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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成17ワ7366特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成16ワ20601特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 製造方法 /  新規性 /  29条1項3号 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  公知技術 /  技術的範囲 /  同一の発明 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  権原 /  加工 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 / 
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事件 平成 16年 (ワ) 27008号 特許権侵害差止請求事件
原告 旭テック株式会社
訴訟代理人弁護士 飯田秀郷
同 栗宇一樹
同 早稲本 和徳
同 七字賢彦
同 鈴木英之
同 大友良浩
同 隈部泰正
同 戸谷 由布子
被告 株式会社エンケイホイールコーポレーション
訴訟代理人弁護士 藤川義人
同 松川雅典
被告補佐人弁理士 森治
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2005/07/27
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は別紙物件目録記載の素材を製造してはならない。
2 被告は別紙物件目録記載の素材を廃棄せよ。
事案の概要
本件は,車両用ホイールのスピニング成形用素材に関し特許権を有する原告が,被告製品は当該特許発明技術的範囲に属すると主張し,その製造の差止め及び廃棄を求めた事案である。
1 前提事実 以下の事実は,当事者間に争いがないか,明らかに争わない事実である。
(1) 原告の有する特許権 原告は次の特許権を有する(以下,「本件特許権」といい,その発明を「本件発明」という。)。
特許番号 特許第1937174号 発明の名称 車両用ホイールのスピニング成形用素材 出願日 昭和62年9月21日 出願番号 特願昭63-268558 分割の表示 特願昭62-238301の分割 登録日 平成7年6月9日 特許請求の範囲 別紙「特許公報」写しの該当欄記載のとおり(以下,同公報掲載の明細書及び図面を「本件明細書」という。) (2) 本件発明の分説 本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各構成要件を「構成要件A」などという。)。
A ディスク部Dの周端縁にリム素材筒3を一体形成し,このリム素材筒3を成形用マンドレル4に外嵌めした状態でスピニング成形することにより車両用ホイールWを成形する車両用ホイールのスピニング成形用素材において, B 前記リム素材筒3と前記ディスク部Dとの略連設部における外壁面に周溝状のくびれ312を形成した C ことを特徴とする車両用ホイールのスピニング成形用素材。
(3) 被告の行為 被告は,業として,別紙物件目録記載の素材(以下「被告素材」という。)を製造している。
(4) 被告素材の構成要件充足性 被告素材は,本件発明の構成要件A及びCを充足する。
(5) 訂正請求等 ア 鋳造との訂正 平成17年1月17日,被告は,特許庁に対し,原告を被請求人とする本件特許権の無効審判請求をした。
これに対し,原告は,平成17年4月18日付けで,本件発明の特許請求の範囲を「ディスク部Dの周端縁にリム素材筒3を鋳造によって一体形成し」と減縮し,それに合わせて明細書を訂正する旨の訂正請求をした。
イ 肉薄との訂正 また,原告は,本訴において,特許請求の範囲を「ディスク部Dの裏側周端縁に裏側リム素材筒3を鋳造によって一体形成し,このリム素材筒3を成形用マンドレル4に外嵌めした状態でスピニング成形することにより車両用ホイールWを成形する車両用ホイールのスピニング成形用素材において,前記裏側リム素材筒3と前記ディスク部Dとの略連設部における外壁面に前記略連設部を肉薄にする周溝状のくびれ312を形成したことを特徴とする車両用ホイールのスピニング成形用素材。」とする訂正審判の申立てを準備している旨主張している。
