運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 不服2002-7149
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14行ケ86特許取消決定取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10483審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10542審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10223特許取消決定取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10271審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術常識 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  発明の範囲 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 16年 (行ケ) 371号 審決取消請求事件
原告 旭化成ケミカルズ株式会社
訴訟代理人弁理士 田中哲郎
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 竹林則幸
同 渕野留香
同 一色由美子
同 宮下正之
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/03/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が不服2002-7149号事件について平成16年7月6日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成3年3月12日,名称を「球状核および球形顆粒」とする発明につき特許出願(平成3年特許願第46654号。以下「本件出願」という。請求項の数は3である。)をし,平成14年3月26日に拒絶査定を受けたので,平成14年4月25日,これに対する不服の審判を請求した。
特許庁は,これを不服2002-7149号事件として審理した。原告は,この審理の過程で,平成14年5月24日付けの手続補正書により,本件出願の願書に添付した明細書の全文の補正(以下「本件補正」といい,本件補正後の明細書と図面とを併せて「本願明細書」という。)をした。特許庁は,審理の結果,平成16年7月6日,本件補正を認めた上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年7月20日,その謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲【請求項1】 「平均重合度が100〜300である結晶セルロースを10〜50%および水溶性添加剤を10〜90%含有し,真球度が0.8以上,タッピング見掛け密度が0.65g/ml以上,吸水率が5〜15%以上,かつ磨損度が0.8%以下である薬学的に不活性な球状核。」(審決は,上記記載中,「吸水率が5〜15%以上」とあるのは,「吸水率が5〜15%」の誤記であることは明細書の【0006】等の記載から明らかであると認定している。本判決も,これを明らかな誤記であると認め,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)を,次のとおりのものと認める。
「平均重合度が100〜300である結晶セルロースを10〜50%および水溶性添加剤を10〜90%含有し,真球度が0.8以上,タッピング見掛け密度が0.65g/ml以上,吸水率が5〜15%,かつ磨損度が0.8%以下である薬学的に不活性な球状核。」 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開昭61-213201号公報(以下,審決と同様に「引用文献1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)及び特公昭56-38128号公報(以下,審決と同様に「引用文献2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから,特許法29条2項の規定に該当し,特許を受けることができない,とするものである。
審決が上記結論を導くに当たり,本願発明と引用発明1との一致点・相違点として認定したところは,次のとおりである。
一致点 「結晶セルロース及び水溶性添加剤を含有し,真球度が0.8以上,見掛け密度が0.65g/ml以上の,薬学的に不活性な球状核。」 相違点 「1)球状核に関し,請求項1には,結晶セルロース10〜50%と,水溶性添加剤10〜90%を含有することが規定されているのに対し,引用文献1には,結晶セルロースは20〜100%含有されると記載されているが,水溶性添加剤の含有量についての記載はない点。 2)球状核に関し,請求項1には,結晶セルロースの平均重合度が100〜300であることが規定されているのに対し,引用文献1には,結晶セルロースの重合度についての記載がない点(判決注・以下「相違点2」という。)。 3)本願発明の球状核の見掛け密度は,タッピング見掛け密度(0.65g/ml以上)であるのに対し,引用文献1には,見かけ密度の値(0.65g/ml以上)がどのような試験法によるものか記載されていない点。 4)本願発明の球状核は,吸水率が5〜15%,かつ磨損度が0.8%以下であるのに対し,引用文献1には,球状核の吸水率及び磨損度について記載されていない点(判決注・以下「相違点4」という。)。」
原告主張の取消事由の要点
審決は,相違点2及び4の容易想到性についての判断を誤ったものであり(取消事由1,2),これらの認定判断の誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点2についての容易想到性の判断の誤り) 審決は,相違点2について「引用文献1に記載の,緻密で強度が優れ,また流動性の点でも優れた球形核に使用される結晶セルロースとして,強度,崩壊性,流動性の点で優れた顆粒を与えることが自明な引用文献2に記載の程度の重合度のものを採用することは,当業者が自然に想到し得ることである。」(審決書5頁3段)と判断した。しかし,この判断は誤りである。
本願発明の球状核は,水中において崩壊しないことが重要な特性である。これに対し,引用発明2における重合度が70〜160の結晶セルロースの賦形剤を用いた顆粒は,体内で短時間で崩壊することが重要な特性である。すなわち,引用発明2においては,薬効成分が賦形剤としての結晶セルロースなどと混合され,この混合物が乾燥された状態で型に供給され,しかるのちハンマーで一気に圧縮されて成型されるものであり,このようにして成形された製剤(素錠)は,多くの場合コーティング皮膜を有さず,体内に投与されて体液に触れると直ちに膨潤して崩壊し,薬効成分を体内に放出するのであり,即崩壊性を有するものである。
本願発明と引用発明2とでは薬剤の体内における,崩壊性について好ましいとされている方向性が逆であるにもかかわらず,審決は両者の崩壊性を同じであるものと誤認し,その誤認に基づいて,引用発明1に引用発明2を組み合わせて本願発明の結晶セルロースの平均重合度100〜300の構成に至ることが容易であると判断しているのである。本願発明と引用発明2とは異質のものであるから,引用発明1に引用発明2を組み合わせることについては阻害事由があるというべきである。
