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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18ワ474特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成18ワ15809損害賠償請求事件 判例 特許
平成18ワ1223特許権侵害行為差止等請求事件 判例 特許
平成19ワ11944特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成18ワ28244損害賠償請求事件 判例 特許
関連ワード 承継 /  アクセス /  進歩性(29条2項) /  公知技術 /  技術的範囲 /  技術的手段 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  共有 /  実施料相当額 /  ライセンス /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  権原 /  交換 /  構成要件 /  侵害 /  損害額 /  実施料 /  不法行為(民法709条) /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 / 
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事件 平成 18年 (ワ) 23787号 損害賠償請求事件
平成 19年 (ワ) 899号 損害賠償請求事件
平成 19年 (ワ) 900号 損害賠償請求事件
平成 19年 (ワ) 905号 損害賠償請求事件
埼玉県富士見市<以下略> 第1ないし第4事件原告株式会社東洋産業
同訴訟代理人弁護士中山福二
同 猪股正
同 加藤寛史
同 牧恵美子
同 長沢幸男
同 長沢美智子
同 甲斐順子
同補佐人弁理士古橋伸茂 東京都新宿区<以下略> 第1ないし第4事件被告KDDI株式会社
同訴訟代理人弁護士尾崎英男
同 三尾美枝子
同 池原元宏
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2008/05/30
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の第1ないし第4事件請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
2第1請求1第1事件請求被告は,原告に対し,金1億円及びこれに対する平成18年10月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2第2事件請求被告は,原告に対し,金1億円及びこれに対する平成18年12月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3第3事件請求被告は,原告に対し,金1億円及びこれに対する平成18年12月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4第4事件請求被告は,原告に対し,金1億円及びこれに対する平成18年12月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要第1事件は,携帯電話機についての特許権を有する原告が,被告に対し,被告の販売する別紙被告製品目録記載1の携帯電話機(以下「被告製品1」という。)は,上記特許権に係る発明の技術的範囲に属するものであり,被告製品1を販売する被告の行為は,上記特許権を侵害するものであるとして,民法709条及び特許法102条3項に基づき,平成18年2月22日から同年10月22日までの間の被告製品1の販売に係る実施料相当額の損害の一部として金1億円及びこれに対する不法行為の後の日である平成18年10月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
第2事件は,原告が,被告に対し,被告の販売する別紙被告製品目録記載2の携帯電話機(以下「被告製品2」という。)は,上記特許権に係る発明の技術的範囲に属するものであり,被告製品2を販売する被告の行為は,上記特許3権を侵害するものであるとして,民法709条及び特許法102条3項に基づき,平成18年9月29日から同年12月29日までの間の被告製品2の販売に係る実施料相当額の損害の一部として金1億円及びこれに対する不法行為の後の日である平成18年12月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
第3事件は,原告が,被告に対し,被告の販売する別紙被告製品目録記載3の携帯電話機(以下「被告製品3」という。)は,上記特許権に係る発明の技術的範囲に属するものであり,被告製品3を販売する被告の行為は,上記特許権を侵害するものであるとして,民法709条及び特許法102条3項に基づき,平成18年9月21日から同年12月21日までの間の被告製品3の販売に係る実施料相当額の損害の一部として金1億円及びこれに対する不法行為の後の日である平成18年12月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
第4事件は,原告が,被告に対し,被告の販売する別紙被告製品目録記載4の携帯電話機(以下「被告製品4」という。また,被告製品1ないし被告製品4を併せて「各被告製品」という。)は,上記特許権に係る発明の技術的範囲に属するものであり,被告製品4を販売する被告の行為は,上記特許権を侵害するものであるとして,民法709条及び特許法102条3項に基づき,平成18年9月21日から同年12月21日までの間の被告製品4の販売に係る実施料相当額の損害の一部として金1億円及びこれに対する不法行為の後の日である平成18年12月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1争いのない事実等(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)(1)当事者原告は,不動産の売買等を目的とする株式会社である。
被告は,電気通信事業法に定める電気通信事業等を目的とする株式会社で4ある。
(2)原告の特許権原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請求の範囲請求項1の発明を「本件発明」という。また,本件特許権に係る特許を「本件特許」といい,本件特許に係る明細書(別紙特許公報参照)を「本件明細書」という。)を,平成17年2月ころソフト流通株式会社から承継し,有している。(甲1,2,弁論の全趣旨)特 許 番 号第3416621号発明の名称携帯電話機出願日平成12年6月23日登録日平成15年4月4日特許請求の範囲請求項1「外部記憶媒体を着脱可能に装着する記憶媒体装着手段と,該記憶媒体装着手段に装着された外部記憶媒体に対するデータの記録・読出しを行う記録読出し手段とを備える携帯電話機であって,当該携帯電話機の自局電話番号を記憶する自局番号記憶手段と,前記記録読出し手段が前記外部記憶媒体にデータを記録する際に,そのデータに関係付けて前記自局電話番号を識別するための番号識別子を当該データと共に記録させる番号識別子付加手段と,前記記録読出し手段が前記外部記憶媒体からデータを読み出す前に,そのデータに関係付けられて記録された番号識別子が前記自局電話番号に該当するか否かを判定する判定手段と,前記関係付けられた番号識別子が前記自局電話番号に該当しない場合に,前記記録読出し手段による当該データの読出しを禁止する読出し禁止手段とを備えることを特徴とする携帯電話機。」(3)本件発明の構成要件の分説本件発明の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下分説した各構5成要件をそれぞれ「構成要件A1」などという。)。
A1外部記憶媒体を着脱可能に装着する記憶媒体装着手段と,A2該記憶媒体装着手段に装着された外部記憶媒体に対するデータの記録・読出しを行う記録読出し手段とを備える携帯電話機であって,B1当該携帯電話機の自局電話番号を記憶する自局番号記憶手段と,B2前記記録読出し手段が前記外部記憶媒体にデータを記録する際に,そのデータに関係付けて前記自局電話番号を識別するための番号識別子を当該データと共に記録させる番号識別子付加手段と,B3前記記録読出し手段が前記外部記憶媒体からデータを読み出す前に,そのデータに関係付けられて記録された番号識別子が前記自局電話番号に該当するか否かを判定する判定手段と,B4前記関係付けられた番号識別子が前記自局電話番号に該当しない場合に,前記記録読出し手段による当該データの読出しを禁止する読出し禁止手段とを備えるCことを特徴とする携帯電話機。
(4)被告の行為ア被告は各被告製品を販売している。
イ各被告製品は,外部記憶媒体である「SDカード」(ただし,被告製品1については「miniSDカード」,被告製品2については「microSDカード」,被告製品3及び4については「microSDメモリーカード」である。これらを特に区別することなく「SDカード」という。)を着脱可能に装着する「SDカードスロット」(ただし,被告製品1については「miniSDカードスロット」,被告製品2については「メモリーカードスロット」,被告製品3及び4については「microSDメモリーカードスロット」である。これらを特に区別することなく「SDカードスロット」という。)を備え(a1),「SDカードスロット」に装着した「SDカー6ド」に対してコンテンツデータの記録,読出しを行う機能を備える携帯電話機であって(a2),当該電話機の自局電話番号を記憶する機能を備え(b1)ることを特徴とする携帯電話機(c)である。
ウさらに,各被告製品は,いずれも別紙被告製品説明書記載の構成を備えており,コンテンツの記録時に「暗号化されたコンテンツ」のほか,「暗号化されたコンテンツ鍵」,「暗号化された固定値」をSDカードに記録する。
(5)構成要件の一部充足各被告製品は,本件発明の構成要件A1,A2,B1及びCを充足する(上記(4)イの各被告製品の(a1)の構成が構成要件A1を,(a2)の構成が構成要件A2を,(b1)の構成が構成要件B1を,(c)の構成が構成要件Cをぞれぞれ充足する。)。
2争点(1)各被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか(各被告製品は,構成要件B2ないしB4を充足するか)。(争点1)ア各被告製品は,構成要件B2の「前記自局電話番号を識別するための番号識別子を当該データと共に記録させる番号識別子付加手段」を充足するか。(争点1-a)イ各被告製品は,構成要件B3の「番号識別子が前記自局電話番号に該当するか否かを判定する判定手段」を充足するか。(争点1-b)ウ各被告製品は,構成要件B4の「番号識別子が前記自局電話番号に該当しない場合に,前記記録読出し手段による当該データの読出しを禁止する読出し禁止手段」を充足するか。(争点1-c)(2)本件特許は無効にされるべきものか(本件発明の進歩性の有無(特許法29条2項))(争点2)(3)各被告製品の構成の容易推考による本件特許の非侵害(争点3)7(4)損害額(争点4)第3争点に関する当事者の主張1争点1(各被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか)について〔原告の主張〕(1)争点1-a(各被告製品は,構成要件B2の「前記自局電話番号を識別するための番号識別子を当該データと共に記録させる番号識別子付加手段」を充足するか)についてア「番号識別子」の意義について(ア)「番号識別子」が「電話番号を識別する」ことの意味「識別」とは,「?@みわけること。?A人または動物が,質的または量的に異なる2つの刺激を区別し得ること。弁別」(広辞苑第5版),「物事の相違を見分けること」(大辞林第3版)という意味であり,「見分ける」,「他と区別する」ことを意味する用語である。
したがって,「電話番号を識別する」とは,「特定の電話番号と他の電話番号とを区別して,同一の電話番号かどうかを見分ける」ことを意味するものと解される。
同じ電話番号か違う電話番号かの区別がつけば「識別」したことになるのであって,特定の電話番号が具体的にいかなる数字の羅列であるかを把握することが求められているわけではない。
そうすると,「番号識別子」とは,「特定の電話番号がある電話番号と同じか違うかの区別ができるもの」をいうと解される。
(イ)本件発明は,メモリカード等の外部記憶媒体に対するデータの記録・読出しが可能な携帯電話機において,外部記憶媒体に記録したデータが,その記録を行った携帯電話機以外の電話機で利用されるのを禁止できるようにすることを目的とするものであり(段落【0004】),上記目的を達成するために,本件発明においては,外部記憶媒体に記録さ8れるデータに,自局電話番号に固有の番号識別子を関係付け,関係付けられた番号識別子が携帯電話機の自局電話番号に該当しない場合には,データの読出しが禁止されるようにしたものである(段落【0006】)。
このことからも,上記の解釈は自然な解釈であるといえる。
(ウ)上記(ア)のとおり,「番号識別子」は,特定の電話番号がある電話番号と同じか違うかの区別ができるものであればよく,特定の電話番号が具体的にいかなる数字の羅列であるかを把握することができるものに限定されない。
この解釈は,本件明細書中に,「上記実施形態では,自局電話番号・・・(中略)・・・そのものをダウンロードデータに挿入してメモリーカード26に記憶するものとしたが,これに限らず自局電話番号・・・(中略)・・・を所定の規則でコード化したうえでダウンロードデータに挿入するようにしてもよい」という記載(段落【0026】)からも裏付けられる。
イ各被告製品における「暗号化された固定値」が本件発明における「番号識別子」であること(ア)各被告製品の構成,動作各被告製品は,以下の?@ないし?Cの構成,動作を有する。
〈記録時〉?@コンテンツ鍵を用いてコンテンツを暗号化し,暗号化されたコンテンツを外部記憶媒体(SDカード)のメモリ領域に記録する。
?A自局電話番号及びその他の情報から生成される暗号鍵を用いてコンテンツ鍵及び固定値を暗号化し,暗号化されたコンテンツ鍵及び固定値を外部記憶媒体(SDカード)のメモリ領域に暗号化されたコンテンツとともに記録する。
