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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14ワ10511特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
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関連ワード 発明者 /  自然法則 /  方法の発明 /  使用方法 /  容易に実施 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  上位概念 /  技術的範囲 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  権利の濫用(権利濫用) /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  交換 /  構成要件 /  方法の使用 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 / 
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事件 平成 15年 (ワ) 9839号 特許権侵害差止等請求事件
原告 日清フーズ株式会社
訴訟代理人弁護士 大場正成尾崎英男嶋末和秀飯塚暁夫
補佐人弁理士 高野 登志雄
被告 直本工業株式会社
訴訟代理人弁護士 松本司山形康郎
補佐人弁理士 中谷武嗣
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2005/03/24
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は、別紙物件目録記載の冷凍麺解凍機の製造、販売又は販売の申し出をしてはならない。
2 被告は、その占有にかかる別紙物件目録記載の冷凍麺解凍機を廃棄せよ。
事案の概要
本件は、冷凍麺類の解凍・加熱処理方法に係る発明の特許権者である原告が、被告の製造販売する別紙物件目録記載の冷凍麺解凍機による冷凍麺類の解凍・加熱処理方法は同発明の技術的範囲に属すると主張して、被告に対し、同冷凍麺解凍機の製造販売等の差止め等を求めている事案である。
1 当事者に争いのない事実等(当事者に争いがないか、弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1) 当事者 ア 原告は、冷凍食品及び冷蔵食品の製造及び販売、飲食店の経営並びに厨房機器及び什器の販売等を業とする株式会社である。
イ 被告は、各種アイロンの製作販売、各種蒸気発生器の製作販売等を業とする株式会社である。
(2) 原告の特許権 ア 原告は、以下の特許権(以下、「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」といい、その願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)を有している。
発明の名称 冷凍麺類の解凍・加熱処理方法 出願日 昭和63年1月14日(特願昭63-6281) 公告日 平成7年8月30日(特公平7-79645) 登録日 平成10年8月28日 登録番号 特許第2138015号 特許請求の範囲 「冷凍麺類に温度101〜125℃の水蒸気を噴射接触せしめることを特徴とする冷凍麺類の解凍・加熱処理方法」 イ 本件発明を構成要件に分説すると次のとおりである。
A 冷凍麺類に B 温度101〜125℃の水蒸気を C 噴射接触せしめること D を特徴とする冷凍麺類の解凍・加熱処理方法 (3) 被告製品 被告は、遅くとも平成4年頃から、「New Si-Pronto」の商品名で別紙物件目録記載の冷凍麺解凍機(以下「被告製品」という。)の製造、販売又は販売の申し出をし、また、製造又は販売の申し出目的で被告製品を占有している。
被告製品を使用した冷凍麺類の解凍加熱処理方法は、本件発明の構成要件A及びDを充足する。
なお、仮に被告製品による冷凍麺類の解凍加熱処理方法が本件発明の技術的範囲に属することになる場合、被告が、業として当該方法の使用のみに用いる被告製品を生産譲渡していることについては、被告は積極的に争わない。
2 争点 (1) 被告製品を使用する冷凍麺類の解凍加熱処理方法は、本件発明の技術的範囲に属するか。
構成要件Bの「温度101〜125℃」は、水蒸気の「噴射時」「接触時」のいずれにおけるものか。
構成要件Bの「水蒸気」は過熱水蒸気に限定されるか。
ウ 被告製品の「水蒸気」の温度は何℃か。
(2) 本件特許には明白な無効理由があるか。
ア 明細書記載不備 イ 進歩性の欠如
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(被告製品を使用する冷凍麺類の解凍加熱処理方法は、本件発明の技術的範囲に属するか)について 【原告の主張】 (1) 争点(1)ア(構成要件Bの「温度101〜125℃」は、水蒸気の「噴射時」「接触時」のいずれにおけるものか) ア 構成要件Bの「温度101〜125℃」とは、水蒸気の噴射時の温度をいうものである。
本件発明は、当該温度の水蒸気を冷凍麺類に「噴射接触」、すなわち噴射させて接触させる構成であるから、当該温度は噴射時の温度を指すものであることは文言上明らかである。
また、本件明細書の実施例1には、「その具体的操作としては、温度101℃、絶対圧力1.2kg/p2の水蒸気を発生させて、前記冷凍スパゲテイに約6秒間噴射接触させ次いで、…」と記載されているところ、同実施例で用いたアメリカ・アンチューネス社製ラウンドアップスティーマーVS-200型は、水蒸気の発生と同時に噴射する構造となっているから、水蒸気を発生させたときの温度とは、同時に噴射時の温度を指すことになる。したがって、当該温度が噴射時の温度であることは、本件明細書の実施例の記載によっても支持されている。
イ 被告は、上記「温度101〜125℃」とは冷凍麺類への接触時の温度であると主張するが、以下のとおり失当である。
(ア) 噴射後の水蒸気の温度は急激に変化するため、測定不能であるし、
実施者においてその温度を制御できない。
被告が冷凍麺類への接触時の温度を測定できると主張する趣旨は、冷凍麺類を調理室に入れない状態で、冷凍麺類に水蒸気が接触すると想定される位置の水蒸気の温度を測定することは可能であるということであると解される。しかし、単に空気が存在するのと、そこに冷凍麺類が存在するのとでは、その周辺の温度変化を同一に扱うことはできないから、被告が考えている方法で測定したとしても、水蒸気の接触温度を測定したことにはならない。
以上の点から、「噴射接触」される水蒸気の温度が「接触時」の温度であると理解されることはない。
(イ) 本件明細書には、本件発明の発明者が「101〜125℃」の水蒸気を発生させ、これを冷凍麺類に噴射接触させてみたところ、良い結果が得られることを見い出して本件発明を完成させたと記載されているから、「温度101〜125℃の水蒸気を噴射接触せしめる」とは、「温度101〜125℃の水蒸気を発生させ、その噴射している水蒸気を冷凍麺類に接触させること」を意味することは明白である。
(ウ) 本件明細書の実施例において作用効果の比較のために例示されている従来の解凍方法は、麺類に水蒸気あるいは湯を接触させるものであり、そこに記載されている温度は、麺類に接触させる水蒸気や湯の温度である。被告は、この記載を根拠に、本件発明においても冷凍麺類に接触するときの温度であると主張するようである。
しかし、これは実際に行われる方法で解凍した場合の比較であるから、解凍方法が異なれば、それぞれの態様に応じて測定方法や測定値の持つ意味が異なることは当然のことである。この比較例を根拠として、本件発明における水蒸気の温度を麺に接触させるときの温度と解することはできない。
(2) 争点(1)イ(構成要件Bの「水蒸気」は過熱水蒸気に限定されるか) 被告は、本件明細書には過熱水蒸気を用いた実施例しか示されていないので、本件発明の技術的範囲は過熱水蒸気を用いる方法に限定され、飽和水蒸気を用いる方法は本件発明の技術的範囲に含まれないと主張している。
しかしながら、特段の事情のない限り、特許発明技術的範囲は具体的に開示された実施例に限定されるものではない。この点、本件明細書の発明の詳細な説明においては飽和水蒸気を用いる方法も過熱水蒸気を用いる方法も記載され、過熱水蒸気に限定する記載はない。また、飽和水蒸気であるか過熱水蒸気であるかにかかわらず本件発明は実施が容易であるし、飽和水蒸気の場合と過熱水蒸気の場合を比較しても、作用機序は同じである。また、本件発明において限定される温度を有する過熱水蒸気と飽和水蒸気のそれぞれの保有熱量の差はわずかであって作用効果に差が生じない。したがって、本件明細書に過熱水蒸気を用いる装置による実施例が開示されていることをもって、本件発明の水蒸気が過熱水蒸気に限定されるとの特段の事情があるということはできない。
(3) 争点(1)ウ(被告製品の「水蒸気」の温度は何℃か) ア 被告製品は、調理室上部の蒸気室内の水蒸気が直径約1oの噴射ノズル22個から調理室内に噴射される構造となっている。したがって、被告製品における「噴射時」の温度の測定場所は、水蒸気が蒸気室内から調理室内に噴射されるときに通過する噴射ノズル内であると解される。
噴射ノズル内は、ノズル内部の形状によって圧力の変化が生じ得るため、温度も変化し得る。そこで、噴射ノズル内のどの位置かをさらに特定する必要がある。
被告製品の調理室の天井板は厚さが4oで、その蒸気室側から直径1.2oの直筒状の穴(直筒部)が始まり、これが約2o続いた後、調理室天井面より約2oの位置で円錐状に径が拡がり始め、調理室天井面では直径約4oとなっており、全体としては漏斗を伏せたような形状になっている。ここで、直筒部の中心線に沿って直筒部と蒸気室の接点(調理室天井面を基準面としてそこから4oの位置。A点)、直筒部の中央(基準面から3oの位置。B点)、直筒部の調理室側の端部(基準面から2oの位置。C点。これより径の拡張が始まる。)、C点より約1o下がった位置(D点)、C点より約2o下がった位置で調理室天井面との接点(E点)及び調理室天井面上で噴射ノズル中心線上のE点から、約1o水平に離れた位置(F点)を決定する(別紙図面参照)。この中で、噴射直前であって、かつ圧力が安定し、空気の影響を受けない点はC点である。C点よりも調理室側のE点あるいはF点は、拡径しているため調理室内の空気が混在する部分であり、また一定した温度の測定も水蒸気自体の温度がどれかの判定も難しいから、もはや噴射ノズル外にあるというべきである。
