審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成15ワ18472特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成16ワ20636特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20ワ2387特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成13ワ1105特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 方法の発明 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 公知技術 / 技術分野の関連性 / 技術常識 / クレーム / 原出願日 / 出願経過 / 均等 / 均等侵害 / 置き換え / 置換 / 置換可能性 / 置換容易性 / 容易に想到(容易想到性) / 非容易 / 意識的除外(意識的に除外) / 不存在 / 特許発明 / 実施 / 権原 / 加工 / 間接侵害 / 構成要件 / 課題解決に不可欠(課題の解決に不可欠) / 差止請求(差止) / 侵害 / 損害額 / 不法行為(民法709条) / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
19年
(ワ)
19159号
特許権侵害差止請求事件
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東京都大田区<以下略> 原告株式会社ディスコ 同 訴訟代理人弁護 士中村智廣 同 三原研自 同 補佐人弁理 士佐々木功 同 川村恭子 同 久保健 滋賀県栗東市<以下略> 被告本間工業株式会社 同 訴訟代理人弁護 士伊原友己 同 加古尊温 同 訴訟代理人弁理 士中越貴宣 同 補佐人弁理 士楠本高義 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2008/08/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求1被告は,別紙物件目録記載のシンギュレーションシステム装置を製造,販売し,又は販売の申出をしてはならない。 2被告は,原告に対し,3400万円及びこれに対する平成19年8月7日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2第2事案の概要本件は,被告が,「MCS-8000」と称する別紙物件目録記載のシンギュレーションシステム装置(以下「被告製品」という。)を製造,販売した行為について,原告が,被告の上記行為は,特許法101条5号の行為に当たり,原告の有する特許権を侵害するものとみなされると主張して,被告製品の製造,販売等の差止めを求めるとともに,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償として,被告の上記行為によって原告の被った損害3400万円及びこれに対する遅延損害金を支払うよう請求する事案である。 1争いのない事実等(1)当事者原告は,精密機械・半導体製造用機器及び附属機器の製造並びに販売等を目的とする株式会社である。 被告は,工作機械の製造,自動組立設備,自動搬送設備及び各種設備の製缶,配管の設計,製作等を目的とする株式会社である。 (2)原告が有する特許権原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請求の範囲請求項3に係る発明を「本件発明」という。また,本件特許権に係る特許を「本件特許」といい,本件特許に係る明細書(別紙特許公報参照)を「本件明細書」という。)を有している。 特 許 番 号第3887614号発明の名称切削方法出 願 番 号特願2003-193587出願日平成15年7月8日分割の表示特願平9-176935の分割原 出 願 日平成9年7月2日登録日平成18年12月1日3特許請求の範囲請求項3「一方のモーターの駆動により回転する一方のネジと,他方のモーターの駆動により回転する他方のネジとが基台のY軸方向に配設され,該一方のネジには,該一方のネジの回転によりY軸方向に移動する第一のスピンドル支持部材が係合し,該他方のネジには,該他方のネジの回転によりY軸方向に移動する第二のスピンドル支持部材が係合し,該第一のスピンドル支持部材の下部には第一のスピンドルが配設され,該第二のスピンドル支持部材の下部には第二のスピンドルが配設され,該第一のスピンドルの先端には第一のブレードが装着され,該第二のスピンドルには第二のブレードが装着され,該第一のスピンドルと該第二のスピンドルとは,該第一のブレードと該第二のブレードとが対峙するよう該Y軸方向に略一直線上に配設され,半導体ウェーハを吸引保持するチャックテーブルが,X軸方向に移動可能に配設されている精密切削装置を用いて正方形または長方形の半導体ウェーハを切削する切削方法であって,該第一のブレードがチャックテーブルに保持された正方形または長方形の被加工物の端部に位置付けられ,該第二のブレードが該被加工物の中央部に位置付けられ,該第一のスピンドル及び該第二のスピンドルを下降させると共に,該チャックテーブルをX軸方向に移動させ,該被加工物の端部及び中央部に形成されたストリートをX軸方向に2本同時に切削し,該第一のスピンドルと該第二のスピンドルとの間隔を維持したまま,該第一のスピンドル及び該第二のスピンドルをもう片方の端部の方向に割り出し送りし,該チャックテーブルをX軸方向に移動させてストリートを2本ずつ切削する切削方法。」(3)本件発明の構成要件の分説4本件発明の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下,分説した各構成要件をそれぞれ「構成要件A」などという。)。 A一方のモーターの駆動により回転する一方のネジと,他方のモーターの駆動により回転する他方のネジとが基台のY軸方向に配設され,B該一方のネジには,該一方のネジの回転によりY軸方向に移動する第一のスピンドル支持部材が係合し,該他方のネジには,該他方のネジの回転によりY軸方向に移動する第二のスピンドル支持部材が係合し,C該第一のスピンドル支持部材の下部には第一のスピンドルが配設され,該第二のスピンドル支持部材の下部には第二のスピンドルが配設され,D該第一のスピンドルの先端には第一のブレードが装着され,該第二のスピンドルには第二のブレードが装着され,E該第一のスピンドルと該第二のスピンドルとは,該第一のブレードと該第二のブレードとが対峙するよう該Y軸方向に略一直線上に配設され,F半導体ウェーハを吸引保持するチャックテーブルが,X軸方向に移動可能に配設されている精密切削装置を用いて正方形または長方形の半導体ウェーハを切削する切削方法であって,G該第一のブレードがチャックテーブルに保持された正方形または長方形の被加工物の端部に位置付けられ,該第二のブレードが該被加工物の中央部に位置付けられ,H該第一のスピンドル及び該第二のスピンドルを下降させると共に,該チャックテーブルをX軸方向に移動させ,該被加工物の端部及び中央部に形成されたストリートをX軸方向に2本同時に切削し,I該第一のスピンドルと該第二のスピンドルとの間隔を維持したまま,該第一のスピンドル及び該第二のスピンドルをもう片方の端部の方向に割り出し送りし,該チャックテーブルをX軸方向に移動させてストリートを2本ずつ切削する切削方法。 5(4)被告の行為被告は,平成18年12月ころから,被告製品を製造,販売している。 (5)構成要件の一部充足被告製品において用いられている切削方法(以下「被告方法」という。)は,本件発明の構成要件AないしEを充足する。 (6)被告方法の切削対象物被告方法の切削対象物は,半導体チップを回路基盤上に取り付けて樹脂で封止した「CSP(チップサイズパッケージ)」と呼ばれる半導体パッケージであり,半導体ウェーハではない。 2争点(1)被告方法は構成要件FないしIを充足するか(2)被告方法は本件発明と均等か(3)被告の行為は本件特許権の侵害(間接侵害)となるか(4)本件特許は無効とされるべきものか(5)損害額第3争点に関する当事者の主張1争点(1)(被告方法は構成要件FないしIを充足するか)について〔原告の主張〕(1)被告方法の内容被告は,被告製品において別紙被告方法目録(1)記載の切削方法を採用しており,その内容は,次のとおりである。 ア前処理工程シンギュレーションシステムに組み込まれているダイシング装置Aにおいて,チャックテーブル12を構成する治具12aに保持されている半導体パッケージ13におけるブロック部13a周縁を,第一及び第二のブレード10,11で切削し,その周縁部を除去して,正方形又は長方形のブ6ロック部13aを切り出す。 