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関連審決 不服2003-22556
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10778審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10350審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10603審決取消請求事件 判例 特許
平成12行ケ91取消決定取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10386審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 特許を受ける権利 /  発明者 /  創作性(創作) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  名義変更 /  数値限定 /  技術的意義 /  発明の要旨認定 /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 /  独立特許要件 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10754号 審決取消請求事件
原告 三星エスディアイ株式会社
訴訟代理人弁理士志賀正武
同渡辺隆
同 村山靖彦
訴訟復代理人弁理士阿部達彦
同 大島孝文
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人江塚政弘
同立川功
同 大場義則
同末政清滋
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/05/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1原告(1) 特許庁が不服2003-22556号事件について平成17年6月15日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2被告主文1項及び2項と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯訴外日本電気株式会社(以下「日本電気」という。)は,平成11年12月13日,発明の名称を「有機エレクトロルミネッセンス素子」とする特許出願(特願平11-353675号,以下「本願」という。)をし,平成15年7月1日,願書に添付した明細書を補正する手続補正をしたが,同年10月15日付けで拒絶査定を受けたので,同年11月20日,これを不服として審判を請求するとともに,上記明細書を補正する手続補正をし(以下,この補正を「本件補正」といい,本件補正後の本願に係る明細書及び図面を「補正明細書」という。),上記審判請求は,不服2003-22556号事件として,特許庁に係属した。
その後,日本電気は,平成16年3月15日,本願に係る特許を受ける権利を原告に譲渡し,原告は,同年3月16日,本願の出願人の名義変更届を特許庁に提出した。
特許庁は,上記事件につき,審理の結果,平成17年6月15日,本件補正を却下した上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年6月28日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲(1) 本件補正前の請求項1の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本願発明」という。)。
「【請求項1】 陽極と陰極との間に少なくとも発光層および電子輸送層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において,発光層と電子輸送層との間に,発光層に用いられている材料よりも大きいイオン化ポテンシャルを有する材料からなる10〜160Åの膜厚の中間層を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」(2) 本件補正後の請求項1の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本願補正発明」という。下線部は補正箇所を示す。)。
「【請求項1】 陽極と陰極との間に少なくとも発光層および電子輸送層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において,発光層と電子輸送層との間に,発光層に用いられている材料よりも大きいイオン化ポテンシャルを有する材料からなる50〜160Åの膜厚の中間層を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」3 審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願補正発明は,特開平11-273867号公報(以下「刊行物1」という。甲1)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないから,本件補正は却下されるべきものであり,本願発明も,本願補正発明と同様の理由により,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,としたものである。