2 取消事由2(相違点4についての容易想到性の判断の誤り) 審決は,「引用文献1には吸水率についての記載はないが,吸水率は,使用する結晶セルロースの重合度や配合量,水溶性添加剤の種類や配合量等により変化すると解されるところ,前述の通り,結晶セルロースの重合度として本願発明の程度のものを採用することは当業者が自然に想到し得ることであるし,水溶性添加剤の種類や配合量は目的に応じて当業者が適宜調整しうる事項であるところ,引用文献1では,本願発明と同様,球状核の強度,コーティングの経済性,顆粒剤としての崩壊・溶解性の点で優れたものを得ることを目的としている(記載事項e)から,吸水率の点の記載の有無に拘わらず,本願発明の程度の吸水率を有する球状核を得ること自体は,当業者が容易になし得ることである。」(審決書6頁2段)と判断した。しかし,この判断は誤りである。
(1) 審決は,本願発明の球状核の吸水率という概念が,本件出願当時に既知の概念であったかのような暗黙の前提に基づいて,上記の判断をなしている。しかし,本件出願当時,球状核の吸水率という概念は,未知の概念であったし,当然ながら,その概念に基づいて,薬物を球状核に被覆する際に,球状核同士の凝集や付着の問題点及び粉体被覆速度の問題点を解消することができることも知られていなかったのである。
本件出願当時,白糖あるいは白糖/でんぷんから成る球状核では,@核の磨損度が高く,薬剤の被覆処理時に核が壊れる,A結合液を用いて薬剤を核に被覆する際に,白糖が結合液に溶解して表面が粘着性となり,球状核同士が凝集し,また,コーティング機の壁に球状核が付着するとの問題が生じていた。本件出願当時,このAの問題については,もっぱら化学工学的な手法(例えば,結合液の噴霧速度やコーティング液の供給速度,乾燥温度等の製造装置の運転条件の調整により問題を解決しようとする手法)により問題の改善が図られていた。なぜなら,この問題は,原理上解消困難と認識されており,化学工学的な手法により改善するしか手段がないと考えられていたのである(甲6参照)。すなわち,本件出願当時,球状核の特性の改良すなわち吸水率の調整により,上記Aの問題が解消されるという認識,及び,粉体被覆速度が調整できるという認識は,当業者にはなかったのである。引用発明1から本願発明の構成に至る動機付けはない。
(2) 本願発明の膨潤しない球状核(例えば,本願明細書【0002】に記載されたノンパレル)を用いて,その周囲に薬効成分を被覆して,さらにその外側に特殊なコーティング皮膜を設けた製剤では,薬剤を放出すべき部位,例えば腸に製剤が到達した段階で,コーティング皮膜に微小な孔が無数に空くようになっており,この孔を通して薬効成分が徐々に拡散により体内に放出される。このような製剤では,少なくとも薬効成分が放出し終わるまではコーティング皮膜が破壊されないことが重要であり,そのため,球状核は被膜の破壊につながるような膨潤をしてはならないのである。
本願発明の球状核がこのように水中で容易に崩壊しないのは,吸水率が5〜15%であることによる影響が大きい。すなわち,本願発明の吸水率は,球状核の吸水しやすさの程度,吸水能力の程度を表現するために工夫されたパラメータであり,球状核の水の吸いやすさの程度を反映しているという点で,厳密には異なるものの膨潤性と軌を一にしている特性と考えることができる。そして,本願発明の球状核では,この吸水率が5〜15%と規定されていることにより,この規定の範囲内で球状核が吸水したとしても,その吸水後の球状核の体積は,実際にはほとんど変化せず,膨潤しないのである。なぜなら,この程度の吸水率では,水は球状核の構成物質間に存在する間隙に入り込むだけだからであるし,仮に,吸水した水の体積の分だけ球状核が膨潤すると考えても,吸水後の球状核の体積は,(吸水率に,元の100%を足して)最大でも105〜115%程度であり,これは球状核の直径でいうと,たかだか2%弱〜5%弱程度の増加にすぎないのである。このように,本願発明の球状核は,水を吸ってもほとんど膨潤せず,仮に,吸水率に対応して最大限に膨潤したと考えてもわずかな程度に留まるのであり,これにより,本願発明の球状核は,体内で実質的に崩壊しないのである。したがって,本願発明の球状核が体内で実質的に崩壊しないとの特性が,吸水率の5〜15%との構成に基づいていることは明らかである。
これに対し,引用発明1の球状核は,引用文献1に,水中で「膨潤性が大である」(甲3号証6頁右下欄14〜15行)と記載されており,また,崩壊剤として知られているカルボキシメチルセルロースカルシウム(CMC-Ca)を球状核に用いて崩壊性を調整することが記載されている点(甲3号証3頁左上欄10行〜12行)から判断して,膨潤性の高いものである。このような球状核を成形した上で,1個又は2個以上の球状核を用いてその周囲に薬効成分を被覆し,さらにその外側にコーティング皮膜を設けた製剤は,コーティング皮膜から水が製剤内部に浸透して球状核が膨潤し,一定時間(ラグタイム)経過後に,大きく膨潤した核の圧力により,コーティング皮膜が一気に破裂して薬剤を体内に放出するものである(このような放出原理は,Time-Controlled Explosion System(TES)と呼ばれる。)。このように,引用発明1の球状核は,膨潤性が大きいものであるから,その吸水率はかなり大きいものと考えられる。
引用発明1の球状核と本願発明の球状核とではその吸水率が異なるのであり,引用発明1の球状核はもともと膨潤性が高いものであり,これに,引用発明2の賦形剤のようなさらに膨潤性・崩壊性が高いものを組み合わせても,本願発明のように実質的に膨潤も崩壊もしない球状核を導き出すことは不可能である。
(3) 結晶セルロースの重合度や配合量等が吸水率の重要な因子であることは,審決が認定したとおりである。しかし,吸水率は,これら以外にも,天然物由来であることによる結晶セルロースの微妙な特性の違いや,球状核製造段階における圧密化条件によっても影響されるのであり,これにより結晶セルロースの水を吸い込みうる微細な隙間の大きさや体積が変ってくるのである。審決は,本願明細書において吸水率に影響する因子(重合度や配合量等)を説明した部分を引用し(同6頁3行〜18行),吸水率に影響する因子が,あたかも本願明細書に記載された因子に限定され,これらの因子が決定されれば吸水率が一義的に定まるかのような前提で判断をしている。
しかし,本願発明の球状核の非膨潤・非崩壊の特性は,本願明細書に記載された製造方法(混練+押出機+マルメライザー)により生じているのであり,引用文献1に記載された転動造粒法によっては生じないものである。
(ア) 本願明細書に記載された球状核の製造方法 本願明細書に記載された球状核の製造方法(括弧内は実施例1のもの)は,次のとおりである(甲2号証【0013】)。
@ 結晶セルロースと水溶性添加剤との特定量を混合した粉体を調整し,これに蒸留水等の水を適当量(実施例1では,粉体1kgに対して水を0.7kg)加えて,ミキサーでよく混練する。
A 得られた混練物を押出機に投入して押し出す。
B 押出物を必要により一定長さごとに切断し,マルメライザーに投入して,蒸留水を少量ずつ噴霧しながら一定の回転速度で一定時間回転させ,球形化する。
C 最後に,一定の入口温度(実施例1では60℃)の乾燥機で乾燥する。
本願発明の実施例1では,粉体1kgに対して0.7kgの水を一度に加えてよく混練しているから,この混練物の段階で結晶セルロースは十分に水を含有した状態となり,セルロース分子鎖の水酸基等が相互に近づくための熱運動が十分に大きくなって,結晶セルロース粒子のサイズリダクションを生じるものと考えられる(甲15号証214頁3-3節参照)。
