• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14ワ6241特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成16ワ24626特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14ワ3043特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成16ワ8682損害賠償請求事件 判例 特許
平成11ワ12586特許権侵害差止等請求事件 平成13ワ3381特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  産業上利用(29条1項柱書) /  自然法則 /  技術的思想 /  創作性(創作) /  物の発明 /  製造方法 /  新規性 /  公然知られ(29条1項1号) /  公然実施(29条1項2号) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術的範囲 /  技術的手段 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  パリ条約 /  優先権 /  着想 /  クレーム /  抵触 /  薬事法 /  後発医薬品 /  権利の濫用(権利濫用) /  特許出願日 /  製造承認 /  数値限定 /  容易に想到(容易想到性) /  不存在 /  特許発明 /  実施 /  先使用権(先使用) /  加工 /  構成要件 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  実施権 /  通常実施権 /  知らないで /  発明の実施である事業 /  事業の準備 /  発明の範囲 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 /  異議申立 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 15年 (ワ) 19324号 特許権侵害差止請求権不存在確認請求事件
原告 日本製薬株式会社
原告訴訟代理人弁護士 中島和雄
被告 味の素株式会社
被告訴訟代理人弁護士 田中克郎
同 千葉尚路
同 森ア博之
同 吉野正己
同 安藤誠悟
同補佐人弁理士 稲葉良幸
同 深澤拓司
同 佐藤睦
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2005/02/10
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告による別紙「原告製法目録」記載の方法による別紙「原告製剤目録」記載の「ブラニュート顆粒」の製造及び前記方法により製造した前記「ブラニュート顆粒」の販売について,被告が特許第3341771号の特許権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを2分し,各1を原告及び被告の各負担とする。
事実及び理由
原告の請求
1 主文第1項と同じ。
2 原告による別紙「原告製剤目録」記載の「ブラニュート顆粒」の製造及び販売について,被告が特許第3211824号の特許権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
事案の概要
1 原告は,別紙「原告製法目録」記載の方法(以下「原告製法」という。)により,別紙「原告製剤目録」記載の「ブラニュート顆粒」(以下「原告製剤」という。)を製造し,これを販売している。被告は,分岐鎖アミノ酸含有医薬用顆粒製剤とその製造方法に関する特許権(後記本件第1特許権)及び顆粒の造粒方法に関する特許権(後記本件第2特許権)を有しているところ,原告に対し,原告製剤ないし原告製法が上記各特許権を侵害すると主張して,原告の製造販売の中止を求めている。
本件は,原告が,被告を相手方として,原告が原告製法により原告製剤を製造し,原告方法によって製造した原告製剤を販売することについて,被告が上記各特許権に基づいてこれを差し止める権利を有しないことの確認を求めた事案である。原告の上記確認請求に対して,被告は,原告製剤ないし原告製法は,本件第1特許権の請求項1,3の特許発明,本件第2特許権の請求項1,2の特許発明技術的範囲に属すると主張して,原告の請求を争っている。
2 前提となる事実(争いのない事実及び該当箇所末尾掲記の各証拠により容易に認められる事実) (1) 原告は,医薬品及び医薬部外品の製造並びに販売等を業とする株式会社である。
被告は,調味料,医薬品等の製品,その原材料,副産物及び関連製品の製造,加工,売買,輸出入及び研究開発業務等を業とする株式会社である。
(2) 被告は,平成8年1月31日,分岐鎖アミノ酸製剤「リーバクト顆粒」について,新医療用配合剤として薬事法上の製造承認を得て,同年5月から販売を開始した(以下「被告製剤」という。甲6)。
なお,被告製剤の再審査期間は,平成14年1月30日までの6年間と設定された。
(3) 被告は,平成12年10月26日ないし平成14年1月30日に,次の各発明につき,特許出願し,特許権者として登録を受けた。
ア 特許第3211824号(以下「本件第1特許権」といい,同特許権に係る発明を「本件第1特許発明」,同特許発明に係る明細書を「本件第1特許明細書」という。また,本件第1特許権に係る公報(甲1)を「本件第1公報」という。甲1,2)。
(ア) 発明の名称 分岐鎖アミノ酸含有医薬用顆粒製剤とその製造方法 (イ) 出願日 平成12年10月26日 (ウ) 出願番号 特願2000-326513 (エ) 登録日 平成13年7月19日 (オ) 本件第1特許明細書の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,各請求項に係る発明を「本件第1特許発明請求項1」などという。)。 【請求項1】粒度を20〜700μmに調整されているイソロイシン粒子とロイシン粒子を含むイソロイシン,ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸の粒子のみを主薬とし,イソロイシン/ロイシン/バリン=1/1.9〜2.2/1.1〜1.3の重量比である造粒原料を造粒することを特徴とする,含量均一性の良好な医薬用顆粒製剤の製造方法
【請求項2】前記イソロイシン粒子とロイシン粒子の粒度が50〜500μmであることを特徴とする請求項1記載の含量均一性の良好な医薬用顆粒製剤の製造方法
【請求項3】粒度を20〜700μmであるイソロイシン粒子とロイシン粒子を含むイソロイシン,ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸の粒子のみを主薬とし,イソロイシン/ロイシン/バリン=1/1.9〜2.2/1.1〜1.3の重量比である造粒原料を使用して製造されていることを特徴とする,含量均一性の良好な医薬用顆粒製剤。
【請求項4】前記イソロイシン粒子とロイシン粒子の粒度が50〜500μmであることを特徴とする,請求項3記載の含量均一性の良好な医薬用顆粒製剤。
イ 特許第3341771号(以下「本件第2特許権」といい,同特許権に係る発明を「本件第2特許発明」,同特許発明に係る明細書を「本件第2特許明細書」という。また,本件第2特許権に係る公報(甲3)を「本件第2公報」という。甲3,4)。
(ア) 発明の名称 顆粒の造粒方法 (イ) 優先権主張 平成13年9月28日 (ウ) 優先権主張番号 特願2001-299210 (エ) 出願日 平成14年1月30日 (オ) 出願番号 特願2002-22157 (カ) 登録日 平成14年8月23日 (キ) 本件第2特許明細書の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,各請求項に係る発明を「本件第2特許発明請求項1」などという。)。
【請求項1】イソロイシン,ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸を含有する粒子混合物に練合水を加えて練合し,押出造粒機により押出造粒する際に,押出造粒機に供給する練合物の温度を30℃〜0℃に調節することを特徴とする,イソロイシン,ロイシン及びバリンの3種類の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法
【請求項2】前記練合物の温度を,練合に使用される練合水の温度を調節することによって前記温度範囲に調節することを特徴とする請求項1記載のイソロイシン,ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする,医薬用顆粒の製造方法
【請求項3】前記押出造粒機内において,さらに練合物の温度を30℃〜0℃に調節,維持することを特徴とする請求項1又は2に記載のイソロイシン,ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法
【請求項4】前記粒子混合物及び/又は練合水は,造粒用の結合剤を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のイソロイシン,ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法
【請求項5】イソロイシン,ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸を含有する粒子混合物に練合水を加えて練合し,押出造粒機により押出造粒する際に,押出造粒機内において練合物の温度を30℃〜0℃に調節することを特徴とする,イソロイシン,ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法。 (4) 原告は,平成15年3月12日に,分岐鎖アミノ酸製剤「ブラニュート顆粒」について,薬事法に基づき,被告製剤の後発医薬品として製造承認を受けた(原告製剤,甲8)。
原告製剤の構成は,別紙「原告製剤目録」記載のとおりであり,原告製剤の製造方法は,別紙「原告製法目録」記載のとおりである(甲14の1,2)。
(5) 原告は,原告製剤の販売に先立ち,被告に対して,原告製剤が被告の有する特許権を侵害していないことの確認を求めたが,被告は,原告製剤が本件第1特許権及び本件第2特許権を侵害している旨の見解を示した。
(6) 原告は,暫定的に,原告製剤のイソロイシン及びロイシン粉末の粒度を変更した製品を製造して販売している(甲9)。
3 争点 (1) 本件第1特許発明請求項1,3の特許請求の範囲における「粒度」が「個々の粒子の粒子径」を意味するものか「体積基準メジアン径」を意味するものか(争点1) (2) 本件第1特許発明請求項1,3について,原告が先使用による通常実施権を有するか(争点2) (3) 被告が,原告製剤及びその製造方法をもって本件第1特許発明請求項1,3の技術的範囲に属するとして,第1特許権に基づく権利を行使することが権利の濫用に当たるか ア 本件第1特許発明請求項1,3が特許法29条1項2号に違反して特許された無効理由があることが明らかか(争点3) イ 被告が本件第1特許発明請求項1,3について特許を受けた行為が特許法197条所定の詐欺の行為により特許を受けた行為に該当するか。該当するとした場合に,同行為によって特許を得た本件第1特許権(請求項1,3)に基づく権利行使が権利の濫用に当たるか(争点4) (4) 原告製法が本件第2特許発明請求項1,2の技術的範囲に属するか(争点5) (5) 本件第2特許発明請求項1,2について,原告が先使用による通常実施権を有するか(争点6) (6) 本件第2特許発明請求項1,2が無効理由を有することが明らかで,本件第2特許権に基づく権利の行使が権利の濫用に当たるか ア 本件第2特許発明請求項1,2について,特許法29条2項に違反して特許された無効理由があることが明らかか(争点7) イ 本件第2特許発明請求項1,2について,特許法29条1項柱書に違反して特許された無効理由があることが明らかか(争点8)
争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件第1特許発明請求項1,3の特許請求の範囲における「粒度」が「個々の粒子の粒子径」を意味するものか「体積基準メジアン径」を意味するものか) (被告) (1) 被告の解釈 ア 「粒度」とは,粒子の大きさを表す代表値すなわち,体積基準メジアン径であり,個々の粒子の直径を意味するものではない。
