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関連審決 不服2002-22208
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成16行ケ54審決取消請求事件 判例 特許
平成13行ケ358特許取消決定取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10458特許取消決定取消請求参加事件 判例 特許
平成18行ケ10079審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10073審決取消(特許)請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  慣用技術 /  技術常識 /  翻訳文 /  優先権 /  着想 /  援用権(援用) /  優先日 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の理由 /  請求の範囲 /  変更 /  国際出願 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10114号 審決取消(特許)請求事件

原告 バイオ−ラッドラボラトリーズインコー ポレイテッド
訴訟代理人弁理士 長谷照一
同 神谷牧
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 鐘尾 みや子
同 一色 由美子
同 櫻井仁
同 柳和子
同 伊藤三男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/06/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2002-22208号事件について平成16年7月5日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,原告が,名称を「固相として磁性粒子を用いる多重フロー免疫検定」とする発明につき特許出願をしたが,特許庁から拒絶査定を受けたため,これに対する不服の審判請求をしたところ,特許庁が審判請求不成立とする審決をしたことから,同審決の取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求の原因 (1) 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「固相として磁性粒子を用いる多重フロー免疫検定」とする発明につき,平成10年(1998年)10月27日を国際出願日とする特許出願(特願平11-519425号,優先権主張1997年〔平成9年〕11月18日〔以下「本件優先日」という。〕・米国)をしたが,特許庁から平成14年8月12日に拒絶査定を受けたので,同年11月18日,これに対する不服の審判請求をした。
特許庁は,上記請求を不服2002-22208号事件として審理した上,平成16年7月5日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その審決謄本は同年7月20日原告に送達された。
(2) 発明の内容 原告の出願した発明は請求項1ないし10から成るが,そのうち平成14年6月24日付け手続補正書(甲2)による補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は,下記のとおりである。
記 「液体媒体に接触していてその液体媒体に不溶である固相に,単一の液状生物試料中の種を結合させることと,前記液体媒体から前記固相を分離することを含む複数の検定によって,単一の液状生物試料中の複数の分析対象成分を個々に検出する方法であって, 前記分析対象成分のうちの各一種についての各一つの検定において,選択的に活性である各一つの検定試薬がそれぞれに結合した磁気的反応性の物質でできた複数の微細粒子を,前記固相として使用し,前記微細粒子は,大きさが,複数の副範囲の集合体である一つの範囲にわたって変化し,そして各副範囲は,フローサイトメトリーおよび前記副範囲の微細粒子に結合した検定試薬によって,前記集合体の他の副範囲から区別することができるものであり, 前記液体媒体から前記全部の副範囲内の微細粒子を磁気により分離し,そして 前記液体媒体を第一液体媒体と定義し,その第一液体媒体から分離した前記微細粒子を第二液体媒体中に懸濁させ,前記複数の検定手法に従ってフローサイトメトリーにより前記第二液体媒体中の前記微細粒子を分析し,それにより前記生物試料中の前記複数の分析対象成分を個々に検出する ことを含んでなる方法。」 (3) 審決の内容 ア 審決の詳細は,別添審決謄本写しのとおりである。その要旨は,本願発明は,特開昭61-132869号公報(本訴甲4,以下「刊行物1」という。)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。
