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関連審決 不服2002-7498
不服2003-4356
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19行ケ10097審決取消請求事件 判例 特許
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平成17行ケ10820審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 特許を受ける権利 /  産業上利用(29条1項柱書) /  自然法則 /  反復(反復可能性) /  反復実施 /  一定の効果 /  創作性(創作) /  物の発明 /  製造方法 /  容易に実施 /  実施可能要件 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  発明の概要 /  優先権 /  優先日 /  参酌 /  数値限定 /  実施 /  社会通念 /  構成要件 /  拒絶査定 /  特許審決 /  請求の範囲 /  国際出願 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10015号 審決取消請求事件
原告アフィメトリックスインコーポレイテッド
訴訟代理人弁護士宮原正志
訴訟代理人弁理士山本秀策, ?谷剛志 ,長谷部真久
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人鵜飼健,徳永英男,平田和男,森山啓
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/11/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2002-7498号事件について平成17年9月6日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯アフィマックス・テクノロジーズ・ナームロゼ・ベノートスハップは,発明の名称を「非常に大規模な固定化ペプチドの合成」とする発明につき,平成2年6月7日(優先権主張1989年6月7日及び1990年3月7日,米国)に国際出願し,この出願をもとの出願として,平成8年12月4日,分割して特許を出願(以下,「本件出願」といい,このときの明細書(甲第12号証)を「本件明細書」という。)した。その後,同社から原告が特許を受ける権利を譲り受け,平成11年1月26日,特許庁長官に対しこれを届け出たが,平成14年1月24日付け拒絶査定を受けたため,同年4月30日,審判を請求した。
特許庁は,上記審判請求を不服2002-7498号事件として審理し,その過程で平成16年9月8日付け手続補正書による補正がされたが,平成17年9月6日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月16日,審決の謄本が原告に送達された。
2特許請求の範囲平成16年9月8日付け手続補正書(甲第14号証)による補正後の本件出願の請求項1ないし14は,次のとおりである。
【請求項1】オリゴヌクレオチド,核酸,ペプチド及びポリペプチドからなる群より選択される成分を解析する装置であって,1cm までの位置決定され2た領域内に少なくとも10 の異なる成分を有する表面を有する基板を備え,3前記各成分が,既知の異なる位置決定された領域を占めており,かつ各位置決定された領域にどの成分が占めているのかが既知であり,各既知の位置決定された領域が少なくとも100μm であることを特徴とする,前記装置。
2(以下,審決と同様に,請求項1に係る発明を「本件発明」,「成分を解析する装置」という場合の「成分」を「解析対象成分」,「異なる成分を有する表面」という場合の「成分」を「基板表面成分」という。)【請求項2】各既知の位置決定された領域が,10,000平方マイクロメートル未満である,請求項1に記載の装置。
【請求項3】各既知の位置決定された領域が,10 以上の異なる成分が存4在する,請求項1に記載の装置。
【請求項4】各既知の位置決定された領域が,10 以上の異なる成分が存5在する,請求項1に記載の装置。
【請求項5】前記成分が2〜20merの長さである,請求項1に記載の装置。
【請求項6】基板が0.5mm未満の厚さである,請求項1に記載の装置。
【請求項7】基板が0.05mm未満の厚さである,請求項6に記載の装置。
【請求項8】前記位置決定された領域が,約10未満の表面積を有する,-5請求項1に記載の装置。
【請求項9】前記各成分が,既知の位置決定された領域内において,少なくとも50%の純度を有する,請求項1に記載の装置。
【請求項10】前記各成分が,既知の位置決定された領域内において,少なくとも90%の純度を有する,請求項9に記載の装置。
【請求項11】前記各成分が,既知の位置決定された領域内において,実質的に純粋である,請求項10に記載の装置。
【請求項12】前記成分が,既知の配列を有する請求項1に記載の装置。
【請求項13】生物学的活性をスクリーニングするための装置であって,(a)1cm までの位置決定された領域内に少なくとも10 の異なるオリゴヌク2 3レオチド,核酸,ペプチド及びポリペプチドからなる群から選択される成分を有する表面を有する基板であって,前記各成分が既知の異なる位置決定された領域を占めており,各既知の位置決定された領域が少なくとも100μm であ2る,基板,(b)前記基板をレセプターに暴露する手段であって,前記レセプターが蛍光マーカーで標識されており,前記レセプターが少なくとも前記成分の一つと結合するような前記手段,(c)前記基板上の前記蛍光マーカーの位置を検出する手段,を備えた装置。
【請求項14】基板上の蛍光標識領域を検出するための装置であって,(a)1cm までの位置決定された領域内に少なくとも10 の異なるオリゴヌク2 3レオチド,核酸,ペプチド及びポリペプチドからなる群から選択される成分を有する表面を有する基板であって,前記各成分が既知の異なる位置決定された領域を占めており,各既知の位置決定された領域が少なくとも100μm であ2る,基板の表面へ光を照射するための光源,(b)前記光源に応答して前記異なる成分から発する蛍光を検出する手段,(c)前記基板を第1の位置から第2の位置へ移送するための手段,(d)蛍光強度を前記基板上の位置の関数として蓄えるための手段,とを備えた装置。
3審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件出願は平成2年法律第30号による改正前の特許法36条3項又は4項及び5項(以下,各項を単に「特許法36条3項,4項,5項」という。)の要件を満たしておらず,本件発明は特許法29条柱書の産業上利用することができる発明として完成したものではないから,特許を受けることができないとするものである。
審決は,特許法36条3項又は4項及び5項の要件を満たしていない点として以下の(1)ないし(3)を挙げ,発明として未完成であるとして(4)のとおり述べた。
(1)請求項1には,本件発明の必須の構成が記載されていない。
請求項1の記載では,単に1cm 当たり10 〜10 箇所の決められた位2 3 6置に,10 〜10 種類の基板表面成分があるという密度が規定されている3 6にすぎない。
本件明細書(段落【0144】)には,「本発明は,基体上でポリマーを合成するための非常に改良された方法及び装置に関する。」との記載がある以上,本件発明を特定するためには,「光除去可能な保護基を用いたフォトリソグラフィー技法を利用して基板上でポリマー成分を合成する」点が「必須の構成」であるというべきであるが,請求項1には上記「必須の構成」が記載されていない。
また,上記の数値自体に何らの臨界的意義はなく,物としての「基板」を特定する要件としては不適切である。また,「基板」の特定が不適切であるから,上記「基板」を備えた本件発明の「解析装置」がどのようなものであるかを適切に特定したことにもならない。
上記のとおり,請求項1の記載は,ペプチド解析及びDNA解析分野における「自明の技術的課題」であった「高密度アレイ」の成分密度の目標値を数値的に表現したものに相当し,特許法36条4項及び5項の要件を満たしていない。
(2)本件各請求項の解析装置において解析対象成分が「オリゴヌクレオチド」,「核酸」及び「ポリペプチド」である場合の発明は,本件明細書中に実質的に開示されていない。また,このことは,各請求項に記載された発明について,本件明細書は当業者が容易に実施することができる程度に記載されていないことでもある。したがって,本件出願は特許法36条3項又は4項及び5項の要件を満たしていない。
ア解析対象成分が「オリゴヌクレオチド」及び「核酸」である場合本件明細書中には,アミノ酸をモノマーとして複数の「オリゴペプチド」を基板表面に存在させた「オリゴペプチド」用の解析装置が記載されているのみであり,ヌクレオチドモノマーを用いなければならない「オリゴヌクレオチド」及び「核酸」用の解析装置についての具体的記載はない。
本件明細書中に記載されているアレイ製造方法は,基板表面のアミノ酸のNH基に結合させた保護基を光(紫外線)で除去しながら合成していくフォトリソグラフィー法でペプチド鎖を伸張させる手法であるから,「オリゴヌクレオチド」及び「核酸」用解析装置が開示されているというためには,ヌクレオチドをポリヌクレオチド鎖に伸張させるためのフォトリソグラフィー技法が確立していた,もしくは実施例でのオリゴペプチド合成と同様の手順で特段の工夫もなく行うことができると考えられる明らかな合理的な根拠が必要である。ところが,本件優先日前にNVOC-基,NBOC-基その他の例示されたニトロ芳香化合物がヌクレオシド中のOH基に対する光除去可能な保護基として用いることが本件優先日前の技術常識であったということはできない。
