審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成16ワ24626特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ21408特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12ワ12728特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成11ワ11856損害賠償請求事件 | 判例 | 特許 |
平成13ワ1105特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 特許を受ける権利 / 承継 / 発明者 / 協議 / 有用性 / 創作性(創作) / 秘密保持義務 / 技術的範囲 / 出願公開 / 遡及効 / 遡及 / 補償金請求権 / 共同出願 / 意匠登録出願 / 共有 / 着想 / 債務不履行 / 契約の成否 / 契約の解除 / 実施料相当額 / 悪意 / クレーム / 意匠権 / 援用権(援用) / 権利の濫用(権利濫用) / 存続期間 / 非公知 / 不存在 / 特許発明 / 実施 / 先使用権(先使用) / 間接侵害 / 構成要件 / 構成要件充足性 / 専用品 / のみ用いる / 汎用品 / 業として / 差止請求(差止) / 侵害 / 損害額 / 逸失利益 / 販売数量(販売数) / 実施料 / 不法行為(民法709条) / 営業秘密 / 実施権 / 通常実施権 / 知らないで / 対価 / 請求の範囲 / 変更 / 費用負担 / |
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事件 |
平成
18年
(ワ)
8248号
特許権侵害差止等請求事件
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原告ジ ョプラックス株式会社 訴訟代理人弁護士岩坪哲 田上洋平 被告株式会社OSGコーポレーション 訴訟代理人弁護士南川博茂 林邦彦 三山峻司 木村広行 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2008/08/28 |
権利種別 | 特許権 |
主文 |
1原告の請求をいずれも棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求1被告は別紙物件目録記載1の浄水器(以下「イ号物件」という )及び同目 。 録記載2及び3の各浄水用フィルター(以下それぞれ「ロ号物件 「ハ号物 」件」という )を製造,販売,又は販売の申出をしてはならない。 。 2被告はイ号物件,ロ号物件及びハ号物件(以下,総称して「被告物件」という )を廃棄せよ。。 3被告は,原告に対し,3億1898万円及び内金2億0100万円に対する平成18年8月1日から,内金7548万円に対する平成18年8月18日から,内金4250万円に対する平成19年10月1日からそれぞれ支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 24仮執行の宣言第2事案の概要原告は,1後記特許権を有するところ,被告物件を製造販売する被告に対し,イ号物件は同特許権に係る特許発明の技術的範囲に属しその製造販売は同特許権を侵害する,また,ロ号物件及びハ号物件の製造販売は同特許権の間接侵害に当たると主張して,被告物件の製造販売の差止め及び廃棄を求めるとともに,同特許権の出願公開による補償金請求として1億6925万円,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として2175万円,弁護士費用相当の損害賠償として1000万円の各支払を求めた。 2被告から浄水器に関する開発委託を受け,その旨の開発委託契約を被告と締結していたところ,被告が同契約の履行を不当に拒むなどしたと主張して,債務不履行に基づく損害賠償として,原告が上記開発委託業務遂行のために支出した研究開発費等の積極的損害1155万8663円(ただし,同金額は被告のした供託により消滅しているので,本件訴訟の請求の対象とはしていない,同。)契約により成立した浄水器の製造委託契約の債務不履行による逸失利益7548万円相当の損害賠償を求めた。 被告は,1の請求に対しては,?@イ号物件が上記特許発明の技術的範囲に属することを否認するとともに,?A上記特許権に係る特許は,原告が被告との上記開発委託契約により定められた共同出願条項に違反してされたものであるなどとして,特許法123条1項2号,38条の無効理由があると主張し,?B被告には先使用権があると主張している。これに対し,原告は,?Aの主張については上記開発委託契約は被告の債務不履行により解除され,これに伴い上記共同出願条項も遡及的に失効したから,原告のした単独出願は共同出願義務違反には当たらないなどと主張している。 また,被告は,2の請求に対しては,上記開発委託契約について被告の債務3不履行はなく,かつ,上記製造委託契約は成立していないので,その成立を前提とする逸失利益相当額の損害賠償を求めることはできないなどと主張している。 1前提事実(1)原告の有する特許権ア原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」という )を保有している(ただし,原告は,本訴係属中に被告から 。 無効審判請求を受け,特許庁から無効理由通知を受けたため,平成18年12月18日訂正請求をし,特許庁は平成19年9月5日,訂正を認めた上,被告の無効審判請求は成り立たない旨の審決をした。被告が同審決に対して審決取消訴訟を提起したため,上記訂正も未確定であるが,訂正請求に係る箇所には下線を施している。。)?@登 録 番 号第3723749号?A出願日平成13年6月6日?B公開日平成14年12月17日?C登録日平成17年9月22日?D発明の名称 ツインカートリッジ型浄水器?E特許請求の範囲(請求項1)上部を大径口とし底部に2つの小径口を設けた互いに隣接する2つの有底穴を表面に有する中空台座状に形成された基台と,該2つの有底穴間のそれぞれ一方の小径口同士を接続した連結接続管と,他の各小径口に接続した給水管および配水管を回動可能に接続する接続具と,該各大径口にそれぞれ着脱自在に連結した一対の浄水用カートリッジとを備え,前記一対の浄水カートリッジは,中空円筒体形ケースを有し,該ケースは逆コップ形本体と碗形蓋体との組合せで構成され,前記本体の下部外周壁には環状4の凸条が形成されていて該凸条が前記蓋体の開口上端縁に衝合しており,前記一対の浄水カートリッジを構成する前記碗形蓋体には流入口及び流出口がそれぞれ設けられ,一方の前記浄水カートリッジの前記流入口が前記給水管に連通した小径口に連結されるとともに前記流出口が前記連結接続管に連通した小径口に連結され,他方の前記浄水カートリッジの前記流入口が前記連結接続管に連通した小径口に連結されるとともに前記流出口が前記配水管に連通した小径口に連結され,前記浄水用カートリッジの外周壁上であって前記大径口の開口端の上側に位置する部分に形成された前記環状の凸条が大径口の上端外周壁に螺合した固着環の中央開口縁で押圧固定されることにより,浄水用カートリッジが前記有底穴に着脱自在に固着されることを特徴とするツインカートリッジ型浄水器。 (請求項2)前記各接続具の回動方向を揃えることにより,前記給水管および配水管を基台の左側若しくは右側の何れの方向にも取り出し可能となしたことを特徴とする請求項1に記載のツインカートリッジ型浄水器(請求項12)前記一対の浄水カートリッジは家庭の水道水の浄化に使用される浄水用カートリッジであって,該一対の浄水カートリッジの内,給水側に活性炭を充填するとともに,吐水側に鉛除去剤入活性炭および中空糸膜ユニットを該鉛除去剤入活性炭が中空糸膜ユニットの給水側に位置するように充填したことを特徴とする請求項1ないし11の何れかに記載のツインカートリッジ型浄水器。 (請求項13)前記鉛除去剤入活性炭中の活性炭が粒状活性炭と繊維状活性炭の混合物からなり,該鉛除去剤入活性炭が円筒状に成型されていることを特徴とす5る請求項12記載のツインカートリッジ型浄水器。 イ訂正請求に係る請求項2(請求項1の従属項)を引用する請求項13(請求項12の従属項。以下「本件発明」という )は次の構成要件に分 。 説することができる。 A上部を大径口とし底部に2つの小径口を設けた互いに隣接する2つの有底穴を表面に有する中空台座状に形成された基台と,, B該2つの有底穴間のそれぞれ一方の小径口同士を接続した連結接続管とC他の各小径口に接続した給水管および配水管を回動可能に接続する接続具と,D該各大径口にそれぞれ着脱自在に連結した一対の浄水用カートリッジとを備え,E前記一対の浄水カートリッジは,中空円筒体形ケースを有し,該ケースは逆コップ形本体と碗形蓋体との組合せで構成され,前記本体の下部外周壁には環状の凸条が形成されていて該凸条が前記蓋体の開口上端縁に衝合しており,F前記一対の浄水カートリッジを構成する前記碗形蓋体には流入口及び流出口がそれぞれ設けられ,一方の前記浄水カートリッジの前記流入口が前記給水管に連通した小径口に連結されるとともに前記流出口が前記連結接続管に連通した小径口に連結され,他方の前記浄水カートリッジの前記流入口が前記連結接続管に連通した小径口に連結されるとともに前記流出口が前記配水管に連通した小径口に連結され,G前記浄水用カートリッジの外周壁上であって前記大径口の開口端の上側に位置する部分に形成された前記環状の凸条が大径口の上端外周壁に螺合した固着環の中央開口縁で押圧固定されることにより,浄水用カートリッジが前記有底穴に着脱自在に固着されることを特徴とし(以上請求項1 ,)H前記各接続具の回動方向を揃えることにより,前記給水管および配水管6を基台の左側若しくは右側の何れの方向にも取り出し可能となっており(以上請求項2 ,)I前記一対の浄水カートリッジは家庭の水道水の浄化に使用される浄水用カートリッジであって,J該一対の浄水カートリッジの内,給水側に活性炭を充填するとともに,吐水側に鉛除去剤入活性炭および中空糸膜ユニットを該鉛除去剤入活性炭が中空糸膜ユニットの給水側に位置するように充填しており(以上請求項12 ,)K前記鉛除去剤入活性炭中の活性炭が粒状活性炭と繊維状活性炭の混合物からなり,該鉛除去剤入活性炭が円筒状に成型されていることを特徴とするLツインカートリッジ型浄水器(以上請求項13 。)(2)被告による被告物件の製造販売被告は,業として,被告物件を製造販売している。 (3)イ号物件の構成(別紙イ号物件説明書参照。ただし,構成cについては下記のとおり争いがある。。)a基台2は,上部を大径口3a,4aとし底部に2つの小径口3b1,3b2および4b1,4b2を設けた,互いに隣接する2つの中空の有底穴3,4を表面に有し,台座形に形成されている。 bこれら2つの有底穴3,4間のそれぞれ一方の小径口3b2,4b2同士は,連結接続管8により連接されている。 , c他の各小径口3b1,4b1にはそれぞれ給水管L1および配水管L2が基台に設けられた接続具9により回動可能に接続される(これに対し,被告は,イ号物件においては,回動すなわち回転運動を可能としているというものではなく,正逆の2方向〔水平に投影した角度では-平面図的には-180° 〔鉛直の投影-断面図的には-角度で160°程度〕にしか切り換えら 〕7れないと主張している。。)d前記各大径口3a,4aには,それぞれ着脱自在に,一対の浄水用カートリッジ15,20が連結される。 e前記一対の浄水カートリッジ15,20は,ケースが全体として中空円筒体に形成され,該ケースは逆コップ形本体15c,20cと,椀形蓋体15d,20dとの組み合わせで構成され,前記本体の下部外周壁には環状の凸状6a,6bが形成されていて,該凸状6a,6bが前記蓋体15d,20dの開口上端縁に衝合している。 f前記一対の浄水カートリッジ15,20を構成する椀形蓋体15d,20, dには流入口15a,20b及び流出口15b,20aがそれぞれ設けられ一方の浄水カートリッジ15の流入口15aが給水管L1に連通した小径口3b1に連結されるとともに,流出口15bが連結接続管8に連通した小径口3b2に連結され,他方の浄水カートリッジ20の流入口20bが連結接続管8に連通した小径口4b2に連結されるとともに流出口20aが配水管L2に連通した小径口4aに連結されている。 g各浄水カートリッジ15,20の外周壁上であって大径口3a,4aの開, 口端の上側に位置する部分に形成された環状の凸条6a,6bが大径口3a4aの上端外周壁に螺合した固着環7a,7bの中央開口縁で押圧固定されることにより,各浄水カートリッジ15,20が,前記有底穴3,4に着脱自在に固着される。 h前記基台2に設けられた接続具9は,回動方向が揃えられており,給水管L1および配水管L2を基台2の左側もしくは右側のいずれの方向にも取り出し可能となっている。 i前記一対の浄水カートリッジ15,20は,家庭用の水道水の浄化に使用される浄水用カートリッジである。 j上記各浄水カートリッジのうち,吸水側カートリッジ15側には活性炭を8充填するとともに,吐水側には,上流側即ち給水側に,ゼオライトが配合された円筒状成型活性炭20eが位置するよう充填され,下流側に中空糸膜ユニット20fが配されている[甲49(試験報告書。)]k前記ゼオライト入り円筒状成型活性炭20eは,粒状活性炭と繊維状活性炭との混合物からなる円筒状活性炭である(甲49試験結果における大粒子及び繊維の欄参照 。)l以上の構成を有するツインカートリッジ型浄水器である。 (4)イ号物件の構成要件充足性及びロ号物件,ハ号物件の間接侵害の有無イ号物件は,本件発明のA,B,DないしLを充足する。 ロ号物件及びハ号物件は,イ号物件の専用品である。 (5)取引基本契約の締結原告と被告は,平成5年9月3日付けで取引基本契約(乙27。以下「本件取引基本契約」という )を締結しているところ,その中に 「新たに発 。 ,生する特許,…については,被告,原告,共同出願とします」との約定がある。 (6)開発委託契約原告と被告は,平成12年4月1日,以下の内容の約定を含む開発委託契約(以下「本件開発委託契約」という )を締結した(以下の契約書の条項は,原 。 文をそのまま摘示するが 「甲」は「被告」に 「乙」は「原告」に,それぞれ ,,読み替える。。)ア2条1項(委託業務)被告は,原告に対し,本開発品の量産に至る下記業務(以下委託業務という)を委託し,原告はこれを受託する。 (ア)本開発品の基本設計。 (イ)試作及び性能評価業務(ウ)金型の設計及び製作業務9(エ)量産準備と開始イ3条(開発期間・費用)1項原告は,平成13年1月迄に前条の委託業務を終了するものとする。 ただし,当該期間についてやむを得ない事由により延長の必要が生じたときは,被告と原告で協議の上で開発期間を延長できるものとする。 2項原告は委託業務の遂行に要する費用のうち,金型と被告からの支給品(インジケーター,中空糸膜等)を除く開発費用を負担する。該費用としては製品デザイン費,試作費,パッケージや取扱説明書等のデザインおよび版下代などが含まれる。なお,原告の負担する開発費用は原告が被告に納入する製品の原価に計上することとする。 3項被告は金型と被告からの支給品(インジケーター,中空糸膜等)に関する開発費用を負担する。 ウ4条(開発の中止,中断)被告のやむを得ない事由により,開発を中止又は中断しなければならなくなったときは,被告はその旨を原告に書面にて通知することにより,本契約を解除することができる。この場合,原告被告協議の上,原告がそれまでに負担した費用を被告は原告に支払うものとする。 エ5条(秘密保持)被告及び原告は,相手側から提供された秘密情報を委託業務以外の目的に使用してはならない (以下略)。 オ6条(工業所有権)1項本開発品に関しての工業所有権を取得する権利は次の通りとする。 (1)商標および意匠登録は被告が取得し,被告が単独で所有する。 (2)特許および実用新案は被告と原告の共同出願とし,被告と原告の共有とする。 2項前項1,(2)の共同出願の手続きは被告が行い,発生する費用は被10告原告それぞれが折半することとする。 3項三者との間に権利侵害等の紛争が生じた場合,被告と原告の共有する権利に関しては被告原告共同の責任において解決するものとする。 カ8条(有効期間)1項本契約の有効期間は,本契約締結の日から第2条の委託業務の終了日までとする。 2項前項の定めに関わらず,第5条(秘密保持)に関する定めは,この契約終了後5ヵ年有効とし,第6条(工業所有権)に関する定めは,当該工業所有権の存続期間中有効とする。 (7)本件開発委託契約の終了及びその後の経緯ア被告は,平成12年11月初旬,原告に対し,金型製作の中断を申し入れた。そして,本件開発委託契約は,平成13年3月26日には,その終了が確認された(本件開発委託契約終了の確認の趣旨について,原告は,後記のとおり被告の債務不履行を理由に同年2月14日の経過により解除されたものであって,同年3月26日に同契約の終了が事実上確認されたものであると主張するのに対し,被告は,本件開発委託契約は同日に合意解約されたものであると主張しており,その点で争いがある。。)イ原告は,平成13年6月6日,本件特許の特許出願をし,平成17年9月22日特許登録を得た。 ウ被告は,平成18年7月4日,本件開発委託契約に基づく開発費用1155万8663円及びこれに対する平成16年1月25日から平成18年7月4日までの年6分の割合による遅延損害金161万0522円の合計1316万9185円を供託し(大阪法務局平成18年度金第6845号 ,原告は,同月25日,その払渡しを受けた(乙13 。 ) )2争点(1)特許権侵害訴訟関係11アイ号物件は本件発明の技術的範囲に属するか。 イロ号物件及びハ号物件の製造販売は本件特許権の間接侵害に当たるか。 ウ本件特許は特許法38条に違反してされたものであって同法123条1項2号の特許無効理由を有し特許無効審判により無効とされるべきものか。 エ被告は本件特許権につき先使用による通常実施権を有するか。 オ被告の本件特許権に基づく権利行使は権利の濫用に当たるか。 カ特許法65条に基づく補償金請求について本件発明が出願公開されたことを被告が知った時期キ補償金の額ク特許権侵害の不法行為による損害額(2)債務不履行に基づく損害賠償請求関係ア被告の債務不履行の成否イ原告の損害額第3争点に関する当事者の主張1争点(1)ア(イ号物件は本件発明の技術的範囲に属するか)について【原告の主張】(1)イ号物件の構成を本件発明に即して説明すると,以下のとおりである(別紙イ号物件説明書参照 。)a基台2は,上部を大径口3a,4aとし底部に2つの小径口3b1,3b2および4b1,4b2を設けた,互いに隣接する2つの中空の有底穴3,4を表面に有し,台座形に形成されている。 bこれら2つの有底穴3,4間のそれぞれ一方の小径口3b2,4b2同士は,連結接続管8により連接されている。 , c他の各小径口3b1,4b1にはそれぞれ給水管L1および配水管L2が基台に設けられた接続具9により回動可能に接続される。 d前記各大径口3a,4aには,それぞれ着脱自在に,一対の浄水用カート12リッジ15,20が連結される。 e前記一対の浄水カートリッジ15,20は,ケースが全体として中空円筒体に形成され,該ケースは逆コップ形本体15c,20cと,椀形蓋体15d,20dとの組み合わせで構成され,前記本体の下部外周壁には環状の凸状6a,6bが形成されていて,該凸状6a,6bが前記蓋体15d,20dの開口上端縁に衝合している。 f前記一対の浄水カートリッジ15,20を構成する椀形蓋体15d,20, dには流入口15a,20b及び流出口15b,20aがそれぞれ設けられ一方の浄水カートリッジ15の流入口15aが給水管L1に連通した小径口3b1に連結されるとともに,流出口15bが連結接続管8に連通した小径口3b2に連結され,他方の浄水カートリッジ20の流入口20bが連結接続管8に連通した小径口4b2に連結されるとともに流出口20aが配水管L2に連通した小径口4aに連結されている。 g各浄水カートリッジ15,20の外周壁上であって大径口3a,4aの開, 口端の上側に位置する部分に形成された環状の凸条6a,6bが大径口3a4aの上端外周壁に螺合した固着環7a,7bの中央開口縁で押圧固定されることにより,各浄水カートリッジ15,20が,前記有底穴3,4に着脱自在に固着される。 h前記基台2に設けられた接続具9は,回動方向が揃えられており,給水管L1および配水管L2を基台2の左側もしくは右側のいずれの方向にも取り出し可能となっている。 i前記一対の浄水カートリッジ15,20は,家庭用の水道水の浄化に使用される浄水用カートリッジである。 j上記各浄水カートリッジのうち,吸水側カートリッジ15側には活性炭を充填するとともに,吐水側には,上流側即ち給水側に,ゼオライトが配合された円筒状成型活性炭20eが位置するよう充填され,下流側に中空糸膜ユ13ニット20fが配されている。 k前記ゼオライト入り円筒状成型活性炭20eは,粒状活性炭と繊維状活性炭との混合物からなる円筒状活性炭である。 l以上の構成を有するツインカートリッジ型浄水器である。 (2)イ号物件の構成a〜lは本件発明の構成要件A〜Lを充足するから,イ号物件は本件発明の技術的範囲に属する。 被告は,本件発明の構成要件Cと同一である構成要件cの充足性を否認するが,明細書に「接続具700,800の外部接続側開口端部を同時に右方向ないしは左方向に適宜切り替えることができる周知の構成を採用することができる(甲210頁8〜10行)と記載されているのであり,イ号物件の構成 。」が含まれていることは明らかである。 また,被告は 「イ号物件においては,回動,つまり回転運動を可能としてい ,るというものではなく,正逆の二方向(水平に投影した角度では-平面的には-180° (鉛直の投影-断面図的には-角度で160°程度)にしか切り換 )えられない 」と主張するが,本件発明の構成要件Cは「回動可能」であればよ 。 , く,くまなく任意の位置に位置決め可能である必要など全く存在しない。現に請求項1の従属項である請求項2では「各接続具の回動方向を揃えることにより,前記給水管および配水管を基台の左側若しくは右側の何れの方向にも取り出し可能となした」浄水器が実施態様として記されているが,これは被告のいう正逆(左右)二方向切り替えをクレームしたものにほかならない。したがって,イ号物件は構成要件Cを充足する。 【被告の主張】本件発明の構成要件Cの給水管および配水管が接続具により回動可能に接続されるとの構成に関しては,イ号物件においては,回動,つまり回転運動を可能としているというものではなく,正逆の二方向(水平に投影した角度では-平面図的には-180° (鉛直の投影-断面図的には-角度で160°程度)にしか切り換え )14られない。また,イ号物件は,設置場所に応じて,給水管と配水管の取出し方向を長手方向の左と右とのいずれかに切り替えることができるという効果を奏するものである。したがって,イ号物件は,本件発明の構成要件Cを充足せず,本件発明の技術的範囲に属しない。 2争点(1)イ(ロ号物件及びハ号物件の製造販売は本件特許権の間接侵害に当たるか)について【原告の主張】ロ号物件及びハ号物件は,イ号物件の専用品であり,イ号物件の生産にのみ用いるものである。よって,ロ号物件及びハ号物件の製造販売は,特許法101条1号の間接侵害に該当する。 (1)ロ号物件の構成アロ号物件の構成は,別紙イ号物件説明書のうち,抗菌活性フィルターが収納された浄水カートリッジ15について説明しているとおりであり,訂正前の本件特許権の請求項1における構成要件DないしF及びHを充足するものである。 すなわち,ロ号物件はハ号物件と対をなす,イ号物件の大径口3aに着脱自在に連結される浄水カートリッジであり(構成要件D ,ロ号物件 )には流入口15a及び流出口15bが設けられ(構成要件E ,流入口1 )5aはイ号物件の給水管L1に連通した小径口3b1に連結されるとともに,流出口15bは連結接続管8に連通した小径口3b2に連結され(構成要件F ,ロ号物件の外周壁上には,大径口3aの開口端の上側に )位置する部分に環状の凸条6aが形成され,該凸条6aが固着環7aの中央開口縁で押圧固定されるものである(構成要件H 。)イ加えて,ロ号物件は,訂正後の本件特許権の請求項13における構成要件DないしG,I及びJをも充足するものである。 すなわち,構成要件Dについては上記のとおりであり,ロ号物件は中15空円筒体ケースを有し,該ケースは逆コップ形本体15cと椀形蓋体15dの組合せで構成されており,前記本体15cの下部外周壁には環状の凸条6aが形成され,該凸条6aが前記蓋体15dの開口上端縁に衝合し(構成要件E ,前記椀形蓋体15dには流入口15a及び流出口1 )5bが設けられており(構成要件F ,構成要件Gについても上記のとお )りである。 また,ロ号物件は家庭の水道水の浄化に使用される浄水用カートリッジであり(構成要件I ,給水側に接続され,粒状活性炭が充填されてい )る(構成要件J 。)ウそして,ロ号物件がイ号物件の専用品であることは原被告間に争いはない。よって,ロ号物件が直接侵害品たるイ号物件の生産にのみ用いるものであることは明らかである。 (2)ハ号物件の構成アハ号物件の構成は,別紙イ号物件説明書のうち,鉛除去フィルターが収納された浄水カートリッジ20について説明しているとおりであり,訂正前の本件特許権の請求項1における構成要件D及びE,G及びHを充足するものである。 すなわち,ハ号物件はロ号物件と対をなす,イ号物件の大径口4aに着脱自在に連結される浄水カートリッジであり(構成要件D ,ハ号物件 )には流入口20b及び流出口20aが設けられ(構成要件E ,流入口2 )0bはイ号物件の連結接続管8に連通した小径口4b2に連結されるとともに,流出口15aは配水管L2に連通した小径口4b1に連結され(構成要件G ,ハ号物件の外周壁上には,大径口4aの開口端の上側に )位置する部分に環状の凸条6bが形成され,該凸条6bが固着環7bの中央開口縁で押圧固定されるものである(構成要件H 。)イ加えて,ハ号物件は,訂正後の本件特許権の請求項13における構成16要件DないしG及びIないしKをも充足するものである。 すなわち,構成要件Dについては上記のとおりであり,ハ号物件は中空円筒体ケースを有し,該ケースは逆コップ形本体20cと椀形蓋体20dの組合せで構成されており,前記本体20cの下部外周壁には環状の凸条6bが形成され,該凸条6bが前記蓋体20dの開口上端縁に衝合し(構成要件E ,前記椀形蓋体20dには流入口20b及び流出口2 )0aが設けられており(構成要件F ,構成要件Gについても上記のとお )りである。 また,ハ号物件は家庭の水道水の浄化に使用される浄水用カートリッジであり(構成要件I ,吐水側に接続され,鉛除去剤入活性炭であるゼ )オライトが配合された円筒状成型活性炭20e及び中空糸膜ユニット20fを円筒状成型活性炭20eが中空糸膜ユニット20fの給水側に位置するように充填され(構成要件J ,円筒状成型活性炭20eは粒状活 )性炭と繊維状活性炭の混合物からなり(甲49)円筒状に成型されている。 ウそして,ハ号物件がイ号物件の専用品であることは原被告間に争いはない。よって,ハ号物件が直接侵害品たるイ号物件の生産にのみ用いるものであることは明らかである。 (3)したがって,ロ号物件及びハ号物件が特許法101条1号に定める本件発明(訂正前の請求項1及び訂正後の請求項13)の間接侵害品であることは明白である。 【被告の主張】被告がロ号物件及びハ号物件を製造販売していること,イ号物件の専用品であることは認める。 3争点(1)ウ(本件特許は特許法38条に違反してされたものであって同法123条1項2号の特許無効理由を有し特許無効審判により無効とされるべきも17のか)について【被告の主張】本件特許は特許法38条に違反して特許されたものであって,同法123条1項2号の無効理由を有し,特許無効審判により無効とされるべきものであるから,特許法104条の3第1項及び同条項を準用する同法65条5項により,原告は被告に対し本件特許権に基づく権利行使及び補償金支払請求をすることができない。 (1)共同出願条項違反ア本件開発委託契約6条本件開発委託契約6条1項は,特許及び実用新案は被告と原告の共同出願とし,被告と原告との共有とすると定めている(以下,本件開発委託契約6条の上記条項を「本件共同出願条項」という。すなわち,本。)件共同出願条項によれば,本件特許を受ける権利は被告と原告との共有に属し,その出願は被告と原告との共同出願によるものとされているところ,被告は,原告と共同出願することなく単独で特許出願をし本件特許を得たものであるから,本件特許は,特許法38条に違反してされたものであり,同法123条1項2号の無効理由を有する。 イ原告の主張に対する反論原告は,本件開発委託契約は被告の債務不履行により解除され,それに伴い,本件共同出願条項も失効したと主張するが,以下のとおり,本件開発委託契約の解除原因などなく,仮に解除の効力が生じたとしても,本件共同出願条項が遡及的に失効したということもない。 本件開発委託契約は,平成13年3月26日に原告と被告両代表者の合意により解約されたものであり,同解約(以下「本件合意解約」という )には遡及効はなく,本件共同出願条項の効力は消滅していない。 。 (ア)原告は,被告は本件開発委託契約に基づき,開発関連業務を第三者に18シフトせずに原告に量産委託までしなければならない義務(以下「本件義務」という )を負っていたのに,これを怠ったので,被告に対し,平成1 。 2年10月23日に催告の上,平成13年2月14日までに履行することを解除条件として明示又は黙示の解除の意思表示をした旨主張する。 しかし,以下のとおり,本件義務などそもそも存在せず,催告や解除の意思表示も存在しない。仮に催告・解除の事実が認められるとしても,解除の効力は本件共同出願条項まで及ばないし,またその効力は将来効にすぎないのであるから,平成13年2月14日当時,既に発明が完了していた本件発明について特許を受ける権利が原告と被告との共有であったことまで遡及的に消滅するわけではない。 (イ)本件義務の不存在a原告は,本件開発委託契約上,被告は開発関連業務を第三者にシフトせずに製品の量産委託までしなければならない本件義務を負っていた旨主張するが,本件開発委託契約からはそのような義務を導くことはできない。すなわち,まず,本件開発委託契約は,(1)「本開発品 (以下」「本件浄水器」という )の基本設計,(2)試作及び性能評価業務の委託 。 の段階及びその後の(3)金型の設計及び制作業務,(4)量産準備と開始の委託の段階に分けることができる。 開発段階においては,原告は本開発業務を行う債務を負担し,他方,被告はこれに対する対価として開発費用を全て負担する(本件開発委託契約3条2項「なお」以下,3条3項,4条)ことになり,両債務は対価的牽連関係にある。そして,両者協議をしながら,開発業務を遂行し,原告は日々の開発成果を被告に移転し,開発成果は原告と被告の共有になる(本件開発委託契約2条2項,3条4項,6条参照)。 次に,上記(1),(2)の開発段階が完了すると,上記(3),(4)の量産準備段階に移る。ここではまず,□金型の製作等量産準備に関して原被告19協議することになる(本件開発委託契約2条2項,3条1項)。そして,協議の末,金型製造委託の合意に至れば被告は金型製作業務を行う債務を負担し,他方原告はこれに対して金型費用を負担する(同契約3条2項,同条3項)。 そして,金型製作業務が完了すれば,原被告は,量産準備に関する協議をし(同契約3条4項),協議の末,量産委託の合意に至れば,原告は量産準備を行う債務を負担し,被告は量産品を買い取ることになる。 b原告は,本件義務を基礎付ける事実として,本件開発委託契約は,被告が原告に対し,金型の設計及び製作業務並びに量産準備を開始することを委託することを内容としている(同契約2条1項3号,同4号)と主張する。しかし,本件開発委託契約には,金型の設計及び製作並びに量産準備を開始すると規定されているだけで,その具体的な内容,例えば金型の代金,量産する商品の数量,納期等が何ら規定されておらず,金型の設計及び製作並びに量産準備の委託内容が何ら特定されていないのであって,このような契約から量産委託までしなければならないという本件義務を到底導くことはできない。仮に,このような義務まで導くことになれば,被告は,原告がいかなる条件を提示してきたとしても,金型の製作や量産準備を委託しなければならなくなり,甚だ不当な結果になる。のみならず,原告としても,技術上又は設備上の問題から,開発した製品の金型設計やその製作,あるいは製品の量産が不可能ないし著しく困難な事態が生じてもかかる業務を履行しなければならなくなる。 このようなことを斟酌して,当事者の合理的意思解釈を行えば,本件開発委託契約2条1項3号,同4号の規定は,同契約2条1項1号,同2号に基づいて新製品の開発が完了した後に,改めて金型製造等の個別契約の締結に関して,原被告が交渉しなければならない程度の義務を負わせるものにすぎず,量産委託契約の締結義務まで負わせるものではな20い。 よって,本件開発委託契約からは,被告が原告に製品の量産委託までしなければならないという本件義務は導かれない。そして,被告は,本, 件義務の履行として,原告との間で金型製作委託の交渉を行ったところ原被告間で金額に折り合いがつかず,結局個別契約の成立に至らなかっただけのことである。 c次に,原告は,本件開発委託契約3条2項の規定から,本件義務を導, こうとしている。確かに,同条項によると,原告が負担した開発費用は被告に納入する量産品原価に上乗せするものとされている。しかし,これは,あくまでも,個別的な金型製作委託契約が成立し,その後,個別的な製品の量産契約まで締結された場合に適用される開発費用の弁済方法を定めた条項にすぎない。すなわち,同条項においては「原告は委託業務の遂行に要する費用のうち,金型と被告からの支給品(インジケーター,中空糸膜等)を除く開発費用を負担する。…なお,原告の負担する開発費用は原告が被告に納入する製品の原価に計上することとする。」と規定されているから,本件開発委託契約においては,結局,開発費用の全てが被告の負担とされているのであって,このことは同契約4条において,同契約が解除された場合であっても被告は原告に対して開発費用を支払うと規定されていることにも表われている。 そして,このように被告の負担とされている開発費用は,原告の負担する製品開発業務(本件開発委託契約2条1項1号及び同2号)及びその成果に対する対価たる性質を有している。すなわち,かかる対価的性質を有しているからこそ,開発成果の一部である特許を受ける権利や特許権は原被告共有とされ,意匠権は被告が取得するとされているのである(同契約6条)。 dまた,原告は,本件開発委託契約3条3項の規定(金型費用は被告負21担である旨定めたもの)からも,本件義務を導こうとしているが,本件義務を肯定することの不当性は上記bのとおりであり,また,原告と被告には,本件開発委託契約に基づき個別的な金型製造委託契約の締結に向けて交渉することが義務付けられているため,当然,契約締結に至る場合が予想されるのであるから,同規定は,この場合に備えて,金型の費用負担に関して定めたものと解釈するのが当事者の合理的意思に合致する。したがって,同規定から本件義務を導くことはできない。 eさらに,原告は,被告との間で,遅くとも平成12年10月23日までに,金型製作費を6500万円と定め,その一部である3000万円を一括払し,残額を製品原価に上乗せして支払っていくこと,及びかかる金型製作費残額を上乗せした製品の納入価格は1製品あたり8600円とすることを合意したから,被告は本件義務を負う旨主張する。 被告は,上記合意の成立を認めるものではないが,仮にそのような合意が成立していたとしても,その事実は被告が本件義務を負担していた事実を裏付けるものではない。なぜなら,仮に上記合意が成立していたとしても,それは本件開発委託契約とは別個の金型製造委託契約であって,なんら本件開発委託契約に影響を及ぼすものではないからである。 また,製品原価に上乗せするとの合意が成立していたとしても,それは単に金型製作費の支払方法に関する合意にすぎず,本件義務を導くものではない。製品の製造委託にまで至らない場合には,残額一括弁済する債務が生じるだけである。 f以上からして,そもそも,被告は,本件義務など負担していないし,その義務を怠ったこともない。 (ウ)催告の有無について上記(イ)のとおり,原告は本件義務など負っていないので,これに対する催告など存在するはずもない。ただ,原告は,甲第9号証から,上記義22務の履行の催告である旨主張しているが,同号証の内容は 「最終的な条件 ,および御見積もり等を下記の通りご提示します 」として,その条件,及び 。 見積りが記載されているだけであって,これは個別的な金型製作委託契約締結に向けて交渉していることを示すものにすぎない。 また,原告が主張するように,甲第9号証が催告であるとすると,本件義務の内容として,被告は同号証記載の内容の契約を締結しなければならないという債務を負担していたことになる。しかし,このような被告にいかなる内容の契約でも締結しなければならないという債務は,契約自由の原則からして存在するはずもない。 。 よって,甲第9号証をもって本件義務の履行の催告と考える余地はない(エ)解除の意思表示の有無について, 原告は,甲第9号証をもって,解除の意思表示であるとしているところ前記のとおり債務が存在しない以上,解除の意思表示は存在し得ない。 仮に,原告主張のように,解除を窺わせるような事実が存在していたとしても,それは合意解約の申込みの意思表示にすぎない。 (オ)解除の効力は本件開発委託契約6条(本件共同出願条項)まで及ばないことについて仮に,原告主張の解除が有効であったとしても,その解除の効力は本件開発委託契約6条には及ばない。すなわち,本件開発委託契約8条(有効期間)には 「1,本契約の有効期間は,本契約締結の日から第2条の委託 ,業務の終了日までとする。2,前項の定めに関わらず,第5条(秘密保持)に関する定めは,この契約終了後5ヵ年間有効とし,第6条(工業所有権)に関する定めは,当該工業所有権の存続期間中有効とする 」と定めている 。 ところ,同条2項「契約終了」には債務不履行解除も含まれ,仮に,本件開発委託契約が,債務不履行に基づき解除された場合であったとしても,同契約8条2項の「契約終了」に該当するから,同契約6条の効力は存続23する。 そもそも,同条項が規定されたのは,前記(イ)cで主張したとおり,本件開発委託契約において,被告が開発段階における費用を負担することとされ,かかる債務は本開発業務及びその成果と対価的牽連関係に立ち,本件開発委託契約が債務不履行解除された場合であっても,それまでに生じた開発費用は被告が負担することになる(債務不履行解除の場合であっても損害賠償債務として被告が負担することになる )のであるから,かかる開 。 発費用と対価的牽連関係にある開発業務から生まれた成果である特許を受ける権利及び特許権は,原告と被告の共有としなければ,両者間の利益調整を合理的に図ることができないので,同契約終了後も6条の効力が存続するものとして,工業所有権に関する原告と被告の利益調整を極めて合理的に解決すべく規定されたものである。以上のような本件開発委託契約の内容を斟酌して,当事者の合理的意思解釈を行うならば,同契約8条2項の「契約終了」には,本件開発委託契約が債務不履行に基づいて解除された場合も当然含む。 本件において,本件製品の開発は遅くとも平成13年1月26日には完成し,これに対する開発費用は被告が平成18年7月4日供託した金銭を原告が受領している。そうすると,仮に本件発明を原告が単独で行っていたとしても,少なくとも,当該発明を共同出願する権利を被告に付与しなければ,対価的均衡を保つことができない。そうでなければ,被告は,単, に開発費用を負担するだけに終わってしまう。したがって,本件において「契約終了」に,債務不履行解除が含まれると解することは,極めて妥当な結論を導き出す。 よって,本件共同出願条項の遡及的消滅を前提とする,原告の主張は失当である。 (カ)解除の効力は将来効に過ぎないことについて24仮に,原告主張の債務不履行解除が有効であったとしても,その解除の効力は遡及効を有しない。そのため,解除の意思表示がなされたとされる平成13年2月14日当時,既に発明が完了していた本件発明について,被告が有していた特許を受ける権利は消滅しない。 継続的性質を有する契約については,解除に遡及効が認められず,将来効が生じるに止まると解するべきであるところ,本件開発委託契約2条1項,同条2項を合わせて読めば,原告と被告は,本件浄水器について相互に協議を重ねながら,□本件浄水器の基本設計を行い,□本件浄水器の試作及び性能評価を行い,確定的ではないものの,その後に□金型の設計及び製作を実施して,最終的に□量産準備を行い,量産を開始していくことが予定されているから,本件開発委託契約は継続的契約である。そうする, と,同契約の解除には遡及効など認められない。また,遡及効を認めると極めて複雑な権利関係が発生する上,当事者の衡平を著しく害する。 したがって,本件開発委託契約の解除には民法620条が準用ないし類推適用され,その効力は将来に向かって生じるというべきである。 (2)取引基本契約原告と被告との間において締結された本件取引基本契約(前記第2の1(5))には,新たに発生する特許,実用新案,意匠等については,原告と被告の共同出願とする旨の条項がある。仮に,個別契約である本件開発委託契約が失効したとしても,本件取引基本契約の条項が効力を持つことになり,原告による本件特許出願は,本件取引基本契約上の上記共同出願条項に違反する。 (3)本件発明の発明者本件特許の発明者にはA(以下「A」という )が含まれ,特許を受ける 。 権利は,原告とA又はAから特許を受ける権利を承継した被告の共有に属するから,本件特許出願は特許法38条に違反してされたものである。 【原告の主張】25(1)本件開発委託契約に基づく製造委託義務等違反を理由とした債務不履行解除原告は,本件開発委託契約を被告の債務不履行を理由に解除したから,本件共同出願条項は遡及的に失効した。