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関連審決 不服2005-4644
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10062審決取消請求事件 判例 特許
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平成18行ケ10203審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10167審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 /  国際公開 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10488号 審決取消請求事件
原告日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
訴訟代理人弁理士佐藤隆久
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人高橋学,田良島潔,小池正彦,森山啓
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/07/19
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が不服2005−4644号事件について平成18年9月13日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文と同旨第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「駆動回路」とする発明につき,平成14年10月24日,特許出願をし(以下「本願」という。請求項の数は10項である。),平成17年1月17日付け手続補正書により補正を行ったが,同年2月7日付けの拒絶査定を受けたため,同年3月17日,審判請求を行った。
特許庁は,この審判請求を不服2005-4644号事件として審理し,その結果,平成18年9月13日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月26日,審決の謄本が原告に送達された。
2特許請求の範囲平成17年1月17日付け手続補正書による補正後の本願の請求項1は,次のとおりである。
「PWM調光駆動される発光素子に対して電力を供給するための駆動回路であって,発光素子に結合される出力端子を有するスイッチング電源のスイッチング素子としての第1のトランジスタと,発光素子に流れる電流を検出するための検出回路と,上記検出回路から供給される検出信号と基準信号とを比較して当該比較結果に応じた誤差信号を生成する誤差信号生成回路と,上記誤差信号と周期信号とに基づいて上記第1のトランジスタをオン・オフ制御するための駆動パルス信号を生成する比較回路とを有し,発光素子に電流が供給されているときに上記駆動パルス信号に基づいて上記第1のトランジスタがオン・オフ制御され,発光素子に電流が供給されていないときに上記第1のトランジスタがオフ状態にある駆動回路。」(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」といい,本願の明細書(甲第1号証)を「本願明細書」という。)3審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,国際公開第01/45470号パンフレット(乙第1号証。以下「引用例」という。)記載の発明,周知技術及び一般的技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,引用例記載の発明(以下,審決と同様に「引用発明」という。)の内容並びに本願発明と引用発明との一致点及び相違点を次のとおり認定した。