イ 「粒度」に関する被告の上記解釈が正当であることは,本件第1特許明細書の「発明の詳細な説明」欄に次のような記載があることからも,裏付けられる。
(ア) 「下記表1に各実施例において使用されている分岐鎖アミノ酸の種類と粒径を示したが,該粒径は以下の方法で測定した数値である。」(6欄5ないし7行)「平均粒径は体積基準のメジアン径を用いた。」(6欄15行) (イ) 表1(6欄【0021】)に「L-ロイシンは411μm,267μm,59μm及び23μm,L-イソロイシンは51μm及び28μm並びにL-バリンは179μm,45μm及び22μmの「体積基準メジアン径」であることが記載されている。
(ウ) 実施例1ないし6においては,表1に掲げた体積基準メジアン径のL-ロイシン,L-イソロイシン及びL-バリンを組み合わせて処方されている。
ウ 「粒度」に関する被告の上記解釈が正当であることは,「粒度」の一般的意味からも裏付けられる。 粉体に関する技術文献(井伊谷鋼一ほか著「化学工学大要」(中巻)1970年養賢堂発行。乙2)には,「粉体の粒度は,個々の粒子径を平均した,平均粒子径によって表わされる。平均のとり方は,数学的にはいくらでも定義することができるけれども,実用的に使われるおもなものは,表1,2に要約して示してある。」と説明の上,表1,2においてメジアン径が例示されている。
本件第1特許明細書を読んだ当業者が「粒度」を「体積基準メジアン径」であると解釈することは,本件第1特許についての異議申立人であった沢井製薬株式会社(以下「沢井製薬」という。)が何の前置きもなくそのように解釈していることからも明らかである(乙4ないし6)。
(2) 原告の主張に対する反論 ア 原告は,「粒度」を「個々の粒子の粒径」ないし「そこに含まれる粒子の大きさを均一とみなせる程度に粒子径分布を充分小さくとった場合の平均粒子径を体積基準メジアン径を用いて表したもの」等と解すべき旨を主張する。
しかし,原告の主張は,本件第1特許明細書に全く記載がなく,「粒度」の一般的な意味からも導くことができない独自の解釈に基づくものである。
特に,原告主張の解釈のうち後者については,メジアン径は,粒子群全体の平均的な大きさを示すものとして用いられるものであって,原告が主張するように粒子群を細分化して粒子の大きさを均一とみなせる程度に粒子径分布を充分に小さくとった場合における,その狭い分布範囲における粒子径の中位径を示すために用いられるものではない(甲19の51頁図3・3(a),乙3の81頁図4.19)。
イ 「粒度」の一般的な意味について (ア) 日本薬局方の記載 原告は,甲24(日本薬局方解説書編集委員会編著「第十三改正日本薬局方-条文と注釈-」平成8年廣川書店発行)の記載を根拠に,日本薬局方は「粒度」を「個々の粒子径の分布範囲」の意味に解している旨主張し,「粒度」を体積基準メジアン径と解釈し,粒度の上限を体積基準メジアン径700μmとすると,日本薬局方に定めている1700μmを超える粒子径の粒子を相当量含むことになるから,本件第1特許の特許請求の範囲記載の「粒度」を体積基準メジアン径と解することはできないなどと主張する。
しかし,甲24の記載は,いくつもある粒度の測定方法のうち,篩を用いる粒度測定方法によって顆粒剤と散剤の剤型を区別することを述べているにすぎず,「粒度」の意味について日本薬局方の考え方を示したものではない。
また,本件第1特許発明請求項1,3に係る医薬品は,日本薬局方の規定の範囲内で,特許請求の範囲記載の医薬品なのであるから,1700μmを超える粒子がある場合には,これが除かれることは明らかであり,本件第1特許発明請求項1,3のクレーム解釈には関係がない。
そもそも,特許の対象物である物の販売又は特許の対象である方法によって生産される物の販売が国内法令上の制限を受けることを理由としては特許を拒絶し又は無効とすることはできない(パリ条約4条の4)から,日本薬局方の規定を根拠に本件第1特許発明請求項1,3の技術的範囲の解釈を制約されるいわれはない。
(イ) 甲19の記載 原告は,自らの主張の根拠を技術文献である甲19(日本粉体工業技術協会編「粉体成形ハンドブック」昭和62年日刊工業新聞社発行)の記載に求めるようであるが,甲19のうち原告が指摘する記載は,粒度を一つの数値(代表値)で表すのが適当な場合と分布曲線で表すのが適当な場合との区別について述べたものであって,原告が主張するような意味の記載ではない。
(ウ) 甲29,30の記載 原告は,甲29及び甲30の各公報の明細書においては,個々の粒子径を問題にしていると主張するが,上記各公報に係る発明は,本件第1特許発明請求項1,3と明細書の記載も発明の内容も異なっているのであるから,本件第1特許発明請求項1,3において,上記各発明と同様に解さなければならないことはなく,また,上記各公報の明細書がそのような前提で記載しているからといって,一般的に当業者が本件第1特許発明請求項1,3の「粒度」をそのように解釈するということはできない。
ウ 作用効果との関係について 原告は,「粒度」を「体積基準メジアン径」と解釈すると,粉体の粒子径分布が粒子径の小さいものと大きいものに極端に分かれている場合には,本件第1特許発明請求項1,3は所期の作用効果を実現することができないと主張する。
しかしながら,通常の粉砕方法によれば,粉体の粒子径分布は連続したものになるのであって,原告が指摘するような極端な例は想定し得ないから原告の主張は失当である(甲14の1,2,甲19の51頁図3・3(a),乙3の81頁図4.19)。
原告は,本件の原告製剤において,L-イソロイシンのうち粒子径20μm以下の粒子が体積基準で21.333%,粒子数では92%になり,ロイシンのうち粒子径20μm以下の粒子が体積基準で32.877%,粒子数では97%であり,このような粒子群において風味が改善するとは到底思われないと主張する。しかし,乙9(日科技連官能検査委員会編集「新版官能検査ハンドブック」1973年日科技連出版社発行。164頁)によれば,ある物質による苦味は,ある物質の濃度,すなわち体積に関係するのであって,数には関係がない。そして,原告製剤の構成が原告主張のとおりであったとしても,体積基準では苦味を有する20μm以下の粒子は20%程度で,苦味が比較的少ない粒子の割合が多いのであるから,作用効果を奏しているというべきである(久保輝一郎ほか編「粉体-理論と応用-」(改訂二版)昭和54年丸善株式会社発行。乙10)。実際,被告は,体積基準メジアン径で,本件第1特許発明請求項1,3の技術的範囲に含まれる実施例につき官能試験を行った結果,風味が改善されるとの結果を得ている。原告は,本件第1特許発明請求項1,3は,濃度によって風味を改善するものではないと反論するが,口の中で唾液や水によってどれだけの体積のアミノ酸製剤が溶けるかによって風味が異なってくるのであるから,濃度が風味に関係がないとはいえない。
(3) 原告製剤・原告製法へのあてはめ 原告製剤ないし原告製剤の製造方法は,原料イソロイシン粉末の体積基準メジアン径が約57.7μm程度,原料ロイシン粉末の体積基準メジアン径が約38.7μm程度で,いずれも20ないし700μmの範囲内であるから,原告製剤は,本件第1特許発明請求項1,3の技術的範囲に属する。
(原告) (1) 原告の解釈 ア 本件第1特許発明請求項1,3の特許請求の範囲においては,いずれも「粒度」の数値限定がされているところ,ここでいう「粒度」とは,「個々の粒子の粒子径の分布範囲」ないし「そこに含まれる粒子の大きさを均一とみなせる程度に粒子径分布を充分小さくとった場合の平均粒子径を体積基準メジアン径を用いて表したもの」の意味であり,本件第1特許発明請求項1,3においては,含有されるアミノ酸粒子の粒径が上記20ないし700μmの範囲内にあることを要する。
イ 「粒度」に関する原告の上記解釈が正当であることは,本件第1特許明細書の記載からも裏付けられる。 すなわち,本件第1特許明細書の実施例には「粒径」の文言が使用されている。また,本件第1特許発明請求項1,3の目的は,風味の悪い粒子径の小さい粒子を排除する点にあるから,風味の悪い粒子径20μm以下の粒子を含むものを排除していると解釈するのが自然である。
ウ 「粒度」に関する原告の上記解釈が正当であることは,「粒度」の一般的意味からも裏付けられる。
すなわち,「粒度」とは,一般に,粒子の大きさをいい,粒子の大きさを表現する方法は,重さ,体積,表面積,沈降速度を用いるもの等様々であり,必ずしも長さ(粒子径)が基準になっているとは限らない。ただし,本件のような医薬品分野において,粒度が一定の数値範囲で示されている場合には,一般的に個々の粒子の粒子径の上限と下限が示されていると解釈するのが通常である。このことは,日本薬局方や医薬品分野における技術文献に,次の(ア)ないし(エ)のような記載があることからも明らかである。
(ア) 日本薬局方の記載(甲24・15頁) a 「本剤(散剤)は,18号(850μm),30号(500μm)及び200号(75μm)のふるいを用いて次の粒度の試験を行うとき,18号(850μm)ふるいを全量通過し,30号(500μm)ふるいに残留するものは全量の5%以下である。本剤のうち,200号(75μm)ふるいを通過するものが全量の10%以下のものを細粒と称することができる。」 b 「粒度の試験 本剤10.0gを正確に量り,前記のふるい及び受器を重ね合わせた用器の上段のふるいに入れ,上ふたをした後,3分間水平に揺り動かしながら,時々軽くたたいてふるった後,各々のふるい及び受器の残留物の重量を量る。ただし,この試験に用いるふるいの枠の内径は75mmとする。」 (イ) 「粉体成形ハンドブック」(日本粉体工業技術協会編,昭和62年日刊工業新聞社発行。甲19)の記載 「粒度は粉体を構成している多数の粒子群を代表する粒子の大きさの概念である。現実の粒子は必ず大きさの分布をもつ多数の粒子群からなっているから,粒度の表現には分布を考慮しないわけにはいかない。分布が広くて全体を均一の粒子群と見なせないときには分布曲線で示す。すなわち,図3・3のように,適当な粒度範囲ごとに区分して各群の代表径に対し,(a)各群に含まれる粒子量の全粒子量に対する割合か,(b)各群の代表径以上または以下の粒子量の総和の全粒子量に対する割合を示す。(a)は頻度分布で,(b)は積算分布である。粒子径区分を十分に小さく取れば,そこに含まれる粒子の大きさは均一と見なせるから,その平均値を代表径としてさしつかえない。」 (ウ) 医薬品に関する特開2000-191517号公報(甲29)の記載(4欄21行ないし32行) 「上記した不快な味を有する成分は,その形状,粒子径等に特に制限はないが,‥‥‥矯味剤の粒子と粒子径を整合させることが好ましく,‥‥‥粒子径の確認は,日本薬局方に記載された粒度の試験に準じて篩分けによって行うことができ,‥‥‥細かい粒子の割合が多い場合は,レーザー光散乱方式の粒度分布測定によって行うと好適である」 (エ) 特許第2576927号公報(甲30)の記載(6欄39行ないし40行) 「平均粒子径は,粒径分布より通常行われている荷重平均で求めた」 (2) 被告の主張に対する反論 ア 被告は,本件第1特許明細書の「発明の詳細な説明」欄の実施例1ないし6に,「平均粒径は体積基準メジアン径を用いた」と記載されていることを根拠に本件第1特許発明請求項1,3の特許請求の範囲記載の「粒度」は「体積基準メジアン径」であると主張する。
しかしながら,被告の上記主張は,次のとおり合理性がない。
イ(ア) 被告は,本件第1特許明細書の実施例の記載を自らの主張の根拠とするが,実施例の記載が直ちに特許請求の範囲の技術的解釈に直結するものではない上,アミノ酸の苦味改善において体積基準メジアン径により粒度を規定する合理的理由は何ら示されていないのであって,かかる記載をもって,特許請求の範囲記載の「粒度」の数値限定が体積基準メジアン径の範囲を記載したものと解することはできない。