2 争点 (1) 被告素材の構成及び構成要件Bの充足性 (2) 本件特許権には,発明の新規性欠如の無効事由が存在するか。
(3) 本件特許権には,発明の進歩性欠如の無効事由が存在するか。
(4) 被告素材に対する権利行使は,公知技術に対する権利行使か。
(5) 本件特許権には,明細書の記載不備の無効事由が存在するか。
3 争点(1)(被告素材の構成及び構成要件Bの充足性)について (1) 原告の主張 ア 本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載のとおり,クサレが生じるとホイールの強度が維持できないので,リム素材筒3とディスク部Dの周端縁の略連設部の外壁面に周溝状のくびれを設け,連設部を肉薄にして,連設部にクサレを生じにくくしたことを特徴とする。そのため,本件発明にいう「くびれ」は,略連設部に形成されなければならない。
イ 被告素材の構成は,別紙物件説明書記載のとおりである。
ウ したがって,被告素材は,本件発明の構成要件Bを充足する。
(2) 被告の主張 ア 原告の主張アは否認する。
イ 同イのうち,構造の説明(2)の「リム素材筒3とディスク部Dとの連設部に」は否認し,その余は認める。
被告素材におけるくびれ321は,「リム素材筒3とディスク部Dとの連設部320よりも周縁部32側に」形成されている。被告素材におけるくびれは,スピニング加工により最終形状にしやすくするように成形前のホイールの形状を成形後のホイールの形状に近似して設けたものであるため,そのような位置に形成されている。
ウ 同ウは否認する。
4 争点(2)(新規性欠如の無効理由)について (1) 被告の主張 ア くびれとは,中ほどが細くせばまっていることを意味し(甲8),外観形状を表す用語であって,素材の肉厚をも含んで表す用語ではない。
このことを踏まえて検討すると,本件発明の構成要件Bの「リム素材筒3と前記ディスク部Dとの略連設部における外壁面に周溝状のくびれ312を形成した」は,リム素材筒3の外壁面全体の外観形状を特定するに止まり,リム素材筒3の肉厚は特定していない。
イ(ア) 米国特許第4624038号明細書(乙1の1。特許日昭和61年11月25日。以下「引用例1」という。)に記載された発明は,本件発明と同一の発明である(別紙乙第1号証の1図面参照)。
(イ) また,特開昭55-165247号公報(乙2。公開日昭和55年12月23日。以下「引用例2」という。)に記載された発明は,本件発明と同一の発明である(別紙乙第2号証図面参照)。
ウ よって,本件発明は,引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明と同一である。
(2) 原告の主張 ア 被告の主張アは否認する。
本件発明の構成要件Bにいう「くびれ」は,リム素材筒3とディスク部Dの周端縁の略連設部の外壁面を削り取った後の形状部分をくびれと形容しているものであって,リム部の一方の周縁部から他方の周縁部までのリム部全体の形状を指してくびれと形容しているものではない。上記のように削り取った結果,リム素材筒3の削り取った部分の断面の肉厚は,リム素材筒3の先端部分等の他の部分よりも薄くなっている。
イ 被告の主張イは否認する。
ウ 同ウは否認する。
5 争点(3)(進歩性欠如の無効理由) (1) 被告の主張 ア 本件発明は,引用例1に記載された発明又は引用例2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである。
イ また,スピニング成形技術において,スピニング成形用素材に鍛造又は鋳造によって一体形成された素材を用いること,製品の形状に合わせた素材を用意することやあらかじめ成形した半製品を素材として用いることは,本件発明の出願時に周知であった。そして,車両用ホイールのスピニング成形用素材において,スピニング成形後の車両用ホイールのリム部の形状に近似するように,リム素材筒とディスク部との略連設部における外壁面に周溝状のくびれが形成されるようにすることは,スピニング成形する際の作業性の要請等から,当業者が容易に想到し得たことである。
ウ したがって,本件発明は,進歩性を欠くものである。
(2) 原告の主張 ア 被告の主張アは否認する。
イ 同イは否認する。