イ 原告が、AないしF点を計測したところ、A点では安定して101℃を超えており、B点では概ね101℃台後半の値で安定しており、C点及びD点ではおよそ101.3℃で安定しており、E点では101℃を超えた温度で推移し、F点では98℃以上100℃未満のばらつきがあった。
上記実験結果によれば、C点における水蒸気は101〜125℃の範囲内にある。
したがって、被告製品を使用した冷凍麺類の解凍加熱処理方法は、冷凍麺類に「温度101〜125℃の水蒸気を噴射接触」させる構成(構成要件B及びC)を充足しているということができ、本件発明の技術的範囲に属す。
ウ これに対し、被告は、同じ点を計測した実験(乙21)を行い、C点での水蒸気の温度は101℃未満であったと主張する。
しかしながら、乙第21号証には次のような不自然な点があり、到底信用できない。
(ア) 被告は、当初、内径1.2oの噴射ノズルに外径1oのセンサーを挿入することは、センサーの先端が噴射ノズルの内壁に接触したり、噴射ノズルがふさがれたりしたため、不可能であると述べていた。それにもかかわらず、挿入は可能であるとの原告の指摘を受けて実験をやり直し、その結果、101℃にならないような結果を作出している。
(イ) 被告は、当初、噴射ノズルの内径を5oに広げて測定する実験(乙17)を行った。内径が広がるほど筒内の水蒸気の温度は低下するのが道理である。しかるに、乙第17号証の内径5oの直筒部の水蒸気は100.47〜101.29℃であったと記載されているのに対し、乙第21号証の内径1.2oの直筒部に相当する部分の水蒸気は99.84〜99.88℃であったと記載されている。この結果は明らかに不自然である。
(ウ) 原告がC点において被告が主張する温度となるように実験条件を変更してみたところ、@装置が冷えた状態、つまり調理可表示灯が点灯した後、空運転を行わない状態で測定する、Aボイラーから蒸気室に至る経路を冷却する、という方法によって被告主張の値となった。しかし、これらの方法は、通常の被告製品の使用方法ではない。
また、C点を100℃未満とすると冷凍麺類の解凍が的確にできないことが判明した。100℃を超えた場合は、潜熱の放出によって冷凍麺が解凍されるが、100℃未満の水蒸気の場合は、潜熱による熱エネルギーが噴射の前に失われているため、解凍できなくなるためと考えられる。
さらに、被告の実験結果によればA点からB点までで約3℃低下しているのに対し、B点からE点にかけては温度が低下しておらず、また、F点の温度のばらつきが0.13℃程度でしかない。A点からB点までの間に熱量が吸収される要素がないにもかかわらず、他の場所と比較して温度の低下が著しいこと、F点は調理室内の空気を巻き込んでいるため温度のばらつきが大きいはずであるのに、
これと反対の結果が出ていることからすれば、被告の実験結果は極めて不自然である。
【被告の主張】 (1) 争点(1)ア(構成要件Bの「温度101〜125℃」は、水蒸気の「噴射時」「接触時」のいずれにおけるものか) ア 「温度101〜125℃」とは、「噴射時」のみならず「接触時」の温度でもある。
本件発明を噴射時の温度が100℃より高い温度の水蒸気と解釈すると、常圧下では水蒸気は100℃以下にしかならないとの自然法則により、冷凍麺に接触するときには100℃以下の水蒸気となっている。これでは、セイロでは101℃未満の水蒸気を接触させるために好ましい結果が得られないとの本件明細書の記載に沿わない。本件発明が意味を持つためにも、当該温度は噴射時ではなく接触時を基準とすべきである。
また、本件発明の実施例と比較対照される茹で処理や蒸籠での処理は、
いずれも冷凍麺類に接触する熱湯や水蒸気の温度を計測している。
以上から「温度101〜125℃」とは、冷凍麺類に接触する場所で計測される温度である。
イ 原告は、「温度101〜125℃」は噴射する前の噴射口内の温度であると主張し、その理由として、@冷凍麺類との接触時の温度は実際上測定不能である、A本件明細書には原告の主張を裏付ける記載がある、B解凍方法が異なれば、
それぞれの態様に応じて測定方法や測定値の持つ意味が異なるのは当然のことであり何ら矛盾はない、と主張する。
しかし、@については、冷凍麺類の上に熱電対(温度センサー)を置けば接触温度は測定できるし、冷凍麺類と接触させる場所の水蒸気の温度は測定することが可能である。原告は、「単に空気が存在するのと、そこに冷凍麺類が存在するのとでは、その周辺の温度変化を同一に扱えない」と主張するが、本件発明は、
冷凍麺類の解凍・加熱処理であるから、冷凍麺類への噴射接触する温度が重要になってくるにもかかわらず、調理室内の温度が冷凍麺類の存在如何によって影響を受けることでその温度が測定不能というなら、発明が完成していないといわざるをえない。
本件発明が、水蒸気を接触させて冷凍麺類を解凍・加熱させるものである以上、当該水蒸気について特定される温度は冷凍麺類に接触する時点でのそれを計測すべきであって、「接触」を無視することは誤りである。
またAについては、原告の引用する箇所には、どの時点の温度を計測するのか全く説明されていないし、実施例の水蒸気は自然法則に反する値であって、
信用できない。
Bについては、従来の方法と発明の方法を比較するような場合、同じ対象、結果について比較しなければ意味がない。それを方法が異なるからセイロの場合は冷凍麺類と接触する温度であるのに対し、本件発明の場合は噴射の直前の温度であるとするのでは比較の意味がない。本件発明は冷凍麺類の解凍・加熱処理方法であり、冷凍麺類への接触する温度が重要であるから、接触時の温度が計測されるべきである。
(2) 争点(1)イ(構成要件Bの「水蒸気」は過熱水蒸気に限定されるか) ア 水蒸気には飽和水蒸気と過熱水蒸気があり、どちらの水蒸気かによって、また、温度と圧力はどのような数値をとるかによって、保有熱量が異なる。保有熱量の相違は冷凍麺の解凍・加熱作用に影響を及ぼすから、冷凍麺類の解凍方法の発明としては、温度のみ特定しただけでは意味がなく、飽和水蒸気か過熱水蒸気かという点についても明らかにされなければならない。
本件明細書にはその点の言及がないので、後述のとおり本件発明については明細書に記載不備があるというべきであるが、仮に記載があるとするならば、
実施例が過熱水蒸気を使用する装置であることからして、本件発明の「水蒸気」は過熱水蒸気に限定されているというべきである。
イ 原告は、本件発明の特許請求の範囲には「水蒸気」としか特定されていないから、飽和水蒸気、過熱水蒸気のどちらの水蒸気も含むのであって、どちらの水蒸気にしても温度が101〜125℃であればよいと主張する。
しかしながら、このような主張は、温度を特定しても飽和水蒸気か過熱水蒸気かで保有熱量が異なり、ひいては冷凍麺類の解凍・加熱作用が異なることを全く理解していないものである。本件明細書には過熱水蒸気を使用する装置による実施例によって本件発明の効果が奏されることしか記載されていないのであるから、これをもって性質の異なる飽和水蒸気の場合にも本件発明の効果が奏されるとする原告の主張は、本件明細書の詳細な説明の記載に裏付けられていない事柄についてまで技術的範囲に含める解釈であって、当を得ない解釈であることは明白である。
(3) 争点(1)ウ(被告製品の「水蒸気」の温度は何℃か) ア 前記(1)で述べたとおり本件発明の「水蒸気」の温度は水蒸気が冷凍麺類に接触する場所で計測されるべきである。被告製品において、水蒸気が冷凍麺類に接触する場所近傍として、噴射ノズル出口(調理室の天井面)から約15o下の位置を計測したところ、その温度は99.6〜99.7℃であった。
イ 仮に原告が主張するとおり噴射時の温度が計測されるべきというのであれば、その場合の計測位置は、噴射直後の水蒸気の温度であり、被告製品の場合は、調理室内へ出た瞬間の噴射口近傍の温度となるが、この温度も99.6〜99.7℃である。
ウ また、原告が主張するとおり、噴射ノズル内の温度であるとしても、噴射ノズル内は大気圧より圧力の高い蒸気室から大気圧下にある調理室への経路として圧力が順次低下していっており、温度もそれに伴って変化する。したがって、噴射の時の温度を噴射ノズル内で計測するとすれば、噴射口の出口付近(E点)において計測すべきであるところ、その温度は100℃未満である。
エ 以上のとおり、被告製品の水蒸気の温度はいずれも101℃未満である。したがって、被告製品の水蒸気の温度の点においても、被告製品の水蒸気が過熱水蒸気ではない点においても、被告製品を使用した方法は本件発明の技術的範囲に属さないことは明白である。
このことは、実施例に示された装置を使用した場合、水蒸気(101〜125℃の過熱水蒸気)の保有熱量が639.65〜651.65kcal/kgであるのに対し、被告製品では、水蒸気(101〜125℃の飽和水蒸気、湿り度2〜6%)の保有熱量が607.63〜629.52kcal/kgと低い熱量にすぎないことからしても裏付けられる。
オ(ア) 原告は、本件発明における水蒸気は、噴射時の温度を計測すべきであり、その場所は圧力が安定しており、空気の影響を受けない噴射ノズル内のC点であると主張する。
「噴射時」が不適当であることは前記(1)で述べたとおりである。また、噴射ノズル内の圧力が安定していないことは、前記ウで述べたとおりである。
あえて噴射ノズル内で計測するならば、E点が適当である。C点は噴射ノズル内の途中位置であり、そこからさらに噴射ノズルの下方のラッパ状に拡開しているが、
この拡開部分は水蒸気を調理室内にできるだけ広い範囲にわたって均一に分散させる部分であり、上方部分と連続的に形成されているから、噴射ノズル内であることに変わりはない。
また、被告が計測したところ、C点であっても99.56〜99.98℃であった(乙17)。したがって、仮に原告の主張どおりC点で計測すべきだとしても、被告製品を使用した方法が本件発明の技術的範囲に属さないことに変わりはない。
