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関連審決 審判1998-35443
関連ワード 進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  技術分野の関連性 /  課題の共通性 /  作用の共通性 /  内容中の示唆 /  優先権 /  容易に想到(容易想到性) /  設定登録 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 84号 審決取消請求事件
原告 マブチモーター株式会社代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁理士 森田寛
同 大川譲
被告 ジョンソンエレクトリック ソシエテ アノニム 代表者 【B】
訴訟代理人弁護士 中村稔
同 辻居幸一
同 飯田圭
同 弁理士 今城俊夫
同 西島孝喜
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/03/14
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成10年審判第35443号事件について平成11年12月27日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文第1、2項と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は、名称を「永久磁石直流モータ」とする特許第2694949号発明の特許権者である。この特許は、1986年(昭和61年)4月21日にイギリス国においてした特許出願ほか2件の特許出願に基づく優先権を主張して、昭和62年4月21日に出願され、平成9年9月12日に設定登録されたものである。
原告は、平成10年9月11日、被告を被請求人として、上記特許中明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された発明(以下、番号に対応して「本件発明1」などと表記する。)に係る特許につき無効審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成10年審判第35443号事件として審理した上、
平成11年12月27日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、
その謄本は平成12年2月7日原告に送達された。
2 本件発明1〜3の要旨 1.カン状のモータケーシング、
このモータケーシングを閉じるエンドキャップ、
モータケーシング内に取り付けた永久磁石、
モータケーシングとエンドキャップとにより支持されたベアリングに支えられたモータシャフト、
永久磁石に向き合ってモータシャフトに取り付けられたアーマチャ・コアとアーマチャ巻線とを備え、アーマチャ・コアはアーマチャ巻線を巻いた拡大頭部を有する複数の半径方向にのびる磁極を有し、隣合う磁極は巻線を施す巻線トンネルを形成し、隣合う頭部を分離している狭い空間は半径方向に巻線トンネルを開いている、巻線を施したアーマチャ、
このアーマチャのコアの一端に隣接してモータシャフトに取り付けられ、アーマチャ巻線に接続された接続部片をそれぞれが有する複数のセグメントを備える整流器、
エンドキャップが支持しているモータ端子、
エンドキャップが支持しており、整流器と滑り接触してモータ端子をアーマチャ巻線へ電気的に接続するブラシを含むブラシギア及び 整流器に隣接してアーマチャのコアの端に、アーマチャのコアの半径方向外周に取り付けられたファンを備え、このファンはアーマチャのコアの端に当たる環状プレートと、この環状プレートにより支持されアーマチャのコアから離れて軸方向に延び整流器の接続部片の周囲空間内に入り込むが、接続部片から半径方向に離されている複数の半径方向にのびるファンブレードと、磁極間のそれぞれの巻線トンネルに沿って軸方向に環状プレートからのびてファンをアーマチャのコアの半径方向外周に固定する複数の取付けタブとを有することを特徴とした永久磁石直流モータ。
2.アーマチャのコアへのファンの固定を助けるためタブに少なくとも部分的に接着剤を塗布した請求項1に記載の永久磁石直流モータ。
3.磁極の頭部間の巻線トンネルの狭い開口にタブが入り込んで摩擦係合している請求項1もしくは2に記載の永久磁石直流モータ。
