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関連審決 審判1978-7948
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
昭和54ネ825 判例 特許
平成14受1100損害賠償,商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
昭和42行ツ28審決取消請求 判例 特許
平成6オ1102商標権侵害禁止等 判例 商標
平成6オ1083特許権侵害差止等 判例 特許
関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  製造方法 /  新規性 /  新規性喪失(新規性の喪失) /  先願主義 /  先願の地位 /  出願公開 /  同一の発明 /  発明の詳細な説明 /  遡及 /  パリ条約 /  優先権 /  出願審査請求 /  分割出願 /  実質的に同一 /  援用権(援用) /  特許出願日 /  優先日 /  参酌 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 /  同盟国 / 
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事件 昭和 56年 (行ケ) 222号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1988/09/13
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
この判決に対する上告のための附加期間を九〇日とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は、「特許庁が、昭和五六年四月二七日、同庁昭和五三年審判第七九四八号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は、主文第一項及び第二項同旨の判決を求めた。
請求の原因
原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。
一 特許庁における手続の経緯 原告は、一九七二年(昭和四七年)七月一四日及び同年九月二一日(以下、両者を併せて「優先日」という。)にアメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和四八年七月一三日、名称を「電導性織物繊維およびその製造方法」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(特願昭四八―七九二三四号)をしたところ、昭和五三年一月一七日拒絶査定を受けたので、同年五月三〇日これを不服として審判の請求(昭和五三年審判第七九四八号事件)をし、同年六月二九日付手続補正書により明細書の特許請求の範囲の欄を補正したが、昭和五六年四月二七日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本は、同年五月一六日原告に送達された(出訴期間として三か月附加)。
二 本願発明の要旨1 フイラメントの周囲に位置し、フイラメントの周囲から垂直内方に該フイラメントの半径の約1/10に等しい距離を有して長さ方向に伸びる独立の相としての環状部分を有し、この環状部分が細かく分割された電導性粒子をフイラメント状重合体基質の溶媒中に分散させた分散液の適用と溶媒除去によつて該粒子を実質的に均一に満たされた状態で分布しているフイラメント状重合体基質から成る電導性織物繊維であつて、しかもこの電導性粒子がこの織物繊維に約10の9乗オーム/cmより大きくない電気抵抗を与えるのに十分な量で存在していることを特徴とする、電導性織物繊維。
(以下「本願第一発明」という。)2 非電導性のフイラメント状重合体基質から電導性織物繊維を造る方法において、該非電導性のフイラメント状重合体に対する良溶媒であるが、電導性物質を溶解しない液体中に細かく分割された電導性粒子を含む分散液を適用し、少なくとも該重合体基質表面の一部を溶解させ、次いで該溶媒を除去して、繊維の周囲に位置し、フイラメントの周囲から垂直内方に該フイラメントの半径の約1/10に等しい距離を有して長さ方向に伸びて配置された重合体基質から独立した相であつて、
細かく分割された電導性粒子を均一に満たした状態で含む環状部分を該重合体基質表面に形成させることを特徴とする、電導性織物繊維の製造方法。(以下「本願第二発明」という。)三 本件審決理由の要点 本願発明の要旨は、前項記載のとおり(明細書の特許請求の範囲の記載と同じ。)と認められるところ、原査定の拒絶理由の概要は、本願発明は、本願発明の特許出願日前の出願であつて、その出願後に出願公開された特願昭四七―一〇三六七二号(特開昭四八―四八七一五号公開特許公報参照)の願書に最初に添付した明細書(以下「引用例」という。)に記載された発明と同一と認められ、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないというにある。
そこで引用例を精査するに、引用例中には、(1)延伸された繊維の外部表面層が該層中に侵入した電導性物質粒子を含有し、5×10の9乗オーム/cm以下の電気抵抗値を有する合成重合体繊維(第一頁第五行ないし第九行)、(2)電導性物質粒子は、繊維の外部表面層内に〇・三ミクロンないし四ミクロンの深さに侵入させることが好ましいこと(第五頁第一二行ないし第一五行)、(3)電導性物質粒子は、液体中に分散して繊維に施すことができること、この液体は、繊維の外部表面層に対する可塑化剤を含有することができ、あるいは該可塑化剤からなることができること(第七頁第一九行ないし第八頁第四行)、(4)可塑化剤は、電導性物質粒子を侵入させるに十分な程度に繊維の表面を軟化するものを選ぶべきであり、かつ、電導性物質の粒子を繊維の表面に侵入させるに十分な時間繊維中又は繊維上に残留するような不揮発性のものであるべきであること、また、可塑化剤は、
加熱又は洗浄によって除去できるものであり得ること(第八頁第一五行ないし第九頁第一行)、(5)繊維の表面に対する溶剤を可塑化剤として使用し得るが、この場合、溶剤の適用は繊維の軟化が外部表面層に限られるように調節されるべきであること(第九頁第二行ないし第五行)、(6)ポリアミド繊維に対する可塑化剤として適当なものは、エチレングリコール、フエノール類、ジメチルホルムアミド、
ベンジルアルコール、メタノールと塩化カルシウムの混合物などであること(第九頁第一三行ないし第一〇頁第四行)、(7)右電導性繊維は、帯電防止効果の良好な持続性が重視される織物やカーペツトに有用であること(第一一頁第九行ないし第一二行)、が記載されている。
次に、本願第一発明と引用例記載の事項とを対比検討するに、本願第一発明と引用例中の前記(1)記載の繊維とを対比すると、両者は、繊維の外部表面層に電導性物質粒子を存在させた10の9乗オーム/cm以下の電気抵抗をもつ電導性繊維である点で同じである。そして、本願第一発明では、電導性物質粒子の繊維中での分布状態を規定し、また、織物用繊維としているのに対し、前記(1)記載の繊維では、単に「繊維表面層中に侵入した電導性物質粒子を含有する」としているのみであり、また、繊維の用途について記載がない点で一応の相違がある。
右相違点について検討すると、引用例中の前記(2)の記載で、電導性物質粒子は繊維の外部表面層内に〇・三ミクロンないし四ミクロンの深さに侵入させるとしており、これは一般の繊維の直径を考慮すると、繊維の半径の1/10程度の距離を包含するものである。また引用例中の前記(3)ないし(6)の記載からみて、
前記(1)記載の繊維における「侵入」は、電導性物質粒子を繊維の溶媒中に分散させた分散液にして繊維に適用し、次いで溶媒を加熱又は洗浄により除去して行うこともできるものであると解される(なお、前記(6)に記載の可塑化剤のうち、
フエノール類の代表化合物であるフエノール及びメタノールと塩化カルシウムの混合物などはポリアミド繊維の溶媒である。)。そして、繊維に該繊維の溶媒を適用した場合、溶媒は繊維の周囲の外部表面層から環状に内方に向かつて作用し、また、繊維の長さ方向にも作用するものであるから、この作用に従つて侵入した電導性物質粒子は、本願第一発明で規定している分布状態をしているものといえる。また、前記(1)記載の繊維は、前記(7)記載のように織物やカーペツトの製造に用いられるものである。してみれば、前記一応の相違点としてあげた点は、引用例中の他の箇所の記載を参酌すると実質的には相違がないといえるから、本願第一発明は引用例に記載されているということができる。
以上のとおりであるから、本願第一発明は引用例に記載されたものであるとした原審の判断は妥当なものとする。
よつて、結論のとおり審決する。
四 本件審決を取り消すべき理由 引用例に本件審決認定のとおりの(1)ないし(7)の記載があることは認めるが、本件審決は、本来引用例として引用することのできない特願昭四七―一〇三六七二号の願書に最初に添付した明細書(引用例)を引用して本願発明の特許出願を拒絶したものであるから、特許法第29条の2の規定に反するものであり、仮に、
右の点に違法がないとしても、本件の場合には、引用例の記載事項として認定し得る事項は、その優先権証明書に記載された事項の範囲に限られるのに、本件審決は、右証明書に記載されていない事項を引用例に記載されている事項と誤認し、ひいて、本願第一発明は引用例記載の発明と同一であるとの誤つた結論を導いたものであるから、いずれにしても違法として取り消されるべきである。すなわち、
1 手続違背について 本件審決は、本願発明の優先日後である昭和四七年一〇月一八日に我が国に出願された特許出願(特願昭四七―一〇三六七二号)を本願発明の特許出願前の出願と誤認し、その願書に最初に添付した明細書そのもの(甲第五号証)を引用例として引用し、
