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関連審決 訂正2005-39074
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 発明者 /  創作性(創作) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  同一の発明 /  明瞭でない記載 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  独立特許要件 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10062号 審決取消請求事件
原告ミサワホーム株式会社
訴訟代理人弁護士松尾翼,小杉丈夫,西村光治,鈴木広文
同弁理士木下實三,中山寛二,石崎剛,土井清暢
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人伊波猛,高木彰,森山啓
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/07/19
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が訂正2005−39074号事件について平成18年1月4日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文と同旨第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「建物」とする特許第2912797号(平成5年8月26日出願,平成11年4月9日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許の特許権者である。
原告は,平成17年5月2日,本件特許につき訂正審判請求をし,特許請求の範囲減縮及び明瞭でない記載釈明を目的として,請求項1及び3ないし5を削除するとともに,請求項2を請求項1として後記2記載のように訂正すること並びに明細書の記載を訂正することを内容とする訂正審判請求(以下「本件訂正請求」といい,訂正後の請求項1を「訂正請求項1」という。)をした。
特許庁は,本件訂正請求を訂正2005-39074号事件として審理した結果,平成18年1月4日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月14日,審決の謄本が原告に送達された。
2特許請求の範囲訂正請求項1は,次のとおりである。
上部に収納スペース,下部に居室スペースを有する第1建物ユニットの上に,居室スペースのみを有する第2建物ユニットを設置して構成された第1構造体と,前記第1建物ユニットと同一構造の第1建物ユニットの上に,前記第2建物ユニットと同一構造の第2建物ユニットを設置して構成した第2構造体とを備え,すなわちこれら同一構造の第1構造体および第2構造体が,水平方向に隣り合って並設され,かつ,段違い状にスキップさせて配置されてなるスキップフロア型建物であって,前記各構造体の収納スペースの出し入れ口を,水平方向に隣り合う他の構造体の前記居室スペースに開口させたことを特徴とする建物。
(以下,訂正請求項1に係る発明を「本件訂正発明」という。)3審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件訂正請求は,特許請求の範囲減縮及び明瞭でない記載釈明を目的とするものであり,各訂正は,願書に添付された明細書又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり,実質的に特許請求の範囲拡張し,又は変更するものではないが,本件訂正発明は,本件特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないとするものである。独立特許要件について,本件訂正発明は,特開平4-97037号公報(甲第1号証。以下,審決と同様に「刊行物1」という。),特開平4-97040号公報(甲第2号証。以下,審決と同様に「刊行物2」という。)及び特開平3-161631号公報(甲第3号証。以下,審決と同様に「刊行物3」という。)に記載の周知のスキップフロア型建物並びに特開平5-25857号公報(甲第4号証。以下,審決と同様に「刊行物4」という。)に記載の発明の技術及び「別冊・都市住宅1975冬住宅第8集」,鹿島研究所出版会,昭和49年12月15日発行,2頁,58〜62頁,160頁,169頁,172頁(甲第5号証。以下,審決と同様に「刊行物5」という。)等に記載されているような周知の技術から,当業者が容易に発明することができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件訂正請求は,平成6年法律第116号による改正前の特許法126条3項の規定に適合せず,成り立たないというものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,刊行物1ないし5記載の発明(以下,それぞれを「刊行物1発明」ないし「刊行物5発明」という。)の内容及び本件訂正発明と刊行物1ないし3記載の各発明に係る周知のスキップフロア型建物との一致点及び相違点を次のとおり認定した。
