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関連審決 無効2006-80082
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10563審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10028審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10586特許取消決定取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10281審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10273審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  登録実用新案 /  実施 /  同意 /  設定登録 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10053号 審決取消請求事件
原告シ ー・コム株式会社
訴訟代理人弁理 士矢野寿一郎
被告三 井化学株式会社
訴訟代理人弁理 士庄子幸男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/06/12
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が無効2006−80082号事件について平成20年1月8日にした審決中,特許第3784398号の請求項1に係る発明についての特許を無効とした部分を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文第1項と同旨第2争いのない事実等(証拠を掲げた事実以外は,当事者間に争いがない。)1 手続の経緯(1)原告は,発明の名称を「保形性を有する衣服」とする特許第3784398号の特許(平成16年7月15日に特許出願した特願2004-208966号の一部を分割して,平成17年3月29日に新たな特許出願とし〔甲9〕,平成18年3月24日に設定登録されたもの。請求項の数は3である。以下,この特許を「本件特許」といい,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲,明細書及び図面〔いずれも登録時のもの〕を併せて「本件明細書」という場合がある。)の特許権者である。
(2)被告は,本件特許の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とすることを求めて,平成18年5月9日付け(同月10日受付)の審判請求書(甲10)により,審判(無効2006-80082号事件。以下「本件審判」という。)を請求した。
その審理の過程において,原告は,平成18年7月28日,本件明細書の記載を訂正(以下,この訂正を「前訂正」という。)する請求をした(甲12)。
特許庁は,平成19年1月5日,「訂正を認める。特許第3784398号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「前審決」という。)をし(甲19),同年3月6日,前審決中,「特許第3784398号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を「特許第3784398号の請求項1〜3に係る発明についての特許を無効とする。」と更正する決定をした(甲20)。
原告は,平成19年2月13日,前審決を不服として,知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起し(甲21),同年5月10日,本件特許につき,特許請求の範囲減縮等を目的とする訂正審判を請求したところ(甲27),同裁判所は,同年6月29日,特許法181条2項により前審決を取り消す旨の決定をした(甲31)。
(3)特許庁は,上記決定が効力を生じたので,本件審判の審理を再開したところ,原告は,平成19年7月26日,本件明細書の記載を訂正(以下,この訂正を「本件訂正」といい,本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲,明細書及び図面を併せて「訂正明細書」という。)する請求をし(甲33),これにより,前訂正の請求は取り下げられたものとみなされた(特許法134条の2第4項)。
特許庁は,原告に対し,平成19年10月30日起案の無効理由通知書(甲35)により,本件訂正は,特許法134条の2第5項で準用する同法126条3項及び4項に規定する要件を満たしていないから却下されるべきであり,本件訂正前の請求項1ないし3に係る発明についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであるから,同法123条1項2号の規定により,無効にすべきである旨の通知をした。
原告は,平成19年12月3日付け意見書(甲36)を提出したが,特許庁は,平成20年1月8日,本件訂正を認めないとした上,「特許第3784398号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,同月18日,その謄本を原告に送達した。
(4)なお,本件審決は,本件訂正を認めないとしたものの,本件訂正後の請求項2に係る発明及びこれを引用する本件訂正後の請求項3に係る発明について,実質的に進歩性を否定する判断を示しているところ,原告は,本訴の第1回弁論準備手続期日(平成20年4月24日)において,本件審決中,特許第3784398号の請求項2及び3に係る各発明についての特許を無効とした部分の取消しを求めた部分について,審決取消事由を主張することなく,当該部分について訴えを取り下げ,被告はこれに同意した(第1回弁論準備手続調書)。これにより,本件審決中,特許第3784398号の請求項2及び3に係る各発明についての特許を無効とした部分は,確定した。
2 特許請求の範囲(1)本件明細書(甲9)の特許請求の範囲の請求項1ないし3の各記載は,次のとおりである(以下,これらの請求項に係る発明を項番号に対応して,「本件発明1」などといい,これらをまとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】衣服の身頃,襟,襟口,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成し,該袋に曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能なワイヤを挿通したことを特徴とする保形成を有する衣服。
