関連審決 | 不服2003-21275 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成19行ケ10097審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10429審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10257審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10285審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10199審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 特許を受ける権利 / 承継 / 容易に実施 / アクセス / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 発明の詳細な説明 / 優先権 / 名義変更 / 着想 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 交換 / 混同 / 移転登録 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 拡張 / 変更 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
19年
(行ケ)
10348号
審決取消請求事件
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原告エルジー・エレクトロニクス・ インコーポレーテッド 訴訟代理人弁護 士鈴木修 同 花井美雪 同 木村剛大 訴訟代理人弁理 士大塚住江 被告特許庁長官鈴木隆史 指定代理人大野克人 同 山本章裕 同 小林和男 同 角田慎治 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2008/08/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2003-21275号事件について平成19年6月6日にした審決を取り消す。 |
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争いのない事実
1 手続の経緯(1)訴外ウォング・ラボラトリーズ・インコーポレーテッド(以下「ウォング・ラボラトリーズ社」という。)は,昭和63年9月17日(優先権主張:1987年9月17日,米国)に特願昭63-233367号(以下「原出願」という。)を出願した。 訴外エルジー・セミコン・カンパニー・リミテッド(以下「エルジー・セミコン社」という。)は,ウォング・ラボラトリーズ社から原出願に関して特許を受ける権利の譲渡を受け,平成10年4月14日付け特許出願人名義変更届及び移転登録申請書を特許庁長官に提出して出願人の地位を承継した。その後,エルジー・セミコン社は,平成13年9月6日,原出願の一部を分割して,発明の名称を「メモリ制御装置」とする新たな特許出願(特願2001-270014号。以下「本願」という。)をした。 原告は,本願に関し,エルジー・セミコン社から特許を受ける権利の譲渡を受け,平成15年2月20日付け出願人名義変更届を特許庁長官に提出して出願人の地位を承継し,同年4月11日付けで手続補正をしたが,同年8月5日付けで拒絶査定を受けたので,同年11月4日,これを不服として審判(不服2003-21275号事件。以下「本件審判」という。)を請求し,同年12月4日付けで手続補正(以下,この補正後の本願に係る明細書及び図面を「本願明細書」という。)をした。 その後,特許庁は,平成17年4月25日,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(附加期間90日。以下「前審決」という。)をした。 (2)原告が,前審決を不服として,知的財産高等裁判所に審決取消訴訟(平成17年(行ケ)第10677号事件)を提起したところ,同裁判所は,平成18年8月31日,前審決を取り消す旨の判決をした。 (3)原告は,上記判決の確定を受けて本件審判の審理が再開された後,本願に関し,平成18年10月19日付けで拒絶理由の通知を受けたが,指定期間に意見書を提出するなどの応答をすることはなかった。 その後,特許庁は,平成19年6月6日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(附加期間90日。以下「本件審決」という。)をし,同月18日,その謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲本願明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし6の各記載は,次のとおりである(以下,これらの請求項に係る発明を項番号に対応して,「本願発明1」などといい,これらをまとめて「本願発明」という。)。 「【請求項1】システムバス(10)により電気的に結合された少なくともリクエスト側エージェント(12)と応答側エージェント(16)とを有し,前記リクエスト側エージェントは,前記応答側エージェントのメモリ(20,60)に前記システムバスを介してデータを記憶するため及び検索するために前記メモリに対するアクセスを要求し,前記メモリはメモリバス(RAS,CAS)によって前記応答側エージェントに結合されており,前記メモリバスは前記システムバスから分離しているデータ処理システムにおいて使用されるメモリ制御装置であって,前記システムバスに結合され,前記応答側エージェントの前記メモリに対するアクセスサイクルを開始する要求を検出するリクエスト検出手段(66)であって,前記要求は前記システムバスを通じて前記リクエスト側エージェントによって生成される,リクエスト検出手段と,前記メモリバスに結合され,前記リクエスト検出手段に応答し,複数の読み出しアクセス又は書き込みアクセスを行い,読み出しアクセスに対して前記システムバスへデータを出力し,書き込みアクセスに対して前記システムバスからデータを入力するために前記応答側エージェントの前記メモリへアクセスするために,前記メモリバスを通じて複数のメモリアドレス制御信号をアサートする送出手段(66)であって,前記制御信号が少なくともローアドレスに関連するローアドレスストローブ信号と,コラムアドレスに関連するコラムアドレスストローブ信号とを含む,送出手段と,前記メモリに対するアクセスの完了を検出する手段であって,前記リクエスト側エージェントにより生成される,前記メモリに対してのアクセスの終りを示す制御信号に応答するものであり,前記送出手段に結合され,前記アクセスの終りを示す制御信号を検出した後に前記送出手段の動作を停止させる手段とを備え,前記システムバス上の前記リクエスト側エージェントのために,前記メモリバスを通じてページモード形式のメモリアクセスを行うために,前記送出手段がメモリアドレス制御信号をアサートするものであり,前記メモリ内のデータのページを示すローアドレスとともにローアドレスストローブ信号をアサートし,その後,複数のコラムアドレスとともにコラムアドレスストローブ信号をアサート及びアサート解除するものであり,前記ページモード形式のメモリアクセスが非順次のコラムアドレスを含む転送を可能とするように構成される,ことを特徴とするメモリ制御装置。 【請求項2】 請求項1に記載のメモリ制御装置において,前記送出手段により前記メモリバスを通じてアサートされる前記メモリアドレス制御信号は,複数の連続的な読み出しアクセス又は書き込みアクセスを行うために,前記応答側エージェントの前記メモリへ順次アクセスするために用いられる,メモリ制御装置。 【請求項3】 請求項1に記載のメモリ制御装置において,前記ページモード形式は非順次のページモードであり,前記送出手段により前記メモリバスを通じてアサートされる前記メモリアドレス制御信号は,複数の非連続的な読み出しアクセス又は書き込みアクセスを行うために,前記応答側エージェントの前記メモリへ非順次にアクセスするために用いられる,メモリ制御装置。 【請求項4】システムバス(10)により電気的に結合された少なくともリクエスト側エージェント(12)と応答側エージェント(16)とを有し,前記応答側エージェントが更にメモリバス(RAS,CAS)を通じてメモリ(20,60)に結合されるものであり,前記システムバスから分離したアクセス用のバス(68,74)を通じて前記メモリに電気的に結合されたプロセッサ(86)を有するものであるデータ処理システムにおいて使用されるメモリ制御装置であって,前記システムバスに結合され,前記システムバスを通じて行われるリクエスト側エージェントの要求又は前記アクセス用のバスを通じて行われる前記プロセッサの要求に応答し,前記応答側エージェントの前記メモリに対するアクセスサイクルを開始するリクエスト検出手段(66)と,前記メモリバスに結合され,前記リクエスト検出手段に応答し,複数の読み出しアクセス又は書き込みアクセスを行い,読み出しアクセスに対して前記システムバス又は前記アクセス用のバスへデータを出力し,書き込みアクセスに対して前記システムバス又は前記アクセス用のバスからデータを入力するために前記応答側エージェントの前記メモリへアクセスするために,前記メモリバスを通じて複数のメモリアドレス制御信号をアサートする送出手段(66)であって,前記制御信号が少なくともローアドレスに関連するローアドレスストローブ信号と,コラムアドレスに関連するコラムアドレスストローブ信号とを含む,送出手段と,前記メモリに対するアクセスの完了を検出する手段であって,前記リクエスト側エージェントにより生成される,前記メモリに対してのアクセスの終りを示す制御信号に応答するものであり,前記送出手段に結合され,前記アクセスの終りを示す制御信号を検出した後に前記送出手段の動作を停止させる手段とを備え,前記システムバス上の前記リクエスト側エージェントのため及び前記アクセス用のバスに結合された前記プロセッサのために,前記メモリバスを通じてページモード形式のメモリアクセスを行うために,前記送出手段がメモリアドレス制御信号をアサートするものであり,前記メモリ内のデータのページを示すローアドレスとともにローアドレスストローブ信号をアサートし,その後,複数のコラムアドレスとともにコラムアドレスストローブ信号をアサート及びアサート解除するものであり,前記ページモード形式のメモリアクセスが非順次のコラムアドレスを含む転送を可能とするように構成される,ことを特徴とするメモリ制御装置。 