イ解析対象成分が「ポリペプチド」である場合請求項1には,「ポリペプチド」を「ペプチド」と並列的に記載していることからみて,ここでいう「ポリペプチド」はオリゴペプチドのような短いものではなく,例えば20mer以上の長鎖ポリペプチドを包含するものと解される。
本件明細書中には,アミノ酸モノマーをフォトリソグラフィー法により基板上に合成していくことが記載されているが,せいぜいオリゴペプチドに1mer又は2mer分のアミノ酸を付加する程度のものである。「光フォトリソグラフィー技法」は多段階工程からなり,本件明細書に記載された手法をそのまま適用したのでは各工程での収率が低く,「ポリ」といえるほどの大きな分子を高密度に基板上で合成できるとは考えにくい。そして,本件明細書中には,大きな分子の合成を可能にするために予想される多段工程での収率を上げるための工夫等の解決手段も全く示されていない。
一般に,「ポリ」と呼ばれる大きな分子からなる「アレイ」を作製しようとすれば,J.Am.Chem.Soc.(1963)85:2149-2154(甲第1号証。以下,審決と同様に「引用文献1」という。)記載のメリフィールド法などにより基板上で合成する場合には,個々のポリマー分子をある程度の広い領域内で1分子ずつ合成する必要があるから高密度合成は望むべくもない。また,基板外で合成するとしても,当該合成ポリマー分子をプリンティング又はスポッティングする必要があるが,本件明細書中には,これらの技術を用いて,どのように基板外合成ポリマー分子を高密度にプリンティング(又はスポッティング)し,各請求項で掲げられた数値範囲を満たす高密度の「アレイ」を達成するのかについて,何ら具体的な解決手段が示されていない。
(3)各請求項で規定される数値範囲が,本件明細書中の記載により技術的に裏付けられていないから,本件明細書中には各請求項に係る発明についての実質的な開示がなく,各請求項に記載された発明を当業者が容易に実施することができる程度に記載されておらず,本件出願は,特許法第36条第3項又は第4項及び第5項の規定を満たさない。
ア本件明細書中には,請求項1に記載された成分のうちで,オリゴペプチドのみについての実施例しか記載されていないところ,オリゴペプチドの場合に限ってみても,光フォトリソグラフィー技法で基板上に10 〜10 種類3 6のオリゴペプチドを合成しようとすれば,1基板当たり膨大な工程を経なくてはならないが,いずれの工程においても,目的ペプチドの反応収率(純度)を下げる要因が存在し,本件優先日当時の技術水準では,それぞれの収率はかなり低かったはずである。本件の合成法では各工程を全て同一の基板上で行わなくてはならないことから,各工程後の合成ペプチド群に対して精製工程を設けることができない。このことは,各工程で「区画」内に混入してきた「密航者」は最後まで取り除くことができずに増殖し続けることにほかならない。1merだけでも多段工程であるから各工程での収率低下が掛け合わされ,さらに1mer増えるごとに次々に全て掛け合わせられていくから,実施例のような16種類で2mer分合成であればともかく,それ以上オリゴペプチドの種類が増えるごとに,又は1mer分増えるごとに,各区画での純度低下は無視することができないレベルとなるはずである。そして,このような状況にあるにもかかわらず,本件明細書中には,各工程での反応収率低下要因を回避する解決手段が全く示されていない。したがって,請求項1における1cm 当たり10 〜10 種類という基板表面成分の密度の数値範囲2 3 6は,オリゴペプチドの場合について技術的に裏付けられていない。
イオリゴペプチド以外の請求項1記載の基板表面成分については,基板上で合成する手法自体が開示されていないし,1cm 当たり10 〜10 種類と2 3 6いう高密度で基板表面に存在させたアレイについての開示がなされているはずもない。
ウ請求項9ないし11においては請求項1における基板表面上の各成分の純度について規定するものであるが,特に請求項10では,「既知の位置決定された領域内において,少なくとも90%の純度を有する成分」と記載され,基板表面上に「10 〜10 /1cm 」という高密度に存在する成分がそれ3 6 2ぞれ「少なくとも90%の純度」を有することが規定され,請求項11では,それが「実質的に純粋である」ことが規定されている。
しかし,本件明細書中の唯一具体的に基板表面で合成されたオリゴペプチド成分の場合についても,その純度は測定されておらず,具体的にどの程度の純度が達成できたのかは不明である。
ところで,本件出願直後のScience 251:767-773 (1991.2)(甲第7号証。
以下,審決と同様に「引用文献7」という。)には,フォトリソグラフィー手法の「1サイクルごとの典型的な純カプリングの収率が85%から95%の間」であると記載されている。本件明細書中での実験は,それ以前の技術水準に基づくものであり,本件明細書中には収率を上げるための何らの解決手段も示されていないから,「少なくとも90%」,「実質的に純粋」という高純度の高密度アレイは,本件明細書の記載からは達成不可能である。したがって,請求項10及び11に記載された成分の純度についての数値範囲は明細書中に技術的に裏付けられておらず,請求項10及び11に係る発明については,その点でも明細書中に実質的に開示されていない。
(4)上記のとおり,本件請求項1ないし14に係る発明は,自明の技術的課題のみで表現されたものであり,本件明細書中に開示されておらず,当業者が反復実施して目的とする技術的効果を挙げることができる程度まで具体的・客観的なものとして構成されていない発明であるから,そもそも特許法29条柱書に規定する産業上利用することができる発明として完成した発明ではないので,特許を受けることはできない。
第3審決取消事由の要点審決は,以下に述べるとおり,本件出願が特許法36条3項又は4項及び5項の要件を満たしているのに,これを満たしていないと認定判断を誤り(取消事由1及び2),ひいては本件請求項1ないし14に係る発明について,特許法29条柱書に規定する産業上利用することができる発明として完成した発明ではないと誤って判断した(取消事由3)ものであるところ,これらの誤りがいずれも結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1取消事由1(特許法36条4項及び5項の要件判断の誤り)(1)本件発明の必須の構成審決は,請求項1に本件発明の必須の構成が記載されていないと判断しているが,請求項の記載は,その発明を特定するために不可欠かつ最小限度の記載をすべきであって,物の発明において,請求項の記載は,物の構造等に関連する記載で十分にその発明を特定することができる限り,その他の記載は不要である。請求項1の記載により,本件発明における物(解析装置)の特定がされており,その構造が明らかであるから,更に「製法による特定」は必要でない。
(2)数値の臨界的意義審決は,基板表面成分の密度を表す数値に臨界的意義がなく,物としての「基板」を特定する要件としては不適切であると判断するが,特許法は,請求項における数値限定に,物性値の観点での「臨界的意義」が常に備わっていることを必須とは規定していない。そして,本件発明は,高密度という特性を有するアレイの提供により,一度の実験で著しく多量の分析を可能にし,そのことによって従前とは全く異なる画期的な成果を得たものであり,従前の方法とは全く異質の効果を奏するものであるから,本件発明における下限値及び上限値の記載は,臨界的意義を必要としない。
2取消事由2(特許法36条3項の要件判断の誤り)(1)オリゴペプチド以外を解析対象成分とする解析装置ア審決は,解析対象成分が「オリゴヌクレオチド」,「核酸」及び「ポリペプチド」の場合については,本件明細書に実質的に記載されていないと判断したが,当業者であれば,「オリゴ」で実施可能であれば通常「ポリ」も実施可能であると考えることが明白である。また,本件発明を実施しようとする当業者は,解析対象成分に基づいて,基板表面成分としてどのような成分を基板上に固定化すべきかについて,解析の目的に合わせて適宜選択することが容易にできる。例えば,通常の実験条件下では,基板上に存在するポリヌクレオチドは,20mer程度の長さがあれば十分結合反応が起こる。また,あるポリペプチドについて抗原抗体反応を行う場合には,そのポリペプチド中の数アミノ酸程度の長さで十分に結合反応を検出することができることは,甲2等にも明記されているとおり,本件優先日当時の技術常識であった(特表昭60-500684号公報(甲第2号証。以下,審決と同様に「引用文献2」という。)のであるから,必ずしも,そのポリペプチドの全長を固定化する必要はない。
イ原出願については,不服2003-4356号事件において,平成17年12月14日付けで特許審決(甲第23号証)がされているから,被告は,オリゴヌクレオチド及び核酸を解析対象成分とする解析装置に係る本件発明が容易に実施することができる程度に具体的であることを認めているに等しい。すなわち,本件明細書の実施例においてアミノ酸モノマーからオリゴペプチドを合成する際に具体的に用いられている「NVOC」及び「NBOC」のいずれもが,光開裂可能なヌクレオチドのヒドロキシル基保護のために用いることが本件優先日前に周知であり,そのため,当業者はこれら保護基をそのまま用いてヌクレオチドモノマーからオリゴヌクレオチドを容易に合成することができるということは,既に,上記審決において認められている。
(2)オリゴペプチドを解析対象成分とする解析装置審決は,本件明細書の実施例に記載されたものは,2mer分程度のバラエティを持たせた1cm 当たり256種類程度のもので,請求項1における最2低レベルの数値すら達成できていない,光リソグラフィー技法では,1工程ごとに収率が低下し,最終的には各区画での純度の低下は無視することのできないレベルとなるはずであるにもかかわらず,本件明細書には,各工程での反応収率低下要因を回避する解決手段が全く示されていないとして,請求項1における基板表面成分の密度の数値範囲は,本件明細書に裏付けられていないと判断した。しかし,以下に述べるとおり誤りである。
