運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18ネ10051特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成18ネ10052特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成17ネ10024特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成19ネ10036特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成18ネ10007損害賠償請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  実施料相当額 /  同一の作用効果 /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  侵害 /  実施料 /  請求の範囲 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 17年 (ネ) 10036号 損害賠償請求控訴事件
控訴人 控訴人A
同訴訟代理人弁護士 長野哲久
被控訴人 株式会社カワクボ製作所
同訴訟代理人弁護士 田浦清
同訴訟代理人弁理士 田中幹人
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/06/22
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は控訴人に対し,1540万円及びこれに対する平成16年1月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人 主文同旨
事案の概要
控訴人は,「回転ブラシと回転ブラシ付き選別コンベア」の発明に係る特許権(特許番号第2918504号。以下「本件特許権1」という。)及び「食品の選別コンベア」の発明に係る特許権(特許番号第3073192号。以下「本件特許権2」といい,本件特許権1及び2を併せて「本件各特許権」という。)の特許権者である。
控訴人は,被控訴人が平成14年7月23日から製造販売している回転ブラシ付き選別コンベア(以下「被告製品」という。)が,本件特許権1の特許請求の範囲の請求項1及び4記載の発明(以下「本件発明1-1」及び「本件発明1-2」という。)と,本件特許権2の特許請求の範囲の請求項1及び2の発明(以下「本件発明2-1」及び「本件発明2-2」といい,本件発明1-1及び1-2と併せて,「本件各発明」という。)の技術的範囲に属し,被告製品の製造販売が本件各特許権を侵害すると主張して,被控訴人に対し,これによる損害(特許法102条3項実施料相当額)1540万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
原判決は,被告製品は,本件各発明の技術的範囲に属しないとして,控訴人の請求を棄却した。
控訴人は,これを不服として,控訴を提起した。
1 当事者の主張は,次の2及び3のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の「1 争いのない事実等」「2 争点」及び「3 争点に関する当事者の主張」のとおりであるから,これを引用する。
当裁判所も,上記の「本件特許権1」等のほか,「本件公報1」「本件明細書1」「構成要件A」などの語を,原判決の用法に従って用いる。
2 控訴人の当審における主張の要点 (1) 原判決は,構成要件Bの「補剛材」は,網本体の剛性を高めるために,網とは別の材料が取り付けられることが必須であると解すべきであり,また,構成要件B及び同Fの「根部と遊端との間」とは,網の「根部(基部)と遊端との中間」を指すと解すべきであって,網のいかなる部分であっても差し支えないと解することはできないとして,被告製品は構成要件Bを充足しないとした。
しかし,構成要件Bの「補剛材」は,網本体とは別の部材が使用されたものに限らないのであって,回転ブラシの網の剛性を補うすべてのものと解すべきである。本件明細書1には,補剛材に網以外の部材を用いるべき旨の記載はなく,網を補強するには,網を重ねるのが手っ取り早いことであり,それを除外する理由はない。