(1)刊行物1発明の内容骨組み2に予め工場で壁材や床材,天井材等が取り付けられてなる住宅ユニット1の上に,同住宅ユニット1を設置して構成された住宅ユニット1の積み重ね構造体と,住宅ユニット1と前後寸法,左右寸法,高さ寸法がそれぞれ同一であって骨組み22に予め工場で壁材や床材,天井材等が取り付けられてなる住宅ユニット21の上に,同住宅ユニット21を設置して構成した住宅ユニット21の積み重ね構造体とを備え,これら住宅ユニット1の積み重ね構造体および住宅ユニット21の積み重ね構造体が,水平方向に隣り合って並設され,かつ,各住宅ユニット1,21の床60〜65を高さ方向に段違いにして配置されてなるスキップフロア型住宅(2)刊行物2発明の内容ボックス型の住宅ユニット3の上に,ボックス型の住宅ユニット3を設置して構成された住宅ユニット3の積み重ね構造体と,ボックス型の住宅ユニット4の上に,ボックス型の住宅ユニット4を設置して構成した住宅ユニット4の積み重ね構造体とを備え,これら住宅ユニット3の積み重ね構造体および住宅ユニット4の積み重ね構造体が,水平方向に隣り合って並設され,かつ,各住宅ユニット3,4の床を高さ方向に半階分ずらしてスキップフロアが形成されて配置されてなるスキップフロア型のユニット住宅1(3)刊行物3発明の内容統一された規格寸法で標準サイズとされた住宅ユニット1の上に,同住宅ユニット1を設置して構成された第1ユニット積重ブロック14と,同住宅ユニット1の上に,同住宅ユニット1を設置して構成した第2ユニット積重ブロック15とを備え,これら第1ユニット積重ブロック14および第2ユニット積重ブロック15が,水平方向に隣り合って並設され,かつ,各住宅ユニット1,1の床を高さ方向にずらしてスキップフロアが形成されて配置されてなるスキップフロア型工業化住宅8(4)刊行物4発明の内容複数の住宅ユニットが建設現場に搬送され,前後,左右,上下に組み合わせることによりユニット工法で建設される工業化住宅であって,上部に収納等に有効活用できる天井裏空間23,下部に居室空間24を有する収納庫付住宅ユニット10の上に,他の住宅ユニット10Aを設置してなる工業化住宅(5)刊行物5発明の内容居間Lの床に対して半階ずらせた寝室Bの床を設け,半階上の寝室Bの床下に収納,物置CLを設けてなる半階ずらせた床を有する住宅であって,前記収納,物置CLの出し入れ口を,居間L側に面して設けた住宅(6)一致点第1建物ユニットの上に,第2建物ユニットを設置して構成された第1構造体と,第1建物ユニットの上に,第2建物ユニットを設置して構成した第2構造体とを備え,これら第1構造体および第2構造体が,水平方向に隣り合って並設され,かつ,段違い状にスキップさせて配置されてなるスキップフロア型建物(7)相違点ア本件訂正発明は,第2構造体が,「(第1構造体の)第1建物ユニットと同一構造の第1建物ユニット」及び「(第1構造体の)第2建物ユニットと同一構造の第2建物ユニット」を備えたことによる「同一構造の第1構造体および第2構造体」であるのに対して,周知のスキップフロア型建物は,そのようなものであるのか否か定かでない点(以下,審決と同様に「相違点1」という。)イ本件訂正発明が,「各構造体」を「上部に収納スペース,下部に居室スペースを有する第1建物ユニットの上に,居室スペースのみを有する第2建物ユニットを設置して構成」したものであるのに対して,周知のスキップフロア型建物は,そのようなものではない点(以下,審決と同様に「相違点2」という。)ウ本件訂正発明が,「各構造体の収納スペースの出し入れ口を,水平方向に隣り合う他の構造体の前記居室スペースに開口させた」のに対して,周知のスキップフロア型建物は,そのようなものではない点(以下,審決と同様に「相違点3」という。)第3審決取消事由の要点審決は,周知技術の認定を誤って相違点を看過し(取消事由1),相違点1ないし3についての判断を誤り(取消事由2ないし4),容易想到性の判断を誤った(取消事由5)ものであるところ,これらの誤りがいずれも結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1取消事由1(周知技術認定の誤りによる相違点の看過)審決は,刊行物1ないし3の記載から,本件訂正発明における主たる構成を有する「スキップフロア型建物」とは,「第1建物ユニットの上に,第2建物ユニットを設置して構成された第1構造体と,第1建物ユニットの上に,第2建物ユニットを設置して構成した第2構造体とを備え,これら第1構造体および第2構造体が,水平方向に隣り合って並設され,かつ,段違い状にスキップさせて配置されてなるスキップフロア型建物」であると認定し,これは従来から周知のものであると認定する。
しかし,刊行物1ないし3には「上下に居室スペース,収納スペース,居室スペースと積み重ねられて第1構造体及び第2構造体が構成される」点が全く開示されていないにもかかわらず,審決は,この点も含めて全て周知技術であるという認定を行っているから,周知技術の認定を誤って相違点を看過したものである。
