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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19ワ24878特許権差止請求権不存在確認請求事件 判例 特許
平成15ワ23943特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成18受1772特許権に基づく製造販売禁止等請求事件 判例 特許
平成18ワ1305損害賠償請求事件 判例 特許
平成17ワ11007不当利得返還等請求事件 判例 特許
関連ワード 特許を受ける権利 /  承継 /  発明者 /  職務発明 /  協議 /  製造方法 /  新規性 /  インターネット /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  公知技術 /  出願公開 /  試行錯誤 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  債務不履行 /  契約の解除 /  模倣 /  悪意 /  善意 /  ライセンス /  抵触 /  権利の濫用(権利濫用) /  不存在 /  特許発明 /  実施 /  先使用権(先使用) /  業として /  侵害 /  損害額 /  算定方法 /  逸失利益 /  実施料 /  不法行為(民法709条) /  実施権 /  通常実施権 /  実施許諾(実施の許諾) /  設定登録 /  実施の事業 /  対価 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 /  対世的効力 /  追認 / 
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事件 平成 17年 (ワ) 26738号 処方使用料等請求事件
東京都渋谷区<以下略>
反訴原告皮膚臨床薬理研究所株式会社
同訴訟代理人弁護士北村行夫
同 吉田朋
同 亀井弘泰
同訴訟復代理人弁護士村上弓恵
反訴原告訴訟代理人弁護士大井法子
同 杉浦尚子
同 雪丸真吾
同 芹澤繁
同 大藏隆子 大阪市<以下略>
反訴被告株 式会社セプテム総研
同訴訟代理人弁護士浅井正
同 久保田皓
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2007/08/29
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1反訴被告は,反訴原告に対し,金4987万8833円並びに内金4650万円に対する平成17年6月2日から支払済みに至るまで年6分の割合による金員,内金22万7011円に対する平成17年7月2日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員及び内金315万18222円に対する平成18年9月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2反訴原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを5分し,その4を反訴原告の負担とし,その余は反訴被告の負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
第1請求次の1,2を選択的に求める。
1反訴被告は,反訴原告に対し,金2億5016万6968円並びに内金4650万円に対する平成17年6月2日から支払済みに至るまで年6分の割合による金員,内金1360万8038円に対する平成17年7月2日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員及び内金1億9005万8930円に対する平成18年9月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2反訴被告は,反訴原告に対し,金2億7216万0760円並びに内金8210万1830円に対する平成17年7月2日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員及び内金1億9005万8930円に対する平成18年9月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要本件は,反訴原告が,反訴被告に対し,(1)上記請求1として,ア反訴原告と反訴被告との間の平成14年10月1日付け「処方使用料支払の契約書 (甲1。以下「本件処方使用料支払契約書」という )及び同 」 。
日付け「覚書 (乙1。以下「本件覚書」という )による契約(以下,同 」 。
契約を 本件処方使用契約 といい 同契約の対象となっている処方を 本 「」, 「3件処方 というに基づく平成17年1月分から同年5月分までの処方使 」。)用料金3850万円及び反訴原告と反訴被告との間の平成14年10月1日付け特許権の通常実施権設定契約書甲2による契約以下同契 「 」()(,約を「本件特許実施契約」といい,同契約の対象となっている特許発明を本件発明 というに基づく平成17年1月分から同年5月分までの特 「」。)許実施料金800万円の合計金4650万円並びにこれらに対する弁済期経過後の平成17年6月2日から支払済みに至るまでの商事法定利率年6分の割合による遅延損害金イ反訴被告が本件処方使用契約及び本件特許実施契約の解除後も本件発明を含む本件処方を無許諾で使用しているとして,同解除の日の翌日である平成17年6月2日から同年7月1日までの間における不法行為に基づく損害賠償金1360万8038円及びこれに対する同不法行為の日の後である同月2日から支払済みに至るまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金並びに平成17年7月2日から平成18年8月31日までの間の不法行為に基づく損害賠償金1億9005万8930円及びこれに対する同不法行為の日の後である同年9月1日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求め,(2)上記請求2として 上記請求1と選択的に 反訴被告がその主張にかかる ,,平成16年12月31日の本件処方使用契約解除後も本件処方を無許諾で使用しているとして,平成17年1月1日から同年7月1日までの間の不法行為に基づく損害賠償金8210万1830円及びこれに対する同不法行為の日の後である同月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金並びに平成17年7月2日から平成18年8月31日までの間の不法行為に基づく損害賠償金1億9005万8930円及びこれに対する同不法行為の日の後である同年9月1日から支払済みまで同法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求めている事案である。
41前提となる事実等(争いがない事実以外は証拠等を末尾に記載する )。
(1)反訴原告と株式会社セプテムプロダクツ 以下 セプテムプロダクツ と (「」いう )との間の契約。
ア反訴原告は,昭和61年2月3日に設立された(ただし,当時の商号は「」,,。) 株式会社バンガード であり 平成8年8月8日 現商号に変更された(甲4 。)イセプテムプロダクツは,平成7年7月27日に設立された(なお,当時の商号は「株式会社セプテム」であり,平成8年9月12日,現商号に変更された(甲8 。。))ウ反訴原告とセプテムプロダクツとは,平成8年8月8日,セプテムプロダクツの依頼によって反訴原告が開発・製造する商品(他社への製造委託を含むについて セプテムプロダクツが独占的販売権を有すること等を 。),(「 」。) 内容とするOEM商品供与契約 以下 本件OEM商品供与契約 というを締結し甲6以後反訴原告はセプテムプロダクツとの間で自ら (),,, ,開発した化粧品を株式会社セレス研究所 以下 セレス というに委託 (「」。)して製造させた上,セプテムプロダクツがその完成品の納入を受けて販売するという取引形態を継続していた。
(2)反訴原告と反訴被告との間の契約ア本件処方使用契約及び本件特許実施契約反訴被告が平成13年7月3日に設立された後,反訴原告と反訴被告とは,平成14年10月1日,概ね次のような内容の本件処方使用契約及び本件特許実施契約を締結した。
(ア)本件処方使用契約(甲1,乙1)a反訴被告は,反訴原告より反訴被告の製造する医薬品及び医薬部外品及び化粧品等についての本件処方を受け その処方使用料 以下 本 ,(「件処方使用料 というとして反訴原告に対し総額月額770万円を 」。)5支払う。
b本件処方の対象品目は,次のとおりである(以下,これらを総称して「本件対象品目」という。。)@エルテソープAエルテスキンローションBエルテミルクローションCエルテオイルクレンザーDエルテエッセンスEディストリスシャンプーFディストリスコンディショナーGエルヴィナスクリスタリューションHエルヴィナスクリスタリューション・ボディーIピークラス・ベースクリーム(クリームイエロー)Jピークラス・ベースクリーム(ペールグリーン)Kエスクラス・サンプロテクトLアトップY群・アトップY(ホワイト)・アトップY(ブラック)・アトップY(レッド)Mファンデーション群・エスクラス・ツーウェイファンデーション(OC-S1)・エスクラス・ツーウェイファンデーション(PK-S3)・エスクラス・ツーウェイファンデーション(OC-S3)・エスクラス・ツーウェイファンデーション(NA-S1)c本契約は,契約締結日より1か年間有効であり,反訴原告,反訴被告のいずれかにより契約有効期限の30日前までに書面で契約解除の6意思表示がされない場合,1か年更新される。
d反訴原告又は反訴被告は,反訴原告,反訴被告両者において代表取,, 。 締役を変更した場合 両者協議の上 本契約を解約することができる(イ)本件特許実施契約(甲2)a反訴原告は,反訴被告に対し,反訴原告が特許出願中の下記本件発明について,通常実施権を設定し,その実施権は特許権の設定登録がされた場合も継続する。
記出 願 番 号特願2002-13760号発明の名称液晶型乳化組成物b上記実施権の範囲は,次のとおりとする。
実施地域日本国内全域実施期間平成14年10月1日より特許権の有効期限まで実施内容製造並びに販売c反訴被告は,反訴原告に対し,特許登録前及び登録後の本件発明の実施料以下本件特許実施料というとして月額160万円を (「」。),支払う。
d反訴被告又は反訴原告は,反訴原告,反訴被告両者において代表取締役を変更した場合,両者協議の上,本契約を解約することができる(以下,この条項と本件処方使用契約における同様の解約条項(上記(ア)d)を併せて「本件各契約解約条項」という。。)イ取引形態,,,, 上記各契約締結の結果 反訴原告が 反訴被告に対し 反訴原告の研究開発する化粧品,医薬品及び医薬部外品の処方を提供し,反訴被告が,セレスに委託して当該処方に基づく化粧品等の商品を製造させ,セプテムプロダクツがその完成品の納入を受けて販売するという取引形態がとられる7に至った。
□反訴被告による本件対象品目に係る製品の製造反訴被告は,本件対商品目に係る製品のうち,Jピークラス・ベースクリーム(ペールグリーン)は平成16年6月30日まで,Iピークラス・ベースクリーム(クリームイエロー)は同年7月31日まで製造し,その他の製品は,少なくとも,Mファンデーション群は同日まで,Kエスクラス・サンプロテクトは平成17年7月31日まで,その余は平成18年8月31日まで,それぞれ販売した。なお,@エルテソープ及びLアトップY群は資生堂ホネケーキ工業株式会社以下資生堂ホネケーキというがMファン (「」。),デーション群は株式会社日本色材工業研究所(以下「日本色材工業研究所」というが 製品を製造して 反訴被告に納入しており 反訴被告及びセレ 。) ,, ,スはこれらを製造していない。
(4)本件各契約の解除の意思表示等ア反訴被告は,平成17年1月分以降の本件処方使用料及び本件特許実施料の支払を停止した。
イ反訴被告は,反訴原告に対し,平成17年2月25日,本件処方使用契約及び本件特許実施契約につき,平成16年12月31日をもって既に解,, 除している旨及び予備的に平成17年2月末日限りで解除する旨 そして本件処方使用契約につき,更に予備的に同年9月末日限りで解除する旨の通知をした(甲5の1,2 。)ウ反訴原告は,反訴被告に対し,平成17年6月1日,反訴被告による本件処方使用料及び本件特許実施料の不払が本件処方使用契約及び本件特許実施契約の債務不履行に当たるところ,反訴被告による上記イの解除の意思表示がされたことなどから,反訴被告において,上記支払を履行する意思がないことが明らかであるとして,それらの契約を解除する旨の通知をした(乙4の1,2 。)8□本件訴訟の経緯本件訴訟は,まず,反訴被告から反訴原告に対する債務不存在確認請求の本訴事件(名古屋地方裁判所平成17年(ワ)第1771号)が提起され,反訴原告から反訴被告に対する本件反訴が提起された後,本訴事件が取下げにより終了したものである。
2争点(1)反訴被告による平成15年11月17日付け合意書 甲3 以下 本件合 (,「意書 というに基づく本件処方使用契約及び本件特許実施契約の解除の有 」。)効性(争点1)(2)反訴原告による本件処方使用契約及び本件特許実施契約の解除後における反訴被告の不法行為の成否(争点2)(3)反訴被告が本件発明について先使用による通常実施権を有するか(争点3)(4)反訴被告が本件発明及びその他のノウハウについて職務発明に伴う使用権を有するか(争点4)(5)反訴原告による本件発明に係る権利の第三者に対する行使が権利濫用に当たるか(争点5)(6)反訴原告の損害(争点6)3争点についての当事者の主張(1)争点1 反訴被告による本件合意書に基づく本件処方使用契約及び本件特 (許実施契約の解除の有効性)について(反訴被告の主張)ア本件処方使用契約及び本件特許実施契約の解除とその理由反訴被告代表者Aは,平成15年11月17日,当時の反訴原告代表者Bとの間で,当事者いずれかの代表者が変更となった場合,相手方は,本件処方使用契約及び本件特許実施契約を一方的に解除できる旨の合意をし9て(以下「本件合意」という,同日付けの本件合意書(甲3)を作成し 。)た。
当時の反訴原告の代表取締役は,B及びCの両名であったところ,平成16年8月18日にBが退任し,Cのみが重任されたことから,代表取締役の変更がされた。