また,構成要件B及び同Fの「根部と遊端との間」は,その間のどの位置でもよいと解すべきである。本件明細書1及び図面には,実施例として,確かに中間部に位置するものが記載されているが,だからといって中間部に位置するものに限られるということはできない。特許請求の範囲に記載されているとおり,根部と遊端との間のどの位置でもよいのである。
これらの点は,専門家による鑑定結果である甲第11,13号証によっても裏付けられているものである。
(2) 原判決は,構成要件C’の「略同じ」とは,「回転ブラシの素線の太さ及び編目の大きさ」と「コンベアベルトを構成する合成樹脂の網のそれ」とを比較して,ほぼ同一と評価できる範囲に限定されると解すべきであるとして,被告製品は構成要件C’を充足しないとした。
しかし,構成要件C’の「略同じ」とは,略同じ効果を奏し得る範囲の素線径及びメッシュの数値範囲をもって判断すべきである。被告製品においては,コンベアベルトに用いられている網は,素線の太さ0.6o,編目の大きさ15メッシュ(F1110)又は素線の太さ0.6o,編目の大きさ13.4メッシュ(F1130)であり,回転ブラシに用いられている網(F1039)は,素線の太さ0.4o,編目の大きさ32.1メッシュであるが,これらはいずれも略同じ太さの素線と略同じ大きさの編目とみてよいのである。
これらの点は,専門家による鑑定結果である甲第12,14号証によっても裏付けられているものである。
3 被控訴人の当審における主張の要点 (1) 控訴人は,構成要件Bの「補剛材」は,網本体とは別の部材が使用されたものに限らず,回転ブラシの網の剛性を補うすべてのものと解すべきであると主張する。
しかし,本件明細書1には,「根部と先端部との間には厚さ2o程度に合成樹脂用の軟質の接着剤を塗布してあり,その剛性を網単独の場合より増強した厚肉部24cとされている。」(本件明細書1・5欄20行〜22行)とあり,補剛材として網以外のものを使用することが明記されており,補剛材に関して「回転ブラシの網の剛性を補うすべてのもの」との開示はもちろん,これを示唆する記載さえない。控訴人の主張は失当である。
また,控訴人は,構成要件B及び同Fの「根部と遊端との間」は,その間のどの位置でもよいと解すべきであると主張する。
構成要件B及び同Fの「根部と遊端との間に補剛材を添着」の技術的意味についての被控訴人の主張は,原審において主張したとおりであるが,更に指摘すれば,本件発明1-1においては「ボスに植設される刷毛」(構成要件A),「前記ボスに連結された根部」(同B)とされ,本件発明1-2においては「ボスに‥‥‥網を取り付け」(同E),「ボスに連結される基端」(同F)とされており,根部(基端)はボスに連結されているため,補剛材を添着する構成となっていない。
(2) 控訴人は,構成要件C’の「略同じ」とは,略同じ効果を奏し得る範囲の素線径及びメッシュの数値範囲をもって判断すべきであると主張する。
控訴人の主張は,数値を離れ,また「同じ効果」と主張しながら,どのような効果なのかについての主張がなく,失当である。
(3) 控訴人が上記各主張を裏付けるものとして提出する甲第11号証以下の書証も,その内容に疑問を呈さざるを得ないものである。
当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人の請求は理由がなく,棄却すべきものであると判断する。その理由は,次のとおり付加補正するほか,原判決の「第3 争点に対する判断」のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決13頁10行目の「『補剛材』は」から12行目の「構成要件の」までを削除する。
2 控訴人は,構成要件B及び同Fの「根部と遊端との間」は,その間のどの位置でもよいと解すべきであるとし,原判決が「根部と遊端との間」とは,網の「根部(基部)と遊端との中間」を指すと解すべきであって,網のいかなる部分であっても差し支えないと解することはできないと判断したこと(原判決13頁12行〜14行,15頁7行〜9行)が誤りであると主張する。
