関連審決 | 無効2006-80058 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成19行ケ10378審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10065審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ19162特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14ワ3043特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成18行ケ10542審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 技術的思想 / 創作性(創作) / 物の発明 / 方法の発明 / 製造方法 / 29条1項3号 / 頒布された刊行物 / 容易に実施 / 容易に発明 / 技術常識 / 先行技術 / 発明の詳細な説明 / 化学構造 / 技術情報 / 翻訳文 / 優先権 / 実質的に同一 / 特許出願日 / 優先日 / 参酌 / 実施 / 設定登録 / 混同 / 変更 / 国際出願 / 国際公開 / |
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事件 |
平成
19年
(行ケ)
10120号
審決取消請求事件
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原告藤川株式会社 訴訟代理人弁護士新保克芳,高崎仁,大久保暁彦,洞敬,井上彰 被告ファイザー・インコーポレーテッド 訴訟代理人弁護士牧野利秋,那須健人 訴訟代理人弁理士小野新次郎,江尻ひろ子,寺地拓己 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2008/04/21 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が無効2006-80058号事件について平成19年3月5日にした審決を取り消す 」との判決。。 第2事案の概要本件は,原告が,被告を特許権者とする後記本件特許の請求項1に係る発明の特, , 許につき無効審判請求をしたが 審判請求は成り立たないとの審決がなされたため同審決の取消しを求めた事案である。 1特許庁における手続の経緯( )本件特許(甲第1号証)1特許権者:ファイザー・インコーポレーテッド(被告)発明の名称: 結晶性アジスロマイシン2水和物及びその製法」 「特許出願日:昭和63年7月6日(特願昭63-168637号)優先権主張日:1987年(昭和62年)7月9日設定登録日:平成7年2月8日特許番号:特許第1903527号( )本件手続2審判請求日:平成18年4月7日(無効2006-80058号)審決日:平成19年3月5日審決の結論: 本件審判の請求は,成り立たない 」 「 。 審決謄本送達日:平成19年3月9日(原告に対し)2本件発明の要旨本件特許の請求項1に記載された発明(以下「本件発明」という。なお,請求項の数は3個である )の要旨は,以下のとおりである。 。 「 請求項1】結晶性アジスロマイシン2水和物 」 【 。 3審決の理由の要点審決は,原告が主張する理由及び提出した証拠方法によっては,本件発明の特許を無効とすることはできないとしたものであるが,原告主張の後記審決取消事由と関連する部分の理由は,以下のとおりである(各章の番号又は符号を変更した部分がある。なお,審決の甲第1〜第14号証に係る証拠番号(枝番を含む )は, 。) 。 本訴の証拠番号と同一である。 ( )請求人(原告)が主張する無効理由の摘示1「請求人は ・・・下記甲第1〜14号証及び参考文献を提出し,本件特許は,理由1〜3に ,より特許法第123条第1項第4号に,理由4〜5により同法同項第2号の規定に該当するので,無効とされるべきであると主張している。 理由1本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者が容易に実施できる程度に請求項1の発明の目的,構成,効果が記載されていないから,本件明細書は特許法第36条第3項(昭和62年改正特許法)に規定する要件を満たしていない。 ・・・・・・理由4請求項1の発明は,甲第2号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。 理由5, , 請求項1の発明は 甲第2号証又は甲第2号証及び甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 証拠方法甲第1号証:特公平6-31300号公報(本件公告特許公報)甲第2号証:第10回クロアチア化学者会議発表論文要旨集(年月日)クロア1987216-18チア化学者・科学技術者連盟クロアチア化学協会J.Chem.Research S ,1988,152-153 甲第3号証:( )甲第4号証:国際公開第03/77830号パンフレット甲第5号証:株式会社三菱化学科学技術研究センター作成の実験報告書甲第5号証の1: 分析結果報告書[件名]FJ一001の単結晶作製および単結晶X線構造 「解析 (日付:2005年10月7日) 」甲第5号証の2: 分析結果報告書[件名]FJ-001XRD測定 (日付:2005年1 「 」0月7日)甲第5号証の3: 分析結果報告書[件名]FJ-001水分測定 (日付:2005年8月 「 」9日)甲第5号証の4: 分析結果報告書[件名]FJ-001IR測定 (日付:2005年8月 「 」10日)甲第5号証の5: 分析結果報告書[件名]FJ-001TG-DTA測定 (日付:200 「 」5年8月17日)甲第5号証の6: 分析結果報告書FJ-001CHN測定 (日付:2005年10月11 「 」日甲第6号証:東京工業大学大学院理工学研究科植草秀裕助教授作成の意見書(日付:平成18年3月30日)甲第7号証:米国特許第4474768号明細書甲第8号証:第十一改正日本薬局方解説書()頁〜頁1986C-246C-252J.Chem.Research M ,1988,1239-1261甲第9号証:( )甲第10号証:化学大辞典3縮刷版(共立出版(株,昭和年,〜頁 ))38352353甲第11号証:化学大辞典6縮刷版(共立出版(株,昭和年,頁 )) 38877甲第12号証:第十五改正日本薬局方解説書()頁〜頁 2006B-305B-306甲第13号証:神戸博太郎編「新版熱分析(株)講談社発行 ,年,頁〜頁 」,) 19929496Official Monographs/Azithromycin USP 29甲第14号証:参考文献:欧州特許第984020号明細書」( )理由1についての判断2ア本件明細書の発明の詳細な説明の記載事項の認定「本件明細書の発明の詳細な説明(以下,その記載事項については甲第1号証の本件特許公報。),() 。 の対応箇所を示すこととするには 請求項1の発明 本件発明 に関し以下の記載がある(課題を解決するための手段 (甲第1号証4欄3行〜5欄3行) )『本発明は,少なくとも2モル当量の水の存在化でテトラヒドロフラン及び脂肪族(C5-C7)炭化水素から結晶化することによって製造されるアジスロマイシンの有用な新しい形,すなわち結晶性で非吸湿性の2水和物に関する ・・・・ 。 本発明は実施が容易である ・・・アモルファス形であるいは1水和物(これは吸湿性である 。 ため1モル当量を越す水を含んでいるかもしれない)として製造したアジスロマイシンをテトラヒドロフラン中に溶解する ・・・・入ってくる水の容積が1モル当量をはるかに越える, 。 たとえば2モル当量に近づくならば,混合物を短時間の間MgSO のような乾燥剤上で乾燥4するのが好ましい ・・・。 結晶性2水和物を得るには,全体の水含有量が少なくとも2モル当量に相当するレベルとなる, 。 かつ一般に約3〜4モル当量のレベルを越えない十分な量の水を 生じる透明な溶液へ加える系の中に存在する水のレベルは,標準のカール・フィッシャー滴定によって容易にモニターさ。 。 , れる ・・・生成物は通常真空乾燥して有機溶剤を除く・・・ 水和水の減少を避けるために揮発分及び水含有量を一般に乾燥させている間調節し,テトラヒドロフラン及び炭化水素のレベルが通常0 25%未満に下がり,水含有率が理論値(4 6%)の0 3%以内となるように. ..する 』。 (作用 (5欄4行〜11行) )『本発明の2水和物を含めたアジスロマイシンは人を含む哺乳動物における感染しやすい細菌性伝染病の治療に有用な広い範囲の抗細菌活性を有する。アジスロマイシン2水和物は,前記ブライトの米国特許第4474768号で詳述されている方法及び量に従って,人間の感染しやすい細菌性感染病の治療の際に処方および投与される 』。 (実施例 (5欄12行〜6欄21行) )『本発明を以下の実施例によって説明する ・・・。 実施例1非吸湿性アジスロマイシン2水和物方法A製造1の吸湿性1水和物 ・・・テトラヒドロフラン・・および珪藻土・・を・・一緒にし, ,30分間攪拌し,濾過し ・・・テトラヒドロフランで洗浄した ・・・この溶液を激しく撹拌 , 。 し,H O・・・を加えた。5分後に・・・ヘキサン・・・を5分間にわたって加えた。182時間の粒状化期間の後,濾過し ・・・生成物を回収し,真空乾燥したところ,カール・フィ ,ッシャーによるとH Oが4 6±0 2%の表題の生成物89 5gが得られた。 2 .. .方法B製造1の吸湿性1水和物 ・・・およびテトラヒドロフラン・・・を反応器に入れ,この混合 ,物を攪拌して乳白色の溶液を得た。これに活性炭・・・および珪藻土・・・を加え ・・・攪 ,拌し,次いで・・・ヘキサンで希釈し ・・・吸引濾過した ・・・攪拌しながら・・・H O ,。 2を加えた。この混合物を室温に冷却し,5時間粒状化し,方法Aと同様に生成物を回収および乾燥したところ,177 8gの表題の生成物が得られた。 .2水和物は126℃・・・で急に溶融する。差動走査熱量計・・・から,127℃で吸熱性であることが分かる。熱重量分析(加熱速度,30℃/分)からは,100℃で1 8%の,15.0℃で4 3%の重量減少であることが分かる。IR(KBr)3953,3553 ・・・・. ,321および207;cm▲〔α〕D▼±41.4°(c=1,CHCl。 263)CHN O・2H Oとして計算値:3872212 2C58 14;H9 77;N3 57;OCH 3 95;H O4 59..... 3 2実測値:C58 62;H9 66;N3 56;OCH 4 11;H O4 49..... 3 2中和当量(1:1CH CN:H O中0 5NHCl : 3 2 . )計算値:374 5実測値393 4. .水含有量4 1%(論理値より下)よりさらに少し乾燥した2水和物の試料は相対湿度33%,7.5%または100%で水をすみやかに捕えて2水和物に対する論理的水含有量(4 6 )となっ .%た。相対湿度33%および75%では,水含有量は少なくとも4日間,本質的に一定のままであった。相対湿度100%では,水含有量はさらに約5 2%まで上昇し,次の3日間は本質的.に一定のままであった。 . 18%の相対湿度に保った同じ2水和物の試料は徐々に水を失っていた。水含有量は4日で25 ,12日で1 1 となった」%.% 。』イ審決の判断「請求人が,本件明細書の不備として指摘する点は,・・・・・・・(エ)結晶の水分含量が湿度条件や乾燥条件で変動するにも拘わらず実験によらずとも単に計算で算出できる理論的水含有量を唯一の拠として結晶物質が2水和物としている。 というものである。 