関連審決 | 不服2001-19324 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成19行ケ10269審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17行ケ10114審決取消(特許)請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17行ケ10458特許取消決定取消請求参加事件 | 判例 | 特許 |
平成18行ケ10406審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17行ケ10073審決取消(特許)請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 発明者 / 物の発明 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 試行錯誤 / 翻訳文 / パリ条約 / 優先権 / 分割出願 / 援用権(援用) / 優先日 / 参酌 / 置き換え / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 不存在 / 実施 / 同意 / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / 変更 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
18年
(行ケ)
10417号
審決取消請求事件
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原告カイロンベーリングゲーエムベーハーアンドカンパニー 訴訟代理人弁護士城山康文,岩瀬吉和,山本健策 訴訟代理人弁理士山本秀策,駒谷剛志,長谷部真久 被告特許庁長官肥塚雅博 指定代理人種村慈樹,徳永英男,森山啓 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2008/05/14 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が不服2001-19324号事件について平成18年5月9日にした審決を取り消す。」との判決第2事案の概要本件は,特許出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消しを求める事案である。 1特許庁における手続の経緯(1)原告は,昭和63年6月3日(パリ条約による優先権主張日・1987(昭和62)年6月3日(以下「本件優先日」という。),ドイツ連邦共和国),名称を「シュードモナス・アエルギノザの外部膜タンパク質F」とする発明につき,特許出願(特願昭63-137206号)をし,さらに,同特許出願を原出願として,平成10年9月14日,分割出願(特願平10-260701号。以下「本件出願」という。)をした(甲6,7の1)。 (2)原告は,平成13年7月25日付けで,本件出願につき拒絶査定(甲7の6)を受けたため,同年10月29日,拒絶査定不服審判の請求(甲7の7)をし(不服2001-19324号事件として係属),さらに,同年11月28日付け手続補正書(甲7の8)により,明細書中の特許請求の範囲の補正(以下「本件補正」といい,本件補正後の本件出願に係る明細書(甲6,7の8)を「本願明細書」という。)をした。 (3)特許庁は,平成18年5月9日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月19日,その謄本を原告に送達した。 2本願発明の要旨審決が対象としたのは,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)であり,その要旨は次のとおりである(なお,下記「配列番号1に示したDNA配列」は,別紙配列表記載のとおりである。)。 「【請求項1】配列番号1に示したDNA配列を有する,Pseudomonasaeruginosaの外部膜タンパク質F(OMPF)をコードするヌクレオチド,またはE.coli細胞に対して毒性である免疫原性ポリペプチドをコードするそのフラグメント。」3審決の理由の要旨審決は,本願発明は,下記引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。 引用例1986(昭和61)年8月発行の「JOURNAL OF BACTERIOLOGY」167巻2号の473頁から479頁までに掲載されたWendy A. Woodruff,Thomas R.Parr, Jr.,Robert E. W. Hancock,Larry F. Hanne,Thalia I. Nicas及びBarbara H.Escherichia coliPseudomonas Iglewskiによる「Expression inand Function ofOuter Membrane Porin Protein F」と題する論文(甲8)aeruginosa審決が上記のとおり判断した理由は,以下のとおりである(符号及び明らかな誤記と認められる記載を改めた部分,略称を本判決が指定したものに改めた部分,引用例の引用箇所に「原文」との断り書を付記した部分並びに本訴における書証番号を冒頭に「本訴」との文言を付した上で付記した部分がある。)。 (1)本願発明には,配列番号1に示したDNA配列を有するP. aeruginosa由来OMPF遺伝子に係る発明が典型的な発明として包含されているので,まず,本件優先日前に引用例の記載に基づいてP. aeruginosa由来OMPF遺伝子をクローニングし,配列決定することが当業者にとって容易であるか否かについて検討する。 ア引用例には,P. aeruginosaのPAO1株由来のゲノムDNAコスミドバンクから,プロテインF(OMPF)に特異的なモノクローナル抗体を用いてスクリーニングし,OMPF遺伝子を含むプラスミドpHN4を得てポリン不全大腸菌JF733を形質転換したこと(原文474頁右欄下から8行〜475頁左欄2行)が記載されており,当該形質転換ポリン不全大腸菌JF733(pHN4)と共に,正常な大腸菌宿主HB101株を形質転換したHB101(pHN4)株の発現産物のいずれもが,2種類のエピト-プを認識するOMPF特異的モノクローナル抗体との反応性,及びSDSゲル電気泳動上での挙動が天然のP. aeruginosaの外膜蛋白OMPFと同一であったことをもって,大腸菌宿主において天然と同一のOMPFが外膜蛋白として発現できたと結論づけている(原文473頁「要約」2〜7行,475頁左欄3行〜最下行など)。 そして,プラスミドpHN4のサブクローニングにより11kbのEcoRI断片を得,当該断片を挿入したプラスミドpWW13で形質転換した大腸菌HB101(pWW13)において,外膜でOMPFが発現することを確認しているのだから,OMPF遺伝子は,既にその全長を含む11kbフラグメントとしてクローニングされているというべきである(原文476頁FIG. 4など)。さらに,OMPF遺伝子のうち,OMPF特異的エピトープの1つを有するポリペプチド(分子量24,000)をコードするDNAを含む4.7kbのSalI断片及び同2kbのSalI-PstI断片がそれぞれpWW4及びpWW5に挿入されてサブクローニングされている(同FIG. 4,左欄1〜23行)。 また,引用例で用いられているPAO1株は本件優先日前の他の文献(例えば,J. Bacteriology,vol. 136, no. 1 (1978) p. 381-390,J. Biochem., vol. 86, no. 4 (1979) p. 979-989(本訴乙9(本訴甲52))等)においても典型的なP. aeruginosaに属する微生物として広く利用されており,明らかに容易に入手できる微生物である。 そうしてみると,引用例に接した本件優先日前の当業者にとっては,公知微生物であるP.aeruginosaに属するPAO1株ゲノムから,確実にOMPF遺伝子の全長を含むDNAが11kbのEcoRIフラグメントとしてクローニングされている上に,OMPF遺伝子の1部配列を確実に含むフラグメントも各種得られている以上,既にOMPF遺伝子自体がクローニングされているに等しいといえ,その塩基配列及び推定アミノ酸配列を知りたければ,必要に応じてこれらのフラグメントから適宜ルーチン的作業で機械的に読み取ればよいことであると理解するはずである。 してみれば,少なくとも,P. aeruginosaのPAO1株由来のOMPF遺伝子については,それをクローニングし,次いでDNA配列及び推定アミノ酸配列を決定することに何らの困難性を見いだすことはできない。 イところで,P. aeruginosaは周知の微生物であって多数の公知菌株が存在し,ATCCカタログにおいても多数の菌株が販売されており,本願明細書で用いられた菌株(ATCC33354株)もそのうちの1つである。 そ し て , 引 用 例 で は , OMPF遺 伝 子 の 2.0kb部 分 断 片 か ら 作 成 し た 標 識 プ ロ ー ブ(「 P-labeled-2.0kb-probe」)を用いてPAO1株由来ゲノムDNAの種々の制限酵素による分解32物とのハイブリダイゼーション実験を行い,その実験結果に基づいて,「これらのデータから,P. aeruginosaPAO1株の染色体中に存在するプロテインF遺伝子は1コピ-のみであることを推測させる。」とし,この観察が,従来からの大腸菌のポリンOmpF,OmpCおよびPhoEの構造遺伝子がすべて単一コピーで存在するという知見と一致することも示されている。(原文476頁右欄1〜11行)OMPFは外膜上に存在して菌体内の浸透圧などを調節するポリンチャンネルの1種であり,P.aeruginosa微生物の生存にとって重要な蛋白質の1つであるといえるにもかかわらず,OMPF遺伝子が染色体中に1コピーしか存在しないのであるから,当然に同属同種内での遺伝子の保存性も高いと考えられる。塩基配列レベルでは菌株ごとに多少の相違が見られたとしても,アミノ酸配列レベルでの大幅な相違,少なくとも活性に関わるような立体構造の主要部分での相違が存在するとは考えにくい。 そうなので,引用例のP.aeruginosaに属するPAO1株以外の菌株,例えば本願明細書中のATCC33354株も,そのゲノム中には1コピーのOMPF遺伝子を有し,かつそのDNA配列はPAO1株由来OMPF遺伝子と極めて相同性の高いものであると予測できるから,これらの菌株のゲノムDNAをライブラリー化して,引用例中のOMPF遺伝子の全長もしくは部分長を含むフラグメントから作成されたプローブ(例えば,上記「 P-labeled-2.0kb-probe」)を用いるハイブリダイゼー32ション法,または引用例に記載されたと同様のOMPF特異的抗体を用いる抗体スクリーニング法などを適用することで,P. aeruginosaに属するPAO1株以外の菌株由来のOMPF遺伝子をクローニングすることも,さらにそのDNA配列を決定することも当業者が容易になし得ることである。 ウそして,このように,引用例に基づいてP. aeruginosaに属するPAO1株由来OMPF遺伝子のみならず,同属同種内の他の菌株由来のOMPF遺伝子もクローニングし,配列決定することが当業者にとって容易であるときに,その結果として,P. aeruginosaに属する公知菌株に由来するOMPF遺伝子のDNA配列が「配列番号1」であると解析した程度のことをもって,進歩性を担保するほどの格別の効果として評価することはできない。 しかも,当該DNA配列は,既に引用例でpHN4,pWW13中の挿入配列としてクローニングされていたPAO1株由来OMPF遺伝子のDNA配列とは,同一もしくはきわめて類似したDNA配列を有していると予測されることは上述の如くであり,請求人は,当該DNA配列がPAO1株由来OMPF遺伝子と比較して予測を超えるほどに多数の相違箇所を含むものであることを立証したわけではない。 むしろ,請求人自身が原審の拒絶理由通知(本訴甲7の2)に対する意見書(平成13年1月17日付。本訴甲7の4)と共に提出した甲3(NCBIprotein検索:AAD11568。本訴甲3)によれば,PAO1株由来OMPFのアミノ酸配列は本願明細書中の「配列番号1」(【表1】)のアミノ酸配列と同一であるから,まさに引用例で用いられたPAO1 株由来OMPF遺伝子と本願発明のOMPF遺伝子とは,同一のアミノ酸配列をコードする同一もしくはきわめて類似したDNA配列であったことが実証されたことになる。 以上述べたとおり,P.aeruginosaに属する微生物のOMPF遺伝子を取得し,そのDNA配列を決定することは,本件優先日前の当業者であれば引用例の記載に基づいて容易になし得ることであり,そのDNA配列が「配列番号1」であったことをもって格別の効果とすることはできない。 したがって,本願発明は,引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものである。 エところで,請求人は,審判請求書補正書(平成14年2月1日付。本訴甲7の9)において,引用例の原文476頁左欄5-7行を示し,「引用例で単離された遺伝子は,引用例の著者らがOMPFをコードする遺伝子として実際に単離した遺伝子とは異なる。」旨主張している。 なるほど,引用例の上記指摘箇所及びそれ以降の記載において,引用例の筆者は,pHN4をXhoIで消化してHB101株に形質転換して得られた発現産物がOMPF特異的モノクローナル抗体であるMA5-8とは反応するがMA4-4とは反応しなかったという実験結果に基づき,OMPF遺伝子のDNA配列中のC末側(3'側)にXhoI認識配列(CTCGAG)が存在する可能性を述べている。 しかしながら,上述の如く,引用例全体の記載からみて,P. aeruginosa(PAO1株)のゲノム中に1コピーしか存在しないOMPF遺伝子の全長が,pHN4及びpWW13中に包まれていることを疑うべき理由はない。 そして,上記指摘箇所は,pHN4のXhoI切断断片に対する実験結果を説明できる1つの可能性を推定したに留まり,しかもその推定が後に立証されたわけでもないから,当該記載が引用例に存在することによっては,何ら上記認定は左右されない。 そもそも,請求人の上記主張中の「引用例の著者らがOMPFをコードする遺伝子として実際に単離した遺伝子」については,何ら配列情報を示していないのだから,「引用例で単離された遺伝子」と対比すること自体が失当であり,上記甲3(NCBIprotein検索:AAD11568)に記載されているものを指すと解したとしても,当該甲3でPAO1由来OMPF遺伝子に関して記載されているのはアミノ酸配列のみであってDNA配列ではないから,引用例のPAO1由来OMPF遺伝子のDNA配列中にXhoI認識配列(CTCGAG)が存在するか否かは不明であって,請求人の上記主張の根拠とはなり得ない。 上述のように,本件出願後の上記甲3によれば,引用例におけるPAO1株由来OMPF遺伝子のDNA配列も,「配列番号1」と同一のアミノ酸配列をコードするものであったといえるところ,仮に引用例に記載されるPAO1由来OMPF遺伝子のDNA配列中にはXhoI認識配列が存在し,本願明細書で取得されたOMPF遺伝子のDNA配列(配列番号1)中には存在しなかったことが立証できたとしても,このことは,単にXhoI認識配列(CTCGAG)に関連した塩基配列中にアミノ酸配列には影響を与えない程度,すなわち1塩基程度の差異を有するアレル変異体が取得できたことでしかないから,格別の効果として評価できないことには変わりはない。 オまた,請求人は,上記意見書及び上記審判請求書補正書において,本願明細書【0016】の「この断片は遺伝子生成物が明らかに宿主細胞に対して毒性を有するために高コピー数のベクターにクローニングすることができなかった。従って遺伝子を,約500bpの重複領域を有する二つの重複断片にサブクローン化した。OMPF遺伝子と隣接領域のDNA配列をこれらの二つのサブクローンから決定した。」の記載を示すと共に,本件出願後の甲1(本訴甲1)ないし甲2(本訴甲2)中の同趣旨の記載を示して,本願明細書で得られたOMPF遺伝子の発現産物が大腸菌宿主に対する「毒性」を有するために,OMPF遺伝子全長を含むDNA断片を高コピー数ベクターを用いて増幅することができないことを主張し,あわせてそのことを理由として,P.aeruginosaのOMPF遺伝子のクローニングが困難であったことを主張する。 そこで,「大腸菌宿主に対するOMPF遺伝子発現産物の毒性」の用語について検討するが,本願明細書では【0027】にも,「OMPFのE. コリにおける発現は,構造遺伝子がその自らのプロモーターの制御下の中-コピー(pBR322)或いは高-コピー(pUCプラスミド)上に存在する場合には細菌に対して毒性を示すため,構造遺伝子は先ず誘導性プロモーターの制御下におかれる。」とも記載されており,本願明細書中でいう「毒性」とは,単に「大腸菌宿主細胞中で強制的に大量に発現させると大腸菌宿主が生存できなくなる」程度の意味であると解することができる。 そして,当該「毒性」は既に引用例においても十分に認識されていたことであり,本願明細書で用いられた特定の菌株においてはじめて見いだされた特別な性質というわけではない。 すなわち,引用例の「要約」の項(原文473頁)では,「プロテインFがポリン不全大腸菌のバックグラウンドでは優勢な外膜蛋白として発現され,ポリンが十分なバックグラウンドでは一次元SDSポリアクリルアミドゲル上で明確に視認できた。」と記載されている。 さらに,同「考察」の項においても,「プロテインFに対する構造的遺伝子を大腸菌に導入し,遺伝子産物の発現を調査した。大量のプロテインFが大腸菌の外膜中に発現した。クローン化した蛋白の電気泳動的および免疫的特徴は,Pseudomonasaeruginosa(緑膿菌)中のプロテインFの場合と同一であった。これは,P. aeruginosaの遺伝子内の信号および合成,組み立てまたは外膜への転座に関するmRNA転写物が認識され大腸菌中で機能的であったことを示唆する。ポリン不全突然変異大腸菌JF733(pHN4)中で,外膜中のプロテインFの量がポリンの十分ある大腸菌HB101(pHN4)株中における場合より高かったことは興味深い。」(原文477頁左欄31-43行)と記載されている。 そもそも各種ポリンはグラム陰性菌の外膜の内と外との環境を直接結ぶチャンネルであり,浸透圧など菌の生存に関わる重要な調節機構を担うものであるところ,上記記載からみて,そのポリンの1種であるP. aeruginosa由来のOMPFが,大腸菌外膜中のポリンが大量に存在する通常の大腸菌外膜内環境では発現量が少なく,ポリン不全大腸菌外膜内という,大腸菌由来の各種ポリン類が極めて少ない環境では発現量が高かったのであるから,このことは,P.aeruginosa由来のOMPFがアミノ酸一次配列の類似性はともかく,チャンネルを構成する三次元構造的には極めて大腸菌のポリン類と類似していることを示唆するものであり,同時に,大腸菌の外膜中では許容される全ポリン量には(外来のポリンも含めて)一定の上限値があることも強く示唆するものである。 そうなので,反対に正常なポリン生産能を有する大腸菌宿主において,外来のポリンであるOMPFを高コピーのベクターなどを用いて半ば強制的に大量のOMPFを発現させようとすれば,今度は大腸菌自身の生存に必要な本来の各ポリン類の発現が極度に抑制される可能性が高いことは充分に予測される。まさに,引用例の上記記載によれば,高コピーベクターを用いた場合に大腸菌宿主の生存が阻害される可能性が高いことが示唆されていることに他ならない。 そして,OMPF遺伝子はP. aeruginosaの生存にとって重要な遺伝子であるといえるにもかかわらず,引用例には当該OMPF遺伝子がP. aeruginosaのゲノム中に1コピーしか存在しないとも記載されている(原文476頁右欄1〜11行)のだから,当該記載に接した当業者は,OMPF遺伝子が本来有するプロモーター自体もかなり強力なプロモーターであると想定し,クローニングに際しても発現産物による大腸菌宿主への「毒性」を危惧するはずである。 そのような場合のクローニング手法として,遺伝子を含むDNAをフラグメント化してサブクローニングすることが本件優先日前の当業者にとって常套の手段であるばかりでなく,宿主として引用例で用いられたようなポリン不全大腸菌を用いることもできるから,OMPF遺伝子クローニングに格別の困難性があったとする特段の事情は見いだせない。 よって,この点についての請求人の主張も採用できない。 (2)付記なお,上記した如く,請求人自身が提出した甲3に記載されるように,引用例のPAO1株由来のOMPF遺伝子がコードするアミノ酸配列が,本願明細書の【表1】(配列番号1)に示されるATCC33354株由来のOMPF遺伝子がコードするアミノ酸配列と一致していることからみて,両遺伝子の遺伝子産物が同一物質であることは請求人自身が充分に認識していたことは明らかである。そして,その前提にたって,請求人は当該審判請求書においては,引用例に記載されるOMPF遺伝子をクローニングすることの困難性のみを主張していたはずである。 そうであるにもかかわらず,請求人は,当審における平成15年4月21日付の審尋(本訴甲7の10)に対して,平成15年7月16日付回答書(本訴甲7の11)において,「・・・引用例に記載される遺伝子産物が,本願発明に係るOMPFとは全く異なること・・・したがって,無関係なタンパク質に関して一部欠損した分子量のペプチドを得たことについて文献に記載されていたとしても,そのような事項は全く本願発明には無関係です。(同5頁)」と述べており,あたかも本願発明で発現産物として取得されたOMPFが,引用例に記載されるOMPF(プロテインF)とは全く別異のタンパク質であるかのような主張をし,そのことを前提とした反論を展開している。 このような主張が,請求人本人も十分に理解しているはずの真実を無視して当審の判断をあえてミスリードしようとしたのであれば,当業者としてあるまじき態度であり慎むべきである。 そうでないとしても,本件出願後には引用例のproteinFと本願発明のOMPFが同一アミノ酸配列を有する同一のタンパク質であること,すなわち両者が「無関係なタンパク質」でなかったことは明らかであるから,そもそも請求人の上記主張の前提が成り立たない。 そうなので,上記回答書における主張も,添付された補正案についても検討しない。 (3)結語以上述べたとおりであるから,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。 第3原告主張の審決取消事由の要点審決は,以下のとおり,引用例の記載事項及び本件優先日前における技術的事項の各認定並びに本願発明に係る進歩性の判断をそれぞれ誤ったものであるから,取り消されるべきである。 1取消事由1(引用例の記載事項の認定の誤り)審決は,引用例において,(シュードモナス・アエルギPseudomonas aeruginosaノザ(緑膿菌)。以下「」という。)の外部膜タンパク質F(以下 P. aeruginosa「OMPF」という。また,単に「OMPF」というときは,のO P. aeruginosaMPFを指す。)が発現されたものと認定したが,以下のとおり,引用例において発現されたタンパク質はOMPFではないから,審決の当該認定は誤りである。 (1)引用例の著者らがOMPF遺伝子であると考えて単離した遺伝子のDNA配列に係る制限酵素認識部位と,本願発明のDNA配列に係る制限酵素認識部位とが異なること(制限酵素地図の相違)についてア制限酵素地図の情報は,遺伝子の構造に関し,配列情報に次いで信頼できる,極めて信頼性の高い情報であって,モノクローナル抗体との反応性やSDSゲル電気泳動法などについての情報よりも格段に信頼性が高く,犯罪捜査時に「指紋」の代わりに用いられることもある(甲38(以下,書証中,書籍の抜粋(学術論文を除く。)については,初出の場合も含め,「甲38文献」などという。))。 ところが,引用例においてOMPF遺伝子であるとして単離された遺伝子のDNA配列に係る制限酵素認識部位(引用例の図4。制限酵素I及びIの認識部位PstXhoが存在するのに対し,制限酵素Iの認識部位が存在せず,また,制限酵素Iの Sal Sma認識部位が読み取り枠の外側か左端(5’末端)のぎりぎり内側に存在している。)と,本願発明のDNA配列から導き出される制限酵素認識部位(配列番号1のDNA配列によれば,制限酵素I及びIの認識部位を有しないが,制限酵素PstXhoI及びIの認識部位を有する。)とは全く異なるのであるから,このような制 SalSma限酵素地図(制限酵素認識部位)の相違は,引用例で単離された遺伝子がOMPF遺伝子ではないことを端的に示すものである。 イまた,甲11の論文(以下,書証中,学術論文(引用例を除く。)については,初出の場合も含め,「甲11論文」などという。なお,乙20は,被告が追加提出した甲11論文の抄訳文である。)は,引用例の著者の1人が引用例頒布の後に発表した博士論文であるところ,引用例とは異なる方法でクローニングが行われており,ここではOMPF遺伝子が正しくクローニングされている(甲11論文の32頁図5に記載されたDNAの読み枠(太い線で示される)周辺の制限酵素地図は,本願発明に係るOMPF遺伝子の制限酵素地図と同一である。)。 具体的には,(ア)まず,コスミドベクターを用いたクローニングの段階において使用されたテトラサイクリンの濃度について,引用例においては10μg/mlであるのに対し,甲11論文においては25μg/mlである。甲11論文の著者は,試行錯誤を重ねてテトラサイクリン濃度の変更に至ったものと推測されるが,これにより,OMPFの毒性を回避ないし軽減させることに成功したものと思われる(甲42論文図9参照)。 (イ)次に,プラスミドpWW13のサブクローニングの段階において使用された大腸菌宿主について,引用例においては大腸菌HB101が用いられているのに対し,甲11論文においては使用された大腸菌宿主について記載がされておらず,これについてもOMPFの毒性を回避ないし軽減させるために何らかの工夫がされたことをうかがわせる。 このように,引用例と甲11論文の著者は同じであるにもかかわらず,甲11論文においてクローニングの手法が変更されているのは,OMPFの毒性を回避するための工夫がされ,その結果,甲11論文においては,OMPF遺伝子が正しくクローニングされたと考えるのが合理的である。 ウさらに,仮に,引用例に記載されたプラスミドpWW13が,甲11論文に記載されたプラスミドpWW13と同じものであり,制限酵素地図の作成にのみ問題があったとすると,被告が引用する甲31(乙3)論文(以下「甲31論文」という。)及び乙16論文に記載されるように,具体的に制限酵素地図のどの部分が正確であり,どの部分に誤りがあったかが明確にされてしかるべきである。すなわち,引用例の著者らが自らの制限酵素地図の誤りに気付き,それを訂正しようとするならば,「ERRATA」(正誤表)として,その誤りを訂正するか(甲43),あるいは後の論文において誤りに言及するはずであるが,そのような手続は何ら行われていない。 また,甲11論文におけるプラスミドpWW13の制限酵素地図の作成においては,引用例において用いられた制限酵素I(記号:T)及びI(記号:X)が用いSstXhoられていない。 これらの事実も,引用例においてクローニング又はサブクローニングされた遺伝子がOMPF遺伝子でなかったことを裏付けるものである。 エそして,上記アないしウを時系列順に整理すると,(ア)1986年8月ころ引用例発表(OMPF遺伝子の制限酵素地図を開示せず)(イ)1987年6月3日本件優先日(OMPF遺伝子のDNA配列を開示)(ウ)1988年8月甲11論文発表(OMPF遺伝子の制限酵素地図を開示)となるところ,この事実経過と,甲11論文において,引用例におけるのとは異なるクローニング法が用いられた事実とを併せ考えると,引用例の著者らは,引用例においてOMPF遺伝子のクローニングに失敗したものの,その後,再度クローニングを行った結果,OMPF遺伝子のクローニングに成功し,その結果を甲11論文に記載したものと推測するのが合理的である。 オなお,引用例においてサブクローニングされたpWW13が,甲11論文においてサブクローニングされたpWW13と同一のプラスミドであるとすると,以下のとおりの矛盾が生じることになる。 (ア)引用例に記載されたpWW13は,約2.0kbのI-I断片を含む(引用Sal Pst例の図4。また,引用例においては,このことが実験的に確認されているといえる。)にもかかわらず,甲11論文に記載されたpWW13に含まれるI-I断片は,Sal Pst約1.3kbのものと約0.9kbのものである。 (イ)引用例においては,pHN4及びpWW13が約2.0kbのI断片を含むことがSma実験的に確認されている(引用例の図4)にもかかわらず,甲11論文に記載されたI断片は,約1.7kbのものと約4.3kbのものであり,pHN4全体に占めSmaる同断片の位置も,引用例と異なる。 (ウ)甲11論文におけるpWW13の制限酵素地図を前提にして,引用例に記載されたpWW1の調製方法(pHN4をIで切断して自己閉環させる方法)を適用すると,OXhoMPF遺伝子を含んだ部分が切り取られてしまうことになるから,甲11論文におけるpWW4及びpWW5には,OMPF遺伝子が含まれないことになる。 カ被告は,「テトラサイクリン濃度の変更・・・により,OMPFの毒性を回避ないし軽減させることに成功した」との原告の上記主張に対し,「憶測に過ぎず,参酌に値しない」と主張する。 しかしながら,引用例の著者らに事実を確認することができず,また再試験を行うこともできない以上,現時点において判明している当時の事実関係を斟酌して推測を行う以外にないことは当然である。そして,重要な点は,かかる推測を行うことで,(ア)引用例においては,「OMPF遺伝子」であるとしながらもその制限酵素地図はOMPF遺伝子のものとは大きく異なること,(イ)甲11論文においては,引用例とは異なるクローニング法が採用されていること,(ウ)甲11論文においては,OMPF遺伝子の制限酵素地図が正しく開示されていること,という原被告間で争いがなく,かつ,(ア)と(ウ)という相矛盾する事実を合理的に説明することができることである。 よって,被告の上記主張は誤りである。 キ被告が制限酵素地図の正確性(制限酵素地図が不正確なものであること)について援用する甲31論文は,制限酵素HIを使用する際の反応液の濃度が低かBamったために,本来の認識部位以外を切断するというスター活性が生じた事例に関するものであるところ(甲40参照),引用例の投稿日である1986(昭和61)年2月の時点では,制限酵素の適切な反応条件が既に確立されていたのであるから,甲31論文は,制限酵素地図の正確性についての証拠として適切なものではない。 また,乙16論文については,「I部位が追加されている」との内容に照らし,Pst従前の制限酵素地図のほうが正しかったという事例に関するものであるから(甲13文献及び甲41(ヌクレオチド検索結果)参照),制限酵素地図が後になって覆ることがあり得るとの根拠となるものではない。 クさらに,乙17論文については,仮に,引用例においてサブクローニングされたpWW5が,同論文の図4に示されるような欠失した構造を有するのであれば,引用例の記載との間で,次のような矛盾が生じる。 (ア)乙17論文の記載内容からすると,引用例においてサブクローニングされたpWW5は,共直線性を欠くことになるところ,引用例の図4によれば,pWW5内には共直線性がない領域が存在しないこととされている。 (イ)乙17論文の記載内容からすると,サザンハイブリダイゼーションに使用するために,引用例においてサブクローニングされたpWW5からプローブを調製すると,アミノ酸1〜170残基に対応するプローブ及びアミノ酸301〜326残基に対応するプローブが生じることになるから,前者のプローブを用いてサザンハイブリダイゼーションを行うとこれに対応するタンパク質断片が,後者のプローブを用いてサザンハイブリダイゼーションを行うとこれに対応するタンパク質断片がそれぞれ検出されることとなるにもかかわらず(両断片はサイズを異にする。),引用例には,pWW5から調製したプローブによってサザンハイブリダイズした場合に単一のバンドが確認されたと記載されている。 ケなお,甲5(乙15)論文(以下「甲5論文」という。)においては,本願発明の発明者らがクローニングしたOMPF遺伝子のクローンλF1に,引用例の著者らのクローンであるpWW5がハイブリダイズした旨の記載があるが(乙15の抄訳4頁「6.第160頁左欄第3段落」),当該クローンpWW5は,引用例の発表後に正しくクローニングされたもの(すなわち甲11論文に係るクローンpWW5)である。 甲5論文が引用例を引用しているのは,甲11論文が発表されていなかったため,便宜的に,引用例を引用したにすぎない。このようなことは,本件優先日前においても日常的に行われていたことであり,甲5論文の中でpWW5につき引用例が引用されていることは,これが引用例に係るpWW5であることを必ずしも意味しないものである。 (2)National Center for Biotechnology Information(以下「NCBI」という。)に登録されたOMPFのアミノ酸配列(甲3(NCBIのタンパク質検索結果。以下,書証中,NCBIの検索結果については,初出の場合も含め,「甲3検索結果」などという。)。1999年8月19日登録)及びOMPF遺伝子のDNA配列(甲22検索結果。同日登録)についてア甲22検索結果によれば,引用例の著者らが1999年8月19日にNCBI(データバンク)に登録したOMPF遺伝子のDNA配列から導き出される制限酵素部位は,引用例(図4)に示された制限酵素部位と矛盾している。 イ被告は,「引用例の著者らは,PAO1株(セロタイプ5)のOMPF遺伝子のDNA配列を,1992年5月19日にNCBIに登録し(甲18検索結果),その後,一貫して,PAO1株のOMPF遺伝子について,同じDNA配列を提出していた」と主張する。 しかしながら,引用例の著者らがOMPFのアミノ酸配列及びOMPF遺伝子のDNA配列(以下,OMPFのアミノ酸配列とOMPF遺伝子のDNA配列を併せて「OMPFのアミノ酸配列等」という。)をNCBIに登録した経緯に加え,甲18検索結果に供給源としてのプラスミドの記載がないこと,甲18検索結果及び甲19検索結果には,OMPFのアミノ酸配列等の各全長が記載されているのに対し,甲20検索結果及び甲21検索結果には,アミノ酸4残基及びこれに対応するDNA配列のみが記載されていることから,引用例の著者らは,後者に係る登録によって,前者に係る配列情報をいったん削除したものといえること,甲19検索結果には,「この記録は中断された。」との記載があることにかんがみれば,引用例の著者らは,甲18検索結果(1992年5月19日登録。DNA配列)及び甲19検索結果(同日登録。アミノ酸配列)に記載された配列とは別個独立の情報として,甲20検索結果(1998年11月20日登録。DNA配列)及び甲21検索結果(同日(同検索結果に「1997」とあるのは,「1998」の誤記であると考えられる。)登録。アミノ酸配列)に記載された配列を提出したものと考えるのが合理的である。 仮に,引用例の著者らが,PAO1株のOMPF遺伝子のDNA配列を1992年5月19日にNCBIに登録し,その後は一貫してPAO1株のOMPF遺伝子について同じDNA配列を提出していたとしても,引用例の著者らが,同日以降,引用例とは無関係に,OMPFのアミノ酸配列等を決定したことに変わりはなく,引用例において単離されたタンパク質がOMPFではなかったとの結論にも変わりはない。 ウまた,甲18検索結果ないし甲22検索結果のいずれにおいても,本願発明の発明者らによる甲5論文が引用されているにもかかわらず,引用例は全く引用されていない。仮に,引用例の著者らが,引用例において単離したプラスミドにOMPF遺伝子が含まれていると考えていたならば,これらの検索結果に係る登録においても,引用例を引用したはずである。 エさらに,引用例の発表後,OMPF遺伝子のDNA配列あるいはOMPFのアミノ酸配列が明らかになるまで長期間(甲3検索結果及び甲22検索結果に係る登録まで10年以上,甲18検索結果及び甲19検索結果に係る登録まででも,約6年)が経過している。このことも,引用例の著者らが単離したタンパク質がOMPFではなかったことを裏付けるものである。 オ?@引用例の著者の1人が,引用例の発表後に再度クローニングを行い,その結果を甲11論文において発表したこと,?A引用例の実験の後にその著者らがNCBIに登録したDNA配列から導き出される制限酵素地図が,引用例においてクローニングされた遺伝子の制限酵素地図とは大きく異なる一方で,甲11論文においてクローニングされた遺伝子の制限酵素地図とは一致すること,の2点を合理的に説明するためには,引用例の著者らは,引用例においてクローニングされた遺伝子ではなく,その後,クローニングし,甲11論文に記載した遺伝子について配列決定を行い,NCBIに登録したと考えるほかない。 (3)引用例において用いられたOMPFの発現を確認する方法について原告は,引用例において採用されたモノクローナル抗体を用いたスクリーニング及びSDSゲル電気泳動法の存在意義を否定するものではないが,これらの方法による遺伝子やタンパク質の同定は,以下のとおり,制限酵素地図の作成や配列決定による方法に比べて格段に精度の劣る手法である。よって,これらの手法のみによった場合には,遺伝子やタンパク質の同定につき誤った結果を導くおそれがある。 なお,本願発明においては,タンパク質の同定法として最も正確な方法であるアミノ酸配列(ペプチド配列)を決定することによってOMPFを正確に同定している。 ア(ア)モノクローナル抗体を用いたスクリーニングとは,タンパク質中に存在する抗原決定基(エピトープ)とモノクローナル抗体との特異的な抗原抗体反応を利用した方法であるところ,別個のタンパク質であっても,同一又は類似のエピトープが存在する場合には,目的のタンパク質以外のタンパク質とも反応してしまうものであるという原理上の問題点(いわゆる「抗原・抗体の交差反応」。以下,単に「交差反応」という。)を有する。 すなわち,OMPF特異的モノクローナル抗体と反応したということは,目的のタンパク質が当該モノクローナル抗体に特異的なエピトープを有することを意味するにすぎず,当該タンパク質がOMPFであるとは限らない。 P. (イ)実際,引用例において用いられているモノクローナル抗体(MA4-4)は,aeruginosa Pseudomonas putidaP. に由来する外膜タンパク質のみならず,(以下「」という。)に由来する外膜タンパク質とも反応している(甲15(乙1putida0)論文(以下「甲15論文」という。))。 (ウ)また,モノクローナル抗体の交差反応の例としては,甲15論文のほか,甲34論文及び甲35論文にも言及がある。 (エ)さらに,引用例の図3をみても,?@「F」で示される位置より上に出現するバンド(パネルA及びBの各レーン5。以下「?@のバンド」という。)と,?A「F」と「T」の間の位置に出現するバンド(パネルBのレーン5。以下「?Aのバンド」という。)が検出されているところ,天然ののPAO1株に由来P. aeruginosaするOMPF(パネルA及びBの各レーン1)については,これらのバンドが検出されていない。これは,のPAO1株に由来するOMPF(各レーンP. aeruginosa1)と大腸菌HB101(pHN4)の発現タンパク質(各レーン5)が異なること又は使用したモノクローナル抗体の交差反応によるものであるが,引用例においては,モノクローナル抗体の交差反応についての言及が全くないから,引用例の著者らは,モノクローナル抗体の交差反応の可能性を看過して実験を行っていたものと考えられ,この点でも,引用例において用いられたモノクローナル抗体によるスクリーニングの正確性に疑義があるといえる。 イ(ア)SDSゲル電気泳動法とは,タンパク質の分子量に基づく挙動の相違を目視により比較する方法であるところ,同程度の分子量を有する異なるタンパク質は数多く存在するのであるし,目視による比較という点においても,タンパク質(特に膜タンパク質)の同一性の確認方法としては,不十分なものである(甲16論文,甲36文献)。 P. (イ)また,SDSゲル電気泳動法は,生体膜タンパク質(甲29文献)やのOMPF(甲37論文)の分子量を正確に測定することができないもaeruginosaのである。実際,引用例においては,SDSゲル電気泳動法のデータから,OMPFを構成するアミノ酸を約410個(正確には350個)としている。 ウ本件優先日前に一般的に行われていたクローニング法は,目的タンパク質を精製し,その部分配列を決定し,その部分配列に基づいてクローニングをする方法,すなわち,本願明細書に記載される方法であった。