(イ) 原告の実験結果(甲46の1及び2,甲47の1及び3、甲48)における温度及び圧力の数値及び蒸気室内の水蒸気は過熱水蒸気であるとの原告の主張を前提として計算すると、当該水蒸気の保有熱量は640.76〜641.08kcal/kgとなる。この熱量の水蒸気が蒸気室に存在するために、蒸気発生装置において発生させるべき飽和水蒸気は、蒸気室までの間に熱損が全くない場合を想定するとしても、低くても温度134℃、高くて200℃超にする必要がある。
ところで、被告製品の蒸気発生装置(ボイラ)は、ゲージ圧で0.12MPa、すなわち2.2569kg/?を限度として設定されている。したがって、
それよりも高圧でないと生成されないはずの134℃、200℃の温度を有する飽和水蒸気は生成される可能性がない。
よって、C点において101℃を超えているとの原告の測定結果(甲46の1及び2、甲48)は信用できない。
2 争点(2)(本件特許には明白な無効理由があるか)について (1) 争点(3)ア(明細書記載不備) 【被告の主張】 ア 「水蒸気」が特定されていないこと (ア) 水蒸気には飽和水蒸気と過熱水蒸気がある。飽和水蒸気の保有熱量(比エンタルピー)は存在する空間の圧力又は温度の一方と湿り度(乾き度)により特定される。過熱水蒸気の保有熱量は存在する空間と圧力と温度により特定できる。逆に言えば、水蒸気について温度だけを特定しても、飽和水蒸気か過熱水蒸気か、飽和水蒸気であればその湿り度(乾き度)はどの程度か、過熱水蒸気であればその存在する空間の圧力はどの程度かまで特定しなければ、水蒸気を特定したことにはならない。
飽和水蒸気の温度と圧力の関係は「蒸気表」(安定な平衡状態における飽和水蒸気の温度と圧力の関係を示したもの)としてまとめられ、熱力学的知見となっている。
(イ) 本件発明は水蒸気による冷凍麺類の解凍加熱処理方法であり、その作用効果は短時間の解凍・加熱及び解凍ムラのない冷凍前のα化された麺の食感の再現であるから、「水蒸気」は一定範囲の保有熱量を有する水蒸気として特定されなければならない。しかし、特許請求の範囲には水蒸気の温度のみが特定されているにすぎず、水蒸気が飽和水蒸気か過熱水蒸気か、水蒸気の湿り度(乾き度)や存在する空間の圧力はどの程度かについて何ら記載されていないため、本件発明における「水蒸気」の保有熱量が特定されない。
また、本件明細書の【詳細な説明】の欄には、水蒸気について、飽和水蒸気を前提とした説明と過熱水蒸気を前提とした説明が混在している。
(ウ) 本件明細書に実施例として記載されている水蒸気は、「温度101℃、絶対圧力1.2kg/p2」とされているが、この値は自然法則上水蒸気としてあり得ない値である。したがって、この値の記載をもって「水蒸気」が特定されたことにはならない。
イ 「噴射」が特定されていないこと 本件発明の水蒸気は「噴射」されるものである。
「噴射」とは、ある程度の速度で水蒸気の生成空間から冷凍麺類の調理空間に移動させるという意味であろうが、どの程度の速度をもって「噴射」というのか明確ではない。また、生成空間と調理空間には圧力差を設けないと「噴射」はできないが、その各空間の圧力はおろか、両空間の圧力差も特定されない。
ウ したがって、本件明細書には、当業者が容易に発明実施をできる程度の記載がなされていないとの無効理由(昭和62年改正法36条3項123条1項3号)が存在する。
エ(ア) 原告は、本件明細書には、「温度101〜125℃の水蒸気は絶対圧力が1.1〜2.0kg/p2程度のものである」と記載されており、これは温度の上限値と圧力上限値、温度の下限値と圧力の下限値を1対1対応させる趣旨ではなく、本件発明において使用する温度範囲の水蒸気が有する圧力範囲を例示したものである、したがって、「水蒸気」は一定範囲で特定されていると主張する。
しかしながら、上記数値を有する水蒸気が飽和水蒸気であるなら、最低の温度の水蒸気は最低の圧力下の水蒸気であり、最高の温度の水蒸気は最高の圧力下の水蒸気であるから、温度の上限値と圧力の上限値、温度の下限値と圧力の下限値は1対1対応とならざるを得ない。したがって、1対1対応にないとの原告の説明は失当である。
また、「温度101〜125℃」の飽和水蒸気とは約1.07〜2.37kg/p2の圧力下の水蒸気であるが、本件公報では1.1〜2.0kg/p2程度と記載されている。逆に、1.1〜2.0kg/p2程度の圧力下の飽和水蒸気とは、温度101.8〜119.61℃の飽和水蒸気を意味する。つまり、水蒸気を飽和水蒸気とすると、本件明細書記載の温度範囲と圧力範囲が食い違う結果となる。
この水蒸気を過熱水蒸気と考えるとしても、自然法則上、圧力最低限の1.1kg/?では101℃となる過熱水蒸気はあり得ない。
したがって、原告の指摘する記載によって、水蒸気が一定範囲で特定されていることにはならない。
(イ) 原告は、本件明細書の実施例について、使用された装置は加熱板に水を供給し蒸発させるものであり、噴射時(発生時)の水蒸気の圧力が大きく変動するものであること、そのため過熱水蒸気の温度や圧力を測定する際には、変動する圧力ゲージの針の最大値をゲージ圧として目視で読み取っていることを主張する。
しかし、この主張は、原告自らが実施例に使用された装置が不安定であることを認めたことになる。また、水蒸気の温度と圧力が刻々変動する装置において、温度と圧力とを異なる場所で測定する方法は、異なる水蒸気の温度と圧力を測定したことになるから測定として不適切である。このような不適切な測定方法で測定したために、「温度101℃、絶対圧力1.2kg/p2の水蒸気」という自然法則上あり得ない記載になったと推測される。
(ウ) 原告は、温度と圧力の関係や水蒸気の性質などが蒸気表に従うのは、「水蒸気と(液体の)水が共存して安定な状態にあるとき」との一定の条件下に限られており、蒸気圧はあくまで密閉系で生じる気液平衡のときの蒸気圧にすぎないとされている、と主張する。
しかし、原告がその根拠とする文献(甲20)は、液体表面からの気化、すなわち蒸発の場合を説明しているのであって、本件で問題となる液体内部からの気化、すなわち沸騰の場合を説明しているのではない。また、同文献にも「外圧が変わると沸騰する温度が変化する」との記載があり、飽和水蒸気が存在する空間の圧力が変わると、沸騰する温度、すなわち水蒸気の温度も変化する、換言すれば、飽和水蒸気の場合は温度と圧力が1対1対応の関係にあるとの説明をしている。
いずれにしても、原告の主張は自然法則を完全に無視している。
(エ) 原告は、当該温度における保有熱量を既定算出式から割り出せば、
最小値は飽和水蒸気の場合の639.5kcal/kg、最大値は過熱水蒸気の場合の650.7kcal/kgであってほとんど一致しており、冷凍麺類を解凍加熱するのに必要な熱量から判断しても水蒸気の差が影響を与えないから、水蒸気の温度(範囲)が特定されていると主張し、また、噴射が要件となっていれば、水蒸気の圧力は特定されていなくとも当業者に容易に実施可能であってその作用効果も差はないと主張する。
しかしながら、まず、本件発明に記載されている温度範囲のみを手がかりに考えるならば、その保有熱量の最小値は、101℃で湿り度6%(被告製品は、ボイラーにおいて2〜6%の湿り度を有する。)の飽和水蒸気の保有熱量である606.22kcal/kgであり、最大値は大気圧下での125℃の過熱水蒸気の保有熱量の651.65kcal/kgであり、その差は7%である。
これに対し、飽和水蒸気の場合、100℃の保有熱量は639.152kcal/kg、101℃の保有熱量は639.53kcal/kgであり、125℃の保有熱量は648.00kcal/kg、126℃の保有熱量は648.33kacl/kgであるから、その差はわずか0.05%である。このような微差にもかかわず、本件発明では、101℃未満であったり125℃を超えたりすると、作用効果が相違することを根拠に、温度範囲を限定しているのである。
そうすると、本件発明の温度範囲内での水蒸気の保有熱量の差を、作用効果に影響を与えない微差とすることは許されない。
【原告の主張】 ア 本件明細書の記載によって、当業者は本件発明を実施できること 被告の主張する水蒸気の存在する空間の圧力と温度の関係なるものは、
飽和水蒸気の場合、「一定の温度で水蒸気と液体の水とが共存して安定な平衡にあるとき」に、密封空間の静的安定状態でのみ成り立つものであって、このことは当業者間における技術常識である。そして、このような蒸気表どおりの状態は、水蒸気発生機内では存在し得るが、現実の大気中では、存在する水滴や氷の表面の形・大きさ等の影響を受けて厳密には当てはまらないことは当然のこととされている。
さらに、水蒸気を噴射した後は、水蒸気の諸条件が激しく変動する動的状態となり、上記のような安定平衡状態とは全く異なる状態となって、到底水蒸気の温度や圧力を計測できるような状態にはない。
本件発明は温度を一定の範囲に特定しており、また、本件明細書の発明の詳細な説明には「(本発明でいう)温度101〜125℃の水蒸気は絶対圧力が1.1〜2.0kg/cm2程度のものである」との記載がある。被告はこれを温度の上限値と圧力の上限値、温度の下限値と圧力の下限値を1対1に対応させる趣旨と読むべきであり、その場合には自然法則からしてありえない水蒸気になると主張する。しかし、同範囲設定は、本件発明において使用する温度範囲の水蒸気が有する圧力範囲を例示したものにすぎない。そして、本件発明の現実の実施に際しては、
密閉空間における理想的な平衡状態は現出せず、水蒸気の温度と圧力の関係は、おおむね理想的な平衡状態における値に近似した範囲を示せば足りるところ、上記水蒸気の温度と圧力の範囲の記載は、この近似の範囲の提示として十分である。
したがって、当業者としては、本件発明で特定されている温度によって、蒸気表を目安としながら、使用しようとする装置の熱効率、熱損失、対象とする冷凍麺類の質量等を考慮した上で、冷凍麺類を解凍・加熱するのに必要な熱量を提供できるよう、水蒸気の噴射接触時間等を適宜調整することにより、本件発明を実施できるのである。飽和水蒸気か過熱水蒸気か、水蒸気の圧力や湿り度はどの程度か、調理室と蒸気室との圧力差等について特定されていなければ、本件発明を実施できないものではない。