なお,ブロック部13aに反りがある場合には,その反りを緩和するために複数のストリートを適宜切削する。これらの切削においては,一方のブレードで1本のストリートを切削することもある。 イ主たる切削工程(ア)図3の(A),(B),(C)で示したように,第一のブレード10がチャックテーブル12を構成する治具12aに保持されている正方形又は長方形のブロック部13aの端部に位置付けされ,第二のブレード11がブロック部13aの中央部に位置付けられ,(イ)第一のスピンドル8及び第二のスピンドル9を下降させるとともに,チャックテーブル12をX軸方向に移動させ,ブロック部13aの端部及び中央部に形成されたストリートをX軸方向に2本同時に切削し,(ウ)第一のスピンドル8と第二のスピンドル9との間隔を維持したまま,第一のスピンドル8及び第二のスピンドル9をもう片方の端部の方向に割り出し送りし,チャックテーブル12をX軸方向に移動させてストリートを2本ずつ切削する。 ウ補完工程上記主たる切削工程で,基本的には2本のストリートを第一及び第二のブレード10,11で同時に切削するものの,切削すべきストリートが奇数である場合には,最後に一方のブレードで残った1本のストリートを切削して,主たる切削工程を補完する。 (2)構成要件の充足ア被告方法は,その切削対象物が半導体パッケージであり,半導体ウェーハではない点で,本件発明と相違するものの,それ以外の点では,構成要件FないしIを充足する。 イ被告の主張に対する反論7(ア)構成要件F被告は,被告製品では,「半導体ウェーハを吸引保持するチャックテーブル」がないと主張する。しかし,被告製品に被加工物を載置,固定するチャックテーブルが存在することは明らかである。被告製品の場合,被加工物を吸着保持するために円形のテーブルと長方形の治具とをセットしたものがチャックテーブルである。そもそも,チャックテーブル上に被加工物を載置,固定しなければ,切削自体ができない。 (イ)構成要件G上記(ア)のとおり,被告製品に被加工物を載置,固定するチャックテーブルが存在することは明らかである。 被告は,半導体パッケージの場合,その両端部から除去されるのが通例であるから,まず両端部に各ブレードが位置付けられると主張する。 しかし,別紙被告方法目録(1)のように,被加工物をブロック部13aととらえれば,そこに端部及び中央部を想定し,ブレードを位置付けることができる。 (ウ)構成要件H上記(ア)のとおり,被告製品に被加工物を載置,固定するチャックテーブルが存在することは明らかである。 被告は,両端部から切除されるので,形成されたストリートをX軸方向に2本同時に切削することはないと主張する。しかし,別紙被告方法目録(1)のように,被加工物をブロック部13aととらえれば,端部及び中央部に形成されたストリートをX軸方向に2本同時に切削するものということができる。 (エ)構成要件I被告は,2本同時切削時のスピンドル間の間隔がその都度微調整されており,間隔を維持したまま切削するものではないと主張する。しかし,8別紙被告方法目録(1)における治具12aには,あらかじめストリートの溝12bが刻まれており,パッケージを切削する際,当該溝にブレードの刃が落ちるように切削していくものであり,2つのスピンドルは,間隔を維持したまま送り出されて切削しているものと評価することができる。被告の主張する微調整は,当該溝幅内でのブレード位置の微調整であり,本件特許の方法に付加する作業にすぎない。 〔被告の主張〕(1)被告方法の内容原告が主張する被告方法の内容については,以下のとおり,争う。 ア切削工程の区別について被告製品による半導体パッケージの切削方法は,別紙被告方法目録(2)に記載したとおりであり,「カット順序?@」から「カット順序?O」まで,その順序に従ってストリートの切削を行う。 被告製品では,前処理工程,主たる切削工程,補完工程という切削方法をとらない。被告製品は,半導体パッケージを縦横にカットして個々のチップにするものであり,すべてのストリートを切削することが不可欠であるから,いずれのストリートの切削も重要性において同等であって,切削するストリートの間に優劣や主従の関係が生じる余地はない。したがって,切削工程を優劣や主従をつけて区別することはできない。 イ前処理工程について別紙被告方法目録(2)記載のとおり,被告製品においてブロック部13a周縁部を切削する工程は,「カット順序?@」及び「カット順序?E」であり,その間に「カット順序?A」ないし「カット順序?D」の過程がある。したがって,被告製品においては,原告の主張する前処理工程というものは存在しない。 また,「カット順序?A」は,2本のスピンドル(ブレード)を用いて9「S5」及び「S13」の各ストリートを,「カット順序?B」は,1本のスピンドル(ブレード)のみを用いて「S9」のストリートを,それぞれ切削するものであり,その切削方法は,原告の主張する主たる切削工程とも補完工程とも異なっている。 ウ主たる工程について別紙被告方法目録(2)記載の「カット順序?@」ないし「カット順序?I」のとおり,被告製品は,「第一のブレード10がチャックテーブル12を構成する治具12aに保持されている正方形または長方形のブロック部13aの端部に位置付けされ,第二のブレード11がブロック部13aの中央部に位置付けられ,第一のスピンドル8及び第二のスピンドル9を下降させると共に,チャックテーブル12をX軸方向に移動させ,ブロック部13aの端部及び中央部に形成されたストリートをX軸方向に2本同時に切削」するという方法をとっていない。「カット順序?J」ないし「カット順序?O」についても,端部「S1」及び中央部「S9」の各ストリートが既に「カット順序?@」及び「カット順序?B」で切削されており,「第一のブレード10がチャックテーブル12を構成する治具12aに保持されている正方形または長方形のブロック部13aの端部に位置付けされ,第二のブレード11がブロック部13aの中央部に位置付けられ」ていない。 また,別紙被告方法目録(2)記載の「カット順序?@」ないし「カット順序?I」のとおり,被告製品は,「第一のスピンドル8と第二のスピンドル9との間隔を維持したまま,第一のスピンドル8及び第二のスピンドル9をもう片方の端部の方向に割り出し送りし,チャックテーブル12をX軸方向に移動させてストリートを2本ずつ切削する」という方法をとっていない。「カット順序?J」ないし「カット順序?O」についても,「S5」及び「S13」の各ストリートが既に「カット順序?A」で切削されており,順次「割り出し送り」されるものではなく,また,被告製品では,各半導10体パッケージのストリート間の微妙な距離の違いに対応させるため,切削前にカメラで各ストリートの位置の計測を行い,各スピンドルの間隔を常に変化させて適正位置において切削していることから,「第一のスピンドル8と第二のスピンドル9との間隔を維持したまま」でもない。 エ補完工程について「カット順序?B」,「カット順序?F」及び「カット順序?G」は,いずれも1本のスピンドル(ブレード)を用いてストリートを切削するものである。しかし,上記の各切削は,他のカット順序における切削と同様,半導体パッケージを縦横にカットして個々のチップにするために欠くことのできない,ひとしく重要な切削順序の一部を構成するものであり,「最後に一方のブレードで残った1本のストリートを切削」するものではなく,補完にすぎないといえるものでもない。 (2)構成要件の非充足被告方法が構成要件AないしEを充足することは,認める。 しかし,被告方法の切削対象物が半導体ウェーハではない点以外は構成要件を全て充足するという原告の主張は,争う。被告方法は,上記(1)のとおりであり,本件発明の構成要件FないしIを充足しない。 ア構成要件Fについて被告製品においては,「半導体ウェーハを吸引保持するチャックテーブル」がなく,構成要件Fを充足しない。 イ構成要件Gについて被告製品においては,「半導体ウェーハを吸引保持するチャックテーブル」がない上,それに吸引「保持された・・・(中略)・・・被加工物の端部」もなく,ここに第一ブレードが「位置付けられ」ることもなく,第二ブレードが「被加工物の中央部に位置付けられ」ることもないので,構成要件Gも充足しない。また,半導体パッケージの場合,その両端部から11切除するのが通例であり,まず両端部に各ブレードが位置付けられるものであるから,この点でも構成要件Gを充足しない。 ウ構成要件Hについて被告製品においては,「半導体ウェーハを吸引保持するチャックテーブル」がないので,「チャックテーブルをX軸方向に移動させ」ることはない。また,半導体パッケージにおいては,まず両端部から切除されることからすると,「形成されたストリートをX軸方向に2本同時に切削」するということもない。以上によれば,構成要件Hも充足しない。 エ構成要件Iについて半導体パッケージの切削装置のような精密加工装置においては,微細な寸法レベルでの精度が要求される。