(1) 本件明細書1の「発明の詳細な説明」欄には,「発明が解決しようとする課題」として,「コンベアベルトに付着した付着物を効率よく除去するにはブラシで擦り落とす区間を長くする必要があり,回転ブラシを用いる場合には回転ブラシとコンベアベルトを一層接近させて刷毛を強く接触する必要があるので,コンベアベルトや刷毛を早期に損耗させる不具合があった。」(段落【0004】)の記載,「作用」として,「回転ブラシの刷毛は主体が網で作られており,その一辺が支持軸に固定され,他辺が摺擦面となる。主体を網とすることで剛性が上がり,さらに,刷毛の根部と端部との間に補剛材を添着することで摺擦面を押圧する力を一定させ得る。回転ブラシをなす網状の刷毛の先端部は,支持軸と平行な線の数本が取られて櫛状の部分が形成される。その櫛状の部分は曲げ剛性が低く,摺擦面へ接触したとき,摺擦面にならって広い面積で摺擦する。」(段落【0006】)の記載があり,「実施例」として,「刷毛24は‥‥‥根部が角軸26に挟持された上,先端部の横線が2〜3本抜かれ長さ5〜10mmに亘って縦線のみが存在する,いわゆる櫛状の部分24bを形成しており,刷毛24の先端がコンベアベルト17に引っ掛からないようにしてある。そして,根部と先端部との間には厚さ2mm程度に合成樹脂用の軟質の接着剤を塗布してあり,その剛性を網単独の場合より増強した厚肉部24cとされている。」(段落【0011】),「回転ブラシ20が回転し,刷毛24の一がコンベアベルト17に当接すると,刷毛24は図6で示すように変形する。まず,比較的剛性の低い先端の櫛状の部分24bが摺擦面であるコンベアベルトの下面に当たって湾曲しつゝ付着物を掻き落とす。回転が進み櫛状の部分24bが曲り切ってしまうと,次いで厚肉部24cが摺擦面に接近する。
厚肉部24cは剛性が高く湾曲しにくいから,刷毛24は根部の網の部分24aで回転方向後方へ湾曲し,その結果,網の部分24aが前記押え板29のカマボコ形の外面に巻き込まれ,先端部はインボリュート曲線を描いて実質的な長さを減じる。すなわち,根部から先端までの長さが実質的に短縮される。回転ブラシ20の回転がさらに進み前記櫛状の部分24bがコンベアベルト17の下面から離れると,それまで撓んでいた刷毛24の先端部が弾力で真っ直ぐな位置まで一気に復帰し,その際,前記櫛の部分24bに付着した付着物を回転方向前方へ撥ね飛ばすと共に,直立した当初の形態へ復帰する。」(段落【0012】)の各記載,「発明の効果」として,「刷毛24は先端部の剛性が低く,根部の剛性をやゝ高く,かつ,中間部の剛性を一番高く設定した。よって,刷毛24の摺擦面への摺擦力を過度に増大させることなく先端部が摺擦する距離を増大させることができ,付着物の除去が効率よく行われる,などの効果がある。」(段落【0013】)の記載がある(甲1)。また,本件公報1の図4ないし6には,本件発明1に係る回転ブラシが図示されているが,同図において,角軸26と押え板29とにより挟持された刷毛24は,角軸26側から順に,網24a,厚肉部24c,櫛状部分24bが形成されている(甲1)。
これらの記載によれば,本件発明1-1は,刷毛の中間部の剛性を根部及び先端部より高くすることによって,摺擦面を押圧する力を一定にさせることができるようにした点に,従来技術において存在した課題を解決する上での技術的な特徴を有するものというべきであり,このような同発明の作用効果を実現するためには,構成要件Bにおいて「補剛材」は,根部(基部)と遊端とを除く中間の部位に添着することが予定されているというべきである。
本件発明1-2は,コンベアベルトの表面を摺擦して付着物を掻き落とすために,本件発明1-1の回転ブラシを備えた回転ブラシ付き選別コンベアの発明であるから(甲1),構成要件Fの「その網のボスに連結される基端と遊端との間に補剛材を添着してなる」の意義は,構成要件Bの「網の前記ボスに連結された根部と遊端との間に補剛材を添着してなる」と同義である。
(2) 控訴人は,「根部と遊端との間」の意義について,その間のどの位置でもよいと解すべきであると主張するが,補剛材が遊端に添着された場合には,刷毛の先端部が摺擦面へ接触したときに,摺擦面にならって広い面積で摺擦するという状態を得ることができず,また,補剛材が根部に添着された場合には,先端部が摺擦面であるコンベアベルトの下面に当たって湾曲しつつ付着物を掻き落としながら,回転が進んだときに,刷毛が根部の部分で回転方向後方へ湾曲するという状態を得ることができず,上記のような本件発明1-1の予定する作用効果を実現することができない。