ア収率について(ア)1工程における収率本件明細書の段落【0031】の文言からも明らかなとおり,成分解析のためには,目的ポリマー成分が,他の領域にあるものと識別可能な程度に狙った領域に存在することが必要であり,かつ,それで十分である。仮に,40サイクル分の収率低下の影響を受けたとしても,一領域には,少なくとも4.5×10 〜9.0×10 個の目的ポリマー成分が存在する6 6ことは明白であって,本件発明によって製造される装置が,解析装置として機能する上で何ら問題がない。
アレイの各領域においてアミノ酸重合反応を行う分子数は,「莫大な」数存在するのであるから,1工程における収率を低めに見積もったとしても,解析という目的にとって余りにも十分な量であることは明らかであり,収率に拘泥することは全く意味がない。例えば,20merであれば,4〜35%の収率が達成されている。
最高裁判所平成12年2月29日判決・民集54巻2号709頁(以下「黄桃事件判決」という。)においても,「反復可能性は,『植物の新品種を育種し増殖する方法』に係る発明の育種過程に関しては,その特性にかんがみ,科学的にその植物を再現することが当業者において可能であれば足り,その確率が高いことを要しないものと解するのが相当である。」と判示されていることからみても,収率が高いことは,要求されない。
したがって,1工程当たりの収率は問題とならない。
(イ)1サイクル当たりの収率本件発明のフォトリソグラフィー法と同一の合成法である引用文献7記載の合成法で,各反応の収率が85〜95%であることが記載されており,Nature Biotechnology (Sep.2002)Vol.20, p.922-926(乙第4号証。以下「乙4文献」という。)を参酌したとしても,1サイクルの収率は,85〜95%あることは明白である。
(ウ)必要なサイクル数1cm 当たり10 種類のオリゴペプチドを,各々10μm×10μmの2 6領域ごとに合成するために,どのようなマスクをどのような順序で用いて合成するのかの具体的手順は,合成するアレイに応じて当業者が適宜決定することのできる選択的事項にすぎず,本件発明の本質とは何ら関係がない。なお,具体的手順は,本件明細書の段落【0088】〜【0089】に明記されている。
被告は,10 種類のオリゴペプチドを提供するためのサイクル数につ6いては,40サイクルであると自白している。
(エ)サイクル数が少ない態様本件明細書にいう「モノマー」とは,必ずしもアミノ酸1個のみを意味するものではなく,オリゴペプチド又はポリペプチドをも包含するものであり,本件発明には,サイクル数が少ない態様も包含されるから,サイクル数の増加による収率の低下をいう被告の主張は根拠を欠くものである。
イノイズ(「密航者」及び「短縮ポリマー成分」)について(ア)「密航者」反応温度を目的ポリマー成分の融点に保つという単純な制御により,それより融点が低い密航者への結合を極めて容易に回避することができる。
「密航者」は,フォトリソグラフィー技法の高い精度のために,ほとんど生成されず,これに対する結合を事実上排除し得ることから,成分解析の妨げとはならない。
本件優先日当時,半導体分野において精密な高密度集積回路の作成を可能ならしめていたフォトリソグラフィー技法の光照射において,光の「回折」や「屈折」はほとんど起こらないものであったから,意図されていない部分光が照射されることはほとんどあり得ない。そのため,光照射が意図されない領域では殆ど全く反応が起こらないといってよいから,光照射を意図しない工程数は,当該領域における収率の問題とは全く関係がない。
さらに,ペプチドの場合において,1アミノ酸の付加によっても反応性が異なるから,「密航者」であることが容易に解析可能であり,容易に排除することができる。
(イ)短縮ポリマー成分別紙1に示すとおり,収率が100%でないことに起因して目的ポリマー成分よりも短いポリマー成分(短縮ポリマー成分)が特定領域内に合成され得るが,これは,そもそもそのような短いポリマー成分が合成されてしまう可能性が低い上に,かかるポリマー成分への結合の割合も低いために,蛍光反応における誤謬は事実上排除され,解析にとって全く妨げにはならないから,目的ポリマー成分よりも短い長さのポリマーが合成されたとしても,解析装置に与える影響はない。
短いポリマー成分の影響については,ヌクレオチドの場合は,Tm値を考慮することによって排除することができることは,被告も自白するところである。
被告は,ある領域Aにおいて合成される短いポリマー成分が他の領域Bの目的ポリマー成分である場合に,領域Aにおいて合成された短いポリマー成分によってもたらされる信号と,領域Bの目的ポリマー成分によってもたらされる信号とを区別できない問題点を指摘するが,そもそも本件発明は解析装置に係る発明であるから,当業者は,各領域の信号が別の領域の信号と異なる意味を有するように,ポリマーを基板上に固定化する設計をすることは当然であり,被告が指摘する問題は,設計事項として適宜容易に回避できる事項である。
(ウ)キャッピング工程特定領域内において,カップリング反応に失敗した官能基は,キャッピング工程により,更なる反応が防止されることから,それ以上ポリマー鎖が伸長せず,解析へ影響を与える可能性も低いので,問題とはならない。
被告は,本件明細書には「キャッピング工程」を各サイクルに設けることで解析の際のノイズを減少させようとする技術思想が存在しないなどと主張している。しかし,キャッピング工程を各サイクルに設けることで解析の際のノイズを減少するという技術思想自体も,本件明細書に明確に記載されているばかりか,そのような技術思想は,基板上におけるポリマー合成の分野においては,本件優先日当時の技術常識であった。
ウ基板表面成分の密度について基板上に,10 〜10 種類/1cm の成分密度を達成することができる3 6 2かどうかは,基板1cm 当たり10 〜10 箇所の領域を作り得るか否かと2 3 6いうことにほかならない。そして,フォトリソグラフィー技法によって基板上に作成される領域の密度は,光照射の制御密度,すなわち,解像度に依存する。
被告は,本件出願におけるフォトリソグラフィー技術が半導体チップ作製におけるフォトリソグラフィー技術とは本質的に全く異なる技術であり,本件出願の解析装置の製造における解像度と半導体製造における解像度とを同列に論じることができないと主張する。しかし,解像度は使用する波長の平方根に比例する(VLSI TECHNOLOGY, Second Edition p.153-154(甲第30号証)のであり,マスクと基板表面との間に存在する物質が何であるかということには関わりがないから,被告の主張は何ら科学的根拠を伴わないものである。
(3)請求項10及び11に記載された成分の純度本件明細書の段落【0031】の記載から明らかなとおり,「純度」とは,「基板上の特定領域に存在する,その領域に合成されることが意図されるポリマー成分(目的ポリマー成分)の割合であって,分母は,目的ポリマー成分及び基板上のその他の領域で合成が意図されたポリマー成分(他領域目的ポリマー成分)の和である。そして,成分解析のためには,目的ポリマー成分が,他の領域にあるものと識別可能な程度に狙った特定領域に存在することが必要であり,かつ,それで十分である。請求項9及び10に記載される「純度」は「機能的」に表現されたものであり,「純粋」に対する「まじりけ」とは,特定の領域における「目的ポリマー成分」以外の物質であって「機能」を有する物質,すなわち,「信号」を発する物質を示すことが明白である。アレイ上において「信号」を発する物質とは,基板上のその他の領域で合成が意図されたポリマー成分のことであるから,発明の詳細な説明の記載を参酌しなくとも,純度については上記のとおりのものであることが明白である。そして,「機能として測定される」とは,本件発明が目的ポリマー成分の「機能」である「結合」によって生じる「信号」を測定するものであるとの意味である。したがって,請求項10及び11に記載された成分の純度の数値範囲について,「少なくとも90%」,「実質的に純粋」という高純度は達成不可能であるとする審決の判断は,誤りである。
被告は,請求項11の「実質的に純粋」との記載が,「実質的に100%の純度」という意味に解している。しかし,形式的に従属関係にある請求項でも,各々独立して解釈されるべきであり,本件明細書の段落【0031】の記載により,基板の一つの領域がそれを他の所定の領域から区別する特性を示す場合には,ポリマーは所定の領域内で「実質的に純粋である」と考えられるから,純度が90%未満の場合においても,「実質的に純粋」である場合が存在する。
3取消事由3(特許法29条柱書の発明未完成の判断の誤り)上記のとおり,本件請求項1ないし14に係る発明は,自明の技術的課題のみで表現されたものではなく,本件明細書中に十分開示されており,当業者が容易に実施することができる程度に本件明細書に記載されているのであって,産業上利用することができる発明として完成しているものである。したがって,特許法29条柱書に規定する発明ではないとする審決の判断は誤りである。
第4被告の反論の骨子審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1取消事由1(特許法36条4項及び5項の要件判断の誤り)について(1)本件発明の必須の構成基板表面成分の密度を10 〜10 種類/1cm とする解析装置は「マイ3 6 2クロアレイ」と一般的に呼称され,本件優先日よりも前に,ペプチド解析及びDNA解析の分野において「自明の技術的課題」であったものである。それぞれの解析装置の基板以外の構造は従来からのそれと変わりはないから,成分の密度を規定しても,解析装置を特定するための要件,すなわち,それぞれの成分に対応する装置とその他の解析装置とを識別するための必須の構成要件を規定したことにはならない。
(2)数値の臨界的意義10 〜10 種類/1cm という数値範囲の前後において,基板が有する3 6 2固有の性質,構造が特別に変化するわけではないから,そのような数値範囲を規定しても,解析装置の特定にはならない。
