審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成16ワ10266特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成13ワ15719特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成11ワ11856損害賠償請求事件 | 判例 | 特許 |
平成13ワ1105特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 発明者 / 新規性 / 29条1項3号 / 進歩性(29条2項) / 同一技術分野(同一の技術分野) / 容易に発明 / 周知技術 / 技術的範囲 / 出願公開 / 技術常識 / 先行技術 / 発明の詳細な説明 / 優先権 / 権利の濫用(権利濫用) / 特許出願日 / 出願経過 / 参酌 / 技術的意義 / 禁反言 / 特許発明 / 実施 / 構成要件 / 業として / 侵害 / 販売数量(販売数) / 実施料 / 設定登録 / 発明の範囲 / 拒絶理由通知 / 新規事項追加(新規事項の追加) / 請求の範囲 / 減縮 / 拡張 / 変更 / |
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事件 |
平成
16年
(ワ)
6531号
損害賠償請求事件
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原告A 同訴訟代理人弁護士 平尾正樹 同補佐人弁理士 柏原三枝子 被告 ソニー株式会社 同訴訟代理人弁護士 熊倉禎男 同 吉田和彦 同 高石秀樹 同 佐竹勝一 同補佐人弁理士 中村彰吾 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2005/03/25 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の請求
被告は,原告に対し,2億円及びこれに対する平成16年4月1日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
原告は省電力電気機器又はその電源装置に関する発明に係る特許権を有するものであるが,被告の製造販売に係るテレビの電源装置が原告の特許発明の技術的範囲に属し,その製造販売が原告の特許権を侵害するものであると主張して,被告に対して,特許法65条1項,同法102条3項に基づき2億円の補償金及び損害賠償金を求めている。 1 判断の前提となる事実(当事者間に争いがないか,該当箇所掲記の各証拠によって認められる。) (1) 当事者 原告は,音響機器,電子機器の販売等を業とする有限会社フィデリックスの代表取締役を務める者である。 被告は,電化製品等の製造販売等を業とする株式会社である。 (2) 原告の特許権(甲1,2) 原告は,下記の特許権(以下「本件特許権」という。)の特許権者である。 ア 発明の名称 省電力電気機器またはその電源装置 イ 特許番号 第3196157号 ウ 出願日 平成10年1月12日 エ 出願番号 特願平10-016342号 オ 出願公開日 平成11年4月13日 カ 公開番号 特開平11-103541号 キ 登録日 平成13年6月8日 (3) 本件特許権に係る明細書(以下「本件明細書」という。本判決末尾添付の特許公報(甲2参照。以下「本件公報」という。)の特許請求の範囲の請求項1ないし3の記載は,次のとおりである(以下,請求項1記載の特許発明を「本件特許発明1」と,請求項2記載の特許発明を「本件特許発明2」と,請求項3記載の特許発明を「本件特許発明3」といい,本件特許発明1ないし3を総称して,以下「本件各特許発明」という。)。 「【請求項1】 商用電源と,当該商用電源を整流する第1の整流回路と,前記商用電源に接続されたトランスと,前記第1の整流回路の出力を受けて間欠的に動作するパルス発生器と,当該パルス発生器の出力に応じて前記トランスへの電流供給をスイッチングする双方向性の開閉素子と,前記トランスの二次側出力を整流する第2の整流回路とを具え,前記商用電源と第1の整流回路との間に直列にコンデンサを設けると共に,前記第2の整流回路の下流側に電荷蓄積素子を設け,前記開閉素子がオフの間,前記電荷蓄積素子に蓄積した電荷を出力することを特徴とする電源装置。」 「【請求項2】 請求項1に記載の電源装置において,前記開閉素子が1の回路で構成されていることを特徴とする電源装置。」 「【請求項3】 請求項1または2に記載の電源装置が更に,前記電源装置の負荷電流を検出する負荷電流検出回路を具え,前記制御回路が前記負荷電流検出回路で検出した負荷電流に応じて前記開閉素子を間欠的に開閉させるように制御することを特徴とする電源装置。」 (4) 本件特許発明1を構成要件に分説すれば,次のとおりである(以下,それぞれを「構成要件1-A」のようにいう。) 1-A 商用電源と, 1-B 当該商用電源を整流する第1の整流回路と, 1-C 前記商用電源に接続されたトランスと, 1-D 前記第1の整流回路の出力を受けて間欠的に動作するパルス発生器と, 1-E 当該パルス発生器の出力に応じて前記トランスへの電流供給をスイッチングする双方向性の開閉素子と, 1-F 前記トランスの二次側出力を整流する第2の整流回路とを具え, 1-G 前記商用電源と第1の整流回路との間に直列にコンデンサを設けると共に, 1-H 前記第2の整流回路の下流側に電荷蓄積素子を設け, 1-I 前記開閉素子がオフの間,前記電荷蓄積素子に蓄積した電荷を出力する 1-J ことを特徴とする電源装置。 本件特許発明2を構成要件に分説すれば,次のとおりである(以下,それぞれを「構成要件2-A」のようにいう。)。 2-A 請求項1に記載の電源装置において, 2-B 前記開閉素子が1の回路で構成されている 2-C ことを特徴とする電源装置。 本件特許発明3を構成要件に分説すれば,次のとおりである(以下,それぞれを「構成要件3-A」のようにいう。) 3-A 請求項1または2に記載の電源装置が更に, 3-B 前記電源装置の負荷電流を検出する負荷電流検出回路を具え, 3-C 前記制御回路が前記負荷電流検出回路で検出した負荷電流に応じて前記開閉素子を間欠的に開閉させるように制御する 3-D ことを特徴とする電源装置。 (5) 本件特許権の出願経過は,次のとおりである(甲1,4,乙1ないし20,弁論の全趣旨) ア 原告は,平成10年1月12日,本件各特許発明に係る特許出願(以下「本件特許出願」という。)を行った(乙1。なお,出願当初の明細書を,以下「本件当初明細書」という。)。 イ 本件特許出願は,平成11年4月13日,出願公開された。その公開特許公報の明細書(以下「本件出願公開明細書」という。甲4)の特許請求の範囲の請求項1,4及び5の記載は,次のとおりである(以下,それぞれを「本件出願公開請求項1」のようにいう。)。 「【請求項1】 商用電源を利用する電気機器において,一次側で一定時間ごと,または電流の使用状況に応じた時間間隔で間欠開閉をさせる制御回路か,電源の制御信号または電流の使用量で連続通電に移行する制御回路を有することを特徴とする省電力電気機器またはその電源装置。」 「【請求項4】 商用電源を利用する電気機器において,商用電源と接続された一次側に間欠制御をする回路を配置し,この制御回路駆動用の電源も一次側に配置したことを特徴とする省電力電気機器またはその電源装置。」 「【請求項5】 商用電源を利用する電気機器において,商用電源と接続された一次側に間欠通電する素子を配置し,この素子の制御用の電源としてまたはこれらの起動用として,一次側からコンデンサのリアクタンス分を流れる電流を用いたことを特徴とする省電力電気機器またはその電源装置。」 ウ 原告は,同年9月29日,特許請求の範囲の変更を求めて,手続補正書を提出した(乙2)。 エ 本件特許出願について,平成12年4月7日,拒絶理由通知がされた(乙3)。 オ 原告は,同年6月19日,特許請求の範囲の変更を求めて,手続補正書を提出した(乙4)。 カ 原告は,同年6月30日,前記エの拒絶理由通知に対する意見書を提出した(乙5)。そして,同年12月15日,担当審査官と面接した(乙6)。 キ 本件特許出願について,同年12月19日,拒絶理由通知がされた(乙7)。この拒絶理由通知において,審査官が引用した引用文献は次のとおりである。 特開昭62-135270号公報(乙11。以下「引用例@」という。) 特開平4-12666号公報(乙12。以下「引用例A」という。) 特開平5-64439号公報(乙13。以下「引用例B」という。) 特開平5-207741号公報(乙14。以下「引用例C」という。) 特開平7-288926号公報(乙15。以下「引用例D」という。) 実願平2-48835号(実開平4-10588号)のマイクロフィルム(乙16。以下「引用例E」という。) 特開平7-95769号公報(乙17。以下「引用例F」という。) 特開平9-98571号公報(乙18。以下「引用例G」という。) 特開平8-228484号公報(乙19。以下「引用例H」という。) 特開平6-335234号公報(乙20。以下「引用例I」という。) ク 原告は,平成13年2月19日,担当審査官と面接した(乙8)。そして,同年3月13日,特許請求の範囲の変更を求めて,手続補正書を提出するとともに,前記キの拒絶理由通知に対する意見書を提出した(乙9,10)。 ケ 本件特許出願について,平成13年4月19日,登録査定がされた(甲1)。 (6) 被告の製造するテレビ(甲3の1ないし7) ア 被告は,業として,平成12年7月20日ころから,「WEGA(ベガ)DRC高画質プレステWワイドテレビ“DZシリーズ” KV-36DZ900」(以下「イ号物件」という。),「WEGA(ベガ)DRC高画質プレステWワイドテレビ“DZシリーズ” KV-32DZ900」(以下「ロ号物件」という。)を,平成13年5月1日ころから,「WEGA(ベガ)スーパーファインピッチFDトリニトロン搭載ワイドテレビ“DZシリーズ” KV-36DZ950」(以下「ハ号物件」という。)及び「WEGA(ベガ)スーパーファインピッチFDトリニトロン搭載ワイドテレビ“DZシリーズ” KV-32DZ950」(以下「ニ号物件」という。)を製造していた。 イ イ号物件ないしニ号物件(以下,総称して「被告各製品」という。)に搭載された電源装置の構成は,別紙被告製品目録記載のとおりである。 2 本件の争点 (1) 構成要件1-A「商用電源」の意義について(争点1) (2) 構成要件1-D「前記第1の整流回路の出力を受けて間欠的に動作するパルス発生器と」の意義について(争点2) (3) 構成要件3-B「前記電源装置の負荷電流を検出する負荷電流検出回路を具え」の意義について(争点3) (4) 被告各製品が本件各特許発明の技術的範囲に属するものか(争点4) (5) 本件特許権の請求項1ないし3(本件各特許発明)に無効理由があることが明らかであるか(争点5) (6) 特許法65条1項に基づく補償金請求の可否(争点6) (7) 補償金の額(争点7) (8) 損害の内容及びその額(争点8) 3 争点に関する当事者の主張 (1) 構成要件1-A「商用電源」の意義について(争点1) (原告の主張) 一般に,商用電源とは,発電所,送電線,電力メータなどを持ち,認可を受けて料金を徴収する電源を意味する。一方,構成要件1-Aの「商用電源」とは,「商用電源取り入れ口」の意味である(本件公報16欄5行目【符合の説明】の項の101商用電源入力部)。商用電源入力部に商用電源が接続され,一体となって動作をするものであり,このような用語法は他の明細書でも見られる(特開2004-122200号(甲38),特開第2003-257612号(甲39),特開2002-247897号(甲40)参照)。 (被告の主張) 「商用電源」が,「商用電源取り入れ口」を意味すると主張して,原告が掲げる各公報には,「商用電源」という表現は存在するものの,これらが「商用電源取り入れ口」を意味する旨の記載は存在しないから,原告の主張には理由がない。 (2) 構成要件1-D「前記第1の整流回路の出力を受けて間欠的に動作するパルス発生器と」の意義について(争点2) (原告の主張) 構成要件1-Dの「パルス発生器」に関する限定事項は,「第1の整流回路の出力を受けて間欠的に動作する」ことのみであり,自らパルスを発生するものに限られないし,一次側に存在する必要もない。 (被告の主張) 構成要件1-Dの「パルス発生器」とは,@第1の整流回路からの出力を直接的に受けて動作する,A電源の一次側に設けられた,B動作電圧が供給された時には自らパルスを発生するものである。 ア 「@第1の整流回路からの出力を直接的に受けて動作する」について (ア) 無効理由(引用例@ないしI)との関係 本件特許発明1が,引用例@ないしIの存在にも関わらず特許性が認められたのは,一次側の整流回路からの出力を直接的に受けて自らパルスを発生する「パルス発生器」が,間欠的にパルス信号を発する時間に限って「トランス」を導通する構成を採用することにより,引用例@ないしIが開示するように,二次側回路における電流値(又は電圧値)を観測することを要せず,一次側から二次側への間欠的な電力供給を可能として,待機時消費電力の低減を達成したからである。 