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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20ワ25354特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
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関連ワード 確実性 /  使用方法 /  新規性 /  29条1項3号 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  慣用技術 /  技術的範囲 /  試行錯誤 /  技術常識 /  明確性 /  発明の詳細な説明 /  遡及 /  優先権 /  分割出願 /  警告 /  実施料相当額 /  クレーム /  登録実用新案 /  原出願日 /  参酌 /  技術的意義 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  間接侵害 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  方法の使用 /  のみ用いる /  業として /  侵害 /  損害額 /  実施料 /  不法行為(民法709条) /  発明の範囲 /  請求の範囲 /  拡張 / 
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事件 平成 20年 (ワ) 4394号 損害賠償請求事件
原告 P
同訴訟代理人弁護士山脇衛
同 横井盛也
被告パナソニック電工株式会社 (旧商号松下電工株式会社)
同訴訟代理人弁護士小松陽 一郎
同 平野和宏
同 福田あ やこ
同 井崎康孝
同 辻村和彦
同 井口喜 久治
同 森本純
同 中村理紗
同 山崎道雄
同訴訟復代理人弁護士宇田浩康
同 辻淳子
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2009/04/27
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1当事者の求めた裁判1原告1被告は,原告に対し,3600万円及びこれに対する平成20年4月16()日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2訴訟費用は被告の負担とする。
()3仮執行宣言()2被告主文と同旨第2事案の概要1前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがない )。
1当事者()被告は,電気機械器具及び各種機械器具の製造並びに販売,建築材料の製造並びに販売を目的とする株式会社である。
2本件特許権(),(「」,「」 原告は 次の特許権 以下 本件特許権 といい その特許を 本件特許という。また,下記「特許請求の範囲」の【請求項1】の発明を「本件特許発明1」と 【請求項3】の発明を「本件特許発明3」と 【請求項4】の , ,発明を「本件特許発明4」といい,これらを併せて「本件各特許発明」という )を有している (甲1) 。。
特許番号第3752588号発明の名称開き戸の地震時ロック方法出 願 日平成16年6月7日出願番号特願2004-197427号分割の表示特願平8-171559号の分割原出願日平成8年5月27日登 録 日平成17年12月22日特許請求の範囲【請求項1】マグネットキャッチなしの開き戸において開き戸側でなく家具,吊り戸棚等の本体側の装置本体に可動な係止手段を設け,該係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動しわずかに開かれる開き戸の係止具に係止する内付け地震時ロック装置を, , 開き戸の自由端でない位置の家具 吊り戸棚等の天板下面に取り付け前記係止後使用者が閉じる方向に押すまで閉じられずわずかに開かれた前記ロック位置となる開き戸の地震時ロック方法(本件特許発明1)【請求項3】請求項1の開き戸の地震時ロック方法を用いた家具(本件特許発明3)【請求項4】請求項1の開き戸の地震時ロック方法を用いた吊り戸棚(本件特許発明4)3構成要件の分説()本件特許発明1の構成要件は,次のとおり分説される(以下,各構成要件を,それぞれに付した符号に対応させて「構成要件A」などという。。)Aマグネットキャッチなしの開き戸においてB開き戸側でなく家具,吊り戸棚等の本体側の装置本体に可動な係止手段を設け,C該係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動しわずかに開かれる開き戸の係止具に係止する内付け地震時ロック装置をD開き戸の自由端でない位置の家具,吊り戸棚等の天板下面に取り付け,E前記係止後使用者が閉じる方向に押すまで閉じられずわずかに開かれた前記ロック位置となるF開き戸の地震時ロック方法。
4本件特許の出願の経緯()本件特許は,平成8年5月27日に出願された,発明の名称を「開き戸の地震時ロック装置 とする特許出願 特願平8-171559号:以下原 」( ,「」, 「」 出願 といい その願書に添付した明細書及び図面を併せて 原出願明細書という )について,平成16年6月7日にされた分割出願(以下「本件出 。
願」といい,その願書に添付された明細書及び図面を併せて「本件明細書」という )に基づいて登録されたものである。 。
5被告の行為()被告は,業として,別紙イ号物件目録ないしニ号物件目録記載のロック装置(以下,別紙イ号物件目録記載のロック装置を「イ号物件」と,別紙ロ号物件目録記載のロック装置を「ロ号物件」と,別紙ハ号物件目録記載のロッ「」 , 「」 ク装置を ハ号物件 と 別紙ニ号物件目録記載のロック装置を ニ号物件という。また,これらを併せて「被告各物件」ともいう )を取り付けた家 。
具,吊り戸棚を製造販売している(なお,同別紙の各部の名称につき,原告は「アーム4」を「係止体4」と 「突状部4a」を「係止部4a」と 「受 , ,け具5」を「係止具5」と 「舌片5c」を「弾性片5c」と 「本体91」 , ,を「棚本体91」とそれぞれ称するところ,本件においては被告各製品の構成について争いがあることから,機能的表現を排した別紙イ号物件目録ないしニ号物件目録記載の名称を用いることとする。。)2原告の請求原告は,被告各物件を取り付けた家具等を製造販売する被告の行為が本件特許権を侵害(直接侵害及び間接侵害)するとして,民法709条不法行為に基づく損害賠償の内金として,3600万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成20年4月16日から支払い済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払いを求めている。
3争点, 。
()1被告各物件及びこれを備える家具 吊り戸棚が本件各特許権を侵害するか(争点1)ア被告各物件は,本件特許発明1の方法の使用にのみ用いられるものか。
イ被告各物件を備える家具,吊り戸棚が本件特許発明3,4の技術的範囲に属するか。
2本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか。
()ア分割要件違反 (争点2-1)(「」。) 本件出願は特許法44条1項に規定する要件 以下 分割要件 というを充たすか。
イサポート要件違反 (争点2-2)本件特許に係る特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号の規定する要件(以下「サポート要件」という )を充たすか。 。
明確性要件違反 (争点2-3)本件特許に係る特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号の規定する要件(以下「明確性要件」という )を充たすか。 。
