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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成16ワ20636特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 容易に実施 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  公知技術 /  技術的範囲 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  クレーム /  特許出願日 /  優先日 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  間接侵害 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  方法の使用 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 17年 (ワ) 2274号 特許権侵害差止請求事件
原告 オーテーベー ソシエテ アノニム
同訴訟代理人弁護士 中島和雄
同補佐人弁理士 川口義雄
同 小野誠
同 坪倉道明
被告 オルガノ株式会社
同訴訟代理人弁護士 永島孝明
同 安國忠彦
同 明石幸二郎
同補佐人弁理士 中尾俊輔
同 伊藤高英
同 畑中芳実
同 大倉奈緒子
同 玉利房枝
同 鈴木健之
同 磯田志郎
同 細田浩一
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2006/05/26
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
被告は,別紙1物件目録1及び2記載の超高速凝集沈殿装置を製造し,販売し又は販売の申し出をしてはならない。
事案の概要
本件は,被告装置の販売等が原告特許権の間接侵害(101条3号)に当たると主張して,原告が,被告に対し,主位的に請求項1の発明に基づき,予備的に請求項2の発明に基づき,被告装置の製造・販売等の差止めを求めたのに対し,被告が,構成要件の充足を争い,進歩性欠如等の無効理由を主張して争った事案である。
1 前提事実( ) 本件特許権1原告は,以下の特許権を有する(以下,この特許権を「本件特許権」といい,その請求項1の発明を「本件発明1」,請求項2の発明を「本件発明2」といい,両者を併せて「本件発明」という。また,別紙3のとおり訂正された後の本件特許権に係る明細書及び図面を「本件明細書」という。別紙2として添付したものは,訂正請求の内容が反映される前のものである。)。
特許番号 特許第2634230号発明の名称 細砂を用いて沈降により液体を処理するための方法及び装置優先権主張 1988年2月25日 フランス共和国特許出願日 平成元年2月23日特許登録日 平成9年4月25日訂正審決の確定登録日 平成11年1月27日特許請求の範囲請求項1コロイド混入及び不安定化スペースが内部につくりあげられている未処理液流内に試薬を注入するという沈降による液体処理法であって,前記液流は中間コロイド凝集スペース内を循環し,次に清澄化された液体が取出される分離板を備える沈降スペースに入り,液より濃厚な不溶性粒状物質があらかじめ定められた比率で,乱流が維持される混合スペース内の液中に注入され,乱流は中間凝集スペース内に生じて粒状物質を懸濁状態に保ち,事実上すべての粒状物質が沈降スペースにもたらされ,沈降スペース内で回収されたスラッジが除去され,粒状物質がそこから除去され,洗滌後に再循環されることを特徴とする,方法。
請求項2混合スペース内で,中間凝集スペース内で維持されるものより明らかに大きな速度勾配が維持されることを特徴とする,特許請求の範囲第1項に記載の方法。
(争いのない事実)( ) 構成要件の分説2ア 本件発明1の構成要件を分説すれば,次のとおりである。
@ コロイド混入及び不安定化スペースが内部につくりあげられている未処理液流内に試薬を注入するという沈降による液体処理法であって,A 前記液流は中間コロイド凝集スペース内を循環し,, B 次に清澄化された液体が取出される分離板を備える沈降スペースに入りC 液より濃厚な不溶性粒状物質があらかじめ定められた比率で,乱流が維持される混合スペース内の液中に注入され,D 乱流は中間凝集スペース内に生じて粒状物質を懸濁状態に保ち,E 事実上すべての粒状物質が沈降スペースにもたらされ,沈降スペース内で回収されたスラッジが除去され,F 粒状物質がそこから除去され,洗滌後に再循環されるG ことを特徴とする,方法。
,, 。 イ 本件発明2は 本件発明1の構成要件に次のHが加わったものであるH 混合スペース内で,中間凝集スペース内で維持されるものより明らかに大きな速度勾配が維持される(争いのない事実)(3) 被告の行為,, ,「」 ア 被告は 業として 平成11年10月ころから スーパーオルセトラー(。「 」 。), なる装置名の超高速凝集沈殿装置 甲3 以下 被告装置 という を製造し企業等に販売している。
(争いのない事実)イ 原告は,被告が被告装置の一部として別紙1物件目録1記載の装置(以下「イ号装置」という。)を製造等している旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。
ウ 原告は,被告は被告装置の一部として別紙1物件目録2記載の装置(以下「ロ号装置」という。)を製造等していると主張している。
被告はロ号装置の製造等を認めているが,その細部の構成及びロ号装置を使用した方法(以下「ロ号方法」という。)の細部の構成については,争いがある。
2争点( ) ロ号方法の構成要件充足性 1ア ロ号装置の構成イ ロ号方法の構成ウ 本件発明1の充足の有無エ 本件発明2の充足の有無( ) 無効の抗弁(特許法104条の3)の成否 2ア 特許法36条5項違反イ 特許法36条4項違反ウ 進歩性の欠如3 争点( )(ロ号方法の構成要件充足性)に関する当事者の主張 1( ) 原告の主張1ア ロ号装置の構成ロ号装置の構成は,別紙1物件目録2に記載のとおりである。
イ ロ号方法の構成ロ号方法は,別紙4ロ号方法に記載のとおりである。
ウ 本件発明1の侵害(主位的請求)(ア) 構成要件@及びG(液体処理方法)a(a) ロ号方法の要件bの「予備凝集槽14」は,その中で被処理水中のコロイド状態の懸濁物質が無機凝集剤の添加により凝集(不安定化)している。
(b) よって,本件発明1の構成要件@の「コロイド混入及び不安定化スペース」に該当する。
b ロ号方法の要件bの「無機凝集剤」及び要件cの「高分子凝集剤16」は,構成要件@の「試薬」に該当する。
c ロ号方法は 「未処理液流内に試薬を注入するという沈降による液体処 ,理法」の一種である。
d よって,ロ号方法の要件aないしcは,併せて構成要件@及びGを充足する。
(イ) 構成要件C(混合スペース)「」, 。 a 構成要件Cの 液より濃厚な は 被処理水より比重が大の意味であるb ロ号方法のフロック形成槽1内の上段の撹拌翼の下方は,構成要件Cの「混合スペース」に該当する。
c よって,ロ号方法の要件dないしfは,併せて構成要件Cを充足する。
(ウ) 構成要件A及びD(中間コロイド凝集スペース)a ロ号方法の要件gのフロック形成槽1内の上段の撹拌翼の上方は,構成要件Aの「中間コロイド凝集スペース」に該当する。
b すなわち,本件発明1は「本発明は公知方法と関連して凝集スペース ,内のかなりの乱れを結びついた粒状物質の使用を特徴とする (別紙2の6欄2」9〜30行)ものであり,本件発明1の本質的な特徴は,粒状物質のまわりへの不安定化コロイドの凝集を当該粒状物質を懸濁状態に保持する乱流下にて行い,乱流の内部で被処理水を循環させる工程を行う領域をフロック形成用のスペースとして設けることにある。乱流は,微小フロック,粒状物質及びそれらから成るフロック同士の接触機会を増加させ,懸濁状態で循環させることにより,沈殿を防止しつつフロック成長に十分な滞留をさせ,相まってフロックの濃厚化を助長する。濃厚化した重いフロックは,次いで撹拌されない沈降スペースにおいて被処理水から速やかに分離して沈降する。すなわち 「殆んどの沈降は分離板を含 ,む沈降スペース内で生じ (同6欄31〜32行)る結果 「本発明は,細砂を 」,用いた公知方法に比較して,30〜60m/h及びさらには90m/hの沈降速度が平常的に期待できる…から,非常に明らかな量的増大が得られる (同11」欄31〜34行)というものである。
c( ) 請求項1は,公知技術との対比における本件発明1の上記本質的特 a徴を過不足なく記載している。
