運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2004-80071
関連ワード 新規性 /  進歩性(29条2項) /  慣用技術 /  上位概念 /  技術的範囲 /  援用権(援用) /  均等 /  意識的除外(意識的に除外) /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  不法行為(民法709条) /  拒絶理由通知 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  請求の範囲 /  変更 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 17年 (ネ) 217号 特許権侵害差止等請求控訴事件
控訴人(1審原告) 株式会社ニプロン
同訴訟代理人弁護士 松本理
同 中山正隆
同 泉秀昭
同 板村丞二
同 門脇隆宏
同補佐人弁理士 柳野隆生
同 森岡則夫
被控訴人(1審被告) デンセイ・ラムダ株式会社
同訴訟代理人弁護士 杉本進介
同訴訟代理人弁理士 牛木護
同 清水榮松
同補佐人弁理士 外山邦昭
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2005/06/30
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨等
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の無停電性スイッチングレギュレータを製造し、輸入し、譲渡し、譲渡のために展示してはならない。
3 被控訴人は、前項の無停電性スイッチングレギュレータを廃棄せよ。
4 被控訴人は、第2項の無停電性スイッチングレギュレータについて記載してあるパンフレット、カタログ類を廃棄せよ。
5 被控訴人は、控訴人に対し、1億5750万円及びこれに対する平成16年4月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
7 第2ないし5項につき仮執行宣言 (以下、控訴人を「原告」、被控訴人を「被告」という。)
事案の概要
1 事案の要旨 本件は、後記特許権(特許番号第3013776号、発明の名称「無停電性スイッチングレギュレータ」)を有する原告が、被告の製造販売する無停電性スイッチングレギュレータは同特許権に係る特許発明技術的範囲に属し、その製造販売等は同特許権を侵害すると主張して、特許権に基づく無停電性スイッチングレギュレータの製造譲渡等の差止め、無停電性スイッチングレギュレータ及びそのパンフレット等の廃棄並びに特許権侵害による不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。
原審は、原告の請求をいずれも棄却し、原告が本件控訴を提起した。
2 基礎となる事実、争点及び争点に関する当事者の主張 次のとおり訂正等するほかは、原判決2頁16行目から30頁7行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
【原判決の訂正等】 (1) 「別紙物件目録」とあるのを「原判決別紙物件目録」、「別紙『特許請求の範囲の記載』」とあるのを「原判決別紙『特許請求の範囲の記載』」とそれぞれ読み替える(後記第3についても同じ。)。
(2) 8頁25行目末尾の次に改行して、次のとおり加える。
「オ 被告は、平成16年6月8日、特許庁長官に対し、本件特許発明についての特許の無効審判請求(無効2004―80071)をした(乙11、13、14)。
上記無効審判事件について、平成17年1月26日付けで、本件特許発明についての特許を無効とする旨の審決がされた(乙15)。
原告は、上記審決取消訴訟を提起すべく準備中である(弁論の全趣旨)。」 (3) 21頁1行目及び26頁18行目の各「上記」を「前記」とそれぞれ改める。
当裁判所の判断
1 当裁判所も、原告の請求はいずれも理由がないものと判断する。
