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関連審決 無効2004-80245
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10770審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10134審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10477審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10700審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  方法の発明 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  周知技術 /  技術分野の関連性 /  技術常識 /  優先権 /  実質的に同一 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  交換 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10769号 審決取消請求事件
原告株 式会社荏原製作所
訴訟代理人弁護士大野聖二
同弁理士渡邉勇
同 伊藤茂
被告株式会社神鋼環境ソリューション
訴訟代理人弁理士藤本昇
同 中谷寛昭
同 小山雄一
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/04/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2004-80245号事件について平成17年9月26日にした審決中「特許第3544953号の請求項1ないし30に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯(1)原告は,発明の名称を「廃棄物の処理方法及びガス化及び熔融装置」とする特許第3544953号(平成7年2月9日にした出願〔特願平7-22000号〕の一部を分割して平成12年10月5日にした出願〔特願2000-306695号〕の一部をさらに分割して,平成13年5月16日に出願〔特願2001-146105号〕したもの。優先権主張・平成6年3月10日,同年4月15日。平成16年4月16日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
(2)被告は,平成16年12月1日,原告を被請求人として,本件特許を無効にすることを求めて審判の請求をし,原告は,平成17年2月21日付け訂正請求書により特許請求の範囲の記載等の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。
特許庁は,上記無効審判請求を無効2004-80245号事件として審理した上,平成17年9月26日,「訂正を認める。特許第3544953号の請求項1ないし30に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同月30日,原告に送達された。
2本件訂正後の明細書(甲39。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1ないし30に記載された発明(以下,請求項1に記載された発明を「本件発明1」,請求項2に記載された発明を「本件発明2」などといい,これらを一括して「本件発明」という。)の要旨【請求項1】廃棄物をガス化した後に,灰分を熔融する装置において,炉内に上昇する流動媒体と沈降する流動媒体からなる流動媒体の循環流を形成し,該循環流を有する流動層炉を備え,該廃棄物を循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,流動媒体が上昇する流動層の温度を450℃〜650℃に維持し,抑制された燃焼反応が継続されるようにし,該流動層炉より該ガスと該チャーを供給して灰分を熔融する熔融炉を備えたことを特徴とするガス化及び熔融装置。
【請求項2】廃棄物をガス化した後に,灰分を熔融する装置において,炉内に流動化ガスとして空気を供給し,質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給することにより形成される流動媒体の循環流を有する流動層炉を備え,該廃棄物を循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層の温度を450℃〜650℃に維持し,抑制された燃焼反応が継続されるようにし,該流動層炉より該ガスと該チャーを供給して灰分を熔融する熔融炉を備えたことを特徴とするガス化及び熔融装置。
【請求項3】前記流動媒体は,質量速度が比較的大きい流動化ガスにより上昇されることを特徴とする請求項1に記載のガス化及び熔融装置。
【請求項4】前記上昇する流動媒体と沈降する流動媒体からなる流動媒体の循環流は,質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスにより形成されることを特徴とする請求項1に記載のガス化及び熔融装置。
【請求項5】前記流動層炉内には流動化ガスとして空気を供給することを特徴とする請求項1又は3又は4に記載のガス化及び熔融装置。
【請求項6】廃棄物をガス化した後に,灰分を熔融する装置において,炉内に上昇する流動媒体と沈降する流動媒体からなる流動媒体の循環流を形成し,該循環流を有する流動層炉を備え,該廃棄物を循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,流動媒体が上昇する流動層の温度を450℃〜650℃に維持し,生成されたチャーの一部を流動媒体が上昇する流動層で燃焼させ,該流動層炉より該ガスと該チャーを供給して灰分を熔融する熔融炉を備えたことを特徴とするガス化及び熔融装置。
【請求項7】廃棄物をガス化した後に,灰分を熔融する装置において,炉内に流動化ガスとして空気を供給し,質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給することにより形成される流動媒体の循環流を有する流動層炉を備え,該廃棄物を循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層の温度を450℃〜650℃に維持し,生成されたチャーの一部を質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層で燃焼させ,該流動層炉より該ガスと該チャーを供給して灰分を熔融する熔融炉を備えたことを特徴とするガス化及び熔融装置。
【請求項8】前記流動媒体は,質量速度が比較的大きい流動化ガスにより上昇されることを特徴とする請求項6に記載のガス化及び熔融装置。
【請求項9】前記上昇する流動媒体と沈降する流動媒体からなる流動媒体の循環流は,質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスにより形成されることを特徴とする請求項6に記載のガス化及び熔融装置。
【請求項10】前記流動層炉内には流動化ガスとして空気を供給することを特徴とする請求項6又は8又は9に記載のガス化及び熔融装置。
【請求項11】前記廃棄物は,都市ごみ又は廃プラスチックであることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のガス化及び熔融装置。
【請求項12】前記熔融炉は,酸素又は酸素と空気の混合気体を供給するノズルを備えたことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載のガス化及び熔融装置。
【請求項13】前記流動層炉より供給されたガスとチャーを前記熔融炉にて1300℃以上で燃焼することを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載のガス化及び熔融装置。
【請求項14】前記流動層炉を低空気比としたことを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載のガス化及び熔融装置。
【請求項15】前記流動層炉内に供給される流動化ガス全体の空気量を,理論燃焼空気量の30%以下とすることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか1項に記載のガス化及び熔融装置。
【請求項16】前記流動層炉内に流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段が複数設けられていることを特徴とする請求項1乃至15のいずれか1項に記載のガス化及び熔融装置。
【請求項17】廃棄物をガス化した後に,灰分を熔融する方法において,炉内に上昇する流動媒体と沈降する流動媒体からなる流動媒体の循環流を形成し,該循環流を有する流動層炉に該廃棄物を供給し,循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,流動媒体が上昇する流動層の温度を450℃〜650℃に維持し,抑制された燃焼反応が継続されるようにし,該流動層炉より該ガスと該チャーを熔融炉に供給して灰分を熔融することを特徴とする廃棄物の処理方法。
【請求項18】廃棄物をガス化した後に,灰分を熔融する方法において,炉内に流動化ガスとして空気を供給し,質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給することにより形成される流動媒体の循環流を有する流動層炉に該廃棄物を供給し,循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層の温度を450℃〜650℃に維持し,抑制された燃焼反応が継続されるようにし,該流動層炉より該ガスと該チャーを熔融炉に供給して灰分を熔融することを特徴とする廃棄物の処理方法。
【請求項19】前記流動媒体は,質量速度が比較的大きい流動化ガスにより上昇されることを特徴とする請求項17に記載の廃棄物の処理方法。
【請求項20】前記上昇する流動媒体と沈降する流動媒体からなる流動媒体の循環流は,質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスにより形成されることを特徴とする請求項17に記載の廃棄物の処理方法。
【請求項21】廃棄物をガス化した後に,灰分を熔融する方法において,炉内に上昇する流動媒体と沈降する流動媒体からなる流動媒体の循環流を形成し,該循環流を有する流動層炉に該廃棄物を供給し,循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,流動媒体が上昇する流動層の温度を450℃〜650℃に維持し,生成されたチャーの一部を流動媒体が上昇する流動層で燃焼させ,該流動層炉より該ガスと該チャーを熔融炉に供給して灰分を熔融することを特徴とする廃棄物の処理方法。
【請求項22】廃棄物をガス化した後に,灰分を熔融する方法において,炉内に流動化ガスとして空気を供給し,質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給することにより形成される流動媒体の循環流を有する流動層炉に該廃棄物を供給し,循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層の温度を450℃〜650℃に維持し,生成されたチャーの一部を質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層で燃焼させ,該流動層炉より該ガスと該チャーを熔融炉に供給して灰分を熔融することを特徴とする廃棄物の処理方法。
【請求項23】前記流動媒体は,質量速度が比較的大きい流動化ガスにより上昇されることを特徴とする請求項21に記載の廃棄物の処理方法。
【請求項24】前記上昇する流動媒体と沈降する流動媒体からなる流動媒体の循環流は,質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスにより形成されることを特徴とする請求項21に記載の廃棄物の処理方法。
【請求項25】前記廃棄物は,都市ごみ又は廃プラスチックであることを特徴とする請求項17乃至24のいずれか1項に記載の廃棄物の処理方法。
【請求項26】前記熔融炉には,酸素又は酸素と空気の混合気体を供給することを特徴とする請求項17乃至25のいずれか1項に記載の廃棄物の処理方法。
【請求項27】前記流動層炉より供給されたガスとチャーを前記熔融炉にて1300℃以上で燃焼することを特徴とする請求項17乃至26のいずれか1項に記載の廃棄物の処理方法。
【請求項28】前記流動層炉を低空気比としたことを特徴とする請求項17乃至27のいずれか1項に記載の廃棄物の処理方法。
【請求項29】前記流動層炉内に供給される流動化ガス全体の空気量を,理論燃焼空気量の30%以下とすることを特徴とする請求項17乃至28のいずれか1項に記載の廃棄物の処理方法。
【請求項30】前記流動層炉内に流動化ガスを複数の流動化ガス供給手段により供給することを特徴とする請求項17乃至29のいずれか1項に記載の廃棄物の処理方法。
3審決の理由( )審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件発明1ないし30は,特公1昭62-35004号公報(甲3,以下「甲3公報」という。なお,審決における「特開昭62-35004号公報」との記載は誤記と認める。)に記載された発明(以下「甲3の発明」という)及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとして,本件発明1ないし30に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号に該当するので,無効とすべきものであるとした。
なお,特許法29条の適用については,優先権の主張を認めず,分割に係る原原出願の出願日である平成7年2月9日(以下「本件出願日」という。)を基準とするとした。
( )審決が認定した甲3の発明の要旨2都市ごみ、廃プラスチックなどの廃棄物を流動層熱分解炉に供給し、該炉に空気を供給して流動化させた流動層にて該廃棄物をガス化した後、サイクロン燃焼炉にて灰分を溶融する装置において、該廃棄物を該流動層熱分解炉に供給し、流動層内の熱分解によりガス化してガス並びにチャー及び灰分の微粒子を生成し、該廃棄物に含まれる不燃物を該流動層熱分解炉の炉底部より排出し、サイクロン燃焼炉は該流動層熱分解炉より排出された該ガスとチャーを燃焼して灰分を溶融する燃焼室を備えた固形物の燃焼装置。
( )審決が認定した,本件発明1と甲3の発明の一致点及び相違点3ア一致点廃棄物をガス化した後に,灰分を熔融する装置において,流動層炉を備え,該廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,該流動層炉より該ガスと該チャーを供給して灰分を熔融する熔融炉を備えたガス化及び熔融装置。
イ相違点(ア)相違点A本件発明1は,その流動層炉が「炉内に上昇する流動媒体と沈降する流動媒体からなる流動媒体の循環流を形成し,該循環流を有する」ものであるのに対し,甲3(注,甲3公報)には,このような事項について明示の記載がない点。
(イ)相違点B本件発明1は,廃棄物を「循環流中で」ガス化してガスとチャーを生成するものであるのに対し,甲3には,廃棄物を流動層内の熱分解によりガス化してガスとチャーを生成することは記載されているが,このような作用を「循環流中で」することについて明示の記載はない点。
(ウ)相違点C本件発明1は「流動媒体が上昇する流動層の温度を450℃〜650℃に維持し,抑制された燃焼反応が継続されるようにし」たものであるのに対し,甲3には,このような事項について明示の記載がない点。
( )審決が認定した,本件発明2と甲3の発明の一致点及び相違点4ア一致点廃棄物をガス化した後に,灰分を熔融する装置において,炉内に流動化ガスとして空気を供給し,流動層炉を備え,該廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,該流動層炉より該ガスと該チャーを供給して灰分を熔融する熔融炉を備えたガス化及び熔融装置。
イ相違点(ア)相違点D本件発明2は,その流動層炉が「質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給することにより形成される流動媒体の循環流を有する」ものであるのに対し,甲3には,このような構成について明示の記載がない点。
(イ)相違点E本件発明2は,廃棄物を「循環流中で」ガス化してガスとチャーを生成するものであるのに対し,甲3には,廃棄物を流動層内の熱分解によりガス化してガスとチャーを生成することは記載されているが,このような作用を「循環流中で」することについて明示の記載はない点。
(ウ)相違点F本件発明2は「質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層の温度を450℃〜650℃に維持し,抑制された燃焼反応が継続されるようにし」たものであるのに対し,甲3には,このような事項について明示の記載がない点。
( )審決が認定した,本件発明6と甲3の発明の一致点及び相違点5ア一致点廃棄物をガス化した後に,灰分を熔融する装置において,流動層炉を備え,該廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,該流動層炉より該ガスと該チャーを供給して灰分を熔融する熔融炉を備えたガス化及び熔融装置。
イ相違点(ア)相違点G本件発明6は,その流動層炉が「炉内に上昇する流動媒体と沈降する流動媒体からなる流動媒体の循環流を形成し,該循環流を有する」ものであるのに対し,甲3には,このような構成について記載されていない点。
(イ)相違点H本件発明6は,廃棄物を「循環流中で」ガス化してガスとチャーを生成するものであるのに対し,甲3には,廃棄物を流動層内の熱分解によりガス化してガスとチャーを生成することは記載されているが,このような作用を「循環流中で」することについて明示の記載はない点。
(ウ)相違点I本件発明6は,「流動媒体が上昇する流動層の温度を450℃〜650℃に維持し,生成されたチャーの一部を流動媒体が上昇する流動層で燃焼させ」るものであるのに対し,甲3の発明は,このような構成を具備しないものである点。
( )審決が認定した,本件発明7と甲3の発明の一致点及び相違点6ア一致点廃棄物をガス化した後に,灰分を熔融する装置において,炉内に流動化ガスとして空気を供給し,流動層炉を備え,該廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,該流動層炉より該ガスと該チャーを供給して灰分を熔融する熔融炉を備えたガス化及び熔融装置。
イ相違点(ア)相違点J本件発明7は「質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給することにより形成される流動媒体の循環流を有する」ものであるのに対し,甲3には,このような構成について記載されていない点。
(イ)相違点K本件発明7は,廃棄物を「循環流中で」ガス化してガスとチャーを生成するものであるのに対し,甲3には,このような構成について記載されていない点。
(ウ)相違点L本件発明7は「質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層の温度を450℃〜650℃に維持し,生成されたチャーの一部を質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層で燃焼させ」たものであるのに対し,甲3には,このような構成について記載されていない点。
第3原告主張の審決取消事由審決は,相違点AないしLについての認定判断を誤り(取消事由1ないし3,5ないし7,9ないし11,13ないし15),本件発明1,2,6及び7の奏する顕著な効果を看過し(取消事由4,8,12,16),本件発明1,2,6及び7に対応する方法の発明である本件発明17,18,21及び22についての進歩性の認定判断を誤り(取消事由17),本件発明1,2,6,7,17,18,21及び22を直接又は間接に引用する本件発明3ないし5,8ないし16,19,20,23ないし30についての進歩性の認定判断を誤り(取消事由18),その結果,本件発明1ないし30は,当業者が容易に発明をすることができたものであるとの誤った結論を導いたものであり,違法であるから取り消されるべきである。
