運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 審判1998-35388
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成12ワ27714特許権に基づく製造販売禁止等請求事件 判例 特許
平成15ワ13703特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成19ワ13121特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成12ワ12728特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成13ワ1105特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 製造方法 /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  均等 /  置き換え /  同一の作用効果 /  特許発明 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  不法行為(民法709条) /  請求の範囲 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 16年 (ワ) 7716号 特許権侵害差止等請求事件

原告 マックストン株式会社
訴訟代理人弁護士 平山正剛
同 鈴木健二
補佐人弁理士 中畑孝
被告 株式会社オキナヤ
訴訟代理人弁護士 高橋 早百合
補佐人弁理士 小池晃
同 伊賀誠司
同 藤井稔也
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2005/07/07
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙物件目録記載の「自然石亀甲金網護岸工法KSネット」なる製品を製造及び販売してはならない。
2 被告は,原告に対し,金1031万4765円及びこれに対する平成16年4月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,原告が,被告の製造販売する別紙物件目録記載の「自然石亀甲金網護岸工法KSネット」なる製品が原告の特許発明技術的範囲に属し,その製造販売行為が原告の特許権を侵害すると主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づき前記製品の製造販売の差止めを求めるとともに,民法709条,特許法102条1項に基づき,損害賠償金1031万4765円及びこれに対する遅延損害金(訴状送達の日の翌日である平成16年4月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合によるもの。)を求める事案である。
1 前提となる事実(当事者間に争いがないか,後記各証拠及び弁論の全趣旨により認められる。) (1) 原告は,建築及び土木工事用資材の開発・販売等を業とする株式会社であり,被告は,建設資材の販売等を業とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
(2) 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その出願を「本件出願」という。)を有している。
発明の名称 施工面敷設ブロック 特許番号 第1997204号 出願日 平成4年12月9日 登録日 平成7年12月8日 (3) 本件出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲(特許庁平成10年審判第35388号特許無効審判請求事件(以下「本件無効審判」という。)の審決により訂正されたもの)の請求項1の記載は,次のとおりである(甲1,2の1。
以下,請求項1記載の発明を「本件発明」といい,訂正後の明細書を「本件明細書」という。)。
「【請求項1】ネットの経糸又は緯糸にブロックの敷設面に設けた引留具を通し掛けにして多数のブロックをネットに結合し,該ネットを以って施工面に敷設する構成としたことを特徴とする施工面敷設ブロック。」 (4) 本件発明は,次のとおり構成要件A及びBに分説することができる。
A ネットの経糸又は緯糸にブロックの敷設面に設けた引留具を通し掛けにして多数のブロックをネットに結合し, B 該ネットを以って施工面に敷設する構成としたことを特徴とする施工面敷設ブロック。
(5) 被告は,これまでに,@「長野県南安曇郡(編注:以下省略)あずみ野排水路工事」の施工現場(以下「長野現場」という。)において,別紙物件目録の長野物件説明書及び長野物件図面記載の製品(以下「長野物件」という。),並びに,A「岩手県雪谷川河川災害復旧工事」の施工現場(以下「岩手現場」という。)において別紙物件目録の岩手物件説明書及び岩手物件図面記載の製品(以下「岩手物件」という。)を製造販売した(以下,両物件をまとめて「被告製品」という。)。
