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関連審決 不服2004-12817
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成19行ケ10292審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  方法の発明 /  製造方法 /  容易に実施 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  相違点の認定 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10281号 審決取消請求事件
原告株 式会社島津製作所
同訴訟代理人弁理士喜多俊文
同 江口裕之
同 阿久津好二
被告特 許庁長 官肥塚雅博
同 指定代理 人門田宏
同 高橋泰史
同 小林和男
同 岩崎伸二
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/04/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2004-12817号事件について平成19年6月19日にした審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「フローセンサの製造方法」とする発明につき,平成11年8月30日,特許を出願したが(以下「本願発明」という。),平成16年1月23日付けの拒絶理由通知(甲13。以下「本件拒絶理由通知」という。)を受け,同年5月14日付けの拒絶査定(甲12。以下「本件拒絶査定」という。)を受けたので,同年6月22日,これに対し不服審判請求(不服2004-12817号事件)をし,同年7月22日付けの手続補正書(甲6)を提出した。
特許庁は,平成19年6月19日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年7月3日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲平成16年7月22日付け手続補正書による補正後の本願発明の請求項1は,下記のとおりである。
【請求項1】感光性ガラス板に紫外線を選択的に照射してエッチングパターンを設ける工程と,次に前記感光性ガラス板上に,前記エッチングパターン上に位置する細幅パターンを含む抵抗金属箔を形成する工程と,次に前記感光性ガラス板をエッチングして前記選択的に紫外線照射された部分を開孔し前記の抵抗金属箔それ自体の細幅パターン部分がこの孔に直接露出するようにする工程とからなるフローセンサの製造方法(以下この発明を「本願発明」という。)。
3 審決の内容別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開平7-201511号公報(甲1。以下「刊行物1」という。)の記載及び周知技術(甲2。以下「刊行物2」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,とするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,刊行物1記載の発明(以下「引用発明」という。)の内容並びに本願発明と引用発明との一致点及び相違点を次のとおり認定した。
(1) 引用発明の内容感光性ガラス3に紫外線を選択的に照射して潜像4を作り結晶化させる工程と,次に前記感光性ガラス3上に,ブリッジ形成用の誘電体薄膜5を堆積し,該誘電体薄膜5上にパターニングされたPt薄膜抵抗体6を,その上にパッシベーション膜7が堆積された状態で形成する工程と,次に前記感光性ガラス3をエッチングして前記選択的に紫外線照射された部分を開孔し,前記のパターニングされたPt薄膜抵抗体6がこの孔に前記誘電体薄膜5及びパッシベーション膜7を介して間接的に露出するようにする工程とからなる熱式気体質量流量計の製造方法
(2) 一致点感光性ガラス板に紫外線を選択的に照射してエッチングパターンを設ける工程と,次に前記感光性ガラス板上に,前記エッチングパターン上に位置する細幅パターンを含む抵抗金属箔を含む部分を形成する工程と,次に前記感光性ガラス板をエッチングして前記選択的に紫外線照射された部分を開孔し前記の抵抗金属箔を含む部分の細幅パターン部分がこの孔に露出するようにする工程とからなるフローセンサの製造方法である点。
