関連審決 | 不服2002-4958 |
---|
審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
---|---|---|
平成17行ケ10137審決取消(特許)請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20ワ25354特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14行ケ347審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14行ケ362特許取消決定取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10211審決取消当事者参加事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 製造方法 / 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 技術常識 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
17年
(行ケ)
10319号
審決取消請求事件
|
---|---|
原告 三菱レイヨン株式会社 訴訟代理人弁護士 生田哲郎,山田基司,森本晋,美和繁男,弁理士 松本雅利 被告 特許庁長官小川洋 指定代理人 平上悦司,大元修二,立川功,井出英一郎 |
|
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2005/07/19 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
原告の求めた裁判
「特許庁が不服2002-4958号事件について平成16年6月21日にした審決を取り消す。」との判決。 |
|
事案の概要
本件は,拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。 1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,平成12年7月27日,平成2年10月5日に出願した発明の名称を「光源装置」とする特願平2-267999号の一部を新たな特許出願とした。 (2) 原告は,拒絶査定を受けたので,平成14年3月22日,拒絶査定に対する審判を請求した(不服2002-4958号事件として係属)。 (3) 特許庁は,平成16年6月21日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,平成16年7月26日,その謄本を原告に送達した。 2 請求項1に係る発明の要旨(平成13年12月28日付け手続補正書によるもの) 「導光体に光源からの光を入射し,前記導光体の光出射面から光を出射する光源装置において,前記導光体が,少なくとも一つの表面に光拡散処理が施されるとともに,屈折率の異なる微粒子を100ppm以下の濃度で含有する光拡散性を有するプラスチック材料により形成されていることを特徴とする光源装置。」 3 審決の理由の要旨 審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,出願日前に頒布された刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 (1) 刊行物 特開昭52-141598号公報(本訴甲4,以下「刊行物」という。)には,第1〜3図とともに以下の事項が記載されている。 ア 「表示管と,この表示管の背後に位置し透明材料で成る光のガイド板をそれ自体が含んでいる照明装置とで構成されるものに於いて,全体として拡散効果を生み出す不透過性無機粒子が光のガイド板材料中に撒き散らされることを特徴とする受動電気光学的表示装置。」(特許請求の範囲の請求項1) イ 「本発明は,前記光のガイド板が透明プラスチック材料で成る場合に適用されるこの表示装置の製造方法にも係るものである。」(2頁左下欄1〜3行) ウ 「光のガイド板の上面をサンドブラストすること等によってデイフューザを完成する」(2頁左下欄7〜9行) エ 「第1図に於ける受動電気光学的表示装置は2個の偏光子2及び3を備えた液晶の表示管1から成っている。この表示装置は,表示管1の背後に位置し且つ光のガイドの役割を果たす例えばメチルポリメタクリレートの如き透明プラスチック材料の板5中に配されたフイラメント電球の光源4で成る照明装置を有している。」(2頁右下欄8〜15行) オ 「光のガイド材料中に分布する粒子6はそれ自体が拡散体であり,光源4から発せられガイド板5によって導かれる光の拡散効果を生み出す。」(3頁左上欄3〜5行) カ 「光のガイド板となるプラスチック材料に対する微粉体の粒子物質の割合は0.01%乃至0.5%であるのがよい。