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事件 平成 15年 (ワ) 11238号 特許権侵害行為差止等請求事件
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2005/05/31
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告らは,原告オークランド ユニサービシズ リミテッドに対し,連帯して(ただし,被告アシストシンコー株式会社は,同被告が会社分割の日において有していた財産の価額の限度で),金1286万4825円及びこれに対する平成12年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは,原告株式会社ダイフクに対し,連帯して(ただし,被告アシストシンコー株式会社は,同被告が会社分割の日において有していた財産の価額の限度で),金1286万4825円及びこれに対する平成12年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,原告オークランド ユニサービシズ リミテッドと被告神鋼電機株式会社との間においては,同原告に生じた費用の24分の1を同被告の負担とし,その余は各自の負担とし,同原告と被告アシストシンコー株式会社との間においては,同原告に生じた費用の25分の1を同被告の負担とし,その余は各自の負担とし,原告株式会社ダイフクと被告神鋼電機株式会社との間においては,同原告に生じた費用の24分の1を同被告の負担とし,その余は各自の負担とし,同原告と被告アシストシンコー株式会社との間においては,同原告に生じた費用の25分の1を同被告の負担とし,その余は各自の負担とする。
5 本判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 被告神鋼電機株式会社は,別紙イ号物件目録記載の物件を製造し又は販売してはならない。
2 被告神鋼電機株式会社は,前項の物件及びその半製品を廃棄せよ。
3 被告アシストシンコー株式会社は,別紙ロ号物件目録及びハ号物件目録記載の各物件を製造し又は販売してはならない。
4 被告アシストシンコー株式会社は,前項の物件及びその半製品を廃棄せよ。
5 被告らは,原告オークランド ユニサービシズ リミテッドに対し,各自金2億1528万円及びうち別紙「遅延損害金目録1」の「金額(円)」欄記載の各金額に対する同目録「起算日」欄記載の各日から各支払済みまで,それぞれ年5分の割合による金員を支払え。
6 被告神鋼電機株式会社は,原告オークランド ユニサービシズ リミテッドに対し,金6057万円及びうち別紙「遅延損害金目録2」の「金額(円)」欄記載の各金額に対する同目録「起算日」欄記載の各日から各支払済みまで,それぞれ年5分の割合による金員を支払え。
7 被告らは,原告株式会社ダイフクに対し,各自金2億1528万円及びうち別紙「遅延損害金目録3」の「金額(円)」欄記載の各金額に対する同目録「起算日」欄記載の各日から各支払済みまで,それぞれ年5分の割合による金員を支払え。
8 被告神鋼電機株式会社は,原告株式会社ダイフクに対し,金6057万円及びうち別紙「遅延損害金目録4」の「金額(円)」欄記載の各金額に対する同目録「起算日」欄記載の各日から各支払済みまで,それぞれ年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要等
1 争いのない事実等 (1) 当事者 ア 原告オークランド ユニサービシズ リミテッド(以下「原告ユニ社」という。)は,ニュー・ジーランドの国立オークランド大学の教授らによって生み出された知的財産等を管理し,その商業的移転又は実施許諾を行うことを目的として設立されたニュー・ジーランド法人である(弁論の全趣旨)。
イ 原告株式会社ダイフク(以下「原告ダイフク」という。)は,諸機械器具及び電気機械器具の製造販売等を目的とする株式会社である(甲2)。
ウ 被告神鋼電機株式会社(以下「被告神鋼電機」という。)は,電気機械器具の製造販売等を目的とする株式会社である(甲3)。
エ 被告アシストシンコー株式会社(以下「被告アシストシンコー」という。)は,半導体ウエーハ及び液晶ガラス基板搬送システムの開発等を目的とする株式会社で,平成14年10月1日に,被告神鋼電機から,同被告の半導体・液晶搬送機器事業を承継して新設分割によって設立された(甲4)。
(2) 原告ユニ社の特許権 ア 原告ユニ社は,次の特許権(以下「本件第1特許権」といい,請求項30に係る特許発明を「本件発明1」,請求項22に係る特許発明を「本件発明3」という。また,その明細書を「本件明細書1」という。)を有している。
登録番号 第2667054号 発明の名称 誘導電力分配システム 出願年月日 平成4年2月5日 優先権主張 国名 ニュー・ジーランド 出願年月日 1991年3月26日,7月1日,9月19日 登録年月日 平成9年6月27日 特許請求の範囲 (請求項30) 「電源と, 該電源に接続された一次導電路と, 前記一次導電路と結合して使用する1つ以上の電気装置であって,前記一次導電路により発生する磁界から少くとも若干の電力を取り出し得るとともに,少くとも1つの誘導ピックアップ手段を有し,且つ該誘導ピックアップ手段に誘導される電力により駆動可能な少くとも1つの出力負荷を有する電気装置と, を備え, 少くとも1つの誘導ピックアップ手段はピックアップ共振周波数を有する共振要素を含み, 前記一次導電路から少くとも1つの前記誘導ピックアップ手段を電気的にほぼ完全に減結合する減結合手段を備えたこと を特徴とする誘導電力分配システム。」 (請求項22) 「高周波電源と, 該高周波電源に接続された一次導電路と, 前記一次導電路と結合して使用する1つ以上の電気装置であって,前記一次導電路により発生する磁界から少くとも若干の電力を取り出し得るとともに,ピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成する少くとも1つのピックアップコイルを有し,且つ該ピックアップコイルに誘導される電力により駆動可能な少くとも1つの出力負荷を有する電気装置と, を備え, 前記一次導電路は,ほぼ平行に敷設され,終端が接続された一対の導体により形成され, 前記電気装置のピックアップコイルのコアをE字状に形成し,前記コアに前記ピックアップコイルを巻回し,前記一対の導体がそれぞれ,前記コアの両凹部内で,かつそれぞれの凹部のほぼ中心に位置するように配置され, 前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は,非導電性の材料または非鉄金属により形成されていること を特徴とする誘導電力分配システム。」 イ 原告ユニ社は,次の特許権(以下「本件第2特許権」といい,請求項4に係る特許発明を「本件発明2」という。また,その明細書を「本件明細書2」という。)を有している。
登録番号 第3304677号 発明の名称 誘導電力分配システムおよび車両 出願年月日 平成4年2月5日 登録年月日 平成14年5月10日 特許請求の範囲(請求項4) 「交流電流が供給される一次導電路より発生する磁界から少なくともいくらかの電力を取り出し得る車両であって, ピックアップコイルとこのピックアップコイルをピックアップ共振周波数に同調させる同調コンデンサを有する少なくとも1つのピックアップ手段と, 前記ピックアップ手段より全波整流手段を介して直流出力電流が供給される出力コンデンサと, 前記ピックアップ手段に誘導された電力によって駆動される出力負荷と, 前記ピックアップコイル端子間を開閉するスイッチ手段およびこのスイッチ手段を制御する制御手段と, 前記スイッチ手段による前記出力コンデンサの短絡を防止するダイオードとを備え, 前記ピックアップ手段は,前記ピックアップコイルと前記同調コンデンサを有する共振回路であり, 前記スイッチ手段は,前記同調コンデンサに前記全波整流手段を介して並列に接続され, 前記出力コンデンサは,前記スイッチ手段と前記出力負荷との間に, 前記出力負荷に並列に接続され, 前記ダイオードは,前記スイッチ手段と前記出力コンデンサとの間に接続されており, 前記制御手段は,前記スイッチ手段を前記出力負荷の変動に反応して制御し,実質的に短絡状態へ切り替えることにより,前記ピックアップ手段を実質的に非共振状態にして前記ピックアップコイルと前記スイッチ手段に流れる電流を減少させ,よって前記一次導電路から前記ピックアップ手段へ転送される電力を減少させることを特徴とする車両。」 (3) 原告ダイフクの独占的通常実施権 原告ダイフクは,原告ユニ社から,本件第1特許権及び本件第2特許権について,我が国における独占的通常実施権の設定を受けた(甲10の1及び2)。
(4) 本件発明の構成要件 ア 本件発明1の分説 本件発明1は,次のとおり分説することができる(以下,その記号に従って「構成要件1A」などという。)。
1A 電源と, 1B 該電源に接続された一次導電路と, 1C 前記一次導電路と結合して使用する1つ以上の電気装置であって,前記一次導電路により発生する磁界から少くとも若干の電力を取り出し得るとともに,少くとも1つの誘導ピックアップ手段を有し,且つ 1D 該誘導ピックアップ手段に誘導される電力により駆動可能な少くとも1つの出力負荷を有する電気装置と,を備え, 1E 少くとも1つの誘導ピックアップ手段はピックアップ共振周波数を有する共振要素を含み, 1F 前記一次導電路から少くとも1つの前記誘導ピックアップ手段を電気的にほぼ完全に減結合する減結合手段を備えたこと 1G を特徴とする誘導電力分配システム。
イ 本件発明2の分説 本件発明2は,次のとおり分説することができる(以下,その記号に従って「構成要件2A」などという。)。
2A 交流電流が供給される一次導電路より発生する磁界から少なくともいくらかの電力を取り出し得る車両であって, 2B ピックアップコイルとこのピックアップコイルをピックアップ共振周波数に同調させる同調コンデンサを有する少なくとも1つのピックアップ手段と, 2C 前記ピックアップ手段より全波整流手段を介して直流出力電流が供給される出力コンデンサと, 2D 前記ピックアップ手段に誘導された電力によって駆動される出力負荷と, 2E 前記ピックアップコイル端子間を開閉するスイッチ手段および 2F このスイッチ手段を制御する制御手段と, 2G 前記スイッチ手段による前記出力コンデンサの短絡を防止するダイオードとを備え, 2H 前記ピックアップ手段は,前記ピックアップコイルと前記同調コンデンサを有する共振回路であり, 2I 前記スイッチ手段は,前記同調コンデンサに前記全波整流手段を介して並列に接続され, 2J 前記出力コンデンサは,前記スイッチ手段と前記出力負荷との間に, 前記出力負荷に並列に接続され, 2K 前記ダイオードは,前記スイッチ手段と前記出力コンデンサとの間に接続されており, 2L 前記制御手段は,前記スイッチ手段を前記出力負荷の変動に反応して制御し,実質的に短絡状態へ切り替えることにより,前記ピックアップ手段を実質的に非共振状態にして前記ピックアップコイルと前記スイッチ手段に流れる電流を減少させ,よって前記一次導電路から前記ピックアップ手段へ転送される電力を減少させること 2M を特徴とする車両。
ウ 本件発明3の分説 本件発明3は,次のとおり分説することができる(以下,その記号に従って「構成要件3A」などという。)。
3A 高周波電源と, 3B 該高周波電源に接続された一次導電路と, 3C 前記一次導電路と結合して使用する1つ以上の電気装置であって,前記一次導電路により発生する磁界から少くとも若干の電力を取り出し得るとともに,ピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成する少くとも1つのピックアップコイルを有し,且つ該ピックアップコイルに誘導される電力により駆動可能な少くとも1つの出力負荷を有する電気装置と,を備え, 3D 前記一次導電路は,ほぼ平行に敷設され,終端が接続された一対の導体により形成され, 3E 前記電気装置のピックアップコイルのコアをE字状に形成し,前記コアに前記ピックアップコイルを巻回し,前記一対の導体がそれぞれ,前記コアの両凹部内で,かつそれぞれの凹部のほぼ中心に位置するように配置され, 3F 前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は,非導電性の材料または非鉄金属により形成されていること 3G を特徴とする誘導電力分配システム。
(5) 被告らの行為 被告神鋼電機は,別紙イ号物件目録記載の誘導電力分配システム(以下「イ号物件」という。)を製造,販売している。また,同被告は,平成14年10月1日までは,別紙ロ号ないしニ号物件目録記載の誘導電力分配システム(以下,それぞれ「ロ号物件」,「ハ号物件」,「ニ号物件」という。)を製造,販売していた。
被告アシストシンコーは,平成14年10月1日以降,ロ号物件及びハ号物件を製造,販売している。
(6) 被告らの物件の構成 ア イ号ないしハ号物件は,本件発明1との関係では,いずれも次のとおりの構成を有する。
1a 一定値の高周波電流を軌道R上の給電線Bに出力する定電流出力高周波電源であって,その出力周波数は8.66kHz又は9.6kHzのいずれかの周波数に固定されている高周波電源装置Aと, 1b 高周波電源装置Aに接続された,軌道R上の給電線Bと, 1c 軌道R上の給電線Bと非接触電磁誘導により結合して軌道R上を走行する1台以上のビークルCであって,該ビークルCは給電線Bより発生する磁界から起電力を誘導することができるピックアップコイルHと,これに並列に接続されたコンデンサFで構成される共振回路Dを有し,且つ 1d 該ピックアップコイルHに誘導される起電力により駆動可能な,動力部(リニアモータS及びその駆動回路等)と制御部(ビークルCの走行管理の制御回路等)からなる負荷Eを有する電気装置と,を備え, 1e 共振回路Dは給電トランスPのピックアップコイルHとこれに並列に接続されたコンデンサFからなり,高周波電源装置Aの周波数と同一の共振周波数を有し(高周波電源装置Aの周波数fと,ピックアップコイルHの自己インダクタンスLとコンデンサFの静電容量Cとが,f=1/(2π√LC)となるように設計され), 1f 別紙物件回路図のスイッチGは同回路図に示された態様で全波整流器I及びリアクトルMの負極側に接続され,高周波電源装置Aの周波数の約4倍(約37kHz)の周波数でパルス幅変調制御(スイッチのオン/オフ時間比率を変える制御。以下「PWM制御」という。)され,出力コンデンサJの電圧は一定範囲(DC300V±20V)に維持される。
ビークルCの走行中に最大電力(約400W)を必要とするとき,PWM制御によりスイッチGのオン時間比率は小さくなり,全波整流回路I以降の等価負荷抵抗値は最大となり,その結果,共振回路Dの電圧値と電流値(循環電流値)は最大となるとともに,給電線BはピックアップコイルHに最大電力(約400W)に相当する電力を誘導する。
ビークルCが停止した軽負荷時には,PWM制御により上記スイッチGのオン時間比率が大きくなり,全波整流回路I以降の等価負荷抵抗値は最小となり,その結果,ビークルCの停止時には共振回路Dの電圧値と循環電流値は最大出力時の22パーセント程度にまで低減するとともに,給電線BからピックアップコイルHへはビークルCの負荷Eの制御部が制御及び通信系電力として必要とする電力(約60W)だけが誘導されるようになる。
1g イ号ないしハ号物件は誘導電力分配システムである。
イ イ号ないしハ号物件は,本件発明2との関係では,いずれも次のとおりの構成を有する。
2a 出力周波数が8.66kHz又は9.6kHzのいずれかの周波数に固定されている一定値の高周波電流が供給される,軌道R上の給電線Bから発生する磁界から起電力を誘導することができる車両(ビークルC)であって, 2b 給電トランスPのピックアップコイルHとこれに並列に接続され,このピックアップコイルHを給電線Bの前記高周波電流の周波数と同一の共振周波数に同調させるコンデンサFを有する(高周波電流の周波数fと,ピックアップコイルHの自己インダクタンスLとコンデンサFの静電容量Cとが,f=1/(2π√LC)となるように設計されている。),共振回路Dと, 2c ピックアップコイルHに誘起された交流出力電流が全波整流器Iを介して整流された直流出力電流が供給される出力コンデンサJ(後記スイッチGの後記PWM制御動作に対応して,ダイオードLから断続的に流入する電流により蓄電され,一定の直流電圧DC300Vを維持する。)と, 2d ピックアップコイルHに誘導された起電力によって駆動される,動力部(リニアモータS及びその駆動回路等)と制御部(ビークルCの走行管理の制御回路等)からなる負荷Eとを備え, 2e ピックアップコイルHは,全波整流器I及びリアクトルMを介して別紙物件回路図に示された態様でスイッチGに接続され,スイッチGはオン/オフし, 2f スイッチGは,高周波電源装置Aの周波数の約4倍(約37kHz)の周波数でパルス幅変調制御(PWM制御)される。
2g ダイオードLは,リアクトルM及びスイッチGの接続側にアノードが,出力コンデンサJの正極側にカソードが接続され,スイッチGがオンしている場合でも出力コンデンサJに蓄電された電荷がスイッチGを介して負極へ流入することを防止する。