【請求項2】前記ワイヤは,該ワイヤの端部を折り返し,該折り返し部分に樹脂製の筒状部分を被せて熱溶着することによって端部処理されたものであることを特徴とする,請求項1に記載の保形成を有する衣服。
【請求項3】前記ワイヤを,樹脂製ワイヤとすることを特徴とする,請求項1又は請求項2に記載の保形成を有する衣服。」(2)訂正明細書の特許請求の範囲(甲33添付の全文訂正特許請求の範囲)の請求項1ないし3の各記載は,次のとおりである(以下,これらの請求項に係る発明を項番号に対応して,「訂正発明1」などという。下線部は訂正箇所を示す。)。
「【請求項1】衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って,衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して袋を形成し,該袋に曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能なワイヤを挿通したことを特徴とする保形性を有する衣服。
【請求項2】衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋が形成され,該袋に曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能なワイヤが挿通された保形性を有する衣服であって,前記ワイヤは,該ワイヤの端部を折り返し,該折り返し部分を樹脂製の筒状部材に挿嵌し,前記ワイヤの折り返し部分に前記筒状部材を熱溶着することによって端部処理されたものであることを特徴とする,保形性を有する衣服。
【請求項3】前記ワイヤを,樹脂製ワイヤとすることを特徴とする,請求項1又は請求項2に記載の保形性を有する衣服。」3 本件審決の理由別紙審決書写し記載のとおりである。要するに,下記(1)の理由により,本件訂正は,特許法134条の2第5項で準用する同法126条3項,4項に規定する要件を満たしていないから却下されるべきであり,下記(2)の理由により,本件発明1ないし3についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであるから,同法123条1項2号の規定により,無効にすべきである,というものである。
(1)本件訂正は,後記訂正事項1及び5を含むところ,「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って,衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して,袋を形成」することは,本件特許の願書に添付された明細書及び図面に記載されておらず,当該明細書又は図面の記載から自明の事項ということもできないから,訂正事項1は,特許請求の範囲減縮を目的にしたものでなく,願書に添付した明細書又は図面に記載されていない事項を要件とするものであり,かつ実質的に特許請求の範囲拡張又は変更するものであり,また,訂正事項5は,訂正事項1に伴って生じた明細書の訂正であって,訂正事項1と同様,特許請求の範囲減縮を目的にしたものでなく,願書に添付した明細書又は図面に記載されていない事項を要件とするものであり,かつ実質的に特許請求の範囲拡張又は変更するものであるから,本件訂正は,特許法134条の2第5項で準用する同法126条3項,4項に規定する要件を満たしていない。
ア 訂正事項1請求項1の「衣服の身頃,襟,襟口,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成し」を「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って,衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して,袋を形成し」と訂正する。
イ 訂正事項2請求項1の「保形成」を「保形性」と訂正する。
ウ 訂正事項3請求項2の「前記ワイヤは,該ワイヤの端部を折り返し,該折り返し部分に樹脂製の筒状部材を被せて熱溶着することによって端部処理されたものであることを特徴とする,請求項1に記載の保形成を有する衣服」を「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋が形成され,該袋に曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能なワイヤが挿通された保形性を有する衣服であって,前記ワイヤは,該ワイヤの端部を折り返し,該折り返し部分を樹脂製の筒状部材に挿嵌し,前記ワイヤの折り返し部分に前記筒状部材を熱溶着することによって端部処理されたものであることを特徴とする,保形性を有する衣服」と訂正する。
エ 訂正事項4請求項3の「保形成」を「保形性」と訂正する。
オ 訂正事項5段落【0006】の「衣服の身頃,襟,襟口,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成し」を「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って,衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して袋を形成し」と訂正する。
カ 訂正事項6段落【0007】の「前記ワイヤは,該ワイヤの端部を折り返し,該折り返し部分に樹脂製の筒状部材を被せて熱溶着することによって端部処理されたものとするものである」を「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋が形成され,該袋に曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能なワイヤが挿通された保形性を有する衣服であって,前記ワイヤは,該ワイヤの端部を折り返し,該折り返し部分を樹脂製の筒状部材に挿嵌し,前記ワイヤの折り返し部分に前記筒状部材を熱溶着することによって端部処理されたものである」と訂正する。
(2)本件発明1は,下記引用例2,4及び5に記載された発明に基づいて,本件発明2は,下記引用例2及び4ないし8に記載された発明に基づいて,本件発明3は,下記引用例1ないし8に記載された発明に基づいて,それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものである。
ア 引用例1特開平7-238417号公報(甲1)イ 引用例2実願昭59-49518号(実開昭60-161123号公報)のマイクロフィルム(甲2)ウ 引用例3登録実用新案第3063552号公報(甲3)エ 引用例4特開2002-309422号公報(甲4)オ 引用例5実願昭60-106196号(実開昭62-15508号)のマイクロフィルム(甲5)カ 引用例6特開平8-170206号公報(甲6)キ 引用例7実願平4-4536号(実開平5-56905号)のCD-ROM(甲7)ク 引用例8実願平5-63424号(実開平7-28905号)のCD-ROM(甲8)
