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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成11ワ21280特許権不侵害確認請求事件 平成12ワ7516特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成11ワ24433特許権損害賠償等請求事件 判例 特許
平成12ワ12728特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成12ワ13799特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成12ワ5352-A 特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 冒認出願(冒認) /  特許を受ける権利 /  承継 /  発明者 /  職務発明 /  進歩性(29条2項) /  技術的範囲 /  出願公開 /  発明の詳細な説明 /  着想 /  実施料相当額 /  盗用 /  権利の濫用(権利濫用) /  置き換え /  特許発明 /  実施 /  先使用権(先使用) /  交換 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  乗じた額 /  実施料 /  相当因果関係 /  実施権 /  通常実施権 /  知らないで /  発明の実施である事業 /  事業の準備 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  費用の額 / 
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事件 平成 11年 (ワ) 9226号 特許権侵害差止請求事件
原告 【A】右訴訟代理人弁護士 伊東隆右補佐人弁理士 久保司
被告 ネクサス株式会社右代表者代表取締役 【B】 右訴訟代理人弁護士 永野周志
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2001/01/30
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の請求
一 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の写真付葉書の製造装置を製造、販売、頒布してはならない。
二 被告は、原告に対し、二一九四万七〇〇〇円及びこれに対する平成一一年五月二一日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、写真付葉書製造装置の特許権を有する原告が、被告に対し、被告の製造販売する装置が原告の特許発明技術的範囲に属し、その製造販売が右特許権を侵害すると主張して、特許権に基づき製造販売行為の差止め並びにに補償金及び損害賠償を求めたのに対し、被告が、冒認出願を理由とする特許無効などを主張して争っている事案である。
一 当事者間に争いのない事実 1 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。
(一) 特許番号 第二一二八九九六号(二) 発明の名称 写真付葉書の製造装置(三) 出願年月日 平成四年三月一八日(四) 出願番号 特願平四ー九一四一四(五) 公開年月日 平成五年一〇月一二日(六) 公開番号 特開平五ー二六二〇七五号(七) 公告年月日 平成七年一〇月一八日(八) 公告番号 特公平七ー九六三五二号(九) 登録年月日 平成九年五月二日 2 本件特許権に係る願書に添付した明細書(平成七年一月二〇日付け手続補正書による補正後のもの。以下「本件明細書」という。本判決末尾添付の特許公報(甲二。以下「本件公報」という。)を参照)の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである(以下、この発明を「本件特許発明」という。)。
