関連審決 | 不服2003-24255 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成17行ケ10205審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成18行ケ10550審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10429審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10097審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10171審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 反復(反復可能性) / 一定の効果 / 有用性 / 方法の発明 / 容易に実施 / 慣用技術 / 実施可能要件 / 試行錯誤 / 技術的手段 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 実質的に同一 / クレーム / 技術的意義 / 実施 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / 国際出願 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10820号
審決取消請求事件
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原告 X 訴訟代理人弁護士上谷清 同 永井紀昭 同 萩尾保繁 同 山口健司 同 薄葉健司 訴訟代理人弁理士渡辺陽一 被告特許庁長官 中嶋誠 指定代理 人横尾俊一 同 森田ひとみ 同 唐木以知良 同 内山進 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/10/30 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が不服2003-24255号事件について平成17年7月19日にした審決を取り消す。 第2事案の概要原告は,後記特許の出願をしたところ,特許庁から拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。 第3当事者の主張1請求の原因(1)特許庁における手続の経緯原告は,平成4年(1992年)4月11日,名称を「活性剤複合体を生成するための方法」とする発明につき特許出願(国際出願・国際出願番号PCT/EP92/00822。特願平4-507654。以下「本願」という )をしたところ,特許庁から拒絶査定を受けたため,平成15年12月 。 15日,これに対する不服の審判請求をした。 特許庁は,上記請求を不服2003-24255号事件として審理し,その中で原告は,全文変更を内容とする補正(甲12。以下「本願補正」という )を行ったが,平成17年7月19日 「本件審判の請求は,成り立た 。 ,ない 」との審決(出訴期間として90日附加)をし,その謄本は平成17 。 年8月2日原告に送達された。 (2)発明の内容本願補正後の特許請求の範囲は,請求項1ないし4から成るが,その請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」といい,その明細書を「本願補正明細書」という )は,下記のとおりである。 。 記【請求項1】骨形成用の活性剤複合体を生成するための方法であって,骨から,コラーゲン,エラスチン,プロテオグリカン及びその混合物の形態における少なくとも一種の構造成分,少なくとも一種の走化学性ペプチド又はアラキドン酸代謝物の形態における少なくとも一種の補充成分,フィブロネクチン,テネイシン,ラミニン,コラーゲンタイプTX型,X型,XTT,L-CAM,N-CAM又はインテグリンの形態における少なくとも一種の接着成分並びに少なくとも一種のサイトカインの形態における少なくとも一種の増殖及び成熟成分を含んでなる少なくとも一の初期複合体を調製し,そしてそれを次の工程に従って処理する,a)当該初期複合体に変性手段を供給するか,又は当該初期複合体を変性手段で処理して,当該初期複合体の前記成分の少なくとも一部を変性させて均質相を獲得し;b)このようにして形成された均質相を二以上の部分に分割し;c1)当該均質相を二部に分けたなら,当該均質相の一の部における前記成分のうち枯渇もしくは富化を所望する1又は複数種の成分を選定し;c2)当該均質相を二部超に分けたなら,当該均質相の少なくとも一の部における前記成分のうち枯渇もしくは富化を所望する1又は複数種の成分を選定し;d)当該均質相の少なくとも一の部から前記選定した成分を分画し;e)このようにして獲得した画分の少なくと(も)一部を前記均質相の他の部と混合し;f)工程eにより得られた混合均質相を,前記変性手段を取り除くことにより,又は前記変性剤による処理を停止させることにより再生し,これによりg1)前記活性剤複合体を構成する最終複合体を形成する;又はg2)前記工程a)ないしf)を1又は複数回繰り返して前記活性剤複合体を構成する最終複合体を形成する;ことを特徴とする方法。 (3)審決の内容審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その要点は,本願出願以前の技術常識を参照しても,本願補正明細書の発明の詳細な説明には,本願補正発明を当業者が容易に実施できる程度に発明の目的,構成及び効果が記載されているということはできないから,特許法36条4項に規定する要件を満たしていないとしたものである。 <判決注。>:本願に適用される平成6年法律第116号による改正前の特許法36条4項は,次のとおりである。 「前項第3号の発明の詳細な説明には,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載しなければならない 」。 (4)審決の取消事由しかしながら,審決は 「構造成分「補充成分「接着成分」及び「増 ,」,」,殖・成熟成分」の中から枯渇又は富化させるべき成分の選定及びその枯渇又は富化の程度が明細書の発明の詳細な説明に記載されていないことをもって,特許法36条4項にいう実施可能要件を満たさないとするところ,以下に述べるとおり,上記4成分の各々の機能・役割が当業者にとって明らかである以上,当業者は,自己の目的に従って上記4成分のいずれを枯渇又は富化すべきかを選定することができるし,また,枯渇又は富化の程度も,目的や状況に従って適宜調整し得るため,本願補正明細書に上記の記載がなくとも,当業者は本願補正発明を容易に実施することが可能であるから,審決の認定判断は誤りであり,取り消されるべきである。 ア審決は,本願補正明細書が実施可能要件を満たさない理由の一つとして,, 』,』, 本願補正明細書には 「初期複合体に含まれる『構造成分『補充成分『接着成分『増殖・成熟成分』のいずれを枯渇あるいは富化するのか 』,…について 「何ら記載されていない(審決3頁下13行〜下7行 , 」 。」 )と指摘する。 しかし,骨に由来する「構造成分「補充成分「接着成分」及び 」,」,「増殖・成熟成分」の各々に該当する具体的な物質,更にはそれら各成分の生体内での具体的な機能・役割は,本願補正明細書の記載や本願出願時の技術常識に基づき当業者にとって明らかである。このように,初期複合体に含まれる4つの成分のそれぞれの機能・役割が当業者にとって自明である以上,当業者は,4つの成分のうちどれかを枯渇又は富化したとき,どのような結果となるかを容易に予想し得るのであるから,自己が枯渇又は富化したい成分を,そうしたときに予想される結果を考慮した上で,自己の目的に従って,選択すればよいのである。 本願補正発明の本質は,本願補正発明の方法に従えば活性複合体の諸性質を様々な目的に応じて変えることができるという点にある。そして,本願補正発明の方法を利用するに当たって 「構造成分「補充成分「接 ,」,」,着成分「増殖・成熟成分」のいずれを枯渇あるいは富化すべきかは, 」,当業者の目的によって異なるから,本願補正明細書に「上記4成分のいずれを枯渇あるいは富化するのか」について記載がないのは,むしろ当然である。 イまた審決は,本願補正明細書が実施可能要件を満たさない理由の一つとして 「例えば補充成分として『フィブロネクチン,テネイシン,ラミニ ,ン,コラーゲンタイプW型,X型,Z,L-CAM,N-CAM又はインテグリンの形態における少なくとも一種』と多数列挙されている物質の中から枯渇若しくは富化する成分をどのようにして選定するのかについて「何ら記,」載されていない(審決3頁下11行〜下7行)と指摘する。 。」(ア)しかし,上記「補充成分」が「接着成分」の明白な誤記であるとしても,本願補正発明においては 「構造成分「補充成分「接着成 ,」,」,分」及び「増殖・成熟成分」という機能で表現された4つの成分の中から枯渇若しくは富化すべき「成分」を選定すれば足りるのであって,各成分に該当する具体的な物質まで特定して選定する必要はない。