審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成15ワ18472特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成16ワ25576特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成16ワ20636特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ8673特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 容易に発明 / 公知技術 / 技術的範囲 / 出願経過 / 均等 / 置換 / 置換可能性 / 置換容易性 / 容易に想到(容易想到性) / 意識的除外(意識的に除外) / 実施 / 加工 / 間接侵害 / 構成要件 / 業として / 差止請求(差止) / 侵害 / 損害額 / 算定方法 / 相当因果関係 / 不法行為(民法709条) / 実施権 / 通常実施権 / 独占的通常実施権 / 移転登録 / 拒絶理由通知 / 新規事項追加(新規事項の追加) / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
16年
(ワ)
6549号
特許権侵害差止等請求事件
平成 16年 (ワ) 10333号 損害賠償請求事件 |
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甲事件原告 有限会社アプステアズ 甲事件原告 株式会社フレッシュ 乙事件原告 P1 上記原告ら訴訟代理人弁護士 梅野茂夫 上記原告ら補佐人弁理士 榎本一郎甲乙事件被告 ルネス・ユニテック株式会社 訴訟代理人弁護士 岩坪哲 訴訟代理人弁理士 三枝英二 同 眞下晋一甲事件訴訟復代理人兼乙事件訴訟代理人弁護士 山形康郎 補佐人弁理士 舘泰光 同 谷田龍一 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2005/07/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求の趣旨
1 被告は,別紙物件目録記載1のユニット金具及び同目録記載2のボイドブロックを製造し,使用し,販売し,又は販売の申出をしてはならない。 2 被告は,別紙物件目録記載1のユニット金具及び同目録記載2のボイドブロックを使用したボイド工事を行ってはならない。 3 被告は,別紙物件目録記載1のユニット金具を廃棄せよ。 4 被告は,原告有限会社アプステアズに対し,2087万5409円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 被告は,原告株式会社フレッシュに対し,6927万円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 6 被告は,原告P1に対し,2486万1009円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 7 訴訟費用は被告の負担とする。 8 仮執行宣言 |
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事案の概要
1 甲事件は,従前後記特許権を有していた乙事件原告P1(以下「原告P1」という。)から同特許権を譲り受けた原告有限会社アプステアズ(以下「原告アプステアズ」という。)及び同原告らから同特許権につき独占的通常実施権の許諾を受けた原告株式会社フレッシュ(以下「原告フレッシュ」という。)が,被告が製造,使用等するユニット金具及びボイドブロック並びに被告がそれらを使用して行うボイドスラブの施工方法が同特許権に係る発明(請求項1,3及び6)の技術的範囲に属し,また被告が同ユニット金具を用いて製造するボイドブロックは同発明(請求項6)について特許法101条3号及び4号に該当するものであり,それらの製造及び使用等が同特許権を直接又は間接侵害すると主張して,被告に対し,(ア)原告アプステアズにおいては,@同特許権に基づき,それらの製造,使用等の差止め及びユニット金具の廃棄を請求するとともに,A同特許権侵害の不法行為に基づき,平成13年8月20日から平成15年末までに被った2087万5409円の損害賠償及びこれに対する不法行為の後である平成16年1月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求し,(イ)原告フレッシュにおいては,同特許権の独占的通常実施権の侵害の不法行為に基づき,平成13年から平成15年の間に被った6927万円の損害賠償及びこれに対する不法行為の後である平成16年1月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。 また,乙事件は,従前同特許権を有していた原告P1が,甲事件と同様の主張をして,被告に対し,同特許権侵害の不法行為に基づき,平成13年から平成15年の間に被った2486万1009円の損害賠償及びこれに対する不法行為の後である平成16年1月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。 2 前提事実(証拠の掲記がないものは争いがない) (1) 原告P1は,下記の特許権の当初の特許権者であった。 (以下,この特許権を「本件特許権」といい,その明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明を「本件発明1」と,同請求項3に記載された発明を「本件発明3」と,同請求項6に記載された発明を「本件発明6」といい,それら発明を総称して「本件発明」という。また,本件発明の特許出願の願書に添付された明細書を「本件明細書」といい,本件発明に係る特許公報を「本件公報」という。) 発明の名称 ボイドブロック固定金具,ボイドブロック,ハーフユニット及び簡易浮き止め金具,並びにこれらを用いたボイドスラブ施工方法 出願日 平成9年9月29日 出願番号 特願平9-303274 公開日 平成11年4月20日 公開番号 特開平11-107423 登録日 平成13年7月27日 特許番号 第3214693号 特許請求の範囲の請求項1,3及び6は,別紙特許公報(甲8)の該当欄記載のとおり (2) 本件発明は,次のとおり分説される。 