2取消事由2(相違点1に関する判断の誤り)(1)審決は,相違点1について,要旨,「周知のスキップフロア型建物において,各構造体を構成する第1建物ユニット及び第2建物ユニットについて,少なくとも躯体構造の点においては,各構造体間において,同一構造のものということができ」,本件訂正発明において,「『同一構造』の『同一』たる所以は,『収納スペース』及び『居室スペース』の配置構成或いは『収納スペース』の存否による」ところ,「第1建物ユニットと第2建物ユニットとは,何れも,『居室スペース』を有するものとして形成したもの」であり,「本件訂正発明と刊行物1〜3に記載の周知のスキップフロア型建物とは,各第1建物ユニットの内部構造の内容についてのみ相違点2にみられるような相違点は存在するものの,各構造体間における第1建物ユニット同士及び第2建物ユニット同士は,文言上,ともに内部構造を含めて『同一構造』のものということができる」か,「設計事項にすぎないものといわざるをえない。」と認定判断する。
しかし,本件訂正発明は,特許請求の範囲の記載上,第1建物ユニット同士,第2建物ユニット同士,第1構造体と第2構造体とが同一構造であることを規定したものであって,「躯体構造」「配置構成」「収納スペースの存否」「居室スペース」のみを捉えて同一構造であるということはできない。
(2)被告は,「スキップフロア型建物を構成する住宅ユニットが規格化された同一寸法からなるものであることが明らかであり,周知技術のスキップフロア型建物において,刊行物1及び3に記載された事項を考慮すれば,第1構造体の第1建物ユニット及び第2建物ユニット,並びに,第2構造体の第1建物ユニット及び第2建物ユニットをすべて規格化された同一寸法とすることは適宜なし得る程度の事項である。」と反論する。
しかし,被告の主張は,相違点2の相違点を除いて対比したとしても,刊行物1及び3に記載の技術的事項を,周知技術に適用して初めて成立するものであるから,被告の主張する「適宜なし得る程度の事項である。」とは,「周知技術に刊行物1発明又は刊行物3発明の技術を適用して,当業者が容易に発明できたものである。」との容易性の判断と同義と解釈すべきである。
(3)刊行物1ないし3には,収納スペースに関する記載が全くない以上,被告も認める「『同一構造』の『同一』たる所以は,『収納スペース』及び『居室スペース』の配置構成或いは『収納スペース』の存否によるもの」という本件訂正発明における「同一構造」が,周知技術及び上記技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
3取消事由3(相違点2に関する判断の誤り)審決は,相違点2について,刊行物4に記載の建物の技術を,周知のスキップフロア型建物の「各構造体」における「第1建物ユニット」の構成に適用して,本件訂正発明における相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に想到しえたものであると判断する。
(1)しかし,居室スペース+収納スペース+居室スペースで構成される構造体を二つ並設配置してスキップフロア型建物を構成することまでが容易に想到できたとはいえない。なぜなら,一方の構造体だけに天井裏のスペースを収納庫を設定したほうが,収納スペースへの収納物の出し入れは容易であり,特にスキップフロア型建物とする必要性は生ぜず,本件訂正発明の課題自体が与えられない。
(2)原告は,刊行物4記載の技術を周知のスキップフロア型建物にも適用し得ること及び「上下の居室スペース間に,家屋の広域を占める大きさの収納室を設けること」が従来から周知の技術であることは,争わない。確かに,相違点2について,「第1構造体」又は「第2構造体」のいずれか一方に刊行物4記載の構造を適用することは,当業者が容易に発明できたことかも知れないが,「各構造体」に刊行物4記載の構造を適用することまでも当業者容易であるとはいえない。
(3)被告は,相違点2に係る本件訂正発明について,「居室スペース+収納スペース+居室スペースで構成される構造体を2つ並設配置してスキップフロア型建物を構成すること」又は「居室スペース+収納スペース+居室スペースという全く同じ構造体を併設する」という構成は,当業者であれば適宜なし得る程度の事項であると判断し,隣接する2つの構造体が同一であることを前提とした主張をするが,審決は,「周知のスキップフロア型建物は,『同一構造の第1構造体及び第2構造体』であるのか否か定かでない」(相違点1)と認定しており,相違点2についての主張は,相違点1を無視ないしは看過したものであり,論理的に矛盾したものである。
4取消事由4(相違点3に関する判断の誤り)審決は,相違点3について,収納スペースの出し入れ口を水平方向に隣り合う空間に開口させることは当業者に自明であると認定する。
(1)しかし,「他の構造体の」隣接する空間に開口させることまでも周知ということはできない。刊行物5には,収納スペースの出し入れ口を対面する居室に開口させるごとき技術手段は開示されていない。刊行物5記載の物置CLの出し入れ口が開口する「踊り場」は,「階段の中途を広くして,足休めとした所」を意味し,居室スペースとは異なる部位であり,本件訂正発明における「居室スペースに開口させた」ものではない。刊行物5記載の物置CLの出し入れ口は,「『居間L』から『収納,物置CLの出し入れ口』を臨める状態」となっているものの,収納物の収納に際して,「居間L」を利用して収納物を取り扱うような構成とはなっていない。
