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関連審決 不服2005-5910
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19行ケ10256審決取消請求事件 判例 特許
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平成20行ケ10350審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10487審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10860審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明の詳細な説明 /  数値限定 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10386号 審決取消請求事件
原告株 式会社星野産商
訴訟代理人弁理 士宇佐見忠男
被告特許庁長官 中嶋誠
指定代理人森口良子
同 江塚政弘
同 徳永英男
同 内山進
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/02/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2005-5910号事件について平成18年7月4日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が後記特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けたので,その取消しを求めた事案である。
第3当事者の主張1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,平成12年4月18日,名称を「透磁性および放射線遮蔽性構造体」とする発明について,特許出願をし(以下「本願」という。特願2000-116769号。甲2),平成17年2月25日拒絶査定を受けた。そこで原告は,平成17年4月6日付けで不服の審判請求を行うと共に,同日付けで明細書の記載を補正した(以下「本件補正」という。甲1)。
特許庁は,上記審判請求を不服2005-5910号事件として審理した上,平成18年7月4日,本件補正を却下するとともに,「本件審判の請求は,成り立たない」との審決を行い,その謄本は平成18年7月26日原告に送達された。
(2) 発明の内容ア 本件補正前本件補正前の特許請求の範囲は,請求項1〜6から成り,その内容は次のとおりである。
「【請求項1】電気炉酸化スラグ粒化物を含有することによって透磁性が付与されていることを特徴とする透磁性および放射線遮蔽性構造体【請求項2】該電気炉酸化スラグは透磁性,放射線遮蔽性を向上させるための成分が添加されかつ強制酸化処理が施されている請求項1に記載の透磁性および放射線遮蔽性構造体【請求項3】該電気炉酸化スラグ骨材が添加されているコンクリートからなる請求項1または2に記載の透磁性および放射線遮蔽性構造体【請求項4】該電気炉酸化スラグ骨材が添加されている無機質板からなる請求項1または2に記載の透磁性および放射線遮蔽性構造体【請求項5】該電気炉酸化スラグ骨材を混合した樹脂材料および/または瀝青質がコンクリート表面に被覆されている請求項1または2に記載の透磁性および放射線遮蔽性構造体【請求項6】該電気炉酸化スラグ骨材を混合した樹脂材料および/または瀝青質が無機質板表面に被覆されている請求項1または2に記載の透磁性および放射線遮蔽性構造体」イ本件補正後本件補正後の特許請求の範囲は,請求項1〜6から成り,その内容は次のとおりである。
「【請求項1】セメント100重量部に対して電気炉酸化スラグ粒化物を粗骨材および/または細骨材として300〜500重量部混合したコンクリートからなることを特徴とする透磁性および放射線遮蔽性構造体。
【請求項2】木質補強材を混合したセメント硬化板からなり,該セメント100重量部に対して電気炉酸化スラグ粒化物を骨材として400〜500重量部添加した木質セメント板からなることを特徴とする透磁性および放射線遮蔽性構造体。
【請求項3】樹脂材料および/または歴青質100重量部に対して電気炉酸化スラグ粒化物を50〜550重量部添加したことを特徴とする透磁性および放射線遮蔽性構造体【請求項4】請求項3に記載の透磁性および放射線遮蔽性構造体をコンクリート表面に被覆したことを透磁性および放射線遮蔽性構造体。
【請求項5】請求項3に記載の透磁性および放射線遮蔽性構造体を無機質板表面に被覆したことを透磁性および放射線遮蔽性構造体。
【請求項6】該電気炉酸化スラグは透磁性,放射線遮蔽性を向上させるための成分が添加されてかつ強制酸化処理が施されている請求項1〜5のいずれかに記載の透磁性および放射線遮蔽性構造体。」(3) 審決の内容ア審決の内容は,別紙審決写しのとおりである。その理由の要点は,@本件補正後の特許請求の範囲【請求項3】記載の発明は,本願の当初明細書に記載されておらず,当初明細書の記載から自明なものでもないから,本件補正は当初明細書に記載された事項の範囲内でされたものではなく,特許法17条の2第3項に違反する,A本件補正後の特許請求の範囲【請求項1】記載の発明(以下「本願補正発明」という。)は,特開平10-15523号公報(公開日平成10年1月20日。以下「引用例1」という。甲3)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて容易に発明することができたから,本件補正は特許法17条の2第5項で準用する126条5項に違反する,B本件補正前の特許請求の範囲【請求項1】記載の発明は,引用例1に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができない,というものである。
