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事件 昭和 43年 (ワ) 3460号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1969/06/09
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 被告は、業として、別紙各図面及び写真並びに「イ号装置の説明書」に記載した物件を部分として含むボーリング用自動ピン立て装置を使用してはならない。
被告は、別紙各図面及び写真並びに「イ号装置の説明書」に記載した物件を前項のボーリング用自動ピン立て装置から取り外してこれを廃棄せよ。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第一、原告訴訟復代理人は主文と同旨の判決を求め、被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二、原告訴訟復代理人は、請求原因及び被告の抗弁に対する答弁として次のとおり述べた。
一、請求原因(一) 原告は、ボーリング用機械装置の製造販売等を主目的とするアメリカ合衆国の法人であるが、日本において次の特許権を有している。
発明の名称 ボーリング用自動ピン立て装置特許番号 第三〇八、三三三号出願日 昭和三五年三月三一日出願公告日 昭和三七年八月一一日(昭和三七-一〇八三七号)原簿登録日 昭和三八年四月二四日右特許の願書に添付した明細書には特許請求の範囲として次のとおり記載されている。
「枠構と、この枠構に装架されアレー床に対し接近し離遠するピンデツキと、このデツキに作動的に連結されたピンと、このピンを摺動自在に収容する溝付リンクと、前記ピンと選択自在に係合し得る鈎子と、前記リンクにデツキをピン立て高さに移動するための動程を付与し前記鈎子にこれより短い動程を付与するクランク装置と、第一ボール転送後デツキ下降前に鈎子をピンと係合させてデツキにピン立て行程より短い検出行程をなさしめる装置とを包含するボーリング用自動ピン立て装置」 本件特許発明は、クランク装置によつて回転する鈎部材機構と、溝付リンク(長孔付リンク)機構を用いてデツキの上下運動の距離を長行程、短行程いずれにも選択的に作動させ得る作用効果を有する。
(二) 被告は、中古品である別紙各図面及び写真並びに「イ号装置の説明書」に記載した装置(以下イ号装置という)を含むボーリング用自動ピン立て装置二二組を外国から輸入し、その肩書地の営業所においてこれをボーリング遊戯場営業のために使用している。
イ号装置は、本件特許明細書の「発明の詳細なる説明」の項に記載されている実施例そのものであつて、その特許請求の範囲に記載されている特許発明の要件を全部そのまま具えている。すなわち、イ号装置は別紙図面及び説明書によつて明らかなように、「枠構95と、この枠構95に装架されアレー床1に対し接近し離遠するデツキIと、このデツキIに作動的に連結されたピン113と、このピン113を摺動自在に収容する溝付リンク114と、前記ピン113と選択自在に係合し得る鈎子304と、前記リンク114にデツキIをピン立て高さに移動するための動程を付与し前記鈎子304にこれより短い動程を付与するクランク装置(軸309、腕310、従動ローラー311、棒320、抑止部材321、外方に伸びたピン322、抑止部材321の腕324及び係止子325)と第一ボール転送後デツキI下降前に鈎子304をピン113と係合させてデツキIにピン立て行程より短い検出行程をなさしめる装置(クランクピン302、クランク円盤303、カム312及び軸173)とを包含するボーリング用自動ピン立て装置」である。
また、イ号装置は、前記のように本件特許明細書に示された実施例に記載されているとおりの装置であることから、その作用効果も本件特許発明のそれと全く同一である。
従つて、イ号装置は本件特許の実施品である。
(三) 被告が右イ号装置を業として使用する行為は、原告の有する本件特許権の侵害にあたるから、原告は本訴において被告に対し、右侵害行為の停止と侵害の行為を組成し及び侵害の行為に供した設備の除却を求める。
二、被告の抗弁に対する答弁(一) 被告主張(一)の事実中、原告がオーストラリアにおいて本件特許にかかる発明と同一の発明につき特許権を有すること、
イ号装置が右オーストラリア特許権の実施権者であるブラツクロツク社の製品であること(もつとも、ブラツクロツク社は右特許権について原告から直接に実施許諾を受けたのではなく、原告から実施許諾を受けたBICA社から実施地域をオーストラリア及びその領土、ニユージランド、インドネシア共和国並びにマラヤ連邦に限定して再実施許諾を受けた者である)、右ブラツクロツク社は一九五九年にオーストラリアにおいて設立された会社であつて、設立当時の商号は被告主張のとおりであつたこと、同社の設立に際しBICA社が一部出資したこと、BICA社は原告がヴエネズエラにおいて設立し、その全株を保有している会社であることは、いずれもこれを認める。ブラツクロツク社が原告主張(2)の経過により、中古ボーリング装置をオーストラリア以外の諸国に販売することを企画したとの点は不知。