9〈再生時〉?B自局電話番号及びその他の情報から生成される復号鍵を用いて暗号化された固定値を復号し,復号された値が所定の固定値と一致するか否かを判断する。
?C復号された値が所定の固定値と一致した場合には,コンテンツを復号する。一致しない場合には,暗号化されたコンテンツ鍵及び暗号化されたコンテンツを外部記憶媒体(SDカード)から読み出さない。
(イ)各被告製品においては,自局電話番号が異なる場合には,「暗号化された固定値」を正しく復号することができない。すなわち,SDカードに記録された「暗号化された固定値」を復号するための復号鍵(自局電話番号及びその他の情報から所定のアルゴリズムにより生成される。)が,暗号鍵(自局電話番号及びその他の情報から所定のアルゴリズムにより生成される。)と同一でなければ,復号化されたときの値がもとの固定値と一致せず,また,暗号鍵と復号鍵が同一であるためには,コンテンツ(データ)記録時と再生時とで携帯電話機の自局電話番号が同一でなければならないからである。
そして,「暗号化された固定値」は,自局電話番号が同一であれば,復号化されると所定の「固定値」と同じ値になり,自局電話番号が異なれば,復号化されても所定の「固定値」とは異なる値になるということは,「暗号化された固定値」が,記録時と再生時の携帯電話機の自局電話番号が同一か否かを区別しているからにほかならない。
そうすると,「暗号化された固定値」は,「特定の電話番号がある電話番号と同じか違うかの区別ができるもの」,すなわち「番号識別子」に該当する。
(ウ)なお,各被告製品においては,暗号鍵(復号鍵)は,自局電話番号及びその他の情報から所定のアルゴリズムにより生成されるものの,自10局電話番号が異なる場合には,「暗号化された固定値」を正しく復号することができないのであるから,自局電話番号以外の要素や情報(「その他の情報」)は,「暗号化された固定値」を正しく復号できるかどうかに影響を及ぼすものではないと解される。
したがって,各被告製品においては,自局電話番号が異なれば,暗号鍵(復号鍵)は必ず異なり,自局電話番号が同一であれば,暗号鍵(復号鍵)は必ず同一であるという関係にあるといえる。
(エ)よって,各被告製品は,外部記憶媒体(SDカード)のメモリ領域に,コンテンツ(データ)とともに「番号識別子」である「暗号化された固定値」を記録させる手段,すなわち「番号識別子付加手段」を備えており,構成要件B2を充足する。
ウ被告の主張に対する反論(ア)被告は,「番号識別子」とは,「自局電話番号を一意的に識別する記号」を意味すると主張する。
しかし,上記解釈は,「識別」の語義解釈を欠いており失当である。
仮に,上記解釈によったとしても,「一意」とは,「ただ一通りに定められること」,「意味や値が1つに確定していること」を意味し,「識別」とは,「見分ける」,「他と区別する」ことを意味するから,「識別子」とは,「対象をただ一通りに区別しあるいは見分ける名前」であるということになる。そうすると,各被告製品における「暗号化された固定値」は,暗号鍵と復号鍵が同一であるか否かの区別をすることで,自局電話番号と他の電話番号とを区別し見分けているから(自局電話番号を他の電話番号と見分け,あるいは区別するためのものであるから),「番号識別子」に該当する。
(イ)また,「暗号化された固定値」は,前記のとおり,自局電話番号に応じて定まる値であるから,「自局電話番号を所定の規則でコード化し11たもの」であるということができる。そうすると,「自局電話番号を所定の規則でコード化したもの」は,自局電話番号を一意的に識別する記号を含んでいるのであるから,仮に,「番号識別子」について上記解釈によったとしても,「暗号化された固定値」は「番号識別子」に該当する。
(ウ)被告は,「識別子」という用語の一般的な用法等を主張し,各被告製品における「暗号化された固定値」がこれに該当しない旨主張する。
しかし,本件発明において,「番号識別子」に該当するか否かは,当該識別子が自局電話番号を識別しているか否か,すなわち,携帯電話の自局電話番号を識別し,コンテンツデータの読出しを禁止する機能を有しているか否かにより判断されるものである。
そして,各被告製品においては,自局電話番号が異なる場合に,「暗号化された固定値」が正しく復号化できないことにより,暗号化されたコンテンツデータの読出しができないのであるから,「暗号化された固定値」が自局電話番号を識別する機能を有する識別子であることは明らかである。
(エ)被告は,「暗号化された固定値」を解析してもデータの記録に用いられた携帯電話機の自局電話番号を知ることはできないことからも,「暗号化された固定値」は「番号識別子」に該当しない旨主張する。
しかしながら,「番号識別子」とは「特定の電話番号がある電話番号と同じか違うかの区別ができるもの」をいうのであって,「暗号化された固定値」から電話番号を知ることができないからといって,「暗号化された固定値」が「番号識別子」に該当することが妨げられるものではない。
その上,本件明細書中には,自局電話番号を所定の規則でコード化したものを「番号識別子」として外部記憶媒体に記録させる形態での発明12実施が明記されており(段落【0026】),コード化の規則をユーザに非公開とすることで,自局電話番号の改ざんなどによって他の携帯電話機でダウンロードデータを読み出すのをより確実に防止することができるとの記述もあり(段落【0026】),コード化の規則を非公開とすることで,「暗号化された固定値」と同様の作用効果が実現される。
(オ)被告は,各被告製品において,自局電話番号と「暗号化された固定値」との間には対応関係が存在しない旨主張する。
しかしながら,各被告製品において,自局電話番号が異なる場合に「暗号化された固定値」を正しく復号することができないという事実は,自局電話番号と「暗号化された固定値」との間に対応関係が存在することを示している。
しかも,被告は,一般消費者に対して,次のとおり説明しており,自局電話番号と「暗号化された固定値」との間に対応関係があることを自認している。
a「ユーザーの電話番号とひも付けした暗号化を行っているため,ほかのユーザーの端末で楽曲を再生することはできない。」(甲13)b「ダウンロードした楽曲はCPRM対応のメモリカードに移動することができるが,電話番号とひもづけられた状態(「電話番号バインド」)で移動されるため,電話番号が一致した端末でないと再生できない。」(甲14)c「外部メモリカードに著作権コンテンツを書き出せる仕組みを採用していますが,そこで用いられている番号バインド(電話番号を鍵とする仕組み)」(甲15)d「著作権保護(DRM)には携帯電話の番号を利用した独自の方式が利用される。」(甲16)(カ)被告は,各被告製品においては,自局電話番号が異なる場合には暗13号鍵(復号鍵)が必ず異なるものであることを認めており,これは,自局電話番号が異なれば,「暗号化された固定値」から記録時の所定の固定値とは異なる値が必ず復号されることを意味する。
そして,各被告製品においては,自局電話番号が同一であれば,同じコンテンツ(データ)を読み出すことが可能であるとの原告の主張について,被告はこれを争うことを明らかにしない。実際に,被告は,各被告製品の取扱説明書において,次のとおり,電話番号が同一であれば,異なる機種の被告製品によっても再生が可能であると説明している(記録時と再生時で電話番号が同一であるにもかかわらず,その他の情報が異なるためにコンテンツを再生することができない場合があるならば,各被告製品の取扱説明書に上記のような記載をするはずがない。)。
a「著作権のあるデータは,暗号化して本体のデータフォルダから移動することができます。」,「miniSDカードに保存した著作権のあるデータは同じ電話番号のau電話以外では,再生できません」(甲3)b「著作権保護ありデータとは著作権が保護されたデータです。W45Tから外に出すことのできないデータですが,データの提供者が許可していれば,著作権保護に対応したmicroSDTMカードへ移動することができます(移動回数に制限はありません)。また,データは暗号化されるため,保存及び移動したときと同じ電話番号の携帯電話でのみ再生できます」(甲5)c「microSDメモリカードに暗号化して保存された著作権保護が設定されているデータは,同じ電話番号のau電話以外では,再生,本体への移動はできません」(甲6)以上のとおり,自局電話番号が同一であれば再生時にも記録時の所定の「固定値」と同じ値が「暗号化された固定値」から復号されること,14すなわち「暗号化された固定値」が「番号識別子」であることが明らかである。
(キ)被告は,「暗号化された固定値」はコンテンツごとに異なり,自局電話番号と1対1に対応していないから,本件発明の「番号識別子」に該当しない旨主張する。
しかしながら,本件発明は,ある携帯電話機でデータが記録された場合に,その同じデータが異なる電話番号の携帯電話機で読み出されるのを禁止する技術であり,そのために,データに関係付けて番号識別子を記録し,当該データを読み出す前に,当該データに関係付けられた番号識別子によってデータの読出しを禁止するかどうかを判定するものである。すなわち,本件発明において,「番号識別子」は,当該データを読み出す前に,自局電話番号に該当するかどうかを判定することができればよいのであるから,各被告製品における「暗号化された固定値」がデータ(コンテンツ)ごとに異なることを理由に「番号識別子」に該当しないという被告の上記主張は失当である。
また,仮に,被告が主張するように,各被告製品における「暗号化された固定値」がコンテンツごとに異なっているとしても,各被告製品においては,自局電話番号が同一であれば,「暗号化された固定値」は所定の固定値に復号され,違う電話番号であれば,異なる値に復号されるのであるから,自局電話番号は識別されているといえる。
(ク)そもそも,本件発明において,「番号識別子」は,「自局電話番号を他の電話番号と見分け,あるいは区別」することができればよいのであり,「番号識別子」と自局電話番号とが完全に1対1に対応することは要件とされていない。
すなわち,1つの「番号識別子」に1つの自局電話番号が対応すれば,その「番号識別子」により,これに対応する自局電話番号を他の電話番15号と見分け,あるいは区別することができるのであるから,必ずしも1つの自局電話番号に1つの番号識別子が対応する必要はない(ある自局電話番号Xに複数の番号識別子A,Bが対応するとしても,各番号識別子A,Bに自局電話番号Xのみが対応する限り,別の自局電話番号Yに対して,例えば番号識別子Aがその自局電話番号Yと対応するかどうかによって,自局電話番号Xと自局電話番号Yとを見分けることができる。)。
各被告製品においても,自局電話番号が異なれば,「暗号化された固定値」は所定の「固定値」とは異なる値に復号され,その結果,コンテンツの読出しが禁止されるのであるから,「暗号化された固定値」に1つの自局電話番号が対応している。1つの自局電話番号に複数の「暗号化された固定値」が対応するとしても,ある携帯電話機において「暗号化された固定値」から所定の「固定値」が復号されるかどうかによって,当該携帯電話機の自局電話番号を記録時の自局電話番号と見分けることができるから,「暗号化された固定値」は「番号識別子」である。
(ケ)各被告製品における「その他の情報」(当該機種が採用している暗号化技術・方式との関係で意味を持つデータ)は,暗号化に関与するものであっても,本件発明の「番号識別子」の該当性判断に影響を及ぼすものではない。
本件においては,同じ電話番号の携帯電話機以外で特定のコンテンツの再生を禁止する機能を有する携帯電話機相互間でのコンテンツデータの記録と再生について,その著作権保護機能に係る構成が本件特許権を侵害しているかどうかが問題となっているのであり,相互の携帯電話機が同種の著作権保護機能を採用していること,すなわち,同じアルゴリズムが組み込まれていることが当然の前提とされている。
被告は,各被告製品において,機種変更前と機種変更後の各携帯電話16機が同一のアルゴリズムを採用している場合,電話番号が同一であれば,コンテンツを読み出せない場合はないことを認めている。
(コ)原告が行った実験により,各被告製品の携帯電話の利用において想定される諸条件(電話番号,機種,名義人,製造番号)のうち,再生の可否に影響を及ぼすものが自局電話番号だけであるという結果が得られた(甲17,22)。この実験結果をもってしても,固定値を暗号化する際に用いられる鍵の生成において,実質的に「その他の情報」は関与しておらず,電話番号だけが関与していることが明らかである。
(2)争点1-b(各被告製品は,構成要件B3の「番号識別子が前記自局電話番号に該当するか否かを判定する判定手段」を充足するか)についてア「番号識別子が前記自局電話番号に該当するか否かを判定する」ことの意義について(ア)「該当」とは,「その条件・事例・資格などにあてはまること」(広辞苑第5版),「一定の条件に当てはまること。適合すること」(大辞林第3版)という意味である。
そして,「番号識別子」とは,「特定の電話番号がある電話番号と同じか違うかの区別ができるもの」である。
よって,「番号識別子が前記自局電話番号に該当するか否かを判定する」とは,「当該番号識別子によって他と区別される(データを記録した携帯電話機の)自局電話番号が,データを読み出そうとする携帯電話機の自局電話番号に当てはまるか否かを判定する」という意味と解される。
(イ)当てはまるかどうかが分かればよいのであるから,それぞれの携帯電話機の自局電話番号が具体的にいかなる数字の羅列であるかを番号識別子が把握していなくても,該当するか否かの判定は可能である。
イ充足性17(ア)各被告製品においては,SDカードに記録されたコンテンツを再生する際,当該コンテンツとともにSDカードに記録された「暗号化された固定値」を,再生しようとする携帯電話機の自局電話番号及びその他の情報から生成される復号鍵を用いて復号化し,その値が所定の(コンテンツを記録した携帯電話機の)固定値と一致するか否かを判定している。
「暗号化された固定値」は,記録時の自局電話番号と再生時の自局電話番号とが同一であるか否かによって,復号されたときの値を異にする。
つまり,暗号鍵と復号鍵が同一(記録時と再生時とで自局電話番号が同一)の場合であれば,同じ所定の「固定値」に復号され,暗号鍵と復号鍵が異なる(自局電話番号が記録時と再生時とで異なる)場合であれば,所定の「固定値」とは異なる「値」に復号される。