1取消事由1(相違点Aについての認定判断の誤り)(1)審決は,相違点Aに係る本件発明1の構成について,「流動層炉が『炉内に上昇する流動媒体と沈降する流動媒体からなる流動媒体の循環流を形成し,該循環流を有する』ものであることは,本件発明の出願前に当業者には周知の技術であったものと認められる。」(審決謄本33頁最終段落〜34頁第1段落)と認定し,「したがって,相違点Aに係る本件発明1の構成は,甲3の発明に上記の周知の技術を適用することにより,当業者が容易に想到できたものというべきである。」(同第2段落)と判断したが,誤りである。
(2)審決は,本件発明1を含む本件発明の技術的意義を正解しなかったために,相違点についての認定判断を誤ったものである。
甲3の発明においては,流動層において熱分解過程が行われ,この熱分解過程の結果生成したチャーが微細な粒子であるので,流動層炉内において,生成されたチャーを微粒子とする処理を行う必要がなく,そのための構成もない。また,特公平1-52654号公報(甲33)に記載の発明においては,流動層で熱分解を行わせてガスとチャーを生成し,熱分解生成ガスを旋回溶融炉に導入して,高温燃焼を行わせて灰分を溶融スラグ化するに当たり,処理対象物や熱分解の条件によってはチャーが流動層炉内に滞留してしまうので,生成したチャーを流動層から溢流させて流動層炉外に抜き出し,別途,粉砕処理して溶融炉に供給していた。また,特開昭54-43902号公報(甲34)に記載の発明においても,流動層熱分解炉で熱分解により生成されたチャーを流動層炉外へ溢流させて粉砕処理していた。
本件発明は,上記のような従前の事情に着目し,本件明細書の段落【0059】等に記載されているように,流動媒体の循環流中で,熱分解(ガス化)を行ってガスとチャーを生成し,生成した可燃ガスをあまり燃焼させずに次段の溶融炉に供給するとともに,ガス化の結果生成したチャーを生成ガスから分離して,流動媒体の循環流により,流動媒体が上昇する流動層に移動させ,流動媒体が上昇する流動層の温度を450℃〜650℃に維持して,チャーの抑制された燃焼反応が継続されるようにし,チャーの一部を燃焼させ,微粒子とするといった処理をしたものである。その結果,本件発明においては,チャーを流動層炉内にとどまらせずに,可燃ガスに同伴して溶融炉に供給することができ,炉内に供給される廃棄物の質や量が変動しても,安定して可燃ガスと多量のチャーを生成して,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得て,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の溶融燃焼炉において利用できるようにしたという技術的意義がある。
本件発明のこのような技術的意義は,特許請求の範囲の記載からも明らかであり,また,その具体的内容は,本件明細書の段落【0029】,【0030】,【0031】及び【0052】に記載されている。
(3)審決は,特開平2-147692号公報(甲4,以下「甲4公報」という。),特開昭57-124608号公報(甲6,以下「甲6公報」という。)及び平成2年8月27日発行燃料協会誌69巻11号「無破砕旋回流型流動燃焼炉とその応用技術」(甲7,以下「甲7文献」という。また,甲4公報,甲6公報及び甲7文献を併せて「甲4公報等」ともいう。)に基づき,「流動層炉内に流動媒体の循環流を形成」することが周知の技術であるとした。
しかし,甲4公報等には,廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,ガス化によって生成されたチャーの抑制された燃焼反応が継続されるようにして,燃え残ったチャーを微粒子とする処理を行うという,本件発明1の「該廃棄物を循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,流動媒体が上昇する流動層の温度を450℃〜650℃に維持し,抑制された燃焼反応が継続されるようにし」との構成は開示されていない。
また,甲3の発明においては,流動層において熱分解過程が行われ,その結果生成したチャーが微細な粒子であるので,流動層炉内において,生成されたチャーを微粒子とする処理を行う必要がなく,そのための構成がないし,チャーを微粒子とするための,「廃棄物を循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,流動媒体が上昇する流動層の温度を450℃〜650℃に維持し,抑制された燃焼反応が継続されるようにし」との構成もない。
したがって,甲3の発明に,甲4公報等に記載された,流動媒体の循環流を形成する技術をどのように組み合わせても,本件発明1の構成が得られることはない。
(4)審決は,以下の各点を看過し,相違点Aの容易想到性についての判断を誤った。
ア審決は,流動媒体の流れと流動層の機能の関係を看過した。
相違点Aに係る本件発明1の構成は,流動層内に循環流という流動媒体の流れを形成して,そのような流動媒体の流れを有する流動層において,廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,生成されたチャーを抑制された燃焼反応によって,微粒子とし,飛散しやすくしているものである。それに対し,甲3の発明においては,甲3の発明の流動層の流動媒体の流れにおいて,可燃ガスとチャーが生成されるという流動層の機能が発揮されている。そして,流動層炉は,種々の目的に使用され,使用目的に応じて,種々の要素の最適化の範囲が異なり,容易に相互移行は行えず,空気量(酸素量)等を調整することにより,使用目的に応じてガス化にも焼却にも適用し得るということはない。
甲3の発明に,周知技術と認定された循環流を適用すると,甲3の発明の流動層内での物質・熱の移動の態様が変更されて,甲3の発明の流動層の「可燃ガスとチャーが生成される」という機能を変質させ,甲3の発明の流動層熱分解炉の機能及び甲3の発明そのものの機能を変質させる。したがって,発明の本質的な機能に係る甲3の発明における流動層の流動媒体の流れを変更することに当業者が容易に想到することはない。
イ審決は,相違点Aに係る構成の作用機能を看過した。
甲4公報に記載された技術においては,流動層内の循環流においてガス化反応を完結し,チャーをガスに転換させてしまうものであり,流動層炉からは,可燃ガスが排出され,チャーの排出は例外的である。甲6公報に記載された技術においては,循環流を有する流動層内で,高い燃焼効率を得てごみを完全燃焼させるものであり,流動層炉から排出されるのは燃焼排ガスであり,可燃ガスやチャーは完全燃焼し,排出されることはない。
甲6公報には,熱分解炉においても焼却炉と同様である旨の記載があるが,単なる例示的な記載で,熱分解炉として使用する場合の具体的な構成及び作用機能についての実質的な記載はない。甲7文献に記載された技術は,流動層内に循環流という流動媒体の流れを形成し,燃焼物は,流動層内で短時間に焼却されて燃え尽きてしまい,流動層炉からは燃焼排ガスが排出される。
すなわち,甲4公報等に記載された技術は,いずれも,流動層内に循環流という流動媒体の流れを形成して,流動層内でガス化反応や燃焼を完結させるもので,流動層から,ガスとチャーを排出せず,流動層炉全体についてもガスとチャーを排出しない。
したがって,甲3の発明の中核をなす「可燃ガスと微細なチャーが生成される」という機能と密接に関係する流動層の流動媒体の流れに,炉内でガス化反応や燃焼を完結させて,可燃ガスとチャーを排出していない流動層炉が記載されている甲4公報等に記載された技術を適用することに当業者が容易に想到することはない。
ウ審決は,流動媒体の流れと流動層の機能との組合せの関係を看過した。
流動媒体の流れは流動層の機能と密接に結びついている。循環流も流動の一態様であるが,流動の条件によって,流動層炉における流動層の機能は異なってくる。甲3の発明においては,甲3の発明の流動層の流動媒体の流れにおいて,可燃ガスとチャーが生成されるという流動層の機能が発揮されていて,流動媒体の流れと流動層の機能との組合せが示されている。
他方,甲4公報等に記載された技術は,循環流を有するが,いずれも,流動層炉から可燃ガスとチャーを排出しておらず,「流動媒体の循環流」と「可燃ガスとチャーを生成」する流動層の機能との組合せは開示されていない。
甲3の発明に,周知技術と認定された流動媒体の循環流を形成する技術を適用した場合に,甲3の発明の流動層がもともと持っていた機能とその流動層に形成された流動媒体の循環流とがどのように結び付くかは不明であり,審決は,流動媒体の流れと流動層の機能との密接な関係について,その整合性を何ら吟味することなく,前例のない,「流動媒体の流れ」と「流動層の機能」の組合せである,「流動媒体の循環流」と「可燃ガスとチャーを生成」するという組合せを認定したものであり,このような組合せに当業者が容易に想到することはない。
(5)甲3の発明に,甲4公報等に記載された技術を組み合わせることには阻害要因があるにもかかわらず,審決は,「これらの証拠を根拠に周知の技術を主張することができないとすることもできないし,これらを組み合わせる動機付けがないとすることもできない。」(審決謄本54頁第2段落)としたものであり,誤りである。
ア甲3公報には,甲3の発明の効果として,「流動層熱分解方法とサイクロン燃焼方法とを組み合わせることにより,両方法の長所が生かされ短所が相殺されて消滅し,相乗的は極めて顕著な効果を伴う固形物の燃焼方法及びその装置を提供する。」(7欄最終段落〜8欄第1段落)と記載され,流動化状態が均一化された流動層熱分解炉とサイクロン燃焼炉との組合せが,最適な手段であることが記載され,技術的思想として,そこに記載された組合せを他の組合せに変更することができないことが記載されているから,流動媒体の循環流を形成する技術が周知技術であるからといって,甲3の発明に,甲4公報等に記載された技術を組み合わせることには阻害要因がある。
甲3の発明において,流動媒体の流れとして循環流を採用した場合には,流動層炉の「流動方式」は,「バブリング式」とは区別された「内部循環式」となり,ガス化溶融システムそのものの基本的条件を変更することとなり,甲3の発明の流動層熱分解炉とサイクロン燃焼炉との組合せの関係を壊して,甲3の発明が想定していない他の組合せに変えることに等しいものである。
イ甲3の発明は,流動層熱分解炉で発生した生成ガス中に含まれるチャー及び灰分を処理するために,サイクロン燃焼炉を導入して高負荷燃焼させている。これに対し,甲4公報等に記載された流動層は,「完全ガス化あるいは完全燃焼」が行なわれる流動層であり,いずれも,流動層炉から可燃ガスとチャーを排出していない。
したがって,生成した可燃ガス,チャー及び灰分の混合物を次段のサイクロン燃焼炉に導入するという機能を有する甲3の発明の流動層に代えて,可燃ガス及びチャーを次段に導入するという機能を有さず,完全ガス化あるいは完全燃焼という機能しか有しない甲4公報等に記載された循環流を適用することは,甲3の発明自体を否定することにつながるものであり,その適用について,阻害要因があることは明らかである。
ウ甲3の発明に,甲4公報等に記載された技術を適用すると,キャリーオーバーの問題(サイクロン燃焼炉に供給される固形物のうち,粒径の小さな粒子がサイクロン燃焼炉をすり抜けてしまう現象)が発生するので,その適用には阻害要因が存在する。
甲3の発明のサイクロン燃焼炉は,サイクロン集塵機と同様の構造を有しており,微細粒子の捕捉原理もサイクロン集塵機と同様のものであるところ,一般に,集塵装置の捕集性能は,微細粒子の粒径が小さくなると,極端に捕集性能が低下する。サイクロン燃焼炉における捕捉率は,せいぜい70%〜80%程度であって,残りはキャリーオーバーするので,その問題が重視されている。
そして,甲3の発明のサイクロン燃焼炉において,溶融炉形状の適正化を図った旋回流溶融炉の実機においてすら,キャリーオーバーの問題が発生して,微細な粒子を捕捉することは困難であり,甲3の発明に,甲4公報等に記載された技術を適用すると,同様の問題が発生する。
2取消事由2(相違点Bについての認定判断の誤り)(1)審決は,相違点Bに係る本件発明1の構成について,「相違点Aについての検討で前示したとおり,甲3の発明に,相違点Aについての判断で認定した周知の技術(流動層炉が『炉内に上昇する流動媒体と沈降する流動媒体からなる流動媒体の循環流を形成し,該循環流を有する』ものであること)を適用すれば,かかる循環流中の熱分解過程で可燃ガスとチャーが生成されることは,当業者には自明の事項であったと認められる。したがって,相違点Bに係る本件発明1の構成,すなわち廃棄物を『循環流中で』ガス化してガスとチャーを生成するものであることは,甲3の発明及び周知の技術に基づいて当業者であれば容易に想到することができたものというべきである。」(審決謄本34頁第4段落〜第5段落)と判断したが,誤りである。
(2)前記1のとおり,甲3の発明に対し,流動層炉内に流動媒体の循環流を形成する技術を適用することは容易とはいえず,甲3の発明に流動層炉内に流動媒体の循環流を形成する技術を適用した結果を論ずること自体が誤りである。
本件発明1は,廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,ガス化によって生成されたチャーの抑制された燃焼反応が継続されるようにして,燃え残ったチャーを微粒子とする処理を行うというものであり,そのような構成が甲4公報等に記載されていない。
また,流動媒体の流れは流動層の機能に大きな影響を与えるものであるから,甲3の発明に流動媒体の循環流を形成する技術を適用すると,もともとの流動層の機能は変更されてしまって,その機能が維持されるとは限らない。
流動層炉は,そもそも,種々の目的に使用され,その使用される目的に応じ,最適化を行う必要があることが当業者の技術常識である。
審決は,甲3の発明に流動媒体の循環流を形成する技術が適用されても,流動層炉において,もともと生じていた機能が維持されることを前提として,自明であることの根拠を何ら示すことなく,単に「当業者には自明の事項」であるとしたものであり,この判断が誤りであることは明らかである。
3取消事由3(相違点Cについての認定判断の誤り)( )審決は,相違点Cに係る本件発明1の構成について,平成4年7月発行エ1バラ時報No.156「高効率燃焼型流動床焼却施設」(甲8,以下「甲8文献」という。),特開昭60-96823号公報(甲9,以下「甲9公報」という。)及び特開平7-35322号公報(甲21,以下「甲21公報」という。)の記載に基づき,「流動層炉において『流動層温度を450℃〜650℃に維持し』たことは,本件発明の出願前に当業者には周知の技術であったものと認められる。」(審決謄本34頁第9段落)と認定した上で,「相違点Cに係る本件発明1の構成,すなわち『流動媒体が上昇する流動層の温度を450℃〜650℃に維持し,抑制された燃焼反応が継続されるようにし』たことは,甲3の発明に上記の周知の技術を適用することにより,当業者が容易に想到できたものというべきである。」(同35頁第2段落)と判断したが,誤りである。
(2)甲3の発明等に周知技術を適用して特許出願に係る発明の構成を得ることが容易であったと認められるためには,周知技術を含めた技術水準を斟酌すべきであり,当該周知技術が甲3の発明に適用されることに適した内容のもの,すなわち,適用上の適性があるものであり,かつ,当該周知技術を適用して特許出願に係る発明の構成を得ることが技術的合理性の見地からみて可能であり,また,相当であることを前提とする。そして,周知技術が適用上の適性がある技術であるというためには,それが単に,甲3の発明及び特許出願に係る発明と技術分野を異にしないものであるのみならず,技術的思想としてこれらの発明に近接し,これと共通の要素を持つものでなければならない。
甲3の発明の流動層熱分解炉は,廃棄物をガス化して,ガスとチャーを生成し,生成されたガスとチャーをサイクロン燃焼炉に供給するためのものである。また,本件発明1は,次段の溶融炉で灰分を溶融する場合,溶融炉を1300℃以上の高温に保つ必要があり,流動層炉で生成した可燃分をできるだけ多く安定して溶融炉に熱源として送り込む必要があるため,特に,流動層の温度を450℃〜650℃に維持することにより,廃棄物をガス化して可燃分を多量に含む均質な生成ガスを生成し,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を溶融炉で利用できるようにしたものである。すなわち,本件発明1は,ガス化溶融炉を大前提として,溶融炉にガス,タール,チャーの可燃分の大部分を送って,利用できるようにするものである。
これらに対し,審決が周知技術の根拠とした文献に記載された技術は,いずれも単なる焼却炉に係るものであり,廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,溶融炉にガスとチャーを送って利用しようする技術的思想は全く存在しない。審決が周知技術の根拠とした文献のうち,甲8文献は,流動床焼却施設についての記載であり,「後燃焼領域」において燃焼を完結させることが記載され,流動層炉からガスとチャーを排出することは記載されていないし,その温度範囲は,ガス化が完全に行われ,かつ,ガス化速度を緩慢とするための温度範囲であって,本件発明1と同様の技術的思想は全く示されていない。甲9公報に記載された温度範囲は,NOxの発生や重金属の揮散を抑制するためのものであり,本件発明1と同様の技術的思想は示されていない。甲21公報に記載された450℃〜650℃という温度範囲は,Ca化合物(脱塩剤)による脱塩の最適な反応温度であり,塩素系含有廃棄物の流動層焼却方法において,流動層内においてHC を除去するため,塩素含□有廃棄物の流動層における部分燃焼の温度を450℃〜650℃として焼却を行っていることを開示しているのであり,この温度範囲に関連して,チャーの生成に関する記載も示唆もなく,本件発明1と同様の技術的思想は全く示されていない。
したがって,上記3つの文献に記載された技術は,技術的思想として本件発明1又は甲3の発明に近接し,これと共通する要素を持つものとはいい難いから,その技術は,甲3の発明に基づいて本件発明1の構成を得るのに用い得るような適用上の適性を有するものとは認められない。
( )審決は,相違点Cの容易想到性判断に当たり,「甲3(注,甲3公報)に3は,上記1fに掲記した記載によれば,流動層内で部分燃焼を継続することが記載され,この部分燃焼の継続とは,抑制された燃焼反応を継続することと認められる。」(審決謄本34頁最終段落〜35頁第1段落)と認定したが,誤りである。
本件発明1における「抑制された燃焼反応」とは,「燃焼反応そのものを抑制する」ことであり,燃焼において抑制の対象となるのはその量と速度であることは明らかであるから,「抑制された燃焼反応」とは,燃焼において燃焼量と燃焼速度を抑制することを意味し,この「抑制された燃焼反応」は本件明細書の段落【0031】に記載されている。
これに対し,甲3公報は,都市ごみ,スラジなどの原料の一部が流動層内で燃焼すること,すなわち「原料の一部を燃焼すること」を,「部分燃焼」と記載しているのであって,ここでいう「部分燃焼」は,燃焼量と燃焼速度を抑制することを意味する「抑制された燃焼反応」とは相違するものである。
甲3公報には,熱分解を継続して行わせるため,熱分解を行わせる温度を一定に維持するために必要な熱量を原料の一部を燃焼させて供給することの記載があるのみであり,熱分解が行われる温度範囲についての記載もない。また,仮に,温度範囲を周知であるとして甲3の発明に適用しても,「該廃棄物を循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,流動媒体が上昇する流動層の温度を450℃〜650℃に維持し,抑制された燃焼反応を継続させるようにし」との本件発明1の構成には想到し得ない。
4取消事由4(本件発明1の奏する顕著な効果の看過)( )審決は,「本件発明1の作用効果を検討しても,甲3の発明と周知の技術1から当業者が予測できた範囲内のものであって,それを超えるような格別顕著な効果を奏するものとみることはできない。」(審決謄本35頁第4段落)と判断したが,本件発明1の奏する顕著な効果を看過したものであり,誤りである。
( )前記1( )のとおり,本件発明1は,ガス化の結果生成したチャーを流動22媒体の循環流により流動媒体が上昇する流動層に移動させ,その流動層の温度を450℃〜650℃に維持して,チャーの抑制された燃焼反応が継続されるようにし,チャーを流動層炉内にとどまらせずに,可燃ガスに同伴して溶融炉に供給することができ,炉内に供給される廃棄物の質や量が変動しても,安定して可燃ガスと多量のチャーを生成して,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得て,対象とするごみが質的及び量的に変動するごみ処理特有の課題において,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の旋回溶融炉において利用できるという顕著な効果を奏するものである。
