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事件 平成 17年 (ワ) 7781号 特許権侵害差止等請求事件
原告株 式会社堀場製作所
訴訟代理人弁護士伊原友己 加古尊温
訴訟代理人弁理士西村竜平 角田敦志
補佐人弁理 士佐藤明子
被告株 式会社小野測器
訴訟代理人弁護士小林幸夫
訴訟復代理人弁護士村西大作 坂田洋一
補佐人弁理 士國分孝悦南林薫 大須賀晃 小野亨 桂巻徹
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2007/01/25
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙原告物件目録記載の自動車自動運転ロボットを製造し,販売し,販売のための申出をしてはならない。
2 被告は,前項記載の自動車自動運転ロボット及びその半製品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,1億1200万円及びこれに対する平成17年9月2日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,発明の名称を「自動車自動運転ロボットの制御方法」とする発明の特許権者である原告が,被告が製造販売している自動車自動運転ロボットの制御方法は上記発明の技術的範囲に属し,同ロボットを製造販売等する被告の行為は原告の特許権に対する間接侵害に当たると主張して,被告に対し,特許法100条に基づき,同ロボットの製造販売等の差止めと同ロボット及びその半製品の廃棄を求めるとともに,民法709条(特許法102条2項)に基づき,特許権侵害不法行為による損害賠償(訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を含む )を請求している事案である。 。
1 争いのない事実等(1) 本件特許権原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という )の特許権者である。 。
特許番号第2050323号発明の名称自動車自動運転ロボットの制御方法出願日平成3年1月16日登録日平成8年5月10日(2) 本件特許発明本件特許権に係る明細書(平成17年9月21日付け訂正審決による訂正後の明細書。以下「本件明細書」という。甲3の2)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1記載の発明を「本件特許発明」という。。)「 請求項1】モータによってそれぞれ駆動される2つのアクチュエータによっ 【てX軸方向およびY軸方向にそれぞれ移動可能な変速レバーを備えた自動車自動運転ロボットにおいて,前記モータへの電流を制御しながら前記変速レバーをX軸方向およびY軸方向にそれぞれ移動してその可動範囲を確認してその操作位置を記憶させることにより,変速レバーのシフト位置を自動的に学習させるようにしたことを特徴とする自動車自動運転ロボットの制御方法 」。
(3) 本件特許発明構成要件の分説本件特許発明は,次の構成要件に分説するのが相当である。
Aモータによってそれぞれ駆動される2つのアクチュエータによってX軸方向及びY軸方向にそれぞれ移動可能な変速レバーを備えた自動車自動運転ロボットにおいて,B1前記モータへの電流を制御しながら前記変速レバーをX軸方向及びY軸方向にそれぞれ移動してその可動範囲を確認してその操作位置を記憶させることにより,B2変速レバーのシフト位置を自動的に学習させるようにしたCことを特徴とする自動車自動運転ロボットの制御方法。
(4) 被告装置の製造販売等被告は,平成6年4月ころから 「ドライビングシステムTC-6000シ ,リーズ (甲5)の型式「TC-6300」及び「TC-6500」の自動車自 」動運転ロボット(以下「被告装置」という )を製造し,販売し又は販売の申出 。
を行っている。
2 争点(1) 被告装置の構成(2) 被告装置の制御方法(以下「被告方法」という )の構成。
(3) 被告方法は本件特許発明技術的範囲に属するか。
(4)被告装置を製造販売等する被告の行為は本件特許権に対する間接侵害に当たるか。
(5) 本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか。
(6) 原告の損害
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(被告装置の構成)について【原告の主張】被告装置の構成は,別紙原告物件目録記載のとおりである。
【被告の主張】被告装置の構成は,別紙被告物件目録記載のとおりである。
2 争点(2)(被告方法の構成)について【原告の主張】被告方法の構成は,次のとおりである。