したがって,各被告製品においては,「暗号化された固定値」が復号化によっていかなる値になるかによって,データを記録した携帯電話機の自局電話番号が,データを読み出そうとする携帯電話機の自局電話番号に当てはまるか否かを判定している。
(イ)そして,「暗号化された固定値」は,前述のとおり,本件発明の「番号識別子」に該当するから,各被告製品における上記判定は,「番号識別子」によって他と区別されるデータを記録した携帯電話機の自局電話番号が,データを読み出そうとする携帯電話機の自局電話番号に当てはまるか否かを判定することと同じ意味を持つ。
(ウ)以上によれば,各被告製品は,「番号識別子が前記自局電話番号に該当するか否かを判定する判定手段」を備えており,構成要件B3を充足する。
ウ被告の主張に対する反論(ア)被告は,本件発明において,「識別子による識別」は,「識別子」18が厳密に所定のデータ等と一致するか否かによって判定される旨主張する。
しかしながら,構成要件B3は,「番号識別子が前記自局電話番号に厳密に一致するか否かを判定する判定手段を備えていること」を構成要件としているのではなく,「番号識別子が前記自局電話番号に該当するか否かを判定する判定手段を備えていること」を構成要件としている。
「番号識別子」と自局電話番号の厳密な一致を要件とする被告の上記主張は失当である。
(イ)被告は,自局電話番号を所定の規則でコード化したものを「番号識別子」とする場合(段落【0026】)でも,「番号識別子」に対し逆変換を行った上で自局電話番号と比較し,厳密に一致した場合が「該当」である旨主張する。
しかしながら,上記段落中で,そのような逆変換を行って自局電話番号と厳密に一致するかどうかを判定するなどという限定は一切されていない。
「番号識別子」から自局電話番号を「逆変換」しなくても,例えば,自局電話番号を所定の規則でコード化し,その値と外部記憶媒体から読み出した「番号識別子」とが一致するかどうかを判定することによって,「番号識別子」が自局電話番号に該当するか否かを判定することができるのであり,この場合には,「番号識別子」が自局電話番号に厳密に一致するか否かの判定は行われない。
(ウ)各被告製品においては,「暗号化された固定値」を正しく復号するためには,自局電話番号が同一でなければならない。
本件発明との対比において,「暗号化された固定値を正しく復号する」ことは,「自局電話番号が同一である」ことと,技術的に同義である。
19(3)争点1-c(各被告製品は,構成要件B4の「番号識別子が前記自局電話番号に該当しない場合に,前記記録読出し手段による当該データの読出しを禁止する読出し禁止手段」を充足するか)についてア各被告製品においては,コンテンツを再生する際,記録時の携帯電話機の自局電話番号等により生成された暗号鍵により「暗号化された固定値」(「番号識別子」)を,再生時の携帯電話機の自局電話番号等を用いて生成された復号鍵によって復号化し,その値が所定の「固定値」と一致しない場合(「番号識別子」が前記自局電話番号に該当しないと判定した場合)には,暗号化されたコンテンツ鍵及び暗号化されたコンテンツを外部記憶媒体(SDカード)から読み出さない。
したがって,各被告製品においては,「番号識別子である「暗号化された固定値」が前記自局電話番号に該当しない場合に,前記記録読出し手段による当該データの読出しを禁止する読出し禁止手段」を備えているから,構成要件B4を充足する。
イなお,構成要件B4は,「番号識別子」が自局電話番号に該当しない場合に読出しを禁止することを要件としているのであって,「番号識別子」が自局電話番号に該当する場合に必ず読出しを行うことまでを要件とするものではない。
被告は,各被告製品においては,自局電話番号が異なる場合には暗号鍵(復号鍵)が必ず異なるものであることを認めており,これは,自局電話番号が異なれば,「暗号化された固定値」から記録時の所定の固定値とは異なる値が必ず復号されることを意味するから,各被告製品が構成要件B4を充足することは明らかである。
(4)以上のとおり,各被告製品は,構成要件B2ないしB4をいずれも充足する。
〔被告の主張〕20(1)争点1-a(各被告製品は,構成要件B2の「前記自局電話番号を識別するための番号識別子を当該データと共に記録させる番号識別子付加手段」を充足するか)についてア「番号識別子」の意義について(ア)「前記自局電話番号を識別するための」というのは,「番号識別子」の目的を記載した部分である。問題は,「番号識別子」という構成の意味であり,「番号識別子」とは,自局電話番号を識別する「識別子」である。
「識別子」とは,「情報処理に用いられるデータなどの対象を一意的に識別する名前,記号(文字の集合,符号,コード)」を意味する。
「識別子」との用語は,通信,情報処理などの技術分野において用いられる技術用語であり,英語表現として「identifier」や「ID」が用いられる。
以上によれば,本件発明における「番号識別子」とは,「自局電話番号を一意的に識別する記号(符号)」を意味するものと解され,要するに,自局電話番号を表す名前やIDとしての記号である。
「番号識別子」は自局電話番号と何らかの対応関係を有するものを広く包含する概念ではないのである。
(イ)本件発明の特許請求の範囲には,「そのデータに関係付けられて記録された番号識別子が前記自局電話番号に該当するか否かを判定する判定手段」との記載がある。
本件発明においては,「番号識別子」は,「前記自局電話番号に該当するか否かが判定される」のであるから,自局電話番号に該当するか否かが判定できる記号でなければならない。
上記(ア)の解釈による「番号識別子」は,上記判定手段によって,自局電話番号を意味する記号であるか否かを判定することができるから,21「番号識別子」を上記(ア)のとおり解釈することは,本件発明の特許請求の範囲の記載とも整合する。
(ウ)本件明細書には,「番号識別子」の定義は明記されていないものの,「番号識別子」に関し,次の記載がある。
a「外部記憶媒体に記録されるデータには,自局電話番号に固有の番号識別子が関係付けられ,関係付けられた番号識別子が携帯電話機の自局電話番号に該当しない場合には,データの読出しが禁止される。」(段落【0006】)b「選択されたコンテンツデータがダウンロードデータであれば,自局番号記憶部34から携帯電話機10の自局電話番号を読み出して,当該コンテンツデータ内の所定アドレス位置(以下,自局番号挿入アドレスという)に自局電話番号を挿入し,・・・(中略)・・・メモリカード26へ記録する。」(段落【0019】)c「選択されたコンテンツデータがダウンロードデータであれば,このコンテンツデータの自局番号挿入アドレスを参照し,このアドレス位置に挿入された電話番号と,自局番号記憶部34に記憶された自局電話番号とが一致するかどうかを判別する(S128)。」(段落【0021】)d「以上説明したように,本実施形態では,・・・(中略)・・・ダウンロードデータであれば,自局電話番号をコンテンツデータに挿入して記録する。そして,メモリカード26からダウンロードデータを読み出す際は,コンテンツデータに挿入された電話番号が,自局番号記憶部34に記憶された自局電話番号に一致する場合にのみ,メモリカード26からのコンテンツデータの読出しが許可される。」(段落【0022】)e「上記実施形態では,自局電話番号・・・(中略)・・・そのもの22をダウンロードデータに挿入してメモリカード26に記録するものとしたが,これに限らず,自局電話番号・・・(中略)・・・を所定の規則でコード化したうえでダウンロードデータに挿入するようにしてもよい。」(段落【0026】)本件明細書においては,実施例は自局電話番号そのものが「番号識別子」であり,これに加えて,自局電話番号を所定の規則でコード化したものでもよいことが記載されているにすぎず,「番号識別子」の意義についてその余の記載はない。
自局電話番号は,自局電話番号を一意的に識別する記号である。また,「自局電話番号を所定の規則でコード化」したものは,自局電話番号を一意的に識別する記号を含んでいる(自局電話番号を所定のコードでコード化して「番号識別子」とすることが記載されている。所定の規則は常に一定であるから,「番号識別子」とされるコードは自局電話番号を一意的に表しているコードである。)。
以上によれば,本件明細書は「識別子」の一般的意義に従って記載されているといえ,これらの本件明細書中の記載に照らしても,「番号識別子」を上記(ア)のとおり解釈すべきである。
(エ)以上のとおり,「識別子」はシステムの中で一意的に定義されているものであるから,例えば,ある集団のシステムの中で構成員を識別する識別子として構成員の氏名を用いることができる。ある構成員Xが,相手ごとに別の名前を使っていたとすると(相手がAの場合は「a」,相手がBの場合は「b」という名前を使っていたような場合を想定する),相手Aに限定すれば,「a」はXを表していると考えることができるかもしれないものの,同じシステムの中で相手Bに対しては「a」はXを表していないから,「a」や「b」は,同システムにおいて,Xを他の構成員と識別する識別子ではないことになる。
23(オ)「識別子」であると言い得るためには,その内容が当該システムにおいて識別対象に対してあらかじめ一意的に定義されていることが必要である。
一意的に定義されているということは,システム中で異なる識別対象に対して異なる識別子の数値が与えられていることを意味し,あらかじめ定義されているということは,プログラムによる処理が行われる前にあらかじめ識別子の内容が決められているということを意味する。
イ各被告製品における「暗号化された固定値」は「番号識別子」には該当しないこと(ア)各被告製品の構成各被告製品においては,●(省略)●(イ)上記各被告製品の構成によれば,暗号化されたコンテンツデータに関係付けられてSDカードに記録されるのは,「暗号化された固定値」及び「暗号化されたコンテンツ鍵」であるが,そのいずれも,自局電話番号を一意的に表した記号,すなわち自局電話番号の名前,IDに相当するようなものではなく,しかも,自局電話番号を一意的に識別するコードではないから,本件発明における「番号識別子」に該当しない。
(ウ)各被告製品において,自局電話番号は,暗号鍵を生成するための演算において用いられているにすぎず,しかも,生成された暗号鍵はSDカードに記録されるものではない(各被告製品においては,自局電話番号を表した数値や自局電話番号を所定の規則でコード化したものは一切SDカードに記録されない。自局電話番号は携帯電話機内に記憶されたままであって,外部記憶媒体に記録されることはない。)。
それにもかかわらず,同一電話番号の携帯電話機でコンテンツデータを再生するように制御することができるのは,自局電話番号がその他の所定情報と共に暗号鍵の生成に関与しているからであり,これにより,24各被告製品においては,自局電話番号は携帯電話機内に保持したままで,自局電話番号及びその他の所定情報がすべて同一の携帯電話機でのみコンテンツデータの再生をすることができるのである。
(エ)「識別子」とは,識別対象を一意的に識別するためにあらかじめ定義されているのであり,当該定義に従って生成される識別子のデータが識別対象と一致するか否かを判定するものであるから,「識別子」であれば,そのデータから当該定義に基づいて識別対象を知ることができるはずである。
しかしながら,各被告製品においては,SDカードに記録される「暗号化された固定値」からは暗号化に用いられた暗号鍵を知ることはできないのであり,この事実からも,「暗号化された固定値」が「番号識別子」に該当しないことは明らかである。
すなわち,暗号化技術は,あるデータの内容を知られないようにするために,当該データに対して暗号鍵を用いた暗号化演算処理を施し,「暗号化されたデータ」とする技術である。「暗号化されたデータ」を知られても,暗号鍵(復号鍵)が知られなければ,「暗号化されたデータ」を復号して元のデータを得ることはできない。したがって,暗号鍵は「暗号化されたデータ」とは別に保管される。そして,暗号鍵は数学的に「暗号化されたデータ」からは解析し得ない値となっている。
これを各被告製品に当てはめると,「暗号化された固定値」は,これを解析しても「固定値」の暗号化に用いられた暗号鍵を知ることはできないから,当該暗号鍵の生成に用いられた電話番号及びその他の所定情報も「暗号化された固定値」からは知り得ないのであって,この意味(「暗号化された固定値」は自局電話番号と変換可能な対応関係にはなく,「暗号化された固定値」から自局電話番号を導き出すことはできないという意味)においても,「暗号化された固定値」は電話番号を識別25する「番号識別子」には該当しない。
(オ)また,「識別子」は識別する対象を一意的に識別するものであるから,「番号識別子」と自局電話番号は1対1に対応していなければならない。
しかしながら,各被告製品においては,●(省略)●そうすると,各被告製品における「暗号化された固定値」は,電話番号と1対1に対応していないから,この意味においても「番号識別子」には該当しない。
(カ)各被告製品における「暗号化された固定値」は,「電話番号及びその他の情報」によって生成される暗号鍵で暗号化された「固定値」のデータである。
このような構成の下では,電話番号が同一であっても,「その他の情報」が異なれば,所定の「固定値」に復号することができず,コンテンツデータを再生することはできない。すなわち,各被告製品において生成される暗号鍵(復号鍵)の値は自局電話番号だけでなく,「その他の情報」にも依存するのであるから,自局電話番号と「暗号化された固定値」とは1対1の対応関係にはなく,「暗号化された固定値」は自局電話番号を識別する機能を有さない。
この意味においても,「暗号化された固定値」は「番号識別子」には該当しない。
(キ)以上によれば,いずれにせよ,「暗号化された固定値」は「番号識別子」には該当しないから,各被告製品は,「自局電話番号を識別するための番号識別子を当該データと共に記録させる番号識別子付加手段」を備えておらず,構成要件B2を充足しない。
ウ原告の主張に対する反論(ア)原告は,「番号識別子」とは「特定の電話番号がある電話番号と同26じか違うかの区別ができるもの」である旨主張する。
上記解釈は,技術用語としての「識別子」の限定的な意義を無視して,「もの」と置き換えるものであって,不当な拡張解釈である。
「番号識別子」とは,原告が主張するような「結果的」に区別ができるものを意味しているのではなく,所定のデータ等を一意的に表していることによって,他のデータ等と区別することのできる文字列や数字であることを意味している。