この一般的なクローニング法は,困難な方法ではあったが,その正確性のために,一般に用いられていた。 これに対し,引用例において用いられたクローニング法は,本願発明に係る上記クローニング法と比較して,発現したタンパク質と抗体との反応及びタンパク質の分子量による推定に依存する点において,得られたデータに誤りが生じる可能性がより高い方法であり,引用例におけるクローニング法の選択は,不適切であったといえる。 (4)OMPFを構成するアミノ酸の個数に関する引用例の著者らの認識についてOMPFは350個のアミノ酸から構成されるタンパク質であるのに対し(甲3検索結果),引用例(原文477頁右欄8〜9行)には「天然のタンパク質F(OMPF)における約410アミノ酸」と記載されている。よって,OMPFを構成するアミノ酸につき,引用例の著者らが認識していた個数は正確性を欠くものである。引用例の著者らが認識していた個数と実際の個数が異なることは,引用例の著者らが単離したタンパク質がOMPFではなかったことを裏付けるものである。 (5)引用例において単離されたDNAによってコードされるタンパク質と,その後に引用例の著者の1人が単離したDNAによってコードされるタンパク質の機能(チャネル伝導度)についてアタンパク質の機能,すなわちチャネル伝導度について,引用例には,約65%が4nSよりも大きな単一チャネルを形成していることが記載されているのに対し,甲11論文においては,その大多数が0.6nS未満であったことが記載されている。また,甲24論文においては,OMPFのチャネル伝導度が0.93〜1nSであると報告されている。 イまた,引用例においては,クローニングされた遺伝子がコードするタンパク質は,「のタンパク質Fについて以前に報告された(3)のものと同じP. aeruginosa大きさ」のチャネル伝導度を有することが明記されているのに対し(原文477頁左欄13〜15行。なお,ここでいう「(3)」とは,引用例が引用する文献3(Benz & Hancock, 1981)である。),甲11論文においては,「これらの観察は,精製されたタンパク質Fの平均チャネル伝導度が5nSだと報告されていた従来公開された観察(Benz & Hancock, 1981)に反している」(原文63頁下から3行〜末行)と明記されている。 ウ以上からすると,引用例において単離された遺伝子によってコードされるタンパク質と,甲11論文及び甲24論文において単離された遺伝子によってコードされるタンパク質(すなわちOMPF)とは異なる機能を有するため,両者は異なるタンパク質であるというべきである。 (6)引用例の発表後の著者らの態度についてア引用例の著者らにとって,引用例は自ら著した論文なのであり,そこには,著者らの述べるところの「OMPF」を発現させ,また「OMPF遺伝子」の制限酵素地図を作成したとしているのであるから,後の論文における著者らの態度としては,OMPFのアミノ酸配列等が問題になった場合,引用例を引用するのが自然である。 しかしながら,引用例の著者らが後に発表したOMPFに関する論文(甲2(乙19)論文(以下「甲2論文」という。),甲17論文)においては,OMPFのアミノ酸配列等に関する箇所に,引用例が一切引用されておらず,かえって,本願発明の発明者らによる甲5論文が引用されている。 イまた,仮に,引用例の著者らが,自らもOMPF遺伝子の配列決定を行ったのであれば,甲5論文の存在にかかわらず,自らの実験についても言及するはずであるし,さらに,甲18検索結果に記載されたDNA配列と本願発明に係るDNA配列とは異なるのであるから,その差異についての考察がされるはずである。 ウ以上からすると,引用例の著者らは,引用例において発現されたタンパク質がOMPFでなかったことを認めているといえる。 (7)OMPFの大腸菌に対する毒性についてア引用例においては,OMPFのサブクローニングの段階で高コピー数のベクター(pUC8及びpUC9)が用いられているところ,高コピーベクターを用いてOMPF遺伝子を大腸菌等の宿主細胞に導入した場合,それらの遺伝子生成物(OMPF)により宿主細胞を死滅させるという毒性が存在するため,仮に,引用例において,実際にOMPFのサブクローニングに成功し,OMPFが発現されたとすると,少なくともサブクローニングの段階で,宿主細胞はOMPFの毒性ゆえに死滅していたはずである。 なお,引用例においては,OMPF遺伝子の断片のサブクローニングがされているが,たとえOMPFの断片であっても大腸菌に対して毒性を有するものと推測される(乙2論文)。 また,審決は,OMPFがグラム陰性菌の外膜の内と外との環境を直接結ぶチャネル,すなわちポリンとして機能し,浸透圧など菌の生存に関わる重要な調節機能を担うものであるところ,大腸菌の外膜中では許容される全ポリン量には一定の上限値があり,そのため,半ば強制的に大量のOMPFを発現させようとすれば,大腸菌自身の生存に必要な本来の各ポリン類の発現が極度に抑制される可能性が高いなどと説示し,OMPFの過剰発現が大腸菌宿主に対し毒性を有するとしているところ,甲44論文によれば,OMPFは,N末端1-162のみでポリンとして機能するのであるから,OMPF断片であっても,N末端1-162が含まれていれば,大腸菌に対して毒性を有するものである。 イなお,乙5(甲58)論文(以下「乙5論文」という。)によれば,大腸菌のOmpAの場合には,たとえ短縮型であっても,毒性を有するとされている。 ウ以上からすると,OMPFは,たとえ断片であっても,大腸菌に対して毒性を有するため,OMPF遺伝子の断片がサブクローニングされていても,宿主細胞が死滅することには相違ないといえるから,引用例に記載された実験方法によれば,OMPFを発現させることはできない。したがって,引用例において発現されたタンパク質は,OMPFではない。 エこれに対し,被告は,原告の上記主張によれば,本願発明を実施することもできないなどと主張する。 しかしながら,本願発明におけるクローニング法は,タンパク質の発現を必要としない方法であり,しかも,宿主大腸菌を死滅させる方法であるため,クローニングされた遺伝子の毒性は問題とならず,また,サブクローニングにおいても,タンパク質の発現を必要としないため,当該毒性が問題とならないものであるのに対し,引用例に記載されたクローニング法及びサブクローニング法は,遺伝子によってコードされるタンパク質を発現し,そのタンパク質と抗体との反応性を指標としているために,目的遺伝子が毒性を有するタンパク質をコードする場合には,その影響が生じることになるものであるから,被告の主張は,両者のクローニング法の根本的な差異を看過するものであり,失当である。 (8)私的鑑定意見等についてア京都大学大学院医学研究科教授長田重一作成の「鑑定意見書」と題する書面(甲55。以下「長田意見書」という。)には,の生体内に実在し,P. aeruginosaOMPFと同様にポリン活性を有すると推定され,モノクローナル抗体MA4-4及びMA5-8と結合すると推定されるタンパク質(“hypothetical protein”)が,SDSゲル電気泳動法における挙動及び熱変更性タンパク質としての挙動において,OMPFと同様であると推定されることから,引用例においては,OMPF遺伝子とは異なる遺伝子をクローニングした可能性があると記載されている。 そして,長田意見書の上記記載は,コンフォメーショナルエピトープに結合するモノクローナル抗体について述べる甲56論文や,MA4-4の反応の非厳密性について述べる甲11論文,さらには,帝京大学薬学部長・東京大学名誉教授井上圭三作成の「鑑定書」と題する書面(甲53)からも裏付けられるものである。 イまた,甲11論文の著者は,引用例においてOMPFとは異なるタンパク質が混入したことを認めている。 ウ引用例は,複数のモノクローナル抗体との反応,SDSゲル電気泳動における挙動,熱変更性タンパク質としての挙動及びポリンとしての特性という4つの基準において,発現させたタンパク質をOMPFと同定しているところ,これは,単一のタンパク質が当該4つの基準を満たしたことを何ら意味するものではない。そして,複数のタンパク質が存在すれば,それだけ,上記4つの基準を満たす確率が高くなる。 エなお,本件優先日前の当業者は,引用例におけるのと同様のクローニング法を用いた場合には,目的の遺伝子とは異なる遺伝子をクローニングする可能性があることを認識しており,甲31論文,乙2論文,乙4(甲57)論文(以下「乙4論文」という。)及び乙5論文に記載されるように,クローニングした遺伝子が目的のタンパク質をコードするものであるか否かを確認するため,目的のタンパク質の部分アミノ酸配列と,クローニングした遺伝子がコードするアミノ酸配列とを比較していたものである。 2取消事由2(本件優先日前における技術的事項の認定の誤り)審決は,「引用例のP. aeruginosaに属するPAO1株以外の菌株,例えば本願明細書中のATCC33354株も,・・・そのDNA配列はPAO1株由来OMPF遺伝子と極めて相同性の高いものであると予測できる」と認定したが(以下,審決の上記認定に係る技術的知見を「本件知見」という。),以下のとおり,本件知見は,技術的に誤っているから,審決の上記認定も誤りである。 (1)ア本件優先日前において,には,少なくとも3000種類以P. aeruginosa上の株が存在し,株間で,病原性,薬剤抵抗等の性質が異なることが常識であり(甲9論文),緑膿菌が染色体の再構成すらも行うことが知られており(甲10論文),細菌がポリンの変化を誘導することにより薬剤耐性を獲得することも周知の事項であり(甲27論文),また,引用例の著者の1人であるHancockは,自己が作成したモノクローナル抗体が種々のタンパク質Fと異なる反応性を有することの原因がアミノ酸配列の変化である可能性を認め(甲15論文),その後,変異実験によってのポリンの構造が変化することも既に確認されていた(甲P.aeruginosa28論文)。現に,引用例の著者の1人も,甲11論文において,タンパク質Fに多様性があると考え,OMPFの構造解析を目的の1つとして,遺伝子変異(易変異性)を含む薬剤耐性のメカニズムを解析しようとしていた。 イそして,当業者は,本件優先日前において,のOMPFは変P.aeruginosa異を起こしやすいものと認識していた。 ウそうすると,本件優先日前の当業者は,の異なる株においてP.aeruginosaはポリン構造が異なると予測していたものと考えられる。 (2)大腸菌OmpAタンパク質と他のグラム陰性菌の熱変更性タンパク質との比較をテーマとする甲45論文(1980年8月発行)には,OmpAや熱変更性タンパク質についての議論のみならず,グラム陰性菌の外膜タンパク質全般にわたる記載があり,その「考察」欄には,「ポリンタンパク質は,同種内においても,また,異なる属または種の間においても,相同性をほとんど示さない。」との記載がある(なお,OMPFは,ポリンタンパク質の一種である。)。 (3)審決は,OMPFが微生物の生存にとって重要なタンパク質P. aeruginosaであると説示するが,以下の理由により,OMPFは,の生存にと P. aeruginosaって不可欠なタンパク質ではない。 ア菌株によっては,ポリンチャネルが複数個存在するものもある(甲23論文参照)。 イ大腸菌については,ポリン不全株(JF733)が生存している。 ウについても,タンパク質Fを欠失する株(H283)が存在するP.aeruginosa(甲15論文参照)。 (4)被告は,甲15論文を援用して,モノクローナル抗体に対する反応性を理由に,のセロタイプ間における外部膜タンパク質の保存性が高い旨P. aeruginosaの主張をするが,モノクローナル抗体に反応することは,単に,同一又は類似のエピトープが存在することを示すにすぎないから,被告の上記主張は,菌株が異なるのOMPF遺伝子のDNA配列における保存性を根拠付けるものでP.aeruginosaはない。 (5)以上からすると,本件優先日前において,当業者は,ポリンタンパク質の一種であるOMPFの保存性が極めて低いものと認識していたものであるから,本件知見は,技術的な誤りを含んでいるというべきである。 3取消事由3(進歩性についての判断の誤り・その1)審決は,引用例において単離されたコスミドクローン(pHN4)にOMPF遺伝子が含まれていたことを前提に,「P. aeruginosaに属する微生物のOMPF遺伝子を取得し,そのDNA配列を決定することは,本件優先日前の当業者であれば引用例の記載に基づいて容易になし得ることであり,そのDNA配列が『配列番号1』であったことをもって格別の効果とすることはできない。したがって,本願発明は,引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものである。」と判断したが,以下のとおり,この判断は誤りである。 (1)取消事由1の(7)のとおり,本件優先日前においては,OMPF遺伝子の大腸菌宿主に対する毒性は認識されておらず,仮に,引用例において単離されたコスミドクローン(pHN4)にOMPF遺伝子が含まれていたとしても,OMPF遺伝子の大腸菌宿主細胞に対する毒性ゆえに,本件優先日前の当業者にとって,引用例に記載された方法でOMPF遺伝子をクローニングし,そのDNA配列を決定することは容易でなかったものである。 (2)また,以下の各点からも,本件優先日前の当業者にとって,引用例に記載された方法でOMPF遺伝子をクローニングし,そのDNA配列を決定することは容易でなかったといえる。 ア本件優先日前においては,DNAの配列決定が行われなくても,遺伝子をクローニングすれば,一流の科学雑誌に掲載され,学位論文として認められる程度の価値があった。かかる事実は,本件優先日前の技術水準では,遺伝子をクローニングしてそのDNA配列を決定することが困難であったことを示すものである。 イ引用例の著者らは,本件優先日の2年後である1989(平成元)年6月に発表した甲2論文において,OMPF遺伝子のDNA配列につき,自ら決定した配列ではなく,本願発明の発明者らによる甲5論文に記載された配列を引用している。 このことは,引用例の著者らでさえも,引用例の記載に基づいてOMPF遺伝子のDNA配列を決定することが困難であったことを示すものである。 (3)本願発明は,引用例に記載された方法ではなく,OMPFの部分配列を決定し,ハイブリダイゼーションプローブを調製してファージベクターを用いる方法を採用し,プロモーターを工夫するなどして,クローニング,配列決定等における困難性を克服したものであり,この点において,本願発明には進歩性が認められるべきである。 (4)また,OMPF遺伝子のDNA配列を正確に決定することは,ワクチンの生産にとって重要であるから,本願発明において同DNA配列が正確に決定されたこと自体が,顕著な作用効果であるというべきである。 (5)なお,引用例において実際にクローニング及びサブクローニングがされた遺伝子は,読み取り枠中央のシステイン残基を含む部分を欠失し,そのために,ポリン活性を有さない短縮型タンパク質をコードする「変異体」遺伝子であり,そのような「変異体」遺伝子であれば,たとえタンパク質が発現したとしても宿主細胞に対して毒性を示さないということが十分考えられるから,引用例において,毒性の問題が解決された上で,OMPF遺伝子がクローニングされたということはできない。 4取消事由4(進歩性についての判断の誤り・その2)審決は,「引用例に接した本件優先日前の当業者にとっては,公知微生物であるP.aeruginosaに属するPAO1株ゲノムから,確実にOMPF遺伝子の全長を含むDNAが11kbのEcoRIフラグメントとしてクローニングされている上に,OMPF遺伝子の1部配列を確実に含むフラグメントも各種得られている以上,既にOMPF遺伝子自体がクローニングされているに等しいといえ,その塩基配列及び推定アミノ酸配列を知りたければ,必要に応じてこれらのフラグメントから適宜ルーチン的作業で機械的に読み取ればよいことであると理解するはずである。」と判断したが,以下のとおり,この判断は誤りである。 (1)仮に,引用例において単離された遺伝子がOMPF遺伝子であったとしても,本件優先日前の技術水準では,これを含むフラグメントのみからOMPF遺伝子のDNA配列を読み取ることは困難であったため,引用例の記載に基づいてOMPF遺伝子の配列を決定することは,本件優先日前の当業者にとって容易でなかったものである。 すなわち,本件優先日前の技術水準では,OMPF遺伝子の全長を発現した場合の毒性が認識されていなかった以上,OMPF遺伝子そのもの,または大腸菌宿主に対して毒性を有するフラグメントをタンパク質として発現させて調製するために用いる発現ベクターを調製することは不可能であったから,OMPF遺伝子そのものがクローニングされた状態及びその機能について確認することは不可能であったといわざるを得ず,クローニングされたものが目的のタンパク質であることを知ることはできなかった。 (2)また,引用例に記載された制限酵素地図と甲11論文に記載された制限酵素地図とが異なることから,引用例に接した当業者は,たとえOMPF遺伝子を含むコスミドクローンを得たとしても,そこにはOMPF遺伝子は含まれないものとミスリードされてしまい,そのコスミドクローン全長のDNA配列を決定することが必要と考えるところ,本件優先日前において,遺伝子をサブクローニングする技術自体は確立していたものの,コスミドクローンの場合には,その全長が非常に長かったため,DNA配列の決定は困難であったものである。 同様に,引用例においては,単離されたタンパク質の全長の推定アミノ酸長が誤って410アミノ酸とされており,これによれば,対応する遺伝子の全長は1230塩基長と計算されるから,引用例の記載に基づいてタンパク質又は遺伝子を得た当業者は,OMPF又はOMPF遺伝子が得られなかったとミスリードされてしまう。 (3)さらに,引用例の著者らが,引用例に基づいて速やかにOMPF遺伝子のDNA配列を決定し,これをいち早く論文発表することができなかった(引用例の発表からOMPF遺伝子のDNA配列の決定まで,13年(甲18検索結果に係るDNA配列の決定までであっても6年)もの長期間を要した)という事実も,OMPF遺伝子を含むコスミドクローンが得られた場合にはOMPF遺伝子のDNA配列を決定することが容易であったとの被告の主張が誤りであることを強く裏付けるものである。 (4)加えて,本件優先日当時,DNA配列を正確に決定するだけで,博士号を授与されることが多かったことも,本件優先日当時の技術水準では,DNA配列を決定することが非常に困難であったことを裏付けるものである。 (5)なお,審決は,上記のとおり,引用例において「確実にOMPF遺伝子の全長を含むDNAが11kbのEcoRIフラグメントとしてクローニングされている」と認定するが,これは,制限酵素による認識・切断の正確性を前提とするものであって,引用例における制限酵素地図が正確なものではないとの被告の主張と矛盾するものである。 (6)以上のとおり,仮に引用例において単離されたのがOMPF遺伝子であったとしても,これを含むフラグメントから,OMPF遺伝子のDNA配列を決定することは困難であったのであるから,審決の上記判断は誤りである第4被告の反論の要点1取消事由1(引用例の記載事項の認定の誤り)に対し以下のとおり,原告の主張はいずれも失当であり,引用例においては,OMPFが発現され,クローニングされたといえるから,審決の認定に誤りはない。 (1)引用例の著者らがOMPF遺伝子であると考えて単離した遺伝子のDNA配列に係る制限酵素認識部位と,本願発明のDNA配列に係る制限酵素認識部位とが異なること(制限酵素地図の相違)についてア(ア)制限酵素地図は,クローニングによって得られた目的DNA断片の配列のおおよその構造を知るために作成し,目的DNA断片が種々の制限酵素によってどの部位で切断されるかを示す地図であり,その作成は,種々の制限酵素で目的DNA断片を切断した後,ゲル電気泳動による移動度から推測される切断断片の長さに基づいて,当該切断断片が,目的DNA断片のどの部分に相当するかを推測するものである(甲12文献参照)から,作成された制限酵素地図は,推定されたおおよそのものであり,その作成の際に,サブクローニングするDNAの一部が脱落するなどの可能性も否定できず,後になって,正確なDNA配列が決定されれば,その推測が覆ることも十分にあり得ることである(このようなことは,甲31論文や乙16論文においても生じた事態であり,推測が覆る要因は,様々である。)。 なお,甲38文献に記載された「制限酵素断片長多型」(RFLP)の検出は,その存在を証明しようとする遺伝子について,制限酵素認識部位の存在(又は不存在)があらかじめ分かっていることを前提とする技術であり,当該遺伝子のDNA配列が正確に決定されていることを前提としているのに対し,引用例の制限酵素地図は,遺伝子のDNA配列を決定する前段階において,当該遺伝子のおおよその構造を決めたものであるから,制限酵素認識部位が存在するかどうかの信頼性は,甲38文献に記載された技術と比べて低いものであることは当然である。したがって,甲38文献を援用して,制限酵素地図の信頼性が格段に高い旨をいう原告の主張は,失当である。 (イ)引用例のpWW13の制限酵素地図は,後に,引用例の著者らにより,訂正されている(甲11論文)。また,引用例の著者らは,後に,pWW5について構造解析を行っているところ(乙17論文),乙17論文には,pWW5が,のOP.aeruginosaprF(OMPF)のアミノ酸171〜300の中間領域が欠失したものをコードすることが示されており,このことからすると,原告が主張する,本願発明の「配列番号1」に制限酵素I及びIの認識部位が存在せず,他方,制限酵素I及PstXho SalびIの認識部位が存在するということに対して,合理的な説明が可能である。 Smaイ原告は,引用例の著者の1人が,後に発表した甲11論文において,OMPFの毒性を回避するための工夫がされた結果,初めて正しくOMPF遺伝子をクローニングした旨主張する。 しかしながら,原告の上記主張は,甲11論文の図2〜4に示される実験結果が,引用例の図1〜3に示されるものと全く同じであることを見過ごしたものであり,失当である。 また,甲11論文の著者が「テトラサイクリン濃度の変更・・・により,OMPFの毒性を回避ないし軽減させることに成功した」との原告の主張は,憶測にすぎず,参酌に値しない。 さらに,甲11論文に大腸菌宿主についての記載がないからといって,原告の主張のように「OMPFの毒性を回避ないし軽減させるために何らかの工夫がされた」とみるべき根拠はない。 ウ(ア)原告は,「引用例の著者らが自らの制限酵素地図の誤りに気付き,それを訂正しようとするならば,『ERRATA』(正誤表)として,その誤りを訂正するか,あるいは後の論文において誤りに言及するはずである」と主張するが,研究者一人一人の思惑,行動等については,知る由もないのであるから,仮に,引用例の著者らが原告が主張する誤りに気付いたとしても,原告が主張するような行動をとるとは限らず,したがって,原告の上記主張は,憶測にすぎないというべきである。 (イ)原告は,甲11論文におけるpWW13の制限酵素地図の作成においては,引用例において用いられた制限酵素I(記号:T)及びI(記号:X)が用いられSstXhoていないと主張するが,引用例における制限酵素地図は,pWW5の約2.0kbのI-I断片がそのまま含まれているという誤った仮定に基づいて作成されたもSal Pstのであり,後日,正しいものに訂正されたのであるから,引用例における制限酵素地図に原告が主張するような記載の誤りがあったとしても,そのことをもって,引用例において発現されたタンパク質がOMPFではなかったということはできない。 エ原告は,引用例においてサブクローニングされたpWW13が,甲11論文においてサブクローニングされたpWW13と同一のプラスミドであるとすると,以下のとおりの矛盾が生じることになると主張するが,いずれも理由がない。 (ア)原告は,引用例に記載されたpWW13は,約2.0kbのI-I断片を含Sal Pstむ(引用例においては,このことが実験的に確認されているといえる。)にもかかわらず,甲11論文に記載されたpWW13に含まれるI-I断片は,約1.3kbSal Pstのものと約0.9kbのものであると主張するが,引用例には,pWW13が約2.0kbのI-I断片を含むことが「実験的に確認された」とは記載されていない。 Sal Pst(イ)原告は,引用例においては,pHN4及びpWW13が約2.0kbのI断片を含 Smaむことが実験的に確認されているにもかかわらず,甲11論文に記載されたI断 Sma片は,約1.7kbのものと約4.3kbのものであり,pHN4全体に占める同断片の位置も,引用例と異なると主張するが,上記(ア)と同様,引用例において,pHN4及びpWW13が約2.0kbのI断片を含むことが「実験的に確認されている」とSmaはいえない。 (ウ)原告は,甲11論文におけるpWW13の制限酵素地図を前提にして,引用例に記載されたpWW1の調製方法を適用すると,OMPF遺伝子を含んだ部分が切り取られてしまうことになるから,甲11論文におけるpWW4及びpWW5には,OMPF遺伝子が含まれないことになると主張するが,その根拠は不明であるといわざるを得ない。 オ原告は,仮に,引用例においてサブクローニングされたpWW5が,乙17論文の図4に示されるような欠失した構造を有するならば,以下のとおりの矛盾が生じることになると主張するが,いずれも理由がない。 (ア)原告は,乙17論文の記載内容からすると,引用例においてサブクローニングされたpWW5は,共直線性を欠くことになるところ,引用例の図4によれば,pWW5内には共直線性がない領域が存在しないこととされていると主張するが,pWW5の正確なDNA配列は,乙17論文において初めて明らかにされたものであり,pWW5のDNA配列の情報が不明な状況下で推測された引用例の制限酵素地図に誤りがあったとしても,そのことをもって,引用例において発現されたタンパク質がOMPFでなかったということはできない。 (イ)原告は,乙17論文の記載内容からすると,サザンハイブリダイゼーションに使用するため,引用例においてサブクローニングされたpWW5からプローブを調製すると,アミノ酸1〜170残基に対応するプローブ及びアミノ酸301〜326残基に対応するプローブが生じることになり,これらを用いてサザンハイブリダイゼーションを行うと,前者に対応するタンパク質断片及び後者に対応するタンパク質断片がそれぞれ検出されることとなるにもかかわらず,引用例には,pWW5から調製したプローブによってサザンハイブリダイズした場合に単一のバンドが確認されたと記載されていると主張する。 しかしながら,原告が主張する両断片の長さには,6倍以上の差があり,アミノ酸1〜170残基に対応する断片のみがプローブによって検出されたものである。 カなお,甲5論文によれば,pWW5は,実際に本願発明のOMPF遺伝子と強くハイブリタイズすることができるものであるから,引用例の制限酵素地図に誤りがあったとしても,そのことにより,引用例において,OMPFが得られなかったということにはならない。 (2)NCBIに登録されたOMPFのアミノ酸配列等(甲3検索結果及び甲22検索結果)についてア上記(1)において主張したところに照らせば,甲22検索結果に記載(登録)されたOMPF遺伝子のDNA配列から導き出される制限酵素部位が,引用例に示された制限酵素部位と矛盾しているからといって,引用例の著者らが,引用例においてクローニングされた遺伝子とは無関係にOMPFのアミノ酸配列等を決定したことを裏付けるものではない。 イ(ア)甲18検索結果ないし甲22検索結果によれば,引用例の著者らは,PAO1株(セロタイプ5)のOMPF遺伝子のDNA配列を,1992年5月19日にNCBIに登録し(甲18検索結果),その後,一貫して,PAO1株のOMPF遺伝子について,同じDNA配列を提出していたことが分かる。したがって,遅くとも同日時点においては,OMPF遺伝子のDNA配列が明らかになっていたといえる。 (イ)これに対し,原告は,引用例の著者らがOMPFのアミノ酸配列等をNCBIに登録した経緯,甲18検索結果に供給源としてのプラスミドの記載がないこと,引用例の著者らは,甲20検索結果及び甲21検索結果に係る登録によって,甲18検索結果及び甲19検索結果に係る配列情報をいったん削除したものといえること,甲19検索結果に「この記録は中断された。」との記載があることにかんがみれば,引用例の著者らは,甲18検索結果及び甲19検索結果に記載された配列とは別個独立の情報として,甲20検索結果及び甲21検索結果に記載された配列を提出したものと考えるのが合理的であると主張する。 しかしながら,甲18検索結果に係るDNA配列は,甲20検索結果に係るDNA配列によって差し換えられ,さらに,甲22検索結果によって再度差し換えられたものであり,また,甲18検索結果のコメント欄並びに甲20検索結果及び甲22検索結果の各供給源欄には,いずれも,のPAO1株からのものであP. aeruginosaることが記載され,しかも,甲20検索結果及び甲22検索結果に記載されているプラスミドのうち,pWW1901及びpWW2300は,引用例において用いられたpWW13から派生するものである。さらに,甲18検索結果に記載されたDNA配列と別紙配列表記載のDNA配列とを比べると,ほぼ一致するものであり,甲18検索結果に記載されたDNA配列には,OMPF遺伝子の全長が含まれているといえる。加えて,甲18検索結果,甲20検索結果及び甲22検索結果に記載されたDNA配列を対比すると,甲22検索結果に記載されたDNA配列は,甲18検索結果に記載されたDNA配列(OMPF遺伝子の全長を含むもの)及び甲20検索結果に記載されたDNA配列(甲18検索結果に記載されたDNA配列の5’末端の一部を含む同末端上流域のDNA配列)を組み合わせたものである。 そうすると,原告の上記主張は,理由がない。 ウまた,上記イからすると,「引用例の発表後,OMPF遺伝子のDNA配列あるいはOMPFのアミノ酸配列が明らかになるまでに長期間が経過している」との原告の主張に理由がないことは,明らかである。 エ原告は,甲18検索結果ないし甲22検索結果のいずれにおいても,本願発明の発明者らによる甲5論文が引用されているにもかかわらず,引用例は全く引用されていないと主張するが,これらの検索結果に記載された参考文献は,NCBIが,各研究主体の提出した配列を整理し,関連のある配列を掲載する文献等を参考文献として掲載したものであり,具体的な配列情報が開示されていない引用例が参考文献として掲載されるはずがないから,原告の上記主張は失当である。 (3)引用例において用いられたOMPFの発現を確認する方法についてア(ア)モノクローナル抗体に交差反応の可能性があるとしても,引用例においては,複数のOMPF特異的なモノクローナル抗体との結合が確認されており,複数のOMPF特異的な抗体が,いずれもOMPF以外のタンパク質を検出したとは考えられない。 (イ)原告は,モノクローナル抗体の交差反応の例として,甲15論文,甲34論文及び甲35論文を挙げるが,交差反応の可能性はあったとしても,甲15論文及び甲34論文は,モノクローナル抗体を用いて,目的とするタンパク質を検出することができることを示しているし,甲35論文も,そのことを否定するものではない。なお,引用例の実験において,モノクローナル抗体MA4-4と反応するとされているのタンパク質が混入する余地はなかったものである。 P. putida(ウ)原告は,引用例の図3における?@のバンド及び?Aのバンドの検出を根拠に,引用例の著者らが,モノクローナル抗体の交差反応の可能性を看過して実験を行ったものと考えられると主張するが,引用例においては,?@のバンドについては,天然ののOMPF調製物においてもしばしば観察されるものであり,P. aeruginosa?Aのバンドについては,おそらくOMPFの分解産物であり,いずれもOMPFに派生するものであろうとの,妥当な考察を加えているところである。また,レーン1(のOMPF)とレーン5(クローニングされたOMPF)とのP. aeruginosa違いについては,これらのレーンで用いた外部膜の調製物が,のも P. aeruginosaのと大腸菌のものという違いがあり,レーン5の大腸菌の外部膜の調製物に含まれるのOMPFが,大腸菌宿主由来の組成により何らかの影響を及ぼP. aeruginosaされて?@のバンド及び?Aのバンドが生じ,わずかに見出されるに至ったとしても,格別不思議なことではないから,原告の上記主張は,失当である。 イ(ア)また,SDSゲル電気泳動法によるタンパク質の同定に限界があるとしても,同じタンパク質であれば,同1条件下では,同じ位置に電気泳動されるはずであるところ,引用例においては,クローニングされた遺伝子の発現産物が,天然ののPAO1株由来のOMPFと比較して,同1条件下で,SDSゲルP.aeruginosa電気泳動法における挙動が同じであることが示されている。 (イ)原告は,甲29文献及び甲37論文を根拠に,SDSゲル電気泳動法による分子量の測定が不正確である旨主張するが,引用例においては,SDSゲル電気泳動法により分子量を測定しているのではなく,クローニングした遺伝子の発現産物が,天然ののPAO1株由来のOMPFと比較して,同1条件下で同P. aeruginosa一の挙動(すなわち,見かけ上の分子量が同一であること)を示すか否かを観察しているのであるから,原告の上記主張は,不適切なものである。 ウ以上からすると,OMPF以外のタンパク質が大腸菌で発現した際に,複数のOMPF特異的な抗体と交差反応し,かつ,天然ののPAO1株に由P. aeruginosa来するOMPFと同じ位置に電気泳動されるなどということは,およそあり得ないことであるから,引用例において得られたタンパク質がOMPFであったことは,疑う余地のないところである。 エなお,原告は,本願発明において採用されたクローニング法(目的タンパク質を精製し,その部分配列を決定し,その部分配列に基づいてクローニングする方法)がより正確である旨主張する。 しかしながら,この方法においては,精製されたタンパク質がOMPFであることが前提とされているところ,本願発明においては,精製されたタンパク質がOMPFであることをSDSゲル電気泳動法によって同定しているのであるから,原告の上記主張は失当である。 (4)OMPFを構成するアミノ酸の個数に関する引用例の著者らの認識についてア引用例が頒布された時点において,OMPFの分子量は,SDSゲル電気泳動法により把握されていたのであるから,おおよその値であることは当然である(甲29文献参照)。 イそして,上記(3)において主張したとおり,引用例においては,クローニングされた遺伝子の発現産物が,天然ののPAO1株由来のOMPFと比P. aeruginosa較して,同1条件下で,SDSゲル電気泳動法における挙動が同じであることが示されているのであるから,分子量の把握が大雑把で正確性を欠くものであったとしても,引用例におけるタンパク質の同定が不確かなものであるとはいえない。 ウ以上からすると,引用例に「天然のタンパク質Fにおける約410アミノ酸」との記載があることをもって,引用例において単離されたタンパク質がOMPFでなかったということはできない。 (5)引用例において単離されたDNAによってコードされるタンパク質と,その後に引用例の著者の1人が単離したDNAによってコードされるタンパク質の機能(チャネル伝導度)についてア引用例及び甲11論文には,いずれも,OMPFのチャネル伝導度については,天然のから単離したOMPFについても,大腸菌において発現P.aeruginosaさせクローニングしたOMPF遺伝子の産物についても,大多数のチャネルが小さな伝導度を有し,他方,低い頻度で,大きな伝導度のチャネルが存在すること,両者において観察された小さな伝導度のチャネルは従来から報告されていた値(Benz& Hancock, 1981)と比べて小さいものであることが記載されているのであるから,引用例に記載されたタンパク質と甲11論文に記載されたタンパク質とが異なるということはできない(引用例の「約65%が4nSよりも大きな」との記載は,「平均伝導度0.36nSを有した。・・・それよりも大きなチャネルが,それよりも低頻度で観察された。」,「測定された大きなチャネルのうちの約65%は4nSよりも大きな(のタンパク質Fについて以前に報告された(3)P. aeruginosa(原告が主張する引用文献3)のものと同様の大きさ)単一チャネル伝導度を有した。」との文脈における記載であり,原告の主張は,引用例を誤って解釈するものである。)。 イまた,甲24論文の記載によれば,同論文においては,のOP. aeruginosaprF(OMPF)のチャネル特性について,引用例の発表後,より詳細な実験系を用いて調べたことが明らかであるほか,引用例の図6には,1MのKCl水溶液中で形成されるチャネルが,伝導度0.1〜1.0nSの範囲に分布することが示されているのであるから,甲24論文において,事後的に正確なチャネル伝導度の測定が行われたからといって,それは,実験の制度,手法等の違いによるものにすぎないというべきである。 (6)引用例の発表後の著者らの態度についてア引用例の著者らは,甲2論文及び甲17論文において,引用例を引用している。ただし,これらの論文においては,OMPF遺伝子のDNA配列に関連して引用例を引用するものではないが,引用例には,DNA配列が記載されていないのであるから,当然のことである。 イなお,本願発明は,OMPF遺伝子のDNA配列を決定した最初のものであるから,引用例の著者らが,甲2論文及び甲17論文において,本願発明の発明者らによる甲5論文を引用するのは,当業者として何ら不自然な点はない。 (7)OMPFの大腸菌に対する毒性についてアOMPFの過剰発現が大腸菌に対して毒性があるとしても,乙6論文ないし乙8論文に記載されているように,低コピー数の発現ベクターを用いることにより全長の遺伝子をクローニングすることは可能であるところ,引用例におけるpHN4及びpWW13のクローニングは,この手法でされている。 また,DNA配列を決定するために多量のコピーを必要とする場合には,乙4論文ないし乙7論文及び乙21論文に記載されているように,発現させても毒性を示さない部分長のものに全長遺伝子を断片化すれば,当該遺伝子を高コピー数のベクターを用いて大量に複製することができるから,OMPFの過剰発現が大腸菌に対して毒性を有するとしても,当該遺伝子のクローニング及びDNA配列の決定に格別の支障があるとはいえない。 なお,引用例において,高コピーベクターを用いたサブクローニングが成功したとされるpWW5は,既にOMPF遺伝子の全長ではなく部分配列しか含んでいないことが明らかとなった時点で,高コピーベクターにサブクローニングされているにすぎないところ,たとえ,高コピーベクターを用いたとしても,外部膜タンパク質の部分ペプチドであれば,宿主を死に至らしめるようなことは起こらない場合もあることは,本件優先日前に知られていた事項である。 イ原告が指摘する乙2論文においても,OmpF合成が抑制された変異宿主細胞(大腸菌のKY2562株)を用いて,高コピーベクターでOMPF遺伝子がサブクローニングされたことが記載されている。 ウ本願発明においても,OMPF遺伝子の部分断片を高コピーベクターにサブクローニングしており,また,本願発明の対応論文である甲5論文においても,OMPF遺伝子を部分的に含む2つの重複断片をサブクローニングしていることが記載されているのであるから,原告が主張するように「OMPFは,たとえ断片であっても大腸菌に対して毒性を有する」のであれば,本願発明の実施は不可能となるものである。 (8)私的鑑定意見等についてア長田意見書にいう“hypothetical protein”が引用例における発現産物であるという可能性は極めて低い。 イ長田意見書は,単に,モノクローナル抗体MA5-8を認識するかも知れない仮想のアミノ酸配列について述べているにすぎず,引用例においては,そのようなタンパク質は検出されなかったものである(引用例の図3)。 ウ長田意見書においては,実際に確認を行ったものではなく,以下のとおり,根拠が希薄な事項について,これを「可能性がある」と述べているものである。 (ア)2つのシステイン残基に挟まれた13残基であることをもって,モノクローナル抗体MA4-4が認識する部位であるとはいえない。また,仮に,モノクローナル抗体MA4-4が非常に緩い特異性を有する(2つのシステイン残基に挟まれた13残基を認識する)のであれば,引用例の図3において,OMPF以外のバンドが検出されたはずである。 (イ)449アミノ酸残基から成るタンパク質のSDSゲル電気泳動における挙動は,天然ののOMPFのそれと異なるものである。 P. aeruginosa(ウ)“hypothetical protein”の熱変更性タンパク質としての挙動及びポリン活性が,天然ののOMPFと同じであるとする理由がない。 P. aeruginosaエ仮に,の外膜に“hypothetical protein”が存在するとすると, P. aeruginosa本願発明において,OMPFを単一のものとして単離することができないことになる。 