すなわち,「体積基準メジアン径」とは,粒子群の粒子を粒子径の小さい方から順に体積を積算し,積算体積が全体積の半分になったときの粒子の粒子径をいうのであって,含有する粒子の粒径を何ら限定しない。そして,本件発明は,「分岐鎖アミノ酸の粒度が小さいと苦く風味が悪く非常に服用しにくいという欠点がある」(本件第1特許明細書3欄4行ないし6行)という一粒一粒の粒子の大きさに由来する課題を,「イソロイシン粒子とロイシン粒子の粒度を,通常の製剤の造粒に使用される粒子の粒度よりも大きな粒度に調整」(同3欄25行ないし27行)するという手段によって解決するという発明である。そうであれば,本件第1特許発明請求項1,3の構成要件としては,粒径が一定以下の粒子を排除する必要があるのであって,体積基準メジアン径のみを規定しても,風味の改善という課題を解決できないことになる。粒子径10μmの均一粒子1000粒に粒子径50μmの粒子を8粒加えると体積基準メジアン径は50μmとなるが,このような粒子群において風味が改善するとは到底思われない。また,上記のような想定例のみならず,原告製剤においても,体積基準メジアン径は,イソロイシンが57.7μm,ロイシンが38.7μmであるが,他方で,粒子径20μm以下の粒子が体積基準でイソロイシンが21.333%(甲14の1),ロイシンが32.877%(甲14の2)存在し,粒子数ではイソロイシンが92%(甲31),ロイシンが97%存在している。このような粒子群において風味が改善するとは到底思われない。
被告は,苦味の強さは濃度すなわち体積との関係で決まり,粒子数は関係がないと主張するが,本件第1特許発明請求項1,3は,濃度調整で風味を改善させるものではなく,粒子径を一定の範囲にすることで風味を改善させるものであるから,体積基準メジアン径ではなく,個々の粒子の粒子径を基準として用いる発明というべきである。
このようなことから,粉体工学上は,粒子径分布を何ら考慮することなく体積基準メジアン径の範囲を画することは通常あり得ないのであって,実施例1ないし6,表1記載の「体積基準メジアン径」が,粒子径分布を考慮することなく体積基準メジアン径のみを問題にしたものであるとすれば,そのような実施例の記載は特許請求の範囲記載の「粒度」とは無関係な記載と解さなければならない。
むしろ,前記(1)ウ(イ)記載の粉体工学上の概念を踏まえれば,「平均粒径は体積基準メジアン径を用いた」との記載は,「そこに含まれる粒子の大きさを均一とみなせる程度に粒子径分布を充分小さくとった場合の平均粒子径を体積基準メジアン径を用いて表した」との意味に解すべきである。
(イ) 被告は,乙2の技術文献(井伊谷鋼一=堀田和之=外山茂樹共著「化学工学大要」(中巻),昭和45年4月1日株式会社養賢堂発行。2頁)の記載を根拠に,粉体工学上,「粒度」を「体積基準メジアン径」と解することは一般的であると主張する。しかし,乙2の被告指摘の記載は,「粒度」の表し方の代表例として「メジアン径」と記載してはいるが「体積基準メジアン径」とは記載していない。「メジアン径」とは「中位径」のことであり,体積基準のほか,重量基準,個数基準も存在しており,目的に合わせて使い分けられている。
(ウ) また,被告は,本件第1特許明細書を読んだ当業者が「粒度」を「体積基準メジアン径」であると解釈することは,本件第1特許についての異議申立人であった沢井製薬が何の前置きもなくそのように解釈していることから明らかであると主張する。しかし,異議申立人としては,理論的には誤りであったとしても,実施例に「体積基準メジアン径」と記載されているから,議論が無用に複雑になるのを避けるためにこれを前提として主張したものと解釈できるから,上記事実をもって,当業者が「粒度」を「体積基準メジアン径」と解釈するということはできない。
ウ 日本薬局方の規定について さらに,日本薬局方の規格によれば,顆粒剤は,1700μmの篩を全部通過するものでなければならないところ,本件第1特許発明請求項1,3について「粒度」を体積基準メジアン径と解釈し,粒度の上限を体積基準メジアン径700μmとすると,1700μmを超える粒子径の粒子を相当量含むことになるから,この点からも,本件第1特許発明請求項1,3の「粒度」を体積基準メジアン径と解することはできない。
(3) 原告製剤・原告製法へのあてはめ 上記のとおり,「粒度」は個々の粒子の粒子径であるから,原告製剤に含有されるイソロイシン及びロイシンの粒度が20ないし700μmの範囲にあれば本件第1特許発明請求項1,3の技術的範囲を充足することになる。
ところが,原告製剤ないし原告製剤の製造方法は,粒子径20μm未満の粒子が,イソロイシンにおいて体積基準で約21%程度(個数にして約92%),ロイシンにおいて体積基準で約32%程度(個数にして約97%以上)含まれているから,原告製剤は,本件第1特許発明請求項1,3の技術的範囲に属さない。
2 争点2(本件第1特許発明請求項1,3について原告が先使用による通常実施権を有するか) (原告) (1) 原告の主張 仮に,原告製剤が本件第1特許発明請求項1,3の構成要件を充足し,その技術的範囲に属する場合には,原告は,本件第1特許発明請求項1,3に関して,原告製剤につき先使用による通常実施権(特許法79条)を有する。
原告は,本件第1特許権に係る特許出願前の平成12年6月,8月,12月に,佐藤薬品工業株式会社(以下「佐藤薬品」という。)に対し,本件第1特許発明請求項1,3の実施品である「NPO-04」の治験薬及び安定性試験用のサンプルの製造を指示した。上記指示は,いずれも製造委託に関する基本契約に基づく指示であるから,一体であり,上記3つの指示行為を一体として準備行為というべきである。
このように,原告は,本件第1特許発明請求項1,3の内容を知らずに,佐藤薬品との間で,基本契約書を締結するなどして,平成12年4ないし8月ころには,即時実施の意図をもって,原告製剤に関する事業の準備をしていた。
(2) 被告の主張に対する反論 被告は,上記製造指示書は製造条件確定のための実験であり,未だ製造条件を模索している段階であったから,原告が原告製剤の製造販売事業について,即時実施の意図を有していたということはできない旨主張する。しかし,製造指示書には,具体的な製造条件が記載されており,本件第1特許発明請求項1,3に記載されている条件は本件第1特許発明出願前の上記段階において確定されており,その後,添加剤の有無等本件第1特許発明請求項1,3の技術的範囲に関わらない部分について内容が変動したとしても,それは実施形態の相違にすぎない。
また,被告は,平成12年12月ころまでに上記のような製造指示及び製造がなされていたとしても,その後に溶出試験の計画,実施,安定性試験の検討,本試験,生物学的同等性試験,厚生労働省に対する承認申請を行う必要があるから,上記製造指示及び製造のみでは未だ事業実施の意図が客観的に現れているということはできないと主張する。しかし,医薬品の製造販売をするためには多くの手続が必要であり,これらを完了するには長い時間を要するのであって,手続が進むほどに事業実施の意図が濃くなることはそのとおりだとしても,手続に長い時間を要するからといって,一連の手続が完了していなければ事業を即時実施する意図が認められないとする道理はない。
さらに,被告は,原告は平成14年1月30日の被告製剤再審査期間満了までは,事業の実施をする意思がなかったと主張する。しかし,原告は,上記製造指示及び製造の後,溶出試験の計画,実施,安定性試験の検討,本試験,生物学的同等性試験を行う必要があったのであり,これらの試験を経て平成14年1月30日経過後に事業を開始するためには,平成12年ころから準備を開始する必要があるのであるから,平成12年ころに行われた作業であるからといって,即時実施の意図をもった事業の準備に当たらないということはできない。
(被告) 原告は,平成12年6月ないし12月にかけて,原告製剤に関して佐藤薬品に製造指示を行い,佐藤薬品は指示に従って製造していたとして,原告製剤の事業の準備をしていたと主張する。
原告主張の準備経過については知らないが,原告主張の事実関係を前提にしても,上記製造指示によって製造された薬品の各アミノ酸の粒度が20ないし700μmであったかは不明である。
また,上記製造指示及び製造は,「製造条件確立のための予備試製の実施」「製造工程検討,予備サンプルの作成及び付帯作業の実施」に過ぎないから(甲11の3,12の2),かかる事実をもって原告が即時実施の意図をもって事業の準備を行っていたということはできない。実際,平成12年6月,8月時点における添加剤(ヒドロキシプロピルセルロース,マクロゴール6000,ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910等)は,同年12月の指示書では変更されており,同年6,8月の時点では,いかなる医薬品を製造販売するか未だ確定していたとはいえない。
また,事業化するためには,更に溶出試験,安定性試験,生物学的同等性試験,厚生労働省の製造承認等を得る必要がある。上記各試験を実施した結果,望ましい結果にならないことも稀ではないから,製造承認申請をなし得る程度に必要な試験,資料の収集を行った段階で初めて即時実施の意図が客観的に認識される態様,程度に表明されたというべきであり,原告の作業はそのような段階に至っていない。
さらに,先使用に基づく通常実施権が認められるためには,即時実施の意図が必要であるところ,原告は,平成14年1月30日の被告製剤再審査期間満了までは,事業の実施をする意思がなかったというべきである。なお,原告は,原告製剤について,事業を開始しようと思えば,新薬として厚生労働省の承認を得て,製造販売することも可能であったにもかかわらず,これをせずに,被告製剤の再審査期間終了を待つことを選択していたのであるから,この点からしても,原告に即時実施の意図がなかったことは明らかである。原告は,本件第1特許出願後の実験による変更は,実施形態の変更にすぎないというが,本件第1特許出願前には,実施形態が定まっていなかったというべきである。
3 争点3(本件第1特許発明請求項1,3が,特許法29条1項2号に違反して特許された無効理由があることが明らかか) (原告) (1) 本件第1特許発明請求項1,3の特許請求の範囲記載の「粒度」が被告主張のとおり体積基準メジアン径を意味するとすれば,本件第1特許発明請求項1,3は,特許法29条1項2号「特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明」に該当し,明白な無効原因を有する。
(2) 被告は,本件第1特許発明の特許出願前である平成8年5月ころから被告製剤を販売していたところ,同製品は,原料をアミノ酸とし,バリン,イソロイシン,ロイシンの各体積基準メジアン径約50μmの製剤であった。
被告製剤の各アミノ酸の体積基準メジアン径が50μmであることは,被告が平成15年4月18日付書簡(甲32)に,「(被告製剤は約50μmを使用)」としていることから明らかである。
なお,平成12年12月27日付「早期審査に関する事情説明書」(甲20。以下「本件事情説明書」という。)には,「今後,リーバクト等の顆粒製剤製品の製造に導入する予定である。」と記載されており,当該記載によれば,本件第1特許出願前は,被告製剤の各アミノ酸粒子の体積基準メジアン径は第1特許発明の範囲外であったようにも読める。しかし,原告が,被告に対して,「平成8年当時,粒度10μmの顆粒製剤について製造承認を得ているにもかかわらず,現在粒度50μmの顆粒製剤を販売していることは薬事法上問題がある。」旨の書面(甲33)を提出したのに対して,被告が「弊社製品につき製造承認を弊社が取得した時点の粒度と現在弊社が製造している弊社商品の粒度とが異なるかのような疑いをもたれているようですが,そのような事実はございません。」と返答していること(甲34)に照らせば,被告製剤のアミノ酸粒子の体積基準メジアン径は,本件第1特許発明の特許出願の前後を通じて50μmであったというべきである。
この点,被告は,被告製剤のイソロイシン及びロイシンの粒度は不明であるなどと主張する。しかし,被告は,原告製剤について,イソロイシン及びロイシンの粒度を50μm以上として製造承認を受けていながら同粒度を20μm以下に変更して製造販売することは薬事法上問題があるとして,厚生労働省に告発するなど,薬品の粒度によっては薬事法上の問題が生ずることを前提に行動しているのであるから,自らが製造販売する被告製剤の粒度を把握していないという被告の主張は信用できない。
(3) 被告は,被告製剤が市販されていても,市販されている被告製剤から分岐鎖アミノ酸の粒度を知ることは不可能であるとして,本件第1特許発明請求項1,3が公然実施されていたことにはならないと主張する。
しかし,特許法29条1項2号の「公然実施」は同項1号の「公然知られた」とは異なるのであるから,市販された被告製剤から分岐鎖アミノ酸の粒度を知ることができないとしても,本件第1特許発明実施品である被告製剤が公然と市販されている以上,本件第1特許発明公然実施されていたというべきである。