続いて,混練物が押出機から圧力をかけて押し出されると,結晶セルロースは大きな剪断力により強く圧密化される(甲2号証【0013】,甲15号証215頁3-5節)。これにより,セルロース分子鎖の水酸基等がさらに近づけられることで多数の水素結合を生じやすくなる。
このような押出物を適当な長さだけ必要により切断し,成形しやすいように適当に水を噴霧しながらマルメライザーにより球形に丸め,しかるのち,一定の入り口温度(本願の実施例1では60℃)の条件で,丸められた球状物をそのまま乾燥機に投入して乾燥する。すると,上記のサイズリダクションや圧密化により互いに十分に近づけられたセルロース分子鎖の水酸基等が,水素結合を多数形成して角質化する(甲13号証参照)。
本願発明の球状核は,このような工程を経て形成されるため,水に浸してもほとんど膨潤しないし崩壊もしないのである。
(イ) 引用文献1に記載された製造方法との対比 引用文献1に記載された球状核(引用文献1では「球形顆粒」と表示されている。判決注・以下,引用文献1の「球状顆粒」を「球状核」という。)の製造方法(転動造粒法)及び製造条件は,上記の本願発明の球状核の製造方法及び製造条件と比べ,以下の2点でまったく異なっている。
@ 引用文献1記載の製造方法では,回転板の上に乾燥状態の原料粉末を投入し,これに水を少しずつ霧状に噴霧して転がしながら造粒するだけであり(甲3号証実施例1〜4),本願発明の混練工程のような結晶セルロースがサイズリダクションを生じる工程や,押出工程のような圧密化が生じる工程がない。したがって,引用文献1の製造方法では,造粒物で生じる水素結合の量が少なく,セルロースの角質化の程度は低い。
A 引用文献1記載の製造方法では,水を霧状に噴霧する際に,常に気流(好ましくは40〜75℃の熱風(甲3号証4頁左上欄15行))が原料粉末や形成途中の球状粒子を巻き上げるようにして,「適度の乾燥作用を加え」(同5頁右上欄2行)ながら時間をかけて少しずつ水を噴霧している。すなわち,湿潤と乾燥とを少しずつ繰り返しながら造粒しているだけである。一方,本願明細書に記載の製造方法では,原料粉末に一度に大量の水を加えてよく混練し,圧力をかけて押し出したのち,一度に乾燥するようにしており,明らかにセルロースの水に対する履歴が異なる。
これらの違いは,球状核におけるセルロースの角質化の程度に影響するものであるから,そのまま球状核の膨潤性・崩壊性の程度に直結するのである。
(ウ) 以上のように,引用発明1の球状核が膨潤性が大であるのに対し,本願発明の球状核がほとんど膨潤せず,また,崩壊もしないことは,それぞれの明細書に記載された製造方法の違いから理解できることであり,両者の吸水率は著しく異なるのである。
このように,本願発明の球状核は,膨潤性をベースにした引用発明1の球状核や引用発明2の賦形剤とはまったく特性が異なっており,引用発明1及び2から本願発明を導き出すことはできない。
(4) 審決が指摘した引用文献1の記載事項eには,「顆粒剤としての崩壊・溶解性の点で優れたものを得ることを目的としている」などという記載は存在しない。また,引例文献1に球状核の強度やコーティング効率等の発明の目的が記載されているからといって,本願発明の構成をなす吸水率の概念を導き出すことができないのは自明である。
(5) 審決は,「本明細書の記載によれば吸水率を特定する技術的意義は,吸水率が小さすぎて結合液やコーティング液を噴霧した場合に,顆粒の凝集等が多くなったり,吸水率が大きすぎて粉体の被覆速度が遅くなる(【0005】,【0010】)といったことのない,コーティング効率のよい球状核とすることであると解されるところ,前述の通り,引用文献1には,本願発明と同様,コーティング加工の経済性の観点で球状核を改良することが示唆(記載事項e)されており,吸水率の記載の有無に拘わらず,本願発明の程度の吸水率を有する球状核を得ることに格別の困難性は認められない」(審決書6頁3段)とも判断している。
しかし,本願発明は,水の吸いやすさという球状核の化学的特性を吸水率として規定することにより,球状核の凝集や付着の防止や粉体被覆速度の改良等の効果を奏するものである。これに対し,引用発明1は,球状核の表面平滑さや真球度という物理的特性を改良して,コーティングのむらをなくし,コーティング加工の経済性を改良するものである。審決は,球状核の吸水率が,球状核の表面平滑さや真球度とは全く異なる特性であるにもかかわらず,「引用文献1には,本願発明と同様,コーティング加工の経済性の観点で球状核を改良することが示唆」されているとして,「本願発明の程度の吸水率を有する球状核を得ることに格別の困難性は認められない」と判断したものであり,審決のこの判断は,発明の具体的な特徴を無視する不当なものである。
被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(相違点2についての容易想到性の判断の誤り)について (1) 引用文献2には,本願発明で特定する程度の重合度の結晶セルロースについては,微粉化が多く起こる(すなわち強度が低く摩損しやすい)といった欠点や高流動性・高嵩密度のものが得られないという欠点のない顆粒を与え得るという知見が示されている。そうすると,これらの点で優れた特性を必要とする引用発明1の球状核に,引用文献2に記載された程度の重合度の結晶セルロースを採用することは,当業者が容易に想到し得ることである。
(2) 本願発明の範囲に含まれる重合度の結晶セルロースは,主に賦形剤や崩壊剤として一般的に広く使われており,当業者が最も普通に採用する範囲のものである。
2 取消事由2(相違点4についての容易想到性の判断の誤り)について (1) 本願発明の球状核の吸水率は,特定のコーティング装置及び特定のコーティング液を使用した原告独自の測定法により定義されるものであって,特定の速度条件で処理したとき球状核が付着し始めるのに要した液重量から求められる値である。このような特殊な定義で規定される球状核の吸水率自体については,引用文献1に示されるような従来技術のものがどの程度の数値を示すかを,引用文献1の記載から直接求めることはできない。
しかし,本願発明で定義する吸水率は,審決で認定したとおり「使用する結晶セルロースの重合度や配合量,水溶性添加剤の種類や配合量等により変化する」(審決書6頁6〜8行)ものであることは,本願明細書の【0008】,【0009】等の記載から明らかである (2) 引用発明の結晶セルロースの重合度として本願発明の程度のものを採用することは当業者が自然に想到し得ることは前記のとおりであり,結晶性セルロースと水溶性添加剤の種類や配合量は目的に応じて当業者が適宜調整し得る事項である。
このように,本願発明の程度の重合度の結晶セルロースを採用することも結晶セルロースと水溶性添加剤の配合量を本願発明の程度に調整することも,当業者が適宜になし得ることであるから,本願発明の吸水率の概念は未知であったとしても(本願発明の吸水率は,出願人が本件出願で初めて独自に定義したものであるから,本件出願前に当業者に知られていないのは当然である。),本願発明の程度の吸水率を有する球状核を得ることは,当業者が容易になし得ることであって,審決の認定・判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点2についての容易想到性の判断の誤り)について 引用文献2には次の記載がある(甲4)。