反訴被告は,本件合意に基づき,反訴原告に対し,同年12月中旬ころの口頭による意思表示及び平成17年2月25日到達の通知(甲5)による意思表示によって,主位的に平成16年12月31日限り,予備的に平成17年2月末日限り,本件処方使用契約及び本件特許実施契約を解除した。
イ反訴原告の主張に対する反論(ア)本件合意書作成の理由,経緯等についてa本件合意書作成の理由本件処方使用契約及び本件特許実施契約には,当初から,反訴原告又は反訴被告の代表取締役の変更があった場合には当該契約を解除できる旨の本件各契約解約条項が設けられていた。その理由は,Bが反訴原告の代表取締役を退任して経営から離脱すれば,反訴原告と反訴被告及びセプテムプロダクツとの企業としての一体性が失われ,反訴原告が反訴被告やセプテムプロダクツの利益のために本件OEM商品供与契約に基づく債務を誠実に履行することについての保証が失われるため,その場合には,具体的な債務不履行を立証することなく,速やかに本件処方使用契約及び本件特許実施契約を解約して支払を中止,変更できるようにしたのである。
本件各契約解約条項は甲または乙は 甲乙両者の中で代表取締役 ,「,を変更した場合は,甲乙協議のうえ本契約を解約することができるものとするとされており 形式的には 協議が整わない場合には解約 。」,,10できないかのような表現であるが,単に合意解約できるという条項であるならばそれを設定する法的意味がないので,実質的には,反訴被告の臨時解約権を保障したものであるといえる。
b本件合意書作成に至る経緯反訴被告代表取締役Aは,平成15年11月ころ,Bから,同人が癌を患っていて,近々治療又は手術をしなければならなくなったことを聞いた。そこで,Aは,Bの死亡等,不慮の事態に備えて,同人が反訴原告の代表取締役を退任した際に反訴被告が本件処方使用契約及び本件特許実施契約を速やかに解除し得るよう,本件各契約解約条項の趣旨を明確化すべきと考え,当時反訴原告代表取締役であったBに依頼し,同人との間で本件合意書を作成することとした。
c本件合意書の作成状況Aは,平成15年11月15日,反訴被告取締役であったDに指示し,反訴被告の事務所において,ワープロにより,本件合意書の内容を記載した書面を作成させた。A及びBは,同月17日,Bの自宅において,上記書面に署名,押印して本件合意書原本を2通作成し,その原本については,A及びBが各1通保管することとした。
d本件合意書が反訴原告側に示された経緯(a)反訴被告は,Bが平成16年8月18日に反訴原告の代表取締役を退任した直後,本件合意書に基づく本件処方使用契約及び本件特許実施契約の解除実施を計画したが,紛争の発生が容易に予想されたため,とりあえず,解除を留保して支払金額の減額交渉を行うこととした。
, ,, (b)反訴被告は 反訴原告代表者Cに対し 平成16年10月ころ本件処方使用契約及び本件特許実施契約による処方使用料及び特許実施料の減額を要請し,同人と協議を行ったところ,同人から,減11額については了解するが,具体的金額については検討させてほしいと言われた。
(c)反訴被告は,平成16年11月30日ころ,Cに対し,減額後の金額の提示を要請したが,具体的金額は明らかにされなかったため,とりあえず同年12月31日限りで本件処方使用契約及び本件特許実施契約を合意解約し,平成17年1月以降の協議により新契約を締結することを提案して その解約について記載した合意書 乙 , (3)を交付した。
これは,本件処方使用契約及び本件特許実施契約の解除後,上記新契約の締結交渉を予定していたため,本件合意書に基づく一方的解除権を行使すれば,反訴原告の反発を招き,その後の交渉に支障を来すのではないかとおそれたことによるものである。また,本件合意書にも「・・・協議が調わない場合は・・・解除することができる」とあるので,とりあえずは協議実施し,合意解約できない場合に本件合意書に基づく解除権を実施する方が良いと考え,上記合意書を交付するにとどめ,本件合意書に基づく解除の意思を表明することはしなかったのである。
(d)Cは,平成17年1月25日,反訴被告に対し,合意解約はできないが,処方使用料等の支払金額を1か月200万円(反訴被告のセレスからの月間仕入総額約1億円の2パーセント)に減額するから契約を継続してほしい旨申し入れた。しかしながら,反訴被告は,1か月100万円の支払を想定していたため,Cとの間で,合意に達しなかった。
(e)反訴原告の取締役であって,反訴原告の株式の過半数を実質所有し,経営の実権を握るE(Bの子)は,平成17年1月31日,反訴被告に対し,Cの上記申入れを全面的に撤回して,本件処方使12用契約及び本件特許実施契約に規定されたとおりの金額(1か月合計930万円)を支払うよう求めた。反訴被告は,Cからの上記申入れに関して,ある程度譲歩するつもりであったが,Eの強硬な態度に絶望し,反訴原告との新契約締結交渉を断念して,同日,Eに対し,本件合意書のコピーを交付するに至ったのである。
(f)反訴被告は,反訴原告に対し,平成17年2月24日,本件処方使用契約及び本件特許実施契約を解除する旨の通知を送付し,それは,同月25日,反訴原告に到達した。
e小括以上によれば,本件合意書の作成経過や作成理由,それが平成17年1月31日の時点で反訴原告に提示されたことなどについて,何ら不自然な点は存しないといえる。
(イ)本件合意書の印影について反訴原告は,本件合意書におけるBの反訴原告代表者印の印影が,本件処方使用契約及び本件特許実施契約の各契約書(甲1,2)におけるそれと異なっていることを問題とする。
しかしながら,本件合意書に押捺された印鑑は,本件合意書の作成日である平成15年11月17日の時点において,反訴原告の実印として登録されていたものである。Bは,同日,Aが本件合意書作成のためにBの自宅を訪れる予定であったことから,あらかじめ,反訴原告の従業員に対し,代表者印を持ってくるよう指示していたところ,従業員が本件合意書に用いられている印鑑を持参したのであった。
他方,本件処方使用契約及び本件特許実施契約の各契約書に押印したのはCであるが,同人がなぜ当時の実印を用いなかったのかは不明である。反訴被告の知る限り,反訴原告は,契約書等の署名,押印に際し,常に本件合意書に押捺された印鑑を使用していたものである。
13(ウ)本件合意書に割印が存在しないことについて反訴原告は,本件合意書に割印が存在しないことを問題とするが,契約書を2通作成する場合であっても,それらに割印をしない例は商取引慣例上多々存在するところであり,そのことが契約自体の効力を左右するものではない。
(エ)本件合意書原本の反訴原告分について本件合意書の原本2通のうち反訴原告分の1通については,Bが自宅においてこれを所持していたものであるが,他の書類に紛れ込んでいた。,, ために当初は探し出すことができなかった しかしながら 反訴被告はその後,上記反訴原告分の原本を見つけ出したため,第9回弁論準備手続期日において,これを提示したものである(甲35の1,2 。)(オ)本件合意書の内容について反訴原告は,本件合意書の誤記を指摘するが,それらの点は,本件合意書の効力に影響を与えるようなものではない。
また,反訴原告は,本件合意書の内容が不自然であるとする。しかし, , ながら 反訴被告の本件処方使用契約及び本件特許実施契約上の義務は反訴被告の代表者であるAが当時反訴原告の代表者であったBを広告塔として評価していたことから発生したものであって,同人が反訴原告の代表者でなくなったときまで反訴被告の反訴原告に対する多額の支払を継続させる趣旨ではないから,本件合意書の内容は,合理的に理解できるものである。
(カ)本件合意が利益相反取引であるとの主張についてa反訴原告は,本件合意の時点において,Bが反訴原告の代表者であると同時に,反訴被告の代表者も務めていたことから,本件合意は利益相反取引に当たり,反訴原告及び反訴被告の取締役会の承認が必要となるところ,同承認を欠くから無効であると主張するが,同様の事14, 。 実は 本件処方使用契約及び本件特許実施契約の締結にも当てはまるすなわち,本件合意が無効であるとすれば,基本契約である本件処方使用契約及び本件特許実施契約も無効となるはずである。
b反訴原告は,本件処方使用契約及び本件特許実施契約の締結が,反訴被告にとって,利益相反取引に当たらない旨主張する。
しかしながら,これらの契約により,反訴原告は,処方使用料,特許実施料として,月々1000万円近くもの多額の金員を受領し,反訴被告は,それを支払うというものであるから,その金額をいくらにするかが双方にとって大きな問題であり,これら契約の締結は明らかに利益相反取引である。他方,本件合意の内容は,新たな権利,義務を追加したものではなく,既に締結済みの本件各契約解約条項を明確化したものにすぎないから,利益相反取引に当たらない。
(反訴原告の主張)ア本件合意書が反訴被告によって偽造されたものであること(ア)本件合意書が反訴原告に提示された経緯の不自然性a本件合意書が反訴原告に提示された経緯(a)反訴被告は,平成16年8月18日,当時反訴原告代表取締役であったBが退任した後から,本件処方使用契約及び本件特許実施契約に基づく支払を渋るようになった。その支払拒否の理由は,本件処方使用契約及び本件特許実施契約はBの功績に基づくものであり,同人が退任したからには反訴原告に支払う理由はないといったものであったが,その際,本件処方使用契約及び本件特許実施契約を解除するといった話はなかった。
(b)反訴被告は,反訴原告に対し,平成16年11月30日,本件処方使用契約及び本件特許実施契約を合意解約したい旨申し入れて,反訴被告代表取締役Aの記名,押印があり,解約について記載15された合意書と題する書面(乙3)を交付し,それに調印するよう求めた。これに対し,反訴原告は,理由もなく解約に合意できないとしてこれを拒んだ。
(c)反訴原告代表取締役Cは,平成17年1月25日,反訴被告から,処方使用料,特許実施料を支払いたくない,高額すぎる等と言われ,それらを減額してほしいとの申入れを受けたが,これを拒絶した。その際,反訴被告から,本件合意書の提示はなかった。
(d)反訴原告取締役Eは,平成17年1月31日,反訴被告から,この書類があるから合意がなくても解約できると言われて 本 「 。」,件合意書を示された。
b以上のとおり,反訴原告が本件合意書の存在を知ったのは,平成17年1月31日の時点が初めてであった。
しかしながら,本件合意書がその作成日として記載された平成15年11月17日に作成されていたのであれば,反訴被告としては,当初から,反訴原告に対し,本件合意書を示して本件処方使用契約及び本件特許実施契約の解除権を確認し,その存在を背景とした減額交渉を行っていたはずであって,あえて合意解約を求める必要はなかったのである。
そもそも,反訴被告は,既に反訴原告に対して処方使用料及び特許実施料を支払っていなかったのであるから,本件合意書が存在していたのであれば,これを示して本件処方使用契約及び本件特許実施契約を解除すれば足りたはずであり,減額などという折衷案を提示する必要もなかったといえる。
このような経緯からして,本件合意書は,合意解約ないし減額交渉が不能であると判明した時点で,日付を遡って作成されたものといわざるを得ない。
16(イ)本件合意書の形式及び内容a本件合意書の形式(a)本件合意書(甲3)におけるBの反訴原告代表者印の印影と,本件処方使用契約及び本件特許実施契約の契約書(同甲1及び2)の印影とは異なっている。
本件処方使用契約及び本件特許実施契約の各契約書における印影の印鑑は,Bが,反訴原告の代表者であった当時,契約書等の作成に通常使用していたものであるが,本件合意書における印影の印鑑は,同人が退任後持って行ったまま,いまだ反訴原告に返還していないものである。
(b)反訴被告は,本件合意書原本を2通作成したと主張するが,本件合意書には,反訴原告が契約書原本2通を作成する際に通常行われていた割印がされていない。
(c)反訴原告は,本件合意書による合意の一方当事者として,本件,, 合意書の原本1通を保管しているはずであり 反訴原告においては過去に作成した契約書の原本をすべてまとめて保管しているのであるが,本件合意書の原本は存在しない。
b本件合意書の内容(a)本件合意書の内容の不自然性本件合意書は,そこで触れられている本件処方使用契約と本件特許実施契約の内容が逆に記載されているほか,本件合意自体の内容が反訴被告に著しく有利なものであり,反訴原告にとって非常に重要な取引が反訴被告の一存で終了するとされているなど,極めて不自然である。
(b)反訴被告の主張に対する反論反訴被告は,本件各契約解約条項について,反訴被告の臨時解約17権を実質的に保障したものであるとする。しかしながら,反訴被告の述べる取引経過からは,そのような意味に解釈すべき必然性はなく,そのような合意であれば,それにふさわしい文言にしたはずである。
また,反訴被告が自認する本件合意書の作成目的からすれば,本件合意書は,Bが反訴原告代表取締役を退任した場合に,同人及び反訴被告の利益のみを確保し,反訴原告を倒産に追い込むための,不当なものであるといわざるを得ない。
仮に,Bが本件合意書に記載された日にそのような内容の合意をしたのであれば,自らが代表取締役を務める別の会社の利益のために反訴原告に対して一方的に損害を与える合意をしたことになり,それは明白な背任行為である。
イ本件合意が利益相反取引に該当すること(ア)本件合意の有効性そもそも,Bは,本件合意書が作成されたとされる平成15年11月17日当時,反訴原告の代表取締役でもあり,反訴被告の代表取締役でもあったから,本件合意が有効となるためには,反訴原告及び反訴被告において取締役会の承認が必要である。
しかしながら,当時もそれ以後も,本件合意について反訴原告の取締役会が承認を与えたことはない。そして,Bが代表取締役を務めていた反訴被告がこれについて悪意であることは明らかであるから,本件合意は無効である。
(イ)反訴被告の主張に対する反論反訴被告は,本件合意が無効であるとすれば,基本契約である本件処方使用契約及び本件特許実施契約も無効となるはずであると主張する。
しかしながら,本件処方使用契約及び本件特許実施契約については,18反訴原告及び反訴被告の役員も承知しており,当事者双方がこれらに従って取引を継続してきたのであるから,有効に成立していることを争う者などいない。
これに対し,本件合意は,反訴原告の収入に多大な損害を与え,反訴原告の存亡を左右するものであるから,上記両契約と異なり,当然に取締役会による承認が必要とされる。だからこそ,反訴原告は,本件合意書を見せられた直後から,その合意の事実自体を争っているのである。