審決が,上記判断をするに当たり,本願補正発明と引用発明とを対比して認定した一致点及び相違点は,それぞれ次のとおりである。
(一致点)「陽極と陰極との間に少なくとも発光層および電子輸送層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において,発光層と電子輸送層との間に,発光層に用いられている材料よりも大きいイオン化ポテンシャルを有する材料からなる中間層を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」である点。
(相違点)本願補正発明では,中間層の膜厚が50〜160Åであるのに対し,引用発明では,膜厚が通常0.3〜100nm(3〜1000Å),好ましくは0.5〜10nm(5〜100Å)である点。
原告主張の取消事由の要点
審決は,本願補正発明と引用発明との相違点についての判断を誤った結果,本願補正発明の進歩性(独立特許要件)の判断を誤り,その結果,本願の請求項1に係る発明の要旨認定を誤ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 審決は,青色純度をさらに改善するために,中間層の好適な膜厚を,発光スペクトル解析実験等により求めることは,当業者であれば通常の創作能力の発揮にすぎないものであり,本願補正発明において規定する膜厚の上限及び下限値に,臨界的な意義を認めたとしても,本願補正発明のように中間層の膜厚を規定することは,引用発明を基に,当業者が当該技術分野における通常の実験・解析等により容易になし得たことと認められる旨判断したが,誤りである。
例えば,実施例2(中間層の膜厚150Å)と比較例2(中間層の膜厚250Å)を比較すると,補正明細書の段落【0029】,【表2】及び【図4】に示されるように,発光スペクトル分布の長波長側で,前者が急峻であるのに対して,後者はなだらかな裾野を形成しており,前者より後者の方がいろいろな長波長側の波長,すなわち色相を多く含んでおり,色純度の低い色の発光しかできない。
また,比較例2(中間層の膜厚250Å),比較例3(中間層の膜厚230Å),比較例5(中間層の膜厚260Å),比較例6(中間層の膜厚220Å),比較例8(中間層の膜厚230Å)について,補正明細書の【図5】〜【図8】に示されるように,中間膜厚が220Åを超えると,長波長側で発光スペクトルの分布が広がり,色純度が低下する。
一方,中間層の膜厚が50Åより薄いと正孔のブロックが有効に作用しない。
本願補正発明は,中間層の膜厚を50〜160Åとするものであるが,その下限値及び上限値を定めたのは,上記のような理由による。
2 なお,本願補正発明の有機EL素子の中間層膜厚を40,50,60,90,100,160,170Åに変化させた場合の青色発光の色純度を色座標で表したものによると,CIEのy値が,膜厚40Åでは0.2157であるのに対して,50Åの場合は0.1661と急激に低くなり,100Åで0.1289と最も低くなるが,他方,膜厚が160Åの場合は0.1342であるのに対して,170Åの場合は40Åの場合と同程度の0.2003と急激に高くなっている(原告準備書面(第3回)添付の参考資料1)。色座標のy値が低くなることは,青色の色再現率が高くなるので好ましいことを意味するものであり,上記の結果は,中間層の膜厚が50Å以下になると,急激に青色純度が低下し,160Åを超えると,同様に急激に青色純度が低下することを示しているものである。また,中間層の膜厚を上記のように変化させた場合の各波長での光の強さ(intensity)を示したもの(原告準備書面(第3回)添付の参考資料2)によると,膜厚が40Åと170Åでは,光強度の接線の傾きが変化して第2のピークを持っており,青色純度の大幅な低下を示しているのに対し,50〜160Åの場合は,第2のピークを持たないので,青色純度の向上を実現することができる。
したがって,本願補正発明における中間層の膜厚の数値限定は臨界的意義を有するというべきである。
3 このように,本願補正発明の数値限定は,種々の実験結果から得られたものであり,それゆえに色純度の高い発光が得られるという作用効果を有するから,本願補正発明が進歩性を有し,独立特許要件を充足することは明白である。
したがって,審決が,本件補正を却下し,本願の請求項1に係る発明の要旨として,本願発明を認定し,その進歩性を否定したのは,誤りである。
被告の反論の要点
1 本願補正発明と引用発明は,その中間層の膜厚についての数値範囲が,その上限値及び下限値において完全に一致するものではない。しかしながら,両発明は,色純度を高めるという課題を解決するために所定のイオン化ポテンシャルを有する中間層を設ける点で一致し,さらに,中間層の役割が,発光層から移動してくる正孔を陰極に到達するのを阻止する点でも一致するものである。
そうすると,上記の課題及びその解決手段として一定の膜厚を有する中間層を設けることが開示されている引用発明をベースとして,さらに,実験解析等を繰り返し,中間層の膜厚を本願補正発明のような数値範囲とすることは,何ら,格別なことではなく,当業者であれば通常の創作能力の発揮にすぎないものである。
また,本願補正発明が規定する中間層膜厚の数値範囲50〜160Åにおける上限値,下限値に,いわゆる臨界的な技術的意義がないことは明らかであり,原告の当該数値範囲に意義があるとする主張は,補正明細書の記載に基づかない主張であって,根拠がない。