被告製品では,各半導体パッケージのストリート間の微妙な距離の違いに対応させるため,切削前にカメラで各切削位置の計測を行い,常に微妙に各スピンドルの位置を変化させて稼動させていることからすると,「該第一のスピンドルと該第二のスピンドルとの間隔を維持したまま」で切削することはあり得ない。また,被告製品における一般的な切削順序からすると,端部と中央部の初期位置から逆の端部に順次切削位置を移動させて切削することもない。以上によれば,構成要件Iも充足しない。 2争点(2)(被告方法は本件発明と均等か)について〔原告の主張〕(1)非本質的部分本件発明は,生産性の向上を図ることを目的とするものであり,この目的を達成するために,「該第一のブレードがチャックテーブルに保持された正方形または長方形の被加工物の端部に位置付けられ,該第二のブレードが該被加工物の中央部に位置付けられ,該第一のスピンドル及び該第二のスピンドルを下降させると共に,該チャックテーブルをX軸方向に移動させ,該被12加工物の端部及び中央部に形成されたストリートをX軸方向に2本同時に切削し,該第一のスピンドルと該第二のスピンドルとの間隔を維持したまま,該第一のスピンドル及び該第二のスピンドルをもう片方の端部の方向に割り出し送りし,該チャックテーブルをX軸方向に移動させてストリートを2本ずつ切削する」こと(構成要件GないしI)が本質的な要件であるとはいえるものの,被加工物の切削対象が「半導体ウェーハ」か「半導体パッケージ」かは,本質的部分ではない。 (2)置換可能性本件発明は,精密切削装置における生産性の向上を図ることを目的とするので,切削対象物を「半導体ウェーハ」から「半導体パッケージ」に置き換えても,本件発明の目的を達することができることは明らかである。 (3)置換容易性「半導体パッケージ」は,半導体チップを所要の回路基盤上に取り付けて樹脂で封止したものであり,回路基盤は薄板であるから,「ウェーハ」であるということができ,「半導体パッケージ」も「半導体ウェーハ」と同様に精密切削が必要となるものであることからすれば,「半導体ウェーハ」から「半導体パッケージ」への置換は,侵害時である平成18年12月において,当業者であれば容易に想到することができたものである。 (4)公知技術からの推考容易性被告製品において「半導体パッケージ」を「該第一のスピンドルと該第二のスピンドルとの間隔を維持したまま,該第一のスピンドル及び該第二のスピンドルをもう片方の端部の方向に割り出し送りし,該チャックテーブルをX軸方向に移動させてストリートを2本ずつ切削」する方法は,本件発明をまって初めて推考できるようになったものであり,当業者が,本件発明の出願時に公知技術から容易に推考できるものではない。 (5)意識的除外等の特段の事情13本件特許の出願経緯において,切削対象物として「半導体パッケージ」を意識的に除外した等の事情はない。 本件特許においては,当初から,半導体ウェーハ,フェライト等の被加工物が対象となりうることが明細書に明記されていた。そして,その中で中核となる半導体ウェーハをクレームに記載していたのであり,その点では,権利化の時点においても変わらないものである。すなわち,半導体ウェーハは,当初から,被加工物の一例として記載されていたものであり,意識的に限定されていたものではない。 〔被告の主張〕(1)本件特許の出願経過ア本件特許は,当初,「精密切削装置」(請求項1。以下「装置クレーム」という。)と「切削方法」(請求項2ないし4。以下「方法クレーム」という。)で出願されていた(乙8の3)。 イ方法クレームでは,当初から,いずれの請求項にも「半導体ウェーハを切削する切削方法」という文言が入っており,切削対象物が「半導体ウェーハ」に限定されていた。一方,装置クレームは,切削対象物につき,何らの限定もしていなかった。 原告は,切削対象物として「半導体ウェーハ」と「それ以外のもの」が存在するとの前提に立ち,装置については,「それ以外のもの」を含み得るとの体裁をとりながら,方法クレームについては,「半導体ウェーハ」のみを切削対象物とすることとして意識的に峻別し,これを限定していたものである。 ウ上記の出願については,実願昭58-49304号(実開昭59-156753号)のマイクロフィルム(乙9)記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたとして拒絶理由通知が発せられた(乙8の10)。 上記公知文献には,略一直線上に2つのカットホイールが対峙する形で14配設されているダイシングソウの構成が開示されている。上記ダイシングソウの切削対象物は,「シリコンウエーハー」や「圧電基板」等である。 拒絶理由通知を受けた原告は,装置クレームを「半導体ウェーハを吸引保持するチャックテーブル」の存在を不可欠なものとして構成要件に取り込み,その結果として,切削対象物を「半導体ウェーハ」に限定し,方法クレームと一致させることとした(乙8の11及び12)。 エしかし,この補正によっても拒絶理由を回避することができず,拒絶査定が発せられた(乙8の13)ため,原告は,拒絶査定不服審判を請求した(乙8の14)。 原告は,拒絶査定不服審判を請求する際,さらに補正を行い,装置クレーム(請求項1)での特許取得を断念して同クレームを抹消し,発明の名称も「切削方法」とした(方法クレームを順次繰り上げ)。これにより,本願の各発明は,いずれも「半導体ウェーハ」を切削する装置を用いて「半導体ウェーハ」を切削する方法とされた(乙8の15)。 これは,原告が,Y軸方向に2本のスピンドル(ブレード)を対峙するように配置してワークを切削する装置は,明らかに公知であって,拒絶理由を回避することができないと考えたものにほかならない。 オ上記のように切削対象物の種類が厳格に限定された技術として本件特許が権利要求されたことは,その後に提出された拒絶査定不服審判の理由書(乙8の17)からも明らかである。すなわち,同理由書8頁(3)本願発明3の非容易想到性の項において,「切削の対象が正方形または長方形の半導体ウェーハであること・・・(中略)・・・が関連しあって,・・・(中略)・・・独特の作用効果を奏するものである。」と断じている。 カ切削対象物の限定や,切削に用いる装置,その動作態様の特殊性(初期位置が端部と中央部であり,等間隔で切削していること等)の構成要件化が奏して,本願は特許査定となった(乙8の19)。 15(2)均等侵害の不存在ア非本質的部分原告の上記主張は,争う。 上記出願経過によれば,本件発明の技術的課題は,「半導体ウェーハ」に関するものであり,かつ,切削ストロークに全く無駄がなくなるとともに,全ての切削位置を2本ずつ切削することができる切削方法を提供することにある(本件明細書の段落【0010】,【0011】)。 切削対象物が「半導体ウェーハ」であることは,本件発明の前提であって,まさに技術的課題の対象事象をなす部分であるから,これをもって非本質的部分にすぎないということはできない。本件明細書の段落【0006】【課題を解決するための手段】にも,「半導体ウェーハを吸引保持するチャックテーブルが,X軸方向に移動可能に配設されている精密切削装置を用いて,・・・(中略)・・・半導体ウェーハを切削する切削方法であって・・・(以下省略)」と明記されている。 また,被告製品では,第一ブレードと第二ブレードの初期位置が,半導体パッケージの端部と中央部であることはあり得ず,その後も間隔を維持したままストリートを2本同時に切削するものではない。これらの点に相当する構成要件GないしIは,本件発明のまさに本質的部分であるから,この点における均等もあり得ない。 イ置換可能性原告の上記主張は,争う。 本件発明は,「半導体ウェーハ」に関するものであるから,切削対象物が「半導体ウェーハ」以外のものである場合に本件発明の作用効果を奏するかについて議論する前提を欠くものである。また,被告方法は,「切削ストロークに全く無駄がなくなるとともに,全ての切削位置を2本ずつ切削することができる」という本件発明の作用効果を奏しない。 16ウ置換容易性原告の上記主張は,争う。 「半導体ウェーハ」と回路基盤である「半導体パッケージ」とを同一視することは,明らかに当業者の常識に反する。 シリコンウェーハ上にフォトエッチング等を施した状態のもの(半導体ウェーハ)と,これを個別に切り分けて個々のチップとなったものを,さらにチップマウントして配線を施し,樹脂封止する等の機械的加工がされて形成された「半導体パッケージ」とでは,それぞれの性質に応じて切削時の技術的課題を異にしており,それぞれに格別の技術的配慮を要することは,当業者の技術常識である。 エ公知技術からの推考容易性原告の上記主張は,争う。 被告方法は,むしろ公知技術(乙9)を利用するものである。 オ意識的除外等の特段の事情原告の上記主張は,争う。 上記出願経緯によれば,原告は,圧電基板等の切削方法が開示されている公知文献(乙9)との関係で,切削対象物が「半導体ウェーハ」であることを相違点として強調し,かつ,意識的に「半導体ウェーハ」に限定したと評価することができる。 