車両用ホイールのスピニング成形用素材においてスピニング成形後の車両用ホイールのリム部の形状に近似するような形状を用いることが考えられていたとしても,その形状は,リム素材筒の端から端までの太さが均一であるか,又は中ほどが両端よりも太くなっている形状しか考えられていなかった。したがって,スピニング成形技術においてあらかじめ成形した素材を用意することが周知であり,車両用ホイールのスピニング成形用素材をスピニング成形後の車両用ホイールのリム部の形状に近似するような形状を用いることをスピニング成形作業上の要請等から当業者が容易に想到し得たとしても,車両用ホイールのスピニング成形素材のリム素材筒とディスク部との略連設部における外壁面に周溝状の「くびれ」を形成することまで当業者が容易に想到し得たことではない。
ウ 同ウは否認する。
6 争点(4)(公知技術の抗弁)について, (1) 被告の主張 ア 被告素材の主要構成のうち,@リム素材筒3は,リム素材筒3とディスク部Dとの連設部320から離れた周縁部32側における外壁面に周溝状のくびれ321を形成した点は,スピニング成形する際の作業性の要請等から当業者が容易に想到し得た構成にすぎず,Aリム素材筒3とディスク部Dとの連設部320から離れた周縁部32の連設部320側において薄く,それより周縁部32側において厚くなるようにした点は,均一な壁厚のプロフィル形状のシェル体を得るために,加工素板の厚さを場所(半径位置)によって変えておくようにした周知技術(乙3),さらには,ざく巣のない鋳造品が得るために,押湯方向に向って肉厚を増すようにして凝固が鋳造品の端部に向けて順次進行する指向性凝固を実現させる周知技術(乙8ないし10)から,当業者が容易に採用し得た構成である。
イ このように,被告素材の構成は,本件特許の出願前の技術常識周知技術を集成したものにすぎないから,被告素材に対する権利行使は,公知技術に対する権利行使として許されない。
(2) 原告の主張 ア 被告の主張アは否認する。
被告主張の周知技術(乙8ないし10)は,本件発明の有する略連設部におけるクサレを防止するという技術的課題や作用効果を有するものではない。また,被告主張の周知技術(乙9)は,本件発明のようにスピニング加工をする車両用ホイールのスピニング成形用素材に関するものではなく,また,車両用ホイールスピニング成形用素材の略連設部におけるようなホットスポットの問題を有していない。
イ 同イは否認する。
7 争点(5)(明細書の記載不備の無効理由)について (1) 被告の主張 ア 本件発明の構成要件Bにおける「前記リム素材筒と前記ディスク部との略連設部における外壁面に周溝状のくびれを形成」することと,その作用効果とされている「リム素材筒とディスク部との連設部を肉薄にできる」ことや「連設部にクサレは生じにくい」(本件明細書2頁左欄16行目〜21行目)こととの間に,直接的な因果関係があるとは認められない。
イ したがって,本件明細書の記載は,発明の構成要件と作用効果との関係が不明瞭であり,特許法36条3項及び4項の要件を満たしていない。
(2) 原告の主張 ア 被告の主張アは否認する。
リム素材筒とディスク部との略連設部における外壁面に周溝状のくびれを形成することにより,くびれの分だけ上記連設部を肉薄にできることは明らかであり,その結果,上記連設部にクサレが生じにくくなることも明らかである。
イ 同イは否認する。
当裁判所の判断
1 争点(2)(新規性欠如の無効理由)について (1) 「くびれ」(構成要件B)の意義について ア 本件発明の構成要件Bは,「 前記リム素材筒3と前記ディスク部Dとの略連設部における外壁面に周溝状のくびれ312を形成した」というものである。
そして,本件明細書には,「前記リム素材筒と前記ディスク部との略連設部における外壁面に周溝状のくびれを形成したため,リム素材筒とディスク部との連設部を肉薄にできる結果,かかる車両用素材を鋳造するにあたって,前記連設部にクサレは生じにくいものである。」(本件明細書2頁左欄16行目〜21行目),「312はくびれであり,裏側リム素材筒3とディスク部Dとの連設部における外壁面に形成されている。このくびれ312は裏側リム素材筒3の周面にわたって溝状に延びている。」(本件明細書2頁左欄29行目〜33行目)との記載があり,第2図には,従来例として,リム素材筒がディスク部との連設部において極めて厚いものが図示されている。