その余の事実はすべて否認する。
イ号装置は、ブラツクロツク社がオーストラリア内において販売し、これを購入した者が香港の第三者に転売し、被告において右第三者から買い受けてこれを取得したのであつて、その間BICA社が右売買に関与したことは一度もない。ブラツクロツク社は完全に自主独立の法人であり、その経営につきBICA社から何等の支配も受けていないし、またBICA社は原告と別個の法人であつて、原告が日本において有する本件特許権については何等の権利も権限も有せず、本件において原告と同一又はこれと同視すべき地位にあるものではない。
(二) 被告主張(二)の事実はすべて否認する。【A】はBICA社を代理する権限を有しないのみならず、同人が被告に対するイ号装置の売渡しにつき承諾を与えた事実もない。
(三) 被告主張(三)冒頭の事実関係は争わないが、その法律上の主張は明らかに失当である。
(1) 各国の特許は互いに独立している(パリ同盟条約第4条の2)。日本の特許庁の付与した特許の効力が日本の主権の及ぶ地域的範囲に制限せられ外国に効力を及ぼすことがないと同時に、オーストラリアにおいて付与せられた特許の効力の地域的範囲も、また、オーストラリアの主権の及ぶ範囲に限定せられ、わが国内にその効力を及ぼすことはない。原告はBICA社に対しオーストラリア特許権の実施を許諾し、BICA社が更にブラツクロツク社に対し実施地域をオーストラリア等に明示的に限定して再実施を許諾したことはあるが、BICA社に対してもブラツクロツク社に対しても日本の特許権の実施を許諾したことはないのであるから、
イ号装置についてオーストラリア特許権の使い尽しの事実があつたとしても、それはオーストラリア特許権の効力の及ぶ地域的範囲内限りの問題であつて、日本国内における原告の本件特許権に基づく独占権又は排除権に対しては何等の影響をも及ぼすものではない。日本の特許法は、日本における発明の保護及び利用を図ることにより、日本における発明を奨励し、もつて日本の産業の発達に寄与することを目的とするのであつて、オーストラリアにおける発明の保護及び利用等は日本特許法のあずかり知らぬところである。従つて、原告がイ号装置につきオーストラリアにおいて同国の特許権による保護を受け終つたとしても、イ号装置が日本に輸入された場合日本の特許権による保護を受けることは、些かも条理に反するものではない。
(2) 被告は、商標権については、いわゆる真正商品の場合、属地主義の原則はその機能をほとんど停止している旨主張するが、それは被告のいわれなき偏見である。いわゆる真正商品についても商標権属地主義は妥当する。少なくともわが国においては、いわゆる真正商品の輸入に当り日本の商標権が無視せられた実例を見ないのであり、たとえ若干の外国において、いわゆる真正商品に関する商標権の独立に反対する見解が公けにされたことがあるとしても、それはヨーロツパの二、三の国に現われた異説であつて、世界的に見れば極めて少数の意見にすぎない。また、被告の引用するオランダの「コンストルクタ」事件の判決は、「オランダ特許の権利者は、彼がドイツで製造し市場に流通せしめた特許製品がオランダにおいて販売されるのを仮処分により妨げることはできない。」という内容のものであるが、その前提事実として、次の二つの条件が兼備されていることを看過してはならない。すなわち、その一は、製造販売された国と輸入された国とが共にEWC条約に加盟していて、共同市場を形成していることであり、その二は、同一商品についての同一発明につき、ドイツの特許権を有すると共にオランダにおいても特許権を有する者自身がドイツ国内において製造販売した物が、オランダ国内に輸入された事案であるということである。これに反して本件においては、製造国オーストラリアと輸入国日本との間には条約等による共同市場が形成されていないし、オーストラリアにおいて特許発明実施したのはブラツクロツク社であつて原告自身ではないから、右判決例は本件と事案を異にし適切でない。
(3) EWC条約によつて、同条約加盟国相互間の競業政策に新しい秩序が樹立され、ことに同条約第86条によつて属地主義の限界に新しい特定がもたらされたことは事実であるが、これは同条約加盟国相互間においてのみ拘束力があるにすぎず、EWC条約のような条約を締結していない日本とオーストラリアとの間においては、パリ同盟条約第4条の2所定の特許独立の原則がそのまま厳として適用されなければならない。けだし、憲法第98条第2項は、「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」と規定し、特許法第26条には、「特許に関し条約に別段の定めがあるときは、その規定による」旨が明記されている。そして、パリ同盟条約第4条の2はまさに条約に規定された「別段の定」であり、日本国内法の内容をなしているのであるから、同盟国である日本における出願にかかる同盟国アメリカの国民である原告の本件特許権は、