そうであれば,一般に「パルス発生器」が,パルスを発生する部分(素子群)以外の素子を包含するか否かの議論に関わらず,少なくとも,構成要件1-D「第1の整流回路の出力を受けて……動作するパルス発生器」とは,パルスを発生するために必要十分な素子群が一次側に存在し,これが第1の整流回路の出力を受けてパルスを発生する構成であることが必要というべきである。このように解釈しない限り,本件特許発明1は,引用例@ないしIとの関係において,無効理由を有する。そして,原告は,平成13年2月19日の面談時における審査官からの指摘に従って,かかる無効理由を回避するために,平成13年3月13日付け手続補正を行ったものである。 (イ) 本件当初明細書における記述との関係 本件当初明細書における特許請求の範囲において,「制御回路を一次側に配置した」旨の限定が存在したことについては争いがない。 そうであれば,仮に,「制御回路(パルス発生器)」から発生した電流が通るだけの「抵抗」等の素子も「制御回路」の一部を構成すると仮定し,かつ,該「制御回路」から発生した電流が通るだけの「抵抗」等の素子が一次側に配置され(第1の整流回路の出力を受け)ていれば構成要件を充足すると仮定すると,該「制御回路」から発生した電流が通るだけの「抵抗」等の素子は,一次側と二次側の両方に存在する以上,「制御回路を一次側に配置した」という状態が,観念できないという矛盾が生じてしまう。 したがって,本件特許発明1における「第1の整流回路の出力を受けて……動作するパルス発生器」とは,パルスを発生するために必要十分な素子群が一次側に存在し,これが第1の整流回路の出力を受けてパルスを発生する構成であることが必要というべきである。 (ウ) 「パルス発生器」 「パルス発生器」の意義が「パルスを発生するもの」であるとしても,ある周期及び幅を持つものとして,いったん発生したパルスを伝達する要素をも含めて,「パルス発生器」と呼ぶべきではない。なぜなら,単なる伝達素子や電流が流れるにすぎない素子までが「パルス発生器」に含まれるとすれば,「パルス発生器」の範囲が非常に不明確になり,また,発生したパルス信号は,最終的には回路の全体に伝達されていく以上,回路全体が「パルス発生器」に相当するという不合理な結論が導かれかねないからである。 イ 「A電源の一次側に設けられた」について (ア) 補正後の「特許請求の範囲」における文言との関係 本件当初明細書における「(制御回路を)一次側に配置した」という構成要件は,補正後においては,「第1の整流回路の出力を受けて(間欠的に動作するパルス発生器)」として,表現方法が変更されたにすぎない。「制御回路(パルス発生器)」が一次側に存在する必要があることは,何ら変わっていない。 (イ) 本件明細書の段落【0009】の記載との関係 本件明細書中の段落【0009】には,「この発明では間欠通電のための制御回路を電源の一次側に設置している。二次側に設置すると,スタートアップができないとか,停電後の自動復帰が出来ない障害が発生する。」と記載されている。 かかる記載から理解されるように,本件特許発明1は,動作電圧が供給された時には自らパルスを発生する「パルス発生器」を電源の一次側に設けたことにより,電源投入時のスタートアップを可能にするとともに,停電後の自動復帰を可能としたものである。 なぜなら,自らパルスを発生する「パルス発生器」が一次側に存在せず,一次側から二次側への電流供給を開始するために,二次側から一次側に伝達される信号を必要とする回路構成を採用すると,スタートアップ時及び停電復帰時においては,二次側に電荷が全く蓄積されていないため,二次側の回路は信号を発生することができず,何らかの工夫を施さない限り,自動的にスタートアップ及び停電復帰をなし得ないからである。 (ウ) 無効理由(引用例@ないしI)との関係 「リアクタンスドロッパ」とは,所定の耐圧幅を有する各素子に対して,商用電源の電圧(100V)が高すぎるため,入力ラインに電圧降下用のインピーダンス素子を挿入する必要があるところ,損失を低減するために,「抵抗」「コイル」「コンデンサ」の選択肢中から,交流回路において理論上の消費電力がゼロであるコンデンサを選択し,これを挿入した構成を意味しているにすぎない。 このような構成は,本件各特許発明出願日の10年以上前から知られている周知技術である(乙26ないし34)。したがって,「リアクタンスドロッパの構成によって,パルス発生器に第1の整流回路から電力を供給することが可能に」なったことは,周知技術から得られる作用効果にすぎない。 上記によれば,「リアクタンスドロッパ」を採用した一事をもって,特許性(進歩性)を肯定することは不可能である。逆にいえば,本件特許発明1と引用例@ないしIとの間の差異が,「リアクタンスドロッパ」を採用したことに尽きるのであれば,本件特許権が無効理由を有することは明らかである。 (エ) 「第1の整流回路の出力」(電流)が循環する回路との関係 補正を経て登録査定された本件特許発明1の「パルス発生器」は,「第1の整流回路の出力を受けて間欠的に動作するパルス発生器」である。 そして,「整流回路の出力」がトランスに流れ込むことはなく,「第1の整流回路」が一次側回路内に存在する以上,「第1の整流回路の出力を受けて……動作するパルス発生器」が一次側回路内に存在することは当然である。整流回路301の出力である直流電流は,一次側の閉ループを循環するにすぎず,二次側に流れ込むことはない。 (オ) 原告の認識していた技術思想 本件明細書の段落【0009】の記載及び本件各特許発明の優先権主張日(平成9年4月30日)後で出願日前である平成9年9月ころに出願人である原告自身が執筆した論文(乙39)の記載から導かれる出願人(原告)の認識によれば,本件各特許発明の技術思想は以下のようなものである。 a エンジニアには,制御回路を回路の二次側に置きたがる習性があり,原告も,最初は,間欠動作を制御する「コントローラ」に相当する「パルス発生器」を,回路の二次側に配置していた。 b しかし,「パルス発生器」を二次側に設置した場合には,「スタートアップができないとか,停電後の自動復帰が出来ない障害が発生する。」 c 原告は,間欠動作を制御する「コントローラ」に相当する「パルス発生器」を一次側に配置することで,「スタートアップができないとか,停電後の自動復帰が出来ない障害」を解決できることを見出した。 以上のとおり,原告は,「パルス発生器」を二次側に配置すると「スタートアップができないとか,停電後の自動復帰が出来ない障害が発生する。」という問題点を認識しており,「パルス発生器」を一次側に配置する構成を採用することにより,このような問題点を解決したものである。 したがって,「パルス発生器」を一次側に配置することは,本件各特許発明の技術思想の根幹をなすものであるから,本件特許発明1における「パルス発生器」が回路の一次側に設けられた構成要素に限られることは当然である。 ウ 「B動作電圧が供給された時には自らパルスを発生する」について (ア) 本件明細書において,「パルス発生器」は,図3(実施例3)に係る段落【0034】において,「制御回路用の電源は,……コンデンサ203に蓄えられる。……この電圧がシュミットトリガーインバータ205を用いたパルス発生器を動作させ,……」と説明されており(本件明細書5頁10欄21ないし25行目),自らパルスを発生し,間欠的に動作することが予定されている。なお,実施例3に関連した別の実施例である図6(実施例6)においても,「パルス発生器」は,自らパルスを発生し,間欠的に動作することが予定されている(本件明細書6頁11欄【0039】)。 本件各特許発明に関しては,原告自身が,出願過程において,「請求項1〜5に記載の内容は,図3及び図6に開示されておりますので,新規事項の追加に該当しないものと確信致します。」と主張していること(乙10),及び,本件明細書中の【発明の詳細な説明】及び図面を精査しても,自らパルスを発生しない素子を「パルス発生器」とする記載が全く存在しないことに鑑みれば,本件特許発明1における「パルス発生器」とは,「自らパルスを発生し,間欠的に動作する」素子を意味すると解釈せざるを得ない。また,本件明細書の図6の「バイナリカウンタ(601)」は,「ゲート回路(602)」と共に,一次側交流入力波形64周期毎に2周期分の時間だけONとなり,他の時間はOFFとなる矩形信号を生成するものであるから,「自らパルスを発生」している。これに対して,商用電源の波形は,同回路が「パルスを発生する」タイミングを決定するものではなく,パルス発生の周期を測定するためにカウントの対象となる一定周波数(50/60Hz)の信号にすぎない。 (イ) 仮に,「間欠的に動作するパルス発生器」が,二次側からフィードバックされる信号を単に増幅するだけの素子を含むとすると,二次側回路における電圧値又は電流値に対応する信号が一次側の「制御回路」にフィードバックされるという,引用例@ないしDに開示されている回路構成を包含する結果,本件特許権に無効理由(特許法29条2項)が内在することとなってしまう。そこで,原告は,平成13年2月19日の面談時における審査官からの指摘に従って,無効理由を回避するために,平成13年3月13日付け手続補正を行ったものであり,かかる補正の経緯に鑑みれば,「間欠的に動作するパルス発生器」とは,自らパルスを発生する「パルス発生器」に限定されるものであり,少なくとも,二次側からフィードバックされる信号を単に増幅するだけの素子は含まないことは明らかである。 (ウ) 仮に,被告各製品における「増幅器」「負荷抵抗」が,本件特許発明1における「パルス発生器」に当たるとすれば,図3(実施例3)に示されている「シュミットトリガーインバータ205を用いたパルス発生器」において,シュミットトリガーインバータ205の出力が供給される増幅用のトランジスタ,及び,このトランジスタに接続されている抵抗が「パルス発生器」であるということになり,明らかに不合理である。 このことからも,「増幅器」「負荷抵抗」が,本件特許発明1における「パルス発生器」に当たるという解釈が成り立ち得ないことは明らかである。 (原告の反論) ア パルス発生器の位置について 本件各特許発明においては,リアクタンスドロッパの構成を含める補正を行うとともに,本件当初明細書に記載されていた「制御回路を一次側に配置した」との要件を削除している。したがって,本件各特許発明においては,パルス発生器の位置は何ら問題にならない。本件明細書段落【0009】には制御回路を一次側に設置したことの効果が記載されているが,これは,本件出願当初明細書の請求項1がそのように記載されていたための効果である。本件各特許発明は,スタートアップにおける問題に関するものではなく,リアクタンスドロッパによる一次側の起動と駆動電流の節減がその目的である(本件明細書の段落【0009】参照)。 イ パルス発生器が自らパルスを発生するものに限られないことについて (ア) 本件明細書の図3の「シュミットトリガーインバータ」は単に一実施例にすぎず,本件各特許発明の技術的範囲を限定するものではない。また,「パルス発生器」が自らパルスを発生するものであるとの被告の解釈は,本件明細書の図6からも成り立たない。すなわち,図6(実施例6)を説明している本件明細書の段落【0039】に,「電源オン-オフのタイミングを電源周波数に同期させて管理する」と記載されており,図6に示す実施例6では,商用電源の波形に応じてパルスを発生している。図6の構成において,自らパルスを発生するものは発電所の発電器であって,しかもこれは連続動作であって間欠動作はしていない。この実施例は,本件特許発明1のパルス発生器が自らパルスを発生するものに限られないことを明確に示すものである。 出願過程での「請求項1〜5に記載の内容は,図3及び図6に開示されておりますので,新規事項の追加に該当しないものと確信致します。」との主張は,新たに提出した請求項1ないし5が,明細書にサポートされていることを示すに過ぎないのであって,請求項1ないし5の内容を図3及び図6のみに限定するという意味ではない。また,図6(実施例6)は自らパルスを発生しない素子で構成されている。 (イ) 「パルス発生器」とはパルスを発する機器を指すのが通常の用語法であり,パルスを自ら作り出す装置は,通常,「パルス発振器」と呼ばれている。 原告の出願も,被告が本件特許出願後に出願した明細書にも,そのように明確に区別して記載されている(本件明細書の段落【0031】【0041】【0048】【0034】,被告出願に係る明細書(甲6)の段落【0208】【0209】【0211】【0212】【図22】)。本件明細書の請求項2ないし5は,従属項であるところ,請求項3には「負荷電流に応じて開閉素子を開閉させるように制御する」,請求項4には「開閉素子が商用電源の位相と同期して動作する」,請求項5には「開閉素子がゼロクロス点にて動作する」旨がそれぞれ記載されており,これらの記載によって開閉素子の動作,すなわち,パルス発生器の動作を規定している。すなわち,請求項1にいう「パルス発生器」はパルスを単に発生し,開閉素子を駆動する役割を意味するにすぎず,どのようにパルスを発生するかについては従属項の内容で規定するものであることが明らかである。この請求項の構成からみても,被告の主張するような「パルス発生器は自らパルスを発生するものである」との限定的な解釈は理由がない。 (ウ) 他の発明に係る特許公報を検索すると,自らパルスを発生していないものについて「パルス発生器」と表現している例が数多く見受けられる(甲41ないし44)。