【請求項5】 請求項4に記載のメモリ制御装置において,前記送出手段により前記メモリバスを通じてアサートされる前記メモリアドレス制御信号は,複数の連続的な読み出しアクセス又は書き込みアクセスを行うために,前記応答側エージェントの前記メモリへ順次アクセスするために用いられる,メモリ制御装置。 【請求項6】 請求項4に記載のメモリ制御装置において,前記ページモード形式は非順次のページモードであり,前記送出手段により前記メモリバスを通じてアサートされる前記メモリアドレス制御信号は,複数の非連続的な読み出しアクセス又は書き込みアクセスを行うために,前記応答側エージェントの前記メモリへ非順次にアクセスするために用いられる,メモリ制御装置。」3 本件審決の理由別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願は,審判官が平成18年10月19日付けで原告に通知した下記(1)ないし(3)の拒絶理由(拒絶理由1ないし3)によって拒絶すべきである,というものである。 (1) 拒絶理由1本願発明1ないし6は,以下の各刊行物に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 ・特開昭61-122996号公報(甲1。以下「刊行物1」といい,その発明を「刊行物1記載発明」という。)・松岡哲弘,32ビツト・バス=マルチバスIIの概要,インターフェース,CQ出版社,1985年5月1日,11巻5号306頁〜321頁(甲2。以下「刊行物2」という。)・ 特開昭62-3488号公報(甲3)・ 特開昭61-77195号公報(甲4)・特開昭59-167766号公報(甲5。以下「刊行物5」といい,その発明を「刊行物5記載発明」という。)ア 審決の認定した刊行物1記載発明「マイクロプロセツサ30へメモリコントローラ31及びアドレスバス32を通じて結合されたアドレス端子18,マイクロプロセツサ30へメモリコントローラ31及びコントロールバス35を通じて結合されたコントロール信号/RAS,/CASのラインが接続される端子20,在来のデータラツチ33(メモリコントローラの1部)と8ビツト双方向データバス34によってマイクロプロセツサ30へ結合された分離したデータイン及びデータアウト端子22及び23を有し,8つのメモリチツプ10を並列で用いる256Kバイトの読取り/書込みメモリを使用したマイクロプロセツサシステムにおいて,アドレスを多重化し,/RAS及び/CASを生み出し,又リフレツシユアドレスを生み出す為に働くメモリコントローラ31であって,アドレス端子18,端子20,データイン及びデータアウト端子22及び23がバスによってメモリコントローラ31に結合されており,前記コントロール信号/RAS,/CASのラインがアドレスバス32と8ビツト双方向データバス34とコントロールバス35から分離し,マイクロプロセツサ30からのコントロール信号出力35は,通常データバスイネーブル/DEN,メモリイネーブル/MEN,アドレスラツチ/ALATCH,アドレスラツチイネーブル/ALE,読取りRD,書込みWR,読取り/書込みR/W又はW,有効メモリアドレスWMA,アドレスストローブAS,データストローブDS,等と呼ばれ,メモリチツプ10のコントロール信号/RAS,/CAS,/Wを生み出す為に用いられ,コントローラ31の中のデータラツチ33の為のコントロールを行ない,/RAS及び/CAS信号は端子20によって読取り/書込みコントロール/Wと共に8つのメモリチツプ10に加えられ,行アドレスは/RASがゼロへ降下するとゲートを通ってバツファ13の中へ入り,又列アドレスは/CASがゼロへ降下するとゲートを通ってバツファ15の中へ入り,読取り動作の場合,/W信号は高に留まっているインターバルの間はアドレスが端子18の上で有効であり,又/RAS及び/CASが降下した後の期間の間はデータが出力端子23の上で有効であり,別の時には,出力バツフア24が出力端子23を高インピ-ダンス状態に保持し,書込み動作は/Wが低下する事によって知らされるが,この場合には入力端子22の上のデータは指示された期間の間有効で,データ出力端子23は高インピーダンス状態に留まり,読取り動作の場合,アドレスバス32と8ビツト双方向データバス34とコントロールバス35上のマイクロプロセツサ30のために,コントロール信号/RAS,/CASのラインを通じてページモード動作を行うために,コントロール信号/RAS,/CASをゼロへ降下して読取りを開始し,8つのメモリチツプ10内のデータの行を示す行アドレスとともに/RASをゼロへ降下し,その後,複数の列アドレスとともに/CASをゼロへ降下及び高に留まって読取りを完了して,コントロール信号/RAS,/CASが高に留まり,また,書込み動作の場合にもページモード動作になり得るメモリコントローラ31。」(審決書9頁1行〜10頁3行)(以下,刊行物1における「RAS」,「CAS」,「W」,「DEN」,「MEN」,「ALATCH」,「ALE」の各記載は,審決書の摘記に従い,「/RAS」,「/CAS」,「/W」,「/DEN」,「/MEN」,「/ALATCH」,「/ALE」と表記する。)イ 審決の認定した刊行物5記載発明「第1の種類のデータ処理装置1から記憶装置2へのアクセスはバス3を介さずに直接バス10から行い,第2の種類のデータ処理装置4,5からはバス3を介して行うことができるメモリアクセス方式において使用される第1の種類のデータ処理装置1であって,バス3から分離した信号線30〜32,バス10を通じて記憶装置2に電気的に結合され,データ制御機能と演算機能とを実行するためのプロセサ部20と,プロセサ部20からの行先情報を受付け,コマンドの行先が記憶装置2であるか,あるいはバス3を介して他の装置に送出されるものであるかを判断するためのコマンド解読部21と,バス3を介して他の装置をアクセスするための能動ポート24と,他の装置からバス3を介してアクセスされる受動ポート25と,記憶装置2をアクセスするためのメモリ・ポート23と,プロセサ部20からと受動ポート25からとの記憶装置2へのアクセスに対して優先度を与え,メモリポート23をアクセスするための優先度回路部22とから構成され,第1の種類のデータ処理装置1では記憶装置2に対する命令のフェッチ,データの読出しや書込みなどの場合に,プロセサ部20より受けとる行先情報が記憶装置2のものであることを判別し,コマンド解読部21と,優先度回路部22と,メモリポート23とを介して記憶装置2をアクセスし,また,第2の種類のデータ処理装置4から記憶装置2へのメモリ読出しアクセスが送出された場合には,バス3を介してメモリデータの返送表示情報とコマンドとを受動ポート25へわたし,上記コマンドにより優先度回路部22と,メモリポート23とを介して記憶装置2をアクセスする第1の種類データ処理装置1。」(審決書17頁23行〜18頁9行)ウ 審決の認定した本願発明1と刊行物1記載発明との一致点・相違点(ア) 一致点「システムバス(10)により電気的に結合された少なくともリクエスト側エージェント(12)と応答側エージェント(16)とを有し,前記リクエスト側エージェントは,前記応答側エージェントのメモリ(20,60)に前記システムバスを介してデータを記憶するため及び検索するために前記メモリに対するアクセスを要求し,前記メモリはメモリバス(RAS,CAS)によって前記応答側エージェントに結合されており,前記メモリバスは前記システムバスから分離しているデータ処理システムにおいて使用されるメモリ制御装置であって,前記メモリバスに結合され,複数の読み出しアクセス又は書き込みアクセスを行い,読み出しアクセスに対して前記システムバスへデータを出力し,書き込みアクセスに対して前記システムバスからデータを入力するために前記応答側エージェントの前記メモリへアクセスするために,前記メモリバスを通じて複数のメモリアドレス制御信号をアサートする送出手段であって,前記制御信号が少なくともローアドレスに関連するローアドレスストローブ信号と,コラムアドレスに関連するコラムアドレスストローブ信号とを含む,送出手段を備え,前記システムバス上の前記リクエスト側エージェントのために,前記メモリバスを通じてページモード形式のメモリアクセスを行うために,メモリアドレス制御信号をアサートするものであり,前記メモリ内のデータのページを示すローアドレスとともにローアドレスストローブ信号をアサートし,その後,複数のコラムアドレスとともにコラムアドレスストローブ信号をアサート及びアサート解除するように構成されるメモリ制御装置である点。」