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関連審決 不服2005-828
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 産業上利用(29条1項柱書) /  自然法則 /  技術的思想 /  創作性(創作) /  アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  上位概念 /  技術常識 /  翻訳文 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  不存在 /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  独立特許要件 /  国際出願 /  国際公開 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10281号 審決取消請求事件
原告GEコンシューマー・ファイナンス株式会社 (審決上の請求人の表示) ジー・イー・コンシューマー・クレジット株式会社
訴訟代理人弁護士熊倉禎男,飯田圭,相良由里子
同弁理士西島孝喜,越柴絵里
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人久保田健,佐藤伸夫,佐藤智康,山本章裕,田中敬規
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/04/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が不服2005−828号事件について平成18年5月9日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判主文と同旨の判決。
第2事案の概要本件は,特許出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)ジー・イー・コンシューマー・クレジット株式会社は,平成13年6月19日,発明の名称を「取引可否決定方法,取引可否決定システム,中央装置,コンピュータプログラム,及び記録媒体」とする特許出願をした(甲4)。
(2)GE・コンシューマー・クレジット有限会社は,平成14年12月2日,上記ジー・イー・コンシューマー・クレジット株式会社を合併し,さらに,原告(旧商号ゼネラル・エレクトリック・キャピタル・コンシューマー・ファイナンス株式会社)は,平成15年10月1日,合併後の上記GE・コンシューマー・クレジット有限会社を合併した(記録上明らかな事実)。
(3)原告は,平成16年12月9日付けで拒絶査定を受けたので,平成17年1月13日,拒絶査定に対する審判を請求し(甲9。不服2005-828号事件として係属),さらに,同年2月10日付けの手続補正書(甲6)により明細書を補正(以下「本件補正」という。)した。
本件補正は,発明の名称を「取引可否通知方法,取引可否通知システム,及び中央装置」に変更し,平成16年10月18日付けの手続補正書(甲5)による補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし14について,1ないし3,7,8,10,13,14を削除し,4ないし6,9,11,12を1ないし6に繰り上げた上,その内容を変更する,というものである。
(4)特許庁は,平成18年5月9日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月23日,その謄本を原告に送達した。
2特許請求の範囲の記載(1)本件補正前(平成16年10月18日付手続補正書による補正後)の請求項4(甲5。その余の請求項の記載は省略)【請求項4】表示手段,入力手段及び通信網に接続する通信手段を備える端末装置に関連する人物に対する取引の可否を,前記通信網に接続する通信手段を備え,前記通信網に接続して前記端末装置と通信する中央装置にて決定する取引可否決定方法において,前記端末装置は,通信手段により接続した通信網を介して前記中央装置に接続し,前記中央装置は,人物に関する第1人物情報の入力を要求する第1入力要求情報を,通信手段により接続した通信網を介して前記端末装置へ送信し,前記端末装置は,更に,第1入力要求情報を,通信手段により接続した通信網を介して受信し,受信した第1入力要求情報に基づいて第1人物情報の入力を要求する画像を表示手段に表示し,第1人物情報の入力を入力手段により受け付け,入力を受け付けた第1人物情報を,通信手段により接続した通信網を介して前記中央装置へ送信し,前記中央装置は,更に,第1人物情報を,通信手段により接続した通信網を介して受信し,前記人物に関し第1人物情報と異なる第2人物情報の入力を要求する第2入力要求情報を,通信手段により接続した通信網を介して前記端末装置へ送信し,前記端末装置は,更に,第2入力要求情報を,通信手段により接続した通信網を介して受信し,受信した第2入力要求情報に基づいて第2人物情報の入力を要求する画像を表示手段に表示し,第2人物情報の入力を入力手段により受け付け,入力を受け付けた第2人物情報を,通信手段により接続した通信網を介して送信し,前記中央装置は,更に,第2入力要求情報の送信から第2人物情報の受信までの処理と並行して,受信した第1人物情報に基づく第1処理を開始し,第2人物情報を,通信手段により接続した通信網を介して受信し,第1処理の結果及び受信した第2人物情報に基づく第2処理の結果に基づいて,取引の可否を決定することを特徴とする取引可否決定方法。
(2)本件補正後の請求項1(甲6。上記(1)の本件補正前の請求項4に相当する。その余の請求項の記載は省略。下線部が訂正個所である。)【請求項1】表示手段,入力手段及び通信網に接続する通信手段を備える端末装置と,前記通信網に接続する通信手段及び記録手段に予め記録された記録情報を読み出す手段を備える中央装置とが前記通信網に接続して相互に通信を行い,前記中央装置が前記端末装置に関連する人物に対する取引の可否を通知する取引可否通知方法において,前記端末装置は,通信手段により接続した通信網を介して前記中央装置に接続し,前記中央装置は,人物に関する第1人物情報の入力を要求する第1入力要求情報を,通信手段により接続した通信網を介して前記端末装置へ送信し,前記端末装置は,更に,第1入力要求情報を,通信手段により接続した通信網を介して受信し,受信した第1入力要求情報に基づいて第1人物情報の入力を要求する画像を表示手段に表示し,第1人物情報の入力を入力手段により受け付け,入力を受け付けた第1人物情報を,通信手段により接続した通信網を介して前記中央装置へ送信し,前記中央装置は,更に,第1人物情報を,通信手段により接続した通信網を介して受信し,前記人物に関し第1人物情報と異なる第2人物情報の入力を要求する第2入力要求情報を,通信手段により接続した通信網を介して前記端末装置へ送信し,前記端末装置は,更に,第2入力要求情報を,通信手段により接続した通信網を介して受信し,受信した第2入力要求情報に基づいて第2人物情報の入力を要求する画像を表示手段に表示し,第2人物情報の入力を入力手段により受け付け,入力を受け付けた第2人物情報を,通信手段により接続した通信網を介して送信し,前記中央装置は,更に,第2入力要求情報の送信から第2人物情報の受信までの処理と並行して,受信した第1人物情報と前記記録手段に予め記録された記録情報との照合を含む第1処理を開始し,第2人物情報を,通信手段により接続した通信網を介して受信し,受信した第2人物情報に基づく第2処理を行い,第1処理の照合による結果及び第2処理の結果に基づいて決定した取引の可否を示す結果情報を前記端末装置へ送信して取引の可否を通知することを特徴とする取引可否通知方法。