イ 被告は、水蒸気の性質や圧力、湿り度等の特定が必要であると主張し、
その理由として、これらによって定まる水蒸気の保有熱量が本件発明の作用効果に影響することを強調する。
しかしながら、本件発明における温度範囲内において、最も差異のあるのは、最小値としては飽和水蒸気の保有熱量の639.5kcal/kg、最大値は過熱水蒸気の保有熱量の650.7kcal/kgであって、その差11.2kcal/kg、わずか1.8%の差でしかない。また、被告製品のボイラー内部の水蒸気は2〜6%の湿り度を有するとの被告の主張を前提としても、その保有熱量は、乾いた状態の飽和水蒸気と比較して約2〜5%程度の差しかない。冷凍麺類を解凍、加熱するのに必要な熱量(例えば冷凍スパゲティ230gの場合、約28kcal)を考えるならば、
同じ水蒸気の供給速度下で同じ熱量を供給するために、59秒かかるか60秒かかるかの違いにすぎない。
また、飽和水蒸気であっても過熱水蒸気であっても、冷凍麺類に噴射接触してその表面で潜熱を放出して冷凍麺類と熱交換するという解凍のメカニズムは同じである。
以上のとおり、飽和水蒸気であれ過熱水蒸気であれ、その保有熱量の差はわずかであり、またその解凍メカニズムも同じであるので、本件発明において飽和水蒸気と過熱水蒸気を水蒸気として区別する意味はない。
ウ そして、水蒸気の圧力の大きさ自体は、「噴射接触」を可能とするようなものでありさえすればよく、必ずしも具体的数値をもって示す必要はない。
エ なお、被告は、実施例の「温度101℃、絶対圧力1.2kg/cm2の水蒸気」なる記載は、これが過熱水蒸気を意味する以上自然法則からはありえない水蒸気であると主張する。
しかしながら、実施例の実験は、水蒸気発生装置(アメリカ・アンチューネス社製ラウンドアップスティーマーVS-200型)の噴射口の一つに圧力ゲージを取り付け、約6秒間水蒸気を噴射し約4秒間休止するという操作を繰り返して圧力測定を行ったものであるところ、上記水蒸気発生装置は、水蒸気発生とほぼ同時に噴射させる構造となっており、噴射時の水蒸気の圧力は大きく変動し、それに伴い圧力ゲージの針も大きく変動する。実施例記載の測定値は、この変動する圧力ゲージの針の最大値をゲージ圧として目視で読み取り、その値に大気圧を加えて絶対圧力として表示したものである。このように圧力ゲージの針が変動して安定しないことは、実際の圧力計測の場面ではしばしば観察される現象である。
上記のような条件及び測定方法を用いて測定した過熱水蒸気の圧力の実測値が、蒸気表を基準に考えられる数値とは整合しない値であるとしても、それは当業者にとっては容易に理解可能な範囲内の事項であって、本件発明を実施する上で何ら障害となるものではない。
(2) 争点(3)イ(進歩性の欠如) 【被告の主張】 ア 米国特許第4617908号明細書(乙3) (ア) 1986年(昭和61年)10月21日に登録公開された米国特許第4617908号明細書には、「加熱板19を通って伸びる開口部27を水蒸気が通過し、水蒸気が直下の食品へ衝突(impingement)する」(原文第4欄21〜25行)、「下部の食品蒸気室に置かれた食品の頂部に衝突する(impinge)ように、
蒸気発生室で生成された蒸気を下方へ向けるための、加熱板を通って伸びる開口手段」(原文第4欄48〜52行)、「蒸気の大部分が直接食品上に届くように、周囲部分が高くされた開口部が、加熱板の表面に所定列になるように、配置された」(原文第5欄32〜36行)などの記載があり、FIG.8に、食品部に水蒸気を噴射し、衝突させている様子が図示されている。
すなわち、乙3の明細書には、直接食品に向かって水蒸気が噴射され、その水蒸気を食品に接触(衝突)させる方法が開示されている。
(イ) 本件発明と乙3の発明とは、「食品に水蒸気を噴射接触させる」方法であることで一致し、@乙3の発明では、水蒸気の温度が限定されていないこと、A乙3の発明は「食品」(food product)という上位概念であるのに対し、本件発明では「冷凍麺類」と限定されていることで相違する。
イ 米国特許第4011805号明細書(乙4) 1977年(昭和52年)3月15日に登録公開された米国特許第4011805号明細書には、「本発明の方法において、実質的にドライな、飽和水蒸気が大気圧より高い圧力(例えば10p.s.i.g.から15p.s.i.g.)で、及びそれに相当する水蒸気温度でチャンバー内に注入される。」(原文第2欄46〜50行)、「加えて、本発明によれば、従来の方法と比較してかなりのエネルギーの節約で調理がより有効に実施されて、実際、野菜、家禽類、魚介類、肉類、シチュー、カレーなどといった全ての食品が経済的な方法で調理、解凍及び再加熱できる」(原文第3欄12〜20行)、「本発明では開口42から注入される飽和水蒸気は10(psig)から15(psig)の範囲の圧力で、約240°Fから250°Fの範囲の温度で 、12(psig)の圧力、約244°F が好ましい。」(原文第5欄42〜47行)などの記載がある。
すなわち、乙4の文献には、温度約116〜121℃(≒240〜250°F)、好ましくは温度約118℃の飽和水蒸気が、野菜、家禽類、魚介類、肉類、シチュー、カレーなどといったすべての食品の「解凍」に適していることが開示されている。
ウ 「THE EFFECTS OF THAWING AND HEATING METHODS ON SELECTED PARAMETERS OF PALATABILITY, WHOLESOMENESS, AND NUTRITIVE VALUE OF FROZEN PREPARED FOODS」(乙5) 1971年(昭和46年)発行の乙5の文献には、対象「製品は、ビーフシチュー、チキン及びヌードルキャセロール、及びクリームスピナッチである」(原文22頁3〜5行)、「チキン及びヌードルキャセロールをアメリオプレートフリーザで冷凍した」(原文22頁14〜15行)、装置は「冷凍食品の再加熱に一般に採用される代表的な方法として選択した装置は、慣用のレンジ-オーブン、
コンパートメントスチーマー、…であった。…スチーマーの温度は約110℃で、
…」(原文23頁1〜6行)などの記載がある。
すなわち、乙5の文献には、麺類を含む冷凍食品を約110℃の水蒸気により解凍・加熱処理することが記載されている。
エ 特開昭60-94066号公報(乙6) (ア) 上記公報には、「本発明は、バラ状冷凍調理済ピラフ、おこわ、冷凍調理済焼そば 、スパゲティ 等比較的空隙の多い容器入り食品の調理方法及びその装置に関するものである。」(1頁右欄2〜5行)、「調理済の焼そば(肉、野菜共)を入れて-20℃まで冷凍した。そして実験例1と同様の蒸気発生装置にて0.45m3/minの流量の蒸気を20〜30秒間焼そばの空隙を貫流させたところ70〜80℃まで昇温でき、そのまま喫食できた」(4頁右下欄2〜7行)、「本発明は、以上のように蒸気発生装置にて発生した蒸気を吸引装置にて吸引して容器内の調理済み食品の空隙内を強制的に貫流させるようにして、食品を加熱、解凍処理した ので、冷凍食品が極めて短時間で解凍調理できるようになり、クイックサービスが可能になる」(5頁左欄2〜7行)などの記載がある。
すなわち、乙6の文献には、麺類を含む冷凍食品を水蒸気により解凍・加熱処理することが記載されている。
(イ) 原告は、@乙6の発明は、水蒸気を冷凍食品に噴射接触させるものではない、A乙6には冷凍スパゲティの例示はなく、例示として挙がっている「冷凍調理済み焼そば」は本件発明の冷凍麺類には該当しない、B乙6の発明では冷凍麺類を短時間にムラなく解凍できないと主張する。
しかし、乙6の発明においても、弁を開いて蒸気発生装置と冷凍食品を収納した容器とを連通させれば、高圧と推測される蒸気発生装置から低圧と推測される冷凍食品を収納した容器に向かって蒸気が移動する。乙6には、「噴射」という用語は用いられていないが、「蒸気を強制的に吸引して食品Fの空隙を貫流させる」との記載がある。これに対し、本件明細書には、「麺塊中にある程度空隙を有するようにすることが好ましい」と記載されているが、これは水蒸気を麺同士の空隙内を強制貫流せしめて熱伝達率をあげることにより麺全体を迅速かつ均一に昇温せしめ、麺冷凍食品を極めて短時間に均一に加熱しているものと解される。そうすると、乙6の発明は、本件発明と同様に水蒸気を噴射接触させているということができる。
また、乙6には、冷凍麺としての「焼そば」と「スパゲティ」が記載されていると読めるし、従来技術の問題、発明の解決課題、実施例の構成からしても、冷凍スパゲティについても記載されているものというべきである。
さらに、解凍において問題となるのは保有熱量であって、早期に解凍できるか否かは冷凍麺類の量と接触させる水蒸気の量が影響するものである。したがって、乙6の発明で使用されているのが低温の水蒸気であるため、本件発明と比較して解凍に時間がかかるとしても、そのことをもって、技術上の相違点となるわけではない。
以上からすれば、乙6の発明も、蒸気の自然対流または食品の熱伝導によると、昇時間が長く、調理に長時間を要するとの従来技術を克服し、調理済み冷却・冷凍食品を、蒸気を強制的に吸引するという噴射接触の方法を用いて、短時間内で加熱・解凍調理できるようにした調理方法及び装置ということができる。
オ 乙6の文献には「麺類」を含む「冷凍食品」を「水蒸気により解凍・加熱処理」することが記載され、乙4の文献には、約116〜121℃の水蒸気、好ましくは約118℃の飽和水蒸気が、(冷凍)食品の「解凍」に適しているとされ、更には、乙5の文献には「麺類を含む冷凍食品」を約110℃の水蒸気により解凍・加熱処理することが記載されている。
してみれば、乙3の発明(食品に水蒸気を噴射接触させる方法)に、乙4〜6の発明で開示されているところの、「冷凍麺類」に接触させる水蒸気の温度を「約110℃又は約116〜121℃」とするとの知見を合せることは、当業者には容易であったというべきである。
よって、本件発明は進歩性欠如の無効理由を有する発明であることは明らかであるから、原告の本件請求は権利の濫用である。