(審決書13頁7行〜28行)(イ) 相違点1「メモリ制御装置が,本願発明1では,前記システムバスに結合され,前記応答側エージェントの前記メモリに対するアクセスサイクルを開始する要求を検出するリクエスト検出手段(66)であって,前記要求は前記システムバスを通じて前記リクエスト側エージェントによって生成される,リクエスト検出手段と,前記メモリに対するアクセスの完了を検出する手段であって,前記リクエスト側エージェントにより生成される,前記メモリに対してのアクセスの終りを示す制御信号に応答するものであり,前記送出手段に結合され,前記アクセスの終りを示す制御信号を検出した後に前記送出手段の動作を停止させる手段とを備え,前記送出手段が前記リクエスト検出手段に応答するのに対し,刊行物1記載発明では,リクエスト検出手段,メモリに対するアクセスの完了を検出する手段,送出手段の動作を停止させる手段を備えることが明らかでなく,送出手段が,リクエスト検出手段に応答し,メモリアドレス制御信号をアサートすることや,アクセスの終りを示す制御信号を検出した後に動作を停止させることも明らかでない点。」(審決書13頁30行〜14頁8行。なお,審決書13頁30行に「本願発明」とあるのは,「本願発明1」の誤記と認める。)(ウ) 相違点2「ページモード形式のメモリアクセスが,本願発明1では,非順次のコラムアドレスを含む転送を可能とするように構成されるのに対し,刊行物1記載発明では,非順次のコラムアドレスを含む転送が可能か否か明らかでない点。」(審決書14頁10行〜13行。なお,審決書14頁10行に「本願発明」とあるのは,「本願発明1」の誤記と認める。)エ 審決の認定した本願発明4と刊行物1記載発明との一致点・相違点(ア) 一致点本願発明1と刊行物1記載発明との一致点(前記ウ(ア))と同じ(審決書18頁11行〜13行)。 (イ) 相違点1「本願発明4では,データ処理システムが,前記システムバスから分離したアクセス用のバス(68,74)を通じて前記メモリに電気的に結合されたプロセッサ(86)を有し,メモリ制御装置が,前記システムバスに結合され,前記システムバスを通じて行われるリクエスト側エージェントの要求又は前記アクセス用のバスを通じて行われる前記プロセッサの要求に応答し,前記応答側エージェントの前記メモリに対するアクセスサイクルを開始するリクエスト検出手段(66)と,前記メモリバスに結合され,前記リクエスト検出手段に応答し,複数の読み出しアクセス又は書き込みアクセスを行い,読み出しアクセスに対して前記システムバス又は前記アクセス用のバスへデータを出力し,書き込みアクセスに対して前記システムバス又は前記アクセス用のバスからデータを入力するために前記応答側エージェントの前記メモリへアクセスするために,前記メモリバスを通じて複数のメモリアドレス制御信号をアサートする送出手段(66)であって,前記制御信号が少なくともローアドレスに関連するローアドレスストローブ信号と,コラムアドレスに関連するコラムアドレスストローブ信号とを含む,送出手段と,前記メモリに対するアクセスの完了を検出する手段であって,前記リクエスト側エージェントにより生成される,前記メモリに対してのアクセスの終りを示す制御信号に応答するものであり,前記送出手段に結合され,前記アクセスの終りを示す制御信号を検出した後に前記送出手段の動作を停止させる手段とを備え,前記送出手段が前記リクエスト検出手段に応答するのに対し,刊行物1記載発明では,データ処理システムには,そのようなプロセッサも,アクセス用のバスを通じて行われる前記プロセッサの要求もなく,メモリ制御装置が,リクエスト検出手段,メモリに対するアクセスの完了を検出する手段,送出手段の動作を停止させる手段を備えることが明らかでなく,送出手段が,リクエスト検出手段に応答し,メモリアドレス制御信号をアサートすることや,アクセスの終りを示す制御信号を検出した後に動作を停止させることも明らかでない点。」(審決書18頁16行〜19頁12行。なお,審決書18頁16行に「本願発明」とあるのは,「本願発明4」の誤記と認める。)(ウ) 相違点2本願発明1と刊行物1記載発明との相違点2(前記ウ(ウ))と同じ(審決書19頁14行〜15行)。 (2) 拒絶理由2本願は,発明の詳細な説明の記載が,下記アないしエの点で,当業者が請求項1〜6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから,特許法36条3項(平成2年法律第30号による改正前の規定。以下,同じ。)に規定する要件を満たしていない。 ア請求項1,4の「メモリに対するアクセスサイクルを開始する要求を検出するリクエスト検出手段(66)」,「メモリに対するアクセスの完了を検出する手段」,「前記送出手段の動作を停止させる手段」の各手段が,実施例のどの部分であるのか不明である。 イ請求項1,4の「メモリアクセスが非順次のコラムアドレスを含む転送を可能とする」,請求項1,4を引用する請求項3,6の「非順次のページモード」,「メモリへ非順次にアクセス」について,発明の詳細な説明には,単に,段落【0030】に「もちろん,非順次ページモードアドレスも可能であり,ある種の用途には望ましいかもしれない。」と記載されているだけであり,これらの「非順次」の動作をどのように実施するのか説明されていない。 ウ請求項4の「前記アクセス用のバス」としては,実施例には,メモリアドレスバス(68),メモリアドレスバス(74)しかなく,「アクセス用のバスを通じて行われる前記プロセッサの要求」が実施例において,どのように行われるのか不明である。 エ請求項4の「前記アクセス用のバスを通じて行われる前記プロセッサの要求に応答し,前記応答側エージェントの前記メモリに対するアクセスサイクルを開始する」動作について,実施例の説明として,段落【0043】に「必要に応じて現在のバス転送を中断する。それ故,HP信号によってローカルプロセッサが現在のバス転送をオーバーライドすることによってメモリに対してアクセスすることが可能になる。HP信号はそれがアサートされている間現在のバス転送をオーバライド(override)し,それによってローカルプロセッサ86が一連の連続的な高優先順位アクセスをメモリ60に対して行うことが可能になる。」とあるが,どのように応答側エージェントのメモリに対するアクセスサイクルを開始し終了するのか,また,「必要に応じて」がどのような場合を意味し,中断された現在のバス転送は,その後どのように処理されるのか不明である。 (3) 拒絶理由3本願は,特許請求の範囲の記載が,下記ア及びイの点で,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものでないから,特許法36条4項2号(平成2年法律第30号による改正前の規定。以下,同じ。)に規定する要件を満たしていない。 ア請求項1,4の「前記送出手段の動作の停止」における動作がどの動作を意味するのか不明であるため,特許を受けようとする発明の構成が不明である。 イ請求項1,4の「非順次のコラムアドレスを含む転送」,請求項2,5の「メモリへ順次アクセス」と「複数の連続的な読み出しアクセス又は書き込みアクセス」,請求項3,6の「非順次のページモード」,「メモリへ非順次にアクセス」,「複数の非連続的な読み出しアクセス又は書き込みアクセス」という記載は,「順次」と「連続」という用語の使い方が不統一であるため,特許を受けようとする発明の構成が不明である。 |
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当事者の主張
1 原告の主張本件審決は,以下のとおり,拒絶理由1ないし3に係る各認定判断を誤った違法があるから,取り消されるべきである。以下,拒絶理由2,3,1の順に,主張する。 (1) 取消事由1(拒絶理由2に係る認定判断の誤り)ア請求項1,4の「メモリに対するアクセスサイクルを開始する要求を検出するリクエスト手段(66)」,「メモリに対するアクセスの完了を検出する手段」,「送出手段を停止させる手段」の各手段について以下のとおり,上記各手段は,いずれも本願明細書(甲8,10,11)の段落【0035】に明りょうに記載されている。なお,「メモリに対するアクセスサイクルを開始する要求を検出するリクエスト手段(66)」は,請求項1記載の構成であり,請求項4には記載されていない。 (ア)「メモリに対するアクセスサイクルを開始する要求を検出するリクエスト手段(66)」についてa本願明細書の段落【0035】の記載から,「外部ロジックは,メモリアクセスのリクエストをメモリコントローラに対して行った後,R/A信号線を開放する」という構成(以下「第1処理動作」という。)と,「外部ロジックがR/A信号線を開放した後の,メモリリクエスト/肯定応答サイクル中に,メモリコントローラ66がR/A信号線を使用する」という構成(以下「第2処理動作」という。)を明確に理解できる。 b被告は,第1処理動作と第2処理動作を混同している。 第1処理動作の後に,第2処理動作を行うのであるから,R/A信号線上のロー信号により,ページモードメモリアクセスを開始する要求を検出できることは明らかである。また,第2処理動作中は,R/A信号線はメモリコントローラ66により使用されているから,外部ロジックからロー信号をメモリコントローラ66へ入力するためにR/A信号線が使われることはない。段落【0035】に明記されているとおり,R/A信号線が外部ロジックからメモリコントローラ66への入力となるのは,「コントローラ66が動作停止状態にあるとき」だからである。 (イ) 「メモリに対するアクセスの完了を検出する手段」についてa本願明細書の段落【0035】の「EOCがアサートされると,メモリコントローラ66には現在のメモリアクセスが順次データ転送の応答相の最終的メモリアクセスであることが知らされる」という記載から,「EOCがアサートされたことを,メモリコントローラ66が検知すると,メモリコントローラ66は,現在のメモリアクセスが最終的メモリアクセスであること,すなわち,アクセスの完了であることを知る」という構成を明確に理解できる。 b被告は,「アクセスの完了」の意味を誤解している。「アクセスの完了」とは,「アクセスすべきデータが残っていないために,メモリへのアクセスを終わる」という意味であり,被告主張のように,1つのコラムについて,ストローブ信号がアサートされるたびにアクセスが完了するということはない。 (ウ) 「送出手段を停止させる手段」についてa本願明細書の段落【0035】の「メモリコントローラ66は,EOC信号線(バス信号SC2*)がサイクル終了の状態を示すべく信号がアサートされるまで,繰返しメモリをアクセスする。」という記載から,「メモリコントローラ66は,EOC信号線がアサートされてサイクル終了の状態が示されるまで,メモリへのアクセスを継続させる」,すなわち,「EOC信号線がアサートされるとサイクル終了の状態が示され,メモリコントローラ66は,そのEOC信号線の状態に応答してメモリへのアクセスを停止させる」という構成を明確に理解できる。 b被告は,「ローストローブ信号」と「コラムアドレスストローブ信号」のアサートの動作の停止は,通常,それぞれローアドレスごと,コラムアドレスごとに行われるから,これとは異なるEOC信号がアサートされて示されるデータ転送のサイクルごとに行われる「停止」がどのようなものか不明であると主張する。しかし,後記(3)ア(イ)aのとおり,EOC信号は,複数の転送サイクルを繰り返して要求したデータを取得し終えた時に出力されるものであり,これによってバスを開放するものであることを当業者は容易に理解できる。したがって,EOC信号線のアサートにより示されるアクセスの終了とは,リクエスト側エージェントが要求したデータの転送を完了した時に,「アクセスの終わりを示す制御信号」によって当該データのアクセスを終了することを意味することが明らかであり,被告が主張する「通常のローアドレス毎,コラムアドレス毎の停止」とは異なるものであることを,当業者であれば理解することができる。 イ請求項1,4の「メモリアクセスが非順次のコラムアドレスを含む転送を可能とする」,請求項3,6の「非順次のページモード」,「メモリへ非順次にアクセス」について「非順次」の動作は,本件審決でも周知であると認定されている程度の技術であるから,具体的に説明しなくても,当業者は実施することができる。 ウ請求項4の「前記アクセス用のバスを通じて行われる前記プロセッサの要求」について本願明細書の段落【0042】に明りょうに記載されている。「ローカルプロセッサのアドレス及びデータのラッチをそれぞれメモリアドレス及びメモリデータバス68,74上に対してイネーブルする」ことが,メモリに対するアクセス要求そのものである。なお,刊行物1の記載は,本願発明とは関係がない。 エ請求項4の「前記アクセス用のバスを通じて行われる前記プロセッサの要求に応答し,前記応答側エージェントの前記メモリに対するアクセスサイクルを開始する」について(ア)本願明細書の段落【0042】,【0043】の記載から明らかである。 (イ)被告は,「メモリに対するアクセス要求」はアドレスバスやデータバスでなく,コントロールバスを通じて行われるから,「ローカルプロセッサのアドレス及びデータのラッチをそれぞれメモリアドレス及びメモリデータバス68,74上に対してイネーブルにする」ことが「メモリに対するアクセス要求」そのものであることを当業者が理解することはできない,と主張する。しかし,被告の同主張は,本件審決が言及していない新たな拒絶理由に当たるから,本件訴訟において同主張をすることは許されない。 また,いったんローカルプロセッサに対して,メモリへのアクセス権が与えられ,メモリへのアクセスが許可されると,いわゆるスタンドアローンの装置として処理動作を行えば足りることになる。すなわち,ローカルプロセッサは,アクセスするデータのアドレスを送出してアクセスを繰り返し,アクセスすべきデータがなくなった時にアドレスの送出を終了すれば足り,必ずしもアクセス終了を示す信号を出さなくてもよい。被告の主張は,この点からも失当である。 (2) 取消事由2(拒絶理由3に係る認定判断の誤り)ア 請求項1,4の「前記送出手段の送出を停止させる手段」について請求項1,4の「前記送出手段の送出を停止させる手段」は,「前記メモリに対するアクセスの完了を検出する手段であって,・・・前記アクセスの終わりを示す制御信号を検出した後に前記送出手段の動作を停止させる手段」のことである。このことは,本願明細書の段落【0035】の記載に照らし,明らかである。 イ請求項1,4の「非順次のコラムアドレスを含む転送」,請求項2,5の「メモリへ順次アクセス」と「複数の連続的な読み出しアクセス又は書き込みアクセス」,請求項3,6の「非順次のページモード」,「メモリへ非順次にアクセス」,「複数の非連続的な読み出しアクセス又は書き込みアクセス」における「順次」又は「連続」について(ア)「順次」という用語は「順序に従って,物事をするさま」,「連続」という用語は「次々につながって続くこと」を意味するところ(甲14),本願明細書がこれらの用語を上記一般に理解される意味で使用していることは,当業者であれば容易に理解できる。 (イ)被告の主張は,本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0028】の記載に基づくものであるが,同段落は補正されている(甲10)から,被告の主張は失当である。 (ウ)請求項3,6でいうところの「複数の非連続的な読み出しアクセス又は書き込みアクセス」は,複数の連続していない読み出しアクセス又は書き込みアクセス,すなわち,複数の連続していないアドレスに対するアクセスを意味する。 順次にメモリをアクセスする場合,すなわち,順序どおりに連続したアドレスへアクセスする場合には,連続したアドレスへの連続的な読み出しアクセス又は書き込みアクセスを行うが,これと異なり,請求項3,6に記載の構成のように「メモリへ非順次にアクセスする」場合,すなわち,順序どおりに連続していないアドレスへアクセスする場合には,連続していないアドレスへの非連続的な読み出しアクセス又は書き込みアクセスを行う。これは,連続して(順次に)並んでいるアドレス中におけるアクセスの対象となるアドレスが連続していない(順次ではない)ので,アクセスが非連続的であることを意味する。 請求項3,6に「ページモード形式は非順次のページモードであり」と記載されているように,アクセス方式はページモード形式であるから,請求項3,6にいう「複数の非連続的な読み出しアクセス又は書き込みアクセス」が,複数回の単発的なアクセスを行う処理を意味するものではなく,複数の非連続的なアドレスへ連続してアクセスする処理を意味することは,当業者であれば容易に理解することができる。 (3) 取消事由3(拒絶理由1に係る認定判断の誤り)ア 本願発明1の進歩性判断の誤り本件審決は,以下のとおり,本願発明1と刊行物1記載発明との相違点を看過し,また,相違点1についての容易想到性の判断を誤った。なお,本件審決の摘示に係る両発明の一致点,相違点1及び2の各認定(前記第2,3(1)ウ(ア)ないし(ウ))は認め,相違点2の判断は争わない。 (ア) 本願発明1と刊行物1記載発明との相違点の看過本件審決は,以下のとおり,刊行物1記載発明の認定を誤った結果,本願発明1と刊行物1記載発明との相違点を看過した。 a刊行物1記載発明の認定の誤り本件審決は,刊行物1のFig.1及びFig.4に言及した上で(審決書8頁18行〜25行),刊行物1記載発明について,「アドレス端子18,端子20,データイン及びデータアウト端子22及び23がバスによってメモリコントローラ31に結合されており,前記コントロール信号/RAS,/CASのラインがアドレスバス32と8ビツト双方向データバス34とコントロールバス35から分離し」(審決書9頁11行〜14行)ていると認定した。 しかし,以下のとおり,審決の上記認定は誤りである。 (a)刊行物1のFig.1には,1ビットデータ入力端子22,1ビットデータ出力端子23は図示されているが,メモリコントローラ31は示されていない。また,Fig.4では,22,23は,データラッチ33とシリコンチップ10との間にある線を示しているのに対して,メモリコントローラ31は,コントロールバスから下方向に延び,シリコンチップの外部端子20に接続される四角い箱につながる線であることが示されている。このように,刊行物1には,データイン及びデータアウト端子22及び23にメモリコントローラ31を接続する信号線を示すラインは,記載されていない。 (b)刊行物1の記載は不明りょうであり,文章による説明と図面の記載が一致しない。このような矛盾あるいは不備を含む刊行物1の記載から,「コントロール信号/RAS,/CASのラインがアドレスバス32と8ビツト双方向データバス34とコントロールバス35から分離し」ていることは,認定できない。 b本件審決が看過した本願発明1と刊行物1記載発明との相違点前記aのとおり,刊行物1には,本願発明のバスに相当するものが開示されておらず,また,原告が主張する「マイクロプロセッサ30へメモリコントローラ31及びコントロールバス35を通じて結合されたコントロール信号/RAS,/CASのライン」自体が示されていない。 本願発明1は,システムバスへ出力されるデータの転送速度をシステムバスのデータ転送速度との関係において調整してFIFOバッファを使用しないシステムを可能にしたものである。これに対し,刊行物1には,「マイクロプロセッサ30へメモリコントローラ31及びコントロールバス35を通じて結合されたコントロール信号/RAS,/CASのライン」自体が示されていないのであるから,刊行物1記載発明は,「FIFOバッファを使用しない」という本願発明の目的を達成するために必要な構成を欠いている。 本件審決は,本願発明1と刊行物1記載発明との上記相違点を看過した。 (イ)本願発明1と刊行物1記載発明との相違点1の容易想到性判断の誤り本件審決は,本願発明1と刊行物1記載発明との相違点1について,「マルチバスIIが,CPUとメモリ間のデータ転送のバスであって,システム制御信号SC0*-SC9*により転送サイクルを開始する要求や転送サイクルの終わりを示すことは,刊行物2等により周知であるから,刊行物1記載発明の『マイクロプロセツサ30』と『8つのメモリチツプ10を並列で用いる256Kバイトの読取り/書込みメモリ』との間のデータ転送のバスとして,上記周知のマルチバスIIを用い,『転送サイクルを開始する要求』を検出した後にコントロール信号/RAS,/CASをアサートし,『転送サイクルの終わりを示す制御信号』を検出した後にコントロール信号/RAS,/CASのアサート(本願発明の『送出手段の動作』に相当)を停止させることは,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。」(審決書14頁33行〜15頁7行)と判断した。 しかし,以下のとおり,本件審決の上記判断は誤りである。 aEOC信号について本願発明1の「メモリのアクセスの終わりを示す制御信号を検出した後に前記送出手段の動作を停止させる手段」は,複数の転送サイクルを繰り返して要求してデータを取得し終えた時に出力されるものであるのに対し,刊行物2に記載された「EOC信号」は,各転送サイクルの終わりに出力されるものであるから,本願発明1の「アクセスの終わりを示す制御信号」は,刊行物2記載の「EOC信号」とは異なるものである。 すなわち,刊行物2において,「1転送サイクル」とは,当該転送サイクルにおいてアクセスするデータのアドレス情報の送出と,当該アドレス情報により指定されたデータの転送とからなるものであり,刊行物2においては,各転送サイクルの終わりに必ず「EOC信号」が送出されているのに対し,本願発明1は,各転送サイクルの終わりに「EOC信号」を送出することはせず,複数の転送サイクルを繰り返した後に「EOC信号」を送出してアクセスを終了するものである。 このように,「EOC信号」は,転送サイクルで独占されていたシステムバスを開放する処理において用いられるものであり,システムバスの開放とメモリに対するアクセス終了とは必然的な結びつきはない。 したがって,「メモリのアクセスの終わりを示す制御信号を検出した後に前記送出手段の動作を停止させる手段」を設けることが,単なる設計事項であるということはできない。 b組合せの困難性刊行物2には,メモリに対するアクセスの終わりを示す制御信号を検出して送出手段の動作を停止させる手段は記載されておらず,これは,当業者が適宜になし得る設計事項ではない。 刊行物1のFig.4は,マイクロプロッセッサ30を1つ記載するのみで,他のリクエストエージェントは示されておらず,これがマルチバスを介して複数のリクエストエージェントと結合できるものであることは何ら示されていないから,このようなメモリに刊行物2記載のマルチバスIIを用いることが可能か否かは,明らかでない。そして,刊行物1記載発明は,メモリ自体に関する発明であって,電力の節約を目的とするものであるのに対し,刊行物2記載のマルチバスIIは,バスに関する技術であって,課題を異にしている上,そもそも組み合わせることが可能であるか否かが明らかでないのであるから,刊行物1記載発明にマルチバスIIを組み合わせることは,当業者といえども,困難である。 イ 本願発明2及び3の進歩性判断の誤り請求項2及び3は請求項1を引用しているから,本願発明1に係る本件審決の認定判断が誤りである以上,本願発明2及び3に係る本件審決の認定判断も誤りである。 ウ 本願発明4の進歩性判断の誤り以下のとおり,本件審決は,本願発明4と刊行物1記載発明との相違点1の容易想到性の判断を誤った。 (ア) 刊行物5を組み合わせることについて以下のとおり,刊行物1記載発明と刊行物5記載発明とは目的が異なり,両者を組み合わせる動機付けがない。 a刊行物1記載発明は,ダミーセルによる不必要な放電を防止し,かつアクティブプルアップ回路の中に用いられているブーストクロックドライバの回路も半分しか駆動させないことにより,電力を節約することを目的とした「半導体ダイナミックメモリデバイス」に関する発明である。 これに対し,刊行物5記載発明の目的は,従来技術が「アクセスバス11から記憶装置2へのアクセスを行うという第1のデータ処理装置1の試験が第2および第3のデータ処理装置4,5を使用しなければならないという欠点を有していた」ことを前提として,「第1の種類のデータ処理装置からのアクセスバスと,バスと,第1の種類のデータ処理装置へのアクセスバスとを使用して記憶装置をアクセスする手段を有し,第2の種類のデータ処理を使用しなくても第2の種類のデータ処理装置から記憶装置へ通ずるアクセスバスを単独に試験できるようにして上記欠点を除去し,試験法を簡略したメモリアクセス方式を提供すること」である。 このように,刊行物1記載発明と刊行物5記載発明とは,課題が異なる。 また,刊行物1には,刊行物1記載発明と刊行物5記載発明とを組み合わせることを示唆する記載はない。 b本願発明は,マルチバスを介して繋がる複数のエージェントの存在を前提とし,当該マルチバスを介したメモリアクセスの高速化を図ったものであり,刊行物5にいうデータ処理装置1と記憶装置2とが直結することによるアクセスの高速化とは全く異なったものであることは明白である。したがって,刊行物5におけるメモリアクセスの高速化と本願発明における複数エージェント間におけるマルチバスを介したメモリアクセスの高速化とを同一視する被告の主張は誤りである。 (イ) 刊行物1,2及び5を組み合わせることについて上記(ア)に加え,前記アで主張したところによれば,刊行物1,2及び5を組み合わせる動機付けはないといえる。 エ 本願発明5及び6の進歩性判断の誤り請求項5及び6は請求項4を引用しているから,本願発明4に係る本件審決の認定判断が誤りである以上,本願発明5及び6に係る本件審決の認定判断も誤りである。 2 被告の反論本件審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 (1) 取消事由1(拒絶理由2に係る認定判断の誤り)に対しア請求項1,4の「メモリに対するアクセスサイクルを開始する要求を検出するリクエスト手段(66)」,「メモリに対するアクセスの完了を検出する手段」,「送出手段を停止させる手段」の各手段について(ア)「メモリに対するアクセスサイクルを開始する要求を検出するリクエスト手段(66)」についてaR/A信号線上のロー信号は,ページモードメモリアクセスサイクル中にコラムアドレスごとに繰り返し受信され,ページモードメモリアクセスサイクル中に繰り返しページモードメモリアクセスサイクルを開始する要求を検出してしまうため,単にR/A信号線上のロー信号を受信してもページモードメモリアクセスサイクルを開始する要求を検出できないから,請求項1の「メモリに対するアクセスサイクル」を開始する要求をどのように検出するのか不明である。 b原告が主張するように,R/A信号線が外部ロジックからメモリコントローラ66への入力となるのは,「コントローラ66が動作停止状態にあるとき」であって,メモリアクセスに対するリクエストの検出が第1処理動作で行われるためには,「コントローラ66が動作停止状態にあるとき」に,R/A信号線が外部ロジックによりローパルス状態となる必要があるが,「コントローラ66が動作停止状態にあるとき」を外部ロジックはどのように知るのか,本願明細書の発明の詳細な説明には記載されていない。 (イ) 「メモリに対するアクセスの完了を検出する手段」について「メモリに対するアクセスの完了」については,本願明細書の段落【0038】では,「ページクロス(ページ横切り)」,段落【0035】では,「EOC信号線(バス信号線SC2*)がサイクルの終了の状態を示すべく信号がアサートされること」,図6や段落【0036】では,「コラムアドレス毎のアクセス」によって検出される「アクセスの完了」が,それぞれ説明されているだけであって,原告が主張するような,「アクセスすべきデータが残っていないために,メモリへのアクセスを終わる」という意味や,各メモリへのアクセスのサイクルとは別に検出されるものとしての「メモリに対するアクセスの完了」については,本願明細書には具体的にどのように行われるかが説明されていない。 (ウ) 「送出手段を停止させる手段」について「ローアドレスストローブ信号」と「コラムアドレスストローブ信号」のアサートの動作の停止は,通常,それぞれローアドレスごと,コラムアドレスごとに行われるものである。 そうすると,本願明細書に記載された実施例において,通常のローアドレスごと,コラムアドレスごととは異なる,EOC信号線がアサートされて示されるデータ転送のサイクルごとに行われる「停止」がどのようなものか不明である。 イ請求項1,4の「メモリアクセスが非順次のコラムアドレスを含む転送と可能とする」,請求項3,6の「非順次のページモード」,「メモリへ非順次にアクセス」についてページモード形式が順次か非順次かにかかわらず,「リクエスト検出手段(66)」,「メモリに対するアクセスの完了を検出する手段」,「送出手段の動作を停止させる手段」の各手段が,本願明細書に記載された実施例のどの部分であり,各手段の動作がどのように行われるのか不明であるから,メモリアクセスが非順次のコラムアドレスを含む転送が周知であっても,本願明細書の発明の詳細な説明は,本願発明1ないし6を当業者が容易に実施することができる程度に記載されていない。 ウ請求項4の「前記アクセス用のバスを通じて行われる前記プロセッサの要求」について刊行物1に記載されているように,通常,「メモリに対するアクセス要求」,つまり請求項4の「前記アクセス用のバスを通じて行われる前記プロセッサの要求」は,アドレスバスやデータバスでなく,コントロールバスを通じて行われるから,本願明細書の図5や段落【0042】などをみても,「ローカルプロセッサのアドレス及びデータのラッチをそれぞれメモリアドレス及びメモリデータバス68,74上に対してイネーブルにする」ことが「メモリに対するアクセス要求」そのものであることを当業者が理解することはできない。 