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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成16行ケ532特許取消決定無効確認請求事件 判例 特許
関連ワード 創作性(創作) /  択一的 /  実質的に同一 /  債務不履行 /  抵触 /  権利の濫用(権利濫用) /  信義則 /  加工 /  侵害 /  不法行為(民法709条) /  疎明 /  同意 /  既判力 /  設定登録 /  変更 /  要旨変更 /  取消決定 /  異議申立 / 
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事件 平成 19年 (ネ) 10015号 損害賠償請求控訴事件
控訴人株式会社イー・ピー・ルーム (一審本訴原告・一審反訴被告)
被控訴人住 友石炭鉱業株式会社(一審本訴被告・一審反訴原告)
訴訟代理人弁護 士冨永敏文
同 尾原央典
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/08/28
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1本件控訴をいずれも棄却する。
2控訴人の当審における新たな請求に係る訴えは,中間確認の訴えの部分も含め,いずれも却下する。
3当審における訴訟費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
全容
第1控訴人の求めた裁判1(1)原判決を取り消す。
(2)被控訴人は控訴人に対し,取引基本契約の債務不履行により控訴人に被らせた損害金の一部金5万円及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)被控訴人は控訴人に対し,控訴人の著作権を侵害して控訴人に被らせた損害金の一部金5万円及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)被控訴人は控訴人に対し,控訴人の放電燒結装置の設計図,部品図一式貸してくれといって占有し,控訴人に被らせた損害金の一部金5万円及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)被控訴人は控訴人に対し,被控訴人が占有する控訴人の放電燒結装置の設計図,部品図一式により放電燒結装置を製造販売して控訴人に被らせた損害金の一部金5万円及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(6)被控訴人は控訴人に対し,部品図の署名「酒寄」を切り取り,設計図に切り貼りし,偽造して控訴人に被らせた損害金の一部金5万円及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(7)被控訴人の反訴請求を棄却する。
2(当審における新たな請求 (択一的請求))被控訴人は訴状添付の第2目録・甲第29号証カタログの小型SPSを製造販売して一台少なくとも50万円以上の利益を得た。被控訴人は小型SPSに係る控訴人の特許第2640694号「放電燒結装置」に対してなした特許法に認められた異議申立ては次項(1)ないし(5)のとおり権利の濫用として許されないから,次のように,択一して権利濫用による損害金及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を控訴人に対し支払うことを求める。
(1)被控訴人は控訴人に対し,控訴人の特許第2640694号「放電燒結装置」に対する異議申立ては,特許出願前の特許第96574号「硬質金属合成物製造装置」公報並びに実公昭46-5289号「直接通電式加圧燒結炉」公報に基づき取消決定無効事由を有することが明らかであり,特許法に認められた本件異議申立ては権利の濫用として許されないから,権利濫用による損害金5万円及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被控訴人は控訴人に対し,控訴人の特許第2640694号「放電燒結装置」に対する異議申立ては,判例東京高裁判決昭和32年(行ナ)第33号に基づき取消決定無効事由を有することが明らかであり,特許法に認められた本件異議申立ては権利の濫用として許されないから,権利濫用による損害金5万円及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