(2)被告は,乙第4ないし第10号証により,「スキップフロアを有する住宅において,収納室を備えた部屋を上下にずらして水平方向に隣接させ,一方の部屋側の収納室に対して他方の部屋側から収納物を出し入れできるようにすること」及び「一般の住宅において,収納スペースの出し入れ口を水平方向に隣り合う空間に開口させること」は,従来から周知の技術であることは明らかであると主張する。
しかしながら,乙第4及び第5号証記載の構造は,単一の構造体内に形成された空間内に,中間スラブの如き床版を設置することによりスキップフロアを形成しているものであり,あくまでも同一の構造体内部で隣接した居室に開口させているにすぎない。また,乙第6及び第7号証は,建物構造が明確でなく,「同一構造の第1構造体及び第2構造体」を並設して構成されているかどうか不明であるから,相違点3に係る本件訂正発明のように,「隣接する他の構造体の居室スペース」に開口させたとはいえない。
乙第4号証及び乙第8ないし第10号証の出願人及び発明者は同一であり,しかも同日に出願されたものである。よって,これらの証拠に開示された発明に基づいて,「スキップフロアを有する住宅において,一方の部屋側の収納室の出し入れ口が,他方の部屋側に開口し,他方の部屋側の収納室の出し入れ口が,一方の部屋側に開口している」ことが周知技術であると認定することはできない。また,これらの証拠では,単一の構造体内に形成された大きな空間を,中間スラブの如き床版を設置して仕切ることにより,スキップフロアを形成する構造であるのに対し,刊行物1ないし3記載のスキップフロア型建物は,並設配置される二つの構造体において,互いの構造体の床位置を違えた構造である。したがって,スキップフロアを形成するための基礎となる構造が全く異なるものであるから,刊行物1ないし3発明に,これらの証拠記載の技術事項を適用することは,当業者が適宜なし得る事項であるとは認められない。
5取消事由5(容易想到性に関する判断の誤り)審決は,相違点1について,刊行物1及び3の記載から導かれる「上記周知の発明以外の」技術的事項を適用し,相違点2については,刊行物4の記載から導かれる技術的事項を適用し,相違点3については,乙第4ないし第7号証から導かれる周知技術を適用して,本件訂正発明について,進歩性がないと判断しており,各相違点について,すでに「容易」の判断をしているのであるから,本件訂正発明については「容易の容易」の判断をしていることになり,特許法29条2項の規定に反する。
審決は,周知のスキップフロア型建物について,相違点1を格別のものではないとして解決し,相違点2を周知発明に刊行物4記載の技術を適用して解決し,その結果創作された発明に対して,他の技術手段(乙第4ないし第7号証)を適用して相違点3を得る手法を,単に「容易」と判断するのみであるが,このような判断は特許法29条2項の規定に違反していることは明らかであり,取消しは免れ得ない。
第4被告の反論の骨子審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1取消事由1(周知技術認定の誤りによる相違点の看過)について刊行物1ないし3発明は,「第1建物ユニットの上に,第2建物ユニットを設置して構成された第1構造体と,第1建物ユニットの上に,第2建物ユニットを設置して構成した第2構造体とを備え,これら第1構造体および第2構造体が,水平方向に隣り合って並設され,かつ,段違い状にスキップさせて配置されてなるスキップフロア型建物。」という共通した技術を有している。原告が取消事由1として主張する点は,審決において相違点2として認定されており,相違点の看過はない。
2取消事由2(相違点1に関する判断の誤り)について相違点1における「同一構造」については,単に,「同一構造の第1建物ユニット」,「同一構造の第2建物ユニット」,「同一構造の第1構造体および第2構造体」とされているのであるから,本件訂正発明における「同一構造」の「同一」たる所以は,「収納スペース」及び「居室スペース」の配置構成或いは「収納スペース」の存否による。刊行物1及び3をみると,何れの住宅ユニット1も規格化された同一寸法からなるものであることは明らかであるから,周知技術のスキップフロア型建物において,刊行物1及び3に記載された事項を考慮すれば,第1構造体の第1建物ユニット及び第2建物ユニット,並びに,第2構造体の第1建物ユニット及び第2建物ユニットをすべて規格化された同一寸法とすることは適宜なし得る程度の事項である。
よって,本件訂正発明の「同一」とは,審決において,「本件訂正発明の,第2構造体が,「(第1構造体の)第1建物ユニットと同一構造の第1建物ユニット」及び「(第1構造体の)第2建物ユニットと同一構造の第2建物ユニット」を備えたことによる「同一構造の第1構造体および第2構造体」であるとの相違点1に係る構成の点において,第1建物ユニットの内部構造に係る相違点2の相違点を除く限りにおいては,周知のスキップフロア型建物に比して格別のものであるということはできない。」とした点に,何ら誤りはない。