進歩性欠如 (争点2-4)本件各特許発明は,米国特許第5035451号明細書等に基づいて当業者が容易に発明することができたものか。
3損害の額 (争点3)()第3当事者の主張1争点1(本件各特許権の侵害の有無)【原告の主張】1被告各物件の構成()被告各物件は,次のとおりの構成を備える(その詳細は,別紙「イ号物件の構成に関する当事者の主張」ないし「ニ号物件の構成に関する当事者の主張」の「原告の主張」欄に記載のとおりである。。)アイ号物件の構成aマグネットキャッチなしの開き戸である。
b1開き戸側でなく家具・吊り戸棚等の本体側に内付け地震時ロック装置の装置本体がある。
b2装置本体に可動な係止手段を設けている。
c係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動しわずかに開かれる開き戸の係止具に係止する構造である。
d内付け地震時ロック装置を開き戸の自由端でない位置の家具,吊り戸棚等の天板下面に取り付ける構造である。
e係止後使用者が閉じる方向に押すまで閉じられずわずかに開かれた前記ロック位置となる。
イロ号物件の構成ロ号物件は,イ号物件のロック装置本体側に,扉が閉じられて棚や家具本体と接触する際の衝撃緩和のためのダンパーが付加されただけのもので, ()。 あり ロック装置部分の構造についてはイ号物件 a〜e と同じであるウハ号物件の構成上記別紙「イ号物件の構成に関する当事者の主張「ハ号物件の構成」,に関する当事者の主張」のとおり,装置本体(2)がダボ(9)で固定されるか(イ号物件 ,ネジで固定されるか(ハ号物件)の違いがあるだけで, )イ号物件の構成と同じである。
エニ号物件の構成上記別紙「ロ号物件の構成に関する当事者の主張「ニ号物件の構成」,に関する当事者の主張」のとおり,装置本体(2)がダボ(9)で固定されるか(ロ号物件 ,ネジで固定されるか(ニ号物件)の違いがあるだけで, )ロ号物件の構成と同じである。
2構成要件充足性(間接侵害及び直接侵害)()ア上記(1)によると,被告各物件の構成aないしeは,本件特許発明1の構成要件のうちAないしEを全て充たしている。
ところで,被告各物件は本件特許発明1の地震時ロック方法の使用のみ用いるものである。被告は,被告各物件を備えた家具や吊り戸棚を業として生産,譲渡等しているので,これらの行為は,原告の本件特許権1を間接的に侵害する。
, , なお 被告各物件が実際に使用されるのは一般家庭においてであるから被告各物件の使用行為は特許法68条の「業として」の実施に該当せず,直接侵害に当たらない余地もある。しかし,被告各物件のように,大量に家庭内実施を誘発する行為についてまで同条を根拠に侵害の責任を免れさせるような解釈をすべきではない。
したがって,被告が被告各物件を生産,譲渡等する行為は,被告各物件の使用が家庭内で行われるとしても,特許法101条4号間接侵害に当たる。
また,原告は平成18年4月4日付けで被告に特許侵害警告をしている(甲10の1・2)ので,警告日以後の被告の上記行為は特許法101条5号間接侵害にも該当する。
イまた,被告は,被告各物件を家具又は吊り戸棚(以下 「家具等」とも ,いう )に装備して,製造販売しているのであるから,これらの家具は本 。
特許発明3の技術的範囲に属し,これらの吊り戸棚は本件特許発明4の技術的範囲に属する。
【被告の主張】被告各物件は本件特許発明1の地震時ロック方法の使用に用いられる物ではない。また,被告各物件を取り付けた家具等は本件特許発明3及び4の技術的範囲に属さない。
1被告各物件の構成()原告の主張する被告各物件の構成に対する認否及び被告の主張は別紙「イ号物件の構成に関する当事者の主張」ないし「ニ号物件の構成に関する当事」 「」「」。 者の主張 の 被告の認否 欄及び 被告の主張 欄に記載のとおりである2本件各特許発明技術的範囲()本件各特許発明には,機能的表現が用いられているところ,かかる機能的表現を用いた特許発明に係る技術的範囲は,明細書に記載された具体的な構成に開示された技術思想に限定して解釈すべきである。したがって,本件明細書に記載された実施例に示された構成のみが,本件各特許発明技術的範囲に属するというべきである。
この点,本件明細書の発明の詳細な説明【0006 (以下,本件明細書 】に記載された発明の詳細な説明について,各段落に付された番号を付して,「段落【0006 」などと表示する )及び図1ないし図4(以下,本件 】。
,「」。), 明細書の図面については 各図の番号を付して 図1 などというには地震のゆれを直接の原因として移動し,重力により下方に動く係止手段や,係止手段の戻り路に設けられ,係止手段を押さえ,係止手段をロック位置で停止させる弾性手段を有する実施例しか記載されていないのであるから,本件各特許発明技術的範囲は,同実施例の上記構成に限定して解釈されるべ(, 「」 きである 以下 本件明細書の上記部分に記載された実施例を 本件実施例という。。)3被告各物件との対比()アアーム(4)及び球(3)についてアーム(4)及び球(3)の作用(ア)被告各物件のアーム(4)は,地震のゆれで動くものではなく,球(3)がゆれにより逆円錐状凹部(2b)から,凹溝部(2a)に落ち込み,アーム(4)の後部を押すことにより,アーム(4)は重力に抗して上方に動き,受け具(5)と係合するものである。
球(3)の技術的意義(イ)地震発生時に,家具等の扉が開き,内容物が飛び出さないようにするためには,地震発生からできる限り短時間の間に,アーム(4)と受け具(5)が係合する必要があり,そのためには,より小さな加速度でアーム(4)が作動し,受け具(5)と係合する必要がある。そこで,被告各物件では,小さな加速度でもアーム(4)の振れる角度を大きくするための構成として球(3)を採用したものである。また,球(3)はアーム(4)の動きを開始させる役割を果たしているだけでなく,アーム(4)が動き始めた後も,受け具(5)との係合位置に達するまで,アーム(4)の後部を押すことにより重力に抗してアーム(4)を上方へ動かすものであり,アーム(4)を動かす積極的な役割を果たしている。さらに,球(3)は,地震のゆれで凹溝部(2a)に落ち込み,アーム(4)の後部を押すので,万が一,アーム(4)が受け具(5)との係合位置に達するのが早いため,その時点で開き戸が十分に開いておらず,受け具(5)がアーム(4)との係合位置まで達していない場合等であっても,重力に抗して,アーム(4)が上方に動いた位置を保持することができ,受け具(5)がアーム(4)との係合位置に到達するのを待って,係合することができる。
加えて,被告各物件においては,地震が発生すると,装置本体(2)内に形成された逆円錐形凹部(2b)に載置されていた球(3)が,該凹部(2b)から離脱し,その後は,前後方向だけでなく,装置本体壁面側に押し付けられる方向以外は,どのような方向にも移動可能であり,またアーム後端部 4b が装置本体(2)の内側幅一杯の幅を有するため 球(3) () ,がどのような移動経路をとっても,球(3)がアーム後端部(4b)を押すことが可能となっている。そのため,被告各物件においては,地震のゆれの方向が,アームの長手方向と平行な方向でなくとも,より小さな加速度でアーム(4)が作動することが可能であり,その設置方向如何にかかわらず,耐震ラッチとして有効に機能し得るものである。
イ舌片(5c)について舌片(5c)の作用(ア)被告各物件においては,舌片(5c)の先端と鉤状部(5b)の間の最小の間隔が,アーム(4)の突状部(4a)の径よりも小さくなる構成としてある。したがって,突状部(4a)の中央部に突き当てられた舌片(5c)は,扉の移動に伴って徐々に上方に弾性変形され,突状部(4a)が鉤状部(5b)の湾曲部内側に入り込んだ位置で,舌片(5c)の先端を突状部(4a)が乗り越え,この乗り越えた位置で舌片(5c)は弾性復帰され,再び,鉤状部(5b)の先端と舌片(5c)との間隔が突状部(4a)の径よりも小さくなるに到り,突状部(4a)が,鉤状部(5b)と舌片(5c)と脱落防止部(5d)で形成される空間部(5e)に遊嵌されて,突状部(4a)の抜け出しを阻止し,受け具(5)に係合される。