3争点(3)(被告の行為は本件特許権の侵害(間接侵害)となるか)について〔原告の主張〕(1)本件発明は,切削ストロークに無駄を生じさせることなく切削位置を2本ずつ切削することによって生産性の向上を図るものである。そして,第一のスピンドル及び第二のスピンドルとの間隔を維持したまま,第一のスピンドル及び第二のスピンドルをもう片方の端部の方向に割り出し送りし,チャックテーブルをX軸方向に移動させてストリートを2本ずつ切削することに17よって生産性を向上するという本件発明の課題解決のためには,2本のスピンドルが略一直線上に配設されるとともに,それぞれのスピンドルにブレードが装着されて2つのブレードが対峙した構成の装置を用いることが不可欠である。被告製品は,第一のスピンドル8と第二のスピンドル9とが略一直線上に配設され,第一のスピンドル8には第一のブレード10が装着され,第二のスピンドル9には第二のブレード11が装着され,第一のブレード10と第二のブレード11とが対峙した構成となっており,本件発明の課題解決のための構成を有している。 したがって,被告製品は,本件発明のよる課題の解決に不可欠な構成を有している。 (2)原告は,被告に対し,平成19年4月7日到達の通知書(甲5の1,2)により,被告製品が本件特許権を間接的に侵害するものであることを通知している。 したがって,遅くとも,上記時点において,特許法101条5号の「その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら」の要件を充足している。 (3)以上によれば,被告による被告製品の製造,販売又は販売の申出は,本件特許権を間接的に侵害するものである(特許法101条5号)。 〔被告の主張〕原告の上記主張は,争う。 被告製品は,本件特許で特定された「半導体ウェーハ」を切削する装置ではなく,また,切削方法についても,スピンドルやブレードが本件特許で特定された経時的変化をするものではない。したがって,被告製品は,本件発明の実施に供されるものではない。 4争点(4)(本件特許は無効とされるべきものか)について〔被告の主張〕18(1)本件発明は,実願昭58-49304号(実開昭59-156753号)のマイクロフィルム(乙9。昭和59年10月20日公開。以下「引用例1」という。)記載の発明と実願平1-76555号(実開平3-16343号)のマイクロフィルム(乙15の2。平成3年2月19日公開。以下「引用例2」という。)記載の発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができず,本件特許は,特許無効審判により無効とされるべきものであるから,原告は,本件特許権に基づく権利を行使することはできない(特許法104条の3)。 (2)引用例1の記載引用例1には,本件発明の構成要件AないしF,同Hの一部に相当する構成が開示されている。 ア構成要件AないしCの開示(ア)引用例1には,モータ22aの回転軸に連結されたスピンドル20aとモータ22bの回転軸に連結されたスピンドル20bとがテーブル14のY方向に移動可能に配設されていることが記載されている(乙9の第2図及び第3図,4頁1行ないし6行,4頁15行ないし5頁2行)から,本件発明の構成要件AないしCに相当する構成が開示されている。 本件発明の構成要件AないしCでは,駆動手段としてモータによって回転するネジを用い,また,各スピンドルをスピンドル支持部材の下部に配設している。しかし,直線方向の駆動手段としてネジを用いるものは,例示するまでもなく周知であり,引用例1記載の発明において,駆動手段としてモータによって回転するネジを用いることは,当業者が容易に想到し得るものである。また,各スピンドルの支持手段は,単なる設計事項にすぎない。 19(イ)原告は,?@ネジを2本用いる点(構成要件A),?A2本のスピンドルが2本のネジによって個別に駆動される点(構成要件AないしC),?B2本のネジがともにY軸方向に配設される点(構成要件A)は,引用例1に記載されておらず,また,これらの点は周知技術でもないと主張する。 しかし,仮に,上記?@ないし?Bの構成が引用例1に記載されていないとしても,切削加工装置において,上記?@ないし?Bの構成は,当業者に周知の技術であるというべきである(乙16の1ないし12)。 例えば,乙第16号証の1には,送り駆動モータ7の駆動により回転する駆動ネジ10と,送り駆動モータ9の駆動により回転する駆動ネジ11とが,機体2のZ軸方向に配設され,駆動ネジ10には,該駆動ネジ10の回転によりZ軸方向に移動する主軸台3が係合し,駆動ネジ11には,駆動ネジ11の回転によりZ軸方向に移動する主軸台5が係合し,主軸台3にはスピンドル3aが配設され,主軸台5にはスピンドル5aが配設されていることが記載されており(乙16の1の3頁右欄13行ないし20行,右欄32行ないし36行,4頁左欄6行ないし10行),上記?@ないし?Bの構成が開示されている。 イ構成要件Dの開示引用例1には,スピンドル20aの一端にカットホイール18aが装着され,スピンドル20bにカットホイール18bが装着されていることが記載されている(乙9の第2図及び第3図,4頁10行ないし15行)から,本件発明の構成要件Dに相当する構成が開示されている。 ウ構成要件Eの開示引用例1には,スピンドル20aとスピンドル20bが,カットホイール18aとカットホイール18bとが対峙するようY方向に略一直線上に配設されていることが記載されている(乙9の第2図及び第3図)から,20本件発明の構成要件Eに相当する構成が開示されている。 エ構成要件Fの開示引用例1には,矩形のワーク12を吸引保持するテーブル14がX方向に移動可能に配設されているダイシングソウ及びこれを用いた切削手順が記載されている(乙9の第2図及び第3図,4頁7行ないし9行,5頁13行及び14行,5頁18行ないし6頁2行)から,本件発明の構成要件Fに相当する構成が開示されている。 オ構成要件Hの開示引用例1には,スピンドル20a,20bを下降させるとともに,テーブル14をX方向に移動させ,ワーク12をX方向に2本同時に切削することが記載されている(乙9の5頁6行ないし11行,5頁18行ないし6頁2行)から,本件発明の構成要件Hの一部に相当する構成が開示されている。 カ効果についての記載引用例1記載の発明は,上記の構成により,「ワークへの同時加工・・・(中略)・・・ができる」,「ワークの切り出し,切削が極めて短時間に行なえることとなり,生産性が向上する」(乙9の7頁2行ないし6行)という効果を有する。 (3)本件発明と引用例1記載の発明との対比本件発明と引用例1記載の発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 ア一致点(ア)2つのスピンドルがY軸方向に移動可能に配設されている点(構成要件AないしC)(イ)各スピンドルにそれぞれブレードが装着されている点(構成要件D)21(ウ)2つのスピンドルが,ブレードが対峙するようY軸方向に略一直線上に配設されている点(構成要件E)(エ)半導体ウェーハを吸引保持するチャックテーブルがX軸方向に移動可能に配設されている点(構成要件F)イ相違点本件発明では,切削開始時における2つのブレードの位置(構成要件G),同位置のストリートを2本同時に切削する点(構成要件H),2つのスピンドルの動作態様(構成要件I)が具体的に特定されているのに対し,引用例1記載の発明では,2つのカットホイールでワークを2本同時に切削できるとされているものの(構成要件Hの一部),本件発明の構成要件GないしIに相当する具体的な切削方法が特定されていない点(4)引用例2の記載引用例2には,本件発明の構成要件GないしIに相当する構成が開示されている。 ア構成要件Gの開示引用例2には,第1のダイシングブレード1がX-Yテーブル11に固定された半導体ウエハ9の最も周縁に近い位置のスクライブライン9aに位置付けられ,第2のダイシングブレード2が半導体ウエハ9の半径長さHだけ離れたほぼ中心位置のスクライブライン9aに位置付けられていることが記載されている(乙15の2の第2図,6頁2行ないし6行,11行ないし14行,6頁18行ないし7頁7行)から,本件発明の構成要件Gに相当する構成が開示されている。 イ構成要件Hの開示引用例2には,スピンドル5を下降させるとともに,X-Yテーブル11をX又はY方向に移動させ,半導体ウエハ9の最も周縁に近い位置のスクライブライン9a及びほぼ中心位置のスクライブライン9aを2本同時22に切削することが記載されていること(乙15の2の6頁18行ないし7頁7行,7頁12行ないし18行)から,本件発明の構成要件Hに相当する構成が開示されている。 