)被控訴人は控訴人に対し,控訴人の特許第2640694号「放電燒結装置」に対する異議申立ては,特許出願前の実公昭46-5289号「直接通電式加圧燒結炉」公報に基づき取消決定無効事由を有することが明らかであり,特許法に認められた本件異議申立ては権利の濫用として許されないから,権利濫用による損害金5万円及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)被控訴人は控訴人に対し,控訴人の特許第2640694号「放電燒結装置」に対する異議申立ては,判例東京高裁判決昭和32年(行ナ)第58号に基づき取消決定無効事由を有することが明らかであり,特許法に認められた本件異議申立ては権利の濫用として許されないから,権利濫用による損害金5万円及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)被控訴人は控訴人に対し,控訴人の特許第2640694号「放電燒結装置」に対する異議申立ては,上記(1)ないし(4)のとおり本件取消決定要旨変更に基づく取消理由は全部無効である。無効な要旨変更に基づいてした刊行物特開平4-9405号に記載された発明,及び対比・判断には取消決定無効事由を有することが明らかであり,特許法に認められた本件異議申立ては権利の濫用として許されないから,権利濫用による損害金5万円及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3(当審における新たな請求-中間確認の訴え)控訴人の特許第2640694号「放電燒結装置」の取消決定に無効事由を有することが明らかであるから,特許法に認められた本件異議申立ては権利の濫用として許されないことを確認する。
4訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人の負担とする。
5仮執行宣言第2事案の概要1控訴人は,名称を「放電燒結装置」とする発明について本件特許権(特許第2640694号。平成2年9月18日出願,平成9年5月2日設定登録。請求項の数3,特許公報は〔甲9 )を有していたが,被控訴人が平成10年2 〕月13日付けで特許異議の申立てをなし,これを受けて審理した特許庁は,平成13年7月4日付けで,特許第2640694号の請求項1ないし3に係る特許を取り消すとの決定をした(甲11 。そこで控訴人は,上記取消決定の )取消しを求めて訴訟を提起したが,東京高等裁判所は,控訴人の請求を棄却する旨の判決を言い渡し(平成13年(行ケ)第369号 ,同判決は,平成1)5年10月9日上告不受理決定等により確定し,上記特許登録も抹消された。
2原審の東京地裁に提起された訴訟は,本訴請求と反訴請求とから成る。
, 本訴請求の詳細は,原判決記載のとおり(1)ないし(10)項から成る(ただし(1)ないし(5)項は当審に至り訴えが取り下げられた )が,要するに,控訴人 。
が被控訴人に対し,本件特許異議の申立ては権利の濫用であって不法行為に当たり,また,被控訴人に,控訴人被控訴人間で平成6年1月14日に締結された取引基本契約の債務不履行,及び控訴人が作成した設計図の著作権(複製権)侵害等があった等と主張して,損害賠償を求めた事案である。
反訴請求は,被控訴人が控訴人に対し,上記本訴各請求は,関連訴訟の確定判決(原判決記載の前訴@及びA)等により認められなかった請求と実質的に同一の請求を行うもので訴えの提起が不法行為に当たるとして,弁護士費用相当額の損害賠償を求めた事案である。
平成19年1月31日に言い渡された原判決は,本訴請求のうち(1)ないし(5)項の,本件特許異議の申立てが権利の濫用であって不法行為に当たることを理由とする訴えは信義則に反する不適法な訴えであるとして却下し,その余の請求((6)ないし(10)項)はいずれも理由がないとして棄却し,一方,反訴請求は理由があるとして認容したものである。
そこで,上記判決に不服の控訴人が,本件控訴を提起した。
3当審に至って控訴人は,一審においてなした本訴請求(1)ないし(5)項につき訴えを取り下げて,新たに前記第1,2,(1)ないし(5)のとおりの損害賠償請求及び同第1,3のとおりの中間確認の訴えに係る請求を提起した。
したがって,当裁判所が判決において示す判断は,原審における本訴請求(6)ないし(10)と反訴請求の当否,及び,当審において控訴人が新たに提起した請求(1)ないし(5)及び中間確認の訴えに係る請求の各当否である。
第3当事者双方の主張1当事者双方の主張は,次に付加するほか,略称も含め,原判決の「事実及び理由」欄の第2「事案の概要」のとおりであるから,これを引用する。