ロック解除時は,開き戸を閉止方向に舌片(5c)の戻り抵抗以上の力で押し,それにより,突状部(4a)を舌片(5c)に押し付けて,再び舌片, , (5c)を弾性変形させ 舌片(5c)の先端と鉤状部(5b)との間を広げて突状部(4a)が鉤状部(5b)と脱落防止部(5d)との間隙を通過して空間部(5e)より脱落させる。
舌片(5c)の技術的意義(イ)上記のように,舌片(5c)は,空間部(5e)から突状部(4a)が抜け (ア)出すのを阻止するとともに,舌片(5c)の先端と鉤状部(5b)の間を突状部(4a)が出入り可能にするために弾性変形可能な部材としているが,突状部(4a)を空間部(5e)に遊嵌するにすぎず,開き戸が閉じる方向に押されるまでの間ロック位置でアーム(4)を押さえるものでも,アーム(4)をロック位置で停止させるものでもない。
,,「」「」 よって 被告各物件は係止状態の保持 方法として 弾性で保持するものではないところ,本件各特許発明には係止手段の戻り路に弾性手段があり,これによる弾性抵抗によって初めて本件各特許発明特有の作用効果を奏するのであるから,舌片(5c)の技術的意義とは異なるものである。
ウ以上のように,少なくとも,上記被告各物件の構成及びその技術的意義は,本件各特許発明実施例のそれとは全く異なるものである。したがって,被告各物件はいずれも本件各特許発明技術的範囲に属さない。
【原告の反論】1本件各特許発明技術的範囲について()特許請求の範囲が機能的に表現されている場合には,?@ 原理は同じであるか,?A 当業者が容易に想到できたかという基準で,その技術的範囲に含まれるか否かを判断すべきである。
2アーム(4)及び球(3)について()ア球(3)が動き開始からロック位置に到るまでアーム(4)を押すという点については,たとえ球(3)を介したとしてもアーム(4)が「ゆれの力で」ロック位置に到ることは同じであるから,構成要件Cの「ゆれの力で」に該当するし,本件実施例とも同じである。
被告各物件と本件実施例との差異は,係止手段が動く方向が上方か,下方かの差異程度であり,技術思想が異なることにはならない。
イ地震のゆれが小さくてもロック可能であるという点についても,球(3)により感度が上昇したということであり,球(3)というころがり摩擦を用いただけのことである。ころがり摩擦を用いることは慣用技術であるのみならず,原出願明細書で開示された図6ないし図9の実施例を見れば当業者は容易に想到可能であり,技術思想が異なるものではない。
ウ色々なゆれの方向でもロック可能という点についても,球(3)は方向性がないから,原出願明細書で開示された球を用いた図6ないし図9の実施例から当業者は容易に想到可能である。また,原出願明細書で開示された図26の実施例は球を用いるものではないが 「南北方向のみならず東西 ,方向の感度の向上は可能」とされ,色々なゆれの方向を検出するという課題は開示されており,両者を見れば当業者は容易に想到可能である。
エ球(3)によってアーム(4)をロック位置に保持するという点についても,本件実施例と同じである。すなわち,図2の係止手段(4)はロック位置にあるが,その位置は安定位置であり,強い戻りのゆれがない限り,その位置に保持され図1には戻らないところ,被告各物件の球(3)も,強い戻りのゆれがない限り凹溝部(2a)から逆円錐状凹部(2b)に戻らないのであるから何ら差異はない。
3舌片(5c)について()被告は,舌片(5c)はアーム(4)を弾性で保持するものではないと主張す, , るが 舌片(5c)によってアーム(4)がロック位置に閉じる方向に保持され「わずかに開かれたロック位置 (構成要件E)になるのであるから,本件 」実施例と全く同じである。
4以上より,被告の主張によっても,被告各物件は本件各特許発明の技術的()範囲に属する。
2争点2-1(分割要件違反)【被告の主張】1地震時ロック装置本体の構成(取付位置を除く)について()ア原出願明細書には多数の地震時ロック装置本体の構成が開示されているものの,そのうち,本件明細書において本件各特許発明実施例(本件実施例)として記載されたのは,原出願明細書の段落【0005】及び図1ないし図4に記載された構成わずか1例のみである。
,, , また 原出願明細書には 本件実施例と同一の装置本体の構成が比較例すなわち,原出願に係る発明と比して作動の確実性が低い構成として記載されているのであり(段落【0012,同構成に係る発明の特有の課 】)題,技術的意義及び作用効果については,全く記載されていない。
イしかも,原出願明細書の段落【0005】及び図1ないし図4に記載された地震時ロック装置は,停止部(3a)と弾性手段(6)とを有しているところ,停止部(3a)は,係止手段(4)を停止させ,開き戸(2)をその位置でロックさせるものであり,また,弾性手段(6)は,ロック位置で係止手段(4)を押さえ,停止させ,地震が終わり開き戸(2)を開くためにこれを強く押すことにより退いていき,一定以上退くと押さえが外れるものである 停止部(3a)と弾性手段(6)とは これらの構成を欠くと 開き戸(2) 。 ,,が所望の位置で停止せず,また,係止手段(4)も所望の位置で停止することがないのであるから,前記地震時ロック装置にとって不可欠の構成である。
しかるに,本件各特許発明は,原出願明細書に記載された上記地震時ロック装置にとって不可欠の構成である停止部(3a)及び弾性手段(6)なる構成を省くことによって拡張してクレームアップしている。
ウよって,本件各特許発明は,原出願明細書には記載されていない事項を含んでおり,本件出願は分割要件を充たさない。
2取付位置の構成について()ア原出願明細書には,地震時ロック装置の取付位置につき,原出願に係る発明と対比させるための他の地震時ロック装置の例として 「図20は比 ,較のための他の地震時ロック装置を示し,該ロック装置は開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置に取り付けられた点に重要な特徴がある」との記載がなされているとともに(原出願明細書の段落【0009,図】)20には同取付位置が図示されている。
ここで 「離れる」とは 「遠ざかった位置にある。距離をおく(広 ,, 。」辞苑第6版)を意味する言葉であるから 「開き戸(2)の自由端から蝶番 ,側へ離れた位置」とは,開き戸において自由端から蝶番側へ遠ざかった位置,自由端と一定の距離をおいた位置であると解される。
しかるに,本件各特許発明は 「開き戸の自由端でない位置」に地震時 ,ロック装置を取り付けることをその要件としており,限りなく自由端に近接していることにより自由端から蝶番側へ遠ざかった位置とはいえない位置までをも広く含む概念である。
したがって,本件各特許発明は,限りなく開き戸の自由端に近接しており自由端から蝶番側へ遠ざかった位置とはいえない位置という,原出願明細書には開示されておらず,かつ,該明細書等の記載から自明といえない事項を含んでいる。
イ原出願明細書の段落【0009】は,同明細書の図18,図19,図21ないし図24にそれぞれ記載された各装置が,天板下面(T位置 ,底)板上面(B位置 ,側板(S位置)にそれぞれ取付可能である旨記載する )とともに,各位置に取り付けられた場合の係止手段の突出方向について記載しているが,同記載は同明細書の段落【0005】及び図1ないし図4に記載された装置について,一義的に明確な取付位置を開示するものではない。
原出願明細書の段落【0009】には 「図20は比較のための他の地 ,震時ロック装置を示し,該ロック装置は開き戸(2)の自由端から蝶番側へ」, 離れた位置に取り付けられた点に重要な特徴がある と記載されているが「他の地震時ロック装置」がいかなる装置を指すのか明確ではないから,かかる記載も,同明細書の段落【0005】及び図1ないし図4に記載された装置本体を「開き戸の自由端から蝶番側へ離れた位置に取り付ける」構成を開示したものではない。
