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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20ネ10065特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
平成19ネ10084損害賠償請求控訴事件 判例 特許
平成20ネ10019特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成19ネ10089特許権侵害行為差止等請求控訴事件 判例 特許
平成19ネ10024損害賠償請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 技術的範囲 /  実施可能要件 /  発明の詳細な説明 /  補正要件 /  実施料相当額 /  ライセンス /  意匠権 /  特許発明 /  実施 /  間接侵害 /  のみ用いる /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  実施料 /  不法行為(民法709条) /  実施権 /  通常実施権 /  実施許諾(実施の許諾) /  独占的通常実施権 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  審決確定(審決が確定) / 
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事件 平成 20年 (ネ) 10054号 特許権等侵害差止請求控訴事件
平成 20年 (ネ) 10071号 特許権等侵害差止請求附帯控訴事件
控訴人(附帯被控訴人) ウエダ 産業株式会社
被控訴人(附帯控訴人) Y
訴訟代理人弁護士 和田宏徳
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/01/28
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。
当審における被控訴人(附帯控訴人)の請求の減縮により,原判決主文第1項は「控訴人(附帯被控訴人)は,別紙物件目録3記載の物件を製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し,譲渡又は貸渡しの申出をしてはならない。」に,同第2項は「控訴人(附帯被控訴人)は,被控訴人(附帯控訴人)に対し,300万円及びこれに対する平成20年3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」に,それぞれ変更された。
2 訴訟費用(控訴費用,附帯控訴費用を含む。)は,第1,2審を通じてこれを5分し,その1を控訴人(附帯被控訴人)の負担とし,その余を被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人(附帯被控訴人)(1) 原判決中,控訴人(附帯被控訴人)敗訴の部分を取り消す。
(2) 被控訴人(附帯控訴人)の請求を棄却する。
(3) 附帯控訴を棄却する。
(4) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
2 被控訴人(附帯控訴人)(1) 本件控訴を棄却する。
なお,当審において,被控訴人(附帯控訴人)は,「控訴人(附帯被控訴人)は,別紙物件目録3記載の物件を製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し,譲渡又は貸渡しの申出をしてはならない。控訴人(附帯被控訴人)は,被控訴人(附帯控訴人)に対し,300万円及びこれに対する平成20年3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」と,請求を減縮した。
(2) 原判決中,被控訴人(附帯控訴人)敗訴の部分を取り消す。
控訴人(附帯被控訴人)は,別紙物件目録4記載の物件を製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し,譲渡又は貸渡しの申出をしてはならない。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。
事案の概要