同一の発明について、オーストラリアにおいて取得した特許権から独立したものとし、しかもこれは厳格に解釈されねばならぬからである。
以上を要するに、たとえ本件イ号装置を含むボーリング装置がオーストラリア特許権の実施品であり、それが正当にオーストラリア国内において流通に置かれたものであつたとしても、そのために日本における本件特許権の消耗を来すべきいわれはなく、右製品を日本国内において業として使用する行為が正当化されるものではない。
第三、被告訴訟代理人は、請求原因に対する答弁並びに抗弁として次のとおり述べた。
一、請求原因に対する答弁 原告主張の請求原因(一)の事実中、原告がボーリング用機械装置の製造販売等を主目的とするアメリカ合衆国の法人であることは知らない。その余の事実及び請求原因(二)の事実はこれを認める。
二、抗弁 被告がイ号装置を業として使用する行為は、次の理由により、原告の有する本件特許権の侵害にあたらない。
(一) 被告は、イ号装置を日本国内において訴外ブラツクロツク・インダストリーズ・ブロプライエトリー・リミテツド(以下ブラツクロツク社という)及び原告と同一視すべき訴外ブランズウイツク・インターナシヨナル・シー・エー(以下BICA社)という)から買い受けたものである。
(1) イ号装置は、原告がオーストラリアにおいて有する本件特許発明と同一内容の特許権についての実施権者であるブラツクロツク社の製造にかかるものであるが、同社は、一九五九年にオーストラリアにおいて、BICA社(原告がヴエネズエラにおいて設立し、その全株式を保有している子会社)と訴外【B】ほか二、三の者の協力により、原告のブランズウイツク・ボーリング装置の製造販売を目的として設立された会社(設立当時の商号はブランズウイツク・オブ・オーストラリア・ブロブライエトリー・リミツテツドであつたが、その後現在のように商号を変更した)であつて、BICA社において株式の二二%を現在も保有し、役員を派遣してその経営を支配しているBICA社の姉妹会社である。
(2) BICA社及びブラツクロツク社はオーストラリアにおけるボーリング市場を過大評価し、急速にボーリング装置の販売を拡大したため、その代金の回収が不能となり、ブラツクロツク社は倒産寸前の状態となつた。そこで、BICA社及びブラツクロツク社は損害を回避する唯一の手段として、代金未収のボーリング遊戯場から使用済の装置を回収して、これをオーストラリア以外の諸外国のボーリング遊戯場経営者に販売することを企画し、一九六五年初夏頃から日本を含む全極東の地域において買手を探していたのである。
(3) 被告は、たまたま昭和四二年七月頃右の事実を聞知し、売主本人の来日を求めて商談の結果、同年一〇月一〇日被告会社本店において、ブラツクロツク社代表者兼BICA社代理人たる【B】との間に、被告が右ブラツクロツク社及びBICA社から本件イ号装置を含むボーリング用ピンセンター二二組及び付属機械(以下これを一括して本件ボーリング機械という)を代金一〇万ドルで買い受ける旨の契約を締結し、同月一六日その旨の契約書が作成された。もつとも、右売買契約書のうえでは、売主デイヴイツド・バーギン・アンド・カンパニーとなつており、同会社の代理人として【C】がこれに署名しているが、同会社の代表者たる【D】はブラツクロツク社の香港における顧問弁護士であり、ブラツクロツク社からボーリング機械の保管方を委託され、且つ輸出等の手続を代行していた者にすぎないし、
前記【C】なる者はブラツクロツク社の社員であり、同人において契約締結の保証金三六〇万円を被告から直接受領しているから、デイヴイツド・バーギン・アンド・カンパニーは単なる名義上の売主であつて、実質上の売主はブラツクロツク社及びBICA社であるというを妨げない。本件ボーリング機械は右契約に基づき被告において同年一二月五日頃入手し、同月二三日から被告の経営するボーリング遊戯場にブラツクロツク社から派遣された技師の手により備え付けられたものである。
(4) 以上によつて明らかなとおり、イ号装置を含む本件ボーリング機械は、ブラツクロツク社及びBICA社の日本国内における共同販売行為により被告に売り渡されたものである。しかして、BICA社と原告は一応別人格の法人となつているけれども、本件におけるBICA社の存在は、会社という法形態の濫用であり、
且つ、株主たる原告の業務及び財産とBICA社の業務及び財産とは事実上混同されていて区別できないことが明白であるから、法人格否認の法理により、BICA社の実体は原告と同一視すべきである。
(二) かりに、原告と同一視すべきBICA社が被告に対する本件ボーリング機械の売主の一員でなかつたとしても、右売買は同社の承認のもとに行なわれたものである。
すなわち、同社の代理人【A】は昭和四二年七月頃ブラツクロツク社に対し口頭で被告に対する本件ボーリング機械の売渡について同意を与え、少なくともその頃黙示の承諾を与えていた。