しかるに,本件各特許発明は,原出願明細書の段落【0005】及び図1ないし図4に記載された装置本体と,同明細書の段落【0009】及び図20等に記載された他の装置本体にかかる取付位置とを,新規に組み合わせて,新たな1個の発明としたのであり,また,原出願明細書において単に天板下面を意味するにすぎなかった「T位置」について,開き戸の自由端でない位置の意義を含むものとして記載しているのである。
ウよって,本件各特許発明は,原出願明細書に開示されておらず,かつ,該明細書等の記載から自明といえない事項を含むものであって,本件出願は分割要件を充たさない。
3以上のとおり,本件出願は分割要件を充たさないから,本件各特許発明の()特許要件の判断の基準日は,その現実の出願日である平成16年6月7日となる。そして,同日より前である平成10年2月3日に,原出願に係る特開(),, 平10-30372号公報 甲7 が公開されており 同公開特許公報には本件実施例に用いられる地震時ロック装置と全く同一の地震時ロック装置及びその使用方法が開示されており,該地震時ロック装置及びその使用方法を用いた家具等は,自明のものであるから,本件各特許発明新規性がないか(特許法29条1項3号 ,少なくとも進歩性がない(同法29条2項 。 ) )【原告の主張】1地震時ロック装置本体の構成について()本件各特許発明は,原出願明細書の段落【0005】及び図1ないし図4に明示的に記載された発明である。同段落において,同発明は,原出願に係る発明の理解を容易にするための「比較のためのロック装置」として記載されており 単に原出願に係る発明に比して地震の検出感度が落ちるだけで 原 , (出願明細書の段落【0012,発明の属する技術分野,従来の技術,発 】)明が解決しようとする課題,作用効果等も共通している。
また,原出願明細書の段落【0005】及び図1ないし図4の記載によれば,本件各特許発明が当業者にとって容易に再現可能なまでに技術的意義が開示されている。
2取付位置の構成について()ア「開き戸の自由端でない位置」について原出願明細書の段落【0009】には 「開き戸(2)の自由端から蝶番 ,側へ離れた位置」との記載と同時に 「自由端に取り付けると蝶番(特に ,マグネットキャッチを用いずばね付き蝶番だけで開き戸(2)の閉止力を確保している場合)から遠いため地震時の開き戸(2)の動きが最も大きくロ」, ック機構にとってロックが不安定になるという問題が生じる場合がある「地震時ロック装置を開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置に取り付けると開き戸(2)の動きが少なくなるためロック機構にとってロックが確実になる」と明確に定義されているのであるから 「自由端から蝶番側 ,へ離れた位置」の概念と「自由端でない位置」の概念は同一と解釈すればよい。
よって 「自由端でない位置」は原出願明細書に開示され,明確に定義 ,された概念であって,その表現を本件特許の特許請求の範囲にそのまま用いているにすぎない。
イ取付位置について原出願明細書の段落【0005】及び図1ないし図4に記載されたロック装置は,下向きに突出する同明細書の図18及び図19のロック装置とその作動が同じであり,また,その係止手段は磁力を利用しないため必然的に「下向きに突出する」ものであるから,同明細書の段落【0005】及び図1ないし図4に記載のロック装置についても,同明細書の段落【0009】及び図25に開示されたT位置を取付位置とすべきことは同明細書に接する当業者にとって自明であり,一義的明確に取付位置を開示したものといえる。
ウ以上のように,原出願明細書の図20のロック装置の位置及び同明細書,「 」, の図25のT位置は いずれも 自由端から蝶番側へ離れた位置 でありまたそれは「自由端でない位置」と同義であるから,同図20及び図25の両者を原出願から分割した本件出願は分割要件を充たす。
3争点2-2(サポート要件違反)【被告の主張】1本件各特許発明における地震時ロック装置の取付位置については,構成要()件Dで「開き戸の自由端でない位置」とされているが,同記載は,広く自由端に近接した位置及び蝶番に近接した位置をも含むものである。
2本件各特許発明は,作動が確実な開き戸の地震時ロック方法を提供するこ()とを課題とするものであるところ(段落【0003,かかる課題を解決 】)する構成が唯一記載された段落【0009】では,地震時における開き戸の動きが少なくなるよう,開き戸の自由端から離れた位置に地震時ロック装置を取り付ける構成を,一応は開示しているが 「開き戸(2)の自由端から蝶 ,番側へ離れた位置」を超えて,広く自由端に近接した位置をも含む「開き戸の自由端でない位置」について,作動が確実な開き戸の地震時ロック方法を実現するための具体的位置について,何ら開示しておらず,示唆すらしていない。
3よって,本件出願は,特許を受けようとする発明において,発明の詳細な()説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されていないた, , め 発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであってサポート要件を充たさない。
【原告の主張】1本件各特許発明の技術課題()本件各特許発明において,ロック作動開始が確実との技術課題解決に対応する構成要件は「自由端でない位置」であり,ロック作動継続が確実との技術課題解決に対応する構成要件は「押すまで閉じられずわずかに開かれた」である。
2「自由端でない位置」について()「自由端でない位置」について,たとえ「自由端に近接した位置」であっても,自由端に位置する場合より開き戸の動きはわずかでも少なくなるから「作動が確実」との課題解決の効果はある。また 「蝶番に近接した位置」 ,であっても,天板下面に取り付ける以上,蝶番からわずかでも離れるのであるから,その位置で開き戸を「わずかに開かれた」状態にすることは調整により可能でありロックを作動させることができる。
よって 「自由端でない位置」が自由端や蝶番に近接していても「作動が ,確実」との課題解決は可能なのであり,効果はゼロではないのであるから,サポート要件を充たす。
仮に,課題解決のための効果が量的に一定程度を超えていなければならないとしても,その効果を得るための具体的位置が発明の詳細な説明から当業,。,【】, 者にとって自明であれば サポート要件を充たす この点 段落 0009図3及び図4によれば,いかなる程度自由端から離れた位置に地震時ロック装置を取り付ければよいかは,当業者であればおよそ見当が付く程度に示唆されており,実際に実施しようとする者が希望する量的程度に応じて取付位置は試行錯誤をしてみれば極めて容易に判明するのであるからサポート要件を充たす。
3「押すまで閉じられずわずかに開かれた」について(),「 」 本件各特許発明は閉じる方向に押すまで閉じられずわずかに開かれたとの構成(構成要件E)により,地震のゆれがあっても扉等はわずかに開いた状態で静止し,わずかに開いた隙間から小物は落下するが大きな危険物の落下は防止できるという効果を奏するのであり,この効果は 「作動が確実 ,な開き戸の地震時ロック方法」の達成そのものである。
よって,仮に「自由端でない位置」との構成が課題解決の効果として不十分であったとしても 「押すまで閉じられずわずかに開かれた」との構成は ,「作動が確実」との課題に含まれるロック作動継続が確実という技術課題解決に対応する構成であり,その結果,本件各特許発明は「作動が確実」との課題を解決する手段を反映するのであるから,サポート要件を充たす。
4争点2-3(明確性要件違反)【被告の主張】1本件各特許発明の「わずかに開かれる」及び「わずかに開かれた」の文言()は,極めて抽象的な表現であるところ,本件明細書には,同文言に関して,段落【0006】に「更にゆれの力により図3に示す様に開き戸(2)がわずかに開くと係止手段(4)の係止部(4a)が係止具(5)の係止部(5b)に係止される。この状態で係止手段(4)の係止部(4a)は装置本体(3)の停止部(3a)で停止され開き戸(2)はその位置でロックされる 」と記載されているにす 。
