の「多孔質皮膜を形成する溶射法の場合は耐摩耗性が劣り・・・問題があった (甲2, 」2頁右上欄14ないし18行)との記載からすると,甲2においては,外周摺動面に多孔質皮膜を設けることは,耐摩耗性が劣ることから問題とされており,その問題を解決するために,緻密な溶射被膜と母材との間の中間層に多孔質溶射被膜を有することにしたものと認められる。
( )課題の共通性等について4ア甲第1号証発明は,ピストンリングの外周摺動面に緻密な被膜層を形成して耐摩耗性を向上させたものであり,甲1には,皮膜の欠け状剥離を発生しにくくするという課題は記載されていない。また,甲2には,皮膜の剥離の防止が課題として示唆されているものの,甲2において問題とされている剥離は,母材と緻密な溶射被膜との熱膨張差によりセラミックからなる緻密な溶射被膜に生じる剥離であり,本件各発明が課題とするピッチング疲労による皮膜の剥離とは,剥離をもたらす応力の発生原因や剥離の形成過程が異なる。そうすると,甲1,2には,本件各発明の課題が示されているとは認められない。
イ原告は 「硬いが脆い」という性質から生ずる課題を解決することは, ,セラミックスの分野に限らず,積層(コーティング)を行う技術分野において一般的な課題であったとして,これを前提に,本件各発明の課題が一般的であったことを主張する。
しかし,仮に 「硬いが脆い」という性質が一般的に知られていたとし ,ても,それはごく一般的,概括的な性質にとどまるものであって,具体的な発明において解決すべき課題としては,問題の内容や原因をより具体化したものを提示しなければ,解決するための手段を示すことができないと解される。そして,ある具体的な課題が 「硬いが脆い」という一般的性 ,質に起因するものであるとしても,その具体的な課題自体が示されていないとすれば 「硬いが脆い」という性質が知られていたことをもって,そ ,の具体的な課題が示されていたとはいえない。そうすると,本件各発明の,「」 , 課題が硬いが脆い という一般的性質に起因するものであるとしても具体的に本件各発明の課題が開示されていたことを認めるに足りる証拠はないから,本件各発明の課題が一般的であったとは認められず,原告の上記主張は,採用することができない。
なお,原告は 「硬いが脆い」という性質から生ずる課題を解決するこ ,とが一般的な課題であったことと甲2との組み合わせから,本件各発明の課題が一般的に認識されていたことを主張するものとも解されるが,前記アのとおり甲2には本件各発明の課題が示されていないから,原告の上記主張も採用することができない。
ウこのように,本件各発明の課題が一般的であったとは認められず,本願出願前に本件各発明の課題を示す刊行物があったことを認めるに足りる証拠もない。
2課題を解決するための構成の容易想到性について( )空孔の導入1原告は,当業者は,本願出願時において,甲2,7,23により,皮膜中に空孔が存在することにより被膜の耐剥離性が向上するとの知識を有していたから,本件各発明において空孔の導入により耐剥離性を向上させることを容易に想到することができたと主張する。
しかし,以下の理由により,甲2,7,23によっても,本願出願時にお, , いて 皮膜中に空孔が存在することにより被膜の耐剥離性が向上することが当業者に知られていたと認定することはできないから,原告の主張は,採用することができない。
ア甲2について(ア)甲2において解決の課題とされる剥離は,溶射皮膜と母材との熱膨張差と熱伝導率の差により発生する剥離であり,加熱冷却による応力により発生するものであるのに対し,本件各発明において解決の課題とされる剥離は,ピッチング疲労が原因と考えられる欠け状剥離であり,表面圧の応力により発生するものである。