3 審決の理由 審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件発明1〜3は、実願昭55-190928号(実開昭57-111068号)のマイクロフィルム(審判甲第1号証・本訴甲第3号証、以下「引用例1」という。)、旧東ドイツ特許公報DD-213798(1984年)(審判甲第2号証・本訴甲第4号証、以下「引用例2」という。)、昭和14年実用新案出願公告第15552号公報(審判甲第3号証・本訴甲第5号証、以下「引用例3」という。)、実願昭54-018528号(実開昭55-120288号)のマイクロフィルム(審判甲第4号証・本訴甲第6号証、以下「引用例4」という。)記載の各発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるとの請求人(原告)の主張を排斥し、請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明1〜3に係る特許を無効にすることはできないとした。
原告主張の審決取消事由
1 審決の理由中、引用例1〜4の記載事項の認定(審決書21頁13行目〜14行目、6頁1行目〜9頁15行目)並びに本件発明1と引用例1記載の発明との一致点及び相違点(イ)、(ロ)の認定(同21頁18行目〜22頁2行目、9頁18行目〜11頁9行目)は認める。
審決は、本件発明1と引用例1記載の発明との相違点(イ)についての判断を誤った(取消事由)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(相違点についての判断の誤り) (1) 審決は、本件発明1と引用例1との相違点(イ)(ファンの構成及び取付手段)の@環状プレート、Aファンブレード、B取付タブの各構成要素について、
「相違点(イ)の構成は、請求人(注、原告)が主張するように構成要素@ABに区分できるものではなく、一体不可分の構成と認められるので、構成要素を構成要素@ABに区分できるという請求人の主張は認められない」(審決書25頁末行〜26頁4行目)とし、「本件発明の相違点(イ)が上述したように構成要素@ABに区分できない以上、甲2・3号証記載の発明を甲第1号証に組み合わせることはできないものといわざるを得ない」(同27行目末行〜28頁3行目)と判断するが、誤りである。
すなわち、審決が上記構成要素@〜Bを「一体不可分」としたのは、これらが一体となって本件発明の効果を生じていることを根拠とするもののようであるが、一般的に、発明の各構成要素が、相互に有機的に結合して一体となって発明の効果を生ずることは通常のことであって、それを理由に各構成要素が区分できないというのであれば、事実上あらゆる発明の構成要素は区分できないことになる。例えば、「テーブル」の構成要素である「天板」のように、それ以上は文字通り区分することができない一体の構成であればともかく、本件発明1は、特許請求の範囲の請求項1に「このファンは・・・環状プレートと、・・・ファンブレードと、・・・取付タブとを有する」と分けて記載されていることからも明らかなように、上記構成要素@〜Bは区分可能である。審決は、「一体不可分の構成」との言葉を通常の用法とは異なる概念で用いているとしか考えられない。
加えて、審決は、相違点(イ)の構成要素@〜Bが一体不可分の構成であれば、何故に引用例1〜3の組合せができないのか、何らの理由も示していない。
そもそも、ある発明の複数の構成要素が複数の文献に別々に記載されている場合、
この組合せの容易性については、起因ないし契機(動機づけ)が必要であり、例えば、引用発明の内容中の示唆課題の共通性、機能・作用の共通性技術分野の関連性等が挙げられる(特許庁審査基準)ところ、引用例1〜3はいずれも同一の技術分野に属するものであり、このこと自体は審判も認定するところである(審決書22頁15行目〜23頁5行目)にもかかわらず、技術分野の同一性が引用例1〜3の組合せの容易性の根拠とならない理由が何ら示されていない。
以上のとおり、相違点(イ)の構成要素@〜Bが「一体不可分」であることを理由に、引用例1と引用例2、3の組合せができないとした審決の判断は誤りというべきである。
(2) 審決は、次に、「仮に請求人が主張するように、相違点(イ)の構成を構成要素@ABに区分が可能で、甲第1号証記載の発明に甲第2、3号証記載の発明に記載される構成要素@、Bを組み合わせることが可能だとしても」(審決書28頁4行目〜8行目)との前提で、「甲第1・2・3号証には本件発明の構成要素Aの『この環状プレートにより支持されアーマチャのコアから離れて軸方向に延び整流器の接続部片の周囲空間内に入り込む』構成と、本件発明の『モータの長さをもはや延ばす必要がなくなる』という軸方向の寸法を延ばさないですむという効果について記載もしくは示唆がない」(同28頁8行目〜15行目)との認定を根拠に、