2取消事由2(本件優先日前における技術的事項の認定の誤り)に対し以下のとおり,本件知見に係る審決の認定に誤りはない。 (1)ア一般に,ある生物由来のタンパク質のアミノ酸配列等の構造は,その生物と同属同種に属する生物の対応するタンパク質の当該構造と類似しており,その相同性は,別の属や別の種に属するものと比べて高いものであり,当該タンパク質をコードする遺伝子のDNA配列も,同様に相同性が高いものと考えることは,当業者にとって,自然なことである。 そして,本願発明のATCC33354株(セロタイプ6)由来のOMPFと,引用例のPAO1株(セロタイプ5)由来のOMPFとは,という同種内のセロP.aeruginosaタイプが異なるだけの株に由来するものであるから,両タンパク質をコードするOMPF遺伝子の相同性は高いものであると予測することができる。 イ(ア)また,本件優先日前において,OMPFを含む外部膜タンパク質の保存性が高いことは,当業者に知られていた事項である(のOMPFにP. aeruginosa対する高度に特異的なモノクローナル抗体が,の17の全セロタイ P.aeruginosaプに属する各株に反応すること,の外部膜タンパク質が,17のセ P. aeruginosaロタイプに属する株間において保存されていることが記載されている甲15論文のほか,乙6論文及び乙7論文参照)。 (イ)原告は,甲9論文,甲10論文,甲15論文,甲27論文及び甲28論文を根拠に,という同じ種に属する株であっても,遺伝子型が顕著にP.aeruginosa異なると主張する。しかしながら,これらの論文は,以下のとおり,OMPFが,の株間において,その遺伝子の相同性が極めて低いといえるほどのP.aeruginosa多様性があることを示すものではないし,かえって,甲28論文は,当該相同性が高いことを示すものである。 a甲9論文には,の株が3000種類以上存在すること及び染P. aeruginosa色体間を移動するトランスポゾンが存在することが記載されているだけである。 b甲10論文には,の染色体が再構成されることが記載されてP. aeruginosaいるだけであり,外部膜タンパク質であるOMPFについて,顕著な遺伝子型の変異があることを示すものではない。 c甲15論文は,のOMPFに特異的なモノクローナル抗体が,P.aeruginosaにも結合することを示すだけであり,のOMPFが多様な P. putida P. aeruginosa変異をしていることを意味するものではない。 d甲27論文に記載されたβ-ラクタム因子によって誘導される「ポリン変化」は,遺伝子型の変異に関するものではない。 e甲28論文には,抗生物質であるβ-ラクタムの浸透性が減じた変異体についても,ポリンF(OMPF)のアミノ酸組成はほとんど変わることがなく,1つ又は2つのアミノ酸変異に基づくものであることが記載されている。 ウまた,原告は,ポリン不全株が生存していることなどを根拠に,OMPFがの生存にとって不可欠なタンパク質ではないと主張する。しかしなP.aeruginosaがら,ポリン不全株が生存しているといっても,そのような株は,野生型の株と比較して,外部環境に対し生存能力が劣っていることが多いのであるから,ポリン不全株が生存していることをもって,OMPFがの生存にとって重要P.aeruginosaでないということはできない。なお,いずれも本件優先日後に頒布された文献ではあるが,甲2論文には,OMPF欠損株が,特殊な培地環境でなければ生育が困難であることが記載され,また,甲30文献には,膜タンパク質のほとんどが生命の維持に不可欠な機能を有していることが記載されている。 エ実際に,本件知見が誤りでなかったことは,後に,甲17論文において,17のセロタイプのうち,1つを除いて制限酵素地図が一致するとされていることから実証されているといえる。 (2)ア原告がその主張の根拠とする甲45論文において,「同種内において相同性をほとんど示さない」例として挙げられているのは,同種内であっても異なるポリンタンパク質であると認識されているOmpCとOmpFであるところ,審決は,という同一の種に属する別のセロタイプ(血清型)の株由来のP. aeruginosa同一タンパク質,すなわち,PAO1株(セロタイプ5)由来のOMPFとATCC33354株(セロタイプ6)由来のOMPFとの相同性が高いと予測することができると認定しているのであり,OMPFと別の外部膜タンパク質との相同性について本件知見を認定したものではない。 S. イなお,甲45論文における大腸菌K-12のOmpC及びOmpFと,LT2の上記両タンパク質との間の相同性についての記載は,別の属にtyphimuriumおける対応するタンパク質の間の相同性について述べたものであり,同種の細菌における同一タンパク質の間の相同性について述べたものではない。 ウ以上からすると,甲45論文の記載により,のPAO1株(セロP. aeruginosaタイプ5)由来のOMPFと,ATCC33354株(セロタイプ6)由来のOMPFの保存性が低いと解することはできず,原告の主張は失当である。 3取消事由3(進歩性についての判断の誤り・その1)に対し(1)上記1の(7)のとおり,引用例において,全長OMPF遺伝子のクローニング(pHN4及びpWW13)は,低コピー数のベクターを用いて行われており,このような方法であれば,原告が主張するような毒性があるとしても,全長OMPF遺伝子のクローニングは可能である。 また,のOMPFが大腸菌宿主に対して毒性を有するかも知れなP.aeruginosaいことは,当業者が容易に予測し得ることであり,仮に,当該毒性について予測していなかったとしても,OMPF遺伝子のDNA配列の決定のためのサブクローニングの際には,当該毒性について認識することができるところ,これに対処する方法は当業者に知られていた事項であるから,当該DNA配列の決定に格別の困難性はない。 (2)すなわち,乙12文献及び乙13文献によれば,クローニングの手法及びDNA配列の決定手法は,本件優先日前に汎用のものとなっており,また,甲31P. aeruginosa 論文,乙2論文及び乙4論文ないし乙8論文に記載されるように,のOMPFを含む外部膜タンパク質をコードする遺伝子のクローニングの際に,高コピーベクターを用いた当該遺伝子の過剰発現が大腸菌宿主細胞に対して毒性を有する現象については,当業者が容易に想到し得ることであり,そのような課題に対する解決手段についても,十分に知られていたことであるから,乙21論文に記載された手法が本件優先日前に周知であったことをも併せ考慮すると,本願発明に係るOMPF遺伝子のクローニング及びそのDNA配列の決定は,引用例に基づいて,当業者が容易になし得たことである。 (3)ア原告は,DNA配列を決定していない引用例が科学雑誌に掲載されたことが,本件優先日前の技術水準では,遺伝子をクローニングしてそのDNA配列を決定することが困難であったことを示すと主張するが,科学雑誌への掲載とDNA配列の決定の困難性との関係について,原告の主張の趣旨は不明である。 イ原告は,引用例の著者らが,本件優先日の2年後に発表した甲2論文において,OMPF遺伝子のDNA配列につき,自ら決定した配列ではなく,本願発明の発明者らによる甲5論文に記載された配列を引用しており,このことからすると,引用例の著者らでさえも,引用例の記載に基づいてOMPF遺伝子のDNA配列を決定することが困難であったことを示すと主張する。 しかしながら,取消事由1に対する反論の(6)で主張したとおり,当業者にとって,のATCC33354株のOMPF遺伝子の配列決定を最初に行った甲5P. aeruginosa論文を引用することは,何ら不自然なことではなく,当該引用の事実は,OMPF遺伝子のDNA配列の決定が困難であったことを意味するものとはいえない。 (4)原告は,本願発明は,引用例に記載された方法ではなく,OMPFの部分配列を決定し,ハイブリダイゼーションプローブを調製してファージベクターを用いる方法を採用し,プロモーターを工夫するなどして,クローニング,配列決定等における困難性を克服したものであり,この点において,進歩性が認められるべきであると主張する。 しかしながら,本願発明のλファージベクターを用いたクローニング手法は,遺伝子工学の技術分野における典型的な手法であり,その手法を採用することに何ら技術的な意義は見出せず,また,本願発明において,タンパク質の単離・精製は,公知の手法(乙9(甲52)論文。以下「乙9論文」という。)を用いており,プローブ作製は,この技術分野の常套手段を用いたにすぎないのであるから,本願発明の手法を採用することに何ら困難性は見当たらない。 (5)原告は,OMPF遺伝子のDNA配列を正確に決定することは,ワクチンの生産にとって重要であるから,本願発明において同DNA配列が正確に決定されたこと自体が,顕著な作用効果であると主張する。 しかしながら,のOMPFは,感染症を引き起こす外部膜タンパP. aeruginosaク質であり,そのDNA配列が決定されれば,その情報をワクチン生産に利用することは,当業者が予測し得る範囲内のことであるから,本願発明におけるDNA配列の決定が,ワクチン生産に寄与する可能性があることをもって,これを顕著な作用効果であるということはできない。しかも,本願発明においては,実際にワクチンを生産したわけでもなく,OMPFの発現すらしていないのであるから,なおさら,本願発明が顕著な作用効果を奏するということはできない。 4取消事由4(進歩性についての判断の誤り・その2)に対し(1)上記3のとおり,全長遺伝子を含むフラグメントが得られていれば,それをサブクローニングして当該遺伝子の塩基配列を決定し,それがコードするアミノ酸配列を決定する手法は,本件優先日前に周知の技術であり,のOP. aeruginosaMPF遺伝子についても,格別の阻害事由がない限り,当業者がルーチンの作業によりこれを行い得たものである。 (2)原告は,「OMPF遺伝子の全長を発現した場合の毒性が認識されていなかった以上,・・・クローニングされたものが目的のタンパク質であることを知ることはできなかった。」と主張する。 しかしながら,グラム陰性菌の外部膜タンパク質をクローニングする際に,当該遺伝子の過剰発現により宿主が死に至ることがあることは,本件優先日前によく知られていた事項であるところ,これを回避する方法についても,本件優先日前によく知られていた事項であるから,OMPF遺伝子の全長を発現した場合の毒性が認識されていなかったことを前提とする原告の上記主張は,その前提を欠くものである。 また,引用例においては,全長遺伝子をクローニング(pHN4及びpWW13)する際に,複数のOMPF特異的モノクローナル抗体及びSDSゲル電気泳動法によりタンパク質の同定を行っているのであるから,引用例においてクローニングされたものが目的のタンパク質であることを知ることができなかったということはできない。 以上からすると,原告の上記主張は理由がない。 (3)原告は,引用例に記載された制限酵素地図と甲11論文に記載された制限酵素地図とが異なることから,引用例に接した当業者は,たとえOMPF遺伝子を含むコスミドクローンを得たとしても,そこにはOMPF遺伝子は含まれないものとミスリードされてしまうと主張するが,制限酵素地図は,DNA配列が決定されれば,その誤りが修正される類のものであるから,引用例に記載された制限酵素地図と甲11論文に記載された制限酵素地図が異なることをもって,引用例に接した当業者にとって,のOMPF遺伝子のDNA配列の決定が困難であP. aeruginosaったということはできない。 (4)原告は,引用例においては,単離されたタンパク質の全長の推定アミノ酸長が誤って410アミノ酸とされており,これによれば,対応する遺伝子の全長は1230塩基長と計算されるから,引用例の記載に基づいてタンパク質又は遺伝子を得た当業者は,OMPF又はOMPF遺伝子が得られなかったものとミスリードされてしまうと主張する。 しかしながら,のATCC33354株からスクリーニングされた遺伝子がP. aeruginosaOMPF遺伝子であることの確認を,アミノ酸長に基づくおおよその塩基長の一致によってのみ行うということはあり得ず,例えば,引用例において行われたように,当該遺伝子の発現産物について,SDSゲル電気泳動法による挙動や,OMPF特異的モノクローナル抗体との反応性が,天然ののOMPFと一致すP.aeruginosaるか否かによって,当該遺伝子がOMPF遺伝子であると同定するものであるから,原告の上記主張は失当である。 (5)原告は,引用例の著者らが,引用例の発表からOMPF遺伝子のDNA配列の決定まで長期間を要したとの事実も,OMPF遺伝子のDNA配列を決定することが困難であったことを裏付ける旨主張する。 しかしながら,遺伝子のクローニングからそのDNA配列の決定までの期間の長短が,当該DNA配列の決定の困難さの程度を示すものではなく,原告の主張は,憶測にすぎない。例えば,引用例の発表後,2年も経たないうちに,甲5論文により,のOMPF遺伝子のDNA配列が公知となっており,引用例のP. aeruginosa著者らが,のセロタイプ間で,OMPF遺伝子が高度に保存されて P.aeruginosaいることを知っていた状況下において(甲11論文参照),のPAO1 P. aeruginosa株のOMPF遺伝子のDNA配列の決定を優先して行う必要はないと考えてもおかしくはない。 第5当裁判所の判断1取消事由1(引用例の記載事項の認定の誤り)について原告は,引用例において発現されたタンパク質がのOMPFであP.aeruginosaったとの審決の認定が誤りであると主張するので,以下,検討する。 (1)引用例における発現タンパク質の同定についてア引用例には,以下の各記載がある(なお,以下,外国語で作成された書証中の引用箇所を特定する場合には,特に断らない限り,訳文(当事者双方が訳文を提出しているものについては,引用する訳文に係る書証番号を付記する。)の該当箇所を示す。また,訳文中,明らかな誤訳等と認められる部分は,特に指摘することなく,適宜,加除訂正を行った上で引用することとする。)。 (ア)「この大腸菌クローンに由来するタンパク質Fおよび天然のタンパク質F P. aeruginosaの同一性が,ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動におけるこれらのタンパク質の移動度が同じであること,2-メルカプトエタノールによる改変可能性,およびタンパク質Fの2つの別個のエピトープに対して特異的なモノクローナル抗体群との反応性によって実証された。」(473頁要約(「のポリンタンパク質FをコーPseudomonasaeruginosaドする遺伝子を,」で始まる段落)4〜7行)(イ)「大腸菌(pHN4)におけるFタンパク質の特徴付け外膜を,大腸菌HB101(pHN4)および大腸菌JF733(pHN4)から単離した。これらの外膜の電気泳動プロフィールを,それぞれ,図1のレーン2および図2のレーン7に示す。両方の株において,に由来するタP. aeruginosaンパク質F(図1のレーン1;図2のレーン5)と同様のタンパク質が,観察され,このタンパク質は,大腸菌HB101(図1のレーン3)においても大腸菌JF733(図2のレーン3)においても観察されなかった。株JF733(pHN4)において,タンパク質Fは,主要な外膜タンパク質(図2のレーン7)であるようであった。 大腸菌HB101(pHN4)[および株JF733(pHN4);データは示さない]の外膜プロフィールにおける新しいバンドは,タンパク質F特異的モノクローナル抗体であるMA4-4およびMA5-8とそのバンドとの相互作用(図3Aおよび図3Bのレーン5)によって,タンパク質Fと同定された。」(475頁左欄10〜26行)(ウ)「2-メルカプトエタノールに対する上記のクローン化タンパク質の応答もまた,調査した。大腸菌HB101(pHN4)および大腸菌JF733(pHN4)における上記クローン化タンパク質は,2-メルカプトエタノール中で加熱した後に,天然のタンパク質F(13)と類似する様式で,見かけ上の分子量が増加した。この現象は,大腸菌JF733(pHN4)において最も容易に観察された(図2のレーン4およびレーン7)。なぜなら,その2-メルカプトエタノール還元されたタンパク質Fのバンドは,株HB101(pHN4)のOmpC-OmpFポリンバンドによって部分的に覆い隠されたからである。上記のクローン化タンパク質は,その還元形態において,モノクローナル抗体MA5-8と反応したが,MA4-4とは反応しなかった(データは示さない)。これは,天然のタンパク質Fについて以前に観察された(23)通りである。」(475頁左欄36〜50行)(エ)「図1.外膜調製物のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動プロフィール。各サンプルについて,15μgの外膜タンパク質を,88℃にて10分間,2-メルカプトエタノールを用いずに可溶化した。レーン1:PAO1;レーン2:大腸菌HB101P.aeruginosa(pHN4);レーン3:大腸菌HB101;レーン4:大腸菌HB101(pWW1);レーン5:大腸菌HB101(pWW4)。分子量マーカー(×1000[K])が,右に示されている。タンパク質Fの位置(F)および短縮型タンパク質F遺伝子産物の位置(T)が,左に示されている。」(475頁右欄図1脚注1〜9行)(オ)「図2.大腸菌外膜調製物および外膜調製物におけるタンパク質Fの2-P. aeruginosaメルカプトエタノールによる改変可能性を実証する,SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動図。サンプルは,図1の脚注に記載される通りに処理したが,但し,5%2-メルカプトエタノールを,レーン2,レーン3,およびレーン4のサンプルに加熱前に添加した。レーン2およびレーン5:PAO1;レーン3およびレーン6:大腸菌JF733;レーン4おP.aeruginosaよびレーン7:大腸菌JF733(pHN4)。2-メルカプトエタノール改変形態のタンパク質F(F )および非改変形態のタンパク質F(F)が,示されている。」(475頁右欄図2脚*注1〜10行)(カ)「図3.SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離された大腸菌HB101の外膜タンパク質のウェスタン免疫ブロット。パネルA中のタンパク質は,タンパク質F特異的モノクローナル抗体MA5-8を用いてプロービングした。パネルB中のタンパク質は,モノクローナル抗体MA4-4(これは,タンパク質Fの別のエピトープを認識する)を用いてプロービングした。レーン1:PAO1;レーン2:大腸菌HB101(pCP13);レーン3:大腸菌P.aeruginosaHB101(pWW4);レーン4:大腸菌HB101(pWW1);レーン5:大腸菌HB101(pHN4)。レーン5における上側の微かなバンドは,タンパク質Fの不完全な熱改変に起因し,由来P. aeruginosaのタンパク質F調製物においてしばしば観察される(13)。パネルBのレーン5における分子量が低い方のバンドは,おそらく,タンパク質Fのタンパク質分解産物である(22)。」(475頁右欄図3脚注1〜14行)(キ)「大腸菌JF733(pHN4)(図5)または(データは示さない)のいずれかにP. aeruginosa由来する少量(0.6ng/ml)の電気溶出済みタンパク質Fを,黒膜二重層を入れている塩水溶液(1MKCl)中に添加すると,伝導度の段階的増加が生じた。他の脂質二重層の実験結果から類推して,これらの伝導度の増加は,タンパク質Fの単一チャネル形成単位がこの膜中に段階的に組み込まれることを伴った。 使用した最低濃度(0.6ng/ml)において,高感度に設定した機器を使用すると,小さなチャネルの組み込みが,主に観察された(図6A及び図6B)。測定された伝導度の増加の確率棒グラフ(図6)および1MKCl中での単一チャネルの平均伝導度(0.34nS〜0.38nS)は,または上記の完全なクローン化タンパク質F遺伝子を保有P. aeruginosaする大腸菌株のいずれかから単離されたタンパク質Fについて,同様であった。」(476頁右欄下から4行〜477頁左欄12行)(ク)「大腸菌クローン(pHN4)およびから電気溶出したタンパク質FについてP. aeruginosaの機能研究により,極めて類似する特性が明らかになった(図6)。」(477頁右欄下から11〜9行)(ケ)「図6.脂質二重膜を入れた1MのKCl水溶液に,PAO1(A)または大P. aeruginosa腸菌JF733(pHN4)(B)由来の精製ポリンタンパク質Fを添加した後に観察された伝導度の段差の棒グラフ。・・・棒グラフの形状に基づいて,0.6nS未満のチャネルを選択し,0.38nS(タンパク質F;92事象の平均)および0.34nS(大腸菌由来のP. aeruginosaタンパク質F;197事象の平均)という平均単一チャネル伝導度を測定した。」(477頁右欄図6脚注1〜8行)また,図1ないし図3には,以下の各事項が示されている。 (コ)図1大腸菌HB101(pHN4)(天然ののPAO1株からDNAを単離した上,P. aeruginosa目的の遺伝子を制限酵素で切断してコスミドベクターに挿入し,さらに,これを大腸菌HB101へ導入して形質転換した株)の発現タンパク質(レーン2)は,36Kよりやや少ない分子量の付近で,大腸菌HB101に由来するタンパク質(レーン3)とは異なるバンドを示す一方,天然ののPAO1株に由来するタンパクP. aeruginosa質F(レーン1)のバンドと同じ位置(図左欄外に「F」と示された位置)にバンドが出現している。 (サ)図22-メルカプトエタノールを添加せずに加熱した場合,大腸菌JF733(pHN4)(上記目的の遺伝子を制限酵素で切断してコスミドベクターに挿入し,さらに,これをポリン欠損性大腸菌である大腸菌JF733へ導入して形質転換したもの)の発現タンパク質(レーン7)は,大腸菌JF733に由来するタンパク質(レーン6)とは異なるバンドを示す一方,天然ののPAO1株に由来するタンパク質FP. aeruginosa(レーン5)のバンドと同じ位置(図右欄外に「F」と示された位置)にバンドが出現している。他方,2-メルカプトエタノールを添加して加熱した場合,大腸菌JF733(pHN4)の発現タンパク質(レーン4)は,大腸菌JF733に由来するタンパク質(レーン3)とは異なるバンドを示す一方,天然ののPAO1株に由P. aeruginosa来するタンパク質F(レーン2)のバンドと同じ位置(図右欄外の「F」と示された位置よりも分子量が大きい「F 」と示された位置)にバンドが出現している。 *(シ)図3SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離された後のモノクローナル抗体に対する反応につき,図3のA(モノクローナル抗体MA5-8との反応)及びB(同MA4-4との反応)とも,大腸菌HB101(pHN4)の発現タンパク質(各レーン5)は,天然ののPAO1株に由来するタンパク質F(各レーン1)のバンP. aeruginosaドと同じ位置(図左欄外の「F」と示された位置)にバンドが出現している。 イ上記アの記載及び図示によれば,引用例において発現されたタンパク質(大腸菌HB101(pHN4)及び大腸菌JF733(pHN4)の発現タンパク質)は,2種類の異なるOMPF特異的モノクローナル抗体に対する反応及びSDSゲル電気泳動法において,いずれも,天然ののPAO1株に由来するOMPFと同様の結果P. aeruginosaを示し,また,引用例において発現されたタンパク質(少なくとも大腸菌JF733(pHN4)の発現タンパク質)は,2-メルカプトエタノールを添加して加熱した場合のSDSゲル電気泳動法による見かけ上の分子量の増加(以下「タンパク質の熱変更性」という。)につき,天然ののPAO1株に由来するOMPFとP. aeruginosa同様の結果を示し,さらに,チャネル伝導度についても,同様の又は類似した結果を示したというのであるところ,異なるタンパク質の間において,上記各同定方法ないし測定方法のすべてにおいて上記のような結果を示すということは,合理的にP. みておよそあり得ないといえるから,引用例において発現されたタンパク質がのPAO1株に由来するOMPFであったことは,優にこれを認めることがaeruginosaできるというべきである。 (2)引用例における発現タンパク質の同定方法に係る原告の主張(取消事由1の(3))について原告は,引用例における発現タンパク質の同定方法につき,種々の疑義がある旨主張するので,以下,検討する。 アモノクローナル抗体に対する反応について(ア)原告は,交差反応が生じることを根拠に,モノクローナル抗体を用いたスクリーニングの信頼性に疑問を呈するが,上記(1)のとおり,引用例においては,2種類の異なるOMPF特異的モノクローナル抗体を用いているほか,SDSゲル電気泳動法(タンパク質の熱変更性についての観察も含む。)をも用いて,引用例において発現されたタンパク質がOMPFであると同定しているのであるし,さらには,チャネル伝導度においても,引用例において発現されたタンパク質と天然のに由来するOMPFは,同様の又は類似した結果を示しているのでP.aeruginosaあるから,モノクローナル抗体を用いたスクリーニングに原告が主張するような一般的な問題があるとしても,少なくとも引用例に関しては,上記(1)の認定を覆すには足りないというべきである。 (イ)原告は,甲15論文(1983(昭和58)年12月発行の「INFECTIONAND IMMUNITY」42巻3号の1027頁から1033頁までに掲載されたRobert E.W. Hancockらによる「Surface Localization ofOuterPseudomonas aeruginosaMembrane Porin Protein F by Using Monoclonal Antibodies」と題する論文)を援用P. して,「引用例において用いられているモノクローナル抗体(MA4-4)は,に由来する外膜タンパク質のみならず,に由来する外膜タンaeruginosa P. putidaパク質とも反応している。」と主張する。 確かに,甲15論文には,「嚢胞性線維症単離物のSDSポリアP.aeruginosaクリルアミドゲル電気泳動の外膜タンパク質のパターンは,H103株のパターンと類似していた・・・。これらの単離物由来のタンパク質Fは,・・・モノクローナルPseudomonas 抗体MA4-4・・・と良好に相互作用した・・・。・・・MA4-4は,外膜由来のタンパク質とは,強く相互作用した・・・。」(原告から提出さputidaれた2種類の抄訳文のうち,「[甲15抄訳]」で始まり「異なる抗原-抗体親和性に起因する可能性がある。」で終わるもの(以下「甲15抄訳」という。)・1丁下から9行〜2丁1行)との記載がある。 しかしながら,引用例において発現されたタンパク質は,引用例の次の記載にみられるように,大腸菌を宿主としてのPAO1株の遺伝子に基づきタンP. aeruginosaパク質を発現させており,の遺伝子が混在する可能性はなかったものと P. putida認められ,加えて,引用例において,2種類の異なるOMPF特異的モノクローナル抗体を用いたスクリーニングが行われていることをも併せ考慮すると,引用例において発現されたタンパク質が,の遺伝子に由来するものであった可能P.putida性はなく,甲15論文の上記記載は,引用例におけるモノクローナル抗体を用いたスクリーニングの信頼性を左右するものではない。 a「細菌株およびプラスミドを,本研究において使用した。」(473頁右 P. aeruginosa欄下から12〜11行)b「PAO1クローンバンクの構築・・・PAO1ゲノムDNAを,RIで部P.aeruginosa Eco分切断し,・・・サイズ分画した。20kb〜25kbのDNAフラグメントを,コスミドベクターであるpLAFR1(10)のRI部位中に連結した。組換え分子を,ファージλ粒子中にインEcoビトロパッケージングし,大腸菌HB101中に形質導入した。その形質導入体を,10μg/mlのテトラサイクリンを含むL寒天上にプレーティングした。」(474頁左欄下から21〜11行)c「クローニングストラテジーおよびコスミドクローンの同定PAO1ゲノムP. aeruginosaDNAのコスミドバンクを,大腸菌HB101中にトランスフェクトした。得られた株を,シングルコロニーにするためにプレーティングし,タンパク質F抗原の生成についてスクリーニングした。約3,500個のコロニーをスクリーニングした。これらのうちの5個が,タンパク質F特異的モノクローナル抗体と反応した。pHN4という名のプラスミドを含む1つのクローンを,さらなる操作のために自由選択した。このプラスミドを単離し,ポリン欠損性大腸菌JF733中に形質転換した。」(474頁右欄下から2行〜475頁左欄9行)(ウ)原告は,モノクローナル抗体の交差反応に言及した例として,甲15論文のほか,甲34論文(1985(昭和60)年8月25日発行の「THE JOURNAL OFBIOLOGICAL CHEMISTRY」260巻18号の10111頁から10117頁までに掲載されたLudwig M. G. Heilmeyer, Jr.らによる「Monoclonal Antibodies to RabbitSkeletal Muscle Phosphorylase Kinase」と題する論文)及び甲35論文(平成6年10月発行の「Jpn J Clin Pathol」42巻の1003頁から1009頁までに掲載された高瀬幸次郎らによる「HCV抗体の測定」と題する論文)を挙げる。 a確かに,甲34論文には,「図1は,モノクローナル抗体KIN 692/IV B5で得られたパターンを示す。驚いたことに,α,β及びγの三つのサブユニットがこのモノクローナル抗体と強く反応した。」との記載(1丁6〜8行。なお,原文10113頁右欄図1脚注1〜2行(「FIG. 1. Reaction of monoclonal antibody KIN692/IV B5 with the phosphorylase kinase subunits.」)によれば,「図1」は「ホスホリラーゼキナーゼのサブユニットに対するモノクローナル抗体KIN 692/IV B5の反応」についての図である。)がある。 しかしながら,他方で,同論文には,「この状況においては,活性に影響を与えるモノクローナル抗体の全てが,4つの構造的に異なるサブユニットのうち,α,β及びγの三つに明らかに存在する構造と反応することは驚くべきことである。これは免疫ブロット法(図1)に見られる交差反応によって明確に証明される。抗体KIN 692/IV B5が,ラクテートデヒドロゲナーゼや,アルドラーゼ,アルブミンのような他の関連しないタンパク質と反応しないことは,この交差反応はこのモノクローナル抗体の『一般的な多特異性』によるものではあり得ないことを示す。」との記載(1丁17〜23行)や,「おそらく,これらのサブユニットのそれぞれには,同一でないのであれば,非常に類似したエピトープが存在する。」との記載(1丁下から3〜末行)もみられるところ,これらの記載によれば,甲34論文は,一のタンパク質(ホスホリラーゼキナーゼ)を構成する複数の異なる構造のサブユニットに対するモノクローナル抗体の反応について論じたものであって,異なるタンパク質の同定の際に生じる交差反応そのものについて論じたものではないし,しかも,これらのサブユニットのそれぞれに同一又は非常に類似したエピトープが存在することを示唆するものである。 bまた,甲35論文には,「GORはヒトおよびチンパンジーの誰でもが持っている遺伝子の一つであり,GOR遺伝子がコードする蛋白上にGRRGQKAKSNPNRPL(GORエピトープ)が存在し,この遺伝子を認識する抗体がGOR抗体である。GORエピトープとHCVcore蛋白とのホモロジーをみるとHCVの15個のアミノ酸残基であるPKPQRKTKRNTNRRPの下線部にホモロジーを認めており,HCV感染に伴って産生されたcore抗体の一部がGORエピトープを交差認識すると理解されている。」との記載(1005頁左欄下から8行〜右欄3行)がある。 しかしながら,同論文は,モノクローナル抗体の交差反応が,特定のタンパク質の間において,同一のエピトープを有する場合のみならず,エピトープのホモロジーが認められる場合にも生じることを示唆するものにすぎない。 cそして,上記(1)のとおり,引用例においては,2種類の異なるOMPF特異的モノクローナル抗体を用いているほか,SDSゲル電気泳動法(タンパク質の熱変更性についての観察も含む。)をも用いて,引用例において発現されたタンパク質がOMPFであると同定していること,さらには,チャネル伝導度においても,引用例において発現されたタンパク質と天然のに由来するOMPFP.aeruginosaが同様の又は類似した結果を示していることをも併せ考慮すると,少なくとも引用例に関しては,甲34論文及び甲35論文の記載をもって,上記(1)の認定を覆すには足りないというべきである。 (エ)原告は,引用例の図3における?@のバンド及び?Aのバンドの出現並びにこれに関するモノクローナル抗体の交差反応についての言及の欠如を根拠に,引用例の著者らが,モノクローナル抗体の交差反応の可能性を看過して実験を行ったものと主張する。 しかしながら,上記(1)ア(カ)のとおり,引用例においては,文献の根拠を明示しP. た上で,?@のバンドについては,「タンパク質Fの不完全な熱改変に起因し,由来のタンパク質F調製物においてしばしば観察される(13)。」と,?Aaeruginosaのバンドについては,「おそらく,タンパク質Fのタンパク質分解産物である(22)。」とそれぞれ説明しているのであり(なお,引用例中の引用文献「(13)」とは,後記甲37論文であり(引用例原文478頁右欄下から23〜21行参照),同「(22)」とは,甲15論文である(引用例原文479頁左欄10〜13行参照)。),?@のバンド及び?Aのバンドがモノクローナル抗体との反応において出現しても不自然ではないと理解されるから,引用例の著者らが,?@のバンド及び?Aのバンドの出現に関し,モノクローナル抗体の交差反応について言及していないからといって,同反応の可能性を看過して実験を行ったとみることはできない。 イSDSゲル電気泳動法について(ア)原告は,甲16論文(2005(平成17)年発行の「Journal ofChromatography B」815号の227頁から236頁までに掲載されたKunioYamaneら に よ る 「 Effectiveness and limitation oftwo-dimensional gelelectrophoresis in bacterial membrane protein proteomics and perspectives」と題する論文)及び甲36文献(1987(昭和62)年3月12日発行の社団法人日本生化学会編「タンパク質の化学(上)」第1版の13頁から15頁まで)を根拠に,SDSゲル電気泳動法がタンパク質(特に膜タンパク質)の同定方法として不十分である旨主張する。 aしかしながら,甲16論文において論じられている電気泳動法は,「2D-PAGEは,多大な不利益を被る場合がある。その主要なものとしては,疎水性が強いタンパク質に対してはロード許容量が低いことおよび不十分な分離となることである。」との記載(1丁6〜8行)や,「1次元目で,pH勾配を固定して(IPG)等電点電気泳動(IEF)を利用し,2次元目で,Tri-グリシンSDS-PAGE(IPG-Dalt)を利用する2D-PAGEは,疎水性膜タンパク質を分離するには適さない。」との記載(1丁13〜16行)にみられるように,2D-PAGE(2次元電気泳動。原理や条件が異なる2種の電気泳動を組み合わせてタンパク質を分離する方法)に関するものであり,1次元目の分離は,タンパク質の電荷の違いを利用して行い,2次元目の分離は,タンパク質の分子量の違いを利用して行うものである。そして,同論文の「これら膜タンパク質の多くのものは,IEFでのpH勾配によっても可溶性とはなり得ない。膜タンパク質は,非イオン性界面活性剤または両性イオン性界面活性剤,特にイオン強度が低いものでは,比較的不溶性である。仮にこれらの膜タンパク質が可溶となった場合でも,このようなタンパク質は,その等電点に近いpH値においては沈殿してしまうことが頻繁に起こる。」との記載(1丁16〜21行)に照らせば,「疎水性膜タンパク質を分離するには適さない」などの上記指摘は,タンパク質の電荷の違いを利用して行う1次元目の分離における問題に係るものであって,タンパク質の分子量の違いを利用して行われた引用例におけるSDSゲル電気泳動法について,そのまま当てはまるものではない。 bまた,甲36文献には,SDSゲル電気泳動法に関する問題点の指摘としては,「ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)存在下におけるポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動)は愛用者が着実に増加してきている。従来,連続緩衝液系を用いる方式・・・が使用されていたが,最近では一般的に分解能が高いとされている不連続緩衝液系を用いる方式・・・が広く使用されている。しかし,後者においては緩衝液の境界に起こるSDSのスタッキングに由来する問題点が指摘されている。SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動の変法としてSDSをドデシル硫酸リチウムで置き換えた手法が提案された。0℃付近でも結晶の析出を見ることがないので,特に光合成の研究者の間でクロロフィルタンパク質の分子集合体を解離させぬまま分離するために活用されている。しかし,原報の処方によると泳動する試料タンパク質の周辺に存在するのはドデシル硫酸のトリス塩であり,リチウムイオンは存在しない。この種の試料を対象とする低温でのドデシル硫酸塩存在下のポリアクリルアミドゲル電気泳動においては陽イオンの種類が泳動の結果を大きく左右することに注意を促したい。ゲル電気泳動において,実験者の関心は“目に見える”タンパク質バンドに集中する。しかし,手法を最高度に活用するためには,上記の二例のような見えない背景の事象にも十分な注意を払う必要がある。」との記載(14頁下から9行〜15頁6行)や,「これほどまでに各種の電気泳動法が広く活用されている今日において,タンパク質の電場の下における移動速度の絶対測定を精度良く行える高性能装置が欠けているのは残念である。」との記載(15頁17〜19行)がみられる程度であり,同文献は,原告が主張するように,SDSゲル電気泳動法が,その手法(タンパク質の分子量に基づく挙動の相違を目視により比較するというもの)の故に信頼性を欠くとの趣旨を述べるものではない。 c以上からすると,甲16論文及び甲36文献の記載をもって,引用例において用いられたSDSゲル電気泳動法が十分な信頼性を有しないということはできないから,原告の上記主張は失当である。 (イ)原告は,甲29文献(1985(昭和60)年12月10日発行の泉美治外2名編「生物化学実験のてびき2タンパク質の分離・分析法」第1版の5頁から8頁まで,21頁から80頁まで,99頁,100頁,102頁)及び甲37論文(1979(昭和54)年12月発行の「JOURNAL OF BACTERIOLOGY」140巻3号の902頁から910頁までに掲載されたRobert E. W. Hancockらによる「OuterMembrane of: Heat and 2-Mercaptoethanol-ModifiablePseudomonas aeruginosaProteins」と題する論文)を根拠に,SDSゲル電気泳動法は生体膜タンパク質(のOMPFを含む。)の分子量を正確に測定することができず,P. aeruginosa実際,引用例においても,SDSゲル電気泳動法によりOMPFを構成するアミノ酸の個数が誤って測定されている旨主張する。 確かに,甲29文献には,「SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いると,・・・手軽にタンパク質の分子量を決定できる。そのため,生化学の研究においては欠かすことのできない実験手法になっている。ただし,この手法にも幾つかの制約や限界がある。得られる分子量はポリペプチド鎖のそれであり,何本かの鎖が寄り集まって構成されているタンパク質のそれを求めることはできない。水に溶けない生体膜タンパク質はSDSで可溶化されるので,それらの分析にこの電気泳動法はきわめて有用であるが,得られる分子量は多くの場合不確かなものである。」との記載(35頁下から14〜7行)がみられる。 しかしながら,前記(1)のとおり,引用例においては,SDSゲル電気泳動法により,発現されたタンパク質(大腸菌HB101(pHN4)及び大腸菌JF733(pHN4)の発現タンパク質)が天然ののPAO1株に由来するOMPFと同様の挙動P. aeruginosa(タンパク質の熱変更性の観察も含む。)