2控訴人の主張(1)控訴に係る各請求(前記第1,1,(2)ないし(7))についてア本訴請求(6)につき以下の(ア)〜(ウ)のとおり,本件製造納入合意はなされており,被控訴人は,Xに放電燒結装置(SPS-510L)を製造させ,本件原告設計図を含む図面一式を控訴人から詐欺に当たる手段で取得したものであり,かかる被控訴人の行為は,信義則に違背する。
(ア)控訴人は,被控訴人から「日本工業規格液圧プレスの試験方法及び検査 (甲45)を渡されて,それを製造販売する放電燒結装置につ 」いて相談を受けたため,平成5年10月20日付けで被控訴人に対し,甲第29号証カタログ放電燒結装置(SPS-510L)に採用した「デジタル圧力制御装置」の公開公報と出願明細書及び特開平4-9405号公報(甲4)を送り,本件製造納入を申し込んだ(甲38 。同)申込みにより,控訴人と被控訴人とは平成6年1月14日付けで本件取引基本契約(甲6)を締結した。
平成6年1月27日,被控訴人の事務所において合意された本件設計製造納入事項を,被控訴人は,翌28日,文書(甲39の1〜3)にして控訴人にFAX送信した。これは,本件取引基本契約第2条@項の定め「個別契約は,原則として甲からの注文書またはこれに代るものによる申込みに対し,乙がこれを承諾することによって成立する 」により,。
本件取引基本契約に基づく個別契約が成立したことを証するものである。
これにより,控訴人は北栄興業と打合せをし(甲40 ,北栄興業は)製造可能であること等を話し合った。そして,被控訴人のAほか1名がワークローダーと共に北栄興業において放電燒結装置を製造することを確認した。
(イ)被控訴人は,平成6年9月26日,控訴人に対し,小型sps装置組図送付の件と題し,製作工場宛として○○県○○市○○-○-○Xを), 指定し,その製作工場に組図3部の送付を依頼した(甲41 。そして平成7年2月17日付けで被控訴人から長岡出張の依頼があり(甲42 ,株式会社アイオスにおいてXが製造した放電燒結装置(SPS- )510L)を調整し確認した。
(ウ)平成6年10月7日,被控訴人は控訴人に対し 「図面修正,加筆,等ありますので,図面原紙宅急便で送って下さい 」と要求した(甲4。
3 。控訴人は,修正,加筆後図面原紙は返却されるものと信じて送付 )したところ,被控訴人は控訴人に同月14日付けで,小型焼結機図面コピー一式を送付し(甲44 ,図面原紙を返さずに騙し取り,平成7年 )7月12日,本件取引基本契約(甲6)を維持したまま控訴人に対する発注を停止し(甲46 ,現在に至っている。 )イ本訴請求(7)につき(ア)本件原告設計図は,本件特許及び特開平8-73904号「加圧及び通電装置 (甲47)の思想を創作的に表現した著作物である。控訴 」人は,控訴人の著作権に基づく製品・作品を被控訴人に納入する契約(甲6)はしたが,著作物を納める契約はしていない。著作物である甲8の1の図面は著作物により作る作品に付帯するものではないから,取引基本契約書(甲6)の19条を適用することはできない。
(イ)仮に,本件被告設計図(甲8の2)は被控訴人が作成したとしても,被控訴人には,著作権法20条の同一性保持権を侵害する不法行為が成立する。
(ウ)@本件原告設計図(甲8の1)と本件被告設計図(甲8の2)とは別々に存在するものではなく,一枚の本件原告設計図(甲8の1)原紙に書き込みをしたのが本件被告設計図(甲8の2)であるのに,原審は,設計図の原紙が別々にあるという誤った事実認定をなした。
A控訴人は,被控訴人が本件原告設計図の控訴人代表者名部分を切り取り,これに被控訴人の名称欄を貼り付けて本件被告設計図を作成した事実を立証するために,文書提出命令を申し立てたにもかかわらず,原審は採証法則を無視してこれを採用しなかった。
ウ本訴請求(8)につき上記ア(ウ)のとおり,被控訴人は,図面原紙を返さず騙し取ったものであるから,詐欺による不法行為が成立する。
エ本訴請求(9)につき上記ウのとおり,被控訴人は,図面原紙を騙し取って占有しているものであるから,横領による不法行為が成立する。
オ本訴請求(10)につき被控訴人は,控訴人が被控訴人から強いて使うようにと言って渡された用紙に,鉛筆で作図した50枚の部品図の中から,例えば一枚の図面(甲48)を選んで,控訴人の署名を切り取り,甲8の1の図面に貼り付けて,控訴人の署名があるとするが,かかる行為は私文書偽造に当たり不法行為が成立する。また,本件被告設計図(甲8の2)なるものは被控訴人にはない。このことは,文書提出命令申立てを採用すれば明らかである。
