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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18ワ29554特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成17ネ10004特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成17ネ10080特許権侵害排除等請求控訴事件 判例 特許
平成18ネ10051特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成19ネ10036特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  慣用技術 /  公知技術 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  実質的同一 /  技術的範囲 /  同一の発明 /  技術的手段 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  実質的に同一 /  実施料相当額 /  クレーム /  ライセンス /  出願経過 /  参酌 /  技術的意義 /  実質的同一性 /  容易に想到(容易想到性) /  禁反言 /  特許発明 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  侵害 /  損害額 /  実施料 /  不法行為(民法709条) /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 /  要旨変更 / 
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事件 平成 19年 (ネ) 10024号 損害賠償請求控訴事件
控訴人(附帯被控訴人。以下「被告」という。) 王子ネピア株式会社
同訴訟代理人弁護士辻居幸一
同 富岡英次
同 渡辺光
同 竹内麻子
同 高石秀樹
同 外村玲子
同 奥村直樹
同補佐人弁理士平山孝二
被控訴人(附帯控訴人。以下「原告」という。) 大王製紙株式会社
同訴訟代理人弁護士小池豊
同 櫻井彰人
同訴訟代理人弁理士永井義久
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/04/17
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1被告の本件控訴を棄却する。
2原告の附帯控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
(1)被告は,原告に対し,金1億0685万5000円及び内金6932万8000円に対する平成17年3月1日から,内金3176万- 2 -6000円に対する平成18年10月1日から,内金576万1000円に対する平成19年1月17日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)原告のその余の請求を棄却する。
(3)訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを3分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
3この判決は,2(1)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
第1当事者の求めた裁判1原告(1)原判決中,原告敗訴部分を取り消す。
(2)被告は,原告に対し,金3億0530万円及び内金1億9808万円に対する平成17年3月1日から,内金9076万円に対する平成18年10月1日から,内金1646万円に対する平成19年1月17日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)附帯控訴費用は,被告の負担とする。
(4)仮執行宣言2被告(1)原判決を取り消す。
(2)原告の請求を棄却する。
(3)訴訟費用は第1,2審とも原告の負担とする。
第2事案の概要原告は,「使い捨て紙おむつ」の発明に係る特許権(特許番号第1970113号。以下「本件特許権」という。)の特許権者である。
原告は,被告が平成14年5月から製造販売している使い捨て紙おむつ(以下「被告製品」という。)が本件特許権の特許請求の範囲の請求項1記載の発明(以下「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属し,被告製品の製造販売が本件特許権を侵害すると主張して,被告に対し,これによる損害(特許法102条3項実施料相当額)として2億9700万円及び内金2億円に対する平成17年3月1日から,内金9700万円に対する平成18年10月1日から各支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。これに対し,被告は,被告製品は本件特許発明技術的範囲に属さず,また,本件特許権は進歩性欠如等の無効理由が存するので特許法104条の3第1項により権利行使が許されないなどと主張して,これを争った。
原判決は,被告製品が本件特許発明技術的範囲に属し,かつ本件特許は特許法104条の3第1項の無効理由がないとして,原告の請求のうち1億0109万4000円及び遅延損害金を求める限度で認容した。これに対して,被告は,これを不服として,控訴を提起して原告の請求の棄却を求め,原告も附帯控訴を提起して,3億0530万円及び遅延損害金を請求すべく,請求の拡張をした。
前提となる事実及び本件における争点は,次のとおり付加・訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の「第2事案の概要」の「1前提となる事実」,「2本件における争点」のとおりであるから,これを引用する。
なお,以下,略語については,当裁判所も原判決と同一のものを用いる。
1原判決2頁14行目中「進歩性欠如の」を削除する。
2原判決6頁2行目ないし4行目を次のとおり改める。
「(6)無効審判請求及び審決取消訴訟の提起被告は,平成18年10月17日及び平成19年3月9日,本件特許発明についてそれぞれ無効審判請求をしたところ,特許庁はこれらを無効2006-80207号事件及び無効2007-800048号事件として審理した結果,前者につき,平成19年5月2日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をしたので,被告は,当裁判所に対し,審決取消訴訟を提起し,当裁判所に係属している(甲60,乙96,106)。」3原判決6頁6行目中「遅くとも平成14年5月から平成18年9月までの間,」を「平成14年5月1日から平成19年1月16日までの間,」に改める。
4原判決6頁18行目中「(争点3)」を「(乙15及び乙16による進歩性の欠如,争点3)」に改める。
5原判決6頁19行目及び21行目の「仮に,争点2-1に関する原告の主張を前提とした場合,」をいずれも削除する。
6原判決6頁22行目「(争点4-2)」を「(乙38又は乙38及び乙15による進歩性の欠如,争点4-2)」に改める。
7原判決6頁22行目末尾の後に行を改めて,次のとおり加える。
「(7)本件特許発明が,平成5年法律第26号による改正前の特許法40条,41条(以下,「旧特許法40条,41条」という場合がある。)所定の要旨の変更に該当する結果,特許法29条の規定に違反しているか(争点5)(8)本件特許発明が,平成2年法律第30号による改正前の特許法36条3項及び昭和62年法律第27号による改正前の特許法36条4項(以下,「旧特許法36条3項,4項」という場合がある。)に違反しているか(争点6)(9)本件特許発明が,特許法29条2項の規定に違反しているか(乙116の4又は乙116の4及び乙128による進歩性欠如,争点7)(10)本件特許発明が,特許法29条2項の規定に違反しているか(乙15及び周知・慣用技術による進歩性欠如,争点8)」8原判決6頁23行目中「(7)損害の額(争点5)」を「(11)損害の額(争点9)」と改める。
第3争点に関する当事者の主張次のとおり訂正付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。
1原判決の訂正付加(1)原判決18頁3行目中「弾性帯」を「吸収体」に改める。
(2)原判決28頁4行目及び6行目中「被告物件目録」を「別紙物件目録2」に改める。
(3)原判決28頁14行目中「本件特許発明が」の後に「乙15及び乙16により」を加える。
(4)原判決33頁17行目中「引用発明1との」の後に「一致点及び」を加える。
(5)原判決45頁3行目中「被告」の後に「の」を加える。
(6)原判決50頁11行目中「仮に,争点2-1に関する原告の主張を前提とした場合,」を削除する。
(7)原判決57頁5行目中「仮に,争点2-1に関する原告の主張を前提とした場合,」を削除し,同頁6行目中「特許発明が,」の後に「乙38又は乙38及び乙15により」を加える。
(8)原判決71頁14行目の末尾に行を改めて,次のとおり加える。
「7争点5(本件特許発明は,旧特許法40条,41条所定の要旨の変更に該当し,特許法29条に違反するか)について(1)被告の主張ア(ア)本件出願当初明細書に記載されたホットメルト薄膜は,非透水性のプラスチックフィルムのように,吸収体端部から体液がトップシートを厚さ方向に通り抜けるのを阻止するのであり,体液がトップシートの中を長手方向に伝わっておむつの端部に至ることを阻止するものではない。そして,本件第3手続補正書による補正は,?@ホットメルト薄膜が,トップシート中を体液が長手方向に伝わることによる漏れを防止すること,?Aこのような漏れ防止が「体液の前後漏れ防止」であることを追加するものであるが,これは新たに追加された事項であり,この補正により,ホットメルト接着剤がトップシートの表面のみならずトップシートの肌側面にまで入り込み,トップシート中の体液の流れが防止されるという,本件出願当初明細書に記載されていない技術的事項を本件特許発明が含むことになった。したがって,本件第3手続補正書による補正は,本件出願当初明細書に記載されていなかった技術的事項を本件特許発明の構成とするものであって,本件出願当初明細書の要旨を変更するものである。
(イ)原告は,トップシートにホットメルト接着剤を塗布し,接着剤の接着力を発揮させるためには,接着剤が固化しない間に圧着するものであることは当然であり,その間に不織布の繊維組織内にホットメルト接着剤が含浸されるものであることは,乙132により本件特許発明時において当業者において自明の事項であったと主張するが,以下のとおり失当である。
a乙132の記載によると,縦方向対向端部からの漏れを防止するための構成として,表面シートと裏面シートの間にホットメルト接着剤を塗布して両者を接合させた態様と,塗布した接着剤が固化しない間に縦方向対向端部を圧着して表面シートの組織内に接着剤を含浸させた態様との,少なくとも2つの態様があることが理解できる。そして,おむつの構成が後者の態様を採るためには,塗布した接着剤が固化しない間に縦方向対向端部を圧着するという,前者の態様には存在しない新たな手段を必要とする。他方,本件出願当初明細書には,ホットメルト薄膜の形成について,「さらに,吸収体3に吸収された体液が長手方向両端から漏れることを防止するために,ホットメルト薄膜7が,吸収体の端部からトップシート1と発泡シート6との間に跨って設けられており,このホットメルト薄膜7は発泡シート6をトップシート1に固着することも兼ねている。ホットメルト薄膜7に代えて,非透水性のプラスチックフィルムを使用することも可能である。」(乙107,2頁左下欄5〜12行)とのみ記載され,ホットメルト薄膜を形成する具体的手段は全く記載されていない。そうすると,乙132の記載を知る当業者が本件出願当初明細書等の記載に基づいておむつを製造する場合,トップシートにホットメルト接着剤を塗布することによりホットメルト薄膜を設けようとするのが通常であり,その上さらにホットメルト接着剤が固化しない間に圧着して含浸させるというさらなる手段を採ろうとはしないはずである。
b乙132のホットメルト接着剤は,プラスチックフィルムである液不透過性裏面シートと不織布である液透過性表面シートの間にあり,圧着した場合,裏面シート側には含浸されないので,不織布表面シートに含浸される。これに対し,本件特許発明のようにホットメルト薄膜が綿状パルプを主体とする吸収体とトップシートの間に存在する場合,圧着しても必ずしもトップシートだけに含浸されるわけではなく,吸収体の綿状パルプ中及び吸収体表面にも含浸される。そして,本件出願当初明細書の「ホットメルト薄膜7に代えて,非透水性のプラスチックフィルムを使用することも可能である。」(乙107,2頁左下欄11〜12行)の記載からすれば,プラスチックフィルムをトップシートに含浸させることは不可能であり,本件出願当初明細書の記載とホットメルト薄膜をトップシートに含浸させるという技術事項とは矛盾する。
c本件特許発明のおむつにおけるホットメルト薄膜は,トップシートのバックシートがわ面において形成され,体液吸収体端部上と発泡シート上とに跨ってその両者に固着されているのであるから,トップシートに塗布されたホットメルト接着剤が固化しない間に圧着されたとしても,ホットメルト接着剤がトップシートに含浸されることなく,発泡シートに含浸されることがある。何故なら,トップシートとして通常使用される不織布より目の粗い発泡シートが使用される場合には,上記圧着によりホットメルト接着剤は発泡シートに含浸され,トップシートに含浸されないからである。
イ本件第3手続補正書による補正は,実施例2を追加することにより本件出願当初明細書に記載されたホットメルト薄膜の範囲を拡大するものである。
本件出願当初明細書に「ホットメルト薄膜」として記載されていたものは,「非透水性のプラスチックフィルム」のような非透水性膜により体液の前後漏れを防止するものであるのに対し,実施例2の追加により210cc程度の量を超える人口尿により端部漏れが生じるホットメルト薄膜でもこれを含むように拡大されたのであるから,本件出願当初明細書に記載された事項の範囲内においてするものではなく,本件出願当初明細書の要旨を変更するものである。
ウ本件第4手続補正書(乙9)及び本件第6手続補正書(乙11)により特許請求の範囲が補正されたことによって,実施例2に用いられた紙おむつの構造が,シール線部ないしシール領域のない紙おむつから,シール線部ないしシール領域を有する紙おむつへと変更されたものである。その結果,シール線部ないしシール領域を具備する紙おむつにおいても,実施例2のように端部漏れを生ずることを示すことにより,本件特許発明の「体液の前後漏れ防止」の技術的意義変更されたから,本件出願当初明細書の要旨を変更するものである。
エ以上のとおり,旧特許法40条の規定により,本件特許出願は,早くとも平成3年2月12日にしたものとみなされる。
そうすると,本件特許発明は,平成3年2月12日以前に頒布された刊行物である本件特許出願の公開公報(乙107)に記載された発明であるか,又は乙107及び乙108(特開昭63-99301号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条1項又は同条2項の規定に違反して特許されたものであり,平成5年法律第26号による改正前の特許法123条1項1号(以下「平成5年改正前の特許法123条1項1号」という。)の規定により,無効とすべきである。
すなわち,本件特許発明は,乙107に記載されたものであり,乙108には,透水性トップシートと非透水性バックシートとの間に体液吸収体を介在させ,前記トップシートのバックシートがわ面において,体液吸収体端部上とおむつの長手方向端部とに跨ってその両者に固着されるホットメルト薄膜を形成した使い捨ておむつにおいて,該ホットメルト薄膜がトップシートに溶融含浸されると,それによってトップシートを伝って体液が流れることが防止され,結果として前後漏れが防止されることが記載されている。
そうすると,乙108の上記記載ないし示唆に従って乙107に記載された使い捨て紙おむつで使用するホットメルト薄膜をトップシートのバックシートがわ面において形成する場合に,トップシートにホットメルト接着剤を溶融含浸させて,トップシートを伝って体液が流れ拡散することを防止し,結果として体液の前後漏れを防止することは,当業者が容易に行い得ることである。
(2)原告の反論ア被告の主張アに対し(ア)「ホットメルト薄膜」の文言は,本件出願当初明細書の特許請求の範囲に記載され,補正によって「ホットメルト薄膜」なる文言が補正されたわけではない。
(イ)本件出願当初明細書における,本件特許発明の目的及び作用効果は,体液の前後漏れ防止であり,補正により,本件特許発明の目的及び作用効果は変更されていない。
(ウ)本件出願当初明細書に,「ホットメルト薄膜に代えて,非透水性プラスチックフィルムを使用することも可能である」との記載があるが,これは「ホットメルト薄膜」に代わる1実施例を記載したものにすぎず,「ホットメルト薄膜」が「非透水性プラスチックフィルム」と同等であることを述べたものではない。
(エ)実願昭58-91439号(乙132)において,使い捨ておむつ体液吸収物品において,表面シートと裏面シートとを接合するホットメルト接着剤として「液透過性表面シートの組織内に含浸して疎水性化しているのが好ましい。このようにするためには,塗布した接着剤が固化しない間に縦方向端部7を圧着すればよい」(4頁17行〜20行)と記載されているように,トップシートにホットメルト接着剤を塗布し,連続的に高速で移動するラインで製造する場合,接着剤の接着力を発揮させるためには,接着剤が固化しない間に圧着するものであることは当然であり,その間に不織布の繊維組織内にホットメルト接着剤が含浸されるものであることは本件特許発明時において当業者において自明の事項であった。しかも,本件出願当初明細書に,「他方,第3図例は,ホットメルト薄膜7を,発泡シート6と吸収体3の端との間でバックシート2に紙おむつの巾方向に連続的に溶接させてシール線部9を形成し,このシール線部9で体液の前後漏れ防止効果を高めたものである。」と記載され,シール線部9を形成しない場合においても,トップシートのバックシートがわ面において,固着されるホットメルト薄膜が前後漏れ防止効果を示すことが明らかにされている。よって,被告の上記主張は失当である。
イ被告の主張イに対し実施例2は,ホットメルト薄膜の有無によって前後漏れ防止効果の相違を記載したものであって,人工尿の「210cc」の注入量自体に意味があるのではない。吸収体の人工尿の受入量は,使用する吸収体の量や材料等により変化することや,漏れが生じ始める人工尿の量も変化することも明らかである。よって,実施例2の追加は,明細書の要旨の変更に当たらない。