どの接着物質であっても「接着成分」としての機能を有するからである。したがって,各成分に該当する具体的物質を選定する方法の記載がないからといって,本願補正明細書が実施可能要件を満たさない理由にならない。 (イ)特定の物質でなく,ある機能ないしシステムに着目した成分単位で分画する方法は,包含分別法(甲13の参考資料7(Frank W.Putnam「The Plasma Proteins」Academic Press 1975)参照 ,分子量による )分画法(限外濾過,甲13の参考資料8(William A.Peck「Bone and Mineral Research/6」Elsevier 1989)参照 ,クロマトグラフィー,電 )気泳動,透析など,当業者にとって周知である。 本願出願当時の当業者が,均質相から成分単位で分画することが容易であったことは,甲16(William J.Lennarz「The Biochemistry of Glycoproteins and Proteoglycans」Plenum Press 1980 ,甲17(特 )開平2-218372号公報)からも明らかである。甲17には,本願補正明細書(甲12)の段落【0005】にいう「既知の方法」が記載されているところ,本願補正発明の方法は,同「既知の方法」を改善したものであって,単純化すれば,均質相を2以上の部分に分け,一方の均質相部分から従来技術と同様に所望の成分を単離し,後で,未処理のまま残された他方の均質相部分と混合するという工程を「既知の方法」に加えたものであるから 「既知の方法」が当業者に周知慣用の技術で ,あれば,本願補正発明の方法も当業者であれば容易に実施可能である。 この点,被告は,同じ「増殖・成熟成分」に包含される物質であっても,骨格成長因子(SGF)と骨由来の成長因子(BDGF)とでは分子量が大きく異なっているから 「補充成分」と「増殖・成熟成分」とを単に ,分子量の違いによって分画することはできない,と主張する。しかし,上記参考資料8に示されているとおり,骨格成長因子(SGF)以外の「増殖・成熟成分」に該当する諸物質の相対分子量は,いずれもおよそ10〜25×10 の範囲内に含まれているから,骨格成長因子(SGF)3を除く「増殖・成熟成分」を,分子量に基づいて他の成分から分画することが容易であることは明らかである。そして,本願補正発明の実施態様として「増殖・成熟成分」を富化する場合には,骨格成長因子(SGF)が「増殖・成熟成分」を分画する際に抜け落ちたとしても 「増殖,・成熟成分」が成分全体としてみた場合に富化されていれば足りるから,特に問題は生じない。また,被告が指摘する例であっても,当業者であれば,数種のフィルターを使い分けることにより,骨格成長因子(SGF)を含めて「増殖・成熟成分」を分画することが可能である。 ウ審決は,本願補正明細書が実施可能要件を満たさない理由の一つとして,本願補正明細書に 「骨から得られた『初期複合体』の特定成分をどの程 ,度まで枯渇あるいは富化させれば骨形成用としての活性剤複合体となるのかについての記載もない(審決3頁下5行〜下3行)とする。 。」しかし,本願補正発明の方法において,選定した成分をどの程度富化ないし枯渇するかは,出発材料に含まれる各成分の量や,適用対象たる組織が含有する成分の種類や量,さらには当業者の目的等によって変わり得るものであるから,一般的な程度を示すことは不可能である。 そもそも,選定した成分をどの程度枯渇ないし富化するかは,当業者が目的・状況に応じて適宜調整すべき事項であり,最適化は当業者の通常の試行錯誤により達成可能であるから,その記載が本願補正明細書にないからといって実施不可能となるものではない。枯渇,富化の程度は,本願補正発明の実施可能性とは無関係である。 当業者であれば,たとえば,入手した原料骨(出発材料)の上記各成分の量を測定し,各成分の量を標準的な骨の中に含有されている各成分の量と対比し,どの成分が標準的なものに比べ不足し,どの成分が過剰であるかを判定することで,どの成分を,どの程度枯渇若しくは富化すべきか,又はそのままとすべきかを決定することは容易に可能である。 エ上記4成分のそれぞれの検定方法は,当業者にとって周知・慣用技術である(甲13の参考資料9(Michael Silbermann,Harold C.Slavkin「Current Advances in Skeletogenesis」Excerpta Medica 1982 ,同参考資 )料10(Harold C.Slavkin,Richard C.Greulich「Extracellular MatrixInfluences on Gene Expression」Academic Press 1975 ,同参考資料1 )2(Alton L.Boynton,Wallace L.McKeehan,James F.Whitfield「Ions,cell proliferation,and cancer」Academic Press 1982 ,甲14(特許第 )3626178号公報)の5頁28行〜34行,6頁10行〜11行,6頁47行〜48行 ,甲17(特開平2-218372号公報)の6頁右 )上欄2行〜8行などを参照 )。 被告は,甲13の参考資料9は,初期複合体や活性複合体に含まれる補充成分の量の過不足を検定しているものではない,と主張するが,当業者は,試験対象まで全く同じものが開示されていなければその検定方法を使えないというものではないから,失当である。また被告は,甲13の参考資料12は,エネルギー分散スペクトルによってNa,K,Mg,Caのイオンの流量を検定するものであって,成長・成熟成分の検定方法についての記載はない,と主張するが,同参考資料12は,イオンの流量をもって増殖因子等を検定しているのであるから,失当である。 オそもそも 「構造成分「補充成分「接着成分」及び「増殖・成熟成 ,」,」,分」の4つの成分を含んだ骨形成用の活性剤複合体の発明については,既に日本で特許が成立している(甲14。特許権者 原告。特許第3626178号特許公報 。甲14には,4つの成分のそれぞれが「どの程度ど )のような割合で存在している」かについての記載はないが,それでも実施可能であるとして,特許査定がされている。本願補正発明は,甲14の発明と同様の活性剤複合体を作成するに当たり,初期複合体に含まれる上記4成分のうち任意の成分を目的に応じて適宜増量ないし減少させて,具体的な適用対象に最適な活性剤複合体の作成を可能にする方法といえる。したがって,甲14の発明がその明細書により実施可能であるのであれば,本願補正発明も本願補正明細書の記載により実施可能のはずである。 カ(ア)また,本願補正発明の方法を実際に実施した実験に関するレポート(甲15)からも,本願補正発明が実施可能要件を満たすことが裏付けられる。すなわち,本願補正発明の方法によって得た活性剤複合体を有する欠損部では,適用して2週間後という重要な初期段階において,自原性骨を適用した欠損部よりもはるかに多い石灰化した骨が存在しているという結果が出ている。 (イ)@被告は,甲15における活性剤複合体の製造において 「高分枝,化コラーゲン」を枯渇すべき成分とし,分画の手段として除去すべき分子量90000ダルトンの限外濾過を選んだことが,本願補正明細書の第1の態様の記載から自明であるということはできない,と主張するが,失当である。 なぜなら 「構造成分」である高分枝化コラーゲンが高分子量(90 ,000ダルトン)のたんぱく質であること,骨中におけるその濃度が低分子部分に比して高すぎることは当業者にとって既知である(甲15の訳文3頁11行〜14行参照)から 「構造成分」たる高分枝化コ ,ラーゲンを枯渇すれば,より有効な活性剤複合体を得られるであろうと想到することは,当業者であれば容易であり,高分枝化コラーゲンの分子量が判明している以上,分子量90000ダルトンの限外濾過で分画することを想到することも,当業者にとっては容易だからである。 Aまた被告は,フィブロネクチンの分子量が440000,ラミニンの分子量が1000000であるから(甲13 ,コラーゲンとともに「接着成 )分」であるこれらの物質も枯渇することになり,フィブロネクチンは「補充成分」としての性質も有するから 「補充成分」も枯渇される ,ことになる,そうすると,甲15の試験で使用された「活性剤複合体」は,単に分子量90000ダルトン以上の成分が枯渇されたものに過ぎず 「構造成分「補充成分「接着成分」及び「増殖・成熟成 ,」,」,分」のいずれがどの程度枯渇あるいは富化されたものであるのか不明である,と主張するが,失当である。 なぜなら,フィブロネクチンやラミニンは 「接着成分」ないし,「補充成分」の一部に過ぎず,また,骨の高分子量部分の大部分は高分枝化コラーゲンであるから,分子量90000ダルトン以上の成分が枯渇されれば 「構造成分」が枯渇され,残りの成分が富化されること ,は明らかであるからである。 