2取消事由2(特許法36条3項の要件判断の誤り)について(1)オリゴペプチド以外を解析対象成分とする解析装置ア本件請求項1は「成分を解析する装置に係る発明」であり,その成分を特定するにあたり,「オリゴヌクレオチド,核酸,ペプチド及びポリペプチドからなる群より選択される成分」という選択肢を並列的に列記した形式を採用している。したがって,請求項1に係る「装置」が解析の対象とする解析対象成分は,これら4種類の化学物質群の全ての場合が並列的に表現されていることになる。
そして,請求項1における「成分を解析する装置」と「成分を有する表面を有する基板」の「成分」は同一の意味に解釈するのが自然であるから,審決が本件発明には,「オリゴヌクレオチドを有する表面を有する基板を備えた,オリゴヌクレオチドを解析する装置」,「核酸を有する表面を有する基板を備えた,核酸を解析する装置」,「ペプチドを有する表面を有する基板を備えた,ペプチドを解析する装置」及び「ポリペプチドを有する表面を有する基板を備えた,ポリペプチドを解析する装置」という4種類の装置が包含されるとした点に誤りはない。
イ本件明細書において唯一実施例が示されているオリゴヌクレオチドの場合でさえも,本件明細書中には,1cm の領域に16種類のジヌクレオチドを2作成するストラテジーを示したに留まり,これが実際に追試することができたとしても,そのような密度では「マイクロアレイ」とは呼べないものであり,本件明細書の教示事項をもって,1cm 当たり10 種類という高密度の2 6オリゴヌクレオチドのマイクロアレイを提供したに等しいといえないことは明らかである。
さらに,「ポリペプチド」及び「ポリヌクレオチド」が解析対象成分である場合については,高密度で基板上に合成するためのストラテジーも示されていないから,これらの解析装置の発明は全く開示されていない。
ウ光脱保護の際に生じる副生成物の影響により,収率低下が起きることは,J.Org.Chem., Vol.60,No.20(1995) 6270-6276(乙第16号証)に,固相DNA合成における光化学による脱保護工程が品質の低下したオリゴヌクレオチドを生じさせることが記載されていることからも明らかである。
(2)オリゴペプチドを解析対象成分とする解析装置本件明細書に記載された実施例は,いずれも,10 種類の「オリゴペプ6チド」合成とはほど遠く,本件明細書の段落【0124】〜【0126】の実験は,本件「発明の数値範囲の全てにわたって『具体的に識別可能であることを確認する実験』」ではなく,本件発明が実施可能であることが確認されたものではない。
ア収率について(ア)1工程における収率所定領域内の分子数がいかに「莫大」な数であろうと,1サイクル毎の失敗産物の分子数もまた「莫大」であるから,サイクルが増すごとにそれが加算され,それが解析の際の「ノイズ」となり,「マイクロアレイ」としては機能しないほどに解析精度が落ちることは疑いのないことである。
原告の挙げる黄桃事件判決は,「植物の新品種を育種し増殖する方法」についての判決であり,植物の育種という技術分野の特殊性を考慮したものであるから,本件発明のような「解析装置」についての発明にまで,その射程が及ぶものではない。
(イ)1サイクル当たりの収率原告が「モノマーの反応を繰り返したところで,解析に必要充分な量のポリマーが合成できること」の根拠の1つとして「カップリング技術が85〜96%程度であり」と述べているが,この点は本件明細書の記載に基づかない上,その数値の根拠も示されていない。
本件明細書中には,光脱保護基の除去と引き続き行うアミノ酸とのカップリング反応の1サイクル毎の反応収率については明記されていない。また,領域内にどの程度の純度で(収率で)それぞれの異なる「オリゴペプチド」が合成されていれば識別可能であるかについての記載もない。引用文献7では,1サイクルの収率を85〜95%(90%)と見積もっているが,たかだか「62.5μm×62.5μm」の領域内に8サイクルで合成された16種類の異なるオリゴペプチドがそれぞれに識別可能であったことが確認されたにとどまるから,当該実験結果から,直ちに,1サイクルの収率が,例えば90%などの高収率であることは認識できないし,そもそも「マスクから漏れる光の散乱,回折,内部反射」の寄与が極めて大きいはずの「10μm×10μm」という小さな領域内での「オリゴペプチド」合成が全くされていないのであるから,1サイクル収率を推し量ることはできない。
(ウ)必要なサイクル数本件明細書には,1cm 当たり10 種類のオリゴペプチドを,各々102 6μm×10μmの領域ごとに合成するために,どのようなマスクを,どのような順序で用いて合成するのかの具体的手順が記載されていないから,1cm 当たり10 種類のオリゴペプチドを合成するのに必要なサイクル数2 6が明記されていない。
本件明細書の段落【0110】に記載された一般的なサイクル数の計算手法によると,10 種類のオリゴペプチドを得るためのサイクル数は,620種類のアミノ酸を用いると100サイクル,2種類又は4種類のアミノ酸を用いると40サイクルとなるが,どのようなマスク法が用いられるのかは,本件明細書中に具体的に記載されていない。
20サイクルの場合において,1サイクル当たり収率90%だと仮定しても,目的とする20merのペプチドは,0.9の20乗となり,最終的には約12%しか残らない。上記の90%という数値が理想的状態についてのものであることを考慮すれば,実際には,20サイクルも過ぎた後では,目的とする20merのペプチドの存在はノイズに隠れて閾値以下となることは必定である。
(エ)サイクル数が少ない態様原告は,基板外で合成したポリペプチド又はポリヌクレオチドを,基板表面の各領域にそれぞれ固定する発明も本件発明に包含されていると主張するが,その発明は,本件明細書に開示されていない。本件明細書の段落【0124】〜【0126】の実施例Hは,1種類のポリペプチドの基板表面への固定化でしかない。「フォトリソグラフィー法」で1種類の基板外合成ポリマーの固定化ができるとしても,残りの領域のポリペプチドを基板外で用意し,基板表面の残りの箇所にマスクの穴をずらしながら固定する必要があることになり,現実的でない。
イノイズ(「密航者」及び「短縮ポリマー成分」)について(ア)「密航者」原告は,反応温度を目的ポリマー成分の融点に保つという単純な制御により,予想外のポリマー成分に対する結合を事実上排除し得ることから何ら成分解析の妨げとならないと述べ,その根拠としてSambrookらによるMolecular Cloning -A LABORATORY MANUAL SECOND EDITION (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)(甲第16号証。以下「甲16文献」という。)の融点(Tm)を挙げているが,このTm値というハイブリダイズ条件設定で解析精度を調節することができるのはDNAの場合であり,オリゴペプチドには通用しない。
また,「密航者」の問題については,Proc Natl. Acad. Sci. USA 91:5022-5026 (1994)(甲第8号証,乙第10号証。以下,審決と同様に「引用文献8」という。)に,「光による合成において,合成全体の収率は,光脱保護反応の収率,光脱保護反応のコントラスト,そして化学結合の効率に依存する。光反応速度条件は,光脱保護反応の収率が確実に99%を超えるように選択される。基板の通常の暗領域における望まない光分解は,合成の忠実度に反して作用する場合があり,高い光学密度(50Dユニット)を持つリソグラフィックマスクを用い,慎重に指標を光学表面に適合させることによって最小化し得る。」との記載があり,乙4文献,Molecular Diversity 8:177-187 (2004)(乙第15号証)にも,一般に,光脱保護基を用いる光反応の効率,収率が悪いことの記載がある。
(イ)短縮ポリマー成分及びキャッピング工程原告は,各サイクル毎に「キャッピング工程」を設け,これにより,解析の際に各領域内の目的ポリマー以外の副生成物(短縮ポリマー成分を含む。)に基づく「ノイズ」を無視することができると主張するが,本件明細書中には,原告が主張する意味での「キャッピング工程」に関する開示はなく,原告の主張は失当である。
ウ基板表面成分の密度について原告は,1cm 当たり10 〜10 種類という密度を達成することができ2 3 6るか否かは,基板上に1cm 当たり10 〜10 箇所の領域を作り得るか否2 3 6かということにほかならないと主張するが,請求項1で規定されているのは,領域を作ることではなく,異なるポリマー成分で占められた10 〜10 箇3 62 3 6所の領域を1cm 中に作ることができるか否か,換言すれば,10 〜10種類のポリマー成分を1cm 中の決められた位置に配置することができるか2否か,とりわけ,10 種類のポリマーをそれぞれ基板上の10μm×10μ6mという小さな既知の位置決定された領域内に配置することができるか否かが問題となり,単なる領域形成の問題ではない。
本件発明の「フォトリソグラフィー法」においては,マスクから基板までは通常溶媒に満たされた空間があり,「光の回折,内部反射,及び散乱」に基づく暗部での意図しない照射を無視することはできない(引用文献7)。
しかも,「フォトリソグラフィー法」を用いて基板上でポリマー合成するには,光照射による保護基の除去工程後に,モノマーとの化学的カップリング工程を必須とし,両工程を何十サイクルも反復する必要があるのであるから,1回の光照射によるレジスト除去に対応する,半導体フォトレジスト技法における解像度と同列に論じられるものではない。
(3)請求項10及び11に記載された成分の純度請求項10及び11は,請求項1に記載された解析装置のうち,特に既知の決められた領域内の純度について,「少なくとも90%」及び「実質的に純粋」と規定している。しかし,「10 種類以上」を達成するために,ど6んなに特殊なマスキング法を用いても20サイクルは必要であることを勘案すれば,領域内の目的生成物の純度が「少なくとも90%」及び「実質的に純粋」になることは不可能である。