2 本件の争点 (1) 被告製品の構成は,本件発明の構成要件Aを充足するか(争点1)。
(2) 被告製品の構成は,本件発明の構成要件Aと均等か(争点2)。
(3) 原告の損害額はいくらか(争点3)。
3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点1(被告製品の構成は,本件発明の構成要件Aを充足するか。)について ア 原告の主張 被告製品は,本件発明の構成要件Aを充足する。
a) 「ネットの経糸又は緯糸」について @ 構成要件Aの「ネット」は,金属製ネットを除外するものではなく,金属製ネット及び合成樹脂製ネットを包括するものである。なぜなら,材質から分類されるネットの代表例として金属製ネットや合成樹脂製ネットが存在し汎用されていることは,本件出願前から当業者に自明であり,また,構成要件Aにおいても単に「ネット」と記載されているだけで何らの限定も付されていないからである。
本件明細書においても,合成樹脂製ネットは一例として記載されているにすぎず,他の材質によるネットを除外する趣旨の記載はない。
A 構成要件Aの「ネット」は,格子状のネットに限定されるものではなく,正格子ネット,菱形ネット及び亀甲ネットを包括するものである。なぜなら,網目形態から分類されるネットとして前記各ネットが存在し汎用されていることは本件出願前から当業者に自明であり,また,構成要件Aにおいても単に「ネット」と記載されているだけで何らの限定も付されていないからである。
構成要件Aの文言は「ネットの経糸又は緯糸」となっているものの,同用語は織物における経糸,緯糸に由来するものであり,交差している一方の線材を経糸,他方の線材を緯糸として言い表したものであって,ネットないし網目を形成する線材を表現したものにすぎない。したがって,上記要件は,被告が主張するように,縦横2方向の線材より成るネットに限定されるものではなく,亀甲金網のように,多数の経糸を撚り編みして形成されるものも含むものである。
B 被告は,被告製品の亀甲金網におけるねじり部が構成要件Aの「経糸又は緯糸」に当たらないと主張する。しかし,同ねじり部は,交差している一方の線材と他方の線材とから成り,また,2本の経線を撚り編みして形成されるものであるから,構成要件Aの「経糸又は緯糸」を充足する。
C 以上によれば,被告製品の亀甲金網は,構成要件Aの「ネットの経糸又は緯糸」及び「ネット」の要件を充足する。
b) 「ブロック」について 本件発明の構成要件Aの「ブロック」は,人工素材による成形品に限られるものではなく,コンクリートブロック,自然石,スラッジ製ブロック,タイルブロック,煉瓦ブロック,木質製ブロック,合成樹脂製ブロック等を包括するものである。
@ 一般に「ブロック」とは「かたまり」を意味し,各種材質の塊を総称する語である。材質から分類される覆工ブロックとして鉱物質のかたまりである自然石が存在し汎用されていること,及び,自然石を「ブロック」と称することは本件出願前から当業者に自明である。また,構成要件Aにおいても単に「ブロック」と記載されているだけで何らの限定も付されていない。
A 本件発明は,覆工ブロックとして既知の自然石やコンクリートブロックを用いるに際し,ネットにブロックを通し掛けにして結合した施工面敷設ブロックを構成し,施工面への敷設が効果的に行えるようにした点に特徴を有するものであって,かかる特徴は自然石であってもコンクリートブロックであっても異なるものではない。
B 本件明細書中の段落【0010】においては,コンクリートブロックのほか,木質製ブロック,製紙スラッジブロック及び合成樹脂製ブロックが例示されており,これらの例示に照らしても,構成要件Aの「ブロック」が人工素材による成形品に限定されるとする被告の主張は失当である。
C 以上によれば,被告製品の自然石は,構成要件Aの「ブロック」の要件を充足する。
c) 「ブロックの敷設面に設けた引留具」について @ 構成要件Aの「ブロックの敷設面に設けた引留具」は,ブロックの敷設面に取り付けた引留具を意味するものであり,被告が主張するような,ブロックの成形時に,その敷設面に一体成形によりあらかじめ設けられたものに限定されるものではない。
なぜなら,構成要件Aにおいては,引留具の取付け手段については何らの限定も付されておらず,結果物において引留具がブロックの敷設面に取り付けられているものであればよく,引留具を事前に取り付けるか事後的に取り付けるかという取付方法を問わず,構成要件Aの「ブロックの敷設面に設けた引留具」に含まれているといえるからである。
A 構成要件Aの「引留具」は,対象物を「引っ張ってとまらせる」(広辞苑第4版)用具を総称する用語であり,被告が主張するような,線材をリング形にしてブロックの敷設面にU字形に突出させた構成に限定されるものではない。
なお,本件明細書の特許請求の範囲の請求項2には,引留具の具体的構成が記載されているけれども,かかる従属請求項に記載された発明をもって本件発明を特定することは許されず,むしろ,従属請求項において引留具の具体的構成が請求されていることにより,本件発明では引留具の具体的構成が限定されていないというべきである。