3審決の理由の要旨審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件補正後の請求項1に係る発明は,特許法29条2項の規定により特許出願の際,独立して特許を受けることができるものではなく,特許法17条の2第5項で準用する同法126条4項の規定に違反するから,本件補正は,平成15年改正前特許法159条1項で準用する同法53条1項の規定により却下すべきものであり,本件補正前の請求項4に係る発明(以下「本願発明」という。)は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,他の請求項について検討するまでもなく,本願は特許を受けることができない,というものである。
(1) 本件補正についての補正却下の決定[補正却下の決定の結論]平成17年2月10日付の手続補正を却下する。
[理由]ア 補正の目的の適否(ア) 補正前の請求項4を補正して,補正後の請求項1とする補正について,以下に検討する。
補正後の請求項1は,a 補正前の請求項4の「表示手段,入力手段及び通信網に接続する通信手段を備える端末装置に関連する人物に対する取引の可否を,前記通信網に接続する通信手段を備え,前記通信網に接続して前記端末装置と通信する中央装置にて決定する取引可否決定方法」を「表示手段,入力手段及び通信網に接続する通信手段を備える端末装置と,前記通信網に接続する通信手段及び記録手段に予め記録された記録情報を読み出す手段を備える中央装置とが前記通信網に接続して相互に通信を行い,前記中央装置が前記端末装置に関連する人物に対する取引の可否を通知する取引可否通知方法」と補正することにより,「中央装置」が「記録手段に予め記録された記録情報を読み出す手段を備える」との限定をし,また,「中央装置」が,「前記通信網に接続して相互に通信を行い,前記端末装置に関連する人物に対する取引の可否を通知する」との限定をすることにより,「取引可否決定方法」が「取引可否通知方法」であるとの限定をするものであり,b 補正前の請求項4の「第1人物情報に基づく第1処理」を「第1人物情報と前記記録手段に予め記録された記録情報との照合を含む第1処理」と補正することにより,「第1処理」が「第1人物情報と前記記録手段に予め記録された記録情報との照合を含む」との限定をするものであり,c 補正前の請求項4の「第1処理の結果及び受信した第2人物情報に基づく第2処理の結果に基づいて,取引の可否を決定することを特徴とする取引可否決定方法」を「受信した第2人物情報に基づく第2処理を行い, 第1処理の照合による結果及び第2処理の結果に基づいて決定した取引の可否を示す結果情報を前記端末装置へ送信して取引の可否を通知することを特徴とする取引可否通知方法」と補正することにより,「取引可否決定方法」が「取引可否通知方法」であるとの限定をする,ものであるから,特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲減縮を目的とするものに該当する。
(イ) 補正前の請求項5,9,11,12を補正して,それぞれ,補正後の請求項2,4,5,6とする補正について,以下に検討する。
補正前の請求項5,9,11,12は,補正前の請求項4の「取引可否決定方法」に対応する,「中央装置」,「取引可否決定システム」,「中央装置」の発明であり,(ア)の補正前の請求項4を補正後の請求項1に補正するのと同様な趣旨により,請求項の記載を限定するものであるから,特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲減縮を目的とするものに該当する。
そこで,補正後の請求項1ないし6に記載された発明(以下「本件補正発明1ないし6」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第5項において準用する同法126条4項の規定に適合するか)について以下に検討する。
独立特許要件(ア) 引用例拒絶の理由に引用された国際公開第97/22073号パンフレット(以下「引用例1」という。)には,図面とともに,下記の事項が記載されている。なお,当該国際公開パンフレットの記載の翻訳文は,当該国際公開に係る国際出願の指定国である日本における特許出願の公表特許公報である「特表2002-515991号公報」(本訴甲1)の記載に依ることとし,引用例1の引用箇所は公表特許公報の対応する記載箇所を指摘することで代えた。
a 「システムの概説本発明のシステムは,フロントエンド処理通信システム16に結合した金融ネットワーク端末14を含み,このシステム16は,全ての既存の顧客に関する情報を含むデータベース17にアクセスできる。フロントエンド処理通信システム16は,金融機関外の社会保障番号及び小切手の筆跡データベース(チェックスシステムズ(Chexsystems)として既知である)ならびにACAPS処理システム26に接続されており,これはいくつかの他のシステムにアクセスする。これらのシステムには,オンラインバンクデータアクセスシステム24,信用調査所システム28,データアクセスシステム36,バンクカード口座履行システム40,及び申請人ルーティング/情報登録システム42が含まれる。」(26頁2〜11行)b 「ACAPS処理システム26はデータベース27を含み,これは,例えば処理中の申請書,完了した照会要件及び審査中の信用限度申し出など,既存の顧客情報を記憶する。」(26頁15〜17行)c 「オンライン信用貸し審査及び承認を行うシステム及び方法は,図40のブロック2000で始まるフローチャートに象徴的に示されている。フロントエンド処理システム(図1のブロック14及び16)にアクセスし,以下をデータ入力スクリーンに入力する:(1)申請人10の要請する信用貸し商品の情報:(2)処理中(ペンディング)の申請書:又は(3)申請人10のための信用限度申し出。これらを,ACAPS顧客情報ファイル記憶装置(第1図のブロック27)から起動して,信用貸し決定処理を行うことができる(ブロック2002)。」(26頁28〜27頁6行)d 「入力データ(ブロック2002)を,強化ACAPSに転送する(ブロック2004)。この転送により,オンライン審査及び承認決定処理が開始される。システムは経歴照合処理を行い,信用限度申し出を割り当てるために申請人の更なる信用力を確認する(ブロック2005)。」(27頁7〜10行)e 「全てのデータを入力した後,商品保守-1(PM1)表(図3に示される)において構成されるように,最少年齢,最低所得(収入),不正及び二重申請に関するフロントエンド事前審査を行う(図41のブロック2020)。申請が事前審査のパラメータを満たさなかった場合(ブロック2022のYESブランチ),これをバックオフィスに送り,(図39に示される)CCH優先表から最優先に割り当てられたルート状態を用いて更に審査する(ブロック2024)。バックオフィス審査の際,情報ディスプレイとして,保険業者又は審査員によって商品及び保険情報(Product andInsurance Information)(PII)(図18)ならびに所得情報(Income Information)(INC)(図20)を示すスクリーンにアクセスし,バックオフィス信用貸し決定プロセスを助けることができる。申請は“EN”(処理中)の状態を維持し,審査が進行中であることを申請人10に通知する(ブロック2026)。ここで,本発明の処理は完了セッションプロセスに分かれる(ブロック2028)。」(28頁5〜17行)f 「構成される災害/ポリシー審査を通過しなかった場合(ブロック2034からのYESブランチ),申請ステイタスを“RT”(拒絶推奨)に変更し(ブロック2036),前述のようにバックオフィス審査に送る(ブロック2048)。次に,前述のように,処理は図51に示される完了セッションプロセスに分かれる(ブロック2028)。災害/ポリシー審査を通過した場合(ブロック2034からのNOブランチ),災害応答コードを決定し,申請に割り当てる(ブロック2038)。」(29頁13〜19行)なお,公表公報には,「ACAPS」は,「クレジット処理システム」の略称として示されている。