Bまた被告は,表1.4.1としてマイクロラジオグラフィー分析の結果の数値が示されているが,その数値の技術的意義が不明である,と主張するが,失当である。 なぜなら,当該数値は,欠損部中に生じた石灰化した骨の量を示しているものであって,例えば適用後2週間で,自原性骨を適用した欠損部には「39.50±9.22(%,活性剤複合体を適用した欠 )」損部には「52.63±4.03(% 」の骨が生じたことを示してい )るものであって,短い2週間という期間の後でさえ,結果は,体内に由来する骨よりもはるかに優れており,本願補正発明の有用性を示しているからである。 Cさらに被告は 「これら試料には不備があった可能性がある」と記 ,載されているように(甲15訳文5頁5行〜6行 ,甲15の実験結)果自体信憑性があるものとはいえない,と主張するが,失当である。 なぜなら,甲15の上記記載は,4週間後の結果が,自原性骨を適用した場合より活性剤複合体を適用した場合の結果の方が悪いものであるかのようにも見えるところ,そのような結果は,原告がこれまで行ってきた他の結果とも異なるものであったことから,一つの可能性として,試料には不備があったかもしれないと述べているだけであるからである。この点は,実験の結果を正確に記録しているものとして,かえって信用性が認められる。 キさらに,本願補正発明に係る活性剤複合体は,出発材料の生物活性を再現し,しかも所望の活性が増強又は抑制されたものであるという,以下の(ア),(イ)のような極めて有利な効果を奏する。 (ア)本願補正発明の方法によれば,目的の生理活性物質を濃厚にすることができ,しかもその寿命の延長に役立つ因子が残った中間精製画分と混合するため,目的の生理活性物質の寿命が短くなることもない。その結果,薬理効果を十分に発揮し,しかもその活性寿命の延命した薬剤を提供することが可能となる(本願補正明細書〔甲12〕の段落【0007。】)(イ)本願補正発明の方法によれば 「構造成分「補充成分「接着成 ,」,」,分」及び「増殖・成熟成分」をすべて同一の起源としながら,所望の成分のみの量の増減を図ることもできるので,この場合には,活性寿命の延命のほか,相性の欠如やアレルギー反応の心配もなくなるという顕著な効果を奏する。 ク欧州及び米国では,本願に対応する特許出願につき,既に特許が付与されている(対応欧州特許:欧州特許第0636033号〔甲19 ,対応〕米国特許:米国特許第5928635号〔甲20。クレームの記載に〕)ついては,いずれも本願補正発明のそれとほとんど変わらず,明細書の記載についても,本願補正明細書と実質的に同一である。 2請求原因に対する認否請求原因(1)〜(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。 3被告の反論審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 (1)原告は 「構造成分「補充成分「接着成分」及び「増殖・成熟成 ,」,」,分」の4成分の各々の機能・役割が当業者にとって明らかである以上,当業者は,自己の目的に従って上記4成分のいずれを枯渇又は富化すべきかを選定することができる,と主張する(前記2(4)ア)が,以下のとおり,失当である。 ア本願補正明細書の発明の詳細な説明には,初期複合体に含まれる「構造成分「補充成分「接着成分」及び「増殖・成熟成分」の量を検定す 」,」,る方法も 「構造成分「補充成分「接着成分」及び「増殖・成熟成 ,」,」,分」の量とそれによる作用との関係についても,何ら記載されていない。 したがって,例えば,骨の構造成分に定着した細胞を一段と早く増殖及び/又は成熟させようとする場合,初期複合体に含まれている「増殖・成熟成分」の量がその目的に対して必要な量に不足していることが分からなければ 「増殖・成熟成分」を富化すべきであると判断できず,また, ,「増殖・成熟成分」の量と細胞の増殖及び/又は成熟の早さとの関係が分からなければ 「増殖・成熟成分」を富化すべき量を決めることができな ,い。 イまた 「構造成分」が過剰であるということを何を基準に判別し,どこ ,まで枯渇(減少)させればよいのか,その目安がなく,結局,枯渇又は富化の処理をすべきなのか,するとしてもどの程度まですればよいのか決定できないことになる。 そうすると,当業者が本願補正発明を実施するには,まず,初期複合体に含まれる「増殖・成熟成分」の量を検定する方法を確立するための試験研究を行い,さらに 「増殖・成熟成分」の量と細胞の増殖及び/又は成 ,熟の早さとの関係を調べるために膨大な試験研究をするとともに,併せて「構造成分「補充成分「接着成分」及び「増殖・成熟成分」の妥当 」,」,な量についても試験研究をすることが必要であるから,本願補正明細書は,当業者が容易に実施できる程度に記載されているとはいえない。 (2)次に原告は,本願補正発明においては 「構造成分「補充成分「接 ,」,」,着成分」及び「増殖・成熟成分」という機能で表現された4つの成分の中から枯渇若しくは富化すべき「成分」を選定すれば足りるのであって,各成分に該当する具体的な物質まで特定して選定する必要はない,と主張する(前記2(4)イ)が,以下のとおり,失当である。 ア(ア)「…成分」と総称されていても,それに含まれる個々の物質はその物性が異なり,それらをまとめて他の成分と分離することは困難であるから,具体的な物質を選定しなければ実際の分離工程の決定は不可能である 「構造成分「補充成分「接着成分」及び「増殖・成熟成 。」,」,分」の各成分は,本願補正明細書に記載のとおり,それぞれ複数の具体的物質を含むものであって,それらの具体的物質が1種の分離法で必ず分離可能というものではない。 (イ)この点につき原告は,意見書(甲13)において,活性剤複合体を形成する4つの成分に該当する具体的物質の分子量は,各画分を確実に分離できる程度に異なっている,と主張する。 しかし,甲13の参考資料8によれば 「増殖・成熟成分」である骨 ,格成長因子(SGF)の相対分子量は83000であって,同じ「増殖・成熟成分」である骨由来の成長因子(BDGF)の相対分子量11000よりも大きく,同参考資料9における「補充成分」である骨走化性因子の60000〜70000を超える値である。 そうすると,同じ「増殖・成熟成分」に包含される物質であっても,骨格成長因子(SGF)と骨由来の成長因子(BDGF)とでは分子量が大きく異なっているから 「補充成分」と「増殖・成熟成分」とを単に分子 ,量の違いによって分画することはできない。 イ「構造成分「補充成分「接着成分」及び「増殖・成熟成分」に該 」,」,当する具体的物質は,物質ごとに作用やその程度が異なり,富化させた後の活性の大きさも異なるから,本願補正発明を実施するには,4つの成分のいずれかを選定するだけでは不十分であり,その成分としての物質を選定する必要がある。 (ア)例えば,甲13の参考資料9の表1は,造骨細胞に対する各種因子の走化性を試験した結果を示したものであるが,これによれば,細胞移動数(最大値に対する%)は,添加物質なしは10,骨走化性因子で未処理のものは100,フィブロネクチンも100,PDGF(血小板由来増殖因子)は33,ラミニンとfMet-Leu-Pheは10と記載されている。 (イ)@上記表1から,本願補正発明の「接着成分」であるフィブロネクチンとラミニンについて,前者が「補充成分」としての作用があるのに対し,後者には「補充成分」としての作用がないことが分かる。 そうすると 「接着成分」としてフィブロネクチンを富化すると「補 ,充成分」も富化されるが 「接着成分」としてラミニンを富化しても ,「補充成分」は富化されないこととなる。すなわち,いずれの物質を富化するかによって,得られる複合体の性質は異なる。 このことは,本願補正明細書の段落【0016】に 「…フィブロ,ネクチンが…補助成分を形成するために溶液に添加される場合,接着成分は,フィブロネクチンとは異なり,そして不溶性である他の物質から形成されるべきである。フィブロネクチンが接着成分のために不溶性形で使用される場合,前記とは逆の場合が適用される。 …」と記載されていることとも合致する。 Aまた,上記表1によれば,本願補正発明の「増殖・成熟成分」であるPDGF(血小板由来増殖因子)は,わずかではあるが「補充成分」としての作用を有する一方,本願補正発明における「補充成分」であるN-F-Met-Leu-Phe(本願補正発明におけるfMet-Leu-Pheに相当するペプチド)は,造骨細胞に対する走化性を示さず 「補充成分」として,の作用がないことが分かる。 (3)次に原告は,選定した成分をどの程度枯渇ないし富化するかは,当業者が目的・状況に応じて適宜調整すべき事項であり,その記載が本願補正明細書にないからといって実施不可能となるものではない,と主張する(前記2(4)ウ 。)