(三) かりに以上の主張が理由がないとしても、イ号装置に対する原告の特許権は既にオーストラリアにおいて使い尽されている。
前述のとおり、原告はオーストラリアにおいて、本件特許発明と同一内容の発明につきオーストラリア特許権を有し、イ号装置は原告のオーストラリア特許権の実施権者であるブラツクロツク社によりオーストラリア国内においていつたん正当な流通に置かれた製品である。故に、イ号装置は既に販売に供せられた瞬間に同国の特許権の拘束から解放されたものである。
ところで、同一の発明につき数箇国において特許が付与されている場合、一国における特許権の消耗は当然には他国における特許権の消耗を来すものではないが、
本件のように、各国における特許権が同一人に帰属している場合には、特許独立の原則の適用があるかどうか極めて疑問であり、以下に述べる理由により、一国において公然と取引された特許製品については、その国の特許権ばかりでなく、他国における特許権も同時に使い尽され、爾後その製品はいかなる国の特許権の拘束も受けることなく、自由に取引、使用することができるものと解するのが正当と信ずる。
(1) 現代の世界的規模をもつ巨大企業により、同一内容の特許権が各国において取得されている場合、そのうちの一国における製品が転々として他国に輸入されるごとに、同一製品につき同一の権利者が実施料を重ねて取得することは条理上極めて不合理であり、かかる不合理を許すことは取引の安全と自由競争を著るしく阻害し、却つて特許制度の目的とする産業の発達を妨げる結果を招くもので、到底認容できない。
(2) 工業所有権の属地主義並びにパリ条約第4条の2に規定されているその独立の原則は、あえて特許権に限らず商標権についても妥当するにも拘らず、商標権については、いわゆる真正商標理論によつて、現実には一国一商標主義、属地主義の原則は殆んど認められなくなつている。すなわち、一国の登録商標権者から右商標を付せられた商品を買い受けた者は、これを同一会社、子会社又は姉妹会社が登録権者となつている他国に無断で輸入しても、その他国における登録商標権侵害とならないことは国際的に承認された理論である。特許権についてもこの法理の適用を妨げる理由はなく、現にオランダにおいては、いわゆる「コンストルクタ」事件の判決において、明白に特許独立の原則の不適用が示されている。
(3) 一九五七年のベルギー、ドイツ、フランス、イタリア、ルクセンブルグ及びオランダの六箇国による欧州経済共同体条約(EWG、いわゆるローマ条約)の加盟国間においては、一国において保護された製品が一度適法に取引されたならば、右六箇国の全共同市場において何ら阻害されることなしに販売することができるものとされ、この意味においては属地主義の原則が適用される余地は極めて少ないものと解されている。国際的企業の世界市場への進出は、各国内の自由競争を著るしく圧迫する結果を生じ易いが、右のように最近この弊害を是正しようとする傾向が次第に見受けられることは、EWG条約に加盟していないわが国においても十分に参酌されて然るべきものである。
これを要するに、本件においては、単純に特許権の属地主義の原則ないしパリ同盟条約上の各国特許の独立の原則のみに依拠して、被告の行為を本件特許権の侵害であるとするのは誤りであり、いずれにしても原告の如き世界的企業者が自己の世界市場の獲得に失敗した結果、その喪失利益を回復せんとして種々画策し、その結果として善意の第三者である被告に致命的損害を与えることは、いかに特許法の分野であるからといつて是認されてよい道理がない。
第四、(証拠省略) 理 由一、原告がボーリング用自動ピン立て装置の発明につき特許番号第三〇八、三三三号、出願日昭和三五年三月三一日、出願公告日昭和三七年八月一一日、原簿登録日昭和三八年四月二四日なる特許権を有していること、右特許の願書に添付した明細書には、特許請求の範囲として原告主張のとおりの記載があり、右発明の果す作用効果も原告主張のとおりであること、被告が中古品であるイ号装置を含むボーリング用自動ピン立て装置二二組を外国から輸入し、その肩書地の営業所においてこれをボーリング遊戯場営業のために使用していること、イ号装置は本件特許明細書の「発明の詳細なる説明」の項に実施例として記載されているものと全く同一構造の製品であつて、本件特許請求の範囲に記載されている要件をそのまま具え、その作用効果も本件特許発明のそれと同一であり、要するに本件特許発明実施した製品であることは、いずれも当事者間に争いがない。
二、被告は、イ号装置を含む本件ボーリング機械はブラツクロツク社ならびに原告と同一視すべきBICA社の日本国内における共同販売行為により被告に売り渡されたものであるから、被告がこれを業として使用することは原告の特許権を侵害するものではない旨抗争する。
そこで先ず被告の本件ボーリング機械の取得経路について検討すると、イ号装置はオーストラリアのブラツクロツク社の製品であることは当事者間に争いがないところ、いずれも成立に争いのない乙第三ないし第五号証、同第八号証、証人【E】、同【F】の各証言ならびにこれらによつて真正に成立したと認められる乙第六号証の一、二及び第七号証、被告代表者尋問の結果を綜合すると、次の事実を認めることができる。