本願第一発明はそこに記載された発明と同一であるとして本願発明の特許出願を特許法第29条の2の規定により拒絶したものであつて、出願日の関係で引用すべからざるものを引用して本願発明の特許出願を拒絶したものであるから、この点において違法である。そして、引用例記載の発明の優先権証明書(甲第八号証の一及び二)と我が国に対する特許出願の願書に最初に添付した明細書(引用例)とか、引用文献として区別されるという関係は、特許法第29条の2の「他の出願」の出願日として第一国説を採つたとしても変わらないから、これにより引用文献の選択を誤つた右瑕疵が遡及的に治癒し得るものではない。すなわち、特許法第29条の2の規定は、先願の地位の拡大とはいわれるものの、その性格は、先後願関係についての特許法第39条の規定に類するものと考えるべきではなく、むしろ新規性喪失に関する特許法第29条第1項の規定と併行したいわゆる公知の擬制としての解釈・運用がなされるべきである。換言すれば、特許法第29条の2の規定にいう「他の出願」は、公開を条件にその出願の日において公知の文献になつたものとして取り扱われるという趣旨にほかならないのであり、公開後に出願自体が取り下げられ、又は無効となつても、特許法第39条の場合のようにいつたん生じた後願発明に対する排除能(引用例性)が失われることはないのである。そうだとすると、
特許法第29条の2の規定にいう「他の出願」が優先権主張を伴う特許出願の場合には、公知の擬制としての趣旨をも併せ考慮すると、むしろ二種類の技術(第一国出願の明細書記載のものと第二国出願の明細書記載のもの)が公知となつたとみるべきであり、特許法第39条のように一個の先願発明があると解すべきではない。
そして、この立場に徹すると、例えば本件事案についていえば、甲第八号証の一及び二が第一国出願日(正確には仮明細書提出日)に公知となり、甲第五号証(引用例)が第二国特許出願日に公知になつたものと同様に扱わざるを得ないことになる。しかし、特許法第29条の2の規定は、そうはいつても特許法第29条第1項と全く同じというわけでもなく、甲第八号証の一及び二の優先権証明書と引用例との間に全然関係がないということもできないから、優先権証明書と我が国出願明細書の内容の共通部分を第一国出願日に公知となつたように取り扱い、他方、当然ながら我が国出願明細書の内容はこれと区別して第二国出願日に公知になると擬制しているのである。したがつて、後願に当たる出願が甲第八号証の一及び二の出願日と甲第五号証(引用例)の我が国への出願日との間になされている本件の場合は、
甲第八号証の一及び二と甲第五号証(引用例)との共通部分(本件では甲第八号証の一及び二の内容と一致する。)を引用すべきものということになるが、もし、後願に当たる出願が甲第五号証の出願日より後になされているとした場合は甲第八号証の一及び二の内容とは関係なく甲第五号証(引用例)を引用すべきであるということになるから、これは全く別の刊行物の引用というべきであり、本件審決は、いわば引用すべき刊行物自体を間違えたものというほかない。被告は、引用例の出願も優先権主張出願であり、出願日と読み替え得るその優先権主張日は、本願発明の優先日よりも先であるから、結局、引用例記載の発明の特許出願は、本願発明に対し、特許法第29条の2の規定にいう「他の出願」に該当することになる旨主張する(いわゆる一国説)が、かかる解釈は、特許法上明文の規定を欠き、文理解釈としてすぐさま採り得るものではなく、他方、特許法第29条の2の規定の趣旨が「他の出願」の記載そのものを公知文献と擬制しているものといえることを勘案すると、引用例の記載を特許法第39条にいう先後願の場合に準じ先願発明として扱うことは正しいとはいえない。また、被告は、当然引用され考慮されるべき甲第八号証の一及び二(優先権証明書)の記載と実際に引用した甲第五号証(引用例)の記載とは実質的に内容が変わらないから、結果的に違法にはならない旨主張するが、特許法第39条に関連して二出願間の先後が問題になつている場合であれば、
出願明細書と優先権証明書は、出願発明が一つであるから一体として働き、引用例として別であるとの発想が生ずる余地はないから、かかる反論も理解できなくはないが、前記のように特許法第29条の2の規定の趣旨において特許法第39条的なものよりむしろ特許法第29条第1項的な性格を含むとする限り、引用出願が同じでも第一国出願明細書、すなわち優先権証明証を考慮の対象にしなければならない場合と我が国の出願内容のみを対象としなければならない場合とは引用文献として明確に区別されなければならないことになるのであつて、ことは引用例の記載内容の問題ではないのである。したがつて、本来、本件審決は、引用文献として甲第八号証の一及び二の優先権証明書の内容を明確にし、かつ、甲第五号証(引用例)の我が国出願明細書との共通部分は何かといつた認定をして本願発明と対比すべきであつたのである。しかるに、本件審決は、甲第五号証の内容を引用例として認定のうえ、本願発明と対比し、これを拒絶したのであるから、右のように対象とする引用文献を誤つた場合に帰すると解され、そうだとすると、かかる手続上の瑕疵は、
結果的な事実誤認の有無として糊塗できるものではないはずである。したがつて、
被告の右反論は理由がない。
2 引用例の記載事項の認定の誤りについて 仮に、特許法第29条の2の規定における「他の出願」自体が優先権主張を伴う特許出願である場合には、いわゆる一国説が正しいとしても、本件事案のように、
「他の出願」に当たる引用例記載の出願内容が、優先権証明書(甲第八号証の一及び二)の内容とは異なり、かつ、その実際の出願日が、本願発明の優先権主張日より後とされる特定の場合にあつては、引用例の記載内容の認定に当たり、甲第八号証の一及び二の内容を十分考慮する必要があるというべきものであり、端的にいうと、本件の場合の引用文献として引用することのできる記載内容は、甲第八号証の一及び二と甲第五号証の共通部分であるということができる。そして、右共通部分の内容を整理すると次のとおりである。
@ 引用例(共通部分)は、単一繊維にも触れているが、それよりも二成分繊維、
特に抱合繊維についての技術とみられる。実施例一〇例中単一非抱合繊維の例はわずか一例(実施例8)のみである。
A 未延伸繊維には効果がなく、したがつて、延伸された繊維を対象とし、この場合のみ有効な技術である(特に、実施例3の比較例参照)。
B 電導性化には、被覆、軟化、侵入、場合により後処理(加熱)の一連の工程を必要とし、少なくとも被覆あるいは軟化被覆だけで目的を達成しているものではない。
C 軟化を熱処理、可塑化剤(膨潤剤)の添加によるとはいつても、単一繊維で可塑化剤を用いる場合、熱処理との併用を好ましいものとし、特に可塑化剤だけで軟化している例はない(実施例7、8は熱処理併用であり、特に、実施例7は後加熱も行つている。しかも、両例とも電導性粒子を可塑化剤に分散させた分散液として適用するものではないので、被覆自体も二段階(軟化、粒子被覆)になつている。)。また、抱合繊維の場合も、第一成分と第二成分の融点の間の温度における高温の粒子状被覆であり、その後の熱処理を行うことを好ましいとしている(実施例1ないし6及び9参照。なお、実施例10は低温被覆であるが、後加熱しており、プレス処理をしていないものは効果なしとしている。)。
D 溶剤を可塑化剤として使用し得るとするが、コントロールを必要とすることを述べ、例外とみられるし、例示はすべて可塑化剤だけをあげている(したがつて、
濃度によつて溶剤となり得るものが含まれても、それは当然ながら溶剤としての濃度で使用されるものではないから、それは溶剤ではない。)。
しかるに、本件審決における引用例の記載内容の認定においては、この点の配慮が全くなされていない。特に、引用例中には、「延伸された繊維の外部表面層が該層中に侵入した電導性物質粒子を含有し、5×10の9乗オーム/cm以下の電気抵抗値を有する合成重合体繊維」及び「電導性物質粒子は、繊維の外部表面層内に〇・三ミクロンないし四ミクロンの深さに侵入させることが好ましいこと」が記載されているとの認定は、甲第五号証(引用例)と甲第八号証の一及び二の共通部分という前提をふまえると、明らかに存在しない記載内容を認定したことになりもとより誤りというほかない。ここで認定の基礎とすることができる内容は、(1)の記載に関しては、実施例1ないし6及び実施例9で可塑化剤を用いず、高温粒子状被覆、更にほとんど後加熱でそれぞれ5×10の6乗オーム/cm、10の7乗オーム/cm、10の6乗オーム/cm、10の6乗オーム/cm、5×10の6乗オーム/cm、2×10の6乗オーム/cm及び2×10の6乗オーム/cm(個々のフイラメント4×10の7乗オーム/cm)、また、実施例7及び8で可塑化剤だけの後処理粒子被覆、ほとんど後加熱を行い2×10の6乗オーム/cm、1×10の6乗オーム/cmの電気抵抗値のものを得ており、更に、実施例10は、
水性分散液適用後プレス処理するというように事実の記載だけで、すべて特定の態様と結びついたものである。被告は、この点について、甲第八号証の一の実施例1ないし6及び甲第八号証の二の実施例1ないし10には、延伸された繊維の外部表面層が該層中に侵入した電導性物質粒子を含有し、5×10の9乗オーム/cm以下の電気抵抗値を有する合成重合体繊維が記載されている旨主張するが、そこに記載されているものは、実施例としての個別的な特定の態様における結果があるだけであり、これらの電気抵抗値をつないで範囲とすることができるかにも疑問はあるが、仮にその範囲をとるとすると4×10の7乗オーム/cmないし1×10の6乗オーム/cmとなるから、5×10の9乗オーム/cm以下とする根拠はなく、
前記被告の主張は当たらず、本件審決における引用例の摘示事項中(1)の点が甲第八号証の一及び二に記載されているということはできない。また、(2)の記載に関しては、甲第八号証の一には「約二ミクロン」の深さまで侵入した例が一例だけ(実施例1)あるにすぎない。被告は、甲第八号証の一及び二の実施例1には「電導性物質粒子であるカーボンブラツクが約二ミクロンの深さまでシース成分中に侵入している」旨の記載があるので、本件審決認定の(2)の記載も引用例に事実上記載されている旨主張するが、二ミクロンの例が一例あるだけで、〇・三ミクロンないし四ミクロンの深さまで侵入させることが記載されているとはいえないことは明らかであるから、読替えができるというわけにはいかない。そして、以上の点は、頁数(該当頁)まで指摘しての摘示事項であるので、この頁数の違いを格別問題とするには当たらないといつて済ませ得るものではない。
3 同一性判断の誤りについて 本件審決は、本願第一発明では、電導性物質粒子の繊維中での分布状態を規定し、また、織物用繊維としているのに対し、引用例記載の繊維では、単に繊維表面層中に侵入した電導性物質粒子を含有するとしているのみであり、また、繊維の用途について記載がない点で一応の相違があるとしながら、引用例中の(2)ないし(7)の記載を根拠に、右一応の相違点としてあげた点は実質的に相違がないといえるから、本願第一発明は引用例に記載されているということができる旨認定判断しているが、右認定判断は、本願第一発明と引用例(共通部分)記載の電導性繊維(特に電導性物質粒子の繊維上での分布状態)及び効果の相違を全く無視するものであつて誤りである。すなわち、
