審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成18ワ474特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成18ワ1223特許権侵害行為差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成16ワ25576特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19ワ11944特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19ワ6565特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 技術的思想 / 創作性(創作) / 製造方法 / 頒布された刊行物 / インターネット / 進歩性(29条2項) / 技術的範囲 / 先行技術 / 発明の詳細な説明 / 分割出願 / 意匠登録出願 / 警告 / 登録意匠 / 意匠権 / 原出願日 / 出願経過 / 参酌 / 技術的意義 / 同一の作用効果 / 容易に想到(容易想到性) / 不存在 / 特許発明 / 実施 / 権原 / 加工 / 構成要件 / 具体的態様 / 差止請求(差止) / 侵害 / 逸失利益 / 相当因果関係 / 不法行為(民法709条) / 混同 / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
18年
(ワ)
4494号
特許権侵害差止等請求事件
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原告株式会社鶴弥 訴訟代理人弁護士後藤昌弘 同 川岸弘樹 訴訟代理人弁理士松原等 被告株 式会社木村窯業所 訴訟代理人弁護士岩谷敏昭 同 堀田裕二 同 亀山愛子 補佐人弁理 士永田久喜 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2007/10/01 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1原告の請求をいずれも棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求1被告は,別紙ハ号物件目録記載の瓦(以下「ハ号物件」という。)を製造し,販売し,販売の申出をしてはならない。 2被告は,ハ号物件を廃棄せよ。 3被告は,原告に対し,2100万円及びこれに対する平成18年5月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,発明の名称を「防災瓦」とする後記特許権2及び発明の名称を「瓦の成形方法」とする後記特許権3並びに意匠に係る物品を「平板瓦」とする後記意匠権を有する原告が,後記イ号物件及びハ号物件を製造販売等する被告の行為は上記各権利を侵害すると主張して,被告に対し,上記各権利に基づき,ハ号物件の製造販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに,特許権又は意匠権侵害の不法行為に基づく損害賠償(訴状送達の日の翌日である平成18年5月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を含む。)を求めた事案である。 1争いのない事実(1)本件特許権2原告は,次の特許権(以下「本件特許権2」という。)の特許権者である〔以下,本件特許権2の特許請求の範囲請求項1の発明を「本件特許発明2」という。また,本件特許発明2に係る特許を「本件特許2」といい,本件特許発明2に係る特許公報(別紙特許公報2)の明細書を「本件明細書2」という。〕。 出願番号特願2004-322379出願日平成16年11月5日分 割 の 表 示特願2004-206056の分割原出願日平成11年7月29日公開番号特開2005-42545公開日平成17年2月17日特許番号第3706625号登録日平成17年8月5日発 明 の 名 称防災瓦特許請求の範囲本件明細書2の【特許請求の範囲】の【請求項1】に記載のとおり。 (2)本件特許発明2の構成要件本件特許発明2の構成要件を分説すると,次のとおりである。 A葺設時に,同段で横方向に隣接する一方の防災瓦(1)の桟(7)と他方の防災瓦(1)の差込部(8)とが重合するとともに,B下段の防災瓦(1D)の係合凸部(16)と上段の防災瓦(1U)の係合差込部(17)とが係合するC平板状の防災瓦において,(Dは欠番)E係合凸部(16)を,立上部(18)と一側への水平部(19)とが連続し,水平部(19)の下部に係合差込部(17)を一側から差込自在な差込空間(20)を有する鉤状に形成し,F差込空間(20)を一側への開口を有する凹円弧面で形成し,立上部(18)の前記凹円弧面とは反対側の側面を傾斜面とし,前記凹円弧面の下部と前記傾斜面とにより,立上部(18)を基端が最広の略八字状としたことを特徴とする防災瓦。 (3)本件特許権3原告は,次の特許権(以下「本件特許権3」という。)の特許権者である〔以下,本件特許権3の特許請求の範囲請求項1の発明を「本件特許発明3」という。また,本件特許発明3に係る特許を「本件特許3」といい,本件特許発明3に係る特許公報(別紙特許公報3)の明細書を「本件明細書3」という。〕。 出願番号特願2002-19594分 割 の 表 示特願平11-214607の分割出願日平成11年7月29日公開番号特開2002-301711公開日平成14年10月15日特許番号第3490998号登録日平成15年11月7日発 明 の 名 称瓦の成形方法特許請求の範囲本件明細書3の【特許請求の範囲】の【請求項1】に記載のとおり。 (4)本件特許発明3の構成要件本件特許発明3の構成要件を分説すると,次のとおりである。 I瓦本体の尻側水返し上面の中央付近に,立上部と該立上部から桟側への水平部を連続した係合凸部を設けて,水返し上面と該水返し上面の真上に位置する係合凸部の水平部下面との間に差込空間を設け,上記差込空間に差し込まれることでその上下位置が規制される係合差込部を水返しの外側に設けた平板瓦の成形方法であって,J上記成形に用いる金型には瓦上面と成形する成型面に係合凸部を形成する凸部形成部を切欠形成すると共に,差込空間を形成する押圧成形部を凸部形成部の後面側を最進行位置として水平方向移動自在に備え,K上記金型による成形工程として上下押圧成型し,差込空間を形成する押圧成形部を最進行位置まで移動させた後に復帰させ,上下型を上下分離して,瓦を成形したことを特徴とする平板瓦の成形方法。 (5)本件意匠権原告は,次の意匠権(以下「本件意匠権」といい,その登録意匠を「本件登録意匠」という。)を有している。 出願番号意願2002-36084出願日平成11年7月29日登録日平成15年4月4日登録番号第1174461号登録日平成15年4月4日意匠に係る物品平板瓦登録意匠別紙意匠公報(以下「本件意匠公報」という。)のとおり(6)本件登録意匠の構成態様本件登録意匠の構成態様は,次のとおりである。 ア基本的構成態様本件意匠公報において実線で表された部分,すなわち,正面図上端中央付近の上面から上方へ突設された鉤状の係合凸部の部分からなる,平板瓦の部分意匠である。 イ具体的構成態様G係合凸部を,立上部とその上端から一側への水平部とが連続し,水平部の下部に差込空間を有する鉤状に形成している。 H差込空間を一側への開口を有する凹円弧面で形成し,立上部の前記凹円弧面とは反対側の側面を傾斜面とし,前記凹円弧面の下部と前記傾斜部とにより,立上部を基端が最広の略八字状としている。 (7)被告の行為被告は,遅くとも平成16年4月から平成17年7月ころまで,別紙「イ号物件目録」記載の瓦(以下「イ号物件」という。)を製造販売し,その後,ハ号物件を製造販売している(以下,イ号物件とハ号物件を併せて「被告物件」という。)。 (8)被告物件アイ号物件イ号物件は,別紙「イ号物件目録」(訴状添付)の図面記載のとおりであり,同目録添付の平面図の上部に記載された,中央付近の上面から上方へ突設された鉤状の係合凸部の形状が,別紙「イ号物件係合凸部」(原告第4準備書面添付)の写真記載のもの及び別紙「イ号係合凸部」(平成19年2月7日付けの被告上申書添付)の図面記載のものを含む(以下,イ号物件の係合凸部の意匠を「イ号意匠」という。また,上記図面及び写真を併せて,以下「イ号物件図面等」という。)。 イハ号物件ハ号物件は,別紙「ハ号物件目録」(原告第6準備書面添付)の図面記載のとおりであり,同目録添付の平面図の上部に記載された,中央付近の上面から上方へ突設された鉤状の係合凸部の形状が,別紙「ハ号物件係合凸部」(原告第4準備書面添付)の写真記載のもの及び別紙「ハ号係合凸部」(平成19年2月7日付けの被告の上申書添付)の図面記載のものを含む(以下,ハ号物件の係合凸部の意匠を「ハ号意匠」といい,イ号意匠とハ号意匠を併せて「被告意匠」という。また,上記図面及び写真を併せて,以下「ハ号物件図面等」という。)。 ウ被告物件は,いずれも本件特許発明2の構成要件A,B,C及びEを充足する。 エ被告物件の成形方法(以下「被告方法」という。)の構成は,いずれも本件特許発明3の構成要件I,Jと「上記金型による成形工程(原告主張では成形方法)として差込空間を形成する押圧成形部を最進行位置まで移動させた後に上下押圧成型し,その後押圧成形部を復帰させ,上下型を上下分離して,瓦を成形したことを特徴とする平板瓦の成形方法。」である。 オ被告意匠は,いずれも本件登録意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様Gを充足する。 2争点(1)被告物件は本件特許発明2の技術的範囲に属するか。 被告物件は本件特許発明2の構成要件Fを充足するか。(争点1)(2)被告方法は本件特許発明3の技術的範囲に属するか。 被告方法は本件特許発明3の構成要件Kを充足するか。(争点2)(3)本件特許3は特許無効審判により無効とされるべきものであるか。 本件特許3には進歩性欠如の無効理由があるか。(争点3)(4)被告意匠は本件登録意匠と類似するか。(争点4)(5)原告の損害(争点5)第3争点に関する当事者の主張1争点1(被告物件は本件特許発明2の構成要件Fを充足するか。)について【原告の主張】(1)「凹円弧面」の意義ア構成要件Fが奏する効果は,本件明細書2(甲4)の段落【0015】に記載されているとおり,「この係合を受ける係合凸部(16)の差込空間(20)は凹円弧面で形成され,立上部(18)は基端が最広の略八字状となっている。」というものである。係合凸部は,係合差込部の係合を受け,また,この係合した状態で暴風による瓦のばたつきで係合差込部がガチガチと当たることがある。この係合を受ける係合凸部の差込空間が凹円弧面で形成されていると,係合凸部の特定部位への応力集中が緩和されるため,係合凸部が破損しにくくなる。また,この凹円弧面の下部は,傾斜面とともに,立上部を基端が最広の略八字状とするため,係合凸部のなかでも破損しやすい基端部が破損しにくくなる。 この効果に鑑みれば,構成要件Fにおける「凹円弧面」とは,円弧が完全な円弧面のみを指すものではなく,上記の効果を損ねないような僅かな変化が付いた程度の,実質的な円弧面(略円弧面)も含むと解すべきである。 イ被告は,@原告が出願経過の意見書(乙9の3)で述べた「凹円弧面には応力集中が生じにくい」という効果は明細書に記載がなく,このような効果を本件訴訟で主張することは許されないこと,A「押圧成形部の形成も,とても容易」の作用効果,及びB本件明細書2の実施例にも真円のものしか記載されていないことを理由に,「円弧」は「真円の円周の一部」を意味するものであると主張する。しかし,被告の主張は理由がない。 (ア)@について原告が意見書で述べた「凹円弧面には応力集中が生じにくい」ことの趣旨は,仮に基端部が角張っているとその角部の一点に応力集中が起こって亀裂が入りやすいのに対し,本件特許発明2では凹円弧面により応力が分散して亀裂が入りにくいことを述べたものである。このような作用効果は「真円」に限って得られるものではなく,実質的な凹円弧面ならば得られるものである。「凹円弧面には応力集中が生じにくい」ことは,原告が出願経過から一貫して主張していることであり,明細書に明示的に記載のない作用効果であっても,明細書の記載から自明的に把握できる作用効果であれば,発明の把握を補助する主張として許されるべきである。 (イ)Aについて原告が意見書で「押圧成形部の形成も,とても容易」と述べたのは,押圧成形部には硬度と靱性が求められるため,金属の加工硬化(金属が流れることによる硬化する)が期待できる」ダイス孔押し出し(いわゆるトコロテン式)で形成されるところ,角張った四角形のダイス孔を通すとその角部で金属の流れが乱れて割れが生じ,形成が困難になるのに対し,円弧面を持つダイス孔を通すと金属の流れがスムーズになって割れず,形成がとても容易になることを述べたものである。このような作用効果は「真円」に限って得られるものではなく,実質的な凹円弧面ならば得られるものである。このような作用効果が「真円」に限られるのであれば,「円弧面を持つ押圧成形部」などとは記載しない。 (ウ)Bについて本件明細書2の実施例は「例」であって,実施例に限定されるものではない。 (2)「略八字状」の意義被告は,「八字」は両辺がいずれも傾斜している形状を意味し,いずれか1辺が垂直直線状になっているものは「台形状」であって「八字状」ではない旨主張する。しかし,いずれか1辺に垂直直線部が付加された凹円弧面であっても,その凹円弧面の下部と反対側の傾斜面とにより基端が最広の「略八字状」を構成することは明らかである。したがって,仮にこれを「台形状」と呼べるとしても,同時に「略八字状」にも当たるのであるから,被告の主張は単なる言葉遊びにすぎない。 また,この基端最広の略八字状により,係合凸部の立上部の基端(最大荷重負荷部位の一つ)の断面積を増大させて強度を確保・上昇させ,破壊を防いで充分な耐風性能が得られる効果がある。かかる効果は本件明細書及び図面の記載から自明的に把握できるものであり,本件訴訟において主張が許されるべきものである。 (3)イ号物件の構成要件F充足性イ号物件の係合凸部は,実質的な凹円弧面を有するとともに,その凹円弧面の下部と傾斜面とにより基端が最広の「略八字状」を構成しており,これにより係合凸部の立上部の基端の断面積を増大させて強度を確保・上昇させ,破壊を防いで充分な耐風性能が得られる効果がある。 したがって,イ号物件は構成要件Fを充足する。 (4)ハ号物件の構成要件F充足性アハ号物件の係合凸部には,上部の半径5oの凹円弧面と下部の半径5oの凹円弧面との間に,上下長約4oの垂直直線部が存在する。しかし,@この上下長約4oの垂直直線部の存在は,構成要件Fが奏する効果を損ねない僅かな変化が付いた程度のものにすぎないこと,Aこの上下長約4oの僅かな垂直直線部は,イ号物件ではなかったものであり,原告の警告を受けた被告がイ号物件と技術的差異が生じない程度に僅かに付けてきたものであること,B構成要件Fでは「凹円弧面で形成し」としているにすぎず,上記のような僅かな垂直直線部の付加を除外していないこと,以上の点に照らせば,ハ号物件の係合凸部は,実質的な凹円弧面を有するとともに,その凹円弧面の下部と傾斜面とにより基端が最広の「略八の字状」を構成しており,これにより係合凸部の立上部の基端の断面積を増大させて強度を確保・上昇させ,破壊を防いで充分な耐風性能が得られる効果がある。 したがって,ハ号物件は構成要件Fを充足する。 イ被告は,ハ号物件の係合凸部には約4oの垂直直線部が存在するため,@「凹円弧面」たる構成はなく,A立上部の基端は「略八字状」ではなく「略台形状」に形成されていること,B係合凸部に約4oの垂直直線部を設けることにより,係合凸部の差込空間の有効な上下の距離が円弧より大きくなり,差込部が焼成時に上下に変形してもより係合が容易になるという顕著な作用効果が生まれることを理由に,ハ号物件は構成要件Fを充足しないと主張する。しかし,被告の主張は理由がない。 (ア)@について「凹円弧面」とは,円弧が完全な円弧面のみを指すものではなく,構成要件Fが奏する効果を損ねない僅かな変化が付いた程度の実質的な円弧面(略円弧面)を含むと解すべきことは,前記1の【原告の主張】(1)のとおりである。 (イ)Aについてハ号物件の係合凸部の凹円弧面には垂直直線部が付加されているが,その凹円弧面の下部と反対側の傾斜面とにより基端が最広の「略八字状」を構成している。 (ウ)Bについて被告がいう「差込空間の有効な上下の距離」は,凹円弧の曲率半径の増減によっても任意に設計できる事項であって,垂直直線部による顕著な作用効果というべきものではない。 【被告の主張】(1)「凹円弧面」の意義「凹円弧面」の意義については,文言の一般的な意味及び本件特許発明2の出願経過に即して解釈すべきである。円弧とは,一般に「円周の一部分」を意味するところ,以下に述べる出願経過を参酌すると,構成要件Fの「円弧」は「真円の円周の一部」を意味するものというべきである。 本件特許発明2は,その出願(特願2004-206056からの分割出願)に対して,要旨,「粘土等から形成された瓦を補強するために,所定の箇所を肉厚にすることは周知の技術(特開平10-331336)であり,また,第1刊行物に記載された発明の立上部の基端が強度的に不安定であることは明らかであることから,第1刊行物に記載された発明の差込空間,および立上部を,本願の請求項1にかかる発明のような形状とすることは,当業者が適宜なし得ることである。」との内容の拒絶理由通知(乙9の2)が発せられ,原告は,これを受けて,「本願発明の特徴は,凹円弧面の下部と傾斜面とにより立上部(18)を基端が最広の略八の字状とし,防災瓦が強風や振動を受けて係合中の係合凸部(16)と係合差込部(17)とが上下に当ったときでも,特に凹円弧面には応力集中が生じにくいため,立上部(18)の基端が折れずに係合を保ち防災性を維持するという重要な作用を果たすところにあります。また,この凹円弧面を形成するための円弧面を持つ押圧成形部(37)(図9〜図11参照)の形成も,とても容易であるという利点があります。」との内容の意見書(乙9の3)を提出した。 原告が意見書において述べている,@「凹円弧面には応力集中が生じにくい」との作用効果は,差込空間が真円の円周の一部であることによって奏されるものであり,また,A「凹円弧面を形成するための円弧面を持つ押圧成形部(37)(図9〜図11参照)の形成も,とても容易である」との作用効果は,押圧成形部とは要するにピストンのことであるから,ピストンは,真円形のものが製造がとても容易であるということを言わんとしている(言い換えれば,不規則な円形,円形と矩形の組合せによる形状のピストンの形成は容易ではない。)。本件特許権2は,このような意見書の内容を受けて特許査定に至った(乙9の4)のである。 原告は,「意見書で述べた『凹円弧面には応力集中が生じにくい』ことの趣旨は,仮に基端部が角張っているとその角部の一点に応力集中が起こって亀裂が入りやすいのに対し,本件特許発明2では凹円弧面により応力が分散して亀裂が入りにくいことを述べたものである」旨主張するが,本件特許権2の特許公報にも,その元となる特許出願である特開2001-040821号の公開公報(乙18)のいずれにも,そのような記載はない。各公報のいずれにおいても,差込空間20に押圧成形部37を進行させて差込空間の原料を排除する点が記載されているのみで,しかも乙18の図11に示された押圧成形部37の断面形状は真円である。つまり,原告は,上記原出願の時点ではもちろんのこと,本件特許権2の出願時点でも,応力集中については全く意識していなかったものであるから,「応力が分散して亀裂が入りにくい」との効果を本件訴訟で主張することは許されない。 なお,本件明細書2にも,真円の円周の一部から成る「凹円弧面」しか明示されていない。 (2)「略八字状」の意義「八字」は両辺がいずれも傾斜している形状を意味し,いずれか1辺が垂直直線状になっているものは「台形状」であって「八字状」ではない。 