2 したがって,審決の認定及び判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
当裁判所の判断
1 原告は,本願補正発明における中間層の膜厚の数値範囲は,種々の実験結果から得られたもので,本願補正発明はかかる範囲の中間層を備えることにより,色純度の高い発光が得られるという作用効果を有する旨主張する。
(1)ア 補正明細書(甲2,3)には,次の記載がある。
(ア) 「【発明が解決しようとする課題】近年,高輝度,高効率な有機EL素子が開示あるいは報告されている。しかしながら,高輝度,高効率な有機EL素子においては,発光層のみならず電子輸送層中の材料からの発光が観測される場合が多く,カラー表示素子,特に青色発光素子において発光色の純度が劣化するという問題点があった。よって,本発明の目的は,高効率で,かつ良好な色純度を有する有機EL素子を提供することにある。」(段落【0006】)(イ) 「【課題を解決するための手段】電子輸送層中の材料からの発光を抑制する目的で,発光層の陰極側界面での正孔ブロックあるいは,界面で生成した励起子の拡散の防止するためには,発光層と電子輸送層の間に設けられる層は本来膜厚が厚いほどその効果も大きいと考えられる。
しかしながら,本発明者らは,中間層の材料として,発光層に用いられている材料よりも大きいイオン化ポテンシャルを有する材料を用い,かつその膜厚を10〜200Åとすることによって,電子輸送層中の材料からの発光を抑制できるものの,中間層の膜厚が10Å未満である場合だけでなく,200Åを超えた場合では,電子輸送層中の材料からの発光を抑制できないことを見出し,本発明に至った。」(段落【0007】)(ウ) 「すなわち,本発明の有機EL素子は,陽極と陰極との間に少なくとも発光層および電子輸送層を有する有機EL素子において,発光層と電子輸送層との間に,発光層に用いられている材料よりも大きいイオン化ポテンシャルを有する材料からなる50〜160Åの膜厚の中間層を有することを特徴とする。」(段落【0009】)(エ) 「中間層7の膜厚は,50〜160Åの範囲であり,好ましくは50〜90Åの範囲であり,発光層が陽極に隣接して配置されている場合は,50〜160Åである。中間層7の膜厚が10Åよりも薄いと,正孔のブロックが有効に作用しない。中間層7の膜厚が上記範囲を超えると,電子輸送層5に用いられる材料からの発光が観測され,発光効率や発光色の色度に悪影響が現れる。」(段落【0021】)イ 補正明細書(甲2,3)の【表2】及び【図4】には,中間層材料に「化合物[14]」を用い,膜厚を150Åとし,発光輝度を330cd/m とした場合(実施例2),中間層材料に「化合物[14]」を用い,2膜厚を250Åとし,発光輝度を410cd/m とした場合(比較例2)2につき,発光スペクトル分布の長波長側で実施例2の方が急峻であるのに対して,比較例2の方がなだらかな裾野を形成していることが示されている。
補正明細書(甲2,3)の【表2】及び[図5】〜【図8】には,同様の傾向が,実施例3(90Å)と比較例3(230Å),実施例5(160Å)と比較例5(260Å),実施例6(50Å)と比較例6(220Å),実施例7(120Å)と比較例8(230Å)の各々の対比において,示されている。
(2) 刊行物1(甲1)には,次の記載がある。
ア 「【0013】本発明者は上記実状に鑑み,青色純度の高くかつ耐熱性を有する有機電界発光素子を提供することを目的として鋭意検討した結果,基板上に,陽極及び陰極により挟持された正孔輸送層,発光層および正孔阻止層を少なくとも含む有機電界発光素子において,発光層として芳香族アミン化合物を用い,正孔輸送層,発光層,正孔阻止層のイオン化ポテンシャルの相対関係を特定のものとすることで,上記課題を解決することができることを見い出し,本発明を完成するに至った。
【0014】【課題を解決するための手段】すなわち,本発明の要旨は,基板上に,陽極及び陰極により挟持された正孔輸送層,発光層および正孔阻止層を少なくとも含む有機電界発光素子であって,該発光層が芳香族アミン化合物を含有し,正孔輸送層のイオン化ポテンシャルが発光層のイオン化ポテンシャルより0.1eV以上大きく,正孔阻止層のイオン化ポテンシャルが発光層のイオン化ポテンシャルより0.2eV以上大きいことを特徴とする有機電界発光素子に存する。」(4頁6欄30行〜48行)イ 「【0045】発光層5の上には正孔阻止層6が設けられる。正孔阻止層6は,発光層から移動してくる正孔を陰極に到達するのを阻止する役割と,陰極から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。正孔阻止層を構成する材料に求められる物性としては,電子移動度が高く正孔移動度が低いこと,および,正孔を効率的に発光層内に閉じこめるために,発光層のイオン化ポテンシャルより0.2eV以上大きいイオン化ポテンシャルの値を有する必要がある。正孔輸送層は電子輸送能力を持たない材料で構成されることから,正孔阻止層は正孔と電子を発光層内に閉じこめて,発光効率を向上させる機能を有する。」(10頁18欄45行〜11頁19欄6行)ウ 「【0059】……正孔阻止層6の膜厚は,通常,0.3〜100nm,好ましくは0.5〜10nmである。正孔阻止層も正孔輸送層と同様の方法で形成することができるが,通常は真空蒸着法が用いられる。」(13頁23欄32行〜38行)エ 「【0075】実施例1……【0077】次に,発光層5の材料として,例示化合物(I-3)を上記正孔輸送層4の上に同様にして蒸着を行なった。