(一) 本件審決は、引用例中の(2)の記載で電導性物質粒子は繊維の外部表面層内に〇・三ミクロンないし四ミクロンの深さに侵入させるとしていることから、
これは一般の繊維の直径を考慮すると繊維の半径の1/10程度の距離を包含するものである旨認定判断をしているが、前記2記載のとおり、引用例(共通部分)には(2)の記載は何ら存在せず、ただ二ミクロンの一例があるのみであるから、右認定判断はその前提を欠き全く理由がない。原告の検討によれば、繊維の可塑化により電導性物質粒子を繊維中に埋め込む場合、繊維の耐久性を考慮すると電導性物質粒子を一ミクロン以上も繊維中に埋め込むことは不可能であり、実際に引用例(共通部分)記載の方法を追試したところでも、電導性物質粒子はわずか〇・五ミクロン以下しか侵入していないのである。この点における引用例(共通部分)記載の方法と本願第一発明の電導性粒子の分布状態の違いと侵入深さの違いは、甲第七号証の宣誓供述書にも明確に示されている。
すなわち、この甲第七号証に添付された試料1は、引用例(共通部分)記載の方法により得られた電導性繊維であるICI社のエピトロピツクステープル現物であり、試料Uは、本願第一発明の電導性繊維であるF―九〇一フイラメント現物であつて、更に、顕微鏡写真IA及びIBは引用例(共通部分)の電導性繊維の横断面及び斜断面写真、顕微鏡写真UA及びUВは、本願第一発明の電導性繊維の横断面及び斜断面写真である。これらの写真を対比することにより、重合体フイラメントの溶解処理により得られた本願第一発明の電導性繊維は、可塑化(軟化)処理により得られた引用例(共通部分)に記載のものに比べて明確な構造(電導性粒子の侵入密度及び侵入深さ)の相違を有し、その結果、この種の電導性繊維における重要特性である電導性及び耐久性においてはるかに優れていることが明らかである。被告は、引用例の実施例1には22dtex(デシテツクス)のモノフイラメントの表面にカーボンブラツク粒子が約二ミクロンの深さまで侵入している電導性繊維が記載されており、22dtexのモノフイラメントの半径は約二四・七ミクロンであるから、この例においては、カーボンブラツクはフイラメントの半径の約1/10程度の深さまで侵入している旨主張するところ、引用例の実施例1に、モノフイラメントの表面にカーボンブラツク粒子が約二ミクロンの深さまで侵入している旨の記載があり、この記載からの単純な計算値がほぼフイラメントの半径の1/10になること自体を争うわけではないが、この記載における約二ミクロンの内容が、
ある場所での値なのか、平均値なのか分からず、それから測定方法もはつきりしないところ、原告の追試では、わずかに〇・五ミクロンしか侵入していない(甲第七号証参照)のであるから、原告としては、この一例をもつて、引用例記載のものが常にフイラメントの半径の1/10の深さまで侵入するということを認めるわけにはいかない。
(二) 次に、本件審決は、引用例の(1)記載の繊維における「侵入」は、電導性物質粒子を繊維の溶媒中に分散させた分散液にして繊維に適用し、次いで溶媒を加熱又は洗浄により除去して行うこともできるものであると解される旨認定判断しているところ、確かに、その根拠とする引用例中の(3)の記載の「電導性粒子を、液体に分散・・・における液体は、広く水でもよいことは実施例10からも明白であり、もちろん可塑化剤でもよく、その可塑化剤が電導性粒子を侵入させるに十分表面の軟化をさせるもので、すぐに揮発してはならないことも引用例中の(4)記載のとおりであるが、引用例中の(5)の記載ではただ溶剤でもよいとはいつていても、可塑化剤としての使用であることを明記しており、かつ、その使用が、外部表面の軟化に限られるようにコントロールすべきことまで記しているのである。してみると、原則としてその液体が、たまたまその繊維の溶媒として知られ、又は用いられているとしても、ここでは溶媒としての使用ではなく、あくまで可塑化剤としての使用なのであり、そのように解すべきである。濃度等の条件によつては溶媒として働くようなものが含まれていても、それは可塑化剤として働くような条件での使用を意味するものとして読むべきである。したがつて、引用例中の(6)の記載で指摘する可塑化剤が、本件審決がいうように一般に溶媒として位置づけられるものであろうとなかろうと、引用例(共通部分)では可塑化剤以外の意味に解することはできない道理である。更に付言するに、引用例(共通部分)においては、電導性粒子を繊維の表面層に侵入させるために必要な軟化に必須の工程としては、一貫して熱処理をあげ(実施例すべて)、可塑化剤の使用はいわば補助的なのである。可塑化剤を使用した実施例は二例(実施例7及び8)があるだけで、
それも熱処理と併用したもので、しかも電導性物質粒子の分散液として適用するものでもない。ほとんど高温での振動等を伴う粒子自体の被覆並びに後加熱処理を伴うものであり、中にはプレス処理するものもある。ただ、引用例(共通部分)の記載は「繊維の外部表面層の軟化は熱処理、可塑化剤の添加または両者の組合せにより達成され得る。」との可塑化剤の単独使用も示唆しているかのようであるが、右記載に続く「繊維が単一繊維である場合、繊維の外部表面層を軟化するために可塑化剤と熱処理の組合せを使用することが好ましい。」との記載に実施例を含めて全体的に一貫した熱処理を必須としている前記事情をも併せ考慮すると、かかる可塑化剤の単独使用さえ示唆しているとはいえず、ましてや、本願第一発明にいう溶媒を電導性粒子を分散液として単独で適用することまでも記載されているとは到底いい得ない。これを敷えんするに、本願第一発明の電導性繊維における電導性物質粒子(通常、カーボンブラツクが用いられる。)は、本願第一発明の特許請求の範囲の記載から明らかなように、「フイラメントの周囲に位置し、フイラメントの周囲から垂直内方に伸びる独立の相としての環状部分」として「実質的に均一に満たされた状態で分布」(表層環状充満)しており、本願第一発明の電導性繊維における電導性粒子のこのような分布状態は、一般に浸透被覆(suffusion)といわれている。これに対して、引用例記載の電導性繊維においては、熱処理及び/又は可塑化剤(軟化剤)の適用により可塑化(軟化)されたフイラメントの外部表面層中に電導性物質粒子を埋め込むことにより、該層中に電導性物質粒子が侵入分布されており、このような分布状態は、一般に機械的侵入(mechanical impregnation)といわれ、電導性物質粒子が独立の相としての環状部分を形成せずに不均一かつ不連続状態で分布している点で本願第一発明の電導性繊維とは明確に区別されるべきものである。このように、本願第一発明の電導性繊維と引用例記載の電導性繊維とでは電導性物質粒子のフイラメント上での分布状態が顕著に相違するのは、本願第一発明の電導性繊維の製造においては繊維の溶解処理が採用されているのに対し、引用例の電導性繊維の製造においては繊維の可塑化処理という全く異なる処理手段が採用されているからである。すなわち、溶解とは、
固体物質が液体中に溶け込む現象をいい、本願第一発明の電導性繊維は、固体物質であるフイラメント状重合体基質の表層を、該フイラメント状重合体を溶解する溶媒である高濃度の硫酸(四〇%)やギ酸(八〇%)により溶解し、溶解した重合体基質の環状部帯域にカーボンブラツクのような電導性物質粒子を均一に分散させることにより得られるものであるのに対し、「可塑化」とは、固体物質に塑性を付与すること、より簡明には固体物質を軟化させることをいい、引用例記載の電導性繊維は、固体物質であるフイラメント状重合体基質の表面を軟化させ、軟化した重合体基質の帯域に電導性物質粒子を埋め込むことにより得られるものである。なお、
引用例には、繊維の可塑化は熱処理以外に可塑化剤の使用によつても行われることが記載され、可塑化剤として、本願第一発明の電導性繊維の製造において繊維の溶解剤として用いられる硫酸が例示されているが、「可塑化剤」というのは、技術上「溶剤(媒)」と区別されて用いられているものであつて、例えば、甲第九号証によれば、「プラスチツクの可塑性を改善し、製品に柔軟性を与えるために加えられる一般には液状(まれに固体状のものもある)の物質」を指すのに対し、「溶媒」は、「他の物質(溶質)を溶解し分子又はイオンサイズレベルにおいて均一に分散された混合物(溶液)を形成することができる物質」のことであるとされており(甲第一〇号証参照)、これらの「可塑化剤」及び「溶剤(媒)」による「可塑化」及び「溶解」という現象は、明確に区別することができる。このように、「可塑化剤」とか「溶剤」といつた用語は、その「可塑化」とか「溶解」という現象を生ぜしめる機能、性質に着目した言葉であるから、いかなる用い方によつてもかかる機能、性質をもたないものをそのように呼ぶことのできないことはもちろんであるが、用い方により両方の機能、性質を示す物質であつても何ら差し支えないのである。すなわち、濃度等の条件によつて「可塑化剤」になつたり「溶剤」になつたりする物質があるが、ただこの場合でも同時に同一現象が起きて区別できないということはない。したがつて、本件のような場合、例えば、「硫酸がポリアミド繊維の可塑化剤である。」という表現は舌足らずであつて正確とはいえず、正確には、
特定の濃度、例えば「二三%の硫酸がポリアミド繊維の可塑化剤である。」という表現でなければならない。したがつて、引用例において硫酸を可塑化剤として用いる場合には、硫酸が繊維の溶解剤としてでなく可塑化剤(軟化剤)として働くように硫酸の濃度、処理温度及び処理時間を調節すべきであり、このような調節が必要なことは引用例の記載からも十分に裏付けられている。原告の検討によれば、右硫酸の濃度、処理温度及び処理時間のうち硫酸の濃度が繊維の溶解か可塑化を決定する主要因子であり、硫酸の濃度が四〇%の場合、硫酸はナイロン六繊維の溶解剤として働くが、その濃度が二三%である場合、硫酸はナイロン六繊維の可塑化剤として働くこと、及び硫酸を濃度四〇%にして溶解剤として用いて得られる本願第一発明の電導性繊維(本願発明の明細書記載の実施例3でも四〇%濃度の硫酸を使用している。)は、硫酸を濃度二三%にして可塑化剤として用いて得られる引用例の電導性繊維に比べて電導性及び耐久性(長期間使用後において電導性粒子が繊維から脱離することに対する抵抗性)においてはるかに優れていることが確認されている(甲第六号証参照)。なお、甲第二号証の一及び二によれば、一般に溶剤(媒)として知られる有機化合物であつても、決して汎用的なものではなく、繊維の種類によつては全く溶解性のないことをよく示しているのである。そこで、この甲第二号証の一及び二を参照しつつ甲第八号証の一及び二の記載を精査すると、ポリエステル繊維のための可塑化剤として適当な化合物として羅列したもの(甲第八号証の二第六頁第九行ないし第一五行)のうち、特にベンジルアルコール、クロロホルム等が、その溶剤(媒)としては用いられないことは明らかであるし、また、ポリアミド繊維の可塑化剤として適当な化合物として掲載されているもの(同第八号証の二第六頁第一六行ないし第二五行)のうち、飽和蒸気、ジメチルホルムアミド、ベンジルアルコール、ポリ(酢酸ビニル)、エステルガムクマロン樹脂及び低分子量アルキド樹脂は、ポリアミドの溶剤(媒)とはならないものなのである。これらの点からみても、引用例(共通部分)の技術が、可塑化剤を用いるものであつてもともと溶剤の使用を考えているものではないことが明らかである。したがつて、本件審決の前記認定判断は誤りである。被告は、本願第一発明の電導性繊維における電導性粒子の分布状態は「浸透被覆」であり、引用例記載のそれは「機械的侵入」であるとする原告の主張の根拠が本願発明の明細書にも引用例にもない旨主張するが、