同じく,拒絶の理由に引用された特開2001-125958号公報(本訴甲2,以下「引用例2」という。)には,以下の事項が図面とともに記載されている。
g 「【請求項1】顧客が借入審査を依頼した場合に,これに応じた処理が行われる為のシステムであって,前記システムは,中央処置装置と端末装置とを有し,前記中央処置装置と前記端末装置とは接続され,前記中央処理装置は,借入審査を依頼する旨の情報を前記端末装置から受信した場合,借入希望額,年収,及び借入期間に関する情報の入力を顧客に指示する旨の情報を前記端末装置に送信する手段と,前記端末装置に入力された借入希望額,年収,及び借入期間に関する情報を前記端末装置から受信した場合,この受信した借入希望額,年収,及び借入期間に関する情報に基づいて借入が可能か否かを判断する判断手段と,前記判断手段による判断の結果,借入が可能である場合,借入が可能である旨の情報を前記端末装置に送信し,借入が不可能である場合,借入が不可能である旨の情報を前記端末装置に送信する手段とを有し,前記端末装置は,入力された借入審査を依頼する旨の情報を前記中央処理装置に送信する手段と,借入希望額,年収,及び借入期間に関する情報の入力を指示する旨の情報を前記中央処理装置から受信した場合,借入希望額,年収,及び借入期間に関する情報を入力する旨を指示する手段と,前記端末装置に入力された借入希望額,年収,及び借入期間に関する情報を前記中央処理装置に送信する手段と,借入が可能である旨の情報を前記中央処理装置から受信した場合,借入が可能である旨を知らせ,借入が不可能である旨の情報を前記中央処理装置から受信した場合,借入が不可能である旨を知らせる手段とを有することを特徴とする借入審査システム。」(特許請求の範囲)(イ) 引用例1に記載された発明a 上記摘記事項aの記載によれば,「フロントエンド処理通信システム」は「金融ネットワーク端末」を含み,「フロントエンド処理通信システム」は,「ACAPS処理システム」に接続されており,また,フロントエンド処理通信システムは,他のシステムにも接続されるのだから,「金融ネットワーク端末」は,通信網に接続する通信手段を備え,「ACAPS処理システム」と相互に通信を行っているといえる。
また,「金融ネットワーク端末」は,「端末」であるから,技術常識からすると「表示手段」,「入力手段」を備えていることは,自明である。
b 上記摘記事項c,e及びfの記載によれば,オンライン信用貸し審査及び承認を行うシステム及び方法は,オンライン信用貸しの可否を通知するオンライン信用貸し可否通知方法であるといえる。
そして,その可否通知は,金融ネットワーク端末に入力される申請人,すなわち,人物に対するものであるから,金融ネットワーク端末に関連する人物に対するものであることは,明らかである。
そうすると,引用例1には,「表示手段,入力手段及び通信網に接続する通信手段を備える金融ネットワーク端末と,前記通信網に接続する通信手段及びACAPS顧客情報ファイル記憶装置に予め記録されたACAPS顧客情報ファイルを読み出す手段を備えるACAPS処理システムとが前記通信網に接続して相互に通信を行い,前記ACAPS処理システムが前記金融ネットワーク端末に関連する人物に対するオンライン信用貸しの可否を通知するオンライン信用貸し可否通知方法において,前記金融ネットワーク端末は,通信手段により接続した通信網を介して前記ACAPS処理システムに接続し,前記金融ネットワーク端末は,更に,人物情報の入力を要求する画像を表示手段に表示し,人物情報の入力を入力手段により受け付け,入力を受け付けた人物情報を,通信手段により接続した通信網を介して前記ACAPS処理システムへ送信し,前記ACAPS処理システムは,人物情報を,通信手段により接続した通信網を介して受信し,前記ACAPS処理システムは,更に,受信した人物情報と前記ACAPS顧客情報ファイル記憶装置に予め記録されたACAPS顧客情報ファイルとの照合を開始し,照合による結果に基づいて決定したオンライン信用貸しの可否を示す結果情報を前記金融ネットワーク端末へ送信してオンライン信用貸しの可否を通知することを特徴とするオンライン信用貸し可否通知方法。」の発明が記載されているといえる。
(ウ) 対比・判断本件補正発明1と引用例1に記載された発明とを対比すると,引用例1に記載された発明の「金融ネットワーク端末」は,本件補正発明1の「端末装置」に相当し,以下,同様に,「ACAPA処理システム」は「中央装置」に,「ACAPA顧客情報ファイル記憶装置」は「記録手段」に,「ACAPS顧客情報ファイル」は「記録情報」に,「オンライン信用貸し」は「取引」に,それぞれ相当する。
そうすると,両者は,「表示手段,入力手段及び通信網に接続する通信手段を備える端末装置と,前記通信網に接続する通信手段及び記憶手段に予め記録された記録情報を読み出す手段を備える中央装置とが前記通信網に接続して相互に通信を行い,前記中央装置が前記端末装置に関連する人物に対する取引の可否を通知する取引可否通知方法において,前記端末装置は,通信手段により接続した通信網を介して前記中央装置に接続し,前記端末装置は,更に,人物情報の入力を要求する画像を表示手段に表示し,人物情報の入力を入力手段により受け付け,入力を受け付けた人物情報を,通信手段により接続した通信網を介して前記中央装置へ送信し,前記中央装置は,人物情報を,通信手段により接続した通信網を介して受信し,前記中央装置は,更に,受信した人物情報と前記記憶手段に予め記録された記録情報との照合を開始し,照合による結果に基づいて決定した取引の可否を示す結果情報を前記端末装置へ送信して取引の可否を通知することを特徴とする取引可否通知方法。」である点で一致し,以下の点で相違する。
[相違点1]本件補正発明1では,中央装置は,人物に関する人物情報の入力を要求する入力要求情報を,通信手段により接続した通信網を介して前記端末装置へ送信し,前記端末装置は,入力要求情報を,通信手段により接続した通信網を介して受信し,受信した入力要求情報に基づいて人物情報の入力を要求する画像を表示手段に表示しているのに対して,引用例1に記載された発明では,端末装置は,人物情報の入力を要求する画像を表示手段に表示しているが,その人物情報の入力を要求する情報が,中央装置から前記端末装置へ送信されてくるものであるのか,不明な点。
