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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18ネ10051特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成18ネ10052特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成17ネ10024特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成19ネ10036特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成18ネ10007損害賠償請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  特許発明 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 18年 (ネ) 10088号 損害賠償等請求控訴事件
控訴人マ ルチ計測器株式会社
訴訟代理人弁護 士高橋譲二
同 川崎修一
被控訴人横河メータ&インスツルメンツ株式会社
訴訟代理人弁護 士鈴木修
同 大西千尋
訴訟代理人弁理 士村瀬賢司
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/04/25
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2被控訴人は,原判決別紙物件目録記載の製品を製造し,販売し,販売の申出をしてはならない。
3被控訴人は,原判決別紙物件目録記載の製品,半製品,仕掛品を廃棄せよ。
4被控訴人は,控訴人に対し,7200万円及びこれに対する平成18年4月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事案の概要
1 事案の要旨本件は,分割型漏れ電流測定器に係る特許権(特許第2802993号)を有する控訴人が,被控訴人による原判決別紙物件目録記載の製品(以下「被告製品」という。)の製造販売が上記特許権を侵害すると主張して,被控訴人に対し,被告製品の製造販売等の差止めと被告製品,その半製品及び仕掛品の廃棄を求めるとともに,特許法102条2項に基づき損害賠償を求めた事案である。
原審は,被告製品は控訴人の特許発明構成要件を充足せず,その技術的範囲に属しないとして,控訴人の請求を棄却した。控訴人は,これを不服として本件控訴を提起した。
2 前提となる事実等,争点及びこれに関する当事者の主張以下のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第2の1,2及び第3(原判決2頁9行目から9頁14行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
なお,以下においては,原判決の略語表示は,当審においてもそのまま用いる。
(1) 控訴人の補足主張被告製品は,以下のとおり,本件特許発明技術的範囲に属する。
構成要件Cの充足(ア)本件特許発明の特許請求の範囲には「前記一対のコアの端面を対向させて円環状とした場合の二つの分割面を挟んで対向する二組のコイルを,各誘起電圧が加算される極性にそれぞれ直列に接続し,」(構成要件C)と記載されている。
これに対して,被告製品におけるコイル2a,コイル2d,抵抗4a,可変抵抗3a(=Ra+Rb),3b(Rd+Rc)の接続は,以下のとおりである。すなわち,@抵抗4a側は,コイル2aの+を通り抵抗4a,接地(GND)を経て,コイル2aに分割箇所を対置したコイル2dの-,2dの+,可変抵抗3bのRd,可変抵抗3aのRa,コイル2aの-を経て,コイル2aの+に戻る直列回路が形成されている(原判決別紙誘起電流図記載@参照)。この直列回路を形成する回路に流れる電流をIaとすると,Iaは単一の電流路である。A一方,抵抗4b側も,コイル2bの+を通り接地(GND),抵抗4bを経て,コイル2cの-,2cの+,可変抵抗3bのRc,可変抵抗3aのRb,コイル2bの-を経て,コイル2bの+に戻る直列回路が形成されている(原判決別紙誘起電流図記載A参照)。この直列回路を形成する回路に流れる電流をIbとすると,Ibは単一の電流路である。