ア 本件発明1 A 2本の下部補強鉄筋と, B a 前記下部補強鉄筋に下部が溶接され b ボイド型枠の長手方向と直交する断面の外縁が当接される鉄筋を有する c 側面形状が逆V型に形成された d ボイド型枠固定筋と, C 前記ボイド型枠固定筋の上部に溶接された上部補強鉄筋と,を備えていることを特徴とする D ボイドブロック固定金具 イ 本件発明3 E 請求項1又は2に記載のボイドブロック固定金具と, F 前記ボイドブロック固定金具の前記ボイド型枠固定筋に挿通された前記ボイド型枠と,を備えていることを特徴とする G ボイドブロック ウ 本件発明6 H 仮枠上に下端鉄筋溶接金網を配置する工程と, I a 前記工程で配置された前記下端鉄筋溶接金網上に, b(イ)2本の下部補強鉄筋と,前記下部補強鉄筋に下部が溶接されボイド型枠の長手方向と直交する断面の外縁が当接される鉄筋を有する側面形状が逆V型に形成されたボイド型枠固定筋と,前記ボイド型枠固定筋の上部に溶接された上部補強鉄筋と,を備えたボイドブロック固定金具と, c 又は,(ロ)下部角形補強筋と,前記下部角形補強筋の長辺の各々に各々の下部が溶接されボイド型枠の長手方向と直交する断面の外縁が当接される鉄筋を有するボイド型枠固定筋と,前記ボイド型枠固定筋の各々の上部に長辺の各々が溶接された上部角形補強筋と,を備えたボイドブロック固定金具と, d 前記ボイドブロック固定金具の前記ボイド型枠固定筋に挿通された前記ボイド型枠と,を備えた e ボイドブロックを配置し J a 前記ボイドブロック固定金具と前記下端鉄筋溶接金網との結束固定, b 及び,前記ボイドブロック固定金具同士の結束固定を行う工程と, K 前記工程で結束固定された前記ボイドブロック固定金具上に上端鉄筋溶接金網を敷き詰めていく工程と,を備えていることを特徴とする L ボイドスラブ施工方法 (2) 原告P1は,平成9年9月29日,原告フレッシュとの間で,同原告に対して本件特許権について独占的通常実施権を許諾する契約を締結した(甲4)。 (3) 原告P1は,平成13年8月20日,原告アプステアズとの間で,同原告に対して本件特許権を譲渡する契約を締結し(甲5),平成16年5月12日,その移転登録手続を経由した(甲7)。 (4) 原告アプステアズは,平成13年8月20日,原告フレッシュとの間で,同原告に対して本件特許権について独占的通常実施権を許諾する契約を締結した(甲6)。 (5) 被告は,イ号製品(原告は別紙物件目録において「ユニット金具」と呼称し,被告は別紙イ号製品目録において「スペーサ」と呼称するもの。)とボイドチューブ(これは被告による呼称であり,原告は「円筒型スチロール」と呼称している。以下では主として被告の呼称に従うが,適宜原告の呼称を用いることもある。)を使用して,ボイドスラブを施工するための工事(以下被告が行う工事方法を「被告方法」という。)を行っている(なお,イ号製品に関する他の部材の呼称については,文脈に応じて適宜,原告による呼称又は被告による呼称を用いる。)。 イ号製品は本件発明1の構成要件A,Ba及びBcを充足する。 3 争点 (1) 被告の行為の具体的内容 ア イ号製品の構成 イ 被告方法の構成 (2) イ号製品及び被告方法が本件発明の技術的範囲に属するか。 ア 本件発明1関係 イ号製品が,本件発明1の構成要件Bb,Bd及びCの「ボイド型枠の…外縁が当接される鉄筋を有する」「ボイド型枠固定筋」,構成要件Dの「ボイドブロック固定金具」の要件を充足するか。 イ 本件発明3関係 (ア) 被告は,ボイドスラブ施工工事の過程で,構成要件Gの「ボイドブロック」を製造,使用しているか。 (イ) 被告のボイドブロックが,本件発明3の構成要件E及びFの「ボイドブロック固定金具」,「ボイド型枠固定筋」の要件を充足するか。 ウ 本件発明6関係 (ア) 被告方法は,本件発明6の構成要件Hの「仮枠上に下端鉄筋溶接金網を配置する工程」の要件を充足するか。 (イ) 被告方法が,本件発明6の構成要件I及びJの「ボイドブロック固定金具」の要件を充足するか。 (ウ) 被告方法は,本件発明6の構成要件Kの「ボイドブロック固定金具上に上端鉄筋溶接金網を敷き詰めていく工程」を充足するか。 (3) 損害額 |
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争点に関する当事者の主張
1 争点(1)ア(イ号製品の構成)について 【原告らの主張】 (1) 被告がボイドスラブ施工工事において製造,使用するイ号製品の構成は,別紙物件目録記載1のとおりであり,逆V型鋼線2は,第1図ないし第6図に示すように,@下部が下部鋼線1に溶接され,A鉄筋からなる逆V型鋼線2自体に円筒型スチロール(ボイドチューブ)4の長手方向と直交する断面の外縁が当接し,B略逆V型の形状に折り曲げられており,側面形状が逆V型に形成され,円筒型スチロール(ボイドチューブ)4を固定している。 (2) 被告は,イ号製品とボイドチューブの間には,左右方向でも上下方向でも間隙が存在すると主張するが,以下のとおり,それはあり得ない。 ア ボイドスラブの構造計算を行うに際しては,ボイドチューブを除いたコンクリートと鉄筋の基本構成を梁とみなすが,そのためにはボイドスラブのどこをとっても基本構成が同一面積・同一形状でなければならず,そのためには,主筋(鉄筋)を結んでできる長方形の中心とボイドチューブの中心とを一致させなければならない。それらがずれると,前記基本構成(梁)の断面積や形状がボイドスラブの各所で異なることになり,ボイドスラブを基本構成(梁)が繰り返し連続した集合体とみなすことができず,構造設計ができないからである。そして,仕様書(設計図)においては,これを前提に,スラブ厚,ボイドの断面形状(楕円,真円等),ボイドチューブの配置方向,ボイドの横径,ボイドの縦径,ボイドとボイドの横方向の空き,鉄筋の径及び本数等が記載される。したがって,ボイドスラブ施工工事を行う業者は,この仕様書(設計図)どおりに,主筋(鉄筋)を結んでできる長方形の中心とボイドチューブの中心とを一致させて施工しなければならず,この点は工事後の検査の対象にもなっている。 したがって,被告主張のような間隙が逆V型鋼線とボイドチューブとの間に存した場合には,コンクリートを打設した際にボイドチューブの位置に偏りが生じ,仕様書(設計図)どおりの施工を行うことができないことになる。 