「写真ペーパーを送り出し保持するロールフィーダー、該ロールフィーダーから引き出した写真ペーパーにテンションを与える逆回転テンションローラ、テンション状態の写真ペーパーの一面に糊付けをする糊付け装置、写真ペーパーの糊付け面に葉書用紙を一枚ずつ排出する葉書用紙ボックス、写真ペーパーの葉書用紙貼付け部分を残して余白を除去するカッターを順次配設した写真付葉書の製造装置において、葉書用紙ボックスは底部の排出口に段積みされた葉書用紙の最下段のものを挾着して送り出す送り出しローラー装置として繰り出しローラーとこの繰り出しローラーに連動するものとして該繰り出しローラーに近接して設ける駆動ローラーの組合わせからなるローラー装置を設け、さらに、糊付け後の写真ペーパー走行ラインの写真位置を検出する位置センサーを設け、この位置センサーでの写真ペーパー移動検知出力と前記送り出しローラー装置のローラーの駆動とを同期させるようにし、また、葉書用紙ボックスは底部に、段積みされた葉書用紙の最下段から上の数枚の葉書用紙の後端を上のものが外側に出るように傾斜段にする跳ね上げ板を設け、前記糊付け装置から先の写真ペーパーが走行するラインに近接してこの糊付け装置と間隔を存して霧発生器を設けたことを特徴とする写真付葉書の製造装置。」 3 本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載を分説すると、次のとおりである(以下、それぞれを「構成要件A」などという。)。
A 写真ペーパーを送り出し保持するロールフィーダー、該ロールフィーダーから引き出した写真ペーパーにテンションを与える逆回転テンションローラ、テンション状態の写真ペーパーの一面に糊付けをする糊付け装置、写真ペーパーの糊付け面に葉書用紙を一枚ずつ排出する葉書用紙ボックス、写真ペーパーの葉書用紙貼付け部分を残して余白を除去するカッターを順次配設した写真付葉書の製造装置において、
B 葉書用紙ボックスは底部の排出口に段積みされた葉書用紙の最下段のものを挾着して送り出す送り出しローラー装置として繰り出しローラーとこの繰り出しローラーに連動するものとして該繰り出しローラーに近接して設ける駆動ローラーの組合わせからなるローラー装置を設け、
C さらに、糊付け後の写真ペーパー走行ラインの写真位置を検出する位置センサーを設け、この位置センサーでの写真ペーパー移動検知出力と前記送り出しローラー装置のローラーの駆動とを同期させるようにし、
D また、葉書用紙ボックスは底部に、段積みされた葉書用紙の最下段から上の数枚の葉書用紙の後端を上のものが外側に出るように傾斜段にする跳ね上げ板を設け、
E 前記糊付け装置から先の写真ペーパーが走行するラインに近接してこの糊付け装置と間隔を存して霧発生器を設けたことを特徴とする写真付葉書の製造装置。
4 被告は、平成五年一月から、別紙物件目録記載の写真付葉書製造装置(以下「被告製品」という。)を製造、販売している。
5 被告製品は、別紙物件目録及び同目録添付の写真に示すとおりであるが、これによれば、被告製品は本件特許発明構成要件をすべて充足し、本件特許発明技術的範囲に属する。
6 被告は、本件特許発明出願公開の日である平成五年一〇月一二日以降平成一〇年までの間に、少なくともコダックイマジェックス株式会社に対し、被告製品を売却して四三二九万円の売り上げを得た。
二 本件における争点 1 原告の本件特許出願は冒認出願であり、本件特許が無効であることから、原告の本件特許権に基づく権利行使が権利の濫用に当たるか。
2 被告は職務発明による通常実施権を有するか。
3 被告は先使用による通常実施権を有するか。
4 原告の請求することのできる補償金及び損害賠償の額はいくらか。
三 争点についての当事者の主張 1 争点1(原告の本件特許出願は冒認出願であり、本件特許が無効であることから、原告の本件特許権に基づく権利行使が権利の濫用に当たるか)について(一)被告の主張 本件特許発明を構成する各構成要件については、いずれも本件特許出願前に被告の開発チームが既に開発していた(これらに関して、被告は、平成元年から同四年までに自ら特許を出願している。)。
本件特許発明は、構成要件AないしEの各構成要件を組み合わせたものであるところ、このような組合わせ自体は、被告会社の当時の代表取締役であった【C】(平成一〇年八月まで同職。以下「【C】」という。)が、被告製品(機種名「PCH4000」)として、本件特許出願前に発明していたものである。
原告は、朝日化成株式会社(被告の関連会社)との間の平成二年四月一日付け嘱託契約に基づき、平成四年当時、被告に対して技術指導を行っており、被告の開発チームの会議に出席していたことから、本件特許発明の各構成要件及びその組合わせを知るに至り、これを奇貨として、本件特許発明について特許出願したものである。