カ反訴につき控訴人が被控訴人から被った損害と比べると,被控訴人の二重の応訴の負担は微々たるものであり,被控訴人が訴訟行為を委任した訴訟代理人との契約費用を控訴人が負担する義務はない。
(2)当審における新たな請求(1)ないし(5)についてア被控訴人は,訴状添付の第2目録・甲第29号証カタログの小型SPS(放電プラズマ焼結機 DR.SINTER・LAB,SPS-510L)を製造販売して一台少なくとも50万円以上の利益を得た。小型SPSに係る控訴人の特許第2640694号「放電燒結装置」に対してなした特許法に認められた特許異議の申立ては,原判決「事実及び理由」欄記載のとおり,権利の濫用として許されない。
イよって,控訴人は被控訴人に対し,不法行為による損害賠償請求として,択一して権利濫用による上記小型SPSの製造販売に係る損害金5万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成18年11月7日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
ウなお原判決は 「本訴請求□ないし□についてみると,…前訴@及びA ,における請求と同一の不法行為による損害賠償請求権に基づく請求であり,前訴@及びAにおいて数量的一部請求であったことから,その残部請求(残部のうちの一部請求)をしているものであって,実質的に,前訴@及びAで認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであるといわざるを得ず,前訴@及びAの確定判決によって同請求権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し,被告に二重の応訴の負担を強いるものということができる。そして,原告において,本訴請求□ないし□に係る訴えを提起することがやむを得ないといった特段の事情も認められない。そうすると,前訴@及びAにおいて敗訴した原告が,本件特許異議申立てが不法行為を構成すると主張する損害賠償請求の訴えを提起することは,信義則に反して許されないというべきである(18頁下6行〜1。」9頁7行)とする。
しかし,訴訟上の請求が同一であるか否かは訴状中の請求の趣旨および原因によって識別すべきであるところ,特許法による損害賠償請求は1個ごとの製品に係るから,訴えの変更後の当審における新たな請求(1)ないし(5)は,訴状添付の第2目録・甲第29号証カタログ記載の小型SPSを製造販売した一台に対するものであって,前訴@及びAと請求が同一でないし,前訴@及びAの残部請求でもない。一部請求については,控訴人は,訴えの変更により,訴状添付の第2目録・甲第29号証カタログの小型SPS一台に対する全部請求に変更したものである。
そして,被控訴人の二重の応訴の負担を強いるとする原因は,被控訴人自身の不法行為と,判断すれば判決が変わるはずの請求の原因の記載事項が存在することによる。したがって,被控訴人が否認した,不法行為の前提となる本件特許取消決定の判断の誤りあるいは無効理由についてなした中間確認の訴えについて,当審は審理判断すべきである。
また,既判力抵触するという理由でなく,単に信義則に反する旨の原判決の判示は,主張の筋がとおり,立証が十分になされても,本人訴訟をする控訴人を負かすためあえて犯した疑いがあるから取り消されるべきである。
エまた,原判決は 「…本件取消決定の記載ごとに損害金請求の根拠が生 ,じる旨の主張と解すると,これが失当であることは明らかであるから,被告の二重の応訴の負担をも踏まえた上記の判示を覆すものではなく,原告の主張を採用することはできない(19頁14行〜17行)とするが, 。」本件特許取消決定の記載ごとに択一的に本件特許取消決定の取消理由が存在するものであるから,上記判示は失当である。
(3)中間確認の訴えについて, 原判決「事実及び理由」欄の第2の2(1)ア,イ(ア)〜(オ)記載のとおり控訴人の特許第2640694号「放電燒結装置」の特許取消決定に無効事由が存することが明らかであるから,特許法に認められた本件特許異議の申立ては権利の濫用として許されないことの確認を求める。
当審は,被控訴人が否認した,不法行為の前提となる本件取消決定の判断の誤りあるいは無効理由についてなした本件中間確認の訴えについて,審理判断すべきである。控訴人は,前記(2)記載のとおり,択一して権利濫用による損害金を支払うよう求めているところ,択一するためには中間確認の訴えを判断しなければならないから,同訴えを却下することはできない。