[相違点2]本件補正発明1では,端末装置から中央装置に人物情報を送信する際に,第1人物情報と第1人物情報とは異なる第2人物情報との2つの人物情報に分けて送信しており,そのために「中央装置」は,人物に関する第1人物情報の入力を要求する第1入力要求情報を,通信手段により接続した通信網を介して前記端末装置へ送信し,更に,第1人物情報を,通信手段により接続した通信網を介して受信し,前記人物に関し第1人物情報と異なる第2人物情報の入力を要求する第2入力要求情報を,通信手段により接続した通信網を介して前記端末装置へ送信し,更に,第2入力要求情報の送信から第2人物情報の受信までの処理と並行して,受信した第1人物情報と前記記録手段に予め記録された記録情報との照合を含む第1処理を開始し,第2人物情報を,通信手段により接続した通信網を介して受信し,受信した第2人物情報に基づく第2処理を行い,第1処理の照合による結果及び第2処理の結果に基づいて決定した取引の可否を示す結果情報を前記端末装置へ送信して取引の可否を通知し,一方,「端末装置」は,通信手段により接続した通信網を介して前記中央装置に接続し,更に,第1入力要求情報を,通信手段により接続した通信網を介して受信し,受信した第1入力要求情報に基づいて第1人物情報の入力を要求する画像を表示手段に表示し,第1人物情報を,通信手段により接続した通信網を介して中央装置へ送信し,更に,第2入力要求情報を,通信手段により接続した通信網を介して受信し,受信した第2入力要求情報に基づいて第2人物情報の入力を要求する画像を表示手段に表示し,第2人物情報の入力を入力手段により受け付け,入力を受け付けた第2人物情報を,通信手段により接続した通信網を介して送信している,のに対して,引用例1に記載された発明では,そのような構成になっていない点(人物情報の入力を要求する情報が,中央装置から前記端末装置へ送信されてくるものであるのか,不明である点は,既に[相違点1]として抽出している。)。
上記相違点について,検討する。
[相違点1]について通信手段により接続した通信網を介して中央装置に接続する照会システムにおいては,中央装置から端末装置に,必要な事項を入力させるための入力情報を送信することは,例えば引用例2にも記載されているように周知の技術であるから,引用例1に記載された発明の端末装置に表示する人物情報の入力を要求する情報を中央装置から送信するようにすることは,当業者であれば,容易に想到するものと認められる。
[相違点2]について業務の中で,一方の部署から,他方の部署へ書類を送付し,他方の部署で審査処理を行う場合に,その処理に要する時間を短くするために,一方の部署でできあがった書類を順に他方の部署に送付し,他方の部署では,それらの書類を順次受け取って処理を順次開始し進行させていき,最後に順次進行させた処理の総合的な結果に基づいて承認するか否かの結果を示すことは,業務処理の態様として,普通に取られている手法である(例えば,特開平10-254949号公報(本訴甲3)等参照)。また,本件補正発明1のオンライン信用貸し可否通知方法においても,可否決定の処理を短くするという要請は,一般常識に照らしてみれば,当然に内在していると考えられるから,端末装置から中央装置に人物情報を送信する際に,第1人物情報と第1人物情報とは異なる第2人物情報との2つの人物情報に分けて送信して順次処理を開始し進行させていき,最後に第1人物情報の処理結果と第2人物情報の処理結果とに基づいて結果を通知するようにすることは,引用例1に接した当業者が容易に発想しうる事項である。
そして,端末装置に表示する人物情報の入力を要求する情報を中央装置から送信することについての前記[相違点1]の検討結果を踏まえるならば,上記「第1人物情報と第1人物情報とは異なる第2人物情報との2つの人物情報に分けて送信して順次処理を開始し進行させていき,最後に第1人物情報の処理結果と第2人物情報の処理結果とに基づいて結果を通知する」ような処理を,本件補正発明1のような通信網に接続された「中央装置」と「端末装置」との間で実現させるために,「中央装置」は,人物に関する第1人物情報の入力を要求する第1入力要求情報を,通信手段により接続した通信網を介して前記端末装置へ送信し,更に,第1人物情報を,通信手段により接続した通信網を介して受信し,前記人物に関し第1人物情報と異なる第2人物情報の入力を要求する第2入力要求情報を,通信手段により接続した通信網を介して前記端末装置へ送信し,更に,第2入力要求情報の送信から第2人物情報の受信までの処理と並行して,受信した第1人物情報と前記記録手段に予め記録された記録情報との照合を含む第1処理を開始し,第2人物情報を,通信手段により接続した通信網を介して受信し,受信した第2人物情報に基づく第2処理を行い,第1処理の照合による結果及び第2処理の結果に基づいて決定した取引の可否を示す結果情報を前記端末装置へ送信して取引の可否を通知し,一方,「端末装置」は,通信手段により接続した通信網を介して前記中央装置に接続し,更に,第1入力要求情報を,通信手段により接続した通信網を介して受信し,受信した第1入力要求情報に基づいて第1人物情報の入力を要求する画像を表示手段に表示し,第1人物情報を,通信手段により接続した通信網を介して中央装置へ送信し,更に,第2入力要求情報を,通信手段により接続した通信網を介して受信し,受信した第2入力要求情報に基づいて第2人物情報の入力を要求する画像を表示手段に表示し,第2人物情報の入力を入力手段により受け付け,入力を受け付けた第2人物情報を,通信手段により接続した通信網を介して送信する,という構成にすることは,当業者が容易になしうる技術的事項にすぎない。
また,本件補正発明1の効果についてみても,引用例1に記載された発明および周知の事項から予測される範囲のものにすぎない。
したがって,本件補正発明1は,引用例1に記載された発明及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(エ) むすび以上のとおり,本件補正発明1は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正発明2ないし6については検討するまでもなく,本件補正は,特許法17条の2第5項で準用する同法126条4項の規定に違反するものであり,特許法159条1項で準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。
(2) 本願発明についてア 引用例原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は,前記(1)イ(ア)に記載したとおりである。
イ 対比・判断本願発明は,前記(1)で検討した本件補正発明1から(ア) 「中央装置」が「記録手段に予め記録された記録情報を読み出す手段を備える」との限定事項,「中央装置」が「前記通信網に接続して相互に通信を行い,前記端末装置に関連する人物に対する取引の可否を通知する」との限定事項,(イ) 「第1処理」が「第1人物情報と前記記録手段に予め記録された記録情報との照合を含む」との限定事項,(ウ) 「取引可否決定方法」が「取引可否通知方法」であるとの限定事項,を省くものである。
そうすると,本願発明の構成要件を全て含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本件補正発明1が,前記(1)イ(ウ)に記載したとおり,引用例1に記載された発明及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用例1に記載された発明及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ むすび以上のとおり,本願発明は,引用例1に記載された発明及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願の他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