ウ被告の主張ウに対し本件第3手続補正書で補正された特許請求の範囲に記載の発明が,体液の前後漏れ防止用シール領域を有しない形態のほか,体液の前後漏れ防止用シール領域を有する形態も含むから,実施例2を前者の形態に限定して理解すべき根拠はない。実施例2の記載からそのように解することはできない。本件出願当初明細書には,「他方,第3図例は,ホットメルト薄膜7を,発泡シート6と吸収体3の端との間でバックシート2に紙おむつの巾方向に連続的に溶接させてシール線部9を形成し,このシール線部9で体液の前後漏れ防止効果を高めたものである。」との記載は,体液の前後漏れ防止用シール領域を形成することがより望ましいことが,第3図例のものに対応して実施例2として示されたにすぎない。以上のとおり,実施例2の追加により本件特許発明の体液の前後漏れ防止の技術的意義変更されたとはいえない。
8争点6(本件特許発明が,旧特許法36条3項及び4項に違反しているか)について(1)被告の主張ア本件明細書の発明の詳細な説明には,ホットメルト薄膜がトップシートに浸透するための特別な条件を何ら記載されていない。そうすると,当業者はトップシートにホットメルト薄膜を浸透させることができず,その結果トップシートの中を伝わる体液の流れを防止することができない。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者が容易に本件特許発明実施することができる程度に,その目的,構成及び効果が記載されていないから,本件明細書の詳細な説明の記載は,旧特許法36条3項に規定する要件を満たしていない。
原告は,ホットメルト薄膜がトップシート不織布の繊維組織内に浸透することは乙132により当業者の技術常識であると主張する。
しかし,乙132は「塗布した接着剤が固化しない間に縦方向対向端部7を圧着すればよい。」とのみ記載し,ホットメルト接着剤をトップシートに浸透させるための特別な条件を記載していない。ホットメルト接着剤は,一般に,溶融粘度が2000〜140000cpsまで幅広く,溶融状態から固化するまでの間にその粘度も大きく増加するものであるから(乙116の5),どの程度の溶融粘度を有する接着剤を,どの程度の時間内に,どの程度の圧力を加えることによって,トップシートに浸透させることができるのかについての具体的な指針がなければ,ホットメルト接着剤をトップシートに浸透させることはできない。よって,上記乙132の記載をもって,ホットメルト薄膜トップシート不織布の繊維組織内に浸透することは当業者の技術常識であったとはいえない。
イ本件特許発明の「ホットメルト薄膜」及び「体液の前後漏れ防止用シール領域」の技術的意義は一義的に明らかとはいえないが,これを具体的に示すのは実施例2のみである。しかし,実施例2に用いられたおむつは,「体液の前後漏れ防止用シール領域」を有しない紙おむつ(甲2第2図及び乙107第2図)であるから,本件明細書には,ホットメルト薄膜から成る体液の前後漏れ防止用シール領域についての具体的な記載がないことになる。そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者が容易に本件特許発明実施することができる程度に,その目的,構成及び効果が記載されていないから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,旧特許法36条3項に規定する要件を満たしていない。
ウ本件特許発明は,トップシートの中を伝わる体液の流れを防止し,おむつの両端部からの前後漏れを防止するおむつを提供することが目的であるところ,この目的の達成のためにはホットメルト薄膜接着剤をトップシートに浸透させることが必要な技術的手段である。しかし,本件明細書中の特許請求の範囲には,ホットメルト薄膜接着剤をトップシートに浸透させる技術的手段及びトップシート中の体液の長手方向への伝わりを防止する技術的手段が記載されていないのであるから,発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項が記載されておらず,本件明細書の特許請求の範囲の記載は,旧特許法36条4項に規定する要件を満たしていない。
(2)原告の反論ア被告の主張アに対し乙132のとおり,紙おむつの分野において,当業者が汎用するホットメルト薄膜をトップシートに塗布した場合に,ホットメルト薄膜がトップシート不織布の繊維組織内に浸透することは当業者にとって自明又は技術常識であったから,これを記載することは要しない。
イ被告の主張イに対し実施例2は,本件出願当初明細書の「第3図例は,ホットメルト薄膜7を,発泡シート6と吸収体3の端との間でバックシート2に紙おむつの巾方向に連続的に溶接させてシール線部9を形成し,このシール線部9で体液の前後漏れ防止効果を高めたものである。」との記載及び図3に基づく紙おむつであるから,被告の主張は失当である。
ウ被告の主張ウに対し本件明細書(甲2)は,第1,3,4図にホットメルト薄膜7が,吸収体3と発泡シート6に跨っていることを示し,そのホットメルト薄膜7が体液の前後漏れ防止用シール領域をなしていることを示しているから,本件明細書は旧特許法36条4項の要件を具備している。
9争点7(乙116の4又は乙116の4及び乙128による進歩性欠如)について(1)被告の主張本件特許発明は,乙116の4(特開昭61-232846号公報)及び周知技術又は乙128(特開昭61-275402号公報)に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許発明についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであって,平成5年改正前の特許法123条1項1号に該当するものであるから,特許無効審判において無効とされるべきものである。
ア乙116の4の記載(ア) 「液体透過性の不織トップシートと流体不透過性バックシートとの間に吸収性芯部が配置されており,水不透過性のホットメルト接着剤で不織トップシートの側端部をコーティングすることで耐漏洩性の排泄物遮断層が設けられている,使い捨ておむつ」(請求項4)。
(イ)「ホットメルト接着剤は,…好ましくは少なくとも3ミルの厚さに連続的なフイルムを形成するように,そして全体的にコーテイングされたフイルムに実際上ピンホールが存在しないことを保証するようにコーテイングされる」(4頁右下欄2〜8行)。
(ウ)「排泄物遮断層を有する典型的なおむつは,・・・長手方向の端部は,部分的にまたは全体的に弾力性をもたせてもよい」(6頁左下欄14〜19行)。
(エ)「水不透過性のホットメルト接着剤」は「乳児または失禁症の成人の腰部および胸部に漏洩するのを防ぐために,吸収性芯部の側方端部まで重なり合った遮断層」である(3頁右上欄15行〜末行)。なお,使い捨ておむつを図示した第1A図・第1B図から,ここでいう「側方端部」とは,第1B図の斜線で示された部分を意味することは明らかである(第2A図・第2B図は,生理用ナプキンの図である。4頁左上欄4行〜末行。)。
(オ)「吸収性芯部」は,長手方向において「液体透過性の不織トップシート」及び「流体不透過性バックシート」よりも短いことから,長手方向端部は「吸収性芯部」が存在しない(第1B図)。
イ本件特許発明と乙116の4記載の発明との対比(ア)乙116の4記載の発明の「液体透過性の不織トップシート」,「流体不透過性バックシート」,「吸収性芯部」は,本件特許発明の「透水性トップシート」「非透水性バックシート」「体液吸収体」に,それぞれ相当する。そして,「吸収性芯部」は「液体透過性の不織トップシート」と「流体不透過性バックシート」との間に位置するから(乙116の4,2頁左上欄下から3行〜末行),乙116の4には,「体液吸収体と,透水性トップシートと,非透水性バックシートとを有し,前記透水性トップシートと非透水性バックシートとの間に前記体液吸収体が介在されて」いる構成(構成要件A・?@)が記載されている。
(イ)乙116の4記載の発明は,第1B図に示されているとおり「吸収性芯部は,全体の寸法において僅かに小さい」ところ(5頁右上欄6〜7行),吸収性芯部の長手方向縁より外方に延びて「液体透過性の不織トップシート」と「流体不透過性バックシート」とで構成される部分は,本件特許発明の「フラップ」に相当するから,乙116の4には,構成要件A・?Aのうち「前記体液吸収体の長手方向縁より外方に延びて前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとで構成されるフラップを有する使い捨て紙おむつ」が記載されている。
(ウ) 乙116の4記載の発明において,「液体透過性の不織トップシート」側端部の「流体不透過性バックシート」がわ面には,ピンホールが存在しないことを保証するように「水不透過性のホットメルト接着剤」がコーテイングされており,この「水不透過性のホットメルト接着剤」は「吸収性芯部の側方端部まで重なり合った遮断層」であるから(3頁右上欄15行〜末行),乙116の4には,構成要件Cのうち「体液吸収体端部上…に跨がって,トップシートのバックシートがわ面において,ホットメルト薄膜を形成」する構成が記載されている。
(エ) 乙116の4記載の発明において,「水不透過性のホットメルト接着剤で不織トップシートの側端部をコーテイングすることによって形成された耐漏洩性の排泄物遮断層」は,ホットメルト薄膜を非透水性バックシートに腰回り方向に沿って接合することで形成された「体液の前後漏れ防止用シール領域」に相当するから,乙116の4には,構成要件Dのうち「ホットメルト薄膜が前記非透水性バックシートに前記腰回り方向に沿って接合され,体液の前後漏れ防止用シール領域を形成した」構成が記載されている。
(オ) 乙116の4記載の発明は「使い捨ておむつ」(構成要件E)である。
(カ) 以上のとおり,両発明の相違点は,本件特許発明は「弾性帯」を有するのに対し,乙116の4記載の発明はこの点が明らかでないことのみである。
周知技術に基づく本件特許発明容易想到性乙116の4の「発明の詳細な説明」には「排泄物遮断層を有する典型的なおむつは,・・・長手方向の端部は,部分的にまたは全体的に弾力性をもたせてもよい」ことが記載されている。そして,本件特許発明の「弾性体」に関して,本件特許出願当時,?@使い捨ておむつの腰部に「弾性体」を吸収体と離間させてトップシートとバックシートとの間に配置することは周知技術であり(乙68,123ないし126,128),?A「発泡体」を用いることは周知であり(乙38,85,88),?B使い捨て紙おむつの腰回りに発泡シートからなる弾性体を設けることは周知の設計事項であったから(乙22,23,94,37,123,124,127),乙116の4記載の発明において発明の詳細な説明の記載に基づいて使い捨ておむつ端部に弾力性を持たせる際に,当業者は,本件特許出願当時の周知技術に基づいて,「不織トップシート」端部の「ホットメルト接着剤」がコーテイングされた部分において,「トップシート」と「バックシート」との間に弾性帯として「発泡シート」を「吸収性芯部」と離間させて配置することは,容易に想到することができる。
エ乙128に基づく本件特許発明容易想到性(ア)乙128には,以下の記載がある。
a 単一のウエストシールド兼ウエストバンドを有し,ウエストシールド部分は吸収体とトップシートの間にあり,ウエストバンド部分はトップシートとバックシートの間にあり,それらと貼着されており,ウエストバンド部分は弾性伸縮である。(請求項1)bウエストシールド部分はトップシートおよび吸収体に貼着される(7頁右上欄17〜20行)。
cウエストバンド部分のトップシートとバックシートの貼着は間欠的である(8頁左下欄11〜17行)。
dウエストバンドは従順なフィットを形成しなければならない(弾性腰を有していなければならない)(10頁右上欄1〜10行)。
eウエストバンド/ウエストシールド18は,単一構造物であるので,おむつ10が使用の準備ができる時に,外方部分57は内方部分56とは異なる性質を有していなければならない。
使用時に,外方部分57は,内方部分56よりも有効に弾性でなければならない(10頁右上欄11行〜左下欄2行,図2参照)。
f弾性要素の例として米国特許381940号公報(発泡プラスチックを含む)のものが使用できると記載している。
(イ)乙128の上記記載によれば,フィルムによる端部漏れ防止を施す場合でも,腰部を弾性化する必要があり,乙128記載の発明は,漏れ防止用フィルムのうち先端部の方を弾性化する手法でこの要請を満たしたのである。すなわち,フィルムによる使い捨ておむつ腰部端部近傍の漏れ防止技術において,吸収体から離間した,腰部の最も端の部分に弾性を持たせることは本件特許出願当時公知であった。
よって,フィルムに変えてホットメルトを用いる乙116の4の場合にも,腰部を弾性化する必要性は同様に存在すると考えられるし,その際に,吸収体から離間した,腰部の最も端の部分を弾性化することは,乙128記載の発明から容易に想到し得ることである。
(2)原告の反論ア被告は,本件特許発明は「弾性帯」を有するのに対し,乙116の4記載の発明はこの点が明らかでないこと点が相違すると主張するが,両発明は,以下の点も相違する。
すなわち,乙116の4では,?@「側方端部」又は「末端シール部」を部分的にまたは全体的に弾力性をもたせることについて開示も示唆もなく,?A吸収性芯部の側方端部に接着されているか否かは明らかでなく,?B発泡シートについて一切開示されておらず,?C「長手方向の端部は,部分的にまたは全体的に弾力性をもたせてもよい。」との記載はあるものの,弾力性をもたせるのに仮に弾性部材あるいは発泡シートを使用することを想定したとしても,いかなる配置にするかについての開示や示唆もなく,ホットメルト接着剤との関係も不明であり,?D第1B図においては,紙おむつの幅方向側部にコーテイングがなされておらず,第2B図においては,紙おむつの長手方向前後端部部にコーテイングがなされておらず,両部分にコーテイングすることの示唆もない。以上のとおり,本件特許発明と乙116の4記載の発明とは,構成要件A?@,構成要件Eでのみ一致するにすぎない。
イ被告が主張する周知技術は,次のとおり,「体液の吸収体端部上と発泡シート上とに跨ってその両者に固着されるホットメルト薄膜」を有しないものであり,また,そのホットメルト薄膜により「体液の前後漏れ防止用シール領域」を形成することの必然性や示唆もないのであるから,そこから導かれる結論も必然的に誤りである。
(ア)乙123には,エラストマー材料ストリップ103について記載されているが,「エラストマー材料ストリップ103は,技術上既知である故図示されていない固定手段」(9頁右上欄16行〜18行)とあるように固定手段については一切記載されていない。
(イ)乙124には,弾性腰バンド5について記載されているが,第5図のとおり連続的接着部8が弾性腰バンド5と吸収体3に跨っていない。
(ウ)乙125には,伸縮ウエスト部材88(選択的に90)について記載されているが,「伸縮ウエスト部材88(選択的に90)が圧力下で結合又は接着によりパッド86から離れた支持シートに固定している。」(3頁右上欄末行〜左下欄3行)の記載から明らかなように,接着剤は伸縮ウエスト部材88(選択的に90)とパッド86に跨っていない。
(エ)乙126には伸縮部材32については記載されているが,FIG.2から明らかなように接着剤48は,伸縮部材32とパッド20に跨っていない。
(オ)乙127には発泡性ポリ塩化ビニルについて記載されているがFIG.2から明らかなように発泡性ポリ塩化ビニルからなるテープは紙おむつの外表面に接着されている。
(カ)乙128には,単一のウエストシールドおよび弾性的に伸縮性のウエストバンドから成るウエストシールド/ウエストバンド18について記載されている。しかし,ウエストシールド/ウエストバンド18は,おむつ10の端部から吸収体芯14の上部まで延出しており,ウエストバンドが吸収体芯と離間していない。
また,FIG.2のとおり本件特許の構成要件Dの前後漏れ防止用シール領域が形成されていない。さらに,バクシート16とウエストシールド/ウエストバンド18との間には非固着横断領域76bがあり,トップシート12とウエストシールド/ウエストバンド18との間には非固着横断領域76tがあり,前後漏れ防止用シール領域が形成されていない。
10争点8(引用発明1及び周知・慣用技術による進歩性の欠如)について(1)被告の主張本件特許発明は,引用発明1に本件特許出願当時の周知・慣用技術を適用することにより,当業者が容易に想到することができたから,本件特許発明についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであって,平成5年改正前の特許法123条1項1号に該当するものであるから,特許無効審判において無効とされるべきものである。
ア引用発明1の内容並びに本件特許発明と引用発明1との対比,一致点及び相違点は,原判決28頁の4(1)アないしエに記載のとおりである。
イ本件特許出願当時,?@使い捨ておむつの腰部に,「弾性体」を吸収体と離間させてトップシートとバックシートの間に配置することが周知であったこと(乙68,123ないし125,128),?A使い捨ておむつの腰部に接合する「弾性体」として発泡体を用いることが周知であったこと(乙38,85,88),?B使い捨ておむつの腰周りに発泡シートからなる弾性体を設けることは周知の設計事項であったこと(乙22,23,94,123,124)を総合すると,当業者であれば,上記周知技術に基づいて,引用発明1の「トップシート」端部の「ホットメルト接着剤」がコーテイングされた部分において,「トップシート」と「バックシート」との間に弾性体として「発泡シート」を「吸収体」と離間させて配置させることは容易である。
ウ原告は,引用発明1は,高速加工が困難であるという問題点を解決するものであり,他の洩れ防止部材との組合せを想定していないと主張するが,誤りである。
引用発明は,従来技術(乙15の第7図)のように防水材を挿入すると「防止剤糊付け↑切断↑吸引↑転写という多くの工程を経るため,および高速加工を行うと防止材に関連した不良品が発生し易くなるため,低速加工を余儀なくされている」(乙15,2頁右上欄12〜16行)という問題点を解決するために,「防水材」に代えて「ホットメルト被膜形成により同等の洩れ防止効果を達成できるので,…従来,防水材の介装作業が煩雑なため,作業能率が上がらない上に不良品が多発する問題があったのが,本発明によればホットメルトの塗布のみでよいから,作業能率が向上するとともに不良品の発生を回避することができるようになった」という発明である(乙15,4頁左欄1〜13行)。そして,引用発明1の使い捨て紙おむつの端部に「弾性体」を設ける場合も,第6図のように流れ作業で製造できることは同様であり,防水材を挿入する従来技術のように煩雑な工程が加わり,作業能率が低下することはない。
(2)原告の反論ア被告の主張は,時機に後れた攻撃防御方法として許されない(民訴法157条1項)。