3被控訴人の主張(1)控訴に係る各請求についての主張に対し控訴人の主張はいずれも否認する。
(2)当審における新たな請求についての主張に対し控訴人の,本件特許異議の申立てが権利の濫用であることを理由とする損害賠償請求に対し,請求棄却判決が確定しており(前訴@〜B ,同損害賠)償請求は,信義則に反し,許されない。
(3)中間確認の訴えについての主張に対し上記(2)と同様に,本件特許異議の申立てが権利濫用であることを理由とする本件中間確認の訴えも,信義則に反し,許されない。
第4当裁判所の判断1控訴に係る各請求(前記第1,1,(2)ないし(6))について(1)本訴請求(6)につきア控訴人は,本件製造納入合意はなされており,被控訴人は,Xに放電燒結装置(SPS-510L)を製造させ,本件原告設計図を含む図面一式を控訴人から詐欺に当たる手段で取得したものであり,かかる被控訴人の行為は,信義則に違背すると主張する。
しかし,控訴人が被控訴人との間で,平成6年1月14日,本件取引基本契約(甲6)を締結したと認められるとしても,本件取引基本契約の第2条@項には 「個別契約は,原則として甲からの注文書またはこれに代 ,るものによる申込みに対し,乙がこれを承諾することによって成立する 」と規定されているのであるから,個別契約が成立したというために 。
は,本件取引基本契約の他に,控訴人が主張する本件製造納入合意のような具体的な合意が別途必要であると解される。しかるに,被控訴人の発注書等の同具体的合意の存在を認めるに足りる証拠はないから,本件製造納入合意があったことを認めることはできない。また,本件製造納入合意が認められない以上,被控訴人が控訴人から図面を詐欺に当たる手段で取得したとの主張はその前提を欠くことになる上,被控訴人が,本件原告設計図を含む図面一式を控訴人から詐欺に当たる手段で取得したと認めるに足りる証拠もない。
イまた控訴人は,平成6年1月27日,被控訴人の事務所において合意された本件設計製造納入事項を,翌28日,被控訴人が文書(甲39の1〜3)にして控訴人にFAX送信した,これにより,控訴人は北栄興業と打合せをし(甲40 ,北栄興業は製造可能であること等を話し合った,そ )して,被控訴人のAほか1名がワークローダーと共に北栄興業において放電燒結装置を製造することを確認した,と主張する。
しかし,上記FAX文書(甲39の1〜3)は,被控訴人技術本部研究開発部SCMプロジェクト(担当者:A)から控訴人宛てに「…小型sps装置概略仕様メモ2枚参考図2枚FAX致しますので,宜しくおねがい致します。ご不明点等ありましたらTEL下さい。まずはご連絡まで…」という表書に,概略仕様メモ,参考図が添付されたものに過ぎず,あくまで被控訴人が控訴人に具体的発注を行うかどうかを検討する過程において作成されたものとみることもできるものであり,また 「御証明,願」と題する文書(甲40)も,平成19年3月15日に作成された文書であり,しかも単に,控訴人が株式会社北栄興業に「拝啓 貴社ますますご清栄のことお慶びもうしあげます。つきまして,だいぶ前のことですが,貴社に,住友石炭鉱業鰍ノ納入するワークローダに続き別紙drawing no NK-1526000 放電燒結装置を製造していただく旨,弊社株イー・ピールームと話合ったことがあることをご証明をお願い申し上げ」旨依頼し,これに対し北栄興業が「上記のとおり相違ありません」としたものに過ぎず,被控訴人が控訴人に対し具体的な放電燒結装置の製造の発注を行ったことを裏付けるに十分なものではない。
したがって,これらをもって,被控訴人が控訴人に対し具体的な発注を行ったものと認めることはできない。
ウ(ア)控訴人は,被控訴人は,平成6年9月26日,控訴人に対し,小型sps装置組図送付の件と題し,製作工場宛として○○県○○市○○-○-○Xを指定し,その製作工場に組図3部の送付を依頼した(甲41 ,そして,平成7年2月17日付けで被控訴人から長岡出張の依頼 )があり(甲42 ,株式会社アイオスにおいてXが製造した放電燒結装 )置(SPS-510L)を調整し確認した,平成6年10月7日,被控訴人は控訴人に対し 「図面修正,加筆等ありますので,図面原紙宅急 ,便で送って下さい 」と要求した(甲43 ,控訴人は,修正,加筆後 。)図面原紙は返却されるものと信じて送付したところ,被控訴人は控訴人に同月14日付けで,小型焼結機図面コピー一式を送付し(甲44 ,)図面原紙を返さず,平成7年7月12日,本件基本契約(甲6)を維持したまま控訴人に対する発注を停止し(甲46 ,現在に至っている, )と主張する。