しかし,原告が提出した意見書(甲13)に添付された各資料には 「初,期複合体」あるいは「最終複合体」における「構造成分「補充成分 ,」,」「接着成分「増殖・成熟成分」の各成分について,所期の目的を達成す 」,るために必要とされる量,及び必要な量に足りているか否かを検定する方法が周知であることは何ら示されていない。上記4つの成分について,所期の目的を達成するに必要な「最終複合体」における量となるようにいずれの成分を枯渇又は富化させるべきかを判断するための基準を確立するには,当業者に過度の試行錯誤を強いることとなる。 例えば,甲13の参考資料9には,骨走化性因子(BCF),フィブロネクチン,ラミニン,血小板由来増殖因子(PDGF)等の物質の走化性についての試験結果が記載されているが,初期複合体や活性複合体に含まれる補充成分の量の過不足を検定しているものではない。 また,甲13の参考資料12は 「正常細胞および癌細胞増殖におけるイ ,オン制御に関する研究におけるエネルギー分散分光法」と題する論文であり,エネルギー分散スペクトルによって検定されるのはNa,K,Mg,Caのイオンの流量であって,成長・成熟成分の検定方法についての記載はない。 (4)次に原告は,上記4成分のそれぞれの検定方法は,当業者にとって周知・慣用技術である,と主張する(前記2(4)エ 。)しかし,原告が提出した意見書(甲13)に添付された資料には 「初期,複合体」に含まれる「構造成分「補充成分「接着成分」及び「増殖・ 」,」,成熟成分」の各成分の量を検定する方法について何ら記載されていない。例えば,資料9(甲13の39〜43頁)は,骨走化性因子(BCF ,フィブ)ロネクチン,ラミニン,血小板由来増殖因子(PDGF)等の物質の走化性についての試験結果が記載されているが 「初期複合体」や 「活性複合体」に ,,含まれる補充成分の量の過不足を検定しているものではない。また,資料12(甲13の66〜94頁)は,エネルギー分散スペクトルによってNa,K,Mg,Caのイオンの流量を検定するものであるが,成長・成熟成分の検定方法については何ら記載されていない。 (5)次に原告は 「構造成分「補充成分「接着成分」及び「増殖・成熟 ,」,」,成分」の4つの成分を含んだ骨形成用の活性剤複合体の発明については,既に日本で特許が成立しており(甲14。特許第3626178号公報 ,同)発明が甲14の明細書により実施可能であるのであれば,本願補正発明も本願補正明細書の記載により実施可能のはずである,と主張する(前記2(4)オ 。)しかし,甲14の発明は,上記4つの成分を含むことを特徴とする骨を製造する作用物質複合体に関する発明であって,4つの成分が存在すること自体が必要であり,4つの成分のうちの特定の成分について枯渇または富化することについての発明ではないから,各成分の量について特段記載しなくても,甲14の発明は実施可能性がないということにはならない。 一方,本願補正発明は 「構造成分「補充成分「接着成分」及び「増 ,」,」,殖・成熟成分」の各成分から枯渇若しくは富化すべき成分を選定し,該成分を分画して残りの成分と混合することを発明の構成に欠くことのできない事項の一部とするものである。 したがって,本願補正発明を容易に実施できるというためには,当該成分をどのようにして選定し,また,どの程度枯渇あるいは富化すればよいのか,その判断の指針となるべき事項が記載されている必要がある。 (6)次に原告は,本願補正発明の方法を実際に実施した実験に関するレポート(甲15)からも,本願補正発明が実施可能要件を満たすことが裏付けられる,と主張する(前記2(4)カ 。)アしかし,本願補正明細書には 「第1の態様」において 「均質性の部 , ,分を1:1の体積比で分割する。この手段で分割された,変性された均質相の1つの部分を分別し,これはクロマトグラフィー,電気泳動,限外濾過又は透析により達成され得る。本発明によれば,その得られた所望する画分を,前記変性された均質相の第2の部分に添加し,そして後者と共に再結合する 」と記載されているにすぎないから,甲15における活性剤 。 複合体の製造において 「高分枝化コラーゲン」を枯渇すべき成分とし, ,分画の手段として除去すべき分子量90000ダルトンの限外濾過を選んだことが,本願補正明細書の上記記載事項から自明であるということはできない。 すなわち,どのような理由で 「構造成分」以外の「補充成分「接着 , 」,成分「増殖・成熟成分」の濃度が不足していると判断したのか,その 」,理由が明らかでない。また,添付図2を見ても,得られた活性剤複合体において,構造成分,補充成分,接着成分,増殖・成熟成分の各成分が,どのような割合で存在するのか,初期複合体に比べどの成分がどれだけ枯渇あるいは富化されたか不明である。 イさらに,フィブロネクチンの分子量が440000,ラミニンの分子量が1000000であるから(甲13 ,コラーゲンとともに「接着成分」であるこれ )らの物質も枯渇することになり,フィブロネクチンは「補充成分」としての性質も有するから 「補充成分」も枯渇されることになる。 ,そうすると,甲15の試験で使用された「活性剤複合体」は,単に分子量90000ダルトン以上の成分が枯渇されたものに過ぎず 「構造成分 ,,」「補充成分「接着成分」及び「増殖・成熟成分」のいずれがどの程度 」,枯渇あるいは富化されたものであるのか不明である。 ウまた,表1.4.1としてマイクロラジオグラフィー分析の結果の数値が示されているが,その数値の技術的意義が不明であり,しかも 「これら,試料には不備があった可能性がある」と記載されているように(甲15訳文5頁5行〜6行 ,甲15の実験結果自体信憑性があるものとはいえな )い。 (7)次に原告は,本願補正発明に係る活性剤複合体は,出発材料の生物活性を再現し,しかも所望の活性が増強又は抑制されたものであるという,極めて有利な効果を奏する,と主張する(前記2(4)キ 。)しかし,本願発明の方法によれば,その活性寿命が延命した薬剤を提供できるとの効果については,本願補正明細書(甲12)において実験などによる具体的な裏付けがなされていない。また,相性やアレルギーの問題がないという効果は,本願補正明細書(甲12)に記載がない。 (8)さらに原告は,欧州及び米国では,本願に対応する特許出願につき,既に特許が付与されている,と主張する(前記2(4)ク 。)しかし,欧州及び米国における対応特許の特許請求の範囲は,本願補正発明のそれとは異なっているから実質的に同じ発明であるとはいえない。また,そもそも法制の異なる外国における特許出願の審査において特許が付与されているとしても,そのことは本願補正明細書について,我が国の特許法36条4項の要件を満たすか否かの判断を左右するものではない。 第4当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯 ,(2)(発明の内容 ,(3)(審決 ))の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。 2本願補正明細書の記載(1)本願補正明細書(甲12)には,前記第3,1,(2)のとおりの本願補正発明が記載されているほか 【発明の開示】の項には,従来技術,発明の目 ,的,目的達成のための手段,具体例について,以下の記載がある。 ア従来技術(ア)活性剤複合体は少なくとも2種の成分を有するタイプの複合体であり,その中の少なくとも1つの成分が活性剤である。活性剤は,それらが生存する機能のキャリヤーとして細胞と相互反応する事実の結果として一般的にそれらの効果を進行せしめる。従って,活性剤は内因的に,すなわち細胞代謝の生成物として身体内で生成され,又はそれらは食品,環境用物質又は医薬として外部から身体に適用され得る。すべての場合において,生物における1又は複数の標的構造体との相互作用が,生物学的(本判決注 「生物月的」は誤記と認める )効果を達成するために , 。 必要である (段落【0002 ) 。】(イ)内因的に生成される活性剤の場合,それらの生成とそれらの効果との間の空間的及び年代的経過がひじょうに異なる。従って,たとえばホルモンは長い経過にわたって作用することができ,又は組織ホルモンはひじょうに短い経過にわたってそれらの活性を進行せしめる。活性剤の生成部位と作用部位との間でのシグナルの流れの変動を短い期間において可能にするためには,多くの内因的に生成される活性剤,たとえばホル, モン,神経伝達物,サイトカイン,等の場合,半減期が短く,その結果増殖培地における活性剤の有用な寿命はひじょうに短い。たとえば血液における半減期は,多くの活性剤に関して数秒〜数分の間で存在する。 (段落【0003 )】(ウ)急速な分解運動等を特徴とするこの生成及び効果は通常,内因性活性剤のために好都合であり,なぜならば,その生成はその必要条件に急速に適合され得るが,しかしそれはそれらの短い生存性活性剤の外因性適用のために重大な問題であり,なぜならば,多くの場合,重要な活性剤の外因性適用は,それらの半減期が,その対応する標的構造体との相互作用はもはや生ぜず,そして従ってその効果が起こらないほど短いので不可能である (段落【0004 ) 。】