「本件請求項1記載の発明の相違点(イ)の構成は、構成要素Aの点で当業者が容易に相当(注、「想到」の誤記と認める。)し得たとすることはできない」(同29頁1行目〜4行目)とする。しかし、上記の認定判断も、次に述べるとおり、誤りである。
まず、ファンブレードに関する上記構成要素A(ファンブレードが環状プレートにより支持されアーマチャのコアから離れて軸方向に延び整流器の接続部片の周囲空間内に入り込む構成。以下単に「構成要素A」という。)については、引用例2、3に、ファンブレードの軸方向の長さを「整流器の接続部片の周囲空間内に入り込む」構成を除き、構成要素Aに相当する構成が開示されている。そして、
「整流器の接続部片の周囲空間内に入り込む」長さにファンブレードの軸方向の長さを限定する構成については、ファンブレードの長さを長くしてブラシに接触してはならないこと、ファンブレードの長さをあまりに短くすれば必要とする風量が得られないことが自明のことであるから、これら事項を考慮して、所定の範囲内で設計上適宜に決定し得る事項にすぎない。現に、引用例1記載の発明は、ファンの構成及び取付手段は異なるものの、ファンブレードの軸方向の長さを「整流器の接続部片の周囲空間内に入り込む」ように構成されている。
次に、モータの長さ(軸方向の寸法)を延ばす必要がないとの効果については、引用例1(甲第3号証)に記載されている。すなわち、引用例1記載の発明のファンは、従来の構成において利用されていなかった「本来回転子巻線4を整流子6に半田付け等の接続手段によって接続するために必要とされるスペース」(8頁12行目〜14行目)に取り付けるものであって、「冷却ファン16を設置するための余分なスペースを必要としない。そのため、その分だけモータ・ケース1を小さくすることが可能となる」(8頁末行〜9頁2行目)、「整流子の既存のスペースを利用しているので、冷却ファンを取付けるための余分なスペースを必要とせず、コンパクトな設計ができる」(12頁11行目〜14行目)と記載されているように、従来の構成におけるデッドスペースを利用してファンを取り付けたことによって、モータの軸方向の長さが長くならないとの効果が記載されていることは明らかである。
なお、審決は、モータの軸方向の長さが長くならないとの上記効果を、ファンブレードの長さを限定することの効果として認定している(審決書28頁12行目〜15行目、27頁13行目〜14行目)が、この効果は、モータ内の未使用の領域にファンを取り付けることによってもたらされるものであり、ファンのブレードの長さとは直接の関係はない。したがって、この意味においても、上記効果の有無が、ファンブレードの長さを限定する構成の困難性の根拠となるものとはいえない。
以上のとおり、審決は、引用例1〜3の記載事項の認定を誤り、その結果、相違点(イ)の容易想到性の判断を誤ったというべきである。
被告の反論
1 審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由について (1) 引用例1〜4に記載された各技術的事項が、いずれも有機的に密接不可分な構成であるファンの構造及び取付手段に係る相違点(イ)を全体として開示も示唆もしていない以上、その構成要素である@アーマチャのコアの端に当たる環状プレート、B磁極間のそれぞれの巻線トンネルに沿って軸方向に環状プレートから延びてファンをアーマチャのコアの半径方向外周に固定する複数の取付タブに関して個々に開示されているとしても、これらの各技術的事項を組み合わせて、相違点(イ)を構成して、本件発明を推考することはできない。審決のいう「不可分一体」とは、この趣旨をいうものである。なお、審決は、原告の審判における主張に配慮して、念のために傍論としてではあるが、仮に相違点(イ)の構成を構成要素@〜Bに分解して個々的に検討するとした場合でも、本件発明を容易に推考することはできないと正当に判断している。
(2) 原告は、引用例1記載の発明は、ファンブレードが「整流器の接続部片の周囲空間内に入り込む」ように構成されている旨主張するが、この点は本件発明1と引用例1との相違点(イ)として審決が認定し、原告も「相違点」として認めたものであって、原告の主張は矛盾している。