原告が本願第一発明の電導性繊維における電導性粒子の分布状態を「浸透被覆」としたのは、本願発明の明細書の第二頁第二〇行ないし第三頁第四行及び第六頁第一四行ないし第一八行等において記載された「電導性粒子が重合体基質(フイラメント)から独立した相としての環状部分を形成して均一に満された状態で分布している」という技術事項を簡明に表現したものである。なお、本願発明の明細書の各箇所(例えば、第七頁第二行ないし第三行、第七行及び第一〇行、第九頁末行、第一一頁第一八行、第二〇頁第五行及び第八行、第二二頁第七行及び第一三行ないし第一四行等)に記載された「充満」及び「環状充満」なる用語の原語はそれぞれ「Suffusion」及び「annular suffusion」であり、ここに「suffusion」とは、本来、液体(本願発明のように、場合によりカーボンブラツクの如き微粒子を含み得る。)を固体物質の表面組織中に浸透させるという意味を有するものであつて、「浸透被覆」にほかならない。これに対し、引用例記載の発明の電導性粒子の分布は、可塑化剤が繊維の表面層の一部の分子の間のからまりを緩くし、ここに電導性物質粒子が侵入していくのであるが、そのために熱処理、プレス等の手段が併用されているので機械的侵入と称したのである。また、
被告は、本願第一発明では溶解処理が採用され、引用例記載の発明では可塑化(軟化)処理が採用されているとの原告の指摘に対し、引用例には本件審決で指摘したとおり、合成重合体繊維を溶解する溶媒中に電導性物質粒子を分散させ、この分散液を合成重合体繊維に適用し、次いで溶媒を除去して電導性を付与することが記載されているのであり、この処理手段自体は本願第一発明と異なるところがない旨主張するが、被告の右主張は、引用例に記載された技術事項の誤解に基づくものである。なるほど、引用例には硫酸のようにポリアミド繊維(合成重合体繊維)の溶媒になり得る物質があげられているが、これらの物質は可塑化剤として繊維の軟化が外部表面に限られるような条件下で使用されるべきものなのである。この点に関し、原告は、本願発明の発明者自身の宜誓供述書(甲第六号証)を提出し、同じ硫酸でもその濃度が二三%の場合、可塑化(軟化)剤としかなり得ないが、その濃度が四〇%の場合に溶媒になることを明らかにしている。また、引用例記載の発明において、可塑化剤を使用したすべての実施例(例えば、実施例7、10、11参照)では、可塑化剤による処理とともに二〇〇℃を越える加熱処理が併せて採用されているが、これは引用例記載の発明において用いられた可塑化剤が重合体繊維を軟化するための加熱処理を補助するために用いられていることを如実に示すものである。更に、被告は、本願第一発明における「溶解」処理が引用例記載の電導性粒子の重合体繊維フイラメント中への分散分布機構と何ら異ならない理由の一つとして、重合体繊維フイラメントが溶解するのであれば、右フイラメントはその表層から溶媒中に溶け込んでいくため段々痩せ細るはずであるのに、現実に得られた電導性繊維は引用例記載のそれと同様にその断面直径が未処理のフイラメントのそれに比べて大きくなつていることをあげている。しかしながら、本願第一発明においては、溶解処理が採用されたとしても得られる電導性繊維の断面直径は未処理のフイラメントのそれよりも大きくなり得るのであつて、被告の主張は失当である。すなわち、本願発明のすべての製造実施例である実施例1ないし3によれば、重合体フイラメントは電導性粒子を分散させた溶媒中に浸漬されて溶解処理されるのではなく、重合体フイラメントは、これを電導性粒子を分散させ、場合により重合体フイラメントと同一材質の粉末重合体を溶解させた(実施例2及び3)溶媒で飽和されたポリエステルパツドの二つの対立表面を通過させることにより溶解処理され、このような溶解処理によりフイラメントはその最表面のみが溶解されて環状の重合体溶解領域が形成され、この重合体溶解領域中に溶媒中の電導性粒子が自由に均一分散し、電導性粒子の分散が完了した後に溶媒を洗浄除去すると前記重合体溶解領域は再び元の固体状態に戻るから、電導性粒子が導入された分だけ断面直径が増大するのである。この点を更に詳述するに、本来高分子繊維物質が溶解するか可塑化(軟化)するかは、同一の高分子繊維物質に対して適用される化学薬品の組成により、ある場合には更に濃度、温度などの適用条件によつて定まるので、適用量には無関係である。したがつて、軟化又は可塑化と記載されていれば、高分子繊維物質を溶解しない化学薬品(非溶媒)を使用するか、あるいは高分子繊維物質が溶解しない条件でやることは自明のことである。ところで、高分子繊維物質の表面溶解の場合に溶解物質が繊維から脱離するか否かは繊維とともに存在する溶媒の量次第である。しかるに、本願発明の実施例によれば、前記の如く溶解処理されるべき重合体フイラメントは電導性粒子(カーボンブラツク)を分散させた溶媒で飽和されたポリエステルパツドの二つの対立表面を通過させることにより溶解処理される。そして、重合体フイラメントがポリエステルパツドを通過する速度は、例えば毎分四〇〇メートルであり(本願発明の明細書第一五頁等一七行ないし第一八行参照)、
長さ一インチ(二・五四センチメートル)のポリエステルパツドを通過する重合体フイラメントの滞留時間は〇・〇〇四秒と極めて短い。したがつて、ポリエステルパツド中の溶媒は、同パツド中を移動する重合体フイラメントの表面に適用(付着)されるが、同パツド内で溶媒が重合体フイラメントの表面を溶解する前に重合体フイラメントはポリエステルパツドの外部に搬送される。すなわち、"重合体フイラメントの溶解が起こる時には重合体フイラメントはもはやポリエステルパツド内に存在しないのであるから、重合体フイラメントの表面がポリエステルパツド中の溶媒に溶け込むことはない。また、付着している少量の溶媒に接触している重合体フイラメントがそれに溶解したからといって、溶液量が増えてフイラメントから溶解液が脱落するはずがない。ポリエステルパツド外に搬送された後に、
重合体フイラメントの表面に存在する溶媒中にフイラメント表面の重合体が溶け込むことにより環状の重合体溶解領域が形成され、この重合体溶解領域中に溶媒中にあらかじめ存在する電導性粒子が重合体フイラメントの半径の約一〇分の一の深さまで自由に均一分散される。本願第一発明において、重合体フイラメントのこの溶解処理は、電導性粒子の分散が完了した後に溶媒を除去することにより停止されるが、溶媒の除去により前記重合体溶解領域は再び元の固体状態に戻るから、電導性粒子が導入された分だけ断面直径が増大するのである。このような本願第一発明における溶解処理は、フイラメント表面を熱や可塑化剤の作用により単に軟化して得られた環状の重合体軟化領域に電導性粒子をプレス処理等により機械的に侵入させる引用例(共通部分)記載の発明に係る方法とは明確に区別されるべきものである。また、更に、被告は、本願第一発明は溶媒として特定濃度の硫酸を用いることを規定しているものではなく、また、引用例には硫酸を濃度二三%にして用いるというような記載が明示されていない旨主張するところ、そのこと自体は原告も認めるが、本願発明の明細書記載の実施例3においては四〇%硫酸が用いられ、「基質のための良好な溶媒であるが電導性物質と反応しないかまたはこの物質を溶解しない液体」(甲第二号証第一一頁第二行ないし第四行)である右四〇%硫酸を用いた本願第一発明では、甲第六号証の本願発明の発明者の宜誓供述書で示したように重合体フイラメントの溶解が起こつていることが明らかであり、一方、引用例において二三%硫酸を用いたとは明記されていないが、引用例記載の可塑化処理において硫酸を用いようとする場合には比較的希薄な、例えば二三%のような硫酸を用いなければならないこともまた明らかである。なお、本件審決で指摘されたフエノールと塩化カルシウムも一般論としてポリアミド繊維の溶媒とはなり得るかもしれないが、引用例記載の発明においてこれを用いる場合には、これを所定濃度に希釈した後可塑化剤として使用されるべきものである。
(三) 更に、本件審決は、引用例中の(1)記載の繊維も、「侵入した電導性物質粒子は、本願第一発明で規定している分布状態をしているものといえる。」旨認定判断しているが、既に述べたとおり、引用例(共通部分)記載の電導性繊維と本願第一発明の電導性繊維には数々の相違点があり、ただ実施例の電気抵抗値が結果的に似ているだけであるから、常識的にみても分布状態が異なるといい得るのである。もし、本願第一発明が引用例(共通部分)記載の発明と構成上同じであるとすると、その効果も当然同じにならなければならないが、両者は、例えば次の点で明らかに異なるから、結局同一構成と結論づけることはできない。すなわち、本願第一発明においては、未延伸繊維を処理しても延伸の際カーボンブラツクが脱落せず、延伸の前後に変化が現れないが、引用例(共通部分)記載の発明の場合は、延伸前にカーボンブラツク処理をしても延伸により脱落してしまうから、延伸繊維にのみ有効な技術といわざるを得ないのであつて、このことだけでも両者のカーボンブラツクの分布状態を初めとして付着の状態が、もともと異なることが分かる。このように、引用例(共通部分)記載の技術において、未延伸で電導性処理をした場合延伸後その電導性の低下が示唆されている点(実施例3後段)等は、両者の相違を十分裏付けて余りあるといえる。したがつて、本件審決の前記認定判断も誤りである。
被告の答弁