(1)引用発明の内容1個または直列接続された複数個のLEDからなるLEDランプ106と,出力端に前記LEDランプ106を接続する交流または直流電源が入力される電源装置部とを備え,前記電源装置部は,発振・分周回路部310と,スイッチング制御回路部322と,スイッチング素子316と,電流検出回路部307とを備え,前記電流検出回路部307は前記LEDランプ106に流れる電流を検出し,前記スイッチング制御回路部322は,前記電流検出回路部307からの出力と基準値との比較に基づく差分信号を生成する回路と,前記差分信号と前記発振・分周回路部310からの出力とに基づいて前記スイッチング素子316をオン・オフ制御するパルス状の駆動信号を生成する回路を有するLEDランプ装置(2)一致点発光素子に対して電力を供給するための駆動回路であって,発光素子に結合される出力端子を有するスイッチング電源のスイッチング素子としての第1のトランジスタと,発光素子に流れる電流を検出するための検出回路と,上記検出回路から供給される検出信号と基準信号とを比較して当該比較結果に応じた誤差信号を生成する誤差信号生成回路と,上記誤差信号と周期信号とに基づいて上記第1のトランジスタをオン・オフ制御するための駆動パルス信号を生成する比較回路とを有する駆動回路(3)相違点本願発明が「PWM調光駆動される」発光素子に対して電力を供給するための駆動回路であって,「発光素子に電流が供給されているときに上記駆動パルス信号に基づいて上記第1のトランジスタがオン・オフ制御され,発光素子に電流が供給されていないときに上記第1のトランジスタがオフ状態にある」のに対して,引用発明の場合には,引用例には,かかる発光素子へのPWM調光駆動については記載されておらず,PWM調光駆動とスイッチング素子316の動作について明確でない点第3審決取消事由の要点審決は,引用発明にPWM調光技術を採用することには技術的困難性があるにもかかわらず,この組合せが容易であると判断を誤り(取消事由1),さらに,本願発明が奏する顕著な作用効果を看過し(取消事由2),ひいては容易想到性の判断を誤ったものであるところ,この誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1取消事由1(組合せの技術的困難性)(1)引用例には,次の記載があるものの,LEDランプのPWM調光駆動について何らの記載もない。
ア「入力電圧(ノードA107の電圧)が0Vから40Vに上昇したときスイッチング制御回路部322が作動し,ピーク値を経て40Vに下降したときに同制御回路部322が作動停止する設定となされている。」(引用例明細書11頁25行〜12頁2行)イ「LEDランプ106への通電電流はスイッチング制御回路部322により定電流化が図られており」(同12頁15〜16行)(2)上記(1)のとおり,LEDランプのPWM調光駆動について何らの記載もなく,かつ,LEDランプ106の連続的な点灯を前提としている引用発明において,PWM調光駆動を用いて調光機能を持たせようとする動機が当然に働くとはいえない。
(3)被告は,審決において認定した引用発明は,引用例の第6図に示された第3実施形態に対応するものであると主張する。
しかし,審決では,引用例の第3実施形態にも触れてはいるが,審決が認定した引用発明は,基本的には第3図の第2実施形態に対応するものである。
したがって,被告の主張は,審決に基づかないものであり,失当である。
(4)引用発明においては,LEDランプ106に流れる電流が一定となるようにフィードバック(負帰還)制御が行われており,引用発明の電源装置部は,AC入力電圧が40V以上のときに,LEDランプ106の通電電流が一定になるようにスイッチング素子316のオン・オフを制御するものである。
上記のような技術である引用発明に,LEDランプ106の通電をオン・オフするPWM調光駆動を適用すると,LEDランプ106への通電がない場合,すなわち,LEDランプ106に流れる電流がゼロとなる場合には,前述したLEDランプ106に流れる電流を一定とする制御によって,スイッチング制御回路部322はLEDランプ106に供給する電流を増やす方向に動作し,LEDランプ106に電流を流す必要がないにもかかわらず,電力を供給する事態を招来させる結果,電源自体が破壊される。
引用発明にPWM調光駆動を採用すると,上記のような不都合が生じるのであるから,「LEDランプ106に対してPWM調光駆動を可能とさせることに,特段の困難性があるとはいえない。」とした審決の判断は,誤りである。
引用例の第3実施形態(第6図)の回路も,第2実施形態の回路と同様,LEDランプが接続されている間は,電源装置部(LEDランプ106を除いた回路部分)は,LEDランプに一定の電流を流すように機能するから,PWM調光技術を適用して電流をオン・オフしようとしてもうまくいかない。
したがって,第3実施形態を引用発明としたとしても,PWM調光技術を適用することを妨げる事情があることに変わりはない。
また,引用例には,「電圧帰還型のスイッチング電流」,「電流帰還型のスイッチング電流」と記載されているのみで,具体的回路構成及び動作は記載されていない。被告の主張は,具体的根拠に基づかない推論にすぎない。