( ) すなわち,本件発明1の方法中,中間コロイド凝集スペースに関する b構成は 「前記液流は中間コロイド凝集スペース内を循環」すること(構成要件 ,A ,及び「乱流は中間凝集スペース内に生じて粒状物資を懸濁状態に保」つこ )と(構成要件D)の2要件であり,この2要件が充たされる限り,その効果として,中間コロイド凝集スペースにおいて粒状物質を含むフロックの形成・成長がはかられるという関係である。本件発明1の目的効果が特許請求の範囲に記載されていなくても,そのような効果をもたらすための手段方法としての構成要件A及びDが規定されている以上,本件発明1の技術的範囲は十分特定しているというべきである。
(c) 逆に,フロックが破壊されるような実施は,本件明細書の記載に照らし本件発明1の目的を逸脱することになるから,クレーム解釈上,当然技術的範囲外とされるはずであって,この点からも,フロックの形成・成長の点を構成要件として規定する必要はない。
( ) また,中間コロイド凝集スペース内の乱流の速度勾配は,最小限粒状 d,, 物質を懸濁状態に保ち得るものでなければならないが 使用する粒状物質の比重大きさ,量のほか,被処理水の量や濁度等によってもその速度勾配の数値は異なるから,一律にその数値を規定することができない。
( ) 被告は,撹拌器の撹拌エネルギーが加えられる範囲内において,全体 e的な乱れが作られ,一定の乱流が生じているとみなされる旨主張するが,槽内に「」 「」 , 全体的な乱れ が生じてそれを 一定の乱流 と呼ぶことが許されるとしてもそのことから,すべての領域が一定の速度勾配であるという結論が導かれるわけはない。
,, ( ) , また 被告は 本件明細書記載の速度勾配の公式 9欄45行以下 に関して仮に液体の容積Vとして撹拌槽内の一部の領域を任意に設定することが許されるとしても,撹拌槽内の領域の設定次第で速度勾配が変更されるため,液体内に生じる変形を数量化することは不可能である旨主張するが,撹拌槽内の領域により速度勾配が異なるかと,それを数量化することができるかとは,別問題である。
d よって,ロ号方法の要件gは,構成要件A及びDを充足する。
(エ) 構成要件B(沈降スペース)a ロ号方法の要件h及びiの「沈殿槽2」は,その領域全体が構成要件Bの「沈降スペース」に該当する。
b したがって,ロ号方法の要件h及びiは,構成要件Bのうち「清澄化された液体が取出される」点を除くその余の構成要件を充足し,ロ号方法の要件jのうち「清澄水は沈殿槽2上部の取出口から…槽外に取出…される」点は,構成要件Bのうち「清澄化された液体が取出される」との構成要件を充足する。
c よって,ロ号方法の要件hないしjは,併せて構成要件Bを充足する。
(オ) 構成要件E(スラッジ除去等)ロ号方法の要件hのうち「事実上すべての粒状物が沈殿槽2にもたらされる」との点及び要件jは,併せて構成要件Eを充足する。
(カ) 構成要件F(粒状物質の再循環)ロ号方法の要件k及びlは,併せて構成要件Fを充足する。
(キ) まとめよって,ロ号方法は,本件発明1の構成要件をすべて充足する。
(ク) 間接侵害ロ号装置は,本件発明1の方法の使用にのみ用いられるものである。
エ 本件発明2の侵害(予備的請求)(ア) 構成要件H(混合スペース内の速度勾配)ロ号方法の要件e及びgは,構成要件Hを充足する。
(イ) まとめよって,ロ号方法は,本件発明2の構成要件をすべて充足する。
(ウ) 間接侵害ロ号装置は,本件発明2の方法の使用にのみ用いられるものである。
( ) 被告の主張2ア ロ号装置の構成(ア) ロ号装置が別紙1物件目録2の要件AないしEのとおりであることは,認める。ただし 「予備凝集槽14」については 「無機凝集槽14」と名付け ,,る方が適当である。
(イ) 同F-1の「二段の撹拌翼のうち,下段は角筒形部の下端に…設けられている」ことについて,ロ号装置の一部については認めるが,その余のロ号装置については否認する。
同F-2は認める。
。, , (ウ) 同Gは認める ただし 移送口7の沈殿槽2側には壁が設けられており当該壁によって通路が形成され,通路は沈殿槽2の下部に開口している。このため,吸合体は当該通路を通って沈殿槽2の下部に流入し,吸合体のほとんどは沈殿槽2の下部にそのまま沈降する。
(エ) 同HないしLは認める。
(オ) 別紙1物件目録2に添付された図面において,撹拌軸の下端の撹拌翼の上側に下向きから上向きに反転する矢印が記載されているが,撹拌器15及び6の撹拌翼は下向きの水流を形成するものであるから,撹拌翼の上側で被処理水が下向きの流れから上向きの流れに反転することはない。被処理水は,撹拌器15及び6によって,予備凝集槽14及びフロック形成槽1内のそれぞれの全体を循環している。
さらに,粒状物が角錐形部の下端に向かって一定に沈降する矢印は,誤りである。フロック形成槽1内の被処理水は,フロックを形成するために一様に分散できるように撹拌器6によって撹拌されているので,粒状物供給管5の下端から供給された粒状物は即座にフロック形成槽1内全体に一様に分散される。
イ ロ号方法の構成(ア) ロ号方法が別紙ロ号方法の要件aないしcのとおりであることは認める。
(イ) 同dのうち「高流速で」流入することは否認し,その余は認める。
ロ号方法では,予備凝集槽14の水位とフロック形成槽1の水位との高低差による自然の流れを利用しているにすぎない。また,ロ号装置においては,従来の沈殿装置に比して沈殿槽の断面積が小さいために,沈殿槽のLV(沈殿槽における被処理水の上昇流の線速度)がより速くなっただけである。
(ウ) 同eは否認する。
ロ号装置のフロック形成槽1は,撹拌器6によって撹拌され,撹拌器6は,1台のモーターによって1本の撹拌軸を回転させ,撹拌軸に設けられた2段の撹拌翼によって被処理水を撹拌する。しかも,フロック形成槽1内の角錐形領域と角筒形領域の境界に壁等は設けられていないので,撹拌器6の撹拌エネルギーは,フロック形成槽1内の被処理水全体に対して加えられるのであり,その一部である角錐形領域への撹拌に用いられるものと角筒形領域への撹拌に用いられるものとに分離できるものではない。したがって,角錐形領域の乱流と角筒形領域の乱流を区別することはできず,フロック形成槽1内には全体として一定の速度勾配の乱流が生じている。
この点について,本件明細書においては「撹拌装置6は撹拌装置7より高い ,周速で駆動され,その結果,各室1及び2の内容物は活発に撹拌され,室2内より室1内でより強力な乱れを内部に生じる(別紙2の9欄41〜44行)と 。」記載されており,撹拌装置6及び7によって,それぞれ室1及び室2内に一定の乱流を発生させている。そして 「混合室1は仕切り16によって凝集室2から ,距てられ (同8欄47,48行)との記載から明らかなように,本件発明1で 」は,仕切り16によって混合室1及び中間凝集室2を物理的に仕切り,混合室1内には高い周速で駆動される撹拌装置6を配置し,中間凝集室2内には低い周速,。 で駆動される撹拌装置7を配置することによって 異なる乱流を発生させているまた,本件明細書には,速度勾配について次のような記載がある。
「 液体内に生じる変形を量子化するため,速度勾配Gとして推論すれば,室1内に与えられる速度勾配は室2に与えられるそれより大きい。
このパラメータは次の式によって限定される…1/2G=(P/μ・V)但し機能的撹拌機の混合はP=Np・ρ・N D であり,25式中,・Gは速度勾配(単位 ,s-1)・Pは流体内で消失するエネルギー(単位W ,)・μは流速(単位 ,kg/m.s)・Vは流体の容積(単位 ,m3)・Npは撹拌機の力数(流体内の撹拌機羽根の抗力の非次元係数 ,)・P[注・ ρ」が正しい]は単位体積当りの質量(単位 , 「) kg/m3・Nは撹拌羽根の回転速度( ,r.p.s.)・Dは撹拌かいの直径(単位m)である (同9欄45行〜10欄12行) 。」上記の速度勾配Gの式において,撹拌機から与えられるエネルギーは,撹拌機単位で決定され,室1と室2のそれぞれ全体に加えられるものであるから,流体の容積Vは,撹拌機の撹拌エネルギーが加えられる範囲である室1又は室2の容積を前提としていることは明らかである。仮に,流体の容積Vとして撹拌槽内の一部の領域を任意に設定することが許されるとしても,撹拌槽内の一部の領域における撹拌機の消失エネルギーPを求めることができない場合には,速度勾配Gを求めることはできない。さらに,撹拌機の消失エネルギーPを求めることができたとしても,撹拌槽内の領域の設定しだいで速度勾配が変更されるため,液体内に生じる変形を数量化することは不可能である。