仮に,市販品を分析することにより発明内容を知り得るか否かで公然実施の有無が決定されると解釈した場合であっても,市販品は分析によりその内容を知り得るのが通常であるから,分析しても知り得ないと主張する者が,その立証責任を負うべきである。そして,本件において,被告は,被告製剤を分析しても本件第1特許発明の内容を知り得ないという点について立証していない。
(被告) (1) 原告は,被告が平成8年ころから販売していた被告製剤は,原料アミノ酸の体積基準メジアン径が約50μmの製品であったと主張し,これをもって,本件第1特許発明請求項1,3は「特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明」(特許法29条1項2号)に該当すると主張する。
(2) しかし,平成8年ころ販売されていた被告製剤に含有される各原料アミノ酸粉末の粒度が50μmであるか否かは不明である。
被告は,平成15年4月18日付書簡(甲32)に,「(リーバクト顆粒は約50μmを使用)」と記載したが,これは,原料アミノ酸粉末の混合物の体積基準メジアン径が約50μmであったのではないかと認識していたことからこのように記載したものであって,各アミノ酸粉末の個々の粒度を測定したことはない。
また,被告は,本件第1特許発明の本件事情説明書において,「今後,『リーバクト』等の顆粒製剤製品の製造に導入する予定である」と記載したが,これは,それまで製造販売していた被告製剤の分岐鎖アミノ酸粒子の粒度が20μm以下であったが今後は20μm以上にするという趣旨ではなく,それまで被告製剤の粒度と風味改善の関係について何ら認識していなかったが,本件第1特許発明によって粒度を大きくすると風味が改善することを認識したことから,このように記載したものである。
(3) 仮に,平成8年ころ製造販売されていた被告製剤の分岐鎖アミノ酸粒子の粒度が約50μmであったとしても,特許法29条1項2号の「公然実施」とは,不特定多数の者が知り得るような形での公然たる実施をいうのであるから,市販品に含有される分岐鎖アミノ酸粒子の粒度を不特定多数の者が知り得ない場合には,公然実施とはいえない。
そして,被告は,被告製剤の製造について,企業秘密として厳格な管理を行っており,その構成についても一切外部に開示していない。また,市販されている被告製剤は,分岐鎖アミノ酸原料と結合剤を練合し,造粒して顆粒状にし,さらにコーティングを施すものであるから,イソロイシン,ロイシン,バリンの個々の粒子を練合前の粒子径のままに分離することは不可能に近く,万が一,そのように分離することができたとしても,イソロイシン,ロイシン,バリンについて練合前の粒度,即ち体積基準メジアン径を測定することは到底不可能であったから,本件第1特許発明の特許出願前に被告製剤が市販されていたとしても不特定の者が発明の内容を知ることはできず,不特定の者が発明の内容を知り得る状態にもなかった。
なお,原告は,被告製剤を分析しても各分岐鎖アミノ酸の粒度を知り得ないことについて被告が立証すべきである旨主張するが,被告製剤の前記のような特性からして,分析によって分岐鎖アミノ酸の粒度を知ることができないことは明らかである上,消極的事実の立証は困難であるから,立証責任の公平な分担という観点からは,原告が被告製剤を分析した場合には含有する各分岐鎖アミノ酸の粒度を知り得ることを立証すべきである。
4 争点4(被告が本件第1特許発明請求項1,3について特許を受けた行為が特許法197条所定の詐欺の行為により特許を受けた行為に該当するか。該当するとした場合に,同行為によって特許を得た本件第1特許権(請求項1,3)に基づく権利行使が権利の濫用に当たるか) (原告) 前記のとおり,被告製剤が本件第1特許発明技術的範囲に属していたにもかかわらず,被告は,本件事情説明書において,被告製剤が粒径20μmを下回っていたような記載をしている。被告のかかる行為は,特許法197条所定の詐欺行為に該当する。刑事罰相当の行為によって取得した本件第1特許権に基づき権利行使をすることは権利の濫用に当たり許されない。
被告は,被告製剤を分析しても本件第1特許発明請求項1,3の内容を知り得ないから,被告製剤が本件第1特許発明請求項1,3の実施品であって,これを本件第1特許発明の出願前から製造販売していたとしても,無効理由はないのであるから,本件事情説明書の提出をもって被告が拒絶査定を免れたということはできないと主張する。
しかし,本件第1特許発明の審査において,被告が既に本件第1特許発明請求項1,3の実施品である被告製剤を市販していたとの事実を審査官に明らかにしていれば,審査官が本件第1特許発明について公然実施を理由に拒絶理由通知を発したことは明らかであり,そうすると,被告は,被告製剤について分析しても粒度を知り得ないことを立証しない限り,本件第1特許発明拒絶査定されていたはずであるところ,前記のとおり,上記の立証は困難であるから,結局本件第1特許発明拒絶査定されていた可能性が高い。
また,被告は,上記のような記載がされた書面は,早期審査の事情説明書であって,特許要件に関するものではなかったから,詐欺取得にはならないと反論する。しかし,そもそも,早期審査の事情説明書において新規性,進歩性の主張がなされることもあり,本件においても,被告は,本件事情説明書の中で進歩性について言及している。また,書面の目的にかかわらず,特許審査の一件書類中で,上記のような記載がされれば,特許審査官は,市販中の被告製剤の粒度は本件第1特許明細書の従来技術記載の粒度(10μm以下)であると信じるであろうから,書面の目的にかかわらず,かかる行為は詐欺というべきである。
仮に,被告が本件事情説明書を提出して本件第1特許権の登録を得た行為が特許法197条所定の詐欺による取得に該当しない場合であったとしても,少なくとも,被告のかかる虚偽陳述は,特許法の適正手続に背く行為であるから,このようにして得られた本件第1特許権に基づく権利行使は権利の濫用に当たるというべきである。
(被告) 前記のとおり,被告が本件第1特許出願前に市販していた被告製剤の各分岐鎖アミノ酸の粒度が約50μmであったとしても,これをもって本件第1特許発明請求項1,3を公然実施したことに当たるとはいえないのであるから,出願前公然実施の拒絶理由を免れて特許を受けた旨の原告の主張は当たらない。
また,本件事情説明書は,あくまで早期審査を求めるためのものにすぎず,本件第1特許発明請求項1,3が特許要件たる新規性を有することを説明する書類ではないから,本件事情説明書を提出し,結果的に本件第1特許発明につき特許を受けたことをもって特許法197条の詐欺まがいであるという原告の主張は論理的に誤っている。
本件第1特許発明の特許出願当時,被告製剤に用いられた分岐鎖アミノ酸の粒度は知られていなかったのであるから,当時の技術水準として「一般的には10μm以下である」と記載したことは間違いではない。また,「今後,『リーバクト』等の顆粒製剤製品の製造に導入する予定である」との記載については,平成8年当時は,被告製剤の粒度と風味改善の関係について被告は何ら認識しておらず,その後,発明がなされたことから粒度を大きくして風味改善する顆粒の改良が予定されていたためであって,そこには何ら虚偽はない。
5 争点5(原告製法が本件第2特許発明請求項1,2の技術的範囲に属するか) (被告) (1) 本件第2特許発明請求項1,2の特許請求の範囲の解釈 ア 原告は,本件第2特許発明請求項1,2の特許請求の範囲について,温度測定装置や警報装置を用いる製造方法又は造粒機を使用する製造方法に限定して解釈すべきであると主張するが,そのような不自然な限定解釈をする必要はない。
原告は,甲25の審決が,原告主張のような不自然な限定解釈をした上で本件第2特許を有効としているかのような主張をするが,上記審決は,「押出造粒機に供給する練合物の温度を30℃〜0℃に調節する」ということと「押出造粒機に供給する練合物の温度が30℃〜0℃である」という状態とを区別して,本件第2特許発明は前者に係るものであるから有効であるとしているものである。本件第2特許明細書の実施例では調節の具体的な手段を記載しているが,これは「調節する」の例示として記載しているにすぎず,これに限定して解釈する趣旨ではない。原告製法のように室温を16ないし26℃に管理することによって「調節する」場合も,本件第2特許発明技術的範囲に属するというべきである。
イ さらに,原告は,本件第2特許発明の想定する課題は,不二パウダル製「エクストルーダーEXDCS-100」横押出型に限定して発生するものであると主張する。しかし,練合物が押出スクリーンを通過する際,30℃を超えると,練合物がスクリーンを通過する際の抵抗が大きくなるということは,機械によって発生頻度等に違いがあったとしても,すべての押出造粒機に共通である。 (2) 原告製法が本件第2特許発明技術的範囲に属するか 原告製法は,室温を16ないし26℃に調節することによって押出造粒機に供給する練合物の温度,練合に用いる蒸留水の温度を調節しているのであるから,原告製法は,本件第2特許発明請求項1,2の技術的範囲に属する。
(原告) (1) 本件第2特許発明請求項1,2の特許請求の範囲の解釈 ア 本件第2特許発明請求項1,2は,イソロイシン,ロイシン及びバリンを含有する粒子混合物に練合水を加えて練合した練合物について,押出造粒機に供給する際に,練合物の温度を30ないし0℃に調節,維持することを要する。
イ 上記のような温度管理を行うためには,実施例記載のように,押出軸に供給される練合物の温度を連続的に測定記録する温度測定記録装置と,造粒機の駆動電源の消費電流を連続的に記録する記録装置と該消費電流値が所定値に達したことを検知して警報を発する警報装置を装備するなどの積極的な温度調節手段を備えることを要するから,本件第2特許発明請求項1,2は,上記のような温度測定記録装置や警報装置を用いて造粒するなど,練合物について積極的な温度管理を行う方法に限定して解釈すべきである(本件第2特許発明に関する審決(甲25)も,そのように解釈されることを理由に本件第2特許発明を有効としている。)。
ウ 本件第2特許明細書には「押出造粒機に供給される練合物の温度が30℃を超えると,練合物が押出しスクリーンを通過する際の抵抗が大きくなり,押出軸を駆動する動力源の電流値が上昇する。そのような高い温度状態での押出操作が続くと練合物がスクリーン上でスベリ状態となってスクリーンを通過できなくなり,造粒機が停止したり,スクリーンが破壊される事態も生じる。」(本件第2公報6欄34行ないし41行)と記載されており,本件第2特許発明請求項1,2は,上記課題を解決するための発明である。しかし,上記のような課題は,被告が明細書の実施例において使用している不二パウダル製「エクストルーダーEXDCS-100」横押出型なる機種特有の課題であって,他の機種を使用した場合にはそのような課題を生じないから,本件第2特許発明は,不二パウダル製「エクストルーダーEXDCS-100」横押出型を用いて造粒する方法に限定して解釈されるべきである。
(2) 原告製法が本件第2特許発明技術的範囲に属するか 原告製法においては,造粒する際の室温を16ないし26℃に調節しているものの,温度測定記録装置や警報装置等積極的な温度調節装置を使用していない。16ないし26℃の室温というのは,一般的な作業環境であり,他の多くの作業室と共通の空調管理に基づく温度なのであって(甲22),これをもって練合物の温度を本件第2特許発明のように調整しているということはできない。
また,原告製法においては,不二パウダル製「エクストルーダーEXDCS-100」横押出型ではなく,「ツインドームグランTDG-110」を用いているから,本件第2特許発明技術的範囲に属さない。
なお,原告製法においては,押出造粒機を出た直後の練合物の温度が30℃を大幅に超えていることから(甲16),押出造粒機内において練合物の温度は30℃を超えているものと推認される。この点からも原告製法は,本件第2特許発明の請求項3及び5の技術的範囲に属さないことは明らかである。
したがって,原告製法は,本件第2特許発明技術的範囲に属さない。
6 争点6(本件第2特許発明請求項1,2について,原告が先使用による通常実施権を有するか) (原告) 仮に,原告製法が,本件第2特許発明請求項1,2の構成要件を充足するとすれば,原告は,本件第2特許発明の特許出願前から原告製法を用いているから,本件第2特許発明について先使用による通常実施権を有する。