3取消事由3(相違点2に関する判断の誤り)について審決が認定した「上下の居室スペース間に,家屋の広域を占める大きさの収納室を設けること」は,乙第1ないし第3号証にあるように周知である。また,乙第4及び第8ないし第10号証に記載されているように,「スキップフロアを有する住宅において,隣接する部屋のそれぞれの天袋部或いは床下部に収納室を設け,一方の部屋側に設けた収納室内の収納物を他方の部屋側から出し入れでき,他方の部屋側に設けた収納室内の収納物を一方の部屋側から出し入れできるようにしたこと」は,周知の技術である。
スキップフロア型建物についての発明である刊行物1ないし3発明に,本件訂正発明と同様,「ユニット工法で建設される工業化住宅」に関する技術である刊行物4発明の技術を適用するに際し,住宅内の部屋(居室スペース)と収納室(収納スペース)とを水平方向に隣接する高さに配置し,収納室の出し入れ口が隣接する部屋の側に開口するようにすることは,乙第4号証記載の周知技術及び及び建物内の居室スペース及び収納室(収納スペース)の配置に関する技術であって,収納能力の向上等のために広域部分に亘って居室スペース間に収納室(収納スペース)を設けるようにした乙第1ないし3号証記載の周知技術を考慮すれば,本件訂正発明のように,居室スペース+収納スペース+居室スペースで構成される構造体を二つ並設配置してスキップフロア型建物を構成することは,当業者であれば適宜行い得る程度の事項である4取消事由4(相違点3に関する判断の誤り)について刊行物5の61頁の写真及び62頁の「2階平面」図によれば,「踊り場」には,それと同一平面上で「居間L」が連なって,「踊り場」の空間と「居間L」の空間とが格別の区画もなしに連続し,「居間L」から「収納,物置CLの出し入れ口」を臨める状態になっている部屋構造が記載されているものと推測され,これによれば,「踊り場」が間に介在するからといって,直ちに,上記「収納,物置CLの出し入れ口を,居間L側に面して設けた」との認定に誤りがあるとはいえないし,訂正請求項1には,出し入れ口が居室スペースに「対面する」とか,出し入れ口が居室スペースに「面する」などと規定されていない。
仮に刊行物5発明の認定に,原告が主張するような誤りがあるとしても,乙第4ないし第7号証に記載されているように,収納スペースの出し入れ口を水平方向に隣り合う隣接する部屋空間に開口させることが周知技術といえるものであり,しかも,このような周知技術を,スキップフロア型建物についての発明である刊行物1ないし3発明に適用することについては,格別の阻害要因がないことは明らかである。
5取消事由5(容易想到性に関する判断の誤り)について審決では,周知技術であるとしたスキップフロア型建物における各構造体を構成する第1建物ユニットの構成に,刊行物4及び5発明の技術及び周知技術を適用して容易に想到するとしているのであり,いわゆる「容易の容易」の判断を行ってはいない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(周知技術認定の誤りによる相違点の看過)について原告は,刊行物1ないし3には「上下に居室スペース,収納スペース,居室スペースと積み重ねられて第1構造体及び第2構造体が構成される」点が全く開示されていないにもかかわらず,審決は,この点も含めて全て周知技術であるとの認定を行っているから,周知技術の認定を誤って相違点を看過したものであると主張する。
そこで,検討するに,審決は,本件訂正発明における主たる構成を「第1建物ユニットの上に,第2建物ユニットを設置して構成された第1構造体と,第1建物ユニットの上に,第2建物ユニットを設置して構成した第2構造体とを備え,これら第1構造体および第2構造体が,水平方向に隣り合って並設され,かつ,段違い状にスキップさせて配置されてなるスキップフロア型建物」であると認定し,これは,刊行物1ないし3の記載から認められる周知のスキップフロア型建物の構成であるとした上で,本件訂正発明と上記の周知のスキップフロア型建物との相違点を認定している。そして,審決は,相違点2として,「本件訂正発明が,『各構造体』を『上部に収納スペース,下部に居室スペースを有する第1建物ユニットの上に,居室スペースのみを有する第2建物ユニットを設置して構成』したものであるのに対して,周知のスキップフロア型建物は,そのようなものではない点」を認定している。
以上の審決の認定判断から明らかなように,審決は,「上下に居室スペース,収納スペース,居室スペースと積み重ねられて第1構造体及び第2構造体が構成される」点は,相違点2として認定しているものと認められるから,これが一致点に含まれるとする原告の上記主張は,審決を正解しないことに基づくものであって失当である。
2取消事由2(相違点1に関する判断の誤り)について(1)審決は,相違点1として,「本件訂正発明は,第2構造体が,『(第1構造体の)第1建物ユニットと同一構造の第1建物ユニット』及び『(第1構造体の)第2建物ユニットと同一構造の第2建物ユニット』を備えたことによる『同一構造の第1構造体および第2構造体』であるのに対して,周知のスキップフロア型建物は,そのようなものであるのか否か定かでない点」を認定している。