イなお,審決は,引用発明の内容,及び本願補正発明との一致点と相違点を,次のとおり認定している。
〈引用発明の内容〉電気炉酸化スラグに高比重元素および/または高比重元素化合物を添加溶解し,冷却固化そして粒化し,セメントに添加して,コンクリート製品に放射線シールド性,透磁性を付与する重量骨材。
〈一致点〉コンクリートに透磁性および放射線遮蔽性を付与する発明である点〈相違点1〉本願補正発明は,電気炉酸化スラグ粒化物を粗骨材および/または細骨材として混合したコンクリートからなる透磁性および放射線遮蔽性構造体であるのに対し,引用発明は,電気炉酸化スラグに高比重元素および/または高比重元素化合物を添加溶解し,冷却固化そして粒化し,セメントに添加して,コンクリート製品に放射線シールド性,透磁性を付与する重量骨材である点。
〈相違点2〉本願補正発明は,電気炉酸化スラグ粒化物を粗骨材および/または細骨材として,セメント100重量部に対して300〜500重量部混合したのに対して,引用発明は,その混合割合の限定がなされていない点。
(4) 審決の取消事由しかしながら,審決の認定判断には,次のとおり誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。
ア取消事由1(補正後の【請求項3】は当初明細書に記載された事項の範囲内でされたものではない旨の判断の誤り)(ア)本件補正後の特許請求の範囲【請求項3】は,前記のとおり「樹脂材料および/または歴青質100重量部に対して電気炉酸化スラグ粒化物を50〜550重量部添加したことを特徴とする透磁性および放射線遮蔽性構造体」というものである。
(イ)一方,本願の当初明細書(甲2)の段落【0011】には,「…コンクリート躯体や外壁材,内壁材等の構造体の表面に電気炉酸化スラグ骨材を混合した樹脂材料および/または瀝青質を被覆してもよい。」との記載があり,段落【0012】には,「コンクリート躯体や外壁材,内壁材等の構造体の表面に電気炉酸化スラグ骨材を混合した樹脂材料および/または瀝青質を被覆する方法としては,電気炉酸化スラグ骨材を混合した樹脂材料および/または瀝青質をシートに成形して上記構造体の表面に接着する方法,上記樹脂材料および/または瀝青質のエマルジョンあるいは原液に電気炉酸化スラグ骨材を添加した塗料を塗布する方法等が適用される。」との記載がある。
(ウ)そして,本件補正後の特許請求の範囲【請求項3】で「構造体」といっているのは「樹脂材料および/または暦青質100重量部に対して電気炉酸化スラグ粒化物を50〜550重量部添加」した混合物であることは明確であり,この混合物は,本願の当初明細書の段落【0011】,【0012】に,「電気炉酸化スラグ骨材を混合した樹脂材料および/または瀝青質」として記載されている。
上記混合物は樹脂材料や瀝青質をマトリクスとしてその中に電気炉酸化スラグ骨材が分散している構造を有しているので,本件補正後の特許請求の範囲【請求項3】では,これを「構造体」と称しているのである。
(エ)このように,本願の当初明細書に記載されている「シート」又は「塗膜」は,構造体の表面に被覆されて構造体の一部を構成しているから,これを「構造体」といっても何ら差し支えがない。本願の当初明細書の段落【0008】には,「構造体」について,「…建築物の壁,床,天井等の躯体,外壁材,内壁材等」と例示されているが,本願にいう「構造体」はそれらに限定されるものではない。
(オ)したがって,本件補正後の特許請求の範囲【請求項3】の「構造体」が,本願の当初明細書に記載されていないから本件補正後の特許請求の範囲【請求項3】記載の発明は本願の当初明細書に記載されておらず,当初明細書の記載から自明なものでもないという審決の判断は,誤りである。
イ取消事由2(補正後の【請求項1】発明は引用発明に基づいて容易に発明することができた旨の判断の誤り)(ア)補正後の【請求項1】発明である本願補正発明は,メモ用紙・カレンダー・装飾具・ハーネス等を,ピンや粘着剤を使用することなく,壁・天井・床などに固定することができ,併せて,天井・壁・床面の放射線遮蔽,遮音及び制振効果を付与することができる,という作用効果を奏するものである。
(イ)一方,引用発明の重量骨材は,「電気炉酸化スラグに高比重元素および/または高比重元素化合物を添加溶解し,冷却固化そして粒化したもの」である。これに対し,本願補正発明の電気炉酸化スラグ粒化物は,引用発明の重量細骨材の原料として使用される電気炉酸化スラグそのものであり,高比重元素や高比重元素化合物が添加されている電気炉酸化スラグである引用発明の重量細骨材とは組成的に異なる。
ところが,審決では,本願補正発明の電気炉酸化スラグ粒化物と,引用発明の重量細骨材とを区別していない誤りがある。
(ウ)また,本願補正発明は,透磁性及び放射線遮蔽性構造体として実用化するための混合割合が限定されており,この混合割合によって上記(ア)の作用効果を奏するのである。この混合割合には,臨界的な意義がある。これに対し,この混合割合は,引用例1には全く記載されていない。