ウ反訴被告による本件合意書に基づく解除が認められないこと以上の事情からすれば,本件合意書は,反訴原告代表取締役を退任した後のBと反訴被告との通謀によって,本件処方使用契約及び本件特許実施契約に基づく反訴被告の債務を一方的に消滅させることを目的として,後日,退任前のBが承認していたかのように見せかけるために偽造されたものである。
また,仮に,本件合意書が真正に作成されたものであるとしても,本件合意は,代表取締役が共通する会社同士によるものであるから,利益相反取引に該当し,反訴原告,反訴被告ともに取締役会の承認を経ておらず,かつ,相手方はそれにつき悪意であるので,無効である。
したがって,反訴被告による本件合意書に基づく本件処方使用契約及び本件特許実施契約の解除は認められない。
(2)争点2 反訴原告による本件処方使用契約及び本件特許実施契約の解除後 (における反訴被告の不法行為の成否)について(反訴原告の主張)ア本件処方が法律上保護される利益となること(ア)本件処方の意義本件処方は,化粧品の製造に係るものであり,原料から実際に化粧品として製造するための原材料一覧,製造工程(調合の順序と各調合にお19ける温度の調節や調合のタイミング,攪拌の回転速度等)及び各工程における製造のために不可欠なノウハウ(各製造工程の中で所期の結果を生ずるための技術等)を分かりやすくまとめたものの総体である。
とりわけ,本件対象品目のうち,Gエルヴィナスクリスタリューション及びHエルヴィナスクリスタリューション・ボディーに関しては液,「晶型乳化組成物」というこれまでに例をみない特殊な乳化構造を有する化粧品であり,その原料と製造方法出願公開したものが本件発明である。もとより,本件発明にこの化粧品の製造工程のすべてが開示されているわけではなく,実際に製造するためには上記のとおり各工程におけるノウハウが不可欠となり,特にこの特殊な化粧品は,他のものより一層詳細で特有の処方が必要とされる。
このように,本件処方使用契約及び本件特許実施契約解除後において反訴被告が無許諾で使用している本件処方は,本件対象品目の化粧品を製造するために必要不可欠な,本件発明を含むノウハウであるといえる以下これを単なる本件処方と区別して本件処方ノウハウとい (, 「()」う。。)(イ)本件処方(ノウハウ)の内容本件処方(ノウハウ)の内容を書面化したものが 「基本処方 (ある,」いは「配合標準 )及び「製造工程図 (枝番号の書証を含む乙8ないし 」」19。以下,書証の引用につき同じ )である(以下,それぞれ 「本件 。 ,基本処方本件製造工程図というこれらは本件対象品目の化 」,「」。)。,, , 粧品について Fなどの反訴原告の研究開発者が作成したものであってその化粧品の成分を一覧にまとめたものが本件基本処方であり,この成分を用いて実際に化粧品を製造するための手順,使用機械,撹拌混合する温度・速度・時間,冷却の方法・時間,保管時の注意点等のノウハウを工程に従ってまとめたものが本件製造工程図である。
また,この本件製造工程図に加え,Fが実際の製造現場の作業員に対20して与えた指示,アドバイス等も本件処方(ノウハウ)に含まれる。これは,実験室での小規模な製造を大量生産のラインに乗せる上で,実際の設備,環境に適合させるノウハウが不可欠だからである。
(ウ)本件基本処方及び本件製造工程図の作成過程本件基本処方は,反訴原告の書式で清書して打ち出したものであり,本件製造工程図は,Fが手書きした図を製造業者であるセレスに見せ,これを同社が清書したものをFが確認して完成させたものである。
なお,本件対象品目@エルテソープは,他の化粧品と異なり,石鹸であるため,これについては,石鹸の製造技術のノウハウを持つ資生堂ホネケーキに対し,必要な成分を指示して製造工程図を作成させ,それを反訴被告に対して提供している。このように外部委託により製造工程図を作成しているが,反訴原告から反訴被告に対して処方を使用許諾している点では変わらない。
(エ)本件処方の対価性以上のとおり,本件処方(ノウハウ)は,本件対象品目の各化粧品を製造するのに必要不可欠なノウハウであって,反訴被告は,これをセレスへの製造委託によって使用し,自社固有の化粧品を製造することで利益を上げているのであるから,本件処方(ノウハウ)が対価性を有し,,。 不法行為における法律上保護される利益となることは 疑う余地がない(オ)反訴被告の主張に対する反論a反訴被告は,本件処方(ノウハウ)について,Bが,その開発に関与し,その後,化粧品業界に広めた公知の技術思想であるから,本件処方使用契約及び本件特許実施契約の各契約書上の対価に見合う経済的価値はない旨主張する。
しかしながら,本件処方(ノウハウ)は,Bが開発したものではないし,同人は,本件処方を広く他社に伝授することなどできない。
21本件処方(ノウハウ)は,主として化粧品を構成する油性成分と水,, 溶性成分の乳化に関する研究及び技術を不可欠とするが これはFが株式会社資生堂 以下 資生堂 というの研究員であったころから (「」。)研究開発してきたものである。このことは,関連する特許(甲16,17)の発明者がFであることからも明らかである。化粧品の研究開発は,ごく簡略化して言えば,水と油をいかにうまく混ぜ合わせ(乳化させ ,その混合した状態を安定して保つかということが重要であ )る。Fは,この乳化の方法を長年にわたって研究し,例えば,本件処方(ノウハウ)のうち,エルテシリーズで用いられている非水乳化の方法や,エルヴィナスシリーズで用いられる液晶型乳化を開発したものである。
これに対し,Bは,その経歴,業績からも明らかなとおり,皮膚の安全性に関する研究者であって,化粧品の組成自体や製法の研究開発。 , 者ではない Fが化粧品の製造に関する部署に所属していたのに対しBは,化粧品の安全性確認に関する部署に所属しており,両者は,資生堂内における所属部署も全く異なっていたのである。資生堂の研究員であった当時,Fは,Bと会話を交わしたこともなく,Bが本件処方の研究開発に従事していたことなどない。
したがって,Bは,反訴原告の代表者であった際にFから乳化技術の概要の説明を受けたとしても,乳化技術の具体的内容や詳細については知るはずもなく,その開発能力も有していないのであるから,資生堂を退職後に他社で本件処方(ノウハウ)を広く伝授するなどということは不可能である。
b反訴被告は,本件処方(ノウハウ)は,Fが資生堂の研究員時代に(,), , 発明した特許 甲16 17 を模倣 利用したものにすぎないから対価性がない旨主張する。
22しかし,特許出願中の本件発明の進歩性の議論と本件処方(ノウハウ)が対価性を有するか否かは,全く次元の異なる問題であり,区別されるべきである。
すなわち 本件処方 ノウハウ のうち エルヴィナスシリーズ 本 ,(),(件対象品目Gエルヴィナスクリスタリューション及び同Hエルヴィナスクリスタリューション・ボディー,乙15,16)は,本件発明を技術思想として内包しているが,出願公開された本件発明そのものとは異なる。一般に,特許公報を読んでも開発ノウハウがなければ直ちに製品化し得ない特許は少なくないが,本件処方(ノウハウ)も,そのようなノウハウを含むものである。むしろ,発明の内容として記載していない秘密として保持された部分に本件処方(ノウハウ)の重要性があるといえる。
また,本件対象品目Aエルテスキンローション(乙9)の本件処方(ノウハウ)と反訴被告が指摘する特開昭51-55783号の特許公開公報甲17以下本件公知例1という記載の発明以下 (。「」。)(本件公知発明1というとの比較によっても何ら本件処方ノ 「」。),(ウハウ)が公知であるとの理由を見出すことはできない。すなわち,反訴被告は,本件対象品目Aエルテスキンローションの原材料として使用されている成分が,本件公知例1の明細書に記載されているものと同一である上,本件公知例1では,その使用について限定していないと主張する。しかしながら,前記のとおり,本件処方(ノウハウ)は,成分の一覧である本件基本処方とともに,その成分を用いて実際に化粧品を製造するための本件製造工程図及びFの指示,アドバイス等のノウハウの総体であるから,原材料の一部や製造方法の概要が明細書に開示されて公開されたからといって,いまだ公知にはなっていない。
23したがって,本件処方(ノウハウ)が公知あるいは公然という事実はなく,化粧品の製造に必要な対価性を有するノウハウであることは明らかであり,これを無許諾で不正使用する反訴被告の行為は不法行為を構成する。
イ本件処方(ノウハウ)を使用している製品について() (ア)反訴被告が本件対象品目の製品すべてについて本件処方 ノウハウを使用していること本件処方使用料支払契約書(甲1)及び本件覚書(乙1)により特定された本件対象品目@ないしMの各製品は,すべて反訴原告が反訴被告に対して処方の使用許諾を与え,反訴被告が反訴原告に対して使用料を支払うことを約したものである。
このうち,本件対象品目AないしKの各製品は,基本処方から製造工程図まですべての処方を反訴原告において開発したものである。これに対し,同@エルテソープ及び同LアトップYの石鹸と,同Mエスクラスツーウェイのファンデーションは,反訴原告において基本処方を開発した後,実際の製造工程をそれぞれの専門業者に外注し,製造を委託したものであるが,これらの製品の処方についても,一部分を外注に出したというだけで,反訴原告が開発した処方であることに変わりはない。
したがって,同AないしKの各製品はもとより,同@,L及びMの各製品についても,反訴被告が何らの権限なく本件処方(ノウハウ)を使用してそれらの製品を製造 第三者への製造委託を含む販売すること ( ),は,反訴原告に対する不法行為を構成するものである。
(イ)反訴被告の主張に対する反論a反訴被告は,本件対象品目Eディストリスシャンプー及び同Fディストリスコンディショナーについて,反訴被告において処方を開発した旨主張するが,その根拠は示されていない。
24b反訴被告は,本件対象品目@,L及びMの各製品に関し,本件基本処方ないし本件製造工程図が存在しない旨主張するが,現に上記各製品が製造されている以上,その主張は事実に反する。
また 反訴被告は これらの製品について反訴被告自らは一切製 ,,,「造したことがない」として,あたかもこれらの製品の製造販売について反訴被告に責任がないかのような主張をしている。しかしながら,反訴被告は,これらの製品に限らず本件対象品目@ないしMの各製品すべてについて,本件処方使用契約及び本件特許実施契約による反訴原告からの本件処方(ノウハウ)の使用許諾が終了したことを隠し,業者に対して製造を委託し続けているというだけであり,そのようなことは,反訴被告が責任を免れる合理的理由とはならない。
ウ本件処方使用契約及び本件特許実施契約解除後の反訴被告の不法行為(ア)反訴原告による解除を前提とする場合前記のとおり,本件処方(ノウハウ)は,対価性を有する反訴原告の技術開示及び指導の総体であって,反訴原告は,反訴被告に対し,対価の支払と引き換えに,本件処方(ノウハウ)を開示し,使用許諾したものである。
しかしながら,反訴被告は,平成17年1月分から本件処方使用料及び本件特許実施料を支払っておらず,その一方で,同月以降も,本件処方(ノウハウ)を使用して化粧品の製造販売を続けている。
このように,反訴被告においては,本件処方使用契約及び本件特許実施契約に基づく支払を拒絶する意思が明確であるから,反訴原告は,反訴被告に対し,平成17年6月1日,それまでの未払債務の支払を催告するとともに,本件処方使用契約及び本件特許実施契約を解除する旨の意思表示をした。
したがって,反訴被告は,遅くとも同月2日以降,反訴原告の許諾なく本件処方(ノウハウ)を使用しているものであり,かかる反訴被告の25行為は,反訴原告の利益を侵害する不法行為である。
(イ)反訴被告による解除を前提とする場合仮に,反訴被告の主張どおり,本件処方使用契約及び本件特許実施契約が平成16年12月31日限りで解除されたとした場合,反訴被告が平成17年1月以降も本件処方(ノウハウ)を使用している行為は,不法行為となる。
(反訴被告の主張)ア本件処方(ノウハウ)が経済的価値を有しないこと本件処方(ノウハウ)は,Bが資生堂に学術部長,研究所次長として勤務していた昭和50年代ころに,同人の関与によって,開発された技術思想であった。加えて,同人は,昭和60年に,資生堂を退職してから,株式会社アルソア,株式会社ノエビア,株式会社アイビー化粧品等,化粧品業界の十数社において,当該開発にかかる技術思想を広く伝授した。そのため,本件処方(ノウハウ)の基礎となる技術思想は,本件処方使用契約及び本件特許実施契約締結の時点で,業界において公知の技術であったのであり,本件処方(ノウハウ)は,そのような公知の処方,技術を使用して作られたものにすぎない。
(ア)本件処方(ノウハウ)についてaエルテ5品のうち本件対象品目Aエルテスキンローションについて(a)エルテスキンローションの製造方法は,同製品の本件基本処方及び本件製造工程図(乙9)によれば,@1.3-BGとHCO-60を溶解し,グリセリンと精製水を添加し,冷却する。
AシリコンKF-56(フェニルトリメチコン)とTIO(トリオクタノイン)を均一化し,徐添しながら撹拌する。
B精製水を添加し,コンクベースを完成させる。
26C別途製造したグリセリン,アルコール,抽出液の入った精製水にコンクベースを入れて完成させる。
というものである。
これに対し 本件公知例1の特許請求の範囲は第1段階として , ,「親水性非イオン界面活性剤を水溶性溶媒中に添加し,次にこれに油相を添加して水溶性溶媒中油型エマルジョンを調製し,第2段階として該エマルジョンに水を添加することを特徴とする安定な水中油型エマルジョンの製造方法」とされている(甲17 。)(b)本件公知例1の明細書における記載を具体的に検討すると,次のようなことがいえる。
@「本乳化方法において適切な水溶性溶媒及び親水性非イオン活性剤を選択さえすれば殆どすべての化粧品,医薬品等に使用される油分原料は乳化が可能であると記載されており 3頁右下欄 。」(下から1行目ないし4頁左上欄上から3行目親水性非イオン界),面活性剤の具体的例としてグリセリン の記載がある 4頁右 ,「」(下欄上から8行目,同欄下から1行目,5頁左上欄下から8行目等 。)また 「HCO-60」に該当する成分として 「ヒマシ油及び , ,硬化ヒマシ油」と記載されている(4頁右下欄下から6行目,5頁左上欄上から7行目,同欄下から1行目等 。)さらに尚 本発明の実施にあたっては 前記した界面活性剤 ,「, ,の中より1種類のみ選択し使用しても良いし,又,必要により2種以上を組み合わせて使用しても良いと記載されている 5頁 。」(左上欄上から9行目ないし12行目 。)すなわち,親水性非イオン界面活性剤としてエルテスキンローションの原材料で使用されている「HCO-60」及び「グリセ27リン」に該当する内容が記載されており,それの単独使用又は組み合わせ使用についての限定はない。