(1) イ号装置(成立に争いのない甲第三号証によるとブランズウイツク・モデルAピンセツターと呼ばれる製品であることが明らかである)は、他の同積モデルAピンセツターと共にブラツクロツク社からシドニー市に本店を有するオリンピツク・ボーリングセンター・プロプライエトリー・リミテツド(以下オリンピツク社という)に販売され、オリンピツク社経営のオーストラリア国内のボーリング遊戯場において使用されていたものであるが、その販売代金の決済が完了しないうちに右ボーリング遊戯場が閉鎖されることとなつたため、ブラツクロツク社代表者【B】は、オリンピツク社の依頼により右モデルAピンセツター及びその付属装置をオーストラリア以外の極東地域において売却処分することを引受け、香港所在のデイヴイツド・バーキン社に対してその販売方を再委託し、昭和四二年初夏頃これを香港に輸出して同社にこれを保管させていた。
(2) その頃、被告代表者【G】は、被告経営のボーリング遊戯場で使用するボーリング機械を入手すべく、販売主を探していたが、たまたまオーストラリアに同地のブランズウイツク製中古ボーリング機械の売物がある旨を聞知し、同年七月初旬頃東京の斡旋業者に照会したところ、「オーストラリアにおけるブランズウイツク・グループは、香港にモデルAピンセツターの中古品二八台を保有しているから、それを買つて貰いたい」旨の回答に接したので、同月下旬頃から右斡旋業者を通じて売主側とボーリング機械購入の折衝を進め、台数、価格等につき相当具体的に商談がまとまつたが、目的物がブラウンズウイツク製のものに間違いないかどうかが心配であつたため、売買契約は売主と直接面談の上締結しようと考え、売主本人の来日を求めた。
(3) その結果、同年一〇月初旬頃、ブラツクロツク社代表者【B】、同社極東総支配人【C】、オリンピツク社副社長【H】、同社総支配人【I】等が来日し、
同人らと被告代表者【G】との間において代金の支払方法その他詳細な取引条件について最終的な取極めがなされ、同月一六日売主を香港のデイヴイツド・バーキン社とし、買主を被告として、被告がイ号装置二二台及びその付属機械類をデイヴイツド・バーキン社から代金一〇万ドルで買い受ける旨の契約書が作成され、右契約書に売主代理人として前記【C】が署名し、同時に被告から同人に契約保証金三六〇万円が支払われた。
(4) 右契約に基づき同年一一月初旬に香港のデイヴイツド・バーキン社から被告あてにイ号装置二二台及び付属機械類が船積発送され、同年一二月初旬頃被告においてこれを入手し、その頃ブラツクロツク社から派遣された技師の手により被告経営のボーリング遊戯場に備え付けられた。
以上のように認められ、この認定にに反する証拠はない。右事実関係に徴すると、本件ボーリング機械は、その所有者たるオリンピツク社及び同社から売却委託を受けていたブラツクロツク社の承認及び指示のもとに、香港のデイヴイツド・バーキン社から被告に売り渡されたものと認めるのが相当である。
次に、BICA社が果して被告主張のようにブラツクロツク社と共同して右売買に関与したかどうかについて検討すると、被告は、BICA社はブラツクロツク社の経営を支配しており、ブラツクロツク社と共同してオーストラリアにおけるブラウンズウイツク・ボーリング装置の中古品を諸外国に販売することを企画していた旨主張するが、右主張事実を認定しうる証拠はない。もつとも、ブラツクロツク社が一九五九年にオーストラリアにおいて当初の商号をブランズウイツク・オブ・オーストラリア・プロプライエトリー・リミテツドとして設立された際に、BICA社が一部出資したことは当事者間に争いがないけれども、成立に争いのない甲第三四号証によると、ブラツクロツク社は原告からブランズウイツク・ボーリング装置に関する特許権の実施許諾を受けたBICA社から、実施地域をオーストラリア及びその領土、ニユージーランド、インドネシア共和国並びにマラヤ連邦に限定してその再実施許諾を受け、BICA社の技術指導のもとにブランズウイツク・モデルAピンセツターを製造し、これを販売していた会社であるところ、BICA社はブラツクロツク社の全株式の議決権の二三%余を有するにすぎず、また、ブラツクロツク社の定款によると同社の業務の執行は定員三ないし七名の取締役によつて構成される取締役会の議決に基づいてなされるが、BICA社の利益代表としてブラツクロツク社に派遺されていた取締役は前後を通じ【J】ただ一名であり、ブラツクロツク社の取締役会においてBICA社の意向に添わない議決のされたことも数多くあつた事実が窺われるから、BICA社がブラツクロツク社の経営を支配していたものと認めることは到底不可能であり、従つて、ブラツクロツク社の行なう販売活動がすべてBICA社の意思に基づくものであつたと推断することは許されないものといわねばならない。