透磁性及び放射線遮蔽性構造体として実用化するためには,透磁性,放射線遮蔽性,コンクリート製品としての成形性だけではなく,成形後の収縮により成形物に割れが発生しないこと,成形物の重量が過大にならないこと,成形物の強度を確保すること等の種々の因子を考慮する必要がある。特に,本願補正発明は,放射線遮蔽性がほとんどない一般の骨材に代えて,電気炉酸化スラグ粒化物を単独使用して,高度な放射能遮蔽性を与えるものであり,引用発明からは,電気炉酸化スラグ粒化物を骨材として単独使用した場合の電気炉酸化スラグ粒化物の添加割合を容易に想到することができない。
(エ)さらに,本願補正発明の電気炉酸化スラグ粒化物の添加量が優れた効果を発揮することは,試験報告書(甲6,以下,同報告書記載の試験を「甲6試験」という。)によって明らかである。
甲6試験は,電磁波遮蔽性の試験をしているものであるが,放射線は電磁波に含まれるので,放射線遮蔽性の試験をしていることになる。
甲6試験では,電界シールド効果を測定しているが,電場(電界)の強さと磁場(磁界)の強さとはマックスウェル方程式に示されるように密接な関連があり,電界には必ずそれと直交する磁界が存在するから,電界と磁界とはいわば表裏一体の関係にある。したがって,電界シールド効果の測定は,透磁性の測定である。
そして,本願補正発明の対象である電気炉酸化スラグは,フェライト(FeO・Fe O )を多量に(74.27wt%)含んでおり,磁性電波(電磁波)2 3吸収体に属するものである。磁性電波吸収体は,内部に無数の微小磁石が存在し,外部から電磁波(放射線)すなわち外部磁界が作用すると,内部の微小磁石はその外部磁界の方向に向きを変え,熱を発生して電磁波を吸収する。透磁率は,磁束密度を磁場で割ったものであるから,透磁性(透磁率)が大きな材料ほど磁気誘導されやすく,電磁波(放射線)吸収性も大きいことになる。
(オ)また,本願補正発明は,種々の分野において実用化されている。本願補正発明は,放射線が構造体から反射されないようにするために,電磁波を反射せずに吸収する磁性吸収材料である電気炉酸化スラグ粒化物を選択し,基本的に電気炉酸化スラグ粒化物を単独使用している。その結果,併用する鉄板の厚さを減らして曲げ加工,溶接等を容易にし,重量を軽減して作業性を改良し,かつ材料費を軽減することを可能にした。電気炉酸化スラグはフェライトに比べて格段に安価である。
以上のようなことからみても,本願補正発明の卓越した効果は理解されるものである。
(カ)したがって,審決の「本願補正発明は引用発明に基づいて容易に発明することができたものである」旨の判断は,誤りである。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論(1) 取消事由1に対しア本願の当初明細書(甲2)には,「樹脂材料および/または瀝青質100重量部に対して電気炉酸化スラグ粒化物を50〜550重量部添加した」混合物について,段落【0012】に,「コンクリート躯体や外壁材,内壁材等の構造体の表面に電気炉酸化スラグ骨材を混合した樹脂材料および/または瀝青質を被覆する方法としては,電気炉酸化スラグ骨材を混合した樹脂材料および/または瀝青質をシートに成形して上記構造体の表面に接着する方法,上記樹脂材料および/または瀝青質のエマルジョンあるいは原液に電気炉酸化スラグ骨材を添加した塗料を塗布する方法等が適用される。この場合は該電気炉酸化スラグ骨材は,上記樹脂材料および/または瀝青質100重量部に対して50〜550重量部添加される。上記塗料を塗布する方法は電気炉酸化スラグ骨材を内填出来にくい合板,ハードボード,MDF等にも適用出来る。」と記載されている。この記載によると,上記混合物として,「シート」に成形されたもの,又は塗膜が実質的に記載されている。しかし,この記載から,上記混合物が「構造体」を意味することは,当業者といえども読み取ることができない。
イ(ア)また,本願の当初明細書には,「構造体」の具体的内容について,段落【0008】〜【0010】に,以下の記載がなされている。
「〔構造体〕本発明の対象とする構造体とは,例えば建築物の壁,床,天井等の躯体,外壁材,内壁材等である。該躯体はコンクリートからなり,この場合電気炉酸化スラグ骨材としては上記粗骨材および/または細骨材が使用され,該骨材は通常セメント100重量部に対して300〜500重量部混合される。この場合川砂,ケイ砂,砕砂等の他の骨材を併用してもよい。
外壁材としては主として木片,木粉,木質繊維等の木質補強材を混合したセメント硬化板である木質セメント板が使用されるが,該木質セメント板の原料に該電気炉酸化スラグ骨材を添加する。添加量は通常セメント100重量部に対して400〜500重量部である。
更に内壁材としては主として石膏板,ケイ酸カルシウム板,合板,ハードボード,中密度繊維板(MDF)等が使用されるが,該石膏板やケイ酸カルシウム板の場合には原料に該電気炉酸化スラグ骨材を添加する。添加量は通常石膏あるいはケイ酸カルシウム100重量部に対して400〜500重量部である。」(イ)上記(ア)の記載によると,本願の当初明細書には,「構造体」として,@建築物の壁,床,天井等の躯体,A木質セメント板の外壁材,B石膏板,ケイ酸カルシウム板,合板,ハードボード,中密度繊維板(MDF)の内壁材が記載されている。
してみると,「樹脂材料および/または瀝青質100重量部に対して電気炉酸化スラグ粒化物を50〜550重量部添加した」混合物自体を,これらの@〜Bの「構造体」として用いることは,本願の当初明細書の記載からみて当業者といえども想定し得ないことは明らかである。
ウしたがって,「樹脂材料および/または瀝青質100重量部に対して電気炉酸化スラグ粒化物を50〜550重量部添加したもの」自体で,「透磁性および放射性遮蔽構造体」を形成することは,本願の当初明細書に記載されていない。