2h 共振回路Dは,給電トランスPのピックアップコイルHと同調コンデンサFを有する共振回路であり, 2i スイッチGは,同調コンデンサFに,全波整流器I及びリアクトルMを介して別紙物件回路図に示された態様で接続され, 2j 出力コンデンサJは,スイッチ手段Gと負荷Eとの間に,負荷Eと並列に接続され, 2k ダイオードLはスイッチGと出力コンデンサJとの間に接続されており, 2l 出力コンデンサJの電圧は出力負荷Eの変動に応じて変化し,出力コンデンサJの電圧の変化に応じてPWM制御はスイッチGのオン/オフ時間比を制御し,出力コンデンサJの電圧は一定範囲(DC300V±20V)に維持される。
ビークルCが停止した軽負荷時にスイッチGのオン時間比率が大きくなると,それにより二次側回路の共振周波数が変化し,給電線Bの周波数との差が大きくなり,その結果,ピックアップコイルHとスイッチ手段Gに流れる電流の総量が,最大電力(約400W)を必要とする二次側回路の共振時のそれよりも減少する。その結果,ビークルCの停止時には,最大電力消費時の22パーセント程度まで減少した電力が給電線BからビークルCに供給されるようになる。
2m ビークルCは車両である。
ウ ニ号物件は,本件発明3との関係では,次のとおりの構成を有する。
3a 一定値の高周波電流を軌道R上の給電線Bに出力する定電流出力高周波電源であって,その出力周波数は8.66kHz又は9.6kHzのいずれかの周波数に固定されている高周波電源装置Aと, 3b 高周波電源装置Aに接続された,軌道R上の給電線Bと, 3c 軌道R上の給電線Bと非接触電磁誘導により結合して軌道Rを走行する1台以上のビークルCであって,該ビークルCは,給電線Bから発生する磁界から起電力を誘導することができるとともに,給電線Bの高周波電流の周波数と同一の共振周波数を有する共振回路Dを構成するピックアップコイルHを有し,且つ該ピックアップコイルHに誘導される電力により駆動可能な少なくとも1つの負荷Eを有するビークルCとを備え, 3d 給電線Bは,軌道R上に給電線ステーQに支持されて平行に敷設され,終端が接続された一対の往復電線から形成され,前記E字型コアは,別紙コア図(山形/台湾)で示されるように,1個の本体コアTと1個の中央付加コアUとからなり,前記両開口部は,本体コアTと,中央付加コアUと,ピックアップコイルHのそれぞれの内壁面で形成され,その開口幅は中央付加コアU部とピックアップコイルH部とで同一幅になるよう形成され,かつピックアップコイルHは開口の最深部からほぼ1/2の深さを占めて配置されている。
前記一対の往復電線はそれぞれ,前記両開口部内で,コア図中の斜線の交点に接して位置するように配置され, 3e ビークルCの給電トランスPはE字型に形成したコアと前記E字型コアの中央凸部に巻き回したピックアップコイルHからなり,前記E字型コアの両開口部内に給電線Bを配置するようにビークルCに装備されている。
3f ピックアップコイルHのコアの両凹部に対向する面は,ビークルCのガイドレール機能を持つ断面形状の押し出し成形加工を主とするアルミニウム製部材である。
3g ニ号物件は誘導電力分配システムである。
(7) 構成要件の充足性 ア 本件発明1 イ号ないしハ号物件は,本件発明1の構成要件1Bないし1E及び1Gをそれぞれ充足する。
イ 本件発明2 イ号ないしハ号物件は,本件発明2の構成要件2Bないし2D,2Fないし2H,2J,2K及び2Mをそれぞれ充足する。
ウ 本件発明3 ニ号物件は,本件発明3の構成要件3Aないし3D及び3Gをそれぞれ充足する。
(8) ニ号物件の販売額等 被告神鋼電機が販売したニ号物件を含む設備のうち,平成11年10月2日までに山形日本電気株式会社に納入された設備の売買代金総額は14億2296万5000円,同年12月末ころに台湾のUnited Microelectronics Corp.(以下「UMC」という。)に納入された設備の売買代金総額は11億5000万円であり,これらの設備の売買代金総額にニ号物件の価額相当額が占める割合は,いずれも20%である。
2 事案の概要 本件は,本件第1特許権及び本件第2特許権を有する原告ユニ社及び同原告からその独占的通常実施権の設定を受けた原告ダイフクが,イ号ないしニ号物件が本件発明1ないし3の技術的範囲に属するとして,@ 被告神鋼電機に対し,イ号物件の製造及び販売の差止め並びに廃棄を請求するとともに,実施料相当額の損害賠償を請求し,A 被告アシストシンコーに対し,ロ号物件及びハ号物件の製造及び販売の差止め並びに廃棄を請求するとともに,実施料相当額の損害賠償を請求する事案である。
3 本件の争点 (1) イ号ないしハ号物件が本件発明1の技術的範囲に属するか否か ア 構成1aが構成要件1Aを充足するか否か イ 構成1fが構成要件1Fを充足するか否か (2) イ号ないしハ号物件が本件発明2の技術的範囲に属するか否か ア 構成2aが構成要件2Aを充足するか否か イ 構成2eが構成要件2Eを充足するか否か ウ 構成2iが構成要件2Iを充足するか否か エ 構成2lが構成要件2Lを充足するか否か (3) ニ号物件が本件発明3の技術的範囲に属するか否か ア 構成3eが構成要件3Eを充足するか否か イ 構成3fが構成要件3Fを充足するか否か (4) 本件発明3に係る特許に無効理由が存在することが明らかか否か ア 出願前に頒布された刊行物に記載された発明と同一か否か(新規性の欠如の有無) イ 特許明細書の記載要件違反があるか否か (5) 損害の有無及び額等
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)ア(構成要件1A)について 〔原告らの主張〕 イ号物件ないしハ号物件は,「一定値の高周波電流を軌道R上の給電線Bに出力する定電流出力高周波電源であって,その出力周波数は8.66kHz又は9.6kHzのいずれかの周波数に固定されている高周波電源装置A」(構成a)を備えているが,これは構成要件1Aにいう「電源」に該当する。
そうすると,構成1aは構成要件1Aを充足する。
なお,構成要件の文言及び本件明細書1の記載には,「電源」を電流の周波数が変化するタイプのものに限定する記載はない。電流の周波数が固定されている電源であっても,ピックアップコイルから一次導電路にリアクタンス成分が帰還すると,他の車両への給電が阻害され,無用なリアクタンス成分の帰還を防止する必要があることに変わりはないから,電流の周波数が可変の電源に限定する合理性はない。
〔被告らの主張〕 本件発明1の特許請求の範囲からは,「電源」が何を意味するのか不明であるから明細書の記載を参考にすることになるが,本件明細書1の発明の詳細な説明では,高周波電流を発生させる電源としてのパワー・エレクトロニクス回路の発振周波数が変化することが予定されており,他方,同明細書中にはそれ以外の電源の種類についての開示はない。そうすると,本件発明1の「電源」は,一次導電路を流れる電流の周波数が可変な電源をいうことになる。
しかるに,イ号ないしハ号物件の電源は周波数が固定されているものであるから,構成1aは構成要件1Aを充足しない。
2 争点(1)イ(構成要件1F)について 〔原告らの主張〕 (1) 構成要件の解釈 構成要件1Fにいう「電気的にほぼ完全に減結合」とは,一次導電路から誘導ピックアップ手段を物理的に離反させる機械的手段ではなく,電気的手段により,一次導電路から誘導ピックアップ手段への二次側回路が消費しない無用の電力の転送をほぼ完全に防止することを意味し,二次側回路が必要とする電力が一次導電路から誘導ピックアップ手段へ転送されることまで防止する必要はない。なお,「電気的に」というのは,減結合手段のうち,機械的手段を除く趣旨である。
本件発明1の作用効果は,ピックアップコイル側の負荷の消費電力が小さくなった場合に,スイッチなどの電気的手段によって,ピックアップコイルの電流値を低減し,負荷が必要とする消費電力以外の電力が給電線からピックアップコイルへ誘導されることをほぼ完全に防止し,軽負荷時にピックアップコイルに大電流が維持されることによって生じる給電線への帰還インピーダンスを減少させるところにある。
本件発明1が解決しようとした課題とそれを解決するための手段に関する本件明細書1の記載とを併せれば,「ほぼ完全に減結合する」対象が消費されない無用の電力であることは明らかである。
(2) イ号ないしハ号物件の充足性 ア イ号ないしハ号物件の同調コンデンサFに並列に配置されているスイッチ手段Gは,給電線BからピックアップコイルH(ないしそれを含む共振回路D)へ必要以上の電力転送が生じないようにするための減結合手段を有している。
イ すなわち,負荷が最大消費電力400Wを要する際にはスイッチ手段Gのオン時間比率が小となって,回路が共振状態となり,ピックアップコイルHの電圧は最大の300Vとなって,給電線BからピックアップコイルHへ最大電力を転送できる。一方,消費電力が少なくなると,スイッチ手段Gのオン時間比率が大きくなって,二次側回路の共振周波数が変化し,ピックアップコイルHの電圧は小となっていき,ビークルが停止した場合には67Vとなって,転送される電力が制御部で必要な60W程度まで低減される。
ウ イ号ないしハ号物件は,PWM制御手段Kが出力コンデンサJの電圧値を指標としてスイッチGのオン時間比率を増加させ,ピックアップコイル電圧を低下させて,必要以上の電力が給電線BからピックアップコイルHに移動しないように制御しながら,軽負荷時の電力転送を制御している。
したがって,イ号ないしハ号物件においては,消費電力60Wの軽負荷時においても,必要以上の電力転送をほぼ完全に防止しており,構成要件1Fの「ほぼ完全に減結合」に該当する。
このように,イ号ないしハ号物件は,構成要件1Fを充足する。
(3) 被告らの主張に対する反論 ア リアクタンス成分の一次導電路への帰還について 被告らは,共振回路の同調条件である「1-ω2LC=0」が完全に充たされることを前提にして,一次導電路に帰還するインピーダンスを算出している。
しかし,そもそも,実用上の回路においては,共振回路を構成するコンデンサの静電容量(C)には通常3%の誤差が規格上許容されており,またピックアップコイルのインダクタンス(L)にも,E字状コアの寸法の誤差,コアのフェライトの透磁率自体の誤差,同透磁率の温度変化による変化,同透磁率の磁束密度の変化による変化があり,かつ車両走行に伴う揺れによるE字状コアと凹部対向面との間の距離の変化による変化がある。そうすると,かかる同調条件が完全に充たされることはありえず,前記インピーダンスのリアクタンス成分が一定であるということはできない。
しかも,ピックアップコイルのインダクタンスL,コンデンサの静電容量Cの値が想定値からわずかに1%ないし3%ずれた場合でも,負荷抵抗値が一定値を超えると,一次側に関する電流のリアクタンス成分は急激に増大する。
イ 仮処分事件における主張(後記〔被告らの主張〕(1)ア(ウ))について 原告ユニ社が被告神鋼電機を債務者として申し立てた仮処分事件(東京地方裁判所平成12年(ヨ)第22074号特許権侵害差止仮処分命令申立事件。以下「本件仮処分事件」という。)は,本件第1特許権の請求項1に基づく差止請求に関するものであって,本件訴訟の訴訟物とは全く異なる訴訟物に関するものである。
また,本件仮処分事件で原告らがした主張は,権利行使過程のものであって,権利の生成とは無関係であるから,原告らは,本件仮処分事件でした主張に拘束されない。
ウ スイッチング周波数(後記〔被告らの主張〕(1)ア(ウ),(エ))について 「減結合」とは,一方の回路から他方の回路へのエネルギーの移動や帰還を防ぐことであって,スイッチ動作の周波数やスイッチング速度は,「減結合」の意味,内容を理解するに当たって斟酌すべき要素ではない。
また,本件発明1の作用効果は,軽負荷の状態になったときに,スイッチのオン時間比率を大きくすることによって,一次導電路から転送する電力を減少させ,一次導電路への無用なインピーダンス(リアクタンス成分)の帰還を防止することにあるから,この場合に重要なのは「負荷に対応したスイッチのオン時間の割合」であって,スイッチング速度そのものには何ら意味がない。
また,本件明細書1にも,スイッチング速度を限定するような記載はない。
エ コンデンサ電圧等について 本件発明1の作用効果は一次導電路への無用なリアクタンス成分の帰還を防止することにあるから,負荷の消費電力で消費されない不要な電力転送をほぼ完全に防止できるだけの減結合を行えば足り,コンデンサFの電圧をほぼ零にしたり,共振回路にほとんど電流が流れないようにしたりするまでの必要はない。
また,本件明細書1にも,転送電力を零にすることを示すような実施例の記載はない。
オ 非共振について 本件発明1においては,非共振という概念は何ら構成要件となっていない。もっとも,イ号ないしハ号物件でも,軽負荷時には二次側回路のリアクタンス成分が零ないし零に近似した状態ではなくなっているから,非共振状態になっている。
〔被告らの主張〕 (1) 主位的主張 ア 構成要件の解釈 構成要件1Fにいう「減結合手段」とは,電力結合の度合いを疎にする手段を意味し,より具体的には,スイッチを一次導電路(本件の給電線B)の周波数に比較して極めて低い周波数(例えば30Hz)で動作させてスイッチ(本件のスイッチG)のオン期間を継続的にし,その結果,スイッチのオン期間においては,コンデンサ(本件のコンデンサF)の電圧はほとんど零に近似し,共振回路(本件の共振回路D)は非共振の状態になり,かつ,共振回路にはほとんど電流が流れないので,一次導電路からピックアップコイルに転送される電力がほとんど零になることをいう。
なお,本件明細書1中には,無用なリアクタンス成分の帰還防止は開示されていない。
その理由は次のとおりである。
(ア) そもそも,本件発明1は,平成9年2月19日付補正書により,本件第1特許権に,一次導電路から少なくとも1つの誘導ピックアップ手段を電気的にほぼ完全に減結合する減結合手段を有することを特徴とする構成を付加したものである。
ここで,「減結合手段」は,本件明細書1の図23にみられるとおり,共振回路のピックアップコイルと共振コンデンサに並列に接続されて,共振回路をオン/オフ(短絡/解放)するスイッチのことであり,これは一次導電路から誘導ピックアップ手段を電気的にほぼ完全に減結合するものである。
(イ) 原告ユニ社は,特許庁の拒絶理由に対して提出した意見書の中で,構成要件1Fに関連して,スイッチを入れる(短絡させる)とほぼ完全に減結合できる旨を述べ,また,本件明細書1においても,スイッチを入れると回路が非共振となる旨を述べている。
そうすると,「ほぼ完全に減結合」とは,共振回路が短絡された期間の態様についての文言であって,短絡された期間において共振回路Dの電圧,電力が共に零に近似することは明らかである。
(ウ) 本件第1及び第2特許権に係る発明の発明者甲教授は,本件仮処分事件で提出された宣誓供述書(乙25)において,通常PWM制御では,スイッチング周波数は最小システム動作周波数の少なくとも10倍であるが,本件発明1では一次導電路周波数が10kHzから50kHzであるのに対して,スイッチング周波数はわずか30Hzほどであって,減結合された場合には一次導電路電流に対して電圧出力がなく,相互インダクタンスが零であるかのように見える旨を述べている。
また,原告らの本件仮処分事件における補佐人乙作成の報告書(乙26)中で,軽負荷の状態ではスイッチは継続的に短絡させること,短絡された場合にはコンデンサの両端間の電圧は零に近似し,電圧波形が出ない期間が継続し,共振回路が非共振の状態になること,公知例であるボーイング特許(U.S.Pat.No.4914539。乙31)に係る発明との違いは,同発明が給電線の電流の周波数の1サイクル毎のスイッチの短絡であるのに対し,給電線の電流の周波数の多サイクルにわたってスイッチで共振回路を短絡する点にあることが述べられている。
なお,乙26の末尾に図14が添付されており,かつその本文中において同図に使用されている記号を用いて同図の動作が説明されているから,乙26は本件第1特許権の請求項1に限定して説明するものということはできず,本件第1特許権及び第2特許権における図14に関する原告らの理解を示したものと考えるべきである。
(エ) 本件明細書1でも,電源の電流の公称周波数が1kHzと50kHzとの間にあり,周波数10kHzが一般的に最も好ましい周波数であること,スイッチである大電流FET装置の切替動作の好ましい周波数は30Hzであることが述べられている。
(オ) 公知のPWM制御手段を高速スイッチングで用いるならば,リアクトルにより電流が平滑されて,共振回路の電圧,電力はスイッチのオン/オフの影響を受けず,電圧・電力が零になる期間もなく,平滑されて断続のない電圧・電力となるのであって,スイッチを短絡したときにほぼ完全に減結合されることや実質的に短絡されることもない。
他方で,本件発明1は,ほぼ完全に減結合するものである。
イ イ号ないしハ号物件の充足性 (ア) イ号ないしハ号物件においては,@スイッチGは,給電線Bの周波数(8.66kHz又は9.6kHz)に比較してむしろ大きい周波数(約37kHz)でオン/オフを切り替えるのであり,AスイッチGのオン時間比率を大きくした場合の,スイッチのオン期間においても,BコンデンサFの電圧が零に近似することはなく(例えばOHTでは波高値95V(実効値67V。最大電圧300Vの22パーセント。)の電圧が維持されている。),C共振回路Dは共振の状態を維持しているのであり,D共振回路Dにほとんど電流が流れなくなることはなく,E一次導電路からピックアップコイルに転送される電力がほとんど零になることもない(等価負荷抵抗に流れる電流は一定なので,共振回路の電圧と電力とが比例するイ号ないしハ号物件においては最軽負荷時の電力も最大出力時のほぼ22パーセント維持されており,給電線BとピックアップコイルHとは,これに見合う実質的な結合が維持されている。なお,イ号ないしハ号物件の最大電力は約400Wで,ビークル停止時(軽負荷時)でも60W(必要電力)が維持されている)。