イ なお,審決は,本願発明と刊行物1記載の発明(以下「刊行物1発明」という。)とを対比し,その一致点と相違点を,下記のとおり認定した。
記 <一致点> 「液体媒体に接触していてその液体媒体に不溶である固相に,単一の液状生物試料中の種を結合させることと,前記液体媒体から前記固相を分離することを含む複数の検定によって,単一の液状生物試料中の複数の分析対象成分を個々に検出する方法であって, 前記分析対象成分のうちの各一種についての各一つの検定において,選択的に活性である各一つの検定試薬がそれぞれに結合した複数の微細粒子を,前記固相として使用し,前記微細粒子は,大きさが,複数の副範囲の集合体である一つの範囲にわたって変化し,そして各副範囲は,フローサイトメトリーおよび前記副範囲の微細粒子に結合した検定試薬によって,前記集合体の他の副範囲から区別することができるものであり, 前記液体媒体から前記全部の副範囲内の微細粒子を分離し,そして 前記液体媒体を第一液体媒体と定義し,その第一液体媒体から分離した前記微細粒子を第二液体媒体中に懸濁させ,前記複数の検定手法に従ってフローサイトメトリーにより前記第二液体媒体中の前記微細粒子を分析し,それにより前記生物試料中の前記複数の分析対象成分を個々に検出する ことを含んでなる方法。」 <相違点> 「本願発明においては,複数の微細粒子が磁気的反応性の物質でできており,微細粒子を第一液体媒体から磁気的に分離するものであるのに対し,刊行物1に記載された方法においては,複数の微細粒子が磁気的反応性の物質でできたものではなく,第一液体媒体からの前記微細粒子の分離は,多孔質セラミック筒でろ過により分離するものである点。」 (4) 審決の取消事由 審決がした前記一致点及び相違点の認定は認めるが,審決は,次に述べるとおり,前記相違点に関する判断を誤った(相違点に関する判断の誤り・取消事由)結果,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとしたものであるから,違法として取り消されるべきである。
ア すなわち審決は,本願発明と刊行物1発明との相違点について,@「刊行物1には,固相として使用する微細粒子として,鉄心入りの磁性ラテックスすなわち磁気的反応性の物質でできた微細粒子を用いれば,フローチューブ内において免疫反応時の第一液体媒体及び残余の標識抗体から免疫複合体を磁気的に分離することができ,フローシステム中でのB-F分離を確実に行えることが記載されており・・・,免疫学的分析方法において,B-F分離の容易化のために,容器内で免疫反応させる固相として使用する微粒子として,磁気分離の可能な磁気的反応性の物質でできた微細粒子を使用することは,本願明細書の「2.従来技術の説明」の項においても述べられているように,単なる慣用手段にすぎないものである」,A「したがって,刊行物1に記載された数種類の粒径の異なるラテックス粒子を用いて複数の抗原濃度を同時に分析する実施例の方法において,複数の微細粒子として磁気的反応性の物質でできたものを使用し,第一液体媒体からの前記微細粒子の分離を,ろ過による分離から磁気的な分離に変更する程度のことは,当業者が容易に想到し得ることであり,その効果も予測できる範囲内のものである」,B「なお,請求人は,鉄芯入りの磁性ラテックス粒子の必要な大きさ分布のものの入手困難性や,フローサイトメトリーにおける磁気分離後の磁性粒子同士の再懸濁の必要性について縷々主張しているが,そもそも磁気分離の可能な磁気的反応性の物質でできた微細粒子が鉄芯入りの磁性ラテックス粒子に限られるものでないことは,本願優先権主張日以前の免疫分析分野の技術水準からみて明らかな事項であり,複数種類の粒径の異なる磁気的反応性の物質でできた微細粒子の入手についても,請求の理由中で請求人が引用する特公平5-10808号公報(判決注,本訴甲9。以下「甲9公報」という。)にも見られるように本願優先権主張日以前に製造可能なものであって,それらの入手が困難であるから刊行物1に記載された複数の分析対象成分を個々に検出する方法への磁気的なB-F分離の適用を断念しなければならないという阻害要因にはならない」(審決6頁下から第3段落〜7頁第1段落)と判断した。