(イ)原告の「番号識別子」の解釈は,本件発明における「番号識別子」の機能を述べているにすぎず,「番号識別子」がどのような構成のものであるかについて何ら明らかにしていない。原告のこの点に関する主張は,本件発明における番号識別子の機能を行い得る技術的手段は,すべて「番号識別子」の文言に包含されると言っているに等しく,失当である。
本件発明は,外部記憶媒体に記録したデータが,その記録を行った携帯電話機以外の電話機で利用されるのを禁止できるようにすること(段落【0004】)を目的としており,その目的の達成手段の一部として,「前記記録読出し手段が前記外部記憶媒体にデータを記録する際に,そのデータに関係付けて前記自局電話番号を識別するための番号識別子を当該データと共に記録させる番号識別子付加手段」を備えているというものである。
すなわち,本件発明は,記録を行った携帯電話機の自局電話番号を識別するための「番号識別子」を,当該データと関係付けて外部記憶媒体に記録させ,これを用いて上記目的を達成しようとするものであり,「番号識別子」の外部記憶媒体への記録が,本件発明の重要な構成となっているのである。
(ウ)原告は,「番号識別子」とは「自局電話番号を他の電話番号と見分27け,あるいは区別するためのもの」であり,各被告製品において自局電話番号が同一であれば,データを再生することができるという関係があれば,「暗号化された固定値」は本件発明の「番号識別子」に該当すると主張する。
「暗号化された固定値」が電話番号を識別するために定義されたデータとして生成されているかどうかではなく,被告製品の動作の結果,記録時と読出し時の自局電話番号が同一の場合にデータを再生することができるという結果が得られさえすれば,「暗号化された固定値」は本件発明の「番号識別子」であると主張しているのである。
このような主張は,本件発明の構成要件B2,B3による限定を無視した不当な拡大解釈である。
(エ)原告は,各被告製品において,1つの電話番号に対して生成される「暗号化された固定値」は1つであり,かつ,自局電話番号が異なる場合に「暗号化された固定値」が正しく復号できないことにより暗号化されたコンテンツデータの読出しができないことからすれば,「暗号化された固定値」が自局電話番号を識別する機能を有する識別子であることは明らかである旨主張する。
しかしながら,各被告製品において,自局電話番号が異なる場合に「暗号化された固定値」が正しく復号できないということは,当該携帯電話機が正しい復号鍵を有していないことによるものであり,「暗号化された固定値」が自局電話番号を一意的に識別することを意味するものではない。
(オ)「暗号化された固定値」は,ある暗号鍵を用い,所定のアルゴリズムによって「固定値」を暗号化したものである。もし,使用される暗号鍵と暗号化アルゴリズムが常に一定の内容であるならば,「暗号化された固定値」は「固定値」を一意的に識別する「固定値の識別子」である28といえる。この場合,「暗号化された固定値」を復号して得られたデータが所定の「固定値」と一致するか否かによって,「固定値」が識別される。
これに対し,各被告製品においては,暗号鍵が電話番号によって生成されるので,電話番号が異なれば暗号鍵は別の値となる。このように暗号鍵が一定の内容ではないために,「暗号化された固定値」が変化する場合は,「暗号化された固定値」は「固定値の識別子」であるとはいえない。元の「固定値」が同一であっても,「暗号化された固定値」は変化するから,「暗号化された固定値」が元の「固定値」を識別しているとはいえないのである。
以上のとおり,各被告製品における「暗号化された固定値」は,「固定値の識別子」ですらないのであるから,電話番号を暗号化して得られるデータでもない「暗号化された固定値」が「自局電話番号の識別子」に該当しないことは明らかである。
(カ)本件明細書中には,自局電話番号を所定の規則(変換しない場合を含む。)でコード化して「番号識別子」とすることが記載されている(段落【0026】)。
この場合,「番号識別子」が識別子である以上,「所定の規則」は常に一定である。データの読出しに当たっては,外部記憶媒体に記録された「番号識別子」のデータに対し「所定の規則」に対応する常に一定の逆変換を行って,自局電話番号と一致するかどうかを判断する。識別子であれば,この逆変換も常に一定の内容である。
これに対し,各被告製品においては,所定の「固定値」を暗号化する演算内容が電話番号によって変わる。データの読出しに当たって,電話番号が記録時と異なる携帯電話機では,「暗号化された固定値」が正しく復号できるかどうかを判断するが,それは記録時と読出し時で変換規29則(暗号演算の内容)が変わっていないかどうかを判断しているのである。
したがって,各被告製品においては,記録時に常に一定の「所定の規則」(変換しない場合を含む。)で「番号識別子」を生成し,読出し時には常に一定の規則で逆変換(しない場合を含む。)して自局電話番号と一致するかどうかを判断する本件発明とは異なる。
(キ)原告は,1つの「番号識別子」に1つの「自局電話番号」が対応すれば,その「番号識別子」により,これに対応する「自局電話番号」を他の電話番号と区別することができるから,必ずしも1つの「自局電話番号」に1つの「番号識別子」が対応する必要はない旨主張する。
例えば,本件発明の「番号識別子」として,自局電話番号の数値の末尾に2桁の10進数(00〜99のうち任意の1つ)を付加した数値と定義すれば,同一の電話番号に対して100通りの「番号識別子」のデータが生成され得る。具体的には,例えば,2桁の10進数が「37」であれば,自局電話番号「0901234567837」という「番号識別子」のデータが外部記憶媒体に記録される。再生時には,外部記憶媒体から「0901234567837」のデータを読み出して,末尾2桁を除いて,所定の自局電話番号と比較し,一致の有無を判定することができる。上記の定義による「番号識別子」は自局電話番号の識別機能を有する。これは,1つの識別対象(電話番号)に対して,複数の識別子データが生成され得るが,識別対象に対して識別子は一意的に,すなわち,異なる識別対象には異なる数値が割り当てられるように定義されているからである。
これに対し,各被告製品においては,電話番号とその他の情報によって暗号鍵が生成され,その暗号鍵によって暗号化された固定値がメモリカードに記録される。
30例えば,「その他の情報」が2桁の10進数(00〜99のうち任意の1つ)であったとして,自局電話番号の末尾に任意の2桁の10進数を付加することによって暗号鍵を生成したとする。各被告製品においては,メモリカードに記録されるのはこの数値ではなく,この数値を暗号鍵として暗号化した固定値のデータである。そして,再生時の携帯電話機が記録時と同一の電話番号と同一の2桁の10進数を有している場合にだけ,記録時の暗号鍵と同一の復号鍵が生成され,これにより「暗号化された固定値」を正しく復号することにより,コンテンツデータの再生が可能となる。すなわち,「暗号化された固定値」は,再生時の携帯電話機が復号鍵によって復号する対象データであり,記録時と同一の電話番号と「その他の情報」の両方を有していないと全く意味のない数値である。
「識別子」は識別対象を「一意的」に,すなわち「異なる識別対象には異なる数値が与えられるように」定義したものでなければならないが,そのことは必ずしも同一の識別対象に対応する識別子のデータが1つであることまでを必要としない。
各被告製品における「暗号化された固定値」は,そもそも電話番号を識別するために定義された数値ではなく,実際に電話番号を識別するための判定に使用される数値でもない。各被告製品において「暗号化された固定値」の数値がコンテンツごとに異なるのは,同一の電話番号に対する複数の識別子のデータが存在しているのではなく,再生時の携帯電話機が正しく復号することができた場合にのみ意味を有する数値がコンテンツごとに異なる数値として生成されているのである。
(2)争点1-b(各被告製品は,構成要件B3の「番号識別子が前記自局電話番号に該当するか否かを判定する判定手段」を充足するか)についてア「判定手段」の意義について31(ア)本件発明は,「前記記録読出し手段が前記外部記憶媒体からデータを読み出す前に,そのデータに関係付けられて記録された番号識別子が前記自局電話番号に該当するか否かを判定する判定手段」を有する。
「番号識別子」の意義は,前記(1)のとおりであるから,「判定手段」とは,データの記録を行った携帯電話機の自局電話番号自体,あるいは自局電話番号を所定の規則でコード化した記号のような,自局電話番号を一意的に表す記号が,「前記自局電話番号」に該当するか否かを判定する手段である。
そして,「該当するか否か」の判定は,「番号識別子」に対し所定の変換を行う場合があるとしても,最終的に自局電話番号と厳密に一致するか否かの判定を意味する。
「識別子」はコンピュータ処理において用いられ,所定のデータ等を他と区別するために用いられるから,識別の判定は厳密なものであり,「当てはまるかどうか」といった漠然とした意味ではない。
(イ)本件明細書には,コンテンツデータをメモリカードから読み出すにあたって,「このコンテンツデータの自局番号挿入アドレスを参照し,このアドレス位置に挿入された電話番号と,自局番号記憶部34に記憶された自局電話番号とが一致するかどうかを判別する(S128)。」と記載されている(段落【0021】)。ここで,「このアドレス位置に挿入された電話番号」はメモリカードに記録された「番号識別子」に相当し,コンテンツデータの読出しを行おうとする携帯電話機は,当該電話機の自局電話番号と,メモリカードに記録されている「番号識別子」,すなわち電話番号が一致するか否かを判定している。
本件明細書の実施例では,自局電話番号自体を番号識別子として用いている。この場合,外部記憶媒体に記録された番号識別子のデータと自局電話番号を比較して,両者が厳密に一致した場合が「該当」である。
32また,自局電話番号を所定の規則でコード化したものを番号識別子とする場合(段落【0026】)でも,外部記憶媒体から読み出した番号識別子に対し所定の規則に対応する逆変換を行った上で自局電話番号と比較して,厳密に一致した場合が「該当」である。
上記(ア)の解釈は,これら本件明細書の記載からも裏付けられる。
イ各被告製品は「判定手段」を備えないこと(ア)各被告製品における判定方法は,復号鍵を用いて「暗号化された固定値」を復号化し,復号した値が所定の固定値と一致するかどうかを判定するというものである。
復号鍵は,自局電話番号及びその他の情報から所定のアルゴリズムにより生成されるものであり,SDカードにデータの記録を行った携帯電話機の自局電話番号及びその他の情報と,データの読出しを行おうとする携帯電話機の自局電話番号及びその他の情報がすべて同一である場合には,記録を行った携帯電話機が記録に際して用いた暗号鍵と同一の復号鍵を得ることができる。
各被告製品においては,「暗号化された固定値」の復号値の判定によって,記録に用いられた暗号鍵と同一の復号鍵が得られたか否かを判断し,これによってそれ以降の復号化処理に進むか否かを決めているのであって,自局電話番号に該当するか否かの判定は行っていない。すなわち,データの読出しを行おうとする携帯電話機が外部記憶媒体に記録された「暗号化された固定値」によって自局電話番号を識別し,それによってデータの読出しの可否を判定しているのではなく,データの読出しを行おうとする携帯電話機が所定の電話番号その他の情報から正しい復号鍵を生成することができるか否かによってデータの読出しの可否を決定しているのである(「暗号化された固定値」を復号して自局電話番号に該当するか(一致するか)否かを判定しているわけではない。)。
33(イ)よって,各被告製品は,本件発明における「判定手段」を備えておらず,構成要件B3を充足しない。
(3)争点1-c(各被告製品は,構成要件B4の「番号識別子が前記自局電話番号に該当しない場合に,前記記録読出し手段による当該データの読出しを禁止する読出し禁止手段」を充足するか)についてア読出し禁止手段の意義本件発明は,「前記関係付けられた番号識別子が前記自局電話番号に該当しない場合に,前記記録読出し手段による当該データの読出しを禁止する読出し禁止手段」を有する。
上記読出し禁止手段とは,上記(2)の判定手段による判定の結果,番号識別子が「前記自局電話番号」に該当しないと判定された場合に,データの読出しを行わない手段を意味する。
イ充足性(ア)各被告製品においては,判定手段による判定の結果,「暗号化された固定値」を復号した値と所定の「固定値」とが一致すると判定された場合には,さらに暗号化されたコンテンツ鍵及び暗号化されたコンテンツデータ自体の復号化を行う一方,一致しないと判定された場合には以後の復号化を中止する。
すなわち,各被告製品においては,そもそも「番号識別子」が存在せず,「番号識別子」が自局電話番号に該当するか否かの判定も行っていない。
(イ)したがって,各被告製品には,本件発明における「読出し禁止手段」は存在せず,各被告製品は構成要件B4を充足しない。
(4)以上のとおり,各被告製品は,構成要件B2ないしB4をいずれも充足しない。
(5)本件発明と各被告製品との作用効果の違いについて34ア本件発明と各被告製品とは,自局電話番号を何らかの形で利用して,外部記憶媒体に記録したデータが,その記録を行った携帯電話機以外の携帯電話機で利用されるのを禁止するという目的の点では同じであるが,両者は,番号識別子を外部記憶媒体に記録するか否かという点での構成要件上の相違があるため,作用効果にも大きな相違がある。
イすなわち,本件発明においては,自局電話番号を識別する番号識別子を外部記憶媒体に記録するという構成を採用しているため,不正使用者が外部記憶媒体に記録されている番号識別子から当該自局電話番号を解読することが可能であるという問題がある。
これに対し,各被告製品においては,外部記憶媒体には「暗号化されたコンテンツ鍵」及び「暗号化された固定値」を記録するという構成を採用しているため,不正利用者が外部記憶媒体から自局電話番号を知ることはできないのである(不正利用者が,自局電話番号の情報を得るためには,外部記憶媒体に記録されている情報とは全く別の「暗号鍵」を入手し,しかも,それを生成した所定のアルゴリズムや,自局電話番号とともに暗号鍵の生成に用いられたその他の情報をすべて入手しなければ,自局電話番号の情報に到達することはできないのである。)。