被告指定代理人は、請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。
一 請求の原因一ないし三の事実は、認める。
二 同四の主張は、争う。本件審決の認定判断は正当であつて、原告主張のような違法の点はない。
1 同四1の主張について 特許法第29条の2の規定の立法趣旨は、先願の地位の拡大といわれるように、
最先の出願の明細書及び図面に記載された発明のうち、特許請求の範囲に記載される発明だけでなく、発明の詳細な説明や図面に記載の発明についても先願発明としての地位を与えようとするものであり、同条項を設けた主な理由は、(1)先願の明細書又は図面に記載されている発明は、特許請求の範囲以外に記載されていても、出願公告又は出願公開により一般にその内容は公表される。したがつて、先願の出願公告又は出願公開以前に出願された後願であつても、その内容が先願の明細書又は図面に記載された発明と同一内容の発明である以上、このような発明に特許権を与えることは、新しい発明の公表の代償として発明を保護しようとする特許制度の趣旨からみて妥当ではないので、後願は拒絶すべきものである。(2)先願として拒絶理由に引用できる範囲を、例えば、特許請求の範囲に限定しておくと、後願を審査する段階において先願が審査請求されていない場合には、先願について査定が確定するまで後願の審査ができないこととなるから、補正によつて特許請求の範囲を増減変更することができる範囲の最大限(特許法第41条)である出願当初の明細書又は図面に記載された事項全部を先願として拒絶理由に引用できる範囲と認めることとして、先願についての査定の確定をまつことなく後願を審査できるようにする、(3)一方、パリ条約第4条B項は、優先権の効果として、優先権を主張する第二国出願と優先権の基礎となつている第一国出願のそれぞれの出願日の中間において、他の出願がなされ、又は当該発明が公表され実施されたとしても、第二国出願はそれらの事実を理由として不利な取扱いを受けることはなく、また、右の中間の期間に行われた他の出願、公表又は実施によつて、第三者のいかなる権利又は使用の権能をも生じさせない旨を規定するが、表現を換えれば、優先権の効果は、優先権の基礎となった同盟の他の国における最初の出願の時にその出願がなされたならば得られたであろう効果よりも少なくてはならないものである。
したがつて、優先権主張を伴う出願が特許法第29条の2の「他の出願」に該当する場合、その出願の先願としての地位を定めるための基準日は、優先権主張日(第一国出願日)とするのが妥当である。いい換えれば、優先権の基礎となつた他の同盟における最初の出願の時に、日本国に出願がなされたならば得られたであろう特許法第29条の2の規定する後願排除の効果を当該優先権主張を伴う特許出願にも認めるように取り扱うことが妥当であり、この取扱いは特許法第29条の2及びパリ条約第4条B項の精神に沿うというところにある。そして、右の解釈及び運用は特許法第39条の解釈及び運用と整合しており、かつ、特許庁において既に六〇数年にわたる歴史を有し、安定したものとなつている。特許法第29条の2の規定には、第一国出願日を基準とする旨の規定を設けていないが、先願に対してのみ特許を付与するという同法第39条に関する右の定着した解釈を踏襲することを前提として、当然に第一国出願日を基準とするがゆえに、明文の規定を設けなかつたのである。なお、第一国出願日を基準とする旨の明文の規定がないことから、文理解釈上、原告が主張するように第二国出願日が出願日であるとする説が生じる可能性もないわけではないが、それは、右に論述したような六〇数年にわたり定着してきた第一国説を特許法第29条の2の解釈に際しても適用するという条理を否定することであり、長期にわたる我が国の特許制度の運用に混乱をもたらすものであり、法律及び条約の精神から逸脱することになる。したがつて、原告主張の出願日第二国説は、先願の地位を拡大させるという特許法第29条の2の立法趣旨及び第一国出願日の後の第三者の行為によつて、第三者に何らかの権利が生じたり、また、第一国出願の効果を減殺するような同盟国内の立法はなし得ない、というパリ条約第4条B項の規定の趣旨を閑却する独自の見解にすぎないものである。
2 同四2の主張について 甲第八号証の一及び二に、本件審決が引用例に記載されていると認定した(1)及び(2)の事項についてその記載に完全に一致する文言が独立して存在しないことは認めるが、甲第八号証の一の実施例1ないし6及び同号証の二の実施例1ないし10には、延伸された繊維の外部表面層が該層中に侵入した電導性物質粒子を含有し、5×10の9乗オーム/cm以下の電気抵抗値を有する合成重合体繊維が記載されており、また、甲第八号証の一及び二の各実施例1(両者は実質的に同一である。)には、「電導性物質粒子であるカーボンブラツクが約二ミクロンの深さまでシース成分中に侵入している」旨の記載があるので、本件審決認定の前記(1)及び(2)の摘示事項は、事実上、引用例に記載されているものと認めることができる。ただ、本件審決が前記(1)及び(2)の記載が、それぞれ引用例の第一頁第五行ないし第九行及び第五頁第一二行ないし第一五行にある旨指摘した点は適切を欠いた嫌いがあるが、右に述べたように、本件審決認定の(1)及び(2)の記載は甲第八号証の一及び二にも存するのであるから、右の不適切な指示も格別問題とするには当たらない。なお、原告は、本件の場合に引用し得る技術内容は甲第八号証の一及び二と引用例の共通部分であるとしたうえで、右共通部分を@ないしDとして整理しているが、@の点は、引用例は単一繊維及び抱合繊維の両者を対象として、それぞれ多数の例示があり、単一繊維については実施例7及び8の二例が認められるのであつて、実施例が一例のみであろうと、一〇例すべてであろうと、単一繊維に関する記載があることに変りはない。更に、本願第一発明は、その特許請求の範囲の記載からみて、単一繊維のみを構成要件とはしていないので、対象物の点から本願第一発明と引用例記載の発明との異同を論ずることは全く意味がない。
Aの点は、フイラメントが未延伸のものか延伸のものかは、本願第一発明の構成要件とはなつていないので、両者を区別すること自体に意味はない。Bの点は、フイラメントに電導性を与える処理について、原告は、本願第一発明と引用例記載の発明とではその工程が全く異なるように主張するが、いずれの実施例もさほど詳細ではなく省略記載もあることからして、両者間に格別差異があるとは思われない。特に、引用例記載の発明においては、被覆処理の前後に加熱処理が付加されることもあるが、このような熱処理工程の付加あるいは排除は、本願第一発明の要旨とはなつていないので、熱処理工程の付加があろうとなかろうと対比上問題とするに当たらない。Cの点は、引用例の第六頁第三行ないし第四行には、「繊維の外部表面層の軟化は熱処理、可塑化剤の適用または両者の組合せにより達成され得る」という説明があり、当然に可塑化剤の使用だけの場合が存在するのであるから、引用例記載の発明について、実施例の記載のみに注目して、引用例記載の発明は可塑化剤の使用と熱処理とを必ず組み合わせるものであるかのように主張することは意味のないところである。また、Dの点は、原告は、可塑化剤として溶剤を使用することが例外であると主張するが、例外であるか否かはさておき、とにかく引用例中に溶剤を可塑化剤として使用することが明確に記載されている以上、右原告の主張は意味がない。
3 同四3(一)ないし(三)の主張について(一) 引用例の実施例1には、22dtex(デシテツクス)のモノフイラメントの表面にカーボンブラツク粒子が約二ミクロンの深さまで侵入している電導性繊維が記載されており、22dtexのモノフイラメントの半径は約二四・七ミクロンであるから、この例においては、カーボンブラツクはフイラメントの半径の約1/10程度の深さまで侵入している(なお、右モノフィラメントの半径は、1dtexは繊維一〇〇〇メートル当りの重量が〇・一グラムであり、ナイロンの比重は一・一四であるとして計算した。)。したがつて、引用例には、電導性物質粒子を繊維の半径の約1/10程度の深さまで侵入させる場合が記載されているといえるので、この点に関する本件審決の判断に誤りはない。原告は、引用例におけるカーボンブラツク粒子が約二ミクロンの深さまで侵入するという一実施例の記載によつては、引用例記載のものが常にフイラメントの半径の約1/10の深さまで侵入するということを認めることはできない旨主張するが、とにかく事実として右のような記載が引用例に存在する以上、これを前提とした本件審決の判断に誤りはなく、
この事実を無視した原告の主張こそ理由のないものである。
(二) 原告は、本願第一発明の電導性物質粒子の分散液をフイラメントの表面に適用した後の電導性粒子の挙動は浸透被覆(suffusion)であり、一方、
引用例記載の発明における電導性物質粒子の挙動は機械的侵入(mechanical impregnation)であるから、両者における電導性物質粒子の分布状態が全く相違する旨主張するが、かかる主張、特に引用例記載の発明における電導性物質粒子の挙動が機械的侵入である旨の主張は、事実に対し、本願第一発明と引用例記載の発明との正当な比較検討を妨げるものである。そこで、両発明における電導性物質粒子の分布状態が異なるものでないことを説明するに、本願発明の第一国出願の内容からして、電導性物質粒子の分布状態が明細書記載のとおり、充たされた、あるいは充満された(suffused)ものであることは認められるが、浸透被覆と読み換えることは必ずしも適当ではない。「suffuse」とは、乙第三号証の一ないし四並びに第四号証の一及び二に示すように、液体や光や色が(基質に)みなぎる、満ちる、覆うという結果的な状態をマクロ的に表し、その途中の過程や手段をミクロ的に表すものではない。一方、引用例記載の「侵入」は、その第一国出願の明細書(甲第八号証の一及び二)に記載の「penetrate」に対応するもので、電導性物質の微粒子が基質にしみこむような状態を表現する日本語として極めて不適切であつて、正しくは「浸透」という表現を用いるべきであつたものである。そして、本願第一発明でいう充たされた、あるいは充満されたは、引用例でいう浸透(penetrate)という手段を施した結果生ずるものと考えれば、両者(suffuseとpenetrate)の関係が明瞭に理解されるところである。すなわち、「penetrate」は手段を限定し、「suffuse」はその結果を限定したもので、本来別異の事象を表現しているわけではない。