却つて、成立に争いのない甲第六号証によれば、前記【J】は、ブラツクロツク社の業務執行取締役である【B】が、同社の製造したボーリングピンセツターの中古品を、取締役会の議決を経ず、かつBICA社にも隠密裡に香港に輸出しているのではないかとの疑念を抱き、昭和四二年四月から五月にかけて右【B】に対して書簡を送つて右事実の有無を追及し、同人から五月三〇日付で「ブラツクロツク社は香港にボーリングピンセツターを輸出したことはない」旨の回答を得ている事実が認められ、この事実に徴しても、ブラツクロツク社がボーリングピンセツターをその実施権を許諾された地域以外の地域において販売することはBICA社の意思に反する行為であり、BICA社がブラツクロツク社と共同してその輸出を企画したような事実は存在しなかつたことを窺うに十分である。
その他本件に顕われた全証拠をもつてしても、本件ボーリング機械の被告に対する売渡しについて、ブラツクロツク社代表者【B】がBICA社を代理して右売買につき承認及び指示を与える権限を有していたものと認めることはできないから、
BICA社がブラツクロツク社と共同して本件ボーリング機械の被告に対する売渡しに関与したことを前提とする被告の抗弁は失当である。
三、被告は、かりにBICA社が右売買に直接関与しなかつたとしても、右売買についてはBICA社の代理人【A】の承認があつた旨主張する。
成立に争いのない乙第八ないし第一〇号証、同第一二号証、証人【E】、同【F】の各証言並びに被告代表者尋問の結果を綜合すれば、
(1) 【F】は被告の本件ボーリング機械の購入を斡旋した者であるか、同人は昭和四二年七月頃ブラツクロツク社代表者【B】に対し、被告が床下ボールを返し装置付のボーリングピンセツターの購入を希望している旨連絡したところ、右ブラツクロツクから「ピンセツターは香港に在庫品があるが、付属のボール返し装置は床上式のものであるから、【A】を通じてBICA社から中古品の床下ボール返し装置を入手した上、これを香港に送り、同地にあるピンセツターのボール返し装置と取り替えて被告に提供する」との回答があり、その後香港から被告のもとに到着した本件ボーリング機械は、床下ボール返し装置付のものであつたこと(2) 右ボーリング機械が被告の経営するボーリング遊戯場に備え付けられた際、付属製品であるボールクラスターラツクが二個不足していることが発見されたので、前記【F】がオリンピツク社総支配人【I】にその旨通知したところ、
【I】は【A】を通じBICA社から中古品のボールクラスターラツク二個を買い受け、右製品が昭和四三年一月初旬頃シドニーのP・O・Bプロプライエテイを荷送人として被告のもとに空輸されて来たことをそれぞれ認めることができるけれども、【A】がBICA社を代理して本件イ号装置を含むボーリング機械の香港又は日本向けの輸出を承認する権限を有していた事実並びに同人において右(1)の床下ボール返し装置及び(2)のボールクラスターラツクが、本件イ号装置と組み合わされてオーストラリア以外の地域において使用されるものであることを知りながら、これらの製品をブラツクロツク社又はオリンピツク社に売り渡した事実は、
後記措信しない証拠を除いてはこれを認めるに足りる証拠がない。
この点につき、証人【F】は、【A】はBICA社の代表者であると共にブラツクロツク社の取締役の一員であり、右同人は前記(1)(2)の各装置がオーストラリア国外に輸出されるものであることを知りながらブラツクロツク社等にこれを売り渡したものであるかのように供述するが、右供述は成立に争いのない甲第五号証の記載と対比すればたやすく信用できず、却つて右甲第五号証によると、【A】は原告及びBICA社の製品についてのオーストラリアにおける総販売代理業者にすぎず、BICA社の代表者でないのは勿論、輸出承認の如き国外販売活動に関する事項についてBICA社を代理する権限もなかつたことが窺われるのである。
したがつて、【A】が、たとえ日本における被告のボーリング遊戯場に設置されることを知りながらブラツクロツク社やオリンピツク社に対しボールクラスターの部品を供給した事実がありとしても、右【A】の行為をもつて被告に対する本件ボーリング機械の売渡しについてのBICA社の承認に該当するものということはできないから、被告の本抗弁もまた排斥を免かれない。
四、被告は更に、イ号装置に対する原告の特許権は既にオーストラリアにおいて使い尽されているから、原告が被告の日本国内におけるイ号装置の業としての使用を本件特許権に基づいて差し止めることは許されない旨主張する。すなわち、原告がオーストラリアにおいて本件特許発明と同一内容の発明につきオーストラリア特許権を有し、イ号装置は右オーストラリア特許権の実施権者であるブラツクロツク社により製造され、いつたん同国内において正当な流通に置かれた製品であることは当事者間に争いがないところ、被告の主張によれば、イ号装置が同国内において販売に供されたことにより、オーストラリア特許権が消耗したのは勿論、日本における特許権もまた同時に消耗したというのである。
しかし、当裁判所は以下に述べる理由により、被告の右主張は理由がないものと判断する。