原告は,本件第2特許発明の特許出願前の平成12年6月,8月,12月に,佐藤薬品との間で本件第2特許発明実施品である「NPO-04」の治験薬及び安定性試験用のサンプルの製造を同社に委託することに関して基本契約書を締結するなどして,原告製剤の製造を委託したが,原告製剤の製造は,原告製法によるものであった。
このように,原告は,本件第2特許発明の内容を知らずに,佐藤薬品との間で,基本契約書を締結するなどして,平成12年4月ないし8月ころには,即時実施の意図をもって,原告製剤に関する事業の準備をしていた。
(被告) 原告は,平成12年6月ないし12月にかけて原告製剤に関して佐藤薬品に製造指示を行い,佐藤薬品は指示に従って製造をしていたとして,原告製法で薬品を製造販売する事業の準備をしていたと主張する。
原告主張の準備経過については知らないが,原告主張の事実関係を基にしても,上記製造指示及び製造は,「製造条件確立のための予備試製の実施」「製造工程検討,予備サンプルの作成及び付帯作業の実施」に過ぎず(甲11の3,12の2),かかる事実をもって原告が事業の準備を行っていたということはできない。
また,先使用に基づく通常実施権が認められるためには,即時実施の意図が必要であるところ,原告は,平成14年1月30日の被告製剤再審査期間満了までは事業の実施をする意思がなく,本件第2特許発明の特許出願前の時点では未だ製造条件を模索していた状態であったから,事業を即時実施する意図を有していたとはいえない。
7 争点7(本件第2特許発明請求項1,2について,特許法29条2項に違反して特許された無効理由があることが明らかか) (原告) (1) 本件第1公報(甲1)に基づく進歩性欠如について 本件第2特許発明は,その優先権主張に係る日より前に発行された刊行物である本件第1公報(甲1)記載の発明に基づいて容易に発明できたものである。
すなわち,本件第1公報(甲1)の8欄ないし9欄の【0037】に本件第2特許発明について,「練合物の温度を30℃〜0℃に調節する」点を除いてその余の構成はすべて明記されている。
そして,「練合物の温度を30℃〜0℃に調節する」点については,これが,原告製法のように,16ないし26℃の室温下において作業する場合をも含むと解釈する場合には,容易に想到することができるといわざるを得ない。化学においては,特に温度,圧力,雰囲気等の操作条件が明記されていない限り,常温,常圧,大気下で作業を行うものと理解するのが常識である。第十四改正日本薬局方(甲27)においても,「標準温度は20℃,常温は15〜25℃,室温は1〜30℃‥‥‥とする」旨の記載がある。
したがって,本件第1公報(甲1)の前記記載を0ないし30℃の室温で行うことは当業者にとって容易であるから,本件第2特許発明進歩性を欠くものである。
(2) 温度範囲の数値限定に臨界的意義がないことによる進歩性欠如について 甲15(意見書)及び16(佐藤薬品の報告書)によれば,押出造粒機内の練合物の温度が30℃を超えてもトラブルは発生しないから,押出造粒機内の練合物の温度を30℃以下に限定する本件第2特許発明請求項3及び5項に係る発明において,上記押出造粒機内の練合物の温度を30℃以下に限定することに,臨界的意義はない。まして,請求項1ないし4の押出造粒機に供給する練合物の温度の上限を30℃とする数値限定に臨界的意義は全く認められない。
(被告) (1) 本件第1公報(甲1)に基づく進歩性欠如について 本件第1公報(甲1)は,練合物の温度について何ら開示していない。
原告は,特に温度,圧力,雰囲気等の操作条件が明記されていない限り,常温,常圧,大気下で作業を行うものと理解するのが常識であると主張するが,作業条件が明記されていない場合は,実際に操作を行う者の判断に委ねられているというにとどまるものであって,常温,常圧,大気下で行うということを当然に意味するものではない。また,仮に,原告が主張するように,常温,常圧,大気下で行うものと理解するのが当業者の常識であったとしても,「常温,常圧,大気下で実施する」ということと,「0〜30℃に調節する」ということとは同一ではないから,いずれにしても,甲1から,本件第2特許発明の内容を読みとり,又は容易に想到することはできない。
原告は,日本薬局方に「常温は15〜25℃,室温は1〜30℃」と記載されていることを指摘するが,日本薬局方に上記記載があるからといって,温度管理が通常上記のようになされていたとは限らないから,原告の主張は失当である。
また,本件第2特許発明は,練合物の温度が上がりすぎた場合には問題が発生することを発見した上でこれを回避する方法を記載したものであるから,本件第2特許発明の特許出願当時,当業者が本件第1公報(甲1)から容易に想到できた発明であるということはできない。
(2) 温度範囲の数値限定に臨界的意義がないことによる進歩性欠如について 被告は,押出造粒機に供給する練合物の温度が30℃を超えた場合のトラブル(練合物がスクリーンから出てこなくなるスベリ状態が発生し,造粒機が緊急停止する,スクリーンが破断する。本件第2特許明細書【0003】【0030】)を実際に経験しており,温度の上限を30℃に設定することには意義がある(本件第2特許明細書【0004】【0033】)。
8 争点8(本件第2特許発明請求項1,2について,特許法29条1項柱書に違反して特許された無効理由があることが明らかか) (原告) (1) 本件第2特許公報の図1には,押出機に供給される練合物の温度と押出機の消費電流量の関係が記載されているが,これは,被告が実験に使用した不二パウダル製「エクストルーダーEXDCS-100」が,12A以上で負荷警報が発生し,14A以上で破損防止のための安全装置が作動することによるものであって,当該機械限定の効果である。押出造粒機には様々な種類があり,押出圧力,押出報告,スクリーンの仕様等異なっているのであるから,本件第2特許発明は,被告の使用した上記機械で実験した場合のトラブルを避けるという意味しかない。
したがって,本件第2特許発明は,上記機械の取り扱い上の注意事項を記載したに過ぎず,特許法29条1項柱書所定の発明ということができない。
(2) 医薬品の製造は空調され,衛生管理された室内で行われるものであるところ,通常15ないし25℃の室温の環境で行われるものである。被告が主張するように,上記程度の室温管理をすれば課題が生じないというのであれば,そもそも本件第2特許発明が想定する課題は通常生じないものというべきである。
被告の解釈によれば,通常の温度(15ないし25℃)の環境下において作業することが上記課題を解決する手段であるということになるが,このようなことは,従来行われてきたことなのであって,これを文言上「調節する」という言葉にしてみたところで,実質は従来一般的に行ってきた作業と何ら変わりはない。
本件第2特許発明を被告主張のように解すると,従来技術(通常の室温下での造粒作業)においても,課題は生じていないということになるはずであるから,本件第2特許発明は,何ら従来存在した課題を解決するものではないということになる。
このような意味においても,本件第2特許発明は,特許法29条1項柱書所定の発明ということができない。
(被告) (1) 原告は,本件第2特許発明は,押出造粒機不二パウダル製「エクストルーダーEXDCS-100」に限定して生じる課題につき,その解決方法を示したものに過ぎないから,当該機械の取り扱い説明にすぎず,特許法29条1項柱書所定の発明には当たらないと主張する。しかし,特定の機械に関する発明でも,自然法則を利用した技術的思想創作であれば,発明に当たるというべきである。また,押出造粒機は,一般的に,練合物に圧力を加えてスクリーンの孔から押し出すという機構を有するものであって,機種によって押出圧力,押出方向,スクリーン仕様等が異なってもその機構の本質は同じものであるから,不二パウダル製「エクストルーダーEXDCS-100」に限らず,同種機種であれば,同様の課題が生ずるはずである。
(2) 原告は,室温15ないし25℃の環境下における作業が通常の作業であるから,そのような作業環境で作業した場合には課題が生じないという被告の主張によれば,そもそも,従前から課題は存在しなかった旨主張する。しかしながら,夏季においては作業環境が25℃を超えることがあり,本件第2特許発明発明者は,夏季において特に練合物がスクリーン上でスベリ状態となってスクリーンを通過できなくなり,造粒機が停止したり,スクリーンが破壊されるトラブルが頻発することから,本件第2特許発明着想したものであり,従前から課題が存在しなかったということはない。
当裁判所の判断
1 争点1(本件第1特許発明請求項1,3の特許請求の範囲における「粒度」が「個々の粒子の粒子径」を意味するものか「体積基準メジアン径」を意味するものか)について (1) 「粒度」の解釈 ア 特許請求の範囲の記載について 特許発明技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基いて定めなければならないところ(特許法70条1項),本件第1特許発明請求項1,3の特許請求の範囲には「粒度」と記載されている。
そして,甲18(粉体工学会編「粉体工学用語辞典第2版」2000年日刊工業新聞社発行)及び乙2(井伊谷鋼一ほか共著「化学工学大要」(中巻)昭和45年養賢堂発行)によれば,「粒度」とは,一般に,粒子の大きさをいい,粒子の大きさを表現する方法には,重さや体積,表面積,沈降速度など様々な方法がある。文献によっては,「粒度」について,最近では最終的に粒子径に換算されて表示されることが多い旨記載しているものもあるが,粒子径に換算するといっても,粒子群におけるそれぞれの粒子の粒子径は通常一律ではないから,粉体の粒度は,個々の粒子径を平均した平均粒子径によって表され,粒子径の平均のとり方は,数学的にはいくらでも定義することができ,実用的に用いられる主なものとして,算術平均径,表面積平均径,体積平均径,比表面積径,メジアン径,モード径が挙げられるというのであるから,「粒度」を粒子径に換算して表す場合においても,様々な方法が存在する。
したがって,「粒度」は多義的であり,その意味は,特許請求の範囲の記載からは一義的に明らかでない。
イ 本件第1特許明細書の記載について 特許請求の範囲の記載だけでは特許発明技術的範囲が一義的に明らかにならない場合には,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈することになる(特許法70条2項)。
そこで,本件第1特許発明の明細書の記載をみると,次のような記載がある(甲1)。
(ア) 本件第1公報3欄23行ないし28行 「本発明は,イソロイシン,ロイシン及びバリンからなる3種のアミノ酸の粒子を含有する顆粒製剤の製造に使用されるイソロイシン粒子とロイシン粒子の粒度を,通常の製剤の造粒に使用される粒子の粒度よりも大きな粒度に調整して造粒することを基本的な手段とするものであり‥‥‥」 (イ) 本件第1公報4欄4行ないし6行 「本発明の医薬用顆粒製剤とは,日本薬局方に記載されている顆粒剤及び散在を意味しており,その粒度も日本薬局方に規定されている範囲のものである。」 (ウ) 本件第1公報4欄22行ないし28行 「造粒に使用するイソロイシン,ロイシン及びバリンからなる3種の分岐鎖アミノ酸の粒子の粒度の調整方法に特に制限はなく,通常の粉砕法が採用される。粉砕に使用できる粉砕機としては,ハンマーミル等の衝撃式(高速回転式)粉砕機,ボールミル等のタンブラー式(媒体式)粉砕機及びジェットミル等の流体式(気流式)粉砕機等が挙げられる。」 (エ) 本件第1公報6欄3行ないし16行 「次に,実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する‥‥‥。下記表1に各実施例において使用されている分岐鎖アミノ酸の種類と粒径を示したが,該粒径は以下の方法で測定した数値である。‥‥‥平均粒径は体積基準のメジアン径を用いた。」 (オ) 本件第1公報6欄表1 BCAA 体積基準メジアン径 L-ロイシン 411μm 267μm 59μm 23μm L-イソロイシン 51μm 28μm L-バリン 179μm 45μm 22μm 本件第1特許明細書の上記記載からは,本件第1特許発明請求項1,3の特許請求の範囲に記載された「粒度」は,体積基準メジアン径,すなわち,粒子群の粒子について,粒子径の小さい方から順に体積を積算し,積算体積が全体積の半分になったときの粒子の粒子径を意味するものと解するのが相当である。