(イ) そうすると,スイッチング速度が異なる上,スイッチがオンになっている期間において共振回路の電圧,電流,一次側から転送される電力や,共振を維持しているか否かが異なるものであって,「ほぼ完全に減結合」にはあたらない。
したがって,構成1fは構成要件1Fを充足しない。
(ウ) なお,構成要件1Dによると誘導ピックアップ手段と出力負荷とは異なる構成要素とされているから,前者が後者を含まない概念であることは明らかである。また,構成要件1Eによると誘導ピックアップ手段は共振要素を含むものとされているから,誘導ピックアップ手段はピックアップコイルとコンデンサからなる共振回路であることは明らかである。
そうすると,減結合される部位は一次導電路と誘導ピックアップ手段すなわち共振回路との間にあることになる。
したがって,共振回路に並列にスイッチが接続され,このスイッチが共振回路をオン/オフすることが必要である。
しかし,イ号ないしハ号物件においては,スイッチGと共振回路Dとの間に全波整流器IやリアクトルMが存在しており,スイッチGは共振回路Dをオン/オフしていない。
そうすると,スイッチGは減結合手段に当たらない。
(2) 予備的主張 ア 構成要件の解釈 構成要件1Fにいう「減結合手段」とは,前記(1)のとおり電力結合の度合いを疎にする手段をいうが,これは結合係数すなわち相互インダクタンスを減少させることを意味すると解することもできる。
その理由は次のとおりである。
(ア) 本件明細書1の発明の詳細な説明中には,スイッチの付されている付加コイルをフェライトコアに取り付けて,主たるピックアップコイルを給電線の磁束から遮蔽する減結合手段について述べられており,このスイッチが投入されると,この付加コイルが磁束の交差を防止し,これにより結合が減少し,したがって給電線とピックアップコイルの間の相互インダクタンスが減少することが述べられている。
(イ) 同様に,本件明細書1には,他の車両に給電できなくなる事態に関して,通常は一定と考えられている結合係数を小さくすることができれば,相互作用も減らすことができること,一次導電路とピックアップコイル間の相互作用で帰還する過大な抵抗成分「ω2M2/Reff」を小さくするために,結合係数すなわち相互インダクタンスを小さくすることが述べられている。
イ イ号ないしハ号物件の充足性 イ号ないしハ号物件においては,給電線Bと給電トランスPとの間の相互インダクタンスに関係する要素を変化させることはできない。すなわち,両者の配置(位置関係)や,給電トランスPのコアの形状,寸法,配置,ピックアップコイルHのコアの巻数は変化せず,付加コイルも存在しない。
そうすると,一次導電路とピックアップコイルとの間の相互インダクタンスを変化させることはできないから,構成1fは構成要件1Fを充足しない。
3 争点(2)ア(構成要件2A)について 〔原告らの主張〕 イ号物件ないしハ号物件は,「出力周波数が8.66kHz又は9.6kHzのいずれかの周波数に固定されている一定値の高周波電流が供給される,軌道R上の給電線Bから発生する磁界から起電力を誘導することができる車両(ビークルC)」(構成2a)を備えているが,起電力によって電力が発生するのであるから,これは構成要件2Aの「交流電流が供給される一次導電路より発生する磁界から少なくともいくらかの電力を取り出し得る車両」に該当し,同構成要件を充足する。
〔被告らの主張〕 本件発明2は本件発明1の作用効果と同様の作用効果を有しているから,前記1の〔被告らの主張〕と同様に,構成要件2Aの「交流電流」もその周波数が可変の電流に限定して解釈すべきである。
しかるに,イ号ないしハ号物件の電源の電流の周波数は固定されているから(構成2a),構成要件2Aを充足しない。
4 争点(2)イ(構成要件2E)について 〔原告らの主張〕 (1) 構成要件2Eにいう「スイッチ手段」は,ピックアップコイルの端子間に設けられてオン/オフを行うものであれば足り,それ以上に,この端子間の電圧を零にする必要まではない。
また,構成要件2Eは,スイッチGの接続態様を示す要件であるところ,スイッチGの接続態様については,本件明細書2の発明の詳細な説明において,「図14に示すように,ピックアップコイルに,このピックアップコイルを共振周波数に同調させるコイル同調コンデンサが接続され,このコイル同調コンデンサは,(中略)全波整流器からなる整流器に接続され,この整流器の出力側にインダクタが接続され,(中略)さらにインダクタとダイオードとの間で同調コンデンサと並列にスイッチが設けられている」と明確に記載されているから,同構成要件の「ピックアップコイル端子間」とは,ピックアップコイルの端子の一方から,コンデンサ,全波整流器,インダクタ,ダイオード,出力コンデンサの一方の端子,負荷E等を経て,ピックアップコイルのもう一方の端子に接続されるまでの「間」を意味し,ピックアップコイル端子とスイッチの端子との間に全波整流器等が設けられている場合を含む。
(2) イ号ないしハ号物件は,「ピックアップコイルHは,全波整流器I及びリアクトルMを介して別紙物件回路図に示された態様でスイッチGに接続され,スイッチGはオン/オフし」との構成(構成2e)を有している。別紙物件回路図のとおり,ピックアップコイルHの端子の一方から,コンデンサF,全波整流器I,リアクトルM,ダイオードL,出力コンデンサJ,負荷Eを経て,ピックアップコイルHの一方の端子に接続されるまでの間において,リアクトルMとダイオードLとの間で同調コンデンサFと並列にスイッチ手段Gが設けられ,スイッチGがオン/オフしているものである。したがって,イ号物件ないしハ号物件のスイッチの接続態様は,構成要件2Eのスイッチの接続態様と同一であって,これらの物件は構成要件2Eを充足する。
〔被告らの主張〕 (1) 本件明細書2には,スイッチを投入してピックアップコイルを短絡すると,ピックアップコイルから転送した電力が実質的に零になる旨の記載があるから,構成要件2Eにいう「開閉」とは,スイッチ手段が投入(閉)の状態ではピックアップコイルを短絡し,ピックアップコイル端子間の電圧が零になり,かつピックアップコイルから転送される電力が零になることを意味する。
(2) しかるに,イ号ないしハ号物件においては,スイッチGを短絡してもピックアップコイルHの電圧は最大値の22パーセント(波高値約95V以上)を維持する。そして,等価負荷抵抗を流れる電流は一定なので,共振回路の電圧と電力は比例し,軽負荷時の電力は最大値のほぼ22パーセントを維持している。
そうすると,スイッチGが投入(閉)の状態においても,ピックアップコイル端子間の電圧は零にならず,ピックアップコイルHから転送される電力も零にならないから,イ号ないしハ号物件は,構成要件2Eを充足しない。
5 争点(2)ウ(構成要件2I)について 〔原告らの主張〕 構成要件2Iは,スイッチ手段が同調コンデンサと全波整流手段を介して,本件明細書2中の図14のような接続態様で接続されていることを意味する。
しかるに,イ号ないしハ号物件においては,「スイッチGは,同調コンデンサFに,全波整流器I及びリアクトルMを介して別紙物件回路図に示された態様で接続され」ているから(構成2i),構成要件2Iを充足する。
〔被告らの主張〕 構成要件2Iにいう「並列」とは,それぞれの2端子が全て共通の2端子に接続されて,各回路の端子間の電圧が等しくなることを意味する。
しかるに,イ号ないしハ号物件においては,スイッチGの2端子と同調コンデンサFの2端子とが共通の2端子に接続されていない。また,スイッチGが全波整流器I,リアクトルMを介して接続されている上,全波整流器I,リアクトルMはいずれも電圧を持つので,スイッチGの電圧波形と同調コンデンサFの電圧波形は全く異なり,スイッチGの電圧と同調コンデンサFの電圧は等しくならない。
そうすると,イ号ないしハ号物件は,構成要件2Iを充足しない。
6 争点(2)エ(構成要件2L)について 〔原告らの主張〕 (1) 本件発明2が解決しようとする課題は,一次導電路上に複数の車両が存在し,その一部が軽負荷状態になると他の車両に十分な電力を供給できなくなることにあり,またその原因は,軽負荷車両の存在により一次導電路に帰還するインピーダンスのリアクタンス成分が一次導電路に対して悪影響を及ぼすことにある。
そして,本件発明2が提供する,この課題を解決する手段は,ピックアップ手段たる共振回路の同調コンデンサと並列に接続されたスイッチ手段が,出力負荷の変動に応じて制御され,消費電力が減少した場合に,スイッチ手段を実質的に短絡状態にすることで共振回路を実質的に非共振状態にし,ピックアップコイルとスイッチ手段を流れる電流を減少させ,それにより一次導電路から車両への電力転送を減少させるものである。
(2) 構成要件2Lは,さらに次のとおりに分説される。
2L-1 前記制御手段は,前記スイッチ手段を前記出力負荷の変動に反応して制御し,実質的に短絡状態に切り替えることにより 2L-2 前記ピックアップ手段を実質的に非共振状態にして 2L-3 前記ピックアップコイルと前記スイッチ手段に流れる電流を減少させ, 2L-4 よって前記一次導電路から前記ピックアップ手段へ転送される電力を減少させること (3) 構成要件2L-1 ア 構成要件2L-1は,スイッチ制御手段が出力負荷の消費電力が小さくなった場合にはそれに応じてスイッチ手段のオン時間比率を大きくするなど,スイッチ手段が実質的に短絡状態になるようにすることをいうものと解される。スイッチGを閉じた場合でも,ピックアップコイルHの端子間の電圧は0Vとなる必要はない。
構成要件2Lにおいては,スイッチ手段を実質的に短絡状態に切り替えることが開示されているものの,同調コンデンサの両端間の電圧をどのようにするかは同構成要件とは関係がない。
短絡とは,電源が抵抗に接続されて,電圧が生じている場合に,電源の両極を直接導線で結んだり,導線上のスイッチを入れるなどして,電気回路の2点間を抵抗の極めて小さい導線で接続することをいう。
本件発明2の実施例として開示されている本件明細書2の図14の回路図においては,電源と抵抗とを結ぶ導線,抵抗と電源とを結ぶ導線のそれぞれの中間である2点をスイッチで閉じる接続態様になっており,かつ本件発明2は,出力負荷の変動に応じてスイッチのオン/オフを制御し,軽負荷の場合にスイッチのオン時間比率を大きくするものである。
このように,本件発明2における電気回路の短絡と同調コンデンサの両端間の電圧とは関係がないし,構成要件2Lにいう「実質的に短絡状態に切り替える」の意義が不明確であることもない。
イ イ号ないしハ号物件においては,負荷Eの消費電力が減少すれば,その分出力コンデンサJの両端電圧が上昇するが,これは出力コンデンサJ,ダイオードL及び負荷Eとの接続関係に照らせば自明である。そして,これらの物件は,出力コンデンサJの電圧の変化に応じてPWM制御でスイッチGのオン/オフ時間比を制御し,出力コンデンサJの電圧を一定範囲(DC300V±20V)に維持しているものであるが,かかる両端電圧が一定範囲に維持されるようにスイッチGのオン時間比率を制御することは,負荷Eの電力消費量の減少に反応してスイッチGのオン時間比率を増加させていることにほかならない。
したがって,イ号ないしハ号物件は,構成要件2L-1を充足する。
(4) 構成要件2L-2 ア 構成要件2L-2にいう「ピックアップ手段」とは,ピックアップコイルとこのピックアップ共振周波数に同調させる同調コンデンサを有するピックアップ手段を意味する。そして,同構成要件の目的は,ピックアップコイルとスイッチ手段の電流を減少させることにあり,同構成要件にいう「実質的に非共振状態にして」とは,当該共振回路に大電流が流れにくい非共振状態に変化させることを意味する。
ピックアップ手段(共振回路)に他の回路が接続された場合には,ピックアップ手段に大電流が流れるための電流の周波数は,ピックアップ手段だけから算出される共振周波数ではなく,この接続された他の回路をも含めた全体の回路におけるリアクタンス成分を最小化する電流の周波数(共振周波数)となるから,車両側の回路全体について算出される共振周波数が一次導電路の電流の周波数と大きくずれた場合には,ピックアップ手段に大電流が流れにくくなり,かかる「実質的に非共振にして」という要件を充足することになる。
共振とは,交流回路で電流を流した場合に,誘導リアクタンスと容量リアクタンスとが釣り合い,その合計(リアクタンス成分)が零ないし零に近似し,同交流回路に電流が最も流れやすくなる状態をいう。
そうすると,「非共振」とは,二次側回路が共振でない状態,すなわち二次側回路のリアクタンス成分が零ないし零に近似した状態ではなくなることをいい,共振回路に循環する電流を共振状態で流れる電流よりも小とし,ピックアップ手段へ転送される電力を減少ないし実質的に零にすることである。したがって,「非共振」というためには,共振回路に流れる電流を零に近似させることも,共振回路にほとんど電流が流れない状態にすることも必要でない。
イ イ号ないしハ号物件においては,ビークルCが停止した軽負荷時にスイッチ手段Gのオン時間比率が増加する結果,全波整流回路I以降の等価負荷抵抗が減少し,それにより二次側回路全体の共振周波数が変化し,一次導電路の電流の周波数とずれ,一次導電路の周波数が二次側回路に最も電流が流れやすくなる電流の周波数ではなくなる(ピックアップコイルHとスイッチ手段Gに流れる電流の総量が,最大電力(約400W)を必要とする二次側回路の共振時のそれよりも減少する。)。
そうすると,出力負荷が軽負荷の状態になった場合において,スイッチをオン/オフ制御することにより,ピックアップコイルとスイッチに流れる電流を,重負荷時に流れる電流よりも小さくし,これによって一次導電路からピックアップコイルに転送される電力を減少させていることは明らかである。
したがって,構成要件2L-2にいう「実質的に非共振」に該当するから,イ号ないしハ号物件は,同構成要件を充足する。
(5) 構成要件2L-3 ア 構成要件2L-3は,ピックアップコイルとスイッチ手段を流れる電流の総量を減少させることを意味する。
本件発明2の作用効果は,前記(4)のとおり,軽負荷時に並列スイッチを制御してピックアップ回路を実質的に非共振状態にし,ピックアップコイルに流れる電流量を減少させ,必要以上の電力を転送させないようにして,インピーダンスのリアクタンス成分が一次導電路へ帰還することを防止する点にある。さらに,このようにして,軽負荷時にスイッチ手段に流れる電流量も少なくすることができるので,重負荷時と同様の大きな循環電流を軽負荷時にも流し続ける場合に比して,並列スイッチの熱損失も抑制することができる。
なお,被告らは,スイッチ手段Gを流れる電流は,軽負荷時において重負荷時よりもむしろ増加すると主張するが,スイッチ手段Gのみの電流を比較するもので失当である。
イ イ号ないしハ号物件においては,ビークルCの停止時に,スイッチ手段Gのオン時間比率を大きくして,共振回路Dを実質的に非共振状態にすることにより,ピックアップコイルとスイッチ手段に流れる電流の総量が重負荷時に比して減少する。
そうすると,イ号ないしハ号物件は,構成要件2L-3を充足する。
(6) 構成要件2L-4 ア 構成要件2L-4は,ピックアップ手段を実質的に非共振状態にすることにより,一次導電路からピックアップ手段への電力の転送を減少させることを意味する。
イ イ号ないしハ号物件においては,ビークルCの停止時に,スイッチ手段Gのオン時間比率を大きくして,共振回路Dを実質的に非共振状態にすることにより,最大電力消費時の22パーセント程度まで減少した電力が給電線BからビークルCに供給されるようになる。
そうすると,イ号ないしハ号物件は,構成要件2L-4を充足する。
(7) 被告らの主張に対する反論(スイッチング周波数について) 構成要件2Lには,スイッチ動作の周波数ないしスイッチング速度を特定ないし限定するような文言はない。
本件発明2の作用効果は,軽負荷の状態になった場合に,スイッチのオン時間比率を大きくすることにより,一次導電路から転送する電力を減少させ,一次導電路への無用なインピーダンス(リアクタンス成分)の帰還を防止することにあるから,重要なのは,負荷に対応したスイッチのオン時間の割合(オン時間比率)であって,スイッチング速度自体には何ら意味がない。そうすると,被告らのいうように,スイッチの動作周波数を低いものに限定する必要はない。
〔被告らの主張〕 (1) 構成要件の解釈 前記乙の報告書及び本件明細書2の記載によれば,構成要件2Lにいう「実質的に短絡」又は「実質的に非共振状態」とは,@スイッチを一次導電路(イ号ないしハ号物件の給電線B)の電流の周波数に比較して極めて低い周波数(例えば30Hz)で動作させてオン期間を継続的にし,Aその結果,スイッチのオン期間においては,Bコンデンサ(イ号ないしハ号物件のコンデンサF)の電圧はほとんど零に近似し,C共振回路(イ号ないしハ号物件の共振回路D)は非共振の状態となり,かつ,D共振回路にはほとんど電流が流れないので,E一次導電路からピックアップコイルに転送される電力がほとんど零になることを意味する。