2争点2(進歩性の有無(特許法29条2項))について〔被告の主張〕(1)本件発明は,?@周知の携帯電話機と特開平7-129475号公報(乙7。以下「乙7公報」という。)記載の技術とを組み合わせることにより(以下「無効理由1」という。),あるいは?A特開平11-191805号公報(乙10。以下「乙10公報」という。)記載の技術と特開昭62-222345号公報(乙11。以下「乙11公報」という。)記載の技術とを組み合わせることにより(以下「無効理由2」という。),容易に想到することが可能であったから,無効審判により無効とされるべきものであって,35本件特許権に基づく権利行使は許されない(同法104条の3)。
(2)無効理由1についてア周知の携帯電話機外部記憶媒体を着脱可能に装着する記憶媒体装着手段を有し,当該外部記憶媒体に対するデータの記録・読出しを行う手段を備える携帯電話機は,本件特許の出願日(平成12年6月23日)当時,当業者に周知であった。
上記事実は,乙第8,第14ないし第21号証により明らかである。
イ対比(ア)一致点本件発明とメモリカードを装着可能な携帯電話機とは,構成要件A1,A2,B1,Cの点で一致する。
(イ)相違点本件発明とメモリカードを装着可能な携帯電話機とは,構成要件B2ないしB4の点で相違する。
ウ周知の携帯電話機(メモリカードを装着可能な携帯電話機)に乙7公報記載の技術を組み合わせることによる容易想到(ア)技術課題携帯電話機に装着されるメモリカードに著作権の保護を必要とするデータが記録されるようになり,携帯電話機において,そのようなデータの著作権を保護する必要があるという技術課題は,本件特許の出願日当時,当業者に周知であった。
上記事実は,乙第8,第9,第15,第16及び第21号証により明らかである。
(イ)乙7公報には,次の構成による著作権保護技術が開示されている。
a電子ブックが外部記憶媒体にデータを記録する際に,そのデータに関係付けてその電子ブックが持つ固有の識別番号を当該データと共に36外部記憶媒体に記録させ,b外部記憶媒体からデータを読み出す前に,データと関係付けられて記録された識別番号が,データを読み出そうとする電子ブックの識別番号と一致するか否かを判定し,c前記データと関係付けられて記録された識別番号がデータを読み出そうとする電子ブックの識別番号と一致しない場合はデータの読出しを抑止する。
(ウ)上記aは構成要件B2に,bは構成要件B3に,cは構成要件B4にそれぞれ対応する。
(エ)乙7公報の著作権保護技術は,外部記憶媒体に記憶されたデータの著作権を保護することを目的とし,データと共に外部記憶媒体に記録されたデータを記録した電子機器の識別番号によってデータの読出しの可否を判定するものである。
前記のとおり,周知の携帯電話機においても,外部記憶媒体に記憶するデータの著作権を保護するという技術課題が存在し,かつ,データと共に外部記憶媒体に記録されたデータを記録した携帯電話機の識別番号によってデータの読出しの可否を判定することは,携帯電話機において容易に実現することができることであるから,当業者にとって,周知の携帯電話機に乙7公報で開示された著作権保護技術を適用することは容易であるといえる。
なお,乙7公報は電子ブックを対象とするものの,そこで開示された著作権保護技術は,その対象が電子ブックに限定されなければならない性質のものではない。外部記憶媒体を装着してデータの記録読出しを行うことができる電子機器一般に適用することができる技術であり,これを携帯電話機に適用する上での阻害要因は存在しない。
(オ)さらに,周知の携帯電話機に乙7公報の著作権保護技術を適用する37に当たって,電子機器の固有の識別番号に代えて携帯電話機の自局電話番号を用いることも容易である。
すなわち,周知の携帯電話機には各々の携帯電話機ごとに自局電話番号が割り当てられており,1つの電話番号が同時に複数の携帯電話機に割り当てられることはないから,自局電話番号は携帯電話機の識別番号であるといえ,携帯電話機の自局電話番号は乙7公報の「電子機器の固有の識別番号」の概念に含まれるものである。
そうすると,本件特許の出願日当時の当業者において,周知の携帯電話機に乙7公報の著作権保護技術を適用するに当たって,電子機器(携帯電話機)の固有の識別番号として自局電話番号を採用することは容易であったといえる。
なお,自局電話番号のほかに,携帯電話機の固有の識別番号として携帯電話機の製造番号も存在するとはいえ,このことから,携帯電話機の固有の識別番号として自局電話番号を採用することが困難であるとはいえない。
(カ)以上によれば,本件発明は,周知の携帯電話機に乙7公報記載の技術を組み合わせることにより容易に想到することが可能であったから,無効審判により無効とされるべきものである。
エ原告の主張に対する反論(ア)原告は,携帯電話機の機種変更の際に,自局電話番号は変更されないから変更後の携帯電話機においてもデータの読出しができるとして,製造番号よりも電話番号に優れた効果がある旨主張する。
しかしながら,機種変更の際に同一の電話番号が継続して使用されたとしても,変更後の携帯電話が本件発明を実施しない機種であれば,変更前の携帯電話機において記憶されたデータの読出しはできない。これは,本件発明において,電話番号が利用者個人を識別してデータの利用38の可否を判定しているのではなく,携帯電話機の識別が重要であることを示している。
しかも,携帯電話機の機種変更においては,変更前の携帯電話機の電話番号は消去され,同電話機で電話番号を継続使用するわけではないから,本件発明との関係においては,機種変更後の携帯電話機と変更前の携帯電話機とは同一性が保たれているといえる。
そうすると,自局電話番号は,変更前の携帯電話機との同一性が保たれている変更後の携帯電話機を,その他の携帯電話機と区別する固有の識別番号であるといえる。
機種変更が行われることがあっても,自局電話番号が「携帯電話機の固有の識別番号」であることに変わりはない。
(イ)原告は,「機種変更」,「番号ポータビリティ」,「電話番号変更」といった制度に照らし,電話番号は携帯電話機ごとに付与された番号ではなく,携帯電話機と1対1に対応する番号でもない旨主張する。
「機種変更」については,上記(ア)のとおり,自局電話番号は,変更前の携帯電話機との同一性が保たれている変更後の携帯電話機を,その他の携帯電話機と区別する固有の識別番号であるといえる。
「番号ポータビリティ」についても,電話会社が変更される点において機種変更とは異なるものの,変更前の携帯電話機の電話番号を変更後の携帯電話機が引き継いで,変更後の携帯電話機のみが当該電話番号を使用することになる点は機種変更と同じである。
また,「電話番号変更」においては,同一の携帯電話機に対して,新旧2つの異なる電話番号が付与されることになる。しかしながら,本件発明との関係においては,データを記録した携帯電話機の固有の識別番号が変更され,そのためにデータを記録した携帯電話機でもデータを読39み出すことができなくなることを意味するだけであり,自局電話番号が携帯電話機の固有の識別番号であることを否定するものではない。
「機種変更」,「番号ポータビリティ」,あるいは「電話番号変更」といった制度が存在するからといって,周知の携帯電話機に乙7公報の著作権保護技術を適用する際に,「電子機器の固有の識別番号」として自局電話番号を採用することが容易でないとはいえない。
(3)無効理由2についてア乙10公報の記載乙10公報には,次の記載がある。
(ア)「?B上記実施例では,「カード」の一例としてICカード5を用いた。ICカード5の場合には記憶手段がICを用いたメモリ5aであるが,詳しく言えば,マイクロプロセッサを備えてICメモリ5aへの書き込みも可能な(狭義の)ICカードと,集積回路としてICメモリ5aだけを含むメモリカードに分けられる。上記実施例で説明した内容を実現するだけであれば,メモリカードであってもよいが,マイクロプロセッサを備えてICメモリ5aへの書き込みも可能な(狭義の)ICカード5とすれば,さらに特別な効果がある。」(段落【0048】)(イ)「つまり,電話装置本体1の記憶部24に記憶させたメールデータをICカード5のメモリ5aに記憶させたり,操作部45を操作して新規に作成した電話番号を同じくメモリ5aに記憶させて電話帳機能にデータを追加することもできる。さらには,次のような処理も実行できる。
上記実施例では,電話装置本体1が装着されたICカード5の製造番号を記憶しておき,ICカード5の交換があったかどうかを判定していたが,逆に,ICカード5を電話装置本体1に装着した場合に,電話装置本体1の識別番号(例えば製造番号)をICカード5が受け取って,メモリ5aに記憶しておけば,装着した電話装置本体1の履歴が判る。こ40のようにすれば,過去の装着履歴で,前回も今回と同じ電話装置本体1に装着されていることが判れば,メモリ5a内のデータが改変されていることがないと推定されるため,データ内容を確認せずに所定の動作を行ってもよい。一方,過去の装着履歴で,前回は今回と異なる電話装置本体1に装着されていることが判った場合には,メモリ5a内のデータが改変されている可能性もあるので,データ内容を確認した上で,所定の動作を行うようにするといったことが考えられる。」(段落【0049】)(ウ)乙10公報において開示されている技術a乙10公報の請求項1には,「電話装置本体と,・・・(中略)・・・前記電話装置本体に着脱自在に装着されるカードとを備え」との記載がある。そして,段落【0048】では,「カード」として,マイクロプロセッサを備えてICメモリ5aへの書き込みも可能な(狭義の)ICカードが示されている。
したがって,乙10公報においては,外部記憶媒体である上記ICカードを着脱可能に装着することができる記憶媒体装着手段を有する電話装置が開示されている。
b乙10公報の段落【0049】では,「電話装置本体1の記憶部24に記憶させたメールデータをICカード5のメモリ5aに記憶させたり,操作部45を操作して新規に作成した電話番号を同じくメモリ5aに記憶させて電話帳機能にデータを追加することもできる」こと,すなわち,電話装置に装着された外部記憶媒体であるICカードに,メールデータや電話帳データを記憶させることができることが示されている。
乙10公報では,ICカードに記憶されたメールデータや電話帳データをICカードから読み出すことは明記されていないものの,これ41らのデータをICカードに記憶するのは後にこれをICカードから読み出して利用するためであるから,データの読出し手段が備わっている電話装置についての開示であることが自明である。
そして,乙10公報の「電話装置」には,自動車電話装置や,「同じく電話回線網に無線により接続される移動体用の電話装置である携帯電話装置(いわゆる携帯電話やPHS)」(段落【0018】,【0052】)が含まれる。
c乙10公報には,電話装置が自局電話番号を記憶することは明記されていない。しかしながら,電話装置である以上,当然に自局電話番号を記憶している。
また,段落【0049】には,「ICカード5を電話装置本体1に装着した場合に,電話装置本体1の識別番号(例えば製造番号)をICカード5が受け取って,メモリ5aに記憶しておけば」との記載がある。当該電話装置は,ICカードが装着されたときに,そのカードに対し電話装置の自らの識別番号を送信する前提として,当該電話装置が自己の識別番号を記憶していることが不可欠である。そして,電話装置の識別番号については,段落【0049】では製造番号が例示されているものの,自局電話番号も電話装置の識別番号として自明である。さらに,段落【0047】では,ICカードの識別情報についてではあるものの,その製造番号だけでなく,電話番号も明示されている。
したがって,乙10公報には,当該電話装置の電話番号もその識別番号として実質的に記載されているといえる。
d乙10公報には,電話装置の識別番号がICカードに記憶されるメールデータや電話帳データに関係付けてICカードに記録されることは明記されていない。
42しかしながら,段落【0049】には,「電話装置本体1の識別番号・・・(中略)・・・を・・・(中略)・・・メモリ5aに記憶しておけば,装着した電話装置本体1の履歴が判る。このようにすれば,過去の装着履歴で,前回も今回と同じ電話装置本体1に装着されていることが判れば,メモリ5a内のデータが改変されていることがないと推定されるため,データ内容を確認せずに所定の動作を行ってもよい。一方,過去の装着履歴で,前回は今回と異なる電話装置本体1に装着されていることが判った場合には,メモリ5a内のデータが改変されている可能性もあるので,データ内容を確認した上で,所定の動作を行うようにするといったことが考えられる。」と記載されており,ICカードに記憶されたデータは,前回装着されたのと同一の電話装置において使用することが意図されている。仮に,その電話装置の識別番号がICカードに記憶されるデータと関係付けないで記憶されるとしたら,前記識別番号に基づいてカードに装着された電話装置の装着履歴を判断しても,その結果を当該データの利用制限のために使用することができず,カードに電話装置の識別番号を記憶させても無意味になってしまう。
そうすると,電話装置の識別番号がICカード内にメールデータや電話帳データと関係付けて記憶されることは,乙10公報に実質的に記載されているといえる。
したがって,乙10公報には,電話装置に装着された外部記憶媒体であるICカードに,当該電話装置の識別番号(当該電話装置の電話番号を含む。)を,メールデータや電話帳データと関係付けて当該データとともに記憶させることが開示されている。
e乙10公報の段落【0049】には,当該電話装置がICカードの装着時に,電話装置本体の識別番号をICカードに記憶することを前43提として,その後のICカードに記憶された識別番号の利用方法に関して,「このようにすれば,過去の装着履歴で,前回も今回と同じ電話装置本体1に装着されていることが判れば,メモリ5a内のデータが改変されていることがないと推定されるため,データ内容を確認せずに所定の動作を行ってもよい。」との記載がある。すなわち,ICカードに記録された,同カードが前回装着された電話装置の識別番号を,今回装着された電話装置の識別番号と対比し,それに該当するか否かを判定することが示されている。そして,このような判定は,「所定の動作」,すなわち,記憶されているデータのアクセスや利用などに先立って行われる。