「以上のことから,成形能力に富み,嵩が小さくて(見掛密度が大で),流動性に富み,さらには直打法のメリツトである速崩壊,速溶出をも可能にするような直打用賦形剤の出現が待たれていた。以上の事情に鑑みて,本願発明者らは鋭意研究開発した結果,ある特定された粉体物性を有する新規な微結晶セルロース集合体であれば,上記課題が解決されることを発見し,本発明に到つた。以下詳細に説明する。
本発明でいう微結晶セルロース集合体とは,・・・60〜375の範囲の平均重合度を有する白色粉末状微結晶セルロース集合体を指し・・・。
まず,直打用賦形剤として重要な成形能力を賦与するには,銅安液法により測定される平均重合度が60〜375の範囲にあることが必要である。・・・平均重合度(以下DPと称する)が60未満では,成形性が乏しく,キヤツピングし易い粉体を与え実用的でない。またDPが375を超えると,繊維性が現われ,後で規定する高流動性,高嵩密度のものが得られない。」(2頁4欄1行〜27行) 「本発明による賦形剤の大きな特長は,これを湿式造粒法に応用した場合(すなわち,湿打法による・・・顆粒剤・・・が最終製品形態となる),少ない結合剤量で造粒でき,かつ顆粒の強度を高めて粉化を防止し,さらに従来のセルロース質賦形剤で最大の欠点であつた顆粒ないし錠剤の崩壊性を大幅に改善できることである。これらの効果は,微結晶セルロース集合体の平均重合度が60〜375,特に70〜160の範囲で,・・・発揮された」(7欄40行〜8欄7行) また,引用文献2では,実施例17として,平均重合度(以下「DP」ともいう。)の異なるAないしDの4種の微結晶セルロース賦形剤400gと乳糖1600gとから顆粒を得て,崩壊試験及び錠剤磨損度試験器による微粉体量の測定を行った結果が示されており,賦形剤B(DP390)を使用した場合に,崩壊試験が10.9分と他の賦形剤(DP180のA,DP130のC,DP40のD)より長いことを示すデータが得られたこと,賦形剤Dを使用した場合に微粉体量が4.3%と他の賦形剤より多いことを示すデータが得られたことが記載され,また,その比較例2においても,市販微結晶セルロース集合体「アビセルPH-101(旭化成工業株式会社製)」及び「同PH-102」の粉体物性が,DP220,215であること,並びに,その錠剤成形圧力がある範囲を超えると錠剤崩壊時間が著しく延びて好ましくないことが記載されている(甲4・5頁10欄26行〜6頁11欄23行,12頁24欄8行〜28行)。
引用文献2の上記記載からすれば,微結晶セルロースのDP40の賦形剤を用いた顆粒では,圧縮性が悪く崩壊を起しやすいこと,及び,微結晶セルロースのDP390の賦形剤を用いた顆粒では,DP180及びDP130のものと比べ,崩壊までに長い時間を要したこと,並びに,市販の微結晶セルロース集合体「アビセルPH-101」及び「同PH-102」のDPが220,215であり,その成形圧力がある範囲を超えると錠剤崩壊時間が著しく延びることが記載されていることが認められる。
本願発明の相違点2に係る構成は,「平均重合度が100〜300の結晶セルロース」との構成である。引用発明1においては,結晶セルロースの平均重合度についての記載はないものの,引用文献2においては,上記のとおり,結晶セルロースの平均重合度が60未満では十分な強度のものが得られないこと,平均重合度が375を超えると繊維性が現われ,高流動性,高嵩密度のものが得られず,その球状核を用いた錠剤の崩壊時間が長くなること,並びに,市販の結晶セルロース集合体の平均重合度は,215,220であり,本願発明の相違点2に係る構成に正に包含されるものであることも開示されていることからすれば,相違点2に係る「平均重合度100〜300の結晶セルロース」との構成は,薬剤に使用する結晶セルロースの平均重合度として一般に選択され得る範囲のものであり,何ら特別な範囲のものではないことが明らかである。
なお,このことは,日本薬学会訳編の「医薬品添加物ハンドブック」(丸善株式会社平成元年3月30日発行,乙2)にも,錠剤の賦形剤,崩壊剤として使用される標準的な微結晶セルロース(Avicel PH101,判決注・前記「アビセルPH-101」と同じものである。)が挙げられており,その分子量が220であると記載されていることからも確認し得るところである。
原告は,本願発明の球状核が水中において崩壊しないものであるのに対し,引用発明2の顆粒は,体内で短時間で崩壊するものであり,その崩壊性の指向する方向が逆であるにもかかわらず,審決はこれを同じ崩壊性であると誤認し,その誤認に基づいて本願発明の容易想到性について判断していると主張する。
しかし,審決は,「引用文献1に記載の,緻密で強度が優れ,また流動性の点でも優れた球形核に使用される結晶セルロースとして,強度,崩壊性,流動性の点で優れた顆粒を与えることが自明な引用文献2に記載の程度の重合度のものを採用することは,当業者が自然に想到し得ることである。」(審決書5頁3段)と判断しているのであり,むしろ,その判断においては,引用発明1の「緻密で強度が優れ,また流動性の点でも優れた球形核」と引用発明2の「強度,・・・流動性の点で優れた顆粒」の共通性をとらえて,引用発明1に引用発明2の平均重合度の結晶性セルロースを採用することを容易に想到し得ることと判断したとも解し得るのである。引用発明1の球状核の崩壊性については,後述のとおり,引用発明2のものと共通のものと考えることはできないことからすれば,審決が引用発明2の「崩壊性」を指摘した点は相当ではないとしても,薬剤の崩壊性は,結晶セルロースを球状核の組成物として使用するものか,賦形剤の成分として使用するものかによっても変わってくるし,球状核に使用する結晶セルロースについても,後述のとおり,その平均重合度だけで決定されるものではなく,結晶セルロースの配合割合などによっても当然に変ってくるものであることからすれば,引用発明2の薬剤の崩壊性が高いことがこれを引用発明1に適用するについての阻害要因となるとまでいえない。上記認定のとおり,審決が,引用発明2について「強度,・・・流動性の点で優れた顆粒」を共通性として指摘した点についての誤りはなく,また,「平均重合度が100〜300である結晶セルロース」が薬剤に使用する結晶セルロースの平均重合度として一般に選択される範囲のものであり,何ら特別なものではないことも考慮すれば,審決の前記判断は結論として誤りであるとはいえない。
2 取消事由2(相違点4についての容易想到性の判断の誤り)について (1) 本願発明の吸水率等について (ア) 本願発明における吸水率は,本願明細書において,次のように定義されている(甲2)。
「【0022】・・・吸水率(%) 球状核400g(固形分換算)を遠心流動型コーティング装置・・・中で回転させながら,3%HPC・・・水溶液を・・・噴霧する。核同士が付着し始めるまで行って終点とし,要した液重量(g)を求める。吸水率は以下の式で表される。なお式中の含水率は,球状核がもともと含んでいる水分率である。
【0023】 【数1】 液重量 吸水率(%)=400 × 100 + 含水率(%)」 (イ) 本願明細書には,吸水率に関連して,次の記載があり(甲2),本願発明の球状核は次のとおりのものと認められる。
(a)「【0002】【従来の技術】持効性医薬品の放出制御手段・・・として,医薬品はフィルムコーティングが施されることが多い。顆粒にフィルムコーティングを施す場合は,・・・形状が球形に近い核に,薬物および賦形剤から成る粉体を被覆して作った素顆粒を用いることが多い。この場合核として,・・・ノンパレル(・・・成分;白糖あるいは白糖/デンプン)を用いることが一般的であった。