(3) 相違点エッチングパターン上に位置する細幅パターンを含む抵抗金属箔を含む部分が,本願発明では「抵抗金属箔」それ自体であって,感光性ガラス板の選択的に紫外線照射された部分をエッチングして形成された孔に露出される部分の露出が,「前記の抵抗金属箔それ自体の細幅パターン部分がこの孔に直接露出するようにする」ものであるのに対し,引用発明では,抵抗金属箔が導電体薄膜上に存在しかつその上にパッシベーション膜を含む3層状態の部分であって,感光性ガラス板の選択的に紫外線照射された部分をエッチングして形成された孔に露出される部分の露出が,該誘電体膜及びパッシベーション膜を介して間接的に露出されるものである点。
取消事由に係る原告の主張
審決は,?@引用発明の認定を誤った結果,相違点を看過し(取消事由1),?A相違点に対する容易想到性の判断を誤り(取消事由2),?B意見・補正の機会を原告に与えなかった手続上の瑕疵があるから(取消事由3),取り消されるべきである。
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り及び相違点の看過)(1)引用発明において,「前記感光性ガラス3をエッチングして前記選択的に紫外線照射された部分を開孔」する工程は,「誘電体薄膜5からなるブリッジを形成する」ためである。しかし,審決はこれを「前記のパターニングされたPt薄膜抵抗体6がこの孔に前記誘電体薄膜5及びパッシベーション膜7を介して間接的に露出するようにする」ためであると認定しているので誤りである。
(2)上記のとおり,審決は,引用発明の認定を誤った結果,?@引用発明は誘電体薄膜を形成する工程を有するのに対し,本願発明はそのような工程を有さないこと,?A抵抗金属箔を形成する場所が,引用発明では誘電体薄膜5上であるのに対し,本願発明では感光性ガラス板上であること,?B引用発明はエッチングによってマイクロブリッジを形成するのに対して,本願発明はエッチングによって抵抗金属箔それ自体の細幅パターン部分がこの孔に直接露出するようにしていることを相違点として看過した誤りがある。
2 取消事由2(相違点に対する容易想到性の判断の誤り)審決は,「刊行物1記載の発明において,フローセンサを構成する抵抗金属箔それ自体の細幅パターン部分を直接露出させるという上記周知技術を用いて,ブリッジ形成用の誘電体薄膜5やパッシベーション膜7を設けることなく,抵抗金属箔それ自体の細幅パターン部分がエッチングして形成された孔に直接露出するように構成することは当業者ならば容易に想到し得たものと認められる。」と判断した。
しかし,審決の上記判断は,以下のとおり誤りである。
(1)フローセンサには,?@加熱用と測温用の抵抗体をブリッジ表面上に並べて配置し,マイクロブリッジ表面に沿った気体の流速を測定するマイクロブリッジ型フローセンサと?A開孔部の両端に直接露出するような電極パターンを設けて,当該電極パターンの隙間を通って孔を流れる気体の流速を計測する露出型フローセンサとがあり,両者は熱式のフローセンサである点では共通するが,構造及び測定原理が異なる。そして,引用発明はマイクロブリッジ型フローセンサであるのに対し,上記周知技術は露出型フローセンサであるから,引用発明と上記周知技術とは構造及び測定原理が異なる。
引用発明においては,誘電体薄膜5の面積を小さくし,ブリッジを形成することなく細幅パターン部分が開孔に直接露出するような構造とすると,感度低下,測定範囲の狭幅化の問題が顕在化するため,フローセンサとして正常に機能しなくなる。また,誘電体薄膜は,その面積が流量の検知感度に比例し,流量の検知に関係がある。
以上のとおり,引用発明のようなマイクロブリッジ型フローセンサにおいて,マイクロブリッジ部分は,フローセンサーとして機能を奏するための必須の構成であるから,引用発明に上記周知技術を適用して本願発明を想到することはできない。
(2)刊行物2記載のような露出型フローセンサの製造方法に関して,周知技術として存在するのは,孔を設けた後に金属膜を配置する方法のみである(甲9)。したがって,孔を形成するときに金属膜がエッチング液にさらされることがないから,そもそも引用発明のように孔を形成するためのエッチング時間を短くするという課題は存在しない。したがって,引用発明に係る製造方法を刊行物2記載の露出型フローセンサに適用することの動機付けはないといえる。