なお,本件発明2の実施例である本件明細書2の図14の動作としても,給電線の電流の周波数と比較して高速でスイッチをオン/オフした場合には,共振回路とスイッチとの間に存在するリアクトルMの平滑作用によって,スイッチのオン期間であっても共振回路の電圧は0Vとならないが,給電線の電流の周波数と比較して低速でスイッチをオン/オフした場合には,スイッチのオン期間に共振回路の電圧が0Vとなる。このように,スイッチング速度が低速であれば構成要件2Lを充足するが,高速であれば同構成要件を充足しない。したがって,構成要件2Lの解釈は,前記のとおりになる。
(2) イ号ないしハ号物件の充足性 イ号ないしハ号物件においては,@スイッチGは,給電線Bの周波数(8.66kHz又は9.6kHz)に比較してむしろ大きい周波数(約37kHz)でオン/オフを切り替えるのであり,かつ,AスイッチGのオン時間比率を大きくした場合の,スイッチのオン期間においても,BコンデンサFの電圧が零に近似することはなく(例えば,OHTシステムでは,波高値95V(実行値67V。
最大電圧300Vの22パーセント)の電圧が維持されている。),C共振回路Dは共振の状態を維持しているのであり,かつ,D共振回路Dにほとんど電流が流れなくなることはなく,E一次導電路からピックアップコイルに転送される電力がほとんど零になることもない。
むしろ,イ号ないしハ号物件においては,軽負荷時にスイッチ手段Gに流れる電流はむしろ増加する。
そうすると,構成2lは構成要件2Lを充足しない。
(3) 原告らの主張について ア 本件明細書2には,一次側(一次導電路)に帰還するインピーダンスの(誘導)リアクタンス成分が大きくなる旨の記載はなく,無用なリアクタンスの帰還の防止は開示されていない。
イ 継続的な無効負荷とは,リアクトルのインダクタンスやコンデンサの静電容量をいうのであって,リアクタンス成分のことではありえない。
ウ 二次側にはエネルギー発生源は存在しないから,エネルギーが二次側から一次側へ変換されて移動,帰還することはない。
エ 〔原告らの主張〕(3)(構成要件2L-1)について 本件発明2の実施例である本件明細書2の図14中のスイッチの制御に関する図12については,コンパレータ(比較器)による一般的なヒステリシス制御手法によりスイッチをオン/オフし,出力電圧を上限と下限の間に保つことが記載されているが(15欄2行ないし11行,16欄1,2行),ここでは転送電力の大きさと消費電力の大きさの兼ね合いによって出力コンデンサの両端間の電圧の増加・減少の勾配が変化し,スイッチのオン時間比率が変化するものである。そして,本件明細書2の記載によれば,かかるオン時間比率の変化に関わりなくコンパレータがスイッチに投入信号を出すときに,ピックアップを有効に短絡するのである。したがって,スイッチ手段を実質的に短絡状態に切り替えることは,スイッチ手段のオン時間比率を大きくすることを意味するものではない(無関係である。)。
オ 〔原告らの主張〕(3)及び(4)(構成要件2L-1,2)について 本件発明2の従属項である請求項5では全波整流手段とスイッチ手段との間にインダクタがある構成が規定されているので,本件発明2にはインダクタ(リアクトル)が回路中に存在する構成もこれが存在しない構成も含まれることになる。そうすると,構成要件2Lにいう「実質的に短絡状態」,「非共振」のいずれもがインダクタが介在するか否かにかかわらず実現できなくてはならない。
ところで,インダクタは平滑機能を有するが,インダクタが回路中に存在しない場合には,スイッチをオンにすると,共振回路の電圧が0Vの状態となるから,かかる共振回路の電圧が0Vとなる状態が,スイッチ手段を実質的に短絡状態に切り替えることによって実現したピックアップ手段の非共振状態である。そうすると,「実質的に短絡」,「非共振」とは,前記(1)のとおりに解釈されなければならない。
本件明細書2でも,コンデンサに接続されたスイッチを投入することにより,共振素子をシステムから切り離し,ピックアップコイルを短絡させることが好ましい旨が記載されており(16欄33行ないし38行),「実質的に短絡」とはスイッチによりピックアップコイルを短絡させて共振回路の電圧を零にすることを意味し,原告らの主張するスイッチ手段のオン時間比率を長くすることは意味しないと解さざるを得ない。
カ 〔原告らの主張〕(4)(構成要件2L-2)について 原告らは,構成要件2Lの「非共振」につき,一次導電路を流れる交流電流の周波数と,甲16の図13の二次側回路全体(共振回路に抵抗Rも含めた回路)の共振周波数を比較しているが,二次側回路全体の共振周波数に関する記述は,本件明細書2にはなく,「非共振状態」になるのは二次側回路全体ではなくピックアップ手段(共振回路)であるから,かかる比較は誤りである。「非共振」の解釈に当たっては,一次導電路を流れる交流電流の周波数と,共振回路の共振周波数とを比較するのが正しい。
キ 〔原告らの主張〕(5)(構成要件2L-3)について 原告らは,構成要件2Lの「電流を減少させ」につき,ピックアップコイルとスイッチ手段に流れる電流の総量の減少を意味するとするが,本件発明2は,実質的に非共振の状態にあるときには,スイッチ手段に大電流が流れず,発熱によるスイッチ手段の損失を抑えることができるという点に着目して特許が付与されたものである。そうすると,これは電流の総量を意味するのではなく,ピックアップコイルを流れる電流とスイッチ手段を流れる電流の双方が減少することを意味するものと解すべきである。
7 争点(3)ア(構成要件3E)について 〔原告らの主張〕 (1) 構成要件3Eにいう「中心」とは,本件明細書1の図10を見れば明らかなとおり,ピックアップコイルを除いた凹部内の中心,すなわち,開口部を最深部と同じ長さにまで延長した線の上下両端と最深部の上下両端を結ぶ斜線の交点を意味する。
そして,同構成要件にいう「ほぼ」とは,本件発明3の作用効果との関係において特段の意味を有するものではなく,給電線の位置が多少「中心」からずれている場合をも含むものである。
(2) ニ号物件においては,構成3eのとおり,給電線はコアの両凹部の開口部を最深部と同じ長さにまで延長した線の上下両端と最深部の上下両端とを結ぶ斜線の交点(前記の「中心」)に接している。
そうすると,給電線はピックアップコイルのコアの凹部内のほぼ中心にあるといえ,構成3eは構成要件3Eを充足する。
〔被告らの主張〕 (1) 原告ユニ社は,特許異議事件の審理で引用例として挙げられたMIT論文との差異を明確にするため,特許請求の範囲にいう「ほぼ中央」を「ほぼ中心」に減縮訂正したから,構成要件Eにいう「ほぼ中心」とは文字どおり,中心ないし中心のごく近傍をいうものと解すべきである。
(2) しかるに,ニ号物件においては,ピックアップコイルのコアの凹部内の中心が一次導電路の導体の外周上(ほぼ接する位置)にあって,両者は相当離れているから,構成要件3Eを充足しない。
8 争点(3)イ(構成要件3F)について 〔原告らの主張〕 ニ号物件は,構成3fのとおり,その納入・販売時において,ピックアップコイルHのコアの両凹部に対向する面は,アルミニウム製部材で形成されており,その後にステンレス板がこの上に加えられたに止まるものである。
そして,この面はビークルCのガイドレール機能を持つ断面形状で,主として押出成形加工されているから,構成要件3Fを充足する。
〔被告らの主張〕 ニ号物件は構成要件3Fを充足しない。
なお,販売後に,ニ号物件のピックアップコイルのコアに対向する面には鉄系金属板のSUS板(ステンレスプレート)が貼られている。
9 争点(4)ア(新規性の欠如の有無)について 〔被告らの主張〕 本件発明3は,次のとおり,その特許出願の優先日である平成3年3月26日より前である昭和41年11月1日に刊行された”SOME PROBLEMS RELATED TO ELECTRIC PROPULSION”(乙15。以下「引用例」という。)に記載された発明と同一である。したがって,本件発明3に係る特許が無効であることは明らかであるから,本件発明3に係る特許権を行使することは権利の濫用である。
(1) 構成要件3A 引用例には,「平衡電源供給源」が図示されており(乙15の48頁の図6-1(a)),「60ヘルツで使用するのにあまり効率的ではないが,数百キロヘルツの周波数ではかなりの電力が変換できる。」との記載(訳文6.2項4行ないし5行)があるから,「平衡電源供給源」は本件発明3の構成要件Aにいう「高周波電源」に相当し,同構成要件が開示されている。
(2) 構成要件3B 引用例には,「平衡電源供給源」と「2線電送ライン」とが接続されていることが図示されており(48頁の図6-1(a)),高周波電源(平衡電源供給源)に接続された一次導電路(2線電送ライン)の構成(構成要件3B)が開示されている。
(3) 構成要件3C 引用例には,「電力線とピックアップコイルとの間の磁気結合を(以下略)」との記載,「複数の車両が同時に線路に結合された場合」との記載,「誘導ピックアップが電力線から電力を引き出すのには,(以下略)」との記載があり,また「出力巻線」が図示されている(48頁の図6-1(a))。
引用例にいう「電力線」,「車両」は本件発明3の構成要件3Cにいう「前記一次導電路」,「電気装置」にそれぞれ相当し,引用例にいう「ピックアップコイル」,「出力巻線」,「誘導ピックアップコイル」はいずれも同構成要件にいう「ピックアップコイル」に相当する。
そうすると,引用例には,「前記一次導電路(電力線)と結合して使用する1つ以上の電気装置(車両)であって,前記一次導電路(電力線)により発生する磁界から少くとも若干の電力を取り出し得るとともに,ピックアップ共振周波数を有する共振回路を構成する少くとも1つのピックアップコイル(ピックアップコイル,出力巻線)を有し,且つ該ピックアップコイル(誘導ピックアップコイル)に誘導される電力により駆動可能な少くとも1つの出力負荷を有する電気装置と,を備え,」という同構成要件が開示されている。
(4) 構成要件3D 引用例には,「2線電送ライン」がほぼ平行に敷設された図示(48頁の図6-1(a)),「整合ライン終端」により終端が接続されている図示(同図)がされており,ここで「2線電送ライン」は本件発明3の構成要件3Dにいう「前記一次導電路」に相当するから,同構成要件が開示されている。
(5) 構成要件3E ア 引用例には,「中央の脚部にピックアップコイルが巻かれた『E』状のフェライトコアを使用している。」との記載があり,「誘導ピックアップ」がE字状であることが図示されている(48頁の図6-1(a))。ここで,引用例にいう「誘導ピックアップ」は構成要件3Eにいう「前記電気装置のピックアップコイルのコア」及び「前記コア」に相当するから,引用例では,同構成要件のうち,「前記電気装置のピックアップコイルのコア(誘導ピックアップ)をE字状に形成し,前記コアに前記ピックアップコイルを巻回し,」との構成が開示されている。
イ 引用例には,「2線電送ライン」が「誘導ピックアップ」の両凹部内で,かつそれぞれの凹部のほぼ中心に位置するように配置された図示がされている(48頁の図6-1(a)(b))。ここで引用例にいう「2線電送ライン」は構成要件3Eにいう「前記一対の導体」に相当するから,引用例では,同構成要件のうち,「前記一対の導体(2線電送ライン)がそれぞれ,前記コア(誘導ピックアップ)の両凹部内で,かつそれぞれの凹部のほぼ中心に位置するように配置され,」との構成が開示されている。
(6) 構成要件3F ア 引用例には,「電送線路の下には薄いフェライト板が設置されて,」との記載(訳文6.2項12行ないし13行)があり,「誘導ピックアップ」の両凹部に対向する面が,「フェライト板」により形成されていることが図示されている(48頁の図6-1(a)(b))。
そして,引用例にいう「誘導ピックアップ」は,構成要件3Fにいう「前記ピックアップコイルのコア」に相当する。
イ フェライトは非導電性の材料に該当することは明らかであるところ,原告ユニ社自身も,本件発明3に係る判定事件(特許庁判定2000-60025号)における答弁書(乙19)において,「フェライトゴムの抵抗率は,(中略)1×106Ω・cmであり,(中略)このような値の抵抗率(中略)を有する材質は『絶縁物』に種別されるものである。したがって,(中略)フェライトゴムは『絶縁物』,即ち『非導電性の材料』であることは明らかであり」(6頁28行ないし7頁5行)と述べ,フェライトが非導電性の材料であることを認めている。
のみならず,本件明細書1(甲6)においても,「一次導体(10110)と(10111)からフェライトコアの中央の軸部への電磁結合は前記一次導体がフェライトにより完全に囲まれているので,比較的能率的である。」(9頁左欄30行ないし33行)と記載されているところ,ピックアップコイルのコアとして導電体を用いる場合には,コア自体で著しいエネルギーロスを生じることは当業者の常識であるから,原告ユニ社自身がフェライトが非導電性の材料であることを主張しているものということができる。
ウ 結局,引用例においては,「前記ピックアップコイルのコア(誘導ピックアップ)の両凹部に対向する面は薄いフェライト板により形成されていること」という構成が開示されていることになるが,この構成は構成要件3Fと一致するものである。
(7) 構成要件3G 引用例には,「誘導ピックアップと電送ラインの外観図」が図示されており(48頁図6-1(a)),構成要件3Gが開示されている。
〔原告らの主張〕 (1) 引用例に記載された回路図においては,コイルが存在するものの,コンデンサが存在しておらず,コイルとコンデンサの組み合わせで構成される共振回路が存在していない。したがって,引用例の発明では構成要件3Cが開示されていない。
(2) 原告ユニ社は,構成要件3Fに関して,「非導電性または非鉄金属」を「アルミニウム」に減縮する訂正を行っているから,引用例においては構成要件3Fが開示されていない。
10 争点(4)イ(記載要件違反)について 〔被告らの主張〕 本件発明3は,次のとおり,発明の効果を奏しない構成,すなわち特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項以外のものを,特許請求の範囲に含んでおり,これに係る特許が無効であることが明らかである。
(1) 本件発明3,特にこのうちの構成要件3Fに関する作用効果は,ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面を非導電性の材料又は非鉄金属で形成することで,一次導電路の導体が発生する磁界により,コア側に磁路が形成されてエネルギーロスを防止でき,かつ磁界中の鉄片の加熱等の外部への影響を防止し,作業員の安全を確保でき,かかる対向面上に金属体が置かれたときでも一次導電路の導体が発生する磁界の金属体への影響が少ないというものである。
(2) しかるに,かかる対向面が非導電性の材料であるプラスチックなどで形成されている場合には,磁路に何らの影響も及ぼさないので,磁路との関係では,かかる対向面が存在していない場合と同様に,磁路は自由に放散し,かかる対向面のコア側とは反対側にも形成される。したがって,この場合には,外部への影響を防止することができず,かかる対向面上に金属体が置かれた場合の一次導電路の導体が発生する磁界の金属体への影響を少なくすることができない。
(3) また,かかる対向面が非鉄金属であるニッケル,コバルトなどで形成されている場合には,ニッケル,コバルトなどは磁性,導電性に関して鉄と近い特性を有するので,かかる対向面自体が加熱されてしまい,エネルギーロスを防止することができない。
(4) 結局,本件発明3は,発明の効果を奏しない構成を含んでいるものであり,この発明に係る特許は平成6年改正前の特許法36条5項2号に違反し,無効であることが明らかであるから,本件発明3に係る特許権を行使することは権利の濫用である。
〔原告らの主張〕 原告ユニ社は,構成要件3Fに関して,「非導電性または非鉄金属」を「アルミニウム」に減縮する訂正を行っているから,記載要件違反はない。
11 争点(5)(損害の有無及び額等)について 〔原告らの主張〕 (1) 連帯債務であること 被告アシストシンコーは,平成14年10月1日,被告神鋼電機の会社分割(新設分割)によって設立され,ロ号ないしニ号物件の製造・販売事業を含む被告神鋼電機の半導体・液晶機器搬送事業を承継した会社である。
原告らは,前記会社分割手続につき異議申述の個別催告を受けていないから,被告神鋼電機がロ号ないしニ号物件の製造,販売によって本件発明1ないし3に係る各特許権を侵害したことに基づく損害の賠償及びこれに対する遅延損害金の支払については,被告アシストシンコーも,被告神鋼電機と連帯して弁済する責めを負う。
なお,原告らは,平成12年5月19日,本件第1特許権の特許請求の範囲請求項1の発明及び本件発明3に係る各特許権の侵害を理由に,本件仮処分事件を申し立てているほか,平成14年8月17日付の申入書で,ニ号物件が本件発明3の特許権を侵害している旨を明確に主張しているから,被告神鋼電機が原告らの債権の概要を知っていたことは明らかである。
(2) 原告らがそれぞれ実施料相当額の損害の2分の1ずつを受けること 原告ユニ社は,原告ダイフクとの間の実施権許諾契約で,原告ダイフクが第三者に対して本件特許のサブライセンスを行う場合には,原告ユニ社に対し,これによって取得したロイヤリティの50%を支払う旨を合意した。
したがって,原告らは,被告らに対し,実施料相当額の損害賠償金の2分の1ずつを取得することができる。