1 原審の経緯等被控訴人(附帯控訴人・1審原告。以下「原告」という。)は,発明の名称を「廃材用切断装置」とする特許第3553514号の特許権(出願日・平成13年3月12日,登録日・平成16年5月14日。甲2。以下,この特許を「本件特許1」といい,その特許権を「本件特許権1」という。)及び特許第3593514号の特許権(出願日・平成13年9月27日,登録日・平成16年9月3日。甲4。以下,この特許を「本件特許2」といい,その特許権を「本件特許権2」という。)並びに意匠第1183428号の意匠権(出願日・平成14年8月20日,登録日・平成15年7月11日,意匠に係る物品「木製廃材切断機用刃」。甲6。以下,この意匠を「本件意匠」といい,その意匠権を「本件意匠権」という。)の権利者である。
原告は,控訴人(附帯被控訴人・1審被告。以下「被告」という。)に対し,?@ 被告の製造販売する別紙物件目録3記載の物件(以下「ハ号物件」という。)は,本件特許権1及び2に係る特許発明技術的範囲に属し,その製造販売等の行為は,本件特許権1及び2を侵害する,?A 被告の製造販売する別紙物件目録1記載の物件(以下「イ号物件」という。)及び同目録2記載の物件(以下「ロ号物件」という。)は,パワーショベルに取り付けた状態において,本件特許権2に係る特許発明技術的範囲に属し,かつ上記特許発明に係る物である廃材用切断装置の生産にのみ用いる物であるから,その製造販売等の行為は,特許法101条1号により,本件特許権2を侵害(間接侵害)する,?B 被告の製造販売する廃材切断機用刃に係る別紙物件目録4記載の物件(以下「ニ号物件」という。)の形状(以下「ニ号意匠」という。)は,本件意匠と類似し,その製造販売等の行為は,本件意匠権侵害する,と主張して,本件特許権1及び2並びに本件意匠権に基づき,被告が製造販売するイ号,ロ号及びハ号物件並びにそれらの刃であるニ号物件についての製造販売等の差止めを求めたほか,本件特許権1及び2の侵害による損害賠償金8200万円の内金3000万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成18年12月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
原判決は,?@被告によるハ号物件の製造販売等は本件特許権1及び2を侵害する,?A被告によるイ号及びロ号物件の製造販売等は本件特許権2を侵害(間接侵害)する,?Bニ号意匠は,本件意匠と類似せず,被告によるニ号物件の製造販売等は本件意匠権侵害しない,?C原告の損害賠償請求は,損害金3000万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成20年3月3日(原審口頭弁論終結日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある,と判断し,イ号ないしハ号物件の製造販売等の差止請求を認容するとともに,損害金3000万円及びこれに対する平成20年3月3日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払請求を認容し,その余の原告の請求を棄却した。
これに対して被告は,原判決中の被告敗訴部分を不服として本件控訴を提起した。また,原告も,原判決中の原告敗訴部分を不服として,附帯控訴した。
その後の平成20年7月4日,特許庁が本件特許2を無効とする審決をし,同審決が確定したことに伴い,原告は,当審において,本件特許権2に基づく差止請求及び損害賠償請求を取り下げて請求を減縮した。その結果,本件特許権1に基づくハ号物件に係る製造販売等の差止請求並びに損害金300万円及びその遅延損害金の支払を求める部分のみが本件控訴の審理対象として残されるとともに,原告からの附帯控訴に係る本件意匠権に基づくニ号物件に係る差止を求める部分が附帯控訴の審理対象となった。
2 前提となる事実,争点及び当事者の主張原判決の「事実及び理由」欄の「第3 前提となる事実」,「第4 争点」,「第5 争点に対する当事者の主張」のとおりであるから,これを引用する。ただし,本件特許権2に基づく差止請求及び損害賠償請求に係る事実及び主張部分をすべて削除する。
なお,略語については,当裁判所も原判決と同一のものを用いる(以下同じ)。