(3)被告は,本願発明はマイクロブリッジ型フローセンサと露出型フローセンサの両方を含む発明であると主張する。しかし,マイクロブリッジ型フローセンサを製造するには,感光性ガラス板などの基板と抵抗金属箔との間に,誘電体薄膜からなるマイクロブリッジが設けることが必要となる。しかるに,本願発明は,「感光性ガラス板上に,前記エッチングパターン上に位置する細幅パターンを含む抵抗金属箔を形成する工程」を有しており,その他にどのような工程を付加しても,感光性ガラス板などの基板と抵抗金属箔との間に,誘電体薄膜からなるマイクロブリッジを形成することはできないはずである。また,本願発明は,「抵抗金属箔それ自体の細幅パターン部分がこの孔に直接露出するようにする工程」を有していることからみても,本願発明は,マイクロブリッジ型フローセンサの製造方法の発明ではない。
3 取消事由3(手続上の瑕疵)本願発明は,製造方法の発明であるのに対し,拒絶査定は,引用発明及び周知技術を物の構造として特定した不明確な事実認定に基づいており,少なくとも原告主張の相違点?Aは審査段階では明確にされていない(甲12,13)から,審決の理由は拒絶査定の理由と異なることとなる。したがって,本件審判手続は,原告に対し意見,補正の機会を与えることなくなされたものであり,特許法159条2項,50条に反する。
被告の反論
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り及び相違点の看過)に対し(1)刊行物1の記載によると,感光性ガラス3のエッチング工程が,「前記のパターニングされたPt薄膜抵抗体6がこの孔に前記誘電体薄膜5及びパッシベーション膜7を介して間接的に露出するようにする工程」となっているから,審決の引用発明の認定に誤りはない。
(2)審決の認定した相違点は,「感光性ガラス板に紫外線を選択的に照射してエッチングパターンを設ける工程」の次の工程が,本願発明は,感光性ガラス板上に,「『抵抗金属箔』それ自体」を形成する工程であるのに対し,引用発明は,感光性ガラス板上に,「抵抗金属箔が誘電体薄膜上に存在し,かつ,その上にパッシベーション膜を含む3層状態の部分」を形成する工程であるというものである。
そして,引用発明の「感光性ガラス板上に,『抵抗金属箔が誘電体薄膜上に存在しかつその上にパッシベーション膜を含む3層状態の部分』を形成する工程」とは,引用発明の「前記感光性ガラス3上に,ブリッジ形成用の誘電体薄膜5を堆積し,該誘電体薄膜5上にパターニングされたPt薄膜抵抗体6を,その上にパッシベーション膜7が堆積された状態で形成する工程」に対応するものであるから,前記「感光性ガラス板上に,『抵抗金属箔が誘電体薄膜上に存在しかつその上にパッシベーション膜を含む3層状態の部分』を形成する工程」とは,「感光性ガラス板上に,誘電体薄膜を堆積し,該誘電体薄膜上に抵抗金属箔を,その上にパッシベーション膜が堆積された状態で形成する工程」を意味している。よって,原告の主張する相違点?@及び?Aについては,審決において,実質的に相違点として認定している。
また,原告の主張する相違点?Bは,前記(1)のとおり,引用発明の認定に誤りがないので,相違点とはならない。
(3)仮に,審決が原告の主張する相違点?@及び?Aを看過し,それらが相違点となるとしても,フローセンサにおいて,ガラス板上に直接抵抗金属箔を設けることは,刊行物2(甲2)にみられるように周知であり,刊行物1記載のフローセンサと,刊行物2にみられる周知のフローセンサとは,基板に支持された抵抗体に当たる被測定流体により熱が奪われる,あるいは与えられることにより生じる抵抗体の抵抗変化を測定して,被測定流体の流量を測定するという基本的な構造,測定原理においては同じものであるから,引用発明において上記周知技術を採用して,誘電体薄膜を形成する工程を有さないようにすること及び引用発明における「感光性ガラス板上」に抵抗金属箔を形成することは,当業者が容易に想到し得たものである。
2 取消事由2(容易想到性の判断の誤り)に対し(1)原告は,引用発明は,マイクロブリッジ型フローセンサの製造方法であるのに対し,周知技術は露出型フローセンサの構造に相当するので,両者は構造及び測定原理において異なると主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。
本願発明は「フローセンサの製造方法」と記載され,格別の限定はないから,マイクロブリッジ型フローセンサ及び露出型フローセンサを含むフローセンサの製造方法の発明である。そして,前記1(3)のとおり,引用発明も周知技術も基本的な構造,測定原理は同じである。
引用発明における「パッシベーション膜7」は抵抗体を保護するものであるが,マイクロブリッジ型フローセンサにおいて,抵抗体上に保護膜を設けないことは本願出願前に周知であり(乙3,4),刊行物(甲11,乙5)には,発明の実施例として,マイクロブリッジ型フローセンサと露出型フローセンサが共に記載されていることに照らすならば,一方の技術的思想を他方に適用することは容易である。