実際にもっと少ない値であれば拡散効果を弱過ぎ,逆に値が大きければ光のガイド板5のうち光源4より最も離れ部分は最早充分に光を受けず,効果的に表示管1の一部は読取りを可能ならしめるに必要なだけ照明されない。」(3頁左上欄16行〜右上欄2行) キ 「補助デイフューザ8は・・・強度に光を拡散させる故に,光のガイド板となるプラスチック物質に混入すべき拡散粒子を形成する微粉体物質の割合を減少させることが可能であり,その結果拡散効果を過度に減ずることなしに光をより良く分布させる。」(3頁右上欄14〜19行) ク FIG.1〜3には,光のガイド板5の上方に2個の偏向子2及び3を備えた液晶の表示管1を配することが図示されている。 上記ア,エ及びクの事項から,光のガイド板5は表示管1の背後に位置し,光のガイド板5それ自体を含んでいる照明装置であって,液晶の表示管1から成っている受動電気光学的表示装置であるから,光のガイド板5は表示管1の側に光を射出する面を有しているものといえる。 そうすると,上記ア〜クの記載及び図面に示された内容を総合すると,刊行物には以下のとおりの発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「光のガイド板5とその中に配された光源4で成り,光源4から発せられ導かれる光の拡散効果を生み出す光のガイド板5は表示管1の側に光を射出する面を有している照明装置であって,光のガイド板5は,全体として拡散効果を生み出す,それ自体が拡散体である微粉体の粒子物質である不透過性無機粒子が0.01%乃至0.5%の割合で光のガイド板5材料中に撒き散らされた透明プラスチック材料により成る照明装置。」 (2) 対比・判断 本願発明と引用発明を対比すると,その機能・構造からみて,後者の「光のガイド板5」は前者の「導光体」に相当し,以下同様に,「光を射出する面」は「光出射面」に,「照明装置」は「光源装置」に,「全体として拡散効果を生み出す」「透明プラスチック材料」は「光拡散性を有するプラスチック材料」に,それぞれ相当し,また,後者の「光のガイド板5」は「その中に配された光源4」を有し「光源4から発せられ導かれる光」を拡散するのであるから,光源4からの光を入射するものであり,後者の「透明プラスチック材料の光のガイド板5」とは,「透明プラスチック材料」から「光のガイド板5」が形成されていることは自明である。 そうすると,両者は「導光体に光源からの光を入射し,前記導光体の光出射面から光を出射する光源装置において,前記導光体が,光拡散性を有するプラスチック材料により形成されていることを特徴とする光源装置。」の点で一致し,(1)導光体について,前者が「少なくとも一つの表面に光拡散処理が施される」のに対して,後者は光拡散処理が施されているか否か明確でない点,(2)導光体について,前者が「屈折率の異なる微粒子を100ppm以下の濃度で含有する光拡散性を有するプラスチック材料により形成されている」のに対して,後者は「それ自体が拡散体である微粉体の粒子物質である不透過性無機粒子が0.01%乃至0.5%の割合で材料中に撒き散らされた透明プラスチック材料により成る」点で相違する。 上記相違点について検討する。 相違点(1)について 導光体の表面に光拡散処理を行うことは,上記刊行物にも示され〔上記(1)ウ,キ参照〕,さらに例えば,実願昭55-131447号(実開昭56-58678号,本訴乙2)のマイクロフイルム,特開昭53-36199号公報,特開昭62-123408号公報及び特開昭57-128383号公報等に示されるように,当該技術分野において周知であるから,相違点(1)に係る本願発明の構成は,当業者にとって容易になし得る設計的事項にすぎない。 相違点(2)について 実願昭55-131447号(実開昭56-58678号)のマイクロフイルム,特開昭53-36199号公報及び特開平1-172801号公報等に示されるように,プラスチック材料にプラスチック材料と屈折率の異なる屈折率を有する有機微粒子を混入した導光体は,当該技術分野において周知である。 また,微粒子の濃度についても,引用発明も100ppmに相当する0.01%という値を含んでおり,その濃度が格別に異なるというものではない。そして,刊行物の(1)カの記載は,引用発明の光のガイド板5が微粉体の粒子物質である不透過性無機粒子により全体として拡散効果を生み出すのであるから,濃度が低いと粒子物質による拡散が少なく全体としての拡散効果が充分でなく,逆に濃度が高いと粒状物質によって光源と離れた部分に光が到達せずそこでの拡散が充分でないというものと解せられ,全体としての拡散効果つまり均一な輝度を得るに際して最適な濃度が必要であることを示唆するものと認められる。さらに,(1)キの記載によれば,強度に光を拡散させる補助デイフューザ8を有することにより,拡散粒子の割合を減少させることが可能であり,拡散効果を過度に減ずることなしに光をより良く分布させ,つまり,より低い濃度でより良く光を分布させ得ること,言い換えると均一な輝度とし得ることが示唆されている。