A「水溶性溶媒は・・・親水性で前記の界面活性剤を溶解するものであれば極めて広い範囲の物質から自由に選択することができ。」( )。 ると記載されている 5頁左下欄下から8行目ないし1行目また,水溶性溶媒の具体的記載として 「グリセリン (5頁右 ,」下欄上から3行目ないし4行目「1.3ブチレングリコール」 ),(5頁右下欄上から9行目)との記載がある。
さらにエマルジョン調製にあたっては適当な水溶性溶媒を1 ,「種類使用しても良いし又,場合によっては2種以上の水溶性溶媒の混合によって界面活性剤の溶解性を自由にかえることができるので非常に便利であると記載されている 6頁左上欄下から1 。」(行目ないし右上欄上から4行目 。)すなわち,水溶性溶媒として,エルテスキンローションの原材料で使用されているグリセリン及び13-BG13 「」「.」(.ブチレングリコール)が記載されており,それの単独使用又は組み合わせ使用についての限定はない。
B「油分についてはシリコーン油,炭化水素油,エステル油等,無極性油から極性油まで,通常用いられる油分類は殆どすべて乳化可能であると記載されている 6頁右上欄上から5行目ない 。」(し7行目ここで 油分としてエルテスキンローションの原材料 )。,「」,「」 で使用されている フェニルトリメチコントリオクタノインは,それぞれ「シリコーン油「エステル油」に該当する。 」,(c)以上の検討によれば,エルテスキンローションは,本件公知例1の方法を使用して製造されているといえる。そして,本件公知発明1は,本件処方使用契約及び本件特許実施契約締結の時点で,権28利が消滅しており,自由実施が可能である。そうすると,エルテスキンローションについては,前記のとおり,本件公知発明1の技術思想を模倣,利用した処方により製造されているといえ,同製品に関する本件処方(ノウハウ)は,公知の事実であり,経済的に無価値である。
bエルテ5品のうち他の4品(本件対象品目@エルテソープ,同Bエルテミルクローション,同Cエルテオイルクレンザー及び同Dエルテエッセンス)についてこれらの製品は本件処方ノウハウ乙810ないし12に ,()(,)より製造されたものである。しかし,かかる製品は,容器,パンフレット等(甲18)により公知である配合原料を前提にすれば,一般的な水準の化粧品業界における知識技術を保有する化粧品技術者・開発, ,() 者にとって 容易に開発できるものであるから 本件処方 ノウハウは,経済的に無価値である。
なお,エルテソープに関しては,製造委託先である資生堂ホネケー,, キの製造ノウハウに基づいて製造されているものであり 反訴原告は同製品の製造工程に関するノウハウを有していない。すなわち,反訴原告は,エルテソープに関し,保護されるべき法益を有しないのである。
c本件処方(ノウハウ)の技術秘訣性について(a)反訴原告の主張する本件処方(ノウハウ)とは,@成分の一覧(基本処方あるいは配合標準)及びA上記成分を用いて実際に化粧品を製造する各種ノウハウである。
(b)@成分の一覧について成分の一覧は,各化粧品の容器等に公表されているものであり,これが企業秘密でないことは明らかであるが,そもそも本件各化粧29品の成分の確定は,反訴原告の研究開発によるものではなく,B個人の研究成果に基づくものであって,Bが,長年にわたり,講演等の場で,その成分の内容を開示してきたため,公知となって少なくとも10年以上経過し,既に無価値となっている。
(c)A製造ノウハウについて反訴原告の主張する製造ノウハウは,すべて技術秘訣性のないものであるため,上記@の成分一覧を前提とすれば,反訴原告の製造ノウハウを知らない第三者であっても,各種実験により,本件対象品目の化粧品と同一の化粧品を製造することは容易である。
あえて技術秘訣性があるとすれば,本件対象品目Aエルテスキンローション及び同Bエルテミルクローションの各製法の基礎とされている非水乳化法である。しかしながら,非水乳化法自体は,刊行物やインターネットにおいて広く開示流布されるに至っているのである(甲26ないし28 。)さらに,本件対象品目G,Hのエルヴィナスシリーズ(液晶型乳化組成物)の処方については,特許出願公開(甲29)されたことにより,公知の事実となっている。
なお,反訴原告は,本件処方(ノウハウ)のうち,エルヴィナスシリーズの処方について特許出願したが 拒絶査定済みエルテシ (),リーズ(本件対象品目@ないしDの製品)の処方については特許出願していない。この点から考えても,反訴原告自身,エルテシリーズの処方については,技術秘訣性がないことを十分承知していたといえる。
(イ)本件発明についてa本件発明が経済価値を有しないこと(a)反訴原告の本件発明に係る特許出願(特願2002-1376300号 以下 反訴原告特許出願 というについての公開特許公報 。「」。)乙7以下本件公開公報というの特許請求の範囲請求項 (。「」。)() ,「,,,, 1 は油分 高級アルコール 高級脂肪酸 非イオン界面活性剤水溶性多価アルコール及び水から成るラメラー構造(層状構造)を有する液晶型乳化組成物において (1)油分量 油分+高級アルコー ,(ル+高級脂肪酸 の含有割合が0 5〜15重量%であり (2)前記 ).,油分量中の油分の含有割合が3〜97重量%であり (3)前記油分量,と非イオン界面活性剤の配合割合(重量比)が1:1〜3:1であり かつ (4)前記水溶性多価アルコールの含有割合が 20〜42 ,, ,重量%であること,を特徴とするラメラー構造(層状構造)を有する薬剤の安定配合性,薬剤の放出性,水分保持性,温度安定性,使用性に優れた薬剤を配合するための液晶型乳化組成物平成17年」(6月1日補正後のもの)である(甲10 。)(b)特開昭63-287718号の公開特許公報(甲16 (以下)「本件公知例2」といい,これに記載された発明を「本件公知発明2」という )の特許請求の範囲は 「高級アルコール,高級アルコ 。,ールに対し重量で0.1〜0.8倍量の脂肪酸,親油性非イオン界面活性剤,親水性非イオン界面活性剤,多価アルコール及び水からなる液晶型外用基剤」というものである(甲16 。)(c)反訴原告特許出願と本件公知例2とは,高級アルコール,脂肪酸,非イオン界面活性剤,多価アルコール及び水を必須に含有する液晶構造体である点,ラメラー構造からなり,この構造を破壊しない限りにおいて油分を配合しうる点など,発明の主要な内容が類似している。また,本件公知例2の実施例4ないし7の組成物と,反訴原告特許出願の実施例は同じものである。
b反訴原告は,拒絶理由通知書に対する意見書において,本件発明と31本件公知発明2との相違点として,多価アルコール配合量を挙げ,本願発明の多価アルコール配合量は20パーセント以上であるが,本件公知例2には15パーセントを超えると液晶を形成していないと記載されているから,多価アルコール量を20パーセント以上とすることは,当業者が容易になし得ないと主張している。
しかしながら,本件公知例2には,多価アルコールを上限30パーセントまで含有可能であることも記載されているのであるから,多価アルコールを20パーセント以上含有させることは,当業者において容易であるといえる。
cしたがって,反訴原告特許出願は,本件公知発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,進歩性を欠き,特許を受けることができない。
(ウ)反訴原告の主張に対する反論反訴原告は,本件処方(ノウハウ)が,本件発明の進歩性に関係のない部分のノウハウを有しているから,対価性が認められる旨主張するようである。そして,そのノウハウの中身として,化粧品を構成する成分を具体的にどのような手順,方法で調合して実際に化粧品を製造するかが重要であると強調する。
しかしながら,本件対象品目の各製品については,化粧品開発の経験者であれば,所要時間の多少はあれ,反訴原告の主張するノウハウを使用することなく,全成分表示又は内容物分析を基に,同一製品を製造することが可能である。すなわち,化粧品技術者であるならば,当該技術思想が製法に関するものであり,かつ,それが極めて特殊な製造機器を用いた方法によるものでなければ,先行する製品の全成分表示又は内容物分析を基に,乳化,攪拌の度合等に関する試行錯誤を経て,先行製品の再現化に至ることができる。そして,本件処方(ノウハウ)に示され32た製造方法においては,汎用機器が用いられているのであるから,本件製造工程図がなくても再現が可能なのである。
イ本件処方(ノウハウ)を使用して製造,販売している製品について(ア)反訴被告が本件処方(ノウハウ)を使用して製造及び販売したことのある製品a反訴被告が本件処方(ノウハウ)を使用して製造,販売したことがあるのは,本件対象品目Aエルテスキンローション,同Bエルテミルクローション,同Cエルテオイルクレンザー,同Dエルテエッセンス及び同Gエルヴィナスクリスタリューション及び同Hエルヴィナスクリスタリューション・ボディーの各製品のみである。
b本件対象品目同Eディストリスシャンプー及び同Fディストリスコンディショナーに用いられている処方は,平成14年10月1日における本件処方使用契約及び本件特許実施契約の各締結以前に,当時反訴被告の役員であったGが開発したものである。したがって,これらは 反訴被告自身の処方によって製造された製品であり 本件処方 ノ , ,(ウハウ)によるものではない。
c反訴被告は,本件対象品目@エルテソープ及び同LアトップY群については,資生堂ホネケーキから,同Mファンデーション群については,日本色材工業研究所から,それぞれ完成品を購入して,販売していたものであり,反訴被告自らは一切製造したことがなく,上記各社が,それぞれ,独自の処方により製造したものである。
(イ)本件処方(ノウハウ)の使用を終了している製品a本件対象品目Hエルヴィナスクリスタリューション・ボディーの製品は,平成14年10月1日の本件処方使用契約及び本件特許実施契約の各締結までの間に,平成13年10月を初回とし,平成14年2月,同年6月,同年9月の合計4回製造されたが,原料臭,使用感及33び品質の安定性について多々問題があったため,上記4回のみをもって製造を打ち切った。
なお,反訴被告は,その後,独自に開発した処方により上記の製品の欠点を克服し,その処方によって製造した製品を,平成16年12月12日以降エルヴィナスボディソリューション として販売して ,「 」いる。
b本件対象品目Iピークラス・ベースクリーム(クリームイエロー)の製品は 平成16年7月末に 同Jピークラス・ベースクリーム ペ ,, (ールグリーン)の製品は,同年6月末に,それぞれ廃品とされ,反訴被告は,いずれについても,それらの時点より後に製造,販売していない。
c本件対象品目Kエスクラス・サンプロテクトの製品は,平成17年4月,同年6月,同年7月において,合計10393個を製造,販売したが,同年7月末に廃品とされ,反訴被告は,その時点より後に製造,販売していない。
(ウ)本件発明の特許請求の範囲から外れるに至った製品本件発明は,本件対象品目Gエルヴィナスクリスタリューション及び同Hエルヴィナスクリスタリューション・ボディーに関わるものであるところ,前記のとおり,反訴被告は,エルヴィナスクリスタリューション・ボディーの製品を一度も製造,販売していないので,問題となるのは,エルヴィナスクリスタリューションのみである。
このエルヴィナスクリスタリューションについて反訴被告が製造に使用した処方は,本件処方使用契約及び本件特許実施契約締結当時,当該特許請求の範囲内にあったが,平成17年1月以降,当該特許請求の範囲外となっているのである。
すなわち,反訴原告は,本件発明の対象である「液晶型乳化組成物」34について,反訴原告特許出願時(平成14年1月23日)は,構成成分の一つの水溶性多価アルコールの含有割合を何ら限定していなかった()。,,(), 乙7しかしながら 反訴原告は 拒絶理由通知 甲14 を受けて平成17年6月1日,水溶性多価アルコールの含有割合を20ないし42重量パーセントに限定するよう請求項を補正した(甲10 。)一方,反訴被告は,平成12年11月の発売以降,水溶性多価アルコールの配合率(含有割合)を15パーセントにしてセレスに製造させている(甲11,12 。)したがって,少なくとも,平成17年6月1日以降,反訴被告によるエルヴィナスクリスタリューションの製品の製造は,本件発明に抵触していない。
ウ本件特許実施契約解除後の本件発明の侵害を理由とする損害賠償請求権の行使について本件特許実施契約は,特許出願中の本件発明の実施に対して,反訴被告が反訴原告に実施料を支払うという内容であるから,反訴原告は,反訴被告が本件特許実施契約の解除後も出願中の特許を実施していることが,ノウハウの無許諾又は不正使用であるとして,損害賠償請求していることになる。
しかしながら,特許権の設定の登録の成否と関係なしに,かかる損害賠償請求権の行使を認めるとすると,特許出願人が,出願公開後,出願に係る発明を実施した者に対して請求できる補償金(特許法65条1項)について,特許権の設定の登録があった後でなければ行使することができないと定められていること(同条2項)と比較して,著しく権衡を失する。
したがって,反訴被告が本件特許実施契約の解除後に本件発明を使用していることに対する損害賠償請求権については,本件発明の特許権設定登録がなされない限り,これを行使することはできないものと解すべきであ35る。
(3)争点3(反訴被告が本件発明について先使用による通常実施権を有するか)について(反訴被告の主張)ア反訴被告が本件発明について先使用であったこと反訴被告は,本件対象品目Gエルヴィナスクリスタリューションについて,反訴原告特許出願時(平成14年1月23日)より前である平成12年11月6日に,本件発明の技術思想と同様の内容の処方によってセレスに同製品の製造をさせ,販売していた。
したがって,仮に本件発明について特許権が成立しても,反訴被告が先使用による通常実施権を有している以上,その侵害にはならない。
イ反訴原告の主張に対する反論(ア)本件発明の出願人であるFは,上記特許出願時(平成14年1月23日反訴被告の技術開発担当の役員であった そうすると 反訴被告 ), 。,は,実質的に,発明者Fから発明を知得し,善意により発明実施の事業をしていた者であるといえる。