そこで検討するに,・・・・・・・(エ)については,本件明細書の(課題を解決するための手段)の記載によれば,本件発明の物質の製造方法が,原料としてアジスロマイシン1水和物が使用され,これに2モル当量に相当するレベルでかつ約3〜4モル当量のレベルを越えない十分な量の水を加えて結晶化させ,水和水の減少を避けるために,揮発分及び水分含有量を一般に乾燥させている間調節し,テトラヒドロフラン及び炭化水素のレベルが通常0.25%未満に下がり,水含有率が理論値4.6%の0.3%以内とする乾燥条件が採用されるというアジスロマイシンの2水和物の生成を明確に意図した方法となっていること (実施例)の記載によれば,生成物の真空乾燥後の水分 ,が4.6±0.2%(方法A ,4.49%(方法B)と明記されていること,C,H,N, )OCH ,H Oについての2水和物の論理計算値と生成物の実測値が近似していること,差動32走査熱量計による分析で127℃で吸熱的であり,熱重量分析により150℃では4.3%の重量減少がみられ,これは2水和物の論理的水含有量と近似すること,更に生成物の水含有量(4.6%)が相対湿度33%,75%で少なくとも4日間一定に維持され,この水含有量の状態が安定であること等を総合すると,本件明細書は,本件発明の物質が「アジスロマイシン2水和物」であると当業者が十分理解できる程度に記載されているものと認められ,単に理論的に算出できる水含有量の値に依拠して2水和物とされているのではないことは明らかである。 ところで,本件明細書では,水含有量4.1%よりさらに少し乾燥した2水和物の試料について,相対湿度33%,75%,100%,18%での水含有量の変化を測定し,相対湿度33%及び77%では,水含有量は少なくとも4日間,本質的に一定のままであるが,18%の相対湿度では徐々に水を失い,12日で%となったとされ,相対湿度100%では,水含1.1有量は更に約5.2%まで上昇するとされているので,確かに環境湿度により2水和物の水含有量は変動すると考えられる。 しかし,このような各種の相対湿度における2水和物の水含有量の変動についての分析結果は,原料である1水和物が相対湿度18%では論理的水分含有量を維持し安定であるが,相対湿度33%,75%で水含有量が急上昇し吸湿性であるのとは対照的に,2水和物は相対湿度33%,75%の状態で論理的水含有量(4.6%)を維持し,本質的に非吸湿性であり安定であること,すなわちアジスロマイシン製剤の製造時の環境湿度において非吸湿性という有利な性質を持つことを示すものである。 2水和物は,乾燥や加熱により結晶水を失い水和物でなくなったり,環境湿度100%の条件では,水含有量が理論値を超えるが,これは2水和物が示す性質であって,このような現象,「」 。」 が見られることが 本件発明の物質を 2水和物 として同定することを妨げるものではない( )理由4についての判断3ア甲第2号証の記載事項の認定「請求人が提出した甲第2号証はクロアチア語で記載された文書であるため,特許法施行規則第61条にしたがい,その文書の翻訳文が添付されている。当該翻訳文の記載内容は以下のとおりである。 『11-メチルアザ-10-デオキソ-10-ジヒドロエリスロマイシンA(DCH )の構3造研究・・・エリスロマイシンAの誘導体についての我々の構造研究の続きにおいて,新たな15員環エ(“”) , リスロマイシンAシリーズのサンプルDCH開発研究所 プリバPLIVA で調製 を3室内の条件下でエーテルから再結晶した。得られた結晶は,透明で無色,プリズム状で高硬度であった。フィルム法によって単位セル(格子)のパラメータを,また浮揚法によって化合物の密度を測定した。 , ,,, 結晶学的データ:CH0NMr=748gmol斜方晶系 空間群P2 2 23872122 111a=17,860(4)Å,b=16,889(3)Å,c=14,752Å,D =1,1 O74gcm,Dx=1,177gcm,Z=4。単位セルの強度測定および精度向上は,-3 -3CuKα線を用いたコンピュータ制御の回析計Philips社製PW1100で行われた。 直接法(Multan プログラム)により構造決定した。先に得られたデータとの結果の比-較は進行中である 』。 ・・・・・・, ,(,, 甲第2号証の記載は上記のとおり 化合物名や化学処理操作 結晶の物性値 組成式 分子量X線回析結果,密度)等の化学分野特有の技術用語によるものが殆どであって,原文との対照が可能であり,翻訳文は原文をほぼ正確に表したものと認めることができる。 したがって,以下,上記翻訳文を原文の記載内容として検討する 」。 イ審決の判断「(ア)本件発明が甲第2号証に記載された発明であるか一般に,ある発明を特許法第29条第1項第3号に掲げる刊行物に記載された発明というためには,その発明が記載された刊行物において,当業者が,当該刊行物の記載及び本件優先日当時の技術常識に基づいて,その発明に係る物を製造することができる程度の記載がされていることが必要であり,特に新規な化学物質の発明の場合には,刊行物中で化学物質が十分特定され,刊行物の記載からその化学物質の製造方法を当業者が理解できる程度に発明が開示されていることが必要である。 そこで甲第2号証についてみるに,開示されている11-メチルアザ-10-デオキソ-10-ジヒドロエリスロマイシンAの結晶以下結晶A というは透明無色プ (,『』。) ,『』,『』,『リズム状『高硬度』を呈し,組成式,分子量,結晶学的データによって化学物質としての特 』,定がされているが,かかる結晶が,2水和物であるとの明記はなく,当業者といえども上記物性データから直ちに2水和物であると理解することはできない。 しかしながら,格子定数は結晶性物質の固有の値であるところ,結晶Aの格子定数が,本件優先日後の文献である甲第3号証,甲第4号証,甲第9号証に記載のアジスロマイシン2水和,, , 物の結晶の格子定数と一致することからすると 組成式 分子量は無水物に相当するとはいえ甲第2号証において結晶Aとして得られた物質は実質的には本件発明のアジスロマイシン2水和物であったと推定できる。 したがって,結晶Aがアジスロマイシン2水和物であると認識されていなくとも,結晶Aが製造できることが明らかであるように甲第2号証に記載されているならば,甲第2号証には実質的に本件発明が記載されていることとなる。 そこで検討するに,甲第2号証には,結晶Aの製造方法として 『サンプルDCH (開発研 ,3究所“PLIVA”で調製 』を室内の条件下でエーテルで再結晶すること』が記載されてい )るにすぎず,原料である『サンプルDCH 』の製造方法や入手方法については何等記載がな3い。 また 『サンプルDCH (開発研究所“PLIVA”で調製 』が『11-メチルアザ-1 , )30-デオキソ-10-ジヒドロエリスロマイシンA』の結晶であってそれをエーテルで再結晶させて結晶Aを製造することが甲第2号証の記載から理解できるとしても,本件優先日当時,『サンプルDCH (開発研究所“PLIVA”で調製 』と同等なアジスロマイシンの結晶の3 )製造方法や入手方法を技術常識として当業者が知悉していたとするに足る証拠はない。 ,,『』 ,, そうすると 甲第2号証には結晶A の発明が記載されているとはいえず したがって結晶Aと実質的に同一である『結晶性アジスロマイシン2水和物』の発明が甲第2号証に記載されていたとすることはできない。 (イ)甲第5号証について,, 『』 請求人は 甲第5号証を提出し アジスロマイシンの結晶であるとされる FJ001粉末から,甲第2号証に記載される製法に準じる方法によって,結晶Aと同じ格子定数を有する結晶が得られたとするが,以下の( ) ( )の理由から甲第5号証は,甲第2号証に記載された製ab法を正確に追試したものということはできない。 ( )a原料として使用された『FJ001粉末』について,これが甲第2号証の『サンプルDCH (開発研究所“PLIVA”で調製 』と同一のものであると推認するに足る証拠は無3 )く,請求人自身 『サンプルDCH (開発研究所“PLIVA”で調製 』の化学構造を不知 , )3としている(平成18年12月28日付け回答書の4頁14行 。)よって,原料の化学構造が何であるかが不明であれば,甲第2号証の追試は不可能である。 また,請求人は 『FJ001粉末』は『エルクロス社製1水和物』であると主張するが, ,甲第2号証の結晶Aが2水和物であることを知る手がかりは皆無であり,組成式,分子量によればむしろ『無水物』に相当する物性が開示されているのであるから,追試の原料として1水和物を選択する特段の理由はない。 特に,甲第2号証で行われている『再結晶』操作は 『結晶性物質を適当な溶媒を使って精 ,製する一方法 (化学大辞典3縮刷版(共立出版(株,昭和38年 『再結晶』の項を参照の 』 )),こと )であって,その性質上,原料結晶と再結晶後の結晶で異なる物が得られることは通常 。 予定されないものである。 このことは,たとえば甲第9号証において,ジエチルエーテルからの再結晶操作で,アジスロマイシン無水物からは純粋な無水物の白色結晶が(1252頁18行〜25行,また,)粗2水和物からは純粋な2水和物がそれぞれ得られていること(1252頁末10行〜1253頁1行)とも符合する。 また,請求人も『再結晶操作は精製し純度などを向上させるために行う操作であることは当業者間で周知乃至慣用の事項である(審判請求書の16頁10行〜12行『一般に,再結 。』 ),晶法により結晶を得る場合,原料を再結晶溶媒に一旦完全に溶解させるため,原料が結晶に影響しないこと(同じ原料であれば同じ結晶が生成すること)は,当業者には周知の事実であると思います(平成18年12月28日付け回答書の7頁13行〜15行)と述べているとお 。』りである。 したがって,以上の諸点を合わせ考えると 『FJ001粉末』は甲第2号証の追試におけ ,る適切な原料とはいえない。 ( )bさらに,再結晶条件についてみるに,上記のとおり甲第2号証には,結晶Aについて無水物に相当する組成式,分子量が示されているのであるから,エーテルからの再結晶を行うにあたり,当業者ならば再結晶で得られる結晶Aには極力水分が混入しないような条件を設定するはずである。 甲第5号証においても水の添加は行われていないが,それにもかかわらず1水和物から2水和物が得られたという結果が示されている。これは,水含有量の多い原料の使用,水含有量の多いエーテルの使用,或いは高湿度環境下での再結晶操作など,甲第2号証には記載されていない特殊な条件下で再結晶が行われた結果として偶発的に2水和物が生じたと解さざるを得ず,そのような操作はもはや甲第2号証にいう再結晶操作とはいえない。 したがって,甲第5号証は,甲第2号証の『エーテルからの再結晶』という操作を適切に行った追試実験ということもできない 」。 ( )理由5についての判断4「当業者が甲第2号証に記載された技術情報や本件優先日当時の技術常識をもとに,思考を働かせることによって,結晶Aを容易に製造できるのであれば,結晶Aと実質的に同じ物質である本件発明は甲第2号証の記載から当業者が容易に発明をすることができたものということができる。 しかしながら,甲第2号証の記載から『サンプルDCH 』が少なくとも 『11-メチルア3 ,ザ-10-デオキソ-10-ジヒドロエリスロマイシンA』であり再結晶を行う原料であることから結晶構造を伴うものであることが理解可能であっても,本件優先日当時,アジスロマイシンの製造法としては,わずかに米国特許明細書である甲第7号証(乙第2号証(判決注:特開昭59-31794号公報。本訴乙第2号証)はこの対応日本公報である)及び乙第10号証(判決注:米国特許第4,517,359号公報 (乙第1号証(判決注:特開昭57-1 )58798号公報。本訴乙第1号証)はこれの対応日本公報である)に記載の方法が知られていたにすぎず,アジスロマイシンの結晶の製造法が,当業者に周知であったと認めることはできない。 そうすると,本件発明は,甲第2号証の記載自体から当業者が容易に発明することができたものということはできない。 ところで,甲第7号証(乙第2号証)の例3には,『N-メチル-11-アザ-10-デオキソ-10-ジヒドロエリスロマイシンA実施例2の粗生成物を[N-メチル-11-アザ-10-デオキソ-10-ジヒドロエリスロマイシンAデソサミニルN-オキシド及びN-メチル-11-アザ-10-デオキソ-10-ジヒドロエリスロマイシンAビスN-オキシドから成る(4.36g ]150mlの無水エ )タノールに溶解し ・・・1.25時間水素添加する ・・・3つの有機抽出液を合わせ,無水 , 。 