(5)被告は,「引用発明は,LEDランプ106に流れる電流を定電流とするためにスイッチング素子316のオン・オフ制御を行うものであるから,その目的からすれば,引用発明にPWM調光駆動を採用した際に,LEDランプ106の消灯時にまで,LED106の点灯時を前提とした制御を行うことは無駄である」として,このような無駄がないよう回路設計をすることは設計的事項である旨主張している。
しかし,無駄であるかどうかは主観であり,例えば予め電力を蓄えておくことも考えられるから,被告の上記主張は,主観に基づくものであり,失当である。
2取消事由2(顕著な作用効果の看過)本願発明は,請求項1記載の構成により,温度変化や電源電圧の変動,素子の製造ばらつきの影響を抑えて一定レベルのパルス電流を出力するという効果(本願明細書段落【0067】)に加え,図1に図解したキャパシタ604の電圧が際限なく上昇することを防止し,出力電流が目的電流より大きな電流になり,目標電流に収束するまでに時間がかかるという問題を克服する効果(本願明細書段落【0038】〜【0039】)がある。
このように,本願発明の目的,効果及び解決手段は,引用発明,周知技術及び一般的技術事項とは全く異なるものである。したがって,「本願発明を全体として検討しても,引用発明,上記周知及び上記一般的技術事項から予測される以上の格別の効果を奏するものではない。」とした審決の認定判断は,誤りである。
第4被告の反論の骨子審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1取消事由1(組合せの技術的困難性)について(1)審決が指摘するとおり,照明装置において調光機能を持たせることに一般的な動機付けがあることは言うまでもないところ,発光ダイオード(LED)の駆動装置においても,PWM調光駆動を用いた発光ダイオードの光量調整は既に周知技術として知られている。そうすると,上記一般的動機付け及び上記周知技術に照らせば,LEDランプ装置である引用発明においても,PWM調光駆動を用いて調光機能を持たせようとする動機付けは当然に働くといえる。
(2)審決が認定した引用発明は,引用例の第6図に示された第3実施形態に対応するものである。
(3)審決が摘示した引用例の第3実施形態についての記載(引用例明細書14頁22行〜15頁16行)によれば,引用発明の電源装置部では,LEDランプ106が接続されていないとき,すなわちLEDランプ106との接続が切れた状態では,電流帰還型から電圧帰還型へと切り替わり,出力電圧に制限がかかるようにスイッチング制御回路部322が制御されることは明らかである。
一方,発光ダイオードのPWM調光駆動装置の周知例としては,審決で挙げた甲14の図5の例がある。そこでは,発光ダイオードのカソード側に調光用のPWM信号によってオン・オフされるトランジスタ(スイッチング素子)が直列に接続されている。
そうすると,引用発明において,周知例であるPWM調光駆動を採用した場合には,引用例の第6図の回路図において,LEDランプ106(発光ダイオード)のカソード側(電流検出回路部307側)にPWM調光駆動用のスイッチング素子が直列接続されることになる。そして,このような回路構成において,PWM調光駆動を行った場合,LEDランプ106のカソード側に直列接続されたPWM調光駆動用のスイッチング素子が調光駆動用のPWM信号によりオン・オフ操作されることとなるが,このとき,調光駆動用のPWM信号がオフ状態では上記調光駆動用のスイッチング素子がオフ状態であるので,LEDランプ106と電源装置部との接続が切れた状態となることは明らかである。
そして,引用発明の電源装置部は,LEDランプ106と電源装置部との接続が切れたときには,電流帰還型から電圧帰還型へと切り替わり,出力電圧に制限をかけるようにスイッチング制御回路部322が制御されるものであるから,引用発明においてPWM調光駆動を採用したとしても,原告が主張するような電源自体の破壊が生ずることはありえない。
したがって,引用発明にPWM調光駆動を適用すると電源自体が破壊されるとの原告の主張は当を得ない。
(4)引用発明は,LEDランプ106の点灯時において,LEDランプ106に流れる電流を定電流とするためにスイッチング素子316のオン・オフ制御を行うものであるから,その目的からすれば,引用発明にPWM調光駆動を採用した際におけるLEDランプ106の消灯時にまで,LED106の点灯時を前提とした制御を行うことが無駄であることは明らかである。制御装置一般において,無駄な制御を省こうとすることは通常行われている程度のことであることに照らせば,引用発明におけるPWM調光駆動の採用時に,上記LEDランプ106の消灯時における無駄な制御を省こうとすることは当業者が当然に考える程度の事項であり,格別なものとはいえない。