イ しかしながら,審決の上記判断中,@の判断については認めるが,A及びBの判断については,刊行物1発明において,複数の微細粒子として磁気的反応性の物質でできたものを使用し,第一液体媒体からの前記微細粒子の分離を,ろ過による分離から磁気的な分離に変更することには,以下に述べるとおり,本件優先日当時,技術的な阻害要因が存在していたというべきであるから,誤りである。
ウ そもそも,刊行物1発明の発明者は,磁性粒子を用いてフローサイトメトリーで多重検定を行うという考えを着想していない。確かに,刊行物1では,磁性粒子を用いた磁気的な分離の点も言及されてはいるが,異なるサイズの粒子(非磁性のラテックス粒子)を利用して多重検定を行うという刊行物1発明を開示していながら,磁性粒子については単一の検定を行う場合のみを紹介しているにすぎず,それには相応の理由が存在する。
にもかかわらず,審決は,当業者にとって,複数サイズの磁性粒子を多重検定に使用しようという「着想」が容易であったというだけでなく,実際に多重検定に使用することについても何ら困難性がなかったとするが,失当である。本件優先日当時,たとえ,多重検定に複数サイズの磁性粒子を使用してみようというアイデアが思い浮かんだとしても,現実にそのアイデアを実行に移すことは容易なことではなかった。
本件優先日当時,実際に,多重検定について複数サイズの磁性粒子を使用するためには,ラテックス粒子においては見られない数多くの解決すべき問題が存在した。そうした問題の例としては,@磁性粒子には自己蛍光性を強く有するものがあり,標識付き粒子の検出に支障となる,A磁性粒子の密度を考慮する必要がある,B磁界発生のために電磁石を使用すると,発熱の問題もあって,タンパク質の変質に配慮しなければならない,C磁性粒子は,サイズごとに粒径が均一に揃ったものを使用する必要があるが,当時の磁性粒子では,ほとんどのものがこの要件を満たしていなかったといった点が挙げられる。その上,当時,Moscosoほか「磁気親和免疫検定によるヘモグロビンS,C及びFの定量化」CLINICAL CHEMISTRY34巻5号902〜905頁(甲5,以下「甲5論文」という。),Vliegerほか「蛍光,比色,又は化学発光検出を用いてのハイブリダイゼーションに基づく検定によるPCR産物の定量化」ANALYTICAL BIOCHEMISTRY205巻1〜7頁(甲6,以下「甲6論文」という。),Rubbiほか「免疫磁気ビーズを用いての細胞の培養における表面抗原の脱離の検証」Journal of Immunological Methods166巻233〜241頁(甲7,以下「甲7論文」という。),Sunほか「四重極場中での連続流動免疫磁気細胞選別」Cytometry33巻469〜475頁(甲8,以下「甲8論文」という。)といった多くの研究論文が,特に多重検定法において,磁性粒子の使用を望ましくないとして避ける傾向にあった。
エ こうしたことから,本件優先日当時における当業者の技術常識として,単一の分析対象の場合であっても,磁性粒子を使用することには,重大な困難が伴い,欠点が存在すると理解されていたのであり,多重検定に磁性粒子を使用しようなどという発想には至らないものである。また,仮にそのような使用法が思い浮かんだとしても,予想される困難や欠点をどのようにして克服し,どのような構成として現実に実行に移すかは,当業者が容易に想到し得るものではなかったというべきである。
2 請求原因に対する認否 請求原因(1)〜(3)の事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。
3 被告の反論 審決の判断は正当であり,原告主張の違法はない。原告主張の取消事由に対する被告の反論は,次のとおりである。
(1) 単一の生物試料中の異種の分析対象成分を検定(多重検定)するために,粒径の異なる粒子群を用いてフローサイトメトリーにより分析を行うことは,刊行物1(甲4)のほか,特開平9-113512号公報(乙1),特開昭63-36151号公報(乙2)にも記載されているとおり,本件優先日前,広く知られていた。一方,抗原抗体反応を起こした免疫複合体(bound)と,抗原抗体反応に関与せず自由(free)な状態で存在する標識抗体(抗原)とを分離する,いわゆるB-F分離を磁性粒子を用いて行うことは,刊行物1のほか,米国特許第4141687号明細書(乙3)にも記載されているとおり,本件優先日前,出願前広く知られていたものであり,このことは,原告も自認するところである。
さらに,刊行物1には,磁性粒子を用いたB-F分離をフローシステム中で行うことが別の実施例として記載されていることから,粒径の異なる粒子群を用いてフローサイトメトリーによる多重検定を行う際に,これらの粒子群として磁性粒子を用いて磁気によるB-F分離を行うことは,刊行物1の記載に基づき,当業者が容易に想到し得ることというべきである。その際,粒度や密度,磁気的性質などを吟味し,フローサイトメトリーによる分析の条件等についても検討した上で最適な磁性粒子を選択することは,当然に行われることにすぎない。