また,本件特許権2の元となる上記原出願の公開公報(乙18)にも,係合凸部の基端の形状について特段の記載はないから,「最広の略八字状」とある基端の形状を広く解釈すべきではない。 (3)イ号物件の構成要件F非充足イ号物件の差込空間は「真円の円周の一部」の形状をなしていない。 したがって,イ号物件は構成要件Fを充足しない。 (4)ハ号物件の構成要件F非充足ハ号物件には,係合凸部の差込空間を一側へ開口する面に約4oの垂直直線部があり,「凹円弧面」たる構成はなく,したがって,「係合凸部の立上部の前記凹円弧面とは反対側の側面を傾斜面とし,前記凹円弧面の下部と前記傾斜面とにより,立上部を」形成するとの構成もない。 また,約4oの垂直直線部の存在により,立上部の基端は「略八字状」ではなく,「略台形状」に形成されている。 しかも,係合凸部に約4oの垂直直線部を設けることにより,係合凸部の差込空間の有効な上下の距離が円弧より大きくなり,差込部が焼成時に上下に変形してもより係合が容易になるという顕著な作用効果が生まれる。 したがって,ハ号物件は構成要件Fを充足しない。 2争点2(被告方法は本件特許発明3の構成要件Kを充足するか。)について【原告の主張】(1)構成要件Kにおける成形順序構成要件Kは,「@上記金型による成形工程として上下押圧成型し,A差込空間(20)を形成する押圧成形部(37)を最進行位置まで移動させた後に,B復帰させ,C上下型(32,33)を上下分離して,瓦を成形」と分説されるが,@ないしCの記載順序は,成形の順序を一義的に規定したものではない。 すなわち,本件特許発明3は,本件明細書3(甲16)の段落【0002】に記載した「従来の瓦成形方式は,…(中略)…部分形成型が,加圧成形後の金型上昇時に鉤部における空間部の上方成形部に当接し,引っ掛かることになり,鉤部の成形は不可能であった。」という課題を解決するために発明されたものである。 したがって,AとBはこの順序で行うことが必須であるため,「差込空間を形成する押圧成形部を最進行位置まで移動させた後に復帰させ」として,順序関係を明確に規定している。これに対し,中心的な成形工程である@は,Aの前に行ってももちろんよいが,Aの後に行っても,AとBの主要部により上記課題が解決されるため,@をAの後に行うことも許容される。@の末尾にも,「…上下押圧成型し,」と記載するのみで,Aとの順序関係は規定していない。 (2)被告方法の構成要件K充足性被告方法における成形順序は,A↑@↑B↑Cであるが,この順序で成形を行うことも,前記のとおり構成要件Kを充足するものである。 【被告の主張】被告方法は,構成要件Kにおける@とAの順序が異なっており,構成要件Kを充足しない。 3争点3(本件特許3には進歩性欠如の無効理由があるか。)について【被告の主張】(1)本件特許発明3の進歩性は,本件明細書3(甲16)の「課題を解決するための手段」に記載されているとおり,上下型による成形と同時に,「差込空間を形成する押圧成形部を……水平方向移動自在に備え,差込空間を形成する押圧成形部を最進行位置まで移動させた後に復帰させ」,1工程で瓦を成形する点に帰着する。 (2) 先行技術ア特公昭63-67444号公報(乙15)上記公報では,本件発明3と同じ技術分野である「輪形雪止瓦そぎ部成形型」に関する発明につき,くり抜きにより輪形(乙15・図2のRで指示された部位)を形成するためにくり抜きカッター(乙15・図4の20番で指示された部材)を水平方向に進行・復帰させる技術が開示されている(乙15の3欄25〜28行目,図4・11)。 イ特開昭和57-151752号公報(乙11)上記公報では,本件特許発明3と同じ技術分野である「屋根瓦の製造方法」に関する発明につき,荒地状態の屋根瓦の水切り用突起内側面に凹部(乙11・図7の25番で指示された部位)を形成するために型(同図の31番で指示された部材)を水平方向に進行・復帰させる技術が開示されている(乙11の詳細な説明7欄2行目から8欄4行目,図7〜9)。 ウ特公昭62-25485号公報(乙12)上記公報では,本件特許発明3と同じ技術分野である「軒瓦成形装置」に関する発明につき,軒瓦の小巴部分の内側に凹部(乙12・図3の5番で指示された部位)を形成するために押圧体(乙12・図5〜7の9Aで指示された部材)を水平方向に進行・復帰させる技術が開示されている(乙12の特許請求の範囲第1段落,3欄11行目から22行目,図5〜7)。 エ特開昭57-123015号公報(乙13)上記公報では,本件特許発明3と同じ技術分野である「垂下り部を有するセメント瓦成形装置」に関する発明につき,垂下り部を有するセメント瓦の垂下り部の内側に凹部(乙13・図4の3B番で指示された部位)を形成するためにピストン(乙13・図4及び6の19番で指示された部材)を水平方向に進行・復帰させる技術が開示されている(乙13の特許請求の範囲,図4及び6)。 オ特許第3407117号公報(乙1)上記公報の,特に実施例3に関する図10,図11で開示されているL字型の「係止突起3c」は,隣接する瓦の係止受部が挿入されることで連鎖的に前屋根瓦を振れ止め係止する,まさに強度が問題となる部位で,本件特許権3の係合凸部と同一の作用効果を奏し,かつ形状がこれと基本的に同一である。 (3)主引例である乙15の公報に,乙11,乙12,乙13,乙1の技術の一部ないし全部を組み合わせれば,通常の知識を有する当業者は本件特許発明3に容易に想到することができる。 したがって,本件特許3には進歩性欠如の無効理由があり(特許法29条2項),本件特許3は特許無効審判により無効とされるべきものであるから,その権利行使は許されない(特許法104条の3)。 【原告の主張】構成要件Kに関して被告主張の先行技術があるとしても,これらの技術は,いずれも,強度低下が問題にならない部位か又は強度低下が起きにくい形状の部位ばかりを成形する技術である。 したがって,これらの成型技術を,「立上部と該立上部から桟側への水平部とを連続した係合凸部」すなわち,係合差込部の係合を受けて暴風時などに力がかかるため強度低下が大きな問題となるにもかかわらず,強度低下が起きやすい逆L字状という片持ち形状である係合凸部を成形するのに適用することは,これらの成型技術による強度の確保が全く不明であることから,当業者にとっても容易には想到できないことである。すなわち,係合凸部の成形に被告主張の先行技術を適用する動機付けがない。 よって,本件特許発明3には進歩性がある。 4争点4(被告意匠は本件登録意匠と類似するか。)について【原告の主張】(1)被告意匠は,差込空間を一側への開口を有する凹円弧面で形成し,立上部の前記凹円弧面とは反対側の側面を傾斜面とし,前記凹円弧面の下部と前記傾斜部とにより,立上部を基端が最広の略八字状としている。 