アモータによってそれぞれ駆動される2つのアクチュエータによってX軸方向及びY軸方向にそれぞれ移動可能な変速レバーを備えた自動車自動運転ロボットにおいて,イ1前記モータへの電流を制御しながら前記変速レバーをX軸方向及びY軸方向にそれぞれ移動してその可動範囲を確認してその操作位置を記憶させることにより,イ2変速レバーのシフト位置を自動的に学習させるようにしたウことを特徴とする自動車自動運転ロボットの制御方法。
【被告の主張】原告主張の被告方法の構成ア,イ2,ウは認め,イ1については認否を留保する。
3 争点(3)(被告方法は本件特許発明技術的範囲に属するか )について。
【原告の主張】被告方法の構成ア,イ1,イ2,ウは,本件特許発明構成要件A,B1,B2,Cにそれぞれ対応し,本件特許発明構成要件をすべて充足する。
【被告の主張】被告方法の構成ア,イ2,ウが本件特許発明構成要件A,B2,Cを充足する点については認め,被告方法の構成イ1が本件特許発明構成要件B1を充足する点については認否を留保する。
4争点(4)(被告装置を製造販売等する被告の行為は本件特許権に対する間接侵害に当たるか )について。
【原告の主張】(1) 特許法101条3号被告装置を作動させることは,被告方法を使用する行為にほかならないのであり,被告装置にその他の経済的,商業的又は実用的使途は考えられないから,被告装置は,被告方法の使用のみ用いる物である。
したがって,被告が,業として,被告装置を製造し,販売し又は販売の申出をする行為は,特許法101条3号によって,本件特許権を侵害するものとみなされる。
(2) 特許法101条4号本件特許発明の解決課題は,運転ロボットに対して変速レバーのシフト位置を誰にでも簡単にしかも確実に教え込むことのできるロボットの制御方法を提供することにある(本件明細書段落【0005 。被告装置は,被告方法の使用に用 】)いる物であって,上記課題の解決に不可欠なものである。また,被告は,遅くとも原告から特許公報(甲2)を添付した平成16年11月12日付け警告書(甲8の1)を受け取った時からは(甲8の2 ,本件特許発明特許発明であるこ )と及び被告装置が本件特許発明実施に用いられることを知っていた。
したがって,被告が,業として,被告装置を製造し,販売し又は販売の申出をする行為は,特許法101条4号によって,本件特許権を侵害するものとみなされる。
【被告の主張】認否を留保する。
5 争点(5)(本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか )について。
【被告の主張】本件特許発明については,下記の無効理由1ないし3が存するものであり,特許法29条1項3号又は同条2項の規定により特許を受けることのできない発明であるから,特許無効審判により無効にされるべきものである(同法123条1項2) 。 号 。したがって,同法104条の3第1項により本件特許権の行使は許されない(1) 無効理由1(乙1に基づく新規性の欠缺)ア乙1(1989年11月1日発行の「自動車技術 )は,本件特許出願の1 」年以上前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である。
イ乙1に記載された発明と本件特許発明との対比(ア)構成要件Aの構成が開示されていること乙1の58頁の「1.はじめに」には 「シャシダイナモ上における完成 ,車両の各種モード運転によるエミッション・燃費試験の自動化の要求が益々高まっている。…この目的のために近年,油圧や空気圧およびDCモータを用いた各種の自動運転用ロボットが開発され,モード試験に使用されつつある 」との記載がある。そして,59頁の「2.1.システム構成」には, 。
「本ロボットは,主制御部(図2)とアクチュエータ部(ロボット本体と呼び図3に示す)から成る。主制御部は2個のCPU(i8088)と…サーボドライブ回路および電源から成る。CPUのうち1個は制御用であり,…アクチュエータ部はアクセル,ブレーキ,クラッチの各ペダルを操作するDCサーボモータ各1個とギヤをX,Y,Z軸に操作するDCモータがある(計6個のDCモータ」との記載もあり,同頁の図3には 「ロボットドライバ )。 ,構成図(アクチュエータ部 」として,シフトアームを備えていることが明 )示されている。更に,60頁の表1には,ギヤチェンジでX軸方向がセレクト方向であり,Y軸方向がシフト方向であることが明示されている。これらの記載から明らかなように,乙1には,DCモータによって駆動されるアクチュエータによってギヤのシフトレバー(変速レバー)をX軸方向及びY軸方向に移動可能にした自動車自動運転ロボットが開示されている。
また,乙1の60頁の「(2)ティーチングとラーニング」の欄の「…ロボットのギヤシフトアクチュエータ(X,Y,Z軸)を…操作し」の記載及びギヤをX,Y,Z軸に操作するのに各1個ずつのDCモータが使用されていることの記載(上述の59頁の「2.1.システム構成」の記載参照)から,乙1のロボットがX軸,Y軸の2つのアクチュエータを有し,これらの2つのアクチュエータがそれぞれDCモータによって駆動されるようになっていることも明らかである。