したがって,本願発明は,刊行物1の記載に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとの審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は,本件優先日当時における技術的な阻害要因の存在を主張する。
しかし,そもそも,仮に,原告主張のように磁性粒子を使用することに重大な困難や欠点があり,これを克服して本願発明に到達したというのであれば,本願発明は,現実に実行に移すための何らかの特別な構成を有していなければならないが,本願発明の特許請求の範囲には,単に,フローサイトメトリーを用いた多重検定に磁性粒子を使用するという構成が示されているにすぎないから,原告の上記主張は失当である。
(3) 原告は,技術的な阻害要因として,本件優先日当時,実際に,多重検定について複数サイズの磁性粒子を使用するためには,ラテックス粒子においては見られない数多くの解決すべき問題が存在した旨主張し,自己の主張に沿う論文として甲5〜甲8論文を援用する。
しかし,甲5論文には,磁性粒子が遠心分離あるいは磁界をかけることにより効率よくB-F分離を行う手段として用いられていることが記載されているのであって,磁性粒子の使用が望ましくないことが記載されているわけではない。甲6論文〜甲8論文には,イムノアッセイにおける磁性ビーズの使用が広く一般に普及しているという状況の中で,問題があると思われる例について考察を行ったことが記載されているものの,磁性ビーズの使用を全く否定しているものではなく,ましてや,多重検定のために複数サイズの磁性粒子を使用する際の問題点を示唆するようなものではない。
仮に,ラテックス粒子に代えて磁性粒子を使用する場合に,ラテックス粒子にはない問題点,例えば,自己蛍光性や密度,あるいは発熱の問題など,検定を行うに際して影響を与える要因となるようなものが存在したとしても,このような問題点は,予想をはるかに超えるような重大なものではなく,当業者であればラテックス粒子を使用した場合との比較対照を行うなどして,対処することができる程度のものである。このことは,刊行物1(甲4)に,別の実施例としてラテックス粒子に代えて磁性ラテックスを用いることが記載されていること,さらには,本願発明がこれらの問題に対処するために特別な構成を採用していないことからも裏付けられる。
なお,原告は,上記問題点の一つとして,本件優先日当時,サイズごとに粒径が均一に揃った磁性粒子がほとんどなかったとの点を挙げる。しかし,甲9公報には,様々な粒径の単分散の磁性ポリマーが提供されていることが記載され,また,特表平5-502294号公報(乙4,以下「乙4公報」という。)には,単分散すなわち5%未満の直径基準偏差を持つサイズ分散を含むようにされた1〜10ミクロンのビーズが製造されていたことが記載され,さらに,本願発明の実施例1においても,直径がそれぞれ4.35μm,3.18μm,10μmの市販されている3種の磁気ビーズが使用されている。以上によれば,原告の上記主張は全く根拠のないものというべきである。
当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,審決の適否に関し,原告の取消事由の主張に即して判断することとする。
2 原告の取消事由の主張に対する判断 審決は,本願発明と刊行物1発明との相違点について,@「刊行物1には,固相として使用する微細粒子として,鉄心入りの磁性ラテックスすなわち磁気的反応性の物質でできた微細粒子を用いれば,フローチューブ内において免疫反応時の第一液体媒体及び残余の標識抗体から免疫複合体を磁気的に分離することができ,フローシステム中でのB-F分離を確実に行えることが記載されており・・・,免疫学的分析方法において,B-F分離の容易化のために,容器内で免疫反応させる固相として使用する微粒子として,磁気分離の可能な磁気的反応性の物質でできた微細粒子を使用することは,本願明細書の「2.