したがって,本件特許は共同出願義務に違反してされたものではないから,同法123条1項2号の無効理由には当たらない。その理由は,以下のとおりである。 ア本件開発委託契約に基づく義務の内容(ア)本件開発委託契約において,被告は,原告に対し「(1)本開発品の基本設計,(2)試作及び性能評価業務,(3)金型の設計及び製作業務,(4)量産準備と開始」を委託し(第2条第1項 ,被告は,上 )記の全業務を原告に委託する義務(本件義務)を負った。 (イ)本件義務は,本件浄水器に関して上記の業務を原告に独占的に委託し,第三者にシフトしないという不作為義務を内包している。このことは,本件浄水器(NEWツイン)の前機種である「エクセレント」に係る一手開発・一手製造委託契約の更改契約たる位置づけで,本件開発委託契約が結ばれたこと,更に,被告が製造委託先を決定するにあたっては被告の子会社とのコンペも行われていること(甲12)からも裏付けられる。 そして,原告は,上記委託義務の細目である「本開発品の基本設計 「試作および性能評価業務」に関し,3条2項のとおり 「委託業 」 ,務の遂行に要する費用のうち,金型と甲(注:被告)からの支給品(インジケーター,中空糸膜等)を除く開発費用を負担する」が 「乙,(注:原告)の負担する開発費用は乙が甲に納入する原価に計上する」こととされていることから,被告が,原告に対して量産品を発注し被告が一旦負担した(立て替えた)開発費用を量産品の代金に上乗せして支払う義務を有していたことも上記条項の文理上明らかである。 26すなわち,被告は,原告に対し,本件浄水器の量産品を発注する継続的売買契約の履行義務(本開発品の一手発注義務)を有し,その裏返しとして,第三者に本開発品の金型製造あるいは量産品の発注をシフトしないという不作為義務を負っていた。 (ウ)また,本件義務の細目である「金型の設計及び製作」に関し,本件開発委託契約3条3項のとおり金型の開発費用は被告の負担であり,同契約においては開発品の金型を原告が設計・製作し,被告がこれに対して費用を支払うという約定を含んでいる。そして,上記のとおり,本件開発委託契約において原告は被告に対し「金型の設計及び製作業務」を行う義務を負担していたのであるから,被告は委託者として「金型の設計及び製作業務」を原告に委託する義務を有していた。 なお,本件開発委託契約は,単なる金型製造委託契約に止まるものではなく,その要素は,同契約2条に記された一体としての業務の受委託であって,これを金型委託契約のみに分断して分析することは同契約の本質を見誤った見方であるが,原被告間で金型代金につき,検収時に3000万円を被告が支払い,残額3501万円については原告が被告に対して納入する製品原価に上乗せして支払を受ける合意が成立していたものである。 (エ)本件義務のほか,被告は,原告が本件開発委託契約の約旨に基づいて順次履行した受託業務を引き取り,かつ,開発費用の量産品代価上乗せによる精算を行うべき義務を負っていた。 イ被告の債務不履行(ア)ところが,被告は,原告が本件開発委託契約に基づき「本開発品の基本設計」と「試作及び性能評価業務」を了し「金型の製作」に一部着手した段階である平成12年11月に至って,突如,金型の製作中止を含む前記全業務の委託を撤回した。これは,原告において既に完成していた仕事である基本設計,試作及び性能評価及び仕掛中であ27った金型の受領拒絶であるとともに 「量産準備と開始」を含めた全業 ,務の一手発注義務の不履行である。 そして,被告は,平成12年11月18日までに本件浄水器の「主要部品3点の金型について台湾&中国での見積りを内々に依頼」していたのであるから,被告は原告以外の第三者に本件浄水器の委託(シフト)を行わない不作為義務にも違反した。 (イ)また,原告は,上記ア(ウ)のとおり,本件開発委託契約の約旨に基づいて受託業務を順次履行すべく,一方,被告は,これを引き取り,かつ,開発費用の量産品代価上乗せによる精算を行うべき法律関係が存在していたところ,被告は,上記の仕事の引き取り及び開発費用の量産品代価上乗せによる精算の受領拒絶をしたものであり,これは被告の本件開発委託契約上の債務不履行に当たる。 (ウ)上記一手開発委託義務(本件浄水器に関する第三者への受注シフトを禁ずる不作為義務)違反ないし原告が完成すべき仕事の引取義務違反は,原告に何らの過失なく,かつ不可抗力に基づくものでもない。 すなわち,被告の責めに帰すべき事由に基づく本件開発委託契約上の債務不履行にほかならない。 (エ)また,被告が,原告による本件浄水器の開発成果(甲19,29〜31,33)を中国・台湾に横流しし,現地における金型の製造依頼に及んだ行為は,本件開発委託契約5条の「相手方から提供された秘密情報を委。 託業務以外の目的に使用してはならない」との義務に違反したものである(オ)さらに,原告と被告との間で金型代金につき,検収時に3000万円を被告が支払い,残額3501万円については原告が被告に対して納入す, る製品原価に上乗せして支払を受ける合意が成立していたところ,被告は平成12年11月14日までに,上記3000万円の支払義務の履行拒絶意思を原告に対し示した。これが本件開発委託契約上の債務不履行に該当28することは明らかである。 ウ催告及び解除の意思表示(ア)原告は,平成13年1月26日に発した通知書(甲9)により,被告の受領拒絶を解消すべく被告に翻意を促したが,同通知書で示された履行の催告期限である同年2月14日までに翻意がされなかったから,本件開発委託契約は被告の債務不履行により民法541条に基づき解除された。 上記通知書には「解除」との文言が明記されていないが,これは被告が原告にとっての顧客であることから被告の翻意に最後の望みを託した上で穏和な表現を用いたものにすぎない。上記通知書においては,平成12年10月4日の代表者間合意により決定された本件浄水器の代金額(1万台まで9000円/台。甲34)を更に8390円/台に値下げしてまで,第三者への開発量産委託のシフトあるいは仕事の受領拒絶の翻意(被告が負担する義務の履行)を促し,その履行期限を平成13年2月14日までと区切っている。この記載は,民法541条の「相当の期間を定めて」の「履行の催促」に該当する。そして,上記通知書の「9」項は「開発委託契約の解約について」との表題のもと 「本開発 ,委託契約をご解約される場合は不本意ではありますが契約書第4条に基づき前記5の開発設計費(注:原告が既に行った開発設計に係る費用)を請求させて頂きます」と記載されており,同記載は,開発の中止又は中断(白紙撤回)及び原告が負担した費用の精算(民法545条3項の損害賠償に相当)を意味する記載である。すなわち,上記通知書の「9,開発委託契約の解約について」のなお書きは,平成13年2月14日を停止期限とする解除の意思表示を行ったものである。 (イ)仮に,上記通知書が明示的な解除の意思表示ではないとしても,本件の事実関係のもとでは,原告による黙示の解除の意思表示を認定する29ことができる。なぜなら,上記(ア)の事情に加え,被告も本件開発委託契約が平成13年2月14日の経過をもって解除されたと認識していたからこそ,翌月29日には早くもイないしハ号物件の金型発注に至ったものと認められるからである。本件開発委託契約に基づく原告への業務委託が存続しているとの被告の認識を前提に,被告が同じ業務の委託を第三者に対して行ったなどとの解釈が不合理な解釈であることは明白である。すなわち,被告自身が,上記通知書の受領と平成13年2月14日の経過をもって本件開発委託契約が解除(白紙撤回)されたと認識し,だからこそ翌月には第三者に金型の発注をかけていたのである。 (ウ)仮に,上記意思表示がいずれも認められないとしても,原告は,予備的に,平成18年9月25日施行の本件口頭弁論期日において,同日付け準備書面をもって本件開発委託契約を解除する旨の意思表示をした。 (エ)なお,被告は,平成13年3月26日に原告と被告各代表者間で本件開発委託契約が合意解約されたと主張する。原告は,この事実は争うが,この合意解約が同契約6条を含めた白紙撤回であるという限りにおいて被告の主張を援用する。 エ解除の効力被告の債務不履行を理由とする上記の解除の意思表示は,民法545条1項の効力を有し,本件開発委託契約6条1項2号,8条の特許を受ける権利の譲渡義務を含む本件開発委託契約の遡及的消滅の効果をもたらす。 本件開発委託契約においては,解除の遡及効を否定すべき特別な事情(派生したもろもろの法律関係)がなく,むしろ解除の遡及効を認めなければ,原告にのみ一方的に不利な結果となり,当事者間に公平を欠く結果を招来する。すなわち,本件開発委託契約において解除の効果が発生した日を平成18年9月25日とし,かつ遡及効を認めないことによって以前の権利義務を温存させる解釈を採ったならば,本件共同出願条項に基づく原告の義務が存30続し,他方,被告の同契約2条1項4号における量産準備と開始の委託義務や3条1項,2項の開発費償還義務は消滅するということになり,被告は何らの対価の支払なくして原告による開発成果に係る本件特許権を共有し,実施できることとなる。 このような結果を招来することとなる解除の遡及効の制限が本件開発委託契約において肯定される余地はない。同契約6条1項1,2号,8条によって原告が負担することとなっていた 「商標登録・意匠登録を受ける権利を被 ,告に所有させ特許・実用新案登録を受ける権利の共有持分を被告に譲渡する義務」は,被告が負担する「原告に対し第2条1項の開発業務を委託しその仕事の成果を引き取り,第3条2項なお書きに従って開発費用を製品代価に上乗せして支払う義務」と対価的牽連関係を有することは明らかである。したがって,開発委託を一方的に破棄し実費を精算しただけの被告に本件特許権の共有持分を譲渡せねばならないと解釈する理由はない。 以上,解除の意思表示の効力発生時期にかかわらず,本件開発委託契約は被告の債務不履行により解除され,同契約に基づく原告と被告双方の義務は遡及的に消滅したものである。よって,同契約6条1項2号,8条に記載された特許を受ける権利の承継義務もまた遡及的に消滅しているから,本件特許出願につき特許法38条違反の瑕疵は存在しない。 また,本件合意解約の効果として本件開発委託契約6条の将来的効力のみを残存させる旨が約定されたと解することは極めて不自然である。 (2)本件取引基本契約上の共同出願条項違反についてア被告は,平成5年に締結された本件取引基本契約15条を共同出願要件違反の根拠事実としているが,同条項は本件に適用されない。なぜなら,同条項は対象を特定することなく何もかも「新たに発生する特許,実用新案,意匠等については,甲,乙,共同出願」とするという対象の特定性を有しない条項であって,射程範囲が見えない無効な条項といわざるを得ない上,本件31開発委託契約では「意匠商標は甲取得,特許実用新案は甲乙共同出願」という異なる定め(第6条1項)がされているから,本件取引基本契約第1条「1 」項の「特約」が交わされた契約であることは明らかであり,上記共同 )出願条項が「すべての個々について適用される」という前提を欠く。 イかえって,本件取引基本契約書21条には甲(原告)は「相手方(被告)が本契約もしくは,その付属契約またはそれらに基づく個別契約の規定に違反したとき」は「催告手続を経ることなく直ちに本契約およびその付属契約並びにそれらに基づく個別契約の全部又は一部を,解除することができます」と規定しているから(21条「1 」項?@ ,個別契約たる本件開発委託 ))契約に基づく量産準備及び開始の独占的委託義務違反,金型製作の独占的委託義務違反,同受領義務違反,秘密保持義務違反を理由として,本件開発委託契約は甲第9号証の期間経過により債務不履行解除されたか,遅くとも本訴における解除の意思表示によって解除された。 ウよって,本件開発委託契約6条1項1号の効力が遡及的に消滅していることは明らかである。 (3)本件発明の発明者ア本件特許発明は原告従業員のB(以下「B」という )の発明に係るもので 。 , あり,原告が,Bから特許を受ける権利を承継したものである。このことは本件開発委託契約の条項上も,そもそも本件開発委託契約が,第1条に定義された本件浄水器の開発を甲(被告)が,乙(原告)に委託する契約であること,及び,具体的には,原被告間において本件浄水器の基本設計,試作,性能評価を原告の受託業務として定めているのであって,このことは 「NE,Wツイン(仮称 」の開発プロジェクトそのものにおいて,従来品の課題及び )解決手段の着想及び実施化,即ち本件特許発明をする役割を,原告従業員が担う約束であったことを意味している。したがって,被告従業員が発明に関与することは,同契約において予定されていない。 32イ被告は,本件発明の発明者にはAも含まれる旨主張する。しかし,Aは,原告と雇用関係を有するとともに,被告においても顧問として顧問料の給付を受け,新開発品のプロジェクト進行のコーディネートに携わっていたものである。そもそも,Aは,名大工学部応用物理学科を卒業して三菱レイヨン, 株式会社において商品開発研究所等を歴任した化学繊維素材の専門家であり中空糸膜についての当業者ではあった。ただし,三菱レイヨンにおいてAが技術部長の任に在った当時から,同社の浄水器(商品名クリンスイ)の機構, 部分の設計開発ならびに製造はほとんど原告に委ねられていた。したがってAがなしえたのは,原被告間の「NEWツイン(仮称 」本件浄水器の開発量 )産プロジェクトにおける会議のアレンジメント,被告の要求事項の吸い上げ及び取り纏め並びに原告開発グループに対する落とし込み,原告内部における開発のオブザーブ等の業務に止まり,現にこれを超えて例えばAが原告の本件特許発明の創作過程での資料(設計図面)に決裁者として押印した事実すらない。発明者とは,当該発明の創作行為に現実に加担しただけの者を指, し,単なる補助者,助言者,資金の提供者,あるいは単に命令を下した者は発明者とはならないところ,現実にも,本件特許発明は原告従業員のBがしたものであって,Aが被告における就業期間中に本件特許発明の創作に現実に加担した事実はない。 