したがって、本件特許は、冒認出願として無効であり(特許法123条1項6号)、原告が本件特許権に基づき差止請求権等を行使することは、権利の濫用に当たり、許されない。
(二)原告の主張 本件特許発明構成要件はすべて原告の発明によるものであるが、殊に、構成要件D、Eは、本件特許出願以前に被告が特許出願した発明(平成三年一一月一三日出願・平三ー三五三五四五号。乙九)にない構成であり、原告の発明によるものであることが明らかである(平成一二年六月二六日付け原告準備書面参照)。
構成要件Eについては、被告は、平成四年一月二七日の時点では蒸気の発生による糊の再生方法について何ら考えついていなかった(このことは甲一〇により明らかである。)にもかかわらず、同年二月四日にはその機械図面の作成を完了している。被告独力ではこのようなことは時間的にあり得ないことであって、同月初めに原告がその発明に係る蒸気による糊の再生について具体的に教示したからこそ、可能となったのである(平成一二年九月三〇日付け原告準備書面参照)。
2 争点2(被告は、職務発明による通常実施権を有するか)について(一)被告の主張 仮に冒認出願の主張が認められないとしても、原告は、被告の技術顧問であったことから、PCH4000プロトタイプとPCH4000実用機(被告製品)の開発に従事した。また、PCH4000プロトタイプが抱える技術的問題を職務として解決すべき立場にあった。
本件特許発明は、PCH4000プロトタイプに構成要件Dの技術と構成要件Eの技術を用いたものであることを特徴とする。したがって、本件特許発明職務発明性は、構成要件D及び構成要件Eの技術それ自体の発明と、それをPCH4000プロトタイプに用いることが職務性を有しているかどうかにより決定されるところ、原告は職務として構成要件D及び構成要件Eの技術を発明し、職務としてこれをPCH4000プロトタイプに用いたものである。
したがって、被告は、特許法35条に基づき職務発明による通常実施権を有する。
(二)原告の主張 原告の技術指導契約の相手方当事者は被告ではなく、別法人である朝日化成株式会社であった。したがって、被告は原告の使用者ではなく、原告は被告の従業員とはいえない。また、原告が締結していたのは、技術指導の顧問契約であり、同契約に基づいて行われるのは、被告の求めに応じ、あるいは原告の判断で原告の知識を基に行うアドバイスであって、原告は被告の指揮監督を受ける立場ではないから、
特許法35条は適用されない。また、原告の発明は被告との関係が生じる前にされていたものであるから、この点からいっても、特許法35条は適用されない(平成一二年一〇月一九日付け原告準備書面(二)参照)。
3 争点3(被告は、先使用による通常実施権を有するか)について(一)被告の主張 被告は、本件特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、本件特許出願がされた平成四年三月一八日の時点において、その発明の実施である事業の準備をしていたから、特許法79条に基づき、先使用による通常実施権を有する。
すなわち被告は、平成三年一〇月に、本件特許発明構成要件のうちA〜Cを充足するPCH4000プロトタイプを完成させていたところ、平成三年一二月に行われたユーザー各社による同機のユーザー評価において、@ 葉書用紙を固定ローラーになじませる操作が大変であり手間がかかる、A PCH4000プロトタイプの運転をいったん停止した後に運転を再開すると写真が貼付されないロスが出る、、などの点が指摘された。そこで、これを受けて、被告は、平成三年一二月一三日社内対策会議を開き、その後、構成要件D、Eに相当する跳ね上げ板と蒸気発生器とを、開発した。すなわち、@については偏芯軸を有する揺動ローラーを跳ね上げ板に替えるなどの改良を加え、Aについては【C】が蒸気発生器を発明することによって、平成四年二月一〇日ころ、本件特許発明構成要件をすべて充足するPCH4000実用機、すなわち被告製品の発明を完成させた。
被告が被告製品を現実に販売したのは、平成四年九月以降になってからであるが、これは被告がそれ以前に被告製品の実施の準備をしていなかったからではなく、年末に大量かつ集中的に発生する年賀状の需要に対応するためにユーザーが例年毎年八月ころにポストカード貼付機の購入機種を選定しているというポストカード貼付機の需要の季節変動性に由来するものである。被告は、平成三年一二月のユーザー評価の後、ユーザーが設定するポストカード貼付機購入のタイムスケジュールにあわせてPCH4000プロトタイプの改良を行い、平成四年二月一〇日ころ被告製品(PCH4000実用機)の発明を完成させ、また、同年三月一四日までには被告製品を製作したが、これらのことを、その都度、ユーザー各社に連絡した上で、被告製品を販売することを伝えており、ユーザー各社から被告製品(PCH4000実用機)の発注があれば直ちにこれに応じる明確な意図を有するとともに、これに応じることが可能な程度までに販売の準備をしていた。そして右によれば、被告が被告製品を販売するなど被告の発明を即時に実施する意図は、客観的に認識される態様、程度において表明されていたということができる。