(2)原告は,引用発明において,誘電体薄膜からなるブリッジを設けることは必須の構成であり,抵抗体を開孔に直接露出させる構成を採用すると,フローセンサとして正常に機能しなくなると主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。
シリコンウエハ基板を用いたマイクロブリッジ型のフローセンサにおいては,シリコンウエハ基板と抵抗体との間に誘電体薄膜が設けられており,この誘電体薄膜が抵抗体を支持するための梁(マイクロブリッジ)を形成する。そして,この誘電体薄膜によりシリコンウエハ基板と抵抗体との絶縁されるけれども,当該フローセンサにおいても流量測定に資するセンサの部分は抵抗体であって,誘電体薄膜は流量の検知には関係しない。しかも,引用発明において基板となる感光性ガラスは絶縁性であるから,感光性ガラス基板の上に誘電体薄膜を設けることなく,感光性ガラス基板の上に直接抵抗体を載せても,絶縁性の問題は生じ得ない。また,抵抗体自体で抵抗体の形状を保つことができるものであれば,抵抗体を支持する薄膜は必要とならない。さらに,抵抗体のパターンが形成する面に沿った方向に流れる流体の流速を測定するフローセンサであって,抵抗体部分の熱容量を小さくするために,基板に孔を設けたフローセンサにおいて,基板に設けた孔に露出するブリッジ部分を抵抗体自体で形成することは,本願出願前に周知である(乙1,2)。
そうすると,マイクロブリッジ型フローセンサにおいても,誘電体薄膜からなるブリッジを設けることは必須の構成ではなく,抵抗体を開孔に直接露出させる構成を採用したとしても,フローセンサとして正常に機能しなくなることはない。
3 取消事由3(手続上の瑕疵)に対し審決は,拒絶査定の理由と異なる新たな拒絶理由を構成するものではないから,審判で拒絶理由通知をしなかったことに手続違背はない。
当裁判所の判断
当裁判所は,審決には,原告主張に係る取消事由(相違点の看過,相違点に関する容易想到性の判断の誤り,手続上の瑕疵)はないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 刊行物1の記載(1)「【特許請求の範囲】【請求項2】機能性薄膜がPt薄膜抵抗体を薄膜ヒータと測温抵抗体としてパターニングされたものである請求項1記載の薄膜素子。」(2)「【発明の詳細な説明】【0001】【技術分野】本発明は,マイクロブリッジ形状を有する薄膜素子に関する。」(3)「【0002】【従来技術】梁(マイクロブリッジ)形成のためにSi基板上に誘電体膜を堆積させ,その後Siの異方性エッチングにより梁(マイクロブリッジ)を形成する素子においては,熱式センサの各種特性(消費電力の低電力化,応答速度の高速化,多機能化)を飛躍的に向上させた。マイクロブリッジ上に各種センサ素子を薄膜形態で作り込むことにより,特に熱を媒体として,物性変化を検知させるセンサにとっては,熱絶縁を容易に実施できるため有効である。これらマイクロセンサの構造を図1に示す。例えば,特公平3-52028号公報には,Siウエハ基板上にマイクロブリッジを形成し,熱式気体質量流量計を作製している。(…(中略)…)例えば,この素子を気体の質量流量計に用いた場合,放熱面積(ブリッジ面積)の増加と感度には比例の関係が有り,放熱面積を大きくした方が望ましい。
またブリッジ上に発熱素子を,その両端に温度測定素子を対称に配置させた気体の進行方向検知および質量流量計においては,放熱面積が少ないと高流量時の熱収支飽和現象により,測定範囲の狭幅化が問題となる。」(4)「【0004】【目的】本発明の第1の目的は,マイクロブリッジ形態を有する薄膜素子に於いて,ブリッジ形成にデザイン,及びブリッジ面積に制約を与えず,素子特性の向上を実現するものである。第2の目的は,薄膜素子の作製に伴って形成される基板の孔をふさぎ,該素子の接合工程の改良を画るものである。」(5)「【0007】【実施例】図4に基づき実施例を説明する。感光性ガラス3〔HOYA感光性ガラスPEG3(商品名)〕を使用した。両面を研磨した感光性ガラス3にマイクロパターンを転写する(これはフォトマスク2を介して紫外線Cを照射することにより,ガラス内に潜像4を作る)(a)。適切な熱処理により感光した部分(潜像4)を結晶化させる。このことによりふっ酸水溶液に対する溶解速度を速くさせる。熱現像の温度は600℃とした。