エ請求項4の「前記アクセス用のバスを通じて行われる前記プロセッサの要求に応答し,前記応答側エージェントの前記メモリに対するアクセスサイクルを開始する」について通常は,「メモリに対するアクセス要求」はアドレスバスやデータバスでなく,コントロールバスを通じて行われるから,「ローカルプロセッサのアドレス及びデータのラッチをそれぞれメモリアドレス及びメモリデータバス68,74上に対してイネーブルにする」ことが「メモリに対するアクセス要求」そのものであることを当業者が理解することはできない。 また,本願明細書に記載された実施例において,ローカルプロセッサがメモリに対するアクセスを終了する際にアクセス終了を示す信号を生成する手段,メモリ(又は,メモリ・コントローラ)がアクセス終了を示す信号に応答してメモリのアクセスサイクルを終了させる手段について,具体的な記載が本願明細書の発明の詳細な説明にはないから,当業者がこれらの手段を実施できることは明らかではない。 (2) 取消事由2(拒絶理由3に係る認定判断の誤り)に対しア 請求項1,4の「前記送出手段の送出を停止させる手段」について「ローアドレスストローブ信号」と「コラムアドレスストローブ信号」をアサートする動作の停止は,通常,それぞれローアドレスごと,コラムアドレスごとに行われるものである。 したがって,請求項1,4の「送出手段」において,「ローアドレスストローブ信号」と「コラムアドレスストローブ信号」をアサートする動作のローアドレスごととコラムアドレスごとの通常の停止と異なるどのような動作の停止が,EOC信号線がアサートされて示されるデータ転送のサイクルごとに行われるのか不明であり,請求項1,4の「前記送出手段の動作を停止」という記載の技術内容を理解することができない。 イ請求項1,4の「非順次のコラムアドレスを含む転送」,請求項2,5の「メモリへ順次アクセス」と「複数の連続的な読み出しアクセス又は書き込みアクセス」,請求項3,6の「非順次のページモード」,「メモリへ非順次にアクセス」,「複数の非連続的な読み出しアクセス又は書き込みアクセス」における「順次」又は「連続」について本願明細書の段落【0036】の「連続的メモリアクセス」,段落【0043】の「一連の連続的な高優先順位アクセス」,段落【0028】の「ページモードアクセスは,データが順次アクセスされる場合,すなわちコラムアドレスが各アクセスにつき1つだけ増分もしくは減分される場合」,「非順次ページモードアドレス」のように,本願明細書に記載された実施例において,「連続的なアクセス」,「順次ページモードアクセス」,「非順次ページモードアクセス」は行われているが,請求項3,6の「複数の非連続的な読み出しアクセス」は行われていない。 また,「連続」という用語を一般に理解されるとおりの意味に解釈しても,通常,ページモード形式のメモリアクセスとは,コラムアドレスが順序どおりか否かにかかわらず,複数のメモリアクセスを続けて行うものであり,そのような「連続的な」ページモード形式のメモリアクセスを行う請求項1,4をそれぞれ引用する請求項3,6に係る発明において,「連続的な」ページモード形式のメモリアクセスと「複数の非連続的な読み出しアクセス」という異なる形式のアクセスが混在しており,当業者はその技術内容を理解することができない。 (3) 取消事由3(拒絶理由1に係る認定判断の誤り)に対しア 本願発明1の進歩性判断の誤りに対し(ア) 本願発明1と刊行物1記載発明との相違点の看過に対しa刊行物1記載発明の認定の誤りに対し(a)本願発明においても,「RAS0*とRAS1*の信号線やCAS0*-CAS3*の信号線」を,「メモリバス(RAS,CAS)」と呼んでいるように,DRAMにおける各種の信号線は,複数のバンク,アレイ,チツプ等に共通に用いられるため,当業者に「バス」と呼ばれている。 一方,刊行物1のFig.1やFig4には,アドレス端子18,端子20と同様,メモリ10の1ビットデータイン及びデータアウト端子22及び23にメモリコントローラ31を接続する信号線を示すラインが記載されている。そして,このメモリ10の1ビットデータイン及びデータアウト端子22及び23にメモリコントローラ31を接続する信号線も,複数のアレイ11a〜11hや複数のチツプ10に共通に用いられる。 したがって,本件審決が,刊行物1記載発明について,「データイン及びデータアウト端子22及び23がバスによってメモリコントローラ31に結合されており」(審決書9頁11行〜12行)と認定したことに,誤りはない。 (b)刊行物1には,「/RAS及び/CAS信号は端子20によって読取り/書込みコントロール/Wと共にチツプへ加えられ」(5頁右下欄3行〜5行),「チップ10の分離したデータイン及びデータアウト端子22及び23は在来のデータラッチ33(メモリコントローラの1部)と8ビット双方向データバス34によってマイクロプロセッサ30へ結合されている。」(6頁左下欄11行〜15行),「マイクロプロセツサ30からのコントロール信号出力35は・・・デバイス10のコントロール端子(/RAS,/CAS,/W)と同じではない。マイクロプロセツサ又は38のコントロール出力34(「マイクロプロセツサ30のコントロール出力35」の明らかな誤記である。)はメモリチツプ10のコントロール信号/RAS,/CAS,及び/Wを生み出す為に用いられ,コントローラ31の中のデータラツチ33の為のコントロールを行なう。」(6頁左下欄15行〜右下欄9行)と記載されている。 上記記載から,刊行物1記載発明のメモリコントローラ31の構成は明らかであり,マイクロプロセツサ30からのコントロール信号出力35を用いて/RAS及び/CASを生み出しているということができる。 したがって,本件審決が,刊行物1記載発明について,「コントロール信号/RAS,/CASのラインがアドレスバス32と8ビツト双方向データバス34とコントロールバス35から分離し」(審決書9頁12行〜14行)と認定したことに,誤りはない。 b本件審決が看過した本願発明1と刊行物1記載発明との相違点について刊行物1に「マイクロプロセツサ30へメモリコントローラ31及びコントロールバス35を通じて結合されたコントロール信号/RAS,/CASのライン」が記載されていることは,前記aのとおりであるところ,刊行物1記載発明の上記構成は,本願発明1の「メモリバス(RAS,CAS)」に相当する。 また,本願明細書の請求項1には,システムバスヘ出力されるデータの転送速度をシステムバスのデータ転送速度との関係において調整するような構成は記載されていないから,原告の主張する「FIFOバッファを使用しない」という目的を達成するために必要な構成の有無は,本願発明1と刊行物1記載発明との相違点とはならない。 (イ)本願発明1と刊行物1記載発明との相違点1の判断の誤りに対しaEOC信号について本願明細書の段落【0035】などの記載に照らし,本願発明1の「アクセスの終わりを示す制御信号」は,各転送サイクルの終了を意味する刊行物2の「EOC信号」とは異なるものではないと解釈すべきである。 そして,「転送サイクルの終わりを示す制御信号」(転送サイクルの終了を示すEOC信号)を検出する前には,メモリに対するアクセスに必要なコントロール信号/RAS,/CASのアサートを停止させるはずはない。 したがって,本件審決が,「『転送サイクルの終わりを示す制御信号』を検出した後にコントロール信号/RAS,/CASのアサート(本願発明の「送出手段の動作」に相当)を停止させることは,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。」(審決書15頁5行〜7行)と判断したことに,誤りはない。 b組合せの困難性について刊行物2記載のマルチバスIIを刊行物1記載発明における「メモリに対するアクセスサイクル」のようなCPUとメモリ間のデータ転送に用いるに当たり,「メモリに対するアクセスの終りを示す制御信号を検出して送出手段の動作を停止させる手段」を備えるようにすることは,単なる設計事項にすぎない。 マルチバスIIは,一般に知られている「マイクロプロセッサシステムにおけるCPUとメモリ間のデータ転送用のバス」の標準であるから,刊行物1記載発明におけるCPUとメモリ間のデータ転送用のバスとして組み合わせることが可能であり,組合せの示唆も動機付けもある。 イ 本願発明2及び3の進歩性判断の誤りに対し本願発明1に係る本件審決の認定判断に誤りがないことは前記アのとおりであるから,本願発明2及び3に係る本件審決の認定判断に原告主張の誤りはない。 ウ 本願発明4の進歩性判断の誤りに対し(ア) 刊行物5を組み合わせることについて刊行物1記載発明では,コントロール信号/RAS,/CASのライン(本願の「メモリバス」に相当)は,アドレスバス32と8ビツト双方向データバス34とコントロールバス35(本願の「システムバス」に相当)から分離しているところ,刊行物5の第3図にも,直接バス10(本願の「メモリバス」に相当)がバス3(本願の「システムバス」に相当)から分離していることが示されている。 また,刊行物1の「改良された高速,高密度,ダイナミツクランダムアクセスメモリを提供する事が本発明の主要な目的である。」(4頁左下欄19行〜右下欄1行)との記載,刊行物5の「第1図のメモリアクセス方式を改良した第2図の方式では・・・記憶装置2へのアクセスを高速にすることができる。」(2頁左上欄11行〜19行)との記載に示されるように,刊行物1記載発明や刊行物5記載発明において使用されるメモリについて,メモリへのアクセスを高速にするという課題は周知である。 そうすると,刊行物1記載発明と刊行物5記載発明とは,「メモリバスはシステムバスから分離しているデータ処理システム」という技術分野が共通しており,メモリへのアクセスを高速にするという周知の課題を解決するために,両者を組み合わせることの動機付けはあるから,当業者が両者を組み合わせることは容易である。 (イ) 刊行物1,2及び5を組み合わせることについて刊行物2の一般に知られている「マイクロプロセッサシステムにおけるCPUとメモリ間のデータ転送用のバス」の標準は,エージェント間のデータ転送のみに関する構成であり,通常,エージェントの内部の構成に依存しない。 一方,刊行物5記載発明は,エージェント間のデータ転送用のバスに用いる標準に依存しない「応答側エージェント」の内部のメモリアクセスの構成に関するものであるため,本件審決は,相違点1を,刊行物2の標準との組合せの部分と,刊行物5記載発明との組合せとの部分とに分けて,前者については当業者が適宜なし得る設計事項にすぎず,後者については当業者が容易になし得ることであることを根拠に,相違点1の進歩性を否定したものである。 したがって,本件審決は,単に3つの発明を組み合わせて本願発明4を想到することが当業者にとって容易であると判断したものでなく,本件審決に原告の主張に係る誤りはない。 エ 本願発明5及び6の進歩性判断の誤りに対し本願発明4に係る本件審決の認定判断に誤りがないことは前記ウのとおりであるから,本願発明5及び6に係る本件審決の認定判断に原告主張の誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 本願発明1の進歩性判断の誤りについて事案に鑑み,まず,原告主張の取消事由3のうち本願発明1の進歩性判断の誤りをいう点について,検討する。 (1) 本願発明1と刊行物1記載発明との相違点の看過についてア 刊行物1記載発明の認定誤りについて原告は,?@刊行物1には,データイン及びデータアウト端子22及び23にメモリコントローラ31を接続する信号線を示すラインは記載されていないこと,?A刊行物1の記載から,「コントロール信号/RAS,/CASのラインがアドレスバス32と8ビツト双方向データバス34とコントロールバス35から分離し」ていることは認定できないことから,本件審決が,刊行物1記載発明について,「アドレス端子18,端子20,データイン及びデータアウト端子22及び23がバスによってメモリコントローラ31に結合されており,前記コントロール信号/RAS,/CASのラインがアドレスバス32と8ビツト双方向データバス34とコントロールバス35から分離し」(審決書9頁11行〜14行)ていると認定したことは,誤りであると主張する。 しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。 (ア) 刊行物1の記載刊行物1(甲1)には,メモリチップ10に対する制御信号(/RAS,/CAS,/W)及び入出力データ等のやり取りについて,次の記載がある。 「/RAS及び/CAS信号は端子20によって読取り/書込みコントロール/Wと共にチップへ加えられ,これらの信号はすべて,内部クロックのすべてを生み出すクロック発生器21へ接続される。」(5頁右下欄3行〜7行)「チップ10の分離したデータイン及びデータアウト端子22及び23は在来のデータラッチ33(メモリコントローラの1部)と8ビット双方向データバス34によってマイクロプロセッサ30へ結合されている。」(6頁左下欄11行〜15行)「マイクロプロセッサ又は38のコントロール出力34はメモリチップ10のコントロール信号/RAS,/CAS,及び/Wを生み出す為に用いられ,コントローラ31の中のデータラッチ33の為のコントロールを行う。」(6頁右下欄5行〜9行)(なお,Fig.4に示されるように,マイクロプロセッサは「30」であり,コントロール信号に関係するのは「35」であるから,上記記載中の「マイクロプロセッサ又は38のコントロール出力34」は,「マイクロプロセッサ30のコントロール出力35」の誤記と認める。)(イ) 判断前記(ア)の記載によれば,刊行物1におけるメモリコントローラ31は,Fig.4において,シリコンチップ(メモリ)の外部端子20に接続される四角い箱として図示されているもののみではなく,データラッチ33を含む装置であって,このようなメモリコントローラ31を介して,バス(アドレスバス32,データバス34,コントロールバス35)に接続されたマイクロプロセッサ30と,バス(メモリへの入出力データやメモリの制御信号を伝送する伝送路)に接続されたメモリ10との間で,信号やデータのやり取りが行われることが理解できる。 したがって,本件審決が,刊行物1記載発明について,「アドレス端子18,端子20,データイン及びデータアウト端子22及び23がバスによってメモリコントローラ31に結合されており,前記コントロール信号/RAS,/CASのラインがアドレスバス32と8ビツト双方向データバス34とコントロールバス35から分離し」(審決書9頁11行〜14行)ていると認定したことに誤りはない。 イ本件審決が看過した本願発明1と刊行物1記載発明との相違点について原告は,刊行物1記載発明が,本願発明1と異なり,「FIFOバッファを使用しない」という本願発明の目的を達成するために必要な構成を欠いているという相違点を看過したと主張する。 しかし,以下のとおり,原告の上記主張は,その前提となる刊行物1記載発明及び本願発明1の理解を誤ったものであって,採用することができない。 (ア) 刊行物1記載発明について原告の主張は,刊行物1には,「マイクロプロセッサ30へメモリコントローラ31及びコントロールバス35を通じて結合されたコントロール信号/RAS,/CASのライン」は記載されておらず,本願発明1のバスに相当するものが開示されていないことを前提とするものであるところ,かかる前提が誤りであることは,前記アのとおりである。 (イ) 本願発明1について原告の主張は,本願発明1が,システムバスへ出力されるデータの転送速度をシステムバスのデータ転送速度との関係において調整してFIFOバッファを使用しないシステムを可能にしたものであることを前提とするものであるが,以下のとおり,かかる前提は誤りである。 前記第2,2のとおり,本願明細書の請求項1は,FIFOバッファとの関係について,何ら規定していない。また,本願発明1において,データ転送速度が改善されることは,メモリのアクセスにページモード型式を採用したことによる効果であり,これにより直ちにFIFOバッファが不要になるというものでもない。 (2) 本願発明1と刊行物1記載発明との相違点1の判断の誤りについてア EOC信号について原告は,本願発明1の「アクセスの終わりを示す制御信号」は,刊行物2記載の「EOC信号」とは異なるものであると主張する。 しかし,以下のとおり,原告の主張は失当である。 (ア) 本願明細書の記載a本願明細書の請求項1には,メモリに対するアクセスの完了を検出する手段について,「前記メモリに対するアクセスの完了を検出する手段であって,前記リクエスト側エージェントにより生成される,前記メモリに対してのアクセスの終りを示す制御信号に応答するものであり,前記送出手段に結合され,前記アクセスの終りを示す制御信号を検出した後に前記送出手段の動作を停止させる手段と」と記載されている。 b本願明細書(甲8,10,11)の発明の詳細な説明には,「メモリに対するアクセスの完了」,「メモリに対してのアクセスの終わりを示す制御信号」について,直接説明した記載は見当たらないが,実施例に関して,メモリへのアクセス制御に関する次の説明がある。 「リクエスト/肯定応答(アクノレッジ)(R/A)入力信号は双方向信号であって,コントローラ66が動作静止状態にある場合にはメモリコントローラ66に対する入力となるのが普通である。 メモリ60に対するアクセスの要求が順次データ転送の要求相中にリクエスト側エージェントにより行われた場合,R/A信号線は外部ロジック(図示せず)によりローパルス状態となる。メモリアクセスに対するかかるリクエストを行った後,R/A信号線は外部ロジックにより解放され,メモリリクエスト/肯定応答サイクル中にコントローラ66により駆動される。リクエストに応答してメモリコントローラ66はリード/ライト(RW)入力の状態と共にA0,A1,W0,W1,およびR0ラインの状態に従ってメモリ60にアクセスする。その後,メモリコントローラ66はR/Aを論理ローの信号レベルに駆動してメモリアクセスに対して肯定応答する。メモリアクセスを開始後,メモリコントローラ66は,EOC信号線(バス信号SC2*)がサイクル終了の状態を示すべく信号がアサートされるまで,繰返しメモリをアクセスする。EOCがアサートされると,メモリコントローラ66には現在のメモリアクセスが順次データ転送の応答相の最終的メモリアクセスであることが知らされる。」(段落【0035】)「ここで図6について述べると,順次データ転送の応答相中にコントローラ66によって行われるメモリ60に対する連続的メモリアクセスの一部を示すタイミング線図が示されている。同図に示されるとおり,各アクセスにつきR/A信号線はコントローラ66により低(ロー)の方に駆動され,その後に解放される。これらのメモリサイクル中,本発明に従うと,Ras*ラインはアサートされた状態,又はロー(低)状態に維持され,Cas*ラインは繰返しトグルされてページモードメモリアクセスサイクルを実現する。連続ページモードアクセスサイクル中,SC4*信号線がメモリコントローラ66によりアサートされ,リクエスト側のエージェントに,応答者がレディ状態にあること,すなわちメモリコントローラ66が要求者のためにデータにアクセス中であることを通知する。 メモリコントローラにより出力されるDENO信号線は,データがメモリ60から読出される時に,メモリデータバス74からのデータをシステムバス10上へ配置するためにバッファ72をイネーブルにするために用いられる」(段落【0036】)c本願明細書の上記bの各記載によれば,順次データ転送の応答相においては,?