また、原告は、引用例1には、上記構成とともに、モータの軸方向の長さが長くならないとの効果が記載されている旨主張するが、本件発明1の構成要素である「環状プレートにより支持されアーマチャのコアから離れて軸方向に延び整流器の接続部片の周囲空間内に入り込む」ファンブレードを有する点及び未使用の領域をファンのために使用することによりモータの長さをもはや延ばす必要がなくなるとの本件発明1の特有の作用効果が、開示も示唆もされていないことは明らかであるから、原告の上記主張は失当である。 さらに、原告は、モータの軸方向の長さが長くならないとの上記効果を、ファンブレードの長さを限定することの効果として認定するのは誤りである旨主張するが、未使用の領域をファンのために使用することにより、モータの長さを延ばす必要がなくなるという作用効果は、効果的に整流器及びアーマチャを冷却することができるという作用効果と同時に奏されるものであり、引用例1のように単にファンの取付位置のみにより奏され得るものではなく、これとファンブレードの軸方向の長さを含むファンの構造及び取付手段とが相まって初めて奏されるものである。したがって、ファンブレードの軸方向の長さと本件発明1の「モータの長さをもはや延ばす必要がなくなる」という効果とを結び付けて認定したことは正当である。
当裁判所の判断
1 取消事由(1)(相違点(イ)の各構成要素の一体不可分性)について 審決は、まず、相違点(イ)の構成要素@〜Bが「一体不可分」であることを理由に、引用例1と引用例2、3を組み合わせることができないと判断するところ、原告はこの判断の誤りを主張するので、この点についてまず検討する。
本件発明1のファンは、送風作用を奏する複数のファンブレードと、当該ファンブレードの固定作用を奏する環状プレートと、ファンをアーマチャに固定する作用を奏する取付タブ等の各作用をなす部分から形成されていることは、本件発明1の要旨に規定する「このファンは、・・・環状プレートと、この環状プレートに支持され・・・ファンブレードと、・・・ファンをアーマチャのコアの半径方向外周に固定する複数の取付タブとを有することを特徴とした永久磁石モータ」との記載及び本件発明の特許公報(甲第2号証)の関係記載から明らかである。そして、
モータ冷却ファンが、このような送風作用、ファンブレードの固定作用、ファンのアーマチャへの固定作用を奏する各構成部分を具備することは、引用例1〜3(甲第3〜5号証)に示されているように周知の技術的事項であり、かつ、これらの各構成部分に対応する上記構成要素@〜Bは、それぞれに独自の機能ないし作用を独立して担う構成であるから、これらを分離して検討することが技術的に不可能ないし無意味であるという格別の事情は認められない。
また、本件発明1が備える上記構成要素@〜Bが、例えば、個別の構成要素からは予測の困難な当該組合せによってもたらされる格別の作用効果を奏するといった事情も見いだせず(後述2参照)、他方、甲第3〜第5号証によれば、引用例1〜3記載の各発明が、モータの冷却ファンという同一の技術分野に属することは明らかであり、この技術分野の同一性は審決も認定するところである。
そうすると、相違点(イ)の各構成要素の「一体不可分」を理由としてこれらを組み合わせることができないとする審決の判断は、誤りというべきである。
2 取消事由(2)(相違点(イ)の構成要素Aの容易想到性)について (1) 審決は、さらに、相違点(イ)に係る構成を前記構成要素@〜Bに区分し、引用例1記載の発明に引用例2、3記載の各発明を組み合わせることができたとしても、本件発明1の相違点(イ)に係る構成は、構成要素Aの点で当業者が容易に想到することができないと判断し、原告はこの判断の誤りを主張するので、相違点(イ)の構成要素A、すなわち、ファンブレードを「環状プレートにより支持されアーマチャのコアから離れて軸方向に延び整流器の接続部片の周囲空間内に入り込む」ようにした構成の容易想到性について検討する。
(2) まず、引用例1(甲第3号証)の第3〜第6図及び明細書の関連記載によれば、引用例1記載の発明のフィン(本件発明1のファンブレードに相当する。)は、整流子の非摺動円筒部に直接取り付けた円環帯(環状プレートに相当する。)から半径方向に延びるとともに、その先端部分はアーマチャのコアに近づいて軸方向に延びる構成とされていることが認められ、構成要素Aの「アーマチャのコアから離れて軸方向に延び」る構成とは相違する。