イ被告が主張する周知技術はいずれも,単に使い捨て紙おむつの端部に弾性体を設けること,又は弾性体として発泡シートを使用すること,弾性体を吸収体の長手方向縁と離間して配置することを示すにすぎない。しかも,これらの弾性体は,「ホットメルト薄膜が,トップシートのバックシートがわ面において,体液吸収体端部上と発泡シート上とに跨ってその両者に固着されている」下で設けられたものではなく,単にシートに適宜接着されているものにすぎない。
また,ホットメルト接着剤層を設けることにより前後漏れ防止効果を発揮する引用発明1に対し,弾性体を設ける被告主張の前後端縁からの漏れ防止効果を示す周知技術を,重ねて二重に適用する動機付けはない。
ウ引用発明1は,高速加工が困難であるという問題,工程数が多いために製造機の故障が生じ易い問題等を解決するために,ホットメルト接着剤を使用した発明であるから(乙15,2頁左上欄9行〜右上欄18行),引用発明1において,あえて弾性体あるいは発泡シートまでも設けて,ホットメルト接着剤を,トップシートのバックシートがわ面において,体液吸収体端部上と発泡シート上とに跨ってその両者に固着する構成とする動機付けはない。」(9)原判決71頁15行目から72頁24行目までを次のとおり改める。
「11争点9(損害の額)について(1)原告の主張ア被告は,遅くとも平成14年5月から平成19年1月16日まで,被告製品を製造,販売し,販売の申出をしている。
被告が平成14年5月1日から平成19年1月16日までに販売した被告製品の売上額は,次の額を下回らない。
a平成14年5月1日から平成17年2月末日99億0400万円b平成17年3月1日から平成18年9月末日45億3800万円c平成18年10月1日から平成19年1月16日8億2300万円イ本件特許権の実施料率は,売上高の少なくとも2%をもって相当と認められる。
P&G社は,白十字株式会社との間で,本件特許発明とほぼ技術的思想を同じくする2件の特許(これらの特許は一体として,使い捨て紙おむつに関して体液の横漏れを防止する発明を対象とするものである。)の実施料を合計2%(ローソン特許が1.25%,ドラグー特許が0.75%)としている(甲61)。
しかも,P&G社の実施料率は,特許侵害又はその可能性を認めて,特許を尊重する者が任意にライセンスに応じる場合の実施料率であり,ライセンスを受けることを拒否し,侵害訴訟に至って最後まで争った相手方企業に対する実施料率とは異なるものである。任意のライセンシーに対する実施料率と侵害訴訟において争った相手方に対する実施料率については,相違があってしかるべきである。特許法の改正において,旧102条2項における「通常」との文言が削除されたことも,上記の相違を設ける根拠となり得る。
したがって,本件特許発明実施料率としては2%とするのが合理的である。
ウ前記ア,イによれば,本件特許権の侵害による原告の損害額は次のとおりである(特許法102条3項)。
a平成14年5月1日から平成17年2月末日99億0400万円×2%=1億9808万円b平成17年3月1日から平成18年9月末日45億3800万円×2%=9076万円c平成18年10月1日から平成19年1月16日8億2300万円×2%=1646万円d合計1億9808万円+9076万円+1646万円=3億0530万円エよって,原告は,金3億0530万円及び内金1億9808万円に対する不法行為の後の日である平成17年3月1日から,内金9076万円に対する不法行為の後の日である平成18年10月1日から,内金1646万円に対する不法行為の後の日である平成19年1月17日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(原告は,当審において請求を拡張した。)。」(10)原判決73頁11行目末尾から行を改めて以下を加える。
「ウ原告は,本件特許発明と同じく体液の漏れを防止するP&G社の2件の特許の実施料率が2%であり,しかも当該実施料は任意のライセンスに応じる場合の実施料率であり,侵害訴訟に至った相手に対する実施料率とは異なるとして,本件特許発明実施料率は2%が相当であると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,P&G社の2件の特許発明は,使い捨ておむつの横漏れを防止するために立体ギャザー(バリヤーカフス)を設けるという技術思想を初めて提示した紙おむつ製品の基本的な構造に係る発明である。これに対し,本件特許発明は,出願当時既存の技術であったトップシートとバックシートを端部で接着する場合に,既存のホットメルト接着剤の塗り方をわずかばかり工夫したものにすぎず,使い捨て紙おむつの基本構造に関する特許発明ではない。また,従来技術と比較して明確な作用効果が認められず,使い捨て紙おむつ製品のほんの一部分に実施される技術にすぎず,しかも同業他社が本件特許のライセンスを受けた実績もない(乙95)。そして,本件特許発明よりも明確な効果の認められる使い捨て紙おむつに関する特許について,被告と同業他社とのライセンスの実績において0.5%を下回る実施料率も実際に存在し(乙95),P&G社の特許の実施料率は2件で2%であるにすぎない。」(11)原判決81頁15行目中「人口尿」を「人工尿」に改める。
2控訴審における主張(新たな主張を含む。)(1)争点2-1(被告製品が「ホットメルト薄膜」(構成要件C及びD)及び「体液の前後漏れ防止用シール領域」(構成要件D)を有するか)についてア被告の主張(ア)本件出願当初明細書の開示内容について本件出願当初明細書に記載されていなかった発明の詳細な説明の記載,すなわち出願後の補正により追加された記載に基づいて特許発明技術的範囲を定めることはできない。とりわけ,機能的クレームのように,特許請求の範囲の抽象的な文言の解釈において,発明の詳細な説明の記載によりそれを具体化しなければならない場合においては,本件出願当初明細書の記載を子細に検討し,これを参酌して上記抽象的な文言を合理的な範囲に限定していくことが必要となる。そうすると,本件出願当初明細書の記載に基づいて,本件特許発明の「ホットメルト薄膜」及び「体液の前後漏れ防止用シール領域」を解釈すると,「ホットメルト薄膜」とは,ホットメルト接着剤が隙間なく連続的に形成されている状態を指すものであり,「体液の前後漏れ防止用シール領域」とは,このような「ホットメルト薄膜」により,「非透水性のプラスチックフィルム」と同程度の防水性を有することにより「シール領域」を形成するものに限定されると解するのが相当である。
「ホットメルト薄膜」及び「体液の前後漏れ防止用シール領域」の意義について,?@本件出願当初明細書に記載のない発明の詳細な説明,?A本件第3手続補正書(乙6)により追加された実施例2の記載,?B甲15及び甲16のような本件出願後の文献及び甲25の1,2のような公知文献に基づいて,拡大して解釈すべきでない。
(イ)「ホットメルト薄膜」,「体液の前後漏れ防止用シール領域」の意義a「ホットメルト薄膜」にいう「薄膜」とは,薄い膜のことであり,「膜」とは「物の表面をおおう薄い皮」であるから(乙18,61ないし64),ホットメルト接着剤が隙間なくシート状(フィルム状)に形成されている状態を指すものと解するのが相当である。このような解釈は,使い捨ておむつにおいて,体液吸収体の端部が紙おむつの端部と離間し,当該離間部分においてバリアコーティング(不織布に塗布されるバリア挿入接着剤)が紙おむつの端部に跨って塗布し,「シール領域」を形成するという本件出願当時の周知技術(乙68,70,75,116の4)及び原告の出願したホットメルト薄膜を形成する使い捨ておむつの特許発明(乙15,65)の内容と合致する。
また,「体液の前後漏れ防止用シール領域」にいう「前後」とは,使い捨て紙おむつの腹部および背部を指し,「シール」とは封印することを意味するから(乙119ないし121),使い捨て紙おむつにおける腹部及び背部において体液の漏れを封印する領域を指すものと解するのが相当である。
b本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明には,「吸収体に一旦浸透した体液が長手方向に流れてその端部からトップシートから表面に滲み出すことを防止できる。」(3欄45行〜47行)と記載されているから,本件特許発明の「ホットメルト薄膜」は滲み出すことを防止するためのものと解される。「ホットメルト薄膜」をトップシート中の体液の長手方向への伝わりを防止ないし遅延させるためのもので足りると解すべきではない。
(ウ)出願経過参酌a本件第1意見書(乙5)には,「ホットメルト薄膜」が逆戻り現象(吸収体が圧迫されると,尿がトップシートを通って戻る現象)の防止のために重要であり,「ホットメルト薄膜がトップシートの内面に貼着されているので,それ以上尿がトップシートを伝わることはない」旨記載されている。本件特許発明の「ホットメルト薄膜」の意義についても,同記載に基づいて解釈すべきである。
b原告は,本件異議答弁書において,?@「弾性伸縮部材として発泡性シートを用いた場合には,発泡性シートが液透過性であるとか発泡シートをその長手方向に間歇的に固定した場合には発泡シートとバックシートとの間から体液が漏れ出す危険性がある。そのため,本願発明は発泡シートと吸収体との離間部分にシール線部を形成して前後漏れを完全に防止するようにしたものである。」(5頁25〜30行),?A「甲第1号証における漏れ防止用シールは,同号証の第11図から明らかなように,透液性のトップシートと不透液性のバックシートとを腰部回りに単に接合したシール構造であり,両シートが連続的に腰回りの方向に接合されている点で,逆に言うと両シート間に開口が形成されていない構成をもってシール構造としてだけであり,該腰部において透液性トップシートに対しては何ら不透水処理が行われておらず,依然として吸収体に吸収された体液が吸収体の長手方向端部より滲み出し透液性のトップシートを通過して外部に漏れ出す問題を解決するものではない。」(3頁21〜28行),?B「本願の漏れ防止用シールの場合には,ホットメルト塗膜により不透水とされるトップシート部分と素材的に不透水のバックシートとにより横V字状に不透水性のポケットが形成されるため,吸収体に吸収された体液が端部より滲み出すのを防止する。というものであり,甲第1号証記載のシール構造とはその作用および機能を全く異にするものである。」(4頁3〜7行)と記載している。同記載によれば,本件特許発明の「ホットメルト薄膜」が「不透水」であると理解すべきである。また,原告が本件特許発明の「ホットメルト薄膜」が「不透水」ではないと主張することは,禁反言の原則に照らし許されない。
(エ)公知技術(乙154)の参酌特開昭61-119260号の公知文献(乙154)に記載された発明を参酌すれば,本件特許発明の「ホットメルト薄膜」は,乙154記載の発明のような網目状に塗布されたホットメルト接着剤を含まないと解される。
a乙154には,以下の記載がある。
(a)「吸収性芯,液体透過性薄層,および液体不透過性バックシートを具備し,前記吸収性芯は実質上繊維間結合を欠いた繊維塊からなり,前記吸収性芯は前記薄層と前記バックシートとの間に配置され,そしてホットメルト接着剤のフィラメントの網状網目で前記薄層との対抗関係において接着固定されることを特徴とする使い捨て排泄物収納ガーメント」(【請求項26】)「前記液体透過性薄層の縁が,それらの間にシールされる前記吸収性芯で前記バックシートに接着固着され,…」(【請求項32】)(b)「技術分野本発明は,…特に使い捨ておむつ…に関する。」(3頁右上欄下から3行〜左下欄5行)「本発明は,…弾性化腰バンド領域を有する弾性化積層使い捨ておむつにおいて特に有効である(その理由は,…吸収性芯からブラウジングする傾向があり,それによって非弾性化使い捨ておむつにおいてよりも大きい程度で直接それらの吸収性芯への有効な尿吸収を実質上損うからである)」(3頁左下欄15行〜右下欄4行)「背景技術米国特許第4147580号明細書は,基体への多孔質繊維状ウェブの結合法,例えばホットメルト接着剤を制御された厚さの接触型接着剤源から拭き取らせることによって,ホットメルト接着剤小滴をおむつのトップシートの裏面に塗布することからなる使い捨ておむつの部分積層法を開示している。…これらの背景の特許は,積層使い捨て排泄物収納ガーメントなどの芯/おむつ一体性に関連する問題点の若干を解決しているが,本発明ほどには問題点を解決しておらず,特に前記ブラウジング現象に関する問題点(…)を解決していない。」(3頁右下欄5行〜4頁左上欄5行)「接着剤の開放パターンは,接着剤の小滴の微細パターンまたは接着剤のフィラメントの網状網目からなることができ」(4頁右上欄3〜5行)「本発明の例示の具体例である第1図の使い捨ておむつ20は,…おむつの腰バンド領域を強性化する弾性バンド36および37…を具備すると示される」(4頁左下欄4〜11行)「…別の具体例は,トップ湿潤強度ティッシュを省略できる。この場合には,トップシートは,特許請求の範囲に言及される液体透過性薄層である」(6頁右下欄2〜4行)「…追加的に,または或いは,他の別の具体例の各種の薄層は,接着剤ビーズ46および60の配列よりもむしろ前記のような接着剤の多数の小滴または接着剤のフィラメントの網目の追加の開放パターンによって一緒に固着され得る」(6頁右下欄7〜12行)b本件特許発明と乙154記載の発明との同一性(a)構成要件A・?@乙154記載の発明の「吸収性芯」,「液体透過性薄層」,「液体不透過性バックシート」は,それぞれ本件特許発明の「体液吸収体」,「透水性トップシート」,「非透水性バックシート」に相当する。また,乙154記載の発明の「吸収性芯」は,「液体透過性薄層」と「液体不透過性バックシート」との間に配置(介在)される。
よって,乙154記載の発明は,構成要件A・?@を具備する。
(b)構成要件A・?A乙154記載の発明は,使い捨て紙おむつの前後端部に「液体透過性薄層」及び「液体不透過性バックシート」で構成されるフラップがあり,このフラップにおいて,「弾性バンド36および37」が腰回り方向に配置されている。この「弾性バンド」は,本件特許発明の「弾性帯」に相当する。
よって,乙154記載の発明は,構成要件A・?Aを具備する。
(c)構成要件B乙154記載の発明の「弾性バンド36および37」が「発泡シート」であるという記載はないが,弾性帯として発泡シートを用いることは本件特許出願当時の周知・慣用技術であったことから(乙22,23,37,85,88),実質的な相違点とは認められない。
乙154記載の発明は,フラップにおいて腰回り方向に配置されている「弾性バンド36,37」は「吸収性芯23」の長手方向縁と離間している。また,「弾性バンド36,37」が「液体透過性薄層21」と「液体不透過性バックシート27」との間に介在されていることも,図1から明らかである。すなわち,図1は,縁45が存在する側の半面は「液体透過性薄層21」があり,縁49が存在する側の半面は「液体透過性薄層21」が除去されているところ,「弾性バンド36,37」が,前者の半面においては点線で描写されており,後者の半面においては実線で描写されていることは,「弾性バンド36,37」が(「液体不透過性バックシート27」の上で,)「液体透過性薄層21」の下に配置されていることを意味している。
よって,乙154記載の発明は,構成要件Bを具備する。
(d)構成要件C乙154記載の発明の「吸収性芯は…ホットメルト接着剤のフィラメントの網状網目で前記薄層との対抗関係において接着固定され」ているから,本件特許発明における「トップシートのバックシートがわ面において,体液吸収体端部上…に固着されるホットメルト(網状網目)薄膜」を具備する。
乙154記載の発明において,トップシートのバックシートがわ面全体に亘り,吸収性芯上のみならず,使い捨ておむつの端部に至るまでホットメルト接着剤が(網目状に)塗布されていることは,米国特許第4147580号(乙155)に照らして明らかである。
また,使い捨ておむつの吸収体はパルプ繊維を使用しているので,吸収体の周囲をトップシートとバックシートでシールしていないとパルプ繊維が使い捨ておむつ本体から脱落してしまうため,また,端部漏れを防止するため,本件特許出願当時から,使い捨ておむつは端部に至るまでトップシートのバックシートがわ面にホットメルト接着剤が塗布され,吸収体をトップシートとバックシートとでシールする構造がとられていることは周知・慣用技術である(乙15,38,124,125,132,157,158)。
よって,乙154記載の発明は,「吸収性芯23」上と「弾性バンド36,37」上とに跨がってその両者に固着される「ホットメルト(網状網目)薄膜」を具備し,構成要件Cを具備する。
(e) 構成要件D乙154記載の発明の「ホットメルト(網状網目)薄膜」は,「液体透過性薄層」の「液体不透過性バックシート」がわ面において,「吸収性芯23」上のみならず「弾性バンド36,37」上を含みトップシートの端部(使い捨ておむつの端部)まで塗布されている。また,「吸収性芯23」と「弾性バンド36,37」との間の離間部においてローラにより上下方向から押圧され,圧縮力を受けるものである以上,「液体透過性薄層」が「液体不透過性バックシート」と接着されることは明らかである。したがって,乙154記載の発明は,離間位置において「ホットメルト(網状網目)薄膜」が「液体不透過性バックシート」に腰回り方向に沿って接合されており,この接合は「体液の前後漏れ防止用シール領域」に相当するから,構成要件Dを具備する。
(f)構成要件E乙154記載の発明は,特に使い捨ておむつに関する発明であるから,構成要件Eを具備する。
c以上のとおり,本件特許発明は,乙154記載の発明と実質的に同一である。本件特許発明の「ホットメルト薄膜」は,乙154記載の発明を参酌すれば,「スパイラル状あるいは準スパイラル状」又は「網目状」に塗布されたホットメルト接着剤層を含むものと解釈することはできない。
(オ)被告製品の「ホットメルト薄膜」(構成要件C及びD)及び「体液の後漏れ防止用シール領域」(構成要件D)の充足性について以下の実験報告書及び意見書によると,被告製品は,「ホットメルト薄膜」(構成要件C及びD)及び「体液の後漏れ防止用シール領域」(構成要件D)を充足しない。
a甲7等実験に対する追試実験(傾斜漏れ実験)の結果(乙98「ドレミMサイズ」,乙99「ドレミLサイズ」。事実実験公正証書)甲7等実験に対する追試実験(乙98,99)によると,被告製品の背側の弾性帯と吸収体離間部において,トップシートがバックシートと接合されている試料(試料A)と接合されていない試料(試料B)とで,漏れを防止する効果に実質的な相違はなかった。
この点,原告は,試料Bの方が長手方向へ人工尿が漏れ難いとの実験結果は不自然であると主張するが,離間部分のトップシートとバックシートを剥離したり,離間部分のトップシートを除去した場合,吸収体端部が厚み方向への膨張が可能となり,そのために吸収量が増加することが考えられるから,上記実験結果は不自然ではない。
bA准教授の意見書(乙110)A准教授は,意見書(乙110)において,?@本件明細書の実施例2の記載では再現性のある実験結果を得ることは困難であり,甲7等実験は実施例2の追試とはいえない,?A被告の傾斜漏れ実験(乙49,50,53,54,66,98,99)のように複数回の実験から導き出される結果は,バラツキがあり客観性があるが,甲7等実験は腹部,背部各1回で結論を下すのに不十分であり,甲7等実験を信用することはできない,?B被告製品の離間部のトップシートとバックシートを接合した部分は前後漏れの実質的な効果を奏していない,?C甲34の説明するホットメルト薄膜の効果は,前後漏れ防止の手段とはならないなどと指摘している。