を示すとの結果が得られているのであるから,甲29文献に,SDSゲル電気泳動法が分子量の確定につき不十分な点を有している旨の上記記載があることや,引用例において測定されたOMPFを構成するアミノ酸の個数が誤りであること(引用例477頁右欄下から26〜25行及びP. 甲3検索結果参照)を考慮しても,引用例において発現されたタンパク質がのPAO1株に由来するOMPFであったとの前記(1)の認定を覆すには足aeruginosaりないといわざるを得ない。 なお,甲37論文には,「可溶化における2-メルカプトエタノールの濃度を0から5%(vol/vol)に変えた場合,その後のSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動において,ポリンタンパク質Fは,二つの明らかな移動度の変性を受けた(表4)。」との記載(1丁下から3行〜末行)がみられるが,これは,要するに,引用例においても観察されたタンパク質の熱変更性について言及したものにすぎず,前記(1)の認定を何ら左右するものではない。 以上のとおりであるから,甲29文献等を根拠とする原告の上記主張は理由がない。 (3)その余の原告の主張(取消事由1の(1),(2)及び(4)ないし(8))について原告は,上記(2)のほか,種々の根拠を挙げて,引用例において発現されたタンパク質がOMPFであったことには疑義がある旨主張するので,以下,順次検討する。 ア制限酵素地図の相違(取消事由1の(1))について原告は,引用例に記載された制限酵素地図が,本願発明に係る制限酵素地図と異なること,すなわち,引用例に記載された制限酵素地図が誤りであることを理由に,引用例において発現されたタンパク質はOMPFではない旨主張する。 (ア)引用例に記載された制限酵素地図(図4)に誤りがあることについては,当事者間に争いがない。 (イ)そこでまず,引用例の著者らによる学術論文の記載をみることとする。 a引用例(1986(昭和61)年8月頒布)には,以下の各記載がある。 (a)「pHN4のサブクローニングプラスミドpHN4のサブクローンおよび欠失誘導体を,単離した。そのタンパク質F遺伝子は,pLAFR1中にクローニングされた11kbRIフラグメンEcoト上にて位置決めされた。このサブクローンを,pWW13と名付けた(図4)。大腸菌HB101(pWW13)から単離された外膜は,大腸菌HB101(pHN4)におけるタンパク質Fと同じ電気泳動特徴および免疫学的特徴を有するタンパク質を示した(データは示さない)。 親プラスミドpHN4もまた,Iで切断し,コンピテント大腸菌HB101細胞中に形質転換した。 Xhoタンパク質F抗原を発現する陽性形質転換体を,モノクローナル抗体MA5-8を用いて検出した。 pWW1と名づけたプラスミド(図4)を含むそのようなあるF陽性サブクローンから単離された外膜は,見かけ上の分子量が24,000であるタンパク質を示した。このタンパク質は,MA5-8と反応したが,MA4-4とは反応しなかった(図1のレーン4;図3Aおよび図3Bのレーン4)。この短縮型タンパク質Fは,2-メルカプトエタノールにより改変可能ではなかった(データは示さない)。おそらく,タンパク質Fのカルボキシ末端をコードする遺伝子領域が,pHN4をIで切断したときに欠失された(図4)。pWW1のIフラグメントを,pCP13のIXho Sal Sal部位中に連結して,プラスミドpWW4を生成した(図4)。大腸菌HB101(pWW4)外膜の短縮型タンパク質F生成物は,大腸菌HB101(pWW1)と同じ電気泳動特徴および免疫ブロット特徴を有した(図1のレーン4およびレーン5;図3Aのレーン3およびレーン4)。 プラスミドpWW4に由来する2.0kbのI-Iフラグメントを,pUC8およびpUC9(これSalPstらは,対抗方向においてlacプロモーターを有する)中に連結して,それぞれ,プラスミドpWW5およびpWW7を生成した(図4)。大腸菌TB1(pWW5)は,短縮型タンパク質Fフラグメントを生成した。一方,大腸菌TB1(pWW7)は,この短縮型タンパク質Fフラグメントを生成しなかった。このことによって,この遺伝子の方向が決定された(図4)。pWW5により生成された短縮型タンパク質は,見かけ上の分子量が24,000を有し,大腸菌HB101(pWW1)およびHB101(pWW4)により生成されるペプチドと一緒に電気泳動した(データは示さない)。」(475頁右欄図2脚注末行の次行〜476頁左欄下から3行)(b)「DNAの特徴付け上記タンパク質Fサブクローンを,制限酵素を用いてマッピングした。pWW5に由来する2.0kbI-Iフラグメントを,ニックトランスレーションによSalPstって放射標識し,それを使用して制限切断物をプロービングし,それらよりも大きなインサートのマッピングを促進した。上記のすべてのフラグメントの制限酵素地図を,図4に示す。 pHN4のI末端の連結から生じるpWW1およびpWW4のインサートの共直線性のない領域が,示さXhoれる。」(476頁左欄下から2行〜右欄7行)(c)「インサートDNAの制限酵素地図を,図4に示す。おそらく,上記の短P. aeruginosa縮型タンパク質Fは,プラスミドpWW1およびプラスミドpWW4におけるI部位の下流にある, Xhoタンパク質Fのカルボキシ末端領域をコードしていた遺伝子部分の欠失により生じた。」(477頁左欄本文下から3行〜右欄本文2行)また,図4及びその脚注の記載(476頁上段)は,次のとおりである。 「図4.タンパク質Fをコードする組換えプラスミドまたは短縮型タンパク質F遺伝子産物をコードする組換えプラスミドにおける,PAO1 DNAインサートの制限酵素マッP. aeruginosaプ。太い黒線は,ベクターDNA配列(pHN4およびpWW1についてのみ示される)を示す。細い黒線は,DNAを示す。pHN4の白四角は,pWW1の構築において欠失されたDNP. aeruginosaAを示す。pWW1およびpWW4の網掛け領域は,染色体上の共直線性のないDNAを P. aeruginosa示す。これらの組換えプラスミドのインサートサイズおよびベクターは,以下の通りである。 pHN4:pLAFR1中にインサート約30kb;pWW13:pLAFR1中にインサート11kb;pWW1:pLAFR1中にインサート約14kb;pWW4:pCP13中にインサート4.7kb;pWW5:pUC8中にインサート2kb。プラスミドpWW7は,pWW5と同じインサートを有したが,使用したベクターは,pUC9であり,その結果,そのインサートは,逆方向に存在するようになった。フラグメントは,タンパク質F遺伝子の転写が左から右へ(すなわち,反時計回り)になるように並べられている。制限部位が,以下のような1文字コードによって示されている:A:I;E:AccRI;M:I;P:I;S:I;T:I;X:I。上記のインサートすべてに共 EcoSmaPstSalSstXho通するI部位がS’として示されている。読み易くするために,すべての制限部位を示した Salわけではない。1.0kbサイズの参照マーカーが,直線状フラグメントのために提供されている。」b甲11論文(1988(昭和63)年8月にブリティッシュコロンビア大学がPHD取得のための水準を満たすものと認めたWendy Anne WoodruffによるoprF Pseudomonas 「CLONING AND CHARACTERIZATION OF THEGENE FOR PROTEIN F FROM」と題する博士論文)には,以下の各記載がある(なお,甲11論文中aeruginosaの「H103」とは,のPAO1株のことである(原文12頁 P. aeruginosaP. aeruginosa表1参照))。 (a)「B. Screening the gene bankThe pLAFR1 cosmid gene bank ofPAO1 DNA inHB101 was plated forP. aeruginosaE. colisingle colonies and screened for the production of protein F antigen. Of approximatelythree thousand five hundred colonies screened, five reacted with monoclonal antibodiesspecific for protein F.One of these five colonies was arbitrarily selected forcharacterization and further manipulations. The plasmid in thisHB101 clone wasE. colidesignated pHN4.(B.遺伝子バンクのスクリーニング大腸菌HB101中のPAO1 DNAのpLAFR1コスミド遺伝子バンクは,シングルコロP. aeruginosaニーにするためにプレーティングし,タンパク質F抗原の生成のためにスクリーニングした。 スクリーニングした約3,500個のコロニーのうち5個がタンパク質F特異的モノクローナル抗体と反応した。これら5個のうち1個のコロニーを,特徴付けと更なる操作のために自由選択した。この大腸菌HB101クローン中のプラスミドは,pHN4と名付けられた。)」(原文27頁1〜8行(引用例474頁右欄末行〜475頁左欄7行参照))(b)「C. Characterization of the cloned gene product...Outer membranes were isolated fromHB101 (pHN4) and JF733 (pHN4), aE. coliporin-deficient strain of. SDS-PAGE profiles of these outer membranes are shown E. coliin Figures 2 and 3, lanes 4 and 7. In each profile, a protein, having the same molecularweight as native protein F (Fig. 2, lane 1; Fig. 3, lanes 2 & 5), was present and it was notfound in outer membrane profiles ofstrains pHN4 (Fig. 2, lane 3 and Fig. 3, lanes 3E. coli& 6).InJF733, the plasmid-encoded protein was the predominant outer membraneE. coliprotein.(C.クローニングされた遺伝子産物の特徴付け・・・外膜は,大腸菌HB101(pHN4)及びJF733(pHN4)(大腸菌のポリン欠損性株)から単離した。 これらの外膜のSDS-PAGEプロフィールを,図2及び3,レーン4及び7(判決注:『レーン2及び7』の誤記であると認められる。)に示す。いずれのプロフィールにおいても,天然のタンパク質F(図2,レーン1;図3,レーン2及び5)と同じ分子量を有するタンパク質が出現したが,pHN4を含まない大腸菌株(図2,レーン3並びに図3,レーン3及び6)の外膜のプロフィールにおいては,そのようなタンパク質は見られなかった。大腸菌JF733においては,このプラスミドによってコードされるタンパク質は,主要な外膜タンパク質であった。)」(原文27頁9〜25行(引用例475頁左欄8〜20行参照))(c)「This new protein band was identified as protein F by its interaction with theprotein F-specific monoclonal antibodies MA4-4 and MA5-8 (Fig. 4 A & B, lanes 5 and Fig. 6 A& B, lanes 2). In each Western blot, a single major protein band reacted with antibody. AE. coli faint reaction occurred with a slightly higher molecular weight protein in the(pHN4) lanes with both MA4-4 and MA5-8.This phenomenon is often observed in outermembrane preparations fromand is presumed to be the result of partial heatP. aeruginosamodification (Hancock & Carey, 1979). InHB101 (pHN4), (Fig. 4 B, lane 5), a lower E. colimolecular weight band was observed which interacted with only MA4-4. This band waspresumably a proteolytic breakdown product of protein F.(この新しいタンパク質バンドは,タンパク質F特異的モノクローナル抗体MA4-4及びMA5-8との相互作用(図4A及びB,レーン5並びに図6A及びB,各レーン2)によって,タンパク質Fと同定された。いずれのウェスタンブロットにおいても,一の主要なタンパク質バンドのみが抗体と反応した。大腸菌(pHN4)のレーン中,若干分子量の大きいタンパク質について,MA4-4及びMA5-8の双方とのかすかな反応が見られた。これは,由来の外膜調製物においてしばしば観察され,P. aeruginosa部分的な熱改変の結果であると推定される現象である(Hancock & Carey, 1979)。大腸菌HB101(pHN4)(図4B,レーン5)においては,MA4-4のみと相互作用した分子量のより小さいバンドが観察された。このバンドは,おそらく,タンパク質Fのタンパク質分解産物であろう。)」(原文27頁下から4行〜29頁7行(引用例475頁左欄21〜26行,右欄図3脚注下から6〜2行参照))(d)「The effect of 2-mercaptoethanol on the clonedgene product was also examined.oprFIn bothHB101 (pHN4) andJF733 (pHN4), the protein F band increased its E. coliE. coliapparent molecular weight after heating in 2-mercaptoethanol.This phenomenon wasdifficult to observe inHB101 (pHN4) because the 2-mercaptoethanol modified bandE. colicomigrated with OmpA and was obscured.InJF733 (pHN4) the effect of E. coli2-mercaptoethanol on protein F was easily observed (Fig. 3, lanes 4 & 7) and was identicalto the shift in molecular weight observed for protein F in(Fig. 3, lanes 2 &P. aeruginosa5).(2-メルカプトエタノールがクローニングされた遺伝子産物に与える影響につ oprFいても調査した。大腸菌HB101(pHN4)及び大腸菌JF733(pHN4)の双方とも,タンパク質Fバンドは,2-メルカプトエタノール中で加熱した後,見かけ上の分子量が増加した。この現象は,大腸菌HB101(pHN4)においては,観察しづらいものであった。なぜなら,2-メルカプトエタノールで改変されたバンドは,OmpAと共に移動し,不明瞭となるからである。大腸菌JF733(pHN4)においては,2-メルカプトエタノールがタンパク質Fに与える影響は,容易に観察され(図3,レーン4及び7),中のタンパク質Fについて観察されるP. aeruginosaのと同様の分子量の位置まで移動した(図3,レーン2及び5)。)」(原文29頁12〜20行(引用例475頁左欄36〜46行参照))(e)「D.サブクローニング方法および制限酵素地図・・・精製されたpHN4DNAを,制限酵素で切断し,再結紮し,大腸菌のコンピテント細胞に形質転換した。タンパク質F抗原発現形質転換体を,コロニーイムノブロットにおいてMA5-8を用いて検出した。MA5-8と反応した形質転換体を,pHN4をIおよびRIで切断してXhoEco単離した。サブクローンのI系統は,pWW4およびpWW5で終結した(図5)。これらのプラス Xhoミドは,短縮型の遺伝子産物をコードした(図2,レーン4および5;図4AおよびB,レーン3および4)。」(原告から提出された2種類の翻訳文のうち,「[甲11抄訳]」と題するもの(以下,単に「甲11抄訳」という。)・5丁8〜17行)(f)「サブクローンのRI系統(図5)は,pWW13およびpWW2200を含んでいた。これらのプEcoP.ラスミドの両方が,分子量およびモノクローナル抗体反応性に関して大腸菌(pHN4)およびの外部膜における遺伝子産物と同一である,その宿主株の外部膜における遺伝子産aeruginosa物をコードした(図6AおよびB,レーン2,4,5および6)。」(甲11抄訳・5丁下から4行〜6丁1行)(g)「E.pWW4,pWW5およびpWW12由来の新規な遺伝子産物の特徴づけサブクローニング実験の間,短縮された,あるいはわずかに変形したタンパク質産物を生成した,数個のサブクローンが生成された。そのうちの2つであるpWW4およびpWW5は,MA5-8とは相互作用するがMA4-4とは相互作用しない(図4AおよびB,レーン3および4)約24,000ダルトン(図2,レーン4および5)のタンパク質をコードする。短縮型タンパク質は外部膜へ運ばれたが,2-メルカプトエタノールによって修飾され得るものではな・・・かった。」(甲11抄訳・6丁下から5行〜7丁4行)また,図5(原文32頁)及びその脚注の記載(甲11抄訳・8丁下から12行〜9丁3行)は,次のとおりである。 「図5.のサブクローニング方法遺伝子バンクから単離されたコスミドクローン,oprFpHN4を,円として示している。太線は,ベクター配列を示す。サブクローンpWW12は,pHN4の11.3キロベース(kb)断片,pWW13は,pHN4の11.0kb断片であり,を含oprFんでいる。サブクローンpWW2200は,pWW13の2.4kbI断片であり,遺伝子全体 PstoprFを含んでいた。サブクローンpWW4(4.7kb)およびpWW5(2.0kb)は,短縮された遺伝子産物を生成し,この遺伝子産物は,タンパク質Fに対するモノクローナル抗体と反応した。 全てのサブクローンにおいて,タンパク質F遺伝子配列を,濃い黒四角として示してoprFいる。pWW4およびpWW5の配列は,網掛けを施した四角として示してあり,染色体 P. aeruginosaにおいて対応する要素が同一線上にない。直線状の断片に対して,1.0kbの大きさの基準マーカーを与えている。一文字のコードで示された制限酵素部位は,E:RI;K:I;EcoKpnM:I;P:I;S:Iである。疑問符は,可能性のあるI部位の存在を示す。」 SmaPstSal Salさらに,図2ないし4は,それぞれ,引用例の図1ないし3と同一のものであると認められるところ(なお,図2ないし4には,鮮明さに欠ける部分がみられるが,原告は,これらがそれぞれ引用例の図1ないし3と同一のものであるとの被告の主張を特段争っていない。),各図の脚注の記載(図3については,その抜粋)は,以下のとおりである。 (h)「Figure 2. SDS-PAGE profiles of outer membrane preparations ofcontaining E. colioprFP. aeruginosaE. coli E. coliclones.Lane 1,H103; lane 2,HB101 (pHN4); lane 3,HB101; lane 4,HB101 (pWW4); lane 5,HB101 (pWW5).Molecular weightE. coli E. colimarkers, in thousands (K), are indicated on the right. The position of protein F (F) andthe truncated protein F gene product (T) are indicated on the left. The positions of OmpF,OmpC, and OmpA in thestrains are indicated.(図2.クローンを含む大腸菌E. coli oprFの外膜調製物のSDS-PAGEプロフィール。レーン1,H103;レーン2, P. aeruginosa大腸菌HB101(pHN4);レーン3,大腸菌HB101;レーン4,大腸菌HB101(pWW4);レーン5,大腸菌HB101(pWW5)。分子量マーカー(×1000(K))が右に示されている。タンパク質Fの位置(F)及び短縮型タンパク質F遺伝子産物の位置(T)が左に示されている。大腸菌株のOmpF,OmpC及びOmpAの位置が示されている。)」(原文26頁図2脚注1〜7行(引用例475頁右欄図1脚注1〜9行参照))E. coliP. (i)「Figure 3.SDS-PAGE profiles of outer membrane preparations ofandshowing the 2-mercaptoethanol modifiability of protein F. Samples in lanes 2,aeruginosa3 and 4 were treated with 5% 2-mercaptoethanol before leading onto the gel. Lanes 2 and 5,H103; lanes 3 and 6,JF733; lanes 4 and 7,JF733 (pHN4). TheP. aeruginosaE. coliE. coli2-mercaptoethanol modified (F ) and unmodified (F) forms of protein F are indicated.(図3.*タンパク質Fの2-メルカプトエタノールによる改変可能性を示す大腸菌及びの P. aeruginosa外膜調製物のSDS-PAGEプロフィール。レーン2,3及び4のサンプルは,ゲル化する前に5%の2-メルカプトエタノールで処理した。レーン2及び5,H103;レP. aeruginosaーン3及び6,大腸菌JF733;レーン4及び7,大腸菌JF733(pHN4)。2-メルカプトエタノールの改変形態のタンパク質F(F )及び非改変形態のタンパク質F(F)が示されてい*る。)」(原文28頁図3脚注1〜6行(引用例475頁右欄図2脚注1〜10行参照))(j)「Figure 4. Western immunoblots of outer membrane proteins ofH103 andP. aeruginosastrains containing the truncatedencoding plasmids. The proteins in panel A E. coli oprFP.were reacted with MA5-8; the proteins in panel B were reacted with MA4-4. Lanes 1,aeruginosaE. coli E. coli E. H103; lanes 2,HB101 (pCP13); lanes 3,HB101 (pWW4); lanes 4,HB101 (pWW5); lanes 5,HB101 (pHN4). The position of protein F is indicatedcoli E. coli(F) and that of the truncated gene product is labelled T.(図4.H103及び短 P. aeruginosa縮型をコードするプラスミドを含む大腸菌株の外膜タンパク質のウェスタン免疫ブロ oprFット。パネルA中のタンパク質は,MA5-8と反応し,パネルB中のタンパク質はMA4-4と反応した。レーン1,H103;レーン2,大腸菌HB101(pCP13),レーン3,大腸菌P.aeruginosaHB101(pWW4);レーン4,大腸菌HB101(pWW5);レーン5,大腸菌HB101(pHN4)。タンパク質Fの位置は(F)に,短縮型の遺伝子産物の位置はTにそれぞれ示される。)」(原文30頁図4脚注1〜7行(引用例475頁右欄図3脚注1〜9行参照))c乙17論文(1992(平成4)年8月発行の「JOURNAL OF BACTERIOLOGY」174巻15号の4977頁から4985頁までに掲載されたWendy A. Woodruff,Robert E. W. Hancockらによる「Analysis of theMajorPseudomonas aeruginosaOuter Membrane Protein OprF by Use of Truncated OprF Derivatives and MonoclonalAntibodies」と題する論文)には,以下の各記載がある(なお,乙17論文中の引用文献「(40)」とは,引用例である(乙17論文原文4985頁右欄下から7〜4行参照。原文の当該部分に記載された引用例の表題は,誤記であると認められる。))。 (a)「pWW5が短縮型の生産物を発現する(40)ことは,以前に記述されている。」(1頁5〜6行)(b)「この研究によるpWW5・・・の配列決定により,・・・pWW5は,OprFのアミノ酸171〜300の中間領域が欠失したものをコードすることが明らかになった。」(1頁11〜13行)(c)「プラスミドpWW5は,のコーディング配列(全体で1,053塩基対)におけoprFる583及び973のヌクレオチドの位置から始まる同一のDNA配列,CCGGTTGCCGAC間の明らかな組換えによって中間領域の欠失したことによって起こった。その結果として得られた欠失タンパク質は,OprFの4つのシステインをコードする領域とアミノ酸301〜326を除く,OprFのC末端領域のほとんどの領域が欠失した。該欠失タンパク質は,分子量が22,000と予測され,見かけ上の分子量は24,000であり(40)(図5),MA7-1及びMA5-8との反応性のみを維持する。」(1頁下から7行〜末行)また,図4(原文4982頁)及びその脚注の記載(2頁2〜8行)は,次のとおりである。 「図4.のOprFの直線的な地図上における融合物,サブクローン及びモノクP. aeruginosaローナル抗体のエピトープの位置についての要約。融合物が線の上に示され,黒い矢印はPhoAの構造的な発現を示し,白い矢印はX-P培地における白いコロニーを示し,矢印の方向は転移の開始を示す。OprFのと相同的な領域(網掛け領域)及びシステイン ompA(C)が,線の下に示されている。サブクローン及びそれらがコードするOprFの一部が示されている。モノクローナル抗体のエピトープは,実線で示されている(エピトープを含むとここで定義された領域を表す。)。」(ウ)次に,制限酵素地図の作成方法,正確性等に関し,以下の各証拠には,それぞれ下記の各記載がある。 a甲12文献(1986(昭和61)年6月1日発行の泉美治外2名編「生物化学実験のてびき3核酸の分離・分析法」第1版の15頁,37頁から61頁まで及び63頁から106頁まで)(a)「クローニング・・・によって得られた目的DNA断片(DNAの一部で,しかも,研究対象の遺伝子を含むDNA断片である場合が多い)のおおよその構造を知るためには,まず,目的DNA断片が種々の制限酵素によってどの部位で切断されるか,を示す地図を作る必要がある。」(65頁下から2行〜66頁2行)(b)「制限酵素は,DNAの特定のホスホジエステル結合・・・を加水分解し,新たに生じた3’末端にOH基を,そして5’末端にリン酸基を生成させる酵素(エンドヌクレアーゼ)である。エンドヌクレアーゼは,2本鎖DNA中の特定の塩基配列を正確に認識し,その配列の内部あるいは近傍のホスホジエステル結合を切断することによって,DNA断片・・・を生成させる。」(66頁6行〜67頁6行)(c)「ここでは,例として,岡山-バーグ法・・・によってクローニングした目的DNA断片の切断地図の作成について述べる。」(67頁下から4〜2行)(d)「実験例操作1RV(判決注:制限酵素の1つ。70頁9〜11行参照)によるpL-D66(判決Eco注:TMV-RNA(タバコモザイクウイルスの1本鎖RNA)中の5’末端側の約1,900ヌクレオチドに相補性のDNA(cDNA)及びcDNAに対して相補性のDNAの2本鎖DNAをベクターDNAに挿入し,作成した組換えDNA。67頁末行〜69頁本文8行参照)の加水分解とアガロースゲル電気泳動pL-D66をRVによって完全加水分解し,その分解物をアガロースゲル電気泳動にかけEcoる。」(70頁12〜15行)(e)「RVによるpL-D66の完全加水分解物は1本のゾーンとして泳動し,その泳動距離は未Eco処理pL-D66のccc型とoc型の中間にある・・・。この事実は,RVがpL-D66のcDNAを1箇 Eco所で切断することによって,pL-D66は開環されて1本の直鎖状DNA・・・になったことを示す。また,そのゾーンの位置・・・から,直鎖状DNAの長さは約4.5kbと測定される。 ベクターDNAの長さ(2,628bp)は既知であるので,cDNAの長さは約1,900bpと計算される。」(70頁本文下から3行〜71頁末行)(f)「操作2I-RVおよび?U(判決注:制限酵素の1つ。69頁末行参照)-RVPstEcoPvu Ecoの組合せによるpL-D66の加水分解とアガロースゲル電気泳動この操作は,pL-D66において,I(2)(判決注:Iは,ベクターDNAを2箇所で切PstPst断するため,この実験例においては,各切断箇所を『I(1)』及び『I(2)』と指称 PstPstしている。後記図3-6及びその脚注9〜10行(69頁)参照)および?Uによるベクタ PvuーDNAの切断部位から,RVによるcDNA上の切断部位までの長さを求めることを目的 Ecoとする。まず,IとRVの両者を同時に用いることによってpL-D66を完全加水分解する。 PstEco・・・反応後,反応液をアガロースゲル電気泳動・・・にかける・・・。ゲル電気泳動によって,完全加水分解物は3種のDNA断片に分離される(レーン5)。サイズマーカー(λDNAを制限酵素d?VとRIの両者によって完全加水分解したもの)の長さ(レーン6のサイHinEcoズマーカーのkb数)と電気泳動での移動距離(レーン6での実測値)の相関曲線を作成する・・・。レーン5の3種類のDNA断片のそれぞれの移動距離を実測し,実測値(3.2cm,5.8cmおよび8.3cm)を相関曲線と照合すると,DNA断片の長さは,移動距離の短いものから順に,約2,900bp,約1,070bpおよび約480bpと求められる。これら3種のDNA断片がpL-D66のどの部分に相当するかは,それぞれのDNA断片の長さから推定する。pL-D66において,その環の右まわりの方向で,1,070bp断片はI(1)かPstらI(2)の部位までのもの(文献上では1,057bp)に対応する。pL-D66全体の長さ Pstは約4,500bpと測定されており,文献上で,?UからI(1)までのDNA断片の PvuPst長さは1,543bp(判決注:『1,545bp』の誤記であると認められる。)であることがわかっている。したがって,I(2)から?UまでのDNA断片(cDNAを含む)PstPvuの長さは1,950bpと計算できる。総合すると,RVからI(1)までのDNA断片 EcoPstの長さは,当然,1,545bpよりも長いはずである(判決注:後記図3-6参照)ので,2,900bp断片がRVからI(1)までのもの,また,480bp断片がI(2)EcoPst PstからRVまでのものと判断できる。」(72頁本文8行〜73頁下から9行) Ecoなお,図3-6及びその脚注(抜粋)の記載(69頁)は,次のとおりである。 b甲31論文(1982(昭和57)年発行の「Nucleic Acids Research」10巻21号の6957頁から6968頁までに掲載されたShoji Mizushimaらによる「Primary structure of thegene that codes for a major outer membraneompFprotein ofK-12」と題する論文。なお,甲31論文中の引用文献 Escherichia coli「(15)」とは,甲39論文(1981(昭和56)年2月発行の「JOURNAL OFBACTERIOLOGY」145巻2号の1085頁から1090頁までに掲載されたShojiMizushimaらによる「Specialized Transducing Bacteriophage Lambda Carrying theEscherichia coli Structural Gene for a Major Outer Membrane Matrix Protein ofK-12」と題する論文)である(甲31論文原文6967頁下から2行〜末行参照)。)(a)「のK-12株の主要な外部膜タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチ E. coli ompFド配列が決定され,そこからOmpFタンパク質のアミノ酸配列が推定された。」(乙3・1頁下から15〜14行)(b)「制限酵素地図作成及びDNA配列決定図2は,遺伝子周辺の制限酵素切断地図を示す。図1に示されるの染色体かompF E. coliら得られた領域に,一つのHI部位があることを報告した以前の論文は,誤りであった(15)。 Bamこの領域には,HI部位は見当たらなかった。図3に示したヌクレオチド配列からもこの事 Bam実を確認できる。」(乙3・2頁5〜9行)c乙16論文(1987(昭和62)年5月発行の「ANTIMICROBIAL AGENTSAND CHEMOTHERAPY」31巻5号の728頁から734頁までに掲載されたRoger C.Levesqueらによる「Development of Natural and Synthetic DNA Probes for OXA-2and TEM-1 β-Lactamases」と題する論文)(a)「OXA-2 βラクタマーゼをコードするR46から精製したプラスミドDNAを,制限酵素?Uで切断し,HIで処理したpACYC184に連結した。」(1頁下から11〜9行)BglBam(b)「制限酵素地図及び構造遺伝子の位置決め bla制限酵素I,HI,RI,c?U,d?V,I,I及びIを用いて,pMON20の6.AvaBamEcoHinHinNruPstSal3kb?Uフラグメントの地図を決定した。・・・公表されたR46との唯一の相違点は,我々 Bglがマッピングしたスルホンアミド遺伝子には,I部位が追加されていることである。」(1 Pst頁下から5行〜末行)(エ)そこで,引用例における制限酵素地図の誤りが,前記(1)の認定を覆すに足りるものであるか否かについて検討する。 a甲11論文におけるOMPF遺伝子のクローニングについて原告は,甲11論文においてはOMPF遺伝子が正しくクローニングされている旨主張し,被告も,この点を争うものではない。 そして,前記(イ)bのとおりの甲11論文の記載及び図示によれば,同論文においてクローニングされたpHN4(全長プラスミド。以下,甲11論文においてクローニング又はサブクローニングされたプラスミドと,引用例においてクローニング又はサブクローニングされたプラスミドとを区別する必要があるときは,前者を「甲11pHN4」,後者を「引用例pHN4」などという。)の遺伝子産物(大腸菌HB101(pHN4)及び大腸菌JF733(pHN4)の発現タンパク質)は,2種類の異なるOMPF特異的モノクローナル抗体に対する反応及びSDSゲル電気泳動法において,いずれも,天然ののPAO1株に由来するOMPFと同様の結果を示し,P. aeruginosaまた,甲11pHN4の遺伝子産物(少なくとも大腸菌JF733(pHN4)の発現タンパク質)は,タンパク質の熱変更性において,天然ののPAO1株に由来すP. aeruginosaるOMPFと同様の結果を示し,さらに,甲11pWW13(RI系統の全長プラスミ Ecoド)についても,分子量及びモノクローナル抗体に対する反応において,pHN4及びの外部膜に係る遺伝子産物と同一の遺伝子産物をコードしたというP.aeruginosaのであるから,少なくともpHN4及びpWW13については,甲11論文において正しくクローニング又はサブクローニングされたものと認めるのが相当である。 b引用例pHN4及びpWW13と甲11pHN4及びpWW13との同一性について(a)前記(1)ア及び(2)ア(イ)並びに前記(イ)aのとおりの引用例の記載及び図示の内容と,前記(イ)bのとおりの甲11論文の記載及び図示の内容とを対比すると,pHN4のクローニング方法はおおむね同様であるほか,pHN4の遺伝子産物に係るSDSゲル電気泳動法,モノクローナル抗体に対する反応及びタンパク質の熱変更性についての実験に至っては,引用例pHN4と甲11pHN4は完全に同一の結果を示したというのであるから,引用例pHN4と甲11pHN4が同一のプラスミドであることは,動かし難い事実としてこれを認めることができる。そして,pWW13についても,制限酵素RIによりpHN4の同一箇所を切断するなどしてサブクローニングされた11Ecokbのプラスミドであることなどに照らせば,引用例pWW13と甲11pWW13は同一のプラスミドであると認めるのが相当である。 (b)引用例において正しくクローニングされなかったOMPF遺伝子が,甲11論文において初めて正しくクローニングされたとの原告の主張についてi原告は,コスミドベクターを用いたクローニングの段階において使用されたテトラサイクリンの濃度が,引用例においては10μg/mlであるのに対し,甲11論文においては25μg/mlであり,これにより,甲11論文においてはOMPFの毒性が回避ないし軽減されたとして,引用例において正しくクローニングされなかったOMPF遺伝子が,甲11論文においては正しくクローニングされたと主張する。 確かに,上記テトラサイクリンの各濃度は,原告が主張するとおりであるが(引用例474頁左欄下から12行,甲11論文原文16頁9行),原告が援用する甲42論文(1995(平成7)年2月発行の「JOURNAL OF BACTERIOLOGY」177巻4号の998頁から1007頁までに掲載されたHiroshi Nikaidoらによる「Roleof Outer Membrane Barrier in Efflux-Mediated Tetracycline Resistance of」と題する論文)の図9(1丁)及びその脚注の記載(1丁下かEscherichia coliら4行〜2丁末行)をみても,テトラサイクリンの濃度を上昇させることによりOMPFの毒性が回避ないし軽減されるものと直ちに認めることはできず,その他,テトラサイクリンの濃度を上昇させることによりOMPFの毒性の回避等が図られるものと認めるに足りる確たる証拠はないから,原告の上記主張は,全くあり得ないとまではいえないとしても,推測される1つの可能性をいうものにすぎず,引用例pHN4及びpWW13と甲11pHN4及びpWW13がそれぞれ同一のプラスミドであるとの上記認定を左右するに足りるものではない。 ii原告は,pWW13のサブクローニングの段階において使用された大腸菌宿主について,引用例においては大腸菌HB101が用いられているのに対し,甲11論文においては使用された大腸菌宿主についての言及がないことから,甲11論文においては,OMPFの毒性を回避ないし軽減させるための何らかの工夫がされたことがうかがわれると主張するが,前記(イ)bのとおり,甲11論文においても,遺伝子バンクのスクリーニングや,pHN4,pWW4又はpWW5を用いた遺伝子産物(タンパク質)の発現の場面において,特段の留保なしに大腸菌HB101が用いられているのであるから,pWW13のサブクローニングの段階のみを取り上げて,大腸菌宿主に関し,甲11論文においてはOMPFの毒性の回避等のための何らかの工夫がされたとみることはできず,したがって,原告の上記主張は,これを採用することができない。 