また,引用発明においてPWM調光駆動を採用した場合,LEDランプ106の消灯時には,電源装置部とLEDランプ106との接続が切れて,電源装置部が電圧帰還型として作用するため,出力電圧が制限値に達すると,そもそもスイッチング素子316はオフ状態になるものである。そして,スイッチング素子316がオフ状態となるタイミングは出力電圧の制限値の設定により適宜に変更可能であり,このため,LEDランプ106の消灯に応ずるように,スイッチング素子316をオフ状態とするように制御することに特段の不都合があるともいえない。
2取消事由2(顕著な作用効果の看過)について本願発明は,引用発明及び周知技術並びに一般的技術事項から予測される以上の格別の効果を奏するものではない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(組合せの技術的困難性)について(1)引用例には,次の記載がある。
ア「技術分野本発明は,LED(LightEmittingDiode;発光ダイオード)を用いて表示や照明を行うランプ装置に係り,特に,交流電源に直接接続(直結)可能なLEDランプ装置に関するものである。
背景技術事業所建物,集合住宅,公共施設建物等で用いられる各種表示灯,例えば消火栓灯,非常灯,あるいは券売機,自動販売機,エレベータ等の操作ボタンランプ等は今もってタングステンフィラメントを使用した白熱ランプが主流である。また,屋内の照明器具用ランプも,用途によってはまだまだ白熱ランプが主流である。
一方,近年の半導体素子技術の進展でLEDは,発光色の種類,輝度,耐久性,消費電力(発光効率)の観点から,上記白熱ランプを凌駕する性能に達しているにも拘わらず,上記用途にはほとんど使用されていないのが現状である。
表示や照明を行うランプは,通常,商用交流電源(日本国内:100V,米国:110V,欧州:230V等)に直結して使用するのが前提だからである。
すなわちLEDは,周知のように直流(DC)数Vの電源電圧で動作するものであり,したがって従来これを使用するには,商用交流電源をDC数Vに変換する電源装置部が別途必要となり,LEDランプ装置全体が高価かつ大形になるからである。
このような実情にあっても,従来から,LEDを何とかして商用交流電源に直結使用可能にしようとする試みがある。」(1頁4行〜2頁4行)イ「上記のように,従来技術では,いずれも低効率,高損失であり,従来,この点の改善が要望されていた。
本発明の目的は,高効率,低損失の電源装置及びLEDランプ装置を提供することにある。
発明の開示上記課題を解決するため,第1の発明は,交流電源電圧の整流波形を得る整流波形取得手段と,この整流波形取得手段による整流波形中の交流電源電圧波形の半周期に相当する各波形の所望の電圧値以上の期間中の一部の期間でのみ電力を取り込んで負荷の作動用電源として出力するための電源出力手段とを具備することを特徴とするものである。」(3頁11行〜21行)ウ「図3は,本発明による電源装置及びLEDランプ装置の第2実施形態を示す回路図である。
この図3において,303はコンデンサ(C1),304,305は分圧用の抵抗(R1,R2),306は電源系1VddHライン,307は電流検出回路部(IDET),308はGND(接地)ライン,309はゼロクロス対応の入力電圧検出回路(VDET),310は発振・分周回路部(Osc・Div),311〜313は作用線,314は電源系2VddLライン,315はインダクタ(コイル),316はNチャンネル型MOSFETからなるスイッチング素子,317はフライホイールダイオード,322はスイッチング制御回路部(SWCont)である,その他,図3において図1と同一符号は同一または相当部分を示す。
ここで,抵抗304,305は直列接続されて全波整流ダイオードブリッジ102の出力電圧を分圧するもので,その分圧点は入力電圧検出回路309の入力端及び発振・分周回路部310の作動電源入力端及び電源系2VddLライン314に接続されている。コンデンサ303は同分圧点及び接地間に接続されている。
LEDランプ106,インダクタ315及びスイッチング素子316は直列接続されて電源系1VddHライン306及びGNDライン308間に挿入されており,電流検出回路部307は電源系1VddHライン306中に挿入されている。LEDランプ106は,ここでは2〜8個のLEDを直列接続してなる。
フライホールダイオード317はLEDランプ106及びインダクタ315の直列回路に並列に接続されている。