被告各製品における「フォトカプラのトランジスタ側と負荷抵抗による増幅器」は,しきい値と増幅度を内在するものであり,特開平5-103220号公報(甲41)や特開平5-48416号公報(甲42)に記載された装置と同様に,パルス化された電圧を出力している。これは,「パルス状の電流が通るだけの抵抗」とは全く意味が異なり,紛れもなく「パルス発生器」を構成している。 このように,「パルス発生器」とは,自らパルスを発するものはもちろんのこと,外部で発生したパルスを利用してパルスを出力するものも含む用語である。 ウ 平成13年3月13日付け手続補正について 審査官が引用した引用例を回避するために原告が最後の補正で限定を加えたのは,リアクタンスドロッパの構成のみである。 リアクタンスドロッパを電源装置に取り入れ,商用トランスを間欠的に励磁することで待機電力を削減するようにした先行技術は存しない。 (被告の再反論) 原告は,補正により,本件当初明細書に記載されていた「制御回路を一次側に配置した」との要件が外されたとして,「パルス発生器の位置は何ら問題にならない」と主張するが,理由がない。 ア 原告の主張は,構成要件の文言を無視するものである。すなわち,特許請求の範囲の記載によれば,一次側と二次側を分けるのは「トランス」であり(構成要件1-F),その「トランス」への電力供給をスイッチングするのは「パルス発生器」の出力に応じてなされるのであるから(構成要件1-E),そのような「第1の整流回路の出力を受けて間欠的に動作するパルス発生器」が二次側にあるということはありえない。仮に,パルス発生器が二次側に存在し第1の整流回路の出力を受けて間欠的に動作するというのであれば,第1の整流回路の出力を二次側の「パルス発生器」が受けるために,常に双方向開閉素子を閉じてトランスの一次側から二次側への電力供給を維持する必要があるが,「パルス発生器」は,トランスの電力供給の実行・停止を規定するものであるから,トランスが常に電力供給実行状態であるということは,「パルス発生器」の存在意義を失わせるものである。 イ パルス発生器の位置は何ら問題にならないとの原告の主張は,本件明細書の段落【0009】の記載を無視するものである。 ウ 原告の主張によれば,「パルス発生器」が「前記第1の整流回路の出力を受けて間欠的に動作」しなければならないのか不明である。 エ そもそも,本件当初明細書には「パルス発生器」を回路の一次側に配置する構成のみが開示されていたことは明らかであり,二次側に配置する構成は開示されていなかったものであるから,補正により,本件特許発明1の技術的範囲が「パルス発生器」を回路の二次側に配置する構成も含むように拡張されたとすれば,新規事項の追加として,不適法のそしりを免れない(特許法17条の2第3項参照)。 (3) 構成要件3-B「前記電源装置の負荷電流を検出する負荷電流検出回路を具え」の意義について(争点3) (被告の主張) ア 被告各製品は,二次側に「負荷電圧検出回路」を備えているが,「負荷電流検出回路」は備えていない。 本件特許発明3は,出願経過において「負荷電圧検出回路」「負荷電流検出回路」のうち前者が削除されたものであるから,「負荷電流検出回路」が「負荷電圧検出回路」を含むという主張は,包帯禁反言の法理により許されない。 イ 仮に前記アの主張が認められないとしても,本件特許発明3における「負荷電流検出回路」は,本件特許発明1の「パルス発生器」とは別個の構成要素を意味している。 したがって,仮に本件特許発明3の「負荷電流検出回路」が「負荷電圧検出回路」を含み,かつ,被告各製品中の二次側のコンパレータが「パルス発生器」に相当するとしても,被告各製品は,二次側のコンパレータの他に「負荷電流検出回路」を具備しないから,いずれにしても,本件特許発明3の技術的範囲には属しない。 (原告の主張) 原告が出願過程において「負荷電圧」を削除したのは,二次側の負荷電流に応じて,トランスへの電流の供給を制御するのであるから,負荷電流の検出がその目的となり,たとえ負荷電圧を測定したとしてもそれは負荷電流を検出するための手段にすぎず,結果的には同じことであるからである。 (4) 被告各製品が本件各特許発明の技術的範囲に属するものか(争点4) (原告の主張) ア 構成要件1-A 構成要件1-Aの「商用電源」とは,「商用電源取り入れ口」の意味であることから,被告各製品がこれを具備していることは明らかである。 イ 構成要件1-D 被告各製品は,いわゆるコンパレータを構成する制御回路を搭載しているが,一次側に設けた「増幅器」と「負荷抵抗」はこの出力を受けてパルスを発生し,このパルス信号に基づいて開閉素子がオン/オフして,トランスへの電流供給を制御している。すなわち,被告各製品は,二次側でコンパレータを構成する制御回路と一次側に設けた「増幅器」と「負荷抵抗」(あるいは,フォトカプラの一次側の素子(トランジスタ)と負荷抵抗による増幅器)とで構成するパルス発生器を具備しており,このパルス発生器を構成する「増幅器」と「負荷抵抗」(あるいは,フォトカプラの一次側の素子(トランジスタ)と負荷抵抗による増幅器)は,第1の整流回路の出力を受けて動作しており,しかもその動作は,負荷電流に応じた二次側のコンパレータの出力に応じて間欠的に動作している。 したがって,被告各製品は構成要件1-Dを充足する。 ウ 構成要件1-B,C,EないしJ 被告各製品の電源装置が構成要件1-B,C,EないしJを充足することは明らかである。 エ 構成要件2-AないしC 被告各製品の電源装置は,構成要件1-AないしIを充足し,開閉素子が1の回路で構成されているのであるから,構成要件2-AないしCを充足する。 オ 構成要件3-AないしD 被告各製品の電源装置は,構成要件1-AないしIまたは構成要件2-AないしCを充足し,パルス発生器が電源装置の負荷電流を検出して,この検出した負荷電流に応じて開閉素子を間欠的に開閉させるように制御するトリガ信号生成器(ヒステリシス特性を持つコンパレータで構成されている。)を具備しているので,構成要件3-AないしDを充足する。 (被告の主張) ア 構成要件1-A 被告各製品は,「商用電源」を具備していないため,構成要件1-Aを充足しない。 イ 構成要件1-B,C及びG 被告各製品は,「商用電源」を具備していないため,構成要件1-B,C及びGを充足しない。 ウ 構成要件1-D (ア) 被告各製品に搭載された「電源装置」の動作は,二次側回路中におけるP点の電位と基準電位との比較結果に基づいて,フォトカプラPC1をオン/オフ切替制御するものであって,いわゆるコンパレータを構成する制御回路である。 したがって,被告各製品は,「第1の整流回路(一次側に存在する整流回路)からの出力を直接的に受けて動作する,電源の一次側に設けられた,動作電圧が供給された時には自らパルスを発生する『パルス発生器』」を具備しないから,構成要件1-Dを充足しない。 (イ) 被告各製品中のフォトカプラのトランジスタ,これに接続されている抵抗(原告のいわゆる「トランジスタと負荷抵抗」)は,「第1の整流回路の出力を受けて」「間欠的に動作する」ものではない。すなわち,この部分が,「第1の整流回路の出力を受けて」いたとしても,この部分は,「第1の整流回路の出力を受けて間欠的に動作」してパルスを発生する機能はない。なぜなら,「トランジスタと負荷抵抗」は,二次側で生成されたパルス信号を伝達する機能を有するにすぎないからである。このことは,構成要件1-Dの技術的意義に鑑みれば当然のことであり,スタートアップ時及び停電後の自動復帰時に,「トランジスタと負荷抵抗」が「第1の整流回路の出力を受けて」も,この「トランジスタと負荷抵抗」はいかなる意味でもパルスを発生するものではないから,構成要件1-Dに関する本件特許発明1の技術的課題が解決されないのである。 以上のとおり,被告各製品中のフォトカプラのトランジスタ,これに接続されている抵抗等,回路の一次側に存在する各素子が「パルス発生器」を構成しないことは明らかである。 (ウ) 更に付言すれば,本件特許発明1は,「第1の整流回路」及び「第2の整流回路」を区別した上で(構成要件1-D,FないしH),わざわざ「パルス発生器」は「第1の整流回路の出力を受けて」動作すると規定しているものであるから(構成要件1-D),「パルス発生器」が回路の一次側に存在し,「第1の整流回路の出力」のみを受けて動作することが予定されている。なぜなら,本件特許発明1の構成においては,「第1の整流回路」の出力を受ける素子は一次側に存在し,「第2の整流回路」の出力を受ける素子は二次側に存在するところ,「パルス発生器」が一次側に存在する素子と二次側に存在する素子を複合した構成要素を含むとすれば,「パルス発生器」が「第1の整流回路の出力を受けて」動作することを,構成要件1-Dが特に規定した意味がなくなるからである。 (エ) したがって,仮に「パルス発生器」という用語が,一般論として,「パルスを発生するもの」であったとしても,本件特許発明1における「パルス発生器」は,通電時に「パルス」を発生する部分が「第1の整流回路の出力を受けて間欠的に動作」しなければならないのであり,被告各製品には,この意味の「パルス発生器」は存在しない。すなわち,被告各製品における「パルス発生器」に相当する構成は二次側のコンパレータのみであり,フォトカプラのトランジスタや一次側に存在する抵抗(トランジスタと負荷抵抗)は含まれないし,まして,このトランジスタと負荷抵抗が「パルス発生器」であるとはいえない。そして,二次側のコンパレータは「第2の整流回路」の出力を受けて動作する構成要素であり,「第1の整流回路」の出力を受けて動作するものではない。 したがって,被告各製品は,構成要件1-Dを充足しない。 エ 構成要件1-E 被告各製品は,構成要件1-Dの「パルス発生器」を具備しないため,構成要件1-Eを充足しない。 オ 構成要件1-F 被告各製品は,構成要件1-Cの「トランス」を具備しないため,構成要件1-Fを充足しない。 カ 構成要件1-H 被告各製品は,構成要件1-Fの「第2の整流回路」を具備しないため,構成要件1-Hを充足しない。 キ 構成要件1-I 被告各製品は,構成要件1-Eの「開閉素子」を具備しないため,構成要件1-Iを充足しない。 ク 構成要件1-J 被告各製品が,「電源装置」を含んでいることは認める。 ケ 構成要件2-AないしC 本件特許権の請求項2は,本件特許権の請求項1の従属項である。したがって,本件特許発明2の技術的範囲は,本件特許発明1の技術的範囲に比して狭いことから,被告各製品が本件特許発明1の技術的範囲に属さない以上,本件特許発明2の技術的範囲にも属さないことは当然である。 コ 構成要件3-AないしD 被告各製品においては,二次側回路中のP点の電位(電圧値)に対応する信号が一次側回路に伝達されて,一次側から二次側への電力供給が制御されている。 被告各製品が,本件特許発明1の技術的範囲に属さない以上,その従属項である本件特許発明3の技術的範囲にも属さないことは当然である。 さらに,二次側の「負荷電圧に応じて‥‥‥制御する」構成は,本件特許発明3の技術的範囲から除外されているのであるから,この意味においても,被告各製品は,本件特許発明3の技術的範囲に属さない。 (5) 本件特許権の請求項1ないし3(本件各特許発明)に無効理由があることが明らかであるか(争点5) (被告の主張) 本件各特許発明には,以下に述べるとおり,明白な無効理由が存在し,原告による特許権行使は権利の濫用に当たるものとして許されない。 ア 本件特許発明1及び2の新規性欠如(特許法29条1項3号違反) 本件特許発明1及び2の発明は,実公平3-30894号公報(乙38。以下「引用例1」という。)に記載された発明であるから,特許法29条1項3号の規定に違反して特許されたものである。 (ア) 引用例1は,構成要件1-A「商用電源」を具備している(引用例1の1頁2欄7行,8行,第1図,第2図)。 (イ) 引用例1は,その記載(2頁3欄17ないし20行,37ないし41行,第2図)によれば,交流である商用電源出力を,ダイオードの機能を利用して,一定方向の電流に変換(整流)している。 したがって,引用例1の「ダイオードD1,抵抗R3,ダイオードD3」及び「ダイオードD2,抵抗R4,ダイオードD4」は,構成要件1-B「当該商用電源を整流する第1の整流回路」に相当する。 (ウ) 引用例1の「電源トランス7」(1頁2欄10行等,第1図,第2図)は,商用電源と接続されており,構成要件1-C「前記商用電源に接続されたトランス」に相当する。 (エ) 引用例1は,一定周期の商用電源に同期する電圧Vbが立下り部において一定の基準レベルに到達するタイミングで,コンデンサC6(C7)の電荷をトランジスタQ1(Q2),ダイアックDia1(Dia2)の各ゲートを介して放電し,パルス状の信号VCをトライアックTr1に出力する構成であるから,間欠的に動作している(1頁2欄12ないし15行,2頁3欄20ないし32行,37ないし41行,第2図,第3図)。 また,上掲した各素子が,「当該商用電源を整流する第1の整流回路」に相当する「ダイオードD1,抵抗R3,ダイオードD3」及び「ダイオードD2,抵抗R4,ダイオードD4」からの出力を(直接に)受けていることは,第2図から明らかである。 したがって,引用例1中の,「抵抗R5,ダイオードD5,コンデンサC6,トランジスタQ1,抵抗R7,ダイアックDia1」及び「抵抗R6,ダイオードD6,コンデンサC7,トランジスタQ2,抵抗R8,ダイアックDia2」は,構成要件1-D「前記第1の整流回路の出力を受けて間欠的に動作するパルス発生器」に相当する。 (オ) 引用例1の「トライアックTr1」は,双方向性の開閉素子であり(第2図),これが導通すると,商用電源からトランスへの電力供給が行われる。 そして,「トライアックTr1」が,パルス発生器に相当する「抵抗R5,ダイオードD5,コンデンサC6,トランジスタQ1,抵抗R7,ダイアックDia1」(又は,「抵抗R6,ダイオードD6,コンデンサC7,トランジスタQ2,抵抗R8,ダイアックDia2」)からのパルス出力を受けて導通することは,前記(エ)において既に述べたとおりである。 したがって,引用例1中の「トライアックTr1」は,構成要件1-E「当該パルス発生器の出力に応じて前記トランスへの電流供給をスイッチングする双方向性の開閉素子」に相当する。 (カ) 引用例1は,二次側の「コンデンサC13,C14はダイオードD7,D8,D9,D10およびサイリスタSCR1,SCR2を介して充電され……る」構成であり(2頁4欄34ないし37行,第2図),トランスの二次側出力(交流)を,ダイオードを利用して直流に変換(整流)している。 このことは,第1図の説明中の「D7〜D10は電源トランス7の二次電圧を整流する整流用ブリッジを構成するダイオード……である」という記述に鑑みても(1頁2欄15ないし26行),疑義を挟み得ないものである。 したがって,引用例1の「ダイオードD7,D8,D9,D10」は,構成要件1-F「前記トランスの二次側出力を整流する第2の整流回路」に相当する。 (キ) 引用例1の「コンデンサC4」は,商用電源と,第1の整流回路に相当する「ダイオードD1,抵抗R3,ダイオードD3」及び「ダイオードD2,抵抗R4,ダイオードD4」との間に,直列に配置されている(第2図)。 したがって,「コンデンサC4」は,構成要件1-G「前記商用電源と第1の整流回路との間に直列にコンデンサを設ける」に相当する。 (ク) 引用例1においては,前記トライアックTr1が非導通であり,一次側から二次側への電力供給が停止している間は,二次側を駆動するための電力(電荷)は,二次側回路に存在する平滑化コンデンサC13,C14に蓄積された電荷を出力して賄われることは当然である。 このことは,第1図の説明中「C13,C14は正負の出力端子Eout+,Eout-と接地端子GNDとの間に設けられた平滑化コンデンサ……である」という記述に鑑みても(1頁2欄17ないし19行),疑義を挟み得ないものである。 したがって,引用例1の発明は,構成要件1-H「前記第2の整流回路の下流側に電荷蓄積素子を設け,」,同I「前記開閉素子がオフの間,前記電荷蓄積素子に蓄積した電荷を出力する」及び同J「ことを特徴とする電源装置」であることは明らかである。 (ケ) 引用例1の構成を採用することにより,「消費電力の低減」という作用効果が得られる。 以上のとおり,引用例1は,本件特許発明1の構成要件を全て具備しているから,本件特許発明1は新規性を有しない。また,引用例1は,パルス発生器である「抵抗R5,ダイオードD5,コンデンサC6,トランジスタQ1,抵抗R7,ダイアックDia1」(及び「抵抗R6,ダイオードD6,コンデンサC7,トランジスタQ2,抵抗R8,ダイアックDia2」)の出力に応じて,商用電源からトランスへの電力供給をスイッチングする「双方向性の開閉素子」が,1個の「トライアックTr1」で構成されているから,本件特許発明2は新規性を有しない。 イ 本件特許発明3の記載不備(特許法36条6項2号違反) 本件特許発明3の発明は,特許請求の範囲の記載が不明確であるから,特許法36条6項2号の規定に違反して特許されたものである。 (ア) 本件特許権の請求項3の記載によれば,本件特許発明3の構成要件は,「請求項1または2に記載の電源装置が更に,前記電源装置の負荷電流を検出する負荷電流検出回路を具え,前記制御回路が前記負荷電流検出回路で検出した負荷電流に応じて前記開閉素子を間欠的に開閉させるように制御することを特徴とする電源装置。」である。 (イ) しかし,本件特許権の請求項1及び2の記載を精査するも,「制御回路」の文言は見当たらず,本件明細書及び図面の記載を参照しても,これが何を意味するものか全く不明である。 そもそも,特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載は,特許権の権利範囲がこれによって確定されるという点において重要な意義を有することから,平成6年に新設された条項であり,その記載は正確でなければならず,一の請求項から必ず発明が把握されることが必要であるとされている(特許庁編「工業所有権法逐条解説【第16版】」115頁,「特許法概説【第13版】」157頁参照)。 したがって,本件特許権の請求項3のように,「前記制御回路」と記述しながら,「制御回路」の文言が存しない場合には,本件特許発明3を把握することが不可能であるから,特許法36条6項2号に違反することは明らかである。 (ウ) ところで,本件各特許発明の出願過程を参照すれば,平成12年6月19日付け手続補正書による補正前は,請求項1においても「パルス発生器」という文言は存在せず,「制御回路」という文言が存在していた。 しかし,上述のとおり,特許法36条6項2号は,「一の請求項から必ず発明が把握されること」を要求するものであるし,仮にこの点を措いても,補正により,独立項である請求項1の文言が変更された場合に,当然に従属項である請求項3の文言が同様に変更されるものではない。 したがって,仮に出願過程を参照しても,当業者にとって,本件特許発明3の「制御回路」の意味を理解することは不可能である。 ウ 本件特許発明3の進歩性欠如(特許法29条2項違反) 本件特許発明3の「前記制御回路」が,負荷電流検出回路で検出した負荷電流に応じて,双方向性の開閉素子を間欠的に開閉させるように制御する「何らかの制御回路」であると理解したとしても,本件特許発明3は,引用例1に記載された発明と,実開平4-10588号公報(乙16。以下「引用例2」という。)に記載された発明を組み合わせることにより,当業者が容易に発明することができた発明であるから,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものである。 (ア) 本件特許発明3の構成要件は,構成要件1-AないしIに,構成要件3-B「前記電源装置の負荷電流を検出する負荷電流検出回路を具え,」と構成要件3-C及びD「前記制御回路が前記負荷電流検出回路で検出した負荷電流に応じて前記開閉素子を間欠的に開閉させるように制御する」,「ことを特徴とする電源装置。」を付加したものである。 (イ) 前記アのとおり,引用例1は,構成要件1-AないしIをすべて充足する回路構成を開示している。 したがって,引用例1の発明は,本件特許発明3と,構成要件1-AないしIを有する点において一致し,構成要件3-B及び同Cを有しない点において相違する。 (ウ) 引用例2には,構成要件3-B及び同Cを充足する電源回路の回路構成が開示されている。 a 構成要件3-Bについて 引用例2の実用新案登録請求の範囲には,同考案が「負荷電流を検出し,あらかじめ定められた基準値と比較する電流検出手段」を備えることが明記されており(1頁8行,9行),図1においても「8 出力電流検出回路」の存在が明確に図示されている。 したがって,引用例2の考案は,構成要件3-B「前記電源装置の負荷電流を検出する負荷電流検出回路」を具備している。 b 構成要件3-Cについて 引用例2の実用新案登録請求の範囲には,同考案が,「該電流検出手段で負荷電流が基準値より小さくなったことを検出したときに,スイッチング手段のスイッチング動作を連続動作から間欠動作に切り換えるスイッチング制御手段を備えたことを特徴とするスイッチング電源装置」であることが明記されており(1頁10ないし14行),考案の詳細な説明においても,「負荷電流が……基準値を超えているか否かを検出し,その結果を増幅器92からフォトカプラ11を介してスイッチング制御部6に送る。スイッチング制御部6は負荷電流が基準値より大きいときは,スイッチング部5のスイッチングトランジスタのスイッチング動作を連続動作とする。また,電子装置3の動作状態により負荷電流が基準値より小さくなったときは,スイッチングトランジスタの動作を間欠動作とするように制御する。」と記載されている(5頁下から3行ないし6頁8行,図1)。 すなわち,引用例2の考案は,前記電流検出手段で検出した負荷電流に応じて,トランスへの導通を決定するスイッチングトランジスタの動作を間欠的に動作させるように制御する電源装置であるから,構成要件3-C「前記制御回路が前記負荷電流検出回路で検出した負荷電流に応じて前記開閉素子を間欠的に開閉させるように制御する」ことを特徴とする電源装置である。 (エ) 引用例1と引用例2を組み合わせることにより,本件特許発明3の構成を実現することが可能である。 a 引用例1と引用例2は,いずれも,商用電源の出力(100V)を,トランスを介して電圧を降下させ,直流に変換する(整流する)ことにより,所望電圧の直流電流を得るという,いわゆる「電源装置」に関する発明であるから,同一の技術分野に属するものである。 b 引用例1によれば,回路中に存在する電荷量を安定化することで,無駄な電力供給を回避し,消費電力を低減することが可能である。そして,乙38号証(第3図)を参照した当業者は,引用例1の構成を採用することにより「消費電力の低減」という作用効果が得られることを,当然に理解するものである。 他方,引用例2の発明も,電源トランスへの無駄な電力供給を避けることにより「消費電力の低減」を狙ったものであるから,両発明は,作用効果の共通性が認められる。 c 引用例1においては,一定の条件を満たしたとき,「3 レベル検出およびトリガ回路」からの出力が「トライアック TR1」に流れ込み,電源トランスが導通して,一次側から二次側への電力供給が行われる構成であるが,二次側の出力電圧は比較及びトリガ回路5・6,及びサイリスタSCR1・SCR2により一定に保たれているため,一次側から二次側への電力供給が過大である場合には,電源装置における消費電力の無駄が大きくなる。 そもそも,電源装置を設計するに当たり,消費電力を無意味に増大させるメリットはないし,原告の主張によれば,本件特許出願日である平成9年ころ,当業者は省電力に着目していたのである。 とすれば,回路中の電荷量が過大な場合は,何らかの工夫を施すことにより,一次側から二次側への電力供給を,一時的に完全に停止させ,回路の消費電力を更に低減することの動機付けが存在したことは明らかである。 (オ) 以上のとおりであるから,引用例1を参照した当業者が,消費電力を更に低減することを試みる場合に,技術分野が同一であり,作用効果が共通する引用例2を参照し,かかる発明の引用例1への転用を検討することは,極めて自然な思考順序である。 したがって,当業者にとって,引用例1の発明に,引用例2の発明を組み合わせ,上述のような回路構成を実現することは,極めて容易であったといえるから,本件特許発明3に進歩性が認められないことは明らかである。 (原告の主張) ア 本件特許発明1及び2の新規性欠如(特許法29条1項3号違反)について 引用例1に記載されている発明は,導通角制御による直流電源回路に関するものであり,本件特許発明1及び2の主題である間欠開閉制御による電源装置とは本質的に異なる技術である。したがって,被告が主張する無効理由は,本件特許発明1及び2には全く存在しない。 (ア) 発明の本質の相違 a 引用例1では,導通角制御が行われているが(乙第38号証。第1頁第2欄第2行),その制御方法は,本件特許発明1及び2の主題である間欠開閉による制御方法とは効果において決定的な違いがある。 導通角制御は,非常に簡単な進相回路で制御可能であるため,トライアックによる調光回路などで古くから使われている。一般に,商用周波数か,またはその2倍の周波数で開閉素子のオンオフを制御しており,これによって後述するように連続的なオンオフ動作が行われる。 これに対して,本件特許発明1及び2では,導通角制御ではなく,間欠開閉制御がなされている。すなわち,本件明細書の図6に示す回路では,64波中の2波だけが導通し,残り62波の間が欠ける(導通しない)動作となり,図6の装置を周波数50Hzの地域で使用すると,1.28秒間に1回だけオンオフ動作をすることになる。しかし,引用例1の導通角制御回路では,同じ1.28秒間に128回ものオンオフ動作が行われる。これは明らかに連続的な動作であり,間欠的な開閉動作ではない。本件特許発明1及び2では,このようにオンオフ制御の回数を圧倒的に少なくすることに基づいて,トランスに流れる無駄な励磁電流(ちなみに,励磁電流とは特に限定しなくとも1次側に流れる電流をいう。(甲第45号証))を激減させており,これによって待機電力を大幅に削減するようにしている。この効果は,連続的なオンオフ動作を行う導通角制御による電源装置に比べると劇的といってもよく,引用例1では,このような効果は決して達成することができない。 b 被告は,「引用例1は,一定周期の……放電し,パルス状の信号VCをトライアックTr1に出力する構成であるから,間欠的に動作している。」と主張する。 しかし,本件明細書の実施例(図3及び図6)でも,被告各製品の装置でも,引用例1の装置でも,パルス発生器は繰り返してパルスを発生しており,この動作が行われなければ,目的とする作用効果を続けることはできない。