iii原告は,仮に,引用例において制限酵素地図の作成のみに問題があったのであれば,「ERRATA」(正誤表)による訂正又は後の論文における言及があるはずであるところ,引用例の著者らは,そのような手続をとっていない旨主張するが,前記(イ)cのとおり,引用例の著者らのうち,Wendy A. Woodruff及びRobertE. W. Hancockは,引用例の頒布から6年の後に頒布された乙17論文において,引用例pWW5がコードするアミノ酸に欠失があったことを論じているのであり,そうすると,引用例の制限酵素地図にも当然に変更が生じること(後記d参照)を公表していることになるから,原告の上記主張は失当である。 iv原告は,甲11pWW13に係る制限酵素地図の作成につき,引用例において用いられた制限酵素I(記号:T)及びI(記号:X)が用いられていないと主SstXho張する。 しかしながら,後記dにおいて詳述するとおり,引用例においては,pWW5の長さ(bp(塩基対)数。以下同じ。)の認識について誤りがあり,このことが,pWW13の制限酵素地図の内容を根本から誤らせたものであるところ,甲11論文においてpWW5が正しくサブクローニングされているとすれば(原告は,その旨主張し,被告も,その点を争うものではない。また,前記(イ)cのとおり,乙17論文によれば,引用例pWW5には,いわば突然変異に準ずるような事態が生じたといえるところ,そのようなプラスミドが,甲11論文においても同じようにサブクローニングされたとは考え難い。),甲11論文に係る最終的な結論としての制限酵素地図において,制限酵素I及びIの認識部位が記載されなかったとしても,何ら不合SstXho理なことではない(なお,最終的な結論としての制限酵素地図に記号T及びXが記載されていないことは,制限酵素地図の作成過程で,制限酵素I及びIが用いSstXhoられなかったことを意味するものではない。)から,原告の上記主張は,pWW13が甲11論文において初めて正しくサブクローニングされたことの根拠となるものではない。 v原告は,引用例pWW13が甲11pWW13と同一のプラスミドであるとすると,以下の理由により矛盾が生じると主張するが,いずれも理由がない。 (i)原告は,引用例pWW13は,約2.0kbのI-I断片を含む(引用例のSal Pst図4。また,引用例においては,このことが実験的に確認されているといえる。)にもかかわらず,甲11pWW13に含まれるI-I断片は,約1.3kbのものとSalPst約0.9kbのものであると主張するが,引用例pWW13に含まれるI-I断片の Sal Pst長さが約2.0kbであるとの主張は,誤りを含んだ制限酵素地図(引用例の図4)に基づくものであるし,引用例を精査しても,同断片の長さが約2.0kbであることが実験により確認されたものであると認めることはできないから,原告の主張は,その前提を欠くものとして失当である。 (ii)原告は,引用例においては,pHN4及びpWW13が約2.0kbのI断片をSma含むことが実験的に確認されている(引用例の図4)にもかかわらず,甲11論文に記載されたI断片は,約1.7kbのものと約4.3kbのものであり,pHN4Sma全体に占める同断片の位置も,引用例と異なると主張するが,引用例における同断片の長さが約2.0kbであるとの主張が,制限酵素地図(引用例の図4)に基づくものであるならば,誤りを含んだ制限酵素地図に基づくものであるといわざるを得ないし,また,引用例を精査しても,引用例における同断片の長さが約2.0kbであることが実験により確認されたものと認めることはできないから,原告の主張は,上記(i)と同様,その前提を欠くものとして失当である。 (iii)原告は,甲11pWW13の制限酵素地図を前提にして引用例に記載されたpWW1の調製方法(pHN4をIで切断して自己閉環させる方法)を適用すると,OMXhoPF遺伝子を含んだ部分が切り取られてしまうことになるから,甲11pWW4及びpWW5にはOMPF遺伝子が含まれないことになると主張する。 しかしながら,甲11論文の図5及びその脚注の記載(前記(イ)b)によれば,pWW4及びpWW5について,染色体において対応する要素が同一線上にP.aeruginosaない部分(図5中の網掛けを施した四角部分)は,OMPF遺伝子を含む部分(図5中の濃い黒四角部分)の下流側(右側)に存在しているのであるから,同論文において,I系統のサブクローニングを行う際に,Iによって切断された各部位Xho Xhoは,OMPF遺伝子を含む部分よりも下流側(右側)に存在していたことになる。 そうすると,甲11pWW4及びpWW5にOMPF遺伝子が含まれないとの原告の主張は,甲11論文における制限酵素地図が誤りであるという趣旨を含むものとなり,同論文においてOMPF遺伝子が正しくクローニング又はサブクローニングされたとの原告自身の主張と整合しないばかりか,引用例pWW13と甲11pWW13との同一性を否定する根拠ともなり得ないものであるから,これを採用することはできない。 vi原告は,OMPF遺伝子の制限酵素地図を開示しない引用例の発表の後,本件優先日を経て,OMPF遺伝子の制限酵素地図を開示する甲11論文が発表されたとの事実経過等からみて,引用例の著者らは,引用例においてOMPF遺伝子のクローニングに失敗したものの,再度クローニングを行った結果,OMPF遺伝子のクローニングに成功し,その結果を甲11論文に記載したと主張するが,前記(イ)aのとおり,引用例には,誤りを含むものではあるものの,制限酵素地図が開示されているのであるから,原告の上記主張は,その前提を誤るものとして失当である。 vii以上のとおりであるから,引用例において正しくクローニングされなかったOMPF遺伝子が,甲11論文において初めて正しくクローニングされたとの原告の主張は,少なくともpHN4及びpWW13に関する限りにおいては,理由がない。 c制限酵素地図及びその誤り(一般)について(a)前記(ウ)aのとおり,制限酵素地図は,制限酵素によるDNAの切断部位を特定することにより,DNAの当該切断部位に特定の塩基配列(当該制限酵素が認識する塩基配列)が存在するとの情報を得て,これを,線で表したDNA上に当該制限酵素名(の省略記号)を記載することによって表現したものである。そして,制限酵素認識部位を知るためには,目的とするDNA全体の長さや,各種制限酵素によって切断された各DNA断片の長さを測定することが必要であり,そのためには,ゲル電気泳動における移動距離を実測するなどしなければならない。また,未知の制限酵素認識部位を知るための前提として,ベクターDNAの長さ,既に明らかになっている特定の制限酵素に係る制限酵素認識部位,ゲル電気泳動における移動距離とDNAの長さとの相関関係を示す相関曲線等の既知の情報を活用することが必要になる。 その上で,各種制限酵素に係る制限酵素認識部位の位置は,各DNA断片を,目的とするDNA全体に,いわばパズルのピースをはめ込むようにして推定されることになる。 そうすると,正確な制限酵素地図を作成するためには,各種制限酵素が正しく特定の塩基配列を認識した上,必要な部分を欠失させることなく,正しい部位においてDNAを切断すること,DNA全体及び各DNA断片のゲル電気泳動における移動距離が正しく測定されること,活用される各種の既知の情報が誤りでないことなど,多様な要素についての正確さが要求されるものであるといえる。 (b)また,前記(ウ)b及びcのとおり,甲31論文及び乙16論文は,従前の制限酵素地図を訂正するものであり,引用例における制限酵素地図も,甲11論文において訂正されているところである(前記(イ)a及びb)。 原告は,甲31論文は,制限酵素HIを使用する際の反応液の濃度が低かったBamために,本来の認識部位以外を切断するというスター活性が生じた事例に関するものであると主張するが,仮にそうであるとすると,反応液の濃度という要素が正確でないだけでも,制限酵素地図の正確さに影響を及ぼすことになる(なお,原告は,引用例の投稿日時点では,制限酵素の正確な反応条件が既に確立していたと主張するが,引用例の投稿日時点において,引用例において用いられたすべての制限酵素につき,原告が主張するような反応条件の確立があったものと認めるに足りる証拠はない。また,原告は,乙16論文に関し,従前の制限酵素地図のほうが正しかったという事例に関するものであると主張するが,要するに,制限酵素地図が正確でない場合があるという事実に変わりはない。)。 (c)以上からすると,正確な制限酵素地図を作成するには,多様な要素における正確さが求められ,制限酵素地図が訂正されるということも普通に行われているところであるから,一般的には,制限酵素地図の正確性に大きな信頼を寄せることはできず,したがってまた,制限酵素地図が誤っていることと,当該制限酵素地図に係るDNAが異なるものであることとの間の相関性は,さほど大きなものではないというべきである。 d引用例における制限酵素地図の誤りについて(a)i前記(イ)cのとおり,乙17論文には,引用例pWW5は,中間領域を欠失したものであり,その産物として得られたタンパク質も,アミノ酸171ないし300の中間領域を欠くものであったことが明らかとなったこと,その原因は,特定の塩基配列における組換えが起こったことであることが示されているiiなお,原告は,仮に,引用例pWW5が,乙17論文の図4に示されるような欠失した構造を有するのであれば,共直線性を欠くことになるところ,引用例の図4によれば,pWW5内には共直線性がない領域が存在しないこととされており,矛盾していると主張する。 しかしながら,引用例の著者らが,引用例pWW5をサブクローニングした際,これが中間領域を欠くものと認識していなかったことは明らかであるから,引用例の図4において,pWW5に共直線性がない領域が示されていないのは,むしろ当然のことであり,原告の上記主張は,理由がない。 iiiまた,原告は,仮に,引用例pWW5が,上記のような欠失した構造を有するのであれば,引用例pWW5からプローブを調製すると,アミノ酸1ないし170残基に対応するプローブ及びアミノ酸301ないし326残基に対応するプローブが生じることとなり,引用例pWW5を用いてサザンハイブリダイゼーションを行うと,これら2つのプローブに対応する2つのタンパク質断片が検出されることとなるにもかかわらず,引用例には,単一のバンドが確認されたと記載されており,矛盾している旨主張する。 しかしながら,引用例pWW5が中間領域を欠失したプラスミドであることは,それが構造的にも2つのDNA断片に分断されており,その産物たるタンパク質も構造的に2つの断片に分断されるということを当然に意味するものではないから,原告の上記主張は,前提を誤るものとして失当である。 (b)そうすると,引用例pWW5は,客観的には,中間領域(390bp(=(300-171+1)×3))を欠いたものであるにもかかわらず,引用例の著者らの主観においては,これを欠かないものであることを前提に,長さ2000bp(前記(イ)a)のDNA断片であると認識されていたものであるといえる。 このようなDNA断片の内容についての誤りは,上記c(a)のとおりの制限酵素地図の作成方法にも照らせば,一般的な観点からも,当該DNA断片を含むDNA全体についての制限酵素認識部位の正確性に影響を及ぼすものであるといえるところ,とりわけ,引用例には,「pWW5に由来する2.0kbI-IフラグメントSal Pstを,ニックトランスレーションによって放射標識し,それを使用して制限切断物をプロービングし,それらよりも大きなインサートのマッピングを促進した。」との記載(前記(イ)a(b))があるのであるから,結局,引用例においては,pWW5の内容についての誤りが,DNA断片であるpWW5の制限酵素地図や,同じくDNA断片であるpWW1及びpWW4の制限酵素地図のみならず,全長プラスミドであるpHN4及びpWW13の制限酵素地図についても,それらの内容を根本から誤らせたものと認めるのが相当である。 (c)以上に加え,上記cのとおりの制限酵素地図の正確性についての一般論をも併せ考慮すると,引用例における制限酵素地図の誤りは,引用例pHN4及びpWW13が正しくクローニング又はサブクローニングされたものである旨の前記a及びbの結論を左右するには不十分であるというほかなく,ひいては,引用例において発現されたタンパク質がのPAO1株に由来するOMPFであったとの前記P. aeruginosa(1)の認定を覆すには足りないといわざるを得ない。 (オ)小括以上のとおりであるから,引用例に記載された制限酵素地図が誤りであることを理由に,引用例において発現されたタンパク質がOMPFでない旨をいう原告の主張は,理由がない。 イNCBIに登録されたOMPFのアミノ酸配列等(取消事由1の(2))について原告は,引用例の著者らがNCBIにOMPFのアミノ酸配列等を登録したのは,引用例の頒布(1986(昭和61)年8月)から10年以上も経過した1999(平成11)年8月19日のことであり,しかも,その内容は,引用例の制限酵素地図に反するものであるから,引用例の著者らは,引用例とは無関係に,上記OMPFのアミノ酸配列等の登録をしたものであり,ひいては,引用例において発現されたタンパク質は,OMPFではなかった旨主張する。 (ア)そこで,引用例の著者らによるOMPFのアミノ酸配列等のNCBIへの登録の経過についてみるに,甲3検索結果及び甲18ないし甲22検索結果には,以下の各記載がある。 a甲18検索結果及び甲19検索結果(以下,これらに係るNCBIへの登録を「1992年の登録」という。)(a)甲19検索結果(アミノ酸配列)「1:151409.報告・・・[gi:151409]この記録は中断された。 ・・・ローカス151409350アミノ酸直線状1992年5月19日定義oprF受入番号バージョンGI:151409出典データベースローカスPSEOPRFB受入番号M94078・・・引用文献1(サイト)著者Duchene, M.・・・タイトルSequenceandtranscriptionalstartsiteofthePseudomonasaeruginosa outer membrane porin protein F gene(判決注:後記甲5論文である。)ジャーナルJ. Bacteriol. 170, 155-162 (1988)・・・引用文献2(サイト)著者・・・Woodruff, W.・・・タイトルConservation of the Gene for Outer Membrane Protein OprF in theFamilyPseudomonadaceae: Sequence of the Pseudomonas syringae oprFGene(判決注:後記甲17論文である。)ジャーナルJ. Bacteriol. 173, 768-775 (1991)・・・引用文献3(1から350残基)著者・・・Hancock, R. E.・・・タイトルPseudomonas aeruginosa outer membrane protein OprF, protein chemicaland immunochemical studiesジャーナル未発表(1992)コメント以前に報告されたP.aeruginosaからの配列(P13794,J.Bacteriol.170巻155頁から162頁まで(1988年)(判決注:後記甲5論文である。)において公表)はセロタイプ12からであった。セロタイプ12の制限パターンは他の16のセロタイプとは異なる(J.Bacteriol.173巻768頁から775頁まで(1991年)(判決注:後記甲17論文である。))。ここで報告された配列(M94078)はセロタイプ5である。 方法:概念上の翻訳特性・・・供給源1..350/生物=“Pseudomonas aeruginosa”/菌株=“PAO1”/db_xref=“分類群:287”タンパク質1..350/機能=“主要な外部膜タンパク質”/名称=“oprF”・・・コード1..350/遺伝子=“oprF”/“M94078:71..1123”によってコードされる/transl_table=11」(b)甲18検索結果(DNA配列)「1:M94078.報告・・・[gi:151408]この記録はAF027290に差し替えられた・・・ローカスPSEOPRFB1449塩基対DNA直線状BCT1992年5月19日定義Pseudomonas aeruginosaOprF遺伝子,全長のコード受入番号M94078バージョンM94078GI:151408・・・引用文献1(サイト)著者Duchene, M.・・・タイトルSequenceandtranscriptionalstartsiteofthePseudomonasaeruginosa outer membrane porin protein F gene(判決注:後記甲5論文である。)ジャーナルJ. Bacteriol. 170, 155-162 (1988)・・・引用文献2(サイト)著者・・・Woodruff, W.・・・タイトルConservation of the Gene for Outer Membrane Protein OprF in theFamilyPseudomonadaceae: Sequence of the Pseudomonas syringae oprFGene(判決注:後記甲17論文である。)ジャーナルJ. Bacteriol. 173, 768-775 (1991)・・・引用文献3(1から1449塩基)著者・・・Hancock, R. E.・・・タイトルPseudomonas aeruginosa outer membrane protein OprF, protein chemicaland immunochemical studiesジャーナル未発表(1992)コメント[注意]1998年11月20日,この配列は新しいバージョンgi:2625003に差し替えられた。 原文:Pseudomonas aeruginosa(菌株PAO1)DNA以前に報告されたP.aeruginosaからの配列(P13794,J.Bacteriol.170巻155頁から162頁まで(1988年)(判決注:後記甲5論文である。)において公表)はセロタイプ12からであった。セロタイプ12の制限パターンは他の16のセロタイプとは異なる(J.Bacteriol.173巻768頁から775頁まで(1991年)(判決注:後記甲17論文である。))。ここで報告された配列(M94078)はセロタイプ5である。 特性・・・供給源1..1449/生物=“Pseudomonas aeruginosa”/mol_type=“ゲノミックDNA”/菌株=“PAO1”/db_xref=“分類群:287”・・・コード71..1123/遺伝子=“oprF”/機能=“主要な外部膜タンパク質”/コドン開始=1/transl_table=11/タンパク質id=“151409”/db_xref=“GI:151409”」b甲20検索結果及び甲21検索結果(以下,これらに係るNCBIへの登録を「1998年の登録」という。)(a)甲21検索結果(アミノ酸配列)「1:AAD11568.報告・・・[gi:2625007]この記録は4186419に差し替えられた・・・ローカス26250074アミノ酸直線状BCT1997年11月20日(判決注:『1998年11月20日』の誤登録と認められる。)定義主要な外部膜タンパク質OprF[Pseudomonas aeruginosa]受入番号バージョンGI:2625007出典データベースローカスAF027290受入番号AF027290・・・引用文献1(1から4残基)著者・・・Hancock, R. E. W.・・・タイトルRelationship between a proposed novel ECF sigma factor and the outermembrane protein OprF, in Pseudomonas aeruginosa and Pseudomonasfluorescensジャーナル未発表引用文献2(1から4残基)著者・・・Hancock, R. E. W.タイトル直接投稿ジャーナル1997年9月24日投稿,微生物学・免疫学部,ブリティッシュコロンビア大学・・・コメント[注意]1999年1月26日,この配列は新しいバージョンgi:4186419に差し替えられた。 方法:著者によって与えられた概念上の翻訳特性・・・供給源1..4/生物=“Pseudomonas aeruginosa”/菌株=“PAO1”/db_xref=“分類群:287”/注記=“実験室での菌株名:H103;重複プラスミドpWW1401,pWW1901,pWW1701,及びpWW2300から配列が得られた”タンパク質1..>4/生成物=“主要な外部膜タンパク質OprF”コード1..4/遺伝子=“oprF”/“AF027290:3020..>3031”によってコードされる/注記=“外部膜タンパク質;ポリン;GenBank受入番号M94078のoprFの全配列を参照”/transl_table=11」(b)甲20検索結果(DNA配列)「1:AF027290.報告・・・[gi:2625003]この記録は4186417に差し替えられた・・・ローカスAF0272903031塩基対DNA直線状BCT1998年11月20日定義Pseudomonasaeruginosaの推定細胞膜付随タンパク質,推定細胞膜タンパク質,及び推定細胞外液シグマ因子X(sigX),全長コード;主要な外部膜タンパク質OprF(oprF)遺伝子,部分コード受入番号AF027290M94078バージョンAF027290GI:2625003・・・引用文献1(1から3031塩基)著者・・・Hancock, R. E. W.・・・タイトルRelationship between a proposed novel ECF sigma factor and the outermembrane protein OprF, in Pseudomonas aeruginosa and Pseudomonasfluorescensジャーナル未発表引用文献2(1から3031塩基)著者・・・Hancock, R. E. W.タイトル直接投稿ジャーナル1997年9月24日投稿,微生物学・免疫学部,ブリティッシュコロンビア大学・・・コメント[注意]1999年1月26日,この配列は新しいバージョンgi:4186417に差し替えられた。 1998年11月20日,この配列バージョンはgi:151408から差し替えられた。 特性・・・供給源1..3031/生物=“Pseudomonas aeruginosa”/mol_type=“ゲノミックDNA”/菌株=“PAO1”/db_xref=“分類群:287”/注記=“実験室での菌株名:H103;重複プラスミドpWW1401,pWW1901,pWW1701,及びpWW2300から配列が得られた”コード121..1119/注記=“OrfU1;主要な細胞質;カルボニル末端に二つの膜透過αヘリックスを含み,これにより細胞膜に固定される;そのカルボニル末端は大腸菌のマグネシウム/コバルト運搬タンパク質CorAに似ており,全長の長さはGenBankの受入番号AE000232によってコードされる未同定大腸菌ORFo327に似ている”/コドン開始=1/transl_table=11/生成物=“推定細胞膜付随タンパク質”/タンパク質id=“2625004”/db_xref=“GI:2625004”・・・コード1425..2249/注記=“OrfU2;少なくとも5個の膜透過ドメインを含む”/コドン開始=1/transl_table=11/生成物=“推定細胞膜タンパク質”/タンパク質id=“2625005”/db_xref=“GI:2625005”・・・遺伝子2438..2911/遺伝子=“sigX”コード2438..2911/遺伝子=“sigX”/注記=“細胞外因子ファミリーに属する他の細胞外液シグマ因子に似ている;代わりの可能性があるGTG開始点はヌクレオチド位置2414;この遺伝子を破壊するとOprFの発現が減少する”/コドン開始=1/transl_table=11/生成物=“推定細胞外液シグマ因子X”/タンパク質id=“2625006”/db_xref=“GI:2625006”・・・遺伝子3020..>3031/遺伝子=“oprF”コード3020..>3031/遺伝子=“oprF”/注記=“外部膜タンパク質;ポリン;GenBank受入番号M94078のoprFの全配列を参照”/コドン開始=1/transl_table=11/生成物=“主要な外部膜タンパク質OprF”/タンパク質id=“2625007”/db_xref=“GI:2625007”」c甲3検索結果及び甲22検索結果(以下,これらに係るNCBIへの登録を「1999年の登録」といい,1992年の登録及び1998年の登録と併せて「本件各登録」という。)(a)甲3検索結果(アミノ酸配列)「1:AAD11568.主要な外部膜・・・[gi:4186419]ローカスAAD11568350アミノ酸BCT1999年8月19日定義主要な外部膜タンパク質OprF前駆体[Pseudomonas aeruginosa]受入番号AAD11568PIDg4186419バージョンAAD11568.1GI:4186419出典データベースローカスAF027290受入番号AF027290.1・・・引用文献1(1から350残基)著者・・・Hancock, R. E. W.タイトル直接投稿ジャーナル1999年1月26日投稿微生物学・免疫学部,ブリティッシュコロンビア大学・・・注釈配列は投稿者により更新されたコメント1999年1月26日,gi:2625007はこの配列バージョンに差し替えられた。 方法:著者によって与えられた概念上の翻訳特性・・・供給源1..350/生物=“Pseudomonas aeruginosa”/菌株=“PAO1”/セロタイプ=“5”/db_xref=“分類群:287”/注記=“実験室での菌株名:H103;重複プラスミドpWW1401,pWW1901,pWW1701,及びpWW2300,並びにpRW5から配列が得られた”タンパク質1..350/生成物=“主要な外部膜タンパク質OprF前駆体”sigペプチド1..71matペプチド72..350/生成物=“外部膜タンパク質OprF”コード1..350/遺伝子=“oprF”/“AF027290.1:3020..4072”によりコードされる/transl_table=11/注記=“ポリンF;外部膜タンパク質F」(b)甲22検索結果(DNA配列)「1:AF027290.報告Pseudomonas aerug・・・[gi:4186417]・・・ローカスAF0272904398塩基対DNA直線状BCT1999年8月19日定義Pseudomonasaeruginosaの推定細胞膜付随タンパク質(cmaX),仮定的タンパク質,推定細胞膜タンパク質(cmpX),推定細胞外液シグマ因子X(sigX),及び主要な外部膜タンパク質OprF前駆体(oprF)遺伝子,全長コード受入番号AF027290M94078バージョンAF027290.1GI:4186417・・・引用文献1(2950から4398塩基)著者Duchene, M.・・・タイトルSequenceandtranscriptionalstartsiteofthePseudomonasaeruginosa outer membrane porin protein F gene(判決注:後記甲5論文である。)ジャーナルJ. Bacteriol. 170 (1), 155-162 (1988)・・・引用文献2(2950から4398塩基)著者・・・Woodruff, W.・・・タイトルConservation of the gene for outer membrane protein OprF in thefamilyPseudomonadaceae: sequence of the Pseudomonas syringae oprFgene(判決注:後記甲17論文である。)ジャーナルJ. Bacteriol. 173 (2), 768-775 (1991)・・・引用文献3(2950から4398塩基)著者・・・Hancock R. E.タイトルConservation of surface epitopes in Pseudomonas aeruginosa outermembrane porin protein OprFジャーナルFEMS Microbiol. Lett. 113 (3), 261-266 (1993)・・・引用文献4(1から3031塩基)著者・・・Hancock R. E.・・・タイトルInfluence of a putative ECF sigma factor on expression of the majoroutermembraneprotein,OprF,inPseudomonasaeruginosaandPseudomonas fluorescensジャーナルJ. Bacteriol. 181 (16), 4746-4754 (1999)・・・引用文献5(2950から4398塩基)著者Hancock, R. E.タイトル直接投稿ジャーナル1993年4月26日投稿微生物学・免疫学部,ブリティッシュコロンビア大学・・・引用文献6(1から3031塩基)著者・・・Hancock, R. E. W.タイトル直接投稿ジャーナル1997年9月24日投稿微生物学・免疫学部,ブリティッシュコロンビア大学・・・引用文献7(1から4398塩基)著者・・・Hancock, R. E. W.タイトル直接投稿ジャーナル1999年1月26日投稿微生物学・免疫学部,ブリティッシュコロンビア大学・・・注釈配列は投稿者により更新されたコメント1999年1月26日,この配列バージョンはgi:2625003から差し替えられた。 特性・・・供給源1..4398/生物=“Pseudomonas aeruginosa”/mol_type=“ゲノミックDNA”/菌株=“PAO1”/セロタイプ=“5”/db_xref=“分類群:287”/注記=“実験室での菌株名:H103;重複プラスミドpWW1401,pWW1901,pWW1701,及びpWW2300,並びにpRW5から配列が得られた”遺伝子121..1119/遺伝子=“cmaX”コード121..1119/遺伝子=“cmaX”/注記=“主要な細胞質;カルボニル末端に二つの膜透過αヘリックスを含み,これにより細胞膜に固定される;そのカルボニル末端は大腸菌のマグネシウム/コバルト運搬タンパク質CorAに似ており,全長の長さはGenBankの受入番号AE000232によってコードされる未同定大腸菌ORFo327に似ている”/コドン開始=1/transl_table=11/生成物=“推定細胞膜付随タンパク質”/タンパク質id=“AAD11565.1”/db_xref=“GI:2625004”・・・コード1174..1422/コドン開始=1/transl_table=11/生成物=“仮定的タンパク質”/タンパク質id=“AAD11569.1”/db_xref=“GI:4186420”・・・遺伝子1425..2249/遺伝子=“cmpX”コード1425..2249/遺伝子=“cmpX”/注記=“少なくとも5個の膜透過ドメインを含む”/コドン開始=1/transl_table=11/生成物=“推定細胞膜タンパク質”/タンパク質id=“AAD11566.1”/db_xref=“GI:2625005”・・・遺伝子2321..2911/遺伝子=“sigX”コード2321..2911/遺伝子=“sigX”/推定=“実験で得られた証拠はない,追加の詳細な記録はない”/注記=“細胞外因子ファミリーに属する他の細胞外液シグマ因子に似ている;この遺伝子を破壊するとOprFの発現が減少する”/コドン開始=1/transl_table=11/生成物=“推定細胞外液シグマ因子X”/タンパク質id=“AAD11567.1”/db_xref=“GI:4186418”・・・コード3020..4072/遺伝子=“oprF”/注記=“ポリンF;外部膜タンパク質F”/コドン開始=1/transl_table=11/生成物=“主要な外部膜タンパク質OprF前駆体”/タンパク質id=“AAD11568.1”/db_xref=“GI:4186419”」dなお,甲19検索結果,甲21検索結果(ただし,冒頭の4アミノ酸残基のみである。)及び甲3検索結果に記載されたOMPFのアミノ酸配列は,すべて同一のものであり,また,甲18検索結果(71塩基ないし1123塩基),甲20検索結果(3020塩基以降。ただし,冒頭の12塩基のみである。)及び甲22検索結果(3020塩基ないし4072塩基)に記載されたOMPF遺伝子のDNA配列は,すべて同一のものである。 (イ)次に,1992年の登録(同年5月19日)前に執筆された引用例の著者らの学術論文の記載についてみるに,乙18(甲60)論文(1988(昭和63)年6月発行の「JOURNAL OF BACTERIOLOGY」170巻6号の2592頁から2598頁までに掲載されたWendy A. Woodruff及びRobert E. W.Hancockによる「 Construction and Characterization ofProteinPseudomonas aeruginosaF-Deficient Mutants after In Vitro and In Vivo Insertion Mutagenesis of theCloned Gene」と題する論文。以下「乙18論文」という。)及び乙17論文には,以下の各記載がある。 a乙18論文(なお,乙18論文中の引用文献「34」とは,引用例である(乙18論文原文2598頁左欄下から6〜3行参照)。)「表1.菌株,プラスミド及びバクテリオファージ株又はプラスミド 特徴 由来又は引用文献・・・・・・ ・・・プラスミド・・・・・・ ・・・pWW13 遺伝子を含む11kbRIフラグメント34oprFEcoを有するpLAFr1・・・・・・ ・・・pWW2200遺伝子を含むpWW13由来の2.5kbIこの研究oprF Pstフラグメントを挿入したpRK404・・・・・・ ・・・pWW2300pWW2200由来のI-Iフラグメントを有するpUC18この研究PstSal・・・・・・ ・・・」(乙18・1頁の表部分)b乙17論文(1992(平成4)年1月28日原稿受領。なお,乙17論文中の引用文献「(38)」とは,乙18論文であり(乙17論文原文4985頁右欄11〜14行参照。当該部分に記載された乙18論文の表題は,誤記であると認められる。),引用文献「(40)」とは,引用例である(乙17論文原文4985頁右欄下から7〜4行参照。当該部分に記載された引用例の表題は,誤記であると認められる。)。)「プラスミドpWW2200がインタクトな遺伝子を発現し(38),pWW5が短縮型の生産物 oprFを発現する(40)ことは,以前に記述されている。・・・プラスミドpWW1901及びpWW1602は,プラスミドpWW13(40)由来の3.0及び1.2kbpのIフラグメントを,プラスミドベクタSalーpUC8にサブクローニングすることにより得られた(20)。」(1頁5〜8行)(ウ)上記(ア)及び(イ)のとおり,引用例の著者らは,1992年の登録の際,既に,OMPFのアミノ酸配列等の全長について,1999年の登録の際に提出したものと同一の配列を提出していたこと,本件各登録の際に提出された配列は,いずれも,のPAO1株を供給源とするものであること,1998年の登録P.aeruginosa及び1999年の登録については,いずれも,供給源欄中の注記欄に重複プラスミドpWW1401,pWW1901,pWW1701,pWW2300等から配列が得られた旨の記載があるところ,うちpWW1901及びpWW2300は,引用例においてサブクローニングされたpWW13に由来するプラスミドであること,1992年の登録の際に提出されたDNA配列は,OMPFをコードする遺伝子全長のDNA配列を明らかにすることに主眼を置いたものであったのに対し,1998年の登録及び1999年の登録の際に提出された各DNA配列は,OMPFをコードする遺伝子のDNA配列の前(上流側)に存在するの推定細胞膜付随タンパク質等に係る遺伝子のDNA配列を明P. aeruginosaらかにすることに主眼を置いたものであったと考えられることなどの事実に照らせば,引用例の著者らは,1992年の登録の際,既に,引用例においてサブクローニングされたpWW13に基づき,OMPFのアミノ酸配列等の各全長につき正しい結論を得ていたものといえるから,本件各登録の経緯をもって,引用例の著者らが,引用例におけるOMPF及びその遺伝子のクローニング又はサブクローニングとは独立して本件各登録を行ったものとみることはできず,ひいては,本件各登録の経緯から,引用例において発現されたタンパク質がOMPFでなかったということはできない。 (エ)a原告は,1992年の登録に係るOMPF遺伝子のDNA配列から導き出される制限酵素認識部位が,引用例の図4に示された制限酵素認識部位と矛盾すると主張するが,引用例における制限酵素認識部位(制限酵素地図)の誤りが,引用例において発現されたタンパク質がのPAO1株に由来するOMPFP. aeruginosaであったとの前記(1)の認定を覆すに足りないことは,前記アにおいて詳論したとおりであるところ,その理は,本件各登録の経緯及びその内容を理由とする原告の主張についてもそのまま当てはまるものであるから,原告の上記主張は理由がない。 b原告は,?@甲18検索結果の供給源欄にプラスミドの記載がないこと,?A引用例の著者らは,1998年の登録によって1992年の登録に係る配列情報をいったん削除したといえること,?B甲19検索結果に「この記録は中断された。」との記載があることから,引用例の著者らは,1992年の登録に係るOMPFのアミノ酸配列等とは別個独立の情報として,1998年の登録に係るOMPFのアミノ酸配列等を提出したものと考えられると主張する。 (a)確かに,前記(ア)a(b)のとおり,甲18検索結果の供給源欄には,プラスミドの記載がないが,他方で,当然ながら,甲20検索結果や甲22検索結果の供給源欄に記載されているプラスミドと異なるプラスミドが記載されているわけではない。そして,前記(ア)dのとおり,甲18検索結果,甲20検索結果(ただし,配列の一部)及び甲22検索結果に記載されたOMPF遺伝子のDNA配列は同一のものであるし,また,前記(ア)b(b)のとおり,供給源欄にプラスミドの記載のある甲20検索結果には,OMPF(oprF)遺伝子のコード欄に,「注記」として,「外部膜タンパク質;ポリン;GenBank受入番号M94078のoprFの全配列を参照」との記載(ここでいう「受入番号M94078」とは,甲18検索結果に係るものである。)があるのであるから,甲18検索結果の供給源欄にプラスミドの記載がないことをもって,1998年の登録に係る配列情報が1992年の登録に係る配列情報と別個独立のものであるとみることはできない。 (b)また,上記(a)の各事情に加え,前記(ウ)のとおり,1992年の登録の際に提出されたDNA配列は,OMPFをコードする遺伝子全長のDNA配列を明らかにすることに主眼を置いたものであったのに対し,1998年の登録及び1999年の登録の際に提出された各DNA配列は,OMPFをコードする遺伝子のDNA配列の前(上流側)に存在するの推定細胞膜付随タンパク質等にP. aeruginosa係る遺伝子のDNA配列を明らかにすることに主眼を置いたものであったと考えられることをも併せ考慮すると,引用例の著者らが,1998年の登録により,1992年の登録に係る配列情報をいったん削除したとみることはできない。 (c)さらに,上記(a)及び(b)の各事情に照らせば,甲19検索結果に「この記録は中断された。」との記載があることをもって,1998年の登録に係る配列情報が1992年の登録に係る配列情報と別個独立のものであるとみることはできない。 (d)以上のとおりであるから,原告の上記主張は理由がない。 c原告は,仮に,引用例の著者らが,引用例において単離したプラスミドにOMPF遺伝子が含まれていると考えていたならば,本件各登録においても,引用例を引用したはずであると主張する。 これに対し,被告は,引用文献の掲載はNCBI側が決定する事項である旨主張する。 登録すべき引用文献をNCBI側が決定するのか,登録を求める側が決定するのかは,証拠上明らかではないが,仮に,後者であるとしても,前記ア(イ)c及び前記(イ)bのとおり,引用例の著者らは,1992年の登録前に乙17論文を執筆し,その中で,引用例pWW5が中間領域を欠失したものであることを論じているところ,前記ア(エ)dのとおり,引用例pWW5の内容についての誤りは,全長プラスミドであるpHN4及びpWW13の制限酵素地図の内容を根本から誤らせるものと認められるから,引用例の著者らが,そのような事実が判明した後である1992年の登録の際に引用例を引用しないのは,当然のことといえる。 したがって,原告の上記主張は,いずれにせよ失当である。 d原告は,引用例の発表後,1999年の登録まで10年以上(1992年の登録までであっても約6年)という長期間を要しているという事実は,引用例において発現されたタンパク質がOMPFでなかったことを裏付けると主張する。 