(二)原告の主張 被告は、特許法79条に定める先使用による通常実施権を有する旨の主張をするが、被告が平成三年一〇月に完成したとするPCH4000プロトタイプは、本件特許発明構成要件のうち、構成要件D、E(跳ね上げ板と霧発生器の構成)を欠くものである。さらに被告は、平成四年三月二日の会議で平成四年三月一四日までに実用機を完成させることを決め、同月二六日、二七日に実用機の一号デモを行ったと主張するが、本件特許出願の日である平成四年三月一八日以前に、跳ね上げ板と霧発生器を備えた被告製品(PCH4000実用機)を完成させたことの立証は何ら行っていない。また、被告が先使用による通常実施権を有するためには、かなりの投資が行われていなければならないが、平成四年三月二日から同月一八日までに、跳ね上げ板と霧発生器に対して、投資が十分行われていたとは認めがたいし、被告製品の製造が認められるとしても、販売にすら至っていない。また、被告が実施したとする跳ね上げ板や霧発生器は、これを採用するに際しては、本件特許発明発明者の発明と知得経路を別にしていないから、この点においても、特許法79条に定める先使用による通常実施権の要件を欠く(平成一二年一〇月一九日付け原告準備書面参照)。
4 争点4(原告が請求することのできる補償金及び損害賠償の額はいくらか)について(一)原告の主張 被告は、原告が本件特許の出願を行っていることを事前に知っており、出願公開されたことも、そのころ原告から告げられて知っていたものであり、仮にそうでなかったとしても、平成六年四月二六日に本件特許権の公開された資料を入手していた(平成一一年八月二五日付け原告準備書面参照)。
被告製品について本件特許発明実施する場合の実施料相当額は、販売価額の三〇パーセントである。そうすると、原告が請求することのできる補償金及び損害賠償(特許法102条3項)の合計額は、被告製品の販売額四三二九万円に三〇パーセントを乗じた額である一二九八万七〇〇〇円である。
また、原告は、本件訴訟の追行を弁護士に委任し、補佐人として弁理士を選任したところ、被告の特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は四四八万円であり、弁理士費用の額は、四四八万円である(訴状参照)。
(二)被告の主張 原告の右主張は争う。
当裁判所の判断
一 本件では、被告製品が本件特許発明構成要件をすべて充足し、その技術的範囲に属することは、当事者間に争いがない。
したがって、被告の主張する、(1)冒認出願による本件特許の無効を理由とする権利濫用、(2)職務発明による通常実施権、(3)先使用による通常実施権、を認めることができるかどうかが、争点となる。
そこで、まず、本件に関する事実関係を概括的に認定した上で、被告の右各主張について判断する。
二 本件に関する事実関係 1 本件特許権について 証拠(甲二、五、乙二、三四〜三七)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1)本件特許発明は、ロール状に巻かれた多数枚の写真を巻き戻すことにより、
連続して送りながら、その裏面に糊を塗布し、別途に葉書供給装置から送られてくる葉書と写真とを貼り合わせる、写真付葉書の製造装置に関するものである。
(2)従来技術として、連続的に送られてくる糊が塗布された写真ペーパーの裏面に対し、葉書用紙ボックスを円運動(揺動)させることにより、葉書を一枚ずつ供給する方法による装置がある。この従来装置は、本件特許発明の出願の審査で拒絶理由通知における引用例とされたコダック・イマジカ株式会社(以下「コダックイマジカ」という。)の出願に係る特開昭六三ー二七四五九四号公開特許公報(甲五)及び被告の出願に係る特開平三ー七二三五一号公開特許公報(右特許権の特許公報(乙二)参照)に記載されたものと同一である。