被告は,間欠的に動作するパルス発生器も,連続的に動作するパルス発生器も区別せずに論じており,この理論を前提にするなら,「間欠的に動作しないパルス発生器とは繰り返しをしない直流電源である」という不合理が生じる。パルス発生器には,間欠的に動作するパルス発生器もあれば,連続的に動作するパルス発生器もあり,本件特許発明1は,パルス発生器をこの「間欠的に動作する」パルス発生器に限定しているのである。被告の主張は,本件明細書記載の特許請求の範囲に記載された用語を表面的になぞっただけのものであり,原告が本件特許発明1について「間欠的に動作する」という限定を行った真意を無視したものである。 c 以上のとおり,構成要件1-Dの「間欠的に動作するパルス発生器」との用語は,「導通角制御」と明確に区別させるためにわざわざ使用したものであり,本件特許発明1の「パルス発生器」の動作は,引用例1のパルス発生器のそれとは,決定的に異なっている。 (イ) 目的と効果の相違 引用例1に係る考案の効果は,レギュレーションの改善,トランスの発熱の低減,トランスの小型化,軽量化,アイソレーションが良好,部品数の低減,低価格化などであるが(乙38。2頁4欄最終行ないし3頁6欄1行),「待機電力の削減」は挙げられていない。なぜなら,引用例1の導通角制御ではオンオフの回数が減るわけではないので,励磁電流を大幅に削減することができず,本件各特許発明のような0.01Wという待機電力を達成することは到底できないからである。このように,導通角制御と間欠開閉は,動作も,目的も,効果も決定的に異なる別技術である。 (ウ) リアクタンスドロッパと進相の相違 本件特許発明1及び2にいうリアクタンスドロッパ,すなわち,「商用電源と第1の整流回路との間に直列に設けたコンデンサ」は,電圧をドロップさせることを目的に設けたものである。その動作から考えると,このコンデンサは,抵抗であってもかまわないが,抵抗によって消費される無駄な電力を削減するべく,本件特許発明1及び2の発明者はリアクタンス(コンデンサ)をわざわざ用いるようにした。 一方,引用例1では,その制御に進相した信号を必要とするので,1次側にコンデンサC4を設けるようにしている。ここでは,抵抗を用いたのでは目的の進相動作を達成できないため,この素子はコンデンサである必要がある。これは,従来からあるトライアックによる導通角制御では当然の回路であり,リアクタンスドロッパを目的としたものではない。確かにコンデンサを通れば電圧はドロップするが,これはヒューズであっても,ラインフィルタであっても,通れば同じように電圧はドロップするのである。 このように,本件特許発明1及び2で用いられているコンデンサと,引用例1で用いられているコンデンサは,使用目的が全く異なるものである。 (エ) 導通角制御と間欠開閉の違い 本件特許発明1及び2では,本件明細書の図3に示す回路でも,図6に示す回路でも,トライアックにゼロクロススイッチ(トリガ信号を受けても次の電圧ゼロクロス点を待ってオンとなり,電流がゼロ近辺になるとオフになるスイッチのことで,ノイズを出さないという特徴がある。)を意味するZC記号を使用しており,スパイク・ノイズが出ないように好適に制御を行って,待機電力を劇的に削減するようにしている。ゼロクロススイッチを使用しているため,図3や図6に示す回路では,どのようなパルスで駆動しても引用例1に開示されているような導通角制御にはならない。 一方,引用例1の回路で,トライアックにゼロクロススイッチを使用すると,導通角制御そのものを行うことができなくなるため,導通角制御を前提としている引用例1の回路は意味を失うことになる。 このように,ゼロクロススイッチを使用した例を考えると,本件特許発明1及び2と引用例1の考案が,互いに相容れないほど異質な技術であることが明確になる。要するに,引用例1と本件特許発明1及び2は,回路構成こそ偶然に似てはいるが,その動作は明確に異なり,似て非なるものである。 イ 本件特許発明3の記載不備(特許法36条6項2号違反)について 確かに,本件明細書の特許請求の範囲の記載だけを見ると,請求項1及び2には「制御回路」という語句は存在しない。しかし,本件各特許発明は,間欠開閉に関する発明であり,本件明細書の段落【0011】に「商用電源と接続された一次側に電源回路を開閉する素子を配置し,この素子を一定時間ごとまたは,電流の使用状況に応じた時間間隔で間欠開閉させる制御回路か……」と記載されている。この部分を参酌すれば,請求項1の「間欠的に動作するパルス発生器と,当該パルス発生器の出力に応じて前記トランスへの電流供給をスイッチングする双方向性の開閉素子」が,上記「制御回路」を意味することは明らかである。なぜなら,本件明細書を通じて,他に紛らわしい記載は何一つ存在しないからである。 ウ 本件特許発明3の進歩性欠如(特許法29条2項違反)について 引用例2に記載されている装置では,たしかに負荷電流を検出しているが,引用例2はスイッチング電源という更に別の技術であって,間欠開閉ではなく,根幹の技術が全く異なっている。 本件各特許発明の審査過程において,審査官より,「本件特許出願は,間欠開閉技術とスイッチング電源技術の双方を含んでいるが,これらは別技術であるので原出願を分割するように」との指摘を受けたが,全くそのとおりである。なお,引用例2は,審査過程において,審査官が「負荷電流を検出する」旨が記載されている先行技術として引用しているが,本件各特許発明は,本件特許発明1の根幹技術が,引用例2のものとは異なるとして特許を受けたものである。 エ 以上述べたとおり,本件各特許発明にはなんらの無効理由も存しないから,原告の権利行使は権利濫用には該当しない。 (被告の再反論) ア 本件特許発明1及び2の新規性欠如(特許法29条1項3号違反) (ア) 構成要件1-D「間欠的に動作するパルス発生器」について 商用周波数の周期は,本件特許発明1及び2の技術的範囲を直接的に確定する要素ではなく,いずれの場合も,連続通電の場合と比較すれば省電力化という作用効果を奏するものである。したがって,この点に依拠する原告の主張に理由がないことは明らかである。結局のところ,原告の主張は,本件明細書中の実施例3(図3及び図6)のみに依拠した議論であり,構成要件1-D「間欠的に動作するパルス発生器」の意義を誤って解釈したものであるから,理由がないことは明らかである。すなわち,構成要件1-D「間欠的に動作するパルス発生器」とは,間欠的にパルス状の信号を発生することを意味するにすぎず,原告の主張は根拠を欠くものである。 (イ) 作用効果の同一性について 引用例1の発明と本件特許発明1及び2は,いずれも,一次側回路から二次側回路への電力供給を「間欠通電」に制御することにより,トランス等における電力消費を低減して,待機電力を低減する作用効果を奏することは事実であるから,両者の作用効果は同一である。したがって,原告の主張は理由がない。 (ウ) 「商用電源と第1の整流回路との間に直列に設けられたコンデンサ」について 原告は、「本件特許発明1及び2で用いられているコンデンサと,引用例1で用いられているコンデンサは,使用目的がまるで異なるものである」と主張しているが,全く理由がない。発明の新規性を判断する場合,引用発明が,構成要素を全て具備していれば足りるのであって,各構成要素が採用された目的は無関係である。 イ 本件特許発明3の進歩性欠如(特許法29条2項違反) 引用例2の電源回路においても,「高周波トランス(7)」を流れる交流電流が「間欠通電」となるように,「スイッチング制御部(6)」による制御が行われるものである。この点は,引用例2における,「スイッチング手段のスイッチング動作を連続動作から間欠動作に切換える」(4頁2行,3行),「……負荷電流が基準値より小さくなったときは,スイッチングトランジスタのスイッチング動作を間欠動作するように制御する。」(6頁5行〜8行)等の記載から明らかである。 結局のところ,引用例2の電源回路及び本件特許発明3の電源回路は,いずれも,高周波トランスにより分割された「電源回路」であって,一次側から二次側への電力供給が間欠通電になるように制御するという点において全く同一であるから,「根幹の技術」が共通していることは当然である。 (6) 特許法65条1項に基づく補償金請求の可否(争点6) (原告の主張) ア 本件各特許発明は,本件出願公開請求項1,4及び5の減縮である。 (ア) 本件出願公開請求項1 「負荷電流検出回路」は「電流の使用状況」を検出するものであり,「制御回路」は,この負荷電流検出回路で検出した負荷電流に応じて開閉素子を間欠的に開閉させるように制御するものである。また,本件特許発明3は,商用電源を利用する電気機器の電源装置である。 したがって,本件特許発明3に記載の電源装置は,本件出願公開請求項1記載の発明の範囲に含まれる。 (イ) 本件出願公開請求項4 本件各特許発明は,開閉素子を用いて間欠制御を行うように構成されているので,「間欠制御をする回路」とは,本件各特許発明における「開閉素子」に該当する。また,「この制御回路」とは,「開閉素子を制御する回路」の意味であり,「パルス発生器」に該当する。さらに,「この制御回路駆動用電源」は,「パルス発生器」に供給する電源を意味し,これは「商用電源を整流する第1の整流回路」に該当する。なお,「開閉素子を制御する回路」,すなわち,「パルス発生器」及びこのパルス発生器が開閉素子を駆動するための電源,すなわちパルス発生器に電力を供給する電源が一次側に配置されていることは,本件各特許発明の目的からして明らかである。 したがって,本件各特許発明に記載されている電源装置は,本件出願公開請求項4記載の発明の範囲に含まれる。 (ウ) 本件出願公開請求項5 本件各特許発明は,開閉素子を用いて間欠制御を行うように構成されているので,「一次側に間欠通電する素子」とは,本件各特許発明における「開閉素子」に該当する。また,「この素子の制御用の電源またはこれらの起動用」とは,「開閉素子の制御回路用の電源,または開閉素子の制御回路を起動するための電源」の意味であり,「開閉素子の制御回路」は「パルス発生器」に該当する。このことから,「開閉素子の制御回路用電源」または「開閉素子の制御回路を起動するための電源」は,「商用電源を整流する第1の整流回路」に該当する。なお,「開閉素子の制御回路」,すなわち,「パルス発生器」及び「開閉素子の制御回路用電源」または「開閉素子の制御回路を起動するための電源」が一次側に配置されていることは,本件各特許発明の目的からして明らかである。 したがって,本件各特許発明に記載されている電源装置は,本件出願公開請求項5記載の発明の範囲に含まれる。 イ 被告各製品は,本件出願公開請求項1,4及び5の技術的範囲に含まれるものである。 (ア) 被告各製品におけるパルス発生器は,電源装置の負荷電流を検出して おり,この検出した負荷電流に応じて開閉素子を間欠的に開閉させるように制御するトリガ信号生成器を具備している。すなわち,パルス発生器とトリガ信号生成器は,開閉素子の動作を制御する制御回路を構成しており,この制御回路は電源装置の電流の使用状況(負荷電流)に応じた時間間隔で開閉素子を間欠的に開閉させている。したがって,この制御回路は,本件出願公開請求項1の「制御回路」に該当する。さらに,被告各製品は,商用電源を利用する電気機器に該当する。したがって,被告各製品は,本件出願公開請求項1の構成要件を充足する。 (イ) 被告各製品における開閉素子は,本件出願公開請求項2の「間欠制御をする回路」に該当し,この開閉素子は商用電源と接続された一次側に配置されている。また,この開閉素子は,パルス発生器により制御されており,このパルス発生器が開閉素子を駆動するための電源は,第1の整流回路である。この整流回路は一次側に配置されている。さらに,被告各製品は,商用電源を利用する電気機器に該当する。したがって,被告各製品は,本件出願公開請求項4の構成要件を充足する。 (ウ) 被告各製品における開閉素子は,商用電源と接続された一次側に配置されて間欠通電動作をしており,本件出願公開請求項5の「間欠通電する素子」に該当する。また,この開閉素子は,パルス発生器により制御されており,このパルス発生器の電源または起動用電源には,コンデンサのリアクタンス分を流れる電流が用いられている。このコンデンサは,商用電源と第1の整流回路との間,すなわち一次側に設けられている。さらに,被告各製品は,商用電源を利用する電気機器に該当する。したがって,被告各製品は,本件出願公開請求項5の構成要件を充足する。 ウ 被告は,出願公開された特許出願に係る発明であることを知って,業として被告各製品を製造販売した(特許法65条1項後段)。その理由は,以下の事情に基づく。 (ア) 被告は,イ号物件及びロ号物件の発売前である平成12年4月7日に,発明の名称を「電源装置」とする特許出願をした(特願2000-107066号。甲5)。この出願の願書に添付した明細書には「【0011】しかしながら待機電源部は,電源トランスを間欠的に励磁させるための回路の主要部分が1次側に設けられているため,当該回路内の電流値が多くなる。従って,電源トランスの1次側の回路に供給する電源を蓄えるコンデンサ容量は,大きくする必要がある。」と従来技術が記載されている。しかし,この従来技術は,本件各特許発明のほかに,存しない。 (イ) 被告は我が国を代表する家電メーカーであり,豊富な特許スタッフを揃えており,特許の重要性,その怖さを十分に分かっているのであるから,新製品の開発,販売に際して先行特許を調査しないはずはなく,先行特許を調査すれば本件各特許発明に係る出願公開公報が容易に発見できた。 