硫酸ナトリウムで乾燥し,蒸発乾固して無色あわ状物を得る(3.0g 。すべての試料を1 ), 。. 1mlの暖かいエタノールに溶解し 溶液がわずかに濁るまで水を加える 一夜放置すると16gの表題生成物が溶液から結晶化する;136℃(分解 。同じ方法で再結晶すると融m.p. )()。 ,,.』。 点が142℃ 分解 に上がる ・・・MS:590 432 158との記載があるm/e甲第2号証には,N-メチル-11-アザ-10-デオキソ-10-ジヒドロエリスロマイシンAの結晶をエーテルで再結晶することが示されているから,上記甲第7号証に記載のN-メチル-11-アザ-10-デオキソ-10-ジヒドロエリスロマイシンAの製造法によって得られる結晶の精製手段として,これを利用してみること自体は当業者が想起可能な範囲と考えられる。 しかしながら,以下の理由により,甲第7号証の製造方法によって得られる結晶から結晶Aを得ることは不可能と言わざるをえない。 すなわち,参考文献である欧州特許第984020号明細書(第2頁)に甲第7号証に対応するカナダ特許1202620号,1202619号が,アジスロマイシンの1水和物の製造方法を教示するものと記載され,本件明細書においても製造例1に記載されているアジスロマイシン1水和物の製法は米国特許4474768号(甲第7号証に対応)の結晶化方法に従ったものとされ,当該化合物は甲第7号証の実施例3の化合物の融点と一致する。 そうすると,甲第7号証に記載される製造方法によって得られる結晶は,1水和物であると推定できる。 しかし,上記のとおり通常の再結晶操作の前後で異なる水和物の結晶が得られることは想定し難いし,甲第2号証には,単に『室内の条件下でエーテルからの再結晶』と記載されているのみで,その結果得られる結晶の組成式,分子量から結晶が無水物であることが示唆されるのであるから,当業者は水が混入するような条件を採用し得ないものと考えられる。 そうであれば,甲第7号証の製造方法によって得られるN-メチル-11-アザ-10-デオキソ-10-ジヒドロエリスロマイシンAの結晶に対し甲第2号証に記載の精製方法であるエーテルからの再結晶を行っても1水和物の結晶しか得られず,結晶A(アジスロマイシンの2水和物)と同一の結晶を得ることは困難というべきである。 したがって,本件発明は甲第2号証又は甲第2号証及び甲第7号証の記載から当業者が容易に発明することができたということはできない 」。 第3原告の主張(審決取消事由)の要点1取消事由1(理由4についての判断の誤り)( )審決は,理由4についての判断において,甲第2号証に開示されている111-メチルアザ-10-デオキソ-10-ジヒドロエリスロマイシンA(DCH ) 3の結晶(以下,審決と同様に「結晶A」という )につき 「甲第2号証において結 。,晶Aとして得られた物質は実質的には本件発明のアジスロマイシン2水和物であった」ことを認めながら 「一般に,ある発明を特許法第29条第1項第3号に掲げ ,, , る刊行物に記載された発明というためには その発明が記載された刊行物において当業者が,当該刊行物の記載及び本件優先日当時の技術常識に基づいて,その発明に係る物を製造することができる程度の記載がされていることが必要であり,特に新規な化学物質の発明の場合には,刊行物中で化学物質が十分特定され,刊行物の記載からその化学物質の製造方法を当業者が理解できる程度に発明が開示されていることが必要である」とした上,甲第2号証には,結晶Aの原料である「サンプルDCH (開発研究所“PLIVA”で調製 」の製造方法や入手方法について記載3 )がなく,また,それが 「11-メチルアザ-10-デオキソ-10-ジヒドロエ ,リスロマイシンA」の結晶であって,それをエーテルで再結晶させて結晶Aを製造することが甲第2号証の記載から理解できるとしても,本件優先権主張日(昭和62年7月9日)当時 「サンプルDCH (開発研究所“PLIVA”で調製 」と , )3同等なアジスロマイシンの結晶の製造方法や入手方法を,技術常識として当業者が知悉していたとするに足る証拠はないとして,結局,甲第2号証に「結晶A」の発明が記載されているとはいえず,したがって,結晶Aと実質的に同一である「結晶性アジスロマイシン2水和物」の発明が記載されていたとすることはできないと判断した。 しかしながら,本件発明は物の発明であるから,本件発明が特許法29条1項3, , 号に当たるとするためには 刊行物に当該物自体が開示されていれば十分であってその製造方法まで当該刊行物に開示されている必要はない(東京高裁平成3年10月1日判決・判時1403号104頁 。当該刊行物に,その記載及び技術常識か )ら,当該物の製造ができる程度の記載がなければならないとする審決の判断は,物,, の発明の場合と製造方法の発明の場合とを混同したものであって この点において既に誤りである。 ( )甲第2号証に記載された結晶Aが結晶性アジスロマイシン2水和物であるこ2とは,以下のとおり,当業者であれば,容易に知ることができるものであり,甲第2号証に結晶性アジスロマイシン2水和物が開示されていたことは明らかである。 すなわち,甲第2号証に記載された結晶Aがアジスロマイシンであることは記載されている化学式により,また,再結晶により得られたものが「結晶性」であることは 「得られた結晶」という表現や,X線解析により結晶格子定数が得られてい ,ることによって,それぞれ確認することができる。甲第2号証には,結晶Aがアジスロマイシンの2水和物であることは明示されていないが,その記載に係る単位格子パラメータが,甲第2号証の作成者(論文発表者)であるらが後に発B.kamenar表した「エリスロマイシンシリーズ.パート13.10-ジヒドロ-10-デオキソ-11-メチル-11-アザエリスロマイシンAの合成および構造解明」と題する論文(甲第3号証)や,プリバ社の国際出願に係る明細書(甲第4号証)に開示されたアジスロマイシン2水和物結晶の単位格子パラメータと一致しているから,甲第2号証に記載された結晶性アジスロマイシンが2水和物であったことは,事実として誤りない。 甲第2号証には,結晶Aの分子量が748であるとする記載( Mr=748g 「mol)がある。この値は,アジスロマイシンの分子式CHON から算」 3872122出される数値にほかならず,これだけを見ると,結晶Aが無水物であるかのようにも受け取れる。しかしながら,アジスロマイシン無水物は,アモルファス,すなわち結晶構造をもたないものとして存在することが知られており,甲第2号証に結晶が記載されていることと矛盾しているから,上記分子量の記載は,分子式「CH38ON 」の記載と相俟って,アジスロマイシンを一般的に説明しているにすぎ 72122ないと理解するのが理に適っているし,そのことは当業者であれば,直ちに理解されるところである。 加えて,甲第2号証には,結晶Aの結晶構造が斜方晶系であり,単位格子の大きさa=17.860(4)Å,b=16.889(3)Å,c=14.752Å,密度Do=1 174gcm浮遊法による算出 及びDx=1 177gcmX .().(-3 -3線解析による算出 ,単位格子中の分子数Z=4というデータが記載されている。 )「体積」は各単位格子の積によって求められ 「1分子の重量」は「体積×密度× ,1/単位格子あたりの分子数(Z 」であり 「1モルの分子量」は「1分子の重量 ),×アボガドロ定数」によって求められる。そこで,当該結晶の各単位格子,分子数及び密度により,当該結晶の1モルの分子量を算出すると,1モルの分子量=786.6となる。このように,甲第2号証に記載のデータから簡単に結晶Aの分子量が786.6であると計算できる以上,当業者は,748という分子量の記載が結晶Aの分子量を意味すると考えるものではなく,むしろ結晶Aに結晶水が含有されているものと推測するものであるところ,786.6と748との差38.6は,水2分子分の分子量(分子量=36)にほぼ匹敵するものであるから,結晶Aがアジスロマイシン2水和物であることを容易に理解することができる。 なお,本件優先権主張日当時,同じ化学式を持つ分子であっても,異なる結晶形を持つ(結晶多形)物質があること,さらには結晶内に溶媒を取り込んだ溶媒和物(水和物を含む擬似多形)として存在することがあることも知られていた。これらの要素は,当該物質の溶解性等に影響を及ぼし,その医薬品としての効能効果に違いを生ずることがあるため,当業者に注目されており(甲第18,第19号証 ,)結晶構造の確認は当時の当業者にとって不可欠の作業であった。したがって,アジスロマイシン結晶を得たことが記載されている甲第2号証に接した当業者が,当該結晶(結晶A)が水和物であるか否かに注目することは当然であって,甲第2号証に記載された結晶学的データに基づいて,結晶Aが水和物であるかどうかを確認することを怠ることはない。 ( )仮に 「ある発明を特許法第29条第1項第3号に掲げる刊行物に記載され3 ,た発明というためには,その発明が記載された・・・刊行物の記載からその化学物質の製造方法を当業者が理解できる程度に発明が開示されていることが必要である」との審決の立論を前提としても,甲第5号証の1〜6(株式会社三菱化学科学技術研究センター作成の分析結果報告書及び添付資料。以下,これらを総称して,単に「甲第5号証」という。なお,甲第5号証には単結晶化の具体的条件の記載が, 。) ないため 別途同社がその点につき報告して作成した文書が甲第20号証であるのとおり,当業者であれば,甲第2号証の製造方法の記載に基づき,容易にアジスロマイシン2水和物を得ることができるのであるから,審決の判断は,この点においても誤りである。 審決は,甲第2号証に,再結晶の原料である「サンプルDCH (開発研究所3“PLIVA”で調製 」の製造方法や入手方法について記載がなく,それが 「1 ) ,1-メチルアザ-10-デオキソ-10-ジヒドロエリスロマイシンA (アジス 」ロマイシン)の結晶であることが,甲第2号証の記載から理解できるとしても,これと「同等なアジスロマイシンの結晶の製造方法や入手方法を技術常識として当業者が知悉していたとするに足る証拠はない」と判断し,また,甲第5号証につき,追試の原料として使用された「FJ001粉末 (スペイン・エルクロス社製のア 」ジスロマイシン1水和物)について 「これが甲第2号証の『サンプルDCH (開 ,3発研究所“PLIVA”で調製 』と同一のものであると推認するに足る証拠」が )なく,追試の原料として1水和物を選択する特段の理由はないとし,さらに,甲第9号証の記載を例として挙げ 「甲第2号証で行われている『再結晶』操作は ・ , ,・・その性質上,原料結晶と再結晶後の結晶で異なる物が得られることは通常予定されないものである」から 「甲第5号証は,甲第2号証に記載された製法を正確 ,に追試したものということはできない」とした。 しかしながら,まず,甲第5号証の試験において,原料結晶と再結晶後の結晶で,, , 異なる物が得られたとの点については 上記のとおり アジスロマイシン無水物はアモルファス,すなわち結晶構造をもたないものとして存在することが知られているのであるから,ジエチルエーテルからの再結晶操作で,アジスロマイシン無水物から純粋な無水物の白色結晶が得られたとする甲第9号証の記載は,極めて疑わしいものであり,その記載を根拠として 「原料結晶と再結晶後の結晶で異なる物が ,得られることは通常予定されないものである」ということはできない。現に,再結晶操作の前後で異なる水和物の結晶が得られる場合があることは,当業者が経験しているところであり(甲第21号証の1,2 ,再結晶化後に出発物質の結晶形と )異なる「何らかの溶媒和物」が形成されることが何ら特異でないことは,当業者の技術常識である。また,甲第2号証に記載されている操作方法は,結晶物を再度結「」,「」 晶化することを意味する広義の 再結晶 であるものの 行為としては 単結晶化を行ったものであり,そのことは,甲第2号証において,単結晶でなければなし得ないX線解析(格子定数の解明)を行っていることからも明白である。