エ以上のとおり,本件補正後の特許請求の範囲【請求項3】記載の発明は,本願の当初明細書に記載されておらず,当初明細書の記載から自明なものでもないという審決の判断に誤りはない。
(2) 取消事由2に対しア「引用発明の重量骨材は,本願補正発明の電気炉酸化スラグ粒化物とは組成的に異なる」との主張に対し(ア)本件補正後の特許請求の範囲の【請求項1】及び【請求項6】の記載は,前記1(2)イのとおりである。この【請求項1】と【請求項6】との引用関係からみて,【請求項6】に係る発明は,【請求項1】に係る発明を限定した発明であること,逆の見方をすれば,【請求項1】に係る発明は,【請求項6】に係る発明を包含する発明ということができる。
してみると,【請求項6】に,電気炉酸化スラグとして,透磁性,放射線遮蔽性を向上させるための成分が添加されてかつ強制酸化処理が施されている電気炉酸化スラグが記載されている以上,【請求項1】に係る発明において,電気炉酸化スラグ粒化物を構成する電気炉酸化スラグには,【請求項6】に記載の「透磁性,放射線遮蔽性を向上させるための成分が添加されてかつ強制酸化処理が施されている電気炉酸化スラグ」が含まれる。
原告は,【請求項1】に係る発明(本願補正発明)における電気炉酸化スラグを,電気炉酸化スラグ自体と限定解釈しているが,この主張は,上記のとおり特許請求の範囲の記載に基づかない主張であるので,誤りである。
(イ)また,「電気炉酸化スラグ粒化物」について,本件補正後の本願明細書(甲1)には,透磁性,放射線遮蔽性を向上させるための成分が添加されているものは記載されている(段落【0013】〜【0016】の実施例)が,原告が主張する「電気炉酸化スラグ」自体からなる電気炉酸化スラグ粒化物は記載されていない。
したがって,本願明細書の記載からも,【請求項1】に記載された「電気炉酸化スラグ粒化物」は,電気炉酸化スラグ自体はもとより,電気炉酸化スラグ自体を主成分とするものを包含する概念であることが裏付けられる。
(ウ)そうすると,引用発明の重量骨材は,「電気炉酸化スラグに高比重元素および/または高比重元素化合物を添加溶解し,冷却固化そして粒化し,セメントに添加して,コンクリート製品に放射線シールド性,透磁性を付与する重量骨材」であるから,引用発明の重量骨材と,本願補正発明の「電気炉酸化スラグ粒化物」とは,異なるものではない。
「引用発明の重量骨材は,本願補正発明の電気炉酸化スラグ粒化物とは組成的に異なる」との原告の主張は誤りである。
イ「本願補正発明は,透磁性及び放射線遮蔽性構造体として実用化するための混合割合が限定されており,このような混合割合によって作用効果を奏するのに対し,このような混合割合は,引用例1には全く記載されていない」旨の主張に対し引用発明の重量骨材は,「電気炉酸化スラグに高比重元素および/または高比重元素化合物を添加溶解し,冷却固化そして粒化し,セメントに添加して,コンクリート製品に放射線シールド性,透磁性を付与する重量骨材」である以上,引用発明の重量骨材をセメントに添加して,放射線シールド性,透磁性に優れたコンクリート製品として実用化するためには,引用例1に,セメントに上記重量骨材を添加する具体的な混合割合が記載されていなくとも,以下に例示する観点を考慮して,適切な割合で両者を混合すればよいことは明らかである。
(ア)放射線遮蔽の観点からは,上記コンクリート製品が施工される場所における放射線の強度,重量骨材が添加されたコンクリート製品により該放射線を減衰させる程度,コンクリート製品の厚さ等を考慮する。
(イ)コンクリート製品に透磁性を付与する観点からは,コンクリート製品にマグネットでもってコンクリート製品に所望の物体を固定する際の,所望の物体の重量等を考慮する。
(ウ)コンクリート製品の成形性の観点からは,重量骨材のセメントへの添加量が,コンクリート製品として成形できない限界量を超えないことを考慮する。
ウ「本願補正発明の混合割合には,臨界的意義がある」旨の主張に対し引用例1には,本願補正発明の効果である,放射線遮蔽,遮音,制振の効果,及び透磁率の付与が記載されているので(段落【0010】等),数値限定されていない引用発明に対して本願補正発明において数値限定したことで臨界的意義があるといえるためには,セメント100重量部に対する電気炉酸化スラグ粒化物の混合割合が,その下限値である300重量部と,またその上限値である500重量部の内と外で上記効果に関して量的な顕著な差異があることが必要である。
しかし,上記「顕著な差異」を示すデータは示されていない。
エ 甲6試験については,次の各点を指摘することができる。
甲6試験では,「スラグ粒化物の添加量が300〜500重量部の範囲内の場合・電磁波遮蔽性について望ましい性能を有する。」とされている(甲6の2頁下7行〜下6行)が,電磁波遮蔽性は,本願明細書に記載された,本願補正発明の効果である,放射線遮蔽,遮音,制振効果とは,別の新たな効果である。このような本願明細書に記載されていない新たな本願補正発明の効果を主張することは許されない。
甲6試験では,電界シールド効果を測定したとされているが,電界シールド効果は電界に関するものであり,透磁性は磁界に関するものであるところ,電界と磁界とは物理学上異なる概念である。
オしたがって,本願補正発明は引用発明に基づいて容易に発明することができたものである旨の審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2取消事由1(補正後の【請求項3】は当初明細書に記載された事項の範囲内でされたものではない旨の判断の誤り)について(1)本願の当初明細書(甲2)には,「特許請求の範囲」として前記第3の1(2)アの記載があるほか,「発明の詳細な説明」として次の記載がある。