……【0078】続いて,正孔阻止層6の材料として,ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム錯体(HB-1)を上記発光層5の上に同様にして蒸着を行なった。この時のるつぼの温度は180〜190℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度は1.0×10 Torr(約1.3x10 Pa)で,蒸着速度0.2nm/秒で,膜厚-6 -4は20nmであった。さらに,電子輸送層7の材料として以下に示すアルミニウムの8-ヒドリキシキノリン錯体(E-1)を上記正孔阻止層6の上に同様にして蒸着を行った。……【0081】以上の様にして,2mmx2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。この素子の発光特性を表-8に示す。
表-8において,発光輝度は250mA/cm の電流密度での値,発光効2率は100cd/m での値,輝度/電流は輝度-電流密度特性の傾きを,2電圧は100cd/m での値を各々示す。ELスペクトルのピーク極大波2長とCIE色度座標値(JIS Z8701)をあわせて示す。発光色は青色であった。この素子は長期間保存後も,駆動電圧の顕著な上昇はみられず,発光効率や輝度の低下もなく,安定した素子の保存安定性が得られた。」(15頁27欄35行〜16頁30欄16行)(3)ア 補正明細書の上記(1)の記載及び刊行物1の上記(2)の記載によれば,本願補正発明及び引用発明は,いずれも,色純度,特に,青色純度が不十分であるという課題を解決するものであり,そのために,本願補正発明では「中間層」,引用発明では「正孔阻止層」として,発光層の陰極側界面(発光層と電子輸送層の間)に,発光層に用いられている材料よりも大きいイオン化ポテンシャルを有する材料からなる層を配置し,発光層から電子輸送層への正孔移行を阻止することによって,色純度,特に,青色純度の高い有機発光素子を提供したものであるから,両発明は,解決しようとする課題及びその解決手段が共通するものと認められる。
そして,上記中間層(正孔阻止層)の膜厚は,本願補正発明では,50〜160Åであるのに対し,刊行物1の実施例に記載されたものは,20nm(200Å)であって本願補正発明で規定する上限値を超えているものの,刊行物1には,一般的な記載として,0.3〜100nm(3〜1000Å),好ましくは0.5〜10nm(5〜100Å)と記載されており,本願補正発明が規定する中間層の膜厚は,刊行物1において,中間層(正孔阻止層)の膜厚として採り得る範囲内のものであり,しかも,好ましい膜厚として記載された範囲とかなりの部分において重複している。
ところで,中間層は,発光層から電子輸送層への正孔移行を阻止するために,発光層と電子輸送層との間に設けられる層であるので,正孔移行の阻止効果の観点からみると,膜厚が大きい方が有利なものと考えられるが,膜厚を大きくしすぎた場合には,陰極から発光層への電子の輸送も阻害する可能性があること等の問題があることも明らかである。
そうすると,中間層の膜厚に着目して,最適条件又は好適条件を見いだす実験を行うことは当業者が容易になし得るものであり,実験を行う膜厚として,50〜160Åという範囲を選択することにも,何ら困難性は認められない。
イ 原告は,本願補正発明は,50〜160Åという限定された膜厚を有する中間層を設けたことにより,色純度の高い発光が得られるという作用効果を有する旨主張する。
しかし,原告が指摘する補正明細書(甲2,3)の段落【0029】〜【0031】及び【図4】〜【図8】の比較データをみても,例えば,【図6】における,中間層の膜厚が160Åである実施例5と中間層の膜厚が260Åである比較例5のスペクトルを比較すると,曲線はほぼ一致しており,色純度に関して顕著な差異があるとは認められない。
また,補正明細書において膜厚が大きい比較例として記載されたものはいずれも220Å以上のものであるのに対し,引用発明における実施例は200Åであって,補正明細書の前記(1)ア(イ)の記載において,中間層の膜厚が200Åであるものも,補正明細書記載の作用効果を奏するものと認識されていることからみても,本願補正発明が,中間層の膜厚を50〜160Åと規定したことによって,格別顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
なお,原告は,本願補正発明における中間層の膜厚の数値限定は臨界的意義を有する旨参考資料1,2を挙げて縷々主張するが,補正明細書の記載に基づかないものであり,また,その主張に係る参考資料1,2も,必ずしもその数値限定による作用効果の顕著性を根拠づけるものとまでは認められない。
したがって,本願補正発明が引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の判断に,誤りはない。
2 上記1で検討したとおり,本願補正発明に関する審決の判断に誤りはないので,審決が,本件補正を却下し,本願の請求項1に係る発明の要旨として,本願発明を認定し,その進歩性を否定したことにも誤りはない。
3結論以上によれば,原告主張の取消事由は理由がなく,その他,審決に,これを取り消すべき誤りがあるとは認められない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。