(エ)活性剤複合体を生成するための既知の方法の場合,中でも成分としてl又は複合体の必要とされる活性剤を有する初期複合体が変性工程にゆだねられ,ここで前記初期複合体は,その成分に破壊されることによって均質相を少なくとも部分的に取ることを引き起こされ,そしてこの場合,個々の成分がそれらの構造体を少なくとも一部変える。この変性工。 程の場合,さらに,それぞれの初期複合体が生理学的に不活性化される次に,個々の必要とされる活性剤が均質相から単離され,そして,対応して,活性剤複合体を得るために“集められる 。この既知の方法に従っ ”て生成される活性剤複合体は生存生物において短い生存性活性剤を用いるために適切ではない (段落【0005 ) 。】イ本願補正発明の目的従って,本発明は,効果が必要とされる活性部位で及び短い生存性の活性剤が使用される場合でさえ,必要とされる期間,生存生物において引き起こされ得る,活性剤複合体を生成するための方法を提供する目的に基づかれている (段落【0006 ) 。】ウ目的達成のための手段(ア)本発明によれば,この目的は,請求の範囲第1項の特徴を存する方法により達成される。最終複合体が均質相の少なくとも一部と一緒に少なくとも1つの予定された成分から再生(再結合)工程により形成され,そして最終複合体が変性及び再結合工程から成る少なくとも1回のサイクルの後,活性剤複合体を形成する事実の結果として,短い半減期を有, する活性剤を外因性適用のために有用にすることが可能である。従って個々の予定された成分は,本発明に従って生成される活性剤複合体が,それが続いて生物において使用された場合に含む予定がある活性成分である。…(段落【0007 )】(イ)従って,この態様で生成される活性剤複合体は,それらが含む個々の活性剤が,それが生物に存在する場合においてのみ,意図的に開放される利点を有する,単一の活性剤が存在できる。しかしながら,多くの活性剤がまた,その複合体に存在できる。変性-再結合工程の個々のサイクルは,それ自体,個々の場合において予定される活性剤に関して富化(濃縮)段階のタイプである。多くのサイクルが実施されるなら,活性剤複合体におけるいづれか予定された活性剤は,それが生物中に導入される場合,それが正確に定義され,そして予定の時間のために効果的であるような手段で富化され得る (段落【0008 ) 。】(ウ)その結果として,それ自体内因性であり,生存生物において少量で単に生成され,そして一定の環境下で,本発明の方法の適用のために必要。 な初期複合体に微量で単に存在する活性剤が,外因性適用を受けやすい従って,また,活性剤複合体を形成するためにひじょうに異なった濃度でお互いに関係なく初期複合体に成分として存在する多くの活性剤を富化することは,本発明の方法の範囲内である (段落【0009 ) 。】(エ)本発明の方法の好ましい態様においては,均質相の部分からのいづれかの予定された成分が消耗され,富化され又は単離される。従って,いづれかの数の部分が均質相から形成され得る (段落【0010 ) 。】(オ)好ましくは,均質性は2つの部分に分けられ,均質性の1つの部分からの個々の予定された成分が消耗され,富化され又は単離され,そして均質相の他の部分と組合される (段落【0011 ) 。】(カ)本発明の方法のさらに好ましい態様の場合,初期複合体に存在しない少なくとも1つの追加の成分が活性剤複合体に添加される。その結果として,内因的に生成された活性剤と天然又は合成である追加の活性剤とを,完全に新規な予定できる効果が本発明の活性剤複合体を用いることによって達成され得るような手段で組合すことが可能である (段落【0。 012 )】(キ)本発明の方法の適用に使用される初期複合体は,動物又はヒト細胞,組織又は器官をサンプリングすることによって形成され得る。しかしながら,それはまた,微生物又は植物細胞培養物又は生物からも形成され得,又は合成的に生成され得る (段落【0013 ) 。】(ク)本発明の方法を用いることによって,生物学的な部分,特に生存する生物の器官を生成するための活性剤複合体を調製することがさらに可能である。この目的のための活性剤複合体はDE-OS3936568に記載されている。活性剤複合体は,材料的にお互い同一ではない少なく, とも4種の異なった成分(構造成分,可溶性補助成分,不溶性接着成分増殖及び成熟成分)を含んで成る。フィブロネクチンが前記補助成分を形成するために溶液に添加される場合,接着成分は,フィブロネクチンとは異なり,そして不溶性である他の物質から形成されるべきである。 フィブロネクチンが接着成分のために不溶性形で使用される場合,前記とは逆の場合が適用される。お互い異なる問題の成分は,標的細胞に適合され,そして内因性細胞から生物学的部分を構成するために使用される (段落【0016 ) 。】(ケ)…構造成分の生成のための源は圧倒的に,異なった組織又は器官の細胞外材料であり,すなわち,たとえば…骨-特異的プロテオグリカン及びファイバータンパク質は骨を生成するために使用される。構造成分はまた,その構造成分の幾何学的,機械的,化学的又は他の性質が変性され得るような手段により,金属性,セラミック性,ガラス質,ポリマー性又は脂肪キャリヤー材料を含んで成る。…(段落【0020 )】(コ)本発明の活性剤複合体の追加の好ましい態様においては,活性剤複合体は実質的に単に一時的に生物学的部分を生成するためにその効果を進め,即ち活性剤複合体は,それが制御され,そして年代的に破壊され得るような手段で形成され,そして生物学的部分が生成される場合,もはや存在しない。…(段落【0021 )】(サ) 必要とされるタイプの生存細胞は,生物学的部分を生成するために構造成分の近くで濃縮される予定である。この目的のためには,活性剤複合体の構造成分は1又は複数の補充成分を含み,これによって,所望する細胞が指図された運動を行なうために刺激され得る。(段落【0022 )】(シ) 走化性物質〔ケモタクシン(chemotaxin 〕が,補充成分として適切 )である。 個々の場合において適切な走化性物質は多くの細胞のためにこれまで記載されており,そしてヒト,動物,植物又は微生物源から単離され,又は化学合成又は生物技法により生成され得る。生存体から外見上生成された構造部分がその補充成分と共に導入され,そして/又は生物から外見上,標的細胞と共に組合される場合,濃度傾斜が形成され,これに対して標的細胞が配向され,ここでそれぞれの補助成分がレセプターとしても知られている,標的細胞に基づいて特定の検出構造体と相互作用する。多くの細胞型から構成される,生成されるべき生物学的部分の出来事においては,構造部分は細胞型の数に従って走化性物質の形で多くの補充成分を含んで成る。(段落【0023 )】(ス) 異なった標的細胞のためのそれぞれの補充成分の特異性及び走化性物質活性の程度が,調査の手段により決定され,この場合,定義されたフィルター孔を通しての所望する細胞の指図された移動が走化性物質の傾斜の効果下でチャンバーにおいて測定される。このタイプの調査技法により,活性剤系は,産業規模に基づいて活性剤複合体の生成のために重要であるそのそれぞれの補充成分に関して生物学的に標準化され得る。 (段落【0024 )】(セ) 生物学的部分を生成するために,細胞が構造成分中に移動したなら,それらは,環境中へのそれらの移動を阻止し,そして生成される生物学的部分の安定した構築を確保するためにその部位で固定されるべきである。このためには,活性剤複合体はl又は複数の接着成分を含み,その成分により,移動細胞は構造成分の部位で固定され得る。従って,接着成分は一方では,生物学的部分を生成する細胞に,そして他方では,構造成分の高分子網状構造に“定着(anchored ”される。このタイプの接 )着は知られており,そして一定の程度の定着特異性を示す。その例は,フィブロネクチン又はラミニンタイプのアルブメン体であり,たとえばそれにより結合組繊細胞又は上皮細胞が構造成分に定着され得る。…(段落【0027 )】(ソ) 時々,構造成分の近くで走化性的に結合され,そして安定したアドへシンにより固定される生物学的部分を生成するための細胞の数は,それらがその生物学的部分を構成するために不十分である。さらに,ほとんどの場合,それらの工程のための生物からの利用できる移動性細胞は,生物学的部分のすべての機能を行なうためには,十分に成熟した状態で存在しない。これに反して,それらは時々,前駆体又は親細胞であり,これから,まず初めに生成されるべき生物学的部分の操作可能な成熟細胞が増殖する。このためには,本発明の活性剤複合体は,移動性細胞の数が高められ,そしてさらに細胞が成熟する効果下で,好ましくは1又は複数のサイトカインの形で,少なくとも1つの増殖及び/又は成熟成分を含んで成る (段落【0028 ) 。】エ具体例(ア)次に,本発明は態様に関してさらに詳細に説明されるであろう。 