そして,この「単結晶化」を含む再結晶操作においては,出発物質である結晶物をエーテルの溶媒に溶解した時点で,溶液中のアジスロマイシンは,出発物質の結晶構造から解放され,均一分散された単なる分子として存在することとなるから,再結晶に当たって,出発物質の製造方法及び元の結晶形が再結晶化後の結晶構造に影響を与えることはなく,それゆえ,追試による「再結晶化」を行う場合に,甲第2号証記載の原料結晶であるDCH の製造方法や入手方法は何ら問題とならず,それが公知の3結晶物,すなわち,アジスロマイシン1水和物であろうことは明白である。したがって,審決の上記判断は誤りである。 また,審決は,甲第5号証の試験につき 「甲第5号証においても水の添加は行 ,われていないが,それにもかかわらず1水和物から2水和物が得られたという結果が示されている。これは,水含有量の多い原料の使用,水含有量の多いエーテルの使用,或いは高湿度環境下での再結晶操作など,甲第2号証には記載されていない特殊な条件下で再結晶が行われた結果として偶発的に2水和物が生じたと解さざるを得ず,そのような操作はもはや甲第2号証にいう再結晶操作とはいえない 」と。 判断するが,誤りである。 甲第2号証には 「化学物質アジスロマイシンのエーテルによる再結晶化」をす ,れば良いことが記載されているが,この極めて単純な操作は,詳細な製造条件の記載を要するものではなく,本件優先権主張日当時の当業者であれば,技術常識の範囲内で実施できるものである。すなわち,甲第2号証の標題から,DCH がアジ3スロマイシンであることは明らかであり,X線回折データをとるための単結晶を調製する場合 「室温の条件下でエーテルから再結晶した」との記載から,通常,溶 ,液をオープン系(空気と接触可能な環境)で長時間(数日間)静置すると理解される。そして,吸湿性の高いエーテル溶液状態で何日間も放置すれば 「水含有量の ,多い原料の使用,水含有量の多いエーテルの使用,或いは高湿度環境下での再結晶操作など」の特殊な条件下でなくとも,アジスロマイシンの物性上,必然的に水分,。, , 子を取り込み 2水和物が生成する 実際にも 三菱化学科学技術研究センターは当業者が有する通常技術の範囲内の操作で追試して,アジスロマイシンの2水和物を得ているのである。 2取消事由2(理由5についての判断の誤り)審決は,理由5についての判断において,甲第7号証(米国特許第4474768号明細書(1984年(昭和59年)10月2日特許 。なお,乙第2号証(特 )開昭59一31794号公報)は,この米国特許に対応する日本特許の出願に係る公報である )に記載されたN-メチル-11-アザ-10-デオキソ-10-ジ 。 ヒドロエリスロマイシンA(アジスロマイシン)の製造法によって得られる結晶の精製手段として,甲第2号証を利用してみること自体は当業者が想起可能な範囲であるとしながら,甲第7号証に記載される製造方法によって得られる結晶は1水和物であると推定されるところ,通常の再結晶操作の前後で異なる水和物の結晶が得られることは想定し難いし,甲第2号証において得られる結晶Aは,組成式及び分子量から無水物であることが示唆されるので,当業者は,水が混入するような条件を採用し得ないものと考えられるから,甲第7号証の製造方法によって得られるN-メチル-11-アザ-10-デオキソ-10-ジヒドロエリスロマイシンAの結晶に対し甲第2号証に記載の精製方法であるエーテルからの再結晶を行っても1水和物の結晶しか得られず,結晶A(アジスロマイシンの2水和物)と同一の結晶を得ることは困難というべきであり,本件発明は甲第2号証又は甲第2号証及び甲第7号証の記載から当業者が容易に発明することができたということはできないと判断した。 しかしながら,審決が結晶A(アジスロマイシン2水和物)と同一の結晶を得ることが困難であるとして挙げる理由のうち,再結晶操作の前後で異なる水和物の結晶が得られることは想定し難いとの点が誤りであること,及びことさらに水が混入するような条件を採用しなくとも,アジスロマイシン1水和物の再結晶操作によって2水和物が得られることはいずれも上記1の( )のとおりである。 3したがって,審決の理由5についての判断は誤りである。 3取消事由3(理由1の(エ)についての判断の誤り)( )審決は,理由1の(エ)についての判断において,各種の相対湿度における21水和物の水含有量の変動についての分析結果が 「2水和物は・・・本質的に非吸 ,湿性であり安定であること,すなわちアジスロマイシン製剤の製造時の環境湿度において非吸湿性という有利な性質を持つことを示すものである」と判断し,このことを理由の一つとして,本件特許に係る明細書(甲第1号証。以下「本件明細書」という )が記載不備でないとしたが,以下のとおり,本件明細書に記載された結 。 晶は,アジスロマイシン1水和物と区別することができないから,本件明細書は,本件発明がアジスロマイシン2水和物と特定し得るように記載されているということができず,審決の判断は,誤りである。 ( )本件明細書に記載されたアジスロマイシン2水和物(本件発明に係る結晶)2及び1水和物の各吸湿性(各種の相対湿度における水含有量の変動値)は,以下のとおりである(3頁右欄11〜21行,4頁左欄3〜右欄5行 。)アアジスロマイシン2水和物(水含有量4.1%)?@相対湿度33%速やかに水含有量4.6%となる (4日間一定) 。 ?A相対湿度75%速やかに水含有量4.6%となる (4日間一定) 。 ?B相対湿度100%水含有量約5.2%となる (3日間一定) 。 なお,相対湿度18%では,徐々に水分を失い,水含有量は,4日で2.5%,12日で1.1%となった。 イアジスロマイシン1水和物(水含有量3.2%)?@相対湿度33%水含有量5.6%に急上昇(3日間安定)?A相対湿度75%水含有量6.6%に急上昇(3日間維持)?B相対湿度100%水含有量7.2%に急上昇(3日間維持)なお,相対湿度18%では水分を失い,24時間で2.35%,14日で2.26%となった。 上記記載によれば,アジスロマイシン2水和物も吸湿性がないわけではなく,相対湿度33%以上では,1水和物と同様,水含有量が増加する傾向を示している。 そして,相対湿度33%以上における1水和物の水含有量は,2水和物より多いものの,その差はわずかであり,かつ,水含有量自体が数%の値に止まっているとともに,水含有量が安定である期間も2水和物とさほど変わらない。そうすると,測, , 定誤差等を考慮すれば 得られたアジスロマイシンの結晶の水含有量が判明してもその結晶が2水和物であるのか1水和物であるのかを判別することは困難である。 ( )本件明細書には 「2水和物は126℃・・・で急に溶融する(3頁左欄3 , 。」), () 43〜44行 との記載があり アジスロマイシン2水和物 本件発明に係る結晶の融点が126℃であるとされている。しかしながら,現在知られているアジスロマイシン2水和物の融点は,133〜135℃であり(甲第27号証 ,本件明細 )書の記載はこれと合致しておらず,誤りである。 ,, , この点につき 被告は 甲第27号証記載のアジスロマイシン2水和物の融点は日本薬局方の一般試験法に規定された融点測定法により測定されたものであり,本件明細書の記載は,化学者の一般的な融点概念に従って測定したものであるから,日本薬局方の一般試験法に基づく融点との間に幅が生じたものと主張する。 しかしながら 「第十五改正日本薬局方解説書 (乙第18号証)には 「USP , 」,では融点の代わりに融解範囲を規定しており,これはmelting range or temperature一般化学者の持っている融点概念にほぼ一致する (B385頁6〜8行)との記 」載があるところ,USP(米国薬局方)が提供するアジスロマイシンの標準品(アジスロマイシン2水和物)の製品安全データシート(甲第54号証)には,その物理的・化学的性質として,融解範囲()が133〜135℃であるこMelting Rangeとが記載されており(,この値は甲第27号証の記載と一致するので SECTION9 )あるから,一般的な化学者の融点概念に基づいて測定した場合に,アジスロマイシン2水和物の融点が126℃となることはない。 , (), ( )本件明細書には アジスロマイシン2水和物 本件発明に係る結晶 につき4「熱重量分析(加熱速度,30℃/分)からは,100℃で1.8%の,150℃で4.3%の重量減少であることが分かる(3頁左欄45〜47行 ,1水和物 。」)につき 「熱重量分析(加熱速度,30℃/分)からは,100℃で2.6%の重 ,量減少,150℃で4.5%の重量減少であることが分かった(3頁右欄44〜。」46行)との各記載がある。 しかしながら,これらの記載に係る熱重量分析は,甲第12号証に記載されているとおり,5℃/分が通例である加熱速度を30℃/分としているのみならず,そのような条件設定下においても,アジスロマイシン2水和物と1水和物の重量減少値は,100℃及び150℃ともわずかな差異しかなく,測定誤差を考慮すれば,熱重量分析によって2水和物と1水和物とを判別することはできないというべきである。 ( )本件明細書に,アジスロマイシン2水和物(本件発明に係る結晶)及び公知5のアジスロマイシン1水和物の双方について測定値が記載されている物性は,上記水含有量,融点及び熱重量分析のみであるところ,上記のとおり,これらの点に係る測定値によってアジスロマイシン1水和物と2水和物とを判別することはできないのであり,結局,本件明細書には,アジスロマイシン2水和物を公知の1水和物と実質的に区別し得る記載はないから,審決の上記判断は誤りである。 第4被告の反論の要点1取消事由1(理由4についての判断の誤り)に対し( )原告は,東京高裁平成3年10月1日判決を引用した上,本件発明は物の発1明であるから,本件発明が特許法29条1項3号に当たるとするためには,刊行物に当該物自体が開示されていれば十分であって,その製造方法まで当該刊行物に開示されている必要はないとし 「一般に,ある発明を特許法第29条第1項第3号 ,に掲げる刊行物に記載された発明というためには,その発明が記載された刊行物において,当業者が,当該刊行物の記載及び本件優先日当時の技術常識に基づいて,その発明に係る物を製造することができる程度の記載がされていることが必要であり,特に新規な化学物質の発明の場合には,刊行物中で化学物質が十分特定され,刊行物の記載からその化学物質の製造方法を当業者が理解できる程度に発明が開示されていることが必要である」との審決の判断が,誤りであると主張する。 しかしながら,原告が引用する上記判決は,発明が引用例に明示的に記載されている事例に係るものであり,一般論としては 「当業者が刊行物をみるならば特別 ,の思考を要することなく容易にその技術的思想を実施し得る程度」の開示が必要と判示するものである。しかるところ,特に新規な化学物質の発明においては 「特,別の思考を要することなく容易にその技術的思想の実施」をすることを可能にするために,その化学物質の製造方法を当業者が理解できる程度の開示が求められるのである。 そして,審決は,甲第2号証につき,まず 「組成式,分子量,結晶学的データ ,によって化学物質としての特定がされている」結晶Aが 「2水和物であるとの明 ,記はなく,当業者といえども上記物性データから直ちに2水和物であると理解することはできない 」として,物の構成の開示がないことを認定し,次いで,甲第2 。 号証に物の構成の開示がないとしても 「結晶Aが製造できることが明らかである ,ように甲第2号証に記載されているならば,甲第2号証には実質的に本件発明が記載されていることとなる 」として,甲第2号証に,結晶Aが製造できることが明 。 らかであるように記載がなされているか否かを検討したものである。すなわち,原告の引用する上記判決に係る事例と異なり,引用例(甲第2号証)には,発明の明示的な開示がないから,審決は,それに代わる開示があるか否かを判断するため,その要素として,結晶Aが製造できることが明らかであるように記載がなされているか否かを検討したものである。