(3) 本件発明1に係る特許権の侵害による損害(原告ら各自につき2億3349万円) 被告神鋼電機は,イ号ないしハ号物件を含む設備を製造し,別紙侵害一覧表記載のとおり,これを販売,納入し,本件発明1に係る特許権を侵害したが,イ号ないしハ号物件毎に損害額を算出すると,別紙本件発明1侵害一覧表記載のとおりとなる。
すなわち,イ号ないしハ号物件を含む設備全体の納入代金額は,同一覧表の各「販売価格(円)」欄記載の金額を,設備全体の納入代金額に占めるイ号ないしハ号物件の納入代金相当額の割合は同一覧表の各「イ〜ハ号物件比率欄(%)」記載の割合を,それぞれ下らないから,被告神鋼電機の各設備納入先に対するイ号ないしハ号物件の売上高相当額は,それぞれ同一覧表の各「イ〜ハ号物件売上高(円)」欄記載の金額を下らない。
特許権者である原告ユニ社は,かかる侵害行為によって実施料相当額の損害を被ったもので,その金額はイ号ないしハ号物件の売上高相当額の3%である同一覧表の各「原告ユニ社損害額(円)」欄記載の金額をそれぞれ下らない。そうすると,同特許権の侵害による原告ユニ社の損害は,合計2億3349万円を下らない。
独占的通常実施権者である原告ダイフクも,原告ユニ社と同様の損害を被ったもので,同特許権の侵害による原告ダイフクの損害は,合計2億3349万円を下らない。
(4) 本件発明2に係る特許権の侵害による損害(原告ら各自につき1836万円) 被告神鋼電機は,イ号,ロ号物件を含む設備を製造し,別紙侵害一覧表記載のとおり,これを販売,納入し,本件発明2に係る特許権を侵害したが,イ号,ロ号物件毎に損害額を算出すると,別紙本件発明2侵害一覧表記載のとおりとなる。
すなわち,イ号,ロ号物件を含む設備全体の納入代金額は同一覧表の各「販売価格(円)」欄記載の金額を,設備全体の納入代金額に占めるイ号,ロ号物件の納入代金相当額の割合は同一覧表の各「イ,ロ号物件比率(%)」欄記載の割合を,それぞれ下らないから,被告神鋼電機の各設備納入先に対するイ号,ロ号物件の売上高相当額は,それぞれ同一覧表の各「イ,ロ号物件売上高(円)」欄記載の金額を下らない。
特許権者である原告ユニ社は,かかる侵害行為によって実施料相当額の損害を被ったもので,その金額はイ号,ロ号物件の売上高相当額の3%である同一覧表の各「原告ユニ社損害額(円)」欄記載の金額をそれぞれ下らない。そうすると,同特許権の侵害による原告ユニ社の損害は,合計1836万円を下らない。
独占的通常実施権者である原告ダイフクも,原告ユニ社と同様の損害を被ったもので,同特許権の侵害による原告ダイフクの損害は,合計1836万円を下らない。
(5) 本件発明3に係る特許権の侵害による損害(原告ら各自につき1543万7790円) ア 被告神鋼電機は,ニ号物件を含む設備を製造し,別紙本件発明3侵害一覧表記載のとおり,これを販売し,納入して,本件発明3に係る特許権を侵害した。
特許権者である原告ユニ社及び独占的通常実施権者である原告ダイフクは,かかる侵害行為によって実施料相当額の損害を被ったが,その金額は両社の合計で,被告神鋼電機による販売価額総額25億7296万5000円にニ号物件が占める割合20%を乗じた金額に,さらに実施料率に相当する割合である6%を乗じた金額3087万5580円を下らない。
そうすると,原告ユニ社及び原告ダイフクが被告神鋼電機のかかる侵害行為によって被った損害の額は,それぞれ,この2分の1である1543万7790円を下らない。
イ 被告らの主張に対する反論 (ア) ニ号物件においては,給電線から車両への電力転送をいかに効率よく行うかが極めて重要であって,本件発明3はかかる物件の中核を構成する部分にとって極めて重要な意義を有する発明である。
(イ) 原告ダイフクと被告らは,非接触給電による工場内搬送装置設備に関して完全な市場競合関係にあり,原告ダイフクが被告らに対して本件発明3の実施許諾をすることは考えがたいし,仮にこれがあるとしても低率の実施料率で実施許諾することは考えがたい。
ところで,一般に輸送用機械に関する発明の実施料率は3%ないし7%である。本件発明の重要性,市場競合関係に照らせば,本件発明3の実施料率は,5%でも低率すぎ,6%を下回ることはない。
なお,ヨーロッパ(ドイツ,スペイン,フランス,イギリス,イタリア,オランダ,スウェーデン)でも,本件発明3と同種の発明につき特許権が成立している。
(ウ) 原告ダイフクが原告ユニ社に支払う約定の実施料には,ノウハウの提供等の対価は含まれておらず,両者間の契約で,システムの製造等に関する技術情報,ノウハウ等の提供があった場合には,実施料とは別個に対価を支払うものと定められている。
〔被告らの主張〕 (1) 連帯債務であることについて 被告神鋼電機は,被告アシストシンコーとの間で,ニ号物件に関する債務は被告神鋼電機において負担するとの合意をしているし,原告らは被告らに知られた債権者ではないので個別催告の対象とはならないから,被告アシストシンコーは,ニ号物件の製造・販売に基づく損害賠償義務を負わない。
なお,本件仮処分事件では非侵害を理由に却下決定がされているから,本件仮処分事件当時では債権自体が存在しなかった。
(2) 本件発明1及び2に係る特許権の侵害による損害について 否認ないし争う。
(3) 本件発明3に係る特許権の侵害による損害について ア 原告ダイフクが原告ユニ社との契約において,我が国では原告ダイフクが原告ユニ社をも排除して本件発明3を実施できるとすれば,原告ユニ社は原告ダイフクから,原告ダイフクが取得した実施料相当額の損害賠償金の一部の配分を受けるにすぎない。原告ダイフクは,原告ユニ社が受けるべき実施料率を開示しておらず,原告ユニ社が被告らに対して独自に請求しうる実施料相当額の損害はない。
イ 原告ダイフクが原告ユニ社に支払う実施料の金額には,本件発明3に係る特許権以外の特許権の実施料の金額や技術情報等の提供の対価も含まれるから,原告らが3%の実施料率を合意していたとしても同率をそのまま適用すべきではない。また,本件発明3は我が国でしか特許されていない発明であって,その内容もこの種の搬送装置では当たり前の構成であるから,その価値は限定的なものである。
そうすると,原告らが賠償を受けるべき実施料相当額は売上高の1%以下が相当というべきである。
ウ 原告らが本件発明3による作用効果として主張する,ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面をアルミニウムで形成することで給電効率を向上させるという作用効果は,そもそも存在しない。また,軌道はかかる対向する面に該当しないが,これが仮に該当するとしても,軌道をアルミニウムの押出で一体形成することは公知の技術(特公昭57-32102)にすぎない。
当裁判所の判断
1 争点(1)イ(構成要件1F)について (1) 構成要件1Fの解釈 ア 特許請求の範囲構成要件1Fには,「少くとも1つの前記誘導ピックアップ手段を電気的にほぼ完全に減結合する減結合手段」との記載がある。
イ 本件発明1に係る請求項30は,特許庁の平成8年8月20日付拒絶理由通知に対して,平成9年2月19日付手続補正書(自発)をもって追加されたものであり,追加の理由として,同日付意見書に「請求項30に記載されております新たな発明は,『一次導電路から少くとも1つの前記誘導ピックアップ手段を電気的にほぼ完全に減結合する減結合手段』を特徴とするものであります。この発明は,図23と,明細書の第34頁第2行目〜同頁第6行目の記載に基づくものです。スイッチ2301を入れると,ほぼ完全に減結合することができます。」との記載がある(乙13,33)。
ウ 本件明細書1の「発明の詳細な説明」には,「電気的にほぼ完全に減結合する減結合手段」に関して,次のとおりの記載がある(甲6)。
(ア) 本発明の説明 「ここで前記ピックアップコイルは該平行導体からピックアップコイルへ伝達される交流電力を最大にすべく同調されるとともに該車両上に任意に第二の遮蔽絶縁コイルが該一対の平行導体とピックアップコイルとの間に設けられる。
好ましくは,スイッチを該遮蔽コイル上に設けて,もし該スイッチを投入すると該絶縁コイルは短絡することができて,該一対の平行導体と該ピックアップコイルとの間の結合度合を疎にすることができる。
これに代わるものとして,スイッチを主ピックアップコイル上に設けて,共振電流を主ピックアップコイル中に流さしめたりまたは流れるのを防止してもよい。好ましい配置では,スイッチはピックアップコイル内のコンデンサと並列であって,従ってもしスイッチが投入されるとコンデンサは短絡し得るのでピックアップコイルが確定され,電力結合の度合を疎にする。この実施態様よりも好ましさの劣るさらに別の実施態様では,上記スイッチは該コンデンサと直列になり得て該スイッチが開放されると該共振回路が遮断される。」(8欄28行ないし47行) (イ) 同調ピックアップコイルと動作特性 a 「軽負荷車両が,該軽負荷車両よりも1次ループから遠い位置にある他の車両に電力が届くのを妨げるという事態が,特に1次ループが共振状態にあるような設備において起こり得る,ということが判明した。このような事態は,前記軽負荷ピックアップコイルを循環する高レベルの電流が,1次インダクタ内の共振電力と相互作用する結果として起こる。」(19欄21行ないし27行) b 「従って,制御器または車両電力コンディショナは,2つの別々の車両機能を結合するものが開発され,すなわち,2つの機能とは,コイル出力電圧がプリセット閾値より上昇するときはいつでもピックアップコイルを離脱または動作不能にする機能と,出力電流ドレインが第2閾値を越えるときはいつでも出力電流を制限する機能である。」(19欄27行ないし33行) c 「ピックアップコイルの離脱はコイルを1次導体に接近した最適の位置から物理的に離反せしめることにより機械的に行なうことができる。離脱はまた電気的にも行なえる。例えば,電流の流れを中断するために共振回路内の直列スイッチを開放してもよい。調整目的のために繰り返し開放(例えば約20-100Hzで)して目標値を上下する出力電圧を与えてもよい。車両走行制御のためには,上記直列スイッチは,希望する時間が経過する間,開いたままにしておけるものであってもよい。この方法は,該スイッチが2方向スイッチでなければならないという欠点,および,上記直列スイッチが,ピックアップコイルの観測共振電流レベルにおいて2ボルト以上の電圧降下を発生し,多分50〜100Wのロスを生ずるという欠点を有する。第2の選択としては,コンデンサに接続されたスイッチを投入することにより,そしてそれによって共振素子をシステムから切離すことにより,ピックアップコイルを短絡させることが好ましい。この投入スイッチが多くの電流を流さないのは回路がもはや共振ではないからである。それで損失は小となり,とにかく負荷担持モードを害するものではない。前記スイッチの投入時には共振回路の蓄積電荷は小である。もし所望の出力が大電流の低電圧出力であれば,このスイッチが短絡すると,かなりのロスを生ずるので,第3の選択は比較的多くの巻数を有する第2のピックアップコイルを設けることである。このようなコイルを短絡させると,該スイッチを流れる電流は比較的小さい。」(19欄36行ないし20欄11行) d 「この問題は,送電線と同調ピックアップコイルとの間の結合の度合を疎にすることによって回避することができる。」(20欄46行ないし48行) (ウ) 変形例 「図23は,ピックアップコイル(2303)のコンデンサ(2302)と並列のスイッチ(2301)を示す。このスイッチ(2301)を入れると回路が非共振となり,且つ1次コイル(図示せず)とピックアップコイル(2303)との間で授受される電力を減少せしめる。スイッチ動作を適宜制御することによりピックアップコイルの受け取る電力量を制御することができる。」(25欄20行ないし26行) エ(ア) 前記イのとおり,本件発明1に係る請求項(請求項30)は,図23(本判決末尾に添付した。)と本件明細書1中の記載部分に基づいて,新たな発明として追加されたものであるから,本件発明1は図23に記載された回路構造を実施例とするものであり,図23に記載された回路構造を前提に追加されたものである。
このことに前記ウ(ウ)と本件明細書1に図23のとおりの回路図が記載されていることを併せ考えれば,構成要件1Fは,車両側のピックアップコイルとコンデンサからなる共振回路に,コンデンサと並列にスイッチを設け,同スイッチをオン/オフする回路構成に関するものであり,図23の回路構造が実施例となる。
そして,このスイッチをオンにすると回路が非共振となり,一次導電路と同ピックアップコイルとの間で授受される電力を減少させることができ,またかかるスイッチ動作を適宜制御することによって,一次導電路から同ピックアップコイルが受け取る電力の量を制御することができるというものである。ここで,この後段部分は,スイッチ(2301)のオン/オフ動作の仕方を適宜制御することにより,1次コイルからピックアップコイル(2303)に転送される電力の量を制御することが可能であることを意味する。
(イ) ところで,前記ウ(イ)aの記載によれば,本件発明1が解決すべき課題は,軽負荷車両のピックアップコイルを循環する高レベルの電流が,一次インダクタ内の共振電力と相互作用する結果,当該軽負荷車両よりも一次導電路から遠い位置にある他の車両に電力が届くのを妨げる事態が生じていることをいかに解決するかにある。
そして,前記ウ(イ)c,dの記載によれば,本件明細書1には,その解決法として,一次導電路(送電線)と車両の同調ピックアップコイルとの間の結合の度合いを疎にする方法が開示されており,より具体的には,ピックアップコイルを物理的,機械的に一次導電路から離反させる方法と,ピックアップコイルを物理的,機械的に一次導電路から離反させるわけではないが,電気的に同様の効果を得る方法とが開示されている。
さらに,前記ウ(イ)cの記載のとおり,本件明細書1においては,後者の方法として,@車両のピックアップの共振回路内に,コンデンサと直列にスイッチを設け,これをオン/オフすることでピックアップコイルに流れる電流を制御する方法,A車両のピックアップの共振回路内に,コンデンサと並列にスイッチを設け,これをオン/オフすることでピックアップコイルに流れる電流を制御する方法,B車両のピックアップコイル(第1のピックアップコイル)の上に重ねて,第2のピックアップコイルとスイッチとで構成される回路を設け,このスイッチをオン/オフすることで第1のピックアップコイルに流れる電流を制御する方法がそれぞれ開示されている。
本件発明1で開示されている方法は,このうちAの方法である。
(ウ) 以上によれば,構成要件1Fにいう「減結合手段」とは,車両のピックアップコイルのコンデンサと並列にスイッチを設け,このスイッチをオンにすることで同ピックアップコイルに流れる電流を減少させて,一次導電路から同ピックアップコイルに転送される電力を減少させる手段をいうと解すべきである。
そして,構成要件1Fでは,かかる減結合手段による減結合の程度につき,「ほぼ完全に」という限定が付されているが,その程度については,本件明細書1の発明の詳細な説明中には明確な開示がないから,字義どおり,「ほぼ完全に」,すなわち,かかる減結合手段は一次導電路からピックアップコイルへに転送される電力をほぼ零にするものであることが必要であると解すべきである。
オ 原告らの主張について 原告らは,本件発明1の目的は一次導電路へピックアップコイルから無用なインピーダンスのリアクタンス成分が帰還することを防止することにあり,構成要件1Fにいう「電気的にほぼ完全に減結合」とは,電気的手段により,一次導電路から誘導ピックアップ手段への二次側回路が消費しない無用の電力の転送をほぼ完全に防止することを意味し,二次側回路が必要とする電力が一次導電路から誘導ピックアップ手段へ転送されることまで防止する必要はない旨を主張する。
しかしながら,まず,本件発明1によって解決すべき課題は前記エ(イ)に認定したとおりであって,本件明細書1の記載から,これが一次導電路へピックアップコイルから無用なインピーダンスのリアクタンス成分が帰還することの防止にあるとまでいうことはできない。
すなわち,確かに,本件明細書1の発明の詳細な説明中には,前記ウ(イ)aのとおり,特に1次ループが共振状態にあるような設備において,軽負荷車両のピックアップコイルを循環する大電流が一次インダクタ内の共振電力と相互作用して,他の車両に電力を供給することを妨げる旨の記載があるほか,「誘導ピックアップコイルを使用する車両システムの動作時,モータの要求する出力電力は広範囲に亘って変化する。その結果,電力需要もまた広く変化する。軽負荷の場合には,平行伝送線路に帰還させられるインピーダンスもまた広く変化するので問題が起きる。」(20欄12行ないし16行)との記載がある(甲6)。しかしながら,これらの記載はいずれも,軽負荷車両のピックアップコイルを流れる電流が一次導電路の電流と相互作用し,他の車両への電力供給を妨げるという好ましくない事態が生じるが,その原因はピックアップコイルから一次導電路へ帰還するインピーダンスの変化にある旨を指摘するものにすぎない。そうすると,前記の範囲を超えて,リアクタンス成分の不必要な部分を排除すれば課題の解決ができる旨を開示したり,あるいは示唆しているものと解することは困難である。