そうとすると,粒状物質の拡散効果については,濃度のみではなく,粒状物質そのものの具体的材質や形状,大きさ等も通常,関連する考慮すべき事項であるから,プラスチック材料や微粒子の具体的な材質や形状,構成,また,照明装置としての構成等に応じて微粒子の濃度を設定することは,刊行物の記載に基づき当業者が適宜なし得る設計事項といえる。また,本願発明の100ppmという数値についても格別の限界的意義を認めることができない。 以上のことから,微粒子を,周知のプラスチック材料と屈折率の異なる屈折率を有する有機微粒子とし,その濃度を100ppm以下と設定することは,当業者が容易になし得ることと認められる。 そして,これら相違点(1)及び(2)に係る構成を合わせ考えても,本願発明による効果は,引用発明及び従来より周知の技術から当業者が予測できる程度のものであって,格別の作用効果が奏されると認めることができない。 (3) 審決のむすび 以上のとおりであるから,本願発明はその出願日前に頒布された刊行物に記載された発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 |
|
当事者の主張の要点
1 原告主張の審決取消事由 審決は,本願発明と引用発明との相違点(1)及び(2)の判断を誤り,本願発明が,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った判断をしたものであるから,違法として取り消されるべきものである。 (1) 取消事由1(相違点(1)の判断の誤り) 審決は,相違点(1)を,「導光体について,前者が「少なくとも一つの表面に光拡散処理が施される」のに対して,後者は光拡散処理が施されているか否か明確でない点」と認定した上,「導光体の表面に光拡散処理を行うことは,・・・当該技術分野において周知であるから,相違点(1)に係る本願発明の構成は,当業者にとって容易になし得る設計的事項にすぎない。」と判断した。 ア 刊行物(甲4)には,「光のガイド板の上面をサンドブラストすること等によってデイフューザを完成するいくつかの方法は費用が嵩む。しかるに本発明の目的は,その光のガイド板を含んだ照明装置が効果的で安価なデイフューザを有する受動電気光学的表示装置を提供することである。かかる目的のため本発明に従った受動電気光学表示装置は,全体として拡散効果を生み出す不透過性無機粒子が光のガイド板材料中に撒き散らされることを特徴としている。」(2頁左下欄7ないし18行)との記載があり,この記載によれば,引用発明は,本願発明で用いられる導光体の光拡散処理は費用が嵩むとしてその採用を排斥し,これに代えてガイド板中に不透過性無機粒子を撒き散らすようにしたものである。 イ 確かに,審決が説示するように,導光体の表面に光拡散処理を行うことは周知であるが,上記アのとおり,引用発明は導光体に光拡散処理を施すという構成を排斥しているから,刊行物に接した当業者が,そこで排斥している光拡散処理をあえて行うことはあり得ない。 したがって,審決が「相違点(1)に係る本願発明の構成は,当業者にとって容易になし得る設計的事項にすぎない。」と判断したことは誤りである。 (2) 取消事由2(相違点(2)の判断の誤り) 審決は,相違点(2)について,「刊行物の(1)カの記載は,・・・全体としての拡散効果つまり均一な輝度を得るに際して最適な濃度が必要であることを示唆するものと認められる。」,「(1)キの記載によれば,・・・より低い濃度でより良く光を分布させ得ること,言い換えると均一な輝度とし得ることが示唆されている。」と認定した上,「微粒子を,周知のプラスチック材料と屈折率の異なる屈折率を有する有機微粒子とし,その濃度を100ppm以下と設定することは,当業者が容易になし得ることと認められる。」と判断した。 ア 刊行物でいう拡散効果とは,導光体中を伝搬する光を導光体から出射させる効果を意味し,輝度を高める効果を意味する。そして,無機粒子の含有量を0.5%以下の割合(5000ppm)とすることの意義は,上記第2,3(1)カの刊行物の記載にあるように,導光体の光源から離れた端部でも読取り可能となる程度の輝度が得られるということであり,導光体全体としての輝度の均一性を図ることを意味するものではない。したがって,上記第2,3(1)カの刊行物の記載は,均一な輝度を得るに際して最適な濃度が必要であることを示唆するものではない。 イ 刊行物の補助デイフューザとは,いわゆる拡散板であって,無機粒子による拡散効果(輝度向上効果)を補うものではなく,導光体から出射した光を散乱させることにより出射光の分布を調整するものである。したがって,「光をより良く分布させる」という作用効果は,補助デイフューザ自体によってもたらされるものであって,無機粒子の濃度を減じることによって達成されるものではないから,上記第2,3(1)キの刊行物の記載は,無機粒子の濃度を低くすることにより,均一な輝度とし得ることを示唆するものではない。 