エ したがって,原告は,本件各特許発明の出願公開後設定登録前に被告の行った被告各製品の製造販売行為について,補償金を求めることができる。 (被告の主張) 被告が,出願公開された特許出願に係る発明であることを知って,被告各製品を製造販売したことは否認する。 (7) 補償金の額(争点7) (原告の主張) ア 補償金額の算定対象 本件各特許発明の「特許請求の範囲」には,「……を特徴とする電源装置」と記載されているが,本件各特許発明の実施に対する補償金額の算定は被告各製品の販売価格を基準とすべきである。 たしかに,本件各特許発明は被告各製品の一部に関わるものにすぎないが,被告は本件各特許発明を実施した電源装置そのものを販売しているのではなく,その電源装置を組み込むことによって待機時消費電力0.01Wを実現したテレビを販売することにより収益をあげており,またテレビの性質上,電源装置は機構上も商品価値の構成上も商品全体と密接に結合した関係にあり,消費者の購買動機を決定づける要素になっていると認められる。したがって,被告の実施による補償金額を算定するに当たっては,被告各製品であるテレビの販売価格を基準とすべきである。 また,本件各特許発明は当初「省電力機器」をも含むものであり,その後の補正により「電源装置」のみに限定されたが,「省電力機器」をも特許請求の範囲としていればテレビ全体を対象とし、「省電力機器」が特許請求の範囲外であれば「電源装置」のみを対象とするというような区別をする合理的理由は存在しない。 イ 実施料率 被告がイ号物件の製造・販売を開始する前から「トップランナー方式」が導入されるなど,テレビを製造する各メーカーは自社製品の省電力化に取り組むことが要請され,被告も自社製品の省電力化に取り組み,本件各特許発明をイ号物件に組み込むことにより業界トップの待機時消費電力0.01Wを実現し,待機時消費電力が業界トップであることを自社のパンフレット等に表示し,販売活動をしていたのである。とするなら,被告各製品にとって本件各特許発明はなくてはならないものであり,その実施価値は非常に高いものといえる。 したがって,本件各特許発明の実施料率は被告各製品の販売価格の5%を下回らない。 ウ 被告各製品の売上げ (ア) 被告各製品の製造販売数量 被告は出願公開された特許出願にかかる発明であることを知って,イ号物件及びロ号物件の製造販売を開始したから,補償金請求の期間はイ号物件及びロ号物件の発売開始日である平成12年7月20日から本件各特許権が設定登録された平成13年6月8日までの10か月と20日間である。 また,被告は,平成10年1月から平成11年6月までの1年6か月間で,カラーテレビ「ベガ」など10機種約34万台を製造・販売している(甲34)ことから推測すると,被告各製品の1機種当たりの月間製造販売台数は1888台(34万台÷18か月÷10機種)であり,本件では,イ号物件及びロ号物件が途中からハ号物件及びニ号物件に切り替わったものであるから,被告各製品の10か月と20日間の製造販売台数は4万277台((10+2/3)か月×(1888台×2))である。 (イ) 被告各製品の売上げ 被告のプレスリリースによれば,イ号物件及びロ号物件の販売価格は,それぞれ33万5000円,28万5000円であるが,原告が市販品を調査したところ,イ号物件の店頭販売価格は26万8000円,ロ号物件の店頭販売価格は21万8000円であり,ハ号物件及びニ号物件の価格もこれと同等であると推測できる。そして,36型と32型の需要はほぼ同等と考えられるので,被告の売上げは,97億8739万2000円である。 1888台×(10+2/3)か月×26万8000円+1888台×(10+2/3)か月×21万8000円=97億8739万2000円 エ 補償金の額 したがって,補償金請求額は4億8936万9600円である。 97億8739万2000円(売上げ)×0.05(実施料率)=4億8936万9600円 (被告の主張) ア 補償金額の算定対象 原告の主張は否認する。原告は,待機時の消費電力が0.01Wの電源装置が搭載されていたことが,消費者が被告各製品を購入する動機を決定づける要素になったかのごとく主張するが,理由がない。被告各製品において,「待機消費電力の少なさ」は商品価値として重要視されていなかったし,消費者にとって,待機消費電力が極端に少ないことが,購入の動機付けとなったとは考え難い。さらに,原告も自認するとおり,本件各特許発明は当初「省電力機器」をも含むものであり,その後の補正により「電源装置」のみに限定されたのであるから,「省電力機器」であるテレビ本体の販売価格を基準として補償金額を算定すべきとの原告の主張は,包袋禁反言により許されない。 イ 実施料率 原告の主張は否認する。電機製品における消費電力の大部分は通常運転時に消費されるため,待機時の消費電力を削減しても,省エネルギーに対する貢献としては,極めて限られた結果にとどまる。すなわち,被告は,既に0.1Wという低待機時消費電力を達成している以上,0.01Wという超低待機時消費電力の実現は,電機製品としての省エネ対策とほとんど無関係である。したがって,「被告各製品にとって本件各特許発明はなくてはならないものであり,その実施価値は非常に高いものといえる。」との原告の主張は理由がない。 ウ 被告各製品の売上げ 否認する。 (8) 損害の内容及びその額(争点8) (原告の主張) ア 損害賠償金額の算定対象 前記(7),ア記載のとおり,被告各製品の販売価格を基準とすべきである。 イ 実施料率 前記(7),イ記載のとおり,本件各特許発明の実施料率は被告各製品の販売価格の5%を下回らない。 ウ 被告各製品の売上げ (ア) ハ号物件及びニ号物件の製造販売数量 本件特許権は平成13年6月8日に設定登録されているが,被告はハ号物件及びニ号物件をそれ以前から製造販売していたから,原告は,平成13年6月8日から同16年3月7日までの33か月分の損害賠償を求める。 また,前記(7),ウ記載のとおり,被告各製品の1機種当たりの月間製造販売台数は1888台であるから,ハ号物件及びニ号物件の製造販売台数は12万4608台(33か月×(1888台×2))である。 (イ) ハ号物件及びニ号物件の売上げ 前記(7),ウ記載のとおり,ハ号物件及びニ号物件の店頭販売価格は,それぞれ26万8000円,21万8000円と考えられる。そして,36型と32型の需要はほぼ同等と考えられるので,被告のハ号物件及びニ号物件の売上げは,302億7974万4000円である。 62304台×26万8000円+62304台×21万8000円=302億7974万4000円 エ 損害賠償金額 したがって,損害賠償請求額は15億1398万7200円である。 302億7974万4000円(総売上)×0.05(実施料率)=15億1398万7200円 (被告の主張) 原告の主張は否認する。 (9) よって,原告は,被告に対し,特許法65条1項に基づく補償金4億8936万9600円と特許法102条3項に基づく損害賠償金15億1398万7200円の合計金20億0335万6800円について,その内金2億円及びこれに対する平成16年4月1日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 |
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当裁判所の判断
1 争点1(構成要件1-A「商用電源」の意義について) 甲2によれば,本件明細書の16欄の【符合の説明】欄に「101商用電源入力部」と記載されていることが認められるのであって,かかる記載に照らせば,構成要件1-Aの「商用電源」は,電源取り入れ口を指すものと解するのが相当である。この点に関して,被告は,「電源取り入れ口」を指すものと解することはできない旨主張しているが,これは,商用電源とは発電所等の電力供給源を指すものと主張していると解される。しかし,甲38ないし40によれば,「商用電源」という用語が発電所等の電力供給源を指すものとして使用されているものとはいえず,また,本件特許発明1の対象物が発電所等の電力供給源を具備するとはおよそ考え難い。したがって,被告の主張は,採用できない。 2 争点2(構成要件1-D「前記第1の整流回路の出力を受けて間欠的に動作するパルス発生器と」の意義について) (1) 構成要件1-Dの「パルス発生器」について,被告は,自らパルスを発生するものを指すと主張する。しかし,甲41ないし44によれば,「パルス発生器」という用語の一般的な意味は,当該機構のみで自らパルスを発生するものに必ずしも限られないというべきである。また,「パルス発生器」には,「パルスを発生」という点からみて,大別して「1つのパルスを発生するもの」と「一定の周期のパルスを発生するもの」とがあり,特許請求の範囲の記載だけではその内容が一義的に明らかでない。さらに,構成要件1-Dの「間欠的に動作する」については,「間欠」の語は,「一定時間を隔てて起こったりやんだりすること」を指すものであるが(日刊工業新聞社発行「特許技術用語集-類語索引・使用例付-」初版参照。),構成要件1-Dにおいて,「間欠的に動作する」と「パルス発生器」との関係及び「前記第1の整流回路の出力を受けて」と「間欠的に動作するパルス発生器」との関係は,特許請求の範囲の記載だけでは一義的に明らかでないというべきである。 特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないところ(特許法70条1項),特許請求の範囲の記載だけでは特許発明の技術的範囲が一義的に明らかにならない場合には,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するのが相当である(特許法70条2項)。そこで,以下,本件明細書の記載を参酌して,構成要件1-Dの意義を解釈することとする。 (2) 後掲各証拠によれば,以下の事実が認められる。 ア 本件明細書には,以下の記載がある(甲2)。 (ア) 【発明の属する技術分野】の項 「この発明は,……電気機器,またはこれらの電源装置の省電力化に関する。」(段落【0001】) (イ) 【発明が解決しようとする課題】の項 「そこで,この発明は,……待機電力を必要最小限まで低減させ,無駄なエネルギー消費を極限に近くまで抑制した省電力電気機器を得ることを目的としている。」(段落【0007】) (ウ) 【課題を解決するための手段】の項 「この発明は,まず第一にリモコンなどの機能のために待機中の電気機器の電源の一次側で間欠通電させることによって,待機時の回路に要求される限界に近い最小限の電力供給状態を安定して作り出すことにある。ここで間欠通電には,通常のトランスを用いた電源を例えばサイリスタなどをある間隔で開閉させるもの(間欠開閉)と,スイッチング電源のように,本来通常負荷時のパルス幅や周波数よりずっと低い間隔でのスイッチング動作(間欠発振)の双方の概念を含んでいる。」(段落【0008】) 「次に,この発明では間欠通電のための制御回路を電源の一次側に設置している。二次側に設置すると,スタートアップができないとか,停電後の自動復帰が出来ない障害が発生する。また,スイッチング電源で,いわゆる三次巻線から制御回路の電源供給を受けるものは起動回路や起動抵抗が必要となり,このロスのため省電力化ができにくい。そこで間欠制御用の電源を一次側に設置し,しかもリアクタンスドロッパを使用した制御用電源または起動回路を使用することで絶縁を確保しながらも課題を解決している。」(段落【0009】) 「この出願の第1の発明の構成は,商用電源と接続された一次側に電源回路を開閉する素子を配置し,この素子を一定時間ごとまたは,電流の使用状況に応じた時間間隔で間欠開閉させる制御回路か,本体からの制御信号または電流の使用量で連続通電に移行する制御回路持つものである。……負荷が比較的一定のものについては,電圧低下時間を見込んで一定間隔ごとに,また負荷が変動するものや,より細かな制御を行う場合については電流の使用状況を検出した間欠動作で一次側を通電することで,必要かつ最小限の電力を待機回路に供給しようとするものである。なお,状態や回路構成によっては,本体からの制御信号,あるいは電流の使用量によって連続通電する制御を行うこともこの発明には含まれる。」(段落【0011】。乙1によれば,この段落の記載は,本件当初明細書における段落【0011】と同一である。) 「この出願の第2の発明の構成は,商用電源と接続された一次側に電源回路を開閉する素子を配置し,この素子を一定時間ごとまたは,電流の使用状況に応じて間欠発振させる制御回路か,本体からの制御信号または電流の使用量で連続発振に移行する制御回路を持つものである。……負荷が比較的一定のものについては,電圧低下時間を見込んで一定間隔ごとに,また負荷が変動するものや,より細かな制御を行う場合については電流の使用状況を検出した間欠発振動作で一次側を通電することで,必要かつ最小限の電力を待機回路に供給しようとするものである。」(段落【0012】。乙1によれば,この段落の記載は,本件当初明細書における段落【0012】と同一である。) 「次に第4の発明の構成は,一次側の電源回路開閉の素子を間欠開閉させるための制御用の電源を一次側に配置したものである。待機時から通常動作への移行は,通常の待機時であれば,制御回路に蓄積された電力で,一次側のオンに必要な動作ができるように設計できるが,機器に最初に通電したときや停電後の復帰時,あるいは一次側のメインスイッチをオフした場合起動しなくなる。