したがって,被告製品において,分割面を挟んで向かい合うコイル同士の組(2aと2d,2bと2c)が直列に接続されている。
また,被告製品の回路は,コイル2aと2dに誘起された電圧を加算した電圧に対して負担を小さくすることにより位相とレベルを調整し,もう一方側のコイルの負担に流れる位相に合わせているから,この意味からも,コイル2aと2dが直列に接続されているといえる。
(イ)以上のとおり,被告製品における「抵抗4aと抵抗4bから出力を取り出し,それぞれの出力を加算させる回路」は,「コアの・・・二つの分割面を挟んで対向する二組のコイルを,各誘起電圧が加算される極性にそれぞれ直列に接続」しているのであるから,構成要件Cを充足する。
構成要件Dの充足(ア)本件特許発明の「前記直列接続によって加算された誘起電圧をそれぞれ入力されて増幅し,かつ,利得調整手段を備える一対のアンプ」(構成要件D)の意義は,上記機能を有する器具であれば足りるのであって,「信号の周波数や波形の特徴は変えずに,その振幅だけを増大させるアンプ」と限定的に解する理由はない。
他方,被告製品においては,「二組のコイルから出力された電流を半固定抵抗と可変抵抗を用いてバランス調整している」のであるから,被告製品における「半固定抵抗及び可変抵抗」は,構成要件D所定の「アンプ」に該当する。
また,可変抵抗を用いて調整するということは,可変抵抗の中心付近の抵抗値を基準として可変抵抗値の調整範囲を最小抵抗値から最大抵抗値まで変化させるということを意味する。そして,CTの2次回路において,可変抵抗値の中心値のときに流れる2次電流に対して可変抵抗値を小さくすると,その結果2次電流は大きくなり,一次電流との位相差はこれに伴い小さくなる。一方,可変抵抗値を中心値よりも大きくすると2次電流は小さくなり,1次電流との位相差は大きくなる。このように可変抵抗によって2次電流を増減させることができる。同じ効果は,2次側の回路に固定抵抗を入れてオペアンプを使用しても得ることができる。そうすると,被告製品は,可変抵抗や半固定抵抗を入れて2次側に流れる電流の大きさを「増幅」あるいは「利得調整」しているといえる。
(イ)したがって,被告製品の「半固定抵抗及び可変抵抗」は,増幅あるいは利得調整の機能を有するのであるから,本件特許発明構成要件D所定の「アンプ」に該当する。したがって,被告製品は,構成要件Dを充足する。
構成要件Eの充足(ア)本件特許発明の「前記一対のアンプの出力をそれぞれ入力されて位相を遅進させ,かつ,位相調整手段を備える一対の位相調整器」(構成要件E)の意義は,構成要件D所定のアンプにより,コイルの巻線に生じた誘起電流により発生した誘起電圧が一対のアンプに入力されて利得調整されると同時に,その出力に応じて,可変抵抗と分割面付近のコイルに生じるインピーダンスとの働きで位相が調整される作用を有する器具であれば足りると解すべきである。すなわち,「誘起電流の発生↑誘起電圧の発生↑アンプへの入力・増幅↑位相調整」の流れは同時に(瞬時に)起こり,しかも連続して起こるものであるから,同構成要件の「位相調整器」を「アンプの出力を位相調整に入力する」という不可逆的な場合に限定する理由はない。
他方,被告製品においては,CTの2次回路で可変抵抗(半固定抵抗)3a,3bを調整し,Ra,Rdともに抵抗値を小さくしたり,大きくしたりして,抵抗4aに表れる位相とレベルを変化させている。3a,3bを調整すると,位相とレベルが同時に変化するために,位相のみを一方側に合わせた後に,4bと並列に接続されている可変抵抗4cでレベルを調整することができる。このように被告製品でも,可変抵抗等によって位相調整が行われている。
したがって,被告製品の「位相調整の機能を有する可変抵抗」は,構成要件E所定の「位相調整器」に該当するから,被告製品は構成要件Eを充足する。