したがって,乙1には,構成要件Aの「モータによってそれぞれ駆動される2つのアクチュエータによってX軸方向およびY軸方向にそれぞれ移動可能な変速レバーを備えた自動車自動運転ロボットにおいて 」との構成がす,べて開示されている。
(イ)構成要件Bの構成が開示されていること乙1の60頁の「(2)ティーチングとラーニング」には 「ロボットを車に,セットする場合は必ずティーチングを行う。図7に示すティーチング画面でロボットのギヤシフトアクチュエータ(X,Y,Z軸)を手動リモコンを使って操作し,各変速位置を学習させる 」との記載がある。。
したがって,乙1には,構成要件B1のうち 「前記変速レバーをX軸方 ,向およびY軸方向にそれぞれ移動してその可動範囲を確認してその操作位置を記憶させることにより 」及び構成要件B2の「変速レバーのシフト位置 ,を自動的に学習させるようにした」構成が開示されている。
また,乙1のロボットにおいても,アクチュエータを駆動するDCモータにサーボをかけて電流制御を行っている(乙1の59頁の図2に,主制御部の構成として,シフトアームの3つの動作方向(X,Y,Z)に関し,センサ入力を行い,サーボ出力を行うことが開示されている 。。)したがって,乙1には,アクチュエータを駆動するモータへの電流を制御すること,すなわち構成要件B1のうち 「前記モータへの電流を制御しな ,がら」も実質的に開示されている。
したがって,乙1には,構成要件B1と構成要件B2がすべて開示されている。
なお,本件特許発明においても,モータとしてDCサーボモータを用いた実施例が説明されているが(本件明細書の段落【0014】の記載参照 ,)DCサーボモータを含むDCモータ等のモータへの電流を制御することは,本件特許出願時における周知・慣用技術にすぎない(乙2ないし4 。)また,構成要件B2では「自動的に」という語が使用されているが,乙1のロボットは,59頁の図2及び「2.1.システム構成」の欄の記載から明らかなように,CPU(制御用コンピュータ)を備え,リモコン操作に応じてCPUがギヤシフトアクチュエータの動作を制御して各変速位置を学習させるのであるから,乙1のロボットにおいても「変速レバーのシフト位置を自動的に学習させている」ことに相違ない。
(ウ)構成要件Cの構成が開示されていること乙1の刊行物は,上記の特徴を備えた運転用ロボットに関する論文であるから,構成要件Cの「ことを特徴とする自動車自動運転ロボットの制御方法」という構成が開示されていることは明らかである。
ウよって,乙1の刊行物には,本件特許発明構成要件がすべて開示されているから,本件特許発明は,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない発明である。
(2) 無効理由2(乙5及び乙1による進歩性の欠缺)ア乙5(公開特許公報(特開昭58-180327号 )に記載された発明と )本件特許発明との対比(ア)構成要件Aの構成の一部が開示されていること乙5には,第1図に示すように,自動車自動運転ロボットにより,車両の変速レバー2を互いに直交する2方向(セレクト方向SE及びシフト方向SF)に移動させることが開示されている。
すなわち,乙5の1頁右下欄5行目から10行目の「本発明は,…内燃機関用車輌用の変速機の変速レバーに連結されたアクチュエータを制御ユニットからの制御信号に従って駆動し,変速レバーを所望の位置に切換えるようにした自動変速機用制御装置に関する 」という記載,及び2頁左下欄8行 。
目から12行目の「自動変速装置1は…該変速レバー2に夫々連結されこの変速レバー2をシフト方向(SF)及びこれと直角のセレクト方向(SE)に移動させるための油圧アクチュエータ4,5とを備え 」という記載から,明らかなように,乙5記載の装置は,自動車等の車両用の変速レバー2を2つのアクチュエータ4,5によりシフト方向SF及びセレクト方向SE(X軸方向,Y軸方向に相当)に移動させる自動運転ロボットである。
したがって,乙5には,構成要件Aのうち,アクチュエータの駆動にモータを用いることを除く 「2つのアクチュエータによってX軸方向およびY ,軸方向にそれぞれ移動可能な変速レバーを備えた自動車自動運転ロボットにおいて 」が開示されている。 ,(イ)構成要件B1及びB2の構成の一部が開示されていること乙5の2頁左上欄18行目から右上欄1行目の「本発明の目的は,従って,従来装置における上述の位置決め調整の手間を省略することができる,学習機能を備えた自動変速機用位置制御装置を提供することにある 」の記載,。
及び5頁左上欄7行目から11行目の「本発明によれば,上述の如く,変速レバーをシフト及びセレクト操作する場合の移動路を学習によって自動的に決定し,移動通路の許容幅内において常に適切な移動路を選んでギアチェンジを行なえる 」の記載から明らかなように,乙5には,変速レバーのシフ 。
ト位置を自動的に学習するように構成された自動車自動運転ロボットが開示されている。