仮に,反訴被告が発明者から本件発明を知得した者でないとしても,,, , 本件発明は 公知技術であって 何人も実施することが自由であるから発明者が何人であるか明らかでなくても発明をした者からの知得であ ,「る」と解すべきである。したがって,反訴被告は,やはり,善意により発明実施の事業をしていた者に当たる。
(イ)セプテムプロダクツは,平成12年11月6日ころ,反訴原告に対し,特許出願中の本件発明の技術思想を含む処方に基づいて,本件対象品目Gエルヴィナスクリスタリューションの製品を製造し,売却されたい旨の発注をした。これに基づき,反訴原告がセレスに同製品を製造させ,セレスが完成した同製品を納入し,セプテムプロダクツがこれを販36売したのである。このように,セプテムプロダクツは,本件発明に関する技術思想をその特許出願前から実施しており,当該実施の範囲内で,先使用による通常実施権を有する。
その後,平成13年7月3日に反訴被告が設立され,セプテムプロダクツは,反訴被告に対し,上記技術思想を示してセプテムプロダクツのためにのみ上記製品を製造させ,これを買い入れ,業として他に販売してきた。すなわち,反訴被告は,セプテムプロダクツの有する先使用による通常実施権を根拠に,その実施の態様として,本件発明を使用して上記製品を製造しているものである。
(反訴原告の主張)反訴被告の主張する先使用時期には,いまだ反訴被告は設立されていないのであるから,反訴被告は,本件発明について,先使用による通常実施権など取得していない。
(4)争点4 反訴被告が本件発明及びその他のノウハウについて職務発明に伴 (う使用権を有するか)について(反訴被告の主張)反訴被告は,Fに対し,同人が取締役として在籍中に,本件発明の開発,,, 。, 実験を行わせ 平成14年1月23日 特許出願がされるに至った その際Fが反訴原告顧問の身分をも有していたから,同人の反訴原告における職務発明の位置づけで,出願がなされたものである。
しかしながら,Fは,反訴被告設立と同時に取締役として反訴被告の事業に参加し,平成16年7月まで4期にわたり取締役の身分を有していたのであり,取締役退任後も,平成17年4月まで,一般職の職員として反訴被告に在籍し,総額で4000万円を超える役員報酬を受け取っている。
このように,反訴被告は,Fを厚遇してきたもので,特許法35条に定められている使用者等と従業員等との衡平な権利義務の調整の考え方からすれ37ば,反訴被告の負担は反訴原告の比ではない。さらに,Fの業務活動が,反訴被告の業務を中心に行われていたという実情もある。そこで,本件発明及びその他のノウハウが本来的には反訴被告に帰属すべき職務発明であるとの観点から,反訴原告も了解の下で,平成16年2月25日,反訴原告特許出願について,Fを出願人に追加する変更がなされたのである。その結果,その他のノウハウについても,反訴被告にとっての職務発明であることが相互に確認されたものである。
したがって,本件発明やその関連するノウハウの使用に関する権利義務関係の調整は,特許法35条の法意に準拠して,関係者間で既に合意に達し,解決済みなのである。
(反訴原告の主張)ア本件発明は,いまだ特許を受けていない。いわんや本件処方の内容は,特許出願もされていない。よって 「特許を受けたとき (特許法35条1 ,」項)に当たらず,主張自体失当である。
イ仮に,職務発明の「法意」を考慮した合意を当事者間で行ったとの主張であると善解したとしても,本件処方及び本件発明についての反訴原告,反訴被告間の合意内容は,本件処方使用契約及び本件特許実施契約のとおりであり,これに反する反訴被告の主張は,やはり失当である。
(5)争点5 反訴原告による本件発明に係る権利の第三者に対する行使が権利 (濫用に当たるか)について(反訴被告の主張)ア特許法104条の3の準用可能性について特許法104条の3は当該特許が特許無効審判により無効にされるべ ,「きものと認められるときは ・・・その権利を行使することができない 」 , 。
と明定するところ,この法意は,出願中の特許の効力についても準用されてしかるべきである。
38イ本件発明の明白な無効原因について(ア)本件発明が新規性のある技術思想を全く有していないことは,特許庁の示した拒絶理由によって明らかである(甲13 。)(イ)本件公開公報の明細書(以下「本願明細書」という )には 「更に。,希釈剤として,水,または水と併用する低級アルコールあるいは水溶性多価アルコールから選ばれた少なくとも1種を加えてなる・・・請求」(項5)との記載がある。
また,その実施例1においては,MF(マイクロフルイダイザー)処理した後 水で4倍に希釈したときの安定性についての記載が005 , (【1,実施例3においては,精製水で2倍に希釈し最終製剤とするとの 】)記載が0059さらに実施例5においては処方量を80w (【】),,,「t%として処理し,最終製造工程で水を加えて100.0wt%とした( 0070 )との記載がある。 。」【】このように希釈剤を用いれば,当然に最終組成物中の油分量や水溶性多価アルコール含有量は変化するはずであるから,本願明細書の補正された請求項1中に記載された最終組成物中の油分量や水溶性多価アルコール含有量は,最終製剤においては大きく異なって,請求範囲から外れてしまう。逆に言えば,請求範囲外の組成で液晶が形成されることになる。
(ウ)本願明細書には乳化の撹拌条件の選択 あるいは温度衝撃や攪拌 ,「,衝撃を与えることにより乳化系全体にラメラー構造(層状構造)をもたせることによって・・・ と記載されており0015液晶構造を 」(【】),形成するには,単に特定の組成にするだけでは足りず,更に特定の処理。,,, 条件が必要となる 現に 実施例3と比較例3 実施例4と比較例4はそれぞれ組成は同じで,撹拌処理の方法のみが異なる実験であり,MF処理を行っていない比較例3,4に比べて,MF処理,撹拌衝撃を与え39た実施例3 4は液晶構造をとると記載されている005800 , (【】,【64。】)このように,本件発明において,ラメラー構造の液晶型乳化組成物を得るには,組成を限定した上で,更に特定の処理を行う必要があるにもかかわらず,本願明細書の請求項1には,本件発明の必須条件が記載されていない。また,同実施例5では,特定の処理を行わなくても液晶構造をとることが記載されている( 0070。【】)これは,本件発明において,一定の組成物に一般的な乳化処理を施す液晶形成方法と,一定の組成物に特定処理を施す液晶形成方法とが混在していることを意味する。つまり,本件発明の技術の本質は,意味不明なものであり,発明の要件に該当しない。
, ,, (エ)以上のとおり 特許出願中の本件発明には 明白な無効原因がありその対世的効力は存在しないので,当該権利に基づく第三者への権利請求は,権利の濫用となり許されない。
(反訴原告の主張)本件発明については,いまだ特許権は成立しておらず,反訴原告は,本件訴訟において,特許権侵害を主張しているわけではない。したがって,本件訴訟は 「特許権・・・の侵害に係る訴訟 (特許法104条の3)に当たら , 」ず,主張自体失当である。
(6)争点6(反訴原告の損害)について(反訴原告の主張)ア反訴原告主張の算定基準反訴被告の不法行為による反訴原告の損害は,本来,本件処方(ノウハウ)の使用許諾に当たって得られたはずの利益,すなわち逸失利益相当額というべきである。
そして,本件処方使用契約及び本件特許実施契約が,従前の取引におけ40る反訴原告の利益額よりも低額の使用料を設定したものであることに鑑み,反訴原告の逸失利益相当額は,従前の取引におけるそれによるべきである。その金額につき,本件処方使用契約及び本件特許実施契約による改訂前の許諾料に基づいて計算すれば,平成13年6月分から平成14年9月分までの平均で,月額1360万8038円となる(乙26 。)しかも,反訴被告及びセプテムプロダクツの売上及び利益は,平成14年以降格段に増加しており 乙23の1 乙24の1それ以降も本件処 (,),()。 方対象商品の売上割合はほぼ変わっていないものと考えられる 乙22よって,反訴原告が本件対象品目の製品の売上に応じて請求し得た本件処方(ノウハウ)の使用対価たる利益が確実に増加したであろうことも,また明らかである。
したがって,反訴原告の逸失利益は,本件処方使用契約及び本件特許実施契約の解除の時期に応じ,次のようになる(1か月を30日として計算する。。)(ア)反訴原告主張の解除時期を前提とする場合1360万8038円×14か月と29日=2億0366万6968円(イ)反訴被告主張の解除時期を前提とする場合1360万8038円×20か月=2億7216万0760円イ反訴被告の主張の不当性反訴被告は,需要者の購買動機を理由に,本件対象品目の製品の販売総額に対する本件処方(ノウハウ)の「寄与率は限りなくゼロに近い」と主張する。
しかし,まずその主張する「寄与率」なるものは,それ自体が曖昧であって,法的主張とはいい難い。化粧品を購入する者が処方を逐一確認して購買するものでないことは自明であり,反訴被告のいう「寄与」とは,購買者が処方をそれ自体として認識しないのが通常であるということを寄,「41与」なる言葉で主張するにすぎない。
したがって販売総額への寄与率なる主張はその前提において ,「」「」,失当である。
(反訴被告の主張)ア消費者が本件対象品目の製品を購入した動機は,アンケート結果(甲41)から明らかなとおり,そのほとんどが,セプテムプロダクツの販売システム(ビジネスプログラムを含む)及びセプテムプロダクツの取締役会長であるBを含む経営陣に対する信頼感に魅力を感じたことにあり,製品の品質にこだわって購入した消費者は少数である。
イ本件処方が販売実績に寄与していないことは,さらに,次の事実からも裏付けられるところである。
(ア)反訴原告は,本件処方使用契約及び本件特許実施契約の解除(遅くとも平成17年5月31日)後,自ら本件処方(ノウハウ)を使用して商品を製造販売していないとともに,平成18年9月ころまで,第三者との間に本件処方(ノウハウ)の使用許諾契約を締結できていない。
なお,反訴原告は,反訴被告が本件処方(ノウハウ)の使用を終了した後の平成18年9月ころ,株式会社エルテ化粧品との間で,本件処方(ノウハウ)についてライセンス契約を締結し(甲43「エルテEX),シリーズ」なる化粧品の製造販売を開始したが,見るべき販売実績はない。
(イ)反訴被告は,平成18年8月21日以降現在に至るまで,本件処方(),, , ノウハウ を使用せず 独自の処方を用い 成分も改良変更した上で新商品「エルテオシリーズ」を製造販売しているが,その販売実績は,本件処方(ノウハウ)を使用して製造販売してきた旧商品「エルテシリーズ」の販売実績を月額約3400万円上回っている(甲44 。)ウしたがって,本件処方(ノウハウ)の販売総額への寄与率を無視する反42訴原告主張の算定基準は,不当である。
第3当裁判所の判断1争点1(反訴被告による本件合意書に基づく本件処方使用契約及び本件特許実施契約の解除の有効性)について□事実認定上記前提となる事実等,証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
アBは,反訴原告において,平成14年8月19日,取締役及び代表取締役に重任され 同月30日登記平成16年8月18日 退任した 同月 (),,(27日登記 。)イBは,反訴被告において,平成13年7月3日の設立時に取締役及び代表取締役に就任したが 平成14年7月31日にいずれも退任しており 平 , (成15年7月10日登記平成15年6月30日 再び取締役及び代表取 ),,締役に就任し 同年7月10日登記平成16年7月7日 いずれも辞任 (),,した(同月12日登記 。)ウ反訴原告と反訴被告とは,平成14年10月1日,本件処方使用契約及び本件特許実施契約を締結した。これらの契約は,いずれも,反訴原告代表取締役としてのBと反訴被告代表取締役としてのAとによって,締結されたものである(甲1,2,乙1 。)エ本件処方使用契約及び本件特許実施契約の各契約書においては,反訴被告を甲とし反訴原告を乙として甲または乙は甲乙両者の中 「」,「」,「,で代表取締役を変更した場合は,甲乙協議のうえ本契約を解約することができるものとする 」との本件各契約解約条項が存する(甲1,2 。 。 )オBとAは,平成15年11月17日,本件合意を締結し,本件合意書を作成した。本件合意書においては,Bは,反訴原告代表取締役として,また,Aは,反訴被告代表取締役として行為し,本件合意書にもその旨の肩43書きを付して,反訴原告及び反訴被告の作成名義で記名押印している(甲3 。)カBとAは 本件合意において 本件各契約解約条項になお 協議が調 ,,,「,わない場合は,代表取締役が変更されていない方の会社は,相手方(代表取締役が変更された方の会社)に対して通知することにより一方的に契約を解除することができる 」との記載を追加するとした(甲3 。 。 )キBは,上記アのとおり,平成16年8月18日,反訴原告の代表取締役を退任し,もう1人の代表取締役であったCのみ,同日,重任された(甲4 。)ク反訴被告は,反訴原告に対し,平成16年11月30日,本件処方使用契約及び本件特許実施契約を合意解約したい旨申し入れて,解約を合意したことを証するための合意書に反訴被告代表者印を押捺したものを交付した(乙3,弁論の全趣旨 。)ケ反訴被告は,反訴原告に本件処方使用契約及び本件特許実施契約の合意解約を拒まれたことから,平成17年1月31日,反訴原告取締役Eに対し,本件合意書を提示して,それらの契約を解除する旨の意思表示をした(弁論の全趣旨 。)(2)本件合意の有効性についての検討ア上記認定事実によれば,Bは,本件合意締結当時,反訴原告及び反訴被告の両方の代表取締役であったにもかかわらず,反訴原告を代表して,Aが代表する反訴被告との間で,本件合意を締結したものである。
この場合,Bは,反訴原告を代表しているものの,反訴被告を代表していないので形式的にみれば反訴原告にとって第三者反訴被告の ,,,「()ために取引をしようとする」もの(会社法356条1項2号)に当たらないと考える余地もないわけではないが,そのような取締役の行為についても,第三者を代表した者との結託によって当該会社の利益が害される危険44が当然に存する以上,実質的に両方の会社を代表したものと見て,同号に当たると解すべきものといわなければならない。