訂正請求項1においては,「上部に収納スペース,下部に居室スペースを有する第1建物ユニットの上に,居室スペースのみを有する第2建物ユニットを設置して構成された第1構造体と,前記第1建物ユニットと同一構造の第1建物ユニットの上に,前記第2建物ユニットと同一構造の第2建物ユニットを設置して構成した第2構造体とを備え,すなわちこれら同一構造の第1構造体および第2構造体が,水平方向に隣り合って並設され,かつ,段違い状にスキップさせて配置されてなるスキップフロア型建物」と規定されている。上記記載によれば,ここにいう「同一構造」とは,@第1構造体を構成する第1建物ユニット及び第2構造体を構成する第1建物ユニットの構造が同一であること,A第1構造体を構成する第2建物ユニット及び第2構造体を構成する第2建物ユニットの構造が同一であること,B第1構造体及び第2構造体のいずれにおいても,第1建物ユニットの上に第2建物ユニットが配置されることを意味し,これら@ないしBの構成の全てを具備することを規定したものであることは明らかである。審決はこの点につき,相違点1の摘示部分においては,上記Bの点が明示されてはいないが,相違点1についての判断の中に,「本件訂正発明に係る請求項1の記載によれば,『同一構造』の『同一』たる所以は,『収納スペース』及び『居室スペース』の配置構成或いは『収納スペース』の存否によるものであると認められる」とある点からみて,審決は上記Bの点を本件訂正発明の構成として認識していたものと認めることができる。したがって,審決のした相違点1の認定が誤りであるということはできない。
(2)「同一構造」の意味及び審決の趣旨は,前記(1)のとおりであるから,相違点1は,「本件訂正発明においては,上記@ないしBの点において同一構造であるのに対して,周知のスキップフロア型建物は,そのようなものであるのか否か定かでない点」と再構成することができるので,これを基にして審決の判断を検討する。
刊行物1の第2図における「スキップフロア用住宅ユニット1」が上下に2個配置されたもの,「スキップフロア用住宅ユニット21」が上下に2個配置されたものは,それぞれ,本件訂正発明の第1構造体,第2構造体に相当し,刊行物2の第1図における「住宅ユニット3」が上下に2個配置されたもの,「住宅ユニット4」が上下に2個配置されたものは,それぞれ,本件訂正発明の第1構造体,第2構造体に相当し,刊行物3の第2図における「標準サイズの住宅ユニット1」が上下に2個配置された「第1ユニット積重ブロック14」,「標準サイズの住宅ユニット1」が上下に2個配置された「第2ユニット積重ブロック15」は,それぞれ,本件訂正発明の第1構造体,第2構造体に相当する。本件訂正発明における「同一構造」は,上記@ないしBのとおり,いずれも第1構造体と第2構造体との関係をいうから,刊行物1ないし3発明において,本件訂正発明の第1構造体に相当するものと第2構造体に相当するものとの関係において,上記@ないしBの意味で「同一構造」とすることは,いずれも当業者が必要に応じて適宜決定することができる事項である。したがって,相違点1について,「同一構造」とすることは設計事項にすぎないとした審決の判断は,結論において相当である。
(3)原告が相違点1についてするその余の主張は,審決の相違点1に関する説示の不適切性を指摘するものか,相違点1以外の相違点に関するものにすぎず,いずれも,採用することはできない。
3取消事由3(相違点2に関する判断の誤り)について(1)原告は,刊行物4記載の技術を周知のスキップフロア型建物にも適用し得ること及び「上下の居室スペース間に,家屋の広域を占める大きさの収納室を設けること」が従来から周知の技術であることは,争わないが,相違点2について,「第1構造体」又は「第2構造体」のいずれか一方に刊行物4記載の構造を適用することは,当業者が容易に発明できたことかも知れないが,「各構造体」に刊行物4記載の構造を適用することまでも当業者にとって容易であるとはいえない,すなわち,居室スペース+収納スペース+居室スペースで構成される構造体を二つ並設配置してスキップフロア型建物を構成することまでが容易に想到することができたとはいえないと主張する。
しかし,「第1構造体」又は「第2構造体」のいずれか一方に刊行物4記載の構造を適用すること,すなわち「第1構造体」又は「第2構造体」のいずれか一方に,上部に収納スペース,下部に居室スペースを有する建物ユニットを採用して大きな収納スペースを設けることが当業者にとって容易である以上,スキップフロアを構成する他方の構造体にも上記構成を採用して「第1構造体」及び「第2構造体」の双方に刊行物4記載の構造を適用することにより,収納スペースを倍増させるという作用効果を奏しようとする程度のことは,当業者が適宜行う設計事項であるということができる。したがって,原告の主張を採用することはできない。
(2)原告は,審決が「周知のスキップフロア型建物は,『同一構造の第1構造体及び第2構造体』であるのか否か定かでない」(相違点1)と認定しており,相違点2についての主張は,相違点1を無視ないしは看過したものであり,論理的に矛盾したものであると主張する。
審決は,相違点2を「本件訂正発明が,『各構造体』を『上部に収納スペース,下部に居室スペースを有する第1建物ユニットの上に,居室スペースのみを有する第2建物ユニットを設置して構成』したものであるのに対して,周知のスキップフロア型建物は,そのようなものではない点」と認定する。