3 当審における主張(1) 本件特許1の無効の抗弁の成否ア 被告の主張原告は,審査過程において,本件特許1に係る出願当初の明細書(以下,図面と併せ,「本願当初明細書」という。)で「挽き切り」と記載されていた部分を,平成16年1月29日付け手続補正(以下「本件補正」という場合がある。)により削除した(甲2,28)。本件補正によって,本件特許1における「切断」は,「押し切り」を含むものとして,拡張解釈される余地が生じた。したがって,本件補正は,本願当初明細書に記載した事項の範囲内においてされておらず,補正要件を満たさない違法な補正というべきである。また,本件明細書1の記載は,発明の詳細な発明の記載に係る実施可能要件及び特許請求の範囲の記載要件を満たしていない。
したがって,本件特許1は,特許法123条1項1号及び4号に該当し,特許無効審判により無効とすべきであるから,原告は,本件特許権1を行使することができない。
イ 原告の反論原告は,平成15年11月27日付けで,以下のとおり指摘されて拒絶査定を受けた(甲26)。
「・・・本願発明における可動刃4及びその鋸歯状刃体6は,軸5を中心として回転駆動されて,各鋸歯状刃体は,被切断物Aの切断深さ方向に近い方向に,並列して進行するものであるから,被切断物Aを挽切るよりは,むしろ押切るに近い切断操作がなされるものと解されるものである。」本願当初明細書の図面上は,押し切り状に切断することが示されていたにもかかわらず,その発明の詳細な説明中の文章では誤って「挽き切り状に切断する」と記載したため,原告は,文章による説明を図面と整合させるために,「挽き切り状に切断する」との記載を削除した。なお,本件特許1に対する拒絶理由通知,拒絶査定について,原告は特許庁に対し,当初は,挽き切るか押し切るかに重点をおいて意見を提出していたが,特許庁から前記のとおり指摘されたことを受けて,文言を削除し,本件特許1については,拒絶理由を回避し,特許査定に至った。
以上のとおり,押し切り状に切断するとの点については,本願当初明細書に記載されているから,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてした補正であるといえる。
また,本件特許1に係る明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者にとって実施可能であるし,本件特許1に係る特許請求の範囲の記載も明確で簡潔に記載されている。よって,この点に関する被告の主張は理由がない。
(2) 本件意匠登録の無効の抗弁の成否ア 被告の主張原告は,本件意匠の登録出願日である平成14年8月20日よりも前から本件意匠と同じ刃を用いた製品を製造していたから,本件意匠は出願前に公知となった。よって,本件意匠登録は意匠法3条1項,48条により無効審判において無効にされるべきであるから,被告に対して本件意匠権を行使することはできない(意匠法41条,特許法104条の3参照)。
イ 原告の反論原告は,本件意匠登録前に,被告に対して原告製の廃材用切断装置をデモンストレーションのために貸し出したことがある。しかし,それは刃を廃材用切断装置に装着したままの状態であったから,これをデモンストレーション等に使用したとしても,第三者は,刃全体の形状等を認識することはできないので,刃の意匠が公知になったとはいえず,本件意匠登録が無効事由を有することにはならない。
(3) ハ号物件に係る損害発生の有無及び損害額ア 原告の主張被告は,ハ号物件について,平成16年5月から現在まで,少なくとも合計30台販売した。
その損害額は,以下のとおり算定されるべきである。
すなわち,原告は,独占的通常実施権を設定したオカザキを通じて,ジャクティ社に対し,本件特許1及び2につき,1台当たり10万円でライセンスをしたことがある。しかし,ジャクティ社との実施料は,友好的な契約が行われた場合の金額であり,特許権侵害に基づく実施料相当額はこれより高い額が算定されるべきであって,少なくとも1台当たり20万円とすべきである。
ハ号物件については30台販売されたから,特許法102条3項により,原告の被った損害額は600万円と算定されるべきである。仮に1台10万円が相当実施料であったとしても,原告の損害額は300万円である。
原審において,被告に対し,ハ号物件等の製造・販売等の事実に関する売上台帳等につき文書提出命令が出されているが,被告は同命令に従わなかったので,原告の主張する事実が真実と認められるべきである。
原判決において,ハ号物件の販売台数につき30台であると認定されたにもかかわらず,これとは異なる販売台数と認定されるためには,被告の主張する台数分が営業日誌に記載され,請求書も存在しているという事実のみでは足りず,被告が主張する台数分以外に,販売の事実がないということが確認される必要がある。