そうすると,Bは,本件合意締結について反訴原告に法的効果を及ぼすためには,反訴原告の取締役会の承認を受けなければならないが(同法365条 356条1項2号そのような承認を受けたと認めるに足りる証 ,),拠はない。
したがって,本件合意は,反訴原告の取締役会の承認を受けていない利益相反取引として,無効である。
イこの点,反訴被告は,本件合意について,Bが反訴原告の代表取締役を退任し,反訴原告と反訴被告との企業の一体性が失われて,反訴原告が反訴被告の利益を図る義務を履行しなくなった場合に備え,本件処方使用契約及び本件特許実施契約が保障していた臨時解約権を明確化したものにすぎず,新たな権利,義務を追加したものではないから,利益相反取引に当たらない旨主張し,その根拠として,B及びAの宣誓供述書(甲49,50)を提出する。
しかしながら,本件各契約解約条項の文言は,当事者の協議を前提とした合意解約を定めたものと解するのが自然であり,他方,本件合意書の文言は 「なお,協議が調わない場合は ・・・一方的に契約を解除すること , ,ができるとされ 明らかに 新たな合意によらない解除権を創設し 従 。」,, ,前の規定に付加する形の表現となっている。
そして,反訴被告は,上記認定事実のとおり,まず,本件合意の存在に何ら言及することなく,解約の合意形成を試みており,それが実現できないことが明確となった段階で,本件合意書を提示し,一方的な解除を主張しているものといえる。そのような反訴被告の一連の態度からすれば,本件処方使用契約及び本件特許実施契約が既に臨時解約権を含んでいたとする上記各宣誓供述書を直ちに信用することはできず,他に反訴被告の主張45する臨時解約権を基礎付ける事情を認めるに足りる証拠もないから,本件各契約解約条項は,あくまでも合意解約に関する条項であると解すべきものといえる。
したがって,新たな権利,義務を追加したものではないから利益相反取引に当たらない旨の反訴被告の主張は失当である。
ウまた,反訴被告は,本件合意が利益相反取引として無効であるなら,基本契約である本件処方使用契約及び本件特許実施契約も,同様に,利益相反取引として無効である旨主張する。
その主張の趣旨は必ずしも明確ではないが,反訴原告において,上記各契約が無効ではないことを前提にするのであれば,同様にして形成された本件合意の無効を主張することはできないとの趣旨であると解しても,本件合意書は,上記のとおり,上記各契約に新たな一方的解除権を創設,付加するものであって,それぞれの有効性について別個に検討,主張することが可能であるから,その主張は失当である(なお,本件訴訟における反訴被告の主張や訴訟態度からすれば,反訴被告の上記主張を,本件処方使用契約及び本件特許実施契約が当初から利益相反取引として無効であるとの抗弁を主張する趣旨と解することはできないが,仮にその旨の主張と解しても,反訴原告及び反訴被告間においては,本件処方使用契約及び本件特許実施契約に基づいて平成14年10月から2年以上にわたり取引が継続されてきた経緯からすれば,双方において,取締役会の承認又は追認があったと認め得るのであり,いずれにしても,反訴被告の主張は採用できない。。)(3)検討結果からの帰結以上の検討によれば,本件処方使用契約及び本件特許実施契約は,反訴被告による一方的解除権を保障するものとは認められず,かつ,本件合意は,利益相反取引として無効であると解される。したがって,その余の点を判断46するまでもなく,それらを根拠とする反訴被告による解除の主張は認められない。
そうすると,平成17年1月及び同年3月以降も本件各契約は存続していたことになり,反訴被告は,同年1月以降本件処方使用料及び本件特許実施料の支払を行わなかった 当事者間に争いがないことにより 債務不履行 (。),の責任を負うことになる。そして,反訴原告は,同債務不履行の事実及び反訴被告による解除の意思表示がされた等の経緯から,反訴被告において,本件各契約に基づく支払を履行する意思がないことが明らかであることを理由として上記第21前提となる事実等(4)ウのとおり本件各契約を解 ,, (),除する旨の意思表示をしたのであるから,反訴原告による同解除の意思表示は有効になされたものと解され,本件各契約は,同解除の意思表示が到達し。,, た平成17年6月1日に終了したものと認められる その結果 反訴被告は少なくとも,本件処方使用料及び本件特許実施料の支払を停止した平成17年1月から同年5月までの本件処方使用料3850万円(770万円×5か月)及び本件特許実施料800万円(160万円×5か月)の合計4650万円の支払義務を負うことになる。
2争点2(反訴原告による本件処方使用契約及び本件特許実施契約の解除後における反訴被告の不法行為の成否)について(1)事実認定ア本件処方(ノウハウ)の意義及び内容について上記前提となる事実等,証拠(甲18ないし20及び乙7ないし19)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア)本件処方(ノウハウ)は,本件対象品目の各化粧品の製造に係るものであり,具体的には,本件基本処方及び本件製造工程図からなるものである。
(イ)本件基本処方は,概ね,当該製品に配合される全成分について,そ47の成分コード,配合原料名,表示成分名称,そして,量目等が記載されているものであり,当該製品を製造しようとする者は,これを見ることで,必要な原料(成分)及びその分量を容易かつ正確に把握することができる。
(ウ)本件製造工程図は,製品名やコード,作成日,作成者等の形式的記載事項のほか 「原料名」及びキログラム単位で記載された「仕込量 , , 」その添加順を矢印や番号で示した フローシートその番号部分の操作 「」,を文章で解説した 工程説明フローシート上に付した番号に対応して 「」,注意すべき点を文章で解説した「管理点」といった製造工程に関する実質的記載事項によって構成されるものである。そして,これらの実質的記載事項は,一体となって,製品に配合される全原料の種類及び量,仕込順,仕込容器,仕込時及び溶解時の温度条件,攪拌時の温度,圧力,,, ,, 用いられる装置 攪拌速度及び時間 攪拌終了の目安等の条件 その他工程管理の条件及び理由等を,詳細に示している。
(エ)本件対象品目のうち,Gエルヴィナスクリスタリューション及びHエルヴィナスクリスタリューション・ボディーは,液晶型乳化組成物に属する化粧品であり,その液晶型乳化組成物の原料及び製造方法に関するものが本件発明である。したがって,これらの製品に関する本件処方(ノウハウ)は,本件発明に関する内容を包含するものといえる。
この点,反訴原告は,本件対象品目の化粧品を製造するために必要不可欠な本件処方(ノウハウ)の内容として,本件基本処方及び本件製造工程図のみならず,Fが実際の製造現場の作業員に対して与えた指示,アドバイス等も含まれる旨主張するが,その具体的内容が特定されておらず,これらを含めて本件処方(ノウハウ)を検討することは相当でない。
イ本件処方(ノウハウ)の帰属について(ア)上記前提となる事実等,証拠(乙9ないし19)及び弁論の全趣旨によれば,本件処方のうち実際に反訴原告に帰属しているのは,本件対48象品目のうち,@エルテソープ,LアトップY群及びMファンデーション群を除くものに限られる。
,, , (イ)この点 反訴原告は 本件対象品目@エルテソープの製品について資生堂ホネケーキに対し,必要な成分を指示して製造工程図を作成させ,, () ているとして 実質的には これらの製品に関する本件処方 ノウハウも反訴原告に帰属する旨主張する。
しかしながら,同製品について反訴原告が有していると認められるのは 「表示成分名称」及び「配合目的(効果等 」が記載された「表示成 , )分表」と題する書面(乙8)のみであり,これには,上記のとおり同製品の製造において重要であると認められる量目の記載がない。したがって,このような書面自体,本件基本処方としての適格を欠くというべきである。しかも,この書面のみによって,反訴原告が,資生堂ホネケーキに対し,具体的な指示を行い,製造工程図を作成させているとは認め難く,他に同製品に関する本件処方(ノウハウ)が反訴原告に帰属することを認めるに足りる証拠もない。
(ウ)また,反訴原告は,同LアトップY群及び同Mファンデーション群に関し,その一部については,基本処方を開発した後,実際の製造工程をそれぞれの専門業者に外注し,その製品の製造を委託したものであるが,反訴原告が開発した処方であることに変わりはないとして,上記L及びMの本件処方(ノウハウ)についても反訴原告に帰属する旨主張す, ( 。) るが 反訴原告が上記基本処方 その具体的内容も特定されていないを開発したことを認めるに足りる証拠はない。
ウ本件処方(ノウハウ)を使用して製造されている製品について(ア)反訴被告は,上記の検討により反訴原告に本件処方(ノウハウ)が, , 帰属すると認められた本件対象品目のうち AエルテスキンローションBエルテミルクローション,Cエルテオイルクレンザー,Dエルテエッ49センス及びGエルヴィナスクリスタリューションを平成18年8月31日まで製造したこと,Hエルヴィナスクリスタリューション・ボディーを平成13年10月,平成14年2月,同年6月及び同年9月の合計4回製造したこと,Iピークラス・ベースクリーム(クリームイエロー)を平成16年7月末日まで製造したこと,Jピークラス・ベースクリーム(ペールグリーン)を同年6月末日まで製造したこと,そして,Kエスクラス・サンプロテクトを平成17年7月31日まで製造したことを認めている。
そして,反訴原告は,本件各契約の終了後である平成17年6月2日から平成18年8月31日までの不法行為責任を追及しているところ,上記期間内において,反訴被告は,上記AないしD,Gについて平成18年8月31日まで,上記Kについて平成17年7月31日まで,それぞれ,反訴原告に帰属する本件処方(ノウハウ)を無断使用したものと認められる。
(イ)この点,反訴原告は,反訴被告が,本件対象品目E,F,H,I,J及びKの各製品についても,平成18年8月31日までの間,本件処方(ノウハウ)を無断使用した旨主張するが,そのような事実を認めるに足りる証拠はない。
エ本件対象品目の成分表示(ア)本件対象品目の製品については,すべて,配合される全成分が包装容器等に表示されている(以下,この表示を「全成分表示」という。。)(イ)この全成分表示においては,配合量の多いものから順に記載することが慣行化されており,当業者の常識として,その成分のうち植物エキス成分の配合量が1パーセント未満である。
(2)不法行為の成否についての検討本件処方(ノウハウ)は,上記□のとおり,本件発明に関する部分も包含50, , すると認められるので 本件発明部分とそれ以外の本件処方部分とを分けてそれぞれ,不法行為の成否について検討する。
ア本件発明部分について発明を完成した者ないしその権利の承継人が,その発明について独占的排他的な実施の権能を取得するのは,当該発明について特許権の設定登録があった場合に限られ 特許法66条1項参照設定の登録前の特許を受 (),, ,, ける権利については その発明を実施した者に対し 一定の要件のもとで()。 設定の登録後に補償金の請求が認められているにすぎない 同法65条そうすると,そのような設定登録前の特許を受ける権利に独占的排他的実施権が存しない以上,他人が当該権利に係る発明を発明者又はその権利の承継人の許諾なく使用したとしても,特段の事情のない限り,これをもって法律上保護される利益の侵害とみることはできないものと解される。
本件において,本件発明についていまだ特許権の設定の登録がされて,おらず,出願公開がされて公知の情報となっていることは当事者間に争いがなく,その他本件発明の実施について不法行為の成立を肯定すべき事情も認められないから,本件処方(ノウハウ)の本件発明部分の実施については,不法行為を構成しないというべきである。
イ本件処方部分について(ア)本件基本処方についてa本件対象品目の製品については,上記□エのとおり,全成分表示があり,その表示も配合量の多いものから順に記載され,植物エキス成分は1パーセント未満であることが認められるのであり,その包装容器等の全成分表示に接した当業者は,当該製品に配合されているすべての成分について,その種類及び各成分の相対的な配合量を把握することが可能であるといえる。
しかしながら,本件基本処方においては,上記のとおり,各成分の51正確な配合量(量目)が記載されているので,上記全成分表示によって公表される情報を超えた内容が含まれているものと認められる。
したがって,本件基本処方は,配合量を開示する限度において,一定程度の経済的価値を有しており,不法行為における被侵害利益となり得るものというべきである。
bこの点,反訴被告は,本件対象品目の製品における成分の確定が,反訴原告の研究開発によるものではなく,B個人の研究成果に基づくものであって,Bが,長年にわたり,講演等の場で,その成分の内容を開示してきたため,本件基本処方は,公知となって少なくとも10年以上経過し,既に無価値となっているから,反訴原告は,本件基本処方について,保護されるべき利益を有しない旨主張する。
しかしながら,証拠(甲41,49,50)及び弁論の全趣旨により,本件基本処方に示された成分のうち,Bが試行錯誤の上選定した植物エキス成分の存在は,本件対象品目の製品の内容形成に役立ち,他社製品との識別性を高め,顧客誘因に寄与したものと認められるものの,本件基本処方は,植物エキス成分以外の内容も含んでいるのであるから,上記認定の事情をもって,本件基本処方の価値をすべて否定することはできないというべきである。
(イ)本件製造工程図について本件製造工程図は,上記のとおり,本件対象品目の製品の製造方法が詳細に記載されたものであり,当業者がこれを認識した場合,極めて容易に,当該製品の再現ができるというべきである。
この点,反訴被告は,一部の製品については,本件公知例1や本件発明によって,その製造方法が公知となっていること,それ以外の製品についても,当業者にとって,その製造方法技術常識の範囲内にあり,包装容器等に記載された全成分表示に接すれば容易に再現できるような52ものであるとして,本件製造工程図の経済的価値を否定する。
しかしながら,反訴被告が指摘する公知の知見においても,本件製造工程図に記載されているほど詳細な製造工程や製造条件は明らかにされていない。また,そのような詳細な内容は,製品ごとの試行錯誤による最適化の作業を経て確立されるものであって,当業者の技術常識であるとまではいえないものと考えられる。
したがって,本件製造工程図は,その対象とする製品ごとに程度の差はあれ,相当程度の経済的価値を有しており,不法行為における法律上保護される利益となり得るものというべきである。