しかしながら,まず,前記(ウ)のとおり,引用例の著者らは,1992年の登録の際,既に,OMPFのアミノ酸配列等の全長について,1999年の登録の際に提出したものと同一の配列を提出しており,また,引用例の著者らが,引用例におけるOMPF及びその遺伝子のクローニング又はサブクローニングとは独立して本件各登録を行ったものとみることはできないから,引用例の発表後,NCBIへの配列登録まで10年以上が経過したとの原告の主張は,その前提を欠くものとして失当である。 また,引用例の発表から1992年の登録まで約6年の期間が経過していることについても,前記(ウ)のとおり,引用例の著者らは,引用例においてサブクローニングされたpWW13に基づき,OMPFのアミノ酸配列等の各全長につき正しい結論を得たのであるから,かかる期間の経過は,引用例において発現されたタンパク質がOMPFであったとの前記(1)の認定を左右するものではない。 e原告は,仮に,引用例の著者らが,PAO1株のOMPF遺伝子のDNA配列を1992年5月19日にNCBIに登録し,その後は一貫してPAO1株のOMPF遺伝子について同じDNA配列を提出していたとしても,引用例の著者らが,同日以降,引用例とは無関係に,OMPFのアミノ酸配列等を決定したことに変わりはないと主張するが,原告の主張は,証拠に基づく合理的な根拠を欠き,単なる推測を述べるにとどまるものであるから,これを採用することはできない。 (オ)小括以上のとおりであるから,本件各登録の経緯及びその内容を根拠に,引用例において発現されたタンパク質がOMPFでない旨をいう原告の主張は,理由がない。 ウOMPFを構成するアミノ酸の個数に関する引用例の著者らの認識(取消事由1の(4))について原告は,OMPFを構成するアミノ酸につき,引用例の著者らが認識していた個数は約410であり,実際の個数(350)と異なることを理由に,引用例において発現されたタンパク質はOMPFでなかったと主張する。 確かに,引用例には,「天然のタンパク質Fにおける約410アミノ酸」との記載(477頁右欄10〜11行)がある。 しかしながら,前記(1)のとおり,引用例においては,発現させたタンパク質を構成するアミノ酸の個数の絶対値を測定し,これが約410であるからOMPFと同定することができると結論付けたのではなく,モノクローナル抗体に対する反応,SDSゲル電気泳動法における挙動及びタンパク質の熱変更性において,発現させたタンパク質が天然のOMPFと同様の結果を示したこと,すなわち,発現させたタンパク質が天然のOMPFとの比較において同様の結果を示したことから,発現させたタンパク質をOMPFと同定したものである。したがって,引用例の著者らが天然のOMPFを構成するアミノ酸の個数を誤解していたとしても,引用例において発現されたタンパク質がOMPFであるとの前記(1)の認定を左右するものではない。 なお,付言するに,本願明細書に次の各記載があることからすると,引用例の著者らが引用例に記載された研究を行っていた当時,OMPFのアミノ酸配列等は研究者らに明らかとなっておらず,したがってまた,OMPFを構成するアミノ酸の個数も正しく認識されていなかったものと認められるから,引用例の著者らが天然のOMPFを構成するアミノ酸の個数を誤解していたからといって,引用例に記載された研究がずさんなものであるなどと即断するのは相当でない。 (ア)「W.A.ウッドラフ等(W. A. Woodruff et al., J. Bacteriol, 167(1986)473-479)は詳細には規定されていないP.アエルギノザPAO1を出発菌株として用いるE.コリ(E.coli)中における外部膜タンパク質F(OMPF,ポリンF)の発現を記載している。クローン化されたDNA配列は極めて大雑把な制限酵素地図によってのみ特性化されているにすぎず,DNA配列或はアミノ酸部分配列は述べられて・・・いない。」(段落【0003】)(イ)「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,シュードモナス・アエルギノザの外部膜タンパク質F,それをコードするDNA・・・を提供することにある。」(段落【0004】)(ウ)「【課題を解決するための手段】本発明によれば,表1に示したアミノ酸配列を有するシュードモナス・アエルギノザ(Pseudomonasaeruginosa)の外部膜タンパク質F(OMPF)が提供される。」(段落【0005】)(エ)「本発明によれば,OMPFをコード化し,表1に示されたDNA配列(コード化鎖)を有するDNAが提供される。」(段落【0007】)エ引用例において単離されたDNAによってコードされるタンパク質と,その後に引用例の著者の1人が単離したDNAによってコードされるタンパク質の機能(チャネル伝導度)(取消事由1の(5))について原告は,引用例において単離されたDNAによってコードされるタンパク質のチャネル伝導度と,その後に引用例の著者の1人が甲11論文において単離したDNAによってコードされるタンパク質のチャネル伝導度及び更にその後に頒布された甲24論文(2006(平成18)年6月16日発行の「The JOURNAL OFBIOLOGICAL CHEMISTRY」281巻24号の16230頁から16237頁までに掲載されたSergey M. Bezrukovらによる「Porin OprF:Pseudomonas aeruginosaPROPERTIES OF THE CHANNEL」と題する論文)に記載されたOMPFのチャネル伝導度とが異なることから,引用例において発現されたタンパク質はOMPFでないと主張する。 (ア)そこでまず,上記各論文の内容をみることとする。 a引用例には,以下の各記載がある(なお,前記(1)ア(キ)ないし(ケ)の各記載を再掲する部分がある。)。 (a)「クローニング後にポリン機能が保持されていることを実証するために,上記の大腸菌クローンに由来するタンパク質Fを,黒膜二重層中に組み込んだ。2種類の主要なチャネルが,明らかにされた。優勢な種類のチャネルは,1MKCl中で平均伝導度0.36nSを有した。一方,それよりも大きなチャネル(4nS〜7nS)が,それよりも低頻度で観察された。」(473頁要約(「のポリンタンパク質Fをコードする遺伝子 Pseudomonasaeruginosaを,」で始まる段落)下から5〜2行)(b)「大腸菌JF733(pHN4)(図5)または(データは示さない)のいずれかにP. aeruginosa由来する少量(0.6ng/ml)の電気溶出済みタンパク質Fを,黒膜二重層を入れている塩水溶液(1MKCl)中に添加すると,伝導度の段階的増加が生じた。他の脂質二重層の実験結果から類推して,これらの伝導度の増加は,タンパク質Fの単一チャネル形成単位がこの膜中に段階的に組み込まれることを伴った。 使用した最低濃度(0.6ng/ml)において,高感度に設定した機器を使用すると,小さなチャネルの組み込みが,主に観察された(図6A及び図6B)。測定された伝導度の増加の確率棒グラフ(図6)および1MKCl中での単一チャネルの平均伝導度(0.34nS〜0.38nS)は,または上記の完全なクローン化タンパク質F遺伝子を保有P. aeruginosaする大腸菌株のいずれかから単離されたタンパク質Fについて,同様であった。 より高濃度(7ng/ml)の大腸菌由来のタンパク質Fを使用し,上記機器を,より低感度(その条件よりも下では,図5において観察されたチャネルは測定されない)に設定すると,より大きな伝導度段差が観察された(データは示さない)。一連の実験において,測定された大きなチャネルのうちの約65%は,4nSよりも大きな(のタンパク質FにつP. aeruginosaいて以前に報告された(3)のものと同様の大きさ)単一チャネル伝導度を有した。」(476頁右欄下から4行〜477頁左欄20行)(c)「大腸菌クローン(pHN4)およびから電気溶出したタンパク質FについてP.aeruginosaの機能研究により,極めて類似する特性が明らかになった(図6)。しかしながら,主要なチャネルが小さな伝導度を有したことの実証は,大きなタンパク質Fチャネルの存在を証明した以前のモデル膜データ(3, 24, 25, 33)に鑑みると,意外であった。」(477頁右欄下から11〜6行)(d)「本論文に記載されたデータは,タンパク質Fチャネルの大多数は,機能しないのではなく,むしろ小さい(1MKClにおける平均の単一チャネル伝導度0.36nS)ということを示唆する。・・・これらの小さな単一チャネル事象は,タンパク質Fのチャネルサイズが5.6nSであると報告したBenz及びHancock(3)によっては観察され得なかった。」(478頁10〜18行)(e)「図6.脂質二重膜を入れた1MのKCl水溶液に,PAO1(A)または大P. aeruginosa腸菌JF733(pHN4)(B)由来の精製ポリンタンパク質Fを添加した後に観察された伝導度の段差の棒グラフ。・・・棒グラフの形状に基づいて,0.6nS未満のチャネルを選択し,0.38nS(タンパク質F;92事象の平均)および0.34nS(大腸菌由来のP. aeruginosaタンパク質F;197事象の平均)という平均単一チャネル伝導度を測定した。おそらく,約0.7nS〜0.8nSにおける他の伝導度増加ピークは,同時に膜に入っている2つのチャネルを表している。」(477頁右欄図6脚注1〜10行)(f)「引用文献・・・3. Benz, R., and R. E. W. Hancock. 1981. Properties of the large ion-permeable pores fromprotein F ofin lipid bilayer membranes. Biochim. Biophys Acta 646:Pseudomonas aeruginosa298-308.」(原文478頁右欄5〜17行。以下,引用文献としてここに掲げられた論文を「ハンコックらの1981年論文」という。)b甲11論文には,以下の各記載がある(なお,甲11論文中の引用文献「Benz及びHancock,1981年」とは,ハンコックらの1981年論文であり(甲11論文原文86頁7〜10行参照),同「Woodruffら,1986年」とは,引用例である(甲11論文原文101頁下から10〜7行参照)。)。 (a)「These data, for protein F purified fromH103 andJF733 P. aeruginosaE. coli(pWW2200), are shown in Figure 16.For both preparations, predominantly small channelswere observed at similar frequencies.(HB103及び大腸菌JF733(pWW2200)かP. aeruginosaら精製されたタンパク質Fに係るデータを図16に示す。いずれの調製物においても,同様の頻度で,小さなチャネルが主に観察された。)」(原文63頁15〜17行)(b)「天然のタンパク質Fの単一チャネル伝導度の平均は0.41nSであり,クローニングされたタンパク質Fは,0.38nSであった。天然のタンパク質Fの調製物において,いくつかのより大きなチャネルが観察された(観察された全チャネルの5.2%が,1.2nSより大きかった。)。一つの実験では,観察されたチャネルの15%が,1.2〜4.0nSの間であり,半分よりわずかに多い52%が,1.2〜2.0nSの間であった。クローニングされたタンパク質Fの調製物においては,観察された最大のチャネルは,3.4nSの伝導度であった。1.2nSよりも大きいチャネルは,全体の6.8%の頻度で観察され,天然のタンパク質Fで観察されたものと同様の結果であった。観察された1.2nSよりも大きいチャネルの63パーセントが,1.2〜2.0nSの間であった。それにもかかわらず,その天然のバックグラウンドから単離されたタンパク質Fについて,また,大腸菌におP. aeruginosaけるクローニングされた遺伝子から単離されたタンパク質Fについても,観察された oprFチャネルの大多数は0.6nS未満であった。これらの観察は,精製されたタンパク質Fの平均チャネル伝導度が5nSだと報告されていた従来公開された観察(Benz及びHancock,1981年)に反している。」(乙20・1頁下から2行〜2頁13行)(c)「本研究において,タンパク質Fについて, Parrによる予備的観察を確認し,生体における孔の機能を実証することを,試みた。およびJF733(pWW2200)由来P. aeruginosaE. coliの精製タンパク質Fを,黒脂質二分子層システムにおいて試験した。Parrの結果と一致して(Woodruffら,1986年),種々のチャンネルサイズが観察された。しかしながら,平均単一チャンネル伝導度は,天然のタンパク質Fについて0.41nSであり,クローニングしたタンパク質Fについては,0.38nSであった。Parrの知見とは対照的に,観察されたチャンネルのほんの5%のみが,1.2nSを超え,そして,4nSを超えるチャンネルは観察されなかった。予備的研究よりも,本研究において,さらに多くのチャンネル事象をモニターした。黒脂質二分子層のデータは,タンパク質Fが孔を形成することを示した。この研究の結果は,形成されるチャンネルが非常に小さいことを示す。黒脂質二分子層のデータを,MICの結果と組み合わせると,タンパク質Fの実際のサイズは,小さい,抗生物質不透過性の0.4nSチャンネルであるという可能性を考えなければならない。」(原告から提出された2種類の抄訳文のうち,「[甲11追加抄訳]」と題するもの(以下「甲11追加抄訳」という。)・1丁下から26〜13行)c甲24論文には,以下の各記載がある(なお,甲24論文中の引用文献「(6)」とは,ハンコックらの1981年論文であり(甲24論文原文16237頁右欄下から38行参照),同「(7)」とは,引用例である(甲24論文原文16237頁右欄下から37〜36行参照)。)(a)「 のOprFは,2つの異なる高次構造・・・,すなわち,稀な Pseudomonas aeruginosa単一ドメイン型および主要なものである2ドメイン型で存在することが示された・・・。単一ドメイン型が激減している画分について,著者らは,十分に規定された伝導度レベルを有するチャネルの形成を検出することができなかった。・・・しかし,OprFの単一ドメインに富んだ画分について,著者らは,高い再現性の伝導度を有するチャネルの規則的な挿入を観察した。単一のOprFチャネルは,イオン伝導度,および,高分子排除実験・・・において測定される半径において差異がある数個の副次的高次構造・・・の間で,自発的な遷移を示す動力学的挙動に富んでいることを示す。著者らは,最も伝導度の高い高次構造における有効半径が,大腸菌のOmpFの一般的な外膜ポリンのものを上回ることを示したが,著者らはまた,単一のOprFチャネルは,主として,弱伝導性の副次的高次構造で存在し,そして,ほんの少しの間のみ,完全に開いた状態に切り替わることを見出した。従って,以前に報告されたOprFの低い透過性は,主として,OprF集団において単一ドメイン型が不足していること,次に,単一ドメイン型において弱伝導性の副次的高次構造が優勢であることの2つの要因によるものであろう。」(原告から提出された2種類の抄訳文のうち,「[甲24抄訳]」で始まり最終丁(5丁)が15行のもの(以下同じ。)1丁下から24〜3行)(b)「BenzおよびHancockによる最初の研究(6)は,OprFを加えることで,大きな単一チャネル伝導度(1MKClまたはNaClにおいて,数ナノジーメンス(nS) )のチャネル2を生じ・・・ることが報告されている。しかし,・・・後の研究において,極めて異なる結論が導かれてきた。こうして,Woodruffら(7)は,OprFが,伝導度が1MKClにおいて,0.1〜1nSの範囲(平均0.36nS)である,大部分は『低分子』チャネルを生成することを報告した。殆ど存在しないそれよりも大きなチャネルの存在についても言及しているものの,実際の電流の記録も,この知見を示すような伝導度のヒストグラムも,示されていなかった。Brinkmanらによるつい最近の研究(8)において,0.2〜0.8nSの広い伝導度分布を有する低分子チャネルが優勢であることが確認された。」(2丁16行〜下から5行)(c)「平面状の二層の研究の多くは,現在,2つの完全に異なる型の混合物であることが知られている(9),分画されていないOprFについて行なわれているので,著者らは,異なる型を濃縮した調製物を用いて,OprFにより形成されるチャネルの特性をより詳細に調べることを試みた。」(2丁下から2行〜3丁2行)(d)「我々は,OprFで誘導される最小限の伝導度のレベルでその測定の殆どを行った。 ・・・代表的には,チャネル挿入は,その膜伝導度の小刻みな段階的上昇,振幅の電位依存性により明確であって,この電位依存的な振幅は,-150mVおよび150mVで,それぞれ,約6pA及び8pA(40pS及び55pS)に対応する。これらの小さな電流のステップは,・・・L として示した。 lowOprFをシス側に加えてその膜にOprFチャネルを挿入することには,方向性がある・・・。実際,負電圧では,低い伝導度レベル(L )が,常に,約140〜150pA(0.low93〜1nS)の振幅の高い伝導度レベル(L)へ強力に変動する・・・。 high時間分解した数個の変動事象を,20μsの時間分解能で図4の中央の2つのプロットで示した。・・・興味深いことに,高伝導度変動の時間分解した事象のうちのいくつかは,振幅50〜70pA(0.3〜0.47nS)を伴う中間の伝導度レベル(L)を有していintermediateる。」(3丁下から11行〜4丁9行)(e)「我々の分析から,図4における電流の記録が,1種のみのOprFチャネルを示すものであり,2つ以上の異なるチャネルの重ね合わせを示すものではないことが示唆される。実際,このチャネルは,常に,ゼロから低伝導度レベルとなり,その後に限ってより高いレベルへと上がるステップとして出現する。さらに,負電圧,数秒の間隔での観察では,高い伝導度レベル(L)のみを示すチャネル,または低い伝導度レベル(L )のみを示すチャネルはhigh low観察されなかった。・・・OprFチャネルは,2つの伝導度レベルの間で変動するが,その変動する周波数は,チャネルごとで変化し,いくつかのチャネルについては,時間依存的である。この場合,高伝導度レベルへの変動は,相対的に変化のない短い時間区間によって区切られる数秒間のバーストとして群発した。」(4丁12〜22行)(f)「Brinkman(8) report the most frequent OprF channel conductance of 0.36 nS.et al.This is very close to the amplitude of fluctuations between the low and intermediate levelsof the single channel substates found in the present study.(Brinkmanら(8)は,チャネル伝導度0.36nSを有するOprFが最も頻繁に観察されたと報告している。これは,この研究で見られた単一チャネルの低レベル状態と中間レベル状態との間の変動の振幅に非常に近い。)」(原文16237頁左欄30〜33行)また,図6Bには,低レベル(L )の伝導度として0.039±0.014 low(=0.025〜0.053)nSが,高レベル(L)の伝導度として0.96 high±0.16(=0.8〜1.12)nSが,それぞれ示されている。 (イ)上記(ア)a及びbによれば,引用例及び甲11論文には,発現させたタンパク質Fのチャネル伝導度について,以下の趣旨の記載があるものといえる。 a引用例(a)主として観察されたチャネルは,伝導度が小さいものであり,その平均は,0.34nSであること。 (b)上記(a)のように主要なチャネルが小さな伝導度を示したことは,ハンコックらの1981年論文等の従前のデータと異なること。 (c)伝導度が大きいチャネル(4〜7nS)は,低頻度でしか観察されなかったこと。 (d)観察された大きなチャネルのうち,約65%は,4nSよりも大きな伝導度を有したが,これは,ハンコックらの1981年論文における伝導度(5.6nS)と同様の大きさであったこと。 b甲11論文(a)観察されたチャネルの大多数は,0.6nS未満の伝導度を示す小さなものであり,平均チャネル伝導度は,0.38nSであったこと。 (b)上記(a)の結果は,ハンコックらの1981年論文における平均チャネル伝導度(5nS)に反していること。 (c)観察された最大のチャネルの伝導度は,3.4nSであったこと。 (d)1.2nSよりも大きいチャネルは,全体の6.8%の頻度でしか観察されなかったこと。 (e)上記(d)のチャネルのうち,63%は,1.2〜2.0nSの範囲の伝導度を示したこと。 (ウ)そうすると,発現させたタンパク質Fのチャネル伝導度に関する引用例の記載と甲11論文の記載は,?@主として観察されたチャネルは伝導度が小さいものであること,?A平均チャネル伝導度は0.34nS(引用例)又は0.38nS(甲11論文)であること(両者は,理論上の数値ではなく,実測された数値であり,かつ,多数のチャネルに係る平均値であることからすると,両者に有意な差はないというべきである。),?B伝導度が大きいチャネルは低頻度でしか観察されなかったこと,?Cこれはハンコックらの1981年論文の内容と異なること,という主要な部分において矛盾しない趣旨のものであるといえる。 他方,伝導度が大きいチャネルについての記載は,引用例においては,その伝導度は4ないし7nSの範囲に分布し,その約65%は5.6nS程度の伝導度を示したとされているのに対し,甲11論文においては,1.2nSよりも大きい伝導度を示すチャネルのうち63%は1.2ないし2.0nSの範囲に分布し,最大の伝導度は3.4nSであったとされているが,これらは,上記のとおり低頻度(甲11論文によれば,1.2nSより大きい伝導度を示したチャネルは,全体の6.8%にすぎない。)で観察された例外的な事象に係るものであるし,また,引用例においては,前記(ア)a(b)のとおり,これら伝導度の大きいチャネルを観察するために特段の工夫がされているのに対し,甲11論文においては,伝導度の大きいチャネルの観察方法についての特段の言及がないことをも併せ考慮すると,伝導度が大きいチャネルに関する記載についての上記差異は,引用例において発現させたタンパク質と甲11論文において発現させたタンパク質が異なるものであることを根拠付けるには,不十分であるといわざるを得ない。 なお,甲24論文は,単一のOMPFのチャネルが,主として弱伝導性の副次的高次構造の状態で存在し,わずかの間,完全に開いた状態(伝導度が高い状態)に切り替わることを見出したものであり,OMPFのチャネル伝導度を静的に測定したものとはいえないし,「以前に報告されたOprFの低い透過性」の原因について合理的な説明をしているものであるから(上記(ア)c(a)),引用例の記載と甲24論文の記載が矛盾しているということはできない。 (エ)原告は,引用例については,前記(ア)a(b)の「・・・約65%は,4nSよりも大きな(のタンパク質Fについて以前に報告された(3)のものP. aeruginosaと同様の大きさ)単一チャネル伝導度を有した。」との記載を,甲11論文については,前記(ア)b(b)の「観察されたチャネルの大多数は0.6nS未満であった。 これらの観察は,精製されたタンパク質Fの平均チャネル伝導度が5nSだと報告されていた従来公開された観察(Benz及びHancock,1981年)に反している。」との記載を,甲24論文については,前記(ア)c(c)の「低い伝導度レベル(L )が,常に,約140〜150pA(0.93〜1nS)の振幅の高い伝導low度レベル(L)へ強力に変動する・・・。」との記載をそれぞれ抽出して,引用 high例において発現されたタンパク質が,甲11論文において発現されたタンパク質及び甲24論文に記載されたOMPFと異なる旨主張するが,上記(ウ)において説示したところに照らせば,原告の主張は,引用例,甲11論文及び甲24論文の各記載の内容を正解しないものとして,失当であるといわざるを得ない。 (オ)小括以上のとおりであるから,チャネル伝導度についての引用例,甲11論文及び甲24論文の各記載を根拠として,引用例において発現されたタンパク質がOMPFではない旨をいう原告の主張は,理由がない。 オ引用例の発表後の著者らの態度(取消事由1の(6))について原告は,引用例の著者らが後に発表した甲2論文(1989(平成元)年6月発行の「JOURNAL OF BACTERIOLOGY」171巻6号の3304頁から3309頁までにPseudomonas 掲載されたWendy A.Woodruff及びRobert E.W. Hancockによる「Outer Membrane Protein F: Structural Role and Relationship to theaeruginosaOmpA Protein」と題する論文)及び甲17論文(1991(平成 Escherichia coli3)年1月発行の「JOURNAL OF BACTERIOLOGY」173巻2号の768頁から775頁までに掲載されたWendy Woodruff,Robert E. W. Hancockらによる「Conservationof the Gene for Outer Membrane Protein OprF in the Family:PseudomonadaceaeSequence of theGene」と題する論文)において,OM Pseudomonas syringae oprFPFのアミノ酸配列等に関する箇所に,引用例が一切引用されておらず,かえって,本願発明の発明者らによる甲5論文(1988(昭和63)年1月発行の「JOURNAL OF BACTERIOLOGY」170巻1号の155頁から162頁までに掲載されたMichael Duch□ne,Friedrich Lottspeich,Bernd-Ulrich von Specht,HorstPseudomonas Domdeyらによる「Sequence and Transcriptional Start Site of theOuter Membrane Porin Protein F Gene」と題する論文)が引用されていaeruginosaるとして,引用例の著者らが,引用例において発現されたタンパク質がOMPFでなかったことを自認している旨主張する。 (ア)そこでまず,甲2論文及び甲17論文の記載をみることとする。 a甲2論文(1988(昭和63)年10月31日原稿受領)には,以下の各記載がある(なお,甲2論文中の引用文献「(5)」とは,甲5論文であり(甲2論文原文3309頁左欄下から19〜15行参照),同「(22)」とは,引用例である(甲2論文原文3309頁右欄下から4行〜末行参照。当該部分に記載された引用例の表題は,誤記であると認められる。)。)。 (a)「タンパク質Fは,ポリンとして機能することが示された(14,16,22)。」(原告から提出された3種類の抄訳文のうち,「[甲2抄訳]」で始まり「*(訳注)文献22は引用文献1(甲8)である。」で終わるもの(以下「甲2抄訳」という。)・1丁下から17行)(b)「さらに,遺伝子の近年入手可能な配列(5)は,タンパク質FとOmpAタンパoprFク質との間での限定された相同性の領域(これら2個の遺伝子の各々からの30個のアミノ酸ストレッチにおける19個の直接的な一致)を実証した。」(甲2抄訳・1丁下から14〜12行)(c)「配列比較。公開されたOmpA(2)およびタンパク質F(5)の配列を,プログラムSEQNCEバージョンPC3・・・およびFAST-Pアルゴリズムを用いることにより比較した。」(甲2抄訳・1丁下から9〜6行)(d)「It should be noted that since thegene apparently constitutes a single geneoprFtranscriptional unit (5), the effects observed in this study were related to the presenceor absence of protein F rather than ....(遺伝子は,明らかに,単一の遺伝子転写oprF単位から構成されるので(5),この研究において見られた効果は,・・・むしろ,タンパク質Fの存在又は不存在に関連することに注意すべきである。)」(原文3305頁右欄22〜26行)(e)「タンパク質Fの,大腸菌OmpAタンパク質に対する関係。Ducheneら(5)は,30アミノ酸のうちの19アミノ酸が同じく配置されたという点で大腸菌OmpAタンパク質の30アミノ酸ストレッチに対する相同性を強く示すタンパク質F配列由来の30アミP. aeruginosaノ酸ストレッチが存在することを実証した。」(甲2抄訳・1丁下から3行〜2丁1行)(f)「興味深いことに,導入された最も大きな2つのギャップは,タンパク質Fの4つのシステイン(これは,ジスルフィド結合を形成する[22])を含む領域においてであり,そしてOmpAの2つのシステイン(これはジスルフィド結合を形成しない)付近の領域においてであった。」(甲2抄訳・2丁4〜7行)(g)「コントロール実験では,我々は,C386(pWW2200)がタンパク質Fを,他の遺伝的バックグラウンドにおいて以前に実証された(22;すなわち,タンパク質Fが,主な外膜タンパク質であった)のと等しい量で生じることを実証した。」(甲2抄訳・2丁下から9〜7行)(h)「タンパク質Fは,ポリンであることが示されており(9,16),そしてそのポリン活性は,クローン化された遺伝子を含む大腸菌株から精製されたタンパク質Fによって発現さoprFれる(22)。」(甲2抄訳・2丁下から4〜2行)b甲17論文(1990(平成2)年6月27日原稿受領)には,以下の各記載がある(なお,甲17論文中の引用文献「(12)」とは,甲5論文であり(甲17論文原文774頁左欄下から11〜7行参照),同「(39)」とは,引用例である(甲17論文原文775頁右欄3〜6行参照)。)。 P. syringae (a)「ゲルスライスからの電気溶出の代わりに受動溶出を利用したこと以外は,OprFタンパク質を,OprFについて以前に記載された(39)とおり,ディP. aeruginosaファレンシャル可溶化,SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動,およびゲルスライスからの溶出により精製した。」(1丁下から19〜16行)(b)「興味深いことに,Ducheneらによって公開された配列(12)は,セロタイプ12oprF単離体から得られ,そしてまた,図1で示す位置での遺伝子内の2つのI部位を特 oprFKpn徴とする。」(1丁下から11〜9行)(c)「小さなチャネルが観察され,100個の記録された事象からの平均単一チャネル伝導度は,0.28nSであった(小さなOprFチャネルについての0.35nSの平均単一チャネル伝導度(39)と比較して)。」(1丁下から3行〜末行)P. syringae oprFP. aeruginosa oprFP. aeruginosa (d)「遺伝子と 遺伝子との比較。 遺伝子の配列は,Ducheneらによって以前に決定された(12)。そのサイズ(1,05oprF0bp)は,上記の遺伝子のサイズと類似していた。これらの配列の比 P. syringae oprF較は,この領域に隣接するアミノ酸配列の特別な特徴の保存が存在するという点で,I部位 Salが両方の遺伝子において同様に配置されることを示した(特に,2つのジスルフィド結合を形成する,間隔が近い4つのシステイン残基(16)およびアラニン-プロリンリッチ領域(12))。 P.syringaeoprF P. 遺伝子の全体的なG+C含量は55.3%であった。これは,遺伝子についての60.2%という値(12)よりも低い。」(2丁7〜15aeruginosa oprF行)(e)「OprFのカルボキシ末端側の半分は,OmpAタンパク質のP. aeruginosa E. coli等価な部分に相同性を有することが以前に示されており(4,12,38),OprFの P. syringaeカルボキシ末端に非常に類似しており,85%の同一性および10%の保存的置換を有した。」(2丁下から7〜4行)(f)「の配列(P. a. OprF)は,参考文献12からのものである。」(3丁6P. aeruginosa〜7行)(イ)上記(ア)の各記載によれば,原告が主張するとおり,引用例の著者らが,引用例の頒布(1986(昭和61)年8月)後に執筆した甲2論文(1988(昭和63)年10月31日原稿受領)及び甲17論文(1990(平成2)年6月27日原稿受領)は,OMPFのアミノ酸配列等に係る文脈において,甲5論文を引用し,引用例を引用していない。 しかしながら,上記のとおり,甲2論文及び甲17論文が執筆されたのは,いずれも,甲5論文の頒布(1988(昭和63)年1月)後であるところ,同論文が,「ポリンFは,の主要な外部膜タンパク質の一つである。 Pseudomonas aeruginosa・・・我々は,・・・ポリンFについての遺伝子を・・・単離し,そのヌクレオチP. ド配列を決定した。」との記載(乙15・1頁下から16〜10行)や,ポリンタンパク質F遺伝子のヌクレオチド配列を示した図2(アミノ酸aeruginosa配列も併記されている。原文158頁)のとおり,OMPFのアミノ酸配列等を決定した論文であるのに対し,引用例は,同配列等を決定していない論文であるから,引用例の著者らが,甲2論文及び甲17論文の執筆当時,OMPFのアミノ酸配列等に係る文脈において甲5論文を引用したのは,極めて当然のことであるといえる。 (ウ)原告は,引用例の著者らが,自らもOMPF遺伝子の配列決定を行っていたものと仮定して,OMPFのアミノ酸配列等に係る文脈における引用例への言及があるはずである旨の主張をするが,甲2論文及び甲17論文の執筆当時,引用例の著者らが,OMPFのアミノ酸配列等を自ら決定していたとの事実を認めるに足りる証拠はない(なお,原告が指摘する甲18検索結果は,前記イ(ア)aのとおり,1992年の登録に係るものである。)から,原告の上記主張は,その仮定を誤るものとして失当である。 (エ)小括以上のとおりであるから,甲2論文及び甲17論文における甲5論文の引用等を根拠として,引用例の著者らが,引用例において発現されたタンパク質がOMPFでなかったことを自認している旨をいう原告の主張は,理由がない。 カOMPFの大腸菌に対する毒性(取消事由1の(7))について原告は,引用例においては,高コピーベクター(pUC8及びpUC9)が用いられているところ,高コピーベクターを用いてOMPF遺伝子又はその断片を大腸菌等の宿主細胞に導入した場合,それらの遺伝子生成物(OMPF)の毒性のため,宿主細胞が死滅したはずであるから,引用例に記載された方法ではOMPFを発現させることはできず,したがって,引用例において発現されたタンパク質はOMPFではない旨主張する。 (ア)そこで,引用例におけるpUC8又はpUC9(これらが高コピーベクターであることについては,当事者間に争いがない。)を用いたDNAのクローニング又はサブクローニングについてみるに,引用例には,前記(2)ア(イ)b及びc並びに前記ア(イ)a(a)のとおりの各記載に加え,前記ア(イ)aのとおりの図4及びその脚注の記載があり,これらによれば,引用例において,pWW5については,pUC8を用いてサブクローニングされたものであるが,その余のプラスミドpHN4(ベクター:pLAFR1),pWW1(同),pWW4(ベクター:pCP13)及びpWW13(ベクター:pLAFR1)については,高コピーベクターを用いてクローニング又はサブクローニングされたものではないと認められる。 (イ)そうすると,引用例において発現されたタンパク質又は短縮型タンパク質のうち,少なくとも,DNA全長を含むプラスミドpHN4及びpWW13並びにDNA断片であるプラスミドpWW1及びpWW4により発現されたものについては,いずれも,原告が主張するような毒性の問題は生じないといえるから,当該毒性の存在を根拠として,引用例において発現されたタンパク質がOMPFでない旨をいう原告の主張は,その前提を欠くものとして失当である。 キ私的鑑定意見等(取消事由1の(8))について原告は,長田意見書及び甲11論文を根拠に,引用例において発現されたタンパク質は“hypothetical protein”又は混入されたタンパク質であるなどと主張するので,以下,検討する。 (ア)長田意見書についてa長田意見書には,以下の各記載がある(なお,略称を本判決が指定したものに改めた部分がある。)。 (a)「第3結論結論として,引用例において単離された遺伝子が何であるかについては,引用例には単離された遺伝子の核酸配列・アミノ酸配列が記載されていないため,不明です。引用例において単離された遺伝子がOMPF遺伝子とは異なる遺伝子である可能性が,あります。」(2頁8〜12行)(b)「2.引用例に記載されるクローニングした遺伝子の同定法の基準を満たす他の遺伝子引用例でクローニングされた遺伝子が,OMPF遺伝子以外にあり得ないのか否かについて考察するために,引用例と同様のクローニング遺伝子の同定法の基準,すなわち,?@SDSゲル電気泳動での挙動,?A複数のモノクローナル抗体との反応性,?B熱変更性タンパク質としての挙動,および,?Cポリンとしての特性,に関して,OMPF遺伝子と同様の特性を有するタンパク質をコードする遺伝子であって,これらの基準を満たす可能性があり,かつ,OMPF遺伝子とは異なる遺伝子がP. aeruginosaゲノム中に存在するか否かについて検討しました。 OMPF遺伝子と類似した構造を有する遺伝子は,OMPF遺伝子と同様にポリン活性を持つことが予想されるので,最初に,P. aeruginosa PAO1株のゲノム配列中でOMPF遺伝子と相同性を有する遺伝子をサーチしました。」(3頁8行〜下から2行)(c)「次に,サーチでヒットした候補遺伝子の中から,引用例で使用されたモノクローナル抗体と反応する可能性のある遺伝子を選択しました。 引用例でスクリーニングに使用されたモノクローナル抗体は,MA4-4とMA5-8と呼ばれるものです。・・・MA4-4はコンフォメーショナルエピトープに結合し(コンフォメーショナルエピトープを認識する抗体とは,立体構造のエピトープを認識する抗体をいいます。),MA5-8は直鎖状のエピトープに結合します(直鎖状のエピトープを認識する抗体とは,タンパク質のある特定のアミノ酸配列を認識する抗体をいいます。)。MA5-8が認識するエピトープのアミノ酸配列として,“TAEGRAIN”あるいは“NATAEGRA”が記載されています。 OMPF遺伝子と相同性を有する遺伝子として上記の・・・サーチでヒットした遺伝子中,P. aeruginosa PAO1株ゲノム核酸配列の95048〜96397に位置する遺伝子にコードされる“hypotheticalprotein”,および,1591286〜1592176に位置する遺伝子にコードされる“MotD”は,アミノ酸配列“NASAEGRA”を含んでいました。」(4頁6行〜下から6行)(d)「エピトープ内で,アミノ酸であるセリン“S”とスレオニン“T”との置換のような保存的置換が1つだけ生じたに過ぎない場合には,なお抗体との反応性が維持されることが周知です・・・。そのため,この“hypotheticalprotein”および“MotD”をコードする遺伝子はともに,MA5-8と反応性を有するタンパク質をコードすると考えられます。 引用例で使用されたもう一つのモノクローナル抗体であるMA4-4は,MA5-8とは異なり,コンフォメーショナルエピトープ(立体構造のエピトープ)を認識するため,アミノ酸配列によってエピトープを同定することはできません。しかし,MA4-4は,2つのシステイン残基に挟まれた13残基のループ近傍に結合します。一方,この“hypotheticalprotein”も,2つのシステイン残基に挟まれた16残基のループを有することから,“hypotheticalprotein”はMA4-4によって認識されるアミノ酸の立体構造(またはそれに類似した立体構造)を有し,MA5-8の場合と同様に,MA4-4とも結合する可能性があります。 従って,この“hypothetical protein”は,P. aeruginosaのOMPFタンパク質と反応する複数のモノクローナル抗体(MA5-8およびMA4-4)と反応する可能性があります。(前記?Aの基準)また,この“hypotheticalprotein”は,449アミノ酸残基からなりますが,OMPFタンパク質と同様にシグナル配列が切断された結果,SDSゲル電気泳動においてOMPFタンパク質と同様の挙動をする可能性があります。(前記?