これに対し,甲3の発明及び審決が周知技術の認定の根拠とした甲4公報等には,対象とするごみが質的及び量的に変動するごみ処理特有の課題において,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得て,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の溶融炉において利用できるとの効果は一切記載されていない。甲3の発明は,本件発明1の効果を奏するための構成をほとんど欠いているし,次段の溶融炉に多量の可燃分を含んだ生成ガスを供給するという目的,課題の認識もなく,そのための手段も備えていないのであり,多量の可燃分を含む生成ガスを得るという機能について,机上で従来技術を組み合わせて,甲3の発明においてその効果が得られるとすることはできない。
したがって,本件発明1は,顕著な効果を奏するものということができる。
5取消事由5(相違点Dについての認定判断の誤り)( )審決は,相違点Dに係る本件発明2の構成について,甲4公報等の記載か1ら,「流動層炉が『質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給することにより形成される流動媒体の循環流を有する』ものであることは,本件発明の出願前に当業者には周知の技術であったものと認められる。」(審決謄本36頁第6段落)と認定し,「相違点Dに係る本件発明2の構成は,甲3の発明に上記の周知の技術を適用することにより,当業者が容易に想到できたものというべきである。」(同頁第7段落)と判断したが,誤りである。
(2)本件発明2は,相違点Dに係る本件発明2の構成である「質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給することにより形成される流動媒体の循環流を有する流動層炉を備え」という構成により,流動層において熱分解(ガス化)を行ってガスとチャーを生成し,流動層内で抑制された燃焼反応が継続されるようにして,流動層炉内にとどまりがちなチャーを,可燃ガスとともに次段の溶融炉に供給するようにしたものであり,上記構成は,「炉内に流動化ガスとして空気を供給」することを前提とするものである。
これに対し,甲3の発明は,流動層炉内において,生成されたチャーを処理する必要がなく,そのための構成もない。また,周知技術の認定の根拠とされた文献に記載されたいずれの流動層炉においても,「可燃ガスとチャーを排出」する機能,作用を有しておらず,本件発明2における「循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,生成されたチャーを質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層で抑制された燃焼反応が継続されるようにし」との構成はないし,本件発明2の循環流とは,機能,作用を異にするものである。審決の認定判断は,相違点Dに係る本件発明2の構成と同構成が前提としている「炉内に流動化ガスとして空気を供給し」という構成との関係を看過したものであり,当業者は,甲3の発明及び周知技術から本件発明2の構成に想到することはできない。
(3)審決の上記判断は,次の点を看過したものである。
ア審決は,流動媒体の流れと流動層の機能との関係を看過した。
甲3の発明に対し,流動層炉が,「質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給することにより形成される流動媒体の循環流を有する」との技術を適用すると,甲3の発明の流動層内での物質・熱の移動の態様が変更されて,甲3の発明の流動層の「可燃ガスとチャーが生成される」という機能を変質させ,甲3の発明の流動層熱分解炉の機能及び甲3の発明そのものの機能を変質させるものであり,このようなことに当業者が容易に想到することはない。
イ審決は,相違点Dに係る構成の作用機能を看過した。
甲3の発明の中核をなす「可燃ガスと微細なチャーが生成される」という機能と密接に関係する流動層の流動媒体の流れに,炉内でガス化反応や燃焼を完結させて,可燃ガスとチャーを排出していない流動層炉が記載されている甲4公報等に記載された技術を適用することに当業者が容易に想到することはない。
ウ審決は,流動媒体の流れと流動層の機能との組合せの関係を看過した。
審決は,前例のない,「流動媒体の流れ」と「流動層の機能」の組合せである,「流動媒体の循環流」と「可燃ガスとチャーを生成」するという組合せを認定したものであり,このような組合せに当業者が容易に想到することはない。
6取消事由6(相違点Eについての判断の誤り)審決は,相違点Eに係る本件発明2の構成について,「相違点Bに係る本件発明1の構成と全く同じものであるから,相違点Eに係る本件発明2の構成は,相違点Bについて前示したのと同様に,甲3の発明に相違点Dについての判断で認定した周知の技術(流動層炉が『質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給することにより形成される流動媒体の循環流を有する』ものであること)を適用した結果,当業者には自明の事項であったものと認められる。したがって,相違点Eに係る本件発明2の構成は,甲3の発明に周知の技術を適用することにより,当業者が容易に想到できたものというべきである。」(審決謄本36頁最終段落〜37頁第2段落)と認定判断したが,相違点Bについての審決の認定判断は誤りであるから,誤りである。
7取消事由7(相違点Fについての認定判断の誤り)(1)審決は,相違点Fに係る本件発明2の構成について,「『質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層』は,流動媒体が上昇する流動層であると認められる。そうすると,相違点Fに係る本件発明2の構成は,相違点Cに係る本件発明1の構成と全く同じであるから,相違点Fに係る本件発明2の構成は,相違点Cについて前示したように,甲3の発明に相違点Cについての判断で認定した周知の技術(流動層炉において「流動層温度を450℃〜650℃に維持し」たこと)を適用することにより,当業者が容易に想到できたものというべきである。」(審決謄本37頁第3段落〜第4段落)と判断認定したが,誤りである。
(2)相違点Fに係る本件発明2の構成である「質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層の温度を450℃〜650℃に維持し,抑制された燃焼反応が継続されるようにし」との構成は,「炉内に流動化ガスとして空気を供給し」及び「質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給することにより形成される流動媒体の循環流を有する流動層炉を備え」との構成と有機的に結合して,廃棄物を質量速度が比較的小さい流動化ガスによって流動化される空気量の少ない部分でガス化してガスとチャーを生成し,生成された燃焼しにくい固体のチャーを循環流によりガスとは分離して,質量速度が比較的大きい流動化ガスによって流動化される空気量の多い流動層に移動させ,その質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層の温度を450℃〜650℃に維持し,抑制された燃焼反応が継続されるようにすることにより,固形分であるため燃えにくいチャーを燃焼させ,燃え残って微粒子となったチャーをガスに同伴させて次段の溶融炉に供給するものである。このように有機的に結合した本件発明2の構成の中から,「質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層」という一部の要素だけを抽出して,「流動媒体が上昇する」という単一の機能に着目することに意味はない。
このように,他の構成と有機的に結合した相違点Fに係る本件発明2の構成は,審決が周知技術の根拠として掲げる文献には記載されていない。また,甲3の発明においては,流動層において熱分解過程が行われ,この熱分解過程が行われた結果生成したチャーが微粒子であり,そのまま支障なく次段のサイクロン燃焼炉に供給されるので,流動層炉内において,生成されたチャーを処理する必要がなく,そのための構成もないしたがって,甲3の発明に,審決が周知技術の根拠として掲げた文献に記載された循環流をどのように組み合わせても,本件発明2の構成に想到することはない。
また,相違点Fに係る本件発明2の構成中の「質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層」のほかは,相違点Cに係る本件発明1の構成と同じであるので,前記3の取消事由3(相違点Cについての認定判断の誤り)のとおり,審決の認定判断は誤りである。
8取消事由8(本件発明2の奏する顕著な効果の看過)(1)審決は,「本件発明2の作用効果を検討しても,甲3の発明と周知の技術から当業者が予測できた範囲内のものであって,それを超えるような格別顕著な効果を奏するものとみることはできない。」(審決謄本第37頁第6段落)と判断するが,本件発明2の奏する顕著な効果を看過したものであり,誤りである。
(2)本件発明2は,チャーを流動層炉内にとどまらせずに,可燃ガスに同伴して溶融炉に供給することができ,炉内に供給される廃棄物の質や量が変動しても,安定して可燃ガスと多量のチャーを生成して,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得て,対象とするごみが質的及び量的に変動するごみ処理特有の課題において,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の旋回溶融炉において利用できるという顕著な効果を奏する。
これに対し,甲3の発明及び甲4公報等に記載された技術のいずれにも,上記のような,対象とするごみが質的及び量的に変動するごみ処理特有の課題において,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得て,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の溶融炉において利用できるとの効果は一切記載されていない。
したがって,本件発明2は,顕著な効果を奏するものということができる。
9取消事由9(相違点Gについての認定判断の誤り)審決は,相違点Gに係る本件発明6の構成について,「相違点Aについて前示した理由により,相違点Gに係る本件発明6の構成は,甲3の発明に周知の技術(流動層炉が「炉内に上昇する流動媒体と沈降する流動媒体からなる流動媒体の循環流を形成し,該循環流を有する」ものであること)を適用することにより,当業者が容易に想到できたものというべきである。」(審決謄本39頁最終段落〜40頁第1段落)と認定判断したが,相違点Aについての審決の認定判断は誤りであるから,誤りである。
10取消事由10(相違点Hについての認定判断の誤り)審決は,相違点Hに係る本件発明6の構成について,「相違点Bについて前示したのと同様に,甲3の発明に周知の技術(流動層炉が「炉内に上昇する流動媒体と沈降する流動媒体からなる流動媒体の循環流を形成し,該循環流を有する」ものであること)を適用した結果,当業者には自明の事項であったものと認められる。したがって,相違点Hに係る本件発明1(注,「本件発明6」の誤記と認める。)の構成は,甲3の発明及び周知の技術に基づいて当業者であれば容易に想到することができたものというべきである。」(審決謄本40頁第2段落〜第3段落)と認定判断したが,相違点Bについての審決の認定判断は誤りであるから,誤りである。
11取消事由11(相違点Iについての認定判断の誤り)(1)審決は,相違点Iに係る本件発明6の構成について,まず,「『流動媒体が上昇する流動層の温度を450℃〜650℃に維持し』は,相違点Cについての判断で示したとおり,流動層炉において『流動層の温度を450℃〜650℃に維持し』たことが本件発明の出願前に当業者には周知の技術であったものと認められる以上,その温度の位置を特定するにすぎないのであるから,単なる設計事項であったものというべきである。また,同じく『生成されたチャーの一部を流動媒体が上昇する流動層で燃焼させ』ることも,流動層の循環流中でチャーが部分燃焼することが技術常識であったと認められる以上,本件発明の出願前に当業者には周知の技術であったものと認められる。したがって,相違点Iに係る本件発明6の構成は,甲3の発明に周知の技術(流動層炉において『流動層の温度を450℃〜650℃に維持し』たこと)を適用することにより,当業者が容易に想到できたものというべきである。」(審決謄本40頁第4段落〜第6段落)と認定判断したが,誤りである。
(2)審決は,相違点Iについての認定判断をするにあたり,「流動層の循環流中でチャーが部分燃焼することが技術常識であった」とするが,その根拠は,審決に何ら示されていない。
審決において「循環流を有することが記載されている」として引用された甲4公報,甲6公報及び甲7文献の中では,甲4公報において,「チャーが部分燃焼すること」に関連した記載が見られるのみであり,その他の文献においては,「チャー」の記載すら見られない。そして,甲4公報に記載されているのは,「部分燃焼をともなうガス化反応」であり,特別なガス化剤(酸素とスチームの混合ガス)を流動化ガスとして用いて,1000℃近い高温で行われるチャーをガスに転換させる「ガス化反応」であって,「部分燃焼」はガス化反応の態様を示す形容詞にすぎず,「部分燃焼をともなうガス化反応」が完結して,チャーはガスに転換されてしまうものであって,チャーが未反応で残ることはない。
したがって,これらの文献から,流動層の循環流中でチャーが部分燃焼することが技術常識であったとする認定は誤りであり,その認定を前提として,「『生成されたチャーの一部を流動媒体が上昇する流動層で燃焼させ』ることも,本件発明の出願前に当業者には周知の技術であったものと認められる。」との認定にも誤りがあるから,これらを前提としてされた審決の相違点Iについての判断は,誤りである。
12取消事由12(本件発明6の奏する顕著な効果の看過)(1)審決は,「本件発明6の作用効果を検討しても,甲3の発明と周知の技術から当業者が予測できた範囲内のものであって,それを超えるような格別顕著な効果を奏するものとみることはできない。」(審決謄本40頁第8段落)と判断したが,誤りである。
(2)本件発明6は,チャーを流動層炉内にとどまらせずに,可燃ガスに同伴して溶融炉に供給することができ,炉内に供給される廃棄物の質や量が変動しても,安定して可燃ガスと多量のチャーを生成して,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得て,対象とするごみが質的及び量的に変動するごみ処理特有の課題において,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の旋回溶融炉において利用できるという顕著な効果を奏するものである。
これに対し,甲3の発明及び甲4公報等に記載された各発明のいずれにも,上記のような,対象とするごみが質的及び量的に変動するごみ処理特有の課題において,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得て,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の溶融炉において利用できるものであるとの効果は一切記載されていないから,本件発明6は,顕著な効果を奏するものということができる。
13取消事由13(相違点Jについての認定判断の誤り)(1)審決は,相違点Jに係る本件発明7の構成について,「相違点Dに係る本件発明1(注,「本件発明2」の誤記と認める。)の構成と全く同じものであるから,相違点Dについて前示した理由により,相違点Jに係る本件発明7の構成は,甲3の発明に周知の技術(流動層炉が「質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給することにより形成される流動媒体の循環流を有する」ものであること)を適用することにより当業者が容易に想到できたものというべきである。」(審決謄本41頁最終段落)と認定判断したが,誤りである。
(2)相違点Dについての審決の認定判断は誤りであるから,審決の上記認定判断も誤りである。
( )本件発明7と甲3の発明は,そもそも発明の課題及び目的が相違し,本件3発明7の構成は,甲3公報等に開示も示唆もされておらず,これらを組み合わせて同構成を得ることの動機付けも見いだし難い。そうすると,本件発明7の構成について,当業者が容易に想到し得たとする審決の判断は誤りである。
すなわち,本件発明7における「炉内に流動化ガスとして空気を供給し,質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給することにより形成される流動媒体の循環流を有する流動層炉を備え」との構成は,流動層炉内に流動化ガスとして空気を供給し,質量速度が比較的大きい流動化ガスによって流動化され流動媒体が上昇する空気量の多い部分と,質量速度が比較的小さい流動化ガスによって流動化され流動媒体が下降する空気量が少ない部分を形成させることを規定するものであり,「該廃棄物を循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層の温度を450℃〜650℃に維持し,生成されたチャーの一部を質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層で燃焼させ」との構成と有機的に結合して,空気量の少ない流動媒体が下降する部分で廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,生成されたチャーをガスとは分離して,空気量の多い流動媒体が上昇する部分に移動させ,450℃〜650℃に維持された質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層において,生成されたチャーの一部を燃焼させる処理をさらに行って,燃え残ったチャーをガスとともに,次段の溶融炉に供給して灰分を溶融するものである。
本件発明7は,前記1(2)に記載した従前の熱分解炉が有する事情に着目し,空気量の少ない部分において生成され,可燃ガスとは分離されて流動層炉内にとどまりがちなチャーを,流動媒体の循環流により下降する流動媒体中から,上昇する流動媒体中へと移動させて,比較的酸素含有量の多い流動化ガスと接触させて一部を燃焼させて微粒子とするという過程を行わせ,燃え残って微粒子となったチャーを可燃ガスに同伴させて溶融炉へと供給し,高温燃焼させているものであり,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得ることができ,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の溶融炉において利用できるようにしたものである。
これに対して,甲3の発明においては,熱分解過程により生成された炉内にとどまりがちなチャーを,ガスとは分離して質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層に移動させ,その一部を燃焼させて微粒子とする処理を行うことはないし,甲4公報等に記載されたいずれの流動層炉においても「循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,生成されたチャーの一部を質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層で燃焼させ」との構成は記載されていないから,これらの循環流を甲3の発明に適用したとしても本件発明7の構成に想到することはない。
14取消事由14(相違点Kについての認定判断の誤り)審決は,相違点Kに係る本件発明7の構成について,「相違点Bについて前示した理由により,相違点Kに係る本件発明7の構成は,甲3の発明に相違点Bについての判断で前示したのと同様に,甲3の発明に周知の技術(流動層炉が「質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給することにより形成される流動媒体の循環流を有する」ものであること)を適用した結果,当業者には自明の事項であったものと認められる。したがって,相違点Kに係る本件発明7の構成は,甲3の発明に周知の技術を適用することにより当業者が容易に想到できたものというべきである。」(審決謄本42頁第1段落〜第2段落)と認定判断したが,相違点Bついての審決の認定判断は誤りであるから,誤りである。