ウ(ア) 原告は,この点について,日本薬局方の記載や技術文献の記載を根拠に,医薬品分野においては,粒度が一定の数値範囲で示されている場合には,一般的に個々の粒子径の上限と下限が示されていると解釈するのが通常である旨主張する。
しかし,原告の指摘する日本薬局方の記載からは,散在や細粒を定義する場面における「粒度」の意味が「粒子径」であることが認められるにすぎず,原告が指摘するほかの技術文献の記載によっても,医薬品分野において粒度が一定の数値範囲で示されているときには個々の粒子径の上限と下限が示されていると解釈するのが当業者の一般的な解釈であると認めることはできない。
むしろ,乙4ないし6によれば,当業者である沢井製薬は,本件第1特許発明請求項1,3の特許請求の範囲及び本件第1特許明細書の記載に基づいて,「粒度」を「体積基準メジアン径」と解釈していることが認められる。
(イ) また,原告は,体積基準メジアン径を一定の範囲に限定しても,個々の粒子の粒径は何ら限定されないから,本件第1特許発明請求項1,3の「粒度」を体積基準メジアン径と解すると,特許請求の範囲に記載された構成によっても,「粒子径の小さい粒子を排除することによって風味を改善する」という作用効果が必ずしも実現されないと主張する。
しかし,イソロイシンやロイシン等の分岐鎖アミノ酸の粉砕について通常の粉砕方法を用いた上で,粉砕後の全体の体積基準メジアン径を,従来より大きい20ないし700μmの範囲にするように粉砕した場合には,全体的に,各粒子の粒径は従来より大きくなり,したがって,従来より風味が改善されるという本件第1特許発明請求項1,3の作用効果が実現されるといえる。
原告は,粒子径10μmの均一粒子1000粒に粒子径50μmの粒子を8粒加えて体積基準メジアン径を50μmとした粒子群を例に挙げるが,分岐鎖アミノ酸含有医薬品を製造する際に各分岐鎖アミノ酸の粒子が,上記のような構成になることは,意図的に各粒子の粒径を小さくした上で体積基準メジアン径を引き上げる目的で通常とは異なる粉砕方法を用いない限りあり得ない。さらに,原告は,原告製剤の粒径20μm以下のイソロイシン及びロイシンの体積に占める割合が約20ないし30%であること,粒子数に占める割合が約92ないし97%であることから,原告製剤の風味は改善されていないはずであるとして,体積基準メジアン径が本件第1特許の特許請求の範囲内であっても風味が改善されていない製剤(原告製剤)が現実に存在する旨主張する。しかし,イソロイシン,ロイシンの体積基準メジアン径がそれぞれ57.7μm,38.7μmである原告製剤が,原告が主張する上記構成を有しているからといって,風味が改善されていないと認めることはできないから,原告の主張は前提を欠く。
(ウ) なお,原告は,本件第1特許発明請求項1,3の特許請求の範囲記載の「粒度」を体積基準メジアン径と解すると,体積基準メジアン径700μmの製剤をも許容することになり,かかる製剤には,日本薬局方の顆粒製剤の定義によって除外されている粒子径1700μmの粒子を含有することになってしまい不都合である旨主張する。しかし,本件第1特許明細書に,「本発明の医薬用顆粒製剤とは,日本薬局方に記載されている顆粒剤及び散剤を意味しており,その粒度も日本薬局方に規定されている範囲のものである。」(本件第1公報4欄4行ないし6行)と記載されていることから,仮に,そのような場合には,粒子径1700μmを超える粒子がないように調製するなどして,日本薬局方に規定されている範囲内で製造販売すべきことは明らかであり,何ら不都合はない。
エ 上記によれば,本件第1特許発明請求項1,3の特許請求の範囲に記載された「粒度」は,体積基準メジアン径を意味するものというべきである。
(2) 原告製剤及びその製造方法が本件第1特許発明請求項1,3の技術的範囲に属するか 前記のとおり,「粒度」とは体積基準メジアン径を意味するから,原告製剤に含まれる各分岐鎖アミノ酸粒子の体積基準メジアン径が20ないし700μmであれば,原告製剤は本件第1特許発明請求項3の技術的範囲に属し,その製造方法は本件第1特許発明請求項1の技術的範囲に属することとなる(「粒度」以外の要件を満たすことは,別紙「原告製剤目録」の記載により明らかであり,当事者間に争いがない。)。
原告製剤に含まれる各分岐鎖アミノ酸粒子の体積基準メジアン径は,別紙「原告製剤目録」記載のとおり,イソロイシンが57.7μm,ロイシンが38.7μmであるから,原告製剤及びその製造方法は,本件第1特許発明請求項1,3の技術的範囲に属する。 2 争点2(本件第1特許発明請求項1,3について,原告が先使用による通常実施権を有するか) (1) 証拠(甲5,8,10,11の1ないし4,12の1ないし3,13の1,13の2の1,2,13の3,21)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。
ア 原告は,平成11年半ばころから,被告製剤の再審査期間経過後に,その後発医薬品製造承認を得て製造販売すべく,後発医薬品の製造について検討を開始した。
イ 原告は,平成12年4月25日,佐藤薬品との間で,治験薬に関する基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結した。本件基本契約は,原告が,佐藤薬品に対し,治験薬「NPO-04」及び同安定性試験用サンプルの製造工程のうち粉砕,秤量,混合,練合,造粒加工等を委託する内容であった(甲5,10)。
佐藤薬品は,本件基本契約に基づき,本件第1特許発明特許出願日である同年10月26日の前後を通じて,次のような作業(以下「本件治験薬製造作業」という。)を行った(甲21)。
(ア) 同年4月27日,製造手順(原案)を作成した(甲11の1)。
(イ) 同年6月9日,上記製造手順(原案)を改訂して次のような内容(以下「原案改訂版」といい,aを「製造手順原案における分岐鎖アミノ酸の仕込量」,bを「製造手順原案における粉砕機設定内容」などとという。)にした(甲11の1)。
a 原料仕込量(1包量) L-イソロイシン 952mg L-ロイシン 1904mg L-バリン 1144mg b 製造手順(粉砕) 使用機器 アトマイザーAV-7.5G 標準作業方法 個々に粉砕(順不同可) スクリーン 2.0Φ ハンマー回転速度8000min-1(rpm)(一定) フィーダー回転速度30ないし60min-1(rpm) (ウ) 同月16日,上記製造手順(原案改訂版)の練合液の成分及び皮膜処理法を変更し,製造手順(原案-2)を作成したが,前記(イ)の内容に変更はなかった。(甲11の2)。
(エ) 同月20日及び21日,原告からの製造指示に基づき予備試製を実施した(甲11の3,4)。
この際実施された予備試製において製造された分岐鎖アミノ酸粒子の粒度は原告製剤におけるものとほぼ同一であった(甲14の1,2)。
(オ) 同年8月2日,上記製造手順(原案-2)の練合液の成分及び皮膜処理法をさらに変更し,製造手順(原案-3)を作成したが,前記(イ)の内容に変更はなかった(甲12の1)。
(カ) 同月28日ないし同年9月1日,原告からの製造指示に基づき予備試製を実施した(甲12の2,3)。
なお,この際の製造手順において,前記(イ)の内容に変更はなく,実際に採用された粉砕作業条件のフィーダ回転速度は40rpmであった。
(キ) 同年9月,申請に必要な溶出試験の検討を開始した。
(ク) 同年12月8日,上記製造手順(原案-3)について,試作結果を基に製造手順を一部変更し,製造手順(原案-4)を作成したが,前記(イ)の内容に変更はなかった(甲13の1)。
(ケ) 原告からの同月7日付委託製造依頼書を受け,同月11日から23日にかけて,治験薬GMP(治験薬の製造管理,品質管理基準及び治験薬の製造施設の構造設備基準,平成9年薬発第480号)に従って,治験薬及び同安定性試験用サンプルを製造した(甲13の2の1,2,13の3)。
なお,この際の製造手順において,前記(イ)の内容に変更はなかったが,実際に採用された粉砕作業条件のフィーダ回転速度は50rpmであった。
(コ) 平成13年1月ないし9月にかけて安定性試験の本試験を実施し,同年3月に溶出試験の本試験を実施し,同年5月ないし10月にかけて,被告製剤との生物学的同等性試験を実施した。
ウ 被告製剤の再審査期間は,平成14年1月30日をもって満了した。
エ 原告は,遅くとも同月31日までに原告製剤の構成を別紙原告製剤目録記載のとおり確定させ,同日,厚生労働省に,製造承認を申請し,平成15年3月12日に,原告製剤につき,薬事法(昭和35年法律第145号)14条1項に基づき,被告製剤の後発医薬品として製造承認を受けた(甲8)。
(2) 上記認定事実を前提として,原告が,本件第1特許発明請求項1,3の内容を知らないで自らその発明をし,本件第1特許発明の特許出願の際,現に日本国内においてその発明の実施である事業の準備をしている者(特許法79条)に該当するかどうかを,検討する。
ア 原告が,本件第1特許発明の特許出願時(平成12年10月26日)までに行っていたことは,@佐藤薬品との間で,被告製剤の後発医薬品の治験薬及び同安定性試験用サンプルの製造工程のうち粉砕,秤量,混合,練合,造粒加工等を委託する内容の契約を締結し,A佐藤薬品が,同契約に基づいて,治験薬製造手順原案,同原案改訂版,同原案-2を順次作成し,同原案-2に基づいて予備試製を実施した後,さらに同原案-3を作成し,同原案-3に基づいて予備試製を実施し,B同原案-3の段階で溶出試験の検討を開始したというものである。そして,その後,C佐藤薬品は,平成12年12月8日,上記製造手順(原案-3)について,試製結果を基に製造手順を一部変更し,製造手順(原案-4)を作成し,D 原告は,同月7日付委託製造依頼書により佐藤薬品に対して,治験薬GMP(治験薬の製造管理,品質管理基準及び治験薬の製造施設の構造設備基準,平成9年薬発第480号)に従って治験薬及び同安定性試験用サンプルを製造することを依頼し,これを受けて佐藤薬品は,同月11日から23日にかけて治験薬及び同安定性試験用サンプルの製造を行った,E 佐藤薬品は,平成13年1月ないし9月にかけて安定性試験の本試験を実施し,同年3月に溶出試験の本試験を実施し,同年5月ないし10月にかけて,被告製剤との生物学的同等性試験を実施した,というのである。
イ そこで,検討するに,佐藤薬品が原告からの委託に基づいて作成した製造手順原案における分岐鎖アミノ酸の仕込量及び平成12年6月の予備試製において製造した(上記アA参照)分岐鎖アミノ酸粒子の粒度は,原告製剤におけるものとほぼ同一であり((1)イ(エ)),上記仕込量及び粉砕機設定条件は,平成12年6月の原案改訂版から同年12月に実施された予備試製まで一貫していた(もっとも,上記粉砕機設定内容のうちフィーダー回転速度は,30ないし60min-1(rpm)と幅がある設定になっており,同年8月28日ないし同年9月1日に実施された予備試製では40rpmで実施されたが,同年12月の治験薬及びサンプルの製造においては,50rpmで実施された。なお,本件第1特許明細書の記載によれば,本件第1特許発明以前は,医薬用製剤の原料となる粉体の粒度は,一般的には10μm以下であったというのであるから(本件第1公報3欄1行ないし3行),本件第1特許発明の特許出願前の製造手順原案において,上記のように粉砕機が設定された理由は不明であるが,原告が本件第1特許発明の特許出願前の段階で粒度調整による風味の改善を企図して上記のように粉砕機を設定したという事情は認められない。)。
そうすると,既に平成12年6月9日の治験薬製造手順原案改訂版において,別紙「原告製剤目録」記載の構成を有する医薬用顆粒製剤の製造手順が記載されていたものであり,原告は,同月から同年9月にかけて,別紙「原告製剤目録」記載の構成を有する医薬用顆粒製剤を予備試製として製造していたことになる。
ウ しかるに,特許法79条にいう発明の実施である「事業の準備」とは,特許出願に係る発明の内容を知らないでこれと同じ内容の発明をした者又はこの者から知得した者が,その発明につき,いまだ事業の実施の段階には至らないものの,即時実施の意図を有しており,かつ,その即時実施の意図が客観的に認識される態様,程度において表明されていることを意味するものと解するのが相当である(最高裁昭和61年(オ)第454号同年10月3日第二小法廷判決・民集40巻6号1068頁参照)。
そして,特定の発明を用いたある事業について,即時実施の意図を有しているというためには,少なくとも,当該事業の内容が確定していることを要するものであって,当該事業に用いる発明の内容が確定しているだけでは不十分というべきである。