しかし,前記2のとおり,第1構造体及び第2構造体のいずれにおいても,第1建物ユニットの上に第2建物ユニットが配置されることは,相違点1の「同一構造」に含まれる(前記2B)から,相違点1との関係を考慮すれば,相違点2は,本来,「本件訂正発明の第1構造体及び第2構造体のいずれにおいても,第1建物ユニットは『上部に収納スペース,下部に居室スペースを有する』構造で,第2建物ユニットは『居室スペースのみを有する』構造であるのに対して,周知のスキップフロア型建物は,そのようなものであるのか否か定かでないはない点」と摘示されるべきであったということができる。
相違点2の摘示を上記のように再構成するならば,刊行物4発明に,上部に収納スペース,下部に居室スペースを有する構造の「収納庫付住宅ユニット」が示され,周知のスキップフロア型建物の第1構造体及び第2構造体を構成する各第1建物ユニットを技術分野が共通である刊行物4記載の構造とし,各第2建物ユニットを居室スペースのみの構造とすることに何ら困難はない。したがって,相違点2について,周知のスキップフロア型建物に刊行物4発明を組み合わせることが当業者にとって容易であるとした審決の判断は,結論において相当である。
4取消事由4(相違点3に関する判断の誤り)について(1)相違点3に関する本件訂正発明の構成は,次のように理解することができる。
訂正請求項1によると,本件訂正発明は,下記の@ないしDの各構成をいずれも満たす第1構造体及び第2構造体が「水平方向に隣り合って並設され,かつ,段違い状にスキップさせて配置されてなるスキップフロア型建物であって,前記各構造体の収納スペースの出し入れ口を,水平方向に隣り合う他の構造体の前記居室スペースに開口させたことを特徴とする建物」である。
記@第1構造体を構成する第1建物ユニット及び第2構造体を構成する第1建物ユニットの構造が同一であること(前記2@)。
A第1構造体を構成する第2建物ユニット及び第2構造体を構成する第2建物ユニットの構造が同一であること(前記2A)。
B第1構造体及び第2構造体のいずれにおいても,第1建物ユニットの上に第2建物ユニットが配置されること(前記2B)。
C第1構造体及び第2構造体のいずれにおいても,第1建物ユニットは上部に収納スペース,下部に居室スペースを有する構造であること。
D第1構造体及び第2構造体のいずれにおいても,第2建物ユニットは居室スペースのみを有する構造であること。
これによれば,水平方向に隣り合って並設される同一構造の第1構造体及び第2構造体において,「各構造体の収納スペースの出し入れ口を,水平方向に隣り合う他の構造体の前記居室スペースに開口させ」るためには,出し入れ口を居室スペースに開口させるだけでなく,一方の構造体にある収納スペースが他方の構造体にある居室スペースに水平方向に隣接するように,各構造体の高さを調節し,配置しなければならない。その結果,同一構造をもつ第1構造体及び第2構造体の居室スペースの床面の高さは,隣接する両構造体間で異なることになり,必然的にスキップフロア型建物となる。訂正請求項1は,その文言自体から,水平方向に隣接する両構造体を床面の高さ(階)が異なるように配置することによって,第1構造体の収納スペースが第2構造体の居室スペースから出し入れ可能になるとともに,第2構造体の収納スペースが第1構造体の居室スペースから出し入れ可能になるという技術思想を含むものと理解することができる。
そこで,相違点3に係る本件訂正発明の構成を上記のように理解した上で,以下に検討する。
(2)審決は,周知のスキップフロア型建物の「各構造体」における「第1建物ユニット」の構成に,刊行物4発明の技術を適用し,その際に,刊行物5等に記載の周知の技術を考慮して,本件訂正発明における相違点3に係る構成とすることは,当業者が容易に想到しえたと判断するのに対し,原告は,相違点3について,収納スペースの出入口を水平方向に隣り合う空間に開口させることは当業者に自明ではないと主張する。
ア審決が認定した刊行物4発明は,「複数の住宅ユニットが建設現場に搬送され,前後,左右,上下に組み合わせることによりユニット工法で建設される工業化住宅であって,上部に収納等に有効活用できる天井裏空間23,下部に居室空間24を有する収納庫付住宅ユニット10の上に,他の住宅ユニット10Aを設置してなる工業化住宅」というものであり,住宅ユニットを組み合わせて住宅を構成する点において,本件訂正発明と技術分野が共通する。しかし,刊行物4には,「前述の各実施例において,天井裏空間23への収納は収納庫付住宅ユニット10,40の居室空間24から行われていたが,上階に配置された住宅ユニット10Aの床材25に連通手段29を設け,当該住宅ユニット10Aの床下収納庫としても良く,また連通手段29が構面17,45と床材25との両方に設けても良い。このようにすれば,天井裏空間23は収納庫付住宅ユニット10,40と住宅ユニット10Aとの両方から利用可能となる。」(段落【0032】)との記載があり,収納庫の利用は,居室からみて天井裏,上階の居室からみて床下及びこれらの併用の3通りがあるだけで,収納庫と水平方向に隣接する居室から出し入れする技術は開示されていない。また,刊行物4発明は,スキップフロア型建物を前提としない発明であり,天井裏空間の収納庫としての利用方法もスキップフロア型建物と有機的な関係を持っていない。したがって,審決の認定した「周知のスキップフロア型建物」に刊行物4発明を組み合わせただけでは,相違点3に係る本件訂正発明の構成に至ることはできない。