したがって,乙10公報には,電話装置がICカードからメールデータや電話帳データを読み出す前に,そのデータに関係付けられている電話装置の識別番号(電話番号を含む。)が当該電話装置の識別番号に該当するかどうかを判定する手段を備えていることが開示されている。
f乙10公報の段落【0049】には,ICカードに記憶された,当該ICカードが前回装着された電話装置の識別番号と,当該ICカードが今回装着されている電話装置の識別番号とが一致しない場合には,「メモリ5a内のデータが改変されている可能性もあるので,データ内容を確認した上で,所定の動作を行うようにするといったことが考えられる。」と記載されている。また,段落【0046】には,「上記実施例では,データを消去することで他人に私的なデータが知られることを防止したが,・・・(中略)・・・例えば該当するデータ記憶領域に対してアクセスを禁止するような制御を行うことで対応してもよい」との記載がある。
これらの記載に照らせば,乙10公報には,ICカードに記憶され44た,前回装着された電話装置の識別番号と,当該ICカードが今回装着されている電話装置の識別番号とが一致しない場合の動作として,ICカードに記憶されたデータの読出しを禁止することが示唆されている。
g電話装置には携帯電話装置も含まれる。
イ対比(ア)上記ア(ウ)のaは構成要件A1に,bは構成要件A2に,cは構成要件B1に,dは構成要件B2に,eは構成要件B3に,fは構成要件B4に,gは構成要件Cにそれぞれ対応する。
(イ)相違点本件発明と乙10公報に記載された技術とは構成要件A1,A2,B1ないしB3,Cの点で一致し,構成要件B4の点で相違するとも考えられる。
すなわち,乙10公報には,ICカードに記憶された,前回装着された電話装置の識別番号と,当該ICカードが今回装着されている電話装置の識別番号とが一致しない場合に,ICカードに記憶されたデータの読出しを禁止することは明示されていない。
ウ乙10公報記載の技術に乙11公報記載の技術を組み合わせることによる容易想到(ア)乙11公報の記載乙11公報には,情報記憶媒体に情報を入力したり,その媒体に記憶されている情報の再生を行ったりする情報処理装置に係る発明であり,情報記憶媒体内の情報の機密を保持することを目的として,情報記憶媒体に情報を記録する際,当該情報処理装置の「固有データ」を媒体に付し,この媒体から情報を読み出す場合には,情報処理装置の固有データと情報処理媒体に付されているデータとが一致するか否かを判定し,一45致する場合にのみ媒体内の情報の読出しを可能にすることが開示されている。
乙11公報では,情報処理媒体である光ディスクに書き込まれた装置データと,情報処理装置内の固有データを変換して得られた装置データとが一致するかどうかを判定回路にて判定し,一致する場合には使用可能の表示を行うとともに,当該光ディスク内の情報を読み出し,再生する。そして,両者が一致しない場合には,この光ディスクはこの情報処理装置では使用できない旨のエラー表示を行うとともに,動作を終了するため,その光ディスク内の情報の再生を行うことができない。
すなわち,乙11公報には,装置データが一致しない場合には,光ディスク内の情報の読出しが禁止されることが示されている。
(イ)乙10公報記載の技術と乙11公報記載の技術とは,いずれもデータの記録された外部記憶媒体に当該データと関係付けて記録された装置の識別固有データが,当該データを読み出そうとする装置の識別固有データと一致しない場合に,前記外部記憶媒体に記録されたデータの当該装置による使用を禁止するものである点で共通する。
したがって,本件特許の出願当時,当業者が,乙10公報記載の技術に,乙11公報記載の「外部記憶媒体からのデータの読出しを禁止する」技術を適用することは容易であったといえる。
(ウ)以上によれば,本件発明は,乙10公報記載の技術に乙11公報記載の技術を組み合わせることにより容易に想到することが可能であったから,無効審判により無効とされるべきものである。
エ原告の主張に対する反論(ア)原告は,本件発明の課題,目的が携帯電話向けのコンテンツ提供サービスにおけるコンテンツの著作権保護にあるのに対し,乙10公報の課題,目的はこれとは異なる旨主張する。
46ところで,乙10公報は,携帯電話を含む電話装置において使用される伝言メッセージやメールデータなど私的性格の高いデータのセキュリティを課題,目的としている。
本件発明と乙10公報とは,課題,目的に相違があっても,不正なデータの利用を禁止するための手段の構成は同じであり,上記の相違は,本件発明の容易推考性の認定には影響しない。
(イ)原告は,電話番号と携帯電話機本体ごとに付与されている識別番号とは全く異なり,本件発明は自局電話番号を識別する番号識別子を採用することによって,携帯電話機本体ごとに付与される固有の番号を採用するのでは奏し得ない効果を奏する旨主張する。
しかしながら,乙10公報には,電話装置が携帯電話であることが記載され,電話装置本体の識別番号として電話番号を採用することも示唆されている。
そうである以上,携帯電話本体の機種変更が行われた場合に,外部記憶媒体に記録された番号識別子が引き継がれるという効果は,乙10公報の技術においても同様に生じ得る。
〔原告の主張〕(1)被告の主張は否認ないし争う。
本件発明は,電話番号を識別子として用いることにより,携帯電話機の機種を変更した場合にも,同じ電話番号を引き継ぐことにより,変更後の機種でメモリカードからダウンロードデータを読み込むことを可能にしたという顕著な効果を有し,進歩性が十分に認められるものである。
本件発明の核心的構成は,携帯電話機の自局電話番号を用いてデータ読み取りの可否を判定することで,コンテンツ著作権の保護を図るとともに,携帯電話機の機種変更をした場合も,許諾を受けたコンテンツデータを変更後の機種で利用することができるようにすることである。
47被告が引用する文献には,上記構成が何ら開示も,示唆もされていないから,本件特許出願当時の当業者が本件発明に想到することは不可能である。
(2)無効理由1について本件特許の出願当時の当業者にとって,携帯電話機に乙7公報の電子ブックソフトのコピー防止装置を適用することは容易ではなく,また,乙7公報の電子ブックの固有の識別番号に代えて携帯電話機の自局電話番号を識別コードとして採用することも容易ではない。
よって,本件発明は,周知の携帯電話機(乙第8,第14ないし第19号証に示されるメモリカード対応の携帯電話機)と乙7公報記載の技術から,本件特許出願当時の当業者が容易に想到することができたものではない。
ア携帯電話機に乙7公報記載の技術を適用することの困難性(ア)乙第15号証において開示されているのは,音楽配信業者が,著作権保護機能を備えるメモリカードをあらかじめ配布しておき,後に利用権のみをユーザに購入させる技術である。乙第16号証に記載された技術も,音楽配信業者が,著作権保護機能を備えるメモリカードを用いてユーザに音楽を配信し,これとは独立してライセンス鍵を流通させることで著作権保護を図る技術である。
さらに,乙第17及び第18号証も,メモリカードに記録したコンテンツデータの著作権保護に言及しているものの,ここにいう著作権保護技術とは,乙第15及び第16号証と同様に,著作権保護機能を有するメモリカードを用いる種類のものである。
(イ)これに対し,乙7公報の電子ブックソフトのコピー防止装置は,電子ブックの利用者が電子ブックソフトを入手した後(電子ブックソフトの供給業者がユーザに電子ブックソフトを供給した後)に,著作権保護機能を備えない一般的な外部記憶媒体であっても,利用者がそのソフトを外部記憶媒体にコピーすることを防止することができる技術である。
48(ウ)以上のとおり,乙7公報記載の技術は,電子ブックソフトの供給業者がユーザに電子ブックソフトを供給した後に,そのソフトのコピーを防止するものであって,乙第15及び第16号証のように,音楽配信業者がユーザに音楽を配信する際に,著作権保護を図るものとは,適用場面が根本的に相違している。
このような適用場面の相違は,乙7公報記載の技術を携帯電話機に適用しようとすることについて,動機付けにならず,阻害事由を構成するといえる。
(エ)しかも,乙第15及び第16号証に開示された技術は,著作権保護機能を有するメモリカードを用いることによって,ダウンロードされるコンテンツデータの著作権保護を図ろうとするものであり,乙第17及び第18号証からも裏付けられるように,「メモリカードに著作権保護機能を持たせる」ことにより,コンテンツの著作権保護を実現することが,本件特許の出願当時の技術常識であった。
乙7公報記載の技術は,このような技術常識に反し,著作権保護機能を有する記憶媒体を前提とすることなく著作権保護を図ることができるものであるから,これを携帯電話機に適用しようとする動機は生じ得ない。
(オ)以上のとおり,周知の携帯電話機に乙7公報記載の技術(電子ブックソフトのコピー防止装置)を適用することが容易であるとする被告の主張は失当である。
イ乙7公報記載の電子ブックの固有の識別番号に対応して携帯電話機の自局電話番号を識別番号として採用することの困難性(ア)携帯電話機における電話番号が携帯電話機の固有の識別番号と全く異なるものであることは,携帯電話サービスにおける「機種変更」,「番号ポータビリティ」,「電話番号変更」等の手続をみれば,明らか49である。
(イ)携帯電話の機種変更を行った場合,機種変更の前後において,携帯電話機自体が変わるため,「携帯電話機に固有の識別番号」は変更されるのに対し,「自局電話番号」は機種変更前後の携帯電話機間で引き継がれて変更されない。
上記に照らしても,自局電話番号と携帯電話機の識別番号とは明確に異なるものであり,携帯電話機の自局電話番号が乙7公報の開示する「電子ブック固有の識別番号」に含まれないことは明らかである。
また,同じ電話番号を異なる携帯電話機に割り当てることができ,同じ携帯電話機に異なる電話番号を割り当てることもできるのであるから,自局電話番号は,携帯電話機と1対1に対応するものではなく,携帯電話機の固有の識別番号ではない。
したがって,自局電話番号が携帯電話機の識別番号であるとする被告の主張は誤りである。
(ウ)本件発明においては,自局電話番号の番号識別子を用いてデータ読出しの可否を判定しているものの,電話番号は電話会社と契約した人に割り当てられる番号である。
本件発明において,携帯電話機に記録された自局電話番号の番号識別子を用いてデータ読出しの可否を判定することは,自局電話番号を通してデータを利用することができる人であるか否かを判定していることにほかならない。
したがって,自局電話番号はデータを利用することができる利用者個人の識別をしていないから携帯電話機の識別子であるという被告の主張も誤りである。
(エ)本件発明では,データ読出しの可否を自局電話番号の番号識別子で判定するため,電話番号の変更前に外部記憶媒体に記憶したデータは,50電話番号の変更後には読み出すことができなくなる。
このように,本件発明において,電話番号を変更した場合に,変更前に記録したデータを読み出すことができなくなることは,電話番号と携帯電話機の固有の識別番号とが異なるものであることを端的に示している。
(オ)以上のとおり,電話番号は携帯電話機の固有の識別番号ではないから,電話番号を携帯電話機の固有の識別番号として採用することが容易であるとする被告の主張は失当である。
本件発明の進歩性は,「電子機器の固有の識別番号」として自局電話番号を選択することが容易かどうかの問題ではなく,「電子機器の固有の識別番号」に代えて自局電話番号を採用することが容易かどうかの問題である。
そして,電話番号と携帯電話機の固有の識別番号とは意味も役割も全く異なるものであり,また,被告が提出する公知文献のどこにも,携帯電話機の識別番号として自局電話番号を用いることは開示されていない。
しかも,本件発明によれば,自局電話番号の番号識別子を採用することによって,携帯電話の機種変更を行った場合に機種変更前に記録したデータを利用することを可能にし,これにより,コンテンツの著作者と利用者の利益を調整するという,従来解決されていなかった困難な問題を解決することができるという極めて優れた効果を奏する。
したがって,たとえ,携帯電話機に乙7公報の電子ブックソフトのコピー防止装置を適用したとしても,乙7公報の「電子機器の固有の識別番号」に代えて自局電話番号を採用することは明らかに困難である。
(3)無効理由2についてア乙10公報には,メモリに記録されているデータごとに識別情報を関係付けて記録することは開示されていないこと51(ア)乙10公報の段落【0049】には,電話装置本体の識別番号(例えば製造番号)をメモリに記憶しておけば,装着した電話装置本体の履歴が判ると記載されているにすぎず,識別番号をデータに関係付けて記憶することなど一切記載も示唆もされていない。
(イ)本件発明は「外部記憶媒体にデータを記録する際に,そのデータに関係付けて前記自局電話番号を識別するための番号識別子を当該データと共に記録させる番号識別子付加手段」を要件としており,本件発明では,外部記憶媒体にデータを記録する都度,そのデータに関係付けて番号識別子を記録することになる。
乙10公報には,メモリに記憶されるデータごとに関係付けて番号識別子が記憶されることも,データに関係付けて番号識別子が記録されることも一切開示されていない。
イ乙10公報には,電話装置の電話番号を識別番号として用いることは開示されていないこと(ア)上記(2)で述べたとおり,電話番号と携帯電話機の識別番号とは異なるものである。
(イ)乙10公報の段落【0049】に「例えば製造番号」との記載があるからといって,この記載から電話番号を識別番号として用いることが示唆されているとはいえない。
乙10公報の段落【0047】に「ICカード5の所有者に対応した電話番号」と記載されていることから分かるように,乙10公報においては,電話番号は利用者に対応するものとして記載されている。他方,段落【0049】に記載された「識別番号」はあくまでも電話装置の識別番号であり,乙10公報においては,1台の電話装置を複数人が利用することを想定しているから,電話装置の識別番号は電話装置に対応するものであって,利用者に対応するものではなく,段落【0049】の52「例えば製造番号」が示唆する他の識別番号に,利用者に対応するべき電話番号が含まれるはずがない(すなわち,乙10公報の技術は,1台の電話を複数人で共同で利用する場合に,共同利用者ごとの特有のデータについて他人がアクセスすることができないようにすることを目的としている。仮に,識別情報として,カードの識別番号の代わりに,カードが装着された電話装置の電話番号を用いれば,1台の電話の共有者のカードに記憶された識別情報はすべて一致してしまい,上記目的を達することができないから,カードに記憶される識別情報として電話番号を用いることはあり得ない。)。