カ 原告は、@乙3ないし6のいずれによっても、本件発明の最大の特徴たる「冷凍麺類に対する水蒸気の噴射接触」、すなわち「水蒸気を直接吹き付ける」という技術的発想は生じ得ない以上、本件発明は、乙3ないし6に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない、A文献(甲16ないし18)によると、本件特許出願当時、冷凍麺類の解凍に水蒸気を直接吹き付けることなどは論外であるとの先入観があった、すなわち冷凍麺類に水蒸気を噴射接触させることについては発想障害があった、と主張する。
しかし、「水蒸気の噴射接触」の構成は乙3に記載されており、本件発明のその他の構成は乙4ないし6に開示されている。
また、そもそも本件発明は「噴射接触」とされているのであって、水蒸気が冷凍麺類に接触しさえすればよく、「直接吹き付ける」必要はない。
仮に直接吹き付けるとの趣旨としても、原告が、冷凍麺類に直接水蒸気を吹き付ける方法は避けられていたことの根拠とする文献(甲16、17)は、水蒸気に含まれる水滴又は復水(凝縮水、ドレン)が問題であると指摘するにとどまる。乙3の発明の装置は、過熱水蒸気を利用する装置であるが、過熱水蒸気には水滴は含まれておらず、また、温度が下がっても凝縮せず、復水しにくい水蒸気である。したがって、乙3の発明の装置を用いた方法は、原告の指摘する文献(甲16、17)で指摘されている水蒸気問題が生じない方法であるから、水蒸気(過熱水蒸気)を冷凍麺類に直接吹き付けても問題はないのである。
さらに、原告は「冷凍麺類を蒸し処理解凍した場合には、短時間での処理が不可能なうえ、良好な食感が得られない、との認識が当業者の共通の技術認識であった」と主張し、根拠として文献(甲18)を提出する。しかし、この文献は、蒸し処理の場合は「短時間」での処理が不可能であることに問題があると指摘しているのであるから、乙3の発明のように短時間の処理が可能な「噴射接触」の方法を冷凍麺類に適用する方がよいことを示唆するものであって、当該方法を冷凍麺類に適用することを排斥するものではない。
【原告の主張】 本件発明は、乙3〜乙6の発明に基づき、当業者が容易に想到し得るものではない。
ア 本件発明の意義 冷凍食品を上手によりおいしく調理できるかどうかは解凍の良し悪しによって大きく左右される。一般に魚や肉などの「生もの」あるいは「果実類」「菓子類」などの冷凍食品は緩慢解凍することが多く、「冷凍調理食品類」や「冷凍野菜類」は急速解凍することが多い。本件特許出願当時における急速解凍としては、
「グラタン」や「ハンバーグ」の場合には熱空気解凍が、「シューマイ」や「まんじゅう」の場合には蒸し処理解凍が、「麺類」の場合には茹で処理解凍が、それぞれ良好な解凍結果が得られる方法として汎用されていた。
この中で冷凍麺類の解凍においては、後述のとおり、水蒸気を接触させる方法によると麺類の表面が糊状となるため、水蒸気を直接冷凍麺類に吹きつけるなど論外とする先入観があり、試みることさえされなかった。
本件発明の発明者は、この固定観念にとらわれず、時間短縮のために冷凍麺類に水蒸気を噴射接触させてみたところ、意外にも特定温度でこれを行えば、
熱気・熱湯・水蒸気による蒸し処理(環流接触)よりも却って良好な元の茹で麺の食感が得られるという結果を得たのである。
イ 乙3ないし6からは、「冷凍麺類に対する水蒸気の噴射接触」という技術思想は生じ得ない。
(ア) 乙3の発明について 乙3(全文訳については甲9)は蒸気発生装置に関する特許の明細書であるが、その使用法として示されている内容は食品の上のチーズやトッピングの溶解技術に関するものであって、解凍技術に関する開示は一切ないし、食品上部のみを溶解しようとしている点で、「短時間に解凍ムラがなく冷凍前のα化された麺の食感がそのままに近い状態で再現される」という本件発明の効果を得る目的には相反するものである。
したがって、乙3によっては、冷凍麺類の解凍はもとよりそもそも一般的な冷凍食品の解凍と云う技術的発想すら生じる余地のないものである。むしろ、噴射水蒸気は冷凍麺解凍には使えないという先入観を裏付ける意味しか持たない。
被告は、乙3に記載されている装置は過熱水蒸気を利用する装置であるから、文献(甲16及び17)で指摘されているような凝縮や復水といった問題が生じないなどと主張する。しかし、水蒸気発生装置の問題と、水蒸気の利用目的や利用方法の開発は別問題であるし、甲17には過熱水蒸気を直接吹き付けることの問題点の指摘もある。
(イ) 乙4の発明について 乙4(全文訳については甲10)は、水蒸気を食品に「噴射接触」せしめることを否定する対流接触法に立脚した食品の加熱・調理方法に関する発明が記載されており、本件発明とも、水蒸気を食品に直接あてる乙3の発明とも、全く逆の技術思想に立脚した技術思想が記載されている。
したがって、乙4から本件発明が生じる余地はないし、乙4の発明を乙3の発明と組み合わせるという発想に至ることも困難というべきである。
(ウ) 乙5の発明について 乙5(全文訳については甲13)の発明は、食品をアルミニウム容器に収納し、かつアルミニウムの蓋でパックした状態で加熱解凍しているものであり、「水蒸気を噴射接触せしめる」ものでないことは明らかである。
また、乙5に記載のチキンヌードルキャセロールは、鶏肉、タマネギ、セロリ、小麦粉、牛乳、スープ、バター、チーズ、調理済みマカロニ、パン粉等を原材料とする焼き鍋料理であって、グラタンに近いものであり、冷凍麺類とは全く異なる。
したがって、乙5によっては、本件発明における「水蒸気を冷凍麺類に噴射接触せしめる」と云う技術要件の発想はそもそも全く生じる余地のないものである。
(エ) 乙6の発明について 乙6に記載の発明は、水蒸気を冷凍食品に噴射接触せしめるのではなく、蒸気を一旦発生せしめた後、当該発生した蒸気を吸引することにより、冷凍食品に接触せしめるものである。
また、乙6の発明を利用する対象に、冷凍麺類は含まれていない。
「冷凍調理済み焼そば」の記載はあるが、これは他の具材等とともに加熱調理を行った焼そばを冷凍後に解凍するものであって、冷凍前のα化された麺の食感(こし)をそのままに近い状態で再現するという作用効果は全く期待されていない。
乙6には使用する蒸気の温度について何らの記載も存せず、むしろ第1図に示されるタンク21の構造に徴すれば、該蒸気は温度が100℃程度の所謂セイロによる蒸気と同様なものと云わざるを得ない。さらに、乙6は吸引方式を採るものであるが、この場合蒸気はさらに低温となるから、冷凍麺類に未解凍部分が存在することになり、麺の水分勾配が維持されず、弾力性ある食感が再現されない。
したがって、乙6によっては、本件発明における「水蒸気を冷凍麺類に噴射接触せしめる」という技術要件はもとより温度条件の発想すら生じさせる余地のないものである。
(オ) 以上のとおり、乙3ないし6のいずれの発明によっても、本件発明の最大の特徴たる「冷凍麺類に対する特定温度の水蒸気の噴射接触」という技術的発想は生じ得ない。
ウ 冷凍麺類に水蒸気を噴射接触させることについては発想阻害事由があった。
本件特許出願当時、冷凍麺類の解凍に水蒸気の噴射処理は実際行われておらず、検討もされていなかった。このことは、蒸し処理において麺類に水気が当たらないようにするための水蒸気の扱いを不適切とする以下の文献の記載によって裏付けられる。
(ア) 「食品工業のスチーム・システム」(甲16。株式会社光琳 昭和59年8月発行)37頁に、蒸し処理は条件によっては「麺」等には不向きな加熱状態となる場合もある旨の記載がある。
(イ) 「食品工業」(甲17。株式会社光琳 平成5年2月28日発行)74頁の「3-2 蒸気の噴射、麺に接触する蒸気」の記載内容を検討すれば、本件特許出願後においても、蒸気を噴射状態のまま直接麺線に当てることは好ましくないとされていたのが実情であったといえる。
(ウ) 特開平4-79918号公報(甲18)2頁左上欄の記載からすれば、そもそも冷凍麺類を蒸し処理解凍した場合には、短時間での処理が不可能なうえ、良好な食感が得られない、との認識が当業者の共通の技術認識であったといえる。
(エ) 以上のように、本件特許出願時において、冷凍麺類に水蒸気を直接噴射せしめることについては、発想の阻害事由があったと言わざるを得ない。
本件発明は、上記の如き従来の技術認識や常識を覆えす新知見、すなわち冷凍麺類であっても特定温度範囲の水蒸気を噴射接触せしめれば、極めて高品質状態の解凍品が得られるという新知見に基づいてなされたものである。
すなわち、本件発明は、特定温度範囲の水蒸気を冷凍麺類に噴射接触させること、換言すればセイロや対流等による単なる水蒸気接触ではなく、冷凍麺類に直接衝突せしめる方法で水蒸気を接触させることを最大の骨子としているものである。
エ 以上のとおり、冷凍麺類に水蒸気を噴射接触させることについて発想阻害事由があったところ、乙3〜6は、いずれもかかる発想阻害事由を克服して、本件発明の最大の特徴たる「冷凍麺類に対する特定温度の水蒸気の噴射接触」という技術発想を生じさせるものでない。したがって、本件発明は乙3〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たということはできない。
オ(ア) 被告は、「水蒸気の噴射接触」の構成は、乙3に、その他の構成は乙4〜6に開示されており、これらを結合することは当業者にとり容易であると主張する。
しかし、乙3では、調理食品の表面を溶解するため、噴射水蒸気を接触せしめている。これに対し、乙4〜6は、冷凍食品を穏和な環流水蒸気などの接触により解凍している。つまり、乙3と乙4〜6は、水蒸気の用い方がそれぞれ異なっており、むしろ冷凍食品の解凍を目的とするときは、直接噴射水蒸気を当てることは避けるというのが常識だったことを示している。
(イ) 被告は、「噴射した水蒸気が冷凍麺類に接触しさえすればよく、
「直接吹き付ける」必要はない、と主張する。
しかし「噴射接触」とは、噴射状態で接触することであり、噴射状態でなくなった水蒸気でも接触さえすればよいということではない。
当裁判所の判断
1 争点(1)(被告製品を使用する冷凍麺類の解凍加熱処理方法は、本件発明の技術的範囲に属するか)について (1) 争点(1)ア(構成要件Bの「温度101〜125℃」は、水蒸気の「噴射時」「接触時」のいずれにおけるものか)について ア 本件発明は、「冷凍麺類に温度101〜125℃の水蒸気を噴射接触せしめることを特徴とする冷凍麺類の解凍方法」である。