(3)まとめ以上の検討結果を総合すれば,本件処方(ノウハウ)のうち,本件発明部分を除く本件処方部分以下本件ノウハウ部分というに関し本件対 (「」。),象品目AないしD,Gに係るものについては平成18年8月31日まで,同Kに係るものについては平成17年7月31日まで,それぞれ反訴被告が使用したことは,反訴原告に対する不法行為を構成すると認められる。
( ), 3争点3 反訴被告が本件発明について先使用による通常実施権を有するか争点4(反訴被告が本件発明及びその他のノウハウについて職務発明に伴う使用権を有するか)及び争点5(反訴原告による本件発明に係る権利の第三者に対する行使が権利濫用に当たるか)について(1)上記2における検討によれば 本件処方 ノウハウ のうち 本件発明部 ,(),分については,不法行為の成立を認めることはできないのであるから,同不法行為の成立を前提にした,反訴被告の先使用による通常実施権の抗弁(争点3職務発明に伴う使用権の抗弁 争点4 の本件発明に係る部分及び権 ), ()利濫用の抗弁(争点5)については,判断する必要がないことになる。
(2)また 職務発明に伴う使用権の抗弁 争点4 の本件ノウハウ部分に関し , ()ては,そのような内容について,特許を受けたことを前提とする特許法3553,, 条1項の規定を類推適用あるいは準用する基礎を見出すことができず またその法意が本件につきどのように当てはまるのかも明らかでないから,反訴被告の主張は失当であるといわざるを得ない。
4争点6(反訴原告の損害)について(1)損害額算定方法ア反訴原告の主張する算定方法についてこの点,反訴原告は,反訴被告の不法行為によって被った損害の算定方法について,本件処方使用契約及び本件特許実施契約が従前の取引における反訴原告の利益額よりも低額の使用料を設定したものであるから,それらの契約による改訂前である平成13年6月分から平成14年9月分までの間に得ていた利益である平均月額1360万8038円を基礎として計算すべきである旨主張する。
しかしながら,本件ノウハウ部分を無断使用したことにより反訴原告が被った損害は,反訴被告による不法行為がなければ反訴原告が得られたであろう逸失利益,すなわち,反訴原告に帰属する各本件対象品目についての本件ノウハウ部分について,反訴被告が実際に使用したことにより反訴原告に対して支払うべき実施許諾料相当額であると解すべきである。
これに対し,反訴原告の主張は,利益額,しかも,不法行為が行われた期間ではなく過去の利益額を基準とするもので,本件不法行為による逸失利益を算出する方法としては,明らかに合理性を欠き,採用することはできない。
イ具体的な算定方法について本件ノウハウ部分は,上記のとおり,特に,本件製造工程図において,本件対象品目の製品を製造するのに必要とされる詳細な内容を含んでおり,相当程度の経済的価値を有する一方,その価値は,一般的に,設定の登録がされた特許権よりは劣るといわざるを得ない。しかも,それによっ54て示される製造工程は,製品によって難易度に差があると考えられ,その難易度の差は,本件ノウハウ部分の経済的価値に反映されるべきである。
このような事情を総合考慮すれば,反訴原告の損害額については,実施許諾料率を3ないし5パーセントの範囲内で個々の製品ごとに決定し,それを純利益に乗じて実施許諾料相当額を算出すべきもの解される。
(2)個々の製品の実施許諾料率ア本件対象品目Aエルテスキンローションについて(ア)反訴被告の主張について反訴被告は,当該製品の製造方法については,本件公知例1及び3つの資料(甲26ないし28。以下,順に「本件資料1「本件資料2」」,及び本件資料3というに記載されているから当業者は当該製 「」。),,品の全成分表示に基づき,容易に再現することができる旨を主張し,コ(「」 スメイトリックスラボラトリーズ株式会社 以下 コスメイトリックスという )に行わせた再現実験の結果(甲46)を示す。 。
(イ)反訴被告提示の各証拠についてa本件公知例1について(a)証拠(甲17,乙9の2)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
@本件公知例1においては 特許請求の範囲として第1段階と ,,「して親水性非イオン界面活性剤を水溶性溶媒中に添加し,次にこれに油相を添加して水溶性溶媒中油型エマルジョンを調製し,第2段階として該エマルジョンに水を添加することを特徴とする安定な水中油型エマルジョンの製造方法」と記載されており,多数の例示のなかに 親水性非イオン界面活性剤の例として硬化ヒ , ,「マシ油のエチレンオキサイド30〜80モル付加物」が,水溶性溶媒の例としてグリセリン 及び 1 3-ブチレングリコー ,「」「.55ル (1.3-BG)が,油分の例として 「メチルフェニルポリ 」 ,シロキサン」及び「グリセリル-トリ-2-エチルヘキサノエート」が,それぞれ含まれている。
A当該製品の本件製造工程図においては,HCO-60(上記硬化ヒマシ油のエチレンオキサイド30〜80モル付加物が60モル付加物のとき これに該当するを1 3-BGに加え それ ,。).,に濃グリセリンに水を加えたものを加え,次に,これにシリコンKF-56 上記メチルフェニルポリシロキサンに該当する及 ( 。)びTIO(トリオクタノイン。上記グリセリル-トリ-2-エチルヘキサノエートに該当するを加えて攪拌し それに水を加え 。),て製造したコンクベースを,水,濃グリセリン,アルコール,植物エキス等からなる希釈液に加えて製造することが記載されている。
さらに,上記各成分の配合量,溶解温度,冷却温度といった温度条件,ホモミキサー3500rpmに約5分間かけること,250kg釜を使用した場合,パドルを約35rpmとし,温度を30度以上にしないなどの攪拌装置及び条件,管理点等が記載されている。
(b)そこで,当該製品の本件製造工程図と本件公知例1に記載された内容とを比較すると,コンクベース製造のところまでは,第1段階として,親水性非イオン界面活性剤を水溶性溶媒に加え,次に,これに油相を加えて水溶性溶媒中油型エマルジョンを調製し,第2段階として,該エマルジョンに水を加える,水中油型エマルジョンの製造方法である点で一致する。
しかしながら,まず,当該製品の本件製造工程図は,コンクベースにとどまるものではなく,更に10種類の成分からなる希釈液に56よって希釈して用いるものであるが,本件公知例1には,当該希釈液に係る記載は存しない。
その他,当該製品の本件製造工程図で特定されているコンクベースの各成分種類は,本件公知例1で示された多くの例示の中に含まれていたというだけであり,前者で特定されている配合量も,後者では特定されておらず,しかも,前者に示されている詳細な温度条件,攪拌装置及び条件,管理点等も,後者では言及されていなかったり,言及されていても,異なる成分を用いた例が示されているにすぎない。
したがって,当該製品の本件製造工程図には,本件公知例1には記載のない様々な事項が記載されているといえる。
b本件資料1ないし3について(a)証拠(甲26ないし28)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
@本件資料1は界面活性剤の機能と利用技術 の書籍の紹介で ,「 」あり,同資料からは,当該書籍の第4章に「非水乳化法」の項目が設けられたことが分かるにとどまり,非水乳化法の具体的な方法を示すものではない。
A本件資料2には非水乳化法 として 水をほとんど使わずに ,「」「(=非水)油分の保湿剤中で乳化し,その後,水(および水溶性成分)に加えて製品化する方法。微細な乳化粒子を得ることができ,安定性が高く,クリームタイプから化粧水のようなさらさらとした乳液まで 幅広いタイプのものが処方できるという概括 , 。」的な説明が記載されているにすぎない。
B本件資料3も界面化学的特性を利用したO/Wエマルション ,「の調製方法」として「非水乳化法」があることが記載されている57, ,。 にすぎず その具体的な手法については 何も記載されていない(b)以上の事実に照らせば,本件資料1ないし3には,上記本件公知例1に記載されていた情報を超える事項の記載は認められないというべきである。
c再現実験について() ,。 証拠 甲46 及び弁論の全趣旨によれば 次の事実が認められる(a)コスメイトリックス作成の平成19年1月26日付け試験報告(。「」。),, 書甲46以下本件試験報告書1というは反訴被告がコスメイトリックスに対し,当該製品内容物300ミリリットル,当該製品成分表示リスト(配合量や配合目的等の記載はないもの)及び同一性を保持するための物性値の管理巾を提供し,当該製品の再現を依頼した結果,コスメイトリックスから反訴被告に対して提出された実験結果である。
(b)本件試験報告書1には,コスメイトリックスが再現に約21日間を要し,その再現によって得られたものが,pH,粘度,比重,外観において,当該製品とほぼ同じであって,肌上への塗布性及びのび,肌のなじみ性,ひき際のべたつきの強さ,使用直後の肌の感じ及び使用後肌の感じにおいても,同レベルであったという結果が示されている。
(ウ)検討当該製品の製造方法として用いられる非水乳化法自体は,本件公知例1に記載されていることからして,公知であるといえる。したがって,これを全成分表示と併せて考慮し,当該製品を非水乳化法で製造するこ, ,, とに思い至れば 親水性非イオン界面活性剤を水溶性溶媒に加え 次にこれに油相を加えて水溶性溶媒中油型エマルジョンを調製したものを,水に加えるという方法で,当該製品と類似のものを再現することも可能58であると考え得る。
しかしながら,全成分表示を示されただけでは,個々の成分の具体的な配合量が不明である上,当該製品で採用されている,コンクベースを作成してから希釈するという方法を想到するのは,相当困難であると考えられるから,仮に,上記手法で当該製品と一見類似のものを製造することができたとしても,それが当該製品と全く同じものとなる可能性は低いというべきである。
また,反訴被告は,本件試験報告書1において,pH,粘度,比重といった客観的な要素のほか,外観,使用感等という主観的な要素も含めて比較を行っている。しかしながら,その客観的な要素については,基準とされた数及び内容が不十分であるし,主観的な要素については,基準自体が曖昧であって,化粧品の客観的同一性を必ずしも担保するものとなり得ない。したがって,このような実験結果から,再現の容易性を認めることはできない。
しかも,当該製品が非水乳化法で製造されることが公知であったわけではないのであるから,その製造方法を採用する点も含め,当業者にとっては,相当の試行錯誤が必要と考えられる。実際,当該製品の再現実験では,約21日間というかなりの期間を要しているのである。
以上を総合的に考慮すると,当該製品の本件基本処方及び本件製造工程図には,相当程度の価値があると認められ,実施許諾料率としては,5パーセントが相当である。
イ本件対象品目Bエルテミルクローションについて(ア)反訴被告の主張について反訴被告は,当該製品の製造方法については,本件資料1ないし3に記載されており,全成分表示(甲18の4)に基づけば,当業者は容易に再現できるものとして,コスメイトリックスに行わせた再現実験の結59果(甲47)を示す。
(イ)反訴被告提示の各証拠についてa本件資料1ないし3について(a)上記のとおり,本件資料1ないし3には,非水乳化法の概括的な説明がなされている本件資料2も含まれるが,同資料も,どのような成分をどの程度用い,どのような条件で製造するのかを,具体的に示すものではない。
(b)これに対し,当該製品の本件製造工程図では,コンクベースの製造とその希釈の工程の二段階に分けて,製造の工程が説明されており,その際に用いる個々の成分の配合量,その配合順序,攪拌,溶解等の諸条件温度回転速度装置時間等管理点温度管 (,,,),(理の理由及び殺菌条件)も,具体的かつ詳細に示されている。
(c)したがって,当該製品の本件製造工程図には,本件資料1ないし3には記載のない様々な事項が記載されている。
b再現実験について() ,。 証拠 甲47 及び弁論の全趣旨によれば 次の事実が認められる(a)コスメイトリックス作成の平成18年11月30日付け試験報(。「」。) ,, 告書 甲47 以下 本件試験報告書2 というは 反訴被告がコスメイトリックスに対し,当該製品について,本件試験報告書1と同様の資料を提供し,コスメイトリックスから反訴被告に対して提出された実験結果である。
(b)本件試験報告書2には,コスメイトリックスが再現に約6日間を要し,その再現によって得られたものについて,本件試験報告書1と同様の結果が示されている。
(ウ)検討当該製品の製造方法として用いられる非水乳化法の概括的な手法につ60いては,本件資料2等に記載されていることからして,公知であるといえる。したがって,これを全成分表示と併せて考慮し,当該製品を非水乳化法で製造することに思い至れば,本件対象品目Aの製品の場合と同様に,当該製品と類似のものを再現することも可能であると考え得る。
しかしながら,上記Aの製品の場合と同様に,それが当該製品と全く同じものになる可能性は低いといえる。また,本件試験報告書2も,再現の容易性を認めるには不十分である上,当該製品を非水乳化法で製造することが公知であったわけではないから,その再現が,当該手法により行われたか否かも不明である。その再現期間は,約6日間であり,上記Aの製品の場合と比較すると,比較的容易に再現できたようにも解されるが,製造工程図の複雑さにおいて,両者に大きな違いは認められないから 乙9の2 10の2当該製品の本件製造工程図の価値は 上 (,), ,記Aの製品のそれと同程度であると考えるべきである。
以上を総合的に考慮すると,当該製品の本件基本処方及び本件製造工程図には,上記Aの製品のそれらと同程度の価値があると認められ,実施許諾料率としては,5パーセントが相当である。
ウ本件対象品目Cエルテオイルクレンザーについて(ア)反訴被告の主張について反訴被告は,当該製品について,その全成分表示(甲18の1)に基づけば,当業者において容易に再現できるとして,岩瀬コスファ株式会社 以下 岩瀬コスファ という及びコスメイトリックスに行わせた (「」。)再現実験の結果(甲36,37,40の各2)を示す。
(イ)再現実験について証拠(甲36,37,40)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
a岩瀬コスファ作成の平成18年10月12日付け試験報告書(甲3616の2。以下「本件試験報告書3a」という )について。