B 以上によれば,被告製品の自然石固定装置における固定金具は,構成要件Aの「ブロックの敷設面に設けた引留具」に該当する。
d) 「引留具を通し掛けにして多数のブロックをネットに結合し,」について 被告製品の亀甲金網への自然石の固定は,構成要件Aを充足する。
構成要件Aの「引留具を通し掛けにして多数のブロックをネットに結合し,」につき,被告が主張するような,「ネットの経糸又は緯糸を引留具の相の手構造の係入口より差し入れて環状の引通し孔に引通すことにより,多数のブロックをネットに取り付けるもの」との限定解釈をするべきではない。
なぜなら,構成要件Aにおいては具体的な引留具の構造や通し掛け手段については何らの限定も付されておらず,結果物においてネット形成線材が引留具に通挿され,ブロックがネットに結合されている以上,通し掛け構造を有するものであって,構成要件Aの「引留具を通し掛けにして多数のブロックをネットに結合し,」を充足しているといえるからである。
イ 被告の主張 被告製品は,本件発明の構成要件Aを充足しない。その理由は,次のとおりである。
a) 「ネットの経糸又は緯糸」について @ 本件出願の当時,施工面敷設用に金属製ネットを用いることは周知であったのに,本件明細書中に金属製ネットの使用に関する記載がないのは,金属製ネットを構成要件Aの「ネット」から除外した趣旨である。
しかるに,被告製品は,金属製の亀甲金網によって構成されるものであるから,構成要件Aの「ネット」を充足しない。
A 構成要件Aの文言が「ネットの経糸又は緯糸に」となっていることや,本件明細書中の図面の記載に照らせば,構成要件Aの「ネット」は,複数の経糸と緯糸を有し,それらが直交して格子状に形成されて網目を構成するものに限られる。すなわち,ネットの製造方法には,大別して,一方向の列線により成るもの,縦横2方向の線材により成るもの,3方向以上の線材を多数編み込んだものがあるが,構成要件Aの「経糸又は緯糸に」という文言は,縦横2方向の線材により成るネットを本件発明の対象とすることを意味し,「ネット」を特定する限定要素として用いられている。
しかるに,被告製品の亀甲金網は,経線のみを用いて編成されるものであり,整列した線材を一定間隔ごとに巻き付けて形成される各ねじり部が網目に相対向して配されることによって各網目が亀甲形状をなすものであって,縦横2方向の線材により編成されるものではない。 本件出願当時に使用されていた亀甲金網は比較的細い線材によるものしかなく,護岸工事の法面覆工での使用に耐えられるような相当の強度を有する太い線材によるものは,編み込みが困難であるために,平成9年ころ編み込み工法が開発されるまでは事実上製作できなかったものであるから,本件出願当時においては,亀甲金網を護岸工事の法面覆工で用いることは想定されていなかった。
以上によれば,被告製品は,構成要件Aの「ネットの経糸又は緯糸に」を充足しない。
B 構成要件Aの文言が「経糸又は緯糸」となっていることに照らせば,本件発明は,経糸又は緯糸のいずれか一方にブロックを結合しようとするものである。
しかるに,被告製品は,亀甲金網のねじり部に自然石を取り付けるものであって,経糸又は緯糸のいずれか一方の線材にブロックを結合するものではないから,この意味でも構成要件Aの「ネットの経糸又は緯糸に」を充足しない。
b) 「ブロック」について 構成要件Aの「ブロック」は,次の理由から,人工素材による成形品を意味し,自然石を含まないと解すべきである。被告製品は,人工素材による成形品ではない自然石を使用するものであるから,構成要件Aの「ブロック」の要件を充足しない。
@ 「ブロック」との用語は,「@かたまり。・・・Aコンクリートブロックの略。」(広辞苑第5版)などの意味があり,特許請求の範囲の記載のみからは明確に理解することができないので,明細書の発明の詳細な説明参酌すべきである。本件明細書中の段落【0001】には「この発明は施工面をコンクリートブロックで覆工する場合に使用する敷設ブロックに関する。」と記載され,段落【0010】には「ブロック2はセメントと砂の混練物を主材とする。又はこのブロック2は金属精錬によって発生するスラッジや製紙スラッジ等を固形化したものを使用する。又このブロック2はタイルやレンガブロックである。又このブロックは木質製又は合成樹脂製ブロックである。」と記載されており,加工された人工素材が示されているものの,「ブロック」に自然石を含むとの記載は本件明細書中にみられない。
A 構成要件Aの文言が「ブロックの敷設面に設けた引留具」となっていることからも,「ブロック」は引留具を備えるとともに引留具を取り付けるための平坦な敷設面を備えた人工素材のものであることが明らかに導かれる。
B 河川等の護岸工事を行う当業界において「ブロック」といえば,コンクリートブロック等の人工素材による成形品を指すのが一般的であり,自然石とコンクリートブロックとでは護岸工事の法面覆工に使用した場合の水質浄化効果や強度及び生態系に優しいとの特性が異なることから,コンクリートブロックを用いる工法と自然石を用いる工法とは明確に区別されている。