そして,乙5のロボットは,制御ユニット8にセットされた学習プログラムにより,第2図に示す変速レバー2の学習動作を自動的に実行する(乙5の3頁右上欄3行目から7行目の「本制御ユニット8には,適切な移動路を学習により決定するための学習プログラムがセットされている。第2図には,上述の学習プログラムによる学習動作の基本的動作が示されている 」の記。
載参照 。)すなわち,制御ユニット8は,学習プログラムに基づきアクチュエータ4,5を駆動して変速レバー2を第2図のようにセレクト方向SE及びシフト方向SF(X軸方向,Y軸方向に相当)に移動させてその可動範囲(A,B,C,D,E,R及びa〜n)を確認し(乙5の3頁右上欄6行目から左下欄18行目の記載参照 ,その操作位置を記憶するように構成されている(乙 )5の3頁左下欄8行目から11行目の「変速レバー2の各ポジション及び変速レバー2の移動通路の幅のパターンデータを得,これらのデータをメモリ13にストアする 」の記載参照 。これによって,変速レバー2のシフト位 。)置の自動学習がなされる(乙5の3頁左下欄15行目から18行目の「このプログラムを用いると変速レバー2の位置制御に必要な全てのデータが制御装置の学習プログラムの実行により自動的に得られる」の記載参照 。)したがって,乙5には,構成要件B1のうち,モータへの電流を制御することを除く 「前記変速レバーをX軸方向およびY軸方向にそれぞれ移動し ,てその可動範囲を確認してその操作位置を記憶させることにより 」及び構,成要件B2の「変速レバーのシフト位置を自動的に学習させるようにした」が開示されている。
(ウ)構成要件Cの構成が開示されていること乙5は,上記の特徴を備えた自動車等の車両の自動変速機用位置制御装置に関するものであるから,構成要件Cの「ことを特徴とする自動車自動運転ロボットの制御方法」という構成が開示されていることは明らかである。
イ乙5に開示のない構成は乙1に開示されていること上述のように,乙5には,アクチュエータの駆動にモータを用いることを除, , き,構成要件Aに対応する 「A’2つのアクチュエータ(アクチュエータ45)によってX軸方向およびY軸方向(セレクト方向SE及びシフト方向SF)にそれぞれ移動可能な変速レバー(変速レバー2)を備えた自動車自動運転ロボットにおいて 」の構成が記載され,また,モータへの電流を制御する ,ことを除き,構成要件B1,B2,Cに対応する 「B1’前記変速レバー ,(変速レバー2)をX軸方向およびY軸方向(セレクト方向SE及びシフト方向SF)にそれぞれ移動してその可動範囲(乙5の第2図のA,B,C,D,E,R及びa〜n)を確認してその操作位置を記憶させる(メモリ13)ことにより「B2’変速レバー(変速レバー2)のシフト位置を自動的に学習 ,」,させるようにした「C’ことを特徴とする自動車自動運転ロボットの制御方 」,法」の構成が記載されている。
このように,本件特許発明と乙5に記載された発明との間には,アクチュエータを電流制御がなされるモータで駆動するという相違点があるのみで,作用効果においても実質的に異なる点はない。
しかしながら,この相違点は,乙1に開示されている。すなわち,乙1のロボットは,アクチュエータを電流制御がなされるDCモータで駆動するように構成されている。したがって,乙5の油圧アクチュエータ4,5を乙1のDCモータ駆動式のギヤシフトアクチュエータで置き換えれば,本件特許発明のすべての構成A〜Cが得られる。そして,このような油圧式のアクチュエータとモータ式のアクチュエータとの相互置き換えが単なる設計変更事項にすぎないことは,乙1の58頁の「1.はじめに」に 「油圧や空気圧およびDCモー ,タを用いた各種の自動運転用ロボットが開発され,モード試験に使用されつつある」と記載されていることからも明らかである。モータへの電流制御を行うことが周知・慣用技術にすぎないことも上述したとおりである。
ウよって,本件特許発明は,乙5及び乙1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることは明らかであるから,特許法29条2項により特許を受けることのできない発明である。
(3) 無効理由3(乙1及び乙5による進歩性の欠缺)無効理由3は,無効理由1及び2に包含されているといってよいが,無効理由3は,本件特許の無効審決(乙11)で認定された無効理由であるので,念のために主張する。無効理由3における主張が無効理由1ないし2と矛盾するときは,無効理由3における主張は予備的に主張するものとする。
ア乙1,乙5に記載された発明別紙審決書の「3-4.引用例」に記載のとおり(なお,同審決書の「甲第1号証「甲1 (審判における証拠番号)の記載は 「乙1 (本訴における 」,」 ,」証拠番号)と読み替え,同じく「甲第2号証「甲2 (審判における証拠番 」,」号)の記載は 「乙5 (本訴における証拠番号)と読み替える。以下同じ) ,」イ対比別紙審決書の「3-5.対比・判断」の第1段落に記載のとおりウ上記相違点についての検討別紙審決書の「3-5.対比・判断」の第2段落以下に記載のとおりエよって,本件特許発明は,乙1及び乙5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることのできない発明である。