また,本件明細書1の発明の詳細な説明中には,「好ましくは,高周波交流を送電線に供給することで,かかる高周波電流は高周波交流発電機により発生してもよく,さらに好ましくは前記した如くパワー・エレクトロニクス回路により発生してもよい。パワー・エレクトロニクス回路の場合は,発振周波数はループにかかる継続的な無効負荷により決定され,また軽負荷車両の影響は動作周波数を10kHzから数百Hzまでという好ましい周波数範囲から逸脱させるという形で現われる。」(20欄35行ないし42行)との記載がある(甲6)。しかしながら,この記載も,一次導電路の電流をパワー・エレクトロニクス回路で発生させた場合には,軽負荷車両のピックアップコイルと一次導電路との間の相互作用により,一次導電路の動作周波数が好ましい周波数範囲から逸脱するとの好ましくない事態の生じることを指摘するものにすぎず,課題解決の方法の具体的内容を示しているものではないから,これを超えて,車両のピックアップコイルから帰還するインピーダンスのリアクタンス成分の不必要な部分の排除の趣旨が開示されているとか,あるいは示唆されていると解するのは困難である。
さらに,前記ウ(ウ)のとおり,本件明細書1中では図23についての説明がされ,かつスイッチ動作を適宜制御して一次導電路からピックアップコイルへ転送される電力量を制御できる旨の記載があるが,この記載中においては,どのような方法で,またどのような程度でスイッチ動作を制御するかについて何ら具体的に開示がされていないから,車両のピックアップコイルから帰還するインピーダンスのリアクタンス成分の不必要な部分を排除できるようにスイッチ動作を制御することが開示されているとか,あるいは示唆されていると解することは困難である。
なお,前記イのとおり,本件発明1に係る請求項(請求項30)は,図23と本件明細書1中の記載部分に基づいて,新たな発明として追加されたものであるから,本件発明1は図23に記載された回路構造を実施例とするものであり,図23に記載された回路構造を前提に追加されたものであって,本件発明1について図23の回路構造を離れて,他の図を用いて説明することは相当でない。
そして,このほかに,構成要件1Fにいう「電気的にほぼ完全に減結合」が,電気的手段により,一次導電路から誘導ピックアップ手段への二次側回路が消費しない無用の電力の転送をほぼ完全に防止することを意味すると認めるに足りる証拠もない。
そうすると,構成要件1Fについての原告らの主張は,いずれも採用することができない。
(2) イ号ないしハ号物件の充足性 イ号ないしハ号物件の構成1fは,前記第2の1(6)アのとおりであるところ,最軽負荷時においても車両のピックアップ回路のコンデンサの両端子間電圧は最大出力時のほぼ22パーセントが維持されており,最軽負荷時においても給電線BからピックアップコイルHへ60Wの電力が転送されているから(なお,最大出力時には400Wの電力が転送される。),一次導電路からピックアップコイルに転送される電力をほぼ零にするものとはいえない。
よって,構成1fは,構成要件1Fにいう「ほぼ完全に減結合」を充足しない。
(3) 小括 以上の次第で,イ号ないしハ号物件は,その余の構成要件を充足するか否かについて判断するまでもなく,本件発明1の技術的範囲に属しない。
よって,原告らの本件発明1に係る本件特許権1に基づくイ号ないしハ号物件の製造販売の差止め及び廃棄請求並びにその侵害を理由とする損害賠償請求は,いずれも理由がない。
なお,特許権者である原告ユニ社が被告らに対して差止め及び廃棄を請求している本件において,独占的通常実施権者である原告ダイフクが差止め及び廃棄を請求することができないことは,特許法100条に照らし,明らかである。
2 争点(2)エ(構成要件2L)について (1) 構成要件2Lの解釈 ア 特許請求の範囲構成要件2Lには,「前記制御手段は,前記スイッチ手段を前記出力負荷の変動に反応して制御し,実質的に短絡状態へ切り替えることにより,前記ピックアップ手段を実質的に非共振状態にして前記ピックアップコイルと前記スイッチ手段に流れる電流を減少させ,よって前記一次導電路から前記ピックアップ手段へ転送される電力を減少させること」との記載がある。
イ 本件発明2について,原告ユニ社は,特許庁の平成13年9月13日付拒絶理由通知に対する同年12月18日付意見書において,引用文献(特開昭55-92504号公報)との関係で新規性及び進歩性を有する理由として,本件発明2においてスイッチ手段が短絡状態で実質的に非共振状態になっている場合には,スイッチ手段にはもはや多くの電流が流れず,スイッチ手段が発熱によって損失することを防止しうるという効果があることを挙げている(乙28,6頁)。
ウ 本件明細書2の「発明の詳細な説明」には,「実質的に短絡状態へ切り替えることにより,前記ピックアップ手段を実質的に非共振状態にして」に関し,次のとおりの記載がある(甲9)。
(ア) 実施例 a 「【0018】好ましい動作周波数は大体10〜50kHzの領域内にある。これは特に使用可能な固定スイッチを原因とするいろんな制約,および導体の中を電流が流れるときに失われる電気的エネルギーを原因とするいろんな制約を反映している。しかし本発明による諸原理は50Hz〜1MHzのような甚だ広い範囲に適用できる。」(7欄1行ないし6行) b 「【0020】2次ピックアップコイルは好ましくは共振するもので,且つ,特に変化する負荷の場合には出力調整手段か最大電力変換装置か,あるいはさらに限流出力を有する組合わせピックアップコイル分離装置を介して,負荷に接続することが好ましい。これらは,軽負荷ピックアップコイルがその位置を通って電力が伝達されるのを妨げる効果を持っているという理由で,共振と非共振1次導体の両者に当てはまる。」(7欄17行ないし24行) (イ) スイッチモード電源の詳細-図12〜図14 a 「スイッチモード制御器の簡単な略図を図14に示す。図14に示すように,ピックアップコイル(14111)に,このピックアップコイル(14111)を(ピックアップ)共振周波数に同調させるコイル同調コンデンサ(14112)が接続され,(中略)インダクタ(14121)とダイオード(14122)との間で,同調コンデンサ(14112)と並列にスイッチ(14113)が設けられている。」(14欄30行ないし44行【0047】) b 「【0048】上記コイル同調コンデンサ(14112)の電圧は整流器(14114)により整流され,インダクタ(14121)とダイオード(14122)とによりフィルタがかけられてdc電圧を発生する。コンパレータ(14117)はこのdc電圧を監視し基準電圧(14118)と比較し,もし負荷電力がピックアップコイル(14111)から出力できる最大電力より小さいときは出力コンデンサ(14115)電圧が増加する。これによりコンパレータ(14117)にスイッチ(14113)を投入せしめて有効にピックアップコイル(14111)を短絡する。(中略)この作用の結果,ピックアップコイル(14111)から転送した電力は実質的にはゼロである。従って,出力コンデンサ(14115)のdc電圧は前記コンパレータ(14117)がスイッチ(14113)を再開放する点まで減少する。このスイッチングの生ずる割合は該コンパレータ(14117)と,出力コンデンサ(14115)の大きさと,負荷電力と最大コイル出力電力との間の差についてのヒステリシスより決定される。」(14欄45行ないし15欄14行) c 「【0049】図12にスイッチモード制御器をさらに詳細に示す。(中略)このdc電圧は(12R1)により監視され且つ(12IC1:A)により緩衝される。もしこれが(12REF3)により決定される基準値を超過するときは,コントロール・コンパレータ(12IC1:B)が,ピックアップコイルを短絡させる役目を持った大電流FET装置(12T1)を導通させる。この切替動作の好ましい割合は通常30Hzである。」(15欄15行ないし34行) d 「【0051】かくして,図12の回路は出力電圧を上限と下限との間に維持するようにし,ピックアップコイル内の共振電流を上限以下に維持する。」(16欄1行ないし3行) (ウ) 同調ピックアップコイルと動作特性 a 「軽負荷車両が,該軽負荷車両よりも1次ループから遠い位置にある他の車両に電力が届くのを妨げるという事態が,特に1次ループが共振状態にあるような設備において起こり得る,ということが判明した。このような事態は,前記軽負荷ピックアップコイルを循環する高レベルの電流が,1次インダクタ内の共振電力と相互作用する結果として起こる。」(16欄4行ないし11行【0051】) b 「【0052】(中略)離脱はまた電気的にも行なえる。例えば,電流の流れを中断するために共振回路内の直列スイッチを開放してもよい。調整目的のために繰り返し開放(例えば約20-100Hzで)して目標値を上下する出力電圧を与えてもよい。車両走行制御のためには,上記直列スイッチは,希望する時間が経過する間,開いたままにしておけるものであってもよい。この方法は,該スイッチが2方向スイッチでなければならないという欠点,および,上記直列スイッチが,ピックアップコイルの観測共振電流レベルにおいて2ボルト以上の電圧降下を発生し,多分50〜100Wのロスを生ずるという欠点を有する。第2の選択としては,コンデンサに接続されたスイッチを投入することにより,そしてそれによって共振素子をシステムから切離すことにより,ピックアップコイルを短絡させることが好ましい。この投入スイッチが多くの電流を流さないのは回路がもはや共振ではないからである。それで損失は小となり,とにかく負荷担持モードを害するものではない。前記スイッチの投入時には共振回路の蓄積電荷は小である。もし所望の出力が大電流の低電圧出力であれば,このスイッチが短絡すると,かなりのロスを生ずるので,第3の選択は比較的多くの巻数を有する第2のピックアップコイルを設けることである。このようなコイルを短絡させると,該スイッチを流れる電流は比較的小さい。」(16欄20行ないし45行) c 「【0058】この問題は,送電線と同調ピックアップコイルとの間の結合の度合を疎にすることによって回避することができる。」(17欄33行ないし35行) d 「【0059】1つの提案としての解決法を図19に示す。付加コイルを送電線とピックアップコイルとの間に配置する。この付加コイルはスイッチ(S)を有し,これを開放すれば付加コイルは何の影響も及ぼさない。しかしスイッチ(19S)が投入されると,この短絡コイルが磁束の交差を防止し,これにより結合が減少し,従ってMが減少する。前記付加コイルの位置決めは大して重要なことではない。この付加コイルは,若干の磁束を捕捉しさえすれば作動する。また,付加コイルは,磁束を捕捉はするものの,インダクタンスへの影響はできるだけ少ないことが特に好ましい。実用的には,これを達成することは困難ではない。
スイッチ(19S)は多数の公知のパワー・エレクトロニクス・スイッチのうちの1つであってよい。」(17欄42行ないし18欄5行) e 「【0060】動作時,同調回路の電圧VTが監視されて,もし高くなりすぎると回路の負荷が小さくなりすぎるので,スイッチSを入れて電圧を減少させる。電圧VTが低いとスイッチ(S)は開放のままとなる。」(18欄6行ないし9行) (エ) 変形例 a 「【0078】図23は,ピックアップコイル(2303)のコンデンサ(2302)と並列のスイッチ(2301)を示す。このスイッチ(2301)を入れると回路が非共振となり,且つ1次コイル(図示せず)とピックアップコイル(2303)との間で授受される電力を減少せしめる。」(22欄11行ないし16行) b 「【0079】スイッチ動作を適宜制御することによりピックアップコイルの受け取る電力量を制御することができる。図24は,スイッチ(2401)がコンデンサ(2402)とインダクタ(2403)とに直列であり,スイッチが開放時に共振電流が流れるのを防止するやや好ましい配置を示す。」(22欄17行ないし22行) c 「【0086】種々の変形例を本発明の範囲を逸脱することなく下記クレームに記載する如く構成することはできる。」(23欄11行ないし13行) (オ) 発明の効果 「【0087】(中略)本発明によれば,一次導電路と結合して使用する車両が複数の場合において,車両の出力負荷が軽負荷時には,ピックアップ手段に循環する循環電流を共振状態より小として一次導電路からピックアップ手段へ転送される電力を減少または実質的に零とすることにより,出力負荷の要求する出力電力が通常負荷から軽負荷に亘って変化し,その結果,電力需要もまた広く変化することにより1次導電路に帰還させられるインピーダンスの広い変化をもたらす軽負荷の車両により他の車両に電力が届くのを妨げるという事態を回避できる。」(23欄15行ないし25行) エ(ア) 前記ウ(ウ)a及び同(オ)によれば,本件発明2が解決すべき課題は,軽負荷車両のピックアップコイルを循環する高レベルの電流が,一次インダクタ内の共振電力と相互作用する結果,当該軽負荷車両よりも一次導電路から遠い位置にある他の車両に電力が届くのを妨げる事態が生じていることをいかに解決するかにある。
そして,本件発明2は,一次導電路から車両のピックアップコイルへの電力転送の防止手段という観点から見ると,車両の共振回路を構成するコンデンサと全波整流手段を介して並列にスイッチ手段が設けられ(構成要件2I),車両の出力負荷の変動に応じて制御手段がこのスイッチ手段の制御を行い(構成要件2L),スイッチ手段がピックアップコイルの両端子間を開閉する(構成要件2E)という特徴を有する回路構成に関するものである。
(イ) 前記ウ(イ)のとおり,図14(本判決末尾に添付した。)の回路は本件発明2の実施例となるものであるが,これによれば,スイッチ手段が,間にインダクタを介して同調コンデンサと並列に接続されているところ,コンパレータがスイッチ手段をオンにして有効にピックアップコイルを短絡すると,一次導電路からピックアップコイルに転送される電力は実質的に零になり,出力コンデンサの両端子間の(直流)電圧は,次にコンパレータがスイッチ手段をオフにするまで低下し続けることになる。
また,前記イ及びウ(オ)のとおり,本件発明2の効果は,軽負荷時に,ピックアップ手段に流れる電流を共振時の電流より小さくして,一次導電路からピックアップ手段に転送される電力を減少又は実質的に零とし,他の車両に対する電力転送が阻害されることを防止することに加え,スイッチ手段に流れる電流を減少させて,発熱によるスイッチ手段の損失を防止することにもある。
そして,前記ウ(ア)aのとおり,本件発明2の回路においては一次導電路の電流の周波数が10kHzないし50kHzが好ましいとされている一方,前記ウ(イ)bのとおり,図14の回路においては,スイッチの切り替えの生ずる割合はコンパレータと出力コンデンサの大きさと,負荷電力と最大コイル出力電力との間の差に係るヒステリシス(履歴)によって決まるとされ,さらに前記ウ(イ)cのとおり,図14の回路をさらに詳細に説明した図12(本判決末尾に添付した。)の回路においては,スイッチ手段がスイッチを切り替える周波数は通常30Hzであるとされている。
(ウ) そうすると,構成要件2Lにおける制御手段,スイッチ手段の動作は,軽負荷時に制御手段(コンパレータ)が,ピックアップコイルに流れる電流が共振状態を外れるまでスイッチをオンにするもので,一次導電路からピックアップコイルに転送される電力が十分に減少して実質的に零になるまでスイッチをオンにするものであると解され,一次導電路の電流の周波数に比して相当程度小さい(図12の回路ではほぼ1000分の1)周波数でスイッチをオン/オフすることが予定されているというべきである。
なお,原告らは,構成要件2Lにいう「電流を減少させ」(2L-3)とは,ピックアップコイルとスイッチ手段に流れる電流の総量を減少させることを意味すると主張するが,原告ユニ社は前記イのとおりの意見を述べ,その結果,本件発明2に特許が付与されたのであるから,ピックアップコイルに流れる電流の増減とは独立してスイッチ手段に流れる電流の減少が必要と解すべきである。
そうすると,「前記ピックアップコイルと前記スイッチ手段に流れる電流を減少させ」とある以上,車両のピックアップコイルとスイッチ手段に流れる電流の双方がそれぞれ減少することが必要と解される。
したがって,構成要件2L-1にいう「前記制御手段は,前記スイッチ手段を前記出力負荷の変動に反応して制御し,実質的に短絡状態に切り替えることにより」とは,制御手段が出力負荷の変動に応じ,一次導電路の電流の周波数に比して相当程度小さい動作周波数で,ピックアップコイルに流れる電流が共振状態を外れるまでスイッチ手段をオンにすることをいい,構成要件2L-2にいう「前記ピックアップ手段を実質的に非共振状態にして」とは,かかるスイッチ動作により,スイッチがオンにされている間は,車両のピックアップコイルとコンデンサからなる共振回路が共振状態を外れることをいい,構成要件2L-3にいう「前記ピックアップコイルと前記スイッチ手段に流れる電流を減少させ」とは,スイッチがオンになることでピックアップコイルとスイッチ手段に流れる電流の双方が減少することをいい,構成要件2L-4にいう「前記一次導電路から前記ピックアップ手段へ転送される電力を減少させること」とは,スイッチがオンになることで前記共振回路が共振状態でなくなり,その結果,一次導電路からピックアップコイルに転送される電力が実質的に零になるまで減少することをいうものとそれぞれ解される。
オ 原告らの主張について (ア)a 原告らは,本件発明2が解決しようとする課題は,軽負荷車両の存在により一次導電路に帰還するインピーダンスのリアクタンス成分が一次導電路に対して悪影響を及ぼすことであり,軽負荷の場合にスイッチ手段を実質的に短絡状態として車両の共振回路を実質的に非共振状態にし,一次導電路からピックアップコイルへの電力転送を減少させることで解決したなどと主張する。