ア発明の属する技術分野「本発明は磁着性を有する透磁性および放射線遮蔽性構造体に関するものである。」(段落【0001】)イ 従来の技術「従来,建築物の壁,床,天井等はコンクリートあるいは石膏板等の無機質板からなり,壁,床,天井等にメモ用紙,カレンダー,カーペット等を止める場合には,ピン,粘着剤や接着剤等を使用していた。
壁,床,天井等に放射能遮蔽性を付与するには,分厚いコンクリート壁の表面に鋼板や鉛板を貼った構成が採用されていた。」(段落【0002】)ウ 発明が解決しようとする課題「しかしピンで止める場合には壁に穴が明き,粘着材を使用する場合には粘着剤が壁に付着してしまうので壁が汚れ,いずれも壁の外観が悪くなると云う問題点があった。また壁等に放射線遮蔽性を付与するためにコンクリート壁を分厚くし,更にその表面に鋼板や鉛板を貼る施工は手間がかゝり,施工費が高いという問題点があった。」(段落【0003】)エ 課題を解決するための手段「本発明は上記従来の課題を解決するための手段として,電気炉酸化スラグ粒化物を含有することによって透磁性が付与されている透磁性でかつ放射線遮蔽も可能な構造体を提供するものである。
上記透磁性および放射線遮蔽性構造体は,例えば該電気炉酸化スラグ骨材が添加されているコンクリート,該電気炉酸化スラグ骨材が添加されている無機質板,該電気炉酸化スラグ骨材を混合した樹脂材料および/または瀝青質が表面に被覆されているコンクリート,該電気炉酸化スラグ骨材を混合した樹脂材料および/または瀝青質が表面に被覆されている無機質板等である。」(段落【0004】)オ 作用「本発明の構造体は電気炉酸化スラグ骨材を含むので透磁性があり,例えばメモ,カレンダー等を止着する場合にはマグネットで固定することが出来る。また電気炉酸化スラグ骨材は大重量であるから構造体に放射線遮蔽性を付与し,かつ制振,遮音性を与える。該電気炉酸化スラグ骨材は不安定な遊離石灰,遊離マグネシア,あるいは鉱物を含まず,耐蝕性および耐久性を有する。」(段落【0005】)カ 発明の実施の形態「〔構造体〕本発明の対象とする構造体とは,例えば建築物の壁,床,天井等の躯体,外壁材,内壁材等である。該躯体はコンクリートからなり,この場合電気炉酸化スラグ骨材としては上記粗骨材および/または細骨材が使用され,該骨材は通常セメント100重量部に対して300〜500重量部混合される。この場合川砂,ケイ砂,砕砂等の他の骨材を併用してもよい。」(段落【0008】)「外壁材としては主として木片,木粉,木質繊維等の木質補強材を混合したセメント硬化板である木質セメント板が使用されるが,該木質セメント板の原料に該電気炉酸化スラグ骨材を添加する。添加量は通常セメント100重量部に対して400〜500重量部である。」(段落【0009】)「更に内壁材としては主として石膏板,ケイ酸カルシウム板,合板,ハードボード,中密度繊維板(MDF)等が使用されるが,該石膏板やケイ酸カルシウム板の場合には原料に該電気炉酸化スラグ骨材を添加する。添加量は通常石膏あるいはケイ酸カルシウム100重量部に対して400〜500重量部である。」(段落【0010】)「更に本発明ではコンクリート躯体や外壁材,内壁材等の構造体の表面に電気炉酸化スラグ骨材を混合した樹脂材料および/または瀝青質を被覆してもよい。該樹脂材料としては,例えば熱可塑性樹脂,熱硬化性樹脂,ゴム,エラストマー等が含まれる。…」(段落【0011】)「コンクリート躯体や外壁材,内壁材等の構造体の表面に電気炉酸化スラグ骨材を混合した樹脂材料および/または瀝青質を被覆する方法としては,電気炉酸化スラグ骨材を混合した樹脂材料および/または瀝青質をシートに成形して上記構造体の表面に接着する方法,上記樹脂材料および/または瀝青質のエマルジョンあるいは原液に電気炉酸化スラグ骨材を添加した塗料を塗布する方法等が適用される。この場合は該電気炉酸化スラグ骨材は,上記樹脂材料および/または瀝青質100重量部に対して50〜550重量部添加される。上記塗料を塗布する方法は電気炉酸化スラグ骨材を内填出来にくい合板,ハードボード,MDF等にも適用出来る。」(段落【0012】)(2)上記(1)の記載からすると,本願の当初明細書では,@「構造体」として,a建築物の壁・床・天井等の躯体,b木質セメント板の外壁材,c石膏板・ケイ酸カルシウム板・合板・ハードボード・中密度繊維板(MDF)の内壁材が例示されていること,A「電気炉酸化スラグ骨材を混合した樹脂材料および/または瀝青質」は,これらの「構造体」の表面に接着して被覆するものとして記載され,また,「瀝青質のエマルジョンあるいは原液に電気炉酸化スラグ骨材を添加した塗料」は,これらの「構造体」に塗布するものとして記載されていることが認められる。そうすると,本願の当初明細書では,樹脂材料および/または瀝青質に電気炉酸化スラグ骨材を添加したものは,「構造体」としてではなく,「構造体」を被覆するもの又は塗布するものとして記載されているということができる。本願の当初明細書には,「樹脂材料および/または瀝青質に電気炉酸化スラグ骨材を添加したもの」を「構造体」として用いることは記載されていないというべきである。
したがって,本件補正後の特許請求の範囲【請求項3】に記載された「樹脂材料および/または歴青質100重量部に対して電気炉酸化スラグ粒化物を50〜550重量部添加したことを特徴とする透磁性および放射線遮蔽性構造体」は,本願の当初明細書に記載されていないし,また,当初明細書に記載から自明なものとも認められないから,本件補正は当初明細書に記載された事項の範囲内でされたものではなく,特許法17条の2第3項に違反する。その旨の審決の判断に誤りはない。