15取消事由15(相違点Lについての認定判断の誤り)(1)審決は,相違点Lに係る本件発明7の構成について,「『質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層』とは,流動層炉における流動媒体が上昇する流動層を意味するものと認められる。そうすると,相違点Lに係る本件発明7の構成は,相違点Iに係る本件発明6の構成と全く同じものであるから,相違点Lに係る本件発明7の構成は,相違点Iについて前示した理由により,甲3の発明に周知の技術(流動層炉において『流動層温度を450℃〜650℃に維持し』たこと及び『生成されたチャーの一部を流動媒体が上昇する流動層で燃焼させ』ること)を適用することにより当業者が容易に想到できたものというべきである。」(審決謄本42頁第3段落〜第4段落)と認定判断したが,誤りである。
(2)本件発明7の流動媒体は,本件発明7の構成中の「炉内に流動化ガスとして空気を供給」することによって,流動化されるものであるから,相違点Lに係る本件発明7の構成中の「質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層」は,「炉内に流動化ガスとして空気を供給し」の構成と密接不可分の関係にある。そして,炉内に流動化ガスとして空気を供給するので,循環流中の質量速度の比較的小さい流動化ガスによって流動化される部分よりも,「質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層」の方が,供給される空気量が多く,固形分で燃えにくいチャーを燃焼させやすい。
したがって,相違点Lに係る本件発明7の構成中の「質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層」は,流動媒体が上昇する流動層とは異なるものであって,審決の上記認定判断は誤っている。
また,相違点Lに係る本件発明7の構成中において,「質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層」のほかは,相違点Iに係る本件発明6の構成と同様であるから,前記11の取消事由11(相違点Iの認定判断の誤り)のとおり,審決の認定判断は誤りである。
16取消事由16(本件発明7の奏する顕著な効果の看過)審決は,「本件発明7の作用効果を検討しても,甲3の発明と周知の技術から当業者が予測できた範囲内のものというべきであって,それを超えるような格別顕著な効果を奏するものとみることはできない。」(審決謄本42頁第7段落)と判断したが,誤りである。
本件発明7は,チャーを流動層炉内にとどまらせずに,可燃ガスに同伴して溶融炉に供給することができ,炉内に供給される廃棄物の質や量が変動しても,安定して可燃ガスと多量のチャーを生成して,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得て,対象とするごみが質的及び量的に変動するごみ処理特有の課題において,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の旋回溶融炉において利用できるという顕著な効果を奏するものである。
これに対し,甲3の発明及び甲4公報等に記載された技術のいずれにも,上記のような,対象とするごみが質的及び量的に変動するごみ処理特有の課題において,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得て,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の溶融炉において利用できるものであるとの効果は一切記載されていない。
17取消事由17(本件発明17,18,21及び22についての進歩性の認定判断の誤り)本件発明17,18,21及び22は,それぞれ,本件発明1,2,6及び7に対応する方法の発明であるところ,審決は,本件発明1,2,6及び7と同様の理由により,本件発明17,18,21及び22は,甲3の発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと判断したが,本件発明1,2,6及び7についての審決の認定判断が誤りであるから,本件発明17,18,21及び22についての審決の進歩性の認定判断も誤りである。
18取消事由18(本件発明3ないし5,8ないし16,19,20及び23ないし30についての進歩性の認定判断の誤り)審決は,本件発明3ないし5,8ないし16,19,20及び23ないし30について,いずれも,甲3の発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に想到することができたと判断したが,本件発明3ないし5,8ないし16,19,20及び23ないし30は,本件発明1,2,6,7,17,18,21及び22を直接又は間接に引用する発明であり,本件発明1,2,6,7,17,18,21及び22についての審決の認定判断が誤りであるから,本件発明3ないし5,8ないし16,19,20及び23ないし30についての審決の進歩性の認定判断も誤りである。
第4被告の反論審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(相違点Aについての認定判断の誤り)について( )原告は,審決が,本件発明1を含む本件発明の技術的意義を正解しなかっ1たために,相違点についての認定判断を誤った旨主張するが,その主張する本件発明の技術的意義なるものは,本件明細書の記載と全く矛盾する。すなわち,原告は,本件発明について,流動層炉内に循環流を形成して,抑制された燃焼反応を継続し,チャーの一部を燃焼するといったチャーの処理が,多量に生成したチャーを安定して溶融炉に供給するという作用を有することを前提として,本件発明の技術的意義を主張するが,本件明細書には,チャーを飛散させずにガス化する旨が記載されている。これは,多量に生成したチャーを安定して溶融炉に供給するという作用とは全く矛盾するものであり,本件明細書に記載された流動層炉は,原告が主張する作用と全く反対の作用を有しているものである。
( )原告は,審決が,流動媒体の流れと流動層の機能との関係を看過した旨主2張する。
しかし,甲3の発明に対し,流動層を循環流としたものを適用すると,甲3の発明の流動層の機能を変質させることとなるとする原告の主張は何ら根拠がない。甲3の発明の流動層を循環流としても,甲3の発明の「ガスとチャーを生成する」という流動層の機能は何ら変質することはないし,仮に,流動の態様によって多少の程度の差が生じることはあったとしても,当業者は,供給する空気量や廃棄物量などを適宜調整して所望の機能を発揮させることができる。
また,甲3公報には,流動層の流動媒体の流れを限定する事項は全く記載されていないし,甲3の発明の流動層に,周知技術である「流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し」との構成を適用すると,「可燃ガスとチャーを生成する」という機能が失われるならば,「流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し」という構成と「ガスとチャーを生成し,該チャーを微粒子とする」という構成を有する本件発明1が実施し得ないものとなる。
そして,そもそも,流動層炉というものは,「循環流」の有無にかかわらず,空気量(酸素量)等を調整することにより,その使用目的に応じてガス化にも焼却にも適用しうる技術であり,甲4公報等の記載からも,「流動媒体の循環流」を有する流動層では,ガス化を行ったり,焼却を行ったりできるものである。
( )原告は,審決が,相違点Aに係る構成の作用機能を看過した旨主張する。
3しかし,原告の主張する「ガスとチャーを排出しない」という機能は,相違点Aに係る「循環流」という構成自体の機能ではなく,原告が流動層炉全体について評価した機能であり,原告は,実質的に,循環流の機能を流動層炉全体の機能にすり替えて主張しているのであり,その主張が失当であることは明らかである。また,甲4公報や甲6公報には,必然的にガスとチャーが排出される熱分解炉が記載されており,これらがガスとチャーを排出しない旨の原告の主張は前提を欠く。
( )原告は,審決が,流動媒体の流れと流動層の機能との組合せの関係を看過4した旨主張し,甲3の発明に対し循環流を形成する技術を適用した場合に,甲3の発明の流動層がもともと持っていた機能と循環流とがどのように結び付くかが不明である旨主張する。
しかし,流動媒体は熱媒体であり,被加熱物に効率良く熱を伝達するために流動という流れを必要とするものであり,甲3の発明の流動層もこのような流動という流れによって,被加熱物を効率よく加熱して,ガス化等の機能を発揮している。そして,周知技術である「循環流」は,流動という流れの一態様であることから,甲3の発明の流動層に「循環流」を適用した場合,その「循環流」が少なくとも,流動という流れとして機能することは明らかである。
( )原告は,甲3公報には,流動化状態が均一化された流動層熱分解炉とサイ5クロン燃焼炉との組合せが,最適な手段であることが記載されていることなどから,甲3の発明に,循環流に係る周知技術を採用することには,阻害要因がある旨主張する。
しかし,甲3公報においては,流動層熱分解炉の流動媒体の流れが特許請求の範囲において一切特定されていないだけでなく,実施例においても好ましい流れやそのための条件が一切記載されていないのであり,審決は,甲3の発明の流動層熱分解炉とサイクロン燃焼炉との組合せを維持しつつ,前段の流動層熱分解炉において,甲3公報において何ら特定されていない流動媒体の流れとして,「循環流」という周知技術を採用しているだけである。
また,原告は,甲4公報等に記載された流動層は,完全ガス化あるいは完全燃焼という機能しか有しておらず,可燃ガスとチャーを排出していないため,これを甲3の発明に適用することは甲3の発明自体を否定するものである旨主張する。
しかし,原告の主張は,甲4公報等に記載された流動層の機能を「完全ガス化あるいは完全燃焼」と認定していること自体,誤りであるし,循環流の機能と流動層の機能とをすり替えて主張するものである。また,仮に,甲3の発明が,循環流が形成されていない流動層を前提とするものであったとしても,甲3公報の流動層における流動媒体の流れとして,「循環流」という周知技術を採用すると,甲3公報の流動層の機能が「完全ガス化あるいは完全燃焼」となることはあり得ない。
さらに,原告は,甲3の発明に甲4公報等に記載された技術を組み合わせると,キャリーオーバーの問題が発生する旨主張する。
しかし,現実に,飛灰の大半(80%程度)はサイクロン燃焼炉で捕捉することができ,実際にその程度の捕集率で十分に実機として機能し,また,高いスラグ化率(捕集率)として評価もされているのであり,原告の主張するようなキャリーオーバーの問題は阻害要因には該当しない。
2取消事由2(相違点Bについての認定判断の誤り)について前記1のとおり,甲3の発明に,流動層炉内に流動媒体の循環流を形成するという周知技術を適用することは,当業者が容易にし得ることである。
そして,甲3の発明に,流動層炉内に流動媒体の循環流を形成するという周知技術を適用したとしても,甲3の発明の「ガスとチャーを生成する」という流動層の機能は何ら変質することはなく,仮に,流動の態様によって多少の程度の差が生じることはあったとしても,当業者は,供給する空気量や廃棄物量などを適宜調整して所望の機能を発揮させることができるものである。
したがって,前記周知技術を甲3の発明に適用できないこと,及び,適用すると甲3の発明のもともとの流動層の機能が変更されてしまうことを前提として,相違点Bについての認定判断の誤りをいう原告の主張は失当である。
3取消事由3(相違点Cについての認定判断の誤り)について原告は,周知性の認定に用いられた甲8文献等に記載された技術的思想が甲3の発明と異なるとして,相違点Cについての審決の認定判断が誤りである旨主張する。
しかし,審決は,本件出願日前の技術水準から見て,「流動層温度を450℃〜650℃に維持し」たことが周知であるか否かを認定するに当たり,技術水準を示す資料として,先行文献を参照したものであり,先行文献に記載された各技術について,それを甲3の発明に適用できるものとしているものではないから,原告の主張は,当を得ないものである。そして,審決によって認定された周知技術は,都市ごみ等を流動層炉の熱分解,焼却によって処理する際に適用される技術であり,これを同じく都市ごみ等を流動層炉で熱分解する甲3の発明に適用するのには,極めて適しているものである。
また,原告は,本件発明1の「抑制された燃焼反応」が,甲3の発明の「部分燃焼」と異なる旨主張するが,原告が主張する「抑制された燃焼反応」は燃焼においてその燃焼量と燃焼速度を抑制することを意味するという解釈自体,本件明細書に記載されたものではなく,何ら根拠がないし,「燃焼」において抑制の対象となるのが「燃焼量」と「燃焼速度」であったとしても,「燃焼量」のみを抑制するのか,「燃焼速度」のみを抑制するのか,「燃焼量」と「燃焼速度」の両方を抑制するのか,一義的に決めることはできない。さらに,仮に,「抑制された燃焼反応」が,「燃焼においてその燃焼量と燃焼速度を抑制すること」であると解釈したとしても,甲3公報には,そのような「抑制された燃焼反応」も記載されている。
4取消事由4(本件発明1の奏する顕著な効果の看過)について原告は,本件発明1について,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の溶融燃焼炉において利用できるものである旨主張するが,溶融炉には,流動層炉において,少量の空気で,低空気比かつ熱分解に必要な発熱量に見合って部分燃焼させ,このような部分燃焼で生じたガス及びチャーをサイクロン燃焼炉に導入し,サイクロン燃焼炉において,特に燃料を要しない程度に利用できることが記載されている。供給空気量を抑えた場合に未燃成分である可燃分が多量に発生することは,当業者ならずとも十分に把握できる技術常識であるから,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の溶融燃焼炉において利用できるという原告主張の効果は,溶融炉のみからも,また,溶融炉及び特開平6-307614号公報(甲10)の記載からも,極めて容易に予測できるものである。
また,原告は,「抑制された燃焼反応」に関連する効果として,チャーを流動媒体の循環流により流動媒体が上昇する流動層に移動させ,その流動層の温度を450℃〜650℃に維持して,チャーの抑制された燃焼反応が継続されるようにした旨主張するが,「抑制された燃焼反応を継続」することは,甲3の発明における「部分燃焼の継続」であると認められるものであるから,この効果は,甲3の発明においても発揮されている効果であり,本件発明1の特有の効果としては何ら評価するに値しないものである。
さらに,原告は,本件発明1が,対象とするゴミが質的及び量的に変動するごみ処理特有の課題において,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得るという効果を有する旨主張するが,溶融炉に記載されている「抑制された燃焼反応を継続」することによる作用機能を,本件発明1特有の効果であるように主張すること自体,失当である。そして,温度制御,特に低温制御によって反応の安定化,暴発の防止などの効果が得られることは,当業者ならずとも予測できる極めて常識的なものである。
5取消事由5(相違点Dについての認定判断の誤り)について原告は,相違点Dに係る本件発明2の構成が,「炉内に流動化ガスとして空気を供給し」という構成を前提とするものであるのに対し,甲4公報等に記載された技術は,流動層炉から可燃ガスとチャーを排出する機能,作用を有していない旨主張する。
しかし,少なくとも,甲4公報及び甲6公報には,ガスとチャーが排出されることが記載されている。また,流動層炉では,空気量の調整によってガスとチャーを生成するガス化炉としたり,焼却炉とすることができるものであり,「炉内に流動化ガスとして空気を供給し」という構成自体の周知性は,ガス化炉,焼却炉のいずれの文献からも認定され得るものであり,その際に,空気量の比較的多い部分では燃焼されやすくなり,空気量の比較的少ない部分では燃焼されにくくなることは,極めて自明なことである。
また,原告は,審決が,流動媒体の流れと流動層の機能との関係を看過し,相違点Dに係る構成の作用機能を看過し,流動媒体の流れと流動層の機能との組合せの認定を看過したと主張するが,前記1( )ないし( )のとおり,失当で24ある。
6取消事由6(相違点Eについての認定判断の誤り)について原告は,相違点Bについての審決の認定判断に誤りがあることを理由として,相違点Eについての審決の認定判断の誤りを主張するが,相違点Bについての審決の認定判断に誤りはないから,失当である。
7取消事由7(相違点Fについての認定判断の誤り)について原告は,相違点Fに係る本件発明2の構成は,「炉内に流動化ガスとして空気を供給し」等の構成と有機的に結合している旨主張するが,溶融炉には,流動化ガスとして空気を供給することが記載されているから,「炉内に流動化ガスとして空気を供給し」という構成は,甲3の発明と本件発明2との相違点ではない。そして,流動層炉というものは,炉内に流動化ガスを供給することによって流動媒体を流動させながら運転されるものであるため,供給される流動化ガスの質量速度が比較的大きい部分においてその流動媒体が上昇することは当然のことであり,質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層が,流動媒体が上昇する流動層であることは明らかである。
また,原告は,本件発明2が,質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層において,燃えにくいチャーを燃焼させるという作用機能を有する旨主張するが,流動層炉内に流動媒体が循環する循環流を形成する際に,その流動化ガスの供給量に差を設けて行うことや,その流動化ガスとして空気を採用することは,当業者の技術常識的な手法の一つにすぎず,チャーが燃えやすいという作用についても,極めて自明であり,評価するに値しないものである。
さらに,原告は,相違点Fに係る本件発明2の構成中,相違点Cに係る本件発明1の構成と同じ部分につき,取消事由3(相違点Cについての認定判断の誤り)と同様の理由により審決の認定判断に誤りがある旨主張するが,取消事由3に理由がないのと同様,失当である。
8取消事由8(本件発明2の奏する顕著な効果の看過)について原告は,審決が本件発明2の奏する顕著な効果を看過した旨主張するが,取消事由4(本件発明1の奏する顕著な効果の看過)と同様の主張であり,取消事由4に理由がないのと同様,取消事由8も理由がない。
9取消事由9(相違点Gについての認定判断の誤り)について原告は,相違点Aについての審決の認定判断に誤りがあることを理由として,相違点Gについての審決の認定判断の誤りを主張するが,相違点Aについての審決の認定判断に誤りはないから,失当である。
10取消事由10(相違点Hについての認定判断の誤り)について原告は,相違点Bについての審決の認定判断に誤りがあることを理由として,相違点Hについての審決の認定判断の誤りを主張するが,相違点Bについての審決の認定判断に誤りはないから,失当である。
11取消事由11(相違点Iについての認定判断の誤り)について原告は,「流動層の循環流中でチャーが部分燃焼することが技術常識であった」との審決の認定が誤りであるとして,相違点Iの認定判断を争うが,甲4公報,甲5公報及び甲8文献には,「流動層の循環流中でチャーが部分燃焼すること」が記載されており,このことが,技術常識であったことは明らかである。
12取消事由12(本件発明6の奏する顕著な効果の看過)について原告は,審決が本件発明6の奏する顕著な効果を看過した旨主張するが,取消事由4(本件発明1の奏する顕著な効果の看過)と同様の主張にすぎず,理由がない。
13取消事由13(相違点Jについての認定判断の誤り)について原告は,審決が相違点Jの認定判断を誤った旨主張するが,取消事由5(相違点Dの認定判断の誤り)と同様の主張にすぎず,理由がない。
14取消事由14(相違点Kについての認定判断の誤り)について原告は,相違点Bについての審決の認定判断に誤りがあることを理由として,審決が相違点Kについての認定判断を誤った旨主張するが,相違点Bについての審決の認定判断に誤りはないから,失当である。
15取消事由15(相違点Lの認定判断の誤り)について原告は,「質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層」の構成は,「炉内に流動化ガスとして空気を供給し」の構成と密接不可分の関係にあり,流動化ガスとして空気を供給すると,質量速度の比較的小さい流動化ガスによって流動化される部分よりも質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層の方が,チャーを燃焼させやすい旨主張する。