原告は、前述のとおり、引用例記載の発明における電導性物質粒子の分布状態は機械的侵入(mechanical impregnation)である旨主張するが、そのような事項の説明は引用例及びその第一国出願の明細書のどこにも記載がない。原告は、右主張の根拠は甲第六号証にあるというかも知れないが、甲第六号証は原告の主張に合わせて作成した文書であつてすこしも信をおくに値しない。以上のとおりであるから、原告の主張は事実に反するものであつて、電導性物質粒子がフイラメントの表面に分布している態様は、本願第一発明と引用例記載の発明との間で全く相違はない。また、原告は、本願第一発明においては「溶解」処理が採用されているのに対し、引用例記載のものは「可塑化(軟化)」処理が採用され、両者はその処理手段が異なるとし、そして、引用例記載のものにおいては溶媒は繊維を軟化させているのであつて、本願第一発明のように繊維の溶解現象(繊維の溶解)が起こることはあり得ないから、両者は電導性物質粒子の分布状態が異なり効果も異なる旨主張する。しかしながら、可塑剤及び溶剤の一般的な定義は、例えば、共立出版株式会社発行の「化学大辞典」第二巻第四一七頁(乙第一号証の二)、同第九巻第四三七頁(乙第二号証の二)に記載のとおりであつて、両者は全く異なる「剤」であるように見えるが、乙第一号証の二には、「可塑剤」の欄の「性質」の部分に、「可塑剤は次のような性質を保持する必要がある。相溶性(compatibility)‥樹脂とよく混合すること、不揮発性、・・・」と記載され、可塑化剤に要求される多数の性質のうちで樹脂(適用対象物)を溶解する性質、すなわち、溶剤としての性質を第一番目に掲げており、また、乙第二号証の二には、「溶剤」の欄の末尾の部分に「溶剤は、その作用に応じて、抽出剤、
吸収剤、洗浄剤などと呼ぶ場合もある。」と記載され、可塑化作用に着目すると溶剤が可塑化剤と呼ばれる可能性のあることを示唆している。これらの点を考慮すると、同一物質が溶剤とも、また、可塑化剤ともなり得るということが当然に帰結されるところである。現に、引用例の第九頁ないし第一〇頁に可塑化剤に適するものとして列挙された多数の化合物のうち、例えば、ベンジルアルコール、フタル酸ジメチル、シユウ酸ジエチル、ジエチレングリコール、ジメチルホルムアミド等は一般にも良好な溶剤であり、その他の例示化合物でも溶剤となし得るものが数多く認められ、硫酸もその一つである。このように、フイラメントの表面に適用される電導性物質粒子の分散用液体として用いられる同一の化合物が、一方ではフイラメントの溶剤と呼ばれ、また、一方では可塑化剤と呼ばれることがあつても、これは単なる呼称上の相違にすぎず、作用あるいは機能が相違するわけではない。特に、本願発明の明細書及び引用例に共通して記載されている「硫酸」は、電導性物質粒子であるカーボンブラツク粒子の分散用液体として用いられている点で全く同じであり、分散液の適用の方法も共通するものであり、更には最終的に得られるフイラメントが電導性となり、単位長さ当りの電気抵抗値が同一範囲となるものである。これらの点からして、「溶剤」あるいは「可塑化剤」という表現上の差は全く意味のないものであることが明らかである。そして、引用例には、本件審決で指摘したとおり、合成重合体繊維を溶解する溶媒中に電導性物質粒子を分散させ、この分散液を合成重合体繊維に適用し、次いで、溶媒を除去して電導性を付与することが記載されているのであり、この処理手段自体は本願第一発明と異なるところがない。そして、処理手段に相違がない以上、溶媒の繊維に対する作用に相違があるとはいえず、したがつて、電導性物質粒子の分布状態及び効果に相違があるとはいえない。
付言すると、原告は、本願第一発明においては「溶解」処理を採用するというが、
フイラメント重合体に電導性物質粒子を分散させた溶媒を適用した場合に溶解するのであれば、フイラメントの表層から重合体が溶媒中に溶け込んでいくため、フイラメントは段々にやせ細るであろうし、電導性粒子がフイラメントの表層に分散する余地もなくなるであろう。フイラメントの表層に電導性物質粒子が分散するには、溶媒の作用を受けたフイラメントの表層の重合体は、その状態で溶媒中に溶け込むことなく、すなわち、溶解することなくフイラメント表層に存在している必要があろう。現に、本願発明の明細書にも、溶媒の適用とその除去について、「基質からの溶媒除去は、基質の構造本体を著しく破壊する前に実施しなければならない。これは、溶媒浸透の所望度が生じた後(特に、実質的円筒形フイラメント状基質の半径の約1/10まで)蒸発(揮発性溶媒について)および(または)非溶媒による洗浄(非揮発性溶媒について)により、便利に達成することができる。」(第一一頁末行ないし第一二頁第六行)と記載されている。この記載は、本願第一発明においては、溶媒を単にフイラメント表層の重合体中に所望度浸透させる(すなわち、電導性物質粒子を分散させようとする深さまで溶媒を浸透させる。)にすぎなく、フイラメント表層の重合体は溶媒中に溶け込むことなく溶媒が浸透した状態でフイラメント表層に存在している(その後溶媒を除去して元に戻す。)ことを意味している。このことはまた、本願発明の明細書の第一八頁第1表に、処理されたナイロンフイラメントの断面直径が、未処理のナイロンフイラメントの断面直径に比べて小さくならず、かえつて大きくなることが記載されていることからも明らかである。そして、このフイラメント表層の溶媒中に溶け込むことなく溶媒が浸透した状態で存在する部分の重合体は、電導性物質粒子を分散分布するに十分な程度の状態にあり、そして、この状態は電導性物質粒子を分散分布するに十分な程度に軟化している状態にほかならない。そうすると、本願第一発明と引用例記載のものとは電導性物質粒子のフイラメント表層中への分散分布機構に相違があるとはいえない。ちなみに、引用例中では、電導性物質粒子は流体中の分散体として繊維に施すことができ、液体は外部表面層に対する可塑化剤を含有することができ、あるいは可塑化剤からなることができるとして、
「可塑化剤は電導性物質の粒子を侵入させるのに十分な程度に繊維の表面を軟化するように選ぶべきであり・・・繊維の外部表面を構成する重合体に対する溶剤を可塑化剤として使用し得るが、この場合溶剤の適用は繊維の軟化が外部表面に限られるよう調節されるべきである。」(第八頁第一五行ないし第九頁第五行)と、繊維の外部表面層だけが軟化されるように調節すべきことを注意的に記載しているのである、このように、引用例には可塑化剤として繊維の外部表面を構成する重合体に対する溶剤を使用する場合が記載されており、この場合は、原告のいう繊維の溶解処理による電導性繊維の製造であるということができ、そして、繊維の溶解処理により製造された電導性繊維における電導性物質粒子の分布状態が「浸透被覆」であるというのであれば、引用例記載の発明に係るものも「浸透被覆」といえるのである。更に、原告は、引用例において可塑化剤として溶剤を用いる場合には、それが溶解剤としてではなく、可塑化剤(軟化剤)として働くような条件下で使用されるべきものである旨主張し、その根拠として引用例の前記記載を引用しているが、右記載は、溶剤により繊維が破壊されないように繊維の外部表面層だけを軟化させるように調節すべきことを記載しているものと理解すべきであつて、溶剤が可塑化剤として働くように濃度、処理温度、処理時間を調節すべきことを記載しているものと理解すべきではない。なお、原告は、溶媒として硫酸を用いた場合の硫酸の濃度による相違を主張するが、本願第一発明は溶媒として特定濃度の硫酸を用いることを規定しているものではない。特定濃度の硫酸の使用は一例にすぎない。原告は、
引用例記載のものでは硫酸を二三%にして用いている旨主張しているが、そのような記載は引用例中には見当たらない。引用例には、繊維の外部表面を構成する重合体に対する溶剤を可塑化剤として使用できるとし、ポリアミド繊維の可塑化剤の適当なものの一例として硫酸があげられ、そして、本件審決で指摘したようなポリアミド繊維の溶剤もあげられているのである。
(三) 前述のとおり、引用例には、本件審決で指摘したとおり、合成重合体繊維を溶媒中に電導性物質粒子を分散させ、この分散液を合成重合体繊維に適用し、次いで、溶媒を除去して電導性を付与することが記載されており、本願第一発明とそうした処理手段に相違がない以上、溶媒の繊維に対する作用に相違があるとはいえず、したがつて、電導性物質粒子の分布状態に違いがあるとはいえず、また、右分布状態に違いがない以上、効果の点において相違があるともいえない。原告は、本願第一発明と引用例記載のものとでは、電導性物質粒子の分布状態が異なり、効果も異なる旨主張するが、右主張は失当である。また、原告は、引用例記載のものにおいて、未延伸繊維にカーボンブラツク処理しても延伸によつて脱落する旨主張するが、そのような現象は引用例に何ら記載されていないし、また、引用例が未延伸繊維に有効でないという説明もない。そして、引用例に、カーボンブラツク処理の対象物として未延伸繊維を除外する旨の記載はないから、この点に関する原告の主張は理由がない。
証拠関係《省略》
理 由(当事者間に争いのない事実)一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)二 本件審決を違法とする原告の主張は、次に説示するとおり、すべて理由がないものというべきである。
1 手続違背の主張について 前示特許庁における手続の経緯並びに成立に争いのない甲第五号証(引用例)、