当事者の主張
1 原告の主張本件審決は,以下のとおり,本件訂正の適否の判断を誤った違法があるから,本件審決中,本件発明1についての特許を無効とした部分は取り消されるべきである。
(1) 訂正事項1の判断の誤りア 特許法134条の2第5項で準用する同法126条3項について本件審決は,「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って,衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して,袋を形成」することは,本件特許の願書に添付された明細書及び図面に記載されておらず,当該明細書又は図面の記載から自明の事項ということもできないと認定判断した。
しかし,以下のとおり,本件審決の上記認定判断は誤りである。
本件明細書の段落【0017】,【0019】ないし【0022】,【図2】,【図7】,【図9】(a),【図10】(a)の記載によれば,ワイヤ20を衣服の表側に露出しないように裏側に取り付ける形態の例として,段落【0019】に明記されている「衣服の表側を構成する主布17の裏側に,別布19を縫合して袋を形成し,該袋の内部にワイヤ20を挿通させる」という態様を,「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁」に適用することができることは,明らかである。
すなわち,本件明細書の段落【0017】,【0021】,【0022】は,ワイヤの取付位置を説明し,段落【0019】は,ワイヤの取付構造(方法)を説明していることから,当業者であれば,「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って,衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して,袋を形成する」という技術的事項を自明なものとして理解することができる。
イ その余の点について訂正事項1により,特許権の効力の範囲,発明の内容・思想の同一性につき,第三者に不測の不利益を生じるような変動を生じるものではない。
(2) 訂正事項5の判断の誤り本件審決の訂正事項5の判断も,訂正事項1と同様に,誤りである。
2 被告の反論(1) 訂正事項1の判断の誤りに対し本件明細書の段落【0019】に記載された取付形態は,【図7】及び【図8】からも理解されるように,「衣服の身頃」に形成される構成であって,「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁」に付設される構成ではない。また,本件明細書の段落【0021】及び【0022】には,ポケット又はポケットフラップの周縁にワイヤを挿通する形態が説明されているにとどまり,「衣服の見頃,襟,襟口,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成」することは記載されていないし,この取付形態が「衣服の表側を構成する主布の裏側に,別布を縫合して袋を形成し,該袋の内部にワイヤを挿通させる」という取付形態を意味するものでもない。
(2) 訂正事項5の判断の誤りに対し本件審決の訂正事項5の判断も,訂正事項1と同様に,誤りはない。
当裁判所の判断
1 本件訂正の適否について(1)特許法134条の2第5項で準用する同法126条3項該当性についてア訂正が,当業者によって,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,「明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができ,特許請求の範囲減縮を目的として,特許請求の範囲に限定を付加する訂正を行う場合において,付加される訂正事項が当該明細書又は図面に明示的に記載されている場合や,その記載から自明である事項である場合には,そのような訂正は,特段の事情のない限り,新たな技術的事項を導入しないものであると認められ,「明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内において」するものであるということができる(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563号事件・平成20年5月30日判決参照)。
以上を前提として,訂正事項1及び5について,「明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものであるか否かを検討する。
イ 本件明細書(甲9)には,次の記載がある。
(ア)「【請求項1】衣服の身頃,襟,襟口,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成し,該袋に曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能なワイヤを挿通したことを特徴とする保形成を有する衣服。」(イ)「【0017】シャツ10には,保形性を備えるために,すなわち,衣服の立体的形状を自在に変化させ,その形状を保持させるために,適宜位置に,変形自在且つ形状保持可能なワイヤ20・20・・・が取り付けられている。
例えば,図2や図4に示す如く,襟付きシャツ10では,襟13と,襟口(襟の開き部分)14,袖12の下部,身頃11の下部,ポケット15の縁,ポケットフラップ15aの縁に,ワイヤ20・20・・・が取り付けられ,Tシャツ40では,袖12の下部,身頃11の下部に,ワイヤ20・20・・・が取り付けられている。」(ウ)「【0019】前記ワイヤ20は,衣服の表側に露出しないように,裏側に取り付けられる。
例えば,図7に示す如く,衣服の表側を構成する主布17の裏側に,別布19を縫合して袋を形成し,該袋の内部にワイヤ20を挿通させることにより,衣服にワイヤ20を取り付けることができる。