(3) 以上のとおり,取消事由1は理由がない。
3取消事由2(補正後の【請求項1】発明は引用発明に基づいて容易に発明することができた旨の判断の誤り)について(1)本件補正後の明細書(甲1)には,「特許請求の範囲」として前記第3の1(2)イの記載があるほか,「発明の詳細な説明」として次の記載がある。
ア 発明の属する技術分野,従来の技術,発明が解決しようとする課題前記2(1)ア〜ウと同じ(段落【0001】〜【0003】)。
イ課題を解決するための手段「本発明は上記従来の課題を解決するための手段として,セメント100重量部に対して電気炉酸化スラグ粒化物を粗骨材および/または細骨材として300〜500重量部混合したコンクリートからなることを特徴とする透磁性および放射線遮蔽性構造体,また木質補強材を混合したセメント硬化板からなり,該セメント100重量部に対して電気炉酸化スラグ粒化物を骨材として400〜500重量部添加した木質セメント板からなることを特徴とする透磁性および放射線遮蔽性構造体,また更に樹脂材料および/または歴青質100重量部に対して電気炉酸化スラグ粒化物を50〜550重量部添加したことを特徴とする透磁性および放射線遮蔽性構造体を提供するものである。
更に上記樹脂材料および/または歴青質100重量部に対して電気炉酸化スラグ粒化物を50〜550重量部添加した透磁性および放射線遮蔽性構造体をコンクリート表面または無機質板表面に被覆した透磁性および放射線遮蔽性構造体を提供するものである。
該電気炉酸化スラグは透磁性,放射線遮蔽性を向上させるための成分が添加されてかつ強制酸化処理が施されていることが望ましい。」(段落【0004】)ウ作用「本発明の構造体は電気炉酸化スラグ骨材を所定量含むので透磁性があり,例えばメモ,カレンダー等を止着する場合にはマグネットで固定することが出来る。また電気炉酸化スラグ骨材は大重量であるから構造体に放射線遮蔽性を付与し,かつ制振,遮音性を与える。該電気炉酸化スラグ骨材は不安定な遊離石灰,遊離マグネシア,あるいは鉱物を含まず,耐蝕性および耐久性を有する。」(段落【0005】)エ発明の実施の形態「本発明を以下に詳細に説明する。
〔電気炉酸化スラグ骨材〕本発明の電気炉酸化スラグ(1) 骨材を製造するには図1に示すように電気炉酸化スラグ(1) を電気溶解炉(2) に投入し,電極(3) に通電して該スラグ(1) を溶解し,酸素および/または空気を吹込んで該溶解物を冷却固化粉砕する。この場合は該溶解物を鋼板製の皿型容器内に通常20mm厚に注入し,水をスプレーして急冷した後クラッシャーで粉砕すれば粗骨材及び細骨材が製造される。
上記電気炉酸化スラグ(1) を電気溶解炉(2) で溶解する場合に,所望なれば鉄,Ba ,Si,望ましくは鉄スクラップ,BaO屑,SiO 系の煉2瓦屑,廃砂等の透磁性,放射線遮蔽性を向上させるための成分を添加して,空気または酸素を吹き込み強制酸化処理を施すことによって透磁性を高めてもよい。」(段落【0006】)「また該溶解物から細骨材を製造するには,通常該溶解物を高速回転する羽根付きドラムに注入し,該溶解物を該羽根付きドラムによって破砕粒状化し,粒状化した該溶融物を水ミスト雰囲気中で急冷処理する方法が採られる。該羽根付きドラムは複数個配置して複数段の破砕粒状化を行なってもよい。
このようにして得られる細骨材は通常5mm以下の粒径を有し,粒径2.5mm以下のものは略球状であり,表面に微細な凹凸を有する優れた形状のもので粒度分布はJIS-A5005コンクリート用砕砂の規格範囲にある。」(段落【0007】)〔構造体〕についての記載は,前記2(1)エと同じ(段落【0008】〜【0012】)「〔実施例1〕(細骨材の製造)4.5トンの電気炉酸化スラグ(1) を図1に示す電気溶解炉(2) に投入し,更に鉄スクラップとして1.5トンの銑ダライを加えてランス管(4)から酸素を吹精しつつ加熱溶解し,得られた溶解物(1A)を図2に示すように取鍋(5) からシューター(6) に移し,該シューター(6) から高速回転する羽根付きドラム(7,8) に注入する。該溶解物(1A)は該羽根付きドラム(7,8) によって細破砕されて粒状化し,該溶解物(1A)の粒化物(1B)は急冷チャンバー(9) 内にスプレー装置(10)からスプレーされる水ミストによって急冷される。そしてこのようにして得られた細骨材(11)は備蓄容器(12)内に備蓄される。該細骨材(11)は略球状であり平均粒径が1.2mmである。該細骨材の主要な鉱物組成はウスタイトおよびマグネタイトであり,不安定な鉱物が含まず,耐久性がありかつ耐蝕性もある。…」(段落【0013】)「〔実施例2〕図4に示すように鉄筋(21A) で補強した建築物のコンクリート壁(21)には,実施例1の細骨材がセメント100重量部に対して500重量部添加されている。このようなコンクリート壁(21)にはメモ用紙(22)をマグネット(23)で止めることが出来,更に該コンクリート壁(21)は,放射線遮蔽,遮音および制振効果も有する。」(段落【0017】)オ発明の効果「本発明ではメモ用紙,カレンダー,装飾具,ハーネス等がピンや粘着剤を使用することなく壁,天井,床等に固定することが出来る。また,あわせて天井,壁,床面の放射線遮蔽,遮音および制振効果も付与出来る。」(段落【0020】)(2)一方,引用例1(甲3)には,「特許請求の範囲」として,「【請求項1】電気炉酸化スラグに高比重元素および/または高比重元素化合物を添加溶解し,冷却固化そして粒化したことを特徴とする重量骨材」との記載があるほか,「発明の詳細な説明」として,次の記載がある。