(イ)なお,被控訴人は,本件特許発明と被告製品は,その解決手段の技術的思想が基本的に異なる旨主張する。しかし,本件特許発明も被告製品も,分割面の磁気抵抗の相違を分割面に対置するコイルを利用し,二つの出力電圧として取り出し,この二つの出力電圧の位相及びレベルの違いについて,可変抵抗を使用して一方側に合わせ,あたかも分割箇所の磁気抵抗が改善されたときと同等の効果を実現する点で,その技術課題のみならず解決手段も同一であるから,上記主張は失当である。
構成要件F,G及びHの充足前記アないしウに述べたとおり,被告製品は,半固定抵抗及び可変抵抗を入れることによって,増幅あるいは利得調整及び位相調整をしているのであるから,「前記一対の位相調整器の両出力を加算する加算器」(構成要件F),「前記加算器の出力を表示する表示器」(構成要件G)及び「前記各調整手段の調整によって残留電流を調整する」(構成要件H)との作用を有する。したがって,被告製品は,構成要件F,G及びHを充足する。
オ まとめ以上のとおり,被告製品は,本件特許発明構成要件をすべて充足するから(構成要件A,B及びIを充足することは当事者間に争いがない。),本件特許発明技術的範囲に属する。
(2) 被控訴人の反論ア 構成要件Cの非充足構成要件Cにおける「直列」とは,「二つ以上の回路素子の端と端を順につなぐ配列。単一の電流路を形成する。」(乙7)を意味し,「単一の電流路」とは,「流れる電流が同じもの,すなわち,当該接続部分の範囲では他の回路に電流が漏出せず,他の回路から電流が流入もしないこと」を意味すると解するのが相当である。
しかるに,被告製品における二組のコイル(2a,2b,2c,2d)のそれぞれの接続をみると,2dで誘起される電流の一部は2aに流れるものの,大部分はコイル2bの側に流れ,2dに流れる電流のすべてが2aに流れることはない。
したがって,2aと2dとは「直列」結合ではなく,「単一の電流路」を形成しておらず,この点は,2bと2cについても同様である。以上のとおり,被告製品は,本件特許発明構成要件Cを充足しない。
構成要件Dの非充足(ア)構成要件Dには,「前記直列接続によって加算された誘起電圧をそれぞれ入力されて増幅し,かつ,利得調整手段を備える一対のアンプ」と記載されている。同構成要件の記載のとおり,「アンプ」が増幅する対象は「誘起電圧」であって,「計測対象の電線に流れる電流」ではない。
これに対して,被告製品は,CTの2次回路に半固定抵抗や可変抵抗を入れることにより増幅あるいは利得調整を行っている対象は,「計測対象の電線に流れる電流」であって「誘起電圧」ではない。また,被告製品における半固定抵抗と可変抵抗は,2次側に流れる電流の大きさを減少させるだけで,出力を増幅したり,利得調整できるものではない。したがって,被告製品の「半固定抵抗と可変抵抗」は,構成要件Dの「アンプ」に該当せず,被告製品は構成要件Dを充足しない。
(イ)本件特許発明は,「計測対象の交流電線をクランプする分割型コア」,「コアに生じる磁束により誘起電流(及び電圧)を発生させる少なくとも4個のコイル」,「コイルに生じた電圧を増幅調整する利得調整手段を備える一対のアンプ」,「アンプの出力についての位相を調整する位相調整手段を備える一対の位相調整器」,「位相調整器の一対の出力を加算する加算器」,「表示器」から構成されている。「アンプ」は,直列に接続した二組のコイルに対応して,利得調整を行うことができるものとされているため,一対存在することが必須である。本件特許発明は,このような構成を採用することによって,利得調整をそれぞれ独立した別個のパラメーターとして調整することができる点で利点がある。
これに対して,被告製品は,@被測定用交流電線をクランプする分割型コア,Aコアに生じる磁束により誘起電流(及び電圧)を発生させる4個のコイル,Bコアの磁気回路の非対称性を補正するための抵抗を用いた回路,C加算器,D表示器から構成されており,Bの回路では固定抵抗,半固定抵抗,可変抵抗しか使用されず,また,可変部分はわずかに3箇所であり,電流(電圧)と位相をそれぞれ独立した別個のパラメーターとして調整することはない。
したがって,被告製品は,構成要件Dを充足しない。