@の基準)さらに,“hypotheticalprotein”中の3つのシステイン残基は,ジスルフィド結合を形成し得ることから,この“hypotheticalprotein”は,2-メルカプトエタノール存在下で加熱してSDS電気泳動を行った場合,移動度が変化する可能性が認められます。従って,この“hypotheticalprotein”は,OMPFタンパク質と同様に,熱変更性タンパク質としての挙動を示す可能性があります。(前記?Bの基準)加えて,ポリン活性を有するOMPFタンパク質のカルボキシル末端側は,ポリン活性を有するOmpAタンパク質のカルボキシル末端側と相同性を有しますが・・・,この “ hypotheticalprotein”もまた,OMPFタンパク質のカルボキシル末端側と相同性を有することから,ポリン活性を持つ可能性があります。(前記?Cの基準)」(5頁2行〜6頁9行)(e)「3.まとめ以上を考慮すると,引用例では,前記?@SDSゲル電気泳動での挙動,?A複数のモノクローナル抗体との反応性,?B熱変更性タンパク質としての挙動,および,?Cポリンとしての特性という4つの基準を指標としてクローニングした遺伝子を同定していますが,上記の “ hypotheticalprotein”もこれら?@ないし?Cの基準を満たす可能性があります。そうすると,これらの基準からでは,引用例でクローニングされた遺伝子がOMPF遺伝子であるとは断定できず,実際には,上記の“hypotheticalprotein”がクローニングされた可能性もあります。」(6頁10〜17行)b長田意見書の上記記載は,要するに,“hypothetical protein”が,(a)その遺伝子がOMPF遺伝子と類似した構造を有すること及びそのカルボキシル末端側がOMPFのそれと相同性を有することから,OMPFと同様にポリン活性を持つ可能性があること,(b)モノクローナル抗体MA5-8が認識するエピトープのアミノ酸配列と1箇所においてのみ保存的置換が生じたアミノ酸配列を有することから,同モノクローナル抗体と反応すると考えられること,(c)モノクローナル抗体MA4-4が認識する立体構造のエピトープ(2つのシステイン残基に挟まれた13残基のループ近傍)と同一又は類似の立体構造のエピトープを有する(2つのシステイン残基に挟まれた16残基のループを有する。)ことから,同モノクローナル抗体と反応する可能性があること,(d)449アミノ酸残基から成るものの,シグナル配列が切断される結果,SDSゲル電気泳動においてOMPFと同様の挙動をする可能性があること,(e)その3つのシステイン残基がジスルフィド結合を形成し得ることから,熱変更性タンパク質としての挙動を示す可能性があること,を理由に,“hypothetical protein”が,引用例において発現されたタンパク質であった可能性もあるというものである。 しかしながら,長田意見書は,“hypothetical protein”が,ポリン活性を有すること,モノクローナル抗体MA4-4と反応すること,SDSゲル電気泳動においてOMPFと同様の挙動を示すこと,熱変更性タンパク質としての挙動を示すことについて,いずれも,その可能性を述べているものにすぎないし,ポリン活性及び熱変更性タンパク質としての挙動に至っては,単に,「『同活性を持つ』可能性がある」,「『同挙動を示す』可能性がある」などと述べるのみで,同活性及び同挙動の程度又は態様がOMPFと同様のものであるとは述べていない。また,長田意見書の記載は,何ら実験において確認されたものではない。 そうすると,長田意見書の記載は,単に,机上において可能性や推測を幾重にも重ねた結果として,“hypothetical protein”が引用例において発現されたタンパク質であった可能性もある旨述べるにとどまるものであるから,その「可能性」は,極めて小さいものと認めざるを得ず,引用例において発現されたタンパク質がOMPFであったか否かを検討するに当たって,そのような“hypothetical protein”の存在を考慮することは合理性を欠くものである。 cしたがって,長田意見書にいう“hypothetical protein”の存在を前提とする原告の主張は,すべて,その前提を欠くものとして,失当である。 (イ)甲11論文についてa甲11論文には,以下の記載がある(なお,前記エ(ア)bのとおり,甲11論文中の引用文献「Benz及びHancock,1981年」とは,ハンコックらの1981年論文であり,同「Woodruffら,1986年」とは,引用例である。)。 (a)「蓄積しつつある証拠によって,人工膜システムにおいて観察された主要な小さなチャンネルがタンパク質Fチャンネルの実際のサイズを示すということが,支持されている。 Triton X-100中でのゲル分子ふるいによって精製されたタンパク質Fの初期の調製物中にのみ一貫して観察された大きなチャンネル(R. E. W. Hancock,私信)は,外膜中に非常に少量存在する,混入したポリンを示すのであろう・・・。あるいは,黒脂質二分子層において増加する大きな伝導度の観察は,タンパク質の凝集の結果,または,複数のポリン分子が同時に進入した結果である可能性がある・・・。前者の仮説が,以下の理由により,より魅力的である。 第一に,元の研究において使用されたタンパク質Fの調製物は,他の外膜タンパク質を少量(SDS-PAGEで可視可能)混入していることが公知である。」(甲11追加抄訳・1丁下から11行〜末行)(b)「(Hancock, 1979; Benz & Hancock, 1981). Such contamination was less likelyet al.in later preparations due to a change in purification methodology and the isolation ofcloned protein F from(Woodruff, 1986).((Hancockら,1979年;Benz及E. coliet al.びHancock,1981年)。そのような混入は,精製方法論の変更及びクローニングされたタンパク質Fの単離を大腸菌から行うこと(Woodruffら,1986年)により,その後の調製物においてはあまり生じなかった。)」(原文78頁6〜9行)b甲11論文の上記記載は,要するに,従前の研究においては,OMPFではない外膜タンパク質が少量混入していたが,引用例における工夫等により,そのようなことはあまり生じなくなったというものであり,原告が主張するように,引用例においてOMPFとは異なるタンパク質が混入したことを認めるものではない。 cしたがって,引用例においてOMPFとは異なるタンパク質が混入したことを前提とする原告の主張は,甲11論文の記載内容を正解しないものとして,すべて失当である。 (ウ)原告は,「本件優先日前の当業者は,引用例におけるのと同様のクローニング法を用いた場合には,目的の遺伝子とは異なる遺伝子をクローニングする可能性があることを認識しており,甲31論文,後記乙2論文,後記乙4論文及び後記乙5論文に記載されるように,クローニングした遺伝子が目的のタンパク質をコードするものであるか否かを確認するため,目的のタンパク質の部分アミノ酸配列と,クローニングした遺伝子がコードするアミノ酸配列とを比較していたものである。」と主張する。 しかしながら,原告が援用する各学術論文において,原告が主張するような配列比較の方法がとられていたとしても,前記ウのとおり,引用例に記載された研究が行われていた当時,OMPFのアミノ酸配列等は研究者らに明らかとなっていなかったのであるから,引用例におけるタンパク質の同定において,配列比較の方法が用いられていないのは,何ら不合理なことではない。 仮に,原告の上記主張が,引用例におけるタンパク質の同定方法についての疑義をいう趣旨であるとしても,前記(2)のとおり,理由がない。 (エ)小括以上のとおりであるから,引用例において発現されたタンパク質が“hypotheticalprotein”又は混入されたタンパク質であるなどとする原告の主張を採用することはできない。 (4)取消事由1についての結論前記(1)のとおり,引用例において発現されたタンパク質がのPAO1P. aeruginosa株に由来するOMPFであったことは,優にこれを認めることができるところ,前記(2)及び(3)のとおり,これに対する原告の各主張は,いずれも,上記認定を左右するに足りるものではないから,結局,取消事由1は理由がない。 2取消事由2(本件優先日前における技術的事項の認定の誤り)について原告は,本件知見についての審決の認定が誤りであると主張するので,以下,検討する。 (1)問題の所在は,科属に属する種の1つであって,P. aeruginosaPseudomonadaceaePseudomonasその血清型(セロタイプ)により,更に分類されるものである。 また,の菌株とは,の具体的な個体の細胞(親細胞。 P. aeruginosaP. aeruginosa臨床的に採取されるのが通常である。)から分化した子孫であり,変異等がない限り,親細胞と同じ遺伝形質を備えている。の菌株は,1982年8P. aeruginosa月に頒布された後記甲9論文によれば,当時既に3000種類以上存在するとされているところ(1丁5〜7行),引用例において用いられた菌株は,セロタイプ5に属するPAO1株であり,本願発明において用いられた菌株は,セロタイプ6に属するATCC33354株である(引用例474頁右欄末行〜475頁左欄1行,本願明細書段落【0015】,乙11論文(1987(昭和62)年5月発行の「INFECTIONAND IMMUNITY」55巻5号の1051頁から1057頁までに掲載されたJoseph S.Lamらによる「Production and Characterization of Monoclonal Antibodies againstSerotype Strains of」と題する論文)1頁下から7〜5Pseudomonas aeruginosa行)。 取消事由2においては,本件優先日当時の当業者において,といP. aeruginosaう同種の細菌の菌株ではあるものの,セロタイプ及び菌株の種類が異なるPAO1株とATCC33354株につき,これらに係るOMPF遺伝子のDNA配列の相同性が極めて高いものであると予測することができたか否か(本件優先日当時の当業者が本件知見を有していたか否か)が問題となる。 (2)の外部膜タンパク質の相同性(保存性)に関連する学術論文P. aeruginosaについてア乙9論文(1979(昭和54)年発行の「J.Biochem.」86巻の979頁から989頁までに掲載されたMakoto Kageyamaらによる「Isolation andPseudomonas aeruginosa Characterization of Major Outer Membrane Proteins ofStrain PAO with Special Reference to Peptidoglycan-Associated Protein」と題する論文)には,以下の各記載がある(なお,乙9論文中の引用文献「(6)」とは,M.Kageyamaらによる1978(昭和53)年頒布の論文である(乙9論文原文989頁右欄12〜13行参照)。)。 (ア)「 のPAO株の外部膜には,6つの主要なタンパク質(タンパク質 PseudomonasaeruginosaD,E,F,G,H及びI)が含まれる。」(乙9・1頁下から18〜17行)(イ)「タンパク質F及びHの精製がなされた。他の3つの主要外部膜タンパク質であるD,E及びIもまた単離され,特徴づけられた。これらのアミノ酸成分が決定された。」(乙9・1頁下から14〜12行)(ウ)「我々は,の外部膜が,少なくとも6つの主要なタンパク質(タンパク質P. aeruginosaD-I)からなることを見出した(6)。」(乙9・1頁下から4〜3行)イ甲15論文(1983(昭和58)年12月頒布)には,以下の各記載がある。 (ア)「 のポリンタンパク質Fに対する高度に特異的なモノクローナル Pseudomonas aeruginosa抗体を分泌するハイブリドーマが単離された。これらの抗体は,の17のセロタ P. aeruginosaイプで代表される株から単離された外部膜中のタンパク質F及び嚢胞性線維症の患者由来の他の15の臨床単離体から単離された外部膜中のタンパク質Fと相互作用した。」(乙10・1頁下から17〜14行)(イ)「我々は,以前,国際抗原性分類スキーム(19)の17ののセロタイプ株にP. aeruginosaついて,SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動のタンパク質のパターンと,部分的に精製されたタンパク質及び全膜タンパク質に対するウサギ血清によるこれらのセロタイプにおける主要な外部膜タンパク質の交差反応性により,これらのセロタイプ株間で,いくつかの主要な外部膜ポリペプチドが保存されていることを示した(20)。さらに,これらのセロタイプ株におけるタンパク質特異的なファージに対するレセプターに保存性があるという発見は,これらの保存されたタンパク質のいくつかは,表面に曝されていることを示唆した(18)。」(乙10・1頁下から12〜5行)(ウ)「モノクローナル抗体の特異性,並びに,セロタイプに分けられた株からの外部膜及び嚢胞性線維症の単離体からの外部膜との相互反応 P. aeruginosaタンパク質Fに特異的なモノクローナル抗体が,の17のセロタイプ株の外部 P. aeruginosa膜及び嚢胞性線維症の患者由来の16の臨床単離体の外部膜との結合性が,ELISAによってテストされた。表2に,MA4-4及びMA2-10についての結果を示す。反応性は株やモノクローP. ナル抗体によって変化したが,これらのモノクローナル抗体は,テストされたすべての株の外部膜と反応した。このように,タンパク質Fに対するこれらのモノクローナaeruginosaル抗体によって認識される抗原部位は,明らかにこれらの株間で共通している。 P. aeruginosaこのことは,すべてのタンパク質F特異的モノクローナル抗体について,のセ P. aeruginosaロタイプに分けられた株由来の外部膜タンパク質を分離した電気泳動ブロットとの相互反応によって確認された(図1)。」(乙10・1頁下から3行〜2頁9行)(エ)「図1.モノクローナル抗体MA5-8で処理後ののセロタイプに分けられた株P. aeruginosaの外部膜のウェスタン電気泳動ブロット。ブロットは,SDSポリアクリルアミドゲルからニトロセルロース紙へ,分離された外部膜タンパク質を電気泳動移動することにより得られた。」(乙10・2頁11〜14行)(オ)「Outer membrane samples are: lane 1, serotype 17; lane 2, serotype 16; lane 3,serotype 15; lane 4, serotype 14; lane 5, serotype 13; lane 6, serotype 12; lane 7,serotype 11; lane 8, serotype 10; lane 9, purified protein F; lane 10, serotype 9; lane 11,serotype 8; lane 12, serotype 7; lane 13, serotype 6; lane 14, serotype 5; lane 15,serotype 4; lane 16, serotype 3; lane 17, serotype 2; lane 18, serotype 1; lane 19,wild-type H103.(外部膜のサンプルは次のとおりである。レーン1,セロタイプ17;レーン2,セロタイプ16;レーン3,セロタイプ15,レーン4,セロタイプ14,レーン5,セロタイプ13;レーン6,セロタイプ12;レーン7,セロタイプ11;レーン8,セロタイプ10;レーン9,精製されたタンパク質F;レーン10,セロタイプ9;レーン11,セロタイプ8;レーン12,セロタイプ7;レーン13,セロタイプ6;レーン14,セロタイプ5;レーン15,セロタイプ4;レーン16,セロタイプ3;レーン17,セロタイプ2;レーン18,セロタイプ1;レーン19,野生型H103。)」(原文1030頁左欄図1脚注11〜19行)また,図1には,レーン1ないし19のすべてにつき,ほぼ同様の位置にバンドが出現している様子が示されている。 ウなお,本件優先日後(1991(平成3)年1月)に頒布されたものではあるが,甲17論文には,次の記載がある。 「Thegene was mapped in severalstrains ....Comparisons of ... oprF P. aeruginosawild-type strain H103 (the source of the cloned gene) with 17 type strains of theInternational Antigen Typing Scheme revealed extensive conservation of the restrictionmap within 1 kb of thegene; only a single strain, the serotype 12 type strain, had anoprFaltered map forI....(数種の株において,・・・遺伝子がマッピ KpnP. aeruginosaoprFングされた。・・・野生型の株H103(クローニングされた遺伝子の供給源である。)と,国際抗原性分類スキームにおける17タイプの株とを比較すると,1kb以内の遺伝子のoprF制限酵素地図において,広範囲にわたる保存性が明らかとなった。唯一,セロタイプ12の株のみが,Iについて異なる制限酵素地図を示した・・・。)」(原文770頁左欄下から2Kpn4〜15行)(3)OMPFの機能についてOMPFはポリンとして機能するタンパク質である。ポリンは,透過膜チャネル(pore)を形成し,水,イオン等を通過させ,細胞内の浸透圧の調製等を行う機能を有する(以上の事実は,当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨によって認められる。)。そして,前記1(3)エ(ア)のとおり,本件優先日前に,OMPFのチャネル伝導度の測定を試みた各種学術論文(ハンコックらの1981年論文,引用例等)が存在したことなどに照らすと,OMPFが上記機能を有することについては,本件優先日前において,既に当業者が認識していたものと認められる。 (4)そこで検討するに,一般に,同一の種に属する細菌のタンパク質のうち,少なくとも,当該細菌の生存にとって重要なタンパク質については,それをコードするDNAの配列は,菌株,すなわち,個体が異なっても,それほど大きく異なることはなく,むしろ,極めて高い相同性を有するものと認識するのが通常であると考えられる。 そして,上記(2)ア及び(3)によれば,OMPFは,の生存においP. aeruginosaて,極めて重要なタンパク質であるといえるし,また,上記(2)イのとおり,甲15論文の記載及び図示によれば,の17のセロタイプに属する各株P. aeruginosaのOMPFが,OMPF特異的モノクローナル抗体MA4-4及びMA2-10と反応するエピトープを有し,SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動等においても,当該17のセロタイプに属する各株間において,いくつかの主要な外部膜ポリペプチドが保存されることが示され,さらには,モノクローナル抗体MA5-8で処理した後の電気泳動の結果は,17のセロタイプに属する各株のOMPFについて,ほぼ同様の挙P. 動が示されたというのであるから,本件優先日当時の当業者は,同一の種()に属するPAO1株とATCC33354株が,そのOMPF遺伝子のDNA配列aeruginosaにおいて,極めて高い相同性を有することを予測することができたものと認めるのが相当である。 したがって,本件優先日当時の当業者は,少なくとも,本件知見中,PAO1株とATCC33354株との相同性に係る部分について,その認識を有していたものと認められる(なお,上記(2)ウのとおりの甲17論文の記載によれば,のセP. aeruginosaロタイプ5及び6に属する株に係る遺伝子の1kb以内のDNA配列につき,本件優先日当時においても,客観的には,広範囲にわたる相同性が存在していたものといえる。)。 (5)アこれに対し,原告は,OMPFはの生存にとって不可欠なP. aeruginosaタンパク質ではないと主張する。 (ア)すなわち,原告は,菌株によっては,ポリンチャネルが複数個存在するもP. のもあると主張するが,そのことにより,ポリンとして機能するOMPFがの生存にとって極めて重要なタンパク質であることが否定されるものでaeruginosaはない。 P. aeruginosa (イ)また,原告は,大腸菌につきポリン不全株であるJF733が,につきタンパク質Fを欠失する株であるH283が,それぞれ存在すると主張する。 しかしながら,上記(3)のとおりのポリンの機能に照らせば,これらの株が,そのような欠陥のない株と比較して,その生存能力において劣ることは,容易に認められるところであり,本件優先日当時の当業者も,そのように認識していたものと認めるのが相当であるから,原告の上記主張は,ポリンとして機能するOMPFがの生存にとって極めて重要なタンパク質であることを何ら否定するP.aeruginosaものではない(なお,本件優先日後に頒布されたものではあるが,甲2論文(1989(平成元)年6月頒布)には,「の外部膜タンパク質F欠損-P. aeruginosaΩ挿入変異体株H636は,タンパク質Fが十分な親株H103と比べて,プロテオースペプトンが追加されていないno.2培養液・・・で成長することができなかった。高濃度のNaCl,KCl,グルコース,スクロース又はコハク酸カリウムの追加により,H636株は,親株のH103に近い割合で成長することができた。H636株細胞は,同じ培地で同じ割合で成長させた親株よりも,33%短く,断面積が46%小さかった。」との記載(乙19・1頁下から7〜2行)が,甲30文献(2002(平成14)年10月15日発行の大島泰郎外3名編「ポストシークエンスタンパク質実験法2試料調整法」第1版の97頁から104頁まで)には,「細胞は細胞膜を始めとして種々の膜構造をもっている。それらのほとんどは半透性の脂質二重層で構成されており,種々のチャネルやポンプ機能をもった膜タンパク質が組込まれている。これらの膜タンパク質のほとんどは生命の維持に不可欠な機能をもっている・・・。」との記載(97頁8〜12行)がそれぞれあることからすると,OMPFは,客観的に,の生存にとって極めて重要なタンパク質であるとP. aeruginosaいえる。)。 (ウ)そうすると,OMPFがの生存にとって不可欠なものではなP. aeruginosaいとの原告の上記主張は,少なくとも,OMPFがの生存にとって P.aeruginosa極めて重要なタンパク質であることを否定する限度において,失当である。 イまた,原告は,モノクローナル抗体に反応することは,単に,同一又は類似P. のエピトープが存在することを示すにすぎないから,そのことは,菌株が異なるのOMPF遺伝子のDNA配列における保存性を根拠付けるものではなaeruginosaいと主張する。 確かに,モノクローナル抗体に対する反応のみを取り上げれば,甲15論文の記載中,前記(2)イ(ア)及び(ウ)に摘記した部分は,の17のセロタイプP. aeruginosaに属する各株のOMPFが当該モノクローナル抗体に反応するエピトープを有していることを示すにすぎないが,そのことは,菌株が異なるのOMPP.aeruginosaF遺伝子のDNA配列における相同性を肯定する方向に働くことはあっても,否定する方向に働くことはないものであるし,前記(4)の認定は,モノクローナル抗体に対する反応のみを理由にするものではないから,原告の上記主張は,前記(4)の認定を覆すに足りるものではない。 (6)原告は,上記(5)のほか,種々の根拠を挙げて,本件優先日当時の当業者が本件知見を有していなかった旨主張するので,以下,順次検討する。 ア 原告は,甲9論文(1982(昭和57)年8月発行の「JOURNAL OF BACTERIOLOGY」151巻2号の569頁から579頁までに掲載されたB. W. Hollowayらによる「AChromosomally Located Transposon in」と題する論文)をPseudomonas aeruginosaP. aeruginosa根拠に,本件優先日当時に存在した少なくとも3000種類以上のの株間で,病原性,薬剤抵抗性等の性質が異なることが常識であった旨主張する。 確かに,甲9論文には,「著者らは,臨床的供給源から単離された3000株を超えるを,抗生物質耐性のパターンについて試験し,このPseudomonas aeruginosaような耐性の遺伝的基礎を決定した。これらの株の約1%において,伝染性プラスミドが立証された・・・。さらに,80%を超える株が多剤耐性を有したが,耐性の接合伝達は検出できなかった。このような非伝達性耐性に関する2つの最もありそうな説明は,移動欠損プラスミドまたは染色体上に位置した耐性決定子であった。 いくつかの異なる病院から得た非伝達性耐性を有する株は,カルベニシリン・・・,ストレプトマイシン・・・,スペクチノマイシン・・・,スルファニルアミド・・・,および水銀・・・の耐性について共通の耐性パターンを有することが見出された。このような株を試験して,これらの株がトランスポゾンを有することを示した。 このトランスポゾン・・・は,カルベニシリン,ストレプトマイシン,スペクチノマイシン,およびスルファニルアミドの耐性をコードし,これらの臨床株の染色体上に位置する。」との記載(1丁5〜末行)がある。 しかしながら,甲9論文は,薬剤耐性を決定付けるものがOMPF遺伝子のDNA配列であると論ずるものではないから(むしろ,トランスポゾン(染色体間を移動する遺伝子単位)の果たす機能について論ずるものである。),同論文の上記記載は,のOMPF遺伝子のDNA配列が菌株ごとに異なることを何P. aeruginosaら根拠付けるものではない。 イ原告は,甲10論文(1986(昭和61)年発行の「Ann. Rev. Microbiol.」40巻の79頁から105頁までに掲載されたB. W.Hollowayらによる「GENOMEORGANIZATION IN」と題する論文)を根拠に,緑膿菌が染色体の再構成PSEUDOMONASすらも行うことが知られていたと主張する。 確かに,甲10論文には,「属の染色体は,さらなる機能および可Pseudomonas変性を獲得し得るという物理的証拠および遺伝的証拠が増加してきている。」との記載(1丁14〜16行)がある。 しかしながら,染色体が再構成を行うことは,一般に知られていた事象であるところ,甲10論文の上記記載は,属の1つの種であるをPseudomonasP. aeruginosa構成する1つのタンパク質であるOMPFについて,その遺伝子が特に変異しやすいことまで論ずるものではないから,原告の上記主張は,のOMPP.aeruginosaF遺伝子のDNA配列が菌株ごとに異なることを根拠付けるに足りるものではない。 ウ原告は,甲27論文(「The American Journal of Medicine」1984(昭和59)年7月31日号の11頁から23頁までに掲載されたHarold C. Neuによる「Changing Mechanisms of Bacterial Resistance」と題する論文)を根拠に,細菌がポリンの変化を誘導することにより薬剤耐性を獲得することが周知の事項であったと主張する。 (ア)確かに,甲27論文には,次の記載がある(なお,甲27論文中の「β-ラクタム」とは,ペニシリン等,β-ラクタム構造を有する抗生物質である。)。 「図2は,β-ラクタムが細菌の壁を通過してペリプラズム空間内に入る場合に,何が起こるかを示す。理想的反応は,最も右側の,ペニシリン結合タンパク質への迅速な結合および細胞溶解である。・・・細胞溶解は,ペリプラズムのβ-ラクタマーゼ(特に,この酵素がβ-ラクタムによって誘導された場合)を放出させ,そして放出された酵素は,残りの薬物を破壊し,細菌の増殖を可能にする。別の可能性においては,誘導された酵素は,β-ラクタムが細胞壁を通過するときにそれと結合し,そしてポリンの変化を誘導することにより,ペニシリン結合タンパク質において少量の薬物を結合させ,したがって増殖は,ゆっくりした速度であるが,進行する。このβ-ラクタマーゼ誘導の後者の機序・・・は,第3世代のセファロスポリンおよび第4世代のペニシリンに抵抗するために,エンテロバクター種,Citrobacterfreundii,およびP. aeruginosaにおいて発達した,新たな耐性の機序である。幸いなことに,この耐性の形態は,まだ一般的でなく,複合感染を有する患者が多くの新型抗生物質で処置されているセンターに限られているように見える。」(1丁11〜末行)また,図2には,外部β-ラクタムが,壁の孔からペリプラズム空間に入り,4つの場合の1つとして,ポリン変化を誘導し,ゆっくりした増殖を導くとの機序が示されている(2丁の図部分)。 (イ)しかしながら,上記の記載及び図示は,そこにいう「ポリンの変化」が,ポリン(タンパク質)の遺伝子の変異であると論じるものではなく,単に,ポリンのタンパク質としての二次構造,機能等の変化をいうにすぎないものと理解されるから,甲27論文の上記の記載及び図示は,のOMPF遺伝子のDP.aeruginosaNA配列が菌株ごとに異なることを根拠付けるに足りるものではない。 エ原告は,甲15論文(1983(昭和58)年12月頒布)を根拠に,引用例の著者の1人であるHancockが,その作成に係るモノクローナル抗体が種々のタンパク質Fと異なる反応性を有することの原因がアミノ酸配列の変化である可能性を認めていると主張する。 (ア)確かに,甲15論文には,「我々は,タンパク質F特異的モノクローナル抗体と,異なる株由来のタンパク質Fとの相互作用の差異を観察しP.aeruginosaた。この結果は,種々の膜中のタンパク質Fの量の差異,または,モノクローナル抗体によって認識される抗原性部位の変化のいずれかによって生じる,異なる抗体-抗原親和性に起因する可能性がある。」との記載(甲15抄訳・3丁下から4行〜末行)がある。 (イ)しかしながら,同論文には,前記(2)イのとおりの各記載及び図示もみられるところであって,上記記載をこれらの記載及び図示と併せて考慮すると,甲15論文は,「OMPF特異的モノクローナル抗体は,の17のセロタP.aeruginosaイプに属する各株のOMPFと反応した。また,同モノクローナル抗体によって認識される抗原部位は,これらの株間において共通していた。しかしP.aeruginosaながら,その反応性(反応の程度)は,株の種類や,抗体の種類によって差異があった。この差異は,?@OMPFの量の差異又は?Aモノクローナル抗体によって認識される抗原部位の変化のいずれかに起因する可能性がある。」旨論じているものと理解される。 (ウ)そして,上記「差異」の原因のうち,?@については,もとより,OMPFのアミノ酸配列とは無関係のものであるし,他方,?Aについては,「モノクローナル抗体によって認識される抗原部位の変化(『the alteration of the antigenicsite recognized by the monoclonal antibody』(原文1032頁左欄下から32〜31行))」が,抗体側に起因する事象をいうのか,抗原側に起因する事象をいうのか判然とせず,また,いずれにせよ,甲15論文は,当該変化の「可能性」を指摘するにすぎない。したがって,上記「差異」及びその原因の可能性についての指摘があることを考慮しても,のOMPFのアミノ酸配列が変化しやP.aeruginosaすいものであるということはできない。 オ原告は,甲28論文(1987(昭和62)年8月発行の「ANTIMICROBIALAGENTS AND CHEMOTHERAPY」31巻8号の1216頁から1221頁までに掲載されたPseudomonas aeruginosa A. J. Godfreyらによる「Penetration of β-Lactams throughPorin Channels」と題する論文(1987(昭和62)年1月27日原稿受領))を根拠に,変異実験によってのポリンの構造が変化することが確認P.aeruginosaされていたと主張する。 (ア)甲28論文には,以下の各記載がある。 a「β-ラクタム系抗生物質の取り込みは,ポリンチャネルを通っての侵入・・・に依存すること・・・が示されている。 著者らは,この文献において,主要なポリンタンパク質(タンパク質F)における変化に起因して,透過性・・・に欠陥を有するの変異株を記載する。」(1丁5〜10P.aeruginosa行)b「トリプシン消化および結果として生じるペプチドの分析によって,ポリンのトリプシン感受性部位が2つの株で異なっていることが示唆された。全アミノ酸組成は有意に異ならないので,消化実験のデータは,単一のアミノ酸変化または可能性としては二重のアミノ酸変化が変異ポリンタンパク質に生じたことを示唆する。」(1丁下から4行〜末行)(イ)上記各記載のとおり,確かに,甲28論文には,ポリンタンパク質にアミノ酸変化が生じたことを示唆するとの記載があるが,他方で,β-ラクタム系抗生物質の取り込み(透過性)において欠陥を有するの変異株においてP. aeruginosaさえ,ポリンタンパク質に生じるアミノ酸変化は単一又は二重のものにとどまり,全アミノ酸組成は有意に異ならないとの記載もあるのであるから,甲28論文は,原告が意図するところとは逆に,のOMPFのアミノ酸配列の高いP. aeruginosa保存性を示すものであるというべきである。 カ原告は,甲11論文の著者がタンパク質Fに多様性があると考えていたと主張するが,当該「多様性」が何を意味するのかについては,原告の主張によっても,甲11論文の記載によっても,判然としないから,原告の上記主張を採用することはできない。 キ原告は,甲45論文(1980(昭和55)年8月発行の「JOURNAL OFBACTERIOLOGY」143巻2号の906頁から913頁までに掲載されたMichael G.Beherらによる「Major Heat-Modifiable Outer Membrane Protein in Gram-NegativeBacteria: Comparison with the OmpA Protein of」と題する論文)Escherichia coliを根拠に,グラム陰性菌の外膜タンパク質全般について,「ポリンタンパク質は,同種内においても,また,異なる属または種の間においても,相同性をほとんど示さない。」との記載があると主張する。 (ア)甲45論文には,次の記載がある。 「ポリンタンパク質は,全てのグラム陰性菌がこれらのタンパク質と機能的な同等物を有しているはずであるにもかかわらず,進化を通じて保存されなかったと思われる。ポリンタンパク質は,同種内においても,また,異なる属または種の間においても,相同性をほとんど示さない。OmpC及びOmpFポリンタンパク質(いずれも大腸菌K-12により産生される)は,共通の先祖遺伝子から進化したものと思われる。しかし,これらの非常によく似たタンパク質は,同一のタンパク質分解ペプチドをほとんど持たない・・・。我々は,最近,大腸菌K-12のOmpC及びOmpFポリンタンパク質と,LT2によって産生された遺伝的にS. typhimurium同等のタンパク質とを比較し,これら二つの近縁種・・・によって産生された同じタンパク質の間で,半分未満のタンパク質分解ペプチドが同一であることを見出した。」(1丁下から12行〜末行)(イ)上記記載から明らかなとおり,甲45論文が「相同性をほとんど示さない」としているのは,?@OmpCとOmpFという異なるタンパク質の間の相同性及び?A大腸菌(科属に属する種の1つ)K-12のOEnterobacteriaceaeEscherichiaS. typhimuriumEnterobacteriaceaeSalmonellaSalmonella entericampCと(科属種 亜種に属する血清型の1つ(ネズミチSalmonella enterica subspecies entericaフス菌))LT2によって産生された遺伝的に同等のタンパク質,大腸菌K-12のOmpFとLT2によって産生された遺伝的に同等のタンパク質という異S. typhimuriumなる属に属するタンパク質の間の相同性についてであるから,といP. aeruginosaう同一の種における同一のタンパク質であるOMPFについての,異なる菌株間における相同性の有無に係る前記(4)の認定を左右するものではない。 ク以上のとおりであるから,原告の上記アないしキの各主張は,すべて理由がない。 (7)取消事由2についての結論P. 前記(4)のとおり,本件優先日当時の当業者は,少なくとも,本件知見中,のPAO1株とATCC33354株との相同性に係る部分について,その認識を有aeruginosaしていたものと認められるところ,前記(5)及び(6)のとおり,これに対する原告の各主張は,いずれも,上記認定を左右するに足りるものではないから,結局,取消事由2は理由がない。 3取消事由3(進歩性についての判断の誤り・その1)及び取消事由4(進歩性についての判断の誤り・その2)について原告は,仮に,引用例において単離されたコスミドクローンpHN4にOMPF遺伝子が含まれていたとしても,本件優先日当時の当業者にとって,引用例に記載された方法でOMPF遺伝子をクローニングし,そのDNA配列を決定することは容易でなかったと主張し(取消事由3),また,仮に,引用例において単離された遺伝子がOMPF遺伝子であったとしても,本件優先日当時の技術水準では,これを含むフラグメントのみから同遺伝子のDNA配列を決定することは容易でなかったと主張する(取消事由4)ので,以下,検討する。 (1)引用例が開示する技術内容P. ア前記1(1)並びに前記1(3)ア(エ)a及びbのとおり,引用例においては,のPAO1株に由来するOMPF遺伝子のうち,少なくともpHN4及びpWW13aeruginosa(いずれもOMPFのDNA全長を含むプラスミド)については,正しくクローニング又はサブクローニングがされたものと認められる。 イまた,前記1(3)ア(イ)a(a)のとおり,引用例には,pWW1及びpWW4(いずれもOMPFのDNA断片であるプラスミド)のサブクローニングの方法が開示されている。 ウさらに,前記1(3)カのとおり,これらのプラスミドについては,これらにより発現されたタンパク質又は短縮型タンパク質が大腸菌宿主細胞に与える毒性の問題は生じないものである。 エ以上からすると,引用例には,のPAO1株に由来するOMPFP. aeruginosaのDNA全長を含むプラスミド(pHN4及びpWW13)に加え,そのDNA断片であるプラスミド(pWW1及びpWW4)のクローニング及びサブクローニングの方法が開示されているといえる(なお,本願発明の発明者らが執筆した甲5論文(1987(昭和62)年7月2日原稿受領。この原稿受領日は,本件優先日のわずか1か月後である。)には,「この研究においては,タンパク質Fをコードする遺伝子の第一次構造を決定するために,該遺伝子がλEMBL3ファージへクローニングされた。この遺伝子は,最近,Woodruffらにより別途クローニングされている(53)(判決注:引用例である(原文162頁右欄下から7〜4行参照)。)。」との記載(乙15・4頁8〜10行)がある。)。 (2)本件優先日当時における遺伝子のDNA配列の決定に係る技術水準等についてア菌株間のDNA配列の相同性について前記2(4)のとおり,本件優先日当時の当業者は,のPAO1株とP. aeruginosaATCC33354株が,そのOMPF遺伝子のDNA配列において極めて高い相同性を有することを予測することができたものと認められる(以下,この認定に係る技術的知見を「本件認定知見」という。)。 イDNA配列の決定方法について(ア)乙13文献(1986(昭和61)年6月25日発行の社団法人日本生化学会編「遺伝子研究法?T-核酸の化学と分析技術-」第1版の1頁から33頁まで及び166頁から201頁まで)には,DNAの塩基配列の決定方法として,「マクサム-ギルバート法」及び「ジデオキシ法」が紹介されているところ(167〜200頁),その概要は,以下のとおりである。 a「マクサム-ギルバート法では,3'-または5'-末端を Pで標識したDNA鎖を,塩32基に特異的な化学反応によって切断し,その産物をポリアクリルアミドゲル電気泳動法で分離することによって塩基配列を決める。したがって,Sangerらによって開発された,DNAポリメラーゼを用いる酵素法(判決注:ジデオキシ法の別名である。)に対して化学分解法ともよばれる。両法はほぼ同時期に発表されたが,初期にはマクサム-ギルバート法の方が一般性があり,より確実な方法として広く用いられた。