c) 「ブロックの敷設面に設けた引留具」について @ 構成要件Aの文言が「設けた」となっていることや,本件明細書中の段落【0011】にも「上記ブロック2の成形時に引留具3を一体成形したものを準備し,」と記載されていることに照らせば,構成要件Aの「引留具」は,成形品たるブロックの成形時に,その敷設面に一体成形によりあらかじめ設けられたものを意味するものである。
しかるに,被告製品は,自然石を結合するものであるために,その敷設面に引留具をあらかじめ設けることができないから,構成要件Aの「ブロックの敷設面に設けた引留具」を充足しない。
A 本件明細書中の段落【0012】に「上記引留具3は線材をブロック2の外面においてリング形にして環状の引通し孔4を形成し,この引通し孔4に上記ネット1の経糸又は緯糸1aを係入する相の手構造の係入口5を形成する。一例として線材又は条板をリングに巻曲しつつ,その巻曲端部を相の手に重ね上記係入口5を形成する。」と記載され,段落【0013】に「又上記引留具3はブロック2よりU字形に突出させ,このU字曲部にネット1の経糸又は緯糸1aを係入する係入口5を設けることができる。」と記載されていることに照らせば,構成要件Aの「引留具」は,線材をリング形にして環状の引通し孔を形成したものをブロックの敷設面にU字形に突出させて設け,この引通し孔にネットの経糸又は緯糸を係入する相の手構造の係入口を形成して成るものと解すべきである。
しかるに,被告製品は,別紙物件目録の長野物件説明書及び岩手物件説明書に各記載の自然石固定装置を有するものであり,同装置の構成は前記「引留具」の構成とは全く異なるものであるから,構成要件Aの「引留具」を充足しない。
d) 「引留具を通し掛けにして多数のブロックをネットに結合し,」について 本件明細書中の段落【0011】に「このブロック2の引留具3にネット1の経糸又は緯糸1aを引通し,ネット1に多数のブロック2を結合する。」と記載され,段落【0012】に「ネット1の経糸又は緯糸1aは上記相の手構造の係入口5より差し入れられ,環状の引通し孔4に引通しされる。」と記載されていることに照らせば,構成要件Aの「通し掛け」とは,ネットの経糸又は緯糸を引留具の相の手構造の係入口より差し入れて環状の引通し孔に引通すことにより,多数のブロックをネットに取り付けるものと解すべきである。
しかるに,被告製品における亀甲金網への自然石の固定は,別紙物件目録の長野物件説明書及び岩手物件説明書に各記載のとおりされるものであり,上記「通し掛け」の構成とは全く異なるものであるから,構成要件Aの「引留具を通し掛けにして多数のブロックをネットに結合し,」を充足しない。
また,構成要件Aの「通し掛け」という文言からすれば,引留具の構造は,少なくとも「引き通す」及び「引っ掛ける」の二つの作用によってネットに取り付けられるものでなければならない。しかるに,被告製品は,固定金具がアンカ部材によって取り付けられるものであるから,引き通して引っ掛けるという作用によるものとはいえず,かかる観点からも構成要件Aの「通し掛け」に当たらない。なお,アンカ部材による引留具の取付けが本件発明の対象に含まれないことは,原告が本件無効審判の答弁書において,本件発明と引用例との相違点につき,引用例においては「甲1(判決注・本訴乙3号証)に記載のように,ステップル等の連結具で補強せねばならない極めて煩雑な製造工程を要する。」と主張していることからも明らかである。
(2) 争点2(被告製品の構成は,本件発明の構成要件Aと均等か。)について ア 原告の主張 仮に,本件発明の構成要件A中に被告製品と異なる部分が存するとしても,最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決に示された判断基準に従えば,被告製品の構成は,本件発明の構成要件Aと均等である。
イ 被告の主張 原告の主張は争う。
(3) 争点3(原告の損害額はいくらか。)について ア 原告の主張 a) 被告は,平成14年7月から平成15年3月までの間,岩手物件を南建設株式会社に対し,3054u分販売した。
原告が本件発明の実施製品を岩手現場で販売した場合の1u当たりの単価は1万2000円であり,利益率は18%であるから,被告が岩手物件を販売したことにより原告に生じたと推定される損害額は,659万6640円である。
b) 被告は,平成14年10月から平成15年3月までの間,長野物件を武井建設株式会社に対し,1983u分販売した。
原告が本件発明の実施製品を長野現場で販売した場合の1u当たりの単価は1万2500円であり,利益率は15%であるから,被告が長野物件を販売したことにより原告に生じたと推定される損害額は,371万8125円である。
c) よって,原告の損害額は,合計1031万4765円である。
イ 被告の主張 原告の主張はいずれも争う。
当裁判所の判断
1 争点1(被告製品の構成は,本件発明の構成要件Aを充足するか。)について (1) 特許発明技術的範囲は,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないところ(特許法70条1項。平成14年法律24号による改正前のもの。同条2項も同じ。),特許請求の範囲の記載だけでは特許発明技術的範囲が一義的に明らかにならない場合などには,願書に添付した明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈すべきである(同条2項)。