しかし,質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層が,流動媒体が上昇する流動層であることは明らかである。また,原告が主張する,質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層と,「炉内に流動化ガスとして空気を供給し」との関係も含めた本件発明7の構成全体によって奏される作用効果に関して,格別顕著な効果を奏するものとは認められない。
さらに,原告は,相違点Lに係る本件発明7の構成中,相違点Iに係る本件発明6の構成と同じ部分につき,取消事由11(相違点Iの認定判断の誤り)」と同様の理由により審決の認定判断に誤りがある旨主張するが,取消事由11に理由がないのと同様,理由がない。
16取消事由16(本件発明7の奏する顕著な効果の看過)について原告は,審決が本件発明7の奏する顕著な効果を看過した旨主張するが,取消事由4(本件発明1の奏する顕著な効果の看過)と同様の主張にすぎず,理由がない。
17取消事由17(本件発明17,18,21及び22についての進歩性の認定判断の誤り)について原告は,審決が,本件発明1,2,6及び7についての認定判断に誤りがあることを理由として,それらの発明に対応する方法の発明である本件発明17,18,21及び22の認定判断を誤った旨主張するが,本件発明1,2,6及び7についての審決の認定判断に誤りがないから,理由がない。
18取消事由18(本件発明3ないし5,8ないし16,19,20及び23ないし30についての進歩性の認定判断の誤り)について原告は,本件発明1,2,6,7,17,18,21及び22についての審決の進歩性判断に誤りがあることを理由として,それらの発明を引用する本件発明3ないし5,8ないし16,19,20及び23ないし30についての審決の認定判断に誤りがある旨主張するが,本件発明1,2,6,7,17,18,21及び22について,審決の認定判断に誤りはないから,理由がない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(相違点Aについての認定判断の誤り)について( )審決は,相違点Aに係る本件発明1の構成について,「流動層炉が『炉内1に上昇する流動媒体と沈降する流動媒体からなる流動媒体の循環流を形成し,該循環流を有する』ものであることは,本件発明の出願前に当業者には周知の技術であったものと認められる。したがって,相違点Aに係る本件発明1の構成は,甲3の発明に上記の周知の技術を適用することにより,当業者が容易に想到できたものというべきである。」(審決謄本33頁最終段落〜34頁第2段落)としたが,原告は,その認定判断が誤りである旨主張する。
( )原告は,まず,審決が,本件発明1を含む本件発明の技術的意義を正解し2なかったために,相違点についての認定判断を誤った旨主張するので,本件明細書についてみると,以下のとおりの記載がある。
ア「【産業上の利用分野】本発明は,流動層炉において可燃物をガス化し,生成された可燃ガス及び微粒子を熔融燃焼炉において高温燃焼させ灰分を熔融する方法及び装置に関する。」(段落【0001】)イ「【従来の技術】近年,多量に発生する都市ごみ,廃プラスチック等の廃棄物を焼却し減量化すること,及びその焼却熱を有効利用することが望まれている。廃棄物の焼却灰は,通常,有害な重金属を含むので,焼却灰を埋め立てにより処理するためには,重金属成分を固化処理する等の対策が必要である。これらの課題に対応するため,特公昭62-35004号公報の固形物の燃焼方法及びその装置が提案された。この公報の燃焼方法においては,固形物原料が流動層熱分解炉において熱分解され,熱分解生成物,即ち,可燃ガス及び粒子,がサイクロン燃焼炉に導入される。サイクロン燃焼炉の中で加圧空気により可燃分が高負荷燃焼され,旋回流により灰分が壁面に衝突し溶けて壁面を流下し,熔融スラグとなって排出口から水室へ落下し固化される。特公昭62-35004号公報の方法においては,流動層全体が活発な流動化状態であるため,生成ガスに同伴して炉外へ飛散する未反応可燃分が多いため,高いガス化効率が得られない等の短所があった。また,従来,流動層炉が使用できるガス化原料としては,石炭等の場合は,粒径0.5〜3mmの粉炭,廃棄物の場合は,数十mmの細破砕物とされてきた。これより大きいと流動化を阻害するし,これより小さいと完全にガス化されないまま未反応可燃分として生成ガスに同伴して炉外へ飛散してしまう。従って,これまでの流動層炉では,ガス化原料を炉に投入する前の前処理として,予め粉砕機等を用いて破砕・整粒することが不可欠であり,所定の粒径範囲に入らないガス化原料は,利用できず,歩留まりをある程度犠牲にせざるをえなかった。」(段落【0002】,【0003】)ウ「上記の問題を解決するため,特開平2-147692号公報の流動層ガス化方法及び流動層ガス化炉が提案された。この公報の流動層ガス化方法においては,炉の水平断面が矩形にされ,炉底中央部から炉内へ上向きに噴出される流動化ガスの質量速度が,炉底の2つの側縁部から供給される流動化ガスの質量速度より小さくされ,炉底側縁部の上方で流動化ガスの上向き流が炉中央部へ転向され,炉中央部に流動媒体が沈降する移動層が形成され,炉の両側縁部に流動媒体が活発に流動化する流動層が形成され,移動層に可燃物が供給される。流動化ガスは,空気と蒸気の混合物,又は酸素と蒸気の混合物であり,流動媒体は,珪砂である。しかしながら,この特開平2-147692号公報の方法は,次の短所を有する。即ち,(1)移動層及び流動層の全体において,ガス化吸熱反応と燃焼反応が同時に生じ,ガス化し易い揮発分がガス化すると同時に燃焼され,ガス化困難な固定炭素(チャー)やタール分等は,未反応物として生成ガスに同伴して炉外へ飛散し,高いガス化効率が得られない。(2)生成ガスを燃焼させ蒸気及びガスタービン複合発電プラントに使用する場合,流動層炉を加圧型とすることが必要であるが,炉の水平断面が矩形のため,加圧型とすることが困難である。好ましいガス化炉の内圧は,生成ガスの用途によって決定される。一般の燃焼用ガスとして使用する場合は,数千mmAq程度で良いが,ガスタービンの燃料として使用する場合は,数kgf/cm 以上が必要であり,更に,高効率ガス化複合発電用の燃料として使用2する場合には十数数kgf/cm 以上が適当である。」(段落【00024】,【0005】)エ「都市ごみ等の廃棄物処理については,依然として可燃性ごみの燃焼による減量化が,重要な役割を担っており,それに付随して,近年,ダイオキシン対策,媒塵の無害化,エネルギー回収効率の向上等,環境保全型のごみ処理技術の必要性が増大している。我が国の都市ごみの焼却量は,約100,000トン/日であり,都市ごみ全量のエネルギーは,我が国の消費電力量の約4%に相当する。現在,都市ごみのエネルギーの利用率は,約10%に止まっているが,利用率を高めることができれば,それだけ化石燃料の消費量が少なくなり,地球温暖化防止にも寄与できる。しかしながら,現在の焼却システムは,次の問題を含んでいる。即ち,@HC に□よる腐食の問題があり,発電効率を高くできない。AHC ,NOx,S □Ox,水銀,ダイオキシン等に対する公害防止設備が複雑化してコスト及びスペースが増大している。B法規制の強化,最終処分場の用地難等により,焼却灰の熔融設備の設置が増大しているが,そのため別設備の建設が必要であり,また電力等を多量に消費している。Cダイオキシンを除去するには,高価な設備が必要である。D有価金属の回収が困難である。」(段落【0006】,【0007】)オ「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,従来技術の前記の問題点を解消することにあり,都市ごみ,廃プラスチック等の廃棄物や石炭等の可燃物から多量の可燃分を含む可燃ガスを高効率で生成し,生成された可燃ガスの自己熱量により燃焼灰を熔融することができる処理方法及びガス化及び熔融装置を提供することにある。本発明においては,熔融炉へ供給される生成ガスは,自己熱量により1300℃以上の高温を発生するような充分な熱量を持ち,チャー,タールを含む均質なガスであるようにされ,またガス化装置から不燃物の排出が支障なく行われるようにされる。本発明の別の目的は,廃棄物中の有価金属を還元雰囲気の流動層炉内から酸化しない状態で取出し回収できるガス化方法及び装置を提供することにある。本発明の更に別の目的は,図面を参照する実施例の説明において明らかにされる。」(段落【0008】)カ「【作用】本発明のガス化装置は,流動層炉の循環流により熱が拡散されるので,高負荷とすることができ,炉を小型にすることができる。本発明においては,流動層炉が少量の空気で燃焼を維持できるので,流動層炉を低空気比低温度(450〜650℃)とし,発熱を最小限に抑えて,ゆるやかに燃焼させることにより,可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得ることができ,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の熔融燃焼炉において利用できる。」(段落【0022】)キ「本発明においては,流動層炉へ供給される中央流動化ガスの質量速度が,周辺流動化ガスの質量速度より小にされ,炉内周辺部上方における流動化ガスの上向き流が炉の中央部へ向うように転向され,それによって,流動媒体の沈降拡散する移動層が炉の中央部に形成されると共に,炉内周辺部に流動媒体が活発に流動化している流動層が形成される。炉内へ供給された可燃物は,移動層の下部から流動層へ及び流動層頂部から移動層へ,流動媒体と共に循環する間に可燃ガスにガス化される。可燃物は,最初に,炉中央の下降する移動層の中で,主として揮発分が流動媒体(一般的には,硅砂を使用)の熱によりガス化される。そして,移動層を形成する中央流動化ガスの酸素含有量が,小さ(い)ため,移動層内で生じた可燃ガスは,ほとんど燃焼されずに中央流動化ガスと共にフリーボードへ上昇され,発熱量の高い良質の生成ガスとなる。移動層において揮発分が失われ加熱された可燃物,即ち,固定炭素(チャー)やタール分等は,次に流動層内へ循環され,流動層内の比較的酸素含有量の多い周辺流動化ガスと接触し燃焼され,燃焼ガス及び灰分に変わると共に炉内を450〜650℃に維持する燃焼熱を発生する。この燃焼熱により流動媒体が加熱され,加熱された流動媒体が炉周辺部上方で炉中央部へ転向され移動層内を下降することにより移動層内の温度を揮発分のガス化に必要な温度に維持する。可燃物が投入される炉中央部ほど低酸素状態であるので,高い可燃分を有する生成ガスを発生することができる。また,可燃物中の金属が不燃物取出口から未酸化の有価物として回収することができる。」(段落【0023】,【0024】)ク「可燃物供給口104から移動層9の上部へ供給された可燃物11は,流動媒体と共に移動層9中を下降する間に,流動媒体の持つ熱により加熱され,主として揮発分がガス化される。移動層9には,酸素が無いか少ないため,ガス化された揮発分から成る生成ガスは燃焼されないで,移動層9中を矢印116のように抜ける。それ故,移動層9は,ガス化ゾーンGを形成する。フリーボード102へ移動した生成ガスは,矢印120で示すように上昇し,ガス出口108から生成ガス29として排出される。移動層9でガス化されない,主としてチャー(固定炭素分)やタール114は,移動層9の下部から,流動媒体と共に矢印112で示すように炉内周辺部の流動層10の下部へ移動し,比較的酸素含有量の多い周辺流動化ガス8により燃焼され,部分酸化される。流動層10は,可燃物の酸化ゾーンSを形成する。流動層10内において,流動媒体は,流動層内の燃焼熱により加熱され高温となる。高温になった流動媒体は,矢印118で示すように,傾斜壁6により反転され,移動層9へ移り,再びガス化の熱源となる。流動層10の温度は,450〜650℃に維持され,抑制された燃焼反応が継続するようにされる。」(段落【0030】,【0031】)ケ「図1及び図2に示すガス化炉1によれば,流動層炉2にガス化ゾーンGと酸化ゾーンSが形成され,流動媒体が両ゾーンにおいて熱伝達媒体となることにより,ガス化ゾーンGにおいて,発熱量の高い良質の可燃ガスが生成され,酸化ゾーンSにおいては,ガス化困難なチャーやタール114を効率良く燃焼させることができる。それ故,可燃物のガス化効率を向上させることができ,良質の可燃ガスを生成することができる。」(段落【0032】)コ「【発明の効果】(1)本発明のガス化装置は,流動層炉の循環流により熱が拡散されるので,高負荷とすることができ,炉を小型にすることができる。(2)本発明においては,流動層炉が少量の空気で燃焼を維持できるので,流動層炉を低空気比低温度(450〜650℃)とし,発熱を最小限に抑えて,ゆるやかに燃焼させることにより,可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得ることができ,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の熔融燃焼炉において利用できる。(3)本発明においては,流動層炉の循環流により大きな不燃物も容易に排出できる。また,不燃物中の鉄,アルミが,未酸化の有価物として利用できる。(4)本発明によれば,ごみ処理を無害化し,高いエネルギ利用率を有する方法又は設備が提供される。」(段落【0058】〜【0061】)上記記載によれば,本件明細書には,本件発明は,廃棄物から可燃分を高効率で生成し,可燃ガスの自己熱量により燃焼灰を溶融することができる装置等の提供を目的とすること,可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得ることができること,ガス化効率を高め,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の溶融燃焼炉で利用できること,チャーが流動層において燃焼されることで,燃焼熱を発生し,燃焼ガス,灰分になること,ガス化ゾーンGにおいて,良質の可燃ガスが生成され,酸化ゾーンSにおいては,チャー等を効率よく燃焼させ,「それ故」(上記コ)可燃物のガス化効率を向上させ,良質の可燃ガスを生成できることは記載されているが,生成されたチャーについて,従来技術と比較した粒径やその生成量についての記載はない。
原告は,本件発明においては,チャーを流動層炉内にとどまらせずに,可燃ガスに同伴して溶融炉に供給することができ,炉内に供給される廃棄物の質や量が変動しても,安定して可燃ガスと多量のチャーを生成して,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得て,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の溶融燃焼炉において利用できるようにしたという技術的意義がある旨主張するが,上記のとおりの本件明細書の記載,殊に,前記イのとおり,従来技術の課題として,未反応可燃分がガス化されずに炉外に飛散したこと,及び,チャー等が未反応物として炉外に飛散し,高いガス化効率が得られなかったことが記載されていることを併せ考慮すると,本件発明について,ガス化効率を高め,均質な生成ガスを得ることを目的としているものであることは認められるものの,更に進んで,次段の溶融炉に供給するという目的で,チャーを多量に生成することについてまでの技術的意義があるものとは認められない。本件発明は,従来未反応のまま,炉外へ排出又は飛散していたチャー等を抑制された燃焼反応(後記3( )のと4おり甲3の発明の部分燃焼と同質のもの)させるものであると解されるのであって,多量のチャーを生成させるものであるという原告の主張は,本件明細書の記載と矛盾するものといわざるを得ない。
( )甲3公報に,「都市ごみ,廃プラスチックなどの廃棄物を流動層熱分解炉3に供給し,該炉に空気を供給して流動化させた流動層にて該廃棄物をガス化した後,サイクロン燃焼炉にて灰分を溶融する装置において,該廃棄物を該流動層熱分解炉に供給し,流動層内の熱分解によりガス化してガス並びにチャー及び灰分の微粒子を生成し,該廃棄物に含まれる不燃物を該流動層熱分解炉の炉底部より排出し,サイクロン燃焼炉は該流動層熱分解炉より排出された該ガスとチャーを燃焼して灰分を溶融する燃焼室を備えた固形物の燃焼装置。」である甲3の発明が記載されていることは,当事者間に争いがない。
本件発明1は,その流動層炉が「炉内に上昇する流動媒体と沈降する流動媒体からなる流動媒体の循環流を形成し,該循環流を有する」ものであるのに対し,甲3公報には,流動層熱分解炉における循環流の有無については,明示の記載がない(相違点A)。
( )そこで,相違点Aに係る流動層炉における循環流に関する本件出願日前の4技術水準について検討する。
ア甲4公報には,以下の記載がある。
(ア)「ガス化炉の炉底部より上方に向けて噴出せしめた流動化ガスにより,流動媒体を流動化して形成せしめた流動層により,石炭等をガス化する流動層ガス化方法において,・・・前記流動化ガスは,中央部よりも両側縁部が低く形成されているガス分散機構から噴出せしめられ,前記流動化ガスの質量速度を,前記炉底の中央部付近におけるよりも,該中央部の両側の両側縁部において,より大となし,・・・炉底の中央部には,流動媒体が沈降する移動層を形成し,両側縁部には流動媒体が活発に流動化している両側縁流動層を形成し,前記流動媒体を,前記移動層内で沈降せしめ,該移動層の下部で前記両側縁部に移行せしめ,前記両側縁流動層内で上昇せしめ,・・・炉内を循環せしめつゝ前記移動層に石炭等を供給して該石炭等のガス化を行なわしめることを特徴とする流動層ガス化方法。」(特許請求の範囲の請求項1)(イ)「従来の流動層では,層内全体を活発な流動化状態で均一に保とうとしたため,生成ガスに同伴して炉外へ飛散する未反応チャーの量が多く,高いガス化効率を得られなかつた。」(2頁左下欄11行目〜14行目)(ウ)「ガス化炉3にて生成したガスは,二段のサイクロン4によりガス中に含まれる固形物を分離する。一段目のサイクロンで分離された固形物中には,未反応チャーが含まれるので,再びガス化炉3に供給される。」(3頁右下欄最終段落)(エ)「ガス化炉3について説明する。第2図に示すごとく,ガス化炉3の炉底部には流動化用のガス化剤の分散板20が備えられている。分散板20は両側縁部が中央部より低く,炉の中心線36に対してほぼ対称な山形断面状に形成されている。両側縁部には不燃物及び灰分排出口30が接続され,32,33のスクリユーコンベアにより,粗大な不燃物が流動媒体とともに排出される。」(4頁左上欄7行目〜15行目)(オ)「予熱された酸素とスチームの混合ガスからなるガス化剤は,分散板20から炉内に噴出し,傾斜壁24に当たつて垂直面内の旋回流となり,珪砂などの流動媒体をこれに沿つて動かしめて旋回流動層35が形成される。さらに・・・炉内中央に下降移動層34が形成され,この下降移動層34及び旋回流動層35によつて石炭は短時間にガス化反応を完結させるため,粉砕・整粒を行なわなくとも流動化を阻害することなく高いガス化効率を得ることが出来る。予熱された酸素とスチームの混合ガスからなるガス化剤は,導入部の室21,22,23を経て分散板20から上方に噴出せしめられている。両側縁部の室21,23から噴出するガス化剤の質量速度は流動層を形成するのに十分な大きさを有するが,中央部の室22から噴出するガス化剤の質量速度は前者よりも小さく選ばれている。・・・中央部の室22から噴出する流動化ガス中の酸素濃度は,両側縁部の室21,23から噴出する流動化ガスよりも低いか,あるいはスチームのみとしてもよい。室の数は3以上の任意の数が選ばれる。多数の場合でも,流動化ガスの質量速度は中心に近いものを小,両側縁部に近いものを大となるようにする。両側縁部の室21,23の直上に流動化ガスの上向き流路をさえぎり,流動化ガスを炉中央に向けて反射転向せしめる反射壁として傾斜壁24が設けられている。」(4頁左上欄16行目〜左下欄9行目)(カ)「ガス化炉3の原理につき説明する。通常の流動層においては,流動媒体は沸騰している水のごとき激しい流動状態を形成しているが,室22の上方の流動媒体は弱い流動状態にある移動層34を形成する。この移動層34の幅は,上方は狭いが,裾の方は分散板20の傾斜の作用も相まつてやや広がつており,そこでは室21,23からの大きな質量速度のガス化剤の噴射を受け,流動化され上方に吹き上げられる。こうして裾の流動媒体が除かれるので,室22の直上の流動媒体の層は自重で降下する。この層の上方には,後述のごとく旋回流を伴う流動層35からの流動媒体が補給される。これを繰り返して室22の上方の流動媒体は,弱い流動状態の下降移動層34を形成する。室21,23上に移動した流動媒体は流動化され上方に吹き上げられるが,傾斜壁24により反射転回して炉の中央に向いて旋回し,前述の下降移動層34の頂部に移動し,徐々に降下し,移動層34の裾に至つて流動化され再び吹き上がつて循環する。一部の流動媒体は,旋回流として流動層35の中で旋回循環する。」(4頁左下欄16行目〜右下欄17行目)(キ)「下降移動層34の中では,石炭の乾留反応が主体的に,ガス化反応が部分的に行なわれ,ガスとチヤーが生成する。ここで生成したガスは上方または水平方向に抜け,チヤーは流動媒体と共に両側縁部の流動層部35へと移動し,流動化ガスとして供給された酸素とスチームの混合ガスからなるガス化剤と,部分燃焼をともなうガス化反応を引き起こす。下降移動層34の中で生成するガスは,ガス化剤の質量速度が小さいので,燃焼による損失を減らすことができる。」(5頁左上欄11行目〜右上欄1行目)(ク)「下降移動層34は,流動化が比較的穏やかなので,生成したチヤーのうち粒径がかなり細かいものでも,通常の流動層のようにガス化されずに飛散するようなことは起らない。例え一部が飛散しても,炉外でサイクロン4により捕集して,再度炉に戻せば,比較的容易にガス化することが可能である。」(5頁右上欄4行目〜10行目)(ケ)「そのため石炭はかなり大きなものでも,下降移動層34の中で徐々に下降しながら乾留が行なわれ,下降移動層34の両端に達するころには大半が細片化したチヤーになる」(5頁左下欄3行目〜6行目)(コ)「破砕設備が不要となるため,石炭のように簡単に破砕できない廃木材などのバイオマス原料や廃プラスチックを,ガス化原料として利用することが可能となる。・・・また破砕の困難な粗大不燃物を含むような,例えば現状では埋立て処分されている燃焼不適ごみを,ガス化原料として用いることもできる。」(5頁左下欄18行目〜右下欄7行目)(サ)「E・・・移動層の不活発な流動化の中で乾留による微粉化が行なわれる」(6頁右上欄12行目〜14行目)(シ)第2図には,石炭ガス化炉の断面図が図示されており,下降移動層34と流動層35とで流動媒体の循環流が形成されている構成が矢印で示されている。