原告は,「実質的に純粋」という用語について,本件明細書の段落【0031】の記載を根拠にして「目的ポリマー成分が,特定領域内に存在する他領域目的ポリマー成分の量との関係で識別可能な程度の存在する状態」であることを意味すると主張しているが,請求項11では請求項10を引用して記載している以上,請求項10で規定される「純度90%以上」を下回ることはあり得ず,「純粋」という用語本来が有する「100%」を表すと解釈する方が自然である。
3取消事由3(特許法29条柱書の発明未完成の判断の誤り)について上記の点を総合すれば,本件発明は,当業者が反復実施して目的とする技術的効果を挙げることができる程度まで具体的・客観的なものとして構成されていない発明であるから,産業上利用することができる発明として完成したものではなく,特許法29条柱書に規定する発明に該当せず,特許を受けることはできない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(特許法36条4項及び5項の要件判断の誤り)について請求項1の記載では,単に1cm 当たり10 〜10 箇所の決められた位置2 3 6に,10 〜10 種類の基板表面成分が存在するという基板表面成分の密度が3 6規定されているにすぎない。また,本件明細書をみても,上記の数値範囲の前後において,基板が有する固有の性質,構造が特別に変化することを示す記載はない。
しかし,本件発明のような解析装置において,基板表面成分の密度を高めることが課題であって,その課題が自明のものであったとしても,従来,高密度化が技術的に実現困難であったものが,発明によって高密度化を実現した場合には,特許を受ける可能性があるのであり,その場合には,従来実現が困難であったが,発明により実現が可能となった密度の数値範囲を発明を特定する要素の一つとして規定することは妨げられない。
したがって,請求項1の記載が特許法36条4項及び5項の要件を満たしているか否かは,本件発明により高密度化が技術的に実現されたことを前提として判断すべきであるところ,取消事由2において本件出願の実施可能要件(特許法36条3項)が争われているから,まず,この点から判断することとする。
2取消事由2(特許法36条3項の要件判断の誤り)について本件発明に係る解析装置は,1cm 当たり10 〜10 箇所の決められた位2 3 6置に,10 〜10 種類の異なる基板表面成分を表面に有する基板を備えるも3 6のであるから,発明の詳細な説明に,本件発明を容易に実施することができる程度に記載されている(特許法36条3項)というためには,10 〜10 /3 61cm という成分密度で,各成分が基板上に存在するものを製造することがで2き,かつ,それが解析装置として使用可能なものであることが示されている必要がある。
原告は,黄桃事件判決を挙げて,本件発明の実施可能性を判断する上では,収率は問題にならないと主張するが,黄桃事件判決は,「発明は,自然法則の利用に基礎付けられた一定の技術に関する創作的な思想であるが,その創作された技術内容は,その技術分野における通常の知識経験を持つ者であれば何人でもこれを反復実施してその目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体化され,客観化されたものでなければならないから,その技術内容がこの程度に構成されていないものは,発明としては未完成のものであって,特許法2条1項にいう『発明』とはいえない(最高裁昭和三九年(行ツ)第九二号同四四年一月二八日第三小法廷判決・民集二三巻一号五四頁参照)。したがって,同条にいう『自然法則を利用した』発明であるためには,当業者がそれを反復実施することにより同一結果を得られること,すなわち,反復可能性のあることが必要である。そして,この反復可能性は,『植物の新品種を育種し増殖する方法』に係る発明の育種過程に関しては,その特性にかんがみ,科学的にその植物を再現することが当業者において可能であれば足り,その確率が高いことを要しないものと解するのが相当である。けだし,右発明においては,新品種が育種されれば,その後は従来用いられている増殖方法により再生産することができるのであって,確率が低くても新品種の育種が可能であれば,当該発明の目的とする技術効果を挙げることができるからである。」と判示しているのであり,植物の育種という技術分野の「特性にかんがみ」,植物の再現の「確率が高いことを要しない」と判断したものである。したがって,本件発明のような「解析装置」についての発明の実施可能性の判断にまで,黄桃事件判決の趣旨が及ぶものではない。本件発明は「装置」の発明である以上,常に一定の効果を発揮するからこそ「発明」ということができるものであり,当業者が反復実施してその目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体化され,客観化されたものでなければならない。また,明細書の記載は,当業者が容易に反復して発明の実施をすることができる程度のものでなければならない。
(1)本件発明に係る解析装置の種類審決は,請求項1における「成分を解析する装置」と「成分を有する表面を有する基板」の「成分」は同一の意味に解釈するのが自然であるから,本件発明1は,?@「オリゴヌクレオチドを有する表面を有する基板を備えた,オリゴヌクレオチドを解析する装置」,?A「核酸を有する表面を有する基板を備えた,核酸を解析する装置」,?B「ペプチドを有する表面を有する基板を備えた,ペプチドを解析する装置」及び?C「ポリペプチドを有する表面を有する基板を備えた,ポリペプチドを解析する装置」という4種類の装置を包含すると認定したのに対し,原告は,上記各成分を同義に解釈しなければならないものではないとして,この認定が誤りであると主張する。
ア本件明細書には,次の記載がある。
a 「リガンドリガンドは特定の受容体により認識される分子である。本発明により研究され得るリガンドの例には,限定的ではないが,細胞膜受容体に対するアゴニスト及びアンタゴニスト,・・・ペプチド,酵素,・・・オリゴヌクレオチド,核酸,オリゴサッカライド,蛋白質,及びモノクローナル抗体が含まれる。」(段落【0018】)b 「受容体所与のリガンドに対する親和性を有する分子。・・・本発明により使用され得る受容体の例には,限定的ではないが,抗体,・・・,ポリヌクレオチド,核酸,ペプチド,・・・が含まれる。」(段落【0022】)c 「典型的には純度は,均一な配列の結果としての生物学的活性又は機能として測定されるであろう。この様な特性は典型的には選択されたリガンド又は受容体との結合により測定されるであろう。」(段落【0031】)d 「調製された基体は,例えば,受容体との結合のためのリガンドとして種々のポリマーをスクリーニングするのに使用される」(段落【0033】)e 「相補的リガンド分子及びその受容体の相互作用する表面の形態的(topological)適合性又は一致性に関する。すなわち,受容体とそのリガンドは相補的であると記述することができ,そしてそれ故にその接触表面特性は相互に相補的である。」(段落【0017】)イ以上の記載によれば,本件発明に係る解析装置は,「リガンド」と「受容体」との結合反応を利用して解析を行うものであると認められる。これを前提にすると,解析対象成分と基板表面成分とは結合親和性を有する必要があると解される。しかし,結合親和性があればよいのであって,解析対象成分と基板表面成分とが同一物質である必要はない。被告の主張するように,請求項1の中に「成分」という文言が異なる意味で用いられることになるが,「成分を解析する装置」及び「成分を有する表面を有する基板」との文言があることからすれば,「成分」には,基板に定着しているものと解析を行う際に反応させるものの二種があることは明確であり,解析対象成分と基板表面成分とが同一の物質でなければならないと解すべき必然性はない。
そうすると,本件発明に係る解析装置として実施可能性を判断すべきものは,?@「オリゴヌクレオチド又は核酸」を解析対象成分とし,ヌクレオチド鎖を基板表面成分とする解析装置及び?A「ペプチド又はポリペプチド」を解析対象成分とし,ペプチド鎖を基板表面成分とする解析装置である。
(2)ペプチド鎖を基板表面成分とする解析装置についてア本件明細書には,実施例として以下の記載がある。
a 「G.NVOCの除去におけるマスクの使用次の実験を0.1%アミノプロピル化スライドを用いて行った。Hg-Xeアーク灯からの光を,レーザー切除したガラス上クロムマスクを通して,基体を直接接触させることにより基体上に像形成した。このスライドを12mWの350nm広バンド光により約5分間照明しそして次に1mM FITC溶液と反応させた。これをレーザー検出スキャンニングステージ上に置き,そして蛍光強度のポジションカラーコードの2元表示としてグラフをプロットした。種々のマスクを通して実験を多数回反復した。100×100μmマスク,50μmマスク,20μmマスク及び10μmマスクの蛍光パターンが示すところによれば,このリソグラフィー技法を用いてマスクパターンは少なくとも約10μm以上で区別される。」(段落【0123】)b 「H.YGGFLの付加,並びにこれに続くHerz抗体及びヤギ抗マウスへの暴露特定のポリペプチド配列に対する受容体が表面結合ペプチドに結合しそして検出されることを確立するために,Leuエンケファリンを表面に結合させそして抗体により認識させた。スライドを0.1%アミノプロピル-トリエトキシシランにより誘導体化し,そしてNVOCにより保護した。
裏側接触印刷(backside contact printing)を用いて流れセル中のスライドを暴露するため500μmチェッカーボードを用いた。
Leuエンケファリン配列(H N-チロシン,グリシン,フェニルア2ラニン,ロイシン-COOH,あるいは本明細書においてYGGFLと称する)をそのカルボキシ末端を介して,スライドの表面上の露出されたアミノ基に結合させた。・・・Herz抗体として知られる第一抗体をスライドの表面に45分間,2μg/mにて,スーパーカクテイル(この場合さらに1%BSA及び1%オバルブミンを含有する)中で適用した。次に,第二抗体,すなわちヤギ抗-マウス・フルオレッセイン複合体を2μg/mlでスーパーカクテイル緩衝液中に加え,そして2時間インキュベートした。