従来技術の説明」の項においても述べられているように,単なる慣用手段にすぎないものである」,A「したがって,刊行物1に記載された数種類の粒径の異なるラテックス粒子を用いて複数の抗原濃度を同時に分析する実施例の方法において,複数の微細粒子として磁気的反応性の物質でできたものを使用し,第一液体媒体からの前記微細粒子の分離を,ろ過による分離から磁気的な分離に変更する程度のことは,当業者が容易に想到し得ることであり,その効果も予測できる範囲内のものである」,B「なお,請求人は,鉄芯入りの磁性ラテックス粒子の必要な大きさ分布のものの入手困難性や,フローサイトメトリーにおける磁気分離後の磁性粒子同士の再懸濁の必要性について縷々主張しているが,そもそも磁気分離の可能な磁気的反応性の物質でできた微細粒子が鉄芯入りの磁性ラテックス粒子に限られるものでないことは,本願優先権主張日以前の免疫分析分野の技術水準からみて明らかな事項であり,複数種類の粒径の異なる磁気的反応性の物質でできた微細粒子の入手についても,請求の理由中で請求人が引用する特公平5-10808号公報(判決注,甲9公報)にも見られるように本願優先権主張日以前に製造可能なものであって,それらの入手が困難であるから刊行物1に記載された複数の分析対象成分を個々に検出する方法への磁気的なB-F分離の適用を断念しなければならないという阻害要因にはならない」(審決6頁下から第3段落〜7頁第1段落)と判断した。
これに対し,原告は,審決の前記一致点及び相違点の認定並びに上記@の判断については認めるものの,審決の上記A及びBの判断については,刊行物1発明において,複数の微細粒子として磁気的反応性の物質でできたものを使用し,第一液体媒体からの前記微細粒子の分離を,ろ過による分離から磁気的な分離に変更することには,技術的な阻害要因が存在していたというべきであるから,誤りである旨主張する。
(1) そこで検討すると,本件において,本願発明と刊行物1発明との一致点及び相違点が前記第3の1(3)イのとおりであることは,当事者間に争いがなく,また,「刊行物1には,固相として使用する微細粒子として,鉄心入りの磁性ラテックスすなわち磁気的反応性の物質でできた微細粒子を用いれば,フローチューブ内において免疫反応時の第一液体媒体及び残余の標識抗体から免疫複合体を磁気的に分離することができ,フローシステム中でのB-F分離を確実に行えることが記載されており・・・,免疫学的分析方法において,B-F分離の容易化のために,容器内で免疫反応させる固相として使用する微粒子として,磁気分離の可能な磁気的反応性の物質でできた微細粒子を使用することは,本願明細書の「2.従来技術の説明」の項においても述べられているように,単なる慣用手段にすぎないものである」ことは,原告の自認するところである。
そうすると,「固相として使用する微細粒子として,鉄心入りの磁性ラテックスすなわち磁気的反応性の物質でできた微細粒子を用いれば,フローチューブ内において免疫反応時の第一液体媒体及び残余の標識抗体から免疫複合体を磁気的に分離することができ,フローシステム中でのB-F分離を確実に行えること」が刊行物1(甲4)自体に記載され,さらに,「免疫学的分析方法において,B-F分離の容易化のために,容器内で免疫反応させる固相として使用する微粒子として,磁気分離の可能な磁気的反応性の物質でできた微細粒子を使用すること」が慣用手段にすぎなかったというのであるから,当該周知又は公知の技術を刊行物1発明に適用して,相違点に係る本願発明の構成を得ることは,他に特段の事情がない限り,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易に想到し得ることであったというほかはない。
(2) これに対し,原告は,刊行物1発明において,複数の微細粒子として磁気的反応性の物質でできたものを使用し,第一液体媒体からの前記微細粒子の分離を,ろ過による分離から磁気的な分離に変更することには,技術的な阻害要因が存在していた旨主張し,これに沿う証拠として,甲5論文〜甲8論文を援用する。
ア 確かに,甲6論文〜甲8論文には,磁性ビーズないし微粒子磁気標識を使用した場合の問題点として,「ビーズの比較的高い自己蛍光発光のため,・・・ビーズの蛍光発光強度が有意な増加を呈しなかった」(甲6論文,原告提出の訳文1頁下段),「非標的細胞に対するビーズの非特異的結合,ビーズ集団中の非標識細胞の不規則捕捉,及び標的細胞中での・・・ビーズの脱離」(甲8論文,原告提出の訳文)等の問題が指摘されていることが認められる(なお,甲5論文には,磁気微小ビーズについて,磁界によっても,遠心分離によっても分離できるとの見解が示されているのみであって,原告のいう阻害要因の存在を示唆する記載は格別見当たらない。)。