なお,被告は,平成16年1月ないし平成19年12月の間のイ号,ロ号及びハ号物件の売上数は,合計33台(平成20年8月7日付け控訴の理由(補足他)でハ号物件につき1台追加された分を含む。)であると主張する。しかし,原告において,営業日誌(乙74)について,イ号,ロ号,及びハ号物件の売上げの事実を調査したところ,平成17年4月ないし平成19年7月の間に,合計38台の売上げを確認した。このような事実経緯に照らすならば,被告の主張内容と営業日誌の記載との間に,齟齬があり,営業日誌の記載について信ぴょう性があるとはいえない。
よって,原告は,被告に対し,本件特許権1の侵害による不法行為に基づき,損害金600万円のうち300万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成20年3月3日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
イ 被告の反論原告は,ライセンス契約を締結したジャクティ社の販売台数から,製造販売台数を立証することができたはずである。しかし,原告は,そのような立証活動をすることなく,被告に対する文書提出命令を申し立て,被告において営業日誌を精査し,売上明細表を作成してこれを提出し,営業原簿まで法廷に,事実上持ち込んだにもかかわらず,被告が文書を提出しなかったものと認定された。原告が主張する被告の販売台数は正確ではなく,被告は利益を得ていないし,原告には損害が発生していない。
なお,ハ号物件の最終決定組立図は,平成17年10月13日作成であった(乙75)。被告は,当初,ハ号物件の販売台数を2台(原審被告準備書面(8)の1.売上明細表のNo.16及びNo.19)と主張していたが,営業日誌原簿を精査中,更に1台を販売していた事実が判明したことから(乙74の9及び11,乙78),合計3台を販売していたことを認める。
当裁判所の判断
1 当裁判所は,以下のとおり,?@ハ号物件は本件特許1に係る発明の技術的範囲に属する,?A本件特許1の実施許諾の事実(抗弁)を認めることができない,?B本件特許1について無効事由(抗弁)を認めることができない,?Cニ号意匠は,本件意匠と類似していないから,ニ号物件の製造販売等は本件意匠権侵害しない,?Dハ号物件に係る原告の損害額を300万円と認めるのが相当である,と判断する。その理由は,上記?B及び?Dを除いて,原判決のとおりであるから,これを引用する。
ただし,本件特許権2に基づく差止請求及び損害賠償請求に係る判断部分をすべて削除する。また,原判決の損害額の認定に関する部分(51頁19行目から54頁24行目)を削除する。
2 ハ号物件の製造,販売の差止請求及び損害賠償請求について(1) 本件特許1の無効の抗弁の成否についてア 補正要件違反の主張について被告は,本願当初明細書の段落【0005】,【0008】及び【0011】には「挽き切り状に切断せしめる」と記載されていたが(甲25),拒絶査定不服審判請求時にされた平成16年1月29日付け手続補正(本件補正)によりそれらの記載が削除された(甲28)ため,本件特許1における「切断」には,押し切りを含めるとの拡張解釈の余地が生じたとして,同補正は,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてした補正には当たらないという無効事由が存すると主張する。
しかし,被告の主張は,次のとおり理由がない。
(ア) 本願当初明細書の「発明の詳細な説明」には,以下の記載がある(乙65,4頁以下)。
すなわち,「【0005】【課題を解決するための手段】・・・請求項1記載の発明は,ホルダー1の先部に略湾曲状とされた両側一対の受片2が所定間隔をおいて並設され,該受片2間には外周縁に鋸歯状刃体6を備えた略半円形状の可動刃4が嵌合自在に軸着されると共に,該可動刃4には流体圧シリンダ8が接続されてなることを特徴とする,廃材用切断装置を要旨とするものである。そして,本発明のかかる廃材用切断装置は,両側の受片2に木製廃材などの被切断物Aを横架状に保持せしめつつ,流体圧シリンダ8の作動により可動刃4を受片2間に嵌合せしめて挽き切り状に切断せしめるものである。」「【0008】・・・しかるのち,油圧シリンダ8の作動により可動刃4を閉作動せしめつつ受片2内に嵌合せしめ,刃体6により被切断物Aを挽き切り状に切断せしめる。このさい,被切断物Aを受片2内に保持せしめつつ可動刃4により挽き切り状に切断せしめるものであるから,木製廃材などの切断を常に確実に行なうことが出来る。」「【0011】【発明の効果】・・・該可動刃4には流体圧シリンダ8が接続されているから,両側の受片2間に被切断物Aを横架状に保持せしめつつ,流体圧シリンダ8の作動により可動刃4を受片2内に嵌合せしめて挽き切り状に切断せしめることが出来るものであって,特に木製廃材などの被切断物Aを確実に切断せしめることが出来るものである。」。また,図1ないし5が示されている。