(一) 各国における特許権は、国家主権に基づいて付与されるものであり、特許権の効力の及ぶ範囲は、当該登録国の領土主権の及ぶ地域内に限られ、外国には及ばない。それとともに、特許権は、その登録国の特許官庁が独自の立場に立つて付与するものであるから、同一発明に対し数ケ国において特許の登録がなされている場合であつても、出題に対し審査主義を採用する国とそうでない国との間では勿論のこと、同じく審査主義を採用する国の間においても、各登録国における先行技術との関係からみても、登録国が異なるごとに特許請求あるいは特許により保護される範囲が各国の特許法により必ずしも同一ではない。故に、各国における特許権はその国の特許法に基づいて存在するものであつて、同一発明についての特許権であつても、単に外国で取得した権利を登録国がそのまま承認して保護の地域的範囲を拡大するという関係にあるものではなく、各登録国ごとにそれぞれ異なつた内容の権利として観念され、登録国の数に応じた別個独立の特許権が成立し、これらは互いに相侵すことなく無関係に併存し、ある国の特許権について生じた事由は他国の特許権の効力に影響を及ぼさないものと解すべきである。わが国の加盟しているパリ同盟条約(工業所有権の保護に関する一八八三年三月二〇日のパリ条約)第4条の2が、「(1)、各同盟国における出題に係る同盟国の国民の特許権は、同一の発明について他の国において取得した特許権から独立したものとする。(2)、
(1)の規定は、厳格に解釈するものとし、特に、優先期間中の出願に係る特許権が、無効又は消滅の理由についても、また、通常の存続期間についても、独立のものであるという意味に解釈しなければならない。」と規定しているのは、まさに右の原則を宣明したものにほかならない。
(二) 特許製品が適法に販売されるときは、特許権者はこれによつて実施の目的を達し、右製品について特許権に基づく追及権は消耗すると解されている。このことは当該製品が特許権者自身により流通に置かれたものであると特許権の実施権者により流通に置かれたものであるとを問わない。
特許権消耗論は基本たる特許権そのものに関するものではなく、当該商品限りのものである。しかし、前述のように特許権には地域上の制限があり、各国の特許権は互いに独立しているから、特許権消耗の理論が適用されるのは、その特許権の付与された国の領域内に限られると解すべきである。そうだとすれば、ある製品につき一国の特許権の消耗を来すべき事由が生じたとしても、これにより当然他国の特許権もまた消耗すると解すべきいわれはない。本件において、原告のオーストラリア特許権の実施権者であるブラツクロツク社の手によつてイ号装置が同国内で正当に販売されたことにより、右製品に対する原告のオーストラリア特許権は消耗したと認めることができるが、ブラツクロツク社は原告からブランズウイツク・ボーリング装置に関する特許発明実施許諾を受けたBICA社から、実施地域をオーストラリア等に限定してその再実施許諾を受けた者にすぎないことは既に認定したとおりであり、右再実施許諾が日本における実施まで許諾する内容のものであつたとは到底認められないから、イ号装置に対する原告の日本特許権の効力は、ブラツクロツク社のオーストラリアにおける同国特許権の実施によつて何等影響を受けるところがないものといわねばならない。
(三) 被告は、本件にように同一発明に対する各国の特許権が同一人に帰属している場合には、一国における特許権の消耗により当然他国における特許権も消耗するものと解しないと、一国における製品が転々として他国に輸入されるごとに同一製品につき同一の権利者が実施料を重ねて取得することとなり、条理上極めて不合理な結果を生ずるという。
しかし、国家は特許制度を採用して発明を公開し、国内の技術の進歩及び産業の発展に貢献したことに対するいわば代償として、特許権者に対し当該発明の実施につき独占権、排他権を与えてこれを保護している。現行の特許制度の下では、特許権者が多国に特許権を取得せんとするときは、各別にその国の法律に従つて出願をなし保護を受けなければならず、保護の利益を維持するためには各別に毎年特許料を支払わねばならないのである。
右の点を考慮に容れるときは、同一権利者が、既に甲国において実施料を取得した製品が乙国に輸入された場合に乙国の特許権に基づき実施料を取得しても、これを目して二重に利益を受けるものということはできない。けだし、甲国において取得した実施料は甲国の技術の進歩及び産業の発展に貢献した代償であり、乙国において取得すべき実施料は乙国の技術の進歩及び産業の発展に貢献した代償であるからである。従つて、かかる結果を生じてもこれを条理に反する不合理なものとするのは当らない。