この結果を,位置の関数としての蛍光強度としてプロットした。この像を10μm段階でとり,そして次のことが示された。よく定義されたパターンで脱保護が行われ得るのみならず,(1)この方法は基体の表面へのペプチドの好結果のカップリングをもたらし,(2)結合したペプチドの表面は抗体との結合のために利用可能であり,そして(3)検出装置の能力は受容体の結合を検出するのに十分であった。」(段落【0124】〜【0126】)c 「I.YGGFLのモノマー並列形成及びそれに続く標識抗体への暴露交互の正方形におけるYGGFL及びGGFLのモノマー並列合成をスライド上チェッカーボードパターン中で行い,そして得られるスライドをHerz抗体に暴露した。この実験を図16及び図17に示す。図16において,この場合はt-BOC(t-ブトキシカルボニル)で保護されているアミノプロピル基により誘導体化されたスライドを示す。スライドをTFAで処理してt-BOC保護基を除去した。次に,そのアミノ基においてt-BOC保護されているE-アミノカプロン酸をアミノプロピル基に連結した。アミノカプロン酸はアミノプロピル基と合成されるべきペプチドとの間のスペーサーとして機能する。
スペーサーのアミノ末端を脱保護し,そしてNVOC-ロイシンに連結した。次に,スライド全体を12mWの325nm広バンド照明により照明した。次に,スライドをNVOC-フェニルアラニンと連結しそして洗浄した。スライド全体を再び照明し,そして次にNVOC-グリシンに連結しそして洗浄した。スライドを再び照明し,そしてNVOC-グリシンに連結して図16の最後の部分に示す配列を形成した。
次に,図17に示すように,スライドの交互の領域を500×500μmチェッカーボードマスクを用いる投影プリントを用いて照明し,こうしてグリシンのアミノ基を照明された領域においてのみ露出させた。次の連結化学反応段階を行うときNVOC-チロシンを加え,そしてそれを照明を受けた所においてのみ連結させた。次に,スライド全体を照明してすべてのNVOC基を除去し,照明された領域にYGGFLのチェッカーボードを残し,そして他の領域にGGFLを残した。Herz抗体(これはYGGFLを認識するがしかしGGFLを認識しない)を加え,次にヤギ抗-マウス・フルオレッセイン結合体を加えた。
得られる蛍光スキャンは,Herz抗体により認識されない(そしてそれ故ヤギ抗-マウス抗体・フルオレッセイン結合体との結合が存在しない)テトラペプチドGGFLを含む領域,及びYGGFLが存在する赤い領域を示した。YGGFLペンタペプチドはHerz抗体により認識され,そしてそれ故に,照明された領域にはフルオレッセイン-結合ヤギ抗-マウスが認識する抗体が存在する。基体との直接接触(「近接プリント」)において使用された50μmマスクについての類似のパターンはより明瞭なパターンを与え,そしてチェッカーボードパターンの角は,マスクが基体に直接接触して置かれた結果として感動的であった(これは,この技法を用いての解像度の増加を反映している)。」(段落【0127】〜【0130】)d 「J.YGGFL及びPGGFLのモノマー並列合成図16及び17に示したものに類似する50μmチェッカーボードマスクを用いての合成を行った。しかしながら,追加の連結段階を通して基体上のGGFL部位にPを加えた。保護されたGGFLをマスクを通して光に暴露し,そして次に,前記のようにしてPに暴露することによりPを付加した。従って,基体上の領域の半分はYGGFLを含有し,そして残りの半分はPGGFLを含有した。この実験についての蛍光プロットが示すところによれば,領域はやはり,結合が起った領域と結合が起らなかった領域との間が容易に識別できる。この実験は,抗体が特定の配列を認識し得ること,及びこの認識が長さ依存的でないことを示した。」(段落【0131】)e 「K.YGGFL及びYPGGFLのモノマー並列合成本発明の機能可能性をさらに示すため,前記のような技法を用いて基体上に交互のYGGFL及びYPGGFLの50μmチェッカーボードパターンを合成した。得られる蛍光プロットが示すところによれば,抗体はYGGFL配列を明瞭に認識することができそしてYPGGFL領域には有意に結合しなかった。(段落【0132】)f 「L.一連の16種類の異るアミノ酸配列の合成及びHerz抗体への相対結合親和性の評価前記の技法に類似する技法を用いて,一連の16種類の異るアミノ酸配列(4連反復)を2枚のガラス基体のそれぞれの上で合成した。スライドの全表面にわたって配列NVOC-GFLを付加することにより配列を合成した。次に,一連のマスクを用いて2層のアミノ酸を基体に選択的に適用した。各領域は0.25cm×0.0625cmの寸法を有していた。」(段落【0133】)イ上記aのGの実験によれば,10μm×10μm(1領域の面積が100μm となり,1cm 当たり10 個の領域が作られる。)程度の精度で,他2 2 6の領域と識別が可能な程度に,光脱保護が可能であることが認められる。しかし,Gの実験では,ポリマー合成(基板へのポリマー付加も含めて)は行われていない。したがって,この実験の結果をもって,請求項1で規定されているような密度・種類でペプチドが基板上に存在するものが容易に製造できることの根拠とすることはできない。
また,表面にペプチドを有する基板を製造しているHないしLの実験(上記bないしf)では,最も密度が高いもので,50μmマスクを用いた場合の400個/cm のものであり,ペプチドの種類も,Lの実験の16種類が2最多であり,領域の密度・ペプチドの種類ともに,請求項1で規定された下限値の10 にも達していない。
3原告は,本件発明が高密度アレイの提供により画期的なブレイクスルーを成し遂げた世界的なパイオニア発明であると主張しているから,本件発明においては,高密度であること,すなわち単位面積当たりの領域数の多さと配列の多様性(基板表面成分の種類の多さ)が重要な意味を有するものと認められる。しかし,本件明細書には,上記のように,低密度で,少ない多様性の基板の製造例・実験例しか記載されていない。
ウ収率について(ア)1工程における収率原告は,1工程の収率がたとえ小さくても,解析という目的にとっては十分な量のポリマーが存在すると主張する。
しかし,目的とするポリマー成分の収率が小さいことは,それ以外の成分,すなわち不純物が大量に存在することを意味している。その中には,ノイズとなり得る成分も含まれており,製造された解析装置が,解析装置として実用可能であるかどうかの判断は,目的ポリマー成分が存在することだけでは十分ではなく,後記のノイズの影響を十分考慮する必要がある。
(イ)1サイクル当たりの収率原告は,引用文献7に各反応の収率が85〜95%であることが記載されており,本件発明のフォトリソグラフィー法と引用文献7記載の合成法は同一の合成法であることから,本件発明の1サイクルの収率も85〜95%であると主張する。
引用文献7には,以下の記載がある。
a 「もう1つの重要な考慮事項は,合成の忠実度である。欠失は,不完全な光脱保護または不完全なカップリングにより生じる。これらの実験における1サイクルあたりの正味カップリング収率は,代表的には,85〜95%である(9)。マスキングによるスイッチマトリクスの実行は,光の拡散,内部反射,および散乱が原因で不完全である。結論として「隠れた化学ユニット(すなわち,組み込まれるはずではなかった化学単位)」は,遮光されているはずの領域の意図されない照射によって生じる。」(771頁左欄14行〜右欄1行(訳文1枚目13〜19行))b 「9.光脱保護および化学的カップリングから生じる正味のカップリングに対する寄与は,以下の方法で評価した。我々は,NVOC-アミノ酸についての光分解速度を実験により決定し,そのアミノ酸の99%より多くが光脱保護されることを確実にする照射条件を選択した。我々はまた,我々の基材上の選択されたアミノ酸の化学的カップリング効率を決定した。例えば,LeuとLeuとのカップリング効率を決定するために,NVOC-Leu誘導体化基材の1つの領域から,NVOCを最初に選択的に光分解した。次いで,この第1の領域中の光化学的に脱保護されたアミノ基を,FMOC-Leu-OBrにカップリングした。
この段階で,不完全なLeuとLeuとのカップリングにより,アミノ基が未反応のままであった。次いで,第2の光分解工程を用いて,その基材上の異なる領域を光分解した。FITCでのこの基材の処理は,第1の領域中の不完全な化学的カップリングから残っている遊離アミノ基および第2の領域中の不完全な化学的カップリングから残っている遊離アミノ基および第2の領域における光分解に曝された遊離アミノ基を標識した。両方の領域からの定量的蛍光シグナルの直接比較は,化学的カップリングの程度を示す。このカップリング収率が高い場合,第1の光分解領域対第2の光分解領域のシグナル比は,低い。我々は,化学的カップリングを最大にする実験条件を開発するために,この技術を最適化ツールとして使用した。」(773頁左欄5〜23行(訳文2枚目19〜3枚目7行))引用文献7の記載によると,同文献に記載された方法で算出される「カップリング収率」は,光脱保護が行われた後であって,化学的カップリングが行われる前の状態の遊離アミノ基(第2の領域における遊離アミノ基)に対する,化学的カップリング工程後に存在している未反応の遊離アミノ基(第1の領域における遊離アミノ基)の割合をシグナルの比によって算出しているものであり,同文献に記載された「85〜95%」という数値は,化学的カップリングの工程の効率を示しているだけであり,化学的カップリングに先だって行われる光脱保護工程の効率は含まれていない。
そして,「欠失は,不完全な光脱保護または不完全なカップリングにより生じる。」との上記aの記載からも明らかなように,光脱保護工程における収率の低下も無視することはできないものであるから,引用文献7に記載された「85〜95%」は,1サイクルの収率を示したものではない。