そして,甲2において空孔の導入により耐剥離性が向上するのは,表面溶射膜,多孔性溶射被膜及び母材の3層が存在し,表面溶射膜と母材との熱膨張差に基づく熱応力を,その中間に多孔質溶射被膜を設けて吸収することにより,熱応力に対する耐剥離性が達成されることによるものと認められ,本件第1発明のようなピッチング疲労を原因とする欠け状剥離を防ぐことによるものではない。そうすると,甲2に接した当業者は,空孔の導入が,熱膨張差に起因する剥離に対して有効な解決手段であることを理解し得るとしても,それがピッチング疲労を原因とする欠け状剥離に対しても有効な解決手段であることを理解し得るとは認められない。したがって,甲2には,本件各発明の課題であるピッチング疲労が原因と考えられる欠け状剥離についても空孔を設けることが耐剥離性向上に役立つ,ということまで開示されているということはできない。
(イ)原告の主張に対し原告は,甲2記載の発明において空孔が存在する膜が中間層であるこ, 。 とは 甲2から本件各発明を想到することの妨げとならないと主張するしかし,甲2記載の発明において空孔の導入により耐剥離性が向上するのは,表面溶射膜と母材との熱膨張差に基づく熱応力を,その中間に多孔質溶射被膜を設けて吸収することにより達成するものであるから,甲2記載の発明においては,空孔が存在する膜が表面溶射膜と母材の中間になければ,耐剥離性を向上させることはできない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
また,原告は,皮膜が剥離する原因は,甲2記載の発明と本件各発明とで異なるが,甲2に接した当業者は,空孔の存在が剥離を防ぐというメカニズムを十分に理解できるはずであると主張する。
しかし,甲2は,表面溶射膜と母材との熱膨張差に基づく熱応力をその中間の多孔質溶射被膜により吸収することによって剥離を防止することが記載され,前記( )イのとおり,甲2においては,外周摺動面に多3孔質皮膜を設けることは,耐摩耗性が劣ることから問題とされているのであって,甲2には,原因や部位を問わずおよそ空孔の存在が剥離を防,,, ぐということは記載されていないし 甲2の記載に照らして 当業者も原因や部位を問わずおよそ空孔の存在が剥離を防ぐとの理解をすることはないものと認められる。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
イ甲7について甲7には 「アルミナ粒子は“弱い”粒子として作用していることが示 ,唆される。なお“弱い”粒子の極端な場合がマトリックスとの結合性の悪い粒子や気孔ということになるが,このような粒子がマトリックスに存在する場合にも主クラックが粒子間で湾曲し,じん性増加にその程度は小さいが寄与することが明らかにされている (607頁左欄32〜39行) 」との記載があり,空孔の存在が “弱い”粒子の極端な場合として,靱性 ,性増加に,その程度は小さいものの,寄与することが示されている。しかし,甲7の記載に照らして,上記記載部分は,粒子分散されたセラミックスの強靱化に関するものである。本件各発明に係る窒化クロムの皮膜は,粒子分散しているものではないから,甲7によって,窒化クロムの皮膜中に空孔が存在することによりピッチングによる欠け剥離の抑制に効果があり被膜の耐剥離性が向上すること,が示されているとはいえない。
ウ甲23について甲23は,クロム皮膜(金属)に関するものであるところ,金属は一般的に展性,延性に富み,塑性変形が容易であることから外力に対して脆性破壊し難い。これに対し,本件各発明は,窒化クロム(セラミック)の皮膜に空孔を設けるものであり,セラミックである窒化クロムは,金属結合をもたず硬質であり,金属と比較して脆性破壊しやすいから,クロム皮膜(金属)に関する甲23により,セラミックである窒化クロムについて空孔の導入により耐剥離性を向上させることが示されているとはいえない。
原告は,甲23によれば,マクロクラックが母材に対するくさび作用を防止するという現象がクロムめっきのみならず種々の材質からなる皮膜にも当てはまる現象であることは理解可能であると主張する。しかし,甲23には,クロム皮膜のクラックについて記載があるのみであり,他の材料からなる皮膜に同様の現象が当てはまる旨の記載はなく,他に原告主張のとおり解すべき根拠は認められないから,原告の上記主張は,採用することができない。
エ原告は,空孔が皮膜の耐剥離性の向上に有効であることが分かっていれば,空孔の量や大きさなどは最適化の範疇であることなどとし,空孔率を所定の数値範囲に限定することによって本件各発明の進歩性が生ずることはない旨主張する。