【原告の主張】(1) 無効理由1(乙1に基づく新規性の欠缺)について乙1は,その記載内容から明らかなように,本件特許発明をなす前提となった従来技術を開示するにすぎず,本件特許発明のすべての構成あるいは技術的思想を開示するものではない。
すなわち,乙1の「(2)ティーチングとラーニング」の項において 「図7に示,すティーチング画面でのロボットのギヤシフトアクチュエータ(X,Y,Z軸)を手動リモコンを使って操作し,各変速位置を学習させる」というのは,まさに特許公報(甲2)の【従来の技術】の項に記載された「従来は,変速レバーを駆動するためのアクチュエータをオペレータが手動で動かし,変速レバーが入っている位置を目視によって確認して,運転ロボットにその座標を記憶させることによって,シフト位置を学習させるようにしていた (段落【0003 )と同義の 」】ことを言っているにすぎない。
本件特許発明は,まさにそういったティーチング,すなわちオペレータである人が,手動リモコンを用いてするシフト位置の学習では 「シフト位置の教え込 ,みに熟練を要し,手間がかかる他,教え方が拙いと変速が上手く行われないことがあった (段落【0004 )という問題意識から 「運転ロボットに対して変 」】,速レバーのシフト位置を,誰でも簡単に,しかも,確実に教え込むことができるロボットの制御方法を提供すること (段落【0005 )を技術的課題としてな 」】されたものである。
したがって,乙1からは「自動的に,前記モータへの電流を所定電流よりも少なくしながら,前記変速レバーをX軸方向およびY軸方向にそれぞれ移動してその可動範囲を確認してその操作位置を記憶させることにより,変速レバーのシフト位置を自動的に学習させるようにした (下線部は,平成18年1月25日付 」けの訂正請求による訂正箇所)という,まさにロボット自身によるラーニングにまで昇華させた本件特許発明技術的思想を導き出すことはできない。
(2) 無効理由2(乙5及び乙1による進歩性の欠缺)について本件特許発明は,ロボット本体が「自動車の運転席の座席シートに固定され」ながら,自身でラーニングを行うという特別な条件下での独特の課題の解決を図ったものであって,乙5及び乙1に記載された発明から容易に導かれるものではない。
すなわち,本件特許発明では,ロボット自身が自動的に変速レバーをX軸方向及びY軸方向にそれぞれ移動して,その最大可動範囲を確認しながら,1速,2速,3速…とそれぞれのシフト位置を確認していく。その最大可動範囲を確認する際,前記モータへの電流を所定電流よりも少なくしながら行わないと,ロボットから際限なくシフトレバーに負荷を与えてしまい,その反力によりロボット本体の設けられた座席シートは弾性変形し,その状態で可動範囲を認識し,誤った学習をしてしまうことになる。
しかしそれでは,ロボットは最大可動範囲を超えた位置(XY座標)をもってシフト位置を認識することになり,実走行時においてはシフトグリップがシフトレバーからすっぽ抜けたり,ひいてはシフトレバーを破壊してしまう不都合が生じる。
そこで,本件特許発明では,ロボット本体が「自動車の運転席の座席シートに固定される」ことを前提として発生する誤った学習による不都合を解消すべく,特に 「前記モータへの電流を所定電流よりも少なくしながら,前記変速レバー ,をX軸方向およびY軸方向にそれぞれ移動してその可動範囲を確認」する構成を採用している。
一方,乙5は,自動変速機用位置制御装置にかかるものであるが,本件特許発明のように 「自動車の運転席の座席シートに固定される運転ロボット本体に設 ,けられ」るものではない。本件特許発明が前提としている状況設定におけるものではなく,したがってまた,本件特許発明が問題としている技術的課題が浮かび上がってくるものではない。もとより,その解決手段を提示するものでもない。
さらに付言すると,被告も自認するように,乙5は,油圧モータにかかるもので,本件特許発明のように電気的モータにかかるものではない。
したがって,乙5は,少なくともロボット本体が「自動車の運転席の座席シートに固定される」ことを前提として発生する誤った学習による不都合を解消するという技術的思想をまったく有していない。
また,乙1も,人が目視によって,変速レバーシフト位置の教え込みを行わせるものであって,ロボット自身が自動学習する際に発生する,そういった誤った学習による不都合を解消するという技術的課題に対するものではなく,これに対する解決手段を開示するものもない。
してみると,乙5及び乙1記載の発明をいくら組み合わせても 「前記モータ,への電流を所定電流よりも少なくしながら,前記変速レバーをX軸方向およびY軸方向にそれぞれ移動してその可動範囲を確認」する本件特許発明の特徴(技術的思想)を導き出すことはできない。
したがって,たとえ乙5記載の発明に乙1記載の発明を組み合わせたとしても,当業者が本件特許発明容易に想到するなどということはあり得ない。