これらの発明の詳細な説明の記載及び図面も考慮すると,本件発明の構成要件Bにいう「前記リム素材筒3と前記ディスク部Dとの略連設部における外壁面に周溝状のくびれ312を形成した」とは,外壁面のリム素材筒3とディスク部Dとの略連設部に削り取った部分を設け,そのことにより,リム素材筒3の削り取った部分の厚さを,リム素材筒3の先端部分等との比較においてではなく,従来例との比較において薄くすることを意味しているものと認められる。
なお,「周溝状」とは,上記本件明細書の記載からすると,削り取った部分の形状を意味しているものではなく,削り取った部分が「裏側リム素材筒3の周面にわたって溝状に延びている」を意味しているものと認められる。
イ 原告は,上記のように削り取った結果,削り取った部分の断面の肉厚はリム素材筒3の先端部分等の他の部分よりも薄くなる旨主張する。
しかしながら,本件発明の特許請求の範囲はもちろん,発明の詳細な説明の欄にも,削り取る前のリム素材筒3の形状について,上記アに記載した以上の限定はないから,本件発明においてくびれを形成した後の断面の肉厚がリム素材筒3の先端部分等の他の部分よりも薄いものに限定されると認めることはできない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
ウ また,上記認定に反する被告の主張も,採用することができない。
(2) 引用例 ア 引用例1に記載された発明 (ア) 引用例1明細書(乙1の1)には,次の各記載があることが認められる。
「熱処理型アルミニウム基合金が,ディスク部から相対する軸方向に広がる第1と第2の環状ウイング部から内側に投影する環状ディスク部を持つ環状プリフォームを作るために金型鋳造される。このプリフォームは,相対するウイング部から内側に配置される周辺表面を持つ回転マンドレルに装着され,マンドレルとプリフォームは相対するマンドレル表面の輪郭に従い各々のウイング部をより薄くより広くリムをせん断変形成形するために回転する間,成形ローラーがそれぞれウイング部を内側に相対するマンドレル表面に押し付けられる。」(要約の欄1行目〜13行目)。
「ディスク部62が回転マンドレル56上でせん断変形成形された後,部分的にせん断変形成形された鋳造プリフォーム45は,相対する予め決められた周囲の表面68と69を備えたマンドレル56と他の回転マンドレル66間で掴まれる。プリフォーム45がマンドレル56,66と回転するとき,成形ローラー72は,マンドレル56の外側表面68の形状に相対して相当薄く広い環状リム部74を作るために表面68に対して環状ウイング部52をせん断変形成形する。図6で説明するように,ローラー72は予め決められたか予定されたリム部74へウイング部52を変えて表面68に一致する経路に沿ってディスク部62から外側又は軸方向に送り込まれる。図7に示すように,ウィング部48は,環状ウィング部48を回転マンドレル66の周辺表面65に一致する環状リム部76に変えるために,マンドレル66の周辺表面69に逆らって,同様にせん断変形成形される。」(4欄1行目〜20行目)。
「この具体例では,鋳造環状プリフォーム85は接続された環状ウィング部88と92から完全に内側に投影する相対的に分厚いディスク部86を含む。(中略)ディスク部86が十分に薄く放射状に広いディスク部101にせん断変形成形された後,ディスク部86の上方部分が十分薄いディスク部102に,マンドレル96の外側表面106に相対して予め決められた経路に沿って軸方向外側に移動するか送り込まれる成形ローラー104によりせん断変形成形される。」(4欄45行目〜59行目) 「ディスク部102がせん断変形成形された後,他の成形ローラー108(図11)は,ウイング部52(92の誤記)をせん断変形成形するために,マンドレル表面106の輪郭に一致する十分薄く広幅なリム部110に予め決められた経路に沿って軸方向に送り込まれる。」(4欄62行目〜66行目)。
「ここに述べた発明は,以下を請求する。