イ上記アによれば,甲4公報には,ガス化炉において流動層炉内の流動媒体が循環流を形成していること,循環流中の「下降移動層」において,石炭のガス化反応が部分的に行われ,ガスとチャーが生成されること,流動層炉内の循環流中の上昇流である「流動層」において「生成されたチャーが部分燃焼を伴うガス化反応を引き起こす」こと,「石炭」は,「下降移動層で乾留が行われ,大半が細片化したチャーになる」こと,「廃木材」,「廃プラスチック」及び「燃焼不適ごみ」が利用可能であることが記載されている。
ウ甲6公報には,以下の記載がある。
(ア)「本発明は,流動層を用いる焼却炉,熱分解炉などの熱反応炉に関するものである。この種の熱反応炉として,例えば都市ごみの焼却炉においては,近年ストーカ炉よりも燃焼効率がよく,かつ焼却残渣の少ない流動層炉が用いられて来ている。」(2頁左上欄2行目〜7行目)(イ)「ブロワ7から送られた流動化空気は,空気室43,44,45を経て分散板42から上方に噴出せしめている。両側縁部の空気室43,45から噴出する流動化空気の質量速度(kg/m ・sec)は流動層2を形成するのに十分な大きさを有するが,中央部の空気室44から噴出する流動化空気の質量速度は前者よりも小さく選ばれている。・・・空気室の数は3個以上任意の数が選ばれる。多数の場合でも,流動化空気の質量速度は,中心に近いものを大に,両側縁部に近いものを小になるようにする。両側縁部の空気室43,45の直上に流動化空気の上向き流路をさえぎり,流動化空気を炉内中央に向けて反射転向せしめる反射壁として傾斜壁9が設けられている。」(4頁右上欄2行目〜左下欄1行目)(ウ)「焼却炉6の作用につき説明すれば,ブロワ7により,流動化空気を送り込み,空気室43,45からは大なる質量速度にて,空気室44からは小なる質量速度にて噴出せしめる。通常の流動層においては,流動媒体は沸とうしている水の如く激しく上下に運動して流動状態を形成しているが,空気室44の上方の流動媒体は激しい上下動は伴なわず,弱い流動状態にある移動層を形成する。この移動層の幅は上方は狭いが,裾の方は分散板42の傾斜の作用も相まつて,稍広がつており,裾の一部は両側縁部の空気室43,45の上方に達しているので,大きな質量速度の空気の噴射を受け,吹き上げられる。裾の一部の流動媒体が除かれるので,空気室44の直上の層は自重で降下する。この層の上方には後述の如く旋回流10を伴う流動層からの流動媒体が補給され堆積する。
これを繰り返して,空気室44の上方の流動媒体は,或る領域の部分がほぼひとまとめとなり,徐々に下降する下降移動層46を形成する。空気室43,45上に移動した流動媒体は上方に吹き上げられるが,傾斜壁9に当たり反射転向して炉の中央に向きながら上昇し,炉内断面の急増に伴い上昇速度を失い,前述の下降移動層46の頂部に落下し,徐々に下降し,裾に至つて再び吹き上げられて循環する。一部の流動媒体は旋回流10として流動層の中で旋回循環する。」(4頁右下欄4行目〜5頁左上欄10行目)(エ)「このような状態の焼却炉6の炉内に,原料投入口60から投入されたごみは下降移動層46の頂部に下降する。頂部付近においては流動媒体の流れは外側から中心に向かつて集中する方向に流れるので,ごみはこの流れに巻き込まれて下降移動層46の頂部にもぐり込まされる。・・・下降移動層46の中では部分的に熱分解が行なわれ可燃ガスが発生する。」(5頁左上欄11行目〜右上欄4行目)(オ)「下降移動層46の表面にびん,アイロンなどの如き重くかつ大きな物体を落下せしめて供給した場合,これらの物体は瞬時に空気室44の上まで落下するのではなく,下降移動層46に支えられて,流動媒体の流れと共に徐々に下降する。そのため,可燃物はかなりの大きさのものでも,下降移動層46の中で徐々に下降しているうちに乾燥,ガス化,燃焼が行なわれ,裾に達するときには大半が燃焼して細片化しているので,流動層の形成を阻害することがない。従つて,ごみは予め破砕機で破砕をしなくとも,給じん装置5で破袋する程度で差支えなく,破砕機や破砕工程を省略しコンパクトな装置とすることができる。」(5頁右上欄8行目〜左下欄1行目)(カ)「以上は焼却炉における例を示したが,熱分解炉その他の熱反応炉においても同様である。」(6頁左下欄18行目〜19行目)(キ)第9図には,焼却炉の縦断面図が図示されており,前記(ウ)の流動媒体の旋回流10が流動層炉の砂層中に生じていることが示されている。
エ上記ウによれば,甲6公報には,焼却炉において,質量速度の比較的大きい流動化ガスと質量速度の比較的小さい流動化ガスを供給することにより流動媒体の循環流を形成すること,循環流の下降移動層において,乾燥,ガス化等が行われること,焼却炉だけでなく,その技術は熱分解炉においても同様に適用できることが記載されている。
オ甲7文献には,以下の記載がある。
(ア)「一般の流動層焼却炉は,流動媒体(砂)があたかも沸騰している湯のように上下に動いて流動するかたちの流動層を形成しているが,本技術では移動層(のみ込み層)と流動層の組合せによって図1に示すように砂が適度に循環・旋回を行い,砂の沈降に伴い投入された燃焼物を熱砂の中にのみ込み,熱的に燃焼物を破壊し拡散する効果を持たせたものである。」(1034頁右欄10行目〜1035頁左欄3行目)(イ)「TIF旋回流型流動燃焼炉の構造図を図2に示す。流動床は空気分散部を四つのブロックに分け,おのおのに燃焼用空気を送り込むが,中央部の2ブロックには少量の空気を入れて移動層を作り,両端の2ブロックには多量の空気を入れて流動層を形成する。移動層と流動層との空気量の比は約1:3 である。」(1035頁左欄20行目〜27行目)(ウ)「この移動層と流動層の組み合わせに加えて,ディフレクタプレートによるガス流屈折作用の効果により,炉床全体の砂の上下運動に加えて旋回運動が生じる構造としてある。この旋回流により,下記の特長が生ずる。( )移動層部では砂はゆっくりと斜め下方に移動している。ここ1に燃焼物が投入されると,砂の熱により蒸し焼きにされ水分がなくなりもろくなる。( )もろくなった燃焼物は砂の旋回により拡散していき,2流動層部での激しい砂の動きにより解砕され細かくなり,短時間に燃えつきる。( )したがって大きな燃焼物でも破砕せずに焼却することがで3きる。」(1035頁左欄28行目〜41行目)(エ)「燃焼物中の不燃物は砂の動きとともに炉の両側に送られ,砂とともに炉外に取り出すことができる。」(1035頁左欄末行〜右欄2行目)カ上記オによれば,甲7文献には,焼却炉の流動層において,質量速度の比較的大きい流動化ガスと質量速度の比較的小さい流動化ガスを供給することにより流動媒体の循環流を形成することが記載され,流動層中の上昇流である流動層部において,燃焼物が解砕されて細かくなり,燃焼することが記載されている。
キ実願昭57-111269号(実開昭58-58232号)の願書に添付された明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(甲18,以下「甲18マイクロフィルム」という。)には,以下の記載がある。
(ア)「3.〔考案の詳細な説明〕本考案は流動床式焼却炉に関する。・・・この様な流動床式の焼却炉に於ては硅砂等の流動媒体が使用されている。この如き流動床式焼却炉には通常流動媒体(本文に於ては砂と称する)が床面積全般に渉り流動化して,この砂の流動状態の部分の上方,所謂フリーボードと称する部分から焼却物の投入を行つて来た。しかしながらこの様な作動方式の場合には,次の様な問題が経験されている。
即ち( )焼却物中の比較的比重の小さい成分(例えば紙類,プラスチ1ツクス類等)は流動する砂の上部に於て停滞浮遊する。このため,これらの比較的可燃性傾向の高い成分は流動する砂の上部で良好に燃焼してもその燃焼による発生熱量は砂に伝達されることが少く従つてその熱が有効に利用されない。( )上記のため,砂の温度も不安定・不均一と2なり,従つて排ガス温度も変動が激しい。( )発生熱が砂に有効に還 3元伝達されないため,砂温を上昇させるために補助燃料(例えば助燃油)を必要とする場合が多く,燃料の節約が困難である。上記の如き比重の比較的低い焼却物,或いはこれらを含んだ焼却物を在来の流動床式焼却炉により焼却を有効に行うための方策としては焼却物を砂の上部に投入する代りに,砂の中,又は砂の底部に強制的に供給して砂の内部で燃焼させることが考えられる。この様にするためにはスクリユーフイーダ,等の機械的押込作用を行う装置が必要となる。但しこの様な装置を使用して強制押込を行うためには更に付随する問題が生ずる。即ち,(イ)砂中,又は砂の底部に於ての投入のため,流動化状態を維持している高い風圧をシールする必要がある。(ロ)スクリユーフイーダ等で強制的に押込む場合に焼却物自体によつてシール(マテリアルシール)を行わねばならないために,焼却物自体の形状が制限され,焼却に必要な程度以上に細かく破砕を行う必要がある。従つて,高馬力,高性能の破砕機が必要となる。本考案は従来の流動床燃焼方式による上記した如き種々の欠点,問題点を克服するための流動床式焼却炉を提供することを目的とするものである。」(2頁3行目〜4頁8行目)(イ)「本考案による焼却炉は具体的には,焼却炉内の砂の部分に於て二種類の流動層を生ぜしめること,即ち一部に於ては比較的激しい流動状態となる流動層を生ぜしめ,他方の部分に於ては流動化の程度を比較的低度,或いは実質的に流動を行わず砂が下方に移動することにより重力により逐次全体として下方に沈降する移動層を生ぜしめる様になつている。尚上記の流動層上部から流動状態の砂は移動層の方に偏向され,又移動層の下部からは流動層の下部に砂が移行する様にして,砂全体が二つの移動層,流動層の間で循環する様になされている。この様な態様は特開昭52-118858号に開示された熱反応装置に於ける流動床にも見られるが,この例に於ては流動床に焼却物を直接投入しているため,前述した問題が生ずる。本考案の方式に於ては炉体上部からフリーボードを介して落下する如く投入すれば移動層の上部に落下した焼却物の上に流動層の砂を受けて下方に漸次沈降する。又流動層上部に落下した焼却物は流動層上部から移動層上部にカスケード的に移行する砂と共に移動層上部に動き前述の如く移動層を沈降する。」(4頁9行目〜5頁10行目)(ウ)「以下本考案を添付の図面により説明する。第1図,第2図は本考案の理解に便ならしめるため,従来の炉を説明するものである。・・・第2図は別の形態の焼却炉で・・・この炉に於ては圧縮空気源からの流動化用圧力空気を多孔板11’又はサンドトラツプの下方の複数の空気室12a,12b,12cを介して砂13’中に送給し,その各々の風速を図に於ては12aより右の方の12cに至るにつれ順次大きくなしてある。又風速の大なる部分の上方に偏向手段としてのデフレクター17と旋回空気送入口18を設けて空気室12a,12b,12cからの風速差と相俟つて砂13’の循環を助長する様にしてある。」(6頁15行目〜8頁2行目)(エ)「第3図に本考案による流動床式焼却炉の断面図が説明図的に示されている。・・・炉体の内部下方に中央部を高く,両側部に向けて傾斜させた多孔板21又はサンドトラツプが配置されてその下方に空気室を形成する。空気室は22a,22b,22cに区分されている。この区分された領域室22a,22b,22cに対応する炉内の上方部分で移動層,流動層が形成されて・・・。A及びC領域の上方で炉体内部に於て炉体の両側壁に夫々デフレクター24が設けられ,デフレクター24はその下面が側壁から中央に向けて上向きに傾斜した面を有している。
・・・空気室22a,22b,22cには圧縮空気源31より空気を供給されるが,配管に適宜な圧力調整装置又はダンパ32,33を設けてダンパ32からは室22a,22cに圧縮空気を供給し,ダンパ33から中央の室22bに圧縮空気を供給する様にしてある。」(8頁7行目〜9頁13行目)(オ)「この焼却炉の作動方式について以下に説明する。前記の如く,流動化用空気は空気室22a,22b,22c,より多孔板21を介して夫々上方に送気され,領域A,B,Cの砂を流動化させるが,この送給空気量は両側領域A,Cに於て中央領域Bより大きくなる様にダンパ32,33により制御し領域A,Cに於ては激しい流動化が生じ中央領域Bに於ては流動化の程度を低度に,或いは実質的に流動化が行われない程度とする。この様な送給空気量の調整,制御により,領域A,Cの砂は激しい流動を行い上方に移行する砂はデフレクター24により中央領域Bの上部にカスケードされる。中央領域Bの砂の高さはこのため領域A,C,よりも高くなる傾向となる。従つて領域Bの砂は底部から領域A,Cの側に流れる様になる。このため,上記状態となされた砂の領域A,C,の部分を流動層,領域Bの部分を移動層と称する。デフレクターの反転偏向作用と,移動層部分A,Cと流動層部分Bとの砂層高即ち砂量差傾向により,領域A,Cの上方に於ける流動層から移動層へ,又B領域下方に於ける移動層から流動層への砂の移行が行われ,領域A,C,と領域Bとの間でほぼ均一な砂の循環流が得られる。」(9頁17行目〜10頁19行目)(カ)「領域A,B,C,の上部にデフレクターの存在により実質的にはBの上部に落下した焼却物中の比重の小さい部分は砂上に於て停滞し,そこで燃焼することなくA,Cの流動層からカスケードされてくる高温(例えば600〜800℃)の砂に覆われ移動層の砂と共に下方に沈降する。供給された焼却物は領域Bの下方に動き多孔板21の位置に至る間に,焼却物中にあるプラスチツク類は液化,又は一部ガス化し,水分を含むものは更に水分を蒸発させ焼却物は概ね脆化の傾向を示す。・・・領域A,Cの下方部分で移動層から流動層へと移行した焼却物は水分も蒸発し,より可燃性となつているため,多量の空気(流動用並びに燃焼用)により撹拌作用を伴つた激しい流動化状態となり,瞬時に燃焼する。焼却により生じたガスはデフレクター24下側と流動層領域A,Cの上方との間の間隙を通過し排気口26から排気ガス処理設備へ送られる。高温の砂は上記の如く再び移動層を形成し,沈降,循環を繰り返す。」(11頁13行目〜12頁15行目)(キ)「本考案の焼却炉は上記の如く構成されているから焼却物が砂の上部に停滞することがなく,焼却熱等は有効に砂に還元され,又移動層で沈降中により可燃性が高くなされて流動層に於て瞬時に燃焼し,砂の温度を均一に安定させ,排ガス温度変動が少い。又助燃油は殆んど必要がない。尚焼却物は移動層に於ける脆化の進行と,流動層に於ける激しい流動撹拌により破壊されて停滞することがなくクリンカの発生が実質的に防止されるので,比較的大きな粒径のものも焼却可能となるから前処理用破砕の程度は簡単,或いは省略も可能である。又投入は砂の上方から行うため,投入機に於けるシールはその部分の炉内圧に対するものを考慮するだけの簡単なものでよく,マテイアルシールの必要はなく,この面からも前処理破砕の必要性が低減されるか,省略され得る。」(14頁10行目〜15頁6行目)(ク)第3図には,流動層式焼却炉の断面図であり,流動層中で流動媒体が,左側(領域A側)においては時計回りに,右側(領域C側)においては反時計回りにそれぞれ循環し,中央部(領域B)では上方から下方へ沈降する様子が示されている。
ク上記キによれば,甲18マイクロフィルムには,焼却炉の流動層において,質量速度の比較的大きい流動化ガスと質量速度の比較的小さい流動化ガスを供給することにより流動媒体の循環流を形成すること,流動媒体が沈降する「移動層」において,「焼却物」が「ガス化,液化,脆化」し,流動媒体が上昇する「流動層」において,燃焼することが記載されている。
( )上記( )によれば,廃棄物の処理を行うガス化炉(熱分解炉。甲4公報,54甲6公報)及び焼却炉(甲6公報,甲7文献,甲18マイクロフィルム)において,流動層を設け,その流動層を循環流とすることは,本件出願日前に,周知の技術であったと認められる。そして,流動層ガス化炉と流動層焼却炉に係る技術は,流動層を用いて廃棄物を焼却ないし加熱して処分する方法の技術である点で共通し,また,流動層を循環流とする技術について,焼却炉にも熱分解炉にも適用される(前記( )ウ(カ))とされ,甲3公報にも,「固4形物を燃焼する場合,砂などの固体粒子を熱媒体とする流動層焼却炉は周知の様に多くの利点があるが,下記の欠点がある。・・・これを解決するために流動層熱分解方法が用いられ,この方法は吸熱反応であるので上記@の問題を解決し,Aの問題も部分燃焼法などを用いて解決することができる。しかしながら,流動層熱分解方法においてもB及びCの問題点を解決することはできなかつた。」(1欄末行〜3欄8行目)として,廃棄物の焼却処分に当たり,熱分解炉と焼却炉の技術が比較検討されたことが記載されているように,流動層焼却炉と流動層ガス化炉が,密接に関連する技術分野に属するものであることは明らかである。
甲3の発明は,廃棄物処理を行うガス化炉に係る発明であり,上記周知技術に係る技術分野と技術分野が重なっているということができる。
そして,甲18マイクロフィルムにおいては,焼却炉の流動層において,流動層に循環流を設けない場合には,流動層に有効に熱が伝達されないという課題があったこと,流動層に循環流を設けることにより,その課題を解決したことが示されている(前記( )キ(ア))。また,甲4公報には,流動層に4循環流を設けなかったガス化炉においては,未反応のままでチャーが炉外へ飛散し,高いガス化効率が得られなかったという課題が存在したこと,循環, 流を設けることにより,その課題を解決したことが示されている(同ア(イ)(オ)及び(カ))。
甲3の発明は,前記( )のとおり,流動層において熱分解を行うものであ3って,流動層に対する効率的な熱の伝達を課題とし,また,ガス化によるガスを利用するものでガス化効率が高まることが望ましいといえるものであるから,その炉内の流動層について,上記甲18マイクロフィルム及び甲4公報に記載されていた,既に知られていた課題を有していたというべきであり,その課題について,甲18マイクロフィルム及び甲4公報に記載された技術と同様,流動媒体の流れを循環流とする構成を採用することにより解決するという動機付けがあったと認められる。
なお,本件明細書には,甲4公報が【従来の技術】欄に掲げられ,そこに記載の技術の短所が記載されているのであるが(段落【0004】,【0005】),そうであるからといって,甲4公報に上記課題が記載されていること,それを循環流の採用により解決したこと,甲3の発明も同様の課題を有していたことにかんがみると,直ちに,甲3の発明に甲4公報に記載された技術を組み合わせることを阻害するものとはいえない。
さらに,甲3の発明は,流動層炉の「該廃棄物を循環流中でガス化してガスとチャーを生成し」,それらのガス及びチャーを次段のサイクロン燃焼炉において燃焼するものであるが,甲4公報の記載(上記( )ア(ウ),(キ)及び4(ク))によれば,本件出願日当時,当業者は,流動層炉の流動媒体の流れが循環流である場合において,廃棄物の熱分解により,ガス及びチャーが生成され,そのガス及びチャーを炉外に排出するとの構成をとることが可能であると容易に理解することができたものと認められる。