(a)本件試験報告書3aは,反訴被告が,岩瀬コスファに対し,当該製品の内容物300ミリリットル及び成分表示リスト(配合量や配合目的等の記載はないもの)を提供し,当該製品の再現を依頼した結果,岩瀬コスファから反訴被告に対して提出された実験結果である。
(b)本件試験報告書3aには,岩瀬コスファが再現に12時間を要し,その再現によって得られたものが,色及び透明感,臭い,比重(以上物性)において当該製品とほぼ同じであり,肌上への延ばしやすさ,メイク汚れ等へのなじみ,水を加えた時の乳化状態,すすぎ時の洗い流しの状態,洗い流した肌の使用後感(以上使用性,使用感メイクの汚れ落とし機能 機能性 において 同レベルであ ), (),ったという結果が示されている。
bコスメイトリックス作成の平成18年9月19日付け試験報告書(甲37の2。以下「本件試験報告書3b」という )について。
(a)本件試験報告書3bは,反訴被告が,コスメイトリックスに対し,当該製品について,本件試験報告書1,2と同様の資料を提供し,コスメイトリックスから反訴被告に対して提出された実験結果である。
(b)本件試験報告書3bには,コスメイトリックスが再現に7日間を要し,その再現によって得られたものが,pH,粘度,比重において当該製品とほぼ同じであり,塗布のしやすさ,ベースメイク汚れ等へのなじみ性,水を加え塗擦したときの乳化状態,洗い流した時の状態,タオルドライした後の肌の感じ,クレンジング機能においても,同レベルであったという結果が示されている。ただし,外観については,当該製品の見本品よりも再現品の方がより透明であ62ったことが報告されている。
なお,コスメイトリックスが「合格」であるとして報告している粘度及び比重については,当該製品の見本品よりも再現品の方が低めであったものと認められる。
cコスメイトリックス作成の平成18年11月30日付け試験報告書(甲40の2。以下「本件試験報告書3c」という )について。
(a)本件試験報告書3cは,反訴被告が,コスメイトリックスに対し,当該製品について,比重及び粘度の管理巾(当該製品の比重±0.015,同粘度±15mPa・s)を付けて再度の再現実験を依頼し,コスメイトリックスから反訴被告に対して提出された実験結果である。
(b)本件試験報告書3cには,コスメイトリックスが再現に7日間を要し,その再現によって得られたものが,粘度,比重,外観において当該製品とほぼ同じであり,塗布のしやすさ,ベースメイク汚れ等へのなじみ性,水を加え塗擦したときの乳化状態,洗い流した時の状態,タオルドライした後の肌の感じ,クレンジング機能においても,同レベルであったという結果が示されている。
(ウ)検討当該製品の本件製造工程図(乙11の2)によれば,その製造には,油分と界面活性剤の混合物中に少量の水を加えるという単純な方法が採用されており,本件対象品目A,Bの各製品と比較して,攪拌条件もさほど詳細に定められておらず,製造は比較的容易であることが認められる。実際,本件試験報告書3aないしcにある再現に要した期間も,半日ないし7日間とされており短い。
もっとも,本件基本処方及び本件製造工程図には,全成分表示からだけでは把握し得ない個々の成分の配分量が記載されているところ,この63, , ような配合量が分からない以上 当該製品と同じものを再現することは事実上不可能である。
そうすると,製造方法自体が簡単であることから,その価値は,本件対象品目A,Bの各製品のそれらよりは劣るものの,反訴被告が,製造委託先であるセレスに対し,最適な配合量を示し,また,具体的な製造工程を示すことにより,質の高い製品を確実に提供することを保障されたという点において,当該製品の本件基本処方及び本件製造工程図も,それなりの価値があると認められ,実施許諾料率としては,3パーセントが相当である。
エ本件対象品目Dエルテエッセンスについて(ア)反訴被告の主張について反訴被告は,当該製品について,その全成分表示(甲18の3)に基づけば,当業者において容易に再現できるとして,岩瀬コスファ及びコスメイトリックスに行わせた再現実験の結果(本件試験報告書3aないしc)を示す(なお,これらは,本件対象品目Cの製品に関する実験結果と当該製品に関する実験結果の両方を含むものである。。)(イ)再現実験について証拠(甲36,37,40)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
a本件試験報告書3aについて(a)当該製品についての依頼事項は,本件対象品目Cの製品についてのものと同じである。
, , (b)本件試験報告書3aには 岩瀬コスファが再現に8時間を要しその再現によって得られたものが,色及び透明感,臭い,粘度及びpH(以上,物性)において当該製品とほぼ同じであり,肌上への延ばしやすさ,肌のなじみ及び浸透感,吸収時のべたつきの強さ,64,(,,) 使用直後のべたつき 使用後肌の使用後感 以上 使用性 使用感において,同レベルであったという結果が示されている。
b本件試験報告書3bについて(a)当該製品についての依頼事項は,本件対象品目Cの製品についてのものと同じである。
(b)本件試験報告書3bには,コスメイトリックスが再現に4日間を要し,その再現によって得られたものが,pH,粘度,比重及び外観において当該製品とほぼ同じであり,肌上への塗布性,肌のなじみ性,ひき際のべたつきの強さ,使用直後の肌の感じ,使用後肌の感じにおいても,同レベルであったという結果が示されている。
なお,コスメイトリックスが「合格」であるとして報告しているpHについては,当該製品の規格値(甲39の2)よりも再現品の方が高く,また,粘度及び比重は,当該製品の規格値よりも再現品の方が低めであったものと認められる。
c本件試験報告書3cについて(a)本件試験報告書3cは,反訴被告が,コスメイトリックスに対し,当該製品について,pH,粘度及び比重の管理巾(当該製品のpH±0.30,同粘度±250mPa・s,同比重±0.20)を付けて再度の再現実験を依頼し,コスメイトリックスから反訴被告に対して提出された実験結果である。
(b)本件試験報告書3cには,コスメイトリックスが再現に3日間を要し,その再現によって得られたものが,pH,粘度,比重,外観において当該製品とほぼ同じであり,肌上への塗布性,肌のなじみ性,ひき際のべたつきの強さ,使用直後の肌の感じ,使用後肌の感じにおいても,同レベルであったという結果が示されている。
(ウ)検討65当該製品の本件製造工程図(乙12の2)によれば,その製造には,水に水溶性高分子を溶解した後,それに種々の成分を加えるという比較的単純な方法が採用されており,本件対象品目A,Bの各製品と比較すると,攪拌条件等にも自由度のあることが認められる。実際,本件試験報告書3aないしcにある再現に要した期間も,8時間ないし4日間とされており短い。
しかしながら,当該製品の場合も,本件対象品目Cの製品の場合と同様に,本件基本処方及び本件製造工程図によって示される個々の成分の配分量が分からなければ,当該製品と同じものを再現することは,事実上不可能であるといえる。
そうすると,本件対象品目Cの製品に関する場合と同様に,実施許諾料率としては,3パーセントが相当である。
オ本件対象品目Gエルヴィナスクリスタリューションについて(ア)反訴被告の主張について反訴被告は,当該製品の製造方法については,本件公開公報(乙7)に記載されているから,当業者は,当該製品の全成分表示に基づき,容易に再現することができる旨を主張する。
(イ)検討a証拠(甲11,乙7,15)及び弁論の全趣旨によれば,本件製造工程図と本件公開公報の異同に関し,次の事実が認められる。
,(,, ) (a)当該製品について 本件製造工程図 甲11 乙15の2 4記載の製造方法と,本件公開公報(乙7)記載の製造方法とを比較すると,両者は,水相と油相をそれぞれ作成した後,それらを併せ, , て攪拌してコンクベースを作成し それを水で希釈することにより液晶型乳化組成物を製造する点で共通する。
(b)しかしながら,本件製造工程図には,各成分の配合量と共に,66各成分の添加順序 温度管理 攪拌条件 温度 時間等管理点 各 ,,(,),(工程の意味づけ 理由等ろ過工程の条件等が詳細に記載されてお ,),り,このような詳細な条件については,本件公開公報中の実施例や発明の詳細な説明にも記載されていない。
また,前者に配合されている成分は,後者の実施例に記載されている成分とは異なるものであり,配合される成分の種類も,前者の方が多い。
bこれらの事情に照らせば,本件製造工程図における製造方法が,本件公開公報における液晶型乳化組成物の製造方法と類似であることは確かであるが,全成分表示と本件公開公報に接しただけの当業者にとって,当該製品と同じものを製造することは,事実上困難であるといえる。
また,そもそも,当業者にとっては,当該製品が本件公開公報に記載された方法を用いて製造されたか否かも不明なのであるから,当該方法で製造することに思い至るためには,相当程度の試行錯誤を要するものと推測される。
そうすると,反訴被告は,本件基本処方及び複雑な製造方法を詳細かつ具体的に記載した本件製造工程図を委託製造先であるセレスに提供することにより,質の高い当該製品を容易に入手できたものといえる。
したがって,当該製品の本件基本処方及び本件製造工程図は,同程度に複雑な製造方法を採用しているとみることができる本件対象品目A,Bの各製品の場合と同様に,相当程度の価値を有するものと認められ,実施許諾料率としては,5パーセントが相当である。
カ本件対象品目Kエスクラス・サンプロテクトについて(ア)反訴被告の主張について67反訴被告は,当該製品について,当業者は,全成分表示に基づけば,周知の知見により,容易に再現できる旨を主張する。
(イ)検討a証拠(乙19の2ないし4)及び弁論の全趣旨によれば,本件製造工程図においては,各成分の配合量と添加順序が詳細に記載され,さらに攪拌条件温度時間rpm等加熱等の温度管理釜の種 ,(,,),,類,各工程における注意点等が詳細に記載されているものと認められる。そのため,これを提示された反訴被告は,当該製品を容易に製造することができたと認められる。
これに対し,反訴被告は,当該製品の製造が当業者にとって容易にできたことについて,何ら具体的な立証を行っていない。そして,仮に,他の製品に関して示されているような公知の知見にかかわる文献等が存したとしても,当業者は,本件製造工程図に記載されているような詳細な工程を特定し,質の高い安定した製品を製造するために,相当程度の試行錯誤を要求されるものというべきである。
したがって,当該製品の本件基本処方及び本件製造工程図については,同程度に難しい製造方法を採用しているとみることができる本件対象品目A,B,Gの場合と同様に,相当程度の価値を有するものと認められ,実施許諾料率としては,5パーセントが相当である。
(3)損害額の計算ア証拠(甲42)及び弁論の全趣旨によれば,不法行為の対象となる各製品について反訴被告に生じた1か月当たりの平均純利益額は,次のとおりであると認められる(1円未満切り捨て。以下同じ。。)本件対象品目Aエルテスキンローション156万2277円同Bエルテミルクローション78万5441円同Cエルテオイルクレンザー160万0175円68同Dエルテエッセンス118万9915円同Gエルヴィナスクリスタリューション47万7938円同Kエスクラス・サンプロテクト4万0577円イこれらの金額に,侵害期間(上記Kについては平成17年7月31日まで,それ以外については平成18年8月31日まで)及び実施許諾料率を乗じた金額は次のとおりである。
なお,反訴原告の請求に従って,平成17年6月2日から同年7月1日までと同月2日から平成18年8月31日(上記Kについては,平成17) , , 年7月31日 までとに分けて計算するが 前者については1か月として後者については14か月(上記Kについては,1か月)として取り扱う。
(ア)本件対象品目Aエルテスキンローションa平成17年6月2日から同年7月1日まで156万2277円×1か月×0.05=7万8113円b平成17年7月2日から平成18年8月31日まで156万2277円×14か月×0.05=109万3593円(イ)同Bエルテミルクローションa平成17年6月2日から同年7月1日まで78万5441円×1か月×0.05=3万9272円b平成17年7月2日から平成18年8月31日まで78万5441円×14か月×0.05=54万9808円(ウ)同Cエルテオイルクレンザーa平成17年6月2日から同年7月1日まで160万0175円×1か月×0.03=4万8005円b平成17年7月2日から平成18年8月31日まで160万0175円×14か月×0.03=67万2073円(エ)同Dエルテエッセンス69a平成17年6月2日から同年7月1日まで118万9915円×1か月×0.03=3万5697円b平成17年7月2日から平成18年8月31日まで118万9915円×14か月×0.03=49万9764円(オ)同Gエルヴィナスクリスタリューションa平成17年6月2日から同年7月1日まで47万7938円×1か月×0.05=2万3896円b平成17年7月2日から平成18年8月31日まで47万7938円×14か月×0.05=33万4556円(カ)同Kエスクラス・サンプロテクトa平成17年6月2日から同年7月1日まで4万0577円×1か月×0.05=2028円b平成17年7月2日から同月31日まで4万0577円×1か月×0.05=2028円ウ以上より,反訴原告の損害額合計は次のようになる。
(ア)平成17年6月2日から同年7月1日まで22万7011円(イ)平成17年7月2日から平成18年8月31日まで315万1822円第4結論以上の次第で,反訴原告の請求は,金4987万8833円並びに,内金4650万円に対する平成17年6月2日から支払済みに至るまで年6分の割合による遅延損害金,内金22万7011円に対する平成17年7月2日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金及び内金315万1822円に対する平成18年9月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これを認容し,その余は理由が70ないから,棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 清水節
裁判官 山田真紀
裁判官 國分隆文
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