被告はまた、前記のような結果を容認するときは取引の安全と自由競争を著るしく阻害し、却つて特許制度の目的とする産業の発達を妨げる結果を招来するというが、特許権が他人の競業を排除する意味で国内における自由な競争の領域を狭めることは、特許制度が本来これを予定しているところであり、また、各国の特許法は自国の産業保護立法の色彩を有し、多かれ少なかれ国際間の自由競争とは相容れない性質を備えているのである。近時国際間の通商貿易の拡大によつて流通市場の国際的統合化現象が進展しつつあること、国際的規模を有する大企業が各国において得た特許権に基づき、製品を販売し、輸出し、あるいは傘下企業をして特許権を実施させることにより国際的市場においての優越的地位を獲得しようとしていることはいずれも顕著な事実であるが、このような特許権の経済的利用方法も、それが特許法が認めた固有の権利内容の実現行為の範囲内に止まる限りは、これを抑止すべき理由を見出しえないのである。また、特許権が取引の安全を阻害することを免れないのは、例えば国内において製造販売された特許の侵害品を善意で買い受け業として使用する場合においてもみられる問題であつて、特に国際的取引の場合のみに限つて生ずる国際特許法固有の問題ではない。要するに、被告の指摘する諸点は、
すべて特許制度の反面として認容されている必要悪ともいうべきものであつて、これを不合理として内国特許制度そのものの否定に通じる議論であるといわなければならない。
(四) 商標権については、いわゆる真正商品の輸入が国内の商標権侵害を構成するか否かの問題につき、ヨーロツパの諸国において属地主義の適用との関連をめぐつて相対立する見解が公表されているが、右問題を消極に解する議論も、その多くは、商標制度の目的が専ら商品の識別機能による需要者の保護にあるとし、これを出発点として、各国の市場が統合化されつつある現代においては、商標権属地主義も国際間の自由取引の前には一定の譲歩をなすべきであると結論するものであつて、商標と全く制度の目的、本質を異にする特許について、右の理論を類推するのは正当でない。
また、被告主張の「コンストルクタ」事件の判決は、ドイツ及びオランダ両国において特許権を有する債権者(コンストルクタ)が、ドイツ国内において自己の販売した洗濯機の特許製品がオランダに輸入されて販売されるのをオランダ特許権に基づいて差止める仮処分を申請した事案につき、これを認容しなかつた事例であるが、ドイツもオランダも共に欧州経済共同体条約(EWG条約)の加盟国であり、
同条約は加盟国間の共同市場における自由な通商を確保するため、第86条において「一又は二以上の企業が共同市場又は共同市場の主要なる部分における自己の優越的な地位を不当に利用することは、加盟国間の貿易がこれにより影響を受けるおそれがある限り、共同市場と両立せず、かつ、禁止される」旨規定しており、オランダ特許法第30条第2項は、特許権者の実施にかかる特許製品が適法に市場に置かれたならばこの取得者および以後の所持者はその業務の目的で、または業務のためにその製品を販売し、賃貸し、供給し、またはそのような目的のために貯蔵し、
または使用しても特許権の侵害にはならない旨規定している。コンストルクタ事件において、オランダの第一審裁判所は、従来特許法第30条と特許法の属地的性格を根拠に、特許権者が外国において市場に置いた商品の輸入がオランダ特許権の侵害となると解して来た見解は、現今の競業制限防止法との関係で同法と調和するものであるかどうか疑わしいとの理由で、輸入差止めの仮処分申請を却下した。第二審では、裁判所は、申立人がオランダ特許権に基づき、被申立人に対しドイツで流通に置かれた機械をオランダに輸入するのを妨げるときは、申立人はEWG条約86条にいう、特許権に基づく優越的地位を濫用的に利用することになるとの理由のもとに、申立てを棄却した(GRUR.AUSI.1965.Heft5.S.263参照)。
この判決は、ドイツの市場もオランダの市場も共にEWG条約により共同市場を形成しているとの事実関係に基づいてなされたものと解される。これによつてみれば、同条約に加盟していない日本とオーストラリア両国間における特許製品の国際的取引につき右判決例を援用するのは適切でないといわなければならない。
(五) そもそも、工業所有権制度は、各国の歴史的、社会的経済的な基盤の上に立脚するもので、それぞれの実情に応じた特色を有しているのである。国際的通商貿易の拡大に伴なつて流通市場の国際的統合化現象が進展しつつある折柄特許権の属地主義、特許独立の原則を貫ぬくときは、同一発明に対する多数国の特許群を擁する世界的企業の国際的市場への進出が、自由競争を圧迫する幣害をもたらすことがあるであろう。しかし、独占の幣害の防止を図るに急な余り、当該企業の有する内国特許権に対する保護を軽んずるときは、却つて特許制度の本旨に添わない結果をもたらすことになる。
五、以上に説明したとおり、被告の抗弁はすべて理由がないから、被告がイ号装置を業として使用する行為は原告の有する本件特許権を侵害するものといわざるをえない。よつて、被告に対し侵害差止並びに侵害行為を組成した物件の廃棄を求める原告の本訴請求は正当であるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 大江健次郎
裁判官 近藤浩武
裁判官 丸山忠三