この点について,原告は,甲4公報に記載された技術は,流動層内の循環流においてガス化反応を完結しチャーをガスに転換させてしまうものであり,流動層炉からは可燃ガスが排出され,チャーの排出は例外的である旨主張する。しかし,本件明細書の【従来の技術】欄に甲4公報が記載されていることは,そこに記載された技術と本件発明1との関連を示すものであり,また,本件発明1は,甲4公報記載の技術と同様,ガス化効率を高めることを目的としているものと解され,チャーを多量に生成することについてまでの技術的意義が本件明細書に記載されているとは認められないから,甲4公報に記載された技術についての原告主張の事実は,甲3の発明に甲4公報に記載された技術を組み合わせることを阻害するものとは認められない。
以上を総合すると,甲3の発明と甲4公報等記載の技術の技術分野の関連性,甲3の発明も,甲18マイクロフィルム,甲4公報に記載されていた,既に知られていた課題を有し,その課題を流動媒体の流れを循環流とすることで解決するという動機を有していたこと,当業者は,甲3の発明の流動層において,甲4公報等に開示された構成を採用しても,炉内に投入された廃棄物によって,循環流中でガスとチャーが生成し,それらのガスとチャーを炉外に排出する構成をとることが可能であると容易に理解できることから,当業者は,甲3の発明に,甲4公報等において開示されている,流動媒体を循環流とするという構成を組み合わせ,相違点Aに係る本件発明1の構成に想到することが容易であったと認めることができる。
( )原告は,甲4公報等には,廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,ガ6ス化によって生成されたチャーの抑制された燃焼反応が継続されるようにして,燃え残ったチャーを微粒子とする処理を行うという本件発明1の構成が記載されていないことを理由として,甲3の発明に対し,甲4公報等に記載された,流動媒体の循環流を形成する技術をどのように組み合わせても,本件発明1の構成が得られることがない旨主張する。
しかし,本件発明1の特許請求の範囲の記載は,「該廃棄物を循環流中でガス化してガスとチャーを生成」すること,「抑制された燃焼反応が継続されるように」するというものである。同記載によって,本件発明1は,循環流中でガスとチャーが生成され,その循環流中で抑制された燃焼反応が継続されるいう構成を備えるものであることが理解できるところ,それを超えて,本件発明1の特許請求の範囲の記載が,廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,燃え残ったチャーを微粒子とする処理を行うことまで規定しているものとは直ちには認められない。そのようにチャーを微粒子とする処理を行うことが本件発明1に規定されていることを前提とする原告の主張は,前提を欠くものであり,採用することができない。
また,仮に,本件明細書の記載及び技術常識等から,本件発明1が,循環流中の抑制された燃焼反応の継続によって,燃え残ったチャーを微細化するものであるとしても,後記2( )のとおり,流動層内の流動媒体の流れを循2環流とした場合には,そのような作用は,当業者が容易に予測し得るものにすぎないのであって,循環流に係る構成については,相違点Bとして認定され,その容易想到性について判断されているのであるから,上記循環流中での原告主張のチャーの発生機序等は,本件発明1と甲3の発明の相違点の認定判断に影響するものではない。
(7)相違点の看過についてア原告は,審決が,流動媒体の流れと流動層の機能の関係を看過したとして,甲3の発明に対し,周知技術と認定された循環流を適用すると,甲3の発明の流動層内での物質・熱の移動の態様が変更されて,甲3の発明そのものの機能等を変質させる旨主張する。
しかし,甲3の発明は,前記( )のとおり,流動層炉の「流動層内の熱3分解によりガス化してガス並びにチャー及び灰分の微粒子を生成」するものであるが,甲3公報には,流動層について循環流としないことが甲3の発明の前提になっていることを示唆する記載はないと認められるのであって,前示のとおり,流動層を循環流としても,その「流動層内の熱分解によりガス化してガス並びにチャー及び灰分の微粒子を生成」するものである以上,甲3の発明の本質が変更されるとは認められないから,原告の主張は失当である。
なお,この点につき,原告は,炉内の流動条件によって,流動層炉における流動層の機能が異なる旨指摘するが,そもそも,甲3の発明において,流動層を循環流としないことが前提であるとは認められないのであるから,原告が指摘する事実は,上記判断を左右しない。
イ原告は,審決が,相違点Aに係る構成の作用機能を看過したとして,甲4公報等に記載された技術は,いずれも,流動層内に循環流という流動媒体の流れを形成して,その循環流を有する流動層内でガス化反応や燃焼を完結させ,流動層炉から可燃ガスとチャーを排出していないことを主張する。
しかし,発明の進歩性判断における相違点についての容易想到性の判断に当たり,相違点に係る構成を開示している発明が,進歩性判断の対象となる発明と同じ構成を備える必要はない。そして,本件においては,甲4公報において,流動層炉の流動層が循環流であったとしても,廃棄物の熱分解により,ガス及びチャーを生成し,そのガス及びチャーを炉外に排出することができることが記載されていることは,前記( )ア(ウ) (キ)及び4,(ク)のとおりである。この点について,原告は,甲4公報に記載された技術においては,流動層内の循環流においてガス化反応を完結し,チャーをガスに転換させてしまい,流動層炉からは,可燃ガスが排出され,チャーの排出は例外的である旨主張するが,本件発明は,前記( )のとおり,本2件発明1は,甲4公報記載の技術と同様,ガス化効率を高めることを目的としているものと解され,チャーを多量に生成することについての技術的意義が本件明細書に記載されているとは認められないから,原告主張の事実が,甲3の発明に,甲4公報に記載された技術を組み合わせることを阻害するものとは認められない。
ウ原告は,審決は,流動媒体の流れと流動層の機能との組合せの関係を看過したとして,審決は,流動媒体の流れと流動層の機能との密接な関係について,その整合性を何ら吟味することなく,前例のない「流動媒体の流れ」と「流動層の機能」との結びつきを認定した旨主張する。
しかし,甲3の発明に対し,甲4公報等から認められる周知技術を組み合わせることができることは,前記(5)のとおりであり,他方,その組合せについて,技術的に妨げとなる要因がないことは,後記(8)のとおりであって,原告の主張は理由がない。
( )組合せの阻害要因について8ア原告は,溶融炉には,そこに記載された組合せを他の組合せに変更することができないことが,技術的思想として記載されているとして,甲3の発明に周知技術を組み合わせることの阻害要因があると主張する。
原告は,その根拠として,甲3公報の,「流動層熱分解方法とサイクロン燃焼方法とを組み合わせることにより,両方法の長所が生かされ短所が相殺されて消滅し,相乗的は極めて顕著な効果を伴う固形物の燃焼方法及びその装置を提供する」(7欄17行目〜8欄3行目)との記載を挙げるが,上記記載は,その内容に照らしても,流動層熱分解方法とサイクロン燃焼方法との組合せについて述べたものであって,流動層熱分解方法の流動層の態様について,循環流を除くとか,特定の態様の流動層に限るなどの限定があることを記載しているものとは認められない。また,甲3公報の他の箇所においても,その流動層熱分解方法の流動層が特定のものに限定されていることを示唆する記載もない。流動層を循環流としても,「流動層内の熱分解によりガス化してガス並びにチャー及び灰分の微粒子を生成」するのであるから,甲3の発明において,流動層を循環流としても,溶融炉が述べる流動層熱分解方法とサイクロン燃焼方法の組合せの意義が損なわれるものとは認められない。
この点について,原告は,甲3の発明において,流動媒体の流れとして,循環流を採用した場合には,流動層炉の「流動方式」は,「バブリング式」とは区別された「内部循環式」となり,ガス化溶融システムそのものの基本的条件を変更することとなる旨主張するが,甲3の発明の「流動層熱分解方法」が「バブリング式」に限定されるものであるとは認められないのであるから,原告の主張は,上記判断を左右しない。
イ原告は,甲4公報等に記載された流動層は,「完全ガス化あるいは完全燃焼」が行われる流動層であり,いずれも,流動層炉から「可燃ガスとチャーを排出」していないことを根拠として,甲3の発明の流動層に代えて,甲4公報等に記載された循環流を適用することには阻害要因がある旨主張する。
しかし,前記( )と同様の理由により,原告の主張は,採用の限りでは7ない。
ウ原告は,甲3の発明に対し,甲4公報に記載された技術を組み合わせると,キャリーオーバーの問題が発生する旨主張する。
しかし,甲3の発明において,ガスとともにガス化炉の外に排出される,「微細な粒子」等と表現されるチャーの粒径を数値的に明らかにした記載は甲3公報にはないし,甲3の発明の流動層炉の流動媒体が循環流を有する場合に生成されるチャーの粒径を認めるに足りる証拠はない。本件明細書にも,生成されるチャーの粒径の記載やチャーの粒径とキャリーオーバーとの関係は何ら記載がない。
原告は,流動層炉の流動媒体が循環流を有した場合には,そうでない場合に比して,その生成されるチャーの粒径が小さいことを前提とした主張をするが,甲4公報に「従来の流動層では,層内全体を活発な流動化状態で均一に保とうとしたため,生成ガスに同伴して炉外へ飛散する未反応チャーの量が多く,高いガス化効率を得られなかった。」(2頁左下欄11行目〜14行目)との記載があるように,流動層炉の流動媒体が循環流を有する場合,未反応チャーの炉外への排出が減少することはうかがえるものの,キャリーオーバーが問題となる,流動層炉から排出されるチャーのうちでも粒径の小さいチャーが,流動層炉の流動媒体が循環流を有する場合に,そうでない場合に比して,必ず多量になることを認めるに足りる証拠はない。
そして,本件発明は,ガス化炉の流動層の流動媒体の流れを循環流として,そこで生成されたチャーを次段の溶融炉に供給するものであるが,本件明細書にも,チャーの粒径が小さくなることにより,原告が主張するキャリーオーバーの問題が発生する旨記載されているものではないし,また,本件発明は,粒径の小さいチャーについて,甲3の発明が備える構成とは異なる特段の構成により,対応しているものとは認められない。
甲3公報には,「燃焼排ガスはサイクロン炉の出口18より熱交換機19,及び要すれば未捕集のダストを集じんする為の電気集じん器20を通して系外に排出される。尚,電気集じん器20を設けた場合は,此処から排出されるダストを再びサイクロン燃焼炉11に供給して・・・溶融固化すると良い。」(5欄34行目〜40行目)と記載され,必要に応じて電気集じん器を設置することが示唆されているから,旋回溶融炉において捕捉し得ない塵芥等が発生することは,甲3の発明においても予定されているものということができる。そうすると,仮に,チャーの微細化によりサイクロンで捕捉し得ないチャーが増大したとしても,電気集じん器によりチャーを捕捉するなどにより対応可能であることは明らかであるから,原告の主張するようにキャリーオーバーの増大の問題が生じるものであったとしても,甲3の発明に「循環流」を適用することを阻害するとまではいえない。
そうすると,甲3の発明の流動媒体の流動層の流れを循環流とした場合に,原告主張の阻害要因が存在するとは認められない。
( )以上によれば,原告主張の取消事由1は理由がない。
92取消事由2(相違点Bについての認定判断の誤り)について( )審決は,相違点Bに係る本件発明1の構成について,「甲3の発明に,相1違点Aについての判断で認定した周知の技術(流動層炉が「炉内に上昇する流動媒体と沈降する流動媒体からなる流動媒体の循環流を形成し,該循環流を有する」ものであること)を適用すれば,かかる循環流中の熱分解過程で可燃ガスとチャーが生成されることは,当業者には自明の事項であったと認められる。したがって,相違点Bに係る本件発明1の構成,すなわち廃棄物を『循環流中で』ガス化してガスとチャーを生成するものであることは,甲3の発明及び周知の技術に基づいて当業者であれば容易に想到することができたものというべきである。」(審決謄本34頁第4段落〜第5段落)としたのに対し,原告は,その認定判断を争っている。
( )確かに,甲3公報においては,廃棄物を流動層内の熱分解によりガス化し2てガスとチャーを生成することは記載されているが,流動層炉における循環の有無については,明示の記載がなく,上記生成作用を「循環流中で」することについての記載はない(相違点B)。
しかし,特開平2-195104号公報(甲5,以下「甲5公報」という。)には,「流動層に投入された石炭は短時間で加熱により揮発分が分離する。分離した揮発分は一部層内で燃焼し,他は層表面へ出てフリーボード部で燃焼する。揮発分が分離した後の未燃炭素分(チャー)は,流動層中を数10回にわたり旋回循環しながら比較的長い時間をかけて燃焼する。チャーは当初揮発分の分離により多孔質状となり,その後燃焼の進行に伴い,漸次微小化する。」(3頁右下欄5行目〜13行目)との記載がある。
そして,甲3の発明の流動層炉内の流動媒体の流れについて,循環流を有するとの技術を適用した場合には,甲5公報の上記記載や前記1( )ア(キ),4オ(ウ),キ(カ)の記載に照らしても,その循環流中の熱分解過程において,廃棄物がガス化して,ガスとチャーを生成し,また,その過程でチャーが燃焼,解砕等により微細化するするものであることは,明らかというべき事項である。
そうすると,甲3の発明に対し,周知技術を適用して,その流動層を循環流とすると,廃棄物をガス化してガスとチャーを生成しチャーが微粒子化する過程が,「循環流中で」されることは,当業者にとって明らかであるから,相違点Aについての前記1における判断と併せ考えれば,当業者は,相違点Bに係る本件発明1の構成について,容易に想到することができたものと認められる。
なお,原告は,本件発明1が,廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,ガス化によって生成されたチャーの抑制された燃焼反応が継続されるようにして,燃え残ったチャーを微粒子とする処理を行うというものであり,そのような構成が甲4公報等に記載されていない旨主張する。しかし,甲18マイクロフィルムにおける流動層の流動媒体の上昇流で燃焼物が燃焼するとの記載,甲5公報の上記記載及び技術常識等から,流動層に供給される空気量の関係で,循環流中の抑制された燃焼反応の継続によって燃え残ったチャーが微細化することは,当業者が容易に予測できたものであると認められるものであり,相違点A及びBのほかに,同構成を相違点として評価すべきものということはできない。
( )原告は,甲3の発明に流動媒体の循環流を形成する技術を適用すると,も3ともとの流動層の機能は変更されるとして,審決の判断は,その適用によっても,流動層炉において,もともと生じていた機能が維持されることを前提にしていて不当である旨主張する。
しかし,前記1( )アのとおり,そもそも,甲3の発明の流動層が特定の8ものに限定されているということはできないし,また,流動層を循環流としても,「流動層内の熱分解によりガス化してガス並びにチャー及び灰分の微粒子を生成」するという甲3の発明の流動層の機能が変わるとは認められないから,原告の主張は採用できない。
( )以上によれば,原告主張の取消事由2は理由がない。
43取消事由3(相違点Cについての認定判断の誤り)について( )審決は,相違点Cに係る本件発明1の構成について,「流動層炉において1『流動層温度を450℃〜650℃に維持し』たことは,本件発明の出願前に当業者には周知の技術であったものと認められる。」(審決謄本34頁第9段落)とした上で,「相違点Cに係る本件発明1の構成,すなわち『流動媒体が上昇する流動層の温度を450℃〜650℃に維持し,抑制された燃焼反応が継続されるようにし』たことは,甲3の発明に上記の周知の技術を適用することにより,当業者が容易に想到できたものというべきである。」(同35頁第2段落)としたのに対し,原告は,その認定判断が誤りである旨主張する。
( )本件発明1は,「流動媒体が上昇する流動層の温度を450℃〜650℃2に維持し,抑制された燃焼反応が継続されるようにし」たものであるのに対し,甲3公報には,流動層の温度について,明示の記載はなく,「即ちフリーボード部では還元性雰囲気,サイクロン部では酸化性雰囲気となつている。」(5欄16行目〜18行目),「流動化ガスが部分燃焼に必要な空気量以上を要する場合は,サイクロン燃焼炉11の出口ガスの一部を流動化ガスとして流動層熱分解炉2のガス室5に供給してもよい。」(6欄12行目〜15行目),「熱分解は吸熱反応であるから,熱分解に必要な発熱量に見合つた部分燃焼を行わせるような少量の空気を供給すればよいので,プラスチツクのような極めて高い発熱量の原料でも,@流動層の局部の異常高温による熱媒体(砂)の凝塊形成が無く,A部分燃焼であるから所要空気量が少いので,流動層の塔径を過大に設定する必要はない。」(同欄18行目〜25行目)との記載がある。
これによれば,甲3の発明は,供給する空気量を理論燃焼量よりも少なくし,熱分解に必要な発熱量に見合った部分燃焼を行うことで可燃ガスを得る熱分解流動層炉を備えたものであると認められる。
( )流動焼却炉の流動層の温度について3ア甲8文献には,「( )温度範囲の設定基準@流動層ごみのガス化速 1度をより緩慢にするためには,低温の方が好ましい。このことから上限を700℃に設定した。一方下限は,都市ごみを構成する物質のガス化温度に支配される。ガス化が完全に行われ,不燃物の熱しゃく減量が極めて少ないことが重要である。紙,プラスチック等都市ごみを構成する物質の熱分解温度は400℃以下であり,十分余裕をみて下限を600℃に設定した。」(46頁右欄下から3行目〜47頁左欄6行目)との記載がある。
甲9公報には,「従来のこの種の流動床焼却方式の装置を第1図に示すが,この装置においては,燃焼不適ごみ1は,先ず供給機2から流動焼却炉3内へ投入される。この流動焼却炉3の下部には砂等の流動媒体が充填されており,空気吹込み管5から供給される空気の作用により流動層4を形成している。上記により投入された燃焼不適ごみ1は,この流動層4中で空気吹込み管5から導入される空気と接触して燃焼し,焼却処理される。
この場合,流動層4の温度は一般に800℃以上の高温となるためNO ,Xが発生する上ごみ中の重金属が生成ガス中へ揮散する。」(2頁左上欄3行目〜14行目),「本発明の目的は,上記した従来技術の欠点をなくし,排ガス中のNO や重金属を増加させることなく,燃焼不適ごみを処理すXることができる流動床焼却方式の処理方法を提供することにある。上記目的を達成するために,・・・上記流動層焼却部での焼却処理を400℃〜600℃の比較的低温下で部分酸化方式により行い,次いで該処理で発生する分解ガスを空気の供給下に700〜750℃で二次燃焼することを特長とする。上記の構成とすることにより,流動層焼却部の温度は400〜600℃と比較的低温であるためNO の発生や重金属の揮散が抑制されXる。またこのようにして得られるNO 及び重金属含有の低い分解ガスが X次に比較的低温下で二次燃焼されるので,可燃分の燃焼をNO および重 X金属の増加をともなうことなく可燃分を良好に燃焼させることができる。
本発明において,流動層焼却部の温度を400〜600℃に保つには,例えば流動層への吹込み空気量を理論燃焼空気量よりも少くすればよい。」(同頁右上欄11行目〜左下欄13行目)との記載がある。
甲21公報には,「本発明の塩素含有廃棄物の焼却方法は,塩素含有廃棄物を流動層に投入し還元雰囲気でガス化するとともに,発生する塩化水素を脱塩剤と反応させて塩化物とし,ついで,ガス化した生成ガスを除塵した後,酸化雰囲気で焼却するとともに,回収した微粉脱塩剤を含むダストを前記流動層に循環することを特徴としている。」(段落【0008】),「部分燃焼流動層炉70のガス出口72と,この部分燃焼流動層炉70で発生したガスを酸化雰囲気で焼却する二次燃焼炉74のガス入口76とを,サイクロン,衝突式集塵器等の集塵器60を介して接続し,さらに,この集塵器60の下部と前記部分燃焼流動層炉70とを,回収ダスト循環ライン78を介して接続して構成したものである。・・・部分燃焼流動層炉70の流動層12は,450℃〜650℃に制御されており,一次空気比は0.15〜0.5の還元雰囲気である。層温度はこの空気比を変えることにより制御される。」(段落【0013】,【0014】)との記載がある。
特開昭62-169921号公報(乙8,以下「乙8公報」という。)には,「流動層内に被焼却物を供給して焼却するに際して,その流動層内の温度を520〜650℃に保って燃焼させることで,流動層内に投入された被焼却物の燃焼・熱分解を緩やかに,しかも安定して行うことができ,ばいじんなどの発生を抑えることができる」(2頁左上欄17行目〜右上欄3行目),「流動層の温度が520℃以下では流動層内での被焼却物の燃焼が不安定(燃えにくくなる)となって好ましくない」(3頁右上欄末行〜左下欄2行目),「被焼却物を緩慢に燃焼し熱分解させるので分解ガスやばいじんの大量発生を抑制することができる」(4頁左上欄8行目〜10行目)との記載がある。