ウ構成要件Iの開示引用例2には,第1のダイシングブレード1と第2のダイシングブレード2との間隔を維持したまま,X-Yテーブル11を移動させながら順次間隔Hを隔てた2本のスクライブライン9aを同時に切削することが記載されていること(乙15の2の第3図,5頁14行ないし6頁1行,7頁18行ないし8頁1行)から,本件発明の構成要件Iに相当する構成が開示されている。 エ効果についての記載引用例2には,上記の構成により,「切断する半導体ウエハの切断回数が比例的に低減され,切断時間の大幅な短縮が図れる」(乙15の2の9頁13行ないし15行)という効果を有することが記載されている。 (5)本件発明の容易想到性引用例1記載の発明及び引用例2記載の発明は,いずれも,本件発明と同様,ダイシングソウに関する技術であり(なお,切削対象物についても,引用例1記載の発明では,本件発明と同じ矩形のワークであり,引用例2記載の発明では,本件発明と同じ半導体ウェーハである。),本件特許と技術分野の関連性を有している。引用例2には,「第2のダイシングブレード2と第1のダイシングブレード1との間隔Hを調節する手段としては,実施例のようにスペーサリング8による構成に限らず,公知の他の構成であってもよい。」と記載されている(乙15の2の9頁6行ないし9行)から,当業者が,引用例1記載の発明に引用例2で開示された構成要件GないしIに相当する構成を適用することが容易であることは明らかである。また,本件発明の効果も,引用例1,2に記載された発明の効果から予測できる以上のもの23はない。 したがって,本件特許には,特許法29条2項違反の無効理由が存在することは明らかであり,本件特許権に基づく権利の行使は許されない。 〔原告の主張〕(1)引用例1についてア構成要件AないしCの構成は,引用例1に開示されており,本件発明と引用例1記載の発明との一致点である,との被告の主張は,争う。 次に述べるとおり,引用例1には,?@ネジを2本用いる点(構成要件A),?A2本のスピンドルが個々のネジによって個別に駆動される点(構成要件AないしC),?B2本のネジがともにY軸方向に配設される点(構成要件A)が記載されておらず,これらは,本件発明と引用例1記載の発明の相違点というべきである。 (ア)スピンドルが2本ある場合における駆動手段として,2本のスピンドルを2本のネジで独立して駆動させる構成のほか,双方のスピンドルを1本のネジで駆動させる構成を採用することも可能であるところ,引用例1には,2本のスピンドルをどのように駆動させるかについての記載がないから,2本のスピンドルを2本のネジで独立して駆動させる構成は,引用例1から直ちに導き出せるものではない。 (イ)2本のスピンドルを1本のネジで駆動させれば,2本のスピンドルは常にブレードの間隔を保ったまま移動することになるのに対し,構成要件AないしCのように2本のスピンドルを2本のネジで独立して駆動させる構成とすれば,2本のスピンドルが独立して移動することが可能となり,ブレードの間隔を可変とすることができるから,本件発明が採用している構成は,設計事項でもない。 (ウ)2本のネジを駆動手段として用いる場合,ネジをX軸方向に配置したり,2本のネジを異なる方向に配置したり,2本のネジの関係が変化24したりするように構成することもありうるから,2本のネジをY軸方向に配設する構成は,引用例1から直ちに導き出すことは不可能であるし,設計事項でもない。 イ上記?@ないし?Bの構成は周知技術であり,同構成が周知技術であることを裏付ける文献として乙第16号証の1ないし12の文献がある,との被告の主張は,争う。 本件発明の構成要件A及びBは,スピンドルがブレードを保持するものであるところ,乙第16号証の1ないし6記載の発明は,スピンドルがワークを保持するものである。また,本件発明の構成要件Cは,2つのスピンドル支持部材の下部にそれぞれスピンドルを配設することにより,スピンドルの自重による先端部の下方変形を防止する作用効果を奏するものであるところ,乙第16号証の1ないし6記載の発明では,上記作用効果を奏しない。乙第16号証の7ないし12記載の発明についても,構成要件AないしCに相当する構成は記載されていない。 (2)引用例2についてア構成要件H引用例2で開示されたスピンドルは1本しかないから,引用例2には,構成要件Hのうち「該第一のスピンドル及び該第二のスピンドルを下降させる」点が記載されていない。 イ構成要件I引用例2で開示されたスピンドルは1本しかないから,引用例2には,構成要件Iのうち「該第一のスピンドルと該第二のスピンドルとの間隔を維持したまま」の点が記載されていない。また,引用例2のスピンドルはY方向には動かないから,構成要件Iのうち「該第一のスピンドル及び該第二のスピンドルをもう片方の端部の方向に割り出し送りし」の点も記載されていない。 25(3)動機付けの不存在ア引用例1記載の発明及び引用例2記載の発明には本件発明に対する動機付けが存在しないこと引用例1では,矩形のワークを切削対象とすることは記載されているものの,経時的な切削順序が記載されておらず,また,「多数個の圧電素子1を切り出したり,切削したりする場合には,加工に長時間を要することとなって生産性が損なわれるという問題がある。」(乙9の2頁18行ないし3頁1行)との記載によれば,ワークが矩形であることや切削ストロークについても考慮されていない。 引用例2についても,被加工物の形状が考慮されておらず,また,切削対象は円形のウェーハであるから,正方形または長方形の被加工物であることを考慮することはあり得ず,切削ストロークを短くするという発想もない。引用例2記載の発明では,切削ストロークは2枚の切削ブレードのうち切削ストロークが長い方に依存することとなり,切削ストロークや被加工物の形状を考慮に入れた切削順序を採用するという発想は,皆無である。 本件発明は,切削作業における切削ストロークの長さが生産性に悪影響を与えていたことから発明されたものであり,スピンドルを一直線上に配置するとともに,その状態を維持しつつ,正方形または長方形の被加工物に適した切削順序を採用することにより,課題の解決を図ったものである。 すなわち,本件発明は,正方形または長方形の被加工物の切削においては,円形の被加工物を切削する場合と異なり,切削ストロークを考慮する必要はないと認識した上で,2本のスピンドルの位置関係と被加工物の形状と切削順序との関係が生産性を向上させるためのポイントであることに着眼し,被加工物の形状に応じて経時的な切削順序を工夫することにより,生産性の向上を図ったものである。この着眼点は,被加工物の形状や切削ス26トロークを考慮していない引用例1記載の発明及び引用例2記載の発明から生ずることはない。したがって,引用例1記載の発明及び引用例2記載の発明には,本件発明に対する動機付けが存在しない。 イ引用例2記載の発明を引用例1記載の発明に適用する動機付けが存在しないこと引用例1記載の発明は,引用例1の第2図ないし第5図のとおり,運転中において2つのカットホイールの向きや位置関係を柔軟に変化させることを必要とするものである。一方,引用例2記載の発明は,2つのブレードの間隔がスペーサによって固定されており,装置の運転中はブレード間隔を変化させることができないものである。2つのカットホイールの向きや位置関係を柔軟に変化させて運転することを必要とする引用例1記載の発明と,運転中はブレードの間隔を変えられない引用例2記載の発明とは,根本的な技術思想において相反する関係にあり,引用例1記載の発明に引用例2記載の発明を適用する動機付けは存在しない。 ウ引用例1記載の発明と引用例2記載の発明との組合せには阻害要因が存在すること引用例1には,縦溝と横溝のあるワークの切削に関し,ワークの向きを変えて切削を行うことが生産性を損なう一因となっていることが記載されている(乙9の2頁14行ないし3頁1行)から,課題解決手段としては,ワークの向きを変えないようにすること及びカットホイールの向きを変えることが不可欠である。したがって,2つのブレードの向き及び位置関係が固定された引用例2記載の発明を引用例1記載の発明に適用することはできず,両発明の組合せには阻害要因がある。 また,引用例1の実用新案登録請求の範囲に記載された発明は,その記載内容が全体として1つの発明を構成しているものであり,その一部でも欠けると考案全体としては意味のないものとなる。2つのブレードの向き27及び位置関係が固定された引用例2記載の発明を引用例1記載の発明に適用すると,引用例1記載の実用新案登録請求の範囲のうち,「一つのワークを一または複数のカツトホイールが加工しているときのあきスペースに別のワークが位置していて別の一または複数のカツトホイールが加工を行」うという点につき,実現することが不可能となり,引用例1記載の発明の要旨が変更されてしまう。したがって,この点からも,両発明の組合せには阻害要因がある。 5争点(5)(損害額)について〔原告の主張〕(1)被告は,平成18年12月から現在まで,被告製品を約10台製造し,うち2台を販売している。