イ 被告がボイドスラブ施工工事を行った現場の仕様書等を基に,上下補強鉄筋とボイドチューブとの間隙を算定すると,別表の「設計図の記載」欄記載のとおり,スラブ厚-ボイド縦径=版厚150oの場合には上下方向に計算上8o以上の間隙が存するものの,カタログに記載する標準仕様であるスラブ厚-ボイド縦経=版厚125oの場合には上下方向にわずか1oであるという結果となるのであり,被告が主張する上下方向の8o等の間隙はあり得ないから,間隙に関する被告の主張は虚偽である。 被告が版厚125oの工事で使用したと主張するボイドチューブは,設計指示よりも小径のものとなっているが,これではボイド径が小さくなった分だけ多量のコンクリートを要する上,スラブの重量が増加し,構造設計の前提が変わることになるから,設計者の承認なしに使用し得ないはずである。 【被告の主張】 (1) イ号製品とボイドチューブの組合せには,@ボイドチューブが真円で,スペーサ上部補強筋に膨出部がないもの,Aボイドチューブが真円で,スペーサ上部補強筋に膨出部があるもの,Bボイドチューブが楕円で,スペーサ上部補強筋に膨出部がないものがあり,近時の主力はBのものにシフトしているが,いずれについても,イ号製品の逆V型のスペース保持鉄筋は,ボイドチューブの外縁との間に間隙を有する。 その具体例としてBのタイプの構成を示すと,別紙イ号製品目録記載のとおりであり,寸法の一例を挙げると,スペース保持鉄筋102間のスパン(内のり)205oに対しボイドチューブの左右方向の最大寸法は200oに製造されており,ボイドチューブの挿入時には必然的に左右方向において少なくとも5oの間隙が形成される。なお,下部補強鉄筋101と上部補強鉄筋103間の高さ(内のり)108oに対し,ボイドチューブの上下方向の最大寸法は100oに製造されており,イ号製品ではスペーサ100にボイドチューブが挿通されたとき上下方向にも少なくとも8oの間隙が形成される。 また,前記Aのタイプは,ユニット金具とボイドチューブとの間に,左右方向で5o,上下方向で4oの間隙を有する。 さらに前記@のタイプは,ユニット金具とボイドチューブとの間に,上下及び左右方向ともに各3o又は各5oの間隙を有する。 (2) 原告らが指摘する各工事で使用したイ号製品とボイドチューブの寸法は,別表の「納品書の記載」欄記載のとおりであり,いずれについても上記のような間隙が存する。 (3) 原告らは,このように間隙が存することはあり得ないと主張する。 ア しかし,原告らが主張する構造計算上の問題点については,構造計算における強度計算では,実際の強度が構造計算上の強度よりも高くなるよう,スラブ構造を構成する各部材の形状・寸法・強度等について大きな安全率をみて構造計算上の強度が算出されるから,仮にボイドチューブの現場施工の際にイ号製品とこれに挿通されるボイドチューブとの間の隙間に起因する偏りが生じたとしても実際の安全上何らの支障はなく,偏りが生じない場合との構造計算上の強度の差異は十分に許容される範囲内である。また,仮にあるボイドチューブと隣接するチューブが外側(互いに離れる方向)にずれ,スペース保持鉄筋に当接した状態(スペース保持鉄筋の中間に位置しない最大変移状態)になったとしても,当該ボイドスラブにおけるせん断力に与える影響は小さく,特段の問題が生ずることはない。 イ また,原告は仕様書等を基に,上下補強鉄筋とボイドチューブとの間隙を算定すると,上下方向に1oしかないと主張するが,そのような算定は,前記Bのタイプのφ200×100のボイドチューブの場合の数値を,他のボイドチューブの場合にも適用した誤った算定である。 2 争点(1)(イ)(被告方法の内容)について 【原告らの主張】 被告は,別紙物件目録記載1のイ号製品に円筒型スチロール(ボイドチューブ)が挿通された同目録記載2のボイドブロックを製造し,それらを使用してボイドスラブ施工工事を行っている。すなわち被告は,同目録記載の図面のとおり,型枠10上のスペーサ11の上に鉄筋12を配置し,鉄筋12の上に,前記イ号製品と,イ号製品の逆V型鋼線2に挿通された円筒型スチロール(ボイドチューブ)4とを備えた前記ボイドブロックを配置し,その上でイ号製品と鉄筋12とを結束したり,イ号製品同士を結束して固定し,さらにイ号製品の上に鉄筋13を配置するボイドスラブ施工方法を行っている。 【被告の主張】 被告は,各現場においてイ号製品とボイドチューブとを別々に搬入(荷揚げ)し,被告以外の業者が組み上げた下端鉄筋(主筋および配力筋)上にイ号製品を結束固定し,当該イ号製品のスペース保持鉄筋間に適宜のサイズのボイドチューブを挿入配置する工法を実施しており(施工の都合上,先にボイドチューブを所定位置に配置し,次いでイ号製品を組み込む場合もある。),運搬用の固定材機能を有するボイドブロックを製造していない。このように被告が関与するボイドスラブ設置工事の工程は,別紙参考図のとおりであり,被告により施工されるのは[工程図1]から[工程図3a]ないし[工程図3b]までであり,[前工程],[後工程]は被告以外の業者によって施工される。また,こうしてイ号製品にボイドチューブを現場組みした場合の一例(その結果得られるイ号製品とボイドチューブとの配置構造)は,別紙ロ号構造目録記載のとおりである。 3 争点(2)ア(イ号製品が本件発明1の構成要件Bb,Bd,C及びDを充足するか)について 【原告らの主張】 (1) イ号製品は,逆V型鋼線2と,挿通されるボイドチューブとの間に間隙を有しないから,構成要件Bb,Bd,C及びDの「ボイド型枠…の外縁が当接される」「ボイド型枠固定筋」を備える「ボイドブロック固定金具」との要件を充足する。 (2) 仮にイ号製品の逆V型鋼線2が,挿通されるボイドチューブとの間に間隙を有しているとしても,本件発明1と均等なものである。 ア 「当接」,「固定」は本件発明1の本質的部分ではない。 本件発明1のボイドブロック固定金具は,ボイド型枠の長手方向と直交する断面の外縁が当接される鉄筋を有する側面形状が逆V型に形成されたボイド型枠固定筋と,ボイド型枠固定筋の上下に溶接された2本の下部補強鉄筋と上部補強鉄筋とを設けることによって,ボイド型枠固定筋にボイド型枠を挿通するとともにボイドブロック固定金具と下端鉄筋を結束することにより,ボイド型枠の下端鉄筋への固定ができるとともに下端鉄筋と上端鉄筋との空間形状維持ができる。この結果,床スラブを製造するためにコンクリートを打設すれば,スラブ内の上下端鉄筋の中間の所定の位置にボイド型枠を埋設することができるようにしたものである。 そして,ボイド型枠を配置する技術において,本件発明1のように,ボイド型枠を上部補強鉄筋,下部補強鉄筋及びボイド型枠固定筋の間に複数本挿通し,熟練工以外の作業員でもボイド型枠をブロック化して上下端鉄筋間に固定する作業ができるようにするとともに,クレーン等を用いることなく作業の効率化を図るという技術的課題を提示し,それを解決する構成を提示した技術は,公知技術には存しなかった。 