そこでこの発明では,制御回路の駆動の電源部分を一次側に配置することで,定常時以外からの復帰動作時も制御回路に電力を供給し,動作が確保できるようにしたものである。」(段落【0014】。乙1によれば,この段落の記載は,本件当初明細書における段落【0014】と同一である。) 「次に第5の発明の構成は,商用電源の一次側に電源回路を間欠開閉あるいは間欠発振させる素子を配置し,この素子の制御用の電源として,一次側からコンデンサのリアクタンス分を流れる電流を用いたものである。この構成では,双方向性サイリスタ,MOSFETなどのスイッチング素子の開閉装置を商用電源ライン側に配置してこの開閉を制御するようにし,併せて制御用の電源に一次側のコンデンサのリアクタンス分を流れる電流を使用することで,不要な損失を低減させている。」(段落【0015】。乙1によれば,この段落の記載は,本件当初明細書における段落【0015】と同一である。) 「間欠開閉の動作のためのオン,オフ信号または間欠動作の開始や終了の信号を伝達する手段が,アイソレーションをとる必要から二次側からフォトカプラを用いて伝達されるものである。」(段落【0018】。乙1によれば,この段落の記載は,本件当初明細書における段落【0018】と同一である。) (エ) 【実施例】の項 a 実施例2 「まず図2の実施例2は,スイッチング電源にこの発明を適用したもので,制御用電源として,コンデンサ201を通してダイオード202で整流する。この部分にコンデンサ201を使用することは,発熱によるエネルギーのロスを少なくすることができる。……。この容量性リアクタンスを通る僅かな電流は次のコンデンサ203に蓄えられ,制御用電源となる。なお,204はツェナーダイオードである。この電源により,シュミットトリガーインバータ205を用いた発振器を動作させ,スイッチング用のMOSFET206をドライブする。」(段落【0031】) 「一方,商用電源の入力は,ダイオード207で整流され,これをコンデンサ208に蓄える。これをMOSFET206でスイッチングさせることでパルス電流を作りだし,トランス209を通じてアイソレートさせたものを再び整流し,コンデンサなどの蓄電装置214に蓄える。……。この蓄電装置214の電圧は,シュミットトリガー回路211に入る。もし,電圧が設定された電圧以上に高くなり過ぎると,フォトカプラ212が点灯し,スイッチング用のMOSFET206にパルスが入るのを止める。するとスイッチング動作が停止し,シュミットトリガー回路211に入る電圧もやがて低下してフォトカプラ212は消灯することになる。すると再びスイッチング動作が始まり電圧が上昇する。このフィードバックループを形成させたことにより,電圧はある範囲に管理される。」(段落【0032】) 「このように,間欠通電させることで消費電流を格段に低減させることができる。」(段落【0033】) b 実施例3 「次に,図3の実施例3について説明する。まず,制御回路用の電源は,商用電源からコンデンサ201を通り,全波整流のダイオード301にて整流され,コンデンサ203に蓄えられる。なお,204はツェナーダイオードである。この電圧がシュミットトリガーインバータ205を用いたパルス発生器を動作させ,この電圧がフォトカプラ302のLEDを点灯させる。因みにLEDの点灯時間は,消灯時間よりはるかに短く設定されているのでフォトカプラ302の双方向性サイリスタのオン時間は短くなる。これはリモコン等の待機時に使用される電力は僅かなため連続通電させる必要はなく,このような間欠動作で励磁電流による消費電力を大幅に減少させることができる。そして通電時にトランス304を介して二次側へ電力が供給される。」(段落【0034】) c 実施例6 「図6は,図3の実施例3に関連した別の実施例6である。……。 そこで,電源のオン-オフのタイミングを電源周波数に同期させて管理することにより,この突入電流をいつも少なくすることができた。」(段落【0039】) 「図6にあるように,この実施例ではバイナリカウンタ601で商用周波数を分周し,ゲート回路602でアンドをとることで,この例では64波中2波分の時間だけを規則的なタイミングで通電させ突入電流を少なくしている。」(段落【0040】) d 実施例7 「図7の第7の実施例はスイッチング電源の例で,負荷電流が20%以上100%までの大きい領域では連続発振し,20%未満の負荷の小さい時には間欠発振するように動作を明確に区分した回路構成である。図において,商用電源の一方はダイオード701で整流され,コンデンサ702で平滑されて主電源用となる。他方はコンデンサ703を通りダイオード704,705で整流され,コンデンサ706で平滑され,制御用の電源となる。発振回路707には,疑似三角波を発生すると同時に発振停止用のリセット端子がある。第1のコンパレータ708の-端子は電源電圧を分圧し,フォトカプラ710がオフの時,等価的なデューティサイクルが50%,オンの時は0%になるように設定されている。この出力がスイッチング素子711を駆動し,このパルス電流でトランス712を駆動する。 トランス712の二次側は,ダイオード713で整流され,π型フィルタ714で平滑される。この出力電圧は基準電圧716と比較され,もし大きい場合にはフォトカプラ710のLEDが点灯する。すると制御回路のX点の電位を上げ,第1のコンパレータ708の出力のデューティサイクルが下がって二次側の電圧が下がるように,制御ループが形成されている。」(段落【0041】) 「ここで第2のコンパレータ709は,X点の電位が上がりデューティサイクルが10%を切る領域に下がろうとするとリセットをかけ,発振を停止させる。このためある値以下の消費電流では間欠発振を余儀なくされることになる。このように,デューティサイクルの少ない領域については発振停止,すなわちデットゾーンを設けることでこの領域でのスイッチングロスが低減されることになる。」(段落【0042】) 「この実施例は,間欠発振の決定を出力電圧を監視して決定するのでなく,あくまでデューティサイクルの範囲を制限することで自動的に間欠発振に移行する構成としている。この構成を達成するためには,実質的に第2のコンパレータ709を1個追加するのみという簡単な回路で達成できるので,消費電力の少ない回路で通常動作時の性能と効率を上げながら待機時の損失も少なくできる。」(段落【0044】) e 「以上の各種の実施例のように,これら発明は,間欠通電とコンデンサを通しての減電圧駆動を基本技術とし,これらがスタンバイ時の特殊性を利用して,省電力となるよう制御技術を組み合わせて達成されている。また,絶縁すなわちエネルギーを送る部分と,フィードバック用の2つのアイソレーションを取る必要があるが,これに伴う起動回路での損失の発生をリアクタンスドロッパで解決している。……。また,省電力状態から通常の使用状態などへ復帰するための制御回路の主要部を一次側に配置し,二次側には電流の検出等の必要最小限の回路構成としたことで,停電やメインスイッチのオフ後も復帰起動を問題なく行うことができる。さらには,待機時の動作に必要な電力を最小限とし,復帰動作のために必要な電力の供給はバックアップを行う構成としたことで,待機時の消費電力を更に低減することができた。」(段落【0049】) (オ) 【発明の効果】の項 「以上述べたように,この発明によれば電気機器のリモコン動作やサブスイッチ動作あるいは信号待ちなどのための待機時の電力を大幅に低減させ,機器のライフサイクルでの省電力化を達成することができる。これにより地球環境における,資源枯渇や温暖化の抑止に至る多大な効果が得られるものである。」(段落【0050】) イ 本件当初明細書には,以下の記載がある(乙1)。 (ア) 【特許請求の範囲】欄 14の請求項が記載されているところ,請求項1,2,4,5,8の記載は以下のとおりである。 「【請求項1】 商用電源を利用する電気機器において,一次側で一定時間ごと,または電流の使用状況に応じた時間間隔で間欠開閉をさせる制御回路か,電源の制御信号または電流の使用量で連続通電に移行する制御回路を有することを特徴とする省電力電気機器またはその電源装置。」「【請求項2】 商用電源を利用する電気機器において,一次側で一定時間ごと,または電流の使用状況に応じた時間間隔で間欠発振をさせる制御回路か,電源の制御信号または電流の使用量で連続通電に移行する制御回路を有することを特徴とする省電力電気機器またはその電源装置。」「【請求項4】 商用電源を利用する電気機器において,商用電源と接続された一次側に間欠制御をする回路を配置し,この制御回路駆動用の電源も一次側に配置したことを特徴とする省電力電気機器またはその電源装置。」 「【請求項5】 商用電源を利用する電気機器において,商用電源と接続された一次側に間欠通電する素子を配置し,この素子の制御用の電源としてまたはこれらの起動用として,一次側からコンデンサのリアクタンス分を流れる電流を用いたことを特徴とする省電力電気機器またはその電源装置。」 「【請求項8】 間欠通電または減圧制御のためのオン,オフ信号,もしくはこれらの開始や終了の信号が,二次側からフォトカプラを用いて一次側に伝達されるものであるところの請求項1ないし7に記載の省電力電気機器またはその電源装置。」 (イ) 【発明の属する技術分野】,【従来の技術】,【発明が解決しようとする課題】【課題を解決するための手段】【発明の実施の形態】【実施例】【発明の効果】の項 本件明細書と同様の記載がされている。なお,段落【0011】ないし【0024】には,14の発明の構成が記載されているが,これは各請求項に対応するものである。 ウ 原告は,本件特許出願において,平成12年6月19日付け手続補正書によって特許請求の範囲の変更を求めたところ,同補正書には以下の記載がある(乙4)。 「【請求項11】 交流の商用周波数で動作可能なトランスと,前記トランスの2次側に配置した整流回路と,前記トランスの1次側に電流供給する交流電流ラインを開閉する双方向性の開閉素子と,前記開閉素子の動作を制御する制御回路とを具える電源装置において,前記制御回路が少なくとも前記電源装置がスタンバイ状態にあるか,あるいは少なくとも前記電源装置に生じる負荷が小さい場合に,前記開閉素子を間欠的に開閉させるよう制御し,前記トランスの2次側に電荷蓄積素子を設けて前記開閉素子が間欠的に開閉している時でも連続する直流出力を得るようにしたことを特徴とする電源装置。」 「【請求項12】 請求項11に記載の電源装置において,前記商用電源にコンデンサの一端を接続し,当該コンデンサを流れる交流電流を整流して制御用電源を作り,当該制御用電源にて前記制御回路を駆動することを特徴とするスイッチング電源装置。」 「【請求項13】 請求項11又12に記載の電源装置が更に,前記電源装置の負荷電流又は負荷電圧を検出する負荷電流または負荷電圧検出回路を具え,前記制御回路が前記負荷電流又は負荷電圧検出回路で検出した負荷電流または負荷電圧に応じて前記開閉素子を間欠的に開閉させるように制御することを特徴とする電源装置。」 エ 原告は,本件特許出願において,平成13年3月13日付け手続補正書によって前記ウの請求項11ないし13を,以下に記載のとおり,本件特許発明1ないし3記載の特許請求の範囲に補正した(乙9)。 「【請求項1】 商用電源と,当該商用電源を整流する第1の整流回路と,前記商用電源に接続されたトランスと,前記第1の整流回路の出力を受けて間欠的に動作するパルス発生器と,当該パルス発生器の出力に応じて前記トランスへの電流供給をスイッチングする双方向性の開閉素子と,前記トランスの二次側出力を整流する第2の整流回路とを具え,前記商用電源と第1の整流回路との間に直列にコンデンサを設けると共に,前記第2の整流回路の下流側に電荷蓄積素子を設け,前記開閉素子がオフの間,前記電荷蓄積素子に蓄積した電荷を出力することを特徴とする電源装置。」 「【請求項2】 請求項1に記載の電源装置において,前記開閉素子が1の回路で構成されていることを特徴とする電源装置。」 「【請求項3】 請求項1または2に記載の電源装置が更に,前記電源装置の負荷電流を検出する負荷電流検出回路を具え,前記制御回路が前記負荷電流検出回路で検出した負荷電流に応じて前記開閉素子を間欠的に開閉させるように制御することを特徴とする電源装置。」 (3) 上記認定事実を前提に,構成要件1-Dの意義を解釈する。 ア 本件明細書の【発明が解決しようとする課題】【課題を解決するための手段】の項の記載によれば,本件特許発明1は,待機中の電気機器の電源を一次側で間欠通電(間欠開閉と間欠発振の双方を含む。)させることによって,最小限の電力供給状態を安定して作り出して,待機電力を低減させるものであり,間欠通電のための制御回路を電源の一次側に設置するものである(本件公報4欄9行目から28行目【0007】から【0009】参照。)。また,本件特許発明1の構成は,一次側に電源回路を開閉する素子を配置し,その制御用の電源として一次側の電源を使用するものであるとされている(本件公報4欄33行目から36行目【0009】参照。)。 したがって,これらの記載からは,本件明細書には,一次側で間欠通電をさせるための制御回路を設け,この制御回路は一次側の電源を使用する構成の発明が開示されていることが導かれる。 イ 本件明細書の【実施例】の項では,以下の実施例が開示されている。 (ア) 実施例2 a 制御用電源として,コンデンサ203に蓄えられた電圧が,シュミットトリガーインバータ205を用いた発振器を動作させ,スイッチング用のMOSFET206をドライブする。一方,(二次側の)シュミットトリガー回路211に入った電圧は,設定された電圧以上に高くなり過ぎると,フォトカプラ212が点灯し,スイッチング用のMOSFET206にパルスが入るのを止めて,スイッチング動作を停止させて,シュミットトリガー回路211に入る電圧も低下させるという構成によって,間欠通電を行い,一次側の消費電流を格段に低減させるものである。 b したがって,実施例2においては,一次側に「シュミットトリガーインバータ205を用いた発振器」が存在するものの,一次側の間欠通電を行わせているのは,二次側の「シュミットトリガー回路211」であるものというべきである。そして,この二次側の「シュミットトリガー回路211」には,二次側から電源が供給されている。 (イ) 実施例3 a 全波整流のダイオード301にて整流され,コンデンサ203に蓄えられた電圧が,シュミットトリガーインバータ205を用いたパルス発生器を動作させ,この電圧がフォトカプラ302のLEDを点灯させ,LEDの点灯時間が短く設定されていることから,フォトカプラ302の双方向性サイリスタのオン時間が短かくなって,励磁電流による消費電力を減少させている。 b したがって,実施例3においては,「シュミットトリガーインバータ205を用いたパルス発生器」が存在するものの,「フォトカプラ302のLED」の点灯時間を短く設定することによって間欠動作をもたらしているのであるから,「シュミットトリガーインバータ205を用いたパルス発生器」自体は,連続的に動作しているというべきである。 (ウ) 実施例6 a 実施例3に関連する実施例であるところ,バイナリカウンタ601とゲート回路602によって,64波中2波分の時間だけを規則的なタイミングで通電させている。 b したがって,実施例6においては,「バイナリカウンタ601」と「ゲート回路602」によって,64波中2波分の時間だけが,規則的なタイミングで通電されるのであるから,これらが「パルス発生器」に相当すると考えられる。そして,「バイナリカウンタ601」と「ゲート回路602」により,規則的なタイミングで通電させていることからすると,「バイナリカウンタ601」と「ゲート回路602」がパルスを発生させているのであって,その動作は連続的というべきである。 (エ) 実施例7 a コンデンサ706で平滑された制御用の電源を受けた発振回路707,第1のコンパレータ708が,フォトカプラ710がオフの時,スイッチング素子711を駆動し,このパルス電流でトランス712を駆動する。トランス712の二次側の電圧が上がると,フォトカプラ710のLEDが点灯し,制御回路のX点の電位を上げ,第1のコンパレータ708の出力のデューティサイクルが下がって(回路を切って)二次側の電圧が下がるように,制御ループが形成されている。ここで第2のコンパレータ709は,X点の電位が上がりデューティサイクルが10%を切る領域に下がろうとするとリセットをかけることによって,発振を停止させ,間欠発振とするものである。 b したがって,実施例7においては,「発振回路707」は,第2のコンパレータが所定の電位にまで上がると停止させられるのであるから,間欠動作している。しかし,「スイッチング素子711」に流れる電流の向きは一方向なので,スイッチング素子は双方向である必要はなく,構成要件1-Eと整合しない。 ウ 前記イのとおり,各実施例の回路構造とその動作・作用は異なっていて,本件特許発明1の実施例たり得るかどうか疑問のあるものも含まれている。一方,原告は,平成13年3月13日付け意見書(乙10)において,「請求項1〜5に記載の内容は,図3及び図6に開示されております」と記載している。このような出願経過にかんがみれば,原告が実施例であることを明示した実施例3及び6のみが,本件特許発明1の内容を開示しているものとして解釈すべきであるから,実施例3及び6に開示された内容と整合するように本件特許発明1の技術的意味を解釈するのが,合理的というべきである。 エ ところで,「間欠的に動作するパルス発生器」の通常の技術的意味は,「1つのパルスを発生するもの」あるいは「一定の周期のパルスを発生するもの」を間欠的に動作させているものというべきであるところ,前記のとおり,実施例3及び6における「パルス発生器」に相当する部分は,連続的に動作しているものである。 したがって,構成要件1-D「間欠的に動作するパルス発生器」を,通常の意義どおり,「パルス発生器が間欠的に動作している」と解することは,実施例3及び6に記載された技術内容に照らすと困難といわざるを得ない。また,構成要件1-D「間欠的に動作するパルス発生器」を単なる「パルス発生器」と解することは,あえて設けられた「間欠的に動作する」との文言を有名無実化するものであって相当でない。 そこで,本件明細書の記載をさらに検討すると,一次側で間欠通電をさせるための制御回路を設け,この制御回路は一次側の電源を使用する構成の発明が開示されていること(前記ア),実施例3及び6においても,一次側を間欠通電させることによって消費電力の低減を図っていること(前記イ,(イ)(ウ))に照らせば,構成要件1-D「間欠的に動作するパルス発生器」については,これを,「一次側を間欠的に動作する(させる)パルス発生器」と解するのが相当である。実際,このように解すれば,前記アの本件明細書記載や前記イの他の実施例とも整合的に構成要件1-Dを理解することが可能である。また,本件特許発明1に対応する平成12年6月19日付け手続補正書における【請求項11】(前記(2),ウ)では,「トランスの一次側に電流供給する交流電流ラインを開閉する双方向性の開閉素子」と「前記開閉素子の動作を制御する制御回路」について,「制御回路が開閉素子を間欠的に開閉させるよう制御」するのであるから,制御回路が一次側回路を間欠動作させることが前提となっていると解されるところ,前記の構成要件解釈は,出願過程において原告が開示していた技術内容とも整合するものである。 オ 次に,構成要件1-D「第1の整流回路の出力を受けて」の意義についてであるが,本件明細書には,一次側で間欠通電をさせるための制御回路を設け,この制御回路は一次側の電源を使用する構成の発明が開示されている(前記ア)。 そして,実施例3において,構成要件1-D「パルス発生器」に相当する「シュミットトリガーインバータ205を用いたパルス発生器」は,「全波整流のダイオード301にて整流され,コンデンサ203に蓄えられた」電圧によって動作するのであるから,「第1の整流回路の出力を受けて」いる。また,実施例6においても,構成要件1-D「パルス発生器」に相当する「バイナリカウンタ」と「ゲート回路」は,実施例3と同様,「全波整流のダイオード301にて整流され,コンデンサ203に蓄えられた」電圧によって動作するのであるから,「第1の整流回路の出力を受けて」いる。したがって,構成要件1-D「第1の整流回路の出力を受けて」とは,「パルス発生器が第1の整流回路の出力を受けて動作していること」と解するのが相当である。そして,このような解釈は,本件当初明細書記載の請求項(前記(2),イ)において,一次側に電源回路開閉の素子を配置し,この素子を間欠開閉・間欠発振させる制御回路やその制御用の電源として一次側を用いる構成が記載されていること,本件特許発明1に対応する平成12年6月19日付け手続補正書における【請求項11】(前記(2),ウ)では,「前記制御回路が少なくとも前記電源装置がスタンバイ状態にあるか,あるいは少なくとも前記電源装置に生じる負荷が小さい場合に,前記開閉素子を間欠的に開閉させるよう制御」するのであるから一次側回路から電源の供給を受けることが前提となっていること等の出願経過に照らしても,採用できるものである。 なお,前記のように解した場合,実施例2において,一次側を間欠的に動作させているものは,二次側のシュミットトリガー回路211であることから,実施例2は,本件特許発明1の実施例ではない結果となる。しかし,本件明細書の各実施例は,出願当初から同一の内容として記載されているものであって,本件特許権1の技術内容を適切に示すものであるか疑問のあるところである。しかるところ,原告が,手続補正時において,実施例3と実施例6が本件特許発明1の内容を開示するものであると明示したことに照らせば,【課題を解決するための手段】の項に記載された技術内容,実施例3及び実施例6の内容を基に,本件特許発明1の技術的範囲を確定することが相当というべきである。 カ したがって,構成要件1-D「前記第1の整流回路の出力を受けて間欠的に動作するパルス発生器」とは,「第1の整流回路の出力を受けて動作し,回路の一次側を間欠動作させるパルス発生器」であるものと解するのが相当である。 キ なお,被告は,構成要件1-Dの「パルス発生器」とは,動作電圧が供給された時には自らパルスを発生するものであるとも主張するが,技術常識や本件明細書の記載に照らせば,「パルス発生器」は自らパルスを発生するものに必ずしも限られないというべきである。 3 争点4(被告各製品が本件各特許発明の技術的範囲に属するものかについて) (1) 前掲「判断の前提となる事実」(前記第2,1,(6))に甲9及び弁論の全趣旨を総合すれば,被告各製品の回路構成と動作は,次のとおりと認められる。 被告各製品における電源装置は,待機モード時において,二次側回路中のP点の電位(コンデンサC12に蓄積された電荷量)を観測しており,P点の電位がしきい値より低いときは,二次側回路中のPC1のフォトカプラがオフになり,これがPC1の受光素子を通して一次側回路に伝達されて,トランスT3の一次側を導通状態に導く結果,一次側から二次側への電力供給が開始される(別紙被告製品目録の「状態A」)。一方,P点の電位がしきい値より高いときは,二次側回路中PC1のフォトカプラがオンになり,これがPC1の受光素子を通して一次側に伝達されて,トランスT3の一次側を非導通状態に導く結果,一次側から二次側への電力供給が停止される(別紙被告製品目録の「状態B」)。 (2) 前記(1)記載の事実によれば,被告各製品における電源装置の動作は,二次側回路中におけるP点の電位と基準電位(しきい値)との比較結果に基づいて,フォトカプラPC1をオン・オフ切替制御するものであって,いわゆるコンパレータを構成する制御回路である。すなわち,被告各製品は,二次側の電圧をコンパレータを用いて検出しており,その結果に応じてパルスを発生して,一次側の通電・非通電を決定する構成である。そうすると,本件特許発明1の「パルス発生器」に相当するのは「二次側のコンパレータ」であって,この「二次側のコンパレータ」は,二次側から電源の供給を受けているものであるから,被告各製品は,構成要件1-Dの「第1の整流回路の出力を受けて」を充足しないというべきである。 (3) この点に関して,原告は,「被告各製品は,二次側でコンパレータを構成する制御回路と一次側に設けた「増幅器」と「負荷抵抗」(あるいは,フォトカプラの一次側の素子(トランジスタ)と負荷抵抗による増幅器)とで構成するパルス発生器を具備しており,このパルス発生器を構成する「増幅器」と「負荷抵抗」(あるいは,フォトカプラの一次側の素子(トランジスタ)と負荷抵抗による増幅器)は,第1の整流回路の出力を受けて動作している。」旨を主張する。 しかし,本件特許発明1は,パルス発生器の出力に応じて回路の一次側に間欠通電を生じさせるものであるところ,原告の主張によっても,被告各製品においてパルス発生器の中心をなすのは,二次側の電位を検出して動作する「二次側のコンパレータ」というべきである。そして,かかる「二次側のコンパレータ」が二次側から電源の供給を受けていることは明らかである。さらに,原告自身,本件明細書の実施例3の説明において,「シュミットトリガーインバータ205を用いたパルス発生器」と「フォトカプラ302のLED」を点灯させる構成とを分けて記載しているのであって,後者が前者に包含されないことを前提としていることがうかがえる。したがって,一次側の「増幅器」と「負荷抵抗」(あるいは,フォトカプラの一次側の素子(トランジスタ)と負荷抵抗による増幅器)が一次側から電源の供給を受けていれば,本件特許発明1における「パルス発生器」の要件を満たすとの原告の主張は,採用できない。 (4) 上記によれば,被告各製品は,構成要件1-Dの「第1の整流回路の出力を受けて」を,充足しないものである。 4 結論 以上のとおり,被告各製品は,構成要件1-Dを充足しないことから,本件特許発明1の技術的範囲に属さないものである。そして,本件特許発明2及び同3は,その構成の一部として本件特許発明1の内容を引用するものであるから,被告各製品が,本件特許発明2及び同3の技術的範囲に属さないことも明らかである。 また,上記のとおり,被告各製品は本件各特許発明の技術的範囲に含まれないのであるから,本件出願公開後設定登録前の期間についての補償金請求に理由がないことも,明らかである。 以上によれば,原告の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。 よって主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 三村量一 |
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裁判官 | 鈴木千帆 |
裁判官 | 古河謙一 |