本件発明の構成要件Aの「ブロック」との用語は,単なる「かたまり」(広辞苑第4版,第5版)を意味することもあれば(甲21,乙12の2),「コンクリートのかたまり」(岩波国語辞典第4版)を意味したり,「コンクリートブロックの略」(広辞苑第5版)を意味することもある(乙12の1及び2)。このことからすれば,本件発明の構成要件Aの「ブロック」との要件は,人工素材による成形品としてのブロックのみならず自然石も含む「かたまり」を意味するのか,「コンクリートのかたまり」のような人工素材による成形品としてのブロックを意味し,自然石を含まないのか,その特許請求の範囲の記載だけではその内容が一義的に明らかにはならないのであるから,本件明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を参酌して,その意義を解釈すべきである。
ア 本件明細書及び図面には,次の記載がある(甲2の1)。
a) 【産業上の利用分野】 「この発明は施工面をコンクリートブロックで覆工する場合に使用する敷設ブロックに関する。」(【0001】) b) 【従来の技術】 「従来,土地造成,道路開設,或いは土手の工事等においては,傾斜面や路面をコンクリートブロックにて覆工する工事が行なわれている。」(【0002】) c) 【発明が解決しようとする問題点】 「この発明は施工面に対するブロック施設が極めて簡単で,従って短い工期,工費で施設でき・・・」(【0004】) d) 【作用】 「ネットにブロックに設けた引留具を通し掛けにするのみで多数のブロックをネットに結合した敷設ブロックが容易に形成でき,ネットとブロックは互いに結合しながら,その界面において実質的に互いに遊離した状態を形成できる。」(【0006】) e) 【実施例】 「ブロック2はセメントと砂の混練物を主材とする。又はこのブロック2は金属精錬によって発生するスラッジや製紙スラッジ等を固形化したものを使用する。又このブロック2はタイルやレンガブロックである。又このブロックは木質製又は合成樹脂製ブロックである。」(【0010】) 「上記ブロックの成形時に引留具3を一体成形したものを準備し,このブロック2の引留具3にネット1の経糸又は緯糸1aを引通し,ネット1に多数のブロック2を結合する。」(【0011】) f) 【発明の効果】 「上記施工面施設ブロックによれば,ネットの経糸又は緯糸にブロックに設けた引留具を通し掛けにして多数のブロックをネットに結合する構成としたので,・・・広域の施工面に対するブロック覆工作業が極めて容易且つ迅速に行なえる。・・・又ネットの経糸又は緯糸にブロックに設けた引留具を通し掛けにするのみで,ネットに多数のブロックを結合する敷設ブロックが容易に製造できる。」(【0015】) g) 図1ないし図4には,人工素材による成形品としてのブロックに引留具を一体成形し,その引通し孔にネットの経糸及び緯糸を引き通し,これにより多数のブロックをネットに結合したものが図示されており,自然石を使用したものは図示されていない。
イ 本件明細書の上記記載及び図面によれば,構成要件Aの「ブロック」は次のように解すべきである。
a) 本件明細書及び図面には,ブロックとして自然石を用いることを窺わせる記載は全くない。かえって,本件明細書の【発明の詳細な説明】の欄の,@【産業上の利用分野】の項における,本件発明が「コンクリートブロックで覆工する」発明に関するものであるとの記載,A【作用】の項における,「ネットにブロックに設けた引留具を通し掛けにするのみで多数のブロックをネットに結合した敷設ブロックが容易に形成でき」るとの記載,B【実施例】の項における,ブロックは,コンクリートブロック,スラッジ等を固形化したブロック,タイルやレンガブロック,木質製又は合成樹脂製ブロックであるとの記載,及び,これらのブロックの成形時に,引留具を一体成形したものを準備し,この引留具にネットの経糸又は緯糸を引き通して,ネットに多数のブロックを結合するとの記載,C【発明の効果】の項における,ネットの経糸又は緯糸に引留具を通し掛けするのみで,敷設ブロックが容易に製造できるとの記載,並びに,D上記図面により図示されているところ,以上を参酌すれば,本件発明の構成要件Aの「ブロック」は,コンクリートブロックなどに例示されるような人工素材による成形品としてのブロックであり,その成形時に「引留具」を一体成形することを可能とするものであって,これが不可能な自然石は含まないものであると解すべきである。原告が主張するように,構成要件Aの「ブロック」に自然石を含むというのであれば,「引留具」を一体成形することが不可能な自然石に「引留具」を取り付けるための技術的事項が,そもそも本件明細書に記載ないし示唆されるべきである。しかし,本件明細書には,「ブロック」に自然石が含まれることを示唆する記載もなく,自然石を使用した場合に,どのようにして「引留具」をこれに取り付けるのかとの技術的事項についての記載も示唆も全くないのである。本件発明は,人工素材から成る成型品としてのブロックとこれに一体成形した「引留具」にネットの経糸又は緯糸を通し掛けにするのみで,多数のブロックがネットに結合する敷設ブロックが容易に製造され,ブロック覆工作業が極めて容易かつ迅速に行われることを,その発明の本質的特徴とするものであると解すべきである。