第八号証の一(イギリス国一九七一年一〇月一八日出願に係る第四八三六二/七一号の優先権証明書)及び二(イギリス国一九七二年二月三日出願に係る第五一〇七/七二号の優先権証明書)によれば、引用例記載の発明は、本願発明の優先日前である一九七一年(昭和四六年)一〇月一八日及び一九七二年(昭和四七年二月三日にイギリス国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、本願発明の優先日後である昭和四七年一〇月一八日に我が国において出願され、昭和四八年七月一〇日に出願公開(特願昭四七―一〇三六七二号)されたものであることが認められる。ところで、原告は、本件審決は、本願発明の出願日との関係で引用すべからざる文献を引用した旨るる主張するから、この点について審案するに、特許法第29条の2の規定は、後願の出願後に先願の出願公告又は出願公開がなされたときには、先願の願書に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一である限り(双方の発明者が同一人であるか、双方の出願人が同一である場合を除く。)後願は許されないとするもので、昭和四五年法律第九一号による出願審査制度(同法第48条の2ないし六)や出願公開制度(同法第65条の2及び三)の新設と同時に設けられた規定であるが、その主たる立法趣旨は、先願主義のもと、先願の出願公告又は出願公開以前に出願された後願であつても、その内容が先願の明細書又は図面に記載された発明と同一内容の発明である場合には、そのような発明に特許を与えることは、公開に対する代償としての特許制度の趣旨から妥当ではなく、先願の明細書及び図面の記載事項全部に先願としての地位を認め、その内容と同一の発明に係る後願を排除することが妥当であるとする点と新たに設ける出願審査請求制度のもとにおいて、他の出願(先願)の審査請求や査定の確定、更には他の出願(先願)の取下、放棄、無効の確定をまたずに当該特許出願(後願)の処理を可能にするには、先願の全内容、すなわち、補正、分割により特許請求の範囲を増減変更できる範囲の最大限である当初の明細書及び図面の記載事項全部に先願としての地位を認めておかなければ、客観的にみて後願の妥当かつ迅速な処理が不可能であるという点にあるものと解されるところ、このことは先願が優先権主張のない国内出願であると優先権主張を伴う出願であると問わないところであるから、優先権主張を伴う特許出願においても、優先権主張のない国内出願におけるのと同様、その出願人は、補正、分割(優先権主張具備の分割出願)により特許請求の範囲を当初の明細書及び図面に記載された範囲全部に拡張変更することができ、それについてパリ条約第4条B項及び特許法第26条の規定による優先権の利益を享受し得るものと解すべきであつて、優先権主張を伴う出願においても、その明細書及び図面に記載された範囲全部に実際に特許請求の範囲に記載された発明と同じ先願としての地位の基準日、換言すると後願排除の基準日を与えるのが相当であり、この場合の先願としての地位の基準日(後願排除の基準日)は、パリ条約第4条B項及び特許法第26条の規定により優先権主張日(第一国出願日)を指すものと解すべきである。
このように解することは、特許法第29条第1項第3号の規定や出願の日から一年六か月経過後に行われる出願公開及び出願日から自由に補正をすることができるとされている一年三か月の期間が、優先権主張出願については、我が国における現実の出願日からではなく、優先権主張日から起算される(同法第17条第1項ただし書)とされていることも整合するものである。したがつて、本件審決が、本願発明の優先日前である一九七一年(昭和四六年)一〇月一八日及び一九七二年(昭和四七年)二月三日にイギリス国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、本願発明の優先日後である昭和四七年一〇月一八日に我が国において出願され、昭和四八年七月一〇日に出願公開(特願昭四七―一〇三六七二号)された引用例記載の発明の願書に最初に添付した明細書を先願発明として引用としたことには引用文献を誤つた等の手続違背は認められず、この点に関する原告の主張は独自の見解に基づくものであつて、採用することができない。
2 引用例の記載事項の認定の誤り及び本願第一発明と引用例記載の発明との同一性の判断の誤りの主張について 前示本願第一発明の要旨に成立に争いのない甲第二号証(本願発明の願書添付の明細書)、第三号証(昭和五〇年三月三日付手続補正書)及び第四号証(昭和五三年六月二九日付手続補正書によれば、本願第一発明は、フイラメントの周囲におかれ、その長さに沿つて伸びている環状部における重合体基質とは別の相として均一に満たされている細かく分割された電導性粒子を有するフイラメント状重合体基質を含む電導性織物繊維に関する発明であつて、布地の使用の結果生じる静電気の蓄積は、例えば、外衣類が身体にまといついたり、他の衣類に引つ張られたり、カーペツトを横切つて歩いた後、金属のドアーの把手に接触すると、急激な衝撃を経験する等の原因となるばかりでなく、例えば、エーテル/空気のような可燃性混合物を発火させるスパークを与えることがある等の危険を生ずる原因ともなることから、従来より静電気の望ましくない形成を防止するために、電導性を有する繊維、
例えば、金属繊維や電導性物質で被覆された繊維等を使用して、静電気荷電が生成するとき、この静電気荷電を容易に消散させる機織等の方法で得られる構造のものを作ることを意図するものが提案されてきたが、これらは、価格の点や製造の困難性等種々の欠点があつたこと、本願第一発明は、このような欠点を解決し、通常の天然織物繊維及び人造織物繊維に配合、加工することによつて低価格で耐久性のたかい電導性繊維を提供することを主たる目的として、本願第一発明の要旨(明細書の特許請求の範囲(1)の記載と同じ。)のとおりの構成を採用したもので、右構成を採用したことにより、従来技術の欠点を排除することができ、所期の効果を奏し得たものと認められる。そして、前掲甲号各証によれば、本願第一発明の電導性織物繊維は、フイラメントにその溶媒中に電導性粒子を分散させた分散液を適用し、その後基質の構造本体を著しく破壊する前に溶媒を蒸発又は洗浄により除去することにより得られるものと認められる。他方、引用例が本願発明の特許出願日前の出願と認められることは前項で認定したとおりであるところ、前説示のとおり、
特許法第29条の2第1項の規定において、先願が優先権主張を伴う特許出願の場合には、優先権主張日をもつて後願排除の基準日と解するのを相当とし、このことは我が国に対する特許出願の願書に添付した出願当初の明細書又は図面に記載された発明と他の同盟国に対する出願に係る発明の明細書又は図面に記載された発明とが同一性を有していることを前提とするものであるが、パリ条約第4条F項は、優先権主張の基礎となる第一国出願に含まれていなかつた新しい構成部分を含めて第二国に出願し得ることを定めており、この場合に優先権が認められるのは第一国出願に含まれている構成部分だけと解される。これを本件についてみるに、引用例に本件審決認定の(1)ないし(7)の記載が存すること自体は、原告の認めるところ、原告は引用例の右記載のうち、(1)及び(2)の事項は優先権主張の基礎となる第一国出願に含まれていない旨主張するから、検討するに、前掲甲第八号証の二には、(1)の事項に関して、「人造繊維を電導性物質の粒子で被覆してから、
次いで該繊維の外部表面層を軟化して上記粒子を該表面層内に侵入せしめることからなる一種の電導性繊維類の製造方法を提供する」(同号証第四頁第六行ないし第一一行)との記載があり、また、電気抵抗値については、実施例1ないし9(同号証第七頁第二七行ないし第一二頁第一六行)に、延伸された繊維について、「5×10の6乗オーム/cm」(実施例1及び5)、「10の7乗オーム/cm」(同2)、「10の6乗オーム/cm」(同3、4及び8)、「2×10の6乗オーム/cm」(同6、7及び9)のものが示されており、また、前掲甲第八号証の一には、実施例として甲第八号証の二に記載されている実施例1ないし6と実質定に同一内容の実施例六例(実施例1ないし6)が示されており、各実施例に示されている繊維の電気抵抗値も甲第八号証の二記載の実施例のものと一致するものが記載されていることが認められるから、甲第八号証の一及び二のそれぞれの実施例に示される繊維の電気抵抗値はすべて本件審決が引用例に記載されているとして認定した5×10の9乗オーム/cm以下という要件を満たすものであるということができ、そうであれば、引用例に記載された発明は右認定した電気抵抗値の範囲内でなお先願たる地位を有する発明足り得るものと認めるべきである。原告は、本件審決の引用例の記載事項についての(1)の認定、すなわち、引用例には、延伸された繊維の外部表面層が該層中に侵入した電導性物質粒子を含有し、5×10の9乗オーム/cm以下の電気抵抗値を有する合成重合体繊維が記載されているとの認定は、引用例と甲第八号証の一及び二の共通部分という前提をふまえると、明らかに存在しない記載内容を認定することになり、誤りというほかなく、また、甲第八号証の一及び二に示されているのは、すべて特定の態様と結びついてのもので、実施例としての個別的な特定の態様における結果が記載されているだけである旨、更には、実施例に示されている電気抵抗値の範囲をつないでみても、その範囲は4×10の7乗オーム/cmないし1×10の6乗オーム/cmとなるから、5×10の9乗オーム/cm以下となる根拠はない旨主張するところ、右優先権証明書(甲第八号証の一及び二)に、前記(1)の記載に完全に一致する文言が存在しないことは被告の認めるところであるが、前掲甲第八号証の一及び二には、前認定の記載がある以上、本件審決の(1)の認定に誤りは認められるものの、引用例の明細書記載の発明が本願第一発明の約10の9乗オーム/cmより大きくない電気抵抗を有するという要件を具備しているというその結論において誤りがあるとはいい得ない。次に、引用例記載(2)の事項についてみるに、前掲甲第八号証の二には、人造繊維を電導性繊維で被覆し、次いで該繊維の外部表面層を軟化して電導性物質粒子を繊維の外部表面層に侵入させることからなる電導性繊維類の製造方法を提供することについての前認定の記載のほか、「可塑化剤は電導性物質の粒子を侵入させるに十分な程度に繊維の表面を軟化するように選ぶべきであり、かつ、電導性物質の粒子を繊維の外部表面層内に侵入させるに十分な時間繊維中又は繊維上に残留するのに十分な程度に不揮発性であるべきである」(第五頁第二六行ないし第六頁第二行)との記載があり、また、前掲甲第八号証の一及び二の各実施例1には、延伸された22dtexのシース・コア型モノフイラメントを平均粒径〇・〇二ミクロンの電導性オイルフアーネスカーボンブラツクで連続被覆して、約二ミクロンの深さまでシース成分中にカーボンブラツクが侵入している電導性繊維が得られることが記載されていることが認められる。そうすると、引用例に本件審決認定の(2)の記載に完全に一致する文言が存在しないことは被告の認めるところであるが、引用例の記載(2)の事項中、電導性物質粒子は繊維の外部表面層内に約二ミクロンの深さに侵入させることが好ましいとする点は先願たる地位を有する発明と認めることができ、この限度で本件審決の認定には誤りがないというべきである(なお、
右範囲を超える本件審決の引用例記載(2)の事項の認定は誤りというべきところ、これが結論に影響を及ぼさないことは後記認定説示のとおりである。)。