(エ) 同fのうち 「所定比率の粒状物」は否認し,その余は認める。 ,ロ号方法においては,一定の濃度となるようにフロック形成槽1の容積に応じて設定される量の粒状物が供給される。
(オ) 同gは否認する。
ロ号方法は,@フロック形成槽1の前段に設置された予備凝集槽14において形成された無機のフロック,A高分子凝集剤及びB粒状物が添加された被処理水を,フロック形成槽1内において,撹拌器6で撹拌することにより,沈降速度の大きい吸合体を形成させる。そして,前記のとおり,ロ号装置は,撹拌器6によってフロック形成槽1内全体の被処理水を撹拌しているので,フロック形成槽1の全体に一定の速度勾配の乱流が形成される。
しかも,ロ号装置において,粒状物供給管5の下端部の位置は一律ではなく,角錐形部と角筒形部の境界から約300〜1000mm上方の角筒形部内に位置しているものと,境界から約100mm下方の角錐形部内に位置しているものとが存在する。
(カ) 同hは認める。
(キ) 同iは否認する。
ロ号装置では,沈殿槽2に流入する吸合体のほとんどは沈殿槽2の下部にそのまま沈降し,極一部の沈降速度の小さい吸合体のみが水の流れに乗って沈殿槽2の上方に移送される。ロ号装置における沈殿槽2内の分離板8は,この極一部の沈降速度の小さい吸合体を分離するために設置されている。
(ク) 同j及びkは認める。ただし,沈殿槽2下部の排出口10から排出されるのは,正確には「吸合体」である。
(ケ) 同lは認める。
ウ 本件発明1の侵害(ア) 構成要件@及びG(液体処理方法)a 原告の主張ウ(ア)a( ),b及びcは認め,a( )及びdは否認する。 abb 本件発明1の「コロイド混入及び不安定化スペース」という用語は,凝集沈殿の分野において一般的に用いられる技術用語ではなく,当業者にとってその意味を明確に把握することはできないが,本件明細書の記載からは,本件発明1の「コロイド混入及び不安定化スペース」とは,コロイドを含む未処理液体中に,試薬及び細砂を注入し,撹拌及び細砂によってコロイドを不安定化させる領域であると解釈される。
c ロ号装置では,予備凝集槽14において,コロイド状態の懸濁物質を含む被処理水中に無機凝集剤を注入し,無機凝集剤によって被処理水中のコロイド,, 状態の懸濁物質を凝集して無機のフロックを形成し フロック形成槽1において無機のフロックを含む被処理水中に粒状物質が混合される。したがって,ロ号装置の予備凝集槽14には粒状物質は注入されず,したがって,ロ号装置のフロック形成槽1には粒状物質を含む被処理水が流入しないから,ロ号方法は,本件発明1の「コロイド混入及び不安定化スペース」を具備するものではない。
(イ) 構成要件C(混合スペース)a 同(イ)は否認する。
b 「液より濃厚な」の「濃厚」とは 「色や味が濃いこと 」を意味し, ,。
比重が大きいことを意味するものではない。
c また,ロ号方法においては,フロック形成槽1内に全体として一定の速度勾配の乱流が形成されるので,速度勾配の比較的大きい乱流中で粒状物質が被処理水に混合される空間は存在しない。
d さらに,原告の解釈を採用すれば,本件発明の従来技術として説明されているフランス特許1411792号公報(乙2。以下「引用例1」という )。
にも中間コロイド凝集スペースが存在することになるので,このような原告の解釈は採用されるべきではない。
(ウ) 構成要件A及びD(中間コロイド凝集スペース)a 同(ウ)は否認する。
b 前記のとおり,ロ号装置においては,フロック形成槽1内全体に一定の,, 速度勾配の乱流が形成されるのでフロック形成槽1内の上段の撹拌翼の上下で乱流が異なるものではない。
(エ) 構成要件B(沈降スペース)同(エ)は認める。
(オ) 構成要件E(スラッジ除去等)同(オ)は認める。
(カ) 構成要件F(粒状物質の再循環)同(カ)は認める。
(キ) まとめ同(キ)は否認する。
(ク) 間接侵害a 同(ク)は否認する。
b ロ号装置は,被処理水の流速を適宜変更することが可能であり,種々の条件での凝集沈殿方法を実施することができるから,ロ号方法の実施にのみ使用されるものではない。
エ 本件発明2の侵害(ア) 構成要件H(混合スペース内の速度勾配)a 同エ(ア)は否認する。
b フロック形成槽1内には,全体として一定の速度勾配の乱流が生じているから,ロ号方法は,構成要件Hを充足しない。
(イ) まとめ同(イ)は否認する。
(ウ) 間接侵害a 同(ウ)は否認する。
b ロ号装置は,被処理水の流速を適宜変更することが可能であり,種々の条件での凝集沈殿方法を実施することができるから,ロ号方法の実施にのみ使用されるものではない。
4 争点( )(無効の抗弁(特許法104条の3)の成否)に関する当事者の主張 2( ) 被告の主張1ア 無効理由1(特許法36条5項違反),, , (ア) 本件発明1は 次の(イ)ないし(カ)のとおり 記載されている用語それ自体その外延が不明瞭なものであり,発明の詳細な説明参酌しても,その内容を特定することができない。
よって,本件発明1は,発明の構成に欠くことができない事項が記載されているとは認められないから,平成5年改正特許法36条5項に規定する要件を満たしておらず,同法123条1項4号により無効とされるべきものである。
(イ) 「コロイド混入及び不安定化スペース」及び「コロイド混入及び不安定化スペースが内部につくりあげられている未処理液流内」の意味が,不明瞭である。
「コロイド混入及び不安定化スペース」と「混合スペース」とは別個のスペースである以上,同一のスペースではあり得ないはずである。
(ウ) 「混合スペース」と「中間コロイド凝集スペース」の関係が不明確である。
原告は,ロ号装置におけるフロック形成槽1中の上段の撹拌翼の上方について「中間コロイド凝集スペース」に該当すると主張しておきながら,上段の撹拌翼の下方の部分については「混合スペース」に該当するとも主張しており,この主張自体,本件発明1が発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものではないことを証明している。
(エ) 「液より濃厚な不溶性粒状物質」の意味は,不明瞭であり,これを「被処理水よりも比重が大である」ことを意味すると解することはできない。
, 本件明細書(別紙2)の7欄15〜27行に不溶性粒状物質についての説明があり「」 。「」「 , 軽石 が例示列挙されている 軽石 は 火山から噴出した溶岩が急冷する際に。,。」 噴出ガスが逸出して多孔性海綿状となった岩石 質はもろく小孔があり 水に浮くと定義されるから,発明の詳細な説明によっても「液より濃厚な」の意味を「被処 ,理水より比重が大の意味である」と認めることはできない。
(オ) 本件発明1には 「乱流が維持される混合スペース内の液中に注入され, ,乱流は中間凝集スペース内に生じて」と記載されているが,発明の詳細な説明によれば,これらの各乱流が速度勾配の異なる乱流であることは,明らかである。しかしながら,各「乱流」について,それ以上の特定はされていない。
(カ) 本件発明1には,@コロイド混入及び不安定化スペースが内部につくりあげられている未処理液流内に試薬を注入するという沈降による液体処理法であって,と前提部分が記載され,続けて具体的な液体処理法について,A前記液流は中間コロイド凝集スペース内を循環し,B次に清澄化された液体が取出される分離板を備える沈降スペースに入り,C液より濃厚な不溶性粒状物質があらかじめ定められた比率で,乱流が維持される混合スペース内の液中に注入され…と記載されている。
「」 , , 上記Bにおける 次に という文言から明らかなように @の前提部分に続いてA以下の各過程が一連の手順として示されていることになるが,そうなると,被処理水が中間コロイド凝集スペースから沈降スペースを経由して混合スペース内に流入するということになる。
しかし,これは,本件明細書に照らしても,構造上あり得ない。
(キ) さらに,本件発明2については,構成要件Hのうち「明らかに大きな速度勾配」とはいかなる程度の速度勾配の差であるのかの点でも,不明確である。
したがって,本件発明2も,発明の構成に欠くことができない事項が記載されているとは認めることができない。
イ 無効理由2(特許法36条4項違反)(ア) 本件明細書には,仕切り16によって混合室1及び中間凝集室2を物理的に仕切り,混合室1内には高い周速で駆動される撹拌装置6を配置し,中間凝集室2内には低い周速で駆動される撹拌装置7を配置することによって,異なる乱流を発生させることのみが開示されている。本件特許権の優先日当時,撹拌機による撹拌は,撹拌機の撹拌エネルギーが加えられる範囲内において,全体的な乱れが作られ,一定の乱流が生じているとみなされていた。よって,本件明細書の記載から,物理的な仕切りを設けずに,1台の撹拌機によって,1つの撹拌槽内に異なる乱流を発生させることは,当業者にとって容易に実施できるものではなかった。