ア 発明の属する技術分野「本発明はセメント,プラスチック,ゴム等に添加される重量細骨材や重量粗骨材等に使用される重量骨材に関するものである。」(段落【0001】)イ 従来の技術「従来,細骨材として川砂,ケイ砂,砕砂等の天然資源が用いられて来たが,上記天然資源の確保が次第に困難となり,それに代えて電気炉酸化スラグ粒化物を細骨材として使用することが検討されている。上記電気炉酸化スラグ粒化物は不安定な遊離石灰,遊離マグネシア,あるいは鉱物を含まず,耐久性および耐蝕性を有し,また重量が大であるから製品に制振遮音性を与える。」(段落【0002】)ウ 発明が解決しようとする課題「最近,制振性,遮音性,放射線シールド性,透磁性等を有するコンクリート製品,プラスチック製品,ゴム製品,粘土製品等が脚光を浴びており,更に大重量高比重の骨材に対するニーズが高まっている。」(段落【0003】)エ 課題を解決するための手段「本発明は上記課題を解決するための手段として,電気炉酸化スラグに高比重元素およびまたは高比重元素化合物を添加溶解し,冷却化そして粒化した重量骨材を提供するものである。」(段落【0004】)「本発明において使用する高比重元素とは比重が7以上の元素であり,このような元素としては,Fe,Co,Cu,Zn,Pb等が例示され,該高比重元素の化合物としては上記元素の酸化物,水酸化物,塩化物等が例示される。望ましい高比重元素またはその化合物としては鉄,銅,鉄スクラップ,鉄酸化物,鉛ドロス等がある。」(段落【0005】)「本発明の重量骨材を製造するには,図1に示すように電気炉酸化スラグ(1) と高比重元素および/または高比重元素化合物を電気溶解炉(2) に投入し,電極(3) に通電して該スラグ(1) と高比重元素および/または高比重元素化合物を溶解し,所望なれば酸素および/または空気を吹込んで該溶解物を冷却固化粉砕する。この場合該溶解物を鋼板製の皿型容器内に通常80mm厚に注入し,水冷後クラッシャーで粉砕すれば重量粗骨材が製造される。」(段落【0006】)「また該溶解物から重量細骨材を製造するには,通常該溶解物を高速回転する羽根付きドラムに注入し,該溶解物を該羽根付きドラムによって破砕粒状化し,粒状化した該溶融物を水ミスト雰囲気中で急冷処理する方法が採られる。該羽根付きドラムは複数個配置して複数段の破砕粒状化を行なってもよい。このようにして得られる重量細骨材は通常5mm以下の粒径を有し,粒径2.5mm以下のものは略球状であり,表面に微細な凹凸を有する優れた形状のもので粒度分布はJIS-A5005コンクリート用砕砂の規格範囲にある。」(段落【0007】)オ 発明の実施の形態「〔実施例〕4.5トンの電気炉酸化スラグ(1) を図1に示す電気溶解炉(2) に投入し,更に鉄スクラップとして1.5トンの銑ダライを加えてランス管(4) から酸素を吹精しつつ加熱溶解し,得られた溶解物(1A)を図2に示すように取鍋(5) からシューター(6) に移し,該シューター(6) から高速回転する羽根付きドラム(7,8) に注入する。該溶解物(1A)は該羽根付きドラム(7,8) によって細破砕されて粒状化し,該溶解物(1A)の粒化物(1B)は急冷チャンバー(9) 内にスプレー装置(10)からスプレーされる水ミストによって急冷される。そしてこのようにして得られた重量細骨材(11)は備蓄容器(12)内に備蓄される。該重量細骨材(11)は略球状であり平均粒径が1.2mmである。該重量細骨材の主要な鉱物組成はウスタイトおよびマグネタイトであり,不安定な鉱物が含まれないから耐久性がありかつ耐蝕性もある。…」(段落【0008】)カ 発明の効果「本発明の重量骨材は高比重を有し,かつ耐久性,耐蝕性,耐磨耗性があるから,コンクリート製品,ゴム製品,プラスチック製品,粘土製品等に大重量を付し,かつ制振性,遮音性,放射線シールド性,透磁性等を付与するために使用されて極めて有用である。」(段落【0010】)(3)原告は,本願補正発明の電気炉酸化スラグ粒化物は,引用発明の重量細骨材の原料として使用される電気炉酸化スラグそのものであり,高比重元素や高比重元素化合物が添加されている電気炉酸化スラグである引用発明の重量細骨材とは組成的に異なる,と主張する。
上記(1)の記載によると,本件補正後の「特許請求の範囲」(甲1)の【請求項6】には,「該電気炉酸化スラグは透磁性,放射線遮蔽性を向上させるための成分が添加されてかつ強制酸化処理が施されている請求項1〜5のいずれかに記載の透磁性および放射線遮蔽性構造体。」と記載され,また,「発明の詳細な説明」においても,電気炉酸化スラグに透磁性,放射線遮蔽性を向上させるための成分を添加することが記載され(段落【0004】),それらの成分について,「鉄,Ba,Si,望ましくは鉄スクラップ,BaO屑,SiO系の煉瓦屑,廃砂等」との例示がされている(段落2【0006】)。したがって,本願補正発明(本件補正後の「特許請求の範囲」【請求項1】)の「電気炉酸化スラグ」には,透磁性,放射線遮蔽性を向上させるための成分を添加したものが含まれるというべきである。
これに対し,上記(2)の記載によると,引用発明においては,電気炉酸化スラグに高比重元素や高比重元素化合物が添加されているが,それらについて,「本発明において使用する高比重元素とは比重が7以上の元素であり,このような元素としては,Fe,Co,Cu,Zn,Pb等が例示され,該高比重元素の化合物としては上記元素の酸化物,水酸化物,塩化物等が例示される。望ましい高比重元素またはその化合物としては鉄,銅,鉄スクラップ,鉄酸化物,鉛ドロス等がある。」と記載されており(甲3の段落【0005】),添加成分として「鉄」が本願補正発明と共通している。また,引用発明の効果として「放射線シールド性」が挙げられている(段落【0010】)ところ,比重が高いものを入れれば,密度が増すから,放射線シールド性も向上すると考えられる。