ところで,原告は,拒絶査定不服審判請求時に,本件補正を行い,本願当初明細書の段落【0005】,【0008】及び【0011】にある「挽き切り状に切断せしめる」との各記載を削除した上で,本件発明1は,「受片2の基端部には各々固定掴持片3が立設されると共に,該固定掴持片3に対応すべく可動刃4の背部に掴持部7が形成」されていることにより,独自の作用効果がある旨の意見を述べ(甲27),特許査定を受けた。
(イ) 以上の事実に照らすならば,本願当初明細書の「発明の詳細な説明」には,可動刃4及びその鋸歯状刃体6は,軸5を中心として回転駆動されて,各鋸歯状刃体は,被切断物Aの切断深さ方向に近い方向に,並列して進行する構造及びその操作が開示されているというべきであるが,同開示内容は,被切断物Aを「挽切る」という操作ではなく,むしろ「押切る」という操作というべきである。
そうすると,本願当初明細書における「挽き切り状に切断せしめる」との記載は,そもそも記載自体が適切を欠くものであり,また,本願当初明細書の開示内容は上記のとおり「押切る」という操作であったから,段落【0005】,【0008】及び【0011】に記載されていた「挽き切り状に切断せしめる」との記載を削除する本件補正は,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,上記範囲を超えた違法な補正に当たるとはいえない。
以上のとおりであるから,被告の主張は失当である。
実施可能要件違反の主張について(ア) 被告は,本件明細書1の段落【0006】「鋸歯状刃体6を被切断物Aに食込ませてその逃げを防止せしめつつ確実に切断せしめることが出来る」との記載,段落【0008】「鋸歯状刃体6を被切断物Aに食込ませてその逃げを防止せしめつつ確実に切断せしめる」及び「被切断物Aを受片2内に保持せしめつつ可動刃4により切断せしめる」との記載における「切断」という表現は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとは認められず,実施可能要件に違反すると主張する。
しかし,本件明細書1の段落【0004】,【0006】,【0008】,【0011】及び図1ないし図5には,可動刃により,木製廃材を切断することが記載されており,発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているから,被告の上記主張は,理由がない。
(イ) また,被告は,本件発明1の願書に添付した図4では,油圧シリンダ8の給油ホースは,パワーショベル10から供給されるので,回り継手(SWIVEL JOINT)がない限り,フリー回転角度が大きく制限され,また,フリー回転させた場合のストッパー装置がないことにより,被切断物Aに食い込んだ鋸刃6を抜き去ろうとしても,被切断物Aの端部をたたくように接地させて可動刃6の鋸刃6を抜き去る手段もとれないから,発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないと主張する。
しかし,当該技術分野の技術水準を勘案すれば,図4からは,回転不能または揺動可能に固定されていることが理解でき,また,フリーに回転する場合や揺動する場合は,油圧シリンダ8の給油ホースは,回り継手(SWIVEL JOINT)を介して給油すれば良いことは当業者にとって周知の事項であるから,格別の説明がなくとも,本件発明1の明細書は,実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
(2) 以上のとおり,本件特許1について被告の主張に係る無効事由(抗弁)はこれを認めることができない。
そうすると,ハ号物件を製造販売する被告の行為は,原告の有する特許権1を侵害するから,原告は,被告に対して,ハ号物件の製造,販売の差止め及び損害賠償金の支払を求めることができる。
なお,被告は,ハ号物件を設計変更し,その受片を直線形状にしたり(乙84),2つの受片の先端部をプレートで溶接して一体化するなど(乙80)の製品を製造販売していると主張する。しかし,仮にそのような事実が認められたとしても,ハ号物件の製造販売等のおそれがなくなったとはいえない。