(イ) したがって,1つの撹拌装置の中に混合スペースと中間コロイド凝集スペースがあるとの原告の主張を前提とすれば,本件明細書には,当業者が容易に,, その実施をすることができる程度に 本件発明1の構成が記載されていないので本件発明1には,平成5年改正特許法36条4項違反の無効理由が存在する。
(ウ) 本件発明2にも,同様な無効理由が存在する。
ウ 無効理由3(進歩性の欠如)(ア) 引用発明1についてa 引用例1(乙2。フランス特許第1411792号公報)は,1965年に発行された。
b 引用例1には,次の記載がある。
( ) 「発明によれば,懸濁物質を含む地表水又は工業用水の清澄化方法の a特徴は 浄化しようとする水(原水)に固体 鉱物質及び粒状の清澄化補助物質(促 ,,進剤) 「ポリ電解質」と呼ばれる鎖構造の重合体および場合によっては水質浄 ,化用の通常の化学薬品を同時に入れること,及び通常の清澄化及び濾過作業を行った後鉱物質で粒状の固体補助物質を回収し環式工程により循環して再利用できるようにした上で浄化した水を回収することである。鉱物質,固体かつ粒状の清澄化補助物質として…石英砂を好んで用いる (乙2訳文1頁右欄9〜22行) 。」「…原水には化学薬品並びに,導管 を介してサイクロン装置9内で再生され gた補助剤が加えられる。浄化する原水は清澄化に必要な全ての補助剤を受け取った後この目的で清澄装置内部の筒[1]に入る。これは閉じた筒1から溢れて釣り鐘型の第1次清澄化空間2に流れ込む。その後,高速でこの釣り鐘の下端を超えて流れ,清澄化室内に上っていく。この際循環速度は段々と低くなっていく。
原水に添加した清澄化剤の存在は循環速度が低下したことと沈降が始まったことにより確認され,非常に緻密で網状構造を持つ中身の詰まった流れる泥状の塊を形成する。その後,ここで清澄化された水は既知の方法で使用される急速フィルタ内に導かれる。追加的浄化工程中に通常の殺菌工程を適用することが出来る。
清澄装置の底に沈殿する濁って泥状の砂は常時運転している採泥装置4により装置の底5に導かれる。次いでそれは汚泥ポンプ7により2〜2.5気圧に加圧された導管を通って水理サイクロン装置8に入る。このサイクロン装置は補助剤を粒径および比重によって分類する。サイクロン装置の溢水口 の中では水の清f澄化で取り残された物質(即ち川の水の中の懸濁物質,金属水酸化物など)を取り除き,一方残りの場所内では化学薬品により活性化された,汚泥が取り除かれ純化された粒状清澄化補助剤を回収する。再生された補助剤は導管 からの化学薬a品により処理された原水に加えられる (同4頁左欄20行〜右欄14行) 。」( ) さらに,引用例1の図2(別紙5)には,沈降を利用した清澄装置3が b開示されている(図中の日本語及び赤線は被告による付加)。上記図2より,筒1に撹拌機が設けられていること,及び,筒1の底が赤線で示すように曲面状に傾斜しており,筒1の下方における原水が流入する領域は,上方に比べてその容積が狭くなっている。
したがって,原告の主張を前提とすれば,引用例1の筒1において,上方の広い領域において維持される乱流よりも大きい速度勾配の乱流が下方の領域で発生することは,自明である。
( ) 加えて,引用例1の表U(同5頁下)には,補助剤を一定の比率で添加 cすることが開示されている。
c したがって,引用例1には,「懸濁物質を含む原水中にあらかじめ定められた比率で補助剤(石英砂 ,鎖構)造の重合体及び化学薬品を添加して懸濁物質を沈殿させる清澄化方法であって,補助剤,鎖構造の重合体及び化学薬品が添加された原水は,上方に比べてその容積が狭くなっている筒1の下部に流入し,筒1内において撹拌機によって撹拌され,筒1から溢れ出た原水は,清澄化室において沈降が行われ,清澄化された水は導管bより取り出され,沈降した砂は,採泥装置4により装置の底5に導かれ,導管 を通って回収さcれ,回収された砂から補助剤を回収して再利用する方法」が開示されている(以下,この発明を「引用発明1」という。)。
d 原告は,引用例1の図2について,意識的にかつ顕著に下部の容積を狭く形成したものとは異なる等と主張する。
しかし,引用例1の図2の筒1の底が,曲面状に傾斜しており,筒1の下方における原水が流入する領域は上方に比べてその容積が狭くなっていることは,筒1の下部左側から注入された原水の矢印が傾斜の曲面に沿った曲線状となっていることからも明らかである。
(イ) 本件発明1と引用発明1との対比「」,「」 ,「」, a 引用発明1の 補助剤 鎖構造の重合体及び化学薬品 清澄化室「清澄化された水」及び「沈降した砂」は,それぞれ本件発明1の「不溶性粒状物質 「試薬 「沈降スペース 「清澄化された液体」及び「スラッジ」に該 」,」,」,当する。
b 原告の主張によれば 「コロイド混入及び不安定化スペース」とは,コ ,ロイドの混入及び凝集が行われる空間ということである。
引用発明1は,懸濁物質(コロイド)を凝集させて沈降させることによって除去するのであるから,そこには「コロイドの混入及び凝集が行われる空間」が存在することは自明である。よって,引用発明1には 「コロイド混入及び不安定 ,化スペース」が開示されている。
c また 「混合スペース」を速度勾配の比較的大きい乱流中で粒状物質が ,被処理水に混合される空間であると解したとしても,引用発明1の筒1の下方における原水が流入する領域は上方に比べてその容積が狭くなっているから,引用発明1の筒1において,上方の広い領域において維持される乱流よりも大きい速度勾配の乱流が下方の領域で発生することになる。したがって,引用発明1における筒1の下方の領域は,速度勾配が比較的大きい乱流が存在し,原水中の補助剤が攪拌によって混合されるので,本件発明1の「混合スペース」に該当する。
d さらに,引用発明1における筒1の上方の領域は,筒1の下方の領域と清澄化室との間に位置し,乱流を生じ,粒状物質を懸濁状態に保っているから,本件発明1の「中間コロイド凝集スペース」に該当する。
e したがって,本件発明1と引用発明1とを対比すると,「コロイド混入及び不安定化スペースが内部につくりあげられている未処理液流内に試薬(鎖構造の重合体及び化学薬品)を注入するという沈降による液体処理法であって,前記液流は中間コロイド凝集スペース(筒1の上方の領域)内を循環し,次に清澄化された液体(清澄化された水)が取出される沈降スペース(清澄化室)に入り,液より濃厚な不溶性粒状物質(補助剤)があらかじめ定められた比率で,乱流が維持される混合スペース(上方に比べてその容積が狭くなっている筒1の下方の領域)内の液中に注入され,乱流は中間コロイド凝集スペース 筒1の上方の領域 内に生じて粒状物質 補 () (助剤)を懸濁状態に保ち,() ( ) , 事実上すべての粒状物質 補助剤 が沈降スペース 清澄化室 にもたらされ沈降スペース(清澄化室)内で回収されたスラッジ(沈降した砂)が除去され,粒状物質(補助剤)がそこから除去され,洗滌後に再循環されることを特徴とする,方法 」。
である点において一致し,引用発明1では,「沈降スペース(清澄化室)に分離板が備えられていない」点においてのみ相違する(以下「相違点1」という 。)(ウ) 相違点1についての判断,, a( ) 本件特許権の優先日当時 沈殿を利用した浄水施設の分野において a沈殿槽に分離板を設けることは,周知の技術であった。
,「 」。 ( ) 例えば 厚生省監修 水道施設設計指針・解説(1977年版) (乙3 b昭和52年5月31日に発行。以下「引用例2」という。)の「 薬品沈でん5.5池」の項には,以下の記載がある。
「薬品沈でん池は,薬品注入,混和およびフロック形成の段階を経て,大きく重く成長したフロックの大部分を沈でん分離作用によって除去…するために設ける (160頁左欄6〜9行) 。」「…傾斜板等の沈でん池は,図-5.36に示すように,沈でん池内に傾斜板や傾斜管をそう入して,一種の多階層沈でん池を構成して,沈でん効率を高めようと意図したものであ[る (同169頁右欄20〜23行) ]」「沈でん池内に,このような傾斜板等の沈降装置を設けて沈でん効率の改善を図った場合には,その効果に応じて,滞留時間を減じて沈でん池の処理能力をあげることができる (170頁左欄7〜10行) 。」b 引用発明1の清澄装置は 「薬品沈でん池」の技術分野に属する。した ,がって,引用発明1の沈降を行う清澄化室において「分離板」を設けることは,当業者が容易になし得たことである。
c 仮に,引用発明2に記載された上記aの事項が周知の技術ではなかったとしても,同様に,引用発明1の沈降を行う清澄化室において「分離板」を設けることは,当業者が容易になし得たことである。