逆に,引用文献7には「マスキングによるスイッチマトリクスの実行は,光の拡散,内部反射,および散乱が原因で不完全である。結論として『隠れた化学ユニット(すなわち,組み込まれるはずではなかった化学単位)』は,遮光されているはずの領域の意図されない照射によって生じる。」(上記a)と記載され,光脱保護工程の不完全さにより,組み込まれるはずではなかった化学単位が,他の領域に組み込まれることが示されている。このような組み込まれるはずでなかった化学単位が組み込まれたポリマーは,もはやその領域において目的とするポリマーではないのであるから,その領域における収率は,そのポリマーの分だけ低下することになるが,引用文献7には,その収率低下がどの程度のものであるかについての記載はない。さらに,「光の拡散,内部反射,および散乱」による影響は,領域の面積が小さくなればなるほど大きくなるものと考えられるが,本件発明のように領域を高密度に設けた場合において,どの程度の影響があるかを示す記載はない。
したがって,引用文献7に各反応の収率が85〜95%であることが記載されているからといって,本件発明における1サイクルの収率が85〜95%であるとする根拠とはならないから,原告の主張を採用することはできない。
(ウ)必要なサイクル数被告は,本件明細書には,1cm 当たり10 種類のオリゴペプチドを,2 6各々10μm×10μmの領域ごとに合成するために,どのようなマスクを,どのような順序で用いて合成するのかの具体的手順が記載されておらず,1cm 当たり10 種類のオリゴペプチドを合成するのに必要なサイク2 6ル数は明記されていないと主張するが,審決においては,必要なサイクル数についての記載がないことを実施可能要件を欠く理由としていない。したがって,必要なサイクル数についての記述の有無は,審決を取り消すべきか否かの結論を左右しない。
(エ)サイクル数が少ない態様原告は,本件明細書にいう「モノマー」とは,必ずしも,アミノ酸1個のみを意味するものではなく,オリゴペプチド又はポリペプチドをも包含するものであり,サイクル数の増加による収率の低下をいう被告の主張は根拠を欠くものであり,20merを基板外で合成して,本件発明により基板上に結合する場合であれば,基板上での結合反応は1回で済むと主張する。
しかし,1種類のポリマーを結合するために必要なサイクルは1回であるとしても,最大で10 種類の基板表面成分を結合させるためには,残6る(10 -1)個の領域の全てに同じ操作を繰り返すことが必要であり,6その操作に膨大な時間を要することを考慮すると,現実性がないと推認される。
なお,原告は,アミノ酸のペンタマーをモノマーとして用いると,結合反応はわずか4回であるとも主張するが,これも1領域にのみ着目したものであって,上記と同様の問題がある上,本件明細書の「モノマーの基本セット」との記載から,「アミノ酸のペンタマーのセット」まで含めて理解することは困難であり,原告の主張を採用することはできない。
エノイズ(「密航者」及び「短縮ポリマー成分」)について(ア)「密航者」a原告は,フォトリソグラフィー技法の高い精度のために,全く意図しない成分が付加された,意図しないポリマー成分であるいわゆる「密航者」はほとんど生成されないと主張する。
しかし,引用文献7には,前記ウ(イ)aのとおり,「マスキングによるスイッチマトリクスの実行は,光の拡散,内部反射,および散乱が原因で不完全である。結論として『隠れた化学ユニット(すなわち,組み込まれるはずではなかった化学単位)』は,遮光されているはずの領域の意図されない照射によって生じる。」との記載があり,明確に「密航者」の問題を指摘している。また,原告自身も,引用文献8において,「光による合成において,合成全体の収率は,光脱保護反応の収率,光脱保護反応のコントラスト,そして化学結合の効率に依存する。光反応速度条件は,光脱保護反応の収率が確実に99%を超えるように選択される。基板の通常の暗領域における望まない光分解は,合成の忠実度に反して作用する場合があり,高い光学密度(50Dユニット)を持つリソグラフィックマスクを用い,慎重に指標を光学表面に適合させることによって最小化し得る。」と記載している。
したがって,これらの記載に照らして,密航者が「ほとんど生成されない」という原告の上記主張は採用することができない。
b原告は,「密航者」に対する結合は,事実上排除し得ることから,成分解析の妨げとはならないとも主張する。
しかし,甲16文献によれば,「密航者」との結合を回避するために,反応温度を目的ポリマー成分の融点に保つ手法(Tm値というハイブリダイズ条件設定を行う手法)は,DNAの場合に用いられる手法であり,オリゴペプチドには通用しないものである。
ペプチドについて,本件明細書には,「L-アミノ酸のみを含有する第一スライドの蛍光ブロットは赤い領域(強い結合,すなわち149,000カウント以上),及び黒い領域(Herz抗体がほとんどまたは全く結合しない,すなわち20,000カウント以下)を示した。配列YGGFLは明らかに最も強く認識された。配列YAGFL及びYSGFLもまた抗体の強い認識を示した。・・・D-アミノ酸スライドの蛍光ブロットが示すところによれば,YGGFL配列により最も強い結合が示された。YaGFL,YsGFL及びYpGFLに対しても有意な結合が検出された。」(【0135】〜【0136】)との記載がある。
この記載によれば,アミノ酸の配列が1個異なる場合でも,本来の配列と比較すれば弱いにしても,強い結合又は有意な結合を示す場合があることが認められる。したがって,アミノ酸の配列が1個異なるものが「密航者」となる可能性は十分にあるので,「密航者」に対する結合は事実上排除し得るとはいえないし,このような結合を示す配列が不純物として生成されれば,意図しない信号を発することは明らかであり,解析に影響を与える可能性が十分にある。
(イ)短縮ポリマー成分原告は,別紙1に示すとおり,収率が100%でないことに起因して,目的ポリマー成分よりも短いポリマー成分(短縮ポリマー成分)が特定領域内に合成され得るが,そもそもそのような短いポリマー成分が合成されてしまう可能性が低い上に,かかるポリマーへの結合の割合も低いために,蛍光反応における誤謬は事実上排除されると主張する。
別紙1の図は,1サイクル毎にキャッピング工程を行うことを前提としたものであり,かつ,結合性に関するグラフもTm値というハイブリダイズ条件設定を行う手法を用いた場合のものである。キャッピング工程を1サイクル毎に行うことは,後記(ウ)に述べるように,本件明細書に開示された範囲内の事項とは認められず,また,結合性のグラフについても,オリゴペプチドを基板表面成分とする場合には適用することができないものであることは前項bに述べたとおりである。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(ウ)キャッピング工程原告は,キャッピング工程を各サイクルに設けることで,解析の際のノイズを減少するという技術思想は,本件明細書に明確に記載されているばかりではなく,そのような技術思想は,基板上におけるポリマー合成の分野においては,本件優先日当時の技術常識であったと主張する。
a本件明細書には,以下の記載がある。
(a)「【発明の概要】種々のポリマーの合成のための改良された方法及び装置が開示される。1つの好ましい態様においては,リンカー分子が基体上に与えられる。このリンカー分子の一端には,光除去可能な(photoremovable)保護基により保護された反応性官能基が設けられる。リソグラフ(lithography)法を用いて,第一の選択された領域において,光除去可能な保護基が光に暴露されそしてリンカー分子から除去される。次に基体を洗浄し,又は単一モノマーと接触せしめる。この第一モノマーはリンカー分子上の露出された官能基と反応する。好ましい態様においては,モノマーはそのアミノ末端又はカルボキシ末端に光除去可能な保護基を含むアミノ酸であり,そしてリンカー分子は光除去可能な保護基を担持するアミノ基又はカルボキシ酸基を末端として有する。
次に,第二セットの選択された領域を光に暴露し,そしてリンカー分子/保護されたアミノ酸上の光除去可能な保護基を該第二セットの領域において除去する。次に,基体を,暴露された官能基との反応のために光除去可能な保護基を含有する第二モノマーと接触せしめる。所望の長さ及び所望の化学配列を有するポリマーが得られるまで選択的にモノマーを適用するためにその工程を反復する。次に,光感受性基を場合によっては除去し,そして次に配列を場合によってはキャップする。側鎖保護基が存在する場合はそれらも除去される。・・・(段落【0009】〜【0010】)(b)「次に,基体の幾らか又は全部から保護基を除去し,そして場合によっては配列をキャップユニットCによりキャップする。この工程が,次の一般式:S-〔L〕-(Mi ) -(Mj ) -(Mk )…(Mx )-〔C〕(式中,中カッコ〔 〕は場合によっては存在する基を示し,そしてMi…Mxはモノマーの任意の配列を示す)により示される複数のポリマーを持つ表面を有する基体をもたらす。モノマーの数は広範囲の値にわたることができるが,しかし好ましい態様においてはそれは2〜100の範囲であろう。」(段落【0038】)(c)「表面上のすべての未反応アミノプロピルシラン…すなわちNVOC-GABAが結合しなかったアミノ基…を,無水酢酸とピリジンとの1:3混合物に1時間暴露することによりアセチル基によりキャップする(更なる反応を防止するため)。この残留キャッピング機能を行うことができる他の物質には無水トリフルオロ酢酸,蟻酸酢酸無水物,又は他の反応性アシル化剤が含まれる。最後に,スライドをDMF,塩化メチレン及びエタノールにより再度洗浄する。」(段落【0105】)(d)「さらに詳しくは,図11のAに示すように,ガラス20は領域22,24,26,28,30,32,34及び36を備える。図11のBに示すように領域30,32,34及び36をマスクし,そしてガラスを照射し,そして「A」(例えばgly)を含有する試薬に暴露し,図11のCに示す構造を得る。次に領域22,24,26及び28をマスクし,ガラスを照射し(図11のDに示すように),そして「B」(例えばphe)を含有する試薬に暴露して図11のEに示す構造を得る。図11のMに示される構造が得られるまで,示されるようにセクションを次々にマスク及び暴露して工程を進行させる。ガラスを照射し,そして場合によってはアセチル化により末端基をキャップする。示されるように,gly/pheのすべての可能なトリマーが得られる。」(段落【0109】)b上記(a)には,本件発明の解析装置製造のための,種々のポリマー合成方法の一般的な方法が記載されており,キャッピング工程に関する記載がある。しかし,このキャッピング工程は,あくまでも,所望の長さ及び所望の化学配列を有するポリマーが得られるまで反応が繰り返された後に,後処理として行われる工程の1つとして記載されたものであり,1サイクル毎に行われるものとして記載されたものではない。上記(b)は,上記(a)の工程を詳しく記載したものであるが,後処理工程としてのキャッピング工程を記載するのみである。