しかしながら,甲7論文に「付着性免疫磁性ビーズは細胞分離技術において広く用いられている。この方法を用いれば,ビーズに結合した細胞の正の選択及び負の選択の両方を日常的に行うことができる。後者の場合,細胞は過剰の特異抗体で被覆されたビーズ・・・で培養され,ビーズに特異的に結合した細胞は磁気的に分離される」(被告提出の翻訳文で甲7に係るもの)と記載され,甲8論文に「四重極場中での連続流動磁性細胞分離装置は,ヒト末梢性Tリンパ腫・・・の細胞モデル組織を用いて設計され,作製され,そして測定が行われてきた。・・・磁気的に標識された細胞は,四重極場中にある連続流動円筒状カラム内において円周方向に力が加えられ,磁気的に標識されていない細胞から分離される」(同翻訳文で甲8に係るもの)と記載されていることからも明らかなとおり,免疫学的分析方法において,免疫反応させる固相として磁性粒子を使用し,これを磁気的に分離することは,正に,本件優先日当時,広く一般的に行われていた周知慣用技術であったと認められ,他方,甲6論文〜甲8論文は,当該技術が一般的に普及していることを前提に,そこに見受けられる問題点を指摘したものにすぎず,当該技術の使用自体を一般的に否定する趣旨のものではないと認めるのが相当である。
そうすると,本件優先日当時,磁性粒子を用いた磁気的分離の方法につき,甲6論文〜甲8論文に記載されたような問題点があり,そのことが当業者に認識されていたとしても,そうした事情は,刊行物1発明に係る多重検定方法において,第一液体媒体からの微細粒子の分離方法として,多孔質セラミック筒でろ過により分離する方法を用いることに代えて,周知慣用技術である磁性粒子を用いた磁気的分離の方法を採用することを当業者に断念させるような事情であるとまでは認められず,他に,特段の阻害事由の存在を認めるに足りる証拠はない。原告の上記主張は採用の限りでない。
イ なお,原告は,磁性粒子を用いた磁気的分離の方法を採用することによって予想される困難や欠点をどのようにして克服し,どのような構成として現実に実行に移すかは,当業者が容易に想到し得るものではなかった旨主張する。
しかし,本願発明の要旨は,前記のとおりのものであって,そこでは,磁性粒子は,「選択的に活性である各一つの検定試薬がそれぞれに結合した磁気的反応性の物質でできた」もので,かつ,「大きさが,複数の副範囲の集合体である一つの範囲にわたって変化し,そして各副範囲は,フローサイトメトリーおよび前記副範囲の微細粒子に結合した検定試薬によって,前記集合体の他の副範囲から区別することができるもの」であると規定され,また,磁気的分離の手法については,「前記液体媒体から前記全部の副範囲内の微細粒子を磁気により分離」すると規定されているのみである。
このうち,微細粒子に「選択的に活性である各一つの検定試薬がそれぞれに結合」しており,かつ,微細粒子の「大きさが,複数の副範囲の集合体である一つの範囲にわたって変化し,そして各副範囲は,フローサイトメトリーおよび前記副範囲の微細粒子に結合した検定試薬によって,前記集合体の他の副範囲から区別することができるもの」であるとの要件は,磁性粒子を用いた磁気的分離の方法ではなく,多孔質セラミック筒でろ過により分離する方法を用いる刊行物1発明に係る多重検定方法においても要件とされるものであるから,結局,本願発明は,磁性粒子を用いた磁気的分離の方法を採用するに当たり,微細粒子を「磁気的反応性の物質でできた」ものとし,それを「磁気により分離」すると規定したものにすぎないというべきである。換言すれば,本願発明自体,磁性粒子を用いた磁気的分離の方法を採用することによって予想される「困難や欠点」について,当業者が実施に当たり適宜工夫すれば克服できるものであるとして,特許請求の範囲においては規定していないものと解されるのであり,原告の上記主張は,本願発明の構成に基づかない主張であって,失当であるというほかはない。
(3) さらに,原告は,磁性粒子の多重検定への適用を妨げる事情として,磁性粒子は,サイズごとに粒径が均一に揃ったものを使用する必要があるが,当時の磁性粒子では,ほとんどのものがこの要件を満たしていなかった旨主張する。
しかしながら,本件優先日前から公知であった甲9公報には,生化学及び医薬品の幾つかの分野において使用可能な磁性粒子として,0.5〜20μmの範囲,あるいは該範囲外のサイズの単分散磁性ポリマー粒子の製造方法が記載され(6欄29行〜40行,7欄44行〜8欄11行),また,同じく乙4公報には,「単分散」,すなわち「5%未満の直径基準偏差を持つサイズ分散を含む」ようにされた「1〜10ミクロン」の磁性ビーズが製造されていたことが明記されている(3頁左上欄下から第2段落)。さらに,本件明細書(甲1添付)の実施例1自体,市販の直径4.35μm,同3.18μm,同10μmの3種の磁気ビーズを使用していること(14頁最終段落〜15頁第3段落)から明らかなとおり,当時市販されていた磁気ビーズを使用することによって,磁性粒子を多重検定に採用することは十分に可能であったと認められるから,原告の上記主張は採用の限りではない。
3 結論 以上のとおりであるから,原告の取消事由の主張は理由がない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 大鷹一郎
裁判官 早田尚貴