【0003】また特開昭61-213201号公報(判決注・引用文献1)はコーティング用の核として使用できる結晶セルロース球形顆粒に関するもので,見掛け密度が0.65g/ml以上,真球度が0.8以上と規定されている。・・・また,これらには原料としての結晶セルロースについて何の記述もない。・・・これらには,球状核として重要と考えられる吸水性,磨損度について何の規定もないし,吸水性については記述さえない。」 【0004】【発明が解決しようとする課題】しかし,核として白糖あるいは白糖/デンプンから成る核を用いた場合,該核に結合液を用いて薬物を含有する粉体を被覆し,さらにフィルムコーティングを施す製剤方法においては,核の主成分である白糖が結合液に溶解し,表面が粘着性となるため,またその核は磨損度が高いため, ・顆粒同士の凝集 ・コーティング機の機壁(判決注・以下,単に「機壁」という。)への顆粒の付着 ・収率,コーティング効率の悪化 という問題があった。また,体内に顆粒を投与した場合,次第に核の主成分である白糖が溶出し,強度が低下するため,腸の運動により力が加えられると,溶出をコントロールするためのコーティング被膜層が壊れ,望まれる溶出パターンが得られにくいという問題があった。
【0005】また,従来の結晶セルロースからなる球状核は,磨損度が低下し核の強度が向上するメリットはあるものの,核の吸水率が大きくなり過ぎ,薬物を含有する粉体を被覆する際に,結合液が多量に必要で,粉体被覆速度が遅くなるという欠点があった。
【0007】・・・本発明の球状核は,崩壊せず強度も高いのでこれを用いた球形顆粒を体内に投与した場合,顆粒が腸内運動による破壊を受けにくいため,溶出をコントロールするためのコーティング被膜層が壊れにくく,望まれる溶出パターンが得られ易いという利点がある。
【0008】本発明は,核として平均重合度が100〜300である結晶セルロース・・・を10〜50%および水溶性添加剤を10〜90%含有する薬学的に不活性な球状核を用いているので,球状核に適度な吸水性があるために,従来の白糖および白糖/デンプンからなる核と比べて,顆粒同士の凝集が1/10以下と少なく,また機壁への顆粒の付着が防止できるので,結合液噴霧速度,粉体供給速度などの条件の厳密なコントロールは不要となる利点がある。・・・また,従来の結晶セルロースからなる球状核と比べ,本発明の球状核は水溶性成分を含み,かつ適度な吸水性を持つので,結合液の消費が少なく,粉体被覆速度が速いという利点がある。」 上記の記載からすれば,本願発明においては,@白糖あるいは白糖/デンプンから成る球状核は,薬物の粉体を被覆する際に,表面が粘着性となり,核同士が凝集し,機壁に付着しやすく,また,核の磨損度が高いという欠点があること,結晶セルロースを球状核の材料として採用した従来技術においては,核の強度は向上し,また,結晶セルロースの吸水率が大きいことから,球状核同士の凝集や機壁への付着は防げるものの,薬物の粉体を被覆する際に,核の吸水率が大きすぎることに起因して,被覆工程において結合液が多量に必要となり,その結果,被覆速度が遅くなるとの欠点があることが明示され,A本願発明においては,球状核として結晶セルロースを用いることにより,強度の低下に伴う問題の発生が抑制される利点があり,結晶セルロースの吸水率が小さすぎないことから,その核の表面には水分が存在し難く,それ故に核の表面の水分に起因する核相互の凝集や核の機壁への付着が生じ難いものとなること,及び,結晶セルロースの球状核の吸水率を適度に抑えることにより,被覆工程において結合液の量を少なくし,被覆速度が早くなるようにしたものであることが開示されている。
(b)「【0009】本発明でいう球状核は,平均重合度が100〜300である結晶セルロースを,好ましくは10〜50%,水溶性添加剤を10〜90%含有し,薬学的に不活性であることが必要である。・・・その吸水率は5〜15%,磨損度は・・・であって,水中において実質的に崩壊しないことである。結晶セルロースが50%を越えると,核の吸水率が大きくなりすぎ,薬物を含有する粉体を被覆する際に結合液が多量に必要となる。また,核への粉体の付着力も弱くなる。
また,結晶セルロースの含有量が10%未満では,核の磨損度が大きくなり,また,吸水率も小さくなりすぎ,好ましくない。水溶性添加剤は,球状核に結合液を噴霧して粉体を被覆する場合に,核の吸水率を抑え,かつ核への粉体の付着性を増すために必要であるが,10〜90%が適当である。水溶性添加剤の含有量が90%を越えると核の磨損度が大きくなり,また,吸水率も小さくなりすぎる。また,10%未満では核の吸水率が大きくなり,かつ核に結合液を噴霧した時に粘着性が低くなるため,粉体の付着性が弱くなり好ましくない。」 上記の記載及び前記【0008】の記載によれば,本願明細書においては,本願発明における球状核の吸水率は,請求項1において特定されている結晶セルロースの平均重合度及び結晶セルロースと水溶性添加剤の配合割合により調整されるものであることが開示されている。
(c)「【0010】・・・球状核の吸水率が5%未満では結合液やコーティング液を噴霧した場合に,顆粒の凝集・機壁への顆粒の付着が多くなり,また,吸水率が15%より大きいと,核が吸収する液量が多くなるので粉体の被覆速度が遅くなるという欠点がある。・・・また水中で実質的に崩壊しないことにより強度を保ち,体内に投与した場合,球形顆粒の破壊を防ぎ薬物溶出が終了するまで,望まれる溶出パターンを維持できる。」 「【0067】【発明の効果】・・・また,本発明の球状核は崩壊せず,強度も高いので,体内に球形顆粒を投与した場合,腸内運動による破壊を受けにくいため,望む溶出パターンが得やすい。」 上記の記載及び前記【0007】,【0009】の記載によれば,本願発明における球状核が水中において崩壊しにくいものであるとの記載はあるものの,本願発明における吸水率5〜15%との構成が,本願発明の球状核が水中において崩壊しにくいことと,どのように関係するかについては,本願明細書において説明はないことが認められる。
(ウ) 以上からすれば,本願発明の球状核の吸水率は,結晶セルロースの平均重合度及び結晶セルロースと水溶性添加剤との配合割合により決定されるものであること,及び,球状核の吸水率は,5%より少なければ,球状核の磨損度が高くなり,また,薬剤の粉体を被覆するときに核の表面に水分が付着し,核の凝集及び機壁への付着の問題が生じ,15%より多ければ,核が吸収する液量が多くなるため,粉体の被覆速度が遅くなるという欠点があるということが本願明細書に開示されていることが認められる。
原告は,吸水率は,最大吸水状態と含水率の差を意味するから,結晶セルロースの重合度と,結晶セルロースと水溶性添加剤の配合割合以外にも,球状核の製造方法・製造条件によっても変動する,と主張する。確かに,球状核の製造方法・製造条件に関して,本願明細書の【0013】及び【0026】【実施例1】の記載からすれば,本願発明の球状核は,結晶セルロースと乳糖などの原料粉末に蒸留水等を加えて混練した後,押し出し造粒機を用いて混練物の押し出し造粒を行い,転動型コーティング装置(実施例1ではマルメライザー)で蒸留水を噴霧しながら,転動させ球形化を行った後,乾燥し,必要に応じ篩い分けするものであり,上記の押し出し造粒時等に混練物が強く圧密化されることが認められる(甲2)。