b 確かに,本件明細書2の発明の詳細な説明中には,前記ウ(ウ)aのとおり,特に一次ループが共振状態にあるような設備において,軽負荷車両のピックアップコイルを循環する大電流が一次インダクタ内の共振電力と相互作用して,他の車両に電力を供給することを妨げる旨の記載があるほか,「【0053】誘導ピックアップコイルを使用する車両システムの動作時,モータの要求する出力電力は広範囲に亘って変化する。その結果,電力需要もまた広く変化する。軽負荷の場合には,平行伝送線路に帰還せられるインピーダンスもまた広く変化するので問題が起きる。」(16欄46行ないし50行)との記載がある(甲9)。
しかしながら,これらの記載はいずれも,軽負荷車両のピックアップコイルを流れる電流が一次導電路の電流と相互作用し,他の車両への電力供給を妨げるという好ましくない事態が生じるが,その原因はピックアップコイルから一次導電路へ帰還するインピーダンスの変化にある旨を指摘するものにすぎない。
c また,本件明細書2の図16では,車両の回路を抽象化して(単純化して)同調ピックアップコイルと同調コンデンサと等価抵抗(種々の回路構成要素を捨象して単純な1つの抵抗と見るもの。ここでは実効モータ負荷として表現されている。)Reffの3つからなる回路と見ており,また図18では,車両のピックアップコイルと一次導電路との相互作用によって生まれる効果を,一次導電路の回路にあたかも1つのコイルと1つの等価抵抗があるかのように単純化して示しているが,かかる等価抵抗の値を,一次導電路の電流の角速度をω,一次導電路とピックアップコイルの相互結合係数をMとしたときに,ω2M2/Reffと表記することができると見ている(甲9)。
さらに,本件明細書2の発明の詳細な説明中には,「【0056】(中略)軽負荷モータはReff〜0に対応する。かくして,(中略)ω2M2/Reff→無限大の軽負荷では平行送電線の電流を維持することはますます困難になる。
(中略)これは1つの軽負荷車両は同一電線路の他の車両への電力をブロックできるからである。」(17欄13行ないし20行)と記載されており,軽負荷車両においてかかる等価抵抗ω2M2/Reffが零に近似し,一次導電路の電流の維持が困難になることが示されている(甲9)。
そして,かかる一次導電路上の抵抗値ω2M2/Reffは,理想的には,共振状態となるための条件(同調条件。1-ω2LC=0。ここでLは共振回路を構成する二次側のピックアップコイルの自己インダクタンス,Cは同じく二次側のコンデンサの静電容量である。)を満たすときの,車両のピックアップコイルから一次導電路に帰還するインピーダンスの直流抵抗成分に等しい(乙35)。
d そうすると,本件明細書2の発明の詳細な説明中では,軽負荷車両のピックアップコイルと一次導電路との間の相互作用によって生じる好ましくない事態につき,少なくとも前者から後者に帰還するインピーダンスの直流抵抗成分も考慮の対象になっているものということができ,かかるインピーダンスのリアクタンス成分による悪影響のみを取り上げて問題にする原告らの前記主張を採用することはできない。
(イ) 本件明細書2の発明の詳細な説明中に,前記(ア)の原告らの主張に関係するものとして,「【0057】好ましくは,高周波交流を送電線に供給することで,かかる高周波電流は高周波交流発電機により発生してもよく,さらに好ましくは前記した如くパワー・エレクトロニクス回路により発生してもよい。パワー・エレクトロニクス回路の場合は,発振周波数はループにかかる継続的な無効負荷により決定され,また軽負荷車両の影響は動作周波数を10kHzから数百Hzまでという好ましい周波数範囲から逸脱させるという形で現れる。」(17欄21行ないし29行)との記載がある(甲9)。
しかしながら,この記載も,一次導電路の電流をパワー・エレクトロニクス回路で発生させた場合には,軽負荷車両のピックアップコイルと一次導電路との間の相互作用により,一次導電路の動作周波数が好ましい周波数範囲から逸脱するとの好ましくない事態の生じることを指摘するものにすぎず,課題解決の方法の具体的内容を示しているものではない。
のみならず,この記載の直後に,「こうすれば,非同調回路は低(無効)インピーダンスを反映するので,ω2M2/Reff→無限大の問題は解決される」(17欄29行ないし31行)との記載があり(甲9),前記(ア)と同様に,少なくとも前者から後者に帰還するインピーダンスの直流抵抗成分も考慮の対象になっているものということができる。
したがって,前記記載をもってしても,やはり前記原告らの主張を採用することは困難である。
なお,このほかに,前記原告らの主張を裏付けるに足りる本件明細書2中の記載部分は存しない。
(2) イ号ないしハ号物件の充足性 ア イ号ないしハ号物件は,構成2lにおいては,出力コンデンサJの両端子間の電圧変化に応じて,PWM制御によりスイッチGをオン(短絡)・オフ(開放)する構成を有するものであるが,このPWM制御の動作周波数は約37kHzと一次導電路の電流の周波数である8.66kHz又は9.6kHzの約4倍である(構成2a)。また,軽負荷時においても,一次導電路からピックアップコイルに対して,最大電力消費時の22パーセント程度の電力が転送されている。
その上,車両のピックアップ回路にはリアクトルMがあるが,本件全証拠によっても,一次導電路の電流の周波数よりも約4倍も高い周波数でスイッチGを動作させた場合に,このスイッチGのオン時にピックアップコイルを流れる電流が顕著に低下する事態が生ずるとは認め難い。
そうすると,イ号ないしハ号物件は,スイッチの制御手段であるPWM制御が一次導電路の電流の周波数に比して相当程度小さい動作周波数でスイッチ手段を制御しておらず,かつ軽負荷時にピックアップコイルに流れる電流が共振状態を外れるまでスイッチ手段をオンにしているとはいえないから,構成要件2L-1を充足しない。また,軽負荷時にスイッチ手段をオンにしているときでも前記のとおり相当程度大きい電力がピックアップコイルに転送されており,共振状態を外れているとはいえないから,構成要件2L-2も充足しない。
イ また,イ号ないしハ号物件において,軽負荷時に車両のスイッチ手段を流れる電流が重負荷時の電流に比して小さくなることを認めるに足りる証拠はないから,構成要件2L-3を充足しない。
ウ したがって,構成2lは,構成要件2Lを充足しない。
(3) 小括 以上の次第で,イ号ないしハ号物件は,その余の構成要件を充足するか否かについて判断するまでもなく,本件発明2の技術的範囲に属しない。
そうすると,原告らの本件発明2に係る特許権に基づくイ号ないしハ号物件の製造販売の差止め及び廃棄請求並びにその侵害を理由とする損害賠償請求は,いずれも理由がない。
なお,特許権者である原告ユニ社が被告らに対して差止め及び廃棄を請求している本件において,独占的通常実施権者である原告ダイフクが差止め及び廃棄を請求することができないことは,特許法100条に照らし,明らかである。
3 争点(3)ア(構成要件3E)について (1) 構成要件3Eの解釈 ア 特許請求の範囲構成要件3Eには,「前記電気装置のピックアップコイルのコアをE字状に形成し,前記コアに前記ピックアップコイルを巻回し,前記一対の導体がそれぞれ,前記コアの両凹部内で,かつそれぞれの凹部のほぼ中心に位置するように配置され」との記載がある。したがって,@電気装置のピックアップコイルのコアがE字状に形成され,A同コアにピックアップコイルが巻回してあり,B一対の導体がそれぞれ同コアの両凹部内で,かつそれぞれの凹部のほぼ中心に位置するように配置されていることが必要である。
ここで,上記Bにいう「中心」は,本件明細書1の図10に照らし,ピックアップコイルを除いた凹部内の中心,すなわち,開口部を最深部と同じ長さにまで延長した線の上下両端と最深部の上下両端を結ぶ斜線の交点をいうものと解される(甲6)。また,本件明細書1には,ピックアップコイルの導体の上記中心からのずれに関して,格別の技術的意義が開示されているということはできないから,「ほぼ」とはその字義どおりの趣旨であって,ピックアップコイルの給電線が上記「中心」から多少ずれていることを許容する趣旨のものであると解される。
イ 被告らの主張について 被告らは,原告ユニ社は特許異議事件の審理において取消理由で挙げられた引用例との差異を明確にするため,特許請求の範囲の「ほぼ中央」を「ほぼ中心」に減縮訂正したから,構成要件3Eにいう「ほぼ中心」とは,中心ないし中心のごく近傍をいうと解すべきであると主張する。
確かに,原告ユニ社は,特許庁が引用例(乙15。1966年11月1日発行。特許異議の申立てについての決定等では「刊行物11」と称されている。)を引用して,本件発明3に係る特許を取り消す旨の通知(乙39)をしたことを受けて,平成11年2月12日付の訂正請求書で「両凹部のそれぞれほぼ中央に」を「両凹部内で,かつそれぞれの凹部のほぼ中心に」に訂正する旨の訂正請求(乙14の1,2)をするとともに,同日付特許異議意見書(甲36)を提出して,同引用例記載の発明との違いについて言及し,その後上記訂正が認められた(甲7,38)。
しかし,上記特許異議意見書中の記載は,「さらに刊行物11では,コアの両凹部に対向する面をフェライト面としているため,このフェライト面にも磁路が形成されることから,この面上に金属体が置かれると,金属体は一対の導体が発生する磁界の影響を大きく受けるのに対し,本件請求項22に係る発明では,非導電性の材料または非鉄金属により形成される面上に金属体が置かれたときでも一次導電路の導体が発生する磁界の金属体への影響が少なく,効果が全く相違しております。また刊行物11には,磁界の外部への影響及び安全性について,何ら示唆されておりません。」(11頁)というものであって,ピックアップコイルのコアの材質について説明するものにすぎず,ピックアップコイルの導線の位置について何ら技術的意義を記載したものではない。むしろ,前記証拠によれば,原告ユニ社は,この訂正のほかに,「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は,非導電性の材料または非鉄金属により形成されていること」との要件を加えて,特許請求の範囲の限定を加えていること,特許庁もかかる限定により他の発明とは相違するとして訂正を認め,特許を維持したものであることがそれぞれ認められ,「ほぼ中央」が「ほぼ中心」に改められたことに注目して特許を維持したわけではない。
そうすると,被告らが主張するように「ほぼ中心」を限定的に解さなければならないわけではない。
(2) ニ号物件の充足性 ニ号物件の構成3eの「ビークルC」,「ピックアップコイルH」,「給電線B」は,それぞれ,構成要件3Eにいう「前記電気装置」,「ピックアップコイル」,「前記一対の導体」に該当するところ,同構成によれば,ピックアップコイルHのコアはE字形をなし,このコアの中央凸部に導線が巻回されており,さらに構成3dによれば,2つの導線はいずれもコアの開口部を最深部と同じ長さにまで延長した線の上下両端と最深部の上下両端を結ぶ斜線の交点と接しているものであって,「ほぼ中心」にあるといえるから,構成3eは構成要件3Eを充足する。
4 争点(3)イ(構成要件3F)について (1) 構成要件3Fの解釈 特許請求の範囲構成要件3Fには,「前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は,非導電性の材料または非鉄金属により形成されていること」との記載がある。したがって,ピックアップコイルの両凹部に対向する面は,非導電性の材料又は非鉄金属によって形成されていることが必要である。
(2) ニ号物件の充足性 ニ号物件の構成3fは,ピックアップコイルHの両凹部に対向する面がアルミニウムの押出部材で構成されており,アルミニウムは非鉄金属に当たるから,構成要件3Fを充足する。なお,被告らがニ号物件を販売した後に,この面にステンレスプレートを貼ったとしても,特許権侵害の前提である構成要件充足の有無は,実施された時点(製造又は販売の時点)で判断すれば足りるから,かかる結論を左右しない。
(3) 小括 以上のとおり,構成3e及び3fはそれぞれ構成要件3E及び3Fを充足し,ニ号物件が構成要件3Aないし3D及び3Gを充足することは争いがないから,ニ号物件は本件発明3の技術的範囲に属する。
5 争点(4)ア(新規性の欠如の有無)について (1) 被告らは,本件出願前(1966年)に頒布された刊行物である引用例中に記載された発明と本件発明3とは同一であって,本件発明3は新規性を欠く旨を主張する。
しかしながら,引用例は,導電路から電力を取り出すピックアップコイルの回路にはコンデンサが欠如しており,コイルとコンデンサからなる共振回路を構成していない(乙15の図6-2,49頁)。他方,本件発明3のピックアップコイルはコンデンサを備え,共振回路を構成しており(構成要件3C),この点において引用例の発明の構成とは異なるものである。
そうすると,少なくとも上記の点において,引用例と本件発明3は同一ではなく,本件発明3が新規性を欠くものということはできない。
(2) また,無効理由が存在することが明らかな特許権に基づく損害賠償請求は,特段の事情がない限り,権利の濫用として許されないところ(最高裁平成10年(オ)第364号同12年4月11日第三小法廷判決・民集54巻4号1368頁),本件発明3に関しては,無効審判請求の手続において,原告ユニ社から構成要件3Fの「非導電性の材料または非鉄金属」を「アルミニウム」に訂正する旨の訂正請求がされ,特許庁は平成16年8月23日,上記訂正を認めた上,上記無効審判請求は成り立たないとの審決をしたものである(甲32。なお,この審決は未確定である。)。
そうすると,仮に引用例と現在の特許請求の範囲に係る本件発明3が同一であったとしても,訂正後の特許請求の範囲と対比すれば,ピックアップコイルのコアの両凹部に対応する面がフェライトで形成されるかアルミニウムで形成されるかという点において相違することになる。
したがって,仮に本件発明3に係る特許に無効理由が存在するとしても,上記訂正が確定することにより,無効理由が解消し,かつ,ニ号物件は訂正後の特許請求の範囲にも属するから,権利の濫用とはならない「特段の事情」があるというべきである。
6 争点(4)イ(記載要件違反)について (1) 被告らは,本件発明3のピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面が非導電性のプラスチックなどで形成されている場合や,非鉄金属のうちのニッケル,コバルトなどで形成されている場合には,構成要件3Fのピックアップコイルのコア側に磁路が形成されてエネルギーロスを防止できるという作用効果を発揮できないから,平成6年法律第116号による改正前の特許法36条5項2号(以下「旧36条5項2号」という。)に違反する旨を主張する。
36条5項2号において,特許請求の範囲には発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない旨を定めていたのは,特許明細書の発明の詳細な説明欄で開示した事項のみを特許請求の範囲に記載しなければならず,かつ,いったんある事項を特許請求の範囲に盛り込んで特許付与を受けたのに,後の段階になって,その事項が当該特許発明にとっては不必要であって,欠けていても権利行使等には差し支えない旨の権利者の主張を許さない点にその主たる理由があるものと解される。
この点,本件明細書1の発明の詳細な説明中には,「全ての材料はプラスチックのように非導電性かアルミニウムのように非鉄金属であることが好ましい。
もし鉄材料が1つ以上の1次導体かまたは車両の2次ピックアップコイルに隣接して位置しなければならないときは,数ミリメータの深さのアルミニウム被覆によりこの鉄材料をしゃ蔽することが有利であることが分っており,この結果として使用時発生する渦電流が磁束のそれ以上の透過を防ぐ役割をし,従って鉄材料内のヒステリシスによるエネルギーロスを最小にする。」(17欄11行ないし19行)との作用効果に関する記載がある(甲6)。また,原告ユニ社は,特許異議意見書(乙20)中で,本件発明3につき,「本願発明は,『一次導電路の導体とピックアップコイルの配置により,ピックアップコイルに効率よく起電力が誘起され,効率よく無接触で給電できるとともに,前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は,非導電性の材料または非鉄金属により形成されていることにより,一次導電路の導体が発生する磁界により,添付参考図の如くコア側に磁路が形成され,よってエネルギーロスを防止でき,かつ外部への影響(磁界中の鉄片の加熱等)を防止でき,作業員の安全を確保でき(前記加熱された鉄片による火傷から作業員を守ることができる等),さらにこの面上に金属体(鉄片など)が置かれたときでも一次導電路の導体が発生する磁界の金属体への影響が少ない,』という優れた効果を有しております。」(4頁)と述べている。
これらの記載が構成要件3Fに対応するということができるから,本件明細書1の記載を外形的に見るときは,ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面の材質に関する構成要件3Fの「非導電性の材料または非鉄金属」との部分が,発明に不可欠でない記載であるとはいい難い。
また,本件訴訟においては,原告らが構成要件3Fを充足しなくても特許権を侵害するなどと主張しているわけではないから,旧36条5項2号の前記趣旨のうちの後者が妥当する場面とは様相を異にする。