そして,本件発明の構成について明示の記載がなく,その特定が十分になされていない甲第2号証において,その製造方法すら開示されていないのであれば,当業者といえども甲第2号証の記載から,本件発明である「結晶性アジスロマイシン2水和物」を理解することができないのは当然のことである。 したがって,審決の上記判断に誤りはない。 ( )原告は,甲第2号証に記載された結晶Aが結晶性アジスロマイシン2水和物2であることは,当業者であれば,容易に知ることができるものであり,甲第2号証には,結晶性アジスロマイシン2水和物が開示されていたと主張するが,以下のとおり,誤りである。 アまず,甲第2号証に結晶性アジスロマイシン2水和物が記載されていたか否かは,甲第2号証自体と本件特許に係る優先権主張日(昭和62年7月9日)当時の当業者の技術常識に基づいて判断されるべきことは当然である。そして,上記優先権主張日以前にアジスロマイシンについて言及した先行技術文献は,乙第1号証(特開昭57-158798号公報。米国特許第4,517,359号公報の対応日本公報である )及び乙第2号証(特開昭59-31794号公報。米国特許第 。 4,474,768号公報(甲第7号証)の対応日本公報である )のみであった 。 ところ,これらの文献において,アジスロマイシンは,いずれも融点が表記された( , ) 固体物質 乙第1号証6頁左下欄1〜2行 乙第2号証9頁右上欄下から5〜2行として記載されているが,これらの文献のいずれにも,アジスロマイシンの水和物を含む溶媒和物については何ら記載されていない。 イ次に,甲第2号証に,再結晶により得られた結晶の結晶学的データとして示()() , されている分子式 CHON及び分子量 Mr=748gmolは3872122アジスロマイシン無水物を示すものであり,優先権主張日における当業者が,当該記載からアジスロマイシン無水物以外の物質を想起する余地はない。また,甲第2号証には,再結晶の原料である「サンプルDCH 」につき 「開発研究所“PLI3 ,VA”で調製」とのみ記載されており,その製造方法や入手方法につき何ら具体的な記載はない。 そうすると,甲第2号証には,本件発明である結晶性アジスロマイシン2水和物を明示的に示す開示はないといわざるを得ない。 ウ原告は,甲第2号証に記載された結晶Aの単位格子パラメータが,甲第2号証の作成者(論文発表者)であるらが発表した「エリスロマイシンシリB.kamenarーズ.パート13.10-ジヒドロ-10-デオキソ-11-メチル-11-アザエリスロマイシンAの合成および構造解明」と題する論文(甲第3号証)や,プリバ社の国際出願に係る明細書(甲第4号証)に開示された2水和物結晶の単位格子パラメータと一致しているから,甲第2号証に記載された結晶性アジスロマイシンが2水和物であったことは,事実として誤りないと主張するが,甲第3,第4号証は,本件特許に係る優先権主張日の後に刊行されたものであるから,優先権主張日における当業者が,これらに記載されたデータを甲第2号証記載の結晶学的データと比較して,アジスロマイシン2水和物を想起することは不可能である。 エまた,原告は,甲第2号証に開示された結晶学的データ(単位格子の大きさなど)を用いて計算により求めた結晶Aの分子量は786.6であるから,当業者, , は 甲第2号証記載の分子量748が結晶Aの分子量であると考えるものではなくその差が水2分子分の分子量にほぼ匹敵するものであるから,結晶Aがアジスロマイシン2水和物であることを容易に理解すると主張する。 しかしながら,原告が行ったように,格子定数の測定値及び浮遊法により求めた密度に基づいて測定対象の化合物の分子量を算出したとしても,当該分子量を正確に特定することはできない。すなわち,格子定数の測定値には±0.5%の誤差が経験的に見込まれる(甲第6号証8頁12〜16行)とされているように,格子定数の測定値の精度には問題があるところ,格子定数の測定値における±0.5%の誤差は,アジスロマイシンの分子量で±11.2程度の変動要因となるから,当該誤差のみに基づいても,原告のいう結晶溶媒分子の分子量は27〜49(38±11)となり,水2分子分の分子量(2水和物)と特定されるものではない。 さらに,仮に甲第2号証に開示された結晶学的データが正しいとしても,原告が算出した分子量786.6は,2水和物の分子量(同位体存在比を考慮して,785.0)とは合致せず,むしろ1/2エーテル和物の分子量786.0に近い値であり,したがって,上記結晶学的データから測定対象の化合物を特定することはできないというべきである。 ( )ア原告は,甲第5号証の試験を根拠として,当業者であれば,甲第2号証の3製造方法の記載に基づき,容易にアジスロマイシン2水和物を得ることができると主張するが,審決の説示のとおり,甲第5号証の試験は甲第2号証の追試といえるものではないから,原告の上記主張は誤りである。 イ原告は,再結晶化後に出発物質の結晶形と異なる「何らかの溶媒和物」が形成されることが何ら特異でないことは,当業者の技術常識であるとか,甲第2号証に記載されている操作方法は 「単結晶化」を行ったものであり 「単結晶化」を含 , ,む再結晶操作においては,再結晶に当たって,出発物質の製造方法及び元の結晶形が再結晶化後の結晶構造に影響を与えることはなく,甲第2号証記載の原料結晶であるDCH の製造方法や入手方法は何ら問題とならず,それが公知の結晶物であ3るアジスロマイシン1水和物であろうことは明白であるなどと主張する。 しかしながら,甲第2号証には 「再結晶」と記載されているだけであるから, ,それを特別な意味の再結晶と解する理由はない。再結晶操作は 「結晶性物質を適 ,当な溶媒を使って精製する一方法 (乙第6号証)であり,その性質上,原料結晶 」と再結晶後の結晶とが異なることは通常予定されていないものである。また,水を添加しない溶媒中で再結晶を行うことにより,水和物を形成することは想定され得ない。甲第2号証の再結晶で使用される溶媒がエーテルである以上,仮に再結晶後に出発物質の結晶系と異なる「何らかの溶媒和物」が形成されることがあり得るとすれば,エーテル和物が想定されるものである。さらに,甲第2号証には,水を添,「」 加しない溶媒系における再結晶より得られた結晶の分子式 分子量として 無水物に相当する物性が開示されているのであり,甲第2号証に接した当業者は,当然その開示に基づいて原料物質の選択をするはずであるから,DCH の製造方法や入3手方法が問題とならないといえるはずはなく,まして,原料物質として1水和物を選択する理由はない。 なお,原告は,再結晶操作の前後で異なる水和物の結晶が得られる場合があることは,当業者が経験しているところであると主張し,その例として甲第21号証の1,2を挙示するが,甲第21号証の1,2に開示されているのは,すべて水を添加した溶媒中で水和物を調整する製法であり,甲第2号証に記載された「エーテルから再結晶」する場合とは異なるものである。 また,原告は,アジスロマイシン無水物は,結晶構造をもたないアモルファスとして存在することが知られており,甲第2号証に結晶が記載されていることと矛盾しているとも主張するが,本件特許に係る優先権主張日当時,アジスロマイシン無水物がアモルファスであることが知られていたことを認め得る証拠はない。 ウ原告は,甲第2号証記載の「化学物質アジスロマイシンのエーテルによる再結晶化」の操作は,詳細な製造条件の記載を要するものではなく,本件優先権主張日当時の当業者であれば,技術常識の範囲内で実施できるものであるとした上,X線回折データをとるための単結晶を調製する場合 「室温の条件下でエーテルから ,再結晶した」との記載から,通常,溶液をオープン系(空気と接触可能な環境)で長時間(数日間)静置すると理解されると主張する。 しかしながら,甲第2号証には 「エーテルから再結晶した」と記載されている ,のであるから,当業者は,エーテル以外は,たとえ水分であっても不純物と解し,極力水分がエーテルより調整される結晶に混入しない条件を設定するはずであり,上記主張は失当である。 エさらに,甲第5号証の試験は,原料物質である「FJ-001粉末」の選択に合理性がなく,また,その実験操作は,湿度92%という特殊な条件下において行われたものであって,これが,通常の実験施設の環境といえないことは明らかである。 2取消事由2(理由5についての判断の誤り)に対し原告は,理由5についての審決の判断が誤りであると主張するが,その根拠として挙げる,再結晶操作の前後で異なる水和物の結晶が得られることは想定し難いとの審決の説示が誤りであるとの主張,及びことさらに水が混入するような条件を採用しなくとも,アジスロマイシン1水和物の再結晶操作によって2水和物が得られるとの主張が,いずれも誤りであることは,上記のとおりであるから,原告の上記主張は失当である。 3取消事由3(理由1の(エ)についての判断の誤り)に対し( )原告は,本件明細書に記載されたアジスロマイシン2水和物(本件発明に係1る結晶)及び1水和物の,各種の相対湿度における水含有量の変動値について,アジスロマイシン2水和物も吸湿性がないわけではなく,相対湿度33%以上では,1水和物と同様,水含有量が増加する傾向を示しているとか,相対湿度33%以上における1水和物の水含有量と2水和物の水含有量との差はわずかであり,かつ,水含有量自体が数%の値に止まっているとともに,水含有量が安定である期間もさほど変わらないから,得られたアジスロマイシンの結晶の水含有量が判明しても,その結晶が2水和物であるのか1水和物であるのかを判別することは困難であると主張する。 しかしながら,本件明細書の記載は,1水和物の水含有量が相対湿度の変動に応じて変動するのに対し,2水和物の水含有量が相対湿度33%及び75%において理論値(4.6%)で本質的に一定であったことを示しており,このことから,本件明細書が2水和物を明確に同定するための特性を示していることは明らかである。また,審決の説示のとおり,2水和物は乾燥や加熱により結晶水を失い2水和物でなくなったり,環境湿度100%の条件下では,水含有量が理論値を超えたりするが,これは2水和物の特性であって,このような現象によって,2水和物の同定が妨げられるものではない。 なお,1水和物の相対湿度33%における水含有量5.6%及び相対湿度75%における水含有量6 6%と 2水和物の当該各湿度における水含有量4 6% 理 ., .(論値)との差が,予測される測定誤差を上回った有意な差であることは技術常識上明らかである。 したがって,原告の上記主張は失当である。 ( )原告は 「ジスロマック錠250mg」に係る添付文書(甲第27号証)の2 ,記載を挙げて,現在知られているアジスロマイシン2水和物の融点は133〜135℃であるとした上,本件明細書には,アジスロマイシン2水和物(本件発明に係る結晶)の融点が126℃であると記載されており,上記133〜135℃と合致していないと主張する。 しかしながら,甲第27号証記載のアジスロマイシン2水和物の融点は,被告が作成した製造(輸入)承認申請書の内容から転記されたものであり,日本薬局方の,, 一般試験法に規定された融点測定法により測定されたものであるが この測定法は,,,,, 試料が融点付近において融解する際に ?@湿潤点 ?A収縮点 ?B崩壊点 ?C液化点?D融解終点の経過をたどるうちの融け終わりの温度を融点とし,かつ,極めて精緻。,, なキャピラリー法により測定するとされているものである 他方 本件明細書には実施例に関し 「2水和物は126℃・・・で急に溶融する 」との記載があるが, , 。 これは,化学者の一般的な融点概念に従って湿潤点の温度を捉え,かつ,簡便なホットステージ法により測定したものであり,上記日本薬局方の一般試験法に基づく融点との間に幅が生じたものと考えられる。 なお,上記「ジスロマック錠250mg」に係る製造(輸入)承認申請書添付資料概要(乙第20号証)には,同薬剤に使用されるアジスロマイシン水和物が「133〜135℃で完全に融解した」と記載される一方で 「DSCでは約126℃ ,で脱水及び融解に伴う幅広い吸熱ピークが認められた」との記載がある。 