4争点(1)エ(被告は本件特許権につき先使用による通常実施権を有するか)について【被告の主張】被告は,平成13年2月中に意匠を含めイ号製品細目を決定し,同年3月にその量産のための金型の製作を発注した。そして,当該金型は,製作が開始され,同年5月には試作成型に至り,同年6月には金型が完成し,被告に引き渡され,他方,同年4月,6月と最終10月に金型代金の全部が決済された。 したがって,被告は,特許法79条の適用又は類推適用により,本件発明に33ついて,先使用による通常実施権を有し,禁止権は及ばない。 【原告の主張】被告が本件出願(平成13年6月6日)以前にイ号物件について実施の準備をしていたことは,被告提出の証拠方法によるも,何ら立証されてはいない。 そして,被告は,もともと原告からOEM供給を受けるべく,量産化に向けた, 本件浄水器の開発プロジェクトに関わり,原告と商談を行ってきたものであってその過程で原告から知得した原告発明に基づいて,イ号製品の開発製造を開始したことは明らかである。したがって 「特許出願に係る発明の内容を知らないで自 ,らその発明をし,又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して」本件特許発明を実施しているものにも該当しない。かつ,本件発明の開発経緯に照らし,被告の侵害行為に特許法79条が類推適用される余地はない。 5争点(1)オ(被告の本件特許権に基づく権利行使は権利の濫用に該当するか)について【被告の主張】本件開発委託契約の解除に遡及効が認められたとしても,そうであるとすれば,原告は被告に対して本件特許権の名義を被告に移転すべき債務を負担していることになる。にもかかわらず,原告が被告に対して本件特許権に基づいて行う請求は権利濫用というほかない(被告は原告に対して開発費用分の損害を支払っているのであるから,原告には同時履行の抗弁すらない以上,権利濫用であることはより明白である)。 よって,結局,原告の主張は不利益陳述にほかならず,これによって原告の請求はすべて理由がなくなるのは明らかである。 【原告の主張】被告の主張は争う。 6争点(1)カ(特許法65条に基づく補償金請求について本件発明が出願公開34されたことを被告が知った時期)について【原告の主張】被告が,遅くとも平成15年2月1日には,本件発明が公開特許に係る発明であることを知っていたことは明らかである。 被告は,乙第1号証の書面の受領を否定するが,同号証は「平成15年1月29日付け」であるものの,平成15年1月31日に配達記録郵便として開発費用の実費請求書と共に発送しているのであるから[甲71の1(書留・配達記録郵便物受領証 ,同2(納品書(控,翌同年2月1日には,被告が受領 )))]していることは明白である。 そして,被告は従前から原告がイ号物件にかかる特許権を出願していることを原告代表者や原告管理本部長のD及び営業本部のEから告知されて知悉していたことは,乙第1号証の「特許申請の取り下げをすれば交渉に応じる」との記載及び甲70から明らかである。 被告は,本件開発委託契約第6条により共有になると誤信していたから,乙第1号証に対しても何らのクレイムも発せず鷹揚に構えていたと解するのが自然である。 さらに,原告が平成15月1月29日の時点で本件特許出願について通常実施権の譲渡(許諾)を申し出ていたこと,すなわち,被告がそのとき本件特許出願について悪意であったと自認している。 原告は,予備的に,仮に,平成15年1月29日ないし31日以前に被告が本件特許出願の事実を知らなかったとしても,遅くとも平成15年2月1日の時点で本件特許出願公開の事実を知ったことを主張する。 したがって,同月以降における被告物件の実施につき原告は補償金請求権を有する。 【被告の主張】被告が,平成15年2月1日に本件発明が公開特許に係る発明であることを35知っていたとの原告の主張は否認する。被告は,乙第1号証を被告から受領したことはない。 7争点(1)キ(補償金の額)【原告の主張】(1)被告は,平成14年12月17日から平成17年9月21までの間にイ号物件を少なくとも単価4万5000円にて5万5000台,ロ号及びハ号物件を少なくとも平均単価7000円にてそれぞれ6万5000本ずつ販売し,合計33億8500万円を売り上げた。 (2)本件発明の上述の効果からすれば,本件発明実施する価値は高く,原告が受けるべき実施料相当額は,イないしハ号物件の販売額の少なくとも5%は下らない。 したがって,原告は被告に対し33億8500万円×5%=1億6925万円の補償金請求権を有する。 【被告の主張】原告の主張は争う。 8争点(1)ク(特許権侵害の不法行為による損害額)【原告の主張】(1)被告は,平成17年9月22日から平成18年7月31日までの間にイ号物件を少なくとも上記単価で5000台,ロ号物件及びハ号物件をそれぞれ少なくとも上記単価で1万5000本ずつ販売し,合計4億3500万円を売り上げた。 , (2)上記のとおり,本件発明の実施により原告が受けるべき実施料相当額はイないしハ号物件の販売額の少なくとも5%は下らない。したがって,原告が平成18年7月31日までに被った損害額は4億3500万円×5%=2175万円である。 36原告は被告に対し本件特許権侵害に係る損害賠償請求権として同額の請求権を有する。 (3)原告は,本件の解決を弁護士に依頼し手数料として1000万円の負担を約したが,同費用は被告の特許権侵害と因果関係のある原告の損害である。 【被告の主張】原告の主張は争う。 9争点(2)ア(被告の債務不履行の成否)について【原告の主張】(1)被告は,遅くとも平成13年1月26日までに,本件開発委託契約による本件浄水器の金型発注,量産準備及び開始委託義務に違背し,原告への委託を中止した(甲9の柱書 。原被告間には,単なる金型の受発注契約に止まらず,量 )産品の製造委託契約も成立していたから,被告は,原告に対し,下記の逸失利益について損害賠償義務を負担する。 (2) 製造委託契約が成立していたとする根拠は,次のとおりである。 本件開発委託契約第2条1項4号には「量産準備と開始」を被告が原告に委託すると規定されている,これは,本件浄水器( 本開発品 )の量産すなわち 「」製造を被告が原告に委託したことを意味する。しかも,本件開発委託契約第3条2項第2文には「乙(原告)の負担する開発費用は乙が甲(被告)に納入する製品の原価に計上する 」と記されている。この約定は,原告が行う本件浄水 。 器の開発費用を,製造委託契約に基づく製品代金に上乗せして被告が原告に支払うとの意味の約定である。すなわち,単なる開発委託に止まらず,量産品の製造委託合意を前提としている約定であることは明らかである。 さらに,本件開発委託契約においては金型費用は被告負担となっているところ(第3条3項 ,その見積り(甲7)と発注金額(甲8)との差額(税抜き3 )501万円)は,製品原価に上乗せして償却することが合意されていた。この事実からも,金型代差額の償却が済むまでは1台当たり9000円,償却後は37。 8600円で被告が原告に本件浄水器の製造を委託していたことは明白である(3)甲第34号証は,一方で,製造委託契約における販売開始時期及び代金の合意が原被告間で成立していたことも示している。甲第34号証10月4日欄には「平成13年4月発売」とある。また,納入代金を甲第6号証の金額(税抜き9500円/台)からディスカウントし,当初1万台までは9000円/台とし,以後は8700円/台とすることが約束されている。 したがって,遅くとも平成12年10月4日には,原被告間において本件浄水器の製造委受託契約が成立していたことは明らかである。ところが,原告との契約を履行したのでは利幅が小さいと見た被告は,安いコストを求めて中国方面へのシフトを思い立ち,原告代表者が平成12年12月22日,同月28日にも被告代表者と面談をもって翻意を促し,納入価格を更に切り詰め8390円まで譲歩したが,これを無視し中国へのシフトを強行した。 (4)以上の経緯,証拠からして,原被告間に成立していた合意が単なる開発委受託合意あるいは金型の受発注合意に止まらず,本件浄水器の量産品の製造委託合意に及んでいたことは明らかである。したがって,被告は原告に対し,製造委託契約の債務不履行に基づく損害賠償の責めに任ずる。 【被告の主張】原告の主張は争う。原告と被告との間には,本件浄水器の製造委託契約は成立しておらず,したがって,その債務不履行もない。 10争点(2)イ(原告の損害額)について【原告の主張】原告は被告の本件開発委託契約の不履行により,下記の損害を被った。 (1)積極的損害[甲10(請求書 ])?@研究開発費9,358,250円?A試作費770,000円?Bデザイン費880,000円38?C上記?@ないし?Bに対する消費税550,413円合計11,558,663円(2) 消極的損害(逸失利益)本件開発委託契約が,本件浄水器の量産準備と開始(本件開発委託契約第2条1項4号)を原告が受諾すべき業務とされ,金型及び被告からの支給品を除く原告負担の開発費用を,原告が被告に納入する製品の原価に計上する(本件開発委託契約第3条2項なお書き)とされていることから,本件開発委託契約は,被告が,原告の製造にかかる本件浄水器を原告から購入し,これを第三者に販売することを,契約の内容として当然に含んでいた。 現に,平成12年10月23日には,被告は原告に対し金型の製作を金3150万円(見積価格6826万500円との差額は製造原価に上乗せすることが約されていた)で発注していた[甲8 。]即ち,原被告間では,被告が原告に対し継続的に本件浄水器を製造委託する契約が成立していたのである(本件開発委託契約第2条1項(4)はこれを約定化したものである 。), そして,被告の前記債務不履行により原告は本件浄水器の販売機会を喪失しこれによって少なくとも下記の利益を逸失した。 ?@ 1台当たりの利益の額?T被告への販売価格8,390円[甲9第1頁「3」項]?U予想利益1,258円/台?A 予想販売数量6万台(2001年〜2006年7月)?B 逸失利益の額7548万円(3)被告の供託被告は,平成18年7月4日,積極損害1155万8663円及びこれに対する平成16年1月25日から平成18年7月3日までの間の年6%39の割合による金員を原告のため弁済供託したところ,原告は,上記損害賠償金の一部(上記(1)の損害)に充当するため,同金銭を受領した。 【被告の主張】原告の主張は争う。本件開発委託契約は開発段階と量産準備段階に分けることができる。そして,開発段階における原被告間の債権債務は原告が本件開発業務を完了し,被告が開発費用を既に弁済している。よって,開発段階の債権債務はそれぞれ履行によって消滅している。したがって,被告には,開発段階に係る損。 害は生じていない。したがって,被告には,開発段階に係る損害は生じていないまた,量産準備段階においては,原告はなんら積極的な出捐を行っていない以上,積極損害は存在しない。さらに,本契約では,これまでに主張したとおり,被告が原告に対してなんらかの量産準備業務の委託を行わなければならないという債務は存在しないのであるから,消極損害は発生しようがない。 よって,原告には損害がない。 第4争点に対する当裁判所の判断1争点(1)ウ(本件特許は特許法38条に違反してされたものであって同法123条1項2号の特許無効理由を有し特許無効審判により無効とされるべきものか)についてまず,原告の本件請求のうち,特許法100条に基づく被告物件の製造販売の差止め及び廃棄請求,本件特許の出願公開による補償金請求,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求の成否について判断するが,事案にかんがみ,これに関する各争点(前示の争点(1)アないしク)のうち,まず,抗弁事実に当たる争点(1)ウについて判断する。 , (1)前記前提事実,証拠(甲5ないし13,34,50〜57,58,61乙1,4,5,9,10の1〜13,11の1〜5,12,14,15,17,26〜30,32,原告代表者,被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 40ア被告(旧商号「株式会社大阪三愛 )は,昭和45年8月に設立された 」家庭用浄水器の販売・メンテナンス等を業とする株式会社であり,昭和50年4月,自社ブランド「チェリーウォーター (第1世代浄水器)の販 」売を開始したが,その際,原告から切換コック(汎用品)の供給を受けて,原告との取引を始め,平成3年3月 「チェリーウォーターツイン (第 , 」2世代浄水器:二槽式)の販売を開始した際,従前の委託先に代えて原告にその製造を委託した(実体は,被告所有の金型と一部設備を貸与して製造作業を請け負ってもらったもの 。)イ原告と被告は,平成5年9月3日,原告と被告との間で締結される浄水器の製造委託及び商品開発に関する必要な基本的事項として,以下の内容の取引基本契約を締結した(乙27 。)(ア)2条(個別契約の成立)個別契約は,被告より原告に注文内容を記入した所定の注文書を交付し,原告がこれを受託したときに成立するものとする。 (イ)4条(商品代金の請求及び支払方法)原告は被告の商品受入代金を毎月末をもって締め切り,被告に請求するものとする。被告は翌月末日に50%現金50%約束手形で支払うものとする。手形サイトは支払日起算90日の約束手形とする。 (ウ)15条a被告がすでに所有している,又は出願を終えている特許,実用新案,意匠等についての所有権は被告とする。 b新たに発生する特許,実用新案,意匠等については,原告,被告の共同出願とする。なお,出願の手続は被告が行うものとするが,発生する費用は,原告,被告それぞれが折半することとする。 (エ)25条a本契約の有効期間は,平成5年9月3日から平成6年9月2日まで41の満1年とする。 b前項の期間満了3か月前までに,原告又は被告から書面による変更又は解約の申入れのない場合,本契約は更に1年更新継続されるものとし,以後同様とする。 c原告又は被告は,本契約の有効期間中といえども,書面による3か月前の申入れにより,双方合意の上,本契約を解除できるものとする。 ウ被告は,平成8年5月 「チェリーウォーターツイン」をベースにその ,容量と除去能力をアップした改良型の家庭用浄水器「エクセレントツイン」の販売を開始したが,同商品の開発製造委託先は原告であった。 