しかし、引用例1(甲第3号証)の明細書には、従来技術及び課題に関し、「従来・・・回転子の回転自体を利用して空気を循環せしめて整流子を冷却したり、冷却ファンをモータの内部あるいは外部に設けて強制冷却することが行なわれている」(2頁末行〜3頁3行目)ところ、「この場合、整流子6が存在する側には一般にスペース上の問題があって冷却ファン7は整流子6の存在しない側にもうけられる形となる」(4頁4行目〜6行目)こと、ファンの構成に関し、「冷却ファン16を取り付けるためのスペースは、本来回転子巻線4を整流子6に半田付け等の接続手段によって接続するために必要とされるスペースを最大限に利用したものである。即ち、上記冷却ファン16には、回転子3の側端面から突出した回転子巻線4の部分を収容するための上記巻線収容凹部23および上記回転子巻線4と整流子6とが接続されている端子部20を収容するための端子収容部22がもうけられているため、該冷却ファン16を設置するための余分なスペースを必要としない。そのため、その分だけモータ・ケース1を小さくすることが可能となる」(8頁11行目〜9頁2行目)こと、また、効果に関し、「整流子の既存のスペースを利用しているので、冷却ファンを取付けるための余分なスペースを必要とせず、コンパクトな設計ができる」(12頁11行目〜14行目)ことがそれぞれ記載されている。
(3) 上記の記載からすると、引用例1には、端子部や整流子等が配置されている既存のスペースがデッドスペースとなっているためにモータ・ケースのコンパクトな設計が阻害されているとの課題に基づき、当該スペースにファンを配置することによってこの課題を解決しようとするものであり、その方法として、上記のようなフィン(ファンブレード)の構成を採用したことが明らかである。他方、本件明細書の「上記ファンは、アーマチャのコイルの巻線が整流器に取り付けられるところの整流器部分の周りに設置されるのが好ましい。通常、この領域は、巻かれたコイルの付近に整流器の接続部片を配置できるようにするために設けられる。整流器の接続部片へのワイヤ接続がいったん行われると、この領域はもはやその目的がなくなる。この未使用の領域をファンのために使用することにより、モータの長さをもはや延ばす必要がなくなる」(甲第2号証4欄39行目〜46行目)との記載に照らすと、本件発明1も引用例1記載の発明と基本的には同じ課題に基づいて、当該課題を解決する方法として、構成要素Aの構成(ファンブレードをアーマチャのコアから離れて軸方向に延び整流器の接続部片の周囲空間内に入り込むようにした構成)を採用したことが認められる。
そうすると、デッドスペースである「整流器の接続部片の周囲空間」にファンブレードを配置してこれを有効活用するとの目的を実現するに当たって、本件発明1のように、「ファンブレードをアーマチャのコアから離れて軸方向に延び整流器の接続部片の周囲空間内に入り込むように」構成するか、引用例1記載の発明のように、「ファンブレードを整流子の非摺動円筒部に直接取り付けた環状プレートから半径方向に延びるとともに、その先端部分はアーマチャのコアに近づいて軸方向に延びて整流子の周辺空間に入り込むように」構成するかは、当業者が適宜採用することのできる設計事項にすぎないというべきである。現に、引用例2、3(甲第4、第5号証)記載の各発明のファンブレード(渦巻き部材、送風翼)は、
いずれも環状プレート(渦巻き装置、メタル環状体)により支持され、アーマチャのコアから離れて軸方向に延びる構成とされているところであり、引用例1記載の発明にこのような構成を採用することを困難とする技術的理由は見いだせない。
(4) この点について、被告は、未使用の領域をファンのために使用することによりモータの長さ(軸方向の寸法)をもはや延ばす必要がなくなるとの本件発明1の特有の作用効果が、引用例1には開示も示唆もされていない旨主張する。しかし、上記(2)で認定した引用例1の記載、特に「モータ・ケース1を小さくすることが可能となる」、「冷却ファンを取付けるための余分なスペースを必要とせず、コンパクトな設計ができる」との記載が、軸方向の寸法を含めた小型化をいうものであることは明らかであり、被告の上記主張は採用することができない。
(5) したがって、本件発明1の相違点(イ)の構成要素Aの構成は、引用例1記載の発明に基づいて当業者が容易に想到することができるものというべきであるから、「引用例1記載の発明に引用例2、3記載の各発明を組み合わせることが可能だとしても、本件発明1の相違点(イ)に係る構成は、構成要素Aの点で当業者が容易に想到することができない」とする審決の判断も誤りというべきである。
3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由があり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は取消しを免れない。
よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理申立てのための付加期間の指定につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利