よって,被告意匠は,本件登録意匠の具体的構成態様Hを充足する。 したがって,被告意匠は,本件登録意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様をすべて充足し,本件登録意匠と美感を共通にしており,本件登録意匠に類似する。 (2)被告は,@被告意匠は具体的構成態様Hを充足しない,被告意匠と本件登録意匠とでは,A係合凸部の斜面の形状,B係合凸部の流れ方向下側斜面が水返し面から斜めに立ち上がる形状,C係合凸部の基底の矩形が異なるとして,被告意匠と本件登録意匠は美感を異にし類似しないと主張する。しかし,被告の主張は理由がない。 ア@について技術的思想である発明への属否と,物品形態である意匠の類否とは,判断基準が異なる。意匠の類否は,意匠図面に表された形態に主に基づき,美感が共通するか否か,また,混同が生ずるか否かという基準で判断されるものである。「円弧」が「真円」の一部に限定されなければならない理由はないし,「八字」には,1辺に垂直直線部が存在するものを含まないと限定されなければならない理由はない。 また,意匠の類似範囲は,斬新なものほど広く解され,成熟したものほど狭く解される傾向にある。斬新なものは混同されやすく,成熟したものは見分けがつきやすいからである。しかるところ,本件登録意匠の凹円弧面の下部と傾斜面とで立上部を略八字状とする係合凸部の形態は,従前意匠としては乙1(甲9)の図11ないし図14のような角張った逆L字状の係合凸部しか存在しなかった状況において生み出された,斬新なものであり,滑らかで安定感のある斬新な美感を与えるものである。 よって,本件登録意匠と被告意匠とは,美感を共通にし,混同のおそれが強くあり,類似するというべきである。 イAについて本件意匠公報の正面図において,係合凸部の中間部に表された直線は,係合凸部の傾斜面の上部に湾曲面があることを示すハイライト線(湾曲面に光源が映り込んで現れた明線)であって,被告が言うような「角状の頂点的部位」ではない。このように傾斜面の上部に湾曲面があることは,本件意匠公報の平面図及び底面図に明確に記載されている。そして,この湾曲面の存在は,本件登録意匠と被告意匠とで共通しているから,被告による相違の主張とは逆に,類似する程度を強める事項というべきである。 ウBについてなるほど被告意匠の係合凸部の流れ方向下側斜面は斜めであるが,本件登録意匠の最大の要部である具体的態様Hの特徴に比べれば,意匠的に目立たないものであり,意匠の美感や混同性を左右するほどのものではない。 エCについてイ号意匠の係合凸部の基底の矩形と,本件登録意匠のそれとの間には,ほとんど差異は認められない。 ハ号物件の係合凸部の基底の矩形は,流れ横方向が長辺となる長方形であるが,本件意匠の最大の要部である具体的形状Hの特徴に比べれば,意匠的に目立たないものであり,意匠の美感や混同性を左右するほどのものではない。 【被告の主張】被告意匠と本件登録意匠は,需要者の視覚を通じて興させる美感において著しく相違しており,類似しない。 (1)「凹円弧面」「略八字状」(具体的構成態様H)の不存在アイ号物件の係合凸部の差込空間は,「円弧」すなわち「真円の円周の一部」の形状ではない。また,立上部の基端は,「略八字状」ではなく,「略台形状」に形成されている。 したがって,イ号意匠は本件登録意匠の具体的構成態様Hを充足しない。 イ ハ号物件には,係合凸部の差込空間を一側へ開口する面に約4oの垂直直線部があり,「凹円弧面」たる構成はなく,したがって,「係合凸部の立上部の前記凹円弧面とは反対側の側面を傾斜面とし,前記凹円弧面の下部と前記傾斜面とにより,立上部を」形成するとの構成もない。 また,約4oの垂直直線部の存在により,立上部の基端は「略八字状」ではなく,「略台形状」に形成されている。 したがって,ハ号意匠は本件登録意匠の具体的構成態様Hを充足しない。 (2)係合凸部の斜面の形状正面視による被告物件の係合凸部の差込空間とは反対側の斜面は,滑らかな弧を描く周状となっており,本件意匠公報にある正面図において直線により表示されている角状の頂点的部位がない。 ( ) 係合凸部の流れ方向下側斜面が水返し面から斜めに立ち上がる形状3イ号物件の係合凸部の流れ方向下側斜面は,水返し面から,垂直ではなく斜めに立ち上がっている。このような斜め方向への立ち上がりは,係合凸部の水平部分の流れ方向幅の抑制と,底辺を拡大することによる係合凸部の強度を増す効果がある。看者の注意を引き付ける意匠の要部に,顕著な差が認められる。 (4) 係合凸部の基底の矩形被告物件の係合凸部の基底の矩形は,ほぼ正方形となっている本件登録意匠と異なり,明確に流れ方向が長辺となる長方形となっている。係合凸部の強度を増すためその基底の矩形をどのような形状とするか,具体的には長辺を流れ方向,流れ横方向のいずれとするかは看者が注意を引く点であり,この具体的態様の差異は重要である。 5争点5(原告の損害)について【原告の主張】(1)逸失利益被告物件を製造販売する被告の行為は,本件特許権2(ただし,平成17年8月6日以降),本件特許権3及び本件意匠権を侵害するものである。 被告がこれまでに製造販売した被告物件は,少なくとも45万枚を下らない。 被告物件の販売価格は,1枚当たり少なくとも120円であり,その製造原価,運送・梱包等の諸経費は,1枚当たり多くとも80円を超えるものではない。 したがって,被告の得た利益は,1枚当たり40円を下らない。よって,被告が被告物件の製造販売により得た利益の額は,合計1800万円を下らない。 被告が得た上記利益の額は,原告が受けた損害の額と推定される(特許法102条2項,意匠法39条2項)。 (2)弁護士費用被告は,原告から警告を受けたにもかかわらず,被告物件の製造販売を継続したため,原告は,その差止等を求めて提訴せざるを得なかった。 よって,原告が本件訴訟の遂行を委任した原告代理人ら(弁護士2名,弁理士1名)に支払うべき費用のうち,少なくとも着手金相当額である300万円については,本件特許権2,本件特許権3及び本件意匠権侵害の不法行為と相当因果関係がある。 (3)原告の損害よって,原告は,被告に対し,上記(1)と(2)の合計2100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。 【被告の主張】争う。 第4争点に対する当裁判所の判断1争点1(被告物件は本件特許発明2の構成要件Fを充足するか。)について(1)「凹円弧面」の意義「円弧」とは,一般に,「〔数〕円周の一部分」(新村出・広辞苑第五版),すなわち,数学用語で「円周の一部分」を意味するものとされている。