6 争点(6)(原告の損害)について【原告の主張】(1) 被告の利益(特許法102条2項)ア被告装置の平均単価1700万円イ被告装置の販売台数15台(公告日の後の日である平成7年6月1日から平成17年7月31日まで)ウ被告装置の総売上額2億5500万円エ被告装置の利益率40%オ被告が被告装置の販売により受けた利益額1億0200万円(@)(2) 弁護士・弁理士費用相当額本件特許権侵害相当因果関係にある弁護士・弁理士費用相当額1000万円(A)(3) 原告の被った損害額合計@+A 1億1200万円【被告の主張】争う。
争点に対する当裁判所の判断
まず,争点(5)(本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか )につ。
いて判断する。
1 乙1に記載された発明(以下「引用発明1」という )。
(1)Xほか「モード運転用ロボット ,自動車技術Vol.43,No.11,58頁 」から64頁(1989年11月1日発行 (乙1)には 「モード運転用ロボッ ),ト」について,次の記載がある。
ア「シャシダイナモ上における完成車両の各種モード運転によるエミッション・燃費試験の自動化の要求が益々高まっている。自動化の目的は,省力化はもちろんであるが,運転の再現性の向上,低温,低圧化等の悪環境下での無人運転,長時間の無人運転などである。この目的のために近年,油圧や空気圧およびDCモータを用いた各種の自動運転用ロボットが開発され,モード試験に使用されつつある(58頁左欄2行目から9行目) 。」イ「本システムの全体の構成を図1に示す。このうち本ロボットは,主制御部(図2)とアクチュエータ部(ロボット本体と呼び図3に示す)から成る。主制御部は2個のCPU(i8088)とCRT,キーボード端末,サーボドライブ回路および電源から成る。CPUのうち1個は制御用であり,他の1個はマンマシンインターフェース用の操作用CPUである。アクチュエータ部はアクセル,ブレーキ,クラッチの各ペダルを操作するDCサーボモータ各1個とギヤをX,Y,Z軸に操作するDCモータがある(計6個のDCモータ(59)。」頁右欄3行目から15行目)ウ「ロボットを車にセットする場合は必ずティーチングを行う。図7に示すティーチング画面でロボットのギヤシフトアクチュエータ(X,Y,Z軸)を手動リモコンを使って操作し,各変速位置を学習させる。変速位置をすべて学習させると,次にラーニングモードに移る。ラーニングモードではアクチュエータが各ペダルに触れる位置と最大踏込位置を自動的に学習する。さらに,アクセルペダルの踏込量とニュートラルでのエンジン回転数の関係を学習し,ブレーキペダルの踏込量と操作量の関係も学習する。クラッチペダルについては接続開始点も学習する。シフトレバーについてはティーチングで学習した位置を順次復習する。以上によって,ロボットは対象車種に対するギヤ位置,アクセル等のペダル位置に対して学習したことになる (60頁右欄6行目から19 。」行目)(2) 以上の記載によれば,乙1には 「モータによってそれぞれ駆動される2つの ,アクチュエータによってX軸方向およびY軸方向にそれぞれ移動可能なシフトレバーを備えたモード運転用ロボット」において,車両の運転席にセットされた同ロボットに対して 「ロボットのギヤシフトアクチュエータ(X,Y,Z軸)を ,手動リモコンを使って操作し,シフトレバーの各変速位置を学習させる制御方法」が記載されており,また,車両の運転席にセットされた同ロボットの制御方法では,同ロボットは 「アクセルペダル,ブレーキペダル及びクラッチペダル ,の最大踏込位置等を自動的に」学習しているものであることが記載されているものと認められる。
2 乙5に記載された発明(以下「引用発明2」という )。
(1)特開昭58-180327号公報(乙5)には,発明の名称を「自動変速機用位置制御装置」とする発明について,次の記載がある。
ア「本発明は,自動変速機用位置制御装置に関し,更に特定して述べると,内燃機関用車輌用の変速機の変速レバーに連結されたアクチュエータを制御ユニットからの制御信号に従って駆動し,変速レバーを所望の位置に切換えるようにした自動変速機用位置制御装置に関する (1頁右下欄5行目から10行 。」目)イ「本発明の目的は,従って,従来装置における上述の位置決め調整の手間を省略することができる,学習機能を備えた自動変速機用位置制御装置を提供することにある(2頁左上欄18行目から右上欄1行目) 。」ウ「自動変速装置1は変速レバー2を含む変速機3と,該変速レバー2に夫々連結されこの変速レバー2をシフト方向(SF)及びこれと直角のセレクト方向(SE)に移動させるための油圧アクチュエータ4,5とを備え,油圧アクチュエータ4,5にはシフト位置センサ6及びセレクト位置センサ7が夫々連結されている。シフト位置センサ6は変速レバー2のシフト方向(SF)の位置を示す電圧信号V1を出力し,一方,セレクト位置センサ7は変速レバー2のセレクト方向(SE)の位置を示す電圧信号V2を出力する。