しかし,本願出願前に,本件各発明において問題とされているピッチング疲労を原因とする欠け状剥離について,空孔の導入が耐剥離性の向上に有効であることを当業者が認識していたことを認めるに足りる証拠はないから,原告の上記主張は,その前提において採用することができない。
( )甲1に「空孔を導入すること」との構成を加えることが容易であること2について原告は,甲24で空孔率が5体積%以下の皮膜が「緻密」と扱われているから,例えば1.5%の空孔を「緻密」であると意識しつつ導入することは十分に考えられるなどと主張し,甲第1号証発明のピストンリングの表面に「緻密な被膜層」が設けられていることは,甲第1号証発明に,課題を解決するための構成として空孔の導入という構成を組み合わせることの妨げとはならないと主張する。
しかし,以下の理由により,原告の上記主張は,失当である。
ア甲1の記載によれば,甲第1号証発明は,ピストンリングの外周摺動面に,反応性イオンプレーティング法により形成される緻密な被膜層を形成し,ピストンリングの耐摩耗性,耐焼き付き性を向上させたものであり,耐摩耗性と耐焼き付き性を向上させるために緻密な被膜を形成するものであるから,皮膜に空孔を導入するとの構成とは相容れないものであり,甲第1号証発明のピストンリングの表面に「緻密な被膜層」が設けられていることは,甲第1号証発明に,課題を解決するための構成として空孔の導入という構成を組み合わせることの妨げとなるといえる。
イまた,確かに,甲24に記載された発明は,溶射被膜が5体積%以下の空孔を有することを特徴とするピストンリングの発明であるが(甲24,特許請求の範囲( ) ,同発明は,従来のプラズマ溶射では被膜中に空孔が1 )形成されやすかったとの問題点を解決するため,減圧プラズマ溶射法により,空孔率の低い溶射被膜を得ようとするものであって(甲24,1頁右下欄17行ないし2頁左上欄3行,2頁左上欄13ないし17行,2頁左上欄18行ないし右上欄13行,3頁左上欄6ないし14行 ,甲24で )は,溶射法により形成し得る被膜のうちで空孔率が通常より低いものとして5体積%以下の空孔が示されているものと認められる。
これに対し,本件明細書には 「ピストンリングのCrN皮膜は,その ,緻密度が高くなると,皮膜が脆く,欠け状剥離が発生し易くなる。剥離を防止するために,CrN皮膜の空孔率をあげ,空孔率を1.5%以上にする必要があり ( 課題を解決するための手段とその作用」の欄 【000 」「 ,7 )等の記載があることから,本件各発明は,空孔率を上げるために空 】孔率を1.5%以上とするものであって,イオンプレーティング法により形成し得る皮膜のうちで空孔率が通常より高いものとして皮膜の空孔率が1.5%以上であるものが示されているものと認められる。
そうすると,当業者が,甲24に5体積%以下の空孔が示されていることを参照したとしても,反応性イオンプレーティング法により緻密な被膜層を形成して耐摩耗性等を向上させようとする甲第1号証発明において,皮膜の空孔率を,イオンプレーティング法により形成される皮膜について通常より高い空孔率の数値と考えられる1.5%以上とすることは,甲第1号証発明の発明の課題に反するから,採用することはないものと解される。
3課題解決のための具体的な手段の容易想到性について( )陰極アークプラズマ式イオンプレーティング法による空孔の導入の容易1想到性について原告は,甲4,6の記載に照らして,当業者は,本件各発明の課題を解決するための構成を得る具体的な手段として,空孔を設けるために陰極アークプラズマ式イオンプレーティング法を使用することを,容易に想到することができたと主張する。しかし,以下の理由により,原告の上記主張は,採用することができない。
ア甲4について甲4には 「陰極アークプラズマ蒸着法を適用し,反応ガスおよび不活 ,性ガスのいずれも導入しない状態で基材1表面上に金属皮膜2を形成すれば,蒸発物質15から金属原子やイオンと共に放出されたマクロパーティ,」() クル21が金属皮膜2に適度な凹凸を形成し3頁右上欄3ないし8行と記載され,上記凹凸により金属被膜中に空孔が形成される可能性は示されているといえる。