第3当事者の主張の要点1原告主張の審決取消事由(1)取消事由1(相違点2の判断の誤り)審決は,「本件補正発明1は,引用例1に記載された発明及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである」と判断したが,以下のとおり,誤りである。
ア審決は,「業務の中で,一方の部署から,他方の部署へ書類を送付し,他方の部署で審査処理を行う場合に,その処理に要する時間を短くするために,一方の部署でできあがった書類を順に他方の部署に送付し,他方の部署では,それらの書類を順次受け取って処理を順次開始し進行させていき,最後に順次進行させた処理の総合的な結果に基づいて承認するか否かの結果を示すことは,業務処理の態様として,普通に取られている手法である(例えば,特開平10-254949号公報等参照)。」と認定した。
(ア)審決のいう「普通に取られている手法」,すなわち,周知技術を認定するに当たっては,可能な限り例示文献を挙げる必要があり,審決は,例示文献として特開平10-254949号公報(甲3)を挙げている。しかし,特開平10-254949号公報において,人物情報に対応すべき申込書のデータ自体は順に分けて消費者に入力させて送信しているものではなく,一括して消費者に入力させて送信している。それゆえ,本件補正発明1のように,申込書のデータに基づく処理と申込書のデータの入力要求及び消費者による入力とが並行して行われ,これにより,申込書のデータの入力,送信及び審査について,消費者が主観的に体感する待ち時間が短縮されるという手法は,特開平10-254949号公報には開示されていない。
(イ)審決は,特開平10-254949号公報の開示内容をことさらに一般化,抽象化,上位概念化して周知の事項としているのであって,このことは,証拠に基づかずに周知技術を認定していることにほかならないから,許されない。
また,そもそも,審決が,一方の部署における書類の「送付」のみならず「作成」と他方の部署における「処理」とが並行して行われる手法を,「普通に取られている手法」と認定しているのであれば,そのような手法は周知技術ではないから,特開平10-254949号公報は,周知技術の例示文献としては不適切である。
(ウ)したがって,審決は,周知技術でない技術を,誤って周知技術と認定したのであるから,誤りである。
イ審決は,特開平10-254949号公報に基づく「普通に取られている手法」及び本件補正発明1のオンライン信用貸し可否通知方法においても当然に内在していると考えられる「可否決定の処理を短くするという要請」に基づき,「端末装置から中央装置に人物情報を送信する際に,第1人物情報と第1人物情報とは異なる第2人物情報との2つの人物情報に分けて送信して順次処理を開始し進行させていき,最後に第1人物情報の処理結果と第2人物情報の処理結果とに基づいて結果を通知するようにすることは,引用例1に接した当業者が容易に発想しうる事項である。」と認定した。
(ア)引用例1は,申請書に全ての情報を入力し,その入力が完了した後に初めて全自動による審査を開始するという技術思想に基づくものであり,特に,未完成の申請書のあらゆる情報を格納しておくことを明記しているから,審査を開始するには,申請書に記載すべき情報を一括して送信することが必須であって,申請書に記載すべき情報を順に分けて送信することはあり得ない。このように,引用例1には,人物情報に対応する申込書のデータを順に第1と第2の2つに分けて消費者に入力させて送信することについて開示も示唆もなく,むしろ,申込書のデータを順に分けて消費者に入力させて送信すること自体を阻害する事項が開示されている。
また,特開平10-254949号公報において,人物情報に対応する申込書のデータ自体は,順に分けて消費者に入力させて送信しているわけではなく,一括して消費者に入力させて送信しているのであって,特に申込書のデータはイメージデータであるから,順に分けて入力させて送信すること自体が考え難い。
そうであれば,引用例1に特開平10-254949号公報に基づく「普通に取られている手法」を組み合わせることはできないといわなければならない。
(イ)仮に引用例1に特開平10-254949号公報に基づく「普通に取られている手法」を組み合わせることができたとしても,引用例1にも,特開平10-254949号公報にも,審査に必要で,かつ,消費者により入力されるべき各種の人物情報を順に第1と第2の2つに分けて消費者に入力させて送信し,第1人物情報に基づく処理と第2人物情報の入力要求及び消費者による入力とを並行して行うことについて開示も示唆もないから,相違点2を本願補正発明1のように構成することはできない。
しかも,これにより,本件補正発明1は,消費者が主観的に体感する待ち時間をも短縮することができるという特有の顕著な効果を奏するのである。
(ウ)したがって,引用例1に特開平10-254949号公報に基づく「普通に取られている手法」を組み合わせて,相違点2を本願補正発明1のように構成することはできないから,審決の上記認定は誤りである。
ウ以上のとおりであって,「本件補正発明1は,引用例1に記載された発明及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである」とした審決の判断は,誤りである。
(2)取消事由2(審判手続の法令違背)特許庁は,拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由について,原告に意見書を提出する機会が与えることなく,「本件補正発明1は,引用例1に記載された発明及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである」と判断した。
ア特許庁は,平成16年8月10日付拒絶理由通知(甲8)において,特開2001-125958号公報を引用文献1,国際公開第97/22073号パンフレットを引用文献2,特開平11-272764号公報を引用文献3とし,「引用文献1〜3には,人物等の情報を送信して,これを評価することによって資格等の審査を行う発明が記載されており,本願発明のような構成は,周知事項である。」として,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとの拒絶理由を原告に通知し,これに基づき,拒絶査定をした。
イしかるに,審決は,上記拒絶理由通知における引用文献1ないし3とは異なる特開平10-254949号公報に基づく「普通に取られている手法」を周知技術として認定し,これにより,「本件補正発明1は,引用例1に記載された発明及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである」と判断した。
ウしたがって,原告には,拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由について,意見書を提出する機会が与えられなかったから,審判手続には,特許法159条2項で準用する同法50条の規定に違反する瑕疵がある。