被告は,被告製品を少なくとも1台4000万円以上で販売し,1台当たりの利益は,2000万円(利益率50パーセント)を下らない。そして,本件発明に係るダイシング部の被告製品全体に対する寄与率は,60パーセントを下らない。よって,ダイシング部のみの利益率は,被告製品全体の30パーセント(50パーセント×60パーセント)である。したがって,原告の損害は,特許法102条2項により,2400万円(4000万円×30パーセント×2台)である。 (2)弁護士・弁理士費用は,少なくとも1000万円を下らない。 〔被告の主張〕原告の上記主張は,争う。 第4当裁判所の判断本件では,事案に鑑み,争点(4)(本件特許は無効とされるべきものか)から判断する。 1本件発明本件発明は,特許請求の範囲請求項3に記載のとおり,「一方のモーターの駆動により回転する一方のネジと,他方のモーターの駆動により回転する他方28のネジとが基台のY軸方向に配設され,該一方のネジには,該一方のネジの回転によりY軸方向に移動する第一のスピンドル支持部材が係合し,該他方のネジには,該他方のネジの回転によりY軸方向に移動する第二のスピンドル支持部材が係合し,該第一のスピンドル支持部材の下部には第一のスピンドルが配設され,該第二のスピンドル支持部材の下部には第二のスピンドルが配設され,該第一のスピンドルの先端には第一のブレードが装着され,該第二のスピンドルには第二のブレードが装着され,該第一のスピンドルと該第二のスピンドルとは,該第一のブレードと該第二のブレードとが対峙するよう該Y軸方向に略一直線上に配設され,半導体ウェーハを吸引保持するチャックテーブルが,X軸方向に移動可能に配設されている精密切削装置を用いて正方形または長方形の半導体ウェーハを切削する切削方法であって,該第一のブレードがチャックテーブルに保持された正方形または長方形の被加工物の端部に位置付けられ,該第二のブレードが該被加工物の中央部に位置付けられ,該第一のスピンドル及び該第二のスピンドルを下降させると共に,該チャックテーブルをX軸方向に移動させ,該被加工物の端部及び中央部に形成されたストリートをX軸方向に2本同時に切削し,該第一のスピンドルと該第二のスピンドルとの間隔を維持したまま,該第一のスピンドル及び該第二のスピンドルをもう片方の端部の方向に割り出し送りし,該チャックテーブルをX軸方向に移動させてストリートを2本ずつ切削する切削方法。」であると認められる。 2引用例1に記載された発明(1)引用例1(乙9)には,次の記載がある。 ア「本考案はICに使用されるシリコンウエーハーや圧電基板等の切削や切断加工に好適なダイシングソウに関するものである。」(乙9の1頁18行ないし20行)イ「本考案は上記の問題点に鑑みてなされたものであって,圧電基板などの切り出しや切削などの加工が短時間にできるようにして生産性を向上す29ることを目的とする。 本考案はこのような目的を達成するため,制御信号によって水平面内の任意位置に移動したり任意角度回転するチャッキングテーブル上に,圧電基板などのワークを載置固定し,制御信号によってワークに対し遠近あるいは水平面に移動したりするカツトホイールで加工するダイシングソウにおいて,一つのワークに対し個々に制御,あるいは連動される二以上のカツトホイールを配設するか,一つのワークを一または複数のカツトホイールが加工しているときのあきスペースに別のワークが位置していて別の一または複数のカツトホイールが加工を行なうようにした。」(乙9の3頁2行ないし17行)ウ「ダイシングソウ10は,圧電基板12が載置されるテーブル14を備える。このテーブル14は図上上下方向(記号X方向)および,これと直交する左右方向(記号Y方向)にカツトホイールが移動可能に設けられている。なお,このテーブル14はさらに回転可能に設けられたものであってもよい。また,テーブル14は,ワーク12を粘着テープ16にはり付けそれを真空吸着する様に設けられている。さらに,ダイシングソウ10には互いに対向して配置されたカツトホイール18a,18bが設けられている。このカツトホイール18a,18bにはそれぞれスピンドル20a,20bの一端が固定されて,このカツトホイール18a,18bを支持している。また,スピンドル20a,20bの他端は各カツトホイール18a,18bに対して個々に設けられたモータ22a,22bの回転軸(図示省略)に連結されている。そして,カツトホイール18a,18b,スピンドル20a,20b,モータ22a,22bはテーブル14に対して上下方向(符号Z方向)さらに水平方向(符号Y方向)に移動可能に設けられる。」(乙9の4頁1行ないし5頁2行)エ「カツトホイール18aとカツトホイール18bとに同時に同じ作業を30やらせてもよい。」(乙9の5頁18行ないし20行)オ「実施例においては,1つのワーク14に対して,2つのカツトホイール18a,18bを互いに対向配置したものを示した」(乙9の6頁6行ないし8行)カ引用例1の第2図によれば,実施例において切削対象であるワーク12が長方形であることが認められる。 (2)以上の記載によれば,引用例1には,「Y軸方向に移動するモータ22aと,Y軸方向に移動するモータ22bと,該モータ22aにはスピンドル20aが配設され,該モータ22bにはスピンドル20bが配設され,該スピンドル20aの先端にはカツトホイール18aが装着され,該スピンドル20bにはカツトホイール18bが装着され,該スピンドル20aと該スピンドル20bとは,該カツトホイール18aと該カツトホイール18bとが対峙するよう該Y軸方向に略一直線上に配設され,シリコンウェーハーを真空吸着するテーブル14が,X軸方向に移動可能に配設されているダイシングソウ10を用いて長方形のシリコンウェーハーを切削する切削方法であって,テーブル14をX軸方向に移動させ,該カツトホイール18aと該カツトホイール18bにより,同時に,ワークを2本切削する切削方法」の発明(以下「引用発明1」という。)が開示されているものと認められる。 3本件発明と引用発明1との対比(1)本件発明と引用発明1とを対比すると,後者の「モータ22a」は前者の「第一のスピンドル支持部材」に,後者の「モータ22b」は前者の「第二のスピンドル支持部材」に,後者の「スピンドル20a」は前者の「第一のスピンドル」に,後者の「スピンドル20b」は前者の「第二のスピンドル」に,後者の「カツトホイール18a」は前者の「第一のブレード」に,後者の「カツトホイール18b」は前者の「第二のブレード」に,後者の「シリコンウェーハー」は前者の「半導体ウェーハ」に,後者の「真空吸31着」は前者の「吸引保持」に,後者の「テーブル14」は前者の「チャックテーブル」に,後者の「ダイシングソウ10」は前者の「精密切削装置」に,後者の「長方形」は前者の「正方形または長方形」に,それぞれ相当するということができる。 (2)そうすると,本件発明と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりであると認められる。 ア一致点Y軸方向に移動する第一のスピンドル支持部材とY軸方向に移動する第二のスピンドル支持部材と,該第一のスピンドル支持部材には第一のスピンドルが配設され,該第二のスピンドル支持部材には第二のスピンドルが配設され,該第一のスピンドルの先端には第一のブレードが装着され,該第二のスピンドルには第二のブレードが装着され,該第一のスピンドルと該第二のスピンドルとは,該第一のブレードと該第二のブレードとが対峙するよう該Y軸方向に略一直線上に配設され,半導体ウェーハを吸引保持するチャックテーブルが,X軸方向に移動可能に配設されている精密切削装置を用いて正方形または長方形の半導体ウェーハを切削する切削方法であって,チャックテーブルをX軸方向に移動させ,第一のブレードと第二のブレードにより,同時に,ワークを2本切削する切削方法である点。 イ相違点(ア)相違点1本件発明は,「一方のモーターの駆動により回転する一方のネジと,他方のモーターの駆動により回転する他方のネジとが基台のY軸方向に配設され,該一方のネジには,該一方のネジの回転によりY軸方向に移動する第一のスピンドル支持部材が係合し,該他方のネジには,該他方のネジの回転によりY軸方向に移動する第二のスピンドル支持部材が係合」するものである(構成要件A及びB)に対し,引用発明1には,そ32のような構成につき開示がされていない点。 (イ)相違点2本件発明は,「該第一のスピンドル支持部材の下部には第一のスピンドルが配設され,該第二のスピンドル支持部材の下部には第二のスピンドルが配設され」るものである(構成要件C)のに対し,引用発明1には,そのような構成につき開示がされていない点。 (ウ)相違点3本件発明は,「該第一のブレードがチャックテーブルに保持された正方形または長方形の被加工物の端部に位置付けられ,該第二のブレードが該被加工物の中央部に位置付けられ,該第一のスピンドル及び該第二のスピンドルを下降させると共に,該チャックテーブルをX軸方向に移動させ,該被加工物の端部及び中央部に形成されたストリートをX軸方向に2本同時に切削し,該第一のスピンドルと該第二のスピンドルとの間隔を維持したまま,該第一のスピンドル及び該第二のスピンドルをもう片方の端部の方向に割り出し送りし,該チャックテーブルをX軸方向に移動させてストリートを2本ずつ切削する」ものである(構成要件GないしI)のに対し,引用発明1では,2本同時に切削することは開示されているものの,その具体的な切削方法が開示されていない点。 4本件発明の容易想到性そこで,上記の各相違点につき,当業者が本件発明の構成に容易に想到することができたかについて検討する。 (1)相違点1についてア特公平2-42604号(乙16の1)には,送り駆動モータ7の駆動により回転する駆動ネジ10と,送り駆動モータ9の駆動により回転する駆動ネジ11とが,機体2のZ軸方向に配設され,駆動ネジ10には,駆動ネジ10の回転によりZ軸方向に移動する主軸台3が係合し,駆動ネジ3311には,駆動ネジ11の回転によりZ軸方向に移動する主軸台5が係合し,主軸台3にはスピンドル3aが配設され,主軸台5にはスピンドル5aが配設されていることが記載されている(乙16の1の第1図,3頁右欄13行ないし20行,同32行ないし36行,4頁左欄6行ないし10行)。 特開平7-186007号(乙16の2)には,Z軸サーボモータ14の駆動により回転するZ軸ボールネジ13と,Z軸サーボモータ24の駆動により回転するZ軸ボールネジ23とが,Z軸方向に配設され,Z軸ボールネジ13には,Z軸ボールネジ13の回転によりZ1軸方向に移動する主軸台12が係合し,Z軸ボールネジ23には,Z軸ボールネジ23の回転によりZ2軸方向に移動する主軸台22が係合し,主軸台12及び主軸台22にはスピンドルが配設されていることが記載されている(乙16の2の図1,段落【0011】)。 特開昭59-224250号(乙16の3)には,モータ15aの駆動により回転する送りねじ19aと,モータ15bの駆動により回転する送りねじ19bとが,矢印13方向に配設され,送りねじ19aには,送りねじ19aの回転により矢印13方向に移動する送りテーブル12aが係合し,送りねじ19bには,送りねじ19bの回転により矢印13方向に移動する送りテーブル12bが係合し,送りテーブル12aにはスピンドル20aが配設され,送りテーブル12bにはスピンドル20bが配設されていることが記載されている(乙16の3の第3図,2頁右上欄15行ないし左下欄17行)。 特開昭61-65754号(乙16の4)には,DCモータ3Lの駆動により回転するボールスクリュ等の送り軸を含む送り装置4Lと,DCモータ3Rの駆動により回転するボールスクリュ等の送り軸を含む送り装置4Rとが,図中左右方向に配設され,送り装置4Lには,送り装置4Lの34送り軸の回転により図中左右方向に移動するヘッド2Lが係合し,送り装置4Rには,送り装置4Rの送り軸の回転により図中左右方向に移動するヘッド2Rが係合し,ヘッド2Lにはスピンドル5Lが配設され,ヘッド2Rにはスピンドル5Rが配設されていることが記載されている(乙16の4の第1図,2頁右下欄9行ないし16行)。 特開平4-122501号(乙16の5)には,サーボモータ4の駆動により回転するボールねじと,サーボモータ5の駆動により回転するボールねじとが,Z軸方向に配設され,一方のボールねじには,一方のボールねじの回転によりZ軸方向に移動する第1主軸台2が係合し,他方のボールねじには,他方のボールねじの回転によりZ軸方向に移動する第2主軸台3が係合し,第1主軸台2には第1主軸が配設され,第2主軸台3には第2主軸が配設されていることが記載されている(乙16の5の第1図,3頁左上欄1行ないし12行)。 特開平4-372302号(乙16の6)には,サーボモータ110の駆動により回転するボールネジ120と,サーボモータ210の駆動により回転するボールネジ220とが,Z軸方向に配設され,ボールネジ120には,ボールネジ120の回転により軸Z1方向に移動するテーブル20(第1の主軸台30)が係合し,ボールネジ220には,ボールネジ220の回転により軸Z2方向に移動する第2の主軸台50が係合し,第1の主軸台30には第1の主軸35が配設され,第2の主軸台50には第2の主軸55が配設されていることが記載されている(乙16の6の図4,段落【0008】,【0009】)。 これらの公知文献の各記載によれば,Y軸方向に対向配置された2つのスピンドルを移動させるための機構として,「一方のモーターの駆動により回転する一方のネジと,他方のモーターの駆動により回転する他方のネジとが基台のY軸方向に配設され(構成要件A),該一方のネジには,該35一方のネジの回転によりY軸方向に移動する第一のスピンドル支持部材が係合し,該他方のネジには,該他方のネジの回転によりY軸方向に移動する第二のスピンドル支持部材が係合し(構成要件B)」との構成は周知であるということができる。そして,Y軸方向に対向配置された2つのスピンドルを移動させるための機構として,上記周知の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである。 原告は,乙第16号証の1ないし6は,スピンドルが,ブレードではなくワークを保持するものである点で,本件発明と相違すると主張する。しかしながら,ワークを保持するスピンドルを移動させるための機構を,ブレードを保持するスピンドルを移動させるための機構として採用することができない理由はないというべきである。原告の上記主張は,採用することができない。 イしたがって,相違点1に係る構成は,周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものと解するのが相当である。 (2)相違点2について2つのスピンドルをスピンドル支持部材の下部に配設した点(構成要件C)は,当業者が適宜に採用すべき設計事項であるというべきである。 原告は,本件発明では,2つのスピンドル支持部材の下部にそれぞれスピンドルを配設することにより,スピンドルの自重による先端部の下方変形を防止する作用効果を奏すると主張する。しかしながら,上記作用効果は,構造上自明な効果にすぎないというべきである。原告の上記主張は,採用することができない。 (3)相違点3についてア引用例2(乙15の2)には,次の記載がある。 (ア)「半導体ウエハを切断して個々の半導体ペレットに分割するときに使用されるダイシングソウに関する。」(乙15の2の1頁11行ない36し13行)(イ)「一枚の半導体ウエハを複数のダイシングブレードによって一度に一定間隔で複数箇所を切断できるようになり,半導体ウエハの全体を切断して個々の半導体ペレットに分割する時間が短縮される。」(乙15の2の4頁9行ないし12行)(ウ)「図に示すダイシングソウは半導体ウエハ9の縦横に形成されたスクライブライン9aに沿って切断して個々の半導体ペレットに分割するための装置であり,第1のダイシングブレード1及び第2のダイシングブレード2を有し,各ダイシングブレード1,2は回転軸を共通にして平行で一定間隔を保って配置されている。上記第1のダイシングブレード1は一対のハブ4,4によって切断刃3の先端部を残した状態で挟持されたものであり,図示していない上下駆動機構によって上下動可能なスピンドル5の内蔵モータ(図示せず)によって高速回転する第1のブレード取付軸6に固定されている。さらに,上記第2のダイシイングブレード2は,上記第1のダイシングブレード1と同様に一対のハブ4,4によって上記切断刃3と全く同径の切断刃3’の先端部を残した状態で挟持されたものである。この第2のダイシングブレード2は,上記第1のダイシングブレード1が固定された第1のブレード取付軸6に取り付けられて一体で回転する第2のブレード取付軸7に固定されおり,該ブレード取付軸7の外周面にはスペーサ用リング8が嵌着されて,この第2のダイシングブレード2と第1のダイシングブレード1との間に所定の間隔Hが保たれている。 上記スペーサ用リング8の長さLは,例えば,第1及び第2のダイシイングブレード1,2間の間隔Hが切断する半導体ウエハ9の直径Dの2分の1の長さとなるように各ハブ4や切断刃3,3’の厚み等を考慮して設定されている。」(乙15の2の4頁18行ないし6頁6行)37(エ)「半導体ウエハ9をスクランブライン9aに沿って切断する場合には,まず,ダイシングブレード1の切断刃3の先端を半導体ウエハ9の最も周縁に近い位置のスクライブライン9a上に当接して切断時の初期設定を行う。この場合,ダイシングブレード1,2の切断刃3,3’の外径及びその回転中心が同一であるため,ダイシングブレード2の切断刃3’先端は半導体ウエハ9の半径長さHだけ離れたほぼ中心位置のスクライブライン9a上に当接された状態となりダイシングブレード2の高さ位置及びX-Yテーブル11の座標等の初期設定が効率よく行える。 