そうすると,本願補正発明と引用発明は,共に,「電気炉酸化スラグ」に放射線遮蔽性(放射線シールド性)を向上させるための成分を添加したものを含むから,組成の点で異なるということはできず,原告の上記主張は採用することができない。
(4)原告は,本願補正発明では,透磁性及び放射線遮蔽性構造体として実用化するための混合割合が限定されており,この混合割合によって作用効果を奏するのであり,この混合割合には,臨界的な意義がある,と主張する。
本願補正発明は,透磁性及び放射線遮蔽性構造体の発明であるから,電気炉酸化スラグ粒化物の骨材をセメントに混入するのは,透磁性及び放射線遮蔽性を付与するためであると解されるところ,その数量について,「セメント100重量部に対して電気炉酸化スラグ粒化物を粗骨材および/または細骨材として300〜500重量部混合した」との数値限定がされている。
上記(2)の記載によると,引用発明においても,透磁性及び放射線遮蔽性(放射線シールド性)を付与することが,効果として挙げられている(甲3の段落【0010】)から,電気炉酸化スラグ粒化物の骨材をセメントに混入して,透磁性及び放射線遮蔽性を付与することは,本願の出願前に知られていたものと認められる。そして,セメントに対して骨材の量が大きすぎると,コンクリート製品として成形することができず,逆に骨材の量が少なすぎると,透磁性及び放射線遮蔽性が十分でないことになるから,電気炉酸化スラグ粒化物の骨材をセメントに混入するに際して,適量の骨材を混合することは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が当然に行うことができる事項であると考えられる。
ところで,本願補正発明の混合割合に臨界的な意義があるというためには,数値の前後で顕著な差異があることが必要である。
しかし,本件補正後の明細書(甲1)には,そのような顕著な差異があることを示す記載はない。
甲6(試験報告書)には,ポルトランドセメント100重量部に対し,スラグ粒化物(比重4.3)を,550,500,300,250の各重量部添加し,更に水55重量部を添加し混練して混練物を得た上,該混練物を型枠に流し込み,常温で28日間放置して硬化させ,厚さ40mmの板状試料を作成し,その表面から,1〜1000MHzの周波数の電磁波を照射し,裏面から透過した電磁波の減衰量を測定する試験結果が記載されている(甲6試験1,2頁)。証拠(甲7)によると,放射線は電磁波に含まれ,波長が0.01μm以下のものであることが認められるところ,甲6試験においては,上記のとおり,放射線とは波長が大きく異なる周波数1〜1000MHz(波長約300m〜30p程度)の電波で試験がされているから,放射線の遮蔽性を測定したものということができない。また,甲6の2頁[表1]には,スラグ粒化物の添加量が500重量部,300重量部について,密度の測定値が3.21,2.89と記載されており,2頁の「備考」には,「放射線遮蔽性のために必要とされる望ましい密度…の値は2.5以上である。」(下4行〜下3行)と記載されている。しかし,放射線遮蔽性に必要とされる望ましい密度の値が2.5以上であることを裏付ける証拠はなく,同表の密度の結果によっても,本願補正発明の添加量である300重量部〜500重量部において,特に放射線遮蔽性について顕著な効果を生じるとは認められない。さらに,電磁波遮蔽性についても,どの程度の減衰量をもって望ましい電磁波遮蔽性能とするのか明らかでない上,550重量部の試料においても500重量部の試料とほぼ同様の電磁波減衰量を示しており,250重量部の試料と300重量部の試料の間においても格別顕著な差異が生じているとは認められない。したがって,甲6試験によっても,300重量部及び500重量部という本願補正発明の数値に臨界的な意義があると認めることはできない。
なお,原告は,磁性及び放射線遮蔽性構造体として実用化するためには,透磁性,放射線遮蔽性,コンクリート製品としての成形性だけではなく,成形後の収縮により成形物に割れが発生しないこと,成形物の重量が過大にならないこと,成形物の強度を確保すること等の種々の因子を考慮する必要があると主張するが,これらについても,当業者が製品を作るに際して当然に考慮すべき事項であるということができる上,これらの事項について本願補正発明の混合割合に格別の技術的意義があるとも認められない。
したがって,本願補正発明の数値限定に臨界的な意義があると認めることはできず,この数値限定は,当業者が適宜行うことができる範囲内の事項であるというべきである。
以上のとおり,本願補正発明の数値限定を理由として本願補正発明の進歩性を認めることはできず,その旨の審決の判断に誤りはない。
(5)よって,審決の「本願補正発明は引用発明に基づいて容易に発明することができたものである」旨の判断に誤りはなく,取消事由2は理由がない。
なお,原告は,本願補正発明は,種々の分野において実用化されており,実用化に優れた発明である旨の主張をするが,そのことは,本願補正発明は引用発明に基づいて容易に発明することができた旨の判断を左右するものではない。
4 結論以上によれば,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 田中孝一