c上記(c)の記載について,被告が「ポリマー合成用基板として用いるスライドの表面を調整する最終工程にすぎない」と主張したのに対し,原告は,ここにいうところの「スライド」は,基板上のアミノ基にNVOC-GABAが既に結合しており,「ポリマー合成がされた基板」及び「ポリマー合成がされつつある基板」すなわち「アレイ」と同義であるとして使用されていると主張する。
しかし,上記(c)に記載された「スライド」が,基板上のアミノ基にNVOC-GABAが既に結合しているといっても,「GABA」はポリマーの一部を構成するものではなく,基板上のアミノ基にNVOC-GABAが既に結合していることが,「ポリマー合成がされた基板」及び「ポリマー合成がされつつある基板」と等しいものであるとはいえない。NVOC-GABAを基板上に結合する工程は,その後に行われるポリマー合成の足場となる「NVOC」基を,ポリマー合成領域全体に配置する工程であり,「ポリマー合成用基板として用いるスライドの表面を調整する工程」とみるのが妥当である。したがって,上記(c)のキャッピング工程に関する記載も,ポリマー合成の1サイクル毎にキャッピング工程を行うことを意味するものと理解することは困難である。
d原告は,上記(d)の「ガラスを照射し,そして場合によってはアセチル化により末端基をキャップする。」という記載には,上記(b)の冒頭にある「次に」という文言がないことから,その前に行われる操作,すなわちアレイ上でのポリマー合成の後に行われるものではないと解釈されるから,上記(d)におけるキャッピング工程とは,ポリマー合成の各サイクルにおいて,ガラスを照射した後に,必要であれば,キャッピング工程を行うことを意味することが明白であると主張する。
しかし,原告の解釈では,「ガラスを照射し,そして場合によってはアセチル化により末端基をキャップする。」の記載の前には,「マスクし」,「ガラスを照射し」,「試薬に暴露」する一連の操作を繰り返す記載があるのに対し,「ガラスを照射し」という操作の一部のみが改めて記載されていることとなり不自然である。むしろ,上記(d)の記載に続く段落【0110】に「この例においては側鎖保護基の除去は必要でない。所望により,エタンジオール及びトリフルオロ酢酸による処理によって側鎖の脱保護を行うことができる。」という記載があるから,上記(d)は,上記(a)の「次に,光感受性基を場合によっては除去し,そして次に配列を場合によってはキャップする。側鎖保護基が存在する場合はそれらも除去される。」という一連の後処理工程に対応した記載であると解釈するのが自然である。
e以上のとおり,キャッピング工程を各サイクルに設けることが本件明細書に記載されているとは認められない。
また,本件優先日当時において,基板上におけるポリマー合成の分野において,キャッピング工程を各サイクルに設けて解析の際のノイズを減少させるという技術思想がたとえ周知のものであったとしても,キャッピング工程を各サイクルに設けることが本件明細書の記載から自明な事項であるとはいえない。
オ基板表面成分の密度について原告は,所定の成分密度の達成は「基板上に1cm あたり10 〜10 箇2 3 6所の領域を作り得るか否かということに他なら(ない)」と主張する。
確かに,単に上記のような領域を光照射の段階で他の領域と区別して作る点に関しては,半導体技術の技術レベルを参酌するまでもなく,前記(2)アaのGの実験にあるとおり,本件明細書の記載からも達成することができることは認められる。しかし,請求項1に記載されているものは,区画として所定の密度の領域を形成するだけでなく,他の領域の成分とは異なる種類の成分を有する領域を所定の種類分(10 〜10 種類)形成することであり,3 6何十サイクルもの光照射,化学的カップリング反応を経た場合に,どの程度の成分密度が達成されるかは,フォトリソグラフィー技法の解像度に関する技術をそのまま適用して達成することができるものとは認められない。
(3)ヌクレオチド鎖を基板表面成分とする解析装置について原告は,本件明細書の実施例においてアミノ酸モノマーからオリゴペプチドを合成する際に具体的に用いられている「NVOC」及び「NBOC」のいずれもが,光開裂可能なヌクレオチドのヒドロキシル基保護のために用いることが本件優先日前に周知であるから,当業者はこれら保護基をそのまま用いてヌクレオチドモノマーがオリゴヌクレオチドを容易に合成できるということが,本件の原出願の審決において認められていると主張する。
しかし,ヌクレオチド鎖を基板表面成分とする解析装置については,低密度のものの実施例もなく,光脱保護の一具体例すらなく,本件明細書に一般的な手法が記載されているのみである。上記のように,ペプチド鎖を基板表面成分とする解析装置であって,請求項1で規定されるような高密度の解析装置について,本件明細書の記載が実施可能要件を満たしていないことを考慮すれば,ヌクレオチド鎖が基板表面に10 種類/cm の高密度で存在する6 2解析装置について,本件明細書に実施可能な程度で記載がされているものとは認められない。
(4)請求項10及び11に記載された成分の純度ア請求項10について「純度」の意義について,本件明細書の段落【0031】には,「11.実質的に純粋基体の1つの所定の領域がそれを他の所定の領域から区別する特性を示す場合,ポリマーは所定の領域内で「実質的に純粋である」と考えられる。典型的には純度は,均一な配列の結果としての生物学的活性又は機能として測定されるであろう。この様な特性は典型的には選択されたリガンド又は受容体との結合により測定されるであろう。」との記載がある。
被告は,まず「純粋」とは,社会通念上の「純粋」の定義の一つである「まじりけのないこと」を意味し,「純度」とは「純粋さの程度」であるから,請求項9及び請求項10における「純度」は,「目的ポリマー成分以外の成分が混入していない状態の程度」と解釈され,領域内の成分全体に占める目的ポリマーの割合を意味すると主張する。
そこで検討するに,「純度」を算出するためには,「目的ポリマー成分」及び「目的ポリマー成分以外の成分」の量を測定する必要があるが,本件出願では,各成分が基板に固定されているため,通常の混合物のように,各成分を分離してその量を測定することはできない。そうすると,基板に結合したまま,「目的ポリマー成分」の量を測定する方法として,上記記載のように選択されたリガンド又は受容体との結合により,生物学的活性又は機能として測定するという手法を採用することは,特段不合理とはいえない。
しかし,本件明細書には,「純度」の算出方法について,「リガンド又は受容体との結合により測定(する)」という以上に具体的な記載はなく,原告が主張する純度の定義(目的ポリマー成分/(目的ポリマー成分+他領域目的ポリマー成分))が妥当であるか否かはともかく,本件明細書には,原告の主張する定義によった場合の純度の測定例が記載されていない。本件明細書では,領域数が少ない基板の製造例においてさえ,純度は記載されておらず,どの程度の純度が達成されたかは不明であり,請求項10に記載された条件を満たす領域数を有する基板において,請求項10で規定する「少なくとも90%の純度を有する」ものについては,開示がされていない。
イ請求項11について請求項11には,「実質的に純粋」という記載があり,「実質的に純粋」については,本件明細書の段落【0031】(上記ア)に,「基体の1つの所定の領域がそれを他の所定の領域から区別する特性を示す場合,ポリマーは所定の領域内で『実質的に純粋である』と考えられる。」と記載されている。
しかし,どのような状態であれば「区別する特性を示す」といえるかが不明であり,結局のところ,「実質的に純粋」の意義は,これらの記載からは明確ではない。また,請求項11は,「請求項10に記載の装置」のうち,各成分が,既知の位置決定された領域内において「実質的に純粋である」ものに限定した請求項であるので,請求項10において規定された「少なくとも90%の純度を有する」という条件を満たすものであることは明らかであるから,上記のとおり請求項10において「少なくとも90%の純度を有する」ものについて開示がない以上,請求項11についても,本件明細書中に実質的な開示がない。したがって,審決のこの点についての判断に誤りはない。
(5)実施可能要件についての結論以上のとおり,本件請求項1〜14に記載される基板に関する成分の密度についての数値範囲及び請求項10及び11に記載される成分の純度についての規定がいずれも本件明細書中で技術的に裏付けられていないから,本件明細書は,各請求項に記載された発明を当業者が容易に実施することができる程度に記載されていない。したがって,本件明細書の記載が特許法36条3項の要件を満たさないとした審決の判断に誤りはない。
3結論以上に検討したところによれば,審決取消事由のうち取消事由2には理由がなく,本件明細書の記載が特許法36条3項の要件を満たさないから,その余の点について検討するまでもなく,拒絶査定に対する不服審判請求を成り立たないとした審決の結論に誤りはなく,審決を取り消すべきその他の誤りは認められない。よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 古閑裕二
裁判官 浅井憲
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