3 ハ号物件に係る損害発生の有無及び損害額について(1) 被告のハ号物件の販売台数原告は,平成16年5月以降の被告によるハ号物件の販売台数は少なくとも合計30台であると主張し,その立証等のため,平成19年10月22日,被告の製造,販売に係る製品について,平成16年5月以降の受注管理表,売上台帳,売上一覧表,請求一覧表又はこれらに相当する文書,若しくは電子ファイルのプリントアウト(以下「本件文書」という。)について,特許法105条1項により文書提出命令を申し立てた。原審裁判所は,その申立てを認め,平成19年10月29日付けで,被告に対し,上記申立てに係る各文書について,同年11月13日までに提示せよとの決定をした。
しかし,被告は,平成19年11月8日の原審第8回弁論準備手続期日において同年12月10日までに可能な範囲で提出すると述べ,更に平成19年12月19日の原審第9回弁論準備手続期日においても平成20年1月31日までに提出すると述べておきながら,結局本件文書を提出しなかった。
なお,被告は,当審においても,平成17年4月8日から平成19年7月31日までの作成に係るものと主張する営業日誌(乙68,74の1〜16)及び売却済みのハ号物件3台に係るものと主張する請求書(乙76〜78)の証拠申出をしたが,それら3台のみが販売台数であることを裏付けるためのその他の本件文書を提出しない。
そこで,真実擬制の可否について検討するに,本件文書である受注管理表,売上台帳,売上一覧表,請求一覧表又はこれらに相当する文書,若しくは電子ファイルのプリントアウトは,被告の日常業務の過程で作成される帳簿書類等であるから,それらの記載に関して,原告が具体的な主張をすることは著しく困難である。また,原告が,本件文書により立証すべき事実(被告によるハ号物件の販売台数)を他の証拠により立証することも著しく困難である。そうすると,被告のハ号物件の販売台数については,民事訴訟法224条3項により,原告の主張,すなわち被告が平成16年5月から平成20年3月3日(原審口頭弁論終結時)までの間に合計30台のハ号物件を販売したことを真実であると認めるのが相当である。
(2) 実施許諾料の相当額原告が独占的通常実施権を設定したオカザキを通じて,ジャクティ社に対し,1台当たり10万円の許諾料で本件特許2の実施許諾をしていること(甲15)に照らすならば,本件特許2と同種の本件特許1の実施許諾料についても,ハ号物件1台当たり10万円を下らないと認めるのが相当である。
(3) 原告の損害額そうすると,原告の損害額は,300万円(販売台数30台×実施許諾料1台当たり10万円=300万円)であるものと認める。
4結論以上によれば,別紙物件目録3記載のハ号物件の製造等の差止請求のほか,損害金300万円及びこれに対する不法行為の日又はその後の日である平成20年3月3日(原審口頭弁論終結日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,これと同旨の原判決部分は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとする(ただし,原判決の主文第1項及び第2項は,当審における原告の請求の減縮により本判決主文第1項記載のとおり変更された。)。また,ニ号物件の製造販売等の差止めを求めた原告の附帯控訴に係る請求は理由がなく,これと同旨の原判決部分は相当であるから,本件附帯控訴を棄却することとする。
よって,主文のとおり判決する。
追加
物件目録1(イ号)1商品名ワニラーV2図面別紙のとおり3図面符号の説明1:ホルダー2:受片3:可動刃4:バケットシリンダ5:掛止片物件目録2(ロ号)1商品名フォークワニラーV2図面別紙のとおり(ただし,斜線部分は除く。)3図面符号の説明1:ホルダー2:受片3:可動刃5:掛止片物件目録3(ハ号)1商品名ニューワニラー2図面別紙のとおり3図面符号の説明1:ホルダー2:受片3:可動刃4:油圧シリンダ5:掛止片6:固定掴持片7:掴持片物件目録4(ニ号)1名称ワニラーV,フォークワニラーV,及びニューワニラー用の刃2図面別紙のとおり3図面の説明別紙図面は,製品の意匠を示す正面図である。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 齊木教朗
裁判官 嶋末和秀
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