その理由は、次のとおり訂正等し、原告の当審における補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決30頁9行目から41頁5行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
【原判決の訂正等】 (1) 31頁5行目の「しかし」から同7行目末尾までを「しかし、前記のとおり、被告製品の充放電回路をトランスの左側に描くか右側に描くかは、便宜上いずれも可能であること、また、上記のとおり、第1図以外は当事者間に争いがない原判決別紙物件目録の「符号の説明」及び「無停電電源装置『UNA180-01(6chタイプ)』の電源回路の説明」には、被告製品が放電防止回路100を備えることが記載されており、被告製品の構成(構成d)において放電防止回路100を備えることについても当事者間に争いがないことを考慮すると、原判決別紙物件目録の第1図は、放電防止回路100が示されている『第1図(被告主張)』とするのが相当と認められる。」と改める。
(2) 38頁22行目の「上記」を「前記」と改める。
【原告の当審における補充主張に対する判断】 (1) 争点(2)(被告製品の構成cないしhによる本件特許発明構成要件CないしHの充足性)について 原告は、「被告製品と本件特許発明の相違は、充放電回路を構成する各電子部品(充電回路では、定電流検出抵抗、直列ドロッパー制御用素子及び逆流防止ダイオード、放電回路では、逆流防止ダイオード及び〈三次側〉スイッチング素子)の配置が、本件特許発明では、三次巻線の負極側と二次電池の負極側との間であるのに対し、被告製品では、三次巻線の正極側と二次電池の正極側との間であり、この配置の違いにより、その作用上、充電回路及び放電回路のそれぞれに直接接続された各電子部品に電流が流れる順番が相違する点のみである。すなわち、本件特許発明及び被告製品は、いずれも充放電回路が直列回路で構成されており、このような直列回路中に配置する充放電回路構成部品の順序を、本件特許発明のように二次電池の負極側に配置するか、被告製品のように二次電池の正極側に配置するかは、昭和49年3月31日発行の『入門交流回路』(甲第10号証)に、R―L―Cの直列回路において、抵抗R、自己インダクタンスL、コンデンサ(静電容量)Cの順番を入れ替えたとしても、電圧Vと電流Iの関係(回路動作)が変化することはないことが示されていることから、当業者にとっては、単なる設計事項にすぎない。しかも、上記回路構成の違いにより、両者における充放電時の作用に違いもない。したがって、本件特許発明と被告製品との相違点は、その回路構成及び作用のいずれの点からも、単なる設計事項にすぎない。」と主張する。
しかしながら、被告製品が本件特許発明技術的範囲に属するか否かを判断するに当たっては、両者を本件明細書の特許請求の範囲の記載順に構成要件ごとに分説して対比するのが通常であるところ、前記認定(原判決31頁12行目から33頁20行目まで)のとおり、被告製品の構成dないしhは、本件特許発明構成要件DないしHを充足していない。また、上記文献(甲第10号証)は、本件特許発明における直列回路に直接かかわるものではないから、同文献をもって、直ちに被告製品の構成dないしhと本件特許発明構成要件DないしHの相違が、設計上の微差や適宜なし得る設計的事項であるとはいえないし、そもそも、上記相違が設計上の微差や適宜なし得る設計的事項であるとしても、そのことをもって、構成要件の非充足を否定することはできない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。 (2) 争点(3)(被告製品と本件特許発明との均等の成否―均等の第5要件〈意識的除外等〉)について 原告は、「本件特許発明の特許出願の審査当時、補正については、願書に最初に添付された明細書又は図面から当業者が直接的かつ一義的に導き出せる範囲でなければ認められておらず、実際は明細書中の記載内容をそのまま引用しなければ、補正が認められないといった極めて厳しいもの(改訂前審査基準。甲第9号証)であった。ところが、本件特許発明の特許出願に係る出願当初明細書(乙第1号証)中には、代表的な実施例として、充放電回路構成部品を二次電池の負極側へ接続する実施例のみしか記載されておらず、充放電回路構成部品を二次電池の正極側へ接続することまで含む、つまり各回路素子の接続の仕方を特定しない、より上位概念の補正をすれば、出願が拒絶されるおそれがあり、そのような補正ができなかった。