これらの電圧信号V1,V2は,変速レバー2の所望の切換位置を指令するコマンド信号Sが入力されている制御ユニット8の中央演算処理装置(CPU)9にフィードバック信号として入力されており,CPU9はコマンド信号Sにより指示された切換位置に変速レバー2を位置決めするための駆動制御信号C1,C2を出力し,これらの駆動制御信号C1,C2により,油圧アクチュエータ4,5に設けられている電磁弁10,11の開閉制御が行われ,油圧源12から供給される油圧の各アクチュエータへの供給量が制御されることにより,変速レバー2の位置制御が行なわれる。電圧信号V1,V2及びコマンド信号Sに応答して行われる上述の位置制御動作は,メモリ13に予めストアされている各データ及び制御プログラムに基づいて行なわれる (2頁左下欄8行目から右下欄 。」14行目)エ「本制御ユニット8には,適切な移動路を学習により決定するための学習プログラムがセットされている。第2図には,上述の学習プログラムによる学習動作の基本的動作が示されている (3頁右上欄3行目から7行目) 。」オ「その基本動作は,変速レバー2の移動通路の形状及びその位置を測定するために,変速レバー2を移動通路の少なくとも幅方向に移動させ,移動通路の両側の位置に応じた電圧信号V1,V2を検出する作業の繰返しである。即ち,第2図のa位置に変速レバー2があったとすると,先ず,変速レバー2をシフト方向にb↑c↑d↑eの如く移動させ,この点における移動通路の幅を知り,その移動通路の両側からの中心位置fを算出する。次に,シフト方向の位置を上記fの位置に固定し,変速レバー2をセレクト方向に動かし,その位置をg↑h↑i↑jとし,このセレクト方向の許容幅の値からニュートラル位置kを求める。ニュートラル位置kが求められたならば,変速レバー2をこの位置kに位置決めした後,セレクト方向にl↑m↑nと動かし,その移動範囲の中心値oを算出し,値oが先に算出したfの値と実質的に同一であることを確認する。以後,同様な手法により,1速,2速,…の各ポジション位置A,B,C,D,E,R,並びに移動通路の他の部分の幅の位置を測定し,変速レバー2の各ポジション及び変速レバー2の移動通路の幅のパターンデータを得,これらのデータをメモリ13にストアする。以後の変速レバー2の位置決め操作は,このメモリ13にストアされたデータに基づいて行なわれる。この例に示された学習動作は,イニシャルデータセットを行なう場合に適用できるものであり,このプログラムを用いると変速レバー2の位置制御に必要な全てのデータが制御装置の学習プログラムの実行により自動的に得られるので,組立時の調整が不要となり,製造工程での工数を著しく減少させることができ,コストの低減を期待することができる (3頁右上欄7行目から左下欄末行) 。」カ「本発明によれば,上述の如く,変速レバーをシフト及びセレクト操作する場合の移動路を学習によって自動的に決定し,移動通路の許容幅内において常に適切な移動路を選んでギアチェンジを行なえる (5頁左上欄7行目から1 。」1行目)(2) 以上の記載によれば,乙5には 「油圧源12から供給される油圧によってそ ,れぞれ駆動される2つの油圧アクチュエータ4,5によってセレクト方向(SE)及びシフト方向(SF)にそれぞれ移動可能な変速レバー2を備えた自動変速機用位置制御装置」において 「油圧を制御しながら前記変速レバー2をセレ ,クト方向(SE)及びシフト方向(SF)にそれぞれ移動してその可動範囲を確認してその操作位置を記憶させることにより,変速レバー2のシフト位置を自動的に学習させる方法」が記載されているものと認められる。
3 本件特許発明と引用発明1との対比本件特許発明と引用発明1とを比較すると,引用発明1の「シフトレバー」が本件特許発明の「変速レバー」に,引用発明1の「モード運転用ロボット」は本件特許発明の「自動車自動運転ロボット」にそれぞれ相当することが明らかである。また,引用発明1の「ロボットのギヤシフトアクチュエータ(X,Y,Z軸)を手動リモコンを使って操作し,シフトレバーの各変速位置を学習させる」は,本件特許発明の「変速レバーをX軸方向およびY軸方向にそれぞれ移動してその操作位置を記憶させることにより,変速レバーのシフト位置を学習させる」に相当するものである。
したがって,本件特許発明と引用発明1は 「モータによってそれぞれ駆動され ,る2つのアクチュエータによってX軸方向およびY軸方向にそれぞれ移動可能な変速レバーを備えた自動車自動運転ロボットにおいて,前記変速レバーをX軸方向およびY軸方向にそれぞれ移動してその操作位置を記憶させることにより,変速レバーのシフト位置を学習させるようにした自動車自動運転ロボットの制御方法」である点で一致し,変速レバーのシフト位置の学習について,本件特許発明が 「モー,タへの電流を制御しながら」変速レバーをそれぞれ移動して「その可動範囲を確認して」その操作位置を記憶させることにより,変速レバーのシフト位置を「自動的に」学習させるのに対して,引用発明1は,このような構成を有しない点で相違している。