b) 確かに,構成要件Aには,「ブロックの敷設面に設けた引留具」と記載されているだけで,「ブロックの敷設面に一体成形されて設けられた引留具」との記載はない。
しかし,河川等の護岸工事における法面覆工の工法としては,コンクリートブロックを用いる工法と自然石を用いる工法とが,その代表的な例として挙げられ,また,自然石とコンクリートブロックとでは,その形状,硬性,加工上の特質等が異なるため,護岸工事の法面覆工等において自然石をブロックとして用いる場合には,コンクリートブロックを用いる場合とは異なる技術を必要とすることが少なくない(乙13ないし15)。(そのため,ブロックに関する特許や実用新案の出願にあたっては,当該特許発明ないし考案が自然石を対象とするものであるか否かが明示されることが多く,自然石とコンクリートブロックの両方を対象とする場合にもその旨が明記されることが多い(甲31の1ないし6,32の1ないし3,35の1,乙20ないし22)。) 本件発明の構成要件Aは,「ブロックの敷設面に設けた引留具」に「ネットの経糸又は緯糸」を「通し掛けにして多数のブロックをネットに結合」するものであり,これにより引留具にネットの経糸又は緯糸を通し掛けするのみで,敷設ブロックが容易に製造できるとの効果を奏するものである。そして,ブロックの成形時に引留具を一体成形することができるコンクリートブロックなどの人工素材をブロックとして用いる場合と比べ,自然石をブロックとして用いる場合では,その引留具の取付方法において,被告製品にみられるとおり,異質な技術を必要とするものであるから,本件発明の「ブロック」に人工素材から成る成形品のみならず自然石を含めるのであれば,その旨を本件明細書に明記した上で,自然石から成るブロックに対する「引留具」の取付方法についても,人工素材から成るブロックの場合とは区別して,本件明細書に記載すべきである。しかし,本件明細書には,前記のとおり,自然石をブロックとして使用する場合についての技術事項の開示が全くなく,構成要件Aの「ブロック」に自然石を含むとの記載も示唆も全くないのである。
c) 以上によれば,本件発明の構成要件Aの「ブロック」は,コンクリートブロックなどの人工素材から成る成形品としてのブロックであり,自然石はこれに含まれないと解すべきである。
ウ これに対し,被告製品は,いずれも自然石を使用するものであるから,本件発明の構成要件Aを充足しない。すなわち,長野物件は,別紙物件目録の長野物件説明書記載のとおり,多数の自然石にアンカ孔を設け,この孔に,スリーブとアンカピンから成るアンカ部材を打ち込み,このアンカ部材に固定金具を固定することにより,金網把持部を備えた固定金具を自然石に固定し,その際にこの金網把持部により亀甲金網のねじり部を把持させることにより,多数の自然石を亀甲金網と結合するものであり,岩手物件も,別紙物件目録の岩手物件説明書記載のとおり,自然石にアンカ孔を設け,この孔に,スリーブ部材とテーパ状とボルトから成るアンカ部材を打ち込み,このアンカ部材に固定金具を固定することにより,金網把持部を備えた固定金具を自然石に固定し,その際にこの金網把持部により亀甲金網のねじり部を把持させることにより,多数の自然石を亀甲金網と結合するものである。
このように,被告製品は,多数の自然石のすべてにアンカ孔を設け,これらの自然石すべてに固定部材を取り付けるために,アンカ部材を打ち込むものであり,また,固定金具の金網把持部により亀甲金網のねじり部を把持させた上で,アンカ部材を自然石に打ち込み,固定金具を固定するものであるから,本件発明が奏する「広域の施工面に対するブロックの覆工作業が極めて容易且つ迅速に行える。・・・又ネットの経糸又は緯糸にブロックに設けた引留具を通し掛けにするのみで,ネットに多数のブロックを結合する敷設ブロックが容易に製造できる。」(甲2の1【0015】)との効果を奏し得ないものである。
以上によれば,被告製品は,本件発明の構成要件Aを充足せず,本件発明の技術的範囲に属しないというべきである。
2 争点2(被告製品の構成は,本件発明の構成要件Aと均等か。)について (1) 原告は,仮に,本件発明の構成要件A中に被告製品と異なる部分が存するとしても,最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決に示された判断基準に従えば,被告製品の構成は,本件発明の構成要件Aと均等であると主張する。
本件発明の構成要件Aの「ブロック」は,コンクリートブロックなどの人工素材から成る成形品としてのブロックであり,自然石はこれに含まれないと解すべきであること,及び,被告製品は,いずれも自然石を使用するものであるから,本件発明の構成要件Aを充足しないことは,前記認定のとおりである。