2被告の反論(1)取消事由1(相違点2の判断の誤り)に対してア上記1(1)ア掲記の審決の認定について(ア)審決のいう「普通に取られている手法」は,社会において一般的に行われているところの,業務処理を効率的に行うための手法であり,その一例として特開平10-254949号公報を例示したものである。そして,特開平10-254949号公報には,段落【0009】,【0011】,【0012】,【0017】,【0018】及び【0020】に,審査処理に要する時間を短くするために,顧客という一方の部署からオペレータという審査処理を行う他方の部署に申込書のイメージデータ,各種証明書等の媒体のイメージデータという書類データを順に送付し,オペレータである他方の部署では,それらの書類データを順次受け取って審査処理を順次開始し進行させていき,最後に順次進行させた処理の総合的な結果に基づいて審査結果を示す業務処理の態様が開示され,しかも,このような業務処理が,ローン契約処理,KIOSK端末による各種のチケット等の発券処理,銀行による取引受付業務処理など様々な分野に適用し得る業務処理の態様であることが記載されている。
(イ)そうすると,審決が,特開平10-254949号公報を一例として「普通に取られている手法」を認定したことに何の誤りもない。
イ上記1(1)イ掲記の審決の認定について(ア)審決は,引用例1に記載された発明として,通信網に接続する端末装置から中央装置に人物情報を送信し,中央装置で人物情報に基づく審査処理を行って,その結果を端末装置に送信するという取引可否通知方法の基本的構成を技術的思想として抽出した。そして,原告が主張するように,人物情報を一括送信することが引用例1の一部に記載されていたとしても,それは引用例1に記載された一実施例の動作形態を説明したまでのことであって,引用例1に記載された発明として認定した技術的思想の中に,人物情報を分けて送信することについての何らかの技術的な障害があるとはいえないから,引用例1に記載された発明に,人物情報を分けて送信することについての阻害要因はない。
また,審決のいう「普通に取られている手法」において,一連の業務処理の流れの中で,どのような内容の書類を,どのように分けて,どのような順番で送付するかは,業務上の必要に応じて任意に選択できる事項である。確かに,特開平10-254949号公報には,実施例として,申込書のイメージデータ,身分証明書等の他のイメージデータ,顧客が属性入力したデータを順次送信することが記載されているが,要は,「審査中に,順次申込書に記載された個人情報以外の審査に必要な個人情報を前記無人契約機1から受信して出力する機能を有し,随時出力される個人情報を追加しながら,審査処理を進めていけるように」(段落【0012】)すればよいわけであるから,審査に必要な個人情報,すなわち,人物情報を分けて送信することもまた,任意になし得る事項であると理解することができる。
そうすると,引用例1にも,審決のいう「普通に取られている手法」にも,人物情報を順に分けて消費者に入力させて送信すること自体を阻害する事由は見出せないのであって,引用例1に審決のいう「普通に取られている手法」を組み合わせることに格別の困難はない。
(イ)上記(ア)のとおり,引用例1にも,審決のいう「普通に取られている手法」にも,人物情報を順に分けて消費者に入力させて送信すること自体を阻害する事由は見出せないから,審決が説示するように,「端末装置に表示する人物情報の入力を要求する情報を中央装置から送信することについての前記[相違点1]の検討結果を踏まえるならば」,引用例1に記載された発明に審決のいう「普通に取られている手法」を適用して,相違点2の構成を得ることは容易である。
そして,審決のいう「普通に取られている手法」においては,書類を送付する者からすると,一つの書類を送付した後の時間は,単なる待ち時間ではなく,次の書類を送付する作業のための時間となり,しかも,一つめの書類に基づく審査処理が次の書類を送付する作業と並行して開始されるわけであって,原告が主張する本願補正発明1の「体感する待ち時間を短縮する」という効果と同等の効果を奏するから,消費者が主観的に体感する待ち時間をも短縮することができるという効果は,本願補正発明1に特有なものでも,顕著なものでもない。
(ウ)したがって,引用例1に特開平10-254949号公報に基づく「普通に取られている手法」を組み合わせれば,容易に,相違点2を本願補正発明1のように構成することができるから,上記1(1)イ掲記の審決の認定に誤りはない。
(2)取消事由2(審判手続の法令違背)に対して周知の事項については,拒絶の理由として,査定前に具体的な引用例を示すことを要しないのであって,審決は,「普通に取られている手法」の一例として,特開平10-254949号公報を記載したのであるから,拒絶の理由として,具体的な引用例を示すことを要しないのは明らかである。
したがって,審判手続に,特許法159条2項で準用する同法50条の規定に違反する瑕疵はない。
第4当裁判所の判断1取消事由2について事案にかんがみ,審判手続の法令違背をいう取消事由2に対する判断から検討に入るが,取消事由1の相違点2の判断の誤りについても,必要な限度で検討することとする。
(1)本件審査及び審判の手続まず,本件の審査及び審判の手続の経緯をみると,次のとおり認められる(適宜,簡略するなどしたほかは原文のままである。)。
ア平成16年8月10日付けの拒絶理由通知書(甲8)をもって,出願人である原告に対し,次のとおり通知がされた。
「A.この出願‥‥は,‥‥特許法29条1項柱書に規定する要件を満たしていない‥‥。
B.この出願は,特許請求の範囲の記載が‥‥,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
C.この出願の下記の請求項に係る発明は,‥‥下記の刊行物に記載された発明‥‥に基づいて,‥‥容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記(請求項1〜17(判決注:本件補正前))・引用文献1〜17・備考:引用文献1〜3には,人物等の情報を送信して,これを評価することによって資格等の審査を行う発明が記載されており,本願発明のような構成は,周知事項である。
拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。
引用文献等一覧1.特開2001-125958号公報(判決注:引用例2)2.国際公開第97/22073号パンフレット(判決注:引用例1。甲1の特表2002-515991号公報に同旨。)3.特開平11-272764号公報」イそして,平成16年12月9日付けの書面(甲9)によって,次のとおり拒絶査定が行われた。
「この出願については,平成16年8月10日付け拒絶理由通知書に記載した理由A〜Cによって,拒絶すべきものである。
‥‥‥‥‥備考○理由A,Bについて出願人は,意見書で,「‥‥‥‥‥」と主張している。
しかしながら,補正後の請求項を検討すると,‥‥‥データベースをどの様に利用しているのか(HOW TO)については具体的に記載されていないことから,依然として,自然法則を利用した技術思想の創作に当たらないし,構成も明確に特定できない。
○理由Cについて出願人は意見書で,各引用文献について,「通信情報を検出し取引の可否を決定するという構成要件はおろか,通信情報についてさえ開示も示唆もしていない。」と主張している。
この主張について検討する。
確かに,先の引用文献には,出願人が主張する点については記載はないが,IPアドレス等の通信情報を識別情報として利用することは,例えば,文献4,5に見られるように,周知事項であり,これを適用することは当業者が適宜なし得る事項である。