(エ) 相違点2についての判断仮に,本件発明1が粒状物質の混合のための乱流よりは弱いがかなりの程度の乱流内においても,粒状物質を含むフロックは破壊されずに成長を続けるという知見に基づき,そのような速度勾配の中間コロイド凝集スペースを形成する点を要件としているとしても(相違点2),a 引用発明1における筒1の上方の領域は,筒1の下方の領域と清澄化室との間に位置し,筒1の下方の領域に比較して速度勾配が比較的小さい乱流が発生していることになるので,本件発明1の「中間コロイド凝集スペース」に該当する。
b( ) また,引用例2(乙3)の「 凝集池」の項には,凝集池が,凝 a5.4集剤を添加後できるだけ急速に撹拌して,濁質を微小なフロックに凝集させる混和池と,生成した微小フロックを大きく成長させるために,緩やかに撹拌して,後に続く沈殿とろ過の処理を容易にするフロック形成池とから構成されることが記載されている(155頁左欄下から9〜2行 。)さらに,引用例2は,フロックの形成について 「…大きなフロックを形成す ,るためには,フロック濃度が高いほうが効果的であり,適度のかくはんを必要とし,粒子径の3乗に比例して急速に成長することが理解されるので,フロック形成池の段階では,専ら効果的なかくはんと適当なかくはん時間によるフロックの成長促進に意を用いなければならない (157頁右欄2〜8行)と記載する。 。」( ) 以上の記載から,混和池において急速に撹拌した後,沈殿池でフロッ bクを沈殿させるまでの間に,適当な乱流中(撹拌)でフロックを成長させるフロ(),。 ック形成池 中間コロイド凝集スペース を設けることは 周知の技術であったc( ) さらに,引用例2(乙3)には 「最近では,凝集の段階で砂粒を添加 a ,してフロックの核とし,重いフロックを形成して沈でんを促進する装置等も現れてきている (161頁左欄11〜13行)という記載がある。 。」( ) この記載によれば,上記凝集池の1つである微小なフロックに凝集さ bせる混和池において砂粒を添加するというのであるから,引用例2には,混和池の後に続くフロック形成池において,砂粒が添加された微小フロックを緩やかに撹拌して成長させることが実質的に記載されている。
d したがって,仮に本件発明1が適当な速度勾配の中間コロイド凝集スペースの乱流中でフロックを成長させる点を要件としているとしても,そのような本件発明1も,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(オ) 本件発明2a 前記(エ)のとおり,引用例2(乙3)には,凝集池が,凝集剤を添加後できるだけ急速に撹拌して,濁質を微小なフロックに凝集させる混和池と,生成した微小フロックを大きく成長させるために,緩やかに撹拌して,後に続く沈殿とろ過の処理を容易にするフロック形成池とから構成されることが記載されている,「」 「」 から 混和池における 急速な撹拌 とフロック形成池における 緩やかな撹拌とでは,混和池で維持される速度勾配の方が,フロック形成池で維持される速度勾配に比べて大きいことは明らかである。
b したがって,本件発明2の構成要件Hも,引用例2に開示されており,本件発明2は,引用発明1及び引用発明2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
( ) 原告の主張2ア 無効理由1(特許法36条5項違反)(ア) 被告の主張ア(ア)は否認する。なお,適用される法律は,本件特許権は平成1年2月23日出願であるから,昭和62年改正法である。
(イ) 「コロイド混入及び不安定化スペース」及び「混合スペース」は,当 ・該スペースが受け持つそれぞれの機能に着目した称呼であるから,称呼が異なるからといって必ずしも空間的に別のスペースでなければならないというものではない。
(ウ) 「中間コロイド凝集スペース」は,ロ号装置のフロック形成槽1の角筒形領域が主としてこれに相当する 「コロイド混入及び不安定化スペース」な 。
いし「混合スペース」は,角錐形領域が主としてこれに相当する。
ロ号装置のフロック形成槽1のように,同一槽内で,下方に混合スペース,上方に中間凝集スペースが形成される場合には,その境界はさほどに截然と明確なものではなく,両者の間に中間的な移行領域が介在することは当然である。
(エ) 「液より濃厚な」は 「被処理水よりも比重が大」の意味である。 ,被告は 「軽石」が水に浮くことから原告の解釈は誤りである旨主張する。し ,かし,多数の気孔を有する軽石そのものの比重は軽いとしても,粒状物質とするために破砕するときは,水より比重の大きな粒状物になるから,被告の上記主張は誤りである。
(オ) 構成要件Cの 乱流が維持される混合スペース 及び構成要件Dの 乱 「」「流は中間凝集スペースに生じて」は,いずれも乱流であることに相違ないから,「乱流」の用語を使用したことに何ら問題はなく,それぞれの乱流の性質がどのようなものであるかは,本件明細書を参照して理解することができる。
(カ) 被告主張のBの混合スペースが中間コロイド凝集スペースの前にあることは,本件明細書の記載に照らし明らかである。
(キ) 構成要件Hの「明らかに大きな速度勾配」とは,粒状物質を懸濁状態に保つ乱流の内部で被処理水を循環させて濃厚フロックの形成を行う「中間コロイド凝集スペース」内の撹拌よりも 「混合スペース」内においては,被処理水 ,と凝集剤や粒状物質との十分な混合のためにより大きな撹拌力を与えることを意味する。
,「」 「 」 本件発明2は 混合スペース 内の撹拌強度を 中間コロイド凝集スペース内の撹拌強度との対比において,速度勾配により相対的に規定したものである。
「明らかに大きな」は,日常的な語法であるところの「疑う余地なく大きな」という程の意味であり,特段の具体的数値を予定したものではない。請求項4と請求項3に規定された速度勾配は,一例にすぎず,本件発明2の問題として,いかなる程度の差異があればよいかを一義的に数値化して示すことはできない。
イ 無効理由2(特許法36条4項違反),, (ア) 本件発明は 各スペースの間に物理的な仕切りを設けるか否かを問わずそれぞれ特徴的な流れを有する各スペース中を,凝集剤及び粒状物質を添加された被処理水が段階的に経由することにより,所期の凝集沈殿効果を収めることを基本的な技術思想としている。
発明の詳細な説明を見るのに,その一般的説明部分である別紙2の7欄38行までの本件発明自体に関する記載は,すべて「コロイド混入及び不安定化スペ ,ース (同6欄6行 「中間コロイド凝集スペース (同欄8〜9行 「沈降ス 」),」) ,ペース (同6欄10,14〜15,31〜32行 「混合スペース (同6欄 」) ,」12行,7欄30,34,36行 「中間凝集スペース (同6欄13行,7欄 )」30,32行 「スラッジ回収スペース(同6欄21〜22行 「乱れの大き ),」) ,いスペース (同7欄9〜10行 「凝集スペース (同7欄37行)と,終始 」),」一貫「スペース」の用語が使用されていて,従来技術の説明個所におけるような「反応室 (同5欄35行,6欄41行「沈降室 (同5欄36行,6欄41 」) ,」行 「中心室 (同5欄39行 「側方室 (同5欄39行 「中間室 (同5欄 ),」 )」 ) ,」41,42行,6欄44,46行)のように各スペースの間に物理的な仕切を設けることを前提とする説明は一切なされていないことは,本件発明の技術思想の本質を示している。
そして,別紙2の7欄39行〜8欄16行は,本件発明1を実施するための請求項9の装置の発明に対応する記載であり,同8欄17行以下には,方法,装置両請求項に共通の実施例が,当業者がこれら両発明を容易に実施し得るように詳細に記載されている。
したがって,本件発明は,少なくとも上記実施例の記載により 「その発明の,属する分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載しなければならない」との昭和62年改正特許法36条4項の規定を充たしている。
(イ) 上記実施例には,混合スペースと中間コロイド凝集スペースが物理的に仕切られた場合の記載しかされていないが,本件発明が明細書に記載された実施例に限定されるものでないことは,当然である。
また,本件発明の技術的範囲に属することとなるその他諸々の実施態様中に,仮に当業者が容易に実施し得ない態様があり得ても,最小限,代表的な実施態様である実施例の記載に基づいて容易に実施できさえすれば,36条4項発明の詳細な説明の記載要件は充たされている。
(ウ) さらに 本件明細書の記載に基づいて 同じ撹拌槽内の一部の領域を 混 ,,「合スペース」とし,その他の領域を「中間コロイド凝集スペース」とする実施態様にて実施することも,当業者には容易というべきである。