それゆえ、拒絶理由通知(乙第2号証)の引用例1ないし3(乙第3ないし5号証)に対する新規性及び進歩性を回避するだけであれば、他の接続の仕方や他の電流の流れ方を含む、より上位概念の内容とすることも可能であったが、改訂前審査基準の下では、そのような補正は拒絶されるおそれが強いことから、原告はやむを得ず、新規性進歩性のためには必要でない具体的な各回路素子の接続の仕方や電流の流れ方を含んだ実施例の記載に基づく補正を行ったものであり、手続補正書(乙第6号証)と同時に提出した意見書(乙第7号証)においても、各回路素子の接続の仕方や電流の流れ方については、改訂前審査基準をパスするためにその補正の根拠を明示したにすぎず、他の接続の仕方や他の電流の流れ方についてまで、意識的に除外したものではない。また、電気回路素子の接続の仕方や電流の流れ方を適宜選択できることが当業者にとっては自明であるとはいえ、出願当初明細書中にそのことが明記されていない以上、改訂前審査基準の内容に照らせば、充放電回路の各回路素子の接続の仕方や電流の流れ方を特定しない上位概念の内容に補正を行うことは、新規事項の追加であるとして、到底認められないものであった。
したがって、本件特許発明の充放電回路における各回路素子の接続の仕方や電流の流れ方は、上記拒絶通知における拒絶理由を回避するために付加された要件ではなく、当業者にとっても、電気回路の分野においては設計事項に関するものであるから、本件明細書(補正後の明細書)の特許請求の範囲から意識的に除外したものではない。」と主張する。
確かに、改訂前審査基準(甲第9号証)では、「周知・慣用技術についても、出願当初の明細書又は図面に記載した事項が当該周知・慣用技術を意味することが明らかで、かつそれ以外のことを意味しないことが明らかでない限り、その周知・慣用技術は当業者が直接的かつ一義的に導き出せない事項であるから、周知・慣用技術であったとしても、それ自体を明細書又は図面に追加することができないことに留意しなければならない。例えば、明細書に、よく知られた技術事項を追加記載しようとする場合に、出願当初の明細書又は図面に当該技術事項の記載がない場合には、その技術事項自体が周知であるというだけでは、これを追加する補正は認められない。」とされているのに対し、改訂後の審査基準(甲第12号証の2)では、「周知・慣用技術についても、その技術自体が周知・慣用技術であるということだけでは、これを追加する補正は許されず、補正ができるのは、当初明細書等の記載から自明な事項といえる場合、すなわち、当初明細書等に接した当業者が、
その事項がそこに記載されているのと同然であると理解する場合に限られる。」とされているから、改訂前審査基準の方が厳しいと考えられる。
しかしながら、その点をおくと、原告は、充放電回路における各回路素子の接続の仕方や電流の流れ方を特定しない、より上位概念の補正をすることが可能であったというのである。しかも、出願当初明細書(乙第1号証)の段落【0007】には、「図1(裁判所注:本発明の実施例を表す説明用回路図。以下同じ。)および図2(本発明の実施例における充放電回路部分を表す説明図)、図3(本発明の実施例における充電電流波形の一例を表す説明図)により、本回路の作用について説明する。」としながらも、「商用電源1の電圧が正常範囲内にある時には、
二次電池14の電圧に対して一次側回路1aが優先するよう」にするための、トランスの巻線の巻き数と電圧の関係式を含む発明の構成及び作用が説明されているから、充放電回路の各回路素子の接続の仕方や電流の流れ方を特定せずに、上記関係式等、段落【0007】に記載された事項に基づいて、機能的な表現を含む補正をすることが全く不可能であったとまでは断定することはできない。
それにもかかわらず、原告は、前記認定(原判決37頁5行目から38頁21行目まで)のとおり、上記意見書(乙第7号証)において、@「請求範囲の補正の根拠について」ではなく、「請求範囲の限定の根拠について」とした上で、
「請求項1の限定は、特に接続状態をより明確にするために図1及び明細書中の文言を基にして追加したものであります。」(2/5頁12ないし13行)として、