いずれにしても,本件明細書には,アジスロマイシン2水和物の製造方法が明確に示されており,水分量等を測定することにより同定可能であることは上記のとおりである。 第5当裁判所の判断1取消事由1(理由4についての判断の誤り)について( )ア原告は,本件発明は物の発明であるから,本件発明が特許法29条1項31, , 号に当たるとするためには 刊行物に当該物自体が開示されていれば十分であってその製造方法まで当該刊行物に開示されている必要はないとし 「一般に,ある発 ,明を特許法第29条第1項第3号に掲げる刊行物に記載された発明というためには,その発明が記載された刊行物において,当業者が,当該刊行物の記載及び本件優先日当時の技術常識に基づいて,その発明に係る物を製造することができる程度の記載がされていることが必要であり,特に新規な化学物質の発明の場合には,刊行物中で化学物質が十分特定され,刊行物の記載からその化学物質の製造方法を当業者が理解できる程度に発明が開示されていることが必要である」とした審決の判断が,誤りであると主張する。 イしかるところ,特許法29条1項は,同項3号の「特許出願前に・・・頒布された刊行物に記載された発明」については,特許を受けることができないと規定するものであるところ,上記「刊行物」に「物の発明」が記載されているというためには,同刊行物に当該物の発明の構成が開示されていることを要することはいうまでもないが,発明が技術的思想の創作であること(同法2条1項参照)にかんがみれば,当該物の発明の構成が開示されていることに止まらず,当該刊行物に接した当業者が,特別の思考を経ることなく,容易にその技術的思想を実施し得る程度に,当該発明の技術的思想が開示されていることを要するものというべきである。 そして,当該物が,例えば新規の化学物質である場合には,新規の化学物質は,一般に製造方法その他の入手方法を見出すことが困難であることが少なくないから,刊行物にその技術的思想が開示されているというために,製造方法を理解し得る程度の記載があることを要することもあるといわなければならない。 したがって,原告の上記主張が,物の発明について特許法29条1項3号に当たるとするために,刊行物に当該物の製造方法が記載されている必要はおよそないという趣旨であれば,誤りといわざるを得ない。また,原告の引用する東京高裁平成3年10月1日判決は,一対の光学異性体(光学的対掌体)から成るラセミ化合物(ラセミ体)である()α シアノ 3 フェノキシベンジルアルコールが引用例にR,S---開示されている場合に,同ラセミ体を形成する一対の光学異性体の一方である( ) Sα シアノ 3 フェノキシベンジルアルコールの発明が,同引用例に記載されている ---というべきであるとした審決の認定判断を是認したものであるが,ラセミ体については同発明に係る特許出願前から種々のラセミ分割(光学分割)の方法が行われていたことが当業者にとって技術常識であったという事態を踏まえた判断であるから,物の発明について特許法29条1項3号に当たるとするために,刊行物に当該物の製造方法が記載されている必要はおよそないとしたものということはできない。 そこで,以下,甲第2号証に本件発明(結晶性アジスロマイシン2水和物)の構成が開示されているといえるかどうかについて検討し,さらに,必要があれば,発明の技術的思想の開示という見地から,甲第2号証に本件発明の製造方法を理解し得る程度の記載が必要であるかどうかについて検討する。 ウ甲第2号証は,1987年(昭和62年)2月16〜18日に開催された第10回クロアチア化学者会議における発表論文要旨集の抜粋であり 「11-メチ ,ルアザ-10-デオキソ-10-ジヒドロエリスロマイシンA(DCH )の構造3研究」との標題の下に,以下の記載がある。 「エリスロマイシンAの誘導体についての我々の構造研究の続きにおいて,新たな15員環エ(“”) , リスロマイシンAシリーズのサンプルDCH開発研究所 プリバPLIVA で調製 を3室内の条件下でエーテルから再結晶した。得られた結晶は,透明で無色,プリズム状で高硬度であった。フィルム法によって単位セル(格子)のパラメータを,また浮揚法によって化合物の密度を測定した。 , ,,, 結晶学的データ:CH0NMr=748gmol斜方晶系 空間群P2 2 23872122 111a=17,860(4)Å,b=16,889(3)Å,c=14,752Å,D =1,1 O74gcm,Dx=1,177gcm,Z=4。単位セルの強度測定および精度向上は,-3 -3CuKα線を用いたコンピュータ制御の回析計フィリップスPhilips社製PW1100で行われた。直接法(Multan プログラム)により構造決定した。先に得られたデータ-との結果の比較は進行中である 」。 (甲第2号証は,クロアチア語による文献であり,上記摘示に係る日本語訳は原告提出の翻訳文によるものである。被告は,別途,甲第2号証の英訳文(乙第4号証の2)及びその日本語への翻訳文を提出しており,同翻訳文に係る日本語訳は,上記摘示に係る日本語訳と,その末尾2文に相当する部分を「プログラム (MULTANを用いる)直接法による構造決定が進行中である。構造決定が得られたら,これらの結果を今までの結果と比較する予定である 」としている点で実質的に異なる ) 。 。 甲第2号証に「アジスロマイシン2水和物の構成」が開示されているといえるためには,その前提として,甲第2号証の記載上,そこに記載された物(結晶A)がアジスロマイシン2水和物であると特定し得ることが必要であることはいうまでもない。 しかしながら,上記記載によれば,甲第2号証には 「得られた結晶 (結晶A) ,」がアジスロマイシン2水和物であることはもとより,アジスロマイシンの水和物であることについても,明示的な記載がないことは明らかである。 ,, , しかるところ 原告は 結晶Aが結晶性アジスロマイシン2水和物であることは当業者であれば,容易に知ることができるものであり,甲第2号証に結晶性アジスロマイシン2水和物が開示されていたものと主張するので,この主張につき検討する。 まず,甲第2号証の「得られた結晶」等の表現や「CHON 」との化学3872122式により,結晶Aがアジスロマイシンの結晶であると理解し得ることは原告主張のとおりであると認められる。 次いで 原告は 甲第2号証に記載された単位格子パラメータが 1988年 昭 ,, ,(Science ReviewsJ.Chem.Research sB.kamenar 和63年)5月刊行の「(( ) 」所収の)(甲第2号証に係る論文発表者の1人)らによる「エリスロマイシンシリーズ.パート13.10-ジヒドロ-10-デオキソ-11-メチル-11-アザエリスロマイシンAの合成および構造解明」と題する論文(甲第3号証)や,プリバ社の国際出願に係る国際公開パンフレット(2003年(平成15年)9月25日公開。 甲第4号証)に,それぞれ開示されたアジスロマイシン2水和物結晶の単位格子パラメータと一致しているから,甲第2号証に記載された結晶性アジスロマイシンが2水和物であったことは,事実として誤りないと主張する。 しかしながら,当業者であれば甲第2号証の結晶Aが結晶性アジスロマイシン2水和物であると容易に知ることができたか否か,すなわち,甲第2号証に本件発明の構成が開示されているといえるかどうかは,上記のとおり,甲第2号証が特許法29条1項3号所定の刊行物に当たるかどうかという問題に係るものであって,同項の規定上,甲第2号証が同号所定の刊行物に当たるというためには,特許出願前(本件については,本件特許に係る特許出願(以下「本件特許出願」という )に。 ついての優先権主張日である昭和62年7月9日前)における当業者の技術常識ないし技術水準を基礎として,甲第2号証の結晶Aが結晶性アジスロマイシン2水和物であると容易に知ることができたことを要するものというべきところ,上記甲第3,第4号証は,いずれも本件特許出願に係る上記優先権主張日後に刊行された刊Received,4th June 1987Science 行物であるから 甲第3号証にはとの記載があり (「」,「(( ) 」の発行者が,著者より上記論文を受領した日が1ReviewsJ.Chem.Research s )987年(昭和62年)6月4日であることを意味するものと解されるが,当該論文受領日が甲第3号証の発行日となるものでないことは明らかである,これらの。)刊行物に係る知見は,本件特許出願に係る優先権主張日当時の当業者の技術常識ないし技術水準を構成するものではなく,したがって,仮に,これらの刊行物の記載を参酌することにより,当業者において甲第2号証の結晶Aが結晶性アジスロマイ,, シン2水和物であると容易に知ることができたとしても 本件特許出願との関係で甲第2号証が同号所定の刊行物ということはできない。 なお,審決には 「格子定数は結晶性物質の固有の値であるところ,結晶Aの格 ,子定数が,本件優先日後の文献である甲第3号証,甲第4号証,甲第9号証に記載のアジスロマイシン2水和物の結晶の格子定数と一致することからすると ・・・ ,甲第2号証において結晶Aとして得られた物質は実質的には本件発明のアジスロマイシン2水和物であったと推定できる 」との説示があるが(甲第9号証は,19 。 88年(昭和63年)5月刊行の「(( ) 」所収Science ReviewsJ.Chem.Research M )の上記らによる「エリスロマイシンシリーズ.パート13.10-ジヒB.kamenarドロ-10-デオキソ-11-メチル-11-アザエリスロマイシンAの合成および構造解明」と題する論文であって,その内容は上記甲第3号証と同旨であるが,多少詳細である。なお,甲第9号証にも「」との付記があるReceived 4th June 1987が,この日が発行日となるものでないことは甲第3号証と同様である,この説示。)が,本件特許出願との関係で,甲第2号証を同号所定の刊行物に当たると認めたものでないことは 「本件優先日後の文献である甲第3号証,甲第4号証,甲第9号 ,証」との文言に照らし,明白である。 さらに,甲第2号証には「分子量=748」との趣旨の記載( Mr=748g 「mol)があるところ,原告は,甲第2号証に開示された結晶学的データ(単」位格子の大きさなど)を用いて計算により求めた結晶Aの分子量は786.6であるから,当業者は,甲第2号証記載の分子量748が結晶Aの分子量であると考えるものではなく,その差が水2分子分の分子量にほぼ匹敵するものであるから,結晶Aがアジスロマイシン2水和物であることを容易に理解すると主張する。 しかしながら,甲第2号証には,上記「分子量=748」との趣旨の記載の外,「CHON 」との分子式の記載があり,これらは,アジスロマイシン無水3872122物の分子式,分子量に当たるものである。したがって,甲第2号証は,結晶Aがアジスロマイシン無水物であることが記載されているとも読み取れるものといわざるを得ない。もっとも,この点につき,原告は,上記のとおり,甲第2号証に開示された結晶学的データを用いて計算により求めた結晶Aの分子量は786.6であるから,当業者は,甲第2号証記載の分子量748が結晶Aの分子量であると考えるものではないとか,アジスロマイシン無水物は,アモルファス,すなわち結晶構造をもたないものとして存在することが知られており,甲第2号証に結晶が記載されていることと矛盾するから,上記分子量及び分子式の記載は,相俟ってアジスロマ。, イシンを一般的に説明しているにすぎないと理解されると主張する しかしながら甲第2号証において,上記分子式及び分子量は 「結晶学的データ」として,原告 ,の引用する単位格子の大きさ等と並列的に記載されており,甲第2号証の記載の体裁上,単位格子の大きさ等のデータは結晶Aに係るものであるが,分子式及び分子量は結晶Aに係るものでないとすることは不自然であるのみならず,アジスロマイシン無水物がアモルファスであることが,本件特許出願に係る優先権主張日当時,当業者に知られていたと認めるに足りる証拠はない。