(ウ)よって,乙10公報には,電話装置の電話番号を識別番号として用いることが示唆されているとの被告の主張は誤りである。
ウ以上によれば,乙10公報には,メモリに記録されているデータごとに識別情報を関係付けて記録することも,電話装置の電話番号を識別番号として用いることも一切開示されていないから,乙10公報記載の技術に乙11公報記載の技術を組み合わせたとしても,本件発明に容易に想到することはない。
3争点3(各被告製品の構成の容易推考による本件特許の非侵害)について〔被告の主張〕(1)仮に各被告製品が本件発明の技術的範囲に属するとしても,各被告製品の構成は,本件特許の出願日より前の公知技術から容易に推考することができるから,各被告製品は本件特許を侵害しない(自由技術の抗弁)。
(2)すなわち,本件特許の出願日(平成12年6月23日)当時,メモリカードを装着することができる携帯電話機は周知であった。また,上記当時,携帯電話機に装着されるメモリカードに著作権の保護を必要とする映像,音楽等のデータが記録されるようになり,携帯電話機において,そのようなデータの著作権を保護する必要があるという技術課題も周知であった。
53上記周知の技術課題を解決するため,特開平3-83132号公報(乙12。以下「乙12公報」という。)に記載された,正規のユーザのみが暗号化されたソフトウェアを利用することができるようにする目的のために,当該ソフトウェアを暗号化して記録すると共にその復号鍵を所定のユーザ識別情報IDを用いて生成した暗号鍵で暗号化して提供し,当該IDを有し,復号鍵を生成することができる装置においてのみソフトウェアの復号実行を可能とする技術を,上記周知の携帯電話機に適用し,当該データを暗号化して記録すると共にその復号鍵を所定のユーザIDを用いて生成した暗号鍵で暗号化して記録し,当該IDを有し,復号鍵を生成することができる携帯電話機においてのみ当該データを復号再生可能とし,その際,ユーザ識別情報IDに対応して携帯電話機の自局電話番号を用いることによって,各被告製品の構成を推考することは,本件特許の出願日当時,当業者にとって容易であった。
〔原告の主張〕(1)被告の主張は否認ないし争う。
被告の主張(自由技術の抗弁)は,現行法上その根拠を欠き,かつ,これを適法とする実益もないから不適法であり,主張自体失当である。
(2)乙12公報のソフトウェア保護制御方式を携帯電話機に適用することの困難性についてア乙12公報のソフトウェア保護制御方式では,ユーザ識別情報に基づく許諾情報がソフトウェア提供者側で生成されてユーザに提供され,この許諾情報の提供を受けた正規のユーザのみがソフトウェアを利用することができるようにする。
これに対して,各被告製品で採用されている著作権保護技術では,ユーザが著作権保護の対象となるデータを携帯電話機へのダウンロードなどによって取得したことを前提に,そのデータが携帯電話機によりメモリカー54ドにコピーされて,電話番号の異なる携帯電話機で不正利用されるのを防止する技術である。
以上のとおり,乙12公報のソフトウェア保護制御方式は,ソフトウェア提供者が利用者にソフトウェアを提供する際に,正規のユーザ以外による不正利用を防止して著作権保護を行うための技術であるのに対して,各被告製品の著作権保護技術は,データがユーザに提供された後,そのデータのメモリカードへのコピーによる不正利用を防止するための技術である点で,両者はその適用場面が全く異なる著作権保護技術である。
イ乙12公報記載の技術と各被告製品の技術とでは,次のとおり,具体的な構成が異なっている。
(ア)乙12公報のソフトウェア保護制御方式では,ソフトウェアを外部記憶媒体に記録する装置と,ソフトウェアを外部記憶媒体から読み出す装置とは別個の装置である。
これに対して,各被告製品の著作権保護技術では,携帯電話機におけるメモリカードへのデータのコピーによる不正利用を防止するものであるため,メモリカードへのデータの記録も読出しも同じ1つの携帯電話機で行われる。
(イ)乙12公報のソフトウェア保護制御方式では,暗号化したソフトウェアと許諾情報とを別個の記憶媒体に記録してユーザに提供する構成である。
これに対して,各被告製品の著作権保護技術では,データと許諾情報(暗号化された固定値)とが同じ記憶媒体(メモリカード)に記憶される。
ウ以上のとおり,乙12公報のソフトウェア保護制御方式と各被告製品とは,その適用場面及び技術的構成を全く異にするものであるから,乙12公報のソフトウェア保護制御方式と各被告製品の採用する著作権保護技術55とが同じであり,乙12公報記載の技術を周知の携帯電話機に適用することは容易であるとの被告の主張は失当である。
(3)乙12公報のユーザ識別情報として携帯電話機の自局電話番号を用いることの困難性乙12公報のユーザ識別情報は,ユーザ側の装置に拘束されることなく入力することができなければならないのに対し,自局電話番号は,携帯電話機(ユーザ側の装置)と結びついた番号である点で両者は相反するものであるから,乙12公報のユーザ識別情報に対応して自局電話番号を用いることは容易に想到し得るものではない。
4争点4(損害額)について〔原告の主張〕(1)被告製品1についてア被告は,被告製品1を,1か月当たり少なくとも6万9000台販売しており,平成18年2月22日から同年10月22日までの8か月間の販売台数は,55万2000台(6万9000台×8か月)を下らない。
イ被告製品1の販売価格は,1台当たり5万円を超えることから,平成18年2月22日から同年10月22日までの8か月間における被告による被告製品1の総販売額は,276億円を下らない。
ウ本件発明の実施に対して受けるべき金銭の額は,被告製品1の販売額の5パーセントを下らない。
原告は,本件特許発明実施に対し受けるべき金銭の額を,原告が受けた損害の額として,その賠償を請求することができる(特許法102条3項)。
したがって,原告の損害額は,276億円の5パーセントに当たる13億8000万円を下らない。
(2)被告製品2について56ア被告は,被告製品2を,1か月当たり少なくとも6万9000台販売しており,平成18年9月29日から同年12月29日までの3か月間の販売台数は,20万7000台(6万9000台×3か月)を下らない。
イ被告製品2の販売価格は,1台当たり5万円を超えることから,平成18年9月29日から同年12月29日までの3か月間における被告による被告製品2の総販売額は,103億5000万円を下らない。
ウ本件発明の実施に対して受けるべき金銭の額は,被告製品2の販売額の5パーセントを下らない。
原告は,本件特許発明実施に対し受けるべき金銭の額を,原告が受けた損害の額として,その賠償を請求することができる(特許法102条3項)。
したがって,原告の損害額は,103億5000万円の5パーセントに当たる5億1750万円を下らない。
(3)被告製品3についてア被告は,被告製品3を,1か月当たり少なくとも6万9000台販売しており,平成18年9月21日から同年12月21日までの3か月間の販売台数は,20万7000台(6万9000台×3か月)を下らない。
イ被告製品3の販売価格は,1台当たり5万円を超えることから,平成18年9月21日から同年12月21日までの3か月間における被告による被告製品3の総販売額は,103億5000万円を下らない。
ウ本件発明の実施に対して受けるべき金銭の額は,被告製品3の販売額の5パーセントを下らない。
原告は,本件特許発明実施に対し受けるべき金銭の額を,原告が受けた損害の額として,その賠償を請求することができる(特許法102条3項)。
したがって,原告の損害額は,103億5000万円の5パーセントに57当たる5億1750万円を下らない。
(4)被告製品4についてア被告は,被告製品4を,1か月当たり少なくとも6万9000台販売しており,平成18年9月21日から同年12月21日までの3か月間の販売台数は,20万7000台(6万9000台×3か月)を下らない。
イ被告製品4の販売価格は,1台当たり5万円を超えることから,平成18年9月21日から同年12月21日までの3か月間における被告による被告製品4の総販売額は,103億5000万円を下らない。
ウ本件発明の実施に対して受けるべき金銭の額は,被告製品4の販売額の5パーセントを下らない。
原告は,本件特許発明実施に対し受けるべき金銭の額を,原告が受けた損害の額として,その賠償を請求することができる(特許法102条3項)。
したがって,原告の損害額は,103億5000万円の5パーセントに当たる5億1750万円を下らない。
〔被告の主張〕原告の主張は否認ないし争う。
第4当裁判所の判断1争点1(各被告製品は構成要件B2ないしB4を充足するか)について構成要件B2の「前記記録読出し手段が前記外部記憶媒体にデータを記録する際に,そのデータに関係付けて前記自局電話番号を識別するための番号識別子を当該データと共に記録させる番号識別子付加手段と,」(争点1-a),構成要件B3の「前記記録読出し手段が前記外部記憶媒体からデータを読み出す前に,そのデータに関係付けられて記録された番号識別子が前記自局電話番号に該当するか否かを判定する判定手段と,」(争点1-b),構成要件B4の「前記関係付けられた番号識別子が前記自局電話番号に該当しない場合に,58前記記録読出し手段による当該データの読出しを禁止する読出し禁止手段とを備える」(争点1-c)は,いずれも「番号識別子」をその構成要素としていることから,各被告製品が構成要件B2ないしB4を充足するか否かは,記録読出し手段がSDカード(外部記憶媒体)にコンテンツ(データ)を記録する際に,そのコンテンツと共にSDカードに記録される「暗号化された固定値」が,上記「番号識別子」に該当するか否かによるといえる。
そこで,まず,「暗号化された固定値」が「番号識別子」に該当するか否かについて検討する。
(1)「番号識別子」の意義ア本件明細書(甲2)の特許請求の範囲の記載請求項1には,「前記自局電話番号を識別するための番号識別子」との記載がある。
ここに「前記自局電話番号」とは,請求項1の記載から,「外部記憶媒体に対するデータの記録・読出しを行う携帯電話機の電話番号」を指すことが明らかである。
イ「識別子」の意義(ア)「識別」とは,「?@みわけること。?A人または動物が,質的または量的に異なる二つの刺激を区別し得ること。弁別。」(広辞苑第6版),「物事の相違を見分けること。」(大辞林第3版。甲12)を意味する。
「識別子」とは,「(identifier)コンピューターで,対象を一意に識別するために使われる記号列。」(広辞苑第6版),「〔identifier〕コンピューターで扱う装置やプログラム,あるいはデータを互いに区別するために使われる文字列や数字。」(大辞林第3版。甲12)を意味する。
また,「一意」とは,「?@一つの考え。また同じ考え。?A(副詞的に)一つの事に精神を集中するさま。ひたすら。?B(unique)ただ一通59りに定められること。」(広辞苑第6版),「?@意味や値が一つに確定していること。?A(副)ひたすら,一つの事にだけ心を集中するさま。
一意的(形動)意味や値が一つに確定しているさま。」(大辞林第3版。
甲21)を意味する。
さらに,「ため」とは,「(助詞「の」「が」或いは用語の連体形につづく)?@利益。(中略)?A(利益を期する意から)目的。」(広辞苑第6版)を意味する。
(イ)「識別子」については,「JIS工業用語大辞典第2版」(乙1。
1987年11月発行)では,「〔identifier〕言語対象物を名付ける字句単位。(例)変数,配列,レコード,ラベル,手続きなどの名前。」と,「MARUZENIEEE電気・電子用語辞典」(乙2。
平成元年9月発行)では,「〔identifier〕(1)名付け,表示,位置指定に使われる記号。識別子はデータ構造,データ項目あるいはプログラムロケーション等に関係づけて使われる。(2)データ項目を識別しまたは名付け,ときにはそのデータの性質を示すために使われる文字または文字の集り。」と,「ネットワーク・情報用語辞典」(乙4。1989年10月発行)では,「identifier,ID?@データの項目を識別し,または名づけ,ときにはそのデータの性質を示すために使われる文字/文字の集合体。?Aデータが格納されている/格納される場所を一義的にさす名称,また,データ項目を特定して参照する場所。」と,「情報処理用語IBM」(乙5。第17刷1981年2月)では,「identifier識別子,識別名データの本体を識別したり,指示したり,または名付けることを目的とした記号。」と定義されている。
(ウ)以上によれば,「識別子」とは,「対象を一意に識別するために使われる記号」,すなわち「対象をただ一通りに見分けることを目的として使われる記号」を意味するものと解される。
60ウ上記「前記自局電話番号を識別するための番号識別子」との請求項の記載及び上記「識別子」の意義によれば,本件発明における「番号識別子」とは,「自局電話番号(外部記憶媒体に対するデータの記録・読出しを行う携帯電話機の電話番号)をただ一通りに見分けることを目的として使われる記号」を意味するものと解するのが相当である。
上記解釈は,構成要件B3の「番号識別子が前記自局電話番号に該当するか否かを判定する判定手段」との記載にも整合するものといえる。
すなわち,「番号識別子が前記自局電話番号に該当するか否かを判定する」とは,番号識別子を判定対象として,当該番号識別子が,自局電話番号(ここでは,外部記憶媒体に対するデータの読出しを行う携帯電話機の電話番号を指す。)に該当するか否かを判定することを意味するから,「番号識別子」は,自局電話番号に該当するか否かの判定の対象たり得るものである必要がある。「番号識別子」とは,上記解釈によれば,「自局電話番号をただ一通りに見分けることを目的として使われる記号」であるから,自局電話番号に該当するか否かの判定の対象たり得るものであるといえる。
エ本件明細書の発明の詳細な説明の記載(ア)本件明細書の発明の詳細な説明には次の記載がある。