しかし、この円運動方式の葉書供給装置では、写真ペーパーの送りと同期が取り難く、また葉書の交換等のため作業を中断したときに、糊付け部から葉書供給装置までの間にある写真の裏面の糊が乾いてしまい、作業を再開したときにこれらの写真が無駄になってしまうという問題点があった。本件特許発明は、これらの問題点を解決することを課題としている。
(3)本件明細書の発明の詳細な説明欄及び本件特許に係る願書に添付した図面(以下「本件図面」という。)に記載された実施例の動作の内容は、概要、次のようなものである(本件公報参照)。
ロールフィーダー1から巻き戻される写真ペーパー2は、逆回転テンションローラー13を通過することで、それから下流のペーパーは張力を与えられて、しっかり張られた状態になって、次の糊付け装置へ送られる。
糊付け装置14は、本件図面のうち図4〜6に示すとおりであって、被告出願の装置と同様であり、図3、4のような断面を有している。糊パイプ36中から小孔を通して少量ずつ下方の糊留まり部49にたまった糊を写真裏に塗布し、塗布作業をしないときは、図4のように上に向けておくものである。
塗布された糊は、接着力を増すために、乾燥エアーパイプ19により適度に乾燥させられる。
一方、葉書は、図3の葉書用紙ボックス20に積層されており、その下端部の跳ね上げ板25が偏芯カム26の回転により振動することで、下側の葉書ほど前端が出る状態にされる。
貼り合わされるべき写真ペーパーは、位置センサー30により位置を感知されており、それと同期して送り出しローラー装置24の駆動ローラー24bが駆動されることにより、葉書が一枚ごとに供給され、写真と貼り合わされる。
貼り合わされたものは、圧着ローラー15により、圧着された後に、ロータリーカッター16により、先頭部分を幅方向に切断され、次に両測端をスリッター17で切断され、最後にギロチンカッター18で後端を切断されて、製品となる。
写真ペーパーの送られるラインと葉書供給のラインとの合流点の手前に、霧発生器46が設けられており、作業を一時中断した後の再開時には、霧発生器46から霧を噴霧することで、糊付け装置から下流の一旦塗布されて乾燥した糊の粘着性を回復させることができ、写真を無駄にしないですむ。
(4)本件特許出願時における明細書(平成七年一月二〇日付け手続補正書による補正前のもの。乙三四)における特許請求の範囲の記載は、請求項1は、葉書の送り出しローラー装置と写真の位置センサーによる検知出力とを同期させる点について記載しており、請求項2はそれに跳ね上げ板を付加したもので、請求項3は糊付け装置を移動させることを記載したものであった。
それに対し、特許庁により、請求項1と2について、前記の特開昭六三ー二七四五九四号公開特許公報、特開平三ー七二三五一号公開特許公報等を引用例として進歩性なしとする平成六年一一月二二日付け拒絶理由通知(乙三五)がされたため、
原告は、平成七年一月二〇日付け手続補正書(乙三六)により、請求項1に、当初は発明の詳細な説明欄にのみ記載していた霧発生器を加え、さらに請求項2の跳ね上げ板も加えて、新たな請求項1とし、拒絶理由がなかった請求項3を請求項2に繰り上げる補正をし、その結果、出願公告されたものである。
このような本件特許の審査経過及び拒絶理由通知に記載された引用例には霧発生器及び跳ね上げ板についての記載がなかったことに加えて、前記認定の本件特許発明の分野、課題、実施例の構成とを併せ考慮すると、本件特許発明(請求項1にかかる発明)における最も特徴的な構成は、霧発生器であり、次いで跳ね上げ板であるということができる。
2 本件特許出願の前後における被告の活動等について 右のとおり、本件特許発明における最も特徴的な構成は、霧発生器であり、次いで跳ね上げ板ということができるが、前記の争いのない事実(第二、一記載)に証拠(甲二〜五、六の1、2、七、九、乙一〜一〇、一一〜一三の各1、2、一四〜一七、一八、一九の1、2、二〇、二一、三八、三九、五五〜五八、六〇〜六二、
七四〜八〇、八二、証人【D】、同【E】、原告本人、被告代表者本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件特許出願の前後における被告の活動等の概要は、次のとおりである。
(1)被告従業員である【D】(以下「【D】」という。)は、昭和六二年一一月一八日、糊塗布装置を設計し(乙一一の1、2)、被告は、昭和六三年一〇月、円運動方式の試作機PC01を製作し、円運動方式の実用機PC02の製作を経て、