cB教授の意見書(乙111)B教授は,意見書(乙111)において,?@被告製品の吸収体端部ホットメルト接着剤の塗布状態は線状のものから構成されており,薄膜を形成していない,?A乙41実験ではスチレンの699cmの吸収ピークをブタジエンと誤って記載した誤りはあるが,被告製品に膜は形成されていないとの結論には影響を与えないと指摘している。
d実験報告書(乙112)乙41実験を検証するための実験報告書(乙112)の結果によると,被告製品の吸収体端部において,四酸化オスミウムで黒色に線状に染色された部分にはホットメルト接着剤が存在するが,染色されていない部分にはホットメルト接着剤が存在していないものとされる。
e実験報告書(乙113,122,144)実験報告書(乙113,122,144)によると,?@篩い分け実験(甲50,56実験の追試)では,乙50の試料Bが通常の製品と異なるといえず,?Aカーボントナー実験(甲4,5の実験の追試)では,ドライヤーではホットメルト接着剤に付着していないカーボントナーでも繊維の間に入り込んだものを吹き飛ばすことは到底できず,?B硫酸銅実験では,硫酸銅で着色しても乙92の人工尿の着色による実験結果と同様に試料Bに高吸収性ポリマーが含まれており,市販品の体液吸収体と何ら異なるものではなく,?C剥離強度測定実験(乙122)によると,被告製品において端部に追加のホットメルト接着剤を塗布することによって端部の補強がされていることは明らかである。
f実験報告書(乙150,152)実験報告書(乙150)及び報告書(乙152)によると,乙57の実験の追試として端部漏れ実験を行ったところ,人工尿の注入開始から0.60秒後には人工尿が弾性体と吸収体の離間部である領域を越え始め,注入開始から1.23秒後には端部から人工尿が漏れ出しているのであるから,紙おむつの端部が漏れ防止の機能を有していないことは明らかである。
イ原告の反論(ア)本件出願当初明細書の開示内容について本件出願当初明細書に記載された範囲を超えて解釈することはできないが(旧特許法40条,41条),本件出願当初明細書に記載された範囲において補正された場合であれば,当該記載に基づいて特許発明技術的範囲を定めることができる。したがって,被告の主張は失当である。
(イ)「ホットメルト薄膜」,「体液の前後漏れ防止用シール領域」の意義a「ホットメルト薄膜」にいう「薄膜」とは,物の表面を覆う層やコーティングや皮などをいい,「体液の前後漏れ防止用シール領域」にいう「前後」とは,長手方向の意味であり,「シール」とは,従来技術の紙おむつに比べて体液の長手方向の流出を防止するという意味であるから,被告の主張は失当である。
b本件特許発明の「ホットメルト薄膜」は,本件明細書における発明の詳細な説明の記載により特定されており,本件出願当時の周知技術や原告の別出願を根拠として本件明細書による解釈を否定することはできない。
また,被告が指摘する発明の詳細な説明の記載(3欄45行〜47行)の後には,「すなわち,一旦,吸収体に吸収された尿が,幼児の動きにより吸収体を圧迫されると,逆戻り現象が生じ,この尿はトップシートを通って紙おむつの端部に至る。しかし,ホットメルト薄膜がトップシートの内面に吐着されているので,それ以上尿がトップシートに伝わることはない。」(3欄48行〜4欄3行)と記載され,逆戻り現象による尿は「トップシートを通って紙おむつの端部に至る」ことが示されており,「滲み出すこと自体を防止する」などの記載は存在しない。被告の主張は失当である。
(ウ)出願経過参酌被告の主張は理由がない。
(エ)公知技術(乙154)の参酌a被告の主張は,時機に後れた攻撃防御方法として許されない(民事訴訟法157条1項)。
b乙154記載の発明における使い捨て紙おむつにおいて,「網目状に塗布されたホットメルト接着剤」は,トップシートと吸収体との間又は吸収体とティシュとの間を接着固着(結合)するためのものであり,本件特許発明の「ホットメルト薄膜」の紙おむつの端部からの漏れ防止用のものとは異なる。また,吸収体(吸収性芯)23とトップシート21又はバックシート27の網目状に塗布されたホットメルト接着剤又は接着剤のビーズが,吸収体(吸収性芯)23の長手方向端縁を越えて塗布されておらず,弾性バンド36,37に跨っていない。
乙154記載の発明は構成要件Dを具備しないから,本件特許発明実質的に同一であるとはいえない。
(オ)被告製品の「ホットメルト薄膜」(構成要件C及びD)及び「体液の後漏れ防止用シール領域」(構成要件D)の充足性について被告製品は,「ホットメルト薄膜」(構成要件C及びD)及び「体液の後漏れ防止用シール領域」(構成要件D)を具備する。
以下のとおり,原告の実験結果等は,失当である。
a甲7等実験に対する追試実験(傾斜漏れ実験)に対し実験に使用した2つの試料は同一ロットで,かつ,同一パッケージに包装されていたものであるから,構造的には実質的に同一のものである。それにもかかわらず,上記追試実験において,離間部からトップシートを剥がした試料,すなわちホットメルト接着剤が塗布されたトップシートによりシールされない試料の方が人工尿が漏れるまでの時間が長くなっており極めて不自然である。また実験方法も,傾斜台へ試料を貼り付けた状態で比較すると,試料Aの方が弾性帯部分を元の長さ以上に伸ばしており,実験方法が異なっている。さらに,試料Aについての人工尿の吸収量の結果が同じ被告製品を対象とした乙49実験の結果と異なっているから,上記追試実験は信頼性を欠く(甲66,67)。
bA准教授の意見書(乙110)に対し?@本件明細書の実施例1及び2は,使い捨て紙おむつを製造するための条件を記載したものではなく,トップシート端部にホットメルト薄膜を設けた場合と設けなかった場合の比較実験であり,製造条件や仕様がないからといって追試ができないわけではない。また,甲7等実験は,被告製品のトップシート端部に塗布されたホットメルト接着剤層の前後漏れ防止効果を実施例2の実験に沿って検証した実験であり,実施例2の追試ではない。
?A乙49,50,53,54,66の実験結果を比較すると,時系列で吸収量に大きな違いがあり,これは,?@実験方法が変わったか,?A市販品の吸収量が変化したか,のいずれかの場合しか考えられず,これらの実験結果にばらつきがあることをもって客観性があるということはできない。
?B本件特許発明が対象とする使い捨て紙おむつが奏する作用効果は,従来の使い捨て紙おむつに比べて,吸収体及びトップシートから離間位置を通って長手方向へ流れる体液の流出を防止するところにあり,当然に体液のほとんどは吸収体を通過し,トップシートを通過するものはごくまれである。トップシートを通過することを防止する効果を有することが重要であり,その程度が大きいか小さいかは,本件特許発明の作用効果の有無と関係がない。
?C甲50の試料Bの保管状態及び構造を何ら検討せず,試料Bに高吸収性ポリマーの存在から直ちに試料Bの信用性を認めるとの意見は,到底認められない。なお,試料Bを通常の方法で保管した場合には,吸湿による重量増加はわずかにすぎず(甲72),開封した紙おむつパッケージを家庭で保管する場合でさえ,被告が主張するような重量増加は起こり得ない(甲64)。
cB教授の意見書(乙111)に対し「ホットメルト薄膜」をホットメルト接着剤が面状に塗布されたものと解釈すべき理由はない。
d実験報告書(乙112)に対し乙112の実験においても,乙41実験の10数倍の大きさの試料を使用しながら,乙41実験と同じ48時間の染色実験をしている。
オスミウム染色が十分行われない条件下で実施されたというべきである。また,4枚の試料を,個別に染色するのではなく,試料をすべてデシケータに入れて染色を実施して,染色が困難な条件下で実施されている。乙112の実験は,十分なオスミウム染色ができない条件で実施されたために,IR測定した染色されていない部分からホットメルト接着剤が検出されなかっただけであり,他の染色されていない部分にホットメルト接着剤が存在するか否かは不明である。
e実験報告書(乙113,122,144)に対し甲50の試料Bが市販品と同一であるとはいえない。
f実験報告書(乙150)に対し紙おむつ端部における人工尿の滲み出し速度を幼児の排尿と同等としており,現実の滲み出し速度を無視したものであって,信頼性を欠く。
(2)争点4-1(本件特許発明が,特許法29条の2に違反しているか)についてア被告の主張以下のとおり,先願考案の「ホットメルト接着剤」と本件特許発明の「ホットメルト薄膜」とは実質的に同一である。
すなわち,?@前後漏れ防止を目的として紙おむつの端部(腹部・背部)に「ホットメルト薄膜」を塗布することは多くの文献に記載され,実際に販売されていた製品にも採用されていた周知技術であり(乙15,乙69ないし80,乙83ないし85),?A本件特許発明の「ホットメルト薄膜」は,「網目状」「くもの巣状」「不規則なスパイラル状あるいは準スパイラル状の散布形状」で足りるところ,先願考案の「ホットメルト接着剤」も「表面シート1」と「吸収材3」及び「クッション性シート6a/b」とを接合するために,「網目状」「くもの巣状」ないし「不規則なスパイラル状あるいは準スパイラル状」に塗布することは当業者の設計事項にすぎず,?B先願考案の「ホットメルト接着剤」が塗布されていれば隙間なくシート状(フィルム状)に形成されている状態でなくとも,トップシート中の体液の長手方向への伝わりを遅延させる効果を奏することに照らすならば,先願考案の「ホットメルト接着剤」と本件特許発明の「ホットメルト薄膜」とは実質的に同一であると解すべきである。
イ原告の反論本件特許発明と先願考案とは,「トップシートのバックシートがわ面において,体液吸収体端部上と発泡シート上とに跨がってその両者に固着されるホットメルト薄膜を形成している点」及び「発泡シートと体液吸収体の離間位置においてホットメルト薄膜が非透水性バックシートに腰回り方向に沿って接合され,体液の前後漏れ防止用シール領域を形成した点」で相違しており,本件特許発明は,先願考案と実質的に同一の発明ではない。
(3)争点4-2(引用発明5及び引用発明1による進歩性の欠如)についてア 被告の主張本件特許発明は,以下のとおり,引用発明5及び引用発明1により,容易に発明をすることができたというべきである。
すなわち,?@引用文献1の記載にしたがって引用文献5に記載のおむつにホットメルト薄層を形成しても,おむつの肌ざわりが劣化することはなく,「ミクロなうね又はたわみ」を形成することができるし,?Aホットメルトを塗布した部分の柔軟性,弾力性を損なわないようにホットメルトの種類や塗布方法を選択することは本件特許出願時における技術常識であったから(乙69,116の3ないし5),弾性要素を伸張した状態でホットメルト薄膜を介して身体側ライナー及び外側ライナーと結合させ,弾性要素の伸張力を解除した場合に,弾性要素が元に戻り,結果としてホットメルト薄膜に結合した外側カバー及び身体側ライナーにミクロなうね又はたわみが生じ,「裁縫仕立ての外観を与える」という引用発明5の目的を達成できるように,ホットメルトの柔軟性,伸縮性,ホットメルト薄膜の厚さ,ホットメルトの塗布様式等を適宜選択することは容易であった。
したがって,引用発明5に引用発明1又は周知技術(乙15,乙69〜80,乙83〜85)とを組み合わせることは容易であり,阻害する要因も存在しない。
イ原告の反論引用発明1は,使い捨ておむつの端部を接着することを開示するのみであって,体液吸収体端部上と弾性帯上とに跨って両者を接着することまでも開示あるいは示唆するものではなく,また,そこに使用されるホットメルト被膜は,約40μ厚のパラフィンシートと同等の洩れ防止効果を持つ10〜25μ程度のホットメルトの被膜であり,これをホットメルト不透水性被膜として適用した場合には,引用発明5の弾性要素と身体側ライナー72及び吸収性の芯22とが,不透水性被膜といえる程度に接着されることになるので,上記うね又はたわみを形成することはできなくなる。
また,乙116の3には,ホットメルト接着剤については記載されているものの,紙おむつの使用箇所については一切記載されておらず,乙116の5のホットメルトは転写プリント用途に関するものであり紙おむつに関するものではない。さらに,乙116の4記載の発明のホットメルトの厚さは,「ホットメルト接着剤は,一般に,少なくとも1.0ミルの厚さに,一般に少なくとも1.2ミルの厚さに,そして好ましくは少なくとも3ミルの厚さに連続的なフィルムを形成するように,そして全体的にコーティングされたフィルムに実際上ピンホールが存在しないことを保証するようにコーティングされる。」(同4頁右下欄2行〜8行)の記載によれば,好ましくは3ミル[注約76μm]もの厚さであることがわかる。
したがって,乙38のホットメルト接着剤に換えて乙116の4の耐漏洩性の排泄物遮断層を使用した場合,乙38の弾性要素と身体側ライナー72及び吸収性の芯22とが,不透水性被膜といえる程度に接着されることになるので,上記うね又はたわみを形成することができなくなる。
以上のとおり,引用発明5に引用発明1又は周知技術(乙15,乙69〜80,乙83〜85)とを組み合わせて,本件特許発明を得ることが容易であるとはいえない。
第4当裁判所の判断当裁判所は,原告の附帯控訴に基づく請求はその一部に理由があり,被告の本件控訴には理由がないと判断する。その理由は,次のとおり付加,訂正するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第4当裁判所の判断」の1ないし6(原判決73頁13行から124頁9行まで)と同じであるから,これを引用する。
1原判決の訂正(1)原判決91頁23行目の後に行を改めて,次を加える。
「(6)公知技術(乙154)の参酌について被告は,乙154記載の発明を参酌すれば,本件特許発明の「ホットメルト薄膜」は,網目状に塗布されたホットメルト接着剤を含むということができないと主張する(これに対し,原告は,上記主張は時機に後れた防御方法として許されないと主張する。しかし,被告の上記主張は,訴訟の完結を遅延させる主張(民訴法157条1項)とまではいえないので,時機に後れた防御方法として却下すべきでないと判断した。)。
ア乙154の記載乙154には,次の記載がある。
(ア)「26.吸収性芯,液体透過性薄層,および液体不透過性バックシートを具備し,前記吸収性芯は実質上繊維間結合を欠いた繊維塊からなり,前記吸収性芯は前記薄層と前記バックシートとの間に配置され,そしてホットメルト接着剤のフィラメントの網状網目で前記薄層との対向関係において接着固着されることを特徴とする使い捨て排泄物収納ガーメント。27.前記薄層の外方に面する表面が,前記ガーメントの着用者の皮膚と接触させようとする前記ガーメントの表面であり,そして前記ガーメントのトップシートと称される特許請求の範囲第26項に記載の使い捨て排泄物収納ガーメント。・・・」(特許請求の範囲)(イ)「本発明は,使い捨て排泄物収納または捕集ガーメント・・・,およびパッドなど,特に使い捨ておむつ,広くは成人失禁製品と称される成人用使い捨て外部失禁保護ガーメント,例えばブリーフ,このようなおむつおよびブリーフ用のライナー,および外部生理パッドに関する。更に詳細には,本発明は,繊維間結合を実質上欠いた繊維塊からなる吸収性芯(例えば,空気抄造芯およびエアフェルト芯など)を具備し,かつ積層され,そして特定の薄層・・・が特定のパターン,量および種類の接着剤で一緒に接着固着されて,より迅速な吸収;より少ない芯スランピング(slumping),亀裂およびローピング(roping);およびこのようなガーメントの柔軟性または全体の吸収性のいずれかを実質上減少せずに増大された引張強さを達成するガーメントに関する。本発明は,例えば弾性化脚カフス(cuffs)および/または弾性化腰バンド領域を有する弾性化積層使い捨ておむつにおいて特に有効である(その理由は,このような構造物の非結合薄層が非弾性化使い捨ておむつにおいてよりも,それらのそれぞれの吸収性芯からブラウジングする(blouse)傾向があり,それによって非弾性化使い捨ておむつにおいてよりも大きい程度で直接それらの吸収性芯への有効な尿吸収を実質上損うからである)。」(3頁右上欄下から2行〜右下欄4行)(ウ)「本発明の一面によれば,比較的非結合繊維の吸収性芯,液体透過性湿潤強度薄層,および液体不透過性バックシートを具備する使い捨て排泄物収納ガーメントが,提供される。吸収性芯は,薄層とバックシートとの間に配置され,そして薄層は,約0.8〜約4.7g/m の平均重量を有する接着剤の開放パターン・・・によっ2て芯との対向関係・・・において固着される。本発明のもう1つの特定の面においては,液体透過性薄層は,ガーメントのトップシート(即ち,使用者の皮膚と接触させようとするエレメント)であり,そして本発明の別の面においては,液体透過性薄層は,ガーメントのトップシートと吸収性芯との間に配置される。この面においては,液体透過性薄層は,例えば湿潤強度ティシュペーパーであることができる。本発明の他の面においては,接着剤の開放パターンは,接着剤の小滴の微細パターンまたは接着剤のフイラメントの網状網目からなることができ,そして小滴およびフイラメントは,好ましくは吸収性芯を構成する繊維の有効平均直径に桁が大体等しい直径を有し;接着剤はホットメルト接着剤であり;そして/または接着剤は感圧性であり;そして接着剤の量は,より少ない特定の範囲または好ましい値に限定され得る。本発明の追加の面は,吸収性芯とバックシートとの間に配置された追加の薄層を更に具備でき;吸収性芯は,超吸収剤と一般に称されかつ後述される高吸収性物を更に含有でき;薄層は関連されて,吸収性芯を収納しかつ芯成分がガーメントから篩分けられる・・・のを回避するエンベロープを形成でき;そして接着剤の他の開放パターン,好ましくは液体透過性薄層と吸収性芯との間の接着剤の開放パターンを構成するものと同一の種類および量の接着剤の開放パターンが,他の隣接エレメント間でガーメントに配合され得る。」(4頁左上欄7行から左下欄2行)(エ)「本発明の例示の具体例である第1図の使い捨ておむつ20は,液体透過性トップシート21,トップ湿潤強度ティシュ22,吸収性芯23,バック湿潤強度ティシュ26,液体不透過性バックシート27,おむつの脚カフス部分を弾性化する弾性ストランド31〜34,おむつの腰バンド領域を弾性化する弾性バンド36および37,およびテープファスナー41および42を具備すると示される(トップシート21の左側が線侵に沿って引き裂かれているので,ファスナー41の一部分のみが示されている)。