実施例では,図8に示す如く,布地のボーダー柄の副布16の裏側に別布19をあてて,副布16と別布19との間に袋を形成し,ここにワイヤ20を挿通させることにより,衣服にワイヤ20を取り付けている。」(エ)「【0021】シャツ10の襟13の近傍においては,図9(a)に示す如く,襟13の周縁と,襟口14の周縁とに,ワイヤ20が取り付けられる。これにより,図9(b)に示す如く,襟13を立てた状態で保持させることができる。また,襟13の一部を曲げたり,襟口14を波立たせたり,シャツを立体的に整形し,その状態を保持することができる。」(オ)「【0022】シャツ10のポケット15部分では,図10(a)に示す如く,ポケット15の開口の周縁と,ポケットフラップ15aの周縁とに,ワイヤ20が取り付けられる。これにより,図10(b)に示す如く,ポケット15を身頃11から浮き立たせて立体的に整形し,また,ポケットフラップ15aを上方へ反り上がった状態に立体的に整形し,これらの立体的に整形された状態を状態を保持することができる。」ウ本件明細書の前記イの各記載によれば,【請求項1】には,衣服の身頃,襟,襟口,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成することが記載されており(前記イ(ア)),段落【0017】には,ワイヤの取付位置として,襟,襟口(襟の開き部分),袖の下部,身頃の下部,ポケットの縁,ポケットフラップの縁が記載されており(前記イ(イ)),段落【0019】には,ワイヤの取付構造(方法)として,衣服の表側を構成する主布の裏側に,別布を縫合して袋を形成し,この袋の内部にワイヤを挿通させることが記載されており(前記イ(ウ)),段落【0021】には,ワイヤの取付位置として,襟の周縁,襟口の周縁が記載されており(前記イ(エ)),段落【0022】には,ワイヤの取付位置として,ポケットの開口の周縁,ポケットフラップの周縁が,それぞれ記載されている(前記イ(オ))と認められる。
すなわち,本件明細書には,?@「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成」することが記載され(【請求項1】),?Aワイヤの取付位置として,「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁」が記載され(段落【0017】,【0021】及び【0022】),?Bワイヤの取付構造(方法)として,「衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して,袋を形成」すること,この袋の内部にワイヤを挿通させることが記載されている(段落【0019】)といえる。
そうすると,「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成」して,「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁」にワイヤを取り付けるに当たり,「衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して,袋を形成」し,この袋の内部にワイヤを挿通させるようにすることは,本件明細書の記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,当業者であれば,本件明細書の記載から自明である事項として,認識することができるというべきである。
被告は,本件明細書の段落【0019】は,専ら「衣服の身頃」に関する記載である旨主張するが,上記説示に照らし,採用することができない。
エ上記検討したところによれば,訂正事項1及び5は,いずれも「明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものと認められる。
したがって,本件審決が,本件訂正は,訂正事項1及び5を含むから,特許法134条の2第5項で準用する同法126条3項に規定する要件を満たしていないと判断したことは,誤りというべきである。
(2) その余の点についてア本件審決は,訂正事項1及び5は,特許請求の範囲減縮を目的にしたものでなく,かつ実質的に特許請求の範囲拡張又は変更するものであり,本件訂正は,訂正事項1及び5を含むから,特許法134条の2第5項で準用する同法126条4項に規定する要件を満たしていないと判断したが,そのように判断した理由を具体的に示しておらず,理由不備の違法がある。
イ 念のため,上記の点について判断する。
訂正事項1は,本件明細書の特許請求の範囲の【請求項1】における「衣服の身頃,襟,襟口,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成し」との記載を,「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って,衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して,袋を形成し」と訂正することを内容とするものであり,「袋を形成」する箇所を,「衣服の身頃,襟,襟口,ポケット又はポケットフラップの周縁」から「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁」に限定するとともに,「袋」を「衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して・・・形成」したものに限定するものであって,特許請求の範囲減縮を目的とするものであることは,明らかである。
また,上記のとおり訂正することにより,発明の実施態様は限定されるものの,発明の課題ないし目的が異なるものとなるわけではなく,全く別個の発明と評価されるものではないから,実質的に特許請求の範囲拡張又は変更するものということはできない。
なお,本件審決は,原告が,本件審判の第1回口頭審理において,本件明細書の特許請求の範囲の【請求項1】の「袋」は「両端が閉じられた状態の筒状部材を指す。」ものであると主張したこと,また,当該袋は「衣服の身頃,襟,襟口,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って」形成されているものであることを指摘するが,その構成を上記のとおり限定することが,実質的に特許請求の範囲拡張又は変更するものとはいえない。
また,訂正事項5は,訂正事項1に伴ってなされた明細書の訂正を内容とするものであって,明りょうでない記載の釈明を目的とすること,実質的に特許請求の範囲拡張又は変更するものでないことは,いずれも明らかである。
ウ上記検討したところによれば,本件審決が,本件訂正は,訂正事項1及び5を含むから,特許法134条の2第5項で準用する同法126条4項に規定する要件を満たしていないと判断したことは,誤りというべきである。
2 結論以上検討したところによれば,本件訂正は,訂正事項1及び5を含むから,特許法134条の2第5項で準用する同法126条3項,4項に規定する要件を満たしていないとした本件審決の判断には誤りがあり,この誤りが,本件訂正を認めないことを前提として,本件発明1についての特許を無効とすべきであるとした本件審決の結論に影響することは明らかである。
したがって,原告の本訴請求は理由があるから,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 齊木教朗
裁判官 嶋末和秀