ぎない。
かかる記載に照らしても,作動を確実にするとの本件各特許発明の課題に照らしても,また,図1ないし図4を参酌しても 「わずかに」で表される ,程度は,当業者が理解することができず,全く不明確である。
2また,本件各特許発明の「係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物と()してロック位置に移動」及び「開き戸の自由端でない位置」なる構成についても,本件明細書の記載を参酌しても,本件実施例以外にいかなる構成であれば本件各特許発明構成要件を充足するのか当業者が理解することができず,全く不明確である。
3よって,本件特許請求の範囲の記載は,明確性要件を充たしていない。
()【原告の主張】1「わずかに開かれた」は 「わずかに開かれたロック位置」として十分説() ,明されているし,普通の日本語において「わずかに開かれた」とは 「閉止,状態でなくまた完全に開かれた状態ではない」との意味であるから何ら不明確ではない。
2また 本件明細書の段落 0006 にはわずかに開かれる 及び わ() ,【】,「」「ずかに開かれた」の文言に関して 「わずかに開かれる」で表される開き具 ,合が,係止手段(4)の係止部(4a)が係止具(5)の係止部(5b)に係止され,その状態で停止された位置での開き具合であることが明確に説明されている。
さらに図3及び図4を見れば 「わずかに開かれた」の意味はよりいっそ ,う正確に理解することが可能である。
3よって 「わずかに開かれる」及び「わずかに開かれた」の意義は,いず() ,れも明確である。
5争点2-4(進歩性の欠如)【被告の主張】仮に,本件出願が分割要件を充たし,出願日の遡及が認められるとしても,本件各特許発明は,以下のとおり,原告が主張する最先の優先権主張日である平成7年9月27日前に頒布された刊行物である米国特許第5035451号明細書(乙3:以下 「乙3文献」という )等に基づいて,当業者が容易に ,。
発明することができたものである。
1乙3文献記載の発明()乙3文献(FIG.1,FIG.2,訳文4頁15〜18行,同頁28〜30行,5頁17〜26行,6頁1〜3行,同頁15〜21行)には,マグネットキャッチが具備されていないキャビネットにおいて,ドア又はドアフレーム部材18に動作可能なラッチアーム12を設け,前記ラッチアーム12は地震等の外乱の強勢振動によって上方の係合直前の位置に移動し,ドアがさらに外方に移動することによって,前記ラッチアーム12はキャビネット本体の天板下面に設けられた装置本体の構成要素である保持体26と係合してドアを所定位置に保持し,使用者がドアを全閉方向へ閉めるまでの間は,ドアがわずかに開かれたままとなり,使用者がドアを全閉方向へ閉めることにより,はじめて,ドアの保持状態が解除される外乱応答性磁性ラッチの構成が開示され,さらに,該外乱応答性磁性ラッチにおいて,ベースプレート16をキャビネット19本体内に固定し,ベースプレート22をドア18側に固定することも開示されている(以下,乙3文献に記載された上記発明を「乙3発明」という。。)本件特許発明1と乙3発明とは,少なくとも,マグネットキャッチなしの開き戸において,装置本体に可動な係止手段を設け,該係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動しわずかに開かれる開き戸の係止具に係止する地震時ロック装置を家具,吊り戸棚等の天板下面に取り付け,前記係止後使用者が閉じる方向に押すまで閉じられず,わずかに開かれた前記ロック位置となる開き戸の地震時ロック方法の点において一致する。
他方,せいぜい,本件特許発明1では,係止手段が家具,吊り戸棚等の本体側の装置本体に設けられているのに対し,乙3発明では,開き戸側の装置本体に設けられている点(以下「相違点?@」という,本件特許発明1で 。)は,地震時ロック装置が開き戸の自由端でない位置に取り付けられているのに対し,乙3発明では,開き戸の自由端でない位置に取り付けられるか否かにつき明確な記載がなされていない点(相違点?A)において相違するだけである(なお,相違点?@については,乙3文献の好適実施例の詳細な説明にも記載されているともいえる。。)2実公平2-41267号公報(乙4:以下「乙4文献」という )の記載() 。
乙4文献(第1図〜第3図,3欄15〜18行目)記載の「扉開放阻止部材1」は,開き戸の開放を阻止する部材であって,本件各特許発明の「係止手段」に相当するものであるから,乙4文献は,係止手段を家具,吊り戸棚等の本体側に設ける構成を開示するものである(相違点?@に関する構成 。)また,乙4文献(第1図)には,家具類の扉開放防止具が開き戸の自由端でない位置に取り付けられている構成が明示されているところ,乙4文献の「家具類の扉開放防止具」は,本件各特許発明の「地震時ロック装置」に相当するものであるから,乙4文献は,地震時ロック装置が開き戸の自由端でない位置に取り付けられる構成を開示するものである(相違点?Aに関する構成 。)(「」。)()3登録実用新案第3015552号公報 乙5:以下 乙5文献 というの記載乙5文献(段落【0018 )には,レバー5が家具本体側に設けられる 】構成が開示されている。また,乙5文献(図5,段落【0010 )の記載 】によれば,乙5文献の「レバー5」は,家具扉の開放を阻止する手段であって,本件各特許発明の「係止手段」に相当するものである。
よって,乙5文献には,係止手段を家具本体側に設ける構成が開示されている(相違点?@に関する構成 。)4周知技術(), () 係止手段を家具 吊り戸棚等の本体側の装置本体に設ける構成 相違点?@は,米国特許第5152562号明細書(乙12)及び米国特許第5312() , 143号明細書 乙13 等多数の公知文献に開示されているところであり地震時ロック装置の技術分野において,周知技術と位置づけられるものである。また,ロック装置を開き戸の自由端でない位置に取り付ける構成(相違点?A)は,特開平7-71146号公報(乙8 ,実開平5-6062号公 )報(乙9)及び実開平6-82340号公報(乙10)等多数の公知文献に開示されているところであり,ロック装置の技術分野において周知技術と位置づけられるものである。
5容易想到性()乙3文献及び乙4文献記載の各発明は,いずれも地震時ロック装置にかかる発明であって,その技術分野は全く同一である。また,乙4文献及び乙5文献記載の各発明に代表される係止手段を家具,吊り戸棚等の本体側に設ける構成は,ロック装置の技術分野において周知技術である。そして,乙3発明では係止手段が開き戸側に設けられているところ,これを,家具,吊り戸棚等の本体側に設ける構成に置き換えるに当たり,阻害要因となるべき事情は全くない。
一方,ロック装置を開き戸の自由端でない位置に取り付ける構成は,ロック装置の技術分野において周知技術と位置づけられるものであり,乙3発明の装置本体を,開き戸の自由端でない位置に取り付けるに当たり,阻害要因となるべき事情は全くない。
よって,本件特許発明1は,乙3発明に乙4文献記載の構成を組み合わせることによって,また,乙3発明に乙4文献及び乙5文献記載の各発明に代表される周知技術を組み合わせることによって,当業者が容易に想到できたものである。また,本件特許発明3及び本件特許発明4は,それぞれ,本件特許発明1の地震時ロック方法を用いた家具,吊り戸棚を発明の対象とするものであるから,これらについても容易想到である。
6以上により,本件各特許発明は,いずれも進歩性(特許法29条2項)が()ない。