スイッチング制御回路部322は,電源系2VddLライン314から作動電源を受け,電流検出回路部307,入力電圧検出回路309及び発振・分周回路部310から信号を受けて,スイッチング素子316(LEDランプ106)を後述するようにON,OFF制御するものである。」(10頁19行〜11頁20行)「LEDランプ106への通電電流はスイッチング制御回路部322により定電流化が図られており,負荷(LEDランプ106を構成するLEDの個数)が変化しても同一電流を流すことができる。」(12頁15〜17行)エ「図6は,本発明による電源装置及びLEDランプ装置の第3実施形態を示す回路図である。この図6において,609は入出力電圧検出回路,620はコンデンサ(C2),621はシリーズ抵抗(Rs)である。その他,図6において図3と同一符号は同一または相当部分を示すが,ここでは,スイッチング素子316はPNP型トランジスタからなり,LEDランプ106から見て全波整流用ダイオードブリッジ102の正極出力端側に,そのエミッタ-コレクタ間を順方向に向けて挿入されている。一方,電流検出回路部307は同上ダイオードブリッジ102の負極出力端に挿入されている。
また,インダクタ315は,上記トランジスタからなるスイッチング素子316及びLEDランプ106相互間に挿入されており,上記シリーズ抵抗621はそのインダクタ315及びLEDランプ106相互間に挿入されている。
入出力電圧検出回路609は,出力電圧を検出するもので,出力電圧の検出値は入力電圧の検出値と同様にスイッチング制御回路部322に与える。
すなわち入出力電圧検出回路609は,ここでは出力電圧を検出してリミッタとしての役割を担っており,電源装置部(LEDランプ106を除いた回路部分)を,通常は電圧帰還型のスイッチング電源として機能させるが,LEDランプ106が接続された時には電流帰還型のスイッチング電源に切り替わって機能するようスイッチング制御回路部を制御すべく構成されている。
即ち,入力電圧検出回路609は,LEDランプに対する出力電圧を一定に保つための出力電圧レギュレータとして動作するもので,例えば,図6に示す回路では,出力電圧が16VでLEDランプが2Vの場合に,負荷が10mAを超えると出力電圧を2Vとする。換言すれば,出力電圧が2V乃至16Vの間では10mAの定電流動作をする。」(14頁22行〜15頁21行)オ「以上のように,本発明は,表示灯,消火栓灯,非常灯,あるいは券売機,自動販売機,エレベータ等の操作ボタンランプ等の表示や照明を行う装置または電源装置として用いられる。」(29頁9行〜11行)(2)前記ア及びイの記載によれば,引用例記載のLEDランプ装置は,商用交流電源をLEDランプの電源として用いる場合に,単に交流電圧を整流(全波整流)したものをLEDに直結しただけでは,一定電圧以上の期間中に入力される電力が無駄となり,損失が大きいという課題認識の下に,一定電圧以上の期間中の一部の期間でのみ電力を供給することによって,商用交流電源を用いた場合でも低損失でLEDを発光可能とするものであると認められる。
前記ウ及びエの記載によれば,引用例の発明の詳細な説明において,第2実施形態,第3実施形態として説明されているものは,いずれも第1の発明(引用発明)の実施例であることが認められ,両実施形態におけるスイッチング制御回路部322は,負荷(LEDランプ106)に定電流を供給するように動作することが第2実施形態,第3実施形態に共通の構成であると認められる。
(3)原告は,引用例には,LEDランプのPWM調光駆動について何ら記載がない上,LEDランプ106の連続的な点灯を前提としている引用発明において,PWM調光駆動を用いて調光機能を持たせようとする動機が当然に働くとはいえないと主張する。
しかし,PWM調光技術,すなわちパルス幅変調(Pulse Width Modulation)を用いて光の強度を調節する方法自体が周知技術であることは,当事者間に争いがなく,本願発明においても長時間の点灯等によりLEDランプのパルス電流が変化して,発光光量が変動するのを抑えることが目的とされており(本願明細書段落【0008】〜【0011】),一般的な動機付けがないわけではない。もっとも,当業者が引用発明にPWM調光技術を適用することが容易であるか否かについては,後記の技術的困難性を検討する必要があり,動機付けのみで判断することはできない。
(4)原告は,審決では,引用例の第3実施形態にも触れてはいるが,審決が認定した引用発明は,基本的には第3図の第2実施形態に対応するものであるから,被告の主張は,審決に基づかないものであり,失当であると主張する。
しかし,審決において第3実施形態及びこれに関係する第6図が摘示された上で,引用発明が認定されていることは明白であり,この点を無視した原告の主張は失当である。