そして,本件発明は,前記認定のとおり,人工素材から成る成型品である「ブロック」と一体成形した「引留具」にネットの経糸又は緯糸を通し掛けにするのみで,多数のブロックがネットに結合する敷設ブロックが容易に製造され,ブロック覆工作業が極めて容易かつ迅速に行われることを,その発明の本質的特徴とするものであることも前記認定のとおりである。
すなわち,被告製品は,前記のとおり,自然石を使用したものであるため,ブロック成形時に引留具を一体成形することができず,そのため,すべての自然石にアンカ孔を設け,これにアンカ部材を打ち込む作業と,亀甲金網のねじり部を固定金具の金網把持部で把持しながら,固定金具をアンカ部材で自然石に固定するとの作業が必要となるものであり,本件発明の「広域の施工面に対するブロックの覆工作業が極めて容易且つ迅速に行なえる。・・・又ネットの経糸又は緯糸にブロックに設けた引留具を通し掛けにするのみで,ネットに多数のブロックを結合する敷設ブロックが容易に製造できる。」との効果を奏し得ないものであることは前記認定のとおりである。
以上によれば,被告製品の「自然石」と本件発明の「ブロック」との差異は,本件発明との本質的な差異であり,本件発明の「ブロック」を「自然石」に置き換えることによっては,本件発明の目的も,同一の作用効果も奏することができないものであることは明らかである。よって,被告製品の「自然石」の構成は,本件発明の構成要件Aの「ブロック」と均等なものであると解することはできない。
3 結論 以上のとおり,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属さないものであるから,原告の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
追加
(別紙)物件目録1製品名「自然石亀甲金網護岸工法KSネット」2前項の製品の構造の詳細は,別紙「長野物件説明書」及び「長野物件図面」並びに「岩手物件説明書」及び「岩手物件図面」に記載のとおりである。・長野物件説明書1長野物件の名称自然石亀甲金網護岸工法KSネット2長野物件の図面の簡単な説明図1は,長野物件にかかる自然石亀甲金網護岸工法KSネットの構成を示す要部分解斜視図である。
図2は,自然石亀甲金網護岸工法KSネットに用いる自然石固定装置により亀甲金網に自然石を固定しようとする状態を示す要部斜視図である。
図3は,自然石固定装置により亀甲金網に自然石を固定しようとする状態を示す要部断面図であって,アンカ部材のアンカピンの打ち込み前の状態を示す図である。
図4は,自然石固定装置により亀甲金網に自然石を固定した状態を示す要部断面図であって,アンカ部材のアンカピンの打ち込み後の状態を示す図である。
図5は,2個の固定金具を同時使用して自然石を固定しようとする場合を示す要部斜視図である。
3符号の説明1亀甲金網,2自然石,3ねじり部,4アンカ孔,10自然石固定装置,11固定金具,12アンカ部材,13座金部材,14金網把持部,15,16固定片部,17,18長孔,19,20補強リブ,22スリーブ,23内孔,24アンカピン,25フランジ部,26テーパ面,27すり割り,28凹溝,29頭部,30貫通孔4長野物件の構造の説明長野物件は,亀甲金網1のねじり部3において自然石2を固定して成る自然石固定装置10を用いて亀甲金網1に自然石2を複数固定して成る自然石亀甲金網護岸工法KSネットである。
亀甲金網1は,線材を複数回巻き付けたねじり部3が各網目に相対向して形成され各網目が亀甲形状をなす金網である。
亀甲金網1に固定される自然石2には,アンカ孔4が設けられている。
亀甲金網1のねじり部3において自然石2を固定する自然石固定装置10は,固定金具11とアンカ部材12と座金部材13を備えている。
固定金具11は,上記亀甲金網1のねじり部3の長さと略等しい幅を有する矩形金属板が長さ方向に二つ折りされ,この折曲げ部位に上記亀甲金網1のねじり部3を把持する円形の金網把持部14が形成されるとともに,この金網把持部14からこの金網把持部14の直径より小さい間隙を有して互いに対向する一対の固定片部15,16が延在され,これら固定片部15,16に相対して長さ方向を長軸とした長孔17,18がそれぞれ形成されて成るものである。なお,固定片部15,16には,それぞれその長さ方向に補強リブ19,20が設けられている。
アンカ部材12は,スリーブ22とアンカピン24より成る。
スリーブ22は,上記固定金具11の長孔17,18に挿通可能な太さであるとともに先端部にすり割り27が形成されかつ基端部にフランジ部25が一体に形成されている。このスリーブ22の内孔23には先端部側に先細状のテーパ面26が設けられている。さらに,スリーブ22の先端部側外周には凹溝28が形成されている。
アンカピン24は,上記スリーブ22の内孔23に上記フランジ部25側から頭部29を突出させて組み付けられるものであって,この頭部29が打ち込まれてスリーブ22内を先端部側に移動されることにより,スリーブ22の先端部側のすり割り27を拡げるものである。
座金部材13は,貫通孔30を有し,上記アンカ部材12の上記フランジ部25に係止されるように上記スリーブ22に挿通されるものであって,上記アンカ部材12が上記固定金具11の長孔17,18に挿通された際に,固定片部15,16を自然石2に対し押圧するものである。