平成元年八月一二日、糊塗布装置等の特許出願(特願平一ー二〇九三三二号。乙二)を行った。また、被告は、この時期に、前後して数件の関連特許の出願をしている(乙一〜八)。その後、被告は、円運動方式の開発については打ち切り、平成三年一〇月には、跳ね上げ板及び霧発生器を備えていないPCH4000プロトタイプを完成させ、同年一一月一三日、同機について特許出願をした(特願平三ー三五三五四五号。乙九。以下、右出願に係る発明を「被告第九発明」という。)。
(2)被告第九発明と本件特許発明とを比較すると、被告第九発明は、跳ね上げ板と霧発生器を備えていないが、それ以外は、本件特許発明に係る明細書及び図面に記載されている前記認定の実施例と同一の構成である。
なお、被告第九発明の願書に添付した図面(乙九における図5)に示されている葉書セット51の下端には、偏芯して回転する揺動ローラー56が設けられており、葉書をさばいて、下方ほど少しずつ先端を出すようにされているが、本件特許発明実施例では、揺動ローラーで直接に葉書をさばくのではなく、揺動ローラーと同様に偏芯回転する偏芯カムを介して上下動する跳ね上げ板に置き換えており、
さらに、写真ペーパーのラインに霧発生器が設けられている。
(3)被告は、平成三年一一月から平成四年一月にかけて、PCH4000プロトタイプのユーザー評価を受けた。この評価の過程で、前記の本件特許発明の課題が問題点として認識され、被告において、平成三年一二月一三日に社内対策会議、平成四年一月一三日に社内会議が開催された。
(4)問題点のうち、葉書供給装置については、平成三年一二月一三日の社内対策会議における葉書用紙供給装置の問題点の指摘を踏まえて、偏芯軸を持った揺動ローラーを、パソコンやファックスのプリンターの用紙供給装置に広く用いられている構成である、偏芯回転する偏芯カムを介して上下動する跳ね上げ板に取り替えることとし、被告従業員【D】が、平成四年一月一〇日、右構成を含んだ「ハガキ繰り出し部組立図」(乙七四)を作成し、被告は、翌一月一一日に、偏芯カムに係合された跳ね上げ板を製作し、揺動ローラーに替えてこれをPCH4000プロトタイプに取り付けたところ、良好に作動した。右改良については、同月一三日の社内会議において【D】が報告した。
(5)次に、霧発生器については、平成四年一月一三日の社内会議の時点で、被告は、PCH4000プロトタイプにおいて写真の裏面の糊が乾いてしまう原因が、
被告が用いている水溶性糊が乾燥しやすい点にあることを認識していたものであるが、同月一五日ころ、【C】は、乾燥した水性糊に蒸気を噴霧することにより乾燥した水性糊の粘着力を回復させることを着想し、【C】の指示により被告従業員である【D】らが、家庭用加湿器及びスチームアイロンを用いた実験を行い、【C】の右着想の有効性を確認した。そして、同年二月四日、被告従業員の【B】(現在の被告代表者。以下「【B】」という。)が、蒸気発生器一号機を設計し(乙七五)、その直後に蒸気発生器一号機を製作した。しかし、蒸気発生器一号機は熱容量が不足しており商品としては満足できるものではなかったことから、【B】は、
同月二一日から二四日にかけて蒸気発生器二号機を設計した(乙七六ないし八〇)。被告は、遅くとも同年三月一四日までに蒸気発生器二号機を製作して、これをPCH4000プロトタイプに取り付けた。なお、被告は、右蒸気発生器について、平成四年五月八日に特許出願している(特願平四ー一五九九六九号。乙一〇)。
3 本件特許出願の前後における原告の行動について そこで、次に、本件特許出願の前後における原告の行動は、前掲各証拠(前記2冒頭掲記)によれば、次のとおりである。
(1)原告は、被告の嘱託として、被告による写真付葉書製造装置の開発に当たり技術的事項について助言及び指導を行うべき立場にあったもので、被告開発チームのミーティングに出席して、右装置の開発状況を十分に知悉していた。
(2)原告は、平成四年一月一三日の被告の社内会議に出席していたが、右会議において、被告従業員【D】が、PCH4000プロトタイプの葉書供給装置につき、従来の揺動ローラーに替えて偏芯カムに係合された跳ね上げ板を取り付ける改良を施したところ、良好に作動した旨の報告を行ったことから、右跳ね上げ板による改良の内容を知った。
右会議の際に、原告が、【B】に対して、被告の第九発明の特許出願(PCH4000プロトタイプの特許出願)に不都合がないか検討したいから、PCH4000プロトタイプの全体レイアウト図が欲しい旨を延べたことから、【B】は、同日、右全体レイアウト図(乙一六)のコピーを原告に交付した。