ただし,本願明細書においては,「押し出し造粒時に混練物が強く圧密化されるので,結晶セルロースの含有量が少ない場合でも,磨損度の小さい球状核が製造できる利点がある。」(【0013】)と記載されており,圧密化と磨損度の関係については記載があるものの,圧密化と吸水率との関係については特に説明はない。すなわち,本願明細書においては,上記のとおり,核の材料として,結晶セルロースを採用した場合には,白糖を採用した場合に比べ,強度の低下が抑制されるという利点に言及されていること(【0005】)に鑑みれば,上記の記載は,あくまで,結晶セルロースの含有量が少ない場合において想定される,磨損度が高くなり強度が低下することに対しては,圧密化を伴った押し出し造粒工程を有する製造方法・製造条件を採用すれば,磨損度を小さく抑え強度の低下に抗することができる,という,専ら強度の観点からの説明に留まるものであり,核の吸水率を抑えることに関する記載であるとみることは直ちには困難である。また,前記のとおり,本願発明の球状核が水中において崩壊しにくいことと,球状核の吸水率との関係については,本願明細書に何ら記載がなく,本願明細書からは不明である。
(2) 引用発明1の球状核について (ア) 引用文献1には,次の記載があり(甲3),引用発明1は次のとおりのものと認められる。
(a)「[産業上の利用分野] 本発明は優れた顆粒特性を有し,医薬品や食品等に用いられる微結晶セルロースの球形顆粒とその製造法に関する。
[従来技術] 球形顆粒は従来より医薬品や食品等の分野で製造され,使用に供せられている。殊に医薬品の分野では,薬剤含有粉体を球形顆粒とし,その複数個をもつて投与単位とし,確実な薬効発現を期待する製剤設計が行われている。また,近年薬剤の徐放持続化製剤として,球形顆粒を核とし,その表面に薬剤をコーティングした製剤が提案され,注目されている。」(1頁右欄8〜20行) この記載によれば,引用発明1は,薬剤含有粉体からなる球形顆粒と,表面に薬剤がコーティングされる核としての球形顆粒の2種類を対象とする球形顆粒に関する技術であると認められる。
(b)「微結晶セルロースの球形顆粒は,従来微結晶セルロース粉末を加湿する工程,加湿された原料を押出造粒により円柱状の造粒物を作る工程,円柱状の造粒物を転動造粒法を用いて球形の造粒物にする工程,球形造粒物を乾燥する工程の四つの工程からなる方法により,それぞれの装置で製造されていた。
しかし,従来の転動造粒方法により微結晶セルロースを造粒した場合,得られる造粒物は,粒径が不揃いで・・・真球度(・・・)が小さく形状が不揃いで,粒子表面が平滑でなく,密度の低い軽質のものである。従つて,従来の微結晶セルロース球形顆粒は,前記用途に適用する顆粒特性としては不満足であり,製剤工程上あるいは経済上の問題点があつた。」(2頁左上欄17行〜右上欄12行) 「押出造粒により得られる造粒物の水分が多い場合には,これを転動造粒方法により球形にする際に,遠心力により造粒物中に含まれる水分が造粒物の表面に出て来ることがあり好ましくない。これを防止するためには,押出造粒した造粒物を予め乾燥して造粒物中に含まれている水分を減少せしめてから転動造粒を行なう必要がある。したがつて,押出造粒と転動造粒の間に乾燥の工程を加えなければならないために一層工程数が増えることになる。」(2頁左下欄1行〜10行) 「従来の転動造粒装置は,・・・乾燥工程は一般に別の装置で行なわれているが,これを同一装置で行なう場合は・・・粒子表面に出て来る水分を蒸発させるには不十分である。そのために粗大粒子が発生する等均一な粒子が出来ない。」(2頁右下欄2行〜9行) 「[発明の目的] 本発明は見かけ密度0.65g/ml以上,真球度0.8以上で,表面平滑,緻密,重質でかつ真球に近い優れた顆粒特性を有する微結晶セルロースの球形顆粒を提供することを目的とする。
また,本発明は通気機構を有する通気回転板を備えた造粒装置の通気回転板の上部より微結晶セルロース粉体を投入し,通気回転板の下部より気体を供給し,通気回転板を周速1.5〜15m/secで回転し,湿潤粒体の湿潤率として40〜65%となる量の結合剤を供給して若しくは供給しながら転動流動造粒し,次いで乾燥することによって前記の優れた顆粒特性を有し粒径,粒形の揃った微結晶セルロースを直接製造する方法を提供することを目的とする」。(2頁右下欄10行〜3頁左上欄4行) これらの記載によれば,引用発明1の球状核(球状顆粒)は,従来の微結晶セルロースの球状核が,加湿,押出造粒,転動造粒法及び乾燥の4工程から成る方法で製造されていたものの,粒径不揃いで,真球度が小さく,表面が平滑でなく,密度が低いものであったことから,微結晶セルロースに結合剤を供給しながら,転動流動造粒し,乾燥させるとの製造方法により,表面平滑,緻密,重質で真球度に優れた球状核を提供するものであると認められる。
(c)「本発明における微結晶セルロースの球形顆粒は,微結晶セルロース単体を組成とするもののみでなく,微結晶セルロースの含有量が100〜20重量%を含有する組成であつてもよい。混合される組成成分としては,・・・例えば球形顆粒の崩壊性,溶解性を調節する物質,具体的には・・・(CMC-Ca),・・・デンプン,・・・乳糖,蔗糖などである。」(3頁左上欄5〜14行) この記載によれば,引用発明1の球状核は,微結晶セルロース単体だけでなく,微結晶セルロース20〜100重量%とデンプン,乳糖,蔗糖などとを混合したものにより製造されるものもあると認められる。
(d)「粒径分布を決定する主たる要因は前記湿潤率と通気転動の乾燥条件,転動条件である。また,粒形及び表面平滑,緻密重質,真球度など顆粒特性は,主として通気転動の転動条件によつて決定される。通気転動は,通気回転板を回転し,通気回転板の下方より通気回転板の通気機構を通して通気回転板の上方に気体好ましくは温風を供給することによつて行われ,通気回転板の回転と容器器壁とにより生ずる転動作用により湿潤材料の球形化を図り,その際球形顆粒表面に浸出する湿分を通気により除去しようとするものである。」(3頁右下欄14行〜4頁左上欄4行) この記載によれば,引用発明1の球状核の緻密重質,真球度などの顆粒特性は,主として通気転動の転動条件によって決定されるものであることが認められる。
(e)「本発明の方法は,・・・乾燥空気量が大であり,乾燥効率が良い。そのために造粒工程中に粒体内部より表面にしみ出る湿分は効果的に除去される。」(4頁右上欄4〜9行),「気体(転動時は好ましくは熱風)が,前記のような流れとなつて移動するので・・・適度の乾燥作用を加えることになり,原料粉末の表面のぬれによつて原料の粉粒体が互に付着して不定形の塊を形成することなく真球状の粒体が形成されていく。」(5頁左上欄19行〜右上欄5行)。
この記載によれば,引用発明1の球状核は,造粒工程中において,表面のぬれによって核同士が凝集しないように,適度の乾燥作用が加えられるものである。なお,本願発明の課題の一つである球状核の「凝集の回避」は,このような造粒工程中の原料粉相互の凝集ではなく,造粒後の球状核に対し薬剤粉体を被覆する際の核同士の凝集を回避することであるものの,いずれの工程においても,核の表面にぬれが生じると,核同士の凝集等の問題が生じること,及び,核の表面のぬれを防ぐことにより,この問題を解決し得ることにおいて,技術的課題とその解決方法における共通性があるというべきである。
(f)「[発明の効果]本発明によつて提供される微結晶セルロースの球形顆粒は,・・・表面平滑で緻密重質な構造を有しほぼ真球に近いものである。すなわち,本発明の球形顆粒は見かけ密度が0.65g/ml以上好ましくは0.7g/ml以上,真球度が0.8以上好ましくは0.90以上の顆粒特性を有する。
このような顆粒特性をもつ微結晶セルロースの球形顆粒は従来得られなかつたものであり,以下に示す製剤上経済上の多くの利点をもたらす。