以上のように構成される自然石固定装置10において,上記固定金具11の上記金網把持部14に上記亀甲金網1のねじり部3を把持させた状態で,上記固定金具11の上記長孔17,18に上記アンカ部材12を上記座金部材13を介して挿通して上記自然石2に設けたアンカ孔4にスリーブ22を嵌合する。ついで,アンカ部材12のアンカピン24を打ち込むと,アンカ孔4内でスリーブ22のすり割り27が設けられた先端部側部分が拡径されてアンカ孔4の底部の周壁に食い込むとともに,スリーブ22の凹溝28により抜け止めが図られることによって,このアンカ部材12が自然石2に固定される。
長野物件図面図1図2図3、図4図5岩手物件説明書1岩手物件の名称自然石亀甲金網護岸工法KSネット2岩手物件の図面の簡単な説明図1は,岩手物件にかかる自然石亀甲金網護岸工法KSネットを示す斜視図である。
図2は上記KSネットにおいて亀甲金網Kへの自然石Sの取り付け状態を示す要部斜視図である。
図3は図2の状態を示す断面図である。
図4は,上記KSネットに用いる自然石固定装置の部品構成図である。
図5は,上記自然石固定装置を構成するアンカ部材と固定金具の関係を示す分解側面図である。
図6は,自然石固定装置により亀甲金網に自然石を固定する作業工程を説明する図である。
図7は,2個の固定金具3A,3Bを同時使用して自然石を固定した状態を示す要部斜視図である。
図8は,KSネットを施工面Gに敷設した状態を示す断面図である。
3符号の説明K亀甲金網,S自然石,K1,K2,K3ねじり部,Aアンカ孔,1自然石固定装置,2アンカ部材,3固定金具,4テーパ状部材,5スリーブ部材,51凹溝,6ボルト,7すり割り,9ワッシャ部材,10Oリング,11金網把持部,12固定片部,13長孔4岩手物件の構造の説明岩手物件は,亀甲金網Kのねじり部K1において自然石2を固定して成る自然石固定装置1を用いて亀甲金網Kに自然石Sを複数固定して成る自然石亀甲金網護岸工法KSネットである。
亀甲金網Kは,線材を複数回巻き付けたねじり部K1が各網目に相対向して形成され,各網目が亀甲形状をなす金網である。
亀甲金網Kに固定される自然石Sには,ドリルD等によってアンカ孔Aが設けられている。
亀甲金網Kのねじり部K1において自然石Sを固定する自然石固定装置1は,固定金具3とアンカ部材2とワッシャ部材9を備えている。
固定金具3は,上記亀甲金網Kのねじり部K1の長さと略等しい幅を有する矩形金属板が長さ方向に二つ折りされ,この折曲げ部位に上記亀甲金網Kのねじり部K1を把持する円形の金網把持部11が形成されるとともに,この金網把持部11からこの金網把持部11の直径より小さい間隙を有して互いに対向する一対の固定片部12,12が延在され,これら固定片部12,12に相対して長さ方向を長軸とした長孔13,13がそれぞれ形成されて成るものである。
アンカ部材2は,スリーブ部材5とテーパ状部材4とボルト6より成る。
スリーブ部材5は,先端側5aにすり割り7を有するとともに基端側5bの内周面に雌ネジ部8を備えて成る。さらに,スリーブ部材5の先端部5a側外周には凹溝51が形成されている。
テーパ状部材4は,上記スリーブ部材5の先端側開口より内部に挿入されるにともなってスリーブ部材5の先端側5aのすり割り7を押し広げるテーパ面部4aを有している。
ボルト6は,外周面が六角形となされた頭部6bと雄ネジ部6aとから成り,この雄ネジ部6aは上記固定金具3の長孔13,13に挿通可能な太さであり,上記スリーブ部材5の雌ネジ部8に螺合されるものである。
ワッシャ部材9は,貫通孔を有し,上記ボルト6の頭部6bにOリング10を介して係止されるように上記ボルト6の雄ネジ部6aに挿通されるものであって,上記ボルト6が上記固定金具3の長孔13,13に挿通された際に,固定片部12,12を自然石Sに対し押圧するものである。
以上のように構成される自然石固定装置1において,亀甲金網Kへの自然石Sの固定は,次の作業工程に基づいて行われる。
先ず,上記アンカ部材2のスリーブ部材5を上記自然石Sのアンカ孔AにハンマーH等で打ち込む。このとき,上記スリーブ部材5の一端側に備えたテーパ状部材4により,スリーブ部材5の一端側がテーパ状部材4の挿入にともなって広径されてアンカ孔Aの底部の周壁に食い込み,スリーブ部材5の凹溝51により抜け止めが図られることによってスリーブ部材5が自然石Sのアンカ孔A内に固定される。
次に,上記固定金具3の上記金網把持部11に上記亀甲金網Kのねじり部K1等3を把持させた状態で,上記固定金具3の上記長孔13,13に上記アンカ部材2のボルト6を上記ワッシャ部材9及びOリング10を介して挿通して,上記自然石Sに固定したスリーブ部材5の雌ネジ部8にボルト6の雄ネジ部6aを螺合する。
これにより亀甲金網Kのねじり部K1を把持した固定金具3がアンカ部材2によって自然石Sに固定され,自然石が亀甲金網に取り付けられる。
岩手物件図面図1図2、図3図4図5図6図7、図8
裁判長裁判官 設樂隆一
裁判官 清水知恵子
裁判官 荒井章光・