これを前記認定事実についてみると,本件第1特許発明の特許出願時(平成12年10月26日)においては,原告は,治験薬製造手順原案について改訂を重ねて,同原案-3を作成し,これに基づいて予備試製を実施し,溶出試験の検討を開始したという状況にあり,その後,上記製造手順(原案-3)について一部変更して,製造手順原案-4を作成し,佐藤薬品に依頼して,治験薬及び同安定性試験用サンプルの製造を行い,これを用いて平成13年1月ないし9月にかけて安定性試験の本試験を実施し,同年3月に溶出試験の本試験を実施し,同年5月ないし10月にかけて,被告製剤との生物学的同等性試験を実施したというのである。
業として医薬品の製造を行うためには,溶出試験,安定性試験,生物学的同等性試験を行い,厚生労働省の製造承認等を得る必要があるものであるところ,特許法79条にいう発明の実施である「事業の準備」をしているというためには,必ずしもこれらの過程のすべてを了していることを要するものではないが,少なくとも,これらの試験や製造承認の対象となる医薬品の内容が一義的に確定している必要があるというべきである。本件においては,平成12年12月になって,製造手順を一部変更し,同月,佐藤薬品に依頼して最終的な治験薬及び同安定性試験用サンプルの製造が行われているものであるから,少なくとも,最終的な治験薬及び同安定性試験用サンプルの製造が終了した同月23日より前に,原告において「事業の準備」をしていたと認めることはできない。
エ この点に関して,原告は,予備試製において製造された分岐鎖アミノ酸粒子の粒度は,平成12年6月の原案改訂版から一貫しているから,同年9月の時点で,当該粒度を有する薬品を製造販売する事業の準備がなされていたというべきであると主張する。
なるほど,上記イにおいて述べたとおり,平成12年6月9日の治験薬製造手順原案改訂版において,別紙「原告製剤目録」記載の構成を有する医薬用顆粒製剤の製造手順が記載されていたものであり,原告は,同月から同年9月にかけて,別紙「原告製剤目録」記載の構成を有する医薬用顆粒製剤を予備試製として製造していたことになる。
しかしながら,本件においては,証拠(甲11の1,2,12の1)によれば,原告製剤である「ブラニュート顆粒」は,有効成分(主剤)のほか,添加物として,ヒドロキシプロピルセルロース,マクロゴール6000,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,白糖,タルク,軽質無水ケイ酸,香料を含むものであるところ,これらの添加物の内容は,治験薬製造手順原案から同原案-3にかけて同一ではなく,また,同原案-3と本件第1特許発明の特許出願後における同原案-4との間でも同一ではない。そして,前記各証拠によれば,治験薬製造手順原案から同原案-4にかけて,造粒時の練合液や顆粒被膜液の成分であるこれらの添加物を変化させているのは,顆粒の溶出速度調節,各顆粒の粉化改善,被膜時のべとつき改善のためであり,技術的に意味のあることである。
そうすると,前述のとおり,本件第1特許発明の特許出願時においては,原告においては,製剤の内容が未だ一義的に確定していたとはいえないから,本件第1特許発明の特許出願の際,現に日本国内においてその発明の実施である事業の準備をしていた者(特許法79条)には,該当しない。
オ 上記によれば,原告が本件第1特許発明請求項1,3について先使用による通常実施権を有するということはできない。
3 争点3(本件第1特許発明請求項1,3について,特許法29条1項2号に違反して特許された無効理由があることが明らかか) (1) 証拠(甲1,2,5,6,12,13,20,32,34(枝番省略)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。
ア 被告は,平成8年1月31日,被告製剤につき,薬事法に基づき,新医療用配合剤として製造承認を得て,平成8年5月から,被告製剤を販売している(甲6)。
被告は,被告製剤の製造について,企業秘密として厳格な管理を行っており,その含有成分の組成は公開しているものの(甲6),その他の情報は外部に開示していない。また,被告製剤は,分岐鎖アミノ酸原料と練合剤を練合し,造粒して顆粒状にし,さらにコーティングを施したものである。
イ 被告は,平成12年10月26日に本件第1特許発明を出願して,特許登録を受けた(甲1,2) ウ 被告は,平成12年12月27日,特許庁長官に宛てて,本件第1特許発明の早期審査に関する事情説明書(本件事情説明書)を提出したが,同書面には,被告製剤の構成について,次のように記載されている(甲20)。
「顆粒製剤『リーバクト』の原料分岐鎖アミノ酸であるイソロイシン及びロイシンは苦味が強く,特有の風味の悪さがあるため,非常に服用しにくいことが欠点であった。そのため甘味料及び着香料を顆粒中に配合したり,矯味コーティングすることで服用性の改善をはかってきたが十分ではなかった。本件出願の発明者らは,かかる事情に鑑み,その苦味,風味の改善について更に鋭意研究した結果,意外にも原料に使用するイソロイシン,ロイシンの粒度と製品顆粒剤の苦味,風味に相関があることを見出し,本件発明をするに至った。すなわち,本件出願明細書に記載した通り,原料アミノ酸の粒度を通常の医薬品の原料粉末の粒度(およそ10μm以下)に較べて大きくし,20〜700μm,好ましくは50〜500μmにすることによって,課題であった製品顆粒剤の苦味,風味の悪さを大幅に低減できることを見出したものである。かかる技術は分岐鎖アミノ酸顆粒製剤の課題解決にきわめて有用であるため,今後,『リーバクト』等の顆粒製剤製品の製造に導入する予定である。」 エ 被告は,本件第1特許発明が登録された後,厚生労働省に対して,被告製剤の構成を変更した等の報告をしておらず,本件第1特許発明の出願前に得た承認の下で,被告製剤を製造販売していた。
オ 被告は,原告が,原告製剤について承認を得た後,当面原告製剤の分岐鎖アミノ酸粒子の粒度を変更した暫定製品を販売する方針であることについて,平成15年4月18日付の書面で,厚生労働省医政局経済課長に宛てて,「分岐鎖アミノ酸製剤『リーバクト顆粒』の後発品企業との交渉について」と題して,被告製剤の構成について次のような内容の文書を提出した(甲32)。
「今回の交渉で,治験薬は弊社の特許に抵触しているような製造をしていましたが,実生産は弊社の特許を回避する方法で製造したり,実生産では回避する予定との回答を頂いております。特に,原材料の分岐鎖アミノ酸を20-700μmで調製して製剤化したもの(リーバクト顆粒は約50μmを使用)と弊社の特許を回避するために20μm以下に微粉砕した原料で顆粒製剤化したものでは生物学的同等性(有効成分である3種のアミノ酸全てのAUCおよびCmax)が異なる可能性が高いことが弊社の基礎実験(イヌにおける血中濃度の検討)で示唆されております。言い換えますと実生産品は先発品とBE(生物学的同等性)が異なる可能性が高いということになります。現在の許可の査察においては,治験薬と実生産品の製剤学的同等性をチェックすることは,アメリカなどと異なり必ずしも明確化されておりません。しかし,‥‥‥薬効発現に差が生じる可能性があるということは,治療の現場に混乱をきたす恐れがあります。当局におかれましては,是非,後発品企業とのヒヤリングに際しまして,このことを念頭に置かれまして,治験薬のみならず実生産品のBEが,確かに先発品と製剤学的に同等であるとのご確認とご指導を賜わりたくお願い申し上げます。」 カ 原告は,平成15年6月13日付の書面で,被告に対し,被告が厚生労働省に上記書面を提出したことについて,異議を述べた(甲33)。
原告の異議の内容は,概ね次の4点であった。@原告は,原告製剤が本件第1特許発明技術的範囲を充足することを認めていないのに,あたかも原告がこの点を認めたかのような記載をしていること,A被告は,原告との交渉過程において,秘密保持契約を締結したにもかかわらず,原告製剤の分岐鎖アミノ酸の粒度を漏洩していること,B粒度によって生物学的同等性が異なるというのであれば,被告製剤も,製造販売を始めた当初の粒度(10μm以下)と,本件第1特許発明の出願後の粒度(約50μm)とでは変更がなされているから生物学的同等性を欠くことになること,C仮に,被告が被告製剤の粒度を変更していないというのであれば,本件第1特許発明の出願前から公然実施していたことになり,本件第1特許発明は無効事由を有すること。
キ 被告は,同年7月2日付の書面で,原告の上記書面に返答し,その際,上記カBの点については,「弊社製品につき製造承認を弊社が取得した時点の粒度と現在弊社が製造している弊社製品の粒度とが異なるかのような疑いをもたれているようですが,そのような事実はございません。」と回答した(甲34)。
(2) 上記のとおり,被告は,平成15年4月に厚生労働省に提出した書面に「リーバクト顆粒は約50μmを使用」と記載し,同年7月に原告に提出した書面に「弊社製品につき製造承認を弊社が取得した時点の粒度と現在弊社が製造している弊社製品の粒度とが異なるかのような疑いをもたれているようですが,そのような事実はございません。」と記載しているものであり,これらの記載に照らせば,平成8年ころから本件第1特許発明の特許出願前まで製造販売されていた被告製剤に含有される分岐鎖アミノ酸粒子の粒度は約50μmであったと認めるべきものである。
被告は,平成12年12月作成の本件事情説明書において,「顆粒製剤『リーバクト』の原料分岐鎖アミノ酸であるイソロイシン及びロイシンは苦味が強く,特有の風味の悪さがあるため,非常に服用しにくいことが欠点であった。」「その苦味,風味の改善について更に鋭意研究した結果,意外にも原料に使用するイソロイシン,ロイシンの粒度と製品顆粒剤の苦味,風味に相関があることを見出し,本件発明をするに至った。」「今後,『リーバクト』等の顆粒製剤製品の製造に導入する予定である。」などと記載し,上記記載からは,本件第1特許発明出願前においては,被告製剤に含有される分岐鎖アミノ酸粒子の粒度は20μm以下で,風味が悪かったかのようにも解し得るが,「『リーバクト』は苦味が強く」と記載されているわけではなく,「『リーバクト』の原料分岐鎖アミノ酸であるイソロイシン及びロイシンは苦味が強く」と記載されていること,前記のとおり,同書面作成後の平成15年4月,7月には,被告製剤に含有される分岐鎖アミノ酸粒子の粒度が約50μmである旨の書面を作成していること等に弁論の全趣旨を総合すれば,上記のとおり,被告製剤の各分岐鎖アミノ酸粒子は,平成8年の販売開始当初から体積基準メジアン径が約50μmであったと認めるのが相当である(本件においては,これを覆すに足りる証拠は,被告から提出されていない。)。
(3) そこで,以下,被告製剤に含有される分岐鎖アミノ酸粒子の粒度が約50μmであることを前提として,被告製剤が市販されていたことをもって,本件第1特許発明請求項1,3に特許法29条1項2号所定の公然実施に該当する事由があるということができるかどうかについて,検討する。
特許制度は,新たな技術思想の社会への公開の代償として,これについいて独占権を付与するものであるから,既に社会的に知られている技術的手段に対して独占権を付与する必要はなく,また,そのような技術的手段に対して独占権を付与することは自由な技術の発展をかえって妨げることになりかねないものである。
特許法が,同法29条1項各号所定の発明については特許を受けることができない旨を規定しているのは,このような趣旨に出たものである。そうすると,同項2号の「公然実施」については,不特定多数の者の前で実施をしたことにより当該発明の内容を知り得る状況となったことを要するものであり,単に当該発明の実施品が存在したというだけでは,特許取得の妨げとはならないと解するのが相当である。この場合において,当該発明が物の発明である場合にあっては,当該発明の実施品が,当業者にとって当該実施品を完全に再現可能なほどに分析することが可能な状態にあることまでは必要でないが,当業者が利用可能な分析技術を用いて当該発明の実施品を分析することにより,特許請求の範囲に記載されている物に該当するかどうかの判断が可能な状態にあることを要するものと解するのが相当である。
そして,発明の実施品が市場において販売されている場合には,特段の事情のない限り,当該実施品を分析してその構成ないし組成を知り得るのが通常というべきである。