初期設定が終了すると,スピンドル5の内蔵モータを回転させてブレード取付軸6,7を高速回転させてそれぞれに固定されている第1及び第2のダイシングブレード1,2を高速回転させると共に,該スピンドル5を切断深さ分だけ外部駆動機構によって下降させる。それに伴って,X-Yテーブル11をXまたはY方向に移動させると半導体ウエハ9を半径の長さ間隔Hを隔てた2本のスクライブライン9が同時に切断される。以後,X-Yテーブル11を移動させながら順次間隔Hを隔てた2本のスクライブライン9aを同時に切断する。 そして,第3図に示すように,半導体ウエハ9の略中心のスクライブライン9aに第1のダイシングブレード1の切断刃3が位置したとき,このスクライブライン9aは既に第2のダイシングブレード2の切断刃3’によって切断されているので切断作業は終了する。 従って,従来の切断時間の半分の時間で半導体ウエハ9の切断が終了して個々の半導体ペレットに分割することができるようになり,切断時間がほぼ半減する。」(乙15の2の6頁18行ないし8頁11行)イ上記の記載によれば,引用例2には,半導体ウェーハのストリートを2本同時に切削する具体的方法として,「第一のブレードがチャックテーブルに保持された半導体ウエハの端部に位置付けられ,第二のブレードが該38半導体ウエハの中央部に位置付けられ,スピンドルを下降させると共に,チャックテーブルをX軸方向に移動させ,該半導体ウエハの端部及び中央部に形成されたストリートをX軸方向に2本同時に切削し,該第一のブレードと該第二のブレードとの間隔を維持したまま,該チャックテーブルをY軸方向に割り出し送りし,該チャックテーブルをX軸方向に移動させてストリートを2本ずつ切削する」方法の発明(以下「引用発明2」という。)が開示されているものと認められる。 ウそして,引用発明1は「ICに使用されるシリコンウエーハーや圧電基板等の切削や切断加工に好適なダイシングソウに関するもの」(乙9の1頁18行ないし20行)であり,引用発明2も「半導体ウエハを切断して個々の半導体ペレットに分割するときに使用されるダイシングソウに関する」(乙15の2の1頁11行ないし13行)ものであって,両者の技術分野は同一であること,また,引用発明1は「圧電基板などの切り出しや切削などの加工が短時間にできるようにして生産性を向上することを目的とする」(乙9の3頁3行ないし5行)ものであり,引用発明2も「半導体ウエハの全体を切断して個々の半導体ペレットに分割する時間が短縮される」(乙15の2の4頁11行及び12行)ことを目的とするものであって,両者は切削時間の短縮という目的においても共通していることから,引用発明1に対し,具体的な切削方法として引用発明2の方法を採用することは,当業者が容易に想到することができたというべきである。 ところで,引用発明1が,第一のスピンドルの先端に第一のブレードが装着され,第二のスピンドルの先端に第二のブレードが装着されるとの構成を備えていることを勘案すれば,引用発明1に対し引用発明2を適用することにより,引用発明2の「スピンドルを下降させる」ことは,本件発明の「該第一のスピンドル及び該第二のスピンドルを下降させる」こととなり,引用発明2の「該第一のブレードと該第二のブレードとの間隔を維39持」することは,本件発明の「該第一のスピンドルと該第二のスピンドルとの間隔を維持する」こととなることは,当然であるということができる。 また,引用発明2に開示された切削方法においては,引用発明1と異なり,チャックテーブルをY軸方向に割り出し送りすることとなっているところ,上で述べたとおり,引用発明1は,2つのスピンドルをY軸方向に移動させるものであるから,チャックテーブルをY軸方向に割り出し送りすることに代えて,第一のスピンドル及び第二のスピンドルをY軸方向に割り出し送りすることは,設計上の選択事項として,当業者が適宜になし得たことであるというべきである。 以上によれば,相違点3に係る構成は,引用発明1に対し引用発明2に開示された切削方法を適用することにより,当業者が容易に想到し得たものであると解するのが相当である。 エ原告は,引用発明1及び引用発明2は,被加工物の形状や切削ストロークを考慮しておらず,被加工物の形状に応じて経時的な切削順序を工夫するとの着眼点がないから,本件発明に対する動機付けがないと主張する。 しかしながら,引用発明1には長方形の被加工物が開示されており,これに対し引用発明2の切削方法を適用することは,2本の切断線を同時に切断して切断時間を短縮するという観点から当事者が容易に想到することができたものである。そして,切削ストロークに無駄が生じないという点は,上記の適用の結果として当然に生じる効果にすぎないというべきである。 原告の上記主張は,採用することができない。 原告は,2つのカットホイールの向きや位置関係を柔軟に変化させて運転することを必要とする引用発明1と,運転中はブレードの間隔を変えられない引用発明2とでは,根本的な技術思想において相反する関係にあるとして,引用発明1に引用発明2を適用することについての動機付けは存在せず,むしろ阻害要因がある旨主張する。しかしながら,引用発明1に40おいてカットホイールの向きや位置関係を柔軟に変化させることができるとしても,2つのカットホイールの位置関係を固定した状態で運転することができない理由はない。原告の上記主張は,採用することができない。 (4)以上によれば,本件発明は,引用発明1,2及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものというべきである(特許法29条2項)。したがって,本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することはできない(特許法104条の3)。 5結論よって,原告の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから,いずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
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(別紙特許公報,被告方法目録(1)及び被告方法目録(2)省略)41別紙物件目録別紙図面に示し下記構成を有する被告の製造,販売に係るシンギュレーションシステム装置(商品名「MCS-8000」)1図面の説明図1シンギュレーションシステムの全体を示す略示的な斜視図図2同システムにおけるダイシング装置の要部を示した斜視図2符号の説明Aダイシング装置B検査装置C整列・包装装置1一方のモーター2一方のネジ3他方のモーター4他方のネジ5基台6第一のスピンドル支持部材7第二のスピンドル支持部材8第一のスピンドル9第二のスピンドル10第一のブレード11第二のブレード12チャックテーブル12a治具12b溝4213半導体パッケージ13aブロック部(半導体パッケージの一部)3構造の説明図1において,本件のシンギュレーションシステムは,一方の側に半導体パッケージを個々のチップにカットするダイシング装置Aと,カットされたチップの良否を検査して振り分ける検査装置Bと,振り分けられたチップを揃えて整列させ所要量ずつ計測して包装する整列・包装装置Cとから構成されている。 そのシンギュレーションシステムのうち,ダイシング装置Aは,半導体パッケージをチップ状に切削するものであり,図2に示したように,一方のモーター1により回転する一方のネジ2と,他方のモーター3により回転する他方のネジ4とが基台5のY軸方向に,その先端が上下に所要の間隔をもって重なる状態で平行に配設されている。 一方のネジ2には,該一方のネジ2の回転によりY軸方向に移動する第一のスピンドル支持部材6が係合し,他方のネジ4には,該他方のネジ4の回転によりY軸方向に移動する第二のスピンドル支持部材7が係合している。 第一のスピンドル支持部材6の下部には第一のスピンドル8が配設され,第二のスピンドル支持部材7の下部には第二のスピンドル9が配設されている。 第一のスピンドル8の先端には第一のブレード10が装着され,第二のスピンドル9の端部には第二のブレード11が装着されている。 第一のスピンドル8と第二のスピンドル9とは,第一のブレード10と第二のブレード11とが対峙するようにY軸方向に略一直線上に配設されている。 半導体パッケージ13を吸引保持する治具12aを載置したチャックテーブル12が,X軸方向に移動可能に配設されているダイシング装置Aを用いて半導体パッケージ13からその一部である正方形または長方形のブロック部13aを切り出し,チップ状に切削するものである。なお,治具12aは,切削すべきブロック部13aの切削線(ストリート)に対応した溝12bが設けられている。 4344 |
裁判長裁判官 | 阿部正幸 |
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裁判官 | 平田直人 |
裁判官 | 瀬田浩久 |