更に明瞭にするために,縁45によって規定される穴は,トップシート21において引き裂かれてトップシート21をトップ湿潤強度ティシュ22の下設・・・部分に固着する複数の縦方向延出ホットメルト接着剤ビーズ46を現わし;縁48によって規定される穴は,トップ湿潤強度ティシュ22において引き裂かれて吸収性芯23の下設部分および好ましくは感圧接着剤であるホットメルト接着剤のフイラメントの網目49を現わし;縁51によって規定される穴は,吸収性芯23を通して引き裂かれてバック湿潤強度ティシェ26の下設部分および好ましくはまた感圧性であるホットメルト接着剤のフイラメントの網目52を現わし;テープファスナー42のコーナー54は,裏返されてファスナー組立体の下設剥離テープ55の一部分を現わし;トップ湿潤強度ティシュ22の一部分は,線55に沿って引ぎ裂かれて吸収性芯23の下設部分,吸収性芯23の切欠側縁59,およびバック湿潤強度ティシュ26の下設部分,バックシート27,およびバックシート227をパック湿潤強度ティシュ26に接着する複数の接着剤ビーズの1つである接着剤ビーズ60を示し;そしてトップシート21のコーナー61,トップ湿潤強度ティシュ22のコーナー62および63,およびバック湿潤強度ティシュ26のコーナー64は,裏返されて,おむつ20の構造を更に明らかにする。」(4頁左下欄4行から右下欄下から3行)(オ)「・・・第2図においては,本質上縦断面化される接着剤の網目49および52のフイラメント部分は,それぞれ49aおよび52aと示され,そして本質上横断面化されるフイラメント部分は,それぞれ49bおよび52bと示される。49a/49bおよび52a/52bの当接対は,接着剤の網目におけるフイラメント間接合点を示す。接着剤フィラメント,接着剤ビーズ46および60の相対的大きさ,および薄層の厚さは,本発明の明瞭化のために誇張されている・・・追加的に,第2図は,吸収性芯23を構成する繊維と第1図の接着剤網目49,52のフイラメントとの間の相対的大きさの関係を示さない。事実,接着剤フイラメントが繊維の直径と桁が大体等しい直径を有すること;および網目の交錯または接合点が芯23の繊維の平均長よりも実質上近く離間されていることが,好ましい。」(4頁右下欄下から2行〜5頁左上欄19行)(カ)「追加の別の具体例は,特に「発明の開示」の項目で前に記載したような多少のエレメントを具備できる。限定しないが,例えば,このような別の具体例は,トップ湿潤強度ティシュ22を省略できる。この場合には,トップシートは,特許請求の範囲に言及される液体透過性薄層である。さもなければ,勿論,特許請求の範囲の「液体透過性薄層」は,内部薄層であり,そして好ましくは前記のような湿潤強度ティシュである。追加的に,または或いは,他の別の具体例の各種の薄層は,接着剤ビーズ46および60の配列よりもむしろ前記のような接着剤の多数の小滴または接着剤のフイラメントの網目の追加の開放パターンによって一緒に固着され得る。このような接着剤の開放パターンは,このような接着剤ビーズによって引き起こされる応力集中および剛さを回避する。」(6頁左下欄下から2行〜右下欄14行)イ乙154記載の発明の内容上記アの記載並びに第1図及び第2図を合わせると,乙154には,「吸収性芯23と,トップシートである液体透過性薄層21と,液体不透過性バックシート27とを有し,液体透過性薄層と液体不透過性バックシートとの間に吸収性芯23が介在されており,吸収性芯の長手方向縁より外方に延びて液体透過性薄層と液体不透過性バックシートとで構成されたフラップにおいて腰回り方向に弾性バンド37を有する使い捨て紙おむつにおいて,弾性バンド37が,液体透過性薄層と液体不透過性バックシートとの間に介在され,吸収性芯23の長手方向縁と離間しており,トップシートである液体透過性薄層の液体不透過性バックシート27がわ面において,吸収性芯23端部上と弾性ベルト上に跨ってその両者に固着されるホットメルト接着剤の網目ピース49が形成されていることを特徴とする使い捨て紙おむつ」に係る発明が記載されているものと認められる。
ウ本件特許発明と乙154記載の発明との対比(ア)乙154記載の発明の「吸収性芯23」,「トップシートである液体透過性薄層21」,「液体不透過性バックシート27」,「使い捨て紙おむつ」は,それぞれ,本件特許発明の「体液吸収体」,「透水性トップシート」,「非透水性バックシート」に相当する。そして,乙154記載の発明の「弾性バンド」と本件特許発明の「弾性帯」は,「帯状の弾性体」であるとの点で共通する。また,乙154記載の発明の「ホットメルト接着剤の網目ピース49」と本件特許発明の「ホットメルト薄膜」は,ともに,「トップシートのバックシートがわ面において体液吸収体端部上と弾性ベルト上に跨ってその両者に跨ってその両者に固着されるホットメルト接着剤からなる層」であるとの点において共通する。
(イ)他方,本件特許発明と乙154記載の発明とは,以下の点で相違する。
a帯状の弾性体に関し,本件特許発明は,「弾性帯」が「弾性伸縮性の発泡シート」であるのに対して,乙154記載の発明は,弾性を有する「弾性ベルト」である点。
b「ホットメルト接着剤からなる層」に関し,本件特許発明は「ホットメルト薄膜」であるのに対して,乙154記載の発明は,「ホットメルト接着剤の網目ピース」である点。
c本件特許発明が「さらに前記離間位置において前記ホットメルト薄膜が前記非透水性バックシートに前記腰回り方向に沿って接合され,体液の前後漏れ防止用シール領域を形成し」ているのに対して,乙154記載の発明は,そのような構成を有していない点。
(ウ)そうすると,本件特許発明と乙154記載の発明とは,(ア)の点において共通するものの,(イ)の相違点があることから,両者を実質的に同一の発明ということはできない。
エ被告の主張に対し(ア)被告は,本件特許発明の「ホットメルト薄膜」は乙154記載の発明におけるようなホットメルト接着剤の網目ピースを含むものであることを前提とすれば,乙154記載の発明の「ホットメルト接着剤の網目ピース」が本件特許発明の「ホットメルト薄膜」に相当すると理解すべきであると主張する。
しかし,被告の上記主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,前記アで認定した乙154の記載によると,乙154記載の発明の「ホットメルト接着剤の網目ピース」は,フィラメントにより網目状に形成されるものであり,「薄膜」を形成するものとは異なると解すべきである。また,「ホットメルト接着剤の網目ピース」は,「トップシート」又は「バックシート」と「吸収性芯」とを接合するとともに,「吸収性芯」を収納し,吸収性芯の成分が篩い分けられることを回避するようにするものであるとの記載はあるものの,本件特許発明の「ホットメルト薄膜」のように,「体液が長手方向に流れてその端部からトップシートから染み出すことを防止」できる作用を奏するものであるとの記載はない。さらに,「網目状の」ホットメルト層が,本件特許発明の「ホットメルト薄膜」と同様の機能作用を奏するということもできないし,乙154にはそのような作用を奏するか否かについての記載,示唆はない。
したがって,乙154記載の発明の「ホットメルト接着剤の網目ピース」が,本件特許発明の「ホットメルト薄膜」に相当するものであるということはできない。
(イ)また,被告は,乙154記載の発明においては,離間位置において,「ホットメルト接着剤の網目ピース」が,液体不透過性バックシートに腰回り方向に沿って接合されていることから,「体液の前後漏れ防止用シール領域」に相当する構成を備えるものであると主張する。
しかし,被告の上記主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,乙154には,「ホットメルト接着剤の網目ピース」により,体液の前後漏れを防止することができることについては何ら記載されておらず,また,「ホットメルト接着剤の網目ピース」が非透水性であるとも記載されていないから,被告が主張するように,乙154記載の発明の「ホットメルト接着剤の網目ピース」が,弾性ベルトと吸収性芯の縁部との離間位置において,液体不透過性バックシートに腰回り方向に沿って接合されているとしても,それにより「体液の前後漏れ防止用シール領域」を形成しているものということはできない。
(ウ)さらに,被告は,本件特許出願時において,端部漏れを防止するために,端部に至るまでトップシートのバックシートがわ面にホットメルト接着剤が塗布され,吸収体をトップシートとバックシートとでシールする構造がとられていることは周知慣用技術(乙124,125,132,157,158)であると主張する。
しかし,被告の上記主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,?@実開昭61-137607号公報(乙124)は,「端部において,弾性腰バンド5を断続的接着部7により表裏面シート1,2の間に接着するもの」にすぎず,接着剤層により端部漏れを防止するものではないこと,?A特開昭57-193501号公報(乙125)は,「伸縮性かつ防水性障壁42が支持シート22と上方シート24との間に接着剤により固定されてウエストシールを形成するもの」(第4図)と「伸縮性且つ水密性ウエスト部材44が接着剤等で上方シートに固定されているもの」(第5図)にすぎず,接着剤層により端部漏れを防止するものではないこと,?B実開昭60-306号公報(乙132)は,「端部漏れを防止するために,液透過性表面シート1と液不透過性裏面シート2とを,端部において疎水性のホットメルト接着剤で接合する」ものにすぎず,接着剤層により端部漏れを防止するものではないこと,?C実開昭58-30421号公報(乙157)は,「端部漏れを防止するために,液不透過性エンドシート6を用いるもの」であり,特開昭58-54002号公報(乙158)も「端部漏れを防止するために,液不透過性帯状片11,12を用いるもの」にすぎず,接着剤層により端部漏れを防止するものではないことが認められる。
したがって,被告主張に係る上記刊行物はいずれも接着剤層により端部漏れを防止するものではないので,被告の主張は理由がない。
オ以上のとおり,本件特許発明と乙154記載の発明とは同一であるとはいえず,それを前提とする被告の主張は採用できない。」(2)原判決91頁24行目の「(6)」を「(7)」に改める。
(3)原判決92頁9行目末尾から改行して次を加える。
「被告は,証拠(乙113,144〔いずれも事実実験報告書〕,検乙16)を提出し,ドライヤーではホットメルト接着剤に付着していないカーボントナーでも繊維の間に入り込んだものを吹き飛ばすことはできないと主張する。しかし,上記乙113に係る実験では,ドライヤーのブローの時間は約30秒と短時間である。そして,証拠(甲85)によると,上記乙113及び乙144に係る実験共に,その使用したドライヤーが甲4及び甲5に係る実験に使用したドライヤーと比べて風速が弱く,またカーボントナーの塗布状態も乙113及び乙144に係る実験の場合,カーボントナーを多く塗布したためにカーボントナーが不織布の散布面のみならず反対側面にまで通過していることから甲4及び甲5の実験の場合とは,条件が異なるものと考えられるから,これをもって,被告の主張を裏付けるものとはいうことはできない。
被告は,甲4,5,17,85のカーボントナー実験の写真は著しく異なり,同一の方法で行われた実験で得られた写真ではないと主張し,報告書(乙161)にこれに沿う記載がある。しかし,写真で写された状況は,撮影条件等によって異なり得るのであるから,これらの相違をもって上記実験の信用性を左右するものとはいえない。」(4)原判決96頁24行目中「乙44」の後に「及びこの誤記が乙41実験の結論に影響を及ぼさないとのB教授の陳述書(乙110)」を加える。
(5)原判決97頁7行目の末尾に行を改め,次を加える。
「?C証拠(乙112・B教授作成の実験報告書)には,被告製品の吸収体端部において,四酸化オスミウムで黒色に線状に染色された部分にはホットメルト接着剤が存在するが,染色されていない部分にはホットメルト接着剤は存在していないとの部分がある。しかし,上記証拠によると,4つの試料を同時にデジケータの中に入れて染色しているのであり,甲30,31,45,乙41とその試料の大きさ又は染色方法において明らかに異なっているのであるから,これをもって,染色されていない部分にホットメルト接着剤が存在しないとは必ずしもいえず,甲30,31,45の結果を左右するものではない。」(6)原判決99頁8行目の末尾に行を改め,次を加える。
「被告は,甲14の実験に関して,?@試料2においては,人工尿が吸収体の存在しない部分から脇を流れているので,本件特許発明のホットメルト薄膜及びシール領域の作用効果を示したものではない,?A試料1と試料2とでは,人工尿の注入時間が異なると主張し,報告書(乙145,146)にもその旨の記載がある。しかし,証拠(甲43,86,乙147)によると,?@上記人工尿の脇に流れた漏れはわずかであるし,?A上記注入時間の違いも上記報告書の経過時間の算出に疑問が残ることからすると,甲14の実験を信用することができないとはいえず,被告の主張は採用できない。」(7)原判決101頁11行目末尾の後に行を改めて,次を加える。
「被告は,証拠(乙113,122〔いずれも事実実験報告書〕を提出して,乙50等実験の試料Bには高吸収性ポリマーが含まれ,試料Bから高吸収性ポリマーが篩い分け実験によって落ちなかった原因は吸湿であると主張する。そして,被告が提出したA准教授の意見書(乙110)にも,?@甲50の試料B3は吸収層がパルプのみで構成されているとしても,人工尿の吸収量が被告製品(試料A)よりも高くなっているし,仮にパルプ量が被告製品の約2倍であれば,吸収層の体積や厚さが被告製品の2倍以上となり不自然であるから,乙50等実験の試料Bに高吸収性ポリマーが含まれていないとはいえない,?A乙50等実験の試料Bは吸湿により重量が増加した可能性があるから,市販品との重量の違いをもって上記試料Bが市販品と異なるとはいえない,との部分がある。
しかし,上記証拠(事実実験報告書)によれば,「30℃,湿度85%,加湿時間5時間」という一定の条件の下での結果であり,これをもって直ちに試料Bに高吸収性ポリマーが存在したということはできないし,証拠(甲77の1,2)によると,同1条件で高吸収性ポリマーの篩い分けができたとの異なる結果が存在する。また,上記意見書(乙110)についても,?@上記?@は実際に試料B3の構造を分析した上での意見ではないし,?A乙50等実験の試料Bの保管状況が必ずしも明らかではない上に(乙58には平成18年6月29日には開封されており,開封後温度,湿度を特別に調整したり防湿包装をしたことはないとの記載があるが,採用の限りではない。),証拠(甲72)によると,紙おむつを甲47の重量測定が行われたのと同時期に同様の期間保管してもその重量増加は,わずかであったから,上記証拠及び意見書の記載部分は採用することができない。」(8)原判決103頁14行目中「認められる。」を「認められ,」に改め,続けて「証拠(乙150,152)によれば,人工尿を3ml/秒による注入を開始して0.6秒後には人工尿が弾性体と吸収体の離間部で領域を超え,1.23秒後には端部から人工尿が漏れ出したことが認められる。」を加える。
(9)原判決103頁19行目末尾の次に行を改めて,次を加える。
「(h)証拠(乙98,99)によれば,被告製品のMサイズ及びLサイ(試料A)と,上記各被告製品から透水性トップシートをドライヤーで熱をかけて剥離したもの(試料B)について,甲7等実験と同様の方法で実験したところ,漏れを防止する効果にほとんど差異がなかったことがことが認められる。
しかし,上記証拠によれば,Mサイズ,Lサイズいずれの場合も,試料Aと試料Bとは同一ロットで,同一パッケージに包装されたものであるにもかかわらず,ホットメルト接着剤が塗布された透水性トップシートを剥離した試料Bの方が人工尿が漏れるまでの時間が長くなっており不自然である。しかも,試料Aについての人工尿の吸収量の結果が同じ被告製品を対象とした乙49実験と異なっている。被告は,透水性トップシートを除去した場合は,吸収体端部が厚み方向への膨張が可能となり,そのために吸収量が増加することがあると主張するが,仮にそのような可能性があるとしても,少なくとも甲7等実験においては異なる結果となっている。したがって,前記実験は信用することができず,甲7等実験の結果の信用性を左右するものではない。」(i)A准教授の陳述書(乙110)には,?@本件明細書の実施例2の記載では再現性のある実験結果を得ることは困難であり,甲7等実験は実施例2の追試とはいえない,?A被告の傾斜漏れ実験(乙49,50,53,54,66,98,99)のように複数回の実験から導き出される結果は,バラツキがあり客観性があるが,甲7等実験は腹部,背部各1回で結論を下すのに不十分であり,甲7等実験を信用することはできないとの記載がある。しかし,実施例2は,使い捨ておむつを製造するための条件を記載したものではなく,甲7等実験は実施例2の追試ではない。また,上記?Aの実験では時系列で吸収量が減少するという違いが生じているのであるから,その違いに客観性があるとは到底いえない。よって,上記記載をもってしても,甲7等実験の結果の信用性を左右するものではない。」(10)原判決103頁20行目中「(h)」を「(j)」に改める。
(11)原判決108頁8行「本実施例によれば」の前に,「この実施例において,使い捨ておむつ1は,・・・不透水性のバックシート2と,透水性の表面シート3と,両シートより輪郭形が小さく形成されかつ両シート間に介装される吸収体4と,吸収体の両側部において上記両シート間に介装される伸縮弾性部材5とから構成されている。バックシート2と表面シート3とは吸収体4の外縁部分で相互に接合されている。・・・」を加える。
(12)原判決108頁12行「塗布される。」の次に,「このホットメルト被膜6は,透水性シート3に不透水性を賦与するためのもので,市販のホットメルトを使用することができる。」を加える。
(13)原判決114頁11行中「仮に,争点2-1に関する原告の主張を前提とした場合,」を削除し,同頁13行から115頁17行までを次のとおり改める。
「(1)原告は,上記主張は時機に後れた防御方法として許されないと主張する。しかし,被告の上記主張が訴訟の完結を遅延させる(民訴法157条1項)とまではいえないので,時機に後れた防御方法として却下するのは相当ではない。
(2)先願明細書(乙37)の記載先願明細書(乙37)には,次の記載がある。