そして,同じ広辞苑第五版では,「円周」については円の定義@を参照するよう指示があり,「円の定義@」は,「まるいこと。まるいもの。数学では、一平面上で、 一定点(中心)から等距離(半径)にある点の軌跡。また、それによって囲まれた内部。その軌跡を円周ともいう。直角座標系に関して、原点を中心とした半径r の円は x +y =r と表される。」とされている。したがって,「円弧」の222一般的な意味は「真円の周の一部」を意味するものであって,楕円の周の一部や,その他真円の周以外の曲線を意味するものではないと認められる。 他方,本件明細書2(甲4)には,「凹円弧面」にいう「円弧」の形状について何ら説明はなく,「円弧」の構成を採用したことによる作用効果も記載されていない。また,本件明細書2の発明の詳細な説明に記載された実施例も,第1実施例の凹円弧面は真円の周の一部分と解されるし,第2実施例は「突堤上に係合凸部16を形成した点が,第1実施例のものと相違している。」(【0022】)とされるだけで,やはり凹円弧面は第1実施例と同様,真円の周の一部分と理解されるものである。そうすると,「凹円弧面」にいう「円弧」については,「円弧」の一般的な意味であって,本件明細書2の実施例の記載とも整合性のある真円の周の一部分を意味するものと認めるのが相当である。 原告は,「凹円弧面」にいう「円弧面」は,必ずしも円弧が完全な円弧面のみを指すのではなく,係合凸部の特定部位への応力集中緩和という作用効果を損ねない程度の実質的な円弧面も上記「円弧面」に含まれる旨主張する。しかし,本件明細書2には,原告が主張するような作用効果については何ら記載されていないから,そのような作用効果の有無を基準として「凹円弧面」の技術的意義を理解することはできない。したがって,原告の上記主張は採用できない。 (2)イ号物件についてイ号物件図面等その他弁論の全趣旨によれば,イ号物件の差込空間は,正面視(別紙イ号物件目録添付の正面図記載の方向から見た場合。以下これに準じていう。)及び背面視において,緩やかな曲線の一部からなるものであって,真円の周の一部分からなるものではないことが認められる。 したがって,イ号物件は,「凹円弧面」の構成を欠き,本件特許発明2の構成要件Fを充足しない。 (3)ハ号物件についてハ号物件図面等その他弁論の全趣旨によれば,ハ号物件の差込空間は,正面視(別紙ハ号物件目録添付の正面図記載の方向から見た場合。以下これに準じていう。)及び背面視において,上部及び下部は半径約5oの略円周の一部からなるものの,その間に上下長約4oの垂直直線部が存在することが認められる。 したがって,ハ号物件は,「凹円弧面」の構成を欠き,本件特許発明2の構成要件Fを充足しない。 (4)以上によれば,被告物件はいずれも本件特許発明2の技術的範囲に属さないから,本件特許権2に基づく原告の請求はいずれも理由がない。 2争点2(被告方法は本件特許発明3の構成要件Kを充足するか。)について(1)構成要件Kにおける成形順序構成要件Kは,「@上記金型による成形工程として上下押圧成型し,A差込空間を形成する押圧成形部を最進行位置まで移動させた後にB復帰させ,C上下型を上下分離して,・・・」(数字は判決による付加)である。この記載を普通に読めば,構成要件Kにおける平板瓦の成形順序は,この記載順序,すなわち,@↑A↑B↑Cの順序に限られるものと認められる。上記構成要件で,読点があるのは,@,B及びCの後であり,AとBの間には読点が存在しないが,このことも,構成要件Kの成形順序が「@」↑「Aの後にB」↑「C」であることを裏付けるものというべきである。 原告は,構成要件Kの@ないしCの記載順序は成形の順序を一義的に規定したものではないとして,A↑@↑B↑Cの順序で成形を行うことも許容される旨主張する。しかし,構成要件Kの記載を普通に理解した成形順序は前記のとおりであり,本件明細書3を精読しても,本件特許発明3が,@とAの工程をA↑@の順で行う方法を包含することを示唆する記載は全くない。したがって,原告の主張は採用できない。 (2)被告方法における成形順序被告方法における成形順序は,「A上記金型による成形工程(ないし成形方法)として差込空間を形成する押圧成形部を最進行位置まで移動させた後に@上下押圧成型し,Bその後押圧成形部を復帰させ,C上下型を上下分離して,」瓦を成形するものであることは当事者間に争いがない。 したがって,被告方法は構成要件Kを充足しない。 (3)以上によれば,被告方法はいずれも本件特許発明3の技術的範囲に属さないから,本件特許権3に基づく原告の請求は,争点3(本件特許3には進歩性欠如の無効理由があるか。)について判断するまでもなく,いずれも理由がない。 3争点4(被告意匠は本件登録意匠と類似するか。)について(1)本件登録意匠の構成は次のとおりと認められる。 ア基本的構成態様本件意匠公報において実線で表された部分,すなわち,正面図上端中央付近の上面から上方へ突設された鉤状の係合凸部の部分からなる,平板瓦の部分意匠である。 イ具体的構成態様@係合凸部を,立上部とその上端から一側への水平部とが連続し,水平部の下部に差込空間を有する鉤状に形成している。(具体的構成態様Gに当たる。)A差込空間が一側への開口を有する曲面で形成されている。(A,Bのうち「凹円弧面」の点,C,Eは合わせて具体的構成態様Hに当たる。)B上記曲面は,正面視(本件意匠公報では底面図の方向から見た場合をいう。以下同じ)及び背面視(本件意匠公報では平面図の方向から見た場合をいう。以下同じ)において,凹円弧面(ほぼ半円)からなる。 C立上部の凹円弧面とは反対側の側面を傾斜面としている。 D上記傾斜面は,傾斜角が約45度で,立上部の基端から上端にかけてなだらかな傾斜をなしている。 E上記凹円弧面の下部と上記傾斜面とにより,立上部を基端が最広の略八字状としている。 F上記略八字状の「八」の字は,背面視において,左の払いが円周の一部からなり,右の払いが傾斜角約45度のなだらかなほぼ直線からなる。 G係合凸部の流れ方向下方の面は,水返し面から垂直に立ち上がっている。 H係合凸部の基底は,流れ方向の2辺が若干短い長方形である。 I係合凸部の頂点付近に,平面視(本件意匠公報では正面図の方向から見た場合)において,流れ方向に1本の直線が引かれている。なお,この点に関し,被告は,この部分に角状の頂点的部位が存在すると主張するが,本件意匠公報の平面図及び底面図によれば,同部分に角状の部位は存在しないことが認められるから,上記頂点付近には,単に一本の直線が描かれているにすぎないものと認められる。 (2)本件登録意匠の要部ア意匠の類否を判断するに当たっては,意匠を全体として観察することを要するが,その際には,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,さらに公知意匠にはない新規な創作部分の存否その他の事情を参酌して,取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し,登録意匠と相手方意匠が,意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを観察することが必要である。 イそこで,まず,本件登録意匠の要部がどこにあるのかについて検討する。 (ア)前記争いのない事実に証拠(甲4,7ないし9)及び弁論の全趣旨を併せると,次の事実が認められる。 a本件登録意匠は,意匠に係る物品を「平板瓦」とするものであり,本件登録意匠公報において実線で表された部分,すなわち,平面視(本件意匠公報では正面図に相当)上端中央付近の上面から上方へ突設された鉤状の係合凸部の部分からなる部分意匠である。 b上記係合凸部は,強風による平板瓦のずれと浮きを防止して耐風性能を向上させるとともに防水性能も併せて向上させるために設けられたものであり,葺設時に下段の瓦の係合凸部と上段の瓦の係合差込部とが係合することによって,強風等に対する耐風性能を発揮し,瓦の浮き,ズレを防止することができるというものである。 c上記bのような耐風性能及び防水性能を有する平板瓦は,その機能・目的から「防災瓦」とも呼ばれ,カタログやインターネットのホームページを媒体として宣伝広告がなされているが,そこに表示されている防水瓦は,正面又は正面斜め上方から撮影されたものが多い。また,係合凸部と係合差込部とをクローズアップして撮影したもの,係合凸部と係合差込部の係合状態を撮影したものもある。 d防災瓦の取引者・需要者としては,建築業者,瓦の施工業者,建物を建築しようとする施主が考えられる。 e本件登録意匠の意匠登録出願前に頒布された刊行物である特開平8-93141号公報(以下「甲9号証刊行物」という。)の図11ないし図14には,平板瓦の平面視(本件意匠公報では正面図の方向)上端中央付近の上面から上方へ突設された鉤状の係合凸部(係止突起3C)が記載されている。上記係合凸部の具体的構成態様は,下記のとおりである。 @係合凸部を,立上部とその上端から一側への水平部とが連続し,水平部の下部に差込空間を有する鉤状に形成している。(具体的構成態様Gに当たる。)A係合凸部の差込空間が角張った逆L字状であり,差込空間は一側への開口を有する正面視(本件意匠公報では底面図の方向)及び背面視(本件意匠公報では平面図の方向)正方形ないしやや横長の長方形となっている。 B立上部の上記方形とは反対側の側面を垂直面としている。 C係合凸部の立上部は基端から直立している。 D係合凸部の流れ方向下方の面は,水返し面から垂直に立ち上がっている。 E係合凸部の基底は,流れ方向が長辺となる長方形である。 F係合凸部の頂点付近に直線は引かれていない。 (イ)以上の認定事実によれば,次のようにいうことができる。 防災瓦の機能・目的に照らすと,防災瓦の取引者・需要者は,係合凸部と係合差込部の係合状態,係合凸部及び係合差込部の強度に強い関心を寄せるものと考えられるから,これを本件登録意匠との関係で見ると,係合凸部における差込空間を形成する部分の形状及びこれとは反対側の側面の形状が注目されがちであるものというべきである。そして,甲9号証刊行物の係合凸部は,角張った逆L字状に垂直に立ち上がった形状であるのに対し,本件登録意匠は,具体的構成態様AないしFの構成により,全体として,滑らかかつなだらかで安定感のある美感をもたらしており,甲9号証刊行物の係合凸部とは美感が異なるものということができる。 これに対し,本件登録意匠の構成のうち,@(具体的構成態様G)の点及び同Gの係合凸部が流れ方向下方の面が水返し面から垂直に立ち上がる形状は,甲9号証刊行物の係合凸部のそれと同一である。また,同Hの係合凸部の基底の矩形については,同じ矩形の中での差であって需要者の注目を引くものとは認められないし,同Iの係合凸部の頂点付近の直線は単に描かれた線にすぎないから微差というべきである。したがって,これらの点は,本件登録意匠の要部ということはできない。 以上のとおり,本件登録意匠においては,上記AないしFの各構成が要部と認められる。 (3)イ号意匠の構成は,次のとおりと認められる。 ア基本的構成態様平板瓦の平面視(本件意匠公報では正面図に相当する方向から見たことになる)上端中央付近の上面から上方へ突設された鉤状の係合凸部の部分からなる,平板瓦の部分意匠である。 イ具体的構成態様@係合凸部を,立上部とその上端から一側への水平部とが連続し,水平部の下部に差込空間を有する鉤状に形成している。(具体的構成態様Gに当たる。)A差込空間が一側への開口を有する曲面から形成されている。 B上記曲面は,その正面視及び背面視において,やや縦長の略楕円の周の一部から成る。 C立上部の上記曲面とは反対側の側面を傾斜面としている。 D上記傾斜面は,傾斜角が立上部の基端において60度以上あり,立上部の基端から約3分の2程度の間は急な傾斜をなし,そこから立上部の上端までの間は緩やかな傾斜をなしている。 E上記曲面の下部と上記傾斜面とにより,立上部を基端が最広の略八字状としている。 F上記略八字状の「八」の字は,背面視において,左の払いがやや縦長の略楕円の円周の一部からなり,右の払いが傾斜角60度以上の急なほぼ直線から成る。 G係合凸部の流れ方向下方の面は,水返し面から斜めに立ち上がっている。 H係合凸部の基底は,流れ方向が長辺となる長方形である。 I係合凸部の頂点付近に直線は引かれていない。 (4)本件登録意匠とイ号意匠との対比ア本件登録意匠とイ号意匠の共通点は,基本的構成態様のほか,次の点である。 (ア)係合凸部を,立上部とその上端から一側への水平部とが連続し,水平部の下部に差込空間を有する鉤状に形成している点(@)(イ)差込空間が一側への開口を有する曲面から形成されている点(A)(ウ)立上部の上記曲面とは反対側の側面を傾斜面としている点(C)(エ)上記曲面又は凹円弧面の下部と上記傾斜面とにより,立上部を基端が最広の略八字状としている点(E)イ本件登録意匠とイ号意匠の差異点は,次の点である。 (ア)差込空間を形成する曲面が,正面視及び背面視において,本件登録意匠は凹円弧面(ほぼ半円)からなるのに対し,イ号意匠はやや縦長の略楕円の周の一部からなる点(B)(イ)差込空間と反対側の傾斜面は,本件登録意匠は,傾斜角が約45度で,立上部の基端から上端にかけてなだらかな傾斜をなしているのに対し,イ号意匠は,傾斜角が立上部の基端において60度以上あり,立上部の基端から約3分の2程度の間は急な傾斜をなし,そこから立上部の上端までの間は緩やかな傾斜をなしている点(D)(ウ)上記(エ)の略八字状の「八」の字は,本件登録意匠は,背面視において,左の払いが円周の一部からなり,右の払いが傾斜角約45度のなだらかなほぼ直線からなるのに対し,イ号意匠は,背面視において,左の払いがやや縦長の略楕円の周の一部からなり,右の払いが傾斜角が60度以上の急なほぼ直線からなる点(F)(エ)係合凸部の流れ方向下方の面は,本件登録意匠は水返し面から垂直に立ち上がっているのに対し,イ号意匠は水返し面から斜めに立ち上がっている点(G)(オ)係合凸部の基底は,本件登録意匠はほぼ正方形であるのに対し,イ号意匠は流れ方向が長辺となる長方形である点(H)(カ)本件登録意匠は係合凸部の頂点付近に直線が引かれているのに対し,イ号意匠はこれがない点(I)ウ前記イの差異点のうち,差異点(エ)は,イ号意匠における立ち上がりが斜めとなっている角度は急であり,垂直である本件登録意匠と大きな差があるものとは認められない。また,同(オ)は,同じ矩形の中での差であって需要者の注目を引くものとは認められないし,同(カ)の係合凸部の頂点付近に直線は単に描かれた線にすぎないから微差である。 しかし,本件登録意匠の要部たる点において差異点(ア)ないし(ウ)が存する結果,イ号意匠は,正面視において,前記甲9号証刊行物記載の意匠に見られる逆L字状の角部にやや丸みを持たせたような印象で,全体にほっそりとして不安定な印象の美感を与えており,本件登録意匠のように,全体として,滑らかかつなだらかで安定感のある美感をもたらしてはいないというべきである。 エしたがって,イ号意匠は,本件登録意匠とその要部において異なり,その結果,本件登録意匠との一致点を凌駕して,これと美感を異にするというべきであるから,本件登録意匠とは非類似である。 (5)ハ号意匠の構成は次のとおりと認められる。 ア基本的構成態様平板瓦の平面視(本件意匠公報では正面図に相当する方向から見たことになる)上端中央付近の上面から上方へ突設された鉤状の係合凸部の部分からなる,平板瓦の部分意匠である。 イ具体的構成態様@係合凸部を,立上部とその上端から一側への水平部とが連続し,水平部の下部に差込空間を有する鉤状に形成している。(具体的構成態様Gに当たる。)A差込空間が一側への開口を有する曲面から形成されている。 B上記曲面は,その正面視及び背面視において,上部及び下部は半径約5oの略円の周の一部からなり,その間に上下長約4oの垂直直線部が存在する。 C立上部の上記曲面とは反対側の側面を傾斜面としている。 D上記傾斜面は,傾斜角が立上部の基端において90度近くあり,立上部の基端から約4分の1程度の間は垂直に近い傾斜をなし,そこから立上部の上端約4分の1までの間は緩やかな傾斜をなし,更にそこから立上部の上端まで約4分の1の間は水平に近い傾斜をなしている。 E上記曲面の下部と上記傾斜面とにより,立上部を基端が最広の略八字状としている。 F上記略八字状の「八」の字は,背面視において,左の払いがやや縦長の略楕円の周の一部からなり,右の払いが傾斜角が60度以上の急なほぼ直線からなる。 G係合凸部の流れ方向下方の面は,水返し面から斜めに立ち上がっている。 H係合凸部の基底は,流れ方向が長辺となる長方形である。 I係合凸部の頂点付近に直線は引かれていない。 (6)本件登録意匠とハ号意匠との対比ア本件登録意匠とハ号意匠の共通点は,基本的構成態様のほか,次の点である。 (ア)係合凸部を,立上部とその上端から一側への水平部とが連続し,水平部の下部に差込空間を有する鉤状に形成している点(@)(イ)差込空間が一側への開口を有する曲面から形成されている点(A)(ウ)立上部の上記曲面とは反対側の側面を傾斜面としている点(C)(エ)上記曲面又は凹円弧面の下部と上記傾斜面とにより,立上部を基端が最広の略八字状としている点(E)イ本件登録意匠とハ号意匠の差異点は,次の点である。 (ア)差込空間を形成する曲面が,正面視及び背面視において,本件登録意匠は凹円弧面(ほぼ半円)からなるのに対し,ハ号意匠は上部及び下部は半径約5oの略円の周の一部からなり,その間に上下長約4oの垂直直線部が存在する点(B)(イ)差込空間と反対側の傾斜面は,本件登録意匠は,傾斜角が約45度で,立上部の基端から上端にかけてなだらかな傾斜をなしているのに対し,ハ号意匠は,傾斜角が立上部の基端において90度近くあり,立上部の基端から約4分の1程度の間は垂直に近い傾斜をなし,そこから立上部の上端約4分の1までの間は緩やかな傾斜をなし,更にそこから立上部の上端まで約4分の1の間は水平に近い傾斜をなしている点(D)(ウ)上記(エ)の略八字状の「八」の字は,本件登録意匠は,背面視において,左の払いが円周の一部からなり,右の払いが傾斜角約45度のなだらかなほぼ直線からなるのに対し,ハ号意匠は,背面視において,左の払いがやや縦長の略楕円の周の一部からなり,右の払いが傾斜角が60度以上の急なほぼ直線からなる点(F)(エ)係合凸部の流れ方向下方の面は,本件登録意匠は水返し面から垂直に立ち上がっているのに対し,イ号意匠は水返し面から斜めに立ち上がっている点(G)(オ)係合凸部の基底は,本件登録意匠はほぼ正方形であるのに対し,イ号意匠は流れ横方向がわずかに長い長方形である点(H)(カ)本件登録意匠は係合凸部の頂点付近に直線が引かれているのに対し,イ号意匠はこれがない点(I)ウ前記イの差異点のうち,差異点(エ)は,ハ号意匠における立ち上がりが斜めとなっている角度は急であり,垂直である本件登録意匠と大きな差があるものとは認められない。また,同(オ)は,同じ矩形の中での僅かな差であって需要者の注目を引くものとは認められないし,同Iの係合凸部の頂点付近に直線は単に描かれた線にすぎないから微差である。 しかし,本件登録意匠の要部たる点において差異点(ア)ないし(ウ)が存する結果,ハ号意匠は,正面視において,前記甲9号証刊行物記載の意匠に見られる逆L字状の下部を太くした上,角部にやや丸みを持たせただけであるという印象で,全体にずんぐりとした安定感のある美感を与えており,本件登録意匠のように,滑らかかつなだらかで安定感のある美感とは異なるものというべきである。 エしたがって,ハ号意匠は,本件登録意匠とその要部において異なり,その結果,本件登録意匠との一致点を凌駕して,これと美感を異にするというべきであるから,本件登録意匠とは非類似である。 (7)以上によれば,被告物件の製造販売は本件意匠権を侵害するものではないから,意匠権に基づく原告の請求はいずれも理由がない。 4結論以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山田知司 |
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裁判官 | 西理香 |
裁判官 | 村上誠子 |