従って,本願発明は,先の引用文献及び周知事項から当業者が容易になし得たものと認める。
文献4.特開2001-103049号公報5.特開2000-315231号公報」ウ審判手続において,平成17年3月24日作成の面接記録(甲11)には,次の趣旨の記載がある。
担当審査官は,同日,出願者(原告)の代理人である岡本敏夫弁理士らに面接し,その際に,「『並行して』が発明の重点であれば,その点の構成を明確にする必要がある。」と述べたとされている。
エ担当審査官は,同じ平成17年3月24日の日付けで前置報告書(甲12)を作成している。その記載内容は,次のとおりである。
「審判請求人は平成17年2月10日付け手続補正書で,『前記中央装置は,更に,第2入力要求情報の送信から第2人物情報の受信までの処理と並行して,受信した第1人物情報と前記記録手段に予め記録された記録情報との照合を含む第1処理を開始し,第2人物情報を,通信手段により接続した通信網を介して受信し,受信した第2人物情報に基づく第2処理を行い,第1処理の照合による結果及び第2処理の結果に基づいて決定した取引の可否を示す結果情報を前記端末装置へ送信して取引の可否を通知する』との補正を行った。
この補正について検討する。
第1,2の処理がどの様なものであって,それがどの様なハードウエア資源を利用しているかといった事項については具体的に記載されておらず,依然として,自然法則を利用した技術思想の創作であるとは認められないし,構成も明確に特定できない。
また,審判請求人は,面接において,「第1,2の処理を並列処理」したところが特徴である旨主張したが,並列処理のための具体的構成は記載されておらず,そのためどの様なハードウエア資源を利用するかといったことについても記載されていないことから,この主張についても格別な事項と認められない。
上記の点を考慮すると,第1,2の処理が明確でないため,引用文献との差違も明確でなく,技術的に格別なものと認められない。」オなお,請求人である原告は,平成18年5月12日付けをもって,次の内容の上申書(甲13)を提出している。
「平成18年4月25日,審理終結の通知を受けました。これに対し,特許法156条2項の規定に基づく審理の再開の申立をおこないますので,審理の再開の御決定をいただきますようお願い申し上げます。
その申立の理由として,平成17年2月10日付で提出しました請求項1及び請求項4に対する進歩性の判断が十分になされていない虞があると思料しているからです。すなわち,請求項1及び請求項4の構成要件「第2入力要求情報の送信から第2人物情報の受信までの処理と並行して,受信した第1人物情報と記録手段に予め記録された記録情報との照合を含む第1処理を開始」する点は,文献1乃至5のいずれにも開示も示唆もなされていません。かかる構成要件に対する進歩性の判断について再度審理を行っていただきたく,何卒審理再開の御決定を頂きますようお願い申し上げます。」(2)審決の認定判断の仕方これに対し,審決は,つぎのように判断した。
ア審決は,拒絶理由として通知し,かつ,拒絶査定においても挙示した理由A(特許法29条1項柱書違反)及び理由B(同法36条6項2号違反)に言及することなく,本件補正発明1に係る発明の独立特許要件としての進歩性(容易想到性不存在)の検討に入った。
まず,引用例としては,拒絶理由通知で引用文献2として挙示した国際公開第97/22073号パンフレット(実際にはこれと同旨である甲1の特表2002-515991号公報に依拠した。)を引用例1とし,拒絶理由通知で引用文献1として挙示した特開2001-125958号公報を引用例2とした(もっとも,審決は,引用例2については,その推論において特にこれを用いているわけではない。)。そのうえで,本件補正発明1と引用例1に記載された発明とを対比して,相違点2として次のとおり認定した。
「本件補正発明1では,端末装置から中央装置に人物情報を送信する際に,第1人物情報と第1人物情報とは異なる第2人物情報との2つの人物情報に分けて送信しており,そのために,「中央装置」は,‥‥取引の可否を通知し,一方,「端末装置」は,‥‥送信している,のに対して,引用例1に記載された発明では,そのような構成になっていない点。」イ審決は,上記相違点2について,容易想到性を認める判断をした。審決は,その際,拒絶理由通知に挙示した引用文献を用いることなく,次のとおり,「普通に用いられている手法」(周知技術と同義であると理解される。)及び「処理を短くするという要請は,一般常識に照らしてみれば,当然に内在していると考えられる」こと(業務の処理における周知の課題をいうものと理解される。)を適用することよって結論を導いた。
@「業務の中で,一方の部署から,他方の部署へ書類を送付し,他方の部署で審査処理を行う場合に,その処理に要する時間を短くするために,一方の部署でできあがった書類を順に他方の部署に送付し,他方の部署では,それらの書類を順次受け取って処理を順次開始し進行させていき,最後に順次進行させた処理の総合的な結果に基づいて承認するか否かの結果を示すことは,業務処理の態様として,普通に取られている手法である(例えば,特開平10-254949号公報(本訴甲3)等参照)。」A「また,本件補正発明1のオンライン信用貸し可否通知方法においても,可否決定の処理を短くするという要請は,一般常識に照らしてみれば,当然に内在していると考えられるから,端末装置から中央装置に人物情報を送信する際に,第1人物情報と第1人物情報とは異なる第2人物情報との2つの人物情報に分けて送信して順次処理を開始し進行させていき,最後に第1人物情報の処理結果と第2人物情報の処理結果とに基づいて結果を通知するようにすることは,引用例1に接した当業者が容易に発想しうる事項である。」審決の上記推論は,本件補正発明1が引用例1に記載された発明と対比した場合に有する相違点2の構成について,審決において初めて挙示した特定の周知技術を引用例として用いて行ったものというべきであり,周知技術を単に当業者の技術水準を知るためなどに補助的に用いたものということはできない。
(3)引用例1に記載された発明に基づく容易想到性ア引用例1(甲1)には,次の記載がある。
「本発明のシステム及び方法を導入すると得られるもう一つの利点は,金融機関が以前もしかすると別のLBR(判決注:地方支店代理)で開始されれた申請の処理を継続できることである。以前は,各信用貸し又は債務の申請を新しくやり直していた。例えば本発明以前は,申請人が信用貸し又は債務商品を申請するため金融機関を訪れ,その申請人が最初の情報を提供したが何かの理由で(時間の制約のため等)離れてしまうと,完了しなかった申請は廃棄され,その破棄された申請と共にLBRの時間も無駄になってしまった。時間は今日の競争的環境において価値のある商品であるのに。
本発明の結果,どのLBRも自分の支店又は他のどんなLBRで始められた以前の申請の処理を継続でき,従って申請人が以前供給したデータを全て繰り返さなければならないことを省くだけではなく,前に費やした時間を利用することができる。」(10頁21行ないし11頁3行)「本発明の画面上のペンディングプロセスは,開始されたがある理由または他の理由のために完了することができない申請書提出セッションの問題に解決策を提供する。例えば,申請人が重要な情報を落としたり,申請人(彼/彼女)がもうそのセッションを(時間がないため等の理由により)続けたくないと決める場合もある。本発明ができる前は,申請を開始した労力は無駄になっていた(廃棄されていた)。申請人10が戻ってきたときはこのプロセスを最初から始める必要があった。本発明のペンディングプロセスは,申請が完了していないことが分かった場合に入力されたあらゆる情報を格納する手段を生成する。申請人10がいて申請を完了する準備が整ったときに,その申請書を完了させるために,格納されたデータに簡単にアクセスすることができる。