これを本件についてみるに,前記のとおり,被告製剤に含有される分岐鎖アミノ酸粒子の粒度は開始当初から体積基準メジアン径が約50μmであったと認められるものであり,そうすると,本件第1特許発明の特許出願前から,本件第1特許発明請求項1の方法により製造され,同請求項3の実施品である被告製剤が販売されていたということになる(被告製剤が分岐鎖アミノ酸粒子の粒度以外の要件を満たすことは,甲6により認められる。)。しかしながら,証拠(甲6,乙12)によれば,被告製剤の製造方法は,企業秘密として厳格に管理されており,その含有成分の組成は公開されているものの,その他の情報は外部に開示されておらず,分岐鎖アミノ酸原料と練合材を練合し,造粒して顆粒状にし,さらにコーティングを施した製剤という性質上,イソロイシン,ロイシンの個々の粒子を練合前の粒子径のままに分離することは困難であると認められ,市販されている被告製剤からこれに含有される分岐鎖アミノ酸粒子の粒度を解析し,被告製剤が本件第1特許発明請求項3の構成を備えたものであり,同請求項1の方法により製造されたことを知ることは,当業者が通常に利用可能な分析技術によっては極めて困難というべきである(この認定を覆すに足りる証拠は,原告から提出されていない。)。
そうすると,被告製剤が市販されていたことをもって,本件第1特許発明請求項1,3に特許法29条1項2号所定の公然実施に該当する事由があるということはできないというべきである。
(4) 上記によれば,本件第1特許発明請求項1,3について,特許法29条1項2号に違反して特許された無効理由があるということはできない。
4 争点4(被告が本件第1特許発明請求項1,3について特許を受けた行為が特許法197条の詐欺の行為により特許を受けた行為に該当するか,これが該当するとした場合に,同行為によって特許を得た本件第1特許権に基づく権利行使が権利の濫用に当たるか) (1) 前記3(2)(3)記載のとおり,被告製剤の各分岐鎖アミノ酸粒子は平成8年の販売開始当初から体積基準メジアン径が約50μmであったと認められるから,本件第1特許発明の特許出願前から,本件第1特許発明請求項1の方法により製造され,同請求項3の実施品である被告製剤が販売されていたということになる。
他方,前記3(1)ウ記載のとおり,本件第1特許発明の特許出願過程において,被告は特許庁に本件事情説明書(甲20)を提出したものであるところ,同書面には「被告製剤の原料分岐鎖アミノ酸であるイソロイシン及びロイシンは苦味が強く,特有の風味の悪さがあるため,非常に服用しにくいことが欠点であった。」,「本件出願の発明者らは,その苦味,風味の改善について更に鋭意研究した結果,……本件発明をするに至った。」,「かかる技術は,……今後,『リーバクト』等の顆粒製剤製品の製造に導入する予定である。」旨が記載されていた。
(2) 原告は,被告の上記行為は,特許法197条所定の詐欺行為に該当し,仮にそうでないとしても,少なくとも,特許法の適正手続に背く行為であるから,このようにして得られた本件第1特許権に基づく権利行使は権利の濫用に当たる旨主張する。そこで,この点につき検討する。
特許法197条の規定する「詐欺の行為により特許……を受けた者」とは,虚偽の資料を提出するなどして,特許要件を欠く発明について特許登録を受けた者をいうものと解するのが相当である。
本件においては,前記3(3)において述べたとおり,各分岐鎖アミノ酸粒子の体積基準メジアン径が約50μmの被告製剤が市販されていたことをもって,本件第1特許発明請求項1,3が特許法29条1項2号の発明に該当し特許要件を欠いていたということはできないから,被告が上記内容の記載のある本件事情説明書を提出したことにより特許要件を欠く発明について特許登録を受けたということはできない。したがって,被告が特許法197条所定の詐欺行為により本件第1特許発明請求項1,3につき特許登録を受けたということはできない。
また,早期審査に関する事情説明書に上記のような記載をしたことをもって,本件第1特許権に基づく権利行使が権利の濫用に当たるということもできない。
(3) 上記によれば,被告が特許法197条の詐欺行為により本件第1特許権請求項1,3につき特許登録を受けたとし,あるいは早期審査に関する事情説明書に上記のような記載をしたことを理由として,本件第1特許権に基づく権利行使が権利の濫用に当たるという原告の主張は,採用できない。
5 争点5(原告製法が本件第2特許発明請求項1,2の技術的範囲に属するか) (1) 証拠(甲12の1,22)によれば,原告製法の詳細は,次のとおりである。
原告製剤の製造工場には複数の作業室が存在し,作業室の室温は,作業室ごとの個別管理ではなく,工場全体にいくつかある空調系統ごとになされている。
空調系統によって,16ないし26℃に空調管理されている作業室と17ないし28℃に空調管理されている作業室があり,原告製剤を製造している作業室は,前者の空調系統により温度管理されている。
原告製法に使用する精製水は,精製水製造設備からユースポイントまでループ配管により供給されており,同配管は一部外気にさらされ,温度調整はなされていない。作業者は,自らの作業室に近いユースポイントにおいて精製水をステンレス容器に採取して作業室に持ち込み,マクロゴール6000を添加して練合水として使用している。ユースポイントから作業室において使用されるまでの間も,精製水ないし練合水の温度調整はなされていない。
原告製法においては,バーチカルグラニュレーター(FM-VG-200P)でアミノ酸粉砕品とHPC-L微粉を混合し,同混合物に上記練合水を投入して練合する。上記練合機には温度調節のための媒体を循環させるジャケットが付帯しているが,温度調節はなされていない。
練合された半製品は,ステンレス容器に移し替えられ,押出造粒機ツインドームグラン(TDG-110。甲26)に供給される。
押出造粒機ツインドームグランには,動力装置への負荷による電流変化を常時検知する電流計を装備しているが,消費電力の記録装置,温度制御機構は存在しない。原告製剤の製造を担当している佐藤薬品従業員の水口は,上記電流計による押出造粒の管理は行っていない。
(2) 本件第2特許発明請求項1,2の特許請求の範囲における「押出造粒機に供給する練合物の温度を30℃〜0℃に調節する」の意味について 本件第2特許発明請求項1の特許請求の範囲には「押出造粒機に供給する練合物の温度を30℃〜0℃に調節する」と記載され,同請求項2の特許請求の範囲においては上記記載が引用されている。
そこで,「押出造粒機に供給する練合物の温度を30℃〜0℃に調節する」の意味について検討するに,本件第2特許発明に係る無効審決(甲25)においては,本件第2特許発明の範囲における「押出造粒機に供給する練合物の温度を30℃〜0℃に調節する」とは,単に「押出造粒機に供給する練合物の温度が30℃〜0℃である」という状態を意味するのではなく,例えば造粒機に供給される練合物の温度が検知され,設定温度範囲を維持するに必要な処理がなされることをいうのであって,そうでなければ「調節」しているとはいえないとされ,このような解釈に従って,本件第2特許発明は,温度が自然に30ないし0℃に保たれる場合もあり得るが積極的な温度調節を行うことについて何ら開示のない先行技術とは区別されるものであり,このような先行技術によって本件第2特許発明新規性が否定されることはないとされたものである。
上記のような経緯に照らせば,本件第2特許発明請求項1,2における「押出造粒機に供給する練合物の温度を30℃〜0℃に調節する」とは,「温度調節の手段を備える」ことを必須とするとまではいわないとしても,少なくとも何らかの手段によって押出造粒機に供給する練合物の温度を30ないし0℃にするような積極的な温度調節を行うこと(例えば,練合時の水の温度をかなり低めに設定するなど)を意味し,練合物の温度が作業環境によって自然に30ないし0℃に保たれるような場合は,これに該当しないものと解するのが相当である。
(3) 原告製法が本件第2特許発明請求項2の技術的範囲に属するか 前記(1)で認定の事実によれば,原告製法において練合物の練合に用いられる練合水は,精製水製造設備からループ配管により施設内の作業室の外に設けられたユースポイントまで供給され,ユースポイントにおいて,作業者が,精製水をステンレス容器に採取して作業室に持ち込み,マクロゴール6000を添加して練合水として使用しており,上記ループ配管は一部外気にさらされ,温度調節されていないというのであるから,これを室温16ないし26℃に温度調節された作業室内に持ち込んで使用しているとしても,作業室内において,練合水を検温し,水温が室温と同温度となるまで放置する等の特段の工程を経ない限り,練合水の温度を作業室の室温によって調節しているということはできない。
上記のとおり,本件原告製法においては練合水の温度を調節しているとはいえないから,原告製法が本件第2特許発明の請求項2の技術的範囲に属するということはできない。
(4) 原告製法が本件第2特許発明請求項1の技術的範囲に属するか 前記(1)で認定の事実によれば,原告製法は,16ないし26℃に空調管理されている作業室において,アミノ酸粉砕品とHPC-L微粉を混合し,同混合物に上記練合水を投入して練合するというものであるが,原告製法においては,単に作業環境として室温を16ないし26℃に設定しているものであり,このような室温設定を行っていることをもって練合物の温度を調節していると認めることはできない。また,練合水の温度を調整することによって練合物の温度を調整しているということもできないことは,上記(2)において述べたとおりである。
上記によれば,原告製法が本件第2特許発明請求項1の技術的範囲に属するということはできない。
(5) したがって,原告製法は,本件第2特許発明請求項1,2の技術的範囲に属さない。
6 以上によれば,原告製剤及びその製造方法は,本件第1特許発明請求項1,3の技術的範囲に属するものであり,本件第1特許発明請求項1,3について原告が先使用による通常実施権を有するとは認めれられず,また,被告が本件第1特許権に基づく権利行使をすることが本件第1特許発明に無効理由があることが明らかである等の理由により権利の濫用に当たるということもできない。したがって,被告は,原告による原告製剤の製造及び販売について本件第1特許権に基づく差止請求権を有するから,被告が同請求権を有しないことの確認を求める請求は理由がない。
他方,原告製法は,本件第2特許発明請求項1,2の技術的範囲に属さないから,その余の点について判断するまでもなく,被告は,原告の原告製法による原告製剤の製造及び原告製法により製造した原告製剤の販売について,本件第2特許権に基づく差止請求権を有しない。したがって,被告が同請求権を有しないことの確認を求める請求は理由がある。
よって主文のとおり判決する。
追加
別紙原告製剤目録商品名「ブラニュート顆粒」a1包(4.73g)中,有効成分としてL-イソロイシン952mgL-ロイシン1904mgL-バリン1144mgのみを含有する,含量均一性の良好な医薬用顆粒製剤である。
b堀場製作所製「レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(HORIBALAー920)」による粒子径分布測定の結果が次頁・次々頁記載のとおりの,イソロイシン粉末及びロイシン粉末を原料として用いる。なお,同測定結果によれば,各原料の粒子径分布,粒子径20μm未満の粒子の含有率,体積基準メジアン径は次のとおりである。
(ア)原料イソロイシン粉末粒子径分布約6〜450μm程度粒子径20μm未満の粒子体積基準で約20%程度体積基準メジアン径57.7μm(イ)原料ロイシン粉末粒子径分布約4.5〜520μm程度粒子径20μm未満の粒子体積基準で約30%程度体積基準メジアン径38.7μm粒子径分布測定の結果は,省略。
別紙原告製法目録aイソロイシン,ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸とHPC-Lを含有する粒子混合物に,b室温16℃〜26℃の環境下で,温度調節しない室温成行の蒸留水にマクロゴール6000を含有させた練合液を加えて練合し,c上記室温の環境下で,押出造粒機(不二パウダル株式会社製造,株式会社ダルトン販売の「ツインドームグランTDG-110」)により押出造粒する際に,押出造粒機に供給する練合物の温度を調節することなく室温成行とし,d上記造粒機内の練合物の温度を調節することなく,結果的に30℃を超えることとなるeイソロイシン,ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 古河謙一
裁判官 吉川泉
  • この表をプリントする