a【発明が解決しようとする課題】(a)「コンテンツ提供サービスにおいて,特に,コンテンツデータが有償で提供される場合,利用者が,メモリカードに保存したコンテンツを他のメモリカードにコピーして別の電話機で利用したり,メモリカード自体を他人に使用させたりすることが考えられる。このような事態を放置したのでは,コンテンツの著作権保護が図れない。」(段落【0003】2頁3欄26行目ないし32行目)(b)「本発明は,上記の点に鑑みてなされたものであり,メモリカ61ード等の外部記憶媒体に対するデータの記録・読出しが可能な携帯電話機において,外部記憶媒体に記録したデータが,その記録を行った携帯電話機以外の電話機で利用されるのを禁止できるようにすることを目的とする。」(段落【0004】2頁3欄33行目ないし38行目)b【課題を解決するための手段】(a)「上記の目的を達成するため,請求項1に記載された発明は,外部記憶媒体を着脱可能に装着する記憶媒体装着手段と,該記憶媒体装着手段に装着された外部記憶媒体に対するデータの記録・読出しを行う記録読出し手段とを備える携帯電話機であって,当該携帯電話機の自局電話番号を記憶する自局番号記憶手段と,前記記録読出し手段が前記外部記憶媒体にデータを記録する際に,そのデータに関係付けて前記自局電話番号を識別するための番号識別子を当該データと共に記録させる番号識別子付加手段と,前記記録読出し手段が前記外部記憶媒体からデータを読み出す前に,そのデータに関係付けられて記録された番号識別子が前記自局電話番号に該当するか否かを判定する判定手段と,前記関係付けられた番号識別子が前記自局電話番号に該当しない場合に,前記記録読出し手段による当該データの読出しを禁止する読出し禁止手段とを備えることを特徴とする。」(段落【0005】2頁3欄40行目ないし4欄6行目)(b)「請求項1記載の発明によれば,外部記憶媒体に記録されるデータには,自局電話番号に固有の番号識別子が関係付けられ,関係付けられた番号識別子が携帯電話機の自局電話番号に該当しない場合には,データの読出しが禁止される。」(段落【0006】2頁4欄7行目ないし11行目)62c【発明の実施の形態】(a)「選択されたコンテンツデータがダウンロードデータであれば,自局番号記憶部34から携帯電話機10の自局電話番号を読み出して,当該コンテンツデータ内の所定アドレス位置(以下,自局番号挿入アドレスという)に自局電話番号を挿入し,さらに,判別フラグアドレスにダウンロードデータであることを示す判別フラグを挿入して,メモリカード26へ記録する(S110)。」(段落【0019】3頁6欄41行目ないし48行目)(b)「選択されたコンテンツデータがダウンロードデータであれば,このコンテンツデータの自局番号挿入アドレスを参照し,このアドレス位置に挿入された電話番号と,自局番号記憶部34に記憶された自局電話番号とが一致するかどうかを判別する(S128)。その結果,両電話番号が一致すれば,そのデータをメモリカード26から読み込んで,内部メモリ36に格納する(S130)。一方,両電話番号が一致しなければ,データをメモリカード26から読み込むことなく,表示装置20にデータの読み込みが禁止されている旨のメッセージを表示させる(S132)。」(段落【0021】4頁7欄19行目ないし30行目)(c)「本実施形態では,ダウンロードデータか非ダウンロード(判決注・「非ダウンロードデータ」の誤記と認める。)かが判別できるようにコンテンツデータをメモリカード26に記録し,ダウンロードデータであれば,自局電話番号をコンテンツデータに挿入して記録する。そして,メモリカード26からダウンロードデータを読み出す際は,コンテンツデータに挿入された電話番号が,自局番号記憶部34に記憶された自局電話番号に一致する場合にのみ,メモリカード26からのコンテンツデータの読出しが許可される。」63(段落【0022】4頁7欄31行目ないし39行目)(d)「本実施形態によれば,コンテンツ提供サイトからダウンロードされメモリカード26に記録されたコンテンツデータが,ダウンロードを行った携帯電話機以外の携帯電話機で利用されるのを防止することができる。」(段落【0022】4頁7欄40行目ないし44行目)(e)「携帯電話機10の自局電話番号をキーとして,ダウンロードデータの読み取りの可否を判定するため,携帯電話機の機種を変更した場合にも同じ電話番号を引き継ぐことにより,変更後の機種でメモリカード26からダウンロードデータを読み込むことが可能となる。」(段落【0023】4頁7欄45行目ないし50行目)(f)「また,上記実施形態では,自局電話番号および判別フラグそのものをダウンロードデータに挿入してメモリカード26に記録するものとしたが,これに限らず,自局電話番号および判別フラグを所定の規則でコード化したうえでダウンロードデータに挿入するようにしてもよい。この場合,コード化の規則をユーザに非公開とすることで,ユーザがメモリカード26に記録された判別フラグあるいは自局電話番号を改ざんして,他の携帯電話機でダウンロードデータを読み出すのをより確実に防止することができる。」(段落【0026】4頁8欄19行目ないし28行目)(イ)本件明細書の発明の詳細な説明中には,「番号識別子」の意義について特に,限定又は拡張した記載はない。
他方,上記のとおり,本件明細書において開示されている実施例は,「自局電話番号」自体をそのまま番号識別子として用いる例及び「自局電話番号を所定の規則でコード化した記号」を番号識別子として用いる例のみである。
64そうすると,「番号識別子」を上記ウのとおり解釈することは,本件明細書の発明の詳細な説明の記載とも整合するものといえる。
オ以上のとおり,「番号識別子」とは,「自局電話番号をただ一通りに見分けることを目的として使われる記号」であって,目的的に用いられる記号であるから,「番号識別子」であるというためには,あらかじめ自局電話番号を見分けることを目的として設定されており,かつ,これを用いる体系において,当該記号をもって自局電話番号を見分けることができるものである必要がある。偶々,あるいは結果的に,自局電話番号を見分けたのと同一の機能を果たすことができるだけでは足りないというべきである。
カ原告は,「番号識別子」とは「特定の電話番号がある電話番号と同じか違うかの区別ができるもの」をいうと解すべきであると主張する。
原告が主張するとおり,本件発明は,メモリカード等の外部記憶媒体に対するデータの記録・読出しが可能な携帯電話機において,外部記憶媒体に記録したデータが,その記録を行った携帯電話機以外の電話機で利用されるのを禁止することができるようにすることを目的とするものである(上記エ(ア)a参照)。そして,上記課題の解決のためには,「対応する電話番号が1つしかない記号」が外部記憶媒体にデータを記録する際に,そのデータと関係付けて付加されていれば足り,このような記号を用いることによって,同記号に対応する電話番号の携帯電話機でなければコンテンツデータを読み出すことができないという機能を果たすことは可能と考えられる。
しかしながら,本件発明は,上記課題を解決するための手段として,請求項1及び上記エ(ア)b記載のとおり,「番号識別子」を外部記憶媒体にデータを記録する際に,そのデータと関係付けて付加し,番号識別子を判定対象として,当該番号識別子が,自局電話番号に該当するか否65かを判定することをその構成とするものであるから,単に結果として,外部記憶媒体に記録したデータをその記録を行った携帯電話機以外の電話機で利用することができないようにするという機能が果たされていればよいというものではない。
原告の上記解釈は,「識別子」が目的的に用いられる記号であり,かつ,自局電話番号に該当するか否かの判定対象となるものである点を看過するものであり,相当でない。
(2)各被告製品における「暗号化された固定値」の「番号識別子」該当性ア各被告製品が,いずれも,外部記憶媒体である「SDカード」を着脱可能に装着する「SDカードスロット」を備え,「SDカードスロット」に装着した「SDカード」に対してコンテンツデータの記録,読出しを行う機能を備える携帯電話機であって,当該電話機の自局電話番号を記憶する機能を備えることを特徴とする携帯電話機であること,各被告製品が,いずれも,別紙被告製品説明書記載の構成を備えることは当事者間に争いがない。
すなわち,各被告製品においては,●(省略)●という構成がとられている。
イ以上のとおり,各被告製品における「暗号化された固定値」は,所定の「固定値」を,記録を行う携帯電話機の自局電話番号及びその他の情報から所定のアルゴリズムにより生成された暗号鍵を用いて暗号化した記号であり,暗号化されたコンテンツをメモリカードから読み出す前に,読出しを行う携帯電話機が自局電話番号及びその他の情報から所定のアルゴリズムにより,正しい復号鍵(記録を行う携帯電話機が自局電話番号及びその他の情報から所定のアルゴリズムにより生成した暗号鍵と同一の鍵)を生成し,「暗号化された固定値」を正しく(所定の「固定値」と一致する値に)復号することができるか否かを見分けることを目的として使われる記66号であると認められる。
そうすると,各被告製品における「暗号化された固定値」は,あらかじめ自局電話番号を見分けることを目的として設定されたものであるということはできないから,本件発明における「番号識別子」には該当しないというべきである。
ウまた,各被告製品における「暗号化された固定値」は,所定の「固定値」を当該携帯電話機の自局電話番号及びその他の情報から所定のアルゴリズムにより生成された暗号鍵を用いて暗号化した記号であるから,「自局電話番号」だけではなく,「その他の情報」にも依存する記号である。
そうすると,同一の電話番号であっても,同じく暗号鍵の生成に用いられる「その他の情報」が異なれば,「暗号化された固定値」は異なる記号となり得る(被告の主張によれば,「暗号化された固定値」はコンテンツごとに異なる。)から,別紙被告製品説明書記載の各被告製品のシステムにおいて,「暗号化された固定値」は,電話番号が同じであるかどうかを見分けることができるものではない(すなわち,同一の電話番号であっても,異なる「暗号化された固定値」が生成されることにより,「異なる対象」であると認識されるという事態が生じ得るのである。)。
よって,各被告製品における「暗号化された固定値」は,別紙被告製品説明書記載の各被告製品のシステムにおいて,当該記号をもって自局電話番号を見分けることができるものであるとはいえないから,本件発明における「番号識別子」には該当しないというべきである。
エ原告の主張について(ア)原告は,「暗号化された固定値」は,自局電話番号に応じて定まる値であるから,「自局電話番号を所定の規則でコード化したもの」であるといえる旨主張する。
しかしながら,各被告製品においては,自局電話番号及びその他の情67報から所定のアルゴリズムにより生成された暗号鍵(復号鍵)を用いるため,各被告製品の構成自体から,自局電話番号が異なれば,生成される暗号鍵と復号鍵が必ず異なるとはいえても,自局電話番号が同じであれば,生成される暗号鍵と復号鍵が必ず同一であるとは直ちにいえない。
そして,「実験結果報告書」(甲17)及び「実験結果報告書(2)」(甲22)の結果は,「機種」,「名義人」,「製造番号」が暗号鍵(復号鍵)の生成に関与していないことを示すものにすぎず,上記証拠によって,各被告製品において,自局電話番号が同じであれば生成される暗号鍵と復号鍵が必ず同一であることを認めるに足りず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,各被告製品において,「その他の情報」が暗号鍵(復号鍵)の生成に関与していないこと,すなわち,「暗号化された固定値」が自局電話番号に応じて定まる値であることは立証されていないから,これを前提とする原告の上記主張は採用することができない。
(イ)原告は,各被告製品における「その他の情報」は,暗号化に関係するものであって,本件発明の「番号識別子」の該当性判断に影響を及ぼすものではない旨主張する。
しかしながら,各被告製品の構成においては,「自局電話番号」も「その他の情報」も,いずれも所定のアルゴリズムにより暗号鍵(復号鍵)を生成するために用いられるものであり,両者とも,暗号化技術との関係は同じであるといえるから,「その他の情報」のみを,暗号化技術に関するものであり,「番号識別子」の該当性判断に関係がないものであるとする原告の上記主張は採用することができない。
(ウ)原告は,1つの「番号識別子」に1つの自局電話番号が対応すれば,その「番号識別子」により,これに対応する自局電話番号を他の電話番号と見分け,あるいは区別することができるのであるから,必ずしも168つの自局電話番号に1つの番号識別子が対応する必要はない旨主張し,その例として,ある自局電話番号Xに複数の番号識別子A,Bが対応するとしても,各番号識別子A,Bに自局電話番号Xのみが対応する限り,別の自局電話番号Yに対して,例えば番号識別子Aがその自局電話番号Yと対応するかどうかによって,自局電話番号Xと自局電話番号Yとを見分けることができることを挙げる。
しかしながら,上記の例では,「A」という記号に電話番号Xが対応していること(あるいは,「A」という記号に電話番号Yが対応していないこと)を認識していることを前提として,「A」という記号によって,電話番号Xと電話番号Yとを見分けることができると言っているにすぎず,「A」という記号それ自体によって,電話番号が同一か否かを見分けることができることを導いてはいない(「A」という記号が電話番号Xと電話番号Yとを見分けているのではなく,「A」と「電話番号X」との対応関係が電話番号Xと電話番号Yを見分けているのである。)。
すなわち,1つの「番号識別子」に1つの自局電話番号が対応すれば,その「番号識別子」により,これに対応する自局電話番号を他の電話番号と見分け,あるいは区別することができるとの原告の上記主張は,上記の例によっては,何ら論証されてはいない。
原告の上記主張は採用することができない。
(3)各被告製品の構成要件B2ないしB4の充足性以上のとおり,各被告製品における「暗号化された固定値」は構成要件B2ないしB4の「番号識別子」には該当しないから,各被告製品は,構成要件B2ないしB4を充足しない。
(4)以上によれば,各被告製品は,いずれも本件発明の技術的範囲に属さない。
692結論よって,原告の第1ないし第4事件請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないから,これをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。