しかし,甲4において凹凸が議論されているのは金属皮膜についてであ, () って 本件各発明の皮膜のようなセラミックに属する化合物 窒化クロムの皮膜についてではない。また,甲4には 「マクロパーティクルは膜の ,不均一性や表面粗度の悪化等の原因となり,好ましいものではないとされており,陰極アークプラズマ蒸着法による膜形成の欠点とされていた。そこで陰極アークプラズマ蒸着法で上記各種膜を形成するに際しては・・・・・・反応性ガスを真空容器10内に導入して行なうのが一般的であり,これによってマクロパーティクルの発生を大幅に減少し,実用上支障のない程度の均一な膜の製造が実施されてきた(3頁右上欄15行ないし左 。」下欄4行)との記載があり,反応性ガスを導入する場合には,上記のような凹凸は起こらず,実用上支障のない程度の均一な膜が製造されることが示されている。ところが,甲1の反応性イオンプレーティング法,本件各発明の陰極アークプラズマ式イオンプレーティング法は,いずれも反応性,, ガスを導入して被膜を形成するものであるから 甲4の上記記載によれば上記のような凹凸は起こらないものと認められ,甲4に,イオンプレーティング法による被膜の形成に際して空孔を設けることが示唆されているとはいえない。
イ甲6について(ア)甲6には,次のとおりの記載がある。
a「シリンダボア内に収容されたピストンと高ケイ素アルミニウム合金製の回転斜板との間に介装された半球状のシューを有する斜板式圧縮機において,高炭素鋼からなるシューの少なくとも斜板との摺接面にアーク式イオンプレーティング法によって被着されたセラミック膜を具備してなる斜板式圧縮機 (特許請求の範囲(1 ) 」)b「本発明は・・・シューの回転斜板との摺接面の油膜保持性を改善するとともにその摩耗抵抗を低減し耐摩耗性や耐焼付き性を改善した斜板式圧縮機を提供する (2頁右上欄15ないし18行) 」c「成膜後に,シュー11の表面を所定量・・・だけバフ研磨してセラミック膜20の表面に形成される尖鋭な凸部(ドロップレット)を平坦化した。
被着された後で表面が摩滅しない程度の量だけバフ研磨されたセラミック膜20は深さが平均約1〜2μmで直径が平均数μmの孔部が1平方cm当たり数千個以上形成されている(3頁左下欄8ないし 。」16行)(イ)前記(ア)の記載によれば,シューの回転斜板との摺接面の油膜保持性を改善するために,シューの少なくとも回転斜板との摺接面にアーク式イオンプレーティング法によって被着されたセラミック膜を具備してなる斜板式圧縮機において,このセラミック膜には深さが約1〜2μmで直径が平均数μmの孔部が1平方cm当たり数千個形成されているものと認められるから,アーク式イオンプレーティング法によって被膜を形成する際,孔部が形成されているといえる。
しかし,甲6の孔部は,シューの回転斜板との摺接面の油膜保持性を改善するために形成されたものであるから,甲6には,欠け状剥離を防止するために空孔を設けることについて示唆はない。
ウこのように,甲4には,イオンプレーティング法による被膜の形成に際して空孔を設けることが示唆されているとはいえず,甲6には,空孔に関する記載はあるものの,欠け状剥離を防止するために空孔を設けることについて示唆はない。
したがって,甲4,6の記載を参照したとしても,当業者は,本件各発明の課題を解決するための構成を得る具体的な手段として,空孔を設けるために陰極アークプラズマ式イオンプレーティング法を使用することを,容易に想到することができたとはいえない。
( )ピストンリング摺動面の皮膜中への空孔の導入の容易想到性について2原告は,甲9ないし11に開示されているように,ピストンリングの摺動面に位置する皮膜に空孔を設けることは,本願出願時において一般的に行われており,当業者の技術常識であったから,当業者は,本件各発明の課題を解決するための構成を得る具体的な手段として,ピストンリングの摺動面に位置する皮膜に空孔を設けることを,容易に想到することができたと主張する。