4 本件特許発明容易想到性そこで,上記相違点を当業者が容易に想到できたものであるかを検討する。
(1)上記1によれば,引用発明1のモード運転用ロボットは,変速レバーの位置を自動的な学習ではない「ティーチング」によって学習しているが,アクチュエータがアクセル,ブレーキ,クラッチの各ペダルに触れる位置と最大踏込位置については自動的な学習である「ラーニング」で学習するものであることが認められる。そうすると,引用発明1では,アクセル,ブレーキ,クラッチと同様に自動車自動運転ロボットが操作する「変速レバー」についても 「自動的に位置を,学習させる」という技術的課題があることが認められる。
上記2によれば,引用発明2は,本件特許発明及び引用発明1と同様,車両に設置され,変速レバーの位置を自動的に制御する自動変速機用位置制御装置において,2つのアクチュエータを制御して変速レバーをセレクト方向(SE)及びシフト方向(SF)にそれぞれ移動してその可動範囲を確認してその操作位置を記憶させることにより,変速レバーのシフト位置を自動的に学習させる方法についての発明であることが認められる。
引用発明1と引用発明2は,共に車両に設置され,変速レバーの位置を自動的に制御する装置に関するものであるから,共通の技術分野に属するものと認められる。
そうすると,引用発明1に引用発明2の変速レバーの操作位置の学習の技術を用いることは,当業者であれば容易に想到し得たものであると認められる。
また,引用発明1は,DCモータを用いてシフトレバーを移動するものであるから,モータへの電流を制御しながらシフトレバーを移動させることは,当業者が当然に採用する事項である。
そして,本件特許発明の作用効果も,引用発明1及び引用発明2から,当業者であれば予測できる範囲のものである。
(2)原告は,本件特許発明は,ロボット本体が「自動車の運転席の座席シートに固定され」ながら,自身でラーニングを行うという特別な条件下での独特の課題,すなわち,変速レバーをX軸方向及びY軸方向にそれぞれ移動してその最大可動範囲を確認する際 「モータへの電流を所定電流よりも少なくしながら」行わな ,いと,誤った学習をしてしまうという不都合を解決するために,特に 「モータ,への電流を所定電流よりも少なくしながら」変速レバーをX軸方向及びY軸方向にそれぞれ移動してその可動範囲を確認する構成を採用しているのに対し,引用発明1及び2は,このような技術的課題に対するものではなく,これに対する解決手段を提示するものでもない旨主張する。
原告の上記主張は,被告から請求された無効審判請求手続(乙9)において,平成18年1月25日付けでした訂正請求に係る請求書(甲11の1)添付の明細書(甲11の2)に基づくものであると認められるところ,特許庁は,同年9月12日付けで,同訂正請求を認めず,本件特許を無効とする審決をし(乙11 ,原告は,同年10月17日,同審決の取消しを求める訴えを知的財産高等 )裁判所に提起した(甲12)ことが認められる。したがって,少なくとも本件の口頭弁論終結日である同年10月19日現在において,当裁判所としては,本件特許発明は,その特許請求の範囲に記載されたとおり 「モータへの電流を制御 ,しながら」変速レバーをX軸方向及びY軸方向にそれぞれ移動してその可動範囲を確認するとの構成が採用されているものとして,前記第2の1(2)のとおりその発明の要旨を認定し,特許法29条1項,2項の特許要件の有無の判断をせざるを得ない。そうすると,本件特許発明は,原告が主張するような「モータへの電流を所定電流よりも少なくしながら」変速レバーをX軸方向及びY軸方向にそれぞれ移動してその可動範囲を確認するとの構成を採用するものではないから,本件特許発明が,原告が主張するような技術的課題に対する解決手段を提示するものであるかどうかは,本件明細書及び図面の記載を参酌しても不明であるというほかない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(3)以上によれば,本件特許発明は,引用発明1及び2に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,進歩性に欠け,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができないものである。
5 結論したがって,本件特許発明は,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであり,同法123条1項2号の無効事由を有することになる。よって,本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものであるから,特許法104条の3第1項により,特許権者である原告は,被告に対し本件特許権に基づく権利を行使することができない。したがって,原告の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官 西理香
裁判官 西森みゆき