1.膨張タイヤを受けるために適合される改善された自動車用ホイールの製造方法で,ディスク部から相対する軸方向に投影する第1の環状ウイング部と第2の環状ウイング部から内側に投影する環状ディスク部を持つ環状プリフォームになる熱処理型軽金属合金の成形手段からなり,概して予め決められた放射状表面を持つ回転マンドレルに装着され,プリフォームとマンドレルが回転する間にマンドレル表面に接触してディスク部軸方向に成形ローラーに押し込まれ,成形ローラーの内側に放射状に配列する圧力ローラーとディスク部とかみ合いかつディスク部とかみ合う成形ローラーから間隔を置き,成形ローラーと放射状で内側の圧力ローラーの両方を動かし同時にせん断変形成形するために軸方向に動かし薄く放射状に幅広なディスク部に内側にディスク部を押出し,ウイング部から放射状に内部に間隔を置く予め決められた輪郭された周辺表面を持つ回転マンドレル間にディスク部を持つプリフォームを置き,マンドレルとプリフォームが回転する間及び成形ローラーが予め決められた経路に沿ってディスク部から移動する間成形ローラーはマンドレルに対応した輪郭された周辺表面に一致する薄く広いリム部と間隔を置く各々のウイング部に向けてプリフォームを内側に押し込み,せん断変形成形されたマンドレルからディスク部とリム部を移動させる。」(5欄31行目〜6欄23行目)。
そして,鋳造プリフォームの形状が図4,図5,図8ないし図10(別紙乙第1号証の1図面)に図示されている。
(イ) 以上の記載によれば,引用例1に記載された発明の「環状ウイング部48,52,88,92」,「ディスク部62,86」,「回転マンドレル56,96」及び「鋳造プリフォーム45,85」は,それぞれ本件発明の「リム素材筒3」,「ディスク部D」,「成形用マンドレル4」及び「車両用ホイールのスピニング成形用素材」に相当し,引用例1に記載された発明は,ディスク部の周端縁にリム素材筒を一体形成し,このリム素材筒を成形用マンドレルに外嵌めした状態でスピニング成形することにより車両用ホイールを成形するための車両用ホイールのスピニング成形用素材に関するものであり,本件発明と構成要件A及びCで一致している。
そして,引用例1に記載された発明は,鋳造プリフォーム45には,環状ウイング部48,52とディスク部62との略連設部における外壁面に周溝状のくびれが,鋳造プリフォーム85には,環状ウィング部88,92とディスク部86,102との略連設部における外壁面に周溝状のくびれがそれぞれ形成されており,本件発明の構成要件Bにいう「前記リム素材筒3と前記ディスク部Dとの略連設部における外壁面に周溝状のくびれ312を形成した」点でも本件発明と一致している。
(ウ) したがって,引用例1に記載された発明は,本件発明と同一の発明である。
イ 引用例2に記載された発明 (ア) 引用例2公報(乙2)には,次の記載があることが認められる。
「二叉フオーク状をなすフロントリム予備片並びにリヤーリム予備片と,その付け根部から内向きに張り出すデイスク取付け用鍔片とから成る一体型の円環状ブランクを,アルミニウム合金その他の展伸材に対する鋳造や鍛造などによつて作成し,その後両リム予備片をスピニング加工又は/及びロール加工により,薄肉に展伸させる如く押し開き状に屈曲変形させて,所期するリムの断面形状に成形することを特徴とする自動車用鍔付き一体リムの製造法。」(特許請求の範囲) 「V字型を呈する両リム予備片(11a)(11b)の付け根部(13)は,これを円弧状に凹入形成することにより,後述する爾後工程におけるロールやスピニングの挿入を容易化し,且つこれによる押し広げ加工の円滑化を図ることが好ましいけれども,そのブランク(10)の全体的断面形状は必らずしも第2図のものに限らず,リム(R2)の希望する断面形状その他に応じて,例えば第3図(A)(B)のように若干の変化を与えても良い。この点,第3図(A)には両リム予備片(11a)(11b)がU字型に対峙されたブランク(10)を,又同図(B)には両リム予備片(11a)(11b)が予じめ長短差をもつて対峙されたブランク(10)を各々例示している。」(2頁右上欄7行目〜19行目) 「本発明では,このように鋳造などによつて作成したデイスク取付け用鍔片(12)付きの断面二叉フオーク型ブランク(10)を,次にスピニング加工に供し,第4図(A)(B)に示すようなスピニングロール(14)(15)によつて,その両リム予備片(11a)(11b)を外側から押し広げて薄肉に展伸させる如く,段階的に又は一挙に屈曲変形させるのである。」(2頁右上欄20行目〜同左下欄6行目)。
そして,第4図には,ブランク(10)をスピニング加工に供した場合に,リム予備片(11a)(11b)を成型用マンドレルに外嵌めした図が示されている(別紙乙第2号証図面参照)。
(イ) 以上の記載によれば,引用例2に記載された発明における「リム予備片11a,11b」,「ディスク取付け用鍔片12」及び「ブランク10」は,それぞれ本件発明の「リム素材筒3」,「ディスク部D」及び「車両用ホイールのスピニング成形用素材」に相当し,引用例2に記載された発明は,ディスク部の周端縁にリム素材筒を一体形成し,このリム素材筒を成形用マンドレルに外嵌めした状態でスピニング成形することにより車両用ホイールを成形するための車両用ホイールのスピニング成形用素材に関するものであり,本件発明と構成要件A及びCで一致している。