「温度101〜125℃」については、水蒸気が冷凍麺類に「噴射接触」するとされているため、「噴射時」の温度か、「接触時」の温度か、あるいはこの双方を含むものかのいずれかであると解されるが、この点については特許請求の範囲に明記されていない。
そこで以下検討する。
イ 本件公報(甲2)によれば、本件明細書には次の趣旨の記載があるものと認められる。
(ア) 本件発明は、「冷凍麺類を解凍・加熱する処理方法に関する」ものであるところ、従来、その手段としては、「主として茹処理方法やマイクロウエーブ処理方法が採用」されていた(本件公報1頁左欄)。
しかしながら「茹処理は、比較的短時間で解凍・加熱できる反面、茹で溶けを生じてベタついたり、食感的にやわらかくなりすぎたりして、冷凍前のα化された麺の食感を維持しにくいという問題があ」り、「マイクロウエーブ処理は、解凍・加熱に時間がかかり、水分に蒸散が著しいために歩留りの減少、麺表面の乾燥、更には麺に解凍ムラが生じると云う問題があった」(同1頁左欄最終行ないし1頁右欄7行)。
(イ) 本件発明は、「短時間にしかも冷凍前のα化された麺の食感をそのまま再現できる冷凍麺類の解凍・加熱処理方法」を解決課題とするものである(同1頁右欄8、9行)。
この課題の解決のために、本件発明は、「冷凍麺類に温度101〜125℃の水蒸気を噴射接触せしめる」こととした(同1頁右欄最終行ないし2頁2行)。
本件発明に用いられる水蒸気は、「温度101〜125℃、好ましくは103〜118℃のものである。温度が101℃未満のものは常圧の飽和水蒸気状態であり、所謂セイロによる蒸気と同様なものであって、解凍調理に時間がかかり効率が悪く、得られる麺の食感も弾力性が低下してやわらかくなりすぎて、好ましいものが得られない。一方温度が125℃を超えると高圧状態の蒸気となり、冷凍表面での熱交換される効率が低下すると共に麺の表面が乾き易くなり好ましくない」(同2頁10ないし18行)。
また、本件発明にいう温度101〜125℃の水蒸気は、「絶対圧力が1.1〜2.0kg/p2程度のものである」(同2頁19、20行)。
(ウ) 本件発明の効果としては、「通常1食分あたり約250gの冷凍麺類が約40〜60秒と云う極めて短時間で解凍・加熱が可能であり、解凍ムラがなく冷凍前のα化された麺の食感がそのままに近い状態で再現可能である」(同2頁1ないし4行)。
(エ) 実施例として、冷凍スパゲテイを、アメリカ・アンチューネス社製ラウンドアツプステイーマーVS-200型内に収納し、約40秒間解凍・加熱を行った場合が挙げられている。「その具体的操作としては、温度101℃、絶対圧力1.2kg/?の水蒸気を発生させて、前記冷凍スパゲテイに約6秒間噴射接触させ次いで、約4秒間休止するという操作を4回くり返し」、「得られたスバゲテイは品温約75℃で、解凍ムラがなく、冷凍前の弾力のある食感が再現されて、良好なものであった」(本件公報2頁13ないし19行)。
また、従前の解凍方法との比較がなされており、上記実施例と茹で処理(100℃の熱湯15L)及びマイクロウエーブ処理(1400Wの電子レンジ)を比較した場合、解凍・加熱に対する最小時間が、実施例では40秒、茹で処理では30秒、マイクロウエーブ処理では90秒、外観の状況は、実施例や茹で処理は良好であるが、マイクロウエーブ処理では表面が乾き、麺線相互の付着が見られたとの記載がある。また、食感は、実施例では「弾力性あり良好」、茹で処理では、「弾力性がやや低下し、やわらかめの傾向」、マイクロウエーブ処理では、
「加熱ムラがあり、ガミー化の傾向」が見られたとの記載がある。重量比は、実施例が99、茹で処理が105、マイクロウエーブ処理が95であったとの記載がある。
さらに、セイロの場合と上記実施例の場合を比較すると、解凍・加熱の最小時間が蒸籠の場合200ないし250秒かかるのに対し、実施例では50秒、食感は、蒸籠の場合は弾力性が弱くやわらかいが、実施例は弾力性があって良好であったとの記載がある。
そして、本件発明の方法によるとしても、水蒸気の温度が130℃になると、解凍・加熱の処理時間が60秒で、食感は、麺表面が乾き、ガミー化の傾向が見られたとの記載がある。
ウ 証拠(甲5、19、38、44、乙7ないし9、14)によれば、水蒸気等に関する常識として、次の点が指摘できる。
水(液体)を加熱して沸点まで上昇させ、さらに加熱すると、温度が一定のまま、極めて微細な霧状の水分(飽和水、飽和液)を含む飽和水蒸気となり、
さらに水分のすべてが水蒸気となっても加熱し続けると、温度が上昇する過熱水蒸気となる。
飽和水蒸気の圧力や温度を、開放空間において測定することは困難であり、通常は密閉空間での静的な安定状態で測定されている。飽和水蒸気を発生・移動・作用させている装置内において当該水蒸気の温度と圧力を測定しようとする場合には、水蒸気の速度が大きく変化したり、外部から熱の出入りがあるような場所での測定は難しいため、比較的速度変化が小さく熱の出入りの少ない蒸気溜めのような場所で測定せざるを得ないが、それでも厳密な値の測定は困難である。
100℃以上の飽和水蒸気や過熱水蒸気を大気圧下に放出すると、通常は大気圧における沸点(100℃)以下の飽和水蒸気となるが、放出前の水蒸気の温度や保有熱量等によっては、あるいは放出後の存在環境等によっては、過熱水蒸気となることもある。
エ(ア) 本件公報に実施例として記載されているアメリカ・アンチューネス社製ラウンドアップスティーマーVS-200型とは、水蒸気発生室下部にある加熱板を熱し、ここに水滴を供給して瞬間的に過熱水蒸気を生成させ、これを水蒸気発生室の上部のマニホールド板に設置されている水蒸気噴射口を通して、水蒸気発生室の上部に位置する調理室内の対象物を解凍、加熱する装置である(甲36、乙10、12、13)。
(イ) 原告は本件発明の実施例の再現実験(甲36)を行った。その手順及び結果等は次のとおりである。
ラウンドアップスティーマーは、水蒸気発生室の加熱板に水を供給して水蒸気を発生させ、噴射口より水蒸気を噴射させる水蒸気発生機構である。
そのため、水蒸気発生室上部のマニホールド板上にある水蒸気噴射口の一つに圧力計を固定し、水蒸気の圧力をゲージの目視により測定した。また、同じ場所で同時に温度を測定することはできないため、他の水蒸気噴射口の一つに温度センサーを約5o差し込み、水蒸気の温度を測定した。水蒸気発生室内の加熱板の表面温度は、196.1〜224.0℃の範囲内に制御し、加熱板に供給する水量は1回あたり約14mlとした。そして、水を供給して6秒間水蒸気を発生・噴射させ、約4秒間休止させる、という操作を4回繰り返した。
圧力は、水蒸気の発生に伴い上昇し、噴射と水の供給の終了によって下降する。操作を4回繰り返して、それぞれ圧力計の針の目盛りが最大値となった時点を目視で読むと、0.017MPaであり、絶対圧力にすると、1.2kg/p2であった。
温度も、別の噴射口に温度センサーを挿入して計測したが、圧力と同様に、水蒸気の発生・噴射に伴い数値が上昇し始め、水の供給が終了して水蒸気の発生が終わるに伴い数値が下降し始める。操作を4回繰り返して、温度計の目盛りが最大値となった時点を目視で読むと、いずれも101℃であった。
オ 上記イないしエによれば、次のようにいうことができる。
(ア) 冷凍麺類の解凍・加熱処理方法としては、従来は飽和水蒸気が充満あるいは対流している場所に置いて行う方法(例:セイロによる方法)、沸騰水の中に投入することによって行う方法(例:茹で処理)、マイクロウエーブを直接照射させることによって行う方法があった。
しかし、これらの方法では、解凍・加熱処理に時間がかかったり、解凍・加熱処理後の麺類の弾力性が低下したり(いわゆるコシがなくなる)、あるいは表面が乾いてガミー化を起こしたりするなどの問題があった。
本件発明は、これに対し、特定の温度範囲の水蒸気を「噴射接触」させて、冷凍麺類の解凍・加熱処理を行うことによって、冷凍前のα化された麺の食感を短時間に再現しようとする方法である。
(イ) 本件発明は、「冷凍麺類に温度101〜125℃の水蒸気を噴射接触」させるものである。この文言によれば、「温度101〜125℃の水蒸気」が噴射されかつ冷凍麺類に接触する、すなわち、水蒸気の「温度101〜125℃」は、噴射時及び接触時のいずれにおいても維持されているものと解する余地がある。
しかしながら、水蒸気を使用して冷凍麺類を解凍・加熱する場合、冷凍麺類に接触した水蒸気は、その保有熱量を冷凍麺類に供給するに伴い、その温度を刻々と変化させる。また、冷凍麺類周辺の水蒸気も冷凍麺類に接触した水蒸気への熱量供給に伴って温度が変化する。この温度変化の状況は、冷凍麺類が解凍・加熱されていくにつれても、また解凍加熱対象となる冷凍麺類の量等によっても、異なってくる。しかも、温度の測定は、静的な安定状態で行われるのが望ましいが、
解凍・加熱過程にある冷凍麺類の周辺は、水蒸気が冷凍麺類に接触してその運動方向を拡散させるために様々な速度をもって移動していると想定されるため、静的な安定状態にあるということはできない。そうすると、冷凍麺類に接触する水蒸気の温度は、刻々と変化し測定が不可能であるというほかない。そして、その温度変化ゆえに測定が不可能である場合には、温度を制御することもまた不可能というべきである。なお、冷凍麺類が置かれる予定の空間の温度を測定し、制御することは可能であるが、その温度は、冷凍麺類が解凍・加熱されて空間内の温度が一定になった後の温度というべきであって、冷凍麺類への接触時の水蒸気の温度ということはできない。また、冷凍麺類を置いた状態で水蒸気の温度が安定した時点で測定したとしても、それは冷凍麺類が解凍・加熱された後に周辺水蒸気とともに一定の温度に達した状態の温度にほかならず、解凍・加熱処理過程における冷凍麺類に接触される水蒸気の温度ではない。
これに対し、噴射時の水蒸気の温度は、上記のような温度変化が認められず、したがって、その温度の測定も制御も可能ということができる。
本件発明は、特定の温度の水蒸気を「噴射接触」させることによって冷凍麺類を解凍・加熱処理する方法であるから、当該特定温度を測定できなければならず、かつ、その生成・維持を制御できなければならない。そうすると、「温度101〜125℃」とは、測定及び制御可能な噴射時の温度をいうというべきであって、測定や温度制御の不可能な接触時の温度は対象とされていないと解すべきである。