(1)表面平滑さは,球形顆粒に自由流動性を与えると共に,球形顆粒に薬物あるいはコーティング液をコーテイングする場合のコーテイングのむらをなくし,コーテイング粒子の歩留りを高める。・・・ (2)緻密かつ重質であることは,球形顆粒の物理的強度を高めると共に,かさ高さをなくし,製剤上の取扱いを容易にし,加工時輸送時などの衝撃に対する安定性を高める。
(3)真球度が大きいことは,表面平滑さと同様,自由流動性,コーテイングの経済性を改善し,かつ製品美観を良好にする。
又微結晶セルロースは不活性であるので,結晶セルロース単体のみでなく他のものを混合した原料を用いて前述のような真球度の高い平滑で硬質な造粒物を得ることが可能である。また膨潤性が大であるのでこれを薬剤用に用いた場合,薬剤にて要望される持効性,徐放性等のすぐれた薬剤の製剤が可能であつて,使用にあたつて均一に溶出するので所望の薬効が得られることになる。」(6頁左下欄7行〜右下欄18行) この記載によれば,引用発明1の微結晶セルロースの球状顆粒は,製剤上経済上の多くの利点をもたらすものであり,(1)表面平滑さ,(2)緻密かつ重質であること,(3)真球度が大きいものであることが明らかである。そして,この記載の後に,「又微結晶セルロースは不活性であるので・・・可能である(判決注・以下「第1文」という。)。また膨潤性が大であるのでこれを薬剤用に用いた場合・・・(判決注・以下「第2文」という。)」と記載されているのである。このような文脈からすれば,上記「膨潤性が大である」との文の主語は,省略されているものの,第1文の主語と同じ「微結晶セルロース」であり,微結晶セルロース自体の特性として「膨潤性が大である」こと,及び,この微結晶セルロースを薬剤用に利用した場合の利点について言及したものであると解すべきであり,引用発明1の結晶性セルロースを球状核とした場合に,その膨潤性が大であると言及していると解すべきではない。すなわち,結晶セルロース自体は膨潤性が大であることは明らかであることからすれば,第1文は,前記(c)の記載を受けて,微結晶セルロース単体でなく,これにデンプン,乳糖,蔗糖などを混合した組成物として球状核を形成した場合の利点に言及したものであり,その次に,第2文として,膨潤性が大である微結晶セルロース等を使用した球状核を薬剤に使用した場合に,「薬剤にて要望される持効性,徐放性等のすぐれた薬剤の製剤が可能」と記載しているものと解するのが,前記(a)の記載とも合致するのである。
(イ) 以上からすれば,結晶セルロース自体は,その膨潤性が大きいものであるとしても,引用発明1に開示された結晶セルロースと他の成分を含有した組成から,引用文献1記載の転動造粒法により製造した球状核は,転動造粒法(乾燥工程を含む)により,表面平滑,緻密,重質で真球に近いものが形成されるものと認められ,その吸水率については具体的な開示はないものの,その球状核が膨潤性が高いものであるとみることはできない。また,本願明細書に記載された従来の結晶セルロースからなる球状核における問題である「磨損度が低下し核の強度が向上するメリットはあるものの,核の吸水率が大きくなり過ぎ,薬物を含有する粉体を被覆する際に,結合液が多量に必要で,粉体被覆速度が遅くなるという欠点」については,引用文献1に記載されておらず,吸水率に影響する因子として原告が主張するところのサイズリダクション,圧密化を伴う製造方法・製造条件についても直接的な記載はない。
(3) 本願発明の球状核の吸水率は,本願明細書において球状核の特性を評価するものとして定義された概念であり,引用文献1においては,そもそも球状核の特性を評価する方法として,この吸水率という評価方法が記載されていないことは,前記のとおりである。しかし,仮に,本願発明の球状核の吸水率という評価方法が本件出願以前に存在していなかったとしても,引用発明1の球状核について吸水率を測定すれば,本願発明の吸水率と類似のものとなるか,あるいは,本願発明の吸水率と類似のものを包含する蓋然性が強い場合には,単に,引用文献1においては,本願発明に定義されている吸水率という観点からその球状核を分析することがなかっただけであり,本願明細書の球状核と類似の構成のものが既に存在していたと推認し得るのであるから,引用文献1において吸水率についての記載がないからといって,本願発明について,その吸水率の構成を根拠として直ちにその進歩性を認めることは相当ではない。
すなわち,引用発明1の球状核について,本願明細書において規定された吸水率という概念自体に想到することが困難であり,この吸水率という概念を導入することにより格段の作用効果を奏する場合とか,あるいは,引用発明1の球状核において,本願明細書に規定された吸水率5〜15%の構成のものと類似のものを包含するとの蓋然性が認められない場合には,本願発明の球状核5〜15%との構成は引用発明1自体から容易に想到し得たものということはできないものというべきであるとしても,逆に,引用発明1の球状核について,本願明細書において規定された吸水率という概念に想到することが困難なものではなく,かつ,引用発明1の球状核において,本願明細書に規定された吸水率5〜15%の構成のものと類似のものを包含するとの蓋然性が認められる場合には,本願発明における球状核における吸水率5〜15%との構成は引用発明1自体から容易に想到し得たものであるというべきである。
そこで,引用発明1の球状核において,吸水率という概念自体に想到することが困難なことであるのか,また,吸水率5〜15%との構成と類似のものを包含するとの蓋然性が認められるかどうかについて,検討する。
(ア) 本願発明における吸水率とは,前記(1)のとおり,以下の式で表される。
液重量 吸水率(%)=400 × 100 + 含水率(%) (ただし,式中の液重量(g)は,球状核400g(固形分換算)において,水溶液を噴霧し,核同士が付着し始めるまでに要した水溶液の重量であり,含水率は,球状核がもともと含んでいる水分率である。) そして,本願発明における吸水率とは,前記認定のとおり,結晶セルロースの平均重合度及び結晶セルロースと水溶性添加剤との配合割合により決定されるものであり,結晶セルロースの配合割合が10%未満となると吸水率が低くなりすぎ,結晶セルロースの配合割合が50%を超えると吸水率が大きくなりすぎるものであること,及び,球状核の吸水率は,5%より少なければ,球状核の磨損度が高くなり,また,薬剤の粉体を被覆するときに核の表面に水分が付着し,核の凝集及び機壁への付着の問題が生じ,15%より多ければ,核が吸収する液量が多くなるため,粉体の被覆速度が遅くなるという欠点があるというものである。
引用発明1においても,結晶セルロースの平均重合度について明示的な記載はないものの,「引用文献2に記載の程度のものを採用することは,当業者が自然に想到し得ることである」との審決の判断が是認できるものであることは前記のとおりであり,また,結晶セルロースと水溶性添加剤の配合割合についても,本願発明における結晶セルロースの配合割合が10〜50%であるのに対し,引用発明1における微結晶セルロースの配合割合は20〜100%である。そして,引用発明1においては,微結晶セルロースを20%以上の割合とし,微結晶セルロースに結合剤を供給しながら,転動造粒し,乾燥させるとの製造方法により,表面平滑,緻密,重質で真球度に優れた球状核が提供されるものであり,これによりコーティングのむらをなくし,コーティングの経済性を改善するものであることも前記認定のとおりである。