ウ 本願発明は,100ppm以下の範囲で微粒子を含有させることにより,導光体の表面に施した光拡散処理による導光体の出射面内での輝度の均一性を損なうことなく,より一層の輝度の向上を達成したのであって,微粒子の含有量を100ppm以下とした本願発明の数値は,特別な限界的意義を有するものであり,このことは,原告が実施した追試実験の結果(甲5,6)でも確認されている。 これに対し,引用発明は,無機粒子の含有量として,100ppmに相当する0.01%の割合を含んでいるが,引用発明には上記のような本願発明の技術思想はなく,刊行物にはこれを示唆する記載もない。 エ したがって,本願発明は,当業者が容易になし得るものではないから,審決が「微粒子を,周知のプラスチック材料と屈折率の異なる屈折率を有する有機微粒子とし,その濃度を100ppm以下と設定することは,当業者が容易になし得ることと認められる。」と判断したことは誤りである。 2 被告の反論 本願発明と引用発明との相違点(1)及び(2)の判断に誤りはなく,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (1) 取消事由1(相違点(1)の判断の誤り)に対して 刊行物には,「光のガイド板の上面をサンドブラストすること等によってデイフューザを完成するいくつかの方法は費用が嵩む。」との記載があるが,費用が嵩むことを除き,光のガイド板の一つの表面に光拡散処理を施すことができないとする理由は記載されていない。 内部に微粒子を分散させた導光体において,下面に光拡散処理を施すことは,従来から周知のことであり,導光体に光拡散処理を施すという構成を採用することについて,適用阻害要因はないから,審決の判断に誤りはなく,取消事由1は理由がない。 (2) 取消事由2(相違点(2)の判断の誤り)に対して ア 屈折率の異なる微粒子を混入した導光体は,当該技術分野において周知であり,また,微粒子の濃度について,引用発明も100ppmに相当する0.01%という値を含んでいる。 そして,原告は,引用発明の微粒子を,周知のプラスチック材料と屈折率の異なる屈折率を有する有機微粒子とし,その濃度を100ppm以下と設定することが容易であるとしたことに対して,実質的な反論をしていないから,取消事由2は,この点において,既に失当である。 イ また,取消事由2は,次の点からも,理由がない。 (ア) 本願発明の微粒子と引用発明の微粒子は,導光体中を伝搬された光を散乱するという拡散作用に関して本質的な差異はない。そして,上記第2,3(1)カの刊行物の記載の内容は,濃度に上限があるという点で本願発明と異なるところがない。 (イ) 刊行物の補助デイフューザは,導光体の機能を補助強化し,微粉体物質の割合を減少させることができるというものと理解されるのであって,刊行物には,このような導光体に付随する装置が導光体の機能を補助強化することにより,微粉体物質の割合を減少させ,「その結果拡散効果を過度に減ずることなしに光をより良く分布させる。」ことが示唆されていると理解することができる。 (ウ) 100ppm以下という微粒子の含有濃度の具体的数値及び当該含有濃度値をパラメータとすることによる原告主張の効果については,本願明細書に記載がなく,100ppmという数値自体は,臨界的意義を有するものではないから,刊行物における微粉体物質の割合を本願発明と同程度とすることに困難性はない。 そして,追試実験の結果である甲5には,100ppmという値が,連続する変化の中の一つの値であることは示されているとしても,いかなる指標によって特定される臨界値であるといえるのかについては説明されていないし,また,その値が格別の値であることが示されているともいえない。また,甲6は,導光体の両側に光源を設けた2灯式について実験した結果であるが,2灯式については,そもそも本願明細書の実施例に対応するものではなく,その内容も,1灯式と同様,臨界的意義を示すものではない。 (エ) したがって,引用発明の微粒子を,周知のプラスチック材料と屈折率の異なる屈折率を有する有機微粒子とし,その濃度を100ppm以下と設定することは,当業者が容易になし得るものであり,その効果も,引用発明及び従来より周知の技術から当業者が予測できる程度のものであるから,審決の判断に誤りはなく,取消事由2は理由がない。 |
|