@メモリへのアクセスが開始されるとEOC信号線(バス信号SC2*)がアサートされるまでアクセスが繰り返されること,?AEOC信号線がアサートされることにより,メモリコントローラ66は,現在のメモリアクセスが最終的メモリアクセスであることを知ることができることなどを理解することができる。 そうすると,本願発明1にいう「メモリに対するアクセスの完了」とは,順次データ転送の応答相において,メモリへのアクセスの繰り返しが終了することを意味し,「メモリに対してのアクセスの終わりを示す制御信号」とは,EOC信号線がアサートされることを意味するものと理解できる。 dなお,本願明細書には,「本発明の方法と装置は本文中ではマルチバスIIの環境の文脈で説明するけれども,本発明はバス上に相互接続された少なくとも2つのエージェント同士の間でデータを転送しあうバスを有する多くのデジタルコンピュータシステムでも実施可能なことを理解すべきである。」(段落【0013】)との記載がある。 (イ) 刊行物2の記載前記(ア)dのとおり,本願明細書は「マルチバスII」に言及しているところ,これについて説明した刊行物2(甲2)には,次の記載がある。 「マルチバスIIは,新しく定義されたパラレル・システム・バス(iPSB),ローカル・バス・エクステンション(iLBXII),シリアル・システム・バス(iSSB),それにマルチバスIからうけついだI/O拡張バス(iSBX)とマルチチャネルDMAI/Oバスとから構成されている(図1)」(306頁右欄6行〜11行)「マイコン・システムのバスにおけるデータ転送は,つぎの四つに分類できる。 (1)命令フェッチやデータ参照のような,CPUとメモリ間のデータ転送(2)メッセージなど,CPUとCPU間のデータ転送(3)I/O制御を行う際,CPUとI/O間で行われるデータ転送(4)ディスクなど高速データ転送が要求されるI/Oからメモリへのデータ転送」(306頁右欄20行〜28行)「iPSBでは,次の3種類のバス・サイクルが定義されており,データ転送を行うエージェント(=ボード)はそのうちの1つを実行する(図11,12)。 ・アービトレーション・サイクル・転送サイクル・エクセプション・サイクルエージェントがデータ転送を行うには,データ転送を開始する前にアービトレーション・サイクルでバスの制御権を得なければならない。」(311頁左欄下から3行〜313頁左欄6行)「転送サイクルは,要求フェーズ(request)と応答フェーズ(reply)からなる。図18に具体的な転送サイクルの例を示す。 要求フェーズでは,バス・オーナーとなったエージェントが転送制御線(SC0〜9)を使って応答エージェントのアドレス空間の指定(メモリ,I/O,インター・コネクト,メッセージ),データ幅(8,16,24,32ビット)オペレーション・タイプ(書込み,読出し)などの情報とアクセスするアドレス情報をバス上に出力する。 応答エージェントは,SC0をモニタしていて,要求エージェントがSC0をアクティブにすると要求フェーズと解釈し,転送制御線に含まれる情報を認識する。すべての応答エージェントは,この要求フェーズ間にアドレスするかどうかを決定しなければならない。」(314頁右欄8行〜21行)「応答フェーズは,要求フェーズに引きつづいて行われ,要求エージェントと応答エージェント間でのデータ,ステータス情報の交換が行われる。その際,両エージェントは,RQRDY(要求エージェント・レディ;SC3)とRPRDY(応答エージェント・レディ;SC4)を使ってハンドシェークを行い,アドレス/データ(AD)線上のデータと転送制御線のステータスが有効であるのを互いに確認する。いずれのエージェントもレディ信号をアクティブにしなければ転送サイクルを遅らすことができるので,スピードの遅いエージェントに対しても対応できる。」(314頁右欄22行〜315頁左欄3行)「要求エージェントが,EOC(EndOfCycle)信号で最後のデータ転送を知らせると転送サイクルが終了するが,転送最後のバス・クロック・サイクルは,EOC,RQRDY,RPRDY信号がすべてアクティブになったときである。」(315頁左欄4行〜右欄8行)「〔図18〕転送サイクル」(315頁)には,SC2*信号とSC3*信号に依存してEOC信号が発生する様子が示されている。 (ウ) 判断a刊行物2の上記(イ)の記載内容は,符号の使い方を含めて,本願明細書の前記(ア)bの記載内容とよく符合する。 そして,刊行物2における「要求エージェントが,EOC(EndOfCycle)信号で最後のデータ転送を知らせると転送サイクルが終了する・・・」との記載に鑑みると,結局,本願明細書の発明の詳細な説明に記載の「順次データ転送の応答相において,メモリへのアクセスの繰り返しが終了する」とは,CPUとメモリとの間の転送サイクルが終了することを意味し,バスに接続された応答エージェント(メモリ)は,要求エージェント(CPU)から発せられるEOC(EndOfCycle)信号により,その終了を知らされることが理解される。 そうすると,請求項1の「メモリに対するアクセスの完了」とは,マルチバスIIのバス仕様に定められた「転送サイクルの終了」を意味するものであり,「メモリに対してのアクセスの終わりを示す制御信号」とは,EOC信号を意味するものであると理解するのが自然である。 bこの点,原告は,?@「EOC信号」は,転送サイクルで独占されていたシステムバスを開放する処理において用いられるものであり,システムバスの開放とメモリに対するアクセス終了とは必然的な結びつきはないこと,?A本願発明1の「メモリのアクセスの終わりを示す制御信号を検出した後に前記送出手段の動作を停止させる手段」は,複数の転送サイクルを繰り返して要求してデータを取得し終えた時に出力されるものであるのに対し,刊行物2に記載された「EOC信号」は,各転送サイクルの終わりに出力されるものであるから,本願発明1の「アクセスの終わりを示す制御信号」は,刊行物2記載の「EOC信号」とは異なるものであることを主張する。 確かに,ページモード型式でメモリにアクセスする場合において,連続アクセスによるデータの転送量が予め一定量に決められているような状況下では,メモリに対するアクセスの終了とメモリサイクルの終了は,必ずしも一致しない。また,EOC信号とは別に,メモリに対するアクセスの終わりを示す何らかの信号を用いることも,理論的には考えられないわけではない。 しかし,前記aで検討したところに加え,本願明細書には,EOC信号と異なる信号を用いたメモリへのアクセス制御方法について記載がないことからすれば,本願明細書に接した当業者が,本願明細書で説明されているEOC信号とマルチバスIIのバス仕様で定められているEOC信号とが異なるものと理解することは,困難といわざるを得ない。 したがって,本願発明1の「アクセスの終わりを示す制御信号」が刊行物2記載の「EOC信号」とは異なるものであるとする原告の主張は,採用することができない。 イ 組合せの困難性について原告は,刊行物1記載発明にマルチバスIIを組み合わせることは,当業者といえども,困難であると主張する。 しかし,以下のとおり,原告の主張は失当である。 (ア)刊行物1(甲1)の「特に多重センスアンプ構成の為の,改良された高速,高密度,ダイナミックランダムアクセスメモリを提供する事が本発明の主要な目的である。」(4頁左下欄下から2行〜右下欄1行)との記載に示されるとおり,刊行物1記載発明は,メモリ自体の性能を高めることを直接の目的とするものであり,また,Fig.4を見ても,リクエストエージェントとしては,マイクロプロセッサ(30)が1つ示されているだけである。 しかし,前記(1)アのとおり,刊行物1記載発明のメモリチップ10は,バス(アドレスバス32,データバス34,コントロールバス35)に接続されたマイクロプロセッサ30との間で,メモリコントローラ31を介して信号やデータのやり取りを行うものであり,刊行物1には,このようなメモリシステムが開示されていることにかわりない。 そして,刊行物2に記載された「マルチバスII」は,システムバスに接続された要求エージェント(CPU等)と応答エージェント(メモリ等)との間で高速にデータの転送を行うためのバス仕様を定めたものであり,そもそも,種々の要求エージェントや応答エージェントが接続されることを前提に設計されているのであるから,刊行物1載発明(ページモード型式でメモリにアクセスする方式のメモリシステム)において,マルチバスIIの技術を採用することが,当業者にとって困難であったとは認められない。 (イ)前記アのとおり,本願発明1における「メモリに対するアクセスの終わりを示す制御信号」は,マルチバスIIにおけるEOC(EndofCycle)信号に相当するものと認められるところ,ページモード型式でメモリにアクセスする場合において,連続アクセスによるデータの転送量があらかじめ一定量に決められているような状況下ではメモリに対するアクセスの終了とメモリサイクルの終了は必ずしも一致しないが,そうでない場合は,通常,転送サイクルの終了はメモリに対するアクセスの終了と同時期になるものと考えられるから,制御信号(EOC信号)を検出してメモリからのデータの送出手段の動作を停止させるように設計することは,当業者が容易に着想することといえる。 (3) 小括上記検討したところによれば,原告主張の取消事由3のうち,本願発明1の進歩性判断の誤りをいう部分には理由がなく,また,本願発明1の進歩性判断に関し,本件審決のこれを取り消すべきそのほかの誤りがあるとも認められない。 2 結論以上のとおり,拒絶理由1のうち本願発明1に関する部分に誤りはないから,「本件審判の請求は,成り立たない。」とした本件審決の結論は,拒絶理由1のうち本願発明2ないし6に関する部分,並びに,拒絶理由2及び3について検討するまでもなく,これを是認することができる。 よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 齊木教朗 |
裁判官 | 嶋末和秀 |