(5)原告は,当業者が引用発明にPWM調光技術を適用することに想到することは困難であると主張し,被告はこれを争う。
ア引用例のLEDランプ装置は,第2実施形態のものも,第3実施形態のものも,引用例の第4図に示されるように,商用交流電源を全波整流して得られた波状の電圧のうち,例えば40V以上の期間中の一部の期間にのみ,LEDランプ106に一定の電力を供給するようにしたものである。そして,LEDランプ106に供給される電流は,スイッチング制御回路部322により,定電流となるように制御されている。
これに対し,PWM調光技術は,発光素子に供給する電流を一定の周期でオン・オフさせるものであり,そのままで直ちに引用例のLEDランプ装置に適用することはできない。
イ被告は,引用例の第3実施形態の場合は,LEDランプ106に供給する電流をオン・オフさせても問題はないとし,その理由として,引用例における第3実施形態に関する前記(1)エの記載を引用する。この記載によれば,第3実施形態の電源装置部は,スイッチング制御回路部を,通常は電圧帰還型のスイッチとして機能させるが,LEDランプ106が接続された時には電流帰還型のスイッチング電源に切り替わって機能するよう制御するのであるから,PWM調光技術を適用してLEDランプ106に供給する電流をオン・オフした場合,電流がオフの期間中は,電圧帰還型のスイッチとして機能するように切り替わることになり,特段の問題は生じないというのである。
しかし,前記(1)エの記載は,スイッチング制御回路が通常は電圧帰還型のスイッチとして機能するが,LEDランプ106が接続された時には電流帰還型のスイッチング電源に切り替わって機能するように制御されることを述べているにすぎず,これを実現するための具体的な構成については開示がない。
また,LEDランプ106を接続した状態で,PWM調光をしようとすると,LEDランプ106を接続したまま,150Hz程度の周期で供給する電流をオン・オフすることになるが,第3実施形態の回路では,下記の回路図(引用例の第6図)のとおり,フライホイールダイオード317(電流を還流させる機能を有する。),インダクタ315(電流の変化に逆らう機能を有する。),コンデンサ620(電荷を蓄積する機能を有する。)が接続されており,応答に時間要素を有する回路構成となっていることが認められる。
この点からすれば,LEDランプ106に流れる電流が150Hz程度でオン・オフしている状態で,電流がオフの期間中には電圧帰還型に,オンの期間中には電流帰還型に,スイッチング制御回路が速やかに切り替わるとは考えにくい。そうすると,引用例の前記(1)エの記載は,通常の場合は電圧帰還型のスイッチング電源として機能し,LEDのような電流制御型の負荷が接続されている場合は電流帰還型のスイッチング電源として機能するようなっているという以上の内容を有するものではなく,LEDランプ106が接続された状態で,これに供給する電流をオン・オフするような場合に自動的に切り替えることまでは想定したものではないと理解するのが自然である。
(6)当業者が引用発明にPWM調光技術を適用することが困難であるとして原告が主張する「電源の破壊」等についての技術的説明は必ずしも首肯するに足りる説得力を有するものとは言い難い。しかしながら,その趣旨は,引用発明のLEDランプは流れる電流が一定となるように制御されるのに対し,本願発明が採用するPWM調光駆動ではLEDに流れる電流をオン・オフさせる制御を行うのであるから,制御の方法において両者はなじまないという阻害要因を原告が指摘しているものと善解することが可能である。したがって,原告が主張するように「電源の破壊」に至らないとしても,審決が引用発明にPWM調光技術を適用することを妨げる事情について十分な検討をしないまま,当業者が引用発明にPWM調光技術を適用することに困難はないと判断したことは誤りである。
以上のとおり,発光強度を調節するという一般的要請があり,かつ,その手段としてPWM調光技術が周知であったとしても,引用例の第2又は第3実施形態のLEDランプ装置にPWM調光技術を適用することを妨げる事情があるから,引用例の記載に接した当業者が引用発明にPWM調光技術を適用しようとする動機付けも弱く,相違点に係る構成に容易に想到することができたとはいえない。
2結論以上に検討したところによれば,取消事由1には理由があり,その余の点について判断するまでもなく,審決は違法なものとして取消しを免れない。
よって,原告の請求は理由があるから審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 古閑裕二
裁判官 浅井憲