しかしその後,酵素法は・・・改良が進んだ・・・。・・・現在では酵素法がより簡便であり,配列決定の速度もマクサム-ギルバート法より勝っているといえる。したがって,未知の塩基配列を決める目的にはマクサム-ギルバート法は使用されなくなってきている。」(167頁本文下から13〜3行)b「DNAポリメラーゼによる修復合成を利用することから酵素法ともよばれており,Sangerらが1975年に発表したプラス-マイナス法を改良,発展させた方法である。大腸菌のDNAポリメラーゼ?T・Klenow酵素(・・・以下Klenow酵素と略)またはT4 DNAポリメラーゼは,ポリメラーゼとしての活性と3'↑5'エキソヌクレアーゼ活性をもっており,鋳型となる一本鎖DNAとプライマーの存在下で,dNTP(デオキシリボヌクレオシド三リン酸)を加えると修復合成(プラス反応)が,dNTPを除くと分解(マイナス反応)が起こる。 この原理をうまく利用したのがプラス-マイナス法である。しかし・・・あまり適用されなかった。これに対して,同じころMaxam-Gilbertによって発表された化学分解法の方は,・・1),2)・1980年頃まではもっぱら使用された。このような状況下で酵素法は大きな改良が行われた。Sangerら は,Klenow酵素を用いるとジデオキシヌクレオチド(ddNMP)がデオキシ3)ヌクレオチドと同じように取込まれるが・・・,いったん取込まれると3-OHがブロックされているためそこで合成が終止するという原理を導入した。つまりこの方法を用いれば,反応液に加えるジデオキシヌクレオシド三リン酸(ddNTP)とdNTPの比を調節するだけで,加えるddNTPの種類に応じてそれぞれのヌクレオチドが出現する位置で終止したDNA鎖を得ることができる。一方,Messingらによって非常に便利なベクターが開発されたため,4),5)目的とするDNA領域が一本鎖DNAとして簡単にクローニングできるようになった。・・・現在ではDNA塩基配列の決定にはもっぱらこの酵素法が使われるようになっている。 この方法の原理は,1)目的とするDNA断片を一本鎖DNAファージにクローニングし,2)挿入したDNAの近傍に15塩基以上の長さのプライマーDNAをはり付け,3)ddNTP存在下でKlenow酵素により修復合成を行う。合成されたDNAを鋳型から外しシークエンスゲルにかけて分析する。」(183頁本文下から11行〜184頁本文下から5行)c「1) A. M. Maxam, W. Gilbert,, 74, 560 (1977).Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.2) A. M. Maxam, W. Gilbert, “Methods in Enzymology”, ed. by L. Grossman, K. Moldave,Academic Press, New York, Vol. 65, p.499 (1980).3) F. Sanger, S. Micklen, A. R. Coulson,, 74, 5463 (1977).Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A....5) J. Messing, “Methods in Enzymology”, ed. by R. Wu, L. Grossman, K. Moldave, AcademicPress, New York, Vol. 101, p. 20 (1983). 」(184頁脚注1〜7行)(イ)乙4論文(1980(昭和55)年発行の「Molec. gen. Genet.」179巻の13頁から20頁までに掲載されたUlf Henningらによる「Cloned StructuralGene () for an Integral Outer Membrane Protein ofK-12ompA Escherichia coli」と題する Localization on Hybrid Plasmid pTU100 and Expression of a Fragment of the Gene論文)には,以下の各記載がある(なお,表題(副題を除く。)の訳は,「大腸菌omp のK-12株の不可欠な外部膜タンパク質のクローニングされた構造遺伝子()」である(乙4・1頁2〜3行)。)。 Aa「pTU100は,7.5kbのEcoRIフラグメント(野生型の遺伝子を保持)の ompApSC101へのクローニングにより構築されたハイブリッドプラスミドである・・・。」(乙4・1頁5〜7行)b「pTU102mutant...in pTU100(pTU102pTU100における変異体・・・)」ompA ompA(原文14頁左欄表2の「pTU102」の欄)c「pTU201RI fragment with31 from pTU102 cloned in pBR325(pTU201pBR325に EcoompAおいてクローニングされたpTU102に由来する31を有するRIフラグメント)」 ompFEco(原文14頁左欄表2の「pTU201」の欄)d「For DNA-sequencing endonuclease fragments were ... further processed as describedby Maxam and Gilbert (1977).(DNA配列決定のため,制限酵素切断フラグメントは,・・・Maxam及びGilbert(1977年)に記述されているように更に処理された。)」(原文14頁右欄21〜24行)Isolation and Sequencing of Restriction Endonuclease Fragments from pTU201 e「pTU201 DNA was subjected toHI digestion.(pTU201に由来する制限酵素切断フラグメントBamの単離及び配列決定pTU201のDNAがHIによって切断された。)」(原文16頁右欄下から17〜15行)Bamf「83bpフラグメントのDNA配列決定によって(図2),6つの可能な読み取り枠の1つにおいて,タンパク質?U の230位〜255位のアミノ酸残基に対応する塩基配列が示*された。500bpのフラグメントは,188位〜223位のアミノ酸残基に対応する配列を含んでいた(図2)。」(甲57(乙4)につき,原告から提出された2種類の抄訳文のうち,「[甲57抄訳]」と題するもの・1丁3〜末行)g「In the 500 bp fragment the DNA sequence was determined ....(500bpフラグメントにおいて,DNA配列が・・・決定された。)」(原文17頁左欄4〜7行)h「Maxam, A. M., Gilbert, W.: A new method for sequencing DNA. Proc. Natl. Acad. Sci.USA 74, 560-564 (1977)」(原文20頁左欄下から8〜7行)(ウ)乙5論文(1980(昭和55)年発行の「Nucleic Acids Research」8巻13号の3011頁から3027頁までに掲載されたE. Bremerらによる「Nucleotidesequence of the gene ompA coding the outer membrane protein II of Escherichia*coli K-12」と題する論文)には,以下の各記載がある(なお,表題の訳は,「大腸菌K-12株の外部膜タンパク質?U をコードするompA遺伝子のヌクレオチド配*列」である(乙5・1頁2〜3行)。)。 a「クローニングされた大腸菌のDNA(を含む。)から,2271塩基対のヌク ompAレオチド配列が決定された。」(乙5・1頁6〜7行)b「...subfragments were ... sequenced using the chemical degradative methods of Maxamand Gilbert (17).(・・・サブフラグメントは,・・・Maxam及びGilbertの化学分解法(17)を用いて配列決定された。)」(原文3015頁下から13〜10行)c「Maxam, A. M. and Gilbert, W. (1977) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. , 560-564」(原74文3023頁10〜11行)(エ)乙2論文(1982(昭和57)年1月発行の「FEBS LETTERS」137巻2号の171頁から174頁までに掲載されたShoji Mizushimaらによる「AMINOACID SEQUENCE OF THE SIGNAL PEPTIDE OF OmpF, A MAJOR OUTER MEMBRANE PROTEIN OF」と題する論文)には,以下の各記載がある(なお,表題の訳は,ESCHERICHIA COLI「大腸菌の主要な外部膜タンパク質であるOmpFのシグナルペプチドのアミノ酸配列」である(1頁2〜3行)。)。 DNA sequencing a「2.4.All sequencing methods were according to [13].(2.4.DNA配列決定配列決定の方法は,すべて,引用文献[13]に従った。)」(原文171頁右欄下から3〜2行)b「3.2.制限酵素地図とDNA配列決定・・・我々は,・・・OmpFのN末端配列を見つけた。そして,N末端配列の上流のDNA配列を決定した。」(1頁下から5行〜2頁2行)c「[13] Maxam, A. M. and Gilbert, W. (1980) Methods Enzymol. 65, 499-560.」(原文174頁右欄26〜27行)(オ)乙7論文(1982(昭和57)年発行の「Nucleic Acids Research」10巻7号の2367頁から2378頁までに掲載されたStewart T. Coleらによる「The nucleotide sequence coding for major outer membrane protein OmpA of」と題する論文)には,以下の各記載がある(なお,表題のShigella dysenteriae訳は,「志賀赤痢菌の主要外部膜タンパク質OmpAをコードするヌクレオチド配列」である(1頁2〜3行)。また,志賀赤痢菌は,属(分類上,科Shigella()までは,大腸菌と同一である。)に属する種の1つであ Enterobacteriaceaeる。)。 a「志賀赤痢菌の遺伝子のヌクレオチド配列が決定され・・・た。」(1頁6〜7 ompA行)DNA Sequence Analysis b「The DNA sequencing procedure of Maxam and Gilbert (25) was employed but with themodifications of Smith and Calvo ....(DNA配列決定の手続については,Maxam及びGilbertの方法(25)を,Smith及びCalvoによる改変を加えて採用した。)」(原文2369頁3〜6行)c「The composite DNA sequence obtained is presented in Fig. 3.(得られた合成DNA配列を図3に示す。)」(原文2371頁24〜25行)d「25. Maxam, A. M. and Gilbert, W. (1980) in Methods in Enzymology, Colowick, S. P. andKaplan, N. O. Eds., Vol. 65, pp. 497-560, Academic Press, New York.」(原文2377頁下から19〜17行)(カ)甲31論文(1982(昭和57)年頒布)には,以下の各記載があるo (なお,表題の訳は,「大腸菌のK-12株の主要な外部膜タンパク質をコードする遺伝子の一次構造」である(乙3・1頁2〜3行)。また,甲31論文中のmpF引用文献「(4)」とは,乙2論文である(甲31論文原文6967頁下から18行参照)。)。 a「大腸菌のK-12株の主要な外部膜タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド ompF配列が決定され・・・た。」(乙3・1頁下から15〜14行)b「以前の研究(4)において,我々は,OmpFのアミノ末端領域をカバーするDNA配列を決定し・・・た。本論文において,我々は,遺伝子の全DNA配列を示す。」(原ompF告から提出された2種類の抄訳文のうち,「[甲31追加抄訳]」と題するもの・1丁下から3行〜末行)c「All DNA sequencing methods were according to Maxam and Gilbert (23).(DNA配列決定の方法は,すべて,Maxam及びGilbert(23)に従った。)」(原文6959頁下から17〜16行)d「The nucleotide sequence of 1807 bp covering the entire region shown in Fig. 2 wasdetermined (Fig. 3).(図2に示されたすべての領域をカバーする1807bpのヌクレオチド配列が決定された(図3)。)」(原文6961頁下から11〜10行)ompFom e「Figure 3. The 1807 base pairs DNA sequence encompassing thegene.(図3.遺伝子含む1807塩基対のDNA配列)」(原文6962頁図3脚注1行)pFf「23. Maxam, A. M. and Gilbert, W. (1980) in Methods Enzymol., Grossman, L and Moldave,K. Eds., Vol 65, pp. 499-560, Academic Press Inc., New York.」(原文6968頁14〜15行)(キ)乙6論文(1984(昭和59)年発行の「Mol Gen Genet」195巻の321頁から328頁までに掲載されたG. Braunらによる「DNA sequence analysis ofthe gene: Implications for the organisation of anSerratia marcescens ompAenterobacterial outer membrane protein」と題する論文)には,以下の各記載がある(なお,表題の訳は,「セラチア菌遺伝子のDNA配列分析:腸内細ompA菌の外部膜タンパク質の編成への含意」である(1頁2〜3行)。また,セラチア菌は,属(分類上,科()までは,大腸菌と同一であSerratiaEnterobacteriaceaeる。)に属する種の1つである。)。 a「. ...Sequence analysis was performed either by the method of Maxam DNA techniquesand Gilbert (1980) or by using the dideoxy chain-termination reactions (Sanger et al.1977) with the shot-gun cloning approach of Sanger et al. (1980).(DNA技術 ・・・配列分析は,Maxam及びGilbertの方法(1980年)又はSangerらのショットガン・クローニング・アプローチ(1980年)を加味したジデオキシ鎖停止反応(Sangerら,1977年)の使用のいずれかにより実施された。)」(原文322頁左欄1〜6行)b「To try and understand the biological properties of theOmpA protein we S. marcescensdetermined the nucleotide sequence of its gene ....(セラチア菌のOmpAタンパク質の生物学的特性を試し,理解するため,我々は,その遺伝子のヌクレオチド配列を決定し・・・た。)」(原文323頁左欄下から18〜15行)c「Maxam AM, Gilbert W (1980) Sequencing end labelled DNA with base-specific chemicalcleavages. In: Colowick SP, Kaplan NO (eds) Methods in Enzymology, vol 65. Academic Press,New York, pp 497-560」(原文328頁左欄15〜18行)d「Sanger F, Nicklen S, Coulson AR (1977) DNA sequencing with chain terminatinginhibitors. Proc Natl Acad Sci USA 74: 5463-5467Sanger F, Coulson AR, Barrell BG, Smith AJH, Roe BA (1980) Cloning in single strandedbacteriophage as an aid to rapid DNA sequencing. J Mol Biol 143: 161-178」(原文328頁左欄下から8〜3行)(ク)乙21論文(1986(昭和61)年12月発行の「JOURNAL OF BACTERIOLOGY」168巻3号の1277頁から1282頁までに掲載されたRichard S. Stephensらによる「Sequence Analysis of the Major Outer Membrane Protein Gene fromSerovar L 」と題する論文)には,以下の各記載がある(なChlamydia trachomatis 2お,表題の訳は,「クラミジア・トラコマチスの血清型L 由来の主要な外部膜タ 2ンパク質の遺伝子の配列分析」である(1頁2〜3行)。また,クラミジア・トラコマチスは,分類上,Bacteria(真正細菌)界に属する点で,緑膿菌,大腸菌,志賀赤痢菌,セラチア菌等と同一であるが,これらの細菌とは,属する門が異なる。)。 a「クラミジア・トラコマチス由来の主要な外部膜タンパク質(MOMP)の構造遺伝子がクローニングされ,配列決定された。」(1頁6〜7行)b「MOMP遺伝子は,394のアミノ酸をコードし,3つのストップコドンで終止する1,182bpのオープンリーディングフレームからなる。」(1頁13〜15行)c「DNA sequencing.... the M13 clones were sequenced by the dideoxy method aspreviously described (16, 23).(DNA配列決定・・・M13クローンは,以前に記述されたジデオキシ法(16,23)によって配列決定がされた。)」(原文1278左欄下から38〜33行)d「16. Messing, J. 1983. New M13 vectors for cloning. Methods Enzymol. 101: 20-78.」(原文1282頁左欄5〜6行)e「Sanger, F. S., S. Nicklen, and A. R Coulson. 1977. DNA sequencing withchain-terminating inhibitors. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74: 5463-5467.」(原文1282頁左欄下から3行〜末行)(3)本願発明の進歩性についてア本願発明は,前記第2の2のとおり,「別紙配列表記載のDNA配列(以下『本件DNA配列』という。)を有する,のOMPFをコードするP. aeruginosaヌクレオチド」の発明を選択的に含むものであるから,以下,本件優先日当時の当業者にとって,のOMPF遺伝子のDNA配列につき,これを本件P.aeruginosaDNA配列(これは,のATCC33354株に由来するOMPF遺伝子のD P. aeruginosaNA配列である(本願明細書段落【0015】参照)。)であると決定することが容易に行い得たものであるか否かについて検討する。 イ(ア)前記(1)及び(2)アのとおり,引用例には,のPAO1株に由来P. aeruginosaするOMPFのDNA全長を含むプラスミド及びそのDNA断片であるプラスミドのクローニング及びサブクローニングの方法が開示されており,かつ,本件優先日当時の当業者は,本件認定知見を有していたものであるから,のP. aeruginosaATCC33354株に由来するOMPFのDNA全長を含むプラスミド及びそのDNA断片であるプラスミドをクローニング及びサブクローニングすることは,引用例に記載された方法に本件認定知見を適用することにより,容易にこれを行い得たものと認めることができる。 (イ)そして,前記(2)イのとおり,本件優先日当時,DNA配列の決定方法として,マクサム-ギルバート法及びジデオキシ法並びにこれらを改良した方法が知らP. aeruginosa れており,これらの方法を用いて,実際に,各種真正細菌(なお,と同様,いずれも,グラム陰性菌である。)の外部膜タンパク質につき,クローニングされたDNAからその配列が決定された例が少なからず存在したのであるから,本件優先日当時の当業者にとって,クローニングされたのATCC33354P. aeruginosa株に由来するOMPF遺伝子からそのDNA配列を決定する方法は,周知の技術であったと認めることができる。 そうすると,上記のとおり,引用例に記載された方法に本件認定知見を適用して,のATCC33354株に由来するOMPFのDNA全長を含むプラスミド及P. aeruginosaびそのDNA断片であるプラスミドを容易にクローニング及びサブクローニングすることができた本件優先日当時の当業者にとって,上記周知技術を適用することにより,のATCC33354株に由来するOMPF遺伝子のDNA配列を本件P. aeruginosaDNA配列であると決定することもまた,容易にこれを行い得たものと認めるのが相当である(なお,本願明細書には,「・・・遺伝子を,約500bpの重複領域を有する二つの重複断片にサブクローン化した。OMPF遺伝子と隣接領域のDNA配列をこれらの二つのサブクローンから決定した。遺伝子の両DNA鎖を完全に配列決定した(Sanger法による)。」との記載(段落【0016】)がある。)。 (ウ)また,本願発明が奏する作用効果についても,原告は,「OMPF遺伝子のDNA配列を正確に決定することは,ワクチンの生産にとって重要であるから,本願発明において同DNA配列が正確に決定されたこと自体が,顕著な作用効果であるというべきである」と主張するが,原告が主張する上記作用効果は,同DNA配列が正確に決定されることにより奏する作用効果として,当業者が当然に予測し得る範囲内のものであって,これを格別顕著なものということはできない。 (エ)したがって,本願発明は,引用例に記載された発明,本件認定知見及び上記周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと認められ,また,その奏する作用効果も,格別顕著なものとはいえないから,本願発明は,進歩性を欠くものといわざるを得ない。 (4)これに対し,原告は,OMPFないしその遺伝子の大腸菌宿主細胞に対する毒性を理由として,本件優先日当時の当業者にとって,引用例に記載された方法でOMPF遺伝子をクローニングし,そのDNA配列を決定することは容易に行い得るものではなかった旨主張する。 しかしながら,引用例に記載されたプラスミドのうち,少なくとも,DNA全長を含むプラスミドpHN4及びpWW13並びにDNA断片であるプラスミドpWW1及びpWW4について,原告が主張する毒性の問題が生じないことは,前記1(3)カのとおりであるから,当該毒性を理由とする原告の主張は,すべて採用することができない。 (5)原告は,上記(4)のほか,種々の根拠を挙げ,本件優先日当時の当業者にとって,引用例に記載された方法でOMPF遺伝子をクローニングし,そのDNA配列を決定することは容易でなかったと主張するので,以下,順次検討する。 ア原告は,本件優先日前においては,DNAの配列決定が行われなくても,遺伝子をクローニングすれば,一流の科学雑誌に掲載され,学位論文として認められる程度の価値があったのであるし,DNA配列を正確に決定するだけで,博士号を授与されることが多かったのであるから,これらの事実は,本件優先日前の技術水準では,遺伝子をクローニングしてそのDNA配列を決定することが困難であったことを示すものであると主張する。 しかしながら,本件優先日当時,遺伝子をクローニングすること又は遺伝子のDNA配列を正確に決定することに学術的な意義が認められるものであったとしても,そのことにより当然に,遺伝子のDNA配列を決定することが当業者にとって困難であったということはできないから,原告の上記主張は,前記(3)の結論を左右するに足りるものではない。 イ原告は,引用例の著者らが,本件優先日の2年後である1989(平成元)年6月に発表した甲2論文において,OMPF遺伝子のDNA配列につき,自ら決定した配列ではなく,本願発明の発明者らによる甲5論文に記載された配列を引用しているのであるから,引用例の著者らでさえも,引用例の記載に基づいてOMPF遺伝子のDNA配列を決定することが困難であったと主張する。 しかしながら,引用例の著者らが,甲2論文の執筆の際,OMPF遺伝子のDNA配列に係る文脈において,甲5論文を引用し,引用例を引用しなかったのが当然であることは,前記1(3)オのとおりであるところ,本件認定知見を有していた当業者である引用例の著者らにとって,甲2論文(1988(昭和63)年10月31日原稿受領)の執筆前に頒布されていた甲5論文(1988(昭和63)年1月頒布)において,のATCC33354株(甲5論文の下記各記載参照)に由P. aeruginosa来するOMPF遺伝子のDNA配列が既に決定されていた以上,の P. aeruginosaPAO1株に由来するOMPF遺伝子のDNA配列の決定を急がなかったとしても,特段不合理ではないというべきであるから,引用例の著者らが,甲2論文の執筆時点において,のPAO1株に由来するOMPF遺伝子のDNA配列を決定P. aeruginosaしていなかったことをもって,直ちに,既にクローニング及びサブクローニングがされていたOMPF遺伝子のDNA配列を決定することが,本件優先日当時の当業者にとって容易でなかったということはできない。 したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 (ア)「Bacterial strains and growth conditions.serotype 12 (...; ATCC P. aeruginosa33359) was a clinical isolate ....serotype 6 was obtained from the American P. aeruginosaP. aeruginosaType Culture Collection, Rockville, Md. (ATCC 33354).(細菌株及び培養条件のセロタイプ12(・・・ATCC33359株)は,・・・臨床単離体であった。のセP.aeruginosaロタイプ6は,Maryland州Rockville所在のthe American Type Culture Collectionから得た(ATCC33354株)。)」(原文155頁右欄8〜12行)P. aeruginosa P. (イ)「Isolation ofporin F clones.Since the original ATCC strainserotype 6 became available to us during these studies, it was decided to carryaeruginosaout all the DNA work on this strain rather than on the clinical isolate.(のポ P. aeruginosaリンFのクローンの単離この研究中,のセロタイプ6に属するATCC原株が利用 P. aeruginosa可能となったので,前記臨床単離体ではなく,この株に基づき,DNAに係るすべての作業を行うこととした。)」(原文156頁右欄下から22〜19行)ウ原告は,また,引用例の著者らが,引用例の発表からOMPF遺伝子のDNA配列の決定まで,13年(1992年の登録に係るDNA配列の決定までであっても6年)もの長期間を要したことは,OMPF遺伝子のDNA配列の決定が困難であったことを裏付ける旨主張するが,上記イにおいて説示したところに照らせば,引用例の著者らが,引用例の発表からOMPF遺伝子のDNA配列の決定(1992年の登録に係るもの)まで6年の期間を要したことをもって,直ちに,既にクローニング及びサブクローニングがされていたOMPF遺伝子のDNA配列を決定することが,本件優先日当時の当業者にとって容易でなかったということはできない。 なお,引用例の著者らが,1992年の登録の際,既に,引用例においてサブクローニングされたpWW13に基づき,OMPFのアミノ酸配列等の各全長につき正しい結論を得ていたことは,前記1(3)イにおいて認定したとおりである。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 エ原告は,引用例に記載された制限酵素地図と甲11論文に記載された制限酵素地図とが異なることから,引用例に接した当業者は,たとえOMPF遺伝子を含むコスミドクローンを得たとしても,そこにはOMPF遺伝子は含まれないものとミスリードされてしまうと主張する。 しかしながら,甲11論文は,ブリティッシュコロンビア大学が1988(昭和63)年8月にPHD取得のための水準を満たすものと認めた論文であり,また,同論文の下記の記載のとおり,著者であるWendy Anne Woodruffが同論文の学術目的の複製等に同意したのは,同年9月21日のことであり,いずれにせよ,同論文は,本件優先日(1987(昭和62)年6月3日)当時には,当業者が利用することができる状態に置かれていなかったのであるから,引用例に記載された制限酵素地図と甲11論文に記載された制限酵素地図との齟齬により,本件優先日当時の当業者がミスリードされるということはあり得ない。したがって,原告の上記主張は,失当である。 「In presenting this thesis ..., I agree that the Library shall make it freely availablefor reference and study.I further agree that permission for extensive copying of thisthesis for scholarly purposes may be granted by the head of my department or by his or herrepresentatives. ...Wendy WoodruffDepartment of MicrobiologyThe University of British Columbia...Date September 21, 1988(・・・この論文の提出に当たり,私は,大学図書館が,参考文献として,また,研究目的で,これを自由に利用可能な状態に置くことに同意します。さらに,私は,学部長又はその代理人が,この論文を学術目的で広範囲に複製する許諾を与えることに同意します。・・・Wendy Woodruff(判決注:署名である。)微生物学部ブリティッシュコロンビア大学・・・日付1988年9月21日)」(原文2丁)オ原告は,引用例においては,単離されたタンパク質の全長の推定アミノ酸長が誤って410アミノ酸とされており,これによれば,対応する遺伝子の全長は1230塩基長と計算されるから,引用例の記載に基づいてタンパク質又は遺伝子を得た当業者は,OMPF又はOMPF遺伝子が得られなかったとミスリードされてしまうと主張する。 しかしながら,前記1(3)ウのとおり,引用例には,「天然のタンパク質Fにおける約410アミノ酸」との記載があるのみであり,これは,引用例の著者らが,いまだOMPFのアミノ酸配列等も明らかでない状況下で推定した値であることは明らかである。そして,そのようにOMPFのアミノ酸配列等が明らかでない状況下で引用例に接した当業者は,得られたタンパク質又はその遺伝子がOMPF又はその遺伝子であると同定するためには,当該タンパク質の長さが約410アミノ酸であるか否かを確認するのではなく,引用例に記載されたのと同様の方法,すなわち,モノクローナル抗体に対する反応,SDSゲル電気泳動法における挙動及びタンパク質の熱変更性において,発現させたタンパク質が天然のOMPFとの比較において同様の結果を示すか否かによると考えられるから,引用例に上記記載があるとしても,本件優先日当時の当業者が,引用例に記載された方法で真にOMPF又はその遺伝子を得たのであれば,それがOMPF又はその遺伝子ではないとミスリードされるとは考えられない。 したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 カ原告は,本願発明は,引用例に記載された方法ではなく,OMPFの部分配列を決定し,ハイブリダイゼーションプローブを調製してファージベクターを用いる方法を採用し,プロモーターを工夫するなどして,クローニング,配列決定等における困難性を克服したものであり,この点において,本願発明には進歩性が認められるべきであると主張する。 しかしながら,本願発明は,前記第2の2のとおり,「本件DNA配列を有する,P. aeruginosaのOMPFをコードするヌクレオチド,またはE. coli細胞に対して毒性である免疫原性ポリペプチドをコードするそのフラグメント」という物の発明であるから,本願発明におけるOMPF遺伝子の配列決定等の方法の優位性をいう原告の上記主張は,本願発明の要旨に基づかないものとして,失当である。 (6)取消事由3及び4についての結論前記(3)のとおり,本願発明は,引用例に記載された発明,本件認定知見及び本件優先日当時の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,また,その奏する作用効果も,格別顕著なものとはいえないから,本願発明は,進歩性を欠くものといわざるを得ないところ,前記(4)及び(5)のとおり,これに対する原告の各主張は,いずれも,上記判断を左右するに足りるものではないから,結局,取消事由3及び4は,いずれも理由がない。 4結論よって,審決取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。 |
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(別紙)配列表1gccacccaagttgtgcggtgattgttggacaactaactgaccatcaagatggggatttaa60cggatgaaactgaagaacaccttaggcgttgtcatcggctcgctggtt108MetLysLeuLysAsnThrLeuGlyValValIleGlySerLeuVal151015gccgcttcggcaatgaacgccttcgcccagggccagaactcggtagag156AlaAlaSerAlaMetAsnAlaPheAlaGlnGlyGlnAsnSerValGlu202530atcgaagccttcggcaagcgctacttcaccgacagcgttcgcaacatg204IleGluAlaPheGlyLysArgTyrPheThrAspSerValArgAsnMet354045aagaacgctgacctgtacggcggctcgatcggctacttcctgaccgac252LysAsnAlaAspLeuTyrGlyGlySerIleGlyTyrPheLeuThrAsp505560gacgtcgagctggctctgtcctacggtgagtaccacgatgttcgtggc300AspValGluLeuAlaLeuSerTyrGlyGluTyrHisAspValArgGly657075acctacgaaaccggcaacaagaaggtccatggcaacctgacctccctg348ThrTyrGluThrGlyAsnLysLysValHisGlyAsnLeuThrSerLeu80859095gacgccatctaccacttcggtaccccgggcgtaggtctgcgtccgtac396AspAlaIleTyrHisPheGlyThrProGlyValGlyLeuArgProTyr100105110gtgtcggctggtctggctcaccagaacatcaccaacatcaacagcgac444ValSerAlaGlyLeuAlaHisGlnAsnIleThrAsnIleAsnSerAsp115120125agccaaggccgtcagcagatgaccatggccaacatcggcgctggtctg492SerGlnGlyArgGlnGlnMetThrMetAlaAsnIleGlyAlaGlyLeu130135140aagtactacttcaccgagaacttcttcgccaaggccagcctcgacggc540LysTyrTyrPheThrGluAsnPhePheAlaLysAlaSerLeuAspGly145150155cagtacggcctggagaagcgtgacaacggtcaccagggtgagtggatg588GlnTyrGlyLeuGluLysArgAspAsnGlyHisGlnGlyGluTrpMet160165170175gctggcctgggcgtcggcttcaacttcggtggttcgaaagccgctccg636AlaGlyLeuGlyValGlyPheAsnPheGlyGlySerLysAlaAlaPro180185190gctccggaaccggttgccgacgtttgctccgactccgacaacgacggc684AlaProGluProValAlaAspValCysSerAspSerAspAsnAspGly195200205gtctgcgacaacgtcgacaagtgcccggacaccccggccaacgtcacc732ValCysAspAsnValAspLysCysProAspThrProAlaAsnValThr210215220gttgacgccaacggctgcccggctgtcgccgaagtcgtacgcgtacag780ValAspAlaAsnGlyCysProAlaValAlaGluValValArgValGln225230235ctggacgtgaagttcgacttcgacaagtccaaggtcaaagagaacagc828LeuAspValLysPheAspPheAspLysSerLysValLysGluAsnSer240245250255tacgctgacatcaagaacctggccgacttcatgaagcagtacccgtcc876TyrAlaAspIleLysAsnLeuAlaAspPheMetLysGlnTyrProSer260265270acttccaccaccgttgaaggtcataccgactccgtcggtaccgacgct924ThrSerThrThrValGluGlyHisThrAspSerValGlyThrAspAla275280285tacaaccagaagctgtccgagcgtcgtgccaacgccgttcgtgacgta972TyrAsnGlnLysLeuSerGluArgArgAlaAsnAlaValArgAspVal290295300ctggtcaacgagtacggtgtggaaggtggtcgcgtgaacgctgtcggt1020LeuValAsnGluTyrGlyValGluGlyGlyArgValAsnAlaValGly305310315tacggcgagtcccgcccggttgccgacaacgccaccgctgaaggccgc1068TyrGlyGluSerArgProValAlaAspAsnAlaThrAlaGluGlyArg320325330335gctatcaaccgtcgcgttgaagccgaagtagaagccgaagccaag1113AlaIleAsnArgArgValGluAlaGluValGluAlaGluAlaLys340345350taatcggctgagccttcaaagaaaaaccggcccaggccgggtttttctttgcctggaaaa1173agaccgctcgtcaggcgctcagggaaaccggttgcgacacgatgccgcgggccacttcgc1233cgatctgggtcgacctgcag1253 |
裁判長裁判官 | 石原直樹 |
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裁判官 | 榎戸道也 |
裁判官 | 浅井憲 |