エ被告は,さらに,2槽式浄水器(第2世代)に電子式の表示機能(インジケーター)を加えた第3世代の浄水器(仮称・NEWツイン)の開発及び販売を企図し,原告にその開発,製造を委託することとした。そして,原告と被告の担当者は,平成12年5月初旬から下旬にかけて上記委託に係る契約の内容について協議し,同月下旬,本件開発委託契約が締結されるに至った(ただし,契約書の日付けは同年4月1日 。)オ原告代表者と被告代表者は,平成12年7月10日から,金型の製造代金に関する交渉を開始した。その際,原告代表者は,金型代金を6000万円から6500万円の半額程度である3000万円を一括で支払を受け,残金を製品単価に上乗せして償却してほしい旨提案したが,すぐには合意に至らなかった(甲55,乙29 。そして,原告は,同年9月25日, )被告に対し,金型代を6501万円とする見積書(甲7)を提出した。 カまた,原告代表者と被告代表者は,これと並行して,本件浄水器の量産委託の際の1個当たりの納入価格についても交渉をし,原告は,同年9月22日,被告に対し,納入価格を9500円とする見積書(甲6)を提出した。上記見積額は,被告の受け入れるところとならなかった。その後,原告代表者は被告に宛てて見積価額を9100円とする同年10月18日42付け見積書を持参したが,被告代表者は,その場で同価額を8600円と修正する書き込みをしたもの(甲61)を原告代表者に手交した。ただし,上記8600円は,支給品を含めた価額であるところ,その価額が未定であったため,全体としての納入価額も未確定であった。。)キ原告代表者と被告代表者との交渉はその後も継続し,おおむね金型代金のうち検収時に支払うべき金額を3000万円とし,残額は,製品価格に上乗せして償却するという方向で話が進んでいたが,販売開始時期と予定していた平成13年4月に間に合わせるためには,平成12年10月が金型製作のデッドラインと目されていた。原告は,平成12年10月18日,被告に対し,本件浄水器の納入価格を9100円とする見積書(甲52)を送付し,次いで,原告は,同月23日,被告に対し,金型代を3000万円とする見積書(甲53)を送付したところ,同見積書には 「300 ,0万円は,御社ご負担とします。残り3501万円についての資産割当は,製品単価決定後,打ち合わせにて取り決める事とします 」と記載されて 。 いた。そうしたところ,被告は,同日,原告に対し,金型代(一式)を3000万円とする注文書(甲8)を提出した。 ク被告代表者は,平成12年11月6日,中国の状況に詳しいFと面談したところ,中国で金型を製作すると,費用が著しく低廉ですむ旨の情報を入手し,同月25日,原告代表者に対し,中国での金型製作を依頼したが,原告代表者は金型の品質に責任が持てないなどとしてこれを拒否した(乙29 。原告代表者は,その後の被告代表者との交渉において,なおも国 )内での金型製作を継続する旨の要望をしたが,被告代表者はこれを了承せず,結局,金型製作を巡る原告と被告との交渉は暗礁に乗り上げ,原告による金型製作は中断するに至った。 ケ原告代表者は,平成13年1月に入ってからも,金型製作価格をさらに譲歩するなどして,被告代表者に翻意を促したが,被告代表者の了解が得43られないまま推移した。原告は,同月26日,本件開発委託契約の最終案として次のとおり記載した書面(甲9)を作成し,被告に送付した。 (ア)生産場所原告(イ)納入価格8390円(被告支給品2740円を含む )。 (ウ)金型費6000万円(エ)開発設計費2000万円(オ)原告費用負担と償却被告発注書(甲8)の金型費3000万円を除く費用一式6000万円は原告が負担する。 上記負担費用6000万円は,本件開発委託契約に従い,製品原価に加算し,償却する。なお,この金額は上記(イ)の納入価格に含まれている。 上記償却期間は4年間(平成13年9月から平成17年8月まで)とし,想定販売数量は20万台(製品1セット当たり300円)とする。 なお,平成17年8月31日時点での未償却費用は被告が一括して負担する。 (カ)納期「2月上旬までに正式に御発注して頂ければ9月量産が可能です。 (ただし開発中の鉛除去材とインジケーターの御支給品の納期が間に合うことが前提となります」。)(キ)本件開発委託契約の解約について上記(カ)の「納期を前提としますと2月14日までに御決裁を頂きたくお願いを申し上げます。なお,本開発委託契約を御解約される場合は不本意ではありますが契約書第4条に基づき前記 ((エ)の 「開発設 」)計費を請求させて頂きます 」。 コ被告は,イ号物件の製品デザインを「オフィスあまちゃん」に発注し,44その細目を決定していたところ(乙11の1〜5 ,原告代表者と被告代 )表者は,平成13年3月26日に面談し,被告代表者は,金型は中国で製作することとすること,切換コックのみを原告に発注する旨を原告代表者に告げた。原告代表者としては,被告が発売を予定している浄水器は,原告が開発業務を行った浄水器ではなく,これとは別に開発した商品であると理解していたこともあり,被告の上記発注を承諾した。そして,被告は,同月29日,被告の子会社株式会社ニチデンを通じて,中国企業の東隆塑膠製品廠に,量産のための金型を代金1053万9000円で発注し(乙4 ,4月19日,6月11日,10月31日の3回に分けて各351万 )3000円ずつ支払った(乙9 。)サ原告は,平成13年4月20日,創作者を原告代表者,原告従業員のC,Bとする「切換コック」の意匠登録出願をしたが,その後,被告に意匠登録を受ける権利が移転された(乙14。平成14年3月8日意匠登録 。)シ原告と被告は,平成13年5月7日ころ,上記「切換コック」について,以下の約定により,原告が被告にOEM供給する旨の「開発及び量産委託契約書 (乙12)による契約を締結した。 」2条(委託業務)被告は原告に対し,新型浄水器用切換コック(本開発品)の量産に至る下記業務を委託し,原告はこれを受託する。 (1)本開発品の基本設計(2)試作及び性能評価業務(3)金型の設計及び製作業務(4)量産3条(開発期間,費用)(1)原告は,平成13年8月までに前条の委託業務を終了するものとする (以下省略)。 45(2)原告は,委託業務の遂行に要する費用のうち,金型費用を除く開発費用を負担する。 (3)被告は金型費用を負担する (以下省略)。 4条(取引条件)原告・被告間の本開発品における取引条件及び見積りは,下記の項目とする。 (1)生産場所金型生産場所は日本国とし,第2条の委託業務により原告が生産を行う。 (2)販売時期平成13年8月31日(3)納入価格金型費用1425万円内訳金型着手時450万円金型完成時450万円残金525万円は商品1個当たり35円を上積みし,15万個をもって償却する。ただし,期間は2年とし,平成15年8月末に残額が存すれば,残額を一括払とする。 商品価格960円(被告の指定する日本国内の組立工場までの送料を含む。ただし金型残金償却終了までは995円とする。 。)(以下省略)6条(開発の中止,中断保証)被告のやむを得ない事由により開発を中止又は中断しなければならなくなったとき,被告はその旨を原告に書面にて通知することにより,本契約を解除することができる。この場合原告がそれまで負担していた費用を被告は原告に支払うものとする。 8条(工業所有権)本開発品において新たに発生した発明又は考案に係る工業所有権は原告被告が共有するものとする。 46(1)特許権は原告被告共同の所有とし,その共同出願手続は原告被告協議の上行い,また共同出願・保有・保全に必要な経費は原告被告折半で負担するものとする。 (2)意匠権は被告の所有とし,その出願・保有・保全に必要な経費は被告がすべて負担するものとする。 (以下省略)ス原告は,平成13年6月6日,本件特許出願をした。 セ被告は,平成14年1月,本件浄水器「TWINe (第3世代浄水」器)の販売を開始した(乙26 。)ソ原告は,平成14年1月29日,被告に対して開発費の見積書(乙5)を送付した。開発費の合計は1155万8663円(消費税相当額55万0413円を含む )であり,その内訳は 「NEWツイン本体研究開発 。,), 費」935万8250円(1時間当たり5500円×1701.5時間試作費(77万円 ,デザイン費(88万円)及び上記消費税相当額であ )る。 タ原告は,平成16年1月23日,被告に対し,上記ソと同額を記載した請求明細書(甲10)を送付した。 チ被告は,平成18年7月4日,上記開発費用1155万8663円及びこれに対する平成16年1月25日(上記タの請求明細書による請求の支払期限)から平成18年7月4日までの年6分の割合による遅延損害金161万0522円の合計1316万9185円を供託し(大阪法務局平成18年度金第6845号 ,原告は,同月25日,その払渡しを受けた )(乙13 。)(2)上記認定事実に基づき,以下のとおり判断する。 ア本件開発委託契約の内容原告と被告が平成12年4月1日に締結した本件開発委託契約の内容は,47前記第2の1の前提事実(6)のとおり,被告が原告に対し,本件浄水器(本開発品)の量産に至る業務,すなわち,?@本件浄水器の基本設計,?A試作及び性能評価業務に加え,?B金型の設計及び製作業務,?C量産準備と開始,という一連の業務を委託し,原告がこれを受託するというものである(2条1項 。そして,上記委託業務の遂行に要する費用の負担関係に )ついては,被告が,金型と被告からの支給品(インジケーター,中空糸膜等)に関する開発費用を負担し,他方,原告が,これを除く開発費用(製品デザイン費,試作費,パッケージや取扱説明書等のデザイン及び版下代が例示されている )を負担することとされているが,上記開発費用のう 。 ち,原告の負担する開発費用は,原告が被告に納入する製品の原価に計上することとされており(3条 ,これにより,原告は,いったんは上記開 )発費用を負担するものとされているものの,結局は被告に納入する製品の代金に上乗せするという形で開発費用を回収することが認められているものであって,本件開発委託契約上,本件浄水器の開発について原告が最終的に負担する開発費用は存在しないものとされていることになる。 また,本件開発委託契約の委託業務には,本件浄水器の基本設計や,試作及び性能評価業務という本来の商品開発業務のほか,金型の設計及び製作業務や量産準備と開始業務が含まれるところ,後者の各業務は,これに先立つ本件浄水器の基本設計や,試作及び性能評価業務という純然たる開発業務とは異なり,そのような商品開発業務が完了したことを前提として,本件浄水器の商品化・量産化に直接具体的に向けられた業務ということができる。本件開発委託契約上,後者の各業務は,それぞれ「金型の設計及び製作」とか「量産準備と開始」というような抽象的な記載にとどまっているのであり,同契約締結時点で原告と被告との間で「金型の設計及び製作」に関する契約(金型製作委託契約)及び「量産準備と開始」に関する契約(製造委託契約ないし継続的物品供給契約)が具体的に成立したとい48うことはできない。したがって,原告において,実際にその業務を遂行するに当たっては 「金型の設計及び製作」にあっては金型の製造委託先や ,具体的な製作代金等に関する交渉が 「量産準備と開始」にあっては本件 ,浄水器の納入価額,販売開始時期等に関する交渉が当然に予定されており,その交渉の結果として,金型の製作等に関する契約及び原告から被告への製造委託契約(継続的物品供給契約)がそれぞれ本件開発委託契約とは別に締結されることが予定されていたことが明らかである。このように,交渉の経過いかんによっては,原告と被告との間において契約条件について折り合いを付けることができず,交渉が決裂し,上記各契約の締結に至らない場合もあることは容易に推測することができる。もっとも,原告と被告は,本件開発委託契約に基づき,それぞれ相手方に対して優先的交渉権を有しているものといえ,実際に交渉が決裂して金型製作委託契約や量産のための製造委託契約が締結されないという事例は稀であると考えられる。 このような事情から,原告が本件開発委託契約上の委託業務として「金型の設計及び製作」とか「量産準備と開始」と抽象的に記載されていることをもって,原告が確実に被告からその受注を受け得ると期待し,これを信じたことには無理からぬところがある。しかし,だからといって,契約自由の原則上,被告においてこれらの各契約の締結を拒絶する自由を有する以上,これら優先的交渉権を超える期待,信頼が当然に法律上保護されるものということはできず,被告が原告に何らの交渉機会も与えなかったとか,不誠実な交渉態度に終始したなど,原告の上記優先的交渉権を侵害すると認められるような場合は格別,被告が原告とのこれら契約を締結しないことが,当然に,本件開発委託契約の債務不履行になると解することはできない。 したがって,本件開発委託契約の締結によって,被告が原告に対し,上記の全業務を原告に委託する義務(本件義務)を負ったということはでき49ず,さらに,本件浄水器に関して上記の業務を原告に独占的に委託し,第三者にシフトしないという不作為義務とか,被告は,原告が本件開発委託契約の約旨に基づいて順次履行した受託業務を引き取り,かつ,開発費用の量産品代価上乗せによる精算を行うべき義務を負っていたということはできない。よって,被告が本件開発委託契約上,本件義務を負っていたことを前提に,その履行を怠った債務不履行があるということはできない。 なお,前記認定した事実(第4の1(1)オないしコ)によれば,被告代表者は,平成12年7月10日より平成13年3月26日までの間,金型の製造について原告代表者と断続的に交渉しており,最終的には金額面で折り合いが付かなかったことから金型の製造委託契約の締結には至らなかったものの,原告の優先的交渉権を侵害すると認められるような事情は窺えない。 本件義務の存否について,原告は,浄水器の製造業界一般において,開発委託と製造委託を切り離して行う例は存在せず,開発を行う事業会社は生産設備を備えたメーカーであって,製品の要求性能や仕様だけでなく生産コストや量産における生産効率,品質保証を念頭において開発を実行するのであり,その開発成果のみを販売元が開発委託先のメーカーから吸い上げて他社に生産委託することは,事業展開上きわめて不自然で非効率なことであると主張する。