(ウ) また、本件発明の実施例には、温度が101℃、絶対圧力が1.2kg/p2の水蒸気を発生させ、冷凍スパゲティにこの水蒸気を噴射接触させる装置の記載がある。同実施例に使用される装置は、蒸気室と調理室が分かれており、蒸気室で過熱水蒸気を発生させ、それを噴射口を通じて調理室内にある冷凍スパゲティを解凍・加熱するものである。同記載によっても、原告による再現実験によっても、蒸気室で発生した過熱水蒸気はそのまま噴射されていると評価でき、ここでいう発生した水蒸気の温度圧力はそのまま噴射時の水蒸気の温度圧力に相当するということができる。そうすると、本件発明の実施例に記載されている水蒸気の温度は、噴射時の温度のみを指しており、接触時の温度についてまでは言及していないというべきである。
(エ) 以上からすれば、本件発明における水蒸気の温度101〜125℃は「噴射時」の温度のみを指すものと解すべきである。
カ 被告は、本件発明が水蒸気を冷凍麺類に接触させることによって解凍・加熱を行うものである以上、意味のある温度は接触時の温度であると主張し、本件公報において、本件発明の実施例と比較される蒸し処理や茹で処理のいずれもが接触時の温度を問題としているのであるから、本件発明の水蒸気も接触時の温度と解さなければ比較の意味がないとする。
しかし、本件発明は、特定温度の水蒸気を使用して冷凍麺類の解凍・加熱処理を行う方法である以上、水蒸気の温度を測定しかつ制御できなければならず、したがって、その測定は、測定及び制御可能な噴射時を基準とすると解さざるをえないことは前記オで認定説示したとおりである。また、蒸し処理や茹で処理も、「100℃に近い飽和水蒸気を特定空間に充満あるいは緩慢対流させ、この中に冷凍麺類を入れることによって解凍加熱処理する方法」、「100℃に湯を沸騰させ、この中に冷凍麺類を入れることによって解凍・加熱処理する方法」ということができ、必ずしも接触時の温度のみを問題としているとも解されないから、本件発明における水蒸気の温度101〜125℃が噴射時の温度を指すという上記判断が本件公報記載の、本件発明と従来例との比較の意味を損なわせるものということはできない。
(2) 争点(1)ウ(被告製品の「水蒸気」の温度は何℃か) ア 証拠(甲3の1ないし3、甲4の1及び2、甲37、38、44、乙1、14、17、21)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
被告製品は、ボイラーで発生させた水蒸気が、パイプを通って調理室の上部にある蒸気室に入り、そこからさらに噴射ノズルを通って調理室に入る構成になっている。蒸気室は、一方でボイラータンクからパイプによって水蒸気が送られ、他方において調理室に当該水蒸気を噴射ノズルを通じて送る場所であり、準密閉状態の空間である。調理室は、冷凍麺類が載置されたトレイが出し入れされ、上部から入る水蒸気が装置の下方やトレイと装置の間へ抜けて行く構成であり、開放空間ということができる。
蒸気室と調理室とは板によって隔てられているが、当該板の厚みは場所によって若干異なり、概ね4oないし6oである。
噴射ノズルは、蒸気室と調理室を繋ぐ通路として板に22個形成されている。長さはその存在する場所における板の厚みの相違によって概ね4oないし6oであり、蒸気室から約3o程度までは内径1.2oの円筒形状であり、そこから調理室に向かって拡径している。拡径された開口部の内径は約3oである。
噴射ノズルの蒸気室での開口面における中心部をA点、そこから1o下の点をB点、さらに1o下で、噴射ノズルの円筒形状部分と拡径部分との境面における中心部をC点、C点からさらに1o下の点をD点(板の厚みが4.5o程度の場合はD点は設けない。)、調理室での開口面における中心部をE点、調理室での開口面において、E点から横に約1oの所にある点をF点とする(別紙図面参照)。
大気圧より高い蒸気室から、大気圧下にある調理室に水蒸気を移動させる場合、噴射ノズル内で水蒸気の圧力は大気圧に向かって下降する。
イ 原告による実験(甲37、41、46の1及び2)の結果等は次のとおりである。
(ア) 原告は、静岡県静岡工業技術センターに設備等使用承認を申請し、
同センター地域産業技術部の主任研究員の立会いの下に実験を実施した。
被告製品の調理室天井板に開けられた貫通孔の一つに、T型熱電対の温度センサー(直径1.0oと0.5oの2種)を、各測定位置A〜F点にそれぞれ設置し、その温度を測定した。被告製品の取扱説明書にしたがい、水蒸気の噴射時間を60秒として通常運転を行い、各測定位置における温度を測定した。データは、同センターの設備であるデータロガー及びパソコンを使用して記録した。
(イ) また、原告は、株式会社日清製粉グループ本社基礎研究所内で、イニシオフーズ株式会社(原告の子会社)従業員実験、九州大学名誉教授立会いの下に実験を実施した。
実験方法は概ね前記(ア)と同様であるが、直径0.5oのT型熱電対の温度センサー(山里産業株式会社製、型式TMB-TS05U)を指示計(ISOTHERMAL TECHNOLOGY LIMITED製、型式TTI-7)に接続した。
(ウ) (ア)及び(イ)の条件下で実験したところ、いずれも次のとおりの同様の結果となった。
A点:水蒸気噴射中、安定して101℃を超えており、概ね102℃以上の温度で安定していた。
B点:水蒸気噴射中、安定して101℃を超えており、概ね101℃台後半の値で安定していた。
C点:水蒸気噴射中、安定して101℃を超えており、B点同様概ね101℃台の後半の値で安定していた。
D点:水蒸気噴射中、若干の変動は見られるものの、101℃を超えた温度で推移していた。
E点:D点と同様、水蒸気噴射中、若干の変動は見られるものの、101℃を超えた温度で推移した。
F点:A〜Eの各点とは異なり、温度のばらつきが大きく、水蒸気噴射中、97℃以上、100℃未満の値を示した。
ウ 被告による実験(乙17、21及び24)の結果は次のとおりである。
(ア) 被告は、被告製品について、温度測定器として英国ISOTHERMAL TECHNOLOGY LIMITED社製の型式TTI-7を使用し、
温度センサーとして、山里産業株式会社製のTMB-KS05 U(径0.5o)/TMB-TS10 U(径1.0o)のステンレスシース入り銅-コンスタンタンタイプ熱電対を使用した。
(イ) 乙第17号証 a 被告は、径1.0oの温度センサを、調理室への開口面から約0.3o程度挿入した。温度が安定した開始後15秒後から78秒後(噴射終了時)までの温度は、最低で99.62℃、最高で99.73℃であった。
b 別途噴射口を調理室側から約4oの部分を内径5oの円筒状に拡開し、拡開した噴射ノズル内に調理室の開口面より長さにして約3o程度挿入して測定したところ、温度が安定した開始後15秒後から72秒までの温度の最低値は99.54℃、最高値は99.92℃であった。
c さらに、噴射口を調理室側から蒸気室側まで全て内径5oの円筒状に拡開して、調理室の開口面より長さにして約4.5o程度挿入して測定したところ、最低で100.47℃、最高で101.29℃であった。なお、蒸気室の温度が99.89℃〜100.02℃の状態では、最低が99.67℃、最高が99.87℃であった。
(ウ) 乙第21号証 被告が実験可能であった被告製品の板の厚みは4.8oであったので、この噴射ノズルの中に前記基準に則ってA、B、C、E、F点を設定し、温度が安定する開始15秒後から78秒後までの温度を計測した。
a 温度センサーの径が0.5oの場合 E点で99.51〜99.94℃ F点で99.53〜99.69℃ C点で99.60〜99.98℃ B点で99.60〜100.17℃ A点で100.01〜101.02℃ 蒸気室内は102.82〜103.22℃ b 温度センサーの径が1.0oの場合 E点で99.52〜99.63℃ F点で99.51〜99.64℃ C点で99.56〜99.62℃ B点で99.66〜99.78℃ A点で99.84〜99.88℃ 蒸気室内は102.75〜103.13℃ (エ) (ウ)で計測された程度の温度下の水蒸気で調理した冷凍スパゲティは、解凍・加熱処理されており、十分食するに値した(乙24)。
エ(ア) 証拠(甲3の1ないし3、乙7、8)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。
通常の蒸気発生装置(ボイラー)は、湿り度が2ないし6%の飽和水蒸気を発生させるものであり、過熱水蒸気を発生させる場合には過熱器を設けて過熱水蒸気とする方法があるものの、その場合にはボイラーの価格が15〜20%高くなる上、取扱いが複雑になる一方で、温度を高めた割合には保有熱量の増加が大きくならないため加熱源用としてはそれほど利用価値が大きくならないとされている。被告製品において、加熱器を設けた事実やこれを設ける必要性を認めることはできないので、通常どおり湿り度が2ないし6%の飽和水蒸気が発生しているというべきである。
被告製品の蒸気発生装置の圧力(ゲージ圧)は0.12MPaであり、蒸気発生装置内の絶対圧力はこのゲージ圧に実験当日の気圧を加えた値となる。なお、ゲージ圧は最大0.18MPaとなるが、販売されている被告製品は0.12MPaに設定されており、購入者が自由にこれを変更することはできない。
発生した飽和水蒸気は、ボイラーからパイプを通って蒸気室に入る。
(イ) 原告によって行われた前記イ(イ)の実験と同時に行われた、被告製品の蒸気室内の温度と圧力を測定した実験(甲47の1ないし3、48)では、4回計測したところ、温度/圧力の関係は、103.4℃/1.064kg/p2、103.6℃/1.058kg/p2、103.4℃/1.061kg/p2、104.0℃/1.056kg/p2であり、過熱水蒸気であったとされている。
この場合、その保有熱量は、大気圧下(1.03323kg/p2)において、温度100℃の飽和水蒸気の全熱量に、温度から100℃(沸騰温度)を引いた数値に0.5(比熱)を乗じた算定式で算出されるので、640.76〜641.08kcal/kgとなる。