【原告の主張】1乙3発明と本件各特許発明との対比()乙3発明では,開く方向のゆれの後で閉じる方向のゆれがかかると開き戸は何の抵抗もなく閉じられるから,本件各特許発明の「押すまで閉じられずわずかに開かれた」とは異なる。すなわち,乙3発明は開き戸のゆれによる開く動きでわずかに開かれて係止し,逆にゆれによる閉じる方向のゆれによって開き戸が閉じられ係止が外れて抵抗なく閉じられる。そうすると,地震の開方向のゆれと閉方向のゆれが繰り返されるごとに係止手段はロック位置↑安定位置(解除位置)↑ロック位置↑安定位置(解除位置)と繰り返されることになり,乙3発明のロック作動はゆれの波ごとに解除されるからロック作動ミスの危険が高い。
これに対して,本件各特許発明は「閉じる方向に押すまで閉じられずわずかに開かれた」との構成により,地震のゆれによって扉等が係止体に係止した後は扉等は開閉の動きを停止するから,地震のゆれがあっても扉等はわずかに開いた状態で静止し,わずかに開いた隙間から小物は落下するが,大きな危険物の落下は防止できるという効果を奏する。
よって,被告が引用する乙3発明は 「本体側の装置本体に可動な係止手 ,段を設け るものではなく 扉側に可動な係止手段を設けている点 及び 使 」, ,「用者が閉じる方向に押すまで閉じられずわずかに開かれた」ものではなく,ゆれの波ごとにロック↑解除↑ロック↑解除を繰り返すものであるという点において,本件各特許発明と決定的に異なっている。
2他の引用例の適用について()乙4文献及び乙5文献は「地震時ロック」ではあるが,ロック位置については わずかに開かれたロック位置 ではなく また係止状態についても 閉 「 」,「じる方向に押すまで閉じられ」ないものではない。乙第12号証及び乙第13号証は,係止状態について「閉じる方向に押すまで閉じられ」ないものではなく,取付位置についても「内付け 「天板下面に取り付け」ではない。 」乙第6号証ないし乙第10号証はすべて地震時ロックではないから本件各特許発明とは関係がない。
よって,本件各特許発明の重要な構成要件である「閉じる方向に押すまで閉じられず」という構成が全く開示されておらず,示唆すらされていない。
6争点3(損害額)について【原告の主張】1被告は被告各物件を装備した家具等を販売しているところ,耐震性能がな()ければこれら商品の市場競争力が激減したと考えられるから,耐震性を有することによって付加的に上乗せできた価格は少なく見積もっても平均1セット当たり1万2000円は下らない。そこで,通常実施料率を5%と仮定してこれに乗じると1セット当たりの通常実施料は600円となる。
被告物件を装備した家具等の販売量は,イ号物件については月7万セットを,ロ号物件については月7000セットを,ハ号物件については3万セットを,ニ号物件については3000セットをいずれも下らないから,1か月当たりの通常実施料相当額は6600万円となる。
〔計算式〕(\70,000+\7,000+\30,000+\3,000)×600=\66,000,000よって,本件特許が登録された平成17年12月22日の翌日である同月23日から平成20年3月22日までの27か月間の通常実施料相当額累計は17億8200万円となり,特許法102条3項により同額が原告の損害となる。
2原告は,個人発明家であるがゆえに大企業との圧倒的な力の差により不当()な扱いを受け,多大な精神的苦痛を受けた。原告が受けた精神的苦痛を金銭に換算することは非常に困難ではあるが,少なく見積もってもその慰謝料は100万円を下るものではない。
3よって,原告は,特許法102条3項に基づく通常実施料相当額17億8()200万円及び精神的苦痛に対する慰謝料100万円の合計17億8300万円の損害を受けたところ,本訴ではその一部請求として3600万円の支払を求める。
【被告の主張】,。 被告が被告各物件を製造販売していることは認め その余は否認ないし争う第4当裁判所の判断1争点1(本件各特許権の侵害の有無)について1本件各特許発明技術的範囲の解釈について()被告は,本件各特許発明には機能的表現が用いられているから,その技術的範囲を本件実施例に限定して解釈すべきと主張する。たしかに,本件各特許発明に係る特許請求の範囲のうち 「係止手段が地震のゆれの力で開き戸 ,の障害物としてロック位置に移動しわずかに開かれる開き戸の係止具に係止する」地震時ロック装置との記載(構成要件C)及び「使用者が閉じる方向」() に押すまで閉じられずわずかに開かれた ロック位置との記載 構成要件Eは,いずれも具体的な構成ではなく,作用的,機能的な表現で記載されているものと認められる。このように,特許請求の範囲の記載が作用的,機能的に記載されている場合,発明の外延が不明確になりがちであり,またこれを文言どおりに解すると明細書で開示された技術思想に属しない構成までもが技術的範囲に含まれることになりかねず妥当でない。しかし,他方で,被告が主張するように,特許請求の範囲が作用的,機能的に記載されているからといって,明細書の発明の詳細な説明に開示された実施例のみに限定されると解すべきではなく,明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者が認識し得る技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を定めるのが相当である。
そこで,上記の観点から,まず構成要件Cについて,その技術的範囲を検討することとする。
2本件明細書の記載()() ,。 本件明細書 甲1 の発明の詳細な説明及び図面には 以下の記載があるア【背景技術 【0002】】「従来において作動が確実な開き戸の地震時ロック方法は未だ開発されていない 」。
イ【発明が解決しようとする課題 【0003】 】「本発明は以上の従来の課題を解決し作動が確実な開き戸の地震時ロック方法の提供を目的とする 」。
ウ【課題を解決するための手段 【0004】】「本発明は以上の目的達成のためにマグネットキャッチなしの開き戸において地震のゆれの力でロック位置に開き戸の障害物が移動する内付け地震時ロック装置を開き戸の自由端でない位置の家具,吊り戸棚等の天板下面に取り付けた開き戸の地震時ロック方法(請求項1記載の発明)等を提案するものである 」。
エ【発明の効果 【0005】】「本発明の開き戸の地震時ロック方法は特に家具,吊り戸棚等の天板下面において開き戸の自由端でない位置に地震時ロック装置を取り付けるため開き戸の動きが最も大きい自由端ではないため地震時のロックが確実になる 」。
オ【発明を実施するための最良の形態 【0006】 】「以下本発明の開き戸の地震時ロック方法を図面に示す実施例に従い説明する。
図1は本発明の方法に用いることが可能なロック装置を示し,該ロック装置は家具,吊り戸棚等の本体(1)に固定された装置本体(3)を有する。
該装置本体(3)には地震のゆれの力で動き可能に係止手段(4)が支持される。係止手段(4)は係止部(4a)を有し装置本体(3)の停止部(3a)で停止されるものである。
次に開き戸(2)に係止具(5)が取り付けられ前記係止手段(4)が地震のゆれの力で動いた際にその係止部(4a)が係止される係止部(5b)を有する。一方係止手段(4)の戻り路に弾性手段(6)が設けられている。
以上の実施例に示した比較のための地震時ロック装置の作用は次の通りである。すなわち開き戸(2)が図1の様に閉じられた閉止状態では家具,吊り戸棚等の本体(1)側の装置本体(3)に開き戸(2)側の係止具(5)が近接している。この状態で地震が起こると図2に示す様に係止手段(4)が動いて係止具(5)に接触する。
更にゆれの力により図3に示す様に開き戸(2)がわずかに開くと係止手段(4)の係止部(4a)が係止具(5)の係止部(5b)に係止される。
この状態で係止手段(4)の係止部(4a)は装置本体(3)の停止部(3a)で停止され開き戸(2)はその位置でロックされる。
当然のことながらゆれの力は開き戸(2)を閉じる方向にも作用するがロック位置で係止手段(4)は装置本体(3)の弾性手段(6)に押さえられている。
該弾性手段(6)の押さえ力はゆれの力より大きく設定されているため係止手段(4)はその位置で停止する。