すなわち,本件明細書は,物理的に仕切られた混合スペースである混合室1と中間コロイド凝集スペースである中間凝集室2に,それぞれ回転速度の異なる撹拌装置6,7を備えた実施例につき詳細に記載している。したがって,当業者であれば,本件明細書中の他の関連記載を参酌すれば,物理的な仕切りを設けない単一の撹拌槽内に異なる乱流の領域を形成するために,槽下部に強撹拌の撹拌機を設けて混合スペースとするとともに,槽の上部に回転速度の異なる緩撹拌の撹拌機を設けて中間コロイド凝集スペースとすることを容易に実施することができる。
また,1台の撹拌機を設ける場合にも,上下段に2枚の撹拌翼を設けて,両撹拌翼の回転数を変速手段で異ならせるとか,あるいは上下段に寸法,形状の異なる撹拌翼を備えるなどして,同様の効果を収めることができる。
さらに,本件明細書に記載の速度勾配の公式(別紙2の9欄48行以下)が上下の撹拌翼のそれぞれについて厳密ではなくとも概略的には適用可能であることは,当業者が容易に理解し得るところであり,撹拌強度(速度勾配)を相違させることにより各スペースの所望の機能的分担をはかるという点では,上記公式の概略的適用で十分可能である。
ウ 無効理由3(進歩性の欠如)(ア) 引用発明1についてa 被告の主張ウ(ア)のうち a並びにb(a)及び(c)は明らかに争わず b(b) ,,は否認する。cのうち 「上方に比べてその容積が狭くなっている筒1の下部」は ,否認し,その余は明らかに争わない。
b 引用例1の図2の筒1は,その名称が示すように正しく筒型に形成されていて,ロ号装置のフロック形成槽1のように意識的かつ顕著に下部の容積を狭く形成したものとは異なる。被告指摘の底部の曲面状の傾斜部が何を示しているかについて,明細書中には記載がないが,底部を意識的にこのように形成するのであれば,当該傾斜面の外側の筒本体の側部や底部は不必要なはずであるから,当該傾斜部分は構造的なものではなく,筒1内に投入される補助剤(石英砂)の沈殿物が筒1の下部左側からの原水注入の勢いで右側上方に巻上げられて堆積したものとみるのが素直である。
したがって,引用例1は,補助剤としての粒状物質の注入を開示するものの,底部と速度勾配の異なる中間コロイド凝集スペースを形成するという技術思想を開示するものではない。
(イ) 本件発明1と引用発明1との対比a 同(イ)aは明らかに争わない。
b 同bは明らかに争わない。
c 同cは否認する。
d 同dは否認する。
e 同eは否認する。
本件発明1と引用発明1とは,引用発明1には,粒状物質の混合のための乱流よりは弱いがかなりの程度の乱流内においても,粒状物質を含むフロックは破壊されずに成長を続けるという知見に基づき,そのような速度勾配の中間コロイド「」 凝集スペースを形成する点が開示されていない点でも相違する(以下 相違点2という。)。
また,被告は,自らの出願に係る特開2000-317214号公報(甲4)において 「たとえばフランス特許第1411792号(注・本訴における引用例 ,1)には,凝集槽において,原水に凝集剤とともに,粒径10〜200μm程度の粒状物(代表的には,砂)を添加し,凝集槽内を撹拌して,原水中SS(注・懸濁している物質)を比重の大きい粒状物を含んだ比較的大きなフロックとして凝集させ,沈殿槽において凝集槽から導入された被処理水中のフロックを沈殿させて処理水と分離する凝集沈殿装置が開示されている( 0004 「とこ 。」【 】),ろが現実には,凝集槽内における撹拌により,フロックを次の沈殿工程における最適な大きさや比重にまで成長させることが困難で,迅速かつ分離効率のよい沈殿を実現させるだけの状態にすることが困難であった ( 0005 )と記載 。」【 】し,引用例1の凝集沈殿装置にはフロックをそのように成長させるための「緩流凝集ゾーン (甲4の3欄36行ほか ,すなわち本件発明1の「中間コロイド 」)凝集スペース」に相当する領域が存在しないことを自ら認めている。
(ウ) 相違点1についての判断同(ウ)のうち,a( )は明らかに争わず,a( )及びbないしdは否認する。 ba(エ) 相違点2についての判断a 同(エ)aは否認する。
b 同b( )は明らかに争わず,( )は否認する。 abc 同c( )は明らかに争わず,( )は否認する。 acd 同dは否認する。
e 本件発明1は,より速い沈降速度を得るために粒状物質を注入するものであるが,本件明細書に説明されているように,粒状物質の沈殿防止のためには撹拌による相当程度の乱流を生じさせる必要があり,それではフロックが破壊されて成長させることができず,速い沈降速度を達成できないと考えられていたところ,粒状物質の混合のための乱流よりは弱いがかなりの程度の乱流内においても,粒状物質を含むフロックは破壊されずに成長を続けるという意外な知見に基づき,発明されたものである。
したがって,粒状物質を使用しない引用例2の凝集沈殿方法を粒状物質を使用する引用例1に適用することはできない。
f また,被告が指摘する引用例2中の「最近では,凝集の段階で砂粒を添加してフロックの核とし,重いフロックを形成して沈でんを促進する装置等も現れてきている」との記載は,引用例1の(乙2)の実施装置である「シクロフロック( (別紙2の5欄16〜17行参照)などの存在を単に指摘す CYCLOFLOC)」るだけであり,乱流中で粒状物質を含むフロックを成長させる中間コロイド凝集スペースを設けることまで示唆しているものではない。
(オ) 本件発明2同(オ)のうち,aは明らかに争わず,bは否認する。
当裁判所の判断
1 本件発明1の進歩性の欠如( ) 引用発明11ア 1965年に発行された引用例1(乙2。フランス特許第1411792号公報)には,次の記載がある(原告において明らかに争わない。)。
(ア) 「発明によれば,懸濁物質を含む地表水又は工業用水の清澄化方法の特徴は,浄化しようとする水(原水)に固体,鉱物質及び粒状の清澄化補助物質(促進剤) 「ポリ電解質」と呼ばれる鎖構造の重合体および場合によっては水質浄 ,化用の通常の化学薬品を同時に入れること,及び通常の清澄化及び濾過作業を行った後鉱物質で粒状の固体補助物質を回収し環式工程により循環して再利用できるようにした上で浄化した水を回収することである。鉱物質,固体かつ粒状の清澄化補助物質として…石英砂を好んで用いる (乙2訳文1頁右欄9〜22行) 。」「…原水には化学薬品並びに,導管 を介してサイクロン装置9内で再生され gた補助剤が加えられる。浄化する原水は清澄化に必要な全ての補助剤を受け取った後この目的で清澄装置内部の筒[1]に入る。これは閉じた筒1から溢れて釣り鐘型の第1次清澄化空間2に流れ込む。その後,高速でこの釣り鐘の下端を超えて流れ,清澄化室内に上っていく。この際循環速度は段々と低くなっていく。
原水に添加した清澄化剤の存在は循環速度が低下したことと沈降が始まったことにより確認され,非常に緻密で網状構造を持つ中身の詰まった流れる泥状の塊を形成する。その後,ここで清澄化された水は既知の方法で使用される急速フィルタ内に導かれる。追加的浄化工程中に通常の殺菌工程を適用することが出来る。
清澄装置の底に沈殿する濁って泥状の砂は常時運転している採泥装置4により装置の底5に導かれる。次いでそれは汚泥ポンプ7により2〜2.5気圧に加圧された導管を通って水理サイクロン装置8に入る。このサイクロン装置は補助剤を粒径および比重によって分類する。サイクロン装置の溢水口 の中では水の清f澄化で取り残された物質(即ち川の水の中の懸濁物質,金属水酸化物など)を取り除き,一方残りの場所内では化学薬品により活性化された,汚泥が取り除かれ純化された粒状清澄化補助剤を回収する。再生された補助剤は導管 からの化学薬a品により処理された原水に加えられる (同4頁左欄20行〜右欄14行) 。」(イ) 加えて,引用例1の表U(同5頁下)には,補助剤を一定の比率で添加することが開示されている。
イ また,証拠(乙2)によれば,引用例1の図2(別紙5参照)には,沈降を利用した清澄装置3が開示されており,図2には,筒1に撹拌機が設けられていること,及び筒1の底が別紙5に赤線で示すように曲面状に傾斜しており,筒1の下方における原水が流入する領域は上方に比べてその容積が狭くなっていることが認められる。
ウ したがって,引用例1には,「懸濁物質を含む原水中にあらかじめ定められた比率で補助剤(石英砂 ,鎖構)造の重合体及び化学薬品を添加して懸濁物質を沈殿させる清澄化方法であって,補助剤,鎖構造の重合体及び化学薬品が添加された原水は,上方に比べてその容積が狭くなっており,乱流が維持されている筒1の下部に流入し,筒1内において撹拌機によって撹拌されて,乱流が生じるとともに補助剤を懸濁状態を保ち,筒1から溢れ出た原水は,清澄化室において沈降が行われ,清澄化された水は導管bより取り出され,沈降した砂は,採泥装置4により装置の底5に導かれ,導管 を通って回収さcれ,回収された砂から補助剤を回収して再利用する方法」が開示されていることが認められる。