叙上認定したところに基づき、本願第一発明と優先権証明書に裏付けられた引用例記載の電導性繊維とを対比するに、両者は、本件審決認定のとおり、繊維の外部表面層に電導性物質粒子を存在させた10の9乗オーム/cm以下の電気抵抗をもつ電導性繊維である点で同じであるが、本願第一発明が、電導性物質粒子の繊維中での分布状態を想定し、また、織物繊維とその用途を限定しているのに対し、右引用例記載の発明は、そこに記載の繊維について、単に、「繊維表面層中に侵入した電導性物質粒子を含有する」と記載されているだけで、電導性物質粒子の繊維中での分布状態は明らかではなく、また、右繊維の用途についても記載がない点で一応相違しているものと認めることができる。
そこで、右相違点について検討するに、まず、原告は、引用例において電導性物質粒子の侵入深さは繊維の半径の1/10程度に及ぶことはない旨主張するが、前認定の先願発明たり得る引用例記載の発明におけるモノフイラメントに対するカーボンブラツクの約二ミクロンという侵入深さが右モノフイラメントの半径の約1/10に当たること自体は原告の明らかに争わないところであり、前認定に係るこの点の引用例の記載内容に徴すると、引用例中の右記載範囲のものにおいては、本願第一発明記載のものと実質的に相違しないカーボンブラツクの侵入深さが達成されているものと認められる。そうすると、本件審決認定の引用例記載(2)の事項に、前示のとおりの誤りはあるものの、本願第一発明において電導性粒子が繊維の外部表面層内に繊維の半径の1/10に等しい距離を有して存するという要件は引用例記載の発明においてもこれを具備しているものということができ、したがつて、本件審決のこの点の結論は正当ということができる。この点について原告は、
甲第八号証の一には、約二ミクロンの深さまで侵入した例が一例だけ(実施例1)にあるにすぎず、しかも、原告の検討によれば、繊維の可塑化により電導性物質粒子を繊維中に埋め込む場合、繊維の耐久性を考慮すると電導性物質粒子を一ミクロン以上も繊維中に埋め込むことは不可能であり、したがつて、引用例(共通部分)記載の方法により得られた電導性織物繊維では、電導性物質粒子の繊維への侵入深さは〇・五ミクロン以下で繊維半径の1/10より小さい値とならざるを得ない旨主張し、甲第七号証を挙示するが、たとい一例であつても、引用例には「約二ミクロン」の深さまで侵入した例が示されているのであつて、この記載を無視することはできず、また、成立に争いのない甲第七号証によれば、そこに示された実験は、
可塑化剤を可塑化剤として使用した実験であつて、後記認定の引用例記載の製造方法によるものとは認めることができないから、原告の叙上主張は採用することができない。そして、前示のとおり、引用例に、本件審決認定の(3)ないし(6)の記載、すなわち、(3)電導性物質粒子は、液体中に分散して繊維に施すことができること、この液体は繊維の外部表面層に対する可塑化剤を含有することができ、
あるいは該可塑化剤からなることができること、(4)可塑化剤は、電導性物質粒子を侵入させるに十分な程度に繊維の表面を軟化するものを選ぶべきであり、かつ、電導性物質の粒子を繊維の表面に侵入させるに十分な時間繊維中又は繊維上に残留するような不揮発性のものであるべきであること、可塑化剤は、加熱又は洗浄によつて除去できるものであり得ること、(5)繊維の表面に対する溶剤を可塑化剤として使用し得るが、この場合、溶剤の適用は繊維の軟化が外部表面層に限られるように調節されるべきであること、(6)ポリアミド繊維に対する可塑化剤として適当なものは、エチレングリコール、フエノール類、ジメチルホルムアミド、ベンジルアルコール、メタノールと塩化カルシウムの混合物などであること、という記載が存するところ(引用例記載の発明の優先権証明書に右(3)ないし(6)の記載に相当する記載が存することは、原告の明らかに争わないところである。)、
右記載によれば、引用例記載の繊維における、電導性物質粒子の繊維への「侵入」は、電導性物質の粒子を可塑化剤としての溶剤中に分散させて分散液とし、これを繊維に施し、その外部表面層内に侵入させた後、可塑化剤を加熱又は洗浄により除去して行うこともできること、及び溶剤を適用する場合は、繊維の軟化が外部表面層に限られるように調節するという技術的思想が開示されているものと認められる。右事実によれば、引用例記載の右の製造手段と前認定説示した本願第一発明に係る電導性織物繊維の製造手段とは、実質的に同一のものであると認めるべきである。そして、このように、製造手段自体に実質的な相違が認められない以上、溶剤(媒)の繊維に対する作用に相違があるとはいえず、したがつて、本願第一発明における電導性物質の粒子の分布状態と引用例記載の発明における電導性物質の粒子の分布状態とが相違するものということはできない。更に、引用例には、前示のとおり本件審判認定の(7)の事項、すなわち、引用例記載の繊維は帯電防止効果の良好な持続性が重視される織物やカーペツトに有用であることが記載されており(この記載に相当する記載が引用例記載の発明の優先権証明書にあることは、原告の明らかに争わないところである。)、右記載によれば、引用例記載のものも織物繊維であること明らかであるから、両者は、この点においても何ら異なるところはない。以上の事実によれば、本願第一発明は、優先権証明書に裏付けられた引用例に記載されているものと同一のものということができる。原告は、本願第一発明の電導性繊維における電導性粒子の分布状態は浸透被覆であるのに対し、引用例記載の電導性繊維における電導性物質粒子の分布状態は機械的侵入であつて、本願第一発明と異なり、電導性物質粒子が独立の層としての環状部分を形成せず、不均一、
不連続状態で分布しており、両者は、電導性物質粒子のフイラメント上での分布状態が顕著に相違するが、その違いは、本願第一発明の電導性繊維の製造においては繊維の「溶解」処理が採用されているのに対し、引用例記載の電導性繊維の製造においては繊維の「可塑化」処理という全く異なる処理手段が採用されているからである旨、また、引用例において可塑化剤として溶剤を用いる場合にはそれが溶剤としてではなく、可塑化剤として働くような条件下で使用されるべきものであり、
「可塑化剤」というのは技術上「溶剤(媒)」と区別されている旨るる主張する。
確かに、一般的には溶媒とは他の物質を溶解し溶液を形成する物質を指し、これに対し、可塑化剤は他の物質を膨潤若しくは軟化する作用をするにすぎない物質と解されるけれども、前記引用例中の(3)及び(4)の記載によると、引用例における可塑化剤は、「電導性物質粒子を侵入させるに十分な程度に繊維の表面を軟化するもの」と定義されるべきものであり、溶剤が右のような能力を有することは自明のことというべきところ、前記引用例中の(5)の記載、すなわち、「溶剤を繊維の表面に対する可塑化剤として用い得るが、この場合溶剤の適用は、繊維の外部表面層に限られるように調節されるべきである」という記載は、溶剤を上記のように使用することを示したものであり、このように溶剤を使用する場合に生じる電導性物質粒子を侵入させるに十分な程度に繊維の表面の軟化が繊維の内部に至ると繊維自体が破壊されてしまうので、その外部表面層だけに右のような軟化が生ずるように溶剤の適用を調節することを注意的に記載したものと解され、
また、右調節のための手段として外部表面層内に電導性物質粒子が外部表面層内に侵入した段階で溶剤を容易に除去することも、右記載と前示引用例中の(4)の「可塑化剤は加熱または洗浄によつて除去できるものであり得る」という記載の存在を考慮するとその開示があるものと認められ、そうすると、前認定説示のとおり引用例記載の電導性繊維の製造処理手段は本願第一発明のそれと異なるところはなく、したがつて、原告の右主張は、採用することができない。更に、原告は、引用例においては、電導性物質粒子を繊維の表面層に侵入させるために必要な軟化に必須の工程としては、一貫して熱処理をあげ、可塑化剤の使用はいわば補助的なものであり、また、実施例は二例(実施例7及び8)があるのみで、これとて熱処理との併用であり、しかも、電導性物質粒子の分散液として適用するものでもない旨引用例の実施例の記載を援用し、また、甲第六号証を挙示してるる主張するが、前掲甲第五号証によると、引用例には、「繊維の外部表面層の軟化は、熱処理、可塑化剤の適用または両者の組合せにより達成され得る」との記載があり、当然に可塑化剤の使用(この場合可塑化剤として溶剤を用い得ることは、前認定のとおりである。)だけの方法も存することが示唆されており、また、可塑化剤の使用に加え、
加熱処理が併用されているとしても、前記共通する製造手段によつて形成されるフイラメント繊維に対する電導性物質粒子の分布の態様自体が異なるものと解することはできない。なお、甲第六号証は、四〇%の硫酸溶液を使用して溶剤処理をした電導性繊維と二三%の硫酸溶液を使用して可塑化処理を施して得た電導性繊維とを対比するものであつて、本願第一発明の処理方法と前掲甲第五号証に示された引用例記載の処理方法とによつて得られた電導性繊維とを対比するものとはいい難いから、原告の右主張は、採用することができない。更に、原告は、本願第一発明が引用例記載の発明と構成上同じであるとすると、その効果も当然同じにならなければならないが、両者は、例えば、本願第一発明においては、未延伸繊維を処理しても延伸の際カーボンブラツクが脱落せず、延伸の前後に変化が現れないが、引用例記載の発明の場合は、延伸前にカーボンブラツク処理をしても、延伸により脱落してしまうことから、延伸繊維にのみ有効な技術といわざるを得ず、このことは、引用例記載の技術において、未延伸で電導性処理をした場合、延伸後にその電導性の低下が示唆されていることからも、両者の構成の相違は十分裏付けられる旨主張するところ、前掲甲第五号証によれば、引用例記載の方法は延伸された繊維を対象とするものではあるが、引用例記載の製造方法が未延伸繊維に有効でないという説明はなく、また、カーボンブラツク処理の対象物として未延伸繊維を除外する旨の記載はない(なお、原告指摘の引用例記載の実施例3は、電導性物質粒子の分散液を適用するものではなく、したがつて、本件審決が摘示する引用例記載の方法による電導性物質粒子の分布状態を示すものではないから、原告に有利な事実とみることはできない。)から、この点に関する原告の主張も採用するに由ない。
そうすると、本件審決には、原告主張の違法の点はなく、本件審決の認定判断は正当というべきである。
(結語)三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与について行政事件訴訟法第7条並びに民事訴訟法第89条及び第158条第2項の規定を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 武居二郎
裁判官 舟橋定之
裁判官 川島貴志郎