イ審決は,刊行物5発明を「居間Lの床に対して半階ずらせた寝室Bの床を設け,半階上の寝室Bの床下に収納,物置CLを設けてなる半階ずらせた床を有する住宅であって,前記収納,物置CLの出し入れ口を,居間L側に面して設けた住宅」と認定しており,刊行物5によれば,刊行物5記載の建物はスキップフロア型建物であり,刊行物5記載の「物置CL」,「居間L」は,それぞれ,本件訂正発明の「収納スペース」,「居室スペース」に相当すると認められる。
しかし,刊行物5の記載によれば,刊行物5の建物が建物ユニットによって構成されているとは認められないだけでなく,刊行物5の建物には1個の収納庫(収納スペース)と水平方向に隣接する1個の居室(居室スペース)からの出し入れが可能な構造一組があるにすぎず,階を異にして出し入れ可能な収納庫(収納スペース)と居室(居室スペース)の構造二組を有する本件訂正発明の構成とは異なる。したがって,刊行物5発明を考慮しても,本件訂正発明の奏する2個の収納スペースが階を異にする2個の居室スペースからそれぞれ利用可能であるとの効果は生じない。審決の認定した「周知のスキップフロア型建物」に刊行物4発明の技術を適用し,その際に,刊行物5記載の周知の技術を考慮しただけでは,相違点3に係る本件訂正発明の構成に至ることはできない。
なお,原告は,刊行物5記載の物置CLの出し入れ口が開口する「踊り場」は,居室スペースとは異なる部位であり,本件訂正発明における「居室スペースに開口させた」ものではないと主張する。しかし,刊行物5の61頁の写真及び62頁の「2階平面」図をみると,「踊り場」には,同一平面上で「居間L」が連なっていることを見て取ることができ,本件訂正発明は,「居室スペースに直接開口させた」と規定されていないから,踊り場等を介して間接的に居室スペースに開口させたものも含まれ,刊行物5のものも,本件訂正発明における「居室スペースに開口させた」ものであると認められる。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
ウ審決は,刊行物5のほかに,「等」として周知技術をも考慮すると記載しているところ,これは,審決記載の特開平4-31557号公報(乙第4号証),特開平4-31558号公報(乙第8号証),特開平4-31560号公報(乙第9号証),実願平2-55492号(実開平4-14642号)のマイクロフィルム(乙第10号証)を意味する(以下,乙第4及び第8ないし第10号証をまとめて「乙4等」という。)。乙4等には,審決の認定するとおり,「何れにも,ダイニングキッチンの天袋部に設けた天袋回転収納装置に対して寝室側から収納物を出し入れでき,寝室の床下部に設けた床下回転収納装置に対してダイニングキッチン側から収納物を出し入れできる住宅」が記載されている。
しかし,乙4等は,同一の発明者,同一の出願人による同日の出願であり,乙4等に記載された技術が当業者に広く知られていたことの証拠とはいえない。また,乙4等には,建物ユニットを組み合わせて建物を構成する旨の記載がなく,本件訂正発明と技術分野の共通性に乏しい。また,審決が刊行物1ないし3から認定した「周知のスキップフロア型建物」は,いずれも建物ユニットを組み合わせて建物を構成するものであるから,乙4等記載の技術を「周知のスキップフロア型建物」に適用するためには,この見地から適用の可能性を検討する必要があるところ,審決において,この見地からの検討はみられない。
仮に,建物ユニットの点を除いたとしても,乙4等では,床面の高さが異なる居室を隣接させ(これだけで,スキップフロア型建物ということができる。),床面が低い方の居室の天井裏に相当する部分及び床面が高い方の居室の床下に相当する部分をいずれも収納スペースとして隣の居室から利用可能にしたものと解することができるが,隣接する部屋の構造(上下に隣り合う居室スペースと収納スペースの配置)が同一になることはない(構造が同一であれば,スキップフロア型建物ではないことになる。)。
エ以上の検討結果によれば,周知のスキップフロア型建物の「各構造体」における「第1建物ユニット」の構成に,刊行物4発明の技術を適用し,その際に,刊行物5及び乙4等記載の周知技術を考慮しても,本件訂正発明における相違点3に係る構成に至ることはできない。したがって,当業者が容易に想到することができたとする審決の判断は誤りである。
5取消事由5(容易想到性に関する判断の誤り)について原告の主張する取消事由4及び5は,いずれも進歩性(特許法29条2項)に関するものであり,前記4のとおり,相違点3についてした審決の判断は誤りであって,取消事由4には理由があるから,取消事由5について判断する必要はない。
6結論以上に検討したところによれば,相違点3について審決のした判断には誤りがあり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,審決は違法なものとして取消しを免れない。
よって,原告の請求は理由があるから審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 古閑裕二
裁判官 浅井憲