(イ)そこで,上記甲41〜44,46を検討すると,以下のとおりである。
@甲41は,平成6年9月26日付けで,被控訴人担当者Aから控訴人に対し送付されたFAX文書であり 「…小型sps装置組図送付 ,の件連絡申し上げます。@KSP宛2部A製作工場宛3部…○○県○○市○○-○-○XB様宛…」との記載がある。
A甲43は,平成6年10月7日付けで,被控訴人担当者Aから控訴人に対し送付されたFAX文書であり 「…sps部品図の件連絡申 ,し上げます。@小生勉強不足でわからないのですが,SK-7ドリルロッドは硬度どの程度でしょうか?機械加工可能ですか?A図面修正,加筆等ありますので,図面原紙宅急便で送って下さい。…」との記載がある。
B甲44は,平成6年10月14日付けで,被控訴人担当者Aから控訴人に対し送付されたFAX文書であり 「…書類発送ご案内…」 ,「小型焼結機図面コピー1式」との記載がある。
C甲42は,平成7年2月17日付けで,被控訴人担当者Aから控訴人に対し送付されたFAX文書であり 「…2/21.長岡出張の件 ,連絡申し上げます。…行先潟Aイオス…・住所/長岡市南陽2-951-11南部工業団地内…」との記載がある。
D甲46は,控訴人代表者の日誌であり,1995年(平成7年)7月12日の欄に 「…住石A殿よりTEL仕事はペンディングにす ,るよう指示を受けた 」との記載がある。.(ウ)しかし,上記甲41〜44,46のFAX文書等は,その内容自体からして,あくまで被控訴人が控訴人に具体的発注を行うかどうかを検討する過程において作成されたものとみることができるものであり,控訴人は,当時,平成6年1月14日に締結した本件取引基本契約(甲6)に基づき,被控訴人の個別の具体的発注を得るべく被控訴人に対し働きかけをし,被控訴人の側において事実上の検討を行っていた段階であるとみるのが自然であって,上記甲41〜44,46から当然に,被控訴人が控訴人に対し具体的な発注を行ったことを認めることはできず,被控訴人が本件製造納入合意をしたと認めることはできない。
エ以上によれば,控訴人の本訴請求(6)は理由がない。
(2)本訴請求(7)につきア本件原告設計図(甲8の1)は,その記載からみて,放電プラズマ燒結機という機械の設計図であり,同一の機械を設計図に表現するときは,主として線を用い,これに当業者間で共通に使用されている記号や数値を付加して二次元的に表現するものであって,その性質上,表現の選択の幅が限定されていると言わざるを得ず,同一の機械を設計図に表現するときは,おのずから類似の表現にならざるを得ないものであるから,これが創作的に表現された著作物である(著作権法2条1項1号)ということはできず,またかかる表現上の創作性についての具体的な主張立証もない。
そうすると,本件原告設計図に表現上の創作性が認められないのであるから,控訴人の著作権(複製権,同一性保持権)侵害の主張は,その前提を欠き失当というほかない。
イ控訴人は,本件原告設計図は,本件特許及び特開平8-73904号「加圧及び通電装置」の思想を創作的に表現した著作物である,控訴人は,控訴人の著作権に基づく製品・作品を被控訴人に納入する契約(甲6)はしたが,著作物を納める契約はしていない,著作物である甲8の1の図面は著作物により作る作品に付帯するものではないから,取引基本契約書(甲6)の19条を適用することはできない,と主張する。
しかし,本件原告設計図が本件特許及び特開平8-73904号「加圧及び通電装置」の思想を表現したものであったとしても,本件原告設計図が,その性質上,表現上の創作性が認められないものであることは,上記アに説示したとおりである。また,控訴人が著作物を納める契約をしておらず,取引基本契約書(甲6)の19条を適用することができないとしても,上記アに説示したとおり,そもそも本件原告設計図に表現上の創作性が認められない以上,これを前提とする控訴人の著作権侵害の主張自体は失当というほかない。
ウ(ア)控訴人は,本件原告設計図(甲8の1)と本件被告設計図(甲8の2)とが別々に存在するものではなく,一枚の本件原告設計図(甲8の1)原紙に書き込みをしたのが本件被告設計図(甲8の2)であるのに,原審は,設計図の原紙が別々にあるという誤った事実認定をなした,と主張する。
しかし,原審の説示は,単に本件原告設計図(甲8の1)と本件被告設計図(甲8の2)とを対比したものであるに過ぎず,本件原告設計図(甲8の1)と本件被告設計図(甲8の2)とが別々に存在するかどうかについては何ら述べていないものであるから,控訴人の上記主張は採用できない。