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点(1)の判断の誤り)について (1) 導光体の表面に光拡散処理を行うことは,本願発明の出願当時周知であり,この点は原告も争わないところである。 また,実願平1-21472号(実開平2-113704号)のマイクロフィルム(乙1)の考案の詳細な説明には,従来の技術として,「液晶ディスプレイの裏面に面光源を設けた装置が使用され始めた。従来,このような液晶ディスプレイの光源としては,・・・光を均一にするため光拡散板を中間に配置したバックライト装置が用いられていた。・・・導光板等を用いた薄型の面光源が種々提案されている。これらの内で有望なものとしては,アクリル樹脂等の導光板の側面に蛍光灯等の照明ランプを設け,導光板の一方の面から出光する方式が知られている。この方式での視野角の狭さを改良するため,導光板の出光面を粗面化し・・・出光する光を拡散させ,画面の左右への光拡散性を改良する方法が知られている」(2頁5行ないし3頁4行)との記載があるところ,ここにいう「導光板」,「面光源」は,それぞれ本願発明の「導光体」,「光源装置」に相当するから,技術常識からすれば,本願発明の出願当時,「導光体」を有する「光源装置」の技術分野において,「導光体」に光拡散性を持たせて出射する光の輝度を均一にすることは,「導光体」の表面に光拡散処理を施すことの周知の技術的課題であったと認められる。 (2) そうすると,引用発明の「光のガイド板5」(導光体)につき,「導光体」に光拡散性を持たせて出射する光の輝度を均一にするという上記周知の技術的課題に基づき,「導光体」の表面に光拡散処理を施すという上記周知技術を適用することは,当業者が容易になし得る程度の事項であるということができる。 (3) 原告は,引用発明は,本願発明で用いられる導光体の光拡散処理は費用が嵩むとしてその採用を排斥し,これに代えてガイド板中に不透過性無機粒子を撒き散らすようにしたものであるから,刊行物に接した当業者が,そこで排斥している光拡散処理をあえて行うことはあり得ないと主張する。 確かに,刊行物(甲4)には,「光のガイド板の上面をサンドブラストすること等によってデイフューザを完成するいくつかの方法は費用が嵩む。しかるに本発明の目的は,その光のガイド板を含んだ照明装置が効果的で安価なデイフューザを有する受動電気光学的表示装置を提供することである。かかる目的のため本発明に従った受動電気光学的表示装置は,全体として拡散効果を生み出す不透過性無機粒子が光のガイド板材料中に撒き散らされることを特徴としている。」(2頁左下欄7ないし18行)との記載があり,これによれば,刊行物には,導光体に光拡散処理を施すことが,デイフューザを完成するための従来技術の一つとして認識されるとともに,「費用が嵩む」ことが指摘され,また,引用発明の目的として,「光のガイド板を含んだ照明装置が効果的で安価なデイフューザを有する受動電気光学的表示装置を提供すること」が指摘されているということができる。 しかし,費用が嵩むということは,その技術手段の選択を経済的観点から左右するものであるとしても,基本的に,技術手段の技術内容や周知性を左右するものではない。そして,技術的観点からみた技術手段の適用の容易性は,費用により,特段左右されるものではないから,引用発明において,費用が嵩むことを理由に,光拡散処理を施すという構成を排斥しているとしても,このことは,技術的観点からみる限り,周知技術の適用を阻害する理由とはならない(引用発明の「光のガイド板5」(導光体)につき,「導光体」の表面に光拡散処理を施すという周知技術を適用することは,刊行物において従来技術として認識されていたものに立ち返ることにすぎないから,当業者にとって,何の困難もない。)。なお,引用発明は,導光体に光拡散処理を施すことに代えて,「光のガイド板5」(導光体)中に不透過性無機粒子を撒き散らすようにしたというものであるが,このことは,引用発明の「光のガイド板5」(導光体)につき,「導光体」に光拡散性を持たせて出射する光の輝度を均一にするという周知の技術的課題に基づき,「導光体」の表面に光拡散処理を施すという周知技術を適用することを否定するものではない。 (4) したがって,審決が,「導光体の表面に光拡散処理を行うことは,・・・当該技術分野において周知であるから,相違点(1)に係る本願発明の構成は,当業者にとって容易になし得る設計的事項にすぎない。」と判断したことに誤りはなく,取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(相違点(2)の判断の誤り)について (1) 刊行物には,本願発明の「導光体」に相当する「光のガイド板5」の材料について,「光のガイドの役割を果たす例えばメチルポリメタクリレートの如き透明プラスチック材料の板5」(2頁右下欄12,13行)との記載があり,「光のガイド板5」(導光体)中に含有される無機粒子について,「例えば二酸化チタン(ルチル)等の不透過性無機物質の粒子6が光のガイド板5中に撒き散らされる」(2頁右下欄16ないし18行),「光のガイド板となるプラスチック材料に対する微粉体の粒子物質の割合は0.01%乃至0.5%であるのがよい。」(3頁左上16ないし18行)との記載がある。 