すなわち,米国特許第4474768号(1984年(昭和59年)10月2日特許)に係る特許公報(甲第7号証)には 「実施例3N-メチル-11-アザ-10-デオキソ-10-ジヒ ,ドロエリスロマイシンA実施例2の粗生成物N-メチル-11-アザ-10-デオキソ-10-ジヒドロエリスロマイシンAデソサミニル-N-オキシド及びN-メチル-11-アザ-10-デオキソ-10-ジヒドロエリスロマイシンAビスN-オキシドから成る(4.36g)を無水エタノール150mlに溶解し,パ(.. ). ールの装置 3 52kg/?u;8 0g10%パラジウム炭素触媒;室温 で125時間水素添加した。触媒を濾別し,濾液を蒸発乾固して無色の泡状物(4.3g)を得た。粗生成物をメチレンクロライド(100ml)に入れ,混合物のpHを8.8に調整しながら,水(100ml)と撹拌した。有機層と水層とを分離した。水層を50mlのメチレンクロライドで2回抽出した。3つの有機抽出液を合わせ,無水硫酸ナトリウムで乾燥し,蒸発乾固して無色の泡状物(3.0g)を得た。全ての試料を11mlの暖かいエタノールに溶解し,溶液がわずかに濁るまで. 水を添加した 一夜放置すると 1 6gの標記生成物が溶液から結晶化した;m 。, .,。 ()。」 p 136℃ 分解 同じ方法で再結晶すると融点が142℃ 分解 に上がった.との記載があり,N-メチル-11-アザ-10-デオキソ-10-ジヒドロエリスロマイシンAに水を添加して結晶(アジスロマイシン1水和物と推定される )。 を得る過程で,試料が「泡状物」となることが示されているが,仮にこの状態の試料がアジスロマイシン無水物であったとしても,最終生成物である結晶を得る過程の「粗生成物」の段階であるにすぎないのであるから,その状態で結晶構造を成さなかったからといって,アジスロマイシン無水物が常に結晶構造をもたないといえるものでないことは明らかである。また 「」と題するウエブサイ ,The Merck Indexトのページ(甲第29号証)には,アジスロマイシン無水物について「物性:無定形固体(」との記載があることが認められるが,同ウエブサイトAmorphous solid )のページが,本件特許出願に係る優先権主張日以前に公表されたと認めるに足りる証拠はない。そして,他に,本件特許出願に係る優先権主張日当時,アジスロマイシン無水物がアモルファスであることが当業者に知られていたことを認めるに足りる証拠はない。 したがって,甲第2号証に記載されたアジスロマイシン無水物の分子式及び分子量が,アジスロマイシンを一般的に説明しているにすぎず,結晶Aに係るものではないと当業者に理解されるとの原告の主張を採用することはできない。 そうすると,仮に,原告主張のとおり,甲第2号証の記載の単位格子の大きさなどのデータから,結晶Aの分子量が786.6と算出されるとすれば,甲第2号証には,結晶Aの結晶学的データとして,相互に食い違う分子量が記載されていることになり,本件特許出願に係る優先権主張日当時の当業者にとって,少なくとも,そのうちの786.6が正しく,748が誤りであると判断する根拠は何ら存在しないから,甲第2号証の結晶学的データに基づき,甲第2号証に結晶性アジスロマイシン2水和物が開示されていたものと認めることはできない。 エところで,上記のとおり,甲第2号証に,結晶Aがアジスロマイシン2水和物であることについて明示的な記載がなく,また,記載された結晶学的データからも結晶Aがアジスロマイシン2水和物であることが特定されないとしても,本件特許出願に係る優先権主張日当時における当業者の技術常識ないし技術水準に基づいて,甲第2号証の結晶Aの製造方法に関する記載から実際に結晶Aを製造することが可能であり(すなわち,甲第2号証の結晶Aの製造方法が追試可能であり ,か)つ,その結晶Aが現時点における客観的な資料に基づき,アジスロマイシン2水和物と認められるのであれば,甲第2号証は,本件特許出願に係る優先権主張日当時において,たとえその名称や化学構造が不明であれ,製造方法によりアジスロマイシン2水和物という物そのものを特定していたということができる。 そこで,まず,本件特許出願に係る優先権主張日当時における当業者の技術常識ないし技術水準に基づき,甲第2号証の結晶Aの製造方法に関する記載から実際に結晶Aを製造することが可能であるか否かにつき検討するとともに,併せて,甲第5号証(単結晶化の具体的条件は甲第20号証)記載の試験が,甲第2号証記載の結晶Aの製造方法についての追試といえるか否かにつき検討する。 前記甲第2号証の記載のうち,結晶Aの製造方法に係るのは 「新たな15員環 ,エリスロマイシンAシリーズのサンプルDCH (開発研究所“プリバPLIVA3”で調製)を,室内の条件下でエーテルから再結晶した 」との記載であり,この 。 ほかに,甲第2号証の標題に「11-メチルアザ-10-デオキソ-10-ジヒドロエリスロマイシンA(DCH )の構造研究」との記載があるから,結晶Aは,311-メチルアザ-10-デオキソ-10-ジヒドロエリスロマイシンA(アジスロマイシン)の化学構造を有し,開発研究所「プリバ」で調製した「サンプルDCH 」を 「室内の条件下」で「エーテルから再結晶」して製造されることが理解さ3 ,れる。 ,,「」, しかしながら 甲第2号証には 原料物質である サンプルDCHについて3その製造方法や入手方法,水和状態などの記載がなく,本件特許出願に係る優先権主張日当時,当業者がこれらの点を技術常識として知悉していたことを認めるに足。,,「」, りる証拠もない なお 甲第5号証の試験は 原料物質を FJ001粉末 とし原告は,これがスペイン・エルクロス社製のアジスロマイシン1水和物であると主,,「」 。 張するが これがサンプルDCHと同等のものと認めるに足りる証拠もない3この点につき,原告は,甲第2号証に記載されている操作方法は,結晶物を再度結晶化することを意味する広義の「再結晶」であるものの,単結晶でなければなし得ないX線解析(格子定数の解明)を行っているから,行為としては「単結晶化」を行ったものであるところ 「単結晶化」を含む再結晶操作においては,出発物質 ,である結晶物をエーテルの溶媒に溶解した時点で,溶液中のアジスロマイシンは,出発物質の結晶構造から解放され,均一分散された単なる分子として存在することとなるから,再結晶に当たって,出発物質の製造方法及び元の結晶形が再結晶化後の結晶構造に影響を与えることはなく,DCH の製造方法や入手方法は何ら問題 3とならないと主張し,また,DCH が公知の結晶物,すなわち,アジスロマイシ 3ン1水和物であろうことは明白であるとも主張する。 しかしながら,1963年(昭和38年)9月15日縮刷版第1刷発行の化学大「」(),「」, 辞典編集委員会編 化学大辞典3乙第6号証 には再結晶 との用語につき「結晶性物質を適当な溶媒を使って精製する一方法.不純物を含む結晶を溶媒に溶かし,ある温度t で飽和溶液をつくり,これをt より低い温度t まで冷却する2 2 1と,t とt との溶解度の差に相当する量の溶質が析出する.この沈殿をロ過すれ 21ば,t で飽和に達していない不純物は溶液中に残るから結晶の精製ができる 」と 1 .の記載があるところ,この記載において,再結晶前の物質と再結晶後の物質とが同じものとされていることは明らかであり,かつ,同文献が一般的な化学辞典であることにかんがみて,このことは,本件特許出願に係る優先権主張日当時における当,() 業者の技術常識であったものと認められるから 再結晶に係る出発物質 原料物質が,再結晶化後の結晶構造に影響を与えることはないとする原告の上記主張を採用することはできない。原告は,その主張の前提として,甲第2号証に記載されている操作方法は,結晶物を再度結晶化することを意味する広義の「再結晶」であるものの,行為としては「単結晶化」を行ったものであるとするところ,単結晶化という趣旨で「再結晶」との用語を用いる例がないとはいえないが(例えば,特開昭63-112584号公報(甲第21号証の2)はその趣旨で用いていると認められる,甲第2号証の記載における「再結晶」の用語をそのような趣旨に限定する根 。)拠はない。 ,,「」 「」 さらに 甲第2号証には DCH を 室内の条件下 で エーテルから再結晶3して結晶Aが製造される過程で,水を添加する旨の記載も示唆もないところ,そう, ,, であれば 原料物質のDCH がアジスロマイシン無水物であれ 1水和物であれ3,, 再結晶後の結晶がアジスロマイシン2水和物となるような試験は そのこと自体で甲第2号証記載の製造方法の正確な追試ということはできない。換言すれば,仮に甲第2号証において,原料物質のDCH がアジスロマイシン無水物又は1水和物 3を意味し,再結晶後の結晶Aがアジスロマイシン2水和物を意味しているものとすれば 「室内の条件下でエーテルから再結晶した」との記載は,少なくとも水の添 ,加について記載も示唆もない点において不完全であって,その追試は不可能といわざるを得ない。 この点につき,原告は,単結晶を調製する場合 「室温の条件下でエーテルから ,再結晶した」との記載から,通常,溶液をオープン系(空気と接触可能な環境)で長時間(数日間)静置すると理解され,吸湿性の高いエーテル溶液状態で何日間も放置すれば,水含有量の多い原料の使用,水含有量の多いエーテルの使用,或いは高湿度環境下での再結晶操作などの特殊な条件下でなくとも,アジスロマイシンの物性上,必然的に水分子を取り込み,2水和物が生成すると主張する。また,甲第5号証の試験は,気温25℃,湿度92%の環境下で,5バイアル瓶に「FJmL001粉末」を入れ,ジエチルエーテルを加えて撹拌溶解した後,当該5バイ mLmLアル瓶にパラフィルムを被せるものの そのフィルムには針で穴を空け この5 , ,バイアル瓶を15バイアル瓶中に入れて蓋をし,20℃にセットしたプロコンmL低温恒温器に8日間静置する方法を採用している(甲第20号証 。)しかしながら,当該主張及び甲第5号証の試験は,要するに,再結晶操作を,溶媒であるエーテルが水分を十分に吸収するような環境において行うというものであり,結果的に水含有量の多いエーテルを使用したというのと変わらず,実質的に水を添加するということに等しいというべきであるが,本件特許出願に係る優先権主張日当時における当業者が,甲第2号証の「室温の条件下でエーテルから再結晶した」との記載に基づき追試を行う際に,技術常識上,そのような環境を選択するものと認めるに足りる証拠はない。 そうすると,本件特許出願に係る優先権主張日当時における当業者の技術常識ないし技術水準に基づいて,甲第2号証の結晶Aの製造方法に関する記載から実際に結晶Aを製造することが可能である(甲第2号証の結晶Aの製造方法が追試可能である)ということはできず,甲第5号証の試験を,甲第2号証記載の結晶Aの製造方法についての追試と認めることもできないから,結晶Aが現時点における客観的な資料に基づき,アジスロマイシン2水和物と認められるか否かにつき判断するまでもなく,甲第2号証が,本件特許出願に係る優先権主張日当時において,製造方法によりアジスロマイシン2水和物という物そのものを特定していたと認めることもできない。 オ以上によれば,甲第2号証には,その記載上,アジスロマイシン2水和物と特定し得る物が記載されているとはいえず,本件発明の構成が開示されているということはできない。したがって,発明の技術的思想の開示という見地から,甲第2号証に,本件発明の製造方法を理解し得る程度の記載がされていることが必要であるかどうかについて判断するまでもなく,本件発明との関係で,甲第2号証を特許法29条1項3号の刊行物に当たると認めることはできず,審決の理由4についての判断に,原告主張の誤りがあるということはできない。 2取消事由2(理由5についての判断の誤り)について原告は,本件発明が甲第2号証又は甲第2号証及び甲第7号証の記載から当業者が容易に発明することができたということはできないとした審決の判断に対し,審決がその判断の根拠とした再結晶操作の前後で異なる水和物の結晶が得られることは想定し難いとの点は誤りであり,また,ことさらに水が混入するような条件を採用しなくとも,アジスロマイシン1水和物の再結晶操作によって2水和物が得られるとして,審決の上記判断は誤りであると主張する。 