次に地震が終わり開き戸(2)を開くには使用者は開き戸(2)を強く押す。
これにより図4に示す様に弾性手段(6)が退いていき一定以上退くと弾性手段(6)による押さえが外れる。
この結果係止手段(4)は慣性で図4の状態から図1の初期状態へと戻ることになる 」。
カ【0008】「以上に実施例を図示したが,要するに図示の開き戸の地震時ロック装置は可動な障害物(開き戸(2)の障害物という意味である)としての係止手段(4)について該障害物自体を地震のゆれの力でロック位置に移動させる開き戸の地震時ロック装置であることが判る 」。
キ図面【図1】【図2】【図3】【図4】3検討()ア上記段落【0002】及び【0003】によれば,本件各特許発明は従来作動が確実な開き戸の地震時ロック方法が開発されていなかったことから,作動が確実な開き戸の地震時ロック方法の提供を目的とするものと認められるところ,その手段が記載された段落【0004】や,発明の効果が記載された段落【0005】を見ても 「係止手段が地震のゆれの力で ,開き戸の障害物としてロック位置に移動しわずかに開かれる開き戸の係止具に係止する」との構成がいかなる構成であれば,作動が確実な地震時ロック装置となるのかを窺い知ることはできない。
本件明細書で上記構成を具体的に開示していると解される部分は,実施【】 , 例の記載としての段落 0006 及び図1ないし図4のみであるところこれらの記載からすれば,地震のゆれが直接,係止手段(4)に作用し,地震のゆれによって係止手段(4)が自ら移動することによって 係止部(4a) ,が係止具(5)の係止部(5b)に到達するとの技術思想が開示されていることが認められる。また,かかる実施例の記載を受けて「係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動し」との構成に係る技術思想を説明したと解される段落【0008】においても 「可動な障害 ,物(中略)としての係止手段(4)について該障害物自体を地震のゆれの力」, でロック位置に移動させる開き戸の地震時ロック装置 と記載されており他の部材を介して係止手段(4)が移動することは開示も示唆もされていない。よって,本件各特許発明においては,地震のゆれによって係止手段が自ら移動するとの技術思想が開示されているというべきである。
そうすると,構成要件Cの「係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動し」というためには,少なくとも地震のゆれによって係止手段が自らロック位置に移動する構成であることを要するというべきである。
イこの点,原告は,原出願明細書の記載(図6ないし図9)を参酌して本件各特許発明を解釈しようとする。しかし,同明細書図6ないし図9に開示の球は,本件各特許発明の係止手段に相当するものであるが,これらの球は本件明細書には記載されておらず,また,このように球を用いる構成が周知技術であることを認めるに足りる証拠もない。したがって,かかる当業者にとって自明でない構成について,本件明細書に記載されていない原出願明細書の記載をもって本件各特許発明技術的範囲の解釈を補うことは許されないというべきである。
4被告各物件との対比()ア構成要件Cの「係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロッ」「」「」 ク位置に移動し との構成のうち 係止手段 は被告各物件の アーム(4)に相当するところ 地震時におけるアーム(4)の作用については 別紙 イ , ,「号物件の構成に関する当事者の主張」ないし「ニ号物件の構成に関する当」 ,。, 事者の主張 の各(3)欄に記載のとおり 当事者間に争いがある そこで被告各物件のアーム(4)が地震のゆれによって自ら回動する構成であるかについて検討する。
イこの点,原告は「球(3)は通常時には逆円錐状凹部(2b)に位置しているが,地震時には地震のゆれの力で逆円錐状凹部(2b)から,凹溝部(2a)に落下する」としながらも,他方で 「地震時には,地震のゆれの力で係 ,止体(4)は(その重心が軸より下方にあるため)自ら回動し,その係止部(4a)が上昇した位置であるロック位置に移動する。すなわち,地震のゆれの力は係止体(4)に直接作用して,これを回動させ,安定位置からロック位置に移動させる一方,球(3)を動かして,その動きで係止体(4)の後端部(4b)を押して,係止体(4)の回動を補助し,ロック位置に移動させる」と主張し,また,球(3)を取り去ったイ号物件でも,335ガルを超えるゆれがあった場合には,アーム(4)が自ら回動してロック位置まで到達するとも主張する。
たしかに,イ号物件から球(3)を取り去った場合には,地震のゆれがアーム(4)に直接作用してロック位置まで回動させることがあるかも知れない。しかし,被告各物件において,アーム(4)は重力に抗してロック位置まで到達しなければならないところ,アーム(4)の振幅角度は加速度に比例するので,加速度が小さいとアーム(4)の振幅角度が小さくなり,ロック位置に到達できないという問題が生じる。また,仮にアーム(4)がロック位置に到達したとしても,これを保持する構成がなければアーム(4)は自重によって直ちに元の位置に戻ってしまうが,被告各物件では,開き戸が開く際に係止手段たるアーム(4)がロック位置にないと係合に到らないのであるから,確実なロックを期するためには,アーム(4)をロック位置に保持する機構が必須となる。かかる問題を解決するために,被告各物件では球(3)を利用したものであり,地震のゆれではなく球(3)の重さを利用してアーム(4)をロック位置まで移動させるとともに,これを保持するというのが,被告各物件の係合に係る基本的な技術思想と認められる。
ウ上記のように,被告各物件では球(3)を利用して係止手段を回動させるという構成を採用しており,地震のゆれによってアーム(4)が自らロック。,, 位置に回動することは期待も想定もされていない また 被告各物件では係合に到るまでアーム(4)をロック位置で保持しなければならず,球(3)はそのための役割をも果たすのであるから,原告が主張するような,単なる「係止体を補助する」部材とは認められない。
このように,被告各物件は,他の部材である球(3)を積極的に利用して係止手段たるアーム(4)をロック位置まで移動させ,これを保持するものであるから,本件各特許発明におけるような地震のゆれによって係止手段が自ら移動する構成とは異なるものというべきである。したがって,被告各物件は,構成要件Cの「該係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動し」との要件を充足するとは認められない。
5小括()以上より,被告各物件は,いずれも少なくとも構成要件Cを充足しないから,他の構成要件について判断するまでもなく,被告各物件は本件特許発明1の方法に用いられるものとは認められず,被告各物件を備えた家具や吊り戸棚が本件特許発明3及び4の技術的範囲に属するとも認められない。
2争点2-2(サポート要件違反)について被告は,構成要件Dの「開き戸の自由端でない位置」との構成が本件明細書に記載されておらず,サポート要件を充たさないとも主張するので検討する。
1特許請求の範囲の記載()本件各特許発明においては,地震時ロック装置の取付位置について 「開,き戸の自由端でない位置の家具,吊り戸棚等の天板下面に取り付け (構成」要件D)と記載されているのみであり 「開き戸の自由端でない位置」の具 ,体的範囲については何らの記載も示唆もないことから,かかる意味を字義どおりに解釈すると,自由「端」とみなし得る程度に自由端にごく近接した領域を除く自由端に近接した位置から蝶番に近接する位置までをも含むものと解することになる。そこで,かかる構成が発明の詳細な説明に記載されているかについて検討する。
2発明の詳細な説明の記載等()本件明細書(甲1)には,前記1(2)の記載のほか以下の記載がある。