そして,本願明細書(甲2,3)には,「導光体」の材料について,「導光体12の材料としては,透明性プラスチックであればいかなるプラスチックでもよいが,メタクリル樹脂,・・・が好ましい。」(【0012】)との記載があり,「導光体」中に含有される「微粒子」について,「導光体12の内部に分散される微粒子は,光を拡散させるために,導光体12を構成するプラスチック材料と屈折率の異なる材料からなる。例えば,酸化チタン,・・・等の無機粒子・・・が挙げられる。」(【0013】)との記載があり,メタクリル樹脂板に微粒子として酸化チタンを含有させた実施例(実施例1,2,8,12)が記載されているところ,当業者であれば,刊行物の「メチルポリメタクリレートの如き透明プラスチック材料」との記載から,「透明プラスチック材料」として「メタクリル樹脂」を用いることや,刊行物の「二酸化チタン」が「酸化チタン」の一態様であることを当然に理解するものである。 そうすると,刊行物の記載に接した当業者は,「導光体」とこれに含有される「微粒子」の組合せとして,本願発明の実施例において,「導光体」を形成する「プラスチック材料」と「屈折率の異なる微粒子」の材料の組合せとして採用されている「メタクリル樹脂」(導光体)と「酸化チタン」(微粒子)の組合せを理解するとともに,「導光体」中に含有される「微粒子」の濃度として,本願発明が規定する「100ppm以下」という数値範囲に含まれる「100ppm」という値を理解するものと認められる。そうであれば,本願発明の相違点2に係る構成は,刊行物に記載されていることになるから,この点において,本願発明と引用発明とが相違しているということはできない, したがって,相違点2についての審決の判断に誤りがあるとしても,結論に影響を及ぼすものではない。 (2) なお,当事者の主張にかんがみ,相違点2についての審決の判断について,さらに検討することとする。 ア 実願平1-21472号(実開平2-113704号,平成2年9月12日公開)のマイクロフィルム(乙1)には,無機充填剤が分散されたメタクリル樹脂導光板を有する導光装置に関し,無機充填剤とメタクリル樹脂導光板の屈折率について,「本考案において用い得る無機充填剤は,屈折率が・・・メタクリル樹脂の屈折率と異なる屈折率を有し」(7頁2ないし4行),「前記充填剤の屈折率がメタクリル樹脂の屈折率と等しい場合は拡散効率が悪く,逆にあまりにも屈折率の差が大きいと,隠蔽性が出てくる」(7頁9ないし11行)との記載があり,無機充填剤の分布について,「本考案による導光装置に用いるメタクリル樹脂製導光板1は,メタクリル樹脂板の中に,照明ランプ3,3’に近い両端部では,無機充填剤(フイラー)2が低濃度に,該照明ランプ3,3’より遠い中央部では,無機充填剤2が高濃度で分散混合されているため,光量の多い照明ランプ3,3’に近い両端部では光拡散率が低く,出光面5よりの出光率(=出光量/光量)は小さくなるのに対し,照明ランプ3,3’から遠くなり光量が小さくなる中央部に行くに従って光拡散率が高くなるため,出光面5からの出光率が大きくなり,出光面5各部からの出光量(=光量×出光率)7が等しくなる。」(9頁10行ないし10頁2行)との記載がある。 実願昭55-131447号(実開昭56-58678号)のマイクロフィルム(乙2)には,微粒子が混入されたアクリル樹脂等の照明用導光板に関し,微粒子とアクリル樹脂等の導光板の屈折率について,「第3図は本考案による照明用導光板である。アクリル樹脂等により透明な導光板13の中に導光板を形成する物質とは埋(注:「屈」の誤記と認める。)折率の異なる・・・微粒子14を混入して光散乱効果を持たせたものである。」(4頁3ないし7行)との記載があり,微粒子の分布について,「微粒子14は照明ランプ3に近い部分では少量,照明ランプ31(「照明ランプ3」の誤記と認める。)に遠い部分では多量を混入することにより全体として均一な照明効果が得られる。」(4頁7ないし10行)との記載があり,導光板15の上面について,「第4図は本考案の他の実施例である。この実施例では照明効果を向上させるため,導光板15の上面16を光散乱面としたもので,この凹凸を設けることにより微粒子14の混入量を全体として少なくすること,又は照明ランプ3の近くはほとんど混入しないことが可能となる。」(4頁16行ないし5頁1行)との記載がある。 イ 上記1(1)のとおり,本願発明の出願当時,「導光体」を有する「光源装置」の技術分野において,「導光体」に光拡散性を持たせて出射する光の輝度を均一にすることは,周知の技術的課題であったところ,乙1記載の「メタクリル樹脂導光板」,「無機充填剤」,「照明ランプ」,乙2記載の「アクリル樹脂等により透明な導光板13」,「微粒子14」,「照明ランプ3」は,それぞれ本願発明の「導光体」,「微粒子」,「光源装置」に相当するから,上記アの記載によれば,本願発明の出願当時,上記周知の技術的課題を解決するために,「導光体」に該「導光体」を形成する「プラスチック材料」と「屈折率の異なる微粒子」を含有させることは,周知であったと認められる。 