次に熱履歴による変形を取り除くため精密研磨を行い,薄膜作製用基板3として十分平滑さを確保した後(b),ブリッジ形成用の誘電体薄膜5を堆積させる(c)。誘電体薄膜5はSi半導体装置などのプロセスで馴染のある窒化シリコン膜をCVD法で堆積させるほか,五酸化タンタル膜を反応性スパッタリング法にて堆積させても良い。ブリッジとして自立体を得るために,この誘電体薄膜の膜厚は,1.5μm以上とした。五酸化タンタルの反応性スパッタ製膜に於いてはスパッタ条件により膜の内部応力が比較的小さい値になること,さらに堆積後の500℃熱処理により応力がほとんど残留しないことを確認している。従って,本実施例ではこの五酸化タンタル膜を堆積し,熱処理を施した。次にPt薄膜抵抗体6を形成し,熱式気体質量流量計を作製するならば,このPt薄膜抵抗体を薄膜ヒータと測温抵抗体としてパターニングし,また金属酸化物半導体,該金属酸化物半導体上に白金(Pt),パラジウム(Pd)等の貴金属を触媒として用いたガスセンサではさらに薄膜機能素子をこのブリッジ上に作製する(d)。基本的にはこの様に少なくともブリッジ上に薄膜機能素子を作り込む事を意味しており,このことで各種マイクロセンサが作製できる。次にパッシベーション膜7を堆積後,パット,エッチングホールを開口させ(e),8wt%ふっ酸水溶液,室温にてエッチングを行うことでブリッジを形成した。この工程から示されるようにSi基板ではその結晶方位,ブリッジ面積などに制約があったが,本実施例ではその様なことは生じない。次に基板を貫通する孔は熱硬化型エポキシ系接着フィルムまたはシート(厚40μm,熱硬化温度170℃)を基板裏面に接合(g),以下チップ切り出し,実装を行った。但し,基板裏面に接合するフィルムまたはシートは,前記熱硬化型エポキシ系接着フィルムまたはシートに限られるものではなく,例えば熱または接着剤などにより接合できるフィルムまたはシートであれば任意のものが使用できる。」(6)「【0008】【効果】本発明によれば,ブリッジ幅を拡大させる事により,例えば熱式気体質量流量計に於いては感度のダイナミックレンジの拡大ができ,さらに他のガスセンサ,湿度センサ等のマイクロセンサに於いても,複数の機能性薄膜素子を容易に集積化することが可能となり,素子の高機能化がはかれる。また,基板の貫通孔をシートの接合によりふさぐことで,実装工程に不備を与えることなく,作製できる。」(7)図4には,薄膜素子の構成およびその製造工程を説明した図があり,同図の(e)と(f)を対比すると,基板をエッチングにより除去することで貫通孔が形成され,Pt薄膜抵抗体が誘電体薄膜5とパッシベーション膜7に挟まれた状態で貫通孔に露出している状態となっている。
2 取消事由1(引用発明の認定の誤り及び相違点の看過)について(1) 引用発明の認定の誤りについて前記1によれば,引用発明の薄膜素子は,感光性ガラス上に誘電体薄膜を形成し,誘電体薄膜上に抵抗金属箔を形成し,エッチングによって基板を除去することで貫通孔が形成され,Pt薄膜抵抗体が誘電体薄膜5とパッシベーション膜7に挟まれた状態で貫通孔に露出している状態となり,これらをもってマイクロブリッジを形成するものと認められる。したがって,審決が,引用発明につき「パターニングされたPt薄膜抵抗体6がこの孔に前記誘電体薄膜5及びパッシベーション膜7を介して間接的に露出する工程」と認定したことに誤りはない。
(2) 相違点の認定の誤りについて原告は,引用発明と本願発明とは,?@引用発明は誘電体薄膜を形成する工程を有するのに対し,本願発明はそのような工程を有さない点,?A抵抗金属箔を形成する場所が,引用発明では誘電体薄膜5上であるのに対し,本願発明では感光性ガラス板上である点,?B引用発明はエッチングによってマイクロブリッジを形成するのに対して,本願発明はエッチングによって抵抗金属箔それ自体の細幅パターン部分がこの孔に直接露出するようにしている点が相違するにもかかわらず,審決は,これらの点を相違点として認定しなかった違法があると主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。
ア ?@,?Aについて審決は,前記第2,3(3)のとおり,エッチングパターン上に位置する細幅パターンを含む抵抗金属箔を含む部分が,本願発明では「抵抗金属箔」それ自体であって,感光性ガラス板の選択的に紫外線照射された部分をエッチングして形成された孔に露出される部分の露出が,「前記の抵抗金属箔それ自体の細幅パターン部分がこの孔に直接露出するようにする」ものであるのに対し,引用発明では,抵抗金属箔が導電体薄膜上に存在しかつその上にパッシベーション膜を含む3層状態の部分であると認定している。