飽和水蒸気の保有熱量は、顕熱(0℃から100℃になるまでに与えられた熱量。大気圧下で100.092kcal/kg)に、潜熱(539.06kcal/kg)に乾き度(%)を乗じた値を和したものである。上記熱量の範囲内における、湿り度2〜6%の飽和水蒸気を想定すると、最も低い温度で134℃、最も高い温度で200℃超となる。しかしながら、134℃の飽和水蒸気の圧力は3.1007kg/p2であり、200℃の飽和水蒸気の圧力は15.855kg/p2である。
オ 以上の認定事実によれば、次のようにいうことができる。
(ア) 本件発明においては、特定されている温度は噴射時の温度と考えるべきことは、前記(1)オにおいて認定説示したとおりである。
そして、噴射ノズル内において「噴射時」に該当する場所を検討するに、まず、「噴射」とは「筒口から流体を有る方向へ向けて噴出させること」(広辞苑第4版)をいうから、筒口に至るまでのA点やB点がこれに該当するということはできない。また、被告製品の噴射ノズルのうち、円筒形状部分では蒸気室内の圧力が保たれているということができるものの、拡径形状部分は約2oの間に直径1.2o(円筒形状部分)から直径約3o(調理室天井の開口部分)へと広がっていくことからすればもはや蒸気室内の圧力が保たれているということはできず、また空気の影響をも受けているといわざるをえないから、D点及びE点は「噴射時」というよりも、噴射ノズル外としての「噴射後」の点というべきである。そうすると、本件発明において水蒸気の温度の測定する場所を定める意義からいえば、被告製品において測定されるべき場所は、C点とするのが相当である。
(イ) C点の温度は、原告の実験結果と被告の実験結果とで異なっている。
甲第46号証の1と乙第21号証の両実験において使用されている温度センサー及び温度測定器は同じ会社の同じ品番の製品であり、その実験方法において、双方が自己に有利な結果が測定されるように恣意的手段を用いたことを裏付けるに足りる証拠はない。ただし、原告の実験(甲46の1)と同時に行われた原告による蒸気室内の温度と圧力に関する実験結果(甲47の1)を検討するに、蒸気室における過熱水蒸気の保有熱量の数値を、水蒸気の保有熱量、温度等の一般的な算定式に基づき算出すると、理論上、圧力が一定限度までとされている被告製品の蒸気発生装置では製造できない温度の水蒸気となる。したがって、原告の実験が適切になされたのか疑義があることは否定できない。
これに対し、被告の実験の過程及びその内容に疑義を差し挟むべき点は見出せず、原告の実験と対比してその信用性が低いと評価することはできないというべきである。
したがって、C点の温度は、被告の実験結果、すなわち99℃台であると解するのが適当である。
(ウ) 以上の結果、被告製品における水蒸気の温度は100℃未満であるから、被告製品を使用した冷凍麺類の解凍・加熱方法は、本件発明の技術的範囲に属さないこととなる。
カ 原告は、乙第21号証は信用性がないと主張し、その理由として、@当初被告は直径1oの温度センサーを、内径1.2oの噴射ノズルに挿入することはできないと主張していたが、その後可能であることを前提とした実験(乙21)を行い、被告製品を使用した方法が本件発明の技術的範囲に属さないような結果を出している、A噴射ノズルの内径が小さいほど、温度が高いのが技術常識であるところ、被告の実験によれば、内径が5oの方(乙17)が、内径が1.2oの場合(乙21)よりも温度が高く測定されている、B被告の主張するC点の温度を観測するためには、試験運転をしないまま計測する、ボイラーから蒸気室を結ぶ配管を耐圧式ホースとして氷水の中に入れて冷却するなど、被告製品の通常予定されている使用方法とは異なる使用方法を行って初めて可能であった(甲49)、CC点を被告主張のとおりとすると、冷凍麺類は解凍されなかった、DA〜F点における温度変化が不自然である、などと主張する。
しかしながら、@については、内径1.2oの孔に直径1oの温度センサーを挿入して計測する場合には、孔の閉塞状況や壁部との接触等の影響を考慮して実験できないとの判断をすることが誤っているということはできず、したがって、当初は実験できない旨主張していたことをもって、直ちにその後に行った実験の結果の信用性が失われるものではない。
また、Bのうち、試験運転をしないまま計測して初めて被告の測定温度となったとの点については、その実験結果である図6(甲49)をみると、C点の温度は60秒間作動中常に98ないし99℃で一定している。蒸気室自体がこの間暖められることによって蒸気室に奪われる熱量が徐々に減り、したがって水蒸気の温度低下も徐々に減少することによって、C点の温度も徐々に上昇すると思われるところ、そのような変化を示していない。このことは、原告の試験運転をした後のC点の温度の変化が、当初96℃程度であったものが数秒後には100℃を超え、
そのまま102℃を維持したとの実験結果(甲46の1の図3参照)と比較するならば、奇異な印象を与えるものである。
また、Dについては、湿り水蒸気であれば圧力が下がれば含まれる飽和液の一部が再蒸発することにより温度が急激に下がるから(乙7)、蒸気室から円筒形状を通過するにあたり急激に温度減少することが不自然ということはできないし、噴射された後に空気を巻き込むとしても調理室内が蒸気で満たされ温度の変動が少なくなり巻き込む流れも一定になればそれほどの温度変動がないとしても不自然ではない。したがって、原告の指摘する点をもって、被告の実験結果(乙21)の信用性が否定されるものではない。
確かに、Aについては、噴射ノズル部分の内径が小さいほど高圧状態が維持され、その結果圧力と温度が連動する飽和水蒸気の場合はもちろん、過熱水蒸気の場合においても、温度が低下しにくいのではないかとの推測が働かないではない。しかし、装置の孔に温度センサー等を挿入して計測する場合、孔の内径が小さいほど装置自体の温度や孔を通る水蒸気が当該装置に供給する保有熱量等の影響の存在を無視することはできないから、上記理論上の推測から直ちに被告の実験結果が不当であるとまではいえない。また、Bの配管の冷却の場合に初めて被告の実験結果どおりとなるとの指摘や、Cの被告の実験結果では冷凍麺類が解凍できないとの指摘も、これと完全に反する結果が出ている以上(乙21、24)、原告の実験結果の方が信用できるとの判断を導くものではない。
2 そうすると、被告製品を使用する冷凍麺類の解凍方法は、本件発明の技術的範囲に属さない。
したがって、その余の点を検討するまでもなく、原告の請求に理由はないので、主文のとおり判決する。
追加
別紙物件目録商品名「NewSi-ProntoNF-52」(ニューシープロント・エヌ・エフ52)で、下記図面及び説明のとおりの構造機構を有する冷凍麺解凍機1図面の説明(1)図1は、冷凍麺解凍機(以下「装置」という。)の外観及び各部の名称を示す概要図である。
(2)図2(装置概略図正面)は、正面から見た装置内部の概略及び各部の名称を示す。
(3)図3(装置概略図側面)は、右側面図(図の左が正面)から見た装置内部の概略及び各部の名称を示す概略図である。
(4)図4(装置概略図背面)は、背面から見た装置内部の概略及び各部の名称を示す概略図である。
(5)図5(調理室内)は、トレイを取り出し、調理室の天井部分を正面やや下側から見たところを示す斜視図である。
(6)図6(配管関係詳細図)は、ボイラーへの給水、ボイラーから調理室までの水蒸気導入、排水のための配管関係を示す説明図である。
2装置の構成(1)装置の概要は、図1のとおりである、装置中段付近には、左右に並列した2つの調理室が配置され、装置前面に開口部が設けられている(図2、3)。2つの調理室は、内部で仕切られており、それぞれ独立である。各調理室には、解凍すべき冷凍麺を保持する引出型トレイが収容される(図1E)。調理の際には、トレイのレバーを持ってトレイを引き出し、冷凍麺を調理室から出し入れする。
(2)装置前面下部には操作部及び表示部があり、電源スイッチのほか、各調理室ごとにスタート/ストップスイッチ、タイマー設定スイッチ及びタイマー表示部が設けられている(図2)。なお、装置の方で自動的に一定の温度の水蒸気を発生させるため、水蒸気の温度を設定ないし調節するスイッチはなく、操作者が水蒸気の温度を設定ないし調節することはできない。
(3)調理室は中空の略直方体の形状で、その上面天井には直径1.2mmの水蒸気噴射口が22個開いており(図5)、この水蒸気噴射口から調理室内に水蒸気が噴射される。調理室は密閉状態になく(開放状態)、例えば、底面には噴射された水蒸気を外部へ排気するための排気口が設けられ、排気冷却ノズルを通じて外部と通じている。
(4)装置内部の調理室の後方付近には、水蒸気を発生させるボイラーが設けられている(図3、4)。ボイラーのすぐ前方には水タンクが配置されていて、給水ポンプによりボイラーに水が供給される。ボイラーで発生させられた水蒸気は、パイプを通り水蒸気噴射口を通じて調理室内に噴射される(図3、6)。
(5)水の沸点は、大気圧(1気圧)の下では摂氏100℃であり、100℃超の温度にするためには、気圧を1気圧よりも高く保つ必要がある。そこで、ボイラータンクから調理室内に水蒸気を導入するパイプの途中に蒸気用電磁弁(図1N、図5N)が設けられており、1気圧超の加圧高温状態に安定的に保たれたボイラータンクから、電磁弁の開閉により、噴出口までこの水蒸気を供給できるようになっている。
3動作(1)水タンク(図3)に水の入った状態で前面操作部(図2)の電源スイッチをONにすると、自動的にボイラーに水が供給されてボイラーで水蒸気が発生させられる。水蒸気の温度は装置の方で自動的に一定温度(予め決まっており変更できない)にまで上昇させられ、操作者において所望の温度に調整することはできない。
水蒸気の温度が一定温度に達すると、前面操作部の調理可表示灯が点灯し、調理が可能になったことを報知する。
(2)操作者は、解凍する冷凍麺をトレイに入れて調理室に収納し、前面操作部のタイマー設定スイッチ(図2)により所望の調理時間を設定し、スタート/ストップスイッチをONにすると、既に一定温度にまで上昇させられた水蒸気が調理室内に噴射され、調理が開始される。予め設定した調理時間が経過すると、自動的に水蒸気の噴射が停止し、調理が終了する。2度目以降は既にボイラー内に水蒸気温度が発生しているので、上記(1)の操作は省略できる。
図1図2図3図4図5図6別紙図面
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官 中平健
裁判官 大濱寿美