(2) 仮に,現在の特許請求の範囲に上記記載要件違反があるとしても,以下のとおり,前記訂正が確定することにより,無効理由が解消し,かつ,ニ号物件は訂正後の特許請求の範囲にも属するから,権利の濫用とはならない「特段の事情」があるというべきである。
ア すなわち,証拠によれば,本件発明3の作用効果に関し,次のとおりの事実が認められる。
(ア) 株式会社椿本チエインが原告ユニ社を被請求人として請求した判定事件(判定2000-60025号)においても,原告ユニ社は判定事件答弁書中で前記(1)の本件明細書1の記載部分を本件発明3の作用効果として指摘している(甲6,乙19(5頁))。
(イ) 原告ユニ社は,特許異議事件(平成10年異議第71922号)において,特許庁に対して平成11年2月12日付の特許異議意見書(乙20)を提出したが,その中で,本件発明3の進歩性に関して,前記(1)の記載のほか,「刊行物1〜10を単に組み合わせましても,本件請求項22に係る発明特有の,『(引用部分略。前記(1)の記載と同一内容である。)』という優れた効果を期待することができません。」(10頁)と述べ,ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面の材料がフェライトゴムである引用例と対比する上で,相違点を強調する趣旨で,「刊行物11では,本件請求項22に係る発明特有の,『ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は,非導電性の材料または非鉄金属により形成されていることにより,一次導電路の導体が発生する磁界が遮断され,よってエネルギーロスを防止でき,かつ外部への影響を防止でき,作業員の安全を確保できる,』という優れた効果を期待できません。さらに刊行物11では,コアの両凹部に対向する面をフェライト面としているため,このフェライト面にも磁路が形成されることから,この面上に金属体が置かれると,金属体は一対の導体が発生する磁界の影響を大きく受けるのに対し,本件請求項22に係る発明では,非導電性の材料または非鉄金属により形成される面上に金属体が置かれたときでも一次導電路の導体が発生する磁界の金属体への影響が少なく,効果が全く相違しております。」(11頁)と述べている。
(ウ) 被告らが特許庁に請求した無効審判請求事件において,原告ユニ社は,平成16年2月3日付審判事件答弁書(乙37)で,本件発明3の進歩性に関し,その作用効果について,「またピックアップコイルのコアをE字状に形成し,このピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面をアルミニウムにより形成することにより,請求人提出の審判請求書『添付図3』に示されているように,一次導電路が発生する磁界は主にコア側に磁路を形成し,両凹部に対向する面には磁路を形成しない。すなわち,アルミニウムは空気と同じくらいに磁気抵抗が大きいことから,アルミニウムにより形成されるコアの両凹部に対向する面は,コアの両凹部の開口部分から磁束を引き寄せて磁束が通りやすい道を提供することにならずに,コアの両凹部の開口部分では開口間の最短距離を通るように空気中に磁束が流れる。このような経路を持つ磁路においては,車両に揺れ等が発生し,たとえ固定側に設置された前記両凹部に対向する面と車両側のE字状コアとの距離が変化しても,磁路中の空気を通過している距離(空隙距離と呼ぶ)は変化しない。」(6,7頁)と述べた。
また,原告ユニ社は,かかる効果は根拠を欠く旨の被告らの主張に対し,「被請求人は,コアの両凹部に対向する面をフェライト面としたときと対比して一次導電路の導体が発生する磁界の金属体への影響が少ないと主張しているのであって,この主張は正しい。」(8頁),「コアの両凹部に対向する面をアルミニウムとした場合,鉄製のナットを面上のどこの位置においても磁界の鉄製のナットへの影響はほとんど変わらないのに対して,コアの両凹部に対向する面をフェライトとした場合,鉄製のナットが上記A点(E字状コアの中央の凸部に対向する位置である。)に位置するときは,『141.1℃』も上昇し,磁界の鉄製のナットへの影響は大きい。」(9頁)と反論した(なお,鉄製ナットがこのA点に位置する場合には,ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面がアルミニウムのときには1分間に温度が3.3℃上昇し,この対向面がフェライトのときには1分間に温度が141.1℃上昇した。鉄製ナットがピックアップコイルのコアの一方の凹部に対向する位置にある場合には,ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面がアルミニウムのときには1分間に温度が29.9℃上昇し,この対向面がフェライトのときには1分間に温度が44.3℃上昇した。)。
イ このように,前記(1)及び(2)アによれば,原告ユニ社は,当初,ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面を非導電性の材料又は非鉄金属で形成することで,同面以上に一次導電路の発生する磁束が透過することを防止して,磁束の浸透に基づくエネルギーロスの発生を防止することと捉えていたが,その後,特許異議事件の審理の段階で,この作用効果に,一次導電路の発生する磁界中の金属体の加熱等に基づく悪影響の防止を加えて主張したものということができる。
そうすると,本件発明3の作用効果は,@ピックアップコイルの両凹部に対向する面以上に一次導電路の発生する磁束が透過することを防止して,磁束の浸透に基づくエネルギーロスを防止するとともに,A外部への影響(磁界中の鉄片の加熱等)を防止でき,作業員の安全を確保でき,Bこの面上に金属体が置かれたときでも一次導電路の導体が発生する磁界の金属体への影響が少ないというものであるということができる。
ウ 他方,証拠によれば,次の事実が認められる。
(ア) 被告アシストシンコーの従業員丙(以下「丙」という。)がピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面の材料をプラスチックにして磁界解析実験を行ったところ,一次導電路の磁界がI形断面形状の支持部材(本件明細書1の図10の10101)を貫いて自由放散し,同支持部材のピックアップコイルのコアの反対側にも磁路が形成された。このとき,鉄製六角ボルトをI形断面形状支持部材のピックアップコイルの反対側に置いて実験すると,24℃程度の周囲温度環境下でこの六角ボルトは50.7℃に至るまで加熱された。
丙がピックアップコイルの両凹部に対向する面の材料をプラスチック及びアルミニウムにし,この対向面上に(前記I形断面形状支持部材のピックアップコイルコア側)鉄製六角ボルトを置き,25℃程度の周辺温度環境下で実験を行ったところ,前記材料がプラスチックの場合に同六角ボルトは69.1℃に至るまで加熱され,前記材料がアルミニウムの場合に同六角ボルトは72.7℃に至るまで加熱された(乙21)。
(イ) 丙がピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面の材料を鉄,ニッケル,コバルトにして磁界解析実験を行ったところ,磁束線図(磁束密度,分布)にほとんど差異はなかった。ただし,いずれの磁束も前記(ア)のI形断面形状の支持部材を貫くことはなかった(乙23)。
エ ところで,ピックアップコイルの両凹部に対向する面の材料がアルミニウムである場合については,一次導電路の導体又はピックアップコイルに隣接して鉄材を配置するときに同材料で表面を遮蔽すると磁束が内部に浸透するのを防止し,鉄材料内のヒステリシスによるエネルギーロスを最小にできるという上記@の作用効果を否定するに足りる証拠はない。
また,外部への影響(磁界中の鉄片の加熱等)の防止,作業員の安全確保という上記Aの作用効果については,ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する部材(本件明細書1の図10のI形断面形状支持部材)のコア側(同図の同部材の左側)に生じる影響と同コアの反対側(同図の同部材の右側)に生じる影響の双方が考えられる。しかしながら,少なくとも同コアの両凹部に対向する面の材料がアルミニウムである場合に,同部材の同コアの反対側に置かれた鉄片がどのように加熱されるかについての証拠はなく,かかる外部への影響の防止等を完全に否定することはできない。
そして,ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面の上に金属体が置かれた場合の同金属体への影響が少ないという上記Bの作用効果については,前記ア(ウ)のとおり,鉄片の置かれる位置によって温度上昇の度合いが相当程度異なるものである。
さらに,原告ユニ社の実験と丙の実験とでは,鉄片の置かれた位置が異なること,前者の実験でも同コアの凹部に対向する位置に鉄片を置いた場合には1分間に29.9℃も上昇していること,前者の実験の結果と後者の実験の結果とではその単位が異なることからすると,丙の実験結果をもって直ちに同コアの両凹部に対向する面上の金属体への影響の大小を決することはできないといわざるを得ない。
結局,少なくともピックアップコイルの両凹部に対向する面の材料がアルミニウムである場合については,本件発明3の作用効果がないということはできない。
オ そうすると,前記訂正が確定した後は,本件発明3の作用効果がないとはいえないから,仮に記載要件違反があったとしても,その無効理由は解消されることになる。
(3) 小括 以上のとおり,被告らの記載要件違反を理由とする無効の主張は,理由がない。
7 争点(5)(損害の有無及び額)について (1) 損害賠償請求権の有無 ア 前記3ないし6のとおり,ニ号物件は本件発明3の技術的範囲に属し,かつ,本件発明3に係る特許に無効理由が存在することが明らかであるとはいえないから,被告神鋼電機がニ号物件を製造販売したことは,本件発明3に係る特許権を侵害するものである。
被告神鋼電機は,原告ユニ社の有する特許権を侵害したことについて過失があったものと推定される(特許法103条)。また,特許法103条の推定規定は,特許発明の存在及び内容が公示されていることを根拠とするものであるから,独占的通常実施権者の法的利益の侵害についても,同様に過失があったものと推定されると解すべきである。
よって,被告神鋼電機は,過失により原告ユニ社の特許権及び原告ダイフクの独占的通常実施権侵害したものであるから,以下,ニ号物件の製造販売による損害の額を判断する。
イ 原告らの賠償金額の割合 原告ダイフクは,原告ユニ社から,本件発明3に係る特許権について,我が国における独占的通常実施権の設定を受け(甲10の1及び2),原告らの間では,原告ダイフクが第三者に実施許諾をすることにより実施料を取得した場合には,原告ユニ社に対し取得した実施料の2分の1を支払うとの合意をした(甲43,第5条C)。
上記事実によれば,原告ダイフクは,本件発明3に係る特許権の我が国における独占的通常実施権者であって,第三者に実施許諾をすることができる地位にある。
ところで,特許法102条3項は,特許権者又は専用実施権者が侵害者に対して,特許発明実施に対して受けることのできる実施料相当額の損害の賠償を受けることができる旨を定めているもので,特許権者又は専用実施権者の保護のため,概ね賠償額の最低限度を保障する趣旨に出たものである。独占的通常実施権者は,当該特許権を独占的に実施して市場から利益を上げることができる点において専用実施権者と実質的に異なるところはないところ,同項の趣旨は,独占的通常実施権者にも妥当するから,独占的通常実施権者が侵害者の実施行為によって受けた損害についても,同条項を類推適用することとする。
原告らの間で,原告ダイフクが第三者に実施許諾をすることにより実施料を取得した場合には,原告ユニ社に対し取得した実施料の2分の1を支払うとの合意をしたことに,本訴において原告らが損害の2分の1宛請求していることに照らせば,原告らの間では,第三者の侵害行為により実施料相当額の損害賠償を請求して支払を受ける場合にも,原告らの間で上記割合に従って損害賠償額を分配する旨の合意をしたものと推認できる。
そして,このような分配は,被告らに不利益を与えるものとはいえないから,原告らが損害の2分の1宛請求している本件において,原告ユニ社と原告ダイフクが,それぞれ実施料相当額の2分の1の支払を請求することができると解するのが相当である。
ウ 被告らの債務の関係 前記第2の1(8)のとおり,被告神鋼電機の顧客に販売,納入されたニ号物件を含む設備のうち,山形日本電気株式会社に納入された設備は平成11年10月2日までに,UMCに納入された設備は同年12月末までに,それぞれ納入されたもので,いずれも前記第2の1(1)エの会社分割(平成14年10月1日)前に販売行為が完了しているから,ニ号物件の製造販売行為に基づく,本件発明3に係る特許権ないしその独占的通常実施権侵害による損害賠償債務は,いずれも会社分割前に生じているものである。
ところで,平成14年法律第44号による改正前の商法374条の4第1項本文にいう「知レタル債権者」は,債権者が誰か及び当該債権がいかなる原因に基づくいかなる内容の債権かの概要を会社が知っている債権者をいうものと解されるところ,原告らは,平成14年8月7日ころ,被告神鋼電機に対し,ニ号物件の製造販売が本件発明3に係る特許権を侵害するものであり,被告神鋼電機において誠意ある対応がない場合には法的措置を執る予定がある旨を通知しているから(甲42),被告神鋼電機は,遅くとも会社分割時である平成14年10月1日当時,原告らが債権者であること及びニ号物件の製造販売に基づく損害賠償請求権が債権の内容であることを知っていたということができる。そうすると,原告らは前記の「知レタル債権者」に該当し,同人らに対する個別の催告が必要であったものである。
被告らは,被告神鋼電機は被告アシストシンコーとの間で,会社分割時に,ニ号物件に関する債務は被告神鋼電機において負担するとの合意をしているから,上記改正前の商法374条の4第1項ただし書が適用され,原告らは同法374条の10第2項本文にいう「第三百七十4条ノ四第一項ニ規定スル各別ノ催告ヲ受ケザリシ債権者」に当たらない旨を主張するが,かかる合意の事実を認めるに足りる証拠はなく,被告らの前記主張を採用することはできない。
そうすると,原告らは個別催告を受けていないから同法374条の10第2項本文にいう「第三百七十4条ノ四第一項ニ規定スル各別ノ催告ヲ受ケザリシ債権者」に該当し,被告らは原告らに対し,連帯して(被告アシストシンコーが負うのは,会社分割時の財産の額を限度とした連帯債務である。),損害賠償義務を負う。
(2) 損害額の算定 前記第2の1(8)のとおり,被告神鋼電機が山形日本電気株式会社に販売した設備の売買代金総額が14億2296万5000円,UMCに販売した設備の売買代金総額が11億5000万円であり,これらの設備の納入代金総額にニ号物件の納入価額相当額が占める割合がいずれも20%であることは,当事者間に争いがない。
社団法人発明協会編「実施料率〔第5版〕」(甲39)によれば,平成4年度から平成10年度の間の輸送用機械の実施料率の平均値は,イニシャル・ペイメント(一時金)がある場合で5.5%,イニシャル・ペイメントがない場合で4.3%であったことが認められるところ,本件発明3の内容及び重要性,本件の非接触給電による輸送用機械市場において原告らが占める地位等に鑑みると,本件発明3の実施料率は5%とするのが相当である。
そうすると,被告神鋼電機のニ号物件の製造販売による実施料相当額の損害は,次のとおり,合計2572万9650円である。
(計算式)(1,422,965,000+1,150,000,000)×0.2×0.05=25,729,650 (3) 小括 したがって,原告ユニ社及び原告ダイフクが被告らから支払を受けるべき損害賠償の額は,それぞれ前記(2)の2分の1である1286万4825円及びこれに対する不法行為の後である平成12年1月1日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金となる。そして,被告らは,各原告に対し,連帯して(ただし,被告アシストシンコーは,会社分割時の財産の額を限度として),上記金額につき損害賠償義務を負う。
8 結論 以上の次第で,原告らの被告らに対する本件発明3に係る特許権及び独占的通常実施権侵害を理由とする損害賠償請求は,主文掲記の限度で理由があるから認容し,その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
追加
(別紙)当事者目録原告オークランドユニサービシズリミテッド原告株式会社ダイフク上記両名訴訟代理人弁護士井上愛朗同飯田耕一郎同飯塚卓也同渡邊肇同小野寺良文同高橋元弘上記両名訴訟復代理人弁護士岡田淳同補佐人弁理士原島典孝同吉田浩二被告神鋼電機株式会社被告アシストシンコー株式会社上記両名訴訟代理人弁護士福田親男同補佐人弁理士梶良之イ号物件目録物件回路図(イ号)ロ号物件目録物件回路図(ロ号)ハ号物件目録物件回路図(ハ号)ニ号物件目録物件回路図(ニ号)ニ号物件コア図(山形)ニ号物件コア図(台湾)遅延損害金目録1遅延損害金目録2遅延損害金目録3遅延損害金目録4侵害一覧表本件発明1侵害一覧表本件発明2侵害一覧表本件発明3侵害一覧表本件明細書1図23本件明細書2図14本件明細書2図12
裁判長裁判官 部眞規子
裁判官 東海林保
裁判官 田邉実