ア「液透過性の表面シートと液不透過性の裏面シートの間に吸収材を有する使い捨ておむつにおいて,該おむつの腰囲り方向の両側縁部に沿って,且つ前記両シートの間に,該おむつの腰囲り方向の両側縁部の長さに等しいかあるいは若干短い長さを有し,且つ,0.5〜5cmの巾および0.5〜3.0mmの厚さを有するクッション性シートを介在させたことを特徴とする使いすておむつ」(実用新案登録請求の範囲第1項)イ「クッション性シートが発泡性プラスチックシートである実用新案登録請求の範囲第1項記載の使いすておむつ」(実用新案登録請求の範囲第2項)ウ「[産業上の利用分野]本考案は使いすておむつに関する。更に詳しくは尿の漏れおよび装着性を改良した使いすておむつに関する。」(2頁5〜7行)エ「腹部,背部からの尿の漏れ防止手段として腰まわり部に薄いフィルムを取付ける方法も提案されているが・・・この方法によるときは,装脱着時にフィルム特有の音を発し,また尿も吸収材を覆つているフィルムの上を通つて漏れてしまうなどの問題があつた。」(3頁1〜8行)オ「[考案の構成]本考案は液透過性の表面シートと液不透過性の裏面シートとの間に吸収材を有する使いすておむつにおいて,該おむつの腰囲り方向の両側縁部に沿つて,且つ前記両シートの間に,該おむつの腰囲り方向の両側縁部の長さに等しいかあるいは若干短い長さを有し,且つ,0.5〜5.0cmの巾および0.5〜3.0mmの厚さを有するクツション性シートを介在させたことを特徴とする使いすておむつである。本考案におけるクツション性シートは,使いすておむつの腹部,背部からの尿の漏れを防止し,また,おむつの縁部の剛性を上げるために用いられるものであつて,好適なクツション性シートとしては発泡性プラスチツクシート・・・などを使用出来る。発泡性プラスチツクシートとしては発泡性ポリエチレン,ポリスチレン,ポリウレタンのいずれも利用可能であるが,柔軟性,折りまげ時の強度などの点からは発泡性ポリエチレンシートが望ましい。」(3頁下から2行〜4頁18行)カ「第1図及び第2図において,符号1は表面シート,2は裏面シート,3は吸収材,4は弾性部材,5はテープフアスナー,6a及び6bは発泡性プラスチツクシートを示す。吸収材3は,綿状パルプ,吸水紙,高吸水性ポリマーとから成り,ポリエチレンなどから成る裏面シート2と,ポリエチレン,あるいはポリプロピレン等の不織布などから成る表面シート1との間にホツトメルト接着によって固定されている。また弾性材4及び本考案による発泡性プラスチツクシート6a,6bもホツトメルト接着により固定し一体化されている。発泡性プラスチックシートについては,背部6aと腹部6bとを1枚のシートとして固定した後切断することにより効率的に固定することが可能である。」(5頁14行〜6頁9行)(3)先願考案との実質的同一性についての判断上記によれば,先願明細書においては,「吸収体」,「クッション性の発泡シート」を表面シートと裏面シートの間にホットメルト接着により接着することが記載されているものの,「ホットメルト接着」と記載されるのみであり,当該ホットメルト接着の際のホットメルト接着剤の塗布態様及び塗布による前後漏れの防止について,何ら開示がない。また,先願明細書には,体液が端部から漏れることを防止するために,「クッション性シート」を設けることが記載されるのみであり,先願明細書記載の「ホットメルト接着剤」の塗布態様が,体液の前後漏れを防ぐものとして用いられることについて何らの開示もないから,先願考案のホットメルト接着剤の塗布態様が,本件特許発明における「ホットメルト薄膜」を形成するということはできない。さらに,先願考案の使いすておむつは,腰回り方向の腹部,背部の両側縁部にそって両シートの間に介在させたクッション性の発泡シートによって,端部からの漏れを防止することを目的とするものであるが,発泡シートと吸収材3の離間部において,体液の前後漏れを防止することを目的とするものではない。
以上により,本件特許発明と先願考案とは実質的に同一であるということはできないから,被告の主張は理由がない。」(14)原判決115頁18行中「仮に,争点2-1に関する原告の主張を前提とした場合,」を削除する。
(15)原判決120頁2行目「上記の」から24行目までを次のとおり改める。
「また,引用文献5には,「パンツの前面パネル14と後面パネル15は同一構造で,それぞれ・・・身体側ライナー20と外側カバー21を有する。吸収性の芯22がライナー20とカバー21の間に位置し,線状または点状の接着剤,感圧テープ,超音波シール,熱シール等当該分野で周知な任意の適切な手段にライナーかカバーのいずれかまたはその両方に固定されるか,あるいはライナーかまたはカバーによって取り囲まれるがそれに固定されない。」(6頁右下欄15行〜7頁左上欄4行),「弾性要素60は使い捨て衣類の外側カバー61と身体側ライナー62の間に結合され,使い捨て衣類はこれら両層間に吸収芯63を有する。弾性要素の外表面64が接着剤の薄層65に沿って外側カバーに結合され,弾性要素の内表面66が接着剤の薄層67に沿って身体側ライナーに結合されている。接着剤層65,67は,液体接着剤,熱溶融接着剤,感圧接着剤等,弾性要素の材料を衣類の材料へ接合するのに適した任意の接着剤で形成できる。伸縮化開口を形成するその他の構造的特徴は前述した通りで,上記の取り付け用に選ばれる接着剤は,本発明の目的のため弾性要素が収縮されたとき,2つの層の接合点にのみ結合されねばならない。」(16頁右上欄12行〜左下欄8行)との記載がある。
上記のとおり,引用文献5においては,吸収芯を身体ライナーに接着する方法と,弾性要素を身体ライナーに接着する方法とが区別して記載されている。
(b)引用文献5の第23図を参照すると,弾性要素60を外側カバー61又は身体側ライナー62に接着する接着剤の薄層64,65は,弾性要素60の部分にのみ記載されている。他方,第24図には,弾性要素が吸収芯と離間しており,弾性要素70の周囲において,身体側ライナーと外側カバーとが接着剤層によって接着されている構成が示されている。しかし,弾性要素と吸収芯がそれぞれ接着剤層によって接着されていても,それらの間の間隙を接着剤層により接着することまで示唆する記載は引用文献5には記載がなく,また上記間隙に接着剤層で接着する必要があるとはいえない。
以上のとおり,引用文献5においては,弾性要素と吸収芯との離間部分にホットメルト接着剤が塗布されているか否かは明らかでなく,かえってそれぞれの身体ライナーとの接着方法が異なることを併せ考慮すれば,ホットメルト接着剤が吸収芯の端部上から弾性要素上に跨ってその両者を固着するものであるか否かは,不明であるというべきである。
(c)被告は,乙102等の紙おむつの製造工程を考慮すれば,引用文献5の第24図に記載されているような弾性要素70を身体ライナー72に結合するための接着剤は,吸収芯63から弾性要素70に跨って塗布されると考えるのが通常であって,接着剤が「吸収芯63上」及び「弾性要素70上」のみに塗布することは,現実的に不可能であると主張する。
しかし,引用発明5の吸収芯を身体ライナーに接着する方法と,弾性要素を身体ライナーに接着する方法とが区別されているのであるから,引用文献5の記載に接した当業者が,弾性要素70を身体ライナー72に結合するための接着剤は,吸収芯63から弾性要素70に跨って塗布されると考えるのが通常であるとはいえない。以上のとおりであって,被告の主張は理由がない。」(16)原判決121頁24行から25行にかけての,「身体側ライナー」から122頁1行目末尾までを,「トップシートのバックシートがわ面に『体液吸収体』と『弾性要素』にそれぞれ固着される『ホットメルト接着剤層』が,両者が跨って形成されるものであるか否か,また,『ホットメルト薄膜』であるか否かが不明である点で相違する。」に改める。
(17)原判決123頁15行目の次に行を改めて次を加える。
「ウ被告は,引用文献1(乙15)の記載に従って引用文献5(乙38)に記載のおむつにホットメルト薄層を形成しても,おむつの肌ざわりが劣化することはなく,「ミクロなうね又はたわみ」を形成することができることは明らかであると主張する。しかし,引用文献1及び引用文献5には,おむつの肌ざわりと引用発明5の「ミクロなうね又はたわみ」の形成が直接関係するものであるとの記載はなく,引用発明5の「ミクロなうね又はたわみ」を形成するためには,弾性要素が接合点のみで外側カバーと身体ライナーとに接合されることが必要であることは上記アで認定したとおりである。したがって,被告の主張は,理由がない。
エ被告は,ホットメルトの種類や塗布方法を選択することが可能であることが本件特許出願時に技術常識であったから(乙69,116の3ないし5),弾性要素を伸張した状態でホットメルト薄膜を介して身体側ライナー及び外側カバーと結合させ,弾性要素の伸張力を解除した場合に,弾性要素が元に戻り,結果としてホットメルト薄膜に結合した外側カバー及び身体側ライナーにミクロうね又はたわみが生じ,裁縫仕立ての外観を与えるように,ホットメルトの柔軟性,伸縮性,ホットメルト薄膜の厚さ,ホットメルトの塗布様式等を適宜選択することが可能であると主張する。しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)「接着の技術」(乙69)には,「又コスト面及び仕上がりの風合から接着剤の塗布量が少なく,接着性の良いものが望まれる」との記載がある。しかし,上記記載は,「紙おむつ用ホットメルトの要求特性」についての「接着性が良いこと」における記載にすぎず,体液の漏れ防止のためのホットメルト薄膜についていうものではない。
(イ)「接着」(乙116の3)には,「紙オムツの製造に用いられるホットメルトは,通常のホットメルトよりも低粘度で,しかも,風合いの点から,柔らかくなければならない」との記載がある。しかし,上記記載は,紙おむつに用いるホットメルト一般の性質をいうものにすぎず,体液の漏れ防止用ホットメルト薄膜についていうものではない。
(ウ)被告は,特願昭61-32106号公報(乙116の4)から,ホットメルト接着剤を用いてトップシートの長手方向端部に耐漏性の排泄物遮断層を形成した使い捨ておむつにおいて,不織布トップシートの柔軟性や手触りを劣化させないようにホットメルトを適用できること,また,端部に部分的又は全体的に弾力性をもたせ得ることが記載されていることから,おむつ端部にホットメルト接着剤層を形成しても伸縮性を有するようにすることが可能であり,引用発明5にホットメルト接着剤層を形成しても裁縫仕立ての外観が得られると主張する。
しかし,被告の上記主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,乙116の4には,「物品の吸収性芯部かまたは不織部分のいずれかに撥液性組成物の使用を教示している。この手法は,塗布された表面を有効に飽和させる液体溶液の形の撥液剤の使用を必要とする。・・・もし不織トップシートに適用されると,それはこのシートに完全に侵入しそれによって不織シートの軟らかさまたは手触りを低下させ,そのことは使用者に不快感を起させる。」(2頁右下欄13行〜3頁左上欄3行),「物品の柔軟性または手触りの劣化をもたらさないように,皮膚に接触しない不織布の内面にのみ適用される」(3頁右下欄16〜18行)との記載がある。そうすると,乙116の4における「不織トップシートの柔軟性または手触りの劣化をもたらさない」との記載は,ホットメルト接着剤が使用者の皮膚と接触する不織シートの表面状態に影響を与えないことによる結果をいうにすぎないと解されるから,不織シートに弾性体を貼着した場合に,その伸縮方向についての柔軟性についていうものとはいうことはできない。
(エ)「ホットメルト接着の実際」(乙116の5)には,熱転写プリントにおいて伸縮性のホットメルトが使用されていることが記載されている。しかし,乙116の5には,伸縮性の生地の伸縮性を損なわないホットメルト転写が可能であることが開示されているにすぎず,紙おむつについてのものでもないし,体液の漏れ防止のためのホットメルト薄膜についていうものではない。」(18)原判決124頁10行目中「争点5」を「争点9」に改め,同頁12行目中「平成18年9月末日」を「平成19年1月16日」と改め,15行目末尾の後に改行して,「ウ平成18年10月1日から平成19年1月16日8億2300万円」を加える。
(19)原判決125頁5行目から18行目までを次のとおり改める。
「イ原告は,P&G社が白十字株式会社との間で,本件特許発明とほぼ技術的思想を同じくする2件の特許の実施料を合計2%としているから,実施料としては同様に2%が相当であると主張する。
しかし,証拠(乙95,134,135)によると,上記ライセンスの対象とされた特許は,「バリヤーカフス」という使い捨ておむつの横漏れを防止するという基本的機能に関する特許であること,被告において紙おむつに関する特許でライセンスしているものの実施料率が1%以下であり,本件特許についてライセンスを供与した実績がないこと,証拠(甲57)によると,ベビー用紙おむつ業界のブランドシェアにおいて,P&G社は被告の3倍以上であること,P&G社の特許の実施料率も2件で2%であるにすぎないことからすると,上記事例をもって実施料率の基準とすることは相当でない。」(20)原判決126頁2行目から4行目までを次のとおり改める。
「ウ平成18年10月1日から平成19年1月16日まで8億2300万円×0.7%=576万1000円エ合計6932万8000円+3176万6000円+576万1000円=1億0685万5000円」(21)原判決126頁6行目中「1億0109万4000円」を「1億0685万5000円」に改め,9行目中「から」の後に,「,内金576万1000円に対する不法行為の後の日であることが明らかな平成19年1月17日から」を加える。
2当審における被告の主張に対する判断(1)争点5(本件特許発明が,要旨の変更となる結果,特許法29条に違反しているか)についてア本件出願当初明細書の記載本件出願当初明細書(乙1,2,3,107)には,次の記載がある。
(ア)特許請求の範囲(1)体液吸収体とこの端より外方に延び着用者の腰部対応位置にあって吸収体が存在しない透水性トップシートと非透水性バックシートとで構成される縁とを有する衣料において,前記縁の前記両シート間にあって腰周り方向に沿って弾性伸縮性の発泡シートを設けるとともに,前記トップシートのバックシートがわ面において吸収体端部と発泡シート上とに跨ってホットメルト薄膜を形成したことを特徴とする使い捨て衣料。
(2)発泡シートの厚みが非伸張状態で1〜10mmである第1項記載の使い捨て衣料。(3)発泡シートの巾が,縁の巾の20〜150%を占める第1項記載の使い捨て衣料。(4)発泡シートのセル構造が開放セル構造である第1項記載の使い捨て衣料。(5)発泡シートのセル数が1インチ当り15〜70個である第1項記載の使い捨て衣料。(6)発泡シートが着色してある第1項記載の使い捨て衣料。
(イ)〔従来の技術〕この種の使い捨て衣料は,その使い捨てであることから安価であることが要求されるが,着用感に優れ,また漏れ防止が十分なされていることが重要である。漏れ防止の点では,近年の使い捨ておむつにおいては,脚周りに弾性体を設けたものが主流となっている。
この弾性体としては,比較的広巾のゴムバンド,細い糸ゴムのほか,発泡ポリウレタンを使用したものもある。一方,腰周りにおいても,弾性体を設け,体液の前後漏れ防止を図るとともに,着用感を柔げる試みがなされている。
(ウ)〔発明が解決しようとする問題点〕しかし,腰周りにおける弾性体としては,ゴム材料が主体をなしており,その結果,着用者に過度の圧迫感を与えがちであり,また前後漏れに対して十分な対処がなされてなかった。そこで本発明の主たる目的は,前後漏れ防止を確実に達成できるとともに,着用感に優れた使い捨て衣料を提供することにある。
(エ)〔問題点を解決するための手段〕上記問題点を解決するための本発明は,体液吸収体とこの端より外方に延び着用者の腰部対応位置にあって吸収体が存在しない透水性トップシートと非透水性バックシートとで構成される縁とを有する衣料において,前記縁の前記両シート間にあって腰周り方向に沿って弾性伸縮性の発泡シートを設けるとともに,前記トップシートのバックシートがわ面において吸収体端部と発泡シート上とに跨がってホットメルト薄膜を形成したことを特徴とするものである。
〔作用〕吸収体が存在しない縁,換言すればフラップは,吸収体が存在しないので,このフラップ部に弾性体を設けると,着用者に強い圧迫感を与えてしまう。圧迫感を軽減するために,帯ゴムに代えて,糸ゴムを数本設けることなども考えられるが,根本的な解決とはなり得ない。これに対して,本発明に従って,フラップ部もしくは吸収体の端部にも渡って発泡シートを設けると,発泡シートのクッション性のために,着用者にとって,所要の締付力を与えるものの,圧迫感が殆んど無くなる。
また,フラップ部は,発泡シートの弾性伸縮性のために,着用者の肌に密着し,体液の前後漏れ防止がなされる。また,ホットメルト薄膜の存在により前後漏れを防止できる。
(オ)第1図および第2図は使い捨ておむつの第1実施例を示したもので,このおむつは不織布等の透水性材料からなるトップシート1とポリエチレン等の非透水性材料からなるバックシート2との間に,周囲を残して綿状パイプを主体とする吸収体3を包んだ基本構成をなしている。(2頁右上欄9行〜14行)おむつの両側には,長手方向(第1図上下方向)に沿って,ゴム等の弾性伸縮部材4が設けられている。また,おむつの長手方向両端部における吸収体3が存在しない縁(フラップ部)5には,おむつの巾方向(第1図左右方向)に沿って弾性伸縮性の合成樹脂発泡シート6が設けられる。この第1実施例では,トップシート1とバックシート2との間に介在されている。そして,発泡シート6は,伸張状態でシート1.2の少なくとも一方に固着されているので,フラップ部を収縮させる。
(2頁右上欄15行〜2頁左下欄4行)(カ)さらに,吸収体3に吸収された体液が長手方向両端から漏れることを防止するために,ホットメルト薄膜7が,吸収体の端部からトップシート1と発泡シート6との間に跨って設けられており,このホットメルト薄膜7は発泡シート6をトップシート1に固着することも兼ねている。
ホットメルト薄膜7に代えて,非透水性のプラスチックフィルムを使用することも可能である。8は紙おむつの止着テープである。(2頁左下欄5行〜13行)発泡セル数は,1インチ当りの線に沿ったセル数で15〜90個,特に15〜70個のものが,柔軟性の点で望ましい。また,このものでは,通気性を有するものの,体液は通過させない。・・・長さlは,適宜でよいが,クッション性および前後漏れ防止のためには,l /4以上で,01吸収体3の巾と同一か広い方がよい。なおホットメルト薄膜7の巾lは吸収体3の巾より狭くない方が望ましい。・・・発泡シートの断面形状は適宜でよいが,矩形断面であるのが一般的にはよい。(2頁右下欄4行〜3頁左欄5行)他方,第3図例は,ホットメルト薄膜7を,発泡シート6と吸収体3の端との間でバツクシート2に紙おむつの,巾方向に連続的に溶接させてシール線部9を形成し,このシール線部9で体液の前後漏れ防止効果を高めたものである。(3頁左欄12行〜16行)第4図は発泡シート6をフラップ部端縁より内方に位置させた例,第5図は発泡シート6A,6Bを2本設けた例,第6図は発泡シート6をトップシート1表面上に接着剤により固定した例をそれぞれ示す。(3頁左欄17行〜右欄1行)〔発明の効果〕以上の通り,本発明によれば,着用感に優れ,かつ前後漏れ防止効果が高い使い捨て衣料が提供される。(3頁右欄9〜12行)第2図及び第4図には,ホットメルト薄膜7が,吸収体3上と発泡シート6上とに跨って存在することが表示されている。
イ本件出願当初明細書の内容上記アで認定した事実によれば,本件出願当初明細書には,次の事項が記載されていたものと認められる。
(ア)本願発明は,前後漏れを防止するとともに,着用感に優れた使い捨て衣料を提供することを目的として,縁の腰周り方向に沿って弾性伸縮性の発泡シートを設けることを特徴とするものである。