以上を前提に検討すると,本件発明1において,前記課題を解決し,前記作用効果を奏させているのは,スラブ内の上下端鉄筋の中間の所定の位置にボイド型枠を埋設することができるように上部補強鉄筋,下部補強鉄筋及びボイド型枠固定筋を配し,この間にボイド型枠を複数本挿通し保持することができるようにした点と,下端鉄筋と上端鉄筋の間の空間形状を維持できる点であり,ボイドチューブが挿通された時にボイドチューブの外縁との間に間隙を有するか否かという点は,本件発明1が前記課題を解決し,前記作用効果を奏するための解決原理となっているわけではないと解するのが相当である。 イ 置換可能性 イ号製品において逆V型鋼線とボイドチューブとの間に間隙が存するとしても,被告は争点(1)イに関する原告らの主張で述べたとおり,ボイドブロックを形成した上で本件発明6のボイドスラブ施工方法を行っているから,前記アで述べた本件発明1の作用効果を奏している。 ウ 置換容易性 被告が,実際の製品において,ボイドチューブを挿通しやすくするためにわずかにクリアランスを設けることは,適宜行われるものであるから,本件明細書に接した当業者が実施時にイ号製品の構成を想到するのは,容易であった。 エ イ号製品は,本件発明の特許出願時の公知技術と同一又は当業者が容易に発明できたものではない。 オ また,イ号製品の構成が本件発明の出願経過において特許請求の範囲から意識的に除外されたという事情はない。 (3) なお被告は,本件発明1の構成要件Bbの「ボイド型枠の…外縁が当接される」の意義について,ボイド型枠の断面の外周である円弧ないし楕円弧のような所定の長さをもつ部分において線接触するものである必要があると主張する。 しかし,本件明細書に添付した図面においては,ボイドブロック固定金具の正面形状の例として図5があり,また,ボイド型枠の例として図12の断面が小判型のものがある。図5に示すボイドブロック固定金具に図12に示す小判型のボイド型枠を挿通した状態では,ボイド型枠固定筋13にボイド型枠11の外周の2箇所で外縁が当接され,下部補強鉄筋12と上部補強鉄筋14にボイド型枠11の外周の各々1箇所で外縁が当接されることになり,これにより,ボイドブロック固定金具10は,ボイド型枠13を上下方向・横方向に動かないように固定している。 以上のように,構成要件Bbの「外縁が当接される」とは,ボイドブロック固定金具10が,ボイド型枠11が挿通されて,ボイド型枠固定筋13にボイド型枠11の外周の複数点で外縁が当接され,ボイド型枠13を上下方向・横方向に動かないように固定するものでもあることは,願書に最初に添付した明細書又は図面,若しくは本件公報に記載されているところであり,このように解釈することが相当である。 そして,イ号製品は,別紙物件目録記載のとおり,挿通された円筒型スチロール(ボイドチューブ)4の外縁の所定箇所が,下部鋼線1,逆V型鋼線2,上部鋼線3に当接し,上下方向及び左右方向に動かないように固定されるから,本件発明1の構成要件Bbを充足する。 【被告の主張】 (1)ア 本件発明1は,「ボイド型枠固定筋」が「ボイド型枠…の外縁が当接される鉄筋」により構成されたものである。すなわち,「本発明は,従来一般的なやり方として作業員一人では移動できない寸法と重量素材のボイド型枠に変えて,持ち運びが容易な一定長さの軽量素材のボイド型枠をボイドブロック固定金具に組み込んでボイドブロックを作る」ものであるため(本件公報【0009】),ボイド型枠の外縁がボイド型枠固定筋に当接挾持され(組み込まれ),持ち運びの際にボイド型枠を「固定」(移動不能)している必要がある。 このことは,原告P1が,「ボイド型枠固定金具」なる構成を請求項1に取り入れた平成13年3月16日付け補正に際し,意見書中においてその補正根拠につき「…ボイドブロック固定金具にボイド型枠が挿通されて組み込まれ…固定されていること」を挙げていることからも裏付けられる。 イ しかるに,イ号製品におけるスペース保持鉄筋102はボイドチューブとの間に隙間を形成するようになっており,ボイドチューブは該鉄筋に組み込まれて挾持されるものではない。したがって,イ号製品のスペース保持鉄筋102はボイドチューブ(ボイド型枠)に「当接」するものではなく,当然ながら,ボイドチューブを「固定」するものでもないから,同鉄筋は本件発明の「ボイド型枠固定筋」に該当しない。イ号製品(ロ号構造)において,ボイドチューブはU字状の鎹によって初めてスペーサに固定されるのである。 ウ 原告らの均等の主張は失当である。 (ア) 本件発明1は,「従来一般的なやり方として作業員一人では移動できない寸法と重量素材のボイド型枠に変えて,持ち運びが容易な一定長さの軽量素材のボイド型枠をボイドブロック固定金具に組み込んでボイドブロックを固定することにより,そのボイドブロックを作業員一人で移動でき,一本ずつ配置作業していたボイド型枠をブロック単位で配置できる事で,作業性を格段に向上させる」ことを作用目的として(本件公報【0009】),このような作業員一人でのブロックの運搬(いわゆる「横持ち小運搬」)を可能とする手段として,「ボイド型枠をボイドブロック固定金具に組み込んで上下方向および左右方向に固定したボイドブロックを作る」との技術事項を選択したものである。 横持ち小運搬可能なボイドブロックを実施可能とするための必須構成要件として,「ボイド型枠の長手方向と直交する断面の外縁が当接される鉄筋を有する…ボイド型枠固定筋」との要件が設けられているのであり,この要件は本件発明1の「本質的部分」に該当する。 (イ) ボイドチューブが挿通されたときに該ボイドチューブの外縁との間に間隙を有するスペース保持鉄筋102よりなるスペーサは,スペース保持鉄筋102,102間においてボイドチューブが可動自在であり(ゆえに,スペーサを現場に配置してからボイドチューブを挿通することが可能となる),よって,「ボイドブロック固定金具に組み込んでボイドブロックを作ることにより,そのボイドブロックを作業員一人で移動でき,一本ずつ配置作業していたボイド型枠をブロック単位で配置できる事で,作業性を格段に向上させる」との本件発明の作用効果を奏せず,イ号製品と本件発明1との間に置換可能性はない。 (ウ) 上部補助鉄筋と下部補助鉄筋との間に逆V型のスペース保持鉄筋を溶接したスペーサは,本件出願前に公知である。また,ボイドスラブに用いるボイドチューブも公知である。