( ) 本件発明1と引用発明1との対比 2「」,「」 ,「」, ア 引用発明1の 補助剤 鎖構造の重合体及び化学薬品 清澄化室「清澄化された水」及び「沈降した砂」は,それぞれ本件発明1の「不溶性粒状物質 「試薬 「沈降スペース 「清澄化された液体」及び「スラッジ」に該 」,」,」,当する(原告において明らかに争わない。)。
イ 引用発明1は,懸濁物質(コロイド)を凝集させて沈降させることによって除去するものであるから,そこには「コロイドの混入及び凝集が行われる空間」が存在することは自明であり,引用発明1には 「コロイド混入及び不安定 ,化スペース」が開示されている(原告において明らかに争わない。)。
ウ さらに,引用発明1における筒1の上方の領域は,筒1の下方の領域と清澄化室との間に位置し,乱流を生じ,粒状物質を懸濁状態に保っているから,本件発明1の「中間コロイド凝集スペース」に該当する。
エ したがって,本件発明1と引用発明1とを対比すると,「コロイド混入及び不安定化スペースが内部につくりあげられている未処理液流内に試薬(鎖構造の重合体及び化学薬品)を注入するという沈降による液体処理法であって,前記液流は中間コロイド凝集スペース(筒1の上方の領域)内を循環し,次に清澄化された液体(清澄化された水)が取出される沈降スペース(清澄化室)に入り,液より濃厚な不溶性粒状物質(補助剤)があらかじめ定められた比率で,液中に注入され,乱流は中間凝集スペース(筒1の上方の領域)内に生じて粒状物質(補助剤)を懸濁状態に保ち,() ( ) , 事実上すべての粒状物質 補助剤 が沈降スペース 清澄化室 にもたらされ沈降スペース(清澄化室)内で回収されたスラッジ(沈降した砂)が除去され,粒状物質(補助剤)がそこから除去され,洗滌後に再循環されることを特徴とする,方法 」。
である点において一致し,引用発明1では「沈降スペース(清澄化室)に分離 ,板が備えられていない」点(相違点1,及び本件発明1の粒状物質は,乱流が )維持される混合スペース内の液中に注入されるのに対し,引用発明1の粒状物質は,筒1に入る前の液中に注入される点で相違すること(以下「相違点3」という。)が認められる(一部は当事者間に争いがない。)。
( ) 相違点1及び3についての判断 3ア 相違点1(ア)a 引用例2(厚生省監修「水道施設設計指針・解説(1977年版)」(乙3)。昭和52年5月31日に発行)の「 薬品沈でん池」の項には,以下の 5.5記載がある(原告において明らかに争わない。)。
「薬品沈でん池は,薬品注入,混和およびフロック形成の段階を経て,大きく重く成長したフロックの大部分を沈でん分離作用によって除去…するために設ける (160頁左欄6〜9行) 。」「…傾斜板等の沈でん池は,図-5.36に示すように,沈でん池内に傾斜板や傾斜管をそう入して,一種の多階層沈でん池を構成して,沈でん効率を高めようと意図したものであ[る (同169頁右欄20〜23行) ]」「沈でん池内に,このような傾斜板等の沈降装置を設けて沈でん効率の改善を図った場合には,その効果に応じて,滞留時間を減じて沈でん池の処理能力をあげることができる (170頁左欄7〜10行) 。」b この記載及び弁論の全趣旨によれば,本件特許権の優先日当時,沈殿を利用した浄水施設の分野において,沈殿槽に分離板を設けることは,周知の技術であったことが認められる。
(イ) 弁論の全趣旨によれば,引用発明1の清澄装置は 「薬品沈でん池」の,技術分野に属するものと認められ 引用発明1の沈降を行う清澄化室において 分 ,「離板」を設けて,相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことと認められる。
イ 相違点3弁論の全趣旨によれば,本件発明1のように粒状物質を乱流が維持される混合スペース内の液中に注入するか,引用発明1のように粒状物質を筒1に入る前の,, , 液中に注入するかは 単なる設計事項であり 相違点3に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことと認められる。
なお,本件発明2と本件発明1とを比べれば明らかなように,本件発明1においては,混合スペース内で,中間コロイド凝集スペース内で維持されるものより明らかに大きな速度勾配が維持されることは,要件とはなっていない。
( ) 相違点2について 4ア 原告は,本件発明1と引用発明1とは,引用例1には,粒状物質の混合のための乱流よりは弱いがかなりの程度の乱流で中間コロイド凝集スペースを形成することが開示されていない点でも相違する旨主張する(相違点2)。
しかしながら,本件発明1は,中間コロイド凝集スペースにつき,前記液流は中間コロイド凝集スペース内を循環し(構成要件A),乱流は中間凝集スペース内に生じて粒状物質を懸濁状態に保ち(構成要件D)とのみ規定し,それ以上の限定をしていないものであるから,本件発明1を原告主張のように限定して解釈することはできない。
イ(ア) 原告は,構成要件A及びDの2要件が充たされる限り,その効果として,中間凝集スペースにおいて粒状物質を含むフロックの形成・成長がはかられるという関係にある旨主張する。
しかしながら,原告主張のとおり,本件発明1が「粒状物質の混合のための乱流よりは弱いがかなりの程度の乱流内においても,粒状物質を含むフロックは破壊されずに成長を続けるという知見に基づき,そのような速度勾配の中間コロイド凝集スペースを形成」したのであれば,速度勾配の上限と下限の双方を特定しなければならないと考えられるところ,構成要件AとDのみでは,速度勾配の下限は特定しているが,上限は特定しておらず,その結果,フロックの形成・成長を妨げる強すぎる乱流のものまでその技術的範囲に含んでしまうことになる。よって,原告の上記主張は理由がない。
(イ) 原告は,フロックが破壊されるような実施は,本件明細書の記載に照らし本件発明1の目的を逸脱することになるから,クレーム解釈上,当然技術的範囲外とされるはずである旨主張する。
しかしながら,特許発明技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定めるものであり(特許法70条1項),安易に特許請求の範囲に記載されていない限定を読み込むことはできないから,原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) さらに,原告は,中間コロイド凝集スペース内の乱流の速度勾配は,最小限粒状物質を懸濁状態に保ち得るものでなければならないが,使用する粒状物質の比重,大きさ,量のほか,被処理水の量や濁度等によってもその速度勾配の数値は異なるから,一律にその数値を規定することができないから,本件発明1にこれ以上の限定は不要である旨主張する。
しかしながら 原告主張のように一律に規定することができないとしても そ ,, 「の破壊をもたらさない程度の速度勾配」等の記載により上限を規定することは可能であると認められるから,原告の上記主張は採用することができない。
(エ) 確かに,公知技術の存在を理由に,公知技術を除外するようなクレーム解釈が事実上されることがないではない。しかしながら,そのほとんどは,侵害訴訟において特許無効の判断ができなかったこと等を理由として,特許権者を敗訴させるためのテクニックにすぎなかったものである。しかも,特許権者が勝訴する可能性がある事案でクレーム解釈の下にそのような限定解釈を行うことは,訂正の時期的制限や内容的制限のために訂正による無効の回避ができず,全体として無効となるべき特許についてまで権利行使を肯定する結果を招くことにな。, , , る したがって 本件発明1の有効性を維持することは クレーム解釈ではなく訂正手続により実現されるべきである。
( ) 本件発明1についてのまとめ 5ア 訂正の可否の考慮について訂正により本件発明1が無効とはならないと認められる場合には,特許法104条の3第1項にいう「当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるとき」には当たらないとして,侵害訴訟である本訴において本件特許権に基づく権利行使を認める余地があるが,原告は訂正審判を申し立てる意思はないことを明言しているから,本訴においては,訂正により本件発明1が維持されるかの点については判断を示さないこととする。