上記の引用発明における「抵抗金属箔が誘電体薄膜上に存在しかつその上にパッシベーション膜を含む3層状態の部分」とは,引用発明における「前記感光性ガラス3上に,ブリッジ形成用の誘電体薄膜5を堆積し,該誘電体薄膜5上にパターニングされたPt薄膜抵抗体6を,その上にパッシベーション膜7が堆積された状態で形成する工程」によって得られる構成を指すと理解するのが相当である。そうすると,審決は,相違点として「エッチングパターン上に位置する細幅パターンを含む抵抗金属箔を含む部分」について,本願発明では「抵抗金属箔」それ自体であると認定しているのであるから,原告が相違点であると主張する?@及び?Aは,審決において,実質的に相違点として認定しているといえる。
したがって,審決には,原告が相違点であると主張する?@,?Aについて看過した違法はない。
イ ?Bについて審決は,前記第2,3(3)のとおり,「感光性ガラス板の選択的に紫外線照射された部分をエッチングして形成された孔に露出される部分の露出」について,本願発明では,「前記の抵抗金属箔それ自体の細幅パターン部分がこの孔に直接露出するようにする」ものであるのに対し,引用発明では,「抵抗金属箔が誘電体薄膜上に存在しかつその上にパッシベーション膜を含む3層状態の部分であって,感光性ガラス板の選択的に紫外線照射された部分をエッチングして形成された孔に露出される部分の露出が,該誘電体膜及びパッシベーション膜を介して間接的に露出されるものである」と認定している。
そして,前記(1)で認定したとおり,「抵抗金属箔が誘電体薄膜上に存在しかつその上にパッシベーション膜を含む3層状態の部分」がマイクロブリッジに相当するから,原告主張の相違点?Bも,実質的に相違点として認定しているといえる。
ウ以上のとおり,審決は原告主張の相違点?@ないし?Bのいずれも相違点として認定しているから,相違点の看過はなく,原告の主張は採用できない。
3 取消事由2(容易想到性の判断の誤り)について(1)原告は,引用発明のようなマイクロブリッジ型フローセンサにおいては,マイクロブリッジ部が必須の構成であって,測定用の抵抗金属膜を直接露出させるとセンサとして機能しなくなるから,引用発明に露出型フローセンサである周知技術を適用して,本願発明を想到することは容易でないと主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。
ア実願昭55-146658号(実開昭57-68512号)のマイクロフィルム(乙1)には,第2図とともに,次の記載がある。
(ア)「本考案は,温度や気体の流速や成分等を測定する薄膜センサに関するものである。
従来,この種の薄膜センサとして,金属の細線,抵抗素子が使用されている。・・・最近第1図に示すように絶縁基板1上に抵抗素子2等をスパッタあるいは拡散によって形成し,センサを構成する試みがある。
しかしながら,このようにして構成されるセンサは,絶縁基板1による影響を受け,その熱容量が大きくなって応答速度が遅くなるという欠点がある。
本考案は,このような欠点のない薄膜センサを提供しようとするものである。」(1頁20行〜2頁15行)(イ)「第2図および第3図は本考案に係る薄膜センサの構成斜視図である。
本考案に係る薄膜センサは,抵抗薄膜パターンを絶縁基板上に形成し,抵抗薄膜パターン層に接触する絶縁基板の一部を除去または薄く構成した点にひとつの特徴がある。
まず,第2図実施例のものは,絶縁基板1上に抵抗薄膜パターン2を形成し,この抵抗薄膜パターン2の裏側において接触する絶縁基板の一部3を例えば,(ホトリソグラフィーの技術を利用して)エッチング等によって,取り除くようにしたものである。ここで,抵抗薄膜パターン2は,ジグザグ形状で形成されており,このパターンの両端部と,折曲部とで絶縁基板に保持され,その大部分はいずれの部分とも接触しないで空間に位置することとなる。
このように構成されたセンサは,・・・また抵抗薄膜パターン2は空間に位置されるものであるから,絶縁基板1に熱が伝達することはなく,応答速度を速くすることができる。」(2頁16行〜3頁20行)(ウ)以上の記載に第1図及び第2図を合わせると,第2図に示されたフローセンサは,絶縁基板中の空間に直接露出して設けられた抵抗薄膜パターンにより,基板表面を流れる気体の流量を測定するものであるということができる。
イ特開昭57-28215号公報(乙2)には,図2とともに次の記載がある。