(イ)控訴人は,被控訴人が本件原告設計図の控訴人代表者名部分を切り取り,これに被控訴人の名称欄を貼り付けて本件被告設計図を作成した事実を立証するために,文書提出命令を申し立てたにもかかわらず,原審は採証法則を無視してこれを採用しなかったと主張する。
しかし,後記(5)に説示するとおり,本件において,被控訴人が本件原告設計図の控訴人代表者名部分を切り取り,これに被控訴人の名称欄を貼り付けて本件被告設計図を作成した事実を認めるに足りる証拠はない。また,文書提出命令は,相手方が文書を所持している蓋然性があって初めて発令できるものであるところ,被控訴人総務部担当部長Cの陳述書(乙6)に照らしても,本件原告設計図を被控訴人が所持している, 蓋然性は疎明されていないと言わざるを得ない上,前記(1)ウ,上記ア後記(5)の各説示に照らせば,控訴人が提出を求める文書については証拠調べの必要性も欠くものである。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
エ以上によれば,控訴人の本訴請求(7)は理由がない。
(3)本訴請求(8)につき控訴人は,被控訴人は,図面原紙を返さず騙し取ったものであるから,詐欺による不法行為が成立すると主張する。しかし,前記(1)ア〜ウに説示したとおり,そもそも被控訴人が控訴人に対し具体的な放電燒結装置の製造の発注を行ったことを認めることはできず,被控訴人が本件製造納入合意をしたと認めることはできないものである。また,控訴人も記名押印した本件取引基本契約(甲6)の第19条には,控訴人が作成した図面等の所有権は被控訴人に帰属する旨の規定が存在するから,図面原紙の所有権は被控訴人に帰属することを控訴人も同意していたものであり,控訴人が平成6年10月14日に被控訴人から図面コピー1式の送付を受けた際やその後においても,図面原紙を返してもらっていない旨直ちに異議を申し出た形跡もない。
以上に照らせば,被控訴人の詐欺行為を認めることはできないから,控訴人の上記主張は採用できず,本件請求(8)は理由がない。
(4)本訴請求(9)につき控訴人は,被控訴人は,図面原紙を騙し取って占有しているものであるから,横領による不法行為が成立すると主張するが,上記(3)の説示に照らせば,控訴人の上記主張は採用できず,本訴請求(9)は理由がない。
(5)本訴請求(10)につきア控訴人は,被控訴人は,控訴人が被控訴人から強いて使うようにと言って渡された用紙に,鉛筆で作図した50枚の部品図の中から,例えば一枚の図面(甲48)を選んで,控訴人の署名を切り取り,甲8の1の図面に貼り付けて,控訴人の署名があるとするが,かかる行為は私文書偽造に当たり不法行為が成立する,と主張する。
しかし,本件全証拠によっても,被控訴人から強いて使うようにと言って控訴人が渡された用紙に,控訴人が鉛筆で作図した50枚の部品図の中から,被控訴人が例えば一枚の図面(甲48)を選んで,控訴人の署名を切り取り,甲8の1の図面に貼り付けたことを認めるに足りる証拠はない。
そして,上記(1)ウ(ウ)に説示したように,控訴人は,当時,平成6年1月14日に締結した本件取引基本契約(甲6)に基づき,被控訴人の個別の具体的発注を得るべく被控訴人に対し働きかけをし,被控訴人の側において事実上の検討を行っていた段階であるとみるのが自然であって,前記(3)に説示したとおり,控訴人も記名押印した同契約(甲6)の第19条には,控訴人が作成した図面等の所有権は被控訴人に帰属する旨の規定が存在し,図面原紙の所有権は被控訴人に帰属することを控訴人も同意していたものである。そして,かかる状況の下,FAX文書(甲43)に,平成6年10月7日付けで 「…図面修正,加筆等ありますので,図面原紙 ,宅急便で送って下さい。…」とあることを受けて控訴人が本件原告設計図を被控訴人に送付し,その7日後に被控訴人が控訴人に対し「小型焼結機図面コピー1式」を送っており,かかる事実経過の中において,被控訴人が図面修正,加筆等を行うことについて控訴人が異議を申し出た形跡がないことに照らしても,当時,被控訴人が控訴人の図面に対し修正,加筆等を行うことは当事者間の当然の了解事項であったとみることができるから,結局,被控訴人が,控訴人の署名を切り取り,甲8の1の図面に張り付けて控訴人の署名とするという行動をとる動機自体もこれを認めることができないと言わなければならない。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
イ控訴人は,本件被告設計図(甲8の2)なるものは被控訴人にはない,このことは,文書提出命令申立てを採用すれば明らかである,と主張する。