イ まとめ以上によれば,本件発明1は,特許法29条2項に該当する無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから(同法123条1項2号),原告は,被告に対し,本件特許権(本件発明1)を行使することができない(同法104条の3)。
2 本件発明2の進歩性の欠如( ) 中間コロイド凝集スペースにおける速度勾配の特定 1本件発明2は,本件発明1の構成要件に 「混合スペース内で,中間凝集スペ ,ース内で維持されるものより明らかに大きな速度勾配が維持される」(構成要件H)との要件を付加したものであるが,構成要件Hが付け加わったとしても,中間コロイド凝集スペースにおける速度勾配の上限を特定していないことに変わりはないから,適当な速度勾配の中間コロイド凝集スペースの乱流中でフロックを成長させることを規定していると認めることはできない。
( ) 混合スペースにおける速度勾配の付加と進歩性 2()「 」 , 引用例2 乙3 の 凝集池 の項(155頁左欄下から9〜2行)には 5.4凝集池が,凝集剤を添加後できるだけ急速に撹拌して,濁質を微小なフロックに凝集させる混和池と,生成した微小フロックを大きく成長させるために,緩やかに撹拌して,後に続く沈殿とろ過の処理を容易にするフロック形成池とから構成されることが記載されている(原告において明らかに争わない。)。
しかも,液中に比重の大きい粒状物質を懸濁状態に保つには相当の速度勾配を必要とし,液中に初めて粒状物質を巻き込ませ,しかも急速にそれを行うためには,液中に比重の大きい粒状物質を懸濁状態に保つための速度勾配よりも高い速度勾配を要することは,技術常識に属する事項であると考えられる。
,, これらのことからすると 構成要件Hを加えて本件発明2のようにすることは当業者が容易に想到することができたことと認められる。
( ) 本件発明2についてのまとめ 3ア 訂正の可否の考慮について本件発明2についても,本件発明1についてと同様の理由で,訂正により本件発明2が維持されるかの点については判断を示さないこととする。
イ まとめ以上によれば,本件発明2は,特許法29条2項に該当する無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから(同法123条1項2号),原告は,被告に対し,本件特許権(本件発明2)を行使することができない(同法104条の3)。
3 イ号装置についてイ号装置については,前提事実( )イのとおり,被告が製造等をしていることを 3認めるに足りる証拠はない。
4結論以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから,いずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
追加
市川正巳裁判長裁判官杉浦正樹裁判官裁判官高嶋卓は,転勤につき,署名押印することができない。
市川正巳裁判長裁判官(別紙1)物件目録1(イ号装置)以下の構成を有する超高速凝集沈殿装置(装置名「スーパーオルセトラー)」A被処理水の懸濁物質を除去するための凝集沈殿装置である。
Bフロック形成槽1とこれに隣接する沈殿槽2の2槽構成から成る。
C上記両槽は,いずれも下部が角錐形,中部から上部にかけては角筒形に形成されている。
Dフロック形成槽1の角錐形部には,無機及び高分子凝集剤を添加した被処理水を導入するための導入管3が設けられ,導入管3の先端は,角錐形部の底部に対向して開口している。
Eフロック形成槽1の上方には,サイクロン4が設けられ,そこから放出される粒状物を供給するための粒状物供給管5がフロック形成槽1内に挿入され,その下端は,角錐形部内又は角錐形部と角筒形部の境界から約300〜1000mm上方の角筒形部内に開口している。
Fフロック形成槽1には撹拌器6が備えられ,二段の撹拌翼のうち,下段は角筒形部の下端に,上段はその上方にそれぞれ設けられている。
Gフロック形成槽1の沈殿槽2との隣接側の上部付近には,無機のフロック,高分子凝集剤及び粒状物の吸合体から成るフロックを沈殿槽2に移送するための移送口7が設けられている。
H沈殿槽2の内部には,上記吸合体から成るフロックから清澄水を分離するための分離板8が備えられている。
I沈殿槽2の上部には,上記吸合体から成るフロックから分離された清澄水を取り出すための取出口9が設けられている。
J沈殿層2の下部には,上記吸合体から成るフロックを排出するための排出口10が設けられている。
K排出口10の外部には,排出された上記吸合体から成るフロックを,前記サイクロン4に配送するためのポンプ付配管11が設けられている。
Lサイクロン4には,上記吸合体から分離した汚泥と粒状物のそれぞれを排出する各排出口12,13が設けられている。
以上(別紙1)物件目録2(ロ号装置)以下の構成を有する超高速凝集沈殿装置(装置名「スーパーオルセトラー)」A被処理水の懸濁物質を除去するための凝集沈殿装置である。
B予備凝集槽14及びフロック形成槽1とこれに隣接する沈殿槽2の3槽構成から成る。
C上記フロック形成槽1及び沈殿槽2は,いずれも下部が角錐形,中部から上部にかけては角筒形に形成されている。
Dフロック形成槽1の角錐形部には,予備凝集槽14で無機凝集剤により凝集処理された無機の微細フロックを含む被処理水に,高分子凝集剤16を添加して導入するための導入管3が設けられ,導入管3の先端は,角錐形部の底部に対向して開口している。
Eフロック形成槽1の上方には,サイクロン4が設けられ,そこから放出される粒状物を供給するための粒状物供給管5がフロック形成槽1内に挿入され,その下端は,角錐形部内又は角錐形部と角筒形部の境界から約300〜1000mm上方の角筒形部内に開口している。
,,,F-1フロック形成槽1には撹拌器6が備えられ二段の撹拌翼のうち下段は角筒形部の下端に,上段はその上方にそれぞれ設けられている。
F-2予備凝集槽14にも撹拌器15が設けられている。
Gフロック形成槽1の沈殿槽2との隣接側の上部付近には,無機のフロック,高分子凝集剤及び粒状物の吸合体から成るフロックを沈殿槽2に移送するための移送口7が設けられている。
H沈殿槽2の内部には,上記吸合体から成るフロックから清澄水を分離するための分離板8が備えられている。
I沈殿槽2の上部には,上記吸合体から成るフロックから分離された清澄水を取り出すための取出口9が設けられている。
J沈殿層2の下部には,上記吸合体から成るフロックを排出するための排出口10が設けられている。
K排出口10の外部には,排出された上記吸合体から成るフロックを,前記サイクロン4に配送するためのポンプ付配管11が設けられている。
Lサイクロン4には,上記吸合体から成るフロックから分離した汚泥と粒状物のそれぞれを排出する各排出口12,13が設けられている。
以上(別紙4)ロ号方法aロ号方法は,ロ号装置を使用して被処理水中の懸濁物質を除去するための凝集沈殿方法である。
b被処理水を予備凝集槽14に導き,無機凝集剤を添加して撹拌し,無機の微細フロックを形成する。
c無機のフロックを含む被処理水を導入管3に導き,管中の液流に高分子凝集剤16を添加する。
d無機のフロックを含む被処理水に高分子凝集剤を添加した被処理水を,導入管3を介してフロック形成槽1内の角錐形領域の底部に高流速で流入する。
e撹拌器6により高流速の被処理水を撹拌して,上記角錐形領域内に大きな速度勾配の乱流を維持する。
f上記角錐形領域内又は角錐形領域との境界から約300〜1000mm上方の角筒形領域内に,粒状物供給管5を介して被処理液より比重の大きい所定比率の粒状物(例えば砂)を供給する。
g粒状物が混入された被処理水を,フロック形成槽1内の粒状物供給管5の下端部より上方の角筒形領域において,粒状物を懸濁状態に保つ速度勾配の乱流を維持しつつ循環させて無機のフロック,高分子凝集剤及び粒状物の吸合体から成るフロックを形成成長させる。
h形成成長した上記吸合体から成るフロックを移送口7を介して沈殿槽2に越流移送し,それに伴って,事実上すべての粒状物が沈殿槽2にもたらされる。
i沈殿槽2内で,分離板8の作用により,沈殿する汚泥及び粒状物と上澄みの清澄水とに分離される。
j清澄水は沈殿槽2上部の取出口9から,汚泥及び粒状物の混合物は沈殿槽2下部の排出口10から,それぞれ槽外に取出または排出される。
k沈殿槽2下部の排出口10から排出された汚泥と粒状物の混合物は,ポンプ付き配管11を通ってサイクロン4内に配送される。
lサイクロン4内で汚泥と粒状物は分離され,それぞれの排出口12,13から排出されるが,粒状物は,角錐形部領域又は角錐形部と角筒形部の境界から約300〜1000mm上方の角筒形部内に供給される。
以上