確かに,甲9ないし11には,ピストンリングの摺動面に開孔,空孔等を設けることが記載されているが,以下の理由により,原告の上記主張は,採用することができない。すなわち,ア甲9には,摺動部材の表面層(3)が,基板(2)より相互に近接して延出する複数の柱状晶(4)を有し,相隣る両柱状晶(4)間に,摺動面(3a)に開口してオイル溜となる空洞部(7)が形成されていることが記載されており(1欄4ないし8行,32ないし35行,2欄43ないし44行「摺動面3aにオイル溜となる多数の空洞部7が開口しているの ),で,表面層3が優れた潤滑能を発揮し,これにより表面層3の耐焼付き性を向上させることができる(3欄49行ないし4欄49行「表面層 。」 ),3の摩耗が進行する過程でも,摺動面3aには空洞部7が開口するので,前記同様の効果が得られる(5欄3ないし5行)と記載されていること 。」から,甲9記載の空洞部7は保油性のために設けられるものと認められ,甲9には,欠け状剥離を防止するために空孔を設けることについて示唆はない。
イ甲10には,特許請求の範囲に「ピストンリングの摺動面に溶射により形成される合金耐摩耗層がその分析値で重量比にてMo.30〜70%,Cr.20〜50%,C.0.3〜4.0%,その他酸素より構成され,空孔率2〜8%,硬度55(スーパーフイシヤル30-N)以上を有する如くなしたことを特徴とするピストンリング 」が記載されており 「空孔 。,率は2%以下では保油性が低下しそのため耐スカツフ性能を阻害し,一方8%以上となると粒子間結合及び母材との結合力が阻害され溶射層の剥離を生ずる(3欄17ないし20行)と記載されていることから,甲10 。」記載の空孔は保油性のために設けられるものと認められ,甲10には,欠け状剥離を防止するために空孔を設けることについて示唆はない。
ウ甲11には,実用新案登録請求の範囲の( )項に「3本又は3本以上の1リングより構成されるピストン装置に於いて,少なくとも,第一圧縮リングを鋼製リングとし,第二圧縮リングを焼結金属製リングとしたことを特徴とするピストン装置 」と記載され,( )項に「前記焼結製第2圧縮リン 。
2グに於いて摺動面の多孔率を5.0〜20.0%にしたことを特徴とする実用新案登録請求の範囲第( )項記載のピストン装置,( )項に「前記焼1 4 。」結金属製第二圧縮リングに於いて,摺動面の多孔率を0.5%〜15%にしたことを特徴とする実用新案登録請求の範囲第( )項記載のピストン装3置 」が記載されており 「鋼製第一圧縮リングと焼結金属製第二圧縮リン 。,グによる本考案ピストン装置に於いては,焼結金属製第二圧縮リングの多孔度が5%以下では,上記の如く鋼製第一圧縮リングの初期なじみ性及び耐摩耗性の向上が計れず,又,多孔度が20%以上では過度の含油によりピストン装置全体の潤滑油消費量の増大をきたし,潤滑油消費量減少の効果が得られない(3欄13ないし20行「この場合,多孔度が0. 。」),5%以下では硬質クロムメツキ鋼製第一圧縮リングの初期に於けるなじみ性の向上及び更なる耐摩耗性の向上が計れず又,多孔度が15%以上では過度の含油によりピストン装置全体の潤滑油消費量の更なる減少効果が得られない(4欄16ないし21行)と記載されていることから,甲11 。」記載の空孔は保油性のために設けられるものと認められ,甲11には,欠け状剥離を防止するために空孔を設けることについて示唆はない。また,甲11記載の発明においては,外周摺動面にそもそも皮膜が形成されていないから,皮膜に空孔を設けることも示されていない。
エこのように,甲9ないし11に開示された開孔,空孔等は,いずれも保油性を保持するためのものであり,本件各発明の課題を解決するための構成を得る手段として,ピストンリング摺動面の皮膜中へ空孔を導入することが示唆されていたとは認められない。
したがって,当業者は,本件各発明の課題を解決するための構成を得る具体的な手段として,ピストンリングの摺動面に位置する皮膜に空孔を設けることを,容易に想到することができたとは認められない。