(3)平成四年二月四日ころ、【C】は、原告を同道してフジカラーサービス五反田営業所を訪れ、同社の【F】課長に面会して、蒸気発生器で蒸気を噴霧することによりPCH4000プロトタイプの問題点を解決した旨を報告した。原告は、
【C】の右報告の場に同席したことにより、被告がPCH4000プロトタイプに蒸気発生器を取り付けたことを知った。
三 争点1ないし3(冒認出願職務発明及び先使用)についての判断 1 争点1(冒認出願による本件特許の無効)について(1)前記認定の事実関係によれば、被告第九発明、すなわちPCH4000プロトタイプは、本件特許発明構成要件のうちAないしCを備えた写真付葉書製造装置であるところ、被告は、これに、構成要件Dに該当する偏芯カムに係合された跳ね上げ板を取り付け、更に構成要件Eに該当する蒸気発生器を取り付けることにより、平成四年三月一四日までに本件特許発明構成要件のすべてを備えた被告製品(PCH4000実用機)を独自に完成したものである。
そして、原告は、被告の嘱託として被告による被告製品(PCH4000実用機)の開発状況を知り得る立場にあったことから、被告製品の構成をそのまま特許出願したものである。したがって、本件特許は、特許法123条1項6号所定の冒認出願に該当するものであり、無効となることを免れないものというべきである。
(2)この点につき、原告は、本件特許発明構成要件はすべて原告自身の発明であるとして、被告が写真付葉書の製造に関して出願した一連の特許は、いずれも原告の発明を無断で盗用して出願したものであり、構成要件Dに該当する跳ね上げ板及び構成要件Eに該当する蒸気発生器も原告の発明によるものであると主張する。
しかしながら、写真付葉書の製造に関して出願した一連の特許が被告開発チームによる開発に係るものであり、被告第九発明(PCH4000プロトタイプ)も被告開発チームにより完成されたものであることは、前掲各証拠(前記二2冒頭掲記)により明らかに認められるところである。他方、原告は、この点につき、陳述書(甲四、六の1、2)及び本人尋問においても、自らがこれらの発明をした具体的状況や、嘱託として被告に対して指導ないし提供した具体的な技術的内容について述べず、右主張の裏付けとなる設計図等の書証も提出しない。
(3)また、被告製品(PCH4000実用機)に使用されている構成要件Dに該当する跳ね上げ板を被告が独自に開発したことは、証拠(乙三八、七四、八二、証人【D】、被告代表者)により認められるところであり、殊に、昭和六三年二月にコダックイマジカ横浜工場から被告に送付された「ローラー方式繰出し装置の実験機」における跳ね上げ板(平成一二年六月二六日付け原告準備書面末尾添付の図面参照)とは異なる構造の「ハガキ繰り出し部組立図」(乙七四)が、被告従業員【D】により平成四年一月一〇日に作成されており、被告製品の跳ね上げ板が右組立図に基づいて製作されたことからも、明らかである。
(4)被告製品(PCH4000実用機)に使用されている構成要件Eに該当する蒸気発生器について、原告は、作業を中断したときに写真の裏面の糊が乾くという問題点の解決手段として、蒸気を吹き付けて水性糊を再生するという考えを、平成元年一二月以前のコダックイマジカに勤務していた時に既に有しており(原告本人尋問)、平成四年二月三日に【C】と共にフジカラーサービス調布本社を訪れた際に、【C】に対して右の考えを教示した(陳述書。甲四)と述べる。しかしながら、コダックイマジカ勤務時に蒸気を噴霧する考えを持っていたという原告の供述は、これを裏付ける設計図その他の何らの書証も存在しないばかりか、当時原告が右着想を有していたことを知る第三者も存在しないものであり、@ 作業を中断したときに写真の裏面の糊が乾くという問題は、被告の用いている水溶性の糊に特有の問題点であり、他のメーカーでは起こらないものであったこと(コダックイマジカにおいて用いられていた糊は、同じ水溶性でも性質が異なる〔【D】証言一一頁参照〕。)、A 従来から原告は機械は止めてはいけないという基本的な姿勢をとっていたものであり、機械を停止した場合に写真の裏面の糊が乾くという、そもそも機械を停止することを前提とした問題の解決を考えることは原告の右基本姿勢と矛盾すること、B 仮に原告がコダックイマジカ勤務時に蒸気を噴霧する考えを持っていたのであれば、PCH4000プロトタイプの問題点を認識していながら、