これら公知にかかるボイドチューブを,スペーサに挿通させるにあたり,作業性を考慮してボイドチューブを挿入したときにスペーサのスペース保持鉄筋とボイドチューブとの間に間隙を設けるようにすることは,単なる設計的事項であり,何らの技術的阻害要因も存在しない。したがって,イ号製品は,本件出願時に当業者が容易に想到できたものである。 (エ) 本件構成要件Bbは,手続補正により,従前の請求項1「建築現場もしくは工場で,一定寸法のボイドスラブ用の単体のボイド型枠を横連結して,複数本のボイド型枠のブロックを形成させるためのボイド型枠固定,横連結及び上端鉄筋と下端鉄筋の空間形状維持金具である」との記載を補正して特許請求の範囲に取り入れられた要件である。この補正において,構成要件Bbを有しない,すなわち,「ボイド型枠の方向と直交する断面の外縁が当接される鉄筋を有する…ボイド型枠固定筋」を有しないボイドチューブ設置用の金具が本件特許請求の範囲から意識的に除外されたか,あるいは外形的にそのように解される補正がされた。 したがって,本件においては,ボイドチューブの挿通時に該ボイドチューブの外縁との間に間隙を有するスペース保持鉄筋を有する金具は,上記補正により,本件特許請求の範囲から意識的に除外された特段の事情が認められる。 (2)ア 本件発明1の構成要件Bbは,「ボイド型枠の長手方向と直交する断面の外縁が当接される鉄筋を有する」ボイド型枠固定筋であることを規定しているところ,ボイド型枠の断面の「外縁」とは,「外側のふち,外側にそった部分,外周,外べり」の意(広辞苑)であり,ボイドの外周方向の縁に沿った所定の長さを有する部位である。 このことは,本件の出願経過からも明白である。すなわち,上記構成要件は本件出願当初明細書に記載がなく,平成13年3月16日付け手続補正で追加補正されたものであるが,原告P1は,同日付け意見書において,同構成要件追加の補正根拠について,「『ボイド型枠の長手方向と直交する断面の外縁が当接される鉄筋を有する』ことは,当初明細書の段落【0021】欄第1行ないし段落【0022】欄第1行に『…鉄製又はステンレス筋を,ボイド型枠が2本〜4本入るような正面形状に加工する。形状の寸法は,使用するボイド型枠の断面形状寸法にあわせた加工を行い…』と記載されていること,及び当初図面の図21のボイド型枠の断面の外縁が鉄筋に当接されている記載から明らかです。」と述べている。すなわち,構成要件Bbの「外縁」とは,本件公報の図21のような,ボイド型枠の断面の外周である円弧ないし楕円弧のような所定の長さをもつ「縁」を意味し,この部分において鉄筋と線接触するものである。 イ これに対し,被告のイ号製品は,ボイドチューブの「外縁」と当接するものではあり得ない。仮に,イ号製品がボイドチューブと接触するとしても,それはスペース保持鉄筋に楕円筒形のボイドチューブの周上の一点が接触するにすぎないものであって,本件発明でいうところの「ボイド型枠の長手方向と直交する断面の外縁が当接される」ものではない。 仮に,構成要件Bbの「…長手方向と直交する断面の外縁が当接し」が,イ号製品における垂直方向の縦筋とボイド型枠との点接触をも含むものになっているとすれば,同構成要件を明細書に追加した平成13年3月16日付け手続補正は,当初明細書又は図面に記載外の新規事項追加補正となる。 よって,イ号製品のスペース保持鉄筋102はボイドチューブの「長手方向と直交する断面の外縁」に当接しておらず,同鉄筋は本件発明の「ボイド型枠固定筋」に該当しない。 4 争点(2)イ(ア)(被告は,ボイドスラブ施工工事の過程で,構成要件Gの「ボイドブロック」を製造,使用しているか)について 【原告らの主張】 争点(1)イに関する原告らの主張のとおり,被告は,イ号製品とボイドチューブを用いてボイドブロックを作成して,ボイドスラブ施工工事を行っているから,被告は,ボイドスラブ施工工事の過程で,構成要件Gの「ボイドブロック」を製造,使用している。 【被告の主張】 争点(1)イに関する被告の主張のとおり,被告は,ボイドスラブ施工の過程において,運搬用の固定材機能を有するボイドブロックを製造していないから,被告は,本件発明3の「ボイドブロック」を製造していない。 5 争点(2)イ(イ)(被告のボイドブロックが本件発明3の構成要件E及びFの「ボイドブロック固定金具」の要件を充足するか)について 【原告らの主張】 争点(2)アに関する原告らの主張のとおり,被告のボイドブロックはこれらの構成要件を充足する。 【被告の主張】 争点(2)アに関する被告の主張のとおり,被告のボイドブロックはこれらの構成要件を充足しない。 6 争点(2)ウ(ア)(被告方法は,本件発明6の構成要件Hを充足するか)について 【原告らの主張】 争点(1)イに関する原告らの主張のとおり,被告は,型枠10上のスペーサ11の上に鉄筋12を配置している。鉄筋12は構成要件Hと外形が異なるが,鉄筋12と構成要件Hとの相違点は非本質的部分であり,かつ,置換可能性,置換容易性を有するものであり,均等といえるから,本件発明の構成要件Hを充足する。 また,仮に被告が構成要件Hの工程を自らは行っていないとしても,被告の行為は特許法101条4号の要件を充足し,侵害とみなされる。 【被告の主張】 争点(1)イに関する被告の主張のとおり,被告は,構成要件Hの「仮枠上に下端鉄筋溶接金網を配置する工程」を実施していない。下端鉄筋が「溶接金網」で構成されているか,スラブ仮枠(型枠)上に手組みされてるかは,現場における被告以外の業者の実施形態毎にまちまちであって,被告の関与するところではない。 7 争点(2)ウ(イ)(被告方法が本件発明6の構成要件I及びJの「ボイドブロック固定金具」の要件を充足するか)について 【原告らの主張】 争点(2)アに関する原告らの主張のとおり,被告方法はこれらの構成要件を充足する。 また,イ号製品の製造等は,本件発明6について特許法101条3号の要件を充足し,侵害とみなされる。 【被告の主張】 争点(2)アに関する被告の主張のとおり,被告方法はこれらの構成要件を充足しない。 8 争点(2)ウ(ウ)(被告方法は,本件発明6の構成要件Kを充足するか)について 【原告らの主張】 争点(1)イに関する原告らの主張のとおり,被告は,イ号製品の上に鉄筋13を配置している。鉄筋13は構成要件Kと外形が異なるが,鉄筋13と構成要件Kとの相違点は非本質的部分であり,かつ,置換可能性,置換容易性を有するものであり,均等といえるから,本件発明の構成要件Kを充足する。 