(ア)「本発明は上記の点に鑑みてなされたもので,電熱ヒータ並びに第1及び第2の両温度依存抵抗を,単一もしくは数本の抵抗線(例えば白金線)からそれぞれ構成し,これらを被測定気体の流れの中に,同流れの方向と平行な面上に一列をなして相前後して配置してなる気体流量測定装置を提供し,もって,抵抗線の使用量を低減し,簡単かつ安価な構造で確実な流量測定を可能とすることを目的とする。」(1頁右下欄17行〜2頁左上欄5行)(イ)「第2図(a),(b)は上記流量測定装置10のセンサ部の詳細を示す。図示の如く,このセンサ部は基本的には支持枠11に各抵抗線12,13,14を支持することによって構成される。
支持枠11は絶縁材例えばセラミック又は樹脂からなり,上辺部111,下辺部112及び両側辺部118,114を有する4角形の板状枠体に形成される。」(2頁左下欄3〜10行)(ウ)以上の記載と第2図(a),(b)とから,乙2の気体流量測定装置は,支持枠11の空間に直接露出して設けられた抵抗線により,支持枠表面を流れる気体の流量を測定するものであるということができる。
ウ 判断前記1で認定した刊行物1の記載によると,引用発明のフローセンサにおいては,誘電体からなるブリッジを形成し,その上に測定用のPt薄膜抵抗体を設けたものであり,薄膜抵抗体がセンサとして機能するものであるということができる。そして,前記乙1及び乙2の各記載によると,基板表面を流れる気体の流量を測定するフローセンサにおいては,測定用の抵抗金属薄膜がマイクロブリッジを有することなく露出している技術が周知であると認められる。
そうすると,フローセンサとして機能するためにはマイクロブリッジ部が必須であるということはできない。
したがって,引用発明においては,マイクロブリッジ部が必須の構成であるから,引用発明に露出型フローセンサである周知技術を適用することは困難であるとする原告の主張は,その主張自体失当であるというべきである。
(2)また,原告は,引用発明に係る製造方法を刊行物2記載の露出型フローセンサに適用する動機付けはないと主張する。
しかし,前記1で認定した刊行物1の記載によると,感光性ガラスに紫外線を選択的に照射し,後にこれをエッチングして紫外線を照射された部分を開孔する技術が開示されている。そして,前記(1)で認定判断したとおり,マイクロブリッジはフローセンサとして機能するために必須のものではないこと,周知技術は,ガラス板上に細幅パターンを含む抵抗金属箔と,該抵抗金属箔それ自体の細幅パターンがガラス板に設けられた開孔に直接露出するフローセンサであること(当事者間に争いがない。)からすれば,引用発明も周知技術もフローセンサである点で技術分野は共通であるといえる。そうすると,引用発明に周知技術を適用するに当たって,引用発明の測定用の抵抗金属薄膜を直接露出させるようにすることの動機付けがないとすることもできない。原告の主張は採用できない。
4 取消事由3(手続上の瑕疵)について甲13(本件拒絶理由通知)によれば,審査過程において,審査官は,刊行物1には,「感光性ガラスに紫外線を選択的に照射することによりマイクロパターンを設ける工程と,感光した部分の上部にPt薄膜抵抗体を形成する工程と,感光性ガラスをエッチングして開口部を設ける工程とからなるフローセンサの製造方法が記載されている。」との技術が記載されていることを前提として,刊行物2を示して,「抵抗金属箔の細幅パターンを孔に露出するフローセンサは従来周知である」から,「本願発明は,刊行物1及び2に記載された発明より当業者が容易に想到し得たものである。」との拒絶理由を通知したことが認められる。そうすると,審査過程において,審査官は,刊行物1記載のフローセンサの製造方法において,マイクロパターンを有するフローセンサに代えて,周知の露出型のフローセンサの製造方法とすることが容易想到であるとの拒絶理由を述べているということができ,同理由は,審決の容易想到性の判断と同旨であると解される。したがって,拒絶理由通知を改めて発することなく審理を終結した審判手続に,意見・補正提出の機会を与えなかったとの手続上の違法は存しない。なお,平成16年4月2日付け意見書(乙6)によると,原告は,上記2つのフローセンサの構造上及び製造方法上の相違を述べていることが認められ,これによれば,反論の機会が実質的に与えられているということができる。よって,原告の主張は採用できない。
5 結論以上のとおり,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,審決を取り消すべきその他の誤りは認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 中平健
裁判官 上田洋幸