被告開発チームのミーティングや社内会議等の機会に改善策として提案していないのは不自然であること(平成四年一月一三日の社内会議においても、原告は、問題点の解決策として糊の二度塗り方式を提案しているだけで、蒸気を噴霧する方法には言及していない。)に照らせば、到底措信できない。また、C 平成四年二月三日に【C】に右の考えを教示したという点について、原告は、「私が『糊はそのままでいけるんですよ』と答えると、社長は長く黙って考え込んでいた。そして、電車の中で突然『あ、蒸気ですか、水を塗るんですか、霧もありますね』と叫んだ。
私はただ頷いていた。」(陳述書〔甲四〕七頁)と述べるが、右内容はきわめて不自然であり、また、【C】が蒸気の噴霧を利用する方法を独自に着想したことを否定するものではないこと、D 平成四年二月三日に【C】に考えを教示したというのでは、同年二月四日に蒸気発生器一号機の設計図(乙七五)が完成していることと時間的に整合しないことからすれば、平成四年二月三日に【C】と共にフジカラーサービス調布本社を訪れた際に、【C】に対して蒸気を利用する考えを教示したという原告の供述も、措信できない。
また、原告は、被告から原告に平成四年一月二七日に送信された「PCHー4000検討結果」と題するファクシミリ文書(甲一〇)を根拠に、被告は平成四年一月二七日の時点では蒸気を利用した方法を思い付いていないと主張するが、右文書は、その形式及び記載内容に照らし、同年一月一三日の被告の社内会議の結果を記載した記録文書であると認められ、また、前記認定の各事実に照らしても、原告の右主張は採用できない。
(5)本件特許の願書に添付された図面1(本件公報参照)を、PCH4000プロトタイプの全体レイアウト図(乙一六)と比較すると、両者は細部にわたって一致するものであり、このことから、原告は、被告から入手したPCH4000プロトタイプの全体レイアウト図を利用して本件特許出願を行ったものと認められる。
また、本件特許の図面1には、跳ね上げ板が記載されておらず、構成要件Eの霧発生器については、本件明細書の発明の詳細な説明欄においては、「霧発生器での噴霧で適度の湿り気を与えることで糊の粘着性を回復させる」との記載があるだけで、その具体的な構成についての記載がなく、具体的構造を示す図面もないが、これは、原告が本件特許出願をした時点では、原告は、被告製品(PCH4000実用機)の全体レイアウト図を入手しておらず、被告が製作した蒸気発生器の内容も知らなかったためというべきであり、この点からも、原告が、跳ね上げ板を含めた装置全体の構造について想到しておらず、霧発生器について独自に着想したものではないことが認められ、右は、前記認定のとおり原告が本件特許を冒認出願した事実と符合するものである。
(6)右によれば、本件特許発明は、【C】又は被告従業員により発明されたものであり、原告による本件特許出願は、発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利承継しない者による出願であるから、本件特許は、特許法123条1項6号により無効とされることを免れない。
そして、特許に無効理由が存在することが明らかであるときは、その特許権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されないと解するのが相当である(最高裁平成一〇年(オ)第三六四号同一二年四月一一日第三小法廷判決・民集五四巻四号一三六八頁)から、原告による本訴請求は権利濫用に当たり許されない。
2 争点3(先使用による通常実施権)について なお、付言するに、右のとおり、本件特許は、冒認出願により無効とされるべきものであるから、原告の本訴請求は権利の濫用に当たり許されないものであるが、
前に判示したとおり、被告は平成四年三月一四日までに本件特許発明構成要件のすべてを備えた被告製品(PCH4000実用機)を独自に完成したものであり、
また、本件特許出願(平成四年三月一八日)の際に発明の実施である事業の準備をしているものであるから(乙八二、八三、被告代表者によれば、被告は、平成四年三月一〇日、一二日、一八日には既に九州各所において被告製品(PCH4000実用機)売り込みの営業活動を行い、顧客からの注文があればこれに応じることのできる態勢を整えていたことが認められる。)、特許法79条に基づき先使用による通常実施権も認められるものである。
四 結論 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 和久田道雄
裁判官 田中孝一
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