また,仮に被告が構成要件Kの工程を自らは行っていないとしても,被告の行為は特許法101条4号の要件を充足し,侵害とみなされる。 【被告の主張】 争点(1)イに関する被告の主張のとおり,被告は,構成要件Kの「ボイドブロック固定金具上に上端鉄筋溶接金網を敷き詰めていく工程」を実施していない。 9 争点(3)(損害額)について 【原告らの主張】 (1) 原告アプステアズの損害(特許法102条1項) ア 原告アプステアズの平成13年及び14年におけるボイドブロック固定金具1本当たりの平均利益額は102円であり,平成15年における1本当たりの利益額は125円である。 また,ボイドスラブ施工面積1u当たりのボイドブロック固定金具の平均使用本数は,平成13年及び14年は1.98本,平成15年は1.45本である。 イ 平成13年の損害 平成13年の被告の施工面積は3万0400平方メートルであるから,その損害は,次のようになる。 3万0400u×1.98(本/u)×102(円/本)=613万9584円 原告アプステアズは平成13年8月20日から本件特許権を譲り受けたものであるから,譲り受けた以降の日数134日の日割計算をすると225万3984円となる。 ウ 平成14年の損害 平成14年の被告の施工面積は4万2500uであるから,イと同様に算定すると,損害額は858万3300円となる。 エ 平成15年の損害 平成15年の被告の施工面積は4万4900uであるから,イと同様に算定すると,損害額は813万8125円となる。 オ 弁護士費用 原告アプステアズは,本件訴訟追行を弁護士に委任せざるを得ず,そのための相当因果関係のある損害は,190万円が相当である。 カ 合計 したがって,原告アプステアズの損害の総合計は,2087万5409円である。 (2) 原告フレッシュの損害(特許法102条1項) ア 平成13年の損害 原告フレッシュのボイドスラブ施工工事1u当たりの利益額は,727円である。そして,平成13年の被告の施工面積は,3万0400uであるから,損害は2210万0800円になる。 イ 平成14年の損害 原告フレッシュのボイドスラブ施工工事1u当たりの利益額は,557円である。そして,平成14年の被告の施工面積は4万2500uであるから,損害は2367万2500円になる。 ウ 平成15年の損害 原告フレッシュのボイドスラブ施工工事1u当たりの利益額は,383円である。そして,平成15年の被告の施工面積は4万4900uであるから,損害は1719万6700円になる。 エ 弁護士費用 原告フレッシュは,本件訴訟追行を弁護士に委任せざるを得ず,そのための相当因果関係のある損害は630万円である。 オ 合計 したがって,原告フレッシュの損害の総合計は,6927万円である。 (3) 原告P1の損害(特許法102条1項) ア 原告アプステアズは原告P1の個人会社であり,両者は実質的には同一であって,原告アプステアズの損害は原告の損害ということができる。したがって,前記(1)と同様の算定方法により,@平成13年の損害額は613万9584円,A平成14年の損害額は858万3300円,B平成15年の損害額は813万8125円となる。 イ 弁護士費用 原告P1は,本件訴訟追行を弁護士に委任せざるを得ず,そのための相当因果関係のある損害は,200万円が相当である。 ウ 合計 したがって,原告P1の損害の総合計は,2486万1009円である。 【被告の主張】 争う。 |
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当裁判所の判断
1 争点(1)ア(イ号製品の構成)について (1) 別表の「書証番号」欄に記載した証拠及び弁論の全趣旨によれば,(ア)被告は,同別表の「現場名」欄記載の工事現場においてボイドスラブ施工工事を行ったこと,(イ)各工事に関する設計図書の記載のスラブ厚及びボイド縦径は,同別表の「設計図の記載」欄のとおりであったこと,(ウ)被告がそれら各工事について製造委託業者から納品を受けて使用したイ号製品及びボイドチューブの納品書には,逆V型鋼線の縦横寸法及びボイドチューブの寸法として,同別表の「納品書の記載」欄のとおり記載されていること,ただし工事現場2のディナスティ西区本田については工事未了のため納品書がないことが認められる。 また,イ号製品の製造図面等については,同別表の「被告主張のタイプ」欄記載の@のタイプのイ号製品については,製造委託先である株式会社日本インダストリー製作所が作成した製造図面が存在し(乙32ないし34),Aのタイプのイ号製品については,有限会社上田金網製作所が作成した製造図面(乙37)及び上部鋼線に膨出部を設けるための製造設備(乙36)が存在し,Bのタイプのイ号製品については,有限会社上田金網製作所と被告との間で製造図面とその完成に至るまでの過程で作成された図面(乙35の各号)が存在し,それらに記載されたイ号製品は,前記納品書に記載されたものと一致することが認められる。 これらの事実からすると,被告が各工事(工事現場2を除く)について使用したイ号製品及びボイドチューブは別表の「納品書の記載」欄記載のとおりのものであり,各イ号製品の逆V型鋼線とボイドチューブとの間隙は,同別表の「間隙」欄中の「左右間隙」欄記載のとおりであったと認められ,3o又は5oであったと認められる(なお,上下方向の間隙については,同別表の「間隙」欄中の「上下間隔」欄記載のとおり,3oないし8oであったと認められる。)。 (2)ア 原告らは,このようにイ号製品とボイドチューブとの間に間隙が存したのでは,コンクリートの打設時等にボイドチューブが主筋(鉄筋)を結んでできる長方形の中心からずれることになり,同長方形とボイドチューブの中心とを一致させるという設計上の構造計算の前提が確保できないことになると主張する。 しかし,ここで問題にすべきは,被告が行っている工事方法が設計図の指示に適正に従っているか否かというボイドスラブ施工業者としての工事方法の当否の問題ではなく,実際に被告がどのようなイ号製品を使用して工事を行っているかということである。そして,確かに被告も,「工事施工計画書」(甲13)において,「ボイドチューブ芯が主筋と主筋の中心になる様に設置」,「ボイドチューブとユニット金具を更に強く固定する為にUピン(ボイド固定ピン)を差し込む」(12頁)とあることから,原告ら主張の点を必要なものとしていると認められる。しかし,前記納品書はいずれもイ号製品の製造委託業者が作成したもので,寸法及び納品先も明示されているのであり,特に不審な点は見当たらない上,それらの製造図面や製造設備の写真も提出されている。