(イ)フラップ部もしくは吸収体の端部にもわたって発泡シートを設けると,そのクッション性のために,着用者にとって,所要の締付力を与えるものの,圧迫感がほとんどなくなる。
(ウ)フラップ部は,発泡シートの弾性伸縮性により着用者の肌に密着し,体液の前後漏れが防止される。
(エ)吸収体の端部からトップシート1と発泡シート6との間に跨って設けられたホットメルト薄膜7が,吸収体3に吸収された体液が長手方向両端から漏れることを防止する。
(オ)ホットメルト薄膜7は,発泡シート6をトップシート1に固着するものである。
(カ)ホットメルト薄膜7を発泡シート6と吸収体3との間でバックシート2に紙おむつの,巾方向に連続的に溶接させて形成したシール線部9が堆積の前後漏れ防止効果を高める。
ウ本件第3手続補正書(乙6)の補正事項本件第3手続補正書(乙6)によると,同補正は以下の補正事項を含む。
(ア)前記ア(エ)の「特徴とするものである。」を「特徴とするものである。ここに,ホットメルト薄膜は,吸収体端部上と発泡シート上とに跨ってその両者に固着され,逆に吸収体端部上面がホットメルト薄膜により覆われるとともに,吸収体のトップシートに対する固定が図られ,かつその部分から少なくとも発泡シート上までの防漏手段とされている。」と補正する(以下「補正事項1」という。)。
(イ)前記ア(エ)の「体液の前後漏れ防止がなされる。」を「体液の前後漏れ防止がなされる。さらに,ホットメルト薄膜により前後漏れ防止効果が一層高まる。すなわち,いったん吸収体に吸収された尿が,幼児の動きにより吸収体が圧迫されると,逆戻り現象が生じ,この尿はトップシートを通って紙おむつの端部に至る。しかし,ホットメルト薄膜がトップシートの内面に貼着されているので,それ以上尿がトップシートに伝わることはない。さらに,吸収体がトップシートに対して非固定であると,吸収体の長手方向端部において,吸収体上面とトップシートとの間に空間ができ,この空間でできた状態で排尿があると,尿が吸収体に吸収されることなくトップシートを伝わり前後漏れが生じやすい。これに対して,吸収体の端部がホットメルト薄膜よりトップシートに対して固定されていると,前記空間が生じることがなく,トップシートを伝わることによる前後漏れが防止される。しかも,吸収体がその端部において,トップシートに固定されることにより,吸収体の位置決めがなされ,幼児の激しい運動により,吸収体がトップシートとバックシートの間において丸まり,もって尿の吸収が不十分となる事態を防ぐことができる。」と補正する(以下「補正事項2」という。)。
(ウ)前記ア(カ)「発明の効果」の前に,「(実施例1)ホットメルト薄膜を形成した場合と,形成しない場合とで,吸収体の縦方向(長手方向)の位置ずれを測定した。実験を人工尿を所定量吸収させた後,一方のフラップをもって,上下に50回振った後において,他方側において,吸収体の縁の位置のずれを測定したところ,ホットメルト薄膜を設けない比較例においては,ずれ長さが100mmであったのに対して,本発明例においては,10mmであり1/10となり,実質的に吸収体のずれが生じなかった。(実施例2)紙おむつの前後をフアスニングテープで組み立てるとともに,横置きにし,着用者のうつぶせ状態を再現させるようにした。次いで,紙おむつの中央部分に人工尿を徐々に注入し,紙おむつ端部からその尿が漏れ始めるまでの,人工尿の注入量を測定した。その結果,ホットメルト薄膜を設けない場合には,注入量が130ccであったのに対して,本発明にしたがってホットメルト薄膜を設けた場合,注入量が210ccであった。この結果から,本発明の紙おむつ構造によれば,トップシートを伝わって尿が漏れることが少ないことが判明した。」を追加する。
(エ)「特許請求の範囲を」を「(1)体液吸収体と,この縁より外方に延び着用者の腰部対応位置にあって吸収体が存在しない透水性トップシートと非透水性バックシートとで構成される縁とを有する衣料において,前記縁の前記両シート間にあって腰回り方向に沿って弾性伸縮性の発泡シートを設けるとともに,前記トップシートのバックシートがわ面において吸収体端部上と発泡シート上とに跨がってその両者に固着されるホットメルト薄膜を形成したことを特徴とする使い捨て衣料」と補正する。
エ本件第4手続補正書(乙9)による補正事項本件第4手続補正書(乙9)による補正は,特許請求の範囲を,「(1)体液吸収体と,この縁より外方に延び着用者の腰部対応位置にあって吸収体が存在しない透水性トップシートと非透水性バックシートとで構成される縁とを有する衣料において,前記縁の吸収体の長手方向端縁から離間した前記両シート間にあって腰回り方向に沿って弾性伸縮性の発泡シートを設けるとともに,前記トップシートのバックシートがわ面において吸収体端部上と発泡シート上とに跨がってその両者に固着されるホットメルト薄膜を形成し,かつこのホットメルト薄膜を前記吸収体の長手方向端縁と発砲シートとの間において前記非透水性バックシートに接合して体液の前後漏れ防止用シール線部を形成したことを特徴とする使い捨て衣料」とする補正を含むものであり,本件第6手続補正書(乙11)による補正は,特許請求の範囲を本件明細書(甲2)に係る特許請求の範囲のとおりとする補正を含むものである。
オ実願昭58-91439号公報(乙132)の記載実願昭58-91439号公報(乙132)には,次の記載がある。
(ア)「おむつは,不織布である液透過性表面シート1と,プラスチックフィルムである液不透過性裏面シート2と,両シート1,2間に介在させた・・・吸収体3と,股当部の両側に取り付けた伸縮部材4とを含み,吸収体3の縦横方向対向各端部から外方向に延出して相会する同対向端部5,6を接合してある。」(4頁2〜8行)(イ)「疎水性接着層7の接着剤は,ホットメルト型のものが好ましく,・・。またこのような接着剤は,液透過性表面シート1の組織内に含浸してこれを疎水性化しているのが好ましい。このようにするためには,塗布した接着剤が固化しない間に縦方向対向端部7を圧着すればよいが,目付が15〜35g/m ,密度が0.08g/cm であることが好ま2 3しい。」(4頁13〜20行)(ウ)「本考案おむつは,以上のように構成してあるから,吸収体3に吸収された小水がその縦方向対向端部7に達してもそこから外側に漏れるのを防止することができる。」(5頁4〜7行)カ要旨変更の有無についての判断(ア)本件第3手続補正書についてa補正事項1について本願発明の「ホットメルト薄膜」が,「吸収体端部上と発泡シート上とに跨ってその両者に固着され,逆に吸収体端部上面がホットメルト薄膜により覆われるとともに,吸収体のトップシートに対する固定が図られ,かつその部分から少なくとも発泡シート上までの防漏手段とされている」ことは,上記イ(エ)と同旨の内容であり,また,本件出願当初明細書の第2ないし4図には,吸収体3上と発泡シート6上とに跨って存在するホットメルト薄膜7が開示されていることからすれば,補正事項1は,本件出願当初明細書に記載されているものといえる。
b補正事項2について(a)「ホットメルト薄膜」によって,「前後漏れ防止効果が一層高まる」ことは,前記イ(エ)のとおり,本件出願当初明細書に記載されているものといえる。
(b)前記オの乙132の記載によれば,本件特許出願の出願時において,ホットメルト接着剤が液透過性シートの組織内に含浸して,液透過性シートを疎水化することで,体液の前後漏れを防ぐことができることは,技術常識であったということができる。そうすると,補正事項2のうち,「いったん吸収体に吸収された尿が,幼児の動きにより吸収体が圧迫されると,逆戻り現象が生じ,この尿はトップシートを通って紙おむつの端部に至るが,ホットメルト薄膜がトップシートの内面に貼着されているので,それ以上尿がトップシートに伝わることがない」こと,「吸収体がトップシートに対して非固定であると,吸収体の長手方向端部において,吸収体上面とトップシートとの間に空間ができ,この空間でできた状態で排尿があると,尿が吸収体に吸収されることなくトップシートを伝わり前後漏れが生じやすいが,吸収体の端部がホットメルト薄膜よりトップシートに対して固定されていることにより前記空間が生じることがなくなることで,トップシートを伝わることによる前後漏れが防止される」こと,「吸収体がその端部において,トップシートに固定されることにより,吸収体の位置決めがなされ,幼児の激しい運動により,吸収体がトップシートとバックシートの間において丸まり,もって尿の吸収が不十分となる事態を防ぐことができる。」ことは,前記イ(エ)(オ)に記載された事項から自明であるというべきものと認められる。よって,補正事項2は,本件出願当初明細書の要旨を変更するものとはいえない。
(c)この点について,被告は,本件出願当初明細書には,ホットメルト接着剤が固化しない間に圧着することが記載されていないから,乙132の記載をもってしても,本件特許出願の出願時において,当業者はホットメルト接着剤を塗布することによりホットメルト薄膜を形成するにとどまると主張する。
しかし,前記本件出願当初明細書の記載のとおり,「ホットメルト薄膜」は,「透水性トップシート」の「バックシートがわ面」において形成されており,かつ,「吸収体3」と「発泡シート」とに固着されていることからすれば,「吸収体3」と「発泡シート」とを固着するために,溶融状態で圧着されることは明らかであるから,当業者であれば,「ホットメルト薄膜」が,透水性トップシートの組織内に含浸しているものと理解するものと解される。
被告は,トップシートとして通常使用される不織布より目の粗い発泡シートが使用される場合には,上記圧着によりホットメルト接着剤は発泡シートに含浸され,トップシートに含浸されないと主張するが,上記明細書にはトップシートとして上記発泡シートを使用することについての記載がない以上,被告の主張はそれ自体失当である。以上のとおり,被告の主張は理由がない。
(d)被告は,ホットメルト接着剤が液透過性シートの組織内に含浸して,液透過性シートを疎水化することで,体液の前後漏れを防ぐことができることは,技術常識であるとはいえないと主張する。
しかし,乙132は,本件特許発明と同じ「使いすておむつ」の「体液の端部からの漏れ」を防止する技術に関するものであり,本件特許出願の約2年前に既に公開されていることからすれば,本件特許出願の出願時において,本件特許発明の技術分野に属する当業者にとっては,技術常識であると解するのが相当であり,被告の主張は理由がない。
c補正事項3について補正事項3で追加された実施例1は,本件特許発明の「ホットメルト薄膜」による吸収体の固定作用を明らかにするための実験結果であり,実施例2は,本件特許発明の「ホットメルト薄膜」によるトップシートを伝わる体液の前後漏れ防止作用を明らかにするための実験結果である。これらの実験結果を付加記載したことによって,本件出願当初明細書に記載された範囲を変更することはないといえる。よって,補正事項3は,本件出願当初明細書の要旨を変更するものとはいえない。
d機能,作用の変更について被告は,本件第3手続補正書による補正は,本件出願当初明細書において記載されたホットメルト薄膜による体液の前後漏れ防止に関する機能,作用を変更するものであるとも主張する。
しかし,前記アのとおり,本件出願当初明細書には,「ホットメルト薄膜7」が「吸収体3に吸収された体液が長手方向両端から漏れることを防止する」ことと共に「発泡シート6をトップシート1に固着することも兼ねている」ことが記載されているが,他方,同記載箇所に続いて「ホットメルト薄膜7に代えて,非透水性のプラスチックフィルムを使用することも可能である」と記載されており,「非透水性のプラスチックフィルム」が「発泡シート6をトップシート1に固着する」ことができる作用を奏するものとはいえないことからすると,同記載部分は,「ホットメルト薄膜」と「非透水性のプラスチックフィルム」が同等の作用を奏するものとして記載されているのではないと解される。被告の主張は理由がない。
e特許請求の範囲拡張の主張について被告は,実施例2を追加する補正は本件出願当初明細書の「ホットメルト薄膜」の範囲を拡大するものであると主張する。
しかし,実施例2と比較例による実験結果の追加は,「ホットメルト薄膜」を備えたものが,「ホットメルト薄膜」を備えないものに比べて,「前後漏れを防止する効果」が優れているという効果を明らかにするためのものであるにすぎず,明細書の要旨を変更するものとはいえないことは前記(ア)cのとおりである。また,本件特許発明の「ホットメルト薄膜」が,「非透水性のプラスチックフィルム」と同等のものと解することができないことは前記(ア)dのとおりである。
よって,被告の主張は理由がない。
(イ)本件第4手続補正書について被告は,本件第4手続補正書(乙9)及び本件第6手続補正書(乙11)により特許請求の範囲が補正されたことによって,実施例2においてシール線部ないしシール領域のない紙おむつから,シール線部ないしシール領域を有する紙おむつへと変更され,その結果,本件特許発明の「体液の前後漏れ防止」の技術的意義変更されたと主張する。
しかし,前記アで認定したとおり,本件出願当初明細書には,本件特許発明の「ホットメルト薄膜」を有し,「シール線部9」を有さないものが第2図として記載されており,また,「ホットメルト薄膜」を有し,「シール線部9」を有するものが第3図及び第4図に記載されている以上,「実施例2」が「体液の前後漏れ防止用シール線部」又は「体液の前後漏れ防止用シール領域」を有するものであるか否かを問わず,本件出願当初明細書に記載されたものであることに変わりはない。
そして,前記(ア)cで認定したとおり,実施例2は,本件特許発明の「ホットメルト薄膜」が存在することにより,存在しない場合と比較して「体液の前後漏れ」をより防止することができることを示すために,「ホットメルト薄膜が存在しない」比較例が130cc,「ホットメルト薄膜が存在する」実施例2が210ccまで,それぞれ,体液の前後漏れが生じなかったことを示すにすぎないところ,前記アで認定したとおり本件特許発明の「ホットメルト薄膜」が,「体液の前後漏れ」を防止することができることが本件出願当初明細書に記載されていると認められるのであるから,たとえ実施例2が,「シール線部9」を有するか否かにつき明確でないとしても,本件出願当初明細書に記載された事項を超えることはない。よって,被告の主張は理由がない。
(2)争点6(本件特許発明が,旧特許法36条3項及び4項に違反しているか)についてア本件明細書には,「トップシートのバックシートがわ面に,吸収体端部上と発泡シート上とに跨がってその両者に固着されるホットメルト薄膜を形成する」こと,及び「ホットメルト薄膜を前記吸収体の長手方向端縁と発泡シートとの間の離間位置において前記非透水性バックシートに接合して,前記腰回り方向に沿う体液の前後漏れ防止用シール領域を形成した」こと,これにより,トップシートを伝わることを防ぐと共に,体液の前後漏れを防止することが記載されていると認められる。
そうすると,本件明細書の特許請求の範囲には,発明の詳細な説明に記載された発明の構成に欠くことができない事項のみが記載され,発明の詳細な説明には,当業者が実施をすることができる程度に,本件特許発明の目的,構成,効果が記載されているものと認められる。本件明細書の記載が,旧特許法36条3項及び4項の規定に反する点はない。
イ被告の主張に対し(ア)被告は,本件明細書の発明の詳細な説明には,ホットメルト薄膜をトップシートに浸透させるための特別な条件が記載されていないので,当業者はトップシートにホットメルト薄膜を浸透させることができず,トップシートの中を伝わる体液の流れを防止できないから,旧特許法36条3項の要件を満たしていないと主張する。
しかし,被告の上記主張は,以下のとおり理由がない。
前記(1)オで認定したとおり,乙132の記載によると,ホットメルト接着剤を含浸させるためには,塗布した接着剤が固化しない間に圧着すれば足りること及びホットメルト接着剤を含浸することにより,トップシートを疎水化し,体液の前後漏れを防止することができることは本件特許出願時において技術常識であったといえる。
そうすると,当業者は,本件特許発明の「ホットメルト薄膜」が「透水性トップシート」の「バックシートがわ面」において形成されており,かつ,「吸収体3」と「発泡シート」とに固着されていることから,当該「ホットメルト薄膜」が,「吸収体3」と「発泡シート」とを固着するために,溶融状態で圧着すること,また,本件特許発明のホットメルト薄膜が,トップシートに浸透してトップシートを疎水化するものであることを認識し得るものと解される。
(イ)被告は,実施例2は,「体液の前後漏れ防止用シール領域」を有さない紙おむつについてのものであるところ,本件明細書において,「ホットメルト薄膜」及び「体液の前後漏れ防止領域」を具体的に示すものが本件明細書においては実施例2のみであるから,本件特許発明の「ホットメルト薄膜から成る体液の前後漏れ防止用シール領域」について,具体的に示す記載は存在しないと主張する。
しかし,被告の上記主張は,以下のとおり理由がない。
本件特許発明の「体液の前後漏れ防止用シール領域」は,「離間位置において前記ホットメルト薄膜が前記非透水性バックシートに前記腰回り方向に沿って接合され」て「形成」されるものであって,第3図及び第4図に符号9で示されているように,当該接合点により腰回り方向に形成されていることが示されている。そして,「体液の前後漏れ防止用シール領域」が,体液の前後漏れをさらに防止するものであることが本件明細書に記載されているといえることは上記認定のとおりである。
したがって,被告の主張は理由がない。
(ウ)被告は,本件特許発明においては,「ホットメルト薄膜がトップシートに浸透しているものであること」が必須の技術的手段であるにもかかわらず,特許請求の範囲に記載されていないと主張する。
しかし,被告の上記主張は,以下のとおり理由がない。
上記認定によれば,当業者であれば,本件明細書の記載から,本件特許出願の「ホットメルト薄膜」が,トップシートに浸透することでトップシートを疎水化しているものであることは,当然に認識されるというべきであるから,本件特許発明における特許請求の範囲に「ホットメルト薄膜がトップシートに浸透しているものであること」が明記されていないとしても,旧特許法36条4項の規定に反するものとはいえない。
したがって,被告の主張は理由がない。