しかし,原告主張のような実態がある場合があるとしても,委託業務の内容を上記のとおりと定めたにすぎない本件開発委託契約においては,金型製造委託及び量産委託が別途の契約ないし合意によって行われることが予定されていたといわざるを得ないのであって,原告の主張する事情は当裁判所の上記判断を左右するものではない。現に,原告と被告は,本件開発委託契約が合意解約された後の平成13年5月7日付けで 「新型浄水器用切換コック」に関する「開発及び量産委託契約 ,書 (乙12)による契約を締結しているところ,同契約においても,本 」50件開発委託契約とほぼ同様 「(1)本開発品の基本設計,(2)試作及び性能 ,評価業務,(3)金型の設計及び製作業務,(4)量産」を委託業務としているところ,金型の生産場所,販売時期,納入価格のほか,量産の場合の商品価格も具体的に定められていることが認められる。そうすると,同契約においては,純然たる開発委託部分も量産委託部分もともにその旨の契約が成立していることが明らかであって,かかる契約との対比においても,そのような定めのない本件開発委託契約と同視することはできないものというべきである。 イ金型製作委託契約及び製造委託契約の成否原告は,本件開発委託契約に基づく委託業務中,別に契約締結が予定されている金型製作委託契約及び製造委託契約も契約成立に至った旨主張し,これを裏付ける証拠として甲34,50,51,57(交渉内容について原告代表者が作成したメモ)を提出し,原告代表者の供述(甲55,58の陳述書の記載を含む。以下「原告供述」という )を援用する。なるほ 。 ど,上記証拠は,上記各契約が成立したとの原告の主張に副うかのようである。上記メモ(甲34,50,51,57)は,原告代表者が交渉過程を作成したメモであるところ,この種のメモは,通常,日々の出来事を機械的に記載したものであって,商業帳簿に準じて信用性が比較的高いものであるとの評価を受けることがある反面,交渉の一方当事者が交渉過程を記載したものの通弊として,必ずしも合意に達していない事項についても,相手方の態度の読み違えや希望的観測等から,あたかも確定的な合意に達したかのような記載をしてしまうことも少なからず見受けられるのであって,その意味で作成者の主観的な思いこみを排除することは困難であるから,その信用性を軽々に肯定すべきではなく,裏付け証拠その他の関係証拠の有無,内容を吟味し,その信用性を慎重に判断すべきものである。 これを本件についてみると,被告代表者は,上記各契約締結の事実を否51定する供述をしているほか,交渉過程の内容についての供述が原告供述と大きく食違っているところがある(とくに,交渉過程において,被告は,従来機種である「エクセレントツイン」の水漏れに関し顧客からクレームが寄せられていることを原告に伝え,このための交渉が行われていたと主張するのに対し,原告はこれを否定している。そして,原告側のメモ 。)である上記各証拠及び原告供述を裏付ける証拠としては,原告が平成12年10月23日,被告に対し,金型代を3000万円とする見積書(甲53。同見積書には「3000万円は,御社ご負担とします。残り3501万についての資産割当は,製品単価決定後,打ち合わせにて取り決める事とします 」と記載されていた )を送付したのに対し,被告が同日,原 。。 告に対し,金型代(一式)を3000万円とする注文書(甲8)を提出したことが挙げられ,これらの証拠によれば,被告が上記見積書に原告が記載した金型製作委託契約上の条件を被告が承諾したことを裏付けるものであるともいえる。 しかし,上記注文書からは,原告の金型代6500万円の発注の申込みに対し,被告がとりあえず3000万円で金型を発注する旨の意思表示をしたことは読み取れるものの,原告の上記見積書にも「残り3501万についての資産割当は,製品単価決定後,打ち合わせにて取り決める事とします 」と記載されているにすぎない。その他,原告と被告との間で金型 。 製作委託についての確定的な合意を記載した契約書等の書面が作成されていないことにかんがみると,上記時点で原告と被告との間に金型の残額についての確定的な合意があったかどうかは未だ曖昧な部分が残されていたものである。前示認定のとおり,当時,本件浄水器の販売開始時期と予定していた平成13年4月に間に合わせるためには,平成12月10月が金型製作のデッドラインと目されていたことから,被告が本件浄水器の販売開始時期に間に合わせるため,上記事項について確定的な合意を保留した52まま,とりあえず,金型代(一式)を3000万円とする発注書を提出し,残額については後日の交渉に委ねようとしたと考えても不合理ではない。 現に,その後,被告が原告に対する金型発注を取りやめる旨述べた以降,原告は,さらに,金型代総額の減額を申し入れ,平成13年1月26日に被告に送付した通知書(甲9)においてもさらに減額を申し入れていることが認められる。そして,他に,上記平成12年10月23日に原告と被告との間で金型製作委託契約が締結されたとの事実を認めるに足りる的確な証拠はない。 次に,本件浄水器の製造委託契約が成立したか否かについては,上記証拠(甲34,50,51,55,57,58,原告供述)を裏付ける事情としては,原告が本件浄水器の単価を9100円とする見積書(甲52)を持参したのに対し,被告代表者が同見積書に自ら同単価を8600円と修正する書き込みをしたこと(甲62,被告代表者)が挙げられる。被告代表者のした上記書き込み及びこれに基づく言動等をもって,単価を8600円とする旨の意思表示と解することも可能であり,結局,原告がこれを受け入れて平成12年10月23日の被告の金型発注(甲8)に至っていることからすると,原告が黙示的にであれ被告の上記申込みを承諾したとも認め得る。したがって,原告と被告との間で,平成12年10月23日ころには,単価を8600円とする製造委託の合意が成立したものと認められなくはない。しかし,被告代表者による上記申込みとみ得るものは,原告の作成した見積書の金額欄に手書きによる修正を加えたものにすぎず,それ自体明確な意思表示を示すものと解するには躊躇されるものであるし,金型発注に際しては被告名義の注文書が作成されているのに,製造委託については発注書が作成されていないこと(これは,前示認定のとおり,8600円の単価には支給品の価額が含まれているところ,同価額が未だ確定していなかったという事情によるものと推認される )からすると,上 。 53記見積書による手書きの修正及び金型の注文書の受領による黙示の承諾をもって上記単価による製造委託の合意があったとは未だ認め難いものというべきである。 もとより,金型製造委託契約や,製造委託契約は諾成契約であるから,その成立のために書面の作成が必要とされているわけではない。しかし,前示認定のとおり,原告と被告との間でその後に締結されている切換コックに関する契約では,合意内容を具体的に記載した契約書が作成されている(前記第4の1(1)シ参照)ことにかんがみると,原告と被告との間においては,この種の契約を締結する場合にはすべからく書面をもって行うこととされていたことがうかがえる。そうすると,本件においてそのような書面が作成されていないことは,原告と被告との間において上記金型製造委託契約や本件浄水器に係る製造委託契約が成立したとの認定を妨げる重要な間接事実ということができる。 加えて,原告は,平成13年1月26日に被告に送付した通知書(甲9)においても,さらに製造委託契約締結のための条件の申入れを継続していることが認められ,この事実は,平成12年10月23日の時点では,いまだ確定的な合意に至っていなかったことを示すものともいえる。そして,他に原告と被告との間で本件浄水器の製造委託契約が成立したことを認めるに足りる証拠はない。 ウ債務不履行解除の前提としての催告の有無原告は,本件開発委託契約は原告が平成13年1月26日に発した通知書(甲9)により,被告の受領拒絶を解消すべく被告に翻意を促したが,同通知書で示された履行の催告期限である同年2月14日までに翻意がされなかったから,本件開発委託契約は被告の債務不履行により民法541条に基づき解除されたと主張する。原告の上記主張は,原告が上記通知書により,平成13年2月14日を履行期限として本件開発委託契約の履行54を催告し,その履行がなければ同契約を解除する旨の意思表示(条件付解除の意思表示)をしたところ,被告が同日までに同契約上の義務を履行しなかったため,同契約は上記(条件付)解除の意思表示により解除されたという趣旨と解される。 前示アで説示したとおり,本件開発委託契約の締結によって,被告が原告に対し,本件義務を負ったということはできず,さらに,本件浄水器に関する業務を原告に独占的に委託し,第三者にシフトしないという不作為義務とか,被告は,原告が本件開発委託契約の約旨に基づいて順次履行した受託業務を引き取り,かつ,開発費用の量産品代価上乗せによる精算を行うべき義務を負っていたということはできないから,被告が本件開発委託契約上,本件義務を負っていたことを前提に,その履行を怠った債務不履行があるということはできない。したがって,本件において,適法な催告・解除の意思表示がされていたとしても,解除の効力が生じるものではない。しかし,以下のとおり,本件においては,原告による適法な催告・解除の意思表示があったことを認めることもできない。 原告が被告に発した上記通知書(甲9)には,前示認定のとおり,原告が納入価格等についてさらに譲歩した案を提示した上で 「2月上旬まで ,に正式に御発注して頂ければ9月量産が可能です (ただし開発中の鉛除 。 去材とインジケーターの御支給品の納期が間に合うことが前提となります」と記載され,さらにその「納期」を前提とすると 「2月14日ま 。) ,でに御決裁を頂きたくお願いを申し上げます。なお,本開発委託契約を御解約される場合は不本意ではありますが契約書第4条に基づき前記 「開」発設計費を請求させて頂きます 」と記載されている。 。 このように,上記通知書は 「2月14日」を「9月量産」を可能なら ,しめるための期限としているところ,原告は,その記載をもって,民法541条の「相当の期間を定めて」の「履行の催告」である旨主張する。し55かし,上記通知書に記載された「2月14日」とは,原告が譲歩して提示した金型製作費用及び量産品の納入価額をもって被告(代表者)が原告に正式に発注する旨の意思決定(決裁)を行う期限という趣旨の記載であることが,その文言上明らかである。すなわち,いまだ本件浄水器の製造委託契約が成立していないことを前提に,原告が被告に対し,上記通知書記載の条件で承諾の意思表示するよう促すものにすぎないというべきであって,既に契約が成立し,履行義務が確定している債務の履行の催告とは異なることが明らかである。したがって,上記記載をもって,原告が被告に対し,本件開発委託契約の履行を催告したものということはできない。 エ債務不履行解除の意思表示の有無さらに,原告は,上記通知書中の「本開発委託契約を御解約される場合は不本意ではありますが契約書第4条に基づき前記 「開発設計費を請求 」させて頂きます 」との記載は開発の中止又は中断(白紙撤回)及び原告 。 が負担した費用の精算(民法545条3項の損害賠償に相当)を意味する記載である,すなわち,平成13年2月14日を停止期限とする解除の意思表示である旨主張する。しかし,上記記載を素直に読めば,原告が本件開発委託契約を(条件付)解除する旨の意思表示をしたものと解することは到底できない。なぜなら,上記通知書の記載によれば,原告が「開発設計費を請求」する場合としているのは 「契約書第4条に基づき 「本開 , 」発委託契約を御解約される場合」である。ここでは,本件開発委託契約を解約(解除)する主体が明示されていないが 「御解約される」という表 ,現のほか,上記通知書にいう「契約書第4条」は前記のとおり 「被告の ,やむを得ない事由により,開発を中止又は中断しなければならなくなったとき,被告はその旨を原告に書面にて通知することにより,本契約を解除することができる。この場合,原告被告協議の上,原告がそれまでに負担した費用を被告は原告に支払うものとする 」と規定するものであり,被 。 56告が本件開発委託契約を解約(解除)する場合の処理を定めた規定を指す。 そうすると 「本開発委託契約を御解約される場合」の解約(解除)の主 ,体としては,原告ではなく,もっぱら被告が想定されていることが明らかであるから,上記記載をもって,原告のした(条件付)解除の意思表示と解することはできない。また,上記通知書及び決裁期限の経過により,本件開発委託契約が黙示的に解除されたということができないことも,以下のとおり明らかである。すなわち,原告が黙示の解除の意思表示があったことを基礎づける事情として主張するものは,被告の黙示的意思表示を推認させる事情であるとはいえても(それゆえに,後記合意解約の有無の認定に際しては重要な間接事実になる得るが ,原告の黙示の解除の意思表 )示を基礎づけるものではなく,かえって,上記通知書の記載は明らかに被告が本件開発委託契約を解約(解除)する場合の処理に言及しているものにすぎず,そこからは原告の黙示的解除の意思表示を読み取ることはできない。その他,原告のその前後の行動をみても,本件開発委託契約を黙示的に解除する意思表示をしたことを推認させるような言動を原告がとったと認めることはできない。 したがって,本件開発委託契約が被告の債務不履行により原告のした上記条件付解除の意思表示により民法541条によって解除されたとの原告の主張は,この点からしても理由がない。 オ本件合意解約の成否被告は,平成13年3月26日に原被告代表者間で本件開発委託契約が合意解約されたと主張する。原告は,この事実は争うが,この合意解約が同契約6条を含めた白紙撤回であるという限りにおいて被告の主張を援用する旨主張する。原告の上記主張の趣旨は必ずしも明らかではないが,その解約する旨の合意の解釈はともかく(原告は,本件共同出願条項を含めて白紙撤回されたと主張するのに対し,被告は,本件共同出願条項の効力は存続する旨57主張している,同日に,原告代表者及び被告代表者間で本件開発委託契約 。)