構成要件Eの非充足(ア)構成要件Eの「前記一対のアンプの出力をそれぞれ入力されて位相を遅進させ,かつ,位相調整手段を備える一対の位相調整器」における「位相の調整」は,コイルに生じた電圧の位相と加算器に入力される電圧の位相とを「コイルより後方の回路」部分で変化させることを意味する。
これに対して,被告製品は,計測対象の電線に流れる電流についての電圧の位相とコイルに生じる電圧の位相の間の差(変化)とを調整するものであって,コイルより後方の回路部分で変化させるものではないので,構成要件Eを充足しない。
(イ)上記イ(イ)で述べたのと同様の理由により,本件特許発明では,一対の位相調整器の存在が必須である。本件特許発明は,このような構成を採用することによって,位相をそれぞれ独立した別個のパラメーターとして調整することができる点で利点がある。
これに対して,被告製品では,固定抵抗,半固定抵抗,可変抵抗しか使用されず,また,可変部分はわずかに3箇所であり,電流(電圧)と位相をそれぞれ独立した別個のパラメーターとして調整することはない。
したがって,被告製品は,構成要件Eを充足しない。
当裁判所の判断
1 構成要件DないしHの充足性について当裁判所も,被告製品は,本件特許発明構成要件DないしHを充足しないものと判断する。その理由は,原判決の「第4当裁判所の判断」1(2)ないし(4)(原判決10頁24行目から12頁14行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
さらに,控訴人の控訴審での主張に対して,以下のとおりの理由を付加する。
(1) 本件特許発明の特徴ア本件特許発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載,本件明細書(甲1)の「発明の詳細な説明」欄の記載(段落【0001】,【0003】,【0004】,【0013】ないし【0015】,【0018】等)及び図1を総合すれば,@従来,分割型漏れ電流測定器において測定時の残留電流を小さくして測定精度を向上させる(残留特性を良好なものとする)ための調整は,コアの分割面を鏡面仕上げや重ね合わせ嵌合方式として分割面の磁気的結合を良好としたり,コアを曲げるなどして二つの分割面のバランスをとって行っていたが,このような調整手段では,調整に多くの時間や熟練を必要とし,測定器の完成後は残留電流の調整を容易に行えないなどの問題があったこと,A本件特許発明は,上記の問題を解決するため,円環状のコアを2分割した半円環状の一対のコアと,前記一対のコアのそれぞれの両端部寄りにそれぞれ巻回した少なくとも各コア毎に2個のコイルと,前記一対のコアの端面を対向させて円環状とした場合の二つの分割面を挟んで対向する二組のコイルの構成を有する分割型漏れ電流測定器において,二組のコイルを,各誘起電圧が加算される極性にそれぞれ直列に接続させ,前記直列接続によって加算された誘起電圧をそれぞれ入力されて増幅し,かつ,利得調整手段を備える一対のアンプと,前記一対のアンプの出力をそれぞれ入力されて位相を遅進させ,かつ,位相調整手段を備える一対の位相調整器と,前記一対の位相調整器の両出力を加算する加算器と,前記加算器の出力を表示する表示器とを備え,前記各調整手段の調整によって残留電流の調整を行うものであることが認められる。
イ以上のとおり,本件特許発明は,「二組のコイル」の一方の組から生じた誘起電圧を「一対のアンプ」(構成要件D)の一方に入力し,当該アンプからの出力を「一対の位相調整器」(構成要件E)の一方に入力するとともに,「二組のコイル」の他の一方の組から生じた誘起電圧を上記「一対のアンプ」の他の一方に入力し,当該アンプからの出力を上記「一対の位相調整器」の他の一方に入力した上で,上記「一対の位相調整器」のそれぞれからの出力(両出力)を「加算器」(構成要件F)で加算し,上記「加算器」からの出力を「表示器」(構成要件G)で表示するものであり,本件特許発明では,「二組のコイル」のそれぞれの組から生じた誘起電圧について「一対のアンプ」(構成要件D)のいずれか,及び「一対の位相調整器」(構成要件E)のいずれかによって,それぞれの組ごとに各調整を行うことによって,残留電流を小さくするものである。