しかし,上記アに説示したとおり,当時,被控訴人が控訴人の図面に対し修正,加筆等を行うことは当事者間の当然の了解事項であったとみることができるものであるから,仮に被控訴人が修正,加筆等をした本件被告設計図(甲8の2)が存在したとみても不自然とはいえないものである。
ウ以上によれば,控訴人の本訴請求(10)は理由がない。
(6)反訴につき控訴人は,控訴人が被控訴人から被った損害と比べると,被控訴人の二重の応訴の負担は微々たるものであり,被控訴人が訴訟行為を委任した訴訟代理人との契約費用を控訴人が負担する義務はないと主張する。
しかし,前訴@及びAにおいて敗訴確定した後に控訴人が,本件特許異議の申立てが不法行為を構成すると主張する損害賠償請求の訴えを提起することは,信義則に反して許されないというべきであるから,このような訴えを提起した控訴人が,不法行為による損害賠償として,被控訴人の弁護士費用相当額を負担することはやむを得ないというべきである。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
2当審における新たな請求(1)ないし(5)について□控訴人は,前記のとおり,当審に至って原審における本訴請求(1)ないし(5)(以下「旧請求(1)ないし(5)」という )に係る訴えを取り下げ,その 。
代わりとして,当審における新たな請求(1)ないし(5)(以下「新請求(1)ないし(5)」という )に係る訴えを追加した。 。
旧請求(1)ないし(5)の内容は原判決記載のとおりであり,新請求(1)ないし(5)の内容は前記記載のとおりであるが,その相違点は,新請求においては前記のとおり 「被控訴人は訴状添付の第2目録・甲第29号証カタログ ,の小型SPS(放電プラズマ焼結機 DR.SINTER・LAB,SPS-510L)を製造販売して一台少なくとも50万円以上の利益を得た」旨を付加するものである。
□旧請求(1)ないし(5)及び新請求(1)ないし(5)を子細に検討すると,いずれも,結局は被控訴人が控訴人の有する本件特許に対し特許異議の申立てをしたことが権利濫用として許されないから不法行為に該当する,というものであるところ,当裁判所は,旧請求(1)ないし(5)に係る訴えを提起することが,前訴@及びAとの関係で信義則に反して許されないとした原判決は正当として是認することができると判断する。その理由は,原判決記載のとおりである。
そして,新請求(1)ないし(5)も,上記信義則の適用との関係では旧請求(1)ないし(5)と実質的な差異はないと解されるから,これに関する当審における控訴人の主張を十分考慮しても,控訴人が新請求(1)ないし(5)に係る訴えを提起することも,前訴@及びAとの関係で信義則に反し,不適法であるということになる。
3中間確認の訴えについて本件中間確認の訴えは,前記のとおり「控訴人の特許第2640694号「放電燒結装置」の取消決定に無効事由を有することが明らかであるから,特許法に認められた本件異議申立ては権利の濫用として許されないことを確認する 」とするものであって,本件特許異議の申立てが権利の濫用として許され 。
ないかどうかを審理対象とするものであるところ,前訴@,Aにおいては,本件特許異議の申立ては権利の濫用として許されないということはできず,不法行為を構成しないと判断して控訴人の損害賠償請求を棄却し,請求棄却判決が確定したものである。そうすると,本件中間確認の訴えに係る審理対象は,前訴@,Aにおいて判断されて確定した不法行為による損害賠償請求に含まれるものであって,本件中間確認の訴えに係る請求の趣旨と,前訴@,Aにおいて判断された請求とは,損害以外の部分において実質的に共通のものであるから,本件中間確認の訴えは,実質的に,前訴@及びAで認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであると言わざるを得ない。そうすると,前記2の新請求(1)ないし(5)の場合と同様に,前訴@及びAにおいて敗訴した控訴人が,本件中間確認の訴えを提起することは,信義則に反して許されないというべきである。
以上によれば,本件中間確認の訴えは不適法として却下を免れないものである。
4結語以上のとおりであるから,本訴及び反訴についての本件控訴はいずれも理由がない。また控訴人の被控訴人に対する新請求に係る訴えは,中間確認の訴えの分も含め,いずれも信義則に反するから不適法として却下すべきである。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 今井弘晃
裁判官 田中孝一