(3)争点7(乙116の4又は乙116の4及び乙128による進歩性欠如)についてア乙116の4記載の発明の内容(ア)「1.その少くとも1つの表面が液体透過性の不織シーテイングに接触している吸収性芯部よりなり,上記シーテイングが,水不溶性または水不透過性のホットメルト接着剤を用いて上記不織布の一部をコーティングすることによつて形成された耐漏洩性の排泄物遮断層を,その上に適当に位置せしめて包含していることを特徴とする,使い捨て吸収性物品。2.コーテイングされた不織シーテイングと一緒に吸収性芯部を包んでいる液体不透過性のバックシート部分を更に包含している特許請求の範囲第1項記載の使い捨て吸収性物品。3.物品が,水不溶性または水不透過性のホットメルト接着剤で不織トップシートの側端部をコーティングすることによつて形成された耐漏洩性の排泄物遮断層を設けられている特許請求の範囲第2項記載の使い捨て吸収性物品。4.吸収性物品が使い捨ておむつである特許請求の範囲第3項記載の使い捨て吸収性物品。・・」(特許請求の範囲)(イ)「本発明は,接着性を有する不織布排泄物遮断層に関し,そしてそれを用いて製造された吸収性物品に関する。特に本発明は,おむつ,生理用ナプキン,ベッド用パッド,失禁症用パッドその他類似物のような使い捨て吸収性物品に使用するための排泄物遮断層に関する。」(2頁左上欄12〜17行)(ウ)「これらの使い捨て物品の周辺部からの漏洩の量を減少させるかまたはなくすための遮断層を設けることが,製造業者の第一の関心事となった。この問題を解決するための試みにおいて,製造業者は,提案された遮断層が物品に対する他の要求事項に及ぼす影響について考察しなければならない。特に,遮断層が芯部の吸収性を低下させないことが肝要であり,不織トツプシートの柔軟性あるいは“手触り”に影響を与えてはならず,・・・また遮断層は経済的でなければならず,そして重要なことは,それは吸収性物品の製造中のライン速度を低下させてはならない。」(2頁左下欄1〜15行)(エ)「本発明は,不織トップシートの一部をその上に液体不透過性のフィルムを付着させるためにホットメルト接着剤でコーティングすることによってもたらされる自己接着性耐漏洩性の排泄物遮断層を提供する。
・・・より狭い実施態様においては,それは液体透過性の不織トップシートおよび液体不透過性のパックシート部分を有する外側被覆層中に包まれた吸収性芯部よりなり,上記使い捨て物品が,不織トップシートの少くとも1部をホットメルト接着剤でコーティングすることによって形成された少くとも1つの耐漏洩性の排泄物遮断層を設けられている使い捨て吸収性物品を意図する。」(3頁左上欄12行〜右上欄12行)(オ)「排泄物遮断層の正確な位置決めは,製造されている特定の使い捨て構造に依存して変動するであろう。すなわち,使い捨ておむつの場合には,排泄物遮断層は,乳児または失禁症の成人の腰部および胸部に漏洩するのを防ぐために,吸収性芯部の側方端部まで重なり合った遮断層の部分を有するおむつの末端シール部に位置してもよい。・・・上記のすべての意図された用途にとって,ホットメルト接着剤は,保持しならびに芯部からの漏洩を防ぐという二重の機能を果し,かくして製造ラインの速度の減少を要しない。更に,ホットメルトは,飽和剤ではなくむしろコーテイングなので,それは更に硬化または乾燥を必要とせず,物品の柔軟性または手触りの劣化をもたらさないように,皮膚に接触しない不織布の内面にのみ適用されうる。」(3頁右上欄13行〜右下欄下から3行)(カ)「第1A図は,別個のフィルム状排泄物遮断層を採用している従来技術による使い捨ておむつの分解配列した斜視図を示し,上記遮断層は,図の陰になった部分によって示されている。第1B図は,不織トップシートのハッチングされた部分によって示されているように,本発明による接着剤遮断層を使用している同様な構造を示す。
・・第2B図は,本発明によるホットメルト接着剤でコーテイングされた不織排泄物遮断層を使用している同様な生理用ナプキンを示す。・・・一方ハツチングされた部分は,本発明に従つてコーテイングされた不織布の部分を示す。」(4頁左上欄4〜20行)(キ)「ホットメルト接着剤は,100%固体の物質であり,いかなる溶液をも含有せずまた必要としない。それらは,室温において固体の物質であるが,熱を適用すると液体または流体状態に溶融し,その形態で基体に適用される。冷却すると,接着剤は,その固体の形を再びとり,そしてその凝集力を得る。この点において,ホットメルト接着剤は,溶媒の蒸発または除去により,あるいは重合によって固体状態が達成される他の型の接着剤と異なる。実際上,いかなる水不溶性または水不透過性のホットメルト接着剤組成物でも本発明において意図する排泄物遮断機能を果すであろう。便宜上,特定の吸収性物品の構成に製造業者によってすでに利用されているホットメルト接着剤のうちの1種を用いることが一般に好ましい。」(4頁右上欄1〜16行)(ク)「第1B図に示されているように,この実施態様においては,ハッチングは,コーテイングされたホットメルト接着剤を示す。この図においては,不織トツプシートと流体不透過性のバツクシートは,境界を共にしているように見え,一方,好ましくは一体化のためにテイツシユによって包まれた,吸収性芯部は,全体の寸法において僅かにより小さいように見える。ホットメルトコーテイングは,このように,吸収性芯部を包み込むようにトツプシートとバツクシートとを結合する末端シール部を形成し,一方更に吸収性芯部の一部を覆い,それによって所望の遮断層を形成する。適当な排泄物遮断層を形成するために必要な重ね合せの程度の一般的指針としては,芯部の重ね合せ部の幅は,芯部の末端シール部とほぼ同じ幅とすることが推奨される。」(5頁左上欄最下行〜右上欄16行)(ケ)「第2B図に例示されているように,吸収性芯部の全底面を覆うべき排泄物遮断層の場合には,不織シートは,連続的な長手方向の端部に沿って適当な幅で接着剤によってコーティングされる。」(5頁右上欄17行〜左下欄1行)(コ)「本発明による排泄物遮断層を有する典型的なおむつは,通常の製造技術,例えば末端シール構造またはマルチライン型構造を使用して組立てることができ,そして長方形または砂時計型の形状でよい。長手方向の端部は,部分的にまたは全体的に弾力性をもたせてもよい。それらは,更に固定する目的で一端に施された接着性の耳を有するかまたはピンを使用してもよい。」(6頁左下欄14行〜右下欄1行)上記の記載によれば,乙116の4には,「吸収性芯部と,液体透過性の不織シーテイングと,液体不透過性のバツクシート部分とを有し,不織シーテイングとバツクシートによって吸収性芯部が包まれてなり,吸収性芯部の長手方向縁より外方に延びた不織シーテイングとバツクシート部分を有する使い捨て紙おむつにおいて,水不溶性または水不透過性のホットメルト接着剤で不織トップシートの側端部を吸収性芯部の一部を覆うようにコーテイングすることによって形成された耐漏洩性の排泄物遮断層を形成したことを特徴とする使い捨ておむつ」との発明が開示されている。
イ本件特許発明と乙116の4記載の発明との対比(ア)乙116の4記載の発明の「吸収性芯部」,「液体透過性の不織シーテイング」,「液体不透過性のバツクシート部分」,「不織シーテイングとバツクシートによって吸収性芯部部が包まれてなる」,「吸収性芯部の長手方向縁より外方に延びた不織シーテイングとバツクシート部分」,「使いすておむつ」は,それぞれ,本件特許発明の「体液吸収体」,「透水性トップシート」,「非透水性バックシート」,「前記透水性トップシートと非透水性バックシートとの間に前記体液吸収体が介在されており」,「体液吸収体の長手方向縁より外方に延びて前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとで構成されるフラップ」,「使い捨て紙おむつ」に相当する。
(イ)乙116の4記載の発明の「耐漏洩性の排泄物遮断層」は,「水不溶性または水不透過性のホットメルト接着剤」により,「不織トップシートの側端部」から「吸収性芯部の一部を覆う」ように不織トップシートをコーテイングすることにより形成されるものであるところ,このホットメルト接着剤のコーテイングは,「吸収性芯部を包み込むようにトツプシートとバツクシートとを結合する末端シール部を形成し,一方更に吸収性芯部の一部を覆い,それによって所望の遮断層を形成する不織トップシートとバツクシートとを接着するものである」から,本件特許発明の「ホットメルト薄膜」とは,共に,トップシートのバックシートがわ面において,体液吸収体端部上に固着されるとともに,体液吸収体端部より外側において,ホットメルト薄膜がバックシートに腰回り方向に接合され,体液の前後漏れシール領域を形成しているものである点で共通する。
(ウ)以上を前提とすれば,本件特許発明と乙116の4記載の発明との一致点と相違点は次のとおりと認められる。
a一致点体液吸収体と,透水性トップシートと,非透水性バックシートとを有し,前記透水性トップシートと非透水性バックシートとの間に前記体液吸収体が介在されており,前記体液吸収体の長手方向縁より外方に延びて前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとで構成されるフラップを有する使い捨て紙おむつにおいて,前記トップシートのバックシートがわ面において,体液吸収体端部上に固着されるホットメルト薄膜を形成し,さらに吸収体端部より外側において,前記ホットメルト薄膜が前記非透水性バックシートに前記腰回り方向に沿って接合され,体液の前後漏れ防止用シール領域を形成したことを特徴とする使い捨て紙おむつである点。
b相違点1本件特許発明が「フラップにおいて,前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとの間に介在され,前記体液吸収体の長手方向縁と離間して,腰回り方向に配置されている弾性伸縮性の発泡シートからなる弾性帯を有する」のに対して,乙116の4記載の発明は,そのような構成を有さない点。
c相違点2「ホットメルト薄膜」に関し,本件特許発明が「体液吸収体端部上と(体液吸収体端部から離間されて配置されている)発泡シート上とに跨ってその両者に固着されている」ものであり,「離間位置において非透水性バックシートに接合されている」のに対して,乙116の4記載の発明は,「体液吸収体端部上に固着されているとともに,体液吸収体端部より外側で非透水バックシートに接合されている」ものである点。
ウ相違点の容易想到性の判断(ア)前記アで認定したとおり,乙116の4には,「ホットメルトコーティングは,・・・吸収性芯を包み込むようにトップシートとバックシートとを結合する末端シール部を形成し,一方更に吸収性芯の一部を覆い,それによって所望の遮断層を形成する。」と記載されている。乙116の4記載の発明では,「吸収性芯部の長手方向縁より外方に延びた不織シーテイングとバツクシート部分」において,「不織シーティングとバックシート部分を接合」して「末端シール部」を形成するとともに,ホットメルトコーティングを吸収性芯の一部から端部まで形成して,その領域を不透水性とすることで「耐漏洩性の排泄物遮断層」とされる。
そうすると,乙116の4記載の発明の「耐漏洩性の排泄物遮断層」を形成するためには,「不織シーティングとバックシートとの結合部分」から「吸収性芯の端部直前」までの領域のすべてにおいて,不織シーティングとバックシートとを接合する必要があると認めることはできない。
よって,「吸収性芯部の長手方向縁より外方に延びた不織シーテイングとバツクシート部分」に「弾性体」を「吸収性芯部と離間」して配置した場合には,当該「離間位置」において,「不織トップシート」と「バツクシート」とが接合されていなくとも,「弾性体」の外方縁部において接合されていれば,「末端シール部」を形成することができるのであり,また,逆に,弾性体と吸収芯との「離間位置」において,「不織トップシート」と「バツクシート」とが接合されるのであれば,それにより「末端シール部」が形成されるのであるから,乙116の4記載の発明の「耐漏洩性の排泄物遮断層」を形成する際,「ホットメルトコーティング」を「吸収性芯」と「弾性体」との「離間位置」においてバックシートに接合するようにした場合には,「ホットメルトコーティング」を弾性体に跨って形成することが必須とはいえないし,また,当然になし得るものでもない。
(イ)前記アで認定したように,乙116の4記載の発明は,「吸収性芯部の長手方向縁より外方に延びた不織シーテイングとバツクシート部分」に「弾性体」を有しておらず,乙116の4には,「長手方向の端部は,部分的にまたは全体的に弾力性をもたせてもよい。」との記載はあるものの,本件特許発明の「フラップ」に相当する「吸収性芯部の長手方向縁より外方に延びた不織シーテイングとバツクシート部分」に「弾力性を持たせる」ことについては,記載も示唆もないことからすると,乙116の4において,「吸収性芯部の長手方向縁より外方に延びた不織シーテイングとバツクシート部分」に「弾性体」を配置することは,想定されていないものと解される。
そして,使い捨て紙おむつの長手方向端部において,吸収体端部から離間して弾性体を配置することが,本件特許出願時,すでに周知の技術であるとしても,離間位置においてホットメルト薄膜をバックシートに接合することで,体液の前後漏れ防止領域を形成することが周知であるとまでは認めることはできない。
(ウ)したがって,乙116の4には,フラップに弾性体を配置することが示唆されているものということはできず,また,フラップに弾性体を吸収芯とを離間して配置する場合において,ホットメルトコーティングを,「吸収性芯端部上と吸収性芯から離間されて配置されている弾性体上とに跨ってその両者に固着されている」ようにすると共に,その「離間位置」において,「ホットメルト接着剤とバックシートとを接合する」ことが当然なし得る技術であるとはいえない。
上記相違点2は,当業者が容易に想到し得るものとはいえない。したがって,相違点1に係る構成を容易に想到することができるか否かについて判断するまでもなく,本件特許発明は,乙116の4記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
エ被告の主張に対して(ア)被告は,乙116の4の「排泄物遮断層を有する典型的なおむつは,・・・長手方向の端部は,部分的にまたは全体的に弾力性をもたせてもよい」との記載に基づいて,使い捨ておむつ端部に弾力性を持たせる際に,当業者は,本件特許出願当時の周知技術に基づいて,「不織トップシート」端部の「ホットメルト接着剤」がコーテイングされた部分において,「トップシート」と「バックシート」との間に弾性帯として「発泡シート」を「吸収性芯部」と離間させて配置することは,容易に想到することができると主張する。
しかし,前記アで認定した乙116の4の記載によれば,「長手方向の端部」とは,第1図Bのホットメルトコーテイングがされるハツチング部分ではなく,それと直交する方向の端部を意味するものであると解されるから,上記記載によっては,乙116の4において,腰回り方向に弾性帯を配置することが示唆されているということはできない。被告のこの点の主張は採用できない。
(イ)被告は,乙128には,プラスチックフィルムにより端部漏れ防止を施す場合に腰部を弾性化する必要があることが記載されていることに照らすならば,プラスチックフィルムによる端部漏れ防止技術の改良技術である乙116の4においても腰部を弾性化する必要があること,その際に吸収体から離間した腰部の最も端の部分を弾性化することは当業者が容易に想到し得るものであると主張する。
しかし,乙128に記載の「端部漏れ防止を施す場合に腰部を弾性化する必要がある」との示唆を受けて,乙116の4記載の発明の「吸収性芯部の長手方向縁より外方に延びた不織シーテイングとバツクシート部分」に「吸収性芯部と離間して弾性体」を配置するとしても,相違点2に係る構成が当然になし得るものではないことは,上記ウのとおりである。被告のこの点の主張は採用できない。
(4)争点8(引用発明1及び周知技術による進歩性欠如)についてア引用文献1の記載並びに本件特許発明と引用発明1との一致点及び相違点は原判決第4,4(1)ないし(3)記載(ただし,本判決による付加訂正後のもの)のとおりである。
イ相違点の容易想到性(ア)上記アで認定した引用文献1の記載によると,引用発明1は,「吸収性芯の端部から,透水性表面シートと不透水性裏面シートとの接合部分」にわたって「ホットメルト被膜6」を「透水性表面シートの吸収体側表面に」形成して,その領域の「透水性シート」を不透水性とするとともに,透水性表面シートと不透水性裏面シートとの接合部分」を接着することにより,端部漏れを防止するものであるといえる。そうすると,「透水性表面シートと不透水性裏面シートとの接合部分」から「吸収体端部」の直前までの領域のすべてにおいて,ホットメルト薄膜が不透水性裏面シートに接合されている必要があるとまでは認められない(引用文献1の第2図においては,吸収体端部と接合部分との間が接合されていないものが示されている。)。
したがって,「透水性表面シートと不透水性裏面シートとの接合部分」に「弾性体」を「吸収体と離間」して配置した場合には,当該「離間位置」において,「透水性表面シート」と「不透水性裏面シート」とが接合されていなくとも,「弾性体」の外方縁部において接合されてさえいれば,「長手方向端部からの体液の漏れ」を防止することができるのであり,また,弾性体と吸収体との「離間位置」において,「透水性表面シート」と「不透水性裏面シート」とが接合されれば,それにより「長手方向端部からの体液の漏れ」が防止されるのであるから,引用発明1において,「吸収体」と「弾性体」との「離間位置」において,「ホットメルト被膜」を「不透水性裏面シート」に接合するようにした場合には,「ホットメルト被膜」を「弾性体」に跨って形成することが必ずしも必要となるものとはいえないし,そのようにすることが容易になし得るものでもない。
(イ)引用文献1には,「透水性表面シートと不透水性裏面シートとの接合部分」に「弾性体」を設けることは記載も示唆もされていない。かえって前記アで認定したとおり,「吸収体4の両側部」に「伸縮弾性部材5」を有することが明記されていることからすれば,引用発明1の「透水性表面シートと不透水性裏面シートとの接合部分」に「弾性体」を配置することは,想定されていなかったと解するのが相当である。
また,使い捨て紙おむつの長手方向端部において,吸収体端部から離間して弾性体を配置することが,本件特許出願時,周知の技術であったとしても,離間位置においてホットメルト薄膜と不透水性裏面シートとを接合することにより,体液の前後漏れ防止領域を形成することが周知であると認めることはできない。
ウ以上のとおり,引用発明1においては,相違点c,dの構成とすることが容易であるとはいえない。したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本件特許発明が,引用発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
3小括したがって,原告の被告に対する請求は,金1億0685万5000円及び内金6932万8000円に対する不法行為の後の日である平成17年3月1日から,内金3176万6000円に対する不法行為の後の日である平成18年10月1日から,内金576万1000円に対する不法行為の後の日である平成19年1月17日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余の請求は理由がない。
4結論以上によれば,被告の本件控訴は理由がなく,原告の附帯控訴はその一部に理由がある。よって,被告の本件控訴を棄却するとともに,原告の附帯控訴に基づいて原判決を変更し,主文のとおり判決することとした。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 上田洋幸
裁判官 三村量一
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