請求項1を限定した趣旨を説明し、A「具体的には、補正前(元)の明細書の段落番号0006の3行目から4行目にかけて『三次巻線電圧の巻き始め極性側と、充電すべき二次電池14の正極側を接続し、』との表現があり、『三次巻線の巻き始め極性側と二次電池の正極側を接続し、』に限定しました。又、補正前(元)の明細書の段落番号0006の8行目から10行目にかけて『定電流検出抵抗16と、
トランジスタよりなる直列ドロッパー制御用素子17を直列に接続し、これを逆流防止ダイオード18のアノード側に直列接続する。』との表現があり、『この二次電池の負極側に定電流検出抵抗と直列ドロッパー制御用素子とを直列に接続し、これを逆流防止ダイオードのアノード側に直列接続する』に限定しました。」(2/5頁13ないし22行)として、三次巻線、定電流検出抵抗、直列ドロッパー制御用素子、逆流防止ダイオード及び二次電池の直列接続の仕方を特定した根拠を示し、B「図1から『三次巻線の巻き終わり極性側と二次電池の負極の間』に変更し、明瞭にしました。」(2/5頁22ないし23行)として、三次側スイッチング素子の位置(三次巻線及び二次巻線との接続の方向)を特定した根拠を示し、C「段落番号0007と段落番号0009と段落番号0012の内容から、『交流電源の電圧が正常範囲内にある時には、前記三次側スイッチング素子がON状態であっても、前記三次巻線に誘起される電圧が二次電池の電圧よりも大であるため、前記三次巻線の巻き始めから二次電池、定電流検出抵抗、直列ドロッパー制御用素子、逆流防止ダイオードを経由し、三次巻線の巻き終わり端に電流が流れて、該二次電池が充電され、前記交流電源の電圧が低下もしくは停止すると、前記三次巻線に誘起される電圧が二次電池の電圧よりも小になるため、二次電池の正極から三次巻線の巻き始めから巻き終わり方向に向かう電流が前記逆流防止ダイオード、三次側スイッチング素子を通って該二次電池の負極に流れ、負荷に対して出力が供給される』に限定しました。」(2/5頁23行ないし3/5頁3行)として、交流電源の電圧が正常範囲内にある時の電流の流れと、交流電源の電圧が低下若しくは停止した時の電流の流れを付加した根拠を示し、Dさらに、上記意見書の「本願発明と引用例との対比」(3/5頁12行)の欄に、「本願発明の特徴・・・点(裁判所注:本件特許発明構成要件AないしHの内容)が、どの引用例にも記載されていないことや、これら3つの引用例を寄せ集るだけでは、本願発明の構成を実現することができないだけでなく、それを発想することは困難であることから、3つの引用例に基づいて本願発明を当業者が容易になし得るとは言えないものであります。」(4/5頁4行ないし5/5頁1行)と記載しているのである。したがって、原告が、拒絶理由通知(乙第2号証)の引用例1ないし3との相違点の一つとして、上記各回路素子の具体的な接続の仕方や具体的な電流の流れ方を掲げることによって、引用例1ないし3との差異を強調して、特許法29条2項(進歩性)の拒絶理由を回避しようとしたことが明らかである。
そうすると、出願当初明細書の特許請求の範囲の記載は、各回路素子の接続の仕方や電流の流れ方について、複数のあり方を許容するものであったところ、
原告は、補正により、これを、補正後の特許請求の範囲に示された各回路素子の具体的な接続の仕方や具体的な電流の流れ方を備えたものに限定し、それ以外の各回路素子の接続の仕方や電流の流れ方を備えたものは、特許請求の範囲から意識的に除外したというべきであるから、原告の上記主張は採用することができない。
2 その他、原審及び当審における当事者提出の各準備書面等に記載の主張に照らし、原審及び当審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、当審及び当審の引用する原審の認定判断を覆すほどのものはない。
3 以上の次第で、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却した原判決は相当であり、原告の本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(当審口頭弁論終結日 平成17年4月12日)
裁判長裁判官 竹原俊一
裁判官 小野洋一
裁判官 長井浩一