そして,引用例2に記載された発明は,両リム予備片11a,11bとディスク取付用鍔片12との略連設部における外壁面に周溝状のくびれが形成されており,本件発明の構成要件B「前記リム素材筒3と前記ディスク部Dとの略連設部における外壁面に周溝状のくびれ312を形成した」点でも本件発明と一致している。
(ウ) したがって,引用例2に記載された発明は,本件発明と同一の発明である。
ウ 原告の主張に対する判断 原告は,引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明が「前記リム素材筒3と前記ディスク部Dとの略連設部における外壁面に周溝状のくびれ312を形成した」点を満たしていることを否認するが,本件発明の構成要件Bの「くびれ」の形状については,半径の大きさや形状等についての限定はないから,引用例1の図4,図5,図8ないし図10及び引用例2の第2図,第3図に記載された形状も,外壁面のリム素材筒3とディスク部Dとの略連設部に削り取った部分を設けるという意味での「前記リム素材筒3と前記ディスク部Dとの略連設部における外壁面に周溝状のくびれ312」に当たると認めることができる(仮に,原告主張のとおり,引用例1や引用例2に記載された形状が本件発明にいうくびれに当たらないと限定すれば,被告素材も,原告の主張する意味での「くびれ」に該当しないこととなるおそれが大きい。)。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
エ 訂正について (ア) 鋳造との限定について 原告は,前記前提事実(5)アのとおり,本件発明の特許請求の範囲を鋳造品に限定する訂正請求をしているが,前記イのとおり引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明も鋳造品であるから,この訂正請求により,本件特許権が無効であるとの結論が変わることはない。
(イ) 肉薄との限定について また,原告は,前記前提事実(5)イのとおり,本件発明の特許請求の範囲を肉薄にすることを明記する訂正審判の申立てを準備している旨主張するが,このような訂正が仮に認められたとしても,前記(1)アに説示した本件発明の解釈に何ら変更をもたらすものではないから,本件特許権が無効であるとの結論に変わりはない。
(3) まとめ よって,本件特許権は,特許法29条1項3号の規定に違反して与えられたものであるから,同法123条1項2号により特許無効審判により無効にされるべきものと認められ,原告は,その権利を行使することができない(同法104条の3)。
2 結論 よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
追加
(別紙)物件目録MAT(MostAdvancedTechnology)製法に用いられる車両用ホイールのスピニング成形用素材(別紙)物件説明書別紙図面の説明図は,MAT(MostAdvancedTechnology)製法に用いられる車両用ホイールのスピニング成形用素材の断面図で,スピニング成形前のスピニング成形用素材の形状を実線で,スピニング成形後の形状を2点鎖線で示す。
符号の説明1車両用ホイールのスピニング成形用素材2表側リム部3裏側リム素材筒31スピニング成形後のリム部32周縁部320裏リム素材筒とディスク部との連設部321くびれ43軸心Dディスク部構造の説明(1)この車両用ホイールのスピニング成形用素材1は,ディスク部Dの表側周端縁に表側リム部2を,裏側周端縁に裏側リム素材筒3を鋳造によって一体形成してなる。
(2)裏側リム素材筒3は,裏側リム素材筒3とディスク部Dとの連設部の外壁面に周溝状のくびれ321を形成している。
(3)この車両用ホイールのスピニング成形用素材1は,マンドレル(図示省略)に装着した状態で軸心43の周囲に回転させながら,回転押圧具(図示省略)で裏側リム素材筒3をしごく(スピニング成形する)ことにより塑性変形させて,2点鎖線で示すリム部31を有する車両用ホイールを成形する車両用ホイールのスピニング成形用素材である。
別紙図面乙第1号証の1図面乙第2号証図面
裁判長裁判官 市川正巳
裁判官 柴田義明
裁判官 高嶋卓