を消滅させる(どの範囲で本件開発委託契約の効力が消滅するに至ったかはともかく)旨の何らかの合意がされたという事実自体は積極的に争わない趣旨であると解される。 また,前示認定のとおり,被告は,上記通知書(甲9)による決裁期限が経過した後,イ号物件の製品デザインを「オフィスあまちゃん」に発注し,その細目を決定していたところ,原告代表者と被告代表者は,平成13年3月26日に面談し,被告代表者は,金型は中国で製作することとすること,切換コックのみを原告に発注する旨を原告代表者に告げたこと,原告代表者としては,被告が発売を予定している浄水器は,原告が開発業務を行った浄水器ではなく,これとは別に開発した商品であると理解していたこともあり,被告の上記発注を承諾したこと,そして,被告は,同月29日,被告の子会社株式会社ニチデンを通じて,中国企業の東隆塑膠製品廠に,量産のための金型を発注し,代金を支払ったことが認められる(これらの事情は,平成13年2月14日をもって原告が本件開発委託契約を黙示的に解除する旨の意思表示をしたことを基礎づけるものとして原告が主張していたことである。これらの事情を考慮すると,本件開発 。)委託契約は,遅くとも原告代表者及び被告代表者が面談し,被告代表者が金型を中国で製作することとし,切換コックのみを原告に発注する旨を原告代表者に表明し,原告代表者がこれを承諾した平成13年3月26日には,原被告両代表者の合意により,少なくとも黙示的に解約され,終了するに至ったものというべきである。この認定判断を左右する証拠はない。 カ予備的解除の意思表示の有無なお,原告は,予備的に平成18年9月25日施行の本件口頭弁論期日において同日付け準備書面をもって本件開発委託契約を解除する旨の意思表示をした旨主張する。原告が上記意思表示をしたこと自体は当裁判所に58顕著である。しかし,前示のとおり,本件開発委託契約は,遅くとも平成13年3月26日,原告と被告との合意により解約され,終了している。 したがって,原告が上記解除の予備的意思表示をした平成18年9月25日には解除の対象となる本件開発委託契約は終了していたことが明らかであるから,原告のした上記予備的解除の意思表示は本件開発委託契約を終了させるものとしては無効なものというほかない。 キ本件合意解約と本件共同出願条項の効力の帰すう次に,本件合意解約により,本件開発委託契約がどの範囲で消滅したものであるか,とりわけ本件共同出願条項もともに失効したのか否かが問題となる。これは,基本的には,本件合意解約で表された原告と被告の意思表示をどのように解釈するかの問題である。特定の契約を合意解約する際に,同契約中の一部の合意を存続させるにはその旨の合意をするのが通常であり,そのような特段の合意がない限りは,当該契約の全部を消滅させることが合意されたものと解釈すべきである。しかし,合意解約の対象となった契約中に契約の終了後も特定の条項の効力を存続させる旨の条項が存する場合には,その条項の適用を特に排除する合意をするなど特段の事情が認められない限り,同条項に従って契約を終了させるとの合意がされたものと推認するのが,当事者の通常の合理的意思に合致するものというべきである。 これを本件についてみるに,原被告両代表者が,本件合意解約に際し,本件開発委託契約の特定の条項を存続させる旨の特段の合意をしたと認めるに足りる証拠はない。しかし,同契約8条(有効期間)は 「本契約の ,有効期間は,本契約締結の日から第2条の委託業務の終了日までとする。 (第1項 」とした上 「前項の定めに関わらず,第5条(秘密保持)に ),関する定めは,この契約終了後5ヵ年間有効とし,第6条(工業所有権)に関する定めは,当該工業所有権の存続期間中有効とする (第2項 」 。)59と規定している。同規定は,本件開発委託契約が有効期間経過後(すなわち,同契約が終了した後)においても,原告と被告の秘密保持義務は5年間効力が存続することとし,さらに 「第6条(工業所有権)に関する定 ,め」すなわち「特許および実用新案は被告と原告の共同出願とし,被告と原告の共有とする 」との条項(本件共同出願条項)は,当該特許権又は 。 実用新案権の存続期間中は有効であると定めるものである。 これらの規定のうち,まず,秘密保持に関する条項が本件開発委託契約終了後も5年間その効力を維持するとする趣旨は,本件開発委託契約が終了してもこれまでの開発業務の遂行に当たり蓄積された種々のノウハウ等の営業秘密に関して契約終了後も相互にその秘密を保持すべき義務を一定期間存続させ,もって上記営業秘密の保有者の利益を保護することにあると解される。もちろん,かかる秘密保持条項を契約終了とともに失効させたとしても,これらの営業秘密を目的外に使用・開示等をする行為は,多くの場合,不正競争防止法2条1項7号等の不正競争行為に該当すると解されるが,営業秘密性の立証が困難であり,また,繁雑である場合もあり得るから,本件開発委託契約の終了後も秘密保持条項の効力を維持することが,同契約の契約当事者(とりわけこの種の営業秘密を保有する立場にある原告)の利益に適うものと認められる。したがって,本件開発委託契約終了後も一定期間その効力を存続させることには合理性があると認められる(他面において,その営業秘密に係るノウハウ等が陳腐化し,一定期間経過後は有用性や非公知性が失われる場合が多いと考えられるから,あまりに長期間にわたり当事者に秘密保持義務を負わせるのも合理性に欠けるものというべきであって,その期間を5年間とした本件開発委託契約の秘密保持条項の存続規定はその点でも合理的であると解される。。)次に,本件共同出願条項が当該工業所有権の存続期間中有効とさせる上記条項の趣旨は,本件開発委託契約が終了しても,被告の開発費用負担の60下に原告が遂行した開発業務の成果については,原告・被告双方がこれに寄与していることにかんがみ,双方に特許権を取得させることとし,その特許出願も共同して行わせることとして,本件開発委託契約の契約当事者である原告・被告双方の開発成果に対する利益を公平に分配し,当事者間の対価的権衡を保つことにあると解される。このような同条項の趣旨に照らせば,本件開発委託契約終了後も本件共同出願条項の効力が維持されるとの同契約8条2項の規定は,まず,開発委託業務が完了するなどその目的を達して委託業務が終了した場合を想定したものであると考えられる。 したがって,たとえば,本件において仮に,開発委託業務が完了する前に被告の債務不履行や合意解約により本件開発委託契約が終了したが,その後,原告が独自に開発業務を継続し,その結果,原告が本件発明を完成させたと認められる場合には,本件共同出願条項を効力を無条件に維持することは相当でなく,被告が本件開発委託契約8条2項を根拠に,本件特許出願が本件共同出願条項に違反してされたものとして,特許無効の主張をしたとしても,その主張は権利の濫用として排斥される場合があるというべきである。しかし,本件開発委託契約は,前示のとおり,一応は被告が本開発品の量産に至るまでの業務を原告に委託することをその内容とするものではあるが,金型の製作委託及び量産委託に係る業務は,それに至るまでの純然たる開発業務とはその性質を異にし,その実際の遂行に当たっては,別途の協議が行われ,別途の契約が締結されることが予定されている。そして,本件においては,量産及びその準備段階に位置づけられる金型製作業務の委託契約及び量産に向けた製造委託契約の内容を交渉したが,その合意が得られないまま,全体としての本件開発委託契約が合意解約されたものである。以上の経緯に照らせば,本件浄水器の本来の開発業務は,すでに少なくとも本件特許出願が可能な程度に完成していたものと推認することができる。他方,被告は,これに対する開発費用をすべて負担し,61原告に支払っているから,そうである以上,上記開発の成果については,被告も一定の寄与を行っていると評価することができる。以上によれば,上記の開発成果に係る本件特許権を原告と被告の共有とすることは,合理的に基礎づけられているものというべきであり,したがって,本件共同出願条項の効力を本件開発委託契約終了後も維持することも合理性を肯定し得るものというべきである。 そうすると,本件特許は本件共同出願条項に違反する特許出願に対してされたものであり,特許法123条1項2号の特許無効理由があると主張することが,権利の濫用に該当し許されないということはできない。 さらに,原告代表者と被告代表者が,本件合意解約をする際,本件開発委託契約8条の規定の適用を排除する旨の特段の合意をしたと認めるに足りる証拠はないから,原告と被告は,同規定に従って,すなわち本件共同出願条項の効力を本件開発委託契約終了後も存続させる意思の下に同契約を終了させるとの合意がされたものと推認するのが,原告と被告双方の通常の合理的意思に合致するというべきである。 そうすると,本件合意解約により,本件開発委託契約は終了したものであるが,本件共同出願条項は当然に失効するものではなく,その後,本件特許出願に至るまでの間に,同条項を失効させる旨の特段の合意がされたものと認めるに足りる証拠はないから,本件特許出願当時も,同条項に基づき,本件特許権は原告と被告との共有に係るものであったというべきであり,原告と被告は,本件特許を共同して出願すべき義務を負っていたものというべきである(特許法38条 。しかるに,原告は,単独で本件特 )許を出願し,その特許を得たものであるから,本件特許は,特許法38条に違反してされたものであり,同法123条1項2号により,特許無効審判で無効とされるべきものである。 ちなみに,原告と被告間で平成5年9月3日に締結された本件取引基本62契約には 「新たに発生する特許,実用新案,意匠等については,甲(原 ,告 ,乙(被告 ,共同出願とします 」との規定がある(15条2項 。 ))。 )同規定は,原告の指摘するように包括的ではあるが,本件開発委託契約に基づく開発業務にも当然その適用があるものと解され,本件共同出願条項はその趣旨をより具体化したものにほかならない。そして,本件開発委託契約のような個別契約が失効しても,本件取引基本契約の効力に影響を及ぼすものではないことが明らかであるから,本件取引基本契約の有効期間中に,発明,考案等がなされたときは,個別契約の帰すうにかかわらず,これを原告と被告との共同出願とすると約したものと認められる。このことは,本件共同出願条項が本件開発委託契約の合意解約により当然に失効するものではないとの上記解釈を支持するものといえよう。 したがって,原告は,特許法104条の3により,本件特許権に基づく権利行使ができないから,原告の本件請求のうち,特許法100条に基づく被告物件の製造販売の差止め及び廃棄請求,本件特許の出願公開による補償金請求,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求は,いずれも理由がなく,棄却を免れない。 2争点(2)ア(被告の債務不履行の成否)について(1)前記1で認定説示したとおり,本件開発委託契約は,別途交渉し締結されるものとされていた本件浄水器の量産化に向けた製造委託契約が締結されないまま,合意により解約されたものである(本件合意解約 。)(2)前示のとおり,本件開発委託契約は,一応,被告が本件浄水器の量産に至るまでの業務を原告に委託するものと定められているが,金型の製作委託及び量産委託に係る業務は,これに先立つ本来の本件浄水器の開発業務とはその性質を異にするものというべきであり,金型の製作委託及び量産委託については,その実際の遂行に当たっては,別途の協議が行われ,別途の契約が締結されることが予定されていたものである。そして,これらの協議が調63わず,契約締結に至らない場合があることは,当然に想定されるところであって,本件開発委託契約上,抽象的に「金型の設計及び製作業務」とか「量産準備と開始」と定められているからといって,被告が原告との契約締結を強制されるものでない。したがって,本件開発委託契約の締結によって,被告が原告に対し,上記の全業務を原告に委託する義務(本件義務)を負ったということはできず,さらに,本件浄水器に関して上記の業務を原告に独占的に委託し,第三者にシフトしないという不作為義務とか,被告は,原告が本件開発委託契約の約旨に基づいて順次履行した受託業務を引き取り,かつ,開発費用の量産品代価上乗せによる精算を行うべき義務を負っていたということはできない。 したがって,原告が本件開発委託契約の開発業務をすべて遂行するために別途締結すべき金型製作委託契約及び製造委託契約の締結を拒んだとしても,これをもって本件開発委託契約の債務不履行に当たるということはできない。 (3)なお,原告の被告に対する債務不履行に基づく損害賠償請求は,要するに,上記製造委託契約が成立し,被告が同契約に基づく履行義務を負っていたことを前提として,被告がその義務を履行しなかったことによる逸失利益相当の損害(消極的損害)の賠償を求めるものである(原告は,原告が本件開発委託契約に基づく開発業務に関して支出した研究開発費等の積極的損害をも主張するが,同損害の賠償請求権が被告の同額の供託により消滅したことは,原告の自認するところであり,本件請求の対象としていない。し。)たがって,原告の被告に対する債務不履行に基づく損害賠償請求は,本件開発委託契約上の債務不履行のみならず,量産に向けた本件浄水器の製造委託契約自体の債務不履行をいうものとも解される。しかし,原告の主張する製造委託契約が成立し,被告が同契約に基づく履行義務を負っていたとは認められないことは,前示のとおりである。したがって,被告がその履行義務を負わない債務の不履行を理由とする損害賠償請求が認められないことは明ら64かである。 (4)以上によれば,原告の被告に対する本件開発委託契約の債務不履行に基づく損害賠償請求は,その余の争点について判断するまでもなく,理由がないものとして棄却を免れない。 3結論以上のとおり,原告の本件請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 田中俊次 |
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裁判官 | 西理香 |
裁判官 | 北岡裕章 |