第1の態様:家畜の骨からの骨形成活性剤複合体の生成。 家畜(牛)の骨を洗浄し,粉砕し,そして脱硫化する。得られた骨マトリックスは本発明の方法の適用のための初期複合体である。その骨マトリックスを,適切な変性剤,たとえば尿素の溶液と共に混合し,そして10℃で24時間,攪拌する。主なレドックス反応においては,酵素触媒された転換,カオトロピック塩との反応,pH,温度又はイオン強度の変動,機械的効果,界面活性性質を有する物質(界面活性剤)が変形手段として使用される。溶液において均質である骨マトリックスの一。 部を分離する。これはたとえば,濾過又は遠心分離により行なわれ得る均質性の部分をl:lの体積比で分割する。この手段で分割された,変性された均質相の1つの部分を分別し,これはクロマトグラフィー,電気泳動,限外濾過又は透析により達成され得る。本発明によれば,その, 得られた所望する画分を,前記変性された均質相の第2の部分に添加しそして後者と共に再結合する。再結合(再生)は,たとえば濾過により変性剤を除くことによって生じる。一般的に,種々の物理的,化学的又は生物学的方法がここで使用され得る。得られる最終複合体は,骨を形成するために適切である活性剤複合体である (段落【0035 ) 。】(イ)第2の態様:10kgの生物学的材料(たとえば結合組織)を,低分子量変性剤(たとえば6モル濃度の尿素)の水溶液80lと共に混合し,そして室温で72時間,攪拌する (段落【0036 ) 。】(ウ)溶解された部分を,適切な分離方法,たとえば遠心分離により不溶性。 残留物から分離する。変性された残留物を,l:1の体積比で分割するパートIからの所望する分子質量,たとえば30000ダルトンまでの低分子量活性剤画分を濃縮し,そして高分子量基質部分を,中空繊維フィルターカートリッヂにおける適切な限外濾過に基づく濾過により除去する (段落【0037 ) 。】(エ)この態様で濃縮され,そして分離された活性剤画分は,従来技術におけるように,活性剤に関して処理されないが,しかしパート2の変性された残留物と共に組合され,そして高分子量基質の存在下で再生のため。 に供給される。再生は,変性剤,たとえば尿素の除去により行なわれるこの観点においては,活性剤複合体が,活性剤と組合う基質の結果として形成され,そして基質の再生は活性剤の再生を促進する。変性-再生サイクルを反復(本判決注 「返復」は誤記と認める )することによっ ,。 て,基質は,所望する生物学的効果のために最適化される活性剤複合体が生成されるまで,活性剤により飽和され得る。凍結乾燥は,活性剤複合体を単離するために使用され得る (段落【0038 ) 。】(オ)このようにして製造された活性剤複合体は,構造的な走化性物質の結果としてひじょうに異なった用途のために生成され得,接着,増殖,分化性質が本発明の方法に従って活性剤複合体で得られる (段落【003。 9 )】(カ)他の性質は,免疫原性,毒性,等に関連し,そして本発明の生成方法により活性剤複合体により意識的に調節され得る (段落【0040 ) 。】(キ)本発明の方法に従って生成された活性剤複合体のための適用のさらなる分野は,生物適合性を高めるために,又は細胞との一定の反応を達成するために界面の変性の分野内に存在する。たとえば,生物工学又は研究目的のために細胞の培養においては,このタイプの活性剤複合体による技術的な被覆が重要である。その用途は,診断又は治療システム,たとえば透析器及び酸素供給器の場合,生体外的に又は人工器官の場合,生体内的に用いられる (段落【0041 ) 。】(ク)上記の記載に言及されるすべての特徴は,特別に強調されていなくても及び特許請求の範囲に言及されていなくても,本発明の構成成分である (段落【0042 ) 。】(2)上記(1)ア〜エの各記載によれば,本願補正明細書には,生存生物における骨形成が必要な部位に,内因的に生成される生存性の活性剤を外因的に適用しても,増殖培地における有用な寿命が非常に短く,効果が起こらないという技術的課題があったこと,かかる技術的課題を解決する手段として,効果が必要とされる部位において,たとえ短い生存性の活性剤を使用した場合であっても,必要な期間だけ骨形成を促進する効果を有する活性剤複合体を生成するための方法を提供することを目的として本願補正発明がなされたものであること,その目的達成のために採用する手段が,本願補正発明の特許請求の範囲に開示された方法であること,が記載されていると認められる。 そして,特許請求の範囲の記載によれば,本願補正発明は,骨から,構造成分,補充成分,接着成分,増殖・成熟成分の4つの成分を含む初期複合体を調製し,そのうちの所望成分を選定し,これを枯渇もしくは富化する操作を通じて,最終的に,当該4つの成分を,初期複合体における含有割合とは異なる比率で含有する活性剤複合体を生成する方法の発明であるということができる。そうすると,この方法の発明についての本願補正明細書における開示事項が,実施可能要件を満たすといえるためには,技術的手段としての上記操作に関する事項が,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易にその実施をすることができる程度に記載されていることを要するというべきである。 (3)しかるに,本願補正明細書における,骨形成用の活性剤複合体を生成する方法の発明としての操作手段に関する記載について検討すると,以下のとおりである。 ア富化手段について 「…活性剤複合体におけるいづれか予定された活性 ,剤は,それが生物中に導入される場合,それが正確に定義され,そして予定の時間のために効果的であるような手段で富化され得る(段落【0。」008 )と記載されているが,効果的であるような手段とは具体的には 】どのような手段であるのか記載されていない。 イ作用効果について 「その結果として…外因性適用を受けやすい。従っ ,て,…異なった濃度でお互いに関係なく初期複合体に成分として存在する多くの活性剤を富化することは,本発明の方法の範囲内である(段落。」【0009 )と記載されているが,上記アの記載が具体的でないため, 】どのような具体的操作の結果としての作用効果であるのかの記載になっておらず,実施のための指針,目安とならない。 ウ好適な態様について 「…好ましい態様においては,均質相の部分から ,のいづれかの予定された成分が消耗され,富化され又は単離される。…」(段落【0010「好ましくは,均質性は2つの部分に分けられ,均 】),質性の1つの部分からの個々の予定された成分が消耗され,富化され又は単離され,… (段落【0011 )と記載されているが,消耗,富化又 」】は単離の対象とされる成分としては,予定された成分とあるのみで,どのような基準により予定されるものかの記載がない。 また 「…さらに好ましい態様の場合,初期複合体に存在しない少なく ,とも1つの追加の成分が活性剤複合体に添加される。その結果として,内因的に生成された活性剤と天然又は合成である追加の活性剤とを,完全に新規な予定できる効果が本発明の活性剤複合体を用いることによって達成され得るような手段で組合すことが可能である(段落【0012 )と 。」】記載されているが,完全に新規な予定できる効果が達成され得るような手段とは具体的にはどのような手段であるのか 「その結果として 」とあ ,,るのみで,記載されていない。 さらに 「本発明の活性剤複合体の追加の好ましい態様においては,活 ,性剤複合体は実質的に単に一時的に生物学的部分を生成するためにその効果を進め,即ち活性剤複合体は,それが制御され,そして年代的に破壊され得るような手段で形成され,そして生物学的部分が生成される場合,もはや存在しない(段落【0021 )と記載されているが,一時的に効 。」】果を進め,制御され,年代的に破壊され得るような手段とは具体的にはどのような手段であるのか記載されていない。 エ構造成分についても 「骨-特異的プロテオグリカン及びファイバータ ,ンパク質は骨を生成するために使用される。構造成分はまた,その構造成分の幾何学的,機械的,化学的又は他の性質が変性され得るような手段により,金属製,セラミック性,ガラス質,ポリマー性又は脂肪キャリヤー材料を含んで成る(段落【0020 )と記載されているが,定性的な 。」】見地からの記載に止まり,特定の部位に対する骨形成用という具体的見地からの定量的な記載はなされていない。 オ具体例についても,上記のとおりの,段落【0035】〜【0042】, , の記載があるのみで 「…本発明によれば,その得られた所望する画分を前記変性された均質相の第2の部分に添加し,そして後者と共に再結合する。…得られる最終複合体は,骨を形成するために適切である活性剤複合体である(段落【0035 )と記載されているに止まり,得られた所 。」】望する画分について定量的な目安はなく,所望する画分を得るための操作の対象としての物質の設定,操作の方向性の設定,操作の程度の設定に関する指針ないし目安が具体的に開示されていない。 (4)上記の(3)ア〜オによれば,本願補正明細書は,富化手段,作用効果,好適な態様,構造成分,具体例の各記載を検討してみても,その記載は定性的ないし抽象的な記載に止まっており,操作の対象である物質の設定,操作の方向性の設定,操作の程度の設定のいずれの観点からも当業者が本願補正発明に係る方法を実施するための指針や目安となる記載がない。 そうすると,本願補正発明の構成については,あくまで目的に応じて,その目的とする技術的効果が得られるような手段を採用することにより,目的が達成され得る発明であることを,目的・効果との関係において説明するに止まっているというべきであり,方法の発明の技術的手段として開示されるべき 「骨形成用」のために有用な「活性剤複合体」を生成するための,操 ,作自体に関する事項が十分に開示されていないというほかない。 したがって,本願補正明細書は,方法の発明の技術的手段として開示されるべき,操作自体に関する具体的事項についての開示が不十分であるため,当業者が,容易に本願補正発明を実施することができる程度に,目的,構成及び効果を記載していないものというほかはない。 3原告の主張に対する判断(1)原告は 「構造成分「補充成分「接着成分」及び「増殖・成熟成 ,」,」,分」の各々の機能・役割が当業者にとって明らかである以上,当業者は,自己の目的に従って上記4成分のいずれを枯渇又は富化すべきかを選定することができるし,また,枯渇又は富化の程度も,目的や状況に従って適宜調整し得るから,本願補正明細書に上記の記載がなくとも,当業者は本願補正発明を容易に実施することが可能である,と主張する。 しかし,原告の上記の主張は,以下の検討に照らし,いずれも採用することができない。 (2)ア原告は,骨に由来する「構造成分「補充成分「接着成分」及び 」,」,「増殖・成熟成分」の各々に該当する具体的な物質,更にはそれら各成分の生体内での具体的な機能・役割は,本願補正明細書の記載や本願出願時の技術常識に基づき当業者にとって明らかであり,このように,初期複合体に含まれる4つの成分のそれぞれの機能・役割が当業者にとって自明である以上,当業者は,4つの成分のうちどれかを枯渇又は富化したとき,どのような結果となるかを容易に予想し得るのであるから,自己が枯渇又は富化したい成分を,そうしたときに予想される結果を考慮した上で,自己の目的に従って,選択すればよい,と主張する。 しかし,本願補正発明は 「骨形成用」の活性剤複合体を生成するため ,の方法であるから,本願補正明細書の【0007】に 「…活性剤を外因,性適用のために有用にすることが可能である。…」との記載があるように,骨形成用として有用な活性剤複合体を生成するための方法の発明であると認められる。しかるに,当業者にとって,個別的には 「構造成分「補,」,充成分「接着成分」及び「増殖・成熟成分」の各々の機能・役割が明 」,らかであったとしても,活性剤複合体という有機的一体のものの実際の適用部位における標的構造体との相互作用の態様(本願補正明細書の【0002】に 「…すべての場合において,生物における1又は複数の標的構 ,造体との相互作用が,生物学的効果を達成するために必要である 」との。 記載がある,その中での個々の成分が果たす機能の程度等を考慮に入 。)れれば,上記の4つの成分をすべて含む活性剤複合体を,該当部位に実際に適用したとき,当然に骨形成用として有用な活性剤複合体が得られることまでもが技術常識であるということにはならないと考えられる。したがって,骨形成用の活性剤複合体を生成するためには,具体的にいかなる操作をすることが必要であるかについての何らかの指針や目安がないと,当業者は,上記4成分のいずれを枯渇又は富化すべきかを選定する上で,過度の試行錯誤を強いられることとなると評価するほかないから,本願補正発明を容易に実施することが可能とはいえないこととなるというべきである。 イ原告は,本願補正発明の本質は,本願補正発明の方法に従えば活性複合体の諸性質を様々な目的に応じて変えることができるという点にあり,本願補正発明の方法を利用するに当たって 「構造成分「補充成分「接 ,」,」,着成分「増殖・成熟成分」のいずれを枯渇あるいは富化すべきかは, 」,当業者の目的によって異なるから,本願補正明細書に「上記4成分のいずれを枯渇あるいは富化するのか」について記載がないのは,むしろ当然である,と主張する。 しかし,本願補正発明の方法を利用するに当たって 「構造成分「補,」,充成分「接着成分「増殖・成熟成分」のいずれを枯渇あるいは富化 」,」,すべきかは,当業者の目的によって異なるとしても,上記アに説示したとおり,当業者は,本願補正発明を実施するためには,活性剤複合体という有機的一体のものの実際の適用部位における標的構造体との相互作用の態様,その中での個々の成分が果たす機能の程度に照らし,骨形成用として有用である活性剤複合体を生成するために,具体的にいかなる操作をすることが必要であるかについての何らかの指針や目安を必要とすることに変わりはないというべきであり,かかる指針や目安がないと,当業者は,上記4成分のいずれを枯渇又は富化すべきかを選定したり,枯渇又は富化の程度を適宜調整するために,過度の試行錯誤を強いられることとなると評価するほかないものである。 (3)ア原告は,本願補正発明においては 「構造成分「補充成分「接着 ,」,」,成分」及び「増殖・成熟成分」という機能で表現された4つの成分の中から枯渇若しくは富化すべき「成分」を選定すれば足りるのであって,各成分に該当する具体的な物質まで特定して選定する必要はない,どの接着物質であっても「接着成分」としての機能を有するからである,したがって,各成分に該当する具体的物質を選定する方法の記載がないからといって,本願補正明細書が実施可能要件を満たさない理由にならない,と主張する。 しかし,上記の4つの各成分として発揮する機能の程度や,実際の標的構造体である適用部位との相互作用の程度は,具体的物質ごとに異なると考えられる。そうすると,本願補正明細書において,各成分に該当する具体的物質を選定する方法の記載がないと,骨形成用の当該活性剤複合体を生成するために,具体的にいかなる操作をすることが必要であるかについての指針や目安を示したことにはならないというべきである。そして,かかる指針や目安がないと,当業者は,上記4成分のいずれを枯渇又は富化すべきかを選定したり,枯渇又は富化の程度を適宜調整するために,過度の試行錯誤を強いられることとなると評価するほかなく,本願補正発明を容易に実施することが可能とはいえないこととなることは,上記(2)アに説示したとおりである。 イまた原告は,特定の物質でなく,ある機能ないしシステムに着目した成分単位で分画する方法は,包含分別法,分子量による分画法,クロマトグラフィー,電気泳動,透析など,当業者にとって周知である,と主張し,甲13の各参考資料,甲16,17を提出する。 しかし,たとえ原告が主張するような成分単位で分画する方法が当業者にとって周知であったとしても,上記アに説示したとおり,本願補正明細書において,各成分に該当する具体的物質を選定する方法の記載がないと,骨形成用の当該活性剤複合体を生成するために,具体的にいかなる操作をすることが必要であるかについての指針や目安を示したことにはならないことに変わりはなく,当業者は過度の試行錯誤を強いられると評価するほかないものであって,本願補正発明を容易に実施することが可能とはいえないものである。 (4)ア原告は,本願補正発明の方法において,選定した成分をどの程度富化ないし枯渇するかは,出発材料に含まれる各成分の量や,適用対象たる組織が含有する成分の種類や量,さらには当業者の目的等によって変わり得るものであるから,一般的な程度を示すことは不可能である,そもそも,選定した成分をどの程度枯渇ないし富化するかは,当業者が目的・状況に応じて適宜調整すべき事項であり,その記載が本願補正明細書にないからといって,本願補正発明が実施不可能となるものではない,と主張する。 確かに,当業者が,実際に骨形成用として有用である活性剤複合体を得るために,選定した成分をどの程度富化ないし枯渇すべきかが,出発材料に含まれる各成分の量や,適用対象たる組織が含有する成分の種類や量,さらには当業者の目的等によって変わり得るものであることは考えられる。 しかし,このことは,本願補正発明の方法を実施する際に,これに該当する具体的方法が,極めて多種多様なものとなり得ることを示すに過ぎないものであって,当業者が本願補正発明の方法を実施する際の指針,目安がなくてもよい合理的理由となるものとはいえない。そして,骨形成用の活性剤複合体を生成する方法の発明である以上,具体的な操作自体について,指針,目安を示すことが不可能であるとする合理的な根拠はないし,かかる指針,目安を,当業者が目的・状況に応じて適宜調整すべき事項とみるのは,下記イに説示したとおり,当業者に過度の試行錯誤を強いるものと言うべきである。 