イ上記によれば,流動層を有し,流動層においてガス化(熱分解)が行われる焼却炉の流動層の温度について,600℃〜700℃(甲8文献),400℃〜600℃(甲9公報),450℃〜650℃(甲21公報),520℃〜650℃(乙8公報)とするものが記載されており,これらによれば,ガス化が行われる流動層炉の流動層の温度を相違点Cに係る本件発明1の構成である「450℃〜650℃」に維持することは,本件出願日前に,当業者に周知の技術であったと認められる。
上記の温度設定の理由について,甲8文献において,ガス化速度を緩慢にするために,温度を比較的低温である上記温度にしたことが記載され,乙8公報には,流動層の温度を所定のものに保つことで,その燃焼,熱分解を緩やかに,安定的に行うことができることが記載されている。また,甲9公報において,上記のような比較的低温下では,焼却処理が部分酸化方式により行われ,分解ガスが発生することが記載されている。
そして,甲3の発明が,前記( )のように,流動層に供給する空気量を2理論燃焼量より少なくして,熱分解に必要な発熱量に見合った部分燃焼を行わせるものであることを併せ考えると,甲3の発明の流動層内において,上昇流も含めた流動層の温度を450℃から650℃に維持し,抑制された燃焼反応が継続されるようにすることは当業者が容易に想到できたことであると認められる。
( )原告は,「抑制された燃焼反応」とは,燃焼において,その燃焼量と燃焼4速度を抑制することを意味するものであって,甲3の発明の「部分燃焼」とは相違する旨主張する。
しかしながら,本件明細書において,「抑制された燃焼反応」が,燃焼において,燃焼量と燃焼速度を抑制することであるとの記載はない。本件明細書には,「本発明においては,流動層炉が少量の空気で燃焼を維持できるので,流動層炉を低空気比低温度(450〜650℃)とし,発熱を最小限に抑えて,ゆるやかに燃焼させる」(段落【0059】)ことが記載され,その結果,「抑制された燃焼反応が維持される」と解されるところ,甲3の発明も,前記( )のとおり,熱分解に必要な発熱量に見合った部分燃焼を行わ2せるような少量の空気が供給されるものであるというのであるから,甲3の発明の「部分燃焼」と本件発明の「抑制された燃焼反応」とは同質のものというべきであり,原告の主張は,採用の限りでない。
( )原告は,相違点Cに係る本件発明1の構成である「流動層の温度を450 5℃〜650℃に維持」することが本件出願日前に周知であると認定した根拠である文献には,単なる流動焼却炉の発明が記載されており,廃棄物を流動層炉でガス化してガスとチャーを得て,溶融炉にガスとチャーを送って利用できるようにしようとの技術的思想は存在しないとして,それらの文献の記載を根拠として,相違点Cに係る本件発明1の構成に容易に想到し得るとした審決の認定判断には誤りがある旨主張する。
しかし,周知技術の認定の根拠とされた技術が記載された文献に甲3の発明又は本件発明1の構成が記載されていないことが,直ちに,甲3の発明に甲3の発明に周知技術を適用することを困難とするものではなく,本件においては,甲3の発明の性質等に照らし,上記周知技術を適用することが当業者にとって容易に想到できたことは,上記( )イのとおりである。
3( )以上によれば,原告主張の取消事由3は理由がない。 64取消事由4(本件発明1の奏する顕著な効果の看過)について( )原告は,「本件発明1の作用効果を検討しても,甲3の発明と周知の技術1から当業者が予測できた範囲内のものであって,それを超えるような格別顕著な効果を奏するものとみることはできない。」(審決謄本35頁第4段落とした審決の判断を争い,本件発明1を含む本件発明について,流動媒体の循環流中で,熱分解(ガス化)を行ってガスとチャーを生成し,生成した可燃ガスをあまり燃焼させずに次段の溶融炉に供給するとともに,ガス化の結果生成したチャーを生成ガスから分離して,流動媒体の循環流により流動媒体が上昇する流動層に移動させ,流動媒体が上昇する流動層の温度を450℃〜650℃に維持して,チャーの抑制された燃焼反応が継続されるようにし,チャーの一部を燃焼させ,微粒子とするといった処理をしたものであり,チャーを流動層炉内にとどまらせずに,可燃ガスに同伴して溶融炉に供給することができ,炉内に供給される廃棄物の質や量が変動しても,安定して可燃ガスと多量のチャーを生成して,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得て,対象とするごみが質的及び量的に変動するごみ処理特有の課題において,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の旋回溶融炉において利用できるという顕著な効果を奏するものである旨主張する。
(2)しかし,原告が主張する効果のうち,循環流中でチャーが抑制された燃焼反応が継続されることによって,微細な粒子となることは,前記2(2)のとおり,当業者が容易に予測できたことであり,また,その結果,チャーが可燃ガスに同伴して溶融炉に供給できることも,同様である。さらに,循環流の流動層の温度を上記温度に維持することにより,安定して可燃ガスを生成することも,前記3(3)のとおり,先行文献に記載されているところであって,当業者は容易に予測できたといえるものである。このように,原告が主張する効果は,当業者が当然に予測し得たものであり,また,これらを総合した効果についても,当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるとは認められない。
なお,原告は,本件発明1を含む本件発明に,多量のチャーを生成するという技術的意義があることを主張するが,前記1(2)のとおり,そのような技術的意義があるとは認められない。
( )以上によれば,原告主張の取消事由4は理由がない。
35取消事由5(相違点Dについての認定判断の誤り)について( )審決は,相違点Dに係る本件発明2の構成について,「流動層炉が『質量1速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給することにより形成される流動媒体の循環流を有する』ものであることは,本件発明の出願前に当業者には周知の技術であったものと認められる。」(審決謄本36頁第6段落)と認定し,「相違点Dに係る本件発明2の構成は,甲3の発明に上記の周知の技術を適用することにより,当業者が容易に想到できたものというべきである。」(同頁第7段落)と判断したが,原告は,この認定判断が誤りである旨主張する。
(2)しかし,甲4公報の前記1(4)ア(ア),(オ)の記載,甲6公報の同ウ(イ),(キ)の記載,甲7文献の同オ(イ)の記載,甲18マイクロフィルムの同キ(ウ),(オ)の記載によれば,流動層炉の流動層に循環流を形成するに当たり,質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給することによって,循環流を形成することは,本件出願日前に周知の技術であったといえるから,前記1の説示を併せ考慮すれば,相違点Dに係る本件発明2の構成は,甲3の発明に周知技術を適用することで,当業者が容易に想到することができたものと認められる。
( )原告は,審決の相違点Dの判断の誤りを主張するに当たって,本件発明23の相違点Dに係る構成は,「炉内に流動化ガスとして空気を供給し」という構成を前提とするものである旨主張する。
確かに,本件発明2の相違点Dに係る構成は,炉内に流動化ガスとして空気を供給するという構成を前提とするものであることは認められるが,甲3公報の,「21は流動化ガスとしての空気を供給するブロワである。」(4欄末行〜5欄1行目),「空気はガス入口4からガス室5に入りガス分散板6を通って砂を流動化させ且つ原料の一部を燃焼する。」(同欄6行目〜8行目)との記載のとおり,ガス化炉の発明である甲3の発明も,炉内に流動化ガスとして空気を供給するという構成を前提としているものであることからすると,ガス化炉の技術分野においては,性質上,必ず,空気以外のガス化剤を流動化ガスとして用いていたものとまでは断定することはできない。
そうすると,焼却炉において,「流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し,前記流動媒体の循環流は,質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給することにより形成され,前記質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスは,ともに空気であり」との構成が周知であったとき,その流動化ガスが空気であることを理由として,同技術がガス化炉に適用できないものとは認められず,原告の主張は,採用できない。
その他,原告は,甲3の発明に対し,甲4公報等から認められる周知技術を適用することができない旨を主張するが,前記判示に照らし,採用の限りではない。
( )以上のとおり,原告主張の取消事由5は理由がない。
46取消事由6(相違点Eについての認定判断の誤り)について審決は,相違点Eに係る本件発明2の構成について,相違点Bについてと同様に,相違点Eに係る本件発明2の構成は,当業者が容易に想到できたものであるとするところ,原告は,相違点Bについての判断が誤っていることを理由として,相違点Eについての審決の判断が誤っていることを主張する。
しかし,相違点Bについての審決の認定判断に誤りがないことは,前記2のとおりであるから,原告主張の取消事由6は理由がない。
7取消事由7(相違点Fについての認定判断の誤り)について(1)原告は,相違点Fに係る本件発明2の構成について,「『質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層』は,流動媒体が上昇する流動層であると認められる。そうすると,相違点Fに係る本件発明2の構成は,相違点Cに係る本件発明1の構成と全く同じであるから,相違点Fに係る本件発明2の構成は,相違点Cについて前示したように,甲3の発明に相違点Cについての判断で認定した周知の技術(流動層炉において「流動層温度を450℃〜650℃に維持し」たこと)を適用することにより,当業者が容易に想到できたものというべきである。」(審決謄本37頁第3段落〜第4段落)とした審決の認定判断が誤りである旨主張する。
(2)しかし,前記5(2)掲記の各文献の記載に照らしても,相違点Fに係る本件発明2の構成において,「質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層」は,流動媒体が上昇する流動層であり,また,相違点Cについての前記3の説示に照らし,相違点Cについての審決の認定判断に誤りはないから,相違点Fについての審決の上記認定判断に誤りはない。
(3)原告は,相違点Fに係る本件発明2の構成は,「炉内に流動化ガスとして空気を供給し」及び「質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給することにより形成される流動媒体の循環流を有する流動層炉を備え」との構成と有機的に結合して,所定の効果をもたらすものであり,そのような構成は,審決が周知技術の根拠として掲げる文献には記載されていない旨主張する。
しかし,周知技術の根拠として掲げられた文献に特許出願に係る発明の構成が記載されていないことが,直ちに,甲3の発明に周知技術を適用することを妨げるものではなく,本件において,相違点Cについての判断のとおり,その適用について,当業者が容易に想到できたものであるから,原告の主張は採用できない。
(4)したがって,原告主張の取消事由7は理由がない。
8取消事由8(本件発明2の奏する顕著な効果の看過)について原告は,本件発明2の効果について,格別顕著な効果を奏するものとみることはできないとした審決の判断を争っているが,その主張は,取消事由4(本件発明1の奏する顕著な効果の看過)と実質的に同一内容であり,前記4のとおり,取消事由4に理由がないのと同様,原告主張の取消事由8も理由がない。
9取消事由9(相違点Gについての認定判断の誤り)について原告は,相違点Gに係る本件発明6の構成について,相違点Aについての審決の認定判断の誤りを理由として,相違点Gについての審決の認定判断が誤りである旨主張するが,相違点Aについての審決の認定判断に誤りはないから,原告主張の取消事由9は理由がない。
10取消事由10(相違点Hについての認定判断の誤り)について原告は,相違点Hに係る本件発明6の構成について,相違点Bについての審決の認定判断の誤りを理由として,相違点Hについての審決の認定判断が誤りである旨主張するが,相違点Bについての審決の認定判断に誤りはないから,原告主張の取消事由10は理由がない。
11取消事由11(相違点Iについての認定判断の誤り)について原告は,相違点Iに係る本件発明6の構成について,審決の認定判断の誤りを主張し,その理由として,審決の「流動層の循環流中でチャーが部分燃焼することが技術常識であった」との認定の誤りを主張する。
しかし,甲4公報の記載(前記1(4)ア(キ)等)や甲5公報の「流動層に投入された石炭は短時間で加熱により揮発分が分離する。分離した揮発分は一部層内で燃焼し,他は表面層へ出てフリーボード部で燃焼する。揮発分が分離した後の未撚炭素分(チャー)は,流動層中を数10回にわたり旋回循環しながら比較的長い時間をかけて燃焼する。チャーは当初揮発分の分離により多孔質状となり,その後燃焼の進行に伴い,漸次微小化する。」(3頁右下欄5行目〜13行目)との記載を総合すれば,流動層の循環流中でチャーが部分燃焼することは,技術常識であったと認められるから,審決に原告主張の誤りがあるということはできない。
したがって,原告主張の取消事由11は理由がない。
12取消事由12(本件発明6の奏する顕著な効果の看過)について原告は,本件発明6の効果について,格別顕著な効果を奏するものとみることはできないとした審決の判断を争っているが,その主張は,取消事由4(本件発明1の奏する顕著な効果の看過)と実質的に同一の内容であり,前記4のとおり,取消事由4に理由がないのと同様,原告主張の取消事由12も理由がない。
13取消事由13(相違点Jについての認定判断の誤り)について(1)原告は,相違点Jに係る本件発明7の構成について,「相違点Jは,相違点Dに係る本件発明1(注,「本件発明2」の誤記と認める。)の構成と全く同じものであるから,相違点Dについて前示した理由により,相違点Jに係る本件発明7の構成は,甲3の発明に周知の技術(流動層炉が「質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給することにより形成される流動媒体の循環流を有する」ものであること)を適用することにより当業者が容易に想到できたものというべきである。」(審決謄本41頁最終段落)との審決の認定判断の誤りを主張し,その根拠として,実質的に取消事由5(相違点Dについての認定判断の誤り)と同内容の主張をするほか,本件発明7と甲3の発明は,そもそも発明の課題及び目的が相違し,本件発明7の構成は,溶融炉等に開示も示唆もされておらず,これらを組み合わせて同構成を得ることの動機付けも見いだし難い旨主張するが,原告の主張のうち,実質的に取消事由5(相違点Dについての認定判断の誤り)と同一の内容の主張をする部分については,前記5のとおり,取消事由5に理由がないのと同様,理由がない。
(2)原告は,本件発明7の課題及び目的を挙げ,本件発明7の構成が,甲3公報等に開示されていない旨主張する。しかし,甲3の発明について,甲4公報等によって認められる循環流に係る周知技術を適用することができることは,前記1(5)と同様であり,また,その循環流に係る周知技術を適用した場合に,相違点Dに係る本件発明2の構成に想到することが容易なことは,前記5のとおりであり,相違点Jは,相違点Dに係る本件発明2の構成と実質的に同一であるから,当業者は,相違点Jに係る本件発明7の構成に容易に想到することができたものと認められる。原告の主張は,採用の限りでない。
(3)したがって,原告主張の取消事由13は理由がない。
14取消事由14(相違点Kについての認定判断の誤り)について原告は,相違点Kに係る本件発明7の構成について,相違点Bについての審決の認定判断の誤りを理由として,相違点Kについての審決の認定判断が誤りである旨主張するが,相違点Bについての審決の認定判断に誤りはないから,原告主張の取消事由14は理由がない。
15取消事由15(相違点Lについての認定判断の誤り)について(1)原告は,相違点Lに係る本件発明7の構成について,「『質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層』とは,流動層炉における流動媒体が上昇する流動層を意味するものと認められる。そうすると,相違点Lに係る本件発明7の構成は,相違点Iに係る本件発明6の構成と全く同じものであるから,相違点Lに係る本件発明7の構成は,相違点Iについて前示した理由により,甲3の発明に周知の技術(流動層炉において『流動層温度を450℃〜650℃に維持し』たこと及び『生成されたチャーの一部を流動媒体が上昇する流動層で燃焼させ』ること)を適用することにより当業者が容易に想到できたものというべきである。」(審決謄本42頁第3段落〜第4段落)との審決の認定判断を争い,その理由として,実質的に取消事由11(相違点Iの認定判断の誤り)と同内容の主張をするほか,「質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層」は,流動媒体が上昇する流動層とは異なる旨主張する。
(2)しかし,原告の主張のうち,実質的に取消事由11(相違点Iの認定判断の誤り)と同内容の主張をする部分については,前記11のとおり,取消事由11は理由がないから,理由がない。
また,「質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層」は,前記5( )掲記の各文献の記載に照らしても,流動媒体が上昇する2流動層であり,審決の認定に誤りはない。
(3)したがって,原告主張の取消事由15は理由がない。
16取消事由16(本件発明7の奏する顕著な効果の看過)について原告は,本件発明7の効果について,格別顕著な効果を奏するものとみることはできないとした審決の判断を争っているが,その主張は,取消事由4(本件発明1の奏する顕著な効果の看過)と実質的に同一の内容であり,前記4のとおり,取消事由4が理由がないのと同様,原告主張の取消事由16も理由がない。
17取消事由17(本件発明17,18,21及び22についての進歩性の認定判断の誤り)について本件発明17,18,21及び22は,それぞれ,本件発明1,本件発明2,本件発明6及び本件発明7に対応する方法の発明であるところ,審決は,本件発明1,2,6及び7と同様の理由により,本件発明17,18,21及び22は,甲3の発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと判断したのに対し,原告は,本件発明1,本件発明2,本件発明6及び本件発明7についての審決の認定判断が誤りであるから,本件発明17,18,21及び22についての審決の進歩性の認定判断も誤りである旨主張する。
しかし,本件発明1,2,6及び7についての原告主張の取消事由がいずれも採用し難いことは,前示のとおりであるから,これらを前提とする原告主張の取消事由17も理由がない。
18取消事由18(本件発明3ないし5,8ないし16,19,20及び23ないし30についての進歩性の認定判断の誤り)について原告は,審決が,本件発明3ないし5,8ないし16,19,20及び23ないし30について,いずれも,甲3の発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に想到することができたと判断したのに対し,本件発明3ないし5,8ないし16,19,20及び23ないし30は,本件発明1,2,6,7,17,18,21及び22を直接又は間接に引用する発明であり,本件発明1,2,6,7,17,18,21及び22についての審決の進歩性の認定判断が誤りであるから,本件発明3ないし5,8ないし16,19,20及び23ないし30についての審決の認定判断も誤りである旨主張する。
しかし,本件発明1,2,6,7,17,18,21及び22についての原告主張の取消事由がいずれも採用し難いことは,前示のとおりであるから,これらを前提とする原告主張の取消事由18も理由がない。
19以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明