4本件各発明の容易想到性の有無等について( )以上のとおり,本件各発明の課題が一般的であったとは認められず,本1願出願前に本件各発明の課題を示す刊行物があったことを認めるに足りる証拠はなく(前記1),また,当業者は,本願出願時において,皮膜中に空孔が存在することにより被膜の耐剥離性が向上するとの認識を有していたとは認められず(前記2),本件各発明の課題解決のための具体的な手段として,空孔を設けるために陰極アークプラズマ式イオンプレーティング法を使用すること,ピストンリングの摺動面に位置する皮膜に空孔を設けることを容易に想到することができたとは認められない(前記3)。したがって,本件第1発明は,本願出願時において,甲1ないし8に基づいて容易に想到することができたとは認められず,これは,本願出願前の優先権主張日当時においても同様であると解され(なお,甲5は,優先権主張日後,本願出願日前に頒布された刊行物である,本件第1発明は進歩性を欠くことはなかったものと 。)認められる。
( )なお,原告は,本件第2発明についても,甲3にイオンプレーティング2法によって形成された皮膜の断面が柱状組織となることが開示されていることから,進歩性は認められないと主張する。
しかし,本件第1発明は,甲1ないし8に基づいて容易に想到することはできず,進歩性があるものと認められるから,原告の上記主張は,その前提において採用することができない。
のみならず,甲3( 金属表面技術便覧(改訂新版 」社団法人金属表面技 「 )術協会編,日刊工業新聞社,昭和54年12月20日3版発行)は 「真空,」(.),「 」 メッキと気相メッキ9の章においてイオンプレーティングの方法(9・4・2)について説明したものであり 「 3)蒸発材料とサブストレ ,(ート材料 の項において 蒸発材料として 金属 合金 酸化物 窒化物 C 」,,,,,(rNを含む,炭化物が例示されており 「 4)イオンプレーティング膜 。) ,(」,「, , の表面と断面 の項において図9・29は いくつかの金属や酸化物を堆積速度の高い値で,高真空中で加熱したサブストレート表面に,蒸着した厚膜の表面と断面の構造である 」として,図9・29が示されている。そ 。
して,さらに,図9・29の説明として,物質の融点を尺度として,その25%のところ,50%のところの二つの境界で区別されたゾーン1,ゾーン2,ゾーン3において,ゾーン2は,バルクの密度の90%以上の緻密な膜になっており,断面の柱状組織が特徴的であり,温度が上がるにつれて柱のサイズが太くなってくることが記載されており,図9・29のゾーン2に当たる部分には柱状構造が図示されている。
上記の甲3の記載によれば,図9・29及びその説明において,イオンプレーティング法による蒸着によって断面が柱状組織の皮膜が形成されることは示されている。しかし 「 3)蒸発材料とサブストレート材料」の項にお ,(,,,,,(。), いて 蒸発材料として 金属 酸化物の他に 合金 窒化物 CrNを含む炭化物が例示されているにもかかわらず,次の「 4)イオンプレーティン (グ膜の表面と断面」の項において 「図9・29は,いくつかの金属や酸化 ,物を」と,金属や酸化物に限定して記載されていることからすると,図9・29及びその説明に示された柱状組織の皮膜は,金属,酸化物についてのものであることが認められ,窒化クロム(CrN)を含む窒化物について柱状組織の皮膜が形成されることは,甲3に示されているとは認められない。ところが,本件第2発明は,外周摺動面の窒化クロムよりなる皮膜の破断面に柱状の形態を有するものである。そうすると,甲3によっては,本件第2発明の皮膜の破断面に柱状の形態を有することが示されているとは認められない。したがって,甲3に,イオンプレーティング法によって形成された皮膜が柱状組織となることが開示されているとしても,それは金属,酸化物に関するものであり,それによって本件第2発明の進歩性が否定されることはない。
5結論以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がない。原告は,その他縷々主張するが,審決にこれを取り消すべきその他の違法もない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 中平健
裁判官 上田洋幸
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