これに加え,本件では,被告は原告らの前記指摘に対し,前記被告の主張のとおり,被告が使用するイ号製品とそれによるボイドスラブ施工方法には構造計算上問題がないと主張する態度を示していることを併せ考えると,結局,被告は,前記認定程度の間隙とUピンによる固定をもって,工事施工上の固定水準は確保されていると考えていると認めるのが相当である。したがって,イ号製品では原告らが考えるような厳密な固定性が確保されないからといって,被告が用いるイ号製品についての前記納品書等の記載の信用性を覆すには足りない。 イ また原告らは,別表の「被告主張のタイプ」欄記載のタイプ@のイ号製品では,挿通させるボイドチューブの径が設計図のボイド径を下回ることになり,構造計算上の問題が生じると主張する。 しかし,この点もアで述べたところと同様であって,被告が行っている工事方法が設計図の指示に適正に従っているか否かという,ボイドスラブ施工業者としての工事方法の当否の問題はともかく,被告が実際に使用しているイ号製品としては,先のとおり認定するのが相当である。 ウ したがって,被告のイ号製品は,逆V型鋼線とボイドチューブとの間に3o又は5oの間隙を有するものであると認められる。 2 争点(2)ア(イ号製品が,本件発明1の構成要件Bb,Bd及びCの「ボイド型枠の…外縁が当接される鉄筋を有する」「ボイド型枠固定筋」,構成要件Dの「ボイド型枠固定金具」の要件を充足するか。)について (1) 本件明細書には,次の記載があることが認められる。 ア 従来の技術の項 【0002】 従来のボイドスラブ部の工事形態としては,鉄筋工がスラブ仮枠上に下端鉄筋を手組みした後,ボイド工が下端鉄筋とは関連していないスラブ仮枠の下部より固定して立ち上げたボイド型枠の受け金具に鉄管製のボイド型枠を1本ずつ接続固定し,その上に再度鉄筋工が上端鉄筋を手組して施工する方法が一般的である。 【0003】 また,工場で始めから適当な寸法の上下端鉄筋の間にボイド型枠を挟み込んだ箱型のユニット状のものを仮枠上に敷き詰めた後,基準の長さに切断した差し筋でユニット間相互を補強していくやり方も行われている。 イ 発明が解決しようとする課題の項 【0004】 上記の一般的なボイドスラブ部の工事形態では,現場での鉄筋工やボイド工等の熟練工を多数必要とする上に,作業の分割で作業効率が悪く人件費及び工事費の増大となる。 【0006】【0008】 一方,ボイド型枠を上下端鉄筋に挟み込んだ箱型ユニットを仮枠上に敷き詰めるやり方は,…箱型ユニットの自重が重いので常に作業用のクレーンが作業条件となり,クレーンの作業占有率が高くなり他の工種にも工期的な影響がでる。 ウ 課題を解決するための手段の項 【0009】 …この構成により,本発明は,従来一般的なやり方として作業員一人では移動できない寸法と重量素材のボイド型枠に変えて,持ち運びが容易な一定長さの軽量素材のボイド型枠をボイドブロック固定金具に組み込んでボイドブロックを作ることにより,そのボイドブロックを作業員一人で移動でき,一本ずつ配置作業していたボイド型枠をブロック単位で配置できる事で,作業性を格段に向上させる。 【0011】 さらに,工場で構造設計に添った上下端鉄筋の配筋図を配送可能な寸法の割り付け図に変換し,その図に従って製作した上下端鉄筋用の溶接金網とボイドブロック固定金具に組み込んだボイドブロック及び簡易浮き止め金具を使い,施工現場の状況にあわせて,(1)下端鉄筋溶接金網,ボイドブロック,上端鉄筋溶接金網を別々に搬入施工するか,(2)下端鉄筋溶接金網と上端鉄筋溶接金網にボイドブロックを組み込んだハーフユニットを搬入施工するボイドスラブ施工方法を行うことができる。 【0012】 (1)(2)の方法とも,主要部分はすべて工場で製作するので,熟練工は不要であり,採寸加工した溶接金網と軽量なボイドブロックの組み合わせで,従来のような鉄筋工をボイド工の二工種の作業が,一工種の作業として専門職でない作業員のみで行える。 エ 実施例の項 【0026】 ボイドブロック固定金具1と軽量素材のボイド型枠を組み合わせて使用し,一定寸法の軽量のボイド型枠を2本から4本単位の図2及び図3のようなボイドブロックを構成することにより,作業員一人で建築現場内にて簡単にボイド型枠をブロック単位で移動及び下端鉄筋上に配置できる。 オ 発明の効果の項 【0062】 ボイドブロック固定金具と軽量素材のボイド型枠の組み合わせで製造するボイドブロックは,ボイド型枠を建築現場で1本ずつ移動させたり,仮枠にあらかじめ設置したボイド仮枠受け金具に1本ずつ固定する必要のないことや,ボイドブロックの縦横の簡易連結方式で,作業性を大幅に向上させる。 【0064】 ボイドスラブ施工方法は,工場で割付られ運搬用に採寸加工された溶接金網及び軽量簡便なボイドブロックと簡易浮き止め金具を使うことによりほとんどが工場製作となり,その結果,建築現場での熟練技術は必要なくなり専門の職人は不要となった。 (2) 以上の明細書の記載からすると,本件発明は,従来のボイドスラブ施工方法のうち,鉄筋工が下端鉄筋を手組みした後にボイド工が鉄管製のボイド型枠を1本ずつ接続固定し,その後に再び鉄筋工が上端鉄筋を手組みする方法では,熟練工が多数必要で作業効率も悪い一方,従来の下端鉄筋とボイド型枠と上端鉄筋を挟み込んだ箱型ユニットを敷き詰めた後に差し筋でユニット間を接続するという方法では,箱型ユニットの自重が重いために常に作業用のクレーンが必要となるという問題を解決することを課題の一つとし,その解決のために,一定長さの軽量素材のボイド型枠をボイドブロック固定金具に組み込んで,持ち運びが容易な大きさで軽量のボイドブロックを作り,ボイドブロック単位でボイド型枠を配置することにより,ボイドブロックを工場で製作して現場に搬入した上で,非熟練の作業員が一人でボイドブロックを移動させることができるようにして,人件費を削減して作業効率を上げる効果を有することを一つの大きな特徴とするものであると認められる。 そして,本件発明1は,このようなボイドスラブ施工方法に用いるボイドブロック固定金具を内容とするものである。 このような発明の内容からすると,本件発明1の「ボイドブロック固定金具」は,内部に挿通されるボイドチューブを文字どおり「固定」するものであり,そのために,ボイド型枠固定筋が「ボイド型枠の長手方向と直交する断面の外縁が当接される鉄筋」との構成が設けられ,「当接」による摩擦ないし圧力によってボイド型枠を「固定」することとしたものと解される。