イ原告は,ある目的のためにある成分を富化又は枯渇したいのであれば,同目的達成のために最適な富化又は枯渇の程度は,試行錯誤を繰り返すことによって容易に見出すことが可能であり,枯渇,富化の程度は,本願補正発明の実施可能性とは無関係である,と主張する。 しかし,本願補正明細書には,前記2(4)で説示したとおり,操作の対象である物質の設定,操作の方向性の設定,操作の程度の設定のいずれの観点からも当業者が本願補正発明に係る方法を実施するための指針や目安となる記載がないというのである。そうすると,本願補正明細書の記載を見ても,骨形成用の活性剤複合体を得るために,生存生物の特定部位における骨形成過程に応じて,いかなる初期複合体をいかにして調製すべきであるのか,操作の対象成分として何を選定し,その成分の構成物質のうちのどの物質に着目して枯渇もしくは富化すべきであるのか,いかなる物質がいかなる割合で含まれる最終複合体を得るべきであるのか,については,そのよって立つべき根拠となる記載が存在しないというべきである。 以上のことに,前記2(4)を併せ考慮すれば,当業者は,目的とする技術的効果を挙げることができるように枯渇または富化する,という抽象性の高い指針をいわば唯一の目安として,骨形成用として有用な活性剤複合体を得るために,あらゆる試行錯誤を繰り返さざるを得ないものである。 すなわち,当業者は,本願補正発明を実施するために過度の負担を強いられることとなるというべきであって,枯渇,富化の程度が,本願補正発明の実施可能性と無関係であるとはいえない。 ウ原告は,当業者であれば,たとえば,入手した原料骨(出発材料)の上記各成分の量を測定し,各成分の量を標準的な骨の中に含有されている各成分の量と対比し,どの成分が標準的なものに比べ不足し,どの成分が過剰であるかを判定することで,どの成分を,どの程度枯渇若しくは富化すべきか,又はそのままとすべきかを決定することは容易に可能である,と主張する。 しかし,この例であっても,単に標準的な骨に比べて,どの成分が不足し,どの成分が過剰であるかを明らかにするだけのものであって,なお依然として,骨形成用のため有用な活性剤複合体を得るために,どの成分を,どの程度枯渇もしくは富化すべきか,またはそのままとすべきかを決定する手がかりとなるような具体的な指針ないし目安を提供するものとはいえないと考えられる。 エ原告は,上記4成分のそれぞれの検定方法は,当業者にとって周知・慣用技術である,と主張する。 しかし,たとえ上記4成分のそれぞれの具体的な検定方法自体は周知・慣用技術であったとしても,本願補正明細書において,初期複合体が含む成分の割合や,枯渇,富化の程度,それを経た最終複合体の成分の割合について定量的な指針,目安がない以上は,当業者は,当然には,本願補正発明により骨形成用として有用な活性剤複合体を生成できるということにはならない。つまり,当業者は,目安,指針のない本願補正明細書の記載を手がかりに,上記の周知・慣用技術のみを用いて,その含まれる各成分の過不足を判定したり,望ましい各成分の量や割合を決定することが容易になしうるとはいえないと考えられ,依然として,当業者に過度の試行錯誤を課すとの評価を免れない。 (5)原告は,そもそも 「構造成分「補充成分「接着成分」及び「増殖 ,」,」,・成熟成分」の4つの成分を含んだ骨形成用の活性剤複合体の発明については,既に日本で特許が成立している(甲14。特許第3626178号 ,)本願補正発明は,甲14の発明と同様の活性剤複合体を作成するに当たり,初期複合体に含まれる上記4成分のうち任意の成分を目的に応じて適宜増量ないし減少させて,具体的な適用対象に最適な活性剤複合体の作成を可能にする方法といえる,したがって,甲14の発明がその明細書により実施可能であるのであれば,本願補正発明も本願補正明細書の記載により実施可能のはずである,と主張する。 そこで検討するに,特許第第3626178号公報(甲14。以下「甲14公報」という )には,構造成分,動員成分(本件補正発明における補充 。 成分に相当する,接着成分,増殖・成熟成分の4つの成分を含む骨を製 。)造する作用物質複合体が記載されていると認められる。しかるに,たとえ甲14公報により,個別的に,上記4つの成分の機能や構成物質が周知であるとしても,甲14公報の記載自体が,それぞれの成分が果たすと考えられている機能を,それぞれの意義に即して定性的に述べたものに過ぎないと認められ,それらをすべて含んだ骨形成用の活性剤複合体自体が,有機的一体のものとして,骨形成という効果に対し有用なものとしてどのような機能を有するかを定量的に述べたものとまでは認めがたい。 すなわち,本願補正発明は,上記4つの成分を,初期複合体における含有割合とは異なる比率で含有する最終複合体を生成する方法の発明であって,上記4つの成分を含み,骨形成用として有用な最終複合体を得るための方法として,その含有割合を初期複合体とは異なったものとするための操作自体の実施可能要件が問題となっているものである。そして,本件においては,上記4つの成分の均質相における特性に基づけば,複合相における特性・効果までもが定量的に予測可能であるとまで認めるに足りる証拠はなく,4つの成分を含む活性剤複合体というだけで,当然にすべて骨形成用の活性剤複合体といいうる根拠は見出しがたい。 そうであれば,当業者は,甲14公報の存在を前提としても,更に,初期複合体が含む成分の割合や,枯渇,富化の程度,それを経た最終複合体の成分の割合について定量的な指針,目安があって初めて,骨形成用の活性剤複合体を製造することができるものというべきである。 以上によれば,当業者が,本願補正発明を実施するに当たり,活性剤複合体において,その枯渇または富化すべき操作の具体的な量を設定することにつき過度の負担を強いられるものというほかなく,試行錯誤を繰り返すことにより容易になし得る程度のことであるということはできない。 (6)原告は,本願補正発明の方法を実際に実施した実験に関するレポート(甲15)からも,本願補正発明が実施可能要件を満たすことが裏付けられる旨主張する。 しかし,本願補正明細書の記載が実施可能要件を満たすかどうかを検討するに際しては,あくまで本願補正明細書の記載に基づいて本願補正発明を当業者が容易に実施することができるかを検討すべきであるところ,甲15は,本願補正明細書の記載ではなく,原告自身が平成18年(2006年)1月26日に新たに作成した文書である。しかも,本願補正明細書の記載は,定性的,抽象的な記載にとどまっていることは前記のとおりであり,かかる定性的で抽象的な記載から,甲15においては,当業者においてほとんどすべての条件を決定して本願補正発明を実施したとするものである。そうすると,当業者において,骨形成用の活性剤複合体を得るために本願補正明細書において何ら指針,目安がないというべきである以上,甲15が一定の効果を得ていたとしても,本願補正明細書に接した当業者が本願補正発明を容易に実施できることの根拠になるものとはいえない。なお,甲15自体,得られた結果の各数値の偏差も小さいとはいえず,適用後4週間では,自原性骨を適用した欠損部において「69.78±2.59(%,活性剤複合体を適用 )」), した欠損部において「53.14±11.14(% 」との結果となっており試料には不備があった可能性がある,との記載もあり,また,単なる構造成分の一物質の枯渇を行っているだけであるから,かかる甲15を根拠に当業者が本願補正発明が実施可能であるとすること自体も困難である。 (7)原告は,本願補正発明に係る活性剤複合体は,出発材料の生物活性を再現し,しかも所望の活性が増強又は抑制されたものであるという極めて有利な効果を奏する旨主張する。 しかし,仮に本願補正発明の効果が格別に顕著なものであったとしても,本願補正明細書中のかかる記載をもって,当業者が本願補正発明を実施するために十分な指針,目安が記載されていると認められることにはならず,本願補正発明が本願補正明細書の記載から実施可能なものであると認められるものではない。 (8)原告は,欧州及び米国では,本願に対応する特許出願につき,既に特許〕, が付与されている(対応欧州特許:欧州特許第0636033号〔甲19対応米国特許:米国特許第5928635号〔甲20,と主張する。〕)しかし,上記甲19及び甲20を本願補正明細書(甲12)と対比すると,欧州及び米国の各対応特許は,特許請求の範囲の記載は補正の結果本願補正発明とは異なる文言となっており,その各明細書の記載が本願補正明細書の記載と同一であるとも認められないから,上記(1)〜(7)の説示も併せ考慮すれば,原告の上記の主張を根拠として,本願補正明細書が実施可能要件を満たすものと帰結することはできないというほかない。 4結語以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がない。 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
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裁判官 | 森義之 |
裁判官 | 田中孝一 |