以上によれば,本願発明の吸水率は,審決が認定したとおり,結晶セルロースの平均重合度と,結晶セルロースと水溶性添加剤の配合割合により決定されるものであり,かつ,引用文献1においては,本願発明の平均重合度の微結晶セルロースの配合割合が本願発明に示されたそれと相当部分において重複するもの(微結晶セルロースを20〜50%の配合割合とする範囲で重なっているもの)が示されているのであるから,引用発明1の球状核のうち微結晶セルロースの配合割合が20〜50%のもので,引用文献2に開示された平均重合度の結晶セルロースのうち,例えば標準的な平均重合度220の結晶セルロースを使用したものを,引用文献1に記載された転動造粒法で製造した球状核の吸水率を測定すれば,本願発明と類似の吸水率の構成のものが包含されている蓋然性が高いといえるのである。また,引用文献1においては,球状核の造粒工程においてではあるものの,核の表面のぬれによる核同士の凝集や機壁への付着の問題が生じることが既に指摘されていることからすれば,球状核に薬剤を被覆する工程において核の表面にぬれが生じると核同士の凝集や核の機壁への付着の問題が生じることも当業者にとっては当然に知り得る課題であること,及び,薬剤の粉体を粒子表面に被覆する際に,吸水性物質を粒子に加えることにより,粒子表面の水分量を減らし,粒子表面のぬれの状態を改善することも技術常識であること(乙4)からすれば,引用発明1の球状核において,球状核に薬剤を被覆する工程において核の表面にぬれが生じないように,水分を吸収し得る余裕があるように結晶セルロースの配合割合を調整して球状核を製造すること,また,必要以上に多量に水分を吸収すると薬剤粉体の被覆効率が悪くなるため,球状核の吸水率を適宜の範囲で抑制するように,結晶セルロースの配合割合を調整することは,当業者であれば適宜なし得る設計的事項であるというべきである。
(イ) 原告は,本件出願当時,球状核の吸水率という概念は,未知の概念であったし,当然ながら,その概念に基づいて,薬物を球状核に被覆する際に,球状核同士の凝集や付着の問題点及び粉体被覆速度の問題点を解消することができることも知られていなかった,と主張する。
しかし,引用文献1に記載された転動造粒法で製造した球状核の吸水率を測定すれば,本願発明と類似の吸水率の構成のものが包含されている蓋然性が高いといえること,及び,球状核に薬剤を被覆する工程において核の表面にぬれが生じると核同士の凝集や核の機壁への付着の問題が生じることも当業者にとっては当然に知り得る課題であるから,引用発明1の球状核について,球状核に薬剤を被覆する工程において核の表面にぬれが生じないように,水分を吸収し得る余裕があるように結晶セルロースの配合割合を調整して球状核を製造すること,また,必要以上に多量に水分を吸収すると薬剤粉体の被覆効率が悪くなるため,球状核の吸水率を適宜の範囲で抑制するように,結晶セルロースの配合割合を調整することは,当業者であれば適宜なし得る設計的事項であるというべきであることは前記のとおりであるから,原告の上記主張は採用し得ない。
(ウ) 原告は,本願発明の球状核がこのように水中で容易に崩壊しないのは,吸水率が5〜15%であることによる影響が大きい,すなわち,本願発明の球状核では,この吸水率が5〜15%と規定されていることにより,この規定の範囲内で球状核が吸水したとしても,その吸水後の球状核の体積は,実際にはほとんど変化せず,膨潤しないのに対し,引用発明1の球状核は,膨潤性の高いものであり,これに,引用発明2の賦形剤のようなさらに膨潤性・崩壊性が高いものを組み合わせても,本願発明のように実質的に膨潤も崩壊もしない球状核を導き出すことは不可能である,と主張する。
しかし,引用発明1の球状核が膨潤性の高いものであるとはいえないこと,すなわち,引用文献1における「膨潤性が大である」(甲3号証6頁右下欄14〜15行)との記載は,結晶セルロースについての記載であり,この結晶セルロースを配合した球状核についての記載とみるべきではないことは前記認定のとおりである。したがって,引用発明1の球状核の膨潤性についてこれを高いものであることを前提とする原告の上記主張は採用し得ない。
また,本願明細書においては,球状核の吸水率を5〜15%としたことにより,水中で容易に崩壊しないものであるとは記載されていないことも前記認定のとおりである。球状核の吸水率を5〜15%としたことによる効果は,前記のとおり記載されているだけであり,原告の主張は,本願明細書に基づかない主張であるといわざるを得ない。
(エ) 原告は,本願発明の球状核の吸水率は,本願明細書に記載された前記の製造方法により生じるサイズリダクションや圧密化により,互いに十分に近づけられたセルロース分子鎖の水酸基等が,水素結合を多数形成して角質化することによる影響を受けるものであり,本願発明の球状核は,この吸水率の構成により,水に浸してもほとんど膨潤しないし崩壊もしない,と主張する。
しかし,本願発明の球状核の吸水率について,製造方法,製造条件による圧密化など,結晶セルロースの平均重合度及び結晶セルロースと水溶性添加剤との配合割合以外の因子が影響すること,及び,本願発明の球状核が水中において崩壊しにくいことと球状核の吸水率との関係については,原告が前記のとおり主張するものの,本願明細書には何ら記載がないのであり,原告の主張は本願明細書の記載に基づかない主張であるといわざるを得ないことは前記のとおりである。
また,仮に,原告が主張するとおり,球状核の製造方法,特に,そのサイズリダクションや圧密化が球状核の吸水率に影響を与える因子であるとしても,このようなサイズリダクションや圧密化は,球状核の密度に影響を与えるものと考えられるところ,引用発明1の球状核は見かけ密度0.65g/ml以上であり,本願発明の球状核はタッピング見かけ密度が0.65g/ml以上であるから,両者はその見かけ密度において差異がないこと,及び,引用発明1の球状核も従来のものに比べて,緻密で重質でかつ真球に近いものが形成されていることを考慮すれば,本願発明の球状核と引用発明1の球状核とで吸水率において顕著な差異が生じるものとみることもできない(本願発明の球状核の方は,タッピング後の見かけ密度であるから,引用発明1の見かけ密度がタッピングしていないものであるとすると,同じ数値でも引用発明1の球状核の方が密度が高いものとなる。)。
(オ) 原告は,審決が指摘した引用文献1の記載事項eには,「顆粒剤としての崩壊・溶解性の点で優れたものを得ることを目的としている」などという記載は存在しないし,引例文献1に球状核の強度やコーティング効率等の発明の目的が記載されているからといって,本願発明の構成をなす吸水率の概念を導き出すことができないのは自明である,と主張する。
しかし,審決が指摘した引用文献1の記載事項eとは,前記(2)(ア)(f)の記載であり,結晶セルロースの膨潤性が大であるので,これを薬剤用に用いて持効性,徐放性の優れた薬剤の製剤が可能であるとの記載があることは前記のとおりである。したがって,上記記載事項eには,顆粒剤としての崩壊性,溶解性の優れたものに関する記載があるとの審決の認定に誤りはない。
(カ) 原告は,審決は,球状核の吸水率が,球状核の表面平滑さや真球度とは全く異なる特性であるにもかかわらず,「引用文献1には,本願発明と同様,コーティング加工の経済性の観点で球状核を改良することが示唆」されているとして,「本願発明の程度の吸水率を有する球状核を得ることに格別の困難性は認められない」と判断したものであり,審決のこの判断は,発明の具体的な特徴を無視する不当なものである,と主張する。
しかし,本願発明の吸水率5〜15%との構成が容易に想到し得るものであることは前記説示のとおりである。したがって,審決の上記判断は,その結論において誤りではない。 3 結論 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂隆一
裁判官 瀬順久