ア【0009】「図5は本発明の方法を示し,該方法は開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置にロック装置を取り付ける点に重要な特徴がある。
開き戸(2)の自由端に取り付けると蝶番(特にマグネットキャッチを用いずばね付き蝶番だけで開き戸(2)の閉止力を確保している場合)から遠いため地震時の開き戸(2)の動きが最も大きくロック機構にとってロックが不安定になるという問題が生じる場合があるからである。
地震時ロック装置を開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置に取り付けると開き戸(2)の動きが少なくなるためロック機構にとってロックが確実になるのである。
マグネットキャッチなしでコスト削減したい場合にこの取り付け方法でロックが確実になるという非常に重要な効果が達成できる。
次に図6に示されるT,B,S1,S2及びS3位置(その他の実施例もあるが)は一般的に地震時ロック装置の取り付け位置として選択可能であることを示す。しかし本発明の方法は図5において説明した通りT位置にロック装置を取り付けるのである(すなわち開き戸(2)の自由端でない位置にロック装置を取り付けるのである」)。
イ図面【図5】 【図6】3検討()段落【0002】及び【0003 (前記1(2)ア・イ)によれば,本件各 】特許発明は,作動が確実な開き戸の地震時ロック方法の提供を目的とするものと位置づけられており,段落【0005 (同エ)によれば,開き戸の自 】由端でない位置の家具,吊り戸棚等の天板下面に地震時ロック装置を取り付けるという構成要件Dの構成を採用することにより 「開き戸の動きが最も ,大きい自由端ではないため地震時のロックが確実になる」との効果を奏するとされている。しかし,同段落は,自由端は開き戸の動きが最も大きくなることから,自由端には取り付けないということを消極的に示したにすぎず,取付位置が自由端でさえなければ,天板下面のあらゆる位置において地震時のロックが確実になるという効果を奏し得ると解することはできない。
また,段落【0009】においては 「図5は本発明の方法を示し,該方 ,法は開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置にロック装置を取り付ける点に重要な特徴がある「地震時ロック装置を開き戸(2)の自由端から蝶 」,番側へ離れた位置に取り付けると開き戸(2)の動きが少なくなるためロック機構にとってロックが確実になる」と記載されており 「地震時のロックが ,確実になる」との効果を奏する取付位置として「自由端から蝶番側へ離れた位置」という位置が開示されるとともに,図5の「ロック装置」の位置が例示されている(ただし,同段落の記載からは「自由端から蝶番側へ離れた位置」の具体的範囲を窺い知ることはできない。かかる記載によれば 「地 。),震時のロックが確実になる」との効果を奏するためには,自由端から蝶番側へ一定程度離れた位置にロック装置を取り付けなければならないものと解され,自由端ではないが自由端に近接した位置では,開き戸の動きが多少小さくなるものの,自由端に取り付けた場合とほぼ変わらず,依然としてその動きは大きいものと解することができるから,自由端に取り付けた場合と同様にロックが不安定となるおそれがあり 「地震時のロックが確実になる」と ,の効果を奏するとは認められない。
この点,同段落では 「図6に示されるT,B,S1,S2及びS3位置 ,(その他の実施例もあるが)は一般的に地震時ロック装置の取り付け位置として選択可能であることを示す。しかし本発明の方法は図5において説明した通りT位置にロック装置を取り付けるのである(すなわち開き戸(2)の自由端でない位置にロック装置を取り付けるのである」と記載されており, )。
図6にはT位置が例示されている。しかし,図6は「一般的に地震時ロック装置の取り付け位置として選択可能である」位置を示すものであるから,一() ,() 般的に選択され得る位置としてのB位置 底板上面 や S位置 側板内面ではなく,天板下面としてのT位置に地震時ロック装置を取り付けることを示すものにすぎないと解するのが自然である。すなわち,T位置について,段落【0009】末尾の括弧書において「自由端でない位置」と説明されているが,その一方で,T位置は,前記図5の「ロック装置」の位置より,相対的に自由端に近い位置にある。しかも,開き戸の動きが小さくなる「自由端から蝶番側へ離れた位置」を超えて,開き戸の動きが殆ど小さくならない自由端に近接した位置でもなお「地震時のロックが確実になる」との効果を奏し得ることを示す具体的な根拠は何ら示されていないのであるから,T位置の開示をもって地震時のロックが確実になる取付位置を示したものとは解し難い。
このように,本件明細書の発明の詳細な説明では 「地震時のロックが確 ,実になる」との効果を奏することにより本件各特許発明の課題を解決することができると当業者が認識できるように記載された取付位置は あくまで 自 ,「由端から蝶番側へ(一定程度)離れた位置」であり 「自由端でない位置」 ,との特許請求の範囲の記載は,発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えるというべきである。
4原告の主張について()これに対し,原告は,たとえ自由端に近接した位置であっても,自由端に位置する場合より開き戸の動きはわずかでも少なくなるから作動が確実とな, , , り 課題解決のための効果はあると主張するが 前記(3)で説示したとおり自由端に近接した位置では,開き戸の動きが自由端に取り付けた場合とほぼ変わらず大きいことから,自由端に取り付けた場合と同様にロックが不安定となるおそれがあり 「地震時のロックが確実になる」との効果を奏するこ ,とができるとは認められない。
また,原告は 「地震時のロックが確実になる」との効果を奏する取付位 ,置は,当業者が試行錯誤をしてみれば極めて容易に判明すると主張するが,かかる主張は「自由端でない位置」という特許請求の範囲の記載が本件明細書で記載された課題解決の手段である「自由端から蝶番側へ(一定程度)離れた位置」を超えるものであることに対する反論にはなっておらず,失当である。仮に,係止手段の大きさや地震検出感度,地震時の係止手段の作動速度や作動時間,開き戸の開口の大きさ,並びに地震時の開き戸の開口速度や開口時間等の条件が明らかであれば,当業者にとって,技術常識に照らし,一定の位置を特定することも可能であるといえるが,本件明細書には,これらの諸条件の記載や示唆すら全くないのである。
さらに,原告は「自由端でない位置」では課題を解決する手段として十分でなくても 「押すまで閉じられずわずかに開かれた」との構成要件により ,作動が確実との課題を解決できるとも主張するが,そのようなことは本件明細書の発明の詳細な説明において何ら記載されていない。また,段落【0005】の「開き戸の動きが最も大きい自由端ではないため地震時のロックが確実になる」との記載によれば,取付位置は確実に係合する(ひっかける)ための構成と位置づけられるところ,原告の主張によれば「押すまで閉じられずわずかに開かれた」という構成は,一旦係合した後の係合状態を維持するためものと解されるから,かかる構成をもって,自由端に近接した位置における係合が確保できるとは解されない。
5小括()以上より,構成要件Dの「自由端でない位置」との記載は,発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えるものであり,特許法36条6項1号の定めるサポート要件を充たすとは認められない。
よって,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,特許法104条の3により,原告は被告に対し,本件特許権を行使することができない。
3結論以上の次第で,原告の請求は,その余について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。