そうであれば,引用発明の「プラスチック材料」で形成された「光のガイド板5」(導光体)に,「導光体」に光拡散性を持たせて出射する光の輝度を均一にするという上記周知の技術的課題に基づき,「導光体」に該「導光体」を形成する「プラスチック材料」と「屈折率の異なる微粒子」を含有させるという上記周知技術を適用することは,当業者が容易になし得る程度の事項であるということができる。 そして,本願発明の相違点1に係る「導光体」の「少なくとも一つの表面に光拡散処理を施す」構成は,刊行物記載の「補助デイフューザ8」と同様に,「導光体」中の「微粒子」により散乱した光をさらに散乱させ,「導光体」全体の光拡散効果に寄与するものであるから,上記第2,3(1)カ及びキの刊行物の記載に基づき,もともと「導光体」中に100ppmの「微粒子」を含有することに争いのない引用発明において,「微粒子」の濃度を100ppm以下に設定してみることは,当業者が当然に試みる程度の事項にすぎない。 (3) 原告の主張について ア 原告は,刊行物でいう拡散効果とは,導光体中を伝搬する光を導光体から出射させる効果を意味し,輝度を高める効果を意味するものであって,無機粒子の含有量を0.5%以下の割合(5000ppm)とすることの意義は,上記第2,3(1)カの刊行物の記載にあるように,導光体の光源から離れた端部でも読取り可能となる程度の輝度が得られるということであり,導光体全体としての輝度の均一性を図ることを意味するものではないから,上記第2,3(1)カの刊行物の記載は,均一な輝度を得るに際して最適な濃度が必要であることを示唆するものではないと主張する。 上記第2,3(1)カの刊行物の記載によれば,「光のガイド板5」(導光体)は,「表示管1」を「読取り」のために照明するものであるから,導光体全体として「表示管1」を均一に照明することを前提としていることは明らかであり,また,「導光体」に光拡散性を持たせて出射する光の輝度を均一にすることが周知の技術的課題であることは,上記1(1)のとおりである。そうすると,刊行物記載の無機粒子の含有量5000ppm(0.5%)が,導光体の光源から離れた端部でも読取り可能となる程度の輝度が得られる濃度の上限であるとしても,このことは,無機粒子の濃度を高くしすぎると,導光体の光源から離れた端部の輝度が低下することを意味するにとどまるというべきであるから,刊行物にいう拡散効果は,導光体全体としての輝度の均一性を図るものであることを否定するわけではない。 そうすると,審決が,「刊行物の(1)カの記載は,引用発明の光のガイド板5が微粉体の粒子物質である不透過性無機粒子により全体として拡散効果を生み出すのであるから,・・・全体としての拡散効果つまり均一な輝度を得るに際して最適な濃度が必要であることを示唆するものと認められる。」と認定判断したことに誤りはない。 イ また,原告は,「光をより良く分布させる」という作用効果は,補助デイフューザ自体によってもたらされるものであって,無機粒子の濃度を減じることによって達成されるものではないから,上記第2,3(1)キの刊行物の記載は,無機粒子の濃度を低くすることにより,均一な輝度とし得ることを示唆するものではないと主張する。 (ア) しかし,審決は,「(1)キの記載によれば,強度に光を拡散させる補助デイフューザ8を有することにより,・・・より低い濃度でより良く光を分布させ得ること,言い換えると均一な輝度とし得ることが示唆されている。」と認定判断しているのであって,無機粒子の濃度を低くすることにより,均一な輝度とし得ることが示唆されているとしているわけではない。 (イ) のみならず,補助デイフューザは,「導光体」中の「微粒子」により散乱した光をさらに散乱させて,「導光体」から出射する光を拡散し,「導光体」から出射する光の輝度を均一化するものであるから,「導光体」の外部に出射される光が拡散される程度は,導光体中の微粒子と補助デイフューザとのそれぞれによる拡散度合の総和であるということができる。そうすると,導光体の外部に出射される光に所定の拡散効果を与える場合において,補助デイフューザを用いれば,補助デイフューザによる光拡散効果の分だけ微粒子による光拡散効果を減らす,すなわち,微粒子の濃度を減らすことができることは明らかである(このことは,上記(2)アのとおり,実願昭55-131447号(実開昭56-58678号)のマイクロフィルム(乙2)に,導光板15の上面について,「第4図は本考案の他の実施例である。この実施例では照明効果を向上させるため,導光板15の上面16を光散乱面としたもので,この凹凸を設けることにより微粒子14の混入量を全体として少なくすること,又は照明ランプ3の近くはほとんど混入しないことが可能となる。」(4頁16行ないし5頁1行)との記載があることからも裏付けられる。)。 