更に,容易に使用できるファイル及びプロセスにより,格納ができ,及び部分的に完了した申請書からデータを再利用することが可能となる。LBR12が未完成の申請書を読み出してフォローアップするのを手助けする,ペンディングプロセスの周囲の更なるプロセスが構築される。ペンディング処理中の未完成の申請書は,適切なフォローアップ(営業又は規則に従って)を保障するために保持される。
本発明のペンディングプロセスにより,LBR12はメニューオプション”格納してファイルをペンディングにする(Save to Pending File)”(このセッションの間に入力された全てのデータを保存する)をハイライトして選択するだけでよくなる。この時点で,データは画面上の環境(ブロック14及び16)の中に格納され,その申請書が将来完了され得る時まで待つ。申請人10が戻ってきたとき,その金融機関の中のどのLBR12でも,メニューオプション”ペンディング/条件付き(Pendeing/Conditional)”を介して未完成の申請書を簡単に呼び出し,あらゆる欠けていた情報を加えてその申請書を申請書処理システム(ACAPS26)に送信することができる。」(22頁10行ないし23頁5行)「入力データ(ブロック2002)を,強化ACAPS26に転送する(ブロック2004)。この転送により,オンライン審査及び承認決定処理が開始される。システムは経歴照合処理を行い,信用限度申し出を割り当てるために申請人の更なる信用力を確認する(ブロック2005)。」(27頁7行ないし10行)「全てのデータを入力した後,商品保守-1(PM1)表(図3に示される)において構成されるように,最小年齢,最低所得(収入),不正及び二重申請に関するフロントエンド事前審査を行う(図41のブロック2020)。」(28頁4行ないし6行)イ上記アの記載から明らかなように,引用例1に記載された発明は,金融ネットワーク端末14(本件補正発明1の「端末装置」に相当する。)からの入力データに不足があると,ACAPS処理システム26(本件補正発明1の「中央装置」に相当する。)で審査,承認決定の処理を開始できないという課題認識の下に,金融ネットワーク端末14において,顧客10が取引可否の審査に必要なデータを不足なく入力することを支援するようにしたものである。そうであるから,金融ネットワーク端末14は,顧客10が取引可否の審査に必要なデータを全て入力し終えたところで,データを一括してACAPS処理システム26に送信し,そこで審査,承認決定の処理が開始されることを前提としているのであって,引用例1に記載された発明は,金融ネットワーク端末における入力データの集中管理を指向しているものである。
そうすると,引用例1には,取引可否の審査に必要なデータを2つ以上のデータに分割してACAPS処理システム26に送信して順次審査,承認決定の処理を開始することについて,記載も示唆もないといわざるを得ない。
ウしたがって,当業者は,審決が認定したような特定の業務処理の手法を具体的に示されないで,引用例1の記載に接しただけの場合又は引用例1の記載のほか不特定の周知技術参酌することが許されるとされるだけの場合には,引用例1に記載された発明について,「端末装置から中央装置に人物情報を送信する際に,第1人物情報と第1人物情報とは異なる第2人物情報との2つの人物情報に分けて送信して順次処理を開始し進行させていき,最後に第1人物情報の処理結果と第2人物情報の処理結果とに基づいて結果を通知する」ことを想到することは考え難いものといわなければならない。
エまた,「業務の中で,一方の部署から,他方の部署へ書類を送付し,他方の部署で審査処理を行う場合に,その処理に要する時間を短くするために,一方の部署でできあがった書類を順に他方の部署に送付し,他方の部署では,それらの書類を順次受け取って処理を順次開始し進行させていき,最後に順次進行させた処理の総合的な結果に基づいて承認するか否かの結果を示す」との技術は,審決で認定したように周知技術であるとしても,審決は,特許法29条1,2項にいう刊行物等に記載された事項から容易想到性を肯認する判断過程において参酌するような周知技術として用いているのではなく,むしろ,審決の説示に照らすならば,実質的には,上記周知技術容易想到性を肯認する判断の核心的な引用例として用いているといわざるを得ない。
(4)本件補正発明1における相違点2に係る構成の重要性甲4ないし6によれば,本件補正発明1が引用例1に記載された発明と相違する「人物情報の入力及び送信を分割して並行処理する」という構成は,本願の当初明細書においても,また,その後に提出された補正書等においても,出願人である原告が一貫して強調してきた最も重要な構成の一つであり,かつ,上記の本件審査及び審判手続においても明らかなように原告が強い関心を示して審査及び審判で慎重な審理判断を求めた構成であることが優に認められるところである。
他方,本件審査及び審判手続では,審査官及び審判官が,この構成が進歩性を有するか否かに対し必要な関心と思慮をもって審理し,判断したかについては,既に検討したように,遺憾ながらその痕跡を窺い知ることは困難である。
以上のような推移の下に,審決は,その後,拒絶理由通知では挙示しなかった甲3が上記構成を相当程度に開示していると考えるに至り,改めて拒絶理由通知をすることなく,唐突に甲3に開示された周知技術を引用例として用いたものと推認される。
(5)審決の違法性以上検討したように,審決が認定した「業務の中で,一方の部署から,他方の部署へ書類を送付し,他方の部署で審査処理を行う場合に,その処理に要する時間を短くするために,一方の部署でできあがった書類を順に他方の部署に送付し,他方の部署では,それらの書類を順次受け取って処理を順次開始し進行させていき,最後に順次進行させた処理の総合的な結果に基づいて承認するか否かの結果を示すこと」は,たとえ周知技術であると認められるとしても,特許法29条1,2項にいう刊行物等に記載された事項から容易想到性を肯認する推論過程において参酌される技術ではなく,容易想到性を肯認する判断の引用例として用いているのであるから,刊行物等に記載された事項として拒絶理由において挙示されるべきであったものである。
しかも,本件補正発明1が引用例1に記載された発明と対比した場合に有する相違点2の構成は,本願発明の出願時から一貫して最も重要な構成の一つとされてきたのであり,出願人である原告が,審査及び審判で慎重な審理判断を求めたものであるのに,審決は,この構成についての容易想到性を肯認するについて,審査及び審判手続で挙示されたことのない特定の技術事項を周知技術として摘示し,かつ,これを引用例として用いたものであるから,審判手続には,審決の結論に明らかに影響のある違法があるものと断じざるを得ない。
したがって,拒絶通知をした理由と異なる理由に基づいてされた措置が原告の防御の機会を与えなかったなどとして違法であるとする取消事由2は,上記の趣旨を主張するものとして理由があるものというべきである。
第5結論よって,原告主張の取消事由2は理由があり,審決は取消しを免れない。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 高野輝久
裁判官 佐藤達文