しかしながら,甲第7号証記載の製造法によって得られるアジスロマイシン1水和物の結晶の精製手段として,甲第2号証に記載された「室内の条件下でエーテルから再結晶」する方法を採用し,結果としてアジスロマイシン2水和物の結晶が得られたとすれば,甲第2号証記載の方法を実施する過程で水分が混入したということにほかならないが,本件特許出願に係る優先権主張日当時における当業者が,甲第7号証記載の製造法によって得られるアジスロマイシン1水和物の結晶の精製手段として,甲第2号証に記載された方法を採用する場合に,水分が混入するような条件設定をするものと認めることはできない。 すなわち,甲第2号証の記載において,結晶Aがアジスロマイシン2水和物であると特定することはできないのみならず,甲第2号証には結晶Aが製造される過程で 水を添加する旨の記載も示唆もないことは 上記1のとおりである 他方結 , ,。,「晶性物質を適当な溶媒を使って精製する一方法」である「再結晶」においては,再結晶前の物質と再結晶後の物質とが同じものであることが,当業者の技術常識に沿うものであったと認められることも,上記1のとおりであり,そうであれば,当業者が,甲第7号証記載の製造法によって得られるアジスロマイシン1水和物の結晶,「 」 の精製手段として 甲第2号証に記載された 室内の条件下でエーテルから再結晶する方法を採用した場合に,その過程であえて水分を混入添加しようとする契機は全く存在しない。 なお,原告は,ことさらに水が混入するような条件を採用しなくとも,アジスロマイシン1水和物の再結晶操作によって2水和物が得られると主張するが,当該主張は,甲第2号証の「室温の条件下でエーテルから再結晶した」との記載を 「溶,液をオープン系(空気と接触可能な環境)で長時間(数日間)静置」し 「吸湿性 ,の高いエーテル溶液状態で何日間も放置」するという方法であって,具体的には,甲第5号証の試験のような環境と理解することを前提とするものであるところ,この前提が失当であることは上記1のとおりである。 したがって,甲第2号証と甲第7号証とを組み合わせたとしても,本件特許出願に係る優先権主張日当時の当業者において,アジスロマイシン2水和物を得ること, 。 が容易であったということはできず 審決の理由5の判断に原告主張の誤りはない3取消事由3(理由1の(エ)についての判断の誤り)について原告は,本件明細書に記載された結晶は,アジスロマイシン1水和物と区別することができないから,審決が,本件明細書が記載不備ではないとした判断は誤りであると主張するので,以下,本件明細書に記載された結晶は,アジスロマイシン1水和物と区別することができないとする原告の主張につき検討する。 ( )各種の相対湿度における水含有量の変動値について1本件明細書には,原告主張のとおり,アジスロマイシン2水和物及び1水和物の各吸湿性に関し,各種の相対湿度における水含有量の変動値として,以下のとおり記載されている(3頁右欄11〜21行,4頁左欄3〜右欄5行 。)アアジスロマイシン2水和物(水含有量4.1%)?@相対湿度33%速やかに水含有量4.6%となる (4日間一定) 。 ?A相対湿度75%速やかに水含有量4.6%となる (4日間一定) 。 ?B相対湿度100%水含有量約5.2%となる (3日間一定) 。 相対湿度18%では,徐々に水分を失い,水含有量は,4日で2.5%,12日で1.1%となった。 イアジスロマイシン1水和物(水含有量3.2%)?@相対湿度33%水含有量5.6%に急上昇(3日間安定)?A相対湿度75%水含有量6.6%に急上昇(3日間維持)?B相対湿度100%水含有量7.2%に急上昇(3日間維持)相対湿度18%では水分を失い,24時間で2.35%,14日で2.26%となった。 しかるところ,原告は,相対湿度33%以上で,アジスロマイシン2水和物の水含有量が,1水和物と同様,増加する傾向を示しており,2水和物の水含有量と1水和物の水含有量との差がわずかで,水含有量自体が数%の値に止まっているとと, , もに 水含有量が安定である期間も2水和物と1水和物とでさほど変わらないから測定誤差等を考慮すれば,得られたアジスロマイシンの結晶の水含有量が判明しても,その結晶が2水和物であるのか1水和物であるのかを判別することは困難であると主張する。 しかしながら 審決は 各種の相対湿度における水含有量の値の変動に関し生 ,, ,「( )(.) 成物 判決注:本件発明であるアジスロマイシン2水和物 の水含有量 4 6%が相対湿度33%,75%で少なくとも4日間一定に維持され,この水含有量の状態が安定である「各種の相対湿度における2水和物の水含有量の変動についての 」,分析結果は,原料である1水和物が相対湿度18%では論理的水分含有量を維持し安定であるが,相対湿度33%,75%で水含有量が急上昇し吸湿性であるのとは, , (.) 対照的に 2水和物は相対湿度33% 75%の状態で論理的水含有量 4 6%を維持し,本質的に非吸湿性であり安定であること,すなわちアジスロマイシン製剤の製造時の環境湿度において非吸湿性という有利な性質を持つことを示すものである 」と説示するものであり,この説示が,相対湿度33%,75%のそれぞれ 。 において,アジスロマイシン1水和物が論理的水含有量(理論値)を超えて吸湿するのに対し,2水和物は理論値(4.6%)を維持する点において,両者は異なった特性を示すことを指摘するものであることは明らかである。そして,審決のこの説示のとおり,アジスロマイシン2水和物と1水和物との水含有量の変動傾向は明瞭な差異を示すものであり,他方,たとえ,測定誤差があり得るとはいえ,このような変動傾向の差異を捉えることができないと認めるに足りる証拠はないから,原告の上記主張は失当であって,これを採用することはできない。 ( )アジスロマイシン2水和物の融点について2本件明細書には 「2水和物は126℃・・・で急に溶融する(3頁左欄43 , 。」〜44行)との記載があるところ,原告は,甲第27号証の記載を挙げて,現在知られているアジスロマイシン2水和物の融点は133〜135℃であり,本件明細書の記載はこれと合致していないから,誤りであると主張する。 甲第27号証は,ファイザー株式会社が販売するアジスロマイシン水和物錠であ「 」(), る ジスロマック錠250mg に係る添付文書 2006年10月改訂 であり3872212 2 その「有効成分に関する理化学的知見」欄に 「分子式:CHN O・2H ,O「融点:133〜135℃」との各記載(4頁右欄27行,29行)があるか 」,ら,ジスロマック錠250mgはアジスロマイシン2水和物を有効成分とするものであり,その融点は133〜135℃であることが示されているものということができる。 しかしながら 「第十五改正日本薬局方解説書 (乙第18号証)に 「比較的純 , 」,度が高く,粉末状に試料を調製できる物質に適用する」融点測定法について 「1,分間に約3℃上昇するように加熱して温度を上げ,予想した融点より約5℃低い温度から1分間に1℃上昇するように加熱を続ける.試料が毛細管内で液化して,固体を全く認めなくなったときの温度の示度を読みとり,融点とする(B380.」頁27〜31行)との記載があり,さらにこの部分の記載の末尾に付された注(注13)に 「試料は融点付近において( )湿潤点 () ( )収縮点 ,1beginning of melting2() ( )崩壊点 () ( )液化点 () ( )融解終 sintering point3collapse point4meniscus point5点 ()の経過をたどって融解するが,このうちどの温度を融点とする end of meltingかは各国の薬局方で相異がある 」との記載があることに照らせば,上記甲第27 。 号証記載のアジスロマイシン2水和物の融点(133〜135℃)は,日本薬局方に基づいた融解終点の温度であると認められ,これは,ファイザー製薬株式会社作成のジスロマック錠250mg等に係る「製造(輸入)承認申請書添付資料概要」(乙第20号証)に 「アジスロマイシン水和物5ロットの融点を測定した結果, ,133〜135℃で完全に融解した 」との記載があることとも符合する。 。 他方,本件明細書の上記「2水和物は126℃・・・で急に溶融する 」との記 。 載からは,126℃未満においては,溶融現象が全く開始されていないことが窺われるから,当該記載に係る温度は,融解の過程の最初の段階,すなわち湿潤点であるものと推認され,そうであれば,本件明細書に記載されたアジスロマイシン2水和物の溶融温度が,甲第27号証記載の融点より多少低くとも,その記載が誤りであるということはできない。 もっとも,この点につき,被告が,本件明細書の記載は「化学者の一般的な融点概念に従って」湿潤点の温度を捉えたと主張したところ,原告は,上記「第十五改正日本薬局方解説書」に「USP(判決注:米国薬局方)では融点の代わりに融解範囲 を規定しており,これは一般化学者の持っているmelting range or temperature融点概念にほぼ一致する (B385頁6〜8行)との記載があり,また,米国薬 」局方が提供するアジスロマイシンの標準品(アジスロマイシン2水和物)の製品安全データシート(甲第54号証)に,その物理的・化学的性質として,融解範囲()が133〜135℃であると記載されている()ことMelting Range SECTION9を捉えて,一般的な化学者の融点概念に基づいて測定した場合に,アジスロマイシン2水和物の融点が126℃となることはないなどと主張する。 しかしながら,上記甲第54号証記載の融解範囲は,上記甲第27号証記載のアジスロマイシン2水和物の融点と一致しており,この融点が日本薬局方の規定に基づく「融点 ,すなわち融解終点と認められることは上記のとおりであるから,要 」するに,上記甲第54号証は,アジスロマイシン2水和物の融解終点を融解範囲として捉えたものであることが認められる。そして,これが「一般化学者の持っている融点概念にほぼ一致する」ものであるものと,すなわち,湿潤点が「化学者の一般的な融点概念」であるとする被告の認識が誤っているものと仮定しても,それとは関わりなく本件明細書に記載されたアジスロマイシン2水和物の溶融温度は湿潤点であると推認されることは上記のとおりであり,そうであれば,本件明細書のアジスロマイシン2水和物の溶融温度の記載が誤りとはいえないことに変わりはない湿潤点が融点概念に含まれることは第十五改正日本薬局方解説書 の上記 注 ( ,「 」(13)の記載に照らして明らかであり,たとえ,それが「化学者の一般的な融点概念」であるとする認識が誤っていたとしても,湿潤点を融点として捉えること自体が誤りであるとはいえない。。)したがって,アジスロマイシン2水和物の融点についての本件明細書の記載が誤りであるとする原告の主張は,これを採用することができない。 ( )上記( )のとおり,本件明細書のアジスロマイシン2水和物の融点について32の記載に誤りがあるとはいえず,また,上記( )のとおり,アジスロマイシン2水 1,, 和物と1水和物との水含有量の変動傾向は明瞭な差異を示すものであるから 仮に原告主張のとおり,熱重量分析によっては,2水和物と1水和物とを判別すること,,( ) ができないとしても 本件明細書には 本件発明 アジスロマイシン2水和物結晶, 。, が 1水和物と区別し得るように記載されているということができる したがって本件明細書に原告主張の不備があるということはできず,その旨の審決の判断に誤りはない。 4結論以上によれば,原告の主張はすべて理由がなく,他に審決を取り消すべき事由は見当たらないから,原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 田中信義 |
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裁判官 | 石原直樹 |
裁判官 | 杜下弘記 |