(2) 被告製品の構成及び本件特許発明構成要件との対比ア 被告製品の構成乙1及び被告製品の回路構成(原判決別紙被告製品回路図(修正))によれば,@被告製品においては,円環状のコアを2分割した半円環状の一対のコア1a,1bのそれぞれに二組のコイル(2a,2b,2c,2d)を巻き回し,コア1a側のコイル2a,2bの端子の間に半固定抵抗3a,コア1b側のコイル2c,2dの端子の間に半固定抵抗3bが接続され,半固定抵抗3aと3bは導線で結ばれていること,Aコイル2aと2cの半固定抵抗に接続されていない方の端子は,それぞれ固定抵抗5a,5bを経て加算器及び演算増幅器7に接続されていること,コイル2a,2b,2c,2dから生じた誘起電流(誘起電圧)は,固定抵抗4a,4bを流れること,Bコイル2a,2b,2c,2dから生じた誘起電流(誘起電圧)のアンバランスの調整は,半固定抵抗3a,3b,可変抵抗4c(固定抵抗4bに並列接続されたもの)を適宜調整することによって行われることが認められる。以上のとおり,被告製品においては,コイル2a,2b,2c,2dから生じた誘起電圧について,半固定抵抗3a,3b及び可変抵抗4cを適宜調整することによって,残留電流を小さくさせている。
イ 対比そうすると,被告製品は,@それぞれの組(例えば,コイル2a及び2dの組,2b及び2cの組)から生じた誘起電圧が入力される「一対のアンプ」を備えていないので,構成要件Dを充足せず,A当該アンプからの出力が入力される「一対の位相調整器」を備えていないので,構成要件Eを充足せず,B構成要件FないしHは,構成要件D及びEの充足を前提とするものであるから,構成要件FないしHも充足しない。
(3) 控訴人の主張に対する判断控訴人は,構成要件Dの「アンプ」は,二つの分割箇所に巻かれたコイルの出力電圧を相対的に調整する作用を営む器具であれば足りると解すべきであるとし,被告製品の半固定抵抗及び可変抵抗は,2次側に流れる電流の大きさを「増幅」あるいは「利得調整」しているから,被告製品は構成要件Dを充足すると主張する。しかし,特許請求の範囲の記載は,明細書に格別の定義等がない限り,通常の意味に理解すべきであるところ,「アンプ」とは,信号の周波数や波形の特徴を変えずにその振幅だけを増大する器具であることが明らかであるから,コイルで誘起される電流及び電圧を調整するための半固定抵抗や可変抵抗を指すと解することはできない。のみならず,被告製品は,「一対の」アンプを具備していないことは明らかであるであるから,構成要件Dを充足しない。
また,控訴人は,構成要件Eの「位相調整器」は,「アンプの出力を位相調整に入力する」という不可逆的な場合のみに限定すべきではなく,位相の調整という機能を奏するものであれば足りるものと解すべきであるとし,被告製品の可変抵抗等は,位相を調整しているから,被告製品は構成要件Eを充足すると主張する。しかし,構成要件Dの「前記直列接続によって加算された誘起電圧をそれぞれ入力されて増幅し,かつ,利得調整手段を備える一対のアンプ」及び構成要件Eの「前記一対のアンプの出力をそれぞれ入力されて位相を遅進させ,かつ,位相調整手段を備える一対の位相調整器」を全体として理解するならば,構成要件Eの「位相調整器」は,一対のアンプの出力から入力されたものを調整の対象とする「一対の位相調整器」に限定されると解すべきことは明らかであるから,控訴人の主張は,その前提において失当である。
(4) 小括以上のとおりであって,被告製品は,本件特許発明構成要件DないしHのいずれをも充足しないから,構成要件Cの充足性を検討するまでもなく,本件特許発明技術的範囲に属しないものというべきである。
したがって,被控訴人が被告製品を製造販売する行為は,控訴人の有する本件特許権を侵害するものではない。
結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の本訴請求はいずれも理由がなく,控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 大鷹一郎
裁判官 嶋末和秀