そして,この「当接」による「固定」の程度は,前記のとおり,本件発明に係るボイドブロックが工場で製作されて現場に搬入されることや,現場では作業員一人によって移動させることができるものであるとされていることからすると,そのような状況の下でもボイド型枠がボイドブロック固定金具から抜け落ちない程度のものであると解するのが相当である。 (3) このような解釈は,本件発明の出願経過によっても基礎づけられる。 ア 乙1ないし4の各号によれば,次の事実が認められる。 (ア) 本件発明の特許出願の最初に添付した明細書においては,ボイドブロック固定金具について,特許請求の範囲の請求項1において,次のとおり記載されていた。 「建築現場もしくは工場で,一定寸法のボイドスラブ用の単体のボイド型枠を横連結して,複数本のボイド型枠のブロックを形成させるためのボイド型枠固定,横連結及び上端鉄筋と下端鉄筋の空間形状維持金具である。」 (イ) これに対し,特許庁審査官は,平成12年12月26日,原告P1に対し,2つの引用文献を指摘して,請求項1に係る発明は,同引用文献から当業者が容易に発明をすることができたとして,拒絶理由通知をした。 (ウ) これに対し原告P1は,平成13年3月16日,請求項1の記載を現在のものに補正するとともに,特許庁審査官に対して意見書を提出した。そして,その中で原告P1は,補正後の請求項1の優れた作用・効果として,次のように述べた。 「ボイドブロック固定金具のボイド型枠固定筋にボイド型枠を複数挿通させて複数個のボイド型枠をまとめて安定に固定しボイド型枠の敷設を行うことができ作業性にすぐれる。」(乙3の11頁) イ このように原告P1は,当初の請求項1では,「ボイド型枠固定…金具」としか構成していなかったのに対し,拒絶理由通知を受けて,「ボイド型枠の長手方向と直交する断面の外縁が当接される」「ボイド型枠固定筋」と補正することにより,当初の請求項1の「固定」の構成を明確にし,それにより「複数個のボイド型枠をまとめて安定に固定」するという優れた作用効果を有すると主張したのであるから,本件発明1における「固定」は,構成要件Bbにおける「当接」によることを要件とし,それ以外の構成によるものを含まず,かつ,「当接」による「固定」は,「安定的」なものであることを要するものと解するのが相当である。 (4) そうすると,本件のイ号製品では,先に争点(1)アについて認定したとおり,本件発明1の「ボイド型枠固定筋」に相当する逆V型鋼線(スペース保持鉄筋)と,本件発明1の「ボイド型枠」に相当するボイドチューブ(円筒型スチロール)との間に3o又は5oの間隙を有しているから,「当接」の要件を満たさず,それによりボイド型枠を「固定」しているともいえない。 したがって,本件のイ号製品は,文言上,本件発明の構成要件Bb,Bd,C及びDを充足しない。 (5) 次に,この点の相違に関する原告らの均等の主張について検討する。 ア 先に(2)で述べたとおり,本件発明は,一定長さの軽量素材のボイド型枠をボイドブロック固定金具に組み込んで,持ち運びが容易な大きさで軽量のボイドブロックを作り,ボイドブロック単位でボイド型枠を配置することにより,ボイドブロックを工場で製作して現場に搬入した上で,非熟練の作業員が一人でボイドブロックを移動させることができるようにして,人件費を削減して作業効率を上げる効果を有することを一つの大きな特徴とするものであり,本件発明1は,このようなボイドスラブ施工方法に用いるボイドブロック固定金具を内容するものである。 そして,本件発明1のボイドブロック固定金具においては,ボイド型枠固定筋がボイド型枠と「当接」し,それによりボイド型枠を「固定」する構成が,前記のような特徴を生み出す重要な要素となっているのであるから,構成要件Bbにおけるこの構成は,本件発明1の本質的部分に属するもので,イ号製品はこの本質的部分において相違があるものというべきである。 イ また,先に(2)で述べたとおり,本件発明に係るボイドブロックは,工場で製作されて現場に搬入されたり,現場で一人の業員によって移動させることができるとの作用効果を有するものであるが,イ号製品では,逆V型鋼線と,本件発明の「ボイド型枠」に相当するボイドチューブとの間に3o又は5oの間隙を有しているから,この構成の相違により安定的に固定することが妨げられ,本件発明1と同様の作用効果を奏することができないというべきである。 ウ さらに,先に(3)イで述べたことからすると,原告P1は,出願過程の補正において,本件発明1における「固定」は,構成要件Bbにおける「当接」によることを要件とし,それ以外の構成によるものを意識的に除外したものというべきである。 エ 以上によれば,イ号製品が本件発明1と均等なものということもできない。 (6) したがって,イ号製品は,本件発明1の構成要件Bb,Bd及びCの「ボイド型枠の…外縁が当接される鉄筋を有する」「ボイド型枠固定筋」,構成要件Dの「ボイド型枠固定金具」の要件を充足せず,均等であるともいえないから,その余の点について検討するまでもなく本件発明1の技術的範囲に属しない。 3 争点(2)イ(イ)(被告のボイドブロックが本件発明3の構成要件E及びFの「ボイドブロック固定金具」の要件を充足するか) 被告がボイドスラブ工事の過程でボイドブロックを作成しているか否かについては争いがある(争点(1)イ)が,仮にこれを肯定したとしても,先に争点(2)アについて述べたところからすると,イ号製品を使用した被告のボイドブロックは本件発明3の構成要件E及びFの「ボイドブロック固定金具」の要件を充足しないから,その余の点について検討するまでもなく本件発明3の技術的範囲に属しない。 4 争点(2)ウ(イ)(被告方法が本件発明6の構成要件I及びJの「ボイドブロック固定金具」の要件を充足するか)について 先に争点(2)アについて述べたところからすると,イ号製品を使用した被告方法は,本件発明6の構成要件I及びJの「ボイドブロック固定金具」の要件を充足しないから,その余の点について検討するまでもなく被告方法は本件発明6の技術的範囲に属しない。 また,イ号製品の製造等が,本件発明6を間接侵害するともいえない。 5 結論 よって,原告らの本件請求は,その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないから,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山田知司 |
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裁判官 | 高松宏之 |
裁判官 | 守山修生 |