控訴人は,本件明細書1の記載は一実施例について説明したものにすぎないというが,そもそも同明細書には実施例は1例しか記載されていないものであるところ,当該実施例についての記載(段落【0007】以下)は,それより前に記載された本件発明1-1についての「発明が解決しようとする課題」「課題を解決するための手段」「作用」の項の記載を受けて,これらを実現するための具体的構成として記載されたものであることが明らかであり,また,同明細書には補剛材を上記と異なる部位に添着する例を開示し,あるいはそのような可能性を示唆する記述は何ら存在しない。特許請求の範囲には,「その網の前記ボスに連結された根部との遊端の間に補剛材を添着してなる」と記載されているところ,上記のように解することは,むしろ「根部との遊端の間」の文言の通常の国語上の意味にも合致するものというべきである。
なお,控訴人は,上記の主張を裏付けるものとして当審において甲第11,13号証を提出する。これらの書証は「科学技術鑑定書」と題されたものであるが,その内容は,単に,控訴人の上記主張を結論として記載してあるものにすぎず,その内容は,上記に説示したところに照らし,採用できない。
3 控訴人は,構成要件Bの「補剛材」は,網本体とは別の部材が使用されたものに限らず,回転ブラシの網の剛性を補うすべてのものと解すべきであると主張するが,被告製品における「ブラシ押え板26及びブラシ取付け板27」は,@「根部又は基部と遊端との間に」添着させたものではなく,また,A網の剛性を高めて,摺擦面を押圧する力を一定にさせる効果を奏するものではないから,構成要件B及び同Fの「補剛材」に該当しないものであり,この結論は,「補剛材」が網本体とは別の部材が使用されたものに限定されるかどうかにかかわらない。
4 控訴人は,構成要件C’の「略同じ」とは,略同じ効果を奏し得る範囲の素線径及びメッシュの数値範囲をもって判断すべきであるとし,原判決が「略同じ」とは,「回転ブラシの素線の太さ及び編目の大きさ」と「コンベアベルトを構成する合成樹脂の網のそれ」とを比較して,ほぼ同一と評価できる範囲に限定されると判断したこと(原判決16頁2行〜5行)が誤りであると主張する。
しかしながら,本件明細書2(甲2)の「発明の詳細な説明」欄には,「作用」として,「コンベアベルトをなす網と回転ブラシは略同一の網で作られているので,コンベアベルトをなす網の目の間隔と回転ブラシをなす払い落とし用の繊維の間隔とが略等しくなることから,払い落とし用の繊維として使用される回転ブラシの素線がコンベアベルトの網目へ入り易くなる。」(段落【0005】との記載がある(甲2)。これによれば,本件発明2-1は,払い落とし用の繊維(刷毛)として使用される回転ブラシの縦方向の素線がコンベアベルトの網目に入り易くなってコンベアベルトの夾雑物を効率よく除去できるという作用効果を実現した点に,従来技術において存在した課題を解決する上での技術的な特徴を有するものというべきであり,このような同発明の作用効果を実現するためには,構成要件C’における「略同じ」とは,「回転ブラシの素線の太さ及び編目の大きさ」が,「コンベアベルトを構成する合成樹脂の網のそれ」と比較して,ほぼ同一と評価できる範囲にあることが予定されているというべきである。
控訴人の主張は,特許請求の範囲における「略同じ太さの素線と略同じ大きさの編目」という文言を無視して,特許発明と略同一の作用効果を奏する構成であればすべて技術的範囲に属することをいうものであって,到底採用の限りではない。
なお,控訴人は,上記の主張を裏付けるものとして当審において甲第12,14号証を提出する。これらの書証は「科学技術鑑定書」と題されたもので,その内容は,略同じ効果を奏し得る範囲を計算により判断したというものであるが,本件明細書2における特許請求の範囲の記載を離れて技術的範囲を論ずるものであり,上記に説示したところに照らし,採用できない。
5 結論 以上によれば,控訴人の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。よって,控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとし,当審における訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条1項,61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 三村量一
裁判官 古閑裕二