そうすると,審決が,「(1)キの記載によれば,強度に光を拡散させる補助デイフューザ8を有することにより,拡散粒子の割合を減少させることが可能であり,拡散効果を過度に減ずることなしに光をより良く分布させ,つまり,より低い濃度でより良く光を分布させ得ること,言い換えると均一な輝度とし得ることが示唆されている。」と認定判断したことに誤りはない。 ウ さらに,原告は,本願発明は,100ppm以下の範囲で微粒子を含有させることにより,導光体の表面に施した光拡散処理による導光体の出射面内での輝度の均一性を損なうことなく,より一層の輝度の向上を達成したのに対し,引用発明には上記のような本願発明の技術思想はなく,刊行物にはこれを示唆する記載もないと主張する。 しかし,技術常識によれば,審決が説示するように,「粒状物質の拡散効果については,濃度のみではなく,粒状物質そのものの具体的材質や形状,大きさ等も通常,関連する考慮すべき事項である」ということができる(このことは,刊行物に,粒子の大きさについて,「光のガイド材料中に分布する粒子6はそれ自体が拡散体であり,光源4から発せられガイド板5によって導かれる光の拡散効果を生み出す。・・・注目すべきことは,粒子6の寸法が肉眼での視感限界に近い大きさのもの,即ちミクロン程度のものが選ばれることである。一般にはこの寸法は0.5乃至10ミクロンの間に含まれる。実際,更に小さな寸法では期待した効果が得られず」(3頁左上欄3ないし12行)として,光の拡散効果が粒子(微粒子)の粒径によることが記載されており,また,実願平1-21472号(実開平2-113704号)のマイクロフィルム(乙1)に,無機充填剤とメタクリル樹脂導光板の屈折率について,「本考案において用い得る無機充填剤は,屈折率が・・・メタクリル樹脂の屈折率と異なる屈折率を有し」(7頁2ないし4行),「前記充填剤の屈折率がメタクリル樹脂の屈折率と等しい場合は拡散効率が悪く,逆にあまりにも屈折率の差が大きいと,隠蔽性が出てくる。」(7頁9ないし11行)として,光の拡散効果が無機充填剤(微粒子)とメタクリル樹脂導光板(導光体)の屈折率差によることが記載されていることなどからも裏付けられる。)。 そうすると,上記第2,3(1)カ及びキの刊行物の記載を併せ考えると,プラスチック材料や微粒子の具体的な材質や形状,構成,また,照明装置としての構成等に応じて微粒子の濃度を設定することは,刊行物の記載に基づき当業者が適宜なし得る設計事項であるということができるから,当業者であれば,刊行物記載の示唆,周知の課題や周知技術に基づき,微粒子の含有量を100ppm以下とすることについて,容易に想到することができると認められる。そして,本願明細書(甲2,3)に記載された,「【発明の効果】以上の通り,本発明によれば,導光体表面に光拡散層を形成するとともに,内部に屈折率の異なる微粒子を特定量含有する光散乱性を有するプラスチック材料により導光体を形成することにより,出射光の輝度をより高くすることができる。」(【0021】)という効果も,当業者が,引用発明や周知技術から予測し得る範囲内のものであると認められる。 エ なお,原告は,微粒子の含有量を100ppm以下とした本願発明の数値は,特別な限界的意義を有するものであって,原告が実施した追試実験の結果(甲5,6)でも確認されていると主張する。 甲5,甲6の実験は,微粒子の含有量を0ppm,80ppm,100ppm,200ppmとしたときの輝度を測定したものであるが,100ppm以上の場合の濃度間隔(200ppm-100ppm=100ppm)が100ppm以下の場合の濃度間隔(100ppm-80ppm=20ppm)の5倍であることにかんがみると,100ppmを境に不連続な変化が生じているとは認め難い。しかも,「粒状物質の拡散効果については,濃度のみではなく,粒状物質そのものの具体的材質や形状,大きさ等も通常,関連する考慮すべき事項である」とともに,微粒子と導光体の屈折率差も考慮すべきことは上記のとおりであるから,逆転現象(200ppmの場合が100ppmの場合に比較して輝度が低下すること)が起きるか否かは,光源からの距離や濃度以外の各種条件にも依存することが明らかである。そうすると,追試実験(甲5,6)の実験結果によっても,直ちに,100ppm以下とした本願発明の数値に特別な臨界的意義があると認めることはできない。 (4) したがって,審決が,「微粒子を,周知のプラスチック材料と屈折率の異なる屈折率を有する有機微粒子とし,その濃度を100ppm以下と設定することは,当業者が容易になし得ることと認められる。」と判断したことに誤りはないから,取消事由2は理由がない。 |
|
結論
以上のとおりであって,原告の主張する審決取消事由は理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
---|---|
裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 野輝久 |